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律「きんたま」

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 18:28:58.04 ID:SZuLUGFWO [1/45]

「ワシの金玉はなァ、魔法の玉なんじゃよ」

 幼い私に向けて、公園でたそがれていた老爺は言った。

「へぇー、どんな魔法だ?」

「男は女に、女は男になるんじゃ」

 冗談をいっている風でもなく、

 私は一風変わったファンタジーを読むつもりで老爺の話を聞いていた。


「不思議だな、そりゃ」

「だからこそ魔法であるともいえる」

「ふぅむ。……な、じいさん。やってみせてくれよ」

「それはイカン」

 私は得意の輝いた目をして老爺を見上げたが、彼は首を横に振った。

「なんせ金玉じゃ。2つしかない」

「えっ、いっぺん使ったらなくなっちまうのか?」 


2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 18:33:15.54 ID:SZuLUGFWO

 彼は神妙な顔で頷く。

「そうじゃ。魔法はな、こうして右の手でギュッと握りしめて」

「こう?」

 私は握った手を見せた。

「もっとグッと、潰れるまでじゃ。それで初めて効果がでる」

「むぐぐ……」

 全身全霊を込めて右手をきつく握りしめるが、老爺は不満げな表情を浮かべた。

「まァ、まだ無理じゃろう……」

「そんなぁ」

 老爺は力尽きてへたりこんだ私を見おろすと、無言で自らの金玉をもぎ取る。

 そして私の腕をとると、そっと手のひらに零した。

「どの道、ワシにはもう要らん。嬢ちゃんに預けとくよ」


4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 18:36:10.08 ID:SZuLUGFWO

「……いいのか?」

 私は左手に載せられた一双の金玉を見やり、訊く。

「かまわんよ。いずれ必要になったときのために、大事にとっておきなさい」

「ありがとう、じいさん!」

 軽く手を振ると、私は両手で大切に金玉を抱えて家に戻った。

 私は7歳、夏の終わりかけのころだった。

――――

律(……そして、今)

律(長き封印から解き放たれ、その金玉が押し入れの奥から出てきた)

律「……」

律(いや、まぁね)

律(封印もクソも忘れてただけなんだけどさ)

律(……なに、これ?)コロ…


5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 18:40:08.83 ID:SZuLUGFWO

律(きんたま?)

律(確かにあのじいさんの股の辺りから出てきたような気はするが……)

律「……」

律(右手で握りつぶせ、って言ってたよな)

律(とりあえず一個だけやってみっか)コト

律「ふんっ!」グチュ

律(……)

律(……うわ)

律(なんだろ、すげぇ死にたい)

律(なんも起きないし……手洗いにいこ)

 トン トン

律(はー)ジャバー

律「……あれっ」


6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 18:43:12.86 ID:SZuLUGFWO

律(……手が、なんかごつい?)

律(……まて、まてよ)ドキドキ

律(鏡を見るのが怖い……)

律「……」フー

律「私は女の子っ!!」バッ

律「……」

律(……どう、かな?)

律(女の子に見えなくもない、けど)

律(……けど、やっぱ体つきが)ペタペタ

律(……ブラがきつい)ゴソゴソ

 プチ

律(はあ……)

律(ブラもつけないで、完全に男の体だ……)


9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 18:46:36.69 ID:SZuLUGFWO

律(そういえばっ)バッ

律(……)

律(……ついてやがる)

律(しかし、どうすっかな)

律(どうもナヨナヨした体格してるっぽいから、なんとか隠し通せるか)

律「……」

律(あっ、そうじゃん。もう一個金玉潰せばいいんだ)

 トットットッ…

律(さーて、と……あったあった)スッ

 ニギッ

律(……待てよ)

律(うん。うん)

律(……そうだよ。めったにない機会だ。利用しない手はない)


