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黒子「半額弁当ですの!」 第三章

96 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/17(月) 01:16:50.25 ID:Rf1IUiso [2/9]
第三章《風紀委員》   ギャフン!> 初春飾利


佐天「うーいっはるー!」

初春「ひゃぁ!」

佐天「おお! 今日の初春は縞パンかー。マニア心をくすぐるねぇ」

初春「なんのマニアですか! もう……」

佐天「何って、初春のパンツマニア?」

初春「……もういいですよぅ」

佐天「もう。初春ったら、スネないの」

初春「スネてないです!」

98 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/17(月) 01:23:44.34 ID:Rf1IUiso [3/9]

 昼下がり、学校を終えた二人の少女が第七学区の公園を歩いていた。

 柵川中学一年生の制服を着た彼女らとは、言わずもが『佐天涙子』と『初春飾利』の二人だ。

 きゃいきゃいとじゃれ合う少女たちは、傍から見ても仲が良さそうに見える。
 どれくらい仲がいいかと言うと、風邪で寝込んでいる佐天の部屋にズカズカ踏み込んでノートPCを広げ
「うおおお!!! 筋肉刑事の新作ktkr! これで勝つる!」だとか「ハァハァ、サイトウ可愛いよサイトウ」だとか、
ひとしきり騒いで帰っていく位仲がいい。さすがの佐天もその時ばかりは、この頭花ちゃんと縁を切ろうと思ったほどだ。


佐天「あれ? 白井さんじゃないですか!」


 回想にふけり沸々と怒りを抱き始めていた佐天は、知り合いを見かけて我に帰った。
 今しがた公園に入ってきた人物は、ツインテールに常盤台の制服を着た少女――白井黒子である。
 

黒子「おや、初春に佐天さんではありませんの」


99 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/17(月) 01:28:27.18 ID:Rf1IUiso [4/9]

黒子「今日は二人でデートですの?」

初春「なななな! 何言ってるんですか白井さん!」

佐天「そうですよ白井さん。デートなんてあまっちょろい物じゃないです! 
    二人はこれから夜の街に……」

初春「佐天さんまで悪ノリしないで下さい! それに今は昼です!」

黒子「まるで夫婦漫才ですの……」

佐天「夫婦だなんて、照れちゃいますよぅ……」

初春「もう佐天さんは黙っててください!」

黒子「で、お二人は何をしてるんですの?」

佐天「今から二人で買い物に行こうと思ってるんですよー」

初春「白井さんも来ますか?」


100 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/17(月) 01:31:08.18 ID:Rf1IUiso [5/9]
黒子「いえ、今日は遠慮させていただきますの。少し調べたい事があって」

佐天「風紀委員のお仕事ですか?」

黒子「ま、まぁそんな所ですの」

佐天「ふぅん」

 と、彼女は興味もなさそうに言う。と、途端顔をほころばせ、
良いことを思いついたと言わんばかりのニヤニヤ笑いを浮かべる。

佐天「白井さん。私、今猛烈にクレープが食べたいんですよ」

黒子「はぁ、そうですの」

初春「もう。そんなことばっかり言ってると太りますよ」

佐天「私は初春と違って胸に行くしー ……って、そうじゃなくてぇ! 
    ジャンケンして、負けた人が三人分のクレープを買いに行くってのはどう?」

黒子「そこはかとなくムカつく発言がありましたが……いいでしょう。受けてたちますの」

初春「正直乗り気はしませんが、今猛烈に佐天さんをギャフンと言わせたいので、私も乗りますよ!」


101 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/17(月) 01:37:17.64 ID:Rf1IUiso [6/9]

佐天「そう来なくっちゃ! それじゃあ行くよ!」

 言い、佐天は某ポルナレフヘアーの人が必殺技を放つときのように右拳を左手で覆う。

佐天「最初はグー!」

初春「ジャンケン……」

黒子「ポン! ですの!」

 …………

初春「ギャフン!」

黒子「見事に一発で負けましたわね」

佐天「それじゃ、頼んだよ初春」

初春「うー……」


102 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/17(月) 01:43:50.85 ID:Rf1IUiso [7/9]

 トボトボと歩き出した初春が十分離れたのを確認してから、佐天は黒子へ向き合い、真面目な顔を作った。
 まるで追いつめられたような瞳に、黒子はただ事ではない雰囲気を感じ取る。

