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梓「マイ ファニー バレンタイン」-2
梓「マイ ファニー バレンタイン」
続きです
続きです
442 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/24(水) 23:08:42.63 ID:hhRXdGr2P [23/27]
梓「えっ…?」
頭の中が真っ白になった。
唯先輩の好きな人は、私…?
唯「なぁんてね、冗談♪」
梓「………」
唯「あれ、あずにゃん?おーい!」
梓「はっ、はい?!」
唯「大丈夫?ぼーっとしてたけど」
梓「そ、そんなことは…」
唯「でも、あれだね。ごめんねあずにゃん」
梓「何がですか?」
唯「いや、何度も家に誘っちゃったりして。澪ちゃんに悪いことしちゃったかな」
唯「これから気をつけるから、ごめんね?」
梓「え…」
448 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/24(水) 23:13:47.72 ID:hhRXdGr2P [24/27]
梓「ま、待ってください!何でですか?!」
唯「私のせいで澪ちゃんにヤキモチやかせるのは嫌だし、何よりそれが原因でケンカとかしてほしくないからさ」
梓「それは…。確かにそうかも知れませんけど」
梓「でもだからって唯先輩と会えなくなるのはやです…」
唯「会えないって言ってるわけじゃないよ?これからもみんなと一緒にたくさん遊ぶつもりだし」
唯「ただ、2人で遊ぶのはちょっとやめよっかって言ってるだけ」
梓「それが、嫌なんです…」
梓「そんなこと、言わないでくださいよ…」
唯「あずにゃん…?」
455 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/24(水) 23:19:08.29 ID:hhRXdGr2P [25/27]
自分でも何を言っているのかわからなかった。
唯先輩が私と澪先輩に気を遣ってそう言ってくれてる、
その気持ちはすごくうれしいんだけど。
だけど、唯先輩に会えなくなるのは嫌だ。
矛盾した思いが駆け巡る。
唯「ねぇ、あずにゃん。もしもだよ?」
唯「澪ちゃんが誰かと2人っきりでちょくちょく遊んでるって知ったら、どう思う?」
梓「それは…」
唯「自分とは会えないのに、どうして。って思わない?」
梓「………」
唯「でしょ?」
確かに嫌な思いをするかも知れない。
ましてや嫉妬深い性格なんだ、不安にもなる。
それはわかってる。わかってるんだけど…。
456 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/24(水) 23:23:26.17 ID:hhRXdGr2P [26/27]
梓「でもっ――」
ぎゅっ
唯「わがままだなぁ、あずにゃんは」
唯「さ、バイバイだよっ。これから雨強くなるみたいだしね」
梓「…はい」
半ば突き放された形で、私は唯先輩の家を後にした。
私には澪先輩がいる。大好きで、大切な恋人。
だけど、何だろう。
―――あずにゃんだよ―――
その言葉が頭から離れなかった。
冗談だって、わかってるのに。
471 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/25(木) 00:23:29.08 ID:mpimpF2YP [1/13]
6月14日。
私と澪先輩の4ヶ月の記念日。
今日はちょっと遠くに出て買い物をすることになった。
天気は、雨だった。
澪「うーん、雨やだなぁ」
梓「そうだね、早く梅雨明けるといいけど…」
澪「早く夏休みにならないかな」
梓「どうして?」
澪「だって、そうすれば梓にたくさん会えるじゃないか」
梓「…そうだね!」
澪先輩といる時間は幸せだった。
月に一度しか会えないんだもの、幸せじゃないわけがない。
帰りたくなかったし、もっと一緒にいたかった。
充実していたし、満足もしている。
でも、胸につっかかることもあった。
あれから、唯先輩から連絡は一度もなかった。
472 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/25(木) 00:31:17.23 ID:mpimpF2YP [2/13]
【大学】
7月。
梅雨も明け、気温もあがってきた。
もうすぐ夏がやってくる。
律「やべぇよ、澪!どうしよう!課題終わんないよ!!」
澪「自業自得だろ、バイトばっかしてるからだ」
律「そんな冷たいこと言わないでよ澪しゃあん…」
この時期は多くの授業でレポートの提出が課される。
一年生の私たちは履修科目も多く、当然たくさんのレポートが出されていた。
唯「ムギちゃんだずげで~!!!」
紬「じゃあ、今日私の家で一緒にやろっか♪」
唯「本当っ?!ありがとう~」
律「…なっ?」ちらっ
澪「なんだその目は」ずびし
律「あてっ」
474 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/25(木) 00:35:30.46 ID:mpimpF2YP [3/13]
紬「せっかくだし、みんなで一緒にやる?」
律「おっ、いいねー!待ってました!」
澪「ムギ。あんま甘やかすと今後のためにならないぞ」
紬「まぁまぁいいじゃない。今日はみんなバイトもないんだし」
紬「久しぶりにお茶でもしましょ?」
澪「けど…」
紬「う~ん…。澪ちゃんがそこまで言うなら仕方ないわね…」
紬「じゃあ3人でやりましょうか♪」
澪「」
475 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/25(木) 00:41:20.67 ID:mpimpF2YP [4/13]
唯「わぁい!ムギちゃんのお茶飲むの久しぶりだなー」
律「わりぃな澪!家のこと頼んだわ!」
澪「………」
澪「……私も」
澪「…私もいぐぅ~!!!」
紬「うふふ、やっぱりね」
澪「あっ、ムギ!こうなるってわかっててわざと言ったんだな!」
紬「さぁ、何のことかしら♪」
澪「ぬぬぬ…」
ムギに一本食わされた。
ムギだけじゃない、唯も律もにやにやしていた。
3人揃って、まったく…。いじわるな奴らだ。
こうして私たちはムギの家にお邪魔することとなった。
478 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/25(木) 00:48:43.93 ID:mpimpF2YP [5/13]
【紬の家】
律「ふぅ~っ…」
律「飽きた」
澪「まだ30分も経ってないだろ!」
律「だってほら、ムギのお茶がないとやる気出ないって。な、唯?」
唯「その通りだよりっちゃん!」
紬「それじゃあちょっと休憩しましょうか」
そう言うとムギはキッチンに向かった。
紬「はい、どうぞ」
律「あぁー…幸せ」ずずっ
唯「んんー、おいしい」
紬「よかった♪」
結局ティータイムを満喫していた。
レポートの進み具合に関しては…言うまでもなかった。
479 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/25(木) 00:52:43.72 ID:mpimpF2YP [6/13]
【澪と律の家】
律「ふわ…おやすみ」
澪「えっ?!もう寝るのか?」
律「お腹いっぱいでさ、そんじゃ」ばふっ
あの後、みんなでご飯を食べ解散した。
久しぶりに4人で一日中いた気がする。
律は帰るなり布団をかぶり寝てしまった。
澪「………」
ピッ
私は携帯を取り出し、電話をかけた。
prrrr prrrr
ガチャ
紬『もしもし』
そう、ムギに。
482 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/25(木) 01:03:40.47 ID:mpimpF2YP [7/13]
澪「ごめんな。今大丈夫?」
紬『大丈夫よ、どうかした?』
澪「その、相談があるんだけど…」
紬『梓ちゃんのこと?』
澪「な、なんでわかったんだ?!」
紬『誰にも知られたくないことだから、わざわざ電話にしたんでしょ?』
澪「実は、8月14日で梓と半年になるんだ」
澪「だから、何かプレゼントしたいなぁって思って」
澪「全然会えなかったし、構ってあげられなかったから…」
紬『それで、私に何が良いか相談に乗ってほしいってことかな?』
澪「う、うん…」
ムギはこういうところにはいつも助けられていた。
みなまで言わなくても、理解してくれるから。
485 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/25(木) 01:10:57.90 ID:mpimpF2YP [8/13]
紬『うーん、アクセサリーとかどうかしら?』
澪「指輪とか?」
紬『そうね…。でも指輪はもっと大切な日にあげた方がいいと思うわ』
紬『イヤリングは高校生だからまずいし…』
紬『ネックレスとかどうかしら?小さくてかわいいのもたくさんあるし』
澪「ネックレスか、なるほど…。確かにいいかも」
紬『今度一緒に見に行ってみない?私もイヤリング見てみたかったの』
澪「本当か?助かるよ、ムギ。ありがとう」
紬『じゃあ、今週末にお出かけしましょ』
澪「うん!」
ムギには感謝してもし尽くせなかった。
いつか恩返ししなきゃな。
どんなネックレスにしようかな、梓に似合うやつがあればいいけど…。
想像は膨らんだ。週末が楽しみだった。
488 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/25(木) 01:16:18.47 ID:mpimpF2YP [9/13]
週末。いい天気。
照りつける日差しが眩しい。もう夏も目前だ。
紬「おはよう」
澪「おはよう、ムギ」
紬「それじゃ、行きましょうか」
澪「どこか行くあてがあるのか?」
紬「ちょっと電車で行ったところに大きなデパートがあるの。だからそこに行きましょ」
澪「わかった」
私とムギは電車に乗って、目的地に向かった。
490 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/25(木) 01:23:20.40 ID:mpimpF2YP [10/13]
【デパート】
澪「うわぁ、大きい…」
紬「この中にアクセサリーショップがいくつか入ってるの」
紬「行きましょ♪」
澪「うん」
ムギは慣れた様子で案内してくれた。
何度も足を運んでいるんだろう。
澪「何かごめんな、付き合ってもらっちゃって」
紬「いいのよ全然。こういうお買い物って、わくわくしない?」
澪「…そうだな!」
496 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/25(木) 01:30:31.84 ID:mpimpF2YP [11/13]
目的のアクセサリーショップに着く。
澪「うわぁ、いっぱいある」
紬「好きなの見てていいわ、私もイヤリングのところ見てくるから」
澪「わかった」
ムギの言うとおり、たくさんのネックレスがあった。
大きいものから小さいもの、形も様々だった。
「何かお探しですか?」
澪「へ、へっ?!あ、えと…」
店員の人に話しかけられた。
こういうのはどうも苦手だ。
498 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/25(木) 01:35:46.74 ID:mpimpF2YP [12/13]
澪「あの、その…。プレゼントにネックレスを買おうと思ってまして…」
「記念日ですか?」
澪「まぁ、そんなところです…」
その後たどたどしくも店員の人と話をし、
小さなハートのネックレスを買うことにした。
「後ろに名前を彫ることも出来ますが、いかがなさいますか?」
澪「あ、じゃあお願いします…」
言われるがままに頼んでしまったが、
サンプルを見るととてもかわいらしく彫られていた。
499 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/25(木) 01:44:18.37 ID:mpimpF2YP [13/13]
紬「おまたせ、いいのあった?」
澪「あぁ、かわいいのが買えたよ」
紬「どんなの買ったの?」
澪「だっ、ダメっ!恥ずかしいから…」
紬「むぅ~…」
澪「あ、梓に渡したら梓から見せてもらってくれっ」
紬「まぁ、澪ちゃんったら♪」
澪「う、うるさいっ///」
澪「ムギもいいのが買えたみたいだな」
紬「うん!」
75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 03:48:52.18 ID:3lF6MxQ4P [2/19]
梓「ふぅ、暑いなぁ…」
私は今日、電車で行きつけの楽器屋に向かっていた。
ギターの鳴りが悪くなった気がするので、メンテをお願いしに行くのだ。
私の住んでるところとは違ってこの辺りは随分と栄えていて、
楽器屋も大型の店舗が揃っている。
梓「………」
メンテをしてもらっている間、私はずっと考えていた。
澪先輩のこと。そして、唯先輩のこと。
私は澪先輩のことが好き。
これは偽りなく本当のことだし、一緒にいるときは幸せ。
欲を言ってしまえば、本当はもっとたくさん会いたい。
記念日だけじゃなくて。
私は会わないとどんどん不安になっちゃう人間だから。
でもそれは言わなかった。
頑張ってる澪先輩の邪魔をしたくはなかったし、
何より、澪先輩を信じてるから。
77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 03:54:39.24 ID:3lF6MxQ4P [3/19]
とはいえ、唯先輩のことも私の心を揺らしていた。
いつもなら、軽く流す程度で終わったのに。
なぜかあの冗談はいつまでも頭に残っている。
今思うとあの時の唯先輩の表情は少し違った気がした。
悲しげって言うか、何て言うか…。
梓「……考えすぎか」
そうこうしているうちにメンテが終わる。
梓「うん、いい感じ」
せっかく来たんだからもう少しぶらぶらしてから帰ろうかな、
そう思いデパートに向かうと見覚えのある姿があった。
梓「あ…!」
澪先輩だ。
80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 04:01:55.42 ID:3lF6MxQ4P [4/19]
まさに偶然だった。こんなところで会うなんて。
梓「澪せんぱ――」
声をかけようとしたが、澪先輩の隣にもう一人知っている姿があった。
ムギ先輩だ。
2人は買い物を済ませたらしくデパートから出て行った。
私は声をかけるのをやめた。
ムギ先輩といる澪先輩が、あまりにも楽しそうで、眩しかったから。
梓「…なんだよ、澪先輩」
梓「あんなにうれしそうな顔してさ」
ちらりと見えた澪先輩の横顔は、とても幸せそうだった。
私の前でなくても、あんな顔してるんじゃん…。
ほんの少し悲しくなった。それと同時に、不安にもなった。
私は結局澪先輩には声をかけず、帰路についた。
81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 04:08:06.45 ID:3lF6MxQ4P [5/19]
【電車】
紬「楽しかったね」
澪「あぁ」
買い物が終わった私たちはその後街をぶらぶら回ったり、
お店に入ったりと楽しい時間を過ごしていた。
澪「梓、よろこんでくれるかな…?」
紬「大丈夫よ。好きな人からもらったプレゼントがうれしくないわけないわ」
澪「本当に、色々とありがとうな」
紬「それにしても、梓ちゃんは幸せね」
澪「どうして?」
紬「だって、こんなに澪ちゃんから愛されてるんだもの♪」
澪「ばっ…ムギ!!///」
紬「澪ちゃん、しっ!ここ電車よ?」にやにや
澪「うぅ…」
つい電車の中で大きな声をあげてしまった。
照れくさかったけど、うれしいことだった。
84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 04:14:16.67 ID:3lF6MxQ4P [6/19]
【澪と律の家】
澪「ただいまー…ってあれ?」
律の姿がなかった。
またバイトか。本当、よく働くな。
澪「ふうっ」
私は今日買ったネックレスを見つめる。
早くこれを梓に渡してあげたかった。
ずっと構ってあげられなくて、寂しい思いをさせてきたから。
brrrr brrrr
電話が鳴った。
澪「もしもし」
梓『あ、もしもし。先輩?』
85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 04:19:59.87 ID:3lF6MxQ4P [7/19]
梓からだ。
澪「どうした、梓」
梓『なんとなく、声が聞きたくなって』
澪「そっか」
梓『先輩、今日何してたの?』
梓のためにプレゼントを買いに行ったんだよ。
そう言いたかったけど、はやる気持ちを抑えた。
私は適当に言ってごまかすことにした。
楽しみで楽しみでうっかり口を滑らせちゃいそうで怖い。
これからはボロが出ないよう少し意識して接しなきゃな。
澪「朝起きて、課題やって、バイト行って…いつもの通りだよ」
梓『………』
梓『……そっか』
89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 04:27:59.43 ID:3lF6MxQ4P [8/19]
――ウソつき。
心の中でそうつぶやく。
私は澪先輩に電話をした。
なぜだかわからない。無意識のうちにボタンを押していた。
本当は、抱えていた不安な気持ちを取り除きたかったのかもしれない。
「何してたの?」その単純な問いに正直に答えて欲しかっただけかも知れない。
でも、その不安は取り除かれることはなかった。
澪『梓は今日なにしてたんだ?』
梓「私は…」
梓「私は特に。家でギター弾いて勉強してたぐらいかな」
澪『そうか。もうすぐ期末考査だもんな』
梓「…うん」
梓「疲れてるだろうから、切るね」
梓「おやすみ」
澪『あぁ、おやすみ』
91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 04:35:33.24 ID:3lF6MxQ4P [9/19]
ほとんど一方的に電話を切った。
―――自分とは会えないのに、どうして。って思わない?―――
唯先輩の言葉を思い出す。
澪先輩も、あの時同じようなことを思ったのかな。
先輩はウソをついた。
私が澪先輩に問いつめられたときは正直に話したのに。
裏切られた気分だった。
不安と不信感が募る。
もしかしたら、もう…。
梓「…私のことなんて、どうでもよくなっちゃったのかな」
93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 04:43:30.09 ID:3lF6MxQ4P [10/19]
もやもやとした日々が続く。
勉強にも、ギターにも身が入らない。
あれからも澪先輩とはやりとりしてるけど、
私の抱いた不安は増えていくばかりだった。
その一方で私は期待をしていた。
唯先輩からの連絡を。
高校の時からそうだった。
私が悲しんでたり、不安になってる時、
先輩はそれを察したかのように現れて、手を差し伸べてくれる。
正義のヒーロー。
稚拙な表現だけど、私にとってはそんな存在だった。
いまの私は、澪先輩よりも唯先輩を求めていた。
94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 04:47:56.30 ID:3lF6MxQ4P [11/19]
brrrr brrrr
電話が鳴る。
梓「唯先輩?!」
ピッ
純『や、梓』
梓「…なんだ、純か」
純『なんだって言い方はないんじゃないのー?』
梓「なに?」
純『いや、英語のテスト範囲教えてもらおうと思ってさ』
梓「はぁ…」
電話の相手は純だった。
そうだよね、そんな都合よくいくはずないよね。
95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 04:54:48.69 ID:3lF6MxQ4P [12/19]
梓「えーっと…」
私は純にテストの範囲を教えた。
純『いやー、助かった。ありがとね』
梓「じゃあ切るよ」
純『ちょっと待った!』
梓「なに?」
純『梓、また何か悩んでんの?』
梓「………」
純『ふふっ、図星か』
純『まぁ何をそんなに悩んでるのか知らないけどさ』
純『自分に素直になんなよ。梓はすぐ意地張るから』
純『それだけ、じゃね!』
97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 04:59:13.54 ID:3lF6MxQ4P [13/19]
純に見抜かれていた。
そういうところは変に鋭いんだから。
梓「素直に…か」
純の言葉に心が揺れる。
私は今、何が一番したいんだろう。
私は今、何を一番望んでいるんだろう。
梓「………」
ピッ
prrrr prrrr
ガチャ
唯『もしもし?』
私は、唯先輩に会いたかった。
99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 05:04:08.06 ID:3lF6MxQ4P [14/19]
梓「唯先輩、こんばんは」
唯『どうしたの?』
梓「その…特に何があるってわけじゃないんですけど」
梓「元気ですか?」
唯『うん、元気だよ♪』
梓「あの、先輩…」
唯『ん?』
梓「今度の週末、会いに行っちゃダメですか…?」
唯『んー…』
唯『ダメっ!』
101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 05:06:18.61 ID:3lF6MxQ4P [15/19]
梓「ど、どうして…」
唯『前も言ったでしょ?澪ちゃんヤキモチやいちゃうって』
