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垣根「いい加減返事聞かせろ、原子崩し」麦野「黙れ」

637 名前:垣根「いい加減返事聞かせろ、原子崩し」麦野「黙れ」 プロローグっぽいもの[saga] 投稿日:2010/05/04(火) 21:22:07.11 ID:hO5X9WA0 [1/5]


「―――俺を選べよ」


垣根の目は自信に満ち溢れている。
選べと選択肢を相手に委ねておきながら、垣根の顔は麦野が絶対に自分を選ぶと信じて疑っていない。
俺に手に入れられないものは無いと高らかに宣言する様は、ムカつくのを通り越していっそ清々しくも思える。


(……最悪)


プライドが高い傲慢な俺様ナルシストなんか、自分の眼中にではなかったはずなのに。
不敵な笑みを浮かべてこちらを見てくる垣根なんか、ウザったくてムカつくだけの野郎のはずに。


(絶対にありえない展開じゃない……ッ!)


こんな展開、少しも麦野は望んでなんかいなかった。
心なんて不安定な物は、本人が気付かないうちに大きく揺れ動いていたりするのだ。


「いい加減返事をきかせろ、原子崩し」


垣根の低い声が、身体中に響く。
微かな吐息が耳たぶに吹きかけられて、背中に電気のような衝撃が走る。
全身にゾワッと鳥肌がたつ感覚すら、逆に快感に思ってしまうほど神経が麻痺してる。
垣根の身につけている香水の甘い蜜のような香りが鼻をくすぐって、麦野の脳を溶かしていく。

ドクンドクンと心臓が高鳴る音が、頭のてっぺんから足の指先まで届く。


「……うるせーんだよ、黙れ」


垣根の声も、胸の高鳴りも。
うるさくて、うるさくて、たまらない。


(―――お願いだから、コレ以上耳元で囁かないでよ……っ)


心臓が、持ちそうにないから。


642 名前:麦野さんの恋愛相談inファミレス[saga] 投稿日:2010/05/04(火) 21:33:13.43 ID:hO5X9WA0

学校からの帰り道、突然、携帯電話で目の前の男から呼び出された。
一体、何の用だろう。密かに胸をときめかせて指定されたファミレスに来て蓋をあけてみれば、他の女に関する恋愛相談だった。
少しだけ。ほんの少しだけ期待していたことなんて起こるはずもなく、麦野はつまらなそうに男の話に耳を傾けていた。

「なぁ、麦野。どうすればいいのかな、俺」

「どうするも何も、そもそもなんで喧嘩なんかしたのよ?」

麦野は奢らせたソーダフロートのストローに口をつけながら、ため息混じりに話につきあう。
先ほどから「どうしよう、どうしよう」と汗をダラダラと流し、あたふたしている男――浜面仕上は、学園都市の路地裏に入れば、溢れるほど出てくる不良の中の1人に過ぎない。
金に染めている髪は痛み気味。着用している茶色のジャージとジーンズも、一見して安物だとわかる。鼻にピアスまでしているが、どこか野暮ったい。
そんな浜面が、ファッション雑誌からそのまま飛び出て来たような、容姿端麗でおしゃれな麦野と一緒にいる様は、幾ばくか周囲の視線を集めてしまっている。

「……わっかんねぇ。なんか昨日から急に口きいてくれなくなって」

「メールでもすればー?」

「メールも駄目なんだ。返信くんないし、電話してもでてくれねぇ。家に行ってもドア開けてくんなかったし……。
 俺嫌われるようなこと、したのか……?」

「嫌われたとかはともかく。怒らせるようなことはしたんでしょ。
 アンタの部屋でエロ本、エロDVDを見つけてドン引きしたとか、気が利かなくて余計な事を言ったとか。
 まぁ、馬鹿浜面がぁ、愛しの滝壺ちゃんのぉ、ハートを傷つけたことはぁ、決定的よねー。こんなアホが彼氏とか、滝壺かわいそー☆」

「うっ……、痛いとこつくなよ」

「で? 心当たりとかない訳?」

「えぇーと」

間抜けな顔で天井と睨めっこをしながら、浜面は『滝壺に嫌われそうな心当たり』について考え始めた。
思いついてはひとーつ、ふたーつと指を折り数える。
だんだんと数を数えるスピードが遅くなっていくに従って、浜面の顔はテーブルへと近づく。
浜面の両手がきれいなグーの形になった時、とうとう浜面はテーブルにひれ伏した。

「うわぁぁぁああ! 滝壺ぉ、俺が悪かったぁぁぁあああっ!!」

テーブルの上にひれ伏して絶望に打ちひしがれる浜面。
「ごめん、超ごめんなさい……」と壊れたラジオのようにくり返す口からは、魂がひょっこりと顔をだしている。
愛しの滝壺ちゃんから嫌がられるような心当たりが、両手の指では足りないほどあるらしい。

「ったく、大人しいあの子を怒らせるなんて、どんなヘマしたらできる訳?」

「……ははっ。俺、滅びればいいわ、マジで」

麦野が目を細め責めるような視線をおくると、浜面から乾いた笑い声とともに沈みきったオーラが漂った。
無能力者で不良で、ドラクエで例えるならブチスライムがいいような所の浜面と、
面倒くさがりで自分磨きをサボり気味とはいえ、磨けば輝くダイヤの原石である滝壺理后とでは、月とスッポン。美女と野獣の組み合わせ。
口説いて、口説いて、口説きまくってようやく手に入れた滝壺を怒らせるなんて、本当に浜面という男は馬鹿だとしか言いようがない。


644 名前:麦野さんの恋愛相談inファミレス[saga] 投稿日:2010/05/04(火) 21:41:22.71 ID:hO5X9WA0


(―――あぁ、もう。世話が焼ける)

学校こそ違うが、麦野と滝壺は仲がいい。
学校のない休日はいつも、滝壺と同じ高校に通うフレンダ、3人によく懐いている中学生の絹旗を含めた4人でよくつんでいる。
不機嫌な滝壺の顔は見たくないし、せっかくの休日を馬鹿浜面のせいで変な雰囲気で過ごすのは癪に思えた。

「仕方がない。滝壺のために、一肌脱いでやるか」

大切な友達である滝壺のためなら仕方がない。
何事もボーっとスルーする滝壺が怒るのだから、浜面は相当の失態をしでかしたのだろう。

(……滝壺の暗い顔とか、見たくないしね)

滝壺のためだから、と麦野は自分に言い聞かせる。
決して今にも泣き崩れてしまいそうな浜面を見ていられないとか、ほっとけないとか、そういうことではない。

「へっ!?」

麦野の言葉に、浜面はガバリとテーブルから起き上る。

「滝壺との仲をなんとかしてほしいとか、そういう魂胆で私を呼び出したことぐらいお見通しだっつーの。
 私は「どうして浜面如きに」とか思うけど、滝壺がアンタに惚れてんのは確かだし。
 きっかけ位はつくってやるから、アンタはその鳥頭めりこむくらい地面に擦りつけて滝壺に謝んなさいよねー」

「麦野さん、いや…麦野様っ!! 有難う御座いますぅぅぅ!!」

麦野の右手を勢いよく両手で握って、浜面はブンブンと上下に揺らしながら「ありがとう」と頭を下げる。

「そうそう、麦野様に感謝しなさいよ? はーまづらぁ」

「感謝してます! しまくってますっ! いやもう、今日はソレ以外でも好きなの何でも食ってくれ、奢るから」

ソーダフロート以外にも奢ってもらえるらしい。
暑苦しい、と浜面の手を払いのけた麦野は、立てかけられていたメニュー表を開いて物色し始めた。
丁度お腹すいてるし、高いの頼めるだけ頼んでやろう。
それくらいしないと、割にあわない。

「すいませーん。コレとコレ、あとココからココまでお願いします」

「ちょっ!? 麦野さん、どんだけ食べるのっ!?」

店員が笑顔で「かしこまりましたぁ!」と取っていた注文の総額は、一葉さんが1人分。
次の奨学金が振り込まれるまで、浜面家の家計は壊滅的なまでの氷河期を迎えることが決定した。


645 名前:長店上機学園校門前にて[saga] 投稿日:2010/05/04(火) 22:20:58.96 ID:hO5X9WA0

下校時間を知らせるチャイムが学校の敷地内に響き渡る。
委員会や部活などに参加していない生徒たちが、ぞくぞくと正門を潜って帰路についていた。
授業以外の学校行事に消極的な垣根も、その中の1人。
正門前まで歩いていくと、下校途中の生徒たちが校門の横に立っている少女を遠巻きに見つめている。

「よぅ、久しぶりだな。元気にしてたか、美琴ちゃん?」

校門の横にたつ少女は、ここ長点上機学園とおなじ学園都市五指の名門に入る常盤台中学の制服を着ていた。
お嬢さま校として有名な常盤台の子で、更に中々可愛らしい顔立ちをしている御坂美琴に生徒達の視線(主に男子)が集まってもいたしかたない。

「あっ、垣根さん。久しぶり~」

常盤台のエースとして日ごろから少女達の熱い視線になれているからか、御坂は周囲の様子など特に気にしていない。

「つーか、なんでいきなり『美琴ちゃん』呼び? いっつも『御坂』なのに」

「いやぁ最近さ、オマエの事『美琴ちゃん』って呼ぶとアイツが面白い顔すること発見したんだよな」

ついこの間のお昼休み、一緒に学食を食いながら冗談半分で「美琴ちゃん♪」と冗談半分でアイツをからかってみた。
すると、それはそれは苦虫を噛みちぎるような形相で睨んできたのだ、と垣根は面白そうに御坂に教えてあげた。

「アイツって誰のこと?」

「一方通行」

「うっそ!?」

「本当ー」

垣根を睨んできたアイツ、というのが一方通行だと知らさせて、御坂は信じられないとばかり口をあけて固まった。
一方通行って垣根の冗談にそんな態度を取るようなキャラだっただろうか。
どちらかと言えば、挑発には簡単に乗せられやすいが、いつも垣根のからかいには無視を貫いていたはずだ。

「あれだね。『美琴』って呼んでいいのは俺だけだーみたいな? 愛されてるねー、美琴ちゃん」

「えぇーうっそだぁ! 未だに私のこと『超電磁砲』って呼ぶんですけど?」

「……一応、確認。オマエ等、良い感じになってからどんくらい経つっけ?」

「春からだから、3ヶ月は経ってる」

おいおいおいっ! と垣根はどうにも突っ込みを入れたくなってしまった。
独占欲だけは1人前のくせに、自分の女の名前すら呼び捨てにできない一方通行の頭をベシッと叩いてやりたい衝動にかられる。

658 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/05/07(金) 21:51:03.74 ID:vDhWg960 [2/5]
わざわざ長点上機学園まで御坂が来た理由はどうせ一方通行のお迎えのだろう、と垣根は予想をたてた。
常盤台中学のある「学舎の園」からだとバスに乗っても30分以上はかかる程遠いのに、御坂は一方通行のために甲斐甲斐しくここまで足を向けた。


(……麦野も俺のこと迎えに来てくんねえかな)


垣根は今ここに居ない、自分の心を見事に掻っ攫っていった女の事を思い出していた。
カツカツとパンプスのヒールを鳴らして歩く姿は自信に溢れていて、風になびかせる亜麻色の髪が美しい垣根の想い人。
自分の隣でちょこんと一方通行を待っている御坂のように、「垣根!」と笑って校門の前で待っていてくれたらどれほど嬉しいか。


----

息を切らして、校門まで走って来た麦野。
その頬は微かに赤く染まっている。


「どうしたんだよ、そんなに慌てて」

「その、……垣根に会いたくなっちゃって」

つい勢いで言ってしまった台詞に更に顔を染め、ぷいッとそっぽをむく麦野―――、


----


(―――ないないない、絶対ない)


だって、彼女は自分に笑いかけてすらくれないのに。


(いっつも、俺が追いかけまわしてるだけだし)


どちらかといえば、垣根は御坂と似たような立場にいる。
尽くされるより尽くす側。追いかけまわされるより追いかける側なのだ。


(あーぁ、俺も尽くされてぇー)



659 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/05/07(金) 21:52:53.10 ID:vDhWg960 [3/5]
垣根がそんな事をぼんやりと考えている間にも、
御坂は何度も携帯をパカパカと開いて、不機嫌そうに「むぅ~」と何の変わり映えもしない画面と睨めっこをしている。


「一方通行から連絡こねえの?」

「着いたってメールしたんだけどねぇ。さっさと買い物行きたいのにー」

「買い物?」

「そ。今日は一方通行の家にご飯作りにいくつもりなの」

「さいですか。相変わらず仲のよろしい事で」


不満そうに頬を膨らませて携帯を乱暴に閉じた美琴は、少しだけ苛立ちはじめている。
付き合い始めても、御坂美琴が一方通行に振り回される現状は付き合う前とあまり変わっていないようだ。
それでも、この少女はあの気難しい天邪鬼な学園都市第一位を攻落させた実力者。

垣根はよくよく御坂のことを舐めるように観察した。

枝毛が一つも見受けられない健康的な茶髪。人形のようにくりっとした二重の瞳。
まだ発達途中のため身体の凹凸は申し訳程度だが、それでも抜群の将来性がそれを易々とカバーする。
外見だけでも満点に近い御坂だが、それだけであの固物を落とせるかは少し疑問だ。


661 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/05/07(金) 21:58:29.53 ID:vDhWg960 [4/5]
「……オマエさぁ、どうやって一方通行のこと落としたんだ?」

「何よ、突然」

「麦野の奴がな、相変わらず俺に冷たいんですよ。
 俺としてはいい加減次に進みたいというか、告白の返事をもらいたいというか。
 ここはひとつ、超難航物件の一方通行を落とした御坂さんにご教授願おうとおもってな」


自分で言うのもなんだが、垣根だってそれほど悪い外見をしている訳ではない。
背も高く足も長いモデル体型、整った顔。街を歩けばいつだって垣根は女の目線を1人占めにしてしまう男だ。
所属している学校も名門長点上機学園だし、学園都市230万人の頂点・超能力者の第2位に食い込むつわもの。
こんな総合的に高スペックな奴、自分以外の他には誰もいないのに。
異性だが似たようなスペックの御坂は一方通行を落とせたのに、自分は一方通行並に超難解物件の麦野を落とせない。

