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唯「蛇口から澪ちゃんの下痢便が吹き出してきたよー!!」

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 14:58:49.12 ID:mCBIFmAb0 [1/75]
ブリブリブリブリブリブリ!!

唯「くさいよぉー」

律「うわっ、マジで澪の下痢便じゃないか」

梓「どうして蛇口から澪先輩の下痢便が?」

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 15:03:31.89 ID:mCBIFmAb0 [2/75]
ブリブリブリブリブリブリ!!

律「原因なんて知らねえよ、
  とにかく止めてこい、梓」

梓「えーっ、なんで私なんですか?」

律「当たり前だろ、お前が蛇口をひねったんだから」

梓「イヤですよ、あんな下痢便に近寄りたくありません」

律「私だって嫌だよ」

梓「部長なんだから律先輩がやってくださいよ。
  私の尊敬する憧れの田井中先輩は
  後輩にこんな汚れ役を押し付けるお人ではなかったはずです」

律「おだてたって無駄だぞ、
  この前もそれで2000円くらいするパフェおごらされたからな、
  もう騙されん」

梓「チィッ!」

唯「くさいよぉー」

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 15:07:50.13 ID:mCBIFmAb0
ブリブリブリブリブリブリ!!

梓「そもそも蛇口をひねったのは確かに私ですが、
  私は澪先輩の下痢便が出てくるなんて知らなかった。
  だから私にすべての責任を押し付けるのはおかしいと考えます」

律「そうかぁ?」

唯「じゃあジャンケンしようよ、ジャンケン。
  負けた人が蛇口を閉めるってことで」

律「よし、いいぞ。文句なしの一発勝負な」

梓「負けた人はちゃんと蛇口を閉めるんですよ、分かってますね」

律「おうよ」

唯「さいしょはぐー、じゃんけんぽん!」

律「ぽん」

梓「ぽん……負けちゃた」

律「なんだ、結局お前じゃねえか。
  とっとと蛇口を閉めて澪の下痢便を止めてこい」

梓「はいはい、わかりましたよ……
  くっさいなあ、もう」キュッ

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 15:13:13.57 ID:mCBIFmAb0
ブババババババババババババ!!!

梓「ぎゃあああああああ!!」

律「バカ梓!!
  蛇口をひねる向きが逆だろ!!」

唯「澪ちゃんの下痢便が飛び散ってるよぉー」

梓「ぎゃあああ、顔に下痢が!
  私の顔に澪先輩の下痢便がああああああ!!」

律「馬鹿、こっち来んじゃねえ!!」

梓「ちょっとトイレで顔洗ってきますっ」

律「おいこら待て、せめてあの蛇口を閉めていけ!」

梓「イヤですよ!!
  また澪先輩の下痢便を浴びるハメになっちゃうじゃないですか!」

律「一回浴びたんだから何度浴びても同じだろ」

梓「それもそうですね」キュッ
ピタッ

唯「ふー。やっと止まったよぉー」

梓「私、トイレ行ってきますね……」
ガチャバタン

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 15:18:11.43 ID:mCBIFmAb0
唯「ところで澪ちゃんは自分の下痢便が
  音楽準備室の蛇口から吹き出してきていたことを知ってるのかな」

律「さあ、どうなんだろ?
  今日たしか澪は休みだったよな」

唯「ちょっと電話かけてみれば?」

律「うん」ピポパポピ

唯「……」

律「……」

唯「……」

律「あれ、出ねえな」

唯「電源切ってるとか?」

律「いや……呼び出し音鳴ってるからそれはないだろ」

唯「ふうん、変だね」

ガチャ
梓「うぎゃあああああああああ!!!」

律「ど、どうした梓!?」

唯「くっさぁぁっ!!」

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 15:23:42.57 ID:mCBIFmAb0
律「なんで全身澪の下痢便まみれなんだよ!」

唯「あずにゃんそういうシュミだったの?」

梓「違いますよ!!
  トイレで顔を洗おうとして蛇口から水をだそうとしたら、
  水じゃなくてまた澪先輩の下痢便が吹き出してきたんですよ!!」

律「なんだって?」

唯「じゃああずにゃんはそれで
  澪ちゃんの下痢便を全身に浴びてしまったんだね」

梓「それで私、澪先輩の下痢便を浴びてしまって
  気持ち悪くなってしまったもんですから、便器に吐いたんです」

律「ほほう」

梓「その吐瀉物を流そうとトイレのレバーを押したら、
  また水じゃなくて澪先輩の下痢便が流れてきたんですよ!」

唯「蛇口だけじゃなくて、便器からも?」

梓「そうですよ、そのおかげでその便器は
  下痢便とゲロで大変な有様ですよ」

律「下痢とゲロか」

唯「ぐりとぐらみたいだね」

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 15:29:13.70 ID:mCBIFmAb0
梓「もう、冗談言ってる場合じゃないですよ」

律「そうだな、この音楽準備室の蛇口だけではなく
  トイレの蛇口や便器からも澪の下痢便が出てきたということは」

唯「ということは?」

律「この学校のすべての蛇口から
  澪の下痢便が出てくるという恐れがある!!」

唯「な、なんだってー?」

律「こうしちゃいられない、このままじゃパニックになるぞ。
  みんなに水道を利用しないよう呼びかけないと」

唯「そうだね、みんなあずにゃんみたいになっちゃう」

律「よし行くぞ、唯、梓」

梓「あ、ちょっと待ってください。
  まずこの体についた澪先輩の下痢便を洗いたいんですけど」

唯「洗うって、どうやって?」

梓「どうやって、って……ここの部屋の蛇口で」キュッ

ブリブリブリブリブリブリ!!
梓「ぎゃあああああ!!」

律「学習しろよ」

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 15:35:41.25 ID:mCBIFmAb0
律「今は放課後、学校に残っている生徒が少ないのが救いだな。
  もし授業中だったらばより大きなパニックになっていたはずだし」

唯「今学校に残ってるのって、部活してる人くらいだよね」

律「よし、じゃあ私は運動部のほうに水道を使わないよう呼びかけてくる。
  唯は文化部や教室に残っている人を頼んだ」

唯「あいあいさー!」

律「梓は職員室に行って、先生に事情を話し、
  全校放送をかけてもらってくれ」

梓「ええっ、私も行くんですか?
  こんな下痢便まみれの体で人前に出たくないですよ」

唯「いやいや、蛇口から澪ちゃんの下痢便が出てきたなんて、
  ただ話しただけじゃ先生に信じてもらえないかも知れないでしょ。
  でもその点あずにゃんは証拠となる下痢便を全身に浴びている。
  これは説得力95割増しだよ」

梓「それもそうですね」

律「馬鹿かこいつ」

梓「なにかいいました?」

律「いや、何も……
  じゃあ早速3手に分かれよう、頼んだぞ、唯、梓」

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 15:44:54.24 ID:mCBIFmAb0
唯「みなさーん、蛇口を使わないでクダサーイ
  蛇口を使わないでー」

吹奏楽部「蛇口を使わないで、ってどういうこと?
       楽器を洗いたいのだけど」

唯「やめといたほうがいいよ、えらいことになるから」

吹「何言ってるの、ほら蛇口使うんだからどいて」

美術部「私も使わせてもらうわ。
     筆を洗わないといけないし」

演劇部「ああ、私も。
     メイク落とさないといけないんだよ」

茶道部「こっちも使うわよ」

唯「ふむ……
  こうして見てみると人はいかに
  常日頃から水道を利用しているかが分かるね」

吹「ぎゃああああ、何これ!」
美「下痢便よ、下痢便!!」
演「私の顔が下痢便まみれになっちまった!」

唯「そしてそれが使えなくなったとき
  人はこれほどまでパニックに陥ってしまう。
  水道のありがたみを再認識しなければならないね」

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 15:47:59.77 ID:mCBIFmAb0
憂「あ、お姉ちゃん!」

唯「ういー、まだ学校に残ってたの?」

憂「うん、居残って課題やってたの。
  純チャンを待つついでに」

唯「純ちゃんってジャズ研だったっけ」

憂「今日はジャズ研ないんだって。
  で、純ちゃん美化委員で、
  今日は花壇に水をやる当番の日だからって」

唯「水をやりに行ったの?」

憂「うん」

唯「そ、その花壇って何処にあったっけ!」

憂「確かグラウンドの脇だったと思うけど」

唯「やばいよ、早く止めないと大変なことになっちゃう」

憂「大変なこと?」

唯「花壇が澪ちゃんの下痢便で染め上げられてしまうんだよ!」

憂「はあ?」

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 15:52:02.69 ID:mCBIFmAb0
花壇。

ブリュリュリュリュリュリュリュリュ!!

