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インデックス「好きだよ、あくせられーた」一方通行「…はァ?」-2

インデックス「好きだよ、あくせられーた」一方通行「…はァ?」
続きです

161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 13:07:32.43 ID:GhsHk+yE0
神裂「良かった。無事なようですね」

美琴「おかげさまで。あと少し遅れてたらどうなってたかわからなかったわ」

打ち止め「ミサカからもお礼します! ありがとう! ってミサカはミサカは深々と頭を下げてみたり!!」

神裂「礼には及びません。そのために私はここにいるのですから」

 神裂は踵を返し、美琴と打ち止めに背を向ける。

美琴「神裂さん?」

神裂「申し訳ありませんが私はこのまま土御門たちを追います。土御門のことですから、彼女に非道な真似は行わないとは思いますが……その保証はない」

神裂「上条当麻とステイルにはよろしくお伝えください。それでは」

美琴「あ、神裂さん!」

 神裂はぐっ、と地面を踏み込み、そのままマンションの屋上まで一気に跳躍する。
 上条が『竜王の顎』を使ってようやく為したことを、彼女は単純な身体能力のみでやってのけた。

美琴「神裂さん……服くらい、着替えていっても……」

 美琴は改めて自分の姿を確認する。
 爆発の影響で所々焼け落ちてさらに露出が増してしまった感のある大精霊チラメイド。
 神裂は美琴よりもさらに生地が焼け落ちて、とんでもないことになっていたような気がするのだが……

美琴「………おぉぅ」アカァ~

 今更ながらに羞恥心が込み上げてきた美琴は、アンチスキルやジャッジメントが集まってきてはたまらんと、そそくさとその場を離れるのだった。

162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 13:10:47.71 ID:GhsHk+yE0
神裂「土御門……どこにいる……!」

 神裂はその常人離れした視力と聴力でもって土御門たちの乗る車を探す。
 手がかりとなるのはあの時聞いた車の走り去る音だけ。
 神裂はその意識を土御門たちの探索にのみ集中させる。
 そこに、己の痴態を気にする隙間はない。
 そしてついに。

神裂「見つけたぞ、土御門!!」

 標的の姿を発見した神裂は進撃を開始する。
 ビルからビルへ。屋根から屋根へ。
 ただ、かつての友を救うためだけに――――



 ―――堕天使が、学園都市の夜空を舞う。


164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 13:15:39.13 ID:GhsHk+yE0
 番外個体達が乗る車を追い続け、一方通行は次第に違和感を覚え始めていた。

一方通行(ヤツらは一体どこに向かってやがる……このまま行けば学園都市を囲む『壁』に当たるだけだ)

 二百三十万人弱の人間が住まうこの学園都市は、機密保持と防衛のため周囲をぐるりと壁で囲んでいる。
 壁の大きさは高さ八メートル、幅三メートル程もあるといわれており、壁の外に出るには専用の門に回る必要があるのだ。
 奴等が進む先に、その門があった覚えはない。

一方通行(また何かくだらねェコトを考えてンのか、ただ追い詰められて袋の鼠になっちまっただけか……)

 どちらでもいい、と一方通行は切り捨てる。

一方通行(どっちでもやるこたァ変わらねェ)

 前方から襲ってきた閃光―――『ウサギの骨』を黒い翼で打ち払い、一方通行は加速する。

一方通行(さっさとこの不愉快な状況を終わらせる。そンで、この茶番を仕組んだクソ共は纏めて潰して肥溜めン中に帰してやらァ!」

 後半部分はつい声に出してしまっていた。
 地平線に学園都市を囲む壁が見えている。

 鬼ごっこの終わりは近い。


165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 13:20:19.75 ID:GhsHk+yE0
 いよいよ壁が近づいてきた。
 しかし、相変わらずオープンカーには進行方向を変えようとする気配がない。

一方通行(なンだァ? マジで壁に突っ込む気かよ!?)

 さらに壁に近づいたところで異変に気付いた。
 壁の真下にもう一台車がいる。
 黒い大型のワンボックスカー。
 一人の男がそこに寄りかかるようにして立っている。
 夜の闇の中で、男の金髪は異彩を放っていた。
 金髪の男はサングラスを持ち上げ、不敵に笑い、開けっ放しになっていた後部座席を親指で指す。


 そこには、夜の闇の中でさらに眩い、純白の、修道服の少女が――――


一方通行「クッッッソヤロォがァァァァァァあああああああああああ!!!!!!!!」

 咆哮と共に、一方通行の背中の黒翼がさらに勢いよく噴出した。


167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 13:25:35.23 ID:GhsHk+yE0
土御門「あの反応、インデックスに気付いたか。急げよフレンダ。恐らく奴の到達まであと30秒無いぞ」

フレンダ「うえぇっ!? ちょ、ちょっと待ってよ! 車一台通る範囲にテープ張るのもけっこう大変なんだっつの!!」

フレンダ「ってか、アンタも手伝え!!」

土御門「結標。結標淡希。おいショタコン」

結標「………やかましいクソ御門……うぷ…まだ完全にトラウマを克服したわけじゃないって言っているのに……馬鹿みたいにこの車ごとテレポートを繰り返させて……」

土御門「この場所に先回りするためには仕方なかった。お疲れの所悪いがもう一働きしてもらうぞ」

結標「……見ての通り、もう能力使えそうなコンディションじゃないのだけれど」

土御門「なら俺達はめでたく全滅だ。原形を保ったまま死ねるかも怪しいな」

結標「………ビニール袋の用意はしてある?」

滝壺「はいこれ。ダッシュボードに入ってた」

結標「……ありがとう滝壺さん。あなたも体調がよくないのに、悪いわね」

滝壺「がんばって、あわき。そんなゲロ吐きそうなあわきを私は応援してる」

結標「…………」


168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 13:32:31.86 ID:GhsHk+yE0
フレンダ「やっと出来たーーッ!!」

 学園都市を囲む『壁』に、扇形に『テープ』を貼り付けたフレンダは快哉の叫びを上げる。
 もちろん、フレンダが貼り付けたテープはただのテープではない。
 このテープは、フレンダが着火する事で鉄板などを容易く焼き切る特殊な導線となるのだ。
 フレンダはその手に持った着火用のツールをテープに押し付ける。
 バヂィ! と音を発してテープが発火し、壁に扇形の亀裂が走った。

フレンダ「もちろん、厚さ三メートルもある壁を焼き切ることなんて出来ないけど、こうやって切れ目さえ入れておけば」

 猛烈な勢いで近づいてくるエンジン音があった。
 海原光貴がハンドルを握る赤いオープンカーは、最高に近い速度を維持しながら亀裂の走った壁へと突っ込んでいく。

フレンダ「後は絹旗がやってくれるって訳よ!!」

 衝突の瞬間、ボンネットのギリギリの所に貼り付いていた絹旗がその腕を振りかぶり―――
 ボゴォン!! と凄まじい音を立て、亀裂に沿って壁にトンネルが開通した。

フレンダ「へへん! 結局『アイテム』のチームワークの勝利って訳よ!!」

 勝ち誇るフレンダの隣りを抜け、黒いワンボックスカーが開通したトンネルを走り抜けていく。

フレンダ「はえ?」

 振り返る。誰もいない。車もない。一方通行はすぐそこまで迫ってきている。

フレンダ「はれーーーーーーー!!!?」

 暴虐の翼を振るう一方通行が『壁』に空いたトンネルに突っ込んだ。
 その後には、フレンダの体など塵ひとつ残っていなかった。

174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 13:40:21.61 ID:GhsHk+yE0
フレンダ「ふわぁーーん!! 見捨てられたかと思ったーーーー!! 見捨てられたかと思ったよーーーー!!」エーン!

滝壺「大丈夫だよフレンダ。そんないつでも死亡フラグにまみれてるフレンダを私は応援してる」

土御門「お前を待ってたら完全に捕まってたんでな。……結標」

結標「………………何よ」ゼェ…ゼェ…

土御門「ビニール袋は何枚でもあるからな」




一方通行(『壁』を破壊したのに警報ひとつ鳴りやがらねェ! クソが! 何もかもが奴等に都合がいいよォに動くようになってやがる!!)

 一方通行は考える。
 もう追いつくのは簡単だ。問題は追いついたあと、どうやって車の足を止めるかだ。
 どんなに穏便な方法でも、外から止めるやり方では乗車している人間にダメージがある。
 気絶している様子のインデックスにはなおさらだ。
 やはり直接乗り込むしかない。
 そう結論付け、一方通行は加速し、黒いワンボックスカーに追いつく。
 その屋根に拳を叩き込もうとして―――――突如、ワンボックスカーそのものがふっと姿を消した。
 消えた後の空間にはただ爆弾の群れだけが漂っていて。
 連続する爆発をかわす術はなく、一方通行は爆炎の中に飲まれた。


180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 13:47:53.36 ID:GhsHk+yE0
 もちろんそんなものは一方通行に一切のダメージを与えない。
 だがもうもうと立ち上る爆煙が一方通行の視界を極端に阻害した。
 これではあの車が“どちら”に“どれくらい”『飛んだ』のかわからない。
 飛んだのがあの黒いワンボックスだけなのか、それとも番外個体の車も飛んでいるのか、それさえもわからない。
 わからない以上迂闊に動くことが出来ない。
 まったく逆の方向に進んでしまい、それで番外個体から1200m以上離れてしまったりしたらお話にならないからだ。

一方通行「うざってェッ!!」

 一方通行は翼を振るい、周囲を漂う煙を消し飛ばす。
 そしてすぐに周囲を確認した。

一方通行「……あァ?」

 一方通行は思わず困惑の声を上げた。
 連中はそう離れていない所にいた。距離は精々200mといったところだ。
 黒いワンボックスと赤いオープンカーは揃って停車し、その前に番外個体とインデックスを除く全員が横一列に並んでいる。

一方通行(何だァ…? あれも、魔術ってやつなのか?)

 まあいい。何がこようと構いはしない。
 奴等は致命的なミスを犯している。
 一体何を企んでいるかは知らないが。


 そこにインデックスも番外個体もいないのならば、一方通行は一切の容赦なく全てを叩き潰すことが出来る。


181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 13:54:36.12 ID:GhsHk+yE0
土御門「いいか、タイミングを合わせろ。全員が揃わなければ恐らく奴には通じん」

海原「やれやれ。たとえ我々が最高のパフォーマンスを発揮出来たとしても、それが通じるかは神のみぞ知る、ですか」

フレンダ「何で私たちまでこんなことしないといけない訳よ!! 報酬倍もらうくらいじゃすまないからね!!」

絹旗「超不愉快です! もし無事にこの仕事が終わったらその超ダサダサな金髪を超むしり取ってやります!!」

結標「………もういい。もうなんでもいい。早くこの仕事が終わりさえすれば」

滝壺「がんばって、あわき。そんな上司に恵まれないあわきを私は応援してる」

番外個体「ミサカは一体何するのか聞いてないんだけどさ、暗部最高峰の六人の共演による切り札なんだ。こりゃわくわくしちゃうね」



一方通行「おおォォォォォォォォおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」




土御門「来るぞッ! 心を込めろッ!! 全身全霊を注ぎ込めッ!!」



土御門「いくぞぉッ!!!!」



182 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 13:56:24.07 ID:GhsHk+yE0











土御門他「  ご   め   ん   な   さ   い  ! ! ! ! ! !  」













187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 14:03:15.96 ID:GhsHk+yE0
 土下座である。
 学園都市暗部最高峰、『グループ』と『アイテム』の共演によるこの上ない謝罪の形である。

一方通行「……おゥ?」

 六人がピシィ――! と揃って土下座するこの光景にさすがの一方通行も目が点になった。
 どォいうこと?
 同じく目が点になっている番外個体に目で問うてみる。
 首を傾げられた。
 どうやら番外個体もよくわかっていないらしい。

土御門「すまなかったな、一方通行。色々と迷惑をかけたが、悪気はなかったんだ。許してくれ」

 リーダー格らしい金髪サングラスが立ち上がり、膝についた砂を払いながら話しかけてきた。

一方通行「悪気はなかった……だァ? 悪気はねェで済ンだらなンちゃらかンちゃらって言葉知らねェのか?」

土御門「仕方がなかったのさ。一方通行の足止めはする。番外個体も救う。両方やらなくっちゃならないのが暗部のつらいところでな」

一方通行「なに……?」

 一方通行は顔をしかめる。
 今、この金髪は何かおかしなことを言わなかったか?
 番外個体を―――どうするって?