10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 18:50:42.06 ID:SZuLUGFWO

――――

 翌朝

澪「おはよう、律」

澪「……どうしたんだ?」

律「いや、制服汚れちゃって……」

澪「声もちょっと変だな。……川に飛び込んだ?」

律「ちがわいっ! まぁさっさと学校行こうぜ。遅れるぞ」ダッ

澪「……あ、あぁ」タタッ

 タッタッタッ…

澪「ちょ、律……速いって!」

律「へ?」ピタ

律(……もしかして、男になったから足も速くなったのかな)

律(……)


11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 18:53:40.01 ID:SZuLUGFWO

澪「ハァ、ハァ……」

澪「そんなに、急がなくても……大丈夫だろ?」ゼエゼエ

律「……ん」スッ

澪「はぁ……?」

律「手、とれよ。私ぜんぜん余裕だからさ」

澪「……うん」パシ

律「いくぞー!」タタッ

律(すげぇ体が軽い! めちゃくちゃ走れるぞ!)

澪「り、りつっ!!」

律「なんだよー、澪ー?」

澪「そん、なに……急ぐなって!」

律「ちぇー」スタ


13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 18:56:06.03 ID:SZuLUGFWO

澪「風邪気味なんだろ? あんまり無茶するなって」

律(風邪気味? あぁ、声のことか)

律「ま、そうだな。おとなしくするよ」

律(さすがに男だってバレるのはまずいしな)

律(念のため金玉は持っておいてあるけど、なるべく使いたくはない)

律(目的を果たすまでは……)

澪「おい、律?」

律「んぁ?」

澪「今度はおとなしくなりすぎだ」

律「じゃあ走るか?」

澪「……わかったよ。ゆっくり行こう」

律「ん」ニカッ

澪「……はぁ」


14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 18:59:24.40 ID:SZuLUGFWO

律(澪も多少なり私の変化に気付いてるみたいだな)

律(ちょっとやりすぎたきらいもあるけど……ま、こんなところか)

律(この感じでさりげなーく)

澪「律。信号赤だぞ」グイッ

律「ああっ、わりい」トト

律(……あれ、あんまりカッコつけれてない?)

律(イケメンりっちゃ……律となって骨抜きにしてやろうと思ったのに)

律(想像以上にイケメンって難しいのかもしれん……)

澪「……」

 ブロロォ…

律「……なぁ、澪」

澪「うん?」

律「澪って……どんな感じの男が好きなんだ?」


16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 19:03:37.55 ID:SZuLUGFWO

澪「……」

澪「男……?」

 ブロロォ…

律「うん。どんなのがタイプ?」

澪「いや、その……ちょっと」

澪「律、ほんとに大丈夫か? 休んだ方が良いぞ?」

律「……はい?」

律「そんなに顔色とか悪いのか? 私」

澪「そうじゃなくって……律、男を……好きって?」

律「……」

澪「その、おかしいとは言わないけど……」

澪「ちょっと、ゴメン。私は……」

律「……」


18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 19:06:45.36 ID:SZuLUGFWO

律(なにこの反応)

澪「私、先行くよ」タッタッ…

律(……避けられた?)

律(えっと。どうなってるんだ?)

律(澪的には……女が男を好くのは『ちょっとゴメン』なわけ?)

律(それって、つまり……)

律(いや、違うよな。澪はウブだから……だよな)

律(落ち着け、落ち着けぇ、私)

律「……いよっし」

 テクテク…

律(……同性愛、か)

律(他人事じゃなかったけど、意外と身近にもあるもんなんだな)

律「……」フッ


19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 19:10:17.17 ID:SZuLUGFWO

 2年教室

律「オハチーッス」

唯「チョップリーッス」

紬「おはよう、りっちゃん」

唯「ねぇねぇねぇねぇ、なんで今日ジャージなの?」

律「ん、ちょっと制服汚れちまってな」

律「いまクリーニング中だ」

紬「そうなの? 先生に怒られないか心配ね」

唯「それよか、りっちゃん声変じゃない?」

律「澪にも言われた。風邪気味なのかもなぁ」

唯「休んだ方が良くない?」

律「いや、大丈夫だって。自覚症状ないし」

唯「……そっか。ならしょうがないね」


21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 19:13:24.57 ID:SZuLUGFWO

紬「それはそれにしても……りっちゃん、なんか今日は違うわね」

律「そ、そうか?」ギク

紬「えぇ。なんだか男らしい感じがするわ」

律「おいコラ。流石に失礼じゃありませんこと?」

紬「あら、そうだったわね。ごめんなさい」

律「ったくもー」

 キーンコーン カーンコーン

唯「じゃ、また後でねー」

律「おーう」

 ガタガタ… ガタ

律(うわー)

