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ホロ「ぬしよ」4
593 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:34:27.55 ID:Oi/WqGU0 [2/19]
それからの日々は淡々と過ぎていった。
ユウは言葉通り催促する様子もなく、ホロはホロでこの生活にかなり浸っているように見えた。
最も、胸中で考えていることはひとつだっただろうが。
俺はというと、さすがに居候を続けるわけにはいかず、
ユウの父親が経営しているという商会の手伝いに勤しんでいた。
ユウ「ロレンスさんならすぐに慣れますよ。それに、この世界のこと、商人としても知りたいでしょう?」
確かにその言葉通り、雑務ではあったが、得る知識は書物に書いてあることや、ネットに書いてあるそれとは比較にならなかった。
ホロ「ぬしよ、このままあやつの元で働いてはどうかや?それこそか弱い羊のようにの」
寝るときに恨み節とも取れるような言葉をかける狼。
それからの日々は淡々と過ぎていった。
ユウは言葉通り催促する様子もなく、ホロはホロでこの生活にかなり浸っているように見えた。
最も、胸中で考えていることはひとつだっただろうが。
俺はというと、さすがに居候を続けるわけにはいかず、
ユウの父親が経営しているという商会の手伝いに勤しんでいた。
ユウ「ロレンスさんならすぐに慣れますよ。それに、この世界のこと、商人としても知りたいでしょう?」
確かにその言葉通り、雑務ではあったが、得る知識は書物に書いてあることや、ネットに書いてあるそれとは比較にならなかった。
ホロ「ぬしよ、このままあやつの元で働いてはどうかや?それこそか弱い羊のようにの」
寝るときに恨み節とも取れるような言葉をかける狼。
594 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:35:05.63 ID:Oi/WqGU0 [3/19]
おそらくきっかけがなかったんだろう。
神を生み出すという試み。
現状では俺らもユウも次の一手を出し惜しんでいる。
かといって期限があるわけでもない。この点においては、情勢は拮抗していると言えた。
ロレンス「そもそも商売ではない、か」
神を営むにも金はいるが、常識とは少しずれた範囲でのことだ。
ホロに関しても、いまだ結論は出せずにいる。
595 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:36:35.87 ID:Oi/WqGU0 [4/19]
ある日、仕事も落ち着いた俺は町の探索に出かけることにした。
ホロ「んむ、では気をつけての」
布団から出てくる様子はない。
前日にはユウの紹介でとある酒場で朝まで過ごしていたから、その名残だろう。
ロレンス「また二日酔いか。この状況で最も堕落しているのは誰だ?毎日毎日、飲んでは遊びの繰り返しだろう?少しは脳みそを使ってみたらどうなんだ」
ホロ「ふん、じゃからわっちだって頭を痛めておる。実に悩ましい。ゆえに頭が痛い。かようにの」
ロレンス「楽な商売だよ、まったく」
596 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:37:23.98 ID:Oi/WqGU0 [5/19]
とはいえ、たいていのことは身についている。
時代は変われど、人の関心はなかなか変わらぬらしい。
一通り街を回った俺は、ゲームセンターに足を運んでいた。
以前ユウに教えてもらった、麻雀とかいうゲームである。
これが中々にして奥が深く、商売の駆け引きと似ている面もあり、ユウやホロと一緒に朝まで興じたこともあった。
ロレンス「まったく、何をしてるんだかな……」
頭では件の話について、考えなくてはならないことは分かっているのだが、どうにも考えがまとまらない。
ホロは神にはなれないが、標は示したいと言う。
ユウはユウで、金儲けではなく、下を向いてしか歩けぬ人間に、上を向かせたいと言った。
では俺は?ここでいつも詰まってしまう。
597 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:37:59.17 ID:Oi/WqGU0 [6/19]
声「リーチ」
ロレンス「え……」
突然後ろから話しかけられて、声が上ずった。
ぼーっとしていたのでつい牌を切りそうになっていた。
声「聞こえないのか? リーチ」
ロレンス「あ」
声「安くて堅い手だな。まるでサラリーマンだ」
礼を言おうと振り向いたその瞬間、言葉を失った。
声「?」
ロレンス「…!」
598 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:39:02.77 ID:Oi/WqGU0 [7/19]
その人物は、見覚えがあるという表現ではぬぐいきれない、説得力のある存在感を放っていた。
かつての傷はもうふさがっていたが、それでいても顔がうずく。
旅の途中で出会い、時には敵、時には同士だった、とある狐目の没落貴族にあまりにも似ていたから。
狐目「失礼、どこかで?」
ロレンス「い、いや…」
おそらく女性。無愛想だが、反面おしゃべり。
守銭奴な一方で品があり、それでいて狡猾な、俺が知るもう一匹の狼。
狐目「ずいぶん警戒した目つきだな。ここ最近でそれをオレに向けてきたやつは少ない」
ロレンス「……どうしてここに」
狐目「? 大丈夫か、あんた?」
599 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:40:12.35 ID:Oi/WqGU0 [8/19]
ロレンス「…これも夢にしては趣味が悪すぎる」
狐目「おいおい、外人がゲーセンで麻雀なんざ珍しいと思って声をかけてみたら、ただの電波野郎か?だったら、オレは話しかける相手を間違えたみたいだ」
あきれたような視線。ため息をつきながら隣のテーブルに座る。
しかしよくよく見てみれば、記憶にある没落貴族とは違い、瞳の色はこの国の住民と同じ黒色で、金色の髪は染め上げられたもののようだった。
服装は俺と同じスーツで、色は漆黒。
ロレンス「し、失礼」
狐目「ふ、日本語うまいな。何してる人だ?」
ロレンス「……何も」
狐目「なんだ、プータローか。その割には立派なスーツ着てるじゃねえか」
600 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:41:00.13 ID:Oi/WqGU0 [9/19]
ロレンス「あなたは?」
狐目「オレか? …そうだな、あんたと似たようなもんだが、一応仕事はある」
そういって頬杖をつきながら、煙草を取り出す。
狐目「吸うか?」
ロレンス「いや、結構です」
狐目「すすめられたもんはとりあえず受け取っておくんもんだぜ。後悔するのは損をしてからでいい」
その物言いと芝居がかった立ち振る舞いも、まさに生き写しのようだ。
601 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:42:01.37 ID:Oi/WqGU0 [10/19]
ロレンス「すいません、女性からすすめられることは滅多にないので、慣れてないんです」
狐目「……」
雰囲気が変わる。
狐目「どこで気づいた? オレがそう言ったか?…そんな言葉、男物のスーツを着ているのが馬鹿みたいじゃないか」
ロレンス「昔、似たようなやり取りをしたことがありまして」
狐目「へえ、慧眼だな。ここ最近は男で通っていた、女扱いされるのは嫌いでね」
煙草が妙に似合う。この頃には頭が落ち着きを取り戻していた。
ロレンス「そして、容姿を褒められるのも好きではない?」
狐目「……何者だ、あんた」
602 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:44:43.91 ID:Oi/WqGU0 [11/19]
ロレンス「さもないかまかけですよ」
狐目「だとしたら妙に的をしぼったそれだ。いよいよ話しかける相手を間違えたか」
ロレンス「それを言うなら、私に話しかけたあなたも、相当のかまかけだと思いますが?」
狐目「別に大した理由なんてない。下手な打ち方してそうだったから声をかけたんだよ。だが同時に、ものの数分で縁を感じるのも久しぶりだ。オレの勘も鈍っちゃあいない」
これは直感で嘘だとわかる。そして、嘘がばれることを理解した上での発言だということも。
ロレンス「名前を伺っても?」
狐目「マリエ。とはいっても、商売上は別の名を名乗る。こういう身分だ、マリエなんて格好つかないだろう? あんたは…」
ロレンス「クラフト・ロレンスです」
603 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:45:28.48 ID:Oi/WqGU0 [12/19]
記憶にある光景と違わず、差し出した手はしっかりと握られた。
マリエ「名前は向こうのなんだな。どこから来た?」
ロレンス「遠いところですよ」
マリエ「は、なかなか胡散臭い。オレも人のことは言えないが。長いのか」
ロレンス「いえ、ついこの間からです。つれと一緒にこの国に放り出されましてね。今は養われの身ですよ」
マリエ「ありがちな与太話、というわけではなさそうだ」
マリエは足を組み、煙草をくゆらせて横目で俺を見る。
品定めするような目つきだった。
マリエ「退屈なんだ。付き合ってくれるか、異邦人ロレンス」
ロレンス「…多少なら」
マリエ「そう警戒するなよ。ビジネスじゃあ、ない」
604 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:47:53.10 ID:Oi/WqGU0 [13/19]
ロレンス「私がかつて出会った商人も同じ台詞を吐きましたよ」
マリエ「へえ、儲かったのか」
ロレンス「いえ、だまされました。顔に一発、きついのを食らった上でね」
瓜二つの人物の前で言うには、少々勇気がいった。
マリエ「ふふ、で? 今度もだまされそうか?」
ロレンス「どうでしょう。少なくとも、警戒しておいて損はない。あなたによく似ている人物でしたから」
マリエ「逆に言えば、十分に警戒しているなら、話を聞くぶんには何の危険もない」
ロレンス「仰る通りです」
マリエ「ここは身の上話をするには騒がしすぎるな。来いよ、上等な酒がある。夜が更けるまでなら、やぶさかじゃないぜ」
ロレンス「……」
マリエ「どのみち、この街に住んでいるならオレとは話をすることになる」
これはホロの耳がなくても、嘘ではないように聞こえた。
そして何より、マリエの発言にはかつての女商人のように、不思議な説得力があった。
605 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:49:03.18 ID:Oi/WqGU0 [14/19]
マリエ「オレの店だ。適当に飲んでくれ」
ロレンス「ありがとうございます」
通された酒場。
客は俺たち以外にはほとんど誰もいない。
その割りに店の設備は整っていて、金の巡りもよさそうだった。
マリエ「『思ったよりマトモな店だ。こいつは何を思って俺を連れてきた。そもそも出会ってからここに来るまでが唐突すぎる。何か裏があるんじゃないか』」
ロレンス「……」
マリエ「あんたも立派な仮面を持っているみたいだが、そいつを外してやるのがオレらの商売だ。見くびってもらっちゃ困るな。…水割りでいいか」
ロレンス「ええ。大分儲かってらっしゃるみたいですね。これだけの設備、整えているだけでも立派だ」
マリエ「……」
ロレンス「何か?」
マリエ「いや。国には、…マフィアとか、そういうのはいなかったのか」
ロレンス「マフィア?」
マリエ「…ふ、いいさ。話し相手はオレと対等でいてくれなきゃ困る」
606 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:49:54.93 ID:Oi/WqGU0 [15/19]
マリエ「オレの商売は一言でいうならなんでも屋だ。金が手に入るなら大抵の場合、手段は問わない。ヤクザ、暴力団、任侠……上の連中は肩書きにこだわるが、まあオレにとっちゃあそんなものどうでもいい。
親父がそこの幹部でな。物心つく頃には店を任されていた。
商売をする上でのルールはあるが、ルールを守る限り、どんな方法でもオレたちは儲けを出すことができる」
ロレンス「後半部分については、おおむね同感ですね」
出された水割りで軽く乾杯をした。
マリエ「は、普通こういう場所に来たら少しは下手に出るもんだぜ。
どれくらいの修羅場をくぐってきたらあんたみたいなのが生まれるんだ」
ロレンス「私がいた国では修羅場をくぐらずに生きていく方が難しかったんですよ」
607 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:50:32.74 ID:Oi/WqGU0 [16/19]
マリエ「どうしてあんたに声をかけたか、だが」
ロレンス「やっぱりかまかけ、でしたか?」
マリエ「いや違う。そもそもカタギに声をかけるなんざ、よっぽどのことでもないとしない。…あんた、養ってもらってると言ったな」
ロレンス「ええ」
マリエ「街で最近、よく見かけていてな。あんたが企業の御曹司と一緒に歩くところを」
ロレンス「……」
マリエ「ま、大方察しはつくと思うが」
ロレンス「…安い台詞ですね。仮に商談だとしてももう少しやり方がある」
俺の言葉と同時に、突然隣のテーブルに座っていた男たちが俺の周りを囲んだ。
威圧感のある視線を俺に向けてくる。
608 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:51:48.62 ID:Oi/WqGU0 [17/19]
マリエ「誰が集まれと言った」
