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レッド「――俺はマサラタウンのレッドだッ」-2
レッド「――俺はマサラタウンのレッドだッ」
続きです
続きです
425 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 03:01:38.15 ID:jv2VOdVk0
■■ 悪の美学 ■■
――タマムシシティ、スロットコーナー。
オジサン「やぁ、えらく出してるな、少年」
隣に座ったオジサンが、声をかけてきた。
仕立ての良い黒いスーツの、人の良さそうなオジサンだ。
レッド「……?」
首をかしげるレッド。
見知らぬ人に声をかけられる覚えがなかった。
しかし、
レッドのうしろには10箱以上のドル箱の山。
ボケなレッドは気づいていないが、現在すべての客に注目されていた。
428 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 03:09:11.59 ID:jv2VOdVk0
客の羨望と嫉妬。
スロットコーナーの暗がり。
喧しいスロットの音。店のBGM……
オジサン「すまないが、コインを少し分けてくれないか?」
レッド「……」
コクリと頷いて、レッドは豪快に、箱ごと渡そうとした。
が、いやいや、と軽く首をふって、断った。
オジサン「3枚でいいんだ。一回まわせればそれでね」
レッド「……」
430 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 03:16:29.50 ID:jv2VOdVk0
オジサン「今日の君は、幸運の女神に愛されてるらしいが――」
軽快に三枚のコインが投入口された。
スロット機種は『アイム・ニャース』だった。
オジサン「幸運の女神は、尻軽なんだぜ?」
レッド「……」
不敵な笑みで男は、たった一回だけスロットをまわした。
431 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 03:26:44.86 ID:jv2VOdVk0
――ガコン。ぴ、ぴ、ぴ。
『777』
大当たりだ。
オジサン「な、いったろ。女も神も信じちゃいけない。
何かを信仰するなら、己にするべきさ。
――そうすれば、運さえも跪かせられる」
オジサンの機種から、大当たりの音楽が流れ始める。
それを見物していた観客たちが、おぉ! と感嘆の声をあげた。
オジサン「ほら、コイン返すぜ。レッドくん」
レッド「……」
名前を呼ばれて驚くレッド。
メガネの変装を、あっさり見抜かれていたらしい。
432 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 03:32:20.78 ID:jv2VOdVk0
景品交換所を出た。
オジサン「ははは、お互い大勝だな!」
レッド「……」
オジサン「あれから一度も当たらなかった?
隣に俺くらいのカリスマが座ったんだ。
そりゃあね、女神も大人の魅力にタジタジさ」
冗談まじりのオジサン。
しかしレッドは信じる気になれた。
この男に、運の女神が屈したのだと。
レッド「……」
オジサン「俺かい? 俺はサカキという、とある会社の首領さ」
男の名はサカキ。
おもしろい人だな、とレッドは思った
434 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 03:39:37.05 ID:jv2VOdVk0
ロケット団殲滅。
その目的に走っているレッドは、
情報収集。もとい下っ端団員への脅迫で、
このタマムシにロケット団のアジトがあることが分かった。
そのアジト発見のため、しばらくタマムシに滞在していた。
そして、そのあいだ、サカキという男と行動を共にした。
436 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 03:48:44.51 ID:jv2VOdVk0
サカキといるとき、レッドは落着いている自分に気づいた。
どこか荒んでいて、掴みどころがなく、知識の塊だった。
そして、指名手配中のレッドを、まるで警戒しない。
それどころか変装道具から、宿の手配までしてくれた。
そして、大人のくせに、
こどもみたいにレッドを危険な遊びに誘う。
いままで出会った大人の中で、一番目指したい背中だった。
そして本日もレッドは危険な遊びに誘われた……。
438 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 04:03:21.36 ID:jv2VOdVk0
――あるマンションの屋上(深夜)。
サカキ「ほら、いただろ? ――じゃじゃ馬が」
レッド「……」
ポケセン裏に位置するマンション。
その屋上に放置されていたボール。
それを開くと、兇暴なポケモンが現れた。
――シゃぁぁぁぁああああああああああ!!!
439 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 04:11:57.07 ID:jv2VOdVk0
それは哺乳類型のポケモンだった。
サカキ「おや、コレは奇妙だな?」
レッド「……」
サカキ「イーブイは、こんな巨大なポケモンじゃなかった筈だが。
まるでニドキングくらいあるぞ」
――シャぁぁぁあああああ!!
イーブイの雄叫びが、タマムシに轟いた。
威嚇じゃない。この声は怯えだ。と、レッドは気づいた。
441 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 04:15:59.10 ID:jv2VOdVk0
『兇暴なポケモンの捕獲』
それが今日の遊びだった。
イーブイがレッドめがけて駆けだした。
サカキ「それでは頑張りたまえ。レッドくん。
俺は見物しているよ。ハハハッ」
サカキが逃げた。
442 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 04:16:45.77 ID:jv2VOdVk0
イーブイが入っていたボール付近。
いくつもの注射器。瓶。鞭……。
ロケット団に調教された後のようだった。
レッド「……」
443 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 04:22:04.69 ID:jv2VOdVk0
噛みつこうとするイーブイ。
咄嗟にイーブイの頭を蹴って、飛び越えた。
空中でも手は休めない。
人間を襲うポケモンとの戦闘。
そこにタイムラグは命とりだった。
空中でスピアーを出した。
レッド「――ッ」
そのままスピアーに指示。
ほうッともらし、サカキは戦闘を見守った。
444 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 04:25:46.02 ID:jv2VOdVk0
レッドはスピアーでおうせん。
イーブイのこうげき。たいあたり。
レッドはころがって、さけた。
そのスキにスピアーのダブルニードル。
イーブイのぞうぶつをつらぬくハズのどくバリがよけられた!
イーブイのでんこうせっか!
スピアーに120のダメージ。
スピアーはしゅんごくさつをくりだした。
イーブイに200のダメージ。
しかしまだよりょくがありそうだ。
みだれづき。
しっぽをふる。
いとをはく。
とっしん……
445 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 04:40:41.77 ID:jv2VOdVk0
戦闘の最中。
酷く哀しい眼光で、レッドを睨むイーブイ。
――たすけてほしい。
そんな声が聞こえた気がした。
レッド「――」
447 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 04:42:15.68 ID:jv2VOdVk0
イーブイの気配にレッドは初めから気づいていた。
スピアーは主人の心境を図り慎重に戦っている。
トキワの森を知っているレッドが。
ロケット団を殲滅して歩くレッドが。
このイーブイを救わないわけがない。
そうスピアーは確信していたのだ。
449 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 04:45:00.40 ID:jv2VOdVk0
調教され、改造され。
本当は辛く、いまも怯えている。
そんなイーブイの荒ぶる心の声が轟く。
スピアーを跳ねのけ、イーブイはレッドに疾駆した。
――イーブイの牙が、レッドを捉えようと開く。
レッドは背中に視線を感じた。
この戦闘を凝視するサカキの眼だ。
レッド「……」
レッドはスピアーに、本気で貫くよう命じた。
450 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 04:49:03.35 ID:jv2VOdVk0
スピアーの乱れ突き。
約40回の高速の突きが、
イーブイの横腹を穿った。
――シャぁぁぁぁあああああッ!!
助けを求めたイーブイの慟哭。
血が薄暗い闇や地面にまき散らかされた。
鮮血にそまった手を、スピアーは払い飛ばした……。
レッド「……」
サカキ「――」
482 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 19:02:23.93 ID:jv2VOdVk0
血だまりの中、横たわるイーブイ。
先ほどとうって変わって、いまじゃ幼い声で鳴いている。
――きゅううん。
なんども、何度も。
血の海で身を動かし、
レッドに助けを求めるように
前足をのばす。
レッド「……」
483 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 19:04:26.77 ID:jv2VOdVk0
その助けを求める姿に
トキワの森のポケモンたちを思い出した。
見ず知らずのレッドに助けを求め、
幼い肩に希望を預け、
レッドの成長のために生贄になった彼らを。
484 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 19:06:19.62 ID:jv2VOdVk0
幼いころからレッドは、何故かポケモンを惹きつけた。
この人間に虐げられたイーブイですら、
同じ人間のレッドに、何かを感じ、救いを求める。
レッド「……」
486 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 19:19:01.61 ID:jv2VOdVk0
レッドはイーブイが入っていた、
『R』とロゴの入ったボールを近づける。
――きゅううん。
やはり怯えて戻ろうとしない。
サカキ「こいつは驚きだ。
ただのモンスターボールじゃないな」
レッド「……」
サカキ「あぁ、恐らくは改悪されている。
それもポケモンの恐怖心と服従心を煽るための、
えげつない装置でもあるんだろうな」
488 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 19:25:58.08 ID:jv2VOdVk0
レッドは新しいボールを投げた。
大人しく捕獲されるイーブイ。
サカキ「よくやったレッドくん。
恐れず、躊躇せず、残虐に。
教えたとおりやってのけたな!」
レッド「……」
サカキに背を向け、レッドは醒めた顔をした。
490 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 19:32:24.46 ID:jv2VOdVk0
■■■
レッドは駆けた。
たたたたたたッ――。
サカキ「おい、レッドくんッ!
どこへ行くんだ?」
マンションの屋上から、レッドは去った。
サカキ「……」
たった一人深夜の屋上に残されたサカキ。
サカキ「ききき、きはははははははッ」
492 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 19:41:00.44 ID:jv2VOdVk0
サカキの人の良さそうな表情が崩れた。、
私利私欲の権化のような顔つきで、レッドが去った扉を見つめる。
サカキ「あの人間恐怖症のイーブイがなぁ。
あれだけ調教し、牙を研いでやったというのに。
あっさりレッドを信頼したようだ――」
496 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 19:48:32.67 ID:jv2VOdVk0
ただの動物に好かれる奴とはワケが違う。
マサラの加護をうけた、レッドの力があれば……。
サカキ「マサラタウンのレッド。
やはり彼が我々の計画の鍵になりそうだな」
498 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 19:51:03.75 ID:jv2VOdVk0
それにしても、とサカキは思った。
サカキ(レッドの奴め。
本気で俺に気を許しちゃいないようだな。
あのスピアーの乱れ突き。
微妙に急所を外していた。
あれだけハデにやったのも、
俺の信頼を得るためのパフォーマンス……)
――おもしろい、化かし合いをしようっていうのだな、レッド。
502 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 20:04:47.02 ID:jv2VOdVk0
強い夜風がサカキのスーツを翻した。
一瞬のぞいた懐には、『R』と刻まれたモンスターボールが。
サカキ「レッド。悪には悪の美学があるんだ。
善にもつかず、悪にも傾倒しようとしない。
その甘さのせいで、いずれ地を這うことになるぞ」
血にぬれた屋上を、サカキは跡にした……。
■■■
503 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 20:11:06.93 ID:jv2VOdVk0
――ポケモンセンター(深夜)
クローン疑惑のあるジョーイさんに、イーブイを預けた。
薄暗い待合室でレッドは自分の両手を見つめた。
なぜか血に染まっているような気がしてならなかった。
あそこでサカキの意図とは逆の、
イーブイを助ける為ような戦い。
それが出来ない理由がレッドにはあった。
507 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 20:21:23.67 ID:jv2VOdVk0
――おそらくサカキはロケット団に繋がっている。
先日のスロットコーナー。
それを裏で経営しているのは、実はロケット団なのだ。
(哀れ下っ端ロケット団員を、ピカチュウの電撃椅子で脅して得た情報である)
だからこそレッドは、スロットで遊び、店内を窺っていた。
508 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 20:22:37.47 ID:jv2VOdVk0
そこで、レッドへの大当たり。
隣に座ったサカキの大当たり。
それらは狙いすましたようだった。
――幸運の女神なんかじゃない。
――あれはサカキのパフォーマンスだ。
509 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 20:24:28.64 ID:jv2VOdVk0
遠隔操作だ。
そんな違法行為ができるのは、
店でも幹部クラスの人間だ。
サカキは、ロケット団と繋がっている。
それも、おそらく、深い所に……
510 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 20:26:42.78 ID:jv2VOdVk0
このチャンスを逃すわけにはいかなかった。
悪の塊のようなサカキに、正義をかざしたら逃げられる。
悪を倒すために、悪を成す。
それでもイーブイにしたことは……
××「なぁに、暗い顔してんのよ、レッド」
511 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 20:35:22.76 ID:jv2VOdVk0
待合室の人工の光が、少女の横顔を照らした。
カスミ「このハナダの人魚姫が、アンタに会いにきたっていうのにさッ」
レッド「……」
カスミ「なんで……、じゃないわよ。
あたしはアンタの助けなりたいって言ったじゃん。ほら!」
その優しさがあたりまえのように、カスミがレッドに手をのばした。
深夜の静寂な、暗がりの待合室。
そこには悪の美学とは正反対の、快活な少女の笑顔があった……
■■ 悪の美学/了 ■■
546 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 02:36:45.65 ID:jiLA6u8A0
■■ 朋輩の質量 ■■
タマムシのファミレス。
カスミ「……あんた、朝から胃袋ブラックホールね」
どこかの悟空さん並の勢いで、食事の皿の山を形成していくレッドさん。
レッド「……」もぐもぐ、むしゃむしゃ。
カスミ「挨拶がわりって、何に対してのよッ!」
レッド「……!」もぐもぐ、むしゃむしゃ。
カスミ「いや、うん、あのさ――自分の肉体への挨拶って何よ!?」
カスミの嘆息に、レッドは首をかしげる。
肉体を鍛えるのは、荒々しいバトルをするレッドの基本なのだ。
548 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 02:50:01.29 ID:jiLA6u8A0
もぐもぐ、むしゃむしゃ。
カスミ「……あ、あー、あたし、ドリンクとってくるね!
レッドは何飲む? っていうか、レッドの好きな飲み物ってなに?
知りたいなァ、あたし」もじもじ。
チラ。
もぐもぐ、むしゃむしゃ。
レッド「……?」
カスミ「ニャースなんて被ってないわよ!
レッドの馬鹿。もう知らないッ!
いいわよ、カスミ特性激辛ミックスを作ってやるわよ!」
カスミが怒って去っていく。
なぜ怒ってるんか見当もつかないレッドさん。
とりあえず、食べつづけた。
549 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 02:53:04.79 ID:jiLA6u8A0
××「もし、そこの貴方。もしかしてレッドさんですか?」
レッド「――」
声の主に顔をむける。
そこには和服姿の、お淑やかな令嬢といった感じの女がいた。
指名手配中のレッド。
名をあてられ、かなりビビる、が、肉だけは食い続けた。
もぐもぐ、むしゃむしゃ。
550 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 03:04:17.48 ID:jiLA6u8A0
レッド「……」ジー。
××「……」ジー。
見つめあう男と女。
レッドの反応に困った女は、あらあら、と首をかしげるだけだった。
カスミ「何、見つめあってんですか、エリカさん……」ムカ
エリカ「あら、カスミさん。ご無沙汰しておりますわ」
ふわっと花が咲いたように、エリカが微笑んだ。
552 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 03:10:52.74 ID:jiLA6u8A0
慎ましく料理を食べるエリカ。
談笑の中心である、カスミ。
そして、いやもう、なんか食べる描写しかないレッドさん。
カスミ「それで、エリカさん。
頼んでいたレッドの件なんですけど……」
レッド「……」ピクッ。
重たい話題に、エリカは箸を置く。
エリカ「ええ、まずはトキワの森の件ですが――。
この実行犯が、レッドさんでない証拠を掴みました」
カスミ「やったァ! ねえ、聞いたレッドッ!?」
レッド「……」
554 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 03:19:21.58 ID:jiLA6u8A0
エリカ「マサラへの通報者。それと証言者たち。
どちらもロケット団の構成員であることが判明――」
エリカ「それとグレンジムのカツラさんに検証してもらった所。
オーキド博士からもらった時点のヒトカゲのレベルでは、
アレほどの大規模な火災が起きるはずがない、という結果がでました」
カスミ「へー。ところでカツラさんは、元気?」
エリカ「はい。去年のジムリーダーの集会以来ですが、
お変わりないようです」
カスミ「じゃあ、またヘンなクイズばっかり考えて、うむー、うむーとか? あはッ」
エリカ「クイズ馬鹿じゃなければ、仲良くしたいのですが」
カスミ「うわァ……ほんとエリカさんって、時々キツーイ!」
エリカ「しかたありませんわ。
どのクイズも、答えが分かってしまうので、面白味がないんですもの」
557 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 03:32:41.00 ID:jiLA6u8A0
女子二人の談笑に、レッドは戸惑っていた。
エリカ「レッドさん」
レッド「……」
真剣な顔でエリカはレッドを見つめる。
エリカ「言ったとおりです。
トキワの森について冤罪を晴らすことができます。
現在、全力で私たちのチームが、確固たる証拠を集めています」
558 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 03:36:48.91 ID:jiLA6u8A0
エリカ「ですから、レッドさん。
冤罪と誤解を晴らすためにも、私にすべてを話してくれませんか?」
赤の他人のレッド。
それも極悪人の烙印を押されたこどもに。
何故ここまでしてくれるのか分からなかった。
まるで難解な数学の問題を突きつけられてるかのようだ。
560 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 03:48:25.73 ID:jiLA6u8A0
レッド「――――」
カスミ「……はァ。あんたって筋金入りの〝鈍チン〟ね」
エリカ「あら、その発言は殿方の下のことですか?」
カスミ「んなわけあるかいッ!」
わいわい、わいわい。
僭越ながら、私が代表しましょう、とエリカ。
エリカ「なぜ貴方に手を差し伸べるのか、という質問に答えましょう。
それは――カスミさんが私の『朋輩』だからです」
ほうばい。
仲間という意味だ。
561 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 04:08:39.26 ID:jiLA6u8A0
エリカ「人に助けを求めるのが苦手で、
暴れまわるギャラドスに、一人で立ち向かう。
そんな意地っ張りなカスミさんが、
プライドを捨てて、『助けて欲しい人がいる』と頼ってきたのです……」
レッド「……」
レッドが眼をやると、カスミは顔を赤くして、そっぽを向いた。
エリカ「ならば朋輩として助けるのが、このエリカの矜持じゃありませんか」
その気高さにレッドは戸惑った。
563 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 04:27:46.62 ID:jiLA6u8A0
ごっほん、というワザとらしい咳払い。
今度はカスミの番だった。紅潮した顔でレッドを睨んだ。
カスミ「そしてアンタはあたしを助けてくれた。
アンタは一人、あたしのコイちゃんへの想いに気づいてくれた。
だからあたしは助ける。アンタはあたしの仲間よ。迷惑だなんていわせない。
――レッドの為なら、いつでもプライドなんて捨ててやるわよ!」
レッド「――――」
胸が温かくなる。
その感覚に、困惑するレッド。
久しぶりの感覚だった。
仲間。
朋輩。
かつてレッドにも、それはいた。
グリーン。
マサラで唯一の、幼なじみで、ライバル。
いまは殺意をもって、彼に呼ばれるけれど――。
565 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 04:34:51.67 ID:jiLA6u8A0
すっと緑茶を啜ったエリカ。
エリカ「貴方が逃亡してから、13件。
13件も、ロケット団員の粛清、および支部の壊滅が確認されています。
どの事件にも、あなたの姿が確認されました」
レッド「……」
エリカ「……復讐、ですか。なんて哀しいッ。
たった10を超えただけの少年が、茨の道を歩むのを、私は見ていられませんッ」
エリカ「レッドさん。
貴方が一人で抱える理由が、どこにあるというのですッ」
エリカ「私もカスミさんも、あなたの力になりたいのです。
――よかったら、私を朋輩と認めてくれませんか?」
戸惑っているレッドに、エリカが柔らかい笑みを向けた――。
569 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 05:01:30.17 ID:jiLA6u8A0
この復讐は渡さない。
トキワの森の想いも、
死んでいったポケモンたちの慟哭も。
託されたロケット団への怒りも。
無実の自分を追いやったマサラへの悲しみも。
ぜんぶ、ぜんぶ。
常にそんな想いがレッドの腹の底で滾っていた。
――しかし。
570 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 05:03:30.48 ID:jiLA6u8A0
しかし。
エリカ、カスミ。
この二人は、そんな暗い想いまでも、受け入れてくれる。
きっと叱ってくれる、泣いてくれるかもしれない。
レッドの胸に温かいものが広がっていく。嬉しいのだ。
571 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 05:06:55.71 ID:jiLA6u8A0
カスミが手を差し出してきた。
カスミ「あたしも、そのホウバイってやつなんだからね。
ほら、誓いの握手。誓いのチューよりは、カンタンでしょ?」
冗談めかしていったカスミは、やっぱり頬が紅潮していた。
そっぽ向いて勝気な顔のカスミ。
その意地っ張りな横顔に、レッドは数ヶ月ぶりに、笑った。
とてもおかしそうに、そしてそれは、エリカとカスミが騒ぐくらいの、満面の笑みだった――。
607 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 19:23:20.61 ID:jiLA6u8A0
しばらく食後の団欒をしていた時だった。
サカキ「やァ、レッドくん。相変わらずだな」
店員が片付ける食器の山を見て、サカキが人の良さそうな顔で近付いてきた。
レッド「……」
サカキ「昨日のイーブイ、助けたんだろ?」
レッド「……」こくり。
サカキ「爪が甘いが、君らしいな」
と、親しげにレッドの肩に手をおく。
エリカ「…………」
610 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 19:32:16.07 ID:jiLA6u8A0
カスミ「レッド、このおっさんと知り合いなの?」
サカキ「ハハハ、まあ40をとうに超えているが、若いつもりだったんだが。
せめてオジ様が望ましいな」
カスミ「俺はサカキだ。まあ、レッドくんの悪友といったところか」
レッド「……」
カスミ「へー。歳の離れたホウバイね」
サカキ「朋輩? ハハハ、渋い言い回しだな。
――生憎だが、そいつは違うだろうな、なァレッド?」
レッド「……」こくり
612 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 19:44:06.87 ID:jiLA6u8A0
エリカ「もしやサカキさん。貴方は、あのトキワの――」
サカキ「ほう、もう何年も姿を暗ましていたのだが、まだ俺の名は世に通っているようだ」
カスミ「え? トキワのサカキって、もしかして伝説のジムリーダーの?」
サカキ「伝説かどうかはしらないが、そのサカキで間違いない」
レッド「……」
カスミ「えッ? そんなことも知らずに、オジサンと仲良くなってたの?」
― サカキは『おっさん』から、『オジサン』に進化した! ―
エリカ「ジム戦の砦。難攻不落。
一時期、『ポケモンマスター』を目指す若者が減少するほどの兵ですわ」
616 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 20:23:55.12 ID:jiLA6u8A0
サカキの表の顔。
それよりもレッドは、『ポケモンマスター』という響きに心動かされていた。
かつてマサラを旅立った時に、
オーキドが語り、グリーンが目指したもの。
――なぁ、レッド。
どちらが先にポケモンマスターになるか、勝負しようじゃないか?
