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紬「げんじつ!」

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 10:05:03.96 ID:dcJRU0Nd0 [2/43]
事の始まりは、私が高校2年の時の春である。
そのとき、私『琴吹紬』は軽音楽部に所属し、新入生の勧誘活動に躍起になっていた。
そこで運命的に彼女『鈴木純』と出会う。彼女が唯一我がクラブに見学に来たのである。
そのときに出会った彼女の笑顔を見た瞬間に、私の心はとらわれた。
そう、私は彼女に一目惚れをしたのである。
そして、それは私の彼女を追い求める4年間に至る生活のスタートでもあった。
それ以来、彼女に向けライブ中にウインクをしたり
朝校門で待ち伏せ彼女に挨拶をしたり
またあるときには彼女のリコーダーに口付け・・・
いやこれは大脳が発達した理性ある人間として断じてやっていないが
まあ、そんな感じの私の彼女を振り向かせる努力の日々が続いたのである。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 10:08:12.12 ID:dcJRU0Nd0 [3/43]
しかし私の涙ぐましい努力にも関わらず、彼女は宙に舞う花びらのようにあの手この手をひらりひらりと避け続けた。

まるであなたには私は高嶺の花だとでも言っているように・・・

この物語は、そんな天真爛漫な彼女と彼女を追い求める私の努力の記しである。


11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 10:19:23.00 ID:dcJRU0Nd0
きせいくらうんで、10ぷんに1どくらいかきこきます

ただし、過度な期待してもらっては困る。

これはあくまで記録であるため、事実を記している。
皆さんご承知のように、現実の味は無味乾燥であり、苦い砂利の味である。

そのためいかにも心躍る甘酸っぱい話をご希望の方には
書店でそういったコーナーの本を手に取るか
翁にバニラ風味の香水をかけて手を仰いでにおいを嗅いでみてるかしていただきたい。

現実はカルーアミルクほど甘くはないのだ

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 10:33:11.66 ID:dcJRU0Nd0
それでも最後まで聞いてくれた皆さんは口をそろえて言うだろう
「くだらん、貴重な時間を返せ」と。

あえて言おう、世の中を甘く見てはいけない現実に大きな期待をするほうが無理難題である。
そして、そもそもこんな時間に費やせるあなたの時間はそれほど貴重ではない。

しかし、こうは言っても想像してしまうから私も甘い、薔薇色の未来を・・・

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 10:44:27.48 ID:dcJRU0Nd0
さて前置きが長くなってしまったが、本題に入ることにしよう。

これは、ある日の私と彼女の一日の記録である。
ここからは当事者である彼女にも語ってもらうことにする。

最後に注意をしておくが
くれぐれも爺にバニラの香水をかけるときは、同意を得た上行うように。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 10:54:34.91 ID:dcJRU0Nd0
あれ、はい?私がお話するのですか?
はい。・・・えっと、何から話せばいいのでしょうか?

では、このお話は私『鈴木純』が、同じ大学に通う親友
『中野梓』の所属するバンド『放課後ティータイム』のライブの打ち上げに誘われたときから始まります。

梓がサービスでライブの券を無料でくれたことと
ライブハウスが私のアパートから近いこともあって
私は迷わず梓のライブの誘いを快く二つ返事で承諾しました。

演奏については私も楽器を少し齧っていたこともあって
細かく話すと長くなってしまいますので割愛させていただきますが

言えば、素晴らしいの一言です。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 11:07:18.82 ID:dcJRU0Nd0
約1時間にわたる演奏が終わった後
私は筋骨隆々なトサカ頭のおにいさん達の間を
残りの同胞が10体以下になったインベーダーのように
清楚なかに歩きで軽やかにかわしながらやっとの思いでライブハウスの出口に来ました。

おにいさん達は口々にでぃーえむしーでぃーえむしーと叫んでいましたが
何かのおまじないだったのしょうか?

出口で携帯を見ると周囲の雑踏で気づかなかったのですが、メールが届いていました

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 11:20:16.85 ID:dcJRU0Nd0
出口で携帯を見ると、周囲の雑踏で気づかなかったのですが
メールが届いていました。

送信元 中野梓
件名  ライブの打ち上げ開催の件
内容  18時集合開始、場所はいつもの『居酒屋ふぉうえばー』、参加費特別無料也

也とは・・・。
梓は、この歳にもなって奇天○大百科をどうやら全話見ていないようで
コロ○が奇天○斎の処に帰ったため、悲しいけれど現在には既にいないことを知らないようです。
私はただ『了解』とだけ返信しました。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 11:29:30.93 ID:dcJRU0Nd0
さて、腕時計を確認すると大体16時でした。

集合場所が私のアパートから近く、また動いて汗もかいてしまっていたこともあったので
一度帰って着替えてから出直そうと思い、アパートに向かって歩き出しました。
するとアパートの入り口でお隣さんと出会ったのです。

お隣さんは名前を古河原俊之助さんと名乗る、不思議な雰囲気の方です。
そして、横を通りかかった私はふと声を掛けられました。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 11:38:33.56 ID:dcJRU0Nd0
「はてはて、君はお隣さんのジュン・スズーキさんでしたっけな?」
「はい、鈴木純です」
そう私が答えると、にやりと笑って紳士は続けました。それにしても、何故欧米訛りなのでしょうか?
「うむ、では君にこれをあげよう私にはもう必要ないからね」
私は、突然ギターケースを手渡されました。
「では、さらば」
さっそうと身を翻して去る紳士の後ろ姿に私は得意げに言いました
「すぱしーば!」
彼は後ろを向いて手を振りながら言いました
「Не за что」

