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盲目少女「体を重ねると、その男からは良い匂いがしました」
1 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/07(日) 23:12:20.13 ID:DwN/9Ic3O
おい。
『親』が私の目を覚ましました。
「朝御飯はもう食べましたか」
『親』は答えません。
「夏の匂いがします」
「目は見えませんけど、季節は分かるものですね」
私は盲目でした。
おい。
『親』が私の目を覚ましました。
「朝御飯はもう食べましたか」
『親』は答えません。
「夏の匂いがします」
「目は見えませんけど、季節は分かるものですね」
私は盲目でした。
2 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/07(日) 23:15:10.14 ID:DwN/9Ic3O
「今日は洗濯日和みたいですね」
『親』は、不便な私の生活の一通りの世話をしてくれます。
「あの布団、臭いがかなりきついので宜しくお願いしますね」
盲目の身にも可能な仕事、というのは限られますが
じりり
「電話、ですね」
私は稼ぎ手として、この生活に微力な扶助をしています。
3 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/07(日) 23:19:33.27 ID:DwN/9Ic3O
「いらっしゃいませ。お遊びのお相手をさせて頂きます、―――です」
「ご察しの通り盲目の身ですが、心を尽くしてご奉仕致します」
「よろしく、お願いします」
私の家は檜の香でいっぱいです。
鬱蒼とした森の、少し開けた場所にポツリと建っていて
この季節になるとお囃子の音が近くの神社から愉快に聴こえてくるのでした。
5 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/07(日) 23:27:54.19 ID:DwN/9Ic3O
「今日は暑い」
二十過ぎの若い男で、私とは十余り歳が離れていましたが、彼は親しげに私へ話をしてくれました。
普段私が相手をする男は、時間が惜しいとばかり早急に布団へ誘うのですが
今日の相手はその類いの男ではありませんでした。
8 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/07(日) 23:36:06.92 ID:DwN/9Ic3O
「お囃子、見たことないだろう。連れて行く」
私が盲目であると失念されてはいませんか。
「何を言うのか。近くで聴けばきっと違う」
いいえ、違いません。
「可愛げのない。まぁ付き合ってくれ」
彼は私の手をひっ掴み、神社までずるずると引っ張りました。
9 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/07(日) 23:42:16.68 ID:DwN/9Ic3O
「今日も暑い」
さっきも仰りましたよ。
「お囃子、迫力だろう」
お腹が揺れます。ぶるぶると。
「来てよかった」
……。
「来てよかった」
……はい。
10 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/07(日) 23:44:45.49 ID:DwN/9Ic3O
「そうそう言い忘れてたが、その白い着物、良く似合う。綺麗だ」
ありがとうございます。これはわんぴーすというのだそうです。
「ハイカラな名前だ。なるほど、なるほど」
?
「縁日で出店も多い。何か要るかい」
いえ、特には。
「ほとほと可愛げのない子だ」
十分承知してます。
※書きためてはありますが、手直しなどで手間取ってます……。
11 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/07(日) 23:52:30.33 ID:DwN/9Ic3O
彼は神社の至るところに私を引っ張り回し、事あるごとに私の容姿の幼さをを大袈裟にからかって、喜んでいるようでした。
そのたび私は彼に毒づいたり、お客様だということを忘れてこづいたりしました。
らむねという、口がこそばゆくなる不可思議な飲み物を彼はくれました。お腹が一杯になりました。
私の知らない時間の過ごし方を彼は熟知しているようでした。
彼の賽銭泥棒未遂事件の顛末に傾聴していたとき、唐突に話をやめて、彼は真顔で言いました。
「なんだ、笑うと可愛いじゃないか」
散々に可愛げのない子だと言われた後でしたので、私は思わず硬直しました。
「可愛い、可愛い」
歌うように呟いて、私の頭に彼の手がのりました。
「君の親の気持ちが分かる」
彼の着物の袖口は、とても良い匂いがしました。とても良い匂いのする男でした。
15 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 00:06:34.50 ID:gN457H7eO
家の前まで帰ってきても、お囃子はまだ小さく鳴っていました。
ずぅっと手を握っていたので、重ねた掌の間は、どちらのものとも知れない汗に濡れていました。