律(自分じゃ大して変化ないと思ってたけど、人から見たらやっぱ分かるのか)

律(まずいなぁ……放課後まで誤魔化し切れるか?)


22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 19:17:31.87 ID:SZuLUGFWO

律(いや。なにも放課後に引き延ばす必要はない)

律(昼休みまでバレなければ、あとは金玉を潰して元に戻ればいいんだ)

律(……戻ることになるかは分からないけど)

律(……寝るか)ドサッ

律(うわ、なんだこの感触……)

律(男の体って寝心地わるいわ……)

律「……」

律「ふしゅぅぅ……」

――――

律(……ん)パチ

律(3限も終わったか。楽な授業ばっかで助かるぜ)

律(さてと。メールを用意しとくか)


23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 19:20:05.17 ID:SZuLUGFWO

律(昼休み、一人で私のとこに来て)カチカチ

律(唯だけに見せたいものがある。と)カチカチ

律(これを授業開始の寸前に送る)

律(……今だっ)ポチッ

律(そして)

律「すいません、先生。すこし具合が悪いので保健室行ってもいいですか?」

――――

 保健室

律(……流石にもう眠くないな)

律(さっきまで寝てたからか、緊張してるのか)

律(そのどっちも……か?)

律「……」フゥ

律(今まで、女同士だからってずっと諦めてた)

律(けど、この体なら……)


24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 19:23:08.51 ID:SZuLUGFWO

律(周りにバレちゃいけないのは今までと変わらない)

律(でも、せめて本人には……これで伝えられる)

律(それから、付き合うことだって)

律(それからそれから……エッチなことも)

律(それからそれからそれから、結婚だって……)

律(……付き合う前から考えすぎか)

律(唯が私を好きだって保証は、ひとつだって無いもんな)

律「……」

律(1時間が……長い)

 ガチャ

唯『すいませーん』

律(ゆ、ゆいっ!?)

律(まま、待てまだ心の準備がっ)


25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 19:26:26.40 ID:SZuLUGFWO

唯『ハイ、ありがとうございます』

律「……」ドキドキドキ

 シャッ

唯「りっちゃん、お見舞いにきたよ」

律「……授業中だろ」

唯「ふっふぅ」

律「まったく。で、なんだ……見に、きたのか?」

唯「まぁ見にきたと言いますか確かめにきたといいますか」

唯「……昼休みの間より、人のいない授業中の方がいいかと思ってね」

律「確かにそうだなぁ。誰かに見られたらマズいものでもある」

律「それから、聞かれちゃマズい話でもある」

唯「だよね」

唯「そう思って、校医さんには外してもらってるよ」


26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 19:30:36.25 ID:SZuLUGFWO

律「……気が利く」

唯「それで、お話って?」

律「ああ、うん……いいか?」

唯「うん、いいよ」コクン

律(……こんなシチュエーションで、いいのかな)

律(ええいっ、迷うな田井中律! 行けぇ!)

律「実はその……私、な」

律「前からずっと、唯のことが好きだったんだ」

律「好きって、そんな簡単な意味じゃなくて」

唯「いいよ。分かってる」

律「あ……あぁ」

唯「……そうなんだ。りっちゃんがねぇ」

唯「……」


27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 19:34:10.34 ID:SZuLUGFWO

唯「それで?」

律「……へっ?」

唯「見せたいものは何?」

律(返事、なしかよ)

律「あぁ……ちょっと待っててくれ」ゴソゴソ

律(……うわ、なんだこの状況)

律(布団の中でアレ丸出しにして、普通に唯と顔合わせてる)
ムクッ

律(……この感覚。微妙に布団を持ち上げてる感じ)
ムクムク

律(これが世に言うボッキって奴か?)

