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澪「shit」

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 00:47:17.65 ID:J0b9762hP [1/92]
【教室】

律「それでさ、そん時に見たカブトムシがまたでっかくてさ!」

紬「へぇ~、りっちゃんすごいね!」

律「今度ムギにも見してやるよ。近くの森にたくさんいるからな」

紬「本当?!私カブトムシ見たことないから楽しみ♪」

紬「あっ、そうだ!この前りっちゃんから借りた漫画なんだけどね―――」

澪「………」

最近ムギと律はやたらと仲が良い。
律は色んなことをムギに教えているし、
ムギはそのひとつひとつに目を輝かせていた。

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 00:49:03.28 ID:J0b9762hP
【廊下】

唯「りっちゃんりっちゃん!」

律「んー?どしたー?」

唯「ほら見て!100円拾った!」

律「うお、マジで?!よーしジュース買いに行こうぜー」

澪「こら、勝手に使っちゃダメだろ。泥棒だぞ」

律「澪。きっとこの100円は私たちに使われるべくして拾われたものなんだ」

唯「おぉ、なんかかっこいいよりっちゃん!」

律「だろ?んじゃそういうわけで…」

律「さっそく自販機に突撃だ!!」だっ

唯「了解しましたりっちゃん隊員!」

澪「………」

この2人の仲は相変わらず。
時々手がつけられなくなるぐらいだ。
まるで小さい時からずっと一緒だったような、そんな仲だ。

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 00:54:32.69 ID:J0b9762hP
【音楽室】

梓「あ、ジュリエット先輩!」

律「おい中野。私は律だ」

梓「そうでした、ごめんなさい」

梓「………」ぷるぷる

梓「………ジュ、ジュ律エット。なんちゃって」

律「おい中野。うまいこと言ったつもりかも知れないがな…」

律「それは散々既出のネタだぁー!!!」ガシッ

梓「や、やめてくださいよ先輩…ぷぷっ!」

律「まだ笑うかこんちきしょー!」

澪「………」

梓とも最近よくじゃれあうようになった。
梓は律によく懐いている。
私や唯といる時の梓とは違って、
さながらやんちゃないたずらっ子のようだった。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 00:59:42.36 ID:J0b9762hP
季節は秋。文化祭のシーズン。

みんな仲が良いのはいいことだ。
軽音部の魅力のひとつはそこだと私も思うし。

けど、ここ最近私はもやもやしている。
これを何と表現していいのか自分でもわからないけど、
とりあえず律が気になって仕方がないのだ。

【教室】

律「なぁームギー。ここの問題がどうしてもわかんないんだけど…」

紬「この問題はね、この解法を利用して…」

律「おぉ、なるほど!やっぱムギは頭いいなぁ」

紬「そんなことないわ。わからないところがあったらどんどん聞いてね?」

律「ありがとう!頼りにしてるよ!」

紬「うふふ」

澪「………」ぎりっ

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 01:04:51.14 ID:J0b9762hP
なんだよムギのやつ。
あんなに律にデレデレしちゃって。
そんな問題ぐらい、私にだって教えられるぞ。

律も律だ。
付き合いが長いんだから私に聞けばいいのに。
わざわざムギのところまで向かって…。

唯「ねぇー澪ちゃん、澪ちゃんってば」

澪「な、なんだ唯?!」

唯「さっきからりっちゃんとムギちゃんのことばっか見てるけど、どうかしたの?」

澪「えっ?!そ、そんなことはないぞ!はは…」

唯「…?変な澪ちゃん」

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 01:11:06.93 ID:J0b9762hP
何日か経って、そのもやもやがはっきりとしたものとなってきた。
律が他の誰かとしゃべってたりするのを見ると、すごく嫌な気分になるのだ。

【休み時間】

律「ムギお願いっ、英語のノート見せて!今日私指されるのに予習やるの忘れちゃって…」

紬「もうりっちゃんったら…。いいわよ、えっと―――」

澪「なぁムギ。ちょっとここがわからないから教えてもらってもいいかな?」

律「あっ、なんだよ澪!私が先だぞ!」

澪「ほら、今日の分の予習は私のノートに書いてあるから」

澪「ムギはこの文どうやって訳してる?」

紬「えっ?あ、うん。ここは…」

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 01:17:03.61 ID:J0b9762hP
【放課後】

律「なぁ唯!昨日のドラマ見た?!」

唯「あっ、見た見た!あれすっごくおもしろかったよね!」

律「もうあのヒロインが超かわいくてさ…」

澪「律。今週は掃除当番だろ?行くぞ」ぐいっ

律「おい何すんだよっ!今唯と話してるところなのにー!」

澪「ごめん唯、ムギと先に音楽室行っててくれ」

唯「んー、わかったー。いこっムギちゃん」

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 01:23:00.76 ID:J0b9762hP
【音楽室】

梓「先輩、口にクリームついてますよ」

律「えっ、どこどこ?」

梓「右のほっぺのとこです」

律「んー…(ごしごし)取れた?」

梓「全然とれてないですよ。いま私がとりますから、じっとしててください」

澪「よし、みんな。練習するぞ!ほら律、早くセッティング」

律「ちょっと待てって澪!これ食べてからでいいじゃん」

澪「だーめだ、もう文化祭も近いんだから」

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 01:31:40.57 ID:J0b9762hP
こんな日が続いていた。
私は律が他の誰かと話したり何かしていないか見張っていた。
ムギや唯、梓はもちろんのこと、
和や他のクラスメイトにもそんなような様子だった。

家に帰ったあとも、特に用も無くメールや電話をしたりしていた。
もしかしたら私以外の人とメールや電話してるかも知れない、
と不安に駆られたからだ。

特にムギに関して私はすごく敏感だった。

最近の2人は特に仲が良かったからかも知れない。
律の口からムギの話が出てくるたびにとても不快だった。
ムギといる時の律はとても楽しそうで、ムギもとても楽しそうだったからだ。

そして後でこれがムギに対する嫉妬だってことに気づいた。
ムギだけじゃない、私は律に近づく人みんなに嫉妬していた。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 01:38:33.14 ID:J0b9762hP
ある日、部活が終わりいつものように片付けをしていた。
文化祭の準備で時間が合ったので、憂ちゃんも一緒に帰ることになった。

【音楽室】

唯「じゃあ、私とあずにゃんは先に下に憂のとこ行ってるね」

律「おう、わかった」

音楽室は私と律とムギの3人になった。
ムギは戸棚で何かしているようだった。

律「ムギ、何してんだ?」

紬「ごちゃごちゃしてきちゃったから片付けついでにちょっとティーセットの整理してるの」

紬「すぐ終わるからりっちゃんたち先に行っててもいいわ」

律「そんなこと言うなって。私も手伝うよ!」

紬「本当?ありがとうりっちゃん。じゃあこれもってくれる?」

澪「………」ぎりっ

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 01:43:43.03 ID:J0b9762hP
まただ。
またそうやってムギと…。
私の心の中は濁った感情でいっぱいだった。

澪「2人とも。下で唯たちが待ってるから早く行こう」

律「すぐ終わるから待ってろって。なんなら先に一人で行ってていいぞ」

澪「なに言ってるんだ!憂ちゃんもいるんだぞ。あんまり待たせたら申し訳ないじゃないか!」ぐいっ

そんなのこじつけだった。
本当はムギと律を一刻も早く引き離したかっただけ。
私は律の腕をつかんだ。

律「お、おい!いきなりそんな引っ張るなって―――あっ!」

パリーン

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 01:50:50.54 ID:J0b9762hP
いきなりつかまれて体勢を崩したのか、律の手からムギのお皿が落ちて割れてしまった。

律「割れちゃった…」

紬「2人とも大丈夫?!」

律「あぁ、私らは平気。それよりもお皿割っちゃってごめん。これ、見るからに高そうだし…」

紬「ううん、もらいものだから別にいいの。また明日新しいのを持ってくるわ」

律「ごめんな、ムギ…。おい澪!!お前がいきなり腕引っ張るからだぞ!」

なんだよ、律のやつ。
そうやってムギのこと庇うのか?
くそっ、くそっ…。
どす黒い感情が私を覆った。

澪「ふん、律が私の言うことに耳を貸さないからこうなったんじゃないか」

律「…澪。お前、いい加減にしろよ」

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 01:56:50.37 ID:J0b9762hP
律の目が変わった。

律「お前、最近おかしいぞ。何かにつけて私の間に入ってくるし」

律「用もないのに電話とかメールまでして…。何のつもりだよ!私に対する嫌がらせか?」

律「これだってそうだ。まずムギに謝ることが先だろ?!」

紬「いいのよりっちゃん、別に気にしてないから―――」

律「そういう問題じゃないんだよ、ムギ。これは大事なことだ」

律「謝れよ、澪」

澪「そうやっていつもムギムギムギって…」

律「なんだよ」

紬「ちょっと2人とも…」

理性は完全に崩壊していた。
嫉妬で狂ってしまいそうだった。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 02:02:53.55 ID:J0b9762hP
澪「律の馬鹿!!このわからず屋!!!」

律「はぁ?!なんだよいきなり。お前の方が何考えてるか全ッ然わかんねーよっ!」

澪「うるさい!うるさいうるさい!!」

澪「そんなにムギがいいなら、ムギとずっと一緒にいればいいだろ!!!」

律「………」

澪「あっ……」

律「…もういい」

律「もういいよ。行こうぜ、ムギ」ぐいっ

紬「ちょ、ちょっと待ってりっちゃ―――」

バタン

澪「………」

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 02:08:58.85 ID:J0b9762hP
律はムギを連れて音楽室を出て行ってしまった。
私は音楽室に一人取り残された。
しばらくして失っていた理性を取り戻した。
そして、今頃になって嫉妬の理由に気づいた。

私は、律が好きなんだ。
どうしようもないぐらい、好きなんだ。
誰にも渡したくないんだ。

だけど、もう遅かった。
自分の想いを伝えることが出来ないまま、私は律との関係を壊してしまった。
私はその場に崩れ落ちた。

澪「律…っ。りつぅ…」

私は音楽室で一人泣いた。
不器用な自分が哀れで、惨めだった。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 02:15:32.85 ID:J0b9762hP
【廊下】

