2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

梓「マイ ファニー バレンタイン」

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 19:04:05.65 ID:s9LHzoPeP [2/32]
【音楽室】

梓「あのっ、澪先輩っ…!」

梓「こ…ここ、これ。受け取ってくださいっ」

どこに隠していたのか、梓は小さな包みを私に差し出した。
かわいく飾られたその包みからは、ほのかに甘い匂いがした。

梓「わ、私…澪先輩のことが好きですっ」

梓「だから、その。つ、つつつ…」

梓「付き合っていただけませんかっ!」

雪がしんしんと降る2月14日。
私は梓に告白された。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 19:07:08.38 ID:s9LHzoPeP [3/32]
澪「…へ?」

間抜けな声を出してしまった。
こんなこと全く予期していなかったからだ。

澪「えーっ…と、…梓?」

梓「………」

黙りこくっている。
どうやらドッキリとかそういう類のものではないようだ。
そもそもどうして今の状況に至ったのか、頭の中で整理が必要だった。

2月に入り3年生は自由登校になった。
すでに進路の決まっている人は残り少ない学生生活を楽しみ、
受験生は最後の追い込みと本番の試験を迎える、そんな時期。
私たち4人は最後の試験を終え、その報告のために学校に来たのだ。

――――――
――――
―――
――


11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 19:11:37.20 ID:s9LHzoPeP
律「ふぃ~っ、さみぃなぁ」

唯「本当だねー」

紬「でも無事に試験が終わってよかったわ」

澪「あとは結果を待つのみ…か」

澪「………」

澪「う、受からなかったらどうしよう…」

唯「大丈夫だよ澪ちゃん!きっとみんな合格してるよ」

紬「そうよ、私たちなら大丈夫!」

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/21(日) 19:15:35.13 ID:s9LHzoPeP
澪「2人とも…」

澪「そうだよな。あんなに頑張ってきたんだ、大丈夫だよな!」

つるっ

澪「うおあっ」

どてっ

律「あ、スベった」

澪「みんな、今までありがとな…」

唯「は…早まらないで澪ちゃん!」

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 19:17:58.51 ID:s9LHzoPeP
紬「そうよ!雪が降ってるんだもの、仕方ないわ!」

澪「そ、そうだよな。こんなの雪の日なら誰にだってあることだ。うん、きっとそうだ!」

すくっ

澪「よし、早く学校に行こう」

唯「おー!」

ぽとっ

紬「あ…」

律「おーい澪。財布落としたぞー」

澪「もう死ぬ」

唯「澪ちゃぁぁぁん!!!」

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 19:19:36.80 ID:s9LHzoPeP
【学校】

律「いやー久々の学校だな。みんないるのかな?」

紬「もう入試もほとんど終わりだし、いるんじゃないかしら?」

律「そっか、和とかめっきり見てないからなぁ。うぅっ、上履きつめてっ!」

唯「ずっと予備校通ってたみたいだよ」

律「うげー、やっぱすげぇなあいつ」

紬「さわ子先生に会うのも久しぶりね」

唯「あずにゃんも元気してるかなぁ」

澪「うわあああっ!」

どさどさ

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 19:21:57.53 ID:s9LHzoPeP
律「な、なんだどうした?!」

澪「げ、下駄箱の中に…」

唯「…チョコレート?」

紬「なるほど。バレンタインデーだからね」

律「それにしてもすごい量だな…さすが澪だ」

澪「て、ていうか何で私が今日来るって知ってるんだよ!」

律「いやー、それはあれじゃん?ファンクラブの情報網的な」

唯「恐るべし秋山澪ファンクラブ…」

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 19:23:56.29 ID:s9LHzoPeP
紬「そういえば、あちこちで甘い匂いがするわね。にぎわってるのかしら」

律「今年は受験でそれどころじゃなかったからなぁ~」

「あ、秋山先輩だ!」

「澪先輩!これ受け取ってください!」

澪「あ、ありがとう…」

律「ふむ、やはり凄まじい人気だな」

唯「いいなぁ澪ちゃん」

紬「よきかなよきかな」

澪「うぅぅ…」

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 19:26:33.59 ID:s9LHzoPeP
【職員室】

さわ子「お疲れさま。みんな第二志望まで合格してるから、あとは第一志望の結果を待つのみね」

律「澪は滑ったり落としたりで実に縁起悪いけどな!」

澪「うるさい!それ以上言うと泣くぞ、いいのか!」

紬「まぁまぁ。りっちゃんもあんまり不安を煽らないで、ね?」

さわ子「みんな同じ大学に行けるといいわね」

唯「うん、大丈夫だよ!」

律「その自信はどっから出てくるんだよ…」

さわ子「あ、それと澪ちゃん」

澪「はい?」

さわ子「今年は豊作みたいね」にやり

澪「んなっ?!」

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 19:28:14.36 ID:s9LHzoPeP
紬「ば、バレてる…」

さわ子「はぁ…。若いっていいわねー。私におすそわけしてもいいのよ?」

唯「さわちゃんは誰かにあげないの?」

律「まっさかー!さわちゃんにあげる人なんていないっしょ!」

さわ子「りっちゃん、もう1年高校生やる?」にこっ

律「すいませんでした」

さわ子「今年は忙しいのよ、私が担任になって初の卒業生だから」

さわ子「ま。何にせよ試験は全部終わったんだし、めいっぱい羽を伸ばすといいわ」

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 19:31:07.73 ID:s9LHzoPeP
唯澪律紬「失礼しましたー」

バタン

唯「ん~!終わったぁー」

紬「久しぶりに学校に来たことだし、お茶して行きましょうか」

律「そうだな、澪のもらったチョコレートをつまみにして!」

澪「な、なにっ?!」

律「冗談だよ。いやしんぼだなぁ澪は」

紬「でもそれだけの量食べたら体重に響きそう…」

澪「さぁみんな遠慮するな、どんどん食べるんだ!」

唯「わぁーい♪」

律「現金なやつ…」

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 19:35:13.82 ID:s9LHzoPeP
【音楽室】

唯「んー、おいしい~」

紬「今日は寒いからいつもの紅茶にちょっとシナモンをブレンドさせてみたんだけど、どうかしら?」

澪「体の芯からあったまる感じがするな」

律「あれだな、これぞ五臓六腑に染みわたるってやつだな!」

唯「おぉ、りっちゃんなんか賢いよ!」

律「へっへーん、どんなもんよ!」

澪「じゃあ律、五臓六腑ってどこか言えるか?」

律「うっ…そ、それはだな…」

紬「うふふ」

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 19:38:26.43 ID:s9LHzoPeP
【放課後】

ガチャ

梓「先輩方、こんにち―――」

唯「あーっずにゃーん!」

梓「ひゃあっ!」

唯「ん~、久しぶりだねぇあずにゃん」

梓「や、やめてくださいっ!」

唯「いいじゃんいいじゃん久しぶりなんだからぁん」

梓「んもうっ…離れてくださいっ!」ずいっ

唯「あずにゃん、ちゅめたい…」ずーん

律「ったく、お前らは相変わらずだな」

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 19:41:24.42 ID:s9LHzoPeP
澪「久しぶりだな、梓。元気にしてたか?」

梓「はい!先輩方もお疲れ様でした」

律「まだ合格が決まったわけじゃないけどな」

梓「大丈夫ですよ、先輩たちなら!」

紬「梓ちゃん、今お茶淹れるわね」

梓「すいません、いただきます」

唯「あずにゃん…。あずにゃん…」

律「お前はいつまでヘコんでんだよ…」

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 19:44:51.35 ID:s9LHzoPeP
梓「あのっ!せ、先輩方っ」

唯澪律紬「?」

梓「こ、これ、みなさんで食べてください!」

律「おぉ、チョコケーキじゃん!どうしたんだ?」

梓「ば…バレンタインデーだし、試験も無事に終了したことですので…」

紬「まぁ、おいしそう」

澪「すごいな、梓の手作りか?」

梓「ちょっと憂に手伝ってもらっちゃいましたけど…」

唯「いっただっきまーす!」

律「立ち直り早すぎだろ!」

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 19:46:10.57 ID:s9LHzoPeP
もぐもぐ

梓「ど、どうですか…?」

律「んんめぇな!」

唯「おいひいぃ~♪」

紬「お茶にもよく合うわね」

澪「本当だな」

梓「よかったぁ…」

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 19:49:39.70 ID:s9LHzoPeP
・・・・・・

唯「ふわ~…あ。なぁんか眠くなってきちゃったよ」

紬「最近ずっと試験づくしだったからね」

澪「そろそろ帰ろうか、雪もまだ降ってるみたいだしな」

律「そうすっかぁー」

梓「………」

唯「どしたのあずにゃん、帰らないの?」

梓「私これからちょっと純と約束があるんで、先輩たちは先に帰ってください」

律「そっか。そんじゃな、梓」

紬「今日はありがとうね」

澪「気をつけて帰るんだぞ」

梓「はい。先輩方もお疲れさまでした」

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/21(日) 19:51:58.45 ID:s9LHzoPeP
律「よぉーっし!ずっと我慢してたゲームやりまくるぞー!」

唯「私も思いっきり寝よーっと」

律「唯は普段から寝てばっかじゃんよ」

唯「そんなことはないよ失礼な!」ぷくー

紬「ふふふ」

ちょんちょん

澪「ん?」

梓「あの、み…澪先輩っ…」ぼそっ

澪「どうした?」

梓「あとで、またここに来ていただけますか…?」

澪「?いいけど…」


――
―――
――――
――――――

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 19:54:24.25 ID:s9LHzoPeP
そして私は忘れ物を口実に3人を帰し、再び音楽室へやってきた。
梓の約束も、私と2人きりになるための嘘だったようだ。