自分と御坂の決定的な違いは何なのかと垣根は真剣に悩んでいた。
"性格"という重要なキーワードが頭からすっぽり抜け落ちていることに垣根は気づかない。


「……参考になることなんて、ないわよ」

「つーか、お前らの馴初めがただ気になるってのもある。一方通行に聞いても『オマエには関係ねェ』の一言で片づけらるからさ」

「……ん~。しいて言えばよ? しいて言えば、あれは―――押し倒した……かな?」

「ブハッ。マジかよッ!? 御坂が一方通行を押し倒し―――グフゥッ!」

「大きな声出すなっ! 未遂よ、未遂!」


驚きに任せて大声であげてしまった垣根の腹に抉るように美琴の拳が決まった。


「……ただ、なんか勢いでガンガンいってみたら、あれよあれよと上手くいったというか……ッ!
 アイツってさ、見た目のわりに恋愛経験ゼロだったみたいで、責められるのに弱かったのかも!!」


「押し倒したって何?」「あんな純情そうな子が…」という周囲の目線に顔を赤くし、
あまりの恥ずかしさに御坂は小声で素早く捲し立てると、コレ以上聞いてくるなというようにキッと垣根を睨みつけた。
その「ガンガン行こうぜ」的なノリはなんだ、と垣根は呆れた。


「……あー、アイツへたれだしなぁ」

「誰がヘタレだってェ!?」


先ほど、一方通行の「自分の女呼び捨てにできない」というヘタレぶりを改めて思い知ったばかりの垣根が、
友のフォローもせずに御坂の台詞に同意した時、背中のほうからこちらに罵声を浴びせてくる少年の声が聞こえた。

662 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/05/07(金) 22:52:34.38 ID:vDhWg960 [5/5]


「ちょっと、一方通行! 校門まで来てるってメールしたのに、遅いじゃないのよ!」


ようやく姿を現した一方通行に、長らく待たされていた御坂が食って掛りながら彼の元へとかけよった。
だらしなく手ををズボンのポケットに突っこんでいる一方通行。
腕と腹の隙間に手をすべり込ませて、御坂は一方通行の右腕に自分の左腕を絡ませる。
御坂の一連の行があまりにも自然で、いつも嬉しさのあまり先に飛びつくのは少女の方なのだろう、と安易に告げる。

 
「オマエが勝手にここまで来たンだろォが。わざわざ来てやったンだから感謝しろよ」

「おいおい、せっかく美琴ちゃ……、」

「―――ア"ァ?」


冷たい赤い眼孔が垣根へと向けられる。
「ゴゴゴゴゴッ」という効果音が似合いそうな形相だ。


(本当に、独占欲だけは1人前だな)


無意識に嫉妬している一方通行の姿を可笑しくて垣根はニヤニヤと笑った。
しかし、コレ以上からかうヤバい。とりあえず、一方通行をからかうのはここまでにしてやろう。


「せっかく、御坂がデートに誘いに来てくれたんだろ?」

「垣根、オマエには関係ねェだろ。俺は帰って寝たいンですゥゥ」


一方通行の尊大な態度に、垣根はカチンと来た。
御坂がどれだけ一方通行のためだけに行動しているのか、目の前の男はちゃんと考えているのか。
自分はどんなに好意を伝えても相手にすらされないのに、一方通行はあまりにも贅沢過ぎる。

好きな人が自分のために何かしてくれることが羨ましい。
なんて垣根は意地でも言わないが。


「文句言うな、贅沢なんだよオマエ。マジなんなの、ソレ。
 自慢か、麦野に軽くあしらわれてる俺に対する自慢ですかこの野郎。ムカつくから一片死んでこいや!」

「ハッ、毎日毎日、金魚の糞みたく麦野につきまとってよく飽きねェよな。
 今日にでもストーカー被害で麦野が警備員にお前のことつきだすんじゃねェの、帝督くゥゥゥん?」

666 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/05/08(土) 00:25:30.58 ID:Xi9tcbA0 [1/3]


「はーい、ストップストップ! ガン飛ばし合わない! 能力を使おうとしないっ!!」


火花を散らし合う二人の間に割り込むように入り、御坂は彼ら喧嘩の仲裁を試みる。


「うるせェ、オマエはひっこンで――、」

「こんなとこで喧嘩しないのッ! めっ!!」

「……っ」


口をへの字に曲げて、眉をつり上げながら御坂は一方通行を叱りつけた。
御坂は一方通行より7㎝ほど背が低いため、自ずと上目づかいで一方通行の顔を伺うことになる。
幼児を怒る母親のように「めっ!!」と言った御坂に、一方通行は反論らしい反論もせずに、ただ黙って彼女を見つめるだけ。


「お返事は?」

「…………スミマセンデシタ」

「あー、俺も悪かった」

「よろしい♪」

ふいっと御坂から視線を外した一方通行は、居心地を悪そうにしながら片言で謝罪の言葉を口にする。
垣根もつられる様にして謝ると、御坂は満足げに笑った。

垣根は、色白い少年の耳元がほんのりと赤く染まったのを見逃さなかった。
怒る姿も可愛いとか、上目づかいはヤバいだろとか、
一方通行がもの凄く場違いなことを考えていたことは、垣根には手に取るようにわかった。


「なぁ、一方通行。何だ、その……。頑張れよ」

「……うるせェ」


素直に自分の気持ちを伝えたり態度にするのが苦手な癖に、
無意識に嫉妬したり呆けてみたりする一方通行の姿を見て、垣根は微笑ましい気分になった。
それでも、一方通行のヘタレぶりは改善するべきだと思うし、改善されなければいつかは御坂に見放される。

もう少し御坂に優しくしてやれ。
もう少し素直になってやれ。
もう少し、お前から御坂に与えてやれよ―――と、言いたいことは山ほどあるが、今では時間が足りな過ぎる。

垣根はとりあえず、全部の意味を込めて「頑張れよ」と一方通行に声をかけた。
一方通行が垣根の言葉の真意を汲み取ったかは定かでないが、そこまで馬鹿な奴じゃないだろ、と垣根は彼を評価している。

668 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/05/08(土) 00:28:26.85 ID:Xi9tcbA0 [2/3]


「買い物だったか? さっさと行ってさっさと終らせンぞ」

「えっ? ちょっ、何でいつもアンタは強引なのよ!? あーもう、垣根さん、またね!」


垣根にかけられた言葉が、余計に居心地の悪さに拍車をかけたらしく、一方通行は垣根を無視して歩きだしてしまった。
一方通行と腕を絡めている御坂は半ば引きずられるようになりながら、顔だけをこちら向けて別れを告げた。


「おう、またな。御坂、一方通行」


それだけ言って、垣根も二人とは反対方向へと進もうとしたが、ふと立ち止まる。


「――っと、一方通行! 明日は身体検査だから、寝坊すんじゃねぇぞ!」


日が暮れたせいか、学園都市を歩く人々の姿はぼんやりとして分かりにくい。
遠くに見える一方通行らしき人影が微かに動いた。ゆらりと揺れる人影の隣には、ぴったりと寄り添う人影がもう1つ。


「ったく、羨ましい限りだな」


幸せそうに寄り添う影達を眺めながら、垣根はポツリと呟いた。


674 名前:お相手は霧ケ丘女学院の方々でした[sage] 投稿日:2010/05/09(日) 12:23:28.08 ID:GthGvkQ0 [1/7]
浜面の財布を枯渇させる原因となった数々のメニューがテーブルに出揃う。
2人が入ったファミレスはデザートの種類の多さが自慢であり、麦野はデザート全20種完全制覇に向けてスプーンをかまえた。


「わぁ~美味しそう!!」


麦野はチョコレートケーキと抹茶プリンを交互に食べながら、頬を一生懸命はむはむと動かす。
少し苦みの訊いたチョコレートケーキと渋みが独特の抹茶プリンのほのかな甘味に、自然と口元がにんまり緩んだ。


「く~、美味しぃー」

「麦野さんにご満足いただけだようで、ようございました……」

「ウフフフフ。次はどれを食べようかなー」


早くも2つの皿が空になった。
何かを選ぶときに子供が歌いながら指をさす仕草を真似して麦野は次のデザートの品定めをする。
学園都市の場合、皆がLEVEL6(神様)を目指しているため、こういう時は神様に近いとされるLEVEL5の通り名を入れたりする。
「ナンバーセブンのいうとおり」もしくは「超電磁砲のいうとおり」が最もメジャーだ。


「ど、れ、に、し、よ、う、か、な。
 め、る、と、だ、う、な、あ、の、い、う、と、お、り~、っと! おっ! 次はモンブラン、君にきめた♪」

「いやもう、思う存分好きに食い散らかせばいいじゃねぇかよぉぉぉっ」


一音づつに沿って指をさし「り」で見事モンブランを当てた麦野は、ウキウキとモンブランの皿を手元へと運ぶ。
心なしか頬をゲッソリさせている浜面を麦野は見ないふりをした。
全ては馬鹿男の浅はかな行動が原因なのだから自業自得だ。
浜面の「愛しの滝壺理后タンに嫌われちゃったかもしんない☆」心当たりは、ざっと以下の通り。

一つ、愛されバニーガール風メイドというゲテモノメイド服をこっそり購入していたこと。
一つ、上記の服を勧めてきた友人に借りた大量の妹系エロ雑誌及びDVDを滝壺に発見されたかもしれないこと。
一つ、「滝壺ってさ、最近ポッチャリしてきた?」と年頃の娘が最も気にする地雷を踏んだこと。
一つ、友人に送るつもりだった「いやぁ~やっぱし巨乳も捨てがたいだろぉ」というメールを滝壺に誤送信したこと。
一つ、「恥ずかしいから」と滝壺に釘を刺されているのに、この間勢い余ってもの凄くしつこいキスをかましたこと。

エトセトラ、エトセトラ。
心当たりというよりは、むりろ罪状のようにも思えてくる。
次から次にウジ虫の如く湧いて出る浜面の失態に麦野は呆れ果て、今はデザート優先で半分聞き流していた。
ここまで純真な乙女の地雷を無作為に踏みまくる浜面を、今の今ままで、滝壺はよく許していたもんだ。


(滝壺、アンタ凄すぎ。よっく耐えられるわね)


忍ぶ女、滝壺理后に改めて感心する麦野だった。

676 名前:お相手は霧ケ丘女学院の方々でした[sage] 投稿日:2010/05/09(日) 12:59:25.09 ID:GthGvkQ0 [2/7]


まだまだ出てくる心当たりを浜面は懇切丁寧に説明する。
もう自分ではどれがダウトだったのか見当がつかず、滝壺と仲がいい麦野に判断してほしいようだ。


「あとは、一昨日のアレもやっぱ駄目だよなぁぁ」

「……まぁだあるのぉ? はーまづらぁ、アンタ、ゲスの域にまで達するわね」

「オマエの毒舌って本当に心えぐるから勘弁して……」

「勝手にえぐれてろ。 んで? 次はなんなのよ」


無駄にデカイ図体を縮こまらせて小動物のようにプルプルと小刻みに震える浜面。
そーいう仕草は女の子だからこそ可愛いのであって、浜面みたいな男がやっても可愛くない。
「むしろ気持ち悪いわ、ボケ」と麦野は冷たく吐き捨てて、さっさと話せと浜面を促した。



677 名前:お相手は霧ケ丘女学院の方々でした[sage] 投稿日:2010/05/09(日) 13:45:53.46 ID:GthGvkQ0 [3/7]
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一昨日の朝。
いつものように眠たい目を擦りながら教室の扉をあけると、友人たちが馬鹿騒ぎを繰り広げていた。
足窓側の後ろの席――不幸の避雷針、上条当麻が陣取っている席の周りでワイワイと騒がしくしている。
騒ぎの中心地に足早に向かうと、浜面は集団の中に割って入った。


「オマエら、なーに気持ち悪い顔して騒いでんだよ」

「おう、浜面。おはようだにゃー」

「おっす。土御門」

「ヌフフフ、実はですね! ようやく上条さん達にも春が到来しそうなんですよ!」

「そーなんや! 僕らにも女神様が微笑んでくださったんやー! うはーっ!」


浜面に「おはよう」と言ってくれたのは、土御門元春だけだった。
金髪にサングラス。何故が学ランの下にはけったいなアロハシャツを着ている土御門は、他の2人を冷やかな目で眺めていた。
青髪ピアス(本性不明)と上条は、朝っぱらからテンションMAXではしゃいでいる。
彼らは童心にでも帰っているのだろうか、と浜面も遠い目で2人を見た。



678 名前:お相手は霧ケ丘女学院の方々でした[sage] 投稿日:2010/05/09(日) 13:47:27.19 ID:GthGvkQ0 [4/7]


「女神さまって、なんぞソレ」

「浜面、実はな~」

「なんとなんと!」

「「霧ヶ丘女学院の子と合コンすることになったんや(だ)!」」

「な、なんだってーーっっ!!?」


予想もしない上条と青髪ピアスの発言に、浜面は驚愕のあまり身を乗り出した。

霧ケ丘女学院といえば、能力開発の分野において常盤台中学と腕を競い合ってる名門女子校。
イレギュラー的な能力の発見、開発を得意とすることで各方面で名をほしいままにしている霧ケ丘女学院だが、
浜面や上条といった健全な一般男子高校生が「霧ケ丘女学院」と聞いて思い浮かべることは―――、


「お姉さま系巨乳女子高生が多いといわれる、あの『霧ケ丘』なのかっ!?」

「マジだよ! 大マジッ!!」

「夢のような話やろ? しかーしっ、決して夢ではあらへんのや!
 僕らは霧ケ丘女学院のお姉さま方と合コンすることは、すでに確定しているコト!
 これは、『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』にも覆すことは出来ん確定事項なんやでーーっ!!」

「マジなのかよ、すっげーーっ!!」


上条と青髪ピアスのどんちゃん騒ぎに、浜面も加わって更に騒がしくなる。
窓際のうるさい集団を睨みつける委員長・吹寄制理を横目にいれつつ、土御門は興味なさそうに口をはさんだ。


「可愛い可愛い舞夏タンが居るから、俺は参加しないけどにゃー」


一見可愛い義妹への愛を貫くためにも見えるが、
ただ単に合コンの相手が年上のお姉さまであることが、シスコン兼ロリコン軍曹である土御門には気に食わないだけ。


692 名前:お相手は霧ケ丘女学院の方々でした [sage] 投稿日:2010/05/14(金) 20:47:15.04 ID:atQsn5M0 [2/6]
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「ほぅ、合コンに参加した、と?」

「……つい、断り切れずに」


霧ケ丘女学院の女の子は三人。男側も三人揃えないとせっかくの合コンもおじゃんになってしまう。
「頼む、浜面。僕らにはオマエしか居らんねん!」と友人に泣きつかれた浜面は、土御門という人の代わりに合コンにかりだされた、というのが一連の真相らしい。


(こんの、阿保浜面がァァァアアアッッ!!)


