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とある暗部の心理掌握2
108 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/17(火) 22:46:02.06 ID:mfeNAA60 [1/11]
スクールの隠れ家
『滞空回線』の情報を入手してからわずかに2日後、大きな進展をもたらす情報を心理掌握は持っていた。
「…『ピンセット』?」
「そ。正式名称は『超微粒物体干渉用吸着式マニピュレータ』っていうんだけど」
「そいつを使えば…」
「ええ。素粒子すら掴み取るこの装置なら、ナノデバイスを簡単に採取できる」
「良く調べたな、情報はどこからだ?」
「私の派閥に新しく入ったコの父親が、素粒子工学研究所の所長だったの」
「新しい発明品です、って嬉々として紹介してくれたわ」
「はー、さすがは常盤台のお嬢様たちだ。持ってるコネが違うな」
「まあ、お褒めにあずかり光栄ですわー。…でも一つ問題があるの」
スクールの隠れ家
『滞空回線』の情報を入手してからわずかに2日後、大きな進展をもたらす情報を心理掌握は持っていた。
「…『ピンセット』?」
「そ。正式名称は『超微粒物体干渉用吸着式マニピュレータ』っていうんだけど」
「そいつを使えば…」
「ええ。素粒子すら掴み取るこの装置なら、ナノデバイスを簡単に採取できる」
「良く調べたな、情報はどこからだ?」
「私の派閥に新しく入ったコの父親が、素粒子工学研究所の所長だったの」
「新しい発明品です、って嬉々として紹介してくれたわ」
「はー、さすがは常盤台のお嬢様たちだ。持ってるコネが違うな」
「まあ、お褒めにあずかり光栄ですわー。…でも一つ問題があるの」
109 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/17(火) 22:47:01.95 ID:mfeNAA60
「問題?」
「ピンセットがある素粒子工学研究所の警備は相当厳しいのよ」
そう言いながら心理掌握は垣根に研究所の資料を渡した。
渡された資料を素早く読み終えた垣根は、一つの点に気がついてニヤリと笑う。
「確かに警備は厳重だが、ほとんどが私設警備の連中だ。ならやりようはあるな」
「どういうこと?」
「そういう連中は、緊急時には召集要員として動くことになってんだよ」
「別口で騒ぎを起こして、わざと召集させちゃうわけ?」
「そのとおり。…この場合、VIPの襲撃が最も効果的だな」
「VIP…もしかして…?」
「ああ。学園都市統括理事会のメンバーなんかピッタリじゃねえか?」
110 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/17(火) 22:47:59.35 ID:mfeNAA60
その後しばらく作戦会議をした結果、最も警備の手薄な『親船最中』を狙撃手に狙わせる、という事になった。
「よし、さらっと確認するぜ」
「まず狙撃手が親船を狙う。結果はともかくそれによって手薄になった研究所に、残る俺ら3人で突入」
「で、ピンセットを奪って『滞空回線』を解析、結果を見て第2プランへ移行するってわけね」
「…厳しい」
無表情でそう口にしたのは、奇妙なゴーグルを頭部に付けた少年だ。
彼も一応スクールの正規要員であるのだが、少々影が薄い。
「大丈夫よ。どーせヤバイ相手は帝督が引き受けてくれるしねー」
「都合良くかわいこぶるんじゃねーぞ《心理定規》?」
「まさかそんな。《未元物質》の活躍を期待してるだけですよー」
「ちっ」
「…大丈夫かな」
ゴーグル少年のつぶやきは、2人のレベル5に届かずに終わった。
111 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/17(火) 22:49:09.36 ID:mfeNAA60
親船最中狙撃ポイント
スクール正規要員の狙撃手は、標的がこの狩場に来るのを今か今かと待ち続けていた。
親船を狙う理由を正確には理解していないが、それはいつもの事だった。
リーダーの垣根帝督の指示通りにしていれば、こうして獲物が供給されるのだから文句など無い。
(そろそろ、来るころ合いだな…)
だが、今日は“いつも”とは違う事が起きる。彼は後ろからとある女に声をかけられた。
「いたいた、スナイパーのクソったれってーのは君の事かにゃーん?」
「誰だキサマ!?」
急いで懐から拳銃を取り出すが、そこに真っ白な光線が突き刺さり、腕ごと焼いていった。
「ギャアアアア…!?」
「『原子崩し』って名前ぐらい知ってるでしょ?」
「む、麦野沈利だと…第4位がなんでここに!?」
「あなたたちスクールが、理事会の暗殺を超企んでるって事で、依頼があったんですよ」
さらに『窒素装甲』の絹旗も、麦野の後ろから現れた。
112 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/17(火) 22:49:59.53 ID:mfeNAA60
「…で、どんな目的でこの暗殺を仕組んだ訳?」
「グ、ウウウ…悪いが、俺は…リーダーの…言うとおりに…してるだけで…」
「じゃあ、もう良いわ」
ザン、ともう一度光線が飛び、狙撃手の首ごと焼き落とした。
「…良いんですか、動機が超不明のままですが?」
「どーせ何か吐く前に自殺しちゃうわよ、こいつも暗部なんだし」
首の無くなった死体を見ながら、麦野は冷たく思考を働かせる。
(スクール…最近妙な動きをしてたとは思ってたが…)
(正規要員を出してまで、何を計画している?)
(何故、大して旨みのない親船を狙った?)
結論が出る前に、麦野の携帯から電子音が鳴り出した。
113 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/17(火) 22:51:19.85 ID:mfeNAA60
「はい。切るわ」
『いきなり!?まったくこいつときたらー!話を聞けー!』
「…なによ、言われたお仕事はたった今終了したわ」
『あ、ほんと?』
「これがスクールへの警告になるし、もう親船最中の狙撃はないでしょ」
『よしよし、オッケーオッケー。これで上にうまい事報告できそうね』
「じゃあ、これで今回の件は完遂したから報酬とかヨロシク」
『分かってるわよー!…で、殺したスクールのメンバーは狙撃手だけ?』
「他には下っ端すら確認できなかったけど?」
『ちっ…この辺で全員死ねばいいのに』
「…あんたスクール嫌いなの?」
『まーね。嫌いも嫌い、大っ嫌いよ。…じゃ、御苦労さん』ピッ
「まあいいか。絹旗、帰りましょう」
「そうですね。今からなら見たい映画に超間に合いますし」
報告を終えた麦野達は、後始末を下部組織に任せてその場から姿を消した。
114 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/17(火) 22:52:30.92 ID:mfeNAA60
素粒子工学研究所近くの待機場
スクールの3人は、監視員からの連絡を受けて全員苦い顔をした。
「…狙撃手がアイテムに殺された、か」
「とりあえず、ここは一旦隠れ家に戻るべきね、帝督」
「ムカつくがしょうがねえな。作戦の立て直しだ」
そう結論を出した3人はすぐに、用意してある車に乗り込むと、一路隠れ家まで退却する。
「新しいスナイパーを、すぐに補充しないといけないわねー」
「…伝手があるのか?」
垣根の質問に対する答えは、念話で帰ってきた。
『あるにはあるんだけど、《心理定規》としては頼めないの』
「つまり?」
115 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/17(火) 22:53:19.56 ID:mfeNAA60
『人材派遣(マネジメント)よ。アイツなら多分スナイパーも用意する。けど…』
『アイツは私の依頼で心理定規をホテルに呼びこんだの』
「そのお前が、心理定規として依頼をするわけにはいかないって事か」
『そーいうことよ。でもアイツは紹介者がいないと取引してくれないし…』
2人が悩んでいると、助手席にいた連絡員が話しかけてきた。
「リーダー、『ブロック』と名乗る男から連絡が入ってきました。取り次ぎますか?」
「おう」
連絡員から渡された携帯から、野太い男の声が聞こえてきた。
『俺は『ブロック』のリーダー、佐久と言う。『スクール』だな?』
「…ああ。わざわざ連絡を取ろうなんざ、どういうつもりだ?」
116 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/17(火) 22:54:19.42 ID:mfeNAA60
『これには盗聴対策が施されている。単刀直入に言おう。俺たちはこの学園都市を潰すつもりだ』
「へえ」
『お前たちもそのつもりなのだろう?』
「だったら?」
『協力しようとは言わんが、タイミングを合わせればより混乱が大きくなり成功率は増えるはずだ』
「なるほど?」
『今は〇九三〇事件やアビニョン侵攻で、駆動鎧の犬共は身動きが満足にとれない』
「絶好のチャンス、てか?」
『そうだ。良ければ必要なものも援助しよう。例えば腕の立つ紹介屋なんかどうだ?』
「…分かった。その成果によるが、共闘作戦といこう」
『よし。ではすぐに紹介屋から連絡をさせる』
「ああ、楽しみにしてるからな」
117 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/17(火) 22:56:05.53 ID:mfeNAA60
通話を終えた垣根は、携帯をポイ、と投げ返して話し合いを始めた。
「『ブロック』が私たちになんの用?」
「聞いて驚け、連中も学園都市に喧嘩を売るつもりらしい」
「まさか、嘘でしょ?」
「大マジだ。何を計画してるかは知らないが、事を起こすタイミングを合わせようと言ってきた」
「…信用出来ないんだけど」
「当たり前だ。多分奴らは同じ目的の俺たちを陽動に使う気だ」
「で、どうするの?」
「決まってる。俺たち“が”奴らを陽動に使う」
「…運が向いてきたかもしれねえな」
スクールはその日のうちに人材派遣と契約を交わし、砂皿というスナイパーが新たに補充されることになった。
――こうして、学園都市の裏で蠢く暗部組織がそれぞれの思惑で暗躍を始める事になる。
121 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/18(水) 22:19:13.86 ID:UEI7vpE0 [1/12]
10月9日(学園都市独立記念日)朝、スクールの隠れ家
垣根と心理掌握は、研究所襲撃予定時刻3時間前の今から集合していた。
と言っても、2人で甘い時間を過ごそうと言う訳ではない。
予定外の事態が発生したので、早めに集まっていただけである。
その証拠に、隠れ家には3人目の人物がいつも通りの無表情で現れた。
「…グループに捕まってた人材派遣(マネジメント)は始末した」
スクール正規メンバーのゴーグル少年が、一仕事終えて帰還したところである。
「御苦労さま。グループの反応は?」
「居たのは下部組織だけ。正規メンバーには気づかれていない」
「よし。いやあ、まったく焦らせやがる。早速連中から殺す羽目になるかと思ったぜ」
素早い対策を打てたためか、垣根は余裕の笑みを崩さずにゴーグル少年を労った。
122 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/18(水) 22:20:54.89 ID:UEI7vpE0 [2/12]
「にしても、グループが早速出しゃばるなんてね」
「ま、これ以上はグループも動けないだろ。ブロックの対処にかかりきりになるはずだ」
「まあねー。ブロックのおかげで敵の戦力が分散されるのは助かったわ」
「でも帝督、暗部には他にも厄介な《アイテム》と《メンバー》がいるんだけど」
「大した問題にはならねえな、その2つなら同時に相手したってケリはつく」
この第2位ならそうだろうが、心理掌握やゴーグル少年にはとてもそんな余裕はない。
「…只でさえ綱渡りな計画なのに、そんな事態になったら私は逃げて“他人の振り”をするわ」
「ばーか、今さら逃がすかよ。首輪で繋いでやろうか」
「うわぁ…」
「…趣味悪い」
「おいお前ら!俺をそんな目で見るんじゃねえよ!」
学園都市に喧嘩を売っている最中とは思えないような明るい声が、隠れ家に響いた。
それがスクール3人の最後の集まりだとは、微塵も予感をさせないで。
123 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/18(水) 22:22:04.73 ID:UEI7vpE0 [3/12]
同日午後、第18学区、素粒子工学研究所
スクールのスナイパー砂皿が、午前中に親船の暗殺騒ぎを起こした結果、この研究所はかなり手薄になった。
そこをスクールの3人が強襲、研究員から『ピンセット』の在りかを聞き出した。
「よし、じゃあこいつを車に積んでおけ」
垣根の指示によって、スクールのステーションワゴンにピンセットが移送される最中…
「はん、尻尾をつかんだわよ、スクールの皆さん?」
「麦野の読みが超当たりましたね」
「結局、ここで全員殺せば解決なわけよ」
爆音が研究所に響き、アイテムの4人が姿を現した。
「ちょっと帝督、結構ヤバいんだけど?」
「確かに、今ここで戦闘をしてピンセットを壊すわけにもいかねえな」
「適当にあしらってここは一旦引くぞ」
124 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/18(水) 22:23:00.93 ID:UEI7vpE0 [4/12]
指示を受けた心理掌握は、持っていたレディース用の拳銃で威嚇発砲。
だが、弾丸を無視して絹旗が走り寄り、その『窒素装甲』で彼女をぶん殴ろうとする。
…が、
「――!?」
「今のあなたに私を殴れる?」
それを予測していた心理掌握は『心理定規』を発動、相手の動きを止めて奥へ逃げ去った。
「逃がすかよォ!鬱陶しい能力使いやがって!」
その様子を見ていた麦野は『原子崩し』を彼女に向けて放射するが…
「おい、俺を無視してあいつに手ぇ出すなんて、良い度胸だな?」
垣根の背中から生える『未元物質』の翼が、それを麦野自身へ跳ね返した。
「ちぃっ!」
とっさに横へ避けるものの、完全には避けきれずに麦野のコートがジュゥ…と嫌な音を立てて焦げ付いた。
そして麦野が態勢を崩したその隙に、垣根の翼が彼女の頬を強打する。
125 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/18(水) 22:24:28.07 ID:UEI7vpE0 [5/12]
二度三度ゴロゴロと転がった麦野は、口から流れ出る血を拭いながら叫んだ。
「そうか…テメェ第2位の垣根帝督かっ」
「おう、これでもスクールのリーダーなんだ、ヨロシク」
「ふざけんな、死ね!」
麦野は怒りにまかせて『原子崩し』を連発し、建物ごと垣根を殺そうとする。
「今がチャンスってわけよ!」
2人のレベル5が戦っている間に、横からフレンダが携行型ミサイルを垣根に撃ち込む。
だがその全ては不可視の力に遮られ、届くことなく自爆した。
ゴーグル少年の持つ『念動力』がミサイルを防いだのである。
「ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね」
「…え!?」
それを見て怒りが我慢の限界に達した麦野はゴーグル少年に走り寄ると、彼の首を片手で掴む。
そして…彼が抵抗する間もなく『原子崩し』で顔を執拗に切り裂いていく。
その上完全に死んだ彼の体からゴーグルをむしり取って、引きつるような笑みを浮かべた。
126 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/18(水) 22:25:51.21 ID:UEI7vpE0 [6/12]
「帝督!積み込み終わったわ!」
「よっしゃ、じゃあな第4位?」
その狂気を見て尚、欠片も動じることなく垣根はその場を翼で破壊。
衝撃に巻き込まれた絹旗やフレンダが大きく吹っ飛んだ。
その上、破壊された研究所の粉塵が煙幕となり、麦野の目から垣根の姿を隠す。
派手な作戦のおかげでようやく逃走してきた垣根に、心理掌握は笑顔で告げた。
「帝督はピンセットと一緒に逃げて」
「お前はどーすんだ?」
「キー刺さったままのクレーンを見つけたの。それでアイテムを足止めしておく」
「…しょうがねえな、悪いが後を任せた。また後で落ち合うぞ」
垣根は一瞬触れるだけのキスを彼女に贈ると、下部組織の人間と共に研究所を後にした。
(こんな非常事態に…ホントズルイ男、ムカつく!)
