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キョン「やれやれ――――それじゃあ、零崎を始めるとしますか」第三章

キョン「やれやれ――――それじゃあ、零崎を始めるとしますか」序章‐第一章
キョン「やれやれ――――それじゃあ、零崎を始めるとしますか」第二章

165 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/24(火) 18:21:48.19 ID:hy0YntU0 [2/9]
第3章 ■■■■■■―(者語の終わり)


 0、「君はどうしたいの?」
              「そんなのわかんないよ」

 1、

――5月19日(木)――

――午後1時頃――

――太秦にある公園――

キョン「(零崎と別れて、4日が過ぎた。特に変わったことはない。
     漠然と時が流れているのを感じていた。

     俺は零崎と話した公園を寝床にした。木が生い茂っていて自然の、他の生命みたいなもの
     を感じられるような感じだったから気に入った。それでも将来のことは考えてなかった。
     行く所も決まらず、住む所も決まらず、する所も決まらず。

     ただ分かることは、殺人衝動が大きくなってきていることだけ。今も自分が殺気立ってい
     るのがわかる。それでも人は殺さない。殺せない。殺したくない。

     そろそろどこに行くかぐらいは決めないとな。
     東京なんていいかもしれない。人はたくさんいるが、一度入ってみたいと思ってたし、
     ちょうどいいかもしれない。
     後は、北海道も捨てがたい。食べ物はおいしそうだし、これからは夏だから避暑地には
     最適だろう。何より人が少ないっていうのがいいな。山小屋でも作って籠ろうかな。
     ……って、俺は仙人かっ!

     ………

     よし決めた。次に公園に入ってきた人を殺そう。さっき言った事と矛盾している気がしな
     い訳でもない。けれど、コレもどうにかしないと、零崎みたいなことをしでかしそうだし。
     殺した人が男だったら東京に、女だったら北海道に行こう)」

――数分後――

キョン「………来たな」コソコソ

×××「ふん、ふん、ふん♪ とりのふん~♪」

キョン「(そろそろいくか)」

166 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/24(火) 18:23:49.76 ID:hy0YntU0 [3/9]
キョン「よっ (女か… さよなら東京…)」

×××「あ? ……へぇ、意外だったな。いーたんの話を聞いてたから、奇襲とかしてきそうな奴だと
    思ってたのにな。まぁ、そんな殺気立ってて気付かないと思い込んでるほどバカじゃないっ
    てことか。

    だが、いいぜ、あたしはこういうシチュエーションが大好物なんだ。策やら罠やら、そういう
    ゴチャゴチャしたものがない、漫画のような正々堂々とした正面対決。まさに王道だ。
    ありきたりなものだが、これほど燃える場面っていうのは無いからな。お前、分かってんじゃ
    ねぇか。気に入った。舎弟にぐらいだったらしてやるよ」

キョン「いや、いいです。見知らぬ大人に付いていっちゃいけないって言われてるんで。
    
    それに、俺のことを知ってるんですか?」

×××「知ってるもなにも、お前らみたいのなんかに関わってくる奴で、≪零崎≫を知らない奴はいな
    いだろ。もっとも、知ってる奴らは、関わろうとはしないがな。
   
   『あるいはこの世で最も敵に回すのを忌避される醜悪な軍隊にして、この世で最も味方に回すの
    を忌避される最悪な群体。邪悪と冒涜の宝庫』

    ≪零崎≫に関わったことのある連中で、すでに1人見知った奴がいて、生きながらに2人目に
    会うなんて人間はほとんどいないだろう。あたしも≪零崎≫には関わりたくなかったが、請け
    負った依頼だからな、その称号は貰っといてやる」

キョン「ふぅん、そんな風にも嫌われているのか。思った以上に世間体の悪い≪一賊≫なんだな」

×××「何言ってやがる、お前も相当えげつないだろ。……ん、喋り過ぎたな。あたしも面倒くさいし
    さ、さっさと済ませてやる。来いよ」

キョン「やれやれ――――それじゃあ、零崎を始めるとしますか」

167 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/24(火) 18:25:24.25 ID:hy0YntU0 [4/9]
キョン「(とは言ったものの、殺し方なんざ知らないし、殺させてくださいなんて言った所でただでは
     殺させてくれそうでもないし。ナイフを構えてみたものの、どうしたものか)」

×××「来ないのか? だったらこっちから行くぜ」ヒュンッ

キョン「なっ!!

    (いつの間にかに目の前にいやがる! 避け切れない、いったん後ろに跳んで、引くっ)」トッ

×××「逃がさねぇよ、ほっ」ビュン

キョン「(飛跳からの正拳突き! これなら避わせる。懐に入って……っく!!)」トンッ

×××「ほう、今の体勢からあたしの膝蹴り避わすか。反射神経だけはあるな。動きは素人臭いが判断
    力もあって思い切りもいい、ただし、あたしから距離をとったのは間違いだね」ダッ

キョン「ぐっ… (あれだけの距離を一瞬で詰めるってどういうことだよ! ボルトより早いだろ!)」

×××「ほらほら、いつまで避けてんだ、攻めて来いよ。退屈だぜ?」バキボキ

キョン「うっさいっ」ヒュンヒュン

――ドンッ――バリバリ――

キョン「げっ、パンチだけで木を折りやがった。どこの超必殺技だよ! いつコマンド打ったんだ!!」

×××「ただのAボタンパンチだ」

キョン「嘘つけっ!

    (どうする? 殺そうと思った相手に殺されるのか? 冗談じゃない)」

168 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/24(火) 18:26:16.09 ID:hy0YntU0 [5/9]
キョン「だらぁ!!」ヒュウン

×××「真正面から突っ込んでくるとは… そんな直線的なナイフの動きなんか丸分かりなんだよ」カキン

キョン「ナイフがなくなったぐらい!

    (ここでカウンターさえ避け切れれば…)」スッ

×××「はっ」スカッ

キョン「(よし、 もらった!!)」

   「死ねぇー!」バチバチバチ

×××「がぁっ! 」ビリビリビリ!!

キョン「……ふぅ、危なかった。さすがに腋にリミッタ―外したスタンガンを喰らえば…」

×××「……っははは、そんな電気風呂みたいな電流で殺せるとでも?笑わせんな、ガキが」

キョン「(マジかよ…、木を素手で倒したりとか超電圧を浴びて生きてるとか、……こいつ、人間じゃな
     い… 化け物だ)」

×××「そぉい」

キョン「ぐへっ

    (クソっ、何だこいつ、人の頭に足ひっかけるとか、長すぎだろ)」

×××「それでどうするんだ、降伏でもしてみるか? ん?」

キョン「ぐ…、(ヤバい、地面に伏せさせられてるし、足で押さえつけられてるせいで起き上がれない…)」

×××「こっちも仕事でやってるしな、それにすぐ後に新しい依頼が入ってるんだよ。ま、すぐに片がつい
    てよかったぜ。小唄風に言うなら十全って奴か。けど、いーたんは嘘吐きだな。あいつの言い方な
    ら、それなりの奴だと思ってたのによ、まったくつまんねぇ」

キョン「(そういや零崎が言ってたな、プロのプレイヤーには関わるなって。≪零崎≫を知っているって事
     は、つまり『あっち』の住人、プロのプレイヤーってことか。マズッたな。どう命乞いしようか)」

×××「けどよ、いくらお前が雑魚だからってな殺しちまうと、≪零崎≫ってのは厄介な訳じゃん。さて、
    どうしたもんかな。零崎人識くん」

キョン「え?」

×××「え?」

169 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/24(火) 18:52:31.87 ID:hy0YntU0 [6/9]

