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部屋と大覇星祭とミサカ

208 名前:部屋と大覇星祭とミサカ[] 投稿日:2010/11/21(日) 13:58:12.52 ID:PE2iLYA0 [3/31]

大覇星祭。9月19日から25日の7日間にわたって学園都市で催される行事で、
簡単に言えば大規模な運動会だ。
その内容は、街に存在する全ての学校が合同で体育祭を行う、というものなのだが、
何しろここは東京西部を占める超能力開発期間で、総人口230万人弱、
その8割が学生だというのだから、行事のスケールは半端ではない。


とまあ、ここまでは原典(本家的な意味で)からの抜粋である。
ミサカはこんな流暢な説明、アドリブじゃできない。

関連
部屋とYシャツとミサカ

続・部屋とYシャツとミサカ


本日は大覇星祭の初日、9月19日。
お天道様も元気でいらっしゃる晴天真っ盛りではあるが、
長々とザ・校長先生ズのお話が延々と続く初日の天気としては少し恨めしいものがある。


大覇星祭は年に数回だけ学園都市が一般公開される特別な祝祭であり、
しかも不可思議な『超能力』を扱う者同士がしのぎを削って戦い合うというものだから
興味本位の一般客から、外部の科学者・研究者、はたまた学生の保護者からと大賑わいだ。


ミサカのクラスメイト達も外から久しぶりに両親が来ると言って盛り上がっている。
普段は親なんてウザイだけだ、とか言っているくせになんだかんだで嬉しいらしい。


……でも、ミサカは。


「来れないんだよなぁ……あの人、ってミサカはミサカは――――― ハァ~~~」





209 名前:部屋と大覇星祭とミサカ[] 投稿日:2010/11/21(日) 13:58:51.30 ID:PE2iLYA0 [4/31]



知らされたのは、昨日の夕食の席だった。


「『外』の学者共の面倒押し付けられてよォ。
なンか情報盗み出そうとしても学園都市第一位様がいりゃァ安心って考えなンだろォが
………面倒臭ェったらありゃしねェ」


―――――――え?じゃあ、ミサカの大覇星祭は?


「1日中色ンな研究所だの施設だの見て回るンだと。無論見せられる範囲だろォが」


一緒に屋台回るつもりだったのに。


「1日中かぁ……大変だね。頑張って、ってミサカはミサカは応援してみたり、えいおー」


ミサカの出る行事、応援に来てもらうつもりだったのに。

ミサカは、
ミサカは。




「―――――――― 泣きだしそうな面ァしてンじゃねェよ、クソガキ」


どっか1日は必ず行くから、絶対。
それまでテンション上げ過ぎてヘバったりすンじゃァねェぞ。


数年前に教えた『指切りげんまん』を、初めて自分からしてくれた。
その約束がなんだかとっても嬉しくって、
その子供扱いがなんだかとっても寂しかった。





210 名前:部屋と大覇星祭とミサカ[] 投稿日:2010/11/21(日) 13:59:27.40 ID:PE2iLYA0 [5/31]


「あんま落ち込むなよ、御坂。大覇星祭は7日間もあるんだし」

「今日もアンタのYシャツ着てってくれたんでしょ?十分ラブラブじゃん」

「………うん、そうだね。あの人も1日は来てくれるって約束してくれたもんね、
 ってミサカはミサカはテンション上げ↑上げ↑のモードチェンジ!!!」

「アゲアゲ古い。つかテンション上げ過ぎんなってクギ刺されたんじゃなかったっけ?」

「安心しろ御坂!!そんな御坂が私は好きだ!!!」


クラスメイトの励まし(と一部脳が受け付けない告白)を受け、テンションは上々。
7日間持つように抑えながら参加競技場へと向かう。


「初日の競技って何だっけ?ってミサカはミサカは確認を取ってみる」

「『棒倒し』。敵対する2校が7メートル以上の棒を立てて、自軍護りながら敵の倒すアレ」

「あれ陣営の距離がメッチャ遠いから遠距離攻撃できるヤツがいるとこ有利なんだよね」


大覇星祭なんて大体そうじゃん、遠距離攻撃とか念話能力とか高レベルのヤツがいないと勝てないの。


下らない話題(半ば大能力者や超能力者に対する愚痴だ、
ウチの学校は学校全体を通しても異能力者が1クラス分居るか居ないかなのだから)
は次から次へと飛び出し母校から一駅離れた競技場へはあっという間に着いてしまった。


能力へのコンプレックスはなくても能力への憧れというものは皆少なからずある。
あの人やお姉様といった超能力者や、番外個体といった大能力者に囲まれたミサカも
そんな彼らを見て羨ましいと、正直思う。