土御門「俺達は味方だ、一方通行。今から番外個体の中にあるクソッタレな爆弾を取り外すぞ」


191 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 14:09:20.45 ID:GhsHk+yE0
一方通行「……どォいう事だ」

土御門「そういきりたつな。ちゃんと説明してやる。番外個体の頭には『セレクター』という爆弾が埋め込まれていることは聞いたな?」

土御門「その起爆条件は『1.カミやんの幻想殺しが番外個体に触れること』、『2.一方通行が窓のないビル内部に侵入すること』、『3.番外個体が瀕死の状態に追い込まれること』の三つだ」

一方通行「待て。俺から1200m離れたら爆発するってのがあったろが」

土御門「あぁ、そりゃ嘘だ」

一方通行「あァッ!?」

土御門「俺がでっち上げた、お前をここまで連れてくるための方便だよ」

一方通行「テメ…!」

土御門「話を続けるぞ。この起爆条件の1番から俺は『セレクター』の起爆には魔術が絡んでいると読んだ」

土御門「魔術ってのは超能力とは違う形の異能の力だとでも理解しといてくれ」

土御門「『セレクター』はすでに起動済みで、いつ爆発してもおかしくない状態になっていて、それを魔術で無理やり押し留めているものと俺は推測する」

土御門「どんなに優れた外科技術―――たとえ『冥土帰し』でも摘出出来ないって理由はここにある」


土御門「そこで『禁書目録』の力が必要なのさ」


193 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 14:14:42.99 ID:GhsHk+yE0
土御門「……あまりカミやん達を責めてやるなよ」

一方通行「あン?」

土御門「俺がインデックスの奪取に成功したのは不意打ちに騙し討ちを重ねたからだ。あいつらは“そういうやり方”にひどく弱い。なんせ奴等はとことん善人だからな」

一方通行「……ンなこたァ、言われるまでもなくわかってンだよ」

土御門「ならいい。説明を続けるぞ。俺達はこれから……」


神裂「土御門ぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!!!」ズシャアッ!


土御門「うげ、ねーちん! 追ってきてたのか!!」

神裂「あの子を返してもらいます! もしあの子に何か危害を加えていれば、この刀の錆となることを覚悟しなさい!!」

土御門「待て! 落ち着けねーちん! 落ち着いてまず周りを見ろ!」

神裂「周り!? 周りが一体どうしたと……」

フレンダ・絹旗・滝壺・結標・海原・番外個体「…………」ポカーン

神裂(堕天使)「はっ!?」

一方通行「……オマエ何してンの?」

神裂(エロメイド)「はぁぁッ!?」

194 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 14:18:26.82 ID:GhsHk+yE0
一方通行「オイ、何してンだって聞いてンだよこっちはよ」

神裂「は、はう、あの、ええと、これは、その」

一方通行「オマエがそンなカッコして遊ンでっからあっさりインデックスを連れ去られたりしてンじゃねェのかオイ」

神裂「はうぅ!!」ズキーン!

土御門「ねーちん……まさかその格好のままで追ってくるとは思わなかったにゃー……聖人としての誇りはどこにいったぜよ……」

絹旗「性人……」ゴクリ…

フレンダ「成程……これ以上なくふさわしい呼び名って訳よ」ゴクリ…

一方通行「もォいい。馬鹿に構ってねェで話続けンぞ」

神裂「うぐぅ……!」シューン

土御門「……あんまり責めてやるなよ、一方通行」


198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 14:24:18.69 ID:GhsHk+yE0
一方通行「インデックスの力が必要ってのはどォいうこった」

土御門「必要なのはあくまで『禁書目録』だ。インデックス自身に何かしてもらおうって訳じゃない」

土御門「番外個体の『セレクター』を除去する方法を、俺も色々考えた。本当に色々な。結果、『セレクター』を爆発させることなく除去できそうな方法はひとつしか思いつかなかった」

土御門「俺達が禁書目録に求める魔道書の名は『時流考察』。その名の通り時間の流れを操る術が記された魔道書だ」

土御門「それを利用し、“番外個体の時間を巻き戻すことで『セレクター』が取り付けられた事実そのものを無かったことにしちまおう”って訳だ」

一方通行「……また随分ファンタジーでオカルトな事を言い出したモンだなオイ」

土御門「魔術ってのはファンタジーでオカルトな物だと相場は決まってるのさ」

一方通行「……疑問しか残ンねェが」

土御門「質問はいくらでも受け付けるぞ」

一方通行「記憶はどうなる。『セレクター』ってのは確か頭についてンじゃなかったか?」

土御門「それは問題ない。時を戻す範囲を『セレクター』取り付け部周辺に限定すれば脳に影響は及ばん」

一方通行「誰がソレをする。そンな夢みてェな真似が出来るマホーツカイ様に心当たりはあンのかよ?」

土御門「もちろんだ。術式はウチの海原が行う」


200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 14:30:05.07 ID:GhsHk+yE0
一方通行「へェ……そォいうコトならよろしく頼むわセンセイ。早まって殺しとかなくてよかったぜ」

海原「まあ……全力は尽くさせてもらいますよ。自分も、『ミサカ』を名乗るあの子達には少々思い入れがあるのでね」

一方通行「……?」

神裂「ま、待て土御門!」

土御門「どうした性人」

神裂「コラァッ!!」

土御門「悪い悪い。それで、どうしたんだ?」

神裂「さっきから黙って聞いていたが、お前の言っていることは無茶が過ぎる! そもそもあの子の頭の中から特定の魔道書を引き抜くことなど不可能だ!」

神裂「そうやって魔道書を盗まれるのを防ぐために『必要悪の協会(ネセサリウス)』がどれ程の対策を打っているか、お前も知っているだろう!」

土御門「確かにな。だが出来るのさねーちん。今回のケースに限っては、他ならぬ海原光貴が、他ならぬ『時流考察』を求める場合に限っては例外なのさ」

神裂「ど、どういうことだ……?」

土御門「海原は既に魔道書の『原典』を二つ所持している」

神裂「!?」

201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 14:35:30.44 ID:GhsHk+yE0
土御門「詳しい説明は省くが、海原が所有する二冊の内の一冊は『生と死に関する時間』について記述されたものだ」

土御門「その『原典』だが、どうも自分の意思を持っているのではないかという程に自身の完成と普及に貪欲らしくてな」

土御門「海原の持つ『原典』も『時流考察』も、共に時の流れについての知識が書かれた魔道書同士。海原の方の原典は恐らく『時流考察』の方の知識を欲しがるはずだ」

土御門「だから、俺達はただ海原の持つ『原典』に『禁書目録』を差し出してやればいい。後は勝手に『原典』が『時流考察』の知識を引き出してくれる」

神裂「しかし…! 魔道書の『毒』はどうなる!? 既に二冊も取り込んだ身で、さらにもう一冊取り込んだりしたら……!」

海原「二冊も三冊も大して変わりませんよ。二度あることは三度あると言うでしょう?」

一方通行「三度目の正直とも言うぜ?」

海原「それなら仏の顔も三度まで、という言葉に期待するとしましょう」


202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 14:40:51.69 ID:GhsHk+yE0
土御門「わざわざこんな回りくどい真似をしたことについては謝るよ。しかし、監視の目を誤魔化すためには仕方なかった」

一方通行「監視衛星を誤魔化す方法なンて他に幾らでもあったろォが」

土御門「監視衛星? そんなもんじゃない。学園都市の中には『滞空回線(アンダーライン)』と呼ばれる極微細な監視機が常時5000万機も飛び回っている」

土御門「学園都市内に『連中』の死角など存在しないのさ。だから、何とかして番外個体と禁書目録を学園都市の外に連れ出す必要があった」

一方通行「それだけのためにしちゃ随分とまァ殺すよォな勢いで俺を攻めてくれたモンだな」

土御門「下手に手心を加えれば『連中』に勘付かれる危険があった。俺達の目論見がばれて『セレクター』を先に爆発させられてはたまらんからな」

土御門「それに、思いっきりやってもお前が死ぬことはないだろうと踏んでいた。信頼って奴だよ、一方通行」

一方通行「まさかその言葉をこンな反吐の出る思いで聞くことがあるとはな」


204 名前:ハイパー理屈タイム終了[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 14:46:20.07 ID:GhsHk+yE0
番外個体「何か勝手に盛り上がってるとこ悪いんだけどさ、ミサカの意思は完全に無視なわけ?」

土御門「断る理由があるか? お前も自分の中に爆弾があるなんて疎ましく思っていただろう?」

番外個体「ま、それは確かにそうなんだけどねー。忘れちゃいけないよ。ミサカという個体は『一方通行』を苦しませるためだけにこの世に存在している」

番外個体「そんなミサカが何であなたが喜ぶようなことに進んで協力しなきゃなんないのさ」

一方通行「………」

番外個体「どうしてもって言うんならさぁ、そこに土下座してお願いしなよ。そしたら考えてあげてもいいよー? ぎゃははっ!」

一方通行「………」ザッ

番外個体「え、ちょ、何してんのさアンタ」

 その場にいた全員が言葉を失った。
 “あの”一方通行が、迷いなく地面に膝をつけ、頭を下げていた。

一方通行「頼むわ」

 ―――今更プライドなどいるものか。
 既に命すら捨てる覚悟で事に臨んでいる。

番外個体「……だからさぁ、そういうキャラに合わないような真似されると、ミサカリアクションに困るんだって……」


205 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 14:51:25.49 ID:GhsHk+yE0
 そして―――――

番外個体「………」

 心なしか軽くなったような気がする後頭部を番外個体は撫でさする。
 そんな番外個体に土御門が近づいてきた。

土御門「調子はどうだ?」

海原「良好とは言い難いですね。戻す長さと範囲にもよるでしょうが、『時戻し』はあと一度使うのが精々といったところでしょう」

土御門「お前じゃねえよ。空気読め」

海原「やれやれ、これほど血まみれになった同僚に向かって随分と冷たい事を仰いますね」

滝壺「大丈夫だよ、エツァリ。そんな恋も仕事も報われないエツァリを私は応援してる」

海原「ちょっ!? あなた一体何を知ってるんです!? っていうか何で本名知ってんのぉぉぉぉおおおおおおお!?」

滝壺「……次元の彼方から電波が来てる……」


206 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 15:01:08.08 ID:GhsHk+yE0
土御門「で……どうなんだ?」

