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阿良々木「あれ?なんか忘れてる」第三部

92 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/15(土) 17:34:43.44 ID:5Xp/IqsP [3/7]
阿良々木君と戦場ヶ原さんの一日


ひたぎ「そろそろ起きないと大学に遅れるわよ」

暦「うぅ~ん、もう少し寝かせて…」

ひたぎ「ねぇ、暦君。そろそろ起きないとあの世に行く事になるけど?」

暦「シャキーン!起きました!起きましたからその包丁を収めてくれ!」

ひたぎ「あら、これは今朝ご飯を作ってるだけよ、さっさと降りてらっしゃい」

暦「はいはい」

ひたぎ「ハイは1回よ」

暦「はい…」

そんなこんなで僕と戦場ヶ原の同棲は、親公認の同居というスタイルになっている。

勿論、僕の部屋に2人で暮らしている。

とはいっても、僕達はまだ深い関係には至っていない。

まだ彼女のトラウマが消えていないし、仕方がない。

以前と変わったと言えば、僕が「暦君」と呼ばれ、戦場ヶ原を「ひたぎ」と呼ぶくらい。

(但し、呼び捨てに対しては一悶着あった)

朝食は戦場ヶ原がほぼ毎日作る。

忙しい両親、妹達は大喜び。

家賃代わりって事らしいが、そんな事されたら僕の立場はどうなるんだ?

しかし、戦場ヶ原と一緒に住むようになって家族関係は以前よりも良好だ。

さて、とっとと朝食済ませて大学に行くか…

93 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/15(土) 17:36:01.07 ID:5Xp/IqsP [4/7]
通学は電車だが、駅までは自転車で行く。

バスに乗っても良いんだが、いつも戦場ヶ原を後ろに乗せて駅まで漕ぐ。

この時間が2人のプライベートタイム。

ひたぎ「ねぇ、暦君。今度の週末、どこか行かない?」

暦「うん、いいよ。どこか行きたい所ある?」

ひたぎ「そうね、潮干狩りとか」

暦「潮干狩りか…いいぜ、行こう!」

ひたぎ「うん」


いつもこんな調子で話す。

ちなみにここで話したって事は2人で行くって事。

家で話すと、確実に火憐ちゃんと月火ちゃんが一緒に行くと言うからね。

自室で話していてもこういう話をすると乱入してくるからね。

(盗聴されているんじゃないか?)

戦場ヶ原もようやくその事に気が付き、大事な話は外でするようになった。

ちなみに大学に着くと、これまた周りが五月蠅くておちおち2人で話せない。

隠している訳じゃないけど、交際の件は知られていない。

大学じゃ、ただの仲の良い高校時代からの友達と認識されている。

ま、何かとその方が好都合、というか戦場ヶ原ってそういう事を根掘り葉掘りされるのを嫌うからね。

ちなみに全カリキュラム、戦場ヶ原と同じ時間割なのだが…

だれもその件についてはツッこまない。

行きも帰りも一緒に帰っていく、男女の同窓生。

誰か気がついてもおかしくないんだけどな。


94 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/15(土) 17:37:57.95 ID:5Xp/IqsP [5/7]
帰り道、戦場ヶ原は買い物へ、僕はバイトに行く。

大学に入ってからアルバイトを始めた。

といっても、週に3回だけ。

近所の店を手伝ってる。

3時間、花の水をやったり配達に行ったり。

一日働いて2,700円、一週間で8,100円、一ヶ月で3万円強。

でも今の自分にはこれで十分。

このお金?ああ、車の免許を取ろうと思ってね。

いつか戦場ヶ原に連れて行って貰った星の綺麗な場所に行きたくて。

だから使い道は内緒、というか先日エアメールが届いた。

忍野からだった。

「阿良々木君、相変わらず良い事ばかりありそうだねぇ(笑)。ところで阿良々木君、例の廃墟ビルが取り壊しになるそうじゃない。申し訳ないんだが、日本に帰ったら住む場所が無いので君の家に居候しようと思ったが、家族に悪いんでどこか借りようと思う」

待て、僕には悪いと思わないのか!と手紙につっこみを入れる

「で、相談だけど。未払い分の仕事料を分割で良いので払ってくれたまえ。そうだねぇ、月1万円で良いよ、1万円。これなら貧乏な阿良々木君でも何とか工面できるでしょう」

あー帰ってこなきゃ良いのに…

というか、どっか洞窟捜して住みやがれ!