「まぁ無い物ねだりしてもしょうがないんだし皆で頑張ろうよ、
ってミサカはミサカはクラスを活気づけようと一人盛り上がってみる!!オー!」

「御坂はホントいい子だねぇ……ま、アタシらもせいぜい頑張りますか」


頑張らなくてはいけないのだ。
絶対に来るあの人に、イイトコ見せてやるために。




211 名前:部屋と大覇星祭とミサカ[] 投稿日:2010/11/21(日) 14:00:27.40 ID:PE2iLYA0 [6/31]

イケぇぇぇえええええ!!!!!
頑張れぇええぇぇえぇええ!!!!!!


怒声のような声援が響き渡るグラウンドで、
打ち止め含む30数名のクラスメイトはスポーツ専攻の強豪校相手に熱戦を繰り広げていた。


クラスに立った一人存在する精神感応系能力者が、
念動力で上方から戦況を汲み取るリーダーの支持を受け小分けされた各班長へ念話を送る。


どちらも学校では貴重な異能力者。
打ち止めのクラスには他に空間移動と風力使い、そして彼女本人を含む5人の異能力者が
在籍するが、これでも彼女の学校で言えば多い方だ。


『さっき発火能力を使った大能力者が空間移動能力者に近付いてる。
 能力制限から見て前列にテレポートするから、4班はさり気無く移動して防御態勢に!!』


念話能力による支持。
事前に立てた計画では支持のあった班の前後の数の班(この場合は3班と5班だ)は
その班の援護がいつでも出来るよう準備することになっている。


異能力者である打ち止めが班長を務めるのは2班なので、今回の支持では現状維持となる。
電撃使いである彼女の配置は棒の手前、最終ラインだ。
彼女が任せられた任務を全うするなら、いざというとき最前列に飛び込めるよう
前方に向けての攻撃態勢に入るべきだった。


でも。
(なんだか敵の様子がおかしい、ってミサカはミサカは推測してみる)
前列への攻撃なら、グラウンドの真ん中にいる別の大能力者に任せればいい。
あの発火能力者以外にも向こうには攻撃性に長けた能力者はアチラ様には山程いるのだ。
それにグラウンド真ん中なんてあまり意味の無い配置に大能力者が集まりつつあるのも
何だか怪しい。


(コレって………もしかして……………)


「テレポーターの能力制限はフェイク!!狙いは後方への移動による棒への直接攻撃!!」


ミサカはミサカは走り出す。
お姉様ほどの威力はなくても、あの人ほどの強さはなくても。

ミサカの精一杯を、今も何処かで頑張っているあの人に見せつけるために。

212 名前:部屋と大覇星祭とミサカ[] 投稿日:2010/11/21(日) 14:00:57.63 ID:PE2iLYA0 [7/31]



「打ち止め!!!」

競技が終わり程よい疲労感に満ち足りていた打ち止めは、観客席から聞こえた声に小首を傾げた。
呼び名が自身の通称(しかし彼女はこれこそ本名と思っている)というのもあったし、
なにしろその声が男のものだったからだ。
彼女を『打ち止め』と呼び尚且つ男性である知り合いは極端に少ない。


「誰かな誰かな~~ってミサカはミサカは……ああーーーー!!ヒーローさん!!!」


声の主は、妹達の『ヒーローさん』こと上条当麻だった。
成るほど、彼なら条件にはぴったりと当て嵌まる。


「来てくれたんだね!ってミサカはミサカは体全体で喜びを表現してみるキャッホー!!」

「おう、来てやったぞ~~―――― それにホラ、」

「久しぶり。大きくなったじゃない」

「―――――― お母様!!!!!!」




213 名前:部屋と大覇星祭とミサカ[] 投稿日:2010/11/21(日) 14:01:28.94 ID:PE2iLYA0 [8/31]

御坂美鈴。
学園都市第三位の超能力者、『超電磁砲』こと御坂美琴の母親である。
元来美鈴は打ち止めにとって遺伝子上の顔も知らない母親でしかなかったし、
超電磁砲のクローンの存在について美琴の両親が感づいたことを知らされた時も、
彼女が自分を受け入れてくれるとは思っていなかった。


美琴の両親が信じられなかったわけではない。
ただ常識で持って考えて、例え拒絶されたとしても「仕方ない」と諦めようと。
そう覚悟していたのだ。


だが美鈴とその夫・旅掛は、
彼女たち『妹達』9970人(下位個体9968人,打ち止め,番外個体で9970人)全員に
一人ひとり違う名前と、一人ひとり違う名前付きのバッチを送ってくれた。