かと思えば次の瞬間、マリエは無言で酒瓶を持つと、その中の一人の顔面にたたきつけた。
騒音とともに男の顔はたちまち血まみれになり、その場に倒れた。
たちまち従業員らしき男たちに運ばれていく。
周りをかこんでいた男たちの顔からは反対に血の気がひいていくのが分かった。
マリエ「手間かけさせるな」
男たちはやはり無言で店の奥に消えていった。
ロレンス「…なるほど、こういうやり方もあるんですね」
マリエ「ほう」
ロレンス「あらかじめ配置しておいた部下を客にあてがって、その上でその部下を圧倒する暴力を見せつけ、自身は平然を装う。これなら確かに、私が取れる方法はあなたの話を紳士的に聞くほかない」
マリエ「そこまで考えちゃいないさ。が、あんたに話を聞いてほしいってのは本当だ。まあ悪く思うな。『オレらの国』の慣わしみたいなもんだ」
609 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:52:37.12 ID:Oi/WqGU0 [18/19]
マリエ「それとな、あんたの身の上も色々聞きたい」
ロレンス「なんとも」
マリエ「ロレンスさん、そりゃ隠せないぜ。手荒なことをするつもりはないし、『今日は』本当に退屈しのぎだ。たまたま、あんたが関わっていることと、オレが関わっていることが重なっただけ。まだあんたから利益を引き出せるかも、オレが差し出せるかもわかってない、だろう?」
ロレンス「商売なんてものは、退屈しのぎのようなものだと、師匠から教わったことがありましてね」
マリエ「それを言ったら人生だって似たようなもんだ。安心しろよ、悪いようにはしないさ」
マリエはそう言うと、持っていたグラスを鳴らす。
長い夜の始まりの合図だった。
621 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 21:18:41.43 ID:WfTBaLg0 [1/26]
マリエ「神を造る?」
ロレンス「ええ」
マリエは気のぬけたような返事をしていた。
酒も大方廻る時間帯。
今頃ホロは何をしているのだろう。
近頃は読書にも勤しんでいるようで、あれ以来親身に話したことはない。
ロレンス「世に蔓延る有象無象の宗教ではなく、
この国の人間にもう一度天を仰がせるためのそれを。
ただし仰がせることが目的ではなく」
マリエ「待った。それ以上は結構だ。
まったく、宗教屋はどいつも同じような台詞を吐く」
ロレンス「……」
622 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 21:19:14.35 ID:WfTBaLg0 [2/26]
マリエ「オレのとこにもたまに来るんだ。
中古品の神様を売りつけに来る輩は後をたたなくてな。
…なんのことはない、ただの金持ちの享楽か。
これだから向上心のないやつはわからねえ。
真に上を向くべきはそいつらの方だとオレは思うぜ」
ロレンス「…私も、迷ってはいます」
マリエ「まあ金が余ったら慈善運動ってのは、
俗物が往々にして通る道なんだろうな。
金の次は名誉だ。偽善者くさくて反吐が出るが、
益を被る側からしたら偽善も善。あの家の名はうなぎ上りだろうぜ」
ロレンス「果たしてそうでしょうか」
マリエ「ん」
623 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 21:19:58.13 ID:WfTBaLg0 [3/26]
ロレンス「私は商人ですから、信仰とはその商いの範疇になく、
単に利用するための考え、道具です。
しかし、聞けばこの国は過去の神とはすでに決別した国。
一度壊れた信仰を取り戻すには、いささか遅すぎる気がしています」
マリエ「まあ半分は当たりだ」
グラスに注ぐのは燃えるぶどう酒、ブランデーに変わっていた。
マリエ「ちょっと前にあんたたちみたいな輩が沸いて出た時期があってな、
かなりでかくなった組織もあったみたいだが、
どこかでブレーキをかけられなくなって自滅した。
何百年もの歳月、万人に通じる真理を説けるやつなんざ、
そう簡単に生まれちゃこない。そしてその真理もな。
だが、歴史の中でそこにたどり着いた輩もいた。
神は言った、はじめに言葉ありき、だったか?
なるほどたしかに、言葉ありきだ。
言葉によって人は魅了され、金を払い、しまいには命まで差し出す。
最初にあれを考えたやつは歓喜しただろうぜ。
それこそ世紀の大作家だと思わないか?
印税だけで人生30回は遊んで暮らせる」
うまいことを言うなと感心してしまう。
624 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 21:21:04.99 ID:WfTBaLg0 [4/26]
マリエ「科学が発展したから淘汰された、
なんてほざく連中もいるが、俺はそうは思わない。
そもそも科学的に考えるとはそうでないものも含め、
この世界の中からそのエッセンスを抽出することだ。
それは同時に、そうでないものを選別する作業でもある。
科学が人を魅了するのと同じく、
いつだって人は、『そうではないもの』にも惹かれるのさ。
それは何も神や奇跡だけじゃない。
愛だの情だの、現にあんただってそうだろう?
もちろんオレだってそうさ。
…なぜだかわかるか?」
ロレンス「存じかねます」
マリエ「期待しているからだ」
ロレンス「!」
マリエ「オレたちは期待しているんだよ。
誰だって世界は美しくあってほしい。
何に美しさを求めるかどうかは違えど、
この世界は少しでも『善く』あってほしい。
科学には善も悪もないがゆえに、な」
625 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 21:22:29.14 ID:WfTBaLg0 [5/26]
ロレンス「…昔」
マリエ「ん」
ロレンス「どこかで聞いた台詞です」
マリエ「あんたの知り合いか?」
ロレンス「ええ」
マリエ「はは、ならばそいつも相当なロマンチストだ。
詩人にでもなればいい」
自嘲気味に、冗談っぽく言うマリエ。
ロレンス「……彼女はリアリストでした。ですがおそらく、
それゆえに『期待していた』」
マリエ「……」
626 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 21:23:52.48 ID:WfTBaLg0 [6/26]
マリエ「話がそれたが、要するにだ。
確かにこの国の連中は宗教アレルギー持ちの輩が多い。
だが、何かを信じて生きるなんてのは、誰しも無意識にやってることだ。
そういうやつらが次に何を求めるか、わかるだろ」
ロレンス「自分を肯定してくれる根拠」
マリエ「ま、その時点で自己矛盾なんだがな。
そしてカリスマってやつは名前と時代を選ばない。
『そうでないもの』に足る言葉を投げれば、
神じゃなくても魚は釣れるんだよ。
長続きするかは知らないし、よっぽどの傑物でないと無理だろうが。
その意味では不可能ではない、が、難しい商売だ」
果たして賢狼は、マリエが言う傑物に足る存在だろうか。
ロレンス「しかしマリエさんは博識ですね。
商談相手としては強敵だ」
マリエ「謙遜もそこまでいくと厭味だな。
このくらいならあんたでも引き出しから出せるんじゃないか。
『人』にモノ『言』う『者』と書いて、儲ける。
商人は口が廻らねえとな」
ロレンス「ごもっともです」
627 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 21:24:49.27 ID:WfTBaLg0 [7/26]
ロレンス「で? 儲けられそうですか?」
マリエ「どうだかな」
頬杖をつくのが癖のようだ。
マリエ「正直、いまのところは分が悪い」
ロレンス「ほう」
マリエ「あの御曹司の企業はちょっとしたライバルなんだ。
なに、こんなチンケな酒場の話じゃない。
ネタが手に入れば蹴落としてやろうかと思っていたが…」
ロレンス「…?」
マリエ「…あんたを抱えているなら、少々てこずりそうだ」
ロレンス「私はただの居候ですよ」
マリエ「そうか? さっきの話が儲け話につながらないか、
10回は考えてそうな顔してるぜ」
ロレンス「………」
628 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 21:26:12.32 ID:WfTBaLg0 [8/26]
マリエ「はは、気を悪くするなよ。これは商売じゃないんだったな。
だが、商人なら呼吸のようにしてしかるべき行為だ。
どうせオレの商売のことも知ってたんだろう?
聞かせてくれ、あんたの国じゃオレたちみたいなやつのこと、
なんていうんだ?」
ロレンス「……さすがですね」
マリエ「じゃないとオレに情報提供する必要がない。
ヤクザ相手に駆け引きなんざ、恐れいったぜ。
さっきの話は別として、カタギに借りたもんはきっちり返す。
このネタは胸にしまっておく」
ロレンス「ありがとうござい…」
マリエ「だが」
瞬間、その視線はナイフのような切れ味を見せた。
マリエ「それでチャラだ。それ以上もそれ以下もない。
…それとこれは単純に善意で言うんだがな」
マリエ「あんたとはもう会わないことを祈ってる」
無言の圧殺だった。
629 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 21:32:49.86 ID:WfTBaLg0 [9/26]
マリエは実に合理的な商人だった。
それは言葉通り、ルールは存在するが、ルール内ならば自由ということ。
そして、それが鉄則であるがゆえに迷いがない。
俺に対して向けたナイフは、店を出る頃にはすっかり懐にしまいこんでいた。
マリエ「そうだ」
ロレンス「え?」
マリエ「店にだったら、いつでも来てくれ。歓迎する」
ロレンス「あいにく、そこまで太い肝は持ち合わせてませんので」
マリエ「なら、次はたっぷり肝を食わせてやるよ。
食ったことないだろう?」
ロレンス「かないませんね」
630 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 21:36:00.91 ID:WfTBaLg0 [10/26]
マリエ「あんたなら雇ってもいいくらいだぜ、異邦人ロレンス」
ロレンス「その呼び名はよしてください。…『違法』人マリエさん」
マリエ「…やっぱりあんた、太いやつだよ。またな」
ロレンス「………」
狡猾な狼は、これから起きるすべてのことを見通したような目を流した後、
自己矛盾ともとれる発言を残し、扉の奥へと消えていった。
631 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 21:39:11.76 ID:WfTBaLg0 [11/26]
ユウ「遅かったですね」
一日働いていたのか、それとも情報収集か。
ユウの表情はどこか疲れている。
ロレンス「旧友に会ってな。…いや、悪友か」
ユウ「ほう」
ロレンス「お前こそ珍しく遅いじゃないか」
ユウ「二束の草鞋を履くっていうのは、思いのほか骨が折れそうです。
もっともそれくらいのやりがいは感じられないと、火がつきませんが」
ロレンス「……」
632 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 21:53:43.95 ID:WfTBaLg0 [12/26]
ユウ「旧友とは何を話したんですか?」
ロレンス「さもないことだ。おかげで肝が太くなったが」
ユウ「……」
ロレンス「ホロは寝てるのか?」
ユウ「本を読みたいというので、さっきまで文字を教えていました。
ですが、途中からは酒を飲みたいとご所望で」
ロレンス「お前が祭ろうとする神は随分と気まぐれだからな。
集まる奴らの苦悩が伺えるよ」
ユウ「神の試練、とでも言いましょう」
ロレンス「乗り越えても何もなさそうだが」
寝室のドアを開ける。
633 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 21:57:47.65 ID:WfTBaLg0 [13/26]
ホロ「誰が気まぐれじゃ」
随分出来上がっているようだ。
ふくれっつらで酒瓶を持っている。
寝具はまた新しい装いのようだった。
ロレンス「また買ったのか」
ホロ「くふ、つるつるで着心地がよい。
この酒はういすきーと言うそうじゃ。
麦を蒸留したものらしくての、うむ、わっちの口にはよく合う」
634 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 22:07:59.17 ID:WfTBaLg0 [14/26]
ホロ「ほれ、ふりふりじゃふりふり。
小僧が買ってくれての。
やはりよき雄とは色を知っておる。
モノを贈る、これ即ち雄の嗜みじゃな。
わっちゃあかような心遣いに弱いと、いまさら気づいた」
仕切りにベッドの上で動く。
なんというか、苛苛する。
ロレンス「なんて体たらくだ。近いうち、俺からユウには厳しく言っておくからな」
ホロ「ふん、わっちは女神になるかもしれぬのじゃ、これくらい…」
ロレンス「おい」
少し言い方がきつくなってしまった。
ロレンス「冗談でも、そういう言い方はよせ。笑うと思うか?」
ホロ「……なんじゃ、ぬしだって」
ロレンス「え?」
ホロ「ぬしよ!」
ぎくりと嫌な予感が音をたてる。
635 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 22:10:42.06 ID:WfTBaLg0 [15/26]
ホロ「わっちの前で包み隠さず、今日自分がしてきたことをいえるかや?」
ロレンス「は? た、探索だよ」
ホロ「耳と尻尾は失ってもわっちは賢狼じゃ!ヨイツの賢狼ホロじゃ!」
なんだかよくない酔い方をしているような気もする。
だが俺としてもやましいことはしていない。
やましく思ってしまうのは、ホロがやましいと思うだろうと俺が感じるからで…あれ?
