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律「大好きでした」

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/15(水) 15:46:09.79 ID:1cjIorTG0 [1/29]
あたしは生まれ育った街を歩いていた。
家には一言、置手紙だけ残してきた。

自分の足は、何も迷うことなく母校へ向かっていた。
授業は終わったようで、桜高の制服を着た女の子たちがちらほら居る。
楽器背負ってる子を探すがいない。
あ、そうか。まだ部活動中?ていうか、まだ軽音部あんのかな。
あたしが作った、大事な軽音部。

あの制服を脱いで、もう4年になるのか。

つい最近まで着てた気がするんだけどな。
そりゃあみんな大人になってるわけだ。あたしも例外なく、大人になってるんだし。

いや・・・なれてるのかな。
まだ迷ってる。「母」になることに。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/15(水) 15:48:17.04 ID:1cjIorTG0
何度も来た道なのに、考えてみれば・・・一人で歩くことのってそんなになかったな。
いや、一人でもないのか。あたし赤ちゃんいるんだよな。まだ実感ないけど・・・。

あの頃はいつも、澪が横に居た。
それが何より自然で、当たり前だった。
そんなこと言うと、部のみんなも同じなんだけど。

でもあたしの中での「思い出」って言うと、どんな小さなことでさえ、澪が居て。


小学生の頃に澪と出会って、当たり前に中学に入学して、
同じ高校に進むために頑張ったんだよなあ、あたし。
「澪ちゃんを一人にしたらりっちゃん心配だからなー」なんて言ってたけど、
一緒にいたくて結構必死だったの、バレてんのかな。

その頃だった、澪が好きだって気付いたのは。
好きの種類が、普通とは違うことに気付いたのも。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/15(水) 15:55:04.66 ID:1cjIorTG0
入学式も二人で行った。
桜がひらひら舞って、お互い着慣れない制服をからかったりして。
だってあの日の澪の顔、ガチガチでひどかったんだもん。何でいつもあんなに緊張してんだろ?

「そんな怖い顔してたらみんな逃げちゃいますよーみおちゃーん。」
「バカ!そんな大きい声出すとみんなこっち見ちゃうだろ・・・」
「いいじゃん、これからは嫌でも毎日顔合わせることになるんだぞ?」
「でも今はその・・・恥ずかしいだろ・・・」

その時だっけ。澪の世界を広げてやろうなんて、大それたことを思ったのは。


軽音部に澪を引っ張り込んで、ムギと唯が、遅れて梓が入部してくれて。毎日が楽しかった。
本当に青春してたよなー。ライブ後に泣いちゃったりして。

将来への不安とかも抱えちゃってさ。まあ、何も考えずノリでムギの進路に乗っかったんだけど。

澪も「みんなと同じところに行く」なんて言い出だして。
・・・バンドやってなかったら、「律と同じところ」なんて言ってくれてたかな?


9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/15(水) 16:06:33.86 ID:1cjIorTG0
大学入ってからは一人暮らしを始めて、講義もサボってバイトの日々。
たまにみんなで桜高に遊びに行って、さわちゃんに心配されるのはいつも唯とあたし。

「さわちゃん超失礼だな!」
「そうだよ~。わたしは毎日大学行ってるよ~。りっちゃんも毎日頑張ってるよ~バイトとか。」
「やっぱり・・・りっちゃん講義受けないんでしょ・・・」

他の三人が頷く。

「あちゃー・・・」さわちゃん、その言葉以外出なかったみたいだ。

まあ恩師の心配は的中。
さわちゃんごめん、三回に上がった頃、あたしは大学を辞めてしまった。


入る前は音楽続けるつもりで居たのに、サークルとかさ、何か違うんだよ。
そりゃー桜高の軽音だって、わき目も振らず練習に明け暮れたわけじゃないけど。
でも、なんてーの?あの空気・・・だらだらした感じ。
見てると何か、自分が梓になった気分だった。
だからってさ、放課後ティータイムで練習だのライブだのしようって言っても、無理だったんだよ。