佐天「白井さん、大切な話があります」

黒子「大切な話……ですの?」

佐天「えぇ、東の《狼》として」

黒子「――!?」

佐天「これは正直、西の人に言ってはいけない事なんですが……」


 苦しい顔を作り、佐天が言い淀む。
 ごくりと、驚愕と不安に黒子が息を飲む。
 しばしの間。しかししっかりと、佐天は言った。



佐天「東の《狼》達は戦争を始めようとしています。西を飲み込み、第七学区を統一するつもりです……!」 

115 名前:とりあえず今日の分だけ[sage] 投稿日:2010/05/20(木) 00:21:10.53 ID:8xmZvAAo [2/5]

黒子「なん……ですって……」

佐天「最近東の狼がよく西へ遠征に出かけていますよね。あれは偵察なんです」

黒子「確かに最近東の狼をよく見かけますけれど……でも、なんでまた」

佐天「かつて《GENESIS》の時代が在ったことは知っていますよね? 《幻想創造》は、それを繰り返そうとしているんです。
  
                 進撃
      新しい時代――《AHEAD》の時代を創造するために」


黒子「……どうして、それを佐天さんが知っていますの?」

佐天「《幻想創造》は東の有力な《二つ名》持ちを招集してお触れを出したんですよ。知っての通り、東の狼は強さにこだわり、
     序列を重要視します。だから東の《長》である《幻想創造》の言う事は絶対なんです」


117 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/20(木) 00:27:06.02 ID:8xmZvAAo [3/5]

黒子「でも、何故それをわたくしに?」

佐天「白井さんが友達だからって言うのもあります。
    それと……ちょっとズルいかも知れないけど、打算もあります」

黒子「打算?」

佐天「白井さんは《幻想殺し》の弟子なんですよね?」

黒子「弟子かと言われると分かりませんが、確かに面識はありますの」

佐天「……お願いです。このことを《幻想殺し》に伝えて下さい。この計画を、止めて欲しいんです」

黒子「でも、それでは佐天さんが東を裏切ることになりますの!」

佐天「嫌なんですよ……序列や強さにこだわって、みんな弁当争奪戦の楽しさを忘れて……
    そんなの、私が好きな弁当争奪戦じゃない……」

黒子「佐天さん……」

119 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/20(木) 00:33:00.78 ID:8xmZvAAo [4/5]

佐天「だから、お願いです。この事を、どうか《幻想殺し》に……」

黒子「分かりましたの。この事は必ず伝えますの」

佐天「ありがとうございます……あ、そろそろ初春が帰って来ちゃうかな」

黒子「そうですわね。あぁ、楽しみですわ。ハンバーグクレープ」

佐天「はは、半額弁当争奪戦でもがっつり食べてるのに、こんな所でそんなの食べたら、太りますよ?」

黒子「うっ……く、クレープは別腹ですの……」

初春「買ってきましたよー!」

佐天「やぁやぁ初春。パシリご苦労!」

初春「パシリって! ひどいです佐天さん!」


 初春とじゃれ合う佐天は、先までの真面目な会話が嘘のように晴れやかな顔をしている。
 その二面性が――親友を心配させまいとする気丈さこそが、彼女が真剣である証拠に、黒子には

思えた。

120 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/20(木) 00:38:00.89 ID:8xmZvAAo [5/5]

 かつて黒子のクラスメートであり『常盤台マゾの会』の会員である内本さんが、
美琴にビリビリされて悶えている黒子を勝手に同志だと思い込み、自作の『常盤台ドSランキング』を見せながら
熱く語ってくれた事が在った。


 内本さんは寮の廊下で、婚后光子に嬲られたいだの寮監の首狩りは最高だの大声で宣っていたのだが、
その時親から掛かってきた電話に「うっせーんだよ! んな事でいちいち電話かけてくんじゃねぇ! ド素人が!」
と見事なまでの内弁慶っぷりを発揮したのだ。


 これまでさんざんMだと自称していた内本さんが垣間見せた僅かなSっ気に、黒子は密かに戦慄を覚えたのだが、
この真剣さはあの時の内本さんにも匹敵するように思う。


 だって内本さん。話を途中で遮られたことに、本気でブチキレていらっしゃいましたもの……

 黒子はそんな友人の意外な二面性を回想しながらクレープを食べ終えると、
《幻想殺し》――上条当麻にこの事を伝えるべく、二人に別れを告げ、帰路についたのだった。

144 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/23(日) 21:02:33.01 ID:zm1k5pEo [2/11]


