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初春「……」佐天「どうしたの初春?恋でもした?」-2
初春「……」佐天「どうしたの初春?恋でもした?」
続きです
続きです
241 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/30(土) 23:11:37.43 ID:FeKbxx610 [11/17]
モノローグ4
(まさかあんなふうに会えるなんて)
(ほんと偶然ってこわいです)
(なに話しましたっけ?)
(思い出すのも恥ずかしいです)
(それに)
(聞き間違うなんて恥ずかしすぎますっ!!)
(ああ、なんだろう。すごくあつい)
(私、どうにかしちゃったのかな?)
243 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/30(土) 23:16:01.03 ID:FeKbxx610 [12/17]
第四部 (再会の裏で)
初春と白井がパトロールをしている最中。
佐天は御坂と会っていた。
御坂「どうしたの、佐天さん。私に用って?」
佐天「……」
学校が終わり、待ち合わせをした彼女たちだったが
会ったときから佐天は難しい顔をしており、たまに考え込むこともあった。
そして、それは今も同じで。
御坂「ねえねえ、佐天さんってば!?」
二回目の呼びかけで佐天はようやく返事をする。
244 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/30(土) 23:26:09.05 ID:FeKbxx610 [13/17]
佐天「実はですね、今日は御坂さんに少しお聞きしたい事があって来てもらったんです」
普段とは違う重い口調で話す佐天に、御坂はすこしたじろぎながら尋ねる。
御坂「え、なに?聞きたい事……って?」
再び数秒の沈黙があった後、佐天涙子は話を切り出した。
佐天「御坂さん。あの『上条さん』についてどう思っているんですか?」
その質問はあまりにも唐突で、今度は御坂の方が黙り込んでしまう。
二人が会っているのは、とあるカフェなのだが、
沈黙している彼女たちとは対照的に周囲の人々はにぎやかに話を続けていた。
245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/30(土) 23:30:35.31 ID:FeKbxx610 [14/17]
なぜこんなことを聞くの?
なんでアイツのことを聞くの?
いろいろな考えが御坂の頭をよぎる。
これらは彼女の心に波を起こしている。
だが、それらの中でも彼女の心を乱す一番の疑問があった。
それは。
なんで『佐天さんが』こんなこと聞くの?
ということだ。
一瞬のうちに数々の疑問が御坂の脳内を支配したが、精一杯の冷静を装って彼女は答えた。
御坂「……あの馬鹿のこと?どう思ってるも何も、私はなんとも思っちゃいないわよ」
247 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/30(土) 23:39:11.24 ID:FeKbxx610 [15/17]
佐天「本当に、そうですか?」
佐天涙子は御坂美琴をみつめながら、もう一度問う。
その視線はとてもまっすぐで、御坂は思わず目をそらす。
御坂「ほ、本当に本当よ!!な、なんで私がアイツなんかを……」
佐天「……その言葉。信用しても良いですか?」
御坂「もも、もちろんいいわよ。でも、何でそんな事聞くの?」
御坂の言葉を待っていたかのように、佐天は語りだす。
249 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/30(土) 23:47:17.44 ID:FeKbxx610 [16/17]
佐天「この前、初春の事お二人に話しましたよね」
佐天「アタシ、そのとき御坂さんの事で気付いたんですけど」
佐天「なんか『上条さん』の話題になると御坂さん、態度違うんですよねー」
佐天「それで、まさか?って思ったんです」
佐天「これって、アタシの勘違いですかねー?御坂さん?」
いつもどおりの笑顔だが、その口調は重い。
それに押される御坂だが、動揺しながらもなんとか答える。
御坂「や、やだなー。勘違いだよ、勘違い!!」
佐天「ふーん……そうですかー」
何かを考えたような顔つきをしながら、佐天は御坂の全身を舐めるように眺めている。
250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/30(土) 23:59:58.48 ID:FeKbxx610 [17/17]
佐天「そういう気持ちが全然ないって言うのなら」
佐天「御坂さんも、初春に協力してもらえますよね?」
御坂「も、もも勿論よ!初春さんのことは応援してるわ」
御坂が言い終わった瞬間。
御坂の鼓膜に突然刺激が伝わる。
二人の目の前のテーブルが佐天の手により乱暴に叩きつけられたのだ。
周囲にその音が響く。他の客が彼女たちを一瞥するが、すぐ目をそらした。
衝撃でテーブル上の飲み物が少しこぼれている。
佐天「……御坂さん?アタシ……『協力』してくれますか?って聞いたのに」
佐天「『応援』するじゃあ、……答えになってないですよ!?」
より重い口調だった。
そして、より鋭い目つきで見つめている。
253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/31(日) 00:10:08.84 ID:wZGfmiJH0 [1/11]
佐天「『応援』と『協力』じゃあ、似てるようで違いますよね?」
佐天「御坂さんには、『協力』したくない理由があるってことですか?」
佐天「考えられるとしたら。『上条さん』の事」
佐天「御坂さんも好きなんじゃないかなって思うんですけど」
佐天「どう……なんですか?」
御坂「………………」
256 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/31(日) 00:20:04.89 ID:wZGfmiJH0 [2/11]
御坂美琴は返事をしない。
正確には違う。できないのだ。
彼女自身も自分の気持ちが分からないのに、それをこんな形で聞かれて答えられるわけが無い。
御坂(私は別にアイツの事なんて興味ないけど、でもなんか気になって……)
御坂(それって興味あるってことなの??)
御坂(でもでも。それはまた、好きって感情とは別よね?別なはず……)
本当は分かりかけている。分かっているのだけど、どうしても認められない。
そんな時、彼女たちの前にもう一人人物が現れた。
258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/31(日) 00:32:35.52 ID:wZGfmiJH0 [4/11]
「もうすこし、素直になってみてはいかがですの?お姉さま」
佐天「白井さん!!??」
御坂「ちょ、ちょっと。何で黒子、アンタがここに??」
そこに来たのは白井黒子だった。
白井は、初春と上条を二人きりにしてあげようと思い、あの場を去った。
そして偶然、佐天と御坂を見つけ話を盗み聞きしていた。
白井「話は一通り聞かせていただきましたわ」
白井(本当は初春を上手く利用してお姉さまを私のものに。と思っていましたが)
白井(そうもいきませんわね……)
少し間を置き、考えてから白井は続ける。
白井「お姉さま。ここは意地を張るところではございませんわよ?」
御坂「ふざけないでっ!!意地なんて……張っ」
御坂は白井の顔を見上げ思ったことを言おうとするが、中断してしまう。
御坂の目に映ったのは普段とは違い、極めて真面目な顔をした白井だったからだ。
そうして彼女は言う。
259 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/31(日) 00:40:57.08 ID:wZGfmiJH0 [5/11]
白井「佐天さんがこんなことを聞いているのは。別にお姉さまをからかおうとか、いじめようだとか」
白井「そういう悪意は無いと思いますの。ねえ佐天さん?」
佐天「は、はい……」
白井「私が思うに。佐天さんは、佐天さんが初春にしたことと同じことを、お姉さまにしているのだと思いますわ」
白井「自分の気持ちと向き合えない初春に勇気を与えて、気持ちを自覚させた」
白井「それを今度はお姉さまにしているんですの」
佐天涙子は無言で頷く。
白井「佐天さんの代わりにもう一度聞きますわ、お姉さま」
白井「あの方のこと。どう思ってらっしゃいますの?」
嘘やごまかしでは乗り切れない質問に御坂は悩み、そして答えを出す。
261 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/31(日) 00:50:21.76 ID:wZGfmiJH0 [6/11]
御坂「そりゃあ、興味がないかって言われたら無くは無いわよ!!」
御坂「……そ、……その……アイツに恩もあるし…………ね」
トマトのように顔を真っ赤にし恥ずかしがりながら御坂美琴は言った。
佐天「御坂さん……」
白井「ようやく少し素直になられましたわね。では初春のことはどう思っていますの?」
御坂「……初春さんのことは……驚いたわ。……それに、考えるとイヤな感じがするの……」
御坂「ううん、違う。考えるのがイヤなの……なんか少しこわくて……」
それを聞いた白井と佐天はお互いを見て、笑みを浮かべる。
262 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/31(日) 01:01:57.83 ID:wZGfmiJH0 [7/11]
佐天「アタシが聞きたかったのはそれなんですよ」
佐天涙子の顔からさっきまでの厳しい表情が消える。
御坂「えっ?こんなこと聞いて何になるの?」
佐天「さっきから言ってるように、アタシ御坂さんが上条さんのこと好きなんだって薄々感じてました」
佐天「初春はアタシの親友だからアタシが協力するのは当然なんですけどー」
佐天「御坂さんの気持ちを知っておきながら、初春にだけ協力するなんてできません!!」
白井「ですから、ここは私がお姉さまに協力いたしますの!」
佐天の言葉に続いて白井が想いを口にする。
白井「まあ、少々不本意ではありますが。お姉さまの幸せは黒子の幸せでもありますし」
二人の言葉に胸を熱くしながら御坂は言う。
御坂「あんた達………………でもでも!でもね、私はアイツに好意なんて……」
白井「せっかく少し素直になれましたのに、またそれですの?」
佐天「初春に、上条さん取られちゃいますよーー!!!」
御坂美琴はその台詞にビクッとしたかと思うと、少し俯き再び顔を染める。
263 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/31(日) 01:09:26.42 ID:wZGfmiJH0 [8/11]
佐天「まあー。アタシは初春の味方だから良いんですけど」
にやつきながら佐天は言う。
白井「お姉さまはそれで良いんですの?」
御坂「…………」
佐天「別に、二人で恋の争奪戦をして欲しいって思ってるんじゃないんです」
佐天「ちょっと面白そうですけど……って、そうじゃなく!!」
白井「お姉さまのことですから、もしかしたら初春のことを気遣って」
白井「ご自分の気持ちを隠してしまうかもしれない……ですけど」
白井・佐天「その必要は無いってことですよ(ですの)!!!」
264 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/31(日) 01:18:30.13 ID:wZGfmiJH0 [9/11]
白井「私がお姉さまのサポートを」
佐天「アタシは初春を。という感じで条件は対等ですよね」
白井「ですから」
佐天「どっちが勝っても負けても恨みっこなしで!!」
佐天「ということでいきましょー」
御坂「佐天さん……黒子……」
御坂「ありがとうね。二人とも」
御坂「なんだかモヤモヤしていたものが取れた気がする」
御坂「でもね、私がアイツの事好きかって所はまだ保留よ!!ここのところは勘違いしないでね」
本当にいい加減素直になれよ。と二人は思うが、もう口にはしない。
白井「ただ、もしかしたら勝者の出ない戦いに終わる結末もありえますけど……」
佐天「白井さん!不穏な事言わないでください!!!」
このことは翌日、初春にも伝えられ、彼女たちは改めて自身の想いの確認をした。
第四部 (再会の裏で)
終わり
323 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 17:04:22.97 ID:sBeTOC+50 [1/24]
モノローグ5
(うぅ。ちょっとまいっちゃいました)
(まさか。御坂さんと争うことになるだなんて)
(私に勝ち目なんてあるんでしょうか)
(御坂さんは常盤台のエースでレベル5ですし)
(しかも、お嬢様なんですよ)
(それに比べて私はただの『風紀委員』……)
(…………)
(弱りましたね……)
(でも)
(私にしかできないことだってきっとありますよね)
(それをみつけてできたら、きっと……)
324 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 17:11:25.42 ID:sBeTOC+50 [2/24]
第五部 (季節外れの場所で)
『初春と御坂が競い合う』ということになって数日が経った。
競い合うと言うと響きが悪いのだが、
その言葉の響きとは裏腹に彼女たちの関係は前と変わらず、仲良くやっている。
そして『上条当麻』に対する行動を二人が何か起こしていたかというと
それも特にコレといった動きは無く、普段どおりの日常を過ごしていた。
そんなある日。
326 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 17:15:43.35 ID:sBeTOC+50 [3/24]
初春「スキー……ですか?」
佐天「そうそうスキー」
白井「スキーってあの、雪の上を滑るあれですわよね?」
佐天「ええ。それ以外何かありましたっけ」
御坂「って、でもどうしてこんな季節に?」
今は九月。少々涼しくなってきたとはいえ、雪はまだ降らない。
それどころか、もし雪が降ったとしても近場にスキー場など無い。
328 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 17:26:03.75 ID:sBeTOC+50 [4/24]
なのに何故彼女たちがそんな事を話しているかというと……
佐天涙子の鞄の中にその答えがあった。
佐天「じゃっじゃーーん!!!」
大げさな効果音を自ら口にし、それを取り出す。
『スキー場開設いたします!!!!』
大きく書かれたパンフレットを佐天はテーブルに置き三人に見せる。
御坂「えっと、なになに……『まだまだ暑い日が続いていますが……』」
白井「『夏に雪が降ったら……と考えたことはありませんか?』ですって?」
初春「それでそれでっと。『学園都市の技術はその夢を現実にしました!!』」
初春「『次の日曜。試験運用を兼ねて無料開放いたします!!!』」
白井「って、佐天さんこれ。どういうことですの?」
330 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 17:31:59.11 ID:sBeTOC+50 [5/24]
佐天「どういうことも何も、そのとおりの内容ですよー」
御坂「というと?」
佐天「この前アタシ達。水着のモデル撮影をしたじゃないですか?」
佐天「あの時、室内なのにいろいろな風景がありましたよね」
佐天「あれの技術を応用して、学園都市は擬似的に雪山を作り出しちゃったらしいんですよーー!!」
