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魔王「勇者捕まえた」前半

1 名前:以前大脱字有。凄心残。故再挑戦也。只乃自己満[] 投稿日:2010/10/10(日) 03:07:52.88 ID:xNE88kxH0 [1/198]

魔王「さてどうしたものか」


2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 03:09:00.74 ID:xNE88kxH0 [2/198]

<魔王城.最深部>



魔王「ふん!」ジャッ!

勇者「うぐっ!」ガッ――ドサァ

魔王「……ふう」

勇者「ぅ……」

魔王「終わりか。おい」

側近「は! ここに!」シュバ!

魔王「こいつを牢屋に入れておけ」

側近「牢屋に、ですか? 今すぐ殺さないので?」

魔王「我輩に意見するか?」

側近「滅相もない! では今すぐ!」


4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 03:10:16.27 ID:xNE88kxH0

     ・
     ・
     ・


 ガラガラ……


勇者「……っ」ドサァ

側近「ふん。私が相手だったら今すぐ殺してやるものを」


 ガラガラ――ガシャン!


5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 03:11:02.40 ID:xNE88kxH0

魔王「はー、終わった終わった……」

メイド「お疲れ様です魔王様。お茶をどうぞ」

魔王「すまんな」

メイド「……それにしても」

魔王「ん?」

メイド「ちっちゃい男の子、でしたね」

魔王「……ああ。一体皇帝は何を考えているんだ?」

メイド「さあ……。もしかしてあなた様がああいう子に手出しできないのを知っているのでは?」

魔王「正直心が痛かった」

メイド「ふふ。変わりませんね」

魔王「そう簡単には変わらんよ。……変われたら、どんなにいいだろうな」

メイド「……」


7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 03:11:51.97 ID:xNE88kxH0

<魔王城.門前>


側近「皆のもの、聞け! 本日、魔王様があの忌々しい勇者をお倒しになられた!」

「なに、それは本当か……!?」

側近「無礼だぞ、私が妄言を吐くとでも!?」

「では……!」

側近「そうだ! 勇者は今、この城の牢屋に閉じ込めてある!」

「それはどういうことだ! なぜ殺さない!?」

側近「僭越である! 魔王様の決定に意見するか!」

「しかし……」


8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 03:12:35.63 ID:xNE88kxH0

側近「案ずるでない!」

「と、いうと……?」

側近「恐らくは盛大なる公開処刑を計画なさっているに違いない!」

「おお!」

側近「皆のもの、そういうことだ、楽しみに待っていろ!」

「ま、魔王様ばんざーい!」

「魔王様ばんざーい!」


9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 03:13:25.05 ID:xNE88kxH0

魔王「外が騒がしいな」

メイド「きっと側近さんが他の魔物に報告に行ったのでしょう」

魔王「な!? あいつ余計なことを!」

メイド「あの方は考えが単純ですからね、興奮するなというのが無理というものですよ」

魔王「く……」


 タッタッタッタ……ガチャ!


側近「魔王様! 下々の者に魔王様の勝利を伝えてまいりました!」

魔王「……そうか、御苦労であった」

側近「ひいては公開処刑をいつごろにセッティング致しましょう?」

魔王「なに……?」

側近「公開処刑でございますよ。そのために生け捕りにしたのでしょう?」

魔王「……」


10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 03:14:08.56 ID:xNE88kxH0

魔王(こいつ……何とも面倒なことをッ)

側近「魔王様?」

魔王「……公開処刑か」

側近「はい!」

魔王「そうだな、一ヶ月後、でどうだ?」

側近「了か……一ヶ月後?」

魔王「……」

側近「今、一ヶ月後とおっしゃいましたか?」

魔王「そうだが、何か問題でも?」

側近「い、いえ! ただ、下々の者はみな公開処刑を今か今かと待ちわびております!」

魔王「それがどうした」

側近「皆の者の期待にこたえるのも王たるものの勤めかと……!」

魔王「……」


11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 03:14:52.37 ID:xNE88kxH0

魔王「我輩は」

側近「はい?」

魔王「我輩は、楽しみは後に取っておくクチだ」

側近「し、失礼いたしました! 皆にはそのように!」


 ガチャ バタン!