紬「りっちゃん、今のはあんまりよ。澪ちゃんがかわいそう」

律「…なんだよ、ムギまで。私が何か間違ったこと言ったか?」

紬「………ごめんなさい」

律「謝るなよ。ムギは何も悪くないじゃん」

紬「私が余計なことしてないですぐに行けばこんなことには…」

律「………唯たちが待ってる。急ごう」

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 02:22:39.78 ID:J0b9762hP
【校門】

梓「あ、来た」

律「いやー遅くなって悪い!」

唯「あれ?澪ちゃんは一緒じゃないの?」

律「あ、あぁ…。ちょっと先生に用事があるとかで、先行ってていいってさ。な、ムギ?」

紬「う、うん」

梓「どうしたんですかね…」

唯「えぇー、待っててあげようよ」

律「大丈夫だって。澪に気を遣わせるのも悪いし。帰ろうぜ」


25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 02:30:21.94 ID:J0b9762hP
【帰り道】

紬「じゃあ私はここで…」

律「おう、また明日」

唯「ばいばいムギちゃん!」

梓「さようなら」

・・・・・・

律「私らもここでお別れだな」

唯「うん!りっちゃんもあずにゃんもまたね~」

梓「はい、失礼します」

憂「………」

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 02:38:52.63 ID:J0b9762hP

憂「………」

律さんと梓ちゃんと別れ、私とお姉ちゃんは家に向かっていた。
帰り道、ずっと私は校門での律さんと紬さんの言動が気になってしょうがなかった。
澪さんが一緒に来なかったのは何か別の理由があるんじゃないか。

憂「お姉ちゃん、私このままお買い物に行ってくるね」

唯「えっ?じゃあ私も一緒に行くよ!」

憂「ううん、大丈夫。すぐ済むから」

唯「んんー、わかったぁ」

そう言うとお姉ちゃんは家に向かっていった。
律さんたちはおそらく嘘をついている。
私は踵を返し学校に向かった。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 02:47:37.00 ID:J0b9762hP
【音楽室】

あたりはすっかり薄暗くなっていた。
私の予想では、たぶん澪さんはここにいる。
私はおそるおそる真っ暗な音楽室の扉を開いた。

ガチャ

憂「………」

やっぱりだ。
澪さんは崩れたように座り込み、誰もいない音楽室で一人泣いていた。

憂「澪さん」

澪「憂ちゃん…どうしてここに…?みんなと帰ったんじゃないのか…?」

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 02:52:17.91 ID:J0b9762hP
憂「律さんたちと一緒に来なかったから、少し不思議に思って引き返したんです」

澪「そ、そっか。ごめんな変な心配かけて…」

憂「何かあったんですか?」

澪「だ、大丈夫。何もないって!ちょっと眠くて寝ちゃってただけだよ」

憂「……嘘」

澪「えっ?」

憂「だって澪さん、泣いてたじゃないですか」

澪「………」

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 02:59:44.23 ID:J0b9762hP
澪「な、泣いてなんか…」

憂「じゃあどうしてそんな悲しい顔をしてるんですか?」

澪「こ、これは――」

憂「話してください。私に出来ることがあれば、協力しますから」

澪「憂ちゃん…」

憂「大丈夫ですよ、私は澪さんの味方です」

澪「……ありがとう」ぽろぽろ

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 03:05:12.36 ID:J0b9762hP
話を一通り聞いた。
澪さんは律さんのことが好きで、嫉妬していた。
特に紬さんにはひどく嫉妬していたようだ。
そして律さんを無意識に束縛するようになってしまい、
今日の放課後に事が起こった、といったものだ。

澪「ははっ、馬鹿だよな私。こんな不器用な真似しか出来なくて…」

澪「好きなのに…。こんなに、好きなのに…」

澪さんは涙を流していた。

憂「そんなこと、ないですよ」

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 03:11:38.89 ID:J0b9762hP
憂「私、澪さんの気持ちすごくわかります」

憂「私もお姉ちゃんのことが好きだから」

憂「でもお姉ちゃんは梓ちゃんのことが好きなんです」

憂「私は不器用な真似も出来ない。ただ、指をくわえて見てるだけ…」

私は泣いている澪さんの中に自分を見ていた。
お姉ちゃんのことが好きな自分。
梓ちゃんに嫉妬している自分。
でも、何も出来ない自分。

だって、私たちは姉妹だから…。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 03:18:47.03 ID:J0b9762hP
【律の部屋】

律「…くそっ」

私は家に帰ってからもずっといらいらしていた。
原因はわかってる。
今日の放課後での一件のせいだ。
最近の澪は明らかに変だった。
私がムギを連れて音楽室を出て行く時、
なんで澪はあんな哀しい目をしていたんだ?
怒っているなら追いかけていつものように拳の一つでも振るえばいいのに。

どうして、泣きそうな顔をしていたんだ?

律「だぁーもぉー!!ちっともわからん!!!」ばふっ

ベッドに飛び込んだ。
考えててもしょうがない、寝よう。
明日になれば、何かわかるはず。
そう思って眠りについた。


33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 03:29:18.06 ID:J0b9762hP
【翌日】

唯「あ、りっちゃんムギちゃんおはよー」

紬「おはよう」

律「おいーっす」

澪「………」

律「…澪。おはよう」

澪「あ、あぁ…おはよう」

唯「澪ちゃん元気ないね、どうかしたの?」

澪「ちょっと寝不足でな…」

唯「ダメだよ澪ちゃん!ちゃんと寝なきゃ」

律「お前は授業中ですら寝てるもんな」

唯「寝る子は育つって言いますから!」フンス

律「いや、ほめてないほめてない」

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 03:35:11.43 ID:J0b9762hP
唯の言うとおり澪は確かに元気がなかった。
いつもならケンカしたって次の日には何事もなかったかのように接してるのに。
今だってそうだ。いつもの澪なら絶対に私にツッコミを入れるはず。
あからさまに私は避けられている。
澪の目は腫れぼったくなっていた。
寝不足というより泣き疲れた、といった様子だった。

ガラッ

さわ子「みんなおはよう、ホームルーム始めるわよ」

たくさんの疑問を残したまま、私は席についた。
その日の授業は、まったく頭に入らなかった。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 03:41:25.68 ID:J0b9762hP
数日が経った。
私と澪は相変わらずまともにしゃべっていない。
教室にいる時も、部活のときも必要最低限のこと以外は澪と会話しなかった。
これにはクラスのみんなや軽音部のみんなも驚いていた。
何人かは心配して声をかけてくれたが、何でもないよと軽く流した。

キーンコーンカーンコーン

午前の授業が終わった。

とんとん

律「ん?」

紬「りっちゃん、ちょっといい?」

律「どうかしたのか?」

紬「ここじゃ話せないから、教室を出ましょ」

私はムギに連れられ、教室を出た。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 03:47:28.93 ID:J0b9762hP
【音楽室】

律「どうしたんだ?こんなとこまで連れ出して」

紬「ごめんなさい急に。実は澪ちゃんのことで…」

律「澪のこと?」

紬「あの時のこと、ずっと考えてたんだけどね」

紬「澪ちゃん、りっちゃんのことが好きなんじゃないかな…?」

律「…はぁ?」

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 03:53:01.85 ID:J0b9762hP
あまりに突飛なことを言われたので、拍子抜けしてしまった。

律「そ、それはどういうことだよ」

紬「どうもこうも、言葉の通りよ」

紬「最近の澪ちゃんを見てれば、誰だってそう思うわ」

紬「気づいていないのは、りっちゃんぐらいなものよ?」

律「………」

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 03:57:06.13 ID:J0b9762hP
澪が?私を?そんな馬鹿な。

澪『そんなにムギがいいなら、ムギとずっと一緒にいればいいだろ!!!』

でも、もし本当にそうだったのだとしたら…
あの時の澪の意味不明な言葉にも、最近の言動のおかしさにも納得がいく。
ムギは話を続けた。

紬「たぶんだけど、澪ちゃんはずっと前からりっちゃんのことが好きだったんだと思うの」

紬「でも最近りっちゃんは他の人と一緒にいる時間が多くなった」

紬「それで、不安になったんじゃないかしら。りっちゃんが誰かにとられてしまうのではないかって」

紬「まぁ、私が言えたことじゃないんだろうけどね。その不安の一端を担っていたわけだし」

つくづくムギの洞察力に感心した。
本当にこの子は色々と見ている。

律「…そっか」

紬「りっちゃんは、澪ちゃんのことどう思っているの?」

律「ど、どうって…?」

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 04:03:17.33 ID:J0b9762hP
紬「もしも、澪ちゃんがりっちゃんに想いを伝えてきたらどうする?」

律「………」

ムギの目は真剣だった。
そんなこと考えたこともなかった。
澪が、私のことを好き…?
友達としてじゃなく、本当の意味で。
私は?私は澪のことを…

律「私は…その…」

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 04:08:22.60 ID:J0b9762hP
律「よく…わからない」

これが今の正直な答えだった。

紬「りっちゃんは澪ちゃんが好きじゃないの?」

律「…というか、よく実感がわかないよ。そういう対象として見たことがなかったわけだし」

律「ましてや、そういう風に見られてるだなんて思いもよらなかったから」

紬「そっか。ごめんね、答えづらいこと聞いちゃって」

律「いや、いいよ」

紬「ねぇりっちゃん。もうひとつだけ聞いてもいい?」

律「あ、あぁ…」

本当は勘弁してほしかった。
ただでさえ予想外の事実に頭を抱えているんだ。
これ以上余計な考え事を増やさないでくれ、そう思った。

紬「りっちゃんは、私のこと好き…?」

律「えっ…?」

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 04:13:29.80 ID:J0b9762hP
律「ムギ、何言ってんだ…?」