番外個体「そうだね。頭の中にずっとあった異物感は無くなってる。確かにミサカの中から『セレクター』は消えてなくなったみたいだ」

土御門「これでお前が上の命令に従う必要は無くなった。後は好きに生きればいい」

番外個体「といわれてもね~……」

土御門「やはり許せんか? 一方通行の事が」

番外個体「……ミサカはさ、『妹達(シスターズ)』によって形成されるミサカネットワークの中から憎悪の感情を汲み取りやすいように調整されているんだけど」

土御門「ああ、確かそんな話だったな」

番外個体「……薄いんだよね、その感情が。一万回も殺されてきたってのにさ。『妹達』が何を考えているのか、ミサカには理解不能だよ」

土御門「お前だってネットワークを構成する『妹達』の内の一人だろう」

番外個体「ふん」

一方通行「おい」

 今までインデックスの調子を確かめていた一方通行が、今度はこちらに声をかけてきた。


208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 15:07:41.53 ID:GhsHk+yE0
一方通行「オマエはこれからどォする気だ」

番外個体「それを今考えてたとこだったんだよ」

一方通行「……行く当てがねェならウチに来い」

番外個体「はぁ? 本気?」

一方通行「今の時点でガキとガキと馬鹿が居候してンだ。今更一人増えた所で構やしねェよ」

番外個体「……ミサカは、あなたへの憎悪を汲み取りやすいように調整されている」

一方通行「そォか」

番外個体「いつ寝首を掻きに行くかわからないよ?」

一方通行「好きにしろ。で、どォすンだ」

 言いながら、一方通行は番外個体に向かってその手を差し出す。
 番外個体は目を丸くして、それからしばらく逡巡していたが―――やがて、パァン! と盛大な音を立てて一方通行の手を取った。

番外個体「ま、今更他にやりたいことなんてパッとは思い浮かばないし? しばらくはあなたの周りをウロチョロさせてもらうよ」

 結局自分にはそれしかないのだと、番外個体は思う。
 なんせ、生まれてから今までずっと。
 ずっとずっとずっと。


 ――――ミサカは、ただあなただけを想い焦がれてきたんだから。

213 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 15:12:37.72 ID:GhsHk+yE0
 風斬氷華は夜の街を散歩していた。

 決して治安がいいとは言えないこの学園都市の夜を、彼女はこうやって一人でよく歩いている。

 好きでそうしている訳ではない。

 ただ、共に歩む者がいないから。ただ、帰る家が存在しないから。

 風斬氷華はずっと一人で歩いている。

 いつもいつも、泣きそうになりながら歩いている。

 けれど、この日、風斬氷華の顔には笑みが浮かんでいた。

 胸のうちには初めて出来た友達との思い出が溢れている。

 だから、彼女が今この時この場所にいたのは偶然なんかじゃなくて。


 少女達との再会を望む風斬氷華の想いが、彼女をこの場所へ導いた。


214 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 15:19:24.47 ID:GhsHk+yE0
上条『すまん!!』

 電話をかけた一方通行に対し、最初に出てきたのは謝罪の言葉だった。

上条『俺がいながらインデックスをみすみすと連れ去られちまった……!』

一方通行「あァ…その件についてはもォいい」

 この件について、一方通行に上条を責める気は無かった。
 当の一方通行だって散々踊らされた挙句、まんまと学園都市の外までおびき出されているのだ。
 これは上条を責めるのではなく、単純に土御門の手練手管を褒めるべきなのだろう。

一方通行「インデックスは無事だ。馬鹿女が狂った格好してる以外はこっちに異常はねェ。そっちの状況はどうだ?」

上条『うわぁ……神裂の奴、ホントに着替えずに行ったのか……打ち止めとミサカは無事だ。他に怪我人もいない』

打ち止め『もしかしてその電話の相手はあの人!? 代わって代わってー! ってミサカはミサカはお願いしてみる!』

一方通行「……ガキは相変わらず能天気丸出しで何よりだ。一時間かそこらでそっちに戻る。詳しい話はその後に……」

 ごとん、と電話の向こうで音がした。
 それは、一方通行が今まで散々聞き慣れている音だった。
 意識を失った人間が、何の受身も取らず地面に転がった音だった。

一方通行「おい……どォした」

上条『打ち止め!? どうした! 打ち止め!! な……ミサカまで!?』

一方通行「どォしたオイ返事しろ三下ァッ!!!!」

217 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 15:25:53.44 ID:GhsHk+yE0
上条『打ち止めとミサカが急に倒れた! 打ち止めのほうはずっとうわ言みたいに訳のわからない言葉を繰り返してる!』

一方通行「なンだとォ…!?」

番外個体「ねぇ。まずいよ。何かよくない事が起こってる」

一方通行「あァッ!?」

番外個体「上位個体から訳の分からない演算命令がきてる。ミサカは特別な処理がされてるから命令を拒否出来るけど、他の『妹達』は多分演算を強制されているはず」

 番外個体はまるで頭痛をこらえているかのように額に手を当てている。

番外個体「何このコード……ミサカはこんなコード知らない……『ヒューズ=カザキリ』……? 何それ…?」

上条『何だ…うわぁぁぁあああああ!!!!』

 ブツン、と電話は突然切れた。
 原因を問う必要はなかった。
 学園都市の壁の内側で、何か得体の知れない光が空に向かって噴き上がっている。
 次々とその数を増やし、生き物のように蠢くその光は、まるで巨大な昆虫の羽のようだった。

一方通行「オイ……アレもオマエの差し金か…?」

土御門「いや、知らん……“あんなもの”、俺は知らんぞ……!」

 一方通行の握り締める携帯電話がビキィ、と音を立てた。
 長さ百mにも及ぶ光の翼が噴き上がるその場所は、一方通行の部屋がある方角と完全に一致していた。

218 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 15:31:42.82 ID:GhsHk+yE0
>>207
歩く教会壊さないと結標の『座標移動』で部屋から連れ出せなかったし、海原が魔道書を頭から盗むことも出来なかったからやむをえずやった
この話では歩く教会はあらゆるものを無効化するというかなりチートな防御力設定 これまで突き破ったのは垣根帝督の『未元物質』だけ

>>210
土御門は『猟犬部隊』の襲撃を知らない
それを強調したくて>>143を挟んだんだけど逆効果だったみたいね 書き方が悪かった

以上、ちょっと気になった部分のプチ補足でした

219 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 15:39:18.86 ID:GhsHk+yE0
 ゆらり、ゆらりと『風斬氷華だったもの』の体が揺れる。
 辺りの建物は彼女の背中から生えた大小数十本もの光の翼によって薙ぎ倒され、瓦礫の山と化していた。
 風斬氷華――否、科学の力によって生み出された人工天使、『ヒューズ=カザキリ』の半開きになった口元からは、涎が止め処なく零れ落ちている。

風斬『う…ぁ…あ……』

 だらしなく伸ばされた舌。焦点の合っていない眼球。
 今の風斬氷華にまともな思考能力など残ってはいない。
 彼女の頭上に浮かぶ直径五十センチ程の輪が、高速で回転し、無数の棒を外周部でガチャガチャと出し入れし、風斬氷華に『ある情報』を入力し続ける。
 すなわち、恐怖。
 色を失い、白黒になった視界の中で、風斬はただ恐怖に駆られ、力を振るう。

風斬(……た…す……け……て……)

 思う事は出来ても、言葉にすることは許されない。
 チカチカと風斬の周囲で光が瞬いた。
 その光から逃れるように、または引き寄せられるように、風斬は操られ、歩を進めていく。

 ―――その足が、ピタリと止まった。
 白黒になった世界の中で、あらゆる意味をなくした世界の中で、黒々とした『何か』が風斬の前に立ち塞がっていた。

「いいぜ……お前が、あの子達を犠牲にしてまでそんな力を手に入れたいっていうのなら」

 その『闇』が何を言っているのか、今の風斬には理解することができない。
 ただ、怖い。その思いだけが、今の風斬の中にある全てだった。

「そんな幻想は、この俺がぶち殺してやる」

 瓦礫の山と化した街の中で、上条当麻と風斬氷華が対峙する。

221 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 15:48:48.53 ID:GhsHk+yE0
 倒壊したマンションから奇跡的に無傷で脱出した後―――
 “打ち止めとミサカは目の前にいる『天使のような何か』と電波を介して干渉し合っている”、と御坂美琴は言っていた。

上条「……お前は一体、何者なんだ?」

 ふらふらと足取りおぼつかなく佇む風斬に上条は問いかける。
 答えはない。
 風斬の頭上でガチャガチャと天使の輪が蠢いた。
 風斬の背中から生える数十の翼の周りで、バチバチと電撃のようなものが迸り始める。

上条「もし、あの子達を苦しめているのが本当にお前だっていうんなら、やめてくれ。あいつらはもうこれ以上苦しんじゃいけないんだ」

 電撃のような何かが上条に向かって放たれた。
 蛇のようにのたうち、上条に迫ったその力はしかし突き出された右手によって掻き消される。

上条「そうかよ……それがお前の答えだってんなら」

 上条は拳を握る。風斬氷華は怯えたように一歩下がる。

上条「力尽くでもやめさせるぞッ!! 馬ッッ鹿野郎!!」

 駆け出した上条に向かって次々と紫電が放たれる。
 だが、その全てを上条の右手は掻き消していく。
 上条と風斬の間の距離が詰まる。上条が右手を振りかぶる。
 風斬の前方で強烈な光が瞬いた。
 その光は上条の目を眩まし、風斬氷華を怯えさせ後ろに転ばせる。
 結果、上条の拳は空を切り、風斬の右腕を掠るにとどまった。


 でも―――――それだけで十分だった。

223 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 15:55:36.50 ID:GhsHk+yE0
風斬『ィィィァァァァァアアアアアア―――――――――――――!!!!!!』

 耳をつんざく絶叫が空気を震わせた。
 上条の右手が触れたところから、風斬の右腕が『分解』されていく。
 まるで立体に組み上げられたパズルのピースがバラバラと崩れ落ちていくように。

上条「なっ……!?」

 あまりに予想外の出来事に、上条の目が見開かれる。
 そんな上条が見ている前で、ボン! と音を立て、風斬の右肩が爆散した。

風斬『ヒィィィィィィイイイイイイイイッ!!!!!!』

 根元からちぎれた風斬の右腕がぼとりと地面に落ちる。
 途端に急速に分解が進み、地面に落ちた右腕はあっという間にその姿を消した。

風斬『あ…ひ…』

 くるりと風斬は上条に背を向ける。とにかく上条から逃げ出そうとふらふらと足を進めようとする。
 ガチャガチャと頭上の天使の輪が蠢いた。
 ごきごきと無理やり関節を捻じ曲げるような音が響き、ぐりんと勢いよく風斬の体が反転し、再び上条の方を向いた。
 ガチャガチャと蠢く天使の輪。
 無くなった筈の右腕が、ビデオを巻き戻したように復元されていく。


226 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 16:01:31.29 ID:GhsHk+yE0
上条「なん…だよ……どうなってんだよ……」