魔王「……はぁ」

メイド「面倒なことになりましたね」

魔王「まったくだ。これだから短絡脳筋どもは嫌なのだ……」

メイド「……どうなさいます?」

魔王「どうもこうも……何とかするしかあるまい」


13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 03:15:34.89 ID:xNE88kxH0

<帝国.城.謁見の間>



騎士団長「報告いたします! 勇者が魔界に進行してから二週間がたちました! もうそろそろ魔王城に突入する頃です!」

皇帝「……」

騎士団長「それに合わせ、我ら騎士団も着実に侵攻準備を進めております!」

皇帝「……よろしい」

騎士団長「は!」

皇帝「決着がつくのはいつごろになるか」

騎士団長「誤差四日ほどになるかと!」

皇帝「ふむ」

騎士団長「報告は以上です! それでは私はこれで!」


14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 03:16:17.10 ID:xNE88kxH0

皇帝「待て」

騎士団長「は!」

皇帝「……もし、だ」

騎士団長「?」

皇帝「もし、勇者がしくじったらどうする」

騎士団長「それは……」

皇帝「……」

騎士団長「それは、あり得ません! 彼は我ら騎士団の最高傑作です!」


15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 03:16:59.42 ID:xNE88kxH0

皇帝「知っている。余は万が一のことを聞いておるのだ」

騎士団長「……」

皇帝「まあ、よい。下がれ」

騎士団長「……は」クル……ツカツカ

皇帝「一ヶ月だ」

騎士団長「はい?」ピタ

皇帝「勇者からの音沙汰が一ヶ月ない場合、余は魔界に対し総力戦を仕掛ける」

騎士団長「総力……陛下、お待ちを!」

皇帝「黙れ。余に意見するか」

騎士団長「そ、それは……」

皇帝「今度こそ、下がれ」

騎士団長「……」


16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 03:17:41.82 ID:xNE88kxH0

◆◇◆◇◆


人間界と魔界とで大陸が真っ二つに割れていたころのこと
それぞれの地において、強烈無比なる支配者が君臨していた

片方は人間界の王、皇帝
その剛腕によって、群雄割拠する人間界を一つにまとめ上げた

片方は魔界の王、魔王
その強大な魔力によって、魔界を治める

両雄は境界線をはさんで対峙し、威嚇し、睨みあっていた
まさに一触即発

高まる緊張の中、人間界より魔界に向けて一人の少年が派遣される
彼は勇者
人間界の希望であり、願望であった

彼と魔王があいまみえるとき、物語は始まる


◆◇◆◇◆


17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 03:18:23.99 ID:xNE88kxH0





 title:魔王「勇者捕まえた」






18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 03:19:06.33 ID:xNE88kxH0

魔王「さて」

メイド「あら、お出かけになるんですか」

魔王「ああちょっと――」

メイド「牢屋ですね」

魔王「……その通りだ」

メイド「ふふ、あなた様の考えることならなんとなくわかります」

魔王「そうか」

メイド「頑張ってくださいね。あなた様にすべてがかかっています」

魔王「……部下がみんなお前くらい切れ者だったら、と。そう思うよ」

メイド「あらあら」


20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 03:19:48.97 ID:xNE88kxH0

 ツカツカ ツカツカ……


魔王「……」

「おや魔王様。ご機嫌麗しゅう」

魔王「元帥か」

元帥「どちらにお出かけで?」

魔王「いやなに、ちょっと散歩に」

元帥「そちらには牢屋しかありませんが」

魔王「あー……あれだ、昨日捕まえた生きのいいのを見に行こうと思ってな」

元帥「勇者ですか。昨日の御武功は聞き及んでおります。ですが、何のために?」

魔王「ええと、我輩直々に遺言でも聞いてやろうかと」

元帥「勇者相手に? わざわざですか?」

魔王「……強いものが泣き叫ぶことほど面白いことはあるまい?」

元帥「……」

元帥「なるほど」


22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 03:21:44.97 ID:xNE88kxH0

<牢屋>


 キイィィ……


魔王「……よう、勇者、息災であるか?」

勇者「……」キッ!

魔王「いい眼光だ。しかし、格子の向こうからでは哀れなだけだぞ」

勇者「……出せ」

魔王「ん?」

勇者「ここから出せ!」


23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 03:22:27.53 ID:xNE88kxH0

魔王「それはできかねるな」

勇者「くそっ!」ガンッ!

魔王「子供が、そんな汚い言葉を使うんじゃない」

勇者「……今に見てろ」

魔王「……」

勇者「すぐにここをぬけ出してお前を殺してやるからな!」

魔王「……」


24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 03:23:09.71 ID:xNE88kxH0

魔王「そんなにここを出たいか」

勇者「あたり前だ!」

魔王「出れないこともないぞ」

勇者「なに?」

魔王「我輩を殺すことはできなくなるがな」

勇者「それは、どういうことだ?」

魔王「契約をしよう。こう言っているのだ」

勇者「けいやく?」

魔王「ああ、『約束』とほぼ同じ意味だ」

勇者「おれをばかにするな!」

魔王「別に馬鹿にはしとらんよ」


26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 03:23:52.33 ID:xNE88kxH0

魔王「まあ、簡単に言うとだ、この紙にサインしてくれれば今すぐにでも出してやろう」

勇者「なんだその紙は? 魔力をはなってるぞ」

魔王「……さすがは勇者といったところか。そう、これは契約魔法の媒体だよ」

勇者「けいやくまほうのばいたい?」

魔王「あー……まあ、細かいことは置いておこう。契約魔法とは、約束を必ず守らせる魔法なのだよ。
   魔力を込めた紙に書いてあることを本当にする。魔法の中でも一二を争うほどの強力さだ」

勇者「その魔法がどうかしたのか?」

魔王「たとえば、紙に死ねと書いてあれば、何があろうと必ず死ぬ。過程をすっ飛ばして結果が残る。
   それほど強力なのだ。だが、欠点もある。約束というのはする者がなければ意味をなさないんだ」

勇者「つまり……どういうことだ」

魔王「紙にサインしなければ、効果は発揮されないということだよ」


27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 03:24:34.52 ID:xNE88kxH0

魔王「本題に入ろう、勇者。我輩はお前を殺したくない」

勇者「……え?」

魔王「お前を殺すといろいろ都合が悪いのだ」

勇者「おれを殺したくない?」

魔王「そうだ。ここだけの話だぞ? 誰にも言ってはいかん」

勇者「? いみが分からない」

魔王「二人だけの秘密ということだ」

勇者「そっちじゃない。おれを殺したくないってどういうことだ」

魔王「我輩は――」

魔王「我輩は、魔物と人間の全面戦争を回避せねばならん。そういうことだよ」


28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 03:25:17.04 ID:xNE88kxH0

メイド「……」フキフキ

メイド「魔王様、大丈夫かしら」

メイド「……うまくいくと良いですけどね」


30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 03:25:58.39 ID:xNE88kxH0

勇者「やっぱりいみが分からない」

魔王「分からなくともかまわん。要は我輩はお前を殺せんということだ」

勇者「……」

魔王「だから、お前を逃がしてやってもいい」

勇者「! なら早くここから出せ! 殺してやる!」

魔王「だが、お前に殺されてやる気もない」

勇者「チッ」

魔王「そこで契約だよ」


31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:26:40.85 ID:xNE88kxH0

魔王「この紙にサインすると、お前は我輩に一切手出しできなくなる」

勇者「なに!?」

魔王「だが、その代わりここから出してやろう」

勇者「……」

魔王「一生ここで過ごすのは嫌だろう?」

勇者「それは……」

魔王「なら早くサインするのだ」

勇者「……断る」

魔王「ぬ……」

勇者「おれは――おれは、お前を殺すために生まれてきたんだ! 一生ここでくらすのもいやだけど、生きるいみをなくすのはもっといやだ!」

魔王「……」


32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:27:34.80 ID:xNE88kxH0

勇者「それに、サインにはなまえがひつようなんだろ?」

魔王「そうだが?」

勇者「おれには名前はない」

魔王「なんと!」

勇者「おれはただ、勇者だ。それいがいのだれでもない」

魔王「……」

勇者「――あわれむな!」ガンッ!

