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とある暗部の心理掌握3

とある暗部の心理掌握

とある暗部の心理掌握2

197 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/22(日) 21:56:27.37 ID:HozPaPo0 [1/10]

10月某日、学園都市の闇の底


学園都市の裏舞台が大きく動いてから数日後。心理掌握はその日も最愛の人物に面会に来ていた。

いや、それが“面会”と言えるのかは分からないが。


「やっほー、帝督。今日の気分は?」


返事は無い。心理掌握もそれを期待していなかった。

なぜなら面会相手には口が無かったからだ。

いや、それどころか顔も、手も、体のほとんどがすでにない。

わずかに残る胴体には巨大な機械が取りつけられ、首から上は何本ものコードが伸びている。

そしてそのコードの先には、謎の液体が入った不気味な3つの容器が存在していた。

その液体は特殊な保存液で、中には分割された脳みそがユラユラと浮いている。

まともな人間なら、吐き気を感じるような光景だ。

学園都市第1位『一方通行』に虐殺された、第2位垣根帝督のこれが現在の姿である。


198 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/22(日) 21:57:24.90 ID:HozPaPo0

「ようやく今日になって、あの日の戦いの映像が届いたの」

「すでに3回ほど見たけど…また後で部屋でゆっくり見る予定よ」

「帝督が…負ける光景なんて…滅多に見られないしねー」


徐々に声が震えてくる心理掌握。この場所では、彼女は自分を偽る事は無い。


「またここに居たんですか。超探しました」


2人きりの空間に、第3者の声が聞こえてきたので思わず心理掌握は不機嫌になった。


「今日はお休みなのに…何か用なの?…絹旗」

「超睨まないで下さい。クソったれの『仕事』が超再開されるみたいです」

「…そう。思ったより早かったわね」


199 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/22(日) 21:58:29.06 ID:HozPaPo0

「なにせアイテム、スクール、ブロック、メンバーとどれも超壊滅しましたからね」

「上の方もそろそろ手が回らなくなってきたのかな?」

「そういうことでしょう。実際の仕事はもう少し先になりますが、たぶんあなたにも今日あたり超連絡が来るはずです」

「うん、教えてくれてありがとー」

「…今日も超こもりっきりですか…?」

「ううん。ようやく映像も届いたし、もう部屋に戻るよ」

「ああ、超頼んでいた第1位との戦闘映像ですか。見てどうするんです?」

「決まってるじゃない。…もう一度、帝督に抱き締めてもらう方法を見つけるのよ」

「だっ!?…超恥ずかしくないんですか!?」

「全然。あの日あれだけ恥かいたからね。この程度は大したことないじゃない?」


200 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/22(日) 21:59:45.94 ID:HozPaPo0

あの日――緊急報告メールをもらった心理掌握は、我を忘れて取り乱した。

どうやって帰ったか分からないまま常盤台の自室へ戻ると、待っていた絹旗とフレンダの前で…


「ああ。確かにあれは超恥ずかしかったですね」

「誰にも言わないでよ?…私が大泣きしたなんて」


まるで幼児のようにエーンエーンと文字通り泣きだした。

訳も分からず慰める2人に対し、心理掌握は「ていとくー」と暴れてメチャクチャ迷惑をかけた。

おまけに絹旗が止めなければ、もう少しで能力が暴走するところであった。

そんなこんなで、2人にはすっかり恋心も情けない顔も知られた後なのである。


「後が怖いし、超言いませんよ。…じゃあ、私は先に戻ります」

「うん。心配かけてごめん」

「…私はあなたの護衛ですから、それぐらい超当たり前です」


そして絹旗が後にしたこの場所を、心理掌握もゆっくり出て行った。


「じゃあ、また来るね帝督」


201 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/22(日) 22:01:05.63 ID:HozPaPo0

常盤台中学学生寮(学舎の園)、心理掌握の部屋


心理掌握が部屋に戻ると、そこにはフレンダがいてベッドで寝ころんでいた。


「お帰りー」

「ただいま。随分くつろいでるようだけど、見つかったら困るのは理解してる?」

「ふふん。結局そんな心配は杞憂なわけよ!元々この部屋は特別扱いで滅多に見回りも来ないしね」

「なら良いけどさー。…絹旗は?先に戻ってきたかと思ったけど?」

「学舎の園で映画鑑賞するって言ってたよ」

「…昨日も行ってなかった?」

「あー、なんか明日は仕事で外国に行くから、その前にいっぱい見ておくんです!って張り切ってた」

「うわー可哀想。相変わらず上は人使いが荒いわね」


堂々と寮に居るこのフレンダだが、女子高生であり、常盤台中学の生徒ではない。

護衛の絹旗のサポート役として、心理掌握が個人的に寮に置いているだけである。

なので寮監などに見つかると面倒なことになるのだが、流石に暗部に居た彼女は見つかるヘマをしていない。


202 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/22(日) 22:02:11.37 ID:HozPaPo0

「さて、フレンダも一緒に見る?」

「あ、出かける前も見てたあの時の映像?」

「そう」


そして心理掌握は、第1位と第2位の凄まじい死闘を目に焼き付ける。


「…」

「これ本当に能力な訳?黒い翼に白い翼って、結局伽話の世界なわけよ」

(そう、この2人の能力は、他の能力者とは明らかに性質が違う)

(第3位の御坂や4位の麦野、5位の私にしたってこんな芸当は不可能)

(それに第1位が翼を出してから、帝督の翼も明らかに変質している)

(『第1候補』と『第2候補』…これでは、スペアというよりもむしろ…)

(そう、同じコインの表と裏のよう。帝督は当事者だから、最後まで気がつかなかったみたいだけど)

(『1位』も『2位』も、アレイスターにとっては両方必要不可欠な存在だった?)

(だとすると、この状態でも帝督が回収されて生かされている説明が付く)

(アレイスターには帝督が、いや正確に言うと『未元物質』が必要不可欠である!)

(だったらそこを利用して、帝督を私のもとに取り戻す)

(その為に今私が調べなきゃいけないのは、『一方通行』と『未元物質』という超能力の秘密)

(あの『翼』は、一体どこから来たのかしらね?)


203 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/22(日) 22:03:30.42 ID:HozPaPo0

高速で思考をしている心理掌握だったが、突然の電話がそれを断ち切らせた。


「はい?」

『やー、心理定規ちゃんよね?』

「…」

『返事ぐらいしなさいよ、こいつときたらー!』


大きな声がフレンダにも届き、アイテムの指示役!?と驚きを露わにする。

それを見て、アイテムの指示役が自分に電話をかけてきた事を疑問に思った心理掌握は、さらに無言になる。

しかし相手はそれを気にすることなく話を続けてきた。


『単刀直入に言うわ、壊滅した組織の残存勢力集めて新チーム作るから、昔殺し合った連中同士で仲良くしてねー』

「本気で言ってるんですか」

『当たり前でしょー、こいつときたらー!』

「…うまくいくわけないでしょう」

『何言ってんの、あんたなら問題ないはずでしょ?…《心理掌握》ちゃーん?』

「…」

『あは、バレてないとでも思ってたのか、こいつときたらっ』


楽しそうに電話の女ははしゃいで嘲笑った。


204 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/22(日) 22:05:01.25 ID:HozPaPo0

『全員ご自慢の能力で操って、依頼はキッチリやってもらうからねー』

「…」

『なにか言ってみなさいよ、こいつときたらー!』

「…ふふ」

『?』

「そっかそっか、そういうことか…ふふ」

『何がおかしいのよー?』

「前から気になってたのよ。暗部組織の指示役の情報って、どれだけ探しても出てこないなーって」

『…』

「相手が存在しない人間なら、そりゃー出てくるはずないわよね、《心理定規》ちゃん?」

『…』

「声と口癖変えたぐらいで、“バレてないとでも思ってたのか、こいつときたらっ”」

『っ…』

「悪いけど、あなたから悪意ダダ漏れなのよ。前任者のキャラクターを受け継いだところでバレバレ」

『…へえ。やっぱレベル5は一筋縄じゃいかないわね』

「お久しぶりね、驚いたわ。回収されて、そんなことになってたなんて」

『…あんたには感謝してるわー。おかげでこんな底に落ちたんですもの』


本性を見せた心理定規が、ドロドロとした感情を電話越しに向けてくる。


205 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/22(日) 22:07:12.35 ID:HozPaPo0

『…せーっかくスクールのゴミ共が死んでくれると思ったのに、肝心のあんたが生きてるんじゃ意味ないわね』

「で、今の地位を利用して、私を殺そうと言う訳?」

『まさか。こっちが簡単に手を出すわけにはいかないのよ』

『…だから、あんたが泥沼で這い蹲るのを楽しく見守る事にするわ』

「御勝手に。悪いけど、こっちにもやる事があるのよねー。邪魔はさせないわ」

『許さない』

心理定規の声がさらに鋭く重たいものになる。

『私の場所を奪ったあんたも、私を捨てた垣根も、絶対許さない』

「…!」

『何もかも思い通りに行くと思わないでよ、《心理定規》さん?』


電話が唐突に切られ、不気味な静寂だけが部屋に残る。


「なんか、フクザツな関係だった訳?」

「そうね、昔色々と」

フレンダはそれで何かを感じ取ったのか、口を噤んだ。


「とにかく、一筋縄じゃいかないことは間違いないわ」

「慎重に計画を立てないと。フレンダも協力してね?」

「!う、うん。結局このフレンダ様に任せるといい訳よ!」

「期待してるわ」

(帝督…もう少し待っててね)