悲しい事にその余韻に浸る間もなく、心理掌握はクレーン車へ駆け寄った。
127 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/18(水) 22:28:15.35 ID:UEI7vpE0 [7/12]
素粒子工学研究所の外
心理掌握がクレーン車を動かした時、ちょうどアイテムのメンバーが車で垣根を追いかけようとしていた。
(…悪いけど、殺す気でやるからね。とくにアイツに手を出した第4位!)
なので一切の遠慮なくクレーン車で激突し、アイテムの車をビルの間に挟み込んだ。
さらに、止めをさすため巨大鉄球を使用して車を原型も残さず破壊する。
研究所付近に、ドゴーン!!という映画のような派手な爆発音が辺りに響く。
(うわ、逃げられたか。しかも3人バラバラに散っちゃった)
それでも流石はアイテムと言うべきか、全員生き残ってバラバラに逃げだした。
(第4位の能力は知ってるけど…あの男は誰だろう?)
(情報の全くない彼から先に片付けておくべきかな)
心理掌握はそう判断すると、路地裏に逃げた謎の男(ハマヅラ)を追いかけた。
128 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/18(水) 22:29:45.54 ID:UEI7vpE0 [8/12]
近くにあるビルに逃げ込んだ謎の男を追いかけていくと、彼は心理掌握の姿を見て一瞬動きを止めた。
が、心理掌握が拳銃を取り出したのを見ると急いで鋼鉄のシャッターを作動させた。
慌てて何発か撃つが、弾丸は全てシャッターが受け止めてしまう。
(ちぇっ…“これ”じゃあシャッターを破壊するのは不可能ね)
(ん?)
ふとモニターでその男の様子を見ると、彼は形容しがたいジェスチャーで思い切り彼女を小馬鹿にしていた。
(決めた。こっちを使ってあの馬鹿男を泣かす)
頭に来た心理掌握は、腰から四〇ミリ小型グレネード砲を取り出した。
それを見たのか、モニターには急いで逃げようとする馬鹿が映っている。
当然、心理掌握は躊躇せず発砲――鋼鉄製のシャッターが吹き飛んだ。
「あれ?…もう逃げ場は無いのになー」
何故か馬鹿の姿が見えない。ここは3階で、他に隠れ場所は無いはずだ。
その時、彼女の耳に「負け犬上等ォおおおおお」という叫び声が聞こえてきた。
129 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/18(水) 22:30:37.60 ID:UEI7vpE0 [9/12]
「まさか…」
急いでテラスに到着するが、そこにもう馬鹿はいなかった。
(…マジで飛び降りた?)
下を見て確認するが、そこには若奥様が乳母車を押している光景だけがあった。
それを見て溜息をつくと、心理掌握は垣根の携帯に電話をかけた。
念話を使わないのは、仮に彼が戦闘中の場合は注意を逸らしてしまうからだ。
携帯なら、出ないという選択肢がある。
だがその心配をよそに、垣根はワンコールで出た。
「標的であるアイテムの男を見失ったわ。近くにいるのは幼な妻とベビーカーだけ」
「…ターゲットの男が幼な妻またはベビーカーに偽装しているという可能性はあると思う?」
『ばーか、死ね』
130 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/18(水) 22:31:40.94 ID:UEI7vpE0 [10/12]
「ひど!…でもやっぱり無いわよねー。油断したわ」
『まあ、おかげでこっちは無事に逃げられたから問題ねえよ』
「そう。今どこ?」
『例の倉庫へ向かってる。そこでピンセットを組み直す』
「分かった、気を付けてね。そろそろ他の組織も本気出してくるから」
『誰に向かって言ってるんだ?』
はいはい、と答えて通話を終了した心理掌握は、ここのエレベーターを探すためテラスを後にした。
2分ほどして。ようやくビルから出てきた心理掌握に、スクールの下部組織の男が話しかけた。
「心理定規さん。メンバーの1人、馬場芳郎の居場所を突き止めました」
「どこ?」
「第22学区の『避暑地』、VIP用の地下シェルターです。…厄介ですよ」
131 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/18(水) 22:32:13.73 ID:UEI7vpE0 [11/12]
「うーん、そうでもないわ」
「は?」
「何人か人を送って、シェルターを緊急モードにしちゃうの」
「緊急モードでロックがかかったら、入り口に水攻めでもすればいいわ」
「ですが、それでは殺せませんよ?」
「いいのよ。普段からそんなトコに引きこもるような臆病者は、それだけで勝手にビビって自滅するわ」
「…分かりました、さっそく実行します」
「お願いねー」
指示を終えてスクールの車に戻った心理掌握は、既に乗っていたもう一人と対面した。
…乗っているとは言っても、拘束され、銃を突きつけられている状態ではあるが。
「アイテムの、フレンダちゃんだっけ?よろしく」
「…結局どう見ても、私の方が年上なんだけど…」
「ちゃん付けが嫌なの?細かい事は良いじゃない。それよりも」
心理掌握は笑顔でフレンダの目を見つめた。
「アイテムについて、色々教えて欲しいんだけどな?」
142 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/19(木) 22:21:04.24 ID:C/s21GI0 [1/14]
第4学区、食肉用冷凍倉庫
「もう一度ここで絶望しろコラ」
垣根が笑いながらそう告げて、《メンバー》のリーダーである博士を抹殺してから十分後。
再び心理掌握が垣根の携帯を鳴らした。
「よお、どうしたよ?」
『…いやにテンション高いわね。何かあったの?』
「分かっちまうか。ついさっきメンバーの頭のクソジジイを潰したところでな」
『ああ、そう言う事。納得』
「で、そっちの用件は?」
『ちょっとした経過報告よ。メンバーの正規要員は、これで全員死んだか動けない状況になったわ』
「呆気ねえな」
143 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/19(木) 22:22:26.49 ID:C/s21GI0 [2/14]
『ついでに、ブロックも全滅よ。グループによってみんなやられちゃった』
「なんだ、思った以上に使えない連中だ」
『まあ、彼らじゃグループ相手に勝てる訳もないしね』
「すると、残る問題は…」
『そのグループとアイテムね。特にアイテムは、私たちを殺したくてうずうずしてるでしょうし』
「…憂いはここで断っておくべきだな。アイテムのアジトへ行くぞ」
『そう言うと思って、アイテムのフレンダちゃんから情報を聞き出したところよ』
「ああ、研究所にいた外人女だろ。あっさりこっちに寝返ったのか?」
『そ。もう用は無いでしょ?…私の好きにしちゃってもいい?』
「俺は興味ねえからな、ご勝手に」
『じゃあそうするわ。アイテムのアジトの場所は今からメールするから、現地で落ち合いましょう』
「おう。あんまり遅ぇとご褒美無くなるからな」
『把握したわー』ピッ
心理掌握の言葉通り、携帯にすぐにメールが届いた。
アイテムは第3学区のレジャービル、そのVIP用サロンに集合しているらしい。
「んじゃまあ、あの凶暴女たちに勝利宣言をしに行くか」
学園都市最大の敵となった第2位が、右手のピンセットをカキカキと鳴らしながら暗い目を向けた。
144 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/19(木) 22:23:42.96 ID:C/s21GI0 [3/14]
研究所近く、スクールの車の中
「もういっそ、殺してほしい…」
「そう言う無駄な事は、お馬鹿さんがやる事よ?」
「結局、この状況が馬鹿げてるわけよ…」
力なく項垂れるフレンダに対し、ひどく楽しそうな心理掌握が笑顔で告げた。
「さ、次はお待ちかねのメイド服ね」
「さっきの巫女さんで終わりじゃない訳!?」
「え、超機動少女カナミン(マジカルパワードカナミン)のコスチュームが良いの?」
「…メイド服が良いです」
「素直にそう言えばいいのに。…うん、やっぱり金髪の子だと服の黒さが映えるわねー」
「…ううう」
「じゃあ、残りはあとで。帝督に呼ばれたしそろそろ行かなきゃね」
「…ねえ」
「ん?」
「どうしてアンタは私を殺そうとしないの?」
「だって、殺したら利用価値が無くなるじゃない」
145 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/19(木) 22:24:35.36 ID:C/s21GI0 [4/14]
「利用価値?もうアイテムに戻れない私に価値なんて…」
「分かってないわねー。あなた、あの御坂とやり合った凄腕じゃない」
「…エヘヘ」
「そんな凄腕なら、今度は私の右腕として活躍しなさいよ」
「ま、まあこのフレンダ様の実力を見破るアンタになら、雇われてやっても良いわけよ!」
あっさりと懐柔されるフレンダを見て少し呆れる心理掌握だが、顔には欠片も出してはいない。
(…年上のくせに、こいつちょろいなー)
「じゃ、あなたは私たちの隠れ家に行きなさい。ここのお兄さんたちが送ってくれるから」
「うん。…麦野達とやり合うの?」
「帝督はその気でしょうね。私が行くのは違う目的だけど」
「違う目的?」
「優秀な人材のスカウトよ」
そうセリフを残して、心理掌握は別の車で第3学区へ向かった。
146 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/19(木) 22:25:52.48 ID:C/s21GI0 [5/14]
第3学区、とある高層ビルの25階
フレンダと別れてから30分少々後、ようやく到着した心理掌握は目の前の光景に溜息をついた。
何故かビルは半壊しており、中の客は我先に逃げだして大混乱になっている。
しかも、せっかく補充した砂皿というスナイパーが爆発によってやられたようだ。
(うわあ、大惨事…常盤台の時といい、ホントコイツ常識知らずね)
最も、目の前の男はその惨状を大して気にしていない様子だ。
平然と足元に倒れている2人のアイテムメンバーを見下ろしている。
「帝督、ちょっと派手にやりすぎじゃない?」
「違えよ、騒ぎの大半は第4位やそこで転がってる『窒素装甲』のせいだ」
「彼女、死んでないわよね?」
「こいつはそういう能力者だからな、しぶといもんだ。それより問題なのは…」
「こっちの滝壺ってコの方ね」
147 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/19(木) 22:26:42.30 ID:C/s21GI0 [6/14]
「ああ。この様子だともう長くねえぞ」
「…まさか今でも『体晶』を使っている能力者がいるなんてね」
「しかも、誰かさんみてえにこの俺を乗っ取ろうと無茶しやがったからな」
「一体誰の事かしら?」
「怒るなよ、そのおかげで簡単に対処できたんだからな」
「脳内の『未元物質』を使って逆流を防ぐなんて…反則もいいとこね」
「ふん。…とりあえずこの様子なら、こいつを殺す必要も無くなったな」
「アイテムはこれでもう動けないしね。さっさと『滞空回線』を調べに行きましょう」
その時エレベーターが上がってきて、中から見覚えのある馬鹿が姿を現した。
「あれ?何だ。戻ってきちまったのか」
垣根の言葉に対し、浜面は無言。袖に隠した銃を一気に突きつけた。
148 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/19(木) 22:28:00.37 ID:C/s21GI0 [7/14]
「どういう事、コレ?」
心理掌握の言葉で、ようやく浜面はあの時の「クレーン女」もいることに気がついた。
「テメェあの時の!?」
浜面が2人のどちらに照準を合わせるべきか迷っているうちに、心理定規を発動。
ご丁寧にその能力を解説してあげたところで、会話を続ける。
「滝壺ちゃんを助けに来たのかー、その顔でかっこいい事するじゃない」
「うるせえ!…クソ!」
「でも、このままだとその努力は無駄に終わるんだけど?」
「全くだ。俺たちがどうこうする前に勝手にこの女は死んじまう」
「テメェら何言ってんだ!?」
垣根は、退屈そうに滝壺の置かれた状況を説明する。
それを聞いて、浜面は愕然とした表情を浮かべた。
149 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/19(木) 22:29:28.53 ID:C/s21GI0 [8/14]
「そんな…」
「このコを守りたいなら、もう2度と能力を使わせちゃダメなの」
「…早くこのコを連れて逃げたら?」
「俺らを見逃すのか…?」
「今の俺らにとっちゃ、こいつなんてサーチ能力が使えないならどーでもいいからな」
「それに、この絹旗ってコも殺したりしないから安心していいよ」
「……ああ」
声を絞り出してそれだけ言うと、浜面は滝壺を背負ってビルを後にした。
「ホントにただの下っ端だったなアイツ。暗部にしちゃー素直すぎる」
「良いじゃない、ああいうのも。彼がどこまで頑張れるか楽しみだし」
「それはどーでもいいが…本気でこの女も殺さない気か?」
「うん。人間は生きてる限り何らかの形で利用できるものよ」
「それは死体であっても同じなんだがな」
結局垣根は心理掌握を止めず、甘ちゃんだな、と笑うだけにしておいた。
150 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/19(木) 22:30:55.10 ID:C/s21GI0 [9/14]
