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上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」
522 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:28:06.63 ID:gRhL.9A0 [2/27]
需要あるっぽいので、続きを書いてみました。
このスレの>>344(上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」)からです。
需要あるっぽいので、続きを書いてみました。
このスレの>>344(上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」)からです。
523 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:28:57.85 ID:gRhL.9A0 [3/27]
「さて、取り敢えずどうすっか……」
街中を歩きながら、上条は意見を求めるように呟いた。
インデックスが泣き止んで数十分が経ち、朝ご飯代わりのハンバーガーをぱくつきながら彼が考えているのは勝利条件について、だ。
目的を、ゴールを決めなければ精神的に魔術師達から逃げにくくなってしまう。
その上条の問いに、半分貰ったハンバーガーを丸呑みしてからインデックスは、
「んぐっ……うん。私はイギリス清教所属のシスターだから、同じイギリス清教の教会に逃げ込めば匿って貰えると思う」
「と、なると当面の目的はこの学園都市から出ることかぁ」
学園都市は科学の街だ。
いくつか教会はあるとはいえ、それらは魔術に関わっているようには思えない。
宗教というよりは学問の教会といった方が正しい。
「でも学園都市から出る、っていっても簡単じゃないんだよな……お前ID無いだろ?」
「あいでぃー?」
首を傾げるインデックスを見て、苦笑いしながら上条は頭を撫でてやる。
「あれ?ちょっとバカにされてるかも?」と思いながらも、なでなでされるインデックス。
そんな彼女を見てると、先程歩きながらこっそり聞いた、世界中の原典をその脳に秘めた、汚れ役などにはとてもでは無いが見えない。
そんなことをしているうちにも、歩みは止まらない。
524 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:29:47.36 ID:gRhL.9A0 [4/27]
(学園都市から出る……出来れば誰も巻き込みたく無いけど、“アイツ”に頼るしか無いか?)
上条がそんな思考を展開していると、ふと大通りから出たことに気がつく。
周りの人だかりは落ち着き、道横にはカフェやファミレスなどの飲食店などが立ち並ぶようになっていた。
辺りはうって変わってゆったりとしたスペースが増え、騒音に紛れながら会話することが不可能となる。
「…………んっ?」
ここで、上条は知り合いを見た。
知り合いたる彼女は、ファミレス店の壁に寄りかかるようにして立っていた。
茶色の髪に、茶色の瞳。
雪のように白い肌を包むのは、この学園都市でも屈指のお嬢様学校、常盤台中学の制服。
ベージュ色のベストに、かなり丈が短いスカートが特徴的だった。
彼女も此方に気がついたのか、若干下を向いていた視線を上げ、上条を見る。
525 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:30:23.87 ID:gRhL.9A0 [5/27]
プラス、隣に立っているインデックスも含めて。
「……?ねー、とうま。あの短髪の人と知り合いなの?」
「あー、いや、知り合い、なのか?」
「……」
そんなやり取りを二人が行っている間にも、彼女は茶色の目を点にして二人を見る。
やがて目が緩んだかと思うと、驚きの早さでポケットから携帯電話を取り出した。
取り出した緑色の、ゲコ太と呼ばれるマスコットキャラクターを象ったお子様携帯に上条が反応することは無い。
何故なら、
「あっ、すみません、警備員(アンチスキル)ですか?小さい子にコスプレ着せた変態男が「いやいや待て待って待って下さい三段活用!!」
犯罪者としての誤解を解くため、上条当麻は彼女の口を塞ぐべく飛びかかった。
彼女はこの街に七人しか居ない、超能力者(レベル5)の一人。
第三位、『超電磁砲(レールガン)』御坂美琴である。
526 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:30:59.09 ID:gRhL.9A0 [6/27]
「あっはっはっはっー。モノホンのシスターだったの。ごめんごめん」
「犯罪者認定一歩手前まで行った上条さんとしては、そんなに簡単に謝れると怒りが湧き上がってくるんですが……」
「とうま。終わったことなんだから、ネチネチ言ってると罰が当たるんだよ?」
「罰が当たらなくてもどうせ上条さんは不幸だらけですよーだ!」
オープンテラスのカフェ。
白い強化プラスチック製の丸いテーブルに、上条は上半身を突っ伏した。テーブルの上には美琴が注文したミルクティーも置いてある。
あれから誤解を解くのに全力を使った彼は頬をベターとテーブルに密着させながら、自己紹介を済ませている女性二人を見た。
魔術師と戦ったのより、はるかに疲れるんですがーと上条は心中で呟きながら、予め考えていた設定を口に出す。
「……で、俺の親父の友人の娘らしくてな。俺が学園都市を案内してるんだ」
「ふーん。女の子に優しくすることも出来たのね、アンタ」
「お前の中で俺はどんな立ち位置なんだ!?」
「相手が悪いと思ったら誰かまわず殴り飛ばす男。で、女の子の気持ちに全く気がつかないクソ野郎」
「一体なんでそんな評価に……」
数少ない、女の知り合いによる自分に対しての評価に、上条は精神的にダメージを受ける。
そんな二人の会話に、黙っていたシスター少女が割って入った。
527 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:31:33.96 ID:gRhL.9A0 [7/27]
「で、みことはとうまと知り合いなの?」
