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唯「愛」

未完
1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/18(土) 00:04:19.28 ID:Y/irwzvl0
唯「はぁっ……はぁっ……」

たった一人、黒のコントラクトの綺麗な廊下を走っていた。
目の前は真っ暗でなにも見えず、脚に全力を注ぐだけでとにかく走る。

その目的は二つ。

一つは奴から逃げる事。

もう一つは――。

唯「はぁっ……はぁっ……待ってて……」

もう自分が臆病だなんて知らなかった。
それに神経を使う余裕なんて唯にはなかったし、あるはずがなかった。
後ろからやってくる恐怖など物ともしない、強い心。
その心がある限り唯は、走ることを決してやめなかった。

守りたいものがあるから……。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 00:10:05.50 ID:nJl86WHG0 [1/41]
唯「あれ?」

桜ケ丘高等学校卒業後、短い間ではあるが休みを設けた唯は午前10時過ぎにリビングへ顔を出した。
しかし、そこに待っていたのはお母さんでもなくお父さんでもなく、憂でもなく。

唯「……」

無人の空間の主人公は、テーブルに置かれた置き手紙。
唯はその手紙を一瞥して、もう一度辺りを見回してみた。

唯「あ……そっか」

そう、やっと思いだした。
今日は紬に招かれて、例の別荘に新3年組でお泊まりに行っているのだ。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 00:17:37.93 ID:nJl86WHG0 [2/41]
唯「そっか~」

誰の反応を求めているわけでもなく、独り言を吐くと唯はその手紙を取った。
内容はごく一般的なお手紙のスタイルで、簡潔に纏められている。
晩御飯の件、戸締りの件と色々な注意事項が綺麗な羅列を作っている。

唯「いいなぁ、憂は~……」

唯は嘆息をもらして、重たい腰を地面に座らせた。
そしてなにもせずただ虚空に呟きを、

唯「もう卒業したんだっけ……」

その様子は忘れ事を思い出したみたいな感じであった。
感慨に耽るだけで一日が終わってしまいそうな感覚に落ちた。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 00:27:37.09 ID:nJl86WHG0 [3/41]
こうやって一人の空間を楽しむのもいいかも、そんな事を考えて寂しさを埋める他なかった。
やっぱり居るべき人が、居ないとなると寂しいものである。

唯「……ほげ~」

唯「そうだ、ギターの練習でも……あっ」

暇さえあればギターを弄くっていた唯だが、その目的は自分の腕を磨くだけではない。
放課後ティータイムという居場所で迷惑をかけないように、練習をしていたという理由が大多数を占めていた。
ギターを触る必要性はあるのかと自分に問いかけてみる。

唯「……」

唯「ないね……」

梓が居ない放課後ティータイムは、放課後ティータイムではないのだ。
梓にも受験やらが待ち受けているわけだし、ここは一時休止!と団長が言っているわけだ。
寂しくはあるが勿論異議なしであった。

唯「あ~あ、なにやろうかな……」

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 00:34:22.60 ID:nJl86WHG0 [4/41]
やることが見つからない。
居場所を取り上げられだけで、ここまで暇になるのかと切に実感した。
やるとことがないので、これからの自分を妄想してみる。

唯「大学生かぁ……どんな事するんだろうなぁ……勉強とか難しいかなぁ……」

唯「私、一人暮らしとかできるかなぁ……憂が居なくても……」

唯「……」

唯「憂がいない……そっか……」

もし一人で生活するとなると、ずっとこの調子で毎日を淡々と過ごすことになる。
この忠実に再現された空間でこの妄想は、唯の不安を大きく膨らませた。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 00:42:44.14 ID:nJl86WHG0 [5/41]
ご飯も一人で作らなくちゃいけない。
お風呂も洗って、洗濯したり食器を洗ったり……。
ちゃんとこの試練を乗り越えれるか心配であったが、一番の不安はやはり憂の存在がなくなってしまう事だった。
生涯、ずっと生活を共にしてきた妹と離ればなれになってしまう。

唯「……」

急に寂しい気持ちが心にモヤモヤを作って、唯を悩ませた。
このモヤモヤは嫉妬に値するだろう、しかしそんなこと唯にわかるわけがない。
ずっと一緒にいて、こんな想い抱いた事すらないのだから仕方がない。

唯「憂がいないと……こんな風になるんだね……」

本当に妹の大切さが身に沁みた。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 00:50:36.37 ID:nJl86WHG0 [6/41]
唯「……」