「先に戻って『滞空回線』の解析をしておく。やること済ませたらお前も来るだろ?」
「そうね。2時間ほどで戻る予定よ」
数人の下部組織だけを残して、垣根は一足先に隠れ家へ向かった。
「…あのお人よしは超騙されましたが、私は甘くないですよ?」
こっそり目を覚ましていたボロボロの絹旗が、心理掌握を睨んで話しかけた。
「ん、どういう意味かな?」
「どーせ本当は私をここで超殺す気でしょう?あの馬鹿が逃げやすくなるために超嘘をついたに決まってます」
「何か、アイテムの境遇が分かる気がするわねー」
「…超本気で殺さないんですか?」
「だからそう言ってるじゃない」
「ははあ、ってことは超汚れ仕事を押し付ける気ですね」
「…良いですよー、今までと超同じでしょうから」
「多分想像できてないと思うんだけどなー」
「で、何をこの絹旗サマにさせるんですか?」
151 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/19(木) 22:32:05.60 ID:C/s21GI0 [10/14]
「私の護衛よ」
「は、護衛?」
「そうそう、あなたがピッタリなのよ!」
「…あの第2位が超いるのに?」
「ふふ、私が頼むのは常盤台中学で生活する時の護衛なの」
「常盤台中学ってあの超お嬢様学校の?」
「そうよー。レベル4の女子中学生だなんて、正にパーフェクトよね」
「なぜそんなことが必要なのか、超意味が分かりませんが?」
不思議がる絹旗に、心理掌握は念話を使って語りかけた。
『聞こえるかなー?』
「!」
『うふふ、驚いたー?』
「この強力な念話…常盤台…もしかして…?」
『そ。私は《心理掌握》って言うの。驚いた?』
「第5位が暗部入りしてるなんて、超初耳です」
152 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/19(木) 22:33:01.34 ID:C/s21GI0 [11/14]
『スクールの私は《心理定規》だからね。…まあこういう訳なの』
「いやいや、どういう訳ですか?」
『私たちレベル5には何かと敵が多いでしょう?』
「はあ」
『なのに御坂や帝督みたいな怪物と違って、私はただのか弱い女の子だから』
「か弱い…?」
『あなたみたいな格闘もOKな護衛が欲しかったのよ』
「いやいやいや、か弱い?」
『それ以上余計なコト言うと記憶を覗いたり消しちゃうかもよ?』
「超か弱いレベル5の護衛を超任されました!」
『ありがとー、あ、優秀なサポート役も居るから安心してね?』
「サポート役?」
『フレンダって言うんだけど』
「あいつ超何してるんですか…」
ますます体をぐったりとさせた絹旗をスクールの車へ連れ込むと、心理掌握は早速常盤台へ電話をかけた。
その内容に困惑する先生たちであったが、心理掌握は強引に要求を押しとおし――時期外れの転入生が1人誕生した。
153 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/19(木) 22:34:30.93 ID:C/s21GI0 [12/14]
常盤台中学学生寮(学舎の園)、心理掌握の部屋
結構な怪我をしていた絹旗だったが、心理掌握は派閥の能力者を使って彼女を歩ける程度にまでは回復させた。
そして一通り寮の案内を済ませると、これから暮らすことになる自分の部屋へ連れてきた。
「これから私は帝督のところに戻るから、校舎の案内はまた明日ね」
「…」
「とりあえずこの部屋でくつろいでてね。そのうちフレンダも来るから」
「…」
「いやーそれにしても、私の部屋は元々1人分空いてたし、ちょうど良かったわ」
「…ここの学生がみんなして、あなたの顔を見ると超頭下げてくるんですが」
「そりゃーねー、伊達に派閥だ何だと苦労してないもの」
「そうですか」
「あ、クラスメイトの紹介も明日ね」
「分かりました」
「あれー、顔がニヤケてるよ?絹旗ったら学生生活もまんざらでもない感じ?」
「まさか。こんな形で学生生活を送ることになるとは超迷惑です」
154 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/19(木) 22:35:43.61 ID:C/s21GI0 [13/14]
「…ここの食事は結構美味しいのよ?デザートにも力入れてるし」
ピク、と絹旗の体が反応する。
「学生はみんなレベル3以上だから変な目で見られる事もないし」
「学舎の園にしかないB級専門映画館もあるし」
「仕方ないですね、しばらくは居てあげましょう」
(こいつもちょろいなー)
こうしてアイテム2人を自分の配下に置いた心理掌握は、隠れ家にいる帝督のもとへ向かうことにした。
「じゃあ、ちょこっと出かけてくるね」
「はいはい」
部屋に1人になった絹旗は、ポフン、とベッドへ座り込むと考え事をした。
(昼前には殺し合いをしていた人間を、自分の護衛に雇うなんて…)
(しかも一緒の部屋に住まわせるなんて…)
(それだけ自信があるってことなんでしょうかね?)
(まあどうせアイテムが負けた今、私たちは何も出来ませんが…)
(アイテムと言えば、滝壺さんとあの馬鹿面はどうなりましたかね?)
(…それに、第2位にやられた麦野も)
(仮にもレベル5の麦野が、あんな簡単にやられてるはずはないと思いますが…)
まさかその麦野と浜面が、ついさっき殺し合いをしていたとは流石に想像できない絹旗であった。
163 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/20(金) 23:14:09.14 ID:d5yRMBk0 [1/11]
スクールの隠れ家
心理掌握は常盤台を出た後、まっすぐに垣根のいる隠れ家に向かった。
すでにそこで作業をあらかた終えていた垣根は、片手をヒラリと上げて反応した。
「順調そうね」
「まあな。解析はもう終わってる」
「そう。…あ、ここに来る途中に聞いたんだけど、アイテムが行動不能になったって。しかも原因は仲間割れ」
「それで第4位の麦野がダウンしたから、組織の維持は不可能とみて間違いないわね」
「あん?仲間割れって事は、麦野は一応、俺の攻撃からは逃げきってたのか…でも、誰が?」
「フレンダと絹旗はお前が囲ったし、滝壺理后には直接的な戦闘力はねえし…」
ここでようやく垣根はある男の顔を思い浮かべた。
164 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/20(金) 23:17:21.23 ID:d5yRMBk0 [2/11]
「まさか…」
「そのまさか。顔の割にかっこいいことしてたあの浜面君がやったって」
「マジかよ、あいつ無能力者だろ」
垣根は軽く口笛を吹いて馬鹿そうなレベル0を賞賛した。
「…で、解析結果の方は?」
「ダメだな。結構なデータだったが、これだけじゃアレイスターと対等にやり合える立場に立てねえ」
「そっか…残念ね」
「ま、ある意味予想通りだがな。このデータにプラスしてもう一押しする必要がある」
「なら、やっぱりやるの?」
「…ああ、学園都市第1位を殺す。アレイスターと交渉するには『第一候補』になるしか道はねえ」
あの最強の第1位、『一方通行』の戦績を思い出して心理掌握はげんなりとした。
「気が進まないわー。彼はあらゆるタイプの精神能力者と戦って無敗なの」
「…」
「私なんかじゃ全然歯がたたない」
「…」
165 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/20(金) 23:18:12.08 ID:d5yRMBk0 [3/11]
もっとも、最後までこの男に付いていくと決めた以上、心理掌握は勝つ方法を模索する。
「ただ…今は彼の能力に制限時間があるし、うまく隙をつくことが出来れば」
「…おい」
「なによ?」
「悪いな」
垣根はわずかに寂しげな笑顔を浮かべると、心理掌握に睡眠スプレーをかけた。
「…は…嘘…でしょ…」
「ベタで悪いが…お前がいたらきっと最後に“すがっちまう”からな」
「…てい…と…く…」
深い眠りに落ちて、それでも垣根の服を離さない心理掌握を、彼はそっとソファーの上に置いた。
そして彼女の頭をゆっくり丁寧に撫でると、一瞬浮かんだ逡巡を振り切って隠れ家を後にする。
7年前のことを思い出しながら。
166 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/20(金) 23:19:05.98 ID:d5yRMBk0 [4/11]
7年前、学園都市のとあるマンションの一室
垣根帝督には、年の離れた姉がいた。
見たこともない両親の代わりに彼を育ててくれた、厳しくて優しい姉だ。
彼女は優れた能力開発研究者でもあったので、普段は研究所に詰めて中々この家に帰ってこない。
そんな彼女が今日は珍しく御馳走を作り、垣根と一緒にお祝いをしていた。
3日前に、垣根が学園都市の第2位に正式に認定されたので、それを祝ってのささやかなパーティである。
「にしても、帰ってくるなら連絡ぐらいいれろよな」
「すっかり忘れてたのよ、許して~」
「まあいいけどよぉ」
「いや~、流石レベル5!第2位!心が広いな~」
「…もう酔っぱらったのか」
垣根は呆れて愚痴をこぼすが、それでもその表情はどこか楽しそうであった。
167 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/20(金) 23:20:49.95 ID:d5yRMBk0 [5/11]
「どーせなら、第1位になれりゃーカッコも付くのに」
「なによ~、もうお姉さんとしては十分すぎる出来た弟なんだけど?」
「そりゃどーも。っていうか俺の事より、姉さんはどうなんだよ?」
「へ?うち?」
「最近ますます忙しいみたいじゃねーか。俺第2位になったし、もうお金の心配なら…」
「“てっくん”は優しいな~」
「いつまでも“てっくん”って言うな!俺は真剣に言ってるんだぞ」
「うんうん、ありがと。でも、最近上から新しい理論が提供されてね~、その確認実験でしばらくは忙しいままね」
「新しい理論?」
「そうよ~。何でもこの実験が成功すれば、みんなが能力をもっとうまく扱えるようになるんですって」
「へー、それはスゴい…のか?」
「分かってないわね~、ここにいる学生の6割がレベル0なのよ?その子達が能力を使えるようになれば素敵じゃない」
「そういうものなの?」
「ああ、第2位のてっくんには分からないのか~、ショック~」
「分かった、分かったよ!だからくっつくな!」
168 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/20(金) 23:21:59.66 ID:d5yRMBk0 [6/11]
「あ、そ~言えばその実験には第1位の子が協力するって話なの」
「確か第1位って『一方通行』だよな、見た事ねえけど」
「そ~ねえ、うちもまだ会ってないわ。どんな子か楽しみね~」
結局その日は、久しぶりに姉弟水入らずの楽しい一時を過ごした。
それから2週間たち、新しい実験の話などを垣根が半ば忘れていたころ。
突然、ある一報が垣根にもたらされた。
知らせを受けた垣根は、慌てて連絡を受けた場所へ向かった。
そこで彼は――
「…嘘だろオイ」
変わり果てた姿の姉を見ることになる。
169 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/20(金) 23:24:29.99 ID:d5yRMBk0 [7/11]
とある研究所の一室
姉が変死体となって発見されてから、すでに何日が経過したのかも垣根は把握していなかった。
あっという間に葬儀を含む全てが行われ、事件はアンチスキルが引き続き調査している。
抜け殻となった垣根は、ようやく外に出れるようになり、姉の職場にある私物を引き取りに来ていた。
(…何で…)
(姉さんに恨みが?)
(それとも通り魔?)
(犯人さえ分かれば、俺が殺してやるのに…)
垣根がやりきれない思いを抱いて荷物をしまっていると、1枚の写真が目にとまった。
自分が第2位となったことを、姉と2人でお祝いした時の写真である。
(ああ…職場に飾ってたのか)
言葉に出来ない思いが胸を一杯にする。震える手で写真立てからその写真を抜くと、裏にメッセージがあった。
――ごめんね、てっくん
170 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/20(金) 23:25:41.51 ID:d5yRMBk0 [8/11]
思わず垣根は目を見開いた。
(どういう事だ?)
(まるで…自分が死ぬ事を分かってたみたいじゃねえかよ!)
それまでが嘘のように、垣根の体に力が戻ってくる。
そして急いで全ての私物を家に持ち帰ると、ゆっくり調べ始めた。
学園都市のとあるマンションの一室
垣根が姉の持ち物を調べ始めて2日後、ついに彼は歯ブラシの中にある超小型チップを発見する。
その中には、姉の言っていた新しい実験の全容が記録されていた。
実験名称:暗闇の五月計画
実験内容:学園都市第1位『一方通行』の演算パターンを置き去りの頭にインプットすることで
被験者の『自分だけの現実』の最適化を図る
実験結果:第1次実験では、被験者20名のうち11名が死亡、残る9名も発狂などをおこしいずれも失敗
(これは…置き去りを使った…人体実験!?)
171 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/20(金) 23:26:51.38 ID:d5yRMBk0 [9/11]
やがて映像は、その被験者の苦しみもがく様子に切り替わった。
――ああああ!苦しい!