「うーん、知り合いっていったら知り合いね。二ヶ月前に会ったばっかだけど」
「不良達に巻き込まれて電撃喰らいかけたことは、絶対に忘れない……!」
「あれはアンタのタイミングが悪かっただけでしょ。男が細かいこと一々気にしない」
この二人の出会いはソレ程対した物でも無い。
ただ不良達に囲まれていた美琴を、上条が根性出して助けようとした瞬間、不良達に向かって美琴が電撃放出。
まぁ言ってしまえば、上条が不幸なだけだった。
その時の電撃を右手で防いだのに驚かれ、何故かこうやって時々街中であってしまう仲に。
それらをぽけーと思い起こしていると、
「ふーん。とうまって女たらしだったんだ」
「何を聞いたのでしょうかインデックスさん!?」
じとーとした目で見られ、のけ反る上条。
のけ反る上条をじとーとした目でみるインデックス。
どうやら彼女は何時の間にか美琴からとんでも無いデマ(だと上条は思っている)を吹き込まれたらしい。
これが、第三位の力か…….っ!と、心震わせつつこの状況を作り出した少女を恨めし気に見る。
528 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:32:11.57 ID:gRhL.9A0 [8/27]
「…………?」
が、気まずい空間を作り出したことへの抗議の言葉は、出なかった。
何故なら、
「……みこと?」
「んっ?なに?」
「どうして、そんな泣きそうな顔してるの?」
カチャリ、と。
テーブルの上に置かれた、ミルクティーのカップを持ち、美琴の動きが止まる。
彼女の表情は、少し、いや、ハッキリと暗かった。
まるで、自殺寸前の人間みたいだったと上条は思う。
目は暗く、澱んでおり、上条とインデックスに向けるのは何らかの嫉妬の視線。
表情は白い肌が更に白くなっており、血が本当に血管を流れているのか心配になる程だった。
だが、インデックスに声をかけられた瞬間、暗さはなりを潜め、先程までと同じ明るい顔となる。
でも、暗い表情を見た上条には、無理しているようにしか見えない。恐らく、インデックスも同じだろう。
529 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:32:56.30 ID:gRhL.9A0 [9/27]
「……大丈夫よ。ちょっと、色々あってね」
「何か悩み事があるなら相談に乗るんだよ。私はシスターだからね」
「ふふっ……ありがと。気持ちだけ受け取っとくわ」
むぅ、と唸るインデックスに言葉を返し、上条の方へと美琴は視線をうつす。
「なんかアンタ達も訳有りなんでしょ?」
「……やっぱり分かるか?」
上条は頭を恥ずかしそうにガシガシかく。
どうやら、さっきの嘘の設定もばれてるようだ。
なんとなくだが、そんな感じがする。
「まっ、色々おかしいしね。インデックスっていう名前からしておかしいもの」
「……まぁ、確かに」
目次、なんていう名前の人間なんか、この世に殆どいない。
だけどまぁ、と美琴は、
「あんまり深くは聞かないし、他言もしない。でも、あんまり無茶はしないのよ?」
「あー、うん。なるべく善処する」
「とうま!」
「おわっ!?」
530 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:33:35.33 ID:gRhL.9A0 [10/27]
いつ近付いたのか、ずいっと顔面至近距離衝突ギリギリまで迫った少女の顔に、思わずドキンッ、としてしまう上条。
対するインデックスは可愛らしく頬を膨らませながら、
「とうまが私のために戦ってくれるのには嬉しいけど、無茶はだめだよ!とうまが怪我したりしたら、意味が無いんだから!」
「は、はい……」
上条がどもりながら返事を返すと、よしっ!と言って視界一杯に広がったインデックスの顔が離れて行く。
それに少々未練を覚えながらも、彼は椅子から立ち上がった。
「えっと、俺ら行くな?」
「正直今の会話聞いてますます思うところが増えたけど、まぁいいわよ」
「……ありがとな」
「別に、気にしなくていいわ。まぁ精々折角の出会いをおじゃんにしないことね」
「分かってるって」
そして上条はテーブルから離れる。
此処では無く、知り合いに電話するために目立たない場所へと。
「……ねぇ、みこと」
「……なに?」
が、インデックスはその後を直ぐに追わなかった。
椅子から降り、まだミルクティーのカップを持ったままの美琴に尋ねる。
少し、真夏の空気を誤魔化すような風が吹く。
彼女に、インデックスは問いかけた。
「さっきの『無茶するな』っていう言葉は、本当は誰に言いたいの?」
531 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:34:18.78 ID:gRhL.9A0 [11/27]
「……シスターって、凄い」
上条とインデックスが居なくなった後、最初に美琴が発した言葉がそれだった。
感情を隠すのが苦手とよく周りから言われるが、それでもここまで見抜かれるとは。
「インデックス、かぁ……」
あんなに小さなシスターなんて居るんだな、と思っていた第一印象は即座に塗り替えられた。
あれは、あんなに小さいながらも自分より、遥かに『違う』。
「……悩み、打ち明けてもよかったかなぁ……」
と、口に出してから心中で否定する。
だめだ。これは、自分の問題であり、何か事情がありそうな彼女に打ち明けるような物ではない。いや、誰だろうと打ち明ける訳にはいかない。
第一、打ち明けても無駄だ。
この問題は、どんなヒーローが現れても解決しない。
美琴は、それを知っている。
自分の脳みそに刻み込まれていてもおかしくない程、知っている。
だから、彼女は、
~~~~~♪
「ーーー」
532 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:35:02.19 ID:gRhL.9A0 [12/27]
携帯が鳴った。
ただし、先程上条達の前で取り出したゲコ太の携帯では無い。
左のポケットから取り出されたのは、機能性重視がハッキリと分かるメタルシルバーの折り畳み式携帯だった。
初期設定の、無機質な着信音が鳴り続ける。
「……」
彼女は立ち上がり、ミルクティーの代金を台の上に置いて歩き出す。
ピッ!
