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流浪人
384 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/05(水) 19:07:48.81 ID:PPlbhVwo [2/23]
とりあえず投下します。某作品のパロディというか、学園都市盤。
パロディ先を知らなくても楽しめる…と思います。
とりあえず投下します。某作品のパロディというか、学園都市盤。
パロディ先を知らなくても楽しめる…と思います。
385 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/05(水) 19:08:42.71 ID:PPlbhVwo [3/23]
――東京都多摩地方を中心に埼玉、神奈川、山梨を拠点に学園都市という閉鎖された空間があった。
だが5年前――学園都市にて内乱が勃発、絶対的な力を誇っていた科学の敗北は不可思議な力や魔術、核兵器といった類ではなく
人間の絶望から歩みを進める『意志』によって打ち砕かれた。
学園都市崩壊後、瓦礫の山から芽生えた息吹は『学術都市』と名を変え、以前より外界との交流が盛んな巨大都市として姿を変えていった。
当時の蜂起した学生は学術都市の要職に就きその殆どが能力を使わずに暮らしている。
能力開発も殆ど無くなり…いつしか人々は『異能の力』を忘れていった…
5年前の動乱――比類なき強さを誇り、動乱の終わりと同時に姿を消した第一位の伝説を残して……
「一方通行!!」
とうに日の暮れた学術都市の外れ――閑静な住宅街に声が響く
386 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/05(水) 19:10:26.61 ID:PPlbhVwo [4/23]
「え?」
振り返った男は意外そうな顔で振り返った。見た感じ、歳は成人して無い辺りだろうか。背負ったバックパックの影からその顔を覗かせる。
「今日こそ見つけたわ…これで連日の辻斬り凶行もお終いね!」
声を掛けたのは女性だった。歳は17~18辺りに見える。ベリーショートの髪に特徴も無さそうな見た目だが、目鼻立ちはしっかりとしていて大雑把に括れば美人の枠に入るだろう
「辻斬り凶行…?何の事だ?」
「問答無用ッ!!厳戒令が出されてる夜中にうろついてる輩なんて辻斬りの張本人でしょうが!!」バッ
「!」
女が掌を突き出し、その先から光り出す閃光。パァン!という空気の破裂する音――数百ボルト以上の電撃が光速で放たれた。
だが電撃は男に当たらず虚空を貫く。手を出され、光が見えた時点で男は飛びのいていた。
「チィッ!」
追撃を図ろうと飛びのいた先を見ると――
「あ」ゴツン!
男が飛びのいた後ろのブロック塀に頭が直撃。典型的な自滅である。
「…あっけないわね…これが本当にあの一方通行?」
387 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/05(水) 19:12:31.84 ID:PPlbhVwo [5/23]
「流浪人」
「?」
「俺は流浪人。ただの流れ者だ。この町に来たのもついさっきだから辻斬りだの一方通行だの言われてもさっぱり…」
「!!…じゃ、じゃあなんで私の力場感知器にAIM拡散力場反応があんなに出てたわけ!?いくら一般人だからといって街中で能力を使うのは」
学術都市はとある少女の能力の解析に成功。能力者が発するAIM拡散力場をレーダーのように感知できるシステムを作り、一定量出ると能力使用とみなされ、職務質問を受ける。
男はやれやれ、といった感じでバックパックの中からファイルを取り出し中から一枚の紙を渡した
「何コレ…あ、障害者能力使用許諾書…?」
「そう。自分の体に対して肉体変化系の能力を使って歩けるようにしてんだ。風紀委員のレーダーと市販のレーダーじゃ見分けがつかないからなぁ…」
「じゃあアンタは本当に…」
「そ。ただの流浪人」
そういって男は微笑みかける。障害者は市の特例により障害を補助する形でなら能力を行使しても構わないという条令が敷かれている。
市販のレーダーと違って風紀委員やアンチスキルには障害者として登録した者の一定量の力場感知を無視出来るようにしてあるのだ。
ピィーッ!!
「!!風紀委員の警報!今度こそ!!」ダッ
「……どうやらこの町、俺の知らない所で事が起こってんな…?」
388 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/05(水) 19:14:42.21 ID:PPlbhVwo [6/23]
閑静な住宅街に警報が響き渡る。2mを超える長身の覆面をした男が数人の風紀委員に囲まれていた
「弱ェ!」
「弱ェ弱ェ弱ェ!!お前等弱すぎンだよォオオオオ!!!!!!」
圧倒的な身体能力で風紀委員を蹴散らしていく。傍から見たらそれは巨象に群がるねずみのように見えた
「クッ…強い!…これはまさにあの伝説の学園都市一位の男『一方通行』!!」
ヒュッ
風紀委員の年長の男が相手の気迫に押され後退していく中、疾風のように飛び掛る女がいた
「一方通行!!」
バリバリバリバリッ!!
闇を切り裂く紫電が長身の男を目掛け襲う。しかし男はそれを難なく避け、体勢が崩れた女にとびかかった。
「!しまっ…」
ドォン!
間一髪、女は流浪人に抱えられ、男の一撃から逃れた
「流浪人!」
「まったく…危ないっt」
ゴキン!
「…股関節脱臼…」ピクピク
「ったく!あんたはなんで!!」
389 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/05(水) 19:17:19.73 ID:PPlbhVwo [7/23]
男はそれを見て興がさめたのか、風紀委員に背を向け、言葉を発しながら闇の帳を駆けていった
「俺の名は『一方通行』!!『上条能力育成会、一方通行』だ!!!」
風紀委員はそれを追うことなく気絶した仲間の介抱を行っていた。
「待て!絶対に逃がすか!!」
「はいストップ」
ドシャッ
流浪人が走り出す女の足をかけてコケさせた。女は顔面から地面に直撃したようだ
「あんた何すんのよ!」ビリビリ!
