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インデックス「好きだよ、あくせられーた」一方通行「…はァ?」-3

インデックス「好きだよ、あくせられーた」一方通行「…はァ?」-2
続きです

371 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 21:39:40.90 ID:GhsHk+yE0
 学園都市第七学区――『窓のないビル』からそう遠く離れていない所に、打ち止め、ミサカ、番外個体の三人は集結していた。

打ち止め「よかった! 何とかみんな無事に合流できたね! ってミサカはミサカは再会を喜んでみる!」

番外個体「こういう時ってホントにミサカネットワーク便利だよね」

ミサカ「しかしこの状況は一体どうした事でしょう、とミサカは疑問を投げかけます」

番外個体「そんなもんわかる訳ないよ。ただまぁ、ひょっとしたら」

 周囲を雲霞の如く飛び交う天使の群れを見上げ、番外個体はぎゃはっ、と笑った。

番外個体「ミサカ達は…ううん、もしかすると世界そのものが、とんでもない『幻想』の中に放り込まれちゃったのかもしれないね」

 ぐりん、と天使達の顔が打ち止め達の方を向いた。
 辺りを飛び交っていた十二体の天使達が、打ち止め達三人を攻撃目標に設定する。

打ち止め「わっ、わっ、こっちにくるよ!」

番外個体「下がりなよ二人とも。ミサカの力はあなた達より強い。こいつ等の相手はミサカがする」

ミサカ「しかし、どんなにレベルが高かろうと奴等には攻撃そのものが通じません、とミサカは残酷な事実を述べます」

番外個体「そうなんだよねー。さて、どうしよっかな~」

 直後、三人の前で、雄叫びと共に莫大な『不可視の力』が巻き起こり――――天使達が吹っ飛んだ。


374 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 21:47:05.77 ID:GhsHk+yE0
打ち止め「ほよ?」

 打ち止めを始め、ミサカも番外個体も目を丸くしている。
 彼女達の前に、奇妙な男が現れていた。
 額に巻かれたハチマキに、太陽をモチーフにしたようなデザインが描かれたTシャツ。
 その肩には白い学ランを引っさげている。
 だっせえ、と思わず番外個体は呟いていた。

「こんなか弱い女の子達まで狙おうなんざ、てめえらとんだ根性なしだ」

 古きよき時代の番長を気取ったようなスタイルのその男は、天使を恐れることなく見栄を切る。

「そんな腐った根性は、このオレが叩き直してやる!!」

 男は――学園都市第七位のLEVEL5、『ナンバーセブン』、削板軍覇(そぎいたぐんは)は十メートル以上離れた天使達に向かって拳を振るった。
 同時に、叫ぶ。この一撃こそが彼の必殺。その名も、

「すごいパァァァァンチッ!!!!!!」

 削板軍覇の拳から放たれた不可視の力が距離を無視して天使達を吹っ飛ばした。


383 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 21:53:55.08 ID:GhsHk+yE0
削板「っシャア!! 無事かお前ら!!」

打ち止め「今の一撃、一体どういう理屈なの? ってミサカはミサカは未だに目を丸くしながら呆然と呟いてみたり」

削板「理屈なんて関係ない! オレの熱き根性を拳に乗せて放っただけだ!!」

番外個体「あ、暑苦しい野郎だね」

ミサカ「というか、あなたは一体何者なのです? とミサカは当然の疑問を漏らします」

削板「オレの名は削板軍覇。七人のLEVEL5の七人目、『ナンバーセブン』の削板軍覇だ!!」

 削板の名乗りにあんぐりと口を開ける打ち止め、ミサカ、番外個体。

打ち止め「こ、この人がお姉様と同じLEVEL5…? ってミサカはミサカはさすがにびっくりしてみる……」

ミサカ「名前だけはデータに登録されていましたが、まさかこんな人物だったとは…とミサカは驚きと呆れを隠せません」

番外個体「ってか、何でLEVEL5の連中ってのはこんなに揃いも揃ってアクが強いわけ? 何だかお姉様が普通に見えちゃうよ」

削板「おいやめろ! そんなに褒めるな! 照れるだろ!!」

ミサカ’s「誰も褒めてねえっての」


385 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 21:59:35.94 ID:GhsHk+yE0
削板「さて、ここは危険だ。お前たちはさっさと安全な所へ逃げな」

番外個体「悪いけど、そんな訳にもいかないんだよね」

削板「何…? オイ、わかってるのか? アイツ等は本当に危険なんだぞ?」

ミサカ「わかっていますよ、とミサカは即答します」

打ち止め「それでもミサカ達には助けに行かなきゃならない人がいるの、ってミサカはミサカは屹然と述べてみたり」

削板「お前ら……」

 学園都市第七位のLEVEL5、『ナンバーセブン』の削板軍覇は、その顔に笑みを浮かべた。

削板「いいな…お前ら……いい根性だ……!」

 削板の体から不可視の力が迸る。
 周囲の砂を巻き上げるその勢いは、さながら竜巻のようだった。

削板「よぉしわかった! オレはオレでやることがあるからついていくことは出来ないが、せめて今! お前達の道を塞ぐこいつ等だけは吹っ飛ばしてやる!!」

打ち止め「ありがとう! ってミサカはミサカは精一杯の感謝の言葉を叫んでみる!!」

削板「礼はいらねえ!! その代わり、お前らは必ず助けたい奴とやらを助け出せ!! この削板軍覇との約束だ!!」

番外個体「おっけぇ! 確かに承ったよ!!」

削板「行けぇッ!!」


389 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 22:04:52.17 ID:GhsHk+yE0
 削板軍覇の一撃によって出来た天使の群れの空白を、打ち止め達が駆けだす。
 削板軍覇はそのまま、打ち止め達の後を追おうとした天使達の前に立ち塞がった。

削板「気をつけろよてめえ等。今のオレはめちゃくちゃいい気分なんだ」

 無限にすら思える天使の群れを前にして、削板は一切怯える様子を見せない。
 ただ泰然と、ただ悠然と、そして雄雄しく立つ姿は、まさしく仁王立ちと呼ぶに相応しい。

削板「あんな女の子達に、あんな根性見せられちゃあよぉ…こっちも燃えねぇわけにはいかねぇだろうが!!!!」

 噴き出す闘志はそっくりそのまま彼の力に変換される。
 もはや目に見えさえする程の闘気を纏い、削板軍覇は大地を蹴った。

削板「『ナンバーセブン』の削板軍覇!! てめえ等みてえな根性なしに止められると思うなッ!!!!」

 削板の目の前に展開する天使の数はおよそ三千体。
 しかし、恐れず。しかし、怯えず。
 削板軍覇は一切の躊躇なく正面から正々堂々と天使の群れに突っ込んだ。


391 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 22:10:33.80 ID:GhsHk+yE0
上条「おぁぁ!!」

 上条は右手から顕現した『竜王の顎』を振るい、周囲を飛び交う天使達を喰らい潰していく。
 しかし天使達は次から次に現れ、上条の周りを取り囲む。

上条「くそ…! キリがねえ…!! ……あれは…!?」

 上条の目の前で一人の少女が天使に襲われていた。
 少女も何かしらの能力者なのだろう。その手から必死に炎を生み出し、天使にぶつけている。
 しかし少女の力は天使に何の影響も与えず、不可視の力が少女の体を薙ぎ払おうとして―――

 ―――上条の右手が、一撃で天使を粉砕した。

上条「大丈夫か!?」

少女「あ、ありがとうございます……」

上条「ここは俺に任せて、早く安全な所へ逃げろ!!」

少女「で、でも…」

 少女は涙に濡れた瞳で辺りを見回す。
 右も左も、前も後ろも、空も、飛び交う天使で一杯だ。

少女「安全な所って、どこですか……?」

上条「そ、それは……」

 上条は、少女の問いに答える事が出来ない。

397 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 22:16:36.95 ID:GhsHk+yE0
アレイスター「その少女を救いたいか? 上条当麻」

 声に、振り返る。
 そこに居た男の姿を確認し、一気に上条の頭が沸騰した。

上条「アレイスタァァァァぁああああああああああ!!!!!!」

 『竜王の顎』がその獰猛な牙をアレイスターに向ける。
 その牙が触れる刹那、アレイスターの姿が掻き消え、大きく回りこむように今度は上条の背後に出現した。

アレイスター「やれやれ、易々とその力を振るうのはやめてくれないか。今の私に恐れる物は皆無と言って差し支えないが、それでもその力だけは例外なのだ」

上条「黙れ!! 今のこの状況もお前が招いたことなんだろうが!!」

アレイスター「私はただスケジュールを少し繰り上げたに過ぎんよ。どちらにせよいずれ人類はこの『終わりの日』を迎えねばならなかった」

上条「また、訳のわかんねえことを……!」

アレイスター「もう一度繰り返すぞ上条当麻。その少女を救いたくはないのか?」

上条「く…!」

 上条は、突然現れた謎の男に怯え、自身の腕にすがり付いている少女を見る。

アレイスター「その少女だけではない。この世界に存在する『みんな』を、君は救いたくはないのか?」

 どこかで何かが爆発する音が聞こえた。
 断続的に上がる誰かの悲鳴は、さっきからずっと上条の耳に届いている。

399 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 22:24:18.22 ID:GhsHk+yE0
上条「くそ…どうしてだ…!! この天使達一人一人はそんなに強いようには思えない。なのに何でこんなに一方的にやられちまうんだ!!」

アレイスター「さっきの少女の戦闘を見ていなかったのか? 天使達には一切の物理的干渉が通じない」

上条「なっ…!?」

アレイスター「通じるのは君の『幻想殺し』を始めとする極一部の例外だけだ。それだけで奴等に対応するなんてとてもとても」

上条「そんな…! それじゃ、皆なぶり殺しにされるだけじゃねえか!!」

アレイスター「ああ、そうだ。その通りだ。さて、正しく現状の認識が出来た所で、さらに先程の言葉を繰り返させていただこう」

 アレイスターはあくまで飄々と、上条当麻を見据え、言った。


アレイスター「この世界に存在する『みんな』を救いたくはないか? 上条当麻」


403 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 22:29:41.99 ID:GhsHk+yE0
打ち止め「ぶわわーーー!! ってミサカはミサカは天使達の猛攻を華麗に掻いくぎゅ、いったーい!! 舌噛んだーー!!」

番外個体「まったく、こんな状況なんだからいい加減その鬱陶しい口癖やめなよ」

打ち止め「み、ミサカの大切なアイデンティティをそんなにあっさり否定しないで欲しいんだけどっ!?」

ミサカ「番外個体の言う事は正鵠を射ていますよ上位個体、とミサカはいつまでも無邪気キャラを口調でアピールするあなたに正直辟易していたことをここでぽろっと漏らします」

番外個体「いや、言っとくけどあなたもだからね」

打ち止め「むぐぐ~…! ってミサカはミサカは本気で泣きそうになってみたり…ってあれ? あの人は…」

番外個体「幻想殺しのヒーローさんだね。そんで、その前にいるのは……」

 上条当麻を先導するように進むその人影の正体に気付き、三人は一斉に息を呑んだ。

ミサカ「アレイスター=クロウリー……あれは一体どういう状況なのでしょう、とミサカは疑問を呈します」

番外個体「正直さっぱりわからないけど、やることは決まってるよね」

打ち止め「尾行だね、ってミサカはミサカは頭の中からマニュアルを引き出しつつ提案してみる」


406 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 22:34:25.82 ID:GhsHk+yE0
アレイスター「ここだ」

 アレイスターは突然廃墟のど真ん中で歩みを止めた。
 上条当麻は怪訝そうに辺りを見回す。

上条「ここ、って……何にも無いじゃないか」

アレイスター「そこの床を右手で触りたまえ」

 上条は言われるままに、アレイスターが指し示した部分に右手を押し当てた。
 キュゥン――! と甲高い音がして、辺りの景色が一変した。
 廃墟だったはずのそこは、何も無い更地となっており、そこにぽっかりと地下に降りる階段が空いている。