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 11:47:11.78 ID:dcJRU0Nd0
頂いたギターケースには年季の入ったアコースティックギターが入っていました。
ここでケースにギターでなく例の彼が入っていたら私としてもテンションが一時的に上がりましたが
お隣さんも一時の思いつきによる近隣トラブルで部屋を追い出されるのはどうやら善しとはしないようです。

快く私はそれをいただくこととしました。

化粧直しと着替えが終わって時計を見るとどうやら集合時間に少し遅れてしまいそうでした。
でもお酒を飲むので自転車でなく、歩いて行こうと思います。
自転車も飲酒運転になるからです。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 11:53:49.43 ID:dcJRU0Nd0
時刻は18時15分、いつもの居酒屋『ふぉうえばー』の暖簾をくぐり
店員さんに「放課後ティータイム」で予約していると伝えたら
そんな名前の予約がないとのことでした。

そのため店先で、頭に思い浮かぶ人の名前を一通り述べましたが
まさか『憂』の名前で予約をしているとは思いもよりません。さすがですね。

店員さんに案内されてお座敷の所へ行くと、放課後ティータイムの5人と憂がいました。
いつものメンバーです。
私は遅れてきたこともあって、一番入り口の傍の梓の隣に腰を下ろしました。

「とりあえず、麦酒でいい?」
そう誰かが聞いたので
私は「真澄の冷」をお願いしました。

今日の私はとりあえず真澄なのでした。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 12:02:11.16 ID:dcJRU0Nd0
枝豆を食べて皆さんとお話していると、店員さんが、枡とコップに真澄を入れてくれました。
私のお酒が来ると、律先輩によって改めて乾杯の音頭が取られました。

コップを手に取り一口いただくと流石に真澄です。鮮烈な吟醸香!
いつ何時いただいてもねりもの、魚介、何でも合います。言えば、素晴らしいの一言です。

ところで、枝豆があるのに何でひよこまめが大皿3皿も注文されているのでしょうか。
ひよこまめをお箸でつまみ見ると、なかなか可愛くほほえましいものでした。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 12:15:23.09 ID:dcJRU0Nd0
そのとき

「えっと、ちょっとおトイレに」

と言って、さっきまで奥の席で突っ伏していた紬先輩が突然立ち上がり席を立ちました。

そういえば座っている場所が手前と奥ということもあったので久しぶりに会ったのに紬先輩とはあまりお話が出来ていませんでした。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 12:23:28.81 ID:dcJRU0Nd0
さてここで一区切りし、交代して私である。
先ほどの彼女の回想に、何で汗のかいた服の着替えのシーンを克明に語らないのだ!重要なのはここだろ!
と思い勢い余って彼女の語りに口を挟みそうになった『琴吹紬』がお話しをしよう。

まず先に、冒頭に加えて現在の彼女と私の関係を補足させていただく。
私は現在N女子大の2回生である。
先ほど紹介された彼女の親友の一人『中野梓』と一緒のバンド『放課後ティータイム』に所属する一人でありキーボード担当である。

生まれは誰もが知りうる大企業の社長の娘で、
学業優秀、容姿端麗、
その他色々話したいこと、話すべきことが山のようにあるが、長くなるのでこんな所で留めておく。

そして彼女は現在その梓ちゃんと同じKO大学に通う1回生だ。
梓ちゃんが言うには「大学に入ってから何をしているというより、なんだかふわふわしています」とのこと。

どうにか彼女とお近づきになりたいが
同じ学校だった高校時代に比べて進学先が違ったことで、彼女とは少し迂遠になってしまっている。
大学間と住んでいる所が近いこと、高校時代のつながりが唯一の頼みの綱である。

そのため、彼女とお近づきになるには、一日、いや一分たりともを無駄には出来ない。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 12:31:50.89 ID:dcJRU0Nd0
私はこの時、入り口側の上座に腰を落ち着けていた。

知っているであろうか、飲み会の席で奥と手前に座る人は意外と話しづらいということを
しかも顔がよく見えない。なのでテーブルに前のめりになりながら彼女を観察していた。
これが、彼女が突っ伏していたと表現した所以であろう。

何故このような戦略的大敗を帰した席に私が甘んじたのであろうか。
決して冗談で「私が一番偉いから、上座に座るわよ~」なんて言って、誰も否定してくれなかったことが原因ではない。
偶然に席に着いた順であり、神の采配であった。

この飲み会を機に彼女を
「お嬢さん、この後2つの席の予約があるんだ、ひとつは夜景の綺麗なバー、もうひとつは君の隣だよ」
など気の利いた台詞で誘い
「ええ、喜んで」
などという展開があれ万々歳であったが、どうやら世の中、カルーアミルクほど甘くはないらしい。


37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 13:17:55.79 ID:dcJRU0Nd0
席の戦略的大敗、これは今更避けようがない事実であった。しかし、落ち込んでいては始まらない。
反省は次の成長に活かさなければならないのだ。

 かの有名な詩人は言った
『大きなチャンスがあなたの前に姿を現す時はきっと来る。
 その時、あなたはそれを利用できる準備ができていなければいけない』

イメージトレーニングを何百万遍と繰り返してきた私にとって、準備はすでに整っているといってもよい。
後はチャンスを招き入れるだけである。

主人公は時として自分がいかに不利な状況でも
屁理屈を捏ね繰り回して
詭弁ふるいにふるってでも行動に出なくてはならない。

そっちのほうが、話が盛り上がるのだ。


38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 13:28:28.72 ID:dcJRU0Nd0
「えっと、ちょっとおトイレに」