この学園都市の闇が、再び動き出す。

ある者は全てを引き換えにしても、もう一度彼を取り戻すために。

ある者は全てを奪った人間へ、復讐を果たすために。

ある者は全てを利用し、自分のプランを進めるために。


219 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/23(月) 22:47:20.80 ID:Oru/iLI0 [1/13]

10月某日、第七学区のとある病院


その日の夕方も、心理掌握はカエル顔の医者を訪ねていた。


「受け取った資料を全部確認してみたけど…正直、このままではどうにも出来ないね?」

「…そうですか」

「何しろ、“彼”をそこから動かすことすら不可能なのだからね」

「…」

「彼の体から伸びてるコードは、直接部屋の装置に繋がっているわけだしね」

「…」

「彼の脳がその装置の中に入っている以上、無理に取り出せば即死する」


決定的な一言を言われても、心理掌握は欠片も動じなかった。


220 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/23(月) 22:48:34.55 ID:Oru/iLI0 [2/13]

「…では、もしも彼をこの病院に連れてこれたら?」

「それは…」

「彼の体を再生することは可能なのですね?」

「彼がここに居るなら、残った胴体から細胞のサンプルを入手して、元の姿にする事は出来なくもないね?」

「ありがとうドクター。それさえ分かれば十分です」


諦める様子を見せないレベル5を見て、カエル顔の医者は忠告をした。


「…多分、アレイスターは彼を手放しはしないはずだ」

「いいえ。…あの男が欲しいのは、帝督じゃなくて『未元物質』なんです」

「?」

「必ず彼をここに連れてきます」


すでに何か策があるのか、心理掌握は笑顔で病院を後にした。

それを見送る医者の顔には、深い憂いだけがある。


(なあ、アレイスター。君は…子供が本気になると、手に負えないという事を理解しているのか?)

(まして、あそこまで深く闇に染められた幼い精神は、目的のためなら“なんだってする”だろう)

(…それとも、それも君の計画のうちなのかな?)


221 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/23(月) 22:49:20.91 ID:Oru/iLI0 [3/13]

常盤台中学学生寮(学舎の園)、心理掌握の部屋


今日帰国する予定の絹旗をフレンダが迎えに行ったため、この部屋には心理掌握1人しかいない。

その沈黙の部屋で、心理掌握は実験と計画の調整を3時間以上繰り返していた。


(…私が『体晶』を使うことで、効果は倍近く上昇できる。副作用を無視すれば、5時間の連続稼働が可能)

(常盤台ネットワークの稼働を考えると、計画を実行するのは学生の寝ている深夜が望ましい)

(後は、数日以内に行われる『迎電部隊(スパークシグナル)』の反乱を隠れ蓑にすれば…)

(目障りな《グループ》は私にまで手を回せない…!)

(うぐ!)


計画を思案中に突然吐き気を感じた心理掌握は、慌てて洗面所へ向かい咳き込んだ。


222 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/23(月) 22:50:20.48 ID:Oru/iLI0 [4/13]

(もう、吐くものなんてとっくに有りはしないのに…)

(…『体晶』か。滝壺ってコは、よくもまあコレに耐えたものね)

(いや、むしろ体質的に私には合わないのかな)


その時、心理掌握は違和感を感じて自分のモバイルを確認する。


(このユニットは…御坂か。流石に第3位は気づくのが早いなー)

(…演算が通常値に戻った。多分、何かを感じたけど気のせいと判断したってとこね)


ほっと息を吐いて安心すると、心理掌握はモバイルを操作して常盤台ネットワークを解除する。


223 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/23(月) 22:51:27.40 ID:Oru/iLI0 [5/13]

(よし、ネットワーク解除。これでもう本番まで使えないかな)

(ふふふ、帝督と戦った時と同じ状況だ)

(だとすると逆に縁起がいいのかも。…きっと次も、私の勝ち)


かつて常盤台を襲った垣根と戦った時、心理掌握は常盤台の能力者に自作のレベルアッパーを聞かせていた。

それにより心理掌握は生徒の脳波をコントロールし、莫大な演算能力を手にする事が出来ていた。

しかも、以前の時と違ってこのプログラムはすでに完成している。

かつて力を借りた、御坂美琴――第3位の超電磁砲――すら今は演算ユニットの1つでしかない。


(この私がここまでやる以上、絶対に計画は成功させて見せる)


それから20分後、絹旗とフレンダが寮に戻ってきたので、彼女は2人と作戦の打ち合わせをすることにした。


224 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/23(月) 22:52:29.31 ID:Oru/iLI0 [6/13]

翌日午前、とある雑踏


暗部新チームの指示役になった少女、かつては心理定規とも呼ばれていた能力者。

その彼女が、楽しそうにゲコ太の風船を持って歩いていた。

最も、ここに彼女より優秀な精神能力者がいれば、それが誤りだと気づいたかもしれない。


(…あの女…)


心理掌握によってこのどん底へ落とされて以来、一時たりとも彼女は恨みを忘れていなかった。

とはいえ、彼女が恨んでいるのは自分がここに落とされたことではない。


(…よくも、私の居場所を…!)


誰よりも大切な人間の隣。闇の中でも付いていくと決めた愛する人の隣。

そこを奪われ、かつ彼の心まで奪われたこと。その事をこそ彼女は恨んでいた。


225 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/23(月) 22:53:25.35 ID:Oru/iLI0 [7/13]

心理定規は、初めて垣根帝督に出会った時の事を今も昨日の事のように覚えている。


――よお。スクールにようこそ、お嬢さん。

――『心理定規』ねえ。使い方次第じゃ結構な武器になるな。


最初に彼の能力を見たときは、心から圧倒された。

一緒に任務をこなしていくにつれ、ますますその強さを感じ取るようになった。

その恐れが畏怖になり、敬意になり、敬愛になり、思慕となるのに時間はかからなかった。


(彼の恋人になろうなんて、大それた事は考えた事もない)


ただその隣に居させてくれれば、それ以上は何も望まなかった。


226 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/23(月) 22:54:03.91 ID:Oru/iLI0 [8/13]

だからあの時、いつものように彼に協力した。彼に敵う者などいないはずだった。


――いらっしゃい、心理定規ちゃん

――今日はゆーっくりお話しましょ?


あの悪魔のような女に出会う前までは。

…信じられない事に、その悪魔は自分と愛する彼を戦わせようとした。

その能力はあまりにも強くて逆らえず、無理に抵抗をした結果、自分の意識が壊れることになった。


そしてようやく“自分”を取り戻した時、すでに自分は心理定規ではなかった。


227 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/23(月) 22:55:58.98 ID:Oru/iLI0 [9/13]

訳も分からず自分の居場所を消され、使い捨ての人員となって数週間。

ヘマをして死んだアイテム指示役の後継者となった彼女は、今まで以上に裏の情報を知るようになった。

そして、あの悪魔が《心理定規》として彼の隣に居る事を突き止めてしまう。


(心理定規(ワタシ)が、彼の役に立つだけならまだ我慢できた)


だがそうではなかった。

未だに信じられない事に、正体がバレた悪魔と彼は、恋人同士になったのだ。

それは、本当の絶望が彼女を襲った瞬間だった。


(あの彼が…垣根が、あんなヤツと恋人に…?)

(…許さない…)

(私を裏切ったスクールなんか大っ嫌い)

(あの悪魔も、裏切った垣根も、全員死ねばイイ)


そのあまりにも悲しい願いは、思わぬ形で実現する。


228 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/23(月) 22:56:39.74 ID:Oru/iLI0 [10/13]

スクールが学園都市に反乱を起こし、その正規メンバーは次々と殺されていった。


(なのに、あの悪魔は生きている)

(無様にもがいて、彼を助けようとしている)

(…許さない…)

(絶対にそんな事は許さない)


だが、心理定規では立場的にも実力的にも心理掌握を殺せない。

故に彼女は、もう一つのシンプルな結論に至った。


(私が殺せないなら、殺せるヤツを利用すれば良い)


そして彼女は、予定通り目的の人物を見つける。


229 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/23(月) 22:57:32.98 ID:Oru/iLI0 [11/13]

「あー、ゲコ太の風船だー!って、ミサカはミサカは驚いてみる!」

「可愛い子ね、あなた1人でお買いもの?」

「そうだよ、スーパーまでお使いなのってミサカはミサカは威張ってみる」

「それは偉いわね…ねえ、良い子のあなたにこの風船をあげようか?」

「ホントー!?ってミサカはミサカは喜んでみる!」

「ええ、もちろん。あ、でも他の子が気づくとまずいから、こっちにおいで」


そう言って、ちょっとしたビルの陰に誘導する。


230 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/23(月) 22:58:54.46 ID:Oru/iLI0 [12/13]

「うわーい、ありがとー!…あ、おねーさんの名前は?ってミサカはミサカは聞いてみる」

「クス…良ーく覚えてね。《心理定規》よ」


そう笑顔で言いながら、彼女は隠していた警棒を、打ち止め(ラストオーダー)の頭に――振り下ろした。


(…あっけない)


警棒をしまって、気絶した打ち止めを抱えると、彼女はどこへともなく姿を消す。


(愛しの彼と同じく、第1位に惨殺されてグチャグチャになるといいわ、《心理定規》サン?)