唯「りっちゃん?」

律「あ、と、その」

律(まずいって。まずいって!)

律(今は見せらんないよ。こんなもんバッて見せたら私変態じゃんか!)


28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 19:37:06.97 ID:SZuLUGFWO

唯「なに? お布団の中にあるの?」バサッ

律(あっ)

唯「あぁっ」

律(ああああ)

律「ちちち違うっ、唯、これはそのっ」

唯「違う? 何が」

律「えっと……」

律(正直に言ってもごまかしても同じことか……)

律「違くない、けど……唯を襲おうってつもりじゃないんだ」

律「私が男になっちまったってことを教えたかっただけで」

唯「……」

唯「……どして?」


29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 19:40:18.01 ID:SZuLUGFWO

律「どうしてって」

律「私が男なら……その、性別の枠にとらわれずに付き合えるだろ?」

律「この体になったからこそ、私は……唯に告白したんだ」

唯「……」

唯「あのさ、りっちゃん」

律「……ん?」

律(唯、怒ってる……?)

唯「ちょっと失望したかな……りっちゃんがそんな風に考えてるだなんて」

律「へ……」

唯「性別の枠にとらわれずに付き合える?」

唯「そんなこと考えてる時点でもう、がんじがらめだよね」

律「……」


30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 19:43:06.11 ID:SZuLUGFWO

律「唯、私は……」

唯「もう何にも言わないで」

唯「こんな卑屈なりっちゃん、見たくなかった……」

律「……」

唯「男の子にならなきゃ、好きな女の子に告白することもできないで」

唯「今のりっちゃんとは付き合いたくない」

唯「ちっとも頼りがいがないもん」

律「……そっか」

唯「……じゃあね、私授業に戻るから。ゆっくり休んでね」

唯「あと……男の子になったこと隠してたつもりなんだろうけど」

唯「はっきり言ってバレバレだよ。しっかりしないと、皆にバレちゃうよ?」

律「う……わかった。サンキュ」

 シャッ


31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 19:46:22.44 ID:SZuLUGFWO

律(いつのまにか萎びれてる)ハキハキ

律「……」

律(告白……失敗したのか?)

律(なにが、いけなかった)

律(私が卑屈……? 確かに否定はできないけど……)

律(でも、それが普通じゃないのかよ)

律(男と女で付き合って、セックスして結婚して子供作って)

律(女同士じゃできないことだろ……?)

律「……」グス

律(なんだよ。なんで、涙が……)

律「う……」ボフッ

 ドン ドンッ

律「くそぉ……!!」


32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 19:50:51.51 ID:SZuLUGFWO

――――

 キーンコーン カーンコーン…

律(……)

律(……)

律(元に戻るか……)

 ゴソッ

律「……」ニギ

律(でも、戻ってしまったら、二度と……)

律(……馬鹿が、それが卑屈だって言われたんだろっ!)ギュッ

 グチュ

律(これで……元通りだ)フキフキ

律(もう、ないよな?)バッ

律(……うん。体つきも角張ってない)


33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 19:53:46.40 ID:SZuLUGFWO

律「……」

律(良かったのか? これで)

律(……うあー、わっかんねぇ)

律(私はどうするのが正しかったんだろう)

 ゴロッ

律(金玉なんてもとよりなければ良かったのかな)

律(そしたら私は、女の子同士でも唯に告白できたのか?)

律「……」フッ

律(できっこねぇよ)

律(忘れてたんだから。金玉を持ってないのが、今までの状況だったんだから)

律(そんで、私は半ば諦めてたんだからさ)

律(……でも、よぉ)

律(そしたら、このせり上がってくる気持ちは何なんだ?)