そう言って私は立ち上り席を離れた。
お気づきかも知れないが、トイレに行くと言うのは口実であり、でまかせである。

諸君はこのような体験がないだろうか?
サークルや会社の飲み会で、隣に座っていた同僚や友人が「トイレに行ってきます」の一言を残して席を立ち
数分後気づくと、さっきまで隣にいた彼が、刺身の妻ほどの存在感で、気になるあの子の隣にいて
自分の隣が実に面倒臭いあいつになっていたことが

この現代流孫子的兵法を駆使しようというのだ。

というわけでトイレに行ってきます。誰かが「いっといれ」と言ったので、私は満面の笑み繕い、返した。

通りすがりに見た彼女は、枡を片手にひよこまめをつついていた。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 13:34:31.38 ID:dcJRU0Nd0
15分後、トイレでイメージトレーニングを重ねに重ねて、他の一般客に不振な目で見られたため、慌てて部屋に戻ってきた。
しかし、扉を開けた瞬間から、何故か、みなの眼差しがこちらへ向けられている。

彼女は未だにひよこまめをつついていた。

これでは先ほどの策が打ちようもない。果報は寝て待て。
こう心に言い聞かせつつ、渋々、渋々渋々、渋々渋々渋々、渋々渋々渋々渋々
元の席に戻った私であったが、席につくと見慣れぬ光景が私の前に広がっていることに気づいた。

私の席に中ジョッキに並々と注がれた褐色に輝く美しい液体が置かれているのである。
一体、これは?


40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 13:41:57.93 ID:dcJRU0Nd0
紬先輩が席を外した後のお話です。
私がちょうど気分を変えて、ウイスキーのロックを注文した時
「私たちの中で一番お酒が強いのはだれだろう?」ふとこんな話題が机上にあがりました。
一体誰が言い出したのかは未だに定かではありません。
後々聞いたところ、皆さん口をそろえて私じゃないと言ったので、言い出したのはきっと飲み会の妖精である唯先輩でしょう。
 
結構な量のお酒を飲んだとしても皆さん酔った姿を見せないとのことで、思った以上にこの議論は白熱しました。

するとその後まもなくはたまた誰が注文したのか、中ジョッキに並々と注がれたウイスキーが来てそれが皆さんの総意で紬先輩の席に置かれました。
これも誰が頼んだかは定かではありませんが、多分、皆さん口々に私じゃないと言ったので、きっと飲み会の天使である梓の仕業だと思われます。

あれ、ところで論点は、私たちの中で一番お酒が強いのは誰だろうってことじゃなかったっけ?

こんな疑問が私の心にぽつんと湧きましたが、皆さんの総意でこの議題に対してこの結論に到達したので、多分私が間違ってたのでしょう。

そんなことを思いつつ私はウイスキーのショットグラスを片手に、ひよこまめで大皿にナスカの地上絵を模写していました。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 13:49:25.53 ID:dcJRU0Nd0
さて目の前にある、この褐色の美しい液体であるが
多分私がトイレに長く入っていたため、親切な誰かが酔ったと勘違いしてウーロン茶を頼んだのでくれたのであろう。
なんて親切な。

ふと右側を見ると唯ちゃんが楽しそうに隣に座る梓ちゃんと
その横に座る彼女鈴木純、正面に座る妹の憂ちゃんと話していた。

私はそっと唯ちゃんの前にそのウーロン茶を置いた。
ウーロン茶からは100年の歴史ある樽の香りが爽やかに漂っていた。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 13:58:20.28 ID:dcJRU0Nd0
それから5分後だろうか10分後だろうか
私が正面に臥すりっちゃんとその横の澪ちゃんと普通に会話をしながら頭の中で次の策を練り直していた時のことだった。
私が右ひじを机の上に置いた瞬間、急に私の右腕にごおおおと言う音と共に重みが感じられたのだ。
気づくと、右手に先ほどの中ジョッキが納まっていた。

いや語弊があった。
正確に言うと、隣に座る唯ちゃんが思い切り私の右腕めがけて中ジョッキを滑らしたのである。
もちろん、彼女は一流のバーテンでもなんでもないただの一女子大生なので、ジョッキの勢いを加減できない
私が慌ててそれを制止したわけだが、結果、私の右手に先ほどの中ジョッキが収まった。

自然と涙が出るくらいぶつかった右手がめちゃくちゃ痛かったが、私は笑顔を作った。


43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 14:04:37.69 ID:dcJRU0Nd0
梓ちゃんが言った
「あれ、ムギ先輩何を持ってるんですか?」

お前は何を言っている?
心でそう思ったが、それを言う前にどこからともなく一気コールが沸き起こり私の台詞はかき消された。

普段なら澪ちゃんが制止に入ろうものだが、今日は何故か入らない。
まさか前回の飲み会で彼女の焼酎水割りを焼酎9水1で作っていたのが原因だろうか。

しかしこれはこの日に行われたライブに負けるとも劣らない盛り上がりである。
皆の注目の視線が私に集まっていた。
この盛り上がりのためなら、ウイスキー水割り一杯くらい余裕である。

このときちょっとおいしいと思ったことを私は今でも後悔している。

そして彼女も私に注目しているはずと思い私は彼女の方を見た。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 14:11:54.79 ID:dcJRU0Nd0
その瞬間、どちらにしても私は一気にジョッキを飲み干した。

自棄酒であった。

周囲からはおおと歓声が上がったが、これ以降私はこの日の表舞台から姿を消すことになる。
というよりこれ以降のこの日の記憶がないので語れない。

薄れ行く意識の中で最後に私が見たのは彼女が隣の梓ちゃんにひよこまめをあーんしていた光景であった。恥を知れ。

なんでウイスキーがジョッキに生の状態で入ってるんだよ、阿呆。
そう思ったが早いか否か、私はガクンと膝から崩れ落ちた。

やっぱり現実は無味乾燥な砂利の味である。決して甘くはない。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 14:20:21.43 ID:dcJRU0Nd0
紬先輩が席に戻ると、紬先輩は私たちとお話している唯先輩の前にそっとジョッキを置きました。

数分後、私はびっくりしました。唯先輩がそのジョッキを紬先輩の右腕めがけて
それはそれはすごい勢いでジョッキを滑らしたのです。

紬先輩はジョッキをあわててつかみましたがゴチンと大きい音がしました。
それでも紬先輩はいつも通りニコニコ笑っていて、唯先輩は相変わらず私たちとお話しています。
痛くないのでしょうか?