その感覚が、世の中で一番確かな輪郭を持っていました。
家の一番奥、北側の涼しい和室に戻りました。
17 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 00:17:27.46 ID:gN457H7eO
「今日は暑い」
ええ、とても。
「服、脱いでもいいか」
お任せください。
「悪い」
いいえ。
「君は大人びてる。自分より」
大人ばかりを相手にしていれば、そうもなりますよ。
「……暑くないか」
暑い、ですね。
「脱がせるから」
お願いします。
19 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 00:27:50.65 ID:gN457H7eO
ああ、真顔ってコノヤロー
真面目な声で、ぐらいの脳内変換をば……
20 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 00:32:55.27 ID:gN457H7eO
私のわんぴーすを脱がせる彼の仕草は、頭を撫でる手のように優しいものでした。
「白いね、君は」
そう言って、彼が口付けた首筋は、少し腫れました。
「こっちが悪いみたいに思わされる」
唇が這い下りた先は私の右胸の蕾でした。
「甘えたくなる」
舌が、蠢いて、私は目を、瞑って。
「可愛い、可愛い」
それが、数限りなく繰り返される最初の一言でした。
21 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 00:44:26.98 ID:gN457H7eO
情事の間、彼の囁きが私の頭をぐるぐる回っていました。
そのまま回って、回って、回路がショートした時には、ことが終わっていました。
肌を重ねている間ずっと、彼の首もとや髪から良い匂いがしました。
苔や枯木の、地味なようでとても落ち着いていられる匂いでした。
24 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 00:54:15.88 ID:gN457H7eO
「また来ると思う」
是非、また。お待ちしています。
「……そう、聞きたかったことが一つ」
なんでしょう。
「君はなぜ体を売る」
……ええと。
「言いたくないなら答えなくてもいい」
……その、考えたことがありませんでした。私は、本当になんでかしら。
「そうか。じゃあ、一つ教えてもらった代わりに一つ教えよう」
はい。
「それはね」
26 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 01:07:35.66 ID:gN457H7eO
「可哀想なっ、やつだなっ!」
私を抱きながら、とある客が言いました。熱に冒された私の頭は、その言葉を聞き入れるには熱すぎました。
「かっわいそうだ!」
かわいそう可哀想カワイソウかわいそう。
「で、出るぞ……ぅっ!!」
胎内で子種がはじけるのを私は感じていました。
生暖かい粘液の、びゅるびゅると放出される不快な感覚……。
そして、頭の中はカワイソウの言葉で散らかっていました。
27 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 01:09:27.24 ID:gN457H7eO
「……ふぅ」
男の生臭い吐息が胸元にかかった時、私は良い匂いのする男がどうしようもなく恋しくなりました。
彼は教えてくれました。
30 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [勉強は大事だ] 投稿日:2010/03/08(月) 01:25:20.18 ID:gN457H7eO
「お前は自分が本当に不幸だと思うか」
はい。
「それなら、自分はまだ君を幸せ者とも呼べる」
何故です、それは。
「本当に不幸な者は、自分の不幸にすら気付けないから」
ぎゅっと両腕を回して抱き、彼は私に頬を寄せました。
何だか寂しそうで、泣きそうで、年端の行かぬ私の知らない感情を抱いているように、その体は震えました。
彼は額に口付けました。それに応えて、私は彼の喉のごつとしている場所に舌を這わせました。
そこが所謂逆鱗だったのでしょう。
彼は再び私を激しく求めました。
それが喜びでなくて、なんなのでしょうか。
32 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 01:27:44.30 ID:gN457H7eO
「ぅ、んぅ……」
痛いか。
「嬉しいです 嬉しい」
痛くないか。
「はい」
良かった。
……少し、頼む。
「では……」
く、ふっ……
「……いかがですか」
もっと……。
「はい、もっと強くですね」
「我慢しないでもよいですよ」
……すまん、出る。
受け止めてくれ。
「はい、喜んで……」
34 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 01:38:19.12 ID:gN457H7eO
「……父親、だな」
ことが終わると、何か言いづらそうに、彼は切りだしました。
「他人の趣味は他人の趣味だが、どうしたものか」
どうしたものか、とはどうしたことです?