 上条はその場に立ち尽くしていた。
 握っていた拳はもう解けてしまっている。

上条「違うのか…? これは、お前の意思じゃ……ないのか……?」

 風斬氷華は答えない。
 ただ、ギシギシと風斬の体を無理やり捻じ曲げる音だけが聞こえている。
 ぽとり、と風斬のポケットから何かが落ちた。

上条「え?」

 それは、一枚のプリントシール。
 その中では、おかしな格好をした少女達が、照れくさそうに、楽しそうに、笑ってVサインをしていて――――

風斬『ぅゥアああアアあああああアあアアあああアアアアア!!!!!!』

 風斬が弾ける様に飛び出した。
 思わず上条は反射的に身構える。
 しかし風斬はそんな上条に目もくれず―――落ちたプリントシールをかばう様に蹲った。
 ガチャガチャと天使の輪が激しく音を鳴らす。
 風斬の周りで光が連続して何度も何度も瞬いている。
 でも、風斬はその場を動かない。
 ギシギシと、ゴキゴキと風斬の体から嫌な音が鳴っている。
 それでも――――風斬はその場を動かない。

上条「ふざけんな……! 誰だ、ちくしょう!! 誰がこんなふざけた真似をやってんだぁぁぁぁぁあああああああ!!!!」

 その拳の向ける先を定められないまま、上条当麻は絶叫した。

230 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 16:07:42.77 ID:GhsHk+yE0
 瓦礫の山の中で、御坂美琴は立ち尽くしていた。

美琴「何よ…これ……どういうこと……?」

 美琴は倒壊した建物に埋もれてしまった住民の救助に当たっていた。
 そして、既に瓦礫の下から救出した住民の数は六人。

 その六人は、誰一人として死んでいなかった。
 それどころか、たったひとつの傷すらない。

 意識を失った住民の周囲に、黄金に輝く鱗粉のような物が漂っていた。
 ふと、美琴はすぐ近くに寝かせていた打ち止め、ミサカ、ステイルの体に目を走らせる。
 同じだ。よく見れば光り輝く鱗粉が打ち止め達の体にこびり付いている。

 崩れるマンションから無傷で脱出出来たのは奇跡だと思っていた。
 でも、違った。それにはちゃんと理由があった。
 誰かが何かをしたからここにいる人間は誰一人として傷ついていない。

美琴「……ッ!!」

 美琴は救出活動を中断し、『天使のようなもの』の下へ、そこにいるはずの上条当麻の下へ走る。

 伝えなきゃいけないと思った。
 どうしてかはわからないけれど、絶対にこの事をアイツに教えてやらなきゃいけないと、御坂美琴は強く思った。


231 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 16:14:39.45 ID:GhsHk+yE0
 困惑する上条の背後で車のブレーキ音が連続する。
 振り向くと、そこには四台の装甲車が現れており、その中から上条にも見覚えのある集団が降りてきた。

上条「あれは……『警備員(アンチスキル)』か!?」

警備員A「一班、二班、三班はすぐに付近住民の救助に当たれ! 四班は目標と距離40を保って包囲!」

警備員B「了解!」

警備員C「おい、君! ここは危険だ! すぐに離れろ!!」

 リーダーと思しき男の号令の下、『警備員』は迅速に行動を開始する。
 八人の『警備員』がそれぞれの手に物騒な武器を持ち、風斬氷華を包囲した。

上条「な…! 待て! 待ってくれ!! 違う! ソイツは違うんだ!!」

警備員C「馬鹿! 離れろと言っているだろう!!」

上条「離せ! 離してくれ!!」

警備員A「警告する! これ以上破壊活動を行うなら直ちに発砲するぞ! すぐにその『能力』を解除し、投降しろ!!」

風斬『あ…う…』

 警備員の恫喝に風斬が反応した。
 ふらふらと立ち上がり、ぎょろぎょろとその見開かれた眼球を動かす。
 その胸に、拾い上げたプリントシールをかき抱くようにして。

232 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 16:19:38.07 ID:GhsHk+yE0
 ガチャガチャと天使の輪が蠢いた。
 バチバチと音を立て、電撃に似た何かが風斬の翼の周りに集中する。

警備員C「チッ…! おいやめろ! 本当に撃つぞ!!」

 ガォン! と風斬の翼から光の矢が放たれた。
 光の矢は『警備員』が乗ってきた二台の装甲車を巻き込み、そのまま地平線の彼方へ消え―――
 直後に、空の彼方が爆発の光に照らされて、ズズン……と低い振動が上条たちの立つ場所まで伝わってきた。

警備員A「……おい、あっちの方角には何があった?」

警備員D「あっちの方角はすぐ海になってます。被害は大きくはないでしょう……あの攻撃が海の向こうの大陸まで届いていなければ、ですが」

警備員B「冗談じゃないぞ。あんなものをそこかしこに撃たれたら、学園都市は滅んじまう!!」

警備員A「やむをえん。全員撃ち方構え! 目標を直ちに無力化しろッ!!」

上条「やめろぉッ!!」

 体を押さえつけていた『警備員』を振りほどき、上条は風斬の前に躍り出る。
 その両腕を広げて、まるで風斬の壁となる様に。


233 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 16:26:47.88 ID:GhsHk+yE0
警備員A「な…何をしている! どけ! どくんだ!!」

上条「どかない……コイツだって、こんなことやりたくてやってるわけじゃないんだ……!」

警備員A「何を……言っている……」

美琴「待ちなさい!!」

 息を切らせながら駆けつけた美琴が声を張り上げた。
 今度は何だ、と『警備員』達の目が美琴に集中する。

美琴「その子じゃない! これをやったのはその子だけど、でも、きっとその子じゃないの!!」

警備員B「何なんだよ! 突然出てきて訳わかんねえ事言いやがって!!」

美琴「誰も死んでない! 誰も傷ついてなんかいない!! きっと、その子が守ってるんだ!!」

 美琴の言葉に、上条はやっぱりそうか、と一人納得する。
 上条は目の前にいるこの少女の事を何も知らない。
 でも、プリントシールに映る『彼女達』の姿を見てしまったから。
 この少女が、風斬氷華が、『あの子達の友達』が、悪人であるはずはないと確信していた。

 でも、上条には何も出来ない。

 上条の右手に出来るのは、風斬氷華を殺す事だけだ。


上条(くそ…! どうする!? どうすれば、こいつを救う事が出来る!?)


234 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 16:31:17.32 ID:GhsHk+yE0
風斬『―――――――――ッ!!!!』

 怯えが、恐怖が、不安が、風斬の心を押し潰す。
 数を増した己への敵意に、風斬が反応する。
 風斬の翼が胎動を始めた。
 来る。先程水平線を赤く染めたあの桁外れの一撃がまた発射されようとしている。

上条(ちくしょう……打ち消せるか……!?)

 上条は右手を握り締め、光が集中する翼を睨みつける。
 さっき見た光弾の威力、速度―――右手以外に当たれば、間違いなく即死だ。
 『竜王の顎(ドラゴン・ストライク)』で発射前に食い潰すか―――いや、駄目だ。下手すれば風斬ごと殺してしまう。

風斬『――――――――――――――――――ッ!!!!』

上条「おおぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!!」

 答えは出ぬまま、光弾は放たれ、上条は右手を突き出し―――――



 そこに、一方通行が舞い降りた。


236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 16:40:29.03 ID:GhsHk+yE0
 一方通行の体に触れた光弾は即座に向きを反転し、風斬の翼を何枚も纏めてもぎ取って、空の彼方へ消えていく。

風斬『いぎ―――――ヒィィイッ!!』

 風斬がかざした手から爆発的な光の奔流が生まれた。
 光は束となり、一方通行に襲い掛かる。
 しかしその全ては呆気なく『反射』され、逆に風斬の体を吹き飛ばす。
 大きく跳ね上がった風斬の体がどちゃりと地面に落ちた。

風斬『ひ…あひ…ヒィ……』

 風斬はそのまま四つん這いになって一方通行から逃げ出そうとした。
 また天使の輪がガチャガチャと音を立てる。
 風斬の周りで明滅する光が、戻るよう風斬を誘導する。
 でも、風斬はそれを全力で拒絶した。
 思考能力をほとんど奪われていても、もっと根源的な感情が風斬の体を動かしていた。
 白黒に染まった視界の中で、真っ白に輝くその存在。
 アレの恐怖を、風斬は知っている。
 アレの恐怖を、ゲームセンターで風斬はその身に刻み込んでいる。
 風斬の周りで明滅する光は、風斬に恐怖を認識させ、その行動を縛っている。
 だが、そんな恐怖など――目の前の白い狂気に比べれば、笑い飛ばせてしまえるくらいちっぽけなものだった。

 戦えと繰り返される命令(コード)。体を軋ませ、拒絶する風斬。
 結果、彼女は固まったようにその場を一歩も動く事が出来ず―――

一方通行「よォ、こりゃまた随分おめかしして現れたモンだなァオイ」

 一方通行という絶対的な恐怖の接近を許してしまった。

238 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 16:47:31.00 ID:GhsHk+yE0
一方通行「まったく、派手な登場してくれちゃってよォ。見ろ、俺ン家なンかもォ滅茶苦茶じゃねェか」

 殺される。
 嫌だ。死にたくない。
 風斬はふるふると首を振る。

一方通行「まァ、ある種のイベントに対してテンション上げンなァテメエの勝手だが、物事には限度ってモンがあるだろォが」

 ごめんなさい。
 謝ります。
 もう二度とここには現れません。
 だから、どうか、どうか許してください。

風斬『ぁ…ふ…ぁ……』

 思う事は出来ても―――言葉は、許されない。
 ガチャガチャと動く天使の輪。ぴかぴかと明滅する光。

 風斬氷華は動けない。


 そして、一方通行は風斬に向かってその手を伸ばし―――――



240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 16:49:01.67 ID:GhsHk+yE0











 ――――ごつん、とその頭を殴りつけた。











241 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 16:51:51.78 ID:GhsHk+yE0




『ちょっと待ちなよ。血相変えて飛び出そうとしてるあなたに伝えたい事があるんだけど』



『ミサカネットワークの中には今、“打ち止め(ラストオーダー)”のたったひとつの想いが溢れてる』



『助けて、助けて――――ヒョウカを、助けてあげて――――ってミサカはミサカはお願いしてみる』



『ぎゃは、どお? 今の物真似、似てた?』





245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 17:00:45.32 ID:GhsHk+yE0
風斬『……ぇ…?』

一方通行「俺も金持ってねェ訳じゃねェからよ。家の件はこれでチャラにしといてやる。つっても二度目はねェぞ」

風斬『あ…? う…?』

一方通行「あン? 聞こえねェよ。はっきり喋れ」

風斬『あ……』

 ガチャガチャガチャガチャ! と今まで以上に天使の輪が激しく動き出す。

一方通行「うるせェよ。人が喋ってる時は黙ってろ」

 一方通行が天使の輪を掴み、その動きを押さえつけた。
 あくまで『科学』によって作られたそのシステムは、一方通行の『ベクトル操作』の前に屈服する。
 風斬の目に光が戻る。光の翼が宙に融けて消えていく。

風斬「私を……許してくれるんですか……?」

一方通行「ハァ? 許すも許さねェも何も」



一方通行「オマエは、ただの一度でもあのガキ共を裏切ったンかよ?」


246 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 17:08:22.82 ID:GhsHk+yE0
風斬「……私は、この世界に存在していてもいいんですか?」