11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/15(水) 16:12:30.25 ID:1cjIorTG0
ムギは留学して休学中、澪は真面目に講義、就職活動。
唯は何か・・・何かそんなに忙しくないんだろうけど、いつも精一杯だから。
声掛けるのに気が引けちゃって。
それに、梓は一人、女子高生。
ついでに部員が二人しか居ない軽音部の部長だ。
何で二人なのかって言うと、いつも梓、憂ちゃんと三人で居た澪ファンの鈴木さんが入ってくれたらしい。

「梓もうちの大学入れよ!」
「そうだよあずにゃん!わたしあずにゃん分が足りないよ~。」
「まあ梓には梓の道があるからな、その気になればおいでよ。」
「梓ちゃんがうちに入れば、またこうやってみんなでお茶しましょうね~。」

そんなこと言っても梓には梓の道があって、あいつは音楽の専門学校に進んだ。
薄情者~、なんて言ったけど、その道は間違ってない。
本当に音楽がやりたいならそうするべきだ。
みんなが揃っても、もう放課後ティータイムはやれない。
音楽以外のものが大きくなっていたから。


二回に上がる頃には、ほとんど大学へ行かなくなっていた。
バイトに明け暮れる毎日。ついでにバイト仲間のバカに好きだ、なんて言われた。


12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/15(水) 16:20:29.34 ID:1cjIorTG0

「えっマジ?」
それ以外、何も言えなかった。
普通はこうなんだよな。男は女が好きで、女は男が好きで。

別にこのバカのことは嫌いじゃなかった。
むしろ好きだ。でも・・・澪への「好き」ではない、違う好きだ。

「付き合って欲しい、返事はいつでもいい。」

一方的に言われて、その時は呆気に取られてしまった。
ちゃんと返事しなきゃ。
そう思う度、澪への気持ちとの違いについた考えた。


あの澪とすらあんまり会わなくなったある日、弟から連絡が来た。
「姉ちゃん、同窓会の知らせの手紙来てた。近々うち寄る?予定ないなら送ってやるよ。」
「わりーな聡、うちんち送っててくれ。住所はわかるよな?」

-同窓会のお知らせ-
○○中学○○期生の3年○組で同窓会を・・・


13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/15(水) 16:36:34.62 ID:1cjIorTG0
携帯の着歴から澪の名前を探す。
でもそこには澪の名前はない。発歴を見てもそれは同じだった。

そんなに話してなかったっけ?
諦めて「マ行」から探す。


「もしもし」
「パンツ何色?」
「久しぶりに掛けてきたと思ったらそれか。切るぞ。」
「久しぶりだってーのに冷たいですねーみーおちゃーん。」
「で、何なんだよ。最近講義も受けてないだろ。」
「あーはいはい。でさ、同窓会の知らせ来た?」
「あー来てた来てた。律は行くのか?」
「そりゃー行くっしょ。澪も行くよな?」
「わたしはっ・・・いい。」
「えっ。もしかして旧友にすら人見知りしちゃうの?」
「だって・・・」
「成人式も行かないつもりか?」
「いやそれは行くよ・・・」
「同窓会も成人式も似たようなもんじゃん。とりあえず澪も出席なー、じゃあ。」
「あ待てり・・・」

一方的に電話を切った。
それ以外に何を話せばいいかわからなくて。
なのに顔はにやけてしまっていた。
同窓会・・・楽しみだな。・・・久しぶりにゆっくり、澪に会える。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/15(水) 16:45:14.73 ID:1cjIorTG0

同窓会当日。嫌がる澪を連れ、同窓会の場に行った。
今から思えば、それが正解だったのか、間違いだったのかはわからない。

「この服・・・変じゃないか?髪の毛乱れてないか?」
「だいじょぶだいじょぶ、いつもの可愛い澪ちゃんですよー。」
「それにしても久しぶりだな・・・みんなに会うの。」