こんな風に僕らの日常は続いている。


阿良々木君と戦場ヶ原さんの一日 了


95 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/15(土) 18:24:01.67 ID:5Xp/IqsP [6/7]
バルラギコンビ

私立直江津高校にこの春からファイヤーシスターズの姉が入学した事は、この町全体の常識となっている。

勿論予告通り、火憐はあこがれの先輩神原と「バルラギコンビ」を結成し、学生生活を楽しんでいる。

駿河「火憐、今日は大事な話がある」

火憐「はい、先輩!なんでしょうか!」

駿河「お前、部活しろ」

火憐「え?!」

駿河「健康な女子が部活一つしないでどうする?何でもいいからやる事」

火憐「それは…だって私、神原先輩と一緒に居たいんです」

駿河「しかしなぁ、私はもうバスケ部を引退したし、受験に備えなければ成らん」

火憐「でも…あ、そうだ!ヒーロー部作りましょう!」

駿河「ヒーロー部?」

火憐「そうです、ヒーロー部」

駿河「何か面白そうだな」

火憐「ええ、きっと面白いです」

駿河「で、何をするクラブなんだい?」

火憐「学校にはびこる悪を倒す!」

駿河「火憐、それはちょっと難しいぞ」

火憐「何故です?」

駿河「この学校に悪い奴はいない。しいて言えば阿良々木先輩が一番悪かった」

火憐「ええー!本当ですか?」

駿河「ああ、この学校で不良と言えば阿良々木さんの事だったよ」

火憐「……」

駿河「まぁヒーローは戦うだけじゃない、清掃活動とかでも良いじゃないか」

火憐「うぅ…」

駿河「そういう事で、とりあえず同好会から始めよう。これなら簡単だ」

96 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/15(土) 18:25:56.61 ID:5Xp/IqsP [7/7]
ということで、バルラギコンビは校内の美化清掃に努める。

これがどうした事か、神原を慕う子、火憐を姉御と慕う同級生が入り、結局30人からの大所帯になり、学校側から特例で部に昇格させられた。

但し、その名称は「校内美化部」という恐らく日本で最初のクラブ名が付けられた。

尚、裏の仕事ではないが、他校の生徒に直江津高校の生徒がいじめられたり、脅迫された場合、闇の部隊(2人組)が出動するらしい…(恐ろしい話だよな)

なので、この部のお陰で、直江津高校の生徒は安心して暮らせるんだってさ。

僕が不良ってのもどうかと思うんだけど。


ちなみに、ずっと先の事なんだけど、神原は僕らと同じ大学には入らなかった。

県内の大学に進学し、20歳で腕が元に戻った。

その後、何故か警察官になった。

勿論、うちの火憐も同じく警察官になった。

火憐は短大卒で警察官になったので、神原とは歳は違えど同期として頑張ってる。

2人して交通取り締まりしている姿は想像するだけで鳥肌モノだけどな。

天職と言えば天職だろうけど、いつか二人とも捜査一課とかに配属されてどこかの組事務所の捜索に行ったり、特殊部隊に配属されて立て篭もり犯と対峙したり…考えただけで鬱になるよ、全く。

あいつらに実弾持たせるのは危険だと思うんだ。

直ぐに発砲しそうじゃないか!