澪「ど、どうして私なんだ?」

梓「わ、私…。入部した時からずっと澪先輩のことが気になってたんですっ」

梓「でももう先輩たちは卒業しちゃうし、想いを伝えられないまま会えなくなるなんて嫌だから…」

梓「だから…そのっ、バレンタインの力を借りようと思って」

梓「タイミングが悪いのはわかってます。まだ受験が終わったわけじゃないし」

梓「だけど、いまを逃したらきっと後悔するから…」

梓「い、嫌ならはっきり言ってくださいっ。同情とかで付き合ってもらうのは、私もやです…」

耳まで真っ赤にしていた。
私のそんな間抜けな問いに対して目の前の後輩は正直に答えた。
何てことを言わせてしまったのだろう。後ろめたさすら感じる。
ずっと私のことが気になっていて、勇気を振り絞って私に想いを告げた。
それ以外に何があると言うのだろう。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 19:57:30.08 ID:s9LHzoPeP
澪「………」

とはいえ、私も動揺を隠せないままだった。
てっきり梓は唯のことが好きなのだと思っていたからだ。
確かに入部したての頃はよく私の元に来てくれていた。
しかし次第に唯が梓のことをかわいがるようになり、梓も唯に懐いていったからだ。
だから梓の告白は正直驚いたし、それと同時に不思議な感覚にも陥っていた。

梓「………」

梓は下を向きながら震えていた。
私の返事を待っている。

澪「…梓」

梓「は、はいっ…!」

澪「こんな私でよければ、よろしくお願いします」

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 20:00:47.22 ID:s9LHzoPeP
梓「……!」

丁寧に返事をした。
同情とかではなく、本当の気持ちだ。
もっと梓のことを知りたいと思ったし、私のことも知ってほしいと思った。
いきなり恋愛感情を持った関係を意識するのは難しいかも知れないけど、そんなの時間の問題だ。
私は梓の告白を受けた。

梓「………え?」

澪「ど、どうした梓。きょとんとして」

梓「いいん…ですか…?」

澪「に、2回も言わせないでくれ、恥ずかしいから…//」

梓「……澪先輩っ!!」

だきっ

澪「うわあっ」

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 20:04:05.23 ID:s9LHzoPeP
梓「うっ、ひぐっ。せんぱぁぁぁい」

澪「ど、どうしたんだ梓?!い…嫌だったか?」

梓「ぢがいます…ちがうんでず…」

梓「絶対っ、無理だと、思ってたから…」

梓「私、うれしくて、うれじぐて…ひっく」

梓は泣いていた。
泣き顔を見せまいと必死に私の胸の中に顔をうずめている。

澪「…そっか」

ぎゅっ

かける言葉の見つからなかった私は、梓をそっと抱きしめた。
腕の中にすっぽりと収まる小さな体。長くて綺麗な髪。
この日、私と梓は恋人同士となった。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 20:07:15.37 ID:s9LHzoPeP
【帰り道】

梓「…へへ」

澪「どうしたんだ?」

梓「いや、何かこうしていることが夢みたいで…」

澪「みんなには報告した方がいいかな?」

梓「うーん、変に気を遣わせるのも申し訳ありませんし…今はいいんじゃないでしょうか」

澪「まぁみんな茶化しそうな気もするしな」

梓「…それに」

澪「?」

梓「秘密の交際って、何かドキドキするじゃないですかっ」

澪「…!」ぼんっ

澪「あ、ああああ梓…なんてことを言うんだ///」

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 20:09:49.30 ID:s9LHzoPeP
梓「ダメですか?」

澪「ダメじゃないけどっ!その、恥ずかしいというか…」

梓「えへへ」

梓「せーんぱい」

澪「な…なんだ?」

梓「手、つないでもいいですか?」

澪「う、うん…」

ぎゅっ

梓「先輩の手、あったかいです♪」

澪「うぅ…」

私と梓は手を繋いで一緒に帰った。
雪はもうすっかり止んでいた。


53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 20:13:20.18 ID:s9LHzoPeP
【澪の家】

澪「ふうっ…」

部屋に入りベッドに横たわる。
手に残るあたたかい感触。

澪「私と梓が、恋人…か」

実感がいまいち湧かない。
あんな梓は今まで見たことがなかった。
だけどその顔はとても幸せそうで、かわいくて、私の頭から離れなかった。

澪「そうだ」

私は梓からもらった包みを開けた。
中には生チョコとチョコケーキ。
ケーキはみんなと食べたものとは違い、かわいくデコレーションされていた。
生チョコを一つ口に運ぶ。

澪「…おいしい」

そのチョコは今まで食べたどんなチョコよりもおいしくて、甘かった。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 20:15:41.53 ID:s9LHzoPeP
【梓の家】

梓「ただいまー」

私はまだドキドキしていた。
夢じゃないよね。嘘じゃないよね。
何度も頬をつねる。
その度に、これが現実だと実感する。

梓「…はぁっ」

どっと疲れた私は、部屋に入り枕に顔をうずめた。
澪先輩、よろこんでくれたかな?
憂に教えてもらったから、味は保証出来るけど…。

brrrr brrrr

梓「メール?」

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 20:17:48.08 ID:s9LHzoPeP
―――――――――――――

From:澪センパイ

Subject:梓へ

本文:
ありがとう。
チョコもケーキもすごくおいしかったよ。
改めて、よろしくな。

―――――――――――――

短くまとめられた文。
それは私の不安を取り除いてくれた。

梓「…たまには王道もありかな」

そう言って私が流した曲は、
「マイファニーバレンタイン」
いつもはMJQのバージョンを聞いてるんだけど、
今日はマイルスの気分。

梓「…ふふっ」

私は何度も何度も、頬をつねっていた。

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 20:21:23.02 ID:s9LHzoPeP
【翌日】

律「おーっす!」

唯「おはー」

紬「おはよう」

澪「…おはよう」

律「なんだよ、元気ないなぁ」

澪「当たり前だろ!なんでお前はそんな元気でいられるんだ!!」

今日は第一志望の大学の合格発表日。
私は推薦を蹴ってみんなと同じ大学を受験した。
この大学に4人で合格して初めて私たちの受験が終わるということだ。

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 20:24:29.37 ID:s9LHzoPeP
唯「で、でもいざ来てみると緊張するね…」

紬「大丈夫よ、落ちたら私が何とかするから!」

律「冗談なのか本気なのかわからないからやめてくれ…」

唯「よかったぁ、それなら安心して見られるよー」

律「お前も乗ってんじゃねーよっ!」

澪「うぅぅ…」

律「だーもー!うじうじしやがって!もう覚悟決めろ澪!」

澪「だ、だって…」

律「よし、じゃあせーので見るぞ!」

律「せー…のっ!――――」

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/21(日) 20:26:22.46 ID:s9LHzoPeP [31/32]
【音楽室】

バン

律「やっほー!帰ったぞー!」

唯「ただいまー!」

澪「よかった…よかったぁぁぁ」

紬「澪ちゃん、泣きすぎ…」

憂「みなさん、合格おめで―――」

さわ子「あなただぢぃ~!!!!」がしっ

唯「ど、どうしたのさわちゃん!」

さわ子「合格おめでどう~~!!すごいわ、すごいわみんな…。ずずっ」

律「何でさわちゃんが一番泣いてんだよ…」

私たち4人は無事に第一志望の大学に合格した。
晴れて大学生になることが出来、長かった受験に幕を閉じた。
その場で合格の報告をした後、急いで学校に向かった。
音楽室には梓、憂ちゃん、和、さわ子先生までいて私たちを祝福をしてくれた。

98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 02:28:52.29 ID:MITalYLRP [1/49]
唯「うい~私やったよぉぉ」だきっ

憂「おめでとうお姉ちゃん…」ぐすっ

和「みんな、合格おめでとう」

律「和も第一志望の大学受かったんだろ?すげーじゃん!」

和「まぐれよ。まさか受かると思わなかったわ」

律「またまた、まぐれじゃあんなとこ受かんねーって」

さわ子「これで安心してムギちゃんのお茶が飲めるわ!」

紬「はい!今から準備しますね~」

梓「先輩!おめでとうございます!」

澪「うぅ…、ありがとう」ずずっ

それから私たちはムギの入れたお茶で乾杯をし、
憂ちゃんが作ってくれた特製のケーキを食べながらみんなで祝いあった。

100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 02:33:04.22 ID:MITalYLRP [2/49]
【澪の家】

澪「おえっぷ…。く、苦しい」

腹がぱんぱんに膨れていた。
あの後はどんちゃん騒ぎだった。
久しぶりにあんなにはしゃいで、あんなに笑った気がする。

澪「それにしても…太りそう…」

冬太りする体質を心配していると電話が鳴った。

prrrr prrrr

ピッ

澪「もしもし」

梓『あっ、澪先輩ですか?私です。梓です』

梓からだった。

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 02:38:37.69 ID:MITalYLRP [3/49]
澪「梓か。どうした?」

梓『ちゃんとおめでとうって言えてなかったなぁって思って…』

梓『澪先輩。合格おめでとうございます』

澪「うん、ありがとう。こちらこそ、あんなに祝ってくれてうれしかったよ」

梓『私は何も…。お礼なら憂とさわ子先生に言ってください。ほとんどあの2人が中心でしたから』

澪「私は梓に言ってるんだぞ」

梓『へへ、すいません…。ありがとうございます』

澪「なぁ、梓。そんな堅苦しくしなくてもいいぞ。その…つ、つつ、付き合ってるんだから!!」

梓『今の先輩の方がよっぽどガチガチですよ?』

澪「う、うるさいっ///」

106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/22(月) 02:47:32.36 ID:MITalYLRP [4/49]
梓『ぷぷ…』