梓「で、でもっ!今回は私からじゃないですか」
唯『そんなの余計ダメだよ、澪ちゃん悲しむよ?』
梓「いいんです、もう…」
唯『あずにゃん…?』
梓「澪先輩は、たぶんもう私のこと好きじゃないですから…」
105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 05:10:16.89 ID:3lF6MxQ4P [16/19]
そう。たぶん澪先輩は、もう私のことなんてどうだっていい。
あれからも澪先輩はずっとそっけなかった。
隠しごともしてるみたいだった。
何度か問い詰めてこともあったけど、「ないよ」とあしらわれた。
前の先輩は本当に私のことが好きで、想ってくれていた。
自惚れるぐらい、それがわかった。
けど、今の先輩からはわからない。
募る不安。次第に薄れていく澪先輩への想い。
梓「私、会いたいんです。唯先輩に」
唯『………』
梓「ダメ…ですか…?」
唯『…おいで、待ってる』
107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 05:18:39.10 ID:3lF6MxQ4P [17/19]
【唯の家】
梓「おじゃまします」
唯「ん、いらっしゃい」
週末。私は唯先輩の家に出向いた。
私から唯先輩に会いに行くのは初めてのことだ。
いつもの場所に腰かける。
唯「澪ちゃんと何かあったの?」
唯「あんなに幸せそうな顔してたのに」
梓「…実は」
ムギ先輩といたときの澪先輩のこと。
ウソをつかれたこと、それからのこと、すべて話した。
話してどうなるわけでもないことぐらいわかってる。
それでも、聞いてほしかった。それだけで、救われるから。
108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 05:25:30.71 ID:3lF6MxQ4P [18/19]
唯「そっか…」
梓「………」
しばらく部屋に沈黙が流れる。
今日の唯先輩は少し違う。
いつものあの明るさがなく、終始静かだった。
どうしてだろう。
そう思っていると、唯先輩が口を開いた。
唯「ごめんねあずにゃん。私、最低だよ」
梓「何がですか?」
唯「今の話を聞いて、心の底で浮かれた自分がいた」
梓「…?」
唯「やっぱりダメみたい。我慢出来ないや…」
唯「私、あずにゃんのことが好き」
182 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 23:41:24.64 ID:GN1H+3wNP [1/4]
突然の告白に戸惑いを隠しきれなかった。
梓「えっ…?先輩、それは冗談だって…」
唯「冗談で終わらせるつもりだった」
唯「会わなければ忘れるかなって思ってたから、連絡もしなかった」
唯「でも、ダメだった」
梓「先輩…」
唯「わかってる、澪ちゃんと付き合ってるって」
唯「でもさ、好きなんだよ…」
真剣な目つきだった。
泣きそうな顔をしていた。
今度は冗談じゃない。
私は、唯先輩に想いを告げられた。
185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 23:47:33.48 ID:GN1H+3wNP [2/4]
梓「………」
私はどうすればいいのだろう。
ここで先輩の想いに応えてしまったら、
私は澪先輩のことを捨ててしまうことになる。
裏切ってしまうことになる。
澪先輩のことは今でも好きだ。
だけど、唯先輩の想いにどきどきしている自分がいる。
様々な思いが錯綜していた。
梓「あの…その…」
言葉が出てこない。
間を持たせるかのように、あの。その。と繰り返していた。
唯「………あずにゃんっ」
梓「えっ―――んんっ?!」
いきなり唯先輩は私に迫ってきた。
一瞬何が起こったのかわからなかった。
気づくと目の前には唯先輩の顔。
唇には、あたたかい感触。
私は、唯先輩にキスをされた。
192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 23:53:30.38 ID:GN1H+3wNP [3/4]
梓「………」
どれくらいこうしていたのか。
唯先輩はゆっくりと唇を離す。
胸の高まりを抑えられなかった。
どうして、こんなにどきどきしているんだろう。
自分でもわからなかった。
梓「せ…先輩…?」
唯「…私、あずにゃんを幸せにする」
唯「絶対に裏切らないし、捨てないよ」
唯「ずっと、大好きだから」
梓「………!」
そうだ。
よく考えたら先に見捨てられたのは私の方じゃないか。
裏切られたのも、私の方じゃないか。
このまま辛い思いをするのなら、もう…。
唯先輩に、すべてを委ねてしまった方がいいんじゃないのか。
先輩は私をベッドに押し倒した。
抵抗はしなかった。心のどこかでそれを望んでいたのかもしれない。
そして――――。
197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 23:59:27.08 ID:GN1H+3wNP [4/4]
【大学】
7月の半ば。
この時期になると授業は終わり、補講やテストが始まる。
今週は、梓との記念日の週だ。
律「えっ、持ち込みありって何でも持ちこんでいいのか?!」
紬「みたいね。教科書もノートもいいみたい」
律「すげー!大学すげー!テストとか余裕じゃん!」
澪「そうやってると落とすぞ。持ち込んでいいってことは、それだけ難しいってことじゃないか」
唯「………」
澪「唯?どうかしたのか?」
唯「へっ?ううん、何でもないよ!」
204 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 00:05:16.23 ID:eGFZDkOUP [1/49]
澪「本当か?なんか最近元気ないぞ」
唯「そんなことないよ、ほら元気!」ふんす
紬「大学内はどこも空調がきいてるから、もしかしたらそれのせいかもね」
律「あー確かに。唯はクーラーだめだもんな」
澪「夏バテの可能性もあるかも知れないし、気をつけた方がいいぞ」
唯はここのところ元気がなかった。
テストもあるし、体調崩さないといいけど…。
206 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 00:09:37.00 ID:eGFZDkOUP [2/49]
律「てか、9月になっても夏休みってすごくね!?」
唯「私夏休みはずっと実家にいようかなぁ。憂もいるし、ラクだし」
律「んなつまんないこと言うなよー。せっかくだし色んなとこ行こうぜ!海とか山とかさ」
紬「いいわね、おもしろそう」
澪「そうだな」
夏休みは長い。
たくさんみんなと遊べるし、もちろん梓とも会える。
夏だからな、プールとか花火大会とか行くところもたくさんある。
浴衣を着てお祭りなんてのもいいな。
色んな事を考えてた。
208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 00:14:59.66 ID:eGFZDkOUP [3/49]
【澪と律の家】
律「ただいまー」
澪「ただいま」
今日はめずらしく2人で一緒に帰って来た。
授業がなくなって時間に余裕が出来たからだ。
律「はぁ、それにしてもあっちいなー」
澪「そうだな。クーラーでもつけるか」
クーラーをつけたあと、私は引き出しを開ける。
引き出しの奥に、小さく眠るネックレス。
あとひと月だ。胸が弾む。
律「なにしてんの?なんかおもしろいもんでもあんのか?」
澪「な、なんでもないっ!」
律「ふーん」
律のことだ。
私のいない隙を見て開けるとも限らない。
私はかわいく包装された箱をバイト用のバッグにしまった。
これなら見つからないし、痛むこともない。
213 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 00:21:24.35 ID:eGFZDkOUP [4/49]
夕方。
私と律はずっと家にいた。
ゲームしたり、勉強したり、久々に律との時間を過ごした。
律「そんじゃ、行ってくるわ」
澪「また居酒屋?テスト近いのに大丈夫なのか?」
律「平気平気。それに、こっちは今月いっぱいだからさ」
澪「辞めるのか?」
律「あぁ、金も十分貯まったしな。8月から教習所行くよ」
律「少しは家にいる時間も増えると思う。悪かったな今まで」
律が謝るだなんてこれまためずらしいことだ。雨でも降るんじゃないのか?
確かに律は家を空けることが多かったから、私は大概家で一人だった。
215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 00:29:04.27 ID:eGFZDkOUP [5/49]
澪「こっちとしてはやかましいのがいなくて清々してたけどな」
律「とかいって、なんだかんだ私がいなかったら寂しいくせに」にやにや
澪「なんだとっ?!」
律「よちよち。お利口な澪しゃんは、お家でお留守番しててくだしゃいねー」
澪「ぐぐ…!早く行けこのバカ律っ!」
律「はーいはい。いってきまーす!」
バタン
澪「ったく…」
こんなやりとりもいつ振りだったか。
そういや、律には梓のこと言ってなかったな。
帰ったら教えてやることにするか。
律のやつ、きっと腰抜かすぞ。
216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 00:37:05.52 ID:eGFZDkOUP [6/49]
しばらくして、私は梓に電話をかけた。
今度の14日なにをするか話し合うためだ。
prrrr prrrr
prrrr prrrr
澪「…ん?」
なかなか出なかった。
何かしてるのかな、そう思って切ろうとする。
すると、
ガチャ
梓『…もしもし』
出た。
219 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 00:42:59.24 ID:eGFZDkOUP [7/49]
澪「あぁ、もしもし。梓か?」
梓『うん』
澪「電話なかなか出なかったから何かしてたのかと思ったよ」
梓『ごめん』
澪「それで、今度の14日のことなんだけどさ」
梓『…ごめん、私その日用事が入っちゃって。たぶん会えない』
澪「えっ…?」
月に一度しか会えない記念日なのに。
そんなに大事な用事なのか?
澪「そ、そっか。何の用事なんだ?」
梓『…言えない』
225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 00:48:07.81 ID:eGFZDkOUP [8/49]
梓の声は沈んでいた。
何だろう、訃報か何かかな。
だとしたら、深く探るのは失礼だ。
澪「…わかった。じゃあまた今度だな」
梓『…うん』
澪「またメールするよ、それじゃ」
電話を切った。
仕方ないと思った。
梓が記念日を楽しみにしてないわけがないから。
その楽しみを奪うほどの用事なんてよっぽどのことだなんだろう。
もうすぐテストも終わる。
テストも終われば夏休みだし、たくさん梓に会いに行ける。
でも…。
澪「少しでもいいから、会いたかったな」
寂しく思っていることには変わりがなかった。
229 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 00:53:52.05 ID:eGFZDkOUP [9/49]
電話が終わった後、すこしうとうとしてしまったせいか。
いつもより遅い時間まで起きていた。
律「ただいまー」
澪「おかえり」
律「あれ、まだ起きてんの澪」
澪「ちょっと眠れなくてさ」
律「何か悩んでんの?」
澪「ど、どうして」
律「ん?なんとなく。さてと、汗かいちゃったし風呂入ってくるわ」
澪「あ…あぁ」
そんなわかりやすい顔をしていただろうか。
いや、付き合いが長いからだろうな。
結局律には梓のことは報告せず、
だらだらと話して眠りについた。
231 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 01:01:00.46 ID:eGFZDkOUP [10/49]
【大学】
唯「あぁ…疲れた」
律「ぜ、全然出来なかった…。ヤバい」
紬「大丈夫よ。出席してるしもレポートも出したし、きっと大目に見てくれるわ」
紬「それに、もし落としたとしても私が何とかするから♪」
律「もうさすがに笑えないからやめてっ!!」
紬「うふふ」
7月も終わりに近づき、テスト期間に入る。
相変わらず唯ちゃんとりっちゃんは参ってるみたい。
澪「………」
澪ちゃんも元気がなかった。
テスト出来なかったのかな?
いや、澪ちゃんに限って勉強でヘマすることなんてない。
何かあったのかもしれない。
私は澪ちゃんに聞いてみることにした。
233 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 01:07:31.47 ID:eGFZDkOUP [11/49]
紬「澪ちゃん」
澪「ん?」
紬「最近、梓ちゃんとはどう?」
澪「あ、あぁ…うん」
紬「この前記念日だったでしょ?どこか行ったの?」
澪「いや…会ってないんだ」
紬「えっ、どうして?」
澪「その…なんか用事があったみたいで」
紬「でも月に一回の大事な会える日なのに用事?」
澪「うん」
紬「何の用事だったの?」
澪「教えてくれなかった」
澪「でもさ、記念日よりも大事な用だってことは、よっぽどのことだから…」
235 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 01:13:00.38 ID:eGFZDkOUP [12/49]
紬「けど、別に何かあったわけでもないんでしょ?」
澪「うん。ないんだけどな…」
紬「?」
澪「その、最近。連絡もあまりとってないんだ」
澪「メールもあんまり返ってこないし、電話も出てくれることが減っちゃって」
澪「きっと梓も忙しいんだよ。だから、しょうがないよな。はは…」
紬「澪ちゃん…」
澪ちゃんは目に涙をためていた。
しょうがないなんて思ってるわけない。
そんな悲しい顔をして、どうしてそんなことを言うの?
会えない分たくさんメールも電話もしてたのに、
それがぱったりと減っちゃうなんておかしい。
変な胸騒ぎがした。
240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 01:18:52.40 ID:eGFZDkOUP [13/49]
8月に入る。
テストも今日で終わり。
長い夏休みがもう目の前に迫っていた。
キーンコーンカーンコーン
唯「終わったぁ~」
律「いよっしゃあー!夏休みだぁぁ!!」
唯ちゃんとりっちゃんは飛ぶようによろこんでいる。
本当なら、そこに私も加わっているはずだった。
澪「………」
紬「澪ちゃん…」
澪ちゃんは日に日に元気がなくなっていった。
おそらく、梓ちゃんとはずっとその調子なんだろう。
話がしたかった。力になってあげたかった。
紬「ねぇ、澪ちゃん」
澪「…ん?どうした?」
紬「この後、暇かな?」
243 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 01:24:33.32 ID:eGFZDkOUP [14/49]
【紬の家】
ピンポーン
紬「はーい」
澪「ごめんな。今日はお世話になります」
紬「いいのよ。さ、あがって」
澪ちゃんは今日私の家に泊まることになった。
少しでも気分転換出来たら、と思って。
りっちゃんは居酒屋のバイトの人と送別会があるらしく
今日は帰らないみたいだから、泊まりに来ない?と誘った。
紬「お腹空いたし、ご飯食べよっか」
澪「うん」
私はキッチンに向かい、夕飯を作った。
澪ちゃんも手伝ってくれた。
245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 01:28:24.91 ID:eGFZDkOUP [15/49]
紬「それじゃ、食べましょ♪」
澪「いただきます」
澪「あ…おいしい」
紬「本当?よかった」
澪「今度、作り方教えてもらってもいいかな?」
紬「いいわよ」
澪「私、相変わらず料理下手でさ…」
紬「そんなことないと思うわ。あんなにお菓子おいしいんだもの」
澪「でも、律によく甘いって言われちゃって…」
紬「ふふっ、そっか」
澪「わ、笑うなっ!真剣なんだぞっ」
紬「ごめんごめん」
254 名前:さるった[] 投稿日:2010/11/27(土) 01:56:56.78 ID:eGFZDkOUP [16/49]
久々に澪ちゃんの照れた顔を見た。
澪ちゃんは笑ったり照れたりしてる顔が一番素敵だった。
ご飯も食べ終わり、落ち着いたところで私はあるものを持ってきた。
澪「…ワイン?」
紬「実家から送られてきたんだけど、なかなか飲む機会がなくて」
紬「せっかくだし、飲んでみない?」
家でパーティーする時のためにって実家から送られてきたワイン。
そういうのはしないからいらないとは言ったんだけど、結局送られてきた。
でもせっかくだし、お酒の力を借りてみようかな。
澪「ワインって初めて…」
紬「結構おいしいわよ♪」
私たちはグラスにワインを注ぎ、乾杯をした。
256 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 02:02:27.84 ID:eGFZDkOUP [17/49]
澪「うっ、にが…」
紬「すぐに慣れるわ、何かつまむもの持ってくるね」
私はずっと飲んできてるからおいしく飲めたけど、
初めての澪ちゃんにとってはなかなか口に合わないみたいだ。
適当なお菓子を開け、それをつまみとして飲み進めた。
紬「ねぇ、澪ちゃん」
澪「ん?」
紬「あれから、梓ちゃんとは…?」
澪「………うん」
変わらずのようだ。
高校生も夏休みに入ってるから、忙しいことなんてないはずなのに。
258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 02:06:37.06 ID:eGFZDkOUP [18/49]
澪「私、梓に嫌われちゃったのかな…」
澪「私がダメだから、梓が…」
紬「澪ちゃんは、梓ちゃんのことが好きなんでしょ?」
澪「当たり前だよ!誰よりも好きだし、いつでも梓のことを想ってる」
酔いが回ってきてるのか、澪ちゃんは恥ずかしげもなく言った。
紬「なら、大丈夫よ。その想いは伝わってるわ」
紬「次の記念日で、仲直りしましょ?ね?」
澪「…うんっ」
仲直り、というのは少し変な表現かもしれない。
ケンカをしたわけではないし、ぶつかりあったわけでもないから。
けど、澪ちゃんも私もプレゼントに懸けていた。
そのネックレスが、再び2人を戻してくれると。
263 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 02:13:17.69 ID:eGFZDkOUP [19/49]
酔いが回った澪ちゃんは饒舌だった。
澪ちゃんは色々な話を聞かせてくれた。
梓ちゃんのどんな仕草が好きだとか、
自分の前で甘えてくれる梓ちゃんこと、
他人から見たらただの惚気話。
でも、私にとってはそれがうれしかった。
梓ちゃんの話をしている時の澪ちゃんは、本当に幸せそうだから。
紬「ふふっ、幸せそうね」
澪「うん!」
紬「そろそろ寝ましょうか」
澪「あぁ」
夜も遅くなったので寝ることにした。
私は目が覚めてしまってしばらく寝れなかった。
一方で澪ちゃんは寝息を立てている。
澪「………あずさ…」
ずっと2人が幸せでいられますように。
267 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 02:21:00.07 ID:eGFZDkOUP [20/49]
澪「ありがとうな。楽しかったよ」
紬「また今度、ワインでも飲みながらゆっくり話しましょ」
澪「うん、それじゃ」
紬「ばいばい」
澪ちゃんと別れた。
部屋に戻ると、私はあることに気づく。
紬「あ…」
ソファの上に澪ちゃんのいつもつけてるアクセサリーがあった。
忘れてしまったのだろうか。
今度会う時渡してあげなきゃ。
270 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 02:26:53.88 ID:eGFZDkOUP [21/49]
【澪と律の家】
澪「ただいま」
ムギの家から帰る。
初めてワインを飲んで、酔ってしまった。
思い出したくないぐらい恥ずかしいことをぽんぽん言ってた気がする。
律「……zzz」
律は寝ていた。
たぶん酔っぱらって帰って来たのだろう。
服も脱ぎっぱなし、辺りもちらかっていた。
澪「おーい」
律「…んがぁ」
律は一向に起きる気配を見せなかった。
仕方なく、私は部屋を片付けた。
272 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 02:31:09.68 ID:eGFZDkOUP [22/49]
それから数日が経つ。
刻々と8月14日が近づいていた。
律は教習所に通い始めた。
律「ちゃちゃっと取ってきてやるよ!」
澪「まぁ頑張って。事故るなよ」
梓とは相変わらずのままだ。
何度も不安に押しつぶされそうになる。
だけど、あと少し。
あと少し我慢すれば、きっと前みたいに戻れる。
後ろ向きに考えるのはやめた。
今のうちに、どう梓を驚かせようか考えておこう。
私は、バイトに向かった。
275 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 02:37:03.44 ID:eGFZDkOUP [23/49]
澪「いらっしゃいませ」
今日は唯と同じシフトだった。
いつも明るく接客している唯が、今日はおとなしかった。
休憩中も変わらず、話をしてもあまり盛り上がらなかった。
何か悩みでもあるのかな?