純「ぎいいいやあああああああああああああ!!」

唯「お、遅かったみたいだね」

純「なにこれー、なんでホースから澪先輩の下痢便が!?
  まさかホースの中にちっちゃい澪先輩がいるの!?
  澪先輩出てきてください、澪先輩!!!」

唯「あまりのショックで壊れてしまったみたいだね」

憂「……これは確かに澪さんの下痢便……
  どうしてホースからこんなものが……」

唯「このホースだけじゃないよ、
  学校のあらゆる蛇口から澪ちゃんの下痢便が吹き出てるんだ」

憂「ええっ!?」

純「ああっこの花壇どうしよう!!
  もはや花壇じゃなくて下痢壇だよう!!
  私美化委員のはずなのにこれじゃ汚化委員だよ!
  どうしよう加持さん! 私汚されちゃったよう!!」

憂「お、落ち着いて純ちゃん」

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 15:58:20.53 ID:mCBIFmAb0
律「おーい、どうしたんだ唯」

唯「あ、りっちゃん。
  今このなんだっけえっとなんとかちゃんが
  ホースで花壇に水をまいて……」

律「うわ、花壇が下痢まみれじゃないか」

唯「そっちはどうだった?」

律「こっちも大変だったよー。
  冷水機で水を飲もうとしてた人がいてさ」

唯「あっもう言わなくていい」

律「それに一番悲惨だったのが水泳部で」

唯「もう分かったからいい」

律「ところで梓の奴は何をやってんだ?
  そろそろ全校放送がかかってもいい頃だが」

唯「下痢便に濡れた体を見られるのが嫌で
  どっかに篭ってるんじゃないの~」

律「なにい? 許せんなアイツ」

梓「するわけないでしょ、そんなこと」

律「うわっ出た」

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 16:03:24.97 ID:mCBIFmAb0
憂「うわっ、梓ちゃんくっさ……
  いつもくさいけどさらにくさいよ」

梓「ごめんごめん、
  思いっきり澪先輩の下痢便を浴びちゃって、
  水道使えないから洗うに洗えなくて……
  ん、今、いつもって言った?」

律「それよりちゃんと職員室行ったのかよ」

梓「行きましたよ、でも職員会議の真っ最中で。
  勝手に入ったら怒られるじゃないですか」

律「何言ってるんだ、非常時だぞ」

唯「そーだよ、ちょっとくらい怒られても
  事情を話しさえすれば大丈夫なはずだよ」

梓「だって生活指導の竹達先生、怖いンだもん……きゃるん」

律「下痢便まみれでカワイコぶっても
  全然、心動かされないからな!」

唯「でも職員室に入れないなら、どうしよう」

律「じゃあここは我らが生徒会長サマに頼みますか。
  和なら全校放送も出来るだろうし」

唯「そーだね」

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 16:07:55.87 ID:mCBIFmAb0
生徒会室。

ガラッ
唯「たのもう!」

和「あら、いらっしゃい」

律「和ひとりだけなのか?」

唯「仕方ないよぼっちだし」

和「で、何の用なの?
  先に言っとくけど部費の増額なら無理よ」

唯「そんなんじゃないよ、
  学校中のあらゆる蛇口から下痢便が吹き出してきてるんだよ!!」

和「ああ、その件ね。
  さっきからいくつかの部活動から報告されているわ。
  今どう対処しようか考えていたところよ」

律「しかもそれがただの下痢便じゃなくて、澪の下痢便なんだ」

和「澪の下痢便……?」

唯「ほら見てよ、あずにゃんの体を覆うこの下痢便を」

梓「……」

和「くっさ……」

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 16:12:36.96 ID:mCBIFmAb0
唯「どう、澪ちゃんの下痢便でしょ」

和「そうね、これは確かに澪の……澪の」

唯「?」

和「……ええ、これは間違いなく澪の下痢便ね。
  …………」

律「でさ、和に全校放送してもらいたいんだ。
  水道を使わないように、って」

和「あら、生徒会長といえど
  勝手に全校放送できる権限はないのよ。
  先生に許可もらわないといけないけど、
  今は先生たちは職員会議中だし」

律「そーなの? つかえねーな……」

唯「融通きかせてくれればいいのに」

梓「お役所仕事って奴ですね」

和「……ま、まあ、蛇口から澪の下痢便が出るっていう事実は
  すでに学校中に広まってると思うし。
  今さら全校放送するまでもないんじゃないかしら」

唯「それならいーけど」

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 16:20:20.35 ID:mCBIFmAb0
和「まあ実際これ以上パニックになることはないでしょうね」

律「だな」

唯「一件落着、だね!」

     お  わ  り


梓「えっ!?
  普通ここからなぜ蛇口から澪の下痢便が出てきたか、とか
  そういう謎解きに持って行くもんなんじゃないんですか!?」

唯「なに、あずにゃんってそういうの好きなタイプ?」

律「はー、仕方ないな、
  面倒くさいけど付き合ってやるよ。
  梓はうんこ臭いけどな」

梓「無関心にもほどがあるでしょ。
  現代っ子を象徴してますね」

和「まあ確かにこの問題をこのまま放置しておくのは……
  気になることもいくつかあるし……
  どうせなら徹底的に調べたいわね」

梓「そうですよねっ」

唯「あずにゃんってこういうことになるとテンション上がるよね」

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 16:25:31.96 ID:mCBIFmAb0
律「なぜ蛇口から澪の下痢便が出てきたか……ねぇ。
  まさか突然上水道の水が澪の下痢便に変わったわけでもあるまいし」

和「それならもっと街全体がパニックになってるはずよ。
  今問題が起きているのはこの学校の中だけみたいだし」

梓「でも、この学校の水道だけに
  澪先輩の下痢便を流すなんてこと、可能なんですか?」

和「可能よ。
  学校やマンションには貯水槽といったものがあって、
  そこに水道から組み上げた水を一時的に貯めておくの」

律「へえ、じゃあその貯水槽に
  澪の下痢便を何者かが流しいれたってことか」

和「考えられる可能性としてはそれが一番有力ね」

梓「貯水槽って何処にあるんですか?」

和「屋上よ。
  今からいってみましょうか」

律「そうだな。何か分かるかも知れない」

唯「りっちゃんもノリノリになってるし」

律「おい、唯。置いてくぞー」

唯「待ってよー、もー」

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 16:29:25.00 ID:mCBIFmAb0
屋上。

和「これが貯水槽よ」

唯「へー、これが」

律「これにどうやって澪の下痢便を入れるんだ?」

和「上にフタが付いているのよ。
  そこのハシゴから上にのぼれるわ」

唯「はいはい、私が上る! 上りたい!」

律「結局唯もノリノリじゃねーか」

梓「なんとかと煙って奴でしょう」

和「気をつけて上るのよ」

唯「大丈夫だよ、よいしょっと」

律「オアンツ見えるぞ」

唯「大丈夫だよ、はいてないし……
  よいしょ」

梓「どーですか、唯先輩。
  上に何かありました?」

唯「ああ、たしかにフタがあるよ」

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 16:34:49.69 ID:mCBIFmAb0
和「他には?」

唯「あっ、これは澪ちゃんの下痢便!
  澪ちゃんの下痢便をフタに向かって引きずったような跡があるよ」

律「なにぃ?」

梓「下痢便を引きずった……ってどういうことですか」

和「…………」

唯「だってそうなんだもん。
  みんなも上ってきて見てみなよ」

律「ええ、どれどれ……」

貯水槽の上にあがる3人。

梓「確かに引きずったような痕跡ですね」

律「やはり誰かがここで
  貯水槽に澪の下痢便を入れたことは間違いないようだな」

唯「てことは、そのフタをとれば
  貯水槽の中には水じゃなくて澪ちゃんの下痢便が……」

梓「……」

律「……あ、開けてみるか」

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 16:40:08.23 ID:mCBIFmAb0
和「そうね、じゃあ私が開けるわ」