その場にわずかに漂う、狂気の残滓だけを残して。


238 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/24(火) 22:54:11.28 ID:qKF/ak60 [1/12]

同じ日の昼過ぎ、グループの隠れ家


グループの一員である土御門元春は、突然受けた連絡に頭を悩ませていた。


(…量産型能力者(クローン)の上位個体が誘拐された…だと)

(目撃者の話だと、誘拐犯は女ってことらしいが…目的は『一方通行』か?)

(“偶然”狙われた可能性は…)


ベギィ!


突然恐ろしい音を立てて、隠れ家のドアが粉砕された。

そして現れたのは、静かに憤る学園都市第1位の白き怪物、『一方通行』である。


239 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/24(火) 22:55:35.49 ID:qKF/ak60 [2/12]

「…あのガキが誘拐されたってなァ本当か?」

「恐らくは。もうすぐ詳しい連絡が来る事になっている」

「ちっ。…どいつもこいつも、なンであいつを巻き込もうとしやがる!」

「無理を承知で言うが、少し落ち着け」

「うるせェな。皮ァひン剥かれたくなけりゃァ口を閉じやがれ」


険悪な雰囲気になったその時、一方通行の持つ携帯に着信。


「おい、あのガキは?」

『やれやれ。みっともなくうろたえないで欲しいものですね』


答えたのはグループの指示役、電話の男だ。


「今はテメェを殺す暇も惜しいンんだ、とっとと話せ」


240 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/24(火) 22:56:55.79 ID:qKF/ak60 [3/12]

『あの検体番号20001号『最終信号(ラストオーダー)』を誘拐したのは、心理定規と呼ばれる能力者です』

「心理定規…どっかで聞いた名前じゃねェか」

『ええ。少し前にあなた方が壊滅させた《スクール》の唯一の生き残りですね』

「スクールっていうと…クソったれの第2位のお仲間さンかよ」

『そうなりますね。彼女が何を目的として最終信号を誘拐したのかは判明していませんが…』

「そンなことはどうでもイイ。その女又はガキの居場所は?」

『…スクールの隠れ家ならお教えできます』

「そこにガキが居るのか?」

『そこまでは断定しかねますが』

(…手掛かりがそれしかねェなら、スクールのアジトに行くしかねェな)

「とりあえずその場所を教えろ。乗り込ンで調べてくる」

『分かりました。第7学区の――』


住所を聞いた一方通行は、すぐにそこへ向かおうと踵を返すが土御門に止められた。


241 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/24(火) 22:57:49.85 ID:qKF/ak60 [4/12]

「待て。相手はお前が第1位と知って喧嘩を売ってきたんだ」

「だからなンだよ?精々高く買ってやろォじゃねェの」

「分からないのか?心理定規は当然万全の状態で迎え撃とうとする」

「で?」

「なら戦力は多い方がいいだろう?」

「…」

「目的がどうあれ、相手はお前の“役立たずの宝物”に手を出したんだ」

「…ハ、随分とお節介なヤツだ」

「こんなところで万一にもお前というカードを失う訳にはいかないからな」

「…役に立たなかったら、テメェを盾にしてでもガキは助けるからな」

「調子が出たな一方通行。もうすぐ海原と結標もくる」


そしてそれから3分後、グループ全員を乗せた車がスクールの隠れ家へ向かった。


242 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/24(火) 22:58:46.22 ID:qKF/ak60 [5/12]

時刻が少し戻って、第七学区のとある病院


心理掌握がこの事態に気付いたのは、全くの偶然だった。

彼女がいつものようにカエル顔の医者と打ち合わせをしていると、血相を変えた少女が飛び込んできた。

妹達(シスターズ)の一人、ミサカ10032号。上条には御坂妹とも呼ばれているクローンだ。


「大変です、とミサカは状況を報告します!」


それに思わず驚いたのは心理掌握である。


「…御坂?…いや、クローンね」

「? 何故その事を知っているのですか、とミサカは問いかけます」

「あなたのオリジナルのお友達なのよ、私は」


243 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/24(火) 23:00:28.04 ID:qKF/ak60 [6/12]

「…少々疑わしいですが今はそれどころではありません、とミサカは用件を思い出します」

「何かあったのかな?」


カエル顔の医者は全く動じることなく、ゆっくりと先を促した。


「先ほど我々妹達の上位個体である『最終信号』から、ミサカネットワークを通じて救援願いが発信されました」

「つまり上位個体は何者かによって誘拐されました、とミサカは簡潔に告げます!」

「ミサカネットワークで、その子の居場所は分からないのかい?」

「ダメです。恐らく上位個体はすでに意識を失っているものと見られます、とミサカは推察します」

「そうか、じゃあ仕方ないね。何か他に手掛かりとなるような事があれば…」

「そう言えば上位個体と最後に話していた女性は、《心理定規》と名乗っていました、とミサカは思い出します」


今まで静かに話を聞いていた心理掌握がその言葉に反応した。


「《心理定規》ですって…!?」


244 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/24(火) 23:01:38.26 ID:qKF/ak60 [7/12]

「はい。その人にゲコ太の風船を貰ったとネットワークで自慢していました、とミサカは悔しさも思い出します」


(…あの女がクローンを誘拐して、何をする気?)


数秒とかからず答えは出た。


(あえて心理定規の名前を出している以上、目的は1つしかないわね)

(そのクローンを大切に思っている『一方通行』を使って、誘拐犯に仕立てた私を殺すつもりってトコかな)

(帝督を潰した人間を、わざわざこの私に差し向けるだなんて、随分趣味がイイわね)


恐らく、すぐにでも一方通行は自分を殺しにやってくるのだろう。

それを想像して心理掌握は思わず笑みを浮かべた。


(3流の所業ね、心理定規。…でも感謝してあげるわ)

(もしもこのまま私が気づかなければ、訳も分からず第1位と殺し合いをしていたでしょうね)

(でも、私はすでに事態を掌握した)

(これを利用することで、目障りな《グループ》をこちらに取り込むチャンスが生まれる)


245 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/24(火) 23:03:01.71 ID:qKF/ak60 [8/12]

そして心理掌握は、自分に注目している2人を無視して電話をかけた。


「あ、絹旗?」

「ちょっとフレンダと一緒に大急ぎで来てほしいんだけど」

「うん。場所は第7学区にあるスクールの隠れ家」

「ありがとー」ピッ


あの女がクローンをどこに監禁するか。

スクールの心理定規の犯行に見せたいのならば、スクールの隠れ家が一番適している。

しかもそこならば、元スクールのあの女も自由に出入りできるはずだ。


(向こうがスクールの隠れ家を見つけるまで、あまり猶予は無いと見るべきね)


246 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/24(火) 23:03:39.23 ID:qKF/ak60 [9/12]

「聞いてちょーだい。そのクローンのコは私が助けるわ」

「なぜ、とミサカは疑問を呈します」

「そのコが誘拐されたのは、恐らく私のせいだからよ」

「意味が分かりません、とミサカはさらに疑問を投げかけます」

「詳しい事はいずれ説明するから、少しここで待ってて」


まだ何か言いたそうなミサカ10032号を無視し、心理掌握は病院を出てタクシーに飛び乗った。


247 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/24(火) 23:04:56.60 ID:qKF/ak60 [10/12]

スクールの隠れ家


グループがそこに到着したとき、何故か家の扉が開いていた。

当然罠を警戒する土御門たちであったが、1人が無視してズンズンと奥へ向かう。


「おい、一方通行!」


思わず怒鳴る土御門の声も無視して、一方通行は笑った。


「はン、この小せェ入り口に仕掛けらるトラップ程度じゃ、俺の反射をどォにも出来やしねェよ」

「まあ、それもその通りですね」


何を考えているか分からない笑顔で、海原(エツァリ)が同意。

結標は呆れたように軽く首を振ると、一言もしゃべらずに後を付いて行った。


248 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/24(火) 23:06:01.84 ID:qKF/ak60 [11/12]