 一方通行はガシガシと頭を掻いた。
 正直言って、辟易だ。一方通行の周りには、こんな単純なこともわかっていない奴が多すぎる。

一方通行「生きるも死ぬもテメエの勝手だろォが。そンなモンに一体誰の許可がいるンだよ」

 風斬の目からぽろぽろと涙が零れ落ちる。

風斬「私は……あの子達の友達でいてもいいんですか?」

一方通行「オマエがあのガキ共の相手してくれりゃァ、その間に俺も落ち着いて飯食えたりするンだがなァ……ンン? オイオイ、こりゃ思った以上に魅力的なプランじゃねェか?」

風斬「………ありがとう……ありがとう、ございます………!」

一方通行「礼を言われる筋合いは欠片もねェよ。ンでよォ」

 一方通行は「悪い」と手で謝るようなポーズをとった。

一方通行「折角出向いてもらったトコ悪ィンだが、出直してくれや。ちょっと今、ガキが遊べるよォなコンディションじゃねェンだよ」

 本当に申し訳ないと思っているようには微塵も見えやしない。
 投げやりな、実に彼らしいと思えるその態度に、風斬は微笑みを浮かべて頷いた。
 そして―――風斬の姿が煙のように消えていく。
 最後の瞬間、「また遊びに来てもいいですか?」と風斬は言った。
 それに返す彼の言葉は決まっている。


 ――――好きにしろ。


249 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 17:17:03.05 ID:GhsHk+yE0
警備員A「消えた…? 何だ…? 一体何だったんだ…?」

一方通行「コラ、何呆けてンだ。そこらにどれだけの数の人間が埋まってると思ってやがる。人命救助こそテメエ等の本懐だろォが」

警備員A「はっ……よ、四班も直ちに救助活動に入れ! それと、応援を要請しろ!!」

 一方通行の言葉を契機として、『警備員(アンチスキル)』達はすぐに瓦礫の除去作業に取り掛かった。
 次に一方通行は風斬の消えた辺りをぼうっと眺めていた上条の尻を蹴り上げる。

上条「うぁいて!」

一方通行「なにボサッとしてやがる。『警備員』に捕まると面倒だ。今の内にサッサと場所移すぞ」

上条「なぁ……アイツは、一体どこに行っちまったんだろうな」

一方通行「知らねェよ。家に帰ったンだろ」

 気心の知れた友人相手に余計な気遣いをしないのと同じように、一方通行はあっさりとそう言い捨てた。
 一方通行の視線の先では意識を取り戻した打ち止め達がこちらに駆けて来ている。

 長い夜が終わろうとしていた。


253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 17:23:11.82 ID:GhsHk+yE0
 一方通行達は、土御門の案内で、『グループ』が隠れ家として使用しているいくつかの廃墟のうちのひとつに身を隠していた。

一方通行「………」イライラ

 一方通行が苛々しているのには理由がある。
 インデックス、ミサカ、打ち止め、上条当麻、御坂美琴、神裂火織、ステイル=マグヌスという最初の面々に、新たに加わった番外個体。
 だけでなく、『グループ』はおろか何故か何となくついてきた『アイテム』のメンバーまで集まったこの部屋は騒々しいことこの上なかった。

美琴「おぉう……」

番外個体「はろー。初めまして、お姉様」

美琴「妹…? どう見ても年上なのに、妹なの…?」

番外個体「そうだよー。これからよろしくしてね、おねーちゃん」

美琴「ていうか……ずるくない!? そんなにあちこちばいんばいん成長してて、ずるくないアンタ!?」

番外個体「まあまあ落ち着いて。将来はお姉様もミサカみたいに魅力的なボディになるってことじゃんか」

美琴「おぉう……」


255 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 17:26:49.16 ID:GhsHk+yE0
ステイル「……いい加減泣き止んだらどうだい、神裂」

神裂「まさか着替えを取りに戻る事が出来ないなんて……私はいつまでこの格好でいれば……」シクシクシク…

ステイル「迂闊にそんな格好に着替えた自分を恨むんだね。やれやれ、そんな姿を天草式の連中が見たらどう思うやら……」

神裂「……何人かは腹を抱えて笑い転げるでしょうね」ズーン…

ステイル「とりあえず僕のマントを羽織るといい。何も無いよりはマシだろう」

神裂「ありがとうございます、ステイル……」

ステイル(……痴女にしか見えないな、とは言わないでおこう)


256 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 17:31:45.15 ID:GhsHk+yE0
上条「土御門! 俺に戦い方を教えてくれ! 右手だけに頼った今までのやり方じゃ駄目だってわかったんだ!!」

土御門「いいだろう。じゃあ俺がインデックスの意識を刈り取った技を教えようか。あれは手っ取り早く敵の戦力を削ぐにはかなり有効だ」

上条「わかった! 頼む!」

土御門「フレンダ、ちょっとこっち来い」

フレンダ「なーに? ってか、気安く名前呼んでほしくないんだけど」

土御門「そいッ!!」

フレンダ「オゥフ」ドサァ…

土御門「こうだ! わかったかカミやん!!」

上条「わかった! でも俺は一体誰で練習すればいいんだ!?」

土御門「任せろ! 来い、絹旗!!」

絹旗「はぁ? 『窒素装甲』の私にそんな単純な物理攻撃が効くわけないじゃないですか」

絹旗「ま、やれるもんならどうぞって感じですけどね。逆にあなたの手が超イカレると思いますけど」

上条「そいッ!!」

絹旗「オゥフ」ドサァ…

262 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 17:39:40.51 ID:GhsHk+yE0
海原「………」コソコソ…

滝壺「何をこそこそしているの?」

海原「いや、その、御坂さんと直接顔を合わせるのは非常に気まずい事情がありまして……」

滝壺「……どのみさか?」

海原「あ~っと、一番元気な御坂さんです」


番外個体「あっれ~? お姉様は一体誰に見せるためにおっぱいを大きくしたいのかにゃ~?」

美琴「だだだだ、誰とかは別にないわよ!! なな、何言ってんのよ!! ば、ばかねアンタ! ほんとばかだわ!!」

打ち止め「きゃっほーーう!! ってミサカはミサカは自身の体調を確かめるためにあえてはしゃぎまわってみたりーーー!!」

ミサカ「来たる危機に備え、左手の具合を確かめるためにミサカはおもむろに鉄球をぶっ放します。どーん」ドカーーン!


滝壺「……………どのみさか?」

海原「……え~っと……」


263 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 17:45:29.15 ID:GhsHk+yE0
一方通行(ウゼェ……)イライライライラ

インデックス「あくせられーた、怒ってる?」

一方通行「あァ!?」

インデックス「あう。やっぱり、怒ってる……ごめんなさい。あっさり捕まって足手まといになったりして……」

一方通行「……はァ?」

インデックス「ごめんなさい……こんなんじゃ、あくせられーたの隣りにいる資格なんて私にはないかも……」

一方通行「だァれがオマエに戦力なンてモンを期待すっかよ。オマエが足手まといになることなンざ織り込み済みなンだっつの」

一方通行「っつかよォ、俺にとっちゃ俺以外の全ての人間が足手まといなンだよ。オマエだけが特別なンて愉快な勘違いしてンじゃねェ」

インデックス「あう……そうやってばっさり戦力外通告されるのもちょっとキツイものがあるかも」

一方通行「まァ、オマエが今俺のために出来る事がひとつだけある」

インデックス「…ッ!! それはなに!? 私、何でもするんだよ!!」

一方通行「眠ィから黙ってろ」

インデックス「優しい言葉を期待した私が馬鹿だったんだよ!!」

一方通行「……これから寝ようって人間に、クソくだらねェ寝言聞かせてンじゃねェよ。馬鹿が」


264 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 17:50:59.36 ID:GhsHk+yE0
打ち止め「う~ん」コロン

 突然、打ち止めが胡坐をかいた一方通行の足の上に頭を乗せてきた。

一方通行「……何勝手に人の膝に頭乗っけてンだクソガキ」

打ち止め「やっぱりあの時ミサカに入力されたウイルスコードのせいでまだ調子がよくないんだよ~、ってミサカはミサカは自分の状況を報告してみる」

打ち止め「あなたの膝で眠れればすぐに回復できると思うんだけど、ってミサカはミサカは対処療法を提案してみたり!」

一方通行「元気じゃねェか。どけ」

ミサカ「おっとそうはいかんざき。その理屈であればミサカにもあなたの膝を枕にする権利が発生します、とミサカは上位個体の隣りにポジショニングしつつ主張します」ゴロン

一方通行「どけ」

インデックス「え~と、え~と、わ、私も殴られた頭が痛むんだよ!」イソイソ…ポフン

一方通行「どけ」

 どきませんでした。




 反射しました。


267 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 17:58:02.08 ID:GhsHk+yE0
 一方通行はここで寝るのは無理だと判断した。
 その気になれば音を遮断する事も出来るのだが、それでもこの連中と同じ空間にいてはとても落ち着けるとは思えない。

土御門「どこへ行く」

 立ち上がった一方通行に土御門が声をかけてきた。

一方通行「場所変えて眠るンだよ。ここじゃどォしたって寝れる気がしねェからな」

土御門「そうだな。そうしろ。“明日に備えて”……な」

 番外個体の『セレクター』は無くなった。
 窓のないビルに侵入するためのテレポーターも確保した。
 ならば、一方通行が立ち止まる理由は無い。
 一方通行は一晩の休養の後、窓のないビルに突入し、自分にちょっかいをかけてきたクソの親玉を叩き潰す。

土御門「ここにいる連中は俺とカミやんで命に代えても守ってみせる。だからお前は安心して休め」

一方通行「ふン……」

 一方通行はドアのノブを握り、部屋を後にしようとした所で――――
 ふと、思い出したようにずっと床に突っ伏して死んでいた結標淡希の手を取った。

結標「……なに? 放っておいてほしいんだけど……」グデ~

一方通行「何言ってやがる。オマエは俺と一緒に寝るンだよ」

結標「はぁ!?」

インデックス・打ち止め・ミサカ「!?」

270 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 18:03:53.73 ID:GhsHk+yE0
一方通行「……なンだそのツラァ。俺達がこれからやること考えりゃァ当然だろォが」

結標「はあ? ヤ、ヤるって、いや、ちょ…えぇ!?」

一方通行「他の奴等はどうでもいいが、オマエだけは別だ。俺と一緒に行く以上、オマエにも最高の状態まで昇りつめてもらう」

結標「わ、わたしだけとくべつ!? い、いっしょにイク!? 最高の状態まで!?」

一方通行「何うろたえてやがる。オマエもとっくに覚悟は出来てンだろォが」

結標「そ、そりゃ、いつかはって思ってたけど、そんな、急に、いきなり」

一方通行「いい加減にしろ。嫌がンなら強制的に連れてくぞ」

結標「は、はぅ…!」

 もちろん一方通行は明日の『窓のないビル』突入作戦のためにテレポーターである結標を完調にしておきたいだけだ。
 一緒に寝ようというのも、別に同衾しようと言っているわけではない。
 でもなんかうまく伝わんなかった。

 ミサカ、ロケットアーム発射。一方通行の体を縛り上げる。
 打ち止め突貫。たまらず転げる一方通行。
 がちがちと歯を鳴らし、インデックスが宙を舞う。


 まあ、概ねこんな感じで夜は更けていった。


275 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 18:10:00.86 ID:GhsHk+yE0
 翌朝―――といっても、未だ日も昇っていない午前四時。
 別室で睡眠を取っていた一方通行と結標淡希が戻ってきた。