三人は一瞬その言葉を疑ってかかったが、すぐその疑問を取り下げる。
最先端の技術を開発している街。それが学園都市だ。
ありえないと思うことでもそれが実在する、そういう街に彼女たちは住んでいるのだから。
331 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 17:37:12.03 ID:sBeTOC+50 [6/24]
佐天「ですからー、よかったらみんなで行きませんか?」
と佐天は提案した。
御坂「いいわねー佐天さん。私乗ったわ!!なんだか楽しそうじゃない」
白井「お姉さまが行くのでしたら私もご一緒しますわ」
二人は快く返事をするのだが、残る一人はなかなか返事が返ってこない。
佐天「初春?どしたの?」
初春「う~ん、楽しそうだとは思うんですけど、私滑れる自信が無いです……」
腕立て伏せもろくにこなせない初春がそう思うのも当然だった。
332 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 17:44:09.38 ID:sBeTOC+50 [7/24]
佐天「大丈夫だってー初春!!ここ見てごらん」
初春「なんですか?『初心者向けのゲレンデもありますので、皆さんお誘い合わせの上来場ください!!』」
初春「……はい。でしたらあまり自信ないですけど私も行こうと思います」
御坂「わーい。じゃあ今度の日曜はみんなで夏のウインタースポーツ満喫ね!!」
白井「ですわね。楽しみですわ~」
こうして彼女たちは次の休日を一緒に過ごすことになる。
334 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 17:50:53.05 ID:sBeTOC+50 [8/24]
そして当日。四人は待ち合わせをしてから会場に向かうことにしていた。
だが時間を過ぎても待ち合わせ場所にいるのは三人だけ。初春が遅れている。
御坂「初春さん、遅いねー」
佐天「全く。初春ったらなにやってんだろ?」
白井「電話をかけてみましょうか。……っと、その必要はなくなりましたわね」
白井が初春の番号を呼び出したところで、三人の前に本人が現れた。
初春「お、遅くなって……す……すみません!!!」
全力疾走してきたらしく、息を切らしながら初春は先にいた三人にペコペコ謝る。
335 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 17:56:40.83 ID:sBeTOC+50 [9/24]
白井「初春が遅刻とは珍しいですけど、一体どうしたんですの?」
初春「そ、それが……防寒具を探してたんですけどなかなか見つからなくって……すみませんでした!!」
そういうと、鞄の中から可愛らしい手袋と帽子を取り出し三人に見せる。
初春「小学生の頃のなんで、ちょっと恥ずかしいんですけど……」
佐天「気にしないで良いってーアタシも新しくそろえる時間無かったしさ」
白井「そうですわよ。それに会場で貸し出しのサービスくらいやっているでしょうしね」
白井と佐天は話しているが、御坂は会話に入ってこない。
御坂(……可愛いなあ、あれ……)
彼女は一人初春の防寒具に見とれていた。
佐天「では、そろそろ行きましょーか!!」
白井「そうするといたしましょう」
彼女たちはそのまま話しながら会場へと向かっていく。
337 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 18:03:30.65 ID:sBeTOC+50 [10/24]
初春「ここが会場なんですね~」
御坂「ほんとにこんなとこでできるのかしら?」
白井「同感ですの」
佐天「……ま、まあ。書いてあるのはここなんですし、とりあえず入りましょう!」
彼女たちが疑問に思ったのも無理は無い。
パンフレットに書いてあった場所。というのがどう見てもただのビルだからだ。
佐天「えっと。五階五階っと」
不安に思いながらもとりあえず、エレベータに乗り目的の階へ昇る。
『五階。特別イベント会場です』
エレベータの機械音声にあわせ扉が開かれる。
そこには彼女たちの不安を瞬時に解消するに足る、白銀の世界が広がっていた。
338 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 18:09:43.02 ID:sBeTOC+50 [11/24]
初春「わ~~すごいですね。一面雪景色です~」
佐天「ホントだねー!きれいー」
御坂「にしても、ただのビルの一フロアとは思えないくらいの広さよ、これ」
白井「ん~どういう技術なんでしょうね?」
四人は目の前の景色に感動しながらも、同時に疑問を持つ。
しかし、その疑問は『学園都市だから』という理由で即座に解決した。
御坂「ねーねー、早く行きましょうよ」
白井「お姉さま、お待ちくださいませ!はしたないですわよ」
御坂は結構楽しみにしていたらしく着いて早々走り出し、それを白井が追いかけていく。
初春「私達も行きましょうよ、佐天さん」
佐天「うん、そだね。って三人とも!!まずは受付済ませないと!こっちですよーー」
340 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 18:15:08.78 ID:sBeTOC+50 [12/24]
受付嬢「四名さまですね。ウェア一式はロッカールームにそろっております」
受付嬢「デザイン・サイズお好きなものをお召しください」
受付嬢「スキー、ボード各種そろっておりますので存分にお試しくださいね」
マニュアルでもあるのだろうか。受付の淡々としたしゃべり方で彼女たちは受付を済まされた。
初春「せっかく探したんですけど、コレ使わなさそうですね」
初春は遅刻の理由になった防寒具を見てため息をつく。
佐天「まあそんなこともあるって、気にしたら負けだよ!」
白井「そういうドジなところはいつになっても変わりませんのね」
初春「むっ!今のは聞き捨てなりませんね。私だって頑張ってるんですよ~」
白井「へっ!どうでしょうか?そういうのは一人前に任務をこなせるようになってから言いなさいな」
御坂「まあまあ二人とも抑えて抑えて!!」
年長者として目の前で軽く言い争っている二人を止める御坂。
御坂「あ。それでさ初春さん、それ使わないならさ……」
そんなこんなで、初春の防寒具は御坂が使うこととなった。
342 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 18:24:06.96 ID:sBeTOC+50 [13/24]
佐天「アタシはボードにしよっと!初春はどーする?」
初春「私は普通にスキーにします。自信ないですし」
ウェアに着替え、今度は道具を選ぶ初春と佐天。
御坂「んー。私もボードがいっかな」
白井「私はショートスキーにいたしますわ」
御坂と白井も各々が好きなものを選ぶ。
そして彼女たちはゲレンデに向かう。
佐天「まずは皆で初心者用コース行きませんか?慣らしってことで」
御坂「いいわねー賛成」
白井「お姉さまについていきますわ」
初春「っていうか私はたぶんそこしか滑れないと思います」
佐天「よしっ、じゃあ行きましょう!えっと、リフトはっと……あ、あそこですね」
343 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 18:30:00.84 ID:sBeTOC+50 [14/24]
佐天「初春!リフトが来るまでその円の中で待ってるんだよ」
そういうと見本を見せるように自らがリフトに乗り込む。
初春「う~~。えいっ!!」
なんとか初春もアドバイスどおりに乗り込むことに成功した。
一歩、白井と御坂はというと初春が手間取っている間に既に昇っていた。
御坂「『当施設は天候コントロールを行っております。本物さながらの自然をお楽しみください』かあ」
御坂「別にそんなの再現しなくても、晴れたままでいいと思うけどなー」
リフトに乗っている最中BGMの合い間に流れる館内放送に御坂はぼやいていた。
もうすぐ到着というところで
「リフトから降りるときは足元をキチンとご確認くださいー」
どこかで聞き覚えのある声がする。
344 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 18:39:25.78 ID:sBeTOC+50 [15/24]
御坂「あ、アンタは!?」
上条「足元にご確認ください……っ!!き、奇遇だな……」
御坂「どうしてアンタがこんなとこにいんのよ!?」
突然思いがけない人物に会った為、御坂は戸惑う。傍から見るとものっすごく挙動不審だ。
そんなだからリフトを降りるときにバランスを崩すが何とか持ちこたえた。
上条「いちゃ悪いのかよ!って、見て分からねえか?バイトだよ、バイト」
白井「そういえば佐天さんの持ってたパンフレットに『アルバイト募集』とも書かれていましたわね」
続いてリフトから降りた白井が会話に加わる。
346 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 18:46:52.63 ID:sBeTOC+50 [16/24]
御坂「あんたそんなに貧乏なの?」
上条「主に食費がだな……ってストレートに聞きすぎだよ!!凹むだろ!!」
御坂「普段の行いが悪い所為よ!自業自得だわ!!」
御坂は本当は(そんなに困ってるなら、私がご飯でも作ろうか?)
と言いたかったのだが、思い通りの言葉が出ない。そして勝手に赤面している。
上条「にしても、やっぱお前そういう子どもっぽいのが好きなんだな……」
御坂の身に着けている防寒具を見て上条は馬鹿にする。
御坂「こ、これは違うんだから!!!」
上条「何が違うってんだよ。言い訳にもなんねえぜ」
御坂「うっさいわよバカ!!!」
白井(うう……こんなのではサポートと言っても難しいですの……)
348 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 18:58:28.11 ID:sBeTOC+50 [17/24]
彼らが話しているところへ今度は佐天がやってくる。
佐天「二人ともお待たせって、上条さんじゃないですか!?」
上条「……どこかで会った事ありますっけ?」
佐天(まずっ。アタシは自己紹介して無いんだった!!)
佐天「えっと、御坂さんたちから噂はかねがね聞いてるんで……えへ」
上条「は、はあ(きっと御坂のことだから悪い噂でも流してるんだろうな……)」
上条は少し考え込んでいるようだが、佐天は上手くごまかして白井に事情を問いかける。
白井「かくかくしかじかですの」
佐天「ふむふむ」
状況を理解した彼女は次の瞬間何かを思いつき、上条に耳打ちする。
349 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 19:04:11.67 ID:sBeTOC+50 [18/24]
初春「さ、佐天さん!これどうやって降りるんですか!?こわいです」
スキー初心者にとって一番最初に立ちはだかる難関はリフトの下車といっても過言ではない。
それは例外なく初春の身に迫っている。
佐天「なんとかなるってー。ファイトー」
初春「そんな他人事のように言わないで下さい~うぅ~」
そういうと彼女は意を決してリフトから降りる。しかしやはり初めての経験なのでバランスを大きく崩してしまう。
上条「おっと、危ない!」
そこを上条がしっかりと支えた。
佐天から『初春たぶん降りられないんで面倒見てあげてください』と頼まれていたため
初春の事を補佐するよう構えていたのだ。
351 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 19:13:33.95 ID:sBeTOC+50 [19/24]
初春「わわっ。上条さんどうして??」
上条「コレが仕事だからな。大丈夫か?」
初春(私を助けるのが仕事……)
初春(違う違う。ここでバイトしてるってことだよね)
初春「は、はいっ!!!ありがとうございます!!」
その光景を見ていた御坂は一人で悔しがっていたが誰も気付いていなかった。
初春「こんなところでバイトって大変ですね。ずっとここにいるんですか?」
佐天たちから事情を聞いた初春が上条に再び話しかける。
上条「生活のためだからな、仕方ないんだ」
上条「あと俺はリフト係だから交代でいろんなリフトのところに行けって言われてる」
初春「いろんなリフト?」
上条「そうそう、まあ詳しくはあの看板見てくれよ。仕事に戻るからさ」
初春「あ、お邪魔してすみませんでした!!」
それを背中で聞きながら上条はリフトの制御板の前まで走っていった。
353 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 19:22:54.23 ID:sBeTOC+50 [20/24]
白井「ふむふむ、いろんなコースがありますのね」
四人は上条の言った看板を見ている。そこに書いてあるのは各コースの説明だ。
・『初心者コース』なだらかな斜面です。天候は固定。
・『中級者コース』比較的斜度が急です。天候は基本的に固定。
・『上級者コース』斜度、起伏共に激しくなっています。天候はたまに変わります。
・『ベテランコース』名前のとおりのコースです。自信のある方はどうぞ。天候はよく変わります。
佐天「なるほど、天候がいろいろ変わって大変だから上条さんたちバイトの人は場所交代があるんですねー」
コース内容を一通り理解すると彼女たちはゆっくり滑降を始める。
355 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 19:31:12.71 ID:sBeTOC+50 [21/24]
初心者コースの麓で。三人が話している。
御坂「私は全コース征派目的で行くわ!!黒子も来るでしょ?」
白井「ええ、ご一緒しますわ」
御坂「佐天さんたちはどうするの?」
佐天「初春もいることだし……」
三人は目の前の斜面を眺める。ボーゲンをしながら必死に滑降している初春の姿が見える。
佐天「遠慮しないでどんどん行っちゃって下さい」
白井「ではお姉さま行きましょうか」
御坂「じゃあね佐天さん。休憩するときは連絡頂戴ね。私達も連絡するからーー」
二人がリフトに向かうと同時に初春がようやく降りてきた。
356 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 19:38:50.45 ID:sBeTOC+50 [22/24]
初春「はあ、はあ、ようやくつきました」
佐天「……初春。そんなんじゃダメだよ」
初春「そんな事言われても~、私初心者ですし……」
佐天「甘ったれるんじゃないわよ。御坂さんに先を越されるよ!!」
佐天涙子は見ていた。御坂美琴の目がギラギラ輝いていたのを。
『全コース征派』=『全コースどこに上条が行っても着いて行く』ということなのだ。
もし、初春がずっと初心者コースを滑り続けるのなら上条に出会えるチャンスは少ない。
佐天「……というわけだからガンガン行くからね覚悟は良い?」
初春「は、はいっ!!!」
佐天「最低でも中級者コースくらいはすぐ滑れるようにならないと、話にならないからね!!」
初春「が、頑張りますっ!!!」
第五部 (季節外れの場所で)
終わり
402 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/02(火) 22:25:56.08 ID:6yE63Q+20 [3/16]
モノローグ6
(こんなことになるなんて思いませんでした)
(まさかここで上条さんに出会えるなんて……)
(また助けてもらっちゃった……)
(って今はそういうことを振り返ってる場合じゃないです)
(練習しないと!!!)