ロレンス「…特に、責められるいわれはない」
ホロ「ほう? それはなんでじゃ」
ロレンス「なんでって…。単純に、情報を探っているうちに人に出会った。話の流れで、酒を奢ってもらっただけだ。
お前に対してどうということはないだろう」
ホロ「ならわっちもじゃ」
ロレンス「え?」
636 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 22:16:02.89 ID:WfTBaLg0 [16/26]
ホロ「本を読もうとしておったら、たまたま小僧に会った。
話の流れで酒と服を奢ってもらっただけじゃ」
ロレンス「……お前な。子供じゃないんだから…」
ホロ「ふん」
マリエがいう、『そうでないもの』とは、こんなやり取りも含まれているのだろうか。
確かにこれは、おいそれと淘汰されてほしくはない。
ロレンス「……決心はついたのか」
ホロ「……」
無言で首を振る。
637 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 22:21:50.11 ID:WfTBaLg0 [17/26]
ロレンス「本当に、お前らしくないといえばらしくないな。
さしもの賢狼も、こればかりは頭を抱える難題か?」
ホロ「ふん、知ったようなことを言うでない」
そういいつつも、気づけば賢狼はベッドを一人分あけている。
そばに来いってことだろうか。
こんなことをするのは、もしかして、尻尾がないから?
ロレンス「不便だな」
ホロ「たわけ」
638 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 22:26:17.53 ID:WfTBaLg0 [18/26]
ロレンス「俺がいるじゃないか」
気づけば、口走っていた。
ホロ「ぬしは頼りにならぬ」
ロレンス「なぜ?」
ホロ「…肩くらい抱けんのかや」
ロレンス「お前、自分で雰囲気壊してる節ないか」
ホロ「ぬしがつけあがるからの」
大分酔っているようで、寄せた肩にうずくまるように頭を貸してくる。
639 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 22:30:13.59 ID:WfTBaLg0 [19/26]
ホロ「それに他の雌の匂いを消しておかねばの」
ロレンス「……耳と尻尾は失っても、か。適わないよ」
ホロ「良き雌じゃったかや?」
ロレンス「どうだろうな。何をもって良いと……」
ふと、長い間考えていたことが固まる気配がした。
ロレンス「なあ、ホロ」
ホロ「うん?」
ロレンス「その……この国に神を造るということは、正しいことなのか」
ホロ「………」
640 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 22:45:51.90 ID:WfTBaLg0 [20/26]
ロレンス「お前は標になってもいいかもしれないと説く。
ユウはユウで、上を向かせて歩かせたいと説いた。
ならば俺は?ここでいつも考えが止まっていた」
ホロ「……」
ロレンス「そうこうするうち、俺が出会った商人はこう説いた。
人は世界に、『美しく』あってほしい。それを期待していると。
……これが商売でないなら、いや、そうだとしても根底にあるのは倫理、だろう?」
ホロ「…そうじゃな」
ロレンス「お前ほどの英知があれば、彼らの期待にこたえられるかもしれない。
だが、自前のものさしを使ってそこに入り込むというなら、
その倫理は、真に正しき倫理といえるのか?
お前自身が、お前に対して、それが真理だと言い切れるのか?
俺は、この行為が間違っているとはいえない。
だが、正しいともきっと言えない」
ホロ「ぬしは」
ロレンス「うん?」
ホロ「変なところで優しいから、困るんじゃ」
641 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 22:58:41.04 ID:WfTBaLg0 [21/26]
ロレンス「……」
ホロ「なぜならぬしは、わっちが、いや、
おそらく神ですらその問いに答えられぬことを知っておる」
ホロはヨイツの賢狼だ。
ホロ「理屈というのは便利なもんじゃ。
世界の有様を正しく語る術、理屈で世界はここまで栄えた」
おそらく俺などでは及ばないくらいの期間、
自問自答を繰り返してきたんだろう。
ホロ「ときとしてこの世のすべてを理屈で語ろうとする輩もおる。
方便というのは正しき道に導くためのものじゃが、
ならばその正しき道とはなんじゃ?
うん、これは立場によって変わる。それも世界の有様じゃ」
642 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 23:09:42.16 ID:WfTBaLg0 [22/26]
ホロ「しかし崇められたわっちは立場を変えたりはできぬ。
わっちは常に正しいことを示す義務があるんじゃ。
そして、そうなったそれは世界の有様ではない。
虚構じゃ。幻想じゃ。まやかしじゃ」
ホロ「わっちらは世界について、
そこにあることならば確かにあるということができる。
しかしわっちらがそこにないことについて語ったとき、
いや、語ろうとしたとき、これはなんじゃ?
わっちは、暴力じゃと思う。
何に対してかは分からぬし、それはこれから生まれるのかもしれぬ。
が、これは暴力じゃ。
…まあ、ぬしが考えるように確かに自責に駆られるやもしれんの」
ロレンス「だが、お前がいう、『そこにないもの』について語る暴力、
はことごとく無意味ではない。
俺とお前の間にもそれはきっとある」
ホロ「………」
643 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 23:32:29.31 ID:WfTBaLg0 [23/26]
ロレンス「少なくとも、
俺はそういった試みを否定できる立場にいない。
お前もだろう?」
ホロの頭をなでようとして、ぎょっとした。
ホロは泣いていた。
ホロ「…馬鹿になど決してせぬ。
きっとそれは美しいんじゃろう。
人が見たこともないくらい、輝いておるんじゃろう。
そう思わずにはいられぬ。
そうして今のわっちは、そんな暴力にこれ以上ないほど感化されておる。
なぜかや? それは過去が邪魔をするからじゃ。
ぬしがいれば怖くはないというのに、
過去がわっちに語り、語らせるんじゃ。
やり直せるなら、と、毎晩語るんじゃ。
同時に、パスロエ村の奴らが、
わっちを指差して笑う。
阿呆じゃと。学びもせず、間抜けな狼じゃと。
わっちは馬鹿じゃ。愚かな狼じゃ…」
酒が入って感極まったのか、最後の方は聞き取れない。
孤独が怖いなんてのは、方便だった。
ホロも十分に俺のことを信用してくれている。
その先に見たのは、賢狼の誇りが、簡単に崩れる様。
心優しい狼は、かつての麦の村に、砂をかけて出て行ったつもりが、今でもその傷は癒えていなかった。
…いや、癒えたはずのものがまた現れた。
ロレンス「もうよせ」
644 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 23:50:04.41 ID:WfTBaLg0 [24/26]
同時に、俺は自分の言葉がホロにとって、
どれだけ軽率に投げつけられたものかを理解し、深く後悔した。
何も言わずに、引き止めればよかった。
最初から答えなどないことは分かっていたのだ。
言葉にしたから。
このときほど俺たちの時代の神を皮肉に感じたことはない。
ホロ「……すまぬ」
ロレンス「いや、いいんだ」
胸に顔をあてるホロの表情はわからない。
645 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 23:51:31.34 ID:WfTBaLg0 [25/26]
ホロ「………ぬしよ」
ロレンス「ん?」
ホロ「ぐす、わっちゃぁ愚かな狼じゃから……」
ロレンス「………しってるよ」
ホロ「……しばし、忘れてしまいたい」
ロレンス「…………ああ」
言葉と同時に、麦の神の手元から離れたウイスキーは床に落ち、
その晩、二度と拾われることはなかった。
655 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/23(金) 21:16:36.83 ID:UOy6l1s0 [1/8]
ロレンス「なあ」
ホロ「んぅ…なんじゃ、まだ足りぬかや?」
眠りかけていたのか、目は閉じたまま狼は言った。
ロレンス「っ、本当に口の減らない…っ」
ホロ「ぬしが照れてどうするんじゃ」
言いながら、体はしっかりと寄せられていた。
ホロ「雄は先行してこそじゃろうが」
ロレンス「こういうのは専門外だからな」
ホロ「ぬしも商人ならば、何事においても門外漢にはならぬようにの。
ま、その割には盛っておったが、くふ」
とたんに顔が赤くなるのを自分でも感じた。
656 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/23(金) 21:20:10.55 ID:UOy6l1s0 [2/8]
ホロ「本当にぬしはかわいい男の子じゃの。
それこそ食べてしまいたいくらいに、の」
ロレンス「耳と尻尾はないんだ、この夢の中じゃそんな無茶はできないだろ」
ホロ「たしかにのう。もっとも、食べられたのはわっちの方かや?」
ロレンス「ぐ……」
ホロ「しかし、それなりによかった」
ロレンス「え?」
ホロ「よかったといっておる」
ロレンス「……?」
ホロ「……却下じゃ。まったく無粋な男で苦労しんす」
ロレンス「…………?」
657 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/23(金) 21:22:10.59 ID:UOy6l1s0 [3/8]
ロレンス「お前のほうこそ、その、手馴れてたじゃないか」
ホロ「…気になる?」
ふぅっ、と吐息が音をたてる。
ロレンス「ならないといえば嘘になる」
ホロ「ほう、手馴れてるとわかるほどの手練かや?ぬしが?」
今度ははっきりと目を開いた。
ホロ「ならば言ってもらおうかの?『誰と比べて』じゃ?例の娼婦の館とやらかや?どうなんじゃ?」
ロレンス「誰と比べるとかじゃない、直感だ」
ホロ「ふん、わっちが何年生きておると思っておる。ぬしのような雄」
ロレンス「?」
ホロ「いかようでも狩れる、と言ったじゃろ?」
いたずらっぽい笑みは変わらずだった。
658 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/23(金) 21:42:55.70 ID:UOy6l1s0 [4/8]
ロレンス「狼の、だな」
ホロ「うん?」
ロレンス「なんというか、その」
ホロ「くふ、いちいち照れずともよい。わっちらもぬしらと一緒じゃ」
ロレンス「そうなのか?」
ホロ「うん。そうじゃの、しかしやはり夜伽といえば冬じゃ。温まるしの」
ロレンス「う、む」
風情も理解しているだろうが、どうも狼の会話は直接的になる節がある。
ホロ「じゃが、こうしておるのも心地よい。
わっちらは体を合わせて意志を通わすからの」
ロレンス「……」
659 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/23(金) 21:44:37.30 ID:UOy6l1s0 [5/8]
くそ、トトロ面白すぎる畜生
661 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/23(金) 22:49:33.51 ID:UOy6l1s0 [6/8]
ホロ「ぬし」
ロレンス「ん」
ホロ「それなりに、特別じゃからな」
ロレンス「わかってるよ」
ホロ「じゃが、うむ、調子にのるでないぞ」
ロレンス「さっきまでのお前で言える言葉か」
ホロ「たわけ」
662 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/23(金) 22:56:25.55 ID:UOy6l1s0 [7/8]
考えるにユウが動き出したのはその翌日だった。
朝起きるとホロはすでに寝屋から抜けていて、
なんとも形容しがたい俺の身体がそこに残っていた。
ユウが部屋に入るなり俺を見て目を丸くしていたのと、
ホロがそれを横目で見ながら薄笑いしていた光景はほぼ同時に記憶に残っている。
ホロ「小僧、我が主様はときと場合で羊と狼と使い分ける」
ユウ「は、はい…」
ホロ「主様はかような醜態、さらすまいな?