「あなた達は皆、私たちの大切な娘です」
そう、メッセージを添えて。


打ち止めは現在その名前を使って学校に通っている。
あの人からは出合った時そのままの名前で呼んで欲しいために、
名前を貰う以前の友人たちには『打ち止め』での呼称をお願いしているが。


他の妹達も同様に各地で学生生活を堪能しているらしい。
学園都市では稀にドッペルゲンガー目撃情報が噂されるが、今はそれすらも誇りに思う。


美鈴達には、感謝してもしきれない。




214 名前:部屋と大覇星祭とミサカ[] 投稿日:2010/11/21(日) 14:02:03.08 ID:PE2iLYA0 [9/31]

「お母様!!わざわざ『外』から来てくれたの、ってミサカはミサカは跳びついちゃう!!」

「そうよ~ん。他の子たちの様子も見たかったし、って美鈴も美鈴も抱きしめちゃう!!」


うっひゃあ、巨乳が羨ま苦しいぜお母様(造語)!!
でもお母様のそのDNAにミサカはミサカは期待を一身に寄せてるからねっ!!


「でも残念ねぇ。今日はシロくん来れないんだって?電話したら仕事中って……」

「うん。でも大覇星祭は7日間もあるし、必ずどっかで来てくれるって言ってたから
寂しくないよ、ってミサカはミサカはAカップを張ってみたり!!」


シロくんとはお母様が呼ぶあの人の渾名だ。
初めてあの人と対面したとき「あーーー!!!あの時の白いのだーーー!!!!」と
あの人に飛びついたお母様は(あの人も巨乳に苦しめられていた。いつかやりたい)、
再会早々学園都市最強に向かって恐怖などおくびにも見せず
『シロくん』なんてフザケやがった(あの人談)渾名を命名してみせたのだ。


「よーし良く言ったわね、イイ子イイ子。そんなイイ子ちゃんのために……じゃじゃーん!
 なんと勝者の雄姿を録画してたのでしたーーー!!!!」

「えーー!!!ホント?ホントにお母様!!!」

「おうともホントさ!後でシロくんにも見せたげなきゃね!!」


有難うお母様!!
何人もの大能力者を相手にするのはちょっぴり恐かったし疲れたけれど、
頑張ったかいがあったよ!!!


「―――――― 録画してたのは上条さんなんですけどね。聴いてないし………不幸だ」




215 名前:部屋と大覇星祭とミサカ[] 投稿日:2010/11/21(日) 14:03:01.29 ID:PE2iLYA0 [10/31]

クラスメイトは同じ様に『外』から来ていた両親と昼食を取るらしかったので、
打ち止めも美鈴と上条(ビデオの件のお礼にと美鈴が誘ったのだ)と共にランチとなった。


久々に会った『お母様』へ、学校の話や日常の話、あの人との生活やらと
事細かについ長々と報告していく。


お母様は全ての話に相槌を打ち、時々コメントを挟みながらミサカの話を終始笑顔で聴いてくれた。
「あなたが幸せそうなら良かったわ」。
そう聞いた時、涙が出そうになった。


「そうそう。旅掛が来るのは明後日からになるけど、美琴ちゃんの方は午後から見に来るって」

「お姉様も来てくれるの!!」

「黄泉川先生もさっき会った時警備員のシフトが終わったら来るって言ってたし、
 芳川さんも仕事に片がつき次第向かうって言ってたらしいぜ」

「わーい!!皆来てくれてミサカはミサカは両手を挙げて大歓喜!!わーい!!!」





216 名前:部屋と大覇星祭とミサカ[] 投稿日:2010/11/21(日) 14:03:37.14 ID:PE2iLYA0 [11/31]

大覇星祭初日は大いに盛り上がった。

約束通り午後から来てくれたお姉様はヒーローを前にそのツンデレっぷりを最大限発揮し、
お腹がすいたと飛び出してきたシスターは
フラグ体質絶好調で通りすがりの女性の胸へとダイブしたヒーローさんの頭を噛みしだき、
それぞれの仕事を終えてやってきたヨミカワとヨシカワはお疲れ様と労いながら
ジュースとアイスを買ってくれ、
そんな賑やかな光景をお母様は笑いながら全てビデオに納めてくれた。