「……もしもし」
『私よ、私』
「私私詐欺は間に合ってるんで。では」
『冗談よ。というより、声で分かるでしょ?』
携帯の向こうに聞こえないように、美琴は不機嫌そうな息を吐く。
実際その通りだからだ。
この携帯の向こうにいる人物の声を間違えることなど、これからの人生でも絶対にないだろう。
「……で?要件は何ですか“センパイ”?」
533 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:35:43.68 ID:gRhL.9A0 [13/27]
『敬語じゃなくてタメ口でいいのに。序列は貴方の方が上なんだから』
「じゃあ其方から敬語を止めて下さい」
『敬語口調が私のキャラだからダメよ』
クスクスと、僅かな笑い声が微かにだが聞こえる。
彼女は歩きながら会話を続ける。
「ねぇセンパイ。無駄な会話は止めにしませんか?どうせ“仕事”なんでしょ?」
『あぁ、ごめんなさい。心を読めない会話はつい楽しくって』
「はぁ……」
今度は向こうに聞こえるように、ハッキリため息を吐く。
これくらいはやらないと鬱憤は晴れない。
彼女は歩く。
その足は、路地裏、深い深い闇の方へと進んでいた。
先程のカフェからも既に遠い。
「で?内容は?」
『せっかちね……今回は少々特殊よ』
「特殊?」
『暗部じゃなくて、超能力者(レベル5)への指令なのよ。だから実質、レベル5傘下の能力者何人か以外はこの任務に関わらないわ』
534 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:37:10.13 ID:gRhL.9A0 [14/27]
「レベル、5のみ……」
『当然、全員よ。“彼”も勿論、ね』
「……」
美琴は無言。
彼女は歩き続ける。
「あん?嬢ちゃんなんでんなとこにガァッ!?」
彼女は歩き続ける。
「テメェ!?一体何ガァァアッ!?」
彼女は歩き続ける。
「ひ、ひぃぃぃいっ!?た、助けぁああああああっ!?」
彼女は歩き続ける。
「こ、の、化けもん、が……」
彼女は歩き続ける。
彼女は、歩き続ける。
やがて、ピタリと足を止める。
そこは路地裏の中でもかなり開けた空間だった。
美琴は携帯を耳に当てたまま、背後を振りかえる。
そこには、電撃で死なない程度にまで痛めつけられた不良達の道が出来ていた。
ピクピクと、時折痙攣するところから、かろうじて死んでいないのが分かる。
『あれ?能力使った?通信が悪くなったわよ』
「ちょっと邪魔だったので。で?内容は?」
535 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:40:57.83 ID:gRhL.9A0 [15/27]
人を痛めつけても何も思わなくなった自分に、美琴は笑う。
愚かだと、馬鹿だと。
唯一の救いは、人をまだ殺していないことか。
だが、今回の仕事の内容次第では、いや、いつかこの手を直接血に染める時が来るのだろう。
それが早いか遅いか、ただそれだけだ。
『今回の内容は捕獲。よかったわね』
「ターゲットは?」
少しホッとしながらも、彼女はそれを見せない。
携帯の向こうに居るのはある程度信用にあたいする人間とはいえ、余り弱い所は見せたくない。
『この電話の後に写真データごと全部資料送るわ』
「……センパイも出るんですか?」
『まぁ、統括理事長直々らしいからね。上層部の連中ならいずしらず、一番上からだから』
内心。
美琴は驚いていた。
まさかトップが動くとは。
だが、同時に打算も働く。
上手く立ち回れば、『救える』かもしれない。
救うというよりは、元に戻す、だが。
「……そうですか、では」
返事を聞かず、通話を遮断する。
ふぅー、と大きく息を吐き出し、空を見上げた。
切り取られた視界から覗く空は何処までも青く、何処までも綺麗だった。
~~~~~♪
またもや携帯が鳴る。
ただし今度はメールだ。
彼女は携帯のボタンを押し、中身を見る。
そこに映っていたのは、白い修道服を着て満面の笑みを浮かべた少女だった。
あの、インデックスという少女だった。
536 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:41:48.52 ID:gRhL.9A0 [16/27]
■
「とうま、どうするの?」
「俺の友達の力を借りようと思う」
第七学区に存在する、廃墟ビルの一つ。
その瓦礫と剥げた塗装が目立つ中で、上条とインデックスは会話していた。
上条が自分の携帯を見せながら言った言葉に、インデックスは下を向く。
彼女は何も言わないが、大体何を考えているが分かる上条は、苦虫を噛み潰したかのように表情を歪め、
「分かってる。けど、やっぱり二人じゃ無理なんだ」
そう、無理だ。
ただのサラリーマンが時限爆弾のタイマーを解除出来ないように。
ただの高校生である上条には、インデックスを外に連れ出すだけの手札さえない。
手札(知識)があれば立ち回れるが、それが無ければ逆にどうしようもなくなるのだ。
537 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:42:27.90 ID:gRhL.9A0 [17/27]
インデックスの不安を拭うように、彼女に目線を合わせるように屈んで喋る。
「今から呼ぶのはそれなりの奴だ。俺と違って手札(知識)も一杯持ってる。……それに、信用出来る」
「……うん、分かった」
インデックスは頷いた。
そして顔を上げ、
「私は、とうまを信じてる」
そう、目を見つめながら言った。
「……いいのかよ、神様を信じてるシスターさんがんなこと言って」
「いいんだよ。信仰と信頼は全く別物だから」
そうか、と上条は笑いながら言った。
そうなんだよ、とインデックスは笑いながら言った。
もし、この光景を見た人が居たとして、誰が信じてるだろうか?
この二人が、この世界に嫌われた不幸な者だと。
538 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:43:03.99 ID:gRhL.9A0 [18/27]
ピピピッ!と、突然電子音が鳴り響く。
音源は上条の携帯からだった。
インデックスは上条の持つ携帯を見つめ、
「さっきから気になってたんだけど、なんなのそれ?」
「何って……携帯電話」
「ケータイデンワー?」
こりゃ驚いたと、上条は少しだけ引いてしまう。
掃除ロボットを見た時や自動販売機を見た時も思ったが、この少女はとにかく科学の知識が無いらしい。
「えーとだな、これは遠くの人と何時でも何処でも会話出来る道具だ」
「むむっ!?か、科学は使い魔だけでなく、誰でも使える通信用霊装まで作り出したの?怖るべし科学……」
なんだかとんでもない勘違いをしてそうな彼女を横目に見つつ、上条は耳に携帯を当てた。
「もしもし?」
『上条ちゃんっ!!』
「おわっ!?」
イキナリの大声に、鼓膜がキーンッ!と痛む。
携帯から聞こえて来たのは甲高い、子供のような声だった。
539 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:43:42.09 ID:gRhL.9A0 [19/27]
「なんだ、小萌先生か」
『なんだ、では無いのですよー!』
声の主は上条の担任教師だった。
声のみなのでまだましだが、見た目は小学生程度のミニマム教師で、とてもでは無いが大人には見えない。
『上条ちゃん補修はどうしたんですかー!?今日あるって朝言いましたよー!?』
「……あっ」
間抜けな声を上条は上げる。
そういえば、そんなものもあった。
そのせいで朝ローテンションだったというのに。
チラッ、とインデックスの方を見る。
彼女は「?」と首を傾げていた。
返事は、既に決まっていた。
「……すみません、先生。今、補修なんかより百万倍大切なものがあるんです」
『……』
普段なら「そんなこと言ってたら将来大変ですよー!?」と言って来そうだが、上条の言葉に秘められた重さを感じ取ったのか、沈黙が帰ってくる。
540 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:44:17.09 ID:gRhL.9A0 [20/27]
………………。
やがて、向こうから声が発せられた。
『……全く、上条ちゃんは本当におバカさんですねー』
言葉には呆れと、心配と、少しの嬉しさが篭っていた。
上条は察する。
だから、
「……ありがとうございます」
心を込めて、礼を言った。
『でもあんまり危ないことはしないで下さいね。上条ちゃんも、私の大切な生徒なんですからー』
「はははっ……」
グイッ。
「んっ?」
(…………)
上条はズボンを引っ張られ、みるとインデックスが不安気な顔をしている。
巻き込んで迷惑をかけたことを、心配しているのか。
彼は気にすんなという思いも込めて頭を撫でる。もうすっかり撫でるのにも慣れていた。
上条の手から伝わる心地よさにインデックスは目を細める、
が。
ふと、上条の手に反応しなくなり、どこか一点を見続ける。
釣られるように上条も視線を動かす。
541 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:44:52.58 ID:gRhL.9A0 [21/27]
廃墟ビルの部屋。その入り口、二人の前方に男が立っていた。
身長は百八十はあり、耳にピアス、そして青い髪が特徴だ。
そして、上条と全く同じ制服を着ていた。
「青髪?」
男のあだ名を呼ぶ上条。
彼は青髪ピアスというあだ名の、上条のクラスメイトだった。
その変態性はともかく、以外といい奴なので上条とよくつるんでいる。
だが、と、上条は疑問に思う。
彼は上条と同じように補修組の筈。
なのになんでここに居るのか。
なんで、なんで。
何故、こうも見ているだけで不安に思う?