魔王「!」


35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 03:28:31.49 ID:xNE88kxH0

勇者「たびのとちゅう、みんながおれを見る。お前みたいな目でな!」

魔王「……」

勇者「おれはもう、そんなのはこりごりなんだよ。もうまっぴらごめんだ」

魔王「お前……」

勇者「勇者は! 魔王を殺して英雄となる! そうしておれはなまえいじょうのものを手に入れる! もう、だれもおれをあわれまないように!」

魔王「……」

勇者「だから、そんなやくそくなんておれはぜったいしないからな」

魔王「……」


36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:29:12.97 ID:xNE88kxH0

<魔王城.魔王の私室>


魔王「……はぁ」

メイド「その様子だと、失敗したようですね」

魔王「あいつ、小さいくせに頑固だ」

メイド「人間のあの年頃は難しいですよ。素直さが少しずつなくなって行って、いろいろ考えるようになるんですから」

魔王「さすがメイドの意見だな……参考にしよう……」

メイド「まあ、そんなに気を落とさないでください。まだ時間はありますから」

魔王「まあ、そうなんだが」

メイド「私も一緒に考えますよ」

魔王「すまないな」


37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:29:54.31 ID:xNE88kxH0

メイド「それにしても」

魔王「ん?」

メイド「勇者君が死んじゃったら本当に魔物と人間の全面戦争になるんでしょうか?」

魔王「杞憂ならばよいのだがな。奴はきっと仕掛けてくるぞ」

メイド「勇者君は帝国の最終兵器」

魔王「その最終兵器が殺されたと知れば、帝国は何をするかわからん」

メイド「白旗を上げやしませんかね」

魔王「お前だって本気でそう思ってるわけではあるまい。奴はそんなタマじゃないからな」

メイド「そう、ですよね」

魔王「皇帝は必ず総力をあげて攻めてくる」

メイド「でも」

魔王「ん?」

メイド「契約魔法によって無力化されても、それはあっちにとっては殺されたのと同じでは?」

魔王「その可能性はある。だが戦ってみた感じではあの勇者、だてに最終兵器ではない。生きてさえいれば、帝国は躍起になって解呪を模索するだろうな」


38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 03:30:36.27 ID:xNE88kxH0

メイド「それも時間稼ぎにすぎないのでは?」

魔王「全面戦争に比べれば、なんだってましだ。魔物と人間が両方幸せになれるのなら、この命、差し出しても構わんのだがな」

メイド「そういうのはやめてください。私は、そんなのやです。第一、あなた様が死んだら、魔物たちは駆逐されてしまいます」

魔王「だろうな……くそっ」

メイド「あらあら、そんな汚い言葉、使ってはいけませんよ」

魔王「……」


39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:31:18.53 ID:xNE88kxH0

<牢屋>


勇者「……」

勇者「……」コンコン……

勇者「……よし」

勇者「……」カリカリ


 カリカリ カリカリ カリカリ……



40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:32:00.19 ID:xNE88kxH0

<数日後>


魔王「さて、どうしたものか。あれからいろいろ考えたものの、何もいい考えが浮かばん」

メイド「考えすぎて夜も寝ないのはどうかと思います」

魔王「とはいっても、今一番の懸案事項だぞ?」

メイド「ある国のことわざで見つめすぎる鍋は煮えない、とあります」

魔王「どういう意味だ?」

メイド「気分転換も必要ということですよ」

魔王「……それもそうだな。ちょっと散歩に行ってくる」

メイド「行ってらっしゃいませ」


41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:32:41.51 ID:xNE88kxH0

     ・
     ・
     ・


メイド「アイロンがけもこれで終わりですね」


 ドタドタドタ……


メイド「――!」

メイド(何奴!?)スチャ


 バタン!


勇者「魔王、しょうぶしろ!」

メイド「……勇者君?」

勇者「? だれだお前。魔王はどこだ」

メイド「私はこのお城のメイドです。魔王様は今は散歩中ですよ」


42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:33:55.60 ID:xNE88kxH0

勇者「耳としっぽ……お前、まものだな?」

メイド「さて、お客さんがいらっしゃったからには何かお出ししないと」

勇者「まものは殺す。かくごしろ」

メイド「何がいいかしら? クッキー? あらやだクッキーは切らしてしまってたわ」

勇者「来ないならこちらからいくぞ!」

メイド「あなたおせんべいは好き?」

勇者「聞けよ!」


43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 03:34:37.26 ID:xNE88kxH0


     ・
     ・
     ・


勇者「……」パリポリ…

メイド「おいしい?」

勇者(……おれは、何をしてるんだろう)

メイド「おいしいかどうか言ってくれないと、お姉さん分からないなあ」

勇者「……うるせえよ」

メイド「あらあら」


44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:35:18.69 ID:xNE88kxH0

 ガチャ……


魔王「ただいま」

勇者「!」

魔王「!」

メイド「おかえりなさい」

勇者「魔王、かくご!」シュバ!

メイド「こら!」

勇者「っ……」ビク!

メイド「遊ぶのは食べ終わってからになさい」

勇者「あ、あそびなんかじゃ……」

メイド「お行儀が悪いのは許しませんよ」

勇者「……はい」

魔王「……」

魔王(これはこれは……)

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:36:00.89 ID:xNE88kxH0

勇者「食べおわったぞ!」

メイド「手は拭いた?」

勇者「……」

勇者「……」フキフキ

メイド「はいよくできました。遊びにいっていいわよ」

勇者「だからあそびじゃねー!」

魔王「……散歩をしていたら、何やら場内が騒がしかった。部下は隠していたが、そうか、お前が脱走したのだな」

勇者「そうだ、お前を殺すためにな!」

メイド「こら!」

勇者「ッ……」ビクゥ!

メイド「子供が殺すなんていっちゃいけません!」

勇者「お、お前をたおすためにな!」

メイド「よろしい」

魔王(やれやれ……)

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:36:42.15 ID:xNE88kxH0

魔王「しかし、一体どうやったのだ」

勇者「かんたんだ! あのかべもろかったからな、ほった!」

魔王「確かにあれは土壁だ。とはいえこの数日間の間にとなると、感心する他ないな」

勇者「はっ、魔王にほめられてもうれしかねえ! 今ころ……たおしてやるからかくごするんだな! いくぞ!」バッ!

魔王「ムッ」


     ・
     ・
     ・


勇者「」ピクピク……

魔王「まあ、こんなものか」

メイド「魔王様、手加減してあげないとかわいそうじゃないですか」

魔王「無茶言うな。こいつ見た目よりはるかに強いのだぞ?」

メイド「大人げありませんね」

魔王「ぐっ……」

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:37:23.43 ID:xNE88kxH0

 ガラガラガラ……


側近「フン!」ポイ!

勇者「うぅ……」ドサァ

側近「今度は石壁の牢屋だ。そう簡単には抜けだせんだろう」

勇者「くっ……」

側近「もっとも、今度抜けだしたら私がお前を殺すがな。……さらばだ」


 ガラガラガラ――ガシャン!


