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キョン「涼宮ハルヒは赤色がわからない」

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 16:06:23.51 ID:JcyxO4dJ0 [1/44]
古泉「例え話をしましょう」

古泉「もし、涼宮さんの目が見えなかったとしたならば、貴方はどのようにして「赤色」を説明しますか?」

キョン「なんだよそれ」

古泉「ふふっ、皆さん用事があるみたいじゃないですか。暇つぶしですよ。考えてみて下さい」

キョン「はぁ? そりゃハルヒ関係の話なのか?」

古泉「いえいえ、全く関係はありません」

キョン「……」

古泉「いわゆる思考実験と言うやつです」

キョン「またわけの分からんことを」

古泉「まあ、とにかく考えてみて下さい」

キョン「ハルヒの目が見えないとしたら……」

古泉「ええ」

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 16:12:26.62 ID:JcyxO4dJ0
キョン「そりゃもちろん、生まれたときから見えないんだよな」

古泉「はい、彼女には「赤色」どころか「緑色」も「黄色」も分からないとします。色、と言う概念が分からないんですよ」

キョン「……そりゃ難しいんじゃないか」

古泉「何故です?」

キョン「だってアイツには薔薇が赤いこともトマトが赤いことも、ましてや火が赤いことも分からないんだろ?」

古泉「ええ、生まれた瞬間から光が無いわけですから」

キョン「なら土台無理な話だ。俺たちは、こう、ある種共通認識みたいのをもっているだろ」

古泉「ふむ」

キョン「この机は茶色で」コンコン

キョン「この湯のみは白い」コトリ

古泉「ええ」

キョン「それがないんじゃ説明のしようがない」

古泉「では貴方は「赤色」が分からない涼宮さんに「赤色」を説明することは出来ない、と」


7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 16:19:21.11 ID:JcyxO4dJ0
キョン「そうなるな」

古泉「なるほど」

キョン「ん、いや、でもこう……感覚的なものなら説明できるかもしれない」

古泉「感覚、とは?」

キョン「熱さならアイツにもわかるだろう」

古泉「そうですね。「赤色」が分からないこと以外は普通の人間ですから……と言うのも可笑しいですが」クスリ

キョン「言葉で完璧に説明することは恐らくできないが、イメージとしてなら伝えられるんじゃないか?」

古泉「そうかもしれません」

キョン「熱いのは赤色で、冷たいのは青だ、くらいならな。黄色とかは難しいが」

古泉「ふむ……視覚器官に頼ることは無理だが皮膚の触覚に頼ることで漠然としたイメージを伝えると」

キョン「俺は学者でも研究者でもないからこんぐらいしか思いつかんな」

古泉「いえ充分ですよ」



9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 16:24:58.35 ID:JcyxO4dJ0

キョン「しかしそれにしてもアイツら遅いな」

古泉「掃除が長引いているんですよ」

キョン「そうかねぇ」ゴクゴク

古泉「お茶を淹れましょう」

キョン「すまんな」

古泉「いえ構いませんよ」 コポコポコポ

キョン(何やってんだ? ハルヒの奴)

古泉「……」サラサラサラ

キョン「……」パカッ

古泉「……」

キョン「……」



10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 16:29:00.35 ID:JcyxO4dJ0
キョン「メールでも送るかな」

古泉「ふふ、珍しいですね。貴方が涼宮さんが来なくて心配だなんて」

キョン「別に。ただうるさいのがいないから調子が狂うだけさ」

古泉「……」

キョン「……」

古泉「……」トクトクトク

キョン(何やってんだ、遅刻は死刑だぞ……と)

古泉「朝比奈さんには敵いませんが」コトリ

キョン「サンキュー」

古泉「いえ、日頃の感謝ですよ」

キョン「気持ち悪いことを言うな」

古泉「……」

キョン「マズい」

古泉「ふふっ、これは手厳しい」


11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 16:33:10.55 ID:JcyxO4dJ0
キョン「冗談だ。美味いぞ」

古泉「どうも」コトリ

キョン「……」ゴクリ

古泉「……」

キョン「ふぅ」

古泉「一雨来ますかね?」チラッ

キョン「うーん、どうだかな」

古泉「……さっきの続きですが」

キョン「あん?」


12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 16:34:42.28 ID:JcyxO4dJ0
古泉「貴方は、僕たちには共通認識によって色を介していると仰いましたが」

キョン「ああ」

古泉「それは本当でしょうか?」

キョン「はあ? 赤は赤だろ?」

古泉「それはもちろんそうですが、僕が言いたいのは」

古泉「貴方の見ている「赤色」と涼宮さんの見ている「赤色」、引いてはこの地球上にいる人類皆全て同じ「赤色」をみているのでしょうか?」

キョン「どういう意味だ」

古泉「貴方と涼宮さんは違う人間ですよね。ここは便宜的にも涼宮さんを普通の人間とさせてもらいますが」

キョン「アイツと俺はどこをどう見ても違う人間だろ」

古泉「んふっ、ええ。そうです。しかしそれならば、彼女と貴女の感覚器官は違ってもおかしくはないでしょう?」

キョン「そりゃまあそうかもな」


15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 16:40:09.35 ID:JcyxO4dJ0
古泉「ならば、貴方が思う赤と彼女の思う赤は異なって当然だとは思いませんか?」

キョン「……」

古泉「この言葉で説明することが出来ない、簡単に言えば感覚。これをクオリアと言います」

キョン「小難しい話は嫌いだぜ」

古泉「何もそんなに難しい話ではありませんよ」

キョン「なんだ、その、つまり俺の言う赤はハルヒにとっては緑に見えてるとでも?」

古泉「極端に言えばそうなります」

キョン「んなバカな」ゴクリゴクリ

古泉「黒板に書かれる赤チョーク」

キョン「……」

古泉「これが見えづらい方もいます」

キョン「それが?」

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 16:45:07.88 ID:JcyxO4dJ0
古泉「以前とチョークの色が変わったと思いませんか?」