542 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:45:32.27 ID:gRhL.9A0 [22/27]
『青髪ちゃんもそこに居るんですかー?』
「えっ、いやその……」
呟きが携帯の向こうにも伝わっていたらしい。
インデックスを少しずつ左手で下げながら、上条は何故か全神経を集中させた。
何故なのか、上条にも分から無い。
目の前に居るのは友達……親友の筈なのに。
そして、答えを考える上条の耳に、
『青髪ちゃん、五分程前に教室から出て行っちゃったんですよー』
その後、何か言ったかもしれないが上条は認識出来なかった。
それよりも、無視出来ないワードがあった。
五分。五分前。
あり得ない、と上条は思う。
この廃墟ビルから学校まで五分で移動するなんて、絶対に、どんな手段を用いても不可能だ。
それこそ、上条が想像も出来ないような移動手段でも無い限り。
543 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:46:20.35 ID:gRhL.9A0 [23/27]
やがてプツン、と携帯から音がしなくなる。通話を切ったからだ。
ゆっくりと、ポケットに携帯を入れ直し、青髪ピアスを見てーーー
「あっ」
上条は気が付いた。
漸く気が付いた。
自分が、どうしてここまで不安になっているのか。
笑っていないのだ。いつも、場をバカな発言で和ませる彼の顔が。
「」
動けたのは、経験故か。
横にスライドするように、インデックスがいない右側に回る。
ジャリッ、と。靴の底が瓦礫の欠片を砕く。
瞬間、元いた場所を拳が通過した。
遅れてゴバッ!と、何かが砕ける音が鳴る。
音が鳴ったのは、青髪ピアスが元いた場所。
コンクリートの床が、膨大な衝撃を受けたかのように粉々になっていた。
そして、上条が躱した拳の主は、彼に決まっていた。
544 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:46:59.21 ID:gRhL.9A0 [24/27]
(ーーーッ)
ゾクッ、と。
上条の全身が震える。
今のは、人間が生身で出せるような早さでは、無い。
いや、出したとしても逆に体が壊れるくらいの速度だった。
それに、信じられなかった。
青髪ピアスは、上条と同じ無能力者(レベル0)の筈だ。
なのに、何故。
何らかの薬や兵器でも使っているのか。
一瞬と呼ばれる時間の間に、様々な思考が駆け巡る。
「テ、メェ……何しやがる!?」
だが上条がしたことは、真正面からから殴りかかることだった。
難しいことは抜きにして、とにかくいつものように殴り返そうと、右のストレートを放ったまま止まっている青髪ピアスの顔面へと、右の拳を叩き込んだ。
ゴンッッッ!!!と、打撃音が鳴る。
ただし、壁と肉がぶつかったような、だ。
545 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:47:43.65 ID:gRhL.9A0 [25/27]
「ーーっ!?」
ズキンッ!と、右手から痛みが生じる。
青髪ピアスの顔面に拳はしっかりと当たっている。頬をえぐるような形だ。
しかし、何故か壁に拳を叩きつけたかのように、右手に痺れが走る。
「……」
そして思わず固まっている間に、強く右手を右手でひっ掴まれた。
上条が掴まれたことに反応し、動こうとした時には、
ブンッ!!と、思いっきり投げられていた。
(……はっ?)
余りの出来事に、上条は宙を舞いながら呆然とする。
実際、彼がやられたことは単純だった。
右手を持ったまま、片手で袋を投げるように投げられた。
体重移動とか、重心とか、力を受け流すとか、そういった技術など無い。
ただ掴んで投げる。
上条は、それをされただけ。
あり得ない。普通の人間なら肩を壊す行為。
上条の腕が壊れてないのは、たんに運がよかったから。
546 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:48:19.20 ID:gRhL.9A0 [26/27]
そして、上条はゴミの如く十メートル先の壁に叩きつけられる。
轟音が、廃墟ビルの部屋に響いた。
「がっ……がぁぁぁああああああああああああああああああああっっっ!!?」
絶叫。
壁が悲鳴を上げる程の速度で叩きつけられた上条の喉から、張り裂けんばかりの絶叫が響く。
メキメキと、体の悲鳴が直接脳に伝わった。
「とうまっ!」
「がっ……ぐっ……」
ズルズルと、壁に寄りかかり座り込む上条に駆け寄るインデックス。
その姿を見て、必死に力を振り絞り、立ち上がる。
膝は情けなく震え、右手はズキズキと全体が痛むがそれでも、立ち上がる。
立ち上がり、彼は問いを発した。
現実を、信じたく無いがために。
だが、彼は分かっていた。現実は変わらないと。
「お前……誰だよ」
それ故、言葉は疑問系で無く、されどゆっくり二人に近付く彼は答える。
「学園都市序列第六位『肉体変化(メタモルフォーゼ)』」
その姿は、上条が知る親友の姿では無くーー
ただただ、任務を遂行するだけの兵器(人間)が居た。
547 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:50:40.57 ID:gRhL.9A0 [27/27]
ここまで。
面白いと思って頂けたらこれ幸い。
かなりオリジナル設定(自己解釈)も入るけど大丈夫かなぁ……
感想など、くれると嬉しいです。
「さて、取り敢えずどうすっか……」
街中を歩きながら、上条は意見を求めるように呟いた。
インデックスが泣き止んで数十分が経ち、朝ご飯代わりのハンバーガーをぱくつきながら彼が考えているのは勝利条件について、だ。
目的を、ゴールを決めなければ精神的に魔術師達から逃げにくくなってしまう。
その上条の問いに、半分貰ったハンバーガーを丸呑みしてからインデックスは、
「んぐっ……うん。私はイギリス清教所属のシスターだから、同じイギリス清教の教会に逃げ込めば匿って貰えると思う」
「と、なると当面の目的はこの学園都市から出ることかぁ」
学園都市は科学の街だ。
いくつか教会はあるとはいえ、それらは魔術に関わっているようには思えない。
宗教というよりは学問の教会といった方が正しい。
「でも学園都市から出る、っていっても簡単じゃないんだよな……お前ID無いだろ?」
「あいでぃー?」
首を傾げるインデックスを見て、苦笑いしながら上条は頭を撫でてやる。
「あれ?ちょっとバカにされてるかも?」と思いながらも、なでなでされるインデックス。
そんな彼女を見てると、先程歩きながらこっそり聞いた、世界中の原典をその脳に秘めた、汚れ役などにはとてもでは無いが見えない。
そんなことをしているうちにも、歩みは止まらない。
524 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:29:47.36 ID:gRhL.9A0 [4/27]
(学園都市から出る……出来れば誰も巻き込みたく無いけど、“アイツ”に頼るしか無いか?)
