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Licorice sworn to the moon
496 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga] 投稿日:2010/06/28(月) 00:12:57.88 ID:.1POvCYo [1/8]
さてさて、唐突で意味不明かもしれませんが、6レスほどお借りします。
時期的なことはあまり考えないでくださると助かります。
さてさて、唐突で意味不明かもしれませんが、6レスほどお借りします。
時期的なことはあまり考えないでくださると助かります。
497 名前:Licorice sworn to the moon 1/8[sage saga] 投稿日:2010/06/28(月) 00:13:48.39 ID:.1POvCYo [2/8]
ロンドンの夜は、酒屋の数に反して静かな雰囲気がある。
それはおそらく、慢性的に都市を覆う霧のせいに違いない。
だが、だからと言って出歩く者は確かに存在するし、その結果、人の数だけの物語は存在するものだ。
「……」
コツ、コツ、と踵を石畳が鳴らす音が響く。
暗い夜道。近代化の進んだ都市中心からはやや離れた、いわゆる郊外の道だ。
スラムのように治安は悪くないが、だからと言って、日付も変わろうかというこの時間帯に、歩く音がするのは珍しい。
それが女性ともなれば、なおさらだった。
「はぁ…」
たおやかな唇から漏れた吐息には、酒精が宿っている。
長い前髪が呼吸に揺れるが、霧をたっぷりと吸い込んでいるため、逆に揺れてぺちょりと額に張り付いた。
「あー、もう、これだからロンドンは好きになりきれぬのよ」
そんな風にいいながら、ぱっぱっ、と額を払ったのは、年若い女の手。
だがもし彼女を誰かが目撃したら、驚いたに違いない。
彼女自身の身長に迫ろうかというほどの長い髪の毛と、ありえないはずのグレーの修道服と、なにより、息を呑むであろうほどの美しい横顔に。
そしてもし普段の彼女を知る人物がいま、彼女を見たならば、別の意味で驚いたに違いない。
英国のトップ3になるほどの人物が護衛もつけずに夜を歩くという光景にではなく、彼女の横顔に浮かんだ、寂しくも切ない、そんな表情に。
彼女は上手く束ねた後ろ髪をついでとばかりに右手で払うと、
「はぁ…」
と、再び息を吐いた。
498 名前:Licorice sworn to the moon 2/8[sage saga] 投稿日:2010/06/28(月) 00:14:48.36 ID:.1POvCYo [3/8]
酒精は再び空気に消え、毛先ほどの気配も残さない。
それを確認してから、彼女は不意に脚をとめ、空を仰いだ。
「……」
『満月』が、見える。
否――――それは正しくない。
今夜は新月だ。
正確には、記憶の中の光景を思い返し、そこに月を『見出だしている』だけだった。
「もう、あれからどれくらい経ちけるのかしらね…」
母国語ではない、はるか東方で使われている言葉でそんなことを呟きながら、彼女は『満月』を見上げつづける。
「……」
あの出会いから、本当にどれくらいたっただろうか。
普段であれば思い出すまでもない事柄も、酔った頭では、霞んでいるかのように出て来ない。まるでロンドンを覆う、霧がごとく。
しかし彼女はあえて、その不鮮明さに思考を任せた。
思い出したくても、忘れられない記憶。
年に一回、こうして、本当のお忍びで酒に酔う夜に意識するだけの、昔の思い出だ。
ちょうどここで出会った、裏切りの魔術師。
鮮明に思い起こせないのは、むしろ好都合だった。
いまの彼女と、いまの彼は、表では協力、裏では敵対している。
まるであの時の出会いと交流が、夢であったかのように。
499 名前:Licorice sworn to the moon 3/8[sage saga] 投稿日:2010/06/28(月) 00:15:44.58 ID:.1POvCYo [4/8]
「……」
交流、というのは、正確ではないのかもしれない。
あのときの自分は幼く、わけのわからないまま、術式を使っていただけだ。それが裏切りの魔術師を追い詰めている、ということだって、わかっていなかった。
昼夜続く追撃。移動移動の日々にいい加減あきあきして、夜にこっそりと抜け出したのが、この思い出――否、想い出のきっかけになったのだ。
「……」
ボロボロの様子の彼を見つけた彼女は、見習いとはいえシスターであった。