キョン「ああ、そういえば。どちらかと言えば深い赤色だったのにオレンジっぽくなったな」

古泉「それは色盲の方のためです」

キョン「へぇー、そうだったのか。たまたまチョークが変わっただけだと思ってた」

古泉「普通の人からすればそうですね」

キョン「しかしそんなにいるもんなのか? 色盲の人って」

古泉「います」ゴクリ

古泉「クラスに……そうですね、一人か二人くらいですかね。確率論ですからあまりハッキリとは言えませんが」

キョン「そんなに? へぇー、初耳だ」

古泉「まあ、と言う様に実際に色の見え方は個人差があります」

キョン「……」

古泉「しかし、これは色に限ったことでしょうか」


20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 16:50:37.94 ID:JcyxO4dJ0

キョン「……」

古泉「もし貴方が事故で頭を強く打ったりして、視覚、認識を司る部分を損傷したら」

キョン「縁起の悪い事を言うな。こっちじゃそうなっているんだからな」

古泉「すみません。ですが、そうなってしまったら明日から貴方は涼宮さんがえも言われぬ怪物に見えてしまうかもしれない」

キョン「そりゃ恐ろしい。今でも充分俺にとっちゃモンスターだよ」

古泉「そんなゲーム、ありましたね」

キョン「しらん」

古泉「それは失敬」



28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 16:56:00.63 ID:JcyxO4dJ0
ガチャリ

長門「遅れた」

キョン「おお長門。珍しいな、遅れるなんて」

長門「図書委員だった」

古泉「ほう。長門さんも委員会に参加していたんですね」

キョン「俺も知らなかった」

長門「……欲しい本がすぐ取り寄せられる」

キョン「はは、そうか。確かにな。図書委員の特権だ」

古泉「粗茶ですが」コトリ

長門「ありがとう」



31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 17:01:57.49 ID:JcyxO4dJ0
ブーブーブーブー

キョン「ん?」

Fromハルヒ
件名:バカキョン
今大事なとこ!あんた部室ついたら覚悟しときなさい。ヒラの癖に団長に命令なんて!

キョン「げ」

古泉「どうかしましたか?」

キョン「ハルヒ怒ってる」

古泉「ふふ、仲がよろしいようで」

キョン「やれやれ」



33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 17:05:41.44 ID:JcyxO4dJ0
ガチャリ

みくる「遅れましたぁ」

キョン「朝比奈さん」

古泉「委員会ですか?」

みくる「いえ、ちょっとだけ居残りして勉強してました」

キョン「受験生ですもんね」

みくる「わかんない問題があって……鶴屋さんに教えてもらってて」

古泉「お疲れ様です」コトリ

みくる「あ、ありがとう古泉くん。分かりました? お茶の場所」

古泉「ええ、いつも朝比奈さんが淹れて下さるので」ニコッ

みくる「ふふふ。たまにはいれてもらうのもいいな」

古泉「恐縮です」

長門「あなたは執事向き」

キョン「確かにな」

古泉「新川さんに時々執事とはなんぞやと教えられてますから」


34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 17:07:44.43 ID:JcyxO4dJ0
古泉「ところで長門さん」

長門「なに」

古泉「不躾な質問ですがよろしいですか?」

長門「……だめ」

キョン「ぷっ!」

みくる「ふふ!」

長門「嘘。なに?」

古泉「長門さんがジョークとは……」

キョン「しかし今日のお前はいつにもまして饒舌だな」

古泉「今日の涼宮さんがくるまでの狂言回しは僕が承ろうと思いましてね」

キョン「なんだそりゃ」

古泉「まあいいじゃないですか、まだ時間はありますし」

古泉「それで、長門さん。知性とはなんだと考えますか」

長門「……言語にするのは容易ではない」

古泉「本棚の辞書をお借りしても?」

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 17:11:00.58 ID:JcyxO4dJ0
古泉「ちせい【知性】
①物事を考え,理解し,判断する能力。人間の知的能力。「豊かな━の持ち主」「現代を代表する━」
②感覚によって得られた素材を整理・統一して,新しい認識を形成する精神のはたらき。
大辞林 第三版」

古泉「とあります。まあイマイチ良くわかりませんし、具体性に欠けますね」

キョン「ふーん」

長門「……」

古泉「チューリングテスト、と言うのをご存知ですか?」

キョン「知らんな」

みくる「わかんないです」

古泉「では実際にやってみましょう」

古泉「貴方と長門さんに参加していただいても?」

キョン「いいけど」

長門「いい」

古泉「では、今から僕が話すことに正直に事実に基づいて答えて下さい」



38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 17:16:40.27 ID:JcyxO4dJ0
古泉「回答方法は……そうですね。二人の筆跡で解っては困るので朝比奈さんにお願いしてもよろしいでしょうか」

みくる「はあ……キョンくんと長門さんの答えを書けばいいんですよね」

古泉「ええ」

キョン「めんどくさいな」

古泉「まあそう言わずに」

古泉「それでここからが重要なんですが……長門さん」

長門「わかっている」

キョン「ん? なんだ?」

古泉「この実験には「コンピュータ」が必要なんです。しかも人間と区別がつかないくらい高性能な」

キョン「おい。長門はパソコンじゃねぇぞ」イラッ

古泉「もちろんそうです。しかしこの場にはその様なものはありません。ですから少しだけ長門さんのお力をお借りしたいんです」


40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 17:20:48.40 ID:JcyxO4dJ0
キョン「……」ムスッ

長門「私は構わない」

キョン「そうかぁ? 長門がそう言うならいいけどよ……」

長門「大丈夫。お遊び」クイクイ

みくる(長門さん可愛い!)