「それでね、すっごくすっごくすっっっごく!楽しかったんだよ!!!
 ってミサカはミサカは超・超・超・超・超ご機嫌にあなたに報告してみたり!!!」

「そォかよ、よかったじゃねェか。―――――よかったからピーマン残すンじゃねェ」

「むぅう。今日くらい頑張ったご褒美であなたが食べてよぉ、ってミサカはミサカは……」

「オマエの代わりに食うのは簡単だが後で女共にガミガミ言われンのは俺なンだよ。
 判ったらつべこべ言わずさっさと食っちまえ、お子様がァ」


むう。レディーに向かってお子様とは失敬な。
しかしお子様と言われようが何だろうが苦手なモノは苦手である。
馬に人参、猫にマタタビ(なんか違う)。
ご褒美の一つでもぶら下げてくれれば少しは食べる気になるのだが………


「そうだ!!ちゃんと食べれたらお母様の撮ったビデオ、一緒に見てくれる?
 ってミサカはミサカはピーマン片手にあなたに交渉してみる!!!」

「あァ、ハイハイ。ちゃんと見てやるから食っちまえェ」


――――――― 最初っから見るツモリだったっつーの、クソガキが。


小さく口を動かしたあなたが、ミサカはミサカは大好きだ。


いつもは苦くて食べられないピーマンが、
今日だけはキャンディーみたいに甘く感じた。




217 名前:部屋と大覇星祭とミサカ[] 投稿日:2010/11/21(日) 14:04:03.52 ID:PE2iLYA0 [12/31]



9月20日、大覇星祭2日目。


今日も皆はミサカの応援に来てくれるらしい。
持つべきものは、『仲間』と『家族』だ。


「今日は借り物競走だよね!!ってミサカはミサカは判り切ってても確認してみたり!!」

「おうおうテンション高いな~御坂。今日こそ『あの人』が来るのかにゃ~ん?」

「今日来れるかは判んないけど、ミサカが頑張ればお母様がビデオに撮ってくれるし
 あの人も見てくれるんだもん!ってミサカはミサカは優勝をここに大宣言!!!」

「優勝とか強気だねぇ。――― まあ御坂のためにいっちょ頑張ろうかね」

「任せとけ御坂!!この私の愛を持ってすれば優勝など軽いものだ!!!」


皆、ありがとね!!!最後のはヤツは[ピーーー]。
借り物競走はかつてお姉様が何処ぞのヒーローさんをひっ捕まえて
ラブラブ風景(意識してるのは一方だけだったけど)をテレビ中継させた伝説の競技だ。
もし競技中にあの人を見つけたら、「競技だから」って言って捕まえてやるのだ!!!
事実だし。


「競技に参加する学生は指定された場所に並んでくださーい」


「おっと。のんびりしてる場合じゃないや」

「張り切ってるとこ出られなかったら元も子もないしね」


待ってろよ!
ミサカが必ず捕まえてやるからな!!ムヘヘヘヘヘヘヘ!!!!!





218 名前:部屋と大覇星祭とミサカ[] 投稿日:2010/11/21(日) 14:04:33.88 ID:PE2iLYA0 [13/31]



「位置について、よーい、ドン!!!」


火薬の音と共にスタートダッシュ。
30メートル先の『借り物リスト』を1枚取ったら、
書かれている内容が借りられるまで学園都市内を走り回るハメになる地獄のゲーム。


(ミサカの、ミサカの借りるもの……!!!あの人からミサカが借りられるもの……!!)


これだァァァァアアア!!!!!!
勢いよく伸ばした手は競技に参加している学生の誰よりも早く、
積み重ねてあった他の数枚を吹き飛ばしながらこれぞという1枚の紙を素早く選別した。


(何が……何が書かれてる!!!?)


パラリと折りたたまれたそれを開くと、そこに書いてあったのは。


『Yシャツを着た人』


よっしゃァァァアアアアア!!!!!!!!
キタ━━(━(━(-( ( (゚∀゚) ) )-)━)━) ━━ !!!!!

キタよ、キタコレ、キましたよォ!!!
ミサカはミサカはやりましたぁぁあああああ!!!!!
Yシャツへの飽くなき執着がミサカを導いてくれたのね!!!!


既に何人かYシャツを着た観客とすれ違ったが、打ち止めはそれらを無視して走り続ける。
紙に書かれた内容を知っているのは今現在ミサカだけ。
だったら、少しくらい可能性に縋ったって良いじゃないか。
あの人に会える。
そんな、小さな可能性に。





219 名前:部屋と大覇星祭とミサカ[] 投稿日:2010/11/21(日) 14:05:06.10 ID:PE2iLYA0 [14/31]

競技場のある第17学区から第18学区へ向けて、打ち止めは走っていた。
第18学区には霧ヶ丘女学院や長点上機学園といったエリート校が軒並み揃っている。
それはつまり付属の優秀な研究所が沢山存在する、ということを示す。