上条「これは…」

アレイスター「幻視魔術だよ。その階段が窓のないビルへの裏口だ。進みたまえ」

 上条は地面に跪き、階段の下を覗き込んだ。
 中は薄暗く、とても下までは見通せない。

アレイスター「罠ではないよ。安心しろ」

上条「そうかよ」


407 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 22:40:34.34 ID:GhsHk+yE0
 カツン、カツンと階段を降りる。

アレイスター「ここは、表向きは『窓のないビル』への物資搬入口として使われていた」

 響く足音は上条の物だけで、前を行くアレイスターはふわふわと宙を漂いながら階段を降りていく。

アレイスター「だが、真実は違う。この入り口は君を『窓のないビル』の中へ招くためだけに作られたものだ」

 君にテレポートは効かないからね、とアレイスターは続けた。
 しばらく階段を降ると、やがて広い空間に出た。
 そこまで深く降りてはいない。体感的には地下三階か四階といったところだ。
 そこは駅のプラットホームのような場所だった。
 トンネルがずっと奥まで続いていて、下には線路が敷かれている。
 アレイスターの言葉によれば、恐らく窓のないビルまで繋がっているのだろう。
 線路の上に、モノレールが置いてあった。物資の運搬に使っていたものにしてはやけに小さい。
 というか、どうみても一人用だった。

アレイスター「先に行って待っている。君はそれに乗ってきたまえ。車両の中央に陣が描いてある。そこを君の右手で触れば動きだすはずだ」

上条「……やっぱり罠じゃねえだろうな」

アレイスター「疑うなら歩くのもいい。それは君の勝手だ。しかし歩けば確実に三十分はかかるぞ。その間に君の大切な『みんな』が何人死ぬかな?」

 そういい残してアレイスターは消えた。

上条「ちっ…」

 選択の余地はなく、上条はモノレールに乗り込む。
 少しの間があって、モノレールは凄まじい速度で発射された。

408 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 22:46:15.51 ID:GhsHk+yE0
 それから少しの時が立って、プラットホームにとたとたと降りて来る三つの影があった。
 打ち止め、ミサカ、番外個体の三人である。

打ち止め「あれ? あの人はどこに行っちゃったんだろう? ってミサカはミサカは辺りをキョロキョロしつつ発言してみる」

ミサカ「察するに、その場所にモノレールか何かがあったのではないでしょうか、とミサカは意見を述べます」

番外個体「なーんか、コレ、当たりっぽいね。この道を進めば窓のないビルに入れるんじゃないの?」

 そう言いながら番外個体はトンネルの奥を指差す。
 一切の明かりが無いその道は、地の底まで続いているかのような不気味さを見る者に伝えた。

打ち止め「ええ、この道を行くの? ってミサカはミサカは恐る恐る確認を取ってみる」

ミサカ「問題ないでしょう、とミサカは暗視スコープをセットしつつ臆病な上位個体に答えます」

打ち止め「ああ! ずるい! それ貸して!!」

番外個体「暗闇を想定した軍事行動マニュアルもミサカ達の中にはインストールされてるでしょ…何ガキみたいに怯えてんのさ」

打ち止め「そ、それでも怖いものは怖いんだもん! ってミサカはミサカは……」

 三人の少女達は暗闇の中を進んでいく。
 その奥にいるはずの、真っ白な少年の姿を求めて。

409 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 22:51:50.55 ID:GhsHk+yE0
 『窓のないビル』の最深部にして心臓部―――直径十メートルにも満たぬ、円形の赤い部屋。
 アレイスターによって導かれ、その部屋に足を踏み入れた上条は目を見開いた。
 部屋の中央で背中合わせに鎮座する二台の重厚な造りの椅子。
 その一台に座っていたのは、

上条「一方通行ッ!!」

 上条は、頭や手足に様々なコードを取り付けられた一方通行の名を呼んだ。
 しかし、一方通行は何の反応も返さない。
 意識を失っているのか、それとも、既に―――――

アレイスター「生きているよ。意識を失っているだけだ」

 上条の脳裏に浮かんだ疑念を、アレイスターが否定した。

アレイスター「彼が負った傷に関しては万全の処置を施した。もう傷跡すら残っていない。彼もまた、私の切り札の要なのだから」

上条「お前は俺たちを使って何をしようとしている。切り札ってのは何だ」

アレイスター「『虚数学区・五行機関』」

 アレイスターはその名を口にした。


412 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 22:58:30.94 ID:GhsHk+yE0
 アレイスターは語る。
 自身の切り札、『虚数学区』の全容を。

上条「それを使えば……みんなを救うことが出来るのか?」

 アレイスターの説明の全てを理解できた訳ではない。
 だから上条は確認する。

アレイスター「少なくとも、大きく傾いた天秤を水平に戻す事は出来る」

 アレイスターの答えはひどく曖昧だ。何の確証も得られない。
 だが、このままでは上条のよく知る『みんな』も、そうでない『みんな』も天使に蹂躙されてしまうことだけは確かなことだ。
 上条は空いたもう一つの椅子に向かって、一歩足を踏み出した。
 まるで、死刑に使う電気椅子を思わせるような、重厚で、酷く不吉な雰囲気の椅子。

アレイスター「その椅子に座れば恐らく君は死ぬ」

 アレイスターはあっさりとそう言った。
 びくり、と上条の体が震え、その足が止まる。

上条「な…に…?」

アレイスター「虚数学区・五行機関が発動すれば、要たる君の『生命力(マナ)』は大量に消費される。命を保つ事が難しい程に」

 アレイスターは上条につらつらと語り続ける。
 まるで楽しんでいるような顔で。
 まるで試しているような声で。

413 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 23:05:30.96 ID:GhsHk+yE0
アレイスター「君の力ならばこんなものに頼らずとも身近な『みんな』を救う事は出来るだろう」

 ビュン、と空中にモニターが浮かぶ。
 そこには、敵わないと知りながら、それでも必死に皆を守る美琴の姿が映っていた。
 そこには、特殊な力など何も持たない両親が、それでも必死に生き抜こうとしている姿が映っていた。
 モニターは次々と出現し、彼のよく知る人物達の姿を映し出す。

アレイスター「君の右手はきっと、彼女、或いは彼等を救う事が出来るだろう。共に抗い、共に生きていく事が出来るはずだ」


 ―――なにも顔も知らない『みんな』のために、君がその身を犠牲にする必要はないはずだ


 アレイスターは囁くように言ってから、

アレイスター「選ぶのは君だ、上条当麻。誰も君に救いを強制したりはしない。君が、君自身の意思で選ぶんだ」

 そう締めくくった。


414 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 23:11:40.05 ID:GhsHk+yE0
 上条には、アレイスターの意図がまるで掴めなかった。

上条「お前は…一体何がしたいんだ?」

 それは本当に素朴な疑問だった。
 最初は人類を滅ぼしたいのかと思った。
 しかし、聞けばこの状況を切り抜けるための切り札を用意しているという。
 ならば、滅ぼしたいのは天使達なのか?
 そうは思えない。
 もしそうならば、問答無用に、手段を選ばず、上条をその椅子に座らせればいいだけの話だ。
 何故上条の決意を鈍らせ、引き止めるような真似をする?

アレイスター「私は答えを知りたいだけなのさ」

 返ってきたのはまた曖昧な答えだった。


418 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 23:18:26.70 ID:GhsHk+yE0
 上条はしばらく、目を瞑って色んなことを思い出していた。
 脳裏に色々な思い出が浮かぶ。たくさんの人の顔が上条の脳裏をよぎる。
 思い出す記憶は暖かなものばかりで、上条は少しだけ悩んだけれど―――やっぱり答えはひとつしかなかった。

 目を瞑ったまま、上条は一歩、椅子に向かって進む。

 お前の『ソレ』は悪癖だ、と上条はかつて土御門に言われたことがある。
 でも、仕方が無い。自身の心の欲求に、素直に従った結果がこれなんだ。

上条「ごめんな」

 自然と言葉が口から漏れた。
 それが誰に向けてのものだったのか、上条自身にもいまいちよくわからない。
 目を開ける。うな垂れて椅子に座る一方通行の姿が目に入った。

上条「一方通行はどうなる?」

アレイスター「安心したまえ。彼はあくまで虚数学区を理想的な方向に展開するための制御装置に過ぎん。体にかかる負荷は君とは比べるべくもないさ」

上条「そうか」

 どかっ、と音を立て、上条が椅子に腰掛ける。
 一方通行と同じように、がしゃがしゃと椅子から伸びたコードが上条の体のあちこちに接続された。

422 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 23:22:53.00 ID:GhsHk+yE0




「あ、が、ぐぅあぁぁぁぁあああぁぁあああああああああああああ!!!!!!!!」




 闇の底で、上条当麻の絶叫が反響し―――――






 虚数学区・五行機関は発動した。





426 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 23:29:21.41 ID:GhsHk+yE0
 ボン、と天使の頭が弾けとんだ。
 その現象に、『雷撃の槍』を放った美琴自身がぽけっと口を開いてしまう。

美琴「当たっ…た……?」

 右から迫り来る天使の群れ。反射的に美琴は電撃を放つ。
 ボン、ボン、と雷撃に焼かれた天使達が次々とその姿を消していく。
 やはり当たる。さっきまで全く通じなかった攻撃が、今は通じる。
 それだけではない。
 美琴の全身を包む、この奇妙な高揚感は何だ?

美琴「これは…!」

 地面が、聳え立つビルが――いや、世界そのものが仄かに輝いていた。
 美琴は、全身に力が漲るのを感じていた。
 今までの疲労が消えている。このまま無限に戦えそうな気さえしてくる。
 そしてそれはきっと錯覚ではない。


 反撃の時が始まろうとしていた。


431 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 23:37:31.48 ID:GhsHk+yE0
「言うなれば奴等は『虚数』なのだ」

 アレイスターの目の前で、次々と引き裂かれる天使の姿がモニターに表示される。
 アレイスターの口ぶりはまるで、手品のタネを開陳するマジシャンのようだった。

アレイスター「世界の辻褄を合わせるためだけに、『あるかもしれない』というあやふやなまま定義されたふざけた存在。『実数』たる人間に、奴等に干渉する術はない」

 ならばどうすればよいか。
 簡単な数学の問題だ。もう一度虚数をぶつけてやればいい。
 虚数×虚数=実数だ。
 そうして出てくる性質はマイナスで、やはり異質な物ではあるが―――それでも、『四則演算(こちらの法則)』に巻き込むことは出来る。
 そのための『虚数学区・五行機関』。

アレイスター「魔術の封殺などは不完全な展開時に起こる副次的な物に過ぎん。天から見下ろす彼奴等を我等の地平に貶めることこそ虚数学区の本質」

 くつくつと、アレイスターは笑う。

アレイスター「とまあ、長々とくだらぬ理屈を並べてしまったが」

 一言で済ませてしまえば、こういうことだ。


「『神は触れえざる者』―――まずはそのふざけた幻想をぶち殺させてもらったぞ、天使共よ」


433 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 23:43:28.37 ID:GhsHk+yE0
「さっきはよくもやってくれたなこの野郎!!」

 とあるスキルアウトの少年が叫びながら引き金を引き、天使の頭を撃ち抜く。

「ぴかぴか照らすのはやめてくれや。脇役なのに、目立っちまってしょうがねえ」

 頭にバンダナを巻いた少年が、匕首のような小型のナイフを振るい、天使の翼を引き裂く。

「拳が当たるのならば……さほど脅威でもない………」

 まさしく巨大と評するしかない体格の男が、その拳で天使の頭蓋を叩き潰す。

「ハッハァー!! おらおら死ね死ねぇ!!」

「大はしゃぎだな浜面!!」

「当ったり前だ半蔵!! さっきまでコイツ等にどんだけ怖い目に遭わされたと思ってやがる!!」

「……弾が切れるぞ…浜面……」

 巨大な男がそう口にしたと同時、浜面と呼ばれた少年が乱射していた銃がカシン、と弾切れを訴えた。

「うげ、本当だ。よく見てんなー駒場さん」

 しかし、少年の顔に焦りは無い。


440 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 23:50:28.73 ID:GhsHk+yE0 [189/190]
 目の前にはまだまだ大量の天使達が舞っている。
 だが、スキルアウトの少年――浜面仕上は唯一の武器であるはずの銃を躊躇なく投げ捨てた。
 そして、地面に転がっていたバケツの蓋を拾い上げる。
 浜面の手の中でバケツの蓋が輝いて、一体何の冗談かマシンガンへと姿を変えた。