しかし、いつまでもウジウジしていては何も始まらない。
これから一人で生きていかなくてはならないのだから、もっとポジティブに考えなければ。

これは試練、大人になる為の試練なんだ。これが出来て私は初めて卒業なんだ。

唯「憂、私一人でも出来るよっ……」

胸の前で小さな握り拳を作り、勢いよく立ち上がった。

唯「なんでも一人でできるもん!」

そしてその両手を可愛げに真上へ突き出し、満面の笑みを浮かべて決意を新たにしたのであった。

唯「あいてっ、いてて、つった!足が!!う、うい助けて、いたた」

たぶん。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 01:01:17.72 ID:nJl86WHG0 [7/41]
午前11時半、朝ご飯を自分で作ってみる。
そうはりきって、唯は台所へ向かうと着慣れないエプロンを纏って冷蔵庫から卵を取った。
こんな昼前になにを作るのかというと、それはモーニングで定番のアレ。

唯「卵焼きくらいできるよ~、あれ目玉焼きだっけ?まあどっちも一緒だよね」

真新しいフライパンを用意して、その上に卵を乗せて加熱を始めた。
割ってない卵を加熱しても、卵焼きには成り得ないし、目玉焼きにもならない。
それに気付いたのは加熱し始めて、4分が経過した頃であった。

唯「あっ!割ってない!」

フライパンに手を突っ込んで、卵を鷲掴みにする。

唯「あづっ!!」

当然、過熱されたフライパンで火傷を負って卵は虚しく地面へ落っこちるのであった。

ベチョ――。

唯「……」

お料理はまだ難しかったようである。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 01:09:03.16 ID:nJl86WHG0 [8/41]
戒めにお昼ご飯を食べないまま、次の訓練に取りかかる。
次の訓練は洗濯物を干す作業なのだが、

唯「うん、すごい、できたぁ」

ギラギラと紫外線を放出する日光を無視して、唯は部屋干しを終えた。
自分へのご褒美としてこれからお昼ご飯を作るらしい。

唯「お昼お昼、ごはんはおかず~♪」

炊飯器を軽い気持ちで開けたことに、後々後悔するのは言うまでもない。

唯「あれ……ごはんは……?」

お米を炊いてないのだから、ご飯がそこにあるわけがない。
ごはんをおかずにする以前の問題であった。

唯「……」

唯「どうやって炊くんだろう……お米って……ああもうわかんないよぉ……」

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 01:20:37.27 ID:nJl86WHG0 [9/41]
あれこれ過ぎて午後6時前。
なんとかインスタント食品で空腹を満たすことはできたが、無念である。
憂の大変さを知って諦めた唯は、結局なにも達成できなかった。

唯「……」

テーブルに顎を座らせて落ち着こうと試みるが、複雑な気持ちが足を引きずってそわそわしてしまう。
今の自分に一人暮らしは荷が重すぎる、だからこのままでいいや。
大人になると宣言したわりには、早すぎる妥協に自分でも驚いていた。

私って駄目だなぁ――。

唯「……」

唯「はぁ……」

唯「……」

唯「うい~……早く帰ってきてよぉ……」

駄目な姉でも構わない、自分には無理だと判断したらそれでおしまい。
これでいいんだ、私はどうせ一人で生きていけないのだから。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 01:30:44.78 ID:nJl86WHG0 [10/41]
唯「はぁ……」

今日はテレビはよく喋るなぁ――。

唯「……」

この時間帯は普段憂とグダグダ喋っている時間帯で、今回はその相手が居ない故、テレビがやけに五月蝿く聞こえる。
テレビに話しかけても意思疎通のキャッチボールはできない。
一人暮らしだとこれが当たり前になる。
唯はますます怖くなって、自分の頭をワシワシと掻いた。

唯「やだぁ……一人はヤダよォ……絶対嫌……」

唯「うい~……帰ってきて~……はやく~……」

すると、

プルルルルル――。

唯「ぉお、ビックリした……」

携帯がけたたましい音を聞かせ、ブルブル振動する。
誰かから電話がかかってきたみたいだ。

唯「えっ、うい?憂だ!」

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 01:46:36.29 ID:nJl86WHG0 [11/41]
勢い余って切るボタンを押してしまいそうになったが、ギリギリのラインで電話に出る事ができた。
携帯を耳に押し付けて、向こう側の声を聞く前にこちらから挨拶を言う。
妹と会話がしたくて堪らないのだ。

