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一方通行「帰ンぞ 欠陥電気」

1 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:19:37.99 ID:EuY5EXU0 [1/121]
妹達の9982号が生存していて、とある実験から一方通行に助けられる
その二日後から始まる話
※9982号は御坂美琴の人格と記憶をもつ

一方さんと9982の出会うまでの過程  一方さんと9982の罵りあい見たければどうぞ

http://asagikk.blog.2nt.com/blog-entry-541.html


9982が寝て過ごした空白の一日  佐天さん初春と一方さんが力を合わせて打ち止めを探す

http://asagikk.blog.2nt.com/blog-entry-569.html

2 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:21:03.17 ID:EuY5EXU0 [2/121]



「ふぁー、……ねむぃ」

眠たい目をこすりながら、同じベッドで寝むる小さな同居人を起こさないようにしてわたしは洗面所へむかう。
新品同様の歯ブラシつかい、洗顔を済ませてわたしは服を着替えた。

「こいつらは、まだ起きるわけないわよね…」

そう言ってわたしは軽くため息を吐く。
同居人となってから2日。正確には3日だが、彼らの生活パターンをわたしはほぼ把握していた。
昼前に起きて昼食をとり軽く睡眠、遅ければ日が暮れる頃に起き出して夕食の買い出し、もしくは外食で済まし就寝である。
昼寝がゲームになるか出掛けて遊ぶかテレビを見るかくらいしか変わらないというものだった。

「どうしようかな」

いつもの習慣から遅くても8時には目が覚めてしまう。
自身の記憶ではないが、こればかりはどうしようもないと、わたしは一人ごちる。
わたしは学校へ行かないことに後ろめたさを感じていた、いつかは慣れてしまうのかもしれないのだが。
そうはいっても、友人に会えないことに慣れてしまう残念でならない。
事情が事情なだけに会うわけにもいかないのだから、仕方の無いことだがとわたしは無理やり納得した。

「散歩でもしよっか」

気分を変えるようにわたしは自分に言い聞かせる。
カーテンを閉め切った室内にいても気分が落ち込むだけだから。


3 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:22:13.75 ID:EuY5EXU0 [3/121]

8時30分過ぎ、朝の早い学生ならとっくに登校を終えている時刻である。
この時間に登校している学生は、焦って走っているか、開き直ってだるそうに歩いている遅刻の常連者のどちらか。
私服で悠々と歩いているわたしの姿をみて首を傾げるもの、あからさまに視線を向けるものさまざまだ。

家を出て20ほど歩いただろうか。気がついたら見慣れた景色の中に立っていた。
そこは、いつだったかツンツン頭の男の子と戦った河川敷だった。
ふと、思いつ能力を使用してみた。

「これじゃあ、剣というよりナイフね…」

不思議とショックはなかった。わたしの記憶ではもっと能力の強さにこだわっていたはず。
単純にまだ実感がわいていないだけなのかもしれないが。
砂鉄の剣は長さもさることながら、形状が安定しない。気を抜くとすぐに形が保てずに崩れてしまうことが簡単に予想できた。
身体検査をしていないので、正確なことは分からないがレベルは3~4といったところだろう。
妹達の能力が強くても3であることから、それよりやや強いくらいか。

「これじゃあ超電磁砲は名乗れないわ」

そういってわたしは苦笑した。




5 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:23:26.10 ID:EuY5EXU0



「あ、帰ってきた。おっかえりー! どこいってたの? ってミサカはミサカは聞いてみる!」

帰ってくると小さな同居人、打ち止めは目を覚ましていた。
人懐っこい笑顔を浮かべわたしに話しかけてくる。

「散歩よ、ただの散歩」

「えー、それならミサカも誘ってくれたらよかったのに」

「何時に起きたの?」

「さっき! ってミサカはミサカは正直に告白する!」

それじゃあどうやっても誘えないでしょ、という言葉を飲み込んでわたしは苦笑する。
聞くところによると、打ち止めは元々それなりに早く起きていたようだが
もう一人の同居人である妙に白い少年(年上)、一方通行に生活のペースにあわせている内に朝遅く起きるようになったらしい。
今の惨状を見る限り、甚だ疑問だが。

「朝はもう食べた?」

「ううん、あの人が起きたら食べようと思ってるんだけど」

打ち止めはそう言って、もう一人の同居人がベッド変わりに使っているソファーに目を向けた。
どうやら一方通行はまだ寝ているらしい。もっとも予想していたことであるが。



6 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:23:58.85 ID:EuY5EXU0

「じゃあ、さっさと起こしてきて。用意するから」

「おっけー! ってミサカはミサカは任務を遂行する!」

さて、何を食べようか。お湯をいれてお手軽につくれるインスタントでもいいのだが、少々飽きてきた。
幸い昨日の買い物で食パンを購入しているので、ジャムでも塗って食べようかと思案し少し迷ったが決定。
わたしは冷蔵庫からジャムを取り出し食器を用意をする。

「起っきろー! ってミサカはミサカは問答無用の実力行使!!」

ドスンという大きな音が聞こえてきて、それから数秒もしないうちに一方通行の怒鳴り声が聞こえた。

「こンのクソガキがァ! 朝っぱらからなにしやがンだっ!! ぶっ殺すぞォ!!」

「ふふーん、いくら声をかけても起きないあなたが悪い、ってミサカはミサカは開き直ったり」

いつものやり取りだ。
剣呑な雰囲気の一方通行もそう見えるだけで、結局幼い少女に勝てないのだから。
わたしは一方通行たちのやりとりを聞き流し、朝食の準備をすすめた。



9 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:26:09.35 ID:EuY5EXU0

騒がしい朝食が終わり、打ち止めに朝食の後片づけを任せてわたしは紅茶を飲みながらテレビを見ていた。
一方通行もソファーに転がって興味なさそうにテレビを眺めている。
見ているのは普通のニュース番組で、ペットの特集だとか美味しいレストランの紹介といった内容である。
特に内容に興味があるわけではないので、ボーっと見ていたら、わたしはふと思い出したことを口に出した。

「今日なんかあるって言ってなかった?」

「あン? まるで記憶にねェな」

一方通行は心底どうでもよさそうに言葉を返す。

「そういうと思ったわ…」

一方通行の態度にわたしはため息を吐く。
この少年、一方通行は言葉や口調の汚さとは裏腹に以外に良い奴であるというのが、わたしの一方通行に対する評価である。
実際一方通行がいなければ、わたしはどこかで野垂れ死んでいたかもしれないのだから。
施設では口汚く罵られもしたが、それはまあお互い様で。わたしも相当言いたい放題言ったのだ。
というわけで、一方通行は案外高評価ではあるのだが、普段の態度はどうにかならないものかとわたしは嘆息する。

「…」

気持ちを切り替えるべく、わたしは紅茶を一気に飲みほした。
一方通行は相変わらず興味なさそうにテレビを眺めている。



11 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:27:15.93 ID:EuY5EXU0

「片付け終ったよー、ってミサカはミサカは退屈な作業から解放されてホッと一息」

「ん、ごくろうさんってナチュラルに足を割って間にはいるな!」

「えー、別に減るもんじゃないしいいじゃん、ってミサカはミサカは言ってみる」

この少女はスキンシップが大好きなようで、事あることにわたしに引っ付いてくる。
手の掛かる妹ができたようで、悪い気はしないのだが。
わたしは仕返しにと、打ち止めの体を包むようにしてもたれ掛かった。

「ちょっと重いかも…ってミサカはミサカは………ハッ」

「言うじゃない。この口が悪いのかしら?」

「ひはひって…」

結局わたしもこのスキンシップを楽しんでいたりする。

「暑っ苦しいンだよオマエら。盛ってンなら外へいけ」

「なに、あんたもやって欲しいの?」

わたしがそう返すと、一方通行はソファーに寝っ転がったまま視線だけをこっちに向けて、口を開いた。

「頭がイカれてンじゃねェのか?」

「何よ今更、とっくにイカれてるんでしょ?」

「あァ、そういやそうだったな。イカれた欠陥電気さンよォ」

「そういや、それ気になってたんだけどさ、『欠陥電気』ってなに?」

「あン? オマエのことに決まってンだろ」



13 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:29:04.85 ID:EuY5EXU0

何を言ってるんだこいつ、という顔をする一方通行。
打ち止めは二人の会話にまるで興味がないようで、いつの間にチャンネルを切り替えたのか子供向けの教育番組を見ていた。
シュールな着ぐるみたちがダンボールとか厚紙をつかっておもちゃを作ったりする、アレだ。

「そうじゃなくて、その『欠陥電気』の由来よ」

「オマエらのことだろ」

「もしかして妹達のこと?」

「他に誰がいンだよ」

一方通行はそう言うと立ち上がり、冷蔵庫から缶コーヒーをとりだしソファーへ戻る。
ドスンと乱暴に座り込むとプルトップをあけて一口。

「もうオマエ欠陥電気でイイだろ、はい決定ェ」

「はぁ!? なんでそれがわたしの名前になるのよ!!」

一方通行の物言いにカチンと来てわたしが怒鳴り返すと、すぐさま教育番組を熱心にみていた打ち止めから無言のブーイング。
とっさのことで、随分と大声をだしてしまったことをわたしは反省しつつ目の前の一方通行に恨みがましい目を向けた。

「…意味わかんないんだけど、なに言ってんのあんた」

「名前がないと不便だと思って気を利かせてやったンだが、迷惑でしたか欠陥電気さン」

一方通行にしては信じられないほどバカ丁寧な口調。完全にバカにしている。



14 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:29:43.81 ID:EuY5EXU0


「じゃああんたはいっそ『能力制限(リミッター)』とかに改名したら、第一位さん」

「欠陥電気が気に入らねェなら他にも色々あンぜェ? 
『廃棄番号(ロストナンバー)』『自殺未遂(デッドオアライブ)』『偽超電磁砲(ローエンドクラス)』とかよォ」

バカにしているわけでなく、一方通行はどうやらわたしにケンカを売っているようだ。
しかも人の過去を抉るようなドギツイケンカを。ならばこっちも容赦はしない。いやそんなものは必要ない。
過去を抉るなら、こちらも過去をえげつなく抉り出すまで。とわたしも口火をきる。

「ああ、そうだったわね。『快楽殺人者(ハニーキラー)』『性格破綻者(モンスタースタイル)』
『一万人殺して後悔(サイレンスヘルプ)』とか候補がまだいっぱいあったわ」

「…」

一方通行は目を瞑り眉間をピクピクと器用に動かし、ややあって口を開いた。

「…どうやら本気で死にたいンだな欠陥電気」

「…はぁ? ケンカ売ってるならいくらでも買うわよ『一万人殺しの後悔』」

「あァ? 上等だァ、今ここで跡形もなくぶっ殺してやンぜェ」

「やれるもんならやってみなさいよっ!! あんたなんか―――」

「うるさーい!!! ケンカするなら外でやって!! ってミサカはミサカは至福の時間を邪魔されて大激怒!!!」




15 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:30:31.33 ID:EuY5EXU0



「で、追い出されたわけなんだけど、どーしてくれるのよ?」

怒った打ち止めに追い出され廊下に立ち尽くす二人。
互いに我に返ると、飽きもせず責任のなすりつけあいをはじめた。

「はァ? そもそも俺の家なンだぞ? あのクソガキをどうにかしろよ超電磁砲」

「都合のいいときだけその名前で呼ばないでくれる『一万人殺しの後悔』」

「…」

「…」

無言の睨み合いが続く。
永遠かと思われた時間は思ったよりも早く終わりを告げた。

「…チ」

「…ハァ」

有り体に言えば疲れた。
何が悲しくて朝っぱらから幼い少女に怒られて家を追い出されるのか。
売り言葉に買い言葉とはいえ、随分と言葉が汚くなってしまったものだとわたしは反省した。

「…これからどうすんのよ?」

打ち止めの機嫌が直るまで、しばらく時間が必要だろう。
まあ、時間といっても今の番組が終わる頃にはこのことをすっかり忘れているはずだ。実に単純な幼女である。
とりあえず、件の共犯である一方通行に今後の方針をわたしは尋ねてみることにした。

「…」

無言。
口を開く素振りすら見せない。
まるで返事を返そうとしない一方通行に呆れてわたしが口をひらこうとしたとき、突然杖をついて一方通行は歩き出した。
わたしは心の中で一方通行に文句をいいつつ、慌ててあとを追う。



16 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:31:16.36 ID:EuY5EXU0


「…」

「…」

杖をついて小器用に歩く一方通行の2,3歩後ろをついてわたしは歩く。
先ほどから会話などは皆無である。特に話す必要があるわけでも、話したいわけでもないから問題はないのだが。

(考えてみたら、別に一方通行について行く必要はないのよね)
潰す時間といってもせいぜい長くても1時間くらいなもので、どこで時間を潰そうとわたしの勝手なのだが
不思議と一方通行と離れて行動するという選択肢はわたしになかった。

(なんでだろう?)
一方通行とわたしの間柄を考えたらありえないものだ。
もちろんわたしの記憶の中での話しだが、それを完全に切り離して物事を割り切ることができるほどわたしは器用ではない。
実に不思議だとわたしは思う。自分には、一方通行にとくに恨みとかはない、はずだ。
一方的に助けられたし、今は移住食すら世話になっている身の上。
記憶では妹達の仇で、この体にとっては死ぬ寸前まで追いやられた敵であったりしたが。

わたしがそんなことを考えていると馴染みのファミレスが見えてきた。どうやらあそこで時間を潰すようだ。
考え事で歩くのが遅くなっていたのか、一方通行との距離が開いていたのでわたしは駆け足でつめた。



17 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:31:57.84 ID:EuY5EXU0




「ブラック」

「わたしはアイスティー」

馴染みのファミレスの馴染みの席を陣取り、二人は注文を済ます。
とくに他に注文するつもりではないのだが、わたしはメニューを手にとって眺める。
一方通行はテーブルに肘を置いて手に顎のせ、どうでもよさげに外を見ていた。

「…」

「…」

店内に人は少ない。時間が時間なのでこんなものだろう。
こんな時間にファミレスにいるのはサボりの学生か、夜勤勤務の人くらいだろう。

「…」

「…」

わたしは店員さんには自分たちがどう見えるのかと、ふと気になった。
兄弟には見えないだろうし、友達も厳しそうだ。恋人だとすると相当末期な関係に見えるだろう。
これが打ち止めだと、最早犯罪か。とそこまで考えて笑ってしまった。
わたしが世話になるまでは、一方通行と打ち止めの二人でこの店に着ていた筈だから。



18 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:32:55.18 ID:EuY5EXU0

「あン? なに笑ってンだオマエ」

わたしが突然笑い出したことを不審に思ったのか、一方通行が視線だけを向けて言った。

「別に? ただあんたとわたしがこうしている事がおかしくなって笑っただけよ」

「あっそ」

自分から話を振っておいて、わたしの回答など初めから興味がないかのような素っ気無い返事。実にらしい反応だ。
店内にはのんびりとした優しい音楽が流れている。注文の品はそろそろやってくるだろうか。
そう思っていたら、タイミングよく店員がやってきた。

「…」

「…」

コクリと一口。悪くない。すごく美味しいわけではないが、十分満足できる味だ。
わたしはアイスティーを飲みながら、いい加減見飽きたメニューを片付け唐突に一方通行に聞いた。

「なんでさ、わたしを助けたの?」

「…」

反応なし。
質問を無視しているのか、単に聞いてないのか判断に迷うところだ。
圧倒的に前者だと思うんだけども。同じ質問を2度するほうもするほうではあるが。
わたしがそんなことを考えていたら反応が返ってきた。

「あのガキに聞け」

非常に簡潔に答え、期待していた回答は得られない。
わたしは違う質問を重ねた。

「これからどうしたらいいと思う?」

「はァ? なンだそりゃ」

だと思う。自分でもなに言ってるんだこいつって思える内容だとわたしは思った。
そもそも自分で決めると言っておいてこれだ。一方通行が呆れても仕方ない。

「結構真面目な話なんだけど」

「おいおい、人生相談ならよそでやれ」

「人生相談、そうかもね」



19 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:33:51.56 ID:EuY5EXU0


わたしはそう言ってアイスティーに口をつけた。
一方通行は相変わらずよそを向いている。

「わたしはもう自分が超電磁砲だとは思えない。でも、黒子たちとの距離は変わったとも思えないの。なんだろこれ」

「知らねェよ」

「朝散歩してたときさ、能力がどれくらいか試してみたんだけどてんでダメだったわ」

「そりゃよかったな」

「あんたと会う前に超電磁砲ともやりあったんだけど、まるで歯が立たなかったし」

「ご愁傷さまァ」

気がつけばわたしが一方的に話し続け、一方通行は面倒くさそうに投げやりな返事をする。
そんなやり取りが続いたが、わたしは特に気にならなかった。

「…オマエ、さっきから何が言いたいンだ?」

「さあ? ただ話して整理したかっただけかもね」

「あっそ」

一方通行はやる気なさげに呟いてから、続けた。

「クソガキにも言ったンだがよォ、オマエらはどういう神経してンだ?」

「なにが?」

わたしは一方通行の意図が分からずに聞き返す。
平然と返したつもりだが、逆に質問れるとは思っていなかったので内心わたしはちょっと驚いていた。

「俺がオマエらに、もっともオマエの場合はオマエ自身にだがよォ、何したか知ってンだろ?」

そう言った後に、理解できねえよと一方通行は呟いた。
一方通行の言ったとおりわたしは全て知っている。
超電磁砲だったときには知らなかったことも、NWに繋がったことで実験の詳細な結果すら把握しているのだ。



20 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:34:42.94 ID:EuY5EXU0

「NWに繋がったんだから当然知ってるわよ。ずいぶんとエグイ殺し方したとか色々ね」

「あァ、やり甲斐あったぜェ」

「でもそんなことはどーでもいいの」

「…どォでもいいの一言で済ます神経が、理解できねェっつってンだよ」

「むしろこっちが聞きたいのよ。どうしてわたしたちを助けたのか」

「知るかンなもン」

一方通行は一瞬顔を歪めたかと思うと、そっぽ向いたそう吐き捨てた。
一体どんな理由で、何を考えて一方通行は助けたのか。
(打ち止めは知ってるのかな。私には―――)

「はっきり言って、今更すぎて全っ然わかんない」

「ンなこと、どォでもイイだろ」

「打ち止めを助けた代償であんたはハンデを負ったのに、恨むどころか大事にしてる」

「…」

「今回の件も、あの施設を潰したことも…」

「くっだらねェ」

そう吐き捨てて一方通行が立ち上がろうテーブルに手をかけ、動きが止まる。
お店の出入り口を見たまま顔を僅かに引きつらせる一方通行。
何事かと思ったときに、声が聞こえた。

「お? ああ! 白いおにーさんっ!!」

「さ、佐天さん店内は静かに……あっ」



21 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:35:09.28 ID:EuY5EXU0

わたしは、聞き覚えのある声の主に視線を向け一方通行と同じように顔を盛大に引きつらせた。

「あはは、すみません騒がしくしちゃって。その、お久しぶりです。
改めてこの前はありがとうございました」

「ありがとうございました。わざわざ私の分のお金まで…」

「…気にすンなつったろ」

声の主は間違いなく御坂美琴の友人。佐天涙子、初春飾利であった。
どういった経緯で一方通行と知り合ったのかはわたしにはまるで想像できなかったが、これは非常にまずい状況だ。
まずわたし自身の存在がまずい。そして一方通行と一緒にいるところというがまずい。
恋人だどうだという以前に、このことが御坂美琴の耳にでも入ったら、打ち止めの情報規制が台無しになる。
わざわざNWを切断までしているというのに。
今更であるが、現状維持か記憶消去を決めるまでは、わたしは誰とも会うつもりはなかった。
いろいろと手遅れになってしまったが。