――誰!?私に話しかけないでぇ!
――気持ち悪い!いや、死んじゃう!
――頭に誰かいるよ!割れちゃうよぉ!
映し出された凄惨な光景に、垣根は思わず目を背けて涙を流した。
(こんなことをしてたのかよ!)
(…ア、アンチスキルに通報…)
垣根が思わず立ち上がった時、再び映像が切り替わった。そこに写されたのは…
「…てっくん」
「姉さん!?」
「さっきまでの映像を見たわよね?」
「ごめんなさい。まさか、こんなことになるなんて…思いもしなかった」
「すでにこの研究所は上の人達に乗っ取られたも同然…」
「この酷い実験は、まだまだ続くわ」
「それを、うちは止められなかった…!」
「上の人達に抵抗したから、きっとうちはすぐに殺される」
172 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/20(金) 23:27:49.74 ID:d5yRMBk0 [10/11]
「無関係なてっくんに頼むなんて最低とは思うけど…」
「ここにいる置き去りの子供達を、どうか助けてあげて!」
「今のうちじゃ、アンチスキルに連絡を取ることも不可能なの」
「なんとか通報して、この実験を中止させないと…!」
その言葉を最後に、映像は不自然に途切れて終了した。
「…」
いつの間にか、垣根の目から涙は消えていた。吐き気もない。
代わりに心を満たしたのは、たった1つの感情。
――1度も自分を頼る事のなかった姉が、唯一泣いて頼ったのは死んだ後だった。
(ふざけんな)
(ふざけんな!)
(ふざけんなよ!!)
垣根は怒りにまかせて壁を殴る。痛みなど気にせず、何発も何発も。
やがて彼は苦しそうに絶叫して、その場に倒れ込んだ。
…そしてもう一度立ち上がった時、彼は覚悟を決めていた。
「アンチスキルはいらねえ…この俺の手で、ふざけた実験をぶち壊してやるよ」
それが、さらなる悲劇を生みだすとは知らずに。
177 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/21(土) 23:23:31.36 ID:FrjG/1s0 [1/14]
とある研究所
垣根が再び姉の職場へ戻ると、温和そうな若い研究者が出迎えた。
「おや、垣根さんの弟くんじゃないか」
「…」
「2日ぶりだね。ここに何か忘れ物でも?」
「…ああ」
瞬間、ようやく扱いに慣れてきた『未元物質』の翼が現れ、研究者を一撃で吹っ飛ばした。
「…コレが忘れものだ、クソ野郎」
そう言い捨てて、垣根は研究所へ侵入した。
騒ぎを聞きつけた警備の人間や、研究所の職員を全て薙ぎ払って彼は進む。
178 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/21(土) 23:24:32.40 ID:FrjG/1s0 [2/14]
――まだ11歳のガキだ、とっとと殺せ!
――なんで第2位が襲ってくる!?
――化け物!くたばれ!
わずか2日前に来た時とは、全く違う正体(ヒョウジョウ)を見せる研究所。
だがその全ては『未元物質』の前にひれ伏し、わずか10分で研究所は制圧された。
「おい、置き去りの子供たちはどこにいる?」
「…クソ…」
「答えないなら、本気で殺す」
「…地下だ。第3待機室にいる」
答えた研究者を投げ捨てると、垣根は1人地下の置き去りのもとへ向かう。
垣根が待機室に入ると、そこには凄まじい異臭が漂っていた。
「おい、しっかりしろ!」
部屋の明かりを付けて確認すると、およそ30人近くの子供たちがぼろ布のように横たわっていた。
すでに実験を受けたのか、虚ろな表情でうわ言を呟いているものもいた。
179 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/21(土) 23:25:27.35 ID:FrjG/1s0 [3/14]
(だが、今から全員助けられる。姉さんの最後の願いどおり、実験は中止に追い込めた)
垣根は子供たちに手を差し出した。
「助けに来た。全員ここから逃げるぞ」
…その時、異変が始まった。
「ガアア!」
「…アアア…コロス…」
「おい、何しやがる!?」
起き上った30人の子供たちが、突然、垣根に能力を使って襲いかかってきたのだ。
驚いて応戦するが、子供たちを殺すわけにもいかない垣根は、防戦一方になる。
その時、垣根の耳に冷たい機械の音声が聞こえてきた。
警報:暗闇の五月計画、フェイズ2へ移行を確認。被験者の実践戦闘能力テストを開始。
警報:戦闘目標、レベル5第2位『未元物質』。戦闘終了までこの部屋を封鎖します。
慌てて垣根が振り返るがすでに遅く、待機室は鋼鉄の隔壁が降りて完全に封鎖された。
180 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/21(土) 23:26:17.00 ID:FrjG/1s0 [4/14]
(そんな…罠だったのか!)
(初めから、この俺を誘い込むつもりで・・・)
極めて優秀な頭脳を持つ垣根は、11歳ながら“敵”の目的を看破してしまう。
姉の頼みで来た自分が、この子供たちを倒す事など出来るはずもない。
だが、第2位の自分がこの程度の能力者たちに負けるはずもない。
つまり、逃げない限り戦いはいつまでも続く事になる。
それが目的だろう。自分が防戦一方で戦いを続ければ、それだけ実験データを大量に入手できる。
(姉さんの善意を…利用しやがったな!)
恐らく、姉の残したメッセージに気づいていた連中は、あえて俺に発見させて研究所に来させたのだ。
最後に力を振り絞って唯一残した手掛かりも、それすらも利用したのか。
垣根の視界が怒りで真っ赤に染まる。それでも頭が冷静に動くのが恨めしく感じるほどに。
(思い通りになんて…させるかよ!)
ならば、垣根は何としてもこの部屋を脱出して、今度こそ実験を終了させなければならない。
181 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/21(土) 23:27:26.30 ID:FrjG/1s0 [5/14]
(でも、どうやって?)
(鋼鉄の隔壁を破壊するには、時間がかかる)
(30人の能力者と戦いながら出来る芸当じゃねえ)
(子供たちを一旦気絶させるか?)
ゴッ!!
垣根は自分の周囲を翼で薙ぎ払い、その爆風で子供たちをまとめて気絶させようと試みる。
だが、元々朦朧として強い意識を持っていなかった子供たちは、すぐに意識のないまま起き上って垣根に襲いかかってきた。
(キリがねえ!)
(相手しながら隔壁を破壊できない以上、逃げ場は…)
(待てよ、鋼鉄の隔壁じゃなく、ただの天井なら…!)
まだうまく飛ぶ事が出来ない垣根だったが、必死に天井付近まで飛翔し、全力で穴を開け始めた。
しかし、その間も子供たちの能力が次々と垣根を襲う。念力、火炎、電気、突風、正体不明の精神攻撃。
(痛い、熱い、苦しい…クソったれ!!)
体をボロボロにしながらも、ついに天井に穴を開けた垣根は急いで1階に着地する。
182 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/21(土) 23:28:42.24 ID:FrjG/1s0 [6/14]
(なんとか逃げれた、後はどうやって子供たちを正気に戻す…?)
ようやく一息ついた垣根だったが、絶望はまだ終わらない。
再びあの悪魔のような機械の声が下から響いた。
警報:暗闇の五月計画、フェイズ2は第2位の離脱の為、失敗を確認。
警報:よってフェイズ2代理案を開始。戦闘目標修正、被験者同士。
その言葉と同時、子供たちは今度は互いに攻撃を始めた。
「クソが!ふざけんな!どうなってやがる!」
垣根は吠えるが、その声は誰にも届かない。
垣根が逃げたところで、結局子供たちは殺し合う。
だが、自分が戻ればこの実験は延々と続く。
気絶させられない以上、11歳の垣根に子供たちを殺さず無力化する方法は思い浮かばなかった。
(急いで正気に戻さないと)
(けど、この実験は頭に直接第1位の演算パターンを埋め込むってやつだ)
(外部刺激でなんとかなるレベルとは思えねえ)
(…この研究所の中を探して、麻酔用ガスかなにかを見つけて昏倒させるのが一番か)
183 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/21(土) 23:29:26.21 ID:FrjG/1s0 [7/14]
垣根は素早く判断を下すと、研究所を調べながらアンチスキルへ電話をかけた。
『…はい』
「あ、アンチスキルですか!置き去りを使った違法な実験施設があるんだ!」
『本当ですか』
「はい、場所は――」
『了解しました、すぐに向かいます』
「頼む!早く!」
「…はい、到着しました」
「え?」
何故か電話の声が、自分の真後ろから聞こえてきた。
垣根が驚いて振り返ると、そこには顔に入れ墨をした白衣の研究者らしき男が笑いながら立っていた。
「ぎゃはははははは!!」
「誰だテメェ!アンチスキルじゃねえな!」
男は垣根に答えずに、尚もおかしくて堪らない様子で笑い続けている。
184 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/21(土) 23:30:28.63 ID:FrjG/1s0 [8/14]
「いやー、ないわー。あのガキの演算パターンを頭に植え付けるとか、出来る訳ねえっつーの」
「中には中途半端に成功したやつもいるみてぇだが…」
「これ以上は金のムダだと思わねえか、なあおい?」
「誰だテメェって聞いてんだろ!テメェがこの実験を指揮して姉さんを殺したのか!?」
「…はー?」
男は呆れたようにナイナイ、と手を振った。
「話聞いてたかよボケ、出来る訳ねえってたった今言ったろーがよ」
「じゃあ、何でここに居やがる!」
「お仕事だよ、お偉いさんに言われてな」
そう言うと、男は垣根の開けた穴から細長い物体を投げ込んだ。
それは落下と同時にガスを噴出し、子供たちを全員昏睡状態に陥らせる。
「まーったく、手間掛けさせやがってよぉ」
音が消えた事を確認すると、男は無線で誰かに連絡を取った。
「まだ生きてるのを回収しとけ」
『了解です、木原さん』
185 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/21(土) 23:31:16.32 ID:FrjG/1s0 [9/14]
垣根は、目まぐるしく動く展開に付いていくことが出来ない様子で呟いた。
「…助けに来てくれたのか?」
「そうでーす。ぎゃはははははは!」
その時、男の持つ無線に連絡が入ってきた。
『木原さん、逃走していた研究者を全員捕獲しました』
「遅えよバーカ」
『申し訳ありません。それともう1つ』
「なによ?」
『研究者の1人が自殺しました。どうやら強制的に実験をやらされたらしく、完全に壊れてましたね』
「あー、それってひょっとしてあの垣根ちゃん?」
『はい。一応遺体は回収してあります』
「あいつもバカだねえ」
「ちょっと待てよ!」
漏れた話を聞いた垣根は男に詰めよった。
「研究者の垣根って!?」
「おいおい、決まってんだろ。キミのねーさんじゃないか。あはははぎゃはは!」
186 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/21(土) 23:33:45.29 ID:FrjG/1s0 [10/14]
それを聞いて垣根は目眩がした。それでもなんとか耐えて大声を出す。
「姉さんはちょっと前に殺されたんだ!葬式もやった!」
「…それに…最後のメッセージだって…」
「おーいおい、どこまで甘いのよキミ?」
絶望は終わらない。男は楽しそうに告げた。
「実験動物(ダークマター)確保のため、無理やりチップを用意させられたに決まってんじゃーん」
「なんだと!?」
「キミのねーさんが必死で残したチップを捨てずに、わざと自分を誘い込むエサにしたとか思ったかよ?」
「…」
「ハズレ。偽の“変死体”もチップも上の連中が用意したんでーす、だって優秀な研究者は殺すより利用した方がいいからなあ」
男はギャハハと笑って垣根の心を抉る。
(姉さんは…死ぬ事さえ…許されなかったのか…?)
(姉さんが…俺を実験に巻き込むことを許すはずはねえ)
(なのにそれを無理やりさせたってことは…)
今の垣根には想像もつかない恐ろしい目にあわされたのだろう。
187 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/21(土) 23:35:29.73 ID:FrjG/1s0 [11/14]
「いやー、でも良かったな。中止にならなきゃこのまま死ねずにいただろうに、今度こそ死ねたみたいで」
「ふざけんなよ!!」
垣根は男に掴みかかって絶叫した。
「こんなことは間違ってる!」
「へー」
「アンチスキルに通報したのにお前が来たって事は、きっとアンチスキルなんかより上の立場…」
「そう、統括理事会クラスの奴がこの実験を指揮してたんだろ!」
「ほー。で、だとしてどーするのよ?」
「俺は学園都市第2位の垣根帝督、『未元物質』だ!」
「だから?」
「学園都市のトップに会わせろ!こんなことを許してたまるか!きっと第2位の俺の意見なら…」
「無駄だな」
「!」
「オマエ“程度”じゃ、アレイスターは相手にしねえよ」
188 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/21(土) 23:36:49.82 ID:FrjG/1s0 [12/14]
思わず、掴みかかった垣根の手から力が抜ける。
「なら…どうすれば…そのアレイスターってやつと交渉するにはどうすればいい!?」
「知るか。悩んでるとこ悪いが、実はこれが俺の今日の本当のお仕事なんだわ」
そう言って、男は垣根に麻酔弾を撃った。
(そうか、最初からこいつは俺が目的で…)
揺らぐ意識の中、垣根はこの悲劇が全て自分のせいで起こった事をようやく悟った。
そしてこの学園都市が、腐った連中の跋扈するおぞましい場所だと言う事も。
それから暗部という闇に落ちて7年。
心優しい少年は、その全てを変えるため、アレイスターとの直接交渉権を手に入れることを誓った。
たとえ自分が、決して戻れぬ闇の底に沈むとしても。
189 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/21(土) 23:37:43.82 ID:FrjG/1s0 [13/14]
そして現在、スクールの隠れ家
「う…」
心理掌握はゆっくりと目を覚ました。
自分がなぜソファーに寝ていたのか、眠る前の状況を徐々に思い出し…
「帝督!?」
ふらつきながらも急いで起き上り、辺りを見回すが誰も居ない。
(なによ…『お前はこの俺の手元にいろ』とかカッコイイこと言ったくせに!)