いつかの、もしかしたら朋輩と呼べただろう、同郷の少年の声が蘇る……
その言葉の数時間後。
トキワの森でレッドは地獄を見るのだが――。
617 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 20:38:33.03 ID:jiLA6u8A0
エリカ「そんなお方に会えるなんて、今日は吉日ですわね。
よかったらサカキさん、座ってくださいな。
ジムリーダーの責務を放棄して、行方を暗ましていたのでしょう?
我々ジムリーダーの信用を落とした謝罪なんかを、ぜひ聞きたいですわ」
ニコッと悪意のない笑み。
そのわりに言葉の含みは辛辣だった。
サカキ「遠慮させてもらおう。
おっ、これはトマトジュースかな?
なんだ、飲まずに片付けるなら、頂こうじゃないか」
カスミが作った特性激辛ドリンクに、サカキは手をだした
618 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 20:54:53.60 ID:jiLA6u8A0
カスミ「――あっ!(ま、いっか)」
その後の展開が楽しみで、本気で止めないカスミ。
ごく、ごく、ごく、ごく……
豪快に飲み干すサカキ。
唖然とする三者。
カスミ「……」
エリカ「……」
レッド「……」
サカキ「ごちそうさま。喉を突き刺すイイ喉越しだ!」
620 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 21:04:18.20 ID:jiLA6u8A0
サカキは別の席で注文をとり始めた。
エリカ「逃げられましたわ。
ジムリーダーを束ねる者として苦言したかったのですが。
ヤマブキのナツメさんは、ロケット団員宣言で失踪してますし。
残念ですわ」
レッド「……」
カスミ「っていうか、うっそでしょー。
厨房から唐辛子やハバネロとか借りてきて作ったのにッ」
レッド「…………」
カスミ「えッ? そんなものを飲ませようとしたのかって?
いや、あの、そのォ、ごめん、レッド!
だから、――らめぇぇ、そんな醒めた眼であたしを見ないでぇぇ!!」
621 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 21:16:06.89 ID:jiLA6u8A0
■■■
― 同時刻。タマムシ、上空 ―
そこには巨大な赤き炎竜の姿。
タマムシの家々や地面に、暗い影を落としている。
青空に浮遊しているリザードンに、気づき始めた人が騒ぎ始めていた。
リザードンの背には、二つのロケット団員の影。
622 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 21:25:13.04 ID:jiLA6u8A0
地上で騒ぎ始める人々を見下ろして、不敵に笑う男と女。
ムサシ「何だかんだと聞かれたら!」
コジロウ「答えてやるのが世の情け!」
コジロウ「世界の破壊を防ぐためって――おいおい、マジでやるのかよォ。
いくらボスの命令でも、俺こえぇよッムサシィ!」
ムサシ「黙らっしゃいッ。ボスの命令は絶対よ!
だからこそボスに内緒で、ニャースに手配させてるんじゃないさ!」
タマムシの空に、緊張した二人の声が響く。
626 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 22:27:34.89 ID:jiLA6u8A0
コジロウ「でもよォ。これじゃ、本当に悪役だぜぇッ!?」
ムサシ「ハナからロケット団は悪の組織じゃないか!
給料天引きなんて、あたしはゴメンだわ!
――ニャース、聞こえるッ!?」
ムサシと呼ばれた赤紫髪の女が、無線機をとって声をあげる。
ニャース『聞こえてるニャ!
ポケモンたちも逃がし終わってるニャ。
いつでもOKニャ!』
627 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 22:34:36.29 ID:jiLA6u8A0
ムサシ「怖じ気づいてるんじゃないよコジロウ!」
コジロウ「あァ、あァ、分かりましたよォ!
やってやるぜ。ムサシ一人にやらせて堪るかい!」
ニャース『ボスから指令メールが来たにゃ、40秒で支度しニャッ!』
629 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 22:50:29.28 ID:jiLA6u8A0
リザードンがギロりと二人を視た。
――まだか? という視線。
それに怯えながら、よし、と二人が頷いた。
コジロウ「男コジロウ。咲かせてみせよう悪の華」
ムサシ「連れ添いますは、時代の徒花ムサシ」
ムサシ・コジロウ「いけぇぇぇ、リザードン! 火炎放射だぁぁ!!」
――ぎゃしゃァァァァアアアア!!
リザードンの濁流のごとき炎が、とある森と建物に放たれた。
ロケット団員たちの狙いは、森に囲まれたタマムシのジムだった……
■■■
642 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 02:47:35.95 ID:P3Oe5s7J0
――タマムシ、ファミレス内。
破壊音と人々の悲鳴が轟いた。
エリカ「――何事ですのッ!?」
ガラス壁の向こう側で、炎があがっていた。
カスミ「エリカさん、あの方角って――」
エリカ「はい。あの森は私のジムですッ」
レッド「――――」
644 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 02:59:12.81 ID:P3Oe5s7J0
エリカの携帯が鳴った。
エリカ「エリカです。一体何が起こったのですか?」
携帯越しにジム関係者と会話するエリカ。
それをレッドとカスミが見守っている。
すぐに向かいます、とエリカは携帯を閉じた。
エリカ「ロケット団の襲撃です。
リザードンの火炎放射で
我がタマムシジムが破壊されてました」
カスミ「そんなッ!
エリカさんの所が襲われる理由なんてないのに……」
エリカ「いえ、一つあります――」
エリカを見つめた。
645 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 03:02:02.34 ID:P3Oe5s7J0
レッド「……」
エリカ「はい、理由はレッドさんでしょうね」
カスミ「え?」
エリカ「トキワの森の放火の冤罪。
サントアンヌ号の、ナツメさんの協力。
ロケット団は、レッドさんに何かしら執着していますよね」
エリカ「そしてナツメさんの発言」
――この少年を覚えておくがいい!
――この少年がいずれ、人類の大いなる敵になるだろう
エリカ「何故かロケット団はレッドさんを追い詰めたいように見えます」
エリカ「これはレッドさんの冤罪を晴らす為に動いてる
私への報復と脅しと見て間違いありません」
646 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 03:08:41.82 ID:P3Oe5s7J0
カスミ「なんなのよ、ロケット団は!
こんな酷いことして、レッドに何をさせようっていうのッ!?」
レッド「……」
エリカは和服をなおし、席を立った。
エリカ「楽しい席でした。それでは失礼します」
たたたたたッ、からん、ころん。
カウベルの音を残して、エリカが去った。
647 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 03:14:06.81 ID:P3Oe5s7J0
レッドが立ち上がる。
レッド「……」
カスミ「罪悪感で動くんじゃないでしょうね?」
レッド「――」?
深刻な状況なのに、レッドは軽く返した。
カスミは驚いたあと、嬉しそうな声をあげる。
カスミ「アンタも分かってきたじゃん。
そうよ、朋輩だもんね。行くっきゃないって」
そういって二人して席を立った。
ファミレスを出る際。
気取られないように振り返る。
燃えさかる森を、コーヒーを啜りながらサカキは見つめていた……
648 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 03:25:44.19 ID:P3Oe5s7J0
■■■
― サカキ ―
我が麗しの悪友、レッドが去っていった。
コーヒーを啜りながら、団員の仕事っぷりを眺める。
――だめだめだな。
人もポケモンも、逃がしてると見た。
まだ壊せた筈だ。
まだ燃やせた筈だ。
まだ殺せた筈だ。
まだ轟かせた筈だ。
まだ慄かせた筈だ。
まだ、まだ、まだ、まだ――。
腹の底で、滾る悪意の塊。
頭蓋の芯に埋め込まれた、冷たい悪の因子。
仕事をこなした団員たちの、悪の足りなさをなじりたくもある。
650 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 03:38:34.40 ID:P3Oe5s7J0
まあ、いい。
所詮は手足。
心や頭ではない。
芯がないのだ。
――悪い病気は、俺だけが持っていればいい。
サカキ「ごっほッ、くッ――」
吐血するサカキ。
机の上にポタポタと滴る、赤い雫。
サカキ「チッ、もっと手筈を踏んで、計画に臨みたかったんだがな……」
――さぁて、クライマックスの幕を開こうか。
■■■
652 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 03:48:46.92 ID:P3Oe5s7J0
――タマムシジムの森近く。
エリカの背に追いついた。
カスミ「エリカさん、状況はッ?」
エリカ「はい。被害は森とジムのみ。
人もポケモンも、予め避難していたようです」
レッド「……」
エリカ「はい、なんでも、喋るニャースが、
爆弾を巻きつけて乱入。
『早く非難しないと爆発させるニャ』などと呻き、
それが本物の爆弾だったので、みなさん避難を。
――その避難のとたんに、この放火です」
カスミ「……なにそれ?」
653 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 03:54:03.97 ID:P3Oe5s7J0
燃えさかる森を見て、レッドが拳を握りしめた。その時だった――。
地面に大きな影が落ちた。
上を見上げれば、青空を竜が飛行していた。
カスミ「なに、あのリザードン。こっちに向かってくるッ!」
その竜は、ゆっくりと地面に降り立とうとしていた。
655 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 03:58:41.64 ID:P3Oe5s7J0
バッサ、バッサ、バッサッ――。
翼による風に、レッドは帽子を押さえた。
レッド「――――」
その邪悪な顔をした炎竜は、
それに似合わない慇懃な礼をとるように、
静かにレッドに向かって頭を落とした。
リザードンの鼻先付近を、レッドは軽くなでた。
それに対してリザードンは、なんの抵抗もせず受け入れた。
――それはレッドの最初の仲間だった、ヒトカゲだった。
656 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 04:12:39.24 ID:P3Oe5s7J0
リザードンの背にのる二人が驚いていた。
コジロウ「おいおい。あの暴れん坊が、ガキに頭をさげたぞォッ!?」
ムサシ「あんなジャリボーイに? うっそでしょォ!」
コジロウ「わっけ分かんねー」
ムサシ「おい、アンタ、早くアジトに飛び立ちなさいよ!」
リザードン「――――」ギロリ。
コジロウ「……あの、よろしければ、ぼくたち家に帰りたいなぁーって」
リザードンは、ふんっと二人を落とし、尻尾で二人を遠くへ打ち上げた。
ムサシ・コジロウ「やな感じィィィィイイ――」
謎の愉快なロケット団員は星になった。
658 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 04:27:43.63 ID:P3Oe5s7J0
エリカ「このリザードンは、レッドさんの」
カスミ「間違いないわ。
だって、ロケット団に調教されてる筈なのに、
こんなにレッドに哀しい眼を向けてる……助けて欲しいのよッ」
ギャラドス事件の経験が、そうカスミに強く確信させていた。
レッド「…………」
×××「おいおい、そのリザードンは、レッドくんのじゃないぞ」
その男の声に、三人が振り返った。
661 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 04:36:15.87 ID:P3Oe5s7J0
――ポン。
――ポン。
モンスターボールの開閉音。
その刹那、スピアーとサイドンが激突していた。
スピアーの角のような両手が、サイドンの角を抑えつけていた。
レッド「――――――」
サカキ「ふん」
睨むあう両者。
状況に追いつけない、カスミとエリカ。
サカキ「そいつは我々が奪い取った、
正真正銘、我がロケット団のリザードンだ」
663 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 04:50:31.01 ID:P3Oe5s7J0
燃える森を背景に、悪と赤が対立する。
レッド「……」
サカキ「俺の本性? 化かし合いを続けて、ロケット団に近づきたかったか?
そんなもの、ここでたった今断ち切ってやっただろうが?」
サカキ「戦っていた土俵から、理不尽に降りるのも有効だぞ」
カスミ・エリカ「……」ごくり。
664 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 04:58:02.65 ID:P3Oe5s7J0
カスミ「レッド、こいつがロケット団だって知ってたの?」
レッド「……」こくり。
エリカ「まさかジムリーダーが、ロケット団だなんて。
やはりサカキさん。貴方とはお話する必要がありそうですわね」
オレ
サカキ「話、か。善のおまえ達に、悪の言葉は通じないさ」
――うむ、改まって自己紹介といくか」
赤いネクタイを緩め、サカキが酷薄な顔を浮かべた。
――俺がロケット団の首領だ。驚いてもらえたかな?
702 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 20:07:49.74 ID:P3Oe5s7J0
― 4年前。シオンタウン ―
その深夜、一夜限りの戦火があがっていた。
ポケモンタワーに挑むように、ロケット団の軍勢がいた。
ロケット団が関わった事件では、最大規模の戦力が集結していた。
703 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 20:10:29.26 ID:P3Oe5s7J0
――ポケモンタワー、前方。
マチスによる、マルマイン60匹による大爆発の音が轟く。
ビル一つ崩壊させるほどの爆発。標的はポケモンタワーだった。
――ドゴォォォォォォオオオオンッ!!!!!
爆炎と煙に包まれながらも、ポケモンタワーの影は健在だった。
その影を見上げて、舌うちをする、一人の男。
マチス「シット! あの野郎、完全に立てこもりやがったッ!」
704 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 20:12:27.02 ID:P3Oe5s7J0
――ポケモンタワー南、崖の上。
そこにマルマインの攻撃を見物する一人の影。
団員「キョウ様。ゴルバットたちの超音波による、情報の結果が出ました!」
その報告に、忍びの装束の、気難しい顔の年配男がうなづく。
キョウ「すぐにナツメ嬢の部隊に結果をまわせ。
なお残りの団員は、引き続き調査に当たるべし……」
団員「「「ハッ。承知致しました!!」」」
キョウ「マチス殿の大爆発をモノともしないか。
愛らしい姿とは裏腹。超越的な力をもっているな、あのポケモン……」
706 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 20:25:46.73 ID:P3Oe5s7J0
――ズゴゴゴゴォォォォオオンッ!!!
空中部隊のプテラ、カイリュウたちのの攻撃。
29もの破壊光線が、ポケモンタワーを襲った。
が、すべて見えない壁に防がれてしまった。
死霊の塔。
ポケモンの墓場。
シオンに聳える荒廃な聖域。
そのポケモンタワーは、特別な力で守られているようだ。
――部隊の雑用係りたち。
コジロウ「うへー、ATフィールドかよ~!」
ニャース「おみゃーは何をいってるニャ」
ムサシ「アンタたち、遊んでないで手伝いなさいよ!」
708 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 20:36:52.44 ID:P3Oe5s7J0
ロケット団の目的。
それはタワーの破壊ではない。
追いつめた筈のポケモンを炙り出す為だった。
サカキの念願が、塔に逃げて籠城してしまったのだ。
サカキ「――――ッ」
塔を仰ぎ、舌うちをするサカキ。
710 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 20:38:29.56 ID:P3Oe5s7J0
――ポケモンタワー、近く。エスパー部隊。
そこにはまだ幼さが残るナツメがいた。
ナツメ「オジさん。ケーシィが情報つかんだって!」
――バッシッ。
容赦なくサカキが、ナツメの頬を叩いた。
まだ10を超えて間もないナツメ。
涙を浮かべて、サカキを見上げた。
サカキ「年配者への口の聞き方を教えてやろうか?」
711 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 20:40:37.12 ID:P3Oe5s7J0
教えてやろうか?