――数分後――

キョン「(それからあの人は―――怒っていた)」

×××「は? ふざけんなよ! 何で≪零崎≫みたいな珍獣が二人も同じ場所にいんだよ! まどろっこ
    しいんだよ!」

キョン「(そんなこと言われても…、理不尽だろ…)」

×××「そういや、いーたんの言ってた格好とぜんぜん違うじゃんか。髪はまだらじゃねぇし、背は低
    くないし服はエキセントリックどころか、甚平って何だよ!」

キョン「俺をあんな変人と間違えないでください。不愉快です。それに、何でそんなに詳しく知ってい
    るのに間違えたんですか? 不思議で仕方がないです」

×××「それは……てへ?」

キョン「(ヤバい、綺麗な女の人が可愛い子ぶるとか、水素爆弾並みの破壊力なんですけど)」ズッキューン

×××「ま、それは置いといて、」

キョン「置いとけるほど小さい問題じゃないと思うんですけど」

×××「いちいちちっせい事に拘ってんじゃねーよ! それでも男か? お前、いーたんみたいだな。

    まぁいい、あたしは哀川 潤、人類最強の請負人だ」

キョン「自分で人類最強とか言っちゃうんですか、哀川さん?」

哀川潤「上の名で呼ぶな下で呼べ。あたしを苗字で呼ぶのは敵だけだ。

    で、あたしは依頼で京都で今起こってる連続殺人事件の犯人、つまりは零崎人識って奴を追って
    んだ。もう一度聞くが、お前、零崎人識じゃないんだな?」

キョン「違うといっているでしょう。さすがに4日じゃ、牛乳飲んでも10センチも背は伸びませんよ」

170 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/24(火) 19:27:37.75 ID:hy0YntU0 [7/9]

――さらに1時間後――

    で、あたしは依頼で京都で今起こってる連続殺人事件の犯人、つまりは零崎人識って奴を追って

キョン「(零崎との会話や行動を、根掘り葉掘り、文字通りに穴を掘られそうなまでに脅されながら聞き
     出された。ワルい、零崎。けどこんな人にと追い詰められたら、きっとお前だってゲロってた
     だろうし、この人は『兄貴』でも匂宮出雲でもないし、いいよね?

     それだけではなく、この人は俺の経緯まで聞いてきた。何でも、≪零崎≫についての生態って
     のは謎で満ちているらしい。俺たちは鰻か何かか?

     それで、俺の高校生活1年と2ヶ月弱を聞き終えた哀川さんは…)」

哀川潤「はは、なかなかおもしれぇ物語を歩んできたんだな、お前。だがな、あたしの人生には見劣りす
    んぜ」ニヤニヤ

キョン「(にやにやと笑っていた)」

哀川潤「所詮ポンコツロボットとおっぱい星人とガチホモESPだろ、んなもん吐いて捨てるほどゴロゴ
    ロといるだろうぜ。あと、頭の狂って怪電波受信してる電波少女だっけか? 小説にしちゃ三流
    っての妥当だろ。そんな小説書く奴はきっと、ガキの頃ろくに青春もせず推理小説やSFばっか
    読んでたハゲ親父だぜ。名前はそうだな、『谷川 流』って感じで、続編も書けずに読者に飽きら
    れて来てるだろうな」

キョン「(この人も人のことを言えず、ずいぶん変わってるけどな。今時、血のように真っ赤な、ワイン
    レッドのスーツを着込んで『請負人』などと名乗っている時点で零崎レベルの異端だろ。『請負
    人』っていうのは、ようは何でも屋らしい)」

哀川潤「それで、お前は一応殺しはしたんだな?」

キョン「はい、まぁ。それで零崎になったわけですし。

    (この人は連続殺人事件の犯人を追っているわけだし、俺も犯人には違いない。捕まるのか?)」

哀川潤「8人目だろ? 1人しか殺してないんだろ、なら『連続殺人鬼』ではないな」

キョン「は?」

哀川潤「あたしの依頼は『連続殺人鬼』を捕まえることだ。正当防衛で人を殺したただの一般人を捕まえろ
    って内容じゃない」

キョン「はぁ……」

哀川潤「言ってることの伝わらない奴だな。ようは見逃してやるって言ってんだよ」



171 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/24(火) 19:55:18.18 ID:hy0YntU0 [8/9]
キョン「それは、ありがとうございます。でも、何でですか?」

哀川潤「あたしが気に入ったからだ。 お前なんか面白そうだし、なんか知り合いの戯言使いに似てるんだ
    よね。さっき話した『いーたん』って奴のこと。一般人や傍観者を気取ってるとろとかさ、他にも
    、事故頻発性体質や優秀変質者誘引体質とかも」

キョン「その人もきっと苦労してるんでしょうね。同情しますよ」

哀川潤「あいつは同情されるような玉じゃないさ。あいつとお前の差は、やっぱそこなんだろうぜ。その
    体質に気付いてるかってのもそうだが、それをどう扱うかってのが。話を聞く限り、あんたは善
    人にして善人だが、あいつは悪人にして悪人だ。あんたは何をするか分かるけど、あいつは何を
    するかさっぱり分からないし、何かするのかどうかさえ分かんない。ようはお前のがマシってこ
    とだよ」

キョン「そりゃどうも。でも、それだけが理由ってわけでもないですよね」

哀川潤「ばれてたか。そうさ、≪零崎≫ってのがお互いの居場所ってのが分かるんだろ?

    どうせあたしが追わなくても人識くんはあたしを見つけて襲うだろう。だけど、もしも、そこで
    取り逃がしたら、県外に逃げそうだし、そうなんと見つけるのが面倒な訳よ。もちろん逃がすつ
    もりはないけど、なんかそうなりそうなカン見たいなのもあるしさ。

    そうなった時は、あんたに見つけてもらおうかなって感じ」

キョン「どうして襲ってくると確信してるのかは疑問ですけど、≪零崎≫の俺が、裏切ると思いますか?」

哀川潤「そんなの分かんねえじゃん。そこまで深いもんなのか、≪零崎≫の家族愛って奴は?」

キョン「俺も知りませんよ、そんなの」

哀川潤「だろ? じゃ、連絡先教えときな」

キョン「教えるだけなら。…ちょっと待ってください、そういえばケータイの電源切ってたんでした。
    
    ……はい、俺の連絡先です」

哀川潤「あんがと。そういやお前、名前なんていうんだ? レディーに名のらせて、名乗んねえ分けないよな」

キョン「おれの名前はですね……」

――prrrrrr――prrrrrr――

キョン「すいません電話でていいですか?」

哀川潤「さっさとしろよ」

172 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/24(火) 20:00:07.76 ID:hy0YntU0 [9/9]
キョン『もしもし』

朝比奈『キョンくん…? キョンくん!! …ヒグッ、エグッ。ギョンぐーーーん!!』

キョン『どうしたんですか、朝比奈さん?』

朝比奈『ギョンぐん~~、ずずみやざんが……』

キョン『よく聞こえません。 ハルヒがどうしたんですか?』

朝比奈『ごろされちゃいました~~ エグッエグっ』














キョン『え?』

181 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/25(水) 10:58:20.08 ID:tiU.y3c0 [3/22]
キョン『もしもし』

朝比奈『キョンくん…? キョンくん!! …ヒグッ、エグッ…、ギョンぐーーーん!!』

キョン『ちょっ、どうしたんですか、朝比奈さん? 何かあったんですか』

朝比奈『ギョンぐん~~、今までずながらなぐで、じんばいじでたんでずぅ…ヒック、ぞれに
    ずずみやざんが……、ヒッグ、グズッ、「ドタバタ」』

キョン『よく聞こえませが、 ハルヒがに何かあったんですか? もしもし!』


×××「朝比奈さん、彼とつながったんですか?電話を貸してください!!」


古泉 『もしもし!? あなた今どこにいるんですか! いきなり消息を絶って、≪機関≫の護衛
    まで振り切って、何をしてたんです!今の現状をわかっているんですか!?』

キョン『それはすまん、こっちもいろいろ都合があって…』

古泉 『何が都合で、ですか! ふざけんじゃない!! あんたがいなくなったせいで、≪こっち≫
    がどうなったのか分かって言ってるんですか? もうフルメタルパニックですよ!』

キョン『知らないさ! 急にいなくなったのは悪かったと思ってる。心配かけたのもわかってる。
    いくらだって罰金は払ってやる。だからハルヒに替わってくれ』

古泉 『………』

キョン「おいどうしたんだよ、古泉」

古泉 「……それ本気で言っているんですか?」

キョン「どういう意味だよ。それともそこにハルヒはいないのか?だったらこっちから掛け直す…」

古泉 「涼宮さんは……、殺されましたよ」















キョン『え?』

182 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/25(水) 11:16:13.29 ID:tiU.y3c0 [4/22]

キョン「(………は? 何言ってやがるんだ、こいつは。そんな訳がない。ジョークにしちゃ悪戯が過ぎてる)」


古泉 『あなた知らなかったんですか?今までどこにいたんですか? それよりどこにいるんですか? 今すぐ
    ≪機関≫に回収させに行かせますから』

キョン『おいおい古泉、お前何時からそんなに演技がうまくなったんだ? イヤ、元からうまかったっけか、朝比
    奈さんもずいぶんうまくなったな』


キョン「(そんな訳がない。こいつはこんな時に嘘をつく奴じゃない。だが、ハルヒは誰にも殺せるわけがない
     じゃないか。あいつは≪機関≫と長門に守られて…)」


