スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
バレンタインデー
855 名前:バレンタインデー[] 投稿日:2010/10/24(日) 20:40:34.69 ID:s2qH.mAo [1/10]
とある先生の料理教室の続き。
ほンとは、次スレ行ってからにしようとしたんだけど勢いが無かったからうpるかな・・・。
勝手でサーセン
鈴科百合子は本屋で立ち読みをする。
綺麗な肌、綺麗な髪、綺麗なセーラー服、潔癖症かと思うような綺麗さ。
しかし、これは能力を使う事によっての魅せ方であって、彼女が努力したかしていないかとすれば、演算をちょこっとやっただけと答えるだろう。
そんな百合子が立ち読みをする本。ファッション誌でもなく、情報誌でもなく・・・漫画でもない。
『チョコクッキーの作り方』
日付は2月8日。来る、2月14日である。
「こんなン・・・すぐにでも演算組めば出来そォだが・・・」
と、立ち読みをしながら独り言。誰にも聞こえない独り言、自分に言い聞かせる独り言。
『苦労とは最高のスパイスなのです!!』
脳内でとある先生の声が再生した。先日行われた、料理教室での出来事であった。
それを思い出すと、能力だけを使っての料理はやりたくなくなる。
少しでも自分の手で作る・・・と、少し前までは遥かかなたへと消えてしまっていた、百合子なりの『乙女心』が燃え上がっていた。
「これが一番良さそうだな」
立ち読みを辞め、レジへと向かう。
金を払いすぐに店を出る。向かう先は、菓子キッチンであった。
「この日の為に、満員御礼の菓子キッチンを借りたンだ・・・絶対失敗できねェ・・・」
第七学区の、隅の方に存在する貸しキッチン。表記では『菓子キッチン』となっており、作成者なりのギャグを魅せつける。
だからと言って、百合子は別に何とも思わないが。
菓子キッチンは、注文をすれば材料が買えると言う所。もちろん持ちこみも大丈夫である。
2月初めは、イベントにより女の子がここを使う。予約は半年前からしないと無理なほどである。
そんな満員御礼の菓子キッチンをどうやって予約したのかは、警備員騒ぎのレベルだった。
「来たな」
「ええ・・・」
百合子が、菓子キッチンの待合室で待っていると結標が入口から入ってくる。
二人とも緊迫の雰囲気を醸し出す。
「契約、誰にあげるのかを言わない」
「分かっている、それはこっちも願ってるしなァ」
「じゃあここにサインを・・・」
結標はどこからか、用紙を出す。
それを見た百合子は少しばかりイライラしていた。
「時間がねェ、契約破ったら死ンでもいい。俺らには時間がねェンだよ」
「そ、そうね・・・」
856 名前:バレンタインデー[] 投稿日:2010/10/24(日) 20:41:16.99 ID:s2qH.mAo [2/10]
学園都市第一位である、鈴科百合子から出る風格が、結標を圧倒する。
相手が誰なのか、それがとても気になるが、自分が契約と言い張った以上絶対に聞けない。
結標自信誰にあげるのか・・・それも秘密であった。
百合子はさっそく材料をオーダーする。本に書いてある通りのチョコレートの量、砂糖、小麦粉などを注文していく。
結標は、道具を整理していた。能力は使っていない。この部屋に入った瞬間に、能力の使用は禁止。小萌の教えをきっちり守っていた。
数分後、オーダーした材料が届く。
この時期はチョコレートを大量に発注するのだろうか・・・と百合子は考えていたが、すぐに考えを消した。
「始めるぞ・・・俺達の戦いを」
「ええ・・・」
こうして二人の戦いは始めった。
「チョコレートは、切り刻むのか・・・」
トントントンと、軽やかなテンポで音が鳴り響く。
それぞれ適した量のチョコレートを切っていく。思いを込めて、切ってゆく。しかし・・・
「痛ッ・・・」
思いを込めすぎたのか、百合子から声が出る。
指を少しだけ切ってしまったようだった。
ちゅぱっと言う音がする。すぐに指を口の中に入れたのだ。
「大丈夫?」
と言いながら、結標はポケットから絆創膏を出す。
しかし、それを百合子は受け取らなかった。
「へ・・・いいンだよ。アイツには俺の血が入ったくらいがお似合いなンじゃねェか・・・?」
結標はゾクリっと背筋に寒気がし、鳥肌がたっていた。
顔は悪党面。しかし、考えている事は・・・少しばかり道を外した乙女である。
「そ、そう。まぁ気をつけて。チョコレート色じゃなくなったら、元も子もないわ」
「あァ、安心しろ」