帰りに聞いてみよう。そんなことを考えながら仕事をしていた。
バイトが終わる。
夏休みに入ったからか、お客さんの数が多くてんやわんやな一日だった。
帰り道、唯に聞いてみた。
澪「なぁ、唯…」
唯「なぁに?」
澪「なにか、悩みでもあるのか?」
唯「…どうして?」
澪「なんていうか、元気なかったからさ」
澪「最近ずっとそんな感じだし、何かあるのかなと思って」
277 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 02:41:51.53 ID:eGFZDkOUP [24/49]
唯「………」
唯はしばらく黙りこんでいた。
もしかして、人には言えないようなことなのかな。
澪「い、言えないようなことならいいぞ?」
澪「ただ、その…いつもの唯らしくなくて心配だっただけだから」
唯「大丈夫。平気だよ」
澪「そっか、ならいいんだけど」
唯「ねぇ、澪ちゃん」
澪「ん?なんだ?」
唯「あずにゃんと別れて」
284 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 02:48:25.55 ID:eGFZDkOUP [25/49]
澪「………えっ」
澪「いま、なんて…」
意味がわからなかった。
梓と別れろ?
何で唯が私と梓の関係を知っているんだ…?
澪「ど、どういうことだよ…」
唯「もう、あずにゃんを傷つけないで」
傷つける?私が?
確かにずっと会えなかったし、構ってあげられなかったのは事実だけど…
傷つけてるわけじゃない。梓だってちゃんと理解してくれたんだ。
なのに、どうしてそんなこと言われなきゃならないんだよ。
澪「き、傷つけてるかどうかなんて唯にはわからないじゃないか!」
澪「それに、何で唯にそんなこと言われなきゃいけないんだ!!」
唯「あずにゃんは、私のものだからだよ」
――ドクン…。
心臓が停止したかのような感覚。
私の…もの…?
ちがう!ちがう!!
梓は、私のだ。
私の大好きな恋人なんだ。
289 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 02:53:26.65 ID:eGFZDkOUP [26/49]
唯「澪ちゃん、自分が何をしたかわかってないの?」
澪「当たり前だ!どうして、唯のものって言いきれるんだ!!」
唯「本当に、わからないの…?」
澪「わかるわけないだろ!!」
唯「…そっか」
唯「 最 低 」
なんで…なんでここまで言われなきゃいけないんだ。
私が梓に何をしたっていうんだ。
唯「わからないなら、わからないままでいいよ」
唯「あずにゃんは、私が幸せにするから」
唯「じゃあ、またね」
なんだよ、なんなんだよ…。
唯に何がわかるっていうんだ。
私が、どれほど梓のことを想っているか。
どれほど寂しい思いをしてきたことか。
293 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 03:00:24.48 ID:eGFZDkOUP [27/49]
prrrr prrrr
私は梓に電話をかけた。
梓『もしもし』
澪「梓か…?」
梓『どうかしたんですか?』
澪「唯にな、さっき梓と別れろとか言われてさ」
澪「ひどい冗談だと思わないか?しかも私のものとか言ってさ」
泣くまいと必死だった。
いま出来る最高の明るさで振る舞った。
冗談だよ、そうだと言ってほしかった。
梓『冗談じゃないですよ』
澪「えっ…」
梓『私は、唯先輩のものです』
301 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 03:06:57.65 ID:eGFZDkOUP [28/49]
澪「なんで…どうして…」
梓『どうして…?澪先輩が私を見捨てたんじゃないですか』
私が梓を見捨てた?
そんなこと一度もない。
唯も梓も、何を言っているのか全然わからなかった。
梓『私に隠し事して、ウソをついて、冷たくして…』
梓『先輩が、私を突き放したんじゃないですか』
澪「私は…私はそんなことしてない!」
梓『…ウソつき』
澪「………!」
私は気づいた。
ムギとプレゼントを買いに行ったことを隠したこと。
それを悟られまいと、少し固く接していたことに。
梓を驚かせるためにしたことが、裏目に出たのだ。
305 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 03:15:06.59 ID:eGFZDkOUP [29/49]
澪「梓。ちがうんだ、これは―――」
梓『もういいんです』
梓『唯先輩が、私の心を埋めてくれたから』
…やめてよ。
梓『だから、もう。いいんです』
敬語なんて使わないで。
梓『澪先輩といれて、すごく幸せでした』
好きだって、言ってよ…。
梓『さようなら、澪先輩』
澪「!!待って、あず――」
プツッ
ツー ツー ツー
311 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 03:21:07.14 ID:eGFZDkOUP [30/49]
澪「………」
終わった。何もかも。
涙も出なかった。
私が間違ってたのかな。
私のせいなのかな。
でも、少し考えてみればわかることだ。
何をやってもうまくいかない、不器用な私。
そんな私が誰かと付き合うだなんて、最初から無理な話だったんだ。
だけど、本当に楽しかった。人生で一番、幸せな時だった。
梓
あずさ
私はずっとずっと
大好きだよ
319 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 03:26:48.57 ID:eGFZDkOUP [31/49]
【紬の家】
prrrr prrrr
電話が鳴った。
こんな時間に誰だろう。
紬「もしもし?」
澪『ムギか?私だ、澪だよ』
紬「澪ちゃん、どうしたの?こんな時間に」
澪『その、謝ろうと思ってさ。ごめんな』
紬「どうしたの、急に」
澪『プレゼント、無駄になっちゃった』
紬「…澪ちゃん?何があったの…?」
澪ちゃんの声はとても低く、沈んでいた。
私は澪ちゃんに問いかける。
澪『梓にさ、振られちゃった』
紬「えっ…?」
322 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 03:32:13.80 ID:eGFZDkOUP [32/49]
澪ちゃんはさっきあったことを話してくれた。
今、澪ちゃんがどれだけつらい思いをしているのか、
想像することすら怖かった。
紬「そんなの…。そんなの梓ちゃんの勘違いじゃない!!」
紬「ちゃんと誤解を解けばまた仲直り出来るわ!」
澪『いいんだ、もう。どのみち梓は唯しか見てない』
澪『私が何を言ったって、もう無駄だよ』
澪『ごめんな、ムギ…。たくさん迷惑かけて』
紬「澪ちゃん、会って話そう?またお酒でも飲んでさ、一緒に考えよう?」
澪『もういいんだ、ありがとう』
『…もなく…番線に…列車が…通…ます。
白線の…下がっ…待ち…さい』
受話器の奥からアナウンスが聞こえた。
嫌な予感がした。澪ちゃん、あなたまさか…。
紬「澪ちゃん…。今、どこにいるの…?」
330 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 03:39:16.93 ID:eGFZDkOUP [33/49]
澪『言わない。言ったらムギは来るから』
紬「澪ちゃんダメよ!早まらないで!」
澪『無責任なのはわかってる。不器用だってことも知ってる』
紬「待って澪ちゃん!私の話を聞いて!!」
澪『でも、私にはこうするしか出来ないから…』
紬「やめて、そんなこと言わないで…」
紬「……私が」
紬「私が、澪ちゃんを幸せにするからっ…!」
紬「だからお願い、戻ってきて…」
私は涙ぐみながら澪ちゃんに訴えた。
傷が癒えるまで、私が傍で支えてあげるから。
だから、やめて。
死のうとなんて、しないで。
336 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 03:44:19.49 ID:eGFZDkOUP [34/49]
澪『ありがとう、ムギ』
紬「!」
紬「澪ちゃん、私今から迎えに―――」
澪『でも、もう迷惑はかけられないよ』
紬「えっ…」
澪『本当に、ごめん』
紬「馬鹿な真似はやめて!お願い!!今すぐ戻って!!!」
澪『―――ばいばい』
紬「澪ちゃ―――ッ?!!」
ブツッ
ツー ツー ツー
紬「ウソでしょ…?ねぇ、澪ちゃん。ウソだよね…?」
轟音と同時に電話が切れた。
無機質な機械音だけが耳に流れた。
339 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 03:50:26.61 ID:eGFZDkOUP [35/49]
バンッ
私は家を飛び出した。
最寄りの駅の駅員から電車の運行情報を聞く。
ここから2、3ほど離れた駅で人身事故が起こったようだ。
私はタクシーを拾い、急いでそこに向かった。
現場はブルーシートに囲まれていた。
車掌を始め、駅員、警察にレスキュー隊までいる。
時間も時間なだけに、人だかりがたくさん出来ていた。
紬「すいません、どいてください!」
私は野次馬を跳ね除け『立入禁止』と書かれたテープに向かう。
「何してるんだ!下がりなさい!」
駅員に止められる。構うもんか。
紬「うるさい…。離して…っ!!」
私はつかまれた腕を振り払い、中に入った。
345 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 03:56:34.21 ID:eGFZDkOUP [36/49]
紬「澪ちゃん!!!」
紬「………」
すべてを見ずともわかった。
澪ちゃんは、死んだ。
駅員やレスキュー隊員がしぶしぶ事故処理をしている。
警察は車掌に事情聴取をしているようだ。
現場には「またか」「やれやれ」といった空気が流れていた。
何よ…何も知らないくせに…。澪ちゃんが…どんな思いをしていたことか…。
少し離れたところに、場違いな細長くて小さな箱があった。
私は近づき、小奇麗なそれを手に取る。
紬「これは…」
小さなハートの形をしたかわいいネックレス。
後ろには『to Azusa from Mio』と掘ってあった。
そう、これは澪ちゃんが梓ちゃんのために用意したプレゼントだった。
353 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 04:07:51.66 ID:eGFZDkOUP [37/49]
紬「うぅっ、くっ…澪ちゃん」
私はネックレスを抱き大粒の涙を流した。
どうして、どうして…?
どうして澪ちゃんがこんな目に遭わなきゃならないの?
あんなに幸せそうで、あんなに楽しみにしてたのに。
澪ちゃんが、何をしたって言うの?
「こら君、ここは部外者が立ち入っていいところじゃないんだよ!出ていきなさい」
悲しみに暮れているのもつかの間だった。
駅員に連れられ、外に追い出された。
…私が。
私が、伝えなきゃ。本当のことを。
このまま終わるなんて、あまりにも報われなさすぎる。
私が梓ちゃんの誤解を解いてみせる。
それが澪ちゃんのために私が出来ること。
澪ちゃんを止められなかったことへの、償い。
悲しみを胸にしまいこみ、私は帰路についた。
357 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 04:09:58.26 ID:eGFZDkOUP [38/49]
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Λ_Λ . . . .: : : ::: : :: ::::::::: :::::::::::::::::::::::::::::
/:彡ミ゛ヽ;)ー、 . . .: : : :::::: :::::::::::::::::::::::::::::::::
/ :::/:: ヽ、ヽ、 ::i . .:: :.: ::: . :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
/ :::/;;: ヽ ヽ ::l . :. :. .:: : :: :: :::::::: : ::::::::::::::::::
 ̄ ̄ ̄(_,ノ  ̄ ̄ ̄ヽ、_ノ ̄ ̄ ̄ ̄
おやすみ
428 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 20:03:27.85 ID:eGFZDkOUP [39/49]
8月14日。
澪ちゃんのお葬式が行われた。
奇しくも、梓ちゃんとの半年記念日だった。
和ちゃんを始めとしたクラスのみんな。
さわ子先生に、先輩や後輩も。
みんなが澪ちゃんの死を悼んだ。
一番悲しんでいたのは、りっちゃんだった。
律「澪…みおっ!!!何で、何でだよ…!」
律「ふざけんなよ…!勝手なことしやがって…」
律「おいアホ澪!返事しろよ…!」
律「うっ、ううっ…うわああああああああ!!!」
式場全体にりっちゃんの叫びが響く。
もう、見ているのもつらかった。
唯ちゃんと梓ちゃんも来ていた。
2人は、どんな気持ちでこの場にいるのだろう。
責めるような真似はしない。そんなことしたって澪ちゃんが悲しむだけだから。
だけど、本当のことを知らないまま澪ちゃんを忘れさせるわけにはいかない。
433 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 20:11:13.85 ID:eGFZDkOUP [40/49]
お葬式が終わる。
みんなが次々と澪ちゃんに別れを告げていく。
私たち4人は、最後の最後まで澪ちゃんの傍にいた。
紬「梓ちゃん」
紬「これを梓ちゃんに持っててほしいの」
私は梓ちゃんに声をかけ、袋を渡した。
梓「これ、なんですか?」
紬「今は持ってるだけでいいから」
梓「はぁ…」
これを、私が持っているわけにはいかないから。
澪ちゃん。ネックレス、ちゃんと渡したからね。
あとは、真実を伝えるだけ。
434 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 20:14:42.41 ID:eGFZDkOUP [41/49]
【紬の家】
私は電話をかけた。
prrrr prrrr
梓『もしもし』
紬「もしもし、梓ちゃん?紬ですけど」
梓『ムギ先輩。どうしたんですか?』
紬「いま、大丈夫かな?」
梓『はい、大丈夫ですよ』
唯『あずにゃーん、誰と話してるの?』
梓『ムギ先輩ですよ』
遠くで唯ちゃんの声がした。
紬「いまどこにいるの?」
梓『唯先輩の家です。電車無くて家に帰れないので』
紬「そう」
本当は梓ちゃんが一人の時がよかったんだけど、
電話を掛けた以上引き下がることも出来なかった。
437 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 20:19:27.92 ID:eGFZDkOUP [42/49]
紬「ねぇ、梓ちゃん」
梓『はい?』
紬「今日が何の日だったか、知ってる?」
梓「何の日…?」
紬「記念日よ、梓ちゃんと澪ちゃんの半年の記念日」
梓『…そうですか』
紬「何も思わないの?」
梓『思うも何も、もう関係ないことじゃないですか…』
紬「ねぇ、梓ちゃん」
紬「澪ちゃんは、本当に梓ちゃんを見捨てたと思う?」
梓『えっ?』
紬「澪ちゃんはね、一度たりともあなたを見捨てたことなんてない」
紬「最後の最後まで、あなたが大好きだったんだよ」
439 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 20:24:44.89 ID:eGFZDkOUP [43/49]
梓『………』
梓『なんですか、それ…』
梓『そんなのウソです、デタラメです』
梓『澪先輩は、私を捨てたんです』
梓『ムギ先輩とデパートに買い物に行ってたところ、私は見ました』
梓『声をかけようと思いました。ほんの少しでもいいから、澪先輩に会いたかった』
梓『でも、出来なかった…』
梓『あんなに幸せそうな顔をしてた先輩に、声なんてかけられなかった!!』
梓『そして澪先輩は、そのことを隠した!何回問い詰めても、知らんぷりをした!』
梓『会話もそっけなくなった、冷たくなった!!』
梓『ウソをついて、私を騙して…』
梓『そんなの、恋人でも好きでも何でもないじゃないですか…』
梓ちゃんは自分の思いを吐露した。
そんなちっぽけなことで、あなたは澪ちゃんを…。
梓ちゃん、あなたはまだまだ子どもだね。
澪ちゃんは、あなたが思ってるよりずっとずっと大人だったよ。
442 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 20:29:48.56 ID:eGFZDkOUP [44/49]
私は焦ることなく、落ち着いた口調で話す。
紬「それはちがうわ、梓ちゃん」
紬「あの日はね、梓ちゃんのための買い物だったの」
梓『…私のための?』
紬「澪ちゃんとネックレスを買いに行ったの。半年記念のプレゼントにね」
紬「ずっと構ってあげられなかったからって、寂しい思いをさせてきたからって」
紬「私といたとき幸せそうな顔をしてた。って言ったよね?」
紬「何でだと思う?」
紬「あなたのことを、ずっと想っていたからよ」
梓『………!!』
446 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 20:36:43.79 ID:eGFZDkOUP [45/49]
【唯の家】
ムギ先輩が何を言っているのか理解出来なかった。
ネックレス?プレゼント?そんなの、聞いたことない。
紬『あの日、澪ちゃんは話題はずっと梓ちゃんことだった』
紬『ううん、あの日だけじゃない。いつでも澪ちゃんは梓ちゃんの話をしてた』
紬『そっけなかったのは、きっと梓ちゃんに悟られないため』
紬『梓ちゃんを驚かせたかった、よろこばせたかったのよ』
紬『澪ちゃんが不器用なの、知ってるでしょ?』
梓「そんなの…」
梓「そんなのいきなり言われて、信じられるわけないじゃないですか!」
紬『私がさっき梓ちゃんに渡したもの、持ってる?』
紬『そこに真実があるわ』
梓「えっ…?」
448 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 20:41:55.10 ID:eGFZDkOUP [46/49]
私はバッグを取り出し、お通夜の帰りにムギ先輩からもらった袋を開ける。
袋の中には、細長い小さな箱。ほんの少し土で汚れていた。
中を開けると手紙があった。
―――――――
あずさへ
私と梓が付き合ってから、今日で半年だな。
おめでとう。思えばあっという間だった。
大学生になってからめっきり会えなくなっちゃったな、ごめん。
でも私はいつだって梓のこと考えてし、大事に想ってるよ。
ネックレスにしたのは、梓が寂しくないようにって思ったからなんだ。
そのネックレスをつけてれば、私が傍にいるって感じられるだろ?