彼女持ちの男が、男女の出会いを探す場である合コンなるものに参加しても許される訳がない。
どうしてそんな単純明快なことを、この男はすぐに考えつかないのだろうか、と麦野は頭を抱えた。
こめかみに血管が浮き出だしながら、口角をひくひくと痙攣させている麦野の前に、浜面は視線を合わせることが出来ずに下を向いている。
浜面の馬鹿さ加減に苛立ちが更に加速する。カンカンカンカンッと、淡い桃色のジェルネイルが施されている爪先を麦野はテーブルに小刻みに叩きつけた。


(―――コイツは底なしのお人好しだし、マジで友達に頼まれたら断れなさそう)


『類は友を呼ぶ』と昔の偉い人は言いました。
目の前で小動物のように震える男の友人も、どうしようもない馬鹿で女の子に縁の無い野郎共に決まっている。
霧ケ丘女学院という名門女子校の女の子と知り合える機会なんて、そうそうないはず。
合コンをおじゃんにしないために彼女持ちの友人の一人や二人、強引に巻き込むのも頷ける―――と、麦野は無理やりそう納得してあげた。


「ふ~ん。つい、ねえ」

「友達に土下座してまで頼まれたら、俺も断りずらくてさ……」

「普通そこはさぁ、友より彼女優先じゃないの?」

「ははっ……。面目ない」


693 名前:お相手は霧ケ丘女学院の方々でした [saga] 投稿日:2010/05/14(金) 21:32:51.08 ID:atQsn5M0 [3/6]
合コンの件が滝壺を怒らせた原因だと簡単に結論づけられないが、要因の一つではある。
浜面が一つ一つ挙げていった失態が少しずつ滝壺にストレスを与えて爆発してしまった、という可能性が高いと麦野はふんだ。
滝壺の溜まりに溜まったストレスが、とうとう大噴火してしまったのだ。『塵が積もれば山となる』とも、昔の偉い人は言いました。


(――反省はしているようだし、本人が望んでいった合コンでもないみたいね)


はぁっ、と麦野から漏れたため息に、浜面の肩だビクリと動いたのが見えた。
少し、脅しをかけすぎたかもしれない、と麦野は適当な話題で周囲の淀んだ空気を薄くしようと試みる。
合コンの話が続いていたせいで、麦野の試みた話題転換も自然とそちらのコトに流れてしまったのが、浜面の運のつき。


「あーっと、そーいえば、霧ケ丘女学院のおねーさまはどうだったのさ」

「いやもう、すんばらしかったですっ!!!!!」


目をキラキラと輝かせて、浜面は熱烈な叫び声を一つ上げる。
幻想殺しを持つ上条と変わらぬほどの浜面の反射神経の良さが、今の場面では仇となってしまった。


「はーまづらぁ……。ちょーっと、いいかにゃーん?」

「……えっと、すごぉぉぉく嫌な予感がするのですが」


デザートをつついていたスプーンを静かにテーブルの上に置くと、麦野はゆらりとその場に立ち上がった。
麦野の後ろの方に照明があるため、麦野の表情は影となって浜面から読み取ることは出来ない。
ダラダラと流れてくる冷や汗を拭うことも忘れ、浜面はものすごく怖い顔をしてるであろう麦野をなんとか宥めすかせようと頭をフル回転させた。
が、すぐにそんな答えが見つかるはずもなかった。


(前言撤回、浜面オマエが合コンに行きたかっただけじゃねえかよ)


ポッポッポッ、と何処からともなく小さな光の玉が複数個麦野の周囲に出現する。
白く輝く玉の光が彼女の顔を映し出す。
どんな男でも虜にしそうな妖しげな笑みを浮かべた麦野は、弓形に曲がった口を歌うように動かした。


「―――死ねッ、クソ野郎」

「ちょっ!落ち着け麦野ォォオオオっ!!」


ドガガガガガガッ!!


学園都市が誇る超能力者の第四位、麦野死沈利の『原子崩し』がファミレス内で炸裂した。

694 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/14(金) 21:35:55.64 ID:atQsn5M0 [4/6]
麦野ん、ごめんなさい。麦野沈利だよね。死沈利ってなんでしょうね。

698 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/14(金) 23:09:54.84 ID:atQsn5M0 [5/6]


麦野の能力によって出現した白く輝く光線は、浜面の右手、股、足元に触れるか触れないかの位置ですりぬけた。
一瞬のことに身動きが取れなかった浜面だが、それが九死に一生を得る結果に繋がったのだから皮肉なものだ。
ごくり、と唾を呑んだ浜面はすっかり腰が抜けて茫然としている。


「………あ、あ、あ」

「滝壺傷つけたんだから、これくらいのお仕置きは当然の報いよ」



アワアワと口は動かすが上手く言葉を紡げないほどビビっている浜面を、フンッと麦野は鼻で笑った。
先ほど麦野が放った光線-正式名称、粒機波形高速砲-は、最低限までその威力を落とした微弱なものだった。
光線一つの太さは一センチ程。それでも直撃すれば大けがをするであろう代物。
もしもの時の事を考え、はじめから心臓や脳は座標から外していたが――、


(急所にかすりもしなかったことは少し残念ね、再起不能になりゃよかったものを)


世の中の男子諸君が聞いたら真っ青になる台詞を、心の中で堂々と吐く麦野。
女心をもてあそぶ奴は女の敵なのだから、成敗したって誰からも文句を言われる必要はない。
正義の前に、悪は散った。


「ちょろーっと器物破損しちゃってすいません。コレで弁償するんで、警備員には内緒でお願いしまーす♪」

「は、はいぃぃッ……!」


麦野は真っ白になった浜面を置き去りにして席を立つと、手近にいたウエイトレスに声をかけ、財布からだした偉く高級感が漂う黒いカードを手渡す。
ステンレス製のテーブル、安っぽいスチールのイスの背もたれ、コンクリートの床其々に一センチ程の穴が空いてしまった。
浜面をぶちのめしただけなのに、傷害罪、器物破損罪で警備員にしょっぴかれるのは御免だ。
「そのカードで使えるお金は全部使って」と超能力者らしい金の羽振りの良さを見せつけた麦野は、ファミレスのドアに手をかけた。


「あ、ありがとうございましたぁぁッ」


一部始終を見ていたウエイトレスも、現状をいまいち把握できずに、ただただ麦野を見送るしかできなかった。
カランカランとドアについているチャイムの音が空しく響く。


700 名前:脳内妄想大爆発な設定ですが、ご勘弁頂けると幸いです。[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 00:36:38.90 ID:t.CFiVY0 [1/5]

御坂と一方通行と別れた後、垣根は第七学区内に存在する、とあるファミレスへと足を向けていた。
デザートの豊富さが売りのそのファミレスは、麦野が友人たちと毎日のように通い詰めている行きつけの場所。
そこへ向かう前に麦野の通う学校へと行ってみたのだが、待てど暮らせど彼女の姿がみつからなかった。


(メール、無視されてら)


「これから一緒に飯でもどう?」とデートの誘いをメールでしたのだが麦野からの返信は無い。
デートの誘いが空回るのはいつものことだが、今回もがくりと肩を落としてしまう垣根だった。

垣根はが麦野の連絡先を知っているのは、麦野がわざわざ教えてくれたものではない。
超能力者たちには特別な教育課程が設けられており、年に数回、超能力者が複数人集まり合同の講義を受けることがある。
合同の講義がある時などの連絡網として、全員が互いの連絡先を把握している。それだけのこと。

合同の講義、といっても大まかに二つある。

一つは学園都市内にある研究機関への協力。
超能力者は能力の研究利益が遥かに大きいため、舞いこんでくる依頼も多いし、複数で協力することも稀にあるのだ。
「電子を操る」という能力の根本が同じ麦野や御坂は、電子操作系の応用を研究する施設に共同で継続敵に実験協力している。
能力で生体電流を操ることの出来る御坂や一方通行には、筋ジストロフィー関連の医療機関から協力の依頼が来ていたはずだし。
脳内の情報改竄の研究では、過去に一方通行と心理掌握が一緒に協力したケースもある。


「あーぁ、明日の身体検査の相手が麦野だったら良かったのぜ
 なんで俺が削板なんて暑苦しい奴とガチンコバトルしねえといけないんだか……」


そして、もう一つが年に数回行われる身体検査。
合同の講義、といえば圧倒的にこちらを指す場合が多い。
軍隊をも退ける力を持つ超能力者が全力を出して戦える相手は限られてくる。
身体検査において対能力者の公式戦を行わなくてはならない場合、よっぽどのことが無い限り超能力者は、他の超能力者と戦う。

残念なことに、垣根の明日の身体検査の相手は第七位の『ナンバーセブン』、削板軍覇が相手。
今回の身体検査は削板のため、という面が大きい。
未だに解明は進んでいない『原石』の力の動きをよく観察したいのだよ、と統括理事のお偉いさん談。
全力全開の削板の相手は疲れるだけだ、と垣根は面倒くさそうに眉をひそめる。


(一方通行がやりゃーいいんだよ)


アイツなら、とりあえず『反射』を設定して突っ立てるだけでいい。
削板という男は、銃弾が当たってもかすり傷つけない頑丈さが謳い文句男なのだから、自分の攻撃の『反射』で死ぬことはないだろ、と垣根は楽観的に考えた。


702 名前:垣根→麦野の光景[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 01:35:16.27 ID:t.CFiVY0 [2/5]
明日の身体検査を憂鬱に感じながら歩いていると、垣根の視界にはすでに目的地のファミレスが見えていた。
今度こそ麦野に会えるかもしれない、と考えるだけで垣根の心は踊り、先ほどの憂鬱な気分なんて彼方へ吹き飛んで行く。
垣根が横断歩道を渡りファミレスの入口前までたどり着いた時、丁度入口のドアが開き一人の女性が出てきた。


「麦野っ!」


垣根は求めてやまない少女、麦野沈利その人だった。
ウェーブのかかった亜麻色のロングヘア、どんな男も視線を釘付けにしてしまう魅惑的なスタイル。
三つボタンの黒のブレザーに灰色チェックのベストとスカートという制服姿が、より一層彼女の凹凸のハッキリした身体のラインを引き立たせる。
芸能人なんか霞んでみえるほど凛々しくも美しい麦野の顔立ちに、垣根は何度も見惚れたものだ。


「……ゲッ、何でアンタがここに居んのよ」

「そりゃあ、もちろん麦野に会いに決まってるだろ?」


切れ長の二重の瞳に彼をが映った途端、麦野は肩すかしを食らい項垂れた。
さっきまで浜面の相手をして今度は非常に面倒くさい垣根の相手をしなければならないのか、と麦野は自分の運の無さを嘆く。
今朝見てきたテレビの星座占いはトップだったのに。これだから非科学(オカルト)は駄目だと落胆した。


「こうやってタイミングよく出会えるなんて、やっぱ俺たちって運命の赤い糸で結ばれてんだな」

「うぜえから喋るな」

「照れてるのか? 拗ねる麦野も可愛いな。まぁ、俺はどんな麦野でも愛しているけど」

「キモいキモいキモいッ! 気味悪いこと言うな、さっさと目の前から失せろメルヘン野郎!」

「心配するな、麦野。自覚はある」

「余計にタチが悪いっ!!」


カッカッ、と垣根を無視するかのように足早に歩く麦野の後ろを、垣根はぴったりとくっついて歩く。そんな垣根の姿は、一方通行が揶揄した「金魚の糞」そのものだった。
麦野にどんなに煙たがられようが、無視されようが、睨みつけられようが、垣根はそれら全てを自分の良い様に捉えて嬉しそうに笑っている。


(メルヘンの上、ドМかよッ! うぜえ、ひたすらにうぜえ)


麦野が垣根に対して虫酸を走らせていた時、


(……ツンツンしてる麦野も可愛いよな。ってか麦野は何しても様になるから、ヤベェ)


垣根は麦野とじゃれあう(垣根は本気でそう思っている)喜びに浸っていた。

705 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 02:30:58.61 ID:t.CFiVY0 [3/5]

垣根は常に積極的に麦野にアプローチを続けている。
暇を見つけてはデートに誘い、プレゼントを贈り、積極的に麦野を追いかけまわしている。
麦野にとっては軽いスト―カーみたいなものなのだが、垣根はまったく気が付いていない。


(でも、それだけじゃ麦野は落ちないってのは痛感してる)


超難解物件、一方通行を落とした御坂は、「勢いでガンガンいってみたら上手くいった」と言っていた。
ここは超能力者への片思い見事に実らせた先輩に倣って、勢いに任せていつもより強気に責めてみようか、と垣根は拳を握る。


「いつも言ってるだろ? 俺は沈利のことが好きだって。いい加減、俺のものになれよ」

「黙れ、そして勝手に名前を呼ぶんじぇねえよ、クソが。いつ私が許可したよ、ェエッ?」


垣根の強気に責めるは、勇気を出して麦野の下の名前を呼んでみる。浜面も同様に、垣根も『類は友を呼ぶ輩』だった。
白髪の友人に偉そうなことを言っておいて、いざ自分の番となると少し躊躇する姿は情けないことこの上ない。
普段は他人が引いてしまうくらい「イケイケゴーゴー」状態で麦野に迫るのに、変な所で垣根は純真だった。
「まだ名前呼びが恥ずかしいなら、残念だけど今日は我慢するか」と余裕のある男を演出しているが、その瞳には微かに涙が浮かんでいる。

しかし、どうしても譲れないこともあるため、垣根は麦野に反論した。


「告白の返事聞くまで、俺は黙らねえよ」

「我慢って何様なの、アンタ。何度言ったら分かる訳、散々アンタには『ノー』って言ったはずよ」

「麦野は何もわかってねえな。俺は、俺様だよ。
 だから俺はお前からの返事は『はい』か『イエス』、若しくは『ウィ』しか受け取らねえ」


垣根の提示した選択肢には「交際する」の一択しか用意されていない。
麦野には垣根と付き合う自由もあれば、付き合わない自由もあるはずなのに、垣根はそれをガン無視している。
どこまでもポジティブシンキングな垣根に、麦野の堪忍袋の緒がブチリとキレた。


706 名前:垣根→麦野の光景[sage] 投稿日:2010/05/15(土) 02:34:56.95 ID:t.CFiVY0 [4/5]


「ふ・ざ・け・ん・なァァアアアッッ!!!」


麦野は素早く周囲を確認する。大通りを挿んだ向かい側に人影は見えるが、こちら側の歩道には誰もいない。
ただっ広い歩道には木々が規則正しく並んでおり、そびえ立つビル群はある程度頑丈そうだ。
目の前のムカつく野郎その二は第二位の超能力者。
ファミレスの時ほどの繊細な能力の調整は必要ない、と麦野は判断を下す。