また軽やかなテンポで、切っていく。
「ボウルに入れて、あらかじめ53℃のお湯を用意したから、湯せんにかけておくっとォ・・・」
「これでチョコレートはしばらく放置かしら?」
「違うな、薄力粉、コーンスターチ、ベーキングパウダーをふるっておく」
結標は言われた通りの物を、取り出しボウルにあけふるう。
ゆっくりと、ふるうのだった。
「あ・・・バターは常温でやわらかくしてるかァ?」
「ええ、大丈夫よ。問題ないわ」
857 名前:バレンタインデー[] 投稿日:2010/10/24(日) 20:41:48.77 ID:s2qH.mAo [3/10]
テキパキと結標と百合子は進めていた。
ここまでの時間、わずか5分である。菓子レストランのリミットは、1時間。それまでに作らなければタイムオーバーなのである。
延長は出来ない、後が詰まって居る為に出来ないのだった。
「天板にオーブンシートをひいて、180℃に予熱だ」
「分かったわ」
言われた通りに、する。オーブンは二台あったので、それぞれやるべき事をした。
またボウルを用意し、バターと粉糖を入れる。
「ハンドミキサーなンてつかわねェ。楽なんてしねェ、使うのは自分の腕だけだ」
そういって、書いてある『ハンドミキサーを使う』欄を無視する。
「ふふっ・・・」
「何笑ってンだよ」
結標は、手を口に当て笑っていた。
「ごめんなさい、ちょっと前の貴女なら『ハンドミキサーなンて使うのは原始人ですかァ?指先一本入れれば、こんなの余裕なンですゥ』みたいな事言ってたんじゃない?ましてや今は、ハンドミキサーすら使わないなんてね・・・」
百合子はそれを聞いて、少しだけ考える。
結標の言い分は当たっていた。そもそも、昔の自分は卵の殻を割ると言う料理において初歩的な所まで能力に頼っていた。
小萌に、説教をされ・・・最強のスパイスと言う物に惹かれ、自分は料理をするのが好きになってゆく。
あの時は確かに、最強のスパイスに惹かれていた・・・が、今の百合子の考えは違うのである。
「昔の俺ならそう言ったかもしれねェな・・・そして、ちょっと前の俺は『最強のスパイス』に惹かれて苦労して料理をしていた。だがな、今は違うンだよ」
結標はかき混ぜながら、百合子の演説を聞く。
百合子も演説しながら、かき混ぜていた。
カシャカシャカシャと金属がこすれる音が鳴り響くそのそばで。
「今は能力も何も無い自分がもしも居たとしたら・・・そうしたら、俺は何も出来ねェクズなンじゃねェかってな。時々夢を見る、能力が一切使えなくなる夢だ。俺はまともに歩くことも出来ねェ。風呂にすら入れねェ。能力が無ければ、意味の無い存在だった。だがな・・・料理が出来るにつれ、その夢はシフトしていくンだよ。必要とされる人間になって行くンだよ。ちょっと前の俺なら、無能力者の存在なんてあって無いような物だと認識していた。・・・だがな、能力が無くても何か一つ自慢出来る者があれば、俺が超能力者だろォが、俺はソイツに負けてンだよ!!」
結標は、また考える。
自分も同じなのではないかと・・・。
「そうね・・・私も座標移動っていう能力を持って、自分の能力が恐ろしいと思った時期があったわ。だけど、今はちゃんと修行して・・・トラウマも克服してる。だけど、いくら克服しても能力自体が無くなったら何の意味も無い。出来ればそういう風にはなりたくないけど、そう言う風になった時に何か一つでも出来れば強みになると思うわ」
結標も自分なりに考えた答えを言う。
二人をここまで、熱くさせたもの。料理・・・それを狙ったのは小萌である。
小萌は、ここまで上手く行くと思っていたのだろうか?と百合子は考える。答えを知るのは小萌だけ、と自問自答する。
そうして、感謝をするのだった。
「あァ・・・強みだ。その通りだな」
百合子も結標の考えに賛成する。
そうして、二人が自分の考えを伝えあう頃・・・に、ボウルの中の者は白っぽくなってくる。
858 名前:バレンタインデー[] 投稿日:2010/10/24(日) 20:43:11.75 ID:s2qH.mAo [4/10]
「そろそろ良いな。チョコレート入れるぞ」
「ええ、分かったわ」
チョコレートの入ったボウルから、生地の入ったボウルに移す。
ドロドロっとチョコレートが、入っていく。それを二人は慎重に行う。
「よし、無事に入ったなァ・・・」
「さて・・・次は・・・」
卵が二つ。
一人一つ右手に持って待機していた。
「卵ね」
「卵だなァ」
「覚えている?一番最初に料理した事」
「鮮明に覚えてる、ってかさっきも言ったしなァ」