少しは、寂しさも紛れるんじゃないかな。
夏休みはいっぱい遊ぶぞ。祭りも花火もプールも、全部行こう。
今まで遊べなかった分、取り戻すんだから。
これからも、よろしく。
ずっと大好きだから。
8月14日 みお
―――――――
かわいい文字で書かれた手紙。
紛れもなく澪先輩の字だった。
梓「そんな…」
456 名前:お通夜→お葬式[] 投稿日:2010/11/27(土) 20:47:10.89 ID:eGFZDkOUP [47/49]
手紙の下にはネックレスがあった。
小さいハートのネックレス。
私はそれを手に取る。
裏には小さく文字が彫られていた
『to Azusa from Mio』
ねぇ、澪先輩。
ムギ先輩の言ってることは、本当なの?
私のこと、ずっと想ってくれてたの?
―――梓、半年おめでとう。これ、私からのプレゼントだ―――
―――秘密にしててごめんな。梓のこと、驚かせてやりたかったんだ―――
―――てっ…、手紙は恥ずかしいから家で読んでくれっ―――
―――こ、こらっ!読むなって言ってるだろ///―――
―――ふふっ、似合ってるよ。すごくかわいい―――
澪先輩の姿がよぎる。本当だったら、今日こんな会話をしてたのかもしれない。
でも、もうそれは叶わぬこととなった。会うことも、声を聞くことも、抱きしめてもらうことも。
私が…。私が、先輩を捨ててしまったから。
梓「いや…。いやっ……いや…!」
梓「いやあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
463 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 20:52:10.10 ID:eGFZDkOUP [48/49]
唯「あずにゃん?いきなり叫んで、どうしたの…?」
ごめんね。ごめんね。
澪先輩。私最低だね。
先輩のこと疑って、勝手に不安になって、
挙句の果てに、浮気までして…。
たくさんひどいことしたのに、
いっぱい傷つけてしまったのに、
それでも、好きでいてくれたんだね。
梓「先輩…待っててね」
梓「すぐ、行くから…」
私はベランダに向かった。
空には星がいくつも輝いている。
この中のどこかに、先輩がいたりして。
ベランダの柵に足をかける。
唯「あずにゃん、何してるの?!」
469 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 20:56:42.10 ID:eGFZDkOUP [49/49]
・・・・・・
【紬の家】
紬「………」
受話器の向こうから梓ちゃんの悲鳴が聞こえた。
後悔、自責、絶望。梓ちゃんはたくさんのものを背負った。
だけどそれを乗り越えることが、これから梓ちゃんのすべきこと。
唯『あずにゃん、何してるの?!』
突然唯ちゃんの声が響く。
梓『何って、澪先輩のところに行くんですよ』
唯『やめて…。そんな高いベランダから飛び降りたら…』
胸騒ぎがする。
梓ちゃん…?まさか…
541 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 02:29:23.14 ID:Mf78OYPhP [2/25]
私は大声で叫んだ。
紬「梓ちゃん!!待って!!!」
紬「そんなこと、澪ちゃんは望んでなんかない!!」
紬「澪ちゃんの前でちゃんと謝って!そして、澪ちゃんの分まで生きるの!!」
私の声は聞こえていない。
おそらく梓ちゃんの携帯はベランダのどこかに置かれたままだ。
唯ちゃんと梓ちゃんの声だけが聞こえる。
梓『澪先輩、見てよ。ネックレス似合うでしょ?』
梓『今から行くね。ふふっ、目の前で手紙読んじゃうんだから』
唯『待って、やだ!!行かないで!!あずにゃん!!!』
梓『先輩、これからはずっと一緒だから』
唯『あずにゃ―――』
2人の声が消えた。
543 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 02:35:23.20 ID:Mf78OYPhP [3/25]
唯『あ…ああ……うあ』
唯『うああああああああああああああああああああああ!!!!!』
少し間を空けて、唯ちゃんの悲鳴が聞こえた。
梓ちゃんは澪ちゃんを追って命を落とした。
少し考えればわかることだった。
あんな脆くて子どものような子が、簡単に向き合えるわけがなかった。
もし、私が真実を伝えなかったらこうはならなかったのかも知れない。
だけど、真実を伝えなければきっと梓ちゃんは澪ちゃんのことを忘れていただろう。
どちらが正しかったのか、わからなかった。
ただ一つ言えることは、
梓ちゃんを死なせたのは、私だということだ。
547 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 02:42:10.36 ID:Mf78OYPhP [4/25]
あれから何日かが経つ。
これで、よかったんだろうか…。
自分に問いかける日々が続いた。
ねぇ、澪ちゃん。
いま、あなたは幸せ?
ねぇ、梓ちゃん。
澪ちゃんと仲直りできた?
教えて、誰か…。
私のしたことが、正しかったのかどうか…。
紬「…ん?」
ポケットに何か入っていることに気づいた。
取り出してみると、かわいい首飾りだった。
これは澪ちゃんがうちに泊まりに来た時に忘れたもの。
次会った時に渡そうと思っていたのに、まさかこれが形見になるなんて。
…そういえば、りっちゃんはあれからどうしているのだろうか。
澪ちゃんのことも、
梓ちゃんのことも、
唯ちゃんのことも、
きっと何も知らない。
りっちゃんに会いたい。
私のしたことが正しかったのかどうか、教えてほしい。
私は救いを求めるかのように、りっちゃんの元に向かった。
549 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 02:46:44.08 ID:Mf78OYPhP [5/25]
【澪と律の家】
ピンポーン
紬「りっちゃん。紬ですけど」
紬「………」
紬(…留守かな)すっ
ガチャ
紬(鍵が開いてる…?)
紬「りっちゃん、入るよ?」
家の中は真っ暗だった。
部屋の電気をつけると、隅に小さな人影があった。
りっちゃんだ。
552 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 02:51:45.75 ID:Mf78OYPhP [6/25]
律「…あぁ、ムギか。どうした…?」
髪はぼさぼさで、服装も礼服のままだった。
それだけじゃない。体も痩せ細っており、瞳には光がなかった。
とてもじゃないけどあのりっちゃんとは思えなかった。
紬「りっちゃん…」
りっちゃんは、澪ちゃんを失ったショックからまだ立ち直れていなかった。
もしかしたら。と思ったが、その通りだった。
律「なぁ、ムギ…」
律「澪のやつ、知らない?」
紬「えっ…?」
立ち直れていない?ちがう。
現実は、もっと残酷だった。
りっちゃんは、澪ちゃんの死を受け入れていなかった。
554 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 02:58:33.11 ID:Mf78OYPhP [7/25]
律「あいつさ、かれこれ一週間ぐらい帰ってないんだ」
律「連絡もよこさないし、つながらないし」
律「今週あいつが炊事当番だってのにさ」
律「ムギ、何か知ってる?」
光の消えた眼差しが、私に向けられる。
どこを見ているかもわからない。虚ろな瞳が。
紬「………」
私は悩んだ。
もしここで本当のことを伝えてしまったら、
澪ちゃんの死を受け入れてさせてしまったら、
りっちゃんは壊れてしまうのではないか。
梓ちゃんのように。
紬「…私も、ちょっとわからないな」
もう、誰も失いたくない。
いつかきっとりっちゃん自身が澪ちゃんの死を受け入れる日が来る。
そう信じて、私はウソをついた。
紬「りっちゃん、お風呂に入っておいで。その間に片付けておくから」
律「…あぁ」
555 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 03:04:54.69 ID:Mf78OYPhP [8/25]
りっちゃんがお風呂に入っている間、私は部屋を簡単にだが片付けた。
澪ちゃんが死んでから随分とりっちゃんが荒れた生活をしていたというのがよくわかった。
あらかた片付け終えた私は澪ちゃんの私物の整理を行った。
洋服やアクセサリー、もちろんベースもきれいに整頓する。
りっちゃんが澪ちゃんのことを受け入れられるように。
このままだと、いつか帰ってくるものだと思いこんでしまうから。
ガラッ
お風呂からりっちゃんが出てきた。
律「……!」
紬「さっぱりした?お腹空いたでしょ、何か軽く作って―――」
律「………みお」
紬「えっ?」
律「お前、帰ってたのか…?」
何を言ってるの、りっちゃん。
私は、澪ちゃんじゃない。
563 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 03:15:36.70 ID:Mf78OYPhP [9/25]
律「お前な、連絡ぐらいしろよ!どんだけ心配したと思ってんだ」
紬「りっちゃん…?ちがうよ、私は紬だよ」
律「なに言ってんだよ、おかしな奴だな」
律「それ」
紬「?」
律「その首飾り、この前私と買いに行ったやつじゃん」
澪ちゃんが私の家に忘れた首飾り。
形見として私が身に着けていた首飾り。
これが、りっちゃんを目を狂わせた。
澪ちゃんの私物整理をしているうちに澪ちゃんの匂いがついたのかもしれない。
りっちゃんは、私の姿に澪ちゃんを重ねていた。
紬「………私は」
――――――
――――
―――
――
…
566 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 03:21:29.21 ID:Mf78OYPhP [10/25]
8月も終わりにさしかかっていた。
私は今、りっちゃんの家に同居している。
ガチャ
律「ただいまー」
紬「おかえり」
律「はぁー疲れた。なぁなぁ見てくれよ、じゃーん!」
紬「あ、免許!」
律「やっと取れたぜ。しかも一発合格だ、すげーだろ!」
紬「すごいすごい♪」
律「なぁんだよそっけないなぁ。もっとほめてくれよー」
律「 澪 」
そう、澪ちゃんとして。
569 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 03:28:55.15 ID:Mf78OYPhP [11/25]
私は「琴吹紬」を殺し、「秋山澪」として生きていくことに決めた。
失いたくない。その一心だった。
紬「ごはん出来たよ」
律「おぉっ、なんか今日は豪華だな!」
紬「無事に免許も取れたことだしね」
律「へへへ」
紬「それじゃ、いただきましょ」
律「いっただっきまーす!」ぱくっ
律「おっ!おいしいなこれ」
紬「そう?よかった」
律「ようやく澪も味付けの加減がわかってきたみたいだな」
律「最初の頃は濃くてあまあまだったのにな。いやぁ人間ってのは成長するもんだ」
濃くてあまあまな澪ちゃんの味付け。
その独特の味、もう味わうことが出来ないのだ。
570 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 03:35:50.62 ID:Mf78OYPhP [12/25]
律「なぁ澪」
紬「なに?」
律「今度みんなでさ、ドライブ行こうよ!」
律「私そのために金ためて免許取ったんだぜ」
律「ムギも唯も誘ってさ。梓も呼んで」
律「梓なんて全然会ってないからなぁ、元気してるかな」
律「そういや、唯も最近見かけないな。バイトも来てないみたいだし」
紬「…実家に帰ってるんじゃない?憂ちゃんもいるし」
律「ふーん、そっか」
バイトのオーナーの話しだと、唯ちゃんはバイトを辞め実家に戻ったらしい。
たぶん実家でも色々なものを背負い、追われながら暮らしている。
もしかしたら、もう…。
572 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 03:42:18.70 ID:Mf78OYPhP [13/25]
紬「………」
律「どうした?黙りこくっちゃって」
もうみんないなかった。
澪ちゃんも梓ちゃんも、唯ちゃんも。
2人は私が手を下したと言っていい。そのことは重々わかってる。
いっそのこと、私も死んでしまえばと思ったこともあった。
でもそれじゃあ残されたりっちゃんはどうなるの。
何も知らないまま独りになるなんて、そんなのあまりにも悲しすぎる。
紬「ううん、何でもないよ」
律「あーっ、楽しみだなぁー!みんなとドライブ」
紬「…そうね」
この笑顔だけは、失ってはいけない。
それが今の私に出来る唯一のことだから。
577 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 03:48:16.01 ID:Mf78OYPhP [14/25]
ピンポーン
律「あ、誰か来た」
紬「私が出るね」
ピンポーン ピンポーン
紬「はーい」
呼び鈴が何度も鳴った。
誰だろう、こんな時間に。
私は早足で玄関に向かい、扉を開けた。
ガチャ
憂「こんばんは、紬さん」
580 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 03:52:45.38 ID:Mf78OYPhP [15/25]
憂ちゃんだった。
ポニーテールの髪をおろし、前髪をピンで止めている。
見てくれは唯ちゃんそのものだった、恐ろしいほどに。
紬「憂ちゃん…」
憂「お久しぶりですね」
紬「…そうね」
そっか。
あなたがこうしてここに来るということは、そういうことなんだね。
唯ちゃんは、もういないんだね…。
憂「いい匂いがしますね、ご飯中ですか?」
紬「そんなところかな。どうしたの、こんな時間に?」
憂「今日、お姉ちゃんが、死にました」
586 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 03:59:11.63 ID:Mf78OYPhP [16/25]
紬「………」
憂「死にました、っていうのは少し違いますよね」
憂「殺されました」
憂ちゃんの目はあの時のりっちゃんの目に似ていた。
光のない、絶望感に浸された瞳。
でもりっちゃんのそれとは少し違う。
猟奇と憎しみを含んだ、どす黒い目だった。
憂「お姉ちゃんは、ずっと苦しんでました」
憂「私のせいだ。私のせいだ。って」
憂「梓ちゃんと幸せに暮らしてたのに。やっと想いが伝わったのに」
憂「紬さんのせいで、お姉ちゃんは…」
紬「憂ちゃん、聞いて。梓ちゃんは―――」
憂「………」どすっ
紬「………?!」
紬「…げほっ」
590 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 04:06:53.78 ID:Mf78OYPhP [17/25]
腹に鈍痛が走った。
口の中に鉄の味が広がる。
私は憂ちゃんに刺された。
憂「返してよ、ねぇ。お姉ちゃんを、返してよ…!!」
私は事の顛末を話すつもりだった。
だけど、もしそれを知っていたところで、関係はないだろう。
姉が理不尽に殺された。その程度の認識にしかならないのだから。
紬「うっ…」
痛みで意識が飛びそうだった。
でもここで倒れるわけにはいかない。
りっちゃんに、余計な不安を与えるわけにはいかない。
律「澪ーっ、いつまでやってんのー?」ととっ
紬「?!こ、来ないでっ!来ちゃダメ!!」
ダメ、来ないで…。
あなたはこんなところを見る必要はないの。
あなたは、笑っていればそれでいいの。
律「………おい。何だよ、これ」
律「何で、血を流してんだよ…」
律「澪ッ!!」
593 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 04:10:33.82 ID:Mf78OYPhP [18/25]
律「大丈夫か、おい澪!しっかりしろ!」
憂「澪…?律さん、何言ってるんですか?」
律「憂ちゃん…?お前が…やったのか…?」
憂「………」
律「何の恨みがあって澪にこんなことすんだよ!!!」
紬「私は平気。大丈夫だから…」
律「平気なわけあるかよ!!こんなに血を流して…」
律「すぐに救急車呼ぶからな。ちょっとだけ耐えろよ、澪」
憂「………」
憂「…そういうことでしたか。紬さん」
今のやりとりで憂ちゃんはすべてを理解したようだった。
憂「そうやって律さんを騙して。罪滅ぼしのつもりですか?」
憂「偽善者」
紬「……!」
596 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 04:14:31.00 ID:Mf78OYPhP [19/25]
辛辣な言葉が胸に突き刺さる。
偽善者。
そうかも知れない。
私がやっていることは、所詮自己満足、偽善でしかなかった。
澪ちゃんを止められなかった。
梓ちゃんを殺した。
唯ちゃんを追い込んだ。
全部、私のせい。
だけど私は知らないうちに、そこから逃げていた。
りっちゃんを盾にして。
憂「律さん。よく聞いてください」
憂「そこに倒れているのは澪さんじゃありません。紬さんですよ。琴吹紬さん」
律「え…?」
600 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 04:19:16.27 ID:Mf78OYPhP [20/25]
律「………ウソだ」
律「ここにいるのは澪じゃないか!なぁ、澪!そうだろ?お前は澪だろ?!」
紬「………」
何も言えなかった。
言ったところで無駄だと悟ったからだ。
私はもう「琴吹紬」になってしまったから。
律「お前は…本当にムギなのか…?」
律「じゃあ澪は…。本物の澪はどこにいるんだよ!なぁ!!」
憂「律さん、忘れちゃったんですか?」
律「忘れた?!何のことだよ!!」
憂「いや、受け入れてないだけか…」ぼそっ
紬「?!や…やめて、憂ちゃん!ごほっ、それだけはっ…!」
お願い、言わないで。それだけは…。
りっちゃんを、壊さないで。
せっかく取り戻したのに。
ようやく笑えるようになったのに。
りっちゃんから、笑顔を奪わないで…。
憂「 澪 さ ん は 、 と っ く に 死 ん で る じ ゃ な い で す か 」
605 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 04:26:15.33 ID:Mf78OYPhP [21/25]
律「え………?」
憂「律さんもお葬式に出たでしょう?」
憂「8月14日を、思い出してください」
律「……………」
律「………そうだ」
律「……澪は。電車に轢かれて……それで……」
律「は…はは、ははははは。そうだよな、私、一体何を…」
律「そ、そうだ…!唯は?梓は?!みんな何してんだよ、澪が死んだってのに」
憂「お姉ちゃんも、梓ちゃんも、もういません」
律「……嘘…だろ…」
610 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 04:33:10.64 ID:Mf78OYPhP [22/25]
もう、おしまいだった。
すべてを知ったりっちゃんは、その場に崩れた。
それと同時にりっちゃんの叫びが響く。
断末魔の叫びとは、まさにこのことだろう。
結局、私は最後まで何も出来なかった。
助けることも、守ること。
もう何も失いたくない。そう決意していたのに。
意識が遠のいていく。
私はりっちゃんが壊れていく姿を、ただただ見つめることしかできなかった。
ごめんね。
END
618 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 04:40:44.21 ID:kF3hL4B+0 [5/10]
>>612
乙
この結末ってスレ立てた時から決めてたの?
630 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 04:55:43.98 ID:Mf78OYPhP [24/25]
>>618
そうよ。全部筋書き通り。
予想が次々的中しててびっくりしたよ。
死なない鬱ものが書けるようになりたいね。
俺が鬱もの書くとだいたい死ぬからwww
案のひとつとして
唯→梓じゃなくて
唯→澪ってがあったんだけどもしかしたらそっちの方がおもしろかったかもなwww
梓「えっ…?」
頭の中が真っ白になった。
唯先輩の好きな人は、私…?
