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唯「放課後てぃーたいむとらべらー」-2

唯「放課後てぃーたいむとらべらー」
続きです

190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 12:24:06.95 ID:qiiXSArn0 [74/188]
2010年5月19日

先週行った中間テストの成績が配られた。
答案用紙に書かれた数字に私は愕然。

梓(酷過ぎる……それに赤点が3つも……)

憂「梓ちゃんどうだった?」

梓「ひっ……ま、まぁまぁの結果かな……」

憂「そっかー。それより純ちゃんすごいね~」

憂「勉強してないだなんて言っておいて、ほとんどが高い点数だったんだよ」

梓「そそそ、そうなんだぁー……へー……」

純「私、天才少女? あはははは」

梓(っぐ……!)


193 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 12:29:08.87 ID:qiiXSArn0 [75/188]
梓(どうしよう……最悪だよっ)

梓「……そうだ」

純「え? どうした、梓?」

憂「?」

梓「ちょっとトイレ行ってくる!」

憂・純「いってらっしゃーい」


194 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 12:32:11.19 ID:qiiXSArn0 [76/188]
軽音部室

梓「たしかここに……あった。隠したときのままだ!」

私は返された中間テストの答案用紙たちをポケットに突っ込み、
物置から取り出してきたギターもといタイムマシンを担ぐ。

梓(答案用紙には正しい答えも書き写した。これを過去の私に渡せば……)

正直せこいとかずるいとか、そんなことは一度もこの時思わなかった。
けれども、寸でのところで私のプライドが働いた。

梓「ほんとに……こんなことしていいのかな」

梓「それにこれは先輩たちとも使わないって決めたんだよ?」

梓「なのに……」


196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 12:37:25.41 ID:qiiXSArn0 [77/188]
でも赤点はいや! あんな点数は認めたくない!

梓「つ、次のテストで頑張ればいいじゃない……」

梓「……」

無意識に私はギターの弦を弾いていった。
無意識に、無意識になんだ。
これは私の本心とは関係ないの。

梓「ちょっとぐらい……いいよね――――」


198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 12:42:06.30 ID:qiiXSArn0 [78/188]
2010年5月12日

梓「――……ん。ちゃんと来れたかな」

部室を出た私はてきとうな教室に入り、日めくりカレンダー見る。
2010年5月12日……成功だ。
日付を確認したあと、すぐに下駄箱へ行き、私の靴の中へ答案用紙を押し込む。

梓「さすがに直接手渡すわけにもいかないしね」

梓「……そうだ、一応メモを残しておこう。こんな物はいってたら不審に思うだろうし」

―私は未来の中野梓です。タイムマシンのことを知っているあなたならわかりますよね?
 この答案は明後日から始まる中間テストのものです。見ての通り点数は最悪。
 あなたもこのままではこんな悲惨な点数を取ってしまうでしょう。
 そこで未来からの助け船です。答案には正しい答えを書き写しておきました。
 さすがにこれでテスト中にカンニングすることは勧めませんが、
 今日と明日にこの答えを丸暗記してしまえばテストはバッチリなはずです。
                     
                      以上。未来の私から、12日の私へ―

梓「……と、こんなもんでいいかな」


199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 12:47:06.99 ID:qiiXSArn0 [79/188]
2010年5月19日

梓「ただいま」

純「おかえりー」

憂「遅かったね、何かあったの?」

梓「えへへ、ちょっとねー」

純「にしてもやっぱり梓はすごいよねー」

梓「え?」

憂「ほんとだよー。全教科高得点で学年1位になっちゃうんだもん」

梓「!」


202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 13:00:08.06 ID:qiiXSArn0 [80/188]
梓「本当!?」

憂・純「?」

純「本当って、あんたが一番わかってることじゃない」

憂「机の中にさっき返された答案、入ってるんじゃない?」

梓「あ、うん……ほ、本当だ!! すごい!!」

やった、やったんだ。

上手く過去を変えることができた。
12日の私はしっかり私が残した答案に気づいてくれたんだ。

梓(グッジョブ! 過去の私!)


206 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 13:05:17.71 ID:qiiXSArn0 [81/188]
自宅

梓「あれ、これ……」

部屋に帰るとゴミ箱の周辺に千切られた紙片の一枚が落ちていた。
中野と書かれてある。

梓「これ、テストの答案用紙じゃない」

気になってゴミ箱の中身を覗くと、バラバラに千切られた答案用紙が入っていた。
それらをゴミ箱から回収して、並べてみると。

梓「やっぱり……私が12日の私に渡した答案用紙だよ、これ」

これのおかげで私は学年1位になれたはず。
なのにどうしてこんな。

梓「こんな点数をとった私が許せなかったから……とか?」

まぁ、とにかく。
無事になんとかすることができて本当によかった。


207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 13:10:03.72 ID:qiiXSArn0 [82/188]
この出来事を境に私は調子に乗った。

週に何回かある小テストでも前日へタイムスリップして答えを下駄箱の中へ入れてきた。
結果は満点。先生からも、まわりからもすごいと褒められた。

テスト以外じゃなくても小さな失敗を起こしたときだってタイムスリップしてアドバイスを書いたメモを下駄箱に入れてきた。
結果は……失敗は回避されなかった。そのままの結果が現在に残っていた。
テスト以外のメモには興味がなくて目を通してくれなかったのかな。
それから、渡した答案とメモは全部、いつも私の部屋のゴミ箱に千切って捨てられていた。

梓「明日か、期末テスト!」

7月22日、今度は期末テストだ。
今日も前日も勉強はてきとうに軽くすませただけでほぼ手をつけてない。

梓「待っててね。また答案を持ってくからね、私」


210 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 13:15:04.67 ID:qiiXSArn0 [83/188]
2010年7月20日

梓「さて、と」

さっき返された期末テスト、結果は酷いものだった。
すぐに正しい答えを書き写すと、私は期末テスト実施日の2日前にやってきた。
答案とメモを握りしめて下駄箱へ急ぐ。

梓「これで今回も学年1位だよ。やったね」

靴の中へそれを入れようと手を伸ばすと……。

梓「……なにこれ」

靴の中に手紙が入れてあった。
まるで誰かがこの靴を取ることを予測していたかのように。
可愛らしい封筒の中から手紙を取り出して広げると、こう書かれてあった。

梓「未来の私へ……」


211 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 13:20:04.13 ID:qiiXSArn0 [84/188]
梓「……」

―初めまして、未来の私。たぶん今日にでもまたテストの答案を置きに来るだろうと思ってこの手紙を書きました。
 どうしてかというと、もう私に干渉してもらいたくないからです。
 あなたのしていることはとても卑怯で最低です。
 これが未来の私なのかと思うと呆れて物も言えませんし、腹が立ちました。―

梓「そんな……」

梓「でも私のおかげで私は――」

―でも、私はあなたにとても感謝しています。
 悪い点数の答案、小さなミスから大きなミス、全部に。
 これらのおかげで私はもっと頑張ろうって気持ちになれたし、ミスを気にせずに乗り越えてくることができました。
 
 最初から、あなたには何も頼っていなかったんです。
 答えの書いた答案も、ミスを回避する方法が書かれたメモも全部参考にしないでゴミ箱に千切って捨てていました。
 ミスは全て受け入れました。自分が起こしたことなんだから。―

梓「……うそ」


213 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 13:25:02.78 ID:qiiXSArn0 [85/188]
手紙にはまだ続きがある。

―未来の私。もう一度書きます。
 もう私に干渉しないでください。
 私は私、あなたはあなた。私はこれからも自分の未来のために頑張ります。
 だから、あなたは過去を振り向かずにあなた自身の未来のために頑張って。―

梓「あ……あ……」

―追伸。
 タイムマシンは二度と使わないでね。
 先輩たちと約束したでしょ?
 約束は守らなきゃ。―

梓「ああ……」

下駄箱の前で私は崩れ、泣いた。
今までの自分の愚かな行為に後悔した。
手に持った手紙はくしゃくしゃになって、涙が落ちた部分が滲む。

梓「……ごめんなさい、ごめんなさい。過去の私」

ここで謝ったって過去の私へ届くことはないけど、謝らずにいられなかった。
何度も何度も謝った。
その後は靴の中に答案も手紙も入れることなく、何もしないでもとの時間へ帰った。


215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 13:30:15.57 ID:qiiXSArn0 [86/188]
2010年7月27日

私は本当にプライドが高くて負けず嫌いだったんだ。

それを自分自身に気づかされるのは何だかとても不思議な気分だった。
自分の失敗を過去の私に尻拭いさせていた私は卑怯者だ。
でも、今日で卑怯な私とはお別れしよう。
真面目な私になるように努力しようと思う。

純「今回も梓はすごいね~! 友人としても鼻が高いよ!」

憂「ふふっ、そうだね」

テストの結果はまた学年1位。
やっぱり、過去の私は頑張っていたんだ。本当に。

ふと、机に書かれた真新しい落書きを見つける。

―どうだ、まいったか! by,私―

梓「……あ、ふふっ」

頑張ろう、私も。過去の私に負けないぐらい!