唯「もしもし!?うい!?寂しいよォ憂!帰って来てよォ!」

近所迷惑も承知でこの寂しさを声に乗せて届けた。
その声が届くのを待ってじっと耳をすましてみる。

唯「うい~、うい?」

唯「……」

応答がない。
物音は聞こえるが肝心の憂の声が聞こえてこない。
唯は顔を顰めて、もう一度憂の名前を呼んだ。

その時、

唯「うい……?なn」

憂「お、お姉ちゃん……?」

唯「う、うい……うい?うい?」

やっと憂の酷く震えた声が返ってきた。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 01:54:54.30 ID:nJl86WHG0 [12/41]
憂「なんで……どうして……」

唯「うい?本当に憂?」

憂「うん……私だよ……」

そんなことわかっているのだが、この妙な感じはなんだろう。
明らかにこれは異質であると唯の第6感が警告を放つ。

唯「どうしたの……?なにがあったの……?」

これはなにかあったんだ。憂にとって最悪と言える事態が起きたんだ。
この時点でこっちもパニックになってしまいそうだったが、それを抑えて冷静に質問を投げた。
すると返ってきた答えがあまりにも愚直で、簡潔で、信じ難くて。唯は絶句をするハメになったのであった。

憂「閉じ込められたの……怖いよお姉ちゃん……・怖い……」

唯「……」

閉じ込められた――って?

聞き返したかったが声が出ない。
憂の怯えた悲鳴が、頭をグルングルンと回転して止まなかった。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 02:06:25.01 ID:nJl86WHG0 [13/41]
一時の間を置いて、憂は出来る限りの現状を伝え始めた。

憂「いきなり電気が消えたの……それから、いつまで経っても点かなくて……そ、それで怖くなったの……」

唯「……」

憂「この建物には紬さんと、純ちゃんと……梓ちゃんしかいなくて……でもはぐれちゃって……く、暗くてよく、わからなかったから……」

支離滅裂気味な憂の説明を一生懸命理解しようとする、が。
頭がついていけず、ある意味で放心状態を余儀無くされた。

憂「警察とか……沢山電話をかけたんだけど繋がらなくて……」

憂「お、お姉ちゃんにかけたら繋がって……ど、どうして?なんで?怖いよ……」

唯「……えっ?」

どうやら色々な所に沢山電話をかけたらしい。
しかしどれも繋がらなくて、試しに唯に電話をかけてみたところ唯一繋がったという。
その不可解さが更なる恐怖をかり立てて、憂の精神を混乱させた。

唯「……」

かけて良い言葉が見つからない。
イマイチ意味がわからないし、意味がわかったとしてもどうしたらいいか想像もつかなかった。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 02:20:15.75 ID:nJl86WHG0 [14/41]
憂「怖い……ううっ……怖いよぉ……」

唯「……」

大好きな妹が、頼りになるあの憂が怯えてるのだから私がどうにかできる問題じゃない。
それくらい瞬時に把握できる、だって私は一人で生きていく事さえも困難な状態なのだから。

だから言って……放っておくわけにはいかない。
でも、私なんかが力になれるのかどうか……。

ガチャッ――。

唯「えっ?」

唐突にはっきりと聞こえてきた、扉を開ける音。
音の出所は平沢家ではなく、携帯の向こう側、憂の居場所からであった。

憂「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……やだ……きてる……」

憂の呼吸が荒ただしくなる。

ギシ――ギシ。

床の軋む音が、歩いている姿を想像させた。
しかし歩いているのは明らかに憂ではなく他の誰かである。
ギシギシと床が鳴る程、重い知り合いの該当は一人しかなく、しかるにその該当者はその場にいるわけがない。
唯の額から脂汗が滴り落ちた。

じゃあ歩いてるのは誰……?

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 02:23:55.99 ID:nJl86WHG0 [15/41]
ギシ――。

唯「……」

足音が止まった。

唯「……」

沈黙が続く。

永遠に感じるほどの沈黙が携帯を通じて伝わってきた。

憂も息を潜めているらしい。

激しい吐息が聞こえない。

唯「……」

唯「……」

唯「う……い……?」

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 02:27:32.44 ID:nJl86WHG0 [16/41]
唯が憂の名を呼んだ、その時。

キィィ――ガチャ――!