唯「なぁんてね、冗談♪」
梓「………」
唯「あれ、あずにゃん?おーい!」
梓「はっ、はい?!」
唯「大丈夫?ぼーっとしてたけど」
梓「そ、そんなことは…」
唯「でも、あれだね。ごめんねあずにゃん」
梓「何がですか?」
唯「いや、何度も家に誘っちゃったりして。澪ちゃんに悪いことしちゃったかな」
唯「これから気をつけるから、ごめんね?」
梓「え…」
448 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/24(水) 23:13:47.72 ID:hhRXdGr2P [24/27]
梓「ま、待ってください!何でですか?!」
唯「私のせいで澪ちゃんにヤキモチやかせるのは嫌だし、何よりそれが原因でケンカとかしてほしくないからさ」
梓「それは…。確かにそうかも知れませんけど」
梓「でもだからって唯先輩と会えなくなるのはやです…」
唯「会えないって言ってるわけじゃないよ?これからもみんなと一緒にたくさん遊ぶつもりだし」
唯「ただ、2人で遊ぶのはちょっとやめよっかって言ってるだけ」
梓「それが、嫌なんです…」
梓「そんなこと、言わないでくださいよ…」
唯「あずにゃん…?」
455 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/24(水) 23:19:08.29 ID:hhRXdGr2P [25/27]
自分でも何を言っているのかわからなかった。
唯先輩が私と澪先輩に気を遣ってそう言ってくれてる、
その気持ちはすごくうれしいんだけど。
だけど、唯先輩に会えなくなるのは嫌だ。
矛盾した思いが駆け巡る。
唯「ねぇ、あずにゃん。もしもだよ?」
唯「澪ちゃんが誰かと2人っきりでちょくちょく遊んでるって知ったら、どう思う?」
梓「それは…」
唯「自分とは会えないのに、どうして。って思わない?」
梓「………」
唯「でしょ?」
確かに嫌な思いをするかも知れない。
ましてや嫉妬深い性格なんだ、不安にもなる。
それはわかってる。わかってるんだけど…。
456 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/24(水) 23:23:26.17 ID:hhRXdGr2P [26/27]
梓「でもっ――」
ぎゅっ
唯「わがままだなぁ、あずにゃんは」
唯「さ、バイバイだよっ。これから雨強くなるみたいだしね」
梓「…はい」
半ば突き放された形で、私は唯先輩の家を後にした。
私には澪先輩がいる。大好きで、大切な恋人。
だけど、何だろう。
―――あずにゃんだよ―――
その言葉が頭から離れなかった。
冗談だって、わかってるのに。
471 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/25(木) 00:23:29.08 ID:mpimpF2YP [1/13]
6月14日。
私と澪先輩の4ヶ月の記念日。
今日はちょっと遠くに出て買い物をすることになった。
天気は、雨だった。
澪「うーん、雨やだなぁ」
梓「そうだね、早く梅雨明けるといいけど…」
澪「早く夏休みにならないかな」
梓「どうして?」
澪「だって、そうすれば梓にたくさん会えるじゃないか」
梓「…そうだね!」
澪先輩といる時間は幸せだった。
月に一度しか会えないんだもの、幸せじゃないわけがない。
帰りたくなかったし、もっと一緒にいたかった。
充実していたし、満足もしている。
でも、胸につっかかることもあった。
あれから、唯先輩から連絡は一度もなかった。
472 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/25(木) 00:31:17.23 ID:mpimpF2YP [2/13]
【大学】
7月。
梅雨も明け、気温もあがってきた。
もうすぐ夏がやってくる。
律「やべぇよ、澪!どうしよう!課題終わんないよ!!」
澪「自業自得だろ、バイトばっかしてるからだ」
律「そんな冷たいこと言わないでよ澪しゃあん…」
この時期は多くの授業でレポートの提出が課される。
一年生の私たちは履修科目も多く、当然たくさんのレポートが出されていた。
唯「ムギちゃんだずげで~!!!」
紬「じゃあ、今日私の家で一緒にやろっか♪」
唯「本当っ?!ありがとう~」
律「…なっ?」ちらっ
澪「なんだその目は」ずびし
律「あてっ」
474 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/25(木) 00:35:30.46 ID:mpimpF2YP [3/13]
紬「せっかくだし、みんなで一緒にやる?」
律「おっ、いいねー!待ってました!」
澪「ムギ。あんま甘やかすと今後のためにならないぞ」
紬「まぁまぁいいじゃない。今日はみんなバイトもないんだし」
紬「久しぶりにお茶でもしましょ?」
澪「けど…」
紬「う~ん…。澪ちゃんがそこまで言うなら仕方ないわね…」
紬「じゃあ3人でやりましょうか♪」
澪「」
475 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/25(木) 00:41:20.67 ID:mpimpF2YP [4/13]
唯「わぁい!ムギちゃんのお茶飲むの久しぶりだなー」
律「わりぃな澪!家のこと頼んだわ!」
澪「………」
澪「……私も」
澪「…私もいぐぅ~!!!」
紬「うふふ、やっぱりね」
澪「あっ、ムギ!こうなるってわかっててわざと言ったんだな!」
紬「さぁ、何のことかしら♪」
澪「ぬぬぬ…」
ムギに一本食わされた。
ムギだけじゃない、唯も律もにやにやしていた。
3人揃って、まったく…。いじわるな奴らだ。
こうして私たちはムギの家にお邪魔することとなった。
478 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/25(木) 00:48:43.93 ID:mpimpF2YP [5/13]
【紬の家】
律「ふぅ~っ…」
律「飽きた」
澪「まだ30分も経ってないだろ!」
律「だってほら、ムギのお茶がないとやる気出ないって。な、唯?」
唯「その通りだよりっちゃん!」
紬「それじゃあちょっと休憩しましょうか」
そう言うとムギはキッチンに向かった。
紬「はい、どうぞ」
律「あぁー…幸せ」ずずっ
唯「んんー、おいしい」
紬「よかった♪」
結局ティータイムを満喫していた。
レポートの進み具合に関しては…言うまでもなかった。
479 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/25(木) 00:52:43.72 ID:mpimpF2YP [6/13]
【澪と律の家】
律「ふわ…おやすみ」
澪「えっ?!もう寝るのか?」
律「お腹いっぱいでさ、そんじゃ」ばふっ
あの後、みんなでご飯を食べ解散した。
久しぶりに4人で一日中いた気がする。
律は帰るなり布団をかぶり寝てしまった。
澪「………」
ピッ
私は携帯を取り出し、電話をかけた。
prrrr prrrr
ガチャ
紬『もしもし』
そう、ムギに。
482 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/25(木) 01:03:40.47 ID:mpimpF2YP [7/13]
澪「ごめんな。今大丈夫?」
紬『大丈夫よ、どうかした?』
澪「その、相談があるんだけど…」
紬『梓ちゃんのこと?』
澪「な、なんでわかったんだ?!」
紬『誰にも知られたくないことだから、わざわざ電話にしたんでしょ?』
澪「実は、8月14日で梓と半年になるんだ」
澪「だから、何かプレゼントしたいなぁって思って」
澪「全然会えなかったし、構ってあげられなかったから…」
紬『それで、私に何が良いか相談に乗ってほしいってことかな?』
澪「う、うん…」
ムギはこういうところにはいつも助けられていた。
みなまで言わなくても、理解してくれるから。
485 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/25(木) 01:10:57.90 ID:mpimpF2YP [8/13]
紬『うーん、アクセサリーとかどうかしら?』
澪「指輪とか?」
紬『そうね…。でも指輪はもっと大切な日にあげた方がいいと思うわ』
紬『イヤリングは高校生だからまずいし…』
紬『ネックレスとかどうかしら?小さくてかわいいのもたくさんあるし』
澪「ネックレスか、なるほど…。確かにいいかも」
紬『今度一緒に見に行ってみない?私もイヤリング見てみたかったの』
澪「本当か?助かるよ、ムギ。ありがとう」
紬『じゃあ、今週末にお出かけしましょ』
澪「うん!」
ムギには感謝してもし尽くせなかった。
いつか恩返ししなきゃな。
どんなネックレスにしようかな、梓に似合うやつがあればいいけど…。
想像は膨らんだ。週末が楽しみだった。
488 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/25(木) 01:16:18.47 ID:mpimpF2YP [9/13]
週末。いい天気。
照りつける日差しが眩しい。もう夏も目前だ。
紬「おはよう」
澪「おはよう、ムギ」
紬「それじゃ、行きましょうか」
澪「どこか行くあてがあるのか?」
紬「ちょっと電車で行ったところに大きなデパートがあるの。だからそこに行きましょ」
澪「わかった」
私とムギは電車に乗って、目的地に向かった。
490 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/25(木) 01:23:20.40 ID:mpimpF2YP [10/13]
【デパート】
澪「うわぁ、大きい…」
紬「この中にアクセサリーショップがいくつか入ってるの」
紬「行きましょ♪」
澪「うん」
ムギは慣れた様子で案内してくれた。
何度も足を運んでいるんだろう。
澪「何かごめんな、付き合ってもらっちゃって」
紬「いいのよ全然。こういうお買い物って、わくわくしない?」
澪「…そうだな!」
496 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/25(木) 01:30:31.84 ID:mpimpF2YP [11/13]
目的のアクセサリーショップに着く。
澪「うわぁ、いっぱいある」
紬「好きなの見てていいわ、私もイヤリングのところ見てくるから」
澪「わかった」
ムギの言うとおり、たくさんのネックレスがあった。
大きいものから小さいもの、形も様々だった。
「何かお探しですか?」
澪「へ、へっ?!あ、えと…」
店員の人に話しかけられた。
こういうのはどうも苦手だ。
498 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/25(木) 01:35:46.74 ID:mpimpF2YP [12/13]
澪「あの、その…。プレゼントにネックレスを買おうと思ってまして…」
「記念日ですか?」
澪「まぁ、そんなところです…」
その後たどたどしくも店員の人と話をし、
小さなハートのネックレスを買うことにした。
「後ろに名前を彫ることも出来ますが、いかがなさいますか?」
澪「あ、じゃあお願いします…」
言われるがままに頼んでしまったが、
サンプルを見るととてもかわいらしく彫られていた。
499 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/25(木) 01:44:18.37 ID:mpimpF2YP [13/13]
紬「おまたせ、いいのあった?」
澪「あぁ、かわいいのが買えたよ」
紬「どんなの買ったの?」
澪「だっ、ダメっ!恥ずかしいから…」
紬「むぅ~…」
澪「あ、梓に渡したら梓から見せてもらってくれっ」
紬「まぁ、澪ちゃんったら♪」
澪「う、うるさいっ///」
澪「ムギもいいのが買えたみたいだな」
紬「うん!」
75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 03:48:52.18 ID:3lF6MxQ4P [2/19]
梓「ふぅ、暑いなぁ…」
私は今日、電車で行きつけの楽器屋に向かっていた。
ギターの鳴りが悪くなった気がするので、メンテをお願いしに行くのだ。
私の住んでるところとは違ってこの辺りは随分と栄えていて、
楽器屋も大型の店舗が揃っている。
梓「………」
メンテをしてもらっている間、私はずっと考えていた。
澪先輩のこと。そして、唯先輩のこと。
私は澪先輩のことが好き。
これは偽りなく本当のことだし、一緒にいるときは幸せ。
欲を言ってしまえば、本当はもっとたくさん会いたい。
記念日だけじゃなくて。
私は会わないとどんどん不安になっちゃう人間だから。
でもそれは言わなかった。
頑張ってる澪先輩の邪魔をしたくはなかったし、
何より、澪先輩を信じてるから。
77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 03:54:39.24 ID:3lF6MxQ4P [3/19]
とはいえ、唯先輩のことも私の心を揺らしていた。
いつもなら、軽く流す程度で終わったのに。
なぜかあの冗談はいつまでも頭に残っている。
今思うとあの時の唯先輩の表情は少し違った気がした。
悲しげって言うか、何て言うか…。
梓「……考えすぎか」
そうこうしているうちにメンテが終わる。
梓「うん、いい感じ」
せっかく来たんだからもう少しぶらぶらしてから帰ろうかな、
そう思いデパートに向かうと見覚えのある姿があった。
梓「あ…!」
澪先輩だ。
80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 04:01:55.42 ID:3lF6MxQ4P [4/19]
まさに偶然だった。こんなところで会うなんて。
梓「澪せんぱ――」
声をかけようとしたが、澪先輩の隣にもう一人知っている姿があった。
ムギ先輩だ。
2人は買い物を済ませたらしくデパートから出て行った。
私は声をかけるのをやめた。
ムギ先輩といる澪先輩が、あまりにも楽しそうで、眩しかったから。
梓「…なんだよ、澪先輩」
梓「あんなにうれしそうな顔してさ」
ちらりと見えた澪先輩の横顔は、とても幸せそうだった。
私の前でなくても、あんな顔してるんじゃん…。
ほんの少し悲しくなった。それと同時に、不安にもなった。
私は結局澪先輩には声をかけず、帰路についた。
81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 04:08:06.45 ID:3lF6MxQ4P [5/19]
【電車】
紬「楽しかったね」
澪「あぁ」
買い物が終わった私たちはその後街をぶらぶら回ったり、
お店に入ったりと楽しい時間を過ごしていた。
澪「梓、よろこんでくれるかな…?」
紬「大丈夫よ。好きな人からもらったプレゼントがうれしくないわけないわ」
澪「本当に、色々とありがとうな」
紬「それにしても、梓ちゃんは幸せね」
澪「どうして?」
紬「だって、こんなに澪ちゃんから愛されてるんだもの♪」
澪「ばっ…ムギ!!///」
紬「澪ちゃん、しっ!ここ電車よ?」にやにや
澪「うぅ…」
つい電車の中で大きな声をあげてしまった。
照れくさかったけど、うれしいことだった。
84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 04:14:16.67 ID:3lF6MxQ4P [6/19]
【澪と律の家】
澪「ただいまー…ってあれ?」
律の姿がなかった。
またバイトか。本当、よく働くな。
澪「ふうっ」
私は今日買ったネックレスを見つめる。
早くこれを梓に渡してあげたかった。
ずっと構ってあげられなくて、寂しい思いをさせてきたから。
brrrr brrrr
電話が鳴った。
澪「もしもし」
梓『あ、もしもし。先輩?』
85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 04:19:59.87 ID:3lF6MxQ4P [7/19]
梓からだ。
澪「どうした、梓」
梓『なんとなく、声が聞きたくなって』
澪「そっか」
梓『先輩、今日何してたの?』
梓のためにプレゼントを買いに行ったんだよ。
そう言いたかったけど、はやる気持ちを抑えた。
私は適当に言ってごまかすことにした。
楽しみで楽しみでうっかり口を滑らせちゃいそうで怖い。
これからはボロが出ないよう少し意識して接しなきゃな。
澪「朝起きて、課題やって、バイト行って…いつもの通りだよ」
梓『………』
梓『……そっか』
89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 04:27:59.43 ID:3lF6MxQ4P [8/19]
――ウソつき。
心の中でそうつぶやく。
私は澪先輩に電話をした。
なぜだかわからない。無意識のうちにボタンを押していた。
本当は、抱えていた不安な気持ちを取り除きたかったのかもしれない。
「何してたの?」その単純な問いに正直に答えて欲しかっただけかも知れない。
でも、その不安は取り除かれることはなかった。
澪『梓は今日なにしてたんだ?』
梓「私は…」
梓「私は特に。家でギター弾いて勉強してたぐらいかな」
澪『そうか。もうすぐ期末考査だもんな』
梓「…うん」
梓「疲れてるだろうから、切るね」
梓「おやすみ」
澪『あぁ、おやすみ』
91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 04:35:33.24 ID:3lF6MxQ4P [9/19]
ほとんど一方的に電話を切った。
―――自分とは会えないのに、どうして。って思わない?―――
唯先輩の言葉を思い出す。
澪先輩も、あの時同じようなことを思ったのかな。
先輩はウソをついた。
私が澪先輩に問いつめられたときは正直に話したのに。
裏切られた気分だった。
不安と不信感が募る。
もしかしたら、もう…。
梓「…私のことなんて、どうでもよくなっちゃったのかな」
93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 04:43:30.09 ID:3lF6MxQ4P [10/19]
もやもやとした日々が続く。
勉強にも、ギターにも身が入らない。
あれからも澪先輩とはやりとりしてるけど、
私の抱いた不安は増えていくばかりだった。
その一方で私は期待をしていた。
唯先輩からの連絡を。
高校の時からそうだった。
私が悲しんでたり、不安になってる時、
先輩はそれを察したかのように現れて、手を差し伸べてくれる。
正義のヒーロー。
稚拙な表現だけど、私にとってはそんな存在だった。
いまの私は、澪先輩よりも唯先輩を求めていた。
94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 04:47:56.30 ID:3lF6MxQ4P [11/19]
brrrr brrrr
電話が鳴る。
梓「唯先輩?!」
ピッ
純『や、梓』
梓「…なんだ、純か」
純『なんだって言い方はないんじゃないのー?』
梓「なに?」
純『いや、英語のテスト範囲教えてもらおうと思ってさ』
梓「はぁ…」
電話の相手は純だった。
そうだよね、そんな都合よくいくはずないよね。
95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 04:54:48.69 ID:3lF6MxQ4P [12/19]
梓「えーっと…」
私は純にテストの範囲を教えた。
純『いやー、助かった。ありがとね』
梓「じゃあ切るよ」
純『ちょっと待った!』
梓「なに?」
純『梓、また何か悩んでんの?』
梓「………」
純『ふふっ、図星か』
純『まぁ何をそんなに悩んでるのか知らないけどさ』
純『自分に素直になんなよ。梓はすぐ意地張るから』
純『それだけ、じゃね!』
97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 04:59:13.54 ID:3lF6MxQ4P [13/19]
純に見抜かれていた。
そういうところは変に鋭いんだから。
梓「素直に…か」
純の言葉に心が揺れる。
私は今、何が一番したいんだろう。
私は今、何を一番望んでいるんだろう。
梓「………」
ピッ
prrrr prrrr
ガチャ
唯『もしもし?』
私は、唯先輩に会いたかった。
99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 05:04:08.06 ID:3lF6MxQ4P [14/19]
梓「唯先輩、こんばんは」
唯『どうしたの?』
梓「その…特に何があるってわけじゃないんですけど」
梓「元気ですか?」
唯『うん、元気だよ♪』
梓「あの、先輩…」
唯『ん?』
梓「今度の週末、会いに行っちゃダメですか…?」
唯『んー…』
唯『ダメっ!』
101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 05:06:18.61 ID:3lF6MxQ4P [15/19]
梓「ど、どうして…」
唯『前も言ったでしょ?澪ちゃんヤキモチやいちゃうって』
梓「で、でもっ!今回は私からじゃないですか」
唯『そんなの余計ダメだよ、澪ちゃん悲しむよ?』
梓「いいんです、もう…」
唯『あずにゃん…?』
梓「澪先輩は、たぶんもう私のこと好きじゃないですから…」