(御坂さん!!負けませんよ!!)
(でも、私……)
(こんなので大丈夫かな……)
403 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/02(火) 22:30:54.52 ID:6yE63Q+20 [4/16]
第六部 (笑ってください)
御坂「どう初春さん、すこしは上達した?」
初春「はい、佐天さんのおかげでなんとか……」
白井「佐天さんも大変でしょうに」
佐天「まあちょっぴり……でも次は中級コースに行くので楽しみですねー」
御坂たちが一通りコースを滑ったということなので一旦皆で休憩することにし、初心者コース麓のレストハウスで彼女たちは休んでいる。
初春は何度も転びながらもなんとか基本的な滑りはできるようになった。
初春(御坂さんきっと上条さんといっぱい話したんだろうなあ……)
初春は心配していたが、それは杞憂だった。
御坂は確かに何度か上条と顔を合わせていたが、バイト中の彼に話すのも気が引けるし恥ずかしい
という理由でほとんど会話などしていなかった。
405 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/02(火) 22:39:05.73 ID:6yE63Q+20 [5/16]
佐天「じゃあそろそろいきましょうか」
御坂「私達はもう少し休んでから行くわ、すこし飛ばしすぎちゃったし」
初春「ですか。それじゃあお先に~」
白井「二人とも気をつけて、ですの」
初春と佐天の二人は中級者コースへ向かう。
佐天「って、あれ上条さんじゃない?」
初春「あ、本当です!!」
中級者コースに着いた彼女たちが見たのは、
上級者コースへ向かう上条の姿だった。
406 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/02(火) 22:43:53.33 ID:6yE63Q+20 [6/16]
初春「これから上級者コースの担当なんだ……」
初春「タイミング悪いなあ……」
初春はあからさまに残念な顔をしている、それを見た佐天は初春に問いかける。
佐天「どうする?初春」
初春「どうするって言われましても……」
佐天「ここは勝負どころだよっ!このまま中級コースにいても上条さんには会えない……」
佐天「だったら、すこし無理をしてでも上級コースに行くぐらいしないと!!」
初春「ですけど、そんなに自信ないです……」
初春はつい、弱音を吐いてしまう。
407 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/02(火) 22:49:02.32 ID:6yE63Q+20 [7/16]
佐天「自信が無いって、何の自信?スキーのこと?それとも上条さんとお話しすること?」
初春「そ、それは……」
佐天「スキーの自信が無いのは分かるよ。でもさ、それならそれで今迄みたいに転びながら頑張ってみようよ!」
佐天「もし、お話しするのに自信が無いってんならアタシ初春に協力するのやめる」
初春「佐天さん、あの」
佐天「黙って聞いて、初春」
いつに無く真面目なその態度に初春は黙って従う。
佐天「仲良くなりたいなら、御坂さんよりも近づきたいなら。もっとお話しないとダメだよ」
佐天「アタシの親友の初春は、自信が無いなんていって逃げる臆病者じゃないよね?」
佐天「『幻想御手』事件の時だって、諦めずにアタシのこと助けようとしてくれたじゃない!!」
佐天「初春だったらきっと大丈夫だから、きっとうまくいくから」
佐天「だからさ……」
佐天「頑張ろうよ!!!」
409 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/02(火) 22:53:41.71 ID:6yE63Q+20 [8/16]
佐天の強い言葉に初春は
初春「はい!!」
ただ一言で答える。たったの一言だが、さっきまでの弱さは既に無く、目には決意の色が見える。
佐天「よーし、よく言った初春っ!!それでこそアタシの親友だよ!!」
初春「いえいえ、ありがとうございます」
初春「なんだか、俄然やる気が出てきましたよ~」
佐天「うん。ってか盛り上がってるとこに悪いんだけど、熱弁ふるったら喉渇いちゃった」
佐天「ちょっと飲み物飲んでから行くから先に上行って待ってて」
言うだけ言うと颯爽と去ってしまったので初春は仕方なく一人でリフトを昇り始めた。
410 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/02(火) 23:00:19.92 ID:6yE63Q+20 [9/16]
上級者コース手前にリフトが到達すると、かなり雪が降っていた。新雪も多いようだ。
初春「流石は上級者コースですね……」
初春「佐天さんを待っている間、上条さん探そうっと」
初心者コースで何回も乗降を繰り返していたので、今度は上手くリフトから降りると
目当ての人物はすぐそこにいた。
上条「おー、初春さん」
初春「あっ上条さん!!」
上条「なんか意外だな、御坂達ならともかく、初春さんが上級コースにいるなんて」
初春「むっ!それはどういう意味ですか~?」
初春「ばかにしないで下さいよ~!!私だってやる時はやるんですから!!!」
上条「はははっ(ちょっとまずかったかな?)」
初春(うん!私だってやる時は……やってみせます!!)
411 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/02(火) 23:07:09.52 ID:6yE63Q+20 [10/16]
初春と上条が雑談に花を咲かせている頃。
佐天は飲み物を飲み終えリフトへ向かっていた。
しかし肝心のリフトが動いていない。
佐天「あれ?どーしたんだろ?コレじゃ上いけないよー」
…………
同刻、レストハウスでも。
御坂「なんなのかしら」
白井「どうしました、お姉さま?」
先程からレストハウスを行き来するスタッフの挙動が何かおかしい。
彼女たちも佐天と同じく疑問を感じる。
そして次の瞬間。場内に耳を裂かんばかりのブザー音が響き、メッセージが流れる。
『天候制御システムに異常発生。ゲストの皆様は至急お近くのレストハウスに避難ください』
『スタッフはゲストの避難誘導をしてください。繰り返します……』
無機質な機械音声が異変を知らせるのだった。
413 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/02(火) 23:13:29.26 ID:6yE63Q+20 [11/16]
佐天「なに?何が起こってるの?」
佐天「避難って……そうだ初春は?」
混乱しながらも親友のことを気遣う佐天。
携帯電話を取り出し、呼び出しをかけるが話し中。
電話をかけていたのは白井黒子だった。
白井「放送は聞こえましたわね初春」
初春「ええ、白井さん。私達も誘導を手伝いましょう」
白井「もちろんですの。初春今どちらに?」
初春「上級者コースです」
なんで初春がそんなところに?白井は疑問に思うが考える間も無く初春が続ける。
415 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/02(火) 23:18:30.85 ID:6yE63Q+20 [12/16]
初春「上条さんも一緒なので、一緒に誘導してすぐ降りますね」
白井「何かすこし不安ですの……私も行きましょうか?」
初春「大丈夫ですって、コレくらいちょちょいのちょいで片付けますから」
初春「私だってやれば出来るとこ見せてあげます」
白井「ちょっと、初春っ!!ういはっ」
電話は既に切れていた。
御坂「初春さんどうかしたの?」
白井「それが……」
外はいつの間にか吹雪になっていた。
417 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/02(火) 23:24:08.42 ID:6yE63Q+20 [13/16]
初春「さてと」
そういうとポケットから『風紀委員』の腕章を取り出し慣れた手つきで装着する。
初春「ちゃちゃっと片付けて私達も避難しましょう!!」
上条は一瞬、目の前の少女の行動に目を奪われた。
上条「なんか初春さんって、ボーっとしてるイメージあったから驚いたな……」
初春「何か言いましたか~?」
本当は聞こえているのにわざと問いかける。
上条「いいや何も。良い意味でギャップがあったって事。それは置いといて、ほら、さっさと片付けよう」
会話もそこそこに二人は避難誘導を始める。
418 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/02(火) 23:33:20.20 ID:6yE63Q+20 [14/16]
佐天「御坂さん!!白井さん!!」
レストハウスに佐天が飛び込んでくる。
御坂「佐天さん!大丈夫だった?」
佐天「ええアタシは大丈夫です。あの、初春知りませんか?」
その問いに御坂と白井は顔を見合わせ、そして答える。
白井「上で避難誘導をしていますの」
佐天「上級者コースですよね……大丈夫かな初春」
御坂「あのバカも一緒みたいだし、大丈夫よきっと……」
白井「こうしてはいられませんの、私も出ます」
そう言い、外に飛び出そうとするがスタッフに止められる。
「今から外に出るのは危険です!!!中でお待ちください!!」
白井「私は『風紀委員』ですの、お手伝いいたします!!」
「しかし、今外は大変吹雪いており危険です。どうか理解ください!!」
スタッフの言うとおり、外の天候はますます悪くなっている。
419 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/02(火) 23:40:07.66 ID:6yE63Q+20 [15/16]
上条「他にお客様はいらっしゃいませんかー?」
初春「はやく避難してください!!!こちらです」
二人の懸命の活動の甲斐あって、上級者コースの避難誘導はほぼ終了した。
一番近いレストハウスは、彼女たちのいるところからすこし滑ったところにある。
リフトは停止しているので、そこに向かって客が滑降している。
初春「上条さん!!そろそろ私達も避難しましょう」
上条「ああ、そうだな!ますます天候が悪くなってきてやがる。早く行こう」
二人で滑り出そうとしたとき、初春が気付く。
初春「うっ……高いですね」
コースの斜面は下から見上げるのと上から見下ろすのでは全然見え方が違う。
そのことに気付き恐怖を感じたのだ。
上条「大丈夫だ!!ゆっくり滑っていけばいい!!俺の後についてきて!!」
初春「上条さん……分かりました、いきましょう!!!」
今度こそ滑り出そうとしたときのことだった。
421 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/02(火) 23:51:59.46 ID:6yE63Q+20 [16/16]
まるで地響きのような振動が轟く。
それは身体の芯まで響き、一瞬で二人はその異常に気付いた。
上条「まさかとは思うけど……これって」
彼らのいる上級者コースのさらに上、ベテランコースの方を見上げる。
初春「見間違いじゃないですよね……??」
視界は吹雪のため極端に悪いが、轟音と共に迫ってくるそれの存在は確認できた。
上条「雪崩だっ!!早く逃げるぞ!!」
初春「はい!!」
上条「ゆっくり行ってたら巻き込まれる。早く!!」
上条「畜生!屋内で雪崩だなんてドンだけ不幸なんだよ!!」
ぼやきながらも全速で逃げ出す。
しかし、気付くのが遅かった。精一杯滑降する彼らを嘲笑うように、雪崩が迫る。
422 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 00:01:37.07 ID:jdgyX9k60 [1/22]
先程からスタッフの動きが、よりせわしくなっている。
御坂たちはイライラしながら動向をうかがっていた。
本当は今すぐにでも飛び出して初春達の安全を確認したい。
それが出来ないというだけでもストレスがたまっていたが、避難が完了したのかどうかの情報さえ入ってこない。
痺れを切らした白井がスタッフに問いかける。
白井「現状はどうなっておりますの?避難は完了したのでしょうか?」
「それが、今入った情報によると、ベテランコースで雪崩が発生したらしい」
佐天「えっ!!あ、でもよかった、ベテランコースなら初春たちは無事ですね」
御坂「それで、雪崩は大丈夫だったんですか?」
「それなんだが、ベテランコースで発生した雪崩はそのまま上級者コースへ進み……」
「避難誘導をしていた少女と、バイトのスタッフを巻き込んだらしい……」
三人の表情が凍りつく。
423 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 00:10:30.30 ID:jdgyX9k60 [2/22]
白井「それは本当ですの!?」
「ああ、まちがいない。目撃者もいる」
佐天「なら、今すぐ助けに行かないと!!アタシ行きますっ!!」
御坂「私もいくわ!!」
「待つんだ!!まだ天候制御システムが復興していない。二次災害が起こるのをみすみす見逃すわけにはいかない!!」
佐天「そんな事言ったって!!!初春がっ!初春はどうなるんですか!?」
「今は彼らの無事を祈るしかない……今全力でシステムの復旧をしているから。それまで待つんだ」
御坂「そんな……」
早く吹雪が止んで欲しい。そんな彼女達の思いと裏腹に、降る雪はレストハウスを激しく打ち立てていた。
427 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 00:19:27.22 ID:jdgyX9k60 [3/22]
初春「いたたたたた、うう……いったいどうなって……」
初春飾利は生きていた。
現在地は分からない。
ただでさえ視界が悪いのに、雪崩に巻き込まれた所為で方向感覚は完璧に狂っている。
初春「とにかく外に……」
雪に埋もれていた身体を出そうとしたとき、激痛が走る。
初春「っ!!!!!」
痛みをこらえて身体を引きずり出し、その場所を確かめる。
痛みがあったのは二ヵ所。左足と右腕。
足はどうやらひびでも入っているのか、動かすたびに痛みが全身を走る。
腕の方はというと、動かすことも満足にいかない。こちらは関節が外れてしまっているらしい。
429 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 00:25:00.70 ID:jdgyX9k60 [4/22]
とりあえず自身の命があったことにほっとする初春だが、すぐ異変に気付く。
初春「そういえば、上条さんは?どこ?」
辺りを見渡してみるが姿は無い。
初春「上条さ~~~ん!!!!!どこですか~~!!!」
返事も無い。最悪の想像が初春の頭をよぎる。
いや、そんな事あるはずが無い。あって欲しくない!!彼女の頭はどんどん混乱していく。
初春「上条さん!!!!返事してください!!!!!」
いやな考えを打ち消すように大声を出す。
それしか彼女には出来なかった。
431 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 00:41:32.34 ID:jdgyX9k60 [5/22]
初春「あ、あれは!!」
痛みが走る身体を引きずりながら探し回ること数分、初春は見覚えのあるものを見つける。