くふ、雄はいつだって間抜けじゃ、捕まえたら満足しんす」
賢狼の脳みそはいまだ健在だ。
667 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/24(土) 22:46:08.49 ID:wDX7VuI0 [1/12]
ホロ「それで、じゃの」
着替えを俺に投げてから、ホロはゆっくりと口を開いた。
ホロ「例の話、わっちは引き受けることにした」
ユウ「ほう」
ロレンス「ホロ…?」
ホロ「少々、思うことがあった。その結果じゃ」
横目で俺を見る。
何を思って、なのだろう。
しかし止めようにも、俺が出すべき言葉は昨日投げつくしてしまっていた。
668 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/24(土) 22:47:04.96 ID:wDX7VuI0 [2/12]
ロレンス「本当に、いいのか」
かろうじて出てきたセリフがこれだ。
ホロ「構わぬ」
ロレンス「………」
ホロ「この時代の書物もそれなりに読んだ。色々と文化も分かったしの。
わっちにできることなら、なんでもしんす」
ユウ「うれしい限りです。こちらの方でも準備は整っています。
あとは……うん、あなたが壇上に上がっていただければ」
相変わらずの純粋な笑顔だ。
ロレンス「買い付けは終わったのか?」
ユウ「ええ。資金面でも苦労しましたが、あとはどうやって人を集めるかです。
しかし、これが中々難しい」
669 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/24(土) 22:48:09.12 ID:wDX7VuI0 [3/12]
ロレンス「宗教に対してのイメージか」
ユウ「もちろん人によります。マスコミの話をしましたね?」
ロレンス「大きな情報屋みたいなものだろ」
ユウ「そう言い方を変えると妙な響きがありますね。
ですが、ええ、確かにそうです。
一度広がった悪い情報を中和するのは容易なことではありません」
ロレンス「それはいつの時代も同じなんだな」
ユウ「そう。流布された悪評は一人歩きする。これをどう打開するか。
知恵を貸してもらえますか?」
ロレンス「………」
それまで考えていたことをとっさに頭の中でまとめる。
670 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/24(土) 22:50:50.52 ID:wDX7VuI0 [4/12]
ロレンス「宗教、とは」
ユウ「?」
ロレンス「語りえないものについての挑戦であり、暴力だ。暴力とは即ち、
強制力を伴ったそれを言い、人はその力には抗えない」
ユウ「ほう」
ロレンス「だがそこに挑戦してしまうのも、俺たち人間の性なんだろうな。
いくつかのルールを守るならば、協力しよう。
ホロの意志もある。俺だって強制はできない。
――まず、他の宗教を否定するようなことはしないこと。
営利目的に走らないこと。人格は尊重すること」
ユウ「文言が抽象的、それでいて曖昧かつ多面的に読めますね。立法の基本ですが」
ロレンス「言葉それ自体が毒にでもナイフにでもなりうるんだ。甘いくらいだろう。
それに暴力は嫌でも敵を生み出す可能性がある。
網は広げて敷いておいて損はない」
ユウ「わかりました。いいですよ、それで。もともと慈善運動です。
それによって人が上を向けるならば、安い」
671 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/24(土) 22:51:35.38 ID:wDX7VuI0 [5/12]
ロレンス「安い高いは別の話だ。これは商売じゃない。―――ある種の革命だろう」
ユウ「いよいよ大きく進んできましたね。そうなってくれると嬉しい」
ロレンス「皮算用は商人の十八番だからな。
だが、俺は謀る程度につれの能力を信頼している」
ユウ「同じですよ、ロレンスさん。大いに舞ってもらいましょう」
ホロ「ぬしらよ」
話を静観していた狼は、つぶやくように言った。
ホロ「もうひとつ、追加してほしいことがありんす」
ユウ「何ですか」
672 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/24(土) 22:52:45.32 ID:wDX7VuI0 [6/12]
ホロ「わっちを神にしようが、意志の代弁者にしようが、それは自由じゃ。
じゃが、わっちはわっちが正しいと思ったことしか説かぬ。
それでもよいかや」
ユウ「無論構いません。もともと神という言葉を使うつもりはない。
言葉は便利で、むなしいものです。僕があなたにしてもらいたいのは、
標を示すこと。ちゃちなアイドルやコメンテーターにできないことを、
あなたにしてもらいたいだけです」
ホロ「……うん」
決心がついたのは嘘ではないと思う。
だが、どこかでまだ揺れている、そんなようにも見えた。
673 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/24(土) 22:56:04.06 ID:wDX7VuI0 [7/12]
ロレンス「さて、ではどうやってこの蝶に羽をつけるか、だな」
ユウ「……あの…」
ロレンス「場所と客層だけ絞れば、案外と火はすぐにつきそうなものだが」
ホロ「くふ」
ユウ「………」
ロレンス「どうした、何か変なことを言っているか?」
ホロ「主様、とりあえず服を着てはいかがかや?」
はっと気づいて思考を止めた。
さすがに格好がつかない。
それにしてもホロの含み笑いはいつだって攻撃的だ。
洒落ができるくらいには落ち着いているんだろうが。
674 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/24(土) 23:28:22.81 ID:wDX7VuI0 [8/12]
数分後。
ユウ「さて、つまるところどうやってこの蝶に羽をつけるか、ですが」
ロレンス「布教活動ってやつだな」
ホロ「むう、そういわれると何か歯がゆいの」
ユウ「公然と布教していても誰も振り向いてはくれませんよ。
ただでさえ忙しいんです、客引きですら人を捕まえるのに苦労する。
大抵の人には無視されるでしょうね」
ホロ「そういえば、そんな感じじゃったな、確かに」
ユウ「ではここでクイズです。
新規に市場開拓するとして広告を打つとき、考えられるセオリーとは?」
ここで頭を回した。
ロレンス「客層を定め、その生活観、欲求を洗って需要を調べる。
あとは心に訴える言葉、光景を提示して、それが必要だと思わせる」
ユウ「さすがですね。この時代ではそれをマーケット戦略といいます」
675 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/24(土) 23:35:52.10 ID:wDX7VuI0 [9/12]
ロレンス「知ってるさ。それ専門の商会もあるんだろう?」
ユウ「ありますよ。ここで大事なのは需要は本来的には内在しているが、
顕在化はしていないことが多い。
広告とは、その必要性を説くという行為です」
ロレンス「ふむ」
ユウ「言い方を変えると、必要かどうかわからないものを、必要だと思わせること。
生活する上で絶対的になくてはならないものは、
相対的に見て、ですが、広告するメリットが少ない。
コストと天秤にかけたら、まあ当たり前のことですが。
逆に人生において付加価値的なものについては、広告なしでは世に広まりません。
テレビなんかを見ててもそうでしょう?」
ロレンス「たしかに、それは感じたな」
ユウ「宗教もそれと同じです。ま、どうしても方便的な言い方になりますが」
676 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/24(土) 23:48:24.40 ID:wDX7VuI0 [10/12]
ユウ「さて、これを踏まえて考えると、先ほどロレンスさんが言っていたことはまさに言いえて妙。
場所と客層、つまりターゲットです。これを絞って、ここぞというタイミングで旗をあげる。
われわれの考えに共感するか、心酔するような人間について」
ホロ「言うのは簡単じゃが、果たしてそんな都合よく存在するものかの、かような人間。
忙しいと言っておったじゃろう?」
ユウ「忙しいということが人生の満足度に比例していないことは、この国の自殺率を見ればわかります。
ゆえに余暇をどう楽しむかも変わってくる。市場はそこにできあがり、独自の文化を形成する。
多くは人生に足りていないものを補うべく集まります。つまりターゲットにする人間は」
ロレンス「余暇の使い方に没頭している人間」
ユウ「まさしく。さて、そろそろ出かけましょうか。
ロレンスさん、今この国で一大産業となりつつある分野、ご存知ですか?」
677 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/24(土) 23:49:41.00 ID:wDX7VuI0 [11/12]
ロレンス「……?」
ユウ「少し電車に揺られましょう。ホロさん、制服ではなく、以前着ていた服装に着替えてください」
どうも話が見えてこない。
ホロ「ぬしよ、一体どこに向かいんす?」
ユウは立ち上がると、見慣れぬ雑誌を取り出した。
ユウ「娯楽はついに必要に勝りました。
これは歴史的なことです。おそらく、僕の考えが正しければ日本でしか成功しえないことだった」
パラパラとめくった雑誌をたたみ、俺に渡してきた。
ユウ「向かう先はもちろん、秋葉原です」
679 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/25(日) 00:08:41.58 ID:7ZZqmg20 [1/19]
ロレンス「なるほどな」
ついたその先で確信した。
娯楽、といっていたのはこのことか。
ロレンス「いつ思いついたんだ?」
ユウ「ホロさんを最初に見たときにイメージはありました。
ここ最近はそれを具体化するための手段として、色々調べまわっていたんです」
ホロ「しかしすごい光景じゃの」
ユウ「文化自体は一般的に認知されてはいましたが、排斥されがちでして。
ここ最近はわりとイメージが変わってきていますね」
ホロ「それで?わっちはここで何をすればいいんじゃ?」
ユウ「何も」
ホロ「は?」
680 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/25(日) 00:12:33.70 ID:7ZZqmg20 [2/19]
ユウ「ホロさんはまだ何もしなくていいです。
とりあえずは人を集めるにはイベントが必要ですよね。
僕がスポンサーになって、ちょっとした宴会をここで毎週開きます。
そのときに、中心にいて、座っていてくれるだけでいい」
ホロ「……?そんなので、その、人は上を向けるようになるのかや?」
ユウ「ホロさんは自分の容姿について謙遜してらっしゃる?」
むっとした顔をするところを見ていると、これから先が思いやられる。
宗教の代表などと、笑ってしまう。
ホロ「馬鹿にするでない」
ユウ「いえ、褒めてるんですよ。つまりですね」
681 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/25(日) 00:18:12.73 ID:7ZZqmg20 [3/19]
ユウ「ホロさんほどの容姿と見識があれば、機会さえ設ければ人は集まります。
合わさってその服装。他とないここ秋葉原なら、おそらく」
ロレンス「最初は客寄せ、からか」
ユウ「ええ。逸材と需要、文化を認知していればプロモーションは粉一振りで十分です。
ホロさんの人気が時期を経て過熱したところで、本でも出しましょう」
ロレンス「なんだか、ずいぶん計画がラフな気がするぞ」
ユウ「大雑把に言っただけです。細かい活動については追々すすめます。
さらにこの土地に住む人々は往々にして、インターネットとの親和性が高い。
僕の専門はIT事業です。やり方はいくらでもある」
ホロ「うーむ、しかしなんというか、拍子抜けしてしまいんす」
682 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/25(日) 00:21:12.50 ID:7ZZqmg20 [4/19]
ユウ「ロレンスさんには足を使ってもらいますよ。行商人、ですからね」
意地悪く笑うが、その笑顔に悪意はない。
ユウの特許だ。
ロレンス「構わないが、果たしてうまくいくものか」
ユウ「それは信頼してもらいましょう」
ユウはどこか遠くを見つめる。
どうにも計画性に乏しく思えるが、ふと気づくと周りにはすでにちょっとした人だかりができていた。
皆一様にしてホロを見ている。
服装と、容姿、ねえ。
683 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/25(日) 00:27:30.84 ID:7ZZqmg20 [5/19]
ユウ「銀貨2000枚でしたっけ?」
ロレンス「ん」
ユウ「以前、ホロさんにつけられた値段」
ロレンス「ああ……」
ユウ「現在の価格にして約2000万。
おそらくやり方によってはさらに跳ね上がる。
価値を左右するのは需要である限り、プロモーションは商業の要」
ホロ「まるで商品じゃな」