34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 19:57:18.25 ID:SZuLUGFWO

律(諦めたくない……)

律(唯を諦められない)

律(昨日まで、こんな感情は微塵もなかったのに)

律(なんとしてでも、唯と付き合いたい)

律(……動こう)ギッ

律(女の体は重たい、けど)

律(どうしてか、さっきまでより動きやすい)

 シャッ

 「あら、もう平気なの?」

律「はい。それじゃ私、授業に戻りますんで」

 「……なんだか、いい顔になったわね?」

律「そうですか? ……ベッド、ありがとうございました」

 ガチャッ パタン


36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 20:00:25.55 ID:SZuLUGFWO

 テク テク

律(……なんだろうな)

律(昔、澪に読まされた本にそんな台詞があった気がする)

律(『好きって言ったら、もっと好きになった』……か)

律(けど、それとはちょっと違う気も……)

律(好きって気持ちよりも、私の心の中で膨張した気持ちってのは)

律(ぜったいにこの恋を諦めたくないって気持ち)

律(いろんなしがらみに負けたくないっていう闘争心だ)

律(私は一体……誰と戦ってんだろうな?)

律「……」テクテク

律(……さっきまでの私自身、とか)ガチャ

律「すいません、体調崩して保健室で休んでました」


37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 20:04:04.61 ID:SZuLUGFWO

――――

 放課後 音楽準備室

 ジャーン ドトドン!

澪「……うーん」

唯「うーん?」

紬「うん?」

梓「ハイ……」

澪「律。……どうやったらそんな大音量でドラムを叩けるんだ?」

律「溢れだすソウルだな」

澪「じゃあそれ少し抑えて次行ってみようか」

律「ぷー」

唯「りっちゃん、私は良い感じだと思うよ?」

律(おっ)ドキ


38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 20:07:22.51 ID:SZuLUGFWO

律「サ、サンキュ。でもちょっと抑えるよ」テレテレ

律(唯かぁわいいぃ)キュンキュン

梓「……律先輩? 次ですよ」

律「おぉ。スマンスマン」

 カン カンッカンッ

 チャーチャーチャーラ…

――――

唯「練習が終わったんじゃない。私たちで終わらせたんだ」

梓「たった10分で、ですね」ジトッ

唯「だってねぇ、疲れたでしょあずにゃん?」ガバッ

梓「唯先輩と一緒にしないでください!」グイィ

唯「あーうにゃーんー」ムギュギュ

澪「梓もやるようになったな」


39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 20:10:10.13 ID:SZuLUGFWO

紬「今日はケーキを持ってきたのよ」

 カパッ

唯「これは……」ムンッ

澪「ホールケーキか……一人あたり72度だな」

梓「こちとら人間なんですから、そんな精密に切れませんよ」

律「じゃあ、アレやるか」

澪「アレ?」

律「人間の欲望があからさまに出るあのゲームだよ」

紬「りっちゃん教えて!」キラキラ

律「あいよ。まずナイフで中心まで1回切る」ストン

律「で、ナイフを持ったままケーキを台ごとゆっくり回して」クルクル

律「んで、それぞれ好きな所でコールをかけて回転を止めたってください」


42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 20:13:11.40 ID:SZuLUGFWO

律「そしたら、このケーキを止めたところまでが、その人の取り分になる」

唯「駆け引きのあるチキンレースってわけだね……」

律「そういうわけだ。……やるか、皆?」

唯「イエス!」

紬「賛成でーす!」

澪「……ハイ、多数決だな」

梓「えぇ。ま、こうなった以上は大勝を収めてやるしかありませんね」

律「よーし、じゃあいくぞ?」

唯「おうっ!」

律「ミュージック・スタート!」

律「ぴ……ぴ、ぷぅ……ぴ」クルクル

梓「吹けない口笛はやめましょうよ……」

律「ぴゅぴ……ひ、ふ」クルクル


43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 20:16:04.94 ID:SZuLUGFWO

律「……るーるる、るるるるーるる……」

律(もう4分の1来たぞ……まだ誰も動かないのか)

律(きっと恐らく誰もが、ここまで来たら半分いただこうと思っているはず)

律(だが、そうもいかな)

紬「ストップっ!」ビシ

律「うわあああああっ!!」ストン

――――

紬「たっぷりねー♪」ドサッ

梓「二度とこの世の土を踏ませねぇ……」

律(狙ってたんだな、梓……)

律(だが、次にでかいケーキを頂くのはこの私!)