古泉 『ふざけるのも大概にしてください!! 現実を見てください!!』


キョン「(いや、俺は知っている。≪機関≫をも蹴散らせて、長門をも突破するだけの力を持った奴を…
     警察から2週間以上逃げ切って、情報統合思念体に『新たな可能性』と言われ、ハルヒと接触する資格
     を与えられた存在を)」


古泉 『涼宮さんは―――』


キョン「(そいつの名は―――)」


古泉 『―――「連続殺人鬼」に殺されたんです』



―手からケータイ、滑り落ちた―



183 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/25(水) 11:38:03.23 ID:tiU.y3c0 [5/22]

――ガシャンッ――

―それでも、ケータイからは、古泉の声が聞こえ続けた―


――嘘だ――


古泉 『彼女は、あなたがいなくなってからずっと探してたんです!』


――嘘だ、嘘だ!――


古泉 『自分のせいだって、自分が太秦に行かせたせいで、殺人鬼に殺されたのかもしれないって』


――俺を、責めるなよ… 俺のせいじゃない… ――


古泉 『殺されてなくても、捕まったかも知れないって。あたしが京都なんかに行こうって言った
    せい、だって』


――俺は、≪そっち≫の話からもう外れてんだよ! いまさら関係ないんだ!!!!――


古泉 『彼女はずっと探し続けていたんですよ、この4日間! 次は自分かもしれないって恐怖心と、
    あなたが殺されたかもしてないって焦燥感と、あなたを殺したって罪悪感に押しつぶされそ
    うになりながら! 万に一つもない可能性に掛けて!!』


――俺を、巻き込むなよ… ――


古泉 『彼女は最後に言ってましたよ、殺人鬼を見つけたって。≪機関≫の仲間は彼女を見失ってい
    ました。まるで独りで方をつけるとでも言うかのように、消息を絶ちました。どこで見つけ
    たのかもわかりません。死体が見つかったのはそれから30分たって仲間が探しに行ってか
    らです。』


――関係、ないんだから… ――



184 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/25(水) 12:10:45.49 ID:tiU.y3c0 [6/22]

―それでも、ケータイからは、古泉の声が聞こえ続けた―

哀川潤「おい、そいつまだ喋ってるぞ」

―哀川さんは俺のケータイを拾い上げ、俺に差し出した―

キョン「………ッサイ…」バシッ

―そして、俺はそれを叩き落としていた―

哀川潤「あ? お前人の親切を…」


キョン「うっさいって言ってんだよ!!」


哀川潤「………」

古泉 『………』


キョン「そんなの知るかよ!! いまさら俺のせいにするな!! 勝手にやってろ!! 俺は関係ない!!

    いつもいつも俺を巻き込みやがって、俺はただの一般人なんだ!! 宇宙パワーも時間旅行も、
    スーパーボールにだってなれないんだ!! 傍観者でいたいんだ!! 登場人物になんてなりたく
    はない!!

    それに、俺はもう≪そっち≫の世界からはずされたんだ、今さらたかだかハルヒが死んだくらい
    で俺をまた巻き込もうとするな!!


俺はもう、うんざりなんだ!!!」








185 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/25(水) 12:23:14.47 ID:tiU.y3c0 [7/22]

古泉 『………』

キョン「はぁ、はぁ、はぁ… 」



哀川潤「……そうかよ。じゃあこれはいらないな?」グシャ

―そういって、哀川さんはケータイを踏み潰した―

キョン「な!?」

哀川潤「もう関わりたくないんだろ? だったらもう声が聞こえなくなりゃいいんだろ?だからあたしが
    踏み潰してあげたんだ。感謝しろ、特別サービスでこの依頼はタダにしといてやる」

キョン「………」

哀川潤「せっかくケー番教えてもらったのにな、使えなくなっちまった。ま、所詮保険程度にしか考えて
    なかったし、一発で仕留めればいい話だし。

    それじゃ、これでお別れってことで。バイビー」

キョン「………ちょっと待てよ」

哀川潤「は?」

キョン「人の話に首突っ込んどいてそれはないんじゃないですか」

哀川潤「………」

キョン「もっと他にもやりようがあっただろ! 何でケータ…」

哀川潤「黙れよ、クソガキ」

186 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/25(水) 12:53:20.29 ID:tiU.y3c0 [8/22]

哀川潤「お前、ヒトの話聞いてないのかよ。あたしは忙しいんだ、ガキの癇癪なんざにかまってる暇は
    ねーんだよ!!」


キョン「」ビクッ


哀川潤「話聞いてりゃさぁ、男の癖にメソメソとさ、女々しい言い訳ばっか並べて、テメェは何やって
    んだよ!

    何が傍観者でいたいだぁ? ≪そっち≫の世界にはもう関係ないだぁ? テメェは厨二病かよ!!
    痛ぇんだよ! 頭とち狂ってんのかよ、それを言っちゃてる時点でもはや邪気眼じゃねぇかよ!!

    この主人公気取りが!!」


キョン「」


哀川潤「世界ってのは早々縁切れねぇんだよ! テメェが死のうが失踪しようが、テメェの影響は残るん
    だよ! だからテメェのせいでその女は死んだんだよ! 現実を直視しろ!!

    主人公ってのはヒロインを助けて何ぼだろうが!! 何殺してんだよ! テメェは主人公失格だ!

    やるべき事も何もやらず、隠遁生活をこんな公園でしてたってのか?バカじゃねぇの!?
    だからおめぇの背中には馬鹿って書いてあんだよ」


キョン「(これは甚平の柄で…)」

哀川潤「『ホームレス高校生』で受けようってか? ネタ被ってんだよ! パクんな!!オリジナルを作れ!」

キョン「………」

哀川潤「……ふんっ こんなに言ってもそんな顔してんかよ。だったらテメェはもう終わってんよ。いても
    迷惑だ。さっさと野たれ死ね」

キョン「………」

哀川潤「このあたしを期待させといてこのザマか。だったらもうお前とは≪縁≫が絡むことはねーだろうよ。

    じゃあな、死にぞこないの主人公」スタスタ




――………――



187 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/25(水) 13:17:52.44 ID:tiU.y3c0 [9/22]
 2、

――5月23日(月)――

――午後1時頃――

――太秦にある公園――

キョン「(哀川さんと別れて、4日が過ぎた。特に変わったことはないと思う。
     ただただ、いつの間にかに時間だけが過ぎていった。

     俺はあれからもこの公園を寝床にしていた。何でだろうな。2人からあんなに怒鳴られて、
     嫌な思いしかしなかった、今でも思い出す所なのにな。
     行く所も決まらず、住む所も決まらず、する所も決まらず。

     今、分かることは、殺人衝動をまったく感じなくなった。殺気ももちろんない。≪零崎≫
     なのにな。俺は壊れたのかもしれない。傑作だ。≪あっち≫の世界からも≪そっち≫の世界
     からも追放されたのか…
     だから、人は殺さない。殺せない。殺したくない。

     結局、東京にも北海道にも行く気はなくなった。だって、殺してないし。

     俺は今どこの世界の住人なんだろう。

     家に帰ろうかな? けど、古泉や朝比奈さんに会うのは気まずい…
     そういえば、長門はどうしたんだ? ハルヒを殺すのを実質的に手伝ったようなものだから、
     古泉たちの≪機関≫とは対立したのかもしれない。だとしたら、SOS団は崩壊したのか。

     だとよ、ハルヒ

     ………

     そろそろ前向きに考えないとな。生きてるんだ。これからどうするか決めないと。
     生きてる? 俺が? こんな生活してて、生きているといえるのか?