すると恒例の一気のコールが沸き起こりました。
コールの出所は最後まで皆さん口をそろえて私じゃないと言っていたので、きっと飲み会の妖精である澪先輩の仕業でしょう。

私は大皿にナスカの地上絵を模写することを再開しようと思いました。
私はひよこまめで大皿にナスカの地上絵を模写することを試みた第一人者であると自負し、フンスと気合を入れました。

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 14:27:53.11 ID:dcJRU0Nd0
その時、私は気づいたのです。
なんと私の約1時間半に及ぶ大作が、見るも無残に崩壊していていることに・・・

よく見ると隣に座っていた梓が口をむぐむぐしています。
そして箸で私の芸術の残骸を拾い上げ、ひょいと口に入れ、またしても口をむぐむぐしています。

この芸術を見もしないで。恥を知れ。

食べるなら、せめて味だけでなく芸術を味わって食べなさいよと怒り心頭です。

私は蓮華でナスカの地上絵(未完)を掬うと、それを隣に座っていた梓の口に力いっぱい押し込み
他にあった大皿のひよこまめもすべて一粒残らず梓の口に押し込みました。
私はこの日梓の隣に座った席の戦略的大敗を悔やみました。

梓が芸術を味わいつくした所で我に帰ると、紬先輩が空のジョッキを右手に、また机に突っ伏していました。

まもなくして、ラストオーダーの時間になりました。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 14:38:05.76 ID:dcJRU0Nd0
その後唯先輩と澪先輩と梓と憂の四人は、床に臥した二人を背負いながら
二次会にカラオケにオールナイトで行くと言って私を誘ってくれましたが、私は丁重にお断りし帰路に着きました。

昼間ライブして、オールナイトでカラオケに行くとは、やっぱりこの人たちはさすがです。

それにしてもこの日はとても楽しかった日でした。
何で無謀にも紬先輩はジョッキを一気して床に伏すことになったのでしょうか。
わからないことを考えても仕方がないので、今度会ったときに聞いてみよう。
わからないことは調べるよりも聞いたほうが分かりやすいことが多々あります。

そんなことを思いながら自分の部屋の前に着くと
隣の部屋から大正琴の澄んだ音色と共に実に渋い声で歌うImagineが聞こえてきました。
 
いまじんおーるざぴーぽー♪

鼻歌まじりに私は自分の部屋のドアを開けました。

前編
「Imagine」

おしまい

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 14:50:14.24 ID:dcJRU0Nd0
後編一応あるんだけど
これから出かけて帰ってくるのが夜になるんで

落ちたらそれまで

では、すたこらさっさ!

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 18:28:04.55 ID:dcJRU0Nd0
まだあったとは


突然だがカラオケというものを知っているだろうか
歌で一部屋
いや、トイレの個室2部屋を併せて3部屋もリーズナブルな価格で貸してくれる素晴らしい場所である。
その上ジュースは飲み放題だ。
私たちの人数からすると大体ジュース120杯で無料で一晩歌い放題だ。

先週の打ち上げの後、私は酩酊の気分の悪さと共にそんなカラオケの個室で目を覚ました。
トイレに行こうと思いおぼつかない足で立ち上がると唯ちゃんがImagineを歌っていた。

こんなことを思い出しつつ、私『琴吹紬』は今自分のアパートの部屋でバッグに出かける準備をしている。
唯ちゃんの家に遊びに行くのである。

もちろん目的は彼女『鈴木純』に出会うためだ。

なんと本日彼女がそんな唯ちゃんの家を訪れるらしい。
ついさっき唯ちゃん本人からメールが入ったのである。

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 18:34:17.99 ID:dcJRU0Nd0
そういう事で私は今4畳半の部屋でいそいそと出かける準備をしている。

「私、4畳半で一人暮らしするのが夢だったのー」

冗談で斉藤に言ったら、本当に4畳半を用意されてしまった。
こればっかりは斉藤の生真面目な性格を読みきれなかった私の責任だったかもしれない。
しかし、それとともに4畳半は意外と生活しやすいことにも気づけた。
 
それにしても今日は楽しみだ

ピンポーン

そのときチャイムが鳴った
急な来客だ、ったく一体誰だよ、こんなときに

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 18:49:10.08 ID:dcJRU0Nd0
先週お隣さんにアコースティックギターを頂いたわけですが
皆さんアコースティックギターと言う楽器をご存知でしょうか。

8の字型のボディに半音ごとに20本前後のフレットを付け
そこに張った6本の弦の振動をボディのサウンドホールに響かせ
豊かな音色を奏でる楽器です。略してアコギともいいます。

高校のときに楽器を齧っていた分こういった知識は少なからずありますが
弾き方と言うものを良く知りません。頂いたからには弾きたいのですが・・・

そこで同じ大学に通う梓に相談してみると
「じゃあ金曜日に私の家に持ってきなよ、教えてあげる」
とのことだったので、二つ返事で梓の家に行くことになりました。

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 19:01:18.19 ID:dcJRU0Nd0
そんな経緯で東に二駅電車を乗りついで金曜日に梓の家に来ましたが
梓の家はやっぱりなんともシンプルです。
と言うより、生活観が有りませんでした。
ギターとベッドしかありません。

 こんな部屋で一体どうやって生活をしてるんだろう?そう疑問に思っていると梓が
「ちょっとご飯勝手来るね、何かリクエストはある?」
と言って買い物に出かけました。
どうやら私が持ってきたドーナツセットはご飯とは認められなかったみたいです。

大学の講義が終わって一度家に帰ってから準備してきたため
気づくと時間は19時になっていました。
私は思いました。

生活感がないというよりそもそも生活をしていないのではないだろうか?