紬「…なぁんて、冗談よ。さ、いきましょ」

律「おっ、おいムギ!」

そう言うとムギはそそくさと階段を下りていった。
なんだよ。澪もムギも何考えてるかわけわかんねぇよ。
私の持つわだかまりは、さらに大きくなっていった。

私は、どうすればいいんだよ…。

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 09:03:10.29 ID:J0b9762hP
【同じ頃 教室】

澪「…はぁ」

律とはあの日から会話していない。
まったく話してないってわけじゃないけど、
どことなくぎこちないし、律が怖くて無意識に避けてる。
今日も昼休みになった途端ムギとどこかに行っちゃったし。
もう、前みたいに戻れないのかな…。

唯「みーおちゃん!お昼食べよ?」

澪「…あぁ、そうだな」

唯「ってあれ?!」

澪「どうしたんだ?」

唯「お、お弁当…忘れた…」

澪「えぇっ?!まったく…私のお弁当食べるか?」

唯「えっ?いいよ澪ちゃん食べなよ!私一食ぐらい抜いたって平気だよ!」

ぐぅ~っ

唯「…やっぱりちょっとだけいただいてもよろしいでしょうか?」

澪「ふふっ、わかった。さ、食べよう」

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 09:10:09.07 ID:J0b9762hP
唯は底抜けに明るかった。
その明るさに、少し救われた。

憂「おねえちゃーん!」

唯「憂?それにあずにゃんまで」

梓「こんにちはです」

唯「あーずにゃーん!」ぎゅっ

梓「や、やめてくださいこんなところで///」

唯「ちぇ~っ」

憂「はい、お姉ちゃん。急いで家出ちゃったから机の上にお弁当置きっぱなしだったよ?」

唯「おぉ…!!ありがとう、ありがとう…」うるうる

梓「どんだけですか…」

憂「あれ、教室にいるのお姉ちゃんだけ?」

唯「澪ちゃんはあそこにいるよ!ムギちゃんとりっちゃんは2人でどっか行っちゃった」

梓「律先輩とムギ先輩がですか?めずらしいですね」

憂(澪さん…)

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 09:18:14.20 ID:J0b9762hP
あの様子だと律さんとは仲直りしてないのだろう。
澪さんを見てすぐわかった。

唯「憂、どうしたの?澪ちゃんの方ばっかり見て」

憂「へっ?!そ、そんなことないよ!ほら、澪さんが待ってるよ」

唯「あ、うん!憂、ありがとう。澪ちゃーん!食べよー!」

そう言うとお姉ちゃんは教室に入っていった。
本当にかわいいなぁ、お姉ちゃん。
でも、お姉ちゃんは梓ちゃんに夢中だ。
そして、梓ちゃんもお姉ちゃんが好きだと思う。

梓「唯先輩、相当お腹空いてたみたいだね…」

憂「………」

梓「憂?」

妹としてお姉ちゃんを支えてあげることが出来れば、それでいい。
私の分まで澪さんにはうまくいってほしい。

私は澪さんにメールを打った。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 09:24:12.88 ID:J0b9762hP
brrrr brrrr

澪「…メール?」ピッ

――――――――

From:平沢憂

Subject:こんにちは

本文:
澪さん、大丈夫ですか?
すごく元気がなさそうでしたので…。
今日もし暇でしたら少しお話しませんか?
これからのこと、一緒に考えましょう。

――――――――

泣きそうになった。
こんな私に手を差し伸べてくれる憂ちゃんの優しさに。
くよくよしてても仕方がない。
律にちゃんと想いを伝えなきゃ。
すぐに…というわけにはいかないけど。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 09:29:09.21 ID:J0b9762hP
【放課後】

部活が終わり、帰り道。
私は憂ちゃんと連絡を取った。

prrrr prrrr

ピッ

憂『もしもし』

澪「あぁ、憂ちゃんか?どうすればいいかな」

憂『お疲れさまです。じゃあ、駅前の喫茶店でどうですか?』

澪「わかった。それじゃあまたあとで」

ピッ

足早に喫茶店に向かった。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 09:33:54.13 ID:J0b9762hP
憂「…さて」

夕食を作り終えた私はエプロンを外し支度を始めた。

ガチャ

唯「ただいまー」

憂「あ、おかえりお姉ちゃん」

唯「ん?憂これからどこか行くの?」

憂「うん、ちょっとね。ご飯はもう作ってあるから、お腹空いたら先食べちゃっていいからね?」

唯「はーい」

憂「それじゃ、いってきます」

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 09:38:27.64 ID:J0b9762hP
【喫茶店】

喫茶店に向かうと、澪さんはすでに待っていた。

憂「すいません、待たせてしまって」

澪「いや、私も今来たところだから」

私と澪さんは喫茶店に入った。
適当に飲み物を注文して、本題に入った。

憂「それで、律さんとはあれからどうなんですか?」

澪「うん…全然話せてない。話したとしても、本当に業務的なことだけ」

澪「やっぱり、嫌われちゃったのかなぁ…」

澪「他の人には相変わらず嫉妬しちゃうし、でも律とは話せないし」

澪「もう私、どうしたらいいのか…」うるっ

憂「………」

やっぱり律さんとは気まずいままのようだ。
私の中でかっこいいイメージしかなかった澪さんに、
こんな女の子らしい部分があることに少し驚いた。

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 09:43:10.19 ID:J0b9762hP
憂「澪さん、少し考えすぎなのかも知れませんよ?」

澪「考えすぎ?」

憂「はい。澪さんが思うより、律さんはそのことを気にしてないかもしれないってことです」

澪「でもそれって、律が私に興味ないってことじゃあ…」ずーん

憂「あっ!ち、違いますよ!そういう意味じゃなくて!」

憂「律さんが一番この状況に困惑してるんじゃないかってことです」

憂「もしかしたら、律さんも今までみたいに普通に澪さんと接したいと思ってるのかもしれません」

憂「だから、今までみたいに普通に律さんに接してみたらどうですか?」

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 09:52:04.84 ID:J0b9762hP
たぶん一番わけがわからないのは律さんだと思う。
ちゃんとした原因も分からず、澪さんと気まずい関係になっているのだから。
それにしても、律さんも鈍いなぁ。

澪「でも、もしそうじゃなかったらどうしよう。本当に嫌われちゃうかも…」

憂「大丈夫ですよ、勇気出してください。想いを伝えるときはもっと勇気が必要になるんですよ!」

澪「…うん、それもそうだな。頑張ってみるよ!ありがとう憂ちゃん」

憂「いえ、こんなことでよければいつでも」

澪「なんか年下には思えないよ…。本当にありがとう」

澪「長くしちゃってごめんな。帰ろうか」

憂「はい」

私と澪さんは喫茶店をあとにした。

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 10:00:35.88 ID:J0b9762hP
【平沢家】

ガチャ

憂「ただいまー」

唯「お、おかえり…」げっそり

憂「お姉ちゃん、まだご飯食べてなかったの?!」

唯「う、うん…」

唯「だって憂と一緒に食べたかったから。一人で食べてもおいしくないよ」

憂「お姉ちゃん…」

憂「今、用意するからね!」

唯「いっぱい待ったんだから、アイスもだよ!」

憂「はいはい」

あぁ、私はお姉ちゃんのこういうところが大好きなんだなぁ。
同時に、もどかしさも感じた。

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 11:18:32.11 ID:J0b9762hP
【澪の家】

澪「…ふぅ」

お風呂から上がった私は今日一日を振り返った。
憂ちゃんと話して少し気が楽になった。
そして、これからどうすればいいかわかってきた。
待ってろよ、律。
私はお前を諦めないからな。
もう泣かない。泣くもんか。
絶対に振り向かせてやるんだからな。

澪「いよぉーし、頑張るぞぉー!!!」

澪「………」

澪「うわあぁぁぁ。大声で何を言ってるんだ、恥ずかしい…」

恥ずかしさのあまり布団の中でじたばたしていた。

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 11:24:48.20 ID:J0b9762hP
【翌日】

澪「おはよう、唯」

唯「おはよう澪ちゃん。今日は元気そうだね!」

澪「そうかな?」

唯「昨日全然元気なかったから心配だったんだよ~?」

澪「ごめんな、心配かけて。今日はちゃんと弁当持ってきたか?」

唯「だいじょーぶ!」フンス

紬「おはよう」

澪「ムギもおはよう」

律「…ういーっす」

唯「あ、りっちゃんおはー!」

澪(……よし!)

澪「律、おはよう」

律「へっ?!あ、あぁ。おはよう」

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 11:39:36.50 ID:J0b9762hP
澪「なんだよ律。おはようぐらいでそんなびっくりすることないじゃないか」

律「び、びびびっくりなんかしてねーやい!」

唯「今日はりっちゃんが変な日だねぇ」

紬「あらあら」

律「………」

そりゃあびっくりするさ。あまりに自然に挨拶されたんだから。
ここ数日の澪は何だったんだろう、そう思わせるぐらい普通の澪だった。
まぁ色々疑問に思う部分はあるけど今はいいか。
私はこれまで通り澪と接していればいいんだ。

・・・・・・

結局今日一日何事もなかったかのように澪と過ごした。
多少のぎこちなさはあったけど…。
なぜか私よりみんなの方がほっとしていた。
そんなに私たち心配かけたのか…?

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 11:44:21.50 ID:J0b9762hP
【澪の家】

澪「…はぁ」

部屋に入った私はどっと疲れていた。
普通に振る舞えていただろうか。

朝の挨拶する時あまりの緊張で心臓が飛び出るかと思ったけど、
いざ口に出してしまえばどうってことはなかった。
やっぱり、私の考えすぎだったのかな?
もしかしたら、律もこれを望んでいたのかも知れない。

そうだ。
このこと憂ちゃんに報告しよう。
そう思って私は携帯を開いた。

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 11:50:27.52 ID:J0b9762hP
【平沢家】

brrrr brrrr

憂「…?澪さん?」ピッ

――――――――

From:みおさん

Subject:ありがとう

本文:
律と話せたよ。
憂ちゃんの言う通り、私の考えすぎだったのかも。
すごく小さいけど一歩踏み出せたよ。本当にありがとう。
また、何かあったら相談に乗ってもらってもいいかな?