上条がそんな思考を展開していると、ふと大通りから出たことに気がつく。
周りの人だかりは落ち着き、道横にはカフェやファミレスなどの飲食店などが立ち並ぶようになっていた。
辺りはうって変わってゆったりとしたスペースが増え、騒音に紛れながら会話することが不可能となる。
「…………んっ?」
ここで、上条は知り合いを見た。
知り合いたる彼女は、ファミレス店の壁に寄りかかるようにして立っていた。
茶色の髪に、茶色の瞳。
雪のように白い肌を包むのは、この学園都市でも屈指のお嬢様学校、常盤台中学の制服。
ベージュ色のベストに、かなり丈が短いスカートが特徴的だった。
彼女も此方に気がついたのか、若干下を向いていた視線を上げ、上条を見る。
525 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:30:23.87 ID:gRhL.9A0 [5/27]
プラス、隣に立っているインデックスも含めて。
「……?ねー、とうま。あの短髪の人と知り合いなの?」
「あー、いや、知り合い、なのか?」
「……」
そんなやり取りを二人が行っている間にも、彼女は茶色の目を点にして二人を見る。
やがて目が緩んだかと思うと、驚きの早さでポケットから携帯電話を取り出した。
取り出した緑色の、ゲコ太と呼ばれるマスコットキャラクターを象ったお子様携帯に上条が反応することは無い。
何故なら、
「あっ、すみません、警備員(アンチスキル)ですか?小さい子にコスプレ着せた変態男が「いやいや待て待って待って下さい三段活用!!」
犯罪者としての誤解を解くため、上条当麻は彼女の口を塞ぐべく飛びかかった。
彼女はこの街に七人しか居ない、超能力者(レベル5)の一人。
第三位、『超電磁砲(レールガン)』御坂美琴である。
526 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:30:59.09 ID:gRhL.9A0 [6/27]
「あっはっはっはっー。モノホンのシスターだったの。ごめんごめん」
「犯罪者認定一歩手前まで行った上条さんとしては、そんなに簡単に謝れると怒りが湧き上がってくるんですが……」
「とうま。終わったことなんだから、ネチネチ言ってると罰が当たるんだよ?」
「罰が当たらなくてもどうせ上条さんは不幸だらけですよーだ!」
オープンテラスのカフェ。
白い強化プラスチック製の丸いテーブルに、上条は上半身を突っ伏した。テーブルの上には美琴が注文したミルクティーも置いてある。
あれから誤解を解くのに全力を使った彼は頬をベターとテーブルに密着させながら、自己紹介を済ませている女性二人を見た。
魔術師と戦ったのより、はるかに疲れるんですがーと上条は心中で呟きながら、予め考えていた設定を口に出す。
「……で、俺の親父の友人の娘らしくてな。俺が学園都市を案内してるんだ」
「ふーん。女の子に優しくすることも出来たのね、アンタ」
「お前の中で俺はどんな立ち位置なんだ!?」
「相手が悪いと思ったら誰かまわず殴り飛ばす男。で、女の子の気持ちに全く気がつかないクソ野郎」
「一体なんでそんな評価に……」
数少ない、女の知り合いによる自分に対しての評価に、上条は精神的にダメージを受ける。
そんな二人の会話に、黙っていたシスター少女が割って入った。
527 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:31:33.96 ID:gRhL.9A0 [7/27]
「で、みことはとうまと知り合いなの?」
「うーん、知り合いっていったら知り合いね。二ヶ月前に会ったばっかだけど」
「不良達に巻き込まれて電撃喰らいかけたことは、絶対に忘れない……!」
「あれはアンタのタイミングが悪かっただけでしょ。男が細かいこと一々気にしない」
この二人の出会いはソレ程対した物でも無い。
ただ不良達に囲まれていた美琴を、上条が根性出して助けようとした瞬間、不良達に向かって美琴が電撃放出。
まぁ言ってしまえば、上条が不幸なだけだった。
その時の電撃を右手で防いだのに驚かれ、何故かこうやって時々街中であってしまう仲に。
それらをぽけーと思い起こしていると、
「ふーん。とうまって女たらしだったんだ」
「何を聞いたのでしょうかインデックスさん!?」
じとーとした目で見られ、のけ反る上条。
のけ反る上条をじとーとした目でみるインデックス。
どうやら彼女は何時の間にか美琴からとんでも無いデマ(だと上条は思っている)を吹き込まれたらしい。
これが、第三位の力か…….っ!と、心震わせつつこの状況を作り出した少女を恨めし気に見る。
528 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:32:11.57 ID:gRhL.9A0 [8/27]
「…………?」
が、気まずい空間を作り出したことへの抗議の言葉は、出なかった。