「あっやめろって!電気は出すな!相手は自分の所属してる何らかの会を名乗っただろ?だから…」
「違う!!上条能力育成会は私の能力育成塾なの!だからひっとらえて――」
「はい待った」
ドシャァッ!!今度は一回目より盛大にこけたようだ。半ば気絶している。
「そろそろアンチスキルもやってくる。面倒はごめんだからお前の家に行くぞ」
・・・・・・・・・
・・・・・・
390 名前:流浪人[sage] 投稿日:2010/05/05(水) 19:20:23.33 ID:PPlbhVwo [8/23]
彼女の家は超巨大なビルだった。そのすべてが上条能力育成会――その事務室
事務室には竜神乙姫と流浪人、そしてこのビルただ一人だけ居る老年の事務員が居た
「上条能力育成会――指導員『竜神乙姫』…以上……え?」
「5年前、うちの従兄のお兄ちゃんが政治高官として職に就いた時に立ち上げた会でね。昔はこのビル一杯に人が居たのよ」
今や能力を使う人間は殆ど居ない。
それは日常で一部のアンチスキルや風紀委員以外能力を使うことそのものが禁止されているからだ。
しかしこうした育成会などの許可を得た機関の場所であれば自由に能力を使ったり、開発する事は出来る。
「3年前くらいかな、前に学園都市第三位だった御坂さんって人と若年婚約を決めて…その人の資金援助もあって二人で仲良く経営してたの」
「私も学術都市に進学してお兄ちゃんの手伝いをするうちにたまたま能力の開発がすごく上手くいってね、それを買われて指導員になったわ」
「でもお兄ちゃんと御坂さん…一年前に仕事でイギリスに行ったっきり消息不明に…」
「…それでもなんとか私でもやっていけたわ。能力が強くなくても指導法がしっかりしてればいいんだし」
「でもそんな中…2ヶ月前から例の辻斬りが起こってね
…本物かどうか知らないけど一方通行の名前で上条能力育成会を騙って凶行をしてるの」
「学園都市から学術都市になった今でも…一方通行は畏怖されている存在なんだわ」
391 名前:流浪人[sage] 投稿日:2010/05/05(水) 19:22:41.10 ID:PPlbhVwo [9/23]
一通り語り終えた竜神は流浪人の言葉を待つかのように押し黙った。沈黙を破ったのは流浪人
「だが夜回りは止めた方がいいな。アンタも能力者、まして開発指導員ならわかるだろ?あの男は恐らくいまどき珍しいレベル4以上、レベル3辺りのお前じゃ適わない」
竜神は耐え切れなくなったのか言葉を吐露する
「…上条能力育成会は…学園都市にはびこっていた連中みたく能力を自分のために行使するんじゃなくて、自分の限界を超えるように努力するために作ったのよ!!
それが今、他人を傷つける能力によってその精神が汚されている!!それをアンタみたいな浪人になにがわかるの!?」
涙を浮かべながら力説する竜神に少し驚いたような表情を見せる流浪人。しかしすぐに表情を柔らかくして
「ま…アンタが怪我してまでこの会を残そうとはお兄さんもお義姉さんも考えちゃいないと思うぜ」
「そんじゃな」
そういって事務室から流浪人はバックパックを持って扉を閉めた。
階段を下っていく音が事務室に響く。
途中まで話に参加しなかった老年の事務員が口を開いた
「竜神さん、駄目ですよ。あんな浪人相手に気を許しては…ですがあの方の言うとおり夜回りは止した方がいいですね」
「ん……考えとくわ…」
・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
392 名前:流浪人[sage] 投稿日:2010/05/05(水) 19:25:27.66 ID:PPlbhVwo [10/23]
数日後
「あれ…アンタ…」
「ん…竜神さんか」
「まだこの町にいたのね…用事が無いならしばらく私のトコで泊まってく?」
「いや…それより例の辻斬りに進展はあったのか?」
「うん…それがね…どうも似た体格の奴が隣の地区のスキルアウトに居るっぽいのよ」
「ほう…よく今までみつからなかったな。そんな大男」
「どうやら外出は極力避けてたみたいね…アンチスキルも証拠が無いから手を出せないみたいだし…近いうちに必ずけりをつけるわ」
一緒に買い物についてきたのだろう、老年の事務員が口を開いた
「…竜神さん。私は他の買い物に行ってきますのでコレで…では失礼」
「…あの事務員は?」
「ああ…喜平さん?…お兄ちゃんと御坂さんが消息不明になってからかな…うちのビルの前で行き倒れになってるのを
介抱したのがきっかけで住み込みで事務員として雇っているってかんじよ」
「前から育成会をやめて小さい会社を作って静かに暮らそうって言ってるんだけどね…」
「…素姓は?」
「訊いてないから知らない」
「…いいのかよそれで」
「いいじゃない。誰だって言いたくない過去の一つや二つあるでしょ?アンタだってそうだから流浪人してるんじゃないの?」
「…そうだな」
393 名前:流浪人[sage] 投稿日:2010/05/05(水) 19:26:45.23 ID:PPlbhVwo [11/23]
「で?何か用事があるの?」
「あ、ああ。そうだった。それじゃあな」
「…?」
(なるほど…隣の地区か…この地区をあたっても駄目だったわけか)
夜、スキルアウトの某集会所の入り口に流浪人が立っていた
「おーい…誰か居ないか?」
スキルアウトの下っ端がそれに対応する
「あぁ?テメェ何の用だ!」
荒々しい声で威圧するも流浪人はけろっとした表情で返す
「あー…ここのリーダー…」
「蛭間さんは留守だ!」
「ほぉ、蛭間という名前か」
「…テメェ知らずに来たのかよ…」
飄々とした雰囲気の訪問者にあきれ果てるスキルアウト、――だが
「いやー…てっきり俺は『辻斬り通行』さんという名前だと」
男の表情が急変した。それは驚愕、またリーダーを侮辱された怒りとほんの少しの動揺
「…竜神さんの読みは当たっていたな」
周囲の物陰からスキルアウトがぞろぞろと出てくる。
どんな小物の訪問者であろうとも如何なる対応も出来るようにこうして入念な準備をしておくのだ。
「西脇さん…なんですかそいつ」
辺りを十数人以上の大人数で囲まれる。いかにもゴロツキといったいでたちの男達。
「何、ただのねずみだ。始末しちまいな」
394 名前:流浪人[sage] 投稿日:2010/05/05(水) 19:29:54.39 ID:PPlbhVwo [12/23]
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
上条能力育成会のビルの一室…使われていない大訓練場で竜神は電撃の出力測定をしていた
「よし…いくわy」
パシッ!
竜神の電撃が出される前に的が前触れも無く亀裂が走る。竜神はあっけにとられ、電撃の放出をやめた。
ただの偶然…手入れを怠った的がたまたま割れただけなのだが…竜神はそれが何らかの合図に思えた
――嫌な予感がする…
そう思い始めたとき
「竜神さん」
「!」ビクッ
聞きなれた事務員、喜平の声であるのに何故か驚いてしまった。
しかし、どこかしら他人じみた声に聞こえたのは気のせいか。
「な、なんだ…喜平か。どうしたの?」
「ええ、前から言っていたこの土地とビルの売却の話」
「え…でもそれは前からしないって話…」
「いえ、実はもうこの通り書類はまとまっているんです」
スッと差し出されたのは土地とビルの売却証書。えっ、と竜神は呆気に取られるが喜平はお構いなしに話しつづける。
「あとはお前の捺印一つ」
ダァン!