――――――――

憂「…ふふっ」

思わず笑みがこぼれてしまった。
うまくいったみたいだ。

唯「どしたの憂、携帯見てニヤニヤして」

憂「な、なんでもないよお姉ちゃん!」

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 11:55:54.90 ID:J0b9762hP
こうして毎日毎日、少しずつ澪さんは律さんとの関係を修復していった。

『久しぶりに律と一緒に登校したよ』

『今日は律の家で劇の練習をするんだ』

澪さんはその日律さんとどんなことをしたか逐一私に報告してくれた。
時にメールで。時に電話で。
私はそれを聞くたび微笑ましく思っていた。
このままいけば、大丈夫ですよ。
きっと澪さんの想いは律さんに届きます。
そう信じてやまなかった。
順調にいってる澪さんがほんのちょっぴりうらやましくもなった。

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 12:00:17.56 ID:J0b9762hP
【翌日 学校】

律「ふあぁ~…あ」

澪とは何事もなく生活していた。

澪「どうした律。寝不足か?」

律「ん?あぁ、昨日ちょっと遅くまでゲームしててな…」

澪「もうすぐ文化祭なんだから、体調崩すなよ?」

律「へいへーい」

澪「よし、音楽室に行こう」

こんな感じだ。
いつも通り、何ら変わりない日常だった。
しいて言うなら、ムギの様子がいつもより静かだった。

………考えすぎか。
ここ最近色々あって少し他人に敏感になってんのかな。
今日は早く寝ようっと。
そんなことを思いながら音楽室に向かった。

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 13:09:30.75 ID:J0b9762hP
【音楽室】

・・・・・・・

部活が終わって片付けをしていると、ムギは私に声をかけた。

紬「りっちゃん。ちょっとあとで話したいことがあるんだけど、いい?」

律「ん?あぁ、いいよ」

私は二つ返事で返した。
何のことだろう。澪のことかな?
まだ気にかけてくれてるなら、もう心配ないって伝えなきゃな。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 13:18:25.41 ID:J0b9762hP
片付けも終わり、解散したあと私とムギは音楽室に残った。
他のみんなは先に帰った。
夕陽の差し込む音楽室に、私とムギの2人。
ムギの影が、どこか儚げに伸びていた。

律「んで、どうしたんだよムギ。話したいことって」

紬「あのね、りっちゃん…」

律「な、なんだよ改まって」



紬「私、りっちゃんが好きです」

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 13:24:36.75 ID:J0b9762hP
律「…え?」

訳がわからなかった。いきなりムギに告白された。
ドッキリかと思って辺りを見回したが、そんな感じはしなかった。
何よりムギの真剣な表情が、本物の告白だと私に思わせた。

紬「よ、よかったら…。わ、私と、その…」

紬「つつ、付き合ってくださいっ…!!!」

ムギは耳まで真っ赤だった。
きっとこの子はこういうことが初めてなんだろう。
恥ずかしさと不安でいっぱいなのが感じ取れた。

紬『りっちゃんは、私のこと好き…?』

あの時の言葉は、そういう意味だったのか。

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 13:32:17.72 ID:J0b9762hP
私の中で一つのことが頭に浮かんでいた。

澪のことだ。

ムギ曰く、澪は私のことが好きだという。
澪の気持ちを知っておきながら、私はこの告白を受けてしまっていいのだろうか。
私は別段ムギに対して恋愛的な感情は抱いてはいなかった。
だけど、嫌いなわけじゃない。
どこまでも純粋だし、気配りも出来る、明るくて優しい子だ。
そして勇気を出してその想いを私に伝えた。
この子は本当に私を好いていて、必要としてくれているのだ。
よりによって私じゃなくても…と私は少しばつが悪そうに頭を掻いた。
しかし、それはこの子に対して失礼というものだ。
私はその気持ちに応えようと思った。





律「…いいよ」


84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 13:39:28.49 ID:J0b9762hP
律「私なんかでよけりゃ、だけどさ」

紬「ううん。私はりっちゃんがいいの」

ムギは目に涙を溜めていた。
ここで泣かせたら私がまるで悪者みたいじゃないか。
私は目の前の泣きそうな女の子に駆け寄り、頭を撫でた。

律「ほーら、泣くなって」

紬「だって、だってだって…本当にうれしいんだもん」

律「もう遅いし、帰ろう」

私は手を差し伸べた。
友達としてじゃなく、特別な存在として。
ムギもその手を掴んだ。

そして私たちは音楽室の扉を開けた。

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 13:43:46.38 ID:J0b9762hP
ガチャ

律「え…?」

私は目を疑った。
下校時刻は過ぎてるし、学校には誰もいないはず。
ましてや、こんなところに人がいるわけない。
だが、私の目の前にはよく知った顔があった。

澪だ。

律「澪…?なんでここに…」

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 13:48:06.32 ID:J0b9762hP
澪「………」だっ

律「おっ、おい澪!!」

澪は何も言わず階段を駆け出した。
まさか、聞いていたのか…?

紬「りっちゃん…」

ムギが心配そうに私を見つめる。
繋いでいる手に力がこもっていた。

律「…大丈夫だよ。行こう」

走り去った澪の頬に滴が見えた。
あいつは、泣いていた。

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 13:52:59.95 ID:J0b9762hP
がたっ

澪「いたっ…!」

階段で足を踏み外した。
痛い…。どうやら捻ったみたいだ。
けどそんなことはどうでもよかった。

私は、がむしゃらに駆けていた。


――――――
――――
―――
――


89 名前: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 13:58:04.00 ID:J0b9762hP
律との仲は完全に元通りになっていた。
朝だって一緒に登校してるし、帰りも一緒。
劇の練習と称して互いの家にお邪魔したりと、
今までとなんら変わらぬ日々を過ごしていた。
まるで、あの時のことなんかなかったかのように。

文化祭が終わったら、律に告白しよう。
ロミオとしてじゃなく、秋山澪として。
憂ちゃんもそれがいいと言ってくれた。

あの時私は音楽室に忘れた劇の台本を取りに向かっていた。
ロミオなんだから、しっかりジュリエットを支えてあげなきゃな。
そんなことを思いながら。

夕暮れ時の階段を上り、音楽室のドアに手をかけたその時だった。

『私、…のこ…が好…す』

聞き覚えのある声が音楽室から聞こえた。

90 名前: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 14:03:39.47 ID:J0b9762hP
おっとりとした落ち着いた声。
ムギの声だとすぐにわかった。

『よ、よかったら…。わ、私と、その…』

『つつ、付き合ってくださいっ…!!!』

えっ…?ムギが、告白…?
とんでもない現場に立ち会ってしまった。
盗み聞きはよくないと思い引き返そうとしたが、
なぜか私はその場にずっと立っていた。
相手が誰だか気になったからだ。

そして長い沈黙ののち、返事が聞こえた。

『…いいよ』

この声は…



律の声だ。

91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 14:09:13.62 ID:J0b9762hP
私はその場に立ち尽くした。

あぁ、ムギが泣いている。
うれしいのだろう、告白が実って。

私が告白していたら、そこで泣いているのは私だったのかも知れない。
いや、告白を受けたということは律もムギのことが好きなのだろう。
もしかしたら私が告白していたらフラれていたのかも知れない。
いずれにせよ今となっては叶わないことだ。
律はムギの告白を受けたから。
また私の想いは律に届かなかった。

終わった。何もかも。
音を立てて崩れた。

いつもそうだ、不器用で勇気もない。
だから後悔ばかりして終わる。
私は一体何をしていたんだろう。
何も…出来ない…。
こうやって、蚊帳の外から見ていることしか出来ない…。

涙が頬を伝った。
もう泣かないって決めたのに。

93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 14:15:07.58 ID:J0b9762hP
ガチャ

澪「?!」

いきなりドアが開いた。
茫然としていて時が経つのを忘れていた。

律「澪…?なんでこんなところに…」

律は驚いたように私を見た。
ムギは驚いたあと、とても不安そうな顔をした。
二人の手は繋がれていた。
それもそうか、もう恋人同士なんだもんな。
その場を取り繕う言葉も思い浮かばなかった私は、逃げるようにその場を去った。

律「おっ、おい澪―――」

律の声はもう耳に届かなかった。




――
―――
――――
――――――

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 14:20:23.61 ID:J0b9762hP
【翌日 学校】

律「え?!澪が休み?」

和「そうみたいなの。さっき澪の家から連絡があったって先生が」

律(澪…)

和「なにか心当たりでもあるの?」

律「い、いやっ!別に…ないよ!」

和「そう…。今日の練習はロミオ抜きでやることになるけど、頑張ってね」

律「あ、あぁ…」

澪が学校を休んだ。
心当たり…か。思い当たる節はひとつしかなかった。

95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 14:27:55.25 ID:J0b9762hP
紬「おはよう、りっちゃん」

律「おう、おはよう」

紬「あれ?澪ちゃんは?」

律「…今日は休みだってさ」

紬「そう…」

ガラッ

唯「ぜぇ、ぜぇ…。お、おはよう…!」

紬「おはよう唯ちゃん」

律「おーっす。遅刻ぎりぎりだなぁ唯」

唯「えへへ…。あれ、澪ちゃんは?」

律「…!あぁ、今日はちょっと体調崩して休みたいなんだ」

唯「そうなの?大丈夫かなぁ」

96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 14:31:20.76 ID:J0b9762hP
【放課後】

紬「また明日」

唯「じゃあね~」

梓「失礼します」

律「おう」



律「…さて」

今日の部活は早めに切り上げた。
澪が休みだったせいか、みんな今一つ練習に身が入らなかったからだ。
そして、みんなと別れた私はあるところに向かった。

98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 14:36:19.92 ID:J0b9762hP
ピンポーン