古泉「ありがとうございます」


42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 17:24:00.62 ID:JcyxO4dJ0
古泉「そしてお二人の間には衝立を立ててお互いの回答が見えないようにしてもらいます」

キョン「衝立なんてどこにある?」

古泉「ふむ……」

みくる「あのー映画の時に使ったレフ板はどうかしら?」

古泉「あ、いいですね。そうしましょう」

みくる「よいしょ」トン

古泉「では僕は涼宮さんのヘッドホンを借りて」スポッ

古泉「後ろを向きます」クルリ

古泉「ついでに目隠しもしましょー!」スルスル

古泉「これであなた方の回答を知る事は出来ませーん!」フリフリ

キョン「うるせーよ」

みくる「聞こえてないみたい」クスッ

古泉「では質問を書きます!」

スラスラ


44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 17:30:04.10 ID:JcyxO4dJ0
古泉「朝比奈さん」ペラペラ

みくる「はーい」

みくる「はい、キョンくん」スッ

キョン「どうも」

みくる「長門さんも」スッ

長門「……」コクリ

古泉「あ! 当然ですが相談なんかはしないでくださーい!」

キョン「わかってるっつーの。うるせーな」

キョン(で、なんだって?)




45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 17:34:04.99 ID:JcyxO4dJ0
------------------------------

し も 
 つ ん

涼宮
     ハルヒ
     の
  好きな
       ひとは
      誰ですか?
------------------------------



キョン「……」

キョン(相変わらず汚ねぇ字だなおい)

キョン(つーかこの質問はふざけてんのかおい)

キョン(こんなバカバカしい質問に真面目に答えなきゃならんのかおい)



47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 17:37:43.36 ID:JcyxO4dJ0
キョン「古泉」

古泉「……」

キョン「はあー……」

キョン(正直に答えりゃいいんだろ?)

キョン「朝比奈さん、いいですか」

みくる「はい」

キョン「答えは……」

みくる「はい、分かりました」

サラサラ

長門「……」クイクイ

みくる「はいはい」

長門「回答は……」

みくる「はい、分かりました」


48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 17:41:02.44 ID:JcyxO4dJ0
みくる「出来ました!」

みくる「古泉くん」トントン

古泉「あ、終りましたかー!」カポッ

キョン「おい古泉。てめー」

古泉「まあまあ、回答を見てみましょう」

古泉「……」

古泉「ふむ……中々興味深いです」

キョン「古泉、長門はなんて書いたんだ?」

古泉「さあ、なんでしょう?」

キョン「教えねーのかよ!」

古泉「ちなみに朝比奈さん。こちらが長門さんで、こちらが彼ですね?」

みくる「ピンポーン! って分かっちゃうよね」クスッ

キョン「え」



51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 17:47:29.06 ID:JcyxO4dJ0
古泉「はい。それにこれは練習ですからね。この質問では個人的感情が含まれ過ぎてて公平に回答が得られません」

キョン「じゃあ何のためにやったんだよっ!!」ガタッ

古泉「んふ、そう怒らずに。次が本当の質問ですから」

古泉「よいしょ」ゴトン

キョン「今度は何だ。長机が邪魔だぞ」

古泉「本番では第三者に答えてもらいます。あなた方が見えては公平さが損なわれますからね。ですからこのように長机で姿を隠してもらいます」

キョン「第三者って誰だよ」

古泉「少々お待ちください」

ガチャリスタスタ

ガチャリ

古泉「彼です」

谷口「んんんんんぐぅぅぅぅぅ! んむうううぅ!」バタバタ

みくる「……」

長門「……」

キョン「……」

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 17:52:56.32 ID:JcyxO4dJ0
古泉「彼です」

みくる「……」

長門「……」

キョン「ちょっとまて」

古泉「なにか?」

キョン「あのな古泉。俺にはパンツ一丁でヘッドホンと猿轡に手足縛られた上目隠しと亀甲縛りされた喘ぎ声だしてるそいつがウチのクラスの谷口に見えるんだが」

古泉「説明ご苦労様です。ご名答」

キョン「ご名答、じゃねえよ! どうみても誘拐してきただろ!」

古泉「誘拐とは人聞きの悪い。実験に少し協力してもらうだけですよ」ニコ

キョン「絶対協力じゃない! お前機関使っただろ!」

古泉「さあ、どうでしょうね」

キョン「……」

古泉「では実験を続けさせてもらいます」



56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 18:00:30.35 ID:JcyxO4dJ0
部室内見取り図



         谷口 古泉
      ーーーーーーーーーーー←長机

 みくる  ーーーーーーーーーーー←長机
       キョン | 長門
           |
           ↑レフ板


59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 18:05:15.11 ID:JcyxO4dJ0
第1の質問
今日はいい天気ですね


キョンの回答
きょうは曇りですよ

長門の回答
日中は曇りでしたよ

※当然だが谷口にはキョンと長門が受け答えすることは伏せてある


古泉「谷口くん、この文章に何か変なところは?」

谷口「なにがだよぉ! いきなり人の事……ムグッ!」

古泉「質問に答えてください」

谷口「ひぃ! わわわわかった!」

谷口「別に普通だろ! タダの日常会話にしかみえねーよ!」

古泉「そうですか」




62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 18:12:29.46 ID:JcyxO4dJ0
第2の質問

アナタの好きな声優は誰ですか?
またそのかたのチャームポイントを教えてください

キョンの回答
平野綾かな。泣きぼくろが可愛いし

長門の回答
杉田智和だよ。なんと言っても歌が上手い!