「いえ、大したことはしてませんから…………って、御坂さん!?」

「え? み、御坂さん!?」

「あ、あはは。はい、美琴さんですよー……」

いっそ妹達を演じてやろうとも考えたが、わたしはいろいろ無理そうなのでやめた。




22 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:36:37.10 ID:EuY5EXU0
欠陥電気編って入れるの忘れてたじゃんかようおおおおおおお


24 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:37:33.13 ID:EuY5EXU0



「御坂さんとお兄さんは知り合いだったんですね」

「…ええ」

「どこで知り合ったんですか?」

「…ど、どこだったかな、ちょっと覚えてないかも」

たった3日前に凄惨な実験があった施設の地下で出会ってすぐ殺し合いました、とは流石に答えられない。
むしろ、二人がどうやって一方通行と知り合い、こうして席をともにしようと考えられる間柄になったのかわたしは知りたかった。

「そうなんですか、私たちは――」

会いたかった、もう手を伸ばしても届かない存在だと諦めていた友達が目の前にいる。
そんな夢のような景色は、今のわたしにとっては隙間なく設置された地雷原に見えた。

「あれ? そういえば今日お休みなんですか? ウチの学校は2限で終わりだったんですけど」

「えーっと、初春さん、黒子何か言ってなかった?」

「まだ、白井さんから連絡ないんです。御坂さん、やっぱり事情は話してもらえないですか?」

話を反らそうとしてどうやら特大の自爆を踏んでしまったようだ。わたしは胸中で舌打ちした。
いま黒子がどういう状態か、そんなことは少しでも考えれば分かることだ。
迂闊に黒子の名前を出したわたしは自分を殴りたくなった。
どういう状況なのかわからない以上、下手なことは口にだせない。


26 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:39:24.68 ID:EuY5EXU0

「初春! 昨日も遅くまで御坂さんと話して納得したんでしょ? 無理言っちゃダメだよ」

「そう、ですね。すみません御坂さん…」

「ううん、わたしの方こそ」

御坂美琴は思ったより上手くやっているようだ。
黒子のことがわたしは気に掛かったが、今はどうにもできない。
正体を明かして慰めるなど論外だ。

「そ、そうそう! あのちっこいのは元気にやってますか?」

「あァ、うぜェくらいにな」

場の空気を読んだのか、佐天に同調するかのように一方通行にしては珍しく即答した。
元気にやってます。テレビ番組のために同居人を追い出すほど元気です、と。
相変わらず、覇気の欠けたやる気のなさそうな声ではあるが。

「あはは、私も小さい頃よく見ましたよそれ。中々いい仕事するんですよ」

「私もよく見てました。御坂さんはどうですか?」

先ほどの暗い表情から一転し、初春は楽しそうにわたしに話題をふる。
(気を使わせちゃったかな…)
と、考えながら話に乗るべくわたしは話題に入った。

「そうね…、あんまり見たことなかったけど、大好きだったわよ」

「糸電話とか空気砲とか作ったりしませんでした? 初春はどうよ?」

「佐天さんはむしろ、新聞紙でちゃんばらごっことかしてそうなイメージなんですけど…」

「確かにそれは言えるわね」

「御坂さんまで!?」




27 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:40:19.75 ID:EuY5EXU0




太陽がすっかり昇りきった昼時。
当初の予定よりも長いしてしまったファミレスをでて、わたしは背筋を伸ばした。

「んー、笑いすぎてちょっと肩こっちゃったかも」

「長々とすみませんでした。なんか引き止めちゃったみたいで」

「佐天さんが話題を引っ張るから…」

「いいわよ、久々だったから楽しかったわ」

すっかり盛り上がってしまい、2時間程話し込んでしまった。
驚くべきは、その話題の中に少し、ほんの少しではあるがあの一方通行が入ってきたことだ。
主に否定的な意見だったり、罵倒にも似た突っ込みばかりだが。

「あはは、また奢ってもらっちゃいましたね」

「そんなこと全然気にしないでいいわよ」

「オマエが言ってンじゃねェよ」

「す、すみません」

佐天がお礼をいい、わたしが謙遜し、一方通行が突っ込み、初春が慌てて謝る。
この面子で盛り上がったことに内心驚きつつも、わたしはまたこうして集まって話がしたいと思った。

「じゃ、私たち帰りますんで」

シュタ、と手を挙げて佐天は言い、初春は軽く会釈をする。

「うん、またね。わたしたちも家に――」

痛恨のミス。またも致命的な自爆をしたことに気付き、わたしは慌てて言葉を止めた。
一方通行は二人に気付かれない位置から、なにやってんだオマエ、的な視線でこっちを見ている。

「えっと…御坂さんは寮ですよね?」 

「あはは、なにを言ってるのかしらねわたし」

わたしは笑って誤魔化すことにした。
2時間にもおよぶ談笑の中で幾度となく地雷を踏み抜いているので、今更であるが。



28 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:41:12.15 ID:EuY5EXU0

「あ、二人ともちょっと聞いてくれる?」

「なんですか?」

「?」

わたしは背を向けて歩きだそうとした二人を呼び止める。
すっかり忘れてしまっていたが、非常に重要なことだ。

「今日話したこととかさ、黙っといてもらえないかな?」

「…白井さん、にですか?」

その言葉に、初春は訝しげな表情を浮かべポツリと呟く。
彼女は心底黒子のことが心配なんだろう。呟いた顔は、まるで納得する理由を下さいと言わんばかりである。
友人思いな初春をくすぐったく思いつつ、こんなことを言うとまた変な顔されるだろうな、と考えながらわたしはきっぱりと言った。

「私に黙っといて欲しいの。できれば、黒子にもだけど」

その言葉に二人はどう反応を返すべきか迷っているといった顔をした。

「えっと、どういうことなのか聞いてもいいですか?」

佐天は当然の疑問を口にする。
もちろんそれに答えることはわたしにはできなかった。何を言ったところで二人には迷惑しかかからないのだから。
わたしは心苦しさを感じながら言う。

「言えない、かな。ごめん」

「そう、ですか…」



29 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:42:49.09 ID:EuY5EXU0

佐天の表情に、後ろめたさで胸がいっぱいになる。
理由を言えないまま彼女たちに一方的に約束を取り付けなければならない。

「…」

「…」

初春は会話に入らずに、何かを考えるかのように視線を地面に向けたまま動かさない。
正体に気付かれたのだろうか。ありえないと内心呟きながらも、その様子にわたしは背筋が凍る気がした。
永遠とも思える沈黙に突然終わりがやってきた。

「わかりました。今日のことは御坂さんにも白井さんにも喋りません」

「初春!?」

「え、いいの? 自分で言うのもなんだけど、相当変なこと言ってんのよ?」

「事情はわかりませんが、白井さんと、そのことは関係あるんですよね?」

「…うん。だから――」

「あーもー! いいです御坂さん! その先はもう言わなくて!!」

「え?」

「初春だけにいい格好はさせないよ! 友達のことは、信じなくっちゃね」

「佐天さん…」

それじゃー、と大きく手を振って駆け足で去っていく二人を見送ったわたしはぽつりと呟いた。

「ありがと、佐天さん、初春さん」

これからどうなるかまるで分からないが、なんとかしてやろうと改めてわたしは思った。
いつまでも二人が去っていった方を見ていても仕方がないので
わたしは打ち止めがお腹を空かせて待っているであろう家に戻るべく、振り返る。

「なにボーっとしてやがンだァ」

「べっつにー。あんたには関係ないわよ」



30 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:43:23.95 ID:EuY5EXU0

一方通行は、あっそ、と言って歩き出した。
結局こいつが何故自分を助けたのか分からずじまいだったが、根はいいやつなんだろうとわたしは勝手に納得した。
わざわざこうして二人を見送るわたしを待っているあたりに。
まだ足をとめて動かないわたしを不審に思ったのか、一方通行は振り返って訝しげな視線を送る。
そしてこう言った。


「さっさと帰ンぞ、欠陥電気」


「へいへい」

一方通行の思わぬ物言いに驚きながらも、欠陥電気は家に帰るべく歩き出した。





31 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:44:40.15 ID:EuY5EXU0




――――――――――――――――『再会』――――――――――――――――





32 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:45:33.51 ID:EuY5EXU0



「残念だけど、予想した通りよくない状態だったよ」

「…」

最悪の結果だった。
そもそもあの予測演算を知ったときから、予想できた事態である。
いまさらそんな分かりきった結果を聞いたところで、何も変わらないはずだった。
けれど、考えとは裏腹に手を握り締め顔を歪ませている自分がいることに、一方通行は気付いた。

「無理な実験の強行が原因だろうね」

医師、『冥土帰し』から出る言葉は、どれも一方通行の胸を抉る。
虚勢を張り続けることはもうできなかった。
聞かずにはいられなかった。たとえそれがどんな最悪の答えだったとしても、一方通行は知らずにはいられなかった。

「…そォかよ。あと、どれくらい保つ?」

搾り出すかのように、一方通行は言った。
たったこの一言を言いだすのに、途方もない労力を要した。
熱くも寒くもなく一定の温度が保たれているはずなのに、一方通行の額から汗が滲み出ていた。
二人がいるのは学園都市にある病院の一室。
ここへ訪れたのは、一方通行の同居人である少女の状態を検査のためだった。




34 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:46:41.36 ID:EuY5EXU0


静寂が室内を支配する。
一方通行にはそれが永遠ともいえる時間に感じた。

「いいのかい?」

冥土帰しは念を押す。
まるで死刑執行を確認するかのように、重々しい口調で。
だが、聞かないわけにはいかない。
ゴクリ、と喉を鳴らし一方通行は吐き捨てた。

「…言えっつてンだろ、さっさと喋りやがれ」

冥土帰しは、そうかい、と呟くと一呼吸おいてこう言った。


「そうだね、とても100歳までは生きられないだろう」




35 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:48:20.79 ID:EuY5EXU0
ちょwwwww俺アホスwwwwwww
今から欠陥電気編で再会は次だっつーのwwwwwwww
もういいやwwwwwwwwアホ杉ワロタwwwwwww

レス嬉しいんだぜ!ひゃっほー!

36 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:49:14.76 ID:EuY5EXU0


「は?」

冥土帰しの言葉に間の抜けた反応を帰す一方通行。
一方通行には、とぼけたの顔の表情筋をもつこの医師が何を言っているのかまるで理解できなかった。

「体はの方は健康そのもの、とは言いがたいね。無理な実験のせいで内臓器官の働きが弱い
筋肉もこの年齢の平均的な子に比べたら、ちょっと少ないね」

冥土帰しは、胃腸に優しい食べ物と適度な運動が必要だ、と分けの分からない言葉をを続ける。
え? 死の淵にいる少女を献身的に支え、抗えなかった運命に涙しながら
病院の屋上で少女の最後の言葉を胸にかみ締めながら少女の名前を呟く的な展開は、と一方通行が思ったかは定かではない。

「おい、ちょっと待て。は? え、なンだこれ」

白衣を着たカエル顔のおっさんの言葉に、一方通行の理解が追いつかない。
出オチです、と軍用ゴーグルを被ったやる気のない少女の影が一瞬一方通行の脳内をよぎる。

「うん、それに他の妹達同様に調整も必要だね。しばらくは入院してもらうことになるかな。
彼女にも準備があるだろうから、今すぐにとは言わないよ」

と、言って軽く笑う冥土帰し。
そこで一方通行は識った。この目の前の男はどうやら自殺願望があるのだと。
震える手で首に巻かれたチョーカーのスイッチに触れる。
最早、迷うことはない。



37 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:49:48.40 ID:EuY5EXU0




「あははは! ってミサカはミサカはあなたの醜態を笑ってみたり!! ぷぷっ」

「なに、心配してくれたのあんた? くっくっく」

「…」

チョーカーのスイッチを入れたところで打ち止めと欠陥電気が笑いながら室内に乱入。
一方通行は、二人のバカ笑いに怒りで体を震わせ能力を全開で使用しようとしたところで、打ち止めに能力制限を掛けられ御用となった。

秋の緩やかな日差しの中、病院から家までの距離を三人はのんびりと歩く。
打ち止めと欠陥電気が仲良く並んで歩き、そのやや後ろを陣取って一方通行は無言で足を動かしていた。
二人の会話を聞き流しながら、一方通行は帰りがけに冥土帰しが言っていたことを反芻する。

(悪いね、あんなことを言ってしまって。途中から彼女たちの存在に気付いてね)

(言ったとおり、彼女は他の妹達よりたぶん、保たないと思うよ)

(自覚症状なんてのは、まだ当分先の話だろうけども油断はできない)

(楽観はできないけども、悪いことばかりじゃないんだよ)

(世界中にいる妹達の調整が進んでデータが採れてね、そのデータを生かすことができる)

(彼女はきっと分かっているよ、自分のことだからね。君は―――)

胸クソ悪くなる話だった。
もともとの素体となった9982号、妹達自体が薬物付けて普通のクローンに比べ短命なのだ。
欠陥電気は、それに加え無理な実験を繰り返し行われた。
どれだけ生きれるのかは、まさに神のみぞ知る。

一方通行は、チッ、と舌打ちし目の前を歩く少女を見た。打ち止めと楽しそう話す彼女。
施設の地下で出会ったときのあの狂った姿は、今の彼女からは想像できない。
『超電磁砲(オリジナル)』の記憶を持った検体番号9982号、かつて自分が手にかけた妹達の生き残り。欠陥電気。
背負うつもりなど一方通行はさらさらない、だが簡単に切り捨てることもできそうになかった。
だから、この時間を続けたいと、そう思った。



39 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:50:30.78 ID:EuY5EXU0




「お腹空いたかも…」

「あんたねえ、昼しっかり食べてたじゃない」

「いや、そのね。甘いものは別腹ってミサカは言外に言いたいわけで…、ってミサカはミサカは恥じらいつつ呟いたり」

「帰ンぞ」

「いえーい! 即答速攻大否定! ってミサカはミサカはどこか既視感を覚えるセリフに唸ってみたり…」

「クレープの美味しいお店知ってるから、そこに行こっか」

「はい決定! ってミサカはミサカは民主主義にのっとって案件の成立を宣言したり!」

「俺の金だろうがァ!!」


一方通行にお決まりの台詞を吐かせたところで、二人は目的地へ向かい歩き出す。
青筋をたて、公衆では憚れるような内容の罵詈雑言を浴びせ一方通行は否定の限りを尽くす。
が、結局は少女達についていくことになるのだ。
このパターンは習慣化しており、特に欠陥電気が加わったことによって2対1の厳しい戦いを、一方通行は強いられるようになった。
彼の苦労の種は尽きない。

「あ、ちょっとやばいかも…」

「どーしたの? お腹でも痛いの? ってミサカはミサカはさり気ない気遣いをしてみたり」

「全然さり気なくないわよ」

欠陥電気は思いつきでクレープを提案したものの、よく考えてみればあそこは御坂美琴の生活圏であることに気付いた。
今の彼女にクレープを食べるだけの余裕があるかは分らないが、これは行かない方がいいのかもしれないと、欠陥電気は悩んだ。
記憶に新しい今日の午前、すでに御坂美琴の友達である佐天涙子、初春飾利の両名とブッキングしてしまっているのだから。
念のために口止めしているものの、いつ爆発するか分らない不発弾のようなものだ。
欠陥電気はこれ以上の失態は避けたかった。



40 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:50:58.20 ID:EuY5EXU0

「そこってさ、わたし……っていうか…、ああ、まどろっこしいわねっ! 
だから『私』がよく行ってた店なのよ。だから―――」

「なるほど…、ってそれぐらいでミサカが引くと…………って、いたーい!」

「頭イカれてンのかオマエは」

打ち止めに華麗なチョップを決める一方通行。実にこなれた動きである。

「ぶ、ぶつことないじゃない! ってミサカはミサカは涙目で抗議の声をあげ………って、いたいいたいいたい」

「このバカはなァ、すでにチョンボしてやがンだよ。これ以上手間掛けさせンな」

一方通行のバカ呼ばわりに欠陥電気は文句の一つもつけてやりたいところだったが、身に覚えがありすぎてやめておいた。
涙目で頭をおさえる打ち止めを慰めるように、欠陥電気は言った。

「あー、うん。帰りにコンビニにでも寄ろっか」

「うぅぅ、痛い頭を労わりながら、ミサカはミサカはその提案を飲んでみる」

その金も俺ンだろ、と喉まででかかった言葉を一方通行は飲み下し。
最近妙に消費が激しくなり買い置きが心もとなくなったブラックコーヒーを、大量に買ってやろうと固く誓った。




41 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:51:43.13 ID:EuY5EXU0



日が暮れて暗くなり、ネオンがようやくと出番がきたと働き始める。
一方通行は、早めの夕食を終え定位置となっているソファーに身を投げテレビを眺めていた。
打ち止めはどうでもよさげにテレビを眺める一方通行と違い、興味津々で番組に釘付けになっている。

「お風呂あいたわよー」

そこへ最近加わったもう一人の同居人、欠陥電気が声を掛ける。
欠陥電気は妙に可愛らしい柄のパジャマ姿で、まだ湿っている髪を拭きながら
冷蔵庫からミネラルウォーターの入ったペットボトルを取り出し打ち止めの横に座りこむ。
そして、ふん、と女の子らしからぬ掛け声で蓋を開け一口飲み言った。

「打ち止め、あんたちゃっちゃと入りなさいよ」

「えー、今いいところだからもう少し……」

言い切る前に意識がテレビに戻る打ち止め。
その様子にため息を吐きながら、欠陥電気もテレビを見やった。

番組内容はよくある、怖い話というやつだ。
なんというか、放送時期が遅い。冬というには早すぎるし、まだ暖かいけどもすっかり秋といえる季節。
しかも収録しているのが夏だと思われる格好のリポーター。
あ、これは視聴者を舐めているな、と欠陥電気が思って誰が責めよう。そんな番組だった。

「…あんた、これ見たあと一人で入れるの?」

中身が半分になったペットボトルをテーブルに置いて、欠陥電気は打ち止めに言う。

「一方通行と入るから大丈夫だよ、ってミサカはミサカはテレビから目を離さずに言ってみたり」

「ざけンなクソガキ。オマエ一人で入れ」

打ち止めの言葉を即座に否定する一方通行。
それも仕方のないことだ。なにせこの幼女、確信的な常習犯なのだから。
怖い映画などを借りてきては、一方通行にやれ一緒に寝ろだの風呂にはいれだのせがむ。
繰り返しきった流れに、一方通行はうんざりしていた。



42 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:52:30.36 ID:EuY5EXU0


「わたしはダメよ」

とりあえず言っておく欠陥電気。
彼女も短い付き合いであるが、打ち止めの行動が分りやすいぐらい読めた。
一方通行に断られた打ち止めが次にとる行動が。

「ぶー、いいもんそれなら一人で入るから」

相変わらず画面から目を離さないまま打ち止めは言った。
一方通行も欠陥電気もその言葉が嘘になる確信があったが
下手につつくと打ち止めの世話焼きの口実を相手に与えてしまう恐れがあるので放って置くことに決定した。
お互いに相手がそう考えているだろうなあ、という判断のもとに。