BADEND2

220 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 13:35:49.44 ID:qiiXSArn0 [87/188]
本当はあずにゃん殺しちゃおうかと思ったが無理矢理感があったんでやめちゃったんだぜ。ごめんね
次、いきたいと思います

>>224
律のやつ? 澪のやつ?

226 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 13:40:47.42 ID:qiiXSArn0 [88/188]
澪(どうしよう?)

澪(どっちみち、部室からみんながいなくならないとタイムマシンも使えない……時間もあるし、それぐらい……)

澪「いいよ」

唯「やったー!」

律「それじゃ、コンビニ行くか」

澪「うん。そういえば私も見たい雑誌があった」

唯「ならちょうどよかったね~」

澪「ふふ、そうだな」

澪「一応ムギたちに連絡を」

律「いいって、いいって! 大丈夫だよ。立ち読みくらい」

澪「……まぁ、それもそっか」


227 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 13:45:07.02 ID:qiiXSArn0 [89/188]
・・・

唯「あははは! おもしろ~い」

澪「こら、お店の中で大声出すな」

唯「だってー、あはははっ」

澪「もう……ふふふっ」

律「なんだ、澪。それ面白いのか?」

澪「うんっ、なかなか……あはははっ」

律「私読むもんねーなぁ。つまんなーい」

唯・澪「もうちょっと、もうちょっとだけ……ぷぷぷっ」

律「ぶー!」


229 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 13:50:05.08 ID:qiiXSArn0 [90/188]
唯に勧められた雑誌の漫画はそれはもう私のツボを抑えた面白いものだった。
漫画なんて久しぶりに読んだけど、たまにはこういうのもいい。

澪「あ、終わっちゃった」

律「また来週の楽しみってことだ。さぁ、そろそろ部室からみんな帰った頃だし、私たちも行くぞー」

澪「そうだな。唯ー」

唯「……ん~」

澪「どうした?」

私に話しかけられたことにも気づかず、顎に手を当てて考え中のポーズをとっている。
数秒して「はっ」と声をあげると、私に向かってこう言った。

唯「私いいこと考えちゃった! 1週間後に行けばすぐに続きが見れるんだよ!」


232 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 14:04:09.04 ID:qiiXSArn0 [91/188]
澪「……おぉ!」

律「おぉ! じゃねーよ。だめに決まってんだろ」

唯「え~! どうして?」

律「ムギたちに心配はかけられないだろ?」

唯「……うん。それもそうかぁ」

律「澪も、な?」

澪「ちょ、ちょっとだけ! ちょっとだけだから!」

律「澪ぉ?」

澪「うぅ……」


233 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 14:09:11.53 ID:qiiXSArn0 [92/188]
コンビニから戻ってきた私たちは再び外側から部室の中を確かめた。
6時も回っていたことか部室の中には誰もいなかった。
そんなこと、部屋に電気がついているかぐらいで判断できるけど、念には念を入れての行動だ。

律「なーんで私たちの部室なのにコソコソしなきゃいけないかなぁ」

物を壊したりとかこの時間に支障をきたすような行動があってはならないと慎重に動いた。
しばらくして律が物置からタイムマシンを持って来ると

律「唯、ムギたちには電話で連絡したな?」

唯「バッチリだよ~。今から戻るってちゃんと伝えた」

律「よし、んじゃまた私から行くぞ。二人は後から着いてきて」

弦が鳴る音が部室に響くと、律の姿は瞬く間に消えた。
この瞬間は今だに慣れない。まるで二度と会えなくなっちゃうんじゃないかと思ってしまう。

唯「次は私だね。お先に~」

律にならって弦を鳴らすと、唯も消えた。
私で最後か……。

澪「……」


235 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 14:14:30.62 ID:qiiXSArn0 [93/188]
よからぬ考えが頭を過った。

間違えたフリして1週間後へ飛んでしまえ。
もちろんそんなことしたら律には怒られるだろう。
というか、みんなに心配をかけてしまうことになるに違いない。

澪「……」

躊躇した。

そんなことしてしまって本当にいいのかな。
梓だって言ってた。
もし未来の自分が死んでいたとしたら?

澪「う……」

澪(どうしよう……)


236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 14:20:34.25 ID:qiiXSArn0 [94/188]
澪「い」

澪「いいよね、これぐらい」

漫画の続きを読んでくるだけだ。
大したことない。
すぐに戻ってくればいいだけだ。

躊躇することは止めた。

手に持ったタイムマシンの弦を一本一本鳴らしていった。

澪「えへへ……――――」


238 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 14:25:35.46 ID:qiiXSArn0 [95/188]
2010年5月16日

澪「あはははっ」

澪(続きはこんな感じだったのか! あいかわらず面白い!)

1週間後へついた私はさっそくさっきのコンビニへ行き、漫画を開いた。
買って行こうって考えもあることにはあるけれど、未来の物を持ってきたらどうなるかわからなかったから、立ち読みで済ませることにした。

澪「ふぅ、面白かったなぁ」

さすがにまた続きが気になるだなんて言っていたら、キリがない。
残念だけど、そろそろみんなのところへ帰らないと。
コンビニを出てすぐ、制服の中の携帯が震えていることに気づく。

電話だ。律から。

恐る恐る通話ボタンを押して、耳元へ携帯を持っていく。

澪「も、もしも――」


240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 14:30:34.64 ID:qiiXSArn0 [96/188]
律『澪!! 無事か!!』

間髪いれずに聞こえてきた律の大きな声。
その声色からは私を心配していることがわかる。

律『無事なのか!! おい!? 澪っ!!』

澪「り、律……」

律『ああ、澪っ! よかった……』

律『さっきから電話かけてたのになんで出なかったんだよ!? 何かあったのか!』

きっと漫画に集中していて携帯に気がつけなかったんだ。

澪「あ、ああ……実は戻る時間を間違えちゃって……」

澪「それでついた時間でさわ子先生に捕まっちゃってさ……ははは」

嘘をついた。
ついてから自分が最低だということを自覚した。

律『なんだよ……妙な心配させんなっ! ったく……』

澪「みんなは? みんなはいるの?」

律『いるよ。みんなお前を心配してる。代わるか?』

澪「いや、すぐに戻ってくるからい――――」


241 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 14:36:55.83 ID:qiiXSArn0 [97/188]
一瞬、あまりの出来事に固まってしまった。

私だ。そこには私がいた。

律『澪? 澪!? どうした!』

律の声が頭に入らない。

澪「私……私だ。私がいる……」

律『え!?』

あ、目があった。私と。
向こうもなにが起きたかわからないと言った表情で私を凝視する。

澪「あ、あの……っ」

身振り手振りで何かを説明しようとした。

でも何を……?


244 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 14:41:06.64 ID:qiiXSArn0 [98/188]
未来の私はようやく事態に気づくと、手に持っていた買い物袋をその場にほうり投げて、
私に背を向けて走り出した。いや逃げた。
私も携帯片手にそれを追う。

どうして追ったのかはわからない。けどなんとかしなきゃって思ったんだ。
携帯からは律……だけじゃない、みんなの声が漏れる。
必死に私の名前を呼んでいるんだ、みんな。

澪「待って、待って!」

「来ないでぇー!!」

どうして、どうして逃げるんだ!
別に何もしやしないのに!
私が誰なのかわかるでしょ!?

「いやあぁ――――あ」

――ドンッ

鈍い音があたりに響いた。


246 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 14:46:14.26 ID:qiiXSArn0 [99/188]
澪「あ……ああ……」

信じられない……。

目の前で私が車に轢かれた。
もう一人の私は数メートル先にふっとび、地面に横たわるとピクリともしない。

澪「ううう、うそだ……」

『どうしたんだよ!? 澪! 澪ぉぉーっ!!』

澪「うそだ……う、うそだ……」

『澪! 澪! 返事してくれっ!!』

澪「きゃああああああああああ!!!!」

・・・

・・・

・・・

・・・

・・・


247 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 14:51:02.98 ID:qiiXSArn0 [100/188]
澪「――あれ、私……」

澪(こんなところで何ボーっとしてるんだろ)

澪(はやくお使いすまして家に帰らなきゃ……あれ?)