それは虐待的教育のことだった。
ペルシアンに刻まれた腕の傷を思い出し、ナツメが震えた。
ナツメ「……申し訳ありま、せん」
サカキ「超能力のせいで、忌み嫌われたおまえを救ったのは誰だ?」
ナツメ「サカキさまです」
サカキ「何故、おまえは拾われた」
ナツメ「?」
712 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 20:43:20.54 ID:P3Oe5s7J0
サカキ「おまえの世界への悪意が、
俺の優秀な駒に成りえるからだ。
チェスでいうなら、まだビショップ。
成長すれば、クイーンにもなりえる駒だ」
ナツメ「……」
サカキ「そして俺はキングではない。
キングすら操る、打ち手だ。
その俺を不快にさせる駒など入らん」
ナツメ「――捨てないでください!
あんな醜い世界に戻りたくありません」
泣き言ながらも、キッと強い眼光でサカキを見据えた。
716 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 21:44:59.99 ID:P3Oe5s7J0
エスパー少女。
マスコミのお約束だ。
持ち上げて、手のひら返し。
忌み子、呪われた子。超能力でのイタズラ。
そういった悪評を撒き散らされ、家族崩壊にまでなってしまった。
サカキ「その醜い世界を、俺が壊してやる」
――おまえは俺の背中を見て育てばいい。
戦火を酷薄な顔で観賞するサカキ。
その背中を見つめ、ナツメは拳に力をいれる。
悪。その背中。その背中が、ナツメを強く突き動かす。
ナツメ「ハッ!」
戦火に照らされた少女の顔には、もう幼さは消え失せていた……
717 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 21:51:01.09 ID:P3Oe5s7J0
エスパー部隊。キョウの調査部隊。
その報告をまとめ、ナツメが読み上げる。
サカキ「そうか、ヤツはある筈のない8階を形成し引きこもったか」
ナツメ「ハイ。物理攻撃は無駄かと。ATフィールド発動中です」
サカキ「ATフィールド?」
ナツメ「いえ。エスパー学における専門用語です」
サカキ「俺が欲しい報告じゃないな。ヤツを捕獲する手立てはないのか?」
ナツメ「それが……あッ、ア、ぐぁッ」
突然、頭を押さえ、苦しむナツメ。
その脳裏には、未来が足早に映し出されていく。
断片的なそれに、ナツメは吐き気を覚えた。
――これは四年後の、ポケモンタワーの予知だ。
718 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 21:52:35.56 ID:P3Oe5s7J0
いくつかの断片予知。
その一つがナツメにとって衝撃的だった。
――その予知では、ナツメは少年に殺されるのだ。
サカキ「予知がきたか。もちろん、ヤツの捕獲についてのだな?」
そうでなければ使えない。
そんな声色でサカキがナツメを見下ろした。
ナツメ「……はい」
その予知の内容を、ナツメは語った。
719 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 21:54:45.34 ID:P3Oe5s7J0
サカキ「きははは、そうか。マサラの少年が餌か」
サカキ「まっさらなマサラが育む精神!
確かに伝承では『純粋な心の持ち主に姿を見せる』だったな」
サカキ「それでは我々がいくら向かった所で意味がない」
ナツメ「どうされますか?」
サカキ「全軍、引け。俺は四年後に備える」
ナツメ「……サカキ様」
サカキ「おまえの犠牲が必要ならば、払え。その命」
サカキ「――醜い世界を壊す礎となれ」
ナツメ「ハッ。ありがたき光栄です」
――私一人の力じゃ世界は壊せない。
でも悪の権化の、このお方ならば……
720 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 21:57:23.77 ID:P3Oe5s7J0
全軍が引いていく。
サカキが聳えたつタワーを振り返った。
サカキ「――待っていろよ、幻のポケモン、ミュウ。
俺の悪意が、貴様を呑みこんでやる」
きはははははははははははははッ!!
ナツメ「――マサラの少年、か。
私はどんなヤツに殺されるのだろうな」
四年後。ナツメはトキワの森で、その少年と出会った――。
― 四年前/了 ―
723 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 22:46:54.66 ID:P3Oe5s7J0
――俺がロケット団の首領だ。驚いてもらえたかな?
その発言後、レッドとサカキの戦闘が始まった。
スピアーとサイドン。
圧倒的に力負けのするスピアー。
速さと毒で翻弄されるサイドン。
両者の角と針が火花を散らす姿は、
さながら主君の名誉をかけた騎士の殺しあいだ。
が、その勝負を打ち切ったのは、やはりサカキだった。
725 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 22:48:14.56 ID:P3Oe5s7J0
リザードンの背にのるサカキ。
レッドを見つめるリザードン。
レッド「……」
サカキ「ふん、これ程ナラしたリザードンすら、おまえに好意を抱くか。
――だからこそ、おまえが必要なのだレッド」
カスミ「ちょっとアンタ、タダで帰るつもりじゃないでしょうねェッ!」
エリカ「あら、お茶の席を用意致しますのに。
きっちり絞り上げて、証言をお聞きしたいですわ」
ふたりはモンスターボールをかまえた。
サカキ「残念だが、遊びは終わりなんだよ」
すっとサカキが手をあげると、リザードンが炎を吐いた。
726 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 22:50:50.77 ID:P3Oe5s7J0
サカキとレッドたちのまえに、炎の境界線が引かれた。
バッサッ、バッサッ、と飛び始めるリザードン。
サカキ「レッドよ」
レッド「……」
サカキ「どんな苦難を与えても、貴様は悪に染まらなかった。
そこの正義ったらしい娘たちを仲間と思うくらいだ。
もう、俺が歩んだ道に、踏み外すことはないだろう」
――喜ばしいが、本心としては残念だ。
バッサッ、バッサッ、バッサッ――。
レッド「…………」
サカキ「シオンタウン。ポケモンタワー。
そこの最上階を、決着の舞台としようじゃないか」
サカキ「待っているぞ。レッド――ッ」
シュッバッ―――。
サカキをのせたリザードンが、遥か上空に飛び去っていった。
727 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 22:57:34.66 ID:P3Oe5s7J0
――数時間後、タマムシ郊外。
レッドは巨大なイーブイの背にのった。
向かうはシオンタウン。ロケット団の頭を叩く。
――たぶん、そこにナツメも、と一人の女を想うレッド。
カスミ「こら、レッド! もう行くつもり?」
エリカ「あらあら。カスミさんも寂しがり屋さんですわね」
カスミ「エッ、エリカさんだって、そうじゃないですかぁッ!」
振り返ると、朋輩と呼んでくれた少女たちがいた。
エリカ「レッドさん。私はジムの件でお伴できません――これを」
そういってエリカはたくさんのバッチを手渡した。
レッド「……」
エリカ「これは全てのジムバッチの真贋です。
ジム戦でもらえるバッチは、すべてこれのレプリカなのです。
バッチはリーダーを束ねる、このエリカの管轄ですので、
――かるく本部から拝借してきましたわ」
ふふふ、と笑うエリカ。
エリカ「きっと貴方の才とポケモンの力を、バッチが大いに強化してくれますわ」
728 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 22:58:41.88 ID:P3Oe5s7J0
カスミ「さっきのバトルを見て、私は足でまといだって分かった。
でもだからって、逃げるつもりはないわ。私はエリカさんを手伝う。
だから、私は、こんなことしかできないけど――」
民族衣装のカスミが、静かに踊り始めた。
そのゆったりなリズム。幻想的な姿。歌声。
まるで大海を見守る、人魚を彷彿させられる。
見えない力に、守られているような気分だった……
ジャン、タッタタ、ランッ――
最後のステップを決め、カスミが頭を下げる。
731 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 23:12:45.67 ID:P3Oe5s7J0
カスミ「これ、ある神秘の水島に伝わる、伝統的な踊りなの。
眉つばなんだけど、旅人に加護を与えるんだって!」
レッド「――――」
カスミ「で、どうよ? 御利益ありそう?」
顔を真っ赤にしたカスミが、上目遣いでレッドを見つめた。
レッド「……」こくり。
732 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 23:13:59.19 ID:P3Oe5s7J0
胸のまえで両手をあわせて、カスミが満面の笑みをみせた。
カスミ「そう、よかった! レッド、いってらっしゃい!」
エリカ「あなたの帰りをお待ちしていますわ」
レッドは別れを告げ、イーブイにのり駆けだした。
向かうは、シオンタウンの、ポケモンタワーだ。
734 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 23:17:01.91 ID:P3Oe5s7J0
流れていく花々や木岐の景色。
近代的な建物すら、とても柔らかい色をしている。
虹色のようなタマムシの風景を、レッドは跡にする。
カスミとエリカ。彼女たちが託したモノ。
それは眼にはみえないものだ。
しかしレッドは想う。
――それはタマムシシティのような、鮮やかな色のような気がした。
――なかま、か。
イーブイの背で、レッドは強く拳を握りしめた。
― タマムシ にじいろ ゆめのいろ ―
■■ 朋輩の質量/了 ■■■
746 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 04:59:40.68 ID:4bOMnMUK0
■■ ミュウ ■■
◇ 桜咲くカフェテリア ◇
――ポケモンタワー、入口の洞窟前。
岩壁に寄りかかっているナツメがいた。
ナツメ「――よく来たな坊や」
レッド「…………」
ナツメ「ここでおまえと我々ロケット団。
どちらかが潰れることになるだろう」
ナツメ「まぁ、万が一にもサカキ様が負けるなどありえないがな」
と、ナツメはシニカルな笑みを浮かべた。
747 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 05:05:01.77 ID:4bOMnMUK0
レッド「――」
ナツメ「久しぶりにあったと思ったら、ずいぶん嫌な顔になった」
レッド「……」
ナツメ「なんだ、その緩みきった顔は。
以前のおまえは、もっとギラついていたぞ?」
レッド「――」
ナツメ「故郷は、社会は、家族は、同郷のグリーンは……
みなお前を怨み、恐れ、遠ざけているというのに――!」
ナツメ「だというのに、たいそう善人な顔をする。
まるで『決闘者』だ。復讐者のそれではない。
――なぜ、なぜ、そんな顔ができる……」
苛立ちげに、ナツメが睨む。
それを真っ当から受け止めるレッド。
749 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 05:14:23.11 ID:4bOMnMUK0
レッド「――――」
ナツメ「ただ坊やに会いたくなっただけさ」
レッド「……」
ナツメ「私は心理学者じゃないんだ。会いたくなった理由なんて知るか。
――まあ、これが最後だからだろうさ」
そっぽを向いて、ナツメがいった。
ナツメ「おまえはこの塔の8階で、サカキ様と戦う。
そして何故か、私はここでお前に殺される……」
レッド「……」
ナツメ「それが私が見た、予知の断片だ。
ちなみに私は、予知を外したことはない」
ナツメ「――いや、一度だけ、あったな」
レッド「?」
ふっと儚げに自嘲するナツメ。
750 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 05:20:59.43 ID:4bOMnMUK0
ナツメ「だれかと。――そう。だれかと一緒にいるんだ。
どこかのカフェだった。硝子を隔てた向こうには、桜が散っていた。
そこで私は楽しげにだれかを、からかいながらコーヒーを啜っていた……」
――アレはだれだったんだろうな。
一瞬、温かい顔をのぞかせたナツメ。
それもすぐに、いつものクールな顔に切り替わる。
ナツメ「結局、そんな未来は訪れなかった。
――いまの私からしたら、キモち悪いほど幸福な予知だったよ」
レッド「……」
751 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 05:25:55.88 ID:4bOMnMUK0
レッド「……」
ナツメ「私は入らない。ここで塔内部を監視するのが、サカキ様の命だからな」
レッド「……」
ナツメ「サカキ様に従う理由だと?
先に私の居場所を奪ったのは、おまえ側の住人なんだよ」
ナツメ「私はサカキ様に従う。この世界を壊してくれるならば!」
――ザッ。
大きく一歩ナツメに踏み出すレッド。
額がぶつかる程の至近距離で、レッドが宣言した。
752 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 05:28:17.69 ID:4bOMnMUK0
レッド「――――」
ナツメ「――なッ?」
驚くナツメの横を通り過ぎて、レッドは洞窟内に入っていった。
753 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 05:30:16.55 ID:4bOMnMUK0
レッドが去って行った。
ナツメは塔を見上げた。
灰色の雲がシオン全体を覆い始めた。
ポツ、ポツと雨が降り始める。
ナツメ「私をサカキ様の呪縛から解く――か。
レッド、だから私はおまえが嫌いなんだ」
――救済を求めるには、私の手は汚れ過ぎてるんだよ。
……ざぁぁぁぁ。
◇ 桜咲くカフェテリア/了 ◇
757 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 07:01:14.94 ID:4bOMnMUK0
――ポケモンタワー内部。
暗闇をピカチュウの電気が照らす。
墓標。墓標。墓標。墓標。墓標……。
薄気味悪い風。妙な視線。遠くから聞こえる怪音。
如何にもユウレイが現れそうな空気だった。
レッド「……」
ある気配に、レッドとピカチュウが、バッと振り返った……
760 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 07:02:32.95 ID:4bOMnMUK0
暗がりの中に黒い影の群れ。
全ての影がにゅるりと形を変えていく。
ポケモンの墓場。幽霊がいても納得の場所だ。
その群れに、レッドは見覚えがあった。
レッド「……」
その群れはレッドが助けられなかったポケモンたちだった
燃やされ、レッドの成長の生贄になり、死んでいった虫ポケモンたち。
旅の途中で助けられず、ロケット団の餌食になったポケモンたち。
いつの間にか虚ろな群れが、レッドとピカチュウを囲んでいた。
761 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 07:04:20.91 ID:4bOMnMUK0
――ぴかァ、ぴかァッ!
ピカチュウが幽霊に訴えかける。
しかし、その声は空しくなっていく。
レッドは攻撃を躊躇していた。
安らかに眠っていただろうか。
世に未練を残していたのか。
群れは、レッドの手をつかみ、見上げ、足にしがみつく。
虚ろな顔で、墓場に引き込むように、ゆったりと、ゆったりと……。
762 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 07:06:22.76 ID:4bOMnMUK0
レッド「……」
――ドン。
レッドの脳裏に、地獄の記憶がよみがえった。
燃え朽ちていく、トキワの森という地獄を。
罪悪感。復讐心。そういった感情が蘇っていく――。
その時だった。
すべてを打ち消すような、衝撃音が轟いた。
763 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 07:07:39.74 ID:4bOMnMUK0
――ジィィィイイインッ!!!
一条の太い光が、一瞬、墓場を昼に変えた。
その光は影を消し飛ばし、タワーの壁に穴をあけた。
タワーは元の暗がりを取り戻す。壁の向こうには、シオンの暗い空。
コツ、コツ、コツ、コツ――。
レッド「……」
この技は、ソーラービーム。
まさか、とレッドが振り返る。
グリーン「たっぷり日光浴させて正解だったか」
グリーン「なにせ天下の大悪党のレッドくんに、借りを作れたんだからな」
そこにはクールで嫌みったらしい、
フシギバナを連れたグリーンがいた。
766 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 08:11:04.19 ID:4bOMnMUK0
レッド「……」
グリーン「……」
先に睨みあいを降りたのはグリーンだった。
歩み寄り、ポンとレッドの肩をたたく。
グリーン「タマムシのリーダーからマサラに伝達があった」
グリーン「――レッドが無実だってな。
いまレッドの冤罪を晴らすために、エリカさんたちによる情報合戦さ」
レッド「――」
グリーン「オレはおまえを憎んじまった。
オーキドの爺ちゃんが、せっかくおまえに夢を託したのにってよ……」
レッド「……」
グリーン「いまはオレは、自分が許せない。
このクールな俺サマが、人一倍甘ちゃんな幼なじみを信じられなかったことが……」
グリーン「――レッド、俺を殴れ」
墓場に、レッドの一撃が轟いた。
768 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 08:15:22.73 ID:4bOMnMUK0
グリーン「――本当に殴るヤツがあるか!」
レッド「……………?」
グリーン「ちくしょう。そうだよ、おまえはそういうアホだったよ」
頬をさすりながら、グリーンはニヤついた。
憎しみで自分を見失っていたグリーンも、やっとらしさが出てきたようだ。
グリーン「悪かった」
レッド「……」
グリーン「あぁ、言いっこナシだ。さっさとケリ、つけに行こうぜ」
――二人はコツンと、拳を突き合わせた。
これから最終決戦をまえに、マサラの少年二人の最強タッグが誕生した。
769 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 08:19:07.78 ID:4bOMnMUK0
二人が拳を突き合わせた時だった。
さぁぁっと薄気味悪い霧が晴れていった。
まるで一本の道を作るかのように、薄気味悪い霧が晴れていく。
それを辿った先に、巨大な階段が現れた。
ボッ、ボッ、ボッ、ボッ――。
燭台のロウソクに、勝手に火が点されていく。
暗がりの階段から、恐ろしくも神秘的な空気。
気を抜くと、一気に違う世界に呑み込まれそうだ。
グリーン「へぇ、俺たちに、来いってかぁ?」
レッド「……」
二人は階段をあがっていった。
772 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 08:42:02.17 ID:4bOMnMUK0
■■■
――ポケモンタワー前。
――ざぁぁぁぁ。
ナツメが雨に濡れていた。作戦中である。
塔内部でレッドたちを観察するユンゲラー。
その念を受け取り、逐一サカキに無線で報告していた。
洞窟の入り口に手をのばす。
やはり入れない。透明な壁があるようだ。
悪意ある者は、入れないって所らしい。
ナツメ「……」
胸騒ぎがする。
――くそォ、随分飛ばされたなぁ、という男の声。
コジロウ「おぉ! あそこの洞窟で雨をしのごうぜ!」
ニャース「賛成ニャ。ニャーの紳士的な毛並みが台なしニャ」
ムサシ「うっそォ、やぁだ! アレってポケモンの墓場じゃないさ」
774 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 08:44:41.49 ID:4bOMnMUK0
ナツメ「……何をしているんだ、おまえたち」
どこかで見たことある顔ぶれ。
たしか下っ端の構成員だった筈。
コジロウ「あァ! ナツメ様だ!」
ニャース「ニャーたちには、それはそれは、
リザードンよりも高く、カビゴンの胃袋より深い理由が……」
雨にぬれるナツメ。
それをじーっと見つるムサシ。
ムサシ「あんたこそ、何してんのさ。そんな顔で」
――ざぁぁぁぁぁ。
775 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 08:51:41.68 ID:4bOMnMUK0
ムサシ「ハハーン、男を追いかけたそうな顔だわね」
ナツメ「馬鹿な。あんな坊やなんて、年下過ぎて男として――」
ニャース「……だれも坊やかニャんて聞いてニャいな」ボソ。
コジロウ「コラ、ムサシ、ナツメ様に向かってなんていう口の聞き方をォ……!」
ムサシ「いくら幹部では、アタシたちよりも、ぐんと下の小娘じゃないさ」
ナツメ「……ふん」
ムサシ「どんな事情があるか分かんないけどサ。
さっさと追いかけなさいよ」
――似合ってないんじゃない、そーいうの。
ムサシの訴えかける眼。
ナツメ「まるで私をそこらの女扱いするんだな……」
再度、洞窟の入り口に手を伸ばす。
――なぜかナツメも、入れるようになっていた。
776 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 08:55:11.18 ID:4bOMnMUK0
――無線機を落とし、洞窟に消えたナツメ。
コジロウ「あぁ、あぁ、必死になって走っていったよ。
クールな所が、チャーミングだったんだけどなぁ」
ムサシ「まったく女ってもんを分かっちゃいないわねぇ」
ニャース「おみゃーが女を語るニャ」
コジロウ「似あわねー」
ムサシ「うっ、うるさいわねアンタたち!」
――ガ、ガ、ガ、ガァァ。
コジロウ「おい、なんかコレから聞き覚えのある声がするぞ」
ニャース「にゃんだ、にゃんだぁ!?」
地面に落ちた無線を、コジロウがとりあげる。
その機械からはロケット団の首領の声がした……
■■■
778 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 09:17:46.07 ID:4bOMnMUK0
――そこは、ある筈のない8階だった。
まるで静謐な空気が漂う寺院のようである。
レッド「……」
グリーン「あぁ、持ってるけど、何に使うんだ?」
レッド「――」
グリーン「まぁ、いいけどよ。ほら」
そういって、レッドはモンスターボールを受け取った。
グリーンは伽藍とした8階を見渡した。
グリーン「特に、何もナシ、と。
おいレッドォ、オレたち化かされてないか?」
レッド「……」
レッドは迷わず、中央の祭壇。
そこに置かれた、とある石板のまえに立った。
レッドは古代ポケモンが描かれた石板に触れた。
――しゅっばァァァァんッ!!!!!