「うわぁ……夜のトンネルはもう通れないかも、ってミサカはミサカは震えてみる」

「ちょっとコレは来るわね…」

深夜のトンネルに白いワンピースを着た女性が現れる、といったものだった。
トンネルを通過するときに、誰も居ないはずの後部座席から突然女性の声が聞こえ振り返ると―――

「…ッ」

「な、なかなか怖いじゃない…」

画面いっぱいに件の女性と思われる顔(イメージ)がドアップで映る。
時期を外し、視聴者を舐めているかと思えばいい仕事をする製作会社だった。時期を外したのはテレビ局のせいだろうが。

「…あ、ちょっとトイレに」

別にトレイになら勝手に行けばいいものを、わざわざ口に出す打ち止め。
その理由は最早考える必要もなく、分りきっていたことだ。



44 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:53:46.67 ID:EuY5EXU0

「あっそ、勝手に行けよクソガキ」

「これチャンネル変えていい?」

実に冷たい反応である。自業自得だが。

「はァ? 俺はこのあとのに用があンだよ」

「興味ないわね、わたしはドラマが見たいのよ」

「ンなもンみなくても、オマエなら過去を振り返ってお手軽にドラマできンだろ」

「4部作ぐらいのシリーズ物になるあんた程じゃないけどね。っていうか、動物が見たけりゃ野良猫でも探してきなさいよ
まあ、あんたの顔みたらすぐに逃げ出すだろうけど」

「僻むンじゃねェよ、電気女」

「あっそ、なら鏡でも見てれば? 厳ついけどウサギがいるから」

打ち止めをおいて、不毛な争いに始終する。
この家でチャンネル争いが起きるのは稀である。
興味のある番組が極端に少ない一方通行、彼が好むものは静かな内容のものが多く
動物のドキュメンタリーや自然をテーマにした番組である。見るというより、ボーっと眺めるように視聴する。
そんな一方通行とは違い、欠陥電気は騒がしいB級映画や動きのあるドラマ、クイズ番組などを好んだ。
もともとの御坂美琴は寮生活であり、夜テレビを習慣がなかったのでさして見る番組は多くなかった。

もっともテレビを見ているのは打ち止めである。
バラエティから教育番組まで様々な番組を見ていた。聞いたこともないようなマイナー芸人の名前を挙げたり。
突然ダンボール工作を始めたりと、興味範囲が広い。
そういうわけで、チャンネル争いが起こることは稀なのだが。一旦始まると互いに譲らない。
負けず嫌いな性格も災いしてか、特に一方通行と欠陥電気のチャンネル争いは酷かった。

「ちょっと、チャンネル渡しなさいよ!」

「ざけンな、そもそも俺ンだぞ。ちったァ遠慮しやがれ居候がァ」

「別にいいわよ、チャンネルがなくたって……こうすれば」

「―ッ!? 能力使ってンじゃねェよ!」

「はぁ? 何で使っちゃダメなのよ。使ってこそでしょうが…って、ベクトル操作!?」

「残念でしたァ、オマエはそこで黙って指でも加えてろ」

「ちょっと! 卑怯よそれは!?」

「はァ? 使ってなンぼなンだろうがァ」

「…誰かトイレについてきて欲しいんだけど、ってミサカはミサカは………うぅ」


45 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:54:52.20 ID:EuY5EXU0




―――同時刻―――



上条当麻は己のバカさ加減に呆れていた。
不幸であることを自認し、口癖にいたっては、不幸だ…、という極めつけの不幸体質の彼は今、自分自身を殴りたかった。


話は二日ほど遡る。
その日の夕方、公園で黄昏ていると御坂妹(10032号)が現れてこう言った。
彼女の記憶はそのままだと、それだけ上条に伝えてさっさとどこかへ行ってしまった。
突然すぎて言葉の意味が分らなかったが、5分もしないうちに意味を理解し叫んでいた。

その後、上条は一日前に起きた事(三日前)を思い出し悩んだ。
彼女、欠陥電気(もっとも、上条は欠陥電気のことをどう呼ぶべきか決めかねているが)が生きている。
突然現れて、去っていった彼女の死亡説を聞いたのはまさにその日(三日前)の夜。
他ならぬ御坂妹の口から聞いたのだから、非常にややこしい。

理解が追いつかず、上条は働かない頭で話を整理する。
御坂美琴のそっくりさんがいる。そっくりさんなら一万人ほど居るのだが
問題なのは、そのそっくりな少女は御坂美琴本人の記憶を持っており、本人だと思って行動していたことだ。

一日前、(三日前)に学校に向かう途中で出会い、出会うなら眠りだした(漫画喫茶で徹夜と本人談)少女を自宅のベッドで寝かした。
その日の夜少女の姿は消え、御坂妹から少女が死んだであろうと聞かされた。
そして今日(二日前)の夕方に御坂妹と出会い、死亡が撤回される。
色々とすっ飛ばしているが、大まかな流れは大体こんな感じだ。
それから紆余曲折を経て――――現在(今日)に至る。
        


46 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:56:48.66 ID:EuY5EXU0
分りやすい図

三日前 少女と会って別れて 御坂妹から死亡の知らせ
二日前           御坂妹から生存の知らせ
一日前    
今日   自分をそげぶしたいと思う気持ち



>>1の二日後からは間違い 三日後からだよバカ野郎orz

47 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:57:37.06 ID:EuY5EXU0




美琴は、上条の胸を顔をうずめて泣いている。
いつもの強気で勝気な彼女は、どこにもいなかった。

「悪かった、頼れなんて気前のいいこと言っちまっといてこの様だ」

「……っ………ひっく…」

美琴はまだ少女の記憶がそのまま残っていることを知らない、そもそも少女が死んだという話すら聞いていない。
彼女の中では、自分の記憶を持った少女と寮で出会ったあとは、上条の家で一度会っただけだ。
そして次の日(二日前)の夕方に、上条から少女が消えたことを知らされた。それだけである。
上条は知りえた事情の全てを美琴には黙っていた。

「こうやってさ、お前が辛いことに気付かずに遅くなっちまたのは2度目だな」

「…べつに……あん、たのせいじゃ……ないわよ………っ」

美琴に余裕はなかった。少女と出会ったときにルームメイトであり後輩であり、大事な親友である白井黒子がその場に居たから。
出会ってそうそう美琴との能力戦で傷つき、茫然自失となっていた少女に美琴の制止を振り切って駆け寄る黒子。
黒子と少女が交わした言葉は多くない、それでも黒子はその存在がもう一人の御坂美琴であると信じて疑わなかった。
妹達の事情すら知らない彼女には、少女の正体など検討もつかないだろう。
だが黒子にとってそんな事情など問題などではなかった、大事な人が傷ついている。
黒子にはそれで十分だった。だから、なにもできないままで終ってしまったことに黒子は深く落ち込み傷ついた。

「ごめんな」

「あやまってんじゃ、ないわよ……っ…」

美琴はそんな黒子を慰める。だが、事情を話すわけにはいかなかった。話したくなかった。
妹達の存在を疎ましく思ってなどいない、しかしそれは美琴にとって禁忌に近いもの。簡単に気持ちの整理じゃつくものじゃない。
だから、黒子には話せなかった。



48 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:58:15.72 ID:EuY5EXU0


「悪い」

「ひっく……だから、あや、まんな…………」

二日間。少女が生きていることを聞かされてからの二日間、上条は少女を探し回り学園都市を駆け巡っていた。
美琴のことを考えていなかったわけではない、少女を見つけ事情を聞くことが事態の進展に繋がると。
それが最善だと信じて行動していたのだ。

少女の行方が分からなくなったと上条が美琴に伝えたとき、美琴は気丈に振舞った。
私は黒子を慰めるから、あんたはシスターの相手をしていなさい、と上条の前で演じきった。
上条が焦っていたからかもしれない。いつもなら気付けたかもしれない美琴の異変に上条は気付けなかった。
美琴の、助けを求める声を聞き逃してしまった。

「お前のさ、携帯から電話が掛かってきてたんだ」

「…え?」

美琴は二日前に上条と会ってから、連絡を一切とっていない。それはありえないことだ。

「白井からだったよ。お前を助けてやってくれって」

「くろ、こ?」



49 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:58:48.13 ID:EuY5EXU0


自分の記憶を持つ少女に怯え、困惑していた美琴に余裕などあるはずがない。
頼れるべき相手も自分から拒絶した彼女はすぐに限界を迎えた。
助ける側のはずの彼女は、気がついたら助けていたはずの存在よりもずっとぼろぼろになっていた。

「そりゃそうだろ、じゃなかったら流石の上条さんも常盤台の寮に乗り込めねえよ」

「…っ」

上条の言葉に美琴は身を震わせる。
それでもこうして助けにきてくれたのだから。この少年はいつだってこんなにも優しくて強いのだ。
美琴の胸はあたたかいものでいっぱいになる感覚を覚えた。
ただ―――いや、こいつならやりかねない、とも美琴は思った。なにせ前科持ちなのだからと、そう考えて少し笑った。

「…お前、なに笑ってんだ?」

「…、……前科一犯が、そんなこと言っても説得力がないわよ」

「はぁ!? 前のはちゃんと白井に許可とってから上がったって言ったろ!?」

上条の叫びに、美琴はくすくすと笑った。





50 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:59:21.13 ID:EuY5EXU0




「きっかり一時間ですの」

美琴のベッドに腰をかけ、微妙な距離をおく二人に黒子は言い放った。
突然部屋に現れた黒子に二人は驚くが、黒子の能力を考えれば不思議ではない。彼女は空間移動者なのだから。

「と、突然出てくるなよ白井。めちゃくちゃ驚いたじゃねえか」

「あなたとお姉さまをこれ以上二人っきりにするなどと、わたくしには到底許容できませんでしたので」

しれっ、と言い捨てる黒子。その様子に上条は脱力しながら答えた。

「あー、はいはい。憧れのお姉さまを独占して申し訳ありませんでしたー」

「わかりましたら、さっさとどこぞへ消えて頂きたいのですが」

お前はもう用済みだと言わんばかりに、しっしっ、と実に分かりやすいジェスチャーで己の意思を上条に伝える黒子。
大好きなお姉様のためなら毛嫌いする上条ですら使う。それが黒子クオリティ。しかし、それも終ればこれである。
今の美琴に対し自分が無力であることは嫌というほど理解した。悔しいが上条に頼らざる得なかった。
口には決して出さないが、美琴が上条を信頼しきっていることなど、黒子にとっては最早常識の類。
だからちょっと、自分でもやり過ぎかなと思いつつも、黒子は上条に八つ当たりせずにいられなかった。

「ちょ、ちょっと黒子!」

黒子の物言いが流石に酷いと、美琴は上条を擁護すべく強い口調で黒子をたしなめる。
美琴の強い口調に、黒子は目を見開き美琴を凝視する。
そして、

「お、お、お姉ぇ様? …あぁ、お、ぉ゛ね゛え゛ざま゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」

「うわっ、ちょっと抱きつかないでよ! こら、離れなさいっ!」

「黒子は、黒子は………っ」

突然抱きついたかと思えば、すんすんと泣き出す黒子。
そんな黒子を見て、美琴は振り払うことをやめ苦笑しつつ優しく抱きしめた。



51 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 01:59:56.83 ID:EuY5EXU0


「心配掛けたわね。ごめん」

「……っ……ひっく……」

「もう私は大丈夫よ。ありがとう、黒子」

非常に感動的なシーンのはずだったのだが、上条はやや頬を引きつらせて二人を見守っていた。
ここは由緒ある学園の女子寮で、男子禁制の花の園。当然今いる部屋も男が入ったことなどないだろう。
過去の自分を除いてだが。ここは男を感じさせるモノが何一つなかった。
そして目の前には中睦まじく抱きしめあう少女が二人。
ようするに、上条はひたすら居心地が悪かった。

「えー、じゃあ俺帰るわ…」

「あ、ちょっと待ちなさいよ!」

「……チッ」

空気に耐えられず上条が帰ろうとすると美琴がそれを止めた。
折角いい雰囲気になっていたのに、と黒子はかなりマジな舌打ちをする。
無遠慮な声によりお姉様との久しぶりの至福の時を邪魔された。もう少しお姉様の感触を堪能したかったのにと。

「お姉様? いいではありませんか、そちらの殿方にも非常に瑣末なことでしょうが用事くらいあるのでしょう」

「あ、でも…」

「流石に泣くぞこら」

「まぁまぁお姉様、もう夜も遅いですし引き止めるのは野暮ってものですのよ」

時刻はすでに11時を回っていた。
このままだと家に戻る頃には日付が変わっているかもしれない。
インデックスはもう寝ているだろうな、と風変わりな同居人のことを上条は思い出した。



52 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:00:22.61 ID:EuY5EXU0

「それも、そうね…」

非常に口惜しそうに、美琴はこぼした。
美琴の了承がでたので黒子はさっそく行動に移る。

「それじゃあ外まで送りますわ」

「おう、悪いな」

「あ、お姉様はここにいらしてくださいな」

「え? なんでよ…」

自分のためにわざわざ来てくれたのだ、見送りして当然だと美琴は主張する。
ただ少しでも長く一緒に居たいだけだったが。それは決して口にしない。

「はぁ…、やっぱりお疲れのようですねお姉様。三人よりは二人。そして黒子は空間移動者ですのよ?」

「ああ、そりゃそーだな。見つかったらヤバイし」

「わたくしなら殿方を見送ったあと空間移動で戻れますから」

「う゛」

完璧すぎる理論に、打ち崩す隙は見当たらない。美琴は唸って粘るが結局黒子に押し切られた。




53 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:01:17.80 ID:EuY5EXU0




寮館に見つかることなく、無事に脱出に成功した上条は安堵のため息を吐いた。
もうここまで来れば見つかることはないだろう。寮の入り口からは死角になった歩道で立ち止まる。

「わりい、助かったぜ白井」

「構いません、もともとわたくしが貴方をお呼びしたのですから」

「じゃあ、俺は…」

「少し、歩きながらお話しませんか? 上条当麻さん」

上条の言葉を遮り黒子が言った。その響きはとても冷たく、上条は言葉を失った。
美琴をお姉様と慕い暴走する白井黒子は影を潜め、上条の知らない白井黒子が現れる。
上条は、その提案を受け入れた。




54 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:01:47.08 ID:EuY5EXU0



「…」

「…」

無言で夜の道を歩く二人。
上条は黒子が喋りだすまでは、自分から口を開こうとは思わなかった。
地面を見据え、伏目がちに睫毛を揺らすツインテールの少女。もう5分は歩いただろう。
どう切り出すべきか迷っていたが、黒子は意を決して言った。

「あの『お姉様』は、一体誰なんでしょうか」

「さあな」

少女の正体の検討はついているが、本当のところを上条は知らない。
それを知るために走り回っていたのだから。
黒子は、まるで独り言かのように言葉を続ける。

「わたくしも、世情や噂に疎いほうだと自認していますが、聞いたことくらいならありますのよ?」

「…」

「お姉様、『超電磁砲』のクローンが軍事目的で造られている、なんていうバカげた話ですが」

だろうな、と上条は胸中で呟く。
わざわざこうして毛嫌いしているであろう自分と、二人っきりで歩く理由などそれしか考えられない。

「貴方も、お姉様も何か知っていて隠していませんか?」

「…」

「まあ、簡単に話してくれるとは思っていませんから」

この少女も足掻いているんだな、と上条は思った。
自分と同じように欠けたピースを埋めるために足掻いている。



55 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:02:24.74 ID:EuY5EXU0

「なので、力ずくで聞き出しますと言えば貴方はどうされますの? 上条当麻さん」

「…御坂が悲しむようなことをお前はしねえよ」

「…」

「認めるぜ。俺と御坂はお前が知らないことを知ってる」

「…っ、だったら」

「それは、御坂がお前に話す」

「―ッ」

美琴の名前をだされた黒子は一瞬肩をビクリ、と動かし口をつぐんだ。

「その役を俺がとったらまずいだろ?」

「…」

妹達のことは美琴がいずれ黒子に話すだろうと上条は考えている。たぶんそう遠くない日に。
その役目は美琴のもので、上条が奪っていいものじゃない。
だからそのことに関しては上条が言えることは何もないのだ。
ただ、黒子にとってなにも収穫がないままこの会話を終えてしまうのは、ずるいことだと上条は思った。
提案を受け入れたのだから、せめて今言えることを言っておこうと。

「あの子について一つだけ言えることがある」

「…、今さら言ってもしらじらしい限りですが、いいでしょう。念のために聞いておきます。それは何ですの?」

念のため、の所を妙に強調する黒子。この少女も大概素直じゃない。
黒子の反応にやや疲れた顔をしながら上条は呟いた。まるで自嘲するかのような響きで。

「俺も御坂も、あの子のことは全然知らないんだよ」

そんなことは見れば分かる。あの少女に誰かと問いかけた美琴が、少女を何者か知っているはずがない。
黒子は上条の言葉に呆れ、皮肉でも言ってやろうと上条を見て言葉を失う。
そう呟いた上条の顔は、とても悔しそうにしていたから。





56 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:03:37.91 ID:EuY5EXU0





その日欠陥電気は、少しばかり寝坊した。
昨日に見たテレビの内容に魘され不覚にも夜中に目が覚めてしまい、その後中々寝付けなかったから。
これでは打ち止めのことを笑えない。
そんなわけで、彼女は遅めの起床となり、まだ覚醒しきってない頭をなんとか動かして洗面所へ向かう。
キッチンを横目に重たい体を引きずって。
そしてそこで彼女は見てしまう。
一瞬で眠気が吹っ飛び目を見開いて目の前の現象を凝視した。目が覚めたが今度は幻覚でも見ているのかと、我が目を疑う。

「え? ちょ、あんた何してんの?」

「…」

返事はない。やはり幻覚なのかもしれない。
それにしてもこれは酷いものだ。いや、だってありえないし、と欠陥電気は声に出さずに突っ込みを入れる。
悪逆非道で外道畜生の道を爆進するあの彼が、まさかあの彼が―――

「エプロンつけて料理っすか…」

「…チッ」

あ、舌打ち。なるほど、これは現実なのかと欠陥電気は理解した。
この状況、果たして突っ込むべきところなのか、それとも家庭的なナニかに目覚めた彼を優しくスルーすべきなのか欠陥電気は迷った。
そしてこう言った。

「あ、うん。そのシャツ高いもんね…」

ブランドものだし。

「さっさと顔洗ってきやがれっ!!」

「おっはよー! ってミサカはミサカは元気よく挨拶してみたり!」

「ん、おはよ」

「朝は一方通行とミサカが用意するから! ってミサカはミサカは一方的に宣言してみたり!」



57 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:04:10.57 ID:EuY5EXU0


料理などしたことがないであろう二人組みがつくる朝食を心配しつつ、欠陥電気はキッチンを離れた。
一体どんな心変わりがあっての奇行だろう。打ち止めが無理やり一方通行を付き合わせたことは想像に難くないが。

顔を洗って歯を磨き、ボサボサになっている髪を梳く。
軽く両手でパン、と頬を叩いて「うっし」と呟き締める。
ふと、欠陥電気は鏡にうつる自分の顔をじっとみて見た。どこをどうみても記憶の中の『私』そのものである。