「テメエこそいい加減諦めろよ、ゴミクズストーカーァァァッッ!!!!」

「――ッ!」


浜面の時のように、わざわざ『溜め』なんかしてやらない。垣根に手加減なんて無意味だからだ。
全身全霊の怒りを込めて、高速で駆けていく白く輝く光線を垣根に向かって放出した。
垣根に触れる手前で光線は無理やり折れ曲がり、天高くうち上がった。
『未元物質』によって歪められた垣根の世界では、常識に基づいた麦野の粒機波形高速砲は通用しない。


「っと、危ねえ。お手柔らかに頼むぜ、麦野。俺だから大丈夫だけど、他の奴には無暗にうちまくるなよー。
 オマエが俺と激しい揉み合いをしたいってんなら喜んで付き合ってやるぜ? どちらかと言えば、ベットの上だと俺としては有難いがな」


同じ超能力者でも、第二位の『未元物質』と第四位の『原子崩し』では圧倒的な力の差が存在する。
絶対的な破壊力を生み出す麦野の能力を受けながらも、垣根は顔色一つ変えない。
むしろ、身体検査の相手が麦野じゃない、と絶望していたのに、麦野のほうから構ってきてくれた! と有頂天になる始末。


「この世のに塵一つ残さず滅びろ、『未元物質』さんよぉぉ!!」

「おイタをする子猫ちゃんには躾が必要だな、『原子崩し』ちゃん?」

「いちいち行動がキメェんだよ、ナルシスト!!」


ウインクつきで返事をする垣根の姿が麦野の苛立ちを助長した。


711 名前:垣根→麦野の光景(ちょこっと投下します2レス分)[sage] 投稿日:2010/05/17(月) 00:35:40.98 ID:22o.KyM0 [1/2]

三対の翼を展開させ、垣根は上空へと舞いあがった。
地上から容赦なく打ち込まれてくる粒機波形高速砲を、時に翼で薙ぎ払い、時に殺人光線へと変えた太陽光で相殺する。


「チッ、垣根ェエエッ! オマエは大人しく的に成ってろってぇーのッ!!」


麦野の瞳が真っ直ぐに注がれる。
少し高めの透き通った声が垣根の名を口ずさむ。
口角を弓形に曲げ妖美に誘うように麦野が笑いかけてくる。

そして、何もかもを融解する一筋の白く輝く光線が、途切れなく空高く駆けていく。


(――――あの光線に焼きつくされたら、俺はどうなるんだろうな)


一瞬、垣根の心が揺らめき、情念に身が焦がされる。
麦野の破壊的で、衝動的で、激情的な誘惑に、垣根はすっかり虜になって彼の思考回路は鈍る。
命を削り合うような激しいぶつかり合いに熱中し、怒りの炎をあげる麦野から垣根はずっと目が離せずにいたが、


「ひぁっ!?」

「――ッ」


突如発せられた麦野の気の抜けた悲鳴が聞こえ、どこかに飛んでいた垣根の意識がハッと戻ってくる。

712 名前:垣根→麦野の光景[sage] 投稿日:2010/05/17(月) 00:44:42.23 ID:22o.KyM0 [2/2]


「つっめたぁ……っ」


垣根が察するに、あちこちが破壊された歩道の上に立ちつくす麦野に、沈没した車道のから噴水のように湧き上がった水しぶきが直撃したらしい。
ふわゆわウェーブのロングヘアがへにゃりと崩れ、黒と灰色を基調としたシックなブレザーの制服は水気を存分に吸って重そうだ。


「……最悪。最悪、最悪、超最悪ッ!」


麦野はブツブツと文句を言いながら、水飛沫が当たらないようにビルとビルの間にある路地裏に瞬時に移動した。


(水も滴る良い女……)


水浸しの麦野の姿の案外そそるものがあるな、と垣根は男子高校生らしい率直な感想を胸に抱きつつ、目を細め改めて景色を一望した。
縦横無尽に亀裂が走り所々陥没している車道、根こそぎなぎ倒された街路樹。
衝撃波に耐えられずビル群の窓ガラスは粉々に砕け、その鋭利な破片が辺り一帯に散らばった。
車道にできた大きなクレーターの一つから噴水のように水が勢いよく噴き出している。


(水道管でもぶち壊したか。…………流石にやりすぎ、か?)


三対の翼をゆっくりと羽ばたかせながら、垣根はばつが悪そうに頭を掻く。


(いや、麦野が真正面から構ってくれるのとか、すげえ久々だったからさぁ)

見晴らしもきき、人影も少ない。
多少の騒ぎを起こしても大丈夫だろうと高を括って麦野は垣根に仕掛けた。
麦野に夢中だった垣根は、そんなことすら考えずに仕掛けられた喧嘩を買った。
互いに学園都市二三○万人の頂点、七人しかいない超能力者。そんな両者が正面からぶつかり合えば、注意に与える被害など尋常ではなくなるのが当たり前だ。
麦野が相手してくれる嬉しさで大ハッスルしていた垣根は、普段なら簡単に考え付く『出来るだけ被害を食い留めよう』という配慮が、すっかり頭の片隅から消し去っていた。


723 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/19(水) 20:05:27.49 ID:uqOSEfQ0 [2/9]

麦野が身を隠した路地裏に垣根はゆっくりと降り立つ。
ずっと奥まで続いている細い路地裏で、麦野はビルの壁に背を委ねてハンカチで髪を拭っていた。
翼の形にした『未元物質』は狭い場所では邪魔にしかならない。背に生やした三対の翼が消失する一瞬、パッと羽根が飛び散るような淡い光が周囲に広がる。


「もぅ、最悪。マジ、完璧に萎えた……」


突然のトラブルに麦野は完全に殺る気を削がれ、眉はへの字に曲がり、ほんの少し頬を膨らませて不機嫌そうにしている。
小さなハンカチだけでは頭から浴びせられた水を取り払えきれないようで、水気を帯びた髪からポタポタと滴が垂れた。


「もう、拭いても拭いてもきりがない」


近づいてくる靴音が聞こえ、麦野は気だるそうにに視線を動かした。


「あぁ? 垣根、なんで居んの?」

「ぅぉッ!?」


流し目気味で視線を向けてきた麦野と垣根の視線が、カチリ、と絡み合う。
刹那、垣根が大きく目を見開く。呆けた声を漏らしながら、ほんのりと頬を染めた垣根は耐えきれずにさっと顔を背けた。
堪え切れずに、ごくりっと喉を鳴らす。


「――まぁ、いいわ。なんか一気に色んなもんが失せた。もう疲れたし、私に構うな」


垣根の変化に気がつくこともなく、麦野は興味なさげにぶっきらぼうに言葉を発した。
頭をたらし伏せた瞳が落ち着きなく右へ左へと動く。垣根は赤く染まった頬を麦野に見られたくなくて、片手で口元を覆った。

 
(ヤバい。ヤバいヤバいヤバいヤバいぃっ!!)


小さな罪悪感がむずむずと垣根の心に湧きあがる。
しかし、それ以上に官能的な場面に出くわしてしまった衝撃が、身体中を駆け巡っていた。


725 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/05/19(水) 20:24:31.15 ID:uqOSEfQ0 [4/9]


「ちょっと聞いてんの?」

「……」

「無視すんな。―――て、なに呆けてんだよ。帝督くぅん? メルヘンの世界にでも飛んでっちゃったんでちゅかぁー?」


何度、声をかけても無反応は垣根に、麦野は嘲笑うように赤ちゃん言葉で語りかける。


(凄いものを、見てしまった……)


心臓がバクバクと高鳴る垣根に、麦野に構う余裕なんて無い。
上空で遠目で見た時も、水も滴る麦野の姿はそそるな、と思ったが、こうやって近くでまじまじと見るとその破壊力があまりにも凄すぎた。

水気を帯びた髪は束となり、麦野の顔や首筋にべったりと絡みつく。
麦野は重たい黒いブレザーを脱いでいて、半そでワイシャツからすらっと顔だした二の腕がやけに白く見えた。
ポタポタとこぼれる滴が短いチェックのスカートから露わになっている太ももへと垂れ、すーっと足をつたって地面へと落ちていく。
気だるそうな伏し目がちの瞳が、余計に麦野の色香を際立たせている。
湿った半開き口元がなんだかもの欲しそうに、見えてしまう。

彼女から醸し出される妖艶な女の魅力は、あまりにも年相応ではない。
しかし、身につける高校の制服が彼女の実年齢を克明に真実を告げてくる。
そんなギャップも、より一層垣根の情火を焼いた。


(ヤバいって、ヤバいって! ~~コレ以上近づいたら、)


コレ以上不用意に近づいてしまったら、極上の砂糖菓子の如く甘そうな彼女に、


―――見境なく、飛びついてしまいそうだ。




726 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/05/19(水) 21:12:46.71 ID:uqOSEfQ0 [5/9]
麦野がゴキブリを見るような目で蔑んでも、嬉しそうに麦野の後をつけて回る垣根が、今は下を向いたまま、押し黙るばかり。


(……は? なに、コイツ)


無意味に堂々と自慢げに胸を張っている男は何処にいってしまったのか。
微妙に離れている二人の距離が境界線となり、麦野も気軽に垣根の方へと近づけない。
さっきまで麦野に構えてもらえて楽しい、と全身で麦野をイラつかせるオーラを垣根は漂わせていたというのに。


(この急な変わりようはなんなのよ。普通についていけてないんですけど、私)


垣根は己の手のひらで顔の下半分を隠しているため、どんな表情をしているのか麦野には分からない。
くせっ毛で毎朝のブローに命をかけている麦野にはいっそ憎たらしくも思えるほど、サラサラな垣根の髪。
そんな前髪からのぞく彼の眉は、苦しそうにしかめられている。

まるで、無理やり何かを抑え込むような、そんな苦渋。

天使のような翼を発現させるメルヘンな能力を有する垣根のこと。
本当に脳髄までメルヘン漬けにでもなってしまったのかもしれない、と麦野は考えた。


「……ねぇ、返事しないけどさ。大丈夫なの? 調子よくないなら、病院でも行く?」


いきなり意味不明な行動にでた垣根の姿がいつも以上に気味悪いと思う反面、
垣根は(主に頭の)具合が悪いのかもしれないと心配になった麦野は、近寄りがたい垣根の雰囲気を無視して、彼の元へと一歩近づいた。


(自分だけの現実(パーソナリティ)が強くなりすぎたことが原因なら、研究機関のほうが良いのかしら)


垣根帝督という男を麦野は好きでない。
むしろ、虫唾が走るほど嫌悪を感じる。
生理的に受け付けない、という表現が一番しっくりくる。


(まぁ、でも。なんだかんだ言って『超能力者』仲間だし)


幼い頃からの超能力者として才能を開花させた者同士。顔を合せるようになってからの月日は長い。
超能力者だからこその苦悩、重圧を分かち合うことのできる数少ない『腐れ縁』。


「―――いつも以上に変な行動とられると、私の調子まで狂うのよ」


垣根提督というの男も、麦野を構築する世界には居ないと困る存在なのだが。
彼女本人は、そのことにまだ気が付いていない。

727 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/05/19(水) 21:55:04.01 ID:uqOSEfQ0 [6/9]


「アンタ本当に大丈夫? 脳細胞死んでたりしない?」


垣根が精一杯の所で踏みとどまっていた境界線を、麦野はあっさりと踏みつぶして近づいてくる。
麦野が歩みを進めるごとに、心臓が脈を刻むスピードが増す。
バクバクバクッ、と欠如している酸素を必死に全身に運ぶが、垣根の脳までは届かない。
誘うような麦野の甘い匂いが鼻を擽り、くらくらと眩暈がして倒れそうになる。

指先が震える。
足が動きそうになる。

垣根の限界は、すぐそこまで近づいていた。


728 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/05/19(水) 21:56:15.07 ID:uqOSEfQ0 [7/9]

「ねぇってば!」


煙で汚れたアスファルトと、自分の足しか見えていなかった視界に麦野が割り込んでくる。
垣根のすぐ目の前に麦野は居た。すぐ手を伸ばせば、抱きしめることのできる、そんな距離。
一八〇を超すほど大柄な垣根の顔を見るためには、どうしても麦野は上目づかいになってしまう。

一方通行、鼻で笑って悪かった、と垣根は現実逃避気味に、謝罪の言葉を胸に抱いた。


(正直、上目づかいの破壊力を舐めてました、俺)


嫌でも、再び麦野と視線が絡みあってしまう。
こんなに間近で麦野と正面から見つめあったことなんて、長い片思い生活の中で無かった。


(―――麦野、可愛い)


麦野って、こんなにまつ毛が長かったんだな。
切れ長だと思っていた瞳も、近くで見るとアーモンド形で猫の目みたいだ。
すっと通った鼻筋は彫刻みたいに綺麗だし、いつも弓形に歪める口元はうっすらとした桜色。
桃色を好む麦野によく似合う色だ――、と垣根は目を細めた。


「ちょっとぉ、垣根ってば! 耳の鼓膜でもぶち破れたぁ?」


まったく返事をかえさない垣根に業を煮やした麦野は、こてっと首を横に傾げた。
相変わらず見た目とは似つかない乱暴な口調でしゃべるくせに、上目づかいのまま首をかしげる姿は、何とも愛らしい。
そこまで耐えて、垣根の限界は、破られた。


ブチッ。


「…………悪い、麦野」

「えっ?」

「もう、無理。限界」

「はあ? ちょ、えっ、なに言って――」

「俺、お前が欲しくてたまらねえ」


脳みその血管が切れたような音が聞こえて、垣根は耐えることも考えることも、放棄した。
欲しいものは、目の前に。手が届く場所に、居るのだから―――迷わずに手に入れてしまえばいい。

729 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/19(水) 21:57:44.26 ID:uqOSEfQ0 [8/9]
ここいらで一旦休憩しますノシ

734 名前:ゲロ甘ってさ、さらに遅筆になってしまうんだ orz[saga] 投稿日:2010/05/19(水) 23:52:28.43 ID:uqOSEfQ0 [9/9]

具合が悪そうな垣根なんてほっといてしまえばよかったのだ、と麦野は悔いた。
せっかく星座占いトップだと幸せな気分ではじまった一日なのに、今日はついていないことばかりだ。


「んん…っ!」


垣根のことを心配していたから、麦野は一瞬のことに反応することが出来なかった。
ずっと押し黙っていた垣根が顔をあげてようやくまともに口を開いたかと思った時には、垣根の腕の中に居た。
「悪い」と謝っておきながら、迷いなく麦野の小さな唇へとがっついた垣根の行動はあまりも矛盾している。