49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:38:04.86 ID:xNE88kxH0

<帝国.騎士団本部>


騎士団長「……おかしい」

中隊長「……」

騎士団長「もうまる五日は経ったぞ。勇者からの報告はまだか!」

中隊長「ないっすね」

騎士団長「そんな馬鹿な、もうとっくに決着はついてるはずだ……」

中隊長「案外まだ戦ってたりして」

騎士団長「つまらない冗談はやめたまえ中隊長」

中隊長「うっす」

騎士団長「まさか、勇者は死ん……いや、そんなはずは……」


51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:38:46.33 ID:xNE88kxH0

中隊長「それはないと思うっすよ」

騎士団長「根拠はあるのかね」

中隊長「勘っす」

騎士団長「馬鹿馬鹿しい」

中隊長「まあ、根拠はあるにはあるっすけど、団長、信じそうにないんで」

騎士団長「どういう意味だ?」

中隊長「聞き流してほしいっす」

騎士団長「ふん……まあいいだろう」

中隊長「団長、俺にいい考えがあるっす」

騎士団長「なんだ? 言ってみろ」

中隊長「お断りするっす」

騎士団長「なに?」


52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:39:27.86 ID:xNE88kxH0

中隊長「怒らないで聞いてほしいっす。俺が考えた作戦なんすけど、ちょっと機密性が重要になるうえに、騎士団の反感を買いそうなんすよ」

騎士団長「却下だ。仲間に秘密を持ってまで行う作戦に義はない」

中隊長「でも、効果はきっと抜群っす」

騎士団長「……」

中隊長「団長も分かってるはずっす。今必要なのはどんなに汚くとも効果的な方法だって」

騎士団長「しかし……」

中隊長「大丈夫。団長には迷惑をかけないっすよ。それに兵力も裂く必要はないっす。俺一人でやります」

騎士団長「何!? それは無茶だ!」

中隊長「必要なことなんすよ」

騎士団長「しかしだな……!」

中隊長「団長。俺がしくじったことありました?」

騎士団長「それは……」

中隊長「任せてほしいっす」


53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 03:40:09.07 ID:xNE88kxH0

<魔王城.牢屋>


魔王「勇者よ、息災か?」

勇者「……」ムス

魔王「うむ、元気そうで何より」

勇者「げんきなものか」

魔王「昨日叩きのめして今日そんな口を叩けるのだ。これを元気と言わずして何という」

勇者「しるかよ」

魔王「今日もお前のお前の説得にやってきた。契約魔法は無理だと分かったから、地道に行くぞ」

勇者「……ふん」


55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:40:50.56 ID:xNE88kxH0

魔王「お前は我輩を殺すことに生きがいを感じているわけだな」

勇者「しゅみみたいにいうんじゃねえよ」

魔王「お前が言ったのだぞ? 我輩を殺すことが生きる意味だと」

勇者「たしかにそうだけど……」

魔王「くだらない人生だと言わざるを得んな」

勇者「んだと……!?」

魔王「我輩を殺して何が変わる? いや、お前は確かにちやほやされるかもしれん。歴史にも名を残すだろうな。だが、それがなんだ。そんなことが本当に大事か?」

勇者「だいじだろうがよ」

魔王「その先に何が残る?」

勇者「それは」

魔王「何も残らんよ。いつか人はお前を忘れる。平和は人を堕落させる。簡単にな」

勇者「……」

魔王「だから、だ」

勇者「……?」

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:41:32.17 ID:xNE88kxH0

魔王「だから、お前はもっと明るいライフワークを持つべきだ」

勇者「あん?」

魔王「他人様を殺して名誉を得るなどという暗い欲望は捨てろ。悪趣味だ。っていうかキモい。引く」

勇者「なんでそこまで言われなきゃいけないんだよ」

魔王「もっと明るい仕事につけ。魔界の仕事なら斡旋してやるぞ」

勇者「……」

魔王「魔界の土木工事人、魔界の植木職人、魔界の掃除夫、魔界の――」

勇者「なんでていへんのしごとばっかりなんだ」

魔王「そうか? 植木職人は別に下級職ではないと思うがな」

勇者「ほか二つはひていしないのかよ」


57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:42:13.32 ID:xNE88kxH0

魔王「まあとにかくだ。もっと人様に顔向けできるやりがいのあることを見つけろ。そのために趣味を持つのも大事だ。それらは人生を豊かにしてくれるぞ」

勇者「……」

魔王「そうして明るく前向きな気持ちを持てば、みんなにも好かれる、自分を好きになれる。何より人生が幸せで温かいものになる」

勇者「どんどんうさんくさくなっていく」

魔王「そういうわけでだ。我輩を殺すのはあきらめて、日向の生活を営まないか?」

勇者「断る」

魔王「あれ?」

勇者「不思議そうな顔をするな!」

魔王「おかしいな、魔界の就職テキストに書いてある通りのことを言ったのに」

勇者「そんなのにのせられるのは、能天気なばかか、しんこくなばかだ」

魔王「ふーむ」


58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:42:54.81 ID:xNE88kxH0

魔王「まいったな。他に説得の手段が思いつかん」

勇者「むだなことはやめろ」

魔王「そうだ! 今我輩を殺すのをやめとけばポイントが付くぞ」

勇者「は?」

魔王「ポイントをためておけばプレゼントがもらえる。我輩は殺されなくて済むし、お前はプレゼントでうっはうは。どうだ、悪い話ではあるまい?」

勇者「きゃっか」

魔王「お前! 我輩等身大の抱き枕が欲しくないというのか!?」

勇者「なんでおれがほしがると思った!」

魔王「だよな」

勇者「うん」


59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:43:35.97 ID:xNE88kxH0

魔王「だとすると困ったな。やっぱり現状他の手段は思い浮かばん」

勇者「だからあきらめろ」

魔王「じゃあ、雑談でもしようか」

勇者「はあ?」

魔王「これも作戦だよ。我輩と親しくなれば、そう簡単には殺せまい?」

勇者「せつめいしたらこうかがないぞ」

魔王「いや、それでも効果があるからこそするのだよ」

勇者「ふん、かってにしろ」

魔王「パンツ何色?」

勇者「死ね」


60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:44:17.40 ID:xNE88kxH0
魔王「おかしいな。最近買った会話マニュアル大全にはこう言えと書いてあったのだが」

