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上条「クリスマス…だもんな」

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 17:23:37.62 ID:HQvgLVSRQ [1/86]
12月24日PM2:08

学園都市―
人口約230万人の内、学生が約8割を占める街。
どこの学校も冬休みに入ったこの時期、
街には至る所に学生が溢れていた。
明日はクリスマス。
あらゆる店はイルミネーションに彩られ、大音量でクリスマスソングを流している。
クリスマスという一大イベントに、
街も人も希望に満ち溢れているのだ。
"彼"を除いて。

「はぁー、何がジングルベルだよ…」

彼は賑やかな街を眺めて、大きな溜め息を吐く。
上条当麻―
どこにでもいる平凡な高校生。
ただ一つ、特殊な右手のせいで不幸体質という事を除けば、だが。

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 17:26:03.58 ID:HQvgLVSRQ [2/86]
「クリスマスなんかキリスト教のイベントだろ?
どうせすぐに初詣行くのに。
変だ!絶対変だ!」

世間は冬休みというのに、上条はしっかり学生服を着ていた。
別に校則で決められている訳ではない。
致命的な勉強不足のせいで、地獄の補習を受けた帰りなのだ。

「あんたねー、自分が補習だったからって、
たかがイベントに変な言い掛かりはやめなさいよね」

上条の隣を歩く制服の少女が呆れた顔でたしなめる。
名門常盤台中学の制服を着た少女。
御坂美琴―
常盤台のエースにして、学園都市第3位のレベル5能力者。
通称【超電磁砲】
上条は補習の帰り道、偶然美琴と出会い、途中まで一緒に帰る事になったのだ。

「で、あんたはその…ク…クリスマス当日は予定…とか…あるわけ?」

突然顔を真っ赤にして尋ねる美琴を、鈍感な上条は不思議そうに見つめながら

「へ?上条さんはクリスマスは特になにもありませんよ。
強いて言えば出費の予定が…
大出費、主に食費で。」

訳あって家に居候している大食いシスターを思い浮かべ、肩を落として答える。
クリスマスをダシに、肉だケーキだと騒ぐ大食いシスターが目に浮かぶ。


3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 17:29:55.30 ID:HQvgLVSRQ
「そういう御坂はどうなんだ?」

「わっ、私!?私はその…あの…」

上条にクリスマスの予定が無い事が分かり、
内心ホッとしていた美琴は、突然の質問に慌てふためく。
美琴も予定があるわけではなかった。
もし上条を誘えば、クリスマスに会えるかもしれない。
素敵なレストランで食事をして、プレゼントを渡して、そして―

「べ…別に予定はない…けど」

その先の言葉が出てこなかった。
たった一言『私も予定ないから遊ぼう』と言えば良いのだが、
こういう事に慣れていない美琴にとって、
それを言うのは、学園都市第1位になる事より難しい気がしていた。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 17:30:53.47 ID:HQvgLVSRQ
「はは、そうだと思った」

美琴の気持ちを知らない上条は、へらへらと笑っている。
もちろん馬鹿にしている訳ではなく、
常盤台のお嬢様なら、クリスマスだからといって、街に出て遊び回らないと思っただけなのだ。
しかし美琴もまた上条の考えを知る筈もなく―

「…あんたね」

「へ?」

美琴の前髪からパチパチと青白い電気が飛び散っている。
上条の背筋を冷たいものが流れていく。

「み、御坂…さん?」

「馬鹿にしてんのかゴルァァァッ!」

上条目掛けて特大の電撃が放出される。

「ぎゃぁぁぁぁっ!不幸だぁぁぁぁっ!」

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 17:31:50.07 ID:HQvgLVSRQ
12月24日PM3:10

「とうまっ、とうまっ、とうまがおっそいー」

上条の部屋に居候している銀髪碧眼のシスターは、
今や自分のものとなったベッドの上で、
愛猫スフィンクスをつつきながら歌を口ずさんでいる。
上条が学校から帰るのはお昼過ぎの筈なのだが、
おやつの時間を過ぎてもなかなか帰って来なかった。

「とうまっ、とうまっ、とうまのおバカー」

インデックスが作詞作曲自分の歌の二番を歌っている時だった。
突然玄関のドアノブがガチャガチャと音をたてる。

「あっ、スフィンクス!とうまが帰って来たんだよ!」

インデックスはスフィンクスを胸に抱えると、パタパタと可愛い足音をたてながら玄関へ向かう。
しかし―

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 17:33:39.69 ID:HQvgLVSRQ
「ん?」

玄関のドアは一向に開く気配がない。
当然上条は鍵を持っているはずなので、
部屋に入るのにこんなに時間がかかる筈はないのだ。
インデックスは未だにガチャガチャと音をたてるドアノブを見つめ、
恐怖と緊張で身体が硬くなる。
胸に抱かれたスフィンクスが苦しそうにもがき、
インデックスは自分の全身に力が入っている事に気がついた。

(とうま!早く帰って来て!)

これは明らかに異常事態だった。
インターホンも鳴らさず、声を掛ける事もせず、
いきなりドアを開けようとする人間がそこにいるのだ。
さして頑丈でもない扉一枚隔てたすぐそこに。
インデックスは音をたてないように、
ゆっくりと部屋へ後退りする。
ベランダからなら逃げられるかもしれない。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 17:35:10.93 ID:HQvgLVSRQ
先程まで音をたてていたドアノブは静かになり、
今度は何か金属の擦れるような音が断続的に聞こえてくる。
インデックスは以前見たテレビ番組を詳細に思い出す。

(確か…ピッキングなんだよ)

インデックスは完全記憶能力を持っている。
一度見たものは決して忘れないこの能力で、
10万3000冊の魔導書を一字一句記憶している。
テレビ番組を詳細に思い出せたのもこの能力のおかげだった。
しかし―

(まさか…魔術師!?)

この能力のせいで―
正確には能力で覚えた10万3000冊の魔導書のせいで、
インデックスは世界中の魔術師から狙われる立場にいた。
魔導書の中には、当然とてつもない力を秘めたものもあり、
魔術師にとってそれは、喉から手が出る程魅力的なのだ。
結果、今までに何度も魔術師の襲撃に会い、
その度に上条当麻に助けられた。
しかし今はその上条も居ない。
インデックスがベランダに足を踏み出すのと同時に、
玄関のドアが音をたてて開かれる。
どう考えても逃げる事は出来そうになかった。

「一緒に来てもらおうか」

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 17:36:51.11 ID:HQvgLVSRQ
12月24日PM3:15

「さて、僕は土御門に呼ばれているからね。合流して情報を集めてくるよ」

学園都市第七学区の路地裏、ステイルは煙草に火をつけると、
苦々しい顔で煙を吐き出す。
ヘビースモーカーである彼が、こんな顔で煙草をくゆらせているのには訳があった。
ステイル・マグヌス―
イギリス清教必要悪所属の魔術師。
隣には、腰に刀を提げ、ジーンズの片方を太ももの付け根までバッサリ切った、
個性的な格好の女性が立っている。
神裂火織―
ステイルと同じイギリス清教必要悪所属の魔術師にして、世界に二十人程しかいない聖人の一人だ。
その神裂も口を開く。

「私はあの子の元へ向かいます。
上条当麻も一緒でしょうが、何か嫌な予感がしますから」

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 17:38:41.80 ID:HQvgLVSRQ
科学の街である学園都市に、二人の魔術師がやって来たのは、ある情報を得た為だった。
スパイとして学園都市に潜入している土御門元春から、
インデックスを狙っている魔術師がいるかもしれないと連絡があったのだ。
本来魔術側は学園都市での揉め事に介入する事はないのだが、
狙われているのがインデックスであるという事で、
学園都市に馴染みのあるステイルと神裂が調査に来たのだ。
神裂は腰の刀の感触を確かめながら、ステイルに尋ねる。

「しかし、一体何故あの子が狙われているのですか?」

ステイルは再度苦々しい顔で煙を吐き出すと

「それをこれから土御門に確認しに行くのさ。
無駄話はこれくらいにして、早くあの子の所へ行ってくれ」

そう言って路地の奥に姿を消した。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 17:40:25.95 ID:HQvgLVSRQ
神裂は路地の奥から、大通りに視線を移す。
大通りでは沢山の人々が、幸せそうに街を行き交っていた。
端から見れば微笑ましいその光景も、
今は神裂の胸をきつく締め付ける。

「あの子には…あんな風に毎日平和な日々を生きて欲しいですね」

神裂はもう一度腰の刀に手を伸ばす。
インデックスが平和を取り戻した時、隣に居るのが自分じゃなくてもいい。
自分はただひたすら戦って、インデックスの平穏な日々と引き換えに命を落としたとしても、
きっと後悔はしない。

「だから…あの子は必ず守ってみせます!」


18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 17:43:08.53 ID:HQvgLVSRQ
12月24日PM3:10

上条と別れた美琴は、真っ直ぐ帰るのはつまらないと、
一人街をぶらついていた。
週刊誌を立ち読みしたり、ゲームセンターを覗いたり。
およそお嬢様らしくない時間の過ごし方だが、
美琴にとってはこれが一番落ち着く過ごし方なのだ。
学校ではレベル5のエースとして憧れや尊敬の眼差しで見られ、
外に出れば名門常盤台のお嬢様として見られる。
なので、こういう自由気ままに過ごせる時間は、とても貴重なのだ。

「あら?あらあらまぁまぁ!」

美琴が大通りのベンチで一休みしている時だった。
聞き慣れた声が人混みの中から聞こえてくる。

「お姉さまじゃありませんの!」

美琴が声のした方に視線を移すと、人混みを掻き分けて、小柄な少女が現れた。
美琴と同じ常盤台中学の制服を着ており、
腕には風紀委員の腕章をつけている。
白井黒子―
常盤台中学の美琴の後輩で、
レベル4の空間移動能力者だ。
学生達で構成される街の治安維持部隊、風紀委員のメンバーでもある。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 17:47:19.82 ID:HQvgLVSRQ
「黒子、あんた今日風紀委員の仕事休みじゃなかったっけ?」