大訓練所の扉が乱暴に開く。そこには長身の男と大勢のスキルアウトが居た。同時に喜平が口元を歪に曲げる
「それでこの土地とビルはワシ等外部移民系スキルアウト、『ソルジャー』のモノとなる!!」
395 名前:流浪人[sage] 投稿日:2010/05/05(水) 19:33:12.67 ID:PPlbhVwo [13/23]
「よォ!!」
独特のしゃべり方、長身の身なり、そして数日前の夜に見たあの目つき
「お前は…!」
「蛭間五平。ワシの弟だ」
似ても似つかない兄弟だ。と考える暇すらも無く竜神は頭が混乱していた。
だが本能的に臨戦態勢をとる。
喜平はそんな竜神に構わず続ける
「本来はこういうのはあまり好きじゃないんだ。やるなら合法的に。
それがワシの手段なんだが…お前が弟の正体に勘付いたからにはそうも言ってられん」
「好々爺の仮面を被って一年がかりでお前との距離を縮めたは良いが…お前は誰に似たのか自分の正義を絶対に曲げない」
「そこで学園都市最強の一方通行の名前を語って辻斬りを行ったが…これが良く効いた。
学術都市になってから能力者は散り、今や殆ど外部系の人間が住む町でも
学術都市を開拓したその無敵の強さは今でも語り継がれて伝説の域だ。もう5年も消息不明だがまた現れてもおかしくない。お陰で今やこのビルはガラガラ」
「ワシの計算ではこのビル、学術都市の交通拠点の位置やあの超電磁砲が一枚噛んでいた事を考えると軽く200億は下らない」
竜神は喜平が何のためらいも無く説明をしているのを見て今の状況に恐怖するよりも
裏切られたという悲哀の気持ちが大きかった
「面白ェ!兄貴によるとテメェは能力を『自分の限界を超えるため』にあると思ってンだろォ!?だったら俺を倒して限界を超えてみろォ!!」
長身の男、五平は余裕を崩さず堂々と竜神の前に立ちはだかる
396 名前:流浪人[sage] 投稿日:2010/05/05(水) 19:35:11.82 ID:PPlbhVwo [14/23]
「クッ!」バリッ!バリバリバリバリッ!!
竜神が電撃を放つ。しかしそれは五平の左手であっけなく防がれた
「!?」
「ククク…俺の能力、実は『電撃使い』能力名は『微電機関(ボルテクッスドライヴ)』…体の神経は電気信号、それに筋肉を動かす事も電気で出来る
…テメェらお子様には出来ねェもう一つの使い方だァ!」
ギュンッ!!ドドドドドドドド…バキィッ!!
五平の電撃の威力自体は大した事はないのかもしれない。
しかし神経一つ一つや筋肉を微細に動かせる演算の精密動作性は間違いなくレベル4クラスであった
巨体でありながら常人では考えられぬ速度で移動してゆき、竜神の体をいとも簡単に吹き飛ばし、それを空中で間髪入れずに襟元を掴み上げる
「目的は暴力!極意は殺生!それが超能力の本質だろォが!!」
喜平は金庫を破り中に入っていた印鑑を押し終えた証書を竜神の親指に持っていき、電子操作で指紋照合をさせた
「これでよし。これで上条能力育成会とやらはおしまいだ」
喜平が悪魔の表情で書面を眺めている時、後ろの扉が開き、人の気配がした
アジトで留守番をしているはずの西脇という男がなぜかここに来て立っている
「西脇…?どうした?」
「つ…強ェ…」
そうして男は倒れた。その後ろに居たのは――
397 名前:流浪人[sage] 投稿日:2010/05/05(水) 19:37:31.90 ID:PPlbhVwo [15/23]
「る、流浪人!?」
流浪人と呼ばれる男その人だった。
「悪い、遅くなったな。話はこいつから全て聞いた」
「またテメェかァ…?テメェもこのガキみたく『能力は自分を高めるため』とかほざく口かァ?」
五平や周りのスキルアウトを気にする事なく歩みをすすめていく流浪人
その目はいつにない狂気で真紅に輝いていた。
流浪人は口を開く。
「いや――」
「能力は凶器、演算は自己実現欲、どんな綺麗事やお題目を口にしてもそれが真実」
「竜神さんが言ってる事は一度も人を殺した事のない者が言う、甘い戯言だ」
竜神の顔が絶望にゆがむ。五平はなんとなくだがその台詞を聞いて口元を吊り上げた
竜神の精神は限界だった…この数年間の孤独、さらに喜平の裏切り、
そして自分を少しだけ理解してくれた名の知らぬ流浪人にまで信念すら否定されてしまった。
398 名前:流浪人[saga] 投稿日:2010/05/05(水) 19:39:42.97 ID:PPlbhVwo [16/23]
しかし、流浪人は続ける――
「だが…俺はそんな真実より竜神さん…上条当麻や超電磁砲、御坂美琴の言う甘い戯言の方が好きだ」
自分に向けられた屈託の無い笑顔に竜神の顔がハッとする。そして一抹の疑問
(なんで…私が言ってないのにお兄ちゃん達の名前を…!?)
「…出来れば…その戯言がこの町の…世界の真実になって欲しいぜ」
蛭間兄弟は心底うんざりしていた。説教というにはあまりにも主観が過ぎる。
「兄貴ィ…コイツ殺してもいいよなァ?」
「ああ、何かと目障りな奴だ。ブチコロシ確定だ」
「おう、お前等」
五平が声をかけると部下のスキルアウトたちが流浪人を囲み、臨戦態勢を取った。
「流浪人!逃げてぇ!!」
竜神が叫ぶが、もう遅いだろう。一般の人間であれば逃げられないし、嬲り殺される。
「チッ…けが人が出て冥土返しが忙しくなりそォだぜ…医者通いが嫌ならどけ」
とたんに流浪人の口調が五平と似た。しかし今そのような事を気に掛ける輩は居ない。
スキルアウト達はただ目の前の男を殺すという事だけしか念頭に無かった
「怪我人は出ねぇよ!!出るのは死人!!テメェ一人だぁ!!!」
400 名前:流浪人[saga] 投稿日:2010/05/05(水) 19:42:26.45 ID:PPlbhVwo [17/23]
5人が一気に襲い掛かる。それに対して流浪人は全く微動だにしない。
――だが一瞬の間に5人全員が吹っ飛んだ。
「!!!!!!!!?????????」
周囲のスキルアウトだけでなく竜神、蛭間兄弟も驚愕していた。
何が起こったかすらわからない。
流浪人が軽く床を蹴ると流浪人の姿が消えた。
「こっちだっつゥの」
声のする方向を振り返るスキルアウト達。
スキルアウト達の後ろで壁を背にもたれかかり腕組みする流浪人。
今度は別の二人が流浪人に襲い掛かる。一人のナイフが流浪人のみぞおちに刺しかかる刹那、
突然腕が曲がりもう一人のスキルアウトの横腹に刺さった
「うおあああああ!!てめえ何のつもりだあぁあああ!!???」
「ち、違う!!手が勝手に!!……ぐはっ!!」
流浪人が軽く胸を押すだけでスキルアウトが10m程吹き飛ぶ
401 名前:流浪人[saga] 投稿日:2010/05/05(水) 19:44:50.80 ID:PPlbhVwo [18/23]
喜平が目を見開きながら叫ぶ
「な、なんだ!?魔術か!?」
この場の殆どがそう思っただろう。超能力と呼ぶにはあまりにも次元が違う。
理解の範疇を超えていた。
だが竜神と五平はこの状況を少なからず分析できていた
(違う!魔術なんかじゃない…これは「ベクトル」だわ!!)