『……はい』

律「…田井中ですけど」

そう、澪の家だ。
澪と話がしたかった。
何を?どうして?そんなのわからなかったけど、
とにかく澪に会わなきゃ始まらないと思った。

ガチャ

澪「………なに?」

律「今日学校休んだからさ。大丈夫かなって…」

澪「ごめん、心配かけて。明日は行くから」

律「そ、そっか。ならいいんだけど…。」

澪「じゃあ、また明日な…」

律「ちょ、ちょっと待った!」

99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 14:42:45.31 ID:J0b9762hP
澪「………まだ何かあるのか?」

律「いや、あの…その」

澪「ないなら戻るぞ」

律「昨日、泣いてただろ…?」

澪「…泣いてなんかないよ」

律「…嘘つくなよ」

澪「嘘じゃなかったら、何なんだよ」

律「………」

澪の言うとおりだ。
私は何がしたいんだ?
わからない、わからないけど…
ここで澪を帰しちゃいけない気がした。

101 名前: [―{}@{}@{}-] さるった。ごめん。[] 投稿日:2010/09/12(日) 15:07:40.54 ID:J0b9762hP
しばらくして、澪は口を開いた。

澪「お前は、ムギと付き合ったんだろ?」

律「………」

やっぱり聞いていたようだ。

澪「だったらムギの傍にいてあげなきゃいけないんじゃないのか?」

澪「私を気にかける必要なんてないんだよ」

律「それとこれとは今は別だ」

澪「私のことなんてどうだっていいじゃないか。ほら、行けよ」

律「よくない!お前だって大切な―――」

澪「もういいって言ってるだろ!!!」

律「……!!」ビクッ

103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 15:14:15.73 ID:J0b9762hP
怒号が響いた。
あまりの勢いに思わず後ずさってしまった。
そして澪は伏せていた顔をあげた。

澪「もう、これ以上…。優しくしないでくれ…」ぽろぽろ

澪は泣いていた。
だけど、怒った顔や哀しい顔をしているわけではなかった。
まるで私を諭すかのような、穏やかな顔だった。

澪「今の律には、ムギがいるじゃないか…」

澪「私なんかに構うなよ…。ムギ、きっと不安でいっぱいだぞ…?」

澪「お前が、幸せにするんだろ…?そのための、恋人だろ…」

澪「私に優しくするなよ。諦めきれなくなるから…」

律「澪…。私は―――」

澪「もう、帰ってくれ…。律の顔なんかみたくない」

律「ちょっと待っ―――」

バタン

律「………ちくしょう」

105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 15:20:58.78 ID:J0b9762hP
澪は家に入っていった。

くそっ、くそっ…!
何なんだよ私は。
上っ面だけいい格好して何も出来ない、最低な人間だじゃないか。

家に帰って私は泣いた。
いつぶりだろう、こんなに泣いたのは。
自分が情けなくて、どうしよもなくて、惨めだった。

『澪…私は―――』

あのあと、私は何て言おうとしていたんだ?
わからなかった。

106 名前: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 15:26:15.68 ID:J0b9762hP
【平沢家】

憂「えっ?澪さんが休み?」

帰ってきたお姉ちゃんはそう言った。

唯「うん、なんか体調がよくないみたい」

憂「そっか…」

澪さんに何があったのだろう。
お姉ちゃんと食事を食べ終わった後、
私は部屋に行き澪さんに電話をかけた。

prrrr prrrr

prrrr prrrr

出なかった。
何があったんだろう…。

108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 15:32:21.66 ID:J0b9762hP
【澪の家】

澪「…はぁ」

怒鳴り散らしてしまった。
ごめん、律。
でもお前にはもうムギがいる。
私に構う必要なんてないんだよ。
頭ではわかってても辛かった。
明日も学校、休もうかな…。

brrrr brrrr

澪「ん…?」

憂ちゃんからだった。
たぶん、唯から今日私が学校を休んだことを聞いたのだろう。
心配して電話をかけてくれているのだ。
私にはその心遣いがうれしかった。
でも、今日は一人にしてほしい。
ごめんな、憂ちゃん。

私は携帯の電源を切り、部屋で一人うずくまっていた。

109 名前: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 15:38:33.31 ID:J0b9762hP
【学校】

律「………」

翌日、澪は昨日言った通り学校に来た。
しかし、とてもじゃないがまともな様子ではなかった。
和や他のクラスメイトも心配で声をかけていた。
そのたび澪は『大丈夫』『何ともないよ』と言っていた。
見え見えの嘘だった。

澪にごめんと言いたかった。
言いたいことがたくさんあった。
しかし澪との間に出来た溝はあまりに大きく、深かった。

澪…。

・・・・・・

110 名前: [―{}@{}@{}-] 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 15:44:55.96 ID:J0b9762hP
【平沢家】

私は夜ご飯を作りながら澪さんのことを考えていた。
結局昨日はあの後澪さんから何の連絡もなかった。
それどころか携帯の電源を切ってしまっていたようだ。

brrrr brrrr

電話が鳴った。
画面には澪さんの携帯番号。
私は間髪入れず通話ボタンを押した。

ピッ

憂「澪さん?」

澪『…もしもし』

澪『昨日はごめんな』

憂「いえ、大丈夫です」

澪『私が休んだって唯から聞いて、電話してくれたんだろう?ありがとう』

憂「何かあったんですか…?」

澪「………律とムギが付き合ったんだ」

憂「えっ…?」

111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 15:48:58.37 ID:J0b9762hP
澪さんは淡々と言った。

律さんの馬鹿…。
どうして澪さんの想いに気づかないんですか?
あんなに、あんなに好きなんですよ?
律さんの挙動に一喜一憂して、いつも律さんのこと考えてて…。
それなのにどうして…。

澪『なぁ、憂ちゃん…。今から、会えないかな…?』

澪『ちょっとだけ、甘えさせてほしい…』

憂「…待っててください」

ガチャ

私は家を飛び出した。
澪さんの家に向かって。

117 名前:またさるってた。もうやだ。[] 投稿日:2010/09/12(日) 16:31:23.44 ID:J0b9762hP
【澪の家】

ピンポーン

ガチャ

澪「いらっしゃい。ごめんな、忙しいのに」

憂「いえ、大丈夫です」

澪「さ、あがって。少し汚いかもしれないけど」

憂「はい、おじゃまします」

私は澪さんの家にお邪魔した。
澪さんは右足に包帯を巻いていた。

120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 16:37:46.99 ID:J0b9762hP
澪さんの部屋に入る。
無駄なものがない、シンプルで澪さんらしい部屋だった。

澪「………」

憂「澪さん…?」

澪「………」

ぎゅっ

憂「わわっ…」

澪さんは私に抱きついてきた。

澪「憂ちゃん。もう、つらいよ…。嫌だよ…。何もかも…」

憂「澪さん…」

私は、澪さんを抱きしめた。

121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 16:43:36.47 ID:J0b9762hP
どうして報われないんだろう。
こんなに好きで、あんなに頑張っているのに。
澪さんには私と同じようになってほしくない。
どうあがいても報われることのない私のようには…。

憂「澪さんの想いは、いつかきっと律さんに伝わりますよ」

憂「だって、こんなに好きじゃないですか」

薄っぺらい言葉だ。
そんな確証はどこにもない。
だけど、今の私にはそれくらいしか出来ない。
そう言って、澪さんを抱きしめることしか。

澪「憂ちゃん…憂ちゃん…」

憂「はい。私はここにいますよ」

澪「うっ、ううっ、うわあああああああん」

澪さんは大声で泣いていた。

122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 16:52:32.82 ID:J0b9762hP
【平沢家】

憂「ただいま…」

私の足取りは重かった。
澪さんから電話があってすぐに家を出たからご飯もまだ作りかけだったし、
何よりお姉ちゃんが帰ってくる前に家を出たから心配させたに違いなかった。

唯「あっ、憂!どこ行ってたの?!」

お姉ちゃんはいつもより声を荒げて言った。

憂「…ごめんなさい」

唯「んもう、どっか行ったならちゃんと連絡してね?私すごく心配したんだから」

憂「お姉ちゃん…」

唯「罰として、今日はアイス2本だからねっ!」

唯「お腹空いたよ、早くご飯食べよう?」

憂「……うん」

お姉ちゃんは怒らなかった。
むしろ私のことを心配していた。
涙が出そうになった。
ごめんね、お姉ちゃん。
そして、ありがとう。
そんなお姉ちゃんが、私は大好きです。

123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 16:59:20.13 ID:J0b9762hP
唯「いただきまーす」

憂「はい、どうぞ」

今日はちょっと遅めの晩御飯。
お姉ちゃんは余程お腹を空かしていたのか、
あっという間にご飯をたいらげてしまった。

・・・・・・

食後、お姉ちゃんはアイスを食べながら私に話しかけた。

唯「ねぇ、憂」

憂「なぁに、お姉ちゃん?」

唯「今日どこに行ってたの?」

憂「…!」

124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 17:04:41.12 ID:J0b9762hP
憂「それは…」

唯「言えないようなところに行ってたの?」

憂「そ、そういうわけじゃないよ!」

唯「なんか最近の憂、よく携帯いじってるし出かけたりしてるし…」

憂「………」

確かにお姉ちゃんの言うとおりだ。
最近はもっぱら澪さんとメールや電話のやりとりをしているし、
ちょくちょく会っていた。
お姉ちゃんが不思議に思うのも当然だった。
しかし、澪さんのことをお姉ちゃんに言っていいのだろうか…。

唯「なにか私に隠し事してない?」

憂「………」

125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 17:08:37.45 ID:J0b9762hP
唯「うい…?」

お姉ちゃんにずっと黙っていたのには理由があった。
あまりこのことを他言したくはなかったのだ。
澪さんにかえって負担になると思ったから。
だけど、今の私はお姉ちゃんにたくさん心配をかけている。
お姉ちゃんにはいつだって笑っていてほしいし、のびのびと毎日を過ごしてほしい。
余計な不安を持ってほしくなかった。
それに、もしかしたらお姉ちゃんも色々力になってくれるかも知れない。
私は澪さんのことをお姉ちゃんに話すことにした。

憂「…実は―――」

126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 17:16:42.75 ID:J0b9762hP
・・・・・・