彼を匿い、拙いながらも治癒の魔術をかけたのは、純粋に信仰心と、その務めと、彼女自身の優しさゆえ。
昼は周囲の大人たちの言葉に従い、魔術を使う。夜はシスターの心得に従い、彼の手当てをした。
交流と言っても、ほんの数日のものだった。
……結局は、初恋、だったのだろう。
年頃ということもあった。修道院暮らしで異性という存在をあまり知らなかったこともあった。
ただ確かなのは、彼の笑顔と言葉は、何よりも彼女の心に響いた、というだけだ。
しかし彼は追われていて、彼女は幼かった。
一週間もしないうちに、それは露見した。
彼女は何も知らなかった。彼が知っていたのかは、わからない。
ただひとつ。いや、ふたつ。
満月のもと、彼女もろとも彼を殺そうと放たれた魔術は、結局、彼だけを貫き、彼女は彼にかばわれて無傷だったという事実が、残った。
貫かれた彼が崖に落ちる直前、それでも手を伸ばした彼女に対し、魔術で作り上げた花を一輪、手渡したという事実だけが、存在していた。
「……」
空を見上げる彼女。
今夜は新月。そこにはやはり、あのときのような満月はなく、あのときの彼も、あのときの彼女も、あの時も花も、ない。
500 名前:Licorice sworn to the moon 4/6[sage saga] 投稿日:2010/06/28(月) 00:16:57.86 ID:.1POvCYo [5/8]
想いは儚く、許されざるもの。
いまの彼と彼女は――いや、あのときも彼と彼女は敵同士だったのだ。
ただ、彼女がそれを知らず、彼がそれを知っていたのかがわからないだけで。
「……」
――でも、今日のこの瞬間だけは、それを許してほしけるもの
ため息は酒精よりも、切なげな、寂しげな響きを帯びている。
「……」
彼女は麗眉を寄せる。
そこにあるのは、ただ、星と、霧と、夜だけだ。
だが突然―――
すっ、と突然雲が切り裂かれ、そこから、あるはずのない『満月』が顔を覗かせた。
「…!」
驚きに目を見開く彼女。
わずかな切れ目から降り注いだ月光は、彼女のわずか数メートル先の位置を、まるでスポットライトのように照らし、そこにある、本来この季節にはありえぬモノを浮かび上がらせていた。
それは、花。
彼女にとって、見覚えのある、一輪だけの花。
「これ、は…」
501 名前:Licorice sworn to the moon 5/6[sage saga] 投稿日:2010/06/28(月) 00:17:24.53 ID:.1POvCYo [6/8]
はるか遠い、東方の国。
窓のないビル。
「……柄でもない」
巨大な円柱の中で逆さまに浮かぶ彼は、珍しく自嘲めいた苦笑を浮かべた。
今日はなんのことはない、一年のうちの、ただの一日だ。
そんな日にわざわざ、機械任せの自分の時間を削ってまで、魔術を使う必要などない。
「……」
ないのだが。
「……」
しかし彼は苦笑を浮かべたまま。
先ほどの無駄な労力を補っているとでも言うのか、無言で円柱の中に浮かんでいる。
そう、それは、本当に無意味なことだ。
過去には帰れず、かと言って、共に在る未来など絶対に存在しない。
それなのに、こんな『柄にもない』ことをした理由は――
「……あのときの礼が、まだだったから、な」
苦笑が深くなる。
「……」
ちらり、と彼は手近にある、別の円柱に目を移した。
その中に、一輪の花が浮かんでいる。
502 名前:Licorice sworn to the moon 6/6[sage saga] 投稿日:2010/06/28(月) 00:18:42.74 ID:.1POvCYo [7/8]
あのとき、崖から落ちて裂けた袋のようになっていた自分が、唯一握っていた、一輪の花。
あのとき渡すことが出来ず、最後の魔力で創り出し、彼女にまがい物として渡した、その元となった花だ。
「リコリス、か」
その花の名を口にする。
「……」
彼の口元に浮かぶ苦笑は、いつしか、彼らしくなく、しかし、彼のものに間違いない、柔らかな微笑に、移り変わっていった。
……かくして科学と魔術の主はほんの一瞬だけ交差し、しかし、彼らの物語は始まらない。
ただ、満月に誓われた花の言葉だけが、彼らの想いを知っていた。
Licorice sworn to the moon closed
503 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga] 投稿日:2010/06/28(月) 00:19:43.91 ID:.1POvCYo [8/8]
…普通にタイトルにつけば番号を間違えました。
最後の詰めを誤った…! ぬおお…!