黒子「……と、言うことがありましたの」

上条「なるほど、戦争か……」

 セブンス・マートの冷凍食品コーナー。
 本来、この冷凍食品コーナーに待機している《狼》は少ない。

 何故なら、通路真ん中におかれたワゴン式の冷凍装置から漏れ出す冷気が年中通路を冷やし、
特に薄着になる夏は冷房病になる狼も少なくないからだ。
 そのため、この冷凍食品コーナーは《極寒の領域》とも呼ばれており、近づく《狼》の居ない不毛の地とされている。

 そんな中、白い息を吐きながら《極寒の領域》で身を寄せ合う二つの影があった。

 白井黒子と上条当麻だ。
 《極寒の領域》は《狼》が少ない事や、弁当コーナーから離れている等の理由で、密会には持って来いの場所だ。
 彼等が話している内容も、そういった『密会』が必要な内容であった。



146 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/23(日) 21:11:35.41 ID:zm1k5pEo [3/11]


黒子「確か佐天さんは《AHEAD》の時代が訪れると――《GENESIS》を再現するつもりだと、おっしゃっていましたの」

上条「《GENESIS》……か。《幻想創造》はまたあんな事を繰り返そうと言うのかよ……!」

 言う上条の声は震え、拳は固く握り締められていた。
 彼の激情に、黒子は自然と過去の戦乱が悲惨なものであったのだろうと言う事を、自然に理解する。

 上条当麻は怒っていた。
 何に対して怒っているのか、過去の戦乱を知らない黒子には分からない。

 ただ、黒子は思う。
 その戦いは、優しいこの御方が怒りを得るような、一握りの強者の所為で、弱者が理不尽に不幸になるようなものだったのですねと。

上条「黒子……その戦争、受けるぞ」


149 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/23(日) 21:16:59.39 ID:zm1k5pEo [4/11]

黒子「正気ですの!? そんな物、無視してしまえばいいではないですか」

上条「《狼》同士の戦争は、所謂決闘方式で行われる。そのスーパーを縄張りとする狼に挑戦者が挑み、その縄張りに住む狼と、
    送り込まれた挑戦者側の狼達が戦い、多く半額弁当を取った側が勝者となる。そのため、
    少なくとも縄張り持ちの狼には事前に挑戦状が送られるはずだ。
    下手に縄張り持ちが挑戦を受けて地元の狼と連携が取れなくなるより、先に全狼にこの事を伝えた方が対策は取れる」

黒子「では、ハナからその挑戦を蹴ってしまえば……」

上条「《幻想創造》がそうだとは思いたくないが、戦乱の時代には挑戦を拒否した側のスーパーを荒らす奴らもいた。
    今では信じられない話だけどな……」

黒子「そんな……誇りは! 《狼》としての誇りは何処に!」

上条「あの頃は闘う事が《狼》の誇りだった……少なくともそう錯覚させるほどに、あの時代は厳しいものだったんだよ……」

152 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/23(日) 21:33:20.33 ID:zm1k5pEo [5/11]

黒子「そんな……」

上条「半額弁当争奪戦はそんな物じゃねぇ。腹の虫の声に答え、勝利の一味を求めるための物だ。黒子、お前ならわかるだろ?」

黒子「えぇ、わかりますの……わたくし達の力、見せつけてやりましょう、当麻さん!」

上条「あぁ、じきに東からの宣戦布告があるはずだ。その前に西の狼たちにこの事をつたえなくちゃな。
    悪いが黒子、俺は今からツテを使って西の全《狼》達にこの事を通達してくる。今日の争奪戦は出られそうにない」

黒子「謝る必要はありません。逆にライバルがひとり減って、好都合ですの」

 黒子の軽口に上条は薄く笑うと、踵を返してスーパーの出口へと歩いていった。


 それから間もなくして、西の《狼》達に《幻想創造》の目論見が明かされた。

 まだ見ぬ戦いを恐れる者。強敵との戦いに歓喜する者。上条と同様、義憤に燃える者。
 様々な《狼》の思いが錯綜する中、追うように東からの宣戦布告が行われる。
 
 開戦は4日後、金曜日。

        ハーフプライスラベリングタイム
 東側で最初の《半値印証時刻》をもって、火蓋は切って落とされることとなる。
 

153 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/23(日) 21:46:53.62 ID:zm1k5pEo [6/11]