唯「………」

唯「そっか、そういうことだったんだね」

憂「うん…。黙っててごめんね?お姉ちゃん」

唯「いいよいいよ。なーんかりっちゃんもムギちゃんも澪ちゃんも最近変だったからさー」

唯「普通なのはあずにゃんだけだね!」

憂「そう、だね…」

胸の奥がチクッとした。
違うよお姉ちゃん。
梓ちゃんは…
梓ちゃんは、お姉ちゃんのことが好きなんだよ。

129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 17:21:47.35 ID:J0b9762hP
【学校】

憂「あ、お姉ちゃん」

唯「お、憂にあずにゃん!」

梓「こんにちは、唯先輩」

憂「お姉ちゃん、澪さんの様子はどう?」

唯「う~ん、相変わらず…」

憂「そっか…」

梓「澪先輩、大丈夫ですかね…」

澪さんが学校に来てからすでに数日が経っていたが、
相変わらず元気がないようだった。

130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 17:27:42.78 ID:J0b9762hP
唯「大丈夫だよあずにゃん。なるようになるって!」

梓「その自信はどこから出て来るんですか…」

唯「まぁまぁ。はい、あずにゃん!こんにちはのちゅ~」

梓「ひっ!ち、近づかないでくださいっ」ずいっ

唯「んもう、あずにゃんのいけずぅ」

梓「だ、ダメなものはダメです///」

唯「ちぇーっ、まぁいいや。また後でね!」

梓「は、はい」

憂「ばいばいお姉ちゃん」

梓「………」

梓「…ねぇ、憂。ちょっといいかな」

131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 17:34:41.15 ID:J0b9762hP
憂「…?」

そう言うと梓ちゃんは私を人気のない廊下に連れ出した。

憂「どうしたの?梓ちゃん」

梓「ごめんね、いきなり」

梓「憂には言っておきたくって…」

憂「?」

梓「…私ね。唯先輩に告白しようと思うんだ」

憂「えっ…?」


133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 17:40:04.35 ID:J0b9762hP
梓「私、唯先輩のことが好き」

梓「さ、さっきのだって…ほ、本当はしたかったなぁなんて…////」

梓「って、そんなこと言いたいんじゃなくて!!!」

梓「そ、そりゃだらしないし、お菓子ばっかり食べてるし、すぐ抱きついてくるけど…」

梓「でも、そんな唯先輩のことがずっと好きなの」

憂「そう…なんだ…」

憂「大丈夫だよ…。梓ちゃんなら」

憂「きっと、うまくいくよ…」

梓「うん、頑張る。ありがとね、憂」

憂「実ると、いいね…」

予想は出来たのに。
いつかこんな日が来るってわかってたのに。
お姉ちゃんのこと…梓ちゃんに渡したくない。
でも私は割り切ったんだ。
姉妹なんだから、好きだって伝えたところでどうすることも出来ないって。
だからお姉ちゃんの幸せを、傍で支えてあげようって。
そう決めたのに…。
どうして、こんなに胸が苦しいの…?

134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/12(日) 17:47:12.86 ID:J0b9762hP
【放課後】

梓「…ふぅ」

今日は久しぶりに部活をした。
全員が揃うやいなや、さっそく練習を始めた。
会話も全然なかった。
ティータイムのなかった部活なんて初めてかも。
けど、練習はとてもじゃないが楽しいと言えたものではなかった。
澪先輩も律先輩もムギ先輩もどことなく元気がなくて、演奏にもそれが出てた。
練習がたくさん出来たのはよかったけど、なんだろうこの重たい空気…。

部活が終わると澪先輩はそそくさと帰った。
それに続くように、律先輩とムギ先輩も一緒に帰って行った。

音楽室には、私と唯先輩の二人きりだった。
今しかない。そう思った。
部活がこんな状態で想いを告げるのはどうかと思ったが、
唯先輩とこうして二人きりになれる機会なんてめったになかったし、
何よりもう我慢出来なかった。この気持ちを、伝えたかった。

梓「あの、唯先輩…」

171 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 01:48:27.88 ID:Ukgx9fpIP [2/49]
唯「ん?どうしたのあずにゃん」

梓「お、お話があるんです…」

唯「おぉっ、あずにゃんお悩みごとかい?いいよ、私が聞いてしんぜよう!」

梓「ま、真面目に聞いてください!」

梓「すぅー…っ、はぁーっ…」

私は大きく深呼吸をした。

梓「私、先輩のことが好きです」

175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 01:56:46.02 ID:Ukgx9fpIP [3/49]
唯「どうしたの急に?私もあずにゃんのことは大好きだよ!」

梓「そういう、好きじゃないんです」

唯「…?」

梓「私と、付き合ってほしいんです。そういう好きなんです」

唯「………」

私は先輩に想いを告げた。
ずっと先輩のことを見ていたかった。
先輩にも私のことをずっと見てほしかった。
ただそれだけだった。

176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 02:02:02.41 ID:Ukgx9fpIP [4/49]
梓「………」

しばしの沈黙。
実際には数分も経ってないのだろう。
しかし私にはそれが永遠のように感じた。
そして、唯先輩は口を開いた。

唯「…ごめんね」

梓「えっ…?」

182 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 02:08:19.95 ID:Ukgx9fpIP [5/49]
先輩の口から「ごめんね」の一言。
その言葉の意味を理解するのに少し時間がかかった。
私、フラれたの?
私の恋は、実らなかったの?
頭が真っ白になった。

いつの間にか頬に涙が伝っていた。

唯「あずにゃん…?」

梓「………」

梓「どうして…ですか…」

183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 02:14:00.74 ID:Ukgx9fpIP [6/49]
梓「私を、弄んでいたんですか…?」

梓「先輩、ひどいです…。私を、こんな気持ちにさせておいて…」ぽろぽろ

むちゃくちゃだった。
何を言っているんだ私は。
先輩を責めているわけではない。
ただ、先輩にフラれたという現実を受け入れたくなかったのだ。

梓「私じゃ、ダメなんですか…?」

梓「唯先輩…好きなんです。私、すっごくすっごく好きなんです…」

184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 02:19:29.93 ID:Ukgx9fpIP [7/49]
諦めきれなかった。
こんなに誰かを好きになるのは初めてだから。
見苦しくても、みっともなくてもいい。
唯先輩に応えてほしかった。

唯「ごめんね、あずにゃん」

二回目の「ごめんね」
あぁ、もう本当にダメなんだな。
私は事実を受け入れた。
そのあとのことはあんまり覚えてない。
泣きながら音楽室を飛び出したことぐらいしか。

185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 02:25:43.07 ID:Ukgx9fpIP [8/49]
【憂の部屋】

憂「………」

梓ちゃんの話を聞いてからの私は、何もする気になれなかった。
ただぼうっと授業を受け、家に帰り、部屋にこもっていた。
お姉ちゃんが帰ってきたら、どんな顔をすればいいんだろう。

こんこん

がちゃ

唯「憂、ただいま」

憂「…おかえり、お姉ちゃん」

お姉ちゃんが帰ってきた。
今できる精一杯の笑顔で迎えた。
きっと引きつっているだろうけど。

唯「憂、あのね…」

唯「今日ね、あずにゃんに告白されたんだ」

知ってるよ、お姉ちゃん。
それを伝えに来たということは、
梓ちゃんと付き合うことになったんだね。
おめでとう。お姉ちゃん。

188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 02:31:27.89 ID:Ukgx9fpIP [9/49]
憂「そっか…。よかったね、お姉ちゃん。梓ちゃんを幸せにしてね?」

唯「…違うよ。私は告白を断ったんだよ」

憂「えっ…?」

お姉ちゃんが梓ちゃんを振った?
そんなわけない。何かの冗談だ。
認めるのは辛いけど、二人はお似合いだよ。
なのに、どうして?

憂「どうして振ったの…?お姉ちゃんだって梓ちゃんのことが好きなんでしょ?」

憂「梓ちゃん、お姉ちゃんのこと大好きなんだよ?」

唯「――――うい!」

憂「おねえ―――?」

190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 02:37:13.76 ID:Ukgx9fpIP [10/49]
何が起きたかわからなかった。
目を開けると、お姉ちゃんの顔がすぐ近くにあった。
そして、唇にはあたたかくてやわらかい感触。
私はお姉ちゃんにキスされたのだ。

憂「…んっ」

唯「そんなこと、言わないでよ…」

唯「私が、好きなのは…憂なんだよ」

憂「えっ―――?んんっ…」

私はもう一度お姉ちゃんにキスをされた。
さっきよりも強く、深く、そして長く。
心臓がすごい速さで鳴ってる。

お姉ちゃんが本当に好きなのは、私…?