澪「わ、笑うなぁぁぁ!」

梓『すっ、すいません…ふふっ。でも、先輩は先輩ですから』

澪「むぅ…」

梓『嫌なんですか?』

澪「嫌じゃないけど、それじゃみんなと同じじゃないか…」

梓『ん~…。じゃあ、少しずつ変えるよう努力しますね』

澪「本当かっ?えへへ…//」

梓『先輩、かわいいですね♪』

澪「なっ?!」

107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 02:54:26.37 ID:MITalYLRP [5/49]

澪「ば、馬鹿にしたなっ!」

梓『そんなことないですって』

澪「ふんっ!もういいっ、寝る!」

梓『あっ、先輩!』

澪「なんだよっ」

梓『おやすみ』

澪「っ////お、おやすみっ!!」ピッ

梓の『おやすみ』にどきっとしてしまう自分がいた。
顔が真っ赤だ。熱い。
自分から言いだしたとは言え、しばらくは慣れそうにないなぁ…。
そんなことを思いながら眠りについた。

111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 03:01:16.25 ID:MITalYLRP [6/49]
2月も終わりにさしかかっていた。
春の訪れを予感させる、そんな天気だった。

澪「今日はあったかかったな」

受験が終わってからも、私たち4人は毎日学校(というより、音楽室)に来ていた。
放課後、梓が来て5人揃ったらいつものようにお茶をして、たまに演奏なんかもして毎日を過ごしていた。
いつもの私たち。何も変わらない日常。そんな毎日を淡々と過ごしていた。

今日も例のごとくお茶をし、雑談をし、2人で帰っていた。
2人でと言っても毎日一緒に帰っているわけではない。だいたいは軽音部のみんなと帰る。
数日に一度、みんなと別れたあと約束した場所に待ち合わせてぶらぶら散歩しながら帰るのだ。

梓は同じ目線での口調にすっかり慣れていた。
とはいっても『澪先輩』と呼ぶことにはどうやらこだわりがあるらしい。

梓「………」

澪「ど、どうした梓…?」

梓「そうだねっ」ぷいっ

112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 03:09:40.88 ID:MITalYLRP [7/49]
梓は見るからに不機嫌そうだった。
何か梓の気に障るような言動をとったのだろうか。

澪「それにしても今日の律はアホだったなぁ。日ごろの行いが悪いからああなるんだよ」

梓「………」むすっ

澪「なぁ、梓。具合でも悪いのか…?」

梓「ちがうよっ」

澪「じゃあどうして」

梓「だって澪先輩、律先輩といるときすごく楽しそうなんだもん」

澪「……?」

114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 03:18:21.22 ID:MITalYLRP [8/49]
律といるとき楽しそうなことで何で梓の機嫌が悪くなるのだろう。
少し考えてると一つの結論に至った。
これはいわゆるヤキモチ、というやつなのか?

澪「もしかして梓、律にヤキモチやいてる?」

梓「…っ?!ち、ちがうもん!」

どうやら図星のようだ。
その反応が憎らしいくらいにかわいい。
ほんのちょっぴり、いじわるしてみたくなった。

澪「そっか、私の勘違いだったか。ごめんな」

澪「そういえば今朝の律ったらすごく眠そうでな。一緒に来るとき―――」

ぎゅっ

澪「?!」

梓「いじわる…わかってるくせに」

117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 03:24:04.97 ID:MITalYLRP [9/49]
腕を組まれた。その顔は涙ぐんでいた。
本当にかわいい子だった。私なんかでいいのだろうかと不安になるくらい。

澪「冗談だよ、梓。ごめんな」

澪「まぁ確かに律といるときは楽しいよ。もちろん唯やムギといるときも」

澪「でも、一番幸せなときは梓と一緒にいるときなんだぞ」

恥ずかしいことをよくもまぁあっさりと言えたものだと自分でも驚いた。
でもこれはまぎれもない事実だった。
軽音部のみんなといる時間は確かに楽しい。何にも代えがたい時間だ。
だけど、それ以上に梓とこうして過ごす時間は私にとって幸せで、充実した時間なのだ。

梓「…本当?」

澪「ああ。本当だ」

梓「…そっか」

うれしそうな顔をした。さっきの顔が嘘のようだ。
子猫のように、愛くるしかった。

120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 03:31:20.51 ID:MITalYLRP [10/49]
梓「でも、先輩はいいよなぁ」

澪「なにがだ?」

梓「ヤキモチとかやかなそうだし。私もそうなりたいけど…無理だし…」

澪「私だって、ヤキモチやいてるぞ?」

梓「うそだっ。全然そんな風に見えないもん」

嘘じゃなかった。
梓が律にヤキモチをやくように、私も唯にヤキモチをやいていた。

澪「唯が梓にあんなにべたべたしてて妬かないわけないじゃいか」

澪「梓だって、その…まんざらじゃない感じだし」

澪「わ、私だってあれくらい梓にべったりしたいんだぞ!」

澪「…でも恥ずかしくてそんなの出来ないし。だから、その…」

123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/22(月) 03:38:45.97 ID:MITalYLRP [11/49]
唯の人懐っこさは本当に見事なものだった。
私もあれぐらい大胆になれたら、と何度も思う。
そして唯が梓に抱きつくたび、胸の奥がちくりと痛んでいた。
子猫を抱くかのごとく梓に抱きつく唯。
嫌々言いながらも満更でもないと言った様子の梓。嫉妬しないわけがなかった。
でも先輩だし、ヤキモチなんてみっともないと妙なプライドを持ちずっと我慢していたのだ。

梓「そうだったんだ…」

澪「私が律といるときよりもずっと幸せそうな顔してるぞ梓は」

梓「澪先輩もしていいんだよ?」

澪「だって、恥ずかしいよそんなの…」

梓「恋人なのに?」

澪「そ、そうだけどっ…!」

梓「告白した時はぎゅってしてくれたじゃん♪」

125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 03:44:38.35 ID:MITalYLRP [12/49]
澪「そ、それは咄嗟のことで…」

梓「でもしてくれたよ?」

澪「うぅ…」

打って変わって攻めの態勢だ。
さっきまで私の方が優勢だったのに…。
けど、こういうやりとりも悪くない。
恋人っぽいなぁ、なんて思ったり。

そうこうしているうちに梓の家の前まで来た。
春が近づいてきたとは言え、まだ陽が落ちるのは早く辺りは暗かった。

梓「それじゃあ、またね」

澪「ま、待ったっ!」

梓「?」

126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 03:51:15.61 ID:MITalYLRP [13/49]
梓を引きとめた。
このままやられっぱなしで引き下がってたまるもんか。

梓「どうしたの、澪せんぱ――?」ぐいっ

ぎゅっ

私は梓の腕を引き寄せ、抱きしめた。

澪「………」

梓「……ぷっ」

梓「ぷくくっ、どうしたの?先輩」

澪「~!!////」

梓は吹き出した。
私は恥ずかしさで顔が燃えそうになった。

127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 03:59:04.69 ID:MITalYLRP [14/49]
澪「あ、ああ…梓が茶化すからいけないんだぞっ!」

梓「そうだけどね。でもまさかこんなタイミングでするなんて…ぷふっ」

ぱっ

澪「も、もう絶対しない!しないんだからな!」

梓「してくんないの?」

澪「しないったらしない!」

梓「そっか…。先輩は私のこと嫌いなんだね…」しゅん

澪「へっ?」

梓「私はしてほしいのに…。今の、すごくうれしかったのにな」

梓「でも、先輩が嫌ならしょうがないよね…。私、諦める」

澪「うっ…」


128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 04:06:54.90 ID:MITalYLRP [15/49]
ずるい、ずるいぞ梓!
そんなこと言うなんて…。

梓「それじゃあ、私お家入るね…」

澪「す、するっ!やっぱりするっ!」

梓「………」

梓「えへへ…ありがとっ」ぱぁぁ

してやられた。
梓はこれでもかという満面の笑みを見せた。

澪「だ、騙したな!」

梓「騙してなんかないよ?」にやにや

澪「ぬぬぬ…」

131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 04:12:00.72 ID:MITalYLRP [16/49]
梓「ごめんね先輩♪」

梓「でも、うれしかったのは本当だから…」

梓「また今度ぎゅってしてねっ」

澪「う、うん」

梓「それじゃあ、またね」

ばたん

梓は家に入っていった。

澪「はぁ…」

見事に梓に振り回された。
でもこんな梓は私しか知らないんだろうと思うと、うれしかった。

132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 04:18:08.37 ID:MITalYLRP [17/49]
3月1日。
私は桜ヶ丘高校を卒業した。

同じ大学に進学する私たち4人はそれぞれ実家を出ることとなった。
唯とムギは一人暮らし、律と私はルームシェアで。
律とルームシェアすることに関しては随分と梓にヤキモチをやかれた。

梓「ずるい…。私だって澪先輩と一緒に暮らしたいのに」

澪「梓が高校卒業したら一緒のとこに住もう、な?」

梓「むぅ…」

いささか不満が残るようだった。

アルバイトに関してはすんなり決まった。
以前みんなでやったムギの父親の経営している系列の喫茶店に雇ってもらったからだ。
律はそれに加えて居酒屋のバイトを掛け持ちするらしい。
なんでも車の免許が欲しいんだとか。危ないから取らなくていいのに…。
ともあれ、新しい生活に向けての準備が着々と行われていた。