「ごはんできたよー!」

打ち止めの声が聞こえてきたことで、我に返り苦笑する。

「はいはい、今行くわ」

欠陥電気はそう言うと、洗面所をあとにした。




58 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:04:39.54 ID:EuY5EXU0



「へぇ、意外と美味しいじゃん」

「でしょー! ってミサカはミサカは自画自賛してみたり!」

「…(クソ甘ェ)」

「…(ちょっと、砂糖入れすぎだけど)」

形が崩れて焦げてたりするが、打ち止めが作った玉子焼きは中々の美味しかった。
ウィンナー、プチトマト、玉子焼きにトースト。作ったと言えるものは玉子焼きだけだが、それでも立派な朝食だ。
やるじゃない、と口の中で呟く欠陥電気。どうなることかと思ったが、案外美味しいしこれなら朝食は任せてもいいかもしれないと。

「……おい、打ち止め」

「んー? っへみはかはみはか…」

「…食べながら喋るんじゃないわよ」

先ほどまで黙って朝食をとっていた一方通行は、顔をしかめて打ち止めを睨む。
はて? と欠陥電気は思った。“まだ”打ち止めは一方通行を怒らせるようなことをしていないはず。
では何故彼は急に顔をしかめて睨んでいるのか。
ウィンナーに箸を伸ばし口に入れて納得した。

「―――なンでコレが甘ェンだ?」

甘ければ美味しいとか子供的すぎる思考の打ち止めに呆れながら、欠陥電気は甘いウィンナーを飲み込んだ。

「美味しいよ?」

「ざけンなクソガキ!!」

「んもー、じゃあ塩でもかければ? ってミサカはミサカは呆れながらナイスアイデアを提案してみたり」

それで味が元に戻れば誰も苦労しないだろう。あまりにも幼稚な発想。さすが幼女。
しかし、よく考えてみればキッチンに立っていた筈の一方通行は、一体何をしていたのかと欠陥電気は疑問に思った。
彼はどうして打ち止めのこの凶行を止めなれなかったのか。
お茶を飲み甘ったるくなった口を直して欠陥電気は言った。


59 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:05:49.49 ID:EuY5EXU0

「っていうか、あんたは何してたの?」

「コレは俺が作ったンだよ! このクソガキが目を離した隙に砂糖ぶち込みやがったンだろうがァ!!」

「目を盗んでフライパンに砂糖を入れるのは大変なミッションでした…、とミサカはミサカは遠い目で語ってみたり」

「はぁ…、とりあえず砂糖はもうやめてよね。っていうかあんた今日お菓子抜きね」

「ちょっと待って! それは関係ないんじゃないかな! ってミサカはミサカは反論してみる!」

「…砂糖でも舐めてろクソガキ」

一方通行は少しだけ誇らしかった傑作のウィンナーが、見るも無残な姿になったことに悲しんでいた。
調理済みの彼らに対して自分にできることは食ってやることだけだと、甘いウィンナーを無言で口に放り込む。

「…」

「よく食べれるわね…。めちゃくちゃ甘くて、なんか気持ち悪いんだけど」

一方通行は欠陥電気の言葉を無視しもくもくとウィンナーを食べる。
打ち止めは涙目になりながらも美味しそうにウィンナーを食べていたので、自分の皿から無言でウィンナーを移す欠陥電気。
プチトマトは調理の必要がないためか難を逃れていたが、よく見るとその横にそっと砂糖の山が盛りつけてあった。
無論一方通行と欠陥電気は、砂糖の山を無視してプチトマトを食べた。




60 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:06:26.78 ID:EuY5EXU0



「狭いわね」

「突然なにを言い出すの? ミサカの最高傑作を侮辱するなら相手になるよ! ってミサカはミサカは…」

「あんたの作ったダンボールハウスなんてどうでもいいのよ」

「はうっ! 侮辱以前に評価対象にすらならないなんて、なんて屈辱…、ってミサカはミサカは肩を落として項垂れてみたり」

朝食を食べ終わり、欠陥電気は紅茶を飲みながら先日購入したファッション雑誌を読んでいた。
一方通行はソファーに体を投げてテレビを眺めている。どうでもいいが、彼は一日の大半をソファーで過ごしてる。
単に描写が面倒だとかそういった理由でなく、彼の一日はソファーで始まり、ソファーで終る。まさにソファー人生。

打ち止めはというと、シュールな着ぐるみが身近にあるモノを使って玩具などを作る教育番組を熱心にみていた。
今回の放送内容はダンボールで家を作るという、世のお母様方が多大な迷惑をこうむる内容だった。
作られてしまった哀れな家は三日と経たずゴミになる。子供は飽きやい、真理である。

例に漏れず、打ち止めもさっそくダンボールで家を作りだした。
材料のダンボールは、こんなこともあろうかとも、と呟いてどこからか調達してきた。多分近所のスーパーの裏手辺りだろう。
そんなわけで無駄にかさばる家ができあがり、リビングの3分の1ほどを占拠した。そして話は冒頭の会話へ戻る。

「ふーん、いいよ。絶対に入れてあげないからね! ってミサカはミサカは会心のできに胸を躍らせながら室内へ」

「入らないわよ、そんな…。まあどうでもいいか」

「カッチーン! 一度ならず二度までも、さすがのミサカも怒りが有頂天!!」

「っつ…、ってなにすんのよっ!!」

「ふっふーん! これはミサカが作った伝説の剣だよ! ってミサカはミサカは国宝級の刀匠も裸足で逃げ出す剣を見せびらかしたり!」

「えい」

「あーっ!!」

一つの伝説の終焉である。伝説の剣は横からの衝撃に異常なほど弱かったと、ここに記しておく。

「うっせェンだよオマエらはァッ!!」

「ら、ってことはないでしょ。ら、ってことは!」

「あ、そこを否定するのね、ってミサカはミサカは我が家に緊急避難してみたり!」


61 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:07:10.04 ID:EuY5EXU0

打ち止めは早速家に入り込み、歪んだ穴(打ち止め曰く窓とのこと)から外の様子を伺う。
テレビを見ていた打ち止めが、突然ダンボールを持ち出して家を作り出したのは一方通行も横目で見ていたので知っている。
だが、改めて直視すると予想以上にでかく、非常にうざかった。
一方通行は舌打ちし吐き捨てた。

「邪魔くせェもン作りやがって…。燃やすか」

「…その直接的過ぎる発想はどうかな、ってミサカはミサカはあなたの思考回路を心配してみたり」

「ごめん、わたしもそれ考えたわ」

「むむ、これは三匹の子豚的な展開の予感! ってミサカはミサカは断固として譲らない徹底抗戦の構えをとったり!」

「どォせオマエ、夜飯食ったくらいには飽きてンだろ」

「そ、そんなことないよ! 少しずつ改装したり改築したり増築する予定だよ、ってミサカはミサカは夢のマイホーム計画を…」

「ンなくだらねェ計画を立ててンじゃねェよ」

「まあ諦めなさいってことね」

「はい決定ェ」

「え、ちょ…」

一方通行が壮絶な笑みを浮かべ、打ち止めのダンボールハウスの解体を始める。
打ち止めは一方通行に浮かんだ笑みをみた瞬間にダンボールハウスから飛び出て欠陥電気に抱きついた。

「な、なんであんなに楽しそうなのかな、ってミサカはミサカは聞いてみる」

「た、たしかに、ダンボール壊すだけなのに妙に楽しそうね…」



62 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:07:39.70 ID:EuY5EXU0


一方通行は舌なめずりをしながら、『獲物』を舐め回すかのようにたっぷりと時間を掛けて見た。
この学園都市最強の『縄張り』の『ホーム』を3分の1も占拠するという『暴挙』を行い
なお平然と『佇む』姿勢に、『獲物』が己の『敵』であると認めた。

一方通行は噛み殺すように笑った。最強であるこの一方通行の本気に対しなお『対決』の姿勢がとれることに心から感心した。
じゃァ、遠慮はいらねェなぁ、と呟くとチョーカーのスイッチを入れる。
まずは小手調べとして『敵』の『体』の一部をまるでアイスをスプーンで掬うかのようにサックリ、と切り取った。
『敵』に様子に『変化』はない。どうやらこの程度の『傷』では動じないだけの『胆力』を『敵』は持っているようだ。
面白ェ、と口中で呟きキシシ、と一方通行は笑う。

右腕を上段に構え、無慈悲に振り下ろす。『敵』の『体』は大きく裂け『血しぶき』が上がった。
顔に掛かった『敵』の『血液』を手で拭い味わう。苦味のある独特な味がした。
『敵』の『傷』は致命的で大きく姿勢を崩し力なく『倒れた』。
最早眼前の『敵』はただの哀れな『獲物』に成り下がった。
一方通行はさらに顔を歪め大きく哂う。キヒャァッ、と奇声を上げて『獲物』に踊りかかった。

「ただダンボールを解体してるだけなのに、すごく、猟奇的です、ってミサカはミサカは引いてみたり」

「ストレス…なのよ。そっとしといたほうがいいわ」

かくして夢のマイホーム計画は頓挫し、無駄にかさばるダンボールの残骸と狂ったように哂い続ける一方通行がそこにいた。





63 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:08:11.25 ID:EuY5EXU0



ダンボールの片づけを命じられた打ち止めは、無駄に大きく作ったことを後悔しつつなんとか作業を終らせると
こてん、と電池の切れた人形みたいに床に転がった。
そのまま、ボーっと過ごし気が付いたらテレビは消えていて静かな時間がやってきた。

半分ほど開けた窓から、心地よい風が流れてきてカーテンを揺らす。
まるで子猫のように丸くなり打ち止めは床にゴロン、と横になっていた。
欠陥電気はそれを包む親猫のように打ち止めのすぐ背後で寝そべっている。
一方通行はソファーに体を投げてテレビを眺めていなかった。テレビのスイッチは切れているのだから。

「…」

「…」

「…」

時間はそろそろお昼を告げる頃。
雲の切れ目から淡い日差しが差し込んできて、打ち止めと欠陥電気に降りそそぐ。
打ち止めは体をもぞもぞと動かしながら、ピタリと欠陥電気に引っ付いた。
その仕草に欠陥電気はくすぐったいものを感じながら、苦笑して打ち止めを優しく包み込んだ。

「…」

「…」

「…」

一方通行は、心地よい風を感じながら半分閉じかかっていた瞼を閉じて軽く欠伸をする。
その欠伸がうつったのか、床で寝ている少女たちもふぁ、と欠伸をした。
のんびりとした時間が過ぎる。いつもの喧騒が嘘のようになりをひそめていた。



64 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:08:39.38 ID:EuY5EXU0

「…」

「…」

「…」

両の手で軽く抱きしめている打ち止めの髪に顔をうずめ、少し強めに打ち止めを抱きしめる欠陥電気。
うわ、と小さな呟きが聞こえたがやめない。
打ち止めの髪の毛からはミルクのような甘い匂いがした。たぶん使用しているミルク石鹸のせいだろう。
抱きしめているととてもぽかぽかしていて、だき枕としてとても気持ちがよかった。
一方通行がソファーで楽な姿勢を得るべく、悪戦苦闘する間抜けな音だけが部屋に響いた。

「…」

「…」

「…」

抱きしめられていることにやや息苦しくなった打ち止めは、体を動かす。
打ち止めの意図を理解した欠陥電気は力を少しだけ緩めると、打ち止めはふぅ、と体を弛緩させ手を絡めてきた。
欠陥電気はくすくす、と小さく笑い手を絡み返す。
やっと楽な姿勢を見つけたのか無難なところで我慢したのか、一方通行は動きをとめ軽く首を鳴らした。

「…」

「…」

「…腹減った」

空腹を感じた一方通行はぼそっと呟く。
楽な姿勢を見つけ落ち着いたことで、空腹に気付いてしまったようだ。

「無理」

「…」

「…」

欠陥電気に抱きしめられ目を細めて気持ち良さそうにうとうとする打ち止め。
そんな打ち止めを微笑ましく思いながら、一方通行の言葉に即答する欠陥電気。



65 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:09:17.50 ID:EuY5EXU0


「…」

「…ふぁ………あむ……」

「…」

一方通行は空腹を感じている腹をさする。一度意識してしまったことで、止まらなくなってしまったようだ。
だが、彼は決して立ち上がろうとしない。
いまの彼はソファーと限りなくフィットしており、彼が続けてきたソファー生活の中でも1,2を争うフィット感だった。
だから動くわけにはいかない。少なくとも十二分にこのフィット感を堪能するまでは。
だが、腹が減った。なので一方通行は―――

「嫌よ」

「………ふぃ…」

「…」

まだ何も言っていない。
先手を欠陥電気に取られてしまったことで、一方通行言い出しにくくなってしまった。
おまえ用意しろ、と。

欠陥電気としても今の打ち止めとの時間を邪魔されたくなかった。
珍しくいい子をしている打ち止めが可愛くて手放せない。優しく打ち止めを撫でながら欠陥電気は口を開く。

「…あんた」

「…すぅ………すぅ……」

「断る」

この男、一方通行にも隙はなかった。





66 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:10:05.82 ID:EuY5EXU0




「おいしー! ってミサカはミサカは新規開拓のチャレンジ精神で大成功!!」

「…」

「……ふぁ」

馴染みのファミレスの馴染みの席。やたら大きな窓から見える景色はすっかり暗く、もう夜になっていた。
昼食の準備をローテンションで押し付けあっていた二人は、ローテンションであったがために
いつまでもダラダラと言い合って、気が付いたら夕食の時間と相成った。

一人だけ、やたらテンションの高い打ち止め。
一方通行と欠陥電気は、運ばれてきた料理を淡々と口へ運んでいく。非常に眠そうだ。
打ち止めの注文した、ミルクココナッツステーキハンバーグ風味チーズハンバーグDX、に突っ込む気力すらない。
風味言いたいだけちゃうんかと。

「ミルクのまろやかな舌触りに加え、ココナッツの香りがまたアクセントになっていてたまりませんね
ってミサカはミサカは評論家を気取ってみたりっ!!」

「……ソースくれェ」

「……ん」

「そしてこのコーンスープッ! 自分で作るときは、ついついケチって「もうちょっといいよね?」とか
水で薄めすぎてしまう傾向のあるミサカには嬉しいどっろどろの濃厚さっ!」

「………クッソねみィ」

「…………っ、……パスタに顔面突っ込むとこだった」

「極めつけはライスッ! 家だと妙にパッサパサだったりベチョベチョだったりするけど
ふわっふわで、ほくほくしてて最高っ! ってミサカはミサカは評価してみたりっ!!」

「…」

「…」



67 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:10:46.49 ID:EuY5EXU0


「ほんとちょーおいしーっ! たまらない一品だねっ!! ってミサカはミサカはry」

「…」

「…」

「ハンバーグ! ライス! コーンスープ! ミサカ最強!! ってミサカはry」

「黙って」

「食え」

「はい」

ハイテンションの打ち止めの、あまりのうざさに一方通行と欠陥電気は静かに切れた。
普段怒るときは怒鳴る二人が、あまりにも疲れた顔をしてそっと呟いたので
打ち止めは得たいの知れない恐怖を感じ即答した。
 
欠陥電気は食後の紅茶を飲みながら、ふぅ、と一息つく。
食べ終わった食器を下げられ、すっきりしたテーブルには新たに打ち止めが注文したパフェが鎮座していた。
目の前にあるパフェに、うぇ、と欠陥電気は思いながらも口には出さず、パフェにパクつく打ち止めをみる。
実に美味しそうに食べる打ち止め。クリームが口の周りについているのはご愛嬌。
そんな二人を尻目に、一方通行は静かにブラックコーヒーを飲みながら、窓の外を景色をボーっと眺めている。

悪くない、と欠陥電気は思った。
学校にも行けないし、友達にだって気軽に会えない。能力も随分弱くなってしまった。
でも悪くないと思えた。
口は悪いし性格も最悪だけど、根は良い一方通行。
わがままで自由奔放に暴走するけど、純粋で優しい打ち止め。
色々なものを失ってしまったけれど、それと同じくらい大切なものを手に入れたから。
こんな時間が続けばいいなと、欠陥電気は思った。






68 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:12:46.15 ID:EuY5EXU0





――――――――――――――――真『再会』――――――――――――――――






69 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:13:29.15 ID:EuY5EXU0



一方通行の自宅からそう離れていない小汚い路地裏。
昼間でも、よほどの理由がない限り好き好んで通る人間などいないであろう路地。
そこに一方通行はいた。

「俺もさァ、この立場があるから別に誰が見張っていようが気にしねェンだけどよォ
 今はちょいとばかりナイーブになってンだわ」

四肢をつき倒れ伏す男を見下ろし、一方通行は続ける。

「オマエ、何が目的だァ?」

「…」

男は答えない。倒れ伏す男を一方通行は見据えた。
ラフな格好に身を包み、年齢は20代半場といったところか。
ピアスや首筋から見える刺青など、一見するとただのゴロツキだが。連中とは明らかに違っている点があった。
男の纏っている空気が、どれだけ偽装しようとも隠し通せない匂いが男にはあった。
こいつは平然と人を殺せる類の人間だと、一方通行は理解する。



70 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:13:58.53 ID:EuY5EXU0


「いやいや、大したもンだぜェ? この状況で答えないなンて選択するたァ」

「…化け物が」

おや、と一方通行は哂う。男が初めて言葉を口にした。
一度口を開いたらあとは容易い。死なないように壊すだけだ。それだけでイカれたスピーカーが出来上がるのだから。

「最終警告だぜェ? 吐いた内容によっちゃァ全殺し確定なンだけどよォ。
 欠伸がでるほど緩い告白なら、神の気まぐれってヤツを期待できンぞォ?」

「…」

「今ならまだ即死コースが提供できンぜェ? そうでなけりゃ―――」

「―ッ! ……がぁ…ぃ」

一方通行は無造作に男の頭を掴み、頭皮を髪の毛ごと焼く。
肉の焦げる匂いが鼻を付く。
手を離すと男の頭部には、一方通行が掴んだ部分だけ髪が燃え尽き、くっきりと手形の火傷ができた。

「悪ィ、これじゃあ色男が台無しになっちまったなァ」

「……ぐぅ……っ…」

「あンまり頑張ンなよォ? 俺も楽しくなってきちまうだろうがァ」

一方通行はククッ、とくぐもった哂い浮かべ男を睥睨する。
地に付いた男の両の手が先ほどまでと違った形をしていることに気付いた。それなりに効いているようだ。
顔を伏せたまま、男は一方通行に聞こえる程度の声量で吐き棄てた。



71 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:14:28.68 ID:EuY5EXU0


「………………死ねクソガキ」

その言葉に一方通行は顔を歪め哂う。
まだまだ足りないようだ。まだまだ楽しめるようだ。この狂った時間を。
舌で唇を軽く舐め、一方通行は次の行動に移る。

「こンなのはどォよ?」

そう言って男の右肩に指を突きたる。
グチュリ、と音を立ててあっさりと男の肩に指が入り込んだ。
呻き声をあげて男は姿勢を崩す。指が刺さった方の腕が体を支えきれずに重心が崩れ倒れ伏した。

「おいおいおい、ここからが面白いンだぜェ? 超頑張れよオッサン」

突き立てる指をもう一本増やし、肉の中で指先を繋げ輪を作る。

「…ぁ……ぐぉっ………」

「イイ感じのピアス穴の出来上がりってわけだァ。どォよ、素敵だろォ?」

「……はぁ、はぁ…」

男は息が乱れてきたが、まだやる気十分といったところだろう。
一方通行が肩から指を荒々しく引き抜くと、男は呻き声を挙げ荒く息を吐いた。

一方通行は軽く哂うと、男の顔面を予備動作などなしに、まるでゴムボールを蹴るかのように軽く足を振り上げた。
たったそれだけで男は2,3メートルも吹き飛ばされ壁面に激突する。