「……そう聞くなら、答えよう。父親は覗いていた」
それは……どういう……。
「自分と、君を。正確には自分と、君のを」
36 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 01:43:50.47 ID:gN457H7eO
「そこに、襖がある。廊下と部屋を仕切る、松の描かれた襖だ。それが鼠の通れるくらい、すっと開いた。
自分は君と繋がっていた。自分からは襖がよく見えた。君の父親の血走った眼もよく見えた。
君は苦しそうに喉元を曝して喘いでいたろう。
見えない目を見開いて、君は襖から覗く君の父親と視線を合わせていた。
いや、君の父親が……君を狂おしい程に見つめていたんだ。」
37 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 01:45:17.65 ID:gN457H7eO
私は思わず身震いしました。『親』は私に仕事を与えはしても、干渉することはなかったはずでした。
あの時も、あの時も覗かれていたと考え始めると、私は無理矢理犯されたような屈辱を覚えました。
「顔色が、悪い」
彼は私の様子を怪訝に思い、心配なようでした。
38 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 01:49:02.63 ID:gN457H7eO
「……物心ついたころから既に私は、男の大人の股ぐらを撫ぜていたように思います」
「褥の生臭とは馴れ親しんで居ましたが、眉をしかめることもありました」
「しかし私が他のどんな道を選ぼうというのでしょう」
「地を手探り這いずり回り、猛々しい欲を受けとめ」
「私に慰みを求めた大人の男が満たされる」
「この営みは、私が死ぬまで続くでしょう」
39 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 01:50:14.74 ID:gN457H7eO
「それでも『親』だけは、と。『親』だけは、私を肉欲の捌け口としないはずだ……と思っていました」
「私は、どうしたら……」
「……君は、美しいから」
優しい声で彼は言いました。
40 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 01:52:58.02 ID:gN457H7eO
「誰もが君を手籠めにしたいと思うだろう」
私はどうやら、美しいかんばせのようでした。誰もが見惚れる、美しいかんばせ。
そのかんばせを自分だけが見られない、この滑稽さを、私は笑うことができません。
「自分もその一人だ。君とは年も離れているが、家に是非置きたい娘だ」
彼は、私を本気で欲しがりました。
42 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 01:55:51.47 ID:gN457H7eO
「何十円、何百円でも積む用意があるから、君から父親に言ってくれないか」
しかし……。
「心配はいらない」
「自分はやると言ったらやる、買うといったら買う男だ」
……ふふ。
「……その笑顔をずっと間近で見ていたい」
や、やめてください。もう、胸が一杯で……。
「笑ってさえいてくれれば良い」
……。
45 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 02:00:09.07 ID:gN457H7eO
「じゃあ、父親によろしく言ってくれ」
……分かりました。
「ありがとう。明日また来て、君の父親と談判する」
良い匂いの男が帰ってしまうと、家の中には檜ばかりが香ります。
48 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 02:09:17.22 ID:gN457H7eO
「『お父さん』」
夕げの席で、私は切り出しました。
「彼はとっても良い人なんですよ」
「背中を撫でる手や、胸元をなぞる唇や、みんなが優しいのです」
「私が彼のをくわえているときも、えづいてしまう程には突き込みませんし」
「可愛い、可愛いだなんてウワゴトを呟きながら、私を抱くのです」
「私は彼に恋をしたのでしょう」
「顔も見えぬ男ですが、彼のとても良い匂いは、私の鼻が確かに憶えております」
49 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 02:14:17.10 ID:gN457H7eO
>>47
そのサイト有害だからあんまり見ないほうが良い
ちなみに「救い」って表現に深い意味はなくて、ただ笑えるレスだったから……
深読みさせて申し訳ない
50 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 02:15:49.79 ID:gN457H7eO
「本当に不幸な者は自らの不幸に気付けない」
「彼は教えてくれました」
「例え世の中で最も不幸であっても」
「私は彼の腕に抱かれることを幸せであると信じます」
「ですから『お父さん』、私を彼の家へやってくれませんか?」
『親』は何も答えず、くちゃくちゃと音を立てて食事を済ませると、寝室へ戻ってしまいました。
54 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 02:19:34.14 ID:gN457H7eO