梓との交際は順調だった。
お互いの家で遊んだり、時折学校まで迎えに行ったりもしてた。

153 名前:俺寝すぎワロタ[] 投稿日:2010/11/22(月) 13:50:32.98 ID:MITalYLRP [19/49]
3月14日。ホワイトデー。
この日は軽音部のみんなで遊んだ。
学校が終わった梓を4人で迎え、いつものファミレスでご飯を食べる。
そして、各自梓にホワイトデーのお返しをした。

唯「はい、あずにゃんホワイトデーだよ!」

梓「ありがとうございます」

唯は何やら豪華な袋に包まれたクッキーをあげた。

梓「す、すごい…!これ、唯先輩が作ったんですか?」

唯「うん!憂に少し手伝ってもらったけど!」

おそらく8割は憂ちゃんの力だろう。
まぁ、唯らしいと言えば唯らしいか。

156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 14:00:06.69 ID:MITalYLRP [20/49]
紬「はい、梓ちゃん」

ムギは何やらバッグをプレゼントした。
言わずもがな高級そうなものだ。

梓「こ、こんな高価なものいただけませんよっ!たかがバレンタインデーのお返しなんかに…」

紬「いいのよ。あげられなかった分もあるから」

梓「す…すいません、なんか」

かといってせっかくのお返しなので断るわけにもいかず、梓は受け取った。
随分と恐縮していた。それもそうだろうなぁ…。

律「ほれ、梓。手ぇ出しんしゃい」

梓「…?」すっ

157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 14:06:27.32 ID:MITalYLRP [21/49]
律は袋を梓に渡した。
中には小さくて白い何かがいくつも入ってる。

律「マシュマロだ。これで背と胸を大きくするんだな」

梓「むかっ。余計なお世話です!」

律「そして聞いて驚け。そのマシュマロは私の作ったオリジナルマシュマロだ」

梓「えっ?す、すごい…!」

私も気づかなかったがこのマシュマロは律の手作りらしい。
本当器用なやつだな…。

律「あ、一個だけわさび入れてあるから気をつけてなー」

梓「」

こういうところも相変わらずだ。
無駄に手が込んでいる。

160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 14:14:33.55 ID:MITalYLRP [22/49]
澪「梓、はい」

私は梓に小さな包みを渡した。

梓「これ、なんですか?」

澪「ひ、秘密だ!」

唯「いちごのタルトだよあずにゃん」

澪「ば、馬鹿唯!何で言うんだ!」

唯「えー?だってその方がいいじゃん♪」

澪「うぅ…」

恥ずかしいからあとでこっそり見てほしかったのに…。

163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 14:20:40.08 ID:MITalYLRP [23/49]
梓「じゃあ失礼して…」

澪「えっ、開けるの?!」

梓は包みを開けた。
不格好に飾られたタルトが顔を出した。

唯「おぉ」

紬「あら」

梓「うわぁ、おいしそう…」

律「気をつけろー梓。澪の作るお菓子はとんでもなく甘いからな」

澪「よ、余計なお世話だ!」

164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 14:32:32.57 ID:MITalYLRP [24/49]
梓「これ、食べていいですか?」

澪「い、今食べるのか…?」

梓「はい。すごくおいしそうですので」

律「私らの作ったものはおいしそうじゃないんだとさ」

唯「まぁ、失礼しちゃうわね!」

梓「そ、そういう意味じゃありませんよ!」

何もみんながいる前で食べなくても…。
なんてことを思いつつもタルトを口に運ぶ梓を見守る。


172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 14:39:37.81 ID:MITalYLRP [25/49]
梓「いただきます」ぱくっ

梓「………」

澪「ど、どうだ…?」

梓「…おいしい」

梓の顔がほころんだ。

唯「むぅ~…。あずにゃんだけずるい!私にもちょうだい!」

梓「だ、ダメですよ!私がもらったんですから」

律「スキあり!」ひょいぱく

梓「あっ、律先輩!!」

律「ん~!うめーなー。相変わらずあまあまだけど」

173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 14:45:50.66 ID:MITalYLRP [26/49]
唯「あっ、りっちゃんずるい!」

律「へっへ~ん!」

澪「何つまみ食いしてるんだ馬鹿律!」がつん

律「んがっ!」

てんやわんやだった。
結局唯がだだをこねたので、みんなでタルトを食べることにした。
梓のむなしそうな顔がやたら印象的だった。

・・・・・・

律「そんじゃなー!」

紬「またね」

唯「ばいばーい」

梓「今日はありがとうございました。失礼します」

夜も更けてきたので解散した。
どたばたしたけど、私たちらしい時間を過ごしたと思う。
もうこんな風にみんなが集まる機会が減るのだと考えると、少し寂しい。

176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 14:53:35.04 ID:MITalYLRP [27/49]
【澪の家】

澪「…さて」

まだ私の一日は終わっていない。
私はそわそわしていた。

ピンポーン

澪「来た」

プツッ

澪「はい」

梓『中野です』

梓が私の家に泊まりに来るのだ。
そう、今日はホワイトデーであると同時に梓と付き合って1ヶ月の記念の日。

178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 15:00:40.35 ID:MITalYLRP [28/49]
ガチャ

澪「いらっしゃい。あがって」

梓「お、お邪魔します…」

澪「そんなかしこまらなくて大丈夫だよ。ママ…じゃなくて、両親は出かけていないから」

梓「…へへ」

【澪の部屋】

梓「今日はありがとね。タルト、すごくおいしかった」

澪「ごめんな、甘ったるくて…」

梓「ううん、私甘いの好きだし。他の先輩にとられたのはちょっと悔しいけど…」

澪「また今度作るからさ」

梓「ほんとっ?!」

澪「あぁ、本当だ」

181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 15:06:18.16 ID:MITalYLRP [29/49]
澪「あ、そうだ」

梓「?」

澪「梓、1ヶ月おめでとう」

梓「…うんっ!」

澪「なんか、あっという間だったな」

梓「そう?私はまだ1ヶ月なのって感じがするけど」

梓の言うことも一理あった。
あっという間に過ぎた気もするけど、まだ1ヶ月なのかと思う部分もある。
何にせよ、充実した時を過ごしたことには変わりがないのだけれど。

183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 15:12:12.59 ID:MITalYLRP [30/49]
澪「なぁ、梓」

梓「なに?」

澪「実はな、私からプレゼントがあるんだ」

梓「えっ、本当?!」

澪「じゃあ、ちょっと目をつむってくれるか?」

梓「うんっ!」

梓は期待に胸をふくらましながら目を閉じた。
私はこの瞬間を心待ちにしていた。
あの時の仕返しをする絶好のチャンスだからだ。

梓「先輩、まだぁー?」

まだかまだかといった様子が伝わってくる。
このプレゼントは私も初めてだ。緊張する。
でも、その後の梓の顔が見たいと思う気持ちが私を後押ししてくれた。
私は身を乗り出し、そして…。

ちゅっ

梓に、キスをした。

184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 15:18:55.08 ID:MITalYLRP [31/49]
梓「……?」

梓は目を見開ききょとんとしている。
まるで自分が今何をされたのかわかっていないかのよう。
唇を2、3度触る。すると…

梓「…!!!」ぼんっ

梓の顔が途端に沸騰した。
人の顔ってこんなに赤くなるものなのか…。
思わず感心してしまった。

梓「せ、せせせ…先輩っ?/////」

澪「ん?どうした?」

私はとぼけたフリをした。
当然のことをしたまでだ、と言わんばかりに。

185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 15:24:09.58 ID:MITalYLRP [32/49]
梓「…!」ばっ

梓は両手で顔を隠す。
そんなことしても真っ赤なの見え見えだぞ。
私は意地悪な口調で言った。

澪「いつかの仕返しだ♪」

梓「……!」

梓「先輩の…ばかっ」

そう、あの時の仕返し。
梓もそれに気づいたようで、とても悔しそうな表情をしていた。

梓「…ねぇ」

梓「もう一回」

梓「もう一回、して。ちゃんと」

187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 15:32:15.80 ID:MITalYLRP [33/49]
澪「えっ?」

梓「こういうのは、ちゃんとしてほしい…」

梓「だから、もう一回」

悔しがっているのかと思ったら、梓は急にしおらしくなった。
その表情に含みは感じられなかった。
本心からの言葉であり、態度だろう。

梓「………」

梓は再び目を閉じ、あごを上げた。
さっきとは違う、キスを待つ体勢だった。

澪「梓…」

梓「んっ…」

一回目は軽く触れる程度だった。
今度は、深く、長く。
ほんのりいちごの味がした。

190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 15:38:19.60 ID:MITalYLRP [34/49]
どれぐらい唇を重ねていたのだろう。
少し息苦しくなったところで、唇を離す。

澪「…ぷはっ」

澪「………」

梓「………」

しばしの沈黙。
決して気まずいものではなく、互いに幸せをかみしめている瞬間だった。

どちらからというわけでもなく、自然な流れで梓と抱き合った。
梓の心臓の鼓動が聞こえる。速くて、大きな鼓動だ。
それは私も同じだった。きっと梓にも聞こえているだろう。

幸せだった。
梓もそう感じているだろう。
私は残された高校生という立場を、誰よりも幸せに過ごしていた。

199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 17:34:51.31 ID:MITalYLRP [36/49]
4月。大学生としての生活がスタートした。

中学から高校に上がるのとは訳が違った。
大勢の学生、90分の講義、棟を移動しての授業、履修登録。
今までとまったく異なる環境についていくのに精いっぱいだった。

唯「ねぇムギちゃん…。履修登録ってどうやるの…?」

紬「パソコンで自分のとりたい授業を選ぶのよ」

唯「で、でもこんなに授業がいっぱいあったらどれとっていいかわかんないよぉ…」

紬「うーん、それに関しては講義の要綱とか見ないとわからないかもね…」

律「うがぁー!さっぱりわかんね!どれが必修でどれが選択なんだ!」

澪「ここに書いてあるだろ?よく読め」

律「そもそもこれ読みづらいんだよ、もっと図とか使ってわかりやすくだな…」

唯と律は特に参っているようだ。

200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 17:42:24.38 ID:MITalYLRP [37/49]
学部での新入生歓迎会(いわゆる新歓コンパというやつだ)にも参加した。
居酒屋を貸し切るといった規模の大きなものだった。
年齢的にまずいのではと思ったが、店的にも企画側的にもそのへんは暗黙の了解らしい。

歓迎会はそれなりに楽しかった。
うちは女子大だからまだ落ち着いているものの、共学だともっとすごいようだ。
つくづく共学に入らなくてよかったと思う。

唯と律はお酒が入るといつもの調子にさらに拍車がかかった。

律「ぐへへ、お姉さん。いい身体しとるやないですか」

唯「けしからんお胸ですなぁ…!誘ってるんですかい?!」

澪「…はぁ」

正直手もつけられない、こう言っては何だがかなり面倒だった。
一方でムギはいくら飲んでも全然といった感じだった。

紬「私、パーティーとかでこういうのは飲み慣れてるから♪」

改めて琴吹家の凄さを知った。
ムギ、同い年…だよな?