「それが…ちょっと大変な事が起きてまして」

そこまで言って、黒子はハッと息を呑む。
こういう時、美琴は必ずと言っていいほど、首を突っ込もうとするのだ。
黒子は大切な美琴を巻き込みたくないのだが、
その気持ちを知ってか知らずか、美琴は毎回無茶をしようとする。

「大変な事?」

案の定、黒子の言葉に美琴は反応してしまった。
自分の軽率な発言に、黒子は肩を落としながら

「い、いえ。大したことじゃありませんの。
お姉さまはゆっくりのんびり…」

そこまで言って、美琴の顔がいつになく真剣なのに気付く。
美琴もまた、大切な黒子の助けになりたいと、心から思っているのだ。
興味本位で首を突っ込もうとしている訳ではないことを、
黒子はちゃんと分かっていた。

「黒子、何があったのか教えて」

美琴は自分に出来る事があるかもしれないのに、
何もしないで見ているだけというのは嫌なのだ。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 17:52:47.83 ID:HQvgLVSRQ
「はぁー、仕方ありませんわね。
ですがお姉さま。お話する前に一つ約束して頂きますの」

「約束?」

「絶対に…絶対絶対絶対に一人で無茶はしない事!
何かあったら必ず私に連絡して下さいな!」

美琴は黒子の目をしっかりと見据え、頷く。

「分かった。約束する」

黒子は美琴の横に腰を下ろすと、
静かに事の経緯を説明しだした。

「昨日から行方不明が多発してますの。
最初にアンチスキルに捜索願いが出されたのは昨日。
それから今日まで立て続けに23件、行方不明者の数が異常なんですの。
私も先程アンチスキルからの要請を受け、
街をパトロールしてるという訳ですの」

「23件?一体どうなってるのよ?」

学園都市だからといって、行方不明者が全くいない訳ではないが、
その数が余りにも異常だった。
一年で23人ではない。
たった二日で23人もの行方不明者が出ているのだ。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 17:54:04.90 ID:HQvgLVSRQ
「まだ詳しくは何も分かっていませんが、
行方不明になったのは、全員学生なんですの」

「全員…学生」

人口の八割が学生である学園都市なので、
行方不明者が全員学生だからといって、別段不思議はない。
しかし美琴はそれがどうしても偶然とは思えなかった。

「ねぇ黒子。その学生達に何か共通点はない?」

「共通点?私も先程連絡を受けてパトロールしてましたので。
そこまで詳しくは分かりませんわね。
後で初春に聞いてみますの」

「お願いね。何か分かったら教えて」

黒子はベンチから立ち上がると

「お姉さま、約束は守って下さいまし。
絶対に一人で無茶はしないで下さいな」

そう言って人混みの中へ消えていった。
相変わらず行き交う人々はとても楽しそうで、
それを見ていると、行方不明事件など最初から無かった事のように思えてくる。

「何が…起きてんのよ」



22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 17:56:20.31 ID:HQvgLVSRQ
12月24日PM3:17

「一緒に来てもらおうか、禁書目録」

押し入って来たのは、スーツに身を包んだ大柄な男だった。
短く借り上げた頭髪に、スーツの上からでも分かる程筋肉質だ。
その表情はサングラスでよく分からない。
男は後ずさるインデックスに向かって、一歩ずつ近付いて来る。

「い、いや!来ないで!」

男の伸ばした手が、インデックスに触れようとした時だった。

「インデックスから離れろ…」

その声に男が振り向いた瞬間、
顎に拳が叩き込まれる。
脳を激しく揺さぶられ、男はその場に崩れ落ちた。
どうやら意識を失ってしまったようだ。



23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 17:57:19.31 ID:HQvgLVSRQ
「とうまっ!」

そこに立っていたのは、紛れもなく上条当麻だった。
助けてくれた上条に、インデックスは勢い良く飛び付く。

「お、おい、インデックス」

「遅いんだよ!とうまのおバカ!」

口ではそんな事を言いながらも、
インデックスの体は小さく震えていた。
突然得体の知れない男が襲って来たのだ。
いくら今まで色々危険な目にあったとはいえ、
インデックスはただの女の子であり、
それは無理もなかった。
上条はインデックスの頭を撫でながら

「ごめんな、インデックス」

そう言って優しく微笑んだ。

「ううん、とうまは助けてくれたもん。
だから平気なんだよ」



24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 17:58:46.37 ID:HQvgLVSRQ
上条は手近にあったガムテープで男を縛り上げると、
状況を把握する為に、呼吸を整える。
気持ちが落ち着いてくると、今度は徐々に怒りが込み上げてくる。
毎回毎回、どうしてインデックスがこんな目に合わなければならないのか。
いくら10万3000冊の魔導書図書館という存在とはいえ、
それ以外は普通の女の子だ。
笑ったり泣いたり、怒ったり悲しんだり。
そんな当たり前の事を、簡単に踏みにじる権利は誰にもないはずだ。
上条は右の拳を強く握り締める。

(俺が…絶対に守ってやる!)

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 18:00:24.35 ID:HQvgLVSRQ
12月24日PM4:25

襲って来た男をアンチスキルに引き渡し、
上条は部屋で一息ついていた。
あれからアンチスキルに連絡、色々事情を説明し、
この時間になってやっと解放されたのだ。
詳しく説明する訳にもいかないので、インデックスの事は話さなかった。

「おーい、上条当麻ー。お前んとこのシスターを返しに来たぞー」

玄関に目を向けると、清掃用のロボットの上でクルクルと回る、
メイド服の少女がいた。
土御門舞夏―
上条のクラスメイトである、土御門元春の義理の妹で、
優秀なメイドを数多く輩出する名門、
繚乱家政女学校の生徒だ。
アンチスキルに通報する前に、隣の部屋に住む土御門元春にインデックスを預けようと思ったのだが、
土御門は不在で、義妹の舞夏しか居なかった。
そこで取り敢えず舞夏にインデックスを預けたのだ。

「兄貴の為に作っておいた料理、このシスターが全部食べちゃったぞー。
次からはお代を頂くからなー」

そう言って、手をひらひらさせながら自分の(正確には兄の)部屋に戻っていた。
上条は礼を言って、しっかりと玄関の戸締まりをする。
襲撃があの一度とは限らない。
上条は何度も鍵を確認し、最後にチェーンを下ろす。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 18:01:32.67 ID:HQvgLVSRQ
「ふう、これで取り敢えずは大丈夫か」

上条が玄関の鍵を指差し確認していると

「何が大丈夫なのかにゃー、カミやん」

「うわぁぁぁぁっ!」

突然声を掛けられ、自分でも情けない程間抜けな声が出る。
慌てて振り返ると、そこには金髪にサングラス、
前を開けたアロハシャツを着た男が立っていた。

「つ、土御門!?お前どうやって!?」

上条は、真っ先に玄関の鍵を確認する。
鍵はかけられ、チェーンもしっかりと下ろされていた。

「カミやん、ベランダの鍵をかけ忘れてたぜい」

「しまったぁぁぁ!」

上条はインデックスがベランダから逃げようとした事をすっかり忘れていた。
窓は閉めたのだが、鍵をかけ忘れていたのだ。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 18:02:43.06 ID:HQvgLVSRQ
「まったく、相変わらずの間抜けぶりだにゃー、カミやん」

土御門はやれやれといったジェスチャーをすると、
ベッドの脇に腰を下ろす。

「そういえば土御門、お前はインデックスが襲われた事知ってんのか?」

土御門はイギリス清教所属の魔術師でありながら、
この学園都市にスパイとして潜入している。
土御門は魔術側、学園都市側の二重スパイだと言っていたが、
それなら何か知っているかもしれない。
上条の質問に、当たり前だというような顔で土御門は答える。

「俺がここに来たのは、まさにその事に関して話があるからだぜい、カミやん」


28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 18:06:16.74 ID:HQvgLVSRQ
11月24日PM5:12

「土御門、教えてくれ!どうしてインデックスが襲われたんだ!?」

上条は土御門に詰め寄ると、今にも殴りかかりそうな勢いで問い詰める。

「まぁ落ち着け、カミやん。全員揃ったら話す」

「全…員?」

一体何を言っているのだろうか。
上条が訝しげに思っていると

「と、とうまっ!」

インデックスが突然大声をあげ、ベランダの方を指差している。

「また敵か!?」

上条がベランダに向かって身構えると、
そこには意外な人物が立っていた。
二人も、だ。

「ステイル…それに神裂!?」

ステイルは窓を開けろと指で合図を出し、
神裂は申し訳なさそうに一礼する。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 18:08:36.42 ID:HQvgLVSRQ
「どいつもこいつも…何でベランダから入ってくるんだよ…」

一人溜め息を吐く上条をよそに、土御門は

「よし、全員揃ったな」

部屋に入り、思い思いの場所に腰を下ろした二人をチラリと見ると、
ポケットから封筒のようなものを取り出した。
その封筒の中から一枚の紙を取り出す。

「写真…か?」

上条はその写真を受け取ると、隅々まで目を走らせる。
隠し撮りしたのだろうか。
写真は少しブレており、辛うじて人間が写っているのが確認出来る。

「ステイルにはもう話してあるが…」

土御門の言葉にステイルは頷く。

「ねーちんはステイルと別れて、ここに来たんだよな?」

神裂は姿勢を正し、丁寧に答える。

「ええ。私がここに着いた時には、上条当麻が襲撃者を引き渡した直後でした。
その後は向かいの建物から監視を」

「ステイルは二度目になるが、ねーちんにも説明しておく。
カミやんも聞いてくれ」

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 18:21:32.12 ID:HQvgLVSRQ
土御門は上条から写真を受け取ると、
写っている人物を指差しこう言った。

「こいつは…魔術師だ」

上条の体が緊張で強張る。
ステイルと神裂が現れた時点で、
魔術絡みという事は何となく分かっていた。

「この写真が撮られたのは一昨日だが、
魔術師自体は一年程前から学園都市に潜伏してたらしい。


「一年も前から!?」

「あぁ、恐らく第十一学区から侵入したんだろう」

第十一学区は、学園都市における資材や物資搬入の玄関口だ。
高い壁に囲まれ、あらゆるセキュリティーが施された学園都市に侵入するのは容易ではなく、
搬入業者に紛れて侵入出来る第十一学区は、
外部からの侵入経路として選ばれる事も多い。