土御門「行くのか?」

 壁に背を預けて座っていた土御門が一方通行に声をかける。
 隣りには上条当麻もいる。どうやらこの二人は一睡もしていないようだった。

一方通行「あァ……何か数が減ってねェか?」

土御門「俺達がこれからやろうとしていることを教えてやったら『アイテム』の連中は離脱したよ。そこまで付き合う義理はないとさ」

結標「ま、そうでしょうね」

上条「気をつけろよ。一方通行」

一方通行「誰に向かって言ってンだ三下」

上条「一緒に行けなくてすまない」

一方通行「気にすンな。別にいらねェ」

 そして一方通行は部屋を後にする。
 穏やかに眠る打ち止め達を起こさないように、ゆっくりとドアノブを回して。


278 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 18:15:56.52 ID:GhsHk+yE0
「あくせられーた」

 廃墟を出たところでかけられた声に振り向く。
 インデックスだ。

一方通行「部屋に居ねェと思ったら……一体何してンだこンなトコで。迂闊に外出てンじゃねェよ」

インデックス「ごめんなさい。星にあなたの無事を祈っていたんだよ」

一方通行「そォかい。余計な気遣いありがとよ」

インデックス「あくせられーた」

一方通行「なンだよ」

インデックス「私、待ってるから。あくせられーたのこと……待ってるからね」

一方通行「……はァ~あ。ったくどいつもコイツも……一体誰に向かってクチ聞いてると思ってやがンだか」

 一方通行は煩わしそうにぼりぼりと頭を掻いて、言った。

一方通行「余計な心配してンじゃねェよ。オマエはいつも通りばかすか飯食いながら俺の凱旋を待ってろ」


 そして一方通行は窓のないビルへと突入する。

 全てを終わらせるために。


279 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 18:18:45.81 ID:GhsHk+yE0




 興醒め甚だしい事この上ないが、先に戦果を報告させていただこう。


 『全てを終わらそう』という彼の願いはある意味叶う。












 一方通行は敗北し、


 今日この日、世界は終わった。





280 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/02/05(土) 18:20:07.12 ID:GhsHk+yE0
ぎゃはー キリもいいので休憩がてら風呂入ってくる
っていうか いつ終わるか全く見通したたねえよまいっちゃうね ぎゃは☆

292 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 18:48:34.27 ID:GhsHk+yE0
ビーフジャーキーをかじりつつ再開
果たして今日は晩飯を食う暇があるかにゃー?

294 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 18:55:41.03 ID:GhsHk+yE0
 結標淡希はかつて『案内人』としてアレイスターのもとへ客人を運んでいた過去を持つ。
 だから、『窓のないビル』の内部構造を彼女はある程度知っていた。
 しかし、たとえそんな理由があったとしても余りにも呆気なく。
 例えば、予想される侵入経路に兵隊が配置されているといったこともなく。
 あっさりと。
 一方通行は学園都市統括理事長、『人間』、アレイスター=クロウリーの下へと辿り着いていた。

アレイスター「やあ、初めまして、だな。一方通行。もっとも私は君以上に君の事をよく知っているが」

一方通行「よォ、やっと会えたなクソの親玉。あァ、クセェクセェ。はっはァー、流石だなオイ。臭すぎて息出来ねェよ」

アレイスター「おやおや、この部屋は常に人間が過ごすのに最適な環境に保たれているはずなのだがね」

一方通行「無駄無駄、その程度じゃテメエの悪臭は誤魔化せねェよ」

 奇妙なカプセルの中に逆さまに浮かぶアレイスター=クロウリー。
 一方通行と相対した時点で王手(チェックメイト)をかけられたことと同義であるにも関わらず、アレイスターには一片の焦りも見えない。

一方通行「覚悟はいいか?」

アレイスター「何の覚悟だ?」

一方通行「下水道に流される覚悟だよ。決まってンだろ、クソ野郎」


295 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 19:02:02.86 ID:GhsHk+yE0
アレイスター「ご苦労だったな、結標淡希」

一方通行「……なにィ?」

 一方通行は後ろに控えていた結標の方を振り返る。
 一方通行の赤い瞳に睨まれた結標は慌ててぶるぶると首を振った。

結標「ちょ…! 違う、何も知らないわよ私は!」

一方通行「はァン…姑息だねェクソ坊ちゃん。こっちの仲間割れ狙いかァ?」

アレイスター「いやいや、そんな意図は欠片もない。これは単純に彼女の功を労っているんだ」

アレイスター「まあ、彼女の、というか正確には『グループ』の功績なのだがね」

 アレイスターはカプセルの中に逆さまに浮かんだまま言葉を続ける。
 飄々と。何の焦りもなく。何の感情もなく。

アレイスター「正直、ここまで展開してくれるとは思わなかった。ほんの少しでも時を稼いでくれれば重畳と思っていたのだが―――」

アレイスター「学園都市第一位の君を相手に、第二位と第四位を瞬殺した君を相手に、まるまる一日の時を稼ぎ、彼の現出を間に合わせた」

アレイスター「重ねて君をこの場所まで連れてくるという働きぶりだ。これで問題はあらかたクリアされたと言っていい」

一方通行「何をぐだぐだと訳のわかンねェこと言ってやがる」

アレイスター「君の負けだと言っているんだよ、一方通行」

296 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 19:08:34.60 ID:GhsHk+yE0
 ぞわりと全身が総毛だった。
 異様な気配を感じ、振り返る。
 最初、アレイスターがもう一人そこに現れたのかと思った。
 だが違う。そんなものではない。
 金色に輝く長い髪、ゆったりとした白い布の装束、マネキンを思わせる平坦な顔つき。
 相対するだけで尻餅をついてしまいそうな―――この圧倒的な存在感。

「ふむ…今回の私はこんな形か。……存外、悪くない」

 『ソレ』はそう口にした。
 口にしたのが人間の言葉だというのが、甚だ意外だった。

アレイスター「こうしてあなたと相対するのは実に久しぶりだな、『エイワス』」

 『エイワス』――それがこの人間の――人間の?――この存在の、名前らしい。

エイワス「時間の概念は私には意味を為さないよ、アレイスター。かつての君との語らいは、私にとってはつい昨日の出来事に過ぎない」

 一方通行はエイワスを観察する。
 一体コイツは何者なのか。人間じゃないのは確実だ。
 ならば何だ? ―――神?
 馬鹿馬鹿しい。だとしてもそれがどうした。
 このエイワスという存在は何から何までが理解不能だが、たったひとつだけわかっていることがある。


 こいつを呼んだのは、間違いなくアレイスター=クロウリーだ。

 ならばエイワス―――貴様は敵だ。


297 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 19:15:27.11 ID:GhsHk+yE0
一方通行「おァァァァアアアああああああああああああ!!!!!!」

 一方通行はその背中から黒い翼を出現させる。
 噴き出す破壊の力を一切の容赦なくエイワスに向かって叩きつけた。
 部屋中を覆っていたコード類がいくつも断線し、備えられていた電子機器が破壊され、煙を噴いた。

一方通行「なにッ!?」

 一方通行は驚愕する。
 一方通行の黒翼をその身に受けて、エイワスは全くの無傷だった。
 防いだ様子は無かった。確かに一方通行の黒翼はエイワスの体を薙ぎ払ったはずだ。
 なのに、エイワスはその身に着けている服すら破れていない。


303 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 19:21:51.28 ID:GhsHk+yE0
 エイワスの背中で、一方通行の黒翼と対を成すような蒼白いプラチナの翼が輝いていた。
 いや、対を成すなどと、おこがましい。
 ただ破壊の力を悪戯に噴出させている一方通行の黒翼と、破壊の力を凝縮し、洗練したエイワスの翼ではレベルが違う。

エイワス「んん? 何だこれは?」

 自身の翼を見て、エイワスは何とも素っ頓狂な声を上げた。

エイワス「自動防御機構…? やれやれ。心配性だな、アレイスター」

アレイスター「ここまでこぎつけるのに苦労したんだ。簡単に消えられては困るのだよ、エイワス」

 自身の頭の上を飛び越えて行われる会話に、一方通行は激昂する。

一方通行「舐ァめンなァァァあああああああ!!!!!!」

 黒翼はさらに勢いを増し、凶悪なその力をエイワスに向け―――

エイワス「やめておいたほうがいい。といっても……もう遅いか」

 エイワスの翼が振るわれた。
 蒼白いプラチナの輝きはあっさりと黒翼を引き裂き、その勢いのまま一方通行の体を通り抜ける。
 ばしゃり、と左わき腹から右肩へ、翼が通り抜けた跡に沿って一方通行の体から血液が零れた。

一方通行「あ、が、ぐァァァあああァァああアアああアあアああああああああ!!!!!!」


304 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 19:28:30.58 ID:GhsHk+yE0
エイワス「だから言ったのだ。私に君と敵対する意思は無いというのに、この翼は私に敵意を向けるものを問答無用で撃退してしまうらしい」

一方通行「お、ぐ……!」

 一方通行は自身の血流の流れを操作し、出血を抑え込む。

一方通行(何だ…? 今、俺は何をされた…!?)

 戦慄。ただそれだけが今の一方通行の感情を支配している。
 木原数多。
 垣根帝督。
 かつて一方通行の『反射』を超え、彼を脅かした者達。
 だが、エイワスの攻撃は木原や垣根が使ってきたものとはまるでベクトルが違う。
 木原も垣根も、『反射』の隙を上手く突いて一方通行に攻撃を届かせていたに過ぎない。
 エイワスは違う。エイワスの翼は『反射』など物ともせずに突っ切ってきた。
 さらにその一撃は極めて強烈。
 たったの一撃で甚大なダメージを負った一方通行はふらつく足を押さえつけるのが精一杯だった。

一方通行(クソ……どうする……!?)

エイワス「やれやれ、未だ敵意を失わないか。警告だけはしてあげよう。次に私に殺意を向ければ、その瞬間君は死ぬぞ」

一方通行「……見下してンじゃねェよ…クソッタレ……!」


305 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 19:33:52.18 ID:GhsHk+yE0
「そこまでだよ、一方通行」

一方通行「!?」

 背後からかけられた声に、一方通行は振り返り目を見開く。
 そこに立っていたのはアレイスター。
 今の今までカプセルの中に浮いていたはずのアレイスター=クロウリーだった。

一方通行「テメ…!」

 アレイスターが一方通行の首元に向かって手を伸ばす。
 バチン、とまるでスタンガンを思わせるような衝撃が一方通行を襲った。

一方通行「か…!」

 何なんだ。意味が分からない。
 スタンガンな訳はない。そんなものはあっさり反射してみせる。
 じゃあ何なんだ今の一撃は。反射が効かない理屈を脳内で提示できない。
 大体、アレイスターは今までカプセルの中で液体に浸かっていたはずだ。
 いつ出てきた。いや、それより、水滴のひとつも付いていないのはどういう了見だ。
 ふざけている。一方通行の中にある常識が一個も通用しない。

一方通行「ク…ソッ……タレ……」

 薄れていく意識の中、二度と見たくなかったはずの、インデックス、打ち止め、ミサカの泣き顔が、彼の視界を埋め尽くした。


307 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 19:39:47.12 ID:GhsHk+yE0
エイワス「彼を庇ったか。お優しいことだな、アレイスター」