そしてグループの4人が殺風景なリビングに入ると、そこには…


「これでミサカの3勝目!ってミサカはミサカは勝利のガッツポーズ!」

「ク…結局このフレンダ様が手加減してあげた訳よ…」

「うわー、そういうのは超見苦しいですよ」

「ホラ、とっとと大貧民はお客さんのお茶を用意しにいきなさい」


心理掌握の言葉に促されて、悔しそうにフレンダが台所に向かった。


「ナニをしてやがンだ、テメェら…」

「あー、一方通行ー!」


頭にコブがあるものの、元気いっぱいの打ち止めが一方通行に飛びついた。

唖然としているグループのメンバーに、心理掌握が笑顔で宣告する。


「元スクールの隠れ家へようこそ。まさかグループ全員揃っているなんて思わなかったわー」

「とても都合がいいわ、早速始めましょう。…不穏な会合を、ね」


256 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/25(水) 23:43:30.23 ID:umQMoBA0 [1/13]

スクールの隠れ家


心理掌握は話をする前に、近くまで迎えに来た黄泉川と一緒に打ち止めを帰宅させた。

そして、残った学園都市の暗部を代表する7人は…


「だからさっきも言ったけど、あの子を誘拐したのは私じゃないのよ」

「今さらビビって逃げよォってつもりかァ?」

「結局誘拐するぐらいなら、あっさり返したりしない訳よ」

「だから、あなた方はグループと何か話をするために今回の事件を起こしたのでしょう?」


ババ抜きをしながら、海原が鋭く問いただす。


「超論外です。交渉前に相手の心証を超悪くするのは、馬鹿のやる事ですよ」


絹旗が呆れながらカードを一枚引く。どうもペアが揃わなかったらしく、舌打ちして結標へ。


257 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/25(水) 23:44:41.86 ID:umQMoBA0 [2/13]

「確かにそのとおりね。交渉するなら、せっかくの人質をその前に返す意味がないもの」


絹旗から貰ったダイヤの2が手持ちとペアになり、結標は笑顔で場に捨てた。そして土御門にカードを差し出す。


「ならば、“誰に”“何故”あの子が誘拐されたか説明して貰えるかにゃー?」


土御門もペアを見つけて場に捨てた。そして隣の心理掌握に鋭い目でカードを近づける。


「もう一度言うけど、犯人は私も知らない。“何者”かが私の名前を騙って彼女を誘拐したの」

「そしてその理由は、恐らく激怒した一方通行にこの私を殺害させるためよ」


心理掌握は迷いなく1枚のカードを選ぶと、ペアを揃えた。残りは3枚、現在彼女がトップである。

それを見て、不愉快そうに一方通行が彼女の手札に手を伸ばして1枚引いた。


「自分は無関係ですってか。…その割にずいぶン余裕が有った見てェだが?」

「偶然事情を知りえたからよ。あの打ち止めってコが、クローンのネットワークを通じてSOSを発信したの」


258 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/25(水) 23:45:59.61 ID:umQMoBA0 [3/13]

ペアが揃わなかった一方通行は、フン、と鼻を鳴らして次のフレンダに目を向けずにカードを近づける。


「結局、そのクローンの1人から事情を聴いた私たちが、急いで監禁されているその子を助けたって訳よ!」


ジョーカーが渡ってきたフレンダは、心の中でウゲ!と呟いて次の海原へバトンタッチ。


「ですが不思議ですね。あなたたちの言う通りだとして、何故打ち止めは殺されていなかったのでしょうか?」

「ただ気絶させただけでは、無事に助けたら今のように説得の時間が出来る事になります」


海原はあっさりジョーカーを避けてペアを揃えた。彼も残り2枚。そして絹旗へ。


「それはその打ち止めってコが超特殊だからでしょう」

「何でもそこの第1位は、彼女のネットワークで演算を超補助してもらってるという話じゃないですか」


今度はペアが揃い、絹旗は小さくガッツポーズをして結標へ。


259 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/25(水) 23:47:02.20 ID:umQMoBA0 [4/13]

「…なるほど、彼女を殺してしまえば、能力を失った一方通行が心理定規を殺せないかもしれないと危惧したのね」

「その可能性が高いです。これが証拠に、彼女を発見した時服の中に小型の爆弾が付けられていました」

「もしも事情を知らず彼女を放置していれば、一方通行は私たちが爆弾を付けたと勘違いして逆上していたでしょう」


心理掌握が、結標の意見に合わせて証拠を提示する。


「ま、結局このフレンダ様にかかれば、その程度の爆弾は楽勝で解除出来る訳よ」


フレンダが自慢げに、取り外した爆弾をグループに見せつけた。


「…」


結標はペアを見つけられず、少しションボリして土御門へ。


「それが事実なら、確かに打ち止め(ノウリョク)を生かしたまま一方通行を差し向けられる」

「…確かにその辺は筋が通っているぜよ」


土御門は心理掌握を睨みつけた。


260 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/25(水) 23:47:48.85 ID:umQMoBA0 [5/13]

「だが、おかしいのはこれだけじゃないんだぜい?」

「そもそも、その誘拐犯は何故お前を直接狙わないんだろーな?」

「…」

「打ち止めを誘拐して、このスクールのアジトに監禁した犯人は、当然暗部の情報に精通しているってことだにゃー」

「そんなやつが、わざわざ第1位を利用したってことは、だ」

「そいつはよっぽどお前に死んでほしい、けどそれが自分では出来ない立場」

「…そんな特殊な境遇にいる人間に、本当に心当たりがないのか?」

「ないわねー。そもそもこんな仕事をしてる以上、誰に恨まれても不思議じゃないもの」


心理掌握は土御門の詰問を笑顔でかわす。そして再びペアを作って場に流した。ラスト1枚。

苦々しい顔をした一方通行が、その1枚を取ったので彼女は一番で上がった。


「いやいやー、良ーく思い出してほしいぜよ」


土御門は追及の手を緩めなかった。


261 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/25(水) 23:48:40.86 ID:umQMoBA0 [6/13]

「例えば、“誰かの地位”を横取りした事はないかにゃー?」

「…」

「居場所を取られた“本人”が、復讐のためにこの事件を起こしたとかはどうだろうにゃー?」

「面白い発想ねー。あなた小説家にでもなれば?…ねえ“海原”さん?」

「いやはや、全くです。良くそのようなアイディアが出てきましたね」

「そう言われると少し照れるぜよ。実は今度“常盤台中学”あたりを舞台にした小説を書こうと思ってるんだぜい」

「それは楽しみねー。“繚乱家政女学校”にいる友達にも見せてあげたいなあ」


人を騙す事に長けた“ウソツキ”3人が、それとなくけん制し合う。

分かる人間が聞けば、全て脅しの言葉と知って顔を青くするかもしれない。


(土御門は犯人に心当たりがあンのか?…くっだらねェな)

(結局、心理掌握と張り合うなんてあのサングラスたちはやり手な訳よ!)

(…なんですかコレ。空気が超怖いんですが)


やがてババ抜きが終わり、大方の予想通りフレンダがババを持ったまま終了した。


262 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/25(水) 23:49:33.06 ID:umQMoBA0 [7/13]

遊戯が終わり、痺れを切らした一方通行が吐き捨てるように言った。


「腹の探り合いはこのへンで終わりにしよォぜ」

「そうね。偶然の産物とはいえせっかくグループがいるんだし、ここで交渉といきましょう」

「わざわざ一方通行を待ち受けていたぐらいだからにゃー、何を聞かせてくれるのか楽しみぜよ」


全員の注目を集めた心理掌握は、部屋の鍵をかけるとフレンダから特殊な爆弾を受け取った。


「え」


誰かが驚いて声を上げるがそれを無視。そして躊躇することなく爆破。

その爆発は火炎こそ出ないものの、凄まじい衝撃波が部屋に吹き荒れた。

…そして未だに驚くグループに、笑顔のままあっさりと話しだした。


「今から10分間、この家の『滞空回線』を無力化させたわ」


263 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/25(水) 23:50:12.60 ID:umQMoBA0 [8/13]

「そうか、『滞空回線』の弱点である衝撃を与えたってことか!」


いち早くその目的に気づいた土御門。


「それにしても、事前の警告ぐらい…」


愚痴る結標だが、それを海原が止めた。


「いえ、むしろ正解です。その事前の警告とやらをアレイスターに聞かれては意味がありません」

「そーいうこと。じゃあ時間もないし本題ね」

「私の目的はたった一つ。学園都市第2位、垣根帝督を取り戻す」

「あァ?あの三下はとっくに死ンだンじゃなかったか?」

「…アレイスターにバラバラに回収されて、辛うじて生きてるわよ」

「しぶてェ野郎だ」

「おい一方通行!」


土御門の言葉にチッ、と舌打ちして一方通行は黙り込んだ。


264 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/25(水) 23:50:50.47 ID:umQMoBA0 [9/13]

「アレイスターの計画では、帝督、いえ『未元物質』は必要不可欠な存在なの」

「その彼を取り戻すため、アレイスターに喧嘩を売る」

「まさかグループに、それに協力しろと言いたい訳じゃないですよね?」


何を考えているか読めない笑顔のまま、海原が心理掌握に質問する。


「そこまで言わないわ。そもそも期待もしてないし」

「私が望むのは、ただ邪魔をするなってことだけ。グループとやり合うのは大変だからね」


そこまで聞いて、一方通行が立ちあがった。


「話にならねェな。テメェが何をしようがどォでもイイ。ただこっちの行動まで制限される覚えはないンだよ」

「当然、メリットならあるわよ?」

「あン?」

「『ドラゴン』」


その言葉に、グループが全員ピクリと反応した。


265 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/25(水) 23:51:44.77 ID:umQMoBA0 [10/13]