強弱のついた扉の開く音が間近で聞こえてくる。

憂「き」

憂「きゃあああああああああああ!!!!!!!」














ブッツ――プープー。

唯「……」

そして通話は途絶えた。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 09:37:33.78 ID:nJl86WHG0 [17/41]
唯「……」

唯「……はぁっ、はぁっ」

憂の短い絶叫の後、通話が切れたということは……。
悪い予感が頭をかすめて、唯の腹の中を掻き回す。
そのストレスは吐き気を催す程強いもので、唯はフローリングに嘔吐物を吐きだした。

唯「うっ……!ぉえ……っ」

唯「はぁっ……はぁっ……」

とりあえず分かった事。
それは、憂が危険にさらされているという事だ。
しかしそれがわかったからといって自分が動けるわけじゃないし、もし動いたとしても助ける自信は皆無だった。

唯「警察……警察……」

震える指を固定して、110番に電話をかける。
これが一番の対処であると義務教育の過程で学んでいた事が唯一の幸いだった。

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 09:46:39.76 ID:nJl86WHG0 [18/41]
唯「……」

唯「えっ……?どうして?」

110番をかけたまでは良かったが、肝心の公務員が電話に出てくれない。
いや正確にいうと、警察署に繋がりもしなかった。
何度もかけ直す、しかしあろうことか聞こえてくるのはこの「電話番号は現在使われておりません」の一点張り。

唯「はぁっ、はぁっ、嘘……」

その後色々な所に電話をかけたが、同様に繋がりもしなかった。
憂の言っていた状況と同じ場面に遭遇し、パニック状態に陥ってしまう。

唯「はぁっ、はぁっ、嘘だよ、やめてよ、怖いよ」

憂にかけても繋がらない。
もう何が何だかわからなくなってかけた一本がやっと繋がった。

プルルルルル――。

唯「はぁっ、はぁっ……」

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 09:56:06.66 ID:nJl86WHG0 [19/41]
唯「……はあっ、はぁっ出てっ、出て」

プルル――。

唯「……」

繋がった。
かけた相手の激しい息づかいが聞こえて、その状況が普通でないということを瞬時に把握できる。

紬「唯ちゃん……?唯ちゃん?」

唯「ムギちゃん……う、うい……ういは?どうしたの?」

紬「……」

唯が電話をかけた相手は紬であった。
その紬は今、屋敷の一室に身を潜めているようだ。
なにから身を隠しているのかわからないが、それよりなにより憂の状況が知りたかった。

唯「ねえ憂は!?憂はどうしたの!?ねぇムギちゃん!」

紬「……」

紬は声を極力落として、言い聞かせるようにゆっくりと口を動かした。

紬「いい?聞いて唯ちゃん……」

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 10:03:23.26 ID:nJl86WHG0 [20/41]
唯「……」

紬「私達……この屋敷に閉じ込められたの……」

唯「ムギちゃんの屋敷じゃないの……?なんで閉じ込められるの……?」

紬は責任を身に感じながら、謝るようにその理由を説明した。

紬「そうなの……だけど最近買った建物らしくて、中の様子とか全然確認してなかったから……」

唯「どういう事?中の様子って……?」

紬「……」

生唾を呑み込む音が聞こえてきて、唯の体は緊張を強めた。

紬「わからない……でもなにか居るの……人間じゃないなにかが……」

唯「……」

人間じゃないなにか――?

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 11:37:55.42 ID:nJl86WHG0 [21/41]
紬「怖くて……隠れてるんだけど……」

唯「ちょ……待って……」

紬「来て……唯ちゃん……」

唯「……」

唯「えっ……?」

紬の震えた声を耳にした途端、通信の状態が一変した。
ザーという雑音が間に入って酷く聞き取りづらかった。

紬「そう遠いとこ ザッ ろじゃないの  唯ちゃん知ってる ザッ はずよ ザッ」

唯「ど、どこ……?」

紬「噂のあそk」

ブッツ――。

唯「……」

ここで通話が途絶えた。

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 11:50:13.12 ID:nJl86WHG0 [22/41]
唯「……」

”噂のあそこ”

確かに聞いた事のある言葉だ。
桜ケ丘からちょっと離れたところに位置する、ある建物がそれに当たる。
それは唯が小さい頃から、お化け屋敷としてよく名の知れた心霊スポットであった。
まさかあの屋敷を買ってそこでお泊まりをするとは思いもしなかったが、どうやらそのようである。

唯「は、はは……なあんだふざけてるだけかぁ、騙されちゃったへへ……」

唯「私を脅かすつもりなんだね……もうビックリしちゃうよぉ……」

これは招待を受けたと解釈して差し支えないだろう。
唯はてっきりそう思い込んで、その屋敷へ向かう身支度を始めた。
噂でしか聞いたことのないそのお化け屋敷……。
今、最悪のシナリオがスタートを刻み始めたのであった。
そのお化け屋敷の名は、