何だ、満更でもないんじゃん。緊張してるのは伝わってくるけど、嬉しそう。
あたしと会うのも2ヶ月ぶりだってこと、気付いてないかな。
こんなに会わなかったの、初めてだぞ。


会場には、既に知った顔がいっぱいあった。
「わー、りっちゃん澪ちゃん、やっぱり今でも一緒なんだね~」
「ま、まーな。・・・久しぶり!」

緊張して声が上ずってる。
ていうか「まーな」じゃねーし。

澪はすぐ、男に囲まれた。そりゃー綺麗だもんな。
昔っから、「○○くんが澪ちゃんのこと好きなんだって」なんて噂よく聞いたし。
その○○くんはスラッと背が伸びて、澪と並んで話をしてた。
何だろう、この気持ち。嫉妬?

でも本当に、綺麗になった。
もしかして、今まで気付かなかっただけで、澪は彼氏が居たりしたんだろうか。
そう思うと胸が締め付けられる思いだった。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/15(水) 17:06:37.14 ID:1cjIorTG0
同窓会は終わり、ちょっと酒も入って頬が赤い澪との帰り道。

「どうよ~同窓会は。」
「ん・・・楽しかった・・・。」
「モテモテだったじゃん、罪な女ですな~。」
「やめてくれ・・・」
「○○なんかもう、澪しか見てなかったじゃん。連絡先交換とかしちゃったの?」
「・・・うん・・・」

赤いの、酒のせいだけじゃないか・・・。

「まあ昔も澪のこと好きだったろ、アイツ。」
「え!?そんな、絶対な・・・」

♪~

否定する澪をよそに、会話を遮る着信音。

「ほらほら、出ろよ。」

あたしは歩幅を広げ、先を歩いた。


17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/15(水) 17:22:01.25 ID:1cjIorTG0
そろそろあのバカとも顔合わせづらいな。
何か、普通に話せなくなってしまっていた。
こんな男勝りなあたしが好きなんて、どんな変わり者なんだよ。
それでもアイツはいつもと変わらずニコニコしてて、バカで。
辞めちゃうか。他にもバイトあるんだし、そっちのシフト増やして・・・。

バイトに行く身支度をしながらそんなことを考えてると、久々に聞く着信音が流れた。

澪だ。


「はいはーい」
「あ、律。今いいか?」
「おうよ。どうした?○○に愛の告白でもされちゃったか?」
「え何でわかっ・・・いやあの、ちょっと相談があって。」
「・・・付き合うの?」
「・・・律は、どう思う?」
「あたしに聞くなよ。自分の気持ちがまず先だろ?」
「そうなんだけど・・・」
「澪はどうなんだ?好きなんだろ?」

違う、とは言ってくれないだろうな。


20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/15(水) 17:40:38.06 ID:1cjIorTG0
「・・・うん・・・」
「あたしに聞くまでもないじゃん・・・」

呆れて笑ってしまった。

「付き合えよ。幸せになれ。」
「・・・ありがとう、律が声かけてくれなかったら同窓会、行ってないよ。」
「どういたしましてー。じゃ、あたし今からバイトだから。」
「ちゃんと学校にも来るんだぞ!」
「はいはーい。じゃあな。」

何であたし、目に涙溜めてるんだろ。

まだ握り締めていた携帯。違う人に電話を掛ける。

「あ、田井中です。今大丈夫?