古泉「これには何か」

谷口「あーん? 別に普通だろ。つーか声優なんてわかんねえよ」

古泉「なるほど。特におかしさはないと」

谷口「ああそうだよ! いつになったら放してくれるんだ!」

古泉「次で終わりです」



63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 18:17:02.96 ID:JcyxO4dJ0
第3の質問
アナタは宇宙人を信じますか

キョンの回答
信じる。会ったことがあるし

長門
信じる。UFOは信じないけど


古泉「最後はどうでしょう?」

谷口「はあ……宇宙人信じるかって? んなもんいねえよ!」

古泉「あなたの意見は聞いていませんよ」

谷口「ひぃぃぃぃ! わからんわわわわからん!」

古泉「そうですか……」

谷口「おい! 解放してくれんだよな! おい!」


64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 18:23:14.21 ID:JcyxO4dJ0
古泉「ええ……では最後に」

古泉「あなたが見ていたこのやりとりのうち、回答者の一人はコンピュータです」

谷口「はあああ!?」

古泉「どちらがコンピュータだと思いますか?」

谷口「……わ、わわわかんねえ」

古泉「全く?」

谷口「だってよ、どちらも普通に受け答えしていたように見えるし違和感なんて感じなかったぜ」

古泉「そうですか。ありがとうございます。どうぞお帰りください」

バタン

ポツーン

谷口「……」

谷口「……」

谷口「ひど!」



67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 18:31:08.50 ID:JcyxO4dJ0
部室

ガチャリ

古泉「終りました」

キョン「んでんでんで、どうだったんだよ」

古泉「結果から答えます」

古泉「彼には全く分かりませんでした。それどころか違和感にも気付きませんでしたし、僕が言うまでコンピュータがいた事にも気付きませんでした」

みくる「ふぇえ……」

長門「……」エッヘン!

キョン「……」

古泉「納得いきませんか?」

キョン「いや、べつにぃ。谷口だしぃ」

古泉「ふふ、長門さん。今回の実験ではどの程度の能力をお使いになったんですか?」

長門「この時代の平均的なスーパーコンピュータ程度」

古泉「そうですか」


69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 18:39:35.34 ID:JcyxO4dJ0

キョン「で、お前はこの実験で何が言いたいんだよ」

古泉「そうですね……人間とはなんぞや、といった所でしょうか」

キョン「なんだって?」

古泉「事実、今の時代のコンピュータでもこの程度の質問なら人間と同じように受け答えできます。結果だけ見ればコンピュータは知性を持っていることになりますよね」

みくる「うん?」

古泉「ふふ、あくまでも思考実験ですが」

長門「……」コクコク

古泉「しかしこの実験には大きな問題があります」

キョン「なんだ? ここまでやったのに欠陥があるのか?」

古泉「ええ。しかも重大な」



71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 18:45:16.53 ID:JcyxO4dJ0

古泉「人間は最初に①認識して②理解して③それに基づく行動や思考を行ないます」

古泉「まあこの辺は諸説ありますね」

古泉「しかしコンピュータは知っての通り、物事を認識することは出来ますがそこに理解はありません」

古泉「学習した、もしくは最初から持っている知識の中から事象に対する行動パターンを選択しているだけです」

古泉「ですから「理解」がヒトがヒトである、知性があるかをわける一つのモノサシとして言えると僕は思います」

キョン「つーことはさっき受け答えをしていた「スパコン長門」には」

古泉「ええ、このテストをクリアしたとしても知性があるとは言い切れないのです」



74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 18:50:45.41 ID:JcyxO4dJ0

古泉「朝比奈さん、パソコンの自動翻訳ソフトを使ったことは?」

みくる「あ! 英語の宿題であります! でもこの時代の禁則事項は禁則事項だから」

キョン「ごめん朝比奈さん何言ってるかわかんない」

みくる「ふぇえ! そう、それでこの時代のを使ったんですけど……」

キョン「支離滅裂な文章になったと……分かりますよ」

古泉「みなさん経験のあることでしょう。翻訳機は一つ一つの英単語を解することは出来ますが、大事な「文脈」を読み取ることはできないのです」

みくる「へぇー!」

古泉「ちなみに人間の心に見識のある精神科医の方々がこのチューリングテストを受けても、一般の人と同じようにおおよそ50%しか正解しないという結果が出ています」

キョン「そうなのか。意外と分からんもんなんだな」

古泉「実はこれはコンピュータに限ったことではないのです」

キョン「なに?」



78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 18:57:47.23 ID:JcyxO4dJ0

古泉「昔ハンスの馬、という賢馬がいましてね」

古泉「1900年頃ドイツで言葉が理解でき、計算が出来る馬として有名になったんです。当然トリックだと疑われたんですがカール・シュトゥンフによって何もしていないと結論づけられました」

みくる「お馬さんなのにスゴイですねぇ」

古泉「しかし後年心理学者のオスカー・フングストによって解明されました」

みくる「え!」

古泉「確かにトリックは無かったんですが、「理解」していたというわけでもなかったんですよ」

キョン「どういう事だ」

古泉「空気を読んだんですよ」

キョン「?」

みくる「?」

長門「……」シッテルシ!