澪「私、もう買い物したよね? え?」

澪(でも買い物袋も何も持ってない……)

澪「……あっ、ぐ」

澪「う、あ……ううう……!」

澪「あ、あたまっ、いたいっっ」

澪(ママには悪いけど……このまま帰ろう)


250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 15:00:06.37 ID:qiiXSArn0 [101/188]
自室

澪母「大丈夫? 頭痛薬持ってこようか?」

澪「い、いい。大丈夫、少し横になれば治まるよ」

澪母「そう? それじゃあ、ゆっくり休んでいなさいね……」

ガチャリ

澪「はぁ……いやだな、風邪かなぁ」

澪「でも熱はないし……どこかに頭打ったとか……」

――『来ないでぇー!!』

澪「え?」

――『いやあぁ――――あ』

澪「うっ……!?」


252 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 15:05:04.97 ID:qiiXSArn0 [102/188]
誰かの悲鳴が幻聴のように聞こえたと同時に、頭の中に鮮明な映像が浮かぶ。

誰かが車に撥ねられて、そのまま地面に倒れている。
頭からは血が溢れてて――

澪「あっ、う……ああああっ」

゛誰か゛を思いだそうとすると頭に激痛が走る。

澪「だ、れだ……だれなの……っ」

少しずつ゛誰か゛のイメージがはっきり見えてくる。
黒くて長い髪――

澪「!!」

私だ。゛誰か゛は私だった。
私が夥しい量の血を頭から垂れ流して……死んでいる。

澪「あ゛あああああ!! あ゛あああああ!!」


253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 15:10:14.47 ID:qiiXSArn0 [103/188]
死んでいるのは私だ。それじゃあ私は誰なんだ。

まるで頭の中を滅茶苦茶にかき回されているかのような気分になって、
気持ち悪いとか、そういうもんじゃない……。
今の自分を自分自身に否定されている。

わけがわからなかった!

助けて! 誰か助けて!

――Prrr、Prrr

その時、机の上に置いていた携帯が音を立てて、振動した。
誰でもいい、誰かの声が聞きたいと、ガタガタと震える腕を携帯へ伸ばす。

澪「もしもしっ!! もしもしっ!! だれ!? だれなのっ!?」

『澪!! 澪ぉっ!!』

私を、私を呼ぶ声だ。


255 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 15:15:04.57 ID:qiiXSArn0 [104/188]
電話の後ろでは「繋がった!?」とか「帰ってきて!」だとかそんな声が。
私を呼ぶ声は絶えなかった。

『澪!! 帰ってこい! 澪っ!!』

澪「だれよおぉっ!! わあああぁぁっっ!!」

自分がわからない。電話の相手もわからない。
私はこの世界で一人だ。わからない。一人なのかさえ分からない。

『私だよ!! 律だよ!! 澪ぉっ』

りつりつりつりつりつりつりつりつりつりつりつりつりつりつ
りつりつりつりつりつりつりつりつりつりつりつりつりつりつ
……りつ、律?

澪「り、つ?」


256 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 15:20:04.62 ID:qiiXSArn0 [105/188]
私は知っていた。
電話の相手を。

澪「律!?」

律『そうだ! 私だ!』

澪「あ……ああ……」

思いだした。
私は秋山澪で電話の相手は田井中律、私の親友だ。
平沢唯、琴吹紬、中野梓、顧問の先生に山中さわ子。
そうだ、みんな思いだした。

澪「私は2010年の5月8日からタイムスリップしてきた……?」

紬『そう! そうよ! 澪ちゃんっ』

電話の相手は律からムギへ代わっていた。
次に唯、梓と順々に。
みんな私を心配してくれていたんだ。


258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 15:25:07.52 ID:qiiXSArn0 [106/188]
律『ばか! 澪のばかっ!』

澪「ごめん……」

私はわざと5月16日へタイムスリップしたことを話した。
それを聞いて律はすごく怒ってくれた。
そうしてもらえることで私は今ここにいるんだと感じさせられ、ありがたかった。

律『今すぐ帰ってこい!』

唯『でももう学校も閉まってるんじゃないかなぁ』

澪「え? だったらみんなは今どこにいるんだ?」

梓『私たちは今唯先輩の家です』

澪「そうか……」

時間を見ると、もう8時を回っていた。
こんなに遅い時間なのに、みんなは私を……。

律『……じゃあ戻ってくるのは明日でいいから。こっちのほうの心配はしなくていい。私たちが何とかする』


259 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 15:30:05.73 ID:qiiXSArn0 [107/188]
唯『澪ちゃんは私のウチで寝ちゃって帰れそうもないから、今日は泊めるって澪ちゃんのお母さんに言っておくよ』

澪「あ、ありがとう。唯」

澪「それじゃあ、そろそろ電話切るね」

紬『澪ちゃん、待って!』

澪「え?」

紬『さっき、澪ちゃんはもう一人の澪ちゃんに会ったのよね?』

澪「……うん」

紬『その後……その後はどうなったの?』

澪「……死んだ。車に撥ねられて死んだはずだ」

『!?』


260 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 15:36:03.01 ID:qiiXSArn0 [108/188]
梓『そ、そんな……だったら澪先輩は……』

律『うそ、だろぉ……』

唯『やだ、やだよ! そんなのっ! そんなのいやだっ!!』

そうか、今気づいた。
私は16日に死ぬ運命なんだ。
車に撥ねられて……。

澪「……」

不思議とパニックになることもなく、悲しくもなかった。
頭はとても鮮明で、クリアな状態だった。

紬『……それで、その亡くなった澪ちゃんはどうしたの?』

澪「ああ、それが……」

あれ?

なんだこの感覚……。

澪「それが……えっと…………え?」

紬『澪、ちゃん?』

澪「わ……わからない! 未来の私が死んでからどうなったのかわからない!」


261 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 15:41:09.91 ID:qiiXSArn0 [109/188]
澪「どうして!? 私の死体が見えてから何も覚えてない!!」

そうだ、そこからの記憶がすっぽり抜けてる。
気がついたときには道に立っていて、お使いで頼まれたものを……。

澪「何がどうなってるの!?」

紬『澪ちゃん落ち着いてっ』

律『澪! 落ち着けっ、深呼吸しろっ』

澪『はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!』

どうなっているんだ。

私はいったいどうなっているんだ。

私が死んでからの私はいったいどうなっているんだ。


262 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 15:48:00.72 ID:qiiXSArn0 [110/188]
梓『――ということは、前のことは何も覚えてなくて、別の行動をとろうとしていたってことですか?』

澪「ああ……」

唯『でもそれって変な話だよね?』

律『それどころか全く意味わかんないよ……ともかく、澪! お前は明日こっちに戻ってくればいい。それだけなんだっ』

澪「う、うん」

紬『でも……澪ちゃんがこっちに帰ったとしたら亡くなった澪ちゃんは?』

紬『亡くなった澪ちゃんはどこへ行っちゃったの……?』

そうだ。そして今気づいた。
道で立っていたときの私、制服じゃなくて私服だった。
そんなのありえないはずだ。私はタイムスリップしてから一度も着替えた覚えはない。
そういえば、あのとき見かけたもう一人の私……私服姿だった。
それに手には買い物袋があった。

澪「……いや、そんなはずはない。そんなはずはっ」

紬『澪ちゃん?』

澪「な、なんでもない。とりあえず明日、そっちになんとか帰ってみせる」

唯『絶対だよ! 絶対だからね!?』

澪「うんっ」


265 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 16:00:34.53 ID:qiiXSArn0 [111/188]
紬『……澪ちゃん。最後に一つ』

紬『日記でもノートでもメモでもなんでもいいから、とにかく必ず目がいくところに自分が過去からきた自分だって書いておいて』

紬『そしてそのことを絶対に忘れないようにして』

澪「どうしてそんな……」

紬『なんだか、いやな予感がするの……』

律『ムギ、考えすぎじゃないか』

紬『そうだといいのだけれど……とにかく澪ちゃん』

澪「ああ、わかったよ。それじゃあ」

……そう言ったにもかかわらず、私は自分から電話を切れなかった。
……怖かった。
これを切ってしまったら、二度とみんなと話せなくなってしまうんじゃないかと。

唯『澪ちゃん、電話切らないの?』

澪「そっちで……切ってくれないか」

唯『え? あ、うん。じゃあね澪ちゃん……待ってるよ』

電話が切れた。
そしてその後、酷く孤独を感じた。


267 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 16:05:03.97 ID:qiiXSArn0 [112/188]
ムギに言われた通り、すぐに机の上にあった適当なノートを広げてペンを走らせた。

―私は2010年5月8日から来た秋山澪。この時間の私じゃない。―

こう書くことによって私は私だと実感することができた。
ノートは文章を書いたページを広げたままにしておき、いつでも目につくようにした。

澪「……」

5月16日、私は死ぬ。
たとえもとの時間に戻れたとして、この死を回避することはできるのだろうか。
私は、みんなにどんな顔して「ただいま」と言えばいいだろうか。

澪「……明日に備えて、今日はもう寝よう」

おやすみ、私。

忘れないで、私はこの時間の私じゃないってことを。


271 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 16:10:02.08 ID:qiiXSArn0 [113/188]
>>266 あれに影響されてこのSS書いたのよ

2010年5月8日 平沢家

唯「ていうか」

「?」

唯「その気になれば、私たちが16日に行って澪ちゃんを連れ戻してこれるんじゃない?」

「!」

梓「き、気がつかなかった……」

紬「わけが分からないことが続いたんだもの、混乱してそんな発想ができなかったのね」

律「だったら今すぐにでも!」

紬「待って、もう校門閉まっちゃってるし、学校には入れないと思う」

紬「澪ちゃんがどうしても帰ってこれないって場合に私たちが行くことにしましょう?」

律「……そう、だな」

梓「無事でいてくれるといいですね」

唯「大丈夫だよ。絶対」

272 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 16:15:05.21 ID:qiiXSArn0 [114/188]
2010年5月17日