唯「ごくり……」

梓「ごくり……あっ下痢便飲んじゃった」

律「……」

和はなぜか持っていたカギで解錠し
フタを開いた。

和「うっ……くさっ!」

律「この強烈なクサさっ!
  まごうことなき澪の下痢便の臭い!」

唯「うええええっ、死ぬほど臭いよぉー!」

和は携帯電話の画面をライト替わりにして
貯水槽の中を照らした。
そこは驚くべきことに
水道水ではなく澪の下痢便で満たされていたのだ。

和「これではっきり分かったわ……
  誰かが澪の下痢便を貯水槽に投入したということがね……」

梓「で、でも一体誰がこんなことを?」

律「お前じゃないのか、唯?」

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 16:44:54.42 ID:mCBIFmAb0
唯「な、なんで私!?」

律「だってお前、蛇口から出てくる下痢便を見て
  これは澪のだって知ってたじゃないか!
  お前が犯人だっていう証拠だろ!」

唯「そ、それは違うよ、私はこんなコトしてない!」

律「じゃあなんで澪の下痢便だって分かったんだよ」

唯「そ……それは……あれ? そう言われてみれば、なんでだろう……」

律「しらばっくれてんじゃねーよ」

梓「てゆーか律先輩も怪しいじゃないですか」

律「なにい?」

梓「澪先輩の下痢便が出てきた、って唯先輩が言ったとき、
  それを疑いもせずに受け入れましたよね、これは澪先輩の下痢便だって。
  何でですか?」

律「それは……えーっと……あれ?」

唯「ほら、りっちゃんも下痢便が澪ちゃんのものだって分かった理由、
  答えられないじゃん!」

律「うるせー!」

和「…………」

95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 16:50:27.10 ID:mCBIFmAb0
和「落ち着きなさい、今は犯人探しをすべき時ではないわ。
  明日までにこの下痢便をどうにかしないと……」

律「明日、なんかあるのか?」

和「水道水祭りよ」

律「なんじゃそら」

和「生徒には関係の無い行事だけど……
  とにかく大事な行事だし、
  水道水が使えないことには始まらないからね」

律「はあ」

梓「でもこんな大量の下痢便、どうやって処理するんです?」

唯「そーだよ、一日じゃとても無理だよ」

和「私に考えがあるわ。
  あなたたち……いや、全校生徒に手伝ってもらうことになるけど、
  良いかしら?」

梓「良いに決まってますよ、学校中の問題なんですから、
  生徒もみんな協力してくれるはずです」

和「ありがとう梓ちゃん、
  下痢便まみれにしてはいいこと言うわね。
  そうと決まれば早速実行しましょう」

100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 16:56:57.51 ID:mCBIFmAb0
唯「一体何をやるの?」

和「校内全ての蛇口を開放して
  澪の下痢便を一気に吹き出させるのよ!!」

梓「な、なんだってー!?」

和「もろちん、貯水槽の中の下痢便が尽き果てるまでね」

唯「そんなことしたら、学校中が下痢便まみれに……」

和「それをみんなで協力して掃除するのよ。
  さあ、行きましょう。
  早くしないとみんな部活を終えて帰っちゃうわ」ヒュバッ

唯「あ、待ってよ、和ちゃーん」

梓「律先輩、行きますよ。何やってんですか」

律「えっ、ああ」

梓「どうしたんですか?」

律「いや、なんか澪がいる気がして」

梓「いるわけないでしょ、何寝ぼけてんですか。
  ほら、早く」

律「あ、ああ……」
 (気のせいだったのかな……)

108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 17:07:46.47 ID:mCBIFmAb0
和の指揮により作戦は発動された。
各部活の活動を一時中止させ、
生徒会役員と美化委員によって
校内中に掃除用具が配られた。
また掃除に必要な水は
偶然学校の敷地内で発見されていた
地下水脈から組み上げられた。
逃走者を出さないために正門、裏門は完全に閉鎖され
それでもなお逃げようとする者には
容赦のない制裁が加えられた。
やがてすべての生徒に掃除用具が行き渡り、
校内の全蛇口の前に生徒会役員がスタンバイした。

和「これで準備は完了したわね。
  では、私の合図で、一斉に蛇口を開いてね」

梓「結局全校放送するんかい」

唯「なんかドキドキするねー」

律「掃除用具だけじゃなくて鼻栓も配って欲しかったな」

和「じゃあ始めるわよ!
  これは人類最後の戦い……
  オペレーション・ファイナルウォーズ!」

その合図と共に
構内すべての蛇口が開放されたのである。

112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 17:15:40.08 ID:mCBIFmAb0
その瞬間、校内の至る所から吹き出してきた下痢便が
桜が丘高校を茶色一色に染め上げた!

その光景はまさに凄惨というほかなかった。
どこを見ても下痢下痢下痢下痢。
ほとばしる下痢、吹き上がる下痢、流れ行く下痢、
あっちにも下痢、こっちのも下痢、振り向けばそこに下痢。
掃除が追いつくはずもなく、
綺麗にしたところもすぐに下痢便に汚されてゆく。
下痢便に溺れて遭難する生徒が続出し、
中には母親の名前を叫びながら泣きじゃくる生徒もいた。
下痢便の匂いにやられて倒れる生徒は百人を超え、
保健室には下痢便まみれの生徒で溢れかえった。
現世でどんな悪業を重ねようとも
死後に堕ち行く地獄はここよりはマシであろう、と
生徒の誰もが思った。

指揮をとっていたはずの和は
澪ファンクラブの諍いに巻き込まれていた。
会員の間で「澪の下痢便を掃除すべき派」と
「澪の下痢便を持ち帰って保存すべき派」に
真っ二つに分かれてしまっていたのである。
指揮系統を失ったことが
校内の混乱にさらなる拍車をかけた。

いつか下痢便が全て流れ切る、
それまで耐え切れば生きて帰れる。
生徒たちはそれだけを信じて
下痢便で溢れかえる校舎を掃除し続けた。

117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 17:22:10.43 ID:mCBIFmAb0
ブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリ
ブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリ

唯「あーもう全然終わんないよ~」

ブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリ
ブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリ

梓「いたいどれだけ出てくるんでしょうね、澪先輩の下痢……」

ブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリ
ブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリ

唯「これホントに全部澪ちゃんが出した下痢なのかなー」

ブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリ
ブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリ

梓「人間ワザとは思えないブリ」

ブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリ
ブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリ

唯「あーくっさー……」

ブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリ
ブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリ

律「……」

126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 17:29:17.38 ID:mCBIFmAb0
唯「もー、りっちゃん!
  ぼけーっとしてないで掃除してよ!」

律「え、ああ……悪い」

梓「なんかさっきから呆けてますよね、律先輩。
  また澪先輩がいたんですか?」

律「……」

唯「え、澪ちゃんがいるの?」

律「いや、そんな気がしただけだよ……
  多分気のせいだと思うけど」

唯「ふうん……?」

梓「いるわけないですよ、
  自分の下痢便が撒き散らされてる場所なんて、
  恥ずかしくて来られるわけありません」

律「まあ確かにそうか……」

唯「にしても誰なんだろうね、犯人」

梓「唯先輩か律先輩でしょ」

唯「だから違うってばー」

129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 17:35:59.38 ID:mCBIFmAb0
梓「なんでですか、
  蛇口から出る下痢便を見て澪先輩のだって言ってたじゃないですか」

唯「それなら憂とか和ちゃんだってそうだよ。
  下痢便を見ただけで澪ちゃんのだって分かってたし」

梓「うーん、なんで澪先輩のだって分かったんでしょうね」

唯「さあ……自分でも不思議だよ」

梓「私たちが澪先輩と親しかったから、
  そういう直感がはたらいた……とか?」

唯「え、なんで?」

梓「なんでかは分かりませんけど、
  和先輩が言ってたじゃないですか。
  『蛇口から下痢便が出てくるっていう報告は受けたけど
   それが澪先輩のだとは聞いてなかった』って」

唯「ああ、確かに……
  澪ちゃんとたいして親しくないほかの部活の人達には
  あの下痢便が澪ちゃんのだって分からなかったってことか」

梓「絶対そーですよ」

律「おいおい、お前らこそ掃除しろよ……
  人に言っといて」

唯「へいへい」

131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 17:39:51.64 ID:mCBIFmAb0
梓「いったいいつになったら綺麗になるんでしょうね」