レッドが石板にふれた瞬間。
眼を覆いたくなる光が天を貫いた……
779 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 09:29:43.42 ID:4bOMnMUK0
石板が光柱の中に浮かんでいる。
レッド「―――――」
グリーン「なんだ、こいつはァ!」
石板の上に漂う、
一匹の小柄なポケモンが、
ゆっくりと瞼を開いた。
レッド「……」
ミュウ「――」
781 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 09:31:37.56 ID:4bOMnMUK0
マサラの少年レッドと
幻のポケモンであるミュウが出会った。
7月6日。
ここに立ち入る人間が
再び現れるとすれば
心優しき人で在らんことを
今ここに其の願いを記し
この地を跡にする
― フジ ―
■■ ミュウ/了 ■■
787 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 11:40:53.98 ID:4bOMnMUK0
■■ マサラタウンのレッド ■■
神々しい8階に乱入者が現れた。
荒々しく壁を破壊してやってきたソレは、
リザードンの背で邪悪な笑みを浮かべた。
サカキ「気を抜いたなミュウ!!」
――バサァッバサッバッサァ。
突っ込んできたリザードンの牙が、ミュウに喰らいついた。
リザードン「ぎゃしゃぁぁぁあああ!!!!」
狭い室内に風が吹き荒れ、レッドは帽子を押さえた。
レッド「……」
グリーン「あいつが、ロケット団首領かッ!」
788 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 11:49:46.70 ID:4bOMnMUK0
地面に降りたっていたサカキ。
そのまえに供物を捧げるように、
リザードンがミュウを差し出した。
バッサッ、バッサッ、バッサ。
――みゅうッ。
サカキ「予知のとおりだな。マサラの純白な精神。
レッド、おまえはいい餌だったよ!」
サカキはボールを投げた。
それを払おうと尻尾をふるミュウ。
ミュウ「――!」
が、あっさりミュウを捕獲してしまった……
そのボールは、人類の叡智が生んだ傑作。
どんなポケモンでも捕獲するという、マスターボールだった。
789 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 11:50:55.10 ID:4bOMnMUK0
レッド「……」
グリーン「……」
状況を掴めない、レッドとグリーン。
サカキ「きはははッ。ついに、ミュウを捕獲したぞ!
四年越しの捕獲劇も、ついに閉幕――」
――これで俺の野望が遂げられる!
790 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 11:57:10.64 ID:4bOMnMUK0
レッド「……」
スピアー、ギャラドス、イーブイ、ピカチュウ。
すべての手持ちポケモンを出し、レッドは戦いに挑もうとしていた。
サカキ「おいおい、まさか、『決着の舞台』とやらを信じているのか、おまえは?」
レッド「――」
サカキ「四年前から俺の狙いは、このミュウ一匹。
いまさらオマエと戦う理由が、何一つないんだがね?」
――またしても、戦いから逃げるサカキ。
同じ土俵に立とうとしない、根っからの策士だ。
791 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 11:58:27.88 ID:4bOMnMUK0
グリーン「ガキ相手に逃げだすなんて、カッコ悪いんじゃない?」
サカキ「グリーン、か。ポケモンバトルをしよう、とでも?」
グリーン「分かってるじゃんか。出せよ、ポケモン」
レッド「――――」
サカキ「うむ、早速こいつを使ってみるのも、一興か」
サカキはミュウのボールをかざした。
先手必勝。レッドはスピアーに攻撃を指示。
その時だった。
794 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 12:01:38.86 ID:4bOMnMUK0
■■■
――たッ、たッ、たッ、たッ、という足音。
幻の8階に辿りつくと、レッドの姿があった。
ナツメはレッドに向かって走りだす。
――たッ、たッ、たッ、たッ。
ナツメ(レッド。レッド。レッド――!)
■■■
795 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 12:03:39.15 ID:4bOMnMUK0
世界が暗転した。
――ナツメの胸を、スピアーの針が穿った。
ナツメ「――あ」
レッド「――――――――――――――」
急に飛び出してきたナツメ。
深々と刺さる、巨大な針。
ゆっくりと崩れていくナツメの躰。
グリーン「……」
サカキ「――予知が当たったか」
のしかかってきた、
ねっちょりしたナツメの躰を、
レッドは抱きしめた……
796 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 12:11:01.95 ID:4bOMnMUK0
サカキ「きははは――。
そうか、レッド、おまえもついに人を殺めたかッ!」
レッド「……」
サカキ「それも女。極上の女をッ。悪の女を!」
高笑いしているサカキ。
その顔がすぐに屈辱に変わる。
ナツメ殺害でできたスキに、
ピカチュウが、マスターボールを奪ったのだ。
――ぴっ、ぴかちゅう!
誇らしげなピカチュウの声がした。
798 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 12:21:46.41 ID:4bOMnMUK0
懐に飛び込んできたピカチュウをやさしく抱きとめるレッド。
サカキ「なッ、それは、まさかッ」
レッドの足元で溶けていくナツメ。
それは変身が得意な、メタモンだった。
グリーン「仕込みバッチリ成功だなレッド!」
レッド「――――」
――パンッ。
マサラのコンビの、軽快なハイタッチが響いた。
799 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 12:24:16.00 ID:4bOMnMUK0
レッドはミュウを外に出し、マスターボールを投げた。
それをスピアーの針が貫く。
――びき、びき、パリンッ。
マスターボールが砕け散った。
どうやらサカキの狙いは、このポケモン。
ならば、それを徹底的に阻止。
これがいまのレッドによる、サカキへの有効打である。
800 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 12:27:51.65 ID:4bOMnMUK0
レッド「……」
サカキ「やってくれたな……」
――みゅう。
幻のポケモンが、大いなる力をふるった。
サカキ「――なん、だと……?」
8階にいるすべての者を、ミュウが放つ虹色の光が包み込んだ
――しゅうん。
そして8階には誰もないくなった……。
802 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 12:30:47.33 ID:4bOMnMUK0
――しゅうん。
ミュウの力により、テレポートさせられた。
そこは焼け野原だった。
いくつか残された大木も黒こげだ。
レッド「……」
グリーン「ここって、まさか、アレだよなぁ?」
サカキ「――ここはトキワの森だ」
その声に、レッドたちは身構えた。
空中ではミュウが自由にとびまわっている。
804 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 12:33:49.92 ID:4bOMnMUK0
空で遊ぶミュウを見上げてサカキがつぶやく。
サカキ「――生きてる間に、捕まえられそうにないな」
レッド「……」
サカキ「レッド、おまえの勝ちだ」
レッド「――――」
サカキ「ロケット団は、解散だ。
レッド、俺はな、ありがちな病気にかかり、
ありがちな死に様を晒す、一歩手前なんだ」
805 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 12:35:42.10 ID:4bOMnMUK0
レッド「……」
サカキ「もう半年もない命。
悪を、もっと悪を成すためには、長い寿命が必要だった。
――できるならば、ミュウの力で、不老不死になりたかったんだがなぁ」
グリーン「悪行の為に不老不死……あんた、狂ってるぜ」
しゅぼッ。
サカキは煙草をくわえ、火をつけた。
サカキ「――ふん。悪なんてものはな、俺にとっては食欲と同じなんだ。
狂ってるもなにも、悪をしなきゃ、死ぬくらいだ俺は。きははッ」
806 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 12:38:05.52 ID:4bOMnMUK0
サカキ「さて、俺は退散させてもらおう。
悪がべらべら、犯行理由を喋るのは、ナンセンスだからな。
――おまえたちに語るのは、悪ボスのごくごく一部。
格好が悪いところを見せたのは、ちょっとした愛嬌だよ」
レッド「―――」
サカキ「あぁ、ロケット団は、本当に解散だ」
808 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 13:06:38.03 ID:4bOMnMUK0
レッド「―――」
サカキ「まだ犯罪を犯すのか、か。それを俺に聞くかレッド?」
サカキ「犯すさ。
ロケット団という手足を使わずとも、
この頭脳で、この心臓で、この滾る悪の血潮でッ。
――俺という人間は、死ぬ間際まで悪を貫こう」
レッドは、一歩、一歩。サカキに近づいた。
睨みあう両者。
レッド「――――――――――――――」
809 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 13:07:34.16 ID:4bOMnMUK0
最上階についた時、レッドの姿を見つけた。
その刹那、私は虹色の光に包まれた。
それがテレポートの類だとは、エスパーポケモンの使い手として熟知していた。
気がつくと私は森の茂みに倒れていた。
空を見上げれば、青空と入道雲。
――素直に、キレイだ、と私は思ったのだ。
810 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 13:10:19.82 ID:4bOMnMUK0
私は立ち上がり、
現状を把握するため、
あたりを窺った、その時だ――。
レッド「――――――――――――――」
聞き覚えのある少年の声。
私は茂みや木岐のすきまを煩わしく歩く。
するとすぐに眼前には、私の心をかき乱す少年。
その少年の快活な声に、私の鼓動が跳ねあがった。
――さぁぁぁあああああ。
トキワの森の風が、私の髪をちらした。
―――………
811 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 13:17:17.39 ID:4bOMnMUK0
トキワの森に、涼しげな風が吹いた。
まだ根強く生える草花がなびいている。
レッドはモンスターボールをかまえた。
レッド「――俺はマサラタウンのレッドだッ」
――サカキ、ポケモンバトルしようぜ!
まっすぐな眼で悪を見据え、
レッドが挑戦状を叩きつけた。
勇ましくも、楽しそうな少年のような顔で。
トキワの森の空に、ミュウの楽しげな鳴き声が響く……
― トキワは みどり えいえんのいろ ―
■■ マサラタウンのレッド/了 ■■
819 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 13:45:31.16 ID:4bOMnMUK0
■■ ポケットモンスター ■■
― 後日談 ―
――2日後、トキワの森。
何時間も続いた、レッドとサカキのバトル。
両者共に、すべてを出し切った、激闘だった。
スピアー、ピカチュウ、サイドン、
イワーク、イーブイ、ギャラドス、リザードン、
ニドキング……
すべてのポケモンが、須らく主役であった。
821 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 13:51:48.00 ID:4bOMnMUK0
――兵達の夢のあと。
もうそこに争いの気配はない。
涼しげな風が吹くくらいだった。
サカキ『レッド。おまえの勝ちだ。
そして、もう俺を追うのはやめろ。
餓鬼は餓鬼らしく、もっとマシな道を歩けよ。
――あと善人に近づかれると、持病が悪化しちまうのさ』
そう言い残して、サカキは姿を暗ました。
生涯、あの男と会う機会は巡ってこないだろう。
823 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 13:57:35.10 ID:4bOMnMUK0
あの肌が焦げつくようなポケモンバトル。
2日前の熱の名残りを求めるように、
レッドは荒廃しているトキワの森にやってきた。
それに付き添うグリーン。
グリーン「おい、あいつ、こっちに来るぞ」
ここ2日、トキワ周辺を飛び回って、世間を騒がせているミュウ。
その空中で遊んでいたミュウが、レッドのまえに降り立った。
――みゅう、みゅう、みゅー、みゅ?
レッド「――――」
唐突にミュウから、光が放たれた。
それも今度はトキワの森全土を包む巨大な光だ……。
824 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 14:09:38.30 ID:4bOMnMUK0
ものすごい勢いで草木が生え始めた。
さながら森が生き物のようだった。
元に戻るのではない。
新しい森が生まれようとしているのだ……。
トキワ本来の、濃厚な森の匂いがした。
――気がつけば、立派な森が誕生していた。
ミュウが遠くの空の彼方に飛んでいった。
もうあのポケモンとも、会うことはないだろうな、とレッドは思った。
――ありがとな、ミュウ。
825 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 14:12:48.56 ID:4bOMnMUK0
新しく生誕した森に、グリーンの素っ頓狂な声が響いた。
グリーン「これからどう生きて行けばいいのか分からない~!?」
レッド「…………」こくり。
ずっと復讐の日々だったレッド。
そして最終目標だった、ロケット団の解散。
もうレッドには、やるべき目標がないのだ。
レッド「……」
グリーン「あぁ、だったら、よォ。ものは相談なんだが……」
グリーン「俺とポケモンマスターを目指そうぜ。
どちらが先に頂点に立つか、勝負だ!」
そういって、グリーンが手を差し出した。
826 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 14:14:33.20 ID:4bOMnMUK0
力強い眼で、レッドを見つめるグリーン。
まるでマサラを旅立った日のやり直しだった。
レッド「……」
そして、あの時のように。
レッドはその手を握り返した。
ぐッと力強い握手が交わされた。
828 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 14:23:05.66 ID:4bOMnMUK0
グリーン「ところで、レッドくゥん!」
レッド「……!」
グリーン「ポケモンマスターのまえに、だ。
君には達成するべき任務があるんじゃないのかな?」
ニヤつくグリーンが、レッドの肩を叩く。
耳打ちをするように、ぼそりとグリーンがいった。
グリーン「いいか、レッド。
年上の女は、押しに弱い。強気で当たれレッド」
レッド「――」
グリーン「なんのことだ、じゃない。すぐに分かる」
レッド「……」
グリーン「――タマムシに、桜咲くカフェテリアがある。
そこにデートに洒落こんでみな。良い雰囲気の店だぜ」
レッド「――――――」
じゃあな、と手をあげて、森を去っていくグリーンだった。
832 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 14:37:26.05 ID:4bOMnMUK0
グリーンとすれ違う、一人の女。
トキワの森の入口。
そこには始まりの女、ナツメがいた。
まるで本当に旅立ちの日のやり直しだ。
ナツメ「……」
レッド「……」
お互い見つめあい、黙りこんだ。
先に根をあげたのはナツメだった。
ナツメ「――色々。本当に色々。
おまえには言わなきゃいけないことがある……」
ナツメ「すまなかった、ありがとう。辛かったか? 傷は癒えたか。
……初めに何をいえば相応しいのか、会うまで悩んでもいた」
レッド「……」
835 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 14:45:58.15 ID:4bOMnMUK0
ナツメ「しかし、おまえに会った瞬間、言葉が全部消えてしまった」
レッド「……」
――さて、どうしたもんかな。
唇に指をあて、儚げな笑みを浮かべるナツメ。
毅然としたナツメの、ほんの一瞬だけ見せた、脆さ。
レッド「――――――」
ナツメ「――え?」
836 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 14:54:26.89 ID:4bOMnMUK0
『よかったら桜咲くカフェテリアにいかないか?』
桜咲くカフェテリア。
それは唯一当たらなかった予知。
悪意まみれの世界で生きるナツメにとっての、
ある筈のない、やわらかく、嘘みたいに幸福な光景。
ナツメの頬を涙が伝う。
ナツメ「こんな所にあったのか……」
837 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 15:05:18.22 ID:4bOMnMUK0
ナツメ「レッド、私はおまえが好きだ!」
レッド「―――――」
毅然とした顔が、柔らかい笑みに変わった。
――初めっから大切なものは、まっさらで。
初めっから、すぐそばに転がっているらしい。
838 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 15:07:45.32 ID:4bOMnMUK0
レッドは、トキワの森に、ポケモンを還した。
スピアー、イーブイ、ピカチュウ、サカキから取り返したリザードン。
どれもロケット団に調教された、可哀そうなポケモンたちだった。
これからレッドは新しい道を歩く。彼らにもそうして欲しかった。
『野生にお帰り』
そうレッドとナツメが、ポケモンたちを見送った。
レッド「……」
ナツメ「……」
ぎゅっとナツメは、レッドの手を握り締めた。
――二人はトキワの森を跡にした。
841 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 15:26:21.44 ID:4bOMnMUK0
― 数ヶ月後、近況 ―
カスミはミス・ハナダに選ばれたことを、
レッドに自慢したり、衣装をお披露目したりした。
ちかごろ彼が連れ添っている女と
衝突している光景は、もうお約束だ。
タマムシの再興に尽力するエリカ。
彼女は忙しいながらも、裏で暗躍したりしている。
どうやらバッチの件は、借りだったらしい。
朋輩が聞いてあきれるが、これもエリカの冗談なのだろう。
その後ロケット団の噂が、頓と途絶えた……
843 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 15:36:00.39 ID:4bOMnMUK0
とあるカフェテリア。
ナツメ「そこはエスパーポケモンで攻めるべきだ」
レッド「――――――」
ナツメ「それはオマエの嗜好だろうが。
いいかレッド。もっとゴリ押しじゃなく、相性を――」
そこにいるのは、
復讐者のレッドでも、
世界を怨むナツメでもない。
純粋にポケモンを愛する二人の、
いつもと変わらないポケモン議論に花が咲いていた……
844 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 15:37:07.67 ID:4bOMnMUK0
動物図鑑にも載っていない。
不思議な不思議な生き物。
ポケットモンスター。
略してポケモン。
これはそんなポケモンと、
少年レッドの物語。
■■ 完 ■■
847 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 15:43:06.39 ID:4bOMnMUK0
これにて完結です。
保守・支援さん、読んでくれていた方。
本当にありがとうございました。
■■ 悪の美学 ■■
――タマムシシティ、スロットコーナー。
オジサン「やぁ、えらく出してるな、少年」
隣に座ったオジサンが、声をかけてきた。
仕立ての良い黒いスーツの、人の良さそうなオジサンだ。
レッド「……?」
首をかしげるレッド。
見知らぬ人に声をかけられる覚えがなかった。
しかし、
レッドのうしろには10箱以上のドル箱の山。
ボケなレッドは気づいていないが、現在すべての客に注目されていた。
428 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 03:09:11.59 ID:jv2VOdVk0
客の羨望と嫉妬。
スロットコーナーの暗がり。
喧しいスロットの音。店のBGM……
オジサン「すまないが、コインを少し分けてくれないか?」
レッド「……」
コクリと頷いて、レッドは豪快に、箱ごと渡そうとした。
が、いやいや、と軽く首をふって、断った。
オジサン「3枚でいいんだ。一回まわせればそれでね」
レッド「……」
430 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 03:16:29.50 ID:jv2VOdVk0
オジサン「今日の君は、幸運の女神に愛されてるらしいが――」
軽快に三枚のコインが投入口された。
スロット機種は『アイム・ニャース』だった。
オジサン「幸運の女神は、尻軽なんだぜ?」
レッド「……」
不敵な笑みで男は、たった一回だけスロットをまわした。
431 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 03:26:44.86 ID:jv2VOdVk0
――ガコン。ぴ、ぴ、ぴ。
『777』
大当たりだ。
オジサン「な、いったろ。女も神も信じちゃいけない。
何かを信仰するなら、己にするべきさ。
――そうすれば、運さえも跪かせられる」
オジサンの機種から、大当たりの音楽が流れ始める。
それを見物していた観客たちが、おぉ! と感嘆の声をあげた。
オジサン「ほら、コイン返すぜ。レッドくん」
レッド「……」
名前を呼ばれて驚くレッド。
メガネの変装を、あっさり見抜かれていたらしい。
432 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 03:32:20.78 ID:jv2VOdVk0
景品交換所を出た。
オジサン「ははは、お互い大勝だな!」
レッド「……」
オジサン「あれから一度も当たらなかった?
