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御坂「……嘘、もう売り切れてる」【番外編】

534 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/29(木) 14:31:11.23 ID:4FZlVoE0 [1/6]
フレンダ「結局、祝日だから制速にきちゃう訳よ」
最近帝督くんとかフレンダがいっぱいでうはwwwwwwww状態です。
この調子ならステイルssがでてくるのもすぐですね、わかります。
コメント等ありがとうございます。本当にここまで読んでくださてありがとうございました。

一方さん? いいえ、海原の蛇足です。
ここに投下するつもりはなかったけど、ビリィさんのスレみてテンションが上がった。

519 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/28(水) 02:40:31.91 ID:B3X9X3Y0 [13/15]

【蛇足:9982号とお姉様】


9982号の心の中に、沢山のものが溢れていく。
自分の体の中を駆け巡る様々な感情の名前を、彼女は理解することができない。

もう、美琴に会うことは出来ない。

いまが最期の時。

最期に、どうしても9982号は美琴に伝えたかった。
だから、必死だった。
彼女は理解できない感情の渦を呑まれないように、懸命にその感情の名を探す。

ネットワークを遮断したのだって、
『妹達』ではなく9982号のミサカが、伝えたかったから。

9982号(ミサカが、伝えたいから――)

あのね。
あのね、ミサカは――。

御坂「…ん? まだ何かあるの?」

伝えたいことがあるのに、大声で叫びたいことがあるのに。

9982号「…いえ」

9982号は、その感情の名前を、自分の知識の中から探し出すことが出来なかった。


9982号「さようなら、お姉様」


520 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/28(水) 02:41:34.09 ID:B3X9X3Y0 [14/15]
ふいに、9982号はお姉様に伝えたかった言葉を理解した。

9982号(ああ、そうかと、とミサカは納得します)

もう、あの人は実験場(ココ)には居ない。言葉は届かない。
けれども、ずっと心にため込んでいた感情がわかり、9982号は言葉にせずにはいられなかった。

彼女の頭上に、大きな影が迫ってくる。
けれど、9982号はそんなこと気にも留めない。

こどもっぽい、カエルの絵が描かれている缶バッチを力強く抱きとめ、
優しげな頬笑み浮かべながらを彼女はぽつりと小さな声で、呟いた。


9982号「あのね、ミサカはお姉様が大好きです、とミサカは――」


ぐしゃり。


彼女の声をかき消すように、鈍い音が一方通行の耳元まで聞こえた。
一方通行のベクトル操作によって操られた列車に押しつぶされ、検体番号9982号のミサカは絶命した。

彼女が最後に呟いた想いの丈を何処かへと連れ去るように、一陣の風が辺りを通り過ぎていく。


【蛇足:9982号とお姉様 終】


535 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/29(木) 14:32:31.06 ID:4FZlVoE0 [2/6]
【蛇足2:海原(エツァリ)と御坂】

駆けだそうとしていた少女がふいに足を止め、海原の方へと振り返った。

御坂「『私らしく、堂々としてろ』って言ってくれてありがとう。」

片手に持っている向日葵の花束を天にむけて掲げる。
通行人の目などお構いなしに大きな声で、少女、御坂美琴は叫んだ。


夜空の輝きにも負けない、可憐な笑みを海原に向ける。

御坂「『海原』さん。またね!!」


彼女はその言葉を最後に足早にこの場を去った。
海原は去っていく美琴の背中を遠目でずっと追いかける。

携帯電話で誰かと話しながら、美琴が路地裏の角を曲がる。
海原の視界から美琴が消え失せ、また海原の世界から美琴の存在が遠ざかった。

海原「『海原』さん、か…」

海原は「困ったな」というような苦笑を浮かべた。

海原光貴。
常盤台中学の理事長の孫にして、「念動力」の大能力者。

―――自分が、"皮"を借りている人物。

いま此処にいる海原は、海原の"皮"を被っているエツァリという名の魔術師。

538 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/29(木) 15:34:33.70 ID:4FZlVoE0

海原(この道を選んだのは、自分ですからね)

どんなに後悔しようが、結局は自業自得としか言いようがない。

海原(御坂さんが笑いかけてくれたのは、友達の『海原』だから、だ)

『友達』になりましょうと約束したのも、
傷つけないようにと気遣ってくれたのも、
気さくに一緒に世間話をしてくれたのも、

向日葵のような満面の笑みを浮かべて、「またね」と言ってくれたのも。

海原が見て聞いて感じだ全てのそれらは、『海原光貴』という少年に向けられたもの。

「エツァリ」という人間に、向けられたものじゃない。
「エツァリ」が手に入れられる美琴の感情は、あまりにも少ない。

海原「ははっ」

本当に、たまったものじゃない、と海原――いや、エツァリは唇を噛んだ。

539 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/29(木) 16:25:52.85 ID:4FZlVoE0

海原(御坂さんが幸せなら、それでいい)

エツァリの生き方は、面倒でまどろっこしくみえるだろうが、
実際は彼の信条と言うのは、とても単純だ。

少女が笑っていられる幸せな世界を守る。
それを害するものは、誰であろうと駆逐する。

たった、それだけ。

表の世界でも、裏の世界でも、
それが出来るならば自分の居場所などエツァリには何処でもいいのだ。

海原「……御坂さん」

少女の名を、エツァリはポツリと呼んだ。
彼女の耳に届かなくても、エツァリはその名を心の中で繰り返し続ける。

海原(僕は、貴女が好きです)

この世界で誰よりも、貴女のことを愛している。
だからこそ、「組織」も、仲間も、故郷も。
自分を構成するそれら全てをなげうってでも、彼女を守る道を選んだ。

選んだのは、自分だ。

海原(御坂さんの中に、『僕』は、いない――)

そんなこと程度で、へこたれていてどうするのいうのか。

これまでも、きっと、これからも。
御坂美琴が、エツァリという名の少年が居ることを、知り得ないだろうに。

海原(……そうですね、贅沢をいうのならば、)

一度でいいから、本当の自分の姿で、彼女の前に立ってみたいものだ。

540 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/29(木) 16:47:36.25 ID:4FZlVoE0
prrrrrr、prrrrrr。