それともう一つ疑問なのですが
家主が他人をおいて出かけていってしまいましたが
私が信用されているのでしょうか?それとも彼女が無用心すぎるだけでしょうか?

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 19:08:00.68 ID:dcJRU0Nd0
と言うわけで家主が不在の部屋に残されてしまいましたが
どうやらやることが今の所見当たりません。

律先輩ならエロ本探しでもやるのでしょうか?いや、まさか。
そんなことを考えて私も試みようと思いましたが、こんなシンプルな部屋では探しようもなさそうです。

そして私が床に寝そべった時、部屋の床の隅に一冊のノートがポイと置かれていることに気づきました。

手にとって見ると表紙には『日記帳』と書かれていました。
しめたと思い寝そべったまま私はその表紙をめくり読み始めました。

日記にはなんとも奇妙な内容がなんとも実に拙い表現で書かれていました。
簡単に説明しますと、日記というより梓が二人になった物語が書かれていたのです。
それに私のお隣さんまで登場しています。
内容というよりもその拙い文章に、私は少し気味というより気分が悪くなりました。

さらり目を通すと日記を閉じました。
うーん、それにしても暇です。

まさに何の捻りもなくそう思うと玄関のドアがガチャリと開きました。
「ご飯買ってきたよー」
の声と共に梓が買い物から帰ってきました。


66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 19:15:57.95 ID:dcJRU0Nd0
すると梓は私の手元を見ました、私の手元には先ほどの日記(?)があります。

「ってこら!勝手に人の日記見るな」

じたばたしながら梓が言ったので
まあまあまあまあとなだめながら私は梓に聞きました

「結局この日記ってどこまでが本当でどこまでが嘘なの?」
すると「え」と言った後に、梓はクスクスと笑いながらいいました。
「全部嘘だよ、神様に誓って」
「ふーん」
私はそういうとこれ以上日記の話はしませんでした。
どちらが本当でも気味の悪い文体には変わりないからです。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 19:22:53.66 ID:dcJRU0Nd0
ケースから取り出すとこのアコースティックギターは結構年季が入っていそうです。
夕食を梓より先に食べ終わった私がケースからギターを取り出し構え
何だ私にも似合うじゃない
なんて姿見の前でやっていると

梓がドーナツをぶふっと笑いながら吐き出しました。

「く、どうせ私にはギターは似合いませんよ。」
ぷりぷりと怒って梓に言うと

「違う違う、何その斬新なステッカー」
と梓が言いました。

梓が指差すギターの側面には『粗大ごみ』のシールが鮮やかに貼ってありました。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 19:28:47.32 ID:dcJRU0Nd0
さて気を取り直してギターを構え、ピックを持ち、いざ弾こうと思いましたが
今気づきました、私、ギター弾けないから梓に教わりに来たんじゃん。と言うことに。

とりあえず、梓に見本を見せてもらおう。

「ぶふっ!粗大ごみ押し付けられてるっ!」

ギターを外し、床をバンバン叩きつつ笑い転げている梓の首にぎゅっとストラップをかけました。

え、ストラップの掛け方が違う?
何を言ってるんですか、私には高校のときに楽器を齧っていた分こういった専門的な知識が少なからずあるのです。
皆さんが間違っているんじゃないですか?

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 19:35:12.95 ID:dcJRU0Nd0
数分後ギターを構えると、梓がネックを握って言いました
「あれ、これって大分ネックの太いやつだな、大丈夫かな?」
首をさすりながらいうと、さっそく弾き始めました。

それにしても試しにパープル○イズなんて弾くから、やっぱり梓はむかつ
いえ、ギターが上手だなあと思いました。

さて梓が曲を弾き終わった後の話です。梓が一通り弾いた後、私が弾きながら教えてもらうことになりました。
おかげで少しコツをつかみ始めた気がしはじめた時、梓が言いました。
「やっぱり、こういうのは、慣れた人に教えてもらおう」

梓が言うには、普段から重くてネックの太いギターを弾きなれている唯先輩に教えてもらうのが一番とのこと。
………
梓が唯先輩の家に行きたいだけではないのだろうか?

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 19:42:07.06 ID:dcJRU0Nd0
梓がさっそく唯先輩に電話して明日行きますとのことを伝えると
二つ返事で承諾いただいたので明日行くことになりました。
この日は同級生のお泊り会です。

梓は得意げにない胸張って言いました
「やっぱり餅は餅屋だね」
私は言いました
「あんたのとこの餅屋はわらび餅しかないのか?」


72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 19:53:34.68 ID:dcJRU0Nd0
さてとここで私『琴吹紬』である。って、え?あれ?私なのか?
何で!?

これから梓ちゃんと彼女の親友同士のお泊りの一夜である
普段ならその二人の甘い一夜を
いや、甘い一夜過ごされても困るが
それをみて、あらあら、などと言うシーンである

それに私はまだこの物語に絡んでいないのだ。来客に玄関のドアを開けようと数歩あるいたところだ。

一体何で!?
放送事故が起こっている!