(今さら私を手放すなんて…許すわけないでしょ!)
急いで垣根を追いかけようと隠れ家を飛び出した瞬間、携帯にメールが届く。
(ひょっとして、帝督?)
急いでメールをチェックした心理掌握は、その場に力なく倒れ込んだ。
――緊急報告、学園都市第2位『未元物質』こと垣根帝督は、第1位『一方通行』に敗れ、死亡した。
これにて二章終わり
「問題?」
「ピンセットがある素粒子工学研究所の警備は相当厳しいのよ」
そう言いながら心理掌握は垣根に研究所の資料を渡した。
渡された資料を素早く読み終えた垣根は、一つの点に気がついてニヤリと笑う。
「確かに警備は厳重だが、ほとんどが私設警備の連中だ。ならやりようはあるな」
「どういうこと?」
「そういう連中は、緊急時には召集要員として動くことになってんだよ」
「別口で騒ぎを起こして、わざと召集させちゃうわけ?」
「そのとおり。…この場合、VIPの襲撃が最も効果的だな」
「VIP…もしかして…?」
「ああ。学園都市統括理事会のメンバーなんかピッタリじゃねえか?」
110 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/17(火) 22:47:59.35 ID:mfeNAA60
その後しばらく作戦会議をした結果、最も警備の手薄な『親船最中』を狙撃手に狙わせる、という事になった。
「よし、さらっと確認するぜ」
「まず狙撃手が親船を狙う。結果はともかくそれによって手薄になった研究所に、残る俺ら3人で突入」
「で、ピンセットを奪って『滞空回線』を解析、結果を見て第2プランへ移行するってわけね」
「…厳しい」
無表情でそう口にしたのは、奇妙なゴーグルを頭部に付けた少年だ。
彼も一応スクールの正規要員であるのだが、少々影が薄い。
「大丈夫よ。どーせヤバイ相手は帝督が引き受けてくれるしねー」
「都合良くかわいこぶるんじゃねーぞ《心理定規》?」
「まさかそんな。《未元物質》の活躍を期待してるだけですよー」
「ちっ」
「…大丈夫かな」
ゴーグル少年のつぶやきは、2人のレベル5に届かずに終わった。
111 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/17(火) 22:49:09.36 ID:mfeNAA60
親船最中狙撃ポイント
スクール正規要員の狙撃手は、標的がこの狩場に来るのを今か今かと待ち続けていた。
親船を狙う理由を正確には理解していないが、それはいつもの事だった。
リーダーの垣根帝督の指示通りにしていれば、こうして獲物が供給されるのだから文句など無い。
(そろそろ、来るころ合いだな…)
だが、今日は“いつも”とは違う事が起きる。彼は後ろからとある女に声をかけられた。
「いたいた、スナイパーのクソったれってーのは君の事かにゃーん?」
「誰だキサマ!?」
急いで懐から拳銃を取り出すが、そこに真っ白な光線が突き刺さり、腕ごと焼いていった。
「ギャアアアア…!?」
「『原子崩し』って名前ぐらい知ってるでしょ?」
「む、麦野沈利だと…第4位がなんでここに!?」
「あなたたちスクールが、理事会の暗殺を超企んでるって事で、依頼があったんですよ」
さらに『窒素装甲』の絹旗も、麦野の後ろから現れた。
112 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/17(火) 22:49:59.53 ID:mfeNAA60
「…で、どんな目的でこの暗殺を仕組んだ訳?」
「グ、ウウウ…悪いが、俺は…リーダーの…言うとおりに…してるだけで…」
「じゃあ、もう良いわ」
ザン、ともう一度光線が飛び、狙撃手の首ごと焼き落とした。
「…良いんですか、動機が超不明のままですが?」
「どーせ何か吐く前に自殺しちゃうわよ、こいつも暗部なんだし」
首の無くなった死体を見ながら、麦野は冷たく思考を働かせる。
(スクール…最近妙な動きをしてたとは思ってたが…)
(正規要員を出してまで、何を計画している?)
(何故、大して旨みのない親船を狙った?)
結論が出る前に、麦野の携帯から電子音が鳴り出した。
113 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/17(火) 22:51:19.85 ID:mfeNAA60
「はい。切るわ」
『いきなり!?まったくこいつときたらー!話を聞けー!』
「…なによ、言われたお仕事はたった今終了したわ」
『あ、ほんと?』
「これがスクールへの警告になるし、もう親船最中の狙撃はないでしょ」
『よしよし、オッケーオッケー。これで上にうまい事報告できそうね』
「じゃあ、これで今回の件は完遂したから報酬とかヨロシク」
『分かってるわよー!…で、殺したスクールのメンバーは狙撃手だけ?』
「他には下っ端すら確認できなかったけど?」
『ちっ…この辺で全員死ねばいいのに』
「…あんたスクール嫌いなの?」
『まーね。嫌いも嫌い、大っ嫌いよ。…じゃ、御苦労さん』ピッ
「まあいいか。絹旗、帰りましょう」
「そうですね。今からなら見たい映画に超間に合いますし」
報告を終えた麦野達は、後始末を下部組織に任せてその場から姿を消した。
114 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/17(火) 22:52:30.92 ID:mfeNAA60
素粒子工学研究所近くの待機場
スクールの3人は、監視員からの連絡を受けて全員苦い顔をした。
「…狙撃手がアイテムに殺された、か」
「とりあえず、ここは一旦隠れ家に戻るべきね、帝督」
「ムカつくがしょうがねえな。作戦の立て直しだ」
そう結論を出した3人はすぐに、用意してある車に乗り込むと、一路隠れ家まで退却する。
「新しいスナイパーを、すぐに補充しないといけないわねー」
「…伝手があるのか?」
垣根の質問に対する答えは、念話で帰ってきた。
『あるにはあるんだけど、《心理定規》としては頼めないの』
「つまり?」
115 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/17(火) 22:53:19.56 ID:mfeNAA60
『人材派遣(マネジメント)よ。アイツなら多分スナイパーも用意する。けど…』
『アイツは私の依頼で心理定規をホテルに呼びこんだの』
「そのお前が、心理定規として依頼をするわけにはいかないって事か」
『そーいうことよ。でもアイツは紹介者がいないと取引してくれないし…』
2人が悩んでいると、助手席にいた連絡員が話しかけてきた。
「リーダー、『ブロック』と名乗る男から連絡が入ってきました。取り次ぎますか?」
「おう」
連絡員から渡された携帯から、野太い男の声が聞こえてきた。
『俺は『ブロック』のリーダー、佐久と言う。『スクール』だな?』
「…ああ。わざわざ連絡を取ろうなんざ、どういうつもりだ?」
116 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/17(火) 22:54:19.42 ID:mfeNAA60
『これには盗聴対策が施されている。単刀直入に言おう。俺たちはこの学園都市を潰すつもりだ』
「へえ」
『お前たちもそのつもりなのだろう?』
「だったら?」
『協力しようとは言わんが、タイミングを合わせればより混乱が大きくなり成功率は増えるはずだ』
「なるほど?」
『今は〇九三〇事件やアビニョン侵攻で、駆動鎧の犬共は身動きが満足にとれない』
「絶好のチャンス、てか?」
『そうだ。良ければ必要なものも援助しよう。例えば腕の立つ紹介屋なんかどうだ?』
「…分かった。その成果によるが、共闘作戦といこう」
『よし。ではすぐに紹介屋から連絡をさせる』
「ああ、楽しみにしてるからな」
117 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/17(火) 22:56:05.53 ID:mfeNAA60
通話を終えた垣根は、携帯をポイ、と投げ返して話し合いを始めた。
「『ブロック』が私たちになんの用?」
「聞いて驚け、連中も学園都市に喧嘩を売るつもりらしい」
「まさか、嘘でしょ?」
「大マジだ。何を計画してるかは知らないが、事を起こすタイミングを合わせようと言ってきた」
「…信用出来ないんだけど」
「当たり前だ。多分奴らは同じ目的の俺たちを陽動に使う気だ」
「で、どうするの?」
「決まってる。俺たち“が”奴らを陽動に使う」
「…運が向いてきたかもしれねえな」
スクールはその日のうちに人材派遣と契約を交わし、砂皿というスナイパーが新たに補充されることになった。
――こうして、学園都市の裏で蠢く暗部組織がそれぞれの思惑で暗躍を始める事になる。
121 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/18(水) 22:19:13.86 ID:UEI7vpE0 [1/12]
10月9日(学園都市独立記念日)朝、スクールの隠れ家
垣根と心理掌握は、研究所襲撃予定時刻3時間前の今から集合していた。
と言っても、2人で甘い時間を過ごそうと言う訳ではない。
予定外の事態が発生したので、早めに集まっていただけである。
その証拠に、隠れ家には3人目の人物がいつも通りの無表情で現れた。
「…グループに捕まってた人材派遣(マネジメント)は始末した」
スクール正規メンバーのゴーグル少年が、一仕事終えて帰還したところである。
「御苦労さま。グループの反応は?」
「居たのは下部組織だけ。正規メンバーには気づかれていない」
「よし。いやあ、まったく焦らせやがる。早速連中から殺す羽目になるかと思ったぜ」
素早い対策を打てたためか、垣根は余裕の笑みを崩さずにゴーグル少年を労った。
122 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/18(水) 22:20:54.89 ID:UEI7vpE0 [2/12]
「にしても、グループが早速出しゃばるなんてね」
「ま、これ以上はグループも動けないだろ。ブロックの対処にかかりきりになるはずだ」
「まあねー。ブロックのおかげで敵の戦力が分散されるのは助かったわ」
「でも帝督、暗部には他にも厄介な《アイテム》と《メンバー》がいるんだけど」
「大した問題にはならねえな、その2つなら同時に相手したってケリはつく」
この第2位ならそうだろうが、心理掌握やゴーグル少年にはとてもそんな余裕はない。
「…只でさえ綱渡りな計画なのに、そんな事態になったら私は逃げて“他人の振り”をするわ」
「ばーか、今さら逃がすかよ。首輪で繋いでやろうか」
「うわぁ…」
「…趣味悪い」
「おいお前ら!俺をそんな目で見るんじゃねえよ!」
学園都市に喧嘩を売っている最中とは思えないような明るい声が、隠れ家に響いた。
それがスクール3人の最後の集まりだとは、微塵も予感をさせないで。
123 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/18(水) 22:22:04.73 ID:UEI7vpE0 [3/12]
同日午後、第18学区、素粒子工学研究所
スクールのスナイパー砂皿が、午前中に親船の暗殺騒ぎを起こした結果、この研究所はかなり手薄になった。
そこをスクールの3人が強襲、研究員から『ピンセット』の在りかを聞き出した。
「よし、じゃあこいつを車に積んでおけ」
垣根の指示によって、スクールのステーションワゴンにピンセットが移送される最中…
「はん、尻尾をつかんだわよ、スクールの皆さん?」
「麦野の読みが超当たりましたね」
「結局、ここで全員殺せば解決なわけよ」
爆音が研究所に響き、アイテムの4人が姿を現した。
「ちょっと帝督、結構ヤバいんだけど?」
「確かに、今ここで戦闘をしてピンセットを壊すわけにもいかねえな」
「適当にあしらってここは一旦引くぞ」
124 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/18(水) 22:23:00.93 ID:UEI7vpE0 [4/12]
指示を受けた心理掌握は、持っていたレディース用の拳銃で威嚇発砲。
だが、弾丸を無視して絹旗が走り寄り、その『窒素装甲』で彼女をぶん殴ろうとする。
…が、
「――!?」
「今のあなたに私を殴れる?」
それを予測していた心理掌握は『心理定規』を発動、相手の動きを止めて奥へ逃げ去った。
「逃がすかよォ!鬱陶しい能力使いやがって!」
その様子を見ていた麦野は『原子崩し』を彼女に向けて放射するが…
「おい、俺を無視してあいつに手ぇ出すなんて、良い度胸だな?」
垣根の背中から生える『未元物質』の翼が、それを麦野自身へ跳ね返した。
「ちぃっ!」
とっさに横へ避けるものの、完全には避けきれずに麦野のコートがジュゥ…と嫌な音を立てて焦げ付いた。
そして麦野が態勢を崩したその隙に、垣根の翼が彼女の頬を強打する。
125 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/18(水) 22:24:28.07 ID:UEI7vpE0 [5/12]
二度三度ゴロゴロと転がった麦野は、口から流れ出る血を拭いながら叫んだ。
「そうか…テメェ第2位の垣根帝督かっ」
「おう、これでもスクールのリーダーなんだ、ヨロシク」
「ふざけんな、死ね!」
麦野は怒りにまかせて『原子崩し』を連発し、建物ごと垣根を殺そうとする。
「今がチャンスってわけよ!」
2人のレベル5が戦っている間に、横からフレンダが携行型ミサイルを垣根に撃ち込む。
だがその全ては不可視の力に遮られ、届くことなく自爆した。
ゴーグル少年の持つ『念動力』がミサイルを防いだのである。
「ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね」
「…え!?」
それを見て怒りが我慢の限界に達した麦野はゴーグル少年に走り寄ると、彼の首を片手で掴む。
そして…彼が抵抗する間もなく『原子崩し』で顔を執拗に切り裂いていく。
その上完全に死んだ彼の体からゴーグルをむしり取って、引きつるような笑みを浮かべた。
126 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/18(水) 22:25:51.21 ID:UEI7vpE0 [6/12]
「帝督!積み込み終わったわ!」
「よっしゃ、じゃあな第4位?」
その狂気を見て尚、欠片も動じることなく垣根はその場を翼で破壊。
衝撃に巻き込まれた絹旗やフレンダが大きく吹っ飛んだ。
その上、破壊された研究所の粉塵が煙幕となり、麦野の目から垣根の姿を隠す。
派手な作戦のおかげでようやく逃走してきた垣根に、心理掌握は笑顔で告げた。
「帝督はピンセットと一緒に逃げて」
「お前はどーすんだ?」
「キー刺さったままのクレーンを見つけたの。それでアイテムを足止めしておく」
「…しょうがねえな、悪いが後を任せた。また後で落ち合うぞ」
垣根は一瞬触れるだけのキスを彼女に贈ると、下部組織の人間と共に研究所を後にした。
(こんな非常事態に…ホントズルイ男、ムカつく!)