卵を割るのにも能力が必要な能力者。
今は違う事が・・・証明される。
コンコンッ パカッ
そうして、またかき混ぜた。
「油断はしていないものの、卵を割る事自体はお手のものね」
「聞いて驚くな、最近打ち止めが出来るよォに・・・」
口が滑った、と百合子は思ってしまう。
結標は口の滑った百合子に驚きながらも、微笑する。
前にもこんな事があった。今見たいな小萌抜きで、料理をする時である。
うっかり、打ち止めの話しが出てしまうのは、百合子が学び、それを教えているからなのである。
結標はいいなと思った。人に教えると言う行為は、とても難しく、教える物に対して三倍以上理解していないと教えられない。
自分にも利益になるし、一人で作るより二人で作る方がモチベーションも上がる。
だが、百合子はまだ隠しているつもりなので、結標は知らないふりをしていた。口が滑っても微笑なのは、そのせいである。
(あぶねェ・・・また口が滑っちまったなァ・・・)
(打ち止めちゃんも呼べばいいのにね)
かき混ぜながら、いい具合になったら無言で粉類を加え、ゴムべらに持ちかえ、粉っぽくなるまで混ぜ合わせた。
しばらく続く、沈黙。
先ほどまで、喋っていたのが嘘のよう。
数分後、粉っぽくなくなった生地がそこにはあった。
859 名前:バレンタインデー[] 投稿日:2010/10/24(日) 20:44:20.77 ID:s2qH.mAo [5/10]
「よし、型取っていくわよ」
引き出しから、型抜きと、絞り袋を取り出す。
バリエーションを豊富にするために、この二つを使う事にしていた。
「私は最初に絞り袋使ってやるから、百合子は型抜きでお願いできるかしら?」
「あァ、俺はどっちでもいいしなァ・・・」
と言い、まっさきにハート型を取る百合子。
結標はまた顔がほくそ笑む。軽く引きつっていた。
「キモいぞ・・・オマエ・・・」
「あ、あはは、大丈夫よ!!」
絞り袋から出てくる生地をオーブンシートに2.7cmくらいに絞り出して行った。
間隔は2cmくらい空いており、慣れない手つきでやっていったので、崩れる所もある。結標は精一杯搾り取る、念をこめて。
百合子はどんどんハート型のクッキーを作っていく。バレンタインだからハート・・・と言う事なのだろうか、星や四角には一切手を出さなかった。
「バリエーション豊富にするんじゃなかったの?」
「え、あ・・・」
自分でも気付かないくらい、楽しんでやっていたらしい。と、結標は呆れる。
百合子は急いで、堅くならないうちに作りすぎたハートをまとめ、四角や星に直した。
「でもよォ・・・これ結構楽しくて、夢中になるぜェ?」
「そうなの?」
絞り袋と型を取り換え、今度は逆になる。
百合子も馴れない手つきでやっているが為に、絞り袋のほうは形があんまりよくなかった。
型のほうは、やはり最初はハートを作っている。
そうして、結標も百合子と同じ過ちをおかす。ハートを作りすぎるのだ。
「オマエもじゃねェか・・・」
「はっ・・・!!べ、別に好き嫌いじゃなくて、楽しんでるだけなのよ!?」
「はいはい、いいからそォいうの」
同じように、生地をまたまとめ、星や四角にしていく。
結局は、この二人は似た者同士だと言う事に後々気づくのであった。
「出来たな、あとはオーブンで焼けば完成だ」
「何分くらい?」
「17分だな。表記では15~20分になっているが・・・こォいう曖昧なのは未だに好きになれねェな」
百合子は本を見ながら文句を言う。
結標も同意して、文句を言う。
「分かる分かる、適量とかどれが適量なのか分からないわよね」
「そォなンだよなァ。それのせいで、打ち止めが・・・」
860 名前:バレンタインデー(やべぇ、結構長いって事に気付いた^q^)[] 投稿日:2010/10/24(日) 20:45:11.38 ID:s2qH.mAo [6/10]
また口が滑ったと共に、失敗談を話す所だったと百合子はそっぽを向く。
打ち止めが・・・と続くのは、適量のせいで、打ち止めなりの適量を入れたら、かなりしょっぱくなったと言う話しである。
よく見ていなかった百合子にも責任があったので、あの時は能力を使いそうになってしまった。
しかし、使わなかった。打ち止めが泣いて謝ったが、許した。次に最高の料理を作れば言い、と慰めをもしてしまうほど。
百合子は負けず嫌いだった。負けっぱなしは嫌な性格なのである。
「ふふ・・・」
「まァいい・・・待つぞ」
17分後。
その場に漂う、甘い匂いが百合子と結標の期待を膨らませた。