第四章 幻想創造

 金曜日、風紀委員の仕事を早く終わらせた白井黒子は焦れていた。

 現在の時刻は19時を少し過ぎたところ。
 閉店の早いスーパーならばもう《半値印証時刻》が始まっている時間だ。

 なのに、上条当麻はまだ姿を表さない。
 いや、セブンス・マートの《半値印証時刻》が21時前後なのを考えると、特におかしな時間ではない。
むしろこんな時間からいつもの公園のベンチに腰掛けている自分が異常なのだ。

結標「にしても、早く来すぎよ、貴女」

黒子「わたくしより前に待機していた貴女に言われたくありませんの」

 白井黒子と結標淡希が互いに目をそらしあったまま、言葉を交わす。
 無言の中、結標が携帯電話の時計を見ながら呟いた。

結標「そろそろ、早い店では争奪戦が始まっている頃ね」

黒子「わたくしは……気が気でありませんの」

結標「戦争の事? それとも、上条くんの事かしら?」


154 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/23(日) 22:02:33.88 ID:zm1k5pEo [7/11]
黒子「当麻さんの事ですの。あの方のご様子はいくら前の戦乱があったにしても、少し異常なように見えました」

結標「そうかしら? 前の大戦を憎む狼は少なくないわよ。特にあの上条くんならね。彼は、今の争奪戦が大好きだから」

 黒子は結標の言葉に若干の嫉妬を抱きつつ、考える。

黒子(わたくしの知らない、当麻さん……)
 
 彼女はまだ《狼》としては新米だ。
 もちろん、過去の大戦の事など、知る由もない。

黒子(そして、その頃の当麻さんの事も……)

 彼女はこれまで上条と行動を供にし、彼のことを少なからず知っているつもりでいた。
 しかし考えてみれば、彼とこうして話すようになったのも、つい最近なのだ。
 それまでは、憎くすら思っていたはずなのに。

黒子「当麻さんは……わたくし達は、勝てるのでしょうか」

結標「さあね。でもま、私はこのセブンス・マートさえ守れればそれでいいわ。他のことなんて、興味もない」

黒子「それはいささか無責任では……」

結標「いいのよ、それで。私は私の守れる物を守る。私にはこのスーパーだけで精一杯よ」

黒子「……そうですわね。今はただ、わたくし達の戦いだけを考えましょう」

結標「言われなくても、そうしてるわ」

 現在の時刻は19時30分。
 セブンスマートの《半値印証時刻》まで、あと1時間半。


155 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/23(日) 22:13:14.67 ID:zm1k5pEo [8/11]

幻想創造「ふふふ……ついに始まりましたね、御坂さん」

美琴「…………」

 暗い部屋。
 どことなく会議室のように見える大部屋で、二人の人間が巨大な3Dディスプレイを眺めていた。
 そこには第七学区の地図が表示されており、エリアごとに赤と青で色分けされている。
 これは戦争の状況をリアルタイムで表示するプログラムであり、現在、殆どがまだ西側勢力を示す赤に塗られている。
 と、不意に赤かったエリアが青色に塗りつぶされた。
 それは、東の狼が緒戦を飾った事を意味している。

幻想創造「さすがは東の精鋭たちです。緒戦は開始から15分で勝利ですか」

幻想創造「少々早いですが、そろそろ準備をされたらどうですか? 御坂さん」

美琴「まだ一時間以上あるわ。そう急く事もないでしょう」

幻想創造「おやおや? 怖気付いちゃったんですか? そうですよね、相手があの《幻想殺し》とあっては、

                          トール  
      さすがの『超電磁砲』――いえ、《雷神》でも恐れるのは仕方ありません」


美琴「だ、誰がアイツなんかに!」

幻想創造「ふふ、戦えるならいいんです。私としても文句はありませんよ」


156 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/23(日) 22:44:12.16 ID:zm1k5pEo [9/11]

 笑う幻想創造。
 その頬に薄く張り付いた微笑に、美琴はどこか狂気を感じ、目を逸らす。
 
 美琴は思う。
 私が求めていた争奪戦とは、こんな物だったろうかと。

 寮の夕食時間を逃したあの日、たまたま入ったスーパーで争奪戦に巻き込まれて以来、彼女は生来の負けん気を発揮し、
めきめきと力をつけていった。
 その間、常に自分を導き、傍にいてくれたのが《幻想創造》だった。