翌朝、私が目覚めたのは、日がだいぶ高くなってからでした。
いつも甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる『親』が、なぜ今日に限って私を起こさなかったのでしょう。
―――客が来ている。
背後からの声に思わずびくっとして、振り返りました。『親』がいつのまにか部屋に居たみたいです。
「少し待たせてしまいますね。急いで支度します」
私が答えると、襖を閉じる音がしました。
56 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 02:22:22.07 ID:gN457H7eO
家の一番奥、北側の涼しい和室にお客様が来ていると、『親』は言いました。
私が最も緊張するのが、このお客様との対面です。彼だろうかという期待もありましたが、勿論そうでない場合もあります。
廊下を歩き、部屋の前まで来ると、その緊張も最高潮となり……、私は一呼吸ついて意を決し、襖を開けます。
「いらっしゃいませ。お遊びのお相手をさせて頂きます、―――です」
「ご察しの通り盲目の身ですが、心を尽くしてご奉仕致します」
「よろしく、お願いします」
59 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 02:24:06.44 ID:gN457H7eO
返事がありません。
彼のにこやかな挨拶も、初対面のぎこちない挨拶も。
私は首を傾げました。
部屋の中央までそろそろと歩み寄ると、何かにつまづき
「きゃっ……」
私は転びました。
60 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 02:26:11.99 ID:gN457H7eO
額をすこぶる打ち付けて、ひりひりしました。
立ち上がろうと手をついたとき、ペタリと何かに触れます。
冷たい、人の肌でした。
「ぃやぁっ!」
私はただ震えていました。お客様が居るはずの、この部屋には私と、死人が……
61 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 02:28:07.95 ID:gN457H7eO
―――お客様から逃げるな。
冷たい声で言ったのは、『親』でした。
「だって、この人……死……」
―――私が迎えた大事な「お客様」、だ。
私はその時悟りました。
『親』は私に、屍体と交われと言っているのです。誰とも分からない、冷たい肌と……。
私は着物を脱ぎ、『親』の絡み付くような視線を感じながら、屍体に近寄りました。
―――体を重ねると、その男からは良い匂いがしました。
「今日は洗濯日和みたいですね」
『親』は、不便な私の生活の一通りの世話をしてくれます。
「あの布団、臭いがかなりきついので宜しくお願いしますね」
盲目の身にも可能な仕事、というのは限られますが
じりり
「電話、ですね」
私は稼ぎ手として、この生活に微力な扶助をしています。
3 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/07(日) 23:19:33.27 ID:DwN/9Ic3O
「いらっしゃいませ。お遊びのお相手をさせて頂きます、―――です」
「ご察しの通り盲目の身ですが、心を尽くしてご奉仕致します」
「よろしく、お願いします」
私の家は檜の香でいっぱいです。
鬱蒼とした森の、少し開けた場所にポツリと建っていて
この季節になるとお囃子の音が近くの神社から愉快に聴こえてくるのでした。
5 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/07(日) 23:27:54.19 ID:DwN/9Ic3O
「今日は暑い」
二十過ぎの若い男で、私とは十余り歳が離れていましたが、彼は親しげに私へ話をしてくれました。
普段私が相手をする男は、時間が惜しいとばかり早急に布団へ誘うのですが
今日の相手はその類いの男ではありませんでした。
8 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/07(日) 23:36:06.92 ID:DwN/9Ic3O
「お囃子、見たことないだろう。連れて行く」
私が盲目であると失念されてはいませんか。
「何を言うのか。近くで聴けばきっと違う」
いいえ、違いません。
「可愛げのない。まぁ付き合ってくれ」
彼は私の手をひっ掴み、神社までずるずると引っ張りました。
9 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/07(日) 23:42:16.68 ID:DwN/9Ic3O
「今日も暑い」
さっきも仰りましたよ。
「お囃子、迫力だろう」
お腹が揺れます。ぶるぶると。
「来てよかった」
……。
「来てよかった」
……はい。
10 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/07(日) 23:44:45.49 ID:DwN/9Ic3O
「そうそう言い忘れてたが、その白い着物、良く似合う。綺麗だ」
ありがとうございます。これはわんぴーすというのだそうです。
「ハイカラな名前だ。なるほど、なるほど」
?