「……っは、ゃめ」

「無理」

「はぁ!? ちょ、待っ」

「待たねえ」

「ゃ、ふっ……、ん」


やっと離れたと思ったら角度を変えて再び垣根の唇が押し付けられる。
バードキス、なんて甘ったるいものじゃない。
麦野の声に一切耳を貸さない垣根は、彼女の唇を力づくでこじ開け口内に舌を捻じ込む。
歯列を丹念になぞり、逃げるように奥へと逃げ込む麦野の舌を強引に絡めとる。
すっかり麦野に酔わされてしまった垣根は己の欲望のまま、麦野の全てを喰い尽さんばかりに小さな口内を犯した。


735 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/05/20(木) 00:02:33.79 ID:DItSi9o0 [1/6]


(腰、細えな)


やっと腕の中に閉じ込めた彼女を逃してしまわないように、麦野の腰に回した腕の力を更に強める。
気付かれないようにうっすらと目を開けば、零の距離に麦野の顔だけが、垣根の視界に広がる全て。
息が出来ずに苦しいのか、口付けの快感に悶えているのか。ぎゅっと閉じられた麦野の目じりに微かに涙が浮かんでいる。
首元まで赤く染め耐えるように眉間に皺を寄せながら小刻みに身体を震わせる麦野が可愛くて、より一層、垣根の中で愛しさが増す。


(麻痺、しそうだ……、いや、もうしてるか)


自分の身体で覆いかぶさるようにして、すす汚れたビルの壁に麦野を縫いつける。
右腕で麦野の腰を抱きしめ、左手は麦野の後頭部に沿え、「イヤイヤ」と首を振ろうとする麦野の頭を固定した。


「……ん、ぁ。ぃゃ…!」

「麦野、可愛い」

「そんな、の。しらな……、ふ、ぅんっ」

「麦野、麦野」

「か、っきねぇ……、んっ、だめぇ」


どうしても耐えきれずに漏れていく麦野の声だけが、人影の異様に少ない路地裏に反響する。
ダイレクトに帰ってくる自分の声が信じられなくて、麦野は眩暈がする気分だった。


(信じらんない、信じらないっ! 馬鹿、阿保、変態垣根ェェェエエエッ!)


頭の中で、麦野は考えるつく限りの暴言を垣根にぶつける。
勝手に口内を動き回る垣根の下を噛み切ってやれば、こんな意味不明な喜劇、すぐに幕を締めることが出来る。
しかし、垣根の強烈な求愛に麦野は戸惑い、為すがままにされるしかなかった。
こんな場面で、麦野が垣根に反抗するのはほぼ不可能なのだ。どうやったって、出来るはずがない。


(キスだって、したことなかったのに……っ!)


何もできない自分があまりにも悔しくて、好きでもない垣根に良いようにされて。
十代の少女らしく、蜂蜜のような甘いファーストキスにあこがれていた麦野のささやかな夢はいとも容易く壊された。



740 名前:また生殺しとかすんません、申し訳なくてちょっとでも書いたの(と、こっそり1レス投下)[sage] 投稿日:2010/05/20(木) 03:01:31.49 ID:DItSi9o0 [3/6]

止まることを知らない垣根の口付けは、麦野にまともな呼吸をする暇さえ与えない。
「より深く、より奥へ」と喉の渇きを潤す様に垣根が角度を変える時だけ、麦野は声を漏らすと同時に息を吐くことが許された。


(息、苦しぃ……っ!)


酸素が足りない。頭がクラクラとして痛い。
ぼんやりと霞む意識の中、麦野はなんとか踏ん張って垣根に意思表示を試みる。
力が入らない手で、垣根の胸を叩いた。数度叩くと、無我夢中になっていた垣根も流石に気がついようだ。
ようやく、麦野は垣根の気の遠くなるような長い接吻から解放された。


「……がっつきすぎ、最低。[ピーーー]クソ垣根」

「死にたくはないな。せっかく、麦野とキスしてるのに」


十分すぎるほど口付けを交わしたはずなのに、垣根は「まだ物足りない」と言いたげに麦野の頬に唇を寄せる。
チュッ、と肌を吸うような音が聞こえて、麦野は更にカッと頬を赤く染めた。
舌と唾液が絡み合うキスより、垣根の甘えてくる、頬ずりのようなキスのほうが、麦野には生々しく感じられた。


「なあ、麦野」


後頭部に回していた手を頬へと麦野の頬へと動かす。
垣根は麦野の輪郭に沿って這うよう麦野の顔を右手で包み込み、こつん、と己のおでこを麦野のおでこにくっ付ける。


「…………な、によ」


荒い息を整えながら、キッと垣根を睨みつける麦野。
どうにかして、この変態に一泡も二泡もふかせてやりたいのだが、どうも調子が狂って上手くいかない。


「俺、麦野のこと、すげえ、好き」


ゆっくりと、一言一言区切りながら、垣根は溢れだす想いを紡いだ。
彼女に惹かれてから、彼女に恋をしてから。何度となく伝えてきた言葉だが、いつまでも垣根は言い慣れない。
麦野の新しい一面を発見するたびに、垣根はまた麦野に恋をする。愛しい人への想いは募るばかりだ。


(俺、麦野とキス、したんだよな。…………やっぱ、照れくさいな)


毎日麦野に恋をし続ける垣根は、麦野にぺたりとくっつけたおでこを擦って、今になって湧きあがってきた恥ずかしさを紛らわせた。

741 名前:ちょっと筆が進む。ごめんなさい次の投下予定がマジでたてられないので、もう少し投下。[sage] 投稿日:2010/05/20(木) 04:03:25.60 ID:DItSi9o0 [4/6]
麦野はおでこを擦りつけてくる垣根を、少しだけ、ほんの少しだけ、可愛いと思ってしまった。


(……、なんでこうなったのかしら)


今、垣根に囁かれた愛の言葉は、何度も聞いてきた中でも一番真摯なものだった。
麦野の後ろをヘラヘラと笑って付きまとい、バーゲンセールのように安売りの如く言われてきた「好き」という言葉。


(確かに、可愛いとは思うけど……)


ズシン、と心に来る"何か"が無い。
ああ、コイツ私のこと好きなんだなと理解できても、麦野の心に響いてこない。


「…………、なんか違うのよ」


麦野は直感的に、違う、と思った。


(垣根じゃ、ない。違う。なんか、違う)


歯車がうまくかみ合わないような違和感が、麦野の背筋を寒くさせる。

垣根とキスをした――違う、そうじゃない。
垣根と抱き合っている――違う、望んでなんかいなかった。
私を好きだというのが垣根――違う、私は垣根を好きじゃない。

違和感の原因を知りたいという欲求、知りたくないという恐怖。二つの感情に板ばさみになった麦野の指先が、頼りなさそうに震える。
淡い桃色のジェルネイルで綺麗にコーティングされた爪が、カチカチとブツかって音が鳴る。


『ほら、ピンクといったらさ、滝壺のジャージを思い出すんだよ。
 滝壺はもちろん似合うけどさ、案外、お前も似合うかもしんねえな、ピンク』


いつだったか、金髪の男が何気なく言った言葉が、急に麦野の脳裏に浮かんできた。


742 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/20(木) 04:07:05.83 ID:DItSi9o0 [5/6]

『はぁ? なにそれ。滝壺のついでのようにいうなよ』

『いやいや、別についでって訳じゃねえよ。普通に、似合いそうだなって思っただけだよ』

『あ、そ』

『うっわ、なに、その人を小馬鹿にした態度』

『べっつに~? アンタのへんなセンスで言われてもな、と思っただけ』

『……オマエ、可愛くねえ』

『お黙り、駄犬』


たいして嬉しくない、という態度をとった麦野だったけれど、その日からピンクのものを着飾るようになった。
桜色の色つきリップ、淡い桃色のジェルネイル、少し濃いめのピンクのワンピース。
金髪の男が似合うと言ってくれた色が、いつのまにか、麦野の一番好きな色になっていた。


『ほらみろ、やっぱ似合うじゃねえかよ! 俺のセンスも馬鹿にできねえじゃん』


ソレ見たことか、とピンクをまとった麦野を見た金髪の男が出した、乱暴な言葉。


(……けど、)


そんな乱暴な言葉に、自然と麦野の心は羽根が生えたように軽くなり、満ちたりた気分になった。


743 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/20(木) 04:08:42.89 ID:DItSi9o0 [6/6]


(――――あぁ、そっか。そういうこと、……なのか)


唐突に、"何が"足りないのか、何が違うのか麦野は理解する。


「ゴメン、垣根。違うんだわ」

「違うって、何が?」


未だに熱から醒めない垣根は、幸せにまどろみながら麦野の話に耳を傾ける。


「本当に、ゴメン。垣根」


真摯に、答えを返さなくては、と麦野は射抜きように垣根の顔を見た。
ちゃんと言わないと、この男には伝わらない。麦野の本気が、伝わらない。


「私がさ、キスしたいって思うのは、垣根じゃない」


噛みつくようなキスも、頬ずりのようなキスも。垣根からではなく、麦野は"違う"人から与えられたかった。


「私にはさ、他に、好きな人がいる――みたい」


自分すらたったうま気付かされた真実を、麦野も戸惑い気味に口する。

ピンクが似合うと言ってくれた金髪の男が、
大事な彼女に嫌われたかもしれない、と情けなく麦野に頼って来た図体だけが無駄にデカイ不良少年が、
滝壺理后という少女の隣で、白い歯をのぞかせてにんまりと笑う浜面仕上、という人間が、


「―――私が好きなのは、ソイツ、なんだわ」


麦野沈利の心をいつの間にか掻っ攫っていった。


だから、アンタの気持ちにはやっぱり答えられないから、―――――ごめん、と麦野は呟いた。


747 名前:警備員さんと一方通行さんへの2次被害(少し投下[sage] 投稿日:2010/05/21(金) 13:40:27.30 ID:f2.TM5M0 [1/4]

「特に手伝うことはない」と御坂に言われてしまった一方通行は、手持無沙汰な様子でソファーに腰掛けていた。
目ぼしいテレビ番組でもないものかと、適当にリモコンを操作するがどれもこれも変わり映えない内容ばかり。
ソファーの前にある折り畳み式のテーブルの上に置かれていた携帯電話を手に取り、液晶画面を覗き込む。
一方通行の部屋には『時計』というものがなく、時間の確認はいつも携帯電話で済ます習慣がついていた。

現在の時刻は『PM 6:14』。ゴールデンタイムにはまだ早い。


(この時間帯だと、ニュースかワイドショーくらいしかやってねェか)


第7学区の話題を中心に扱うニュース番組にチャンネルを合わせると、一方通行は携帯電話とリモコンをテーブルの上に放り投げて寝ころんだ。
御坂の料理が出てくるまで、テレビを見ることくらいしか、一方通行の部屋には時間をつぶす手段がない。


(暇、だなァ……)


音楽を聴くための機器もなければ、ゲームの類も一切置いていない。
一方通行の部屋にあるのは必要最低限の物だけ。
殺風景な部屋をみて、この間ズケズケと遊びに来た土御門や海原光貴が、
『何もないんだぜい……』『これほどものがないというのも、逆に珍しいですね』と好き勝手言っていたのを思い出す。


「――――つい1時間ほど前、この大通りで大規模な能力者同士のいざこざがあった模様です――――」


テレビから今日のニュースの伝えるキャスター声が流れてくる。
いつもと変わり映えのないありきたりなニュースだ。

二三〇万人が暮らす学園都市はけっして治安の良い場所とは言えない。
学園都市で暮らしている人間のほとんどは善悪の判別が曖昧な未成年であり、強度(レベル)の大小あれどほぼ全員が何らかの能力を有している街だ。
力を持つ子供数が多いとなれば非行に走る少年少女も比例して増す訳で、学園都市の路地裏はちょっとした無法地帯になっている。


「――――なお、周囲に与えた被害から考えると、少なくと強能力以上の能力者同士の喧嘩ではないかと――――」


ふぁっ、と一方通行は欠伸を噛み殺した。
キャスターの凛々しい声よりも、トントントン、と台所から聞こえてくる包丁の音のほうに自然と耳が傾く。
自分のために料理を作ってくれている御坂、料理が作られるのをまったりと待っている自分。
春先から"当たり前"になったこの光景を、一歩通行はむず痒く感じながら、そのぬるま湯のような暖かさが眠気を誘う。



749 名前:警備員さんと一方通行さんへの2次被害(少し投下[sage] 投稿日:2010/05/21(金) 13:45:27.52 ID:f2.TM5M0 [2/4]

「ねぇ、一方通行ァ。もうすぐご飯できるから、お箸とお皿並べて置いて。……ってアレ?」

「…………すゥー」


八畳ほどの部屋と台所の仕切りとなっている暖簾を片手で上げ御坂が顔をだす。
声をかけたはずの相手は、自分の腕を枕代わりに背中を丸めソファーの上で気持ち良さそうに寝息をたてていた。


「寝ちゃってる……」

「……」

「一方通行、ご飯出来るよ。食べないの?」


御坂は一方通行の肩を軽く動かすが、夢の世界に行ってしまった彼から反応は返ってこなった。
繚乱家政学校に通う友人の土御門舞夏から教えてもらった、秘伝のクリームシチューが冷めてしまう。
しかし、小さな寝息をたてて静かに眠る一方通行を無理やり起こすのは御坂にはなんだか忍びなく思えた。


(あーぁ、憎たらしいくらい美人な寝顔ですこと)


眉間の皺、眼光の鋭い目は何処にもない。
天使のような寝顔は美しく見惚れてしまうほおどだけど、本人にソレを言ったら舌打ちされるだけなので言わないが。


「くぅー、相変わらずシミ一つない綺麗な肌だわー……」


白い肌、白い髪。神話に出てくる聖なる少女のように、美しい男。
狂ったように日焼け止めを塗り、毎週のようにトリートメントをかかさない御坂でも、正直「負けた」と思うことが多々ある。
陶器のように白い一方通行の瑞々しい肌は、女の子の理想の肌そのもの。


「気の抜けた顔で寝ちゃって、学園都市第一位の威厳はどこにいったんですかー?」


御坂は一方通行の傍まで近づくと、そのまま少年に寄り添うように床に腰を下ろした。
顔を寄せると、一方通行がすぅっと吐いた寝息が御坂の前髪を小さく揺らした。


(かわいい、なーんて言ったら頭叩れそう)


750 名前:警備員さんと一方通行さんへの2次被害[sage] 投稿日:2010/05/21(金) 13:57:25.73 ID:f2.TM5M0 [3/4]
人に対して警戒心、敵対心ばかり抱いてしまう一方通行が、こうして安心しきった表情で御坂の前で眠っている。


(気を許してもらえてるってこと、よね?)