 黒子を導いたのが上条当麻なら、美琴にとってのそれが《幻想創造》だったのだ。

 彼女は《幻想創造》に対して恩義を感じているし、好意も抱いている。
 しかしそれは身内に対するものであり、彼女が上条当麻を思う時のソレとは違うものだ。

 そんな《幻想創造》が彼女に命じたのは『セブンス・マート』攻略。
 つまり、彼女の想い人である《幻想殺し》の打倒だ。

 しかし、彼女にとってそれは抵抗感を抱くような事ではない。
 彼との喧嘩はもはや日常的なものであり、その舞台がスーパーへと移るだけの話である。
 そう、それだけならば何の問題も無い。
 『たまたま』会ったスーパーで《狼》として闘うならば……


157 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/23(日) 22:50:51.09 ID:zm1k5pEo [10/11]

 だが今回はそうではない。

 明確な敵意を持っての対立。
 戦争という舞台に於いての、兵士と兵士と言う立場での戦い。

 それは彼女にとって、何とも言えない不快感を与えていた。

幻想創造「あれ? あはは、見てくださいよ御坂さん。西も結構善戦しているようです。なかなか制圧地域が増えていきませんね」

美琴「……行くわ」

幻想創造「ああ、もうそんな時間ですか。私も準備をしないと」

 笑みを浮かべて椅子から立ち上がる《幻想創造》を尻目に、美琴は無言で扉へと向かう。
 静かにドアがスライドし、その向こう側へと美琴は一歩を踏み出す。

幻想創造「いってらっしゃい。御坂美琴さん」

 答えること無く、ドアの向こうに美琴は消えた。


 現在の時刻は20時15分。
 セブンス・マートの《半値印証時刻》まで、あと45分。

174 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/25(火) 21:33:00.29 ID:aPRkZoUo [2/10]
 
茶髪「あら《お嬢様》。早いじゃない」

 セブンス・マートの奥。
 弁当コーナーから離れた乾麺コーナーでカップヌードルライトを凝視していた黒子に、茶髪の女性とが声をかけた。

 後ろから、いつもの坊主と顎鬚もついてきている。

黒子「なんですの、それ」

茶髪「知らないの? まだ二つ名ってほど浸透してはいないけど、貴女をこう呼ぶ《狼》がちらほらいるのよ」

黒子「はぁ……二つ名がつくのは素直に嬉しいですが、いささか不本意ですの」

 ため息を付いて肩を竦める黒子に、坊主が思い出したと言うように指を立てた。

坊主「なんだ、それが嫌ならもう一つ二つ名候補があるぞ、お嬢」

黒子「まぁ、なんと言うんですの?」

    レズビアン
坊主「《変 態》」



175 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/25(火) 21:39:48.04 ID:aPRkZoUo [3/10]

黒子「なぁっ!? わたくしの何処が変態なんですの!?」

顎鬚「なんでも『超電磁砲』にビリビリされて悦んでるのを見た奴がいるとかなんとか……
    え?お嬢ってそういう趣味?」

黒子「確かにお姉さまからの愛のムチでしたら悦んでお受けいたしますけれども。
    別にわたくしにはそういった趣味はありませんの」

結標「その時点で、十分に変態よ」

黒子「そんな……わたくしの愛がそんな風に見られていたなんて……」


  「あんなもん、そう見られたって仕方ないっての」


 声。

 不意に投げかけられた呼び掛けに、皆が一斉に振り向いた。
 そこにいたのは右手にカゴを提げた一人の少女――

 ――雷神《トール》! 御坂美琴!


美琴「はじめまして、西の《狼》さん。神罰を与えに来たわよ」



176 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/25(火) 21:44:33.68 ID:aPRkZoUo [4/10]

黒子「お姉……さま」

美琴「話には聞いていたけど、あんたも《狼》になってたとはねぇ、黒子」

結標「あら、東からの刺客は貴女だけなの? 《雷神》」

黒子「《雷神》――!? では《幻想創造》の配下と言うのは……」

美琴「そう、私よ《変態》さん」

 言い、カゴを肩に担ぐように保持すると、美琴は誰かを探すように左右に目をやる。

美琴「アイツは――《幻想殺し》はまだ居ないみたいね。結構楽しみにしてたんだけど」

坊主「ふん、奴が居ずともお前一人だけならば、我々だけで十分だ」

顎鬚「俺らも舐められたモンだぜ」

結標「……違うわ」

顎鬚「え?」


177 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/25(火) 21:48:47.33 ID:aPRkZoUo [5/10]