193 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 02:43:15.02 ID:Ukgx9fpIP [11/49]
憂「お姉ちゃん…」

唯「澪ちゃんのところに行かないでよ」

唯「私だけを見ててよ…」

澪さんとのことを話した時お姉ちゃんの顔が一瞬曇っていたのを思い出した。
その時は気のせいかと思っていた。
うれしい、本当にうれしい。
でも、ダメなんだよお姉ちゃん。

憂「…ダメだよ。私たち、姉妹なんだよ…?」

憂「梓ちゃんと付き合いなよ…。きっと、うまくいくよ…」

唯「そんなの…」

唯「そんなの、関係ないよ」

憂「…!」

唯「憂は、私のこと好きじゃないの…?」

196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 02:49:00.58 ID:Ukgx9fpIP [12/49]
好きに決まってる。
ずっとずっと好きだった。
届かないと思ってても、叶わないとわかってても、
お姉ちゃんが大好きだった。

憂「私、お姉ちゃんのこと好きでいていいの…?」

唯「なに言っているの、憂」

そう言うとお姉ちゃんは私をベッドに押し倒した。

唯「憂は、誰にも渡さない」

唯「ずっと、私のものだから」

憂「お姉ちゃん…」

憂「んっ………」

――――――
――――
―――
――


197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 02:55:44.09 ID:Ukgx9fpIP [13/49]
【翌日】

澪「………」

みんなとは少しずつ、少しずつだけど話すようになった。
それでも話はぎこちないし、すぐに避けてしまう。
学校に行くことが苦痛以外の何物でもなかった。
だけど、文化祭も着実に迫っている。
クラスの劇だってライブだって精一杯やりたい。
最後の文化祭なんだから。
そう思って頑張れる根底には憂ちゃんの存在があった。
憂ちゃんが私の支えとなっているから、頑張れるんだ。
最近憂ちゃんとは連絡をとっていなかったし、憂ちゃんからの連絡もなかった。
私に気を遣ってくれているのだろうか。

今日学校から帰ったら、久しぶりに連絡をとってみよう。
律とのことも、色々話したいし…。

唯「澪ちゃん、おはよう」

澪「あぁ…、おはよう」

こうして私に気兼ねなく挨拶してくれるのも今は唯だけだった。

199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 02:59:46.15 ID:Ukgx9fpIP [14/49]
午前の授業。
私はいつものようにペンを走らせていた。
唯は寝息を立てて寝ているし、
律は机に突っ伏していた。(寝ているのかわからないけど)
ムギは時折律のことを目にやりながらも、真面目に板書を写してる。

憂ちゃんと話しがしたい…。
そう思いながら授業を受けていた。

キーンコーンカーンコーン

唯「澪ちゃん、ちょっといい?」

澪「ん…。どうしたんだ唯?」

200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 03:07:37.03 ID:Ukgx9fpIP [15/49]
授業が終わったのと同時に私は唯に呼ばれた。
何の話だろう、めずらしく唯の顔が真剣だった。
そして私は唯に空き教室に導かれた。

澪「唯。こんなところまで連れてこなくてもよかったんじゃないのか?」

唯「澪ちゃん」

唯「もう、憂に近づかないで」

澪「えっ…?」

202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 03:12:51.67 ID:Ukgx9fpIP [16/49]
唯「憂はね、私のものなの」

唯「私は憂のことが大好きだし、憂だって私のことを誰よりも愛してる」

唯「だからもう憂に関わるのはやめて」

わけがわからなかった。
憂ちゃんに近づくな?
憂ちゃんのことが好き?

さっきから何を言ってるんだ唯は。
唯は梓が好きで、梓も唯が好きで。
そういう関係だったんじゃないのか?

澪「どういう…ことだよ…」

唯「私と憂は結ばれたの」

唯「好きな人には自分だけを見ていてほしいって思うのは当然でしょ?」

203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 03:18:07.37 ID:Ukgx9fpIP [17/49]
澪「…梓は」

唯「え?」

澪「梓はどうしたんだよ。梓は唯のこと、好きなはずだろ?」

唯「昨日あずにゃんに告白されたよ。でも断った」

澪「唯は、梓のことが好きだったんじゃないのか…?」

唯「あずにゃんのことは確かに好きだけど、それはあくまで後輩として」

唯「あずにゃんには悪いことをしたと思ってる」

澪「………ひどい」

唯「私は、自分の気持ちに正直に動いただけ」

淡々と語っていた。
こんなに冷たい目をした唯は見たことがなかった。


204 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 03:23:54.64 ID:Ukgx9fpIP [18/49]
唯「憂も澪ちゃんにはお世話になったと思う」

唯「澪ちゃんと同じような境遇にいたからね」

唯はここ最近の私と憂ちゃんのことを知っていた。

唯「でも今の憂は澪ちゃんのことなんか頭にないよ」

やめろ、やめてくれ。

唯「昨日の晩、澪ちゃんのことを忘れてしまうぐらい私が憂を愛したから」

奪わないで…。

唯「もう憂は澪ちゃんのところには来ない」

私の支えを。

唯「そういうことだから、じゃあね」

ただ一つの拠り所を、奪わないでくれ…。

208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 03:29:04.26 ID:Ukgx9fpIP [19/49]
そう言うと唯は教室に戻っていった。

もう私は一人で立つことが出来ない。
支えが、なくなってしまったから。
頑張れる理由も失った。

教室には戻らなかった。
そのまま、宙に浮いたように家に帰った。
もう9月も半ばだというのに、照りつける日差しが眩しかった。

さようなら、みんな。



律…大好きだよ。

210 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 03:32:37.55 ID:Ukgx9fpIP [20/49]
ガラッ

さわ子「誰か、秋山さんのことを見ていない?」

教室でさわちゃんがそう言った。
もう5時間目は始まっていた。
澪の机は空いていた。

さわ子「早退かしら?でも保健室には来ていないみたいだし…」

澪が早退なんて中途半端なことをするわけがない。
何より荷物がまだある。
どこで何してんだよ…。
私は澪が心配でならなかった。

紬「………」

212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 03:38:17.97 ID:Ukgx9fpIP [21/49]
【放課後】

部室に来たのは私とムギだけだった。
唯は用事があるからとそそくさと帰って行った。
梓も来なかった。聞いたところによると今日は学校を休んだらしい。
そして澪も戻って来なかった。。

重苦しい空気が流れた。

律「…帰ろうか」

ムギにそう呼びかけ音楽室を出ようとしたときだった。

紬「…待って」

ムギに腕をつかまれた。

律「どうしたんだよ、ムギ」

紬「ねぇ。りっちゃんは今、どこを見てるの…?」

214 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 03:47:24.78 ID:Ukgx9fpIP [22/49]
どこを見てる?
私はその質問の意味がわからなかった。

律「ど、どういう意味だよ?」

ムギは答えなかった。
そして、また口を開いた。

紬「りっちゃんは、私のこと好き…?」

あの時と同じ言葉を口にした。

紬「私たち、付き合ってるんだよね…?」

紬「今度は答えてくれてもいいでしょ…?」

律「………」

215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 03:55:08.89 ID:Ukgx9fpIP [23/49]
ムギは目に涙をためていた。
不安でしょうがない様子が手に取るようにわかった。
それもそのはず。
ムギと付き合って以来…
いや、正確にはあの時澪の涙を見てから。
私は澪のことで頭がいっぱいだったからだ。

律「………」

紬「…やっぱり、言ってくれないのね」

紬「そうよね、りっちゃんが本当に好きなのは…」

紬「澪ちゃんだもんね」

律「……!!!」

――私が、澪を好き。

そっか。だからこんなに胸が苦しかったんだ。
私はずっと好きだったんだ、あいつのこと。

220 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 04:06:20.68 ID:Ukgx9fpIP [24/49]
紬「…やっぱり」

紬「そういう顔をするってことは、そうなのね」

今の私はいったいどんな顔をしているのだろう。

紬「私、りっちゃんが本当は澪ちゃんのことが好きなんだってこと気づいてた」

紬「りっちゃんは、本当に鈍感だよね…。人にも、自分にも」ぽろぽろ

まったくその通りだった。
人の気持ちにも、自分の気持ちにも気づかない。
情けない。本当に情けなかった。
傷つけなくていい人まで傷つけて。
何かを失わなければ気づかない。
本当に私は間抜けだ。

紬「…馬鹿。りっちゃんの馬鹿」

律「…ごめん」

謝ることしか出来なかった。

221 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 04:11:29.23 ID:Ukgx9fpIP [25/49]
紬「馬鹿、鈍感、分からず屋、いい格好ぶり」

律「ごめん…」

紬「でも…」

紬「私はそんなりっちゃんが好きで好きでしょうがない…」

紬「1番じゃなくてもいいから、澪ちゃんの次でいいから…」

紬「私を…りっちゃんの傍にいさせてください…」

律「………」

223 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 04:16:58.19 ID:Ukgx9fpIP [26/49]
律「………」

ムギは大粒の涙を流しながら訴えていた。
もしここで私がムギの願いに応えてしまったら、
また振り出しに戻ってしまう。何も変わりはしない。

でもそれじゃあダメなんだ。
私が本当に好きなのは、澪なんだから。

律「…ごめん、ムギ」

224 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 04:22:06.61 ID:Ukgx9fpIP [27/49]
紬「いやよ、そんなの…!絶対に、嫌…!!!」

ムギは力を込めて私の腕を掴んだ。

律「…私、行くよ。澪のところに」

律「澪のことが、好きだから」

律「…ありがとう」

私はムギの手を払った。

紬「待って!!!」

紬「行かないで…!行かないでよりっちゃぁん…」

律「…ごめん」

バタン

紬「うっ、ううっ…。りっちゃん…、りっちゃぁん…!」

226 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 04:27:17.38 ID:Ukgx9fpIP [28/49]
泣き崩れるムギを後ろに、私は音楽室を駆け出した。

ここまで来るのに随分と遠回りをしてしまった。
でももう迷わない。私が澪を守る。
だって澪のことが、好きだから…。

律「澪、澪っ…!」

私の足は自然と速くなっていった。

227 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 04:31:08.19 ID:Ukgx9fpIP [29/49]
澪の家に着いた。
呼び鈴を何度押しても何の反応もなかった。

家の玄関に手をかけると、鍵がかかっていなかった。
もちろんこのまま入ったら不法侵入だ。
でも今はそんなのどうだってよかった。
私は玄関のドアを開け、澪の家に入った。

230 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 04:33:42.12 ID:Ukgx9fpIP [30/49]
もう薄暗いというのに、家のどこにも電気がついていなかった。

私は叫んだ。
律「澪!私だ、律だよ!!出てきてくれ!」

何の返事もない。
ここで引き下がるわけにはいかない。
たくさんのものを犠牲にしたんだ。
ここで私が前に進まなきゃ、何の意味もない。
何のために、ムギにあんな辛い思いさせたのかわからないじゃないか。
私は靴を脱ぎ、澪の部屋に向かった。

231 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 04:41:03.18 ID:Ukgx9fpIP [31/49]
バタン

律「澪!澪ッ!!」

部屋はもっと薄暗かった。
しばらくして目が暗さに慣れる。

律「澪…?嘘だろ…?」

私は自分の目に映った光景を疑った。



澪は、首を吊っていたのだ。

237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 04:45:50.30 ID:Ukgx9fpIP [32/49]
律「澪!!!」