「その魔術師が、急に動き出した…という事ですか」

神裂は忌々しそうに呟く。
土御門は頷くと、もう一枚写真を取り出した。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 18:45:25.16 ID:HQvgLVSRQ
「これはさっきの写真を拡大したものだ。
こいつが持っているもの…
禁書目録が狙われているのは、多分これと関係がある」

「んー…ノートパソコンみたいに見えるな。
魔術師だからてっきり霊装とかの類かと思ったけど」

魔術師にノートパソコンという不自然な組み合わせに、上条は首を傾げる。
狭い部屋だからなのか、そばにインデックスがいるからなのか、
ステイルは噛み煙草を噛みながら

「魔術師だって携帯電話も持つし、ノートパソコンだって使うさ。
問題はその中身だよ」

そう言って更に噛み煙草を口に放り込む。

「中身…ですか?」

神裂の疑問に、土御門は写真を指差しながら

「情報では、この中には設計図が入ってるらしい。
カミやん、AIMジャマーは知ってるな?」



34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 18:46:48.89 ID:HQvgLVSRQ
突然そう聞かれた上条は、頭の中から何とか情報を引っ張り出す。
以前学校の授業でならった筈だ。
上条は自分の勉強不足を後悔しながら、微かな記憶を頼りに話し始めた。

「確か…能力者が無意識に発生させてる力のフィールドがAIM拡散力場で…
それを特定の周波数で乱反射させ、能力の使用を阻害する装置…だったような」

頷く土御門とは対照的に、神裂とインデックスは、
頭の上にクエスチョンマークが出そうな顔で聞いている。

「まぁ簡単に言えば、能力者の能力を使えなくする装置ってとこだぜい」

「な、なるほど。ですが話の筋が全く見えないのですが…」

上条も神裂と同じ意見だった。
土御門の言っている事が全く分からない。
インデックスが狙われているという事と、魔術師の持つ何かの設計図や、
AIMジャマーがどう関係しているのだろうか。
そんな二人を見透かしたかのように、
土御門は本題に入る。

「この魔術師が持っている設計図。
これはAIMジャマーのような装置の設計図らしいんだ。
しかし俺たち対能力者用の装置じゃない。この設計図は…」

土御門は一度息を整え、そして静かにこう言った。

「対魔術師用の装置だ」


36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 18:49:40.31 ID:HQvgLVSRQ
「対…魔術師用!?」

確かに土御門はそう言った。
本来魔術側と学園都市は、表向きには友好的に付き合っているはずだ。
上条達はイレギュラーだが、本来お互いに接触は避けており、
学園都市の学生達は魔術師の存在など知らないのだ。
それに気になる事がもう一つ。

「待ってくれ土御門。学園都市がどうして対魔術師用の装置なんか作るんだ?
それに…それを魔術師が持ってるってのも変じゃねーか」

畳み掛ける上条を右手で制し、土御門は続ける。

「落ち着け、カミやん。まずはその装置についてだ。
あれはAIMジャマーの魔術バージョンってとこだ。
魔術を使えなくする為の装置だな。
便宜上、"マジックジャマー"って呼ぶ事にするが…
そのマジックジャマーを、魔術師と学園都市内部の人間が協力して開発しているらしい」

「一体何の為ですか?」

神裂の質問に、今度はステイルが答える。

「そこまではまだ分からない。
ただマジックジャマーの開発が行われている事だけは確かみたいだね」

噛み煙草では物足りなかったのか、
話終えると、ステイルはベランダに出て煙草に火をつけた。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 18:52:03.26 ID:HQvgLVSRQ
「そして、禁書目録が狙われている理由。
それはマジックジャマー開発に関係しているとみて間違いないだろう。
魔術絡みだからな」

土御門はインデックスの顔をチラリと見る。
もう覚悟を決めているのだろう。真剣な顔で話を聞いている。

「カミやんがアンチスキルに引き渡した男、
あいつは第十学区の研究所に雇われた何でも屋だ」

第十学区といえば、様々な研究施設の建ち並ぶ学区だ。
世の為になる研究から、表には出せないような研究まで、
ありとあらゆる研究が行われているという。

「どうしてそんな事が分かるの?」

インデックスが不思議そうに尋ねると、
土御門は当たり前だという顔で答える。

「忘れたか?ここは超能力者達が集まる街だぞ。
心や記憶を読む能力者だってたくさんいるんだ」

「じゃあ計画や黒幕なんかも分かるのですか?」

そう聞いてみたものの、神裂にも分かっている。
何でも屋には必要最低限の情報しか与えられていない筈だ。
淡い期待を込めての質問だった。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 18:53:07.25 ID:HQvgLVSRQ
案の定土御門は

「残念だが…あの男にそこまでの情報は与えられていなかった。
まぁ当然だな」

そう言って首を横に振る。

「そうですか…ではこれからどうするか話合いましょう」

神裂の提案に、上条は携帯の時計で時刻を確認する。
ディスプレイには午後7時13分と表示されていた。

「とにかく確かな情報が欲しい。
今までの情報はほとんど裏が取れてないからな。
俺は色々顔が利くから、とりあえず情報集めに専念する」

土御門はそう言って立ち上がる。
長い時間座っていた為だろうか、腰に手を当てて一言付け加える。

「俺は一人の方が動きやすい。
カミやんに禁書目録、ねーちんにステイルは取り敢えず待機しててくれ。
全員で動くには情報が足りないからな」

上条に戸締まりをしっかりするよう伝えて、土御門は部屋から出て行く。
一体何本吸うつもりなのか、ステイルは相変わらずベランダで煙草を吹かしていた。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 19:01:43.80 ID:HQvgLVSRQ
「さて、取り敢えず飯にでもするか?」

買い物に行けていない為、4人分も食材は無く、
上条はデリバリーのチラシを机に広げる。
とにかく腹拵えをしない事には、
頭も体も働かないと、メニューを吟味している時だった。

「残念だけど…食事の時間は無いみたいだね」

さっきまでベランダに居た筈のステイルが、真剣な顔をして上条達を見回す。
その手にはルーンが刻まれたカードが握られていた。

「まさか…」

神裂も素早く立ち上がると、刀の柄を握り締める。

「そのまさかだよ。このマンションを20人程が取り囲んでいる」


40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 19:21:43.35 ID:HQvgLVSRQ
12月24日PM6:21

黒子と別れた美琴は、近くにあったネットカフェに来ていた。
行方不明事件について、ネットに何か情報がないか確かめに来たのだ。

「何も…情報は出てないわね」

様々なニュースサイトを見てみたのだが、
行方不明事件について書かれているサイトは一つも無かった。
たった二日で23人もの学生が行方不明になっているのに、だ。
まるで揉み消されたかのようだ、と美琴は思った。

「なら…ここは」

次に美琴が開いたのは、学園都市の噂や情報が集まるコミュニティーサイトだ。
美琴は検索キーワードに、行方不明、学生、集団などと入れてみる。

「ビンゴね」

検索結果には、行方不明事件の始まった昨日の日付に立てられたスレッドがあった。
美琴はカーソルを合わせ、そのスレッドを開く。
どうやら立てたのは行方不明になった学生の友人のようだ。


41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 19:24:45.63 ID:HQvgLVSRQ
「情報求む…か」

行方不明の友人に関する情報を集めているのだろう、
その友人の詳細な情報が書かれている。

「霧ヶ丘女学院ニ年生…レベル3の読心能力者(サイコメトラー)か」

美琴はページをスクロールしていく。
殆どが茶化すような書き込みで、中には自分が犯人だという書き込みまであった。

「ここもダメか…」

美琴が諦め半分で書き込みを流し読みしていると、
一つのレスに目が止まった。
書き込まれたのはつい3時間程前で、
詳細な目撃情報が載っている。

「第十学区で行方不明の学生が誰かに連れて行かれるのを見た?
第…十学区?」



42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 19:25:53.48 ID:HQvgLVSRQ
第十学区といえば、様々な研究施設の集まるエリアだ。
美琴は無意識の内に、拳を握り締めていた。
研究施設―
学園都市第1位の絶対能力者進化計画、それに伴う量産型能力者計画。
嫌な思い出が脳裏をよぎる。
もしこの書き込みが事実ならば、
学生を誘拐した人物達は、何かの実験をするつもりなのかもしれない。

「ふざけんじゃないわよ…」

美琴はスカートのポケットから小さな端末を取り出す。
普段は余り使う事はないのだが、ハッキングする際によく使っているのだ。
美琴は電気を操る事が出来る為、
電子ロックの解除や、コンピューターのハッキングも得意としている。
行方不明事件の情報を得る為、海外のサーバーを経由し、
第十学区にある研究施設のコンピューターに片っ端からハッキングを仕掛ける事にした。

「絶対に…何か掴んでやる!」


44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 19:28:10.98 ID:HQvgLVSRQ
12月24日PM6:35

パトロールを終えた黒子は、第七学区にある風紀委員の詰め所に戻って来ていた。
街で聞き込みもしてみたが、行方不明事件について有力な情報を得る事は出来なかった。

「一体何が起きているんですの…」

誰にともなく呟いた黒子に、パソコンと睨めっこをしていた初春が振り返る。
初春飾利―
冊川中学一年生で、黒子と同じ風紀委員第177支部のメンバーだ。
能力はレベル1なのだが、情報処理能力や洞察力には目を見張るものがあり、
主に風紀委員のオペレーターとして高い評価を受けている。
その初春が、パソコンのモニターを指差しながら話す。

「白井さんに言われて行方不明者全23名のリストを取り寄せたんですが…
少し気になる事があるんです」

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 19:29:12.19 ID:HQvgLVSRQ
「気になる事?」

黒子は初春の背中越しにモニターを覗き込む。
そこには顔写真と共に、23名の詳細な個人情報が並んでいた。
全員学生で、性別や年齢、在籍する学校はバラバラ。
出身地や現住所も特に共通点は無かった。
ただ一つ、ある項目を除いて。