ユウ「市場価値に換算しただけです。売りはしませんよ。決してね」
ロレンス「……」
684 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/25(日) 00:48:06.85 ID:7ZZqmg20 [6/19]
それから三月ほど経った。
軌道にのるまでが難しい、とは商売人の弁。
しかし乗ってしまったものからは中々降りられないともいう。
ユウは俺が知る限り、有能な経営者の一人だった。
もちろん、資本に裏打ちされてはいたが、それでもどこの馬の骨かも分からない俺やホロを巻き込み、
それでいてしっかりとホロをプロモーションできている。
ロレンス「しかし、早かったな」
ユウ「思ったよりは、ですね」
宴会を開いて十数回、いまやホロはかの土地で確固たる地位を築いていた。
ロレンス「やはり逸材だと思うか?」
ユウ「間違いなく。芸能界でも通用したと思いますよ。
たいていのタレントなんていうのは、中身のない商品です。
ホロさんは才色兼備、知恵も有り余っている。
だが、ここで終わってしまってはただのアイドルです。
これからじっくりと時間をかけて信仰を広めていく」
685 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/25(日) 00:53:41.33 ID:7ZZqmg20 [7/19]
ロレンス「それも並大抵のやり方ではいかないと思うが」
ユウ「大事なのはタイミングです。そしてこれから必要になるのは、
商売にたとえるなら競合との差別化、ですね」
ロレンス「その手腕を持っていて、神を造り出すとはなんとも商売人泣かせなことだ」
ユウ「いずれはこちらを本業にします。もっとも、営利目的にはせず、ですが。
事業で成功したお金をつかえば、僕の人生はとっくにゴールまでたどりつけている。
親はなかなか納得してくれませんけどね」
ロレンス「俺たち商人はゴールを目指すことそのものに価値を見出す節があるからな。
その先に」
ユウ「……?」
ロレンス「期待、してな」
マリエの顔が頭に浮かんだ。
686 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/25(日) 00:57:07.34 ID:7ZZqmg20 [8/19]
ロレンス「さて、俺は酒を買っていく。家に待つ神様がご所望だからな」
ユウ「貢物はいつの時代も、宗教とは切り離せません」
軽く笑いながら言った。
ロレンス「お前はどうするんだ?」
ユウ「先に戻ってますよ。これからの計画を今日中にまとめたいですし」
ロレンス「ホロに何かせがまれても、甘やかさないでくれよ」
ユウ「それはどうでしょうね」
苦笑はお互いだった。
687 名前:てすと22 ◆tLo9ENg8wk[sage] 投稿日:2010/07/25(日) 01:58:30.24 ID:7ZZqmg20 [9/19]
俺はというと、頭に浮かぶのはやはりこれからのことだった。
ホロはあのとき、確かに何かを思い立っていたんだろう。
耳と尻尾はなくとも、賢狼は賢狼。
深い思慮に基づいて出された言葉のはずだ。
狼の大好物のぶどう酒を選びながら、それでも頭の葛藤が絶えることはない。
そうなると自然と俺の行動もどうするべきが正しいのか、わからなくなる。
ロレンス「寝かせておくべきか、飲むべきか」
「こういうこともある」
後ろで声がしたのとほぼ同時、迷っていた二つの酒は、
差し出された手によって掠め取られた。
ロレンス「……ひさしぶりですね」
振り向かずに言った。
マリエ「上等な酒ならうちで出してやると言ったはずだが」
688 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/25(日) 02:02:12.17 ID:7ZZqmg20 [10/19]
ロレンス「買出しですか?」
マリエ「町であんたを見かけてな。丁度話がしたかった」
ロレンス「もう会わないことを願ってらしたのでは?」
マリエ「会っちまったんだから仕方ない。オレに声をかけられるのは嫌かい」
ロレンス「そうでなくとも警戒してしまいますね」
マリエ「ならば正解だ」
手にとったぶどう酒を俺に渡す。
689 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/25(日) 02:19:28.29 ID:7ZZqmg20 [11/19]
ロレンス「………?」
マリエ「鈍いんだな」
言うほどに呆けてはいないつもりだった。
でき得る最大限の回転を頭に強いる。
そして刹那に弾かれた答え。
目の前の光景が、鈍く、歪んでいく。
ロレンス「まさか」
マリエ「動くな」
ぶどう酒を渡したのとは別の手に、黒い筒。
それが何かは聞かずともわかった。
マリエ「理解力はさすがだな、異邦人ロレンス。だが何を悔いても後の祭りだぜ。
なんていったって、俺たちは出会っちまったからな」
くく、という声が今にも漏れそうな物言いだった。
690 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/25(日) 02:30:05.95 ID:7ZZqmg20 [12/19]
マリエ「住まいの方ははもう手遅れだ。うちの奴らがだいぶ前に向かった。
あんたのつれの女、上等じゃないか。
あれはこちらで抑えている。御曹司の間抜け面が目に浮かぶようだ」
ロレンス「何が目的です?営利目的でやってることではない。
あなたとユウがライバル企業だとしても、抑える利はないでしょう」
マリエ「素人考えじゃあそうだろうけどな。任侠ってのは金になればなんでもいい。
前に言わなかったか?」
ロレンス「人質にとって強請る気ですか。いざとなれば我々を切れるというのに?」
マリエ「それも素人考えだな。…まあ、後の話は車でしよう」
微妙な距離を保ったまま店を抜ける。
691 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/25(日) 02:41:20.28 ID:7ZZqmg20 [13/19]
マリエ「出せ」
いかにもといった雰囲気の車にのせられる。
不思議と心は落ち着いていた。
横腹には拳銃が当てられたまま、話す。
マリエ「相変わらず太い奴だ。やはり一度や二度ではなさそうだな」
ロレンス「荒野を歩いていますとね、騎士や傭兵、狼、熊なんてのはざらに出会います」
マリエ「その中でたとえるなら、この状況は何だ?」
ロレンス「いませんね。道を歩いていたら、たまたま同業者に出会った。それだけです」
マリエ「は、なるほどな。だが商人ならば分かるだろう?
商人がこの世で一番怖いのは、同業者に他ならない」
ロレンス「戦う相手くらいは選ばせてもらいたいものです」
マリエ「そりゃあ聞けねぇな」
692 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/25(日) 03:25:52.37 ID:7ZZqmg20 [14/19]
マリエ「あんたらはあれを慈善活動だといってるみたいだが、それだと余計に困るやつらもいるんだよ」
ロレンス「営利活動でないと困る、ということですか」
マリエ「いや、それはそれで困る。まったく世知辛いけどな」
ロレンス「どういうことです?」
マリエ「あんたらみたいに金をばら撒いて慈善活動なんざやられたら、
それ以外の産業はどうなる?あの町の奴らはこう思うだろう、やっかいな競合が生まれた。
金じゃあ動かない上に、流行はお前らにもっていかれちまう。
金を使わない分他に流れるってわけじゃなくてな、どういうわけか人間ってやつの関心は絞られる。
新規参入よりもたちが悪い。商人のセオリーが通用しないからな」
ロレンス「ユウはスポンサー出資をすべて断ってましたからね」
693 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/25(日) 03:56:57.12 ID:7ZZqmg20 [15/19]
マリエ「にしても、ケツ持ちの相手が個人とはな。普段ならこんなことしないが、
今回はオレにとっても利害が一致していた。
あんたと知り合いだと言ったら、たんまり弾んでくれたぜ。
もっとも、営利目的ならば別の形でこうしていたかもな」
ロレンス「どちらにせよ、また出会っていた」
マリエ「忠告はしただろ?」
くすくすと余裕を見せている。
ロレンス「それで、我々を拘束したのは?始末するだけならこんなこと必要ないでしょう」
マリエ「利害が一致したと言っただろ。
最初は脅すだけにしようかと思っていたが、これでも商売人だ。
妙に頭が巡ってな。あんたらをダシにしてもう少し儲けたい。
御曹司の企業に出すカードとしては絶好の機会だ」
真偽については、さすがに傑物、わからない。
694 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/25(日) 04:40:45.39 ID:7ZZqmg20 [16/19]
ロレンス「カード?やはり人質、……いやちがう」
マリエ「オレたちのやり方はルールさえ守ってれば、それこそなんでもする。
地味で、根暗で、じっくりと目的を遂行する。
ちくちく、ちくちく、逆らった後の人生はストレスたまるだろうな。
理解してもらったなら、ここからは交渉だ」
ロレンス「交渉?」
マリエ「御曹司の企業の情報を定期的にこっちにあげてくれ。
見たところあのつれはあんたに靡いてるんだろ?
あんたなら、あの企業に取り入ったまま、つれを説得できるはずだ。
慈善活動は中止、これからは専業するってな」
ロレンス「その前に、あなたはあの店のオーナーだ。
部下ではなくあなた本人がここに出てきたなら、告発できる」
マリエ「やってみたらどうだ?
それが長期的に見てメリットにならないことはすぐわかると思うぜ。
俺らは組織の一部でしかない」
ロレンス「………」
695 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/25(日) 04:51:51.12 ID:7ZZqmg20 [17/19]
マリエ「慈善活動ならば巻き込まれない、とタカをくくっていたのか。
そして今になって頭をひねらせてるな?あんたは商人失格だな。
諦めろ、打開する策なんてないさ。
オレがあの店であんたに出会ったときから、決まっていたことだ」
すべてを見透かしたその瞳は深く、底が見えない。
ロレンス「連れは、無事なんでしょうね」
マリエ「あんた次第だ。今すぐ殺してもオレは金をもらえる。商人ならば周りの人間も欺いてみせろよ。
だが騙す相手を間違えると大変だ。オレたちはカタギだろうがなんだろうが、
裏切った輩に対しては簡単にこいつをぶっ放せる生き物だ」
ロレンス「……ホロを説得し、あの活動を中止した上で、続けて企業に取り入り、情報提供者としてあなたに加担すること。
条件はこれですべてですか」
マリエ「そうだ」
696 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/25(日) 04:58:05.95 ID:7ZZqmg20 [18/19]
ロレンス「会ったときに言っていた、カタギには手を出さない、っていうのも方便ですか」
マリエ「もちろん出さないさ。だが、メンツは保たねえとな。
ヤクザが交渉を足蹴にされたら、報復しなきゃいけない。詭弁だと思うか?」
ロレンス「ええ」
マリエ「筋ってのは理屈がつながってりゃなんでもいいんだ。
商売と一緒さ」
ロレンス「あなたに会ったときに気づくべきでした。
やっぱりあなたは守銭奴だ。私の知人にそっくりです」
マリエ「そいつは傑物か?」
ロレンス「リスクのとり方を除けば」
マリエ「はは、あんたが言うくらいならよっぽどだろう。
スパイが終わればうちに来てもらってもいい。
……安心しろよ、お連れのお姫様にはあとで会わせてやる」
高笑いしながら、マリエとオレを乗せた車はスピードを上げていった。
713 名前:狼と就活 ◆le/tHonREI[saga] 投稿日:2010/08/03(火) 02:57:31.72 ID:oKHZZF20 [2/3]
ホテルの一室にホロは捕らえられていた。
部屋に通されてまず聞いた発言は、
ホロ「見たことある顔じゃの」
マリエは目をつぶって不適な笑いを残すと、
手を振りながらどこかへ行ってしまった。
部屋には俺とホロだけが残される。
逃げ場はない、ということだろう。
ロレンス「それを言うならこの状況もだろう?」
ホロ「…ほう、その言葉の意味することはすなわち、
ぬしはまた騎士になってくれるのかや?」
さすが賢狼だけあって、少しも取り乱した様子はない。
ロレンス「今度は本当の意味でならなきゃいけないかもな」
ホロ「いつもわっちにたよっておるからじゃ、たわけ」
言いつつも、体は俺に寄せられている。
714 名前:狼と就活 ◆le/tHonREI[saga] 投稿日:2010/08/03(火) 02:59:45.66 ID:oKHZZF20 [3/3]
ロレンス「……無事でよかった」
ホロ「それも聞いた台詞じゃが、あえて返させてもらおうかの。
………ぬしがその麦を持っている限り、わっちは消えはせぬ」
ロレンス「だが、この時代じゃわからないだろう?」
ホロ「ふむ、ならばこれは夢じゃ。胡蝶の夢。
わっちは蝶、さしずめぬしはその羽かや?