勇者「ぜんぶはながみにでもしてしまえ」

魔王「仕方ない、ここは自分の力で行くしかないか。お前、趣味はなんだ?」

勇者「……」ツーン

魔王「特技は?」

勇者「……」プイ

魔王「弊社を選択した理由は?」

勇者「?」

魔王「あなたの学んできたことは弊社においてなんの役に立ちますか?」

勇者「言ってるいみが……」

魔王「……誠に申し訳ありませんが、今回は縁がなかったということで。これからのご健闘をお祈りさせていただきます」

勇者「なんだそりゃ?」

魔王「就職面接」

勇者「……?」

魔王「悪い、遊んだ」

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:44:58.55 ID:xNE88kxH0

魔王「うん、そうだな、まじめにいこう。お前、ここまでどうやってきたんだ?」

勇者「歩いてだ」

魔王「そりゃまあそうだろう。我輩が聞きたいのは、人間が魔界をどうやって越えてきたのかということだが。敵陣の真っただ中だぞ?」

勇者「とくにふべんはなかったが?」

魔王「……信じられんな。食糧とかはどうしたんだ?」

勇者「食べ物なんかそこらにたくさんあるだろう」

魔王「ん? どういうことだ?」

勇者「かりをして、食べる」

魔王「! まさか、魔物を……!」

勇者「そんなわけあるか、けがらわしい。ふつうのどうぶつだ」

魔王「……そうか、安心した」


63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:45:52.86 ID:xNE88kxH0

魔王(しかし、そうなるとこの勇者、敵陣の真っただ中でサバイバルしてきたことになるな。
   生き延びるのはもちろんのこと、近辺の魔物に見つからないように進行しなければならない。
   その技術もそうだが、精神力も並はずれている。トータルの戦闘力でいえば、我輩をしのぐかもしれんぞ……化け物か)

魔王「信じられんな」

勇者「……?」

魔王「いや、こちらのことだ。まあ、わかった。お前も並みの決意でここまで来たわけではなさそうだ。今回のところは説得は諦めるよ」

勇者「そのほうがいい」

魔王「だが、絶対に説得して諦めさせて見せるからな」

勇者「はん、むだなことだ。おれはぜったいにお前を殺すぞ」

魔王「そうならないように、頑張るよ」


64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:46:36.15 ID:xNE88kxH0
<数日後.牢屋>


勇者「……」カリカリ カリカリ


 ガラガラガラ……


勇者「……!」ササッ

魔王「よう、勇者」

勇者「……」

魔王「ん? 何かしていたのか?」

勇者「……別に」

魔王「そうか。ならいいが」

勇者「今日は何の用だ」

魔王「前と同じだ。お前を説得に来たよ」

勇者「はん、むだなことを」

魔王「そう分かっていても、やらねばならんのだ」

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:47:17.49 ID:xNE88kxH0

魔王「さて、今日は雑談作戦からいくかな。ここまで来るのに一番大変だったことはなんだ?」

勇者「……」プイ

魔王「魔王城って見た感じどうよ」

勇者「……」

魔王「我輩の今日のコーディネイトどう思う?」

勇者「……」

魔王「魔界で一番印象に残ってることは?」

勇者「……」

魔王「旅立つ時一番心残りだったことは?」

勇者「……」


     ・
     ・
     ・


67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:48:08.73 ID:xNE88kxH0
魔王「うーむ、困ったな。じゃあ、お前の好きな食べ物はなんだ?」

勇者「……」

魔王「ふむ、メイドに言って作らせようと思ったんだが」

勇者「それが、どうした」

魔王「メイドの作る料理は絶品だぞ? ここに来るまで、いや、来てからもろくな飯を食ってないんだろう?」

勇者「……」グラ……

魔王「それはそれはうまいんだがなあ……」チラッ

勇者「……」グラグラ

魔王「そういうことじゃ仕方ない。この作戦は諦めるか」

勇者「――しめ……」

魔王「ん?」

勇者「……おにしめだ」

魔王「……子供のくせに、随分と渋いチョイスだな」

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 03:48:51.46 ID:xNE88kxH0

     ・
     ・
     ・


魔王「ほれ」カタ

勇者「……」

勇者「……」モグモグ

魔王「どうだ?」

勇者「べつに」

魔王「そうか。口に合わないなら次回からはいらないな」

勇者「……ぜっぴん」

魔王「それでよろしい。メイドも喜ぶ」


70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:49:32.93 ID:xNE88kxH0

勇者「……」

魔王「どうした?」

勇者「食べおわった」

魔王「そうか」

勇者「……」

魔王「ん?」

勇者「……もうないのか?」

魔王「あー、ちょっと待ってろ」


71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:50:14.97 ID:xNE88kxH0

勇者「……」ガツガツ

魔王「案外懐柔も簡単な気がしてきたよ」

勇者「かいじゅう?」

魔王「あー、えと、なんでもない忘れろ。それより何か話す気にはなったか?」

勇者「……」ツーン

魔王「話さないと、次回からお煮しめはなしだぞ?」チラッ

勇者「……」グラグラ

魔王「……」

勇者「それと……これとは、話が別だ」

魔王「……チッ。まあいいだろう。これ以上話していても埒が明かない。今回はこれまでにしておくよ」

勇者「……かち」

魔王「ん?」

勇者「おれのかちだ」

魔王「あーはいはい、そういうことにしとけ」


72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:51:21.91 ID:xNE88kxH0

<魔王の私室>


魔王「ふー、疲れた」

メイド「お疲れ様です。いかがでした」

魔王「お前の料理が絶品だと」

メイド「あらうれしい」

魔王「頑固なのは相変わらずだが、お前のおかげで突破口が見えそうだよ」

メイド「光栄にございます」


73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:52:03.43 ID:xNE88kxH0

魔王「……お前が行った方が早いと思うがな」

メイド「それでは意味がありません」

魔王「ん?」

メイド「あなた様が説得してこそ意味がある。そんな気がいたします」

魔王「でも……いや、そうか。お前の『気がする』は外れたことがないからな」

メイド「あらあら、外れるときは外れますよ」

魔王「とはいってもなあ、どうしたものか」

メイド「大丈夫。あなた様が心をつくせば、きっとあの子も心を開いてくれます」

魔王「……だと、いいんだが」


74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:53:15.53 ID:xNE88kxH0
<翌日>


魔王「……」カツカツ……

「おや魔王様、ご機嫌麗しゅう」

魔王「おう元帥、息災であるか」

元帥「おかげさまで。魔王様はどちらへ?」

魔王「特に目的地があるわけではない。散歩だ」

元帥「しかし……こちらは牢屋ですよ?」

魔王「我輩のお散歩コースにケチをつけるか?」

元帥「いえ、そういうわけではありませんが」

魔王「ならば、気にするな。大事ではない」

元帥「……」

魔王「ではさらばだ」

元帥「失礼します」


 ツカツカ ツカツカ……


75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:54:10.87 ID:xNE88kxH0

<牢屋>


魔王「勇者ー、また来たぞー」


 シーン……


魔王「あれ?」


76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:54:52.29 ID:xNE88kxH0

<魔王城.廊下>


側近「ふんふん♪」


 カタッ……


側近「ん?」


 シーン……


側近「なんだ、気のせいか。ふんふ――」


 ジャッ――!