「あなたたちも上層部へ喧嘩を売るつもりなのは知ってるわ」

「…どうしてお前がその単語を知っている?」


雰囲気を変えた土御門にも、心理掌握は動じなかった。


「そもそも、最初にピンセットを手に入れたのは私たち《スクール》なんだけど」

「気になる単語ぐらい、ピックアップしてあってもおかしくないでしょ」

「…続けろ」

「その『ドラゴン』について、正体を知っている人間に心当たりがあるの」

「なるほど。それを教えるから、グループはあなたの邪魔をするな、という事ですか」

「そのとおりよ海原さん。元々グループは放っておくつもりだったんだけど、せっかくこうして集まったし」

「…出来る限り、障害となりそォなもンは取り除いておこうって腹か。小物だな」

「そうよー、一方通行。『金持ち喧嘩せず』って言うじゃない…“アナタ”以外に恨みは無いしね」


第1位と第5位のレベル5、2人の間に危険な火花が飛び散った。


266 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/25(水) 23:52:33.87 ID:umQMoBA0 [11/13]

「ハ、やっぱり血ィぶちまけたくなっちまったかオイ?お望みならスグにグシャグシャにしてやンよ」

「勘違いしてるみたいね」


心理掌握は一方通行から目を逸らさず、嘲笑してこう言った。


「今あなたを殺さないのは、“それどころじゃない”からよ」

「全部終わった後、ちゃーんとあなたも相手してあげるわ?」

「イイ度胸だなァ」


一気に一触即発の雰囲気になるが、絹旗と土御門がそれを止めた。


「超落ち着いてください。そろそろ時間切れです」

「お前もだ、一方通行。俺たちの目的を履き違えるな」


お互いに目を逸らさない2人だったが、やがて同時に引き下がった。

そして心理掌握は統括理事の1人、『潮岸』の名前を書いたメモを土御門に渡す。


「じゃあ、これで会合は終わり。…二度と会わない事を願ってるわ」

「そうだな、《心理定規》。簡単にくたばったりするなよ」


267 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/25(水) 23:54:17.46 ID:umQMoBA0 [12/13]

こうしてグループが去り、3人しかいないスクールの隠れ家で。


「緊張したー」

「それは超こっちのセリフです。何突然喧嘩を売ろうとしてるんですか」

「帝督をあんな目に遭わせた人間が目の前に居るのよ?良く我慢したって自分を褒めてあげたいぐらい」

「…それにしても、どうして《心理定規》の事を黙ってた訳?」

「フレンダは馬鹿ですねー。そんなことを言ったら、あの第1位が超殺しに行くに決まってます」

「で?」

「ここで暗部の指示役が死ねば、上の連中がどう動くか超予測できません」

「絹旗の言う通りよ。それに私の正体を知る人間は、出来る限り少なくしておきたいの」

「特に敵対する可能性があるならね…」


少し沈んだ表情を浮かべた心理掌握に、絹旗が気づいた事を問いかけた。


「あのサングラス男は超感づいているみたいでしたが?」

「土御門さんは気づいているようだけど、彼は言わないでしょう」

「互いに秘密を握っているから、こう着状態のまま問題ないわ」


(帝督…多分、後3日以内にはあなたを助け出せる)

(その邪魔をするなら、アレイスターであろうと一方通行であろうと容赦しない)

(だから、だから、後でちゃんと褒めて。私をギュッとして)


あらゆる人間の感情を燃料に、学園都市はその終焉へ向けて加速する。


277 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/26(木) 23:21:42.16 ID:OHkSLqM0 [1/15]

運命の日、10月17日午後6時


かつて心理定規と呼ばれた少女が、とある街角で電話をしていた。


『一昨日の顛末を聞いたよ。君の目論見は失敗したようだね』

「…」

『君が検体番号20001号を利用するとは。アレは、今もって私の計画における重要なパーツなのだが』

「あなた、私が失敗するって分かっていたのでしょう…アレイスター?」

『…ふむ?』

「だからこそ、事件から2日も経過してからこんな嫌味を言ってきた。違う?」

『いや、単にどちらであっても気にしないだけだ。仮にアレが死んでも、また造ればそれで済む』

『もっともあの程度の計画では、心理掌握を殺せる可能性は微々たるものだとは思っていたがね』

「っ…」


278 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/26(木) 23:23:34.29 ID:OHkSLqM0 [2/15]

『本題に入ろうか』

「報告は受けてるわ。『迎電部隊』がフラフープの地下制御施設を占拠したってね。…新チームを使う?」

『その必要はあるまい。すでにオーダーを受けた《グループ》が、迅速に制圧するだろう』

「じゃあ、私に何の用が?」

『もっと重要な、想定外のイレギュラー因子の抹殺だ』

「…抹殺対象は?」

『元アイテムの浜面仕上、絹旗最愛、フレンダ、…そして心理掌握だ』

「!」

『第4位に殺されているべき浜面仕上が生きている。これは流石に予測不可能だった』

『このままでは、彼が私の計画に致命的なダメージを与える危険性がある』

「なるほど?…でも、他の3人はどうして?」

『その3人の行動を監視した結果、加速度的にイレギュラーな行為が報告されている』

「何かを企んでいるってこと?」

『その可能性が最も高い。故にこれ以上許容は出来ない』

『…心理掌握は利用価値があると思ったが、それ以上に危険をもたらすと判断した』

「…」

『それというのも、彼女が『未元物質』と恋仲になったせいだ』


279 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/26(木) 23:24:44.18 ID:OHkSLqM0 [3/15]

思わず心理定規は、電話を握る手に力を込めた。


『すでに全員に、十分な量の兵力を差し向けているが…』

「私にあの女を殺すチャンスをくれるってワケ?」

『そうだ。“好きにしたまえ”』


通話は一方的に終了し…心理定規は笑い声を抑えきれずに吹き出した。


(あの悪魔、よりにもよってアレイスターに狙われるなんてね)

(こうなった以上、あいつは確実に殺される)

(きっと学園都市の兵力が全て敵に回る。私が行く必要がないほどに)

(…良い気味ね)

(…本当に良い気味だわ)


既に心理定規から笑顔は消えていた。


280 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/26(木) 23:25:37.77 ID:OHkSLqM0 [4/15]

あいつの状況はこれで絶望的だ。何を計画しているかは知らないが、彼を助けることなく無様に死ぬだろう。


(だというのに)

(どうして、どうして私は…)

(こんなにもあいつが羨ましいのかしら…)


きっとそれは、自分と違ってまだ戦う事を許されているからだろう。

心理掌握(アイツ)はまだ抵抗して戦う事が出来る。

心理定規(ワタシ)は抗うことすら許されなかった。


(結局あなたの事を、一度も名前で呼べなかったわね、帝督)

(こんな私にも、未練が残ってるみたい。最後に意地を通したいのかな)


決着は自分の手でつける。心理定規は暗闇へ向かって歩き出した。


282 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/26(木) 23:27:32.67 ID:OHkSLqM0 [5/15]

同時刻、第3学区の高架道路


『迎電部隊』がグループと戦闘を開始した。

その情報を受けた心理掌握たち3人は、自分たちの計画のため垣根のいる研究所へ向かっていた。

ちなみに現在車の中。絹旗が用意した運転手は…


「ちくしょう!いきなり『アシを確保してください、浜面!』っていうから来てみれば!」

「久しぶりねー、はまづら君。滝壺ちゃんは元気?」


後部座席から声をかけた心理掌握を見て、浜面は泣きそうになった。


「なんでコイツまで居るんだよ!?」

「超仕方ありません。今の雇い主ですから」

「は、え?」

「結局、私たちはこの子に雇われて一緒にいる訳よ」

「とにかく、急いでナビの示す所へ行ってちょーだい」

「なんで俺が…」


浜面は心の底からげんなりするが、結局抵抗を諦めて言う事を聞いた。


283 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/26(木) 23:28:55.98 ID:OHkSLqM0 [6/15]

そして順調に進んで15分後、車内の4人は揃って妙な音を耳にする。


「おい、何か今変な音が…」

「超聞こえましたね」

「あ、あれ!」


フレンダが大声で警告。

全員で後ろを振り返ると、そこには『六枚羽』と呼ばれる無人戦闘攻撃ヘリが高速で迫っていた。


「おい、何だよ。オイ!なんか後ろからスゲェのが迫ってきてんぞ!?」


浜面は驚いて絶叫するも、残る3人は舌打ちをしただけで焦りを見せない。


「まさかこいつまで持ち出すなんてね。…ようやく、アレイスターがなりふり構わず私たちを殺しに来たわ」

「お前なんでそんな余裕なの!?」


心理掌握は浜面を一睨みで黙らせると、フレンダに目で合図を送る。


「結局、私の活躍でイチコロな訳よ!」


フレンダは車内に積んでおいたロケットランチャーを担ぐと、上半身だけ窓から身を乗り出す。

一瞬のち、轟音を立てて発射されたロケット弾が見事にヘリに命中。


284 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/26(木) 23:30:19.10 ID:OHkSLqM0 [7/15]