「初春…これは」

行方不明者の個人情報には、その人物のレベルと能力も記載されている。
黒子はその項目を何度も何度も見返した。
見間違いではない。
初春がモニターを見ながら呟く。

「そうなんです。全員…"読心能力者"なんです!」

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 19:37:13.67 ID:HQvgLVSRQ
12月24日PM7:13

「取り囲まれてる!?」

ステイルの言葉に、上条の心拍数は一気に上昇する。
まさかこんなに早く次の手を打ってくるとは思っていなかったのだ。
最初の襲撃が失敗し、敵も慎重になるだろうと高をくくっていた。

「慌てるな上条当麻。
冷静さを欠けば、君だけでなくその子も危険にさらす事になる」

ステイルはそう言って、ベッドからシーツを剥ぎ取る。

「僕と神裂は監視カメラに映らないようにここに来た。
恐らく僕達がここに居る事を、彼らは知らない筈だ」

上条は二人がベランダから現れた事を思い出す。
確かにマンションの入り口や、エレベーター内には監視カメラが設置されている。
二人はそれを避けてベランダから現れたのだ。

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 19:37:58.35 ID:HQvgLVSRQ
「僕と神裂で彼らを何とかする。
君はその子を連れて、安全な場所に隠れててくれるかな。
この辺の土地勘は、君の方があるからね」

ステイルは簡単に作戦を説明すると、
最後にこう付け加えた。

「もしその子に傷一つでも付けたら…その時は君を灰にする」

ステイルの嘘か本当かも分からない冗談をたしなめ、神裂が作戦開始の合図を出す。

「それでは、行きますよ!」

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 19:42:33.76 ID:HQvgLVSRQ
12月24日PM7:18

冬の日没は早く、辺りは暗闇に包まれていた。
上条のマンションを取り囲む男達は、慎重に部屋の様子を伺っていた。
ここに通じる道路は、工事中を装って既に封鎖してあり、
男達はマンションの全ての出入り口に人員を配置していた。

「あと2分で突入する。各自安全装置解除」

リーダー格の男がインカムに合図を出すと、
暗闇の中からカチャカチャと複数の金属音が聞こえてきた。
男達は海外の特殊部隊のような服装で、
全員サイレンサーを装備したサブマシンガンを携帯している。

「目標は決して殺すな。他は構わない」

リーダー格の男は、胸ポケットから一枚の写真を取り出す。
隠し撮りされたその写真には、白い修道服を着た少女が写っていた。
彼が与えられた依頼は、手段を問わず、この少女を指定された場所まで連れて来る事。
それ以外は何も知らされていない。
彼らは元々、学園都市の裏で暗躍する"迎撃部隊(スパークシグナル)"に所属する兵士だった。
迎撃部隊とは、学園都市の情報流出を防ぎ、関わった人物を抹消する為の部隊だ。
しかし過去に任務で失敗、部隊は解散し、
今は依頼があればどんな汚い仕事も引き受ける、
裏社会の傭兵部隊に落ちぶれていた。
メンバーは皆、リーダー格の男を慕って集まって来た、元迎撃部隊の兵士達。
つまりは人殺しのプロ集団。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 19:43:21.86 ID:HQvgLVSRQ
「よし、全員作戦かい…っ!?」

リーダーがインカムに指示を出そうとした瞬間、
突然ターゲットの部屋の窓ガラスが砕け散る。
次いでベランダから人影が飛び出した。
暗視ゴーグルをしている男達にははっきりと見えた。
誰かが白い修道服を着た人間を抱えて、
ベランダからベランダへ飛び移って行く。

「ちっ、気付かれたか!全員追え!」

リーダーの一言で、男達は一斉に後を追う。
ターゲットを抱えた何者かは、隣の建物の非常階段に飛び移り、屋上を目指して駆け上がる。
どうやら建物伝いに逃げるつもりのようだ。

「5人ずつ、4班に別れて追え!追跡プランはB!」

リーダーの指示で、男達は訓練通り行動を開始する。
一つの班は常に相手に姿を見せながら追跡、
ニつの班が追い込むように、交互に相手を牽制し、先回りして待っている最後の一班の所へ誘導する。
相手がターゲットを抱えている以上、
無闇に発砲する訳にはいかないのだ。
追い詰めて、確実に任務を遂行する。
リーダーの顔に、自然と笑みが浮かんでいた。
獲物を追い詰めるこの高揚感、そして緊張感。

「逃げても無駄だ。必ず追い詰める!」

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 19:45:01.29 ID:HQvgLVSRQ
12月24日PM7:26

美琴は携帯端末の電源を落とす。
第十学区にある研究施設のコンピューターを片っ端からハッキングし続け、
ようやく全ての作業を終えたところだった。
そこで見つけた一つの情報。
研究施設の一つが、一ヶ月程前に23台もの学習装置(テスタメント)を搬入していた。
学習装置とは、能力開発の為、学生の脳に、技術や知識を電気信号に変え、
直接記憶させる装置だ。
その使用法から、しばしば洗脳装置と揶揄される。
学習装置自体、この学園都市では珍しく無いのだが、
美琴が気になったのは搬入された台数だった。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 19:45:47.11 ID:HQvgLVSRQ
「学習装置が23台…行方不明者が23人、か」

偶然にしては出来過ぎていた。
それにもう一つ、データによれば、
この研究施設は音が能力に与える効果を研究しているとある。
例えば特定の音を能力者に聞かせ、能力の出力に強弱が出るのか。
音楽で人の気持ちが左右されるように、
能力にも影響を与えられるのか。
そういった研究をしているとデータにはあった。

「とにかく…一度黒子と合流するか」

いくら考えても何も答えは出ず、会計を済ませ、仕方なくネットカフェを後にする。
既に辺りは暗く、冬の寒さが肌を刺した。

「うっ、スカートは流石に寒いわね…」

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 19:47:23.61 ID:HQvgLVSRQ
12月24日PM7:38

男達は逃げるターゲットを、使われていない廃倉庫に追い込んでいた。
倉庫は一辺が100メートル程の正方形で、
出入り口は二つしかない。
その出入り口に、二人ずつ素早く配置につき、
中のターゲットの逃げ場を塞ぐ。
残りの男達は、慎重に銃を構えながら中に入る。
軍用のブーツが割れたガラスを踏み、
静かな倉庫にパキパキと音が鳴り響く。
当然電気も通っておらず、
男達は暗視ゴーグルを頼りに進む。

「その女を渡せ」

リーダーの暗視ゴーグルが、
倉庫の奥に潜む人影を捉えた。
傍らには白い修道服を着た人物がしゃがみ込んでいる。

「もう逃げられないぞ」

リーダーの言葉に、倉庫の奥から噛み殺した笑い声が聞こえてくる。
追い詰められた人間にしては、あまりに余裕のある笑い声。
リーダーも他の男達も、得体の知れない緊急が込み上げる。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 19:50:59.05 ID:HQvgLVSRQ
「くっ…くくっ。逃げられないのは君達だよ」

突然倉庫の壁が勢い良く燃え上がる。
まるで檻のように、あっという間に炎が倉庫を覆い尽くす。
余りの眩しさに、男達は暗視ゴーグルを慌てて外し、初めて気がついた。
白い修道服だと思っていたもの、
それは只の白い布だった。
その白い布を投げ捨て、中から女が現れる。
ジーンズの片方を太ももの付け根まで切り、腰に刀を提げた長身の女。
その女が刀を鞘から抜いた。
長い刀身が炎を反射し、淡いオレンジ色に輝いている。

「さぁ、色々聞かせてもらいますよ!」

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 19:52:46.50 ID:HQvgLVSRQ
12月24日PM7:31

上条とインデックスは、出来るだけ人通りの多い道を選びながら、
安全に隠れられそうな場所を探していた。
ステイルと神裂が囮になってくれたお陰で、
何とか逃げ出す事が出来たのだ。

「とうま、首がちくちくする」

隣を歩くインデックスが、モゾモゾと首を動かす。
変装の為に上条のパーカーを着せ、
更に顔を隠す為にマフラーを巻いているのだが、
どうやらそのマフラーが肌に合わないらしい。

「ちょっとだけ我慢してくれよな。
隠れられる場所を見つけたら、マフラーは外していいから」

「うん…ちーくちく。ちーくちく。
とうまのマフラーちーくちく」

緊張感が無いのか、緊張を誤魔化す為なのか、
インデックスは小さな声で、謎の歌を口ずさんでいる。

「どこか隠れられる場所は…」

上条は辺りを見渡す。
ファミレス、デパート、コンビニ。
様々な店が建ち並んでいるが、どこも隠れるには向いていない。
かと言って、このまま歩き続けても仕方がない。
上条が自分の担任の教師、月詠小萌を思い浮かべた時だった。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 19:54:46.55 ID:HQvgLVSRQ
「ちょっとあんた!」

その声に慌てて振り返ると

「あ!短髪だー!」

お昼過ぎに別れた筈の、美琴が立っていた。

「こんな時間にこんな場所で何してる訳?」

美琴は上条とインデックスを交互に見ながら、
訝しげな顔で尋ねる。

「い、いや!別に何も!散歩ですよ、散歩っ!」

頭を掻きながら笑う上条に、
どれだけ誤魔化すのが下手なんだと美琴は呆れる。
上条はどう考えても何か隠している。



56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 19:55:26.35 ID:HQvgLVSRQ
「このクソ寒いのに、そんな薄着で散歩するバカがどこにいんのよ」

美琴に指摘されて、上条は自分だけ着の身着のままで出て来た事に初めて気がつく。
逃げる場所を探す事で頭が一杯で、
寒いという感覚もすっかり忘れていた。
指摘されると何故か急に、寒さに体が震えてくる。

「はぁー…あんたはまったく。
ほら、何があったか言いなさいよ」

美琴は話すまでここから逃がさないといった顔で、上条に詰め寄る。
これ以上誤魔化せないと思った上条は、
仕方なく事情を説明する事にした。
魔術師の話をする事は出来ないので、
何者かに襲われ、安全に隠れられる場所を探している事だけを伝える。
それを聞いた美琴は、腕を組みながらしばらく考え