それは上条の着ていたコートだ。スタッフ用で目立つ色だったことが幸いした。
よく見るとコートだけでなく上条自身の身体も確認できる。
初春「よかった!!上条さん!!!大丈夫ですか?私です!!大丈夫ですか!!」
彼の身体を揺さぶり声をかける。数回呼びかけたときにようやく反応があった。
上条「う……あいててて……!!う、初春さん!!ここは!?」
初春「よかった、気がついたんですね!!」
二人はお互いの存在を確認し一旦は安心する。
しかし彼らを取り巻く状況は最悪のものだった。
432 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 00:48:01.36 ID:jdgyX9k60 [6/22]
上条「うん、やっぱり動かねえ」
初春「どこか痛い所はありますか?もしかしたら折れてたりするかもしれませんし」
上条「その心配はないみたいだ、だけど全く動かねえとは……」
斜面に巻き込まれるようにして胸から下がすっぽり埋まってしまったために、自分の力だけでは脱出できなくなっていた。
初春が掘り起こそうとするものの、硬く固まってしまった雪は道具が無くてはほとんど掘れない。
ましてや、彼女の腕は半分使えない。どうしようもない現実が彼らを包み込む。
初春「寒くなってきましたね……大丈夫ですか?」
上条「ああ、なんとか……でもこのままだとマズイかもな」
吹雪は一向に止む気配が無い。身につけていた防寒具は雪崩に持っていかれてしまっている。
絶望感も入り混じり、雪は彼女達の体温をどんどん奪っていく。
433 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 00:55:13.50 ID:jdgyX9k60 [7/22]
初春「いま……なんて言いました?」
上条「……一人で行けって言ったんだよ」
初春「なんで、なんでそんな事いうんですか!?」
上条「このままここにいたら二人とも凍えてしまって危険だ」
上条「俺は動けないから、せめて初春さんだけでも逃げるんだ!いつ雪崩の二波が来るかもしれないし!!」
上条「それに俺はこういう修羅場は結構経験してんだ。初春さんが逃げてから自分で何とかしてみせるからよ」
目の前の少女は自分のことを気遣ってこの場を離れない。
彼女だけでも助けるため、あえて強い言葉をかける上条当麻だった。
その言葉に初春飾利は無言で立ち上がり、足を引きずりながら歩き出す。
しかし数メートル進んだところで彼女は足を止める。
初春「………………」
上条「どうしたっ!!??はやく!!」
初春「………………」
初春飾利は何かを決意し、上条当麻の方向へ戻っていく。
434 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 01:07:52.34 ID:jdgyX9k60 [8/22]
上条「なにやってんだよ!!」
初春「いいですから、私に任せてください」
きつい口調の上条とは対照的に初春は優しく話しかける。
初春「前に……私の能力について話そうとしたことがありましたよね?」
そういうと初春は両手で上条の左手を包み込む。右腕は痛み以外ほとんど感覚が無いがそれでも構わず握り締めた。
上条「能力……?」
彼女の優しい口ぶりとその手の暖かさに上条は思わず問いかける。
初春「ええ、コレが私の能力なんです。『定温保存』って言うんですけど」
初春「触れているものの温度を保つことが出来るんですよ。すごいでしょう!!」
初春「っていってもレベル1なんで、大したことはないんですけどね……」
初春「でも……」
初春「それでも……」
初春「上条さんを凍えさせやしませんっ!!!」
436 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 01:11:03.97 ID:jdgyX9k60 [9/22]
目の前の少女は自分を助けようとしてくれている。
自分には『幻想殺し』があるから能力は無意味かと思ったが、彼女の能力はキチンと効いている。
彼女の能力は『右手を含む全身』を保温するのでなく、あくまで触れているところにしか効果がないようだ。
珍しく上条にも有効な能力だった。
触れているところにしか効果がない。しかし、手が保温されればその暖かさは血流に乗り、わずかながらも全身に行き渡っていく。
その効果は上条の命を永らえさせるだろう。
だが、彼女の身体は満身創痍で、普通なら自分の身体に気を使うので精一杯のはずだ。
それなのに、自分を助けようとしてくれている。
しかも、能力を使うことは自分自身に負担を与えかねないのに。
自分は身体には異常はない、ただ動くことが出来ないだけだ。
その事実が、苛立ちをはじめ複雑な感情となって上条当麻の心に深く突き刺さる。
437 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 01:16:31.05 ID:jdgyX9k60 [10/22]
上条「おい、いますぐ止めろ!」
初春「嫌です!!」
上条「ごちゃごちゃ言ってないで止めろって言ってんだよ!!!」
上条「そんな身体で能力なんて使ったら手前のほうがくたばっちまうだろうが!!」
上条「自分の体力まで使って、他人を助けようとしてんじゃねえ!!」
上条「手前と引き換えに助けられても俺は嬉しくなんかねえんだよ!!」
上条「ドラマみたいな二者択一の生死選択なんざ、望んじゃいねえんだよ!!」
上条「それは手前も同じだろうが!!!」
初春飾利は無言で頷く。
上条「だったら、今すぐこの場から離れやがれ!!!」
上条「もし、そんなの嫌だってまだ言うんなら……」
上条「もし、まだ」
上条はその後の言葉。こういう修羅場でよく言った覚えのある言葉を続けようとする。
しかし、目の前の少女の表情を見て言葉に詰まる。
439 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 01:31:14.16 ID:jdgyX9k60 [11/22]
初春飾利は泣いていた。この苛酷な環境では流れる涙でさえ体温を奪っていくが、構わず涙を流している。
初春「ありがとうございます……」
初春「私の周りってお説教好きな人ばかりですね」
初春「さっきも佐天さんに怒られちゃったけど。それは私の事をきちんと考えてくれてるから……」
初春「上条さんもそうですよね……」
初春「こんな私の事、考えてくれてありがとうございます」
初春「普段の私ならきっと何も言えずに上条さんに従うんでしょうけど」
初春「今は違います!!」
初春「私の、私だけにしか出来ないこと……見つけたんです!!」
初春「だから…………」
初春「絶対離れません!!」
そう言うと両手に、より一層の力をこめて上条当麻の手を握る。
440 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 01:46:05.76 ID:jdgyX9k60 [12/22]
上条「何考えてんだよっ!!!」
初春「怒らないで……下さい……」
さっきまでとは違う弱弱しい声に上条当麻は気づく。目の前の初春飾利の体力がもうほとんどないことに。
ぼろぼろの身体で能力を使うことは並大抵のことではない。
その代償が彼女の身体に現れているのだ。
目の前の少女をもう悲しませたくない、もしかしたら最後かもしれないから。
もしかしたらとかそんなことは本当は考えたくない。でも頭には容赦なく浮かんでしまう。
だから、彼女の言葉を受け入れることにした。
上条「わかったよ、もう怒らねえ」
441 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 01:53:48.13 ID:jdgyX9k60 [13/22]
初春「よか……った……です」
初春が能力を使っているから上条の身体は温かい。
だが、その能力を使っている初春の手は驚くほど冷たくなっていた。
上条「おい、しっかりしろよ!!!」
そう話すと共に彼女の冷たい手を両手で握ろうとするが、ふと我に返る。
自分の右手は『幻想殺し』なのだ。下手に触ってしまえば目の前の少女の望みさえ打ち消してしまう。
上条当麻は自分を呪った。何も出来ない自分が本当に情けなかった。
初春「だから……そういう顔……しないで下さい……」
上条「えっ?」
初春「こわい顔……しない……で……ください……」
初春「笑って……ください」
443 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 02:01:10.78 ID:jdgyX9k60 [14/22]
上条「お、おう。もうこわい顔しねえから!!」
初春「よかった…………あ、そうだ……」
上条「ん?どうした?」
初春「もし…………無事に帰れたら……デートに誘ってください」
初春「いろんなとこに……いってみたいです」
どう返せばいいのか、一瞬迷った後返答する。
上条「上条さんは……ほら、こんなとこでバイトしてるような貧乏学生だから……あんまり期待するなよ」
初春「もうっ……困った顔も……しないで下さいよ…………」
上条「困ってなんてないぜ!むしろ女の子とデートできるのは嬉しいしよ」
初春「よかった……また……笑ってくれた…………」
声がどんどん小さく弱くなっている。
だから上条は初春を元気付けるように大げさに声を張って言う。
上条「俺は……笑ってるからさ!!!初春さんも笑ってくれよ!!!!」
その言葉に、返事はなかった。
第六部 (笑ってください)
終わり
445 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 02:08:53.56 ID:jdgyX9k60 [16/22]
エピローグ
数日後。
イン?「とうまー本当にびっくりしたんだよ?なかなか帰ってこないし、おなか空いたし、いきなり入院だし」
イン?「心配するこっちの身にもなってほしいんだよ」
上条「ああ、悪かったよ」
上条当麻は病院のベッドに寝転んでいた。
そしてあのときのことを思い出す。
上条(彼女が意識を失っても、それでも能力を使い続けてくれたから、今俺は生きてる)
上条が最後にかけた言葉に返事はなかったが、初春は意識を失ってなお上条を助けるために能力を使っていた。
その後程なくして上条も意識を失い、気付くと病院のベッドだった。
上条「『幻想殺し』なんて言ってるけど、無力だな……」
そう呟き、自らの右手を眺める。
446 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 02:16:42.91 ID:jdgyX9k60 [17/22]
一方、佐天涙子・白井黒子・御坂美琴の三人は……
白井「それにしても初春がまさかこんなことになるなんて……」
佐天「アタシがあの時ついていってればよかったんです」
佐天「ううん、それ以前にスキーなんて誘わなければよかった!!!」
御坂「そんなに自分を責めないで、佐天さん」
御坂「佐天さんが悪いんじゃないわ」
白井「そうですのよ、もし初春が今の佐天さんをみたらきっと笑いますわよ」
白井「『元気が取りえの佐天さんらしくないですよ』って……」
それぞれ初春のことを考えている。
それぞれが傷つき、自問自答をしていた。
448 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 02:23:59.75 ID:jdgyX9k60 [18/22]
三人が話しているのは上条当麻の病室の隣。
その病室のベッドに横たわっているのは初春飾利だ。
彼女も上条と同じく助け出され今に至る。
無理して能力を使っていたために瀕死状態で運び込まれた彼女は、つい昨日まで集中治療室にいた。
だが意識が戻らない。
身体はボロボロだが普通なら意識は戻っていても良い。と医者は言う。
初春の意識が戻らないまま、さらに三日が経った。
449 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 02:33:49.59 ID:jdgyX9k60 [19/22]
上条「退院か……初春さんはまだ意識が戻らないってのに……俺は……」
上条当麻は入院している最中ずっと初春のことを考え自己嫌悪していた。
そんな状態だからもちろん初春の病室に行くことも出来ず、ただ考えていた。
上条(俺にもっと力があればこんな風には……)
上条(でもよ初春さん……ちゃんと二人で帰ってこれたじゃねえか)
上条(何考えてんだよ?早く起きろよ?)
イン?「とうまーそろそろいくんだよ」
上条「……おう、じゃあいくか」
荷物をまとめ、病室を後にする二人。後姿はとても物悲しい。
450 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 02:42:09.06 ID:jdgyX9k60 [20/22]
隣の病室では佐天涙子が初春のお見舞いに来ていた。
佐天「ねえ初春?上条さん今日退院なんだってさ」
佐天「このままじゃ、御坂さんに先越されちゃうよ?」
佐天「ねえ……初春……目を……覚ましてよ…………」
佐天のすすり泣く声を聞きながら病室の外で上条当麻は立ちすくんでいた。
佐天「……何考えてるの?……どんな夢をみてるのよ?」
本当はそのまま通り過ぎようとしていたが、意を決し上条は病室に入る。
上条「本当に……どんな夢。みてんだろうな?」
佐天「か、上条さん!?」
上条「俺のせいで……こんなことになって、すまねえ」
そういうと、上条は初春の顔を覗き込む。
小さな傷が少しある以外は綺麗な顔をしている。
あの日の記憶がよみがえる。
抱きとめたこと、話したこと、様々なことが頭をよぎる。
暫らくして、上条当麻はふっと閃く。
451 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 02:50:42.01 ID:jdgyX9k60 [21/22]
上条(もしかしたら)
上条(もしかしたらだけど……!!!)
そう考え上条当麻はその右手を、初春飾利の額に近づける。
上条(もし、まだ……)
そして、あの日言えなかった台詞を小さな期待と共に口にする。
上条「もしまだ、自分と引き換えに他人を助けるって綺麗事みてえな幻想を抱いてるって言うんなら」
上条「まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!!!!」
彼の右手が初春の額に触れる。
……
……
……
……
「……また……こわい顔してますね…………」
「笑ってください!!」
とある魔術の禁書目録SS
初春「……」佐天「どうしたの初春?恋でもした?」
終わり。
456 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 03:16:07.07 ID:jdgyX9k60 [22/22]
長い期間お付き合いいただき、ありがとうございました。
実はまた、もう二つほどパラレルも製作予定だったりします。
いつになるか分かりませんので、またお会いできたらそのときに、
ということにしておきます。
ちなみに、途中で触れた『OVAをネタにしたSS』のほうは、
製作を明日より開始しますので。早ければ月曜くらいにまとめて投下予定です。
よろしければお付き合いください。
それでは、本当にありがとうございました。
またいつかお会いしましょう。
モノローグ4
(まさかあんなふうに会えるなんて)
(ほんと偶然ってこわいです)
(なに話しましたっけ?)