携帯の着信音が鳴る。
エツァリは何だか嫌な予感をさせながら、通信ボタンを押した。

海原「何の用でしょうか?」

土御門『よう、海原。クソつまらねぇ「仕事」の時間だ』

電話の相手は、海原(エツァリ)をまた血生臭い闇の世界へと連れ戻す。

学園都市暗部組織『グループ』。

上条勢力の1人として美琴を危険視する「組織」に対抗するために、
学園都市という箱庭の中で美琴が安心して暮らしていけるようにするために、

海原が、身寄せている、彼の居場所。

海原「そうですか、それで今日の「仕事」のお相手は?」

土御門『なんてことはない、ただのかまってちゃんテロリストだな』

学園都市に立てつく、馬鹿な外部組織の仕業だろうか、と予測をたてる。

土御門『詳しい話は全員が集合してから話す』

海原「そうですか――」

キキッ、と海原のいる歩道の近くにある地下鉄の入り口の前に一台のタクシーが止まった。
地下鉄から出てきた人を目当てに止まっている多数のタクシーの中に"自然"に紛れこんでいる。

パチン、と携帯を閉じてスーツのポケットにしまうと海原は歩きだす。
例のタクシーの所までたどり着くと、コンコン、軽く後部座席の窓を叩きながらこう言った。


海原「―――すいません、集合場所までお願いします」



光が汚れないように必死にもがいても、決して彼はその光の当たる場所には行けない。

彼が選んだ道は、そういう道だ。



【蛇足:海原(エツァリ)と御坂】

541 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/29(木) 16:55:56.73 ID:4FZlVoE0 [6/6]
終が抜けてるけど、終り! 
誤字脱字はスルーしてくだされたら有難いです…… orz
つっちー出したかっただけな気もするけど、気にしない。
ここまでお付き合いありがとうございました。

548 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/30(金) 10:13:56.19 ID:AcqZEVg0 [2/12]
【蛇足3:一方通行と超電磁砲】

少女の姿を視界に入れた時、
ついていねぇ、と一方通行は不機嫌そうに眉を顰めた。



549 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/30(金) 10:14:53.56 ID:AcqZEVg0 [3/12]
一方通行(あー…、マジでイライラするンですけどォ)

どうにも苛立ちを隠しきれずに、タンタンタンッと小刻みに右足をバスの床に叩きつける。

昨日は朝っぱらから打ち止め達に、最近新しくできた巨大ショッピングモールに連れまわされた。
信じられないほど混雑したソコで迷子になった打ち止めを探しまわる羽目になるし。
夕方にやっと打ち止め達から開放された時にはすでに疲労困憊だったのに、
その直後に土御門からクソつまらねぇ「仕事」の電話が入り、
そのまま深夜遅くまで、学園都市に反抗した外部組織のテロリストの粛清に追われた。

一方通行「……だりィし、眠ィし、最悪だな」

結局、仕事の後、黄泉川の家に戻ったのは午前3時を過ぎていた。

今日は久々のオフだから、長時間布団とお友達になりたかった一方通行なのだが、
カエル顔の医者に「検査にこい」と言われていたことを思い出し(芳川に言われるまで、普通に忘れていた)、
一方通行はしぶしぶ、その医者の居る病院へと向かうため、現在バスに乗って移動中だ。

様々な要因が彼の苛立ちを冗長するが、その一番の原因は、

――――打ち止め、ここのお店の名前、『コーヒーショップ藍上』だって

昨日、携帯電話で打ち止めと話している時に微かに聞こえた少女の、声。

彼が毎日のように聞いている打ち止めよりも大人びていて、
打ち止めと同じ『妹達』と同じ声質だけど、彼女たちよりも情緒豊かな、そんな声だった。

一方通行は、この少女の声を聞いたのはコレで3度目。

1度目は、8月15日。第9982次実験場にて。
2度目は、8月21日。第10032次実験場にて。

その2度とも、少女は一方通行に対して感情の全てをぶつける様に声を荒げた。

一方通行(九割九分、『超電磁砲』だろォな)

声の主の名は御坂美琴。

一方通行と同じく学園都市230万人の頂点に立つ超能力者の第3位。
最強の電撃使いとして『超電磁砲』の名をほしいままにしている、学園の女生徒の中で最強を誇る女。

彼女が必死の努力して得た才は、学園都市の闇に見初められてしまった。
超能力者を量産を目指す『量産型能力者計画』にて計画され、
絶対能力を生み出すことを目指した『絶対能力進化計画』へと引き継がれた、
『超電磁砲』の軍用クローン『妹達』の素体となった、悲劇の少女。

一方通行「……お姉様(オリジナル)、ねェ」

彼の傍で笑ってくれる打ち止めの、
彼がその全てを賭けてでも守ると決めた『妹達』の、―――お姉様。

551 名前:やっぱり終らない orz 夜にまた来ます[saga] 投稿日:2010/04/30(金) 10:45:43.43 ID:AcqZEVg0 [4/12]
昨日、水の広場で合流した時から今朝まで、打ち止めは頗るご機嫌だった。
いつも以上に笑いはしゃぎ楽しそうに騒ぐ打ち止めの姿が、脳裏に宿る。

一方通行(面白くねェ)

苛立ちの根源ともなっている感情は、面白ない。
打ち止めは美琴に出会って少し喋っただけで、打ち止めはあんなに楽しそうにはしゃいでいた。
一方通行はそれが面白くなかった。

一方通行(―――オマエは、いいよな)

なぁ、超電磁砲。と一方通行は心の中で捻くれたように語りかけた。

一方通行(笑いかけてやるだけで、オマエは打ち止めの世界を照らせるンだからよ)

絶対に自分にはできないことを軽々とやってのける美琴に、
一方通行は無意識に羨みと、妬みを混ぜ合わせたような感情を抱く。

そんな一方通行の姿は、まるで手の届かない物を、拗ねるような眺める子どものようにも見えた。

553 名前:再開します[saga] 投稿日:2010/04/30(金) 20:11:43.23 ID:AcqZEVg0 [5/12]
バスが停留所に止まり、入口のドアが開いた。。
どうやら、ようやく自分の他に乗客が乗るようだ。
今まで乗客は一方通行しかおらず、各停留所でバスを待っている人もいないからか、
一方通行が乗ってから今の今まで、バスは一度も止まることなく走り続けていた。

一方通行(雑音が無くて良かったンだがなァ)

バスの揺れに身を任せ、ボーっとのんびりするには丁度よかったのだが、と一方通行は残念に思った。

停留所からの客がバスに乗り込むと、プシューっと入口が閉まる音が鳴る。
ゆくっりとバスがまた次の目的地へと走り出した。
一方通行は乗り込んできた客にたいして興味がなく、ただずっと窓の外を見ている。
流れていく風景は、飽きるほど視界にいれているので、特に感慨もない。