バルラギコンビ 了

107 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/09(水) 18:47:47.05 ID:MPhY6lcP [1/11]
そんな普遍的とも思える日常が幾日も重なり、季節は変わり、僕は大人になっていく。

最近じゃ、戦場ヶ原とも普通に喧嘩し笑い、そして愛を確認する事も…

大学は何とか卒業し、外資系の会社に勤めている。

そう、戦場ヶ原に勧められ就職した。

直属の上司ではないが、いつか夜半に山麓まで車を運転したあの方。

駐車場で短い間だったが話し、自分の娘を任せたと言った、戦場ヶ原の父。

縁故での入社には気が引けたが、彼女の父親からも「君なら歓迎だ」と言われれば悪い気はしない。

結局、楽に社会人になってしまった。

で、戦場ヶ原と言えば…

何故か今でも僕の家に住んでいる。

そこから地元の商店街でレジ打ちをしながら生きている。(所謂フリーター)

この件には色々あったが、端折って言えば僕を就職させる為にポジションを譲り、

且つ自分は面倒な就職活動はせず、父親の監視下に僕を置くことにより、

居ずにして僕の動きを把握すると言う事になったようだ。

あいつの事だから、何か大きな仕事をする企業に勤めると思ったんだが…

最近の口癖は「そうね、敢えて就職するなら専業主婦ね」と仰る。

これって、逆プロポーズ?!

108 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/09(水) 18:58:58.86 ID:MPhY6lcP [2/11]
仕事は順調、怪異を見る事も無くなった。

あ、そうそう。

うちに居た怪異、いや月火ちゃんは羽川が引き取った。

羽川は、世界を回ると言う予告通り、各地を転々とし、今じゃ10ヶ国語を話し、世界中に400人ぐらい友人がいるらしい。

その中に、VIPクラスも居るとか(本当かよ?)

ヨーロッパに居るキスショットや忍野とも交流があり、そんな関係から忍野の助言を受け、

月火ちゃんを引き取ると言うか、一応自分の部下として手元に置くようになった。

2人とも似たようなものだから、馬が合うのか、猫や鳥が合うのかは知らないが、

月火ちゃんは羽川を慕っているようだ。

羽川の仕事は、驚く事無かれ忍野の様な「祓い屋」をしている。

日本に戻った忍野から聞いたんだが、そりゃもう片にハマっているらしい。

「阿良々木君、委員長ちゃんは凄いよ、僕じゃ太刀打ちできないぐらい凄いんだよ」

と、褒めちぎっていた。

羽川がねぇ・・・

「助けてくれ!」とか言ったら「何でも助けないわよ、助けられる事だけ」とか言いそうだ、あの口調で。

両親も、羽川を信頼していたし、高校出てすぐには心配そうだったが、結局羽川に押し切られ手放すことに。

ある意味、助かったような気もする。

109 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/09(水) 19:06:51.15 ID:MPhY6lcP [3/11]
そう言う事で、今実家には両親と僕達だけ。

火憐は、一人暮らしをしているからね。

一人暮らしと言うか、2人暮らしと言うか…

僕が掃除に行かなくなったので、実家は既に寝床すら無くなった神原。

あいつが火憐の部屋に転がり込んで、住みついている。

たまにはBダッシュで掃除しろよ!

そんな神原に感化されて、BL本を読んでいる事は百も承知。

先日、久しぶりに実家に戻ってきたが、大きな紙袋を持っていた。

ちらっと見えた本が…神原の部屋で見たようなアレだ。

一応は隠しておきたいのだろう。

別に、だからって軽蔑する訳じゃないんだけどさ。

こんな風に僕達の日常は、極ありふれた、どこにでもある日常と化していた。

110 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/09(水) 19:32:24.95 ID:MPhY6lcP [4/11]
それから数年、僕は戦場ヶ原と結婚する事を決めた。

プロポーズ?

ああ、一応は「言葉にする」ってのが、大事だからな。

場所は勿論、初めてデートしたあの場所。

星が見えるあの場所。

ドライブでもしようか?と戦場ヶ原を誘い、いつものように横になって星を見ながらプロポーズ。

返事?そりゃここまで来て「阿良々木君、あなたの気持ちは嬉しいわ、けど…」なんて言わない。

二つ返事でOKだった。

僕的にはネタを織り交ぜた返事が欲しかったのかもしれない、いや気の迷いだな。

それほどに、戦場ヶ原は普通の女性になっている。

式は年が明けた2月。

4月には新しいプロジェクトの立ち上げに参加し、もしかすると海外出張に成るかも知れない。

だから、一緒に行く為にも結婚を決意した。

そんなプロポーズから数週間のある日の事。


111 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/09(水) 19:33:40.86 ID:MPhY6lcP [5/11]
どこかで見た事のある女の子。

良く知っている子に似ているが、何か違う?