 虚数学区・五行機関―――それはAIM拡散力場によって形作られた『陽炎の街』。
 AIMとは、すなわち人の意志の力。
 『人の意志』と隙間なく融和した世界は、そこに住む人々の望むままにその姿を変える。

浜面「しっかし、こりゃマジで一体何の魔法なんだろなぁ!! 一個も意味わかんねえよ!!」

半蔵「だが、おかげで俺達のようなLEVEL0でもこんな化物を相手に戦う事が出来る」

駒場「……利用できるものは躊躇なく利用しろ……俺達はこれまでもそうやって生き抜いてきたのだから」

浜面「合点承知ィ!!」

 ドガララララ! と浜面の手の中でマシンガンが火を吹いて、天使の群れを引き裂いた。




 ―――反撃開始

 敵残存戦力
 天使……9999984561体


455 名前:1だす[] 投稿日:2011/02/06(日) 00:20:03.55 ID:mo4lx2my0 [1/107]
新IDにてまったり再開

しかし俺は人間やめてないから途中で寝る気まんまんぜよ

だが なんとか終わりは見えた気がする

明日中にはケリを着けれそうだ

俺頑張るから 何とかお付き合い願うぜ

464 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 00:28:51.23 ID:mo4lx2my0 [2/107]
 展望台と呼ばれる一施設の中で、一人の少女と一人の老人が会話している。
 老人の名は貝積継敏(かいづみつぐとし)。学園都市統括理事会という魔窟にあって異質の『善人』だ。
 セーラー服の少女の名は雲川芹亜(くもかわせりあ)。貝積継敏の頭脳(ブレイン)を務める天才少女。
 ふかふかのソファに身を沈めながら、雲川芹亜はおびただしい量の報告書に目を通している。

貝積「逆転できるか?」

雲川「それはわからないけど……策を練る余地は出てきた」

 雲川芹亜は束になった報告書を乱暴にテーブルの上に放り投げ、天井を見上げた。
 ドーム状の天井に、まるでプラネタリウムのように数百数千のモニターが映し出されている。
 この施設が展望台と呼ばれる由縁だ。
 目まぐるしく切り替わり、学園都市の様子を隙間無く伝えてくるモニターを眺めながら、雲川はふう、とひとつ息をつく。

雲川「一体何がどうなってこうなっているのか、まったくもって見当がつかないけど」

貝積「君ほどの頭脳でもか?」

雲川「人を預言者か何かと勘違いしていないか? まあ、いくつかの仮説を立てることは出来るけど」

 もはや呆れ果てたと言わんばかりの貝積継敏を無視し、雲川は言葉を続ける。

雲川「原因の追究は生き残ってからいくらでもやればいい。まずは戦力の把握がしたいんだけど」

 雲川は貝積から渡されたリストに目を通す。
 彼我の戦力差に、いっそ笑い出したくなる衝動が込み上げてきた。

469 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 00:38:41.03 ID:mo4lx2my0 [3/107]
雲川「惨憺たる有様、というのがこれ程似合う状況も珍しいけど」

 雲川はテーブルの上に置かれた角砂糖をひとつつまみ、口の中に放り込む。

雲川「私の指揮下でまともに動けそうなのはジャッジメントとアンチスキルくらいか。暗部にいる高位能力者集団が手足の様に使えれば策も練りやすいのだけど」

 高位能力者はどいつもこいつもクセが強すぎる。
 額を人差し指でぐりぐり、悩ましげな雲川芹亜。

雲川「まあ、現状やれることを、私はやるだけだけど」

 その時、雲川の携帯電話が鳴った。
 通話ボタンを押し、あえて耳から少し離れたところで電話を持つ。

「うっしゃあーーー!! こっちはあらかた片付いたぜえーーー!!!!」

 暑っ苦しい叫びが電話の向こうから響いてきた。

雲川「……そんなに叫ばなくてもちゃんと聞こえているんだけど」

「おっといけねえ! まだ名乗ってなかったな! こちら『ナンバーセブン』、削板軍覇だ!!」

雲川「……言われなくてもナンバーディスプレイで確認できている」

 ちなみ雲川の着信画面に現れていた名前は『馬鹿』だった。


473 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 00:47:31.93 ID:mo4lx2my0 [4/107]
雲川「しかしそうか、掃除は済んだか」

削板『おう! 楽勝だったぜ! まったく、根性のねえ奴等だった!!』

雲川「物事を何でも根性の多寡で判定しようという君の単純さは、嫌いではないけど」

削板『だっはっは! 褒めるな! 照れるだろうが!!』

雲川「次の指令を与えるぞ、『ナンバーセブン』」

削板『おう、何でもきやがれ!!』

雲川「君の根性とやらが続く限り、天使達を殲滅しろ。ノルマは一万体だ」

削板『なんだよ、その程度でいいのか?』

 雲川の無理難題に、拍子抜けしたような声を出す削板軍覇。

削板『一万なんて、とっくの昔にぶっちぎっちまったぜ? オレの根性を舐めるなよ』

雲川「ならば一万の人間を救ってみせよ。君のご自慢の根性とやらで」

削板『了ッッ解!!』

 最後に雄叫びを残して、電話は切れた。
 雲川は携帯をポケットにしまい、くすくすと笑う。

貝積「随分と彼を気に入っているように見えるな」

雲川「気に入っているけど? 理解し難い存在というのは嫌いじゃない。それは、あの『幻想殺し』の少年も同じだけど」

479 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 00:53:15.00 ID:mo4lx2my0 [5/107]
雲川「どうやら『方舟』に乗り込む準備は整ったようだけど」

貝積「しかし、『方舟』の情報を我々に伝えたあの医者は本当に何者なのだろうな」

雲川「カエルの皮を被ったタヌキとしか言いようがないけど。それでも、頑なに患者を救おうとするその姿勢は信用してやってもいいけど」

 貝積から渡された『方舟』の見取り図に目を通しながら、雲川は不貞腐れた様に頬を膨らましながら言う。

雲川「どうしても踊らされている感は拭えんな。マイクの準備は?」

貝積「出来ている」

 貝積の手から雲川へコードレスのマイクが渡される。
 まったく、どっちが主でどっちが従かわからぬやり取りだ。

雲川「ちゃんと音は響くのだろうな?」

貝積「その点は安心してもらって大丈夫だ」

雲川「まあ、音に対する貴様の異常なこだわりは、この状況では信頼に足るものだけど」

 雲川はこほん、と咳払いして、こんこんとマイクを指で叩く。

雲川「まいくてす、まいくてす。あー、」



雲川「聞こえるか? 学園都市で戦う全ての人類よ」


484 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 01:00:56.72 ID:mo4lx2my0 [6/107]
『まいくてす、まいくてす。あー、』

 突然聞こえてきた声に、その手で天使の頭を握りつぶしながら絹旗最愛は顔を顰めた。

絹旗「誰ですか? 超C級映画なこの状況で、こんな超緊張感のない声を出す奴は」

『聞こえるか? 学園都市で戦う全ての人類よ』

滝壺「南南西からの電波……って訳じゃないね」

フレンダ「結局これ、学園都市中に聞こえてるって訳よ」


『諸君らに、この学園都市内に蔓延る天使達の数をお伝えしたいと思うのだけど』

浜面「なんだぁ!? 誰が喋ってやがんだ!?」

半蔵「おわあ! 余所見すんな浜面! ちゃんと狙えっての!!」

駒場「浜面…少し撃つのをやめろ……この情報、興味深いぞ……」

『ようやく集計が完了した。学園都市内に侵入した天使の数は―――おおよそ500万』

浜面「んなぁ!?」

半蔵「ぶわぁ!! 馬鹿馬鹿、撃ちながらこっち向くなぁ!!」


『どうだ? 安心しただろう? ―――なんだ、その程度かと』


485 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 01:07:09.45 ID:mo4lx2my0 [7/107]
 学園都市中に響き渡る正体不明の声は不敵に笑う。

『そうだ。奴らの数は無限ではない。しかも、その総数はたかだか学園都市の人口の二倍強だ。一人が三体の天使を駆逐すればそれで足りるのだ』

浜面「ば、馬鹿言ってやがる!!」

駒場「……学園都市に住む230万人弱の人間全てが戦える訳ではない。……その中には小さな子供も含まれているのだ」


『無論、諸君らは思うだろう。そんな簡単な話じゃないんだよくそったれ、と』

絹旗「……自分で超わかってるんじゃないですか」


『56万――この数が何だかわかるか?』

滝壺「……?」


『能力者も無能力者も関係ない、この学園都市内で“戦える力”を持った人間の数だ。180万の学生が能力開発を受けた上でこの数字とは些か悲しいものがあるが、とにかく』

『56万の戦える人間に告ぐ。貴様らは各々10体の天使をぶっ殺せ。そうすれば殲滅どころか釣りが出る』

『いちいちリストを読み上げてやる暇はない。56万に自分が数えられているかは各々が各々で判断しろ』

『出来ん、という言葉は許さん。貴様らが弱音をひとつ吐くたび身近な者が一人死ぬと心得ろ』


492 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 01:14:37.34 ID:mo4lx2my0 [8/107]
半蔵「浜面…お前あとノルマ何体?」

浜面「3…かな」

半蔵「はえーなー。俺も銃使っときゃよかったぜ。駒場のリーダーは?」

駒場「……もう終わった」

浜面「早っ。ならもう休むか?」

駒場「馬鹿を言うな」

浜面「へへ、だよな」


絹旗「10体なんて、とっくの昔に超終わっちまいましたよ」

滝壺「私まだ一体も倒してない……」ションボリ

絹旗「しょ、しょうがないですよ。滝壺さんは能力的に考えてこういう直接戦闘には超不向きですから」

フレンダ「私あと4体!」

滝壺「フレンダに負けた…」ドヨーン…

フレンダ「ちょっと! それってどういう意味な訳!?」

絹旗「大丈夫ですよ滝壺さん。いなくなっちまった麦野の分まで、私が超挽回してあげます!」

絹旗「勝手に自分ノルマ、200!! うぅ~! 超燃えてきましたー!!」

496 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 01:21:30.45 ID:mo4lx2my0 [9/107]
『そして、七人のLEVEL5に告ぐ』

 電撃を放ち、一気に20体の天使を葬った美琴は、声に反応し、空を見上げた。

『わかっているだろうが、貴様らに10体などというなまっちょろいノルマは出さん』

美琴「ふん…一万でも二万でもきなさいよ。その倍の数を沈めてやるわ」


『貴様らは視界に映る全ての人間を救え。一人の取りこぼしも許さん』

『もし目の前で一人でも死なせてみろ。その瞬間貴様らはLEVEL5(笑)決定だ』


美琴「は、はは…」

 ビリビリと、美琴の体から蒼白い光が迸る。

美琴「誰だか知らないけど、いい発破のかけ方してくれるじゃない!! やってやろうじゃないの!!」

 放たれた稲妻は小さな女の子に襲いかかろうとしていた天使を跡形もなく吹っ飛ばした。


500 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 01:23:54.77 ID:mo4lx2my0 [10/107]



『そして、174万人の戦えぬ者たちへ。


 第七学区を目指せ。そこに救いの船が置いてある。


 道筋は確保した。案内人もつけてやろう。死にたくなければそこへ急げ』





『窓のないビル―――それが我々人類にとってのノアの方舟だ』




 敵残存戦力
 天使……9897296714体


507 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 01:31:38.47 ID:mo4lx2my0 [11/107]
<幕間>反撃の中で―――とある王女の疑問

「どーにも、腑に落ちないし」

 言いながら、長さ80cm程の、刃も切っ先もついていない西洋風の剣を降る真っ赤な革風のドレスを身に纏った女。
 刃などついていないはずなのに、その一振りは何十もの天使達を諸共に断ち切った。
 女の背後で、精悍な、まさしく騎士といった風情の男が口を開く。