律「じゃあいくぞー」

律「るーるる、るるるるーるる、」クルクル


44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 20:20:16.02 ID:SZuLUGFWO

律「るーるーるーるーるーるる」

澪「そこっ!」

律「早っ!」ストン

唯「澪ちゃんずるいー!」

澪「堅実だと言ってくれないかな」

梓「チキン」

澪「いいよっ! どうせ臆病さ! だがおかげで最低限量は確保できたねっ!」

律「はーい次いきまっせー」

律「ひゅーるりー ひゅーるりーららぁー」クルクル

律(半分を超えたか……)

律(ここらで確保しないとマジでやばいことになる……)

唯「ねぇ、りっちゃん」

律「ん?」クルクル


46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 20:23:46.97 ID:SZuLUGFWO

梓「ストップですっ!」

唯「今日の部活終わったあと、ちょっと残ってくれる?」

律「えっ……あ、あぁ」

律「いいけど……その」クルクル

梓「ちょ、無視ですか!?」

唯「その、何?」

律「いや。いいのか?」

唯「何が……?」

律「ああぁ、いやっ、何でも。何でもないぞ?」

梓「ストップと言ってるのが聞こえないのか馬鹿律ぅ!!」

律「ハッ!?」ストン

律「……」

唯「あと10度くらいかな……」


48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 20:27:10.45 ID:SZuLUGFWO

――――

紬梓「うめー!」バクバク

澪「梓が泣きながら手づかみでケーキ食ってる画像下さい」パシャパシャ

律「……」

 ペラーン

律「……唯。ありがとう」

唯「りっちゃん……?」

律「唯のおかげで、私の分のケーキも立っていられるんだ」

唯「そんなこと言ったら、りっちゃんだって……」

律「そうかもな。私たち、支え合ってる……」スッ

唯「りっちゃん……」ギュ

紬「うめえええぇぇぇ」

澪「その横でムギが百合に悶えていたら最高です」パシャパシャ


49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 20:30:49.72 ID:SZuLUGFWO

――――

澪「じゃあ今日はここらへんにするか」

唯「よーし、終わり終わりー♪」ガサッ

律「はーっ。散々な目に遭った……」

澪「そういえば唯の話って、すぐ済むのか?」

唯「んーん。長引くと思う。だから先帰っちゃっていいよ」

梓「……そうですか。それじゃ、お先に失礼しますね」

紬「ばいばい、りっちゃん唯ちゃん」

律「おーう」

澪「また明日な」

 スタスタ パタン

律(……さて)

唯「……」


50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 20:33:41.51 ID:SZuLUGFWO

律「えっと。単刀直入に訊くけどさ、どうして私を残したんだ?」

唯「……座ろっか」

律「……」

 ガタ…

律(いつもの席に並んで座って)

律(唯は今、どんなことを考えてるんだ?)

唯「……」

律(横顔からはまったく分からない)

律(つーかこっち向けよ)