隣に俺くらいのカリスマが座ったんだ。
そりゃあね、女神も大人の魅力にタジタジさ」
冗談まじりのオジサン。
しかしレッドは信じる気になれた。
この男に、運の女神が屈したのだと。
レッド「……」
オジサン「俺かい? 俺はサカキという、とある会社の首領さ」
男の名はサカキ。
おもしろい人だな、とレッドは思った
434 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 03:39:37.05 ID:jv2VOdVk0
ロケット団殲滅。
その目的に走っているレッドは、
情報収集。もとい下っ端団員への脅迫で、
このタマムシにロケット団のアジトがあることが分かった。
そのアジト発見のため、しばらくタマムシに滞在していた。
そして、そのあいだ、サカキという男と行動を共にした。
436 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 03:48:44.51 ID:jv2VOdVk0
サカキといるとき、レッドは落着いている自分に気づいた。
どこか荒んでいて、掴みどころがなく、知識の塊だった。
そして、指名手配中のレッドを、まるで警戒しない。
それどころか変装道具から、宿の手配までしてくれた。
そして、大人のくせに、
こどもみたいにレッドを危険な遊びに誘う。
いままで出会った大人の中で、一番目指したい背中だった。
そして本日もレッドは危険な遊びに誘われた……。
438 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 04:03:21.36 ID:jv2VOdVk0
――あるマンションの屋上(深夜)。
サカキ「ほら、いただろ? ――じゃじゃ馬が」
レッド「……」
ポケセン裏に位置するマンション。
その屋上に放置されていたボール。
それを開くと、兇暴なポケモンが現れた。
――シゃぁぁぁぁああああああああああ!!!
439 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 04:11:57.07 ID:jv2VOdVk0
それは哺乳類型のポケモンだった。
サカキ「おや、コレは奇妙だな?」
レッド「……」
サカキ「イーブイは、こんな巨大なポケモンじゃなかった筈だが。
まるでニドキングくらいあるぞ」
――シャぁぁぁあああああ!!
イーブイの雄叫びが、タマムシに轟いた。
威嚇じゃない。この声は怯えだ。と、レッドは気づいた。
441 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 04:15:59.10 ID:jv2VOdVk0
『兇暴なポケモンの捕獲』
それが今日の遊びだった。
イーブイがレッドめがけて駆けだした。
サカキ「それでは頑張りたまえ。レッドくん。
俺は見物しているよ。ハハハッ」
サカキが逃げた。
442 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 04:16:45.77 ID:jv2VOdVk0
イーブイが入っていたボール付近。
いくつもの注射器。瓶。鞭……。
ロケット団に調教された後のようだった。
レッド「……」
443 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 04:22:04.69 ID:jv2VOdVk0
噛みつこうとするイーブイ。
咄嗟にイーブイの頭を蹴って、飛び越えた。
空中でも手は休めない。
人間を襲うポケモンとの戦闘。
そこにタイムラグは命とりだった。
空中でスピアーを出した。
レッド「――ッ」
そのままスピアーに指示。
ほうッともらし、サカキは戦闘を見守った。
444 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 04:25:46.02 ID:jv2VOdVk0
レッドはスピアーでおうせん。
イーブイのこうげき。たいあたり。
レッドはころがって、さけた。
そのスキにスピアーのダブルニードル。
イーブイのぞうぶつをつらぬくハズのどくバリがよけられた!
イーブイのでんこうせっか!
スピアーに120のダメージ。
スピアーはしゅんごくさつをくりだした。
イーブイに200のダメージ。
しかしまだよりょくがありそうだ。
みだれづき。
しっぽをふる。
いとをはく。
とっしん……
445 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 04:40:41.77 ID:jv2VOdVk0
戦闘の最中。
酷く哀しい眼光で、レッドを睨むイーブイ。
――たすけてほしい。
そんな声が聞こえた気がした。
レッド「――」
447 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 04:42:15.68 ID:jv2VOdVk0
イーブイの気配にレッドは初めから気づいていた。
スピアーは主人の心境を図り慎重に戦っている。
トキワの森を知っているレッドが。
ロケット団を殲滅して歩くレッドが。
このイーブイを救わないわけがない。
そうスピアーは確信していたのだ。
449 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 04:45:00.40 ID:jv2VOdVk0
調教され、改造され。
本当は辛く、いまも怯えている。
そんなイーブイの荒ぶる心の声が轟く。
スピアーを跳ねのけ、イーブイはレッドに疾駆した。
――イーブイの牙が、レッドを捉えようと開く。
レッドは背中に視線を感じた。
この戦闘を凝視するサカキの眼だ。
レッド「……」
レッドはスピアーに、本気で貫くよう命じた。
450 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 04:49:03.35 ID:jv2VOdVk0
スピアーの乱れ突き。
約40回の高速の突きが、
イーブイの横腹を穿った。
――シャぁぁぁぁあああああッ!!
助けを求めたイーブイの慟哭。
血が薄暗い闇や地面にまき散らかされた。
鮮血にそまった手を、スピアーは払い飛ばした……。
レッド「……」
サカキ「――」
482 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 19:02:23.93 ID:jv2VOdVk0
血だまりの中、横たわるイーブイ。
先ほどとうって変わって、いまじゃ幼い声で鳴いている。
――きゅううん。
なんども、何度も。
血の海で身を動かし、
レッドに助けを求めるように
前足をのばす。
レッド「……」
483 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 19:04:26.77 ID:jv2VOdVk0
その助けを求める姿に
トキワの森のポケモンたちを思い出した。
見ず知らずのレッドに助けを求め、
幼い肩に希望を預け、
レッドの成長のために生贄になった彼らを。
484 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 19:06:19.62 ID:jv2VOdVk0
幼いころからレッドは、何故かポケモンを惹きつけた。
この人間に虐げられたイーブイですら、
同じ人間のレッドに、何かを感じ、救いを求める。
レッド「……」
486 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 19:19:01.61 ID:jv2VOdVk0
レッドはイーブイが入っていた、
『R』とロゴの入ったボールを近づける。
――きゅううん。
やはり怯えて戻ろうとしない。
サカキ「こいつは驚きだ。
ただのモンスターボールじゃないな」
レッド「……」
サカキ「あぁ、恐らくは改悪されている。
それもポケモンの恐怖心と服従心を煽るための、
えげつない装置でもあるんだろうな」
488 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 19:25:58.08 ID:jv2VOdVk0
レッドは新しいボールを投げた。
大人しく捕獲されるイーブイ。
サカキ「よくやったレッドくん。
恐れず、躊躇せず、残虐に。
教えたとおりやってのけたな!」
レッド「……」
サカキに背を向け、レッドは醒めた顔をした。
490 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 19:32:24.46 ID:jv2VOdVk0
■■■
レッドは駆けた。
たたたたたたッ――。
サカキ「おい、レッドくんッ!
どこへ行くんだ?」
マンションの屋上から、レッドは去った。
サカキ「……」
たった一人深夜の屋上に残されたサカキ。
サカキ「ききき、きはははははははッ」
492 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 19:41:00.44 ID:jv2VOdVk0
サカキの人の良さそうな表情が崩れた。、
私利私欲の権化のような顔つきで、レッドが去った扉を見つめる。
サカキ「あの人間恐怖症のイーブイがなぁ。
あれだけ調教し、牙を研いでやったというのに。
あっさりレッドを信頼したようだ――」
496 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 19:48:32.67 ID:jv2VOdVk0
ただの動物に好かれる奴とはワケが違う。
マサラの加護をうけた、レッドの力があれば……。
サカキ「マサラタウンのレッド。
やはり彼が我々の計画の鍵になりそうだな」
498 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 19:51:03.75 ID:jv2VOdVk0
それにしても、とサカキは思った。
サカキ(レッドの奴め。
本気で俺に気を許しちゃいないようだな。
あのスピアーの乱れ突き。
微妙に急所を外していた。
あれだけハデにやったのも、
俺の信頼を得るためのパフォーマンス……)
――おもしろい、化かし合いをしようっていうのだな、レッド。
502 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 20:04:47.02 ID:jv2VOdVk0
強い夜風がサカキのスーツを翻した。
一瞬のぞいた懐には、『R』と刻まれたモンスターボールが。
サカキ「レッド。悪には悪の美学があるんだ。
善にもつかず、悪にも傾倒しようとしない。
その甘さのせいで、いずれ地を這うことになるぞ」
血にぬれた屋上を、サカキは跡にした……。
■■■
503 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 20:11:06.93 ID:jv2VOdVk0
――ポケモンセンター(深夜)
クローン疑惑のあるジョーイさんに、イーブイを預けた。
薄暗い待合室でレッドは自分の両手を見つめた。
なぜか血に染まっているような気がしてならなかった。
あそこでサカキの意図とは逆の、
イーブイを助ける為ような戦い。
それが出来ない理由がレッドにはあった。
507 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 20:21:23.67 ID:jv2VOdVk0
――おそらくサカキはロケット団に繋がっている。
先日のスロットコーナー。
それを裏で経営しているのは、実はロケット団なのだ。
(哀れ下っ端ロケット団員を、ピカチュウの電撃椅子で脅して得た情報である)
だからこそレッドは、スロットで遊び、店内を窺っていた。
508 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 20:22:37.47 ID:jv2VOdVk0
そこで、レッドへの大当たり。
隣に座ったサカキの大当たり。
それらは狙いすましたようだった。
――幸運の女神なんかじゃない。
――あれはサカキのパフォーマンスだ。
509 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 20:24:28.64 ID:jv2VOdVk0
遠隔操作だ。
そんな違法行為ができるのは、
店でも幹部クラスの人間だ。
サカキは、ロケット団と繋がっている。
それも、おそらく、深い所に……
510 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 20:26:42.78 ID:jv2VOdVk0
このチャンスを逃すわけにはいかなかった。
悪の塊のようなサカキに、正義をかざしたら逃げられる。
悪を倒すために、悪を成す。
それでもイーブイにしたことは……
××「なぁに、暗い顔してんのよ、レッド」
511 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/26(火) 20:35:22.76 ID:jv2VOdVk0
待合室の人工の光が、少女の横顔を照らした。
カスミ「このハナダの人魚姫が、アンタに会いにきたっていうのにさッ」
レッド「……」
カスミ「なんで……、じゃないわよ。
あたしはアンタの助けなりたいって言ったじゃん。ほら!」
その優しさがあたりまえのように、カスミがレッドに手をのばした。
深夜の静寂な、暗がりの待合室。
そこには悪の美学とは正反対の、快活な少女の笑顔があった……
■■ 悪の美学/了 ■■
546 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 02:36:45.65 ID:jiLA6u8A0
■■ 朋輩の質量 ■■
タマムシのファミレス。
カスミ「……あんた、朝から胃袋ブラックホールね」
どこかの悟空さん並の勢いで、食事の皿の山を形成していくレッドさん。
レッド「……」もぐもぐ、むしゃむしゃ。
カスミ「挨拶がわりって、何に対してのよッ!」
レッド「……!」もぐもぐ、むしゃむしゃ。
カスミ「いや、うん、あのさ――自分の肉体への挨拶って何よ!?」
カスミの嘆息に、レッドは首をかしげる。
肉体を鍛えるのは、荒々しいバトルをするレッドの基本なのだ。
548 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 02:50:01.29 ID:jiLA6u8A0
もぐもぐ、むしゃむしゃ。
カスミ「……あ、あー、あたし、ドリンクとってくるね!
レッドは何飲む? っていうか、レッドの好きな飲み物ってなに?
知りたいなァ、あたし」もじもじ。
チラ。
もぐもぐ、むしゃむしゃ。
レッド「……?」
カスミ「ニャースなんて被ってないわよ!
レッドの馬鹿。もう知らないッ!
いいわよ、カスミ特性激辛ミックスを作ってやるわよ!」
カスミが怒って去っていく。
なぜ怒ってるんか見当もつかないレッドさん。
とりあえず、食べつづけた。
549 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 02:53:04.79 ID:jiLA6u8A0
××「もし、そこの貴方。もしかしてレッドさんですか?」
レッド「――」
声の主に顔をむける。
そこには和服姿の、お淑やかな令嬢といった感じの女がいた。
指名手配中のレッド。
名をあてられ、かなりビビる、が、肉だけは食い続けた。
もぐもぐ、むしゃむしゃ。
550 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 03:04:17.48 ID:jiLA6u8A0
レッド「……」ジー。
××「……」ジー。
見つめあう男と女。
レッドの反応に困った女は、あらあら、と首をかしげるだけだった。
カスミ「何、見つめあってんですか、エリカさん……」ムカ
エリカ「あら、カスミさん。ご無沙汰しておりますわ」
ふわっと花が咲いたように、エリカが微笑んだ。
552 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 03:10:52.74 ID:jiLA6u8A0
慎ましく料理を食べるエリカ。
談笑の中心である、カスミ。
そして、いやもう、なんか食べる描写しかないレッドさん。
カスミ「それで、エリカさん。
頼んでいたレッドの件なんですけど……」
レッド「……」ピクッ。
重たい話題に、エリカは箸を置く。
エリカ「ええ、まずはトキワの森の件ですが――。
この実行犯が、レッドさんでない証拠を掴みました」
カスミ「やったァ! ねえ、聞いたレッドッ!?」
レッド「……」
554 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 03:19:21.58 ID:jiLA6u8A0
エリカ「マサラへの通報者。それと証言者たち。
どちらもロケット団の構成員であることが判明――」
エリカ「それとグレンジムのカツラさんに検証してもらった所。
オーキド博士からもらった時点のヒトカゲのレベルでは、
アレほどの大規模な火災が起きるはずがない、という結果がでました」
カスミ「へー。ところでカツラさんは、元気?」
エリカ「はい。去年のジムリーダーの集会以来ですが、
お変わりないようです」
カスミ「じゃあ、またヘンなクイズばっかり考えて、うむー、うむーとか? あはッ」
エリカ「クイズ馬鹿じゃなければ、仲良くしたいのですが」
カスミ「うわァ……ほんとエリカさんって、時々キツーイ!」
エリカ「しかたありませんわ。
どのクイズも、答えが分かってしまうので、面白味がないんですもの」
557 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 03:32:41.00 ID:jiLA6u8A0
女子二人の談笑に、レッドは戸惑っていた。
エリカ「レッドさん」
レッド「……」
真剣な顔でエリカはレッドを見つめる。
エリカ「言ったとおりです。
トキワの森について冤罪を晴らすことができます。
現在、全力で私たちのチームが、確固たる証拠を集めています」
558 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 03:36:48.91 ID:jiLA6u8A0
エリカ「ですから、レッドさん。
冤罪と誤解を晴らすためにも、私にすべてを話してくれませんか?」
赤の他人のレッド。
それも極悪人の烙印を押されたこどもに。
何故ここまでしてくれるのか分からなかった。
まるで難解な数学の問題を突きつけられてるかのようだ。
560 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 03:48:25.73 ID:jiLA6u8A0
レッド「――――」
カスミ「……はァ。あんたって筋金入りの〝鈍チン〟ね」
エリカ「あら、その発言は殿方の下のことですか?」
カスミ「んなわけあるかいッ!」
わいわい、わいわい。
僭越ながら、私が代表しましょう、とエリカ。
エリカ「なぜ貴方に手を差し伸べるのか、という質問に答えましょう。
それは――カスミさんが私の『朋輩』だからです」
ほうばい。
仲間という意味だ。
561 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 04:08:39.26 ID:jiLA6u8A0
エリカ「人に助けを求めるのが苦手で、
暴れまわるギャラドスに、一人で立ち向かう。
そんな意地っ張りなカスミさんが、
プライドを捨てて、『助けて欲しい人がいる』と頼ってきたのです……」
レッド「……」
レッドが眼をやると、カスミは顔を赤くして、そっぽを向いた。
エリカ「ならば朋輩として助けるのが、このエリカの矜持じゃありませんか」
その気高さにレッドは戸惑った。
563 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 04:27:46.62 ID:jiLA6u8A0
ごっほん、というワザとらしい咳払い。
今度はカスミの番だった。紅潮した顔でレッドを睨んだ。
カスミ「そしてアンタはあたしを助けてくれた。
アンタは一人、あたしのコイちゃんへの想いに気づいてくれた。
だからあたしは助ける。アンタはあたしの仲間よ。迷惑だなんていわせない。
――レッドの為なら、いつでもプライドなんて捨ててやるわよ!」
レッド「――――」
胸が温かくなる。
その感覚に、困惑するレッド。
久しぶりの感覚だった。
仲間。
朋輩。
かつてレッドにも、それはいた。
グリーン。
マサラで唯一の、幼なじみで、ライバル。
いまは殺意をもって、彼に呼ばれるけれど――。
565 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 04:34:51.67 ID:jiLA6u8A0
すっと緑茶を啜ったエリカ。
エリカ「貴方が逃亡してから、13件。
13件も、ロケット団員の粛清、および支部の壊滅が確認されています。
どの事件にも、あなたの姿が確認されました」
レッド「……」
エリカ「……復讐、ですか。なんて哀しいッ。
たった10を超えただけの少年が、茨の道を歩むのを、私は見ていられませんッ」
エリカ「レッドさん。
貴方が一人で抱える理由が、どこにあるというのですッ」
エリカ「私もカスミさんも、あなたの力になりたいのです。
――よかったら、私を朋輩と認めてくれませんか?」
戸惑っているレッドに、エリカが柔らかい笑みを向けた――。
569 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 05:01:30.17 ID:jiLA6u8A0
この復讐は渡さない。
トキワの森の想いも、
死んでいったポケモンたちの慟哭も。
託されたロケット団への怒りも。
無実の自分を追いやったマサラへの悲しみも。
ぜんぶ、ぜんぶ。
常にそんな想いがレッドの腹の底で滾っていた。
――しかし。
570 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 05:03:30.48 ID:jiLA6u8A0
しかし。
エリカ、カスミ。
この二人は、そんな暗い想いまでも、受け入れてくれる。
きっと叱ってくれる、泣いてくれるかもしれない。
レッドの胸に温かいものが広がっていく。嬉しいのだ。
571 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 05:06:55.71 ID:jiLA6u8A0
カスミが手を差し出してきた。
カスミ「あたしも、そのホウバイってやつなんだからね。
ほら、誓いの握手。誓いのチューよりは、カンタンでしょ?」
冗談めかしていったカスミは、やっぱり頬が紅潮していた。
そっぽ向いて勝気な顔のカスミ。
その意地っ張りな横顔に、レッドは数ヶ月ぶりに、笑った。
とてもおかしそうに、そしてそれは、エリカとカスミが騒ぐくらいの、満面の笑みだった――。
607 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 19:23:20.61 ID:jiLA6u8A0
しばらく食後の団欒をしていた時だった。
サカキ「やァ、レッドくん。相変わらずだな」
店員が片付ける食器の山を見て、サカキが人の良さそうな顔で近付いてきた。
レッド「……」
サカキ「昨日のイーブイ、助けたんだろ?」
レッド「……」こくり。
サカキ「爪が甘いが、君らしいな」
と、親しげにレッドの肩に手をおく。
エリカ「…………」
610 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 19:32:16.07 ID:jiLA6u8A0
カスミ「レッド、このおっさんと知り合いなの?」
サカキ「ハハハ、まあ40をとうに超えているが、若いつもりだったんだが。
せめてオジ様が望ましいな」
カスミ「俺はサカキだ。まあ、レッドくんの悪友といったところか」
レッド「……」
カスミ「へー。歳の離れたホウバイね」
サカキ「朋輩? ハハハ、渋い言い回しだな。
――生憎だが、そいつは違うだろうな、なァレッド?」
レッド「……」こくり
612 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 19:44:06.87 ID:jiLA6u8A0
エリカ「もしやサカキさん。貴方は、あのトキワの――」
サカキ「ほう、もう何年も姿を暗ましていたのだが、まだ俺の名は世に通っているようだ」
カスミ「え? トキワのサカキって、もしかして伝説のジムリーダーの?」
サカキ「伝説かどうかはしらないが、そのサカキで間違いない」
レッド「……」
カスミ「えッ? そんなことも知らずに、オジサンと仲良くなってたの?」
― サカキは『おっさん』から、『オジサン』に進化した! ―
エリカ「ジム戦の砦。難攻不落。
一時期、『ポケモンマスター』を目指す若者が減少するほどの兵ですわ」
616 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 20:23:55.12 ID:jiLA6u8A0
サカキの表の顔。
それよりもレッドは、『ポケモンマスター』という響きに心動かされていた。
かつてマサラを旅立った時に、
オーキドが語り、グリーンが目指したもの。
――なぁ、レッド。
どちらが先にポケモンマスターになるか、勝負しようじゃないか?