眉をしかめつつ、御坂が近くにいることを嫌がらないとか、
「美味しい」とは言わないけど、御坂が作った料理を残さず完食するとか、
一方通行の無自覚な行動や仕草から感じ取れる愛情は、例をあげたらきりがない、と御坂はくすっと笑った。

不器用な少年が愛しくてたまらない。

御坂はついつい人差指で一方通行の頬をツンツンと突つく。
思いのほか柔らかい頬の弾力に、御坂はにんまりと口角をあげた。


「ねぇ。アンタさ、気がついてんの?」


今、御坂に『反射』がきいていないことに、彼は気付いているだろうか。
付き合うようになってから、何度彼に腕を絡め、抱きついたかなんて御坂にも数えきれない。
一方通行の死角から――たとえば背中から――、突然抱きついても、反射の膜に跳ね返されたことは、一度として、ない。

御坂が手を伸ばせば、いつだって、一方通行に触れることができる。


751 名前:ここまで。夜にまた少し投下できるはず[sage] 投稿日:2010/05/21(金) 13:59:07.06 ID:f2.TM5M0 [4/4]


「反射の設定に『私』を除外してるのは、なんで?」


ふにふにと、柔らかい頬の感触を楽しみながら、御坂は幸せそうな笑顔で答が返ってこない質問を続けた。

御坂美琴なら、反射をしなくても、拒絶の膜をはらなくても、一方通行を傷つけることはない。

そんな絶対的な信頼を、自分は少年から寄せてもらえているのだろうか。
そうだったらいいなと御坂は願う反面、やはり本人から言ってもらわないと分からない事柄だとため息をつく。


「言葉にさ、してもらわないと分かんないこともあるんだからなー」


ふにふに、ふにふに。


「垣根さんみたく、言いまくれともいわなけどさぁー」


ふにふに。


「…………たまには、言葉にしてくんなきゃ、」


ふに…。


(――――私だって、不安になるんだから…………この、馬鹿)



756 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/22(土) 19:52:33.88 ID:CL0euPs0 [2/3]


「…………面倒くせェ女だな、オマエ」


頬を突いていた御坂の右手が突然、ガシッと握られてそのまま勢いよく引っ張られた。


「へっ!?」


いきなりの出来事に対応しきれなかった御坂は、なすがままソファーの上へと誘いこまれる。
ソファーの上で寝そべっている一方通行の上に丁度被さるような形となり、御坂は身体を固まらせた。
一方通行の顔を上から覘くのは先ほどと変わらないが、御坂の真下に居る男は、にやりと面白そうにニタニタと笑っている。


「ア、アンタ……ッ! い、ぃつからぉ、お、起きてたのよぉおおッ!」


寝ているから、と思って呟いた言葉や行為の数々が御坂の脳内にフラッシュバックする。
この男はいつから御坂の一人芝居を寝たふりをしながら見ていたのだろうか、とあまりの照れくささに御坂の顔は沸騰した。
そんな御坂の一挙一動を見て、一方通行は面白そうにニタニタと笑い声を噛みしている。


「どもンな。ンで大声で巻くしたてンな。耳が痛ェっつーの」

「う、うるさいッ!!」

「カカカッ。うっせェのはオマエだろォが」


握られた御坂の右手の指と指の間に滑り込むように、一方通行の指が絡んでくる。
一本一本の指に力が加えられて改めてギュッと握りしめられた。ねっとりと絡んでくる一方通行の指の感触が更に御坂の羞恥を掻きたてる。
恥ずかしさに耐えきれなくなった御坂は起き上ろうとしたが、いつの間にか腰に回されていた腕に邪魔される。

身体が密着し、互いの顔の距離も数センチ。
一方通行の存在があまりにも近すぎて、御坂の心臓は跳ね上がった。


(なに。なに。なんなのよ、この状況! 普段は手すら自分から握ってこないくせにッ――!!)


また御坂が逃げようと企てないように、一方通行はがっちりと御坂の腰を固定する。
いつもは彼女のほうから積極的に飛びついてキスをねだるというのに、一方通行から責められるとこうも大人しくなるのか。


(へェ。こりゃァ、面白い発見だな)


予想外の御坂の反応に多少驚きつつも、一方通行は、普段は勝気で強気な少女の可愛らしい一面を満足げに見つめた。


760 名前:警備員さんと一方通行さんへの2次被害(まったり再開します。[saga] 投稿日:2010/05/23(日) 00:01:19.19 ID:DxXGXc60 [1/16]


「モヤシのくせに、生意気よ……」

「誰がモヤシだ、誰が」

「…………ヘタレのくせに」

「オマエ、俺になにか恨みでもあンのかよ。言いたいほうだいだなァ、オイ」

「……そんなの、自分で考えたら?」


御坂は不満そうに眉を顰めると、ふいっ、と顔を横に動かしつむじをまげた。
独り言を盗み聞きしていたのだからそれくらい察しなさいよ、という御坂の不満がオーラとなって滲みでる。
眉をハの字にまげて口を尖らせる御坂の姿が幼くみえる。姉御肌をふかせている彼女も、まだまだ14歳の女子中学生なのだ。


(……ッたく。ガキに余計な気ィ使わせるたァ、俺もたかが知れてンな)


下校時の校門前にて垣根に言われたことがよみがえる。ただ一言。頑張れよ、と。
その言葉とともに、肩を叩かれたのだけなのだが、垣根が言わんとしていたことは一方通行にも容易に想像がついた。
そンぐらい、言われなくてもわかってンだよ、と一歩通行は御坂に悟られないように心の中で愚痴をこぼす。


(ちったァ、俺の方からコイツに歩み寄れってことだろ)


幼いころに学園都市に捻じ込まれてから、一方通行の日常が幸せだったとはいえない。
対して珍しくもない二文字の姓と三文字の名を捨てて、ただの『一方通行』として生きることになった程度の地獄なら見てきた。


(…………今でこそ、コイツと付き合ったり、垣根とかと馬鹿みたいつるンだりしてっけど―――、)


くだらない人生の中で、一方通行は常に一人きりだった。
無条件の愛情を注いでくれる人なんて、今までいなかったのだ。
「好きだよ」と耳元で囁いてくれたのも、ぎゅっと抱きしめてくれたのも、御坂がはじめてだった。


(なんつーか、どうしていいのかわかンねェンだよ、俺は)


762 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/05/23(日) 00:13:50.39 ID:DxXGXc60 [2/16]

好きだよと笑ってくれる人に、自分がどうすればいいのか。
どうすれば、嬉しいと伝えられるだろうか、どうすれば、有難うと伝えられるのだろうか。
人から大切にされた経験が圧倒的に乏しい少年は、戸惑い悩み、結局その愛を黙って享受することしかできなかった。


(その俺の甘えが、オマエを傷つけてたってンなら。俺は、とんだ大馬鹿野郎だ)


一方通行は絡めていた指を離すと、乱れてしまった髪をほぐす様に御坂の頭を撫でてやる。
どうか、いつも見たいに、向日葵のような満開の笑顔をみせてはくれないだろうか。


「……拗ねンなよ、美琴」


機嫌を損ねてしまったお姫様の耳がピクリと小さく跳ねるように小さく動く。
むぅと頬を膨らませてまだちょっとだけ不貞腐れている御坂が、一方通行の胸元にズリッと頬をすり付けた。
心臓がある位置に耳を擦りつけると、目を閉じて彼の心音に聞き入った。
トクトクと、少しだけ早めに時を刻まれる少年の心音に、御坂は表情をゆるめる。


「へへっ、一方通行も緊張、してんのね」

「……うっせェ」


はじめて、目の前の女を「美琴」と口にした。
慣れないことをした一方通行は面はゆくなり、締りのない笑顔を振りまく美琴にぶっきらぼうに返事を返した。


「えへへ」

「にやけンな、うぜェ」

「ねぇ、一方通行」

「あン?」


胸元から顔をあげると、御坂はあいている両手を一方通行の首に回して自分から彼に抱きつく。
本人は動揺を隠しているつもりなのだろうが、女性よりも透き通った美しい彼の白い肌が、彼の頬の紅潮を丸わかりにする。
少しだけ情けなく揺れる赤い眼孔の中には、同じくらい顔が沸騰している御坂自身の姿が鏡のように映っていた。

互いの鼻筋が擦れる。
二人の距離はコンマゼロ。


「……ちゅーして」

「……おゥ」

766 名前:警備員さんと一方通行さんへの2次被害[saga] 投稿日:2010/05/23(日) 01:29:52.63 ID:DxXGXc60 [3/16]

まだ両手の指で足りるくらいしか経験したことのない行為に、互いにまだ照れくささを拭いきれない。
割れ物に触れるように頬を包む一方通行の手のひらの温もりが、御坂の幸福度指数を上昇させる。


「んっ……」


一瞬、触れるか触れないか、小鳥のような口付けを落とされた後、御坂の唇は再び蓋をされた。
カサカサしてる訳でもなく、水分を含んでいる訳でもない。
一方通行の唇の感触は不思議だな、と御坂はやけに冷静な感想を抱く。
御坂が愛用している薬用リップのツンとした香りが鼻を刺激して、一方通行はつい唇を離してしまう。


「……ちょっと、やめないで」

「いや、別にやめる気はねェけど」

「じゃあ、もっと、ちょーだい…」


767 名前:警備員さんと一方通行さんへの2次被害[saga] 投稿日:2010/05/23(日) 01:32:02.13 ID:DxXGXc60 [4/16]

首にしがみつけた両腕の位置を動かして、じれったい一方通行の頭を抑え込んで自分から口付けをする御坂。
「ちょうーだい」男にとねだっておきながら、痺れをきらして積極的にガンガン責めていく姿は、普段の彼女そのままで。
一方通行にからかわれて、あたふたとしていたいじらしい様子は、何処へ行ってしまったのか。


(あーァ、すでに元のとおりだな)


御坂の耳筋を指でなぞりながら、一方通行は少しだけ残念そうにぼやく。
何度も何度も、小鳥のようなキスを御坂が降らせるたびに、一方通行は「好き、好き」と言われているような気がした。
最後に一方通行の鼻のてっぺんにちゅっと口付けを落とすと、御坂は口惜しそうに顔を離した。


「……キス。いっぱい、しちゃったねぇ。ははっ」

「……ンなの、俺が知るかよ」


くすぐったい空気に耐えきれず、御坂は「うへへ」と腑抜けになった顔で笑う。
耳筋を撫でていた手のひらを一方通行はすっと頭のてっぺん目がけて、這うように投げ上げた。
ゾワッとした感覚に背中をピクリと震わせた御坂が、一方通行にはとても愛らしく思えた。
なにすんの、とじっと睨みつけてくる少女への、恋慕の想いが少年の心の中で膨らんで溢れていく。


「―――、美琴」


御坂の髪を梳けば、一方通行の指は引っかかることなくすっと落ちていく。


「なにー?」


一方通行の手の感触が気持ち良いのか、ごろごろと喉を鳴らす猫のように御坂は目を細める。


「俺もさ、オマエのこと好――」


ジャジャジャジャーンッ! 
ジャジャジャジャーンッ!


テーブルの上に置かれている一方通行の携帯電話のけたたましい着信音が鳴り、少年の声はあっさりかき消されてしまった。


773 名前:772 けして、そんなつもりはぁぁぁあああ orz 木原って基本空気読めないと思う。[sage] 投稿日:2010/05/23(日) 11:51:06.50 ID:DxXGXc60 [7/16]


「………………」

「はぇ? 電話?」


あまりにも唐突な邪魔が入り、柄にもなく馬鹿正直に自分の想いを言葉にしようとしていた一方通行の思考回路は完璧に停止した。
白い肌に白い髪の少年は、心まで真っ白になって唖然とした表情で携帯電話を睨みつけている。
慣れないことをしていい所で邪魔が入るのお約束過ぎる展開に、一方通行はまったくついていけなかった。


「一方通行、電話鳴ってる」


腕の力もすっかり抜けてしまい、御坂が携帯電話を取ろうとひょいっと起き上ると、御坂の腰にまわしていた彼の腕はだらりと床に落ちた。
「よっこいしょ」と床に腰を下ろした御坂は、装飾性ゼロの一方通行の携帯を手に取ると、ソファーの上で灰になっている少年に手渡す。


「ほら、木原さんからッ!」


チラッと見えた液晶画面に表記された人物の名前を告げ、御坂は一方通行に電話に出ろとそくした。
一方通行と御坂の良い雰囲気をぶち壊した(御坂は十分にいちゃつけて満足してるが)犯人の名を聞いた瞬間、一方通行は勢いよくソファーの上から起き上る。
ガシィッ! と差し出された携帯電話を強引にひっつかむと、


「木ィィィ原くゥゥゥゥゥゥゥゥン!!?」


行き場を失った羞恥と煮えたぎった憤怒の全てを、電話の先の男へと一方通行はがなりつけた。

775 名前:警備員さんと一方通行さんへの2次被害[saga] 投稿日:2010/05/23(日) 13:08:21.06 ID:DxXGXc60 [8/16]


『突然意味なく吠えんなクソガキ。鼓膜破れてたらぶち殺すとこだぞ』

「黙れ若造。その前にオマエを愉快に素敵にスクラップにしてやっから感謝しろや」


こめかみに血管を浮かばせて、一方通行なりの茶目っけたっぷりな皮肉がぶちまけられた。
先ほどのがなり声が反響して、キィィンと耳に障る電子音が両者の耳に残響として残る。


『こちとら明日の身体検査の件で多少の変更があって連絡しただけだってのに、面倒臭え』


木原数多は、不機嫌そうにぼやく。
久しぶりにエンジン全開な少年に再会した御坂は、ソファーのに胡坐をかいて座る一方通行のとなりにちょこんと座り、ただただ、事の成り行きを見守るしかなかった。


『ママの母乳を恋しがる赤ちゃんに負ける気はしねえよ』

「アァン?」

『つーか、いつも以上に不機嫌だな。超電磁砲とイイコトしてた最中か?』

「「……ッ!」」


ピシィッ!