81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 19:04:20.71 ID:JcyxO4dJ0

古泉「つまり四択問題で周りの皆が答えを知っていた場合、答えの前に足を延ばすと「おぉ答えを選ぶか!」と観客は息を飲むでしょう」

みくる「なるほど! それを見てハンスくんは選んでいたんですね! 私より空気読めるかも……」

古泉「だからフングストは観客も飼い主も知らない問題を出しました。結果は」

キョン「誰もしらないから」

古泉「ええ、ハンスは答えることが出来ませんでした」

みくる「でも……ちょっと可哀想」

古泉「そうですね。ハンスは飼い主の要求に必死に応えようとしていただけですからね」

キョン「なんとも解せない話だな……」



82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 19:12:18.45 ID:JcyxO4dJ0
古泉「もう一つ」

キョン「博識古泉」

古泉「いいじゃないですか。たまには」

キョン「冗談だよ。続けろよ」ゴクリ

古泉「中国語の部屋」ゴクリゴクリ

みくる「中国語の?」

キョン「部屋?」

古泉「ええ、たとえ話ばかりで恐縮ですが。明日あなたが寝ている間にある密室に機関が閉じ込めるとします」

キョン「やめろ」

みくる「古泉くん……」

古泉「ですからたとえ話……」


86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 19:20:04.83 ID:JcyxO4dJ0
長門「ここからは私が説明する」ピコーン

キョン「長門、いつの間に女教師スタイルに……!」

長門「あなたは日本語しか分からない?」

キョン「え、いや、英語もちょっとは……」

みくる「うそはだめですよぅ」

キョン「はい、日本語しかできません」

長門「そう。ではあなたをさっき古泉一樹の言ったように密室に閉じ込める」

キョン「……」ガーン

長門「その部屋の扉の下には紙が一枚だけ通るスペースがある」

キョン「だしてくれー!」

長門「そこから貴方には理解出来ない言葉が書かれた紙が出てくる」

長門「例えば」

長門「涼宮ハルヒの書く宇宙言語」

キョン「わかんねえよー!」



88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 19:27:32.49 ID:JcyxO4dJ0

長門「私には理解できるが貴方には出来ない。ただの記号の羅列に見える」

キョン「たすけてくれー!」

長門「大丈夫、私がさせない」ポンポン

みくる「ふぇ」

長門「その部屋には私が翻訳したマニュアル本が置いてある。そこにはどういう記号を付けて返せばいいか全て日本語で載っている」

キョン「ながとー! ありがとー!」

古泉「あの……僕は」

長門「黙ってて」ビシッ

古泉「ひぃ!」

長門「貴方はそこに書いてある記号に対してマニュアル通りに返すだけ。簡単。大丈夫、貴方なら出来る」ナデナデ

キョン「ながとー!」

長門「部屋の外では涼宮ハルヒが貴方の書いた紙を受け取りホクホク顔で喜んでいる」


90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 19:36:16.75 ID:JcyxO4dJ0

長門「涼宮ハルヒは部屋の中の貴方が自分の書いた宇宙言語を理解していると思い込む」

長門「実に滑稽」

長門「ハレ晴レユカイ」

キョン「ふむ」

長門「ちなみに紙には「キョンのすきなひとはだーれ! もちろん私よね!」と書いてあり、それに対する返答は「もちろんお前さ、ハルヒ。愛してるよベイビー」とある」

長門「ぬか喜び」クスリ

長門「愚か」プププ

みくる(長門さん……)

長門「これは少しだけさっきの賢いハンスに似ている」

キョン「なんでだ?」


92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 19:43:09.57 ID:JcyxO4dJ0
長門「回答者自身は事象を全く理解していないのに、周囲の人間は結果だけをみて「理解」していると思い込む点」

みくる「……!」

みくる「賢いキョンくんですね!」

キョン「あ、朝比奈さん」

長門「結果だけをみると痛い目をみる」

古泉「ちなみに反論もあります」

キョン「古泉、生きていたのか」

古泉「そもそもこれはコンピュータと同じなのです」

みくる「なんでですか?」

古泉「密室をコンピュータ、あなたはCPUです。長門さんの書いたマニュアル(プログラム)によって送られてきた命令をせっせとこなすわけですから」

キョン「なるほどな」

古泉「コンピュータもあなたと同じように、入ってきた紙をマニュアル通りに返しているだけなのです」


93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 19:52:28.66 ID:JcyxO4dJ0

古泉「そしてこの実験の難しいところは「理解」をどの時点でしていると認めるかというところです」

長門「彼は私のマニュアル通りに働いているだけ、理解しているとは言い切れ無い」バチバチ

古泉「そうでしょうか? 人間の知能が説明できないんですから、宇宙言語の部屋も中身はどうあれやりとり出来ている時点で理解出来ていると言っていいのでは?」バチバチ

長門「……」ムムム

古泉「……」フフフ

長門「あなたは人間の知能が説明できないといった」

古泉「ええ」

長門「でも言語を介さなければ人間の知能の説明など実に容易」

長門「ちゃんちゃらおかしい」

ゴゴッッゴゴゴゴッゴゴゴッゴゴゴゴ!!!!!!!



96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 19:59:01.50 ID:JcyxO4dJ0

キョン「だーっ! やめろ! なんか絶対出しちゃいけないものだしてる!」

みくる「時空に裂け目が……」ヒイ

長門「……アナタが言うなら」

スッ

シューーーー!

キョン「ふうー……あぶねえ!」

みくる「時空断裂が……」アワワ

キョン「ほら、仲直りしろ」

長門「調子に乗りすぎた、ごめんなさい」

古泉「いえ、こちらも知識をひけらかし過ぎました。申し訳ありません……」

キョン「よしよし」



99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 20:08:52.18 ID:JcyxO4dJ0

キョン「それにしてもハルヒのやつおせえな」

みくる「そうですねぇ。何か連絡ありましたかぁ?」

キョン「いえ忙しいから邪魔すんなって感じですよ。全く、人の遅刻は理由があっても死刑死刑言うくせに困ったもんですよ」

シトシトシト

サーーー


キョン「ん? あー、やっぱり降り始めたか」

みくる「キョンくん傘持ってきた?」

キョン「どうだったかな……」ゴソゴソ

キョン「あ、今日に限って折りたたみ忘れちまった」

キョン「まいったなあ……」

みくる「一緒に入りますかぁ?」

キョン「いえ、どうせあの鬼団長にバレたらろくな事になりませんから。今日は走って帰りますよ」

134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/04(月) 01:37:57.97 ID:gYbWFWDw0 [1/21]