こうなったら、直接クレームを言いに行くしかあるまい

いざ行かんってあれ?え、尺が足りない?・・・

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 20:07:23.35 ID:dcJRU0Nd0
翌日私は梓のベッドで目を覚ましました。見ると梓は床で寝ていました。
友達にベッドを貸して、自分は床で寝るなんて、何て心優しい親友でしょう。
唯先輩の家に行くことになっていましたが
昨日、夜更かししたこともあって、時計を見るとすでに11時ちょっと前でした。

準備をした後に梓と近くのお店でお昼ご飯を食べ、唯先輩の家に向かいました。

唯先輩の家に着いたのが大体午後2時でした。
着くと唯先輩が言いました。
「今日はお泊りでいいんだよね?」

二つ返事で梓は「はい」と答えたのですが、今日はお泊りだったのか、私としては初耳でした。
というより、梓は手ぶらで来たのですが・・・
しかし、せっかく唯先輩が私たちのために用意してくれたものを無碍に断るわけにはいきません。

再び唯先輩が言いました。
「じゃあ、みんなも呼んだほうが面白いよね、後、憂も」
私は二つ返事で「はい」と答えました。隣でチッと音がした気がしました。

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 20:15:27.81 ID:dcJRU0Nd0 [42/43]
唯先輩が電話をするとわずか数分足らずでいつもどおりにニコニコした憂が来て、私たちをおもてなししてくれました。
唯先輩がきらきらした目で見せてと言うので、ヴィンテージ風ギターを出し、貸すと、唯先輩はさっそく弾き始めました。
梓が「餅は餅屋」と言っただけあって、なるほど確かに唯先輩の方が梓よりも慣れた感じで弾いているのかもしれません。

唯先輩は大層アコギを気に入ったようで、ある程度弾いてからアコギを置くと
「純ちゃん、これ、素晴らしいよー」
と言いながら私にぎゅっと抱きついてきました。

先ほど聞こえたような、チッという音が2箇所2方向からした気がしましたが、気のせいでしょう。


76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/12/04(土) 20:21:26.46 ID:dcJRU0Nd0 [43/43]
そして私はゆらゆら電車に揺られています。電車と言っても2駅区間なのですが。
不意なお泊りの予定だったので一度家に帰って準備をしなければならないのです。

唯先輩と私がアコギを弾いている間、梓はキッチンで憂のケーキ作りを手伝っていたようでした。
皆さんが集まったら食べようと言うことです。

唯先輩と今晩ギターを教えてもらう約束をして、一度帰ることを伝えると唯先輩が
「今夜は寝かさないよ、子猫ちゃん。」
と言ったので、私は二つ返事で「はい、私も寝かせません」と答えました。
 
キッチンの方から南瓜を切ったとき独特の包丁をまな板に叩きつけるようなズダン!という音が2つしました。

ゆらゆらと走る電車にふわふわと揺られながら思いました。

憂と梓が作るパンプキンケーキはとっても楽しみ!

81 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/04(土) 22:35:41.76 ID:dcJRU0Nd0
ぴんぽーん、ぴんぽん、ぴんぽん

先に忠告しておく急にチャンネルが変わってクイズ番組になったわけではない。
誰かがせわしなく私『琴吹紬』の家のチャイムを連打しているのだ。

この時私は4畳半の一室のワインセラーで今日持っていく酒選びをしていた。
憂ちゃんがいるということで、食べ物には不便しまい。
私が澪ちゃん用の焼酎とスポーツドリンクの組み合わせを思案していたときに私の部屋に来客が来たのだった。
一言言っておくがこれは彼女がどれだけお酒を飲めるのか復習するためである。決して復讐するためではない。

ワインセラーが102号室にあるので
来客が来た私の部屋である203号室に行くには一度外に出て階段を上らなければならない。

斉藤が用意してくれたこの4畳半8部屋のアパートであるがこういうときは少し不便かもしれない。

そんなことを思いつつ、私が外に出ると

私の視野の中には彼女がいた
なんと

82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/04(土) 22:46:34.21 ID:dcJRU0Nd0
私が自分のアパートに向かって帰っていた時のお話です。
私がアパートの前の道を歩いているとお隣さんに会いました。するとお隣さんがまた声を掛けてきました。

「ああ今、留守にしていたのか、君の部屋にお友達が訪ねてきていたよ」

お友達?誰だろう?
そう思って、道の反対側から私の部屋の前を見ると

アパートの前には、梓がいたのです。
なんと


83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/04(土) 22:56:21.77 ID:dcJRU0Nd0
昨日梓の家で見た日記を思い出しました。
気づかないうちに汗をびっしりかいています。目が合いました。

「ひえええええ!」
私は無意識の内悲鳴を上げると540度向きを変えて走り出しました。

気づくと私はここの近くに住む紬先輩のアパートのチャイムを連打していました。

実は私、ホラーが大の苦手なのです!