「やった!」

「フレンダ、喜ぶのは超早いです」


絹旗が冷や汗を垂らして警告。その声は若干震えていた。


「おいおいおいおいぃぃぃ!なんか後ろにまだいるんですけどぉ!?」

「ホントね。…まさか4機も用意してくるなんて」


心理掌握も焦りを隠せず、顔色が青くなる。

フレンダが慌てて残る3機のヘリにロケットランチャーを向けようとしたが、心理掌握に止められた。


「無駄ね。あの学園都市製のヘリは学習能力を持っている。同じ手は通用しないわ」

「マジでどうするんだよ!っていうか学園都市のヘリ!?ひょっとして上層部から狙われてる感じ!?」


パニクりながらも、必死に運転する浜面に対し、絹旗が冷たく告げた。


「少し黙ってください浜面。超うるさいです」


そして絹旗は拳銃を取り出し、その粉砕式弾頭でヘリエンジンの吸気口を撃ち抜く。

たちまち粒子状になった弾頭が、エンジンの焦げ付きを誘発。

あっという間にヘリは高度を落とし、そのまま墜落して爆発した。残り2機。


285 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/26(木) 23:31:34.17 ID:OHkSLqM0 [8/15]

だが、そこで向こうは短距離対装甲車両用ミサイルを発射。


「赤外線ミサイル来たよ!」

「!」


フレンダの言葉に反応し、心理掌握が点火した発煙筒を急いで外に投げ捨てた。


「うおぉぉぉぉ!!俺死ぬ!?」


熱源を誤認したミサイルは車に直撃こそしなかったが、その爆風で車が横転してひっくり返ってしまった。

結果4人は車内に閉じ込められ、動きを止められてしまう。


「急いで逃げる訳よ!」

「これは超マズイです!」

「絹旗、この車を真っ二つにして!」


もうこの車は使えないと判断した心理掌握の指示を受け、絹旗が『窒素装甲』を全開にして車を分断。

ようやく飛び出した4人に、残った2機のヘリが銃口を向けるが…


286 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/26(木) 23:32:28.49 ID:OHkSLqM0 [9/15]

「やれやれ。また250億のヘリを壊す羽目になるとは」



黒曜石のナイフを取り出した海原が、金星の光を反射。

トラウィスカルパンテクウトリの槍と呼ばれる魔術で、ヘリをバラバラに分解した。

そして残る1機は。



「めンどくせェな」



音もなくヘリの上に降り立った第1位が、回転するローターを素手で引っこ抜いて撃墜した。

これで『六枚羽』は全て撃墜されたことになる。


「な、何でグループが超助けに来たんですか?」

「自分たちは、今から潮岸のいる第2学区へ向かう途中でしてね」


笑顔で答える海原。絹旗は無言で続きを促した。


「そしたら、たまたまあなた方が襲われている光景を目にしたので」

「結局、慈善事業をするタイプには見えない訳よ」


フレンダの言葉に観念したのか、海原は少し照れくさそうに答えた。


287 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/26(木) 23:33:55.52 ID:OHkSLqM0 [10/15]

「実は、そこの《心理定規》さんには借りがありましてね。…かつて常盤台中学を守ってくれましたから」

「…あれは、自分の世界(ニチジョウ)を守りたかっただけよ」


こちらも少し照れくさそうに答える心理掌握。

海原が彼女たちを助けた理由。それは御坂美琴の世界を身を呈して救った、心理掌握に対するお礼だった。


「オイ、とっとと潮岸の野郎のところに行くンじゃねェのか」

「…そう言えば、どうしてあんたまで私たちを助けてくれたの?」

「どォでもいいだろ」


心理掌握と敵対していたはずの『一方通行』は、その理由を何も答えずベクトル操作で飛んで行った。

キョトンとしている3人に、「実はですね」と海原が笑顔で耳打ちする。


「あのクローンにお願いされたそうです。またみんなでトランプがしたい、ってね」

「…プ」


ちゃっかり話を聞いていたフレンダと絹旗が、思わず噴き出した。


「プクク…なんですかそれ、第1位は超ロリコンですか」

「アハハハ、け、結局あの子に甘い訳よ」

「そうね。…打ち止めちゃんに感謝ってとこかしら」


3人の反応を楽しんだ海原は、では自分はこれで、と言い残して第2学区へ向かった。


288 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/26(木) 23:35:07.32 ID:OHkSLqM0 [11/15]

運転する車が無くなったので、浜面は滝壺の元へ帰ることにした。


「ここからなら、研究所まで歩いて10分もかからないしねー」

「…いいのかよ?」

「はまづら君も相当なお人よしだよね。死にかけたっていうのに」

「ウ…でも、あんな連中がまた来たら…」

「それこそ、無能力者の浜面じゃ超役に立てません」


あっさりと一刀両断されて、浜面は項垂れる。

が、すぐにその頭を絹旗がポンポンと叩いた。


「滝壺さんを守っているべきです。彼女に超ヨロシクと伝えてください」

「結局、全部終わったらすぐに会いに行く訳よ!」

「分かった。また後でな!」


2人に後押しされた浜面は、滝壺の居る病院まで走り出した。


289 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/26(木) 23:36:43.45 ID:OHkSLqM0 [12/15]

それから10分後、ようやく研究所に到着した3人は、大型車両が猛スピードで近づいてくるのを感じ取った。


「うわー。ヘリだけじゃ飽き足らず、猟犬部隊の残党まで超使ってきましたか」

「あまり長くは持たないかも。結局、私たちが時間を稼いでいるうちにさっさとやることを済ませて欲しい訳よ」

「…これはちょっと、給金を弾む必要がありそうね」


そう言いつつ、それでも心理掌握は2人をここに残す事を迷わない。

彼女の目的は、たった1つであるからだ。


「じゃあ、任せたわ」

「結局、あの時命を助けてもらった以上仕方ない訳よ…」

「ここで死ぬみたいな言い方は、超やめてください」


そして真っ黒な特殊車両が3台ほど到着し、中から猟犬部隊が現れて3人に襲いかかろうとする。


瞬間。巨大なクレーン車が突如猛スピードで接近し、特殊車両に激突した。


290 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/26(木) 23:37:48.11 ID:OHkSLqM0 [13/15]

夜の学園都市に轟音が響き、集まっていた猟犬部隊が散り散りになる。

信じられない様子で心理掌握が呟いた。


「…今日は本当にありえないことばっかりだわ」


未だに唖然としながらも、心理掌握はクレーンを操縦していたドレスの女に目を向けた。


「一体、どういうつもりなの《心理定規》?」


心理定規と呼ばれたドレスの女は、その質問には答えなかった。


「ズルいわね、心理掌握」

「あなただけが、まだ戦えるなんて本当にズルい」

「私にも、まだ戦わせてよ」

「…彼を、“帝督”を助けるんでしょう!?」

「なら、絶対に助け出しなさいよ!」

「そして今度は、私が帝督をあなたから奪って見せるわ!」

「だから、そのための邪魔者は消しといてあげる!」


必死に、けれどどこか楽しそうに心理定規がそう叫んだ。


291 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/26(木) 23:41:17.48 ID:OHkSLqM0 [14/15]

それを聞いて、思わず心理掌握も叫んだ。


「あんな良い男、あんたみたいな女に渡す訳にはいかないわ!」


心理定規はますます笑顔になり、マシンガンを持ってクレーンから飛び降りた。


「あなたみたいに色気の欠片もない女王様じゃ、勝ち目はないんじゃない?」


その言葉を背中に乗せて、心理掌握は1人研究所に入り、垣根のもとに走って行った。

慌てて追いかけようとする猟犬部隊だが、即座に心理定規がマシンガンを掃射して足止めする。


「…“私”がスクールの心理定規よ。かかってきなさい」


そして、夜闇の中激闘が始まる。


303 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/27(金) 22:06:57.43 ID:UAlKIbY0 [1/11]

学園都市の闇の底、名も無い研究所


垣根が“保管”されている部屋に到着した心理掌握は、部屋の扉を急いで封鎖した。

研究所の異変を察知した、重武装型警備ロボが追いかけてきたからだ。

閉じられた扉に対し、警備ロボはガトリング砲を連射。

たちまち凄まじい音が研究所に響くが、頑丈に作られた扉は警備ロボの攻撃にも持ちこたえる。


(けどそれも、時間の問題ね)


まもなく応援のロボットが到着し、扉は破壊されてしまうだろう。

心理掌握は落ち着くため一つ呼吸を落とすと、常盤台ネットワークの稼働準備を始めた。







304 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/27(金) 22:07:52.98 ID:UAlKIbY0 [2/11]

研究所の外


「超邪魔です!」

「結局、そこが隙な訳よ!」


絹旗が『窒素装甲』で敵陣に突入し、正面の敵を薙ぎ倒す。

慌てて避けた敵は、フレンダが爆弾を使って吹っ飛ばした。

元アイテムの仲間だからこそ出来る、息の合った連携プレイで猟犬部隊を駆逐していく。


「薄汚い犬どもが、私の視界に入るんじゃないわよっこいつときたらー!」


すぐ近くでは、心理定規がマシンガンを容赦なく撃ち続けて高笑い。

絹旗とフレンダは、はははははー!!という心理定規の大きな笑い声を聞いて、


(案外、『電話の声』の時も超素のままだったのでは…?)