唯「もう疲れちゃったよ」

律「きびきび掃除しろ。
  私はもう下痢便地獄にいたくないぞ」

梓「そりゃ私もそうですけど……おっと」

唯「あずにゃん、足元気をつけなよ。
  下痢便で滑るから」

梓「あ、はい」

律「梓は滑って転んでも
  もう下痢便まみれなんだから大丈夫だろ」

梓「もー、馬鹿なこと言わないでください」バシッ

律「うえっ、おっ……とととっ」

梓「あっ」

律「ツルッドテーン!」

唯「あーあ、あずにゃんがりっちゃん転ばしたー」

梓「だ、大丈夫ですか、律先輩!?」

律「…………」

134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 17:42:22.52 ID:mCBIFmAb0
唯「り、りっちゃん、大丈夫?
  体中下痢まみれになってるよ、あずにゃんよりひどいよ」

律「…………」

梓「早く起きてくださいよ」

律「…………」

唯「りっちゃん……?」

律「そうだ、ここだ……」

梓「えっ?」

律「ここに澪がいたんだ」

唯「は?」

律「この下痢便そのものが……澪だったんだよ!」

梓「な、何言ってるんですか?」

律「おいみんな、掃除するのをやめろ!
  この下痢便は澪だ!
  掃除しちゃいけない!!」

ざわざわ

唯「お、落ち着いて、りっちゃん!」

140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 17:47:28.56 ID:mCBIFmAb0
律「おい梓、今すぐ下痢便をかき集めろ!
  このままじゃ、澪が、澪が……!」

梓「オラァッ!!」ボコッ

律「ぐぇあ!」
ガクッ

唯「あずにゃん結構武闘派だね」

梓「あのままじゃ掃除の邪魔ですし。
  まったく、何でいきなりワケの分からないこと
  言い出したんでしょうね、このデコッパチは。
  この下痢便が澪先輩だなんて、あるわけないのに」

唯「だねー」

和「ちょっと、どうしたの?
  なんか騒がしかったみたいだけど」

唯「あ、和ちゃん。
  ファンクラブのいさかいはもういいの?」

和「血を見る結果になったけど落ち着いたわ。
  で、何があったの?」

梓「ああ、律先輩が、なんかいきなり
  この下痢便は澪先輩そのものだーとか言い出して」

和「なんですって?」

143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 17:51:28.01 ID:mCBIFmAb0
梓「え、はあ……
  頭おかしくなったんだと思って
  殴って気絶させました」

和「そう…………」

唯「?」

和「やはり……いや、
  想像したくはなかったけど……」

梓「何ですか?
  心当たりがなんかあるんですか?」

和「あ、いや、ちょっとね……」

唯「ふうん…・?」

和「そうだ、もし、ムギがここに来たら、
  生徒会室に来るよう言ってくれないかしら」

唯「ムギちゃんに? うん、良いけど」

和「じゃあ、お願いね……」

梓「そういえばムギ先輩、来てませんでしたよね」

唯「うん」

147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 17:55:22.59 ID:mCBIFmAb0
律「うーん……いててて」

梓「あ、起きましたか」

律「あれ、私は何をしてたんだっけ」

唯「掃除だよ、掃除。
  澪ちゃんの下痢便で汚れた校舎をね」

律「ああ、そういえばそうだったな。
  よーし、やっるぞー」

唯「さっき言ってたことは忘れてるみたいだね」

梓「まあそっちのほうが良いんじゃないですか。
  あんなアホみたいな発言、
  なかったことにしといたほうが」

唯「だねっ。
  さああずにゃん、私たちも掃除に戻ろっ」

梓「はい!」

下痢便の中で輝く天真爛漫な少女たち。
しかし彼女たちは知らなかったのだ。
この事件にとある陰謀が渦巻いていたことを。


 ◆第一部 完◆

151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 17:58:07.65 ID:mCBIFmAb0
第二部予告!

「……澪ちゃんは、家族と友人なら、どっちを取る?」
「ああ、終わった……なにもかも……ハハハ」
「ウェルカムトゥアンダーグラウンドだよ澪ちゃん」
「ちょ、待て、やめろ! さわるなっ、こらっ」
「まだ私のことを警戒しているの?」
「ずっと友だちでいてね……澪ちゃん」
「そんなことをしたら、この学校の水が」
「あるっ、自分の生死もかかってるからなっ」
「悪く思わないでね、澪ちゃん」

156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 18:00:49.79 ID:mCBIFmAb0
第二部は7時くらいからやるので保守オネシャス

174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 19:00:01.49 ID:mCBIFmAb0
その時の私たちは期末試験2日目の終わりをむかえ、
音楽準備室で今日のテストの手応えをみんなで話し合っていた。
いかに問題が解けなかったかを語り出す律。
それを茶化す唯と梓。
ほほえみをたたえみんなを見守るムギ。
いつもの軽音部の風景であった。

律「あああ、もう、明日は古文と英語があるじゃん。
  絶対無理だよ、下手すりゃ留年だよ」

唯「豊崎先生、ぜったいいじわるな問題出してくるよね」

律「そりゃーあのジジイの脳みそには
  どうやって生徒を苦しませるか、っていう知識しか入ってないからな」

梓「酷い言いようですね」

175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 19:05:15.03 ID:mCBIFmAb0
律「澪はいいよなー古文得意で」

澪「え、そうかな」

古文が得意……と自分で思ったことはないし
まともに勉強したことなどないが
テストではいつも律より点数が上だった。

唯「ねーねー、どうやったら古文できるようになるの?」

澪「どうやったら……って、
  とりあえず助動詞とか文法とか暗記したら
  だいたいできるんじゃないのか」

古文の効率のいい勉強法など知らないので
かなり投げやりに答えてやった。
しかし唯と律は天恵を授かったかのような顔になり
さっそくカバンから文法の参考書を取り出して
ブツブツ呟きながら丸暗記を始めた。
それを呆れたような顔で梓が見つめる。

うるさかった二人が勉強を始めたので
音楽準備室は静かになった……と思ったら
ムギが小声で話しかけてきた。

紬「澪ちゃん、部活が終わったあと残ってくれる?
  話したいことがあるから」

176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 19:09:24.92 ID:mCBIFmAb0
話したいこと?
ムギから改まってこんなことを言われるのは初めてだった。
なにか真面目な話だろうか?
それとも相談事でもあるのか。
思考をめぐらせてみたが
ムギが私に話すようなことに心当たりはなく
私は悶々としたまま部活が終わるのを待った。

部活が終わると唯、律、梓の3人は帰っていった。
3人は私とムギが居残ることを不思議がっていたが
新曲の打ち合わせだと嘘をついて追い出した。

音楽準備室に、私とムギはふたりきりになった。

澪「話って何だ?」

紬「まあ、そんな焦らなくても……
  とりあえず座って」

澪「? うん」

私は促されるまま
さっきまで自分が腰掛けていた椅子に座った。
私の右隣の席にムギが座っている。
座る際にムギの横顔を観察したが
何を考えているのか表情から読み取ることはできなかった。

179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 19:13:42.28 ID:mCBIFmAb0
紬「……」

澪「……」

紬「……」

澪「早く話してよ」

紬「……澪ちゃんは、家族と友人なら、どっちを取る?」

澪「は?」

紬「たとえば澪ちゃんのお父さんと、りっちゃんが
  それぞれ人食いライオンに追いかけられていて、
  澪ちゃんが持っている麻酔銃が一発しかないとしたら、
  どっちを追いかけてる人食いライオンを撃つかしら」

澪「そ……そんなの選べるわけないだろ」

紬「別に善人を気取らなくてもいいのよ。
  どっちを選んだからどうってわけでもないし、
  答えた結果は誰にも言わないわ」

澪「……」

紬「ほら、どっち?」

澪「……お父さんを助ける……かな」

紬「そう」

180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 19:18:41.86 ID:mCBIFmAb0
澪「な、なんだよ。
  お父さんを助けたからってどうなんだ?」

