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美琴「アンタは……!」一方通行「超電磁砲か」
1 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/03/25(木) 22:54:25.11 ID:tZe75vwo [1/8]
美琴はお見舞いに持ってきたりんごを果物ナイフで四分割した。
芯を取り、器用に皮に切れ込みをいれてりんごのうさぎを作る。四つともに細工を施し、平皿に盛り付ける。
「お姉様がわたくしのためにうさぎさんを……。
少々子供っぽいところはありますが黒子は非常にうれしく思いますの!」
「子供っぽいってどういう意味よ。りんごのうさぎさんかわいいじゃないの」
美琴は剥いたりんごを自分の口に放り込んだ。
それを見てベッドの上の白井黒子は悲鳴を上げる。
「ああああ!お姉様、黒子のために剥いて下さったんじゃありませんでしたの!?」
「うふぁぎふぁんいらはいんでふぉ?」
りんごをくわえたまま美琴は答える。
「そんなことは言っておりませんの!」
どうやら愛の力によって美琴の言葉は黒子に正確に伝わったらしい。
3 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/25(木) 22:58:22.65 ID:tZe75vwo
「うっ、傷口が開きますの……」
ベッドの上で盛大に暴れた黒子が胸の辺りを抑えて呻く。
美琴は口の中のりんごを咀嚼してから黒子をたしなめた。
「アンタねえ、怪我人なんだからちょっとはおとなしくしてなさいよ」
美琴はあきれたように息を吐く。
「残りはおいといてあげるから、勝手に食べなさい」
言ってから、時計に目をやり立ち上がった。
「お、お姉様、ぜひ『あーん』ってやつをやってくださりませんこと?」
黒子の息が荒いのは、傷の痛みのせいなのか、果たしてそうではないのか。
6 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/25(木) 23:13:45.74 ID:tZe75vwo
「……」
美琴は病室から黒子の絶叫の余韻が消えるのを確認してから、ほんの三歩病室から離れたところで立ち止まった。
(黒子の怪我も、突き詰めて言えば私にも責任があるのよね)
黒子が入院する原因となったのは風紀委員の仕事中の負傷だった。
『樹形図の設計者』の『残骸』回収にまつわる事件。
黒子はその主犯、結標淡希との戦闘で重傷を負った。
美琴は『樹形図の設計者』の修復を阻止するために個人的に動いていた。
黒子が結標と接触する前に自分が決着をつけていれば。
事件が解決した今となっては後悔しても遅いが、そういった考えはあとからあとから美琴をさいなむ。
7 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/25(木) 23:18:10.13 ID:tZe75vwo
>>6の前にこれ抜けてた
「んー、それはまた今度ね」
美琴は荷物を持って帰り支度を始めた。窓の外には夕暮れが迫っている。
そろそろ帰らなければ完全下校時刻が過ぎてバスがなくなってしまう。
「また今度って絶対こないような気がしますの……」
「そうねー、今度からお見舞いにりんごはやめとくわ」
美琴はあっけらかんと言った。
「お姉様の意地悪。
……はっ、今度からということはまたお見舞いに来てくださるということですの!?
黒子、まさかの逆転勝利ですの!」
「あー、帰るわ」
美琴は手をひらひらと振って病室の出入り口へと歩いていった。
「じゃあねー」
言って、病室のドアを開ける。
「お姉様、少しは振り返ってくださってもよろしいんじゃありませんのおお!?」
黒子が全てを叫び終わる前に、病室の外に出てパタンという音を立ててドアを閉めた。
8 名前:何事もなかったかのように[sage] 投稿日:2010/03/25(木) 23:18:43.42 ID:tZe75vwo
「……」
美琴は病室から黒子の絶叫の余韻が消えるのを確認してから、ほんの三歩病室から離れたところで立ち止まった。
(黒子の怪我も、突き詰めて言えば私にも責任があるのよね)
黒子が入院する原因となったのは風紀委員の仕事中の負傷だった。
『樹形図の設計者』の『残骸』回収にまつわる事件。
黒子はその主犯、結標淡希との戦闘で重傷を負った。
美琴は『樹形図の設計者』の修復を阻止するために個人的に動いていた。
黒子が結標と接触する前に自分が決着をつけていれば。
事件が解決した今となっては後悔しても遅いが、そういった考えはあとからあとから美琴をさいなむ。
9 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/25(木) 23:29:28.36 ID:tZe75vwo
病室の扉の脇に設置された「白井黒子」というネームプレートを見ながら美琴はため息をついた。
『お姉様、もし貴女が自分の力のせいでわたくしを事件に巻き込んだと思っているのなら、それは大間違いですのよ』
この間黒子が美琴に向かって言った言葉がよみがえる。
強いな、と思う。
黒子は本心からそう思っているのだろう。
(私も、強くならなきゃね)
そう思ってやっと本当に帰る決心がついた。
美琴が力強く一歩を踏み出したそのとき。
「ああー!ミサカのりんごうさちゃん@苦心作が何の躊躇もなく噛み砕かれた!
ってミサカはミサカはショックを受けてみる!!」
10 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/25(木) 23:39:34.13 ID:tZe75vwo
なんとものんきで大きな声が、美琴の真横の病室、つまり黒子の病室の隣から聞こえてきた。
美琴は思わずぼやいていた。
「……うるさいわねえ、ここ病院でしょ? マナーがなってないったら……ん?」
美琴の中で聞こえてきた内容の、ある単語が引っかかった。
(……ミサカ?)
美琴は『ミサカ』を一人称として使う人物を、いや集団を知っていた。
彼女自身の体細胞クローン『妹達』。一万人弱の、美琴と同じ姿をした少女たち。
美琴が『樹形図の設計者』の修復を邪魔したのも彼女たちの命を守るためだった。
そういえば、この病院には妹達が何人か入院していると聞いている。
そのうちの一人がその病室にいるのかもしれない。
「あいたたたた、ちょっと言語能力を奪ったからって実力行使に出るのはどうかと思う
ってミサカはミサカは意見を述べてみる!!」
12 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/26(金) 00:01:38.43 ID:PBx7ioko [1/9]
相変わらず扉の向こうからは少女の声が響いてくる。
病室のネームプレートは空白のままだ。
気がつけば、美琴はその病室の扉をノックしていた。
(……はっ、私ったらいったい何してるの? あの子達、リハビリ中のはずよね……
いきなり自分たちの『オリジナル』が現れたらびっくりするんじゃないの?)
今更わたわたとあわてても遅い。
ノックをしてしまった以上、こちらの存在は病室の中に伝わってしまったのだ。
「ほらあ、何ボーっとしてるの?お返事がないとノック主さん困っちゃうよ?
ってミサカはミサカは痛みをこらえながら忠告してみる」
「うっせェ、……どォぞ入ってきやがりください」
聞こえてきたのは少年の声だった。
美琴は小首をかしげながらも、覚悟を決めてノブに手をかけた。
14 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/26(金) 00:44:37.61 ID:PBx7ioko [2/9]
ガチャリ、と小さな音を立ててドアを開く。
美琴は恐る恐るといった感じで病室を覗き込む。
そこで見たものは。
「ア?」
「……え?」
予想外の人物だった。
印象は、ただひたすらに白い。
髪も白い。肌も白い。身にまとった手術着のような簡素な病院服までもが白い。
ただ、その目だけが不自然なまでに赤かった。
美琴はその少年に見覚えがあった。忘れるはずがない。
「アンタは……!」
「超電磁砲か」
美琴にとっての破壊と絶望の権化、一方通行は少し驚いたようにそう言った。
20 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/03/26(金) 20:57:53.51 ID:PBx7ioko [4/9]
「……そうか、この病院には妹たちが何人かいるんだったな。
わざわざこの俺を訪ねてくるとはずいぶんと度胸がある個体だな、オイ」
美琴の耳にその言葉は届いていなかった。
一方通行がベッドの上に座っていることとか、どう見ても入院患者であることとか、そういったことはどうでもよかった。
「な、何でアンタがこんなところにいるのよ……!」
「はァ?」
同じレベル5といっても、学園都市の第一位と第三位の美琴の間にはその実力に絶望的な壁がある。
第一位と初めて相対した夜を思い出す。
一方通行の前には美琴の攻撃は一切通用しなかった。電撃も、必殺のはずの超電磁砲も何もかも。
『常盤台の超電磁砲』としての自信とプライドが粉々に打ち砕かれた瞬間だった。
それほどまでに圧倒的な力を見せ付けられた。
21 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/26(金) 20:58:47.57 ID:PBx7ioko [5/9]
『絶対能力進化実験』が終了し、『妹達』の安全が確保された今、好んでかかわりたい相手ではない。
緊張でがちがちになった体に活を入れ、回れ右をしようとした。
「うう、この人は妹達じゃないよ、ってミサカはミサカは頭部へのぐりぐり攻撃をやめてほしいなって思いながら否定してみる」
「え?」
声のしたほうに目をやると、そこには10歳前後の青いキャミソールを着た少女がいた。
ベッドに上半身を倒し、その小さな頭を一方通行が拳で押さえつけている。
「あ……」
茶色い髪に茶色い瞳。頭のてっぺんからぴょこんと飛び出たひとふさのアホ毛が子供らしさを演出している。
その顔は毎朝鏡を通して見ている自分の顔に非常によく似ていた。
22 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/26(金) 20:59:52.44 ID:PBx7ioko [6/9]
何も知らない人間が見れば、一方通行と少女は仲のよい兄妹がじゃれているように見える。
実際そのような状況なのだが、中途半端に事情を知っている美琴の目にはそうは映らなかった。
(コイツ――まさかまた)
病室の空気が帯電する。
「アンタ一体なにやってんのよっ!」
美琴の絶叫と同時に前髪から稲妻がはしる。
狭い病室全体がまばゆいの光に包まれた。
「っ!?……この威力は」
「まさかまた、あのくだらない実験を繰り返そうって言うんじゃないでしょうね……!」
「うわわわわっ!」
怒りに満ちた美琴の声と、大慌ての少女の声が交差する。
23 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/03/26(金) 21:00:47.71 ID:PBx7ioko [7/9]
美琴の身体の周囲からはいまだバチバチと雷光にも似た光が放たれている。
「そんなことしようってんなら……私は、私はっ、死んでもアンタを倒す!!」
「……面白ェじゃねェか。オマエオリジナルか。いいぜ! あの夜の続きといこうじゃねェか!!」
一方通行が布団を跳ね飛ばし、目をカッと見開く。
その真っ赤な眼光を美琴は正面から睨み返す。
「だめー!
ってミサカはミサカはグリグリ攻撃を振り切ってお姉さまとあなたの間に割り込んでみる!」
それまで一方通行に抑えられていた少女がすばやく動き、美琴の前に立ちはだかる。
「え!?」
少女の意外な行動に美琴の動きが停止する。この少女がなぜ一方通行を守ろうとするのだろう。
24 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/26(金) 21:01:29.16 ID:PBx7ioko [8/9]
「クソガキ、オマエはどいてろ……ぐっ」
一方通行が突然頭を抱えてうずくまった。美琴はまだ何も攻撃を加えていない。
「え?え?」
「ああっ、もう、こないだ無理して外に出た時のダメージがまだ残ってるんだから興奮しちゃダメって
ミサカはミサカは何度も忠告してるのに!!」
少女がわたわたとベッドに駆け寄る。
ちょこまかとしながら一方通行を覗き込む様子は、本気で心配しているように見えた。
「どうしようどうしよう! ナースコール!? 看護士さーん!
ってミサカはミサカは大慌てでボタンをぽちっと押してみる!!」
「へ?……あれ?」
美琴は予想外の展開に、間抜けな声を上げ呆然とするしかなかった。
30 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/27(土) 00:37:34.13 ID:pWmGtpwo
「……一体、どういうことよ」
腑に落ちない。例の無能力者に超電磁砲が通用しないことぐらいに納得がいかない。
学園都市最強の超能力者、一方通行が何かしらのダメージを受けている。
彼の能力『一方通行』による反射は、彼を害する全てのベクトルをはね返す。
それがなぜ?
駆けつけた医者と看護士に部屋から追い出された美琴は、病院の廊下で首をひねっていた。
(別人?ううん、あんな目立つヤツ見間違えるわけないし……)
そもそも一方通行が入院しているという時点でおかしい。
最強を傷つけられる存在が、あの無能力者を除いてどこにいるというのか。
37 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/27(土) 23:18:35.94 ID:7ks4Wo6o [1/3]
(あの子、ものすごくあせってた)
一方通行にすがりつく少女を思い出す。
『絶対能力進化実験』において『妹達』は単なる一方通行に虐殺されるためだけの使い捨ての道具。
生きることを選択した『妹達』にとって一方通行は敵として認識されたのではなかったのか。
虐殺されていたものが虐殺していたものが仲良くなるなどということは想像がつかない。
だが、現状を鑑みるにありえないことが起こっているとしか思えなかった。
そこに詳細を知らない自分が自体を引っ掻き回す。
この構図は不自然を通り越してどこか滑稽だ。
「なんだか私が悪者みたいじゃない」
ため息をひとつついた。
38 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/27(土) 23:19:34.10 ID:7ks4Wo6o [2/3]
「お姉様」
不意に声がかかる。
そこに立っていたのは、美琴と同じ常盤台中学の制服を着た少女だった。
同じなのは制服だけではなかった。
身長、顔立ち、体型、年頃。
頭のてっぺんから足の先まで、その容姿は美琴と瓜二つだった。
感情を感じさせない瞳だけが美琴のものと異なっていた。
「お久しぶりです、とミサカは定型文とともにぺこりとお辞儀をします」
「お久しぶり、ってことはあのときの? 確か……10032号でよかったかしら」
ツンツン頭の少年と一緒に一方通行に立ち向かったあの日に殺されかかった個体の検体番号が、確か10032号だったはずだ。
「正解です、とミサカはお姉さまの洞察力に賞賛を送ります」
39 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/27(土) 23:20:16.95 ID:7ks4Wo6o [3/3]
重傷を負った10032号は学園都市に残ってリハビリ中だと聞いている。
どこでリハビリを受けているのかは知らなかったが、どうやらこの病院であるらしい。
ひとつの病院に知り合いが集まりすぎではないか、と美琴はまたこっそりとため息をつく。
「上位個体からお姉様に状況説明をして差し上げるように、と。
上位個体は今手が放せないそうですから、とミサカはミサカがここにいる理由を説明します」
「上位個体?」
美琴は聞きなれない単語に疑問符を浮かべた。
それに対し、御坂妹は澱みのない口調でこたえる。
「はい、一方通行と一緒にいた発育不良の検体番号20001号、通称『打ち止め』と呼ばれる個体で、
ミサカたちの形成するネットワークと全ミサカの管理者のような存在です、
とミサカは上位個体の外見的特長も交えた懇切丁寧な解説を行います」
「つまり、さっきのちっちゃい子のことね」
42 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/28(日) 23:05:18.52 ID:OY0QJ4wo [1/5]
「はい、そのとおりです、とミサカはお姉様の言葉を肯定します」
あの少女、打ち止めはやはり『妹達』の一員であるらしい。
ならばなおさら一方通行と一緒にいることが納得いかない。
「面倒だから単刀直入に聞くわ。その『妹達』の中でも重要な役割を担っている『上位個体』が、
どうしてあの一方通行と仲よさそうにしているわけ?」
「ミサカはそれを説明するためにここに来たのですが、とミサカは前置きをします」
御坂妹はそこで大きく息を吸い込んだ。
よく観察しなければその表情の変化はわからないが、美琴の向ける鋭い視線に少したじろいだのだ。
「現在、我々『妹達』は一方通行が脳にダメージを受けて失った計算能力と言語能力を補助しています、
とミサカは現状を説明します」
「は?」
43 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/28(日) 23:05:47.29 ID:OY0QJ4wo [2/5]
「ミサカネットワークによる並列演算を一方通行に貸与している、と言い換えてもいいでしょう」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
一方通行の補助? 『妹達』が?
いや、それよりも何か重要なことを御坂妹は言っていなかったか。
「なんでしょう?とミサカは小首を傾げます」
美琴は混乱する頭で考えをまとめながらしゃべる。
「ちょっと整理するわよ。えーっと、現在ミサカネットワークは一方通行を補助している」
「はい」
「そして一方通行は計算能力と言語能力を……失った?」
「はい」
44 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/28(日) 23:06:15.90 ID:OY0QJ4wo [3/5]
計算能力と言語能力を失う。それは超能力の使用に必要な演算ができなくなるということだ。
つまり、能力者としての死を意味する。
「一方通行が、超能力を使えなくなった、ってこと?」
「はい。まあ、ミサカネットワークの補助によりある程度は回復していますが、とミサカは補足します」
美琴は愕然とした。
いけ好かないどころか殺意を覚えるほどの相手だが、一方通行は学園都市の第一位の超能力者だ。
学園都市の学生180万人の頂点に立つ存在がその力を失ったとなれば大事だ。
それに同じ超能力者(レベル5)である美琴にとっても衝撃的だった。
自分が必死の努力で身につけた超能力とはそんなにもろいものなのか。
「どうして、そんなことに……?」
「話せば長くなりますが、お姉さまがご希望でしたら最初からお話しましょう、
とミサカは絶望しそうに長いプロローグを語るべく、ミサカネットワークから記憶情報を
ダウンロードしてみます」
45 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/28(日) 23:06:45.93 ID:OY0QJ4wo [4/5]
打ち止めが調整途中で培養機から放り出されたこと。
紆余曲折あって打ち止めが一方通行に助けを求めたこと。
その際、外部組織とのつながりを持つ天井亜雄という研究者により打ち止めに学園都市破壊の為ウィルスコードが仕込まれていたこと。
一方通行は打ち止めと『妹達』を救うことを選択し、能力を使用してウイルスを除去したこと。
その際に頭部に銃撃を受け、取り返しのつかないダメージを負ったこと。
美琴は御坂妹の語る内容に一言も口を挟まず聞き入った。
「……以上です、とミサカは若干の疲労を覚えつつ話を終えます」
「なんだか、私の知っている一方通行とは別人みたいなんだけど」
話をすべて聞き終わった後でも、美琴はその内容を信じることができなかった。
「だいたいアイツはアンタたちのことをただの能力進化のための道具としてしか見ていなかったじゃない。
むしろ[ピーーー]ことを楽しんでたように見えたわ。
そんな外道がアンタ達を救ったっていうの?」
47 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/03/28(日) 23:17:22.08 ID:OY0QJ4wo [5/5]
「すべて事実です。ミサカも彼がどのような心理で上位個体の命を救ったのかはわかりません。
あの状況では上位個体を殺すという選択肢が一番楽だったでしょうに」
御坂妹がさらりと話した内容に美琴はいらだった。
「アンタたち自身はどうなのよ。一度助けてもらったからって許せるの?
アイツが一万人以上の『妹達』を殺した事実は変わらないわ」
美琴のまっすぐな視線を御坂妹は正面から受け止める。
その上で、きっぱりとこう言った。
「ミサカたちもそのことについては承知しています。
生きることを選択したミサカの総意として一方通行の行為はこれからも許すことはできないでしょう。
ただ、同時に感謝もしているのです」
「感謝?」
59 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/29(月) 21:35:59.52 ID:yVsH5zAo [2/13]
「はい。ミサカたちの生命を脅かしたのも彼なら、そのことによってミサカたちの生命の価値を教えて
くれたのもまた彼なのです。
もちろんお姉様や上条当麻の存在あってこそのことですが、とミサカは当然の事実を付け足します」
美琴はあきらめたように首を左右に振る。
「やっぱりわからないわ」
自らの体細胞クローンとはいえやはり目の前の人物、いや人物達の考えることは理解の範疇を超えて
いた。
「あんたたちのその思考も。一方通行の行動の意味も」
一万回の悪行をたった一度の善行で、果たして帳消しにできるものか。
美琴は目の前にいる『ミサカ』という存在がやはり自分自身と大きく異なるものだと再認識した。
「一方通行が何を考えているのかという点についてはミサカにも分かりません。
本人に聞いてみたらいかがですか? とミサカは提案します」
「本人に、ってアンタねえ」
60 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/29(月) 21:40:02.33 ID:yVsH5zAo [3/13]
それにはさすがにためらいを感じる。
一方通行の顔など二度と見たくないというのが美琴の本音だった。
そんな美琴の心情を知ってか知らずか、御坂妹はまたもや美琴を驚かせる一言を発した。
「彼は本当は『実験』などやりたくはなかったのではないか、と上位個体は推測しています」
「え?」
美琴の目にはあのときの一方通行がいやいや『実験』を行っていたようには思えなかった。
『実験』という名の『殺戮』に自ら喜んで参加していたように見えた。
笑いながら人を殺せる人間が、実験に抵抗を覚えるなどといった感傷を持つだろうか。
「これは上位個体の推測でありミサカの意見ではありません。詳しく聞きたいのであれば、
やはり上位個体に質問しては、とミサカはお勧めします……あ」
ふらりと御坂妹の体が揺れる。
62 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/29(月) 21:44:21.21 ID:yVsH5zAo [4/13]
美琴が慌てて手を差し伸べたので、なんとか転倒は免れた。
よくよく見れば、御坂妹の額にはいくつか汗が浮かんでいた。
「ちょ、ちょっとアンタ、大丈夫!?」
「怪我人に無理させてもらっちゃ困るね?」
キィ、と小さな音がして目の前の病室の扉が開く。
そこから出てきたのは美琴も見覚えのある医者だった。
カエルによく似た顔の医者は御坂妹に近づくと、手馴れた手つきで顔色や脈拍などをすばやくチェック
した。
「まだ無理はよくないね。 君たちの上位個体も含めてまだ調整は終わっていないのだからね?」
カエル顔の医者の後ろに控えていた看護士が美琴に代わって御坂妹を支える。
63 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/29(月) 21:49:06.65 ID:yVsH5zAo [5/13]
「今日のところはこの子の体調もあの少年の具合もよくないし、何か聞きたいことがあるのなら明日以降にしてくれないかな?
もちろんその際にはくれぐれも患者を興奮させないように頼むよ?」
「……わかりました」
完全下校時刻はとうに過ぎている。窓の外もすでに黄昏ていた。
美琴にとってもこのあたりが潮時だ。
「お姉様」
看護士につれられてどこかへ去ろうとしていた御坂妹が美琴に声をかける。
「ミサカはお姉様に感謝しているのですよ。だからお姉様にこれ以上重荷を背負って欲しくないのです、
とミサカは心からの願望を口にします」
それだけ言って、御坂妹は看護師と医者と共に廊下の奥へと消えていった。
65 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/29(月) 22:13:39.36 ID:yVsH5zAo [6/13]
***
「どーゆーことよ」
門限は過ぎていたものの、なんとか寮監に見つからずに部屋に戻った美琴はベッドの上で不満の声を上げた。
(『一方通行』『妹達』『打ち止め』……)
説明を受けてもまったく実感がわかない。
(だって、あの一方通行よ?)
枕を抱きしめてごろごろ転がっても結論は出ない。
『本人に聞いてみたらいかがですか? とミサカは提案します』
「行くわけないじゃない。あんなヤツのところに」
ぼすっ、と枕を壁に投げつける。手持ち無沙汰になった美琴は仰向けになって天井を見つめた。
66 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/29(月) 22:14:52.45 ID:yVsH5zAo [7/13]
『何か聞きたいことがあるのなら明日以降にしてくれないかな?』
「また明日、か」
明日、打ち止めと一方通行を訪ねてみたら何か変わるだろうか。
『何か』が変わって欲しいような、変わって欲しくないようなもやもやとしたよくわからない感情が頭を支配する。
「私はいったい、どうしたいんだろう。何を知りたいんだろう」
独り言が多くなっている自分に気づく。
美琴は空っぽの隣のベッドに目をやる。いつも同じ部屋で時間を過ごしている後輩はしばらく帰ってこない。
なんだか急に一人でいるのが寂しくなった。
「……でも黒子のお見舞いにはできるだけ行ってあげたいし、な」
考えることが面倒になった美琴は、壁際に転がった枕を引き寄せてそっと目をつぶった。
67 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/29(月) 22:37:03.28 ID:yVsH5zAo [8/13]
***
「むむむむ、なんだかアナタがちょっとイライラしている気がする!
ってミサカはミサカはズバリと指摘してみる」
夜の帳も落ち、静かになった病院の一室に打ち止めの声が響く。
部屋の中で唯一の明かりはベッドの脇机に置かれた卓上ライトだけだった。
「ガキはさっさと自分の病室に帰って寝ろ。消灯時間は過ぎてンだ」
ベッドに横たわった一方通行が打ち止めに背を向けたまま
「残念、ここは個室なので小声で話せば誰にも迷惑はかからないって
ミサカはミサカは悪い子の発言をしてみたり」
「出て行けっ」
一方通行は打ち止めに向かって枕を投げつけた。
68 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/29(月) 22:39:57.66 ID:yVsH5zAo [9/13]
枕は放物線を描いて正確に打ち止めの胸の辺りへ飛来する。
打ち止めはそれを難なく受け止めた。
「えへへー、ちゃんと受け止められるスピードで投げてくれるあたりに
ミサカはミサカは隠し切れていない優しさを感じてみる」
「チッ」
打ち止めは枕を持ったまま、ちょこちょことベッド脇に近づく。
「興奮するとまた頭が痛くなるよ? ってミサカはミサカは忠告してみる」
薄明かりの下で再び顔を背けようとする一方通行の顔を覗き込んだ。
「……お姉様(オリジナル)のこと、気にしてるの?