「いい所があるわよ。二人とも来なさい」

そう言って、走って来たタクシーを捕まえた。

「さ、行くわよ」

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 19:57:03.90 ID:HQvgLVSRQ
12月24日PM7:42

土御門は携帯のディスプレイに表示されている時間を、
イライラしながら見つめていた。
上条達と別れてから少しして、20人程の部隊に追われているとステイルから連絡があった。
その連絡を受けてからすぐに、土御門は裏社会の情報屋に連絡を取った。
情報屋は折り返し連絡すると言ったのだが、
20分程経った今も、携帯は沈黙したままだった。


60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 19:58:39.29 ID:HQvgLVSRQ
「くそ…」

一分一秒が惜しい今の状況で、
待つ事しか出来ない自分に苛立ちが募る。
開閉式の携帯電話を閉じたり開いたり。
何度繰り返した時だろう、突然携帯電話が着信を知らせる。

「何か分かったか!?」

土御門は情報屋の話を一字一句逃さないように、
しっかり頭に叩き込む。
5分程の通話を終え、土御門は携帯電話を手にしたまま呆然としていた。

(裏の傭兵部隊が動いているだと…)

土御門が最初に考えていたよりも、事態が大規模になっていた。
たかが一人の少女を攫う為に、プロの集団が動いているのだ。
そしてそれだけの集団を動かせるのは、それなりの力がある組織でないと無理であり、つまり―

「マジックキャンセラーっていうのも規模から考えて不自然…
もう一度調べないといけないか…」

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 20:17:13.93 ID:HQvgLVSRQ
12月24日PM7:42

「撃てぇぇぇっ!」

リーダーの指示で、男達は一斉にトリガーを引く。
サイレンサーを付けている為、パスパスと乾いた音が倉庫に響く。

「魔女狩りの王!」

ステイルの声に応えて現れた炎の巨人が、
男達の前に立ちふさがる。

「はぁぁぁ!七閃っ!」

炎の巨人の後ろから、神裂が刀を振るう。
男達目掛けて光の線が縦横無尽に走り、
サブマシンガンをバラバラに分解してしまう。

「な、何なんだこいつらは!?」

どんなに鋭利な刃物でも、サブマシンガンをバラバラにする程の切れ味を持つものなどない。
そして炎の巨人。
発火能力(パイロキネシス)のようだが、明らかにレベル4以上の力だ。
与えられた情報では、少女と同居しているのはレベル0の少年の筈だった。
焦る男達を見ながら、ステイルは凶悪な笑みを浮かべる。

「さて、知ってる事を話してもらおうか」


63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 20:18:16.48 ID:HQvgLVSRQ
12月24日PM7:48

どれくらい走っただろうか。
上条達を乗せたタクシーは、豪華な建物の前で停車した。

「おい、ここって…」

清算を終えた美琴は、上条の言葉を無視してさっさとエントランスへ向かう。

「ねぇねぇ短髪。ここはどこ?」

インデックスは豪華な建物を物珍しそうに眺め、
心なしかはしゃいでいるようだ。

「お、おい御坂!ここって…」

「そ、常盤台の寮よ」

学舎の園にある名門常盤台中学の寮で、男子禁制。
まさに禁断の花園だ。
上条はひょんな事から一度訪れた事があるが、
学園都市に住む男子、そして女子の憧れの場所なのだ。

「ここならセキュリティーも万全だしね。
それに、常盤台にはレベル5が2人、レベル4が47人いるから、
無闇に手出しは出来ない筈よ」

そう言いながら、美琴は暗証番号を入力し、
エントランスの鍵を開ける。


64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 20:19:46.91 ID:HQvgLVSRQ
「寮長に見つかるとマズい…というか命の保証は出来ないから、
ちょっとここで待ってなさい」

立ち尽くす二人を残し、美琴はさっさと中に入っていってしまった。
どうやら様子を伺いに行ったらしい。

「ねぇとうま。ちくちくする」

「まだ気になってたのかよ…もうマフラー取っていいぞ」

そんなくだらないやり取りをしながら待っていると、
美琴が中から手招きする。

「今なら大丈夫よ。さっ、早く入って」

そこは寮というより高級ホテルの様だった。
調度品一つとっても、きっと上条には手の届かない程高価な物なのだろう。
周りを警戒しながらしばらく歩くと、208と書かれたプレートの掲げられた部屋に辿り着いた。

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 20:20:42.90 ID:HQvgLVSRQ
「ここが短髪の部屋?」

「そうよ。まぁ私だけじゃないけどね。
ほら、早く入りなさい」

室内は綺麗に整理整頓されており、
仄かに甘い香りがする。
その女の子の部屋特有の甘い香りに、
上条はガチガチに緊張してしまう。

「何突っ立ってんのよ。適当に座っていいから」

御坂は二つあるベッドの片方に腰掛けると、
上条にも座るように促した。
遠慮を知らないのだろうか、
インデックスは美琴の向かい側のベッドに寝転んでいる。
大の字で。

「さて、ちゃんと話してよね」


66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 20:22:05.83 ID:HQvgLVSRQ
12月24日PM8:05

ステイルは床に倒れている男達を一瞥し、煙草に火をつける。
いくら武装したプロの戦闘集団といえども、
何度も死地をくぐり抜けた炎の魔術師と、世界に20人程しかいない聖人を前に、
勝利の可能性など少しも残されていなかった。

「第十学区の研究施設に雇われた傭兵達か…やっぱりたいした情報は持っていなかったね」

リーダーの男を締め上げて、ようやく聞き出せたのはたったこれだけ。
しかしたいして期待していなかったステイルと神裂は、落胆する事はなかった。
もともと傭兵というのはそういう存在なのだ。
細かい事など気にしない。
金さえ貰えれば、どんな仕事も請け負う。
そういう存在。

「ステイル、あの子達が心配です。
すぐに合流しましょう」

神裂はジーンズのポケットから携帯を取り出すと、
電話帳の中から上条の番号を呼び出す。

「神裂です。上条当麻、今どこにいるのですか?」


67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 20:23:21.18 ID:HQvgLVSRQ
神裂が上条と話している間、ステイルは一人考えていた。

(どうもおかしいね…インデックス一人を攫う為にしては、相手の動きが余りに大掛かりだ)

最初に襲撃して来たのは一人の男。
恐らくそれで事足りると思ったのだろうが、
それが失敗してからの、相手の動きが余りに大掛かり過ぎるのだ。
たかが一人攫う為に、傭兵部隊まで動員して来た事。

(つまり…相手の計画には絶対にあの子が必要…という訳か)

そこまで考えて、ステイルは少し違和感を感じた。
インデックスを狙っているという事は、
すなわち10万3000冊の魔導書を狙っているという事になる。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 20:26:51.62 ID:HQvgLVSRQ
魔導書はどれも強力で、目を通しただけで精神は破壊され、
命を落としてしまうようなものもある。
魔術を封じる装置、マジックキャンセラーを造るには、
その力は余りに不釣り合いなのだ。
造る装置に対して、使うエネルギーが桁違いに多い気がする。

(土御門の情報に、何らかの誤りがあるかもしれないね)

ステイルは短くなった煙草を捨て、新しい煙草に火をつける。

「ステイル、あの子達は無事です。
今いる場所も聞きましたので、早く向かいましょう」

ステイルは小さく頷くと、神裂と共に倉庫を後にする。

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 20:27:52.94 ID:HQvgLVSRQ
12月24日PM8:10

神裂からの電話を受けた上条は、
自分達の居場所を告げて通話を切った。
その様子を見ていた美琴は、心配そうに尋ねる。

「あんた、そんなあっさり居場所を教えて大丈夫な訳?」

「あぁ、大丈夫だ。今のは信用出来る仲間だからな」

そう言いながら、上条はベッドから立ち上がる。

「俺は今から出掛けるから、インデックスの事頼めるか?」

「出掛けるって、あんた…一体何する気なのよ?」

「そうだよとうま!とうまが行くなら私も行く!」

上条にしがみつくインデックスを引き剥がし、
上条はベッドに座らせる。
もちろん傍にいて守れるなら、上条だってそうしたかった。
しかし、今の状況を考えると、インデックスを外に出すわけにはいかない。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 20:28:38.75 ID:HQvgLVSRQ
「ダメだ。インデックスはここにいてくれ。必ず戻ってくるから」

上条はインデックスの頭をポンポンと叩くと、
そのまま部屋から出て行ってしまった。

「あっ、とうま!」

上条の後を追い掛けようとしたインデックスの腕を、
御坂がしっかりと掴まえた。

「離してよ短髪!とうまが行っちゃうんだよ!」

暴れるインデックスを抱き締めて、
美琴は優しく話し掛ける。

「良い?あのバカはあんたの安全を考えて、一人で行くって決めたの。
その気持ちを無駄にしちゃダメよ」

「短髪…」

御坂にもよく分かる。
インデックスと同じ気持ちなのだ。
ただ待つ事しか出来ない悔しさ、
自分の為に傷付く上条を見る苦しさ。
それでも―
御坂は信じている。
きっとインデックスも。

「大丈夫。あのバカはきっとすぐ帰ってくるわよ」

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 20:29:35.91 ID:HQvgLVSRQ
12月24日PM8:15

土御門は第十学区に向かいながら、ステイルの携帯を呼び出す。

「ステイル、傭兵部隊が動いてる」

恐らくもう衝突しているかもしれないと、土御門は思っていた。
案の定

『彼らなら少し休んでもらってるよ。
働き過ぎのようだったからね』

ステイルはそう言って鼻で笑う。
こんなに嫌味な人間を、土御門はステイル以外知らなかった。

『それより、少し気になる事がある』

「あぁ、多分俺も同じ事を考えていた。
マジックキャンセラーを造るのに、禁書目録の魔導書は力が強過ぎる」

土御門が得た情報では、
マジックキャンセラーはAIMジャマーのような装置という事だったが、
どうも信憑性に欠けるのだ。
もしインデックスの魔導書を何らかの形で利用するのなら、
そんな単純な物を作るだろうか。