「八九寺?」

「あら、阿良々木さんじゃないですか?」

「やっぱ、八九寺だよな?」

「ええ、そうですよ、阿良々木さん」

「噛めよ」

「噛みません」

「噛めったら!」

「噛みません!」

「噛んでください!」

「噛めまめん><」

「亀よ!」

「もしもし?」

久々に八九寺に会って、僕は驚いている。

ここ数年、突然と見かけなくなったからな。

それ以上に驚いているのが、八九寺が大人びている。

「なぁ、お前。もしかして成長してんの?」

112 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/09(水) 19:35:13.26 ID:MPhY6lcP [6/11]
「失礼な、当たり前じゃないですか!」

「でも、霊は…」

「阿良々木さん、地縛霊は色々と制限がありますが、浮翌遊霊は制限ナッシングなのですよ」

「そ、そうなのか!」

「ええ、だから私、日本を旅していたのです」

「旅って…」

「ある時は電車で、ある時はトラックの荷台に潜り込み…」

「なんか想像できないな」

「49都道府県全部回りました!」

「おい、一個多いぞ!」

「え?そうですか?2個多いと思うんですけど?」

「くっ……」

「えへーワザとですよ」

「おまえなー」

「でも、ハワイとグアムも行ったんで49ですね」

「あれは県じゃねーよ!」

「細かいところは昔と変わりませんね」

「別にそんな事はどうでも良いだろ。ところでさっきの話だけど」

113 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/09(水) 19:36:21.28 ID:MPhY6lcP [7/11]
「だから心も成長し、体も成長するんです」

やっぱ八九寺は成長している。どう見ても小学生じゃない。

もう立派な中学生ぐらい。

「でも、何かおかしいな」

「人間と同じスピードじゃないですからね」

「そっか…ていうか、そうなんだ?」

「ええ、そうなんです。でも残念でしょう、ロリコンの阿良々木さんには」

「ロリコンじゃねーよ!」

「だっていつもみたいに抱きつかなかったじゃないですか」

「それは…人違いだった拙いからだろ!」

「ふんっ、もう私の分別もつかない程、あの女にぞっこんなんですね」

「お前…なんて事言うんだ!」

「まぁ、それは仕方ありませんわね。阿良々木さんには最初で最後の【チャンス】だった訳ですし」

「殴るぞ!」

「かみまみた」

「噛んでねぇ!」

そんな懐かしい話をしていたら、八九寺が急に真面目な顔をして話し出した。

114 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/09(水) 19:38:06.54 ID:MPhY6lcP [8/11]
「阿良々木さん、結婚するんですよね?」

「ああ、良く知ってるな」

「八九寺ネットワークを舐めないでください」

「なんだよ!その如何わしいネットワークは!」

「全て筒抜けです」

「僕のプライバシーは無いのかよ!」

「一応、アレとかアレとかアレは見ない様にしていますから」

「全部見んな!」

「全部で皆?頭痛が痛いとかいうアレですか?」

「字が違う!」

「やれやれ、話がそれますね、阿良々木さんと話すと」

「そらしたくもなるわ!」

「そりゃしたくなる?何を?」

「お前、さっきから何なんだよ全く」

「えっとですね…」

「言えよ」

「あのですね…」

八九寺は何か言おうとしてモジモジしている。

「怒らないから言えよ」

そうすると八九寺は意を決して話し始めた。


115 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/09(水) 19:44:47.35 ID:MPhY6lcP [9/11]
阿良々木さんの結婚式には呼んでください!」

は?なんだそりゃ?

来ればいいじゃないか?