澪「それじゃあ行ってきまーす」

澪母「気をつけてねー」

ガチャリ

澪「ん~、今日もいい天気だなぁ。暖かいし」

「澪~!」

澪「あ、律。おはよう」

律「おう、おはよう! いやー、昨日は聡と夜通しでゲームしててさぁ」

澪「あいかわらず仲良いんだ」

律「ぜーんぜん仲良くねぇよぅ」

律「あいつってば私が何かしてやろうとするとすぐに嫌がってさ、素直じゃねぇの」

澪「聡だってもう中学生なんだし、そりゃあ意地も張りたくなるよ」

律「そうかなぁ……」

澪「うん。ほらもうすぐ学校着くぞ。入ろう?」


273 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 16:20:03.78 ID:qiiXSArn0 [115/188]
唯「あ、りっちゃんと澪ちゃんおはよー!」

紬「おはよう」

律「おー……って、なにしてんの?」

唯「ムギちゃんの髪で遊んでました」

澪「そんなことして変なクセついちゃったらどうするんだ」

紬「大丈夫。私の髪ってクセまくりだし」

律「なんじゃそりゃ」

唯「ほれほれ~二人もムギちゃんの髪触ってごらん? ふわふわで気持ちいいんだよー」

紬「唯ちゃんほどでもないよ」

唯「えー、そうかなぁ。ちょっと澪ちゃん、私とムギちゃんの触って比べてみて」

澪「え? 私が?」

唯・紬「さぁ、さぁ!」

澪「し、仕方がないなぁ……」


274 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 16:25:06.16 ID:qiiXSArn0 [116/188]
・・・

律「お、タコ型ウインナーはっけーん!」

唯「憂が作ってくれたんだよぉ」

紬「ふふ、かわいい」

律「いただきっ」パクッ

唯「ああっ!! ……はぅ」

澪「こら、律! 唯にあやまれっ」グリグリ

律「あいだだだ!? か、勝手にとってごめんな……おわびに」

唯「ふぇ?」

律「これをあげよう」

唯「なぁにこれ? ミートボール?」ヒョイ

紬「でもなんか大きいね?」

律「まぁまぁ、ちょっとかじってみ」


276 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 16:30:05.22 ID:qiiXSArn0 [117/188]
唯「? ……あむっ」

唯「お」

唯「ウズラの卵がはいってた!」

紬「すごーい!」

律「えへへ、面白いだろ~」

澪「律が作ったの?」

律「そだよ。うちの両親、今旅行行っちゃっててさ」

唯「じゃあ私のとこと同じだね!」

律「あはっ、そうだな」

澪「ははは…………」

ズキンッ

澪「っ」


277 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 16:35:04.00 ID:qiiXSArn0 [118/188]
澪(いてて、何だ? 急に頭痛が……)

澪「うう……」

紬「澪ちゃん?」

律「なんだ、どうかした?」

澪「ちょ、ちょっと頭痛が……」

唯「え、大丈夫? 澪ちゃんっ」

紬「つらかったら保健室行った方がいいと思うよ?」

澪「そう、だな……ちょっと行ってくる……」

律「私、付き添うよ」

澪「あ、ありがとう……」


282 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 16:40:16.62 ID:qiiXSArn0 [119/188]
澪「っっ……」

律「なんかフラフラしてんな……大丈夫? 肩貸すぞ?」

澪「いい。一人で歩けるから……」

澪(急にどうしたんだろ……なんだか……)

頭に痛みが走るたび、何かの記憶が断片的に思いだされる。
律、唯、ムギ、梓……戻る……タイムマシン……5月16日……死……。
……5月8日。

澪「!!」

284 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 16:45:47.97 ID:qiiXSArn0 [120/188]
澪(そうだ……私は……)

律「澪?」

立ち止まっている私を心配して律が顔を覗きこんできた。
――Prrr、Prrr

澪「!」

律「携帯、鳴ってるけど……電話じゃない?」

澪「あ、ああ……すぐ出るよ」

携帯を取り出し、通話ボタンを押してから耳元へ近づける。

『澪、澪っ! やった、繋がったぞ!』

澪「え?」

『お前なにしてるんだよっ、さっさとこっちに戻ってこい!』

律だ。
おそらく8日……いや、もう9日かもしれない。
とにかく私の時代の律だった。

澪「ちょ、ちょっと待ってくれ……あ、あ、えっと」

律「誰と話してるんだ?」


285 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 16:50:30.92 ID:qiiXSArn0 [121/188]
目の前の律が私に尋ねる。
ここでさすがに電話の相手がお前自身だ、なんて言えるわけがない。
……いや、でもこの時間でもおそらくタイムマシンは存在するんだ。
うまく事情を説明することができれば……いや、だめだ。
そんなことしたらこの時間の私はどこへ行ったと聞かれて、面倒なことになる。

律「澪?」

澪「り、律。ごめんっ、ちょっと大事な電話なんだ! あっちで話してくるよ!」

てきとうにはぐらかして、トイレの中へ逃げ込む。
この会話を聞かれるわけにはいかない。

律『澪! どうしたんだ!?』

澪「ご、ごめん。ちょっとあってさ……それで?」

律『それでじゃねぇよ!! 早くこっちに戻ってこいって言ってるんだ!』

澪「そ、そうだな。でもさ……私もついさっき、私がこの時間の私じゃないって思いだせたみたいで……」

律『はぁ?』

紬『それって、もしかして今日起きたときには何も覚えていなかったってこと?』

澪「うん……」


286 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 17:00:04.88 ID:qiiXSArn0 [122/188]
唯『ど、どういうこと? なんで忘れちゃったの?』

澪「わからない……何事もなく普通に学校に来て、みんなと喋ったりしてた。いつもみたいに」

律『どういうことだよ!』

紬『……澪ちゃん。私たちね、朝から何度も澪ちゃんに電話したの。着信履歴に残ってたりしなかったかな』

携帯を朝何気なく弄っていたときはそんなもの残ってなかった。
学校に来てから開いてもそんなもの残ってなかった。
電話なんて今のが今日初めてかかったものだ。

澪「残ってなかった」

紬『それはたしか?』

澪「ああ……」

紬『これは仮に考えたものなんだけど、もしかしてこっちの時間との電話のやり取りって澪ちゃんのもとの記憶がはっきりしてるときじゃなければ繋がらない……とか』

澪「え……」


287 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 17:05:04.32 ID:qiiXSArn0 [123/188]
律『いや、でも! タイムスリップしたときは携帯ももとの時間の日付とかだったじゃんか!?』

律『それに例えば澪から私に電話したらこっち側に通じるはずじゃないか!?』

唯『日付どうだったの? 澪ちゃん?』

そんなこと一々確認していない。
でも携帯を何度か開いたんだから無意識に日付も見ているはずだ。

思いだせ……思いだして、私。

澪「……17日、だった気がする」

『!』

澪「そっちは今何日?」

唯『9日だよ』

澪「やっぱり一日進んでるんだ……」


288 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 17:10:07.66 ID:qiiXSArn0 [124/188]
律『とにかく何でもいいっ! 澪、覚えているうちに早くこっちに戻ってこい!』

律『それで全部済む! 一応、私も今からそっちに行くから心配するな。いいな?』

澪「そ、そうだな……お願いするよ」

澪「……悪いけど、またそっちから電話切ってくれ」

律『うん。澪、大丈夫だからな……きっと戻ってこれるから』

電話が切られる。
また私は孤独だ。
トイレを出るとすぐに律が私に駆け寄ってきた。

律「終わった? それじゃあ保健室に……」

澪「いや、頭痛は止まったみたい。それで私、ちょっと用事思い出しちゃったみたいだから」

律「用事?」

澪「律は教室に戻ってて。すぐに戻るよ」

律「そうか? ……だったら、うん。そうするよ」

さよなら、この時間の律。
私はもとの時間に帰るよ。


290 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 17:15:05.57 ID:qiiXSArn0 [125/188]
軽音部室

部室のドアをあけるとそこには

「……よぉ、心配させやがって」

澪「律……」

律がいた。

こっちの律は9日の律ってことでいいはず。

律「色々言うことはあるけど、とにかく帰ろう」

タイムマシンを物置からすでに取り出してきていた律は、それを私に手渡す。
帰れる……帰れるんだ。

澪「これで、やっと……」

安堵の息をつくと、弦を鳴らしていく。

これで――


291 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 17:20:05.72 ID:qiiXSArn0 [126/188]
澪「……」

澪「ここは9日?」

目の前にいる律が口をあんぐり開けて首を横に振る。

……どういうこと?

