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上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」
ちょっと投稿させてもらいます。
一巻からのパラレルです。
なので、一巻冒頭のシーンを飛ばしてます。
所々改変があります。
プロローグ的なお話しなので、結構短い筈、です。
「……なぁ、悪かったって。機嫌直せよ」
「フンだ」
朝。七月二十日。
夏休み初日にどういう因果か、上条当麻は目の前で不貞腐れているシスターのご機嫌を取るのに必死だった。
そのシスターたる少女……インデックスは不機嫌そうに安全ピンだらけの修道服を身に纏って上条を睨んでいる。
上条は何故かベランダに引っかかっていたこの魔術だのなんだの言う少女に会い、何故か歩く教会などと言う魔術でできてるらしい服に右手で触れて弾けさせ、銀髪碧眼超白い肌の裸を見てしまったのである。
アイアンメイデンのインデックスは頬を膨らませながら、
「変態」
「あーもう。変態でもいいから機嫌直してくれって」
しかし一方で、脳に疑問が浮かぶ。
323 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/07(日) 12:08:11.62 ID:wX7Tifg0 [3/25]
(俺の右手で触れて壊れたってことは、魔術は本当なのか?さっきまでの10万3000冊はともかく、魔術結社に追われてるってのもか……?)
そう。
上条の右手『幻想殺し(イマジンブレイカー)』で触れて壊れた以上、あの服には異能の力が働いていたということだ。
だとすれば。
先程まで、彼女が言っていたことは全て事実ーーーー?
コンコン
と、そこまで考えていた所に、ノックの音が耳に入る。
どうやらお客さんらしい。
「あっ、俺出てくる」
「……」
インデックスはムスッとしていて聞いていない。
それに苦笑しながら上条は立ち上がって廊下を通り、玄関へと向かう。
324 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/07(日) 12:08:49.42 ID:wX7Tifg0 [4/25]
(しっかし、どうすっかなぁ……今日は補習もあるし、かといってあの子をここに居させとくってのも、それはそれで……いや、今夏休み中だし、大丈夫、か?)
今は夏休み。
平日やただの休日なら、もしかしたら何らかの業者や友人が来て大変なこと(後者は嫉妬や犯罪者的な意味で)になるかもしれないが、夏休みたる今、しかも初日なら誰も来ないだろう。
まぁ、そういって大変な目に会うのが上条さんクオリティなんですよねー、と思いつつ、彼は玄関の扉を開けるべくドアノブに手をかけーーーー
(…………あれ?)
今は夏休みだ。
夏休みの筈だ。
しかも朝。
そう、自分で考えたではないか。
なのに、なのに何故。
『誰も来ない筈』なのに、扉はノックされた?
325 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/07(日) 12:09:28.21 ID:wX7Tifg0 [5/25]
ガチャッ、と。
彼は扉を開けてしまう。
開けた先。通路に立っていたのは、二メートルはありそうな長身の大男。
身を包むのは、黒い神父服。
赤い髪に、耳にピアス。指には指輪が大量に嵌められており、目の下に位置するバーコードが印象的だった。
どう見ても神父では無く、普通の人間では決して無い。
嫌でも、この男がただ者で無いことが、上条にも分かった。
上から見下ろすように、大男は口を開く。
「やぁ始めまして。中にいる筈の女の子に用があるんだけど?」
友好的にも思える口調。
だが、言葉の一つ一つに重みがかかっている。
その言葉からも、男がただの一般人では無いことが分かる。
上条は、冷や汗を一つ垂らす。
「テメェ……何者だ……?」
気圧されないように、拳を握り締め、下からその目を睨む。
大男は目を細めながら、上条の疑問に答えた。
「魔術師だよ」
326 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/07(日) 12:10:04.85 ID:wX7Tifg0 [6/25]
■
とある空間が学園都市に存在する。
そこは、学園都市においてもっとも安全な場所であり、もっとも危険な場所でもある。
人呼んで、『窓の無いビル』。
