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Rainy music and coffee
黄泉川家ストーリー投下します、7レス程いただきます!
※時代背景を現実に合わせています。
※有名アーティストさんの曲をお借りしました! ごめんなさい今回限りです!
ある休日の昼下がり。外は薄暗く、勢いを持った雨が降り注ぎ、学園都市が「もう浴び飽きたよ」と白旗を上げそうなくらいに街中を潤している。
そんな中、昼食を終えた4人は『ご馳走さま』の挨拶を済ませた後、各自思い思いの食後の時間を取り始めた。
その内の1人は挨拶の態度について、長身でスタイルの良い女性から軽く説教を喰らっていたのだが、
喰らった当人はまるで気にする様子も無くリビングに足を運び左手を曲げて肩を回し、首をグラグラと回して欠伸まで放っていた。
「やれやれ、しょうがない奴じゃんよ。おーいラストオーダー~、珈琲淹れるからやってみろーっ」
「コーヒー!? この人が好きな飲み物ね! 待ってて、選定されたバリスタによる、とびっっきりの淹れたてコーヒー作ってくるからってミサカはミサカは張り切ってみたり!!」
「まァた、テレビかなンかでしょうもねェ知識拾いやがったな」
『バリスタ』だの『淹れたて』だのと大層な言葉は飛び交えど、黄泉川のマンションに買い置きされたコーヒーは既にコーヒー会社が豆を挽いており、
粉末状のコーヒー豆が詰め込まれたフィルターを包装から取り出してティーカップに広げ、熱湯を注ぐだけという簡易な代物。
懲り性なのか面倒くさがりなのか。訳の分からない黄泉川のコーヒーへの拘りの落ち着く先が、ゴリゴリと豆を挽く方式でもインスタントでも無いこの商品となった。
484 名前:Rainy music and coffee 2/7[sage saga] 投稿日:2010/06/27(日) 22:39:24.48 ID:09B.JQAO [3/8]
「あァ、せェぜェ無難に飲めるもン期待しとっかァ」
「言ったなー! ミサカのスペシャルハイドリップ、目に物見せてくれるわ!! ってミサカはミサカは不敵な笑みを浮かべてみる!」
「オマエにドリップされるコーヒー豆さンにお祈りしとくわァ」
どういう意味!! と声を荒げる女の子を適当にあしらうと、彼は部屋に音楽が流れ始めている事に気付いた。
~君に逢う日は♪ 不思議なくらい♪ 雨が多くて♪
「……」
「なンだァ?この曲」
「ASKAの『はじまりはいつも雨』よ。今日は雨が降り続いてるじゃない? 今の気分にぴったりなのよ」
その音楽は芳川が掛けているらしい。 普段自発的に音楽を聴く事の無い一方通行には、特別耳に引っ掛かる代物だった。
甘ったるい曲調と特徴のある歌声は彼の気質に合わない所もある様だが、それ以上何も言わずに大人しくしている所を見ると、不快に感じている訳でも無さそうだ。
~は~じ~ま~り~は~♪ いつ~も~雨~♪
「…………」
『さーフィルター広げたらお湯の準備!!』
『了解ヨミカワ!!』」
『やけどしないよう気を付けるじゃんよー!』
『う、うん……ってミサカはミサカは俄然慎重になってみたり……』
打ち止めの背丈では、直接床に立ったままテーブルに置いたカップへやかんの熱湯を注ぐ事はできない。
そのため彼女が椅子の上に立ち、黄泉川が彼女の腰を掴んで支えるという、まるで組体操を行なっているかの様な変則的な姿勢を取っていた。
さっさと黄泉川が淹れれば済むこったろと一方通行は呆れてしまっていたが、 (あァこれが初めてのオツカイみたいなもンか、クソガキもそンな年頃か、何事も経験ですねェ)
そう思い直すとコーヒーが出来上がるまで眼を瞑り、時が過ぎるのを待つ事にしたのだった。
485 名前:Rainy music and coffee 3/7[sage saga] 投稿日:2010/06/27(日) 22:41:58.73 ID:09B.JQAO [4/8]
~愛の部品も~♪ 揃わないのに~♪ 1つになあった♪
……わけもなく君が♪ 消えそうな気持ちになる♪
……誰より~も~♪……
「あら?……ふふ……」
芳川は、自らも座る『コ』の字型に並んだソファーで1人離れて寝転ぶ人間の気配の変化に気付くと、一瞬だけ驚いた後にふと笑みをこぼす。
「タ……」
「レータ……」
「ン……」
「アクセラレータ!! 起きるじゃん珈琲入ったからさっさと飲めーっ!」
「ッ!!」
一方通行は飛び起きると瞬時に首のチョーカー型電極へ手を伸ばした。しかしそのスイッチを入れる間際に甲高い声が響き渡る。
「だーい発見!! あなたも寝惚けて突飛な行動起こしちゃったりするのね? ってミサカはミサカはあなたの可愛い所を見つけて微笑ましくなったり驚いてみたり!」
486 名前:Rainy music and coffee 4/7[sage saga] 投稿日:2010/06/27(日) 22:42:51.02 ID:09B.JQAO [5/8]
「……」
「……」
「おーいおーい、熱々のコーヒーはここですよ~、やけどしないよう注意しましょうね~ってミサカはミサカわわわわっ!!」
「引っ掛かったなァクソガキィ?」