二人は、それぞれ自分の焼いたクッキーが入るオーブンレンジに手をかける。
開けると、先ほどまでの甘いにおいがさらに増幅した。
「これは・・・」
「とても美味しそうね・・・」
二人は驚いた顔をする。
これを作ったのは自分達、それが信じられないほど美味しそうだった。
「型の奴は割と綺麗に出来てンなァ・・・だが、絞り袋で絞ったほうは形が悪いな」
「そればかりはやっぱりね・・・こっちは、友達用にしようかしら」
「あァ、それが良いかもな」
結標に友達が居るのか居ないのかはともかく。
オーブンレンジから、クッキーを取り出し、皿に並べる。
最初から、飾り付けはしないつもりでいた。見て楽しむ・・・と言うのは、まだ二人には早い。そう自覚したのだった。
百合子は味見に一つだけ食べてみる。
ポリポリと、苦労して作ったクッキーを味わってかみしめた。
「うめェじゃねェか・・・なンだこれ、本当に俺が作ったのかよ」
「一つ頂いてもいいかしら?」
「あァ」
皿から一番小さそうなのを一つ取り、口へ運ぶ。
甘いチョコレートの味が口の中で広がる。
結標は、味わって食べる・・・美味しいか美味しくないか、自分では美味しいと思って食べたクッキーだが、他の奴はどうなのか、それが気になっている百合子だった。
「ど、どォだ?」
思わず聞いてしまう。
早く結果が知りたかった。
「美味しいわ・・・本当に。作りたてだから、市販で売ってるのより全然美味しい。ううん、比べたら貴女に失礼なくらい」
「・・・へっ」
百合子は思わず、笑ってしまった。
笑顔だった、とびっきりの笑顔。
結標はそれを見て、つられて笑ってしまう。幸せな空間がそこにはあった。
861 名前:バレンタインデー[] 投稿日:2010/10/24(日) 20:46:10.63 ID:s2qH.mAo [7/10]
「私のも食べてくれないかしら?」
「あァ」
百合子は、結標が作ったクッキーを掴む。こちらもチョコレートの匂いが香ばしく、食欲をそそる。
口へ早く運びたくなる、そういった間隔に陥るほど、美味しそうなクッキーである。
口の中へ運ぶと、奥歯でかみしめる。ちょうど良い食感が快感を産み、それと共にやってくる甘さが口の中を幸せにする。
「うめェ・・・うめェぞ!!なンだ、これ・・・本当にオマエが作ったのかよォ!?」
「ほ、本当!?私よ!保証人は貴女じゃない!私が作ったのよ!!」
結標も笑う。百合子も笑う。
料理は大成功。あえて失敗だったと言えば、怪我をしたくらいである。
しかし、それも失敗ではなく『苦労というスパイス』としてクッキーの味を引き立てている。
事実上失敗ではなかったのだ。
「さて。そろそろ時間だな。さっさと袋に詰めて出るぞ」
「ええ・・・楽しかったわ」
「あァ、楽しいな」
「またやりましょう」
「アハ・・・そォだな」
帰る支度をする。
まだ甘いにおいが空間を支配する、その場で。
862 名前:バレンタインデー終わり[] 投稿日:2010/10/24(日) 20:47:12.78 ID:s2qH.mAo [8/10]
そうして、来る2月14日。
百合子は、とある公園に居た。
「連絡はした、誰も居ない所、作ったクッキーは完全保存、技術により出来たて同様・・・完璧じゃねェか」
ベンチに座り、待ち人を待つ。
天気は晴れ。まるで太陽が、その日にチョコレートを渡す女性を応援しているようだった。
「へ・・・さみィな・・・」
マフラーをしていたが、寒かった。
この時期にスカートのセーラー服は、やはり不便だと思いつつ、待っていた。
「よう、待たせたな」
待ち人が来た。
「おせェンだよ・・・」
「何の用だ?」
「てめェ、日付くらい確認したらどォなンだ?」
「バレンタインデーか?」
百合子の顔は赤くなる。
耳まで、先ほどまで寒かったのが嘘のように体が熱くなる。
「そォいうことだよ。ほらよ・・・」
腕が伸びる、手の先にはあの時作ったチョコレートクッキー。
あの時料理に目覚めてから、目標としてきた事が達成した瞬間である。
「じゃァな・・・味わって食えよ」
「おい・・・」
逃げるように去る、百合子を止める。
百合子は思わず足を止めてしまうのであった。
男が百合子へ近づく。
「お前が、料理とはな。はっは、純粋に嬉しいってか・・・ありがとうよ」
男がそう言うと、百合子はすぐに立ち去ってしまった。
身体の体温が最高潮まで達する。
ありがとうと言ってもらった、自分の作った物をアイツが食べる、そう思っただけで恥ずかしくなる。
「馬鹿・・・やろ・・・」