来たところで何の問題も無い。

どうせ誰にも見えないだろうし。

「いえ、そうであっても…あの…」

「何だよ言ってみろよ」

「あの…私の…私の席を用意してください!」

「は?」

「はい」

「ああ、成るほど」

「ええ、そう言う事です」

「なんだ、そういう事か」

「ですです」

「いいよ、お前の席もちゃんと用意してあげるよ」

と僕は微笑みながら八九寺を見る。


116 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/09(水) 19:46:00.24 ID:MPhY6lcP [10/11]
少し顔を赤くした八九寺が嬉しそうに言う。

「当日はバッチリめかして、新婦から新郎を奪います」

「待て!」

「冗談です、では当日必ず行きますから」

「ああ、待ってるよ。ていうか、案内状取りに来いよ」

「大丈夫です、ネットワークで入手済みです」

「あはは、はは…(参ったな)」

「じゃ、当日!」

そう言って、八九寺はいつものように走り去る。

その後ろ姿にあのリュックは無かった。

良く見れば、学生鞄を持っていた。

直ぐに八九寺って気付かなかった訳だ。

さて、当日席を用意するのは簡単だが、なんて戦場ヶ原に説明しようかな?

119 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/10(木) 17:42:50.69 ID:v.rerH2P [1/17]
結婚式当日

かしこまった形は希望しなかったが、会社に勤めるとそうは言ってはいられない。

結局、地元のホテルで式を挙げる事となった。

昨日までの上司が、今日からお父さん。

昨日までの彼女が、今日から奥さん。

結婚なんて何か人生の通過点だと思っていたが、案外この期に及んで少し腰が引ける。

それよりも…

式に呼んだメンバーの落差が激しい。

片や会社関係、片や高校時代の友人、いや怪異がらみのメンツ。

神原筆頭に忍野やキスショットまで居る。

勿論、羽川もきてくれた。

1テーブルに固めたが、何とも場違いな雰囲気。

忍野はこんな日もアロハシャツだし(一応、ジャケットは羽織っているがサンダル履き)、

キスショットはドレスだが、そこがまた注目を集める。

金髪でドレス、でもって流暢な「ガラの悪い」日本語を話す。

神原は一人で妄想に耽り、羽川はニコニコして、千石はずっと泣いている。

なんかあのテーブルだけ見ると、僕の過去はかなりキワモノだと思われるんだろうな。

花嫁は花嫁で朝から……


120 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/10(木) 17:43:37.76 ID:v.rerH2P [2/17]
「阿良々木君、いえ違うわね。あなた」

「何だよ、急にかしこまって」

「これからも宜しくお願いいたします」

「う、うん……」

「これで晴れてヤンデレ処女を卒業出来るわ」

「どう突っ込めばいいのかなぁ?」

「もう突っ込んだよ!じゃなくて?」

「言葉のDVで僕はこの先も虐められる訳だ!」

「ふふ」

いつもの軽快な会話をしているが、戦場ヶ原否、ひたぎも緊張しているようだ。

「本当に良かった」

「何が?」

「こんな日が来て。カニに出会った事を今感謝しているわ」

「そうなのか?あれほど苦しんだのに」

「だってカニに遇わなければ、あなたと逢う事も無かったのよ?」

「そりゃそうだけど……」


121 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/10(木) 17:44:03.06 ID:v.rerH2P [3/17]
「ところであなた、忍野さん達のテーブルにある空席は何?」

「ああ、覚えてないかな?迷子の八九寺の事」

「覚えているけど、私見た事無い、いえ見えなかったし」

「一応呼んだんだよ、というか来たいって言うからさ」

「あら?あなたは私に隠れて他の女と逢ってるの#?」

「おいおい、一応は霊だし、子供だし」

「ふーん」

「怒った?」

「何で?」

「いや、何となく」

「怒る理由は無いわ。だってあなたの友達なのでしょ?」

「あ、うん、まぁ」

「なら何の問題も無いわ」

「そっか、そう言ってくれて嬉しいよ」

「じゃ後で」


122 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/10(木) 17:45:11.60 ID:v.rerH2P [4/17]
控室を後にし、式場へ。

式は神前で執り行う。

別にどんな形も良かったが、敢えてドレスの似合う式と言えばこれでしょう。

流石にキスショットは嫌がって、入ってこなかった。

そりゃそうだよ、大きな十字架に賛美歌が流れる。

死刑宣告受けるようなものだからな。

式は形式上の言葉の約束とリングの交換、そして誓の口付け。

うん、緊張した。

今まであった事よりも緊張した。

いつもと変わらないひたぎにキスをする。

あの日の夜の事が鮮明に蘇る。

「キスをしましょう」

今日が全てのゴールだと何となく僕は思った、何故だか。


123 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/10(木) 17:45:53.97 ID:v.rerH2P [5/17]
披露宴では開始早々、あのテーブルが五月蠅い。

お前ら、食べ物の取り合いは止めろよ!