そこには、一人の人間が存在していた。
もっとも、生存するための行為を自ら機械に委ねた者が、人間と呼べるのならば、だが。
円柱型の、培養液に満たされた巨大ビーカーの中に存在するソレ。
ソレは男のようにも見え、女のようにも見え、子供のようにも見え、老人のようにも見え、聖人のようにも見え、罪人のようにも見える。
おかしい。おかしいのだが、そうとしか言い表せない存在。
逆さまの状態で、緑色の手術着を揺らしながら、ソレは口を動かす。
「……始まった」
その声もまた、ありとあらゆる表現を使わなければ形容できないような、不思議な声だった。
マイクを通している筈なのに、そうとは思えない綺麗で汚くもある、不思議な残酷な声。
ソレは、遂に始まったことを喜んでいた。
327 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/07(日) 12:10:46.72 ID:wX7Tifg0 [7/25]
■
魔術師と、男は名乗った。
インデックスの言葉が嘘では無く、ハッキリと現実になり、どこか笑いそうになる。
実際には、そんな余裕は全く無いが。
「……その魔術師さんなんかが、こんなとこに何の用だよ?」
「言ったろ?中にいる筈の女の子を回収しに来たのさ」
「……回収?」
「うん?『アレ』から話を聞いてなかったのかな?」
そこまで言われて、上条は思い出す。
インデックスは、自分のことをIndex-Librorum-Prohibitorum、魔導図書館と言っていたことを。
「……知らねぇな。悪いけど他当たってくれ」
「残念だけど、ごまかしても無駄だよ。『歩く教会』の反応がこの部屋からしてるからね」
誤魔化そうとした上条の体が強張る。
どういう理屈・原理か分からないが、目の前に居る男は、インデックスがこの部屋に居ると分かっているらしい。
しかも、歩く教会。
インデックスが着ていた、絶対的な防御力とやらを持っていた服の名前だ。
328 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/07(日) 12:11:25.55 ID:wX7Tifg0 [8/25]
「全く……さっきまでの反応に比べて急激に弱くなったから心配だったけど、一部が残ってみるみたいで助かったよ」
恐らく、弱くなったというのは先程破壊した時のことだろう。
しかし、一部が残っていたお陰でこの男はこの部屋にたどり着いたらしい。
「と、いう訳で。そこを退いてくれると助かる。僕も急いでるんでね」
「……」
上条がそれに言葉を返そうとした所で、
「ねー。一体どうし……っ!!」
最悪なことに、少女がやって来てしまった。
何故かリビングに返って来ない上条に疑問を持ったのだろう。
玄関の手前、上条の背後二メートル程まで来たインデックスの表情が、驚愕と、僅かな恐怖に包まれる。
329 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/07(日) 12:12:04.11 ID:wX7Tifg0 [9/25]
「ーーーッ!」
反射的に上条は一歩下がり、インデックスを守るように前に立つ。
そしてジリジリと、インデックスを押し下げるように下がって行く。
(でもどうする!?どっちみちここ以外に出入り口なんて無いぞ!?)
いざとなったら、ベランダから飛び降りて下の階に侵入するという手もある。
だがしかし、インデックスにもそれができるか、それだけの時間を男が与えてくれるかどうか。
だとすれば、真っ正面からこの男を打ち倒すしか無い。
(ーーー)
が、ここで一抹の不安が上条の胸を過る。
彼はこの街でよく不幸な出来事に巻き込まれ、それなりに修羅場も潜っていたりする。
超能力との戦いもあったため、右手の力を使っての戦い方も慣れている。
だけど、
超能力には効くとハッキリ分かっているこの右手が、
本当に、魔術なんて全く身に覚えの無いものに効くのだろうか?
330 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/07(日) 12:12:37.34 ID:wX7Tifg0 [10/25]
「狙いは私、だよね?」
そんな上条の思考に滑り込むように、インデックスの声が耳に入る。
彼女は上条の体からはみ出るように顔を覗かせながら、男に尋ねた。
「……そうだね。僕達の任務は『禁書目録が他の魔術師及び、魔術結社に利用される前に回収すること』だ」
「……分かった」
「っ!?オイ!」