紬「別に……やっぱり澪ちゃんも私と同じなんだと思って。
  ちょっと安心したわ」

澪「安心……?」

紬「じゃあ本題に入るわね。
  澪ちゃんに本当に話したかったこと、言うわ」

澪「うん、なんでも言ってくれ」

紬「澪ちゃん、テストのときカンニングしてたでしょ?」

澪「えっ……!?」

紬「ごまかしても無駄よ。
  テスト中に見えたもの、澪ちゃんがカンペ見てるの」

澪「な、なんでそれを……」

馬鹿な、私のカンニングは完璧だったはずだ。
誰にも見られない、誰にもバレない、
そういうカンニング方法を極めて来たはずなのに、
まさかムギにバレていたとは。

183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 19:23:00.20 ID:mCBIFmAb0
紬「今日が初めて……じゃないわよね。
  1年の時からずっと続けてる」

澪「な、なんで知ってるんだ?」

紬「あら、ホントにずっとやってたの?
  ちょっとカマかけてみただけなんだけど」

澪「…………」

紬「このことがバレたらどうなるかしら。
  普通なら当該学期のテストすべてゼロ点、ってことになるんだろうけど、
  1年の時からずっとやってたんなら……
  下手したら退学かしらね」

澪「や、やめてくれ!
  誰にも言わないでくれ……頼む!」

紬「それが人にモノを頼む態度かしら」

澪「っ……や、やめてください、お願いします……
  琴吹紬さまっ……」

紬「そう、それでいいのよ。
  私、友達の秘密を握るのが夢だったの」

ムギはいつもの笑顔でそう言ったが、
その笑みの裏にどす黒いものが渦巻いているのは
私にも分かった。

185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 19:27:01.79 ID:mCBIFmAb0
翌日、ムギは証拠写真というのを持ってきた。
それは確かに私がテスト中にカンペを見ている場面を写したものだった。
テスト中に撮影したのだろうか?
誰にも知られずに……そんなことが出来るのか。

紬「いいかしら?
  私の言うコト聞かなかったら、こればらしちゃうからね」

澪「あ、ああ……」

私の青ざめる顔を眺めて満足したのか、
ムギは写真を懐にしまって自分の席へと戻っていった。

それを見て、ふと、私はあることに気がついた。
ムギの席は私より前なのだ。
テスト中に、どうやったって私のカンニング場面は見えないし
ましてや撮影することなど不可能である。
これはどういうことだろう?
まさかムギに仲間がいて、
そいつとグルになって私のカンニング場面を抑えたとか?
一体なんのために……

頭が疑惑の念でいっぱいだったのと
カンニングが出来なかったのとで
その日のテストは散々な出来だった。


189 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 19:31:13.48 ID:mCBIFmAb0
音楽準備室。
やっと期末テストから解放された部員たちは
気の抜けた表情で紅茶をすすっていた。

唯「はー……終わったねー……」

律「ああ、終わった……なにもかも……ハハハ」

澪「……」

梓「さあテストも終わったことですし、
  久々に練習しましょう、練習! ね!」

唯「今そんな気になれないよ~」

律「私もなれない……ハハハ」

律は「気の抜けた」というより「魂の抜けた」という感じだ。
それほどテストが出来なかったのだろうか。もっとも私が言えたことではないが。

梓「もー……澪先輩もなんとか言ってやってください!」

澪「ああ」

唯と律に喝を入れてやろうと
椅子から立ち上がったその時、ムギが私を制した。

紬「ダメよ、澪ちゃん」

澪「えっ」

192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 19:35:15.64 ID:mCBIFmAb0
紬「澪ちゃん言ってたじゃない、
  当分練習はしないって」

澪「えっ?」

梓「ホントですか?」

澪「いや、そんなこと……」

紬「言ってたわよね」

澪「……」

私はムギに秘密を握られていることを思い出した。
あまりムギには逆らわないほうがいいのだろう。
もしもバラされたらたまったものではない。

澪「あ、ああ……そういえばそうだったな」

梓「えーっ!」

律「おっ、澪もとうとう堕落し始めたか」

唯「ウェルカムトゥアンダーグラウンドだよ澪ちゃん」

澪「あはは……」

梓「むぅ……」

194 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 19:39:16.80 ID:mCBIFmAb0
もしかしたら私はずっと秘密を握られたまま
ムギの言うことを聞いていかなければならないのか。
今はたいしたことじゃなかったが
いずれはムギからの要求や命令が
エスカレートして行くに決まっている。
ムギは人とはズレてるところがあるし
何を言い出されるかまったく想像ができない。
突拍子もないことをやらねばならないハメになる前に、
なにか対抗策を打ち出す必要がある。

そのあと一晩考えたが特に有効な対策は考えつかなかった。
唯一思いついたのが「こちらもムギの秘密を握る」こと。
しかしムギの秘密を握ることなど出来るのか。
ムギには常人にはない得体の知れなさがある。
おそらく人には言えない秘密もたくさんあるだろうが
それを暴きだすことは不可能に思えた。
ムギのあの笑顔を引き剥がした下には秘密ではなく
ただ掴みようのない闇だけが広がっているのではないか、
そんな気がした。

だが躊躇していては先に進めない。
私はその日からムギを監視することにした。
始業前、授業中、テスト中、休み時間、
体育の着替え中、昼食中、部活中、下校中、
ずっとムギを見続けていたら
3日目で本人にバレてしまった。
私は再び部活後の音楽準備室に残らされた。


197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 19:43:16.01 ID:mCBIFmAb0
紬「やっぱり私を監視していたのね。
  秘密を握り返すために」

澪「そうだよ……
  このままじゃ私が損するばっかりだからな」

紬「あら、カンニングをした罰だと思えば対等じゃないかしら?」

澪「こういうのは罰とは言わない。
  弱みにつけ込んでるだけじゃないか」

紬「じゃあ罰を与えてあげましょうか。
  カンニングの証拠写真を先生に……」

澪「やめろ……てください」

紬「はあ……我侭よね、澪ちゃんって。
  人のやることにケチつけるくせに
  いざ望みどおりにしてあげようとしたらまた文句言うなんて」

澪「……」

紬「ま、だからこそ私の秘密を嗅ぎまわる、なんて
  ストーカーみたいな真似をやっていたんでしょうけど」

澪「結局何も見つからなかったけどな」

199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 19:44:38.08 ID:mCBIFmAb0
紬「当然よ。
  ちょっと見られたくらいでバレるようじゃ秘密とは言えないわ。
  澪ちゃんのカンニングなんかとは本質が違うのよ」

澪「ムギには秘密なんてなさそうに見えるけどな」

紬「あら、私にも秘密くらいあるわよ。
  澪ちゃんの秘密を持ってるっていう秘密が」

澪「それは秘密っていうのか……?」

紬「さあ、どうかしら。
  でもそんなに知りたいなら教えてあげてもいいわ」

澪「えっ?」

紬「私の秘密を」

澪「ムギの秘密を……?」

紬「それから、
  澪ちゃんの知らない澪ちゃんの秘密も」

澪「え……なんだ、それ」

紬「じゃあまず私の秘密から言うわね」

澪「……」

紬「私、眉毛を取られるとゲル状になっちゃうの」

206 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 19:49:40.71 ID:mCBIFmAb0
澪「は?」

紬「信じてないって顔ね。
  せっかく打ち明けたのに」

信じられるわけがなかった。
眉毛を取る、という意味がまず分からないし
ゲル状になっちゃう、というのもさっぱりだ。

澪「ゲル状になるって……何が?」

紬「私が」

澪「……」

紬「試してみる?
  百聞は一見にしかず、というし」

澪「試すって……眉毛をとればいいのか?」

紬「ええ。優しくね」

澪「……」

私はムギの眉毛に手を伸ばした。
前々から触ってみたいと思ってはいたが、
まさかこんな形で触ることになろうとは。

眉毛に指を重ね、力を入れると……
なんと、取れてしまった。

209 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 19:54:44.06 ID:mCBIFmAb0
澪「な、な、な、な……」