少ししてから、「ペチン」と人の肌を叩くような音が聞こえてきた。
一方通行は何気なく音の聞こえたほうへと視線を向けた。

入口付近に茫然と立ちつくしていた少女と、カチリと視線がぶつかった。

御坂「……!?」

一方通行「――ッ!」

カタカタと歯を鳴らしながら口を震わせて、顔面を真っ青にして此方を見てくる少女。

流れるような茶髪、ぱっちりとした瞳に愛嬌のある顔、
すらりとした身体を包むのは学園都市屈指の名門、常盤台中学の制服。
「ミサカはミサカは」と自分の周りを飛び跳ねている打ち止めにそっくりの外見。
『妹達』が愛用している暗視ゴーグルは身につけていないし、少女の瞳ははっきりの感情の色が浮かんでいた。
驚愕と、恐怖。その瞳にはそんな感情をありありと映し出している。

間違いない。
コイツは『超電磁砲』だ。

一方通行(――――ついてねェ)

昨日の朝から、自分はとことん運から見放されているようだ。


554 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/30(金) 20:25:53.93 ID:AcqZEVg0 [6/12]
一方さんのオマケはじめる前の※を忘れていました。

※蛇足3は一方さんと美琴がバスしてやり取りの一方さん視点となります。
なので、地の文は違うのですが、会話の内容は一緒です。ご勘弁頂けると幸いです。


555 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/30(金) 21:42:11.13 ID:AcqZEVg0 [7/12]
視線の先にいた少女が美琴であると分かった途端に、
一方通行はさっと逃げるように美琴から視線を外し、また窓ガラスの向こうに広がる景色を覗く。
無意識に眉間にしわが寄わをよせながら、一方通行は気がつくと舌打ちをしていた。

一方通行「……チッ」

この状況を忌々しく感じつつ、どうしていいのか分からず一方通行は何の行動も起こせずにいた。

一方通行(俺に、どォしろってンだよッ!)

「よォ、久しぶりだなァ」なんて気軽に挨拶なんて出来るわけがない。
そんなことをしてしまったら、それこそ天地がひっくりかえると一方通行は考える。
そもそも、『妹達』を一万人殺した自分が、ヘラヘラと笑いかけていい相手ではない。

御坂『どうして、こんな実験なんてやってるの?』

超電磁砲すら一方通行に打ち砕かれて、ボロボロになった少女に
震えながら哀願するように聞かれたのは、彼女と初めて会った夜の事。

一方通行(『最強』から『無敵』になるために)

『妹達』を虫のように蹴散らした理由は、たったそれだけ。
たったそれだけのために、一方通行は様々なものを壊し、奪い、消し、傷つけた。

一方通行を見るだけで身体が震え、動けなくなるほど怯えている美琴も、

一方通行(俺が無神経に傷つけた、1人、なンだよ)

取り替えしのつかないことをしてしまった相手に、どう振る舞えばいいのか。
学園都市第一位として最強の力を保持する一方通行は、そんなことすらもわからない自分に腹が立った。

一方通行(……俺には)

迷惑をかけてすまなかったと謝る権利も、
思う存分好きに痛めつけていいと伝える権利も、
『妹達』から助けてもらっていると言う権利も、
打ち止めが彼のたった一つの光となったことと感謝する権利も、

何もかも、許されていないのだ、と一方通行は唇を噛んだ。

この現状でどうすことも出来ない一方通行は、ただ美琴を自分の視界に入れないように必死になるしかなかった。

556 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/04/30(金) 21:43:33.07 ID:AcqZEVg0 [8/12]
訂正
×無意識に眉間にしわが寄わをよせながら、
○無意識に眉間にしわを寄せながら、

557 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/30(金) 22:27:50.50 ID:AcqZEVg0 [9/12]

一方通行(俺とアイツじゃ、違いすぎンだよ。……何もかもが)

御坂美琴は、一方通行と同じく学園都市の頂点に君臨する超能力者。
軍隊すらも圧倒する力を持った、互いに『化け物』と忌み嫌われる存在。
自分を含め、一方通行が見聞きした超能力者は皆が暗闇へと落ちている。

一方通行と激闘を繰り広げた第2位の『未元物質』、垣根帝督。
垣根の命を狙っていたと風の噂で聞いた第4位の『原子崩し』、麦野沈利。
そして、自分自身も、打ち止めと『妹達』を守るために暗部入りをした。

学園都市の4強の内、太陽の下で笑って生きているのは、御坂美琴ただ1人。

自分と同じ超能力者なのに、
自分と同じ『化け物』と周囲から恐れられてきた存在なのに、

美琴は自分を否定することなく、堂々と胸をはって『表』の世界で自分の居場所を築いている。

一方通行(――――オマエは、俺とは違う)

一方通行は、美琴がただ呑気に生きているとは思っていない。
たしかに美琴は『広告塔』としての役割が強いが、超能力者ということに変わりはない。
周囲からの羨望、信仰、嫉妬、敵意、関心、興味。それらから逃げることは許されない。

彼女は、いままでに何度だって闇に染まりそうになったはずだ。

『妹達』の存在を知った時。
『絶対能力進化計画』で『妹達』が惨殺されていると知った時。
『残骸』で再び悲劇が起こるかもしれないと知った時。

それでも、彼女は折れることなく、正々堂々と生きている。

傷つけること、傷つけられること。
そのどちらからも逃げずに、真正面から立ち向かい続けることのできる強さ。

それが、美琴の強さであり、一方通行との絶対的な『差』でもあった。

一方通行(……ンな強さ、俺には無かった)

誰かを傷つけること、誰かに傷つけられること。
それが繰り返される日常に嫌気がさして、
何かが変わることを期待して、一方通行は『実験』に加担した。

558 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/30(金) 22:46:09.33 ID:AcqZEVg0 [10/12]

もちろん、彼女1人だけの力で成しえていることではないだろう。
彼女の居場所となっている人が居るからこそ、美琴はその場所で笑っていられる。

一方通行が壊れないように失わないように、
包むようにして大切にしている打ち止めと美琴は一緒なのだ。

誰かのために、笑い、泣き、怒り、喜ぶことのできるから、周囲が彼女に惹かれていく。

―――― 一方通行が、打ち止めに惹かれたように。

560 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/30(金) 23:38:27.27 ID:AcqZEVg0 [11/12]