「どういたしました?」

「どーもこーもないの。お前はおかしいと思わないの? 我等の知る天使とやらはこんなにも脆いものだったか?」

 また一振り。斬り飛ばされる天使の群れ。

「これではカーテナ=セカンドまで引っ張り出した甲斐がないの」

「確かに、違和感はあります。我等の伝承にある天使とは、その『時を巻き戻したかのような再生能力』こそが最大の脅威だったはず」

「いかなる故か、それが機能していない、か。ふん。まーいい。斬れば死ぬ、突けば死ぬというのであればもはやこれは裁きではなく、ただの戦争だ。そして、ただの戦争というのなら」

 『聖剣』カーテナ=セカンドを掲げ、英国が誇る『軍事』の第二王女は不敵に笑う。

「我々が負ける道理など微塵も無いし。行くぞ、『騎士団長(ナイトリーダー)』」

「御心の赴くままに、キャーリサ様」


508 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 01:38:07.92 ID:mo4lx2my0 [12/107]
ミサカ「ようやく終点が見えました、とミサカは報告します」

 暗いトンネルの中、線路の上をひたすらに進んでいた打ち止め、ミサカ、番外個体の三人は遂に窓のないビルの真下へと辿り着いていた。

番外個体「ふう…思ったより長かったね」

打ち止め「う…」

 番外個体の背中の上で、打ち止めが汗をかきながら項垂れている。
 虚数学区の展開による影響だ。

番外個体「まったく、どいつもこいつも…ミサカネットワークを気軽に使ってくれちゃってさ」

打ち止め「ごめんね…ミサカ足手まといになっちゃって…ってミサカはミサカは……」

番外個体「気にしなくていーよ。あなたがそうやって苦しみを一人で背負ってくれてるおかげでミサカ達はなんとか動けてるんだ」

ミサカ「そうですよ、気にする必要はありません。この末妹はでかい図体してるんだからこれくらいの労働はして然るべしなのです、とミサカは独自の理論を展開します」

番外個体「蹴飛ばすよ? っていうか何でそんなミサカに突っかかってくんの? 嫉妬? ミサカの魅力的ボディがうらやましいの?」

ミサカ「嫉妬なんてしてません、とミサカは」

番外個体「ネットワーク共有してるんだから嘘バレバレだよ」

ミサカ「………」

512 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 01:43:38.63 ID:mo4lx2my0 [13/107]
 三人はプラットホームに上がり、エレベーターの前に立つ。

ミサカ「さて、どの階にあの人は囚われているのでしょう? とミサカは思案します」

番外個体「こういう時は最上階か最下層って相場は決まってるもんだけど、さてどっちだろ?」

ミサカ「上でしょう、とミサカは断言してみます」

番外個体「その心は?」

ミサカ「馬鹿と煙は高いところに昇る、とミサカは日本語の常套句を披露します」

番外個体「よし、じゃあ一番上に行ってみようか」

 エレベーターに乗り込み、最上階のボタンを押す。
 ぐんぐんと打ち止め、ミサカ、番外個体の三人は上に向かって運ばれていった。


516 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 01:49:11.30 ID:mo4lx2my0 [14/107]
 辿り着いた先は、高層ホテルによくあるような、辺りを展望できる部屋だった。

番外個体「……窓ないんじゃなかったっけ?」

ミサカ「窓に見せかけたモニターのようですね、とミサカは見当をつけてみます」

 部屋の中をざっと見回すが一方通行の姿も上条当麻の姿もない。
 ワンフロアが丸々展望台になっているため、隠し部屋の類もなさそうだった。

番外個体「おうおう、上から見るととんでもないことになってるね」

 窓――実際は違うが、ここでは便宜的に窓と呼ぶことにする――に近寄り、街を見下ろして番外個体は声を漏らした。
 と、そこで、天使の群れに隠されて、下からでは分からなかったあるモノを発見する。

番外個体「何あれ…? 十字架…?」

 巨大な光の十字架が、天に向かって聳え立っていた。
 そして、その中央には。

ミサカ「……インデックス…?」

 彼女たちのよく知る純白のシスターが磔にされていた。


525 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 01:55:07.88 ID:mo4lx2my0 [15/107]
番外個体「……これは一体、どういう状況なんだろうね?」

 そう嘯く番外個体だが、本当のところは分かっていた。
 突然現れた天使の群れ。聳え立つ光の十字架。
 天使と十字架。無関係なはずがない。
 インデックスは『何か』をされている。
 魔術を知らない三人にはその『何か』が何なのか、全く見当がつかない。
 だが、空に吊り上げられたその姿はあまりに不吉すぎた。
 まるで、そう、儀式に捧げられる、生贄のような――――

ミサカ「く…!」

 どうする、と番外個体とミサカは歯噛みした。
 インデックスをこのまま放っておくわけにはいかない。
 しかし、現場に急行するには遠すぎる。
 それ以前に、あの場所に行って番外個体やミサカに一体何が出来るというのか。
 だから、ネットワークを通じて現場に近い『妹達』に出張ってもらう、というのもあまり意味があるとは思えない。

打ち止め「う…く…!」

 番外個体の背中で打ち止めが一際大きく呻き声を上げた。

番外個体「ちょっと…あなた、何をしているの?」

 打ち止めの行動は、ネットワークを通じて番外個体たちにも伝わる。

番外個体「ようやく奥に押し込めたウイルスコードを引っ張り出して、そんな体であなたは一体何をしているの!!」


529 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 02:01:07.51 ID:mo4lx2my0 [16/107]
 番外個体、ミサカ、打ち止めの前に、一人の少女が現れていた。
 出会った時から、ずっとおどおどしていた眼鏡の女の子。
 見た目の年齢にそぐわない大きな胸は、しかし今はそれ程気にならなかった。
 それ以上に、目を引くものがあったから。
 少女の頭の上で輝く天使の輪。
 背中から生える、優しい輝きを放つ翼。
 人工天使―――『ヒューズ=カザキリ』。否。
 そこに居たのは、打ち止めの、ミサカの、―――インデックスの友達である、風斬氷華だった。

打ち止め「ごめんね…またそんな姿で呼び出しちゃって……」

風斬「ううん、嬉しい。呼んでくれてありがとう。……頼ってくれて、ありがとう」

打ち止め「お願い…ミサカ達にはなんにも出来ないから……」

 頬を流れ落ちる汗に、打ち止めの涙が混じる。

打ち止め「インデックスを、助けてあげて…! ってミサカはミサカはお願いしてみる……!」

 今の風斬はある程度『ヒューズ=カザキリ』としての力を自身の制御下に置いている。
 故に、暴走状態の時ほど打ち止めに負荷をかけてはいない――が、それでもそれは並みの苦痛ではないはずだ。
 そこまでして、呼んでくれた。そこまでして、頼ってくれた。
 それに報いなくて―――何が友達だ―――!

風斬「任せて。インデックスは、私が必ず助けてみせる」

 その姿にかつてのおどおどした様子など微塵もなく。
 決意を胸に、人工の天使が戦場へと乱入する。


534 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 02:08:36.22 ID:mo4lx2my0 [17/107]
 人の手によって造られた天使。実にわかりやすい神への冒涜。
 その現出に反応したのか、それとも遅々として進まぬ裁きに痺れを切らしたのか―――――

インデックス「jbaahggfybs hgftaaigfbiarhgbvuygvyagbvbduyfguagfyajklgy」

 天に磔にされたまま、インデックスの口から人には理解出来ない言葉が紡がれる。
 それは、歌っていたのかもしれなかったし、祈っていたのかもしれなかったし、願っていたのかもしれなかった。
 事実は、そのどれもが正解だった。
 インデックスは賛美の歌を歌い、神の勝利を祈り、そして―――奇跡の降臨を願っていた。

 世界が揺れる。
 東西南北、インデックスを取り囲むように四つの光の柱が立ち昇る。

 それは黄色の光だった。それは風を象徴する天使を表す色だった。

 それは緑の光だった。それは大地を象徴する天使を表す色だった。

 それは青い光だった。それは水を象徴する天使を表す色だった。

 それは赤い光だった。それは火を象徴する天使を表す色だった。

 そここそを人類の最後の砦と判断したのか、学園都市に四体の大天使が光臨する。
 『最後の審判』は最終段階へと移行しようとしていた。


 敵残存戦力
 天使……8918633210体
 大天使……『神の如き者』、『神の力』、『神の火』、『神の薬』 全4体


535 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 02:10:04.00 ID:mo4lx2my0 [18/107]
すまん 限界 寝る

563 名前:1[] 投稿日:2011/02/06(日) 08:42:35.56 ID:mo4lx2my0 [19/107]
いやーけっこうぐっすり寝れた

再開するけど脳がシャッキリポンするまではちと遅いかもしれん

567 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 08:55:31.59 ID:mo4lx2my0 [20/107]
 天高く掲げられたインデックスの姿に、誰よりも早く気付いていたのは、実は炎の魔術師、ステイル=マグヌスだった。
 それもそのはず、当然だ。
 彼はずっと、ずっと、インデックスのためだけを思って生きてきたのだから。

ステイル「見つけた……」

 彼がいるのは崩壊した一方通行のマンションだった。
 その瓦礫の中から、ひとつのスーツケースを彼は拾い上げる。
 ステイル=マグヌスの後ろには、ようやく元の服装に復帰し、歓喜にむせび泣く神裂火織の姿もある。

ステイル「大天使…『神の如き者(ミカエル)』、『神の力(ガブリエル)』、『神の火(ウリエル)』、『神の薬(ラファエル)』か」

ステイル「は、どいつもこいつもマネキンみたいなツラしてやがる」

 彼は魔術師だ。だから、大天使の恐ろしさを知っている。
 知っているのだ。だが。

ステイル「お前らみたいな奴らに裁かれてなるものか。お前らのような奴らに殺されてなるものか」

 その心に恐怖はなく、ただ怒りの炎が燃えている。

ステイル「お前らなんぞに、あの子を使われてなるものか」

 あの子が幸せに笑っていられるように。それだけが僕の生きる意味なんだ。

ステイル「邪魔をするな―――どけ、大天使」


569 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 09:05:24.39 ID:mo4lx2my0 [21/107]
 絹旗最愛と滝壺理后、そしてフレンダ――『アイテム』の三人は不運だった。
 彼女達が暴れまわっていた場所は、大天使『神の薬(ラファエル)』に近すぎた。
 そして彼女たちは余りにはしゃぎすぎた。

 『神の薬』の翼が輝く。次の瞬間――絹旗最愛は吹っ飛ばされていた。

絹旗「が…!」

滝壺「きぬはた!」

フレンダ「何…? 今何されたの…!? 全然見えなかった」

絹旗「こ…ふ…」

 震える足を押さえつけ、絹旗が立ち上がる。

絹旗「滝壺さん、フレンダ…超急いで私の後ろに回ってください。さっきの一撃、私以外の人間が受けたら間違いなく超死にます」

フレンダ「き、絹旗だって死にそうなわけよ!」

滝壺「なに…? 私の『能力追跡』でも攻撃の正体が掴めない……超能力じゃ、ない……?」

 再び『神の薬』の翼が輝いた。
 不意を突かれた先程とは違い、今度はその攻撃をはっきりと目に捉えることができた。

 迫ってきたのは大雑把に表現してしまうと、巨大な風の塊だった。


572 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 09:11:53.65 ID:mo4lx2my0 [22/107]
絹旗(やば…これ…死ぬかも……)

 能力を全開に。手を大きく広げて『神の薬』の一撃の前に立ち塞がる。

絹旗(せめて、後ろの二人だけは……!)