次の瞬間、
ムギの体はみるみるうちに溶け始め、
ゲル状の液体へと変わっていったのだ。

紬「早く眉毛を戻して頂戴。
  完全に溶けきっちゃうと戻るのが面倒だから」

澪「あ、あ、ああ……」

溶けゆくムギの顔の、眉毛があったと思しき位置に
私は元のように眉毛を貼りつけた。
するとムギの融解は止まり、再び人間の形に戻った。

紬「どうだったかしら?」

澪「どっどど、どどうど、どどうど、どどうだったもなにも、
  まったくどういうことだか状況を飲み込めないんだけど……」

紬「澪ちゃんが見たありのままのことが真実よ。
  私は眉毛を取られるとゲル状になるの」

澪「は、はあ……」

いまだパニックが続く私の脳みそに、
ムギのさらなる一言が追い打ちをかけた。

紬「澪ちゃんも眉毛を取ると何かに変わるはずよ」

214 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 19:59:32.92 ID:mCBIFmAb0
澪「はぁっ!?
  今のムギみたいに、ゲル状になるっていうのか?」

紬「ゲルかどうかは分からないけれど。
  何か液状のものにはなるはずよ」

澪「な、なんでそんなことが分かるんだ?」

紬「言ったはずよ。
  やっぱり澪ちゃんも私と同じだって」

いつそんなことを言われたのか、
私はまったく思いだせなかった。
記憶を必死に引っ掻き回していると
ムギが私の方へと歩み寄ってきていた。

紬「試してみましょうか?
  私も澪ちゃんが何に変わるか興味あるし」

澪「ちょ、待て、やめろ! さわるなっ、こらっ」

私はムギをはねのけようとしたが
ムギの力に敵うはずもなく、あっさり押さえこまれてしまった。
そして私の顔にムギの指が伸びてきて、
さっと眉毛が剥がされてしまった。
本当に剥がされるような感触だった。
皮膚に貼ったセロテープを剥がしたような、そんな感じ。

その感触がなくなったとき、
私は下痢便に変わっていた。

218 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 20:04:33.58 ID:mCBIFmAb0
澪「なんじゃこりゃああああ!!」

紬「うわっ、くさーっ!
  おおかたロクでもないものだろうとは想像していたけれど、
  まさか下痢便だなんて……うええっ」

澪「は、早く眉毛を戻してくれっ!」

紬「言われなくても戻すわよ、くさいし」

まるで汚いものにふれるようにして
ムギは私の眉毛を顔に戻した。
確かに今の私は汚物ではあるが。

眉毛を戻されると、たちまち元の姿に戻ることができた。

澪「ふう、はあ、ひい……」

紬「強烈だったわね。
  これが澪ちゃんの知らない澪ちゃんの秘密よ。どうだった?」

澪「ど、どうだったも何も……
  ていうかなんでムギは私がこうなることを知ってたんだ」

紬「この体質を持つものは互いに感応するのよ」

澪「……じゃあ何で私はムギの体質に気づかなかった」

紬「澪ちゃんが自分の体質を自覚してなかったからじゃない?」

220 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 20:09:49.25 ID:mCBIFmAb0
とってつけたような解説ではあったが
私にはこの体質の知識は皆無だし
他に説明のしようもないので受け入れるしかあるまい。

澪「私とムギだけなのか……こんな体なのは」

紬「私の憶測だともう一人この学校にいるわね。
  なんとなく感じる程度だけど」

澪「ふうん……」

ムギがゲルで、私がゲリ。ぐりとぐらみたいだ。
しかしこんな不気味な体の人間がもう一人いるとは。
じゃあそのもう一人は何になるのだろう。ゲロ?

紬「ま、これでとにかくお互いに秘密を持ったわね。
  もっともまだ私のほうが有利ではあるけど」

澪「……」

紬「じゃあ私はもう帰るわね。
  あなたも早く帰ったほうがいいわ、下痢澪ちゃん」

澪「それ他所で言うなよ……」

紬「ええ、そのかわり二人の時は
  これで呼ばせてもらうわね、下痢澪ちゃん」

そう言い残すとムギは去っていった。

225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 20:14:50.64 ID:mCBIFmAb0
それから数日が過ぎた。
ムギは私のカンニングをしたという弱みにつけこんで
あんなことやこんなことをしてくるかと思われたが
まったくそんな素振りすら見せなかった。
むしろ以前より親しく接してくるようになった気がする。
怪しい。すごく怪しい。

紬「なに? そんな目で見ないでよ」

澪「ああ……ごめん」

紬「まだ私のことを警戒しているの?」

澪「当たり前だろ……」

ムギは部活が終わったあと
かならず私に音楽準備室に居残るように言った。
別に何をされるでもなく
ただ二人でどうでもいい話をするだけだ。
ちなみに今も私たちは音楽準備室にいる。

紬「私のこと嫌いになった?」

澪「……なんで?」

紬「だって、怖い顔してるから」

澪「別に嫌いでこうしてるわけじゃ……
  ただ秘密を握られてる相手の前で
  気を抜かないようにしてるだけだ」

232 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 20:19:09.79 ID:mCBIFmAb0
紬「あら、秘密なら澪ちゃんも、私の秘密を知ってるじゃない」

澪「それとこれとは違うだろ。
  私の秘密は証拠もあるし弱味になるけど
  ムギの眉毛を取るとゲル状になるっていう秘密は
  誰かにバラしたところで信じてもらえはしないからな」

紬「そうね」

澪「……」

紬「でも、だからこそ……
  澪ちゃんと秘密を共有できて良かったって思ってるの」

澪「え?」

紬「体がゲル状になるなんて、誰も信じてくれないし、
  ためしにやってみても夢か幻だと思われて、
  勝手に理屈をつけて自分の中で納得してしまうだけ。
  私のこの体質を理解してくれる人なんていなかった」

澪「……」

紬「だからつらかった……
  なんで私だけこんな体に生まれてきたんだろうって思って。
  誰にも分かってもらえない、受け入れてもらえないまま
  秘密にして生きていかなきゃいけないのかなって」


234 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 20:24:12.41 ID:mCBIFmAb0
紬「でも、澪ちゃんが私と同じ体質だって知って、今は安心してるの。
  この体質であることを共有できる人がいるんだって思うと、
  すっごく嬉しくて」

澪「ムギ……」

紬「ずっと友だちでいてね……澪ちゃん」

澪「ああ」

悲しそうに過去を語ったムギに
一瞬だけ心を動かされそうになったが
ここで気を緩めてはいけない。
なにか裏があるに決まっている。

誰かと共謀して私のカンニングを撮影した真意は何だ。
自分と私の体質について打ち明けたかったからか。
いや、それだけならば私の弱味を握る必要などない。
では一体ムギは何のためにこんなことを?
……その問いに対する答えは一つしか思いつかない。
ムギは私が下痢便になるという体質を何かに利用しようとしているのだ。

もし逆らえばカンニングをバラされる。
従えば何をやらされるか分からない。
私は一体どうすればいいのか?
この自分の体質を他の人に打ち明けてみるか?
いや、私が下痢便に変わるとわかれば
友人はおろか親や教師までも私を
汚物を見るような目で見るに違いない。
それは嫌だ。

240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 20:30:08.22 ID:mCBIFmAb0
それに私がなにか対抗策を講じようとしたら
ムギは即座にそれを嗅ぎつけ
私のカンニングを公にしてしまうだろう。
つまり私一人だけの力でムギに立ち向かわなければならないのだが
果たして独力でムギに勝てるだろうか。そこはかとなく不安である。

いつ、どんなことをムギから命令されるのか、
ムギの思惑は一体なんなのか、
そんなことだけを考えながら毎日を過ごした。
私はあからさまにムギのことを警戒していたようで、
律や唯から「ムギと何かあったのか」と
聞かれることも何度かあった。
私はそのたびに「なんでもない」とごまかしていたが
いずれごまかすのにも限界が来る。
私はムギへの警戒心を弱めざるを得なくなるが
ムギがそこを突いてくるかも知れないと思うと
うかつなことはできなかった。

私からムギを問い詰めたこともあった。
狙いはなんなのか、と。
私の秘密を握って何をしたいのか、と。
だがムギははぐらかすばかりで
はっきりとした答えはまったく引き出せなかった。
だがそのことが逆に
ムギが私を利用しようとしている、という疑惑を
確信へと近づけていったのだ。

そしてほどなくしてその確信は真実となった。

紬「澪ちゃん、明日の朝一番に学校に来てくれる?」

243 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 20:35:25.84 ID:mCBIFmAb0
澪「えっ?」

紬「明日の朝一番に、学校の屋上に来てほしいの。
  いいかしら?」

澪「……ああ」

屋上で何をしようというのか。
朝一番ということは人が少ない時間を選んだ、ということだろう。
人に見られてはいけないこと。
しかし屋上ならば、昼休みも放課後も無人だし
わざわざ朝一番でなくとも構わないはずだが。