(敵のベクトルを曲げる能力 体のベクトルを集約させる能力 そして運動のベクトルを読む能力…
全てのベクトルを最大限に生かして最小の運動量で複数の相手を同時に仕留めてやがる!!)
あっという間に全てのスキルアウト達を下し、その中に流浪人が佇む。そしてぽつりとつぶやいた
「――ひとつ、言い忘れてたぜ」
「学園都市第一位、一方通行の能力は『微電機関』じゃねェ。あらゆるベクトルを支配する、能力名『一方通行(アクセラレーター)』
能力名そのものが通称名になン程の強さと応用、柔軟性を併せ持つ学園都市最強の能力だ」
「「!!!!!!」」
戦慄する喜平。信じられないといった表情を浮かべる竜神が口を開く
「まさか…じゃあアンタが一方通k」
「面白ェ!あの晩は小物だと思っていたがコレ程強ェとは!テメェ力を隠していやがったなァ!!」
402 名前:流浪人[saga] 投稿日:2010/05/05(水) 19:48:16.14 ID:PPlbhVwo [19/23]
「…お前と違って人を傷つけンのはそンな好きじゃねェンだわ。だがあン時のテメェは最高にぶち殺したかったぜ」
五平が微電機関を作動させる。
壁まで跳躍し、天井を駆け慣性一杯の攻撃を仕掛けた
「この学術都市に第一位は二人もいらねェ!!この俺こそ第一位!一方通行だァ!!」
衝撃波がビルの窓を吹き飛ばす。それほどまでに五平の体は速かった。しかし
「!?」
ガオォン!!
「…ベクトルの変換ってのは、反射って設定も出来ンだ。第一位の称号に興味すらねェが…それでもお前みてェな奴には譲れねェよ」
五平の体が天井に突き刺さる形でこの部屋のオブジェになっていた。
そして一方通行は喜平をにらみつける
「ひぃっ!」
「さて、あとは一人、」
一方通行が歩み寄る
「黒幕のテメェはこの程度じゃ済まさねェ…」
「体の気圧に対する抵抗力すべてを開放して」
「生きたまま内臓を全て外に出してやる」
一方通行の髪が逆立ち、口元を三日月のように歪め、目を見開く
403 名前:流浪人[saga] 投稿日:2010/05/05(水) 19:52:40.76 ID:PPlbhVwo [20/23]
「ひはぁ」
喜平は耐え切れず情け無い声を上げて落ちた。失禁というおまけつきで。
「やれやれ…策を張る黒幕ってのはテメェで動かない分、度胸が無ェな」
証書を幾片にも破りながら続ける
「…悪ィな。竜神さン。俺ァ騙す気も隠す気も無かった…
「ただ…出来れば言いたくなかったぜ」
その目には先ほどの狂気はなく、ただ深い悲哀で染まっていた
「…」
「そんじゃ…達者に暮らせや」
出て行こうと扉に歩を進める一方通行。だが…
「ま…」
「待ちなさいよ!!」
竜神がそれまでの雰囲気がなんだ、っといったように怒鳴る
「アンタ私一人だけでどーやって上条能力育成会を盛り立てる気!?少しぐらい協力したっていいじゃない!」
404 名前:流浪人[saga] 投稿日:2010/05/05(水) 19:55:03.88 ID:PPlbhVwo [21/23]
「私は人の過去なんかに拘らないわよ!!」
(いや…喜平みてェなのも居ンから少しは拘れよ)
「俺は止した方が良いンじゃねェの?…折角汚名返上したのによォ…なにしろ本物の一方通行だもンなァ?」
一方通行は苦笑いをしながらドアに手をかける
「私は!学園都市第一位のアンタに居て欲しいんじゃなくて!!流浪人としてのアンタに居て欲し―――」ハッ
あわてて口を閉ざす竜神、しかし殆ど最後まで言ってしまい急に押し黙ってしまった
「もういいわよ…アンタが出て行きたいならそうすれば?」
一方通行に背を向ける竜神
「でも…出て行くならせめて本当の名前ぐらい教えていきなさいよ。それともアンタ、本当の名前すら言いたくないの?」
…ガチャッ
バタン…
――行ってしまった。これでまたこの広いビルで一人ぼっちかぁ…と心の中でため息をつく竜神
405 名前:流浪人[saga] 投稿日:2010/05/05(水) 19:56:53.63 ID:PPlbhVwo [22/23]
「鈴科」
はっとして振り向く。そこには一方通行が扉を閉め、微笑んでいた
「鈴科百合子。俺ァ少し旅に疲れた。いつ出て行くか解らねェが」
科学と科学が交差するとき―――
「――しばらく厄介になンぞ」
――――浪漫譚は始まる
「…ってちょっと待ちなさい!百合子ってアンタもしかして女ァあああ!???」
「あァ?それって結構失礼じゃねェか?」
「あァ?じゃないわよ!!大体アンタその肌で歳いくつなのよー!!!」
「あァー…歳とか最近数えた覚えねェなァ」
(くっ!悔しい!!歳を気にしないで生きているなんて!!)