「何馬鹿正直に受け止めようとしてんだ!! 避けろ馬鹿!!」

 叫び声と共に、大型のワンボックスカーが絹旗の前に躍り出た。
 後部座席から巨大と表現するしかない大男が絹旗、滝壺、フレンダを車内に引きずり込む。
 風の塊が周囲の建物を飲み込んだ。砂の城を蹴り飛ばしたように、あっさりと鉄筋コンクリートの建物が瓦礫の山に変貌する。

「ぐおおおおおおおおおお!!!?」

 とんでもない衝撃が車内を揺らす。
 運転席に居た金髪の男はそれでも何とか車体を立て直そうと奮闘したが―――健闘虚しく、ワンボックスは豪快に横転した。

絹旗「ぎゃー!」

フレンダ「おきゃー!」

滝壺「わー」

 車内で三人の男と三人の少女がもみくちゃになる。


576 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 09:21:09.00 ID:mo4lx2my0 [23/107]
「なんですと?」

 運転席に居た金髪の男――浜面仕上は何とも素っ頓狂な声を上げた。
 大天使の力に慄くでもなく、己の無事を安堵するわけでもなく、こんな声を上げたのはいかなる理由によるものか。
 簡単なことだ。奇跡が起きていたのである。
 もみくちゃになった三人の少女達は何故か全員運転席に集中していた。
 大型のワンボックスといえど運転席の広さなど知れている。
 そこに浜面を含めて四人もの人間を突っ込むとどうなるか。
 なんかもう、色んな肉と色んな肉がぐにゅんぐにゅんとえらいことになっていた。

 具体的には絹旗の尻が浜面の顔に乗っていた。生パンツ直撃である。
 浜面のごつごつした手のひらが滝壺の胸を思いっきり鷲掴みにしていた。
 フレンダの右足が浜面の足の間に突っ込まれていた。スカートがずり上がってパンストが食い込んでもう凄いことになっている。

絹旗「ぎゃー!」バチーン!

フレンダ「おきゃー!」ゲシッ!

滝壺「わー」ポフッ

浜面「ぶげらっ!!」

 まるでマンガの主人公のようなラッキースケベに見舞われる浜面仕上。
 まあ、こんな状況になったのも駒場のせいで後部座席にスペースが無く。
 フロントガラスにぶつかりそうになった少女たちを半蔵が咄嗟にクッション(浜面)に押し込んだからなのだが、少女達にはそんなことは関係ない。


579 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 09:28:01.72 ID:mo4lx2my0 [24/107]
絹旗「責任とれーー!!」

フレンダ「金払えーー!!」

滝壺「手をはなせー」

浜面「くっそぉ! ピンチに颯爽と駆けつけたヒーローたる俺が何でこんな目に遭わにゃならんの!? あ、痛い痛い!!」

半蔵「遊ぶな! 急げ! 次がくるぞ!!」

 車から飛び出し、走る。
 二秒後に大型のワンボックスはただの鉄くずと化した。
 衝撃で飛ばされてくる車や建物の残骸を絹旗と駒場が吹き飛ばす。

半蔵「ひゅう。やるなちっこい嬢ちゃん」

絹旗「こう見えてもLEVEL4です。超舐めた口を利かないでください」

滝壺「私もLEVEL4」

フレンダ「私は、」

駒場「……もしや、お前ら…『アイテム』…か…?」


581 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 09:35:24.22 ID:mo4lx2my0 [25/107]
絹旗「へえ、けっこう物知りですね。超何者ですか、あなた達は」

駒場「何者でもない……ただの無能力者だ……」

絹旗「もしかしてゴリラみたいなその巨体…スキルアウトリーダーの駒場利徳ですか!?」

フレンダ「じゃあこっちのバンダナは、忍者の末裔って噂の半蔵な訳!?」

半蔵「うげ、何でそんな情報まで持ってんだ。怖ぇな暗部」

浜面「そしてこの俺が!」

フレンダ「変態でしょ?」

絹旗「超変態ですね」

滝壺「大丈夫だよへんたい。応援しないけど」

浜面「せめて名前は言わせてください! 浜面仕上っていうんですよろしくお願いします変態はやめてマジで!!」


583 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 09:42:24.39 ID:mo4lx2my0 [26/107]
 チリ…と空気が震えた。
 何かが来る。浜面は反射的に空を見上げた。
 パリ、と火花が散るのが見えた。

浜面「伏せろぉッ!!」

 絶叫。同時に、六人の居た位置を直撃する光の柱。
 放たれたそれは正真正銘の『神の雷(イカズチ)』、愚者を焼き尽くす裁きの光。
 だが、神の怒りで焼かれるはずだった愚者たちは―――ピンピンしていた。

浜面「ふぃい~、あっぶねぇ~」

 地に伏せた六人を水で出来たドームが囲んでいる。

浜面「電気ってヤマ張って正解だったな。しかし、不純物を一切含まない『純水』まで創れちまうなんて、今さらだけどホント何でもありだな」

フレンダ「確かに、不純物を一切含まない純水は絶縁体になるって話は聞いたことあるけど……」

絹旗「浜面は無能力者じゃなかったんですか!?」

浜面「なんだ? お前ら何も知らねえで戦ってたのかよ」

 浜面は説明した。自身の望むとおりに街が姿を変える現状を。
 この時、浜面は迂闊にも気を抜いた。水のドームへの意識を切ってしまった。
 ドーム状に展開していた純水が形を失いばしゃりと六人を濡らす。
 びしょびしょの透け透けである。

絹旗「つまり…これも浜面の超望み通りってわけですね……」ワナワナ…!

浜面「Nooooooooo!!!!」

586 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 09:50:38.79 ID:mo4lx2my0 [27/107]
半蔵「遊んでる場合じゃないってことは理解してるか?」

絹旗「超わかってますよ!!」

浜面「絶対わかってねぇだろ…」ボロ…!

フレンダ「でも、結局どうする訳? あんな化物達に勝てるわけないじゃん!!」

 そうだ。今、世界は人々の思いのままにその姿を変えるという『陽炎の街』の属性を付与されている。
 しかし、裏を返せばそれは、人の想像を超えるものは生み出せないということだ。
 あそこにいる大天使たちは、どう考えても人間の想像の範疇を超えた存在だ。
 対抗手段など、生み出せるわけが無い。
 もしかしたら核兵器でもぶつけてやれば何とかなるかもしれないが、そうしたら間違いなく自分も死ぬし、周りの人間も大勢死ぬ。
 そんなバンザイアタックは死んでも御免だった。
 泥をすする様に生きてきた彼らにも、まだそれくらいの矜持は残っている。

駒場「……火力が足りん。奴らの存在を一撃で滅するような火力がいる。心当たりはないか?」

半蔵「ありゃ出し惜しみ無く使ってるよ、駒場のリーダー」

絹旗「どうして…どうしてそんな風に出来るんですか!? 勝てるわけないじゃないですか! 逃げるしかないじゃないですか!」

絹旗「どうしてわざわざ立ち向かおうとするのか、超理解不能です!!」

浜面「どうしてって、なあ?」

 浜面は半蔵と駒場の顔を見やり、何でもないことのように言葉を続けた。

浜面「俺まだノルマ達成してねえんだよ。アイツが俺の10体目だ」

591 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 09:56:13.87 ID:mo4lx2my0 [28/107]
浜面「俺たちはスキルアウトだ。無能力者の集団だ。地べた這いずりまわりながら、能力者相手に戦ってきた」

半蔵「格上との戦いってのには、慣れてんのさ」

滝壺「心が押し潰されたりは、しないの?」

浜面「潰れたよ。何度も何度も潰れた。そこから再生して、どんどん強くなっていくのが雑草の強みって奴なのさ」

フレンダ「訳わかんない! ねえ逃げようよ絹旗、滝壺! こいつらと一緒に居たら死んじゃうよ!!」

浜面「何だ、『アイテム』っつってもやっぱり女の子なんだな。可愛いもんだ」

絹旗「何ですってぇ…!!」

浜面「構わねえよ。行け。尻尾を巻いて逃げ出しちまえ。LEVEL0の俺達が、LEVEL4のお前らを守ってやるよ」

滝壺「……っ!!」

フレンダ「ねえ! 行こうよぉ!!」







「……おい、童貞金髪野郎。テメエは一体誰の率いる組織に向かってそんな生意気な口きいてんだ?」




598 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 10:04:00.97 ID:mo4lx2my0 [29/107]
 殺意を隠そうともしない声に振り返る。
 女だ。長い髪に、整ったスタイル。美人と言って差し支えない顔。

「とりあえず金髪。テメエはブチコロシ確定だ。そんでウチの金髪。お前も減点4ね。減点5でフレ/ンダだから」

 それどういう状況!? とツッコミを飛ばすことも出来ない。
 その女の正体にすぐに気付いた『アイテム』のメンバーはただあんぐりと口を開けている。

「絹旗、アンタも言わせっ放しにしてたから減点1。滝壺は…別にないや。久しぶりー」

 男三人の中では駒場が一番先に気付いた。
 ぽん、と駒場はその大きな手のひらで浜面の肩を優しく叩く。

浜面「おい、何だそのお前のこと忘れないよ的スキンシップは。やめろ! 俺は死亡フラグを立てた覚えはねえぞ!!」

 三人の少女達が駆け出した。
 彼女たちを率いていたリーダーの下へ。

「麦野ッ!!!!」

 学園都市第四位のLEVEL5にして『アイテム』リーダー。
 『原子崩し(メルトダウナー)』の麦野沈利が帰還した。


601 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 10:10:05.00 ID:mo4lx2my0 [30/107]
フレンダ「うえ~ん麦野~! 結局、一体今までどこに行ってた訳よ~!?」

麦野「ちょっと脳みそだけになって培養液ん中ぷかぷか漂ってた」

フレンダ「え?」

絹旗「どうしてこんなに長く私たちを放っておいたんですか!!」

麦野「この体に馴染むのに時間食っちゃってね~」

絹旗「え?」

滝壺「……むぎの、ひょっとして強くなった?」

麦野「お、さすが滝壺。見ただけでわかっちゃうか」


浜面「ががが学園都市第四位のLEVEL5…! もう駄目だ…俺の人生終わっちまった…!!」

駒場「……喜べ、浜面」

浜面「あぁ!! 何を喜べってんだ駒場この野郎!! 俺今天使よりでっかい危機に直面してるんだぞ!?」

駒場「……火力の当てが出来たぞ」


 敵残存戦力
 天使……7220015656体
 大天使……『神の如き者』、『神の力』、『神の火』、『神の薬』 全4体


603 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 10:17:09.37 ID:mo4lx2my0 [31/107]
 とある病院のベッドで、とある少女は怯えていた。
 窓の外で街を蹂躙する天使達。
 彼女はその天使達を見て怯えていた――――のではない。
 彼女の目の前で天使達の“輝く翼”が無惨に引き裂かれていく。

「ひ、ひいぃ…!」

 その様にどんな記憶を刺激されたのか、少女は頭を抱え、喚き、己の両膝に顔を埋める。

「あひ、ひ、ひいぃぃい」

 いついかなる時も堂々としていた以前の面影は微塵もなく、『心理定規(メジャーハート)』の少女は幼子のように怯え、泣いている。
 そこへ。

「ったく、何て様だ」

 一人の男が現れた。
 男の姿を認め、『心理定規』の少女の目が驚愕に見開かれる。

心理定規「……帝督ッ!!」

 そこに現れたのは、かつて確かに少女の目の前でバラバラに引き裂かれたはずの垣根帝督だった。

垣根「あんな紙屑同然の存在なんぞに俺を投影してんじゃねえよ。不愉快過ぎるぞコラ」

 その振舞いは、かつてと全く変わらない、学園都市第二位のLEVEL5を象徴するような、実にふてぶてしいものだった。


604 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 10:24:27.00 ID:mo4lx2my0 [32/107]
垣根「オイ、正気に戻ったんなら仕事だ。俺に能力を使え」

心理定規「あ、あなたに?」

 少女の持つ『心理定規』は対象と自分との間の『心の距離』を自在に調節する能力だ。
 例えば、誰かにとっての恋人に。例えば、誰かにとっての神様に。
 彼女は、何にだってなれるのだ。

垣根「設定距離は…そうだな。『例え世界と引き換えにしてでもお前を守ってみせる』なんて思っちまうくらいの距離だ」

心理定規「い、意味がわからないわ」

垣根「うるせえな。いいからやれよ」

心理定規「……わかったわよ、やればいいんでしょ」

 少しの間があって、垣根帝督は『心理定規』の少女をじっと見つめながら、「成程な」と呟いた。

垣根「野郎はあの時こんなモチベーションで戦ってたわけだ……勝てねえわけだぜ、ったく」

心理定規「ちょっと! どこに行くの!?」

垣根「お前はさっさと『窓のないビル』に向かってろ。能力は切るなよ」

心理定規「帝督!!」

垣根「俺らみてえな人種でも、守るべきモンがあった方が強くなれる。ハ。何とも救われる話じゃねえか」

 『未元物質』が戦場に投下される。
 現状、最も『人の臨界点』に近い力をその身に携えて。

606 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 10:31:28.47 ID:mo4lx2my0 [33/107]
 水の属性を司る大天使『神の力(ガブリエル)』と土の属性を司る『神の火(ウリエル)』が同時に動き出した。
 学園都市中を循環する水が悉く刃と化し、人々を襲う。
 直径1kmに及ぶ範囲で隆起した大地が街を引き裂く。
 『神の力』が血の海を溢れさせ、『神の火』が死体の山を築き上げる。
 まさしく、彼等(或いは彼女等)の属性に対応するが如く。