 ・・・この前の話、何て言うか・・・」

「あ、大丈夫大丈夫、返事わかってるから。これからも友だ・・・」

バカが話を遮ろうとする。負けずにこう伝えた。

「あたしと付き合ってください。」

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/15(水) 17:48:29.68 ID:1cjIorTG0
それからほぼ毎日、あたしはあのバカと会った。
出来るだけ、恋人として普通に接した。
「好き」の種類は変わることがなかったけど、それでも楽しかった。
アイツのご飯作って、うまいうまいって平らげる。
聡みたいだな、なんて思った。案外普通に、主婦になれるかもしれない。
それが幸せかは、わからないけど。


澪とアイツはどうかな。うまくいってるかな。
あの日から、連絡は取っていない。
澪からは掛かってくることもないし、あたしには掛ける勇気がなかった。

「いらっしゃい」から「おかえり」になった頃、退学届けを手に、久しぶりに大学へ向かった。


唯にもムギにも、澪にすら言わなかった。
でもその話は耳に入ったみたいで、すぐ同じ日に唯と澪から着信があった。
出ないでいると、次は澪からメール。

「何で相談してくれなかったんだ?」

その一言だった。返事はしなかった。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/15(水) 17:54:08.21 ID:1cjIorTG0
それからもあたしは同じバイト先で働き続けた。
みんなは大学卒業目前だな。
あたしには後輩がいっぱい出来て、何か部長って感じ。
本当に部長だったあの時は、全然頼りにはされてなかったけど。
バカはバイトを辞め、同じ系列の店の店長として就職した。

寒くなり始めたある日、あたしは珍しく体調を崩した。
多分、みんながお見舞いに来てくれた学園祭ライブ前のあの時以来。
バイトを休んだのは初めてだ。

バカは心配して、いつもより早く帰ってきた。
ご飯の支度をしようと立つと、肩を押さえつけられた。

「座ってろ。それよりちゃんと話しよう。
 律、お前妊娠したんじゃないか?」

本当にはバカだな、そんなのわかってるよ・・・。

「病院行こう。で、律の家族にも会わなきゃ。」
「やめろよ・・・まだあたし決めてない。」
「だめだ。産んでくれ。家族になろう。」


何も言えない。
だって・・・あたしには「好き」がわからない。
あの時澪に思ったような「好き」が、わからなくなってる。
そんな母親を持つ子供は幸せなのか?


23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/15(水) 18:04:14.87 ID:1cjIorTG0
何も言わず、ただ携帯だけ握って家を出た。

「寒いから早く帰って来いよ。あと階段、急だから。」ドアが閉まる前に、バカが言った。

澪・・・澪に会いたい。


「マ行」から澪の名前を探す。
発歴にも着歴にも、名前がないのは明らかだった。
電話はすぐ繋がり、澪の声が聞こえた。

「りつ?」
「あたしが掛けてんだからあたしだろ。りっちゃんですよー。」
「律・・・今何してんの?」
「んー相変わらずバイト生活。」
「何で何も言わずに学校辞めたんだよ!」
「行ってる意味ねーし。そんなことより・・・」
「心配したんだぞ!電話もメールも・・・」

心配したって言うなら、もっと必死になってくれたって良かったんじゃないか?

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/15(水) 18:12:43.07 ID:1cjIorTG0

「はいはいごめんねー。」
「律が・・・そんな風にいなくなるの初めてだから・・・迷惑かなって・・・」
「何で泣いてんだよ もー・・・」
「聡から聞いて・・・家まで行こうかと思ったんだけど、行けなかった。」
「いつでも歓迎するのに、澪なら。」
「今男の人と住んでるんだよな?いい人か?」
「んーまあな。澪はどうよ。まだアイツと付き合ってんの?」
「うん・・・結婚することになった。東京の方に就職するから、ついていく。4月に東京行くんだ。」
「おお!おめでとう!式はしないのか?」
「6月に・・・律もくるよな?友人代表で!」
「あー、どうだろ。5ヵ月後か・・・厳しいかもな・・・。」
「何で?律もどっか行くのか?」
「ん、ちょっとな。ていうかさ、澪・・・」
「どうした?」
「会いたい。澪に会いたい。」