側近「みぎゃああああああああああああ!」


77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:55:39.00 ID:xNE88kxH0
<再び牢屋>


魔王「おーい勇者ー? お煮しめ持ってきたぞー?」


 シーン……


魔王「おかしいな、こんな狭い牢屋の中で隠れられるはずが……ん?」


 ポッカリ


魔王「こんなところに小さな穴が。暗くて気付かなかったが……これはもとからあったものか? いや、そんなはずはあるまい。それでは牢屋の機能を果たせないぞ」

魔王(……大人は通れないが、小さい子供なら通ることができそうだな)

魔王「と、なると……奴はここを通って抜け出したのか。掘ってか? ……石壁だぞ?」


『お前をかならず殺してやる!』


魔王「まあ、あいつならやりかねんか。化け物だしな」

魔王「……」

魔王(もう諦めて逃げ帰ってくれてればいいんだがなあ)

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:56:33.10 ID:xNE88kxH0

<魔王の私室>


 ――ガチャ


魔王「帰ったぞ―」

勇者「!」

魔王「……やはりここだったか」

勇者「魔王、こんどこそころ……たおしてやる!」

魔王「おーおー威勢がいい。だがな、メイドに食べこぼしを拭いてもらってではかっこがついてないぞ」

勇者「こ、これは」

メイド「うふふ、いい食べっぷりだったわよねえ」フキフキ

勇者「うぅ……」


79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 03:57:15.34 ID:xNE88kxH0

魔王「はぁ……」

勇者「と、とにかく、これを食べおわったらしょうぶだ!」

魔王「おやおや、お行儀のいいことで」

メイド「えらいえらい」ナデナデ

勇者「や、やめろ!」


 バタンッッ!!


80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:57:56.74 ID:xNE88kxH0

側近「ここにいたか勇者ァッ!」

魔王「んむ、側近? ここは我輩の私室であるが」

側近「はっ!? 魔王様、申し訳ありません! し、しかしそこの勇者めが!」

魔王「む、事情は呑み込めた」

側近「分かっていただけますか!」

魔王「お前、もともと筋肉だるまなのに、でっかいたんこぶで雪だるまになっとるぞ」

側近「はは! それというのもそこの勇者に――はっ!?」

勇者「?」

メイド「?」

側近「貴様ぁーッ! 何メイドさんになでなでしてもらっていやがる!」

勇者「……?」


81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:58:38.41 ID:xNE88kxH0

側近「離れろ勇者! それはお前に許された行為ではない!」

魔王「おちけつ。たんこぶが充血して赤ちょうちん状態だ」

側近「これが落ち着いていられますか! おい、勇者! メイドさんはなあ、お前が気楽に接して良いお方ではないのだ!」

勇者(なんなんだこいつ)

側近「いいか! メイドさんは我らが魔王城のビューティープリティーソサイエティーなんだぞ! そこんとこ分かっているのか!?」

勇者「?」

側近「この野郎ううううううううううう!」

魔王「泣くほどではあるまい。後いい加減うるさい」

側近「すみません! ですが!」

勇者「よくわからないが、やるのか?」

側近「ああやってやる! やってやるとも! お前をぼこぼこにしてずたずたにして、今ここでぶっ殺してやる!」

魔王(我輩の部屋なんだがなあ)

メイド「あらあら」


82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 03:59:19.52 ID:xNE88kxH0

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


側近「……」

勇者「……」

側近「さっきは不意を突かれたが、今度は真正面からの決闘だ……お前のようなチビに勝ち目はないぞ」

勇者「……」

側近「いいか! 五秒だ! 今から五秒後にお前はへぶし!」

勇者「なんかいったか?」コキコキ

側近「」

勇者「くちほどにもない。ちゃんときたえてるのか?」

魔王「あらま」

メイド「うふふ」

魔王「おや、お前、勇者が勝つのが分かってたのか?」

メイド「そんな気がいたしました。強いのね、勇者君」ナデナデ

勇者「なでるな!」

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 04:00:10.14 ID:xNE88kxH0

側近「ぐ、ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」ガバア!

勇者「!」

側近「お前のようなチビに! お前のようなチビにあべし!」

魔王「もういい加減うんざりだからちょっと寝とけ」

勇者「つぎはおまえだぞ」

魔王「はいはい。あーあ、ここ、我輩のへやだってんのに……」


 ヒュゴギ――!


勇者「」

魔王「まったく、誰がこの部屋掃除すると思ってるんだ」

メイド「私ですが」

魔王「だからお前の仕事増やしたくないんだよ」

メイド「お優しいんですね」ナデナデ

魔王「お前、それ癖になっただろ」

メイド「うふふ」ナデナデ

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 04:00:55.49 ID:xNE88kxH0

<牢屋>


勇者「……」ムス

魔王「そんなにむくれるな」

勇者「なんで、かてない」

魔王「そりゃ魔物と人間の体のできの違いが――」

勇者「そんなのはでたらめだ。おれはあのだるまにかったぞ」

魔王「……そうだな」

勇者「じゃあ、なんで……」

魔王「英雄じゃない奴が英雄に勝つのは無理ということではないかな」

勇者「……?」

魔王「いや、ま、あまり気にするな。我輩最強。それでいいだろう」

勇者「よくない」


86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 04:01:36.90 ID:xNE88kxH0

勇者「だいたいおれがつんできたあのしゅぎょうはいったい何だったんだ」

魔王「ん? そういえばお前、どこで育ったんだ?」

勇者「……」

魔王「ん?」

勇者「ひがしの、大きなみずうみがある村だ」

魔王「東?」

勇者「しらないとは言わせないぞ!」

魔王「おおう!?」

勇者「おまえが……おまえが!」

魔王「……?」

勇者「……おまえが、めちゃくちゃにした村じゃないか……!」

魔王「……」


87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 04:02:32.70 ID:xNE88kxH0

勇者「おれは……おれたちかぞくは、魔物たちにめちゃくちゃにされた」

魔王「……」

勇者「それを、しらないなんて……」

魔王「いや……」

勇者「……?」

魔王「知ってるよ。湖の真ん中に、浮島がある村だ」

勇者「……! しっていたのか……!?」


88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 04:03:14.17 ID:xNE88kxH0

魔王「ああ。そこは確かに数年前、魔物が襲った。だが……おかしいな」

勇者「なにがだ」

魔王「あそこには……いや。そういうこともあるのやもしれんな」

勇者「何を言っているのかわけがわからないぞ」

魔王「いいんだ。それから、どうしたんだ?」

勇者「……おれはていこくのきしだんに入ってうでをみがいた。たんれんにたんれんをかさねておれはつよくなった」

魔王「……」

勇者「なのに! なんでつうじない!?」

魔王「……」


89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 04:03:55.66 ID:xNE88kxH0

魔王(ふむ……)