ロンドンの夜は、酒屋の数に反して静かな雰囲気がある。
それはおそらく、慢性的に都市を覆う霧のせいに違いない。
だが、だからと言って出歩く者は確かに存在するし、その結果、人の数だけの物語は存在するものだ。
「……」
コツ、コツ、と踵を石畳が鳴らす音が響く。
暗い夜道。近代化の進んだ都市中心からはやや離れた、いわゆる郊外の道だ。
スラムのように治安は悪くないが、だからと言って、日付も変わろうかというこの時間帯に、歩く音がするのは珍しい。
それが女性ともなれば、なおさらだった。
「はぁ…」
たおやかな唇から漏れた吐息には、酒精が宿っている。
長い前髪が呼吸に揺れるが、霧をたっぷりと吸い込んでいるため、逆に揺れてぺちょりと額に張り付いた。
「あー、もう、これだからロンドンは好きになりきれぬのよ」
そんな風にいいながら、ぱっぱっ、と額を払ったのは、年若い女の手。
だがもし彼女を誰かが目撃したら、驚いたに違いない。
彼女自身の身長に迫ろうかというほどの長い髪の毛と、ありえないはずのグレーの修道服と、なにより、息を呑むであろうほどの美しい横顔に。
そしてもし普段の彼女を知る人物がいま、彼女を見たならば、別の意味で驚いたに違いない。
英国のトップ3になるほどの人物が護衛もつけずに夜を歩くという光景にではなく、彼女の横顔に浮かんだ、寂しくも切ない、そんな表情に。
彼女は上手く束ねた後ろ髪をついでとばかりに右手で払うと、
「はぁ…」
と、再び息を吐いた。
498 名前:Licorice sworn to the moon 2/8[sage saga] 投稿日:2010/06/28(月) 00:14:48.36 ID:.1POvCYo [3/8]
酒精は再び空気に消え、毛先ほどの気配も残さない。
それを確認してから、彼女は不意に脚をとめ、空を仰いだ。
「……」
『満月』が、見える。
否――――それは正しくない。
今夜は新月だ。
正確には、記憶の中の光景を思い返し、そこに月を『見出だしている』だけだった。
「もう、あれからどれくらい経ちけるのかしらね…」
母国語ではない、はるか東方で使われている言葉でそんなことを呟きながら、彼女は『満月』を見上げつづける。
「……」
あの出会いから、本当にどれくらいたっただろうか。
普段であれば思い出すまでもない事柄も、酔った頭では、霞んでいるかのように出て来ない。まるでロンドンを覆う、霧がごとく。
しかし彼女はあえて、その不鮮明さに思考を任せた。
思い出したくても、忘れられない記憶。
年に一回、こうして、本当のお忍びで酒に酔う夜に意識するだけの、昔の思い出だ。
ちょうどここで出会った、裏切りの魔術師。
鮮明に思い起こせないのは、むしろ好都合だった。
いまの彼女と、いまの彼は、表では協力、裏では敵対している。
まるであの時の出会いと交流が、夢であったかのように。
499 名前:Licorice sworn to the moon 3/8[sage saga] 投稿日:2010/06/28(月) 00:15:44.58 ID:.1POvCYo [4/8]
「……」
交流、というのは、正確ではないのかもしれない。
あのときの自分は幼く、わけのわからないまま、術式を使っていただけだ。それが裏切りの魔術師を追い詰めている、ということだって、わかっていなかった。
昼夜続く追撃。移動移動の日々にいい加減あきあきして、夜にこっそりと抜け出したのが、この思い出――否、想い出のきっかけになったのだ。
「……」
ボロボロの様子の彼を見つけた彼女は、見習いとはいえシスターであった。
彼を匿い、拙いながらも治癒の魔術をかけたのは、純粋に信仰心と、その務めと、彼女自身の優しさゆえ。
昼は周囲の大人たちの言葉に従い、魔術を使う。夜はシスターの心得に従い、彼の手当てをした。
交流と言っても、ほんの数日のものだった。
……結局は、初恋、だったのだろう。
年頃ということもあった。修道院暮らしで異性という存在をあまり知らなかったこともあった。
ただ確かなのは、彼の笑顔と言葉は、何よりも彼女の心に響いた、というだけだ。
しかし彼は追われていて、彼女は幼かった。
一週間もしないうちに、それは露見した。