ここならもしかしたら、あの人に会えるかもしれない。


打ち止めは僅かな希望を胸に抱きながら一方通行を探し始めた。
目立つ容姿だ、近くにいれば直ぐに見つけられる。


あの人の電波……
あの人の電波はないかな、ってミサカはミサカは……


かつてアホ毛をピーンと立たせながら行っていた『あの人サーチエンジン(お姉様命名)』
はアホ毛の無くなった今でも健在だ。
ついでにお姉様のネーミングセンスの悪さも(超電磁砲ドラマCD参照)。


「こっち!!こっちにあの人の電波をピーンって感じてみたり!!」


感じた電波を頼りに急いで方向転換。
足の軌道を左方向へ50度修正。


「いたーーー!!ってミサカはミサカは前方に白髪を発見うおおお!!って………アレ?」




『いいじゃねェか、そう言うなよ』

『良くないわよ。本当にアナタって自分勝手ね!』



―――――― 女の、人?





220 名前:部屋と大覇星祭とミサカ[] 投稿日:2010/11/21(日) 14:06:50.61 ID:PE2iLYA0 [15/31]

「いいじゃねェか、そう言うなよ」

「良くないわよ。本当にアナタって自分勝手ね!」


あの人はミサカの知らない女の人と一緒にいた。
大きな胸を強調させた服装、長い髪を2つに高く結った姿。
どちらもミサカにはないものだった。


「オマエだって嫌じゃない筈だぜ?アソコに行くのはよォ……だって、」


「           」


まるでキスでもするかのような、残酷なほどに近い距離であの人が何かを囁くと
女の人は顔を真っ赤にさせながらコクコクと大きく頷いた。


どうしよう。
声をかけるか。ではなく、この気持ちをどうしようか拱いているうちに、
あの女の人の能力だろうか。二人で何処かにテレポートしてしまった。


二人は何処へ行ったのだろう。
あの人は何を囁いたのだろう。


オトナの恋人同士が贈る、恥ずかしい言葉なのだろうか。
そうゆうことをする場所に、二人は向かったのだろうか。


お仕事じゃなかったの?
ミサカの所に来てくれるんじゃなかったの?


ミサカ達のために幸せの全てを継ぎこもうとしてくれているあの人に
そうゆう関係の女性が出来たというのなら、喜んであげるべきなのかもしれない。


良かったね?
おめでとう?
あの人に向かって何と言えばいいのか判らない。


もしあの人が結婚したらどうしよう。
二人が過ごす『家庭』という世界に、ミサカの居場所はあるのだろうか。



221 名前:部屋と大覇星祭とミサカ[] 投稿日:2010/11/21(日) 14:07:28.46 ID:PE2iLYA0 [16/31]





「ずっと一緒になんて、居られないんだね……」


知ってしまった。
気付いて、しまった。







222 名前:部屋と大覇星祭とミサカ[] 投稿日:2010/11/21(日) 14:08:01.99 ID:PE2iLYA0 [17/31]

結局『借り物』は途中で会った上条当麻に務めてもらった。
今にも泣きそうになっているだろうミサカのヒドい顔を見ても、
何も言わず手を握ってくれた。


徒競走であるはずなのに走る気にもなれず
ミサカとヒーローさんはとぼとぼと歩いてゴールを目指していた。


あの人を探していたときは直ぐに立取り付けた筈の道のりが
今は、とても遠く感じた。




借り物競走で一人に与えられているタイムリミットは45分。
折角つき合ってくれたヒーローさんには申し訳ないが、
このままではゴールに辿りつく前にゲームオーバーを迎えそうだ。


身勝手な理由で、競技を放棄してしまった。
ミサカのためにと頑張ってくれているクラスメイトに、合わす顔がなかった。


「う…うぅ、ヒグッ…う…」


いつもの語尾が出てこない。
あの人との思い出ばかりが走馬灯のように駆け巡る。


ミサカを護ってくれたこと。
ミサカを助けてくれたこと。
ミサカを抱きしめてくれたこと。

ミサカに、笑ってくれたこと。


ミサカの短い人生のほとんどは、あの人との思い出に占められている。

あの人と離れてしまう未来が想像できなくて恐かった。
いつかは離れてしまうという現実が恐ろしかった。





223 名前:部屋と大覇星祭とミサカ[] 投稿日:2010/11/21(日) 14:08:33.89 ID:PE2iLYA0 [18/31]