古泉「長門さん、質問よろしいですか」

長門「なに?」ペラペラ

古泉「長門さんは各時代に、というか同期することによってどのタイミングの「自分」にでもなれるんですよね?」

長門「だいたいあってる」ペラペラ

古泉「ふむ、ではその同期というのはどこまでされるんですか? つまり記憶のみであるのか、性格その他諸々意識の部分まで同期しているのか」

長門「前は全部してた」

古泉「ほう」

長門「でも今はしてない」

古泉「それはどういった訳で?」

長門「めんどい」

古泉「……」

長門「のもあるけど」

長門「私の心は私のもの」

長門「私は私であって、どの私とも違う」


137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/04(月) 01:47:40.84 ID:gYbWFWDw0 [2/21]
古泉「アイデンティティー、ですか」

長門「そう」

古泉「自己同一性とも言い換えられますが、長門さん。貴女の同期と呼ばれるその作業、哲学的には非常に多くの疑問点を孕んでいる」

長門「あなた方から見ればそうだと思う」

長門「脳と言う狭い狭いキャパシティのキャンパスの中からさらに少ない言語に置き換えて、自分以外の個体に説明すること」

古泉「ええ」

長門「情報統合思念体でも難しいこと」

長門「でも非常にユニーク。少ない手持ちの中から道具を選び、創意工夫によって問題解決を引き出そうとすることを私はとても面白い事だとあなたたちに会って気付かされた」

古泉「ふふ、もしかしたらそんなところも人間らしいと言えるのかもしれませんね。

みくる「お茶のおかわりです」

古泉「どうも」

長門「ありがとう」

古泉「朝比奈さん」

みくる「はい、どうかしましたか」

古泉「突然ですが雨の日に起こったこんなお話をご存知ですか?」


138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/04(月) 01:57:27.08 ID:gYbWFWDw0 [3/21]

「わー! 酷い雨にょろ! 参ったなぁー」

ある女の子が学校帰りにちょうど大雨に当たってしまいました。近くで真っ黒な雷雲がもくもくと留まり、雷鳴が響いています。

「うーん、車を呼んでもいいんだけど。こんなことで一々呼んだら申し訳無いっさーね」

不運なことに彼女がそう言って軒下から走り出した瞬間、雷は彼女の脳天から足の指先までを通り過ぎてしまいました。

ズドーン!ズドーン!

「に"ょろろろろろろ!!!」

残念ながら彼女は即死でした。しかし彼女の前にもう一つ雷が落ちたことで幸か不幸か、偶然にも道路の水たまりは化学反応を起こし、死んでしまった彼女と「全く同一形状」の生成物を生み出してしまいました。

「さあさあ、早く帰んないとびしょ濡れになっちゃうよー」

そんなことを言いながらソレは何事も無かったかのように水たまりを後にし、家に帰って行きます。そして彼女の部屋で友人と電話し、本の続きを読み、眠りにつきます。気づく人は誰もいません。
何故ならば、落雷前の彼女とソレは原子一つ一つのレベルで同一であり、同じ姿で同じ声を喋り、同じ考え方をします。脳みそも同じですから記憶も同じです。



142 名前:>>141知ってるしおまけにブクマに入ってる[] 投稿日:2010/10/04(月) 02:06:59.15 ID:gYbWFWDw0 [4/21]

古泉「と、いかがでしょう? 僕のつくり話は」

みくる「ななななんで鶴屋さんなんですかぁぁ!? こわいですよぅ!」

古泉「失礼。ちなみこの話の元になったお話しをスワンプマン(沼男)と言います。まあ今回の場合、さながらパドルガール(水溜り少女)と言った所でしょうかね」

みくる「うううー」

キョン「おい古泉! 朝比奈さんを怖がらすな」

古泉「とんでもない。そんな他意はございませんよ」

古泉「しかし確かに女性に聞くのは酷かもしれない。あなたはどう思いますか」

キョン「どうって?」

古泉「鶴屋さんとパドルガールのアイデンティティにズレは生じないと思いますか?」

キョン「アイデンティティ? 云々は俺にはよくわからん」

古泉「ふむ」


146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/04(月) 02:17:39.28 ID:gYbWFWDw0 [5/21]

キョン「だが俺はそのパドルガールって言うのと鶴屋さんは違う生き物だと思う」

古泉「そのこころは?」

キョン「俺の言う鶴屋さんはこれまで一緒に映画を撮ったり野球をしたりフリマに行ったりした鶴屋さんだ。見た目は同じかもしれないが……」

古泉「記憶も一緒ですよ。それどころか彼女には僕たちと一緒に遊んだ、構造上同じ肉体を持っている。それでも彼女を「鶴屋さん」とは呼べませんか?」

キョン「……違うんだよ。うまく説明できないが」

古泉「まあ簡単には言えないでしょう。しかし、しかしです。世界中の人間すべてがパドルガールなった場合どうでしょう」

キョン「そんなの詭弁だろ」

古泉「いいえ、決して詭弁ではありません」キッパリ

キョン「して、そのこころは?」

古泉「涼宮さんがいるからです」

キョン「答になってねーよ」


149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/04(月) 02:25:14.43 ID:gYbWFWDw0 [6/21]
古泉「僕が以前話した世界五分前仮説、というのを憶えていらっしゃいますか?」

キョン「あーあのマトリックスみたいな話か」

古泉「うーん、近いですがマトリックスはどちらかと言えばシュミレーテッドリアリティやタンクの中の脳と呼ばれる認知科学の方でしょうかね。そんなにきれいに区別されてるわけでもないんですが」