一方通行を倒した無能力者と、一方通行はまったくの真逆にいる人物である。
だからこそ、思い出してムカついたり反抗心を抱いたりすることもあるが、ここまでではない。

御坂美琴は自分と近い存在なのに、自分とは最も遠い場所にいる。
自分と『同じ』なのに、自分とはまったく違う答えを見つけ出し生きる少女だからこそ、
比べてしまい、自虐的にとらえ、嫉妬と憧れを抱いてしまうのだ。

一方通行自身も、気付かぬ内に。

それに加えて、彼女は『妹達』の素体であり、打ち止めや『妹達』の大切なお姉様でもある。

一方通行(……どォしろってンだよッ)

一方通行がこれほど戸惑い、心の中を右往左往してしまうのは当たり前とも言える。


御坂「きゃぁッ!」

甲高い悲鳴とともに、どてん、と人が転んだような音がした。

御坂「……ッ痛ぁ」

どうやら、ずっと立ちつくしていた美琴がバスが急停止した反動に耐えきれず転んでしまったようだ。
転んだのなら、手を差し出してやるべきなのだろうが、一方通行は動けない。

ただ、このまま何の接触もなく、時が過ぎればいい、と情けないことを考えていた。

567 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/01(土) 11:07:28.61 ID:c4ig2xY0 [2/30]

けれど、そんな甘い考えが望み通り叶うはずもない。
ふいにコツコツとローファー独特の靴音が近づいてくる。

一方通行「―――チッ、何のつもりだ、超電磁砲」

明らかに相手を警戒するような舌打ちをしながら、この状況に耐えきれなくなった一方通行が沈黙を破った。

さきほど視線があった時はバスの入り口付近にいたのに、
一方通行のいる後部座席のほうと歩みを進めると、彼の右斜め前の2人がけの座席に腰かけた。

この少女は一方通行のことをよく思っていないのは明らかだ。
2度出会った時、一方通行が美琴から向けられた感情はハッキリとした敵意、恐怖、そして激怒。

目の前の少女は、自身の軍用クローンである『妹達』を拒否せず受容し、
彼女たちの命を守るために、一方通行にむかってコインを弾いたはずだ。
たとえそれが、自分のせいで一万人の人間が死んでいく現状に耐えきれなくて起した行動だとしても、

―――それでも、彼女が『妹達』のために、立ち上がったことに変わりはない。


御坂「何となくよ、何となく」


一方通行の問いかけに、美琴はそう答えた。
美琴は気だるそうに椅子に身体の預けながら、ぼんやりと前を見ている。

一方通行「……はァ? 意味がわかンないンですけどォ」

御坂「別に、アンタにわかってもらう気はないし」

"何となく"と答えた美琴の真意がわからず、一方通行は混乱する。

一方通行(―――オイオイオイ、コレはどォいう事だ)

彼女は一方通行を誰よりも憎み、敵意を抱いているはずなのに。
一方通行に掴みかかっても来ない。罵倒をあげもしない。

ただ、バスの椅子に気だるそうに座っているだけ。

一方通行のゾッと背中に寒気が走る。

一方通行(何なンだ、何なンだよ、オマエはっ……!!)

赤い眼孔に映る少女の後ろ姿を、一方通行には不気味に見えた。

―――超電磁砲、オマエは、

一方通行(オマエは、どんなことがあっても、『妹達』のために立ちあがる奴じゃねェのかよッ!!!)

少年の悲痛な叫び声が、無音の状態でバスの中に木霊する。

568 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/01(土) 11:10:01.61 ID:c4ig2xY0 [3/30]
間違い訂正
ゾッと一方通行の背中に寒気が走る。

569 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/05/01(土) 11:30:44.58 ID:c4ig2xY0 [4/30]
一方通行には、覆しようの無い現実があった。

ツンツン頭の少年は、誰かのために拳を握る完全無欠の善人で、誰かのためにヒーローのはず。
誰かのために素直に笑い泣き怒ることできる心根の優しい目の前の少女は、
どれだけ世界が『妹達』を非難し迫害しようとも、彼女だけは正面切って彼女たちを守るはず。

世界の天地が逆転しても、一方通行のは心の奥底で、それらが絶対に崩れることがないと思っていた。

浴びるように血を浴びて生きてきた自分が、どんなことをしても、
打ち止めと残り一万人の妹達と彼女たちを取り巻く世界を守ると決意しても、

彼女たちの心の支えになることは無いし、なろうとも思っていない。

それをするのは、彼女たちを守ったツンツン頭の少年であり、
『妹達』のお姉様(オリジナル)である美琴だと、一方通行は疑うことなく信じていた。

御坂美琴は、『妹達』のお姉様は、
彼女たちを裏切らず、守り通し、『絶対』に彼女たちの『味方』いるのだと、
『妹達』のために、『超電磁砲』は生きてくれるはずだと―――、

一方通行は、御坂美琴はそういう人間だと信じていた。
一方通行は、御坂美琴がそういう人間であるべきたと、心の底から望んでいた。

一方通行(―――やっぱ、オマエもその程度の奴だった、てか?)

だからこそ、少年の抱いた失望感は、彼を奈落の底へと突き落とす。

573 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/05/01(土) 12:09:20.37 ID:c4ig2xY0 [5/30]
世界は、一方通行の望むように動いてはくれない。
自分が囁かに切望している願いさえ簡単に打ち砕いて、世界は非情なのだと突き付けてくる。

一方通行(…………、期待はずれだ)

ブツリ、と心が切れ裂かれる。
背中に重たく圧し掛かる絶望から逃れるように、一方通行は淡々と口を滑らした。

一方通行「意外だなァ。感情だけで俺に立ち向かったお前が、
     『妹達』を愉快に素敵に虐殺した俺を見ても、何のリアクションも起こさねェなンてよ」

この感情をなんといえばいいのだろうか。
一方通行は斜め前に座る少女の背中を何処か寂しそうな目で追いかけていた。

御坂「……何が、言いたい訳?」

一方通行「あんだけ守るんだって喚いてたくせに、
      俺に文句の1つも言わねぇなンてよォ。……薄情な奴だと、思っただけだ」

あれだけ、自分の前に立ちはだかったくせに、と子どものように一方通行はいじける。
勝手に自分が期待していただけなのに、オマエが裏切ったのだと、
一方通行は自分勝手に美琴に失望し、絶対的に信じていた現実を諦めようとしていた。


しかし、一方通行の言葉を聞いて、美琴が吠える。


御坂「―――ッざけんな!!」

ダンッ! と鈍い音がバスの中に響く。
美琴が自分が座っている席の前の背もたれを勢いに任せて蹴りあげた音だった。

575 名前:お昼御飯なので、少し席外します。[saga] 投稿日:2010/05/01(土) 12:33:37.92 ID:c4ig2xY0 [7/30]

さっきまでの姿とは打って変わって、全身に怒り漂わせる美琴。

一方通行「……ハッ!」

一歩通行の頬が上がる。
生気を失ったような赤い瞳に、鋭い眼光が戻ってくる。

一方通行「そォだよ、そォじゃねェとなァ!!」

自然と頬が緩む、可笑しくて笑い声が止まらない。

一方通行(そうだ、そうだよ、オマエはそういう奴だもンなァ、超電磁砲!!)