いつかの、もしかしたら朋輩と呼べただろう、同郷の少年の声が蘇る……
その言葉の数時間後。
トキワの森でレッドは地獄を見るのだが――。
617 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 20:38:33.03 ID:jiLA6u8A0
エリカ「そんなお方に会えるなんて、今日は吉日ですわね。
よかったらサカキさん、座ってくださいな。
ジムリーダーの責務を放棄して、行方を暗ましていたのでしょう?
我々ジムリーダーの信用を落とした謝罪なんかを、ぜひ聞きたいですわ」
ニコッと悪意のない笑み。
そのわりに言葉の含みは辛辣だった。
サカキ「遠慮させてもらおう。
おっ、これはトマトジュースかな?
なんだ、飲まずに片付けるなら、頂こうじゃないか」
カスミが作った特性激辛ドリンクに、サカキは手をだした
618 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 20:54:53.60 ID:jiLA6u8A0
カスミ「――あっ!(ま、いっか)」
その後の展開が楽しみで、本気で止めないカスミ。
ごく、ごく、ごく、ごく……
豪快に飲み干すサカキ。
唖然とする三者。
カスミ「……」
エリカ「……」
レッド「……」
サカキ「ごちそうさま。喉を突き刺すイイ喉越しだ!」
620 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 21:04:18.20 ID:jiLA6u8A0
サカキは別の席で注文をとり始めた。
エリカ「逃げられましたわ。
ジムリーダーを束ねる者として苦言したかったのですが。
ヤマブキのナツメさんは、ロケット団員宣言で失踪してますし。
残念ですわ」
レッド「……」
カスミ「っていうか、うっそでしょー。
厨房から唐辛子やハバネロとか借りてきて作ったのにッ」
レッド「…………」
カスミ「えッ? そんなものを飲ませようとしたのかって?
いや、あの、そのォ、ごめん、レッド!
だから、――らめぇぇ、そんな醒めた眼であたしを見ないでぇぇ!!」
621 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 21:16:06.89 ID:jiLA6u8A0
■■■
― 同時刻。タマムシ、上空 ―
そこには巨大な赤き炎竜の姿。
タマムシの家々や地面に、暗い影を落としている。
青空に浮遊しているリザードンに、気づき始めた人が騒ぎ始めていた。
リザードンの背には、二つのロケット団員の影。
622 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 21:25:13.04 ID:jiLA6u8A0
地上で騒ぎ始める人々を見下ろして、不敵に笑う男と女。
ムサシ「何だかんだと聞かれたら!」
コジロウ「答えてやるのが世の情け!」
コジロウ「世界の破壊を防ぐためって――おいおい、マジでやるのかよォ。
いくらボスの命令でも、俺こえぇよッムサシィ!」
ムサシ「黙らっしゃいッ。ボスの命令は絶対よ!
だからこそボスに内緒で、ニャースに手配させてるんじゃないさ!」
タマムシの空に、緊張した二人の声が響く。
626 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 22:27:34.89 ID:jiLA6u8A0
コジロウ「でもよォ。これじゃ、本当に悪役だぜぇッ!?」
ムサシ「ハナからロケット団は悪の組織じゃないか!
給料天引きなんて、あたしはゴメンだわ!
――ニャース、聞こえるッ!?」
ムサシと呼ばれた赤紫髪の女が、無線機をとって声をあげる。
ニャース『聞こえてるニャ!
ポケモンたちも逃がし終わってるニャ。
いつでもOKニャ!』
627 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 22:34:36.29 ID:jiLA6u8A0
ムサシ「怖じ気づいてるんじゃないよコジロウ!」
コジロウ「あァ、あァ、分かりましたよォ!
やってやるぜ。ムサシ一人にやらせて堪るかい!」
ニャース『ボスから指令メールが来たにゃ、40秒で支度しニャッ!』
629 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/27(水) 22:50:29.28 ID:jiLA6u8A0
リザードンがギロりと二人を視た。
――まだか? という視線。
それに怯えながら、よし、と二人が頷いた。
コジロウ「男コジロウ。咲かせてみせよう悪の華」
ムサシ「連れ添いますは、時代の徒花ムサシ」
ムサシ・コジロウ「いけぇぇぇ、リザードン! 火炎放射だぁぁ!!」
――ぎゃしゃァァァァアアアア!!
リザードンの濁流のごとき炎が、とある森と建物に放たれた。
ロケット団員たちの狙いは、森に囲まれたタマムシのジムだった……
■■■
642 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 02:47:35.95 ID:P3Oe5s7J0
――タマムシ、ファミレス内。
破壊音と人々の悲鳴が轟いた。
エリカ「――何事ですのッ!?」
ガラス壁の向こう側で、炎があがっていた。
カスミ「エリカさん、あの方角って――」
エリカ「はい。あの森は私のジムですッ」
レッド「――――」
644 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 02:59:12.81 ID:P3Oe5s7J0
エリカの携帯が鳴った。
エリカ「エリカです。一体何が起こったのですか?」
携帯越しにジム関係者と会話するエリカ。
それをレッドとカスミが見守っている。
すぐに向かいます、とエリカは携帯を閉じた。
エリカ「ロケット団の襲撃です。
リザードンの火炎放射で
我がタマムシジムが破壊されてました」
カスミ「そんなッ!
エリカさんの所が襲われる理由なんてないのに……」
エリカ「いえ、一つあります――」
エリカを見つめた。
645 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 03:02:02.34 ID:P3Oe5s7J0
レッド「……」
エリカ「はい、理由はレッドさんでしょうね」
カスミ「え?」
エリカ「トキワの森の放火の冤罪。
サントアンヌ号の、ナツメさんの協力。
ロケット団は、レッドさんに何かしら執着していますよね」
エリカ「そしてナツメさんの発言」
――この少年を覚えておくがいい!
――この少年がいずれ、人類の大いなる敵になるだろう
エリカ「何故かロケット団はレッドさんを追い詰めたいように見えます」
エリカ「これはレッドさんの冤罪を晴らす為に動いてる
私への報復と脅しと見て間違いありません」
646 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 03:08:41.82 ID:P3Oe5s7J0
カスミ「なんなのよ、ロケット団は!
こんな酷いことして、レッドに何をさせようっていうのッ!?」
レッド「……」
エリカは和服をなおし、席を立った。
エリカ「楽しい席でした。それでは失礼します」
たたたたたッ、からん、ころん。
カウベルの音を残して、エリカが去った。
647 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 03:14:06.81 ID:P3Oe5s7J0
レッドが立ち上がる。
レッド「……」
カスミ「罪悪感で動くんじゃないでしょうね?」
レッド「――」?
深刻な状況なのに、レッドは軽く返した。
カスミは驚いたあと、嬉しそうな声をあげる。
カスミ「アンタも分かってきたじゃん。
そうよ、朋輩だもんね。行くっきゃないって」
そういって二人して席を立った。
ファミレスを出る際。
気取られないように振り返る。
燃えさかる森を、コーヒーを啜りながらサカキは見つめていた……
648 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 03:25:44.19 ID:P3Oe5s7J0
■■■
― サカキ ―
我が麗しの悪友、レッドが去っていった。
コーヒーを啜りながら、団員の仕事っぷりを眺める。
――だめだめだな。
人もポケモンも、逃がしてると見た。
まだ壊せた筈だ。
まだ燃やせた筈だ。
まだ殺せた筈だ。
まだ轟かせた筈だ。
まだ慄かせた筈だ。
まだ、まだ、まだ、まだ――。
腹の底で、滾る悪意の塊。
頭蓋の芯に埋め込まれた、冷たい悪の因子。
仕事をこなした団員たちの、悪の足りなさをなじりたくもある。
650 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 03:38:34.40 ID:P3Oe5s7J0
まあ、いい。
所詮は手足。
心や頭ではない。
芯がないのだ。
――悪い病気は、俺だけが持っていればいい。
サカキ「ごっほッ、くッ――」
吐血するサカキ。
机の上にポタポタと滴る、赤い雫。
サカキ「チッ、もっと手筈を踏んで、計画に臨みたかったんだがな……」
――さぁて、クライマックスの幕を開こうか。
■■■
652 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 03:48:46.92 ID:P3Oe5s7J0
――タマムシジムの森近く。
エリカの背に追いついた。
カスミ「エリカさん、状況はッ?」
エリカ「はい。被害は森とジムのみ。
人もポケモンも、予め避難していたようです」
レッド「……」
エリカ「はい、なんでも、喋るニャースが、
爆弾を巻きつけて乱入。
『早く非難しないと爆発させるニャ』などと呻き、
それが本物の爆弾だったので、みなさん避難を。
――その避難のとたんに、この放火です」
カスミ「……なにそれ?」
653 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 03:54:03.97 ID:P3Oe5s7J0
燃えさかる森を見て、レッドが拳を握りしめた。その時だった――。
地面に大きな影が落ちた。
上を見上げれば、青空を竜が飛行していた。
カスミ「なに、あのリザードン。こっちに向かってくるッ!」
その竜は、ゆっくりと地面に降り立とうとしていた。
655 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 03:58:41.64 ID:P3Oe5s7J0
バッサ、バッサ、バッサッ――。
翼による風に、レッドは帽子を押さえた。
レッド「――――」
その邪悪な顔をした炎竜は、
それに似合わない慇懃な礼をとるように、
静かにレッドに向かって頭を落とした。
リザードンの鼻先付近を、レッドは軽くなでた。
それに対してリザードンは、なんの抵抗もせず受け入れた。
――それはレッドの最初の仲間だった、ヒトカゲだった。
656 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 04:12:39.24 ID:P3Oe5s7J0
リザードンの背にのる二人が驚いていた。
コジロウ「おいおい。あの暴れん坊が、ガキに頭をさげたぞォッ!?」
ムサシ「あんなジャリボーイに? うっそでしょォ!」
コジロウ「わっけ分かんねー」
ムサシ「おい、アンタ、早くアジトに飛び立ちなさいよ!」
リザードン「――――」ギロリ。
コジロウ「……あの、よろしければ、ぼくたち家に帰りたいなぁーって」
リザードンは、ふんっと二人を落とし、尻尾で二人を遠くへ打ち上げた。
ムサシ・コジロウ「やな感じィィィィイイ――」
謎の愉快なロケット団員は星になった。
658 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 04:27:43.63 ID:P3Oe5s7J0
エリカ「このリザードンは、レッドさんの」
カスミ「間違いないわ。
だって、ロケット団に調教されてる筈なのに、
こんなにレッドに哀しい眼を向けてる……助けて欲しいのよッ」
ギャラドス事件の経験が、そうカスミに強く確信させていた。
レッド「…………」
×××「おいおい、そのリザードンは、レッドくんのじゃないぞ」
その男の声に、三人が振り返った。
661 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 04:36:15.87 ID:P3Oe5s7J0
――ポン。
――ポン。
モンスターボールの開閉音。
その刹那、スピアーとサイドンが激突していた。
スピアーの角のような両手が、サイドンの角を抑えつけていた。
レッド「――――――」
サカキ「ふん」
睨むあう両者。
状況に追いつけない、カスミとエリカ。
サカキ「そいつは我々が奪い取った、
正真正銘、我がロケット団のリザードンだ」
663 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 04:50:31.01 ID:P3Oe5s7J0
燃える森を背景に、悪と赤が対立する。
レッド「……」
サカキ「俺の本性? 化かし合いを続けて、ロケット団に近づきたかったか?
そんなもの、ここでたった今断ち切ってやっただろうが?」
サカキ「戦っていた土俵から、理不尽に降りるのも有効だぞ」
カスミ・エリカ「……」ごくり。
664 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 04:58:02.65 ID:P3Oe5s7J0
カスミ「レッド、こいつがロケット団だって知ってたの?」
レッド「……」こくり。
エリカ「まさかジムリーダーが、ロケット団だなんて。
やはりサカキさん。貴方とはお話する必要がありそうですわね」
オレ
サカキ「話、か。善のおまえ達に、悪の言葉は通じないさ」
――うむ、改まって自己紹介といくか」
赤いネクタイを緩め、サカキが酷薄な顔を浮かべた。
――俺がロケット団の首領だ。驚いてもらえたかな?
702 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 20:07:49.74 ID:P3Oe5s7J0
― 4年前。シオンタウン ―
その深夜、一夜限りの戦火があがっていた。
ポケモンタワーに挑むように、ロケット団の軍勢がいた。
ロケット団が関わった事件では、最大規模の戦力が集結していた。
703 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 20:10:29.26 ID:P3Oe5s7J0
――ポケモンタワー、前方。
マチスによる、マルマイン60匹による大爆発の音が轟く。
ビル一つ崩壊させるほどの爆発。標的はポケモンタワーだった。
――ドゴォォォォォォオオオオンッ!!!!!
爆炎と煙に包まれながらも、ポケモンタワーの影は健在だった。
その影を見上げて、舌うちをする、一人の男。
マチス「シット! あの野郎、完全に立てこもりやがったッ!」
704 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 20:12:27.02 ID:P3Oe5s7J0
――ポケモンタワー南、崖の上。
そこにマルマインの攻撃を見物する一人の影。
団員「キョウ様。ゴルバットたちの超音波による、情報の結果が出ました!」
その報告に、忍びの装束の、気難しい顔の年配男がうなづく。
キョウ「すぐにナツメ嬢の部隊に結果をまわせ。
なお残りの団員は、引き続き調査に当たるべし……」
団員「「「ハッ。承知致しました!!」」」
キョウ「マチス殿の大爆発をモノともしないか。
愛らしい姿とは裏腹。超越的な力をもっているな、あのポケモン……」
706 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 20:25:46.73 ID:P3Oe5s7J0
――ズゴゴゴゴォォォォオオンッ!!!
空中部隊のプテラ、カイリュウたちのの攻撃。
29もの破壊光線が、ポケモンタワーを襲った。
が、すべて見えない壁に防がれてしまった。
死霊の塔。
ポケモンの墓場。
シオンに聳える荒廃な聖域。
そのポケモンタワーは、特別な力で守られているようだ。
――部隊の雑用係りたち。
コジロウ「うへー、ATフィールドかよ~!」
ニャース「おみゃーは何をいってるニャ」
ムサシ「アンタたち、遊んでないで手伝いなさいよ!」
708 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 20:36:52.44 ID:P3Oe5s7J0
ロケット団の目的。
それはタワーの破壊ではない。
追いつめた筈のポケモンを炙り出す為だった。
サカキの念願が、塔に逃げて籠城してしまったのだ。
サカキ「――――ッ」
塔を仰ぎ、舌うちをするサカキ。
710 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 20:38:29.56 ID:P3Oe5s7J0
――ポケモンタワー、近く。エスパー部隊。
そこにはまだ幼さが残るナツメがいた。
ナツメ「オジさん。ケーシィが情報つかんだって!」
――バッシッ。
容赦なくサカキが、ナツメの頬を叩いた。
まだ10を超えて間もないナツメ。
涙を浮かべて、サカキを見上げた。
サカキ「年配者への口の聞き方を教えてやろうか?」
711 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 20:40:37.12 ID:P3Oe5s7J0
教えてやろうか?