     よし、決めた。次に入ってきた人を殺して刑務所に入ろう。ついでに、零崎をかばって、
     『連続殺人鬼』って言ってみようかな。

     零崎はどうしているのだろうか。零崎はあの人を襲ったのだろうか。どうでもいいけどね。

     ……俺は零崎を恨んでいるのか? ……いや、怨んでない。……多分。だって関係ないから。


――数分後――

キョン「………来たな」コソコソ

×××「………」

キョン「(そろそろいくか)」ガサッ


188 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/25(水) 13:39:33.92 ID:tiU.y3c0 [10/22]
キョン「なっ……」

哀川潤「やっぱりな。まだいたか、主人公気取りのキョンくん」フッ

キョン「………」

哀川潤「なんだよ、感動的な再開じゃないか。黙り込むなよ、空気が悪くなる」

キョン「……どこが感動的なんですか… 」

哀川潤「なんだお前、まだこの間のこと怒ってんのか? ちっせい男だな、ホント。いーたんだったら
    何したって許してくれるのに。お前もあいつを見習いな」

キョン「見習いようがないですよ。その人を知らないんですから」

哀川潤「そうだな。今度紹介してやるよ、面白いやつだぜ。なんてったってあたしのオキニだからな。
    それに、お前らの体質が、お互いにどんな風に干渉し合うかってのも気になるな」

キョン「……そんなこと言いに来た訳じゃないんでしょう。その前髪をコーディネートしたのは零崎
    ですか? パッツンになってますよ」

哀川潤「そうだよ。いーたんは似合ってるってさ。あんたもそう思うだろ」

キョン「生憎、俺は前髪なんて興味がないんです。ポニーテールかそうでないかでしかありません」

哀川潤「お前の性癖もいーたんのと同じで訳がわかんないな、ちょんまげだってOKてことだろ?」

キョン「……それで、哀川さんはあいつに負けて、命からがら逃げ出して来たってことですか…」

哀川潤「上の名で呼ぶなって言っただろ。あたしを苗字で呼ぶのは敵だけだ。

    それに、逃げてきたんじゃあない、逃げられたんだ。お前、言うようになったな」

189 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/25(水) 13:42:26.84 ID:tiU.y3c0 [11/22]

ちなみに、いーちゃんの性癖は、年上だったら見た目が幼かろうとお姉さんだろうと
大丈夫という変わった趣味です

190 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/25(水) 13:56:54.84 ID:tiU.y3c0 [12/22]
キョン「つまり、仕事に失敗したから、逃げた零崎を追うのに力を貸してくださいってことですか?
    この前あんだけ人を詰っといてよくもそんなことが言えますね」

哀川潤「はて、何のことやら。さっぱりわからないね」

キョン「よくもいけしゃあしゃあと…」

哀川潤「で、お前はいいのかよ。それで。ヒロインを誘拐どころか殺されたんだ。主人公なら復讐しに行く
    っていうのが常套句じゃねぇか」

キョン「……俺はいいんですよ、もう関係ないことです。ハルヒも、朝比奈さんも古泉も長門も… 」

哀川潤「テメェ、まだそんな事抜かしてんのかよ… いいぜ、テメェがまだそんなことを言うだけの幻想を
    抱いてるって言うんなら―――

    ―――その幻想をぶち殺すっ!!」バキッ

キョン「ひでぶっ!!」ドーン





ご飯食べてきます

195 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/25(水) 14:51:56.09 ID:tiU.y3c0 [13/22]
あれ? やっぱりまずったかな?
とある魔術って見たことないんだけど、主人公の台詞はこれであってると思うんですが…


よく分かりませんが、とりあえず再開

197 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/25(水) 15:22:19.68 ID:tiU.y3c0 [14/22]

キョン「いきなり右アッパーって… なにすんだよ!」

哀川潤「だから、あたしが稽古つけてやるって言ってんだよ。そんな曲がり腐った性根を叩き直してやる。

    そんな性格は主人公にあわねぇんだ。生まれきっての主人公なこの哀川潤様が、本物の主人公って
    ものを教えてやる」ドカバキボコ

キョン「ぐあっ!」

哀川潤「おらおら、この前みたいに避け切ってみろよ! それともテメェはドMですか? キッメーっな。
    近づいてくんなよ、下種野郎!」バシバシ

キョン「ぐ…」

哀川潤「それとも懺悔ですかぁ? あたしに殴られて蹴られて、許してもらおうってか?」

キョン「ちがっ……」

哀川潤「はんっ、お門違いも大概にしろ。 お前はバカなんて甘ぇものじゃない。とことんアホだ!」ドンッ

キョン「がはっ」バンッ

哀川潤「おら、立てよ。 立てって言ってんだ!!

    勝手に誤解すんな。これは正義の鉄拳なんかじゃねぇ、ただの喧嘩だ! テメェの私情を持ち込むな!」

キョン「………」

哀川潤「かかって来いよ! この前みたいにあたしを痺れさせて見ろよ! もはやそれさえ出来ないってか?

    それでも天下の≪零崎≫かよ! あたしの知ってる零崎はもっと強くてカッケかったぜ、そんなんで
    ≪零崎≫を名乗んな! 名負けしてんじゃねぇ!」

キョン「好き勝手言ってってんな!」


198 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/25(水) 15:38:58.05 ID:tiU.y3c0 [15/22]

キョン「うぉりゃぁー!!」バシッ

哀川潤「いいパンチだ。それでいいっ!もっと来いよ、主人公!! 悪役(あたし)を倒してみろ! 」ドンッ

――ハイキック、これは避けやすい。軸足を蹴り崩せば… ――

キョン「だぁ!」

哀川潤「狙いが見え見えなんだよ、バカが!」

――蹴りに入った足を無理やり地面につけて距離を縮めて、それを軸にした回し蹴り! 避け切れないっ受ける!――

キョン「ぐっ」ドーン

哀川潤「まだまだぁ!」

――ふざけんなっ! 自分でぶっ飛ばした相手に追いつくって何だよ!!――

哀川潤「昇竜拳っ」ドカッ

キョン「がはっ!!」

200 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/25(水) 16:24:28.25 ID:tiU.y3c0 [16/22]
哀川潤「あたしは言ったよな! 簡単に世界とは縁切れねぇってな!」


――拳を腰に溜めてる! 来るか!?――


哀川潤「いくらお前が人殺しだって! ≪零崎≫だからって何勝手に≪そっち≫の世界から逃げようとしてんだよ!!」ドシン


――出来るだけ退きつけて… ここで右に避ける!――


哀川潤「そんぐらいちっぱいもんなんざ抱えて背負い込めよ! そん程度でヒロインを投げ出すな!!」


――この人なら懐に入ったら膝蹴りか肘を入れてくる、どっちだ!――


哀川潤「障害なんてあって当たり前だろうが! 主人公なら壁を蹴破れ!!」グイッ


――肘! なら、これを避けたら右のブローが来る。だから!――


哀川潤「おめぇとその女は高々≪殺人鬼≫ごときに阻まれるようなやわな関係か! 違うだろ!!」スカッ


――ここでしゃがんで、狙うは足首!!――


哀川潤「捕られたもんはもんはぶん捕り返せ! 1も2もなく、4の5の言うな! 3倍返しだ!!」


――なっ! ブローじゃなくて、膝蹴り!無理だ、この体勢じゃ受けも避けも出来ない、喰らう!!――


哀川潤「主人公なら―――諦めんじゃねぇ!!!!!」


キョン「ぐぁっ!!!」ドッカーン



201 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/25(水) 16:46:17.40 ID:tiU.y3c0 [17/22]

――ブルルンッ、ブルルンッ――

キョン「(……ん? ここは?)」

哀川潤「お、気づいたか?」

キョン「俺は一体…? 確か、哀川さんと殴り合ってて… イテテッ」

哀川潤「上の名で呼ぶなって何度言ったら分かる! お前いーたんか?いい加減敵判定すんぞ!」

キョン「すいません… あの、潤さん?」

哀川潤「なんだよ」

キョン「なんで俺は車に乗せられてんですか?」

哀川潤「ただの車じゃねぇよ、コブラだ。カッケーだろ。」

キョン「それくらい分かりますよ。俺は何故、を聞いたんです。出来れば何処に、もセットで答えて
    戴けるとうれしいんですが

    (あれ、俺なんでいきなりぶん殴ってきた人に敬語使ってんだろう)」

哀川潤「そんな分かりきった質問すんなよ。決まってんだろ、捕まえにいくんだよ、人識くんのとこ
    へな。今更ノーとは言わねぇだろうな? あぁ!?」

キョン「」コクコク

哀川潤「よぉし、いい子だ。ご褒美におねーさんがえっちぃことをしてあげよう」

キョン「いえ、やめてください、マジで怖いです!!