ステイル「調子にのるなよ…大天使」

 『神の力』の前にステイル=マグヌスが立ち塞がった。
 その身に迫る水の刃は、ステイルの体に触れる前に一瞬で蒸発する。

ステイル「あの子は優しい子なんだ。誰かが傷ついた時に涙することができる女の子なんだ」

 ステイルの手には崩壊したマンションから回収したスーツケースが握られている。
 バグン、とスーツケースの蓋が開き―――ルーンの刻印が刻まれた一億枚の魔法札が大地に舞った。

ステイル「それ以上、こんなくだらない事にあの子の力を利用するなぁぁぁぁあああああああ!!!!!!」

 技術もへったくれもない。
 ただ単純に、圧倒的な物量による押し上げを受け、空前絶後の規模で『魔女狩りの王(イノケンティウス)』が出現する。


 『神の火(ウリエル)』に突如として襲い掛かる影があった。
 苛烈に輝く光の剣をその手に持ったその影の名は、『人工天使』風斬氷華。

風斬「はぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!!」

 『神の火』の手にも光の剣が現出した。
 人外の力を持つ怪物同士が正面から衝突する。

607 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 10:38:53.20 ID:mo4lx2my0 [34/107]
 大天使『神の薬(ラファエル)』に、麦野沈利率いる『アイテム』と駒場利徳率いる『スキルアウト』が敵対する。
 麦野、絹旗、滝壺、フレンダの四人はとあるビルの屋上に上がっていた。
 『神の薬』との間に遮蔽物はない。まるで撃って来いと言わんばかりの配置だ。
 ならば、浜面、半蔵、駒場達スキルアウトの三人はどこにいたのかと言うと―――実は麦野達よりもっともっと『神の薬』に近い所に居た。

浜面「やーいやーい。お前のかーちゃんでーべそー」

半蔵「……天使に対してなら父ちゃんって言ったほうが的確なんじゃねぇの?」

 『神の薬』に対し、ケツを出して挑発する浜面を横目に、半蔵は呆れたような声を出す。

半蔵「確かに俺たちは底辺の存在だ。プライドなんてあってないようなもんだけどよぉ…でも言うぞ! プライド無いのお前!?」

浜面「う、うるせーうるせー! お前なんかにブチコロシ確定しちゃった俺の気持ちがわかるかー!!」

浜面「俺の生きる道はこうやって囮の役目を完璧にこなしてあの女のお目こぼしを狙うしかないんじゃーー!!」

駒場「……来るぞ。車を出せ」

 バウン! とけたたましい音を立て、浜面達三人を乗せたワゴン車(その辺の瓦礫から作った)が発進する。
 直後に風の塊が車のすぐ後ろを通り過ぎて、大地を舐め尽くしていった。

半蔵「うえぇ…後ろ、スプーンで抉ったプリンみたいになってんぞ……」

浜面「はやくー!! はやく何とかしてください麦野様ーー!!」

半蔵「なんかお前、あの女に対する敬語が板についてきてねえ?」


610 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 10:43:21.42 ID:mo4lx2my0 [35/107]
麦野「始めるぞッ!! 滝壺、準備はいい!?」

滝壺「うん、大丈夫だよむぎの……私、頑張る」

 いつもの胡乱な目ではない。滝壺の目には確かな決意が見て取れる。

麦野「へえ…なんかあった?」

滝壺「別に、なにも」

 嘘だ。滝壺の心の中ではあのスキルアウトの少年の言葉が熱を持ってぐるぐると回っている。
 LEVEL0の俺達が、LEVEL4のお前らを守ってやるよ。

滝壺「違う……違うもん。それは、逆だもん」

 LEVEL4の私が、LEVEL0のはまづら達を守ってみせるんだ。


612 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 10:48:55.49 ID:mo4lx2my0 [36/107]
麦野「もう一度確認するぞ! 私はとにかく『原子崩し(メルトダウナー)』の出力を限界まで上げる! 照準も制御も知ったこっちゃねえ!!」

麦野「制御と照準は滝壺に任す! 他人のAIM拡散力場に干渉できるアンタの『能力追跡』は本来そうやって使うんだ!」

滝壺「わかった」

麦野「アンタがしくじったら肥大した『原子崩し』に焼かれて皆死ぬ。気合入れな!! 絹旗、お前は万が一こっちに弾が飛んできた時の盾だ!!」

絹旗「超了解です!!」

フレンダ「麦野! 私は!? 私は何をしたらいい!?」

麦野「邪魔すんな!!」

フレンダ「(´・ω・`)ショボーン」


615 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 10:54:49.71 ID:mo4lx2my0 [37/107]
ステイル「イノケンティウス!!」

 ステイルの叫びと共に、100m超の巨体で顕現したイノケンティウスが咆哮と共に燃える十字架を『神の力(ガブリエル)』に叩きつける。
 衝突する水の翼と炎の十字架。
 バシュウ! と音を立て水分が瞬時に気化し、凄まじい勢いで蒸気が周囲に噴き出される。

ステイル「単純に水は火に勝ると考えてくれるなよ。貴様如き質量、雫ひとつ残さず、悉く全てを蒸発させてやる」

 魔術を覚え、ルーンの刻印の使用に手を出した時から、ずっとこつこつと魔力を溜め込んできた。
 その全てを惜しげもなく吐き出して、ステイルはたった一人の魔術師に過ぎぬ身で大天使と拮抗する。
 『神の力』の翼が大きく開かれた。

『akfhtmdhdgeodlsngbjjkdlkamayghabfauifawrgfbvvjsdfuhsghyg』

 理解不可能な言葉が大天使の口から紡がれる。
 直後、空から雲が消えた。
 上空を漂っていた雲―――すなわち水分をその身に飲み込み、『神の力』の翼が肥大化する。

ステイル「があああああああああああああああああああ!!!!!!」

 イノケンティウスの体を消していく莫大な水の『天使力(テレズマ)』。
 大天使の体を構成している『水』を蒸発させていくイノケンティウス。


 決着など、見届けるまでもない。

 蒸発し、気体となっても―――――『水』は、『水』なのだ。


622 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 11:04:24.87 ID:mo4lx2my0 [38/107]
 やがて―――イノケンティウスの体が見る見るうちに小さくなってきた。
 イノケンティウスの体を構成する『炎の魔力』が、『神の力(ガブリエル)』の『水の天使力』によって消失していく。
 対する大天使は、次から次に蒸発する『水』を、息を吸い込むように再び己の体へと呼び戻す。
 その様はまさしく永久機関。

『vuasgfabfhbaeygaruignhjzbvhjhbasyfhajibfguobcuhasbvhabgjawfv』

 『神の力』の歌が空気を振るわせる。
 それで最後だった。
 ジュッ、と、バケツに突っ込んだ夏の花火を思わせるような儚い音を残し―――イノケンティウスの姿が完全に消え去った。
 イノケンティウスと『神の力』の衝突で生じた大量の蒸気で辺りはほとんど見通せない。
 けれど、そんな状況の中で、ステイルは『神の力』の明確な視線を感じ取っていた。

ステイル「そう睨むなよ」

 根こそぎ魔力を使い果たしたステイルはどさっ、とその場に尻餅を着いた。

ステイル「僕はちっぽけな人間だ。人生の全てを懸けて、それでも貴様等の足元にも及ばない矮小な存在だ」

 ステイルは立ち上がろうともせず、座ったまま、大天使を見上げる。

ステイル「そんな僕に随分と拘ったじゃないか。無視して裁きとやらを続ければ効率もよかっただろうに。そんなに僕の存在が気に障ったか?」

 見上げながら、見下したようなことを言う。

ステイル「まるで人間みたいだな、大天使。そんな貴様等が裁きなどと、笑わせる」



ステイル「貴様等こそ、裁かれろ」

623 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 11:06:29.14 ID:mo4lx2my0 [39/107]
 辺りを包んだ蒸気を切り裂いて、神裂火織が『神の力(ガブリエル)』の背後に現れる。
 そして、述べる。彼女の魔法名、それは、

神裂「『救われぬ者に救いの手を(Salvere000)』!!!!」

 その手に握るは既に鞘から抜かれた七天七刀。

ステイル「本当に、僕のことなんて放っておけばよかったんだ。僕に出来ることなんて、かく乱と陽動くらいのものなのだから」

 大天使が咆哮する。
 だが現在、彼(或いは彼女)を守る水は、その悉くが気化してしまっている。
 それらを防御に転用するためには、一度液体に還元するという、この状況では致命的なワンステップが必要だ。
 迫り来るは『聖人』神裂。間に合うわけがない。

神裂「――――『唯閃』ッ!!!!」

 神裂火織の奥義が大天使『神の力(ガブリエル)』を引き裂いた。


 敵残存戦力
 天使……7000095374体
 大天使……『神の如き者』、『神の火』、『神の薬』 残3体


626 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 11:14:31.57 ID:mo4lx2my0 [40/107]
 現在、『アイテム』の盾として麦野達の前に立つ絹旗は、ううむ、と唸りを上げた。

絹旗「……何気に超やりますねあいつら。うまく敵の攻撃を引き付けてます」

 絹旗の視線の先では、次から次へと形を変える一台の車が、それこそゴキブリのようにちょろちょろ『神の薬(ラファエル)』の足元を逃げ回っていた。

絹旗「これなら、間に合うかもしれません」

 絹旗はちらりと後ろを振り返る。
 闘志を剥き出しにして、際限なく己の力を高めていく麦野沈利。
 目を瞑り、馬鹿げた出力の『原子崩し』を弾丸として練り上げていく滝壺理后。
 後ろでなんか足を上げてはしゃいでるフレンダ。

フレンダ「ふれー! ふれー! どうこの惜しげもなく晒される脚線美!! これで皆の士気もうなぎのぼりって訳よ!!」

滝壺「……フレンダ、うるさい」

麦野「邪魔すんなっつったろがフレンダァァアアア!!」

フレンダ「(´;ω;`)ウッ…」


628 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 11:20:04.26 ID:mo4lx2my0 [41/107]
浜面「まだかー!! まだなんか麦野様ーー!! 持たへん! もう持たへんでーー!?」

 爆風に吹き飛ばされる車内の中で浜面仕上が絶叫する。

半蔵「落ち着け浜面! お前は一回キャラを戻せ!!」

駒場(……自分に何かあれば浜面にスキルアウトを任せようと思っていたが……再考の必要があるか?)

浜面「ぐわぁ!! 何かまた光ってねえかアイツ!? 次は何が来るんだよ!!」

半蔵「いや、待て……やべえ、アイツ『アイテム』狙ってるぞ!!」

駒場「……力を溜め込んでいるのを気取られたか……!」

浜面「どうする! どうすればいい!?」

半蔵「今度は前出して挑発しろ浜面!!」

浜面「いや、インパクトを求めるなら駒場の方が適任だろ!! というわけで行け駒場!! 出せお前のアームストロング砲!!」

駒場「……遊んでいる場合では、」

浜面「遊んでねーよ100%マジで言ってんだこっちわ!!!!」

 ぎゃあぎゃあと仲間内で揉み合うスキルアウト三人衆。
 『神の薬(ラファエル)』から攻撃を受けたわけでもないのにコントロールを失った車が盛大に横転した。


630 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 11:28:27.22 ID:mo4lx2my0 [42/107]
 『神の薬』が『アイテム』に狙いをつける。
 一切の慈悲も容赦もなく、人を呆気なく肉塊に変える風の塊が発射される。

麦野「来るぞ絹旗!! 死ぬ気で逸らせぇ!!」

絹旗「超了解です!!」

 その手を広げ、絹旗は『窒素装甲(オフェンスアーマー)』を最大出力で展開する。
 その全ての力を防御に回す。
 完全には受け止めなくていい。川の流れを変える大岩のように、ただ揺らがずそこにあれ。

絹旗「うあああああああああああああああああ!!!!!!」

 風の塊が絹旗に衝突する。
 ぎりぎりと歯を食いしばる。

絹旗「『アイテム』所属のLEVEL4、絹旗最愛を舐めんなぁぁぁああああ!!!!」

 大きく腕を振るう。衝撃を斜め後ろに受け流す。
 逸らした。風の塊は後ろに居る麦野たちのすぐ傍を通り過ぎていく。

絹旗「今です!!!!