(思い出すのも恥ずかしいです)
(それに)
(聞き間違うなんて恥ずかしすぎますっ!!)
(ああ、なんだろう。すごくあつい)
(私、どうにかしちゃったのかな?)
243 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/30(土) 23:16:01.03 ID:FeKbxx610 [12/17]
第四部 (再会の裏で)
初春と白井がパトロールをしている最中。
佐天は御坂と会っていた。
御坂「どうしたの、佐天さん。私に用って?」
佐天「……」
学校が終わり、待ち合わせをした彼女たちだったが
会ったときから佐天は難しい顔をしており、たまに考え込むこともあった。
そして、それは今も同じで。
御坂「ねえねえ、佐天さんってば!?」
二回目の呼びかけで佐天はようやく返事をする。
244 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/30(土) 23:26:09.05 ID:FeKbxx610 [13/17]
佐天「実はですね、今日は御坂さんに少しお聞きしたい事があって来てもらったんです」
普段とは違う重い口調で話す佐天に、御坂はすこしたじろぎながら尋ねる。
御坂「え、なに?聞きたい事……って?」
再び数秒の沈黙があった後、佐天涙子は話を切り出した。
佐天「御坂さん。あの『上条さん』についてどう思っているんですか?」
その質問はあまりにも唐突で、今度は御坂の方が黙り込んでしまう。
二人が会っているのは、とあるカフェなのだが、
沈黙している彼女たちとは対照的に周囲の人々はにぎやかに話を続けていた。
245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/30(土) 23:30:35.31 ID:FeKbxx610 [14/17]
なぜこんなことを聞くの?
なんでアイツのことを聞くの?
いろいろな考えが御坂の頭をよぎる。
これらは彼女の心に波を起こしている。
だが、それらの中でも彼女の心を乱す一番の疑問があった。
それは。
なんで『佐天さんが』こんなこと聞くの?
ということだ。
一瞬のうちに数々の疑問が御坂の脳内を支配したが、精一杯の冷静を装って彼女は答えた。
御坂「……あの馬鹿のこと?どう思ってるも何も、私はなんとも思っちゃいないわよ」
247 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/30(土) 23:39:11.24 ID:FeKbxx610 [15/17]
佐天「本当に、そうですか?」
佐天涙子は御坂美琴をみつめながら、もう一度問う。
その視線はとてもまっすぐで、御坂は思わず目をそらす。
御坂「ほ、本当に本当よ!!な、なんで私がアイツなんかを……」
佐天「……その言葉。信用しても良いですか?」
御坂「もも、もちろんいいわよ。でも、何でそんな事聞くの?」
御坂の言葉を待っていたかのように、佐天は語りだす。
249 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/30(土) 23:47:17.44 ID:FeKbxx610 [16/17]
佐天「この前、初春の事お二人に話しましたよね」
佐天「アタシ、そのとき御坂さんの事で気付いたんですけど」
佐天「なんか『上条さん』の話題になると御坂さん、態度違うんですよねー」
佐天「それで、まさか?って思ったんです」
佐天「これって、アタシの勘違いですかねー?御坂さん?」
いつもどおりの笑顔だが、その口調は重い。
それに押される御坂だが、動揺しながらもなんとか答える。
御坂「や、やだなー。勘違いだよ、勘違い!!」
佐天「ふーん……そうですかー」
何かを考えたような顔つきをしながら、佐天は御坂の全身を舐めるように眺めている。
250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/30(土) 23:59:58.48 ID:FeKbxx610 [17/17]
佐天「そういう気持ちが全然ないって言うのなら」
佐天「御坂さんも、初春に協力してもらえますよね?」
御坂「も、もも勿論よ!初春さんのことは応援してるわ」
御坂が言い終わった瞬間。
御坂の鼓膜に突然刺激が伝わる。
二人の目の前のテーブルが佐天の手により乱暴に叩きつけられたのだ。
周囲にその音が響く。他の客が彼女たちを一瞥するが、すぐ目をそらした。
衝撃でテーブル上の飲み物が少しこぼれている。
佐天「……御坂さん?アタシ……『協力』してくれますか?って聞いたのに」
佐天「『応援』するじゃあ、……答えになってないですよ!?」
より重い口調だった。
そして、より鋭い目つきで見つめている。
253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/31(日) 00:10:08.84 ID:wZGfmiJH0 [1/11]
佐天「『応援』と『協力』じゃあ、似てるようで違いますよね?」
佐天「御坂さんには、『協力』したくない理由があるってことですか?」
佐天「考えられるとしたら。『上条さん』の事」
佐天「御坂さんも好きなんじゃないかなって思うんですけど」
佐天「どう……なんですか?」
御坂「………………」
256 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/31(日) 00:20:04.89 ID:wZGfmiJH0 [2/11]
御坂美琴は返事をしない。
正確には違う。できないのだ。
彼女自身も自分の気持ちが分からないのに、それをこんな形で聞かれて答えられるわけが無い。
御坂(私は別にアイツの事なんて興味ないけど、でもなんか気になって……)
御坂(それって興味あるってことなの??)
御坂(でもでも。それはまた、好きって感情とは別よね?別なはず……)
本当は分かりかけている。分かっているのだけど、どうしても認められない。
そんな時、彼女たちの前にもう一人人物が現れた。
258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/31(日) 00:32:35.52 ID:wZGfmiJH0 [4/11]
「もうすこし、素直になってみてはいかがですの?お姉さま」
佐天「白井さん!!??」
御坂「ちょ、ちょっと。何で黒子、アンタがここに??」
そこに来たのは白井黒子だった。
白井は、初春と上条を二人きりにしてあげようと思い、あの場を去った。
そして偶然、佐天と御坂を見つけ話を盗み聞きしていた。
白井「話は一通り聞かせていただきましたわ」
白井(本当は初春を上手く利用してお姉さまを私のものに。と思っていましたが)
白井(そうもいきませんわね……)
少し間を置き、考えてから白井は続ける。
白井「お姉さま。ここは意地を張るところではございませんわよ?」
御坂「ふざけないでっ!!意地なんて……張っ」
御坂は白井の顔を見上げ思ったことを言おうとするが、中断してしまう。
御坂の目に映ったのは普段とは違い、極めて真面目な顔をした白井だったからだ。
そうして彼女は言う。
259 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/31(日) 00:40:57.08 ID:wZGfmiJH0 [5/11]
白井「佐天さんがこんなことを聞いているのは。別にお姉さまをからかおうとか、いじめようだとか」
白井「そういう悪意は無いと思いますの。ねえ佐天さん?」
佐天「は、はい……」
白井「私が思うに。佐天さんは、佐天さんが初春にしたことと同じことを、お姉さまにしているのだと思いますわ」
白井「自分の気持ちと向き合えない初春に勇気を与えて、気持ちを自覚させた」
白井「それを今度はお姉さまにしているんですの」
佐天涙子は無言で頷く。
白井「佐天さんの代わりにもう一度聞きますわ、お姉さま」
白井「あの方のこと。どう思ってらっしゃいますの?」
嘘やごまかしでは乗り切れない質問に御坂は悩み、そして答えを出す。
261 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/31(日) 00:50:21.76 ID:wZGfmiJH0 [6/11]
御坂「そりゃあ、興味がないかって言われたら無くは無いわよ!!」
御坂「……そ、……その……アイツに恩もあるし…………ね」
トマトのように顔を真っ赤にし恥ずかしがりながら御坂美琴は言った。
佐天「御坂さん……」
白井「ようやく少し素直になられましたわね。では初春のことはどう思っていますの?」
御坂「……初春さんのことは……驚いたわ。……それに、考えるとイヤな感じがするの……」
御坂「ううん、違う。考えるのがイヤなの……なんか少しこわくて……」
それを聞いた白井と佐天はお互いを見て、笑みを浮かべる。
262 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/31(日) 01:01:57.83 ID:wZGfmiJH0 [7/11]
佐天「アタシが聞きたかったのはそれなんですよ」
佐天涙子の顔からさっきまでの厳しい表情が消える。
御坂「えっ?こんなこと聞いて何になるの?」
佐天「さっきから言ってるように、アタシ御坂さんが上条さんのこと好きなんだって薄々感じてました」
佐天「初春はアタシの親友だからアタシが協力するのは当然なんですけどー」
佐天「御坂さんの気持ちを知っておきながら、初春にだけ協力するなんてできません!!」
白井「ですから、ここは私がお姉さまに協力いたしますの!」
佐天の言葉に続いて白井が想いを口にする。
白井「まあ、少々不本意ではありますが。お姉さまの幸せは黒子の幸せでもありますし」
二人の言葉に胸を熱くしながら御坂は言う。
御坂「あんた達………………でもでも!でもね、私はアイツに好意なんて……」
白井「せっかく少し素直になれましたのに、またそれですの?」
佐天「初春に、上条さん取られちゃいますよーー!!!」
御坂美琴はその台詞にビクッとしたかと思うと、少し俯き再び顔を染める。
263 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/31(日) 01:09:26.42 ID:wZGfmiJH0 [8/11]
佐天「まあー。アタシは初春の味方だから良いんですけど」
にやつきながら佐天は言う。
白井「お姉さまはそれで良いんですの?」
御坂「…………」
佐天「別に、二人で恋の争奪戦をして欲しいって思ってるんじゃないんです」
佐天「ちょっと面白そうですけど……って、そうじゃなく!!」
白井「お姉さまのことですから、もしかしたら初春のことを気遣って」
白井「ご自分の気持ちを隠してしまうかもしれない……ですけど」
白井・佐天「その必要は無いってことですよ(ですの)!!!」
264 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/31(日) 01:18:30.13 ID:wZGfmiJH0 [9/11]
白井「私がお姉さまのサポートを」
佐天「アタシは初春を。という感じで条件は対等ですよね」
白井「ですから」
佐天「どっちが勝っても負けても恨みっこなしで!!」
佐天「ということでいきましょー」
御坂「佐天さん……黒子……」
御坂「ありがとうね。二人とも」
御坂「なんだかモヤモヤしていたものが取れた気がする」
御坂「でもね、私がアイツの事好きかって所はまだ保留よ!!ここのところは勘違いしないでね」
本当にいい加減素直になれよ。と二人は思うが、もう口にはしない。
白井「ただ、もしかしたら勝者の出ない戦いに終わる結末もありえますけど……」
佐天「白井さん!不穏な事言わないでください!!!」
このことは翌日、初春にも伝えられ、彼女たちは改めて自身の想いの確認をした。
第四部 (再会の裏で)
終わり
323 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 17:04:22.97 ID:sBeTOC+50 [1/24]
モノローグ5
(うぅ。ちょっとまいっちゃいました)
(まさか。御坂さんと争うことになるだなんて)
(私に勝ち目なんてあるんでしょうか)
(御坂さんは常盤台のエースでレベル5ですし)
(しかも、お嬢様なんですよ)
(それに比べて私はただの『風紀委員』……)
(…………)
(弱りましたね……)
(でも)
(私にしかできないことだってきっとありますよね)
(それをみつけてできたら、きっと……)
324 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 17:11:25.42 ID:sBeTOC+50 [2/24]
第五部 (季節外れの場所で)
『初春と御坂が競い合う』ということになって数日が経った。
競い合うと言うと響きが悪いのだが、
その言葉の響きとは裏腹に彼女たちの関係は前と変わらず、仲良くやっている。
そして『上条当麻』に対する行動を二人が何か起こしていたかというと
それも特にコレといった動きは無く、普段どおりの日常を過ごしていた。
そんなある日。
326 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 17:15:43.35 ID:sBeTOC+50 [3/24]
初春「スキー……ですか?」
佐天「そうそうスキー」
白井「スキーってあの、雪の上を滑るあれですわよね?」
佐天「ええ。それ以外何かありましたっけ」
御坂「って、でもどうしてこんな季節に?」
今は九月。少々涼しくなってきたとはいえ、雪はまだ降らない。
それどころか、もし雪が降ったとしても近場にスキー場など無い。
328 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 17:26:03.75 ID:sBeTOC+50 [4/24]
なのに何故彼女たちがそんな事を話しているかというと……
佐天涙子の鞄の中にその答えがあった。
佐天「じゃっじゃーーん!!!」
大げさな効果音を自ら口にし、それを取り出す。
『スキー場開設いたします!!!!』
大きく書かれたパンフレットを佐天はテーブルに置き三人に見せる。
御坂「えっと、なになに……『まだまだ暑い日が続いていますが……』」
白井「『夏に雪が降ったら……と考えたことはありませんか?』ですって?」
初春「それでそれでっと。『学園都市の技術はその夢を現実にしました!!』」
初春「『次の日曜。試験運用を兼ねて無料開放いたします!!!』」
白井「って、佐天さんこれ。どういうことですの?」
330 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 17:31:59.11 ID:sBeTOC+50 [5/24]
佐天「どういうことも何も、そのとおりの内容ですよー」
御坂「というと?」
佐天「この前アタシ達。水着のモデル撮影をしたじゃないですか?」
佐天「あの時、室内なのにいろいろな風景がありましたよね」
佐天「あれの技術を応用して、学園都市は擬似的に雪山を作り出しちゃったらしいんですよーー!!」
三人は一瞬その言葉を疑ってかかったが、すぐその疑問を取り下げる。
最先端の技術を開発している街。それが学園都市だ。
ありえないと思うことでもそれが実在する、そういう街に彼女たちは住んでいるのだから。