上条の静止を振り切り、彼女は彼よりも前に出る。
その肩に手をかけ、止めようとする。
当たり前だ。
男の今言ったセリフから、インデックスがどれだけ重要視されているのかくらい分かる。
態々、『回収』などと言って来たのだ。
まるで、道具を扱うかのように。
絶対に、ついて行くべきでは無い。
そう考え、上条が肩に手を置こうとした時、
「その代わり、彼には手を出さないで」
331 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/07(日) 12:13:20.13 ID:wX7Tifg0 [11/25]
ピタリ、と。
上条の手はインデックスに触れる寸前で止まってしまった。
彼女の言葉。
そのせいで、彼女が、逃げ続けていたであろう彼女が進み出た理由が分かったから。
彼女は、自らの保身のために進み出たのでは無い。
上条に、危害を加えさせないために、進み出たのだ。
絶対的な防御力を持つという修道服も無く、魔術師とやらでも無く、超能力者でも無い。
何の力を持たない筈なのに彼女は、出会って間も無い上条を庇った。
(ーーーっ)
絶句。
こんな幼い少女がそんなことをすることに、上条は純粋に驚愕していた。
一体、一体どれだけ彼女は優しいのか。
一体どれだけ、その年に見合わない暗い経験を積んで来たのか。
332 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/07(日) 12:14:01.62 ID:wX7Tifg0 [12/25]
「……分かった。君さえ回収できれば文句は無い」
心無しか、男は少し顔を歪めながら、彼女の言葉にそう返答する。
安心したように彼女はホッと息を吐き、上条の方を向く。
ビクンッ、と上条は肩を震わせてしまう。
言うなれば、彼女は上条のせいで捕まったも当然なのだ。
当然、恨まれて仕方無い。
しかし、彼女は、
「ありがとう」
そう、笑って言った。
太陽のように、一切の陰りも見せない笑みで、言った。
上条は、一瞬思考が停止し、すぐさま口を開く。
「な、に言って……」
「私みたいなのを部屋に入れてくれて、美味しい野菜炒めを作ってくれた」
そこで、彼女は区切って、
「とっても、嬉しかった」
本当に、心の底からの笑みを見せる。
しかし、上条の顔が笑顔になることは無い。
今の彼女が言った言葉の影が分かってしまったから。
つまり、彼女は今まで誰かに部屋に入れてもらうことも、野菜炒めを作ってもらうことも、殆ど無かったという、事実。
333 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/07(日) 12:14:38.04 ID:wX7Tifg0 [13/25]
「……じゃあ。私、行くね」
「あっ……」
彼女は、上条から伸ばした手から逃れるように玄関へと進み、男の横を通って歩いてゆく。
その銀色の髪が揺れ動き、玄関の範囲で切り取られた通路の景色から、はみ出て消える。
インデックスが通路を歩いて行くのを確認しているのか、目を通路の先に向けている男。
そして一度だけ、上条の方を一瞥したかと思うと、彼は彼女を追うように歩いて行った。
そして、その場に残ったのは茫然とする上条と、開け放たれた扉のみが普段と違う、玄関の光景。
上条は下に俯き、無言で拳を握り締めていた。
コツ、コツ、と、赤髪の男とインデックスはコンクリート製の片側が開けた通路を歩く。
インデックスは先頭に立ち、その後ろに付き従うように男は歩く。
二人が向かうのは通路の突き当たりにある、オンボロエレベーターだ。
男はタバコを一本取り出しながら、前を歩く彼女を見る。
その目は、先程までとは違う感情に染まっていた。
インデックスはそれに気がつかず、普段よりもかなり早いスピードで歩く。
早く、早く離れたかった。
ここに居ては、彼を巻き込むかもしれない。
後ろの魔術師が、いつ「やっぱり殺そう」なんて言い出すかも知れないのだ。
一刻も早く、この場から離れたかった。
334 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/07(日) 12:15:25.29 ID:wX7Tifg0 [14/25]
そこに、
ジャリッ!
明らかにタバコをくわえたばかりの男や、インデックスの足音では無い音が、通路に響いた。
動きが止まり、嫌な予感が走る。
ここには今、自分と魔術師の二人しか居ない筈だ。
だとすれば、後ろの魔術師が何かしたのか?