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 21:01:39.58 ID:HQvgLVSRQ
『あの子の中の知識を使うなんて…
大規模な…それこそ一国を相手に出来るような装置でも造るつもりなのか』

「そこまではまだ分からない。ただ、マジックキャンセラーは敵が巧妙に用意したブラフの可能性が高いな」

本当の目的を嘘で隠し、その上を更に嘘で隠す。
土御門が得た情報は、最初の嘘を剥がしただけ。
敵にまんまと掴まされた情報だったという訳だ。

「ただ、状況から考えて、対魔術師用っていうのは間違っていないはずだ」

敵の狙いが魔導書である事。魔術側と相容れない科学側と手を組んでいる事。
それにもう一つ、土御門には確証があった。

「嘘を吐く時に大事なのは、嘘の中にほんの少し真実を混ぜる事だ。
それだけで信憑性がグッと上がるからな」

嘘が下手な人間には特徴がある。
それは吐かなくていい部分まで嘘を吐く事だ。
相手が気にしていない事、言わなくても良い事。
こういう部分で嘘を吐くと、後で必ずボロが出る。
嘘を吐くべき部分と真実を言うべき部分。
スパイである土御門は、それを良く分かっていた。

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 21:02:21.62 ID:HQvgLVSRQ
『対魔術師用という部分は本当で、マジックキャンセラーという部分が嘘だった訳か。
まんまと騙されたね』

ステイルは携帯の向こうで、自虐的に笑う。

「もし大規模な対魔術用の装置だった場合、
こちらの戦力じゃ厳しくなるかもしれない」

『今から応援を頼んだところで、到着するのは明日だろうね。
敵が大掛かりな行動に移っているところを見ると、
装置自体はもう完成しているんだろう』

「あぁ。装置が完成していないのに、禁書目録を攫う必要はないからな。
そんな事をすれば、装置が完成していないのに禁書目録の捜索が始まり、
確実に計画の邪魔になるだろうしな」

装置が完成していると仮定すれば、残された鍵はインデックスだった。
インデックスの頭の中にある10万3000冊の魔導書で、一体何をするつもりなのか。

『とにかく今は僕達で何とかするしかないみたいだね。』

「あぁ、俺は傭兵部隊を雇った第十学区の研究施設に行ってみる」

「僕と神裂は、上条当麻と一度合流するよ。
君は何か分かったら連絡をくれ」
そう言ってステイルは通話を終了した。
少し、ほんの少し、土御門は真実に近付いている気がしていた。

「あとは…学園都市がこの件にどこまで介入しているかだな」

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 21:03:39.44 ID:HQvgLVSRQ
12月24日PM8:42

上条が出て行ってから、美琴の部屋は重い沈黙に支配されていた。
上条の事も気になるのだが、美琴は行方不明事件の事を考えていた。
今分かっているのは、第十学区の研究施設が関係している事。
ただそれだけだった。
重い沈黙を破るように、突然美琴の携帯が鳴り響く。
ディスプレイを見ると、この部屋のもう一人の住人、白井黒子だった。

「もしもし黒子?何か分かったの?」

『遅くなって申し訳ありません、お姉さま。
ですが、一つだけ分かった事がありますの』

美琴は聞き逃さないよう、携帯をしっかり握り直す。

『行方不明になっている学生23名。全員に共通点がありましたの』

「共通点?」

『はい、レベルに違いはありますが…全員が読心能力者でしたわ』

「読心…能力者?」

確かに美琴がネットカフェで見た情報にも、
行方不明者の一人が読心能力者だと書いてあった。
しかし、美琴には見当も付かない。
読心能力者を23人も誘拐して、一体何をしようというのか。

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 21:04:47.12 ID:HQvgLVSRQ
『で、お姉さまは何か分かりましたの?』

「行方不明になった学生の一人が、第十学区の研究施設に
連れて行かれるのを見たって、ネットに書き込みがあったわ。
それにその研究施設…」

美琴はハッキングで分かった事を黒子に伝える。
その研究施設が23台の学習装置を搬入していた事、
その研究施設は音を専門に扱う研究施設だという事。
電話の向こう、黒子が初春に指示を出しているのが聞こえる。
恐らく美琴の情報を確認させているのだろう。

「ときにお姉さま…この情報、まさかハッキングした訳ではありませんわよね?」

「う…」

突然指摘された美琴は、言い訳も思い浮かばずに口ごもる。

「はぁー、やっぱり。いいですの、お姉さま。
黒子がいつも申し上げているように、ハッキングというのは犯罪で…」

黒子のお説教が長引く前に、美琴は慌てて通話終了ボタンを押す。
黒子のお説教は、接続が切れた事を知らせる電子音に変わっていた。

「第十学区…行ってみるしかないか」

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 21:06:06.53 ID:HQvgLVSRQ
美琴はチラリとインデックスに視線を移す。
インデックスは連れてきた猫を抱いて、
ベッドの上に大人しく座っている。

(この子を置いて行く訳には…いかないわよね)

一人になれば、恐らく上条の後を追って出て行ってしまうだろう。
長い付き合いではないが、美琴には何となくそれが分かる。

(という事は…)

美琴はおもむろに立ち上がると、黒子のクローゼットを開き、
何かをゴソゴソと探し始めた。
インデックスは、その様子をキョトンとした表情で見ている。

「よし、あんた。これに着替えなさい」

美琴は黒子のクローゼットから取り出した何かを、
インデックスに向かって放り投げる。


79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 21:08:06.62 ID:HQvgLVSRQ
「これ…」

インデックスがそれを広げてみると、
美琴が着ているものと同じ、常盤台の制服だった。

「黒子とあんたは背も近いし、多分着れるでしょ?」

「でも短髪、何の為に?」

「私も確かめなきゃいけない事が出来たのよ。
でもあんたを一人にはしない。
だからそれに着替えて一緒に来なさい」

そう言いながら美琴は、インデックスの修道服を脱がし始める。
一体どうやって着ているのか、
あちこち安全ピンで留められた修道服は、
脱がすのにも一苦労だ。


81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 21:11:38.76 ID:HQvgLVSRQ
「あんたは必ず私が守ってみせる」

命に代えても、とは言わなかった。
それは相手に言うべき事ではない。
もしそんな事を言って、本当に死んでしまったら。
守られた方は、自分のせいだと一生苦しみを背負う事になる。
だから美琴は、自分の心の中で誓った。
上条に頼まれたのだ。インデックスを頼む、と。
美琴にとってそれは、命を掛けるにふさわしい約束だった。

(あんたは何があっても私が守ってみせるからね)

インデックスを着替えさせ、美琴は自分の頬をピシャリと叩く。

「よし!行くわよ!」

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 21:13:27.66 ID:HQvgLVSRQ
12月24日PM8:17

上条は常盤台中学学生寮の近くで、ステイル達と合流していた。
上条は、インデックスを預けている事、
預けたのは信頼出来る人物という事をステイル達に伝えた。
初めは怒っていたステイルも、神裂に宥められ、今は落ち着いている。
次にステイルは襲撃者達を倒した事を伝え、
更に土御門と話した事、
マジックキャンセラーがブラフである可能性も伝えた。

「上条当麻、土御門は第十学区に向かった。
僕達もそこに行く」

土御門の情報では、傭兵を雇った研究施設は、
第十学区の外れにある、音を専門に扱う研究施設らしい。
上条は携帯で学園都市の地図を呼び出し、場所を確認する。

「第十学区か…行方不明事件といい、どうなってんだよ第十学区は…」

上条は、美琴に匿ってもらっている時に聞いた話を呟く。
何の気なしにしていた話で、上条もつい呟いただけだったのだが―

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 21:14:33.62 ID:HQvgLVSRQ
「行方不明…?上条当麻、その話を詳しく聞かせろ」

何故かステイルが食いついた。
呆気にとられる上条を余所に、神裂も何かを考えている。
上条は美琴から聞いた話を二人に教える。
昨日から合わせて23人の学生が行方不明になっている事。
その内の一人が、第十学区で目撃された事。
上条はそれ以上は知らなかった。

「大規模な魔術を行う場合には、
それに合わせて人数を揃える必要がある場合があります。
例えばグレゴリオの聖歌隊のように」

何かを考えていた神裂が口を開く。
グレゴリオの聖歌隊。
三沢塾の事件の際、規模は違うが、上条も実際に見ている。
3333人の修道士が祈りを捧げ、任意の場所を、光の矢で灰にしてしまう強力な魔術だ。

「もしかしたら、行方不明の23人も、今回の事件と何か関係あるかもしれません」

「とにかく、話は第十学区へ行ってからだ。行くぞ」

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 22:00:09.36 ID:HQvgLVSRQ
12月24日PM9:11

第十学区の研究施設に向かって走っていた土御門は、
思わぬ組み合わせの人物を見つけて立ち止まる。

「あれは…」

常盤台中学の制服を着た二人組。
片方は学園都市第3位のレベル5、【超電磁砲】御坂美琴。
そしてもう一人。
常盤台中学の制服を着て、髪もツインテールにしているが、
間違いなくインデックスだった。
土御門は思わず駆け寄り声を掛ける。

「よっ、お二人さん」

ヘラヘラとした態度を装うが、サングラスの奥、
土御門の目は絶えず周囲を警戒している。

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 22:01:14.55 ID:HQvgLVSRQ
「あ、あんたは確かあのバカの…」

美琴にも見覚えがあった。
上条と時々一緒にいる人物だ。

「そ、カミやんのクラスメートだにゃー。
そっちの小さいのは確かカミやんちの…」

土御門は敢えて知らない振りをしながら、
状況を探っていく。

「あぁ、この子はあのバカに預かったのよ。
色々事情があってね」

「そうか。んで二人はこんな時間に何をしてるんだ?
もう完全下校時刻は過ぎてるぜぃ」

「まぁちょっとね」

誤魔化す美琴に、土御門は少しカマを掛けてみる事にした。

「第十学区にでも行くのかにゃー?」

「え…何でそれを…」

効果は思った以上だった。
美琴は明らかに狼狽している。
しかし、次に美琴の口から出て来たのは、
土御門も知らない話だった。

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 22:02:15.60 ID:HQvgLVSRQ
「まさか…あんたも行方不明事件を追ってんの?」