そうして百合子のチョコレート作戦は終わりを告げた。
とある先生の料理教室の続き。
ほンとは、次スレ行ってからにしようとしたんだけど勢いが無かったからうpるかな・・・。
勝手でサーセン
鈴科百合子は本屋で立ち読みをする。
綺麗な肌、綺麗な髪、綺麗なセーラー服、潔癖症かと思うような綺麗さ。
しかし、これは能力を使う事によっての魅せ方であって、彼女が努力したかしていないかとすれば、演算をちょこっとやっただけと答えるだろう。
そんな百合子が立ち読みをする本。ファッション誌でもなく、情報誌でもなく・・・漫画でもない。
『チョコクッキーの作り方』
日付は2月8日。来る、2月14日である。
「こんなン・・・すぐにでも演算組めば出来そォだが・・・」
と、立ち読みをしながら独り言。誰にも聞こえない独り言、自分に言い聞かせる独り言。
『苦労とは最高のスパイスなのです!!』
脳内でとある先生の声が再生した。先日行われた、料理教室での出来事であった。
それを思い出すと、能力だけを使っての料理はやりたくなくなる。
少しでも自分の手で作る・・・と、少し前までは遥かかなたへと消えてしまっていた、百合子なりの『乙女心』が燃え上がっていた。
「これが一番良さそうだな」
立ち読みを辞め、レジへと向かう。
金を払いすぐに店を出る。向かう先は、菓子キッチンであった。
「この日の為に、満員御礼の菓子キッチンを借りたンだ・・・絶対失敗できねェ・・・」
第七学区の、隅の方に存在する貸しキッチン。表記では『菓子キッチン』となっており、作成者なりのギャグを魅せつける。
だからと言って、百合子は別に何とも思わないが。
菓子キッチンは、注文をすれば材料が買えると言う所。もちろん持ちこみも大丈夫である。
2月初めは、イベントにより女の子がここを使う。予約は半年前からしないと無理なほどである。
そんな満員御礼の菓子キッチンをどうやって予約したのかは、警備員騒ぎのレベルだった。
「来たな」
「ええ・・・」
百合子が、菓子キッチンの待合室で待っていると結標が入口から入ってくる。
二人とも緊迫の雰囲気を醸し出す。
「契約、誰にあげるのかを言わない」
「分かっている、それはこっちも願ってるしなァ」
「じゃあここにサインを・・・」
結標はどこからか、用紙を出す。
それを見た百合子は少しばかりイライラしていた。
「時間がねェ、契約破ったら死ンでもいい。俺らには時間がねェンだよ」
「そ、そうね・・・」
856 名前:バレンタインデー[] 投稿日:2010/10/24(日) 20:41:16.99 ID:s2qH.mAo [2/10]
学園都市第一位である、鈴科百合子から出る風格が、結標を圧倒する。
相手が誰なのか、それがとても気になるが、自分が契約と言い張った以上絶対に聞けない。
結標自信誰にあげるのか・・・それも秘密であった。
百合子はさっそく材料をオーダーする。本に書いてある通りのチョコレートの量、砂糖、小麦粉などを注文していく。
結標は、道具を整理していた。能力は使っていない。この部屋に入った瞬間に、能力の使用は禁止。小萌の教えをきっちり守っていた。
数分後、オーダーした材料が届く。
この時期はチョコレートを大量に発注するのだろうか・・・と百合子は考えていたが、すぐに考えを消した。
「始めるぞ・・・俺達の戦いを」
「ええ・・・」
こうして二人の戦いは始めった。
「チョコレートは、切り刻むのか・・・」
トントントンと、軽やかなテンポで音が鳴り響く。
それぞれ適した量のチョコレートを切っていく。思いを込めて、切ってゆく。しかし・・・
「痛ッ・・・」
思いを込めすぎたのか、百合子から声が出る。
指を少しだけ切ってしまったようだった。
ちゅぱっと言う音がする。すぐに指を口の中に入れたのだ。
「大丈夫?」
と言いながら、結標はポケットから絆創膏を出す。
しかし、それを百合子は受け取らなかった。
「へ・・・いいンだよ。アイツには俺の血が入ったくらいがお似合いなンじゃねェか・・・?」
結標はゾクリっと背筋に寒気がし、鳥肌がたっていた。
顔は悪党面。しかし、考えている事は・・・少しばかり道を外した乙女である。
「そ、そう。まぁ気をつけて。チョコレート色じゃなくなったら、元も子もないわ」
「あァ、安心しろ」
また軽やかなテンポで、切っていく。
「ボウルに入れて、あらかじめ53℃のお湯を用意したから、湯せんにかけておくっとォ・・・」
「これでチョコレートはしばらく放置かしら?」
「違うな、薄力粉、コーンスターチ、ベーキングパウダーをふるっておく」