ってミサカはミサカはおそるおそる口に出してみる」
打ち止めは一方通行を心配するような視線でじっと見つめる。
その程度のことは無視すればいいのだが。
70 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/29(月) 22:47:39.37 ID:yVsH5zAo [10/13]
「……悪ィかよ」
一方通行はなぜかその瞳に弱い。
その無邪気な光に自分の邪悪さが見透かされそうでまっすぐ視線を返すことができない。
「ううん。それは当然のことだと思うってミサカはミサカはアナタの気持ちを肯定してみる」
「……」
「アナタはミサカたちに対して罪悪感を抱いている」
一方通行は打ち止めの言葉につまらなさそうに目を細めた。
そこで打ち止めの言葉をさえぎることもできただろうが、一方通行は無言で視線をそらすだけだった。
「その感情はお姉様、つまりオリジナルの御坂美琴に対してもアナタは無意識のうちに後ろめたさを感じている、
とミサカはミサカは分析してみる」
ミサカネットワークのを形成するミサカの中の上位個体という特別なポジションにいるためか、この少女は時々外見とは不釣合いな大人びたことを言う。
それは違う、と強く否定しようとした。
しかしなぜかわからないけれど否定の言葉を口に出すのがためらわれた。
71 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/29(月) 22:50:13.84 ID:yVsH5zAo [11/13]
「ハイハイ、精神科医もビックリのトンデモ精神分析ありがとうよ」
だから、一方通行は軽く茶化すように返答した。
「……でもね、お姉様とアナタがちょっとでいいから仲良くなったらいいのにな、ってミサカはこっそり思ってみる」
「はァ?」
無理に決まっている。
自分と同じ遺伝子を持った存在を一万人弱殺してきた人間と、仲良くなどできるわけがない。
「……寝言は寝て言え。というわけでさっさと寝ろ。俺は寝る」
吐き捨てるようにそれだけ言うと一方通行は頭から布団をかぶった。
「ええー!? 寝る寝る言い過ぎなんじゃない?
ってミサカはミサカはねるねるねーるねってお菓子があったなあと思い出してみたり」
(うるせェな。電池残量を気にしなくていいンならコイツの声も反射してやるのによォ)
一方通行は打ち止めの声をさえぎるように頭から布団をかぶった。
そして、今日の夕方ごろに突然部屋に乱入してきた少女を思い浮かべながら浅い眠りについた。
94 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/30(火) 00:23:44.71 ID:C89lIDso [2/8]
***
「お姉様? お姉様、どうしましたの?」
黒子の声で美琴ははっとわれに返る。
「あ、黒子? なんか言った?」
「もう、お姉さまってばりんご剥きすぎですわよ。
二人で食べるには少し多すぎるのではありませんこと?」
「え? ……あ」
美琴の座る椅子の脇に置かれたサイドテーブルを見ると、そこには皮を剥かれたりんごが3つ並んでいた。
食べやすく切られたわけでもなく、皮を剥かれただけで放置されていた。
最初に剥いたであろうりんごはすでに軽く変色していた。
「お見舞いに来てくださるのはうれしいのですけれども、今日のお姉さまは少し変ですの」
黒子がほほを膨らませて言う。
96 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/30(火) 00:34:51.79 ID:C89lIDso [3/8]
「ごめんごめん、そんなすねないでよ」
美琴は手に持った4つ目のりんごを皿の上に載せて苦笑した。
剥いてしまったからにはこのりんごの大半を食べるのは自分の仕事だろう。
「……やはり、昨日隣の病室で騒いでいたことが原因ですの?」
「え」
黒子がため息をつく。
「やっぱりですの。騒いでいたのはお姉様だってことくらい知ってていましてよ?」
美琴は息を呑んだ。昨日の会話は[ピーーー]だの殺しただの、物騒な内容だった。
学園都市の暗い部分を知らない黒子には聞かせたくないことだった。
「き、聞こえてたの!?」
97 名前:またうっかりやっちゃった[sage] 投稿日:2010/03/30(火) 00:45:40.44 ID:C89lIDso [4/8]
「盗み聞きは趣味じゃありませんから内容までは把握しておりませんが。
そう、黒子は空気の読める女」
なぜかうっとりとしている黒子に冷や汗を悟られないように美琴は極力平静を装った。
「単に知り合いがいてびっくりしただけよ」
なんとかごまかせたのか、黒子はふうんとうなずいただけだった。
隣室との間を隔てる壁をじっと見つめながら黒子は言った。
「お姉さまのお知り合い……。わたくし、ご挨拶に伺ったほうがよろしいかしら」
「ぜっっっったいにダメ!!」
99 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/30(火) 01:07:44.83 ID:C89lIDso [5/8]
美琴の声に黒子はビクッと体を震わせる。
「お、お姉様、どうしましたの?
わ、わたくしはもし隣室の方が殿方でしたらお姉様に不埒な真似をしないよう釘をさしておこうと思っていただけですわ!」
「……そんなこと考えてたのアンタ」
釘をさすどころか下手したら逆に命がない。
まちがっても黒子が隣室に突撃したりしないようにきつく言っておこう、と美琴は心に決めた。
だが美琴が口を開く前に黒子が顔を青くした。
「ま、まさかあの類人猿!?
お姉様、あの殿方が隣にいるのではないでしょうね!?」
「あー、ないない、それはないわ」
美琴は冷めた表情で手をパタパタとふった。
100 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/30(火) 01:12:20.83 ID:C89lIDso [6/8]
「その反応でしたらあの殿方ということはなさそうですわね。安心いたしましたの。
わたくし、お姉様を悩ます人間といったらまず真っ先にあの殿方を思い浮かべてしまいましたわ」
「な、なんで私がアイツのことで悩まないといけないのよっ」
顔を真っ赤にして反論する姿を見れば否定する要素はひとつもないように思える。
しかし本人に自覚がないようなので救いようがない。
黒子は半目でじたばたと挙動不審な美琴を見た。
「な、何よその目は。私は別にアイツのことなんて」
「はあ、よろしんですのよ。今に始まったことではありませんし。
それよりも、わたくしはお姉様の今現在の悩みのほうが心配ですの」
一転してまじめな表情を浮かべた黒子に美琴はたじろいだ。軽くごまかせるような雰囲気ではない。
101 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/30(火) 01:13:21.66 ID:C89lIDso [7/8]
「また何を一人で考え込んでいるのかはわかりませんが、隣の病室の方に関係することなのでしょう?
わたくしのお姉様は常に凛々しく美しくあっていただかないといけませんわ」
「つまり、何が言いたいのよ」
いぶかしがる美琴に、黒子は極上の笑みを浮かべた。
しなやかなその表情は、挑発的で、なおかつ官能的にさえ見える。
「当たって砕けてくればよろしいじゃありませんの。
うじうじ悩むのは私の知っているお姉様らしくありませんことよ?
なんならわたくしが隣の方とお話をつけて差し上げますわ」
美琴は黒子の笑みに気おされたように押し黙った。
こういうときの黒子こそ、自分などよりずっと凛として美しいと美琴は思う。
「ご安心くださいな。もし砕け散ってしまわれたのならこの黒子がお姉様を受け止めて差し上げますの」
114 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/01(木) 00:36:18.89 ID:/bATcHco [2/9]
***
「入るわよ」
美琴は返事を待たずに一方通行の病室のドアを開けた。
姿を見る前に一方通行の声を聞けば逃げてしまいそうな気がしたからだ。
「一方通行! ……あれ?」
思い切って勢いよく開けたドアの向こうは無音だった。
病室で動いているものは、細く開かれた窓から吹き込む風に揺られるカーテンだけだった。
「いない……? っているじゃない」
ベッドの上に積まれた掛け布団がこんもりと人の形にもりあがっている。
その端からは白い後頭部がちらりとはみ出ていた。
打ち止めはいないようだ。二人きりというのは少し気まずいな、と思いながら美琴は一方通行に近づく。
118 名前:むぎのんにはりついてるから遅い[sage] 投稿日:2010/04/01(木) 00:46:21.40 ID:/bATcHco [3/9]
「話があるんだけど」
一方通行は美琴に背を向けたままの姿勢で答えない。
(返事くらいしなさいよね)
思い切って来てみたはいいもののまったく相手にされていない。
無理もない。自分とこの少年との間には圧倒的な戦力差があるのだ。
(当然よね。……でも!)
「いい加減無視しないで!」
一方通行の頭に顔を寄せるようにして怒鳴る。その声に反応するかのように一方通行が身じろぎした。
そして布団の中で身体をもぞもぞと動かすと、寝返りを打つように美琴のほうを向いた。
「むゥ……ンン」
「へ?」
120 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/01(木) 01:00:30.74 ID:/bATcHco [4/9]
あと少し近づけば顔と顔が触れ合いそうな距離なのに、美琴は一方通行と視線を合わせることはできなかった。
一方通行の瞳は硬く閉じられていた。美琴の声をうるさがるようにその眉間には深くしわがよっていた。
(寝てる……?)
睡眠という人間的な行為を一方通行がとることに美琴は拍子抜けした。
美琴にとって一方通行とは、悪の化身そのものであり、理解の範疇外にいる存在だ。
そういえばコイツも一応人間なのかもしれないと、当たり前のことを思う。
(というか、あれだけ怒鳴っても起きないとか)
案外この少年は鈍いのだろうか。それとも『脳へのダメージ』とやらが原因で疲れがたまっているのか。
美琴はとりあえず一方通行を観察する。
122 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/01(木) 01:21:25.67 ID:/bATcHco [5/9]
美琴が静かになったせいか、先ほどまでの険しい表情ではなくなっていた。
穏やかなその表情に実験のときの面影はない。
(うわー睫毛まで白いわコイツ。人が寝てるときの表情って意外に素直そうに見えるわね)
その線の細さと病院という環境もあいまって、病弱な少年ですと説明されれば信じてしまいそうだ。
至近距離でじろじろ見られても起きない神経はどうなっているのだろう。
ともすれば吐息がかかりそうな距離である。
(……って近い! 顔近い!)
ざっ、と俊敏な動作で美琴はベッドから1メートルほど後ずさる。
その物音で起きたか、とも思ったがそのようなことはないようだ。
一方通行は相変わらず静かな寝息を立てて眠り続けていた。
123 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/01(木) 01:28:32.14 ID:/bATcHco [6/9]
(なんかここまで起きないとわざとなんじゃないかって思えてくるんだけど、調子狂うなぁ)
美琴は再び一方通行に近寄る。
どこまでやったら起きるんだろうか。
美琴のイタズラ心がむくむくと沸いてきた。
あまりの平和な寝顔に、第一位への怒りと恐怖が一瞬薄れたのかもしれない。
「えい」
人差し指を立て、それをそのまま一方通行の白い頬につきさす。
指先は弾力のある、滑らかな感触を美琴に伝えた。
「うわー、ほんとに反射しな……い?」
目が合った。
半開きになった焦点の合わない赤い瞳が美琴へと向けられていた。
126 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/01(木) 01:40:39.99 ID:/bATcHco [7/9]
「……」
「……」
「お、おはよ」
沈黙に耐え切れず、美琴は上ずった声を出して笑顔を作る。
もちろん人差し指は一方通行の頬にささったままだ。
一方通行が布団から手を出し、頬に触れる美琴の手を握った。
「!?」
「クソガキィ、人が寝てる間に鬱陶しいことはやめろっていっつも言ってンだろォが……」
眠そうな声でそう言って、一方通行は美琴の手を優しく遠ざける。
その手は美琴に手を握ったままシーツの上に落ちた。
「ちょ、ちょっとはなしなさいよ! っていうか寝ぼけてんの!? ねえ!」
127 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/01(木) 02:09:26.11 ID:/bATcHco [8/9]
一方通行は閉じた瞳をもう一度重そうに持ち上げた。
「クソガキィ、オマエの声は頭に響くっつってンだろ……ンだァ? なンか背ェ伸びて……」
「……はなしてほしいんだけど」
病室に再び沈黙がおとずれた。
一方通行の目の焦点が徐々に美琴に合う。
一方通行の脳が彼の寝起きにしては珍しく高速で働いて現状を整理する。
なぜか超電磁砲が一方通行の顔を覗き込んでいてなぜか頬をつついていて、なぜかそれを一方通行が打ち止めのイタズラか何かと勘違いし、なぜかその手を握っている。
「……」
美琴は気まずそうに一方通行から視線をそらした。
一方通行も美琴の手をそっとはなす。
「あァ、とりあえず、ここ3分くらいの出来事をなかったことにするか」
「……そうね。異論はないわ」
141 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/02(金) 22:57:29.45 ID:4.m.XAwo [1/4]
一方通行は何事もなかったかのようにゆっくりと上体を起こした。
「それで今日はまたなンの用だ。 またバチバチして出入り禁止になるつもりですかァ?」
一方通行がねめつけるような視線で美琴を見上げる。
ニヤニヤとした薄ら笑いは『実験』のときの一方通行を彷彿とさせた。
「ア、アンタに聞きたいことがあってきたのよ」
美琴は精一杯の虚勢を張り、努めて冷静に聞いた。今にも暴発しそうな思いを咽の辺りでぐっとこらえる。
「……妹達を助けたんですってね。そのせいで能力が使えなくなったとか?」
口元に笑みを張り付かせたまま、一方通行の目がすっと細くなる。
冷笑するようなため息が漏れた。
142 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/02(金) 22:57:59.49 ID:4.m.XAwo [2/4]
「くだらねェこと知ってンなァ、オマエ」
「なんで?」
そのシンプルな問いに、一方通行は一瞬黙り込む。
そして、ぼんやりとした視線で病室の蛍光灯を眺めながら答えた。
「別に意味なんてねェよ。
気に入らねェ研究者をぶっ殺したらついでにあのガキが勝手に助かってやがっただけだ」
「アンタが打ち止めを……あの子達を助けたっていうのはただの偶然だったっていうの?」
美琴の声が高くなる。
「偶然以上に何があるってンだ?……まァ、能力に制限がかかっちまったっつゥのは想定外だったがな」
鼓動が早くなるのを感じる。それが怒りのためだと気づくのに少し時間がかかった。
143 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/02(金) 22:58:27.20 ID:4.m.XAwo [3/4]
一方通行の視線が天井から美琴に移される。
からかうような赤い視線が美琴に絡みついた。
「制限がかかったところで第三位の超電磁砲程度なら軽く瞬殺できるンだぜ?
なンなら試してみるかァ?」
目の前の白い人間がいったい何を言ったのか。沸騰寸前の美琴の頭では理解しかねた。
「もっとも、オマエと同じ顔の人間なんざこっちは殺し飽きてンだけどな」
その口元の歪みが笑みを意味していることに気づいたときにやっと美琴
「あ、んたはああぁぁ!!」
美琴の怒声とともにその前髪に火花が散る。
「やっぱり何も変わってないじゃない!」
美琴は握り締めた拳を高く振り上げて――
145 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/02(金) 22:59:05.90 ID:4.m.XAwo [4/4]
一方通行の表情が無くなったのに気づいて、冷静になる。
「アンタをちょっとでも信じそうになった私が馬鹿だったわ」
行き場を失った拳を下ろし静かな声でそう言った。
そしてそのまま美琴は一方通行に背を向けて振り返らずに病室から出て行った。
ドアを閉める寸前に小さく聞こえてきた、
「悪党がそう簡単に善人になってたまるかっつゥンだよ」
という声が少し弱々しく感じたのは気のせいだと思った。
「違ェよなァ、なァンか違うンだよなァ……クソ!」
一方通行一人になった病室に、ベッドを殴る鈍い音が響いた。
149 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/03(土) 01:09:08.97 ID:pJ1Mq9Qo [1/7]
***
美琴は病院の中庭のベンチでぼうっとしていた。
勢いに任せて建物から出たはいいものの、よく考えたら黒子の病室に荷物が置きっぱなしだった。
黒子の病室に行くならまた一方通行の部屋の前を通らなければならない。
なんとなくそれが嫌で立ち上がることができなかった。
「お姉様、表情が冴えませんね、とミサカは手の中の空き缶をじっと見つめるお姉様に声をかけてみます」
顔を上げると、御坂妹が目の前で美琴を見下ろしていた。
「失礼します、とミサカはお姉さまの隣に腰を下ろします」
制服のスカートの折り目を気にするようにしてベンチに座った御坂妹は、無感動な瞳で美琴をじっと見つめる。
「な、なによ」
「ご気分が優れませんか? もしや上位個体や一方通行と何かあったのでは? とミサカはお姉様にお尋ねします」
150 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/03(土) 01:09:45.95 ID:pJ1Mq9Qo [2/7]
もやもやの原因そのものズバリをつかれて美琴はたじろいだ。
「う、何よそれ、やっぱりネットワークでそんなこともわかっちゃうわけ?」
「いいえ。昨日も同じような表情をしていましたから、とミサカは推測の根拠を明確にします」
なんとなく、自分のクローンの少女にすべてを見透かされている気がして言葉に詰まる。
そんなはずはないと、咽の奥から声を搾り出す。
「……そうよ。一方通行とちょっと話してきたの。それでわかったのよ」
「なにがですか? とミサカは質問します」
少し首をかしげるような仕草が機械仕掛けの人形のようだ。
無機質な瞳がその印象をより深くしていた。
157 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/03(土) 21:41:58.82 ID:pJ1Mq9Qo [4/7]
「あいつが相変わらずただの外道だってことよ。アンタたちを助けたのは偶然だとか、意味はないとか……
一万人殺したことについてもまったく気に留めてなかったわ。
アンタたち、いいように騙されてるだけなんじゃないの?」
美琴は視線を手元の空き缶に戻し、消え入るような声でつぶやいた。
クローン体の少女はうつむく美琴を覗き込むようにしてゆっくりと口を開いた。
「このミサカも個人的に彼に全面的には好意はもてませんが、とミサカは正直なところを吐露します」
「なら」
御坂妹は美琴の言葉をさえぎり、続ける。
「上位個体を助けた状況はこのミサカもネットワークを通じて知っています、
とミサカはネットワークの便利さにお姉様に似て薄っぺらい胸を張ります」
「ちょっと! アンタ、それは今どうでもいいでしょうが!」
158 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/03(土) 21:50:00.21 ID:pJ1Mq9Qo [5/7]
思わず顔を上げると御坂妹はまだまっすぐに美琴を見ていた。その目はふざけているようには見えない。
「ミサカたちを助けたのは偶然でもなんでもなく、彼自身が選択したことだとミサカは断言します」
「え?」
「彼が怪我を負ったとき、打ち止めを見捨てるという選択をしていれば負傷することはなかったのです、
とミサカは事実を述べてみます」
御坂妹が淡々と述べる内容が事実だとしたら、一方通行の態度の理由がわからない。
「だったらなんで……」
美琴は一方通行の歪んだ笑みと、真剣な顔で美琴の前に立ちふさがった打ち止めの姿を思い出す。
一体どちらを信じればいいのか。
「彼はお姉様と同じでツンデレ属性ですから素直になれないのでしょう、とミサカは推測します」
160 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/03(土) 22:01:00.32 ID:pJ1Mq9Qo [6/7]
「はあ?」
冗談なのか真剣なのか、御坂妹の無表情からは図りかねる。
「上位個体なら彼のことミサカよりも詳しく知っているはずです、とミサカはアドバイスします」
「……」
ミサカネットワークを司どる上位個体、打ち止めの心情を確かめたい。
しかしもう一度一方通行と顔を合わすのはさすがに気まずい。
逡巡していると御坂妹が不自然に視線をそらして大きな声を出した。
「そういえば上位個体は今の時間入浴中のはずだから風呂場の前で待ち伏せしていたら会えるはずだなあと
ミサカは少し大きな独り言をつぶやきます」
美琴は御坂妹の言葉にポカンとする。どうしても美琴を打ち止めに会わせたいらしい。
161 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/03(土) 22:02:03.46 ID:pJ1Mq9Qo [7/7]
彼女は彼女なりに美琴を元気付けようとしているのだ。
そのおかげか、少し元気が出てきた気がする。
美琴の表情に久しぶりに笑みが戻る。
「ありがとう」
美琴はそう言って立ち上がった。
黒子や御坂妹に背中を押してもらわなければ満足に動くことができない自分が情けない。
そんな自分を後押ししてくれる人が周りに何人もいる。それはなんて幸せなことなんだろう。
美琴は地面を強く蹴って病院の出入り口に向かって勢いよく走り始めた。
164 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/04(日) 00:01:04.05 ID:M5A9rWMo [1/18]
「入院患者用のお風呂場ってどっちですか!?」
廊下を歩く気の弱そうな看護士を捕まえ、かなりの剣幕で風呂場の位置を聞き出す。
そして短く礼を言った後、美琴は軽い足取りで駆け出した。
その勢いに驚いた女性看護士はしばらくポカンとしていたが、美琴の騒がしい足音にはっとしてその後姿に声をかける。
「びょ、病院内は走らないでくださいっ!!」
その声は美琴に届いたのか、全速力が小走り程度に変わる。
それでもはやる気持ちを抑えきれず急ぎ気味に階段を上る。
聞いたとおりの場所に風呂場であることを示すプレートを発見した。
「こ、ここね」
よしっと気合を入れるために自分の両頬をぱちんとはたく。
何を話そう? どうやって話を切り出そう。
165 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/04(日) 00:01:58.14 ID:M5A9rWMo [2/18]
そもそも打ち止めは自分たちのオリジナルである自分をどう思っているのだろう。
ドキドキしながら脱衣所のドアノブに手を伸ばすが、そこで気づいた。
入浴中に風呂場に飛び込んでどうする。
(少し、冷静にならないとね……)
興奮を抑えるために眉間を人差し指と親指でつまんでぐりぐりと揉む。
結局打ち止めが出てくるのを待つしかない。
大きく深呼吸してから脱衣所の入り口に対面した壁に背中を預ける。
(とりあえずまずは自分の気持ちを整理……)
と思考をめぐらしはじめたところで脱衣所から物音がした。
166 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/04(日) 00:06:33.60 ID:M5A9rWMo [3/18]
ガチャリ、と扉の開く音とともに扉越しに少女の声が響く。
「ふいー、すっきりしたーってミサカはミサカは扇風機の前という好位置に陣取ってみる」
聞き取りづらいが確かに打ち止めの声だった。
美琴は簡単に目的の少女を見つけられたことにほっとして声をかけようとした。
「ぶあっ!? 背後から何者かに目潰し攻撃を!? うわわわわわ、わっしゃわしゃするのはやめてー!
ってミサカはミサカは誰かに助けを求めてみる!!」
打ち止めの声が悲鳴じみたものに変わった。
(『無防備な入浴中は最も命を狙われやすい』――ってのをこの間少年漫画で読んだ気がする!)
一万人強の『妹達』を統べる上位個体。ともすれば軍事利用も可能である。
彼女が何者かに狙われるのは十分に起こりうることだ。
美琴は迷わず脱衣所のドアを開けた。
「打ち止め!! 大丈夫!?」
167 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/04(日) 00:07:13.83 ID:M5A9rWMo [4/18]
「オイクソガキ! 風呂から上がったらまず髪を乾かせっつってンだろ!風邪引くだろォが……あ?」
「んんー!前が見えないよう、ってミサカはミサカは……あれ? その声は?」
脱衣所で美琴が目にしたのは、頭からバスタオルをかぶせられた怪人チビタオルと、
その頭をわしわしと拭いている一方通行(E:腰タオル)だった。
「……」
「……」
「……あれ? やっぱりお姉様。 どうしてこんなところに? ってミサカはミサカは疑問符を浮かべてみる」
押さえつける一方通行の力が緩み、バスタオルの下から打ち止めの顔がひょこっとのぞく。
その胸から下にはきっちりとバスタオルが巻かれている。
168 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/04(日) 00:14:24.48 ID:M5A9rWMo [5/18]
「え? ちょっとまって、何で!」
「オマエなァ、こういうイベントは普通男女逆だろォが。なンなンですか痴女ですかァ、まったく」
あきれたような一方通行の声に美琴の思考回路がショートした。
「誰が痴女よおおお!!! ていうか何楽しく幼女とお風呂してんのアンタはあああああああ!!!!」
そのときの美琴の叫びは病棟のフロア隅々まで響き渡っていたそうだ。
「にゃ、にゃあああ、お姉様、ボリューム大きすぎるよってミサカはミサカはガンガンする頭を抱えてみる」
顔を真っ赤にした美琴が一方通行をにらみつけた瞬間、廊下の向こうから疾走するような激しい足音が聞こえてきた。
「おおおおおお姉様ああぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
ドップラー効果も真っ青な絶叫を撒き散らしながら脱衣所に飛び込んできたのは、白井黒子その人だった。
「くく、黒子!?」
171 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/04(日) 00:43:30.47 ID:M5A9rWMo [6/18]
「お姉様、いったい何がございましたの!? お姉様の悲鳴が聞こえましたので参上しましたの!
ま、まさかその白もやしになにか不埒なまねを……!?