青鬼の館。

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 12:00:53.34 ID:nJl86WHG0 [23/41]
着替えやお菓子やいろいろな娯楽道具をバックに詰めた唯はバス停に腰を下ろしていた。
その屋敷は結構な距離があるが、バスを乗り継ぐ事で辿りつくことができる。
冗談だとわかっていても憂の事が心配でいてもたってもいられなかった。

唯(演技うまかったなぁ憂は)

そんな事を頭で考えながら、なるべくプラス思考に考えた。
しばらく待つとバスがやってきて、それに乗って屋敷へ向かう。

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 12:23:39.96 ID:nJl86WHG0 [24/41]
午後9時30分、ようやくその周辺に辿りついた。
辺りは木々の擦れ合う音がざわめいて、黒い影がまるで人のようだ。
すっかり田舎へ潜り込んだ唯は、自らの勘を頼りに森の中へと進んでいった。
この先にあの館が聳え立っているはず……。

唯「……」

奇妙な寒気が体を粟立たせた。
少しの音に敏感になってしまうのは仕方ないとして、先入観が錯覚を起こしてしまうのは勘弁してほしい。
気の影が人の顔に見えてしまい、とても怖い思いをした。

唯「……」

唯「あっ……」

微かではあるが三角錐の屋根のてっぺんが見えたような気がした。
やはりこの道であっていたようだ。
そうとわかればそれに向かってただ走るのみ、こんな気味の悪い所とは早くおさらばしたい。

唯(憂、怖いよぉ、待っててね)


63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 12:33:29.31 ID:nJl86WHG0 [25/41]
唯「はぁっ、はぁっ……」


ようやく辿りついたその屋敷――青鬼の館。
車が駐車してあるのが目に飛び込んだ、しかしまるで人気がない。
その屋敷には窓がないゆえ、中の様子を窺う事は不可能だ。
目に前の玄関が重たい空気を纏って佇んでいる、この距離から見ても蜘蛛の巣が際立っていた。

唯「……」

唯「あ、開けていいのかな……」

湧きあがる恐怖を押し殺して、恐るおそるその玄関に近づいて行った。
心拍数がめざましく上昇を遂げ、運動神経を鈍らせる。

唯「……」

手を差しのべれば、もう届く範囲内に足を踏み入れた。

唯「ドアノブが回る……」

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 12:40:47.80 ID:nJl86WHG0 [26/41]
どうやら鍵は開いているらしい。
このノブを回して引くと、この屋敷に入室することができる。
しかし決心するには相当な覚悟が必要であった。

唯「……」

昔聞いた此処の噂を思い出してしまう。
戦慄が自分の覚悟をぶち壊そうと企んでいるみたいと唯は思った。

唯「大丈夫大丈夫……中には憂がいて……純ちゃんやあずにゃんがいて、ムギちゃんがいるんだから……」

唯「へ、へへ怖くないもん……怖くない……」

やっと出来た、表面だけの覚悟が。
唯はその扉を思いきって開けて、中の様子を窺ってみた。

ギィィ――。

唯「……」

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 12:53:48.95 ID:nJl86WHG0 [27/41]
感想を言うとただ一つ、真っ暗。
此処だけ電気というものが発達していないのではないかと思えてくる程の真っ暗。

唯「……」

急に足が5キロ程重くなり、一歩が踏み出せなかった。
玄関を開けてすぐ目の前にシンプルな交差点が姿を現したのだが直視できたものではない。
交差点を一直線に見据えると、向こうは暗黒の世界でもう戻ってこれないような感覚に陥る。

唯「……」

帰ろう、入れたものじゃない。
唯は恐怖のあまり妥協して、この屋敷から逃げることを選択した。
そうすればサプライズを仕掛けた憂達が私を引き止めに来るに違いない。

振り返って逃げようとしたその時。

唯「えっ……」

背中を誰かに押された――?

後ろから突風が拭いて、もたついた足が屋敷内の地を踏んだ。

バタン――!