202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 17:49:38.40 ID:MITalYLRP [38/49]
【澪と律の家】

律「これ味付け濃くないか…?」

澪「そ、そうか?」

律「いや、濃いだろ絶対!つかなんか変に甘いぞこれ、お菓子か!」

澪「そんなことないっ!」

律「いやいやいいから食べてみろって」

ぱくっ

澪「う…」

律「だろ?」

大学のことだけではない。普段の生活も大変だった。
ルームシェアとは言え、それまでやってこなかった炊事・掃除・洗濯をすべてやる必要があったからだ。
親の存在がどれだけ大きかったかを知った。

205 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/11/22(月) 17:56:06.74 ID:MITalYLRP [39/49]
家事は週ごとの当番制にした。
片方が炊事をやり、もう片方が掃除洗濯をやる、といったものだ。
最初に私が炊事当番、律が掃除洗濯当番ということになった。
さっそく晩御飯を作ってみたものの、味付けが濃いというか、謎の甘さがあるらしい。
律には「詞も料理も甘いんだな!」とからかわれた。

翌週、律が炊事をする番。

ぱくっ

澪「お、おいしい…」

律「だろ?料理ってのは、味付けの絶妙な加減が大事なんだよ」

澪「うぅ…」

律の料理はおいしかった。
料理だけではない、掃除も洗濯も手際がよかったし、慣れていた。
普段のずぼらな感じからは想像も出来ないくらい家庭的だ。
悔しさ反面、情けなさも感じた。

206 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 18:05:00.56 ID:MITalYLRP [40/49]
アルバイトも本格的に始まった。
以前とは違う。お給料を貰い、雇われている立場。
覚えることもやらなければならないこともたくさんあった。

梓とは全然会えなかった。
家が離れてしまったというのはもちろんだが、
何より私自身に余裕がなかったのだ。

大学、家事、アルバイト。
たくさんのことに追われている。
もっとも、それは唯やムギや律も同じなのだろうけど。
でも、もしかしたらそこまで苦に感じていないのかも知れない。
3人は私と違って要領がいいから。

梓は今、何をしているのだろう。
私たちが卒業しても、しっかりやっていけているのだろうか?
寂しい思いをしてないだろうか?
会いたい。梓に会いたい。
話がしたい。あの笑顔が見たい。
夜な夜な梓を想う日々が続く。

こうして4月はあっという間に過ぎていった。

207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 18:14:05.75 ID:MITalYLRP [41/49]
【桜ヶ丘高校】

4月。
私はとうとう3年生となった。
未だに自分が最高学年であることが信じられない。

キーンコーンカーンコーン

始業式が終わると、私の足は当然のごとく音楽室に向かっていた。

ガチャ

梓「………」

そう。もう音楽室には誰もいない。
先輩たちは卒業してしまったから。
わかってはいたけど、寂しかった。

209 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 18:21:03.80 ID:MITalYLRP [42/49]
先輩たちが卒業してから、軽音部は私一人だった。
その後憂と純が入部をしてくれて、3人になった。
本当は4人以上部員がいないと部として認められないんだけど、
さわ子先生が無理言って認めてくれたみたい。

さわ子「トンちゃんも立派な部員でしょ?」

って。

とはいっても純はジャズ研と掛け持ちしてるし、
憂も家のことが忙しくてなかなか揃うことはなかった。

集まった時はセッションしたり、お菓子食べたりと、そんな感じだった。
それでも私はよかった。あの空間にいるだけで幸せだったから。

210 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 18:28:44.39 ID:MITalYLRP [43/49]
私は毎日音楽室に足を運んでいた。
トンちゃんに餌をあげて、ギターを弾いて、適当な時間に帰る。
たまにさわ子先生が来てくれて色々とお話をしてくれた。
先生が学生だったときの話とか、先輩たちが1年生だった頃の話、
3年生の担任だった時の話とか、尽きることはなかった。
ギターも一緒に弾いてくれた。

新歓ライブや勧誘はやらなかった。
さわ子先生は勧めてくれたけど、断った。
何て言うか、あの空間が壊れてしまいそうな気がして。

澪先輩とは連絡はとっていたけど、会うことはなかった。
あっちも大学が忙しいみたいだし、家も離れてしまったから。
憂や純はいてくれるし、さわ子先生も来てくれるけど、
胸にぽっかりと穴が空いたような日々が続いた。

212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 18:36:26.70 ID:MITalYLRP [44/49]
ひと月が過ぎ、5月に入っていた。
部室に足を運ぶとだいぶ散らかっていることに気づいた。

梓「…よし!」

私は部室の掃除を始めた。
ゴミを拾い、雑巾をかけ、機材や窓もピカピカに磨いた。
ついでにやってしまえと物置の整理もした。
たくさんの写真や物が出てくる。全部、先輩たちとの思い出だった。

梓「………」

少しの間感傷に浸っていると、

こつん

何かの音がした。

梓「あ……」

水槽からだった。

214 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 18:44:50.92 ID:MITalYLRP [45/49]
梓「ごめん、トンちゃん。餌まだだったね」

急いでトンちゃんに餌をあげる。
よほどお腹が空いていたのか、いつもよりたくさん餌を欲しがった。

梓「ごめんね、ちょっと懐かしいものがいっぱい出てきちゃってさ」

トンちゃんに話しかける。

梓「そういえば、トンちゃんがもうここに来て1年が過ぎたんだね」

1年前を思い出す。今でも鮮明に覚えていた。
あの時も部室の掃除をしてて、さわ子先生の古いギターが見つかって、
そのギターが凄い額で売れて、使い道とかみんなでいっぱい考えてて、
先生に1万円だったって嘘つくんだけど結局バレちゃって、それから、それから…。

梓「うっ…ぐすっ」

いつの間にか涙が頬を伝っていた。
寂しかった。どうしようもなかった。
戻りたい、あの頃に戻りたい。
5人で机を並べて、毎日お茶していた時に。
何で私だけ、置いてけぼりなんだろう。

218 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 18:51:56.11 ID:MITalYLRP [46/49]
トンちゃんが心配そうな顔で私を見ていた。

梓「えへへ…。ごめんね、ちょっと寂しくなっちゃってさ」

梓「今日はもう帰るね。また明日」

そう言ってトンちゃんに別れを告げ部室を出た。
あのままあそこにいたら、もう戻れなくなってしまいそうだったから。

帰ってる途中も先輩たちとの思い出が走馬灯のように駆け巡っていた。
この道は…。このお店は…。ひとつひとつが思い出の場所だった。

もう我慢出来ないよ…。
澪先輩じゃなくてもいい。会いたい。先輩に、会いたい。
ふたたび目に涙がこみ上げてきたその時、

「あーずにゃん」

私の後ろで懐かしい声がした。

219 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 18:59:36.94 ID:MITalYLRP [47/49]
梓「えっ…?」

唯「やっほー、あずにゃん久しぶり♪」

唯先輩だった。
高校生の時とは全然違う、大人びた格好。

梓「唯先輩、どうしてここに…?」

唯「いやぁー実家に取りに行くものがあってさ。その帰りなんだ」

唯「あずにゃんも今帰り?お、ちょっと背伸びたんじゃ―――」

梓「先輩っ!!!」ぎゅっ

唯「うおぉっ?!」

梓「私…わだじ…っく。うわああああああん」

思いっきり先輩に抱きついた。
たまたま会った、その偶然が本当にうれしかった。
私は泣いた。子どものように、泣いた。

220 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/22(月) 19:04:15.65 ID:MITalYLRP [48/49]
唯「どったのあずにゃん、寂しかった?」

梓「………」こく

唯「…そっか。ごめんねあずにゃん」ぎゅっ

この匂いと優しい声、まぎれもなく唯先輩。
ほんのひと月ふた月会わなかっただけで、こんなにも懐かしく思えるものだった。

唯「そうだあずにゃん!」

梓「…はい?」

唯「私の家、おいでよ!」

私は唯先輩の家に招かれた。

257 名前:ただいま[] 投稿日:2010/11/23(火) 02:43:24.76 ID:sOAnQZOJP [1/26]
【唯の家】

唯「ただいまー」

梓「お、お邪魔します」

唯「ごめんねーちょっと散らかってるかも知れないけど」

私は唯先輩の一人暮らししている家に上がった。
散らかってるとは言ったけど、もともと物が少ないからか質素な感じがした。
唯先輩の匂いがたくさんする。懐かしい匂い。

唯「適当なとこ座ってていいよ」

梓「はい」

260 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/23(火) 02:49:20.91 ID:sOAnQZOJP [2/26]
私は唯先輩のベッドの近くに腰かけた。