その場の空気が凍った。


776 名前:警備員さんと一方通行さんへの2次被害[saga] 投稿日:2010/05/23(日) 13:09:00.79 ID:DxXGXc60 [9/16]

「ねぇ、浜面さんって、誰?」

「浜面ァ? あー確か、上条のダチだろ。それがどォしたンだよ」

「その人が麦野に恋愛相談してらしい。すげぇ面倒ーって愚痴メールがきた。あと垣根さんに付きまとわれてウザかったって」

「相変わらず垣根は麦野に絶好調嫌われてンな」

「う~ん、私としては垣根さんに頑張ってほしいんだけどねー」


「あン? なんだこのケッタイな音楽は」

「ただ今絶賛放送中の魔法少女アニメ『超機動少女カナミン』のオープニング曲よ」 

「さっき、人の携帯勝手にいじってたよなァ、超電磁砲」

「――美琴」

「ハァ?」

「超電磁砲じゃなくて、美琴! いつまでも超電磁砲なんて呼ぶから、当てつけよ!
 そういうことされたくなかったら、ちゃんと私のこと美琴って呼んでよ」

「……いや、まァ。それは、……なァ?」

「美琴って呼んでくれなきゃ、やっ」

「……」

「噂をすれば、だな。垣根からのメールだ」

「ちょっと、スルーすんな!」

「『麦野が俺に冷たい、寂しい』だってよ。こっちは嘆きのメールだな」

「一方通行!」

「~~~~ッるせェな、下ンねェことで騒ぐな!!」

「下らなくなんか――、」

「さっさと行くぞ。………………み、美琴ォ」

「っ! 待ってよ、一方通行ぁっ!!」


777 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/05/23(日) 13:10:40.14 ID:DxXGXc60 [10/16]
ういあぁぁぁぁあああああああああ誤爆ったああああああああ。
上の違うんです、違うんですぃうう。
一方通行に美琴の名前呼ばせつとこの没エピソードぉおおおおおおお
みなかったことに、みなかったことにしてくださああsい

779 名前:775 のつづきはこっちからです orz orz orz[saga] 投稿日:2010/05/23(日) 13:14:50.55 ID:DxXGXc60 [11/16]

氷点下すら凌ぐ極寒の世界にようこそ、と言ったところだろうか。

一方通行はもちろんのこと、彼のの肩に頭を寄せていた御坂にも、木原の冗談はしっかりと聞こえていた。
携帯電話の向こうから、シュッ、ボッっと立て続けに微かな音が聞こえた後、木原がふぅーっとゆっくり息を吐いた様子が伝わってくる。
やけに匂いのキツイ外国製の煙草を、いつも通りに吸っている木原の姿が容易に考えつく。


『オイオイオイ、マジかよ。なに、今日はオマエの脱童貞記念日ってヤツ? とりあえず、――おめでとう?』


「あー、ようやくオマエも一人前の男になった訳だ」とやけに生温かいものを見るような声が二人の元に届く。
ミシミシッと一方通行に握りしめられている携帯電話が悲鳴をあげた。


「木原くン、オマエな―――ッ」


血管がブチぎれそうになっていた一方通行が木原に反論しようとした時、ふいに上着がひっぱられた。
一方通行の肩に顔を埋めた御坂が、くいっと一方通行の制服の裾を握りしめていた。
前髪が奇妙に浮き上がり、バチンッと静かに彼女の周囲を走る紫電の光がスパークしている。
木原の無神経すぎる発言は、花も恥じらう乙女の御坂には恥辱でしかなく、その目元には目一杯の涙が溜められていた。



「―――木原、オマエ、マジでぶちのめす」

『カッコイーッ!! 本当に一皮剥けやがって、惚れちゃいそーだぜ一方通行!!』

「スクラップの時間だぜェ! クッソ野郎がァあああッ!!」


刹那、バチンと大きな音が部屋に響く。
ブチリと綺麗に血管が切れた一方通行と、彼を面白おかしく挑発する木原数多の喧嘩は強制的に幕を下ろすことになる。


「ふ、ふぇぇぇえええええッ!!」


自分をもちこたえることが無可能になった御坂の能力が暴発し、諸悪の根源である携帯電話が破壊される。
一方通行はベクトル操作のおかげでまったくの無傷だったが、ベクトルの先に居た家電製品の数々が黒い煙をあげてご臨終してしまった。




782 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/23(日) 13:22:05.63 ID:DxXGXc60 [12/16]
もうそろそろ時間だし、ちょっと吊ってくる……。
誤字脱字も半端ないけど、誤爆ほどこっぱずかしいもんはねえええ orz 軽く死んでもいいかな?

いっつも会話文→地の文の順で書いてるから、没のは会話だけなんだ。
あと、もったいなくて没のも消してなかったんだけど、消せばよかったです。
他の没案消してくるノシ

787 名前:没ネタ① (名前呼び)[saga] 投稿日:2010/05/23(日) 22:06:00.37 ID:DxXGXc60 [13/16]
「一方通行ァ」

「ンだよ、急に人の制服の裾を引っ張ンじゃねェーよ。伸びるだろォが」

「そんなこと、どうだっていいのよ。さっき、垣根さんに聞いたんだけどさ」

「…………なにを」

「垣根さんが私のこと『美琴ちゃん』って呼ぶと、アンタがすっごい怖い顔で睨んでくるって―――」

「そんな話は知らねェなァ」スタスタ

「ちょ、なにしらばっくれてるのよっ! そして、私を置いていこうするな!」ダダッ

「知らねェったら、知らねェ。アレだ、超電磁砲。オマエの勘違いだ」

「~~~勘違いじゃないもんッ!!」トテトテ、ピタ……。

「だァーッ!! ンでお前は突然抱きついてくンだよッ///!!」

「だってぇ……」ギュウ

(だってぇ、じゃねェっつのッ!!)キノセイ、ウデニアタッテルヤワラカイカンショクハ、キノセイ

788 名前:没ネタ① (名前呼び)[saga] 投稿日:2010/05/23(日) 22:07:23.46 ID:DxXGXc60 [14/16]
「――― 一方通行は、私が他の男に人に「美琴」って呼ばれても良いの?」

「そ、れは……」

(いくねェけど、ンなこっぱずかしこと言えるかァァァあああ)

「じゃあ、嫌なの?」

「うっ……」

「どっち? はっきり言ってくんなと、わかんない」

「…………………面白くはねェ、わな」

「本当ッ!!?」パァァァ

「あーもう、勝手に解釈しやがれッ!」

「へへー、そっかー。他の男に「美琴」って呼ばれるの嫌なんだ、やーもう、私ってば超愛されてるッ!」

「な、ぁぁあ、愛ってオマッ――」

「事実でしょ? 照れなくっていいってばぁ♪」ニヤニヤ

「~~~~ッ」

「でも、そんだけじゃ、やっぱ足んないかな? もう一声、愛がほしいかなぁ~」

「一声も二声もねェっつの」

「あるわよ簡単な方法がね。―――いい加減、超電磁砲じゃなくて、美琴って呼んでよ」

「断わ――」

「却下、呼んで、呼べ、呼びなさいって言ってんのよ」

「…………」

「…………………ダメ?」ウワメヅカイ ウルウル

「だ…ッ」(ダメじゃない――、っていいそうになった……ッ)

「ねぇ、一方通行ァ……、ダメぇ……?」サラニ、ギュウ

「―――――み、美琴って呼べばいいンだろォオオオッ!!」ダカラソノヤワラカイモノヲオシツケテクルナーッ!!

「へへー。良くできました」セノビ

「―――ンンッ!?」 御坂→一方でキス


789 名前:没ネタ② (浜面とデルタフォース)[saga] 投稿日:2010/05/23(日) 22:10:41.84 ID:DxXGXc60 [15/16]
「つきあい悪ぃぞ、土御門」

「あのなー、かみやん。路地裏で女の子お助けイベントに精を出して、いっつも俺たちの誘いを断る人に言われたくないですたい」

「勝ち組だからっていい気になったらあかんでっ!」

「見境もなく女に手を出すなんて、かみやんってば超鬼畜」

「オマエら酷くねっ!? 上条さんはジェントルメンですからね!? 俺、硬派だから。硬派ったら硬派キャラなんだからっ!」

「上条お前は贅沢だそ! 少しは滝壺一筋の俺を見習えってもんですよぉぉおおっ!」

「「お前だって勝ち組の分際で喚くな(にゃー)ッ!!」」

「ちょっ! 何故に拳の矛先を俺にっ――ひでぶ!?」

「ふっ。浜面、お前は彼女持ちや。かみやんは憎らしいほどの超絶モテ男くんだが彼女がおったことはない。
  どちらの罪が重いかと問われれば答えは簡単にでる。天然系美少女が彼女とかむかつくんやっ! 羨ましいぞコンチクショー!」

「男の妬みは見苦しいぞ、オマエらッ!!」

「しかし、どうしても駄目なんか? 土御門」

「義妹ロリこそ至高ッ! 年上のババァに興味はない」

「霧ケ丘の女の子は3人やから、こっちも数合わせなあかんのやけどなぁ」

「俺と青髪ピアスは決定でいいとして、あと1人どうするよ?」

「あーこの際仕方あらへん。彼女持ちに頼むしかない。浜面どないや?」

「たしかに、お姉さま系巨乳女子高生に興味がないと言えば嘘になる。けど、滝壺に悪いしなぁ」

「そこを何とかならへんか? 土御門もお前もだめとなると、人が集まんなくて合コンそのものもアウトになってまう!!」」

「オマエの彼女って、えぇと、滝壺さんだっけ? 束縛とか強いタイプなのか?」

「いや、まったく。俺がどんなに馬鹿やっても笑って許してくれる、天使のような女子だ。良いだろう」

「だったら別に良くね? 『友達に頼まれた』って言えば怒られないだろ」

「そんなもんか……?」

「おし、浜面も参加決定やな」

「ええ、まじかよーー」

「実際はそんなに嫌でもないくせに」

「さてさて、俺はどうなっても知らないからにゃー」


790 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/23(日) 22:22:59.29 ID:DxXGXc60 [16/16]
文章はすでに消してしまってないのですが、アクセラレールガンレイクイエム?のネタに

②一方ととったプリクラに、みこと(ハートマ-ク)とかいた一方さんに噴きだしの落書きを書く御坂。
→いっつも読んでくれないだから、プリクラの落書きくらい、いいじゃないと主張して名前を呼ばせる。
③男前に一方を押し倒して攻めに攻めまくって「イかせてほしいなら、美琴って呼んで?」小悪魔的に囁く御坂。
④御坂「超電磁砲って私の通称じゃない? だから、私もあんたのこと「能力名」じゃなくて通称で呼ぶことにするわ」 
→「ヘタレ」「モヤシ」果てには「百合子ちゃん」と一方通行のことを呼ぶ御坂にキレる一方さん
→「変なあだ名で呼ばれるのいやだったら、ちゃんと私のことも名前で呼んで!!」
⑤紙に『御坂美琴』と書いて、「一方通行、これなんて読む?」「アァ?『みさかみこと』だろ、お前馬鹿か?」
→「ふーん、アンタは美琴って呼ぶ時の声って、そんな感じなのかー。へー」「回りくどいことすンなよ……」
→「だって、こうでもしなきゃ、美琴って呼んでくれないじゃない」シクシク「泣くなよ、美琴って呼べいンだろ」

などがありましたが、結局。御坂の不満をタヌキ寝入りの一方さんが聞く、というネタに落ち着きました。
全部書きなおそうかと一瞬おもったけど、眠たいので代わりに合コンの没ネタでお許しください。

それでは、ここまで没ネタにお付き合いありがとうございました。


791 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/23(日) 22:25:08.24 ID:s426taIo
③を是非!③を是非とも書いてください!!!

792 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/23(日) 22:58:49.16 ID:vgschZ2o [4/4]
名前で呼ぶ練習する一方さんを頼む

793 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/24(月) 01:22:32.21 ID:7ccfosAO
自分も③を超希望します!(はぁ、はぁ・・・)

794 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/24(月) 02:35:19.21 ID:/wLQu0w0
上条さん、硬派硬派って連呼するぐらいだから
全国制覇!とか考えてそうだよな

795 名前:とりあえず即興③ネタ[sage] 投稿日:2010/05/24(月) 12:30:29.76 ID:ckCBbxQ0 [1/7]
>>791-793
悔しい、そんなこと言われると書きたくなっちゃう……ッ!
書いたら電磁通行名前ネタは終了して、本編に戻りますねー。
>>794
そして全国規模のハーレムを形成するんだ…、かみやんならやりかねない。


似たような光景をどこかで見たことがあるデジャブを感じる。
いつのことだっけ、と御坂は思いを巡らせながら、真下に組み敷いた男の首筋に焦らすように舌を這わせた。


「……ンンッ」

「あはっ、一方通行かぁわいい」


ゾクリッと身体の芯をゆする感覚に、一方通行は切なげな吐息をあげる。
白い髪がシーツの上で乱れる様子を御坂は愛しそうに見つけている。
彼女にはぎ取られた制服のネクタイは、すでに床へと投げ捨てられていた。
ブレザー、さらにその下のワイシャツまで全開にされたしまった一方通行は、潤んだ瞳で御坂を睨みつけた。


「レェル……ガンッ! ィィ加減にしや、がれェ……ッ」

「そんなこと言っちゃって良いわけ?」

「う、っせェ!」

「ココ、もう限界でしょ」

「……ゥ、ア」


スボンの上から、局部を覆いかぶしたまま止めていた右手を動かしてやれば、男は簡単に攻落した。
なすがまま快感に流されるのが癪で、一方通行は眉をしかめながら掻きたてられる情欲に耐える。
しかし、背中を虫が這うな、むず痒い刺激に息を吐く度に喘ぎ声が漏れてしまう。


「頼む…から、ひゥ、マジで止、めろォッ」

「……、やだ」

「ャだって、超電磁砲、オマエなッ……!」


ただ止めろとだけ繰り返す一方通行に、御坂は不満そうに口を尖らせた。

796 名前:とりあえず即興③ネタ 講義の時間だ。やっぱらぶいのって書くのゆっくりになる。夕方には戻ってくるねーノシ[sage] 投稿日:2010/05/24(月) 13:00:43.18 ID:ckCBbxQ0 [2/7]


(私だって、恥ずかしいのに……。コイツはこの機に及んで私の名前を呼ぼうともしない……)


強情な男をもっと可愛らしく鳴かせるためには、更なる強い喜びをあげればいいのだろうか。
断続的に刺激している一方通行の下半身を、チラッと視界に入れる御坂。


(……さすがに、直接触る勇気はないしなぁ。なんか、怖いし)


一方通行を押し倒し上の服を肌蹴させたところで、御坂の羞恥は限界に達した。
保健体育の時間に「男性器とはこういう作りになってます」とイラストの断面図を見ながら授業をうけたことはある。
ソレを触られると男の人は気持ちが良い、という程度の知識も御坂は一応持っている。