何故なら、
「……みこと?」
「んっ?なに?」
「どうして、そんな泣きそうな顔してるの?」
カチャリ、と。
テーブルの上に置かれた、ミルクティーのカップを持ち、美琴の動きが止まる。
彼女の表情は、少し、いや、ハッキリと暗かった。
まるで、自殺寸前の人間みたいだったと上条は思う。
目は暗く、澱んでおり、上条とインデックスに向けるのは何らかの嫉妬の視線。
表情は白い肌が更に白くなっており、血が本当に血管を流れているのか心配になる程だった。
だが、インデックスに声をかけられた瞬間、暗さはなりを潜め、先程までと同じ明るい顔となる。
でも、暗い表情を見た上条には、無理しているようにしか見えない。恐らく、インデックスも同じだろう。
529 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:32:56.30 ID:gRhL.9A0 [9/27]
「……大丈夫よ。ちょっと、色々あってね」
「何か悩み事があるなら相談に乗るんだよ。私はシスターだからね」
「ふふっ……ありがと。気持ちだけ受け取っとくわ」
むぅ、と唸るインデックスに言葉を返し、上条の方へと美琴は視線をうつす。
「なんかアンタ達も訳有りなんでしょ?」
「……やっぱり分かるか?」
上条は頭を恥ずかしそうにガシガシかく。
どうやら、さっきの嘘の設定もばれてるようだ。
なんとなくだが、そんな感じがする。
「まっ、色々おかしいしね。インデックスっていう名前からしておかしいもの」
「……まぁ、確かに」
目次、なんていう名前の人間なんか、この世に殆どいない。
だけどまぁ、と美琴は、
「あんまり深くは聞かないし、他言もしない。でも、あんまり無茶はしないのよ?」
「あー、うん。なるべく善処する」
「とうま!」
「おわっ!?」
530 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:33:35.33 ID:gRhL.9A0 [10/27]
いつ近付いたのか、ずいっと顔面至近距離衝突ギリギリまで迫った少女の顔に、思わずドキンッ、としてしまう上条。
対するインデックスは可愛らしく頬を膨らませながら、
「とうまが私のために戦ってくれるのには嬉しいけど、無茶はだめだよ!とうまが怪我したりしたら、意味が無いんだから!」
「は、はい……」
上条がどもりながら返事を返すと、よしっ!と言って視界一杯に広がったインデックスの顔が離れて行く。
それに少々未練を覚えながらも、彼は椅子から立ち上がった。
「えっと、俺ら行くな?」
「正直今の会話聞いてますます思うところが増えたけど、まぁいいわよ」
「……ありがとな」
「別に、気にしなくていいわ。まぁ精々折角の出会いをおじゃんにしないことね」
「分かってるって」
そして上条はテーブルから離れる。
此処では無く、知り合いに電話するために目立たない場所へと。
「……ねぇ、みこと」
「……なに?」
が、インデックスはその後を直ぐに追わなかった。
椅子から降り、まだミルクティーのカップを持ったままの美琴に尋ねる。
少し、真夏の空気を誤魔化すような風が吹く。
彼女に、インデックスは問いかけた。
「さっきの『無茶するな』っていう言葉は、本当は誰に言いたいの?」
531 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:34:18.78 ID:gRhL.9A0 [11/27]
「……シスターって、凄い」
上条とインデックスが居なくなった後、最初に美琴が発した言葉がそれだった。
感情を隠すのが苦手とよく周りから言われるが、それでもここまで見抜かれるとは。
「インデックス、かぁ……」
あんなに小さなシスターなんて居るんだな、と思っていた第一印象は即座に塗り替えられた。
あれは、あんなに小さいながらも自分より、遥かに『違う』。
「……悩み、打ち明けてもよかったかなぁ……」
と、口に出してから心中で否定する。
だめだ。これは、自分の問題であり、何か事情がありそうな彼女に打ち明けるような物ではない。いや、誰だろうと打ち明ける訳にはいかない。
第一、打ち明けても無駄だ。
この問題は、どんなヒーローが現れても解決しない。
美琴は、それを知っている。
自分の脳みそに刻み込まれていてもおかしくない程、知っている。
だから、彼女は、
~~~~~♪
「ーーー」
532 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:35:02.19 ID:gRhL.9A0 [12/27]
携帯が鳴った。
ただし、先程上条達の前で取り出したゲコ太の携帯では無い。
左のポケットから取り出されたのは、機能性重視がハッキリと分かるメタルシルバーの折り畳み式携帯だった。
初期設定の、無機質な着信音が鳴り続ける。
「……」
彼女は立ち上がり、ミルクティーの代金を台の上に置いて歩き出す。
ピッ!