彼女は何も知らなかった。彼が知っていたのかは、わからない。
ただひとつ。いや、ふたつ。
満月のもと、彼女もろとも彼を殺そうと放たれた魔術は、結局、彼だけを貫き、彼女は彼にかばわれて無傷だったという事実が、残った。
貫かれた彼が崖に落ちる直前、それでも手を伸ばした彼女に対し、魔術で作り上げた花を一輪、手渡したという事実だけが、存在していた。
「……」
空を見上げる彼女。
今夜は新月。そこにはやはり、あのときのような満月はなく、あのときの彼も、あのときの彼女も、あの時も花も、ない。
500 名前:Licorice sworn to the moon 4/6[sage saga] 投稿日:2010/06/28(月) 00:16:57.86 ID:.1POvCYo [5/8]
想いは儚く、許されざるもの。
いまの彼と彼女は――いや、あのときも彼と彼女は敵同士だったのだ。
ただ、彼女がそれを知らず、彼がそれを知っていたのかがわからないだけで。
「……」
――でも、今日のこの瞬間だけは、それを許してほしけるもの
ため息は酒精よりも、切なげな、寂しげな響きを帯びている。
「……」
彼女は麗眉を寄せる。
そこにあるのは、ただ、星と、霧と、夜だけだ。
だが突然―――
すっ、と突然雲が切り裂かれ、そこから、あるはずのない『満月』が顔を覗かせた。
「…!」
驚きに目を見開く彼女。
わずかな切れ目から降り注いだ月光は、彼女のわずか数メートル先の位置を、まるでスポットライトのように照らし、そこにある、本来この季節にはありえぬモノを浮かび上がらせていた。
それは、花。
彼女にとって、見覚えのある、一輪だけの花。
「これ、は…」
501 名前:Licorice sworn to the moon 5/6[sage saga] 投稿日:2010/06/28(月) 00:17:24.53 ID:.1POvCYo [6/8]
はるか遠い、東方の国。
窓のないビル。
「……柄でもない」
巨大な円柱の中で逆さまに浮かぶ彼は、珍しく自嘲めいた苦笑を浮かべた。
今日はなんのことはない、一年のうちの、ただの一日だ。
そんな日にわざわざ、機械任せの自分の時間を削ってまで、魔術を使う必要などない。
「……」
ないのだが。
「……」
しかし彼は苦笑を浮かべたまま。
先ほどの無駄な労力を補っているとでも言うのか、無言で円柱の中に浮かんでいる。
そう、それは、本当に無意味なことだ。
過去には帰れず、かと言って、共に在る未来など絶対に存在しない。
それなのに、こんな『柄にもない』ことをした理由は――
「……あのときの礼が、まだだったから、な」
苦笑が深くなる。
「……」
ちらり、と彼は手近にある、別の円柱に目を移した。
その中に、一輪の花が浮かんでいる。
502 名前:Licorice sworn to the moon 6/6[sage saga] 投稿日:2010/06/28(月) 00:18:42.74 ID:.1POvCYo [7/8]
あのとき、崖から落ちて裂けた袋のようになっていた自分が、唯一握っていた、一輪の花。
あのとき渡すことが出来ず、最後の魔力で創り出し、彼女にまがい物として渡した、その元となった花だ。
「リコリス、か」
その花の名を口にする。
「……」
彼の口元に浮かぶ苦笑は、いつしか、彼らしくなく、しかし、彼のものに間違いない、柔らかな微笑に、移り変わっていった。
……かくして科学と魔術の主はほんの一瞬だけ交差し、しかし、彼らの物語は始まらない。
ただ、満月に誓われた花の言葉だけが、彼らの想いを知っていた。
Licorice sworn to the moon closed
503 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga] 投稿日:2010/06/28(月) 00:19:43.91 ID:.1POvCYo [8/8]
…普通にタイトルにつけば番号を間違えました。
最後の詰めを誤った…! ぬおお…!
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