331 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 17:37:12.03 ID:sBeTOC+50 [6/24]
佐天「ですからー、よかったらみんなで行きませんか?」
と佐天は提案した。
御坂「いいわねー佐天さん。私乗ったわ!!なんだか楽しそうじゃない」
白井「お姉さまが行くのでしたら私もご一緒しますわ」
二人は快く返事をするのだが、残る一人はなかなか返事が返ってこない。
佐天「初春?どしたの?」
初春「う~ん、楽しそうだとは思うんですけど、私滑れる自信が無いです……」
腕立て伏せもろくにこなせない初春がそう思うのも当然だった。
332 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 17:44:09.38 ID:sBeTOC+50 [7/24]
佐天「大丈夫だってー初春!!ここ見てごらん」
初春「なんですか?『初心者向けのゲレンデもありますので、皆さんお誘い合わせの上来場ください!!』」
初春「……はい。でしたらあまり自信ないですけど私も行こうと思います」
御坂「わーい。じゃあ今度の日曜はみんなで夏のウインタースポーツ満喫ね!!」
白井「ですわね。楽しみですわ~」
こうして彼女たちは次の休日を一緒に過ごすことになる。
334 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 17:50:53.05 ID:sBeTOC+50 [8/24]
そして当日。四人は待ち合わせをしてから会場に向かうことにしていた。
だが時間を過ぎても待ち合わせ場所にいるのは三人だけ。初春が遅れている。
御坂「初春さん、遅いねー」
佐天「全く。初春ったらなにやってんだろ?」
白井「電話をかけてみましょうか。……っと、その必要はなくなりましたわね」
白井が初春の番号を呼び出したところで、三人の前に本人が現れた。
初春「お、遅くなって……す……すみません!!!」
全力疾走してきたらしく、息を切らしながら初春は先にいた三人にペコペコ謝る。
335 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 17:56:40.83 ID:sBeTOC+50 [9/24]
白井「初春が遅刻とは珍しいですけど、一体どうしたんですの?」
初春「そ、それが……防寒具を探してたんですけどなかなか見つからなくって……すみませんでした!!」
そういうと、鞄の中から可愛らしい手袋と帽子を取り出し三人に見せる。
初春「小学生の頃のなんで、ちょっと恥ずかしいんですけど……」
佐天「気にしないで良いってーアタシも新しくそろえる時間無かったしさ」
白井「そうですわよ。それに会場で貸し出しのサービスくらいやっているでしょうしね」
白井と佐天は話しているが、御坂は会話に入ってこない。
御坂(……可愛いなあ、あれ……)
彼女は一人初春の防寒具に見とれていた。
佐天「では、そろそろ行きましょーか!!」
白井「そうするといたしましょう」
彼女たちはそのまま話しながら会場へと向かっていく。
337 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 18:03:30.65 ID:sBeTOC+50 [10/24]
初春「ここが会場なんですね~」
御坂「ほんとにこんなとこでできるのかしら?」
白井「同感ですの」
佐天「……ま、まあ。書いてあるのはここなんですし、とりあえず入りましょう!」
彼女たちが疑問に思ったのも無理は無い。
パンフレットに書いてあった場所。というのがどう見てもただのビルだからだ。
佐天「えっと。五階五階っと」
不安に思いながらもとりあえず、エレベータに乗り目的の階へ昇る。
『五階。特別イベント会場です』
エレベータの機械音声にあわせ扉が開かれる。
そこには彼女たちの不安を瞬時に解消するに足る、白銀の世界が広がっていた。
338 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 18:09:43.02 ID:sBeTOC+50 [11/24]
初春「わ~~すごいですね。一面雪景色です~」
佐天「ホントだねー!きれいー」
御坂「にしても、ただのビルの一フロアとは思えないくらいの広さよ、これ」
白井「ん~どういう技術なんでしょうね?」
四人は目の前の景色に感動しながらも、同時に疑問を持つ。
しかし、その疑問は『学園都市だから』という理由で即座に解決した。
御坂「ねーねー、早く行きましょうよ」
白井「お姉さま、お待ちくださいませ!はしたないですわよ」
御坂は結構楽しみにしていたらしく着いて早々走り出し、それを白井が追いかけていく。
初春「私達も行きましょうよ、佐天さん」
佐天「うん、そだね。って三人とも!!まずは受付済ませないと!こっちですよーー」
340 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 18:15:08.78 ID:sBeTOC+50 [12/24]
受付嬢「四名さまですね。ウェア一式はロッカールームにそろっております」
受付嬢「デザイン・サイズお好きなものをお召しください」
受付嬢「スキー、ボード各種そろっておりますので存分にお試しくださいね」
マニュアルでもあるのだろうか。受付の淡々としたしゃべり方で彼女たちは受付を済まされた。
初春「せっかく探したんですけど、コレ使わなさそうですね」
初春は遅刻の理由になった防寒具を見てため息をつく。
佐天「まあそんなこともあるって、気にしたら負けだよ!」
白井「そういうドジなところはいつになっても変わりませんのね」
初春「むっ!今のは聞き捨てなりませんね。私だって頑張ってるんですよ~」
白井「へっ!どうでしょうか?そういうのは一人前に任務をこなせるようになってから言いなさいな」
御坂「まあまあ二人とも抑えて抑えて!!」
年長者として目の前で軽く言い争っている二人を止める御坂。
御坂「あ。それでさ初春さん、それ使わないならさ……」
そんなこんなで、初春の防寒具は御坂が使うこととなった。
342 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 18:24:06.96 ID:sBeTOC+50 [13/24]
佐天「アタシはボードにしよっと!初春はどーする?」
初春「私は普通にスキーにします。自信ないですし」
ウェアに着替え、今度は道具を選ぶ初春と佐天。
御坂「んー。私もボードがいっかな」
白井「私はショートスキーにいたしますわ」
御坂と白井も各々が好きなものを選ぶ。
そして彼女たちはゲレンデに向かう。
佐天「まずは皆で初心者用コース行きませんか?慣らしってことで」
御坂「いいわねー賛成」
白井「お姉さまについていきますわ」
初春「っていうか私はたぶんそこしか滑れないと思います」
佐天「よしっ、じゃあ行きましょう!えっと、リフトはっと……あ、あそこですね」
343 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 18:30:00.84 ID:sBeTOC+50 [14/24]
佐天「初春!リフトが来るまでその円の中で待ってるんだよ」
そういうと見本を見せるように自らがリフトに乗り込む。
初春「う~~。えいっ!!」
なんとか初春もアドバイスどおりに乗り込むことに成功した。
一歩、白井と御坂はというと初春が手間取っている間に既に昇っていた。
御坂「『当施設は天候コントロールを行っております。本物さながらの自然をお楽しみください』かあ」
御坂「別にそんなの再現しなくても、晴れたままでいいと思うけどなー」
リフトに乗っている最中BGMの合い間に流れる館内放送に御坂はぼやいていた。
もうすぐ到着というところで
「リフトから降りるときは足元をキチンとご確認くださいー」
どこかで聞き覚えのある声がする。
344 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 18:39:25.78 ID:sBeTOC+50 [15/24]
御坂「あ、アンタは!?」
上条「足元にご確認ください……っ!!き、奇遇だな……」
御坂「どうしてアンタがこんなとこにいんのよ!?」
突然思いがけない人物に会った為、御坂は戸惑う。傍から見るとものっすごく挙動不審だ。
そんなだからリフトを降りるときにバランスを崩すが何とか持ちこたえた。
上条「いちゃ悪いのかよ!って、見て分からねえか?バイトだよ、バイト」
白井「そういえば佐天さんの持ってたパンフレットに『アルバイト募集』とも書かれていましたわね」
続いてリフトから降りた白井が会話に加わる。
346 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 18:46:52.63 ID:sBeTOC+50 [16/24]
御坂「あんたそんなに貧乏なの?」
上条「主に食費がだな……ってストレートに聞きすぎだよ!!凹むだろ!!」
御坂「普段の行いが悪い所為よ!自業自得だわ!!」
御坂は本当は(そんなに困ってるなら、私がご飯でも作ろうか?)
と言いたかったのだが、思い通りの言葉が出ない。そして勝手に赤面している。
上条「にしても、やっぱお前そういう子どもっぽいのが好きなんだな……」
御坂の身に着けている防寒具を見て上条は馬鹿にする。
御坂「こ、これは違うんだから!!!」
上条「何が違うってんだよ。言い訳にもなんねえぜ」
御坂「うっさいわよバカ!!!」
白井(うう……こんなのではサポートと言っても難しいですの……)
348 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 18:58:28.11 ID:sBeTOC+50 [17/24]
彼らが話しているところへ今度は佐天がやってくる。
佐天「二人ともお待たせって、上条さんじゃないですか!?」
上条「……どこかで会った事ありますっけ?」
佐天(まずっ。アタシは自己紹介して無いんだった!!)
佐天「えっと、御坂さんたちから噂はかねがね聞いてるんで……えへ」
上条「は、はあ(きっと御坂のことだから悪い噂でも流してるんだろうな……)」
上条は少し考え込んでいるようだが、佐天は上手くごまかして白井に事情を問いかける。
白井「かくかくしかじかですの」
佐天「ふむふむ」
状況を理解した彼女は次の瞬間何かを思いつき、上条に耳打ちする。
349 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 19:04:11.67 ID:sBeTOC+50 [18/24]
初春「さ、佐天さん!これどうやって降りるんですか!?こわいです」
スキー初心者にとって一番最初に立ちはだかる難関はリフトの下車といっても過言ではない。
それは例外なく初春の身に迫っている。
佐天「なんとかなるってー。ファイトー」
初春「そんな他人事のように言わないで下さい~うぅ~」
そういうと彼女は意を決してリフトから降りる。しかしやはり初めての経験なのでバランスを大きく崩してしまう。
上条「おっと、危ない!」
そこを上条がしっかりと支えた。
佐天から『初春たぶん降りられないんで面倒見てあげてください』と頼まれていたため
初春の事を補佐するよう構えていたのだ。
351 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 19:13:33.95 ID:sBeTOC+50 [19/24]
初春「わわっ。上条さんどうして??」
上条「コレが仕事だからな。大丈夫か?」
初春(私を助けるのが仕事……)
初春(違う違う。ここでバイトしてるってことだよね)
初春「は、はいっ!!!ありがとうございます!!」
その光景を見ていた御坂は一人で悔しがっていたが誰も気付いていなかった。
初春「こんなところでバイトって大変ですね。ずっとここにいるんですか?」
佐天たちから事情を聞いた初春が上条に再び話しかける。
上条「生活のためだからな、仕方ないんだ」
上条「あと俺はリフト係だから交代でいろんなリフトのところに行けって言われてる」
初春「いろんなリフト?」
上条「そうそう、まあ詳しくはあの看板見てくれよ。仕事に戻るからさ」
初春「あ、お邪魔してすみませんでした!!」
それを背中で聞きながら上条はリフトの制御板の前まで走っていった。
353 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 19:22:54.23 ID:sBeTOC+50 [20/24]
白井「ふむふむ、いろんなコースがありますのね」
四人は上条の言った看板を見ている。そこに書いてあるのは各コースの説明だ。
・『初心者コース』なだらかな斜面です。天候は固定。
・『中級者コース』比較的斜度が急です。天候は基本的に固定。
・『上級者コース』斜度、起伏共に激しくなっています。天候はたまに変わります。
・『ベテランコース』名前のとおりのコースです。自信のある方はどうぞ。天候はよく変わります。
佐天「なるほど、天候がいろいろ変わって大変だから上条さんたちバイトの人は場所交代があるんですねー」
コース内容を一通り理解すると彼女たちはゆっくり滑降を始める。
355 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 19:31:12.71 ID:sBeTOC+50 [21/24]
初心者コースの麓で。三人が話している。
御坂「私は全コース征派目的で行くわ!!黒子も来るでしょ?」
白井「ええ、ご一緒しますわ」
御坂「佐天さんたちはどうするの?」
佐天「初春もいることだし……」
三人は目の前の斜面を眺める。ボーゲンをしながら必死に滑降している初春の姿が見える。
佐天「遠慮しないでどんどん行っちゃって下さい」
白井「ではお姉さま行きましょうか」
御坂「じゃあね佐天さん。休憩するときは連絡頂戴ね。私達も連絡するからーー」
二人がリフトに向かうと同時に初春がようやく降りてきた。
356 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/01(月) 19:38:50.45 ID:sBeTOC+50 [22/24]
初春「はあ、はあ、ようやくつきました」
佐天「……初春。そんなんじゃダメだよ」
初春「そんな事言われても~、私初心者ですし……」
佐天「甘ったれるんじゃないわよ。御坂さんに先を越されるよ!!」
佐天涙子は見ていた。御坂美琴の目がギラギラ輝いていたのを。
『全コース征派』=『全コースどこに上条が行っても着いて行く』ということなのだ。
もし、初春がずっと初心者コースを滑り続けるのなら上条に出会えるチャンスは少ない。
佐天「……というわけだからガンガン行くからね覚悟は良い?」
初春「は、はいっ!!!」
佐天「最低でも中級者コースくらいはすぐ滑れるようにならないと、話にならないからね!!」
初春「が、頑張りますっ!!!」
第五部 (季節外れの場所で)
終わり
402 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/02(火) 22:25:56.08 ID:6yE63Q+20 [3/16]
モノローグ6
(こんなことになるなんて思いませんでした)
(まさかここで上条さんに出会えるなんて……)
(また助けてもらっちゃった……)
(って今はそういうことを振り返ってる場合じゃないです)
(練習しないと!!!)