何年たってもキスショットと忍野は変わらないなぁ。

神原はあっちこっちのテーブルに行き、笑顔を振りまきながら何かセールストークをしている。

気になるが、ここからは聞こえない。

千石はずっとこっちを見ている。

しかし美人になった、驚きだよ。

うちの火憐と月火はそのまま大きくなったのに、千石だけは本当に化けた。

忍野の言う「ラスボス」ってのも理解できる。

ひたぎと付き合っていない時に逢ったら、猛烈にアタックしてたかもな。

まぁ、そんな感情、彼女にはないだろうが。

ん?じゃ何で泣いてるんだ?

ん?ん?うーん?え?

ええー!

もしかしたら、千石は僕の事が好きだったのか?

そんな筈は無い、断じてない、多分ない……

つい、ひたぎの方を見る。

微笑みを返してきた!

うん、こんな日にそんな妄想は止めよう、事実を知ったら僕は死んでしまうかもしれない。

(心が苛まれて死ぬんじゃ無く、殺される方の意味で死んじゃう)

124 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/10(木) 17:46:49.30 ID:v.rerH2P [6/17]
新郎新婦の事など捨て置かれ、宴はすすむ。

上司の長い挨拶、同僚のとぼけたスピーチ、後輩の歌……

結構退屈なもんだな、結婚式ってのは。

あのテーブルを見ると…

お?いつの間にか八九寺が来ていた。

羽川と忍野に挟まれる形で座っている。

がつがつ食うのかと思ったら、じっと座ってこっちを見ている。

なんか千石といい、八九寺といい、そんな目で僕を見るな!

僕だけ幸せになって「呪ってやる!」みたいな感じだぞ。

ひたぎがお色直しに行き、同僚が祝杯を上げに来る。

さっきから注がれては飲み、注がれては…

まぁ、新郎が倒れない様に、ボーイさんが適度に見計らって、グラスを替えてくれるので、思ったほどは飲んでないんだけど。


125 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/10(木) 17:57:09.72 ID:v.rerH2P [7/17]
ひたぎのお色直しが終わって、羽川が高校時代の2人の共通の友人として挨拶する。

何か言われるかと思ったが、普通のあいさつで済んだ。

が、サプライズはこの後だった。


「では、私達友人から2人に花束を贈呈します」と羽川が言う。

神原か?千石か?まさか忍野は無いな」

「では、八九寺さん、前へどうぞ!」

!!

何?何だって?何を言ってるんだ羽川!

八九寺はお前や僕にしか見えないだろ!

テーブルに目をやると、八九寺が立ち上り、こちらに向かってくる。

それをみんなが拍手で見送る。

嘘だろ……

花束を持った八九寺が僕達のテーブルの前に立つ。

「暦さん、ひたぎさん、おめでとうございます」

僕は唖然としていた。

126 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/10(木) 17:58:10.08 ID:v.rerH2P [8/17]
ひたぎは「ふふ、可愛い女の子ね」と微笑む。

何故この期に及んでお前はそんなに平気な顔なんだよ!

「お二方、是非お幸せになってください」

八九寺は当り障りの無い言葉を投げかける。

それから小さな声で僕達に聞こえるように囁く。

「今度生まれ変われるならお二人の様な幸せな所がいいです」

少し涙ぐみながら八九寺は言う。

あっけに取られた僕を一瞥し、ひたぎが応える。

「ええ、あなたの様な可愛い女の子なら大歓迎よ」

そんな僕達を見ながら羽川が話を続ける。

「お二人の交際のきっかけは、八九寺さんが迷子になっている所を助けた時なのです」

「まさに、お二人の愛のキューピッドです。今一度温かい拍手を!」

会場は一斉に拍手喝采。

少し事実とは違うようだけど、付き合ったのはあの日からだしな。

八九寺は一礼し、テーブルに戻る。

忍野やキスショットとも会話している。

何がどうなっているのかよく分からないが、あとで聞けば分かるだろう。


127 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/10(木) 18:09:11.81 ID:v.rerH2P [9/17]
式も終わりを迎え、僕のスピーチで締める事となる。