終わり
407 名前:流浪人[sage] 投稿日:2010/05/05(水) 20:04:07.23 ID:PPlbhVwo [23/23]
どう見ても突っ込みどころ満載でした。
地の文入れると難しいですね。良い勉強になりました。
100レス以内なら…って事でこんなに投下しちゃった…
ネタ元は和月先生の「るろうに剣心」です。
――東京都多摩地方を中心に埼玉、神奈川、山梨を拠点に学園都市という閉鎖された空間があった。
だが5年前――学園都市にて内乱が勃発、絶対的な力を誇っていた科学の敗北は不可思議な力や魔術、核兵器といった類ではなく
人間の絶望から歩みを進める『意志』によって打ち砕かれた。
学園都市崩壊後、瓦礫の山から芽生えた息吹は『学術都市』と名を変え、以前より外界との交流が盛んな巨大都市として姿を変えていった。
当時の蜂起した学生は学術都市の要職に就きその殆どが能力を使わずに暮らしている。
能力開発も殆ど無くなり…いつしか人々は『異能の力』を忘れていった…
5年前の動乱――比類なき強さを誇り、動乱の終わりと同時に姿を消した第一位の伝説を残して……
「一方通行!!」
とうに日の暮れた学術都市の外れ――閑静な住宅街に声が響く
386 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/05(水) 19:10:26.61 ID:PPlbhVwo [4/23]
「え?」
振り返った男は意外そうな顔で振り返った。見た感じ、歳は成人して無い辺りだろうか。背負ったバックパックの影からその顔を覗かせる。
「今日こそ見つけたわ…これで連日の辻斬り凶行もお終いね!」
声を掛けたのは女性だった。歳は17~18辺りに見える。ベリーショートの髪に特徴も無さそうな見た目だが、目鼻立ちはしっかりとしていて大雑把に括れば美人の枠に入るだろう
「辻斬り凶行…?何の事だ?」
「問答無用ッ!!厳戒令が出されてる夜中にうろついてる輩なんて辻斬りの張本人でしょうが!!」バッ
「!」
女が掌を突き出し、その先から光り出す閃光。パァン!という空気の破裂する音――数百ボルト以上の電撃が光速で放たれた。
だが電撃は男に当たらず虚空を貫く。手を出され、光が見えた時点で男は飛びのいていた。
「チィッ!」
追撃を図ろうと飛びのいた先を見ると――
「あ」ゴツン!
男が飛びのいた後ろのブロック塀に頭が直撃。典型的な自滅である。
「…あっけないわね…これが本当にあの一方通行?」
387 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/05(水) 19:12:31.84 ID:PPlbhVwo [5/23]
「流浪人」
「?」
「俺は流浪人。ただの流れ者だ。この町に来たのもついさっきだから辻斬りだの一方通行だの言われてもさっぱり…」
「!!…じゃ、じゃあなんで私の力場感知器にAIM拡散力場反応があんなに出てたわけ!?いくら一般人だからといって街中で能力を使うのは」
学術都市はとある少女の能力の解析に成功。能力者が発するAIM拡散力場をレーダーのように感知できるシステムを作り、一定量出ると能力使用とみなされ、職務質問を受ける。
男はやれやれ、といった感じでバックパックの中からファイルを取り出し中から一枚の紙を渡した
「何コレ…あ、障害者能力使用許諾書…?」
「そう。自分の体に対して肉体変化系の能力を使って歩けるようにしてんだ。風紀委員のレーダーと市販のレーダーじゃ見分けがつかないからなぁ…」
「じゃあアンタは本当に…」
「そ。ただの流浪人」
そういって男は微笑みかける。障害者は市の特例により障害を補助する形でなら能力を行使しても構わないという条令が敷かれている。
市販のレーダーと違って風紀委員やアンチスキルには障害者として登録した者の一定量の力場感知を無視出来るようにしてあるのだ。
ピィーッ!!
「!!風紀委員の警報!今度こそ!!」ダッ
「……どうやらこの町、俺の知らない所で事が起こってんな…?」
388 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/05(水) 19:14:42.21 ID:PPlbhVwo [6/23]
閑静な住宅街に警報が響き渡る。2mを超える長身の覆面をした男が数人の風紀委員に囲まれていた
「弱ェ!」
「弱ェ弱ェ弱ェ!!お前等弱すぎンだよォオオオオ!!!!!!」
圧倒的な身体能力で風紀委員を蹴散らしていく。傍から見たらそれは巨象に群がるねずみのように見えた
「クッ…強い!…これはまさにあの伝説の学園都市一位の男『一方通行』!!」
ヒュッ
風紀委員の年長の男が相手の気迫に押され後退していく中、疾風のように飛び掛る女がいた
「一方通行!!」
バリバリバリバリッ!!
闇を切り裂く紫電が長身の男を目掛け襲う。しかし男はそれを難なく避け、体勢が崩れた女にとびかかった。
「!しまっ…」
ドォン!
間一髪、女は流浪人に抱えられ、男の一撃から逃れた
「流浪人!」
「まったく…危ないっt」
ゴキン!
「…股関節脱臼…」ピクピク
「ったく!あんたはなんで!!」
389 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/05(水) 19:17:19.73 ID:PPlbhVwo [7/23]
男はそれを見て興がさめたのか、風紀委員に背を向け、言葉を発しながら闇の帳を駆けていった
「俺の名は『一方通行』!!『上条能力育成会、一方通行』だ!!!」
風紀委員はそれを追うことなく気絶した仲間の介抱を行っていた。
「待て!絶対に逃がすか!!」
「はいストップ」
ドシャッ
流浪人が走り出す女の足をかけてコケさせた。女は顔面から地面に直撃したようだ
「あんた何すんのよ!」ビリビリ!