105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 05:10:16.89 ID:3lF6MxQ4P [16/19]
そう。たぶん澪先輩は、もう私のことなんてどうだっていい。
あれからも澪先輩はずっとそっけなかった。
隠しごともしてるみたいだった。
何度か問い詰めてこともあったけど、「ないよ」とあしらわれた。
前の先輩は本当に私のことが好きで、想ってくれていた。
自惚れるぐらい、それがわかった。
けど、今の先輩からはわからない。
募る不安。次第に薄れていく澪先輩への想い。
梓「私、会いたいんです。唯先輩に」
唯『………』
梓「ダメ…ですか…?」
唯『…おいで、待ってる』
107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 05:18:39.10 ID:3lF6MxQ4P [17/19]
【唯の家】
梓「おじゃまします」
唯「ん、いらっしゃい」
週末。私は唯先輩の家に出向いた。
私から唯先輩に会いに行くのは初めてのことだ。
いつもの場所に腰かける。
唯「澪ちゃんと何かあったの?」
唯「あんなに幸せそうな顔してたのに」
梓「…実は」
ムギ先輩といたときの澪先輩のこと。
ウソをつかれたこと、それからのこと、すべて話した。
話してどうなるわけでもないことぐらいわかってる。
それでも、聞いてほしかった。それだけで、救われるから。
108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 05:25:30.71 ID:3lF6MxQ4P [18/19]
唯「そっか…」
梓「………」
しばらく部屋に沈黙が流れる。
今日の唯先輩は少し違う。
いつものあの明るさがなく、終始静かだった。
どうしてだろう。
そう思っていると、唯先輩が口を開いた。
唯「ごめんねあずにゃん。私、最低だよ」
梓「何がですか?」
唯「今の話を聞いて、心の底で浮かれた自分がいた」
梓「…?」
唯「やっぱりダメみたい。我慢出来ないや…」
唯「私、あずにゃんのことが好き」
182 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 23:41:24.64 ID:GN1H+3wNP [1/4]
突然の告白に戸惑いを隠しきれなかった。
梓「えっ…?先輩、それは冗談だって…」
唯「冗談で終わらせるつもりだった」
唯「会わなければ忘れるかなって思ってたから、連絡もしなかった」
唯「でも、ダメだった」
梓「先輩…」
唯「わかってる、澪ちゃんと付き合ってるって」
唯「でもさ、好きなんだよ…」
真剣な目つきだった。
泣きそうな顔をしていた。
今度は冗談じゃない。
私は、唯先輩に想いを告げられた。
185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 23:47:33.48 ID:GN1H+3wNP [2/4]
梓「………」
私はどうすればいいのだろう。
ここで先輩の想いに応えてしまったら、
私は澪先輩のことを捨ててしまうことになる。
裏切ってしまうことになる。
澪先輩のことは今でも好きだ。
だけど、唯先輩の想いにどきどきしている自分がいる。
様々な思いが錯綜していた。
梓「あの…その…」
言葉が出てこない。
間を持たせるかのように、あの。その。と繰り返していた。
唯「………あずにゃんっ」
梓「えっ―――んんっ?!」
いきなり唯先輩は私に迫ってきた。
一瞬何が起こったのかわからなかった。
気づくと目の前には唯先輩の顔。
唇には、あたたかい感触。
私は、唯先輩にキスをされた。
192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 23:53:30.38 ID:GN1H+3wNP [3/4]
梓「………」
どれくらいこうしていたのか。
唯先輩はゆっくりと唇を離す。
胸の高まりを抑えられなかった。
どうして、こんなにどきどきしているんだろう。
自分でもわからなかった。
梓「せ…先輩…?」
唯「…私、あずにゃんを幸せにする」
唯「絶対に裏切らないし、捨てないよ」
唯「ずっと、大好きだから」
梓「………!」
そうだ。
よく考えたら先に見捨てられたのは私の方じゃないか。
裏切られたのも、私の方じゃないか。
このまま辛い思いをするのなら、もう…。
唯先輩に、すべてを委ねてしまった方がいいんじゃないのか。
先輩は私をベッドに押し倒した。
抵抗はしなかった。心のどこかでそれを望んでいたのかもしれない。
そして――――。
197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/26(金) 23:59:27.08 ID:GN1H+3wNP [4/4]
【大学】
7月の半ば。
この時期になると授業は終わり、補講やテストが始まる。
今週は、梓との記念日の週だ。
律「えっ、持ち込みありって何でも持ちこんでいいのか?!」
紬「みたいね。教科書もノートもいいみたい」
律「すげー!大学すげー!テストとか余裕じゃん!」
澪「そうやってると落とすぞ。持ち込んでいいってことは、それだけ難しいってことじゃないか」
唯「………」
澪「唯?どうかしたのか?」
唯「へっ?ううん、何でもないよ!」
204 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 00:05:16.23 ID:eGFZDkOUP [1/49]
澪「本当か?なんか最近元気ないぞ」
唯「そんなことないよ、ほら元気!」ふんす
紬「大学内はどこも空調がきいてるから、もしかしたらそれのせいかもね」
律「あー確かに。唯はクーラーだめだもんな」
澪「夏バテの可能性もあるかも知れないし、気をつけた方がいいぞ」
唯はここのところ元気がなかった。
テストもあるし、体調崩さないといいけど…。
206 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 00:09:37.00 ID:eGFZDkOUP [2/49]
律「てか、9月になっても夏休みってすごくね!?」
唯「私夏休みはずっと実家にいようかなぁ。憂もいるし、ラクだし」
律「んなつまんないこと言うなよー。せっかくだし色んなとこ行こうぜ!海とか山とかさ」
紬「いいわね、おもしろそう」
澪「そうだな」
夏休みは長い。
たくさんみんなと遊べるし、もちろん梓とも会える。
夏だからな、プールとか花火大会とか行くところもたくさんある。
浴衣を着てお祭りなんてのもいいな。
色んな事を考えてた。
208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 00:14:59.66 ID:eGFZDkOUP [3/49]
【澪と律の家】
律「ただいまー」
澪「ただいま」
今日はめずらしく2人で一緒に帰って来た。
授業がなくなって時間に余裕が出来たからだ。
律「はぁ、それにしてもあっちいなー」
澪「そうだな。クーラーでもつけるか」
クーラーをつけたあと、私は引き出しを開ける。
引き出しの奥に、小さく眠るネックレス。
あとひと月だ。胸が弾む。
律「なにしてんの?なんかおもしろいもんでもあんのか?」
澪「な、なんでもないっ!」
律「ふーん」
律のことだ。
私のいない隙を見て開けるとも限らない。
私はかわいく包装された箱をバイト用のバッグにしまった。
これなら見つからないし、痛むこともない。
213 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 00:21:24.35 ID:eGFZDkOUP [4/49]
夕方。
私と律はずっと家にいた。
ゲームしたり、勉強したり、久々に律との時間を過ごした。
律「そんじゃ、行ってくるわ」
澪「また居酒屋?テスト近いのに大丈夫なのか?」
律「平気平気。それに、こっちは今月いっぱいだからさ」
澪「辞めるのか?」
律「あぁ、金も十分貯まったしな。8月から教習所行くよ」
律「少しは家にいる時間も増えると思う。悪かったな今まで」
律が謝るだなんてこれまためずらしいことだ。雨でも降るんじゃないのか?
確かに律は家を空けることが多かったから、私は大概家で一人だった。
215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 00:29:04.27 ID:eGFZDkOUP [5/49]
澪「こっちとしてはやかましいのがいなくて清々してたけどな」
律「とかいって、なんだかんだ私がいなかったら寂しいくせに」にやにや
澪「なんだとっ?!」
律「よちよち。お利口な澪しゃんは、お家でお留守番しててくだしゃいねー」
澪「ぐぐ…!早く行けこのバカ律っ!」
律「はーいはい。いってきまーす!」
バタン
澪「ったく…」
こんなやりとりもいつ振りだったか。
そういや、律には梓のこと言ってなかったな。
帰ったら教えてやることにするか。
律のやつ、きっと腰抜かすぞ。
216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 00:37:05.52 ID:eGFZDkOUP [6/49]
しばらくして、私は梓に電話をかけた。
今度の14日なにをするか話し合うためだ。
prrrr prrrr
prrrr prrrr
澪「…ん?」
なかなか出なかった。
何かしてるのかな、そう思って切ろうとする。
すると、
ガチャ
梓『…もしもし』
出た。
219 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 00:42:59.24 ID:eGFZDkOUP [7/49]
澪「あぁ、もしもし。梓か?」
梓『うん』
澪「電話なかなか出なかったから何かしてたのかと思ったよ」
梓『ごめん』
澪「それで、今度の14日のことなんだけどさ」
梓『…ごめん、私その日用事が入っちゃって。たぶん会えない』
澪「えっ…?」
月に一度しか会えない記念日なのに。
そんなに大事な用事なのか?
澪「そ、そっか。何の用事なんだ?」
梓『…言えない』
225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 00:48:07.81 ID:eGFZDkOUP [8/49]
梓の声は沈んでいた。
何だろう、訃報か何かかな。
だとしたら、深く探るのは失礼だ。
澪「…わかった。じゃあまた今度だな」
梓『…うん』
澪「またメールするよ、それじゃ」
電話を切った。
仕方ないと思った。
梓が記念日を楽しみにしてないわけがないから。
その楽しみを奪うほどの用事なんてよっぽどのことだなんだろう。
もうすぐテストも終わる。
テストも終われば夏休みだし、たくさん梓に会いに行ける。
でも…。
澪「少しでもいいから、会いたかったな」
寂しく思っていることには変わりがなかった。
229 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 00:53:52.05 ID:eGFZDkOUP [9/49]
電話が終わった後、すこしうとうとしてしまったせいか。
いつもより遅い時間まで起きていた。
律「ただいまー」
澪「おかえり」
律「あれ、まだ起きてんの澪」
澪「ちょっと眠れなくてさ」
律「何か悩んでんの?」
澪「ど、どうして」
律「ん?なんとなく。さてと、汗かいちゃったし風呂入ってくるわ」
澪「あ…あぁ」
そんなわかりやすい顔をしていただろうか。
いや、付き合いが長いからだろうな。
結局律には梓のことは報告せず、
だらだらと話して眠りについた。
231 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 01:01:00.46 ID:eGFZDkOUP [10/49]
【大学】
唯「あぁ…疲れた」
律「ぜ、全然出来なかった…。ヤバい」
紬「大丈夫よ。出席してるしもレポートも出したし、きっと大目に見てくれるわ」
紬「それに、もし落としたとしても私が何とかするから♪」
律「もうさすがに笑えないからやめてっ!!」
紬「うふふ」
7月も終わりに近づき、テスト期間に入る。
相変わらず唯ちゃんとりっちゃんは参ってるみたい。
澪「………」
澪ちゃんも元気がなかった。
テスト出来なかったのかな?
いや、澪ちゃんに限って勉強でヘマすることなんてない。
何かあったのかもしれない。
私は澪ちゃんに聞いてみることにした。
233 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 01:07:31.47 ID:eGFZDkOUP [11/49]
紬「澪ちゃん」
澪「ん?」
紬「最近、梓ちゃんとはどう?」
澪「あ、あぁ…うん」
紬「この前記念日だったでしょ?どこか行ったの?」
澪「いや…会ってないんだ」
紬「えっ、どうして?」
澪「その…なんか用事があったみたいで」
紬「でも月に一回の大事な会える日なのに用事?」
澪「うん」
紬「何の用事だったの?」
澪「教えてくれなかった」
澪「でもさ、記念日よりも大事な用だってことは、よっぽどのことだから…」
235 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 01:13:00.38 ID:eGFZDkOUP [12/49]
紬「けど、別に何かあったわけでもないんでしょ?」
澪「うん。ないんだけどな…」
紬「?」
澪「その、最近。連絡もあまりとってないんだ」
澪「メールもあんまり返ってこないし、電話も出てくれることが減っちゃって」
澪「きっと梓も忙しいんだよ。だから、しょうがないよな。はは…」
紬「澪ちゃん…」
澪ちゃんは目に涙をためていた。
しょうがないなんて思ってるわけない。
そんな悲しい顔をして、どうしてそんなことを言うの?
会えない分たくさんメールも電話もしてたのに、
それがぱったりと減っちゃうなんておかしい。
変な胸騒ぎがした。
240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 01:18:52.40 ID:eGFZDkOUP [13/49]
8月に入る。
テストも今日で終わり。
長い夏休みがもう目の前に迫っていた。
キーンコーンカーンコーン
唯「終わったぁ~」
律「いよっしゃあー!夏休みだぁぁ!!」
唯ちゃんとりっちゃんは飛ぶようによろこんでいる。
本当なら、そこに私も加わっているはずだった。
澪「………」
紬「澪ちゃん…」
澪ちゃんは日に日に元気がなくなっていった。
おそらく、梓ちゃんとはずっとその調子なんだろう。
話がしたかった。力になってあげたかった。
紬「ねぇ、澪ちゃん」
澪「…ん?どうした?」
紬「この後、暇かな?」
243 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 01:24:33.32 ID:eGFZDkOUP [14/49]
【紬の家】
ピンポーン
紬「はーい」
澪「ごめんな。今日はお世話になります」
紬「いいのよ。さ、あがって」
澪ちゃんは今日私の家に泊まることになった。
少しでも気分転換出来たら、と思って。
りっちゃんは居酒屋のバイトの人と送別会があるらしく
今日は帰らないみたいだから、泊まりに来ない?と誘った。
紬「お腹空いたし、ご飯食べよっか」
澪「うん」
私はキッチンに向かい、夕飯を作った。
澪ちゃんも手伝ってくれた。
245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 01:28:24.91 ID:eGFZDkOUP [15/49]
紬「それじゃ、食べましょ♪」
澪「いただきます」
澪「あ…おいしい」
紬「本当?よかった」
澪「今度、作り方教えてもらってもいいかな?」
紬「いいわよ」
澪「私、相変わらず料理下手でさ…」
紬「そんなことないと思うわ。あんなにお菓子おいしいんだもの」
澪「でも、律によく甘いって言われちゃって…」
紬「ふふっ、そっか」
澪「わ、笑うなっ!真剣なんだぞっ」
紬「ごめんごめん」
254 名前:さるった[] 投稿日:2010/11/27(土) 01:56:56.78 ID:eGFZDkOUP [16/49]
久々に澪ちゃんの照れた顔を見た。
澪ちゃんは笑ったり照れたりしてる顔が一番素敵だった。
ご飯も食べ終わり、落ち着いたところで私はあるものを持ってきた。
澪「…ワイン?」
紬「実家から送られてきたんだけど、なかなか飲む機会がなくて」
紬「せっかくだし、飲んでみない?」
家でパーティーする時のためにって実家から送られてきたワイン。
そういうのはしないからいらないとは言ったんだけど、結局送られてきた。
でもせっかくだし、お酒の力を借りてみようかな。
澪「ワインって初めて…」
紬「結構おいしいわよ♪」
私たちはグラスにワインを注ぎ、乾杯をした。
256 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 02:02:27.84 ID:eGFZDkOUP [17/49]
澪「うっ、にが…」
紬「すぐに慣れるわ、何かつまむもの持ってくるね」
私はずっと飲んできてるからおいしく飲めたけど、
初めての澪ちゃんにとってはなかなか口に合わないみたいだ。
適当なお菓子を開け、それをつまみとして飲み進めた。
紬「ねぇ、澪ちゃん」
澪「ん?」
紬「あれから、梓ちゃんとは…?」
澪「………うん」
変わらずのようだ。
高校生も夏休みに入ってるから、忙しいことなんてないはずなのに。
258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 02:06:37.06 ID:eGFZDkOUP [18/49]
澪「私、梓に嫌われちゃったのかな…」
澪「私がダメだから、梓が…」
紬「澪ちゃんは、梓ちゃんのことが好きなんでしょ?」
澪「当たり前だよ!誰よりも好きだし、いつでも梓のことを想ってる」
酔いが回ってきてるのか、澪ちゃんは恥ずかしげもなく言った。
紬「なら、大丈夫よ。その想いは伝わってるわ」
紬「次の記念日で、仲直りしましょ?ね?」
澪「…うんっ」
仲直り、というのは少し変な表現かもしれない。
ケンカをしたわけではないし、ぶつかりあったわけでもないから。
けど、澪ちゃんも私もプレゼントに懸けていた。
そのネックレスが、再び2人を戻してくれると。
263 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 02:13:17.69 ID:eGFZDkOUP [19/49]
酔いが回った澪ちゃんは饒舌だった。
澪ちゃんは色々な話を聞かせてくれた。
梓ちゃんのどんな仕草が好きだとか、
自分の前で甘えてくれる梓ちゃんこと、
他人から見たらただの惚気話。
でも、私にとってはそれがうれしかった。
梓ちゃんの話をしている時の澪ちゃんは、本当に幸せそうだから。
紬「ふふっ、幸せそうね」
澪「うん!」
紬「そろそろ寝ましょうか」
澪「あぁ」
夜も遅くなったので寝ることにした。
私は目が覚めてしまってしばらく寝れなかった。
一方で澪ちゃんは寝息を立てている。
澪「………あずさ…」
ずっと2人が幸せでいられますように。
267 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 02:21:00.07 ID:eGFZDkOUP [20/49]
澪「ありがとうな。楽しかったよ」
紬「また今度、ワインでも飲みながらゆっくり話しましょ」
澪「うん、それじゃ」
紬「ばいばい」
澪ちゃんと別れた。
部屋に戻ると、私はあることに気づく。
紬「あ…」
ソファの上に澪ちゃんのいつもつけてるアクセサリーがあった。
忘れてしまったのだろうか。
今度会う時渡してあげなきゃ。
270 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 02:26:53.88 ID:eGFZDkOUP [21/49]
【澪と律の家】
澪「ただいま」
ムギの家から帰る。
初めてワインを飲んで、酔ってしまった。
思い出したくないぐらい恥ずかしいことをぽんぽん言ってた気がする。
律「……zzz」
律は寝ていた。
たぶん酔っぱらって帰って来たのだろう。
服も脱ぎっぱなし、辺りもちらかっていた。
澪「おーい」
律「…んがぁ」
律は一向に起きる気配を見せなかった。
仕方なく、私は部屋を片付けた。
272 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 02:31:09.68 ID:eGFZDkOUP [22/49]
それから数日が経つ。
刻々と8月14日が近づいていた。
律は教習所に通い始めた。
律「ちゃちゃっと取ってきてやるよ!」
澪「まぁ頑張って。事故るなよ」
梓とは相変わらずのままだ。
何度も不安に押しつぶされそうになる。
だけど、あと少し。
あと少し我慢すれば、きっと前みたいに戻れる。
後ろ向きに考えるのはやめた。
今のうちに、どう梓を驚かせようか考えておこう。
私は、バイトに向かった。
275 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 02:37:03.44 ID:eGFZDkOUP [23/49]
澪「いらっしゃいませ」
今日は唯と同じシフトだった。
いつも明るく接客している唯が、今日はおとなしかった。
休憩中も変わらず、話をしてもあまり盛り上がらなかった。
何か悩みでもあるのかな?