二人で温かい家庭を築き~なんちゃらかんちゃらってスピーチ集の暗記文だけどさ。

温かい拍手を受け、一礼し、頭を上げたらあのテーブルにもう八九寺はいなかった。

みんなを見送る為に、ホールの外に立ち、挨拶をする。

会社関係の人を送り出した後、我らが怪異な仲間が出てきた。

「阿良々木先輩!今夜はBダッシュかい?」神原はおどける。

「暦お兄ちゃん…いつまでもお兄ちゃんで居てね」千石!スマン!本当に!

「おぬしもこれで主じゃな、まぁ頑張れ!」ああ、有難うキスショット、お前のおかげでもあるんだぜ

「阿良々木君、本当に千載一遇のチャンスを物に出来て良かったよ」と忍野。

「なぁ忍野、八九寺の件だが……」

「ああ、それなら僕じゃなくて委員長ちゃんに聞いてみなよ」と羽川を見る。

「阿良々木君、戦場ヶ原さんお幸せに」羽川は本当に人当たりが良い事しか言わない。

「なぁ、羽川。八九寺の件だが……」

「うん、あれはね、具現化する術式を使っただけよ」

「そうなのか……」

「阿良々木君、委員長ちゃんは凄いって前に言っただろ?」


128 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/10(木) 18:10:38.04 ID:v.rerH2P [10/17]
忍野が口を挟む。

「ああ、そうだったな、忘れてた」

「でも悲しいお知らせもあるわ」

「結婚式の当日に悲しい話かよ!」

「彼女、真宵ちゃんの願いだったのよ、二人に花を送りたいってね」

「そうなんだ」

「普通は無理なんだけど、ある事を引き換え条件に」

「何なんだ?」

「聞かない方がいいわ」

「教えろよ」

「じゃあとで」

そう言って、羽川は去って行った。

二次会の席でゆっくり聞けばいいか?そんな楽天的な考えで居た僕は浅はかだった。


129 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/10(木) 18:30:36.09 ID:v.rerH2P [11/17]
タキシードを脱ぎ、ラフな格好へ。

ひたぎも普段着に着替え、ホテルのロビーで落ち合う。

二次会へいく仲間が皆揃っている。

そこに勿論、羽川も居た。

「なぁ、さっきの話だけど」

「どうしても聞きたい?」

「そりゃ……」

「覚悟出来る?」

「何の?」

「色々よ」

「まぁ、今更驚く事も無いと思うよ」

「そう、じゃあ教えるわ」

と羽川はホテルの外へ僕を連れ出す。

「あのね、真宵ちゃんはね…」

「何だよ、もったいぶるなよ」

「うーん、あのね、成仏したわ」

「え?何て?」

「成仏。もうこの世には居ないわ」


130 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/10(木) 18:31:12.45 ID:v.rerH2P [12/17]
「う、嘘だろ?」

「嘘は泥棒の始まりよ、阿良々木君」

「何で?何で?」

「霊を具現化させるには、成仏させる必要があったの。その過程で少しの時間具現化出来る、ただそれだけ」

「まてよ、じゃああいつはもう居ないのかよ!」

「ええ、居ないわ」

「何で、何でそんなことしたんだよ!」

「それは、彼女が希望したから」羽川は冷静に答える。

「でももう会えないじゃないか!」

「阿良々木君、彼女は人間じゃなくて霊なの、人間の魂だけなのよ」

「本来なら輪廻転生で次の世界に繋がるべき所を漂っていただけ」

「正しい形に戻っただけよ?あと貴方と彼女に話したいって希望も叶えてね」


131 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/10(木) 18:31:58.06 ID:v.rerH2P [13/17]
ふと気が付いたら僕は涙を流していた。

八九寺真宵、僕には何だったんだろうか?