初対面で失礼かもしれませんがその際の映像などございましたらぜひ私に譲っていただけませんでしょうか、白もやし様」
「し、白もやしィ?」
「うわー、なんかすっごく的確ってミサカはミサカは感心してみる」
ポツリとつぶやいた打ち止めの声に反応し、黒子がぐるりと蛇のような動作で首をまわす。
「小さいお姉様!? 全裸!? なんだかよくわからないですけれども黒子は黒子は大歓喜!!」
息を荒げる黒子の様子に打ち止めは反射的に一方通行のかげに隠れ、そこからちらりと顔を出しておびえる。
「こ、このお姉さんちょっと怖いかも、ってミサカはミサカは戦慄してみる!」
「あああ、アンタはまたこのややこしい状況を余計にややこしくしてくれちゃって!」
わけのわからないまま美琴はとりあえず黒子の後頭部をはたく。
「とりあえずだなァ」
目をつぶり、考えるように眉間にしわを寄せた一方通行が口を開いた。
「オマエらはこっから出て行け!!」
その声とともに美琴と黒子は無事脱衣所から追い出された。
189 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/04(日) 10:19:11.72 ID:M5A9rWMo [9/18]
***
「訳わかンねェよ……」
一方通行は昨日から妙に絡んでくる超電磁砲に頭を悩ませながら自動販売機コーナーの椅子に腰掛ける。
風呂で温まった身体も先ほどの騒動ですっかり冷えてしまった。
設置されたテーブルに頬杖を着いて浅いため息を吐く。
缶コーヒーでも飲むかとポケットを探るが、そもそも財布など持って来ていないことを思い出した。
なんだか自分自身が馬鹿馬鹿しくなり、小さく舌打ちして席を立とうとした。
「隣、よろしいですの?」
「あン? 超電磁砲……じゃなくてさっきの変態か」
唐突に現れた黒子は返事を待たずに一方通行の向かいに腰を下ろした。
「いかがです?」
黒子は一方通行の目の前にコーヒー牛乳の入ったビンをコトリと置いた。
192 名前:ちゃんと冷静になった[sage] 投稿日:2010/04/04(日) 10:55:04.97 ID:M5A9rWMo [10/18]
「こんな甘ったりィもン飲めるかよ」
「あら? お風呂上りに牛乳は必須じゃありませんの?
あのおチビさんからあなたがコーヒーがお好きだと聞きましたのでコーヒー牛乳にしてみたのですけれども」
それは科学的に根拠があるのか、などとどうでもいいことが気になったがとりあえずその質問は保留にしておいた。
何でこう自分に絡んでくるの無遠慮な人間ばかりなのだろうか、と一方通行は嘆息する。
「クソガキはどうした変態」
会話するのも億劫だがこう目の前に陣取られては無視するのも気が引ける。
というわけで目下のところの疑問をぶつけてみた。
「お姉様となにやらお話があるそうですわ。……それにしても、なぜ私が変態などと呼ばれなければなりませんの?」
心外だ、という風に黒子が大きな目をさらに見開く。それに対して一方通行は心底呆れた声を出した。
「自覚ねェのかオマエは」
「わたくしのはそんな邪なものではなく純粋な愛ですのよ」
自覚あンじゃねェか、と毒づいて一方通行は結局コーヒー牛乳に口をつけた。
195 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/04(日) 15:31:38.17 ID:M5A9rWMo [11/18]
「甘ェ」
ちょっと見ただけではわからない程度に量の減ったコーヒー牛乳を目の前まで持ち上げて軽く振る。
ちゃぷりと水面が揺られるが、白茶色の液体はこぼれそうでこぼれない。
その滑らかなガラスの曲面に映るのは苦々しい表情をした白い少年の顔。
反対側はツインテールの少女の黒い真剣な瞳を映しているのだろう。
「わたくし、お姉様とあなたの関係は存じ上げませんけれども」
牛乳瓶を間にはさんで年齢よりもずっと大人びた声で少女が語りかける。
「お姉様はあなたのことをずいぶんと気にしていらしてよ?
頭より先に体が動くお姉様にしては珍しくうじうじしておりますもの」
黒子に目を向けようとしない一方通行と対照的に、黒子は一方通行から視線を外さない。
「あなたもあなたでお姉様に何か感じるところがあるのでしょうけど」
「……あァン? 俺が? 何言ってんだクソガキ」
196 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/04(日) 15:40:18.70 ID:M5A9rWMo [12/18]
少し笑み含んだ声で、黒子は滔々と続けた。
「だってあなた、先ほどお姉様の顔を見ようとしておりませんでしたでしょう。
それに、お姉さまの知り合いであるこのわたくしのことも。
わたくしこう見えて、お姉様ほど鈍くはございませんの」
自動販売機の光が一方通行の頬を照らし、もともと白い顔をよけいに青白く染めている。
眠たそうな瞳からは感情を読み取ることはできない。
「どうか一度お姉様と正面からぶつかっていただけませんかしら。
お姉様は素直で単純ですから、ひねくれ曲がった回答では届きませんの」
「ンだァ? さっきから敬愛するお姉様に対してずいぶンな言い方だな」
黒子は一方通行の軽口を意に介さず続ける。
「これはお願いではありませんわ。お姉様を煩わせたあなたの義務ですの」
一方通行は答えない。
答えをはぐらかすようにコーヒー牛乳を口元に運んだ。
197 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/04(日) 15:44:44.20 ID:M5A9rWMo [13/18]
「……やっぱクソ甘ェわ。俺には合わねェ」
白い色の混じった液体は甘味が効きすぎていてつらい。舐めるように一口だけ飲んでビンを机の上に戻した。
「いちいち文句を言うのでしたら飲まなければよろしいですのに」
余裕を感じさせる口調が一方通行の癇に障る。子供相手に大人気ないとわかっているのでできるだけ低い声を出した。
「オマエが持ってきたんだろォが」
「それでもそれを手に取ったのはあなたですの。私に押し付けることもできたでしょう?」
無意識のうちに牛乳瓶を握る手に力がこもった。ビンを握る指先から一方通行の体温が奪われる。
「一度口をつけたものは責任を持って飲み干すべきですわ。違いまして?」
一方通行はそこで初めて黒子の顔をまともに見た。
黒子は安心したようにその赤い瞳を覗き込んで悪戯っぽくこう付け加えた。
「そのうち、その甘さが病み付きになってしまうかもしれませんわよ」
「ンなこたァ……ありえねェよ」
これだからガキは面倒だ、と思いながら手の中の甘ったるいコーヒー牛乳を一気に飲み下した。
200 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/04(日) 15:59:19.79 ID:M5A9rWMo [14/18]
***
「あの人は天邪鬼だから、ってミサカはミサカはフォローしてみる」
主のいない病室で打ち止めと美琴は向かい合っていた。
打ち止めはベッドの端にちょこんと座り、美琴はパイプ椅子に腰を下ろしている。
「天邪鬼、ってそんな可愛いもんだとは思えないんだけど」
美琴は苦々しく言って、一方通行の凄んだ様子を思い出す。
あれが本心でないとしたら、ひねくれ方が尋常ではない。
「んー、確かに可愛いか可愛くないかって言われると悩みどころなんだけど……
で、でも寝顔は素直だったりするんだよってミサカはミサカはあの人の長所を無理やり述べてみる」
「それはそうだけど」
何気なく同意した美琴に打ち止めは驚愕する。
「お、お姉様、あの人の寝顔なんてどこで見たの!? ミサカだけの特権だと思ってたのにって
ミサカはミサカは意外すぎる伏兵の登場に危惧してみる」
207 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/04(日) 21:15:00.97 ID:M5A9rWMo [15/18]
「あのね、何か勘違いしてるみたいだけど私が今日ここにきたときに勝手に寝てただけなんだからね」
「う、それくらい予測してたのってミサカはミサカは主張してみる……」
美琴は少しむっとしたように黙る打ち止めの頭をぽんぽんと撫でた。
「むうー、子ども扱いはやめてほしいな。ミサカの製造年月日は基本的に『妹達』とあんまり変わんないんだよ
ってミサカはミサカはお願いしてみる」
そうは言われても見た目と言動が子供なのでどうしてもそういう扱いになってしまう。
「わかったわよ。気をつけるわ」
美琴は少し困ったように苦笑した。
その様子を見て、それまで頬を膨らませて宙に浮いた足をパタパタさせていた打ち止めの動きが止まる。
「……お姉様はやっぱりあの人のこと許せない?」
子供特有の甲高い声が妙に落ち着いて聞こえた。
209 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/04(日) 22:30:24.36 ID:M5A9rWMo [16/18]
「お姉様に言った言葉はあの人の本心じゃないよってミサカはミサカは断言してみる」
「10032号にもそれは言われたけど」
美琴は搾り出すようにゆっくりと自分の思考をまとめる。
「許せるわけないじゃない。一万人を殺しておいて、偶然にしろアイツの意思にしろたった一度の行為で帳消しにしようなんて
理解しかねるわ」
打ち止めは首をかしげてうーんとうなった。小さな腕を組む様は愛嬌たっぷりで可愛らしい。
「それはちょっと違うの。ミサカは死んでいった妹達のためにもあの人を許すことはない。
だからミサカのことは忘れて幸せに暮らしてねなんて絶対に言ってあげないんだからってミサカはミサカは意地悪してみる」
今一緒にいるのは罰の意味もあるんだよと不敵な微笑を浮かべた。
そしてぴっと人差し指を立てて打ち止めなりに権威のありそうなしぐさを演出する。
「でもあの人がミサカを助けてくれたのは事実。
ミサカに対する態度も、不器用だけどあの人なりに歩み寄ろうとしてくれている。
その上でミサカは結論付けた。あの人はミサカたちを二度と傷つけることはない。信じることができる、と」
その、美琴に伝えようと身振り手振りを交えて話す姿から打ち止めが真剣であることが伝わってくる。
210 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/04(日) 23:11:35.92 ID:M5A9rWMo [17/18]
美琴はその雰囲気に飲まれて口を挟めないでいた。
「ミサカのために命がけで立ち上がってくれた記憶をミサカはもう二度と手放したりしたくない、
ってミサカはミサカは正直な気持ちを告白してみる」
傾き始めた陽光が打ち止めを照らす。斜めに差し込む光がうつむく打ち止めの睫に影を作った。
「あの人が素直になれないのは、お姉様との距離を測りかねてるからなんじゃないかな
お姉様がまっすぐすぎて、見ているのがつらいんだと思う」
それが本当だとしても、『実験』のときの一方通行の高笑いが美琴の頭から消えない。
同時に、脱衣所で打ち止めの面倒を見ていた姿を思い出す。
同一人物とは思えないと首をひねり、気付けば独り言のようにこう漏らしていた。
「そんな短期間で人って変わるものかしら」
「あの人の本質は何も変わってないよってミサカはミサカは
打ち止めは顔を上げて慈しむような表情を浮かべた。穏やかで優しい声が美琴に届く。
「ただ、気づいてしまっただけ。あの人の弱さに。ミサカも、あの人も。
だからミサカはあの人に守られているけどあの人を守ってあげたいってそう思うの」
231 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/05(月) 20:13:24.36 ID:AbAXq.co [2/12]
照れたようにはにかむ打ち止めに美琴はついに降参した。
なんだか少し馬鹿馬鹿しくなってきた。これではただののろけにしか聞こえない。
「アンタ、ほんとーにアイツのこと好きみたいね」
パイプ椅子の背もたれに体重を預けて脱力する。
「好き? うーん、好きとか嫌いじゃないんじゃないかなあって
ミサカはミサカはこの気持ちのうまい表現を探してみたり」
打ち止めは足を前後に振りながら悩む。ぶかぶかのスリッパが小さな足からすっぽ抜けた。
「10032号だっけ。あの子はアンタが一方通行のことを信頼しているって話してたけど」
美琴は飛んできたスリッパを拾い、打ち止めの足元にそろえてやった。
232 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/05(月) 20:20:39.24 ID:AbAXq.co [3/12]
「信頼……確かにその言葉は一番近いかもしれない。でも信頼以上の何かをミサカは感じている。
もしかしてこれが好きってやつなのかなあ?
ってミサカはミサカは未成熟な個体だからわかりかねるとか言ってみる」
都合のいいときだけ子供ぶる打ち止めのしたたかさを感じながら美琴は立ち上がった。
考え込む打ち止めの頭をまたもやぽんぽんとなでて窓の外を見る。
「ん、お姉様、もう行っちゃうの? ってミサカはミサカは残念がってみる」
空の色はうっすらとオレンジ色に変わってきていた。だが、面会時間の終了までにはまだ時間がある。
「私、今までうじうじしてたけど本当は物事には決着をはっきり着けたい性質なのよ」
美琴の声に力がこもっていることに気づいて、打ち止めはにっこりと微笑んだ。
234 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/05(月) 20:37:33.24 ID:AbAXq.co [4/12]
***
「こんなところにいたのね」
美琴は病院中を歩き回り、最後にたどり着いた屋上で一方通行を見つけた。
柵にもたれかかるようにして景色を眺めている一方通行の後姿は沈みかけの太陽の色に染まっている。
一方通行は美琴の声にゆっくりと振り返った。
「オマエの連れが鬱陶しくてな。ちったァ外の空気吸わねェとやってらンねェンだよ」
そう答えた一方通行はなぜかばつの悪そうな顔をしていた。
美琴は刺すような夕陽の光に目を細めながら一方通行に近づく。
二人の距離が近くなりすぎないところで美琴は立ち止まった。およそ3メートルといったところか。
「わざわざ俺を探してたのか。ずいぶん暇なんだな、超電磁砲」
柵に背を預け人を小馬鹿にしたように笑う一方通行に、美琴はなぜか怒りを感じなかった。
235 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/05(月) 20:58:28.68 ID:AbAXq.co [5/12]
だから、冗談のつもりでこう言った。
「まったく、殺してやりたいほど憎たらしいわね」
一方通行は夕陽に背を向けているにもかかわらず、まぶしそうに眉を寄せると美琴から視線をそらした。
「別に殺りたきゃ殺りゃあいい。反射をしていない今の俺ならオマエでも簡単に殺せる」
予想外の一方通行の返答に美琴は虚をつかれた。
一方通行から笑みは消え、つまらなそうな淡々とした表情になっていた。
てっきり、『オマエみたいな三下に殺されるわけねェだろ』とでも言われると思っていただけに、美琴は返答に詰まった。
「何驚いてンだ。復讐する理由はオマエにもあるだろォが」
「……冗談に決まってるじゃない。私は無駄に人を殺したりなんてしない。それに」
美琴の視線と一方通行の視線が絡む。こうやってお互いが見つめあったのは、もしかしたら初めてかもしれない。
「あの子と話してきたわ」
240 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/05(月) 22:19:25.29 ID:AbAXq.co [7/12]
「そォか」
興味がなさそうな声で返事を返す。
美琴の位置からは逆光になっているため、細かな表情の変化はわかりづらい。
「復讐なんて考えてないわよ。あの子達は」
相変わらず表情はわからないが、ピクリと一方通行の肩が動く。
だがそれだけだ。
「それどころか、呆れちゃったわ。ずいぶんとアンタのこと信用してるみたいだったから。
私にはちょっと理解できないけどね」
「……なら」
超電磁砲が一方通行を信用できないのなら。今ここで殺されても文句は言えないと一方通行は思う。
美琴はそんな一方通行の内心にかまいもせず一方的に言った。
242 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/05(月) 22:28:14.46 ID:AbAXq.co [8/12]
「私はアンタを信用なんてできないしこれからもそんなことはないと思う。
でも、あんたを信じるっていうあの子のことは信じられるわ」
今度は一方通行が驚く番だった。
「それに、アンタを殺したら一体誰がこれからあの子たちを守るって言うのよ」
感情が未発達である妹達だけでなく、そのオリジナルまでこのように甘いことを言う。
一方通行からチッと舌打ちが漏れた。
「そろいもそろっておめでてェな、オマエの遺伝子ってヤツは」
美琴には打ち止めが一方通行のことを『天邪鬼』と評した理由が少しわかった気がした。
「一万回殺したことにたいしての償いは求めないわ。ただ、一回救った責任はきちんととりなさいよね」
なんだかどこかで聞いたような台詞に一方通行は憮然とする。
年下の少女にこうも諭されるのは気持ちのいいことではない。むずがゆさを感じて首の後ろを掻いた。
243 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/05(月) 22:38:51.77 ID:AbAXq.co [9/12]
「ンなこと言われるまでもねェよ」
美琴に聞こえないように小さく小さく呟いたつもりだったが、ばっちり聞かれてしまっていたらしい。
意地の悪そうなニヤニヤした笑いが美琴の顔に張り付いていた。
こうなったら恥をもう一つや二つ上塗っても同じだ。一方通行はハァ、と大きなため息をついた。
「悪かったな」
ポツリと言った一方通行の声は小さすぎて凪いだ空気に溶け込んでしまいそうだった。
「さっきは無駄に挑発しちまって」
「は?」
なんだろう。これはまさか。
「ガキ相手に大人気なかったっつってンだよ」
だんだんとヤケクソ気味になる一方通行に美琴は呆けたように目を見開く。
一方通行が謝罪している。
その意味に気づいて美琴は思わずふきだした。
「ぷっ、アンタそれ……なに似合わないこと言ってんのよ」
「あァ!?」
245 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/05(月) 22:50:54.26 ID:AbAXq.co [10/12]
「別に今更アンタが私にどんな態度とろうと気にしないわよ。
どんな態度とられたってこれ以上アンタの印象は悪くなりようがなかったもの」
一方通行はやはり言わなければよかったなどと後悔しながら美琴から視線をそらして足元のタイルに入ったひびの数を数える。
「何笑ってンだよ気持ち悪ィ」
一方通行の頬が夕陽の色よりも少し濃い赤色に見えたのは美琴の気のせいではないだろう。
「あー! あなたたちこんなところにいたの?
ってミサカはミサカは屋上で向かい合う二人を発見してみる」
屋上への出口から小さな人影が元気よく駆けてくる。
人影、打ち止めは勢い余って美琴の周りをぐるりと一周し、一方通行と美琴と打ち止めで正三角形を作る位置で止まった。
「お話はちゃんと終わったかな?ってミサカはミサカは確認してみる」
247 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/05(月) 23:07:44.43 ID:AbAXq.co [11/12]
絶妙のタイミングで現れた打ち止めに、一方通行は実は全部聞いていたのではないかと疑いのまなざしを向ける。
打ち止めはそんな視線は慣れっこのようでものともしない。
「あれ?なんかもしかして仲良くなった?
ってミサカはミサカは二人の間に険悪な雰囲気がないことに気がついてみる」
「それはねェよ」
「それはないわ」
美琴と一方通行は打ち止めの問いに間髪入れずに答えた。
「おおっと、なんとステレオ攻撃ってミサカはミサカはびっくりしてみる」
美琴は打ち止めの頭をぽんぽんと撫でると一方通行に向き直った。
真剣な中にもどこか遊びがある、そんな目だった。
「ちょうどいいわ、この子の前で約束しなさい」
249 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/05(月) 23:43:58.47 ID:AbAXq.co [12/12]
「?」
打ち止めはきょとんとして二人を見比べる。
「一方通行、アンタはこれからどうするの?」
「あァ……面倒くせェなァ」
苦々しい表情をした一方通行とは対照的に、美琴は楽しそうに構えている。
「なになにどうしたの? ってミサカはミサカは疑問符を浮かべてみるっ」
本日何度目かすでにわからないため息をついた一方通行は、疲れているようにも見えたが同時に穏やかさも感じさせていた。
一方通行は打ち止めの頭部に手を置いてわしゃわしゃと髪をかき乱した。
「わわ、いったいなんなのアナタまで!ってミサカは」
一方通行を見上げた打ち止めは、彼の口が信じられないほど優しく動くのを見た。
253 名前:お前らは三重県にでも行ってろよばかあ![sage] 投稿日:2010/04/06(火) 00:20:24.28 ID:Bz2MUrgo [2/22]
大きくはないがしっかりと意思のこもった声が打ち止めに届いた。
「え?」
「だからオマエは安心して馬鹿みたいに笑ってろ」
一方通行は早口でまくし立てるとくるりと回れ右をして抱きつくように落下防止の柵にもたれかかった。
しばらくポカンと口を開けていた打ち止めだったが、一方通行の落ち着かない背中を見て満面の笑みを浮かべた。
「――うん、もちろん信じてるよ、ってミサカはミサカはアナタにダイブ!!」
「おお!? クソガキ、ふざけたことしてンじゃねェよ!!」
猫がじゃれ付くように一方通行に飛び掛る打ち止めをみて美琴は細く長く息を吐いた。
まるで恋人同士じゃない、となんだか置いてけぼりを食らっている美琴は心の中で苦笑して空を見上げる。
太陽はすでに沈み、地平線を隠すビルの群れの輪郭をうっすら色づけているだけになっていた。
たそがれた空の天頂近くに、白く輝く一番星と小さく光る二番星が仲よさそうに寄り添っている。
その睦まじい二つの星を見つけて、きっと明日も晴れるだろうなと美琴は根拠もなくそう思った。
(おしまい)
284 名前:タイトル[sage] 投稿日:2010/04/06(火) 21:13:40.34 ID:Bz2MUrgo [5/22]
一方通行「ダイエットォ?」
※ほのぼの。台本形式。~>>253の設定は維持
285 名前:タイトル[sage] 投稿日:2010/04/06(火) 21:14:58.32 ID:Bz2MUrgo [6/22]
打ち止め「うん、今ミサカたちの間でいかにキレイに痩せるか競うのがはやってる
ってミサカはミサカは説明してみる」
一方通行「くっだらねェこと流行らせてンじゃねェよ」
打ち止め「うー、もともとガリガリなアナタにはこの重要性がわからないみたい
ってミサカはミサカは膨れてみる」
一方通行「ガキにゃ必要ねェだろ」
打ち止め「違うもん! 魅力的な女性の第一条件は痩せている事だって知ってるもん!
ってミサカはミサカは駄々っ子っぽく手足を振り回してみる」
一方通行「つゥか誰だよそんな偽情報流したの」
打ち止め「リアルゲコ太先生だよってミサカはミサカは正直に答えてみる」
一方通行(あの医者かァ……やっぱいっぺンシメとかねェとな)
打ち止め「というわけで今日のお昼ご飯はコレでおしまい!
ってミサカはミサカはアナタのお皿にピーマンとにんじんを移してみる」
286 名前:タイトル[sage] 投稿日:2010/04/06(火) 21:19:32.47 ID:Bz2MUrgo [7/22]
一方通行「あァ!? 好きなモンだけ食っててダイエットになるかっつゥんだよ!!」
打ち止め「偏食家のアナタに言われたくないってミサカははミサカは頬を膨らませてみる」
一方通行「ちゃんと食え」
打ち止め「ごめんねー! ミサカは午後はお姉様と約束があるから。ってミサカはミサカは病室を飛び出てみたり」
一方通行「オイィ!」
打ち止め「あなたはちゃんと病室でおとなしく寝てるんだよーってミサカはミサカはお姉さんぶってみるー」
一方通行「言いたいことだけ言ってどっか行くンじゃねェよ!」
一方通行(……ったく、あのガキは手間ばっかかけさせやがって)モグモグ
一方通行(まァ今日のところは超電磁砲と一緒なら問題ねェだろ)モグモグ
一方通行「ニンジン不味いな……ふァ……寝るかァ」
287 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/06(火) 21:25:04.77 ID:Bz2MUrgo [8/22]
打ち止め「お姉様ー!
ってミサカはミサカは待ち合わせ場所でケータイの画面を見ているお姉様に手を振ってみる」
美琴「あ、きたきた」
黒子「ごきげんよう」
打ち止め「あれ? 変態のお姉さんも一緒なんだねってミサカはミサカは確認してみる」
美琴「どうしてもついてくるて言って聞かなくってさ。いいかな?」
打ち止め「もちろんいいよ! ってミサカはミサカはばんざいしてみる」
黒子「……なんで貴女までわたくしを変態などと」
打ち止め「あの人がそう言ってたからだよってミサカはミサカは答えてみる」
黒子「あんの白もやしぃぃぃ」
美琴「はは、まあ間違いじゃないけどね」
288 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/06(火) 21:32:22.85 ID:Bz2MUrgo [9/22]
黒子「お、お姉様まで! 黒子泣いてしまいますわよ
……でもやっぱりSっ気のあるお姉様に罵倒されるのもなかなかよろしいかと」
美琴「はいはい」
打ち止め「やっぱり本格的に変態なんだねってミサカはミサカは若干後ずさってみる」
美琴「じゃ、いこっか。 アイツと一緒じゃ学び舎の園のケーキなんて食べる機会ないもんね」
黒子「雑誌にも紹介された有名店ですの。ってこれは受け売りですけれども」
打ち止め「う……ケーキ、なの? ってミサカはミサカは危機感を感じてみる」
美琴「あれ、もしかして甘いもの苦手だった?」
打ち止め「すごく大好きだよってミサカはミサカは……」
打ち止め(大好きだから困ってるってミサカはミサカは内なる声でつぶやいてみる……)
290 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/06(火) 21:38:37.35 ID:Bz2MUrgo [10/22]
美琴「すみませーん、トリプルベリーとオレンジジュースください」
黒子「わたくしはチーズタルトと紅茶を所望いたしますわ」
打ち止め(うう、どれもおいしそうだけどできるだけカロリーの低そうなのは……)
打ち止め「低カロリーシフォンケーキにする、ってミサカはミサカは断腸の思いで選択してみる」
美琴「それ甘さ控えめのやつだけど、やっぱり甘いの苦手だった?」
打ち止め「ううん! そんなことないよってミサカはミサカは否定してみる!!」
黒子「ケーキセットですのでお飲み物もこちらから選べますの」
打ち止め「うう、コーヒー、ブラックで」
美琴「え、ブラック?」
黒子「コーヒーが飲みたいのならカフェオレもございましてよ」
293 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/06(火) 21:46:01.88 ID:Bz2MUrgo [11/22]
打ち止め「あの人に付き合ってるうちにコーヒーのおいしさに目覚めたんだよ
ってミサカはミサカは宣言してみる」
美琴「ならいいけど……」
黒子「意外と感性が大人ですのね」
打ち止め「アナタと見た目はそんなに変わらないよってミサカはミサカは指摘してみる」
黒子「あら、その数歳の差を重要視する殿方も世の中にはいらっしゃるそうですわよ」
打ち止め「よくわかんない、ってミサカはミサカは悩んでみる」
美琴「黒子、あんまりこの子に変なこと吹き込むんじゃないわよ」
黒子「あら、ケーキが早速来ましたの」
美琴「んっ、きたきた~。ここのケーキ生クリームが最高なのよね」
打ち止め(お姉様のケーキおいしそう)ジー
美琴「ん? 打ち止め、一口食べる?」
294 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/06(火) 21:53:36.41 ID:Bz2MUrgo [12/22]
美琴「あ、シフォンケーキちょっとちょうだいね」
打ち止め「う、うん」
美琴「どれどれ……んー、私にはちょっと甘みが足りなくてものたりないかなー」
黒子「お、お姉様、わたくしのチーズタルトにも是非お口をつけていただけませんでしょうかハァハァ」
打ち止め「確かに甘みが足りないかもね、ってミサカはミサカはブラックコーヒーを恐る恐る口元に持ってきてみる」
黒子「お、お姉様二人にスルーされましたの!!」
打ち止め(ブラックコーヒー、ホントはあの人が飲ませてくれないから初めてなんだけど)ゴクッ
打ち止め(うう、にがいよぅ)
美琴「……やっぱりコーヒー慣れてないんじゃない? せめて砂糖とミルク入れたら?」
打ち止め「砂糖なんてとんでもない! ミサカはミサカは絶対拒否!」
黒子「かたくなに拒否なさいますわね」
296 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/06(火) 22:04:57.04 ID:Bz2MUrgo [13/22]
美琴「はい、お返しに一口あげるわ」
打ち止め「ううん、ミサカは自分の分でおなかいっぱいになると思うって
ミサカはミサカは零れ落ちそうなよだれを隠してみる」
美琴「遠慮しないでいいのよ。ほら、あーん」
打ち止め「うう」フラフラ
美琴「あーん」
打ち止め「あ、あーん……」パク
打ち止め(たべちゃった!ってミサカはミサカは後悔してみるっ)
黒子「わたくしも小さいお姉様にあーんして差し上げますわぁぁぁ!!