「よく飛ンだなァおい、ちっと記録更新とか狙ってみるかァ?」

「…っ………ごふっ…」

男は足に力が入らないのか、壁にもたれる様にしてずるずると腰を落とした。
右肩は骨が見えるほど肉が抉られ、頭部には火傷を負い額からは蹴られたさいに出来た傷口から
ダラダラと血が溢れ顔面が血まみれになったいた。
壁に激突した衝撃で背中の感覚はなく、首の骨にも異常があるのかもしれない。
動くだけの余力は最早ないだろう。



72 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:14:58.27 ID:EuY5EXU0


「しぶといねェ、さっさとお喋りしてくンないかなァ。俺も心が痛いんだぜェ?」

「…はぁ………はぁ…」

男からの返事はない。
男は地面を見据え荒い呼吸を繰り返す。

「オマエ今右腕に力が入らないだろォ? ついつい指突っ込ンだときに神経ぶち切っちゃってさァ」

「…っ」

「あァ、悪い。余計なこと言っちまったァ。気付いてなかったンなら黙っときゃよかったぜェ」

「……くっ」

「いやでも、オマエ頑張っちゃうからさァ、俺も楽しくなってきちまってよォ。本当は辛いンだぜェ?」

一方通行はそう吐き棄てて、狂ったような哂った。
そしてこう続ける。

「実はもう一個、とびきり愉快なプレゼントがあンだけど、聞くかァ?」

「……だま、れ」

「まァそう言うなよォ、俺とオマエの仲じゃねェか遠慮すンじゃねェよ。
 それによォ、自分でしといて何だがぶっ壊しちゃったからもう戻らねェンだわ。
 でもまァ、最近はそういう人間にも世間の理解っつーの? そういうのあるから頑張れると思うぜェ?」

オマエ、頑張り屋さんだしなァ、と男に聞こえるように優しく呟く一方通行。
男は一方通行と会ってから初めて体を震わし、顔を上げ目の前にいる怪物を見た。
男の反応に一方通行はにやりと哂い言い放つ。



73 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:15:30.38 ID:EuY5EXU0


「オマエ、もう二度とチンコ勃たねェからァ……ック、クハハハハハッハッハッハッ!!」


「…き、貴様ぁっ!」

狂ったような体を震わせ哂う一方通行。
激昂した男が一方通行に飛び掛ろうとするが足が動かない。

「悪ィ、足ももう動かせないって言うの忘れてたわァ」

悪びれなく男へ伝える一方通行。
まるで、店員に追加の注文を頼むかのような気軽さで。
男は今までの姿が嘘だったかのように、鬼の形相を浮かべ罵詈雑言を一方通行へ浴びせる。
まだかろうじて動く上半身をつかい右腕を無茶苦茶に振り回した。

「なンだよォ、お互い様だぜェ? オマエが狡いこと狙ってるから付き合ってやったンだろゥ?」

一方通行は、やれやれと溜息を吐きながら言葉を続ける。

「時間、気にしてンだろゥ?」

そこに腕時計でもあるかのように、一方通行は左手で右手首をトントン、と叩き男へ言う。

「ダメだぜェ? 奇跡の演出に凝っちまうのはいいンだがよォ。下を向いてたら見えないだろォ?」





「俺が―――スイッチ切り替えてンのをさァ」






74 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:16:17.04 ID:EuY5EXU0



「―――ッ!?」

「気がつかねェとでも思ってたのかァ? 相当愉快だぜェオマエの頭」

一方通行はそう言うとチョーカーのスイッチを切って、男から奪った拳銃を取り出す。

「まァ、事情を聞き出せなかったから、オマエの勝ちってことにしてやンぜェ?
 大金星じゃねェか、この俺に勝つなンてお友達に自慢ができンぞォ
 安心しろよォ、お友達はすぐにそっちに送ってやるから―――――」

「呪ワれろォッ!! クそガ」


「――――死ンどけよ」





死体を漁るが身分証明などを、男は一切所持していなかった。
一方通行は舌打ちし、携帯電話を取り出しリダイヤルから目的の人物の番号を見つけ電話を掛ける。
コール音続き、中々相手が出ないことに悪態をつきながら待った。
十数回コールした後にようやく出た相手と一方通行は2、3やり取りをして電話を切る。
面倒くせェ、と呟くいて一方通行は路地から姿を消した。



75 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:16:47.99 ID:EuY5EXU0





「あいつ、どこ行ったの?」

「さぁ? あの人は唐突に居なくなったりするから、ってミサカはミサカは経験に裏打ちされた事実を語ってみたり」

小さな先輩同居人は頼りにならなかった。
困った、と唸り欠陥電気は壁に掛けられた時計を見た。シンプルなデザインのアナログ時計の短い針は3を指している。
夕食の買出しには早いが、やや遠くまで出掛けようと思っていたので早めに家をでたいのだが、お金がない。
一方通行から与えられた、生活費の入った財布はすでに小銭しかなかった。
昨日のファミレスの支払い、帰りがけにコンビニによったことで打撃を受けたのに補充をすっかり忘れていたのだ。
中身の寂しい財布に、スーパーの特売品を生活の糧にしていた少年の姿が欠陥電気の頭をよぎる。

「はぁ…、あいつに共感する日が来るとはね…」

「どうしたの? ってミサカはミサカはため息を吐くあなたに聞いてみたり」

最近買い与えられた色鉛筆で、形容しがたい絵をチラシの裏に描きながら打ち止めは言う。
立っていても仕方がないと、一方通行御用達のソファーに腰を掛け欠陥電気は返す。

「お金がないから買い物にいけないのよ」

「そっかー、じゃあ待つしかないね、ってミサカはミサカは言ってみる」

「…他人事なのがなんかムカつくけど。はぁ…、待つしかないか」

欠陥電気はため息を吐いて、テレビのスイッチを入れ適当なニュース番組にチャンネルを合わせる。
画面に映るニュースキャスターの声を聞き流しながら、欠陥電気は時間を潰すことにした。




76 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:17:20.88 ID:EuY5EXU0



―――同時刻―――


佐天涙子とその親友、初春飾利は指定された場所へと走っていた。
スカートが捲れようが通行人とぶつかろうがお構いなしで全力で目的の場所へと向かう。
二人は、息が上がり苦しくなっても決して足を止めようとしなかった。


その日二人はいつものように学校の授業を済ませ、習慣となっている校門でおち合う。
初春は風紀委員の仕事があり途中で別れるので短い時間ではあるが、二人は一緒に帰っていた。

「んあー、疲れたー」

「佐天さんは、いっつもそれですね」

腕をあげて伸びをする佐天の言葉に、初春は苦笑する。
佐天は、学校が終ると決まってこの台詞を言っていたから。

「あはは。ねえ初春、帰りにファミレスでも寄らない?」

「す、すみません今日は風紀委員の…」

「うん知ってる。言ってみただけ」

佐天はそう言って笑った。佐天はこうやっていつも初春をからかった。
初春もそんな佐天に、仕方ないですね、と笑って答える。
いつものやりとりにいつもの下校風景。
彼女たちは別れるまでのつかの間の時間を、こんなふうに過ごしていた。

「そういやさ、白井さんから連絡あった?」

「まだ、ですね…」



77 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:17:54.88 ID:EuY5EXU0


黒子から連絡があれば、初春はすぐにでも佐天に伝えているだろう。
佐天もそれは分かっているのだが、ついつい聞いてしまう。
この会話はここ最近二人の中でよくある話題だった。

「そっか。御坂さんからも、まだあの話がないしなあ…」

「佐天さん、気持ちは分かりますけど約束したんですよ?」

「ううー、分かってるってば…。初春、怖ーい」

初春の言葉に恨めしそうな顔で佐天が呟いた。
彼女たちの言う、あの話とは二日前にした奇妙な約束だった。

その日は学校が早く終った佐天と初春は下校途中にファミレスへ寄った。
そこで美琴と、そのさらに先日出会った白いお兄さん(一方通行)と一緒になる。
不思議なことに美琴は制服を着ておらず、さらに別れるときに美琴は二人にこう言った。
今日会ったことは私に黙っていて欲しいと。実に奇妙なお願いである。

本人が目の前にいるのに、それを本人に黙っていて欲しいなんて。
佐天がその問いにどう返していいのか迷っていたら、なんと初春がその話を受け入れた。
慌てて佐天も負けられぬと、その話に乗り約束した。

ここで会った本人に、そのことを話さないと。
一応期限が決められていて、そのことを本人が二人に言ったらその話をしてもいいと言うものだった。

「それにしてもさ、あのときの御坂さん……なんか違ったなあ」

「佐天さん、まさかあの話を…」

「ち、違うって! いくら私だってあんな『噂』を信じたりしないってば」

「はぁ…、だといいんですが」



78 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:18:55.06 ID:EuY5EXU0

初春はそう言ってため息をつく。
親友である佐天の暴走に、度々被害を被ってきた彼女は横目で佐天を見やり呟いた。

「軍事目的のクローンなんて、SFもいいところですよ?」

「だから信じてないってばっ! もう! 最近の初春は冷たいんだから……」

初春の言葉に、頬を膨らませ分かりやすい抗議する佐天。
そんなバカげた話はいくら私でも信じない、と言いたいのだろう。
だが、彼女はこうも続けた。

「…たださ、そう考えると話が繋がるんだよね。そりゃ嘘くさい話になるけどさ」

「…」

否定の言葉は出なかった。
佐天の話には頷けるところがあると、そんなことを考え納得してしまう自分がいることを初春は否定できなかったから。
あのとき会った美琴は間違いなく、御坂美琴だった。
だが、その後はどうだ。どんな理由があれば本人に本人のことを黙っておく必要があるのか。
黒子のことで余裕のなかった筈の彼女が、一緒に居るところを見たこともない人と何故一緒にいたのか。
常盤台の制服ではなく、どうして私服を着ていたのか。

あのとき会った美琴は、はっきり言ってしまえば本人であることを除けばおかしなことだらけだ。
だけど―――

「…あのときの御坂さん、とても辛そうでした」

「…」

「それに…約束、しましたから」

「あはは、初春には勝てないな。うん…、そうだねっ!! とりゃ!」

重い空気吹き飛ばすかのように、初春のスカートを捲りあげる佐天。
それに真っ赤になって怒りながらも、初春の顔は笑っていた。
そんなときだ、初春の携帯にメールの着信を告げる音が鳴ったのは。




79 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:19:26.67 ID:EuY5EXU0



荒い息をつきながら二人は目的地の、あの美琴と会ったファミレスまでもう少しのところまできていた。
二人が走ることになったメールの送信者は黒子だった。
時間の指定はなく、待ち合わせの場所だけが書かれた素っ気無いものだったが、二人が走るには十分なものだった。
ファミレスの前に人影が見える。

「白井さーんっ!」

初春は疲れた体にムチを打って叫ぶ。同僚で友達で放って置けない相棒の名前を。

「う、初春っ!?」

顔を真っ赤にして涙目になりながら走り寄ってくる初春の様子に思わず驚く黒子。
かなりの距離を相当なペースで走ったであろう初春の足取りはかなり危い。
それでも黒子まで走りきった彼女は、そのまま何日も連絡が取れなかった少女に抱きついた。

「しんぱい、……したん、ですよ……っ」

そう言うと初春は黒子を強く抱きしめて、ぐすぐすと泣き出した。
そんな初春を見て、黒子は自分がどれだけの人に迷惑をかけ、心配させてしまったのだろうと反省した。

「心配かけましたわ、初春。わたくしはもう、大丈夫ですから」

「…っ………あまり、しんぱいさせないで、ください…」

最後のスパートで初春に置いていかれ、ようやく追いついた佐天は息を整えながら抱き合う二人を見る。
全く、心配させないでくださいよ白井さん、という言葉を口中で呟き佐天は微笑んだ。
そんな佐天に横から声がかかる。



80 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:19:57.41 ID:EuY5EXU0


「お疲れ様。ごめんね、心配かけちゃって」

「御坂さん…」

佐天が声の方へ振り向くと、そこには苦笑を浮かべた美琴がいた。
常盤台の制服に身を包んだ御坂美琴が。

「いやー、久々に全力疾走しましたよ。もう喉が渇いて渇いて」

佐天は喉を押さえわざとらしいリアクションをして言う。

「いいわ、お詫びもかねて何でも奢っちゃうわよ」

「おお! さっすがっ!!」

美琴の返答に佐天は満面の笑みで喜ぶ。
佐天の喜びように、やれやれ、とため息を吐きながら、美琴はいつまでも抱き合っている二人に声をかけようと振り向く。

「佐天さん」

佐天に背を向けたまま美琴は佐天の名を呼ぶ。

「なんですか?」

美琴の態度を怪訝に思いながらも、佐天は返事を返した。

「ありがとう」

そう言うと美琴は抱き合っている二人に近づき、行くわよ、と声をかける。
佐天は、分かりやすすぎて何か逆に恥ずかしいなあと思いながら、美琴に続いて二人を茶化すべく駆け寄った。




82 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:20:25.63 ID:EuY5EXU0



―――同日 午前―――


「お腹へったかも…」

「多分そりゃ気のせいだ」

「…本当にお腹がへってるのかもしれないよ?」

「減ってない可能性もあるだろ…」

「むむ。でもでもへってない場合はそう問題でもないけど、へっているとしたら問題だよね?」

「…つーか、まだ朝飯食ってから1時間も経って」

「この場合最悪の事態を考慮しつつ事態を可及的速やかに解決するのが人の道じゃないかなとうま。
 うんきっと主もそうおっしゃっていらっしゃる気がするんだよっ!!」

上条の言葉を遮り、そうまくし立てる少女、インデックス。
そのインデックスの言葉に、はぁ、と深いため息を吐くツンツン頭の少年、上条当麻。
お決まりの不幸だ…、と口内で呟いて、横を歩くインデックスをみた。
インデックスは実に楽しそうだ。彼女は忘れてしまったのだろうか、今こうして歩いている理由を。
少なくとも厳しい家計に打撃を与える外食などをするためではなかった筈だと、上条はまた深いため息を吐いた。

「うー、そこはかとなくバカにされた気がするんだよ?」

「そりゃ気のせいじゃないな………って、いてーよインデックスっ! ちょ、やめ…いててててててっ!!」

上条の言葉に目を光らせたインデックスは、見た目からは想像もできない俊敏さで上条の頭にかじりつく。
インデックスの攻撃に涙目になって抗議する上条。
一通り上条をかじり倒して満足したのか、インデックスはようやく上条を解放した。



83 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:20:56.73 ID:EuY5EXU0


「おま……やりすぎ、だろ…」

「ふん、とうまが悪いんだからね」

「不幸だ…」

ぷい、と上条から目をそらすインデックス。
そんな彼女に同調するかのように、彼女が胸元に抱えたスフィンクスがにゃぁと鳴いた。

「まあ、あの子を見つけるのが先だから、特別に許してあげる」

「あ、一応覚えてたんだな。てっきり忘れてるかと…」

「…とうまが私をどう思ってるのか、わかった気がするんだよ」

上条の言葉にインデックスは頬を膨らませて拗ねる。
てっきりまた噛まれるかと思っていた上条は、彼女の思わぬリアクションに慌てて宥めつつ目的を果たすべく歩き出した。




84 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:21:23.33 ID:EuY5EXU0



大通りの繁華街を抜け、比較的人通りの少ない道を歩く上条とインデックス。
時刻はそろそろお昼を告げる正午前。
そろそろ家を出てから3時間ほど経とうとしていた。

「とうま、ここどこ?」

「俺に聞くな」

「…とうま、もしかして当てもなく歩き回っていたの?」

「なんだ、今ごろ気付いたのか」

インデックスの問いに何故か胸を張って答える上条。その上条をみて激しく脱力するインデックス。
もしかして彼はちょっと頭がアレな可哀想な人だったのだろうかと、内心呟く。

「…ひょっとして、昨日も一昨日もその前からずーっとこんな感じだったりしたのかな?」

「ああ、それがどうかしたか?」

「…」

彼の答えに激しく不安になるインデックス。こんなことで大丈夫なのだろうかと。
このツンツン頭の少年は、向こう見ずで直情的で色んな意味で真っ直ぐな人間だけど、ここは違うだろと。

「とうま、それはあまりにも非効率的じゃないかな」

「…仕方ないだろ。これ以外方法がないんだから」

上条も自分がかなり無駄なことをしている自覚はあった。一応。
だが少女の手掛かりが全くなく、かといって風紀委員や公共機関に頼めるわけもない。
自力で歩いて探すしか方法が思いつかなかった。



85 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:22:30.66 ID:EuY5EXU0

「そりゃ俺だってバカな事やってんなあ、とか思っちまうときもあるけどさ
 だからと言ってやめるわけにはいかないだろ? ジッと待っとくなんてできねえよ」

「…」

「お前との約束、破っちまったしさ」

上条はそう言って、自嘲気味な笑みを浮かべる。
少女のことは任せておけと少女が居なくなった夜、上条はインデックスに言ったのだ。
結果はこの有様。
少女を探すことを言い訳に、美琴を犠牲にし続けぎりぎりまで追い込んだ。
だと言うのに少女を見つけるどころか、手掛かりすら掴めていない。

勿論全て上条に責任があるはずもない、少女が消えたときに一緒にいたのはインデックスであり
美琴を追い込んだのは他ならぬ美琴自身である。
一介の学生に過ぎない上条に、消えた少女の行方を見つけることは厳しいと言わざる得ない。
だが、それでも上条は自分を責めずにはいられなかった。

「…とうま、そのことはもういいって言ったんだよ?」

「分ってるけど、そう簡単に、はいそうですかって思えないだろ」

「あの子のことを、とうま一人で抱えるのはずるいんだよ」

「…」

上条は気負いすぎているとインデックスは心配する。
約束したのは事実で、上条は少女を見つけることができなかった。
それどころか、彼女が死んだかもしれないと、送り出して2時間もしないうちに戻ってきてインデックスに告げた。
それを知ったときは、文字通りインデックスは絶句した。
たった数時間前まで一緒にいた少女が死んだなど信じられなかった。
だけどそれが嘘だとはインデックスには思えなかった。他ならぬ上条の口から教えられたから。


86 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:23:20.93 ID:EuY5EXU0


ただ、同時に感謝もしていた。
誤魔化すことなく、自分に少女の結末を教えてくれたことに。
それは、上条が自分を信頼し、頼ってくれたということ他ならない。
上条はその事実をインデックスに伝えるべきか、1時間もドアの前で悩んでいたらしい。
もっともその事実は次の日には撤回され、そのときは噛み付いたわけだが。

「あの子とずっと一緒にいたのはわたしなんだよ? とうまは短髪ばっか構ってたし」

「…ビリビリには冷たいよなお前」

やれやれと、小さくため息を吐きながら上条は携帯を取り出す。
携帯を開くとディスプレイには素っ気無い待ち受け画面が映しだされる。上条は画面右上の数字を読んだ。
(12時03分か…)
そろそろ隣を歩く少女から抗議の声が上がるだろうな、と上条は考えた。
先ほどから少女のお腹の辺りから、何やら低音の唸り声のようなものが聞こえているのだから上条の予感は確実に当たるだろう。
むしろ少女にしてはよく我慢している。普段の行いからは想像できないあり様だ。

「なぁ、インデックス」

「なに、とうま?」

「そろそろ飯でも食うか」

携帯をポケットにしまいながら上条が前を向いたままそう呟くと、少女は分かりやすい程テンションを上げ返事をした。




87 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:23:51.66 ID:EuY5EXU0


二人は、近くにあった適当な店に入り食事を済ませるとまた歩き始める。
通りを抜け坂を下り階段をのぼって小奇麗な並木通りを黙々と進む。
普段行かないような学区に足を伸ばし、見慣れない景色の中を二人は歩いた。