律「……」

唯「……ねぇ」

唯「りっちゃん。どうして女の子に戻ってるの?」


52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 20:37:14.63 ID:SZuLUGFWO

律「それは……」

律「最初は単に、もうダメだって諦めて、元に戻るアイテムを使ったんだ」

律「そいつはもう一個も残ってない」

唯「うん……」

律「で、なんか……元に戻った瞬間、これでいいのか? って思った」

律「そんでさ。そう思ったらすごく闘争心が湧いてきて」

律「これで終わってたまるかって気になってさ」

律「だから……私は、この女の体でも、唯を手に入れてやるって決めた」

律「幸せにしようって」

唯「……」

律「そのための障害とか、全部乗り越えてさ」

律「唯と幸せになろうって」


53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 20:40:14.91 ID:SZuLUGFWO

律「まぁ、こんなのは唯の気持ちも考えてない、私の勝手な妄想の暴走だけど」

律「少しでも、私や澪みたいのが生きやすい場所を得られたらって思う」

律「澪みたいな、傲慢なくらいの豪胆さで同性愛を主張できたらって思う」

唯「……」

律「……順番は逆になったけど。私はそう思って、女に戻った」

唯「りっちゃん」

律「……」

唯「かるく韻を踏んでる所に、イラッときたよ」

律「……」

唯「でも、それ以外は満点だね」

律「そう、か?」

唯「……」コクン


54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 20:43:12.19 ID:SZuLUGFWO

律(なんか、やっぱり)

律(唯って何考えてるか分からないよなぁ)

唯「……」

律(……でも、何故かそこに惹かれる。のかな)

律(なにも考えてないように見えて、実はちゃんと考えてて)

律(見せびらかさない強さってのがある)

唯「……りっちゃん? ちょっと、近いよ」

律「え……あ」

律「……」

律(なんだかこう、無意識に近付いていってしまって)

律(愛おしくなって抱きしめたくなって、キスしたくなって)

唯「あ……りっちゃん」

唯「待ってよ、私たちまだ……」


55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 20:47:14.08 ID:SZuLUGFWO

律「……」ギュウ

唯「あぁっ……」

律(普段やってる抱きつきとは違って)

律(恋人同士がするような深い抱擁)

唯「りっちゃん……」

律(夕日はとっぷり沈んだはずだけど)

律(ちょっとだけ顔が赤くなってる)

律「唯。好き」

唯「……うん。私もりっちゃんのこと好きだよ」

律(唯の腕が私の背中に回って、やわらかく、だんだんきつく、私を抱きしめる)

唯「ほんとはね。戻ってきたときのりっちゃんの顔を見て、分かってた」

唯「りっちゃんはもう大丈夫だなって」


56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 20:50:05.92 ID:SZuLUGFWO

律「……」

唯「でも、あんなふうに振っちゃったばかりだから……」

唯「しばらくりっちゃんに距離置かれちゃうような気がして」

唯「……だから今日、残ってもらったの」

律「最初の質問の答えだな?」

唯「うん。……」

律「……かわいい」ギュ

唯「りっちゃんだって……」

律「っ……」カアッ

律「今、すごいキュンてなったわ」

唯「りっちゃんかーわいい」ギュウ

律「うっさいな……」ギュウ


58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 20:53:21.32 ID:SZuLUGFWO

唯「……」ギュー

律「……」

律「なぁ、唯。私たちのことだけど」

唯「うん。まずは軽音部のみんなからだね」

律「……理解を強要する訳にはいかないけどさ、分かってもらうために頑張ろう」

律「これは、普通のことなんだって」

唯「……」ニコ

唯「それじゃ、帰ろっか」

律「あぁ。遅くまでいると怒られちまうしな」

 ガタ…

律「よいしょっと」

律(……カバンに差したドラムスティックって、なんか寄り添ってるみたいだな)


60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/10/03(日) 20:57:05.70 ID:SZuLUGFWO

唯「まだあんまし時間経ってないね」

律「そーだな。……よし、あいつら追いかけるか!」スッ

唯「いよっし、追跡だね!」ハッシ

律「走るぞー! 手離すなよ、唯!」タタッ

唯「おうおーう!!」ダタタ

律(私たちは手をつないだまま、階段を駆け降りた)

律(男と女とか、女同士とか、少なくとも私にとってはどうでもよくって)

律(ただ、唯が大好きなだけだった)

律(それを忘れちゃ、いけないよな?)キラッ☆

唯「ジャーンプ!!」ピョーン

律「……のわぁっ!?」ガクン


 おしまい

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