ムギの真意が見えない。
何をされるか分からない。
だがこれを乗り切れば、
私はムギから開放されるのではないか、
そんな気がした。

紬「じゃあ、明日、屋上でね」

澪「……」

人を見下したような、意地の悪い笑顔。
それをただ甘んじて受け取るしかない自分が悔しい。
明日はなにか武器を持って行こう。
何があるか分からないし。

245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 20:40:27.43 ID:mCBIFmAb0
翌日。
私は約束通り、朝一番に……
具体的な時間を言えば午前7時頃に、
桜が丘高校の屋上に到着した。

懐には万一の時に備えて
折りたたみ式のナイフを入れてきた。
これが使う場面が来ないことを願いたい。

屋上は無人だった。
いや、屋上だけではなく
校舎内にもグラウンドにも人影はなかった。
静けさに支配された学校はいささか不気味であった。

澪「おーい、ムギ、いないのか?」

紬「ここよ、澪ちゃん」

声はすれども姿は見えず。
キョロキョロとあたりを見回してムギを探したが
どこにも見当たらない。

紬「ここよ、ここ」

ムギの声は上の方から聞こえてきた。
声がした方を見上げると、
貯水槽の上にムギが立っていた。

紬「上がってきて、澪ちゃん」

248 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 20:44:47.62 ID:mCBIFmAb0
私は言われたとおりハシゴで貯水槽に上がった。
こんなところに来るのは初めてだった。

貯水槽の上でムギと対峙する。
おたがい黙って相手の顔を見合っていた。
相変わらずムギの表情は読めない。
私は相手に付け入る隙を与えないよう
険しい表情を作ってムギを睨んだ。

1分間ほどそうしていた。
沈黙を破ったのはムギだった。

紬「ここに呼び出された理由、分かる?」

澪「……私の体質を何かに使うつもりだな」

紬「あら、よく分かったわね」

澪「そうとしか考えられないからな。
  私の弱味を掴んで、私を縛り付ける理由が」

紬「まあ、分かっているなら話は早いわ。
  あなた、今すぐ下痢便に変身して
  この貯水槽の中に飛び込みなさい」

澪「はぁっ!?」

250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 20:48:57.67 ID:mCBIFmAb0
ムギの口から飛び出てきたのは予想外の言葉であった。
下痢便の状態で貯水槽の中に飛び込む。
そんなことをしたら……

澪「そんなことをしたら、この学校の水が」

紬「ええ、蛇口をひねれば吹き出してくるわね。
  下痢便がね」

澪「ムギ、本気で言ってるのか?
  それにそんなことしたら私も……」

紬「下痢便となり、蛇口から下水へと流され、消えてしまうでしょうね。
  そして証拠も証人も残らない、究極の完全犯罪が成り立つ。
  まさか人が下痢便になって貯水槽に入ったとは思われないだろうし」

まさか私を殺すつもりだとは思わなかった。
胸に忍ばせたナイフを使わなければならないようだ。

澪「なんのために、こんなことを……」

紬「……水道水祭り、って知ってる?」

澪「水道水祭り……?」

聞いたことがある。
確かこの高校で毎年行われているイベントだ。
生徒には関係がないので特に関心はなかったし、
実際このイベントを知らない生徒も多いだろう。

253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 20:53:49.49 ID:mCBIFmAb0
紬「この高校の校長は無類の水道マニアでね。
  毎年地元の水道関係の会社を集めては、
  その技術のお披露目会を開いているのよ」

澪「へえ」

紬「それが明日、開催されるの」

澪「はあ」

紬「我が琴吹グループも参加するのよ。
  そして私たちの会社は毎年高い評価を得て、
  そのおかげで国内の水道事業ではトップシェアを誇っているの」

そのイベントにそんな影響力があったとは知らなんだ。
しかしそれと下痢便と何の関係がある?

紬「でも今年はちょっとマズイのよね。
  ライバル会社の京兄カンパニーが新技術を開発した。
  そのせいで毎年トップだった琴吹グループの地位が脅かされているの」

澪「ふうん」

紬「京兄カンパニーは今回の水道水祭りで優勝をかっさらっていくでしょう。
  それを父は嫌がったの。
  琴吹グループのブランドイメージを損なってしまうから」

澪「ほお」

254 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 20:58:56.48 ID:mCBIFmAb0
紬「だから澪ちゃんに犠牲になってもらおうというわけ。
  この学校の蛇口から下痢便が出てくる、なんてことになれば
  そんなイベントをやっている場合ではないしね」

澪「……」

紬「それに校内の水道が下痢便に侵されたとなれば
  大規模な水道工事が必要になるわ。
  それを私のコネで琴吹グループにやらせるの」

澪「そうすれば水道水祭りがなくなっても
  琴吹グループの水道技術をアピールできるってわけか」

紬「そうよ。理解が早くて助かるわ。
  じゃあ早速、眉毛をとって下痢便になってもらえるかしら?」

澪「断る! ムギの父親のメンツのために
  そんなことに協力できるわけないだろ!」

紬「へえ……そんな強気な態度をとっていいのかしら?
  こっちには屈強なボディーガードが3人も配置してあるのよ。
  いざとなれば力づくでも……」

澪「な、なにっ?」

紬「ふたりきりで会おう……とは言っていなかったはずよ」

澪「クソッ」

私は懐からナイフを取り出した。

263 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 21:03:57.43 ID:mCBIFmAb0
紬「やはり武器を持っていたわね」

澪「こうなったらやれるとこまでやってやる……
  早くそのボディーガードとやらを私の前に連れてこいよ」

紬「あら……ボディーガードなんていないわよ」

澪「えっ?」

紬「眉毛を取るとゲル状になる、って話、
  誰も信じてくれなかったって言ったでしょう?
  それはボディーガードも同じこと。
  試しに頼んでみたけど、誰もついてきてくれなかったわ……
  『澪ちゃんの眉毛をとって下痢便にするの手伝って』ってね」

澪「な、じゃあ、なんでボディーガードがいるなんて……」

紬「澪ちゃんが武器を持っているかどうか知りたかったのよ」

澪「も、持ってたらどうなんだよ!?
  私に近づいたら、さささ、さ、刺すぞ」

紬「澪ちゃんにそんな勇気があるの?」

澪「あるっ、自分の生死もかかってるからなっ」

紬「あらそう……でもそんなナイフ、
  あっても無駄なんだけなんだけど」

そう言うとムギは素早く自分の眉毛を外した。

267 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 21:08:57.37 ID:mCBIFmAb0
ゲル状になったムギが私に飛び掛ってきた。
私は反射的にナイフを突き出す。
その刃先はゲル状の体に突き刺さったが手応えはない。
さらにナイフはゲルに巻き取られ、奪われてしまった。
唯一の武器を失った私は押し倒され、
あっという間にムギに押さえこまれた。

澪「なっ……くそっ」

ムギは眉毛を貼りつけ、元の姿に戻った。
私の上に馬乗りになるムギ。
その手にはナイフが光る。

紬「悪く思わないでね、澪ちゃん」

ムギはナイフを振りかざした。
私は渾身の力で暴れたが、ムギは微動だにしない。

澪「や、やめろっ!
  私たち友達だろ、おいっ」

紬「そうね、たしかに友達ね。
  でも言ったはずよ、あなたと私は同じだって」

澪「は?」

紬「澪ちゃんも言ってたじゃない。
  友人より親を取る、ってね」

ムギは私の肩にナイフを突き刺した。

272 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 21:13:57.39 ID:mCBIFmAb0
紬「殺しはしないから安心して。
  死んじゃったら下痢便への変身ができなくなっちゃうものね」

澪「う、うぐっ……!」

紬「まあもっとも、下痢便として貯水槽に落とされれば、
  それが澪ちゃんの最期になるんだけどね」

澪「ああっ、はあ……」

紬「じゃあもう早いとこやっちゃいましょうか。
  さようなら、澪ちゃん」

ムギが私の眉毛に手を伸ばした。
私は肩の痛みに耐えるのに精一杯で、抵抗などできなかった。

やがてムギの手で私の眉毛が剥がされた。
私は自分の体が下痢便に変わっていくのを感じた。
ムギは一度私から離れ、何かをしているようだった。
おそらく貯水槽のフタを開けているのだろう。
それが終わるとムギは私を引きずった。
私は肩の痛みのせいで身動きが取れず、
もうされるがままになっていた。