いや、違う。
彼女は、ゆっくりと後ろを向く。
男は既に後ろを向き、『彼』を睨んでいた。
インデックスも、『彼』を見る。
335 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/07(日) 12:16:05.22 ID:wX7Tifg0 [15/25]
学生服に身を包んだ上条当麻が、此方を向いて通路に立っていた。
「……何のマネだい?」
「……」
タバコに火を灯しながら言われた言葉に、彼は無言で返す。
ただ、下を俯き、拳を握り締めていた。
そして、顔を上げる。
(ーーーっ)
その目を見て、インデックスは理解した。
いや、誰もが彼の今している、綺麗で真っ直ぐな輝きを持った瞳を見れば分かるだろう。
彼が、彼女を助けるために魔術師に立ち向かおうとしていることが。
336 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/07(日) 12:17:22.05 ID:wX7Tifg0 [16/25]
「ーーーっ!ダメ!」
インデックスは思わず、彼に向かって叫ぶ。
だが、彼は、
「……あーあ。たっく……本当に不幸だよ」
突然、訳の分からないことを言い出した。
インデックスだけでは無く、彼女の前に立つ魔術師も怪訝な顔になる。
「……何がいいたい?」
「いや。ただ思っただけだよ……いやー、本当についてねぇよ……」
上条は、言葉を紡ぐ。
「“お前”、本当についてねぇよ」
「……不幸なのは君じゃないのかい?とち狂ったか?」
「いや、俺は今日ついてるよ。少なくとも、不幸じゃない」
そうだ、と、上条は思う。
不幸じゃない。全然不幸じゃない。
こんなのは、不幸とは言わない。
ここで不幸と言えるのは、魔術師の男一人だ。
自分と、『彼女』は不幸なんかじゃない。
いや、彼女は不幸なのだろう。
この世界の、地獄の底を歩んでいる……そう言われてもおかしくないだけの、不幸。
それを匂わせるだけの闇を、彼女は感じさせる。
337 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/07(日) 12:17:48.43 ID:wX7Tifg0 [17/25]
だから、それがどうした。
「地獄の底から、引きずり上げる……」
そして自分は、そのための右手を持っているじゃないか。
「……予定変更だ。君はここで消し炭になれ」
上条の呟きに危険を感じ取ったのか、魔術師はタバコを口から取り、右手の指で挟む。
「お願い!逃げて!」
インデックスは上条に向かって叫ぶ。
魔術師が魔力を、攻撃のための術式を構成しているのが分かるからだ。
そして、一般人に過ぎない上条に逃げるように叫ぶ。
いざとなったら、術式を己の力で妨害することもいとわない。
しかし。
「あっ……」
上条の顔を見たら、何故かそんな思考は吹っ飛んでしまった。
彼の顔に浮かんでいた、絶対の自信と、意思。
それは、インデックスの不安を粉々に打ち砕く程、眩しかった。
338 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/07(日) 12:18:31.23 ID:wX7Tifg0 [18/25]
「ステイル=マグヌスと名乗りたいとこだけど、ここはやはりFortis931と名乗ろうか」
ステイルという、赤髪の魔術師も、魔法名と呼ばれる物を名乗る。
魔術師の伝統、その者にとって大事なその名は、時に、
殺し名のように、使われる。
ピンッ!と、右手に挟まれていたタバコが飛ぶ。
クルクルと宙を舞うタバコはすぐさま、壁に直撃。
そして、そのタバコとステイルの右手を繋ぐように、巨大な炎が出現した。
ゴウッ!!と、周囲の空気が変わる。
いきなり巨大な熱が現れたため、それによって大気の温度が変わり、密度変化によって風が荒れ狂う。
「……巨人に、苦痛の贈り物をーーー!」
彼は腕を振るう。
それに伴って炎の線、炎剣も連なって動く。
最初に真横に出現したせいで壁を貫通して、内部の部屋に影響を与えていたらしい。
壁が高熱によって溶け、他の部屋のドアノブなども溶けて行く。
一つよかったことは、最初の貫通でガス管などに直撃していなかったことか。
ガス爆発など起きていれば、大変なことになっていただろう。
黒い神父服が揺れ動き、炎剣が上条に壁を溶かしながら殺到する。
上条は、黙って立っていた。
真っ赤な炎が、上条を、通路を飲み込んだ。
爆風が吹き荒れ、思わずインデックスは視界を手で覆ってしまう。
手の僅かな隙間。
その隙間に映った光景は、上条の居た場所が炎に包まれている光景だった。
339 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/07(日) 12:19:14.06 ID:wX7Tifg0 [19/25]
「……ふん」
他愛も無い、と。ステイルはらしくないと思いながらも敵の呆気無さに、息を吐く。
が、
「邪魔だ」
一瞬、風が吹いたかのように炎が揺らめき、掻き消える。
そこには、右手をふり抜いた上条が居た。
全く動かず、ただ、右手を振っただけの彼が。
「……っ!?」
自分の攻撃が防がれた。
僅かな動揺。
ステイルに生まれたそれを、上条は見逃さなかった。
通路のコンクリートを蹴り飛ばし、上条は駆ける。
全ての幻想を殺し尽くす、右手を振りかざして。
「くっ!?」
上条の狙いに気が付き、慌ててステイルは左手の方に二本目の炎剣を出現させた。
だが、だがしかし。
元よりそれ程広く無い通路。
僅か十メートル程の、上条とステイルの間合いを詰めるだけの時間の方が、ステイルが炎剣を出すまでより早かった。
一瞬の動揺をついた、見事な反応。
340 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/07(日) 12:19:57.98 ID:wX7Tifg0 [20/25]
(……初めて会った奴のために命をかけるのなんて、おかしいかもしれない)
走りながら、拳を振りかぶりながら、上条は思考する。
(俺は奇妙な右手を持つだけの高校一年生。魔術なんてもんが出てくるファンタジーな物語の主人公になんか、死んでも似合わない奴だ)
でも、
(だからと言って、アイツを見捨てていい筈がない!!)