「……もしもし」
『私よ、私』
「私私詐欺は間に合ってるんで。では」
『冗談よ。というより、声で分かるでしょ?』
携帯の向こうに聞こえないように、美琴は不機嫌そうな息を吐く。
実際その通りだからだ。
この携帯の向こうにいる人物の声を間違えることなど、これからの人生でも絶対にないだろう。
「……で?要件は何ですか“センパイ”?」
533 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:35:43.68 ID:gRhL.9A0 [13/27]
『敬語じゃなくてタメ口でいいのに。序列は貴方の方が上なんだから』
「じゃあ其方から敬語を止めて下さい」
『敬語口調が私のキャラだからダメよ』
クスクスと、僅かな笑い声が微かにだが聞こえる。
彼女は歩きながら会話を続ける。
「ねぇセンパイ。無駄な会話は止めにしませんか?どうせ“仕事”なんでしょ?」
『あぁ、ごめんなさい。心を読めない会話はつい楽しくって』
「はぁ……」
今度は向こうに聞こえるように、ハッキリため息を吐く。
これくらいはやらないと鬱憤は晴れない。
彼女は歩く。
その足は、路地裏、深い深い闇の方へと進んでいた。
先程のカフェからも既に遠い。
「で?内容は?」
『せっかちね……今回は少々特殊よ』
「特殊?」
『暗部じゃなくて、超能力者(レベル5)への指令なのよ。だから実質、レベル5傘下の能力者何人か以外はこの任務に関わらないわ』
534 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:37:10.13 ID:gRhL.9A0 [14/27]
「レベル、5のみ……」
『当然、全員よ。“彼”も勿論、ね』
「……」
美琴は無言。
彼女は歩き続ける。
「あん?嬢ちゃんなんでんなとこにガァッ!?」
彼女は歩き続ける。
「テメェ!?一体何ガァァアッ!?」
彼女は歩き続ける。
「ひ、ひぃぃぃいっ!?た、助けぁああああああっ!?」
彼女は歩き続ける。
「こ、の、化けもん、が……」
彼女は歩き続ける。
彼女は、歩き続ける。
やがて、ピタリと足を止める。
そこは路地裏の中でもかなり開けた空間だった。
美琴は携帯を耳に当てたまま、背後を振りかえる。
そこには、電撃で死なない程度にまで痛めつけられた不良達の道が出来ていた。
ピクピクと、時折痙攣するところから、かろうじて死んでいないのが分かる。
『あれ?能力使った?通信が悪くなったわよ』
「ちょっと邪魔だったので。で?内容は?」
535 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:40:57.83 ID:gRhL.9A0 [15/27]
人を痛めつけても何も思わなくなった自分に、美琴は笑う。
愚かだと、馬鹿だと。
唯一の救いは、人をまだ殺していないことか。
だが、今回の仕事の内容次第では、いや、いつかこの手を直接血に染める時が来るのだろう。
それが早いか遅いか、ただそれだけだ。
『今回の内容は捕獲。よかったわね』
「ターゲットは?」
少しホッとしながらも、彼女はそれを見せない。
携帯の向こうに居るのはある程度信用にあたいする人間とはいえ、余り弱い所は見せたくない。
『この電話の後に写真データごと全部資料送るわ』
「……センパイも出るんですか?」
『まぁ、統括理事長直々らしいからね。上層部の連中ならいずしらず、一番上からだから』
内心。
美琴は驚いていた。
まさかトップが動くとは。
だが、同時に打算も働く。
上手く立ち回れば、『救える』かもしれない。
救うというよりは、元に戻す、だが。
「……そうですか、では」
返事を聞かず、通話を遮断する。
ふぅー、と大きく息を吐き出し、空を見上げた。
切り取られた視界から覗く空は何処までも青く、何処までも綺麗だった。
~~~~~♪
またもや携帯が鳴る。
ただし今度はメールだ。
彼女は携帯のボタンを押し、中身を見る。
そこに映っていたのは、白い修道服を着て満面の笑みを浮かべた少女だった。
あの、インデックスという少女だった。
536 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:41:48.52 ID:gRhL.9A0 [16/27]
■
「とうま、どうするの?」
「俺の友達の力を借りようと思う」
第七学区に存在する、廃墟ビルの一つ。
その瓦礫と剥げた塗装が目立つ中で、上条とインデックスは会話していた。
上条が自分の携帯を見せながら言った言葉に、インデックスは下を向く。
彼女は何も言わないが、大体何を考えているが分かる上条は、苦虫を噛み潰したかのように表情を歪め、
「分かってる。けど、やっぱり二人じゃ無理なんだ」
そう、無理だ。
ただのサラリーマンが時限爆弾のタイマーを解除出来ないように。
ただの高校生である上条には、インデックスを外に連れ出すだけの手札さえない。
手札(知識)があれば立ち回れるが、それが無ければ逆にどうしようもなくなるのだ。
537 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:42:27.90 ID:gRhL.9A0 [17/27]
インデックスの不安を拭うように、彼女に目線を合わせるように屈んで喋る。
「今から呼ぶのはそれなりの奴だ。俺と違って手札(知識)も一杯持ってる。……それに、信用出来る」
「……うん、分かった」
インデックスは頷いた。
そして顔を上げ、
「私は、とうまを信じてる」
そう、目を見つめながら言った。
「……いいのかよ、神様を信じてるシスターさんがんなこと言って」
「いいんだよ。信仰と信頼は全く別物だから」
そうか、と上条は笑いながら言った。
そうなんだよ、とインデックスは笑いながら言った。
もし、この光景を見た人が居たとして、誰が信じてるだろうか?
この二人が、この世界に嫌われた不幸な者だと。
538 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:43:03.99 ID:gRhL.9A0 [18/27]
ピピピッ!と、突然電子音が鳴り響く。
音源は上条の携帯からだった。
インデックスは上条の持つ携帯を見つめ、
「さっきから気になってたんだけど、なんなのそれ?」
「何って……携帯電話」
「ケータイデンワー?」
こりゃ驚いたと、上条は少しだけ引いてしまう。
掃除ロボットを見た時や自動販売機を見た時も思ったが、この少女はとにかく科学の知識が無いらしい。
「えーとだな、これは遠くの人と何時でも何処でも会話出来る道具だ」
「むむっ!?か、科学は使い魔だけでなく、誰でも使える通信用霊装まで作り出したの?怖るべし科学……」
なんだかとんでもない勘違いをしてそうな彼女を横目に見つつ、上条は耳に携帯を当てた。
「もしもし?」
『上条ちゃんっ!!』
「おわっ!?」
イキナリの大声に、鼓膜がキーンッ!と痛む。
携帯から聞こえて来たのは甲高い、子供のような声だった。
539 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:43:42.09 ID:gRhL.9A0 [19/27]
「なんだ、小萌先生か」
『なんだ、では無いのですよー!』
声の主は上条の担任教師だった。
声のみなのでまだましだが、見た目は小学生程度のミニマム教師で、とてもでは無いが大人には見えない。
『上条ちゃん補修はどうしたんですかー!?今日あるって朝言いましたよー!?』
「……あっ」
間抜けな声を上条は上げる。
そういえば、そんなものもあった。
そのせいで朝ローテンションだったというのに。
チラッ、とインデックスの方を見る。
彼女は「?」と首を傾げていた。
返事は、既に決まっていた。
「……すみません、先生。今、補修なんかより百万倍大切なものがあるんです」
『……』
普段なら「そんなこと言ってたら将来大変ですよー!?」と言って来そうだが、上条の言葉に秘められた重さを感じ取ったのか、沈黙が帰ってくる。
540 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:44:17.09 ID:gRhL.9A0 [20/27]
………………。
やがて、向こうから声が発せられた。
『……全く、上条ちゃんは本当におバカさんですねー』
言葉には呆れと、心配と、少しの嬉しさが篭っていた。
上条は察する。
だから、
「……ありがとうございます」
心を込めて、礼を言った。
『でもあんまり危ないことはしないで下さいね。上条ちゃんも、私の大切な生徒なんですからー』
「はははっ……」
グイッ。
「んっ?」
(…………)
上条はズボンを引っ張られ、みるとインデックスが不安気な顔をしている。
巻き込んで迷惑をかけたことを、心配しているのか。
彼は気にすんなという思いも込めて頭を撫でる。もうすっかり撫でるのにも慣れていた。
上条の手から伝わる心地よさにインデックスは目を細める、
が。
ふと、上条の手に反応しなくなり、どこか一点を見続ける。
釣られるように上条も視線を動かす。
541 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:44:52.58 ID:gRhL.9A0 [21/27]
廃墟ビルの部屋。その入り口、二人の前方に男が立っていた。
身長は百八十はあり、耳にピアス、そして青い髪が特徴だ。
そして、上条と全く同じ制服を着ていた。
「青髪?」
男のあだ名を呼ぶ上条。
彼は青髪ピアスというあだ名の、上条のクラスメイトだった。
その変態性はともかく、以外といい奴なので上条とよくつるんでいる。
だが、と、上条は疑問に思う。
彼は上条と同じように補修組の筈。
なのになんでここに居るのか。
なんで、なんで。
何故、こうも見ているだけで不安に思う?