ほ、ほらぁ、チーズタルトですのよ。あ、あーん……ハァハァ」
打ち止め「う、さすがにちょっと怖いってミサカはミサカは顔をしかめてみる」
美琴「怖がらせてんじゃないわよ」パシッ
黒子「あああ、今日もお姉様の愛の鞭が黒子の身体を刺激する……」
打ち止め「くやしいけどおいしいようってミサカはミサカは口をもぐもぐさせてみる」
297 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/06(火) 22:12:23.79 ID:Bz2MUrgo [14/22]
打ち止め(うう、でもコーヒーの苦さでケーキが甘く感じるのは救いかなあ)ムキュモキュ
美琴「やっぱりケーキに甘さが足りなかった?」
打ち止め「そ、そんなことないってミサカはミサカは」
黒子「遠慮してちゃあダメですのよ」
美琴「そうだ、私の半分あげるから、打ち止めの分も半分ちょうだいよ。そしたら二つの味を楽しめるでしょ?」
黒子「なら三等分にいたしましょう。わたくしの分も召し上がっていただければ幸いですわ」
打ち止め「うう、優しさが目にしみるけど……けど……」
美琴「あらあら、そんなに食べたかったの? なら早く言いなさいよね、まったく」
黒子「強情なところもお姉様そっくりでかわいらしいですわ。ぐふふ」
打ち止め「うう、おいしいよう。甘いよう」パクパク
298 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/06(火) 22:17:39.92 ID:Bz2MUrgo [15/22]
美琴「あー、おいしかった」
黒子「なかなかのお味でしたわ」
打ち止め(結局全部食べちゃったようってミサカはミサカは後悔してみる)
美琴「ん? 打ち止めどうしたの? なんか不満そうな……」
黒子「わかりましたわ。食べたりないのでしょう?」
美琴「なーんだ。まあ育ち盛りだもんね。何ならもう一個頼もうか」
打ち止め「ち、ちが……」
美琴「てんいんさーん、本日のオススメケーキ3つ追加お願いしまーす」
打ち止め(お、お姉様がせっかく気を使ってくれてるのに、言えない、言えないってミサカはミサカは)
301 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/06(火) 22:31:58.57 ID:Bz2MUrgo [16/22]
美琴「こうしてのんびりケーキ食べるのもしばらくできないわねー」
黒子「そうですわね」
打ち止め「え? なんで? ってミサカはミサカは疑問に思ってみる」
黒子「そろそろ大星覇祭の準備がラストスパートですの。
まあわたくしは怪我しておりますから参加できるかはわかりませんけれども」
打ち止め「大星覇祭?」
美琴「ええ、学園都市の学校すべてを挙げて行われる体育祭よ。能力の使用も許可されてるからすっごく迫力あるわよ」
打ち止め「そういえば知識としては聞いたことあったなあってミサカはミサカはネットワークにアクセスしてみる」
黒子「ネットワーク?」
美琴「あ、あはははは、なんでもないわよなんでも」
打ち止め「なんだかすっごく面白そうだねってミサカはミサカは目を輝かせてみる!」
302 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/06(火) 22:42:55.08 ID:Bz2MUrgo [17/22]
美琴「よかったら病院抜け出して見に来なさいよ」
黒子「それはよろしいですわね。学園都市中がお祭り騒ぎですからどこへ行っても楽しめますわ」
打ち止め「なんだかわくわくしてきたってミサカはミサカはハイテンションになってみる!」
美琴「人が多いから迷子にならないようにするのよ」
打ち止め「そっかー、学園都市全体がお祭りなんだね……あれ?学生全員参加ってことはあの人も参加するのかな
ってミサカはミサカは疑問に思ってみる」
黒子「あの人って白もやしのことですの?
高校生くらいに見えますけれどもどちらの学校に通ってらっしゃるのでしょうか」
打ち止め「んー、よく知らないっていうかあの人学校通ってない気がする」
美琴「……でしょうね。アイツはまあなんていうかいろいろ特別だし」
黒子「?」
打ち止め「せっかくだからあの人といっしょにお祭りに行ってみようかなってミサカはミサカは心に決めてみる」
304 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/06(火) 22:50:43.90 ID:Bz2MUrgo [18/22]
美琴「アイツがお祭りねえ。似合わない気もするけど一人よりは楽しいんじゃない?」
黒子「そうですわね。黒子もお姉様の雄姿をカメラに収めるのが今から楽しみで仕方ありませんわ」
美琴「……お願いだから寮で何度も何度も巻き戻しては再生するのはもうやめてよね」
黒子「く、黒子のひそかな趣味がお姉様にばれておりましたの!?」
打ち止め「これがストーカーってヤツなの? ってミサカはミサカはおぞましさを感じてみる」
美琴「ある意味ストーカーより有害かもねー」
黒子「そんなっ、笑顔でさらりとひどいことを言うなんて」
打ち止め「そっか、お祭りかあ……」ゴクゴク
打ち止め(うっ、苦い!!)
キャッキャウフフ オネーサマー
305 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/06(火) 23:02:26.12 ID:Bz2MUrgo [19/22]
美琴「あ、もうこんな時間じゃない」
黒子「あら。本当ですわ。わたくしもおちびさんも病院を抜け出してきておりますのに、
夕食の時間に間に合わなくなりますの」
打ち止め「ほんとだ! ってミサカはミサカは時の流れのはやさに驚いてみる」
美琴「じゃあ今日はこれで解散しよっか。二人ともこのまま病院に戻るんでしょ?」
打ち止め「うん、ってミサカはミサカは元気よく返事してみる」
黒子「わたくしは寮にいったん荷物を取りによりますわ。一人で帰れまして?」
打ち止め「任せて!ってミサカはミサカは胸を叩いてみる」
美琴「じゃ、そろそろ出ましょうか。今日は私がおごるわ」
打ち止め「ええ、悪いよってミサカはミサカは首から提げるタイプの小銭入れを取り出してみる」
美琴「いいから、ちょっとはお姉さんぶらせなさい」
アリガトウゴザイマシター
308 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/06(火) 23:18:44.99 ID:Bz2MUrgo [21/22]
美琴「すっかり夕暮れねー」
黒子「おいしいものも食べましたし、今日はよい一日でしたの」
打ち止め「なんか店のドアをくぐった瞬間食べてしまったとう罪悪感にさいなまれてみたり」
一方通行「オイクソガキいつまでぶらぶらしてンだ。迷子ですかァ?オマエは」
美琴「」
黒子「」
打ち止め「あれ? 何でこんなところにいるの? ってミサカはミサカは首を傾げてみたり」
美琴「そ、そそ、そうよ、ここは学舎の園よ!」
黒子「基本的に許可のない男性は入れませんの! どうやって入り込みましたの!?」
一方通行「これでもいろンなところにコネ持ってンだよ」
309 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/06(火) 23:27:38.44 ID:Bz2MUrgo [22/22]
黒子「そうでしたの……てっきり女装でもして入り込んだのかと」
一方通行「あァン!? 不気味な想像してンじゃねェよ」
打ち止め「案外似合うかもってミサカはミサカは想像し……やっぱ無理」
美琴「あー、遅くなったのは謝るわ」
一方通行「ったく、オマエが一緒だから許可した俺が甘かったぜ。ホラ、帰るぞ」
打ち止め「おっと。それじゃあお姉様たちー、またねーってミサカはミサカはずりずりと引きずられながら別れの挨拶をしてみたり」
一方通行「オラ、前向いて歩け。転ぶぞクソガキ」
美琴「……」
黒子「……」
美琴「過保護ね」
黒子「ですの」
310 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/07(水) 00:21:12.16 ID:och3vEgo [1/13]
一方通行「オマエが帰ってこねェから夕食の時間ずれたンですけどォ」
打ち止め「文句を言いながらご飯食べないで待っててくれたあなたにミサカはミサカは感謝してみる」
打ち止め(いっぱい喋ったからおなか減ったな。でも……)
打ち止め(今日はケーキを2個も食べちゃった。こんなんじゃダイエットできない)
一方通行「ホラ、無駄口叩いてねェで食え」
打ち止め「う……食欲がないってミサカはミサカは訴えてみる」
一方通行「はァ!? 何言ってンだ。まさかまたダイエットとか言ってンじゃねェだろォな」
打ち止め「ち、ちがうよ。ちょっと今日……ケーキ食べ過ぎたからってミサカはミサカは言い訳してみる」
一方通行「……超電磁砲か。余計なことしやがって」
打ち止め「お姉様は悪くないよってミサカはミサカは慌てて否定してみる!!」グー
311 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/07(水) 00:34:00.51 ID:och3vEgo [2/13]
一方通行「……」
打ち止め「……」
一方通行「……オイィ、今の可愛らしィ音はなンの音だァ?」
打ち止め「なんのこと?ってミサカはミサカはとぼけてみる」
一方通行「どォ聞いても腹の虫だよなァ、腹減ってンじゃねェかクソガキイイィィ!!」
打ち止め「いやー、ほんとにおなかすいてないもん! ってミサカはミサカは戦略的撤退」ダダダダダ
一方通行「オイコラァ! どこ行く気だ!」
打ち止め「ミサカはもう寝るもん! ってミサカはミサカは夜更かしは美容の大敵って言ってみる!」バタン
一方通行「まだ8時にもなってねェぞクソガキ!!」
一方通行「……ふざけンじゃねェよ。どォすンだよこの二人分のメシ」
312 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/07(水) 00:41:00.18 ID:och3vEgo [3/13]
打ち止め(うーん、部屋に戻って布団にもぐりこんでみたはいいものの)
打ち止め(正直全然眠くないってミサカはミサカは昼間に飲んだコーヒーのことを思い出してみる)グー
打ち止め(おなか減ったし)
打ち止め(だめだめ! 魅力的なスリムボディを手に入れるためだもん)
打ち止め(上位個体として下位個体に負けられないってミサカはミサカは決心を固めてみる)
打ち止め(今日はケーキ食べ過ぎちゃったんだから自重しないと)グー
打ち止め「……」
打ち止め「やっぱ、おなかすいたなあってミサカはミサカは呟いてみる」
313 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/07(水) 00:55:02.26 ID:och3vEgo [4/13]
一方通行(チッ、あのクソガキ変なこと覚えやがって)モグモグ
一方通行(ダイエットとかガキが色気づいてンじゃねェよ)モグモグ
一方通行(ケーキは食えてメシは食えませンだァ? 馬鹿言ってンじゃねェよ)モグモグ
一方通行(超電磁砲も勝手に食いモン食わせてンじゃねェよ)モグモグ
一方通行(超電磁砲にクレーム入れとくかァ、って連絡先しらねェな)モグモグ
一方通行(今度会ったらビシッと言ってやンねェとなァ)モグモグ
一方通行「……」
一方通行「やっぱ、二人分は多いなァ」モグモグ
335 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/07(水) 23:10:48.39 ID:och3vEgo [8/13]
一方通行「オーイ、クソガキィ、朝メシくらいはちゃんと食えっつゥの」ドンドン
シーン
一方通行「……」
一方通行(寝てンのかァ? まったくいつもは起こしに来る側だってェのによォ)
打ち止め「うう、カロリー計算したら昨日は食べすぎだったからその分朝食も抜くってミサカはミサカは篭城してみる」
一方通行「起きてンじゃねェか出て来いやコラァ!!」ドンッ
シーン
一方通行「……だめか」
prrrrrrrr
一方通行「あ? この番号……誰からだ?」ピッ
??『あ、もしもし。一方通行?』
一方通行「は? 誰だ」
337 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/07(水) 23:19:17.80 ID:och3vEgo [9/13]
??『私よ私。御坂美琴』
一方通行「はァァ!? なんでオマエが俺の番号知ってンだよ」
美琴『ちょっと調べたのよ』
一方通行「俺の個人情報に関してはそれなりに機密度が高いはずだが」
美琴『細かいことは気にしない気にしない』
一方通行「犯罪のにおいがするぜェ」
美琴『気のせいよ』
一方通行「……で、何の用だ。つまらねェことだったら切ンぞ」
美琴『今暇?』
一方通行「あァ!?」
341 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/07(水) 23:26:02.37 ID:och3vEgo [11/13]
美琴『ちょっと話があるんだけど病室行っていいかな。もう病院には着いてるんだけど』
一方通行「オマエが俺に顔つき合わせてなンの用があるってンだよ」
美琴『私だって別に会いたくなんてないわよ。でも、打ち止めのことなのよ』
一方通行「……」
美琴『授業抜け出してきてるんだからちょっとくらい時間作りなさいよ。どうせ暇なんでしょ』
一方通行「相変わらず失礼な女だな。まァ少しなら付き合ってやる」
美琴『ありがと。素直じゃないわねまったく。今から病室向かうから待ってなさいよ』ピッ
一方通行「切りやがった……ホントに勝手なヤツだな」
342 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/07(水) 23:35:50.82 ID:och3vEgo [12/13]
一方通行「……で、いったい何の用だ超電磁砲」
美琴「いきなりとげとげしいわね。まあアンタに馴れ馴れしくされても気持ち悪いだけなんだけど」
一方通行「ずいぶんな言い草だな。さっさと話し済ませて帰りやがれ」
美琴「ん、ちょっと昨日さあ、あの子……打ち止めの様子がおかしかったから」
一方通行「あァ?」
美琴「今日一緒にケーキ食べたんだけど」
一方通行「あァ。それを言い訳にしてあのガキ晩飯食ってねェよ」
美琴「ええ!? おっかしいなー、確かに閉店間際までしゃべってたけどケーキ食べたのはそんな遅い時間じゃなかったはず……」
一方通行「オマエのせいじゃねェ。なンか知らねェけど急にダイエットとか言い出しやがったンだよ」
美琴「あら。だからか」
一方通行「は?」
344 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/07(水) 23:57:11.82 ID:och3vEgo [13/13]
美琴「なんかコーヒーのブラック飲みだしたり甘くないケーキチョイスしてたのよ。
あの年頃の子にしてはおかしいでしょ?」
一方通行「オマエの前でもンなことやってたのかあの馬鹿は」
美琴「結局ケーキいっぱい食べさせちゃったし、悪いことしたかな」
一方通行「ンだよオマエダイエット肯定してンのか」
美琴「思春期の女の子なら誰でも通る道よ。アンタにはその辺の理解が足りないみたいね」
一方通行「わかるわけねェだろ。つゥか晩飯どころか朝メシも拒否して部屋からでてこねェンだぞ? 異常だろ」
美琴「あちゃー、断食か。身体によくないだけなのに」
一方通行「……オイ超電磁砲」
美琴「ん? なによいきなり真剣な顔して」
一方通行「オマエに頼むのはシャクだが他に頼れるヤツもいねェ。頼めそうなヤツはまだ様態が安定してねェしな」
美琴「は? 頼みごと? 私に?」
347 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/08(木) 00:12:48.09 ID:GeSE3OEo [1/12]
一方通行「……あのガキを説得してくれねェか」
美琴「え? なんでよ。アンタが話せばいいじゃない」
一方通行「俺が話せばどォしても喧嘩腰になっちまう。 オリジナルのオマエの話ならきちンと聞くだろうよ」
美琴「ええ、でも」
一方通行「俺は所詮実験を行っていた側の人間だからな。あのガキどもにとっちゃあ結局
美琴「別にあの子はアンタのこと嫌ってなんか……」
一方通行「頼む」
美琴「!」
美琴(あの一方通行が……格下相手に頭を下げた?)
一方通行「頼む」
美琴「……仕方ないわね。ちょっとアドバイスするだけよ。最終的に説得するのは、アンタの仕事だからね」
348 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/08(木) 00:25:15.54 ID:GeSE3OEo [2/12]
美琴(とは言ったものの)
美琴(どういう切り口ではなそっかな)
美琴(ダイエットしたいって気持ちはまあわからないでもないし)
美琴(無理に否定するのもどうかと思うのよね)
美琴(……ま、当たって砕けてみますか)コンコン
美琴「入るわよー」ガチャ
打ち止め「……お姉様? ってミサカはミサカは布団の隙間から様子を伺ってみる」
美琴「やっほー、元気だった?」
打ち止め「昨日あったばかりなんだけどってミサカはミサカは疑わしげなまなざしをおくってみる」
美琴「男子三日会わざれば刮目して見よ、ってね」
打ち止め「三日もたってないしミサカはそもそも男子でもないんだけどってミサカはミサカは反論してみる」
369 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/08(木) 22:16:24.26 ID:GeSE3OEo [4/12]
>>348続き
美琴「細かいことは置いといて。元気、なさそうじゃない」
打ち止め「そんなことないよう」
美琴「嘘ばっかり。それにしてもダイエットしてるんだって? また急にどうしたの」
打ち止め「妹達のあいだで流行ってるの。しかもどうやら痩せた個体がでてきたらしくってあせってるの
ってミサカはミサカは正直に答えてみる」
美琴「ふうん。でも妹達とアンタの身体年齢って違うじゃない。競っても仕方がないと思うんだけど」
打ち止め「でもでも、上位個体としてのプライドがあるのってミサカはミサカは主張してみたり」
美琴「アンタ成長期なんだから、痩せる痩せない以前に食べないと出るとこ出ないわよ」
打ち止め「正直お姉様と下位個体を見る限りではこれからの成長にはあまり期待ができないって
ミサカはミサカはお姉様をじろじろと見ながらため息をついてみる」
美琴「な、何いってんのよ! 私だってまだまだ成長期なんだからね!」
371 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/08(木) 22:23:30.48 ID:GeSE3OEo [5/12]
>>370
どうなんだろうか。普通にでんじつうこうって読んでたな……
372 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/08(木) 22:30:59.51 ID:GeSE3OEo [6/12]
美琴「これでも……遺伝を考えれば……私にだって可能性は十分……」ブツブツ
打ち止め「お、お姉様? 何もそんなに気にしなくてもいいよってミサカはミサカは自分の発言を後悔してみる」
美琴「……はっ、そ、そうよね! 私ってば大器晩成型だもんね!」
打ち止め(なんか違うと思うけど黙っておこうってミサカはミサカは決心してみたり)
美琴「えーっと、そうそう、ダイエット、ね。そもそも何のためにダイエットをするのかしら」
打ち止め「魅力的な女性の条件は痩せてることだってミサカはミサカは知ってるもん」
美琴「なによその情報。いったいどこから仕入れてきたの」
打ち止め「え? 違うの? ってミサカはミサカはびっくりしてみる」
美琴「まあ一概には言えないけど、人それぞれってところかしらね」
打ち止め「むー、でもモデルさんとかはみんな細いよってミサカはミサカはファッション雑誌を思い浮かべてみる」
美琴「ま、それはそうだけど。打ち止め、アンタは何のために魅力的な女性になりたいの?」
375 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/08(木) 22:54:43.72 ID:GeSE3OEo [7/12]
打ち止め「何のため、って」
美琴「別に太ってるわけじゃないんだし、自己満足の自分磨き? ……それとも、誰かに見て欲しいの?」
打ち止め「え……」
美琴「たとえば、一方通行とか」
打ち止め「う、確かにあの人に子ども扱いをやめてもらうためには有効な手段かなって
ミサカはミサカは思ってみたり」
美琴「だからってその相手に心配かけてたら本末転倒でしょうが」
打ち止め「心配……? あの人が?」
美琴「そうよ。アンタがご飯食べないことそれはそれは心配してたわよ」
打ち止め「怒ってただけだったよってミサカはミサカは思い出してみる」
美琴「それが心配なんじゃない。アイツ素直じゃないんだからそれくらい読み取りなさい」
376 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/08(木) 23:01:18.21 ID:GeSE3OEo [8/12]
打ち止め「素直じゃないとかお姉様に言われるなんて……ってミサカはミサカは絶句してみる」
美琴「どういう意味よ」
打ち止め「そのままの意味だよってミサカはミサカはとある少年のことを思い浮かべてみる」
美琴「! い、い、い、いったい誰のことなのかしらね」
打ち止め「お姉様の頭に浮かんだ人のことだよってミサカはミサカは意地悪に笑ってみる」
美琴「そ、それはいったん脇に置いときなさい。いい? アンタのこと一方通行が心配してるって言うのは事実よ」
打ち止め「……」
美琴「現に、私にアンタのこと頼むって言ってきたのよ」
打ち止め「あの人が?」
美琴「そ。信じられないでしょ」
打ち止め「……ん」
378 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/08(木) 23:12:17.38 ID:GeSE3OEo [9/12]
美琴「それだけアンタのこと気にしてるのよ。アイツは。あ、これ言っちゃったこと内緒ね」
打ち止め「そっかあ、あの人が」
美琴「10032号がアイツのことツンデレとか言ってた意味がわかってきたわ」
打ち止め「それもお姉様に言われるのは……ってなんでもないってミサカはミサカは言いかけた言葉を飲み込んでみる」
美琴「さて、そんな余計な心配かけちゃった相手にいったいどうするべきだと思う?」
打ち止め「……」
379 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/08(木) 23:20:41.61 ID:GeSE3OEo [10/12]
打ち止め「……おじゃましまーす、ってミサカはミサカは病室の扉を開けてみる」
一方通行「……」
打ち止め「うう、やっぱり怒ってる? ってミサカはミサカはおそるおそるあなたの背中に聞いてみる」
一方通行「……オイクソガキ」
打ち止め「は、はいっ!」
一方通行「超電磁砲はなンか言ってたか」
打ち止め「ダイエットはやめたほうがいいって。それと……」
一方通行「それと?」
打ち止め「ううん、なんでもないってミサカはミサカはでかかった台詞を封印してみる」
一方通行「……」
381 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/08(木) 23:39:45.48 ID:GeSE3OEo [11/12]
打ち止め(やっぱ怒ってるオーラが出てるようってミサカはミサカはドキドキしてみる)
打ち止め「や、やっぱりミサカにはダイエットは早いかなってミサカはミサカは思い直してみたり……」
一方通行「……」
打ち止め(うう、心配ってお姉様の気のせいじゃないのかなあ)
一方通行「腹ァ、減ってンだろ」
打ち止め「う、うん……」
一方通行「これでも食っとけ。昼までまだ時間あっからな」ポイポイポイ
打ち止め「え、ポテチに おせんべ キャルメラ チョコ? 買ったら300円になっちゃった? っていうかなにこれ」
一方通行「うるせェ、食うなら黙って食え。いらねェなら捨てるぞ」
打ち止め「え? え? これあなたが買ってきたの?」
一方通行「……」
383 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/08(木) 23:49:49.53 ID:GeSE3OEo [12/12]
打ち止め「心配、してくれてたんだ……ってミサカはミサカはお姉さまの言ったとおりだったってポカンとしてみる」
一方通行「あァ!? あの超電磁砲余計なこといいやがったな!?」
打ち止め「ごめんね」
一方通行「あ?」
打ち止め「もう、心配かけるようなことしないからってミサカはミサカは断言してみる!!」
一方通行「……超電磁砲には借りができちまったな」ボソ
打ち止め「ん? なんか言った?」
一方通行「なンでもねェよ」
ギィ……パタン
美琴「ふぅ、よかったよかった。どうなることかと思ったけど」
美琴「アイツももっと素直になればいいのに」
美琴「ま、一方通行の意外な面も見れて面白かったかな」
美琴「じゃ、今日はこの辺で帰るとしますか。じゃあねー」
おしまい
美琴はお見舞いに持ってきたりんごを果物ナイフで四分割した。
芯を取り、器用に皮に切れ込みをいれてりんごのうさぎを作る。四つともに細工を施し、平皿に盛り付ける。
「お姉様がわたくしのためにうさぎさんを……。
少々子供っぽいところはありますが黒子は非常にうれしく思いますの!」
「子供っぽいってどういう意味よ。りんごのうさぎさんかわいいじゃないの」
美琴は剥いたりんごを自分の口に放り込んだ。
それを見てベッドの上の白井黒子は悲鳴を上げる。
「ああああ!お姉様、黒子のために剥いて下さったんじゃありませんでしたの!?」
「うふぁぎふぁんいらはいんでふぉ?」
りんごをくわえたまま美琴は答える。
「そんなことは言っておりませんの!」
どうやら愛の力によって美琴の言葉は黒子に正確に伝わったらしい。
3 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/25(木) 22:58:22.65 ID:tZe75vwo
「うっ、傷口が開きますの……」
ベッドの上で盛大に暴れた黒子が胸の辺りを抑えて呻く。
美琴は口の中のりんごを咀嚼してから黒子をたしなめた。
「アンタねえ、怪我人なんだからちょっとはおとなしくしてなさいよ」
美琴はあきれたように息を吐く。
「残りはおいといてあげるから、勝手に食べなさい」
言ってから、時計に目をやり立ち上がった。
「お、お姉様、ぜひ『あーん』ってやつをやってくださりませんこと?」
黒子の息が荒いのは、傷の痛みのせいなのか、果たしてそうではないのか。
6 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/25(木) 23:13:45.74 ID:tZe75vwo
「……」
美琴は病室から黒子の絶叫の余韻が消えるのを確認してから、ほんの三歩病室から離れたところで立ち止まった。
(黒子の怪我も、突き詰めて言えば私にも責任があるのよね)
黒子が入院する原因となったのは風紀委員の仕事中の負傷だった。
『樹形図の設計者』の『残骸』回収にまつわる事件。
黒子はその主犯、結標淡希との戦闘で重傷を負った。
美琴は『樹形図の設計者』の修復を阻止するために個人的に動いていた。
黒子が結標と接触する前に自分が決着をつけていれば。
事件が解決した今となっては後悔しても遅いが、そういった考えはあとからあとから美琴をさいなむ。
7 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/25(木) 23:18:10.13 ID:tZe75vwo
>>6の前にこれ抜けてた
「んー、それはまた今度ね」
美琴は荷物を持って帰り支度を始めた。窓の外には夕暮れが迫っている。
そろそろ帰らなければ完全下校時刻が過ぎてバスがなくなってしまう。
「また今度って絶対こないような気がしますの……」
「そうねー、今度からお見舞いにりんごはやめとくわ」
美琴はあっけらかんと言った。
「お姉様の意地悪。
……はっ、今度からということはまたお見舞いに来てくださるということですの!?