迷子のカタツムリ?

時折街で見かける話し相手?

何だったんだろ?

「阿良々木君、深く考えない方がいいわ」

羽川は僕を宥める様な声で話しかけてきた。

「今日はあなたの幸せな日よ?彼女もそれを見届け、幸せに違いないわ」

僕と羽川が戻らないので、ひたぎが心配して見に来た。

「どうしたの?」

「いや、何でもない」

「泣いてるじゃない」

結局、僕はひたぎに全てを話す。

ひたぎは笑いながら「良かったじゃない、色んな怪異のお陰でここまで幸せになれたんだから」といった。

そう怪異は僕達が大人になる為に、その心を鍛えてくれた奴ら。

「どこにでも居て、どこにも居ない、それが怪異」

忍野にずっと昔、言われたよ、そう言えば。

「忘れてた」


132 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/10(木) 18:43:03.53 ID:v.rerH2P [14/17]
それからの話

特に変わった事も無く、日々過ごす。

忍野達はたまに遊びに来る、神原と火憐は相変わらずだが、来年は捜査課配属だとか何とか。

千石は、僕が結婚し少しして東京へ行ってしまった。

羽川は相変わらず、世界中を旅している。

勿論、月火も一緒に。

僕は会社で課長を拝命し、車はファミリーカーになった。

そうそう、春先に子供が生まれた。

母子ともに健康で、女の子。

名前はひたぎが決めた。


133 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/10(木) 18:43:57.52 ID:v.rerH2P [15/17]
「ねぇ、あなた。この子の名前はね」

「ん?決めているのかい?」

「うん、産まれて初めて抱いた時に浮かんだわ」

「で、なんて名前なんだい?」

「真宵」

「そうか」

「この子がね、その名にしてほしいって言ったのよ」

「うん、良い名前だよ。その名前が一番素晴らしい。阿良々木真宵、良い響きだよ」

娘はひたぎに似ている。

でも、少しだけあの子の面影がある。

僕は娘が、八九寺の生まれ変わりだと信じている。

そう信じる事が幸せなんだよ、きっと。

これだけは忘れていない、八九寺が僕らに言ったあの言葉を。

「今度生まれ変われるならお二人の様な幸せな所がいいです」

おかえり、真宵。

おわり

134 名前:1です[] 投稿日:2010/06/10(木) 18:48:38.56 ID:v.rerH2P [16/17]
途中、放置になり本当にすみませんでした。
ところどころ、僕と俺を間違えている所は脳内で補完してください。
今読み返したら、稚拙な文で、話も飛躍していますが、
私的な化物語の終点はこうであったらいいなって思いで書きつづりました。

もうこれ以上ネタも出てこないし、来週からまた中国に長期出張だし、
毎晩虫のお化けが部屋に出てくるので、怪異がらみはこの辺にしておきます。

御静聴ありがとうございました。

140 名前:1です[saga] 投稿日:2010/06/10(木) 23:11:34.92 ID:v.rerH2P [17/17]
補足

入試の時点で八九寺は消えているんですが、結婚式のキーマンとして出すにあたり
どのような形で復活させようか、一番考えるポイントだったのですが・・・

・実は恥ずかしくて消えただけ
・違う霊に昇格した

なんですが、消えただけでは忍野が「送れた」というのも変なので、何か違う霊に仕立てるつもりでしたが
霊って案外種類が少なく、怪異以外で地縛霊や浮遊霊を除くと、背後霊・守護霊・指導霊・動物霊・因縁霊ぐらいしか
なかったので、煮詰まってました。
結局、恥ずかしくて消えただけという設定(忍野は見ていないから)にして話を進めたんですが、その一番大事な件を書くのを忘れていました。
ですので、「あれ?昇天しただろ?」って疑問を持った方は、適当に補完お願いします。

「だって、阿良々木さんに抱きつかれて恥ずかしくって、消えて逃げました!テヘ」でも追加宜しくです。

続きは・・・
無い事も無いけど、黒い、黒すぎw
書くのを躊躇したというか、ENDが見つからない
何かお題いただけたら、エロでもラブでも書きますので、お時間と合わせてくださいな。

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