アレイスター「彼とて私の計画の要だからな。死んでしまうのは非常に困る」

 意識を失い、アレイスターとエイワスの間に崩れ落ちる一方通行。
 うつ伏せに倒れた一方通行の体から、どろどろと血だまりが広がっていく。

アレイスター「おっと、しまった。血流を制御していたベクトル操作まで断ち切ってしまったか。急ぎ手当てをしなければ」

 アレイスターはそう言って、ずっとその場に立ち尽くしていた結標淡希に目を向けた。

結標「ひ、あ……」

 目の前で起こっている出来事の次元が違いすぎて、成り行きを見守るしかなかった結標に向かって、アレイスターは口を開く。

アレイスター「という訳で、私はとても忙しく、君に構っている暇はない」

エイワス「私は君に興味がない」

アレイスター「尻尾を巻いて逃げたまえ。もちろん、君がそう望むなら殺してあげるがね」


309 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 19:46:43.66 ID:GhsHk+yE0
 結標淡希は去った。
 アレイスターは今、意識を失った一方通行を伴って『案内人』たる結標も知らない『窓のないビル』最深部へと足を踏み入れている。
 そこは異様な空間だった。
 広さはさほどではない。いやむしろ狭いと言ってしまっていいだろう。
 直径十メートルにも満たない円形の部屋。
 赤く照らされた床に、壁や球形の天井に隙間なく走るコード。
 赤色の部屋であることもあって、壁や天井を走るコード類はまるで血管のようだった。
 そう例えるならば、この部屋は『窓のないビル』の心臓――か。

 部屋の中心に、死刑用の電気椅子を思わせる重厚な造りの椅子が二つ背中合わせで置かれていた。
 その内のひとつに、アレイスターは一方通行を座らせる。

エイワス「ふむ、ここまで早く『一方通行』を手中に収めたとなると、君の『プラン』も中々順調なようだなアレイスター」

アレイスター「あぁ、順調だよエイワス。ここまで気分が高揚しているのは本当に何百年ぶりかわからない」

エイワス「しかし随分と早く私を現出させたものだ。もしや少し焦っているんじゃないか?」

アレイスター「焦ってはいないよ。急ぎはしたがね。エイワス、『ヒューズ=カザキリ』を通して現出させたあなたの体、少し確かめさせてもらっていいか」

エイワス「ん? 何か不満があるか? まあ、いい。好きにしたまえ」

アレイスター「ありがとう」

 ドスン、と奇怪な音がした。
 アレイスターの腕が、エイワスの、人で言えば心臓がある辺りを貫いていた。



 エイワスの顔に、ほんの少しだけ驚愕の色が滲み出た。

310 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 19:53:26.93 ID:GhsHk+yE0
 エイワスの体が輝きだす。
 背中から出現していたあの翼のような、蒼白いプラチナの輝きがエイワスの全身から放たれている。

エイワス「まさか…もう準備を終えたというのか?」

アレイスター「色々あったのだよ、エイワス。全てが私の望みどおりに転がった。信じ難いだろうが、既に『幻想殺し』は覚醒しているのだ」

エイワス「この段階で……? 些か進みすぎだよ、この歴史は……」

 まいったな、とエイワスは諦観の様な表情をその顔に浮かべた。

エイワス「これでは私は君の食い物にされるために出てきただけじゃないか、アレイスター」

 エイワスの体が次第に輪郭を失っていく。
 その気になればあっさり世界を滅ぼせる程のエネルギーが、アレイスターを介し、『窓のないビル』を介し、学園都市を介し、世界中に拡散していく。


エイワス「折角の現出だ、もう少し楽しみたかったが……まあ、それもこの歴史の定めということか」

アレイスター「感謝するよエイワス。この術式の知識も、貴方が私に与えてくれたものなのだから」


 エイワスの体が完全に溶けて消えていく。

 『エイワス』という莫大なエネルギーが、世界を満たす。


313 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 19:58:17.04 ID:GhsHk+yE0
 『グループ』の隠れ家では、全身に汗をびっしりとかいて苦しみに呻く打ち止めの手当てが行われていた。

土御門「くそ…! また新たな記述が書き加えられやがった…! カミやん! もう一度打ち止めの頭を触れ!!」

上条「わ、わかった!」

 打ち止めに干渉している魔力の正体を必死で探りつつ、土御門は叫ぶ。
 上条は土御門に言われた通り、右手で打ち止めの頭を撫でるように触った。
 ほんの少しだけだが、打ち止めの呼吸が柔らかなものになる。

美琴「打ち止め…! ねぇ、アンタ達は大丈夫なの!?」

番外個体「ミサカは問題ないよ、お姉様」

ミサカ「右に同じです、とミサカはお姉様の問いに答えます」

番外個体「昨夜の現象と今回の物は何かが根本的に違ってる。今回の強制演算の負荷はほとんど打ち止め一人に集中してしまってるみたいだ」

美琴「そんな…! 打ち止め…!!」


317 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 20:05:52.05 ID:GhsHk+yE0
ステイル「インデックス。君にもわからないのか?」

 ステイルの問いにインデックスはふるふると首を横に振る。
 その瞳には涙が溜まっていた。
 十万三千冊の魔道書という知識を持ちながら、今の状況に対し何の答えを出せない自分をインデックスは責めていた。

打ち止め「う…く…」

上条「くそ…! どうしてだ! どうしてこの子達ばっかりこんな目に遭わなきゃならない!!」

 ガタン、と扉を乱暴に開く音がした。
 全員が反射的にそちらを振り向く。

土御門「結標淡希…!?」

海原「どうしてあなたがここに…!? 今は窓のないビルにいるはずでは!?」

 結標は答えず、ただ、荒くなった息を整えている。
 次から次へと込み上げる吐き気を必死で飲み込んでいる。

インデックス「ねえ…待って…? あなた、もしかして一人なの…?」

 インデックスが呆然と口を開く。

インデックス「あくせられーたは…? あくせられーたは、どこ!?」


320 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 20:11:27.58 ID:GhsHk+yE0
 インデックスの叫びに、結標はただ首を横に振る。

土御門「結標! 何があった! 状況を報告しろ!!」

 焦れた土御門が結標の上着、その襟首を掴み上げた。

結標「あ…う…ぐ、おぇ…!」

 言葉を紡ごうとして、しかしそれは途中で吐き気に転化する。

土御門(完全に心を折られてやがる…! 結標ほどの女が…!)

インデックス「教えて! あくせられーたはどうしたの!?」

結標「……一方通行は……負けたわ……」

インデックス「!?」

上条「……そんな…!」

インデックス「うそっ! うそうそ!! そんなの、うそだぁっ!!」

土御門「……死んだのか?」

結標「う…おぇ…死んでは、いない……でも…」

 逆に生かされたということが、彼のこれからの悲惨な末路を予感させる。
 暗部に身を置いて様々な『闇』に触れてきた結標や土御門にとって、それはなおさらのことだった。

321 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 20:16:41.42 ID:GhsHk+yE0
 だが、そんな中で、部屋に満ち始めた絶望感に目もくれず立ち上がった者達がいた。

番外個体「ゲロゲロ吐きそうになってるとこ悪いけどさ、もう一働きしてもらうよ」

ミサカ「ミサカ達をあの人のいる場所に連れて行きなさい、とミサカは命令します」

上条「お前ら…!」

番外個体「ミサカはあの人に借りを作っちゃったからさ、さっさと返しちゃわないと気分が悪い。そんだけ」

ミサカ「敵の居城に捕らわれたお姫様を助けに行くというのはゲームでも王道のシチュエーションです。故に、ミサカ達がここで動かない理由はありません」

番外個体「あはは、いいねそれ。じゃあミサカがマリオで、あなたがルイージだ」

ミサカ「逆でしょう、とミサカは調子に乗っている末妹を戒めます」

番外個体「んで、あの人がピーチ姫? ぎゃはは! 似合わねー!!」

ミサカ「ならばあの人は何王子と呼ぶのが適切でしょう、とミサカは頭を巡らせます」

番外個体「もやしでいいじゃん、もやし王子。やっべーピッタリだよこれ、はまりすぎ。ぎゃははっ!!」

ミサカ「あの人を侮辱する発言をミサカは許しません、が、確かにそれ以上あの人に相応しい呼称をミサカは思いつくことが出来ません。ちっくしょう」


324 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 20:22:07.69 ID:GhsHk+yE0
 学園都市第一位の超能力者(LEVEL5)である一方通行でも歯が立たなかった奴等が相手。
 それをきちんとわかっていて、それでも。
 LEVEL4とLEVEL2にしか過ぎぬ力しか持たなくても、それでも。
 ミサカシスターズは前に進む。

番外個体「ミサカ達の残機はいくつだったっけ? 9981?」

ミサカ「やはりあなたは何もわかっていませんね番外個体、とミサカは失望を隠さずため息をつきます」

ミサカ「これだけは、その胸に深く刻み込みなさい。その不必要に大きく調整された胸に」

ミサカ「ミサカ達は、これ以上一人だって死んでやることは出来ません」

番外個体「はいはい了解。ミサカの魅力的なこの胸に確かに刻み込んどくよ」

打ち止め「ミサカも…行く……」

 ふらふらと、打ち止めが立ち上がっていた。
 全身にびっしり浮かんでいた汗は引いているが、それでも完調には程遠いのが見て取れる。

美琴「打ち止め! あんた大丈夫なの!?」

打ち止め「うん…ってミサカはミサカは頷いてみる。何だか突然、ミサカにかかってた負荷が大きく軽減されたんだよ、ってミサカはミサカは重ねて説明してみたり」


325 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 20:27:29.95 ID:GhsHk+yE0
打ち止め「話は聞こえていたよ…あの人を助けに行くんでしょ? ってミサカはミサカは分かりきった確認を取ってみる」

打ち止め「なら、ミサカも行く…! 駄目だって言われてもついていくからね!  ってミサカはミサカは決意表明してみたり!」

ミサカ「というか、ミサカは元々上位個体の命令を拒否する権限を持ちませんし、とミサカは上位個体の言葉に従う意思を示します」

番外個体「昨日からあなたの命令を拒否ばっかしてたミサカだけどさー、えへへ、今回の命令は聞いてあげるよ」

インデックス「私も行く! 私もあくせられーたを助けにいくから!!」

打ち止め「え~? 『歩く教会』を失くしたあなたなんて足手まといにしかならないんじゃないの? ってミサカはミサカは意地悪を言ってみる」

インデックス「それでも行く! 行くんだもん!!」

打ち止め「うん、一緒に行こ! ってミサカはミサカは手を差し伸べてみる! 勿論さっきのはミサカ一流のジョークだからね!!」


   「いやあ、行けないさ。ネットワークの要である君達の来訪はむしろ歓迎するが――『禁書目録』、君だけは行けない」


 突如部屋の中央に現れたその男に、全員の視線が集中した。
 長い銀色の髪の、男にも女にも大人にも子供にも老人にも見える『人間』。
 土御門は、ステイル=マグヌスはこの男の正体を知っている。
 結標淡希は忘れていない。もう彼女はそいつを忘れることができない。

「アレイスター=クロウリィィィィィーーーーーー!!!!」

 彼の名を知る者達の絶叫が重なった。


328 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 20:32:52.28 ID:GhsHk+yE0
土御門「四獣に命を! 北の黒式、西の白式、南の赤式、東の青式!!」

