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梓「相合傘」

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/11(土) 15:39:02.22 ID:SPXJQWCC0 [1/14]

梓「うわっ雨だ……」

今日は先輩達が進路関係のことで用事があるらしく部活は休みだ。

久々に家で一人ゆっくりしようと思い早々に帰ろうとしたら雨が降ってきた。

梓「どうしよっかな…」

いつもは突然雨が降ってもギターが濡れないように折り畳み傘を持ち歩いているけど
今日は部活が休みだったこともあり、傘は自宅に置いてきてしまった。

梓「走るしかないかな…」

雨足は弱めだけど傘なしで帰ればずぶ濡れになってしまう。

でも無いものはしょうがない、と校舎から出ようとした時声をかけられた。


2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/11(土) 15:40:12.40 ID:SPXJQWCC0

憂「あれ?梓ちゃん」

梓「あ、憂」

憂だ。

憂は今日、日直で少し遅れるらしかったので私は先に帰ろうと思ったけど
雨で立ち尽くしているうちに憂の日直の仕事は終わったらしい。

憂「どうしたの?」

梓「傘、忘れちゃって」

憂「じゃあ途中までだけど一緒に帰ろ?私、傘持ってるし」

梓「え?いいの?ありがと」


3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/11(土) 15:41:26.07 ID:SPXJQWCC0

憂「と、言っても一本なんだけどね」

梓「それじゃ憂が濡れちゃうよ」

憂「こんな中で傘無しじゃ梓ちゃん風邪ひいちゃうよ」

梓「…ありがと」

憂の傘にいれてもらい帰ることとなった。

憂「ふふっ相合傘だね」

梓「あはは…そうだね」

憂がこんな冗談を言うなんて珍しいな、と思った。


4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/11(土) 15:43:03.55 ID:SPXJQWCC0

梓「やっぱ歩きづらいね…ごめんね、憂」

憂「ううん、大丈夫だよ。ゆっくり帰ろ?」

梓「私が傘、持つよ」

憂「…じゃあお願いしちゃおうかな」

なるべく憂が濡れないよう傘を傾ける。

梓「…静かだね」

憂「うん。雨の音しかしないや……梓ちゃんは雨、好き?」


6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/11(土) 15:45:03.75 ID:SPXJQWCC0

梓「雨…?どうだろ…時と場合によるかな」

憂「ふふ…それはそうだね」

家でギターを一人で弾いている時や好きな音楽を聞いている時の雨は好きだけど
部活で先輩達と演奏している時やお茶を飲んだりしている時の雨は嫌いだ。

憂「私も洗濯している時とか買い物の途中とかの雨は嫌いだけど、ぼーっとしてる時とか眠る前とかの雨は好きだな」

梓「私もそんな感じ」

憂「…今の雨も好きかも」

梓「今の?」

憂「うん。静かで…雨の音しかしない道を帰るの」

梓「んー…」

私も雰囲気としては今の雨は好きかもしれない。


7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/11(土) 15:47:01.98 ID:SPXJQWCC0

憂「それに…私、一つの傘に二人ってすごく好きなんだ」

梓「え?」

どういうことだろう?

憂「中学のころよくお姉ちゃんや和さんと一緒にしてたんだ。相合傘……お姉ちゃんがよく傘忘れちゃって…ふふっ」

梓「唯先輩らしいな…」

傘を忘れてしまって憂や真鍋先輩に泣きついている唯先輩が容易に想像できた。

憂「なんだかね相合傘って二人で一人っていうか……上手く言えないんだけど、すごくなにかを共有できたような気がするの」

梓「なにか?」

憂「うん。今で言えばこの雨の感じかな?」

雨の感じっていうのはさっき憂が言っていた静かな感じだろう。


8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/11(土) 15:48:55.97 ID:SPXJQWCC0

憂「…あはは…変なこと言ってごめんね?」

気付かないうちに黙ってしまっていたらしい。

梓「…そんなことないよ。確かにいま憂と二人でこの雨の中歩くの…いいかも」

相変わらず静かで、時折通る車の音と雨の音しかしない。

梓「…ほんと静か」

憂「うん…そうだね」

しばらく私も憂も無言だったけど、その時間はすごく楽しいような、落ち着くような、不思議な感覚だった。


9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/11(土) 15:51:10.52 ID:SPXJQWCC0

梓「あっ着いちゃった…」

憂「大丈夫?家まで行こうか?」

梓「んーん。走ってすぐだから大丈夫……ありがと、憂」

憂「いえいえ、どういたしまして」

梓「……」

憂「…?どうしたの?梓ちゃん」

なんだかこの傘を出ると、あの不思議な感覚を忘れてしまいそうで体がいうことをきかなくなった。

梓「…もうちょっと…もうちょっとだけこのままでいいかな……」

憂「うん、もちろんいいよ」

雨の中、二人でぼーっとする。
さっきとはまた違った不思議な感覚だ。


10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/11(土) 15:53:01.10 ID:SPXJQWCC0

梓「……」

憂「…ふふっ」

梓「…?」

憂「不思議な感じ」

次に憂が何を言うのかなんとなくわかった私は特に何も言わず黙っていた。

憂「…良い雨だね」

梓「…うん」

その後傘を出て走って家に帰り、シャワーを浴び、落ち着いたころにはあの感覚は忘れてしまっていた。


11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/11(土) 15:54:42.71 ID:SPXJQWCC0

晩御飯を食べ終え、特に見るテレビ番組もなかったので部屋で音楽でも聞くことにした。

部屋の窓から外を見るとまだ雨が降り続いていた。

梓「…~♪…」

音楽に合わせて適当な鼻歌を歌いながらぼーっとする。
憂も今頃、ベッドに寝転んでぼーっとしているのだろうか。

…唯先輩がいるからそれはないか。

梓「そろそろ寝よっかな」

音楽を止め電気を消す。

雨足は少し強くなったらしく、さっきよりも大きな音を鳴らしている。


12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/09/11(土) 15:55:38.41 ID:SPXJQWCC0

梓「…そうだ」

枕下に置いてある携帯で天気予報を見る。

梓「週末…日曜日、雨……雨は1日中しとしと降り続けるでしょう…」

週末の日曜日は雨らしい。

…週末の日曜日は憂と遊ぼう。

それでもし、この天気予報が当たっていたら、憂の家に私のお気に入りのCDを持っていって
二人でそれを聞きながらぼーっとしよう。

退屈になったら二人で一本の傘で近くの公園にでも出かけるのもいい。

またあの感覚が味わえるかもしれない。


雨の音がする中、そんな風に色々考えているうちに私は眠ってしまった。


…その日、私はすごく良い夢を見た気がする。



おわり


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