とっさに振り返ったが逃げ道はもう閉ざされてしまった。

唯「えっ、えっ、嫌ッ、なにこれ、えっ?」

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 13:16:13.25 ID:nJl86WHG0 [28/41]
唯「嫌ッ、やだっ、出してよっ!開かないよッ!」

真っ暗な空間に閉じ込められてしまい、唯はパニックに陥った。
憂達の仕業かもしれないという可能性に期待する余裕などなかった。
想像してほしい、お化け屋敷と呼ばれる真っ暗な空間に一人立ち尽くしている光景を。

唯「はぁっ、はぁっ、う、ういぃ……うい怖いよぉ出てきてよォ……」

待っているのは静寂で、しかも逃げられない。
大の大人でも怯えてしまう事、間違いなしだ。

唯「いやっ、怖い……怖い……ッ」

腰を抜かした唯は、玄関にペタンと座り込んで動けなくなってしまった。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 13:35:59.15 ID:nJl86WHG0 [29/41]
唯「はぁっ……はぁっ……」

気が狂いそうになるのを抑えて、ただただ漠然な恐怖に怯えていた。
暫らくこの玄関に腰をおろして、周りの様子を観察することしか出来なかった。
10分、20分、刻一刻と時が過ぎ去っていく。

唯「ふぅっ……ふぅっ……」

この状況に体が慣れ始めて唯は落ち着きを取り戻していった。
暗闇で段々と目が特化され、辺りがある程度見えるようになる。

唯「はぁっ……はぁっ……」

結局、憂達のドッキリ宣言は来なかった。




71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 13:48:51.64 ID:nJl86WHG0 [30/41]
青鬼の館と噂されるわりには、これといった心霊現象は起こらなかった。
玄関で背中を押されたのは風のせいで、扉が閉ざされたのはオートロックだから。
そう言い聞かせて自分に言い聞かせる事で恐怖を紛らわした。

唯(みんな何処なの……?会いたいよ……)

ハムスターを孤独にすると寂しくて死に至ると言われる。
今の唯にはその気持ちが痛いほど感じることができた。
とにかく人に会って話がしたかった。それには必ず行動が伴ってくる。

唯「はぁっ、はぁっ……」

怖い、しかし動き回らないと出会えないのだから致し方なかった。
震える体に必死に力んで、立ち上がり二足で地面を踏みしめる。

唯「どこ……みんな……」

ゆっくりと唯は交差点へ歩み寄った。

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 16:56:43.17 ID:nJl86WHG0 [31/41]
唯「どこに行けばいいんだろう……」

三つの道のうちどこに行けばみんなの居場所に辿りつけるのか、勿論わかり得ない。
唯は携帯をおもむろに取り出して、紬に電話をかけた。

唯「出てよ……はやく……」

紬「ゆ、唯ちゃん……?来てくれた?玄関閉まってるでしょ?警察をここに呼んでお願いはやくっ……」

早口で何が何だか理解できず、受け流して唯は質問で返答した。

唯「ムギちゃんもういいよっ、はやく出てきてよッ、怖いよ」

それを聞いた紬も聞く耳を持たず、

紬「お願いはやくっ……!みんな死んじゃうわっ……お願い……!」

これでは話以前の問題だ。
唯は今から紬の場所へ行くと告げ、どこをどう行っていいのかを尋ねた。
するとはたまた、的外れな言葉が返ってくる。

紬「えっ?意味わからないわ……今玄関なんでしょ?だからはやく警察をy」

唯「いや違うってばっ、今屋敷の中だよ?」

紬「えっ……?」

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 17:06:00.45 ID:nJl86WHG0 [32/41]
紬「どうやって入ったの?屋敷の中にどうやって……南京錠が沢山付けられてるはずなのに……」

南京錠なんて一つもかけられてなかったし、ドアノブを引いただけでひょい開いた。
だから紬の言葉の意味がいまいち理解できなかった。
困惑の念を抱きながらも確かめるべく、玄関のドアを軽い気持ちで見てみる。すると、

唯「えっ、なんで……?」

さっきまでなにも仕掛けられていなかった扉に、頑丈そうな南京錠が取り付けてあった。
誰かが来てつけたのか、いやそれは考えられない。
唯は今までこの場所を借りて怯えていた、物音一つで気配に気づくことは難しくない。
しかしこの目が事実をしっかりと伝えてくれている。

唯「えっ、えっ……やだ……」

心霊現象とは言い難いが、こんな奇妙な出来事に遭遇したことで唯の精神は段々と弱まっていった。
紬の声も聞きとれなくなるほどに、全ての機能が弱体化していくのが自分でもわかった。

紬「わかったわ……じゃあ私が言うとおりに来て……そうすれば辿りつけるはずだから」

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 17:19:10.86 ID:nJl86WHG0 [33/41]
唯「う、うん……」