律「も、もう一度だ……もう一度弾いて」

澪「う、うん……」

もう一度同じように弦を鳴らす。
……変わらない。なにも変わっていない。

律「どうなってんだ!? なんでお前タイムスリップしないんだ!?」

澪「あ……あ……」


293 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 17:25:35.87 ID:qiiXSArn0 [127/188]
律「壊れたわけじゃないよなぁ……」

律「私がちょっと試してみる! 大丈夫、行ってもすぐに戻ってくるから!」

同じように律は弦を鳴らす。
……消えた。律は消えた。
タイムスリップしたんだ。

澪「うそ……」

澪「どうして律はできて私は……」

澪「あわわわわ……――――」

澪「――あれ」

澪「なんで私ここに?」

澪(たしか、みんなと昼ご飯食べてて……それで)

澪「……なんだっけ?」

キーンコーンカーンコーン

澪(あ、チャイム鳴っちゃった。 すぐに教室戻らないと……)


297 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 17:30:06.68 ID:qiiXSArn0 [128/188]
ガチャリ

唯「あ、戻ってきた!」

律「澪。用事済ましてきたのか?」

澪「用事?」

律「用事あるって途中で別れたじゃん。保健室行く途中で」

澪「……保健室?」

紬「澪ちゃんさっき頭痛がするって保健室に向かったでしょう? でも治ったのよね?」

澪「頭痛? 治った?」

「……?」

律「ま、まぁ、いいか。とりあえず授業始まるし座っとこうぜー」

澪「んー?」


298 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 17:35:07.41 ID:qiiXSArn0 [129/188]
・・・

梓「けっきょく、タイムマシンも使い道がなければどうしようもないですね」

律「そうだなぁ」

唯「なんか面白いことに使えないかな~」

紬「そうねぇ」

澪「やっぱりあれは使わないでおいた方がいいかもな」

律「んー、そだな」

唯「1週間近く話しあった末がそれ!? なんかつまんないよー!」

紬「あはは……」

律「そんなこと言ったって仕方がないっしょ?」

唯「うー……」


300 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 17:40:03.20 ID:qiiXSArn0 [130/188]
紬「今日はチョコムース持ってきてみましたー」

唯「わぁい!」

梓「すごい……なんか金箔のってますよ!」

澪「よっぽど高級なお菓子なんだな……」

律「いっつも高級なもんだろ、感覚麻痺してんじゃないか?」

澪・梓「うっ……」

紬「どうせあまりものだし、何も気にしないで食べていいのよ」

唯「そーだ、そーだ」モグモグ

律「食うの早っ」


301 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 17:45:08.37 ID:qiiXSArn0 [131/188]
2010年5月9日 軽音部室

律「なんでだよっ」

律「なんで17日にいけないんだ!? マジで壊れちゃったのか!? これ!!」

紬「でも現にりっちゃんは向こうから戻ってこれてるわ……」

唯「澪ちゃんに何かあったのかな……」

紬「もしかしてタイムスリップできる回数は限られているとか?」

律「うそだろっ!? そんなバカなっ……!」

紬「でもわからない……」

律「なんなんだよっ」

唯「……そうだ!」

律・紬「え?」


304 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 18:00:07.75 ID:qiiXSArn0 [132/188]
ちょっとご飯買ってくる

唯「今日って過去から私たちが来るよね!?」

律「はぁ? なに言って……」

紬「昨日の唯ちゃんたちね?」

唯「うん!」

律「あ、そうか! そういえば9日に3人でタイムスリップしたんだっけ」

律「でもそれが?」

唯「だからっ、その私たち……というか澪ちゃんに16日に絶対行っちゃダメって教えてあげればいいんじゃないかな!?」

律「……そうか。そうか! その手があった!! でかしたぞっ、唯!」

唯「えへへー」

紬「……でもそれって」

さわ子「そんなことしても、助かるのはその澪ちゃんだけよ。私たちが知っている澪ちゃんの現状はなにも変わらない」


311 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 18:29:20.39 ID:qiiXSArn0 [133/188]
律「さわちゃん!?」

唯「いいい、いつのまに!?」

さわ子「それどころか、この私たちが生きている時間が消えてなくなる可能性があるわ」

さわ子「8日の澪ちゃんが助かるということは、9日……今の私たちの時間には澪ちゃんがいないわよね? ということは矛盾が生まれる」

さわ子「そうするとね、その矛盾をなくすためにこの時間が消えるかもなのよ」

紬「……」

律「……な、なに言ってるの?」

唯「……さわちゃーん?」

さわ子「……どうも様子がおかしいと思っていたら、とんでもないことしでかしてくれたみたいね。あなたたち」

さわ子「タイムマシン、使ったでしょう?」


312 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 18:32:17.70 ID:qiiXSArn0 [134/188]
2010年5月17日

唯「それじゃ、また明日ねー」

梓「お疲れ様でした」

紬「さよならー」

律「おう、じゃあなー!」

律「それじゃ、私らも帰ろうぜ」

澪「うん」

律「あ、そうだ。澪、明日うち来なよ」

澪「なんだ突然?」

律「私が手作り料理をふるまってしんぜよう」

澪「それまた突然……」

律「まぁ、暇だからってだけなんだけどさ。いい?」

澪「ああ、いいよ。楽しみにしてる」


313 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 18:37:51.21 ID:qiiXSArn0 [135/188]
2010年5月9日 軽音部室

さわ子「……話はだいたいわかった」

さわ子「すごく厄介よ、これ……」

律「澪は、澪は戻ってこれるよな!?」

さわ子「……」

律「なんとか言えよぉっ!!」

紬「りっちゃん!」

唯「さわちゃん。あのタイムマシン、さわちゃんのなんだよね?」

梓「そうだったんですか!?」

さわ子「今はそんなこと関係ない。澪ちゃんをどうやって救うかだけ考えなさい」

唯「う、うん……」


315 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 18:43:44.80 ID:qiiXSArn0 [136/188]
さわ子「16日に行った澪ちゃんは、たしかに自分が死ぬところを見た。これは間違いないのね?」

紬「はい」

さわ子「その後の記憶は抜けていて、気がついたらその場に立っていた」

梓「変な話ですよね……」

律「まったくだよっ」

さわ子「……おそらく、澪ちゃんは――――」

Prrr、Prrr…


318 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 18:53:15.73 ID:qiiXSArn0 [137/188]
2010年5月9日 自宅

澪「ただいまー」

澪母「おかえりなさーい。もうすぐ晩ご飯できるからね」

澪「はーい」

ガチャリ

澪「ふぅ、今日も一日いつも通りだったなぁ」

澪「ん?」

澪「なんだこのノート?」

澪「えっと……私は2010年5月8日から来た秋山澪。この時間の……」

澪「私じゃ、ない……?」


319 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 18:56:03.05 ID:qiiXSArn0 [138/188]
ノートにそう記された文章を読むと、突然の頭痛が私を襲う。

……そして、

澪「ああぅっ……」

澪「っ、はぁ、はぁ……で、電話……電話しなきゃ、律に……」

疼く頭を押さえて携帯へ手を伸ばし、律へ電話をかける。
ものの数秒もしないうちに電話に出てくれた。

律『澪!!』

澪「り、つ……まただ……」

律『え!?』

澪「律がタイムスリップしたあと……また、忘れた」

澪「私を、忘れたんだ……っ」


320 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 19:00:03.53 ID:qiiXSArn0 [139/188]
律『そんな……』

澪「みんなは、みんなはそこにいる?」

律『あ、ああ。それで澪……』

律『私たち、さわちゃんにタイムマシンのことばれた』

澪「え」

律『あのタイムマシンはさわちゃんの物だったんだよ。それでさわちゃん、あれについて色々知ってた』

あのタイムマシンがさわ子先生の物だった。
そんな気はしていたけれど、まさか本当だったなんて。
電話の相手が律からさわ子先生へと変わった。

さわ子『澪ちゃん、いい? 落ち着いてよく聞きなさいね』

さわ子『その時間の澪ちゃんは死んだ。そしてそこに偶然あなたが居合わせた』

さわ子『でもね、その澪ちゃんは事故死したわけじゃなくて、あなたに間接的に殺されたと私は考えるわ』

澪「え……」

澪「え……?」


321 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 19:05:08.83 ID:qiiXSArn0 [140/188]
さわ子『あなた、逃げた自分を追ったのでしょう? そして逃げている最中に車に撥ねられて死んだ』

さわ子『あなたにその気はなくても、世界はあなたがあなた自身を殺したと判断したのかもしれない』

澪「い、言っている……意味が」

さわ子『澪ちゃん。タイムスリップして自分が過去、もしくは未来の自分を殺すとどうなると思う?』

澪「わ、わかりませんよ。そんなの……」

さわ子『詳しくは私もわからないけど』

さわ子『……入れ替わってしまうの。殺した方が殺された方に』

澪「入れ替わる?」

さわ子『そう。入れ替わった後のことはわからないけれど。たぶん入れ替わったその人の記憶が自分の記憶となって、もとの自分を忘れてしまうのかな』


323 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 19:10:08.01 ID:qiiXSArn0 [141/188]
唯『でも、澪ちゃんは自分のことをまだ覚えてるよ?』