(御坂さん!!負けませんよ!!)
(でも、私……)
(こんなので大丈夫かな……)
403 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/02(火) 22:30:54.52 ID:6yE63Q+20 [4/16]
第六部 (笑ってください)
御坂「どう初春さん、すこしは上達した?」
初春「はい、佐天さんのおかげでなんとか……」
白井「佐天さんも大変でしょうに」
佐天「まあちょっぴり……でも次は中級コースに行くので楽しみですねー」
御坂たちが一通りコースを滑ったということなので一旦皆で休憩することにし、初心者コース麓のレストハウスで彼女たちは休んでいる。
初春は何度も転びながらもなんとか基本的な滑りはできるようになった。
初春(御坂さんきっと上条さんといっぱい話したんだろうなあ……)
初春は心配していたが、それは杞憂だった。
御坂は確かに何度か上条と顔を合わせていたが、バイト中の彼に話すのも気が引けるし恥ずかしい
という理由でほとんど会話などしていなかった。
405 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/02(火) 22:39:05.73 ID:6yE63Q+20 [5/16]
佐天「じゃあそろそろいきましょうか」
御坂「私達はもう少し休んでから行くわ、すこし飛ばしすぎちゃったし」
初春「ですか。それじゃあお先に~」
白井「二人とも気をつけて、ですの」
初春と佐天の二人は中級者コースへ向かう。
佐天「って、あれ上条さんじゃない?」
初春「あ、本当です!!」
中級者コースに着いた彼女たちが見たのは、
上級者コースへ向かう上条の姿だった。
406 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/02(火) 22:43:53.33 ID:6yE63Q+20 [6/16]
初春「これから上級者コースの担当なんだ……」
初春「タイミング悪いなあ……」
初春はあからさまに残念な顔をしている、それを見た佐天は初春に問いかける。
佐天「どうする?初春」
初春「どうするって言われましても……」
佐天「ここは勝負どころだよっ!このまま中級コースにいても上条さんには会えない……」
佐天「だったら、すこし無理をしてでも上級コースに行くぐらいしないと!!」
初春「ですけど、そんなに自信ないです……」
初春はつい、弱音を吐いてしまう。
407 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/02(火) 22:49:02.32 ID:6yE63Q+20 [7/16]
佐天「自信が無いって、何の自信?スキーのこと?それとも上条さんとお話しすること?」
初春「そ、それは……」
佐天「スキーの自信が無いのは分かるよ。でもさ、それならそれで今迄みたいに転びながら頑張ってみようよ!」
佐天「もし、お話しするのに自信が無いってんならアタシ初春に協力するのやめる」
初春「佐天さん、あの」
佐天「黙って聞いて、初春」
いつに無く真面目なその態度に初春は黙って従う。
佐天「仲良くなりたいなら、御坂さんよりも近づきたいなら。もっとお話しないとダメだよ」
佐天「アタシの親友の初春は、自信が無いなんていって逃げる臆病者じゃないよね?」
佐天「『幻想御手』事件の時だって、諦めずにアタシのこと助けようとしてくれたじゃない!!」
佐天「初春だったらきっと大丈夫だから、きっとうまくいくから」
佐天「だからさ……」
佐天「頑張ろうよ!!!」
409 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/02(火) 22:53:41.71 ID:6yE63Q+20 [8/16]
佐天の強い言葉に初春は
初春「はい!!」
ただ一言で答える。たったの一言だが、さっきまでの弱さは既に無く、目には決意の色が見える。
佐天「よーし、よく言った初春っ!!それでこそアタシの親友だよ!!」
初春「いえいえ、ありがとうございます」
初春「なんだか、俄然やる気が出てきましたよ~」
佐天「うん。ってか盛り上がってるとこに悪いんだけど、熱弁ふるったら喉渇いちゃった」
佐天「ちょっと飲み物飲んでから行くから先に上行って待ってて」
言うだけ言うと颯爽と去ってしまったので初春は仕方なく一人でリフトを昇り始めた。
410 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/02(火) 23:00:19.92 ID:6yE63Q+20 [9/16]
上級者コース手前にリフトが到達すると、かなり雪が降っていた。新雪も多いようだ。
初春「流石は上級者コースですね……」
初春「佐天さんを待っている間、上条さん探そうっと」
初心者コースで何回も乗降を繰り返していたので、今度は上手くリフトから降りると
目当ての人物はすぐそこにいた。
上条「おー、初春さん」
初春「あっ上条さん!!」
上条「なんか意外だな、御坂達ならともかく、初春さんが上級コースにいるなんて」
初春「むっ!それはどういう意味ですか~?」
初春「ばかにしないで下さいよ~!!私だってやる時はやるんですから!!!」
上条「はははっ(ちょっとまずかったかな?)」
初春(うん!私だってやる時は……やってみせます!!)
411 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/02(火) 23:07:09.52 ID:6yE63Q+20 [10/16]
初春と上条が雑談に花を咲かせている頃。
佐天は飲み物を飲み終えリフトへ向かっていた。
しかし肝心のリフトが動いていない。
佐天「あれ?どーしたんだろ?コレじゃ上いけないよー」
…………
同刻、レストハウスでも。
御坂「なんなのかしら」
白井「どうしました、お姉さま?」
先程からレストハウスを行き来するスタッフの挙動が何かおかしい。
彼女たちも佐天と同じく疑問を感じる。
そして次の瞬間。場内に耳を裂かんばかりのブザー音が響き、メッセージが流れる。
『天候制御システムに異常発生。ゲストの皆様は至急お近くのレストハウスに避難ください』
『スタッフはゲストの避難誘導をしてください。繰り返します……』
無機質な機械音声が異変を知らせるのだった。
413 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/02(火) 23:13:29.26 ID:6yE63Q+20 [11/16]
佐天「なに?何が起こってるの?」
佐天「避難って……そうだ初春は?」
混乱しながらも親友のことを気遣う佐天。
携帯電話を取り出し、呼び出しをかけるが話し中。
電話をかけていたのは白井黒子だった。
白井「放送は聞こえましたわね初春」
初春「ええ、白井さん。私達も誘導を手伝いましょう」
白井「もちろんですの。初春今どちらに?」
初春「上級者コースです」
なんで初春がそんなところに?白井は疑問に思うが考える間も無く初春が続ける。
415 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/02(火) 23:18:30.85 ID:6yE63Q+20 [12/16]
初春「上条さんも一緒なので、一緒に誘導してすぐ降りますね」
白井「何かすこし不安ですの……私も行きましょうか?」
初春「大丈夫ですって、コレくらいちょちょいのちょいで片付けますから」
初春「私だってやれば出来るとこ見せてあげます」
白井「ちょっと、初春っ!!ういはっ」
電話は既に切れていた。
御坂「初春さんどうかしたの?」
白井「それが……」
外はいつの間にか吹雪になっていた。
417 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/02(火) 23:24:08.42 ID:6yE63Q+20 [13/16]
初春「さてと」
そういうとポケットから『風紀委員』の腕章を取り出し慣れた手つきで装着する。
初春「ちゃちゃっと片付けて私達も避難しましょう!!」
上条は一瞬、目の前の少女の行動に目を奪われた。
上条「なんか初春さんって、ボーっとしてるイメージあったから驚いたな……」
初春「何か言いましたか~?」
本当は聞こえているのにわざと問いかける。
上条「いいや何も。良い意味でギャップがあったって事。それは置いといて、ほら、さっさと片付けよう」
会話もそこそこに二人は避難誘導を始める。
418 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/02(火) 23:33:20.20 ID:6yE63Q+20 [14/16]
佐天「御坂さん!!白井さん!!」
レストハウスに佐天が飛び込んでくる。
御坂「佐天さん!大丈夫だった?」
佐天「ええアタシは大丈夫です。あの、初春知りませんか?」
その問いに御坂と白井は顔を見合わせ、そして答える。
白井「上で避難誘導をしていますの」
佐天「上級者コースですよね……大丈夫かな初春」
御坂「あのバカも一緒みたいだし、大丈夫よきっと……」
白井「こうしてはいられませんの、私も出ます」
そう言い、外に飛び出そうとするがスタッフに止められる。
「今から外に出るのは危険です!!!中でお待ちください!!」
白井「私は『風紀委員』ですの、お手伝いいたします!!」
「しかし、今外は大変吹雪いており危険です。どうか理解ください!!」
スタッフの言うとおり、外の天候はますます悪くなっている。
419 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/02(火) 23:40:07.66 ID:6yE63Q+20 [15/16]
上条「他にお客様はいらっしゃいませんかー?」
初春「はやく避難してください!!!こちらです」
二人の懸命の活動の甲斐あって、上級者コースの避難誘導はほぼ終了した。
一番近いレストハウスは、彼女たちのいるところからすこし滑ったところにある。
リフトは停止しているので、そこに向かって客が滑降している。
初春「上条さん!!そろそろ私達も避難しましょう」
上条「ああ、そうだな!ますます天候が悪くなってきてやがる。早く行こう」
二人で滑り出そうとしたとき、初春が気付く。
初春「うっ……高いですね」
コースの斜面は下から見上げるのと上から見下ろすのでは全然見え方が違う。
そのことに気付き恐怖を感じたのだ。
上条「大丈夫だ!!ゆっくり滑っていけばいい!!俺の後についてきて!!」
初春「上条さん……分かりました、いきましょう!!!」
今度こそ滑り出そうとしたときのことだった。
421 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/02(火) 23:51:59.46 ID:6yE63Q+20 [16/16]
まるで地響きのような振動が轟く。
それは身体の芯まで響き、一瞬で二人はその異常に気付いた。
上条「まさかとは思うけど……これって」
彼らのいる上級者コースのさらに上、ベテランコースの方を見上げる。
初春「見間違いじゃないですよね……??」
視界は吹雪のため極端に悪いが、轟音と共に迫ってくるそれの存在は確認できた。
上条「雪崩だっ!!早く逃げるぞ!!」
初春「はい!!」
上条「ゆっくり行ってたら巻き込まれる。早く!!」
上条「畜生!屋内で雪崩だなんてドンだけ不幸なんだよ!!」
ぼやきながらも全速で逃げ出す。
しかし、気付くのが遅かった。精一杯滑降する彼らを嘲笑うように、雪崩が迫る。
422 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 00:01:37.07 ID:jdgyX9k60 [1/22]
先程からスタッフの動きが、よりせわしくなっている。
御坂たちはイライラしながら動向をうかがっていた。
本当は今すぐにでも飛び出して初春達の安全を確認したい。
それが出来ないというだけでもストレスがたまっていたが、避難が完了したのかどうかの情報さえ入ってこない。
痺れを切らした白井がスタッフに問いかける。
白井「現状はどうなっておりますの?避難は完了したのでしょうか?」
「それが、今入った情報によると、ベテランコースで雪崩が発生したらしい」
佐天「えっ!!あ、でもよかった、ベテランコースなら初春たちは無事ですね」
御坂「それで、雪崩は大丈夫だったんですか?」
「それなんだが、ベテランコースで発生した雪崩はそのまま上級者コースへ進み……」
「避難誘導をしていた少女と、バイトのスタッフを巻き込んだらしい……」
三人の表情が凍りつく。
423 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 00:10:30.30 ID:jdgyX9k60 [2/22]
白井「それは本当ですの!?」
「ああ、まちがいない。目撃者もいる」
佐天「なら、今すぐ助けに行かないと!!アタシ行きますっ!!」
御坂「私もいくわ!!」
「待つんだ!!まだ天候制御システムが復興していない。二次災害が起こるのをみすみす見逃すわけにはいかない!!」
佐天「そんな事言ったって!!!初春がっ!初春はどうなるんですか!?」
「今は彼らの無事を祈るしかない……今全力でシステムの復旧をしているから。それまで待つんだ」
御坂「そんな……」
早く吹雪が止んで欲しい。そんな彼女達の思いと裏腹に、降る雪はレストハウスを激しく打ち立てていた。
427 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 00:19:27.22 ID:jdgyX9k60 [3/22]
初春「いたたたたた、うう……いったいどうなって……」
初春飾利は生きていた。
現在地は分からない。
ただでさえ視界が悪いのに、雪崩に巻き込まれた所為で方向感覚は完璧に狂っている。
初春「とにかく外に……」
雪に埋もれていた身体を出そうとしたとき、激痛が走る。
初春「っ!!!!!」
痛みをこらえて身体を引きずり出し、その場所を確かめる。
痛みがあったのは二ヵ所。左足と右腕。
足はどうやらひびでも入っているのか、動かすたびに痛みが全身を走る。
腕の方はというと、動かすことも満足にいかない。こちらは関節が外れてしまっているらしい。
429 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 00:25:00.70 ID:jdgyX9k60 [4/22]
とりあえず自身の命があったことにほっとする初春だが、すぐ異変に気付く。
初春「そういえば、上条さんは?どこ?」
辺りを見渡してみるが姿は無い。
初春「上条さ~~~ん!!!!!どこですか~~!!!」
返事も無い。最悪の想像が初春の頭をよぎる。
いや、そんな事あるはずが無い。あって欲しくない!!彼女の頭はどんどん混乱していく。
初春「上条さん!!!!返事してください!!!!!」
いやな考えを打ち消すように大声を出す。
それしか彼女には出来なかった。
431 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 00:41:32.34 ID:jdgyX9k60 [5/22]
初春「あ、あれは!!」
痛みが走る身体を引きずりながら探し回ること数分、初春は見覚えのあるものを見つける。
それは上条の着ていたコートだ。スタッフ用で目立つ色だったことが幸いした。
よく見るとコートだけでなく上条自身の身体も確認できる。