542 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:45:32.27 ID:gRhL.9A0 [22/27]
『青髪ちゃんもそこに居るんですかー?』
「えっ、いやその……」
呟きが携帯の向こうにも伝わっていたらしい。
インデックスを少しずつ左手で下げながら、上条は何故か全神経を集中させた。
何故なのか、上条にも分から無い。
目の前に居るのは友達……親友の筈なのに。
そして、答えを考える上条の耳に、
『青髪ちゃん、五分程前に教室から出て行っちゃったんですよー』
その後、何か言ったかもしれないが上条は認識出来なかった。
それよりも、無視出来ないワードがあった。
五分。五分前。
あり得ない、と上条は思う。
この廃墟ビルから学校まで五分で移動するなんて、絶対に、どんな手段を用いても不可能だ。
それこそ、上条が想像も出来ないような移動手段でも無い限り。
543 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:46:20.35 ID:gRhL.9A0 [23/27]
やがてプツン、と携帯から音がしなくなる。通話を切ったからだ。
ゆっくりと、ポケットに携帯を入れ直し、青髪ピアスを見てーーー
「あっ」
上条は気が付いた。
漸く気が付いた。
自分が、どうしてここまで不安になっているのか。
笑っていないのだ。いつも、場をバカな発言で和ませる彼の顔が。
「」
動けたのは、経験故か。
横にスライドするように、インデックスがいない右側に回る。
ジャリッ、と。靴の底が瓦礫の欠片を砕く。
瞬間、元いた場所を拳が通過した。
遅れてゴバッ!と、何かが砕ける音が鳴る。
音が鳴ったのは、青髪ピアスが元いた場所。
コンクリートの床が、膨大な衝撃を受けたかのように粉々になっていた。
そして、上条が躱した拳の主は、彼に決まっていた。
544 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:46:59.21 ID:gRhL.9A0 [24/27]
(ーーーッ)
ゾクッ、と。
上条の全身が震える。
今のは、人間が生身で出せるような早さでは、無い。
いや、出したとしても逆に体が壊れるくらいの速度だった。
それに、信じられなかった。
青髪ピアスは、上条と同じ無能力者(レベル0)の筈だ。
なのに、何故。
何らかの薬や兵器でも使っているのか。
一瞬と呼ばれる時間の間に、様々な思考が駆け巡る。
「テ、メェ……何しやがる!?」
だが上条がしたことは、真正面からから殴りかかることだった。
難しいことは抜きにして、とにかくいつものように殴り返そうと、右のストレートを放ったまま止まっている青髪ピアスの顔面へと、右の拳を叩き込んだ。
ゴンッッッ!!!と、打撃音が鳴る。
ただし、壁と肉がぶつかったような、だ。
545 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:47:43.65 ID:gRhL.9A0 [25/27]
「ーーっ!?」
ズキンッ!と、右手から痛みが生じる。
青髪ピアスの顔面に拳はしっかりと当たっている。頬をえぐるような形だ。
しかし、何故か壁に拳を叩きつけたかのように、右手に痺れが走る。
「……」
そして思わず固まっている間に、強く右手を右手でひっ掴まれた。
上条が掴まれたことに反応し、動こうとした時には、
ブンッ!!と、思いっきり投げられていた。
(……はっ?)
余りの出来事に、上条は宙を舞いながら呆然とする。
実際、彼がやられたことは単純だった。
右手を持ったまま、片手で袋を投げるように投げられた。
体重移動とか、重心とか、力を受け流すとか、そういった技術など無い。
ただ掴んで投げる。
上条は、それをされただけ。
あり得ない。普通の人間なら肩を壊す行為。
上条の腕が壊れてないのは、たんに運がよかったから。
546 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:48:19.20 ID:gRhL.9A0 [26/27]
そして、上条はゴミの如く十メートル先の壁に叩きつけられる。
轟音が、廃墟ビルの部屋に響いた。
「がっ……がぁぁぁああああああああああああああああああああっっっ!!?」
絶叫。
壁が悲鳴を上げる程の速度で叩きつけられた上条の喉から、張り裂けんばかりの絶叫が響く。
メキメキと、体の悲鳴が直接脳に伝わった。
「とうまっ!」
「がっ……ぐっ……」
ズルズルと、壁に寄りかかり座り込む上条に駆け寄るインデックス。
その姿を見て、必死に力を振り絞り、立ち上がる。
膝は情けなく震え、右手はズキズキと全体が痛むがそれでも、立ち上がる。
立ち上がり、彼は問いを発した。
現実を、信じたく無いがために。
だが、彼は分かっていた。現実は変わらないと。
「お前……誰だよ」
それ故、言葉は疑問系で無く、されどゆっくり二人に近付く彼は答える。
「学園都市序列第六位『肉体変化(メタモルフォーゼ)』」
その姿は、上条が知る親友の姿では無くーー
ただただ、任務を遂行するだけの兵器(人間)が居た。
547 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/10(水) 09:50:40.57 ID:gRhL.9A0 [27/27]
ここまで。
面白いと思って頂けたらこれ幸い。
かなりオリジナル設定(自己解釈)も入るけど大丈夫かなぁ……
感想など、くれると嬉しいです。
Tag : とあるSS総合スレ
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