「あっやめろって!電気は出すな!相手は自分の所属してる何らかの会を名乗っただろ?だから…」
「違う!!上条能力育成会は私の能力育成塾なの!だからひっとらえて――」
「はい待った」
ドシャァッ!!今度は一回目より盛大にこけたようだ。半ば気絶している。
「そろそろアンチスキルもやってくる。面倒はごめんだからお前の家に行くぞ」
・・・・・・・・・
・・・・・・
390 名前:流浪人[sage] 投稿日:2010/05/05(水) 19:20:23.33 ID:PPlbhVwo [8/23]
彼女の家は超巨大なビルだった。そのすべてが上条能力育成会――その事務室
事務室には竜神乙姫と流浪人、そしてこのビルただ一人だけ居る老年の事務員が居た
「上条能力育成会――指導員『竜神乙姫』…以上……え?」
「5年前、うちの従兄のお兄ちゃんが政治高官として職に就いた時に立ち上げた会でね。昔はこのビル一杯に人が居たのよ」
今や能力を使う人間は殆ど居ない。
それは日常で一部のアンチスキルや風紀委員以外能力を使うことそのものが禁止されているからだ。
しかしこうした育成会などの許可を得た機関の場所であれば自由に能力を使ったり、開発する事は出来る。
「3年前くらいかな、前に学園都市第三位だった御坂さんって人と若年婚約を決めて…その人の資金援助もあって二人で仲良く経営してたの」
「私も学術都市に進学してお兄ちゃんの手伝いをするうちにたまたま能力の開発がすごく上手くいってね、それを買われて指導員になったわ」
「でもお兄ちゃんと御坂さん…一年前に仕事でイギリスに行ったっきり消息不明に…」
「…それでもなんとか私でもやっていけたわ。能力が強くなくても指導法がしっかりしてればいいんだし」
「でもそんな中…2ヶ月前から例の辻斬りが起こってね
…本物かどうか知らないけど一方通行の名前で上条能力育成会を騙って凶行をしてるの」
「学園都市から学術都市になった今でも…一方通行は畏怖されている存在なんだわ」
391 名前:流浪人[sage] 投稿日:2010/05/05(水) 19:22:41.10 ID:PPlbhVwo [9/23]
一通り語り終えた竜神は流浪人の言葉を待つかのように押し黙った。沈黙を破ったのは流浪人
「だが夜回りは止めた方がいいな。アンタも能力者、まして開発指導員ならわかるだろ?あの男は恐らくいまどき珍しいレベル4以上、レベル3辺りのお前じゃ適わない」
竜神は耐え切れなくなったのか言葉を吐露する
「…上条能力育成会は…学園都市にはびこっていた連中みたく能力を自分のために行使するんじゃなくて、自分の限界を超えるように努力するために作ったのよ!!
それが今、他人を傷つける能力によってその精神が汚されている!!それをアンタみたいな浪人になにがわかるの!?」
涙を浮かべながら力説する竜神に少し驚いたような表情を見せる流浪人。しかしすぐに表情を柔らかくして
「ま…アンタが怪我してまでこの会を残そうとはお兄さんもお義姉さんも考えちゃいないと思うぜ」
「そんじゃな」
そういって事務室から流浪人はバックパックを持って扉を閉めた。
階段を下っていく音が事務室に響く。
途中まで話に参加しなかった老年の事務員が口を開いた
「竜神さん、駄目ですよ。あんな浪人相手に気を許しては…ですがあの方の言うとおり夜回りは止した方がいいですね」
「ん……考えとくわ…」
・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
392 名前:流浪人[sage] 投稿日:2010/05/05(水) 19:25:27.66 ID:PPlbhVwo [10/23]
数日後
「あれ…アンタ…」
「ん…竜神さんか」
「まだこの町にいたのね…用事が無いならしばらく私のトコで泊まってく?」
「いや…それより例の辻斬りに進展はあったのか?」
「うん…それがね…どうも似た体格の奴が隣の地区のスキルアウトに居るっぽいのよ」
「ほう…よく今までみつからなかったな。そんな大男」
「どうやら外出は極力避けてたみたいね…アンチスキルも証拠が無いから手を出せないみたいだし…近いうちに必ずけりをつけるわ」
一緒に買い物についてきたのだろう、老年の事務員が口を開いた
「…竜神さん。私は他の買い物に行ってきますのでコレで…では失礼」
「…あの事務員は?」
「ああ…喜平さん?…お兄ちゃんと御坂さんが消息不明になってからかな…うちのビルの前で行き倒れになってるのを
介抱したのがきっかけで住み込みで事務員として雇っているってかんじよ」
「前から育成会をやめて小さい会社を作って静かに暮らそうって言ってるんだけどね…」
「…素姓は?」
「訊いてないから知らない」
「…いいのかよそれで」
「いいじゃない。誰だって言いたくない過去の一つや二つあるでしょ?アンタだってそうだから流浪人してるんじゃないの?」
「…そうだな」
393 名前:流浪人[sage] 投稿日:2010/05/05(水) 19:26:45.23 ID:PPlbhVwo [11/23]
「で?何か用事があるの?」
「あ、ああ。そうだった。それじゃあな」
「…?」
(なるほど…隣の地区か…この地区をあたっても駄目だったわけか)
夜、スキルアウトの某集会所の入り口に流浪人が立っていた
「おーい…誰か居ないか?」
スキルアウトの下っ端がそれに対応する
「あぁ?テメェ何の用だ!」
荒々しい声で威圧するも流浪人はけろっとした表情で返す
「あー…ここのリーダー…」
「蛭間さんは留守だ!」
「ほぉ、蛭間という名前か」
「…テメェ知らずに来たのかよ…」
飄々とした雰囲気の訪問者にあきれ果てるスキルアウト、――だが
「いやー…てっきり俺は『辻斬り通行』さんという名前だと」
男の表情が急変した。それは驚愕、またリーダーを侮辱された怒りとほんの少しの動揺
「…竜神さんの読みは当たっていたな」
周囲の物陰からスキルアウトがぞろぞろと出てくる。
どんな小物の訪問者であろうとも如何なる対応も出来るようにこうして入念な準備をしておくのだ。
「西脇さん…なんですかそいつ」
辺りを十数人以上の大人数で囲まれる。いかにもゴロツキといったいでたちの男達。
「何、ただのねずみだ。始末しちまいな」
394 名前:流浪人[sage] 投稿日:2010/05/05(水) 19:29:54.39 ID:PPlbhVwo [12/23]
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
上条能力育成会のビルの一室…使われていない大訓練場で竜神は電撃の出力測定をしていた
「よし…いくわy」
パシッ!
竜神の電撃が出される前に的が前触れも無く亀裂が走る。竜神はあっけにとられ、電撃の放出をやめた。
ただの偶然…手入れを怠った的がたまたま割れただけなのだが…竜神はそれが何らかの合図に思えた
――嫌な予感がする…
そう思い始めたとき
「竜神さん」
「!」ビクッ
聞きなれた事務員、喜平の声であるのに何故か驚いてしまった。
しかし、どこかしら他人じみた声に聞こえたのは気のせいか。
「な、なんだ…喜平か。どうしたの?」
「ええ、前から言っていたこの土地とビルの売却の話」
「え…でもそれは前からしないって話…」
「いえ、実はもうこの通り書類はまとまっているんです」
スッと差し出されたのは土地とビルの売却証書。えっ、と竜神は呆気に取られるが喜平はお構いなしに話しつづける。
「あとはお前の捺印一つ」
ダァン!