『借り物競走第3走者のタイムリミットは、残り1分となります。
 近くまで来ている競技者の皆さんはお急ぎください』




アナウンスが鳴り響く。
それでも、焦る気にはなれなかった。


繋いでいる手があの人だったら、二人で一緒に走ったのだろうか。
あの人におねだりして、お姫様の様に抱えて走って貰えたのだろうか。


あの人と、
あの人と一緒だったなら、
ミサカは。







その時だった。





「急げェ!!!ラストオーダーァ!!!!」


見なれた白髪が、そこに、いた。



224 名前:部屋と大覇星祭とミサカ[] 投稿日:2010/11/21(日) 14:09:04.43 ID:PE2iLYA0 [19/31]


ゴール地点の100メートル手前。
一方通行の、競技者の誰しもが必ず通るその道で、あの人はミサカを待っていた。



「急げェ!!!ラストオーダーァ!!!!」



ドクン、と心臓が大きく鳴った。
冷めきった熱が、熱い太陽に溶かされてゆく。


ふいに、繋いでいた手がゆっくりと剥がされた。
握られていた左手を辿りそっと真上を見上げると、
ミサカ達のヒーローは優しげに微笑んで、大きな掌で背中を押した。


「ホラ、行ってこい」



ありがとう!!!


語尾を忘れ、羞恥を忘れ。
大声で一つ叫んでミサカは、ミサカのYシャツを律儀に着たあの人の下へと走り出す。
幾度も救ってくれた恩人にはその短い一言しか思い浮かばなかった。


なぜなら、目の前のあの人のことでミサカの頭の中はパンク状態だったのだから!!!



「一緒に来て!ってミサカはミサカは叫んでみる!!!」



走りながら手を伸ばすと
骨ばったガリガリの細い手で、しかしそれでもしっかりと、
あの人はミサカの手を取ってくれた。


「一方通行超特急便へようこそマセガキ!!
 歯ァ食いしばってねェと、舌噛ンだところで当社は一切責任取りませンからなァ!!!」



225 名前:部屋と大覇星祭とミサカ[] 投稿日:2010/11/21(日) 14:09:30.04 ID:PE2iLYA0 [20/31]



カチリ。
チョーカーのスイッチ音がやけに大きく感じた。


ふわりと体が浮いたかと思うと、
地面を見て、
それが念願のお姫様抱っこだということに気がついた。


「凄いよ!速いよ!大好きだよ!!ってミサカはミサカはあなたにしがみ付いてみたり!!」

「歯ァ食いしばれっつったろォがクソガキ!!!公衆の面前で何言ってやがンだ!!!」


信じられないほどの猛スピードで、
その細い腕でミサカをしっかりと抱え込んだあの人は
観客達の熱い歓声を尻目にゴールのアーチへただひたすらに飛び込んでゆく。


パン、パァン!!
ゴールテープを切った合図を耳に感じた。



羞恥か疲れか真っ赤になったあの人の首に
超特急便は終わっているのに、ミサカは思い切り抱きついた。





226 名前:部屋と大覇星祭とミサカ[] 投稿日:2010/11/21(日) 14:10:28.41 ID:PE2iLYA0 [21/31]


やっぱり順位はビリッケツだった。
当たり前だ、寧ろゴールできたことが奇跡と言える。


「ゴメンね、皆~~~ってミサカはミサカは………あり?」


┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨……と何やら違うジャンルで流れてそうな効果音が
周囲一帯をせしめている。


「――――― ど、どうしたの皆、ってミサカはミサカは吃りながらも

「テンメェ御坂ァ!!!見せつけてくれやがってコンチクショォ!!!」

「このままゴールできないんじゃないかってハラハラしたアタシの気持ち返しやがれ!」

「お姫様抱っこ~~~ヒューヒュー♪」

「うがああああ御坂ぁああああ!!!!それでも私は愛してるぞぉおおおお!!!!!」


今更になって気付いた。
もしかしてアレは、凄く恥ずかしい光景だったんじゃいか?


「ふにゃぁ~~~ってミサカはミサカはぁああぁ………」

「あ、御坂倒れた」

「今更恥ずかしいと気付いたのか馬鹿め」


望んでいたお姉様とヒーローさんのテレビ中継のような伝説は、
とっくに越えてしまっていた。




227 名前:部屋と大覇星祭とミサカ[] 投稿日:2010/11/21(日) 14:11:03.15 ID:PE2iLYA0 [22/31]



「あ、あのね……あの……今日は来てくれてあ、ありがとねっ!」

「あァ」


あの人を含むミサカの応援に来てくれた皆は観客席でミサカを待ってくれていた。
さてさて気になるあの人はといえば、どうやら黄泉川あたりにからかわれていたらしい。
グチャグチャと豪快に頭をかき混ぜられながら気恥ずかしそうにぶーたれていた。


「それでねそれでね、そのぉ……ミサカは、その、聴きたいことが、
ってミサカはミサカは……う~~~」


聴きたいことは山ほどある。
お仕事はどうしたの?
どうしてミサカのところに来てくれたの?
さっきの女の人は?