悲しい事にその余韻に浸る間もなく、心理掌握はクレーン車へ駆け寄った。
127 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/18(水) 22:28:15.35 ID:UEI7vpE0 [7/12]
素粒子工学研究所の外
心理掌握がクレーン車を動かした時、ちょうどアイテムのメンバーが車で垣根を追いかけようとしていた。
(…悪いけど、殺す気でやるからね。とくにアイツに手を出した第4位!)
なので一切の遠慮なくクレーン車で激突し、アイテムの車をビルの間に挟み込んだ。
さらに、止めをさすため巨大鉄球を使用して車を原型も残さず破壊する。
研究所付近に、ドゴーン!!という映画のような派手な爆発音が辺りに響く。
(うわ、逃げられたか。しかも3人バラバラに散っちゃった)
それでも流石はアイテムと言うべきか、全員生き残ってバラバラに逃げだした。
(第4位の能力は知ってるけど…あの男は誰だろう?)
(情報の全くない彼から先に片付けておくべきかな)
心理掌握はそう判断すると、路地裏に逃げた謎の男(ハマヅラ)を追いかけた。
128 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/18(水) 22:29:45.54 ID:UEI7vpE0 [8/12]
近くにあるビルに逃げ込んだ謎の男を追いかけていくと、彼は心理掌握の姿を見て一瞬動きを止めた。
が、心理掌握が拳銃を取り出したのを見ると急いで鋼鉄のシャッターを作動させた。
慌てて何発か撃つが、弾丸は全てシャッターが受け止めてしまう。
(ちぇっ…“これ”じゃあシャッターを破壊するのは不可能ね)
(ん?)
ふとモニターでその男の様子を見ると、彼は形容しがたいジェスチャーで思い切り彼女を小馬鹿にしていた。
(決めた。こっちを使ってあの馬鹿男を泣かす)
頭に来た心理掌握は、腰から四〇ミリ小型グレネード砲を取り出した。
それを見たのか、モニターには急いで逃げようとする馬鹿が映っている。
当然、心理掌握は躊躇せず発砲――鋼鉄製のシャッターが吹き飛んだ。
「あれ?…もう逃げ場は無いのになー」
何故か馬鹿の姿が見えない。ここは3階で、他に隠れ場所は無いはずだ。
その時、彼女の耳に「負け犬上等ォおおおおお」という叫び声が聞こえてきた。
129 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/18(水) 22:30:37.60 ID:UEI7vpE0 [9/12]
「まさか…」
急いでテラスに到着するが、そこにもう馬鹿はいなかった。
(…マジで飛び降りた?)
下を見て確認するが、そこには若奥様が乳母車を押している光景だけがあった。
それを見て溜息をつくと、心理掌握は垣根の携帯に電話をかけた。
念話を使わないのは、仮に彼が戦闘中の場合は注意を逸らしてしまうからだ。
携帯なら、出ないという選択肢がある。
だがその心配をよそに、垣根はワンコールで出た。
「標的であるアイテムの男を見失ったわ。近くにいるのは幼な妻とベビーカーだけ」
「…ターゲットの男が幼な妻またはベビーカーに偽装しているという可能性はあると思う?」
『ばーか、死ね』
130 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/18(水) 22:31:40.94 ID:UEI7vpE0 [10/12]
「ひど!…でもやっぱり無いわよねー。油断したわ」
『まあ、おかげでこっちは無事に逃げられたから問題ねえよ』
「そう。今どこ?」
『例の倉庫へ向かってる。そこでピンセットを組み直す』
「分かった、気を付けてね。そろそろ他の組織も本気出してくるから」
『誰に向かって言ってるんだ?』
はいはい、と答えて通話を終了した心理掌握は、ここのエレベーターを探すためテラスを後にした。
2分ほどして。ようやくビルから出てきた心理掌握に、スクールの下部組織の男が話しかけた。
「心理定規さん。メンバーの1人、馬場芳郎の居場所を突き止めました」
「どこ?」
「第22学区の『避暑地』、VIP用の地下シェルターです。…厄介ですよ」
131 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/18(水) 22:32:13.73 ID:UEI7vpE0 [11/12]
「うーん、そうでもないわ」
「は?」
「何人か人を送って、シェルターを緊急モードにしちゃうの」
「緊急モードでロックがかかったら、入り口に水攻めでもすればいいわ」
「ですが、それでは殺せませんよ?」
「いいのよ。普段からそんなトコに引きこもるような臆病者は、それだけで勝手にビビって自滅するわ」
「…分かりました、さっそく実行します」
「お願いねー」
指示を終えてスクールの車に戻った心理掌握は、既に乗っていたもう一人と対面した。
…乗っているとは言っても、拘束され、銃を突きつけられている状態ではあるが。
「アイテムの、フレンダちゃんだっけ?よろしく」
「…結局どう見ても、私の方が年上なんだけど…」
「ちゃん付けが嫌なの?細かい事は良いじゃない。それよりも」
心理掌握は笑顔でフレンダの目を見つめた。
「アイテムについて、色々教えて欲しいんだけどな?」
142 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/19(木) 22:21:04.24 ID:C/s21GI0 [1/14]
第4学区、食肉用冷凍倉庫
「もう一度ここで絶望しろコラ」
垣根が笑いながらそう告げて、《メンバー》のリーダーである博士を抹殺してから十分後。
再び心理掌握が垣根の携帯を鳴らした。
「よお、どうしたよ?」
『…いやにテンション高いわね。何かあったの?』
「分かっちまうか。ついさっきメンバーの頭のクソジジイを潰したところでな」
『ああ、そう言う事。納得』
「で、そっちの用件は?」
『ちょっとした経過報告よ。メンバーの正規要員は、これで全員死んだか動けない状況になったわ』
「呆気ねえな」
143 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/19(木) 22:22:26.49 ID:C/s21GI0 [2/14]
『ついでに、ブロックも全滅よ。グループによってみんなやられちゃった』
「なんだ、思った以上に使えない連中だ」
『まあ、彼らじゃグループ相手に勝てる訳もないしね』
「すると、残る問題は…」
『そのグループとアイテムね。特にアイテムは、私たちを殺したくてうずうずしてるでしょうし』
「…憂いはここで断っておくべきだな。アイテムのアジトへ行くぞ」
『そう言うと思って、アイテムのフレンダちゃんから情報を聞き出したところよ』
「ああ、研究所にいた外人女だろ。あっさりこっちに寝返ったのか?」
『そ。もう用は無いでしょ?…私の好きにしちゃってもいい?』
「俺は興味ねえからな、ご勝手に」
『じゃあそうするわ。アイテムのアジトの場所は今からメールするから、現地で落ち合いましょう』
「おう。あんまり遅ぇとご褒美無くなるからな」
『把握したわー』ピッ
心理掌握の言葉通り、携帯にすぐにメールが届いた。
アイテムは第3学区のレジャービル、そのVIP用サロンに集合しているらしい。
「んじゃまあ、あの凶暴女たちに勝利宣言をしに行くか」
学園都市最大の敵となった第2位が、右手のピンセットをカキカキと鳴らしながら暗い目を向けた。
144 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/19(木) 22:23:42.96 ID:C/s21GI0 [3/14]
研究所近く、スクールの車の中
「もういっそ、殺してほしい…」
「そう言う無駄な事は、お馬鹿さんがやる事よ?」
「結局、この状況が馬鹿げてるわけよ…」
力なく項垂れるフレンダに対し、ひどく楽しそうな心理掌握が笑顔で告げた。
「さ、次はお待ちかねのメイド服ね」
「さっきの巫女さんで終わりじゃない訳!?」
「え、超機動少女カナミン(マジカルパワードカナミン)のコスチュームが良いの?」
「…メイド服が良いです」
「素直にそう言えばいいのに。…うん、やっぱり金髪の子だと服の黒さが映えるわねー」
「…ううう」
「じゃあ、残りはあとで。帝督に呼ばれたしそろそろ行かなきゃね」
「…ねえ」
「ん?」
「どうしてアンタは私を殺そうとしないの?」
「だって、殺したら利用価値が無くなるじゃない」
145 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/19(木) 22:24:35.36 ID:C/s21GI0 [4/14]
「利用価値?もうアイテムに戻れない私に価値なんて…」
「分かってないわねー。あなた、あの御坂とやり合った凄腕じゃない」
「…エヘヘ」
「そんな凄腕なら、今度は私の右腕として活躍しなさいよ」
「ま、まあこのフレンダ様の実力を見破るアンタになら、雇われてやっても良いわけよ!」
あっさりと懐柔されるフレンダを見て少し呆れる心理掌握だが、顔には欠片も出してはいない。
(…年上のくせに、こいつちょろいなー)
「じゃ、あなたは私たちの隠れ家に行きなさい。ここのお兄さんたちが送ってくれるから」
「うん。…麦野達とやり合うの?」
「帝督はその気でしょうね。私が行くのは違う目的だけど」
「違う目的?」
「優秀な人材のスカウトよ」
そうセリフを残して、心理掌握は別の車で第3学区へ向かった。
146 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/19(木) 22:25:52.48 ID:C/s21GI0 [5/14]
第3学区、とある高層ビルの25階
フレンダと別れてから30分少々後、ようやく到着した心理掌握は目の前の光景に溜息をついた。
何故かビルは半壊しており、中の客は我先に逃げだして大混乱になっている。
しかも、せっかく補充した砂皿というスナイパーが爆発によってやられたようだ。
(うわあ、大惨事…常盤台の時といい、ホントコイツ常識知らずね)
最も、目の前の男はその惨状を大して気にしていない様子だ。
平然と足元に倒れている2人のアイテムメンバーを見下ろしている。
「帝督、ちょっと派手にやりすぎじゃない?」
「違えよ、騒ぎの大半は第4位やそこで転がってる『窒素装甲』のせいだ」
「彼女、死んでないわよね?」
「こいつはそういう能力者だからな、しぶといもんだ。それより問題なのは…」
「こっちの滝壺ってコの方ね」
147 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/19(木) 22:26:42.30 ID:C/s21GI0 [6/14]
「ああ。この様子だともう長くねえぞ」
「…まさか今でも『体晶』を使っている能力者がいるなんてね」
「しかも、誰かさんみてえにこの俺を乗っ取ろうと無茶しやがったからな」
「一体誰の事かしら?」
「怒るなよ、そのおかげで簡単に対処できたんだからな」
「脳内の『未元物質』を使って逆流を防ぐなんて…反則もいいとこね」
「ふん。…とりあえずこの様子なら、こいつを殺す必要も無くなったな」
「アイテムはこれでもう動けないしね。さっさと『滞空回線』を調べに行きましょう」
その時エレベーターが上がってきて、中から見覚えのある馬鹿が姿を現した。
「あれ?何だ。戻ってきちまったのか」
垣根の言葉に対し、浜面は無言。袖に隠した銃を一気に突きつけた。
148 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/19(木) 22:28:00.37 ID:C/s21GI0 [7/14]
「どういう事、コレ?」
心理掌握の言葉で、ようやく浜面はあの時の「クレーン女」もいることに気がついた。
「テメェあの時の!?」
浜面が2人のどちらに照準を合わせるべきか迷っているうちに、心理定規を発動。
ご丁寧にその能力を解説してあげたところで、会話を続ける。
「滝壺ちゃんを助けに来たのかー、その顔でかっこいい事するじゃない」
「うるせえ!…クソ!」
「でも、このままだとその努力は無駄に終わるんだけど?」
「全くだ。俺たちがどうこうする前に勝手にこの女は死んじまう」
「テメェら何言ってんだ!?」
垣根は、退屈そうに滝壺の置かれた状況を説明する。
それを聞いて、浜面は愕然とした表情を浮かべた。
149 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/19(木) 22:29:28.53 ID:C/s21GI0 [8/14]
「そんな…」
「このコを守りたいなら、もう2度と能力を使わせちゃダメなの」
「…早くこのコを連れて逃げたら?」
「俺らを見逃すのか…?」
「今の俺らにとっちゃ、こいつなんてサーチ能力が使えないならどーでもいいからな」
「それに、この絹旗ってコも殺したりしないから安心していいよ」
「……ああ」
声を絞り出してそれだけ言うと、浜面は滝壺を背負ってビルを後にした。
「ホントにただの下っ端だったなアイツ。暗部にしちゃー素直すぎる」
「良いじゃない、ああいうのも。彼がどこまで頑張れるか楽しみだし」
「それはどーでもいいが…本気でこの女も殺さない気か?」
「うん。人間は生きてる限り何らかの形で利用できるものよ」
「それは死体であっても同じなんだがな」
結局垣根は心理掌握を止めず、甘ちゃんだな、と笑うだけにしておいた。
150 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/19(木) 22:30:55.10 ID:C/s21GI0 [9/14]
「先に戻って『滞空回線』の解析をしておく。やること済ませたらお前も来るだろ?」