他人を自分の身を投げ出して助けることができる、白い、綺麗な少女。
その少女を助けるために戦うのは、そんなにもおかしなことだろうか?
そして、彼女を助けるための武器を、自分は持っている。
彼女の手を掴んで、引くことができる右手を。
あるからといってモテる訳でも、幸運を呼び寄せる訳でもない。
けど、目の前に居るクソったれな魔術師をぶん殴るには、とても便利な右手を。
「う、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!」
彼は吠えた。
そして、
341 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/07(日) 12:20:37.49 ID:wX7Tifg0 [21/25]
ゴキャンッッ!!と、ステイルの顔面にその右手を叩きつけた。
魔術師ステイルは、悲鳴も、呻き声もなく吹き飛び、先程溶けて固まったばかりの壁に、勢いよく叩きつけられた。
「どうして……?」
「ん?」
あれから三十分が経過していた。
あの後、うまいこと気絶した魔術師を放置し(縛るための縄が無かった)、上条は必要最低限の物を持ってインデックスとともに街を歩いていた。
街の中は今、夏休み真っただ中の学生達で賑わっており、上条とインデックスも余り目立たない。特に上条達がいる大通りは人で溢れ返っていた。
他の魔術師が居ることを考えると、コソコソ移動するより、人混みに紛れた方がいいと考えたから。
342 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/07(日) 12:21:14.47 ID:wX7Tifg0 [22/25]
そんな状況の中、インデックスは隣を歩く上条に問いかける。
「どうして、私を助けてくれるの?」
幻想殺しによって効力を失ったフードを被り、彼女は言葉を続ける。
「君が巻き込まれたのも、元と言えば私の歩く教会のせい。私の自業自得なのに、なんで……」
「……ぷっ」
「……なんで笑うの?」
「い、いや。それをお前が言うんだなってさ」
上条は笑いを堪えながら、
「お前だって、初めて会った俺のために自ら捕まりに行ったじゃねぇか」
「っ!それは、私のせいだから……」
「俺のせいでお前は捕まった、だから助けた。ほら、お前と理由は全く同じだぞ」
「……」
インデックスは、無言。
いや、言葉が出ない、発せられない。
だって、彼女も。
見ず知らずの他人に、助けられるなんて思っていなかったのだから。
「っ……!」
瞳の中から思わず熱い何かがあふれ出し、周りを歩く人達の注意を惹かないように、彼女は下を向く。
静かに嗚咽をこらえるインデックスの頭を、上条は優しく撫でていた。
少なくともこの時、上条は幸せだった。
343 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/07(日) 12:21:53.26 ID:wX7Tifg0 [23/25]
■
「……」
ソレは、そのシーンをスクリーンで見ていた。
そして、口を歪める。
笑みの形へと。
この学園都市の主たるソレは、この状況を待っていた。
禁書目録の回収ーーそのために彼は魔術師二人を学園都市へ招き入れたが、それに条件を付けていた。
もし、魔術師で禁書目録の回収が出来ないようならば、此方からも干渉し、禁書目録の回収を手伝うと。いや、手伝うというよりは、揉め事を科学の力を持ってして解決すると言いたい。
此方の領域(テリトリー)にて起こっている問題なのだから。
そして、魔術師は今、魔術サイドがけっして予測しなかったであろう不思議な力を持つ少年に撃退された。
この流れを、ソレは予測していた。
いや、知っていたと言うべきか。
そして、ソレは動きだす。
画面がピピッ、と反応し、通信が仲介人に繋がれる。
機械だらけの部屋で、ソレは言った。
344 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/07(日) 12:22:29.92 ID:wX7Tifg0 [24/25]
「……全超能力者(レベル5)に通達。禁書目録(インデックス)と名乗る少女の捕獲を命ずる。他敵対者の生死は問わない」
そして、科学の力、七つの力を行使した。
とある不幸な少年と少女に、新たな危機が、二人が想像もしていないような危機が襲い掛かる。
345 名前:上条「まずは、その幻想をぶち殺す!」[saga] 投稿日:2010/11/07(日) 12:23:52.57 ID:wX7Tifg0 [25/25]
と、いうわけで。
プロローグ的なお話しでした。
需要があったら続き書きたいなー、とか思ったり。
美琴と一方通行の設定も結構変えてたり、浜面を出したりもするので。
では、見てくれた人有難うございました。
Tag : とあるSS総合スレ
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