道すがら、インデックスが近代占星術だとかタロットカードがどうだとか科学側も大したことないね、などと言って上条を困らせる。
上条はいつの間にか科学側代表として、魔術側の圧倒的知識を持つインデックスにけちょんけちょんにされていた。
だったら、占星術でもタロットでも水晶でも何でもいいから少女を見つけてくれよと、喉から出掛かった言葉を上条は何とか飲み込む。
それが可能ならとうの昔にやっている筈だから。インデックスの言葉は、何もできない自分を責める言葉でもあったから。
横を歩く少女の愚痴に適当な相槌を返しながら、上条は歩き続けた。

日が傾き始め、青かった空が少しずつ赤に変わっていく。
上条とインデックスは、学園都市が一望できる小高い丘を通っている道にいた。
少女は見つからない。今日も手掛かりなしか、と上条は内心呟き、隣を歩くインデックスを見る。
途中やたら元気のよかった彼女も、いまは口も閉ざし黙々と足を動かしていた。
その様子に上条は苦笑する。仕方もないことだと。

「疲れたか、インデックス?」

「大丈夫だよ、まだまだこれからなんだよ」



88 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:24:21.15 ID:EuY5EXU0


上条の問いにインデックスは笑顔で答えるが、その笑顔はやはり精彩さを欠いていた。
特別に体力に自信があるわけではないが、男子高校生である上条と、その上条よりもずっと身長も低く幼い彼女は比べるまでもない。
上条はそう考えると、インデックスに切り上げようと提案する。
しかしインデックスは首を縦に振らない。
彼女の返事は上条の予測どおりであった。だがこのまま無理をさせるわけにはいかない。
明日もあるから無理はよくないと上条はインデックスを説得する。
長いやり取りの末、渋々インデックスは承諾した。日が落ちるまで探すことと、豪華な夜ご飯を条件に。

「決まりだな。よし、もうちょっと頑張るかっ!」

「俄然やる気が出てきたんだよっ! とうま、あっちはまだ行ってないからあっちに行こう!」

「へいへい、って、急に走り出すな手を引っ張るな危ないだろっ!」

「とうまが遅いからいけないんだよっ!」

インデックスの変わり様に、頬を引きつらせつつ歩き出す上条。
彼女の言うところの豪華なご飯というものが、どの程度のものなのか上条は心配になってきた。
スーパーの特売で買えるものであればいいなぁとか考えながら、上条はインデックスについて歩き出す。

そして上条は見つける。
太陽が半分ほど地面に隠れ、すっかり赤く染まった空の下で。





89 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:24:49.04 ID:EuY5EXU0




その日、御坂妹こと10032号はいつものように研究施設で退屈な調整を受けたあと散歩に出掛けた。
このところの彼女のマイブームは、モールやショッピング街の散策である。
同じ道を歩いているのにも関わらず日々変わる商品のディスプレイや、変わった人間などを見かけ実に興味深かった。

「ミサカにこのような嗜好があったとは驚きです、とミサカはひとり言を呟きます」

彼女は、通りを通るたくさんの人の合間を器用に縫っていく。
街を歩いていると時折街頭で売り子をしているアルバイトに声を掛けらることがある。
慣れない内は戸惑い、上手な受け答えができなかった御坂妹だが、今ではすっかり慣れスムーズに断りをいれ先に進む。
(特定のコミュニティに属し、狭い人間関係の中にいるミサカにとってこれは貴重な経験を積める場であると、ミサカは判断します)
ファーストフードの注文方法から、キャッチセールスの断り方まで知識があり、既に習得していると自信があったのだが。
得てして、現実は中々思うようにいかなかった。
断っても断っても粘り付きまとう男、昼時の混雑時の苛立ちを接客で晴らすアルバイトの女、などなど。
彼女は、自身の選択が有益であったと再確認すると、気持ち胸を張りやや軽くなった足取りで歩を進めた。

(あれは……何でしょうか?)
中央に噴水のある広場で、なにやら人だかりが出来ていることに御坂妹は気付く。
興味をそそられ近づいてみると、高校生と思われる生徒数名が楽器をもって歌を歌っていた。
(これが噂に聞く路上ライブというものでしょうか、とミサカは知識と照らし合わせ推測します)
周りを見ると、人だかりは広場のあちこちに見られた。
どうやらここは路上ライブの宝庫らしい、と御坂妹は納得する。
特に路上ライブなる現象には興味がなかったので、彼女は横目で見ながら広場をあとにした。



90 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:25:17.28 ID:EuY5EXU0


施設をでて1時間、空が赤く染まる頃。
御坂妹は、そろそろ予定していた距離も歩き終わることに気付いた。
普段ならこのまま引き返し戻るのだが、この日は予定と違う行動をとった。
それが何故なのか、どういった理由で予定を破り散歩を続行したのか御坂妹にも分からなかった。
ただ、何となくそう思ったのだ。
何となく、帰りたくないと。
それは、彼女にとって理解できない概念だ。
確固たる理由があるわけでもなく、それに至る明確な過程も判明しない。
ただ、何となく彼女はそう思ったのだ。

理解できない、不可解な答え。
何となく、そうする。
そういった現象は、ある少年に救われてから起こるようになったことだ。
最近では特によく見られる事象である。

上位個体との約束を曲解し少年に話したこと。
それ以来、散歩のコースを変えて少年を避けるようになったこと。
たった今、予定を変えて散歩を続けていること。

そう御坂妹が反芻したとき、声が聞こえた。
安堵するような女性の声が。
御坂妹が声の方を見やると、女性がその女性の子供と思われる少女に声を掛け抱きしめていた。
少女は女性の態度に、曖昧な笑みを浮かべ女性の抱擁を受け入れている。
それから女性は少女の手をとり去っていった。



91 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:25:52.04 ID:EuY5EXU0


唐突に、御坂妹は理解した。
自身の不明な行動理由を。
自分は後ろめさから少年を避けるようになったのだと。
そして、その少年に会いたいからこうして歩き続けることにしたのだと。
今、少年に会ってしまえば少年はこう御坂妹に問うだろう。
『打ち止め』はどこにいるか、と。
それに答えてしまえば、上位個体との約束は完全に意味を成さなくなる。
すでに一度約束を曲げて、少年に助力してしまっているのだ。
これ以上の助力は、上位個体を完全に裏切る行為になる。
あの約束は、命令ではなく打ち止め個人のお願い。
だからこそ、彼にそう問われて黙っていられる自信が御坂妹にはなかった。黙っていることが最善であると判断できなかった。

だから御坂妹は揺れた。
なんとなく、そう思って行動してしまったのだ。
はぁ、と御坂妹はため息をつく。
理解不能で原因不明な行動理由は実に幼稚で単純なものだった。
(これでは、お姉さまのことを言えませんね…)
明確な好意を持っているのに、態度がまるで逆な自身のオリジナルである少女のことを思い出す。
御坂妹は小さく笑うと、空を見上げた。
日が傾き、すっかり赤く染まってしまった空を見上げ、こう決めた。
これから日が落ちるまでの間に、少年と出会うことがあれば全て話そうと。

あの少年に任せたらきっと全てうまくいくと、根拠もないがそう思えた。
そう思えたなら、きっとその判断は正しいのだと御坂妹は考え歩き始める。少年と出会うために。
上位個体から恨めしい目で見られるだろうが、モールで散々奢ってやったのだ。
これで貸し借りなしだろうと、そう勝手に納得することにした。





92 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:26:19.76 ID:EuY5EXU0




横を歩く少女と早まった約束をしたのではないか、と自問自答する上条。
よく考えれば、あんな約束をする必要はなかったのではないかと。
どうせ腹が空けば自分から言い出した筈だと、上条は今更ながら考えてしまっていた。

「とうま、さっきからなに唸ってるの? お腹すいたの?」

インデックスの言葉に、そりゃおまえだろ、と言い返すのをグッと押さえる上条。
さっきからひたすらファミレスのメニューを読み上げるかのように、一人で食べ物しりとりを始めたインデックス。
こいつ絶対に目的忘れてるだろ、と上条は内心で突っ込む。

「なに食べ……………ゴホン、あ、あの子どこにいるのかなあ、とうまはどう思う?」

インデックスの分かりやすすぎる言葉をスルーして、どこだろうな、と返事を返す上条。
上条のその投げやりな返事に、インデックスは憤慨し文句を言い出す。実に身勝手である。
頭の中で耳を押さえるアクションをとりながらインデックスの言葉を無視し、ちらりと道路を挟んだ向かいの歩道に目を向け上条は見つける。
太陽が半分ほど地面に隠れ、すっかり赤く染まった空の下で。
伸びきった自分の影の延長上に居る少女を。

「見つけたぞ、インデックス!」

「え!? うそうそ、どこにっ!?」

突然の上条の言葉に混乱するインデックス。
上条はインデックスを置いて少女へと走る。

「見つけたぞ、御坂妹っ!!」




93 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:26:57.19 ID:EuY5EXU0



道路を走る車の合間を縫って全力疾走であろう速度で掛けてくる上条の姿に、やや驚いた表情を浮かべる御坂妹。
上条は、常盤台中学の制服を着る少女の前で足をとめ、逸る気持ちを抑えこう言った。

「探したぜ、御坂妹」

「なにやら運命的な出会いですね、とミサカはあなたと出会えたことに驚きながら、臭い言葉を口にします」

「なんだそれ」

「いえ、こちらのことです、とミサカはもしかしたら運命の赤い糸は実在するのかもしれないと推測しながら答えます」

「…、で、ちょっと聞きたいことがあるんだがいいか?」

「その微妙な間が気に掛かりますが、なんですか? とミサカは言います」

御坂妹の相変わらずな唐突な会話に、脱力する上条。
必死で探し回り、ようやく見つけたと思えばこの会話。
これまでの努力は報われ、目的の人物の一人を見つけたのにも関わらず。上条はどうにも釈然としなかった。
頬をやや引きつらせながら上条は疲れを無視し口を開いた。

「…前に、お前が言ってた上位個体って奴がどこに居るのか教えてくれ」

「ストライクど真ん中ですね、とミサカは赤い糸の存在に確信を抱きます」

「いや、意味がわかんねえし…」



94 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:27:24.82 ID:EuY5EXU0


御坂妹は表情を変えないまま言い放つ。
そんな外面とは裏腹に、出会うどころか推測通りの上条の言葉に御坂妹は想定外の喜びを感じていた。
さてはて、上条当麻とこうして出会ってしまったのだ。
先ほど決めたとおりに素直に打ち止めの居場所を上条に言えばいいのだが、御坂妹はこうも考えた。
教えてしまえば、目の前の少年はとっとと行ってしまうだろう。
打ち止めを裏切ってまで上条の味方をするのに、それではあんまりだ。
もっとこの秘密を有効に使い、この時間を少しでも長くしたいと。

「分かりました、とミサカは了承します」

「マジか! じゃあ早く…」

言ったらお前は消えるだろ、と御坂妹は内心毒づきながらプランを練る。
運命は存在したのだ。赤い糸も然り。ならば焦る必要もないのだが、如何せん赤い糸がお一人様一本だとは限らない。
目の前の少年に、何本の赤い糸が存在するのか分からない以上手を抜くことはできないのだ。
手持ちは多くない、幸が薄いこの少年に期待するのは酷だろうし、どうしたものかと御坂妹は考えた。
そして悩ましい甘美な時間は唐突に終わりを告げる。

「とうまー! 置いていくなんて酷いんだよっ!!」

「悪い、まあでも大した距離じゃなかっただろ、インデックス」

運命の糸も運命の悪戯には逆らえないらしい。また一つ御坂妹は経験を持ってして学習した。




95 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:28:01.50 ID:EuY5EXU0




「で、なんでこんなところに上条さんはいるのでせう?」

「その問いは納得できませんね、とミサカは憮然と答えます。
 ミサカとしてももう少しランクの高いお店に行きたかったんですが…、とミサカは暗に責めます」

「悪かったなっ!! 金欠なの苦学生なんだよ生活が厳しいんですっ!! ってそっちじゃねーよっ!」

「んー、まあまあだけどいっぱい食べれるし…。これで許してあげるんだよ、とうま」

「はぁ、そもそもコブ付きというのが…、ミサカはあなたのデリカシーの無さに失望します」

「どういう話になってるんだよっ!」

三人は学園都市でもっとも多くチェーン店を出しているファミリーレストランにいた。
店内は仕事帰りの人間や学生たちで賑わっている。
インデックスはカレー、ハンバーグ、ピザと修行中の身であるわりには随分なものを注文していた。
いつだったか、嗜好品の摂取を一切禁じているだとか寝言をほざいていた頃が懐かしいと、上条は肉うどんを啜りながら思った。
御坂妹はカルボナーラを注文し、フォークを器用につかって上品に食べている。

「それで、答えてもらえるのか?」

「…食事中に野暮ですね、とミサカは不満を伝えます」

「っていうかさ、とうま。探してたのって、この子のことだったの?」

インデックスと御坂妹は面識があった。
ただ、友達と呼べるほど付き合いがあるわけではなく、外をぶらついているときに顔をあわせる程度の仲だ。
当然インデックスは、妹達のことなど知らない。
インデックスも、御坂妹と美琴の間に普通ではない何かがあると感じていたが、特に事情を聞こうとも思わなかった。
頼られれば事情など関係なく許しを与え、包み込むことこそが主の教えであり、インデックスのスタンスだから。
何より、その辺りの事情はツンツン頭の少年が上手いことやっているだろうと、当たりをつけていた。



96 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:28:38.98 ID:EuY5EXU0


「いや、なんていうかどっちも探してた」

「果てしなくやる気が削がれる言葉ですね、とミサカは肩を落として言います」

「ふーん、でもなんで短髪にこの子と聞かなかったの?」

インデックスとしては当然の疑問である。
美琴の関係者と思われる御坂妹を探しているなら、美琴に連絡先でも聞けばいいだけだ。
なにも学園都市を探し回る必要はない。

「お姉さまに勘付かれないためではありませんか? と勘のいいミサカは言います」

「短髪に?」

「はい。恐らくというかもう確信しましたが、あなたはお姉さまにあの時話したことを黙っていますね?」

そう言って御坂妹は上条を見る。
上条は観念したかのように、大きくため息を吐いた。

「とうま、短髪に黙ってたの?」

横に座る上条に半眼でジロリ、と視線を向け責めるようにインデックスは言った。
インデックスの視線と言葉にまた上条はため息をつく。

「事実が確定するまでは、お姉さまに黙っていようと考えていたのでは? とミサカは推測します」

「なんで考えてることを、そうスパスパ当てれるんだよお前は…」

「…とうまの考えそうなことだね」

やれやれ、と言葉が聞こえてきそうなジェスチャーで呆れるインデックス。
食事の手をとめ、相変わらずやる気のなさそうな顔で上条をじっと見つめる御坂妹。

「…そうだよ、そうですよそうなんですよ! 何だよ悪いかよっ!!」

「うわ、開き直った…」

「これはうざい、とミサカは呆れます」



97 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:29:05.15 ID:EuY5EXU0


美琴に一切の事情を上条は説明しなかった。
少女は消えた次の日の夜、美琴と会ったときに少女が去ったとしか彼女に伝えなかった。
上条には言えなかった。

いつか妹達が実験で犠牲になっていたときに見た美琴の姿がフラッシュバックする。
あの陸橋で、いまにも壊れそうな儚い美琴の姿を。
だから黙っていた。
ありもしない現実を不用意な事実を美琴に伝えて悲しませたくなかった。
御坂妹の場所を美琴に聞けなかったのはこのためだ。
下手なことを聞けば美琴に勘ぐられてしまうから、上条は御坂妹を自力で探すしかなかった。

「とうま、とうまの考えてることは大体わかるんだよ?」

「他人のことばかり気に掛けるのはあまり感心しません、とミサカはため息を吐きます」

「…悪かったな」

横から前から責められ、上条はふて腐れた返事をする。

「まあ、とうまらしいよ」

インデックスはそう言って諦めたような呆れたような笑みを浮かべ上条をみる。

「そうですね、とミサカは同意します」

御坂妹はそうこぼし、彼女にしては珍しく小さく笑った。
見慣れたものでないと分らないくらいの変化だったが、確かに笑った。
結局この二人も過去、そんな上条に救われたから。
そんな上条だったからこそ救えたのだから。

「…なにやら生暖かい視線を感じるのですが」

「気のせいだよとうま」

「早く食べないと麺が伸びますよ? とミサカは忠告します」

「へ? あ、あぁっ!! ―――不幸だ…」





98 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:29:40.86 ID:EuY5EXU0



伸びきった麺は不味かった。何故自分は肉うどんを頼んだのであろうかと上条は悔やむ。
話をすることが分っていたのだから、せめて伸びないパスタでも…、と考えたところで値段を思い出し落ち込んだ。
最初から自分には選択肢などなかったことに気が付いたから。

「はぁ、もういいや。で、そろそろいいか?」

「もう少し食後の時間を堪能したかったのですが…、まあいいでしょう、とミサカは名残惜しさを感じつつ話を切り出します
 打ち止め。それが上位個体の呼称です、とミサカは言います」

「らすとおーだー?」

「打ち止めか」

「打ち止めは、ミサカたち妹達の上位の存在にあたり、MNWの総括です。
 簡単に言えってしまえば、上司です、とミサカはバカでも分る例をあげます」

「…なにかひっかかるんだけど」

「気にするな、俺もだ。で、そいつはどこにいるんだ?」

「口でいうのもアレなので、携帯電話を貸してください、とミサカは言います」

上条は携帯をポケットから取り出して御坂妹へ渡す。
御坂妹は受け取った携帯を器用に操作して何かを打ち込んでいく。

「ここです、とミサカは受け取った携帯の番号を控えつつ伝えます」

「ん…、って第七学区じゃねーかっ!!」

「だいなながっく?」

「おま…、自分が住んでいるところくらい分っとけよ」

「…言い返せないのが、ムカつくかも」

「ふぅ、とミサカは一仕事を終えたあとの紅茶を楽しみます」

目の前の騒がしい二人を尻目に、御坂妹は紅茶を一口飲み、言った。

「待ってください、とミサカは先手をとります」

「よし行くぞっ! イン――――なんだよ、御坂妹?」

「あれ? なんかすごくイラっとしたような…」



99 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:30:27.83 ID:EuY5EXU0

予想通り、今にも走り出しそうな上条を引き止める御坂妹。
急かす上条の視線を受けながら、平然と紅茶を飲み終えてから御坂妹は言った。

「伝え忘れていたのですが、今回ミサカがとった行動は独断です、とミサカは付け加えます」

「独断?」

「はい、そもそもあの時話したことも上位個体、打ち止めから黙っているように言われていました、とミサカは言います」

「え…、お前の上司なんだよな? 大丈夫なのか…」

「あまり大丈夫ではありませんね、とミサカは観念したように呟きます」

「えーっと、ようするに大ピンチってことなのかな?」

「身も蓋もありませんが、その通りです、とミサカは肯定します」

空気が沈む。先ほどまであったクライマックスへ向けての疾走感はすっかり消えてしまった。
(またやっちまったな…)
と上条は、自分の頭を殴ると御坂妹に言う。

「悪い…こっちの都合ばっか押し付けちまって」

「いえ、気になさらずに。これはミサカが選んだことですから、とミサカは自分の意思を強調します」

上条の言葉になんでもないと言った風に返す御坂妹。
言葉の通りこれは彼女の意思で上条に託すと決めたことだから、上条が謝る必要はない。
これは謝罪を求める言葉ではなく、忠告なのだから。