もちろんこれから、派手に空を舞う手筈は整っておるんじゃろうな?」
ロレンス「たまにはお前にいいところを見せないと、捨てられてしまうからな」
ホロ「くふ、わっちの連れはこうでなくては困りんす」
腕の中で目を閉じる狼。
ホロ「……で?作戦は?」
ロレンス「少しばかり面倒だし、多少の犠牲は必要になるが……」
ホロ「なあに、ぬしにとって、
わっちの機嫌より優先するべきものなど、ほかに何があると言うんじゃ?」
一人だと震えそうな謀でも、この連れとなら笑い話にできる。
改めて思い直した。
719 名前:狼と就活 ◆le/tHonREI[saga] 投稿日:2010/08/03(火) 17:05:35.94 ID:TcHLF2g0 [1/10]
マリエ「で、答えは?」
別室に待機していたマリエの周囲には、黒服の男たち。
一見しただけで、その物腰が穏やかでないことがわかる。
マリエ「気にするな。ことがことなんでね、少しばかり急いている」
ロレンス「その割りに落ち着いていますね」
マリエ「物事は冷静さを欠いたらおしまいだが、熱を失えばいいというものでもない。
大切なのは中庸というやつだ。オレの口癖でな、いうなれば『冷静と情熱の間』。
ちょうどいまの状況がそれにあたる。心地よい緊張感だろ?」
ロレンス「商談はいつだって緊張の連続です。
熱を持った皮算用というやつは、一日置いて冷やさないと、
とても食べられたものじゃない」
マリエ「あんたとこうして話しているのも悪くないんだがな。
何にせよ出会った場所が悪かった。……時代も、立場も。
そろそろ決めてもらうぜ」
マリエが右手をあげると、一人の黒服がこちらに筒を向けた。
マリエ「リーチ」
自慢げに、出会ったときのセリフを吐く。
721 名前:狼と就活 ◆le/tHonREI[saga] 投稿日:2010/08/03(火) 17:19:26.29 ID:TcHLF2g0 [2/10]
ロレンス「貴方は我々のことをカード、といいましたね?」
マリエ「何?」
ロレンス「我々の時代ではまだ貴族の嗜みだそうですが、
この時代においては広く大衆に流通していると聞く」
マリエ「………」
ロレンス「もち札は違えど、順番は平等に回ってくるものです」
マリエは動かず、ただ目を細めるだけだった。
ロレンス「さて、では商談をはじめましょうか」
俺の言葉とともに、あきれたように両手をあげる。
722 名前:狼と就活 ◆le/tHonREI[saga] 投稿日:2010/08/03(火) 17:25:41.09 ID:TcHLF2g0 [3/10]
マリエ「馬鹿なことを。は、これが商談だと?残念ながら違うな。
オレの言い方はわかりにくかったか?
ならば言い換えてやろう、『オレたちの言う通りにしろ。さもなくば…』」
ロレンス「ビジネスになるならば?」
空気が止まった。
ロレンス「貴方は確かに私に言った。『金のためならば何でもする』。
言い換えれば、あれが利益を生むならば、そこに私怨は絡まないはず。
大金の前では、人の気持ちはこれ以上ないほど価値を失う。そうですね?」
頭の中ではこの先の相手の出すカード、自分の手持ちのカードを整理する作業に必死だ。
マリエ「まさか、売りつけるつもりか?オレたちに?」
ロレンス「そのまさかです」
黒服がとっさに動こうとしたが、マリエが右手でとめる方が一瞬早かった。
ホロ「くふ、これは心地よい緊張感じゃの?」
今この部屋で笑う余裕があるのは隣の狼だけだ。
723 名前:狼と就活 ◆le/tHonREI[saga] 投稿日:2010/08/03(火) 17:40:16.15 ID:TcHLF2g0 [4/10]
マリエ「……ふん、馬鹿馬鹿しい。ヤクザ相手に宗教を売りつけるだと?
冗談もほどほどにしておけよ、異邦人。
どこの世界に宗教をやるヤクザがいるというんだ。
それに企業からもらった金、
あの御曹司をつぶしてこっちに流れる利益はいくらになると思ってる?
とても釣り合わない、却下だ」
ロレンス「第一に、営利化した場合の利益は保証しましょう。
これでも連れは天下一品の才色兼備、頭も回れば口もまわる。
第二に、ヤクザ相手がどうのこうのという話ですが、
今言った器量の良さはお墨つきです。
………あなたがたの、同業者のね」
マリエ「!!」
ロレンス「もう入ってきていいんじゃないか?」
扉が、ゆっくりと開く音。黒服たちはとっさにおのおのが持っている筒を取り出したが、
その姿を見た瞬間、それを懐に戻した。
マリエ「…………いつから気づいていた?」
ロレンス「最初からですよ。あなたが彼に固執するのがひっかかりましてね。
それに居候先は金めぐりがよすぎました。
芸能界や娯楽、ITに関しての知識、プロモーションの技術。
決定的だったのはあなたが襲撃してから連絡がなかったこと。
さすがに親元を同じとする相手に手は出せなかったようですね」
ぎり、と歯ぎしりの音がこちらまで聞こえてきそうだ。
724 名前:狼と就活 ◆le/tHonREI[saga] 投稿日:2010/08/03(火) 17:56:34.67 ID:TcHLF2g0 [5/10]
ロレンス「ユウ、お前が俺たちに最初に言った言葉を覚えているか。
『両親は会社を経営している』。
お前が言う親ってのは、血のつながりがない親、だろう?」
そちらの世界の呼び名なら、ある程度は知識として得ていた。
ユウ「……ロレンスさんにはバレても仕方ないと思っていました。
しかし、こんな形で……。これだから、神が、必要だというのに」
対するマリエはわなわなと震えている。
マリエ「何が商談だ、ふざけやがって……」
ロレンス「時間稼ぎが必要でした。彼がここに来るまでの、ね」
ユウがその道の人間だと推理した瞬間、俺はとっさに連絡をした。
予測通り、どうやら二人は元兄弟分だったようだ。
ヤクザ同士の仲違い、ユウの葛藤、マリエの謀反、想像できることは色々あったが、
大事なのは切り札としての役割。
親元を同じとする相手にその存在を知られては、行動するにできない。
俺をスパイにしようとしていたのは、正体がバレぬようにユウを貶めるため。
俺たちを殺してしまっては意味がない。目的はユウを貶めることなのだから。
御曹司、という呼び方もひっかかった。マリエはすでに大金を得ている立場。
そこまでして相手にこだわる理由はひとつしかない。
ユウ「あとはこちらでやります。ロレンスさん、先に戻っていてください」
ぞろぞろと黒服が部屋に入ってくる。
俺とホロは一息つく間もなく、部屋から飛び出していた。
ホロ「で、筒を向けられた気分はどうだったかや?」
ロレンス「まるで勇敢な騎士になった気分だったよ」
隣の狼は、くつくつと、これ以上ないくらい愉快そうに笑っていた。
725 名前:狼と就活 ◆le/tHonREI[saga] 投稿日:2010/08/03(火) 18:06:49.36 ID:TcHLF2g0 [6/10]
それから、結局あの事業は誰に譲渡するでもなく、
中古で買われた神様はまたその身をどこかに隠してしまった。
ユウ曰く、カタギを危険にさらした『ケジメ』らしい。
そういうところはそっくりだ。
マリエの件はどうやらそちらの世界の流儀でカタがついたらしい。
いったいどんなカタのつけ方なのかと聞いてみたが、
荒っぽいそれではなく、やはりそこも金で解決したとのこと。
ユウ「マリエは以前、僕と同じ屋号を背負って経営をしていました。
ご存知の通り、我々の事業は金が入れば何をしてもいい。
あいつはああいう性格です、僕とは馬が合うはずもないでしょう?
すぐに袖を分かちましたよ。親父は僕の方を気に入ってましてね。
あれが僕のことを御曹司と呼んでいたのはそういうわけです。
それからですよ、私があの慈善活動に興味を持つようになったのは…」
本当に生まれと育ちというものはわからない。
裏家業に手を染めていたかと思えば、
屈託のない笑顔で人を救いたいなどと言い出すヤクザ。
人は見かけで判断するな、とはまさに言い得て妙だ。
726 名前:狼と就活 ◆le/tHonREI[saga] 投稿日:2010/08/03(火) 18:19:01.85 ID:TcHLF2g0 [7/10]
俺はその後、ユウの企業の手伝いを本格的にするようになった。
もっとも、真っ当な分野の仕事に限るのだが。
ホロはホロで、たまに例の場所に赴き、人々と交流したりしている。
時間が経つのは早いもので、この時代に迷い込んでから季節は二度変わった。
ロレンス「結局、マリエも金だけでは動いていなかったというわけか。
つまるところあれは私怨ゆえの行動だった」
ホロ「世の中理屈だけで生きられたらもっとうまくいくのかもしれぬが、
そうもいかぬのもまた摂理。ゆえに今回のような、
標を示す何かを人は求めるということじゃ。
……ぬしがわっちにとっての、騎士になりたいと思ったようにの?」
ベッドで寝そべりながら、ホロはからかうように言った。
苦笑いをするしかない。
727 名前:狼と就活 ◆le/tHonREI[saga] 投稿日:2010/08/03(火) 18:24:28.86 ID:TcHLF2g0 [8/10]
ホロ「わっちがなぜ小僧に協力したかわかるかや?」
ロレンス「……残念ながら」
ホロ「これだからぬしは駄目じゃ」
ロレンス「はいはい、ではよろしければ伺ってもよろしいでしょうか、お姫様?」
ホロ「わっちが標を示してやりたかったのはあの小僧じゃ。
自身は無宗教と言い張るやつじゃったが、あれが求めていたのは、
『言葉にできない何か』に他ならぬ。
人が上を向いて歩ける世界、なんてものはその最たる例じゃろ?
実際にはあやつ自身が宗教に救いを求めていたんじゃろうな。
……思うんじゃがの」
一息ついて、言葉を吐く。
ホロ「この時代の神は死んだのではない。
人が、自分の足で立つ道を選んだんじゃ。
かつての神はおそらく、その道を選んだ人の後姿に、
黙って手を振っていたに違いありんせん。
彼奴らは自分らを高め、強くなろうとしたんじゃ、
止める道理はありんせん、とな」
語る神の像に、どこか自分を重ねているような、そんな物言いだった。
728 名前:狼と就活 ◆le/tHonREI[saga] 投稿日:2010/08/03(火) 18:37:01.66 ID:TcHLF2g0 [9/10]
ホロ「ぬしにいたってはまだまだ、わっちがいないと駄目みたいじゃがの?」
ロレンス「俺はお姫様の騎士、だからな?お前を守る義務があるんだ。
お前の標にならなくてはな、うむ」
ホロ「標……?くふ、強がるのはよいが、ほう。
なるほどなるほど」
ロレンス「?」
嫌な予感がすると感じたときには遅かった。
ホロ「ならばぬしは『語れぬものを語って』くれるのじゃな?
……それこそ毎夜のように、のう?」
とたんに顔が赤くなるのを感じた。
しまった。
ホロ「くふ、愛の囁きは何度聞いても心地よい。標となるならなおさらじゃ。
ならば今宵わっちは上を向かぬ。
わっちが上を向いてぬしに近づけるように、
ほれ、早くわっちに説いてくりゃれ?
ぬしの愛の説法をのう?」
この悪どい狼が上を向いて歩けるようにするために、
俺はこの先何度説法を説かねばならないのだろう。
考えるのもうんざりしたが、次の瞬間には抱きしめていた。
語り得ぬものについては、沈黙しなければならない。
だってそうだろう、俺たちにできるのはいつだって行動だけだ。
この狼とすごす日々は、たぶんこれからも続いていくんだろう。
それこそ標を持たない、人が歩む道のように。
729 名前:狼と就活 ◆le/tHonREI[saga] 投稿日:2010/08/03(火) 18:38:59.35 ID:TcHLF2g0 [10/10]
おしまい。
結構長くなってしまいましたが、狼と香辛料についてはこれでおしまいです。
立てたときからお付き合いしてくれた方、
途中から見てくれた方、ありがとうございました!
たぶんあっしはその辺にいるので、見かけたら声をかけてくれると光栄です。
それでは、また。
あでぃおーす!