ここはいくら怖くても我慢すべきだと唯はチープな覚悟に気合を入れた。
紬の指示通りに動けば、その場所へ辿りつくことができる。

紬「玄関から見て右に曲がって……」

唯「うん……」

一つ返事を返して指示通りに動いた。
紬の上擦っている声が鼓膜を震わせて、唯の心もついでに揺らした。
紬からすると、唯に辿りついてほしくないのだ。
電話の不具合で通信も満足にできないこの状況で、唯一繋がった命綱が唯なのだからここで一緒に閉じ込められては綱の意味を成さない。
もし辿りついてしまえば唯も閉じ込められたという結果になり、あとは絶望を堪能するだけだ。

紬「奥から二番手前に扉があるでしょ……?そこ図書室なんだけど、その中に私が隠れているから……」

唯「えっ?あ、うん」

奥から二番目の扉を探すが、この廊下には一つしか扉がない。
奥に進んでみると曲がり角があって、ここにおいて扉を探せという意味なのだろうと解釈した。

紬「あった?」

唯「うん……」

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 17:30:43.59 ID:nJl86WHG0 [34/41]
確かにあった、奥から二番目の扉。
この廊下には左右の壁に二つずつ扉が設置されている。
右か左か悩んだ末、どっちも開けてしまえばいいと唯は判断した。

まずは唯から見て左側の扉を開ける。

唯「……」

ここはどう見ても便所であった。
図書館を探せと言われているのだから此処は用無しだ。
という事は右側が答えとなる。

紬「唯ちゃんまだ……?ついてもおかしくないはずなんだけど……」

唯「今から開けるね……」

ガチャッ――。

唯は左側の扉を開けて、部屋に足を踏み入れた。

唯「開けたよ……でも……ここ図書室じゃないよ……?」

紬「えっ?いやそんなはずは……本当に開けてるの?嘘じゃない?」

唯「嘘じゃないよ!早く出てきてよ、言われた通りに来たよ?」

唯はその部屋の中心に当たる場所まで足を運んで見回した。
なにも見えない、ただわかったのは6畳半程の狭い部屋だということだけだ。
ここが図書室だと言われて、騙される人はいないだろう。

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 17:40:46.11 ID:nJl86WHG0 [35/41]
紬は暫らく黙り込んで、唯のいる部屋の状況を伝えるよう求めた。

唯「えっと、すごく狭い部屋で……どう見ても図書室じゃないよ」

紬「ちょっと待って唯ちゃん……」

紬の声色が一変し、緊迫を盛大に放出しているのがわかった。
この様子の変化に不安を感じつつ、唯は相槌を打つ。

紬「ねぇ……唯ちゃん交差点どっちに曲がったの……?」

唯「右だよ……?言われた通り曲がったよ……?なにどうしたの……?」

紬「じゃあとっくに着いてる筈よ……?もしかして唯ちゃん……」

唯「……」

紬「左に曲がってるんじゃない……?」

唯「あっ……」

こんな所にまで天然は及び、もうかける言葉も見つからない。
唯はあの交差点を左に曲がっていた。
緊張しいていたのがそういうミスを招いたのかもしれないが、もっとしっかりしてほしいものである。

次の瞬間、唯は反射で携帯を遠ざけた。

紬「出て!!そこから出て!!今すぐ出て!!」

唯「うぁっ、えっ?なに?」

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 17:49:09.50 ID:nJl86WHG0 [36/41]
初めて耳にする紬の怒声に唯は困惑を隠しきれず、もう一度聞き返した。

唯「な、なにが?」

紬「いいから出るのっ!!その部屋から!!」

唯「えっ……?」

バタン――!

唯「――!?」

扉が勝手に閉まり、ガチャッという音をたててロックがかかった。
なにがなんだかわからない、急展開に頭がついていけずただ呆然と立ち尽くすだけだ。

紬「出た!?出れた!?」

紬の必死の呼び掛けに対して唯は極めて冷静に、

唯「ううん、なんか扉しまったよ?どうしたの?閉じ込められたの?」

グゥィィィィン――ガコンガコン。

唯「ひっ、な、なに?」

得体のしれないなにかの稼働音が部屋にけたたましく鳴り響く。

紬「待ってて唯ちゃん!!じっとしてて!!」

紬はそういうと電話を切ってしまった。未だに状況が掴めていない唯は漠然と虚空を見回している。

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 18:00:15.75 ID:nJl86WHG0 [37/41]
唐突に明かりがついて、唯の瞼は眩しさのあまり勝手に閉じた。
手を額につけて、光を遮りながら部屋の様子を見つめる。
ぼんやりとした視界がたちまちはっきりとした正確な情報を伝えてくれた。