麦野「ずおらァァァァああああああああ!!!!!!」

 絹旗の叫びに呼応して、麦野沈利がその力を解放させる。
 『アイテム』全員で紡ぎあげた『原子崩し(メルトダウナー)』の究極形。
 それは『神の薬』の前に展開された防御結界を紙の様に引き裂き―――そのまま大天使の体を貫いた。


631 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 11:33:32.12 ID:mo4lx2my0 [43/107]



 敵残存戦力
 天使……6999981215体
 大天使……『神の如き者』、『神の火』 残2体




633 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 11:38:55.45 ID:mo4lx2my0 [44/107]
 風斬氷華の持つ光の剣が姿を変え、槍と化し、『神の火(ウリエル)』の体を縦に貫いた。

『jfah?bfuyavhjfvagfa??yfvhabuygbyeryyqfbvfa?ibyiafy?』

 意味不明な音をその口から漏らす大天使。
 だけど彼(或いは彼女)はきっと驚愕し、困惑しているのだろう。
 大天使たる自分が、紛い物の天使に負けるはずがないのに、と。

風斬「ごめんなさい。でも…私には助けなきゃいけない友達がいるから」

 風斬氷華はAIM拡散力場の集合体だ。
 そしてAIMとは人の意志の力に他ならない。
 AIM拡散力場は虚数学区・五行機関という形で世界中に展開している。
 ならば、世界中で戦う数十億の人々が「天使達に勝ちたい」と願えばどうなるか。
 結果がコレだ。
 勝利を願う人々の意志により、その能力を飛躍的に底上げされた風斬は、真正面から大天使『神の火』を圧倒した。

風斬「さよなら」



 敵残存戦力
 天使……6999826999体
 大天使……『神の如き者』 残1体


640 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 11:44:55.45 ID:mo4lx2my0 [45/107]
 そして―――三体の大天使の壊滅を受け、遂に『神の如き者(ミカエル)』が動き出す。
 『神の如き』とまで形容されるその大天使は、桁外れの怪物であった他三体の大天使と比べても、さらに頭ひとつ抜けているように思えた。

 『神の力(ガブリエル)』を撃退したステイル、神裂も。

 『神の薬(ラファエル)』を消滅させたアイテムのメンバーも。

 『神の火(ウリエル)』を圧倒した風斬ですら。

 その姿に、恐怖を覚えてしまった。
 彼の者の右手に輝く剣が握られている。
 『焔の剣』、『鞘から抜かれた剣』として語られる『神の如き者』のシンボル。
 かつて『光を掲げる者(ルシフェル)』を斬り伏せた史上最強の剣。
 『最後の審判』を司る者としての『神の如き者』の性質も合わせて、その剣は『この世全ての者の断罪』という特性が付加されている。

 つまりわかりやすく言えば。
 この剣は、この世に存在する全ての者に平等に死を与えることが出来るのだ。
 そしてその剣は、最初に風斬氷華を貫いた。

風斬「え…?」

 何が起こったのかわからなかった。
 気が付いたら貫かれていた。気が付いたら―――死んでいた。


 人の望みの象徴たる風斬氷華が、光の粒子となって消え去った。


643 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 11:53:45.83 ID:mo4lx2my0 [46/107]
 大天使『神の如き者(ミカエル)』は、まず同胞たる三体の大天使を屠った者達を最初のターゲットと定めたようだった。
 『神の如き者』はその左腕を天に向かって掲げた。
 空に巨大な火球が二つ現れた。空を見上げていたものは、まるで太陽が三つに増えたのではないかと錯覚したに違いない。
 それぞれの火球から、レーザーのような光線が放たれた。
 一本の光線はステイル達の居た辺りに。
 もう一本は『アイテム』のメンバーが居た辺りに降り注ぐ。

ステイル「か…は…!」

神裂「う…ぐ…!」

 光に焼かれ、呻くステイルと神裂。
 生きているのは、ステイルが熱に対して並々ならぬ耐性を持っていたからだ。
 原形を保っているのは、神裂が『聖人』として人を超えた力を持っていたからだ。

 大天使『神の薬(ラファエル)』の一撃を受け切った絹旗最愛ですら、体を焼く苦痛に呻いていた。

絹旗(何なんですか…!? ホントに、さっきの奴とは超レベルが違います…!!)

 『神の薬』の一撃を川の流れに例えるならば、『神の如き者』の一撃は鉄を切り裂くウォーターカッターだった。
 『窒素装甲』はあっさり引き裂かれ、絹旗は神の炎に焼かれた。
 命が残っているのは、奇跡と言うしかない。

滝壺「きぬはた!!」

麦野「馬鹿……私ら全員を庇うために『窒素装甲』を限りなく薄く広く展開するなんて、何て自殺行為を…!」

フレンダ「絹旗! 死んじゃ駄目だよ!! 絹旗!!」


648 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 12:02:46.29 ID:mo4lx2my0 [47/107]
 対象とした二組が二組とも生存しているという事実に、『神の如き者(ミカエル)』は少し首を傾げるような仕草を見せた。
 ぴくり、と『断罪の剣』を持った右手が動く。
 広域一斉駆除などという横着をせず、しっかりこの剣で始末するべきか思案しているようだ。
 その剣に貫かれれば、この世に存在する者は全てその死から逃れることは出来ない。
 それは、先程の『人工天使』、風斬氷華のように。


 『神の如き者』は決断を下し、その翼をはためかそうとして―――突如ぴたりとその動きを止めた。

 眼球のない、マネキンのような目がある一点を見つめている。

 そこは、とある病院の屋上だった。

 その場所に、輝く十二枚の翼を持った者が悠然と佇んでいる。

 その姿は、かつての大敵『光を掲げる者(ルシフェル)』を彼(或いは彼女)に想起させた。



 『神の如き者(ミカエル)』の烈火の如き殺意をその身に受けて。

 学園都市第二位のLEVEL5、『未元物質(ダークマター)』、垣根帝督はどこまでも不敵に笑った。


655 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 12:11:06.77 ID:mo4lx2my0 [48/107]
垣根「ハッ、あの野郎。やっとこっちに気付きやがったか」

 垣根帝督は『未元物質』の象徴たる翼を展開させる。
 かつてその身に帯びていた数の倍、左右六対、十二枚の翼。
 さらに噴出する『未元物質』は、彼自身の体にも変容を加えていく。
 翼から背中、背中から肩、首、腕―――『未元物質』の持つ白い輝きが垣根帝督の体中に伝播していく。

垣根「クリアな殺意ぶつけてきやがって…やる気出ちゃうじゃねえかバカヤロウ」

心理定規「帝督ッ!!」

 入り口の扉を開き、『心理定規(メジャーハート)』の少女が屋上に姿を現した。

垣根「あん? バーカ、何やってんだお前。さっさと窓のないビルに行けって言っただろが」

心理定規「それはわかってるけど……あなたはこんな所で、あんな化物相手に何をしようというのよ!!」

垣根「言わなきゃわからんか? お前はもう少し賢い女だと信じていたけどな」

心理定規「その言葉はそっくりそのまま返してあげるわよ!」

 自分がどうしてここまで言葉を荒げてしまうのか、『心理定規』の少女はわからない。
 ただ、どうしても死なせたくないと思った。
 『あんな光景』はもう二度と見たくないと思ってしまったのだ。


660 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 12:16:30.48 ID:mo4lx2my0 [49/107]
 心の距離を設定する。少女は垣根帝督にとっての神に変貌する。

垣根「何偉そうに上から物言ってんだ。ぶち殺すぞ」

 心の距離を調節する。少女は垣根帝督にとっての最愛の恋人になる。

垣根「調子乗って俺の行動に干渉してくんじゃねえ。ぶち殺すぞ」

 心の距離を再設定。ならばいっそ、最も憎らしい敵となれ。

垣根「ぶち殺すぞ」

 心の距離を――――元の位置に。
 つまり、少女は能力を解除した。
 自分では、この男を止められない。

心理定規「……普通じゃないっていうのはわかっていたつもりだけど……とことんなのね、あなたは」

垣根「コラコラ、言わすんじゃねえよ。こっちももう言い飽きてんだ」

 そんなことを嘯きながら―――十二枚の翼を展開させ、垣根帝督はにやりと笑って、言った。



垣根「この垣根帝督に――――常識は通用しねえ」




663 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 12:23:37.88 ID:mo4lx2my0 [50/107]
垣根「ハッハァーーーーッ!!!!」

 垣根帝督が翼をはためかせ、凄まじい勢いで『神の如き者(ミカエル)』に突撃する。
 白い光は体の隅々まで行き渡り、もはや垣根帝督そのものが『未元物質(ダークマター)』の塊と化した。

『nfahgfbayfbuyarbgfhbhjbfuyhgfuieaygaig!!uiagauahga!!!!uirg』

 『神の如き者』が断罪の剣を振るう。
 『未元物質』垣根帝督と『この世全ての者の断罪』の特性が激突する。

 垣根帝督は消えない。消えるはずがない。
 わかりきっていたことだ。
 例え『神の如き者』がこの世全ての者に裁きを与える存在だとしても。
 『未元物質(ダークマター)』はこの世に存在しない物質だ。
 断罪の剣の特性から逃れる、有史以来在り得ることのなかった、たったひとつの『例外』なのだ。

『dfjui??agbuihiug?io????dabavbauifa????』

垣根「何だ? マネキンみてえな顔してよくわかんねえが、驚いてんのか?」

 触れたもの全てに死をもたらす断罪の剣を掴み、垣根帝督は凄惨に笑う。

垣根「何でもかんでもてめえらの秤で計れると思うな。人間様舐めてんじゃねえよ、クソッタレ」


667 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 12:31:46.52 ID:mo4lx2my0 [51/107]
 垣根帝督について語るとき、彼を『スペア』と揶揄して嘲笑う者達がいる。
 しかし彼等は、その意味をちゃんと理解しているのだろうか?
 “あの”『一方通行』の代わりを務められるということが、どれ程の意味を持つのか、彼等は正しく理解しているのだろうか?
 『一方通行』と並び、神々を貫き殺す『人類の槍』となりうる可能性。
 神々に届きうると期待された者。
 それが『未元物質(ダークマター)』だ。それが『垣根帝督』だ。
 ああ―――それは確かに、人の常識など通用する存在ではないだろう。

垣根「があああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 『未元物質』は輝きを増し、『神の如き者』を焼き尽くす。
 その身に架された『神殺しの槍』としての役割の通りに。
 だが無論、垣根にそんな意識は欠片もなく。
 彼はただ、彼の矜持に従って神を殺す。

『vafui!!asbihag!!!hu!!!!iafuahngu!!h!!!!!!!!duagia!yg』

 『神の如き者』の体から爆発的な光が溢れ出した。
 神としてのプライドか、それともただ機械的に『人類絶滅』の指令に従ったゆえの行動か。
 その身に宿る莫大な『天使力(テレズマ)』を解放し、『神の如き者』は自爆をはかる。
 許せば、世界は神の炎に舐め尽され、全ての生命が滅ぶ。


671 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 12:40:10.20 ID:mo4lx2my0 [52/107]
垣根「ったくよぉ……」

 垣根帝督は何かを諦めたように笑った。

垣根「柄じゃねえんだよ!! こんなもんよおおおおおおお!!!!」

 垣根帝督の翼が『神の如き者』を包み込む。
 莫大な『天使力(テレズマ)』を全て『未元物質(ダークマター)』に取り込み押さえ込む。
 無理だ。不可能だ。人間に、そんなことが出来るはずがない。