84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/04(土) 23:07:16.99 ID:dcJRU0Nd0
思った以上に気が動転していたらしいです。紬先輩は他の部屋から出てきました。
私はどうやら違う住人の部屋のチャイムを押していたようです。

事の経緯を早口でカクカクシカジカと紬先輩に話すと紬先輩は言いました。
「あ、あれを見ちゃったんだ」
「あ、あの日記って、、、」と私

紬先輩はニコニコしながら続けました。

「まあ、本当の話といったら本当の話なんだけどね」

86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/04(土) 23:18:35.35 ID:dcJRU0Nd0
彼女のためにも説明させていただく。
まず結論から言うと、彼女が目撃したのはおそらく澪ちゃんであり、彼女が読んだのは映画の台本である。
そして彼女が言う隣人、古河原俊之助さんは我がN女子大の人の良い警備員さんである。

私達はN女子大で『放課後ティータイム』というバンドを組んでいるわけだが
この春梓ちゃんが大学に進学しまた私達のバンドに再加入することで、ひとつの事が話題となった。

「再結成記念ビデオを作ろう」
ということである。

当然、どうやってと言う疑問の声は上がったが
りっちゃんの広い額、いや顔によってそれは意外と簡単に事進んだ。
りっちゃんの友達の映画サークルの娘がビデオ作成を快く引き受けてくれたのだ。

ただし、後から知ったのだがこのビデオ作成には条件があった。

「私たちが次の映画に役者として出演すること」


87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/04(土) 23:33:45.85 ID:dcJRU0Nd0
梓ちゃんの加入による再結成だから主演は梓ちゃん。これは多数決で4対1によって決まった。
しかしこれはドッペルゲンガーを題材にした話だから、梓ちゃんがもう1役演じなければならない。
編集すればいいとの意見はもっともであるが、そんな優秀な機材を持ち合わせてはいなかった。
役者が足りずに人のいい警備員さんに頼みに頼み込んで出演してもらっているくらいである。

一度試して録った梓ちゃんの一人二役は、演技力も相まって、それは不自然でひどい出来だった。

そこで白羽の矢がたったのが澪ちゃんである。
髪を下ろすと見た目がそっくりな澪ちゃんがもう一人の梓ちゃんの役を引き受けることになったのだ。

最後まで不満タラタラの澪ちゃんだったが、りっちゃんのこの一言で上機嫌になる

「澪って意外にツインテールでも可愛いじゃん」

それ以来彼女はたまにツインテールをプライベートでするようになったのだった。

89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/05(日) 00:26:37.17 ID:QlCzLpXV0
一通り説明し終えた後、夕日を背にしながら紬先輩は言いました。
「この映画は来週私たちの大学で上映されるんだけど、、、」

少しの沈黙の後、先輩は続けました。

「それで、ここにそのチケットがあって。これを鈴木さんにあげようと思ってたんだけど」
「ネタバレしちゃったからもういらないかな?」
「それに、鈴木さんはこういうお話苦手そうだしね」

先輩は寂しそうな笑顔でいつも通りニコニコ笑っています。

91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/05(日) 00:33:58.31 ID:QlCzLpXV0
「いえ、いただきます。」

そんな寂しそうな笑顔に私は反射的に言っていました
「え、本当?」と紬先輩

でも、私はホラーが大の苦手なのです
そこで私は聞きました

「でも先輩も一緒に見てくれますか?」


92 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/05(日) 00:40:41.27 ID:QlCzLpXV0
「え、ええ!?」

少しの沈黙の後先輩はとびきりの笑顔で答えました。

「鈴木さんさえよければ、もちろん!」

その夕日を背にした笑顔を目にして私はその場で立ち尽くしました。

困った。
先輩のそのとびきりの笑顔を見た瞬間に、私の心はとらわれたのです。
そう私は紬先輩に一目惚れをしたのでした。

93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/05(日) 00:47:14.24 ID:QlCzLpXV0
少しの沈黙の後
「ところで、どうやら私の考えは当たっていたようね」
ニコニコしながら紬先輩がいいました。

「え」と顔を赤らめながら私
心を読まれた!?
「ほら」と後ろを指差しながら紬先輩

後ろを振り返ると、ぜいぜい息を切らせた確かにツインテールの澪先輩がいました

涙を瞳にためながら澪先輩は言いました

「鈴木さん、なんで私の顔見て逃げるんだよぉぉ」



94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/05(日) 00:54:14.91 ID:QlCzLpXV0
紬先輩の家から私の家に向かう途中、澪先輩がいいました。
「ムギと鈴木さん、なんだかさっきから顔赤くないか?風邪でも引いた?」

私は「え」と言って、紬先輩の健康を心配し無意識で紬先輩を見ました
でも顔が真っ赤になるのが自分でもわかったので、すぐに照れて顔をぷいと前に向けてしまいました。

私の顔が真っ赤なのは風邪が原因ではないことが自分でよくわかります!ドキドキしているのです!

紬先輩は何か気になるものがあったのでしょうか
私が紬先輩を見た瞬間に別の方向を向きました。

私が苦し紛れに「夕日のせいじゃないですか」と言おうとしたとき

「そ、それは夕日のせいじゃないかな、澪ちゃん。」
と紬先輩がニコニコしながら言いました。
その笑顔にまた私はドキドキしました!

澪先輩は「そうかなあ?、夕日を背に歩いてるのに、、、」と言いました。

96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/05(日) 01:01:32.19 ID:QlCzLpXV0
私の家から彼女の家に向かう途中、澪ちゃんが言った。
「ムギと鈴木さん、なんだかさっきから顔赤くないか?風邪でも引いた?」

私はボーっと彼女を見ていたのだが、彼女が突然振り向いた。
私は自分の顔が赤くなっていくのがわかったため、照れてすぐに顔を背けてしまった。

自分の顔が赤いのは風邪が原因でないことは自分でよくわかる
彼女と映画を見る約束をして、彼女をどうしても意識しすぎてしまう以上動揺しているのである。

しかし、振り向いた彼女の顔は確かに少し赤かった。
実はあまり体調がよくないのでは?
彼女が何か言おうとしたので、彼女に負担をかけまいと言った。


「そ、それは夕日のせいじゃないかな、澪ちゃん。」
自分でもぎこちない笑顔で、その上声が少し上ずっていたのがわかる。

澪ちゃんは「そうかなあ?、夕日を背に歩いてるのに、、、」と言った。

99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/05(日) 01:09:11.06 ID:QlCzLpXV0
さて一度部屋に帰って準備をして唯先輩のアパートに行くと律先輩も来ていました。
そして憂と梓は仲良くテレビゲームをやっていました。