唯「きゃっ!なn……」

思わず息を呑む。
なんと両壁に無数の鋭い棘がビッシリと取り付けてあった。

ガコンガコン――ガコンガコン。

その両壁がスムーズに迫ってきているものだから、怖くて仕方がない。
このままでは棘に貫かれて命を失ってしまう。

唯「いやっ!!!ヤダっ!!!怖いよやだよ!!」

壁の迫りくる速さは決して遅くなかった。
あと10秒も経てば、鋭い剣山の餌食になってしまうだろう。
死には至らなくとも、致命傷を負ってどっちにしても死んでしまうのは目に見えている。

死のカウントダウン――せいぜいあと10秒が限界であった。

97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 22:17:05.76 ID:nJl86WHG0 [38/41]
唯「はぁっ!はぁっ!」

残り7秒――。
両側から迫りくる棘が人間の本性を暴き出そうとする。
この立場にたった人間の心理状況は二つに分かれるといわれている。
一つは悟りを開いて、この洗礼を受けるという楽な心理状態。

もう一つは、

唯「いやあああああ!!!!いやああああああっ!!!!」

絶叫で息を吸い過ぎて、気絶の恐れが懸念される極限のパニック状態だ。
パニックのまま棘に貫かれるこの恐怖は、ショック死を簡単に招く。
こうなってしまったら気絶するのが絶対楽だ。

唯「やだぁっ!!やだっ!!!ういったずげてぇえぇ」

残り5秒――。

4――。

3――。

唯「い゛あぁぁぁぁあああああ!!!」

2――。

101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 22:30:25.52 ID:nJl86WHG0 [39/41]
もう終わりかと思われたその時、

ガチャッ――!

開かないはずの扉が、いとも簡単に開いた。
間髪入れずに、二本の腕が唯の首と背中を捕まえて引っ張る。

紬「ッッ!!」

唯「――ぅっ!」

ガァアン――!

痺れるような金属音が廊下に鳴り響いた。
その壁と壁の間に唯の残骸は――、

紬「はぁっ、はぁっ、大丈夫?」

唯「……はあっっ、はぁっ」

なかった。
間一髪で紬が扉を開けて、強引に廊下に引っ張ったのだ。
九死に一生を得た唯は感謝する事も忘れて、この身の毛のよだつ状況に体を震わせた。
この部屋は来客者を陥れる為の罠として存在していたのだ。
部屋に人が入って一時すると扉が閉まり、鍵がかかる。
そしてあの壁が動き出す仕組みで、鍵は外から解除できる。

紬「よかった……良かった……」

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 22:42:39.41 ID:nJl86WHG0 [40/41]
唯「はあっ、はぁっ……」

唯「な、なにこれ……どういう……」

震えてうまく声が出せない。
でもこれだけはどうしても聞きたかった。

唯「ムギちゃん……ここって……本当に……私達閉じ込められたの……?」

紬「……」

紬は現実から目をそむけるように、話題の主旨を変えた。

紬「ここね、梓ちゃんも引っ掛かったの……だから助け方を知ってて」

唯「……」

唯「みんなは……憂は……?」

紬「……」

重たい空気が屋敷の廊下を漂って止まなかった。
憂からの電話を思い出すだけで、唯の心は不安定になる。

『閉じ込められたの……怖いよお姉ちゃん……怖い……』

唯「うぅ……そんな……憂……うい……」

紬「……」

104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りしますす[] 投稿日:2010/09/18(土) 22:57:53.44 ID:nJl86WHG0 [41/41]
紬「唯ちゃん、ここは危険よ……避難しましょう」

紬は泣き崩れる唯の胴体を抱えて、立ち上がらせた。
避難という言葉を聞いた唯は、何かが吹っ切れたかのように態度が一変する。

唯「憂が……憂が危ないのに隠れてなんかいられないよっ!!」

紬「……」

さっきまで怯えていたのに、まるで何かが憑いたかのように唯はいきり立った。
ここで初めて夢から覚めた唯は、憂が本当に危ない状況であることを知ったのだ。
もう息をしていないかもしれない、だけどそれを確かめるまでは憂は生きていると信じている。
充分とは言えないが、唯なりに、姉としての覚悟が決まったのであった。

唯「う、憂を探そうよ、あずにゃんも、純ちゃんも……」

紬「……」

唯「隠れてたってなにも始まらないんだよ……みんなで出よう、此処から」

唯「こんな所で……死にたくない……」

紬「……」

しかし声はまだ、上擦っていた。

ここでスレ落ち

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