勇者「ちくしょう……ちくしょう……」

魔王「まあ、あまり気を落とすな」

勇者「……」

魔王「ゆっくりしてるといい。今度は硬度、厚さ二倍の牢屋だ。そう簡単には出られないぞ」

勇者「……ふん」

魔王「また来るよ」

勇者「チッ」


90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 04:04:38.62 ID:xNE88kxH0

<魔王城.廊下>


魔王「……」ツカツカ

側近「魔王様!」タッタッタ

魔王「んむ?」

側近「奴は今どこに!?」

魔王「ああ、牢屋だよ」

側近「あの野郎、今度こそ……」

魔王「やめとけやめとけ、結果は見えてる」

側近「そんな! 私が奴より弱いとでも!?」


91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 04:05:19.98 ID:xNE88kxH0

魔王「そうは言ってないだろう。お前はお前で強いよ。だがなあ、あいつは別格なんだ。化け物なんだよ」

側近「それでは納得できません!」

魔王「あーもう、分かった分かった……気のすむまでやってこい」

側近「了解です! うおおおおおおおおおおおおおおおお!」ズドドドドドドド……

魔王「やれやれ」




「ぎゃあああああああああ!」




魔王「……やれやれ」


93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 04:06:01.56 ID:xNE88kxH0

メイド「それからいろいろあったのです」


94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 04:06:42.97 ID:xNE88kxH0

勇者「うおおおおおお、魔王、しょうぶだ!」

魔王「前より早い脱走ってどういうことだ!?」


     ・
     ・
     ・


魔王「今度の牢屋は絶海の孤島にある。転送魔法で送り届けたが、これで脱走はできまい」

勇者「ぐぬぬ……」


     ・
     ・
     ・


勇者「しょうぶだ!」グッショリ

魔王(うわあ、磯臭い……)


95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 04:07:25.31 ID:xNE88kxH0

     ・
     ・
     ・


魔王「今度は上空数十メートルに浮遊する足場に置いてきてやった。さすがにこれでは逃げられまい」


 ヒュルルルルルル……


魔王「ん?」


 ドグシャ!


勇者「」

魔王「飛び降りたか……」


105 名前:猿邪魔。我望早終[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 04:36:12.43 ID:xNE88kxH0

側近「勇者ぁ! メイドさんに“あーん”してもらうとはどういう了見だあああああ!」

魔王(血涙……)


     ・
     ・
     ・


魔王「今度の牢屋こそ」

勇者「しょうぶだ!」ゼイハァ……

魔王「こいつATフィールドまで越えおったか……」


     ・
     ・
     ・


勇者「なんでかてないんだ!?」

魔王「何で戦意を喪失しないんだ!?」


108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 04:40:11.56 ID:xNE88kxH0

<魔王城.魔王の私室>


魔王「ただいま」

メイド「おかえりなさいませ」

勇者「魔王!」

メイド「こら、動かないの。危ないでしょ」

魔王「……なにしてるんだ?」

メイド「見ての通り耳かきです」

勇者「すこしまってろ!」

魔王(すっかり馴染んでるなあ……)


109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 04:43:04.68 ID:xNE88kxH0

メイド「♪~」

勇者(きもちいい……)

魔王「……」

メイド「はい、反対」

勇者「……」ゴロン

メイド「♪~」

魔王「……やれやれ。随分と腑抜けになったものだ」

勇者「なに……!」

魔王「お前は英雄になるんじゃなかったのか? よくもまあ、おなごの太腿に頭をうずめてうつつを抜かせるものだ」

勇者「お前!」

メイド「あっ、動いちゃ駄目だってば」

勇者「うるさい!」バッ

メイド「きゃっ」

魔王「おやおや、本当のことを言われて怒ったか」

勇者「この……!」

110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 04:46:15.44 ID:xNE88kxH0
魔王「違わないだろう? お前はここにきて弱くなったよ。日に日に拳を振るう力が弱まっているのが、我輩には分かる」

勇者「ぐっ……」

魔王「お前はもう、牙を失った猛獣なのだよ。諦めて、ここを出ていったらどうだ?」

勇者「……」

魔王「ほれ、出ていけ出ていけ」ガチャ ギイィィ

勇者「……それでも」

魔王「ん?」

勇者「それでも、おれは英雄になる!」

魔王「ふん……」

勇者「お前に分かるのか? おれの中にあるみをこがすような怒りが! いてつくような悲しみが! そしてきりきざまれるような悔しさが!」

魔王「……」

勇者「おれはおまえがにくい! せかいがにくい! おれをみはなした神がにくい!」

メイド「……」

勇者「だからみとめさせる! おれの力を! せかいに! そうしておれは英雄になるんだ!」

111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 04:48:27.28 ID:xNE88kxH0

勇者「そのためにおれの手にかかって死ねぇッ!」バッ

魔王「……」シュッ

勇者「うぶッ!」ドゴ

勇者「ぐ……」ズルズル

魔王「……」

勇者「――」ドサ……

魔王「……」

メイド「魔王様……」

魔王「チッ……」


112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 04:49:08.91 ID:xNE88kxH0

<二時間後.牢屋>


勇者「……」

勇者「……」

勇者(……)ギュッ……


114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 04:50:18.33 ID:xNE88kxH0

<魔王の私室>


魔王「……」

メイド「……」フキフキ

メイド「……」チラ

魔王「……なんだ?」

メイド「いえ」

魔王「そうか」

メイド「……」フキフキ


115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 04:51:00.58 ID:xNE88kxH0

メイド「――魔王様」

魔王「ん?」

メイド「耳かきをして差し上げましょう」

魔王「は?」

メイド「耳かきです」

魔王「……いいよ別に」

メイド「耳かきしましょ?」

魔王「いいってば」

メイド「ね?」

魔王「……」


116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 04:52:13.57 ID:xNE88kxH0