帰りに聞いてみよう。そんなことを考えながら仕事をしていた。
バイトが終わる。
夏休みに入ったからか、お客さんの数が多くてんやわんやな一日だった。
帰り道、唯に聞いてみた。
澪「なぁ、唯…」
唯「なぁに?」
澪「なにか、悩みでもあるのか?」
唯「…どうして?」
澪「なんていうか、元気なかったからさ」
澪「最近ずっとそんな感じだし、何かあるのかなと思って」
277 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 02:41:51.53 ID:eGFZDkOUP [24/49]
唯「………」
唯はしばらく黙りこんでいた。
もしかして、人には言えないようなことなのかな。
澪「い、言えないようなことならいいぞ?」
澪「ただ、その…いつもの唯らしくなくて心配だっただけだから」
唯「大丈夫。平気だよ」
澪「そっか、ならいいんだけど」
唯「ねぇ、澪ちゃん」
澪「ん?なんだ?」
唯「あずにゃんと別れて」
284 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 02:48:25.55 ID:eGFZDkOUP [25/49]
澪「………えっ」
澪「いま、なんて…」
意味がわからなかった。
梓と別れろ?
何で唯が私と梓の関係を知っているんだ…?
澪「ど、どういうことだよ…」
唯「もう、あずにゃんを傷つけないで」
傷つける?私が?
確かにずっと会えなかったし、構ってあげられなかったのは事実だけど…
傷つけてるわけじゃない。梓だってちゃんと理解してくれたんだ。
なのに、どうしてそんなこと言われなきゃならないんだよ。
澪「き、傷つけてるかどうかなんて唯にはわからないじゃないか!」
澪「それに、何で唯にそんなこと言われなきゃいけないんだ!!」
唯「あずにゃんは、私のものだからだよ」
――ドクン…。
心臓が停止したかのような感覚。
私の…もの…?
ちがう!ちがう!!
梓は、私のだ。
私の大好きな恋人なんだ。
289 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 02:53:26.65 ID:eGFZDkOUP [26/49]
唯「澪ちゃん、自分が何をしたかわかってないの?」
澪「当たり前だ!どうして、唯のものって言いきれるんだ!!」
唯「本当に、わからないの…?」
澪「わかるわけないだろ!!」
唯「…そっか」
唯「 最 低 」
なんで…なんでここまで言われなきゃいけないんだ。
私が梓に何をしたっていうんだ。
唯「わからないなら、わからないままでいいよ」
唯「あずにゃんは、私が幸せにするから」
唯「じゃあ、またね」
なんだよ、なんなんだよ…。
唯に何がわかるっていうんだ。
私が、どれほど梓のことを想っているか。
どれほど寂しい思いをしてきたことか。
293 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 03:00:24.48 ID:eGFZDkOUP [27/49]
prrrr prrrr
私は梓に電話をかけた。
梓『もしもし』
澪「梓か…?」
梓『どうかしたんですか?』
澪「唯にな、さっき梓と別れろとか言われてさ」
澪「ひどい冗談だと思わないか?しかも私のものとか言ってさ」
泣くまいと必死だった。
いま出来る最高の明るさで振る舞った。
冗談だよ、そうだと言ってほしかった。
梓『冗談じゃないですよ』
澪「えっ…」
梓『私は、唯先輩のものです』
301 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 03:06:57.65 ID:eGFZDkOUP [28/49]
澪「なんで…どうして…」
梓『どうして…?澪先輩が私を見捨てたんじゃないですか』
私が梓を見捨てた?
そんなこと一度もない。
唯も梓も、何を言っているのか全然わからなかった。
梓『私に隠し事して、ウソをついて、冷たくして…』
梓『先輩が、私を突き放したんじゃないですか』
澪「私は…私はそんなことしてない!」
梓『…ウソつき』
澪「………!」
私は気づいた。
ムギとプレゼントを買いに行ったことを隠したこと。
それを悟られまいと、少し固く接していたことに。
梓を驚かせるためにしたことが、裏目に出たのだ。
305 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 03:15:06.59 ID:eGFZDkOUP [29/49]
澪「梓。ちがうんだ、これは―――」
梓『もういいんです』
梓『唯先輩が、私の心を埋めてくれたから』
…やめてよ。
梓『だから、もう。いいんです』
敬語なんて使わないで。
梓『澪先輩といれて、すごく幸せでした』
好きだって、言ってよ…。
梓『さようなら、澪先輩』
澪「!!待って、あず――」
プツッ
ツー ツー ツー
311 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 03:21:07.14 ID:eGFZDkOUP [30/49]
澪「………」
終わった。何もかも。
涙も出なかった。
私が間違ってたのかな。
私のせいなのかな。
でも、少し考えてみればわかることだ。
何をやってもうまくいかない、不器用な私。
そんな私が誰かと付き合うだなんて、最初から無理な話だったんだ。
だけど、本当に楽しかった。人生で一番、幸せな時だった。
梓
あずさ
私はずっとずっと
大好きだよ
319 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 03:26:48.57 ID:eGFZDkOUP [31/49]
【紬の家】
prrrr prrrr
電話が鳴った。
こんな時間に誰だろう。
紬「もしもし?」
澪『ムギか?私だ、澪だよ』
紬「澪ちゃん、どうしたの?こんな時間に」
澪『その、謝ろうと思ってさ。ごめんな』
紬「どうしたの、急に」
澪『プレゼント、無駄になっちゃった』
紬「…澪ちゃん?何があったの…?」
澪ちゃんの声はとても低く、沈んでいた。
私は澪ちゃんに問いかける。
澪『梓にさ、振られちゃった』
紬「えっ…?」
322 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 03:32:13.80 ID:eGFZDkOUP [32/49]
澪ちゃんはさっきあったことを話してくれた。
今、澪ちゃんがどれだけつらい思いをしているのか、
想像することすら怖かった。
紬「そんなの…。そんなの梓ちゃんの勘違いじゃない!!」
紬「ちゃんと誤解を解けばまた仲直り出来るわ!」
澪『いいんだ、もう。どのみち梓は唯しか見てない』
澪『私が何を言ったって、もう無駄だよ』
澪『ごめんな、ムギ…。たくさん迷惑かけて』
紬「澪ちゃん、会って話そう?またお酒でも飲んでさ、一緒に考えよう?」
澪『もういいんだ、ありがとう』
『…もなく…番線に…列車が…通…ます。
白線の…下がっ…待ち…さい』
受話器の奥からアナウンスが聞こえた。
嫌な予感がした。澪ちゃん、あなたまさか…。
紬「澪ちゃん…。今、どこにいるの…?」
330 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 03:39:16.93 ID:eGFZDkOUP [33/49]
澪『言わない。言ったらムギは来るから』
紬「澪ちゃんダメよ!早まらないで!」
澪『無責任なのはわかってる。不器用だってことも知ってる』
紬「待って澪ちゃん!私の話を聞いて!!」
澪『でも、私にはこうするしか出来ないから…』
紬「やめて、そんなこと言わないで…」
紬「……私が」
紬「私が、澪ちゃんを幸せにするからっ…!」
紬「だからお願い、戻ってきて…」
私は涙ぐみながら澪ちゃんに訴えた。
傷が癒えるまで、私が傍で支えてあげるから。
だから、やめて。
死のうとなんて、しないで。
336 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 03:44:19.49 ID:eGFZDkOUP [34/49]
澪『ありがとう、ムギ』
紬「!」
紬「澪ちゃん、私今から迎えに―――」
澪『でも、もう迷惑はかけられないよ』
紬「えっ…」
澪『本当に、ごめん』
紬「馬鹿な真似はやめて!お願い!!今すぐ戻って!!!」
澪『―――ばいばい』
紬「澪ちゃ―――ッ?!!」
ブツッ
ツー ツー ツー
紬「ウソでしょ…?ねぇ、澪ちゃん。ウソだよね…?」
轟音と同時に電話が切れた。
無機質な機械音だけが耳に流れた。
339 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 03:50:26.61 ID:eGFZDkOUP [35/49]
バンッ
私は家を飛び出した。
最寄りの駅の駅員から電車の運行情報を聞く。
ここから2、3ほど離れた駅で人身事故が起こったようだ。
私はタクシーを拾い、急いでそこに向かった。
現場はブルーシートに囲まれていた。
車掌を始め、駅員、警察にレスキュー隊までいる。
時間も時間なだけに、人だかりがたくさん出来ていた。
紬「すいません、どいてください!」
私は野次馬を跳ね除け『立入禁止』と書かれたテープに向かう。
「何してるんだ!下がりなさい!」
駅員に止められる。構うもんか。
紬「うるさい…。離して…っ!!」
私はつかまれた腕を振り払い、中に入った。
345 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 03:56:34.21 ID:eGFZDkOUP [36/49]
紬「澪ちゃん!!!」
紬「………」
すべてを見ずともわかった。
澪ちゃんは、死んだ。
駅員やレスキュー隊員がしぶしぶ事故処理をしている。
警察は車掌に事情聴取をしているようだ。
現場には「またか」「やれやれ」といった空気が流れていた。
何よ…何も知らないくせに…。澪ちゃんが…どんな思いをしていたことか…。
少し離れたところに、場違いな細長くて小さな箱があった。
私は近づき、小奇麗なそれを手に取る。
紬「これは…」
小さなハートの形をしたかわいいネックレス。
後ろには『to Azusa from Mio』と掘ってあった。
そう、これは澪ちゃんが梓ちゃんのために用意したプレゼントだった。
353 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 04:07:51.66 ID:eGFZDkOUP [37/49]
紬「うぅっ、くっ…澪ちゃん」
私はネックレスを抱き大粒の涙を流した。
どうして、どうして…?
どうして澪ちゃんがこんな目に遭わなきゃならないの?
あんなに幸せそうで、あんなに楽しみにしてたのに。
澪ちゃんが、何をしたって言うの?
「こら君、ここは部外者が立ち入っていいところじゃないんだよ!出ていきなさい」
悲しみに暮れているのもつかの間だった。
駅員に連れられ、外に追い出された。
…私が。
私が、伝えなきゃ。本当のことを。
このまま終わるなんて、あまりにも報われなさすぎる。
私が梓ちゃんの誤解を解いてみせる。
それが澪ちゃんのために私が出来ること。
澪ちゃんを止められなかったことへの、償い。
悲しみを胸にしまいこみ、私は帰路についた。
357 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 04:09:58.26 ID:eGFZDkOUP [38/49]
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Λ_Λ . . . .: : : ::: : :: ::::::::: :::::::::::::::::::::::::::::
/:彡ミ゛ヽ;)ー、 . . .: : : :::::: :::::::::::::::::::::::::::::::::
/ :::/:: ヽ、ヽ、 ::i . .:: :.: ::: . :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
/ :::/;;: ヽ ヽ ::l . :. :. .:: : :: :: :::::::: : ::::::::::::::::::
 ̄ ̄ ̄(_,ノ  ̄ ̄ ̄ヽ、_ノ ̄ ̄ ̄ ̄
おやすみ
428 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 20:03:27.85 ID:eGFZDkOUP [39/49]
8月14日。
澪ちゃんのお葬式が行われた。
奇しくも、梓ちゃんとの半年記念日だった。
和ちゃんを始めとしたクラスのみんな。
さわ子先生に、先輩や後輩も。
みんなが澪ちゃんの死を悼んだ。
一番悲しんでいたのは、りっちゃんだった。
律「澪…みおっ!!!何で、何でだよ…!」
律「ふざけんなよ…!勝手なことしやがって…」
律「おいアホ澪!返事しろよ…!」
律「うっ、ううっ…うわああああああああ!!!」
式場全体にりっちゃんの叫びが響く。
もう、見ているのもつらかった。
唯ちゃんと梓ちゃんも来ていた。
2人は、どんな気持ちでこの場にいるのだろう。
責めるような真似はしない。そんなことしたって澪ちゃんが悲しむだけだから。
だけど、本当のことを知らないまま澪ちゃんを忘れさせるわけにはいかない。
433 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 20:11:13.85 ID:eGFZDkOUP [40/49]
お葬式が終わる。
みんなが次々と澪ちゃんに別れを告げていく。
私たち4人は、最後の最後まで澪ちゃんの傍にいた。
紬「梓ちゃん」
紬「これを梓ちゃんに持っててほしいの」
私は梓ちゃんに声をかけ、袋を渡した。
梓「これ、なんですか?」
紬「今は持ってるだけでいいから」
梓「はぁ…」
これを、私が持っているわけにはいかないから。
澪ちゃん。ネックレス、ちゃんと渡したからね。
あとは、真実を伝えるだけ。
434 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 20:14:42.41 ID:eGFZDkOUP [41/49]
【紬の家】
私は電話をかけた。
prrrr prrrr
梓『もしもし』
紬「もしもし、梓ちゃん?紬ですけど」
梓『ムギ先輩。どうしたんですか?』
紬「いま、大丈夫かな?」
梓『はい、大丈夫ですよ』
唯『あずにゃーん、誰と話してるの?』
梓『ムギ先輩ですよ』
遠くで唯ちゃんの声がした。
紬「いまどこにいるの?」
梓『唯先輩の家です。電車無くて家に帰れないので』
紬「そう」
本当は梓ちゃんが一人の時がよかったんだけど、
電話を掛けた以上引き下がることも出来なかった。
437 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 20:19:27.92 ID:eGFZDkOUP [42/49]
紬「ねぇ、梓ちゃん」
梓『はい?』
紬「今日が何の日だったか、知ってる?」
梓「何の日…?」
紬「記念日よ、梓ちゃんと澪ちゃんの半年の記念日」
梓『…そうですか』
紬「何も思わないの?」
梓『思うも何も、もう関係ないことじゃないですか…』
紬「ねぇ、梓ちゃん」
紬「澪ちゃんは、本当に梓ちゃんを見捨てたと思う?」
梓『えっ?』
紬「澪ちゃんはね、一度たりともあなたを見捨てたことなんてない」
紬「最後の最後まで、あなたが大好きだったんだよ」
439 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 20:24:44.89 ID:eGFZDkOUP [43/49]
梓『………』
梓『なんですか、それ…』
梓『そんなのウソです、デタラメです』
梓『澪先輩は、私を捨てたんです』
梓『ムギ先輩とデパートに買い物に行ってたところ、私は見ました』
梓『声をかけようと思いました。ほんの少しでもいいから、澪先輩に会いたかった』
梓『でも、出来なかった…』
梓『あんなに幸せそうな顔をしてた先輩に、声なんてかけられなかった!!』
梓『そして澪先輩は、そのことを隠した!何回問い詰めても、知らんぷりをした!』
梓『会話もそっけなくなった、冷たくなった!!』
梓『ウソをついて、私を騙して…』
梓『そんなの、恋人でも好きでも何でもないじゃないですか…』
梓ちゃんは自分の思いを吐露した。
そんなちっぽけなことで、あなたは澪ちゃんを…。
梓ちゃん、あなたはまだまだ子どもだね。
澪ちゃんは、あなたが思ってるよりずっとずっと大人だったよ。
442 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 20:29:48.56 ID:eGFZDkOUP [44/49]
私は焦ることなく、落ち着いた口調で話す。
紬「それはちがうわ、梓ちゃん」
紬「あの日はね、梓ちゃんのための買い物だったの」
梓『…私のための?』
紬「澪ちゃんとネックレスを買いに行ったの。半年記念のプレゼントにね」
紬「ずっと構ってあげられなかったからって、寂しい思いをさせてきたからって」
紬「私といたとき幸せそうな顔をしてた。って言ったよね?」
紬「何でだと思う?」
紬「あなたのことを、ずっと想っていたからよ」
梓『………!!』
446 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 20:36:43.79 ID:eGFZDkOUP [45/49]
【唯の家】
ムギ先輩が何を言っているのか理解出来なかった。
ネックレス?プレゼント?そんなの、聞いたことない。
紬『あの日、澪ちゃんは話題はずっと梓ちゃんことだった』
紬『ううん、あの日だけじゃない。いつでも澪ちゃんは梓ちゃんの話をしてた』
紬『そっけなかったのは、きっと梓ちゃんに悟られないため』
紬『梓ちゃんを驚かせたかった、よろこばせたかったのよ』
紬『澪ちゃんが不器用なの、知ってるでしょ?』
梓「そんなの…」
梓「そんなのいきなり言われて、信じられるわけないじゃないですか!」
紬『私がさっき梓ちゃんに渡したもの、持ってる?』
紬『そこに真実があるわ』
梓「えっ…?」
448 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 20:41:55.10 ID:eGFZDkOUP [46/49]
私はバッグを取り出し、お通夜の帰りにムギ先輩からもらった袋を開ける。
袋の中には、細長い小さな箱。ほんの少し土で汚れていた。
中を開けると手紙があった。
―――――――
あずさへ
私と梓が付き合ってから、今日で半年だな。
おめでとう。思えばあっという間だった。
大学生になってからめっきり会えなくなっちゃったな、ごめん。
でも私はいつだって梓のこと考えてし、大事に想ってるよ。
ネックレスにしたのは、梓が寂しくないようにって思ったからなんだ。
そのネックレスをつけてれば、私が傍にいるって感じられるだろ?