「ねぇ、このまんまの状態でさ、どうしたらもっと気持ちよくなるかな?」

「ン、なの。俺が知るかァッ、……ッ」


けれど、御坂はまだまだ14歳の純情乙女な訳で男を押し倒す気概はあっても、直接見たり触ったりする度胸は持ち合わせていない。
微妙に揺れる乙女心があるのだが、一方通行がそんなことを知る由もない。
この状況を打破しようと御坂は思案する。
ズボンの中で苦しそうにそそり立つナニでせいで、盛り上がった彼の局部を擦るように撫でるのも忘れずに。


(ああ、そういえば。今って私が一方通行に告白した時と似てるのか)


ふと、先ほどから感じていたデジャブの正体が判明する。


797 名前:③ネタ まったり再開[sage] 投稿日:2010/05/24(月) 18:18:12.42 ID:ckCBbxQ0 [3/7]

あの時も、一方通行のつれない態度に業を煮やした御坂が、彼を勢いのまま押し倒した。

どんなに貴女の事が好きだと告げても、一緒に居たいと哀願しても、「そォかよ」の一言で少年は少女のアプローチをのらりくらりとかわし続けた。
御坂の想いを受け入れることもせず、拒否することもしない一方通行の中途半端な態度がもどかしかった。

好きなら好きと、嫌いなら嫌いと。

はっきりしてほしくて、一方通行の言葉がほしくて、半ば自棄になって彼をベットへと縫いつけた時のことが蘇る。
あの時も、今この時も、御坂は一方通行からの言葉が欲しくて仕方がない。


(……アンタが不器用にしか振舞えないってのもわかるけど)


一分一秒、ううん、一瞬でもいい。


「……言葉がほしいって思うのは、私のワガママ……?」


ポツリ、と弱音がこぼれた。
御坂は一方通行のことを全力で求め、愛している。
だからこそ、時々空しくなることがある。
こんなにも全身で愛を伝えているのに、返事を返してくれない彼の心には、はたしてどれだけ自分の想いが届いているのだろうか――、と。



798 名前:③ネタ [sage] 投稿日:2010/05/24(月) 20:11:46.80 ID:ckCBbxQ0 [4/7]

少しだけ気落ちした御坂の独り言は誰に聞かれることもなく、そのまま空気中へと消え去った。
このままじゃいけない、と不安を吹き飛ばす様に御坂はフルフルと首を振る。


(―――コイツ相手にいちいち気後れしてたら、何も始まんないじゃない)


彼が頑として口を割らないならば、この手で無理やりこじ開けてやればいいだけのこと。
プライバシーの侵害? 身勝手な侵略行為? 
そんなの、気にしてなんてあげない。


「一方通行」

「ッ……あン?」

「可愛い彼女のワガママくらい聞いてよね? この野郎」

「ふつー、自分で可愛ィなんて言う―――ッ」


憎まれ口を叩いてくる一方通行の唇を塞いだ。


「ゥんッ」


ん……ッ、と甘い声で喘ぐ男に、御坂は興奮を隠しきれず、無我夢中に被りつく。
薄く目を開けば、額に汗を滲ませ、迫りくる快感に耐える一方通行の顔が目に飛び込んでくる。
自主的に薄い唇の施錠を解き、侵入してきた御坂の舌に己のモノを絡みつけてくる彼に、御坂は満足げに目を細めた。


「ぅん……、――っはぁ」


長い口付けを終えると、枯渇した酸素を摂取するために御坂は大きく息を吸った。
一方通行も同様に乱れた息を整えようと、肩を上下に左右させながら「ひゅ、ひゅ」と口で呼吸を繰り返す。
酸欠気味の頭で意識が朦朧としたせいで御坂は眩暈でくらっとよろけ、その弾みで微弱な電気な身体から漏れた。

パチッ、と静電気程度の音の後に、


「ひァッ!!?」


と、悲鳴に近い艶めかしい喘ぎ声をあげ、御坂の真下に居る少年の身体がビクリッと跳ねた。

801 名前:③ネタ [sage] 投稿日:2010/05/24(月) 20:59:02.79 ID:ckCBbxQ0 [5/7]

「……へっ?」

「オイ。な、ンだよ、今の」

「えっ? わ、私に聞かれても……」


意外な展開に二人は茫然としてしまう。
沈黙が重苦しくて、御坂は顔をあげて絶えず彼の下半身を弄っていた手を止めた。
限界まで見開かれた一方通行の瞳が、何か恐ろしいものを確認するかのように下へと動かす。


「――――いや、気のせいだよなァ。気のせいだ、絶対そうだァ、うン」


噴き出した額の汗が、つーっ顔を蔦ってポツリと落ちた。
また一つ、シーツの染みが増えていく。
ものすごく嫌な予感が一方通行の頭を駆け巡ったのだが、単なる杞憂だろうと自分に言い聞かせる。


(取り越し苦労だ。頭ン中で鳴ってる警報は――勘違いったら、勘違いだ)


ごくり、と喉を鳴らす。
必死に否定を繰り返す脳裏とは反比例して、ドクンドクンと心臓の鼓動が激しくなる。
御坂美琴という、小悪魔から与えられた刺激への恐怖と期待。


「……、なに?」

「なにもねェ。……それと、何度も言うけど、いい加減にしろ」


弄っていた手が止まったことで、ねっとりとした愛撫から一方通行はようやく解放され、ようやくまともに喋ることが出来た。
本来なら、一方通行は簡単に彼女をねじ伏せることが出来る。
彼は学園都市で唯一無二の存在であり、同じ超能力者(レベル5)の御坂でさえも、一方通行にとっては赤子の手をひねるも同然。

それでも、御坂の愛撫に反抗することなく、黙っていたのは、


(惚れた女を、傷つける訳にはいかねェしなァ)


必死になって一方通行への愛を体現してくれる少女が、愛しいから。

802 名前:③ネタ [sage] 投稿日:2010/05/24(月) 21:50:34.48 ID:ckCBbxQ0 [6/7]

「……」

「不満そうに睨ンでくるな。男のアソコを直に触る根性もねェくせに、火遊びですかァ?」

「火遊びじゃないモン」

「阿保が。オマエの股に俺のをブッこまれたく無かったら、大人しくソコをどけ」

「うぅ……」


オブラートに包んで注意する、なんて優しい気遣いを一方通行がするはずもない。
処女膜を差し出す気がないなら下手なことをするな、と自分の上に鎮座している御坂に退く様に肩を軽く押した。


「チッ」


無意識に舌打ちをしてしまう。早くしないと、色々とヤバい。
口内を縦横無尽に犯され、耳穴に舌を捻じ込まれ、空いた手でわき腹をくすぐられ。
その上、ズボン越しとはいえ小さな己を撫でられ続けた。それも、惚れこんでいる女が積極的に、その手のひらで。


(情けねェことだが、もうそろ限界だ。さっさと便所に行ってサクッと処理するとしますか)


大人の女へとなるためのスタートラインにすら立てていない女を、強引に喰う趣味はない。
野蛮な男に成り下がるつもりはこれっぽっちもないのだが、五感すべてが敏感になっている今、大切な少女に襲いかかるのも時間の問題だった。


803 名前:③ネタ 深夜に戻りますノシ[sage] 投稿日:2010/05/24(月) 21:51:04.05 ID:ckCBbxQ0 [7/7]


「……」

「おら、さっさと退け」


催促しても、少女は黙りこくたままその場を動こうとしない。
一方通行はやけに静かになってしまった御坂を怪訝そうに見つめる。

パチ、パチッ……。

蛍光灯の光が点滅する音によく似たスパーク音が、一方通行の耳に届いた。
動きが止まったとはいえ、御坂の右手は未だに一方通行の局部にそえられている。
全身を激しく突き抜ける快感の記憶が蘇り、一方通行はさぁと顔を青くした。


「~~~~元々は、アンタがいけないんじゃないのッッ!!」


大した覚悟もなく興味本位で性行為に手を出すな、と言われたことが御坂にはカチンときた。
そもそも、何も言わない、何もしてこない一方通行が悪い。
堪忍袋の緒が切れてしまった御坂は、周囲に駄々漏れになっている微弱な電波なんか気にもしない。


「わ、私だって、恥ずかしいに決まってるでしょッ!!?」

「――ひッ!!」


バリィッ! という小さな雷鳴とともに、御坂の手のひらから一方通行の下半身に向け電撃が放たれた。 

810 名前:③ネタ [sage] 投稿日:2010/05/25(火) 02:07:40.64 ID:gsVhgn.0

手のひらを返したように、電撃が御坂の方へと進路を変える。
貫くような痺れを感じ、御坂は即座に少年の局部からぱっと手を離し、痛みを和らげるように指先をさすった。


「いったぁーい……」

「―――超電磁砲……ッ。股間にスタンガンとか洒落にならェことをすンなッ!」


想像しただけで、ブルっと背中に悪寒が走る。
本能的な危機を感じ取った一方通行が瞬時に『反射』の膜をしたことは正解だった。


「うぅ……、手がひりひりする」


意図して放電したものではなかったため、静電気が弾かれる程度の衝撃だったのが、それでも痛いものは痛い。
麦野の綺麗なジェルネイルに憧れて、見よう見まねでぬったネイルがちょっと剥がれ、御坂は涙目気味に爪を眺めた。
泣きたいのはこっちのほうだ、と一方通行は顔面蒼白にしながら、ボソリと呟いた。

818 名前:③ネタ [sage] 投稿日:2010/05/27(木) 15:42:05.00 ID:tk.PF/Y0 [1/3]

ひくひくと口角を引きつらせ、今にでも卒倒していそうな顔で一方通行はがっくしと項垂れた。


「その、……ゴメン」


文字通り真っ白になってしまった彼の様相が御坂の胸を少しだけ締め上げる。
ちょっとした衝撃でも激痛が走ると主張する男どもにそこまで騒ぐことでもないだろうと考えていたものだが、
真下で情けない醜態をさらす男を見ていると彼らの主張が正しく、自分の認識が甘かったとわかる。


「……あぁ、もうわかればいいンだよ、わかれば……」


そもそも、子孫繁栄のためのデリケートな器官を乱暴に扱ってはいけない。
超能力者のくせに興奮しただけで能力が暴走した恥ずかしさと、彼に対する申し訳なさで御坂の心はぐしゃぐしゃだ。


「本当にゴメンネ?」

「だから、もういい――ッ」

「次からは痛くしないように、ちゃんと能力のコントロールするから」


しょんぼりとしていた先ほどの顔とは打って変わって、御坂は一方通行にニコッと微笑んだ。


「……えっと、超電磁砲さん。オマエは一体何を言ってンですか?」




819 名前:③ネタ [sage] 投稿日:2010/05/27(木) 15:42:33.08 ID:tk.PF/Y0 [2/3]
目の前で可憐な笑顔を惜しげもなく振りまく御坂に一方通行は困惑気味し、問い返した。
いやいやいや、ゴメンと謝りましたよね、コイツ。
ちゃんと俺が言ったこと伝わったんですよね。
言いたいことが頭の中でグルグルと巡り上手くまとめることが出来ない。
あまりにもらしくない彼を無視して、「今気がついたんけどね――」と御坂は発見した新しい事実を嬉々として報告した。


「今気がついたんだけど、さっきアンタが突然嬌声あげた時も、私さ眩暈でくらっとして微量の電流を流してたのよ」


一方通行の頭の中でガンガン鳴っていた警報が再びけたたましく鳴りだす。
杞憂だ、勘違いだと目を瞑ったことが現実になる。


「でね、一方通行」


にいっと新しい玩具を見つけた子供のような笑顔で、御坂は囁く。


「強いのダメだけど。―――アンタさ、微弱な電気だったらキモチイイんでしょ?」


ドキッと心臓が悲鳴をあげる。
静まっていた刺激への恐怖と期待が一気に炎上する。ごくり、と一方通行は唾を呑んだ。
湧き上がってくる唾液の割に、口内はカラカラとしてモノ欲しくなる。


「レェル、ガ…ンっ」


直接触らなくても愛しい彼の情欲を掻きたてる方法が見つかった。
爪先がいささか欠けた少女の手のひらが、再び少年の局部へとそっと置かれた。
怖いものをみるようで、それでいて何かを切望しているような瞳でこちら見つめてくる一方通行。
可愛くて、いじらしい視線に、少年への想いが募る。


「お願い聞いてって、言ったでしょ? 超電磁砲じゃなくて、美琴って呼んでよ」


貴方に出会って、惹かれて、二人で恋に落ちて。
見ているだけで幸せだったのに、もっともっとほしいと、欲張りになる自分がいる。
もっと貴方を好きになりたい、もっと貴方と幸せになりたい。
欲に溺れる馬鹿な女だと笑ってくれてもいい、そんな女に引っかかった一方通行が悪いのだ。


「―――美琴って呼んでくれたら、イかせてあげる」


彼の分身をそのまま一撫でして、少年の耳元で少女は囁いた。

811 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/25(火) 02:22:23.97 ID:g3lxFUAO
あくまでスタンガン"は "ですよね・・・?

812 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/25(火) 02:47:00.40 ID:DF0EEJ.o
股間にレールガンか・・・

813 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/25(火) 15:45:31.02 ID:PsfAYzY0 [2/2]
反射と称して美琴に一通さんのレールガンを撃ち込むわけですね
わかります

814 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/25(火) 23:21:32.58 ID:JIzSQgso
3とかエロネタはどうでもいいから5がみたかった

815 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/26(水) 15:44:51.71 ID:gMDUbwSO
美琴の中に一方通行してる時に反射したらどうなるんだ

816 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/26(水) 16:29:43.75 ID:KnRF3aYo
>>815
想像して笑った、チンコから勢いよくすっぽ抜けて飛んでくビリビリ

817 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/26(水) 20:10:13.18 ID:K3gPx5Ao
一方さんだけ損する

820 名前:③ネタ おわーり[sage] 投稿日:2010/05/27(木) 15:51:14.84 ID:tk.PF/Y0 [3/3]
>>811-817
そんなこんなで③小悪魔御坂ネタは終了です。
げんなりしている一方さんは結局根負けして名前をよぶんじゃないでしょうか
ぶっきらぼうヘタレ一方さんと説教的で変に乙女な御坂でした。
深夜のテンションって怖いね。エロ(とは言えないけど)いの書いたのはじめてだよ orz

―――
さて、名前練習一方さんと⑤ネターっと言ってくださった方もいらっしゃいましたが、アクセラレールガンレクイエムは一旦ここまで。
さっさと未元崩しへと進みたいのですがもう今月は来れないです。
多分これからは週末に来れたら来る感じになります。遅筆のくせに……orz
がんばって平日もチマチマ書き溜めますので、お付き合い頂けると幸いです。

ここでスクリプト落ち。

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