裏切られたと思っていた世界は、何処にもなかった。
やはり、御坂美琴は、こうやって『妹達』のために、『敵』に立ち向かってこなければいかない。
一方通行を、『敵』と見なして目の前に立ちふさがるべきなのだ。

心底嬉しそうに「カカカ」と挑発するように笑う一方通行を見て、美琴は更に顔を暗くさせた。

一方通行「謝罪すンぜ、超電磁砲。悪かったなァ、マジで頭イかれちまいやがったかと思ったわ。
      その年で痴呆たァ難儀なもンだって心配したンだぜェ?」

ゆらゆらと揺れる少年は、美琴が憤慨していることを嬉しそうに眺め、
この現状を楽しむように汚い言葉をはきだし続ける
もっと怒れ、もっと感情に身を任せろ、と。そんな影の声を潜ませて。

一方通行(オマエは、『妹達』のために生きてくれ)

そんな、無責任な願いを込めて。

578 名前:お昼ごはん美味しかったー[saga] 投稿日:2010/05/01(土) 14:39:35.15 ID:c4ig2xY0 [8/30]
御坂「……黙れッ!」

美琴の瞳は、怒りの色に染まっている。
眉をつり上げ鋭い目つきでこちらを睨んでくる様は、『超電磁砲』に相応しい凄みがあった。
打ち止めと造形は同じはずなのにな、と一方通行は不敵な笑いを浮かべた。

一方通行「ケッ。ヒステリー声で鼓膜敗れたらどォしてくれんだ? 弁償でもしてくれるンですかァー?」

キャンキャン鳴きやがって、っと右手の小指でつまらなそうに耳を掻く一方通行。

御坂「黙れって、言ってんでしょーがぁッ!!」

遂に美琴は席から立ちあがった。
興奮のあまり、彼女の周囲にはバチバチと音を鳴らす紫電が駆け巡る。
前髪から電気を漏らすこともお構いなしに、美琴は一方通行の元へと足を踏み出した。

美琴に胸倉を掴まれ、一方通行は座っていた座席の背もたれに思い切り縫いつけられる。
一方通行はそんな彼女の行動を目元をつり上げて、面白そうにみつめていた。

『超電磁砲』という絶対的な実力者食って掛られているといのに、
一方通行は首元にある補助器のスイッチに手を伸ばさない。
故に、反射もベクトル操作も美琴に牙を剥けることはなかった。

最強を誇る「反射」が何故作用しないのか。
完全に怒りだけに囚われている美琴は、そこの事に気付けなかった。
というようりも、気がつく余裕さえなかったと言った方が正しいだろう。

彼女が一方通行を押し付けたはずみで、
立てかけていた一方通行が普段から使っている杖がカランと音を立てた。

御坂「……アンタが私を挑発して、何がしたいのか。全・然、わかんないんだけどさぁ」

美琴が頭突きをするように己のそれを少年に叩きつけ、一方通行のおでこには鈍い衝撃が走る。
視線のすぐ先には、美琴の何かに耐えるような顔が見える。
一方通行と美琴の顔の距離はほんの僅か。
少年の赤い瞳と少女の茶色い瞳がぶつかりあう。視線がずれることは、もうない。

御坂「これでもね、一応まだ我慢してんのよ? 電撃でアンタを焼かないように」

少女はいったい何を我慢しているのか、一方通行にはわからない。
どこか困ったような、それでいて苦しそうな静かな声で美琴は告げた。

一方通行「そりゃアレか? オレがコレを持ってるから、同情でもしてンのか?
      余計な親切アリガトォゴザイマスゥー、有難迷惑だ、ボケ」

美琴が横目で確認した先には、一方通行愛用の現代的なデザインの杖が。

一方通行(こいつは何処までお人好しなンだよ)

少女の遠慮なんか必要ない。全力でぶつかってこればいい。
「そんなもんいらない」と、一方通行は撥ね退けるように美琴に伝えた。

579 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/05/01(土) 15:28:47.76 ID:c4ig2xY0 [9/30]
一字一句、一方通行が聞き逃さないように、
小さな声でもゆっくりはっきりと美琴は感情を言葉にしていく。

御坂「……私はアンタがキライ、大嫌い。」

一方通行「……そォかい」

当たり前だな、と一方通行は思う。
打ち止めと同じ顔の少女に面とむかって言われると、心がチリチリ焦げるように痛い。

御坂「アンタは知らないでしょうけどね――、」

酷く揺れる美琴の瞳の中に、自分自身が映っている。

一方通行(………俺は、)

同じ超能力者でも、『表』の世界で生きる姿が、
素直に誰かのために何かを成せるその生き様が、
堂々と胸を張って、妹達を守ると宣言できる立場が、
――――ただ、笑ってやるだけで、打ち止めを幸せにできるオマエが、

一方通行(素直に認めてやるのは悔しいけどよォ)

羨ましい、と思っているんだけどな。一方通行はと心の中で吐露した。


御坂「――9982号は…、アンタが殺した10031人の『妹達』は、笑ってたのよ?」


両手にかかえるものが圧倒的に少ない少年は
自分がどんなに望んでも、掴むことのできないものを持つ少女が純粋に羨ましかった。
もちろん、そんなこと自体羨むことも許されないだろうが、と一方通行は目を細め卑屈気味に眉をしかめる。


一方通行(あァ、そうだな超電磁砲)


御坂「……それを根こそぎ奪ったアンタを。10031人の妹達の笑顔も未来も命も全て奪い取ったアンタを」


美琴は裂ける痛みに悲鳴を上げる胸から、絞り出すようにして一方通行に突き付ける。


一方通行(俺は、一万人の『妹達』をブっ殺した―――、)