さわ子『……殺すと思って殺したわけじゃなかった。澪ちゃんが澪ちゃんを殺したのは言わば事故だったと考えましょう。つまり入れ替わるつもりも何もなかった』

梓『だから、覚えている? でもそれって色々と無茶が……』

さわ子『そうね。正直言うと、どうしてなのかはわからない。もとの時間によっぽどの執着があるから……とか色々考えられるわ』

澪「あの……それと」

澪「死んだ私って、どこに行っちゃったんですか?」

さわ子『たぶん、消えた』

さわ子『あなたがそっちの時間のあなたに入れ替わったことで、存在が上書きされたのだと思う』

律『そんな、ゲームのセーブデータじゃないんだぞ!?』

さわ子『物の例えよ。でも消えたことは確かだと思う。ていうか、今私たちが話している澪ちゃんが17日の澪ちゃんになったの』

澪「……」


324 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 19:15:06.22 ID:qiiXSArn0 [142/188]
正直理解できなかった。
頭が上手くまわらないんだ。
今私が置かれている状況がとんでもないことだけはよくわかる。
でも……ただそれだけで……。

紬『でも私たちの時間の澪ちゃんが17日の澪ちゃんになったというなら……私たちの時間の澪ちゃんは?』

さわ子『そう、そこが問題なの』

さわ子『私の予想だと……澪ちゃんが完全にあっちの存在になってしまったら』

さわ子『私たちから、澪ちゃんが存在したという記憶が消える。記憶どころか痕跡も消えるんじゃないかしら』

律『はぁ!? なんだよそれ!?』

さわ子『都合よく新しい澪ちゃんが出てくるとも考えられないしね。たぶん私たちのこの世界からは秋山澪という存在が初めからなかったことにされる』

梓『でも、未来の17日には澪先輩が存在するんじゃ……』

さわ子『そう、だからこっちとそっちの世界はズレる。澪ちゃんがいる世界といない世界。いわゆるパラレルワールドってやつね』


325 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 19:20:10.72 ID:qiiXSArn0 [143/188]
唯『そんなのいやだよっ、澪ちゃんがいてくれなきゃいや!』

梓『私だってっ!』

紬『そんなの、認めたくない』

律『澪はちゃんといるんだ、消させてたまるかよ……』

澪「みんな……」

まただ。また私はみんなに心配をかけさせている。
いつも、いつも、迷惑ばかりかけて……私は。

さわ子『そうね、私だってそんなことになってもらいたくないわ』

さわ子『だから、今は私たちにできる事を精一杯考えましょう?』

さわ子『澪ちゃんは……自分を見失わないこと。いい? 完全に思いだせなくなったらそれでもう終わりなの』

澪「……」

さわ子『とにかく、自分をいつでも思いだせるように手の甲にでもなんでもいいから何か記しておきなさい』

さわ子『つらいかもしれないけど、あなたはそうするしかないの……』

澪「……はいっ」


326 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 19:25:04.72 ID:qiiXSArn0 [144/188]
電話が切れるとすぐに私は机に向かった。

開かれたノートに次々と自分が自分であることを書き連ねていった。

―私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない。これを忘れるな。
 私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない。これを忘れるな。
 私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない。これを忘れるな。
 私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない。これを忘れるな。
 私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない。これを忘れるな。
 私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない。これを忘れるな。―

澪「まだだ、もっと書くんだ。書き続けるんだ」

ノートだけに懲りず、メモにも同じように書いて部屋の壁に貼りつけた。
1枚2枚だけで終わることなく、何枚も、何枚も。
ママに呼ばれたことに気づくことなく、部屋中に文章を書いたメモを貼り付ける作業をし続けていた。

澪「部屋に貼りつけるだけじゃダメだ……持ち物にも、全部に」

自分にほっとさせる時間を与えちゃいけない。

そんなことしてしまっては私はまた忘れてしまう。

頭を休ませるな。


329 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 19:30:25.34 ID:qiiXSArn0 [145/188]
澪「私は、私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない……」

うわ言のようにずっとそう呟き続けた。
口にすることで頭に刻み続ける。
視界には常に例の文が書かれたものを入れておく。

澪「私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない……私はか」

気が狂いそうになるくらい私は足掻いた。
壊れてしまいそうになるくらい私は必死だった。
このままみんなに会えずにこの世界に一人ぼっちだなんていやだ。
正確には一人ぼっちじゃないのかもしれない。
でも私にとってここは私の時間じゃなくて1週間先の未来の私の時間。
同じようで違うんだ。

澪「私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない」


331 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 19:35:44.57 ID:qiiXSArn0 [146/188]
2010年5月18日

一日中あの作業をし続けた。

気を抜けばすぐに意識がどこかへ飛んでいってしまいそうになる。
睡眠もとらずに、自分を休ませることなく。
そのお陰かどうかはわからないけれど、私は私のままであり続けられた。

澪(私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない)

家の中でもそうだったように、学校の中でも同じようにしている。
さすがに口に出すことはなかったけど、頭の中では何よりも優先させてこの文章を暗唱し続けた。

「秋山さん、話があるのだけど」

澪「ごめん。具合悪いからまた今度にして」

極力、この時間の人たちとの会話も避ける。
少しでも気を許してしまっては意識が持っていかれそうな気がしたから。


332 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 19:40:41.38 ID:qiiXSArn0 [147/188]
唯「澪ちゃん、具合悪いの?」

唯たちだってそうだ。
むしろこいつらとこそ会話を避けるべきなんだ。

紬「澪ちゃん……」

ダメ、ダメだ。気を許しちゃダメなんだ。
心配してくれるみんなの声を聞くたびに、罪悪感が溜まっていく。
無視し続けることがとてもつらい、苦しい。

梓「澪先輩、顔色悪いですよ……心配です」

私に構わないで。私に構わないで。私に構わないで。
こいつは、こいつらは違う。違うんだ。
こいつらは偽物だ。こいつらは偽物なんだ。
みんなと同じ顔した偽物なんだ。

澪(私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない……私は)

律「みーお」

澪「っ……」

335 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 19:45:23.93 ID:qiiXSArn0 [148/188]
2010年5月10日

ポーン、ポーン、ピーン

唯「どう? タイムスリップできた?」

律「いや……」

唯「あぅ……そんなぁ」

律「……やっぱりダメだ。澪のいる時間にだけタイムスリップできないどころか、他の時間にも行けないよ」

梓「どうしてなんでしょうか」

紬「さわ子先生、何かわかりますか?」

さわ子「……わからない」

梓「そんな無責任なっ」

さわ子「……ごめんなさい」

337 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 20:00:08.77 ID:qiiXSArn0 [149/188]
律「なんだよそれ……」

紬「例えばですけどっ、澪ちゃんがこっちに戻って来たとしても、あっちの世界の澪ちゃんがいなくなってしまうだけじゃない……それに向こうはまだわからない未来のことなんだから矛盾は生じないはずです!」

さわ子「……ムギちゃん、落ち着いて」

紬「っ……」

さわ子「言ったでしょう? もうこっちの澪ちゃんはあっちの時間の澪ちゃんなんだって」

唯「え、でもそうするとこっちの澪ちゃんはどこなの?」

さわ子「……えっと、つまり……こっちの澪ちゃんの肉体はあっちにあって、でも意識があっち側に染まりつつあるけど、こっちの意識も残っていて……」

さわ子「あー……熱が出そうよっ。わけわかんないっ」

梓「し、しっかりしてください」


338 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 20:05:02.64 ID:qiiXSArn0 [150/188]
さわ子「……世界ってワガママなのよ、きっと。思ったとおりに動いてくれないものでしょ?」

唯「たとえば?」

さわ子「例えばって……色々よ」

唯「ふーん……」

さわ子「だから、澪ちゃんを助けたいという私たちの意志も、世界が澪ちゃんを助けることを許さないというのなら……無理、とか」

律「おい!?」

さわ子「私たちって案外ちっぽけなのよ……」

律「ふざけないでくれよ!! 澪は絶対に助けるっ、さわちゃんもそうだろ!?」

梓「そうですよ! 先生があきらめてしまったら私たち……」

さわ子「何も、何も思いつかないのよ! これでもある知識全て振り絞って考えたわ! でも、何も思いつかないの。方法がないの」

紬「……」

律「くそっ、私はあきらめないからな!!」

唯「りっちゃん……」


340 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 20:10:33.14 ID:qiiXSArn0 [151/188]
さわ子「何をする気なの?」

律「電話だよっ、少しでもあいつに私たちの声を聞かせてやるんだ!」

梓「そんなことしたって……」

律「うるさい!」

紬「りっちゃん、私たちじゃもう……」

律「うるさぁいっ!」

唯「無理しちゃやだよ、りっちゃん……」

律「うるさいって言ってるだろぉっ!?」

律「くそっ、くそくそっ……! どうして出てくれないんだ!?」

律「電話に出ろよぉっ、澪ぉぉっ!!!!」


341 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 20:16:04.39 ID:qiiXSArn0 [152/188]
2010年5月18日 田井中家