土御門はてっきり、美琴は自分達と同じ意図で動いているものだとばかり思っていた。
探りを入れる為、土御門は更にカマを掛ける。

「そう、俺もその事件を追ってるんだにゃー。
結構有益な情報も持ってるぜぃ。
ここは情報交換といかないか?」

美琴は暫く考え、そして小さく頷いた。

「私が知ってるのは、昨日から今日までの行方不明者は23人。
その全員が学生で、しかも皆読心能力者。
その内の一人が第十学区の、音を専門に扱う研究施設で目撃されてる。
こんなとこね。で、あんたは?」

美琴の話を聞いて、土御門の心拍数が一気に上がる。


89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 22:03:22.56 ID:HQvgLVSRQ
「なんだ、俺もまったく同じ情報しか持ってないぜぃ。
俺だけのスクープだと思ったのににゃー」

「何よそれ。それじゃあ何の役にも立たないじゃない」

美琴はそう言いながら、インデックスの手を引いて去って行く。
美琴が一緒なら、インデックスは大丈夫だろうと土御門は考える。
それより―

「23人の行方不明者に…読心能力」

どうも今回の事件と無関係ではなさそうだ。

「まさかな…」

91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 22:06:52.16 ID:HQvgLVSRQ
12月24日PM9:19

上条達は、第十学区への近道をする為、
今は使われていない廃工場の敷地を走っていた。
廃工場の敷地は意外と広く、工場の建物以外は見渡す限りコンクリートの地面しかない。

「あのフェンスの向こうが第十学区に続く大通りの筈だ」

上条は携帯の地図を確認しながら走る。
およそ200メートル程先に、ボロボロのフェンスが見えていた。
フェンスの向こう側に、疎らながら車が走っているのも見える。

「急ぐぞ」

ステイルが後ろを走る神裂に視線を向けた時だった。
突然ゴバッ!という音と共に、神裂目掛けて巨大なコンテナが落ちて来た。

「ちっ、敵襲みたいだね!」

何百キロもあるコンテナが、自然に落ちてくる筈はない。
明らかに誰かが故意に落としたのだ。

コンテナは神裂の目の前に落ちた為、前を走る上条とステイルの足は止まらなかった。
だが神裂はその場で足止めを喰ってしまう。

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 22:08:11.23 ID:HQvgLVSRQ
「ここは私が!二人は先に行ってて下さい!」

そう叫んで素早く刀を抜き、
敵の姿を探す。

「分かった。ここは君に任せるよ、神裂」

「気をつけろよ、神裂!」

二人の姿が消えるのを見届け、神裂は暗闇に向かって声を掛ける。

「出て来て下さい。私を狙ったのでしょう?相手になります」

廃工場は電気も通っておらず、僅かな月明かりに照らされているだけだった。
その暗闇の中から、月明かりの下へ誰かが歩いてくる。

「腰に刀を提げた女か…やッぱどォ見てもテメェだよなァ?」

現れたのは杖を突いた少年だった。
髪も肌も真っ白で、その分赤い瞳が際立って見える。

「あなたは何者ですか?」

神裂は刀を構え、相手の動きを慎重に観察しながら尋ねる。

「ンな事これから俺に倒される奴に言ってもしょォがねェだろォが」

彼は首のチョーカーに触れただけで、
構える事も、向かって来る事もしない。
余裕、それが全身から溢れ出していた。

93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 22:10:01.46 ID:HQvgLVSRQ
「では…こちらから行きますよ!」

神裂は腰に構えた刀を、大きく振り上げる。

「七…閃っっ!」

月明かりに照らされた七本の極細ワイヤーが、
光の線を描きながら彼に襲い掛かる。
ワイヤーは標的を確実に捉えた、
その筈だった。

「うっ…ぐあっ!」

突然神裂の全身に激痛が走る。
体のあちこちから血がながれ、
危うく膝をつきそうになる。

「何…が?」

神裂が自分の体を確認すると、まるで切り刻まれたかのように、
全身が細い傷だらけになっていた。

95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 22:13:47.81 ID:HQvgLVSRQ
(彼も…ワイヤーを?)

神裂は痛みを抑えつけ、もう一度刀を構える。

(くっ…次は…全力で!)

「はぁぁぁぁ!!」

神裂は全身に力を込める。
聖人の力を解放していなくても、全力で七閃を放てば、並みの人間なら再起不能になるはずだった。
しかし―

「七閃っっっ!!」

ワイヤーは確実に彼を捉えた筈だったのだが、
その場に倒れ込んだのは攻撃した神裂の方だった。

「かはっ…うっ…何…が?」

倒れ込んだ神裂に、彼は一歩ずつ、
ゆっくりと近付いて来る。

97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 22:17:27.02 ID:HQvgLVSRQ
「なんだァ?もう終わりかよ。サムライ女なら、武士道とかいうの見せてみろよ」

そう言って神裂の腹に蹴りを入れる。

「ぐっ、あぁぁぁっ!」

ひ弱そうな体格の何処にそんな力があるのか。
蹴られただけで10メートル程地面を転がった。
コンクリートに全身を打ちつけ、
傷口から更に血が溢れ出す。
ポケットの中、携帯電話が粉々に砕け、
破片が太ももに突き刺さっていた。

「ぐっ…うぅっ!」

神裂は次の攻撃を防ぐ為、刀を使って無理矢理体を引き起こす。

「反射魔法のようなもの…ですか」

魔術師は様々な防御魔法も持っており、
反射魔法もその中の一つだ。
そのままの意味で反射。
相手の魔術を、魔法陣で防ぐのだ。
反射と名は付いているが、実際は打ち消したり、
軌道を逸らしたり。
彼の使っている力とは似て非なるものだった。
二度の攻撃で分かったが、彼は神裂の攻撃を、
そのまま神裂に跳ね返したのだ。

98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 22:20:55.71 ID:HQvgLVSRQ
「あン?魔法?頭ン中メルヘンだなァ、オイ。
まァ厳密に言えばベクトル操作って能力なンだけどな」

「ベクトル…操作?」

彼は神裂が立ち上がったのに、何一つ警戒していない。
それどころか、余裕の笑みで言葉を吐き出している。

「まァ、分かったところでテメェにはどォする事も出来ねェし、
特別に教えてやるよ。
俺はあらゆるベクトルを操作出来る。
今は必要なもの以外反射するよォに設定してあるから、
テメェの攻撃じゃァ、俺に傷一つつけられねェって訳だ」

つまり、いくら神裂が攻撃したところで、
それはそのまま神裂に返ってくるのだ。
聖人の力を解放したとしても、勝てる可能性はかなり低そうだ。

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 23:02:00.69 ID:HQvgLVSRQ
「テメェがあのガキにちょっかい出そうとしなきゃ、
早死にしなくてすンだのによォ」

彼は口の端を釣り上げて笑っている。

「あのガキ?あのガキとは何ですか?」

神裂に心当たりはない。
ステイルは見た目から除外するとして、
そもそも神裂の周りにいるガキと言える人物は、
上条とインデックスくらいしかいない。
あの二人にちょっかいを出しているのは、
神裂ではなく敵の方なのだ。
彼の言うあのガキとは、一体誰の事なのか。

「誤魔化してンじゃ…ねェッ!!」

彼は足の裏に集まる風のベクトルを操作し、
爆発的な推進力を得る。
神裂との間合いは一瞬でゼロになり

「おらァァァァァァッ!!」

そのまま勢いを利用し、神裂の顔面に拳を叩き込む。

「くっ…っ!」

咄嗟に刀の鞘で防御した神裂は、
その余りの圧力に、滑るように地面を後退する。


103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 23:03:31.37 ID:HQvgLVSRQ
(彼の能力はベクトル操作…反射…)

力で挑んでも、それは全て自分に返ってくる。
神裂は別の活路を模索していた。どうすれば勝てるのか。

(勝てる可能性は低い…そう、"勝てる"可能性は!)

神裂は素早く距離を取り、ワイヤーを壁や地面に打ち込んでいく。

「なンだよそれ?防御のつもりかァ?」

彼の言葉に耳を貸さず、
ひたすらワイヤーを周囲に張り巡らせていく。
複雑に、しかし正確に。

「無駄だっつってンだろォがよォォっ!!」

彼は再度地面を蹴る。
ワイヤーを引きちぎり、神裂の体を今度こそ破壊する為に。
しかし―

105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 23:05:51.83 ID:HQvgLVSRQ
(なっ…体が…動かねェ!?)

地面を蹴った瞬間、目の前に巨大な光が現れた。
それを見た途端に、体が動かなくなったのだ。

「体を拘束する初歩的な魔術です。
この魔法陣は見た者の脳に作用し、一時的に体の自由を奪います」

(なンだ?なンだなンだこれはァァァ!?)

当然口を動かす事も出来ず、彼は石像のようにその場に立ち尽くす。

「あなたに勝つ必要はありません。
私は私の目的を果たせれば良いのですから」

そう言ってその場から去っていく。

(なンなンだよクソがァァァ!)