海原「原典『月のウサギ』迎撃用記述長距離射撃――『ウサギの骨』!!」

ステイル「炎よ! 巨人に苦痛の贈り物を!!」

神裂「『七閃』ッ!!」

美琴「ずぁぁぁぁあああああああ!!!!!!」


 眩い光が部屋中に満ちた。

 土御門の一撃も。
 海原の閃光も。
 ステイルの炎も。
 神裂の刃も。
 御坂美琴の電撃も。

 全て、アレイスターの全身から放たれた極彩色の光の前に飲み込まれて消えた。


 光がやんだ時―――その場に立っていたのは、上条当麻とアレイスターの二人だけだった。

上条「な…に…?」

 上条は慌てて部屋を見回す。
 今の今までこの部屋にいたはずの皆の姿が、跡形もなく消えていた。


332 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 20:39:42.89 ID:GhsHk+yE0
上条「何をした……」

 上条の右手から顕現した『竜王の顎』が牙を剥き、唸る。

上条「皆に……何をしたあッ!!」

アレイスター「安心しろ。誰も死んではいない。少し場所を移動してもらっただけだ」

 その身に迫った『竜王の顎』をあっさりとかわし、アレイスターは上条の背後に出現する。

アレイスター「話をしようじゃないか、上条当麻」

上条「話…だと…?」

 上条は振り向き様に右手で裏拳を放つ。
 再びアレイスターの姿が消えた。そして現れたのは部屋の天井。
 重力を無視し、逆さまに立つアレイスター=クロウリー。

上条「なら…まず教えろよ」

アレイスター「何だ?」

上条「あの子を……風斬氷華をあんな目に遭わせたのはお前か?」

アレイスター「そうだ」


333 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 20:43:29.19 ID:GhsHk+yE0
上条「これからも、あの子のような犠牲者を生み出していくつもりか?」

アレイスター「場合によってはそうなるな」

上条「そうやってたくさんの人を傷つけて、お前は一体何がしたいんだ?」

アレイスター「汝の欲する所を為せ、それが汝の法とならん――私はその理念に従って動いているに過ぎない」

上条「答えになってねえよ」

アレイスター「答えるわけにはいかないのだよ」

上条「もうこんなくだらない事はやめろ」

アレイスター「それは出来ない」

上条「なら…」

 ぎり、と上条は拳を握る。

上条「もうテメエと話すことなんてねえよッ!!!!!!」

 上条は天井に向かって、一切の容赦なく『竜王の顎(ドラゴン・ストライク)』を叩き付けた。


334 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 20:49:01.21 ID:GhsHk+yE0
アレイスター『ひとまずはお別れだ。私もこれで忙しい』

 ガラガラと倒壊する廃墟の中で、アレイスターの声だけが響いている。

アレイスター『君の頭が冷えた頃にまた来よう。その時は三分で構わん、私の言葉に耳を傾けてくれ』

上条「待てッ!! テメエ、どこに行きやがる!!」

アレイスター『為すべき事を為しに。それではまた会おう、上条当麻』

 それきり、アレイスターの気配は消えた。

上条「くそッ!!」

 上条は今にも崩れ落ちそうな壁に拳を叩きつける。

上条「どこまで…どこまで無力なんだ俺は……!!」

 拳の痛みなど、全く気にならなかった。


337 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 20:56:24.88 ID:GhsHk+yE0
インデックス「ここ…どこ…?」

 インデックスは学園都市のどことも知れぬ路地裏に飛ばされていた。
 右も左も東も西も全くわからないが、それでも立ち止まっているわけにはいかない。

インデックス「早く…早くあくせられーたの所に行かなくちゃ…!」

 インデックスは駆け出し――しかし、その足はすぐに止まってしまう。

インデックス「あ…う…」

 目の前に現れたのは、男にも女にも大人にも子供にも見える『人間』――アレイスター=クロウリー。

アレイスター「エイワスの莫大なエネルギーで二つの異なる界を重ねる事には成功した」

 怯え、後ろを振り返り、インデックスは駆け出す。

インデックス「え!?」

 しかし、そこには前方にいたはずのアレイスターが佇んでいた。
 さらに後ろを振り返る。居る。そこにもアレイスターは立っている。

インデックス「ど、どうなってるの!?」

 瞬間転移か、存在の分裂か。
 わからない。そのどちらかかも知れないし、どちらでもないかもしれない。
 わかっているのは、どうあっても逃げられないということだけだった。

341 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 21:02:47.15 ID:GhsHk+yE0
アレイスター「しかし、それだけでは足りない。『彼等』がこの世界に『光臨』するには、存在の証明と『力』をこちらに引き出すための方法論が必要だ」

 アレイスターがその手をインデックスに向かって掲げた。

アレイスター「つまりはそれが君の中に眠る十万三千冊の魔道書だ。『禁書目録』」

 アレイスターの手から放たれた得体の知れない光がインデックスを直撃する。

インデックス「うぁあ!!」

アレイスター「君を守る『歩く教会』ももう存在しない。土御門は本当にいい仕事をしてくれた!!」

 輝く光がインデックスの足元に複雑怪奇な魔方陣を描き出す。
 魔方陣を描かれた地面が砕け、光の柱が噴出した。
 まるで火山の噴火のように高々と天を衝く光に飲み込まれ、インデックスの体が空へと撃ち出される。
 その高さ、実に三百メートル。
 地面から天に向かって聳え立つ光の柱は姿を消さず、そのままインデックスの体を中空へ縫い止める。
 光の柱からさらに、今度は水平に光が伸びた。
 インデックスの体を交差点として交わる縦の光と横の光。
 光が描く図形の意味はもはや明確だった。

インデックス「あ…く…せ…ら……れー……た………」

 日の出を迎えた太陽の光がインデックスの姿を照らし出す。


 それは、十字架だった。

 天に向かって聳え立つ巨大な光の十字架に、インデックスは磔にされていた。


343 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 21:05:11.26 ID:GhsHk+yE0











アレイスター「最終計画発動―――――――――『最後の審判』だ」












344 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 21:09:26.62 ID:GhsHk+yE0



 その瞬間、地球上から夜が消え去った。

 朝を生きていた者も、昼を生きていた者も、夜を生きていた者も、皆目覚め、一様に空を見上げた。


 地球上の全ての空は黄金に輝いていた。

 その意味を知る者は跪き、ただ祈りを捧げた。

 その意味に気付かぬ者は、目の前の威容にただ目を見開いた。


 黄金の光の正体は翼だった。

 空一面に顕現した天使達の持つ翼の輝きだった。



 100億の天使達が空を埋め尽くす。

 世界の終わりが始まろうとしていた。




350 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 21:15:57.73 ID:GhsHk+yE0
<幕間>舞台の裏で―――神の右側に座する者達

「チッ―――まったく、何てことだ」

 豪華な椅子に深々と腰掛けた尊大な態度の男が苛立たしげに唇を歪める。
 部屋の中ではもう一人、屈強な肉体を持った長身の男が窓の外を眺めていた。

「これは一体何事であるか? あれ程の数の天使―――尋常な事態ではあるまい」

「考えられん。どこかの馬鹿が何万年、何億年後に訪れるはずだった『終末の日』を前倒しにしやがった。このままでは世界が終わるぞ。呆気なく、あっさりと、何の余韻もなく」

「ならばどうする?」

「どうも出来んよ。俺様はもはや道化師(ピエロ)になることすら出来ん。『神の右席』はもう舞台に上がる事すら許されんのだ」

 尊大な男はもう一度チッ、と舌を鳴らす。
 窓の外を眺めていた男は一言そうか、と呟くとその足を部屋の入り口に向けた。

「では神の右席はここで解散ということだな。世話になった」

「……足掻くか、アックア」

「じっとしているのは性に合わんのである。貴様はどうするのだ、フィアンマ」

「ジタバタするのは趣味じゃない。俺様はここで成り行きを見守る事にするさ」


353 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 21:21:32.53 ID:GhsHk+yE0
 学園都市第六学区に飛ばされた御坂美琴もまた、息を呑んで空を見上げていた。

美琴「何コレ…何がどうなってるの?」

 空を埋め尽くす渡り鳥の群れをかつて美琴は見た事がある。
 当時幼かった美琴はその光景に恐怖すら感じたものだった。
 今、記憶に残るその光景よりもさらに密度濃く、翼を生やした人型の何かが空を埋め尽くしている。
 まるで、おとぎ話に出てくるような天使さま。
 だけど今、美琴の心は幼い時と同じで―――恐怖しか感じていなかった。
 その時、空を席巻する天使の群れを引き裂くように、黒い影が次々と空に現れた。

美琴「アレは…戦闘機…!?」

 美琴の居る所からでは遠すぎて、現れた数十の戦闘機が学園都市製なのか、それとも余所から派遣されたものなのかもわからない。
 けれど、どの道それを知る必要はなかった。
 いくつもの爆発が連続し、戦闘機はあっという間に空から消え失せた。


358 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 21:28:36.71 ID:GhsHk+yE0
 天使が空から降りてくる。
 美琴は折れそうになる膝を必死で押さえつけた。
 間近で見る天使の姿は、なんだか昔絵本で見たようなイメージとはかけ離れていて。
 何の表情もないマネキンに翼が生えているみたいだ、と美琴は思った。
 そしてその翼の生えたマネキンは、やっぱり何の表情も浮かべないまま、美琴に向かってその腕を振るう。

 不可視の力が美琴の体を吹き飛ばした。

美琴「ぷぁッ!!」

 美琴は空中で磁力を展開し、体勢を立て直す。
 スカートのポケットに手を突っ込んで、御坂美琴は彼女の最大の武器を取り出した。

美琴「上ッ等! 何が起こってんのかさっぱりだけど、あんた等が何なのか何の見当もつかないけど!!」

 地面に着地して、美琴は右手に持ったゲームセンターのコインを親指に乗せる。

美琴「やるってんなら、相手になってやろうじゃないのッ!!!!」

 そして美琴は自身の通り名にもなっている最大火力の必殺技、『超電磁砲』を放った。


364 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2011/02/05(土) 21:34:11.67 ID:GhsHk+yE0
美琴「嘘…でしょ…?」

 目の前の光景に、美琴は呆然と呟いた。
 『超電磁砲(レールガン)』が通り抜けたその後には―――何事もなかったように天使の群れがふわふわと漂っていた。

美琴「効いてない…? そんな…!?」

 美琴の放った一撃は、天使達に何の影響も与えていなかった。
 かの少年の『幻想殺し』のように無効化されたわけではない。
 かの少年の『一方通行』によって反射されたわけでもない。
 音速の三倍で天使の体を直撃したはずのコインは、本当に文字通り天使の体を『通り抜けて』いた。
 確かに目の前にいるはずなのに、そこにいないような違和感。
 常時その身から周囲に放出されている電磁波によって、物体の存在を感じる事が出来る美琴だからこそ、その違和をより強く感じていた。

美琴「何よ…何なのよ…!」

 訳が分からないというのは最も性質が悪い。対策を講じる事が全く出来ないからだ。
 心が折れそうになる。とにかくその場を逃げ出したくなってしまう。
 だけど、次の瞬間美琴の目に飛び込んできた光景が、そんな弱気な心を一瞬で吹き飛ばした。

 ここは学園都市第六学区。学園都市で最もアミューズメント施設が集中した地域。
 幸せな休日を過ごしていたのであろう家族が、天使の『不可視の力』に押し潰されようとしている。


 美琴は絶叫し、突撃した。

 勝てるかどうかなど、一切考えなかった。


インデックス「好きだよ、あくせられーた」一方通行「…はァ?」-3
続きます

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