唯「はい、あずにゃん」

梓「すいません。いただきます」

簡単なお茶菓子を用意してくれた。
唯先輩の好きそうな、甘いお菓子と烏龍茶。
私は烏龍茶をすすった。

唯「こうして飲んでるといつも思うんだよね」

唯「やっぱりムギちゃんの淹れるお茶が一番だなぁって」

梓「…そうですね」

本当にその通りだ。
部室でムギ先輩が淹れるお茶は、他のどんな物よりもおいしい。

261 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/23(火) 02:55:44.13 ID:sOAnQZOJP [3/26]
唯「あずにゃんは最近どう?学校は楽しい?」

梓「………」

梓「楽しいですよ、音楽室はがらんとしちゃいましたけど」

梓「でも憂や純もいてくれるし、充実してます」

本当は寂しくてどうしようもなかったけど、私は強がった。
先輩に迷惑や心配をかけたくなかったから。
でも、唯先輩はそれもわかっている気がした。

梓「先輩たちは、みんな元気ですか?」

唯「うん!澪ちゃんもりっちゃんもムギちゃんも、元気にやってるよ!」

梓「そうですか」

みんな相変わらずのようだ。
それが聞けただけでもうれしかった。

262 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/23(火) 03:01:35.69 ID:sOAnQZOJP [4/26]
梓「あ、そろそろ帰らないと…」

唯先輩との話に夢中になっていると、いつの間にか夜も更けていた。
時間の流れが早いと感じたのはいつ振りだろう。

唯「そっか、一人で帰れる?」

梓「大丈夫です、ありがとうございます」

唯「あずにゃん」

梓「はい?」

唯「またおいでよ!一人暮らしって結構寂しいんだ」

梓「…はい!」

私は久しぶりに味わった充実感を噛みしめながら帰路についた。

263 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/23(火) 03:06:02.55 ID:sOAnQZOJP [5/26]
【大学】

5月も終わりに近づく。
ようやく環境の変化にも慣れ、生活のリズムも安定してきた。

キーンコーンカーンコーン

律「ふいーっ、やぁっと終わったよ」

澪「90分まるまる寝てたくせによく言うよ」

唯「お腹空いちゃったぁ」

紬「お昼にしましょうか」

とはいえ90分という授業時間にはまだ慣れず、
時計をちらちら見つつ授業を受けていた。
律はバイトの掛け持ちで疲れもあるせいか、寝ることが多かった。

265 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/23(火) 03:11:26.16 ID:sOAnQZOJP [6/26]
律「そういや梓のやつ元気にしてっかなぁ?」

紬「バタバタしてなかなか会う機会が作れなかったもんね」

唯「あずにゃんは元気だよ♪」

律「ん?なんだ唯、最近梓に会ったのか?」

唯「うん!あずにゃん最近私の家に遊びに来てくれるんだ」

澪「えっ…?」

初耳だった。
梓が唯の家に遊びに行ってる?
なんで?どうして?

266 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/23(火) 03:16:16.78 ID:sOAnQZOJP [7/26]
律「なんだよ唯ばっかり!ずるいぞ」

紬「そうよ唯ちゃん!私だって梓ちゃんに会いたいわ!」

唯「今度うちで5人で遊ぼうよ♪きっとあずにゃんもよろこぶよ!」

律「そうだな!ていうか実は唯の家って行ったことなかったし」

紬「そういえばそうかも。お茶とケーキ用意しなきゃ!」

唯「うん!」

澪「………」

私の気は確かではなかった。
確かにここのところ忙しくて会えなかったけど、
だからって何で唯のところに…。
嫉妬と不安の入り混じったどろどろした感情が私を襲った。

267 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/23(火) 03:20:37.73 ID:sOAnQZOJP [8/26]
【澪と律の家】

その日の晩、私は梓に電話をかけた。
いてもたってもいられなかった。
律は居酒屋のバイトに出てるから今は私一人。

prrrr prrrr

ガチャ

梓『もしもし。澪先輩?』

澪「やぁ、梓」

梓『どうしたの?こんな時間に』

澪「その…ちょっと聞きたいことがあってさ」

梓『なに?』

澪「最近、唯と会ってるのか…?」

270 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/23(火) 03:25:30.20 ID:sOAnQZOJP [9/26]
梓『んー?うん、まぁ。たまに誘われたりするんだ』

澪「そっか…」

梓は肯定した。

澪「………」

梓『もしかして、怒ってる…?』

澪「いや…」

ウソをつく。
素直になれない自分がいた。

梓『別に何があるわけじゃないよ。ただ、その…久しぶりだったから』

梓『…ごめんなさい』

272 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/23(火) 03:31:00.48 ID:sOAnQZOJP [10/26]
梓が謝ってきた。
別に謝罪の言葉が欲しかったわけではなかった。
怒っているわけでもない。
でも、もやもやするものは残っていた。
もしかしたら梓を唯にとられちゃうかも、そんな不安だったのかも知れない。

澪「いや、いいんだ。私がいけないんだし」

澪「私と会えない分、唯と仲良くするんだぞ。いっぱい構ってもらうといい」

そしてよくわからないもやもやは、皮肉となって言葉に出た。

梓『………』

梓『なに、それ…』

澪「?」

梓の口調が変わった。

274 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/23(火) 03:38:51.78 ID:sOAnQZOJP [11/26]
梓『先輩、本当は私に会いたくないんでしょ』

澪「何でそういうことになるんだよ」

梓『だって!先輩…忙しい忙しいって言って、全然会ってくれないじゃん!』

澪「仕方ないだろ!本当のことなんだから…」

梓『私、唯先輩のところじゃなくて澪先輩のところに行きたいよ!澪先輩に甘えたいよ』

梓『でも、澪先輩は一人で暮らしてるわけじゃないじゃん…』

澪「律がいたところで関係ないだろ?来ればいいじゃないか!」

梓『律先輩がいたら絶対澪先輩は強がって私に構ってくれないもん!!』

梓『そんなの、私悲しいよ。やだよ…』

277 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/23(火) 03:44:16.20 ID:sOAnQZOJP [12/26]
忙しい、そんなの他人から見たら単なる言い訳だ。
唯だって忙しいはずだ。ましてや一人暮らし、家のことも全部やらなくちゃいけない。
でも時間のやりくりが出来るのは唯の要領のよさ、才能だ。
私は唯やみんなとは違う。要領も悪いし、不器用。
やるべきことをこなして、さらに時間を作って…なんて器用な真似が簡単に出来るはずもなかった。
自分を恨んだ。そして唯がうらやましかった。
どこにぶつければいいかわからない怒りがあった。

梓『それに、澪先輩が会いたいって思ってないのに会うなんてもっとやだ』

澪「そんなことない!私はいつだって梓に会いたいって思ってる!」

梓『唯先輩は、ちゃんと時間空けて私を誘ってくれるよ?!』

梓『けど、澪先輩はそんな素振りすら見せてくれないじゃん!!』

頭に血がのぼっているのがわかる。
もう理性の歯止めがきかなかった。

澪「じゃあ私と別れて唯と付き合えばいいだろ!!!」

澪「そうすれば会いたい時に会えるし、寂しい思いなんかしないじゃないか!!」

梓『…!!』

279 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/23(火) 03:49:00.32 ID:sOAnQZOJP [13/26]
梓は黙り込んだ。
しばらく沈黙が流れる。
興奮から覚めた私はひどく後悔した。
私は、なんてことを口にしてしまったんだ…。

梓『………』

梓『ひっく、っぐ、うっ…』

受話器の奥からすすり泣く声が聞こえる。
梓は、泣いていた。

澪「…ごめん。その、つい…」

梓『…そんな風に、言われるなんて、っく、思わなかった…』

澪「あ、梓…。今のは勢いで…」

そう、本当に勢いだった。
そんなこと微塵にも思っていない。
誰にも渡したくない、どこにも行ってほしくない。
つくづく私は不器用な人間だった。

281 名前:さるった[] 投稿日:2010/11/23(火) 04:05:03.90 ID:sOAnQZOJP [14/26]
梓『ひどいよ、そんな風に言うなんて…』

澪「梓…」

梓『もういいよ…先輩なんて』

澪「…ごめん。そんなこと、ちっとも思ってないから」

梓『…きらい』

澪「え?」

梓『澪先輩なんて、大っきらい!!!』

ブツッ

電話が切れた。
かけ直そうかと指を構えたが、やめた。
今かけ直したところで意味のないことだと気づいたから。
思えば梓とぶつかったのは初めてだ。初めての、ケンカ。
こんなに辛いなんて。

本当に嫌われてしまったのかもしれない。
でもどうすればいいかわからない。
不安と悲しみに押し潰されてしまいそうだった。

282 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/23(火) 04:08:25.37 ID:sOAnQZOJP [15/26]
【梓の部屋】

梓「うっ、ぐすっ…えぐ」

カッとなって電話を切ってしまった。
思えば、初めてのケンカだった。

大嫌いなわけがなかった。
好きで好きでしょうがない。

先輩が不器用なのはわかってる。
だけど、やっぱり寂しかった。
我慢出来なかった。
何度も会いに行こうとした、びっくりさせようとした。
だけど、もし忙しかったら。かえって先輩の負担になったら…。
そう思うとどうしても踏みとどまってしまう。