律「ほら、できたよ」

テーブルに次々と置かれていく律の手作り料理。
ハンバーグにコンソメスープ、ポテトサラダにほかほかご飯。
もちろん私はそれに手をつけることはなかった。

律「いつも同じ物ばっかり作る、とかいうツッコミはなしで頼むな」

エプロンをほどきながら律はそう言う。
いつもはガサツでうるさい律もこういったところは家庭的なんだ。
私は陰ながらそんな律にあこがれのような物を抱いてきた。

律「なんだよ、食べないのか?」

澪「……」

律「遠慮すんなよ」

澪「……」

律「もしかしてお腹減ってないの?」

澪「……」

律「結構自信作なんだけどなぁ」

澪「……っ」


343 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 20:21:02.30 ID:qiiXSArn0 [153/188]
目の前にいるのは律だ。
それには変わりない。
私にとって偽物だ。でもこの時間としてはこっちが本物だ。
さっきから必死に余計な事を考えないように例の文章を暗唱し続けた。
でも……

律「冷めちゃうよー?」

律「まさか……具合悪いのか?」

律「また頭痛? もしかしてお腹?」

律の手が私へ伸ばされる。
その手を払いのけた。
そうされた律はとても驚いていて、とても悲しそうな顔をしていた。

澪(私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない。私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない。私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃないっ)

最初からこんな所へ来るべきじゃなかった。律の誘いを断っていればよかったんだ。
そうだ、なんで私はここに来てしまったんだ。

律「み、澪……」

澪「私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃないっ! 私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃないっ!」


346 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 20:26:38.37 ID:qiiXSArn0 [154/188]
律「み――」

澪「私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃないっ!!」

両耳を手で押さえて律の声を遮断した。
聞いちゃダメなんだ。
私にはもとの時間で本当の律が待っていてくれている。
みんなが待っていてくれる。

澪「私は過去から来た秋山澪、こ――」

……抱きしめられた。

何も考えられなくなった。

律「澪、大丈夫だ。大丈夫……」

澪「か、か……」

律「私が傍にいるからな」


――Prrr、Prrr


349 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 20:31:02.63 ID:qiiXSArn0 [155/188]
携帯が鳴っている。私のだ。

しばらくしてポケットから携帯が床に滑り落ちた。
ブーブー、と唸りをあげる携帯が音を立ててゆっくりと床の上を動く。
誰からの電話だろう……。
もうどうでもいいのかな、そんなの。

律「澪」

律「安心して」

澪「あうっ、あ……」

律「ずーっと私が傍にいてあげるからな」

――私は過去から来た秋山澪、この時間の秋山澪じゃない。



なんだっけ、それ――――


350 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 20:36:03.31 ID:qiiXSArn0 [156/188]
2010年5月19日

律「みーお!」

澪「うわっ、律!?」

澪「あ、朝から驚かせるなよっ」

律「えへへ~、澪はあいかわらずビビりだなぁ」

澪「叩くぞ?」

律「いやーん!」タタタ…

澪「あ、こら! 待て、律ー!」タタタ…

律「捕まえてみろよ~!」

澪「このっ、ばか律ー!」


354 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 20:41:11.43 ID:qiiXSArn0 [157/188]
・2010年5月11日 軽音部室

律「あれ」

律「梓、なんでそっちの椅子に座ってんの?」

梓「なんでって、いつもここに座ってませんでしたっけ?」

紬「私の隣じゃなかったかな?」

唯「そうだっけ?」

律「そうだろー」

梓「じゃあ、はい」ス

律「さぁて、そろそろベース弾ける部員を見つけなきゃな」

梓「3年目にしてやっとですか……」

唯「まぁ、のんびりいこうよぉ」


BADEND5


362 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 20:48:49.83 ID:qiiXSArn0 [158/188]
残り分岐、律のやつのみ
その前にちょっと待ってほしい。一旦風呂に入らせておくれ



372 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 21:26:07.23 ID:qiiXSArn0 [159/188]
律「……そうだなぁ、試しに一つやってみよっか?」


律「うん、ここまで来たんだし何かやってみるべきだよ」

律「ってことで何を……どうせならわかりやすいように何か大きなことを」

律「……」

律「てきとうでいいかな。とりあえずホワイトボードの落書き全部消しとくか」

ス…

「やめろ!」

律「え?」


373 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 21:31:11.12 ID:qiiXSArn0 [160/188]
律「だれ―――――っ!?」

律「う、うそだろ……」

「いいか、それを消すなよ……絶対に消すなよ」

律「フリ……? ってそれどころじゃない!」

律「お前なんなんだよ!?」

「……」

律「その顔……」

「私は未来から来たあんただよ。田井中律」

律「うそ……」

「うそじゃない。それよりも」

「それを……落書きを絶対に消すな」


374 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 21:36:12.30 ID:qiiXSArn0 [161/188]
律「な、なんだよ……いきなり現れてそんなこと言われても」

「黙って言うとおりにしてさっさと元の時間に帰れ!」

律(むかっ)

律(いくら相手が私とはいえ、あんなキツイ言い方しなくてもいいだろっ)

律「へー、消したらなんかまずいんだ?」

「……」

律「……えいっ」フキフキ

「っっ!? や、やめろぉっ!」ガシッ

律「なんだよっ、落書き消してるだけだろ!? はなせよっ!」ドン

「っ!?」

律「ぜーんぶ消してやるからな!」フキフキ

「か、体が……うごかっ……!」


377 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 21:41:08.98 ID:qiiXSArn0 [162/188]
律「ほい、ぜんぶ綺麗に消しちゃったぜー」

「なんてこと……してくれてんだよ」

「ああああああああっっ!!」

律「ひっ」

「もう一度……もう一度戻らなきゃ……」

律「お、おい? 未来の私?」

「待ってろよ……かならず、助けるからな……」

ピーン、ピーン、ポーン

律「行っちゃった……なんだったんだ、今の」

律「まぁ、とりあえず私も帰るかな。みんなが心配してるだろうし」


380 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 21:45:57.29 ID:qiiXSArn0 [163/188]
2010年5月7日

ヒュッ

律「お」

律「戻ってきたのか?」

唯「り、りっちゃん!? いつのまに!」

澪「律ー!」

律「どうやら戻ってこれたみたいだなぁ」

紬「おかえりなさい、りっちゃん。どうだった? 初めてのタイムトラベルは」

梓「変な感じだったでしょう?」

律「そうだなぁ……色々と不思議だったし、パニクったけど、悪くはなかったかな?」

唯「ほぉほぉ、それじゃあ次は私が」

澪「待って、唯! これ……できればもう使わない方がいい気がする」


382 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 21:51:40.59 ID:qiiXSArn0 [164/188]
唯「ほえ、どうして?」

澪「いや、なんとなくなんだけどさ……」

紬「私も澪ちゃんに賛成。面白いけどこのタイムマシンってわからないことばかりだもの」

紬「これはまた物置の奥にしまっておこう?」

唯「えー、せっかく面白くなってきたところなのにー」

梓「たしかに何か起きてからじゃどうしようもありませんもんね。そうしましょう。律先輩もそれでいいですよね?」

律(ホワイトボードの落書き……ほんとに消えてる。タイムスリップする前はちゃんとまだあったはずなのに……)

律(てことは私がこれを過去で変えてくることができたってことか)

梓「律先輩?」

律「え? あ、うん。それでいいんじゃないか」

梓「というわけで決定ですね」


383 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 21:55:26.34 ID:qiiXSArn0 [165/188]
澪「これでよし、っと」

唯「うえーっ、タイムマシン太がぁ……」

梓「名前つけてたんですか……」

律「よし、んじゃ今日のところは帰るか!」

紬「今日はティータイムできなかった、残念……」

律「んなの明日すりゃいいことだって」

澪「あ、私明日用事あって部活いけない」

唯「用事?」

澪「うん、ちょっとね」


384 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 22:00:08.98 ID:qiiXSArn0 [166/188]
2010年5月8日

律「さーて、放課後だー! 部室いくぞー!」

澪「あ、私は」

紬「そういえば澪ちゃんには用事があったのよね」

澪「うん」

唯「澪ちゃんがいない……おぉ、なんと寂しきかなっ」

律「ふっ、私がいるだろ。唯……」

唯「きゅんっ! り、りっちゃーん……」

律「唯……」

澪「なにバカなことしてるんだ……それじゃ、私はここで」

律「おう、それじゃあな」

紬「じゃあね、澪ちゃん」

唯「ばいばーい!」


385 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 22:05:02.90 ID:qiiXSArn0 [167/188]
軽音部室