御坂「私は、絶対に許さないッッ……!」


―――――――大罪人、だ

581 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/05/01(土) 16:12:08.16 ID:c4ig2xY0 [10/30]
大罪人は、裁かれて当たり前。

一方通行「……だったら、能力でも何でも使って、俺に立ち向かえばイィじゃねェか」

そんな迷ったようにぐずぐずしないで、
すべての遮蔽物を真っ直ぐにぶち抜く『超電磁砲』の名の通り、まっすぐに自分を弾ずればいい。

一方通行(―――そうか、俺はコイツに弾じてほしいのかもしンねェな)

自分の前に立ちふさがれ、と口にした途端、そんな思いが一方通行の脳裏を駆け巡った。

あれだけの罪を犯しても、一方通行はのうのうと呼吸をし食事をし毎日を生きている。
確かに、打ち止めも、『妹達』も一方通行のことを許さないと断言した。
一生忘れないし、一生許さない、と。

一方通行(けど、そンだけだ)

打ち止めも、『妹達』も。
それだけしか一方通行に要求してこない。

誕生のきっかけをくれた、と感謝すらする『妹達』は、決して一方通行を弾劾しない。
死んでいった10031人の妹達のために、
消えてしまったその命を返せと彼女たちのために、悲しみ怒るのは目の前の少女だけ。

一方通行(……ハッ、ズルい野郎だな、俺も)

一生付きまとう罪と罰。
耐えきれなき重圧が少しでも軽くなればと、
誰かに責められれば楽になるかもしれないからと、必要以上に美琴を追い立てた。

御坂「それが出来たら、どんなに楽か、って話ね」

美琴は首を小さく振り、そんなことはしない、と一方通行に示す。

一方通行「あァ? つまンねェこと言ってんじゃねェよ」

尚も一方通行は挑発を続ける。

一方通行「聖人君主でも気取ってンなら、似合わねェから辞めとけ辞めとけ」

妹達のために立ちあがってほしい。
罪を犯した自分を断罪してほしい。

それだけなく、美琴がおびただしいほどの感情の中で泣いているのならば、
全部、自分にぶつければいい。少しでも楽になるなら、オマエを傷つけた詫びになるなら。

一方通行(…………殺される以外なら、文句は言わねェし、手もださねェよ)

何もかも、招いてしまったのは自分自身なのだから。
だから、まっすぐにぶつかってこい、と一方通行は念じた。

588 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/05/01(土) 18:03:44.94 ID:c4ig2xY0 [12/30]
一方通行の痛烈な言葉に反応せず、美琴はジッと黙りこくっていた。
ぎりぎりと一方通行の胸倉をつかむ手に力が籠る。

しばしの無言の後、美琴は心底悔しそうに一方通行の胸倉から手を離した。

一方通行「……ンだよ」

なにもしてこないのか、と一方通行は非難する。

御坂「やっぱ、……私はアンタの事、傷つけられない」

ギラギラと燃えるようにこちらを睨んできた瞳が下を向く。
突然、力を失ったかのようにか細く弱弱しい声で美琴はポツリと呟いた。

一方通行「だからよォッ……! 聖人君子の真似はいらねェって言っンだよッ!」

猪突猛進型の美琴とは思えない表情、仕草。
煮え切らない美琴の態度に、一方通行は苛立った。

一方通行(迷うンじゃんねェよッ!)

だって、と美琴が茫然として声で、反論してくる。

御坂「だって、アンタの事傷つけたら、打ち止めが悲しむもの……」

赤い瞳が一瞬戸惑いの色を見せる。


589 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/05/01(土) 18:21:54.23 ID:c4ig2xY0 [13/30]
一方通行「おィ、なンで此処で打ち止めの名前がでてくンだよ」

御坂「……昨日、ショッピングモールで打ち止めに会ったから。
    打ち止めから直接アンタのこと聞いた訳じゃないけど、一緒に歩いてるとこ見かけたし、ね」

昨日、誰といたのかと聞いても、打ち止めは「貴方にも秘密だよ」としか答えてくれなかった。
だからこそ、九割九分、超電磁砲だと予想したが、
残りの一部の確証を一方通行は持てていなかった。

一方通行「――やっぱ、昨日打ち止めと一緒にいたのはオマエか、超電磁砲」

あらかじめ予想していた答えが返ってきて、先ほど高まった緊張感が一方通行から消え失せる。

御坂「やっぱ……?」

一方通行の呟きに、美琴は訳が分からないといった顔をする。
下を向いているため、一方通行から美琴の顔は窺い知れない。


590 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/05/01(土) 20:58:04.35 ID:c4ig2xY0 [14/30]


御坂「あ"ぁー、もう!」


美琴は、そのままの態勢でガリガリと乱暴に頭を掻き毟しった。
ボソボソと弱弱しく喋っていた先ほどまでの声は何へ行ったのか。
美琴の唐突な行動に、一方通行はギョッとして目を見開いて固まった。

「もう、ヤダ。疲れた」と美琴は何を考えているのか、
ドカッと1人分の空席をはさんで、一方通行の2つ隣の席に勢いよく座った。

一方通行「……オマエ、本当に何がしたいンだよ」

美琴の取った一連の行動に、一方通行は更に眉をひそめる。
さっきまでものすごい形相を浮かべいていたはずなのに、
イスに座った美琴の顔はなんだがあっけらかんとしている。

美琴の急激なテンションの落差に、一方通行はついていけずポカンと情けなく呆けるしかなかった。

御坂「うっさい、私はアンタのほうが何したいのかわかんないわよッ!」

「頼んでもいないのに、人の事を散々挑発してさ」と美琴は口を尖がらせてしかめっ面で不満そう。
「ミサカはミサカはぶーたれる」と言って不貞腐れる打ち止めの横顔によく似ている。
ずっと持っていた学生鞄をぽいっと空いている左側のイスに上に投げる仕草も、何とも適当だ。


御坂「別に、私はアンタと喧嘩するつもりなんかなかったのに」

一方通行「――…」


美琴の言葉に、ついに一方通行の思考が完璧に停止した。

一方通行(……喧嘩するつもりは、なかった……?)