結標は言われた通りの物を、取り出しボウルにあけふるう。
ゆっくりと、ふるうのだった。
「あ・・・バターは常温でやわらかくしてるかァ?」
「ええ、大丈夫よ。問題ないわ」
857 名前:バレンタインデー[] 投稿日:2010/10/24(日) 20:41:48.77 ID:s2qH.mAo [3/10]
テキパキと結標と百合子は進めていた。
ここまでの時間、わずか5分である。菓子レストランのリミットは、1時間。それまでに作らなければタイムオーバーなのである。
延長は出来ない、後が詰まって居る為に出来ないのだった。
「天板にオーブンシートをひいて、180℃に予熱だ」
「分かったわ」
言われた通りに、する。オーブンは二台あったので、それぞれやるべき事をした。
またボウルを用意し、バターと粉糖を入れる。
「ハンドミキサーなンてつかわねェ。楽なんてしねェ、使うのは自分の腕だけだ」
そういって、書いてある『ハンドミキサーを使う』欄を無視する。
「ふふっ・・・」
「何笑ってンだよ」
結標は、手を口に当て笑っていた。
「ごめんなさい、ちょっと前の貴女なら『ハンドミキサーなンて使うのは原始人ですかァ?指先一本入れれば、こんなの余裕なンですゥ』みたいな事言ってたんじゃない?ましてや今は、ハンドミキサーすら使わないなんてね・・・」
百合子はそれを聞いて、少しだけ考える。
結標の言い分は当たっていた。そもそも、昔の自分は卵の殻を割ると言う料理において初歩的な所まで能力に頼っていた。
小萌に、説教をされ・・・最強のスパイスと言う物に惹かれ、自分は料理をするのが好きになってゆく。
あの時は確かに、最強のスパイスに惹かれていた・・・が、今の百合子の考えは違うのである。
「昔の俺ならそう言ったかもしれねェな・・・そして、ちょっと前の俺は『最強のスパイス』に惹かれて苦労して料理をしていた。だがな、今は違うンだよ」
結標はかき混ぜながら、百合子の演説を聞く。
百合子も演説しながら、かき混ぜていた。
カシャカシャカシャと金属がこすれる音が鳴り響くそのそばで。
「今は能力も何も無い自分がもしも居たとしたら・・・そうしたら、俺は何も出来ねェクズなンじゃねェかってな。時々夢を見る、能力が一切使えなくなる夢だ。俺はまともに歩くことも出来ねェ。風呂にすら入れねェ。能力が無ければ、意味の無い存在だった。だがな・・・料理が出来るにつれ、その夢はシフトしていくンだよ。必要とされる人間になって行くンだよ。ちょっと前の俺なら、無能力者の存在なんてあって無いような物だと認識していた。・・・だがな、能力が無くても何か一つ自慢出来る者があれば、俺が超能力者だろォが、俺はソイツに負けてンだよ!!」
結標は、また考える。
自分も同じなのではないかと・・・。
「そうね・・・私も座標移動っていう能力を持って、自分の能力が恐ろしいと思った時期があったわ。だけど、今はちゃんと修行して・・・トラウマも克服してる。だけど、いくら克服しても能力自体が無くなったら何の意味も無い。出来ればそういう風にはなりたくないけど、そう言う風になった時に何か一つでも出来れば強みになると思うわ」
結標も自分なりに考えた答えを言う。
二人をここまで、熱くさせたもの。料理・・・それを狙ったのは小萌である。
小萌は、ここまで上手く行くと思っていたのだろうか?と百合子は考える。答えを知るのは小萌だけ、と自問自答する。
そうして、感謝をするのだった。
「あァ・・・強みだ。その通りだな」
百合子も結標の考えに賛成する。
そうして、二人が自分の考えを伝えあう頃・・・に、ボウルの中の者は白っぽくなってくる。
858 名前:バレンタインデー[] 投稿日:2010/10/24(日) 20:43:11.75 ID:s2qH.mAo [4/10]
「そろそろ良いな。チョコレート入れるぞ」
「ええ、分かったわ」
チョコレートの入ったボウルから、生地の入ったボウルに移す。
ドロドロっとチョコレートが、入っていく。それを二人は慎重に行う。
「よし、無事に入ったなァ・・・」
「さて・・・次は・・・」
卵が二つ。
一人一つ右手に持って待機していた。
「卵ね」
「卵だなァ」
「覚えている?一番最初に料理した事」
「鮮明に覚えてる、ってかさっきも言ったしなァ」
卵を割るのにも能力が必要な能力者。
今は違う事が・・・証明される。
コンコンッ パカッ
そうして、またかき混ぜた。
「油断はしていないものの、卵を割る事自体はお手のものね」
「聞いて驚くな、最近打ち止めが出来るよォに・・・」