そしてなにより
「あなたが誰かと結ばれたとき、ミサカはあなたの傍にいられますか」?


疑問と嫉妬と祝福と願望がパレットの上で一緒くたにされた絵の具の様に混沌を描いていく。
何と言えばいいのか判らない。
判っている筈なのに言葉が出ない。


矛盾した感情。
矛盾した思い。


言葉と一緒に、息が、詰まる。


「―――――― あの、ね。ミサカはね、あなたに言わなきゃって……その、その……
「あら一方通行、どうなの?結局間に合った?」


言い淀む自分の頭上から影が落ちる。
聴きなれない声に恐る恐る振りむけば、そこには
あの人の『大切な人』が。笑顔を浮かべて立っていた。





228 名前:部屋と大覇星祭とミサカ[] 投稿日:2010/11/21(日) 14:11:32.27 ID:PE2iLYA0 [23/31]

「感謝なさいよ一方通行、ぜーんぶ私のお蔭なんだから。そうだ、今度何か奢りなさいよ」

「うっせェなァ。テメェだって『良いモン』見れたんだ、文句ねェだろ」



親しげに話す2人。


「………そっか」


全くの他人から見れば素っ気ない会話の様に聞こえるが、
あの人がここまでぶっちゃけた風体で話しかけるのは
ある程度の信頼を勝ち得たものだけだということを、ミサカは知っていた。


「………そっか。あなたが認めた、人なんだね」

「あァ?」


あなたと彼女を見て、決心がついた。
もう迷わない。
あなたが選び、あなたが認め、あなたが大事に思う人なら。
ミサカはきっと受け入れられる。


その人があなたを選び、あなたを認め、あなたを大事にしてくれるなら。


「本当に、本当におめでとう!ってミサカはミサカは祝福の詔をあげてみる!!!」






「何言ってンだ?クソガキ?」





229 名前:部屋と大覇星祭とミサカ[] 投稿日:2010/11/21(日) 14:12:07.78 ID:PE2iLYA0 [24/31]




「何言ってンだ?クソガキ?」

「………………………………………へ?」

「めでてェのはオマエの方じゃねェか、クソガキ。結局ゴールできたンだしよォ」

「………………………………………へ?」

「気に食わねェが結標に感謝しとけェ、俺をここまでテレポートさせたのはコイツなンだしよォ」

「あらあら、この子の前じゃ少しは素直になれるのね」

「………………………………………へ?」



つまり、つまり。―――――――― つまり、どうゆうことだってばよ?
イヤイヤイヤイヤ、ネタをかましている場合じゃない。
つまり本当にどうゆうことだ。


あの女の人があの人をここまで運んでくれて、
あの人はそれでミサカとゴールしてくれて、
でもあの人とあの女の人は恋仲なわけで、
『アソコ』とやらに頬を染めながら2人して行っちゃう仲なわけで、


「つまりミサカは、いやあの人は、つまりミサカがミサカがミサカがミサカががががが」

「あら、フリーズしちゃったわね。こうゆう場合ミサカネットワークにはどんな影響が
 出るのかしら」

「研究員魂燃やしてる場合じゃないじゃん桔梗!!大丈夫か打ち止め!!」





230 名前:部屋と大覇星祭とミサカ[] 投稿日:2010/11/21(日) 14:12:41.60 ID:PE2iLYA0 [25/31]

ハァ―――――、
と長い溜息を洩らしながらあの人が歩み寄ってくる。
ああどうしよう何も考えられない。
え?結局どうゆうことなの?
あなたはあの女の人(ムスジメさん?)と結婚するんじゃないの?
ミサカはいらない子になっちゃうんじゃないの?