キョン「で、なにが違うんだよ」

古泉「五分前仮説の方は「認識論」でしょうね。長くなるので認知と認識の違いは省きますが」

キョン「何が違うんだ?」

古泉「それはもうその話だけでお腹がいっぱいになるくらいですよ」ニコ

みくる「あのぉ、その世界五分前仮説でどんなお話なんですか?」

古泉「逆質問になって申し訳ありませんが、朝比奈さん。あなたは「世界が五分前にできた」という命題の矛盾を証明できますか?」

みくる「え、えええ!? む無理ですよぉそんな難しいの!」

古泉「はい、僕も無理です。……長門さんなら可能かもしれませんが、そこは除きましょう」



150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/04(月) 02:39:01.07 ID:gYbWFWDw0 [7/21]

キョン「しかしだな、俺たちは記憶があるだろ。連続した……あ」

古泉「お気づきですか」

キョン「なるほどな。それでさっきの世界中の人間すべてがパドルガールになったら、か」

みくる「え?」

キョン「つまり、「連続した記憶」を拠り所にしたんじゃ俺達は自己のアイデンティティを保つことは出来ないんですよ」

みくる「ん?」

キョン「さっきのパドルガールの話を思い出してください。パドルガールでは鶴屋さんはそれまで自分が生まれてからの「連続した記憶」を引き継いだまま、雷によって生れました」

キョン「この話時点で俺達は恐らく鶴屋さんを見抜くことは出来ない」

キョン「ですが今度の世界五分前仮説では世界中、いや、宇宙そのものが空中に突然現れるように生まれたらどうなるか。しかも全員が「連続した記憶」を持ったままです」


151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/04(月) 02:48:09.77 ID:gYbWFWDw0 [8/21]

みくる「そんなの……」

古泉「ええ、宇宙の中に生きている限りこの命題を否定することはできないんです」

キョン「木は年輪を持ったまま生まれる。でもこの結果に対する原因を「連続した記憶」に紐づいて証明することはできない」

古泉「そのとおりです」

古泉「ですからヒトという生き物は「連続した記憶」を拠り所に自分のアイデンティティを保っている以上は」

キョン「この世界五分前仮説を肯定も否定もすることは出来ない、というわけですよ」

みくる「ふぇぇ……なんかよくわかんないケドすごいです!」

キョン「いやあ、ははは」

古泉「んふっ」


153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/04(月) 03:02:37.71 ID:gYbWFWDw0 [9/21]

古泉「それで……」

キョン「お前が言いたいのはこれだろ」

キョン「涼宮ハルヒはこれを可能と言い切れる能力を持っている」

古泉「彼女は無から有を生み出すことが出来る」

長門「……」

キョン「ビッグバンかあいつは」

古泉「ええ。NOと言い切れません。というか去年なんか二度も起こってますからね」

キョン「5月と12月か」

古泉「5月のときは本当にいつ五分前仮説の状態に陥ってもおかしくなかった」

キョン「12月も……」

古泉「貴方の記憶と長門さんのキーがなければ僕らは改変に気づくこともできなかった」

長門「……」ガックリ



154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/04(月) 03:10:31.11 ID:gYbWFWDw0 [10/21]

キョン「あー違う違う。長門を責めてるんじゃない」

古泉「僕が言いたいのは、人間のアイデンティティの脆弱性ですよ」

古泉「涼宮さんという存在の無意識一つで、僕らが僕らである理由も必然性もたちどころに無くなってしまう」

古泉「困ったものです」

キョン「しかしなあ……こう考えてみるとアイツだけは宇宙の外で生きてるようなもんだよなあ。あながち神様ってのも否定出来ない」

古泉「ふふ、僕がこんなこというのも問題かもしれませんが」

古泉「所詮僕らなんて涼宮さんのみている夢のなかの一つのお話でしかないのかもしれません」

キョン「さらっと恐ろしいことをいうな」

古泉「蝶の夢という荘子の有名な説話ですよ」


156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/04(月) 03:24:20.30 ID:gYbWFWDw0 [11/21]

古泉「自分が夢のなかで蝶になったのか、自分は本当は蝶で人間になった夢を見ているのか、私には分からない」

キョン「……」

古泉「大丈夫ですよ。本当に彼女が神であるなら神自身がその箱庭には入ったりしません」

古泉「まあ、お転婆な神様ですからみんなと遊びたい! と箱庭に下りてきたことも否定出来ないですが」

キョン「まるで暴れ馬だ。賢いハンスを見習って欲しいね」

古泉「ふふ、僕らの前にいるうちは彼女は等身大の17歳の女子高生です」

古泉「少し変わった」

キョン「少しぃ?」

古泉「はたまた」

古泉「実は今まで挙げてきた例え話が全て現実に起こっていたりして……」

みくる「ひぃぃぃ!」

キョン「やれやれ」ズズズ



157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/04(月) 03:34:46.03 ID:gYbWFWDw0 [12/21]

古泉「実を言うと」フウ

古泉「本当は長門さんにもっと色々聞きたかったんですが」

長門「なに?」

古泉「テセウスの船や、そうですね、倫理問題なんかも論じてみたかったです」

長門「今度うちに来るといい」

古泉「んふ、またの機会を楽しみにしていますよ」

キョン「古泉。変なことしたら許さんぞ」

古泉「思念体の前でそんなおそれ多いことは」クスリ

長門「……」オナカスイタ



バッコーン!