「縁日で出店も多い。何か要るかい」
いえ、特には。
「ほとほと可愛げのない子だ」
十分承知してます。
※書きためてはありますが、手直しなどで手間取ってます……。
11 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/07(日) 23:52:30.33 ID:DwN/9Ic3O
彼は神社の至るところに私を引っ張り回し、事あるごとに私の容姿の幼さをを大袈裟にからかって、喜んでいるようでした。
そのたび私は彼に毒づいたり、お客様だということを忘れてこづいたりしました。
らむねという、口がこそばゆくなる不可思議な飲み物を彼はくれました。お腹が一杯になりました。
私の知らない時間の過ごし方を彼は熟知しているようでした。
彼の賽銭泥棒未遂事件の顛末に傾聴していたとき、唐突に話をやめて、彼は真顔で言いました。
「なんだ、笑うと可愛いじゃないか」
散々に可愛げのない子だと言われた後でしたので、私は思わず硬直しました。
「可愛い、可愛い」
歌うように呟いて、私の頭に彼の手がのりました。
「君の親の気持ちが分かる」
彼の着物の袖口は、とても良い匂いがしました。とても良い匂いのする男でした。
15 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 00:06:34.50 ID:gN457H7eO
家の前まで帰ってきても、お囃子はまだ小さく鳴っていました。
ずぅっと手を握っていたので、重ねた掌の間は、どちらのものとも知れない汗に濡れていました。
その感覚が、世の中で一番確かな輪郭を持っていました。
家の一番奥、北側の涼しい和室に戻りました。
17 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 00:17:27.46 ID:gN457H7eO
「今日は暑い」
ええ、とても。
「服、脱いでもいいか」
お任せください。
「悪い」
いいえ。
「君は大人びてる。自分より」
大人ばかりを相手にしていれば、そうもなりますよ。
「……暑くないか」
暑い、ですね。
「脱がせるから」
お願いします。
19 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 00:27:50.65 ID:gN457H7eO
ああ、真顔ってコノヤロー
真面目な声で、ぐらいの脳内変換をば……
20 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 00:32:55.27 ID:gN457H7eO
私のわんぴーすを脱がせる彼の仕草は、頭を撫でる手のように優しいものでした。
「白いね、君は」
そう言って、彼が口付けた首筋は、少し腫れました。
「こっちが悪いみたいに思わされる」
唇が這い下りた先は私の右胸の蕾でした。
「甘えたくなる」
舌が、蠢いて、私は目を、瞑って。
「可愛い、可愛い」
それが、数限りなく繰り返される最初の一言でした。
21 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 00:44:26.98 ID:gN457H7eO
情事の間、彼の囁きが私の頭をぐるぐる回っていました。
そのまま回って、回って、回路がショートした時には、ことが終わっていました。
肌を重ねている間ずっと、彼の首もとや髪から良い匂いがしました。
苔や枯木の、地味なようでとても落ち着いていられる匂いでした。
24 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 00:54:15.88 ID:gN457H7eO
「また来ると思う」
是非、また。お待ちしています。
「……そう、聞きたかったことが一つ」
なんでしょう。
「君はなぜ体を売る」
……ええと。
「言いたくないなら答えなくてもいい」
……その、考えたことがありませんでした。私は、本当になんでかしら。
「そうか。じゃあ、一つ教えてもらった代わりに一つ教えよう」
はい。
「それはね」
26 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 01:07:35.66 ID:gN457H7eO
「可哀想なっ、やつだなっ!」
私を抱きながら、とある客が言いました。熱に冒された私の頭は、その言葉を聞き入れるには熱すぎました。
「かっわいそうだ!」
かわいそう可哀想カワイソウかわいそう。
「で、出るぞ……ぅっ!!」
胎内で子種がはじけるのを私は感じていました。
生暖かい粘液の、びゅるびゅると放出される不快な感覚……。
そして、頭の中はカワイソウの言葉で散らかっていました。
27 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 01:09:27.24 ID:gN457H7eO
「……ふぅ」
男の生臭い吐息が胸元にかかった時、私は良い匂いのする男がどうしようもなく恋しくなりました。