    (ヤバい! あの人の眼、獲物を狩る眼だ!)」

哀川潤「なんだよ、お前もロリコンかよ。いーたんもそうだが、主人公ってのはロリコンばっかなのか?
    小便くせぇガキよりも色気ムンムンなお姉さんの方が需要明らかにあるだろ

    それともポニーテールがいいのか? だったらさっさと言えよ。あたしも何年か前まではポニー
    やってたんだぜ」

キョン「………」ゴクリ


202 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/25(水) 16:48:41.81 ID:tiU.y3c0 [18/22]
さらに注。いーちゃんは年上好きながら、ロリロリな少女を三人も口説き落としています

203 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/25(水) 17:08:42.47 ID:tiU.y3c0 [19/22]
哀川潤「ま、ポニーは置いといて、それよりもあんたの依頼だ。」

キョン「依頼? 何のですか? そんなのした覚えがありませんが」

哀川潤「お前が気絶してる間に寝言で言ってたんだよ。

    『どうか、私めをあのにっくき零崎人識に勝てるくらい強くしてくださいまし。お金に糸目はつけません』

    ってな。さすが主人公、言う台詞を弁えてるじゃねぇか。糸目はつけないって言ってるくせに20万ちょっと
    しかないって言うのが残念だったがな。もっと甲斐性を持てよ、女に逃げられるぞ」

キョン「ちょっと、何言ってんですか。……ってほんとに金取ってるし!!」

哀川潤「なぁに、あたしが鍛えてやるって言ってんだ、1時間あればあたしの次くらいには強くなれるぞ。お前いい線
    してるし。人類最強の請負人に出来ないことはないんだよ」

キョン「勝手に依頼をしたことにしないでください! そんなこと頼むわけがないじゃないですか」

哀川潤「だったら降りろよ」

キョン「え?」

哀川潤「このあたしがあいつをぶちのめす依頼を譲ってやるって言ってんだ。それが出来ないなら降りろ」

キョン「………。

    (走ってる車から降りろって死ねって言ってるようなものじゃないか

    それに、俺はこのままでいいのか? ハルヒを殺したあいつを、のさばらしておいていいのか?

    ………

    そんなの、わかんねぇよ。わかんないけど…)」


――哀川さんは、まるで心を読んでるような眼で、俺を見ていた――


哀川潤「だったら行こうぜ。理由とかそんなもんは後から着いてくんだ。今はお前がしたいことをしろ」

キョン「……はい…」

――俺は、悩んでいた。本当にそれをしたいのか?――

――哀川さんは俺を見て……

哀川潤「ニヤニヤ」ニヤニヤ

……ニヤニヤと笑っていた――


204 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/25(水) 17:32:11.78 ID:tiU.y3c0 [20/22]

――それから3時間後、俺と哀川さんは、大阪にいた――

   哀川潤『で、人識くんは何処にいんだ?』

   キョン『えっとですね… あっちの方角にいます。そこまで遠くないと思いますが』

   哀川潤『ってことは、大阪か? まさか関空から世界へ逃げようとかじゃないよな?』

   キョン『それってやばくないですか?しかも今逆方向に走ってますし。何でこっちに進んでんですか!?』

   哀川潤『女の勘だ』

   キョン『全然外れてるじゃないですか! もしかして女じゃないんじゃないんですか?』

   哀川潤『おいテメェ… 今すぐこっから叩き落してもいいんだぞ?』

   キョン『すいませんすいませんすいません! それだけは勘弁してください! あなたが言うとホントにやり
       そうで怖いんです!』

――午後5時――

キョン「着きましたね、大阪」

哀川潤「そだな。ま、今日はお前も疲れただろうし、どっかのホテルに泊まろうぜ」

キョン「ホテルって……」///

哀川潤「何赤くなってんだよ。女の子とホテルに入るのは初めてか、童貞くん?

    あたしは赤いもんが大好きだから、そのまんまホテルに入っちまうと……喰っちまうぞ?」クチビルヲペロリ

キョン「」

哀川潤「冗談だ、そう硬くなんなよ。零崎も埠頭や空港に近づいてないんだろ? だったら大丈夫だ。逃げんなら
    さっさと乗ってるだろうし、多分、ほとぼりが冷めるまでここにいる腹だろうさ。意外と近くに逃げると
    は思わないだろうって計算さ。

    それじゃ、ここら辺でお好み焼き屋探しとけ。客が焼くタイプな。下手な店員なんかよりもあたしが作った
    方が100倍うまいからな。で、あたしはホテルを探してくるから」タタタッ



キョン「……いっちゃったし、もう見えないとか、足速すぎだろ」




×××「お、キョンじゃねーかよ」

217 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/27(金) 14:09:27.30 ID:JKdeWUM0 [2/20]


―後ろから俺は声を掛けられた。聞き覚えのある声、振り向かなくても分かる。哀川さんが探している人物、張本人…―


零崎 「かはは、久しぶりだなキョン。なんだ、結局お前も京都から出てくことにしたのか?」

キョン「………」


零崎 「あれ? お前なんかボロボロじゃん、それに……」

キョン「………」

              ・ ・ ・ ・         ・ ・
零崎 「さっきから黙りこくって、何ですか?告白前の中学生女子ですか?」

キョン「………」


零崎 「やっべ、自分で言っといてなんだけどマジおもしれぇんですけど!!」

キョン「………」


零崎 「………。

    なんだよ、何か言えよ。俺さこういう修羅場ッぽい感じの空気って苦手なんだよ」


キョン「………」


零崎 「……こんな所にいんじゃ、暇だろ? 少し付き合えよ」


218 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/27(金) 14:13:04.95 ID:JKdeWUM0 [3/20]


―零崎は俺を、元いた場所からそう遠くない道頓堀沿いの遊歩道まで連れてった。
 その間は終始無言。川岸の人のいない所まで俺を誘導し、自分から喋り始めた―


零崎 「で、何? お前が怪我してんのと不機嫌なのって関係あんの?

    まぁ大体誰がそんな事したのかってこと位は見当つくけどよ。あれだろ、俺を襲ってきた赤女。あれがお前のとこに
    行ったせいでお前の隠居生活が壊されたから俺に文句を言いに来たのか?」

キョン「………」


零崎 「けどよ、それは見当外れだ。俺は何もしちゃねぇよ。いや、したから襲われたんだけどさ。

    意味わかんねぇんだよ、あの女。俺に人殺すなって言ってんだぜ? 何言ってんだよ。しかも一般人っつてるくせに
    俺が≪零崎≫だって知った上で張り合おうとすんし、俺がバイクで轢いても掠り傷負わないんだぜ、そりゃ逃げるだろ。
    あんな人外に勝てっこねぇぜ。

    お前も大変だったな、あんな化け物がド素人のお前に襲いかかってきたんだ、痣だか打ち身で済んでる方がおかしい
    ってんだよ。もしもおめ―が捕まってたら確実に死んでると思ってたのにさ。やっぱしお前才能あんじゃねぇか。」


―赤女って言うのは哀川さんのことだろう。ホントに襲ったのか、こいつは。あの人は、一体何を持って確信したのか気になるところだ―

キョン「………」


零崎 「……ッチ、わかったよ、俺が悪かった。あいつを逃がさなきゃおめ―も何事なく『日常』を過ごせたのにな。俺のミスだ。

    けどよ、俺だって好き好んでお前を困らしたわけじゃない、俺も結局は殺すのやめざるえなかったしな。つっまんねぇ
    オチだぜ、俺の物語にしちゃさ。お前も思うだろ?たかだか12人で終わりだとよ。≪殺人鬼≫が殺すには少なすぎん
    だよ」


219 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/27(金) 14:17:14.69 ID:JKdeWUM0 [4/20]


―零崎はこの前よりも饒舌だった。まるで親に宝箱の場所を見つけられそうになって、慌てて意識を逸らそうとしている子供みたいに―


キョン「……零崎…」

零崎 「何だ許してくれんのか? やっぱキョン、心が広いねぇ。じゃあさ、そこらへんの居酒屋でも入ろうぜ? 未成年だから
    って酒が飲めねーわけじゃだろ? 一晩でも二晩でもつきやってやるよ。それとも赤女が心配か? 大丈夫だ。どーせ俺は
    遠くに逃げたと思いこんでるさ。だからまさか京都のすぐ近くに潜伏してるたぁ思っちゃねぇよ、安心して愚痴れよ。
    その代わり俺の愚痴も聞いてもらうぜ。それから……」