それは虐待的教育のことだった。
ペルシアンに刻まれた腕の傷を思い出し、ナツメが震えた。
ナツメ「……申し訳ありま、せん」
サカキ「超能力のせいで、忌み嫌われたおまえを救ったのは誰だ?」
ナツメ「サカキさまです」
サカキ「何故、おまえは拾われた」
ナツメ「?」
712 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 20:43:20.54 ID:P3Oe5s7J0
サカキ「おまえの世界への悪意が、
俺の優秀な駒に成りえるからだ。
チェスでいうなら、まだビショップ。
成長すれば、クイーンにもなりえる駒だ」
ナツメ「……」
サカキ「そして俺はキングではない。
キングすら操る、打ち手だ。
その俺を不快にさせる駒など入らん」
ナツメ「――捨てないでください!
あんな醜い世界に戻りたくありません」
泣き言ながらも、キッと強い眼光でサカキを見据えた。
716 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 21:44:59.99 ID:P3Oe5s7J0
エスパー少女。
マスコミのお約束だ。
持ち上げて、手のひら返し。
忌み子、呪われた子。超能力でのイタズラ。
そういった悪評を撒き散らされ、家族崩壊にまでなってしまった。
サカキ「その醜い世界を、俺が壊してやる」
――おまえは俺の背中を見て育てばいい。
戦火を酷薄な顔で観賞するサカキ。
その背中を見つめ、ナツメは拳に力をいれる。
悪。その背中。その背中が、ナツメを強く突き動かす。
ナツメ「ハッ!」
戦火に照らされた少女の顔には、もう幼さは消え失せていた……
717 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 21:51:01.09 ID:P3Oe5s7J0
エスパー部隊。キョウの調査部隊。
その報告をまとめ、ナツメが読み上げる。
サカキ「そうか、ヤツはある筈のない8階を形成し引きこもったか」
ナツメ「ハイ。物理攻撃は無駄かと。ATフィールド発動中です」
サカキ「ATフィールド?」
ナツメ「いえ。エスパー学における専門用語です」
サカキ「俺が欲しい報告じゃないな。ヤツを捕獲する手立てはないのか?」
ナツメ「それが……あッ、ア、ぐぁッ」
突然、頭を押さえ、苦しむナツメ。
その脳裏には、未来が足早に映し出されていく。
断片的なそれに、ナツメは吐き気を覚えた。
――これは四年後の、ポケモンタワーの予知だ。
718 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 21:52:35.56 ID:P3Oe5s7J0
いくつかの断片予知。
その一つがナツメにとって衝撃的だった。
――その予知では、ナツメは少年に殺されるのだ。
サカキ「予知がきたか。もちろん、ヤツの捕獲についてのだな?」
そうでなければ使えない。
そんな声色でサカキがナツメを見下ろした。
ナツメ「……はい」
その予知の内容を、ナツメは語った。
719 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 21:54:45.34 ID:P3Oe5s7J0
サカキ「きははは、そうか。マサラの少年が餌か」
サカキ「まっさらなマサラが育む精神!
確かに伝承では『純粋な心の持ち主に姿を見せる』だったな」
サカキ「それでは我々がいくら向かった所で意味がない」
ナツメ「どうされますか?」
サカキ「全軍、引け。俺は四年後に備える」
ナツメ「……サカキ様」
サカキ「おまえの犠牲が必要ならば、払え。その命」
サカキ「――醜い世界を壊す礎となれ」
ナツメ「ハッ。ありがたき光栄です」
――私一人の力じゃ世界は壊せない。
でも悪の権化の、このお方ならば……
720 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 21:57:23.77 ID:P3Oe5s7J0
全軍が引いていく。
サカキが聳えたつタワーを振り返った。
サカキ「――待っていろよ、幻のポケモン、ミュウ。
俺の悪意が、貴様を呑みこんでやる」
きはははははははははははははッ!!
ナツメ「――マサラの少年、か。
私はどんなヤツに殺されるのだろうな」
四年後。ナツメはトキワの森で、その少年と出会った――。
― 四年前/了 ―
723 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 22:46:54.66 ID:P3Oe5s7J0
――俺がロケット団の首領だ。驚いてもらえたかな?
その発言後、レッドとサカキの戦闘が始まった。
スピアーとサイドン。
圧倒的に力負けのするスピアー。
速さと毒で翻弄されるサイドン。
両者の角と針が火花を散らす姿は、
さながら主君の名誉をかけた騎士の殺しあいだ。
が、その勝負を打ち切ったのは、やはりサカキだった。
725 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 22:48:14.56 ID:P3Oe5s7J0
リザードンの背にのるサカキ。
レッドを見つめるリザードン。
レッド「……」
サカキ「ふん、これ程ナラしたリザードンすら、おまえに好意を抱くか。
――だからこそ、おまえが必要なのだレッド」
カスミ「ちょっとアンタ、タダで帰るつもりじゃないでしょうねェッ!」
エリカ「あら、お茶の席を用意致しますのに。
きっちり絞り上げて、証言をお聞きしたいですわ」
ふたりはモンスターボールをかまえた。
サカキ「残念だが、遊びは終わりなんだよ」
すっとサカキが手をあげると、リザードンが炎を吐いた。
726 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 22:50:50.77 ID:P3Oe5s7J0
サカキとレッドたちのまえに、炎の境界線が引かれた。
バッサッ、バッサッ、と飛び始めるリザードン。
サカキ「レッドよ」
レッド「……」
サカキ「どんな苦難を与えても、貴様は悪に染まらなかった。
そこの正義ったらしい娘たちを仲間と思うくらいだ。
もう、俺が歩んだ道に、踏み外すことはないだろう」
――喜ばしいが、本心としては残念だ。
バッサッ、バッサッ、バッサッ――。
レッド「…………」
サカキ「シオンタウン。ポケモンタワー。
そこの最上階を、決着の舞台としようじゃないか」
サカキ「待っているぞ。レッド――ッ」
シュッバッ―――。
サカキをのせたリザードンが、遥か上空に飛び去っていった。
727 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 22:57:34.66 ID:P3Oe5s7J0
――数時間後、タマムシ郊外。
レッドは巨大なイーブイの背にのった。
向かうはシオンタウン。ロケット団の頭を叩く。
――たぶん、そこにナツメも、と一人の女を想うレッド。
カスミ「こら、レッド! もう行くつもり?」
エリカ「あらあら。カスミさんも寂しがり屋さんですわね」
カスミ「エッ、エリカさんだって、そうじゃないですかぁッ!」
振り返ると、朋輩と呼んでくれた少女たちがいた。
エリカ「レッドさん。私はジムの件でお伴できません――これを」
そういってエリカはたくさんのバッチを手渡した。
レッド「……」
エリカ「これは全てのジムバッチの真贋です。
ジム戦でもらえるバッチは、すべてこれのレプリカなのです。
バッチはリーダーを束ねる、このエリカの管轄ですので、
――かるく本部から拝借してきましたわ」
ふふふ、と笑うエリカ。
エリカ「きっと貴方の才とポケモンの力を、バッチが大いに強化してくれますわ」
728 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 22:58:41.88 ID:P3Oe5s7J0
カスミ「さっきのバトルを見て、私は足でまといだって分かった。
でもだからって、逃げるつもりはないわ。私はエリカさんを手伝う。
だから、私は、こんなことしかできないけど――」
民族衣装のカスミが、静かに踊り始めた。
そのゆったりなリズム。幻想的な姿。歌声。
まるで大海を見守る、人魚を彷彿させられる。
見えない力に、守られているような気分だった……
ジャン、タッタタ、ランッ――
最後のステップを決め、カスミが頭を下げる。
731 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 23:12:45.67 ID:P3Oe5s7J0
カスミ「これ、ある神秘の水島に伝わる、伝統的な踊りなの。
眉つばなんだけど、旅人に加護を与えるんだって!」
レッド「――――」
カスミ「で、どうよ? 御利益ありそう?」
顔を真っ赤にしたカスミが、上目遣いでレッドを見つめた。
レッド「……」こくり。
732 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 23:13:59.19 ID:P3Oe5s7J0
胸のまえで両手をあわせて、カスミが満面の笑みをみせた。
カスミ「そう、よかった! レッド、いってらっしゃい!」
エリカ「あなたの帰りをお待ちしていますわ」
レッドは別れを告げ、イーブイにのり駆けだした。
向かうは、シオンタウンの、ポケモンタワーだ。
734 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/28(木) 23:17:01.91 ID:P3Oe5s7J0
流れていく花々や木岐の景色。
近代的な建物すら、とても柔らかい色をしている。
虹色のようなタマムシの風景を、レッドは跡にする。
カスミとエリカ。彼女たちが託したモノ。
それは眼にはみえないものだ。
しかしレッドは想う。
――それはタマムシシティのような、鮮やかな色のような気がした。
――なかま、か。
イーブイの背で、レッドは強く拳を握りしめた。
― タマムシ にじいろ ゆめのいろ ―
■■ 朋輩の質量/了 ■■■
746 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 04:59:40.68 ID:4bOMnMUK0
■■ ミュウ ■■
◇ 桜咲くカフェテリア ◇
――ポケモンタワー、入口の洞窟前。
岩壁に寄りかかっているナツメがいた。
ナツメ「――よく来たな坊や」
レッド「…………」
ナツメ「ここでおまえと我々ロケット団。
どちらかが潰れることになるだろう」
ナツメ「まぁ、万が一にもサカキ様が負けるなどありえないがな」
と、ナツメはシニカルな笑みを浮かべた。
747 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 05:05:01.77 ID:4bOMnMUK0
レッド「――」
ナツメ「久しぶりにあったと思ったら、ずいぶん嫌な顔になった」
レッド「……」
ナツメ「なんだ、その緩みきった顔は。
以前のおまえは、もっとギラついていたぞ?」
レッド「――」
ナツメ「故郷は、社会は、家族は、同郷のグリーンは……
みなお前を怨み、恐れ、遠ざけているというのに――!」
ナツメ「だというのに、たいそう善人な顔をする。
まるで『決闘者』だ。復讐者のそれではない。
――なぜ、なぜ、そんな顔ができる……」
苛立ちげに、ナツメが睨む。
それを真っ当から受け止めるレッド。
749 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 05:14:23.11 ID:4bOMnMUK0
レッド「――――」
ナツメ「ただ坊やに会いたくなっただけさ」
レッド「……」
ナツメ「私は心理学者じゃないんだ。会いたくなった理由なんて知るか。
――まあ、これが最後だからだろうさ」
そっぽを向いて、ナツメがいった。
ナツメ「おまえはこの塔の8階で、サカキ様と戦う。
そして何故か、私はここでお前に殺される……」
レッド「……」
ナツメ「それが私が見た、予知の断片だ。
ちなみに私は、予知を外したことはない」
ナツメ「――いや、一度だけ、あったな」
レッド「?」
ふっと儚げに自嘲するナツメ。
750 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 05:20:59.43 ID:4bOMnMUK0
ナツメ「だれかと。――そう。だれかと一緒にいるんだ。
どこかのカフェだった。硝子を隔てた向こうには、桜が散っていた。
そこで私は楽しげにだれかを、からかいながらコーヒーを啜っていた……」
――アレはだれだったんだろうな。
一瞬、温かい顔をのぞかせたナツメ。
それもすぐに、いつものクールな顔に切り替わる。
ナツメ「結局、そんな未来は訪れなかった。
――いまの私からしたら、キモち悪いほど幸福な予知だったよ」
レッド「……」
751 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 05:25:55.88 ID:4bOMnMUK0
レッド「……」
ナツメ「私は入らない。ここで塔内部を監視するのが、サカキ様の命だからな」
レッド「……」
ナツメ「サカキ様に従う理由だと?
先に私の居場所を奪ったのは、おまえ側の住人なんだよ」
ナツメ「私はサカキ様に従う。この世界を壊してくれるならば!」
――ザッ。
大きく一歩ナツメに踏み出すレッド。
額がぶつかる程の至近距離で、レッドが宣言した。
752 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 05:28:17.69 ID:4bOMnMUK0
レッド「――――」
ナツメ「――なッ?」
驚くナツメの横を通り過ぎて、レッドは洞窟内に入っていった。
753 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 05:30:16.55 ID:4bOMnMUK0
レッドが去って行った。
ナツメは塔を見上げた。
灰色の雲がシオン全体を覆い始めた。
ポツ、ポツと雨が降り始める。
ナツメ「私をサカキ様の呪縛から解く――か。
レッド、だから私はおまえが嫌いなんだ」
――救済を求めるには、私の手は汚れ過ぎてるんだよ。
……ざぁぁぁぁ。
◇ 桜咲くカフェテリア/了 ◇
757 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 07:01:14.94 ID:4bOMnMUK0
――ポケモンタワー内部。
暗闇をピカチュウの電気が照らす。
墓標。墓標。墓標。墓標。墓標……。
薄気味悪い風。妙な視線。遠くから聞こえる怪音。
如何にもユウレイが現れそうな空気だった。
レッド「……」
ある気配に、レッドとピカチュウが、バッと振り返った……
760 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 07:02:32.95 ID:4bOMnMUK0
暗がりの中に黒い影の群れ。
全ての影がにゅるりと形を変えていく。
ポケモンの墓場。幽霊がいても納得の場所だ。
その群れに、レッドは見覚えがあった。
レッド「……」
その群れはレッドが助けられなかったポケモンたちだった
燃やされ、レッドの成長の生贄になり、死んでいった虫ポケモンたち。
旅の途中で助けられず、ロケット団の餌食になったポケモンたち。
いつの間にか虚ろな群れが、レッドとピカチュウを囲んでいた。
761 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 07:04:20.91 ID:4bOMnMUK0
――ぴかァ、ぴかァッ!
ピカチュウが幽霊に訴えかける。
しかし、その声は空しくなっていく。
レッドは攻撃を躊躇していた。
安らかに眠っていただろうか。
世に未練を残していたのか。
群れは、レッドの手をつかみ、見上げ、足にしがみつく。
虚ろな顔で、墓場に引き込むように、ゆったりと、ゆったりと……。
762 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 07:06:22.76 ID:4bOMnMUK0
レッド「……」
――ドン。
レッドの脳裏に、地獄の記憶がよみがえった。
燃え朽ちていく、トキワの森という地獄を。
罪悪感。復讐心。そういった感情が蘇っていく――。
その時だった。
すべてを打ち消すような、衝撃音が轟いた。
763 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 07:07:39.74 ID:4bOMnMUK0
――ジィィィイイインッ!!!
一条の太い光が、一瞬、墓場を昼に変えた。
その光は影を消し飛ばし、タワーの壁に穴をあけた。
タワーは元の暗がりを取り戻す。壁の向こうには、シオンの暗い空。
コツ、コツ、コツ、コツ――。
レッド「……」
この技は、ソーラービーム。
まさか、とレッドが振り返る。
グリーン「たっぷり日光浴させて正解だったか」
グリーン「なにせ天下の大悪党のレッドくんに、借りを作れたんだからな」
そこにはクールで嫌みったらしい、
フシギバナを連れたグリーンがいた。
766 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 08:11:04.19 ID:4bOMnMUK0
レッド「……」
グリーン「……」
先に睨みあいを降りたのはグリーンだった。
歩み寄り、ポンとレッドの肩をたたく。
グリーン「タマムシのリーダーからマサラに伝達があった」
グリーン「――レッドが無実だってな。
いまレッドの冤罪を晴らすために、エリカさんたちによる情報合戦さ」
レッド「――」
グリーン「オレはおまえを憎んじまった。
オーキドの爺ちゃんが、せっかくおまえに夢を託したのにってよ……」
レッド「……」
グリーン「いまはオレは、自分が許せない。
このクールな俺サマが、人一倍甘ちゃんな幼なじみを信じられなかったことが……」
グリーン「――レッド、俺を殴れ」
墓場に、レッドの一撃が轟いた。
768 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 08:15:22.73 ID:4bOMnMUK0
グリーン「――本当に殴るヤツがあるか!」
レッド「……………?」
グリーン「ちくしょう。そうだよ、おまえはそういうアホだったよ」
頬をさすりながら、グリーンはニヤついた。
憎しみで自分を見失っていたグリーンも、やっとらしさが出てきたようだ。
グリーン「悪かった」
レッド「……」
グリーン「あぁ、言いっこナシだ。さっさとケリ、つけに行こうぜ」
――二人はコツンと、拳を突き合わせた。
これから最終決戦をまえに、マサラの少年二人の最強タッグが誕生した。
769 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 08:19:07.78 ID:4bOMnMUK0
二人が拳を突き合わせた時だった。
さぁぁっと薄気味悪い霧が晴れていった。
まるで一本の道を作るかのように、薄気味悪い霧が晴れていく。
それを辿った先に、巨大な階段が現れた。
ボッ、ボッ、ボッ、ボッ――。
燭台のロウソクに、勝手に火が点されていく。
暗がりの階段から、恐ろしくも神秘的な空気。
気を抜くと、一気に違う世界に呑み込まれそうだ。
グリーン「へぇ、俺たちに、来いってかぁ?」
レッド「……」
二人は階段をあがっていった。
772 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 08:42:02.17 ID:4bOMnMUK0
■■■
――ポケモンタワー前。
――ざぁぁぁぁ。
ナツメが雨に濡れていた。作戦中である。
塔内部でレッドたちを観察するユンゲラー。
その念を受け取り、逐一サカキに無線で報告していた。
洞窟の入り口に手をのばす。
やはり入れない。透明な壁があるようだ。
悪意ある者は、入れないって所らしい。
ナツメ「……」
胸騒ぎがする。
――くそォ、随分飛ばされたなぁ、という男の声。
コジロウ「おぉ! あそこの洞窟で雨をしのごうぜ!」
ニャース「賛成ニャ。ニャーの紳士的な毛並みが台なしニャ」
ムサシ「うっそォ、やぁだ! アレってポケモンの墓場じゃないさ」
774 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 08:44:41.49 ID:4bOMnMUK0
ナツメ「……何をしているんだ、おまえたち」
どこかで見たことある顔ぶれ。
たしか下っ端の構成員だった筈。
コジロウ「あァ! ナツメ様だ!」
ニャース「ニャーたちには、それはそれは、
リザードンよりも高く、カビゴンの胃袋より深い理由が……」
雨にぬれるナツメ。
それをじーっと見つるムサシ。
ムサシ「あんたこそ、何してんのさ。そんな顔で」
――ざぁぁぁぁぁ。
775 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 08:51:41.68 ID:4bOMnMUK0
ムサシ「ハハーン、男を追いかけたそうな顔だわね」
ナツメ「馬鹿な。あんな坊やなんて、年下過ぎて男として――」
ニャース「……だれも坊やかニャんて聞いてニャいな」ボソ。
コジロウ「コラ、ムサシ、ナツメ様に向かってなんていう口の聞き方をォ……!」
ムサシ「いくら幹部では、アタシたちよりも、ぐんと下の小娘じゃないさ」
ナツメ「……ふん」
ムサシ「どんな事情があるか分かんないけどサ。
さっさと追いかけなさいよ」
――似合ってないんじゃない、そーいうの。
ムサシの訴えかける眼。
ナツメ「まるで私をそこらの女扱いするんだな……」
再度、洞窟の入り口に手を伸ばす。
――なぜかナツメも、入れるようになっていた。
776 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 08:55:11.18 ID:4bOMnMUK0
――無線機を落とし、洞窟に消えたナツメ。
コジロウ「あぁ、あぁ、必死になって走っていったよ。
クールな所が、チャーミングだったんだけどなぁ」
ムサシ「まったく女ってもんを分かっちゃいないわねぇ」
ニャース「おみゃーが女を語るニャ」
コジロウ「似あわねー」
ムサシ「うっ、うるさいわねアンタたち!」
――ガ、ガ、ガ、ガァァ。
コジロウ「おい、なんかコレから聞き覚えのある声がするぞ」
ニャース「にゃんだ、にゃんだぁ!?」
地面に落ちた無線を、コジロウがとりあげる。
その機械からはロケット団の首領の声がした……
■■■
778 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 09:17:46.07 ID:4bOMnMUK0
――そこは、ある筈のない8階だった。
まるで静謐な空気が漂う寺院のようである。
レッド「……」
グリーン「あぁ、持ってるけど、何に使うんだ?」
レッド「――」
グリーン「まぁ、いいけどよ。ほら」
そういって、レッドはモンスターボールを受け取った。
グリーンは伽藍とした8階を見渡した。
グリーン「特に、何もナシ、と。
おいレッドォ、オレたち化かされてないか?」
レッド「……」
レッドは迷わず、中央の祭壇。
そこに置かれた、とある石板のまえに立った。
レッドは古代ポケモンが描かれた石板に触れた。
――しゅっばァァァァんッ!!!!!