大訓練所の扉が乱暴に開く。そこには長身の男と大勢のスキルアウトが居た。同時に喜平が口元を歪に曲げる
「それでこの土地とビルはワシ等外部移民系スキルアウト、『ソルジャー』のモノとなる!!」
395 名前:流浪人[sage] 投稿日:2010/05/05(水) 19:33:12.67 ID:PPlbhVwo [13/23]
「よォ!!」
独特のしゃべり方、長身の身なり、そして数日前の夜に見たあの目つき
「お前は…!」
「蛭間五平。ワシの弟だ」
似ても似つかない兄弟だ。と考える暇すらも無く竜神は頭が混乱していた。
だが本能的に臨戦態勢をとる。
喜平はそんな竜神に構わず続ける
「本来はこういうのはあまり好きじゃないんだ。やるなら合法的に。
それがワシの手段なんだが…お前が弟の正体に勘付いたからにはそうも言ってられん」
「好々爺の仮面を被って一年がかりでお前との距離を縮めたは良いが…お前は誰に似たのか自分の正義を絶対に曲げない」
「そこで学園都市最強の一方通行の名前を語って辻斬りを行ったが…これが良く効いた。
学術都市になってから能力者は散り、今や殆ど外部系の人間が住む町でも
学術都市を開拓したその無敵の強さは今でも語り継がれて伝説の域だ。もう5年も消息不明だがまた現れてもおかしくない。お陰で今やこのビルはガラガラ」
「ワシの計算ではこのビル、学術都市の交通拠点の位置やあの超電磁砲が一枚噛んでいた事を考えると軽く200億は下らない」
竜神は喜平が何のためらいも無く説明をしているのを見て今の状況に恐怖するよりも
裏切られたという悲哀の気持ちが大きかった
「面白ェ!兄貴によるとテメェは能力を『自分の限界を超えるため』にあると思ってンだろォ!?だったら俺を倒して限界を超えてみろォ!!」
長身の男、五平は余裕を崩さず堂々と竜神の前に立ちはだかる
396 名前:流浪人[sage] 投稿日:2010/05/05(水) 19:35:11.82 ID:PPlbhVwo [14/23]
「クッ!」バリッ!バリバリバリバリッ!!
竜神が電撃を放つ。しかしそれは五平の左手であっけなく防がれた
「!?」
「ククク…俺の能力、実は『電撃使い』能力名は『微電機関(ボルテクッスドライヴ)』…体の神経は電気信号、それに筋肉を動かす事も電気で出来る
…テメェらお子様には出来ねェもう一つの使い方だァ!」
ギュンッ!!ドドドドドドドド…バキィッ!!
五平の電撃の威力自体は大した事はないのかもしれない。
しかし神経一つ一つや筋肉を微細に動かせる演算の精密動作性は間違いなくレベル4クラスであった
巨体でありながら常人では考えられぬ速度で移動してゆき、竜神の体をいとも簡単に吹き飛ばし、それを空中で間髪入れずに襟元を掴み上げる
「目的は暴力!極意は殺生!それが超能力の本質だろォが!!」
喜平は金庫を破り中に入っていた印鑑を押し終えた証書を竜神の親指に持っていき、電子操作で指紋照合をさせた
「これでよし。これで上条能力育成会とやらはおしまいだ」
喜平が悪魔の表情で書面を眺めている時、後ろの扉が開き、人の気配がした
アジトで留守番をしているはずの西脇という男がなぜかここに来て立っている
「西脇…?どうした?」
「つ…強ェ…」
そうして男は倒れた。その後ろに居たのは――
397 名前:流浪人[sage] 投稿日:2010/05/05(水) 19:37:31.90 ID:PPlbhVwo [15/23]
「る、流浪人!?」
流浪人と呼ばれる男その人だった。
「悪い、遅くなったな。話はこいつから全て聞いた」
「またテメェかァ…?テメェもこのガキみたく『能力は自分を高めるため』とかほざく口かァ?」
五平や周りのスキルアウトを気にする事なく歩みをすすめていく流浪人
その目はいつにない狂気で真紅に輝いていた。
流浪人は口を開く。
「いや――」
「能力は凶器、演算は自己実現欲、どんな綺麗事やお題目を口にしてもそれが真実」
「竜神さんが言ってる事は一度も人を殺した事のない者が言う、甘い戯言だ」
竜神の顔が絶望にゆがむ。五平はなんとなくだがその台詞を聞いて口元を吊り上げた
竜神の精神は限界だった…この数年間の孤独、さらに喜平の裏切り、
そして自分を少しだけ理解してくれた名の知らぬ流浪人にまで信念すら否定されてしまった。
398 名前:流浪人[saga] 投稿日:2010/05/05(水) 19:39:42.97 ID:PPlbhVwo [16/23]
しかし、流浪人は続ける――
「だが…俺はそんな真実より竜神さん…上条当麻や超電磁砲、御坂美琴の言う甘い戯言の方が好きだ」
自分に向けられた屈託の無い笑顔に竜神の顔がハッとする。そして一抹の疑問
(なんで…私が言ってないのにお兄ちゃん達の名前を…!?)
「…出来れば…その戯言がこの町の…世界の真実になって欲しいぜ」
蛭間兄弟は心底うんざりしていた。説教というにはあまりにも主観が過ぎる。
「兄貴ィ…コイツ殺してもいいよなァ?」
「ああ、何かと目障りな奴だ。ブチコロシ確定だ」
「おう、お前等」
五平が声をかけると部下のスキルアウトたちが流浪人を囲み、臨戦態勢を取った。
「流浪人!逃げてぇ!!」
竜神が叫ぶが、もう遅いだろう。一般の人間であれば逃げられないし、嬲り殺される。
「チッ…けが人が出て冥土返しが忙しくなりそォだぜ…医者通いが嫌ならどけ」
とたんに流浪人の口調が五平と似た。しかし今そのような事を気に掛ける輩は居ない。
スキルアウト達はただ目の前の男を殺すという事だけしか念頭に無かった
「怪我人は出ねぇよ!!出るのは死人!!テメェ一人だぁ!!!」
400 名前:流浪人[saga] 投稿日:2010/05/05(水) 19:42:26.45 ID:PPlbhVwo [17/23]
5人が一気に襲い掛かる。それに対して流浪人は全く微動だにしない。
――だが一瞬の間に5人全員が吹っ飛んだ。
「!!!!!!!!?????????」
周囲のスキルアウトだけでなく竜神、蛭間兄弟も驚愕していた。
何が起こったかすらわからない。
流浪人が軽く床を蹴ると流浪人の姿が消えた。
「こっちだっつゥの」
声のする方向を振り返るスキルアウト達。
スキルアウト達の後ろで壁を背にもたれかかり腕組みする流浪人。
今度は別の二人が流浪人に襲い掛かる。一人のナイフが流浪人のみぞおちに刺しかかる刹那、
突然腕が曲がりもう一人のスキルアウトの横腹に刺さった
「うおあああああ!!てめえ何のつもりだあぁあああ!!???」
「ち、違う!!手が勝手に!!……ぐはっ!!」
流浪人が軽く胸を押すだけでスキルアウトが10m程吹き飛ぶ
401 名前:流浪人[saga] 投稿日:2010/05/05(水) 19:44:50.80 ID:PPlbhVwo [18/23]
喜平が目を見開きながら叫ぶ
「な、なんだ!?魔術か!?」
この場の殆どがそう思っただろう。超能力と呼ぶにはあまりにも次元が違う。
理解の範疇を超えていた。
だが竜神と五平はこの状況を少なからず分析できていた
(違う!魔術なんかじゃない…これは「ベクトル」だわ!!)