黒子、まさかの逆転勝利ですの!」
「あー、帰るわ」
美琴は手をひらひらと振って病室の出入り口へと歩いていった。
「じゃあねー」
言って、病室のドアを開ける。
「お姉様、少しは振り返ってくださってもよろしいんじゃありませんのおお!?」
黒子が全てを叫び終わる前に、病室の外に出てパタンという音を立ててドアを閉めた。
8 名前:何事もなかったかのように[sage] 投稿日:2010/03/25(木) 23:18:43.42 ID:tZe75vwo
「……」
美琴は病室から黒子の絶叫の余韻が消えるのを確認してから、ほんの三歩病室から離れたところで立ち止まった。
(黒子の怪我も、突き詰めて言えば私にも責任があるのよね)
黒子が入院する原因となったのは風紀委員の仕事中の負傷だった。
『樹形図の設計者』の『残骸』回収にまつわる事件。
黒子はその主犯、結標淡希との戦闘で重傷を負った。
美琴は『樹形図の設計者』の修復を阻止するために個人的に動いていた。
黒子が結標と接触する前に自分が決着をつけていれば。
事件が解決した今となっては後悔しても遅いが、そういった考えはあとからあとから美琴をさいなむ。
9 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/25(木) 23:29:28.36 ID:tZe75vwo
病室の扉の脇に設置された「白井黒子」というネームプレートを見ながら美琴はため息をついた。
『お姉様、もし貴女が自分の力のせいでわたくしを事件に巻き込んだと思っているのなら、それは大間違いですのよ』
この間黒子が美琴に向かって言った言葉がよみがえる。
強いな、と思う。
黒子は本心からそう思っているのだろう。
(私も、強くならなきゃね)
そう思ってやっと本当に帰る決心がついた。
美琴が力強く一歩を踏み出したそのとき。
「ああー!ミサカのりんごうさちゃん@苦心作が何の躊躇もなく噛み砕かれた!
ってミサカはミサカはショックを受けてみる!!」
10 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/25(木) 23:39:34.13 ID:tZe75vwo
なんとものんきで大きな声が、美琴の真横の病室、つまり黒子の病室の隣から聞こえてきた。
美琴は思わずぼやいていた。
「……うるさいわねえ、ここ病院でしょ? マナーがなってないったら……ん?」
美琴の中で聞こえてきた内容の、ある単語が引っかかった。
(……ミサカ?)
美琴は『ミサカ』を一人称として使う人物を、いや集団を知っていた。
彼女自身の体細胞クローン『妹達』。一万人弱の、美琴と同じ姿をした少女たち。
美琴が『樹形図の設計者』の修復を邪魔したのも彼女たちの命を守るためだった。
そういえば、この病院には妹達が何人か入院していると聞いている。
そのうちの一人がその病室にいるのかもしれない。
「あいたたたた、ちょっと言語能力を奪ったからって実力行使に出るのはどうかと思う
ってミサカはミサカは意見を述べてみる!!」
12 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/26(金) 00:01:38.43 ID:PBx7ioko [1/9]
相変わらず扉の向こうからは少女の声が響いてくる。
病室のネームプレートは空白のままだ。
気がつけば、美琴はその病室の扉をノックしていた。
(……はっ、私ったらいったい何してるの? あの子達、リハビリ中のはずよね……
いきなり自分たちの『オリジナル』が現れたらびっくりするんじゃないの?)
今更わたわたとあわてても遅い。
ノックをしてしまった以上、こちらの存在は病室の中に伝わってしまったのだ。
「ほらあ、何ボーっとしてるの?お返事がないとノック主さん困っちゃうよ?
ってミサカはミサカは痛みをこらえながら忠告してみる」
「うっせェ、……どォぞ入ってきやがりください」
聞こえてきたのは少年の声だった。
美琴は小首をかしげながらも、覚悟を決めてノブに手をかけた。
14 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/26(金) 00:44:37.61 ID:PBx7ioko [2/9]
ガチャリ、と小さな音を立ててドアを開く。
美琴は恐る恐るといった感じで病室を覗き込む。
そこで見たものは。
「ア?」
「……え?」
予想外の人物だった。
印象は、ただひたすらに白い。
髪も白い。肌も白い。身にまとった手術着のような簡素な病院服までもが白い。
ただ、その目だけが不自然なまでに赤かった。
美琴はその少年に見覚えがあった。忘れるはずがない。
「アンタは……!」
「超電磁砲か」
美琴にとっての破壊と絶望の権化、一方通行は少し驚いたようにそう言った。
20 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/03/26(金) 20:57:53.51 ID:PBx7ioko [4/9]
「……そうか、この病院には妹たちが何人かいるんだったな。
わざわざこの俺を訪ねてくるとはずいぶんと度胸がある個体だな、オイ」
美琴の耳にその言葉は届いていなかった。
一方通行がベッドの上に座っていることとか、どう見ても入院患者であることとか、そういったことはどうでもよかった。
「な、何でアンタがこんなところにいるのよ……!」
「はァ?」
同じレベル5といっても、学園都市の第一位と第三位の美琴の間にはその実力に絶望的な壁がある。
第一位と初めて相対した夜を思い出す。
一方通行の前には美琴の攻撃は一切通用しなかった。電撃も、必殺のはずの超電磁砲も何もかも。
『常盤台の超電磁砲』としての自信とプライドが粉々に打ち砕かれた瞬間だった。
それほどまでに圧倒的な力を見せ付けられた。
21 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/26(金) 20:58:47.57 ID:PBx7ioko [5/9]
『絶対能力進化実験』が終了し、『妹達』の安全が確保された今、好んでかかわりたい相手ではない。
緊張でがちがちになった体に活を入れ、回れ右をしようとした。
「うう、この人は妹達じゃないよ、ってミサカはミサカは頭部へのぐりぐり攻撃をやめてほしいなって思いながら否定してみる」
「え?」
声のしたほうに目をやると、そこには10歳前後の青いキャミソールを着た少女がいた。
ベッドに上半身を倒し、その小さな頭を一方通行が拳で押さえつけている。
「あ……」
茶色い髪に茶色い瞳。頭のてっぺんからぴょこんと飛び出たひとふさのアホ毛が子供らしさを演出している。
その顔は毎朝鏡を通して見ている自分の顔に非常によく似ていた。
22 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/26(金) 20:59:52.44 ID:PBx7ioko [6/9]
何も知らない人間が見れば、一方通行と少女は仲のよい兄妹がじゃれているように見える。
実際そのような状況なのだが、中途半端に事情を知っている美琴の目にはそうは映らなかった。
(コイツ――まさかまた)
病室の空気が帯電する。
「アンタ一体なにやってんのよっ!」
美琴の絶叫と同時に前髪から稲妻がはしる。
狭い病室全体がまばゆいの光に包まれた。
「っ!?……この威力は」
「まさかまた、あのくだらない実験を繰り返そうって言うんじゃないでしょうね……!」
「うわわわわっ!」
怒りに満ちた美琴の声と、大慌ての少女の声が交差する。
23 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/03/26(金) 21:00:47.71 ID:PBx7ioko [7/9]
美琴の身体の周囲からはいまだバチバチと雷光にも似た光が放たれている。
「そんなことしようってんなら……私は、私はっ、死んでもアンタを倒す!!」
「……面白ェじゃねェか。オマエオリジナルか。いいぜ! あの夜の続きといこうじゃねェか!!」
一方通行が布団を跳ね飛ばし、目をカッと見開く。
その真っ赤な眼光を美琴は正面から睨み返す。
「だめー!
ってミサカはミサカはグリグリ攻撃を振り切ってお姉さまとあなたの間に割り込んでみる!」
それまで一方通行に抑えられていた少女がすばやく動き、美琴の前に立ちはだかる。
「え!?」
少女の意外な行動に美琴の動きが停止する。この少女がなぜ一方通行を守ろうとするのだろう。
24 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/26(金) 21:01:29.16 ID:PBx7ioko [8/9]
「クソガキ、オマエはどいてろ……ぐっ」
一方通行が突然頭を抱えてうずくまった。美琴はまだ何も攻撃を加えていない。
「え?え?」
「ああっ、もう、こないだ無理して外に出た時のダメージがまだ残ってるんだから興奮しちゃダメって
ミサカはミサカは何度も忠告してるのに!!」
少女がわたわたとベッドに駆け寄る。
ちょこまかとしながら一方通行を覗き込む様子は、本気で心配しているように見えた。
「どうしようどうしよう! ナースコール!? 看護士さーん!
ってミサカはミサカは大慌てでボタンをぽちっと押してみる!!」
「へ?……あれ?」
美琴は予想外の展開に、間抜けな声を上げ呆然とするしかなかった。
30 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/27(土) 00:37:34.13 ID:pWmGtpwo
「……一体、どういうことよ」
腑に落ちない。例の無能力者に超電磁砲が通用しないことぐらいに納得がいかない。
学園都市最強の超能力者、一方通行が何かしらのダメージを受けている。
彼の能力『一方通行』による反射は、彼を害する全てのベクトルをはね返す。
それがなぜ?
駆けつけた医者と看護士に部屋から追い出された美琴は、病院の廊下で首をひねっていた。
(別人?ううん、あんな目立つヤツ見間違えるわけないし……)
そもそも一方通行が入院しているという時点でおかしい。
最強を傷つけられる存在が、あの無能力者を除いてどこにいるというのか。
37 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/27(土) 23:18:35.94 ID:7ks4Wo6o [1/3]
(あの子、ものすごくあせってた)
一方通行にすがりつく少女を思い出す。
『絶対能力進化実験』において『妹達』は単なる一方通行に虐殺されるためだけの使い捨ての道具。
生きることを選択した『妹達』にとって一方通行は敵として認識されたのではなかったのか。
虐殺されていたものが虐殺していたものが仲良くなるなどということは想像がつかない。
だが、現状を鑑みるにありえないことが起こっているとしか思えなかった。
そこに詳細を知らない自分が自体を引っ掻き回す。
この構図は不自然を通り越してどこか滑稽だ。
「なんだか私が悪者みたいじゃない」
ため息をひとつついた。
38 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/27(土) 23:19:34.10 ID:7ks4Wo6o [2/3]
「お姉様」
不意に声がかかる。
そこに立っていたのは、美琴と同じ常盤台中学の制服を着た少女だった。
同じなのは制服だけではなかった。
身長、顔立ち、体型、年頃。
頭のてっぺんから足の先まで、その容姿は美琴と瓜二つだった。
感情を感じさせない瞳だけが美琴のものと異なっていた。
「お久しぶりです、とミサカは定型文とともにぺこりとお辞儀をします」
「お久しぶり、ってことはあのときの? 確か……10032号でよかったかしら」
ツンツン頭の少年と一緒に一方通行に立ち向かったあの日に殺されかかった個体の検体番号が、確か10032号だったはずだ。
「正解です、とミサカはお姉さまの洞察力に賞賛を送ります」
39 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/27(土) 23:20:16.95 ID:7ks4Wo6o [3/3]
重傷を負った10032号は学園都市に残ってリハビリ中だと聞いている。
どこでリハビリを受けているのかは知らなかったが、どうやらこの病院であるらしい。
ひとつの病院に知り合いが集まりすぎではないか、と美琴はまたこっそりとため息をつく。
「上位個体からお姉様に状況説明をして差し上げるように、と。
上位個体は今手が放せないそうですから、とミサカはミサカがここにいる理由を説明します」
「上位個体?」
美琴は聞きなれない単語に疑問符を浮かべた。
それに対し、御坂妹は澱みのない口調でこたえる。
「はい、一方通行と一緒にいた発育不良の検体番号20001号、通称『打ち止め』と呼ばれる個体で、
ミサカたちの形成するネットワークと全ミサカの管理者のような存在です、
とミサカは上位個体の外見的特長も交えた懇切丁寧な解説を行います」
「つまり、さっきのちっちゃい子のことね」
42 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/28(日) 23:05:18.52 ID:OY0QJ4wo [1/5]
「はい、そのとおりです、とミサカはお姉様の言葉を肯定します」
あの少女、打ち止めはやはり『妹達』の一員であるらしい。
ならばなおさら一方通行と一緒にいることが納得いかない。
「面倒だから単刀直入に聞くわ。その『妹達』の中でも重要な役割を担っている『上位個体』が、
どうしてあの一方通行と仲よさそうにしているわけ?」
「ミサカはそれを説明するためにここに来たのですが、とミサカは前置きをします」
御坂妹はそこで大きく息を吸い込んだ。
よく観察しなければその表情の変化はわからないが、美琴の向ける鋭い視線に少したじろいだのだ。
「現在、我々『妹達』は一方通行が脳にダメージを受けて失った計算能力と言語能力を補助しています、
とミサカは現状を説明します」
「は?」
43 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/28(日) 23:05:47.29 ID:OY0QJ4wo [2/5]
「ミサカネットワークによる並列演算を一方通行に貸与している、と言い換えてもいいでしょう」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
一方通行の補助? 『妹達』が?
いや、それよりも何か重要なことを御坂妹は言っていなかったか。
「なんでしょう?とミサカは小首を傾げます」
美琴は混乱する頭で考えをまとめながらしゃべる。
「ちょっと整理するわよ。えーっと、現在ミサカネットワークは一方通行を補助している」
「はい」
「そして一方通行は計算能力と言語能力を……失った?」
「はい」
44 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/28(日) 23:06:15.90 ID:OY0QJ4wo [3/5]
計算能力と言語能力を失う。それは超能力の使用に必要な演算ができなくなるということだ。
つまり、能力者としての死を意味する。
「一方通行が、超能力を使えなくなった、ってこと?」
「はい。まあ、ミサカネットワークの補助によりある程度は回復していますが、とミサカは補足します」
美琴は愕然とした。
いけ好かないどころか殺意を覚えるほどの相手だが、一方通行は学園都市の第一位の超能力者だ。
学園都市の学生180万人の頂点に立つ存在がその力を失ったとなれば大事だ。
それに同じ超能力者(レベル5)である美琴にとっても衝撃的だった。
自分が必死の努力で身につけた超能力とはそんなにもろいものなのか。
「どうして、そんなことに……?」
「話せば長くなりますが、お姉さまがご希望でしたら最初からお話しましょう、
とミサカは絶望しそうに長いプロローグを語るべく、ミサカネットワークから記憶情報を
ダウンロードしてみます」
45 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/28(日) 23:06:45.93 ID:OY0QJ4wo [4/5]
打ち止めが調整途中で培養機から放り出されたこと。
紆余曲折あって打ち止めが一方通行に助けを求めたこと。
その際、外部組織とのつながりを持つ天井亜雄という研究者により打ち止めに学園都市破壊の為ウィルスコードが仕込まれていたこと。
一方通行は打ち止めと『妹達』を救うことを選択し、能力を使用してウイルスを除去したこと。
その際に頭部に銃撃を受け、取り返しのつかないダメージを負ったこと。
美琴は御坂妹の語る内容に一言も口を挟まず聞き入った。
「……以上です、とミサカは若干の疲労を覚えつつ話を終えます」
「なんだか、私の知っている一方通行とは別人みたいなんだけど」
話をすべて聞き終わった後でも、美琴はその内容を信じることができなかった。
「だいたいアイツはアンタたちのことをただの能力進化のための道具としてしか見ていなかったじゃない。
むしろ[ピーーー]ことを楽しんでたように見えたわ。
そんな外道がアンタ達を救ったっていうの?」
47 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/03/28(日) 23:17:22.08 ID:OY0QJ4wo [5/5]
「すべて事実です。ミサカも彼がどのような心理で上位個体の命を救ったのかはわかりません。
あの状況では上位個体を殺すという選択肢が一番楽だったでしょうに」
御坂妹がさらりと話した内容に美琴はいらだった。
「アンタたち自身はどうなのよ。一度助けてもらったからって許せるの?
アイツが一万人以上の『妹達』を殺した事実は変わらないわ」
美琴のまっすぐな視線を御坂妹は正面から受け止める。
その上で、きっぱりとこう言った。
「ミサカたちもそのことについては承知しています。
生きることを選択したミサカの総意として一方通行の行為はこれからも許すことはできないでしょう。
ただ、同時に感謝もしているのです」
「感謝?」
59 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/29(月) 21:35:59.52 ID:yVsH5zAo [2/13]
「はい。ミサカたちの生命を脅かしたのも彼なら、そのことによってミサカたちの生命の価値を教えて
くれたのもまた彼なのです。
もちろんお姉様や上条当麻の存在あってこそのことですが、とミサカは当然の事実を付け足します」
美琴はあきらめたように首を左右に振る。
「やっぱりわからないわ」
自らの体細胞クローンとはいえやはり目の前の人物、いや人物達の考えることは理解の範疇を超えて
いた。
「あんたたちのその思考も。一方通行の行動の意味も」
一万回の悪行をたった一度の善行で、果たして帳消しにできるものか。
美琴は目の前にいる『ミサカ』という存在がやはり自分自身と大きく異なるものだと再認識した。
「一方通行が何を考えているのかという点についてはミサカにも分かりません。
本人に聞いてみたらいかがですか? とミサカは提案します」
「本人に、ってアンタねえ」
60 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/29(月) 21:40:02.33 ID:yVsH5zAo [3/13]
それにはさすがにためらいを感じる。
一方通行の顔など二度と見たくないというのが美琴の本音だった。
そんな美琴の心情を知ってか知らずか、御坂妹はまたもや美琴を驚かせる一言を発した。
「彼は本当は『実験』などやりたくはなかったのではないか、と上位個体は推測しています」
「え?」
美琴の目にはあのときの一方通行がいやいや『実験』を行っていたようには思えなかった。
『実験』という名の『殺戮』に自ら喜んで参加していたように見えた。
笑いながら人を殺せる人間が、実験に抵抗を覚えるなどといった感傷を持つだろうか。
「これは上位個体の推測でありミサカの意見ではありません。詳しく聞きたいのであれば、
やはり上位個体に質問しては、とミサカはお勧めします……あ」
ふらりと御坂妹の体が揺れる。
62 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/29(月) 21:44:21.21 ID:yVsH5zAo [4/13]
美琴が慌てて手を差し伸べたので、なんとか転倒は免れた。
よくよく見れば、御坂妹の額にはいくつか汗が浮かんでいた。
「ちょ、ちょっとアンタ、大丈夫!?」
「怪我人に無理させてもらっちゃ困るね?」
キィ、と小さな音がして目の前の病室の扉が開く。
そこから出てきたのは美琴も見覚えのある医者だった。
カエルによく似た顔の医者は御坂妹に近づくと、手馴れた手つきで顔色や脈拍などをすばやくチェック
した。
「まだ無理はよくないね。 君たちの上位個体も含めてまだ調整は終わっていないのだからね?」
カエル顔の医者の後ろに控えていた看護士が美琴に代わって御坂妹を支える。
63 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/29(月) 21:49:06.65 ID:yVsH5zAo [5/13]
「今日のところはこの子の体調もあの少年の具合もよくないし、何か聞きたいことがあるのなら明日以降にしてくれないかな?
もちろんその際にはくれぐれも患者を興奮させないように頼むよ?」
「……わかりました」
完全下校時刻はとうに過ぎている。窓の外もすでに黄昏ていた。
美琴にとってもこのあたりが潮時だ。
「お姉様」
看護士につれられてどこかへ去ろうとしていた御坂妹が美琴に声をかける。
「ミサカはお姉様に感謝しているのですよ。だからお姉様にこれ以上重荷を背負って欲しくないのです、
とミサカは心からの願望を口にします」
それだけ言って、御坂妹は看護師と医者と共に廊下の奥へと消えていった。
65 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/29(月) 22:13:39.36 ID:yVsH5zAo [6/13]
***
「どーゆーことよ」
門限は過ぎていたものの、なんとか寮監に見つからずに部屋に戻った美琴はベッドの上で不満の声を上げた。
(『一方通行』『妹達』『打ち止め』……)
説明を受けてもまったく実感がわかない。
(だって、あの一方通行よ?)
枕を抱きしめてごろごろ転がっても結論は出ない。
『本人に聞いてみたらいかがですか? とミサカは提案します』
「行くわけないじゃない。あんなヤツのところに」
ぼすっ、と枕を壁に投げつける。手持ち無沙汰になった美琴は仰向けになって天井を見つめた。
66 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/29(月) 22:14:52.45 ID:yVsH5zAo [7/13]
『何か聞きたいことがあるのなら明日以降にしてくれないかな?』
「また明日、か」
明日、打ち止めと一方通行を訪ねてみたら何か変わるだろうか。
『何か』が変わって欲しいような、変わって欲しくないようなもやもやとしたよくわからない感情が頭を支配する。
「私はいったい、どうしたいんだろう。何を知りたいんだろう」
独り言が多くなっている自分に気づく。
美琴は空っぽの隣のベッドに目をやる。いつも同じ部屋で時間を過ごしている後輩はしばらく帰ってこない。
なんだか急に一人でいるのが寂しくなった。
「……でも黒子のお見舞いにはできるだけ行ってあげたいし、な」
考えることが面倒になった美琴は、壁際に転がった枕を引き寄せてそっと目をつぶった。
67 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/29(月) 22:37:03.28 ID:yVsH5zAo [8/13]
***
「むむむむ、なんだかアナタがちょっとイライラしている気がする!
ってミサカはミサカはズバリと指摘してみる」
夜の帳も落ち、静かになった病院の一室に打ち止めの声が響く。
部屋の中で唯一の明かりはベッドの脇机に置かれた卓上ライトだけだった。
「ガキはさっさと自分の病室に帰って寝ろ。消灯時間は過ぎてンだ」
ベッドに横たわった一方通行が打ち止めに背を向けたまま
「残念、ここは個室なので小声で話せば誰にも迷惑はかからないって
ミサカはミサカは悪い子の発言をしてみたり」
「出て行けっ」
一方通行は打ち止めに向かって枕を投げつけた。
68 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/29(月) 22:39:57.66 ID:yVsH5zAo [9/13]
枕は放物線を描いて正確に打ち止めの胸の辺りへ飛来する。
打ち止めはそれを難なく受け止めた。
「えへへー、ちゃんと受け止められるスピードで投げてくれるあたりに
ミサカはミサカは隠し切れていない優しさを感じてみる」
「チッ」
打ち止めは枕を持ったまま、ちょこちょことベッド脇に近づく。
「興奮するとまた頭が痛くなるよ? ってミサカはミサカは忠告してみる」
薄明かりの下で再び顔を背けようとする一方通行の顔を覗き込んだ。
「……お姉様(オリジナル)のこと、気にしてるの?