口が滑った、と百合子は思ってしまう。
結標は口の滑った百合子に驚きながらも、微笑する。
前にもこんな事があった。今見たいな小萌抜きで、料理をする時である。
うっかり、打ち止めの話しが出てしまうのは、百合子が学び、それを教えているからなのである。
結標はいいなと思った。人に教えると言う行為は、とても難しく、教える物に対して三倍以上理解していないと教えられない。
自分にも利益になるし、一人で作るより二人で作る方がモチベーションも上がる。
だが、百合子はまだ隠しているつもりなので、結標は知らないふりをしていた。口が滑っても微笑なのは、そのせいである。
(あぶねェ・・・また口が滑っちまったなァ・・・)
(打ち止めちゃんも呼べばいいのにね)
かき混ぜながら、いい具合になったら無言で粉類を加え、ゴムべらに持ちかえ、粉っぽくなるまで混ぜ合わせた。
しばらく続く、沈黙。
先ほどまで、喋っていたのが嘘のよう。
数分後、粉っぽくなくなった生地がそこにはあった。
859 名前:バレンタインデー[] 投稿日:2010/10/24(日) 20:44:20.77 ID:s2qH.mAo [5/10]
「よし、型取っていくわよ」
引き出しから、型抜きと、絞り袋を取り出す。
バリエーションを豊富にするために、この二つを使う事にしていた。
「私は最初に絞り袋使ってやるから、百合子は型抜きでお願いできるかしら?」
「あァ、俺はどっちでもいいしなァ・・・」
と言い、まっさきにハート型を取る百合子。
結標はまた顔がほくそ笑む。軽く引きつっていた。
「キモいぞ・・・オマエ・・・」
「あ、あはは、大丈夫よ!!」
絞り袋から出てくる生地をオーブンシートに2.7cmくらいに絞り出して行った。
間隔は2cmくらい空いており、慣れない手つきでやっていったので、崩れる所もある。結標は精一杯搾り取る、念をこめて。
百合子はどんどんハート型のクッキーを作っていく。バレンタインだからハート・・・と言う事なのだろうか、星や四角には一切手を出さなかった。
「バリエーション豊富にするんじゃなかったの?」
「え、あ・・・」
自分でも気付かないくらい、楽しんでやっていたらしい。と、結標は呆れる。
百合子は急いで、堅くならないうちに作りすぎたハートをまとめ、四角や星に直した。
「でもよォ・・・これ結構楽しくて、夢中になるぜェ?」
「そうなの?」
絞り袋と型を取り換え、今度は逆になる。
百合子も馴れない手つきでやっているが為に、絞り袋のほうは形があんまりよくなかった。
型のほうは、やはり最初はハートを作っている。
そうして、結標も百合子と同じ過ちをおかす。ハートを作りすぎるのだ。
「オマエもじゃねェか・・・」
「はっ・・・!!べ、別に好き嫌いじゃなくて、楽しんでるだけなのよ!?」
「はいはい、いいからそォいうの」
同じように、生地をまたまとめ、星や四角にしていく。
結局は、この二人は似た者同士だと言う事に後々気づくのであった。
「出来たな、あとはオーブンで焼けば完成だ」
「何分くらい?」
「17分だな。表記では15~20分になっているが・・・こォいう曖昧なのは未だに好きになれねェな」
百合子は本を見ながら文句を言う。
結標も同意して、文句を言う。
「分かる分かる、適量とかどれが適量なのか分からないわよね」
「そォなンだよなァ。それのせいで、打ち止めが・・・」
860 名前:バレンタインデー(やべぇ、結構長いって事に気付いた^q^)[] 投稿日:2010/10/24(日) 20:45:11.38 ID:s2qH.mAo [6/10]
また口が滑ったと共に、失敗談を話す所だったと百合子はそっぽを向く。
打ち止めが・・・と続くのは、適量のせいで、打ち止めなりの適量を入れたら、かなりしょっぱくなったと言う話しである。
よく見ていなかった百合子にも責任があったので、あの時は能力を使いそうになってしまった。
しかし、使わなかった。打ち止めが泣いて謝ったが、許した。次に最高の料理を作れば言い、と慰めをもしてしまうほど。
百合子は負けず嫌いだった。負けっぱなしは嫌な性格なのである。
「ふふ・・・」
「まァいい・・・待つぞ」
17分後。
その場に漂う、甘い匂いが百合子と結標の期待を膨らませた。
二人は、それぞれ自分の焼いたクッキーが入るオーブンレンジに手をかける。
開けると、先ほどまでの甘いにおいがさらに増幅した。
「これは・・・」
「とても美味しそうね・・・」
二人は驚いた顔をする。
これを作ったのは自分達、それが信じられないほど美味しそうだった。