(今までのストレスが爆発してる訳よ…)


彼女の名誉のため、あの姿は誰にも言わないでおこうと密かに決意した。


305 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/27(金) 22:08:36.77 ID:UAlKIbY0 [3/11]

第2学区、潮岸のシェルター最深部


杉谷。駆動鎧。テクパトル。

幾人もの強敵を倒して、グループの4人はついに潮岸から『ドラゴン』について聞き出していた。

だが、質問を受けた潮岸は嘲笑って答えた。


「何を言っている。『ドラゴン』はどこにでもいる」

「ほら、今は君の後ろにいるだろう」


それを聞いて振り返った『一方通行』の目の前には



「――『ドラゴン』か。その呼び名も間違いではない」



『ドラゴン』、いや、その名を『エイワス』と名乗る絶望が顕現していた。


306 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/27(金) 22:09:40.75 ID:UAlKIbY0 [4/11]

垣根帝督のいる部屋


心理掌握の意思にあわせて、常盤台ネットワークは徐々に出力を上げていく。

演算能力が爆発的に高まり、全能感すら覚えるほどだ。

だが、それでも心理掌握は悔しそうに歯を食いしばる。


(足りない。これでは“あの日の帝督”には届かない)


かつて一方通行と戦ったあの日、彼は『未元物質』を完全に掌握していた。

その遥かなる高みまではまだ足りない。

アレイスターにとって、代わりの利かないほど重要な1位と2位の超能力。

たかが第5位の心理掌握では、代償なしには手が届かない。


故に彼女は、戸惑う事無く代償を支払う。


「あああああああァァ!!」


体晶。意図的に拒絶反応を起こさせ、能力を暴走状態にする物質。

彼女は自分の『心理掌握』という能力をさらに高めるため体晶を使い、それをネットワークを経由して抑え込んだ。

そしてゆっくりと垣根の体を抱きしめた。


307 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/27(金) 22:10:21.34 ID:UAlKIbY0 [5/11]

――…心理掌握、テメェいつから暗部について知ってやがった?

――なのにどうしてお前は“俺たちの世界”に来てねぇんだ?

――俺の…演算領域に…直接干渉する…って…ハハ…褒めて…やるよ…!

――おい、何を…『私、心理定規―これからヨロシク』

――何だってこんな真似してんだ、常盤台のお嬢さんは?

――だから…お前はこの俺の手元にいろ

――今のお前じゃ、色々と“足りなすぎる”

――お前の趣味ってイマイチだからな、俺が選んでやるよ

――この大事な時期に、厄介事に巻き込まれた馬鹿にはムカついたがな

――何だ、どうやら思った以上にゴールは近そうだぜ

――クソムカついた。とんだゲス野郎がいたもんだ。これは俺が始末する必要があるな、間違いねえ

――本気で欲しくなっちまった

――だから、お前は俺のモンだ

――ベタで悪いが…お前がいたらきっと最後に“すがっちまう”からな


308 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/27(金) 22:11:33.61 ID:UAlKIbY0 [6/11]

あっという間に垣根の記憶が流れ込み、心理掌握は彼と“繋がった”。

…自分と同じような気持ちを、彼も持っていてくれた。

それを言葉ではなく、感覚として知ることが出来る喜び。

彼女が流れる涙を拭く間もなく、限界を迎えた扉が破壊され、警備ロボが何台も雪崩れ込んできた。

だが、もう心理掌握は欠片も恐怖を感じていなかった。


「せっかく2人っきりなのに…」

「“ムカついた”」


尚も垣根から離れない心理掌握に対し、無数の銃弾が発射される。

だが…


「“私”の『未元物質』に、常識は通用しない」


心理掌握の背中から生まれた真っ白な翼が、銃弾を警備ロボごと叩き潰した。


そして今度こそ2人きりになった部屋で、心理掌握は『未元物質』を使って目的を果たす。

ゴバッ!という音と共に、『未元物質』が垣根帝督と部屋の機械を繭のように覆い尽くした。


309 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/27(金) 22:12:32.03 ID:UAlKIbY0 [7/11]


第2学区、潮岸のシェルター最深部


「…どうやら、私には変形機能があるらしいぞ?」


あのグループを、最強の第1位『一方通行』を、エイワスは容赦なく潰した。

それとて大したことではないかのように。

そしてエイワスは、とある研究所の方へ目を向ける。

次いで気軽に呟いた。


「…垣根帝督の方も気になるし、行ってみるか」



310 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/27(金) 22:13:42.08 ID:UAlKIbY0 [8/11]

研究所の外


「ク!どうやら応援を超呼んでいたみたいです!」

「…結局これはマズいって訳よ」

「あの女に帝督を盗られたまま死ぬんじゃ、成仏できそうにないわね」


猟犬部隊の数が、一向に減らない。いや、それどころか増えてきている。

無線で応援を呼ばれたらしい。数で攻め落とす作戦のようだ。

それに対し弾薬が無くなりかけている3人は、徐々に包囲されてきていた。

思わず研究所に目を向ける絹旗。


(…超まだですか…?)

(そろそろタイムリミットな訳よ…!)


それでも、ここから先は通さない。

もはや只の意地で戦い続ける3人が、不敵に笑った。


311 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/27(金) 22:14:30.09 ID:UAlKIbY0 [9/11]

垣根帝督のいる部屋


心理掌握は、背後に突然現れた謎の“存在”から笑みを向けられた。


「これはこれは。アレイスターが焦るのも無理は無い」

「…」

「私の正体が気になるのか?」

「いいえ。“今の私”には分かる。あなたがアレイスターの計画の中心」

「AIM拡散力場を利用した結晶体のような存在」

「そこまで。たかが人間の感情が、このような興味深い結果をもたらしたか」


まるで自分の恋愛感情を馬鹿にするかのような口調に、心理掌握はその存在を睨みつけた。


312 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/27(金) 22:15:15.30 ID:UAlKIbY0 [10/11]

「それで君はどうしたい?」

「もう“長くは持たない”その身で、何を望む?」

「…分かっているでしょ」

「アレイスターと交渉すれば、あるいは違った道が開けるかも知れないぞ?」


その時。部屋にある『未元物質』の繭が、笑うように震えだした。


「うるせえな」


そして繭を中から破り、1人の男が現れた。

その体の半分以上を、心理掌握の『未元物質』で再構成された第2位。


「そしてムカついた。人の女を口説いてるんじゃねーよ」


垣根帝督が彼女を庇うように抱きしめる。


318 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/28(土) 22:46:09.01 ID:XqSIFjs0 [1/13]

垣根帝督のいる部屋


「…帝、督…」


久しぶりに聞いた彼の声に、再び涙腺が緩む心理掌握。


「馬鹿が。こんな無茶しやがって」

「…心配しないで。自覚はあるもの」

「ハ、つくづくお前はとんでもない作戦を実行しやがるな」


その様子を見ていたエイワスが、楽しそうに問いかける。


「垣根帝督。君はどうする?」

「…」

「君も、全能力をかけて私を殺してみるかね?」

「ダメ」


得体のしれない感情が交差する2人の間に、心理掌握が割って入る。


319 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/28(土) 22:47:10.24 ID:XqSIFjs0 [2/13]

「所詮、私の『未元物質』は紛い物、長くは持たないわ。…帝督は早く第7学区の病院へ行って」

「病院だと?」

「そこであなたの肉体を復元するの。もう準備は出来ているから」


それだけ告げると、心理掌握は力を失って垣根に倒れかかった。


「ふむ。良いのかな?」


エイワスは、心理掌握にはすでに興味を失ったかのように目を向けない。


「君の最終目的であるアレイスターとの直接交渉権」

「この私をどうにかできれば、間違いなくそれが手に入るぞ?」

「…」


垣根帝督は答えない。そのまま心理掌握を抱き上げると、無言で『未元物質』の翼を展開。

そして天井を翼で破壊すると、空へ飛び立ちながらこう述べた。


「あの『第1位』の役割を、俺はすでに知っている」

「あいつは、アレイスターにとってただの『ベクトル変換装置』って訳じゃねえ」


320 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/28(土) 22:48:31.31 ID:XqSIFjs0 [3/13]