レッドが石板にふれた瞬間。
眼を覆いたくなる光が天を貫いた……
779 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 09:29:43.42 ID:4bOMnMUK0
石板が光柱の中に浮かんでいる。
レッド「―――――」
グリーン「なんだ、こいつはァ!」
石板の上に漂う、
一匹の小柄なポケモンが、
ゆっくりと瞼を開いた。
レッド「……」
ミュウ「――」
781 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 09:31:37.56 ID:4bOMnMUK0
マサラの少年レッドと
幻のポケモンであるミュウが出会った。
7月6日。
ここに立ち入る人間が
再び現れるとすれば
心優しき人で在らんことを
今ここに其の願いを記し
この地を跡にする
― フジ ―
■■ ミュウ/了 ■■
787 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 11:40:53.98 ID:4bOMnMUK0
■■ マサラタウンのレッド ■■
神々しい8階に乱入者が現れた。
荒々しく壁を破壊してやってきたソレは、
リザードンの背で邪悪な笑みを浮かべた。
サカキ「気を抜いたなミュウ!!」
――バサァッバサッバッサァ。
突っ込んできたリザードンの牙が、ミュウに喰らいついた。
リザードン「ぎゃしゃぁぁぁあああ!!!!」
狭い室内に風が吹き荒れ、レッドは帽子を押さえた。
レッド「……」
グリーン「あいつが、ロケット団首領かッ!」
788 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 11:49:46.70 ID:4bOMnMUK0
地面に降りたっていたサカキ。
そのまえに供物を捧げるように、
リザードンがミュウを差し出した。
バッサッ、バッサッ、バッサ。
――みゅうッ。
サカキ「予知のとおりだな。マサラの純白な精神。
レッド、おまえはいい餌だったよ!」
サカキはボールを投げた。
それを払おうと尻尾をふるミュウ。
ミュウ「――!」
が、あっさりミュウを捕獲してしまった……
そのボールは、人類の叡智が生んだ傑作。
どんなポケモンでも捕獲するという、マスターボールだった。
789 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 11:50:55.10 ID:4bOMnMUK0
レッド「……」
グリーン「……」
状況を掴めない、レッドとグリーン。
サカキ「きはははッ。ついに、ミュウを捕獲したぞ!
四年越しの捕獲劇も、ついに閉幕――」
――これで俺の野望が遂げられる!
790 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 11:57:10.64 ID:4bOMnMUK0
レッド「……」
スピアー、ギャラドス、イーブイ、ピカチュウ。
すべての手持ちポケモンを出し、レッドは戦いに挑もうとしていた。
サカキ「おいおい、まさか、『決着の舞台』とやらを信じているのか、おまえは?」
レッド「――」
サカキ「四年前から俺の狙いは、このミュウ一匹。
いまさらオマエと戦う理由が、何一つないんだがね?」
――またしても、戦いから逃げるサカキ。
同じ土俵に立とうとしない、根っからの策士だ。
791 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 11:58:27.88 ID:4bOMnMUK0
グリーン「ガキ相手に逃げだすなんて、カッコ悪いんじゃない?」
サカキ「グリーン、か。ポケモンバトルをしよう、とでも?」
グリーン「分かってるじゃんか。出せよ、ポケモン」
レッド「――――」
サカキ「うむ、早速こいつを使ってみるのも、一興か」
サカキはミュウのボールをかざした。
先手必勝。レッドはスピアーに攻撃を指示。
その時だった。
794 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 12:01:38.86 ID:4bOMnMUK0
■■■
――たッ、たッ、たッ、たッ、という足音。
幻の8階に辿りつくと、レッドの姿があった。
ナツメはレッドに向かって走りだす。
――たッ、たッ、たッ、たッ。
ナツメ(レッド。レッド。レッド――!)
■■■
795 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 12:03:39.15 ID:4bOMnMUK0
世界が暗転した。
――ナツメの胸を、スピアーの針が穿った。
ナツメ「――あ」
レッド「――――――――――――――」
急に飛び出してきたナツメ。
深々と刺さる、巨大な針。
ゆっくりと崩れていくナツメの躰。
グリーン「……」
サカキ「――予知が当たったか」
のしかかってきた、
ねっちょりしたナツメの躰を、
レッドは抱きしめた……
796 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 12:11:01.95 ID:4bOMnMUK0
サカキ「きははは――。
そうか、レッド、おまえもついに人を殺めたかッ!」
レッド「……」
サカキ「それも女。極上の女をッ。悪の女を!」
高笑いしているサカキ。
その顔がすぐに屈辱に変わる。
ナツメ殺害でできたスキに、
ピカチュウが、マスターボールを奪ったのだ。
――ぴっ、ぴかちゅう!
誇らしげなピカチュウの声がした。
798 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 12:21:46.41 ID:4bOMnMUK0
懐に飛び込んできたピカチュウをやさしく抱きとめるレッド。
サカキ「なッ、それは、まさかッ」
レッドの足元で溶けていくナツメ。
それは変身が得意な、メタモンだった。
グリーン「仕込みバッチリ成功だなレッド!」
レッド「――――」
――パンッ。
マサラのコンビの、軽快なハイタッチが響いた。
799 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 12:24:16.00 ID:4bOMnMUK0
レッドはミュウを外に出し、マスターボールを投げた。
それをスピアーの針が貫く。
――びき、びき、パリンッ。
マスターボールが砕け散った。
どうやらサカキの狙いは、このポケモン。
ならば、それを徹底的に阻止。
これがいまのレッドによる、サカキへの有効打である。
800 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 12:27:51.65 ID:4bOMnMUK0
レッド「……」
サカキ「やってくれたな……」
――みゅう。
幻のポケモンが、大いなる力をふるった。
サカキ「――なん、だと……?」
8階にいるすべての者を、ミュウが放つ虹色の光が包み込んだ
――しゅうん。
そして8階には誰もないくなった……。
802 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 12:30:47.33 ID:4bOMnMUK0
――しゅうん。
ミュウの力により、テレポートさせられた。
そこは焼け野原だった。
いくつか残された大木も黒こげだ。
レッド「……」
グリーン「ここって、まさか、アレだよなぁ?」
サカキ「――ここはトキワの森だ」
その声に、レッドたちは身構えた。
空中ではミュウが自由にとびまわっている。
804 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 12:33:49.92 ID:4bOMnMUK0
空で遊ぶミュウを見上げてサカキがつぶやく。
サカキ「――生きてる間に、捕まえられそうにないな」
レッド「……」
サカキ「レッド、おまえの勝ちだ」
レッド「――――」
サカキ「ロケット団は、解散だ。
レッド、俺はな、ありがちな病気にかかり、
ありがちな死に様を晒す、一歩手前なんだ」
805 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 12:35:42.10 ID:4bOMnMUK0
レッド「……」
サカキ「もう半年もない命。
悪を、もっと悪を成すためには、長い寿命が必要だった。
――できるならば、ミュウの力で、不老不死になりたかったんだがなぁ」
グリーン「悪行の為に不老不死……あんた、狂ってるぜ」
しゅぼッ。
サカキは煙草をくわえ、火をつけた。
サカキ「――ふん。悪なんてものはな、俺にとっては食欲と同じなんだ。
狂ってるもなにも、悪をしなきゃ、死ぬくらいだ俺は。きははッ」
806 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 12:38:05.52 ID:4bOMnMUK0
サカキ「さて、俺は退散させてもらおう。
悪がべらべら、犯行理由を喋るのは、ナンセンスだからな。
――おまえたちに語るのは、悪ボスのごくごく一部。
格好が悪いところを見せたのは、ちょっとした愛嬌だよ」
レッド「―――」
サカキ「あぁ、ロケット団は、本当に解散だ」
808 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 13:06:38.03 ID:4bOMnMUK0
レッド「―――」
サカキ「まだ犯罪を犯すのか、か。それを俺に聞くかレッド?」
サカキ「犯すさ。
ロケット団という手足を使わずとも、
この頭脳で、この心臓で、この滾る悪の血潮でッ。
――俺という人間は、死ぬ間際まで悪を貫こう」
レッドは、一歩、一歩。サカキに近づいた。
睨みあう両者。
レッド「――――――――――――――」
809 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 13:07:34.16 ID:4bOMnMUK0
最上階についた時、レッドの姿を見つけた。
その刹那、私は虹色の光に包まれた。
それがテレポートの類だとは、エスパーポケモンの使い手として熟知していた。
気がつくと私は森の茂みに倒れていた。
空を見上げれば、青空と入道雲。
――素直に、キレイだ、と私は思ったのだ。
810 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 13:10:19.82 ID:4bOMnMUK0
私は立ち上がり、
現状を把握するため、
あたりを窺った、その時だ――。
レッド「――――――――――――――」
聞き覚えのある少年の声。
私は茂みや木岐のすきまを煩わしく歩く。
するとすぐに眼前には、私の心をかき乱す少年。
その少年の快活な声に、私の鼓動が跳ねあがった。
――さぁぁぁあああああ。
トキワの森の風が、私の髪をちらした。
―――………
811 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 13:17:17.39 ID:4bOMnMUK0
トキワの森に、涼しげな風が吹いた。
まだ根強く生える草花がなびいている。
レッドはモンスターボールをかまえた。
レッド「――俺はマサラタウンのレッドだッ」
――サカキ、ポケモンバトルしようぜ!
まっすぐな眼で悪を見据え、
レッドが挑戦状を叩きつけた。
勇ましくも、楽しそうな少年のような顔で。
トキワの森の空に、ミュウの楽しげな鳴き声が響く……
― トキワは みどり えいえんのいろ ―
■■ マサラタウンのレッド/了 ■■
819 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 13:45:31.16 ID:4bOMnMUK0
■■ ポケットモンスター ■■
― 後日談 ―
――2日後、トキワの森。
何時間も続いた、レッドとサカキのバトル。
両者共に、すべてを出し切った、激闘だった。
スピアー、ピカチュウ、サイドン、
イワーク、イーブイ、ギャラドス、リザードン、
ニドキング……
すべてのポケモンが、須らく主役であった。
821 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 13:51:48.00 ID:4bOMnMUK0
――兵達の夢のあと。
もうそこに争いの気配はない。
涼しげな風が吹くくらいだった。
サカキ『レッド。おまえの勝ちだ。
そして、もう俺を追うのはやめろ。
餓鬼は餓鬼らしく、もっとマシな道を歩けよ。
――あと善人に近づかれると、持病が悪化しちまうのさ』
そう言い残して、サカキは姿を暗ました。
生涯、あの男と会う機会は巡ってこないだろう。
823 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 13:57:35.10 ID:4bOMnMUK0
あの肌が焦げつくようなポケモンバトル。
2日前の熱の名残りを求めるように、
レッドは荒廃しているトキワの森にやってきた。
それに付き添うグリーン。
グリーン「おい、あいつ、こっちに来るぞ」
ここ2日、トキワ周辺を飛び回って、世間を騒がせているミュウ。
その空中で遊んでいたミュウが、レッドのまえに降り立った。
――みゅう、みゅう、みゅー、みゅ?
レッド「――――」
唐突にミュウから、光が放たれた。
それも今度はトキワの森全土を包む巨大な光だ……。
824 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 14:09:38.30 ID:4bOMnMUK0
ものすごい勢いで草木が生え始めた。
さながら森が生き物のようだった。
元に戻るのではない。
新しい森が生まれようとしているのだ……。
トキワ本来の、濃厚な森の匂いがした。
――気がつけば、立派な森が誕生していた。
ミュウが遠くの空の彼方に飛んでいった。
もうあのポケモンとも、会うことはないだろうな、とレッドは思った。
――ありがとな、ミュウ。
825 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 14:12:48.56 ID:4bOMnMUK0
新しく生誕した森に、グリーンの素っ頓狂な声が響いた。
グリーン「これからどう生きて行けばいいのか分からない~!?」
レッド「…………」こくり。
ずっと復讐の日々だったレッド。
そして最終目標だった、ロケット団の解散。
もうレッドには、やるべき目標がないのだ。
レッド「……」
グリーン「あぁ、だったら、よォ。ものは相談なんだが……」
グリーン「俺とポケモンマスターを目指そうぜ。
どちらが先に頂点に立つか、勝負だ!」
そういって、グリーンが手を差し出した。
826 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 14:14:33.20 ID:4bOMnMUK0
力強い眼で、レッドを見つめるグリーン。
まるでマサラを旅立った日のやり直しだった。
レッド「……」
そして、あの時のように。
レッドはその手を握り返した。
ぐッと力強い握手が交わされた。
828 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 14:23:05.66 ID:4bOMnMUK0
グリーン「ところで、レッドくゥん!」
レッド「……!」
グリーン「ポケモンマスターのまえに、だ。
君には達成するべき任務があるんじゃないのかな?」
ニヤつくグリーンが、レッドの肩を叩く。
耳打ちをするように、ぼそりとグリーンがいった。
グリーン「いいか、レッド。
年上の女は、押しに弱い。強気で当たれレッド」
レッド「――」
グリーン「なんのことだ、じゃない。すぐに分かる」
レッド「……」
グリーン「――タマムシに、桜咲くカフェテリアがある。
そこにデートに洒落こんでみな。良い雰囲気の店だぜ」
レッド「――――――」
じゃあな、と手をあげて、森を去っていくグリーンだった。
832 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 14:37:26.05 ID:4bOMnMUK0
グリーンとすれ違う、一人の女。
トキワの森の入口。
そこには始まりの女、ナツメがいた。
まるで本当に旅立ちの日のやり直しだ。
ナツメ「……」
レッド「……」
お互い見つめあい、黙りこんだ。
先に根をあげたのはナツメだった。
ナツメ「――色々。本当に色々。
おまえには言わなきゃいけないことがある……」
ナツメ「すまなかった、ありがとう。辛かったか? 傷は癒えたか。
……初めに何をいえば相応しいのか、会うまで悩んでもいた」
レッド「……」
835 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 14:45:58.15 ID:4bOMnMUK0
ナツメ「しかし、おまえに会った瞬間、言葉が全部消えてしまった」
レッド「……」
――さて、どうしたもんかな。
唇に指をあて、儚げな笑みを浮かべるナツメ。
毅然としたナツメの、ほんの一瞬だけ見せた、脆さ。
レッド「――――――」
ナツメ「――え?」
836 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 14:54:26.89 ID:4bOMnMUK0
『よかったら桜咲くカフェテリアにいかないか?』
桜咲くカフェテリア。
それは唯一当たらなかった予知。
悪意まみれの世界で生きるナツメにとっての、
ある筈のない、やわらかく、嘘みたいに幸福な光景。
ナツメの頬を涙が伝う。
ナツメ「こんな所にあったのか……」
837 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 15:05:18.22 ID:4bOMnMUK0
ナツメ「レッド、私はおまえが好きだ!」
レッド「―――――」
毅然とした顔が、柔らかい笑みに変わった。
――初めっから大切なものは、まっさらで。
初めっから、すぐそばに転がっているらしい。
838 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 15:07:45.32 ID:4bOMnMUK0
レッドは、トキワの森に、ポケモンを還した。
スピアー、イーブイ、ピカチュウ、サカキから取り返したリザードン。
どれもロケット団に調教された、可哀そうなポケモンたちだった。
これからレッドは新しい道を歩く。彼らにもそうして欲しかった。
『野生にお帰り』
そうレッドとナツメが、ポケモンたちを見送った。
レッド「……」
ナツメ「……」
ぎゅっとナツメは、レッドの手を握り締めた。
――二人はトキワの森を跡にした。
841 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 15:26:21.44 ID:4bOMnMUK0
― 数ヶ月後、近況 ―
カスミはミス・ハナダに選ばれたことを、
レッドに自慢したり、衣装をお披露目したりした。
ちかごろ彼が連れ添っている女と
衝突している光景は、もうお約束だ。
タマムシの再興に尽力するエリカ。
彼女は忙しいながらも、裏で暗躍したりしている。
どうやらバッチの件は、借りだったらしい。
朋輩が聞いてあきれるが、これもエリカの冗談なのだろう。
その後ロケット団の噂が、頓と途絶えた……
843 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 15:36:00.39 ID:4bOMnMUK0
とあるカフェテリア。
ナツメ「そこはエスパーポケモンで攻めるべきだ」
レッド「――――――」
ナツメ「それはオマエの嗜好だろうが。
いいかレッド。もっとゴリ押しじゃなく、相性を――」
そこにいるのは、
復讐者のレッドでも、
世界を怨むナツメでもない。
純粋にポケモンを愛する二人の、
いつもと変わらないポケモン議論に花が咲いていた……
844 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 15:37:07.67 ID:4bOMnMUK0
動物図鑑にも載っていない。
不思議な不思議な生き物。
ポケットモンスター。
略してポケモン。
これはそんなポケモンと、
少年レッドの物語。
■■ 完 ■■
847 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/29(金) 15:43:06.39 ID:4bOMnMUK0
これにて完結です。
保守・支援さん、読んでくれていた方。
本当にありがとうございました。
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コメント
イイ話ダナー
No title
これは傑作
No title
これは凄い 懐かしいですわ( ;∀;)
No title
これはすごい
いいね いい話だ
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