「型の奴は割と綺麗に出来てンなァ・・・だが、絞り袋で絞ったほうは形が悪いな」
「そればかりはやっぱりね・・・こっちは、友達用にしようかしら」
「あァ、それが良いかもな」
結標に友達が居るのか居ないのかはともかく。
オーブンレンジから、クッキーを取り出し、皿に並べる。
最初から、飾り付けはしないつもりでいた。見て楽しむ・・・と言うのは、まだ二人には早い。そう自覚したのだった。
百合子は味見に一つだけ食べてみる。
ポリポリと、苦労して作ったクッキーを味わってかみしめた。
「うめェじゃねェか・・・なンだこれ、本当に俺が作ったのかよ」
「一つ頂いてもいいかしら?」
「あァ」
皿から一番小さそうなのを一つ取り、口へ運ぶ。
甘いチョコレートの味が口の中で広がる。
結標は、味わって食べる・・・美味しいか美味しくないか、自分では美味しいと思って食べたクッキーだが、他の奴はどうなのか、それが気になっている百合子だった。
「ど、どォだ?」
思わず聞いてしまう。
早く結果が知りたかった。
「美味しいわ・・・本当に。作りたてだから、市販で売ってるのより全然美味しい。ううん、比べたら貴女に失礼なくらい」
「・・・へっ」
百合子は思わず、笑ってしまった。
笑顔だった、とびっきりの笑顔。
結標はそれを見て、つられて笑ってしまう。幸せな空間がそこにはあった。
861 名前:バレンタインデー[] 投稿日:2010/10/24(日) 20:46:10.63 ID:s2qH.mAo [7/10]
「私のも食べてくれないかしら?」
「あァ」
百合子は、結標が作ったクッキーを掴む。こちらもチョコレートの匂いが香ばしく、食欲をそそる。
口へ早く運びたくなる、そういった間隔に陥るほど、美味しそうなクッキーである。
口の中へ運ぶと、奥歯でかみしめる。ちょうど良い食感が快感を産み、それと共にやってくる甘さが口の中を幸せにする。
「うめェ・・・うめェぞ!!なンだ、これ・・・本当にオマエが作ったのかよォ!?」
「ほ、本当!?私よ!保証人は貴女じゃない!私が作ったのよ!!」
結標も笑う。百合子も笑う。
料理は大成功。あえて失敗だったと言えば、怪我をしたくらいである。
しかし、それも失敗ではなく『苦労というスパイス』としてクッキーの味を引き立てている。
事実上失敗ではなかったのだ。
「さて。そろそろ時間だな。さっさと袋に詰めて出るぞ」
「ええ・・・楽しかったわ」
「あァ、楽しいな」
「またやりましょう」
「アハ・・・そォだな」
帰る支度をする。
まだ甘いにおいが空間を支配する、その場で。
862 名前:バレンタインデー終わり[] 投稿日:2010/10/24(日) 20:47:12.78 ID:s2qH.mAo [8/10]
そうして、来る2月14日。
百合子は、とある公園に居た。
「連絡はした、誰も居ない所、作ったクッキーは完全保存、技術により出来たて同様・・・完璧じゃねェか」
ベンチに座り、待ち人を待つ。
天気は晴れ。まるで太陽が、その日にチョコレートを渡す女性を応援しているようだった。
「へ・・・さみィな・・・」
マフラーをしていたが、寒かった。
この時期にスカートのセーラー服は、やはり不便だと思いつつ、待っていた。
「よう、待たせたな」
待ち人が来た。
「おせェンだよ・・・」
「何の用だ?」
「てめェ、日付くらい確認したらどォなンだ?」
「バレンタインデーか?」
百合子の顔は赤くなる。
耳まで、先ほどまで寒かったのが嘘のように体が熱くなる。
「そォいうことだよ。ほらよ・・・」
腕が伸びる、手の先にはあの時作ったチョコレートクッキー。
あの時料理に目覚めてから、目標としてきた事が達成した瞬間である。
「じゃァな・・・味わって食えよ」
「おい・・・」
逃げるように去る、百合子を止める。
百合子は思わず足を止めてしまうのであった。
男が百合子へ近づく。
「お前が、料理とはな。はっは、純粋に嬉しいってか・・・ありがとうよ」
男がそう言うと、百合子はすぐに立ち去ってしまった。
身体の体温が最高潮まで達する。
ありがとうと言ってもらった、自分の作った物をアイツが食べる、そう思っただけで恥ずかしくなる。
「馬鹿・・・やろ・・・」
そうして百合子のチョコレート作戦は終わりを告げた。
Tag : とあるSS総合スレ
<<マルセイユ「キスしてもらわないと発作を起こす病気にかかった」 | ホーム | サーニャ「世界大戦?」>>
コメント
コメントの投稿
トラックバック
| ホーム |