―見ていて何かイライラする、もどかしい。さっさと言えばいいのに。何を恐れてるんだ、人を殺すことに何も感じない≪殺人鬼≫ごときが―


キョン「……慣れないセリフ何か言って誤魔化してんじゃねぇよ。イライラするんだよ」

零崎 「……だよなー、俺も知ってんだよ、それくらい。あまりのキモさに吐き気がする。どうせ大阪の川ってんのは汚ったねー
    もんなんだろ?ここで吐いても大丈夫だよな。ウゲェーー」


―吐いた。きたねぇ―



キョン「答えろよ」

零崎 「その言い方、つうか、あった時からの態度で気付いてんだけどよ、お前もう知ってんだろ? だったら何も言わせようとする
    ことはないんじゃねーか? 案外、俺が好きな女の子と喧嘩しちゃって高校進学を諦めちゃう、ガラスみたいにピュアピュア
    なハートの持ち主だったらどうすんだよ。罪悪感で自殺しちゃうかも☆」



キョン「零崎…何でハルヒを―――殺した」


221 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/27(金) 14:42:38.07 ID:JKdeWUM0 [5/20]


―零崎は川沿いの手すりに寄りかかりながら俺をじっと見ていた。笑ったようにも、怒ってるようにも、無表情にも見える顔で。―


零崎 「何でって、この前も言っただろ。≪殺人鬼≫が人を殺すのに理由が必要か?」

キョン「だったら何でハルヒだったんだよ。別にハルヒじゃなくたっていいじゃないか」

零崎 「偶然俺が殺したくなった所で、偶然お前が話してたハルヒが、俺に声を掛けてきたんだ。だから殺した」

キョン「声を掛けてきたから殺したって言うのは因果関係にしては無理があるだろ」

零崎 「おめーも分かってることを聞いてくんな。因果もくそも、会ったか会ってないか、知ってるか知らないかも関係なくただ殺す。
    等しく殺す。際限なく殺す。それが≪零崎≫だ」

キョン「それなら、この前も聞いたが、何でお前は殺した人間をばらすんだ? あの時は探し物って言ってたよな、本当にそんなもん
    なのか? ありえない。わざわざ殺人現場でするほどのことじゃないし、見つかるリスクが高まるだけだ」

零崎 「……お前には、わかんねぇよ」


―零崎は俺を睨み付けながら言う。―


零崎 「もはや≪零崎≫じゃないお前にはな」


キョン「………」

零崎 「いや、≪零崎≫だからってわかるとは思えないが。それよりもおめー、どうしたんだよ。殺意も害意も傷意も感じられねぇ」

キョン「………」

零崎 「あの女が殺されたショックで、ってか? やっぱり甘ちゃんだな。あんだけお前は≪そっち≫から離れろって言ってやったのに。

    どうする? ハルヒちゃんの仇でも取ってみるか? 付き合ってやるが、やめとけよ。
    ≪そっち≫じゃない身で、≪零崎≫でもないのに、主人公補正がないのに、殺人衝動もないお前ごときに勝てるほど雑魚なんか
    じゃないぜ、俺。

    キョンでもない、≪零崎≫でもないお前は、どの世界(物語)からも追放されたお前は、すでに死んだようなもんだ。
    もう何もできることはねぇ、人と関われない、人と交われない、人を愛せない、人を殺せない。いてもいなくても関係ない」

キョン「………」

零崎 「だから、そんな辛そうな顔してるお前を、俺が救ってやるよ」

222 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/27(金) 15:02:58.22 ID:JKdeWUM0 [6/20]

―ぐるん、と視界が反転した―

―いつの間にかに接近していた零崎は、俺の足を狩り、馬乗りになっていた―

零崎 「男のマウントポジションとっても何もうれしくねぇな。当たり前だ、俺は兄貴みたくブラコンでも、古泉みたく
    ガチなゲイでもねーからな。そこんとこ勘違いすんなよ? 」

キョン「……どうせ死んでるんなら、殺さなくてもいいじゃないか」

零崎 「なんだよ、お前まだ生きてーの? 意外じゃん。けどそうだな、お前が死のうが生きようが変わんねぇよ。けどよ
    なんつーか、ケジメ?みたいな。
    結局お前の世界と俺らの世界が交わったのはさ、俺が事件を起こしたせいって訳よ。一種の罪滅ぼし。中途半端は
    よくないし。だから、俺がこんなふざけた、≪この物語≫を終わらせてやる」

キョン「お前は俺を殺したら解体すんのか?]

零崎 「そうだな、お前みたいな奴に会ったのは二度目だが、一人目は逃がしてるし、その代替品ってことにするか?
    それも悪くない。何より≪殺し名≫を解体したことないしな。

    安心しろ、お前は解体するために殺さねぇ、殺すために殺してやる。解体するのはついでだぜ。それに一気に、
    痛みを感じる前に殺してやる」

―そういいながら、服の中から一本のナイフを取り出して、…

零崎 「それじゃ、殺して解して並べて揃えて、晒してやるよ」

…ナイフの、刃を、首筋に、当てようと…、―


223 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/27(金) 15:31:30.20 ID:JKdeWUM0 [7/20]

――カキンッ――

―零崎のナイフは、俺がずらさなかったら頭のあった歩道のすのこに刺さり、俺のナイフが零崎の喉を捕らえていた―

零崎 「おいおい、冗談にしろよ? せっかく俺が優しく嬲ってやるって言ったんだぜ? ハルヒに詰られて喜ぶ
    ドM変態なんだったら、喜んで受け入れろよ。」

キョン「誰がなじってほしいなんて言った。死ぬなら自分で死ぬし、お前には殺されたくない」

零崎 「自分で死ぬのはいてーから俺が手伝ってやるって…」

キョン「そういうのを悪意なき悪意って言うんだ。人間ってのはアレな生き物だから、善意が悪意になってる
    ことに気づかないんだよ。勝手に自惚れんな、勘違い野郎」

零崎 「ケッ、んな面倒くさい話持ち出さずとも、自殺したいならそう言えよ。富士の樹海に連れてってやる。
    車持って来てやるから待ってろ」

―零崎は俺の上から退いて、階段を登ろうとしている。だから―

キョン「待てよ」

零崎 「ん?…オット」

―俺は零崎に切りかかった―

零崎 「おい危ねーよ、死んだらどうする! テメェ心中でもするきか?」

キョン「そんなんじゃない、ただお前を殺すだけだ」

零崎 「嘘付け! そんな殺す気もねーよゆな刃筋で名に寝惚けたこと言ってやがる! おい、マジ切れんぞ?
    俺が切れたら手に負えぞ。お前もわっかんねー野郎だな」

―そのまま零崎に一歩踏み出す―

零崎 「……ちっ! マジわかんねー、わかんねーよ! 殺されてーのか殺されたくねーのかはっきりしろよ!
    もう知らねぇー、殺してやる!」

―零崎は新たなナイフを取り出し、正面から突っ込んできた―


224 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/27(金) 16:00:15.01 ID:JKdeWUM0 [8/20]

―零崎は右手にナイフを持ち替え、頚動脈を狙い振り下ろす。俺はあえて左に飛びのいた。持っていたナイフをしっかりと
 持ち直し、イメージ通りに、その切っ先を、横でナイフをリターンさせる零崎の胸に的を縛り、―


零崎 「つまんねぇよ!」


―いつの間にかに持っていた左手のナイフでそれを防ぐ。返ってくる右手のナイフを避けるために腰を落としたところに、
 零崎の膝が入っており、それが俺の胸板を突いた―

キョン「がっは……」

―肺の中の空気が押されて口から抜け、呼吸ができない。意識が少し薄くなった気がした。さらに零崎は蹴りをいれ、俺は
 手すりまで吹っ飛んだ。―

キョン「ぐ……ふぅ、」

―膝の蹴りと『運悪く』膝を受けた正反対の背中が手すりにぶつかり、呼吸のリズムが忘れたかのようにつかめない。
 それでも零崎に向かい走り出すと、始めに払われた足が痛み、無様にこけた。顔を上げた瞬間、零崎は俺の背中を
 踏みつけた―



225 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/27(金) 16:36:06.38 ID:JKdeWUM0 [9/20]