美琴「へぇ、気づいたんだ」

 うっすらと笑い、美琴が左指を鳴らす。
 と、ゾッとするような冷気が。
 突き刺さるような視線が。
 全方向から彼等へと穿たれる。

茶髪「なっ!?」

結標「なんて数……!」
                                      クリーチャーズ
美琴「よく訓練されているでしょう? 《幻想創造》が作り出した《魑魅魍狼》よ」

結標「こんな兵隊まで作って……《ガブリエルラチェット》の真似事かしら?」

美琴「あんな物と一緒にしないで欲しいわね。             
    こいつらは《ガブリエルラチェット》と違って戦闘能力を有する《軍用犬》よ」

顎鬚「なんだよこれ……《幻想創造》ってのは正気なのか!?」

178 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/25(火) 21:54:02.45 ID:aPRkZoUo [6/10]

美琴「これでも勝てるってんなら私はいいんだけど……そろそろ《半値印証時刻》だし、
   《幻想殺し》を早く呼び寄せた方がいいんじゃないの?」

黒子「そうですの! 当麻さんは一体何を……!?」

美琴「……『当麻さん』ねぇ……《狼》になってんのはともかく、あんたがアイツと隠れて会ってただなんて……」

黒子「そんな……隠れて会っていた訳では……」

美琴「だってそうでしょう? 最近帰りが遅いから何でだろうと思ったら……
    聞いたわよ、アイツの部屋にも行ったそうじゃない」

黒子「それは……当麻さんがお風邪をひかれて」

美琴「看病しに行きましたって? はん。そんなの遠回しに『風邪を引いたら看病しに行く仲です』って言ってるようなもんでしょ?
    私にそんな風に見せつけて、楽しい?」

黒子「わ、わたくしは決してそんなつもりでは……」

美琴「無いって言える? あんたが少しもアイツの事を意識してないって、胸を張って言えるの?」


179 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/25(火) 21:59:51.36 ID:aPRkZoUo [7/10]
黒子「そ、それは」

 言える。

 とは、黒子は口にできなかった。
 自分は少なからず、それこそ美琴と同列に考えるくらい、彼のことを意識していたのだから。

美琴「あの時の映画だって……何? 私へのお情けのつもりだった?」

黒子「わ、私は決してそのような事……アレはお姉さまにも、当麻さんにも楽しんで欲しくて……」

美琴「それがお情けだって言うのよ!」

黒子「ひうっ……!」

 怒声に、黒子が怯えたように身をすくめる。
 その身はがくがくと、風雨に打たれ、凍えた子犬のように震えている。

 恐怖だった。
 絶望だった。
 愛する人から受ける剥き出しの嫌悪に、黒子の体は崩れ落ちそうになっていた。

結標「そこまでよ、『超電磁砲』……いえ、《トール》」

美琴「《座標移動》……久しぶりね。意外だったわ、あんたと黒子が一緒にいるなんて」


180 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/25(火) 22:05:39.87 ID:aPRkZoUo [8/10]

結標「あら、それも貴女が言う『アイツ』のおかげよ。どう? 嫉妬したかしら」

美琴「あんたねぇ……」

結標「そうそう、その《幻想殺し》だけど」

 ニヤリと、結標淡希が笑う。

結標「来ないわよ。今日、ここに」

茶髪「なん……ですって?」

坊主「おい《座標移動》!どういう事だよそれは!」

結標「どうもこうも、ソレ以上もソレ以下も無いわ。彼は来ない。
    だから私たちだけでここを守るしか無い。それだけのことよ」

美琴「ふふふ……あははははは!」

黒子「お、お姉さま?」


181 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/25(火) 22:10:35.98 ID:aPRkZoUo [9/10]

美琴「そう……そういう事だったのね……あの子、初めからそういうつもりだったのね」

黒子「一体どういう……」

美琴「いいわ、教えてあげる。《幻想創造》の本当の目的」

結標「…………」

美琴「まぁこれも、ここにアイツが来ないって言う情報から考えた推測だけど……
   初めからおかしいと思ってたのよね、あれほど《幻想殺し》にこだわっていたあの子が、ここに私を差し向けたりして」

美琴「《幻想創造》の本当の理由……ソレは、自分の師を倒し、さらなる高みへと至ること……
    そして、自分を捨てた《幻想殺し》への――


                        ――復讐よ」


 現在の時刻は20時45分。
 セブンス・マートの《半値印証時刻》まで、あと15分。


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