澪を縄から解放し、ベッドに下ろした。

律「澪!おい澪ッ!起きろって!!」

返事はなかった。
遅かった。何もかも。
私の想いは永遠に澪に届くことはなかった。
やっと、気づいたのに…。
やっと、わかったのに…。

小綺麗な澪の部屋。
部屋の机の上にはペンとノートのようなものがあった。
私はそれを手にとった。

240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 04:51:53.44 ID:Ukgx9fpIP [33/49]
律「これは…」

文化祭の劇でやるロミオとジュリエットの台本だ。
だいぶ読みこまれていて汚れや折り目がたくさんあった。
至る所にペンやマーカーがひかれていた。
ぱらぱらとめくっていると、あるページに目が止まった。
ロミオがジュリエットに愛を告げるシーンだ。
見ているだけで恥ずかしくなるようなセリフ。
その一帯にマーカーが引かれていた。
マーカーの横には目立つ色のペンで大きく文字が書いてあった。

『律のことを想いながら!』

涙が溢れた。
止まらなかった。
澪…。お前は、どれだけ私のことを…。

245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 05:00:18.75 ID:Ukgx9fpIP [34/49]
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――――
―――
――


~回想~

澪『こ、こんなセリフを言うのか…?』

律『聞いてるこっちまで恥ずかしくなるぞ』

紬『何を言ってるの二人とも、そこがロミオとジュリエットの山場じゃない!』

唯『ねぇ、私にはセリフないの?!』

紬『んー、唯ちゃんにはちょっとないかな…』

唯『えーっ!!私も何かしゃべりたい!!』

律『木がしゃべる劇なんて嫌だろ…』

キャストも無事に(といっても多いに揉めたが)決まり、いよいよ練習が始まると言った頃。
渡された台本には見ているだけで耳まで熱くなるようなセリフが並べられていた。

246 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 05:06:22.11 ID:Ukgx9fpIP [35/49]
最初の頃は恥ずかしくて口に出来たもんじゃなかったし、
澪が真剣にそんなセリフを口にしてるのがおかしくてたまらなかった。

しかし練習を重ねるごとにそんな恥ずかしさはなくなり、
お互い役にもハマるようになってきた。

・・・・・・

紬『カット!』

紬『澪ちゃん、今のところすごくよかったわよ』

澪『そ、そうかな…。ありがとう』

紬『この調子ならいい劇が出来そうだわ』

唯『りっちゃんのジュリエットもかわいかったよ!』

律『う、うるさい//』

紬『あ、りっちゃん照れてる!』

唯『んもう、素直じゃないんだからぁ』すりすり

律『うわ!や、やめろって///』

248 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 05:11:52.58 ID:Ukgx9fpIP [36/49]
【放課後】

唯『音楽室行こうよ!』

澪『そうだな、梓も待ってるだろうし』

紬『私は劇の演出と話をするから少し遅れていくわ』

律『あ。おーい、澪ー!台本忘れてるぞー!』

澪『?!』

律『にしても、よく読んでんだなぁー。ほら唯も見てみろよ。ボロボロだぜ』

澪『み、見るなぁぁぁ!!!』ばっ

251 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 05:16:25.35 ID:Ukgx9fpIP [37/49]
律『お、おい!いきなり奪うことないだろ!』

澪『う、うるさいっ///勝手に見るなっ!』がんっ

律『あいてっ!』

澪『さ、さぁ。部室に行くぞ!』

律『何だってんだよ…』

澪『見られて…ないよな、あのページ…』ぼそっ

律『なーにぶつぶつ言ってんだよ』

澪『な、ななな何でもないっ///』

律『変なやつだな』


――
―――
――――
――――――

253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 05:21:51.47 ID:Ukgx9fpIP [38/49]
ふと、そんなことを思い出した。
あの時の『見られてないよな』って、このページのことだったのかな。

律「ばか…。澪の、ばか…」

それしか言えなかった。
馬鹿なのは私の方なのに。
なぁ澪。
もう一度「ばか律」って呼んでくれよ…。
そう言いながらさ、頭…叩いてくれよ…。

255 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 05:29:03.83 ID:Ukgx9fpIP [39/49]
・・・・・・

律「…よし」

台本を閉じた私は立ちあがった。
もう涙は出なかった。

そして私は戒めた。
勝手な生き方をしていた自分を。
いい格好ぶりしていた自分を。
これはそんな私に対する罰なんだと。

辛い思いばかりさせてごめんな。
せめて最期ぐらいは…
お前と同じように。

あっちで会えたら、ちゃんと想いを伝えるよ。
おんなじところに行けるかはわからないけどな…。

私は澪の髪を撫でた。
そして私は澪を吊るしていた縄に、自分の首をかけた。



ありがとう、澪。大好きだ。

259 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 05:41:49.66 ID:Ukgx9fpIP [40/49]
澪「………」

ここは…どこだ?
私は、死んだのか…?

澪「うっ…げほっ、げほっ!」

喉が苦しい。
そうだ。私はあのあと家に帰って。
首を吊って死のうとして、それから…

澪「えっ?!」

私、生きてる…?

262 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 05:47:06.20 ID:Ukgx9fpIP [41/49]
私は軽くパニック状態だった。
首を吊って死ぬつもりだったのに、
何で気絶してただけなんだ?
しかも、ベッドの上にいる…。
誰だ…?私を縄から解放したのは。

こつん

澪「いたっ」

頭に何かぶつかった。
天井を見上げる。
そこには私が吊られているはずの縄に別の誰かが吊られていた。

黄色いカチューシャ。
広いおでこ。
だらしのない制服。



律だった。

264 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 05:55:27.16 ID:Ukgx9fpIP [42/49]
澪「え…。律…?」

澪「りつっ!!!!」

ようやく状況を理解した私は、急いで律を下ろした。
私のように気絶しているだけかも知れない。
そう思ったが、そんな淡い期待はすぐに打ち消された。
心臓が、止まっていたのだ。

澪「なんで…。どうして、私を助けたんだよ…」

澪「私のことなんか、放っておけっていったじゃないか…」

265 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 06:01:54.53 ID:Ukgx9fpIP [43/49]
澪「ん…?」

足元に何かある。
私の劇の台本だった。
机の上に置いてあったはずなのにな…。
よく見るとペンがしおりとなって挟まってた。

私はそのページを開いた。
物語の山場、ロミオがジュリエットに愛を伝えるシーンだ。
色ペンで書かれた『律のことを想いながら!』の文字。
その下に、覚えのない言葉が書いてあった。

『澪、大好きだ。』

266 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 06:08:08.58 ID:Ukgx9fpIP [44/49]
このくせのある字は、律の字だ。
ぐしゃぐしゃで、滲んでいた。
律、泣いてたんだな。お前は冗談でこんなことするような人間じゃないもんな。


だからこの言葉は、信じてもいいんだよな?


たった一言。それだけですべて伝わった。
律のことだ、そのたった一言を言うためにここまで来たんだろう?
なんだよ…。お前も私と同じくらい不器用じゃないか。
馬鹿だな…本当に。大馬鹿だよ。

268 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 06:15:45.05 ID:Ukgx9fpIP [45/49]
私は律の顔を見た。
なんて安らかで、幸せそうな顔をしているんだろう。
人がこんなに悲しんでるってのにお前って奴は…。
呑気に劇の練習か?
まったく、しょうがない奴だな。
いいよ。付き合ってやる。
最後のクライマックスのシーンだな。

澪「あぁ、美しいジュリエット!なぜこんな姿に!」

澪「君を、一人で死神のところに行かせはしない!」

澪「この身が朽ち果てるとも…、二度…と君…を離しは…しな…い」ぽろぽろ

澪「おい、律…。次はお前のセリフだぞ…、なぁ…」

澪「起きてくれよ、律…。起きて、私に愛を告げてくれよ…」

澪「ジュリエットが先に死んだら、話がちがっちゃうないじゃないか…」

澪「なぁ、律…。りつぅ…」

270 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 06:24:30.33 ID:Ukgx9fpIP [46/49]
今、私の腕の中で大好きな人が眠っている。
私の、大好きな人が。
ずっと片思いだと思ってた。
想いが届くことはないって思ってた。
けど、最後ににその人は私のことが好きだってわかった。
やっと想いが伝わった。
でもさ、律。やっぱり、納得いかないよ。
こんなのってないよ…。

澪「うっ、うぐっ…。うわあああああああ」

私は泣いた。
声が枯れるまで泣いた。

271 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 06:30:26.60 ID:Ukgx9fpIP [47/49]
泣き尽くした私は妙に穏やかだった。

律、お前を一人になんかしないよ。
お前は私がいなきゃダメだからな。

私は部屋にあった裁ちばさみを手に取り、それを高く振りかざした。

そう、気高く最期を迎えたジュリエットのように。

そして私は、喉を突いた。

273 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 06:34:33.31 ID:Ukgx9fpIP [48/49]
―――なぁ、律。
私たち、これからずっと一緒だよ。
もうすぐ律のとこに行くからさ、待っててくれよ。
会ったら真っ先にお前を叱らなきゃな。遅すぎだって。
私がどれだけ待ったと思ってるんだって。
めいっぱい叱ったあと、思いっきり抱きしめるんだ。
あ、劇の続きもしなきゃ。ジュリエットからまだ愛の言葉を聞いていないからな。
恥ずかしがる律の顔が目に浮かぶよ。
それから、そうだな…―――

意識が遠のいていく。

―――みーお!こっちこっち!―――

迎えに来たのか?せっかちだなぁ。
ふふっ、まぁ律らしいか。

―――なーに笑ってんだよ?―――

―――なぁ、りつ―――

―――ん?―――

―――…大好き―――



おわり

275 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 06:36:26.29 ID:gffSUJgp0 [1/2]
おい唯と憂が責任感じて死ぬところまでやれよ…


277 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/13(月) 06:42:18.16 ID:Ukgx9fpIP [49/49]
>>275
そこまで書こうかどうしようか迷ってたんだが蛇足になりそうだからやめたwww

読んでくれた方、ありがとう。

おやすみ。

コメント

・・・どうしてこうなった

ないようはまんまロミオとジュリェットだぞ

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