今度はエイワスが答えなかった。


「だからあいつが『第一候補』だった。…恐らく、アレイスターが学園都市を作った理由の1つがそれだ」

「そしてそれと同様に、アレイスターの計画にはまだ俺の『未元物質』が必要だってのも予測できる」

「体を張ってこいつが教えてくれた」


そして垣根は、エイワスに冷たい目を向けて宣言した。


「どうせアレイスターの計画は、俺が自由になったことですでに大幅な修正が必要になっている」

「意味分かるか?“今”は、お前と戦うより大事な事があるんだよ」


エイワスは、空にいる2人に微笑んだ。すでに価値と興味を失ったと言わんばかりに。


「その死にかけのレベル5は、すでに重要性を失ったも同然だぞ?」

「分かってねえな、テメェ」


垣根もエイワスに薄く笑いかけた。


「重要性で言えば、惚れた女とのデートが最重要項目に決まってんだろ」


そして、答えを聞かずに研究所内部を後にした。


「汝の欲する所を為せ。それが汝の法とならん」

「なるほど。ならば示してみたまえ、汝の法を」


そして金髪の怪物は、歌うように呟いて自らも消えた。


321 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/28(土) 22:49:44.95 ID:XqSIFjs0 [4/13]

研究所の外


絹旗が轟音に気づいて後ろを振り返るのと、猟犬部隊が一斉に吹き飛ばされるのは同時だった。

心理掌握をお姫様だっこしながら現れた垣根が、『未元物質』の翼で一気に邪魔者を視界から消したらしい。


「…ようやくですか。超待たせすぎです」

「結局、あんな無茶な計画を成功させる執念が恐ろしい訳よ」

「…あ、はは」


心理定規が、残弾の無いマシンガンを捨てて垣根に駆け寄った。


「久しぶりね。…死んだと思ってたけど、結構元気そうじゃない」

「確かに久しぶりだな、心理定規。お前が来ているとは予想外だ」


その言葉を聞いて、心理定規は急に慌てだした。


「いや、あの、別にあなたを助けたかったわけじゃなくてね!?」

「ちょっとそこの女に復讐してやろうと思っただけよ!」

「…何でそれが猟犬部隊を足止めする事に繋がるんだ…?」


322 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/28(土) 22:50:47.60 ID:XqSIFjs0 [5/13]

垣根は思わず疑問を口にするが、当然心理定規は答える事が出来ない。


(言えない…帝督が好きだから協力してたなんて、絶対言えない…)


結局、知らないわよバカー!と叫んで、心理定規はその場を走り去った。


キョトンとする垣根だが、間髪いれずに絹旗が話しかけた。


「超久しぶりですね第2位。第1位にやられたと聞いて思わずガッツポーズしたというのに、超しぶといです」

「うるせーよ。…まあお礼ぐらいは言っておくか。こいつに協力してくれて助かった」


既に意識の無い心理掌握を大切そうに撫でてから、垣根は頭を下げた。

その態度に驚く絹旗は無言になるが、今度はフレンダが笑顔で話しかける。


「そういう契約だったんだから、当然の事だし。そんなことより、さっさと2人は病院に行った方がいい訳よ」


絹旗もその言葉に同意した。


323 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/28(土) 22:51:29.66 ID:XqSIFjs0 [6/13]

「じゃあここにいても超意味無いですし、全員で病院に行きましょうか」

「ああ。そうするか」


(…)

(…結局、最後の最後まで俺は弱かったままだ)

(姉さんと同じように、大切な人間に頼る事をしなかった)

(そんな俺に、こいつは無茶な真似して手を差し伸べてきた)




(…闇と絶望の広がる果て、か)

(こいつとなら、その先の光景を見れるかも知れねえな)



そして、学園都市に1つの夜明けが訪れた。



これにて三章終わり


324 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/28(土) 22:52:14.40 ID:XqSIFjs0 [7/13]

エピローグ(?)


第七学区のとある病院 とある病室


その部屋には、1人の少女が入院していた。

常盤台の最大派閥を率いる女王サマ。精神系では史上最強とまで謳われた“元”レベル5。

そう。彼女は、その『心理掌握』という能力を既に失っていた。

体晶と常盤台ネットワークを使った過度の負荷。

さらに垣根の『自分だけの現実』を無理やり読み取って同化したことにより、

彼女自身の『自分だけの現実』は回復不能なダメージを負っていたのだ。

あの日の夜エイワスが告げたとおり、彼女はすでに能力者としての価値を失ったことになる。

それでも、彼女の顔に後悔や悲しさの色は全くなかった。


325 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/28(土) 22:52:56.83 ID:XqSIFjs0 [8/13]

「入るぞ」


その彼女の部屋に、わずか数日で自分の体を取り戻した垣根が入ってきた。


「調子はどうだ?」

「それはわたしのセリフなんだけど。帝督の方は動いて平気なの?」

「問題ねえな。色々新しくなって、むしろ調子が良いぐらいだ」

「そう。…本当に良かった」


彼女はそう言って、心の底から嬉しそうに笑った。


「実はな、1つ報告があるんだ」

「?」

「…あの第1位と幻想殺し、おまけに浜面が、『エリザリーナ独立国同盟』へ向かった」

「エリザリーナ独立国同盟って、確かロシアの…」

「そうだ。しかも第1位は、あの『エイワス』のアドバイスを受けた結果そうしたらしい」

「そこに何かあるのね?」

「多分な。面白いだろ?…アレイスターの計画にとって、重要な人物がそこへ集合している」


326 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/28(土) 22:53:38.07 ID:XqSIFjs0 [9/13]

楽しそうに語る垣根に、彼女は恐る恐る問いただした。


「…置いていかないわよね?」

「…」

「あなたはそこへ行く気なんでしょ?」

「…」

「もう二度と、私を置いて行くなんて許さない」

「そうだな、その通りだ」


垣根が彼女を抱きしめ、耳元で囁いた。


「悪かったな、お前を置いてったりして」

「あれは確かに俺のミスだ」

「考えてみりゃ、この俺が惚れた女ぐらい守れないはずはなかったんだ」

「…帝督…」

「一緒に来い。お前の能力が無くなった程度じゃ、ハンデにもなりゃしねえ」

「…それに、“優秀”な護衛を雇ったらしいじゃねえか」

「え」


言葉と同時に、垣根の翼が病室のドアをこじ開けた。


327 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/28(土) 22:54:23.21 ID:XqSIFjs0 [10/13]

…そして、絹旗、フレンダ、心理定規の3人が転がるように中に入ってきた。


「こ、これは超違うんです!全てはフレンダの責任です!」

「えー!?結局、絹旗が一番ノリノリだった訳よ!?」

「…あ、その、…垣根、元気?」


気まずそうに弁解する3人を見て、彼女は思わず顔が真っ赤になった。


「い、いつの間に…」

「俺の後をこっそりつけていやがったからな。最初からじゃねーの?」

「それが分かってて…!?」


絶句する彼女を見て、垣根は嬉しそうに笑みを浮かべる。


「とりあえず、どうせお前らも一緒に来るんだろ?」


最初に反応したのは心理定規だった。


328 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/28(土) 22:55:14.31 ID:XqSIFjs0 [11/13]

「当然でしょ!…私が一番垣根をサポートできるしね」

「…あなたは本気でいらないんだけど?」

「垣根と2人で外国旅行だなんて、“絶対許さない”」

「怖!…いいわ、あなたに色々見せつけてあげる」

「ふん、無能力者同然の女王サマに、負けると思う?」


睨みあう2人をよそに、絹旗が溜息をついた。


「超お子様ですね。まあ、それでも雇用主ですから、超護衛ぐらいはしますけどね」

「結局、このフレンダ様が能力を使わなくても戦える武器を教えてあげる訳よ」


5人分の航空機チケットを予約しながら、垣根は空を見上げた。


(…退屈しねえな、こいつらは)


アレイスターの計算外。決して起こるはずの無い生き残り(キセキ)。

イレギュラーな5人組が、この惑星の争乱の中心、世界で最も苛烈な戦場へ踏み出した。



「…帝督」

「ん?」

「…もう一回抱きしめて」

「仰せのままに、女王サマ?」



とある暗部の心理掌握 終わり


329 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/28(土) 22:56:32.09 ID:XqSIFjs0 [12/13]

ということで、これにてこのお話は完結です

今まで見てくれた方、本当にありがとうございました

この数週間は、このssが良い息抜きになりました



330 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/28(土) 22:58:47.89 ID:XqSIFjs0 [13/13]

しばらくの休憩期間の後、また新しいものを書くつもりです。

製作速報には魔術関連のssが少ないので、

天草式十字凄教をテーマに次の話を考えています

その話も見てくれれば幸いです

では、おやすみなさい

コメント

No title

構成とストーリーが巧いなー

No title

一気に読んでしまった
面白い!
作者のていとくん愛が伝わってきた

No title

えと・・・心理掌握かわいい・・・>>1同人つくれよおおおおおおおおお

No title

同じ作者の書いたとあるミサカと天草式十字凄教もまとめて欲しいです

No title

やべェ、めちゃくちゃ感動

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