澪は理由も聞かずに「わかった」と言った。
さわちゃんへの結婚報告も兼ねて、桜高にも行きたいって。
幸せなんだなあ、澪。あたしも幸せになれって言ったっけ。

あたしがこんな話したら、変な心配かけるかもしれないな。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/09/15(水) 18:22:38.36 ID:1cjIorTG0
約束の日。桜高の校門に着いた。ちらほら出てくる生徒の視線が痛い。
向こうから歩いてくる黒髪の女性。澪だ。
背が高くて、遠目からでも美人だとわかる。
気付いてるくせに、目を反らしてしまった。

「おい、無視すんなよ。」
「はは、久しぶりだなー奥さん。」
「やめてくれよ、まだ違うんだから。」
「へいへい、綺麗になっちゃって。」
「律も・・・何かこう、顔付きがしっかりしたな。」
「そうかー?そんなことないと思うけどな。・・・どうする?もうさわちゃんとこ行く?」
「や、それはいいんだ。明日もこっちにいるんだろ?予定は?」
「うん、実家泊まろうかと思ってる・・・今バイトも休んでるし。」
「じゃあ久しぶりついでにうち来いよ。お茶しよう。ケーキくらい出すからさ。・・・ムギのケーキには負けるけど。」

懐かしいな、ムギのケーキ。
なんて言いながら澪の家に向かった。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/15(水) 18:25:37.21 ID:1cjIorTG0
久しぶりにお邪魔する澪の家。

「りっちゃん、いらっしゃい」と笑う澪のお母さん。
「ママ、紅茶入れてくれる?」
まだママって呼んでんだ。変わってないな。

澪の部屋も、全然変わってない。

見慣れた部屋で、たくさんの時間を過ごした澪と今一緒にいる。
どうしてか言葉が出ない。何から話そう?
澪のお母さんが用意してくれた紅茶をかき混ぜながら、言葉を発した。


『あのさ・・・』二人の声が重なる。
「何?澪から話せよ。」
「いや、わたしはいい。律話して。」
「ん~実は考えてなくて。何から話そうかな。やっぱ思い出話か?」

あの時あんなことがあった、なんて話をした。
お父さんの会社で秘書、なんてムギらしい。
唯はギリギリの単位数で卒業が決まり、地元の幼稚園に就職が決まってるそうだ。
梓は・・・メールでもしてみるか。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/15(水) 18:32:13.65 ID:1cjIorTG0
「律・・・ケーキ手付けないのか?」
「ああ、忘れてた。」
「お腹いっぱい?」
違う、そうじゃない。ただ・・・今体が受け付けないんだ。

「ちょっとな。でも食べるから。あ、澪がいるなら食べてくれ。」
「あのさ・・・顔色悪いぞ。・・・つわりとか?」
バレた。隠しててもバレるか・・・付き合い、長いからな。

「うん、実はそうなんだ。まだ検査とかしてないけど、確実だと思う。」
「何で迷ってるんだ?相手の問題か?」
迷ってることすらバレるか。そりゃあ、「会いたい」なんて言うと察しがつくんだろう。

「あたし・・・の問題だな。」
「話してくれ。わたしたちの仲だろ。」


「澪はさ・・・アイツと出会うまで、付き合った奴とかいるのか?」
「いや、いないな。」
「おお~初めての男と結婚か~妬けますな~。」
「そういう律はどうなんだよ。相手はどんな人なんだ?」
「ん・・・まあ、いい奴だよ。仕事も頑張ってるし。」
「結婚する気はないのか?」
「わからない・・・」

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/15(水) 18:41:12.15 ID:1cjIorTG0
「わからないんだ、『好き』って、こうなのかって。」
「好きじゃ・・・ないのか?」
「『好き』の種類が違うと思う。」
「律・・・」