梓「会いたいよ、澪せんぱぁい…」

涙と一緒に出た本当の気持ち。
最近、泣いてばっかりだな。

319 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/23(火) 19:10:21.27 ID:sOAnQZOJP [17/26]
翌日。
泣き疲れた目をこすりながら大学に向かう。

律「ふぁ~あ」

澪「ふあ…」

紬「あら、今日は2人ともおねむさん?」

律「私は居酒屋のバイトがあって帰りが遅かったからな」

唯「澪ちゃんはどうかしたの?」

澪「ん?あぁ、ちょっと昨日寝れなくて…」

紬「目腫れぼったいみたいだけど、大丈夫?」

澪「平気だよ、ありがとう」

私は昨晩まったくと言っていいほど眠れなかった。
ただひたすら、枕を濡らしていた。
そのせいで心なしかまぶたが重いし、おまけに寝不足で散々だった。

321 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/23(火) 19:17:17.48 ID:sOAnQZOJP [18/26]
キーンコーンカーンコーン

律「唯、バイト行こうぜー」

唯「うん!澪ちゃんムギちゃん、また明日ね」

澪「あぁ」

紬「またね」

律「あ、澪。洗濯物しまっておいて!」

澪「わかった」

唯「りっちゃん、急がないと遅刻しちゃうよー」

律「わーかってるって」

今日は唯と律がバイトなので、ムギと2人で帰ることとなった。

紬「ねぇ澪ちゃん」

澪「ん?」

紬「最近、何かあった?」

322 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/23(火) 19:23:58.55 ID:sOAnQZOJP [19/26]
澪「え…?」

突然ムギに問いかけられる。

紬「澪ちゃん今日元気なかったし」

澪「な、なんでもないよ!ただ寝不足なだけで」

紬「目が腫れぼったいのは?」

澪「その…あれだよ!ずっと眠い目こすってたから」

紬「昨日、泣いてたんでしょ」

澪「…!」

紬「隠しごとは、してほしくないな…」

紬「私に出来ることであれば、協力するから、ね?」

こらえていたものが溢れそうだった。
ムギの優しさに、甘えたくなってしまった。

323 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/23(火) 19:29:18.19 ID:sOAnQZOJP [20/26]
澪「…うっ。うぐっ」ぽろぽろ

澪「ムギ…ごめん。私、本当はつらい…」

澪「でも、どうすればいいか…わかんなくて…」

紬「大丈夫よ、澪ちゃん」

そう言うとムギは私の頭を優しく撫でてくれた。

紬「よしよし」

紬「少し、お話しましょ?」

澪「…うんっ」

325 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/23(火) 19:33:22.94 ID:sOAnQZOJP [21/26]
【紬の家】

紬「どうぞ」

澪「お邪魔します…」

私は一旦家に帰ったあと、洗濯物を取り込みムギの家に向かった。
ムギの家にお邪魔するのは初めてだった。
大学生の一人暮らしとは思えないほど立派な部屋だった。

紬「今お茶淹れるわね」

私は適当な場所に腰かけた。
それにしてもきれいな部屋だ。
きちんと毎日掃除を行っているのだろう。

ことっ

紬「はい、どうぞ」

澪「ありがとう」

久しぶりに飲むムギが淹れてくれたお茶。
懐かしい味がした。

328 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/23(火) 19:37:20.12 ID:sOAnQZOJP [22/26]
紬「それで、何があったの?」

秘密の交際ということだったから今まで誰にも言わなかったけど、
ここまでしてもらってもう隠すわけにもいかなかった。
適当なことを言ったところで鋭いムギはすぐに見抜くだろう。
私は梓とのことを話すことにした。

澪「実は…その…梓のことで」

紬「梓ちゃん?」

澪「あ…あのなっ、ムギ!誰にも言わないで欲しいんだけど…」

紬「?」

澪「実は、私…梓と付き合ってるんだ」

330 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/23(火) 19:42:16.92 ID:sOAnQZOJP [23/26]
紬「………」

紬「まぁ!」

ムギは一瞬きょとんしたあと、
ぱあっと明るい表情を見せた。

紬「どうして早く言ってくれなかったの?!」

澪「ご、ごめん…。みんなに茶化されるのが嫌だったんだ」

紬「いつから?いつから付き合ってるのっ?」

澪「…今年のバレンタインデーから」

紬「そんなに前から付き合っておきながら隠すなんてひどいわ澪ちゃん!」ぷん

澪「はは、かたじけない…」

どんな反応をするかと思えばいつも通りの反応だった。
相変わらず、といえば相変わらずの反応だったが、それだけでも心が軽くなった。
そして、秘密にしていたことを怒られた。

331 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/23(火) 19:46:29.32 ID:sOAnQZOJP [24/26]
紬「梓ちゃんとどうかしたの?」

澪「この前、梓とケンカしたんだ」

私は最近あったことを包み隠さずに話した。
梓とケンカしたことはもちろんのこと、
唯にヤキモチをやいていること。
自分の不器用さが原因で、梓につらい思いをさせてしまっていること。
今の自分がどうすればいいのかわからないこと。

紬「なるほど…。そんなことがあったんだ」

澪「う、うん」

紬「ふふっ、かわいい」

澪「うるさいっ///」

ムギにからかわれた。

332 名前:>>331 会ったんだ→あったんだ[] 投稿日:2010/11/23(火) 19:51:45.82 ID:sOAnQZOJP [25/26]
紬「どれぐらい会ってないの?」

澪「こっちに越してからはたぶん一度も…」

紬「一回会ってみたら?案外そういうのって、会ってみたらどうってことないものよ?」

澪「そう…なのかな」

紬「今度の週末、会いに行っておいでよ」

澪「で、でもバイトあるし…」

紬「私が変わってあげるから、大丈夫よ♪」

澪「ムギ…」

紬「ねっ?」にこっ

澪「…ありがとう」

364 名前:遅くなった。本当にすまない。[] 投稿日:2010/11/24(水) 03:36:54.67 ID:hhRXdGr2P [1/27]
週末になった。いい天気だ。

澪「ありがとう、ムギ」

私はムギにメールを送り、家を出た。

澪「………」

向かう途中、不安でいっぱいだった。
もし会いたくないって言われたら…。
嫌いだって言われたら…。
そんなことばかりが頭をよぎる。

澪(ダメだダメだ!せっかくムギが作ってくれたチャンスなのに!)ぶんぶん

澪(でも…)

落ち込んでは首を振り、落ち込んでは首を振り、
起伏の激しい道のりだった。

366 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/24(水) 03:39:14.86 ID:hhRXdGr2P [2/27]
【梓の家】

梓の家に着く。
ベルを押すと、インターホンから梓の声がした。

梓『はい?』

澪「………」

緊張して声がうまく出せなかった。

梓『どちらさまですかー?』

澪「あ、秋山です。秋山澪です」

梓『えっ?み、澪先輩?!!』


367 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/24(水) 03:42:52.69 ID:hhRXdGr2P [3/27]
ガチャ

玄関から梓が出てきた。
どれくらい振りだろう、こうして面と向かって梓に会うのは。

梓「先輩、どうして…?忙しいんじゃなかったの?」

澪「その…、会いたかったから」

澪「バイト代わってもらって、梓のとこまで来たんだ」

澪「ダメ…かな?」

梓「…部屋に上がって」

澪「うん」

私は梓の家にお邪魔した。

368 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/24(水) 03:45:36.09 ID:hhRXdGr2P [4/27]
【梓の部屋】

澪「………」

梓「………」

部屋に入ったはいいが、何を話したらいいかわからずお互い沈黙のままだった。
重苦しい空気が流れる。

澪「………」

このままじゃダメだ。
私が、私が言わなきゃ。

澪「……梓」

梓「………」

澪「その…ごめんなさい」

私は勇気を出して口を開き、そして深く頭を垂れた。

371 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/24(水) 03:49:47.96 ID:hhRXdGr2P [5/27]
澪「ついカッとなって、あんなこと言っちゃったけど…」

澪「私、梓と別れたくない」

澪「唯のところにも行って欲しくない。ずっと私のこと見ていてほしい」

澪「だから…その…」

言葉が続かなかった。
思っていることをつらつらと口にしているだけだった。

梓「ううん、もういいの。謝らないで」

梓がそれを制する。

梓「私の方こそ、ごめん」

梓「忙しいのわかってあげられなくて、わがままばっかり言って…」

梓「私、澪先輩に…っく。嫌われたのかと…思って…」

372 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/24(水) 03:54:52.42 ID:hhRXdGr2P [6/27]
澪「梓…」

泣くのを我慢しているようだ。
じっくり梓の顔を見てなかったから気づかなかったけど、
梓の目も腫れぼったくなっていた。
きっと、私と同じように毎晩泣いてたんだろう。

澪「梓、おいで」

澪「仲直り、しよ?」

梓「…うんっ」

梓を引き寄せる。
私の体にすっぽり収まる感覚が久しかった。
ずっとくっついていた。言葉はなかった。
こうしているだけでよかった。
今は、梓といれること幸せを噛みしめていたいから。
ごめんな、そしてありがとう。梓、大好きだよ。



>>369
無理せず寝てくれ。遅くなって申し訳ない。

373 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/24(水) 04:00:38.40 ID:hhRXdGr2P [7/27]
【大学】

紬「おはよう」

澪「おはよう。昨日はありがとな」

紬「ううん、大丈夫。それで、澪ちゃんの方は?」

澪「…うん」

紬「その顔は、仲直り出来たってことでいいのかな?」

澪「…あぁ」

今の私はどんな顔をしているのだろう。
幸せそうな顔をしているのかな?
ムギもうれしそうだ。

澪「夏休みまであんまり会えないけど、記念日には絶対会おうって2人で決めたんだ」

紬「そっか♪」

記念日だけは大切にしたかった。
だから、梓にそう提案した。
梓も納得してくれた。

375 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/24(水) 04:03:56.86 ID:hhRXdGr2P [8/27]
澪「ムギのおかげだよ、本当に感謝してる」