律「お、ムギー。コップ一つ多いぞー。今日は澪がいないからな」

紬「あ! うっかりしてた」

唯「もぉ~、ムギちゃんのうっかり屋ぁ」

紬「えへへ」

梓「澪先輩もいないし、今日は練習もできませんね」

唯「今日もじゃないの?」

梓「うっ……」

律「それじゃあ、お茶飲み終わったら今日はてきとうにそこら遊び歩くか!」

唯「あ、いいねぇ~!」

梓「そうですね。たまにはいいかもです」

紬「たまには?」

梓「もうっ、さっきからイジワルしないでください!」


387 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 22:10:08.59 ID:qiiXSArn0 [168/188]
・・・

律「いやぁ、楽しかった。もうこんな時間かよ……」

ガチャリ

律「ただい――」

律母「はい、はい、そうですか……ええ、では……」

律「電話? なんかあったの?」

律母「律……」

律母「……いい? 落ち着いて聞きなさいね。律」

律「な、なんだよ……」

律母「澪ちゃんが――――」


390 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 22:15:04.90 ID:qiiXSArn0 [169/188]
澪が死んだ。

下校途中、変質者か何かに刺されたらしい。

信じられなかった。

澪はさっきまであんなに元気だったじゃないか。

嘘なんでしょ……ねぇ、澪。

律母「ちょっと、しっかり!? 律!」

律「だい、だ……大丈夫……大丈夫だ、よ」

律母「少し横になって休もう? ね」

律「いいよ……いい、大丈夫」

律「わ、私が悪いんだ……澪を一人で帰らせた私が……」

律母「そんなことないよ。あんたはなにも悪くない」

律「っ……」


391 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 22:20:03.31 ID:qiiXSArn0 [170/188]
2010年5月11日 葬式会場

律「……」

唯「み、おぢゃあんっ……」

憂「お姉ちゃん、ハンカチ……はい」

唯「ああぁぁっ」

和「どうしてこんなことが起きちゃったのかしらね。こんな……」

紬「私、犯人が許せないっ」

梓「私だって、私だってそうです……」

律「……」

唯「りっちゃ、りっちゃんは悲しくないの……?」

律「え?」


393 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 22:25:10.77 ID:qiiXSArn0 [171/188]
唯「だってさっきから黙ってなんか考えてるみたいで……」

律「……そうか?」

唯「うん」

律「気にすんなよ。私のことなんか」

唯「気にするよ……こんなときなんだもん」

律「っ」

律「うるさいな! ほっといてくれよ!!」

唯「!」

和「唯、律は落ち着きたいのよ。だから、ね?」

唯「う……うん、ごめんね。りっちゃん」

律「……」

律(澪、お前は私がかならず助けるから……)


395 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 22:30:03.86 ID:qiiXSArn0 [172/188]
2010年5月11日 軽音部室

律「……あった」

物置の奥深くにしまいこまれたタイムマシン。
私は迷いなくそれを手にとる。

律(今の時間から飛べばちょうど授業が終わる頃だ)

そういえば唯たちはタイムマシンで時間を遡って澪を助けようと思ってはいないのだろうか。
突然のことでそんなこと、頭に思い浮かばなかったのかな。

律「どっちにせよ、澪を助けるのは私だよ。私が澪を……」

律「待ってろよ……かならず、助けるからな……」

ポーン、ポーン、ピーン


399 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 22:38:37.65 ID:qiiXSArn0 [173/188]
2010年5月8日

澪「なにバカなことしてるんだ……それじゃ、私はここで」

律「おう、それじゃあな」

紬「じゃあね、澪ちゃん」

唯「ばいばーい!」

・・・

澪「……」

律「……澪」

澪「!?」

澪「り、律! お前、どうしてっ」

律「一緒に帰ろうぜ」

澪「帰るって……みんなは?」

律「いいからいいから」

澪「ちょ、ちょっと!?」


401 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 22:43:05.41 ID:qiiXSArn0 [174/188]
>>400 ・・・見てみたいのかい?

律「……」

澪「……」

律(たしか、澪はこの先の道で刺されたんだよな)

律「澪、こっちから帰ろう」

澪「な、なんだ、いきなり口開いたと思ったら……そっちからだと遠回りになっちゃうだろ?」

律「たまにはいいでしょ? な」

澪「あのなぁ、用事があるって……」

律「お願い」

澪「……り、律?」

律「こっちから、帰ろう?」

澪「……仕方がないなぁ。わかった」


403 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 22:48:14.89 ID:qiiXSArn0 [175/188]
律(これで澪は刺されずに済んだ! 助かるぞ!)

澪「なにニヤけてるんだよ、気持ち悪いな」

律「へへ、ちょっとな~」

澪「? へんな律……」

澪「っと」

律「どうしたの?」

澪「靴ひもが……さき歩いてて」

律「ん? ああ、うん……」

――グシャァッ。

律「え?」


407 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 22:54:10.46 ID:qiiXSArn0 [176/188]
律「あ、あれ……澪」

律「澪!? 澪どこ!?」

「きゃあああああ!!」「ひぃっ……」

律「……みお?」

すぐそこに大きな看板が落ちていた。
看板の下からは血が流れてきている。

澪、澪はどこにいるの?

澪……みお……?

律「   」

「女の子が看板の下敷きになってるぞ!!」「救急車! 救急車を!」

「はやく助けてあげてえっ!!」

律「……」

律「あ」

律「あああああああああああああぁぁぁぁぁぁっっっっ」


412 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 23:00:03.91 ID:qiiXSArn0 [177/188]
「せーのっ!」

ギギギギ、軋んだ音を立てて看板は男の人たちに持ちあげられる。

「う、うあ……」「ダメだ……これは……」

律「澪ぉっ!! みおぉぉっっ!!」

「き、きみっ、ダメだ! 来ちゃいけない!」

律「はなせっ! はなせって言ってんだろぉぉ!? うわああああ!!」

律「なんでだよ!? なんで死んだんだよぉっ!?」

律「どう……どうして――――」

体に力が入らない。
その場に崩れた私は目の前の血塗れた澪を見つめた。
大好きな綺麗な顔はすでに綺麗な顔じゃなくなっていた。

律「やめてくれよ……やめてくれよぉ……」


416 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 23:05:40.46 ID:qiiXSArn0 [178/188]
2010年5月9日

律「はぁ、はぁ……」

部室には幸い誰もいなかった。
澪が死んで次の日だ。当然と言えば当然だけど。
ギターを取り出してきた私は慣れた手つきで弦を一本、一本弾いていく。

ポーン、ポーン、ピーン

律「あきらめないからな! 絶対死なせないからな!」

律「澪――――」


418 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 23:10:07.03 ID:qiiXSArn0 [179/188]
2010年5月8日

律「こっちから帰ろう、澪」

澪と一緒に下校するまでの流れは同じだ。
今度はまた別の道を通ることにした。

澪「こっちって……」

澪「律。私、あんまりもたもたしてる暇ないんだぞ」

律「大丈夫だよ。走ればすぐだ」

澪「は、走るってそんな……って、ええっ!?」

澪の手をとって走り出す私。
今度は澪から離れない。
この手を離すもんか。絶対に。


421 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 23:15:02.94 ID:qiiXSArn0 [180/188]
律「はぁ、はぁ……!」

澪「り、律! ストップ!」

澪「信号! 赤になってる!」

律「え? あ、ああ……そうだな」

澪「こっちは信号がたくさんあるからあんまり通りたくなかったのに」

律「悪い」

澪「別に、気にしてないけど」

信号が変わるのを待つ時間すら今の私にはとても煩わしかった。
こうしている間に澪がしん……ううん。

しばらくして青になった信号。

律「よし、また走るぞ。ほら、用事に遅れちゃ大変だろ」

澪「あ、うん!」


423 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 23:20:53.18 ID:qiiXSArn0 [181/188]
急いで横断を済ませようと駆け出す私と澪。
もちろん手は離していない。

――ドンッ。

背中を突き飛ばされた。私が。

振り返ると同時に今度は大きくドンッ、と鈍い音が聞こえた。

律「え――」

バイクだ。バイクが人を撥ねたんだ。

誰を……撥ねたんだ?

澪「あ……あぁ……」

「大丈夫か!?」

律「澪!?」


424 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/25(土) 23:25:28.51 ID:qiiXSArn0 [182/188]
倒れている澪に駆け寄った男を押しのけて、澪のところへ。
まだ意識はあるみたい。だけど……目の焦点があってない。意識が朦朧としている。

澪は「あ、あ」とかすれた声を絞り出している。
頭からは血が止めどなく溢れていて……。

律「澪! 澪ぉ!」

澪「り……つ……?」

律「死なないでっ!! 澪っ!! 嫌だよぉっ!!」

澪「だ……だめだ、ぞ……? ちゃんと……まわり、みなきゃ……」

そうだ、さっき私を突き飛ばしたのは澪だったんだ。
私がバイクに撥ねられそうになったのを澪が助けて……庇って。

死んだ。

澪はピクリとも動かなくなった。相変わらず血は溢れたまま。

「きゅ、救急車を……」

律「どうして……澪……」


唯「放課後てぃーたいむとらべらー」-3
続きます

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