疲れが一気に噴出したのだろう。
美琴はイスの背もたれに全体重をかけて寄りかかっている。
二日酔いで頭が痛い酔っ払いのように、う~んと唸り声をあげながら頭を抱えながら、渋い顔をした。

白い髪に赤い瞳を持つ少年は口を開くを忘れる
そんな少年を置き去りにして、グチグチと文句を言い続ける美琴の声だけが、バスの中に響きはじめる。

591 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/05/01(土) 21:15:11.76 ID:c4ig2xY0 [15/30]

あれほど一方通行に激情していた美琴だ。
自分に対して様々な思いを巡らせていることは、確実だ。

一方通行(っつーのに、最初は事を荒げるつもりはなかった、とでも言いてェのか、この女)

だから、バスに乗った時変に気だるそうな態度で自分に接してきたのか?
自分の感情を抑えつけて、穏便にことを流そうとしていたのか?

――――――何故?
一方通行は、美琴の真意がわからず、グルグルと混乱した頭で考える。

美琴はバスの前方の窓に広がる学園都市の風景を見ながら
美琴はもう一度、一方通行を切り刻んだ言葉を突き付ける。


御坂「まぁ、さっき言ったように、アンタのことは嫌いだし許す事なんてない」


無い物ねだりをする子どものような声で、けどさ、と美琴は続ける。


御坂「――――けどさ、アンタが居るから、打ち止めは笑ってられるのよね」


私じゃなくて、アンタが居るから。
案にそう言われた気がした。

592 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/05/01(土) 21:49:32.51 ID:c4ig2xY0 [16/30]
一方通行(――――コイツは、何を言ってやがるンだ?)

一方通行は美琴の発言の意味を、まだよく理解できずにいた。
能力使用モードにスイッチを切り替えてないとはいえ、彼の演算能力は完璧にショートしてた。
学園都市第一位の男は、何とも情けない醜態をさらしていた。

御坂「『あの夜』から、アンタと打ち止や『妹達』の関係がどう変わったなんて。
    詳しいことは、私にはわからない。誰も話してくれなかったし、ね」

打ち止めを含め『妹達』は何もかも、自分たちのお姉様に話をしていないらしい。
その理由がなんなのか、一方通行には興味はないが。
ただ、昨日美琴に会ったことを、あれだけはしゃいで喜んでいた打ち止めすらも、
彼女に何も語っていないことに少しだけ、違和感感じたが、その程度だ。


御坂「ただ、打ち止めがはしゃいで、騒いで、笑ってられる世界にはさ――、」


誰かを諭すように、励ます様に、穏やかな頬笑みを浮かべる美琴。
彼女の脳裏には、一体だれがよぎっているのだろうか。


御坂「―――打ち止めの隣にアンタが居ないと駄目なんだってことは、わかるよ」


そんなことくらいなら、私も知ってる。
そう、言いたげな声色だった。


593 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/05/01(土) 21:50:13.83 ID:c4ig2xY0 [17/30]
一方通行は、自然に優しげな笑みを浮かべる美琴の横顔をみて、ようやく理解する。


一方通行(―――あァ、そうかよ。そういうことかよ、チクショウ)


美琴はバスの正面ガラスの向こうに広がる風景を眺める。


御坂「なんていうかさ」


美琴の言葉を、一方通行は黙って聞くしかない。


御坂「あの子と――打ち止めと一緒に居てくれて、ありがと」


この少女は、なんと不器用な生き方をしているのか、と少年は自分のことを棚に上げて考えた。

死んでいった『妹達』のために、一方通行に絶対の怒りを抱き、
一方通行のそばに居る『打ち止め』のために、一方通行に感謝の意を伝える。

今までの彼女の行動の全ては、少女自身のためではなく『妹達』のため故のもの。


一方通行(―――こいつは、『妹達』のためなら)


美琴の『自分だけの現実』(すべて)を崩壊させた自分すらも、受容するらしい。

594 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/05/01(土) 22:13:08.05 ID:c4ig2xY0 [18/30]

美琴は一方通行のほうを見ない。
喋りたいことは全部喋りきった美琴は、ただ、じっと、学園都市の風景だけを視界に入れる。

沈黙が、バスの中を包み込んだ。

一方通行は(……馬鹿な生き方してンな、コイツ)

心に湧き上がる高揚とは裏腹に、悪態のような台詞を頭の中で吐く。

それでも、彼が望む生き方を、目の前の少女は迷うことなく突き進んでいることが、
一方通行には嬉しくて、なんだか少しだけ救われた気がした。

誰かのために素直に笑い泣き怒ることできる心根の優しい目の前の少女は、
どれだけ世界が『妹達』を非難し迫害しようとも、彼女だけは正面切って彼女たちを守る、という絶対的な真実。
御坂美琴は、超電磁砲は、『妹達』のお姉さまは、

―――『妹達』のために生きている。彼女たちの『味方』であり続けている。

一方通行がそうであってほしいと願ったものは、思い描いていたそのままで世界に存在していた。

しばしの沈黙をやぶったのは、一方通行だった。


一方通行「……馬鹿だろ、オマエ」


ポツリと、それだけ。
一方通行は、それだけしか言葉に出来なかった。


御坂「ははっ、自分でもそう思う」

美琴は小さく笑って、少年の意見に同意した。

596 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/01(土) 22:16:05.06 ID:c4ig2xY0 [19/30]
言葉のゴロ変更
○一方通行がそうであってほしいと願ったものは、思い描いていた通りの姿で世界に存在していた。


597 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/05/01(土) 22:29:20.82 ID:c4ig2xY0 [20/30]

美琴の小さな笑みを横目でみると、何処かむず痒い感覚に囚われた。
どうしたものかと無意識に一方通行は頭をカリカリと掻いた。


一方通行「超絶馬鹿な奴だろォだ。…………呆れるほど、善人だなァ、超電磁砲」


あのムカつくツンツン頭の少年と、隣の隣に座っている少女は同類なのだ。

なぜそこまで人のために全力で走るのかと問われたら、
"当たり前のことをしているだけ"と素直に答える馬鹿正直なタイプの人間だ。
何に対しても、誰に対しても。困っているなら全力で助けてやり、
道を外したら無理やりにでも太陽の元へ力ずくで引きっていく、有難迷惑なお人好し。

一方通行が無性に憧れてやまない、誰かのためのヒーローになれる奴。

一方通行(俺とは真逆のタイプの馬鹿野郎だわ)

先ほどの一方通行の台詞は、自身が焦がれてやまない者への裏返しの愛情表現に近かった。
けれど、鈍感な美琴がそんなことい気がつく訳も無く。

一方通行の捻くれ過ぎた台詞に、美琴は思いっきり顔を歪ませた。
もっと、他に言葉はなかったのかよ、と言いたげな顔だ。


御坂「一方通行、アンタってモテなさそーね」

一方通行「ア"ァ!?」


突然、話題を変えられた。
しかも、ただの悪口にしか聞こえないソレに、一方通行はついつい声をあらげた。

598 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/01(土) 22:32:28.88 ID:c4ig2xY0 [21/30]
あbbbbbb