紬「いいのよいいのよ~、幸せそうで何よりだわ」

紬「それで、澪ちゃん」

澪「?」

紬「…仲直りのキスとかはしたの?」ぼそっ

澪「ぶっ!」

紬「冗談よ冗談、うふふ♪」

澪「ったく…///」

思わず噴き出してしまった。
何を言い出すんだ突然。

…まぁ、したけどさ。

376 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/24(水) 04:06:51.58 ID:hhRXdGr2P [9/27]
【桜ヶ丘高校】

憂「梓ちゃん、おはよう」

梓「あ、憂。おはよう」

純「おはー」

梓「純もおはよう」

純「梓、何かあった?」

梓「何で?」

純「いや、なーんか今日は元気だなぁって思って」

梓「そう?」

377 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/24(水) 04:11:16.38 ID:hhRXdGr2P [10/27]
憂「ここ最近梓ちゃん元気ないねって純ちゃん心配してたんだよ」

純「ちょ、ちょっと憂!余計なこと言わないでよ!」

憂「ふふっ、ごめんね純ちゃん」

純「ったく…」

梓「心配してくれてたんだ、純のくせに」

純「失礼なっ!い、一応梓は大事な友達だからね!心配になったりもするよ」ぷーっ

梓「純、ありがとう。もう大丈夫だから」

純「えっ?!う、うん…」

純(なーんか調子狂うなぁ)

自分ではまったく気づかなかったけど、
憂や純にも心配かけていたらしい。
ごめんね、2人とも。

378 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/24(水) 04:14:18.38 ID:hhRXdGr2P [11/27]
【梓の部屋】

家に帰り、ベッドに飛び込む。

梓「へへっ、澪先輩の匂いがする」

昨日、澪先輩が突然来たことには本当にびっくりした。
もうこのまま会えないで別れちゃうのかなって思ってたから。
気まずくて何を話せばいいか戸惑ってたら、澪先輩から謝ってきた。
それに釣られるように、私も謝った。
初めてのケンカ、そして初めての仲直りだ。

そのあとは、澪先輩にずっとぎゅってしてもらった。
久しぶりすぎて、甘え方を忘れちゃってた。
でも、本当に幸せだった。

その後、澪先輩から記念日は必ず会おうって提案された。
本当はもっと会いたかったけど、それは言わなかった。
澪先輩だって頑張ってるんだから。
夏休みになれば澪先輩はこっちに戻ってくるみたいだし、それまでの辛抱だ。

梓「私も、頑張らなきゃ」

381 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/24(水) 04:17:50.98 ID:hhRXdGr2P [12/27]
6月。梅雨の季節に入った。
雨が毎日のように降り、気分を落ち込ませる。
せっかくの日曜日なのに。
あとちょっと、もう少しで14日だ。
そしたらまた澪先輩に会える。
今度は、どこかに行きたいな。雨降らなきゃいいけど。
そんなことを考えていると電話が鳴った。

brrrr brrrr

ピッ

唯『もしもし、あずにゃん?』

梓「どうしたんですか唯先輩」

唯先輩からだった。

382 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/24(水) 04:20:27.92 ID:hhRXdGr2P [13/27]
唯『暇つぶしにお菓子作ってみたんだけどさ、いっぱい作りすぎちゃって…』

梓「はぁ」

唯『だからさ、食べに来ない?』

梓「えぇー…。律先輩とか呼べばいいじゃないですか」

唯『みんなバイトとかで忙しいんだってー』

唯『それに、一人で食べるのはちょっと寂しいから…』

梓「………」

梓「わかりました。今から行きますね」

唯『本当っ?!わーい!』

「寂しいから」
この言葉にどうも私は弱かった。
自分がそういう思いをしてるからなのか、そう言われるとつい断れなくなる。
私は唯先輩の家に向かった。

384 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/24(水) 04:23:10.74 ID:hhRXdGr2P [14/27]
【唯の家】

ピンポーン

唯「いいよ、入ってー!」

ガチャ

梓「お邪魔しま…うっ!」

焦げくさかった。
少し心配ではあったんだけど、案の定図星のようだ。

唯「えへへ、実はちょっと失敗しちゃってさ」

梓「これ、ちょっとどころの騒ぎじゃないんじゃ…」

唯「でも見てよ!ちゃんと出来たのもあるんだよ!」

そう言って見せてくれたのはクッキーだった。
動物やら星やらハートやらたくさんの型があった。

385 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/24(水) 04:26:38.34 ID:hhRXdGr2P [15/27]
唯「ね?おいしそうでしょ?」

梓「まぁ、確かに…」

梓「というか他の先輩方は忙しいみたいですけど、唯先輩は忙しくないんですか?」

唯「私だって忙しいよ!課題たまってるし!」ふんす

梓「いや、全然誇れませんからね…」

唯「まぁまぁ、たまには息抜きも必要なんだよ」

梓「息抜いてばっかな気もしますけど…」

唯「さっ、食べよ?」

梓「…はいっ」

相変わらずのマイペースっぷりだ。
でも、ちっとも憎めない。入部した時からそうだ。
この先輩には人を魅きつける不思議な力がある。
たぶん私も、それに魅かれてこの部に入部したのだろう。

386 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/24(水) 04:29:45.83 ID:hhRXdGr2P [16/27]
梓「うっぷ、もう食べれない…」

唯「な…なかなかお腹にたまるね。晩御飯は作らなくてよさそうかな」

結局2人で全部たいらげてしまった。
形は不格好なものが多かったけど、味はおいしかった。
私も、お菓子作りに挑戦しようかな。澪先輩のために。
そういえば、澪先輩ってどんなお菓子が好きなんだろう。

梓「………」

澪先輩のことを考えたら急に寂しくなった。
寂しい、会いたい。
今日…電話しよっかな。
そんなことを考えながらお茶を飲んでいると、唯先輩が口を開いた。

唯「ねぇ、あずにゃん」

梓「はい?」

唯「あずにゃんってさ、好きな人とかいるの?」

梓「えっ…?」


420 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/24(水) 22:25:16.57 ID:hhRXdGr2P [17/27]
突然のことだった。

梓「好きな人…ですか?」

唯「うん!」

梓「な、なんでいきなりそんな…」

唯「なんで?んー…」

唯「なんとなく♪」

なんとなく、か。
先輩らしいと言えばそうだけど。

唯「それで、いるのっ?」

梓「………」

423 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/24(水) 22:34:01.72 ID:hhRXdGr2P [18/27]
澪先輩の顔が頭に浮かぶ。
私が澪先輩と付き合ってるって言ったら唯先輩はどんな反応をするんだろう。
よろこんでくれる?それとも…。

梓「………」

唯「あずにゃん?」

梓「はっ、はい?!」

唯「言いたくないなら別にいいよ?」

梓「いえ…」

何を不安になっているんだ。
付き合っていることを報告する、たったそれだけのことじゃないか。
言おう、澪先輩のこと。

梓「…実は私、澪先輩と付き合ってるんです」

428 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/24(水) 22:43:36.54 ID:hhRXdGr2P [19/27]
唯「へっ?」

梓「で、ですからっ…!私、澪先輩と付き合ってるんです…//」

唯「………」

唯先輩は目をまんまるくし、その姿で固まった。
石になった、って表現すればいいのかな…。

唯「………」

梓「あの、唯先輩…?」

唯「ええぇえぇえぇぇっ?!!」

梓「ひっ!!」

そして我に返ったかと思いきや、大声を出して驚いていた。
そんなに衝撃的だったかなぁ…。

429 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/24(水) 22:49:28.90 ID:hhRXdGr2P [20/27]
唯「い、いつの間に澪ちゃんと…」

唯「それって最近?!」

梓「いえ、バレンタインデーの時からです…」

唯「っていうと、1…2…3ヶ月も経ってる!」

唯「…何で」

唯「何で教えてくれなかったのさ!ひどいよあずにゃん!」

梓「す、すみません…」

すごい剣幕で迫られた。
澪先輩と付き合ってたことはもちろんだが、ずっと黙ってたことの方がショックだったようだ。

431 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/24(水) 22:56:49.23 ID:hhRXdGr2P [21/27]
唯「んもう、あずにゃんのバカっ」

梓「すいません、隠してて…」

唯「それでさ、澪ちゃんとはどうなのっ?!」

梓「え、えぇーっ…」

唯先輩は興味津津だった。
こんな純粋な目で見られたら言わないわけにはいかなくなった。
結局私は澪先輩とのことを話した。
付き合った時のこととか、私といるときの澪先輩のこと。
この前ケンカしたことも話した。
唯先輩はどれも面白そうに聞いてくれた。

唯「へぇーっ、幸せそうでいいねぇ」

梓「えへへ…」

唯「やあねぇ惚気ちゃって!」

梓「そ、そんなつもりじゃっ…//」

433 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/24(水) 23:02:40.20 ID:hhRXdGr2P [22/27]
梓「そ、そういう唯先輩はどうなんですか!」

唯「ん?」

梓「好きな人です!私にだけ聞いといて自分は言わないなんてずるいですよ!」

唯「好きな人かぁ~」

唯「いるよ♪」

梓「へぇ…」

いるんだ、唯先輩にも好きな人が。
どんな人が好きなんだろう、私の知ってる人かな?

梓「だ、誰ですかっ?!」

唯「それはね…」








唯「あずにゃんだよ」


続きます

コメント

コメントの投稿

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)