―零崎は俺の顔とナイフを持った右腕を押さえるために屈んだ。これでほぼ俺を封じたと思い込んだのだろう、零崎は
 俺の顔を覗き込んで言った―

零崎 「は、笑わせんな。そんな≪零崎≫でもなく、殺人目的もなく、まして殺意のかけらもないようなお前如きに
    この俺が殺せる訳ねーだろうが……!?」

―俺は左の裏拳を叩き込んだ。そんな状態から打ち込んだから、勿論威力もくそもないが、零崎が怯んだ隙に、零崎を
 振り落とし、距離をとった―

―怒りと憎しみとその他もろもろを詰め込んだ視線を俺にぶつけながら、零崎は唸った―

零崎 「……なんでだよ。おめーは、俺が憎いんだろ? 当たり前だ、お前の女を殺したのは俺だ。≪そっち≫と縁切れ
    てねぇんだったら、殺したくなって当然だろうが! なんでそれでも殺意を抱いてねーんだよ!!」

―零崎は次第に、軽蔑するような、恐怖を感じている目になっていった―

零崎 「お前、マジでわかんねぇよ…、気持ち悪い…」


――俺は何で今零崎と殺し合いをやっているのだろう?――


―俺は距離をさらにとろうとする零崎に近づいて、ナイフを突き立てようとする―

零崎 「何でお前は俺を殺そうとしてんだよ! 殺意もないのに、何がしてーんだよ!!」

―俺のナイフをすべてすんでの所で避けていた零崎は、さらに俺と距離をとろうとして後退した。無論俺は追いすがる―


――俺はどうして零崎を殺そうとしているのだろう?――


―零崎はもはや泣き出しそうな顔になっていた。かわいい―

零崎 「テメェは何なんだよ!! ちっともわかんねえよ!」


226 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/27(金) 16:56:21.17 ID:JKdeWUM0 [10/20]


――殺そうとしているのに、何故殺意が湧かないのだろう?――


キョン「そんなこと言うなよ。お前も面白い奴だって言ってたじゃないか。あんちゃんを解体してるときだって
    楽しそうにしてたんだ、そんな顔せずにもっと楽しもうぜ?」

―零崎は、戦闘中だろうと敗走中だろうとしてはいけない禁忌を、俺に背を向けて逃げ出した―

キョン「…フッ!」

――ガチンッ――

―俺は零崎を追いながらその背中にナイフを投げたが、零崎は後ろに構えたナイフでナイフを弾いた―

零崎 「来んなよ! 追って来んな!」


――殺人衝動も、殺意も無いのに、何故零崎を殺そうとしているのだろう?

  何故?何故?何故?何故何故何故何故何故?何故何故何故何故何故何故何故?何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故???
  何故何故何故?????何故何故何故何故何故何故何故何故何故?????????????????????????????

  それは、
 
                         ハルヒのため?


  俺は復讐のために零崎を殺そうとしているのか?そうなのか?俺は何のため?俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は


                                                       わからない。

  
  そんなの―――わからないよ…
                                                            ――
 




227 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/27(金) 17:16:59.65 ID:JKdeWUM0 [11/20]

―俺は、いつの間に零崎を組み伏せていた。零崎も俺の首筋にナイフを当てていた。血がそれをしたたっている―

零崎 「……さっさと放せよ。俺はナイフで、お前は徒手空拳だ結果はわかってるだろ? 放せ!」

キョン「………」

零崎 「………」

キョン「………」

―どうしようか考えあぐねていた。このまま首に手をかけようとすれば、間違いなく零崎はナイフを突くだろう。

 どうしたものか。このまま放しても殺されるかもしれない。殺されるかも知れない。きっと、そうだろうな。
 
 それでもいいかも知れ…―



×××「おめぇらぁぁああああ、なぁあにやってんだよぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」



―視界の端から赤い人物が走ってくるのが見えた。ありえない程遠くから、その声は耳元で叫ばれたかのように、
 直接ハンマーで殴りつけたように、俺の脳を揺さぶった―

キョン「あい、かわさん… 」


―そんな衝撃を受けたせいか、それとも今日一日に哀川さんと零崎から受けたダメージによるものなのか、大よそ
 その両方だろう、意識が遠のいていく

 零崎はすでに俺の上から降りていて、とっくに駆け出していた。

 ああ、哀川さんが何か叫んでるなと、そんな考えと、首からの流血による気持ち悪さとともに、俺の意識は、

                                               落ちた―


230 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/27(金) 17:46:15.35 ID:JKdeWUM0 [13/20]
――×××――

――×××――

哀川潤「よ。起きたか」

―目が覚めたのは、午後10時を少し過ぎたくらいだった。零崎にあったのが5時過ぎで、その後のなんやかんや
 の時間を含めると、大体4時間くらい寝てたのだろう。多分、というか間違いなく哀川さんに運ばれたのだろ。
 哀川さんにはホント迷惑かけっぱなしだな。あれ?かけられているのは俺かもしれない。
 今いる所も、哀川さんが取ってきたホテルの中なのだろう。少し涼しく感じる室温がちょうどいい。
 それはいい、そこまではとてもありがたいのだか… ―

キョン「……哀川さん、なにやってんすか?」

―頭の下からは枕なんかよりもずっと柔らかくて、気持ちのよい、まるで人肌みたいに温い、それでなおかつ、少し
 甘いような、それでいて大人っぽい、濃すぎない香水の香り。聞かなくてもわかる… ―

哀川潤「上の名で呼ぶなって何度も言わすな。なんか一々訂正するの面倒になってきた。けど名前で呼べよ。

    聞かなくてもわかることを聞くな。膝枕に決まってんだろ。

    ここまで運ぶの結構手間だったんだぜ。なんせお前、真逆の方向に行っちまうんだもん」

キョン「読心術でも使ってたのですか? 人の心を勝手に読まないでください。

    それよりも、迷惑かけて、申し訳ありません」

哀川潤「ほんとだぜ、タクシーも通んなかったから、担いで連れてきたし、お好み焼き食べれなかったし、なおかつ、
    現在進行形で足はしびれてるし」




232 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/27(金) 18:02:32.97 ID:JKdeWUM0 [15/20]

キョン「すいませんっ、今すぐどきます!」

―あわてて退こうとする俺に、哀川さんは唐突に乗しかかってきた。胸が顔に当たって苦しい。けど、このままでいたい―

哀川潤「だ~め。それに『当たって』るんじゃなくて、当ててんだよ。それにしても、ムフフッ]

キョン「?」

哀川潤「なかなか良いものを持ってるじゃないか、きみ。大きさも感度もなかなか良いぜ。さすが『キョン』なだけあって、
    かなりの『キョコン』じゃないか。おねーさん、ますます食べたくなっちゃった」

キョン「!!!」

哀川潤「フヒヒッ、良いではないかー、良いではないかー」ムニュムニュ

キョン「ちょ、ちょっと! どいてください!!」

―さすがにこれ以上は不味い! いろいろと不味すぎる!! 胸がもにゅもにゅして… 脱出!!!―

キョン「何してるんですか!!」

哀川潤「いいのかな~そんなこと言っちゃって~。後で虐めてもらえないぞ~

    それにしても、寝てる間もすごかったが、今のいきり立ち具合はもっとすごいな… 実はこれがMAXじゃないのか?」

キョン「あなたは恥女ですか!!!」///


233 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/27(金) 18:36:56.88 ID:JKdeWUM0 [16/20]
哀川潤「冗談はここまでにして、」

キョン「(冗談だったんだ)」ガクッ

哀川潤「冗談じゃなかったほうがよかったか? だとしてもそれはいったん置いとくぜ。

    キョン、どうして『この辺』から外れた所で、零崎くんといちゃラブしてたんだ?」

キョン「それこそわかりきった質問じゃないですか。あいつと会って、そして話し合っていたんです」

哀川潤「それであんな風に抱き合ってたのか? お前バイかよ。どうせ勝てないことも分かってたんだからさ、
    あいつに話しかけられた時に助けを求めりゃいいじゃん。『ジュンジュンマ~ン』って呼べばすぐに
    駆けつけるぜ。 それにしても、『ジュンジュンマン』って響きが卑猥だな」

キョン「(うっせーよ! シリアスかギャグかはっきりしろよ!)」

―さすがにあの格好は不味いので、今はリビングのソファーに座りながら向かい合っている。
 それよりもここ、スイーツ―ルームじゃね? やべぇ、初めて入った。庶民の俺でも入れる日が来るなんて

 それよりも、やっぱりあの格好のがよかったな… 意地張んなきゃよかった―

哀川潤「意地張んなきゃよかったのにな。首だってもうちっと切れてたら出血がその程度じゃすまなかったぜ。
    お前のは少し肉と皮膚が切れた程度だが、無茶してんじゃねーよ」