メイド「♪~」ミミカキカキ

魔王「……」

メイド「あんまりきれいにしていませんでしたね、魔王様?」

魔王「ん、ああ」

メイド「魔界の王たるもの、身だしなみをきちんとしなければなりませんよ」

魔王「ん」

メイド「反対どうぞ」

魔王「……」ゴロン

メイド「♪~」

魔王「……」

メイド「……ねえ、魔王様」

魔王「ん?」

メイド「私は魔王様のものですよ?」

魔王「は?」


117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 04:54:01.14 ID:xNE88kxH0

メイド「私、魔王様が大好きです。どこにも行ったりはしません」

魔王「……いきなりなんの話だ」

メイド「魔王様、勇者君に嫉妬したでしょう」

魔王「はあ?」

メイド「でも、安心してください。勇者君は弟みたいなものですよ」

魔王「良く呑み込めないが……お前、それは自意識過剰というやつではないか?」

メイド「うふふ。そうかもしれませんね」

魔王「まったく……」

メイド「で、どうなんですか?」

魔王「何がだ?」

メイド「魔王様は、私のこと、どう思ってます?」

魔王「……とても、頼りにしているよ」

メイド「それだけ?」

魔王「……我輩の、真の理解者はお前だけだ。とても助かっているし……そうだな、好き……なんだと思う」


121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 05:01:15.00 ID:xNE88kxH0

魔王「でも。でもな、我輩は……」

メイド「彼女のことが忘れられないんですね」

魔王「……そうだ」

メイド「……」

魔王「我輩は彼女を忘れてはならない。彼女にずっと謝り続けなければならない。一生を通してだ」

メイド「……」

魔王「だから、すまない」

メイド「魔王様、あちらのベッド、用意ができてます」

魔王「え?」


122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 05:01:56.67 ID:xNE88kxH0

メイド「私、彼女の代わりにはなれません。ですが、あなたの痛みを少し和らげることができます」

魔王「……」

メイド「私を、好きにしてください」

魔王「……」

メイド「魔王様……」

魔王「気持ちだけ、受け取ろう」

メイド「……」

魔王「……すまないな」

メイド「いえ……」


124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 05:02:37.99 ID:xNE88kxH0

メイド「私の方こそ、ごめんなさい。私が魔王様と一緒になりたいだけかもしれません」

魔王「お前はやさしいから」

メイド「……」

魔王「こう言うのは酷かもしれないが。これからも、我輩のそばにいてくれないか?」

メイド「……よろこんで」

魔王「……」

メイド「魔王様、こっち向いてください」

魔王「ん?」


 ――チュッ……



125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 05:03:19.63 ID:xNE88kxH0

魔王「……」

メイド「ごめんなさい」

魔王「いや……。なあ、メイド」

メイド「何でしょうか」

魔王「本当に、どこにも行ったり、しないよな?」

メイド「約束いたします。私は魔王様のそばにいましょう」

魔王「……ありがとう」


126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 05:04:38.71 ID:xNE88kxH0
メイド「終わりましたよ」

魔王「ああ、うん」スク

メイド「行くんですね」

魔王「……そうだ。英雄志願者に、英雄とはどんなものか、教えにゃならん」

メイド「彼は理解するでしょうか」

魔王「分からん」

メイド「……」

魔王「だが、あいつ、頑固だが案外素直でもある。今は分からなくとも、いつかは理解してくれる。そう思うよ」

メイド「そうですね」

魔王「じゃあ、行ってくる」

メイド「はい、行ってらっしゃいませ」


 ガチャ――バタン


メイド「……」

メイド「……愛してます、魔王様」

128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 05:05:30.91 ID:xNE88kxH0

<牢屋>


 ガラガラガラ……


魔王「よう、勇者。息災か」

勇者「……」

魔王「なんだ無視か。お兄さんちょっとさびしいぞ?」

勇者「……なんのようだ」

魔王「うん、そうだな。話があってやってきた」

勇者「ざつだんならもうたくさんだ……ひとりにしてくれ」

魔王「違う。英雄のことについてだ」

勇者「……?」

魔王「これから正義の話をしよう」

勇者「……どういう、意味だ?」


130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 05:06:55.88 ID:xNE88kxH0
魔王「話す前に聞いておこう。お前の言う英雄とはなんだ?」

勇者「……いみがわからないが……魔王を殺して、じんみんをきゅうさいするもののことだ」

魔王「ふむ、人民の救済」

勇者「おかしいか?」

魔王「いや。ただ、あまりに短絡的だと思っただけだ」

勇者「ばかにしてるのか?」

魔王「いいや。お前には分からなくても当然だと思う。だからこそ我輩が話しにきたのだ」

勇者「……」

魔王「なんだなんだ、ずいぶん元気がないじゃないか。我輩が言ったことがそんなにこたえたのか?」

勇者「……おれは、よわくなったのか」

魔王「あー、あれは八つ当たりというか、その、嫉妬というかゴニョゴニョ……」

勇者「?」

魔王「いや、すまない。別にお前は弱くなんてなってないよ」

133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/10/10(日) 05:14:13.11 ID:xNE88kxH0

勇者「うそをついていたのか」

魔王「めんご」

勇者「……あんしんした」

魔王「まあ、とにかく、我輩を倒せば即みんなが幸せになれるかといえば、難しいと言わざるを得んな」

勇者「どういういみだ」

魔王「まず、お前が我輩を倒すとするよな」

勇者「ああ」

魔王「そうすると、今度は皇帝はお前を殺そうとするだろうな」

勇者「ありえない」

魔王「あり得るのだよ。何しろ魔王を単身倒してしまう化け物だ。怖がるな、というのが無理な話」

勇者「……」

魔王「それに、人望というのは移ろいやすい。我輩を倒したとなればお前の人気はウナギ登り。あとはあれよという間に次期皇帝だろう」


135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/10(日) 05:19:04.99 ID:xNE88kxH0

勇者「おれはこうていになるつもりはない」

魔王「だろうな。だが、お前がどんなにそう思おうと、周囲はほっといてはくれないはずだ。そうなればあっという間に現皇帝と対立構造、というわけだ」

勇者「……」

魔王「分かったか? 我輩を倒そうとも、争いは続くのだよ。
   そして魔王という共通の敵を失った以上、皇帝によってむりやりまとめられた諸国は見る間に分裂するだろう。
   死人は今よりはるかに多くなるはずだ。まあ、あくまで我輩の予測にすぎん。すぎんが、可能性がある以上、我輩を倒すことに本当に正義はあるのだろうか」

勇者「……」

魔王「……」

勇者「……それじゃあ、おれはどうすれば」

魔王「その話をする前に我輩の知る、英雄のことを話そうか」

勇者「……?」


魔王「勇者捕まえた」後半
続きます

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