少しは、寂しさも紛れるんじゃないかな。
夏休みはいっぱい遊ぶぞ。祭りも花火もプールも、全部行こう。
今まで遊べなかった分、取り戻すんだから。
これからも、よろしく。
ずっと大好きだから。
8月14日 みお
―――――――
かわいい文字で書かれた手紙。
紛れもなく澪先輩の字だった。
梓「そんな…」
456 名前:お通夜→お葬式[] 投稿日:2010/11/27(土) 20:47:10.89 ID:eGFZDkOUP [47/49]
手紙の下にはネックレスがあった。
小さいハートのネックレス。
私はそれを手に取る。
裏には小さく文字が彫られていた
『to Azusa from Mio』
ねぇ、澪先輩。
ムギ先輩の言ってることは、本当なの?
私のこと、ずっと想ってくれてたの?
―――梓、半年おめでとう。これ、私からのプレゼントだ―――
―――秘密にしててごめんな。梓のこと、驚かせてやりたかったんだ―――
―――てっ…、手紙は恥ずかしいから家で読んでくれっ―――
―――こ、こらっ!読むなって言ってるだろ///―――
―――ふふっ、似合ってるよ。すごくかわいい―――
澪先輩の姿がよぎる。本当だったら、今日こんな会話をしてたのかもしれない。
でも、もうそれは叶わぬこととなった。会うことも、声を聞くことも、抱きしめてもらうことも。
私が…。私が、先輩を捨ててしまったから。
梓「いや…。いやっ……いや…!」
梓「いやあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
463 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 20:52:10.10 ID:eGFZDkOUP [48/49]
唯「あずにゃん?いきなり叫んで、どうしたの…?」
ごめんね。ごめんね。
澪先輩。私最低だね。
先輩のこと疑って、勝手に不安になって、
挙句の果てに、浮気までして…。
たくさんひどいことしたのに、
いっぱい傷つけてしまったのに、
それでも、好きでいてくれたんだね。
梓「先輩…待っててね」
梓「すぐ、行くから…」
私はベランダに向かった。
空には星がいくつも輝いている。
この中のどこかに、先輩がいたりして。
ベランダの柵に足をかける。
唯「あずにゃん、何してるの?!」
469 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/27(土) 20:56:42.10 ID:eGFZDkOUP [49/49]
・・・・・・
【紬の家】
紬「………」
受話器の向こうから梓ちゃんの悲鳴が聞こえた。
後悔、自責、絶望。梓ちゃんはたくさんのものを背負った。
だけどそれを乗り越えることが、これから梓ちゃんのすべきこと。
唯『あずにゃん、何してるの?!』
突然唯ちゃんの声が響く。
梓『何って、澪先輩のところに行くんですよ』
唯『やめて…。そんな高いベランダから飛び降りたら…』
胸騒ぎがする。
梓ちゃん…?まさか…
541 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 02:29:23.14 ID:Mf78OYPhP [2/25]
私は大声で叫んだ。
紬「梓ちゃん!!待って!!!」
紬「そんなこと、澪ちゃんは望んでなんかない!!」
紬「澪ちゃんの前でちゃんと謝って!そして、澪ちゃんの分まで生きるの!!」
私の声は聞こえていない。
おそらく梓ちゃんの携帯はベランダのどこかに置かれたままだ。
唯ちゃんと梓ちゃんの声だけが聞こえる。
梓『澪先輩、見てよ。ネックレス似合うでしょ?』
梓『今から行くね。ふふっ、目の前で手紙読んじゃうんだから』
唯『待って、やだ!!行かないで!!あずにゃん!!!』
梓『先輩、これからはずっと一緒だから』
唯『あずにゃ―――』
2人の声が消えた。
543 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 02:35:23.20 ID:Mf78OYPhP [3/25]
唯『あ…ああ……うあ』
唯『うああああああああああああああああああああああ!!!!!』
少し間を空けて、唯ちゃんの悲鳴が聞こえた。
梓ちゃんは澪ちゃんを追って命を落とした。
少し考えればわかることだった。
あんな脆くて子どものような子が、簡単に向き合えるわけがなかった。
もし、私が真実を伝えなかったらこうはならなかったのかも知れない。
だけど、真実を伝えなければきっと梓ちゃんは澪ちゃんのことを忘れていただろう。
どちらが正しかったのか、わからなかった。
ただ一つ言えることは、
梓ちゃんを死なせたのは、私だということだ。
547 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 02:42:10.36 ID:Mf78OYPhP [4/25]
あれから何日かが経つ。
これで、よかったんだろうか…。
自分に問いかける日々が続いた。
ねぇ、澪ちゃん。
いま、あなたは幸せ?
ねぇ、梓ちゃん。
澪ちゃんと仲直りできた?
教えて、誰か…。
私のしたことが、正しかったのかどうか…。
紬「…ん?」
ポケットに何か入っていることに気づいた。
取り出してみると、かわいい首飾りだった。
これは澪ちゃんがうちに泊まりに来た時に忘れたもの。
次会った時に渡そうと思っていたのに、まさかこれが形見になるなんて。
…そういえば、りっちゃんはあれからどうしているのだろうか。
澪ちゃんのことも、
梓ちゃんのことも、
唯ちゃんのことも、
きっと何も知らない。
りっちゃんに会いたい。
私のしたことが正しかったのかどうか、教えてほしい。
私は救いを求めるかのように、りっちゃんの元に向かった。
549 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 02:46:44.08 ID:Mf78OYPhP [5/25]
【澪と律の家】
ピンポーン
紬「りっちゃん。紬ですけど」
紬「………」
紬(…留守かな)すっ
ガチャ
紬(鍵が開いてる…?)
紬「りっちゃん、入るよ?」
家の中は真っ暗だった。
部屋の電気をつけると、隅に小さな人影があった。
りっちゃんだ。
552 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 02:51:45.75 ID:Mf78OYPhP [6/25]
律「…あぁ、ムギか。どうした…?」
髪はぼさぼさで、服装も礼服のままだった。
それだけじゃない。体も痩せ細っており、瞳には光がなかった。
とてもじゃないけどあのりっちゃんとは思えなかった。
紬「りっちゃん…」
りっちゃんは、澪ちゃんを失ったショックからまだ立ち直れていなかった。
もしかしたら。と思ったが、その通りだった。
律「なぁ、ムギ…」
律「澪のやつ、知らない?」
紬「えっ…?」
立ち直れていない?ちがう。
現実は、もっと残酷だった。
りっちゃんは、澪ちゃんの死を受け入れていなかった。
554 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 02:58:33.11 ID:Mf78OYPhP [7/25]
律「あいつさ、かれこれ一週間ぐらい帰ってないんだ」
律「連絡もよこさないし、つながらないし」
律「今週あいつが炊事当番だってのにさ」
律「ムギ、何か知ってる?」
光の消えた眼差しが、私に向けられる。
どこを見ているかもわからない。虚ろな瞳が。
紬「………」
私は悩んだ。
もしここで本当のことを伝えてしまったら、
澪ちゃんの死を受け入れてさせてしまったら、
りっちゃんは壊れてしまうのではないか。
梓ちゃんのように。
紬「…私も、ちょっとわからないな」
もう、誰も失いたくない。
いつかきっとりっちゃん自身が澪ちゃんの死を受け入れる日が来る。
そう信じて、私はウソをついた。
紬「りっちゃん、お風呂に入っておいで。その間に片付けておくから」
律「…あぁ」
555 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 03:04:54.69 ID:Mf78OYPhP [8/25]
りっちゃんがお風呂に入っている間、私は部屋を簡単にだが片付けた。
澪ちゃんが死んでから随分とりっちゃんが荒れた生活をしていたというのがよくわかった。
あらかた片付け終えた私は澪ちゃんの私物の整理を行った。
洋服やアクセサリー、もちろんベースもきれいに整頓する。
りっちゃんが澪ちゃんのことを受け入れられるように。
このままだと、いつか帰ってくるものだと思いこんでしまうから。
ガラッ
お風呂からりっちゃんが出てきた。
律「……!」
紬「さっぱりした?お腹空いたでしょ、何か軽く作って―――」
律「………みお」
紬「えっ?」
律「お前、帰ってたのか…?」
何を言ってるの、りっちゃん。
私は、澪ちゃんじゃない。
563 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 03:15:36.70 ID:Mf78OYPhP [9/25]
律「お前な、連絡ぐらいしろよ!どんだけ心配したと思ってんだ」
紬「りっちゃん…?ちがうよ、私は紬だよ」
律「なに言ってんだよ、おかしな奴だな」
律「それ」
紬「?」
律「その首飾り、この前私と買いに行ったやつじゃん」
澪ちゃんが私の家に忘れた首飾り。
形見として私が身に着けていた首飾り。
これが、りっちゃんを目を狂わせた。
澪ちゃんの私物整理をしているうちに澪ちゃんの匂いがついたのかもしれない。
りっちゃんは、私の姿に澪ちゃんを重ねていた。
紬「………私は」
――――――
――――
―――
――
…
566 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 03:21:29.21 ID:Mf78OYPhP [10/25]
8月も終わりにさしかかっていた。
私は今、りっちゃんの家に同居している。
ガチャ
律「ただいまー」
紬「おかえり」
律「はぁー疲れた。なぁなぁ見てくれよ、じゃーん!」
紬「あ、免許!」
律「やっと取れたぜ。しかも一発合格だ、すげーだろ!」
紬「すごいすごい♪」
律「なぁんだよそっけないなぁ。もっとほめてくれよー」
律「 澪 」
そう、澪ちゃんとして。
569 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 03:28:55.15 ID:Mf78OYPhP [11/25]
私は「琴吹紬」を殺し、「秋山澪」として生きていくことに決めた。
失いたくない。その一心だった。
紬「ごはん出来たよ」
律「おぉっ、なんか今日は豪華だな!」
紬「無事に免許も取れたことだしね」
律「へへへ」
紬「それじゃ、いただきましょ」
律「いっただっきまーす!」ぱくっ
律「おっ!おいしいなこれ」
紬「そう?よかった」
律「ようやく澪も味付けの加減がわかってきたみたいだな」
律「最初の頃は濃くてあまあまだったのにな。いやぁ人間ってのは成長するもんだ」
濃くてあまあまな澪ちゃんの味付け。
その独特の味、もう味わうことが出来ないのだ。
570 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 03:35:50.62 ID:Mf78OYPhP [12/25]
律「なぁ澪」
紬「なに?」
律「今度みんなでさ、ドライブ行こうよ!」
律「私そのために金ためて免許取ったんだぜ」
律「ムギも唯も誘ってさ。梓も呼んで」
律「梓なんて全然会ってないからなぁ、元気してるかな」
律「そういや、唯も最近見かけないな。バイトも来てないみたいだし」
紬「…実家に帰ってるんじゃない?憂ちゃんもいるし」
律「ふーん、そっか」
バイトのオーナーの話しだと、唯ちゃんはバイトを辞め実家に戻ったらしい。
たぶん実家でも色々なものを背負い、追われながら暮らしている。
もしかしたら、もう…。
572 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 03:42:18.70 ID:Mf78OYPhP [13/25]
紬「………」
律「どうした?黙りこくっちゃって」
もうみんないなかった。
澪ちゃんも梓ちゃんも、唯ちゃんも。
2人は私が手を下したと言っていい。そのことは重々わかってる。
いっそのこと、私も死んでしまえばと思ったこともあった。
でもそれじゃあ残されたりっちゃんはどうなるの。
何も知らないまま独りになるなんて、そんなのあまりにも悲しすぎる。
紬「ううん、何でもないよ」
律「あーっ、楽しみだなぁー!みんなとドライブ」
紬「…そうね」
この笑顔だけは、失ってはいけない。
それが今の私に出来る唯一のことだから。
577 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 03:48:16.01 ID:Mf78OYPhP [14/25]
ピンポーン
律「あ、誰か来た」
紬「私が出るね」
ピンポーン ピンポーン
紬「はーい」
呼び鈴が何度も鳴った。
誰だろう、こんな時間に。
私は早足で玄関に向かい、扉を開けた。
ガチャ
憂「こんばんは、紬さん」
580 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 03:52:45.38 ID:Mf78OYPhP [15/25]
憂ちゃんだった。
ポニーテールの髪をおろし、前髪をピンで止めている。
見てくれは唯ちゃんそのものだった、恐ろしいほどに。
紬「憂ちゃん…」
憂「お久しぶりですね」
紬「…そうね」
そっか。
あなたがこうしてここに来るということは、そういうことなんだね。
唯ちゃんは、もういないんだね…。
憂「いい匂いがしますね、ご飯中ですか?」
紬「そんなところかな。どうしたの、こんな時間に?」
憂「今日、お姉ちゃんが、死にました」
586 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 03:59:11.63 ID:Mf78OYPhP [16/25]
紬「………」
憂「死にました、っていうのは少し違いますよね」
憂「殺されました」
憂ちゃんの目はあの時のりっちゃんの目に似ていた。
光のない、絶望感に浸された瞳。
でもりっちゃんのそれとは少し違う。
猟奇と憎しみを含んだ、どす黒い目だった。
憂「お姉ちゃんは、ずっと苦しんでました」
憂「私のせいだ。私のせいだ。って」
憂「梓ちゃんと幸せに暮らしてたのに。やっと想いが伝わったのに」
憂「紬さんのせいで、お姉ちゃんは…」
紬「憂ちゃん、聞いて。梓ちゃんは―――」
憂「………」どすっ
紬「………?!」
紬「…げほっ」
590 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 04:06:53.78 ID:Mf78OYPhP [17/25]
腹に鈍痛が走った。
口の中に鉄の味が広がる。
私は憂ちゃんに刺された。
憂「返してよ、ねぇ。お姉ちゃんを、返してよ…!!」
私は事の顛末を話すつもりだった。
だけど、もしそれを知っていたところで、関係はないだろう。
姉が理不尽に殺された。その程度の認識にしかならないのだから。
紬「うっ…」
痛みで意識が飛びそうだった。
でもここで倒れるわけにはいかない。
りっちゃんに、余計な不安を与えるわけにはいかない。
律「澪ーっ、いつまでやってんのー?」ととっ
紬「?!こ、来ないでっ!来ちゃダメ!!」
ダメ、来ないで…。
あなたはこんなところを見る必要はないの。
あなたは、笑っていればそれでいいの。
律「………おい。何だよ、これ」
律「何で、血を流してんだよ…」
律「澪ッ!!」
593 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 04:10:33.82 ID:Mf78OYPhP [18/25]
律「大丈夫か、おい澪!しっかりしろ!」
憂「澪…?律さん、何言ってるんですか?」
律「憂ちゃん…?お前が…やったのか…?」
憂「………」
律「何の恨みがあって澪にこんなことすんだよ!!!」
紬「私は平気。大丈夫だから…」
律「平気なわけあるかよ!!こんなに血を流して…」
律「すぐに救急車呼ぶからな。ちょっとだけ耐えろよ、澪」
憂「………」
憂「…そういうことでしたか。紬さん」
今のやりとりで憂ちゃんはすべてを理解したようだった。
憂「そうやって律さんを騙して。罪滅ぼしのつもりですか?」
憂「偽善者」
紬「……!」
596 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 04:14:31.00 ID:Mf78OYPhP [19/25]
辛辣な言葉が胸に突き刺さる。
偽善者。
そうかも知れない。
私がやっていることは、所詮自己満足、偽善でしかなかった。
澪ちゃんを止められなかった。
梓ちゃんを殺した。
唯ちゃんを追い込んだ。
全部、私のせい。
だけど私は知らないうちに、そこから逃げていた。
りっちゃんを盾にして。
憂「律さん。よく聞いてください」
憂「そこに倒れているのは澪さんじゃありません。紬さんですよ。琴吹紬さん」
律「え…?」
600 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 04:19:16.27 ID:Mf78OYPhP [20/25]
律「………ウソだ」
律「ここにいるのは澪じゃないか!なぁ、澪!そうだろ?お前は澪だろ?!」
紬「………」
何も言えなかった。
言ったところで無駄だと悟ったからだ。
私はもう「琴吹紬」になってしまったから。
律「お前は…本当にムギなのか…?」
律「じゃあ澪は…。本物の澪はどこにいるんだよ!なぁ!!」
憂「律さん、忘れちゃったんですか?」
律「忘れた?!何のことだよ!!」
憂「いや、受け入れてないだけか…」ぼそっ
紬「?!や…やめて、憂ちゃん!ごほっ、それだけはっ…!」
お願い、言わないで。それだけは…。
りっちゃんを、壊さないで。
せっかく取り戻したのに。
ようやく笑えるようになったのに。
りっちゃんから、笑顔を奪わないで…。
憂「 澪 さ ん は 、 と っ く に 死 ん で る じ ゃ な い で す か 」
605 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 04:26:15.33 ID:Mf78OYPhP [21/25]
律「え………?」
憂「律さんもお葬式に出たでしょう?」
憂「8月14日を、思い出してください」
律「……………」
律「………そうだ」
律「……澪は。電車に轢かれて……それで……」
律「は…はは、ははははは。そうだよな、私、一体何を…」
律「そ、そうだ…!唯は?梓は?!みんな何してんだよ、澪が死んだってのに」
憂「お姉ちゃんも、梓ちゃんも、もういません」
律「……嘘…だろ…」
610 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 04:33:10.64 ID:Mf78OYPhP [22/25]
もう、おしまいだった。
すべてを知ったりっちゃんは、その場に崩れた。
それと同時にりっちゃんの叫びが響く。
断末魔の叫びとは、まさにこのことだろう。
結局、私は最後まで何も出来なかった。
助けることも、守ること。
もう何も失いたくない。そう決意していたのに。
意識が遠のいていく。
私はりっちゃんが壊れていく姿を、ただただ見つめることしかできなかった。
ごめんね。
END
618 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 04:40:44.21 ID:kF3hL4B+0 [5/10]
>>612
乙
この結末ってスレ立てた時から決めてたの?
630 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/28(日) 04:55:43.98 ID:Mf78OYPhP [24/25]
>>618
そうよ。全部筋書き通り。
予想が次々的中しててびっくりしたよ。
死なない鬱ものが書けるようになりたいね。
俺が鬱もの書くとだいたい死ぬからwww
案のひとつとして
唯→梓じゃなくて
唯→澪ってがあったんだけどもしかしたらそっちの方がおもしろかったかもなwww
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コメント
大統領が最後まで出てこなかった……
No title
前半のあまあまが嘘みたいだぜ………
No title
憂は蛇足だったな
出すなら前半でも登場さすべきだった
出すなら前半でも登場さすべきだった
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