「そうね。2時間ほどで戻る予定よ」
数人の下部組織だけを残して、垣根は一足先に隠れ家へ向かった。
「…あのお人よしは超騙されましたが、私は甘くないですよ?」
こっそり目を覚ましていたボロボロの絹旗が、心理掌握を睨んで話しかけた。
「ん、どういう意味かな?」
「どーせ本当は私をここで超殺す気でしょう?あの馬鹿が逃げやすくなるために超嘘をついたに決まってます」
「何か、アイテムの境遇が分かる気がするわねー」
「…超本気で殺さないんですか?」
「だからそう言ってるじゃない」
「ははあ、ってことは超汚れ仕事を押し付ける気ですね」
「…良いですよー、今までと超同じでしょうから」
「多分想像できてないと思うんだけどなー」
「で、何をこの絹旗サマにさせるんですか?」
151 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/19(木) 22:32:05.60 ID:C/s21GI0 [10/14]
「私の護衛よ」
「は、護衛?」
「そうそう、あなたがピッタリなのよ!」
「…あの第2位が超いるのに?」
「ふふ、私が頼むのは常盤台中学で生活する時の護衛なの」
「常盤台中学ってあの超お嬢様学校の?」
「そうよー。レベル4の女子中学生だなんて、正にパーフェクトよね」
「なぜそんなことが必要なのか、超意味が分かりませんが?」
不思議がる絹旗に、心理掌握は念話を使って語りかけた。
『聞こえるかなー?』
「!」
『うふふ、驚いたー?』
「この強力な念話…常盤台…もしかして…?」
『そ。私は《心理掌握》って言うの。驚いた?』
「第5位が暗部入りしてるなんて、超初耳です」
152 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/19(木) 22:33:01.34 ID:C/s21GI0 [11/14]
『スクールの私は《心理定規》だからね。…まあこういう訳なの』
「いやいや、どういう訳ですか?」
『私たちレベル5には何かと敵が多いでしょう?』
「はあ」
『なのに御坂や帝督みたいな怪物と違って、私はただのか弱い女の子だから』
「か弱い…?」
『あなたみたいな格闘もOKな護衛が欲しかったのよ』
「いやいやいや、か弱い?」
『それ以上余計なコト言うと記憶を覗いたり消しちゃうかもよ?』
「超か弱いレベル5の護衛を超任されました!」
『ありがとー、あ、優秀なサポート役も居るから安心してね?』
「サポート役?」
『フレンダって言うんだけど』
「あいつ超何してるんですか…」
ますます体をぐったりとさせた絹旗をスクールの車へ連れ込むと、心理掌握は早速常盤台へ電話をかけた。
その内容に困惑する先生たちであったが、心理掌握は強引に要求を押しとおし――時期外れの転入生が1人誕生した。
153 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/19(木) 22:34:30.93 ID:C/s21GI0 [12/14]
常盤台中学学生寮(学舎の園)、心理掌握の部屋
結構な怪我をしていた絹旗だったが、心理掌握は派閥の能力者を使って彼女を歩ける程度にまでは回復させた。
そして一通り寮の案内を済ませると、これから暮らすことになる自分の部屋へ連れてきた。
「これから私は帝督のところに戻るから、校舎の案内はまた明日ね」
「…」
「とりあえずこの部屋でくつろいでてね。そのうちフレンダも来るから」
「…」
「いやーそれにしても、私の部屋は元々1人分空いてたし、ちょうど良かったわ」
「…ここの学生がみんなして、あなたの顔を見ると超頭下げてくるんですが」
「そりゃーねー、伊達に派閥だ何だと苦労してないもの」
「そうですか」
「あ、クラスメイトの紹介も明日ね」
「分かりました」
「あれー、顔がニヤケてるよ?絹旗ったら学生生活もまんざらでもない感じ?」
「まさか。こんな形で学生生活を送ることになるとは超迷惑です」
154 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/19(木) 22:35:43.61 ID:C/s21GI0 [13/14]
「…ここの食事は結構美味しいのよ?デザートにも力入れてるし」
ピク、と絹旗の体が反応する。
「学生はみんなレベル3以上だから変な目で見られる事もないし」
「学舎の園にしかないB級専門映画館もあるし」
「仕方ないですね、しばらくは居てあげましょう」
(こいつもちょろいなー)
こうしてアイテム2人を自分の配下に置いた心理掌握は、隠れ家にいる帝督のもとへ向かうことにした。
「じゃあ、ちょこっと出かけてくるね」
「はいはい」
部屋に1人になった絹旗は、ポフン、とベッドへ座り込むと考え事をした。
(昼前には殺し合いをしていた人間を、自分の護衛に雇うなんて…)
(しかも一緒の部屋に住まわせるなんて…)
(それだけ自信があるってことなんでしょうかね?)
(まあどうせアイテムが負けた今、私たちは何も出来ませんが…)
(アイテムと言えば、滝壺さんとあの馬鹿面はどうなりましたかね?)
(…それに、第2位にやられた麦野も)
(仮にもレベル5の麦野が、あんな簡単にやられてるはずはないと思いますが…)
まさかその麦野と浜面が、ついさっき殺し合いをしていたとは流石に想像できない絹旗であった。
163 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/20(金) 23:14:09.14 ID:d5yRMBk0 [1/11]
スクールの隠れ家
心理掌握は常盤台を出た後、まっすぐに垣根のいる隠れ家に向かった。
すでにそこで作業をあらかた終えていた垣根は、片手をヒラリと上げて反応した。
「順調そうね」
「まあな。解析はもう終わってる」
「そう。…あ、ここに来る途中に聞いたんだけど、アイテムが行動不能になったって。しかも原因は仲間割れ」
「それで第4位の麦野がダウンしたから、組織の維持は不可能とみて間違いないわね」
「あん?仲間割れって事は、麦野は一応、俺の攻撃からは逃げきってたのか…でも、誰が?」
「フレンダと絹旗はお前が囲ったし、滝壺理后には直接的な戦闘力はねえし…」
ここでようやく垣根はある男の顔を思い浮かべた。
164 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/20(金) 23:17:21.23 ID:d5yRMBk0 [2/11]
「まさか…」
「そのまさか。顔の割にかっこいいことしてたあの浜面君がやったって」
「マジかよ、あいつ無能力者だろ」
垣根は軽く口笛を吹いて馬鹿そうなレベル0を賞賛した。
「…で、解析結果の方は?」
「ダメだな。結構なデータだったが、これだけじゃアレイスターと対等にやり合える立場に立てねえ」
「そっか…残念ね」
「ま、ある意味予想通りだがな。このデータにプラスしてもう一押しする必要がある」
「なら、やっぱりやるの?」
「…ああ、学園都市第1位を殺す。アレイスターと交渉するには『第一候補』になるしか道はねえ」
あの最強の第1位、『一方通行』の戦績を思い出して心理掌握はげんなりとした。
「気が進まないわー。彼はあらゆるタイプの精神能力者と戦って無敗なの」
「…」
「私なんかじゃ全然歯がたたない」
「…」
165 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/20(金) 23:18:12.08 ID:d5yRMBk0 [3/11]
もっとも、最後までこの男に付いていくと決めた以上、心理掌握は勝つ方法を模索する。
「ただ…今は彼の能力に制限時間があるし、うまく隙をつくことが出来れば」
「…おい」
「なによ?」
「悪いな」
垣根はわずかに寂しげな笑顔を浮かべると、心理掌握に睡眠スプレーをかけた。
「…は…嘘…でしょ…」
「ベタで悪いが…お前がいたらきっと最後に“すがっちまう”からな」
「…てい…と…く…」
深い眠りに落ちて、それでも垣根の服を離さない心理掌握を、彼はそっとソファーの上に置いた。
そして彼女の頭をゆっくり丁寧に撫でると、一瞬浮かんだ逡巡を振り切って隠れ家を後にする。
7年前のことを思い出しながら。
166 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/20(金) 23:19:05.98 ID:d5yRMBk0 [4/11]
7年前、学園都市のとあるマンションの一室
垣根帝督には、年の離れた姉がいた。
見たこともない両親の代わりに彼を育ててくれた、厳しくて優しい姉だ。
彼女は優れた能力開発研究者でもあったので、普段は研究所に詰めて中々この家に帰ってこない。
そんな彼女が今日は珍しく御馳走を作り、垣根と一緒にお祝いをしていた。
3日前に、垣根が学園都市の第2位に正式に認定されたので、それを祝ってのささやかなパーティである。
「にしても、帰ってくるなら連絡ぐらいいれろよな」
「すっかり忘れてたのよ、許して~」
「まあいいけどよぉ」
「いや~、流石レベル5!第2位!心が広いな~」
「…もう酔っぱらったのか」
垣根は呆れて愚痴をこぼすが、それでもその表情はどこか楽しそうであった。
167 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/20(金) 23:20:49.95 ID:d5yRMBk0 [5/11]
「どーせなら、第1位になれりゃーカッコも付くのに」
「なによ~、もうお姉さんとしては十分すぎる出来た弟なんだけど?」
「そりゃどーも。っていうか俺の事より、姉さんはどうなんだよ?」
「へ?うち?」
「最近ますます忙しいみたいじゃねーか。俺第2位になったし、もうお金の心配なら…」
「“てっくん”は優しいな~」
「いつまでも“てっくん”って言うな!俺は真剣に言ってるんだぞ」
「うんうん、ありがと。でも、最近上から新しい理論が提供されてね~、その確認実験でしばらくは忙しいままね」
「新しい理論?」
「そうよ~。何でもこの実験が成功すれば、みんなが能力をもっとうまく扱えるようになるんですって」
「へー、それはスゴい…のか?」
「分かってないわね~、ここにいる学生の6割がレベル0なのよ?その子達が能力を使えるようになれば素敵じゃない」
「そういうものなの?」
「ああ、第2位のてっくんには分からないのか~、ショック~」
「分かった、分かったよ!だからくっつくな!」
168 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/20(金) 23:21:59.66 ID:d5yRMBk0 [6/11]
「あ、そ~言えばその実験には第1位の子が協力するって話なの」
「確か第1位って『一方通行』だよな、見た事ねえけど」
「そ~ねえ、うちもまだ会ってないわ。どんな子か楽しみね~」
結局その日は、久しぶりに姉弟水入らずの楽しい一時を過ごした。
それから2週間たち、新しい実験の話などを垣根が半ば忘れていたころ。
突然、ある一報が垣根にもたらされた。
知らせを受けた垣根は、慌てて連絡を受けた場所へ向かった。
そこで彼は――
「…嘘だろオイ」
変わり果てた姿の姉を見ることになる。
169 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/20(金) 23:24:29.99 ID:d5yRMBk0 [7/11]
とある研究所の一室
姉が変死体となって発見されてから、すでに何日が経過したのかも垣根は把握していなかった。
あっという間に葬儀を含む全てが行われ、事件はアンチスキルが引き続き調査している。
抜け殻となった垣根は、ようやく外に出れるようになり、姉の職場にある私物を引き取りに来ていた。
(…何で…)
(姉さんに恨みが?)
(それとも通り魔?)
(犯人さえ分かれば、俺が殺してやるのに…)
垣根がやりきれない思いを抱いて荷物をしまっていると、1枚の写真が目にとまった。
自分が第2位となったことを、姉と2人でお祝いした時の写真である。
(ああ…職場に飾ってたのか)
言葉に出来ない思いが胸を一杯にする。震える手で写真立てからその写真を抜くと、裏にメッセージがあった。
――ごめんね、てっくん
170 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/20(金) 23:25:41.51 ID:d5yRMBk0 [8/11]
思わず垣根は目を見開いた。
(どういう事だ?)
(まるで…自分が死ぬ事を分かってたみたいじゃねえかよ!)
それまでが嘘のように、垣根の体に力が戻ってくる。
そして急いで全ての私物を家に持ち帰ると、ゆっくり調べ始めた。
学園都市のとあるマンションの一室
垣根が姉の持ち物を調べ始めて2日後、ついに彼は歯ブラシの中にある超小型チップを発見する。
その中には、姉の言っていた新しい実験の全容が記録されていた。
実験名称:暗闇の五月計画
実験内容:学園都市第1位『一方通行』の演算パターンを置き去りの頭にインプットすることで
被験者の『自分だけの現実』の最適化を図る
実験結果:第1次実験では、被験者20名のうち11名が死亡、残る9名も発狂などをおこしいずれも失敗
(これは…置き去りを使った…人体実験!?)
171 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/20(金) 23:26:51.38 ID:d5yRMBk0 [9/11]
やがて映像は、その被験者の苦しみもがく様子に切り替わった。
――ああああ!苦しい!
――誰!?私に話しかけないでぇ!
――気持ち悪い!いや、死んじゃう!
――頭に誰かいるよ!割れちゃうよぉ!
映し出された凄惨な光景に、垣根は思わず目を背けて涙を流した。
(こんなことをしてたのかよ!)