(敵のベクトルを曲げる能力 体のベクトルを集約させる能力 そして運動のベクトルを読む能力…
全てのベクトルを最大限に生かして最小の運動量で複数の相手を同時に仕留めてやがる!!)
あっという間に全てのスキルアウト達を下し、その中に流浪人が佇む。そしてぽつりとつぶやいた
「――ひとつ、言い忘れてたぜ」
「学園都市第一位、一方通行の能力は『微電機関』じゃねェ。あらゆるベクトルを支配する、能力名『一方通行(アクセラレーター)』
能力名そのものが通称名になン程の強さと応用、柔軟性を併せ持つ学園都市最強の能力だ」
「「!!!!!!」」
戦慄する喜平。信じられないといった表情を浮かべる竜神が口を開く
「まさか…じゃあアンタが一方通k」
「面白ェ!あの晩は小物だと思っていたがコレ程強ェとは!テメェ力を隠していやがったなァ!!」
402 名前:流浪人[saga] 投稿日:2010/05/05(水) 19:48:16.14 ID:PPlbhVwo [19/23]
「…お前と違って人を傷つけンのはそンな好きじゃねェンだわ。だがあン時のテメェは最高にぶち殺したかったぜ」
五平が微電機関を作動させる。
壁まで跳躍し、天井を駆け慣性一杯の攻撃を仕掛けた
「この学術都市に第一位は二人もいらねェ!!この俺こそ第一位!一方通行だァ!!」
衝撃波がビルの窓を吹き飛ばす。それほどまでに五平の体は速かった。しかし
「!?」
ガオォン!!
「…ベクトルの変換ってのは、反射って設定も出来ンだ。第一位の称号に興味すらねェが…それでもお前みてェな奴には譲れねェよ」
五平の体が天井に突き刺さる形でこの部屋のオブジェになっていた。
そして一方通行は喜平をにらみつける
「ひぃっ!」
「さて、あとは一人、」
一方通行が歩み寄る
「黒幕のテメェはこの程度じゃ済まさねェ…」
「体の気圧に対する抵抗力すべてを開放して」
「生きたまま内臓を全て外に出してやる」
一方通行の髪が逆立ち、口元を三日月のように歪め、目を見開く
403 名前:流浪人[saga] 投稿日:2010/05/05(水) 19:52:40.76 ID:PPlbhVwo [20/23]
「ひはぁ」
喜平は耐え切れず情け無い声を上げて落ちた。失禁というおまけつきで。
「やれやれ…策を張る黒幕ってのはテメェで動かない分、度胸が無ェな」
証書を幾片にも破りながら続ける
「…悪ィな。竜神さン。俺ァ騙す気も隠す気も無かった…
「ただ…出来れば言いたくなかったぜ」
その目には先ほどの狂気はなく、ただ深い悲哀で染まっていた
「…」
「そんじゃ…達者に暮らせや」
出て行こうと扉に歩を進める一方通行。だが…
「ま…」
「待ちなさいよ!!」
竜神がそれまでの雰囲気がなんだ、っといったように怒鳴る
「アンタ私一人だけでどーやって上条能力育成会を盛り立てる気!?少しぐらい協力したっていいじゃない!」
404 名前:流浪人[saga] 投稿日:2010/05/05(水) 19:55:03.88 ID:PPlbhVwo [21/23]
「私は人の過去なんかに拘らないわよ!!」
(いや…喜平みてェなのも居ンから少しは拘れよ)
「俺は止した方が良いンじゃねェの?…折角汚名返上したのによォ…なにしろ本物の一方通行だもンなァ?」
一方通行は苦笑いをしながらドアに手をかける
「私は!学園都市第一位のアンタに居て欲しいんじゃなくて!!流浪人としてのアンタに居て欲し―――」ハッ
あわてて口を閉ざす竜神、しかし殆ど最後まで言ってしまい急に押し黙ってしまった
「もういいわよ…アンタが出て行きたいならそうすれば?」
一方通行に背を向ける竜神
「でも…出て行くならせめて本当の名前ぐらい教えていきなさいよ。それともアンタ、本当の名前すら言いたくないの?」
…ガチャッ
バタン…
――行ってしまった。これでまたこの広いビルで一人ぼっちかぁ…と心の中でため息をつく竜神
405 名前:流浪人[saga] 投稿日:2010/05/05(水) 19:56:53.63 ID:PPlbhVwo [22/23]
「鈴科」
はっとして振り向く。そこには一方通行が扉を閉め、微笑んでいた
「鈴科百合子。俺ァ少し旅に疲れた。いつ出て行くか解らねェが」
科学と科学が交差するとき―――
「――しばらく厄介になンぞ」
――――浪漫譚は始まる
「…ってちょっと待ちなさい!百合子ってアンタもしかして女ァあああ!???」
「あァ?それって結構失礼じゃねェか?」
「あァ?じゃないわよ!!大体アンタその肌で歳いくつなのよー!!!」
「あァー…歳とか最近数えた覚えねェなァ」
(くっ!悔しい!!歳を気にしないで生きているなんて!!)
終わり
407 名前:流浪人[sage] 投稿日:2010/05/05(水) 20:04:07.23 ID:PPlbhVwo [23/23]
どう見ても突っ込みどころ満載でした。
地の文入れると難しいですね。良い勉強になりました。
100レス以内なら…って事でこんなに投下しちゃった…
ネタ元は和月先生の「るろうに剣心」です。
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コメント
さり気ない名作
ラビットの作者が総合で書いたのコレなんだよな
ラビットの作者が総合で書いたのコレなんだよな
るろけん大好きだったなぁ…懐かしい!
No title
ラビット
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最後の最後に吹き出したわ………
鈴科百合子は反則だろ