能力を自在に行使できなくなってからの彼は、睡眠1つにも気を配るよう自らの『生存本能』が体に警戒を促していた。
僅かな物音でも反応し、即座に臨戦態勢を整えられる様。だと言うのに。
(こンなブザマは食後とコーヒーの匂いといつまでも止まないうっとおしい雨と気だるい音楽のせいだ) ――彼は自分にそう言い訳をし、腹いせに懐へ捕獲せしめた子羊を苛め倒す事にした。
「ふあ――、うぉおやあ――~~っはらひえ~っへいははあいははあほえあいひへいう~~っ」
両頬を引っ張られた哀れな子羊が救いを求める。最初から苛める事が目的では無かったため、ひとしきりやり終えると彼はすぐに手を離してやった。
リビングの透明な台座に黒い脚が施されたテーブルへと、表面から白いベールを漂わせ宙へ巻き上げていく琥珀色の飲み物が置かれる。
草原の草の色素にミルクをブレンドしたような品の良い乳緑色の温かいカップを手に取り、各々が好みの味付けでそれを口にした。
一方通行はブラック、黄泉川は砂糖、芳川と打ち止めは砂糖とミルク。
487 名前:Rainy music and coffee 5/7[sage saga] 投稿日:2010/06/27(日) 22:45:32.91 ID:09B.JQAO [6/8]
「やっぱりさ、珈琲は薫りが1番じゃんか。それを殺さず美味しく味わうには、入れすぎない砂糖の分量が絶対的なバランスを手にしてるんよ」
「どうでも良いわね。仕事中ならブラックも飲むけど、普段はこうして飲むのが好きよ。ミルクには心を落ち着かせる効果が有るもの」
「う~ん、もう少し砂糖が必要かしら? この甘さじゃ美味しく飲めないな、ってミサカはミサカは首を傾げてみたり。う~んう~んスプーン1杯? それとも半分?」
「ふン……もォ一杯」
「良かった!『ミサカの淹れたてスペシャル』が気に入ったのね? ってミサカはミサカは得意気に立ち上がって拳を振り上げ勝利を掴んでみたり!!」
「飲み足ンねェだけだ。あと勝負した覚えなンざねェから掴まなくてイイ」
「あら負け惜しみ? 素直じゃないなぁーってミサカはミサカはブー垂れてみたり!」
そんな事を言いながらも打ち止めが一方通行のカップを手に取り、再びキッチンのテーブルへと向かおうとするその刹那、
「待てガキ」
「オマエが飲ンでからにしろ。冷めて不味くなるだろォが」
「「「………!」」」
「……うん!! あなた優しいよね、だぁ~い好き!! ってミサカはミサカはあなたの胸に飛び込んでみたり!!」
「うぜェ」
488 名前:Rainy music and coffee 6/7[sage saga] 投稿日:2010/06/27(日) 22:46:10.34 ID:09B.JQAO [7/8]
こうなったガキは適当にあやしてやった方が早く済む。ひと月ほど入院生活を共にしてそれを学んだ彼は、呆れと諦めの気持ちを持て余しながら打ち止めの頭に手を乗せた。
~僕は上手に君を♪ 愛してる~かい♪ 愛せてる~かい♪
「……チッ…間の悪い……」
「ん? どうしたのってミサカはミサカはいきなりの発言に目を真ん丸くしてあなたを見つめてみる?」
「なンでもねェよ」
「ふふん、良いからラストオーダー、早いとこ珈琲飲んじゃいな。せっかくのアクセラレータの好意を踏みにじっちゃうだろ」
「はーい! ってミサカはミサカは聞き分けの良い模範的児童を演じてみるっ!!」
打ち止めはソファーに腰かけ、悩んだ末にスプーン半分の砂糖を足し込んだコーヒーを口に付けると、しばらくそのまま動かない。
どうやら味と温度を確かめているらしい。気に入ったのか、その後笑みを浮かべて一気に飲み干した。
489 名前:Rainy music and coffee 7/7[sage saga] 投稿日:2010/06/27(日) 22:47:14.95 ID:09B.JQAO [8/8]
「ところでよォ」
「?」 「?」 「?」
「『アスカ』って誰だァ?」
「「!!……ッ!!」」「?」
(「『ASKA』って誰だァ?」)
(「『ASKA』って誰だァ?」)
(『あすか』って何の事? ってミサカはミサカはヨミカワ達を見上げて――――)
一方通行と打ち止めの周囲を除く半径3メートル程の空気が急速冷却された。
「ふ…ふふ……私達……まだ若いじゃんよ……?」
「でも時代はわたし達に甘くないわね……?」
「「ふふ…ふふ…」」
「ど、ど、どうしちゃったのってミサカはミサカはヨシカワとヨミカワに言い知れない恐怖を感じてみたり……」
「気にすンな。オマエにゃァ、アイツらの苦悩は例え教えられたとしても分っかンねェよ」
外はしとしと雨が降り続いている。雨足が弱まったようだ。時計は13時を回り、日曜だけに人通りはそれなりの賑やかさを街にたたえる。
赤、黄色、花柄、水玉、キャラクター。様々な色彩を身に纏う傘が、雨粒を弾きながら鮮やかに揺れていた。
……しかし、そんな景色を例え視界に入れる事ができたとしても、楽しめる者は今黄泉川宅に居ない。
この冷えきった空気を元に戻す事は、誰にもできないのであった。
おわり
Tag : とあるSS総合スレ
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