おまけ 投下中に行われた>>1と読者とのA雑です
565 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/07(水) 15:20:29.15 ID:xdLwxug0 [1/9]
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マr、: : :`>:'"´ ̄ ̄\/:、い\:..:.丶
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,. .:'´.:.:.:.:.:.:.:.:.:::;_j/ Ⅵ`ヽベ_マリ リ ァ示=‐」: : : !:r'; -― 、:.::;ハ
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丁:ー- :__ヽV-/ハ:.、:..:..:,ヘ:_いv' /:;. -―‐7:i:::.:.:.:.:.:.:.:.ハ:..:..:.i
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566 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[sage] 投稿日:2010/07/07(水) 15:23:01.53 ID:xdLwxug0 [2/9]
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「ぬしら、元気かや?。ひさしぶりじゃのう。
どうやらこの板の主様は、この話のプロットがまとまらなくて苦心しておるようじゃ。
まったく情けない。しまいにはテスト勉強を始めていんす。わっちもお手上げじゃ」
567 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[sage] 投稿日:2010/07/07(水) 15:25:51.64 ID:xdLwxug0 [3/9]
イレ'^!
x< ; /
_ ,/: : : 〉/;:ハ/ ̄ `丶、 ___
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j: : : : .:l :: : : : l: |レ∨|:‐ト|: ハ:::.:!│:/_;.イ:: /::/: ,′
,' : : /.::,'!::: : : : l: L二._Ⅵ_V`ヽヽ{ 匕Ⅳ レイ::/} /
{ ̄ ∨: : /.::/::|::: : : : l: |l代ぅ:歹 ̄` 弋歹^ア/:イ/
l:::::::├<.::/:::,'|::: : : : l: | ¨¨^ `¨ ,':: : |
l:::::::∧::::::::`ヽ:|::: : : : l: | 〉 :::: : :|
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ヽ/::::::::::::::::::::∧: : : :l: | ハ/ ∨ヽ }:l::::.: : :|
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::::::::::::::::::::::::::::::::: /::/\| 仁 二>、_ノ |,:': .: : /
::::::::::::::::::::::::::::://::::::::\ |/巛〉\/ |:::.: : /
::::::::::::::::::::::://::::::::::::::::::::\〈》》》〉\ j:.: : /
「それでの、今回わっちがここに出てきたのは他でもない、ここの主様に頼まれての。
何やら『ほっといたら忘れられるのが怖い』とかなんとかいうておった。
わっちにできることなど限られておるが、しばらくはわっちがこの板でぬしらの相手をしんす」
568 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[sage] 投稿日:2010/07/07(水) 15:29:57.26 ID:xdLwxug0 [4/9]
ハヽ. /.' {
/ '´ヘ \ ,.. -― -‐- .._ //、 ',
,' ヽ '´ : : : : : : : : : : : : : : `:'´/ i, i
, . : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :^ヽ |
l,. : : / : : : : i : : i: : : : : : : : : : : : : : : : 、 ;j
/: : :i′: i: : : : !: : :l: : : : l: : : : :i: : : : ヽ: : :ヽ ,ハ
,: : : :i: : : | : : :: : l: : : : :!: : : :|: :|: : :l: : : : i: :.:',
i: : : :l: : : l : : : i| : : il: : : : |: : : : :!: : :!: : l: : : : l: i: i
i : : : l: :_;.∟:.L」l: : :i |: : : : !: : : : |: : :|: :i:|: : : : |: l: :i
l : : : |'´:/|: : :!/ |: : | !: : : :|i´ ̄下:¬:、i|: : : :|: :
l: : : : !ァ''テ示ミ、、! : ! ト、: ;ハ_;.:⊥∟L: :i: : : : :! :. i i
|: : !:.イ{ i:{ t.:ハ:iヽ ┘ ´ァ7ス.だ:ハ ヾ;_!: : : : l: :. l:.|
|: :.i .:リ ぃ辷ッリ {:{. し' }リ }f:i: : !:|:.: ! l
|: :,レく ,,,,,, `-'´ j ヾ辷ッ _」j: :,: :!l:. :..i: |
/、 ,、ヽ 〈 '''''' i'´ , 、∨: :!|:.!:.:.!:.l
r'´⌒ヽヽ〉┘ ___ l/,.ヘヽ: :!|:.i:.:.:i:.l
| 7´,ィ' /'、 ∨ニ辷_ ̄¨_二マ ヽ〈 r'´ヽ:l:!:.l:.i:.l:.|
l `i└ク l> .._ - ̄ _,.イヘ} } V:.:.!:.l:.l:.l
l ∨ |「"´{ム> 、 _,.. 爪} ヽ冫′ 广¨゙ハ:.:.|
,.-┤ ! j |::::::!::{:::::ぃ` ー '"´ /::/ / /_ : /:ハ:.l
ノ: : ! ノ ,':.:l::::::∨こハ、 ', /_八. / ム :V ; : : ',:|
r‐': i: : :', ' , イ;i:.:.:!:::::::}ヘ__ ヽヽ} ,.-‐/r‐‐:ヘ{ _ノ/: : ヽ:._ : : 、
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/ l: : :、: : : : V:/:ノ:.:i:l :.:.!:::::::、:.. ヽ:ー-┘::`´: : : :|!::j::::>': : : : : : : : |:\:ヘ
/: : ! : : `ー:::.:..:/i|:. :!|i: : l:::::::::\__;二:::-‐:'´: : : : : l:.ト、'´_;,: :, : : : : : : j : : \ \
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/: : : : : : : `ー- : __;;:::イ/.l: : 川 : :!:::::::::: : : : : :, : '´ : : : : : |: :!: : |:.:i`ヾ¨´::: : : : : : : : : : : : :\
「何を話してよいかわからぬが、このお話で感じた疑問やら、要望やら、質問やら、
腑抜けた主に代わってわっちが答えることになった。ま、正直なんでもよい。
ぬしらも時間があるなら付き合ってくりゃれ♪」
570 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[sage] 投稿日:2010/07/07(水) 15:32:59.07 ID:xdLwxug0 [5/9]
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| 〉 >ミ: : : : :\__: ::ハ: : : : :\: : :\
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|! |: : ::|x'´lヘ: : |:ヘ:: `ー|=:|=-/|: : : :.| : : :.|: :|: : : : : : :|
|! |: : :.从l」 \!小从l」小L__l/l : : :.:|: : : :|: :|: : : : : : :|
|! ∨::ハイ示ミ! ィ才乍ミぅxl.: : : | : : ::|: :|: : : : : : :|
ll 〉\ 圦トィ} {、トryメ.l:|: : : | : : :.|::∧..:.: : : : |
ヽ .∧: ::ハゝン 弋こソ .!:!:: :.:.| : :/:|:..:.:|.:.: : : : :|
/: : / : :| ゝ / / / / .l:|: : :/ :/:./:.:.:.:|: : : : : :|
/: : /: :/人 _ /:l: :./ /::.∧.:.:.:.l: : : : : :|
/: : /:.://: : :\._ヽ)_____,. / l::/: : ::/:::ハ.:.:. l.:..: : : :.|
/: : /: ://: / ̄⌒ ̄ __∠,イ: : :l/: : :/⌒`ヽ、:.|.:: : : : :|
./:.: l⌒l⌒l⌒ゝ  ̄∠/: : : : / ハ|.:: : : : :|
「なに、つまらぬ?早く続きを書け?……そんな、ぬしよ、優しくしてくりゃれ?
この顔に免じて、の♪」
569 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/07(水) 15:31:34.54 ID:.72cC7co
一瞬荒らしかと思った
571 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[sage] 投稿日:2010/07/07(水) 15:35:05.14 ID:xdLwxug0 [6/9]
∨> : : \\/::::/::::::::::::::::::::::::::::.. :.:.:.:.:.:.:. \/: : : <∨
∨> : : :.У::::::∨::::::::::::::::::::::::::::::::::::.. :.:.:.:. ハ \: : <∨
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∨!;/::7::::/二ニニ=|==: ハ====ニllニl::. ∨ヘ
∨ /:.:7:::::::7:::::::::: l:::::::|::| |:::::::.|::::::|::.:.:リ:::::!:::.. .|:::|
/ ∧ :{:.:.:.7 ::::::: /|:::::::|::|:. |::::::::|: |:从レ'!:::::|.:.:.:.:.. |:::|
|:::/ ::::::::|.:.:ハ::::::: / .|:::::::j::|:. |l::::::il:::|:|ハ:::i|::V.:.:.:.:.:.: !:::|
|:::{:::::::::::|.:.:ト::Nメ、 l::::::リ | |i川斗七~V:|/.:.:.:.:.:.:.:.l::::|
|:::|:::::::::::::ⅥリV ̄>-ト_. -リvィチう寸.!:.:.:.:.:.:.:.:l::::|
∨!:::::::::::::::|ト/才たうァ、 ´V辷rリ ノ !:. |:.:.:. : l ::|
∨:::::::::::::::|∧_弋_ク' , ー─'′|:: |::.:.:.:. |:::|
∨ ::::::::::::|  ̄´ l |:: |::.:.:.:. |:::|
∨:!::::::::::ハ , -‐v、 .l::::}::.:.:.:.:.l:::|
|:::l::::::::::::∧ / ハ ./::V::::.::.:.:.:!::|
|:::|::::::::::::|::!:\ / .j/ :|::::リ:::::l.:.:.:..l::|
|:::|::::::::::::|::l::::::`:>ト、 / Ll__j:イ.!:::::|.:.:.:.:|∧
|:::|::::::::::::|::l:::::::::|:::_| ` ー '′ .| ̄7 .|:::: |::.:.:.:|::∧
|:::|::::::::::::|::l:..;-フ/} \∧:.|::::::l:.:.:.:.|::::∧
|:::|::::::::::::|<´./ ,イ ノ ∧ .!:::: | :.:.:.|::::::∧
「>>569 たわけ!わっちをそこらの荒らしと一緒にするでない!
板の主が腑抜けて折るから悪いんじゃ!だいたいなんじゃ、この話のわっちの書き方は!
わっちはあんな簡単に手玉に取られたりせぬ!突っ込みどころ満載じゃ!」
572 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[sage] 投稿日:2010/07/07(水) 15:39:40.28 ID:xdLwxug0 [7/9]
r 、 __ ,. ┐
| {ヽ> ´ ` <ィ} |
j〆´ ヽ〈
イ / l | | 、 ', ハ
/ l | | | |、 |ヽ } ! ;
. / l | ┼‐:ト l } 斗‐l :| | |
{ | | ,ムテミ ,ィテミ! .l |
| | | |弋zソ 弋zソj l |
| rrムww , ww/rr11ハ 「ま、そういうわけじゃ。よろしくの。
ノイ ! 「.i r==.ァ .イ l ll | ヽ
/ ヽ ' >゙、 ニ ".< .ノ ヽ なあに、余興のようなもんじゃ。力を抜いてくりゃれ?
{ \ } { イ }
| /` /__∧ .V/ | それと、基本的にはsage進行で頼めるかや、主様」
│ ./ ∧ ∧ ∨ l
,| / \.イ{ ヽ _ イマ  ̄ ∨ ト、
/ | / / ∧/∧ハ ∨ .! \
/ ! / .,' l////.l.ハ ', .| ヽ
/L ィ__| {. /  ̄ ̄ ∧ } | ',
l { /ヽ ___.彡ム. / }
| / /\_/ミ、::::::::::::::::::::::>ヽ _ノ |
| /イ ////////ヽ:::::::::::///////∧ /
ノ / ///////// ∧ ̄//////////∧ /
{//////////∧ ////////////}¨
∨//////////V////////////
573 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/07(水) 15:46:37.19 ID:hwdd1.AO
>>1はかなり書き慣れてると思うんだけど、作家志望?
あと俺の隣にはホロがいないんだけどなんで?
574 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[sage] 投稿日:2010/07/07(水) 15:51:55.82 ID:xdLwxug0 [8/9]
イレ'^!