「うー、でもなんでそのらすとおーだーは、あの子のことを内緒にしてるの?」

「推測でよろしければ話しましょうか? とミサカは提案します」

「頼む」

上条は真剣な表情で御坂妹に短く言った。
御坂妹は上条を見返し一呼吸おくと、こう切り出す

「まず、勘違いしないで下さい。打ち止めの行動は彼女を思っての行動だと理解してください、とミサカは前もって言います」

「…あの子のことを?」

「…」

「続けます。恐らくですが、彼女に時間をあげたかったのだと、ミサカは推測します」

「時間?」

「…考える、落ち着くための時間だね」


100 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:31:02.62 ID:EuY5EXU0

インデックスは御坂妹の言葉に、悲しそうな笑みを浮かべ少女と出会った日のことを思いだした。
出会ったときの少女は酷く不安定で、まるで自身の置かれた状況を把握していなかった。
突然自分が偽者だと残酷な事実を突きつけられ、帰る場所も頼れる人もなく彼女は彷徨っていた。
インデックスが少女と出会ったのはそんなときだ。

「その通りです、とミサカは呟きます」

「…、突っ走って取り返しのつかないことを、するところだったんだな俺は…」

「とうま…」

上条は懺悔するかのように吐き棄てた。
少女を見つけることばかり優先し、事態の進展ばかり追い求めた結果。
渦中の少女のことをまるで考えていなかった自分に気付いたから。
見つけて終り、ではないのだ。見つけたところで少女自身の問題は何一つ解決しないのだから。

「やめてください、とミサカはやや語尾を強めて言います。
 少なくとも、ミサカがあなたにこの事を伝えたのは、それが最善だと判断したからです、とミサカは念を押します」

「…」

「話を戻します、とミサカは仕切りなおします」

「悪い、続けてくれ」

「状況を整理します。彼女の生存は間違いありませんが彼女の置かれている状況はいまだ不明あり
 前に話したと思いますが、彼女の記憶はそのままです」

「記憶? どういうこなのかな?」

インデックスが分らないといった顔で御坂妹に聞き返す。
上条もそこが気に掛かった。大体の事情は飲み込めたが、そこに違和感を感じた。
それこそが、この状況の真相に深く関わると上条の直感が告げていた。



101 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:31:38.58 ID:EuY5EXU0

「そうですね、ついでと言ってはなんですが言っておきます、とミサカは前置きします」

御坂妹の言葉に二人は喉を鳴らし言葉を待つ。

「大よその検討はついていると思いますが、彼女はお姉さま、御坂美琴の記憶をもつ妹達の一人です、とミサカは告白します」

「―ッ」

「短髪の…」

分りきっていたことだ。少女の言動をみればそんなことはとうの昔に分っていたことなのだ。
だがそんな考えとは違って、上条の胸に受けた衝撃はとても大きかった。
上条は返す言葉を失う。

「定義にもよりますが、ミサカは彼女がお姉さまであると断言します、とミサカは本心を告げます」

「…、そっか、だからあの子は不安だったんだね」

クローン技術、記憶、人格の完全移植。
それはもう神の領域ではないのかと上条は思った。
こうしている間にも自分のクローンが造られ、そいつは自身のことを上条当麻と思っているかもしれない。
上条は世界が反転し気持ちの悪いナニかが頭の中を蠢いている、そんな感覚に陥った。
あの少女は美琴と自分を見比べる上条をみてなにを思ったのだろうか。
自分自身と出会い、出会ってしまってからなにを考えていたのだろうか。

上条はそんなことを、少女の気持ちなど全く考えていなかった。想像していなかった。
少し考えれば思いつく、これに至るピースはすでに上条の中にあったのだ。

ふと、隣にいるインデックスに目を向ける。
インデックスはこの事実を知ってなお、少女のことを真剣に想っている。それだけしか考えていないのだろう。
だが自分はどうだと上条は自問する。
すでに打ちのめされている。少女の身に降りかかった現実に。自分ではない少女の現実にだ。
強く、強く手を握り締め。上条はすぐ近くにいるであろう少女のことを想う。


102 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:32:30.94 ID:EuY5EXU0


インデックスは先ほどから黙っている上条に、とうま? と呟き視線を向ける。
上条は俯いたまま拳を握り締め動かない。
そんな上条を見たインデックスは、優しい笑顔を浮かべ上条に言った。

「とうまがいまなに考えてるかわかるよ? でもね、自分を責めたってあの子の現実は何一つ変わらないよ」

「…インデックス、俺」

「だから、受け止めてあげよう? きっとあの子もそれを望んでるよ」

あの子は優しい子だから、とインデックスは呟いて上条の頭を撫でた。
上条は無言で頷くと、頬を強く叩きインデックスに目を合わせ力強く頷く。
インデックスは上条の様子に満足し小さく笑った。

「ミサカのことが完全忘却されているようで納得できません、とミサカは半眼で訴えます」

「うおっ! わ、悪い御坂妹…」

「そ、そんなことないんだよ」

二人の取って付けたようなフォローに、御坂妹は嘆息しながら言葉を続ける。

「後は特に言うことはありません。あくまでこれはミサカの独断であることを忘れないで下さい、とミサカは再度念を押します」

「そのらすとおーだーが邪魔するかもってこと?」

「その可能性は否定できませんが、大した邪魔にはならないのでご心配なく、とミサカは上位個体に思いを馳せながら答えます」



103 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:32:56.42 ID:EuY5EXU0


まぁ幼女だし、と御坂妹は内心呟きながら、もう一つの懸念については黙ることにした。
自身の言葉に?な顔を浮かべる二人を置いて御坂妹は立ち上がる。
自分の役割はこれで終りだと二人に告げた。

「これで全てです。投げっぱなしのようで申し訳ないんですが、ミサカに言えることはもうありません、とミサカは言いきります
 最後にもう一度言います。これはミサカの意思で最善だと考えた上で行動です、とミサカは断言します」

「ああ、分った。助かったぜ」

「あとのことは任せるんだよ! またねクールヴューティーっ!」

「それでは、とミサカは挨拶をします」

そう言うと、御坂妹は二人に頭を下げ帰っていった。
御坂妹を見送ったインデックスは、上条の名を呼び言う。

「とうま、わたしたちも出よ。これからのこと決めなくっちゃね」

インデックスはそれだけ言うとさっさと店の外へ向かった。
上条は慌ててインデックスの後を追おうとするが、領収書がテーブルの上にあることに気付く。
そういえば、御坂妹は帰るときに手に何も持っていなかったなと思い返し呟いた。

「あ…え? これ全部俺が払うの?」

当然返事は無い。

「ふ、不幸だぁああああああああああああっ!!」





104 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:33:41.48 ID:EuY5EXU0





気が付いたら外は薄暗くなっており、窓から見える景色はすっかり暗く夜であることを告げていた。
欠陥電気は壁にかけられた時計を見て驚き、思わず声をあげる。

「えっ!? もう8時なのっ!?」

黄緑の蛍光色で光る時計の針と数字が、午後8時を知らせている。
いつもならもう夕食を食べ終わっている時間だ。
自分は一体何をしていたのか、寝ていたには違いないが。
んー、と唸りながら欠陥電気は額に指を当て記憶を遡ってみる。
(えーっと、たしか…)
買い物に行こうとしてお金が無いことに気付いた。
一方通行がいなかったので待つことにして…。

「あー、そのまま寝ちゃったのか…」

テレビを眺めてて、そのまま寝てしまったのだろう。
自分はなんて迂闊なことをしてしまったのかと欠陥電気はため息を吐いた。
同居人の少年が顔を歪めて楽しそうに笑いながら小言を言う様が、容易に想像できた。
そういえば、その同居人の姿が見えない。
そもそも部屋の電気がついていない。
はて、と思いながら欠陥電気は薄暗い部屋を慎重に歩き、電気をつけ部屋を見回すと打ち止めがソファーで寝ていることに気付いた。
(だから静かだったのね…)
打ち止めが起きていたら、欠陥電気がこんな時間まで惰眠を貪れなかっただろう。
どうしてか。それは打ち止めが6時過ぎには夕食の催促を欠陥電気にしている筈だから。



105 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:34:17.25 ID:EuY5EXU0


そこまで考えて、一方通行が居ないことに欠陥電気は気付く。
彼は一体どこにいるのだろうかと首を捻った。
一方通行は所謂夜遊びをするような人種ではない。少なくとも欠陥電気はそんな彼を見たことがなかった。
基本、一日中家にいてソファーでぐーたらしており必要なときだけ出掛け、そうでなければ家に居た。
(ああ、そう言えば打ち止めが言ってたっけ)
昼間、打ち止めが言っていたことを思い出す欠陥電気。

『さぁ? あの人は唐突に居なくなったりするから―――』

これがそうなのかと納得して、欠陥電気は頭を抱えた。
これでは問題の解決になっていない。まさか夜になっても帰ってこないとは想定外である。
夕食はどうしようと欠陥電気が悩んでいると、ふいにインターホンが鳴った。

「客? あいつの家に?」

そう呟いて訝しげな表情を浮かべる欠陥電気。
居候となってから早4日。正確には5日だが、その間に客の訪問はおろか郵便物の配達すらない。当然セールスもなしだ。
生活を始めての4日間、一方通行の友人を名乗る人間にも、彼の知り合いにも会っていないことに改めて気付いた。
もしかしてすげーボッチなのか。と、そこまで考えて流石に失礼だなと思いつつも彼の人となりを思い出し納得した。



106 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:34:46.46 ID:EuY5EXU0


再度インターホンが鳴り、ドアをノックする音が聞こえた。
どうやら考え事をして相手を待たせてしまったようだ。
まあ普通に考えて、宅急便かなにかだろう。セールスにしては時間が遅いし、と考えながら欠陥電気はドアへ向かう。
その途中、再びインターホンが鳴った。
どうやら相手はかなり焦れているようだ。欠陥電気は、はいはい、と呟きながらドアを開け

「はいはい、いま……―――――――――――――え?」

ドアの向こうに立っていた人に驚いた。
欠陥電気が今、一番会いたくて一番会いたくない人物がそこにいたから。




「―――――――――よぉ、ビリビリ」




少し悩んでいるような嬉しいような顔をして、上条当麻はそこに立っていた。




108 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:36:01.90 ID:EuY5EXU0




――――――――――――――――『変化』――――――――――――――――






110 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:38:21.43 ID:EuY5EXU0
適当な推敲しながら投下するんで遅くなるわ
書き溜めはいつもみたいにないので悪しからず
15レス分はあると思うが…VIPよりかなり一度に投下できるんだよな

111 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:39:15.97 ID:EuY5EXU0




少女は目の前の現実が信じられなかった。
どうして彼がここにいるのか。何故ここに彼が来たのか。
彼は自分のことをどこまで知っているのか。今の自分をみて彼はどう思っているのか。
尽きない疑問が頭を占め思考がまとまらず、少女は言葉を発することができなかった。
ドアを開けたまま上条を凝視して固まる少女。

少女の反応に、上条はやっぱりまだ時間を置くべきだったかと早くも後悔していた。
だが、来てしまった以上、会ってしまった以上止まるわけにはいかなかった。
色々迷った挙句上条はこう言った。

「あー、突然悪い。…その、少し話せるか?」

実に直球である。
もっと気の利いた台詞を吐いて少女を安心させてやれればいいのだが、上条には如何せんそのスキルがなかった。
上条の非常に歯切れの悪い言葉を聞いて、少女は深く息を吐き一呼吸後にこう返した。

「…わかった、上着を着てくるからちょっと待ってて」

少女はそう言うと家の中へと戻る。
上条は少女が手を離して閉まりかけたドアを慌てて受け止めた。
このドアが閉まってしまうと一生開かなくなってしまう。上条にはそんな気がしたのだ。
冷静になれと自分を叱咤する上条。
少女は思ったよりも落ち着いている。だというのに、自分が焦ってもしょうがないと自分に言い聞かせる。
御坂妹の言っていた打ち止めなる人物はまだ見かけない。
どこからかこちらの様子を伺っているのだろうかと辺りを見回し、上条は苦笑した。
別に敵対しているわけでもないのに、無意識に警戒している自分がバカに思えたのだ。
そうこうしている内に、少女が戻ってきた。

「…」

少女は口を閉じ伏目がちにその視線を地面へ向けている。
ドアをいっぱいまで開け、上条は少女に外に出るように促す。
下を向いたまま少女は上条の横を通り階段へ続く廊下を歩いた。
上条はドアを丁寧にしめ少女の後に続く。

112 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:41:25.37 ID:EuY5EXU0


「…時間とらせて、悪いな」

上条は少女の背中へ声を掛ける。
その言葉に肩を震わせ上条に背を向けたまま少女は呟く。

「なんで、そんなこというのよ…」

少女の言葉に上条は返答に詰まった。
ここはどう反応を返すべきなのか、と上条は考えてしまった。
そしてどう答えるべきか考えている間に、上条は答えるタイミングを逸してしまった。

薄暗い階段を降り外へ出ると、少女は上条の存在を無視するかのように何も言わないまま歩き出す。
上条は少女の2,3歩ほど後ろをついて歩いた。

点滅を繰り返す街灯を通り過ぎ、通りを抜け角を曲がる。
歩く速度は早くも遅くもなく、少女は淡々と足を動かしていた。
外を歩き出してから10分ほど経っただろうか、光を照らす街灯はなくなり歩く道は二人の気分を表すかのように暗い。
少女は何も言わず上条は何も言えなかった。
二人は無言で歩き続ける。
まるでそれが義務であるかのように足を動かし続けた。
それを止めたとき、全てが壊れるような錯覚を抱いたまま二人は歩き続けた。
そんな拷問のような時間に、とうとう少女が根をあげた。

「なんで、なにも……いわないのよ……っ」



114 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:44:58.33 ID:EuY5EXU0


少女は震える声で、上条に背を向けたままそう言った。
上条には答えられない。なにを言っていいのか分らなかったから。

「…どう、して…なにも、いってくれないの?」

「…っ」

少女はもう泣いていた。震える声はとめられなかった。
どうして何も言ってくれないのだと、どうして何も言わないのかと上条を責める。
不安だったのだ少女は、上条がどう反応しなにを考えているのかと。歩きながら少女はそればかり考えていた。
非難するわけでも肯定するわけでもない上条の態度に、少女は分からなくなった。

「…っ………ひっ………」

上条は己のバカさ加減に呆れた果てていた。
インデックスに言われ御坂妹に言われていたのに、少女の言われてようやく気付くなんて。

『だから、受け止めてあげよう? きっとあの子もそれを望んでるよ』

バカだ。俺はどうしようもないバカだ。正真正銘のバカだと上条は頭の中で自分を強く殴り、やめた。
こんなことを考えていても意味は無いのだ。
反応をどう返せばいい? どう答えていいのか分らない? 実にバカげている。
思ったことを言えばいい。少女にありのまま伝えればいいのだ。
それこそが少女の望んでいること上条当麻なのだから。



115 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:47:08.91 ID:EuY5EXU0


よし、と上条は気合をいれ呟くと。少女の手を掴み走り出す。
抗議の声が聞こえたが上条はそれを無視し目的の場所へと駆けた。
見慣れた住宅街を抜け、点滅信号を走りぬき、いつか少女と闘った場所へと向かう。
途中、通行人に何事かと不思議な顔をされたが上条は気にせず走った。
いつしか少女から抗議や戸惑いの声は消え、上条の手をしっかり握り返していた。

雲に隠れていた月が顔を出し、淡い光で大地を照らした。
走り出してから10分。少女と無言で歩き続けた10分とは比べられないほど上条は短く感じる。
月明かりの中、二人はあの河川敷に到着した。
上条は息を整えながら少女へ向き直る。
少女は膝に手をついて、荒い息を吐いている。

「あー、悪い。ちょっと無茶しすぎたか?」

上条の間抜けな問いに、少女を下を向いたまま返す。

「…無茶苦茶も、いいところ…よ…っ」

まだ息が整わないのか、少女は途切れ途切れに言葉をつむいだ。
少女の言葉は先ほどまでと違い、どことなく力強さを感じる響きがある。
上条はその台詞に小さく笑い呟いた。

「…正直にぶっちゃけるぞ?」

少女は上条の言葉に一瞬肩を震わせるが、一度首を振り上条を見上げ言い放った。



116 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:49:18.32 ID:EuY5EXU0


「望むところよ」

「よし、言うからな」

上条は目を瞑り、軽く深呼吸をして言った。

「―――お前をどう呼んでいいのか、わからん」

「は?」

上条の言葉に少女は間の抜けた顔をする。
え、こいつなに言ってんのと。

「いやいやいや、かなりマジな話なんだぞ」

「…」

無言。上条のフォローは届かない。
少女は顔を俯かせ肩を震わせる。

「聞いてんのか? おーい、ビリビリ(仮)さーん」

少女の様子を訝しげに思った上条は、少女に問いかける。何故か小声で。
ブチ、と何かが切れる音がした。

「……ふ」

「ふ?」

とても懐かしい不穏な気配を上条は感じた。
もう長いこと感じていなかったプレッシャーを、確信めいた予感を上条は肌で感じた。

「ふ、ざ、け、ん、なぁぁああああああああああああああああっ!!」

「ちょ、どわぁああああああああっ!?」



117 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:50:56.43 ID:EuY5EXU0


バチィ、と空気を切り裂いたような響きとともに、少女から懐かしさすら感じる膨大な光が発せられる。
その光は意思を持つかのように上条へと殺到した。
上条はとっさに右手を光へと突き出す。
直視できない膨大な光が上条の右手を呑み込んだかと思うと、これまた懐かしい音が聞こえ一切の光が消え去っていた。

「…ひ、久々すぎて死ぬかと思ったぞおいっ!」

「どうせあんたには効かないでしょっ!!」

上条の攻撃を一切否定し、やはりお決まりの台詞で返す少女。
少女の言葉に上条は呆れながら口を開く。

「そういう問題じゃないだろ! 普通そんな攻撃を………――――――お前…」

「…ひぐ…………ひっ…………」

少女は泣いていた。
声を押し殺し、溢れる涙を手で拭いながら。
上条は胸が締め付けれる思いがした。
目の前の少女の涙にとっさに言葉が出そうになるが、上条はぐっと飲み込んだ。
一間置いて上条は無言で少女へと歩き、俯いて泣き続ける少女を抱きしめた。

上条の行動に少女はビクッ、と身を固まらせるが、次の瞬間には上条の胸に顔を埋め声をあげて涙を流した。
少女を肯定する言葉も、少女を慰める言葉も必要ない。
今はこうやって抱きしめて直接気持ちを伝えることが、少女にとって一番だと上条は思った。
きっと今口を開いても取り繕うような中途半端な言葉しか出ないからと、上条は自嘲気味に内心で苦笑する。
こうすることが今の少女にもっとも必要だと信じて。



119 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:52:57.40 ID:EuY5EXU0


二人の居る河川敷に、秋の冷たい夜風が吹きぬける。
全力疾走をして温まっていた体はすっかり冷めてしまっていて、思わず寒さに身を震わせる。

「大丈夫か? 風邪引いちまうぞ?」

「……へーき」

ぐすぐすと、鼻をすすりながら少女は強がりを言う。
泣き止んで落ち着いた少女は、上条からバッと慌てて身を離し微妙な距離をとっていた。その距離約2m。
上条は少女のリアクションに苦笑しつつ、結構凹んでいた。嫌われているとは思えないが釈然としないと。