キョン「すいません…」

哀川潤「で、あいつと喋ってる内に殺し合いになったってか? 短絡的過ぎるだろ。もっと現状考えろよバカ!」

キョン「すいません……」

哀川潤「心配、すごくしたんだから… 」ポロポロ

キョン「………。

    (さすがに無理があるだろ)」

哀川潤「なんか言ったかぁあ!クソバカぁ!!」

キョン「」ブンブンブンブン


234 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/27(金) 19:01:08.54 ID:JKdeWUM0 [17/20]

哀川潤「それで、どうするんだ? 結局お前じゃ零崎に勝てないってのが、よく身に染みたはずだぜ。」

キョン「(一応少しの間は押してたんだけどな)」

哀川潤「結局、あいつに勝つにはあたしの力が必要って訳よ」

キョン「具体的には何するんですか?」

哀川潤「あたしと組み手」

キョン「死にます! 零崎に会いに行く前に俺が耐え切れません!」

哀川潤「手加減すっからそんなびくびくすんなよ。修行って大事だぜ。あたしはそんなことしなくても
    強いからそんなことしないけど。

    最近の少年漫画ってのはそれがねーんだよ。努力!勝利!友情! そいつらのバランスが崩れて
    るんだよ!友情ばっか書くから腐女子みてーな変なのが湧くんだ!

    友情ばっか見んな!一番熱くなれるのは主人公が必死になってるその姿だろうが!!それにより
    勝ち取った勝利!育まれる友情!そういうのは全部努力からくるんだ!それを疎かにすんな!!」

キョン「……いいたいことは分かりました。それで、何時やるんですか?」

哀川潤「今」

キョン「……無理無理無理!! だって少し前まで殴られ蹴られされてたんですよ!」

哀川潤「根性だ!!!」

キョン「ぎゃぁあああああああああああぁぁぁ……」

    

235 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/27(金) 19:27:02.31 ID:JKdeWUM0 [18/20]

――ホテル――

――午前11時――

―それから、哀川さんは本当に修行?をいきなり始めた。そしてきっかり1時間後に終わった。
 強くなったかなんてまったく分からないけど、哀川さんの戦い方をコピーするように言われた。
 ま、そこそこできるようになっただろうって所で、後は明日ってことになった。

 それから、ルームサービスで食事を取り(やけに量が少なかった。あれがフルコースらしい)
 お風呂に入って(哀川さんは覗いてこようとしてたが何とか押しとどめた。)

哀川潤『いいじゃんか、別に見られて減るもんじゃないし』
キョン『だめです!』

 (いや、案外気づかないだけで覗かれてたのかもしれない)、

 ベットに入って寝た(寝ようとするまで気づかなかたが、ダブルだった。生理的危機感を感じ
 ざるをえなかった。ベットに入ってからも、哀川さんの執拗な攻撃、主に精神面と下腹部は
 続いた。

哀川潤『』ムニュムニュ
キョン『キャッ』

 陥落寸前のところで哀川さんが寝入ってくれたので、何とか貞操は守りきった。守らなければ
 よかった。マジ後悔。)。

 というわけで、起きたのが今。哀川さんはまだ眠っている。けど格好がヤバイ! 乱れに乱れた
 パジャマはもはや胸の下の方まで見えてたし、下はいつの間にか穿いてなかった。

哀川潤「…んっ…ふぅ…スヤスヤ」 

 …これは襲ってもいいってことだよね? 襲うよ? ほんとに襲っちゃうよ!今更だけど、俺こん
 な色気たっぷりな美人の隣で眠ってたのか、なんてバカな… 自分を殺したい。

 それでも、夢もなぜか懐かしい感じのするもので、すっきりした朝を迎えられた。昼だけど。
 体にもたいした痛みはなく、部屋に戻ってからの哀川さんの処理が適切だったのだろう、本当
 にあの人は万能だな ―




237 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/27(金) 19:43:01.47 ID:JKdeWUM0 [19/20]

キョン「起きるか」

―昨日から、いろいろと考えていた。それでも分からなかったことがあった。それは、何故、俺は
 零崎を襲ったのか…

 正直、分からないし、分かりたくなかった。俺は≪零崎≫じゃなくなったはずだ。なのに、俺は
 あそこまで零崎をおいこんだ。殺せはしなったが、それでも瞬殺されることはなかった。

 ≪零崎≫でもない自分が、≪零崎≫人識を追い詰められるはずがないのに、追い詰めた ―

キョン「………」

―俺は殺意はなかった。殺人衝動もなかった。殺す目的も、意味も、意義も、理由も、なかった。

 だけど、怨恨は、あった。ハルヒを、殺され怨み。復讐。

 ………

 それはない。なぜなら、俺はすでに≪そっち≫からは外されているから。怨む理由がない。

 ないはずなんだ…


 分からない ―

キョン「……結局、自分のことさえも分からないのか?」

―………―



238 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/27(金) 19:57:28.85 ID:JKdeWUM0 [20/20]

キョン「(零崎はどうしたんだろう… )」

―昨日の夜から、零崎はまだ大阪にいた。何処に、と正確なところはわからないが、確実にいた。

 あれ? 俺零崎じゃなくなったはずなのに、何故分かるのだろう?―

キョン「……!?

   (零崎が、動いてる!?)」

―動いている方向は東南東、奈良方面か! 移動スピードから考えて、大体電車だろう―

キョン「起こさないと… 」

―哀川さんを起こさないと。分かってはいるなのに手が動かない。哀川さんを振り向く。声をかけようとする。
 それでも動かない。哀川さんの顔を見ると、


 ふっと、ハルヒを思い出した。


 ハルヒも、哀川さんのように、あんなにエロくないけど、傍若無人で、唯我独尊で、わがままで、それでいて、
 憎めないやつで、怒って手を上げそうになったこともあった。それでも許してくれた。


 哀川さんとハルヒが重なって見えた ―
















キョン「………入ってきます」

―哀川さんは、いつものニヤニヤ顔で、眠っていた―

242 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/27(金) 23:24:23.77 ID:eXBwTXgo [2/5]
――午後9時――

――奈良――

――平城京跡――

キョン「逃げんなよ、零崎」


―奈良1300年祭の開催を受け整備された平城京跡。第一大極殿や朱雀門を再生させて一大観光
 施設となっている。


キョン「俺は、ただ、」


―しかし、観光施設としては歪に、しかし意図的に大極殿の前はそれなりにスペースのある砂利の
広場となっている。―


キョン「ハルヒのことが、知りたいだけだ」


―俺と零崎はそこに立っていた―


零崎 「………」

キョン「教えてくれよ、何で殺した?」




243 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/27(金) 23:25:03.90 ID:eXBwTXgo [3/5]
―――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――

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――――――

――



――………――



――

――――――

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244 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/27(金) 23:38:51.51 ID:eXBwTXgo [4/5]

―零崎は仰向けになった俺を見下ろしながら、俺に言った―

零崎「前にも言ったけどさ、俺を見下ろしら兄ちゃんなんて呼ぶなよ、弟」

キョン「はぁ――はぁ――はぁ――、クッ…。

    (ちっ、クソ痛い… 左手は動かないし、右手は腋の傷抑えんのでせいいっぱいだ。)」

―零崎は、もはや動かない俺の左腕を踏みにじっていた。焦げて黒く変色した皮膚が、剥がれた―

キョン「がぁぁああああ……」

零崎 「かはは、最低な傑作だぜ」

キョン「うううぅ~~~」

零崎 「それじゃあさ、もういいんじゃねぇか?

    そろそろ≪この物語≫の、解答編としゃれこもうぜ。」
 

245 名前: ◆cBdDqHBBvg[saga] 投稿日:2010/08/27(金) 23:58:19.24 ID:eXBwTXgo [5/5]

最後となる終ですが、これは一日にまとめて投下したいと思っています。この章は勢いが必要となる
ので(作者的に)。早ければ日曜日には投下します。遅くても月曜日には……
あれ?二つに絞られてね?なんて突っ込まないでください。

それでは、週明けにはお会いできるとうれしいです。

236 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 19:35:45.34 ID:xhDtgAIo [2/2]
赤髪巨乳萌え何で是非、18禁を書いていただきたいのですが


後ほんと>>236さんごめんなさい。自分が未熟なばっかり
そのうちエッチシーンも書けるようになりたいなと期待を込めて

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