ハルヒ「おっくれったわーーーー!」

みくる「わあっ!」ビクーン

キョン「おいハルヒ! いい加減ドアを手で開けることを覚えろ!」



158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/04(月) 03:43:07.63 ID:gYbWFWDw0 [13/21]

ハルヒ「うっさいわねー! あ、キョンあんたメールで舐めた口きいたからコレ、かぶんなさい」

カポッ

キョン「なんだこの貧乏臭い装飾のついたヘルメットは」

ハルヒ「なんでもバーチャリアリティ体験装置だそうよ。科研からの献上よ」

キョン「お前絶対強盗してきただろ」

ハルヒ「ばか。話し合いによる穏便な取引よ。あ、みくるちゃんお茶!」

みくる「はぁーい」

キョン「で、なんで俺がこんなもんをかぶらにゃいかんのだ」

ハルヒ「なら死刑と選ばせてやるわ!」

キョン「やれやれ」

古泉「んふ、いいじゃないですか。本当に体験できたら人類初ですよ」

長門「……」カレータベタイ

キョン「……古泉」グイ

古泉「なにか」



159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/04(月) 03:47:14.76 ID:gYbWFWDw0 [14/21]

キョン「アイツが願えばマジで俺はマトリックス状態だぞ」

古泉「冗談ですよ」

ハルヒ「アンタたちなにコソコソしてんのよ」

みくる「お茶ですー」

ハルヒ「あ、みくるちゃんありがと! ん?」ペラ

------------------------------

し も 
 つ ん

涼宮
     ハルヒ
     の
  好きな
       ひとは
      誰ですか?
------------------------------





160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/04(月) 03:57:33.67 ID:gYbWFWDw0 [15/21]

ハルヒ「なによコレ」

ヒラッ

キョン「げ」

古泉「む」

みくる「わ」

長門「……」

ハルヒ「えーと、なになに。質問。涼宮ハルヒの好きな人はだれですか……?」

ハルヒ「ふふん……! 面白いじゃない」

ハルヒ「なになに。知らん……これアンタでしょ、キョン」

キョン「正解だ」

ハルヒ「もう一枚は……!」ボッ

キョン「おい、なんでアイツ突然赤くなったんだよ」

古泉「さて、何故でしょうね。思い当たるふしがあるんじゃないでしょうか」


161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/04(月) 04:08:19.98 ID:gYbWFWDw0 [16/21]

古泉「しかしこれで涼宮さんに赤がどんな色か聞かれても答えられるじゃないですか」

キョン「なんでだよ」

古泉「わかりませんか?」

キョン「わからんね」

古泉「……赤色は恋の色ですよってね」

キョン「……」

古泉「……」ポッ

キョン「……恥ずかしくないか、古泉」

古泉「ええ、少々」

ハルヒ「きょ、キョン! あんたこの紙見た!?」

キョン「あん? 見てないぞ」

ハルヒ「よかった!」

キョン「なんだお前の好きな人、当たってたのか。どれ見せて……」

ハルヒ「わーーーーー! やめろ!」バタバタ



163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/04(月) 04:14:00.20 ID:gYbWFWDw0 [17/21]

キョン「いいじゃねえか。減るもんじゃなし」

ハルヒ「やめなさーーい!! もうこうなったら!」

ビリビリ

パクッ

モグモグ

キョン「うわ! 食いやがった! 山羊かお前は!」

ハルヒ「めー!!」モシャモシャ

キョン「どんだけだよ……」

ハルヒ「ふん! コレで答えは腹の中よ」

キョン「全く、腹壊しても知らんぞ」

ハルヒ「ウルサイワネ!」

キョン「ギャーギャー」



164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/04(月) 04:27:54.99 ID:gYbWFWDw0 [18/21]

古泉「彼と涼宮さんは今何を考えているんでしょうかね」ズズズ

長門「分からない。分かってはつまらないと思う」ズズズ

古泉「おや、知ろうと思えば長門さんなら知れるでしょう?」

みくる「それはいじわるな質問ですよう」ポリポリ

古泉「失礼しました」ペコリ

長門「相手の顔や声、表情から感情を読み取り理解することを以前までは無駄なプロセスだと考えていた」

長門「でも今は違う」

古泉「……」

みくる「長門さん」

長門「私という個体がここにいる皆のこともっと深く知りたいと思った」

長門「それは……紛れもない「私」の感情だから」

長門「これを私のアイデンティティの拠り所にしようと思う」

長門「ちゃんと忘れないように」





165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/04(月) 04:37:17.96 ID:gYbWFWDw0 [19/21]







                     おわり


パチパチパチパチパチパチパチ

ウィーーーーーーーーン






バツン!

169 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/04(月) 04:44:03.11 ID:gYbWFWDw0 [20/21]

「いかがでしたでしょうか。
今回の劇も観客の皆さんを楽しませられたでしょうかね?
ちなみに古泉くんは箱庭の中に神がいると言いましたが、それは間違いです。
確かに宇宙の外に神様はいます。涼宮ハルヒさんではなく、ちゃんとした神が。


そう、私やあなた方観客のことです。


メタ化された世界では一つ下の世界は決して認識できません。
二次元が三次元を認識できないように。
だとすると、少し怖くありませんか?

自分もまた一つの物語のキャラクターに過ぎないかもしれない、と。

冗談ですよ。僕らの上には神様なんていません」



171 名前:睡眠不足 ◆Uq2i1ARauU [] 投稿日:2010/10/04(月) 04:52:13.94 ID:gYbWFWDw0 [21/21]
はいはい終りおわりwww

途中で俺は自分がゲシュタルト崩壊して死にそうでした

次はもっとおっぱいがたくさんでる簡単でちょっとエッチなラブコメがかきたいです

もうアイデンティティはいやだ……



コメント

こういう系統の話けっこう好きだわ

No title

色の認識の話は昔適当に物事考えてたら辿り着いたな・・・
その結果生み出された他人の色覚の推測図が怖すぎてやめたけど

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