「…かぜ引いても、どうせ、あさってには、入院するから」

少女は途切れ途切れにだが、こともなげに言った。
その言葉に上条はギョッとし思わず返す。

「にゅ、入院って大丈夫なのか!?」

「…あんたもわたしがなんなのか、もう知ってるでしょ?」

上条の台詞に少女は迷った表情を浮かべるが、大きく鼻をすすり上条を見返しそう呟いた。
一瞬意味が分らなかった上条だが、御坂妹との会話を思い出し反芻しながら言う。

「妹達、か」

「そ、調整しなくちゃいけないの。だからちょっとくらい、いいわよ」

そう言った少女は、どこか吹っ切れた顔をしていた。

「そういやそうだったな」

「…、……ねえ」

「ん、なんだ?」



120 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 02:58:02.53 ID:EuY5EXU0


歯切れが悪い言葉で少女は切り出した。
ついさっき吹っ切れた顔をしていた少女の変化に戸惑う上条。
どうして、とそこまで考えて気付いた。
先ほどの顔は一つの不安を吹っ切った顔なのだと。
少女の不安は山のようにあって、そう簡単には取り除けない。
だから一つ一つぶつかって行かなければならないのだ、少女自身で。

「はなしを聞いてほしいんだけど、いい?」

少女はまた一歩踏み出す。己の不安にぶつかるために、山のような不安を叩き潰すために。
ならば上条当麻にできることは簡単だ。
少女が納得するまで徹底的に少女に付き合ってやることだけだ。
上条は改めて少女と向き合うことを誓う。自分自身のためにも少女のためにも。

「おう、話が終るまではお前が嫌がっても居てやるよ」

「…ば、か。わたしがいやがったら、かえりなさいよ…っ」

上条の言葉に少女は、小さく涙をこぼす。

「話せよ、それで少しくらいスッキリするんだろ」

「…、うん」



122 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 03:01:05.71 ID:EuY5EXU0


少女は話した。自分のこれまでの事とを。
少年と出会う前に起こったこと、少年と別れてから起きたこと。
地下での衝撃的な出来事を、自身の身に降りかかった現実を。
再び目が覚めたら突然訪れた状況を。なにを考えて、どう思っていたのかを。

肩の触れ合う距離で地面に腰を下ろす二人。
上条はジャケットを少女にかけてやり話を聞く。
少女は語り終えた。

「…こんな、ところよ」

そう呟いて少女は目の前に流れる川に目をやる。
上条は少女から聞いた話が、想像していたよりもずっと過酷で優しく、自分の中でそれをうまく処理することができなかった。
少女に対し行われていた実験は許せるものではなかった。
施設の地下で現実を突きつけられ狂った少女のもとへ、あの一方通行がきて殺しあったことに驚いた。
妹達の上位個体、打ち止めの正体。
そしてあの一方通行と少女がいま一緒にいること、これがもっとも上条を驚愕させた。

「…感想っていうか、ちょっといいか?」

「好きに、いいなさいよ…。えんりょなんかしたら、ぶっ殺すからね…」

少女の物言いに頬を引きつらせつつ、今の少女ならやりかねないなと思いながら上条は言った。

「正直、上条さん的には、一方通行と同居してんのが一番驚いた」

「…ひていは、できないわね。わたしもそう思うわよ」

「いや、俺も奇抜なのと一緒に居るけどさ…」

実験は許せない。絶対に許しては置けない。だがもうそれは終ったことだ。
少女にそれを言ったところで悲しい思いをさせるだけで、何一つ少女に救いは無い。
上条にできることは、今のありのままの少女を受け入れてやることだ。
だから、そうした。
まあ上条の正直なところ、割とマジで一番気に掛かったことではあるのだが。



123 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 03:03:21.45 ID:EuY5EXU0


「へえ、それはわたしのことなのかな? とうま?」

「いぃ!? インデックス!?」

突然現れたインデックスに驚く上条。
もっともインデックスの登場は、二人で話した結果決められたことだったのだが上条はすっかりそのことを忘れていた。
最初は一人で少女と話をさせてくれ、そう上条はインデックスに頼んだのだ。
インデックスも中々譲らず納得しなかったが、上条の粘り強い交渉の結果渋々承諾した。

「……―――あ、あんた…」

インデックスの存在に少女は驚く。
少女にとってかけがえない恩人で、ずっと会いたかった人だったから。

「元気にしていたみたいで安心したんだよ。ずっと、心配してたから」

「……こん、な……とうじょうはひきょう、よ…っ」

「ごめんね」

「…っ」

インデックスは自然な足取りで座り込んでいる少女に近づき優しく抱きしめる。
その抱擁を当たり前のように受け入れる少女。
上条はそんな二人を見て
(インデックス、おまえやっぱすげーよ…)
と、一人ごちた。
最初からインデックスを連れて少女と会うべきだったのかと上条は思ったが、ありもしない状況を考えるのはやめた。
上条は抱きしめあう二人を横目に地面に寝っ転がった。服に砂がつこうがお構いなしに。
少女の嗚咽を聞きながら、満天には程遠い夜空を見上げまあいっか、と呟いて小さく笑った。



125 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 03:06:46.83 ID:EuY5EXU0


「ああ、そういやさお前の呼び方だけど…」

なんとなしに呟く上条。
自分でも唐突だと思ったが、それが自然だと思えた。
上条の言葉を遮るようにインデックスの胸に顔を埋めたままで少女は言った。

「びりびりで、いいわよ」

「…へ?」

少女の思わぬ言葉に上条は間抜けな返事をする。

「だから、びりびりでいいわよ。…わたしはみさかみことじゃないし」

御坂美琴ではないと言った少女の言葉に自嘲も悲痛もなかった。

「それがいちばん、いいから」

そういい切ると少女はインデックスの胸から顔をだし、恥ずかしそうにしてまたぐすぐすと鼻をすする。
インデックスは立ち上がった少女を見上げ、少し寂しいような嬉しいような顔をする。

「ああ、わかった」

上条は少女の言葉にそう呟く。

「ねえ、『私』はどうしてるの?」



126 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 03:10:47.47 ID:EuY5EXU0


どこかあまったるい優しい空気を吹き飛ばすかのように、少女は言った。その顔は若干赤い。
少女はさっきまでの自分を思い出して、恥ずかしくてたまらなかった。
年下の女の子に何度も泣きつくわ、いつもケンカを吹っかけていた少年に抱きしめられるわと。
一生分泣いたに違いないと、内心呟いて頬を引きつらせていた。

「…急だな、おい」

「短髪のこと? わたしは知らないから、とうま話しなよ」

急な話の舵きりに若干戸惑う上条。彼も唐突に名前のことを言ったのだからお互い様である。
上条は、インデックスの美琴に対する相変わらずの素っ気無い態度に苦笑しつつ口を開いた

「そうだな、じゃあ言うぞ?」

と、前置きして。

「あー、えーっと……なにを言えばいいんだ?」

「はぁ、いまの状況とかでいいわよ。……その、黒子とかさ」

少女はそう言って俯く。
少女にとって黒子のことはとても気がかりであった。
自分自身のことは、まあさておいても黒子は大事な存在だから。

「ああ、白井か」

「…」

なんとなしに言う上条。どことなくそのやる気のない態度が少女の勘に触ったがスルーすることにした。



127 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 03:12:33.65 ID:EuY5EXU0


「白井はお前のことを、もう一人のお姉さまって言い切ってたよ」

「―ッ」

上条は美琴が追い詰められ、黒子から電話が掛かってきて寮に乗り込んだことをありのまま話した。
黒子はまだ妹達のことを知らないことを、状況をなんとか把握しようと足掻いていることを。
美琴が追い詰めれたことを、なんとか立ち直っていることを。
少女が上条の元から去ったあとのことを全く知らないことを。

「そっか、黒子はまだ知らないのね…」

「ああ、俺が話すことじゃないだろ。お前か、御坂の役目だ」

まだ美琴がそのことを黒子に話してるかは知らないけどな、と上条は続ける。

「…」

「ねえ、どうしたいの?」

口をぎゅっと閉める少女。
そんな少女にインデックスは優しく語りかける。

「……………黒子に、会って話したい」

「うん、じゃあ決定だね」

「え!?」

インデックスの即答に思わず声をあげる少女。
上条も早すぎる事態の進展についていけず、蚊帳の外に投げ出されかけたがなんとか踏み止まりこれだけ言った。

「っておい、インデックス!?」

「入院、するんでしょ?」

「うん、………でも、ちょっと急じゃ、ないかなーって思うんだけど…」

「不安ならわたしもいくよ? っていうか、初めからそのつもりだけど」

「うぅ…」



128 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 03:14:04.88 ID:EuY5EXU0


インデックスの怒涛の攻めに、次々と退路を失う少女。
あ、これは落ちたなと会話に混じることをやめ感慨深げに二人を眺める上条。

「みことはわたしの友達だから、短髪なんかに負けちゃだめなんだよ」

「…――え?」

「はい?」

インデックスをおいて空気が凍る。
え、今このシスターはナニを言ったの? と。

「あのー、インデックスさん? いまビリビリのことをなんと?」

「みことだよ」

「えーっと、わたしは御坂美琴じゃないって…」

何を言ってるの? と逆に二人を心配する表情を浮かべるインデックス。
果てしなく空気が読めていない。

「くーるびゅーてぃーが言ってたんだよ。あなたはみさかみことだって
 だから、あなたはみことなんだよ」

インデックスは、あまりにも自然に言ってのける。
まるでそれが当然だといわないばかりに。

「えー、じゃあもう一人の『私』のほうは?」

「短髪」

即答かよ、と上条は心の中で突っ込んだ。
インデックスのその清清しいまでの突き抜けっぷりに、乾いた笑みを浮かべ少女は言った。

「はぁ、一応名前らしいものならあるんだけどね」

その言葉に上条は少女に視線を向け、インデックスは、どんな名前? とストレートに少女に聞いてくる。
少女は、当たり前のようにこれを少女と名として呼ぶ少年を思い出しながら言った。

「『欠陥電気』よ」

そう呟いた欠陥電気は、どこか嬉しそうだった。





130 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 03:15:10.44 ID:EuY5EXU0
はいここから恐怖の一方さんパート入ります
あんま長くねーですが

132 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 03:19:24.51 ID:EuY5EXU0




「どうなってやがンだ、芳川」

「今度はドアを壊さずに入れたみたいで何よりよ、一方通行」

一方通行に芳川と呼ばれた女は、薄暗くPCの起動音がやたら聞こえる部屋の奥のテーブルに腰をかけ紅茶を飲んでいる。
絶対能力進化の実験の際に使用されていた研究棟に一方通行はいた。
自宅の周囲で張っていた男を殺した後、まだ周辺にいるであろうその仲間を探しだし
さらに3人ほど殺害、それが終ったのはつい先ほどのことだった。

「質問に答えろ」

韜晦するように喋る芳川の言葉を無視し、一方通行は吐き捨てる。
一方通行の様子に軽くため息を吐いて芳川は本題に入った。

「残念だけど目立った情報は特にないわ」

「昼間張ってやがった奴らは、いつもと毛色の違う連中だったンだぞ 
 なンかあンだろ。つーか、オマエなンか知ってンだろ?」

芳川の言葉に訝しげな表情を浮かべ問い詰める一方通行。
この女性が勿体ぶって事情を遠まわしに説明することを一方通行はよく知っていた。
だから一方通行は、芳川の態度を忌々しく思いながらも食い下がった。
そうあの男はレベル5第一位である自分ではなく、明らかに違う目的で動いていたと一方通行は確信を抱いている。
まるで、待てと言われ待機する忠実な番犬かのように、何かを待っていた。
よし、と言われるそのタイミングを待っていたのだ。



135 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 03:21:42.03 ID:EuY5EXU0


一方通行に仲間を殺されているのにも関わらず、男達は愚直に持ち場を離れなかった。
だから男を殺したあとも3人ほど探し出せた。
一方通行を見ても動じることなく、その場を動かない臭い奴に当たりをつけて絡む。
そうすれば正体が割れる、時間は掛かったが簡単で酷く退屈な作業だった。

「あいつらな何を狙ってやがンだ、答えろ芳川、ぶっ殺されたいのか」

人が殺せそうな視線で芳川を睨み、脅す一方通行。
そんな一方通行を平然と視界におさめ、考えるように顎に手をあてていた芳川はこう呟いた。

「いい話ではないけれど、聞いてみる?」

「さっさと言いやがれ」

芳川の言葉に舌打ちをし先を促がす一方通行。

「あの子に行われていた実験。レベル5への進化法の引き継ぎを希望する人が現れたわ」

「…」

「別にその人物は問題じゃないんだけど、その背後にある組織が問題でね
 正式な手続きを踏んで、実験の継続を試みようとしてるわけ」

「…待てよ、俺はデータを完全にぶっ壊したンだぞ。引継げるわけがねェ」

芳川の話を遮る一方通行。
欠陥電気の実験データはあのとき完全に破壊したはずである。施設も同様に潰した。
一方通行自らの手で。



136 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 03:25:14.04 ID:EuY5EXU0


「データは残っていた。それが現実よ一方通行。ただね、君が失敗したわけじゃないの、私のミス。
 私たちがあの子の存在に気付いた時点で、すでにデータは渡っていたのよ」

「…っ」

ギリッ、奥歯を噛み締め苛立ちをぶつけるかのように、一方通行は壁を蹴った。
ありえない失敗だ。
欠陥電気は実験の凍結で宙に浮き、他の妹達同様の扱いになる筈だった。
最悪彼女は学習装置でリセットされるかもしれないが、最悪でもそうであった筈だった。
そう仕向け、欠陥電気を救う筈だったのだ。

「何時だ」

「…わからないわ。まだ決定していないことは確かよ。ただ注意して、私は一介の研究者よ。
 今こうしてここにいるのも妹達の調整に私の経験が役に立つ、それだけの理由でここに居られるの」

芳川が知れることは多くない、そしてそれを知る事ができたとしても既に手遅れな可能性も十分にある、と芳川は言外に語った。

「…どうすればイイ?」

「仮に統括理事会がこの実験を承認したら、覆すことは不可能よ。最低続きで言っちゃうけど、この件は多分通るわ」

最悪すぎる状況だ。
統括理事が承諾したら、この実験を阻止することはできなくなる。
欠陥電気を救えたのはあの実験が、単なる末端で行われていたものだったから。
今更レベル5を造ることに拘ったところで意味は無いのだ。そもそもすでにそれは失敗している。
なのに何故今更になってこんな実験を、それも統括理事にかけあって正式に承諾まで貰う必要が―――

「…俺がぶっ潰したから、なンだな?」

「ええ、そうよ。学園都市最強の君が実験に対し敵対したから、彼らは統括理事にかけあった。
 貴方なら、少々無茶をしたところで誰も咎められないから」

実に笑える展開だ。いや、一方通行はもう笑っていたのかもしれない。
自分自身の道化っぷりに呆れ果てて、救ったつもりが彼女をより深い闇に叩き落した。



137 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 03:28:02.30 ID:EuY5EXU0

「彼女の記憶を消したところで多分実験は続けられるわ。
 何しろ彼女は13回繰り返して、その結果超電磁砲に近づいた存在だから」

他の個体がこの実験に運用される可能性は少ない。
彼女達には別の用があるのだから。ただ、この実験でレベル5製造の可能性がでたとしたら。
そこまで考えて一方通行は己の過ちに絶望した。

下手をすれば妹達は実験動物として、殺されるために新たに造られるのだ。
施設の地下で出会ったときの彼女の姿が一方通行の脳裏を過ぎる。
あれが、また繰り返されるのだ。
何度も、何度も、何度も少女が死ぬまで。

一方通行は足の力が抜け、壁に寄りかかる。
顔は強張り、喉の奥はからからに枯れていた。

「絶望するのは早いわ一方通行」

「…オマエのその台詞は、地獄への片道切符だろうがァ」

かつて打ち止めの身に降りかかった事件のときも、芳川は似たようなことを言った。
その内容がまた笑える。打ち止めをこの手で殺せときたもんだ。
一方通行の皮肉を聞き流し、芳川はいつか見た端末とメモリを机に置いた。
それを見た一方通行は、もう観念するしかなかった。

「彼女の記憶を消しなさい」

「…それに、なンの意味があるンだよ」

「万に一つかもしれないけど、実験は中止されるかもしれない」


138 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 03:32:38.51 ID:EuY5EXU0


その言葉を聞いて一方通行はくぐもった笑いを浮かべる。
それはありえないと芳川自身が言ったことだ。統括理事まで掛け合うような連中だ、そんなことで諦める筈がない。
芳川は一方通行の反応を無視して続ける。

「それだけじゃないわ、彼女がこの事実に耐えられると思っているの?」

「―ッ」

芳川の言葉に一方通行は表情を凍らせ言葉を失った。
そう、記憶がこのままであれば欠陥電気はさらなる絶望の淵に立たされる。
今回の絶望は半端ではない。なぜなら統括理事会の意思のもとで殺され続けるのだから。

彼女はすでに絶望を経験し、そこから立ち直ったばかりなのだ。
それがどういった理由で、どうして持ち直せたのか一方通行には想像がつかない。
ただ、今の彼女がこの事実を知ってしまったら?
後戻りが不可能な袋小路まで追い詰められていると気付いたら?
選択の意思はなく、絶対的な力に押し潰される現実を見てしまったら?
彼女は今度こそ完膚なきまでに打ちのめされることは、容易に想像できた。

「…、俺の手で、殺せってンだな」

「彼女の為よ」



139 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 03:34:24.93 ID:EuY5EXU0


それは欺瞞だ。そこに彼女の意思は無い。
彼女は結局彼女を取り巻く運命に翻弄され続ける。
勝手に造られ、勝手に助けられ、勝手に殺される。

「貴方が手を汚したくなければ連れてきなさい。学習装置を使うだけよ」

「…」

「それとも、いっそ本当に殺してあげるのが彼女の為かもしれないわね」

芳川はそう言って一方通行を見据える。
一方通行にはもう返事をするだけの気力は無かった。

「彼女を切り捨てなさい、一方通行。君には守るべき存在があるのでしょう」

「…」

「この実験に逆らえば、いくら貴方でもどんな処分を受けるか分らない。
 打ち止めだって危険に晒すことになる」

「…っ」

芳川の判断は正しい。徹底的に正論で助けられない以上さっさと諦めたほうが賢明だ。
少女が悪かったわけではない。ただ、運が悪かっただけだ。
やり直せると信じて打ち止めを救ったわけじゃない。それでも打ち止めを守ると決めたのは一方通行自身だ。
少女を救おうとすれば、打ち止めを殺すことになるかもしれない。その選択は一方通行にはありえない。
一方通行はのろのろと体を動かし、机に置かれた端末とメモリを手に取る。

「動きがあれば知らせるわ。ただ、時間はあまりないと思って」

芳川は一方通行を見ずに呟いた。
一方通行はもはや声すら聞こえていないのか、何の反応も示さず部屋をでていった。



141 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/01(木) 03:37:44.73 ID:EuY5EXU0 [121/121]
ここまで

って、少女と彼女の入り乱れとか、芳川の貴方発言とか…ミス
状況的に理解してもらえたら助かるわ、穴とかありまくりそうで怖い

一方さんにはみんなの分も苦しんでもらおうと思ってるんだ

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