ってミサカはミサカはおそるおそる口に出してみる」
打ち止めは一方通行を心配するような視線でじっと見つめる。
その程度のことは無視すればいいのだが。
70 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/29(月) 22:47:39.37 ID:yVsH5zAo [10/13]
「……悪ィかよ」
一方通行はなぜかその瞳に弱い。
その無邪気な光に自分の邪悪さが見透かされそうでまっすぐ視線を返すことができない。
「ううん。それは当然のことだと思うってミサカはミサカはアナタの気持ちを肯定してみる」
「……」
「アナタはミサカたちに対して罪悪感を抱いている」
一方通行は打ち止めの言葉につまらなさそうに目を細めた。
そこで打ち止めの言葉をさえぎることもできただろうが、一方通行は無言で視線をそらすだけだった。
「その感情はお姉様、つまりオリジナルの御坂美琴に対してもアナタは無意識のうちに後ろめたさを感じている、
とミサカはミサカは分析してみる」
ミサカネットワークのを形成するミサカの中の上位個体という特別なポジションにいるためか、この少女は時々外見とは不釣合いな大人びたことを言う。
それは違う、と強く否定しようとした。
しかしなぜかわからないけれど否定の言葉を口に出すのがためらわれた。
71 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/29(月) 22:50:13.84 ID:yVsH5zAo [11/13]
「ハイハイ、精神科医もビックリのトンデモ精神分析ありがとうよ」
だから、一方通行は軽く茶化すように返答した。
「……でもね、お姉様とアナタがちょっとでいいから仲良くなったらいいのにな、ってミサカはこっそり思ってみる」
「はァ?」
無理に決まっている。
自分と同じ遺伝子を持った存在を一万人弱殺してきた人間と、仲良くなどできるわけがない。
「……寝言は寝て言え。というわけでさっさと寝ろ。俺は寝る」
吐き捨てるようにそれだけ言うと一方通行は頭から布団をかぶった。
「ええー!? 寝る寝る言い過ぎなんじゃない?
ってミサカはミサカはねるねるねーるねってお菓子があったなあと思い出してみたり」
(うるせェな。電池残量を気にしなくていいンならコイツの声も反射してやるのによォ)
一方通行は打ち止めの声をさえぎるように頭から布団をかぶった。
そして、今日の夕方ごろに突然部屋に乱入してきた少女を思い浮かべながら浅い眠りについた。
94 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/30(火) 00:23:44.71 ID:C89lIDso [2/8]
***
「お姉様? お姉様、どうしましたの?」
黒子の声で美琴ははっとわれに返る。
「あ、黒子? なんか言った?」
「もう、お姉さまってばりんご剥きすぎですわよ。
二人で食べるには少し多すぎるのではありませんこと?」
「え? ……あ」
美琴の座る椅子の脇に置かれたサイドテーブルを見ると、そこには皮を剥かれたりんごが3つ並んでいた。
食べやすく切られたわけでもなく、皮を剥かれただけで放置されていた。
最初に剥いたであろうりんごはすでに軽く変色していた。
「お見舞いに来てくださるのはうれしいのですけれども、今日のお姉さまは少し変ですの」
黒子がほほを膨らませて言う。
96 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/30(火) 00:34:51.79 ID:C89lIDso [3/8]
「ごめんごめん、そんなすねないでよ」
美琴は手に持った4つ目のりんごを皿の上に載せて苦笑した。
剥いてしまったからにはこのりんごの大半を食べるのは自分の仕事だろう。
「……やはり、昨日隣の病室で騒いでいたことが原因ですの?」
「え」
黒子がため息をつく。
「やっぱりですの。騒いでいたのはお姉様だってことくらい知ってていましてよ?」
美琴は息を呑んだ。昨日の会話は[ピーーー]だの殺しただの、物騒な内容だった。
学園都市の暗い部分を知らない黒子には聞かせたくないことだった。
「き、聞こえてたの!?」
97 名前:またうっかりやっちゃった[sage] 投稿日:2010/03/30(火) 00:45:40.44 ID:C89lIDso [4/8]
「盗み聞きは趣味じゃありませんから内容までは把握しておりませんが。
そう、黒子は空気の読める女」
なぜかうっとりとしている黒子に冷や汗を悟られないように美琴は極力平静を装った。
「単に知り合いがいてびっくりしただけよ」
なんとかごまかせたのか、黒子はふうんとうなずいただけだった。
隣室との間を隔てる壁をじっと見つめながら黒子は言った。
「お姉さまのお知り合い……。わたくし、ご挨拶に伺ったほうがよろしいかしら」
「ぜっっっったいにダメ!!」
99 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/30(火) 01:07:44.83 ID:C89lIDso [5/8]
美琴の声に黒子はビクッと体を震わせる。
「お、お姉様、どうしましたの?
わ、わたくしはもし隣室の方が殿方でしたらお姉様に不埒な真似をしないよう釘をさしておこうと思っていただけですわ!」
「……そんなこと考えてたのアンタ」
釘をさすどころか下手したら逆に命がない。
まちがっても黒子が隣室に突撃したりしないようにきつく言っておこう、と美琴は心に決めた。
だが美琴が口を開く前に黒子が顔を青くした。
「ま、まさかあの類人猿!?
お姉様、あの殿方が隣にいるのではないでしょうね!?」
「あー、ないない、それはないわ」
美琴は冷めた表情で手をパタパタとふった。
100 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/30(火) 01:12:20.83 ID:C89lIDso [6/8]
「その反応でしたらあの殿方ということはなさそうですわね。安心いたしましたの。
わたくし、お姉様を悩ます人間といったらまず真っ先にあの殿方を思い浮かべてしまいましたわ」
「な、なんで私がアイツのことで悩まないといけないのよっ」
顔を真っ赤にして反論する姿を見れば否定する要素はひとつもないように思える。
しかし本人に自覚がないようなので救いようがない。
黒子は半目でじたばたと挙動不審な美琴を見た。
「な、何よその目は。私は別にアイツのことなんて」
「はあ、よろしんですのよ。今に始まったことではありませんし。
それよりも、わたくしはお姉様の今現在の悩みのほうが心配ですの」
一転してまじめな表情を浮かべた黒子に美琴はたじろいだ。軽くごまかせるような雰囲気ではない。
101 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/03/30(火) 01:13:21.66 ID:C89lIDso [7/8]
「また何を一人で考え込んでいるのかはわかりませんが、隣の病室の方に関係することなのでしょう?
わたくしのお姉様は常に凛々しく美しくあっていただかないといけませんわ」
「つまり、何が言いたいのよ」
いぶかしがる美琴に、黒子は極上の笑みを浮かべた。
しなやかなその表情は、挑発的で、なおかつ官能的にさえ見える。
「当たって砕けてくればよろしいじゃありませんの。
うじうじ悩むのは私の知っているお姉様らしくありませんことよ?
なんならわたくしが隣の方とお話をつけて差し上げますわ」
美琴は黒子の笑みに気おされたように押し黙った。
こういうときの黒子こそ、自分などよりずっと凛として美しいと美琴は思う。
「ご安心くださいな。もし砕け散ってしまわれたのならこの黒子がお姉様を受け止めて差し上げますの」
114 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/01(木) 00:36:18.89 ID:/bATcHco [2/9]
***
「入るわよ」
美琴は返事を待たずに一方通行の病室のドアを開けた。
姿を見る前に一方通行の声を聞けば逃げてしまいそうな気がしたからだ。
「一方通行! ……あれ?」
思い切って勢いよく開けたドアの向こうは無音だった。
病室で動いているものは、細く開かれた窓から吹き込む風に揺られるカーテンだけだった。
「いない……? っているじゃない」
ベッドの上に積まれた掛け布団がこんもりと人の形にもりあがっている。
その端からは白い後頭部がちらりとはみ出ていた。
打ち止めはいないようだ。二人きりというのは少し気まずいな、と思いながら美琴は一方通行に近づく。
118 名前:むぎのんにはりついてるから遅い[sage] 投稿日:2010/04/01(木) 00:46:21.40 ID:/bATcHco [3/9]
「話があるんだけど」
一方通行は美琴に背を向けたままの姿勢で答えない。
(返事くらいしなさいよね)
思い切って来てみたはいいもののまったく相手にされていない。
無理もない。自分とこの少年との間には圧倒的な戦力差があるのだ。
(当然よね。……でも!)
「いい加減無視しないで!」
一方通行の頭に顔を寄せるようにして怒鳴る。その声に反応するかのように一方通行が身じろぎした。
そして布団の中で身体をもぞもぞと動かすと、寝返りを打つように美琴のほうを向いた。
「むゥ……ンン」
「へ?」
120 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/01(木) 01:00:30.74 ID:/bATcHco [4/9]
あと少し近づけば顔と顔が触れ合いそうな距離なのに、美琴は一方通行と視線を合わせることはできなかった。
一方通行の瞳は硬く閉じられていた。美琴の声をうるさがるようにその眉間には深くしわがよっていた。
(寝てる……?)
睡眠という人間的な行為を一方通行がとることに美琴は拍子抜けした。
美琴にとって一方通行とは、悪の化身そのものであり、理解の範疇外にいる存在だ。
そういえばコイツも一応人間なのかもしれないと、当たり前のことを思う。
(というか、あれだけ怒鳴っても起きないとか)
案外この少年は鈍いのだろうか。それとも『脳へのダメージ』とやらが原因で疲れがたまっているのか。
美琴はとりあえず一方通行を観察する。
122 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/01(木) 01:21:25.67 ID:/bATcHco [5/9]
美琴が静かになったせいか、先ほどまでの険しい表情ではなくなっていた。
穏やかなその表情に実験のときの面影はない。
(うわー睫毛まで白いわコイツ。人が寝てるときの表情って意外に素直そうに見えるわね)
その線の細さと病院という環境もあいまって、病弱な少年ですと説明されれば信じてしまいそうだ。
至近距離でじろじろ見られても起きない神経はどうなっているのだろう。
ともすれば吐息がかかりそうな距離である。
(……って近い! 顔近い!)
ざっ、と俊敏な動作で美琴はベッドから1メートルほど後ずさる。
その物音で起きたか、とも思ったがそのようなことはないようだ。
一方通行は相変わらず静かな寝息を立てて眠り続けていた。
123 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/01(木) 01:28:32.14 ID:/bATcHco [6/9]
(なんかここまで起きないとわざとなんじゃないかって思えてくるんだけど、調子狂うなぁ)
美琴は再び一方通行に近寄る。
どこまでやったら起きるんだろうか。
美琴のイタズラ心がむくむくと沸いてきた。
あまりの平和な寝顔に、第一位への怒りと恐怖が一瞬薄れたのかもしれない。
「えい」
人差し指を立て、それをそのまま一方通行の白い頬につきさす。
指先は弾力のある、滑らかな感触を美琴に伝えた。
「うわー、ほんとに反射しな……い?」
目が合った。
半開きになった焦点の合わない赤い瞳が美琴へと向けられていた。
126 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/01(木) 01:40:39.99 ID:/bATcHco [7/9]
「……」
「……」
「お、おはよ」
沈黙に耐え切れず、美琴は上ずった声を出して笑顔を作る。
もちろん人差し指は一方通行の頬にささったままだ。
一方通行が布団から手を出し、頬に触れる美琴の手を握った。
「!?」
「クソガキィ、人が寝てる間に鬱陶しいことはやめろっていっつも言ってンだろォが……」
眠そうな声でそう言って、一方通行は美琴の手を優しく遠ざける。
その手は美琴に手を握ったままシーツの上に落ちた。
「ちょ、ちょっとはなしなさいよ! っていうか寝ぼけてんの!? ねえ!」
127 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/01(木) 02:09:26.11 ID:/bATcHco [8/9]
一方通行は閉じた瞳をもう一度重そうに持ち上げた。
「クソガキィ、オマエの声は頭に響くっつってンだろ……ンだァ? なンか背ェ伸びて……」
「……はなしてほしいんだけど」
病室に再び沈黙がおとずれた。
一方通行の目の焦点が徐々に美琴に合う。
一方通行の脳が彼の寝起きにしては珍しく高速で働いて現状を整理する。
なぜか超電磁砲が一方通行の顔を覗き込んでいてなぜか頬をつついていて、なぜかそれを一方通行が打ち止めのイタズラか何かと勘違いし、なぜかその手を握っている。
「……」
美琴は気まずそうに一方通行から視線をそらした。
一方通行も美琴の手をそっとはなす。
「あァ、とりあえず、ここ3分くらいの出来事をなかったことにするか」
「……そうね。異論はないわ」
141 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/02(金) 22:57:29.45 ID:4.m.XAwo [1/4]
一方通行は何事もなかったかのようにゆっくりと上体を起こした。
「それで今日はまたなンの用だ。 またバチバチして出入り禁止になるつもりですかァ?」
一方通行がねめつけるような視線で美琴を見上げる。
ニヤニヤとした薄ら笑いは『実験』のときの一方通行を彷彿とさせた。
「ア、アンタに聞きたいことがあってきたのよ」
美琴は精一杯の虚勢を張り、努めて冷静に聞いた。今にも暴発しそうな思いを咽の辺りでぐっとこらえる。
「……妹達を助けたんですってね。そのせいで能力が使えなくなったとか?」
口元に笑みを張り付かせたまま、一方通行の目がすっと細くなる。
冷笑するようなため息が漏れた。
142 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/02(金) 22:57:59.49 ID:4.m.XAwo [2/4]
「くだらねェこと知ってンなァ、オマエ」
「なんで?」
そのシンプルな問いに、一方通行は一瞬黙り込む。
そして、ぼんやりとした視線で病室の蛍光灯を眺めながら答えた。
「別に意味なんてねェよ。
気に入らねェ研究者をぶっ殺したらついでにあのガキが勝手に助かってやがっただけだ」
「アンタが打ち止めを……あの子達を助けたっていうのはただの偶然だったっていうの?」
美琴の声が高くなる。
「偶然以上に何があるってンだ?……まァ、能力に制限がかかっちまったっつゥのは想定外だったがな」
鼓動が早くなるのを感じる。それが怒りのためだと気づくのに少し時間がかかった。
143 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/02(金) 22:58:27.20 ID:4.m.XAwo [3/4]
一方通行の視線が天井から美琴に移される。
からかうような赤い視線が美琴に絡みついた。
「制限がかかったところで第三位の超電磁砲程度なら軽く瞬殺できるンだぜ?
なンなら試してみるかァ?」
目の前の白い人間がいったい何を言ったのか。沸騰寸前の美琴の頭では理解しかねた。
「もっとも、オマエと同じ顔の人間なんざこっちは殺し飽きてンだけどな」
その口元の歪みが笑みを意味していることに気づいたときにやっと美琴
「あ、んたはああぁぁ!!」
美琴の怒声とともにその前髪に火花が散る。
「やっぱり何も変わってないじゃない!」
美琴は握り締めた拳を高く振り上げて――
145 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/02(金) 22:59:05.90 ID:4.m.XAwo [4/4]
一方通行の表情が無くなったのに気づいて、冷静になる。
「アンタをちょっとでも信じそうになった私が馬鹿だったわ」
行き場を失った拳を下ろし静かな声でそう言った。
そしてそのまま美琴は一方通行に背を向けて振り返らずに病室から出て行った。
ドアを閉める寸前に小さく聞こえてきた、
「悪党がそう簡単に善人になってたまるかっつゥンだよ」
という声が少し弱々しく感じたのは気のせいだと思った。
「違ェよなァ、なァンか違うンだよなァ……クソ!」
一方通行一人になった病室に、ベッドを殴る鈍い音が響いた。
149 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/03(土) 01:09:08.97 ID:pJ1Mq9Qo [1/7]
***
美琴は病院の中庭のベンチでぼうっとしていた。
勢いに任せて建物から出たはいいものの、よく考えたら黒子の病室に荷物が置きっぱなしだった。
黒子の病室に行くならまた一方通行の部屋の前を通らなければならない。
なんとなくそれが嫌で立ち上がることができなかった。
「お姉様、表情が冴えませんね、とミサカは手の中の空き缶をじっと見つめるお姉様に声をかけてみます」
顔を上げると、御坂妹が目の前で美琴を見下ろしていた。
「失礼します、とミサカはお姉さまの隣に腰を下ろします」
制服のスカートの折り目を気にするようにしてベンチに座った御坂妹は、無感動な瞳で美琴をじっと見つめる。
「な、なによ」
「ご気分が優れませんか? もしや上位個体や一方通行と何かあったのでは? とミサカはお姉様にお尋ねします」
150 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/03(土) 01:09:45.95 ID:pJ1Mq9Qo [2/7]
もやもやの原因そのものズバリをつかれて美琴はたじろいだ。
「う、何よそれ、やっぱりネットワークでそんなこともわかっちゃうわけ?」
「いいえ。昨日も同じような表情をしていましたから、とミサカは推測の根拠を明確にします」
なんとなく、自分のクローンの少女にすべてを見透かされている気がして言葉に詰まる。
そんなはずはないと、咽の奥から声を搾り出す。
「……そうよ。一方通行とちょっと話してきたの。それでわかったのよ」
「なにがですか? とミサカは質問します」
少し首をかしげるような仕草が機械仕掛けの人形のようだ。
無機質な瞳がその印象をより深くしていた。
157 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/03(土) 21:41:58.82 ID:pJ1Mq9Qo [4/7]
「あいつが相変わらずただの外道だってことよ。アンタたちを助けたのは偶然だとか、意味はないとか……
一万人殺したことについてもまったく気に留めてなかったわ。
アンタたち、いいように騙されてるだけなんじゃないの?」
美琴は視線を手元の空き缶に戻し、消え入るような声でつぶやいた。
クローン体の少女はうつむく美琴を覗き込むようにしてゆっくりと口を開いた。
「このミサカも個人的に彼に全面的には好意はもてませんが、とミサカは正直なところを吐露します」
「なら」
御坂妹は美琴の言葉をさえぎり、続ける。
「上位個体を助けた状況はこのミサカもネットワークを通じて知っています、
とミサカはネットワークの便利さにお姉様に似て薄っぺらい胸を張ります」
「ちょっと! アンタ、それは今どうでもいいでしょうが!」
158 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/03(土) 21:50:00.21 ID:pJ1Mq9Qo [5/7]
思わず顔を上げると御坂妹はまだまっすぐに美琴を見ていた。その目はふざけているようには見えない。
「ミサカたちを助けたのは偶然でもなんでもなく、彼自身が選択したことだとミサカは断言します」
「え?」
「彼が怪我を負ったとき、打ち止めを見捨てるという選択をしていれば負傷することはなかったのです、
とミサカは事実を述べてみます」
御坂妹が淡々と述べる内容が事実だとしたら、一方通行の態度の理由がわからない。
「だったらなんで……」
美琴は一方通行の歪んだ笑みと、真剣な顔で美琴の前に立ちふさがった打ち止めの姿を思い出す。
一体どちらを信じればいいのか。
「彼はお姉様と同じでツンデレ属性ですから素直になれないのでしょう、とミサカは推測します」
160 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/03(土) 22:01:00.32 ID:pJ1Mq9Qo [6/7]
「はあ?」
冗談なのか真剣なのか、御坂妹の無表情からは図りかねる。
「上位個体なら彼のことミサカよりも詳しく知っているはずです、とミサカはアドバイスします」
「……」
ミサカネットワークを司どる上位個体、打ち止めの心情を確かめたい。
しかしもう一度一方通行と顔を合わすのはさすがに気まずい。
逡巡していると御坂妹が不自然に視線をそらして大きな声を出した。
「そういえば上位個体は今の時間入浴中のはずだから風呂場の前で待ち伏せしていたら会えるはずだなあと
ミサカは少し大きな独り言をつぶやきます」
美琴は御坂妹の言葉にポカンとする。どうしても美琴を打ち止めに会わせたいらしい。
161 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/03(土) 22:02:03.46 ID:pJ1Mq9Qo [7/7]
彼女は彼女なりに美琴を元気付けようとしているのだ。
そのおかげか、少し元気が出てきた気がする。
美琴の表情に久しぶりに笑みが戻る。
「ありがとう」
美琴はそう言って立ち上がった。
黒子や御坂妹に背中を押してもらわなければ満足に動くことができない自分が情けない。
そんな自分を後押ししてくれる人が周りに何人もいる。それはなんて幸せなことなんだろう。
美琴は地面を強く蹴って病院の出入り口に向かって勢いよく走り始めた。
164 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/04(日) 00:01:04.05 ID:M5A9rWMo [1/18]
「入院患者用のお風呂場ってどっちですか!?」
廊下を歩く気の弱そうな看護士を捕まえ、かなりの剣幕で風呂場の位置を聞き出す。
そして短く礼を言った後、美琴は軽い足取りで駆け出した。
その勢いに驚いた女性看護士はしばらくポカンとしていたが、美琴の騒がしい足音にはっとしてその後姿に声をかける。
「びょ、病院内は走らないでくださいっ!!」
その声は美琴に届いたのか、全速力が小走り程度に変わる。
それでもはやる気持ちを抑えきれず急ぎ気味に階段を上る。
聞いたとおりの場所に風呂場であることを示すプレートを発見した。
「こ、ここね」
よしっと気合を入れるために自分の両頬をぱちんとはたく。
何を話そう? どうやって話を切り出そう。
165 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/04(日) 00:01:58.14 ID:M5A9rWMo [2/18]
そもそも打ち止めは自分たちのオリジナルである自分をどう思っているのだろう。
ドキドキしながら脱衣所のドアノブに手を伸ばすが、そこで気づいた。
入浴中に風呂場に飛び込んでどうする。
(少し、冷静にならないとね……)
興奮を抑えるために眉間を人差し指と親指でつまんでぐりぐりと揉む。
結局打ち止めが出てくるのを待つしかない。
大きく深呼吸してから脱衣所の入り口に対面した壁に背中を預ける。
(とりあえずまずは自分の気持ちを整理……)
と思考をめぐらしはじめたところで脱衣所から物音がした。
166 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/04(日) 00:06:33.60 ID:M5A9rWMo [3/18]
ガチャリ、と扉の開く音とともに扉越しに少女の声が響く。
「ふいー、すっきりしたーってミサカはミサカは扇風機の前という好位置に陣取ってみる」
聞き取りづらいが確かに打ち止めの声だった。
美琴は簡単に目的の少女を見つけられたことにほっとして声をかけようとした。
「ぶあっ!? 背後から何者かに目潰し攻撃を!? うわわわわわ、わっしゃわしゃするのはやめてー!
ってミサカはミサカは誰かに助けを求めてみる!!」
打ち止めの声が悲鳴じみたものに変わった。
(『無防備な入浴中は最も命を狙われやすい』――ってのをこの間少年漫画で読んだ気がする!)
一万人強の『妹達』を統べる上位個体。ともすれば軍事利用も可能である。
彼女が何者かに狙われるのは十分に起こりうることだ。
美琴は迷わず脱衣所のドアを開けた。
「打ち止め!! 大丈夫!?」
167 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/04(日) 00:07:13.83 ID:M5A9rWMo [4/18]
「オイクソガキ! 風呂から上がったらまず髪を乾かせっつってンだろ!風邪引くだろォが……あ?」
「んんー!前が見えないよう、ってミサカはミサカは……あれ? その声は?」
脱衣所で美琴が目にしたのは、頭からバスタオルをかぶせられた怪人チビタオルと、
その頭をわしわしと拭いている一方通行(E:腰タオル)だった。
「……」
「……」
「……あれ? やっぱりお姉様。 どうしてこんなところに? ってミサカはミサカは疑問符を浮かべてみる」
押さえつける一方通行の力が緩み、バスタオルの下から打ち止めの顔がひょこっとのぞく。
その胸から下にはきっちりとバスタオルが巻かれている。
168 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/04(日) 00:14:24.48 ID:M5A9rWMo [5/18]
「え? ちょっとまって、何で!」
「オマエなァ、こういうイベントは普通男女逆だろォが。なンなンですか痴女ですかァ、まったく」
あきれたような一方通行の声に美琴の思考回路がショートした。
「誰が痴女よおおお!!! ていうか何楽しく幼女とお風呂してんのアンタはあああああああ!!!!」
そのときの美琴の叫びは病棟のフロア隅々まで響き渡っていたそうだ。
「にゃ、にゃあああ、お姉様、ボリューム大きすぎるよってミサカはミサカはガンガンする頭を抱えてみる」
顔を真っ赤にした美琴が一方通行をにらみつけた瞬間、廊下の向こうから疾走するような激しい足音が聞こえてきた。
「おおおおおお姉様ああぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
ドップラー効果も真っ青な絶叫を撒き散らしながら脱衣所に飛び込んできたのは、白井黒子その人だった。
「くく、黒子!?」
171 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/04(日) 00:43:30.47 ID:M5A9rWMo [6/18]
「お姉様、いったい何がございましたの!? お姉様の悲鳴が聞こえましたので参上しましたの!
ま、まさかその白もやしになにか不埒なまねを……!?