初春「よかった!!上条さん!!!大丈夫ですか?私です!!大丈夫ですか!!」
彼の身体を揺さぶり声をかける。数回呼びかけたときにようやく反応があった。
上条「う……あいててて……!!う、初春さん!!ここは!?」
初春「よかった、気がついたんですね!!」
二人はお互いの存在を確認し一旦は安心する。
しかし彼らを取り巻く状況は最悪のものだった。
432 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 00:48:01.36 ID:jdgyX9k60 [6/22]
上条「うん、やっぱり動かねえ」
初春「どこか痛い所はありますか?もしかしたら折れてたりするかもしれませんし」
上条「その心配はないみたいだ、だけど全く動かねえとは……」
斜面に巻き込まれるようにして胸から下がすっぽり埋まってしまったために、自分の力だけでは脱出できなくなっていた。
初春が掘り起こそうとするものの、硬く固まってしまった雪は道具が無くてはほとんど掘れない。
ましてや、彼女の腕は半分使えない。どうしようもない現実が彼らを包み込む。
初春「寒くなってきましたね……大丈夫ですか?」
上条「ああ、なんとか……でもこのままだとマズイかもな」
吹雪は一向に止む気配が無い。身につけていた防寒具は雪崩に持っていかれてしまっている。
絶望感も入り混じり、雪は彼女達の体温をどんどん奪っていく。
433 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 00:55:13.50 ID:jdgyX9k60 [7/22]
初春「いま……なんて言いました?」
上条「……一人で行けって言ったんだよ」
初春「なんで、なんでそんな事いうんですか!?」
上条「このままここにいたら二人とも凍えてしまって危険だ」
上条「俺は動けないから、せめて初春さんだけでも逃げるんだ!いつ雪崩の二波が来るかもしれないし!!」
上条「それに俺はこういう修羅場は結構経験してんだ。初春さんが逃げてから自分で何とかしてみせるからよ」
目の前の少女は自分のことを気遣ってこの場を離れない。
彼女だけでも助けるため、あえて強い言葉をかける上条当麻だった。
その言葉に初春飾利は無言で立ち上がり、足を引きずりながら歩き出す。
しかし数メートル進んだところで彼女は足を止める。
初春「………………」
上条「どうしたっ!!??はやく!!」
初春「………………」
初春飾利は何かを決意し、上条当麻の方向へ戻っていく。
434 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 01:07:52.34 ID:jdgyX9k60 [8/22]
上条「なにやってんだよ!!」
初春「いいですから、私に任せてください」
きつい口調の上条とは対照的に初春は優しく話しかける。
初春「前に……私の能力について話そうとしたことがありましたよね?」
そういうと初春は両手で上条の左手を包み込む。右腕は痛み以外ほとんど感覚が無いがそれでも構わず握り締めた。
上条「能力……?」
彼女の優しい口ぶりとその手の暖かさに上条は思わず問いかける。
初春「ええ、コレが私の能力なんです。『定温保存』って言うんですけど」
初春「触れているものの温度を保つことが出来るんですよ。すごいでしょう!!」
初春「っていってもレベル1なんで、大したことはないんですけどね……」
初春「でも……」
初春「それでも……」
初春「上条さんを凍えさせやしませんっ!!!」
436 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 01:11:03.97 ID:jdgyX9k60 [9/22]
目の前の少女は自分を助けようとしてくれている。
自分には『幻想殺し』があるから能力は無意味かと思ったが、彼女の能力はキチンと効いている。
彼女の能力は『右手を含む全身』を保温するのでなく、あくまで触れているところにしか効果がないようだ。
珍しく上条にも有効な能力だった。
触れているところにしか効果がない。しかし、手が保温されればその暖かさは血流に乗り、わずかながらも全身に行き渡っていく。
その効果は上条の命を永らえさせるだろう。
だが、彼女の身体は満身創痍で、普通なら自分の身体に気を使うので精一杯のはずだ。
それなのに、自分を助けようとしてくれている。
しかも、能力を使うことは自分自身に負担を与えかねないのに。
自分は身体には異常はない、ただ動くことが出来ないだけだ。
その事実が、苛立ちをはじめ複雑な感情となって上条当麻の心に深く突き刺さる。
437 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 01:16:31.05 ID:jdgyX9k60 [10/22]
上条「おい、いますぐ止めろ!」
初春「嫌です!!」
上条「ごちゃごちゃ言ってないで止めろって言ってんだよ!!!」
上条「そんな身体で能力なんて使ったら手前のほうがくたばっちまうだろうが!!」
上条「自分の体力まで使って、他人を助けようとしてんじゃねえ!!」
上条「手前と引き換えに助けられても俺は嬉しくなんかねえんだよ!!」
上条「ドラマみたいな二者択一の生死選択なんざ、望んじゃいねえんだよ!!」
上条「それは手前も同じだろうが!!!」
初春飾利は無言で頷く。
上条「だったら、今すぐこの場から離れやがれ!!!」
上条「もし、そんなの嫌だってまだ言うんなら……」
上条「もし、まだ」
上条はその後の言葉。こういう修羅場でよく言った覚えのある言葉を続けようとする。
しかし、目の前の少女の表情を見て言葉に詰まる。
439 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 01:31:14.16 ID:jdgyX9k60 [11/22]
初春飾利は泣いていた。この苛酷な環境では流れる涙でさえ体温を奪っていくが、構わず涙を流している。
初春「ありがとうございます……」
初春「私の周りってお説教好きな人ばかりですね」
初春「さっきも佐天さんに怒られちゃったけど。それは私の事をきちんと考えてくれてるから……」
初春「上条さんもそうですよね……」
初春「こんな私の事、考えてくれてありがとうございます」
初春「普段の私ならきっと何も言えずに上条さんに従うんでしょうけど」
初春「今は違います!!」
初春「私の、私だけにしか出来ないこと……見つけたんです!!」
初春「だから…………」
初春「絶対離れません!!」
そう言うと両手に、より一層の力をこめて上条当麻の手を握る。
440 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 01:46:05.76 ID:jdgyX9k60 [12/22]
上条「何考えてんだよっ!!!」
初春「怒らないで……下さい……」
さっきまでとは違う弱弱しい声に上条当麻は気づく。目の前の初春飾利の体力がもうほとんどないことに。
ぼろぼろの身体で能力を使うことは並大抵のことではない。
その代償が彼女の身体に現れているのだ。
目の前の少女をもう悲しませたくない、もしかしたら最後かもしれないから。
もしかしたらとかそんなことは本当は考えたくない。でも頭には容赦なく浮かんでしまう。
だから、彼女の言葉を受け入れることにした。
上条「わかったよ、もう怒らねえ」
441 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 01:53:48.13 ID:jdgyX9k60 [13/22]
初春「よか……った……です」
初春が能力を使っているから上条の身体は温かい。
だが、その能力を使っている初春の手は驚くほど冷たくなっていた。
上条「おい、しっかりしろよ!!!」
そう話すと共に彼女の冷たい手を両手で握ろうとするが、ふと我に返る。
自分の右手は『幻想殺し』なのだ。下手に触ってしまえば目の前の少女の望みさえ打ち消してしまう。
上条当麻は自分を呪った。何も出来ない自分が本当に情けなかった。
初春「だから……そういう顔……しないで下さい……」
上条「えっ?」
初春「こわい顔……しない……で……ください……」
初春「笑って……ください」
443 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 02:01:10.78 ID:jdgyX9k60 [14/22]
上条「お、おう。もうこわい顔しねえから!!」
初春「よかった…………あ、そうだ……」
上条「ん?どうした?」
初春「もし…………無事に帰れたら……デートに誘ってください」
初春「いろんなとこに……いってみたいです」
どう返せばいいのか、一瞬迷った後返答する。
上条「上条さんは……ほら、こんなとこでバイトしてるような貧乏学生だから……あんまり期待するなよ」
初春「もうっ……困った顔も……しないで下さいよ…………」
上条「困ってなんてないぜ!むしろ女の子とデートできるのは嬉しいしよ」
初春「よかった……また……笑ってくれた…………」
声がどんどん小さく弱くなっている。
だから上条は初春を元気付けるように大げさに声を張って言う。
上条「俺は……笑ってるからさ!!!初春さんも笑ってくれよ!!!!」
その言葉に、返事はなかった。
第六部 (笑ってください)
終わり
445 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 02:08:53.56 ID:jdgyX9k60 [16/22]
エピローグ
数日後。
イン?「とうまー本当にびっくりしたんだよ?なかなか帰ってこないし、おなか空いたし、いきなり入院だし」
イン?「心配するこっちの身にもなってほしいんだよ」
上条「ああ、悪かったよ」
上条当麻は病院のベッドに寝転んでいた。
そしてあのときのことを思い出す。
上条(彼女が意識を失っても、それでも能力を使い続けてくれたから、今俺は生きてる)
上条が最後にかけた言葉に返事はなかったが、初春は意識を失ってなお上条を助けるために能力を使っていた。
その後程なくして上条も意識を失い、気付くと病院のベッドだった。
上条「『幻想殺し』なんて言ってるけど、無力だな……」
そう呟き、自らの右手を眺める。
446 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 02:16:42.91 ID:jdgyX9k60 [17/22]
一方、佐天涙子・白井黒子・御坂美琴の三人は……
白井「それにしても初春がまさかこんなことになるなんて……」
佐天「アタシがあの時ついていってればよかったんです」
佐天「ううん、それ以前にスキーなんて誘わなければよかった!!!」
御坂「そんなに自分を責めないで、佐天さん」
御坂「佐天さんが悪いんじゃないわ」
白井「そうですのよ、もし初春が今の佐天さんをみたらきっと笑いますわよ」
白井「『元気が取りえの佐天さんらしくないですよ』って……」
それぞれ初春のことを考えている。
それぞれが傷つき、自問自答をしていた。
448 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 02:23:59.75 ID:jdgyX9k60 [18/22]
三人が話しているのは上条当麻の病室の隣。
その病室のベッドに横たわっているのは初春飾利だ。
彼女も上条と同じく助け出され今に至る。
無理して能力を使っていたために瀕死状態で運び込まれた彼女は、つい昨日まで集中治療室にいた。
だが意識が戻らない。
身体はボロボロだが普通なら意識は戻っていても良い。と医者は言う。
初春の意識が戻らないまま、さらに三日が経った。
449 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 02:33:49.59 ID:jdgyX9k60 [19/22]
上条「退院か……初春さんはまだ意識が戻らないってのに……俺は……」
上条当麻は入院している最中ずっと初春のことを考え自己嫌悪していた。
そんな状態だからもちろん初春の病室に行くことも出来ず、ただ考えていた。
上条(俺にもっと力があればこんな風には……)
上条(でもよ初春さん……ちゃんと二人で帰ってこれたじゃねえか)
上条(何考えてんだよ?早く起きろよ?)
イン?「とうまーそろそろいくんだよ」
上条「……おう、じゃあいくか」
荷物をまとめ、病室を後にする二人。後姿はとても物悲しい。
450 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 02:42:09.06 ID:jdgyX9k60 [20/22]
隣の病室では佐天涙子が初春のお見舞いに来ていた。
佐天「ねえ初春?上条さん今日退院なんだってさ」
佐天「このままじゃ、御坂さんに先越されちゃうよ?」
佐天「ねえ……初春……目を……覚ましてよ…………」
佐天のすすり泣く声を聞きながら病室の外で上条当麻は立ちすくんでいた。
佐天「……何考えてるの?……どんな夢をみてるのよ?」
本当はそのまま通り過ぎようとしていたが、意を決し上条は病室に入る。
上条「本当に……どんな夢。みてんだろうな?」
佐天「か、上条さん!?」
上条「俺のせいで……こんなことになって、すまねえ」
そういうと、上条は初春の顔を覗き込む。
小さな傷が少しある以外は綺麗な顔をしている。
あの日の記憶がよみがえる。
抱きとめたこと、話したこと、様々なことが頭をよぎる。
暫らくして、上条当麻はふっと閃く。
451 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 02:50:42.01 ID:jdgyX9k60 [21/22]
上条(もしかしたら)
上条(もしかしたらだけど……!!!)
そう考え上条当麻はその右手を、初春飾利の額に近づける。
上条(もし、まだ……)
そして、あの日言えなかった台詞を小さな期待と共に口にする。
上条「もしまだ、自分と引き換えに他人を助けるって綺麗事みてえな幻想を抱いてるって言うんなら」
上条「まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!!!!」
彼の右手が初春の額に触れる。
……
……
……
……
「……また……こわい顔してますね…………」
「笑ってください!!」
とある魔術の禁書目録SS
初春「……」佐天「どうしたの初春?恋でもした?」
終わり。
456 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/11/03(水) 03:16:07.07 ID:jdgyX9k60 [22/22]
長い期間お付き合いいただき、ありがとうございました。
実はまた、もう二つほどパラレルも製作予定だったりします。
いつになるか分かりませんので、またお会いできたらそのときに、
ということにしておきます。
ちなみに、途中で触れた『OVAをネタにしたSS』のほうは、
製作を明日より開始しますので。早ければ月曜くらいにまとめて投下予定です。
よろしければお付き合いください。
それでは、本当にありがとうございました。
またいつかお会いしましょう。
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コメント
プロローグやエピローグ、部で分けたりするのイラネーんじゃね?
No title
たしかに
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