「わたしさ、」
澪が何か言いかけてやめる。
節目がちだった目を、今度はまっすぐこちらにやる。

「・・・わたし、律のこと好きだよ。」
「そりゃどうも。」
「小さい頃から、ずっと。でもそれはな、大学入る頃に、『好き』の種類が変わった。」
「・・・」
「何て言っていいかわかんない、ごめん。」
「何で謝んだよ。」
「でも、本当なんだよ。」
涙が出た。きっと澪は気付いてたんだ。ずっと、ずっと。
そして、あたしと同じ気持ちだったんだ。

泣いてしまったあたしを、澪が抱きしめた。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/15(水) 18:46:19.54 ID:1cjIorTG0
「律・・・相変わらず華奢だな。」
「うるせー。」
澪は長い腕をまわすと、ぎゅっとあたしの背中で結ぶ。

「澪・・・あたし好きだったんだよ、澪のこと。」
「それ以上言うな。知ってる、わかってるから。」
「やっと言えたんだから、聞いてくれよ・・・
 自分のこと変だってわかってた。だから、言えなかった。」
「言うなって。」
「今一緒に住んでる奴も、澪がアイツのこと好きだって聞いて・・・
 その日に このままじゃ駄目だって、思い・・・断ち切ろうって・・・でもそんなの、そんな始まりで・・・
 子供幸せに出来る自信ないんだよ、あたし。」
「でも律・・・母親の顔になってんじゃん。ここにいるんだろ?」


澪があたしのお腹を触る。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/15(水) 18:48:36.51 ID:1cjIorTG0
「律はいい母親になるよ。いい奥さんにも。わたしが保証する。
 何も間違ってない。例え種類が違っても、『好き』なら幸せになれるよ。」
「みお・・・」
「まだまだ先になるけど、いつかわたしも子供生んで。
 わたしたちみたいに、律の赤ちゃんに幼なじみが出来ると思う。歳は離れちゃうけどな・・・
 わたしたち、毎日楽しかったじゃん。
 いつもわたし、律にいたずらされてたけど、それでも律は守ってくれた。
 律の子供にも、わたしの子供のこと守ってもらわないと。
 だから・・・せっかく授かった命、大切にしよう?」

澪の顔を見る。
澪はやさしく笑った。そしてあたしに軽くキスをした。


35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/15(水) 18:54:27.75 ID:1cjIorTG0
ちょっと出かけます すぐ戻る

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/15(水) 19:18:08.09 ID:1cjIorTG0
帰りました 続けます

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/15(水) 19:25:34.36 ID:1cjIorTG0
「祝福のキスだ」
恥ずかしがり屋のくせに、照れるそぶりも見せず、まっすぐあたしの目を見つめる澪。

「澪・・・大好きでした。」
「わたしも、大好きでした。」
「お互い幸せになろうな。」
「うん、約束。」

その日は澪のベッドで一緒に寝た。
握った手が離れないように。そう意識していると、自分が今寝てるのか起きてるのかわからなくなる。
ただ澪の寝息が聞こえるこの瞬間が、幸せだった。

桜高に行って、澪はさわちゃんに卒業と結婚の報告をした。
「おめでとう」と笑うさわちゃんは、4年前と何も変わってない。
「りっちゃんは報告ないの?」と言われたので、学校を辞めたこと、そして母になることを報告した。

「りっちゃんは勉強以外で、大人になったのね。おめでとう。」
怒られると思ったのに。さわちゃんは澪のときと同じ笑顔だった。

その日は澪とあたしの実家へ行き、「明日会わせたい人がいる」とお母さんに伝えた。
明日は怒られるのかな、なんて不安だった。でも澪がその場に居てくれたから、笑顔でいれた。

家に帰ると、置手紙には汚い字で、一言加えられていた。

「昔好きだった人に会ってきます。」
「幸せになる宣言してこいよ。いってらっしゃい。」

あたし、ちゃんと言ったよ。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/15(水) 19:34:24.72 ID:1cjIorTG0
次の日。
また実家に行った。今度は澪でなく、アイツとだ。
スーツ姿・・・見たことがなかった。すらっと背が高くて・・・男、なんだな。
格好だけで、随分たくましく見える。
付き合いだしてからずっと嫌がってたけど、初めて手を握って歩いた。
澪の手なんか比べ物にならないくらいの、大きな手。