初対面で失礼かもしれませんがその際の映像などございましたらぜひ私に譲っていただけませんでしょうか、白もやし様」
「し、白もやしィ?」
「うわー、なんかすっごく的確ってミサカはミサカは感心してみる」
ポツリとつぶやいた打ち止めの声に反応し、黒子がぐるりと蛇のような動作で首をまわす。
「小さいお姉様!? 全裸!? なんだかよくわからないですけれども黒子は黒子は大歓喜!!」
息を荒げる黒子の様子に打ち止めは反射的に一方通行のかげに隠れ、そこからちらりと顔を出しておびえる。
「こ、このお姉さんちょっと怖いかも、ってミサカはミサカは戦慄してみる!」
「あああ、アンタはまたこのややこしい状況を余計にややこしくしてくれちゃって!」
わけのわからないまま美琴はとりあえず黒子の後頭部をはたく。
「とりあえずだなァ」
目をつぶり、考えるように眉間にしわを寄せた一方通行が口を開いた。
「オマエらはこっから出て行け!!」
その声とともに美琴と黒子は無事脱衣所から追い出された。
189 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/04(日) 10:19:11.72 ID:M5A9rWMo [9/18]
***
「訳わかンねェよ……」
一方通行は昨日から妙に絡んでくる超電磁砲に頭を悩ませながら自動販売機コーナーの椅子に腰掛ける。
風呂で温まった身体も先ほどの騒動ですっかり冷えてしまった。
設置されたテーブルに頬杖を着いて浅いため息を吐く。
缶コーヒーでも飲むかとポケットを探るが、そもそも財布など持って来ていないことを思い出した。
なんだか自分自身が馬鹿馬鹿しくなり、小さく舌打ちして席を立とうとした。
「隣、よろしいですの?」
「あン? 超電磁砲……じゃなくてさっきの変態か」
唐突に現れた黒子は返事を待たずに一方通行の向かいに腰を下ろした。
「いかがです?」
黒子は一方通行の目の前にコーヒー牛乳の入ったビンをコトリと置いた。
192 名前:ちゃんと冷静になった[sage] 投稿日:2010/04/04(日) 10:55:04.97 ID:M5A9rWMo [10/18]
「こんな甘ったりィもン飲めるかよ」
「あら? お風呂上りに牛乳は必須じゃありませんの?
あのおチビさんからあなたがコーヒーがお好きだと聞きましたのでコーヒー牛乳にしてみたのですけれども」
それは科学的に根拠があるのか、などとどうでもいいことが気になったがとりあえずその質問は保留にしておいた。
何でこう自分に絡んでくるの無遠慮な人間ばかりなのだろうか、と一方通行は嘆息する。
「クソガキはどうした変態」
会話するのも億劫だがこう目の前に陣取られては無視するのも気が引ける。
というわけで目下のところの疑問をぶつけてみた。
「お姉様となにやらお話があるそうですわ。……それにしても、なぜ私が変態などと呼ばれなければなりませんの?」
心外だ、という風に黒子が大きな目をさらに見開く。それに対して一方通行は心底呆れた声を出した。
「自覚ねェのかオマエは」
「わたくしのはそんな邪なものではなく純粋な愛ですのよ」
自覚あンじゃねェか、と毒づいて一方通行は結局コーヒー牛乳に口をつけた。
195 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/04(日) 15:31:38.17 ID:M5A9rWMo [11/18]
「甘ェ」
ちょっと見ただけではわからない程度に量の減ったコーヒー牛乳を目の前まで持ち上げて軽く振る。
ちゃぷりと水面が揺られるが、白茶色の液体はこぼれそうでこぼれない。
その滑らかなガラスの曲面に映るのは苦々しい表情をした白い少年の顔。
反対側はツインテールの少女の黒い真剣な瞳を映しているのだろう。
「わたくし、お姉様とあなたの関係は存じ上げませんけれども」
牛乳瓶を間にはさんで年齢よりもずっと大人びた声で少女が語りかける。
「お姉様はあなたのことをずいぶんと気にしていらしてよ?
頭より先に体が動くお姉様にしては珍しくうじうじしておりますもの」
黒子に目を向けようとしない一方通行と対照的に、黒子は一方通行から視線を外さない。
「あなたもあなたでお姉様に何か感じるところがあるのでしょうけど」
「……あァン? 俺が? 何言ってんだクソガキ」
196 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/04(日) 15:40:18.70 ID:M5A9rWMo [12/18]
少し笑み含んだ声で、黒子は滔々と続けた。
「だってあなた、先ほどお姉様の顔を見ようとしておりませんでしたでしょう。
それに、お姉さまの知り合いであるこのわたくしのことも。
わたくしこう見えて、お姉様ほど鈍くはございませんの」
自動販売機の光が一方通行の頬を照らし、もともと白い顔をよけいに青白く染めている。
眠たそうな瞳からは感情を読み取ることはできない。
「どうか一度お姉様と正面からぶつかっていただけませんかしら。
お姉様は素直で単純ですから、ひねくれ曲がった回答では届きませんの」
「ンだァ? さっきから敬愛するお姉様に対してずいぶンな言い方だな」
黒子は一方通行の軽口を意に介さず続ける。
「これはお願いではありませんわ。お姉様を煩わせたあなたの義務ですの」
一方通行は答えない。
答えをはぐらかすようにコーヒー牛乳を口元に運んだ。
197 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/04(日) 15:44:44.20 ID:M5A9rWMo [13/18]
「……やっぱクソ甘ェわ。俺には合わねェ」
白い色の混じった液体は甘味が効きすぎていてつらい。舐めるように一口だけ飲んでビンを机の上に戻した。
「いちいち文句を言うのでしたら飲まなければよろしいですのに」
余裕を感じさせる口調が一方通行の癇に障る。子供相手に大人気ないとわかっているのでできるだけ低い声を出した。
「オマエが持ってきたんだろォが」
「それでもそれを手に取ったのはあなたですの。私に押し付けることもできたでしょう?」
無意識のうちに牛乳瓶を握る手に力がこもった。ビンを握る指先から一方通行の体温が奪われる。
「一度口をつけたものは責任を持って飲み干すべきですわ。違いまして?」
一方通行はそこで初めて黒子の顔をまともに見た。
黒子は安心したようにその赤い瞳を覗き込んで悪戯っぽくこう付け加えた。
「そのうち、その甘さが病み付きになってしまうかもしれませんわよ」
「ンなこたァ……ありえねェよ」
これだからガキは面倒だ、と思いながら手の中の甘ったるいコーヒー牛乳を一気に飲み下した。
200 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/04(日) 15:59:19.79 ID:M5A9rWMo [14/18]
***
「あの人は天邪鬼だから、ってミサカはミサカはフォローしてみる」
主のいない病室で打ち止めと美琴は向かい合っていた。
打ち止めはベッドの端にちょこんと座り、美琴はパイプ椅子に腰を下ろしている。
「天邪鬼、ってそんな可愛いもんだとは思えないんだけど」
美琴は苦々しく言って、一方通行の凄んだ様子を思い出す。
あれが本心でないとしたら、ひねくれ方が尋常ではない。
「んー、確かに可愛いか可愛くないかって言われると悩みどころなんだけど……
で、でも寝顔は素直だったりするんだよってミサカはミサカはあの人の長所を無理やり述べてみる」
「それはそうだけど」
何気なく同意した美琴に打ち止めは驚愕する。
「お、お姉様、あの人の寝顔なんてどこで見たの!? ミサカだけの特権だと思ってたのにって
ミサカはミサカは意外すぎる伏兵の登場に危惧してみる」
207 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/04(日) 21:15:00.97 ID:M5A9rWMo [15/18]
「あのね、何か勘違いしてるみたいだけど私が今日ここにきたときに勝手に寝てただけなんだからね」
「う、それくらい予測してたのってミサカはミサカは主張してみる……」
美琴は少しむっとしたように黙る打ち止めの頭をぽんぽんと撫でた。
「むうー、子ども扱いはやめてほしいな。ミサカの製造年月日は基本的に『妹達』とあんまり変わんないんだよ
ってミサカはミサカはお願いしてみる」
そうは言われても見た目と言動が子供なのでどうしてもそういう扱いになってしまう。
「わかったわよ。気をつけるわ」
美琴は少し困ったように苦笑した。
その様子を見て、それまで頬を膨らませて宙に浮いた足をパタパタさせていた打ち止めの動きが止まる。
「……お姉様はやっぱりあの人のこと許せない?」
子供特有の甲高い声が妙に落ち着いて聞こえた。
209 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/04(日) 22:30:24.36 ID:M5A9rWMo [16/18]
「お姉様に言った言葉はあの人の本心じゃないよってミサカはミサカは断言してみる」
「10032号にもそれは言われたけど」
美琴は搾り出すようにゆっくりと自分の思考をまとめる。
「許せるわけないじゃない。一万人を殺しておいて、偶然にしろアイツの意思にしろたった一度の行為で帳消しにしようなんて
理解しかねるわ」
打ち止めは首をかしげてうーんとうなった。小さな腕を組む様は愛嬌たっぷりで可愛らしい。
「それはちょっと違うの。ミサカは死んでいった妹達のためにもあの人を許すことはない。
だからミサカのことは忘れて幸せに暮らしてねなんて絶対に言ってあげないんだからってミサカはミサカは意地悪してみる」
今一緒にいるのは罰の意味もあるんだよと不敵な微笑を浮かべた。
そしてぴっと人差し指を立てて打ち止めなりに権威のありそうなしぐさを演出する。
「でもあの人がミサカを助けてくれたのは事実。
ミサカに対する態度も、不器用だけどあの人なりに歩み寄ろうとしてくれている。
その上でミサカは結論付けた。あの人はミサカたちを二度と傷つけることはない。信じることができる、と」
その、美琴に伝えようと身振り手振りを交えて話す姿から打ち止めが真剣であることが伝わってくる。
210 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/04(日) 23:11:35.92 ID:M5A9rWMo [17/18]
美琴はその雰囲気に飲まれて口を挟めないでいた。
「ミサカのために命がけで立ち上がってくれた記憶をミサカはもう二度と手放したりしたくない、
ってミサカはミサカは正直な気持ちを告白してみる」
傾き始めた陽光が打ち止めを照らす。斜めに差し込む光がうつむく打ち止めの睫に影を作った。
「あの人が素直になれないのは、お姉様との距離を測りかねてるからなんじゃないかな
お姉様がまっすぐすぎて、見ているのがつらいんだと思う」
それが本当だとしても、『実験』のときの一方通行の高笑いが美琴の頭から消えない。
同時に、脱衣所で打ち止めの面倒を見ていた姿を思い出す。
同一人物とは思えないと首をひねり、気付けば独り言のようにこう漏らしていた。
「そんな短期間で人って変わるものかしら」
「あの人の本質は何も変わってないよってミサカはミサカは
打ち止めは顔を上げて慈しむような表情を浮かべた。穏やかで優しい声が美琴に届く。
「ただ、気づいてしまっただけ。あの人の弱さに。ミサカも、あの人も。
だからミサカはあの人に守られているけどあの人を守ってあげたいってそう思うの」
231 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/05(月) 20:13:24.36 ID:AbAXq.co [2/12]
照れたようにはにかむ打ち止めに美琴はついに降参した。
なんだか少し馬鹿馬鹿しくなってきた。これではただののろけにしか聞こえない。
「アンタ、ほんとーにアイツのこと好きみたいね」
パイプ椅子の背もたれに体重を預けて脱力する。
「好き? うーん、好きとか嫌いじゃないんじゃないかなあって
ミサカはミサカはこの気持ちのうまい表現を探してみたり」
打ち止めは足を前後に振りながら悩む。ぶかぶかのスリッパが小さな足からすっぽ抜けた。
「10032号だっけ。あの子はアンタが一方通行のことを信頼しているって話してたけど」
美琴は飛んできたスリッパを拾い、打ち止めの足元にそろえてやった。
232 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/05(月) 20:20:39.24 ID:AbAXq.co [3/12]
「信頼……確かにその言葉は一番近いかもしれない。でも信頼以上の何かをミサカは感じている。
もしかしてこれが好きってやつなのかなあ?
ってミサカはミサカは未成熟な個体だからわかりかねるとか言ってみる」
都合のいいときだけ子供ぶる打ち止めのしたたかさを感じながら美琴は立ち上がった。
考え込む打ち止めの頭をまたもやぽんぽんとなでて窓の外を見る。
「ん、お姉様、もう行っちゃうの? ってミサカはミサカは残念がってみる」
空の色はうっすらとオレンジ色に変わってきていた。だが、面会時間の終了までにはまだ時間がある。
「私、今までうじうじしてたけど本当は物事には決着をはっきり着けたい性質なのよ」
美琴の声に力がこもっていることに気づいて、打ち止めはにっこりと微笑んだ。
234 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/05(月) 20:37:33.24 ID:AbAXq.co [4/12]
***
「こんなところにいたのね」
美琴は病院中を歩き回り、最後にたどり着いた屋上で一方通行を見つけた。
柵にもたれかかるようにして景色を眺めている一方通行の後姿は沈みかけの太陽の色に染まっている。
一方通行は美琴の声にゆっくりと振り返った。
「オマエの連れが鬱陶しくてな。ちったァ外の空気吸わねェとやってらンねェンだよ」
そう答えた一方通行はなぜかばつの悪そうな顔をしていた。
美琴は刺すような夕陽の光に目を細めながら一方通行に近づく。
二人の距離が近くなりすぎないところで美琴は立ち止まった。およそ3メートルといったところか。
「わざわざ俺を探してたのか。ずいぶん暇なんだな、超電磁砲」
柵に背を預け人を小馬鹿にしたように笑う一方通行に、美琴はなぜか怒りを感じなかった。
235 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/05(月) 20:58:28.68 ID:AbAXq.co [5/12]
だから、冗談のつもりでこう言った。
「まったく、殺してやりたいほど憎たらしいわね」
一方通行は夕陽に背を向けているにもかかわらず、まぶしそうに眉を寄せると美琴から視線をそらした。
「別に殺りたきゃ殺りゃあいい。反射をしていない今の俺ならオマエでも簡単に殺せる」
予想外の一方通行の返答に美琴は虚をつかれた。
一方通行から笑みは消え、つまらなそうな淡々とした表情になっていた。
てっきり、『オマエみたいな三下に殺されるわけねェだろ』とでも言われると思っていただけに、美琴は返答に詰まった。
「何驚いてンだ。復讐する理由はオマエにもあるだろォが」
「……冗談に決まってるじゃない。私は無駄に人を殺したりなんてしない。それに」
美琴の視線と一方通行の視線が絡む。こうやってお互いが見つめあったのは、もしかしたら初めてかもしれない。
「あの子と話してきたわ」
240 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/05(月) 22:19:25.29 ID:AbAXq.co [7/12]
「そォか」
興味がなさそうな声で返事を返す。
美琴の位置からは逆光になっているため、細かな表情の変化はわかりづらい。
「復讐なんて考えてないわよ。あの子達は」
相変わらず表情はわからないが、ピクリと一方通行の肩が動く。
だがそれだけだ。
「それどころか、呆れちゃったわ。ずいぶんとアンタのこと信用してるみたいだったから。
私にはちょっと理解できないけどね」
「……なら」
超電磁砲が一方通行を信用できないのなら。今ここで殺されても文句は言えないと一方通行は思う。
美琴はそんな一方通行の内心にかまいもせず一方的に言った。
242 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/05(月) 22:28:14.46 ID:AbAXq.co [8/12]
「私はアンタを信用なんてできないしこれからもそんなことはないと思う。
でも、あんたを信じるっていうあの子のことは信じられるわ」
今度は一方通行が驚く番だった。
「それに、アンタを殺したら一体誰がこれからあの子たちを守るって言うのよ」
感情が未発達である妹達だけでなく、そのオリジナルまでこのように甘いことを言う。
一方通行からチッと舌打ちが漏れた。
「そろいもそろっておめでてェな、オマエの遺伝子ってヤツは」
美琴には打ち止めが一方通行のことを『天邪鬼』と評した理由が少しわかった気がした。
「一万回殺したことにたいしての償いは求めないわ。ただ、一回救った責任はきちんととりなさいよね」
なんだかどこかで聞いたような台詞に一方通行は憮然とする。
年下の少女にこうも諭されるのは気持ちのいいことではない。むずがゆさを感じて首の後ろを掻いた。
243 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/05(月) 22:38:51.77 ID:AbAXq.co [9/12]
「ンなこと言われるまでもねェよ」
美琴に聞こえないように小さく小さく呟いたつもりだったが、ばっちり聞かれてしまっていたらしい。
意地の悪そうなニヤニヤした笑いが美琴の顔に張り付いていた。
こうなったら恥をもう一つや二つ上塗っても同じだ。一方通行はハァ、と大きなため息をついた。
「悪かったな」
ポツリと言った一方通行の声は小さすぎて凪いだ空気に溶け込んでしまいそうだった。
「さっきは無駄に挑発しちまって」
「は?」
なんだろう。これはまさか。
「ガキ相手に大人気なかったっつってンだよ」
だんだんとヤケクソ気味になる一方通行に美琴は呆けたように目を見開く。
一方通行が謝罪している。
その意味に気づいて美琴は思わずふきだした。
「ぷっ、アンタそれ……なに似合わないこと言ってんのよ」
「あァ!?」
245 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/05(月) 22:50:54.26 ID:AbAXq.co [10/12]
「別に今更アンタが私にどんな態度とろうと気にしないわよ。
どんな態度とられたってこれ以上アンタの印象は悪くなりようがなかったもの」
一方通行はやはり言わなければよかったなどと後悔しながら美琴から視線をそらして足元のタイルに入ったひびの数を数える。
「何笑ってンだよ気持ち悪ィ」
一方通行の頬が夕陽の色よりも少し濃い赤色に見えたのは美琴の気のせいではないだろう。
「あー! あなたたちこんなところにいたの?
ってミサカはミサカは屋上で向かい合う二人を発見してみる」
屋上への出口から小さな人影が元気よく駆けてくる。
人影、打ち止めは勢い余って美琴の周りをぐるりと一周し、一方通行と美琴と打ち止めで正三角形を作る位置で止まった。
「お話はちゃんと終わったかな?ってミサカはミサカは確認してみる」
247 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/05(月) 23:07:44.43 ID:AbAXq.co [11/12]
絶妙のタイミングで現れた打ち止めに、一方通行は実は全部聞いていたのではないかと疑いのまなざしを向ける。
打ち止めはそんな視線は慣れっこのようでものともしない。
「あれ?なんかもしかして仲良くなった?
ってミサカはミサカは二人の間に険悪な雰囲気がないことに気がついてみる」
「それはねェよ」
「それはないわ」
美琴と一方通行は打ち止めの問いに間髪入れずに答えた。
「おおっと、なんとステレオ攻撃ってミサカはミサカはびっくりしてみる」
美琴は打ち止めの頭をぽんぽんと撫でると一方通行に向き直った。
真剣な中にもどこか遊びがある、そんな目だった。
「ちょうどいいわ、この子の前で約束しなさい」
249 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/05(月) 23:43:58.47 ID:AbAXq.co [12/12]
「?」
打ち止めはきょとんとして二人を見比べる。
「一方通行、アンタはこれからどうするの?」
「あァ……面倒くせェなァ」
苦々しい表情をした一方通行とは対照的に、美琴は楽しそうに構えている。
「なになにどうしたの? ってミサカはミサカは疑問符を浮かべてみるっ」
本日何度目かすでにわからないため息をついた一方通行は、疲れているようにも見えたが同時に穏やかさも感じさせていた。
一方通行は打ち止めの頭部に手を置いてわしゃわしゃと髪をかき乱した。
「わわ、いったいなんなのアナタまで!ってミサカは」
一方通行を見上げた打ち止めは、彼の口が信じられないほど優しく動くのを見た。
253 名前:お前らは三重県にでも行ってろよばかあ![sage] 投稿日:2010/04/06(火) 00:20:24.28 ID:Bz2MUrgo [2/22]
大きくはないがしっかりと意思のこもった声が打ち止めに届いた。
「え?」
「だからオマエは安心して馬鹿みたいに笑ってろ」
一方通行は早口でまくし立てるとくるりと回れ右をして抱きつくように落下防止の柵にもたれかかった。
しばらくポカンと口を開けていた打ち止めだったが、一方通行の落ち着かない背中を見て満面の笑みを浮かべた。
「――うん、もちろん信じてるよ、ってミサカはミサカはアナタにダイブ!!」
「おお!? クソガキ、ふざけたことしてンじゃねェよ!!」
猫がじゃれ付くように一方通行に飛び掛る打ち止めをみて美琴は細く長く息を吐いた。
まるで恋人同士じゃない、となんだか置いてけぼりを食らっている美琴は心の中で苦笑して空を見上げる。
太陽はすでに沈み、地平線を隠すビルの群れの輪郭をうっすら色づけているだけになっていた。
たそがれた空の天頂近くに、白く輝く一番星と小さく光る二番星が仲よさそうに寄り添っている。
その睦まじい二つの星を見つけて、きっと明日も晴れるだろうなと美琴は根拠もなくそう思った。
(おしまい)
284 名前:タイトル[sage] 投稿日:2010/04/06(火) 21:13:40.34 ID:Bz2MUrgo [5/22]
一方通行「ダイエットォ?」
※ほのぼの。台本形式。~>>253の設定は維持
285 名前:タイトル[sage] 投稿日:2010/04/06(火) 21:14:58.32 ID:Bz2MUrgo [6/22]
打ち止め「うん、今ミサカたちの間でいかにキレイに痩せるか競うのがはやってる
ってミサカはミサカは説明してみる」
一方通行「くっだらねェこと流行らせてンじゃねェよ」
打ち止め「うー、もともとガリガリなアナタにはこの重要性がわからないみたい
ってミサカはミサカは膨れてみる」
一方通行「ガキにゃ必要ねェだろ」
打ち止め「違うもん! 魅力的な女性の第一条件は痩せている事だって知ってるもん!
ってミサカはミサカは駄々っ子っぽく手足を振り回してみる」
一方通行「つゥか誰だよそんな偽情報流したの」
打ち止め「リアルゲコ太先生だよってミサカはミサカは正直に答えてみる」
一方通行(あの医者かァ……やっぱいっぺンシメとかねェとな)
打ち止め「というわけで今日のお昼ご飯はコレでおしまい!
ってミサカはミサカはアナタのお皿にピーマンとにんじんを移してみる」
286 名前:タイトル[sage] 投稿日:2010/04/06(火) 21:19:32.47 ID:Bz2MUrgo [7/22]
一方通行「あァ!? 好きなモンだけ食っててダイエットになるかっつゥんだよ!!」
打ち止め「偏食家のアナタに言われたくないってミサカははミサカは頬を膨らませてみる」
一方通行「ちゃんと食え」
打ち止め「ごめんねー! ミサカは午後はお姉様と約束があるから。ってミサカはミサカは病室を飛び出てみたり」
一方通行「オイィ!」
打ち止め「あなたはちゃんと病室でおとなしく寝てるんだよーってミサカはミサカはお姉さんぶってみるー」
一方通行「言いたいことだけ言ってどっか行くンじゃねェよ!」
一方通行(……ったく、あのガキは手間ばっかかけさせやがって)モグモグ
一方通行(まァ今日のところは超電磁砲と一緒なら問題ねェだろ)モグモグ
一方通行「ニンジン不味いな……ふァ……寝るかァ」
287 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/06(火) 21:25:04.77 ID:Bz2MUrgo [8/22]
打ち止め「お姉様ー!
ってミサカはミサカは待ち合わせ場所でケータイの画面を見ているお姉様に手を振ってみる」
美琴「あ、きたきた」
黒子「ごきげんよう」
打ち止め「あれ? 変態のお姉さんも一緒なんだねってミサカはミサカは確認してみる」
美琴「どうしてもついてくるて言って聞かなくってさ。いいかな?」
打ち止め「もちろんいいよ! ってミサカはミサカはばんざいしてみる」
黒子「……なんで貴女までわたくしを変態などと」
打ち止め「あの人がそう言ってたからだよってミサカはミサカは答えてみる」
黒子「あんの白もやしぃぃぃ」
美琴「はは、まあ間違いじゃないけどね」
288 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/06(火) 21:32:22.85 ID:Bz2MUrgo [9/22]
黒子「お、お姉様まで! 黒子泣いてしまいますわよ
……でもやっぱりSっ気のあるお姉様に罵倒されるのもなかなかよろしいかと」
美琴「はいはい」
打ち止め「やっぱり本格的に変態なんだねってミサカはミサカは若干後ずさってみる」
美琴「じゃ、いこっか。 アイツと一緒じゃ学び舎の園のケーキなんて食べる機会ないもんね」
黒子「雑誌にも紹介された有名店ですの。ってこれは受け売りですけれども」
打ち止め「う……ケーキ、なの? ってミサカはミサカは危機感を感じてみる」
美琴「あれ、もしかして甘いもの苦手だった?」
打ち止め「すごく大好きだよってミサカはミサカは……」
打ち止め(大好きだから困ってるってミサカはミサカは内なる声でつぶやいてみる……)
290 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/06(火) 21:38:37.35 ID:Bz2MUrgo [10/22]
美琴「すみませーん、トリプルベリーとオレンジジュースください」
黒子「わたくしはチーズタルトと紅茶を所望いたしますわ」
打ち止め(うう、どれもおいしそうだけどできるだけカロリーの低そうなのは……)
打ち止め「低カロリーシフォンケーキにする、ってミサカはミサカは断腸の思いで選択してみる」
美琴「それ甘さ控えめのやつだけど、やっぱり甘いの苦手だった?」
打ち止め「ううん! そんなことないよってミサカはミサカは否定してみる!!」
黒子「ケーキセットですのでお飲み物もこちらから選べますの」
打ち止め「うう、コーヒー、ブラックで」
美琴「え、ブラック?」
黒子「コーヒーが飲みたいのならカフェオレもございましてよ」
293 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/06(火) 21:46:01.88 ID:Bz2MUrgo [11/22]
打ち止め「あの人に付き合ってるうちにコーヒーのおいしさに目覚めたんだよ
ってミサカはミサカは宣言してみる」
美琴「ならいいけど……」
黒子「意外と感性が大人ですのね」
打ち止め「アナタと見た目はそんなに変わらないよってミサカはミサカは指摘してみる」
黒子「あら、その数歳の差を重要視する殿方も世の中にはいらっしゃるそうですわよ」
打ち止め「よくわかんない、ってミサカはミサカは悩んでみる」
美琴「黒子、あんまりこの子に変なこと吹き込むんじゃないわよ」
黒子「あら、ケーキが早速来ましたの」
美琴「んっ、きたきた~。ここのケーキ生クリームが最高なのよね」
打ち止め(お姉様のケーキおいしそう)ジー
美琴「ん? 打ち止め、一口食べる?」
294 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/06(火) 21:53:36.41 ID:Bz2MUrgo [12/22]
美琴「あ、シフォンケーキちょっとちょうだいね」
打ち止め「う、うん」
美琴「どれどれ……んー、私にはちょっと甘みが足りなくてものたりないかなー」
黒子「お、お姉様、わたくしのチーズタルトにも是非お口をつけていただけませんでしょうかハァハァ」
打ち止め「確かに甘みが足りないかもね、ってミサカはミサカはブラックコーヒーを恐る恐る口元に持ってきてみる」
黒子「お、お姉様二人にスルーされましたの!!」
打ち止め(ブラックコーヒー、ホントはあの人が飲ませてくれないから初めてなんだけど)ゴクッ
打ち止め(うう、にがいよぅ)
美琴「……やっぱりコーヒー慣れてないんじゃない? せめて砂糖とミルク入れたら?」
打ち止め「砂糖なんてとんでもない! ミサカはミサカは絶対拒否!」
黒子「かたくなに拒否なさいますわね」
296 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/06(火) 22:04:57.04 ID:Bz2MUrgo [13/22]
美琴「はい、お返しに一口あげるわ」
打ち止め「ううん、ミサカは自分の分でおなかいっぱいになると思うって
ミサカはミサカは零れ落ちそうなよだれを隠してみる」
美琴「遠慮しないでいいのよ。ほら、あーん」
打ち止め「うう」フラフラ
美琴「あーん」
打ち止め「あ、あーん……」パク
打ち止め(たべちゃった!ってミサカはミサカは後悔してみるっ)
黒子「わたくしも小さいお姉様にあーんして差し上げますわぁぁぁ!!