またおんなじ台詞間違えた。2度目orz

×超絶馬鹿な奴だろォだ
○超絶に馬鹿な奴だろォな。

599 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/05/01(土) 22:40:24.26 ID:c4ig2xY0 [22/30]
御坂「ブハッ、……くっく」

人を小馬鹿にしたような文句を言ったと思ったら、今度は突然笑い出す。
両手で口元を隠して笑うのを我慢しているようだが、
少女の眉は変な形に歪んでいるし、くくッという笑い声が漏れ出ている。
明らかに、隠し切れていない。

一方通行「オィ、超電磁砲――、」

喜怒哀楽の切り替えが激しい美琴に、一方通行はまったくついていけない。
いったい何がおかしくて笑っているのかと、声をかけた時、ふいに美琴がこちらに顔を向けた。

また、カチリと視線がぶつかった。
次の瞬間、美琴の沸点が軽く飛び終えて、腹筋が崩壊した。

美琴「あーもう駄目、似合わな過ぎるッ!!! あっははははーー!!」

彼女が笑い出した原因が、打ち止めの愛らしい花柄携帯を、一方通行が真剣に選ぶ姿を想像したから。
なんて、一方通行が知る由もなく。

腹を抱えてひーひーと笑いながら、椅子をバンバンと叩く美琴。

一方通行「人の顔みて笑い転げるとか、どういう神経してんだァァッ!!」

一方通行はただ、訳も分からず怒り狂った。


601 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/05/01(土) 22:55:16.73 ID:c4ig2xY0 [23/30]

笑いすぎて息を絶え絶えにさせながら、「あー笑った」と美琴を涙で潤んだ目を擦る。

御坂「ごめんごめん」

手のひらをヒラヒラと左右に振って美琴は謝罪したが、一方通行はどうも納得できなかった。
というか、なんだか納得してしまったら、とても不名誉なことのような気がした。

一方通行「……ッたく、マジでなンなンですかァ、オマエ」

オマエ、マジで意味がわかんねェ、と一方通行は脱力した。
あれだけ緊迫していた空気なんて、遠い星にでも旅立ったのはないかと錯覚すらしてきた。

御坂「いやぁ、なんか意外な所で同士を見つけたなぁと思って」

また、変なことを目の前の少女は繰り広げはじめる。

一方通行「なんで唐突に同士なンだよ。主語も述語も意味不明だぞ」

「他人にものを伝えるときは、ちゃンと主語と述語を入れて喋るって小学校で習わなかったのかよ」と
続けて文句を言いたくなった一方通行だが、ここはぐっとこらえた。
そんなことを言ってしまえば、後の祭りだ直感が訴えかけてくる。

もし、そんなことを口にしてみろ。
トリガー外れて、美琴のマシンガントークがはじまるはずだ。
打ち止めに口で勝てたことのない彼の経験が、容易にそんな推測をたてさせる。

一方付通行(……女に口で勝てる野郎なンて、いるかよ)

老若男女かまわず、言葉だけで屈服させる少年のことをすっかり忘れている一方通行。

同士って誰のことだよ、という一方通行の無言の質問をうけとった美琴は、こう答えた。

御坂「私とアンタが、よ」

その発言に、一方通行は何か可哀そうなものを見るような顔で美琴を眺めた。

606 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/05/01(土) 23:10:40.89 ID:c4ig2xY0 [25/30]

一方通行「……オマエと俺とじゃァ、『根本的』に違ェだろォが」

一方通行と超電磁砲、2人は『根本的』に違うと一方通行は断言した。

一方通行のは薄汚い悪党で、超電磁砲はまっさらな善人。

『妹達』の命を踏み躙った一方通行と
『妹達』の命を救い出せなかった超電磁砲と、

―――どちらも1万人の命を救えなかったもの"同士"だが、絶対的に違うと一方通行は考える。

御坂「アンタが気づいてないだけで、案外、そうだったりするかもよ?」

『妹達』を虐殺した一方通行がその背に背負うものは、
1万人の妹達の命に対する罪悪感と償い、残り1万人の妹達の世界を守る使命。

目の前の少女が誰にも弱音を吐かずに双肩に背負っているものが、
皮肉にも彼と同じものであることを、一方通行はまだ知らない。

一歩通行「前言撤回するわ。その年で痴呆たァ難儀なもンで」

"自分"と同じであると笑いながらつげる少女の目を覚ましてやろうと、
一方通行は懇切親切にオマエの考えは馬鹿だと伝えてあげた。

御坂「近い将来、青少年保護育成条例で警備員にしょっ引かれること確定な奴に言われたくない」

美琴の言葉に、一方通行のこめかみがひくひくと動いた。

一方通行(オマエも、俺を変態あつかいですかァ、このクソアマッ!!)

仕事の同僚である土御門や海原、結標に日ごろ散々バカにされている鬱憤もついでに蘇る。

一方通行「あの世まで俺が直々にエスコートしてやろォか、超電磁砲」

御坂「アンタと地獄のようなダンスを踊るなんてこっちから願下げよ、一方通行」

一方通行の脅しを、美琴は軽々と撥ね退けた。

608 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/05/01(土) 23:23:39.37 ID:c4ig2xY0 [27/30]
御坂「まぁ、なんと言うか」

そう前置きをおいて、しばし美琴は考えてこう言った。

御坂「――――お互い、ご愁傷様ってことよ」

一方通行「ハァ? 意味わかンねェし」

目の前に居る美琴が何を言いたいのか、一方通行にはまったくわからなかった。



一方通行(意味不明なコイツの発言はさておき)


今日分かったことと言えば―――、


一方通行(超電磁砲が『妹達』の本当の意味でのお姉様だった、てコトくらいか)



-------

【蛇足3:一方通行と超電磁砲 終】


609 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/01(土) 23:28:43.36 ID:c4ig2xY0 [28/30]
これにて一方さんのオマケも終りです。
9982号が2レス、エツァリが4レスなのに、一方さんだけで25レス程……。
9982号、海原ごめん。

誤字脱字、乱文が多いssでしたが、
一か月近くお付き合い頂いて本当にありがとうございました。
たくさんのコメントが頂けて嬉しかったです。

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