106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 23:07:01.89 ID:HQvgLVSRQ
彼の敗因。
それは、光を反射しなかった事だった。
光を反射すれば、当然視界は確保出来なくなる為、
彼は光を反射するという選択肢を持っていなかった。
神裂はそれに気付き、視認する事で効果を発動する魔術を行使したのだ。
戦況に応じて臨機応変に対応し、最善と判断すれば、勝ちに拘らない。
それが聖人であり一流の魔術師、神裂火織だった。
神裂は少し歩いたところで振り返り、彼に声を掛ける。

「2、30分程で動けるようになります。
それから…あなたの言う"あのガキ"が誰を指すのか分かりませんが、
私は誰かを狙ったりはしていませんので」

そう言い残し、今度こそ走り去ってしまった。

107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 23:08:30.40 ID:HQvgLVSRQ
12月24日PM9:38

第十学区に向かっていた筈の土御門は、
あるビルの一室に居た。
壁という壁がチューブの様な物に埋め尽くされ、
静かな室内には、低く機械の稼働する音だけが響いている。
部屋の中央には、何かの液体で満たされた巨大な筒があり、
その中に逆さまの状態で人が浮かんでいた。
人という表現が適切なのだろうか。
その人物は、少年の様でもあり、青年の様でもある。
男の様でもあり、女の様でもある。アレイスター・クロウリー―
学園都市を造った人物にして、この街の最高責任者。
そして、元世界最高の魔術師。


「久しぶりだね。土御門元春。元気そうで何よりだ」

男とも女ともとれる声で、アレイスターが話し掛ける。

「それは皮肉か?アレイスター」

土御門はアレイスターの挨拶に苛立ちを覚える。
何もかもお見通しのくせに、元気そうで何よりなどと平気で言う。
皮肉なのか本心なのか。
それすら掴めないので、益々苛立つ。

108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 23:10:47.85 ID:HQvgLVSRQ
「まぁいい。アレイスター、一つ聞きたい事がある」

無駄話をしても苛立つ一方なので、土御門は話を切り出す事にした。
土御門が今一番知りたい事。

「今学園都市で起こっている事。お前は全部知っているんだろう」

アレイスターは学園都市内部の出来事を全て把握出来る状態にある。
超極小のナノマシンを空気中に散布し、
そこから学園都市の全ての情報を得ているのだ。
案の定、アレイスターはそれを簡単に認める。

「ああ。知っている。それがどうしたのかね?」

「それがどうした…だと?
対魔術師用の兵器を学園都市が開発しているなんて事が各国にバレてみろ、
間違いなく戦争になるぞ」

実際、土御門は最初からイギリス清教に全ての情報は渡していなかった。
"禁書目録を狙われているかもしれない"としか伝えていないのだ。
アレイスターの表情は一切変わらず、
土御門の言葉に何を感じているのかも分からない。

109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 23:13:07.75 ID:HQvgLVSRQ
「そうかもしれない。"バレたら"の話だがね」

「バレ…たら?まさか!?」

土御門は何かに気付き、怒りで拳を握り締める。

「統括理事会も一枚噛んでいるな。対魔術師用兵器が禁書目録という鍵を使い完成した場合、
学園都市はそれを秘密裏に自分達の物にする。
そういう筋書きか。」

土御門の推測を聞いても、アレイスターは否定も肯定もしなかった。

「仮に兵器がステイル達に潰されても、学園都市には何のダメージもないしな」

つまり、兵器が完成しようがしまいが、学園都市にとっては0か1。
マイナスにはならないのだ。
土御門達は、最初からアレイスターの手のひらの上で踊らされていたという訳だ。
土御門はアレイスターに、そして何より気付かなかった自分自身に腹が立っていた。

110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 23:14:46.95 ID:HQvgLVSRQ
「それからもう一つ。ねーちんに一方通行をけしかけたのは誰だ?」

実はここに来る直前、土御門は神裂から、襲撃を受けたと連絡をもらっていた。
襲撃して来た人物の特徴を聞いて、すぐに一方通行だと分かったのだ。
土御門と一方通行は同じ裏の組織に所属しており、
本来なら四人一組で行動するのが決まりだ。
つまり、正規のルートで命令が出ていないという事。
何者かが神裂とぶつかるように小細工をしたのだ。

「いや、答えなくてもいい。
どうせその兵器開発に一枚噛んでるどっかのお偉いさんだな」

「魔術師最強の聖人と超能力者最強のレベル5。
なかなか面白いものが見れたよ」

国の利益や地位、そして名誉、娯楽、興味。
そんなくだらないものの為に、弄ばれる人間達が世界中にたくさんいる。
土御門はアレイスターに背を向け、ビルから出る為に案内人を呼ぶ。
そして最後にこう言った。

「お前のそのくだらない幻想。
いつかあいつに殺されるかもな」

幻聴だったかもしれない。
アレイスターの笑い声が聞こえた気がした。

111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 23:26:35.88 ID:HQvgLVSRQ
12月24日PM10:02

上条とステイルは、姿勢を低くして辺りの様子を伺っていた。
第十学区の外れ、目的の研究施設が見える。
距離はおよそ300メートル程か。
ステイルは上条に携帯の電源を切るように指示し、
自分も明かりが漏れない様、注意して電源を切った

「あの建物か。幸い、周りに他の建物は無いみたいだね」

音を専門に扱う研究施設だからだろうか、
周りには他の建物はなく、広大な土地が広がっている。
舗装もされていない砂地のせいで、まるで砂漠の中に取り残されているようだった。
研究施設の灯りが所々ついているとこを見ると、
中に人がいるのかもしれない。

「さて、敵も僕達が来る事くらい分かっているだろう。
隠れる場所も無さそうだし、のこのこ近付いたら蜂の巣にされそうだね」

ステイルは煙草を取り出し、火をつけようとして

「ちっ…」

そう言って煙草をしまう。
例え小さな火の灯りでも、居場所を悟られると思ったのだろう。

112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/10(金) 23:29:07.62 ID:HQvgLVSRQ [86/86]
「とにかく、近付く方法を見つけないとな」

上条とステイルが建物に意識を向けた時だった。
背後でジャリっと砂を踏む音が聞こえた。

「っ!?」

敵に背後を取られたと思い、咄嗟に振り向いた二人は

「あ…」

間の抜けた声を出す。
そこにいたのは常盤台中学の制服を来た二人の少女だった。

「あ、あんた!何でこんなとこにいんのよ?」

美琴は上条達の様に身を屈めながら驚いている。

「御坂こそ…つーか、インデックス。何だその格好は?」

最後に見た時は確かに白い修道服だったのだが、
今は常盤台中学の制服を着ている。
その上、髪の毛もツインテールになっていた。

「これ?これは短髪が変装の為に着せてくれたんだよ。
似合う、とうま?」

上条はステイルをチラリと見やる。
今にも似合うよと言いそうな顔で、インデックスをまじまじと見ていた。
そんなステイルを見て、上条の中にほんの小さなイタズラ心が芽生える。

113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 00:00:45.00 ID:C+1vRQ8UQ [1/98]
「良いんだぞ、ステイル。言ってやれ、可愛いって」

「なっ、ばっ、バカな!僕はそんな事これっぽっちも!」

そう言ってそっぽを向くステイルを、
分かりやすいやつだと思いながら、
上条は美琴に尋ねる。

「もう一度聞くけど、御坂は何でここにいるんだ?」

美琴は今までの経緯を簡単に説明していく。
行方不明事件の事、それについて今分かっている情報。
話を静かに聞いていたステイルが、
小さく

「読心能力者…?」

そう呟いて、また黙り込んでしまう。

「そう、行方不明になったのは全員読心能力者よ」

物怖じしない性格なのだろう、美琴はステイルを気にする事なく話している。

「そう言えばあんたも狙われてんでしょ?」

御坂はインデックスに尋ねるが、代わりに上条が答える。

「あぁ、インデックスは第十学区に雇われた奴らに狙われてたんだ」

それを聞いた御坂の顔が、みるみる険しくなる。

115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 00:02:38.53 ID:C+1vRQ8UQ [2/98]
何かマズい事を言ったのだろうか。
上条が取り敢えず謝ろうか考えていた時

「あんた、そういう大事な事はもっと早く言いなさいよ!」

先に御坂が上条の頭にゲンコツを落とした。

「この施設がこの子を狙ってるんでしょ?
私この子連れて来ちゃったじゃない!」

「ちょっと待て御坂!
俺もお前に会った時は詳しいこと何も知らなかったんだって!」

ゲンコツの落ちた場所を撫でながら、上条は必死に弁解する。

116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 00:04:14.25 ID:C+1vRQ8UQ [3/98]
「ん?あの施設に狙われてんのよね?じゃああんたも読心能力者?」

美琴はインデックスを疑いの眼差しで見つめながら

「んな訳ないわよね」

勝手に一人で納得してしまう。

「ちょっと短髪!私違うなんて一言もこれっぽっちも言ってないんだよ!」

「じゃあ読心能力者なの?」

「違う!全然違うんだよ!」

「あんたね…」

自慢気に胸を張るインデックスを、美琴は呆れた顔で眺める。
どうやら突っ込むのも面倒な様だ。

そんな二人のやり取りの隙を突いて、
先程から何か考え込んでいたステイルが、そっと上条に何かを手渡した。

117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 00:05:55.83 ID:C+1vRQ8UQ [4/98]
「ん?何だこれ…」

上条の左手には、何か魔法陣のような模様や、
見たことの無い文字の書かれたカードが乗っている。

『上条当麻、声を出さずに聞け』
突然ステイルの声が頭に響く。

「えっ!?」

慌ててステイルの方を見る上条。
だがステイルは相変わらず辺りを警戒していて、話し掛けてきた様子はない。

『上条当麻、そのカードは魔術による通信機のようなものだ。
声を出さずに、頭の中で会話しろ』

やっと理解した上条は、慣れない頭の中の会話を試みる。

118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/11(土) 00:06:42.43 ID:C+1vRQ8UQ [5/98]
『な、なんか変な感じだな。
で、何だ?』

『さっきから考えていた。行方不明者は全員読心能力者と言っていたね?
具体的にはどういう能力なんだ?』

『そりゃその名の通り、考えている事を読み取ったり、記憶を読み取ったり…』

美琴とインデックスは相変わらず小声で何か言い合っている。
ステイルは二人から上条に視線を移すと

『それが奴らの狙いだったみたいだね』

『は?』

『君は本当に察しが悪いね。それはもう…尊敬の念すら覚えるよ』

そう言ってやれやれといったジェスチャーをする。

『いいか、上条当麻。インデックスの頭の中には何がある?
あの子の記憶の中に、何が保管されている?』

上条は息を飲む。
ステイルの言わんとしている事がようやく分かった。

『10万…3000冊の魔導書!』


上条「クリスマス…だもんな」-2
続きます

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