聡はびっくりしていた。両親は言葉も出ないようだった。
あのバカは、バカなりに自分の言葉で、「幸せにします」と言ってくれた。
そうするとお父さんはバカに、「酒は飲めるか?」とアイツを連れ出した。
アイツ殴られるのかな。なんて思うと、心配より笑いが浮かんだ。

そして、アイツには澪のことも話した。
小学校からの親友で、同じ高校入って、バンド組んで。
大学も・・・あたしは辞めてしまったけど、一緒にいたくて、頑張ったこと。
色んな思い出、ほぼ全部。・・・好きだったことも。

笑顔で「その子に会ってみたい」・・・だってさ。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/15(水) 19:40:37.51 ID:1cjIorTG0
6月。梅雨だということを忘れるくらいの快晴だった。
大きくなったお腹で、バカを連れ出し結婚式に向かった。

友人代表のスピーチは、あたしの方が泣いてしまってうまく読めなかった。

唯もムギも来ていた。全然変わらない二人。
澪の結婚より、あたしがした二つの報告の方が驚きだったらしい。
「りっちゃんがママだなんてねー・・・」
「でもりっちゃん、きっといいお母さんになるわ~。お料理上手だもの。」
「今度遊びに行っていい~?」
「昔みたいにお茶したいわね~。」

さわちゃんは、「教え子に先越された・・・」と酒をあおっていた。


梓からはメッセージが。
駆け出しではあるが、プロとして音楽を続けてるらしい。

行けなくてごめんなさい、とか言いながら、ちゃっかりサプライズライブをやってくれた。

「澪先輩は何となく予想出来てましたけど・・・
 律先輩がお嫁に行ったなんて、まだ信じられないです。」
「うるせー。あたしは大人になったんだよ。梓はまだちっせーままだな。」

そんなに小さい梓が、いいライブするんだからな。
その道に進んで正解だったよ、梓。

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/15(水) 19:47:54.97 ID:1cjIorTG0
それから約2ヶ月後、元気な女の子が生まれた。
うちのバカにそっくりな、あたしたちの宝物だ。
誰よりも先に病院へ駆けつけたのは、東京から来た澪だった。澪はあたしを差し置いて、泣いた。

「やべーよ澪。出産って鼻からスイカ・・・」
「きぎだぐない・・・」

泣きすぎ。何言ってるかわかんねーよ。
耳をふさぐ澪の手には、シンプルなマリッジリングが光る。

「おめでとう。律がママなんてな。」
「ほんと、自分でもおかしーし。」
「おかしくないよ、ママ。」

澪はやさしく、笑った。

名付け親は澪に頼もう・・・なんて思ったけど、メルヘンな名前が挙がりそうなのでやめた。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/15(水) 19:56:12.67 ID:1cjIorTG0
今でも時々考える。これで良かったのかなって。
そんな時、可愛い娘の顔を見る。
何が正解かはわからない。けど、今が間違いではないことなら、わかる。
幸せにも、好きにも色々ある。
でも、今この瞬間が幸せで、どんな形でも好きなら、それでいいんだよな。


それからすぐ、澪の妊娠がわかった。
何の因果かわからないが、次の年のあたしの誕生日に、澪の子は生まれた。

「鼻からスイカだったろ・・・」
「ああ・・・珍しく、律が言うこと嘘じゃなかった・・・」

おめでとう、澪。
わたし澪のこと、大好きでした。

これからも、大切な親友だからな。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/15(水) 19:58:09.09 ID:1cjIorTG0 [29/29]
終わりです。
前々から挑戦しては止めて、初めて完成したので記念に投下しました。
拙い文章ですが、読んでくれて本当にありがとう

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男が出て来ると違和感がある

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