 ―――――何度も何度も言わせるな。『未元物質』に、垣根帝督に常識など通用しない。

 爆裂、爆裂、爆裂、爆裂―――――
 しかし翼は炎を逃がさない。『未元物質』は敗北を許さない。

垣根「あ~あ……」

 垣根帝督は最後の瞬間、とある病院の屋上に目を遣った。
 飛び降りんばかりに柵から身を乗り出し、泣き叫ぶ少女の姿が目に入る。

垣根「本当に…まったく、俺らしくねえ……お前のせいだぞ、ったく……」

 破壊の力を受け切った垣根の体が空に溶けて消えていく。
 学園都市第二位のLEVEL5の最期の言葉は、自身に芽生えた良心を少女のせいにするという、何とも男らしくないものだった。


 敵残存戦力
 天使……6666666666体
 大天使……0体


674 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 12:44:05.57 ID:mo4lx2my0 [53/107]


 『最後の審判』を司っていた大天使『神の如き者(ミカエル)』は消滅した。


 世界が再び黄金の輝きに満たされる。


 太陽を直視したかのような眩い輝きに、人類は皆その目を一斉に瞑った。


 一瞬の静寂。


 とある少女が恐る恐る目を開ける。


「あ」


 呆けたような声は、やがて歓喜の声に膨れ上がる。


 世界から、天使達の姿が消えていた。



679 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 12:54:15.59 ID:mo4lx2my0 [54/107]
 インデックスを天に磔にしていた光の十字架が姿を消した。
 それでも、魔術の影響が何かしら残っているのか、インデックスの体はふわふわと漂いながら降りてくる。

ステイル「く…!」

 ステイル=マグヌスは死に体のその体を引き摺って、それでも精一杯の速度で駆け出した。
 降りてきたインデックスを、その手でしっかりと抱きとめる。

ステイル「インデックス…! よかった…! 本当によかった…!!」

 火傷に引きつる皮膚に構わず、ステイルはインデックスの小さな体を抱きしめた。
 つぅ、とステイルの頬を涙が流れる。
 ぱたぱたと顔に落ちた涙がむず痒かったのか、ぱちり、とインデックスが目を開けた。

ステイル「インデックス! 無事か? 僕がわかるか?」

 しばらく寝起きのような顔でぽけーっとしていたインデックスだったが。
 心配そうに自分を覗き込むステイルの顔にようやく焦点を合わせると、にっこりと笑って言った。

「baigfbuyargfuabgiabuvhrhaggiheayagrbuylgvhgioahgahgguhaghuahgua」

 わからない。人間に理解できる言葉ではない。
 でも、ステイルを見てにっこりと微笑むその顔は――――

『哀れだね。インデックスなんて存在は、もうこの世界のどこにもいないっていうのに』

 ―――――まるで、そう言っているようだった。


681 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 12:55:04.66 ID:mo4lx2my0 [55/107]



 天使は消えてなんていなかった。



 ただ、一点に集約されただけ。



 絶望はまだ終わってなんかいなかった。



 『最後の審判』は、最悪のシナリオに向かって突き進み続けていた。








 敵残存戦力
 天使……0体
 大天使……0体
 『神上』……1体



684 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 12:56:03.19 ID:mo4lx2my0 [56/107]
ちゅうしょく!

710 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 13:51:15.86 ID:mo4lx2my0 [57/107]
さいかい!

712 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 13:56:33.58 ID:mo4lx2my0 [58/107]
 インデックスがそっとステイルの胸に手を寄せる。
 べこん、と変な音がステイルの耳に届いた。
 下を見る。
 胸に大穴が開いていた。
 比喩的な話ではなく、物理的に風穴が通っていた。
 どろり、と血と肉と白い何かが零れだす。

ステイル「あ……」

 断末魔の叫びを上げることも出来なかった。
 後ろに居た神裂が絶叫する声が聞こえる。


 ああ―――最期に聞くのは、出来ればあの子の声が良かったな、なんて。


 ステイルは最期にそんな益体もないことを考えた。


719 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 14:04:05.15 ID:mo4lx2my0 [59/107]
神裂「ステェェェェェイルッ!!!!」

 絶叫する神裂の前に、すとん、とインデックスが躍り出る。
 混乱に喘ぐ神裂は、咄嗟に刀を抜くことが出来ない。
 いや、例え万全の精神状態だったとしても―――果たして抜けたかどうかはわからない。

「adbaghfguya???eyrgbuyafbhuigabirgbia?gauirgba?bfrvtgrfg!!uhgirgaverab!!」

 人には理解できない言葉をインデックスは紡ぐ。
 何を言っているのかわからない。
 でも、本当にいつものインデックスを思わせるようなその笑顔は、

『お腹がすいたんだよ? だから、ごはんくれると嬉しいな』

 まるで、そう言っているようだった。
 ぽふ、と、気付けば神裂はインデックスに抱きつかれていた。

神裂「あ…」

 バリバリバリ! と神裂の『生命力(マナ)』がインデックスに流れ込む。
 莫大な聖人のエネルギーを、ばくばくとインデックスはその身に取り込んでいく。

神裂「う…あ…」

 神裂の手が七天七刀の柄に伸びて―――でも、どうしても刀を抜くことは出来なかった。
 七天七刀に伸びた神裂の腕が、インデックスの体を抱きしめ返す。
 結局、神裂に出来たのは、それくらいのことだった。

723 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 14:12:21.76 ID:mo4lx2my0 [60/107]
 かさかさと、神裂火織の成れの果てが風に流されていく。
 その残骸に全く興味を示さず、インデックスはキョロキョロと辺りを見回し、ふう、とため息をついた。

『あ~あ、人間って本当に往生際が悪いんだね。うんざりなんだよ』

 恐らくはそういった意味の言葉を、インデックスは発した。

インデックス『このまま一人一人当たっていくのは余りにも非効率的かも。まずは大雑把にでも数を削らなきゃ』

 そう言って、インデックスは天に向かってその手をかざした。
 空全体に、巨大な光の魔方陣が描かれる。
 展開し、展開し、展開し――――遂には地球を覆う魔方陣。
 今、宇宙から見下ろした地球の姿は、蜘蛛に捕食される直前の、ぐるぐると糸で巻かれた哀れな餌の姿に似ていた。
 空を覆った摩訶不思議な魔方陣から、一筋の光がまるで流れ星のように地上に降り注ぐ。


 肉の焼ける音と、誰かの悲鳴が世界のどこかから聞こえた。



インデックス『うん、これでよし♪』

 インデックスの口から理解不能な音が漏れた直後。

 どしゃぶりの雨のように、命を焼く光が地上に降り注いだ。


724 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 14:19:30.34 ID:mo4lx2my0 [61/107]
 破滅の光は、『アイテム』の頭上にも降り注いだ。
 『神の薬(ラファエル)』と死闘を演じ、『神の如き者(ミカエル)』の蹂躙を受けた『アイテム』に、その光に対応する余力は残っていなかった。
 ドムン! と光の柱が地を穿つ。

フレンダ「あいたたた……」

 もくもくと土煙が舞う中で、フレンダはけほけほと咳をした。
 赤い液体が、ぴちゃ、と手のひらに落ちる。

フレンダ「……あれ?」

 その馬鹿げた光景に、いっそ笑い出したい衝動に駆られた。
 自分の体の腰から下が、無くなっている。

フレンダ「……あ~あ、自慢の脚線美だったのに、無くなっちゃったかぁ」

 煙が晴れる。
 麦野沈利が、滝壺理后が、絹旗最愛が、赤く染まって地面に転がっていた。
 ずり…ずり…とフレンダは倒れ付す麦野たち三人のもとへ体を引き摺っていく。
 近づいて分かった。麦野も、滝壺も、絹旗も、みんな体のどこかのパーツが足りてない。

フレンダ「えへ…へ……」

 ぽふん、とフレンダは仰向けに倒れた麦野の胸に顔を乗せた。

フレンダ「い~い感触……これ一度はやってみたかったわけよ」

 麦野の胸にぐりぐりと頭をこすり付けて、フレンダはにへへと笑う。


731 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 14:25:29.88 ID:mo4lx2my0 [62/107]
フレンダ「むぎの~。きぬはた~。たきつぼ~」


 返事が無いのなんて分かっていたけど、フレンダは仲間の名前を口にする。


フレンダ「今までさ~、何だか照れくさくって言えてなかったけど」

フレンダ「みんなは私のこと、すぐに裏切る薄情者だと思ってたかもしれないけど」

フレンダ「実際、臆病な私はわが身可愛さにみんなの情報を敵に渡しちゃったこともあったけど」

フレンダ「それでもね~」


 フレンダ達の真上で空が輝く。



フレンダ「……結局さ、私って、『アイテム』のこと大好きだった訳よ」



 裁きの光が降り注ぐ。

 無慈悲なことに、その光は『アイテム』の四人を纏めて、塵ひとつ残さず消滅させた。


 或いは、それこそが神の慈悲だったのかもしれないけれど。


736 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 14:33:44.00 ID:mo4lx2my0 [63/107]
<幕間>終わる世界―――魔神になり損ねた男

 空から降り注ぐ光の雨を眺めながら、古今無双のお人好し、魔神になり損ねた男―――オッレルスは奥歯をかみ締める。
 その横に、オッレルスとずっと行動を共にしてきた『聖人』、シルビアが並び立つ。

「あまり、悔やむな」

「そういうわけにもいかないさ。後悔をすることには慣れてるけど、今回のは格別だよ。過去に戻って自分を殺してやりたいと思ったのは初めてだ」

「オッレルス!」

 鋭い声を飛ばし、オッレルスの言葉を制するシルビア。

「それ以上言うな。ならあの時のアンタにあの子猫が見捨てられたのか? もし見捨てられるというのならそれはもうアンタじゃない。魔神のなり損ねの今の領域にすら辿りつけてはいない」

「そうかもしれないな。でも、あの時『アイツ』がこんな大それたことを考えてるって確信出来ていたら―――なんて、やっぱり考えちまうよ」

「人はその時その時で一番正しいと信じることをするしかない――アンタの言葉だろう。今アンタがするべきことはなんだ? たらればの話に花を咲かすことじゃないだろう?」

「……そうだな」

 オッレルスは無造作にも思える仕草で腕を振る。
 パヒュン、と音を立て、彼らの頭上に迫っていた光が霧散した。

「俺達は俺達に出来ることを―――せめて、この家に住んでいる子供たちくらいは世界の終わりから救ってみせようか」

「そうだよオッレルス。ここでそんな風に言えるアンタだから、私は今までずっとアンタについてきたんだ」


737 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/06(日) 14:40:22.40 ID:mo4lx2my0 [64/107]
 光の雨が止む。
 インデックスはキョロキョロと辺りを見回して、不満そうにぷぅ、と頬を膨らませた。

インデックス『う~、まだだいぶ人が残っているんだよ。この術式はあくまで光の属性だからね。建物の影なんかに入られたら効果が薄いんだよ』

インデックス『次はどうしようかな……そうだね、今度は質量を伴う攻撃をするのがベストかも』

 タァン―――と奇妙など軽い音が響き、インデックスの頭が弾けるように仰け反った。
 硝煙を吐く拳銃が、ぶるぶると浜面の手で震えている。

浜面「はぁ…! ちくしょう、あんな女の子を撃っちまった! ちくしょう!」

駒場「……やむをえん……彼女を放っておけば次に何をされたかわからん…」

 仰け反っていたインデックスの体がグン、と起き上がる。
 ギョロリ、とインデックスの目が浜面、半蔵、駒場たちスキルアウト三人衆を捉える。

半蔵「おいおい…無傷ってなぁ、どういうことだよ……」

インデックス「vbagsfawgvertvuyvayrgaebwwiowjkdhctenrklgmdbweghfie」

 人には分からぬ言語。ただ恐らく彼女は、

インデックス『ふうん、私の前に立てるんだ? すっごく強固な意志だね』

インデックス『“人の意志の力”がダイレクトに力に反映される今のこの世界において、あなた達みたいな存在はすごく厄介かも』

 およそ、そんな意味のことを言っていた。


インデックス「好きだよ、あくせられーた」一方通行「…はァ?」-4
続きます

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