彼は教えてくれました。
30 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [勉強は大事だ] 投稿日:2010/03/08(月) 01:25:20.18 ID:gN457H7eO
「お前は自分が本当に不幸だと思うか」
はい。
「それなら、自分はまだ君を幸せ者とも呼べる」
何故です、それは。
「本当に不幸な者は、自分の不幸にすら気付けないから」
ぎゅっと両腕を回して抱き、彼は私に頬を寄せました。
何だか寂しそうで、泣きそうで、年端の行かぬ私の知らない感情を抱いているように、その体は震えました。
彼は額に口付けました。それに応えて、私は彼の喉のごつとしている場所に舌を這わせました。
そこが所謂逆鱗だったのでしょう。
彼は再び私を激しく求めました。
それが喜びでなくて、なんなのでしょうか。
32 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 01:27:44.30 ID:gN457H7eO
「ぅ、んぅ……」
痛いか。
「嬉しいです 嬉しい」
痛くないか。
「はい」
良かった。
……少し、頼む。
「では……」
く、ふっ……
「……いかがですか」
もっと……。
「はい、もっと強くですね」
「我慢しないでもよいですよ」
……すまん、出る。
受け止めてくれ。
「はい、喜んで……」
34 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 01:38:19.12 ID:gN457H7eO
「……父親、だな」
ことが終わると、何か言いづらそうに、彼は切りだしました。
「他人の趣味は他人の趣味だが、どうしたものか」
どうしたものか、とはどうしたことです?
「……そう聞くなら、答えよう。父親は覗いていた」
それは……どういう……。
「自分と、君を。正確には自分と、君のを」
36 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 01:43:50.47 ID:gN457H7eO
「そこに、襖がある。廊下と部屋を仕切る、松の描かれた襖だ。それが鼠の通れるくらい、すっと開いた。
自分は君と繋がっていた。自分からは襖がよく見えた。君の父親の血走った眼もよく見えた。
君は苦しそうに喉元を曝して喘いでいたろう。
見えない目を見開いて、君は襖から覗く君の父親と視線を合わせていた。
いや、君の父親が……君を狂おしい程に見つめていたんだ。」
37 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 01:45:17.65 ID:gN457H7eO
私は思わず身震いしました。『親』は私に仕事を与えはしても、干渉することはなかったはずでした。
あの時も、あの時も覗かれていたと考え始めると、私は無理矢理犯されたような屈辱を覚えました。
「顔色が、悪い」
彼は私の様子を怪訝に思い、心配なようでした。
38 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 01:49:02.63 ID:gN457H7eO
「……物心ついたころから既に私は、男の大人の股ぐらを撫ぜていたように思います」
「褥の生臭とは馴れ親しんで居ましたが、眉をしかめることもありました」
「しかし私が他のどんな道を選ぼうというのでしょう」
「地を手探り這いずり回り、猛々しい欲を受けとめ」
「私に慰みを求めた大人の男が満たされる」
「この営みは、私が死ぬまで続くでしょう」
39 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 01:50:14.74 ID:gN457H7eO
「それでも『親』だけは、と。『親』だけは、私を肉欲の捌け口としないはずだ……と思っていました」
「私は、どうしたら……」
「……君は、美しいから」
優しい声で彼は言いました。
40 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 01:52:58.02 ID:gN457H7eO
「誰もが君を手籠めにしたいと思うだろう」
私はどうやら、美しいかんばせのようでした。誰もが見惚れる、美しいかんばせ。
そのかんばせを自分だけが見られない、この滑稽さを、私は笑うことができません。
「自分もその一人だ。君とは年も離れているが、家に是非置きたい娘だ」
彼は、私を本気で欲しがりました。
42 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 01:55:51.47 ID:gN457H7eO
「何十円、何百円でも積む用意があるから、君から父親に言ってくれないか」
しかし……。
「心配はいらない」
「自分はやると言ったらやる、買うといったら買う男だ」
……ふふ。
「……その笑顔をずっと間近で見ていたい」