憂が言いました。
「純ちゃん、私たちは一時的に同盟を組んだんだよ」
「そう、憎き曹操を完膚なきまでに叩きのめすために」と梓。

どうやら画面を見ると三国志のゲームの赤壁の戦いをしているようです。
梓は呉、憂は蜀を操作しています。

そのとき突然唯先輩が「ういー」といいながら、憂にダキッと抱きつきました。

テレビを見ると操作を誤ったのか、赤い旗が緑の旗に全軍すごい勢いで攻撃を仕掛けていきました。


100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/05(日) 01:16:25.90 ID:QlCzLpXV0
結局その日はアコギの練習を出来ずに飲み会になってしまいました。

もうそろそろ放課後ティータイムではなくて「居酒屋放課後」にバンド名が変更になるかもしれない
と真面目な顔して律先輩が言い、澪先輩にゴチンと叩かれました。

それにしても、憂と梓が作ったショートケーキはおいしいです!

101 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/05(日) 01:23:29.82 ID:QlCzLpXV0
そういえば私が唯先輩とその日にしたことと言ったら
アコギの練習ではなく飲み会のノリのポッキーゲームです。
私は律先輩と澪先輩の次に唯先輩とやることになりました。
ペアはランダムでくじで決まるので、どうか次こそは紬先輩と!

「何やってるんだ、破廉恥野郎!」と言う意見は最もだと思いますが
大学生が集まって飲み会でやることなんてこんなものなのです。

唯先輩とのポッキーゲーム中にドンと机を叩くような音が3回ほど聞こえた気がしました。
見ると、梓と珍しく憂と紬先輩が、偶然にも残りのポッキーの上に3人同時にグラスを落としてしまいました。
残ったポッキーは粉々になっています。

第2回をもってしてポッキーゲームはお開きになりました。


こんな感じで楽しかった私の一日は過ぎていきました。

私が唯先輩にギターの才能があるけどギターを教える才能がなかったのを知るのはもっと先のお話です。


103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/05(日) 01:29:30.75 ID:QlCzLpXV0
そういえば私から紬先輩を紹介するのを忘れていました。

今私の隣で映画を見ている紬先輩は名前を『琴吹紬』さんと言います。
私の親友中野梓と一緒に放課後ティータイムというバンドを組んでいて、担当はキーボードで、その実力は聞く人ほぼ全てが素晴らしいと評します。
そして作曲さえ手がける才能の持ち主です。

高校の時からの私の一つ上の先輩です。
誰もが知りうる大企業の社長の娘さんで学業優秀、容姿端麗
芯がしっかりしている反面、普段はぽわぽわしてて可愛い人です。
現在は私が通うKO大学の近くにあるN女子大学の2回生です。

先輩がよくご馳走してくれる紅茶とお菓子は絶品で、本当にいくら食べても飽きません。

後、今日本当はこの映画を関係者の特等席で見られたのですが
あえて私の隣の一般席で見てくれるほど心の優しい人です。

そしてそして、私の憧れの、笑顔がとても、とっても素敵な先輩です。


104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/05(日) 01:36:46.26 ID:QlCzLpXV0
経験則上、紬先輩は私と性格や考えていることが正反対なこともありますし
私は先輩とこれまで以上にお近づきになるために、私はこれから頑張って努力しなくてはなりません。

そのためには一分一秒たりとも無駄には出来ません。

先輩は私にとっては高嶺の花で、高値の花でもあるからです。

でも私は想像せずにはいられないのです。薔薇色の未来を!

106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/05(日) 01:44:06.45 ID:QlCzLpXV0
さて私は今彼女と映画を見終わった後、一緒に私のアパートの来客用の105号室でティータイムをしている。
また今日も唯ちゃんの家で映画上映記念パーティがあり
唯ちゃんの家の準備ができるまで時間が少しかかるとのことだったので映画の後に彼女が立ち寄ったのだ。
今日一日ドキドキしっぱなしである。それに今も。

私としては待ちに待った彼女との念願のティータイムである。

しかし、困った。
今気づいたことに、私は彼女を振り向かせるための準備に惜しみない努力と惜しみない時間を費やしたのだが
彼女と仲良くなった後の準備をまるでしてなかったのである。
それに経験則上、彼女と私は性格や考えていることが正反対なのだ。

一体何を何から話したらよいものか


107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/05(日) 01:53:31.43 ID:QlCzLpXV0
さてこれでこの物語はおしまいだ。彼女を振り向かせるために闇雲に努力した日々はこれで終わりだからである。
これ以上書くと最初の趣旨と違う物語を、それこそあることないこと闇雲に書かなくてはならない。
しかしそれでは記録にはならないし、記録とは呼べない。


最後に一言、現実は無味乾燥なものであるが、味わってみると意外と味わい深いものである。
ただし無論これでやっと努力が報われたなどと浮かれる私でもない
というより彼女の話を聞く限り、私の努力はほぼすべてが水の泡と化していたというのは避けようのない現実である。
これからも努力の日々は続くのである。

そして彼女と今以上にお近づきになるため、これからも一分一秒たりとも無駄には出来ない。
彼女は私にとって未だに高嶺の花なのである。

忠告しておくが、皆さんご存知のように現実は決してカルーアミルクほどは甘くはない。
 
しかし、こうは言っても想像してしまうからやっぱり私は甘い、薔薇色の未来を


後編
「Image」


おしまい

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