紬「澪ちゃんのこと、忘れないわ」

ムギはそう言うと、
私の体を貯水槽の中へと落とし、
蓋を閉めた。

277 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 21:18:57.65 ID:mCBIFmAb0
私は水道水の中に落ちた。
下痢便の体が水道水に溶けていくのを感じた。
駄目だ、溶けるものか。
溶けてたまるか。
ムギの思い通りにさせてなるものか。
私は力を振り絞って、溶けつつある体を
自分の体へと収束させることに努めた。

ムギに刺された場所が痛む。
このままではいずれ力尽きて死んでしまうだろう。
そうなれば校内中に下痢便が行き渡ってしまう。
桜が丘高校は大パニックに陥る。
今私にできるのは、
それが起こるのをなるべく引き伸ばすことだけだ。

私は必死になって自分の体が溶けるのを抑える。
肩の痛みも増してきた。
いつまで持つかなんて分からないし、
最後は耐え切れず溶け出してしまうだろう。それでも。

暗く冷たい貯水槽の中。
私は一人。
戦い続ける。
勝ち目のない戦いを。
あわよくば誰かが私に気づいて、
貯水槽に溜まる下痢便を
その手で掬い出してくれることを、
祈りながら。

 ◆第二部 完◆

286 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 21:24:00.50 ID:mCBIFmAb0
 ◆エピローグ◆


紬「酷い有様よね」

下痢便に染められた校舎を見て、琴吹紬はそう呟いた。

唯「ムギちゃん! いつの間に来たの?」

紬「ついさっきよ、どうなってるかなって思って」

唯「どーもこーもないよぉー、
  掃除大変だよ、くさいしきたないし」

梓「あ、ムギ先輩。
  さっき和先輩が、ムギ先輩が来たら生徒会室に来るよう言ってくれ、
  って言ってましたよ」

紬「和ちゃんが?
  何の用なのかしら」

梓「さあ、それは聞いてないです」

紬「そう……じゃあ行ってくるわ。
  あとで私もお掃除手伝うから」

唯「いてらー」

紬「いてらあり」

291 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 21:29:00.76 ID:mCBIFmAb0
生徒会室。

ガラッ
紬「失礼するわ」

和「ああ、来たのね……ムギ。
  今日はもうこないのかと思ったわ」

紬「その顔……すべて知ってるって顔ね」

和「ええ。まだ憶測でしかなかったけど……
  律の『この下痢は澪だ』っていう発言で確信に変わったわ」

紬「……」

和「律の言うとおり、貯水槽にあった下痢便は、
  澪が変身したもの……そうでしょう」

紬「そうよ、よく分かったわね。
  そもそも人が変身するなんて荒唐無稽な話、
  和ちゃんが受け入れると思わなかったわ」

和「私もこんなことをムギがするなんて思わなかったわ」

紬「そういう意外性を狙ったつもりだったんだけど、
  あっさりバレちゃったみたいね」

和「……」

296 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 21:34:09.62 ID:mCBIFmAb0
和「ムギ、あなたはまず澪のカンニング場面を写真に収め、
  それをネタに澪とより深い仲になろうとしたわね」

紬「そんなことまで知ってたの?」

和「そのために澪ファンクラブの会員を買収して
  澪の弱味となる写真を撮らせた……
  ファンクラブの会員なら
  誰だって人にバレない盗撮技術を持っているから、
  澪の秘密を手に入れるのは容易だったでしょう」

紬「どうしてファンクラブの会員を使ったことまで……
  まさか密告?」

和「ふふ、私は澪ファンクラブの会長なのよ?
  会員のことはすべて把握しているわ」

紬「……」

和「で、写真を手に入れて、
  澪と秘密という鎖で繋がれた親密な関係を築こうとした。
  そして自分の体のこと、澪の体のことを打ち明け、
  より大きな秘密を共有してさらなる信頼を得ようとしたのね。
  澪を利用しやすくするために」

紬「ええ……まあそれは上手くいかなくて、
  澪は最後まで私のことを警戒しっぱなしだった。
  それでも計画自体は成功したからいいんだけど」

和「計画って水道水祭りをぶち壊すこと?」

299 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 21:39:11.38 ID:mCBIFmAb0
紬「そうよ……
  まさかこんな状態じゃ出来ないでしょう」

和「出来るとか出来ないの問題じゃない、
  やると言ったらやるのよ。
  すべての下痢便を掃除して
  水道水祭りをできるようにしてみせるわ」

紬「く……」

和「前日の朝に貯水槽に澪を、下痢便を落としたのが
  あなたの敗因だったわね。
  夕方か夜にそうしていれば、
  下痢便を掃除する時間なんてなかったのに」

紬「夜だと澪ちゃんが怖がって学校に来ないかと思ったのよ。
  夕方は人が大勢いるし」

和「ああ、そう」

紬「で、どうするの?
  私のこと」

和「どうって?」

紬「捕まえる? 逮捕する?
  証拠なんて一つもないけど」

和「捕まえるまでもないわ」

302 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 21:44:40.15 ID:mCBIFmAb0
紬「ふうん……じゃあどうするっていうのかしら」

和「どうすると思う……?」

紬「……」

和「……」

紬「……」

和「……」

紬「ちょっと待って……」

和「何?」

紬「和ちゃん、どうしてあなた、
  私たちの体のことを知っていたの……?」

和「私もあなたと同じだから……
  って言えば分かるかしら」

紬「ま、まさか!」

和「そのまさか……ってことよ」

和が自分の眉毛を外した。

和「澪のかたきよ」

311 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 21:49:40.95 ID:mCBIFmAb0
数時間後。
掃除を終えた生徒会役員の一人が
生徒会室に戻ってきた時、
床に横たわる琴吹紬の死体を発見した。

通報を受けてやってきた警察は
死の直前まで紬と会っていたという和を
容疑者の一人として事情聴取をしたが
和は「自分は関係ない」の一点張りであった。
その後の捜査により和が紬を殺害したという証拠は出なかった。
しかし和が怪しいことには依然変わりはないとして
警察はさらなる捜査を進めている。

ちなみに紬の死因は窒息であった。
肺に大量のゲロが詰まっていたという。
また死人が出て警察が学校に入ったため
結局水道水祭りは行えなくなった。

この事件はマスコミを騒がせ、
捜査も長く続けられたが
決定的な証拠は発見されず
やがて捜査は打ち切られた。
マスコミも他の新しい話題を見つけたので
民衆の関心もそっちのほうへと移っていった。

澪と紬を失った軽音部は解散となった。

318 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 21:54:41.06 ID:mCBIFmAb0
梓「お久しぶりです、唯先輩、律先輩」

律「おう、やっときたか」

唯「あれから2年、かな」

梓「早いもんですね」

律「ああ……」

唯「澪ちゃんがいなくなって、
  ムギちゃんが殺されたあの日から……」

律「……」

梓「どうして、あんな事件が起こったんでしょうね」

唯「それは分からないよ。
  ただ不幸が重なったとしか」

律「不幸で済ませられる問題かな……」

梓「あの、律先輩」

律「?」

320 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 21:59:41.77 ID:mCBIFmAb0
梓「あの時……この下痢は澪先輩だって、
  澪先輩そのものだって言ってたじゃないですか」

律「ああ」

梓「今更なんですけど、もしかしたら律先輩が言ってたのは
  本当のことだったんじゃないかって思うんです」

律「本当にいまさらだな、はは」

梓「だから私、いっつも蛇口をひねるとき……
  またあの時みたいに下痢便が出てこないかな……って。
  もう一度澪先輩に会えないかな、って思っちゃうんです」

律「それは私も同じだよ」

唯「私も蛇口をひねるたび澪ちゃんのことを思い出しちゃう。
  いつもみたいにこうやって……」キュッ

ブリブリブリブリブリブリ!!

唯「えっ!」

梓「あっ!」

律「おっ!」

唯「蛇口から澪ちゃんの下痢便が吹き出してきたよー!!」

     お わ り

321 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/24(金) 22:01:30.11 ID:mCBIFmAb0 [75/75]
くりすますいぶにこんなすれみてるおとこのひとって

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