「様子がおかしいって三下から聞いちゃいたがァ、やっぱ見てやがったなクソガキ」

「―――――――― へ?」


思わずヒーローさんの方を振り返る。
「俺今回はちょっとイイことしたんじゃね?」とかお姉様に同意を求めるヒーローさんは
こちらの視線に気付きニコニコとサムズアップ(親指立ててGJのポーズ)してくれた。


「見てたンだろ、クソガキィ。第18学区で俺が結標と話してたのをよォ」

「…………うん、ってミサカはミサカは小さく肯定してみる」

「大方それでいて『でも大事な部分は聞こえませンでした』ってトコかァ」

「―――――――うん」


なら教えてやるよ、クソガキ。
俺があの女に何囁いたか。


いつもの乱暴な口調じゃなくて撫でるような宥めるような声で言うのだからズルイ。
そんな風に言われたら、話を聞くしかないじゃないか。






「聞いて驚け、答えは『汗掻きショタもいるだろうぜ』だこのマセガキがァ!!」

「やめてそんな大声で人の隠れた趣味を暴露しないでぇぇぇぇえええええ!!!!!!!」


あの人の『彼女』の悲鳴が、大勢の観客の下へと波のように広がっていった。




231 名前:部屋と大覇星祭とミサカ[] 投稿日:2010/11/21(日) 14:13:15.30 ID:PE2iLYA0 [26/31]



話を要約すると、こうだ。
仕事を終えたあの人はミサカの下へと向かう途中『元同僚』の結標さんに遭遇したらしい。


仕事先で起きたトラブルでチョーカーの充電を大分消費していたあの人は、
ミサカの競技へと急ぎたいが能力を使うワケにもいかずヤキモキしていたところで結標さんを発見し、
これ幸いとテレポートをお願いしたそうだ。


しかし当然結標さんには結標さんのスケジュールというものがあるわけで
渋る彼女に向かい、あの人はこう説き伏せたという。


『大覇星祭ってのはよォ、幼稚園児も小学生も参加してンだ。
 一 生 懸 命 頑 張 っ て 走 る 汗 掻 き シ ョ タ も 見 れ る か も な ァ 』


実はショタコンというとんでもない性癖を持っていた結標さんは
その言葉につられて一も二もなくすぐ会場へとテレポートしてくれた。
あの人の言を借りるなら「あの女が相変わらず歪みねェ変態で助かった」、だそうだ。


ミサカの参加競技は判っていても現在位置まで把握できていないあの人は
競技者なら誰しもが通るゴール手前でミサカのことをずっと待ってくれていたらしい。


しかし一人勘違いを起こしているミサカは、あの人からしてみれば何故かなかなか来ない。


そんな時に「ミサカの様子がおかしい」とヒーローさんから連絡を受け
(ミサカがヒーローさんに気付く前に連絡を入れ、
それからミサカとずっと一緒にいてくれたそうだ。なんとも気のきくヒーローである)
敏いあの人はそこで全てのカラクリに気付いたということだ。




「人の色恋云々なンて、オマエにゃ100年早ェンだよこのマセガキがァ」





232 名前:部屋と大覇星祭とミサカ[] 投稿日:2010/11/21(日) 14:13:46.95 ID:PE2iLYA0 [27/31]



後でお姉様に教えてもらったところによると、
ミサカを抱えて走り出した時点でチョーカーの充電は本当にギリギリだったらしい。


後先考えずミサカのゴールを優先してくれたあの人は、
ゴールテープを潜ったミサカがクラスの輪へと戻っていくところを見届けると
直ぐに充電切れでぶっ倒れたそうだ。


先程まで元気だった人が急に倒れ、
尚且つ目の焦点もあってないというのは結構な騒ぎになったようで
それに気付いたお姉様がすぐさまあの人を回収し能力で充電してあげなければ
救急車で運ばれていてもおかしくない状態だったとそこで知った。




233 名前:部屋と大覇星祭とミサカ[] 投稿日:2010/11/21(日) 14:14:20.75 ID:PE2iLYA0 [28/31]



お姫様だっこでゴールする瞬間もばっちり収めてくれたお母様のビデオは、
今ではミサカの宝物になっている。


あの人と一緒に見ようとすると恥ずかしがって席を立ってしまうけど
ミサカは毎日のようにテレビの前でニヤニヤしながらその映像を堪能している。


『一方通行超特急便へようこそマセガキ!!
 歯ァ食いしばってねェと、舌噛ンだところで当社は一切責任取りませンからなァ!!!』


「えへ、えへへへへへへへってミサカはミサカは………

「たでェまクソガキ……ってオマエ大音量で何見てやがる!!!!!」

「ええ~?いいじゃない、ってミサカはミサカはぶーたれてみたりぃ……
 ―――――まぁいいや、それより明日は玉入れだよ!あなたが来るの、待ってるからねっ!!」

「上等だクソガキ。嵐だろうがなんだろうが、絶対見に行ってやンよォ。」


俺達ァ、『家族』、だからな。


小さく呟くあの人。
やっぱり、ミサカはミサカはあなたが大好きだ!!!!!!



彼女たちの大覇星祭は、まだまだ始まったばかりである。



                               『部屋と大覇星祭とミサカ』(完)


Tag : とあるSS総合スレ

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