(…ア、アンチスキルに通報…)
垣根が思わず立ち上がった時、再び映像が切り替わった。そこに写されたのは…
「…てっくん」
「姉さん!?」
「さっきまでの映像を見たわよね?」
「ごめんなさい。まさか、こんなことになるなんて…思いもしなかった」
「すでにこの研究所は上の人達に乗っ取られたも同然…」
「この酷い実験は、まだまだ続くわ」
「それを、うちは止められなかった…!」
「上の人達に抵抗したから、きっとうちはすぐに殺される」
172 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/20(金) 23:27:49.74 ID:d5yRMBk0 [10/11]
「無関係なてっくんに頼むなんて最低とは思うけど…」
「ここにいる置き去りの子供達を、どうか助けてあげて!」
「今のうちじゃ、アンチスキルに連絡を取ることも不可能なの」
「なんとか通報して、この実験を中止させないと…!」
その言葉を最後に、映像は不自然に途切れて終了した。
「…」
いつの間にか、垣根の目から涙は消えていた。吐き気もない。
代わりに心を満たしたのは、たった1つの感情。
――1度も自分を頼る事のなかった姉が、唯一泣いて頼ったのは死んだ後だった。
(ふざけんな)
(ふざけんな!)
(ふざけんなよ!!)
垣根は怒りにまかせて壁を殴る。痛みなど気にせず、何発も何発も。
やがて彼は苦しそうに絶叫して、その場に倒れ込んだ。
…そしてもう一度立ち上がった時、彼は覚悟を決めていた。
「アンチスキルはいらねえ…この俺の手で、ふざけた実験をぶち壊してやるよ」
それが、さらなる悲劇を生みだすとは知らずに。
177 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/21(土) 23:23:31.36 ID:FrjG/1s0 [1/14]
とある研究所
垣根が再び姉の職場へ戻ると、温和そうな若い研究者が出迎えた。
「おや、垣根さんの弟くんじゃないか」
「…」
「2日ぶりだね。ここに何か忘れ物でも?」
「…ああ」
瞬間、ようやく扱いに慣れてきた『未元物質』の翼が現れ、研究者を一撃で吹っ飛ばした。
「…コレが忘れものだ、クソ野郎」
そう言い捨てて、垣根は研究所へ侵入した。
騒ぎを聞きつけた警備の人間や、研究所の職員を全て薙ぎ払って彼は進む。
178 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/21(土) 23:24:32.40 ID:FrjG/1s0 [2/14]
――まだ11歳のガキだ、とっとと殺せ!
――なんで第2位が襲ってくる!?
――化け物!くたばれ!
わずか2日前に来た時とは、全く違う正体(ヒョウジョウ)を見せる研究所。
だがその全ては『未元物質』の前にひれ伏し、わずか10分で研究所は制圧された。
「おい、置き去りの子供たちはどこにいる?」
「…クソ…」
「答えないなら、本気で殺す」
「…地下だ。第3待機室にいる」
答えた研究者を投げ捨てると、垣根は1人地下の置き去りのもとへ向かう。
垣根が待機室に入ると、そこには凄まじい異臭が漂っていた。
「おい、しっかりしろ!」
部屋の明かりを付けて確認すると、およそ30人近くの子供たちがぼろ布のように横たわっていた。
すでに実験を受けたのか、虚ろな表情でうわ言を呟いているものもいた。
179 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/21(土) 23:25:27.35 ID:FrjG/1s0 [3/14]
(だが、今から全員助けられる。姉さんの最後の願いどおり、実験は中止に追い込めた)
垣根は子供たちに手を差し出した。
「助けに来た。全員ここから逃げるぞ」
…その時、異変が始まった。
「ガアア!」
「…アアア…コロス…」
「おい、何しやがる!?」
起き上った30人の子供たちが、突然、垣根に能力を使って襲いかかってきたのだ。
驚いて応戦するが、子供たちを殺すわけにもいかない垣根は、防戦一方になる。
その時、垣根の耳に冷たい機械の音声が聞こえてきた。
警報:暗闇の五月計画、フェイズ2へ移行を確認。被験者の実践戦闘能力テストを開始。
警報:戦闘目標、レベル5第2位『未元物質』。戦闘終了までこの部屋を封鎖します。
慌てて垣根が振り返るがすでに遅く、待機室は鋼鉄の隔壁が降りて完全に封鎖された。
180 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/21(土) 23:26:17.00 ID:FrjG/1s0 [4/14]
(そんな…罠だったのか!)
(初めから、この俺を誘い込むつもりで・・・)
極めて優秀な頭脳を持つ垣根は、11歳ながら“敵”の目的を看破してしまう。
姉の頼みで来た自分が、この子供たちを倒す事など出来るはずもない。
だが、第2位の自分がこの程度の能力者たちに負けるはずもない。
つまり、逃げない限り戦いはいつまでも続く事になる。
それが目的だろう。自分が防戦一方で戦いを続ければ、それだけ実験データを大量に入手できる。
(姉さんの善意を…利用しやがったな!)
恐らく、姉の残したメッセージに気づいていた連中は、あえて俺に発見させて研究所に来させたのだ。
最後に力を振り絞って唯一残した手掛かりも、それすらも利用したのか。
垣根の視界が怒りで真っ赤に染まる。それでも頭が冷静に動くのが恨めしく感じるほどに。
(思い通りになんて…させるかよ!)
ならば、垣根は何としてもこの部屋を脱出して、今度こそ実験を終了させなければならない。
181 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/21(土) 23:27:26.30 ID:FrjG/1s0 [5/14]
(でも、どうやって?)
(鋼鉄の隔壁を破壊するには、時間がかかる)
(30人の能力者と戦いながら出来る芸当じゃねえ)
(子供たちを一旦気絶させるか?)
ゴッ!!
垣根は自分の周囲を翼で薙ぎ払い、その爆風で子供たちをまとめて気絶させようと試みる。
だが、元々朦朧として強い意識を持っていなかった子供たちは、すぐに意識のないまま起き上って垣根に襲いかかってきた。
(キリがねえ!)
(相手しながら隔壁を破壊できない以上、逃げ場は…)
(待てよ、鋼鉄の隔壁じゃなく、ただの天井なら…!)
まだうまく飛ぶ事が出来ない垣根だったが、必死に天井付近まで飛翔し、全力で穴を開け始めた。
しかし、その間も子供たちの能力が次々と垣根を襲う。念力、火炎、電気、突風、正体不明の精神攻撃。
(痛い、熱い、苦しい…クソったれ!!)
体をボロボロにしながらも、ついに天井に穴を開けた垣根は急いで1階に着地する。
182 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/21(土) 23:28:42.24 ID:FrjG/1s0 [6/14]
(なんとか逃げれた、後はどうやって子供たちを正気に戻す…?)
ようやく一息ついた垣根だったが、絶望はまだ終わらない。
再びあの悪魔のような機械の声が下から響いた。
警報:暗闇の五月計画、フェイズ2は第2位の離脱の為、失敗を確認。
警報:よってフェイズ2代理案を開始。戦闘目標修正、被験者同士。
その言葉と同時、子供たちは今度は互いに攻撃を始めた。
「クソが!ふざけんな!どうなってやがる!」
垣根は吠えるが、その声は誰にも届かない。
垣根が逃げたところで、結局子供たちは殺し合う。
だが、自分が戻ればこの実験は延々と続く。
気絶させられない以上、11歳の垣根に子供たちを殺さず無力化する方法は思い浮かばなかった。
(急いで正気に戻さないと)
(けど、この実験は頭に直接第1位の演算パターンを埋め込むってやつだ)
(外部刺激でなんとかなるレベルとは思えねえ)
(…この研究所の中を探して、麻酔用ガスかなにかを見つけて昏倒させるのが一番か)
183 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/21(土) 23:29:26.21 ID:FrjG/1s0 [7/14]
垣根は素早く判断を下すと、研究所を調べながらアンチスキルへ電話をかけた。
『…はい』
「あ、アンチスキルですか!置き去りを使った違法な実験施設があるんだ!」
『本当ですか』
「はい、場所は――」
『了解しました、すぐに向かいます』
「頼む!早く!」
「…はい、到着しました」
「え?」
何故か電話の声が、自分の真後ろから聞こえてきた。
垣根が驚いて振り返ると、そこには顔に入れ墨をした白衣の研究者らしき男が笑いながら立っていた。
「ぎゃはははははは!!」
「誰だテメェ!アンチスキルじゃねえな!」
男は垣根に答えずに、尚もおかしくて堪らない様子で笑い続けている。
184 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/21(土) 23:30:28.63 ID:FrjG/1s0 [8/14]
「いやー、ないわー。あのガキの演算パターンを頭に植え付けるとか、出来る訳ねえっつーの」
「中には中途半端に成功したやつもいるみてぇだが…」
「これ以上は金のムダだと思わねえか、なあおい?」
「誰だテメェって聞いてんだろ!テメェがこの実験を指揮して姉さんを殺したのか!?」
「…はー?」
男は呆れたようにナイナイ、と手を振った。
「話聞いてたかよボケ、出来る訳ねえってたった今言ったろーがよ」
「じゃあ、何でここに居やがる!」
「お仕事だよ、お偉いさんに言われてな」
そう言うと、男は垣根の開けた穴から細長い物体を投げ込んだ。
それは落下と同時にガスを噴出し、子供たちを全員昏睡状態に陥らせる。
「まーったく、手間掛けさせやがってよぉ」
音が消えた事を確認すると、男は無線で誰かに連絡を取った。
「まだ生きてるのを回収しとけ」
『了解です、木原さん』
185 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/21(土) 23:31:16.32 ID:FrjG/1s0 [9/14]
垣根は、目まぐるしく動く展開に付いていくことが出来ない様子で呟いた。
「…助けに来てくれたのか?」
「そうでーす。ぎゃはははははは!」
その時、男の持つ無線に連絡が入ってきた。
『木原さん、逃走していた研究者を全員捕獲しました』
「遅えよバーカ」
『申し訳ありません。それともう1つ』
「なによ?」
『研究者の1人が自殺しました。どうやら強制的に実験をやらされたらしく、完全に壊れてましたね』
「あー、それってひょっとしてあの垣根ちゃん?」
『はい。一応遺体は回収してあります』
「あいつもバカだねえ」
「ちょっと待てよ!」
漏れた話を聞いた垣根は男に詰めよった。
「研究者の垣根って!?」
「おいおい、決まってんだろ。キミのねーさんじゃないか。あはははぎゃはは!」
186 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/21(土) 23:33:45.29 ID:FrjG/1s0 [10/14]
それを聞いて垣根は目眩がした。それでもなんとか耐えて大声を出す。
「姉さんはちょっと前に殺されたんだ!葬式もやった!」
「…それに…最後のメッセージだって…」
「おーいおい、どこまで甘いのよキミ?」
絶望は終わらない。男は楽しそうに告げた。
「実験動物(ダークマター)確保のため、無理やりチップを用意させられたに決まってんじゃーん」
「なんだと!?」
「キミのねーさんが必死で残したチップを捨てずに、わざと自分を誘い込むエサにしたとか思ったかよ?」
「…」
「ハズレ。偽の“変死体”もチップも上の連中が用意したんでーす、だって優秀な研究者は殺すより利用した方がいいからなあ」
男はギャハハと笑って垣根の心を抉る。
(姉さんは…死ぬ事さえ…許されなかったのか…?)
(姉さんが…俺を実験に巻き込むことを許すはずはねえ)
(なのにそれを無理やりさせたってことは…)
今の垣根には想像もつかない恐ろしい目にあわされたのだろう。
187 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/21(土) 23:35:29.73 ID:FrjG/1s0 [11/14]
「いやー、でも良かったな。中止にならなきゃこのまま死ねずにいただろうに、今度こそ死ねたみたいで」
「ふざけんなよ!!」
垣根は男に掴みかかって絶叫した。
「こんなことは間違ってる!」
「へー」
「アンチスキルに通報したのにお前が来たって事は、きっとアンチスキルなんかより上の立場…」
「そう、統括理事会クラスの奴がこの実験を指揮してたんだろ!」
「ほー。で、だとしてどーするのよ?」
「俺は学園都市第2位の垣根帝督、『未元物質』だ!」
「だから?」
「学園都市のトップに会わせろ!こんなことを許してたまるか!きっと第2位の俺の意見なら…」
「無駄だな」
「!」
「オマエ“程度”じゃ、アレイスターは相手にしねえよ」
188 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/21(土) 23:36:49.82 ID:FrjG/1s0 [12/14]
思わず、掴みかかった垣根の手から力が抜ける。
「なら…どうすれば…そのアレイスターってやつと交渉するにはどうすればいい!?」
「知るか。悩んでるとこ悪いが、実はこれが俺の今日の本当のお仕事なんだわ」
そう言って、男は垣根に麻酔弾を撃った。
(そうか、最初からこいつは俺が目的で…)
揺らぐ意識の中、垣根はこの悲劇が全て自分のせいで起こった事をようやく悟った。
そしてこの学園都市が、腐った連中の跋扈するおぞましい場所だと言う事も。
それから暗部という闇に落ちて7年。
心優しい少年は、その全てを変えるため、アレイスターとの直接交渉権を手に入れることを誓った。
たとえ自分が、決して戻れぬ闇の底に沈むとしても。
189 名前:別人[saga] 投稿日:2010/08/21(土) 23:37:43.82 ID:FrjG/1s0 [13/14]
そして現在、スクールの隠れ家
「う…」
心理掌握はゆっくりと目を覚ました。
自分がなぜソファーに寝ていたのか、眠る前の状況を徐々に思い出し…
「帝督!?」
ふらつきながらも急いで起き上り、辺りを見回すが誰も居ない。
(なによ…『お前はこの俺の手元にいろ』とかカッコイイこと言ったくせに!)
(今さら私を手放すなんて…許すわけないでしょ!)
急いで垣根を追いかけようと隠れ家を飛び出した瞬間、携帯にメールが届く。
(ひょっとして、帝督?)
急いでメールをチェックした心理掌握は、その場に力なく倒れ込んだ。
――緊急報告、学園都市第2位『未元物質』こと垣根帝督は、第1位『一方通行』に敗れ、死亡した。
これにて二章終わり
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