や、やめてください。もう、胸が一杯で……。
「笑ってさえいてくれれば良い」
……。
45 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 02:00:09.07 ID:gN457H7eO
「じゃあ、父親によろしく言ってくれ」
……分かりました。
「ありがとう。明日また来て、君の父親と談判する」
良い匂いの男が帰ってしまうと、家の中には檜ばかりが香ります。
48 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 02:09:17.22 ID:gN457H7eO
「『お父さん』」
夕げの席で、私は切り出しました。
「彼はとっても良い人なんですよ」
「背中を撫でる手や、胸元をなぞる唇や、みんなが優しいのです」
「私が彼のをくわえているときも、えづいてしまう程には突き込みませんし」
「可愛い、可愛いだなんてウワゴトを呟きながら、私を抱くのです」
「私は彼に恋をしたのでしょう」
「顔も見えぬ男ですが、彼のとても良い匂いは、私の鼻が確かに憶えております」
49 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 02:14:17.10 ID:gN457H7eO
>>47
そのサイト有害だからあんまり見ないほうが良い
ちなみに「救い」って表現に深い意味はなくて、ただ笑えるレスだったから……
深読みさせて申し訳ない
50 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 02:15:49.79 ID:gN457H7eO
「本当に不幸な者は自らの不幸に気付けない」
「彼は教えてくれました」
「例え世の中で最も不幸であっても」
「私は彼の腕に抱かれることを幸せであると信じます」
「ですから『お父さん』、私を彼の家へやってくれませんか?」
『親』は何も答えず、くちゃくちゃと音を立てて食事を済ませると、寝室へ戻ってしまいました。
54 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 02:19:34.14 ID:gN457H7eO
翌朝、私が目覚めたのは、日がだいぶ高くなってからでした。
いつも甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる『親』が、なぜ今日に限って私を起こさなかったのでしょう。
―――客が来ている。
背後からの声に思わずびくっとして、振り返りました。『親』がいつのまにか部屋に居たみたいです。
「少し待たせてしまいますね。急いで支度します」
私が答えると、襖を閉じる音がしました。
56 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 02:22:22.07 ID:gN457H7eO
家の一番奥、北側の涼しい和室にお客様が来ていると、『親』は言いました。
私が最も緊張するのが、このお客様との対面です。彼だろうかという期待もありましたが、勿論そうでない場合もあります。
廊下を歩き、部屋の前まで来ると、その緊張も最高潮となり……、私は一呼吸ついて意を決し、襖を開けます。
「いらっしゃいませ。お遊びのお相手をさせて頂きます、―――です」
「ご察しの通り盲目の身ですが、心を尽くしてご奉仕致します」
「よろしく、お願いします」
59 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 02:24:06.44 ID:gN457H7eO
返事がありません。
彼のにこやかな挨拶も、初対面のぎこちない挨拶も。
私は首を傾げました。
部屋の中央までそろそろと歩み寄ると、何かにつまづき
「きゃっ……」
私は転びました。
60 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 02:26:11.99 ID:gN457H7eO
額をすこぶる打ち付けて、ひりひりしました。
立ち上がろうと手をついたとき、ペタリと何かに触れます。
冷たい、人の肌でした。
「ぃやぁっ!」
私はただ震えていました。お客様が居るはずの、この部屋には私と、死人が……
61 名前:気に入りません ◆EXypm9zea. [] 投稿日:2010/03/08(月) 02:28:07.95 ID:gN457H7eO
―――お客様から逃げるな。
冷たい声で言ったのは、『親』でした。
「だって、この人……死……」
―――私が迎えた大事な「お客様」、だ。
私はその時悟りました。
『親』は私に、屍体と交われと言っているのです。誰とも分からない、冷たい肌と……。
私は着物を脱ぎ、『親』の絡み付くような視線を感じながら、屍体に近寄りました。
―――体を重ねると、その男からは良い匂いがしました。
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