ほ、ほらぁ、チーズタルトですのよ。あ、あーん……ハァハァ」
打ち止め「う、さすがにちょっと怖いってミサカはミサカは顔をしかめてみる」
美琴「怖がらせてんじゃないわよ」パシッ
黒子「あああ、今日もお姉様の愛の鞭が黒子の身体を刺激する……」
打ち止め「くやしいけどおいしいようってミサカはミサカは口をもぐもぐさせてみる」
297 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/06(火) 22:12:23.79 ID:Bz2MUrgo [14/22]
打ち止め(うう、でもコーヒーの苦さでケーキが甘く感じるのは救いかなあ)ムキュモキュ
美琴「やっぱりケーキに甘さが足りなかった?」
打ち止め「そ、そんなことないってミサカはミサカは」
黒子「遠慮してちゃあダメですのよ」
美琴「そうだ、私の半分あげるから、打ち止めの分も半分ちょうだいよ。そしたら二つの味を楽しめるでしょ?」
黒子「なら三等分にいたしましょう。わたくしの分も召し上がっていただければ幸いですわ」
打ち止め「うう、優しさが目にしみるけど……けど……」
美琴「あらあら、そんなに食べたかったの? なら早く言いなさいよね、まったく」
黒子「強情なところもお姉様そっくりでかわいらしいですわ。ぐふふ」
打ち止め「うう、おいしいよう。甘いよう」パクパク
298 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/06(火) 22:17:39.92 ID:Bz2MUrgo [15/22]
美琴「あー、おいしかった」
黒子「なかなかのお味でしたわ」
打ち止め(結局全部食べちゃったようってミサカはミサカは後悔してみる)
美琴「ん? 打ち止めどうしたの? なんか不満そうな……」
黒子「わかりましたわ。食べたりないのでしょう?」
美琴「なーんだ。まあ育ち盛りだもんね。何ならもう一個頼もうか」
打ち止め「ち、ちが……」
美琴「てんいんさーん、本日のオススメケーキ3つ追加お願いしまーす」
打ち止め(お、お姉様がせっかく気を使ってくれてるのに、言えない、言えないってミサカはミサカは)
301 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/06(火) 22:31:58.57 ID:Bz2MUrgo [16/22]
美琴「こうしてのんびりケーキ食べるのもしばらくできないわねー」
黒子「そうですわね」
打ち止め「え? なんで? ってミサカはミサカは疑問に思ってみる」
黒子「そろそろ大星覇祭の準備がラストスパートですの。
まあわたくしは怪我しておりますから参加できるかはわかりませんけれども」
打ち止め「大星覇祭?」
美琴「ええ、学園都市の学校すべてを挙げて行われる体育祭よ。能力の使用も許可されてるからすっごく迫力あるわよ」
打ち止め「そういえば知識としては聞いたことあったなあってミサカはミサカはネットワークにアクセスしてみる」
黒子「ネットワーク?」
美琴「あ、あはははは、なんでもないわよなんでも」
打ち止め「なんだかすっごく面白そうだねってミサカはミサカは目を輝かせてみる!」
302 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/06(火) 22:42:55.08 ID:Bz2MUrgo [17/22]
美琴「よかったら病院抜け出して見に来なさいよ」
黒子「それはよろしいですわね。学園都市中がお祭り騒ぎですからどこへ行っても楽しめますわ」
打ち止め「なんだかわくわくしてきたってミサカはミサカはハイテンションになってみる!」
美琴「人が多いから迷子にならないようにするのよ」
打ち止め「そっかー、学園都市全体がお祭りなんだね……あれ?学生全員参加ってことはあの人も参加するのかな
ってミサカはミサカは疑問に思ってみる」
黒子「あの人って白もやしのことですの?
高校生くらいに見えますけれどもどちらの学校に通ってらっしゃるのでしょうか」
打ち止め「んー、よく知らないっていうかあの人学校通ってない気がする」
美琴「……でしょうね。アイツはまあなんていうかいろいろ特別だし」
黒子「?」
打ち止め「せっかくだからあの人といっしょにお祭りに行ってみようかなってミサカはミサカは心に決めてみる」
304 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/06(火) 22:50:43.90 ID:Bz2MUrgo [18/22]
美琴「アイツがお祭りねえ。似合わない気もするけど一人よりは楽しいんじゃない?」
黒子「そうですわね。黒子もお姉様の雄姿をカメラに収めるのが今から楽しみで仕方ありませんわ」
美琴「……お願いだから寮で何度も何度も巻き戻しては再生するのはもうやめてよね」
黒子「く、黒子のひそかな趣味がお姉様にばれておりましたの!?」
打ち止め「これがストーカーってヤツなの? ってミサカはミサカはおぞましさを感じてみる」
美琴「ある意味ストーカーより有害かもねー」
黒子「そんなっ、笑顔でさらりとひどいことを言うなんて」
打ち止め「そっか、お祭りかあ……」ゴクゴク
打ち止め(うっ、苦い!!)
キャッキャウフフ オネーサマー
305 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/06(火) 23:02:26.12 ID:Bz2MUrgo [19/22]
美琴「あ、もうこんな時間じゃない」
黒子「あら。本当ですわ。わたくしもおちびさんも病院を抜け出してきておりますのに、
夕食の時間に間に合わなくなりますの」
打ち止め「ほんとだ! ってミサカはミサカは時の流れのはやさに驚いてみる」
美琴「じゃあ今日はこれで解散しよっか。二人ともこのまま病院に戻るんでしょ?」
打ち止め「うん、ってミサカはミサカは元気よく返事してみる」
黒子「わたくしは寮にいったん荷物を取りによりますわ。一人で帰れまして?」
打ち止め「任せて!ってミサカはミサカは胸を叩いてみる」
美琴「じゃ、そろそろ出ましょうか。今日は私がおごるわ」
打ち止め「ええ、悪いよってミサカはミサカは首から提げるタイプの小銭入れを取り出してみる」
美琴「いいから、ちょっとはお姉さんぶらせなさい」
アリガトウゴザイマシター
308 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/06(火) 23:18:44.99 ID:Bz2MUrgo [21/22]
美琴「すっかり夕暮れねー」
黒子「おいしいものも食べましたし、今日はよい一日でしたの」
打ち止め「なんか店のドアをくぐった瞬間食べてしまったとう罪悪感にさいなまれてみたり」
一方通行「オイクソガキいつまでぶらぶらしてンだ。迷子ですかァ?オマエは」
美琴「」
黒子「」
打ち止め「あれ? 何でこんなところにいるの? ってミサカはミサカは首を傾げてみたり」
美琴「そ、そそ、そうよ、ここは学舎の園よ!」
黒子「基本的に許可のない男性は入れませんの! どうやって入り込みましたの!?」
一方通行「これでもいろンなところにコネ持ってンだよ」
309 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/06(火) 23:27:38.44 ID:Bz2MUrgo [22/22]
黒子「そうでしたの……てっきり女装でもして入り込んだのかと」
一方通行「あァン!? 不気味な想像してンじゃねェよ」
打ち止め「案外似合うかもってミサカはミサカは想像し……やっぱ無理」
美琴「あー、遅くなったのは謝るわ」
一方通行「ったく、オマエが一緒だから許可した俺が甘かったぜ。ホラ、帰るぞ」
打ち止め「おっと。それじゃあお姉様たちー、またねーってミサカはミサカはずりずりと引きずられながら別れの挨拶をしてみたり」
一方通行「オラ、前向いて歩け。転ぶぞクソガキ」
美琴「……」
黒子「……」
美琴「過保護ね」
黒子「ですの」
310 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/07(水) 00:21:12.16 ID:och3vEgo [1/13]
一方通行「オマエが帰ってこねェから夕食の時間ずれたンですけどォ」
打ち止め「文句を言いながらご飯食べないで待っててくれたあなたにミサカはミサカは感謝してみる」
打ち止め(いっぱい喋ったからおなか減ったな。でも……)
打ち止め(今日はケーキを2個も食べちゃった。こんなんじゃダイエットできない)
一方通行「ホラ、無駄口叩いてねェで食え」
打ち止め「う……食欲がないってミサカはミサカは訴えてみる」
一方通行「はァ!? 何言ってンだ。まさかまたダイエットとか言ってンじゃねェだろォな」
打ち止め「ち、ちがうよ。ちょっと今日……ケーキ食べ過ぎたからってミサカはミサカは言い訳してみる」
一方通行「……超電磁砲か。余計なことしやがって」
打ち止め「お姉様は悪くないよってミサカはミサカは慌てて否定してみる!!」グー
311 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/07(水) 00:34:00.51 ID:och3vEgo [2/13]
一方通行「……」
打ち止め「……」
一方通行「……オイィ、今の可愛らしィ音はなンの音だァ?」
打ち止め「なんのこと?ってミサカはミサカはとぼけてみる」
一方通行「どォ聞いても腹の虫だよなァ、腹減ってンじゃねェかクソガキイイィィ!!」
打ち止め「いやー、ほんとにおなかすいてないもん! ってミサカはミサカは戦略的撤退」ダダダダダ
一方通行「オイコラァ! どこ行く気だ!」
打ち止め「ミサカはもう寝るもん! ってミサカはミサカは夜更かしは美容の大敵って言ってみる!」バタン
一方通行「まだ8時にもなってねェぞクソガキ!!」
一方通行「……ふざけンじゃねェよ。どォすンだよこの二人分のメシ」
312 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/07(水) 00:41:00.18 ID:och3vEgo [3/13]
打ち止め(うーん、部屋に戻って布団にもぐりこんでみたはいいものの)
打ち止め(正直全然眠くないってミサカはミサカは昼間に飲んだコーヒーのことを思い出してみる)グー
打ち止め(おなか減ったし)
打ち止め(だめだめ! 魅力的なスリムボディを手に入れるためだもん)
打ち止め(上位個体として下位個体に負けられないってミサカはミサカは決心を固めてみる)
打ち止め(今日はケーキ食べ過ぎちゃったんだから自重しないと)グー
打ち止め「……」
打ち止め「やっぱ、おなかすいたなあってミサカはミサカは呟いてみる」
313 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/07(水) 00:55:02.26 ID:och3vEgo [4/13]
一方通行(チッ、あのクソガキ変なこと覚えやがって)モグモグ
一方通行(ダイエットとかガキが色気づいてンじゃねェよ)モグモグ
一方通行(ケーキは食えてメシは食えませンだァ? 馬鹿言ってンじゃねェよ)モグモグ
一方通行(超電磁砲も勝手に食いモン食わせてンじゃねェよ)モグモグ
一方通行(超電磁砲にクレーム入れとくかァ、って連絡先しらねェな)モグモグ
一方通行(今度会ったらビシッと言ってやンねェとなァ)モグモグ
一方通行「……」
一方通行「やっぱ、二人分は多いなァ」モグモグ
335 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/07(水) 23:10:48.39 ID:och3vEgo [8/13]
一方通行「オーイ、クソガキィ、朝メシくらいはちゃんと食えっつゥの」ドンドン
シーン
一方通行「……」
一方通行(寝てンのかァ? まったくいつもは起こしに来る側だってェのによォ)
打ち止め「うう、カロリー計算したら昨日は食べすぎだったからその分朝食も抜くってミサカはミサカは篭城してみる」
一方通行「起きてンじゃねェか出て来いやコラァ!!」ドンッ
シーン
一方通行「……だめか」
prrrrrrrr
一方通行「あ? この番号……誰からだ?」ピッ
??『あ、もしもし。一方通行?』
一方通行「は? 誰だ」
337 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/07(水) 23:19:17.80 ID:och3vEgo [9/13]
??『私よ私。御坂美琴』
一方通行「はァァ!? なんでオマエが俺の番号知ってンだよ」
美琴『ちょっと調べたのよ』
一方通行「俺の個人情報に関してはそれなりに機密度が高いはずだが」
美琴『細かいことは気にしない気にしない』
一方通行「犯罪のにおいがするぜェ」
美琴『気のせいよ』
一方通行「……で、何の用だ。つまらねェことだったら切ンぞ」
美琴『今暇?』
一方通行「あァ!?」
341 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/07(水) 23:26:02.37 ID:och3vEgo [11/13]
美琴『ちょっと話があるんだけど病室行っていいかな。もう病院には着いてるんだけど』
一方通行「オマエが俺に顔つき合わせてなンの用があるってンだよ」
美琴『私だって別に会いたくなんてないわよ。でも、打ち止めのことなのよ』
一方通行「……」
美琴『授業抜け出してきてるんだからちょっとくらい時間作りなさいよ。どうせ暇なんでしょ』
一方通行「相変わらず失礼な女だな。まァ少しなら付き合ってやる」
美琴『ありがと。素直じゃないわねまったく。今から病室向かうから待ってなさいよ』ピッ
一方通行「切りやがった……ホントに勝手なヤツだな」
342 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/07(水) 23:35:50.82 ID:och3vEgo [12/13]
一方通行「……で、いったい何の用だ超電磁砲」
美琴「いきなりとげとげしいわね。まあアンタに馴れ馴れしくされても気持ち悪いだけなんだけど」
一方通行「ずいぶんな言い草だな。さっさと話し済ませて帰りやがれ」
美琴「ん、ちょっと昨日さあ、あの子……打ち止めの様子がおかしかったから」
一方通行「あァ?」
美琴「今日一緒にケーキ食べたんだけど」
一方通行「あァ。それを言い訳にしてあのガキ晩飯食ってねェよ」
美琴「ええ!? おっかしいなー、確かに閉店間際までしゃべってたけどケーキ食べたのはそんな遅い時間じゃなかったはず……」
一方通行「オマエのせいじゃねェ。なンか知らねェけど急にダイエットとか言い出しやがったンだよ」
美琴「あら。だからか」
一方通行「は?」
344 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/07(水) 23:57:11.82 ID:och3vEgo [13/13]
美琴「なんかコーヒーのブラック飲みだしたり甘くないケーキチョイスしてたのよ。
あの年頃の子にしてはおかしいでしょ?」
一方通行「オマエの前でもンなことやってたのかあの馬鹿は」
美琴「結局ケーキいっぱい食べさせちゃったし、悪いことしたかな」
一方通行「ンだよオマエダイエット肯定してンのか」
美琴「思春期の女の子なら誰でも通る道よ。アンタにはその辺の理解が足りないみたいね」
一方通行「わかるわけねェだろ。つゥか晩飯どころか朝メシも拒否して部屋からでてこねェンだぞ? 異常だろ」
美琴「あちゃー、断食か。身体によくないだけなのに」
一方通行「……オイ超電磁砲」
美琴「ん? なによいきなり真剣な顔して」
一方通行「オマエに頼むのはシャクだが他に頼れるヤツもいねェ。頼めそうなヤツはまだ様態が安定してねェしな」
美琴「は? 頼みごと? 私に?」
347 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/08(木) 00:12:48.09 ID:GeSE3OEo [1/12]
一方通行「……あのガキを説得してくれねェか」
美琴「え? なんでよ。アンタが話せばいいじゃない」
一方通行「俺が話せばどォしても喧嘩腰になっちまう。 オリジナルのオマエの話ならきちンと聞くだろうよ」
美琴「ええ、でも」
一方通行「俺は所詮実験を行っていた側の人間だからな。あのガキどもにとっちゃあ結局
美琴「別にあの子はアンタのこと嫌ってなんか……」
一方通行「頼む」
美琴「!」
美琴(あの一方通行が……格下相手に頭を下げた?)
一方通行「頼む」
美琴「……仕方ないわね。ちょっとアドバイスするだけよ。最終的に説得するのは、アンタの仕事だからね」
348 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/08(木) 00:25:15.54 ID:GeSE3OEo [2/12]
美琴(とは言ったものの)
美琴(どういう切り口ではなそっかな)
美琴(ダイエットしたいって気持ちはまあわからないでもないし)
美琴(無理に否定するのもどうかと思うのよね)
美琴(……ま、当たって砕けてみますか)コンコン
美琴「入るわよー」ガチャ
打ち止め「……お姉様? ってミサカはミサカは布団の隙間から様子を伺ってみる」
美琴「やっほー、元気だった?」
打ち止め「昨日あったばかりなんだけどってミサカはミサカは疑わしげなまなざしをおくってみる」
美琴「男子三日会わざれば刮目して見よ、ってね」
打ち止め「三日もたってないしミサカはそもそも男子でもないんだけどってミサカはミサカは反論してみる」
369 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/08(木) 22:16:24.26 ID:GeSE3OEo [4/12]
>>348続き
美琴「細かいことは置いといて。元気、なさそうじゃない」
打ち止め「そんなことないよう」
美琴「嘘ばっかり。それにしてもダイエットしてるんだって? また急にどうしたの」
打ち止め「妹達のあいだで流行ってるの。しかもどうやら痩せた個体がでてきたらしくってあせってるの
ってミサカはミサカは正直に答えてみる」
美琴「ふうん。でも妹達とアンタの身体年齢って違うじゃない。競っても仕方がないと思うんだけど」
打ち止め「でもでも、上位個体としてのプライドがあるのってミサカはミサカは主張してみたり」
美琴「アンタ成長期なんだから、痩せる痩せない以前に食べないと出るとこ出ないわよ」
打ち止め「正直お姉様と下位個体を見る限りではこれからの成長にはあまり期待ができないって
ミサカはミサカはお姉様をじろじろと見ながらため息をついてみる」
美琴「な、何いってんのよ! 私だってまだまだ成長期なんだからね!」
371 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/08(木) 22:23:30.48 ID:GeSE3OEo [5/12]
>>370
どうなんだろうか。普通にでんじつうこうって読んでたな……
372 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/08(木) 22:30:59.51 ID:GeSE3OEo [6/12]
美琴「これでも……遺伝を考えれば……私にだって可能性は十分……」ブツブツ
打ち止め「お、お姉様? 何もそんなに気にしなくてもいいよってミサカはミサカは自分の発言を後悔してみる」
美琴「……はっ、そ、そうよね! 私ってば大器晩成型だもんね!」
打ち止め(なんか違うと思うけど黙っておこうってミサカはミサカは決心してみたり)
美琴「えーっと、そうそう、ダイエット、ね。そもそも何のためにダイエットをするのかしら」
打ち止め「魅力的な女性の条件は痩せてることだってミサカはミサカは知ってるもん」
美琴「なによその情報。いったいどこから仕入れてきたの」
打ち止め「え? 違うの? ってミサカはミサカはびっくりしてみる」
美琴「まあ一概には言えないけど、人それぞれってところかしらね」
打ち止め「むー、でもモデルさんとかはみんな細いよってミサカはミサカはファッション雑誌を思い浮かべてみる」
美琴「ま、それはそうだけど。打ち止め、アンタは何のために魅力的な女性になりたいの?」
375 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/08(木) 22:54:43.72 ID:GeSE3OEo [7/12]
打ち止め「何のため、って」
美琴「別に太ってるわけじゃないんだし、自己満足の自分磨き? ……それとも、誰かに見て欲しいの?」
打ち止め「え……」
美琴「たとえば、一方通行とか」
打ち止め「う、確かにあの人に子ども扱いをやめてもらうためには有効な手段かなって
ミサカはミサカは思ってみたり」
美琴「だからってその相手に心配かけてたら本末転倒でしょうが」
打ち止め「心配……? あの人が?」
美琴「そうよ。アンタがご飯食べないことそれはそれは心配してたわよ」
打ち止め「怒ってただけだったよってミサカはミサカは思い出してみる」
美琴「それが心配なんじゃない。アイツ素直じゃないんだからそれくらい読み取りなさい」
376 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/08(木) 23:01:18.21 ID:GeSE3OEo [8/12]
打ち止め「素直じゃないとかお姉様に言われるなんて……ってミサカはミサカは絶句してみる」
美琴「どういう意味よ」
打ち止め「そのままの意味だよってミサカはミサカはとある少年のことを思い浮かべてみる」
美琴「! い、い、い、いったい誰のことなのかしらね」
打ち止め「お姉様の頭に浮かんだ人のことだよってミサカはミサカは意地悪に笑ってみる」
美琴「そ、それはいったん脇に置いときなさい。いい? アンタのこと一方通行が心配してるって言うのは事実よ」
打ち止め「……」
美琴「現に、私にアンタのこと頼むって言ってきたのよ」
打ち止め「あの人が?」
美琴「そ。信じられないでしょ」
打ち止め「……ん」
378 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/08(木) 23:12:17.38 ID:GeSE3OEo [9/12]
美琴「それだけアンタのこと気にしてるのよ。アイツは。あ、これ言っちゃったこと内緒ね」
打ち止め「そっかあ、あの人が」
美琴「10032号がアイツのことツンデレとか言ってた意味がわかってきたわ」
打ち止め「それもお姉様に言われるのは……ってなんでもないってミサカはミサカは言いかけた言葉を飲み込んでみる」
美琴「さて、そんな余計な心配かけちゃった相手にいったいどうするべきだと思う?」
打ち止め「……」
379 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/08(木) 23:20:41.61 ID:GeSE3OEo [10/12]
打ち止め「……おじゃましまーす、ってミサカはミサカは病室の扉を開けてみる」
一方通行「……」
打ち止め「うう、やっぱり怒ってる? ってミサカはミサカはおそるおそるあなたの背中に聞いてみる」
一方通行「……オイクソガキ」
打ち止め「は、はいっ!」
一方通行「超電磁砲はなンか言ってたか」
打ち止め「ダイエットはやめたほうがいいって。それと……」
一方通行「それと?」
打ち止め「ううん、なんでもないってミサカはミサカはでかかった台詞を封印してみる」
一方通行「……」
381 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/08(木) 23:39:45.48 ID:GeSE3OEo [11/12]
打ち止め(やっぱ怒ってるオーラが出てるようってミサカはミサカはドキドキしてみる)
打ち止め「や、やっぱりミサカにはダイエットは早いかなってミサカはミサカは思い直してみたり……」
一方通行「……」
打ち止め(うう、心配ってお姉様の気のせいじゃないのかなあ)
一方通行「腹ァ、減ってンだろ」
打ち止め「う、うん……」
一方通行「これでも食っとけ。昼までまだ時間あっからな」ポイポイポイ
打ち止め「え、ポテチに おせんべ キャルメラ チョコ? 買ったら300円になっちゃった? っていうかなにこれ」
一方通行「うるせェ、食うなら黙って食え。いらねェなら捨てるぞ」
打ち止め「え? え? これあなたが買ってきたの?」
一方通行「……」
383 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/08(木) 23:49:49.53 ID:GeSE3OEo [12/12]
打ち止め「心配、してくれてたんだ……ってミサカはミサカはお姉さまの言ったとおりだったってポカンとしてみる」
一方通行「あァ!? あの超電磁砲余計なこといいやがったな!?」
打ち止め「ごめんね」
一方通行「あ?」
打ち止め「もう、心配かけるようなことしないからってミサカはミサカは断言してみる!!」
一方通行「……超電磁砲には借りができちまったな」ボソ
打ち止め「ん? なんか言った?」
一方通行「なンでもねェよ」
ギィ……パタン
美琴「ふぅ、よかったよかった。どうなることかと思ったけど」
美琴「アイツももっと素直になればいいのに」
美琴「ま、一方通行の意外な面も見れて面白かったかな」
美琴「じゃ、今日はこの辺で帰るとしますか。じゃあねー」
おしまい
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