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::::::::::::::::::::::::::::::::: /::/\| 仁 二>、_ノ |,:': .: : /
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「>>573 本人は違うと言っておるがの。本当のところはどうじゃろな。
だいたい、作家というものは副業でやっておる者も多いと聞く。
趣味で書く程度には嗜んでおるようじゃし、これからもそうじゃろ。
わっちが隣にいない?くふ、では気が向いたらぬしの枕にこっそり忍びこもうかの」
575 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/07(水) 16:18:55.47 ID:M.CWKAko [1/2]
セーラー服の着心地とロレンスさんの鈍さについてお願いします
576 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[sage] 投稿日:2010/07/07(水) 16:43:38.39 ID:xdLwxug0 [9/9]
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,: : : : : : : : :/: : : : : : : : / .::/ :;: :!:|: ::: : .:: : . . :} : :: : :::. ぃ
′: : : : : : :,': : : : : : : : ,'i.:::〃/i::∧! :i:: .::::: : : /: :::i. ..::i:. i ',
i / : : : : : : i: : : : : : : : :i |i/7イ‐|;'-!i i|:.:::i:: .: :,'i:: :::;|:.::::j::: i: i
l/: : : : : : : :l: : : : : : : : :l _j,」込_j_ 从「|ハ:l::i: / |: .:/j:.:::;'::::. !|:|
; : : : : : : : :|: : : : : : : :lヘ{んn.い`ヾト、 jリル′!::/ ,':::/::::: ;' |:|
/: : : : : : : : :/!: :: : : : : : :| マ辷ン ,.斗¬:;イ::::// l:l
/ :/: : : :/ :/:::|: ::: : : : :.:| `冖 /チjスy'^/// リ
/ ; ' .: : : ; '.::/:::::::!: ::. : : : :. l {tン〃::::::: l ′ /
/.:/ .::::: /.:::/::::::::::|: :::. : : : :| 〉^/:::::::::: :! /
/ :/ .::::∠ -‐ '"¨´ ̄| : ::. : : :::..l._ '´ /:::::::::::: :!
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「>>575 わっちが着ていたのはぶれざーとかいうやつらしくての、うん、なかなかに良き服じゃった。
町を歩いておったら色々と着こなし方があるようじゃな。
後で聞いた話じゃが、ぬしらこの時代の雄はあれを着ている雌に目がないんじゃろ?
わっちもあれを着ているときはいろんな方向から視線を感じんす。くふ、特に腰下にの?
ぬしらも気をつけるようにな。以外とどこを見ておるか丸分かりじゃ。
つれは阿呆じゃから仕方ない。
それに色が分からぬ雄にあれこれ教えてやるのも、賢狼の勤めというやつじゃ。
まあ、あれくらい鈍い相手に、いかに気づかせるかもわっちの腕の見せ所じゃな。
しかしそうはいっても、鈍い男は基本的に嫌われる。ぬしらも気をつけるがよい」
577 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/07(水) 17:03:47.25 ID:M.CWKAko [2/2]
鈍さは自分で気づけないから困る
ブレザーに耳としっぽまであったら正直耐えられる自信は無かった
危ないところだった…
ロレンスさんはじっくり自分色に染め上げるということですね!わかりました!
578 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/07(水) 17:53:29.79 ID:7fjh9Qso
正直ロレンスはもう少し賢くなっててもいいよな
何度も危ない橋渡ってきてるんだから勘も洞察力も鋭くなってるはずなのに何時まで経ってもドンくさすぎる
どうでもいいけど床描写まだあー!?
579 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/08(木) 00:53:20.01 ID:iDH18wMo
結構な数のラノベやら漫画やら読んでるけど
「鈍い男ほどモテる」は真理なんじゃないかと思う
580 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[sage] 投稿日:2010/07/08(木) 04:06:57.17 ID:66EmqJE0
/ 冫' ヽ
/ , '' _,,. z ‐ - 、 ヘ
/ /-<:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:>-- = ,,,,_ ヘ
/ /:.:.:.:.:.:>= 77''= ュ,,_:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.`''ヘ
,' , /:.:.> '´ハ: :ト,l: : i:/ l: :`}'{= ‐- = ;,;:ヘ
{ ,' /<:.ハ: :}:l_,,W,,リl:l''iヽ}i: :i八: ト; : : : :}`lヘ
/ ,.' ,' ゙<、_ハ:,'レ{`:::::::uヽヽル'リ j:,',,}l: : : :ハ:}:.リ
{ ,' i ノ:.:.:.ヽl 弋z.ツ ゙ ' 斗ヘリ: : :.ノ i!/
| ,' { /:.:.:.:.:.ノ:l  ̄` 弋リ/レ':リ'':.:.,'/
/ |':.:.:.:.:./l: :.l ヽ` ハ: ,':.:.:.:.:〉
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l z_ ゝ-、:.:ヽl l>イ-彡 ''´ {
ヽ、 ヽ`'' 、 .ハ:.:.:ハ. /:.:.y '´_ - '''_ - ' 、
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/ ‐ - >-+‐‐‐‐‐‐-t_'' ハ
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「>>577 耳と尻尾は追々出てくるやもしれぬ。楽しみにしててくりゃれ?
>>578 あれでいて頭は廻るんじゃがの、やはり経験が足りぬ。
色恋に関しては赤子同然じゃ、ま、環境が環境じゃったからの、仕方なかろう。
床描写は主様が自信ないそうじゃ。代わりにわっちが書いてやろうかの?
>>579 それはちと違うの、『モテる男は鈍感にする』。これじゃ。
そうでもせぬと話が進まなかったり、やきもきさせられなかったり…
おや、誰か来たようじゃ」
581 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/08(木) 12:15:04.30 ID:Ql2vM.AO
勘のいい男→もてる
そもそももてる男→ご愛敬にあえてにぶく
結論
にぶくてそもそももてない男は永久にもてない
…麦の神様なんか嫌いだ(;_;)
582 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/08(木) 12:31:38.11 ID:V3t2HcAO
どうしたら麦の神みたいな♀をつかまえられますか
583 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/08(木) 14:36:14.44 ID:gsnTTmw0
どうでもいいけど麦の神様で変換しようとしたら麦野神様で変換された
585 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/08(木) 15:50:03.06 ID:gnW6DA6o
麦の神様の芳しいかおりを胸一杯に吸い込みたいです
586 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[sage] 投稿日:2010/07/08(木) 21:01:23.34 ID:JM4zhbM0
イ /| ll / | | | |
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/ レ ||ヽ, ト.||_| | | | ll / .| .|| | || |
/ _,.=-‐-=.,_レ || |.|ヽ.|| | | | | | /| | | |
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/ 、弋_ ノ ∥,. ',.-‐=メ、 | /| /l / .| /
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| 弋_,.シ / ソ ソ ソ 〃
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| 丶 ,. ' | |
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「>>581 なんじゃ、知らぬ間に嫌われてしまったのかや?
くふ、それは残念じゃのう、今しがたぬしに目をつけていたところじゃというのに。
>>582 獲物を捕らえるとき、三流は走って追いかける。二流は罠を張る。
では一流は?答えは捕らえたと思わせたところを逆に捕らえる、じゃ。
わっちが荷馬車に乗り込んだようにの。ぬしらも覚えておくがよい。
>>583 野蛮な雌は好かぬ。
>>585 胸いっぱい、かや?ならわっちはその言葉でお腹いっぱいじゃ。
腹が脹れては動けぬ。くふ、残念じゃがまた次の機会にの」
587 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/09(金) 02:14:23.53 ID:p.YO9HIo
僕の家には桃缶といって、白桃の切り身を甘いシロップに漬けて食べやすくしたおやつがあります
僕の家には菓子パンといって、バターやジャムやクリーム等を使ってそのままおいしく食べられるようにした柔らかいパンがあります
僕の家には羽毛の詰まった暖かいベッドがあります
僕の家にはリンスといって、油のようにべとつかず髪の毛がサラサラになる石鹸があります
そしてなにより、僕には貴方への愛があります
589 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/10(土) 08:02:42.83 ID:LKNigGk0
いやどうでもよくない。なんていうか俺の胸のときめきが
>>1は禁書も知ってんのか。禁書が流行ってる中でよくやろうと思ったな
590 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/10(土) 18:05:40.06 ID:37HXxADO
もしかしたら声優で繋がるかもな。中の人はドスいのもいけるし
これ以上は余計な話だな。続き待ってる
592 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[sage] 投稿日:2010/07/10(土) 22:31:07.22 ID:Oi/WqGU0 [1/19]
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「>>587 なんと!まるで夢のようじゃ。わっちの欲するものが揃っておる。
しかしぬしよ、肝心の酒がなかろう?ぬしのありったけの愛とやらを、わっちがいくまでに酒に代えておいてくりゃれ?
なあに、愛に酔うも酒に酔うも、大差ないじゃろ?
>>591 わっちもあんな助けられ方をしたいもんじゃ」
593 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:34:27.55 ID:Oi/WqGU0 [2/19]
>>589 禁書はにわかなんで、細かい設定とか無視しちゃいそうなんですよね。
でもこれ終わったら書いてみたいとかおもったり。
>>590 あみっけのドスきいた声ほんと怖いですよね。
おそらくきっかけがなかったんだろう。
神を生み出すという試み。
現状では俺らもユウも次の一手を出し惜しんでいる。
かといって期限があるわけでもない。この点においては、情勢は拮抗していると言えた。
ロレンス「そもそも商売ではない、か」
神を営むにも金はいるが、常識とは少しずれた範囲でのことだ。
ホロに関しても、いまだ結論は出せずにいる。
595 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:36:35.87 ID:Oi/WqGU0 [4/19]
ある日、仕事も落ち着いた俺は町の探索に出かけることにした。
ホロ「んむ、では気をつけての」
布団から出てくる様子はない。
前日にはユウの紹介でとある酒場で朝まで過ごしていたから、その名残だろう。
ロレンス「また二日酔いか。この状況で最も堕落しているのは誰だ?毎日毎日、飲んでは遊びの繰り返しだろう?少しは脳みそを使ってみたらどうなんだ」
ホロ「ふん、じゃからわっちだって頭を痛めておる。実に悩ましい。ゆえに頭が痛い。かようにの」
ロレンス「楽な商売だよ、まったく」
596 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:37:23.98 ID:Oi/WqGU0 [5/19]
とはいえ、たいていのことは身についている。
時代は変われど、人の関心はなかなか変わらぬらしい。
一通り街を回った俺は、ゲームセンターに足を運んでいた。
以前ユウに教えてもらった、麻雀とかいうゲームである。
これが中々にして奥が深く、商売の駆け引きと似ている面もあり、ユウやホロと一緒に朝まで興じたこともあった。
ロレンス「まったく、何をしてるんだかな……」
頭では件の話について、考えなくてはならないことは分かっているのだが、どうにも考えがまとまらない。
ホロは神にはなれないが、標は示したいと言う。
ユウはユウで、金儲けではなく、下を向いてしか歩けぬ人間に、上を向かせたいと言った。
では俺は?ここでいつも詰まってしまう。
597 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:37:59.17 ID:Oi/WqGU0 [6/19]
声「リーチ」
ロレンス「え……」
突然後ろから話しかけられて、声が上ずった。
ぼーっとしていたのでつい牌を切りそうになっていた。
声「聞こえないのか? リーチ」
ロレンス「あ」
声「安くて堅い手だな。まるでサラリーマンだ」
礼を言おうと振り向いたその瞬間、言葉を失った。
声「?」
ロレンス「…!」
598 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:39:02.77 ID:Oi/WqGU0 [7/19]
その人物は、見覚えがあるという表現ではぬぐいきれない、説得力のある存在感を放っていた。
かつての傷はもうふさがっていたが、それでいても顔がうずく。
旅の途中で出会い、時には敵、時には同士だった、とある狐目の没落貴族にあまりにも似ていたから。
狐目「失礼、どこかで?」
ロレンス「い、いや…」
おそらく女性。無愛想だが、反面おしゃべり。
守銭奴な一方で品があり、それでいて狡猾な、俺が知るもう一匹の狼。
狐目「ずいぶん警戒した目つきだな。ここ最近でそれをオレに向けてきたやつは少ない」
ロレンス「……どうしてここに」
狐目「? 大丈夫か、あんた?」
599 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:40:12.35 ID:Oi/WqGU0 [8/19]
ロレンス「…これも夢にしては趣味が悪すぎる」
狐目「おいおい、外人がゲーセンで麻雀なんざ珍しいと思って声をかけてみたら、ただの電波野郎か?だったら、オレは話しかける相手を間違えたみたいだ」
あきれたような視線。ため息をつきながら隣のテーブルに座る。
しかしよくよく見てみれば、記憶にある没落貴族とは違い、瞳の色はこの国の住民と同じ黒色で、金色の髪は染め上げられたもののようだった。
服装は俺と同じスーツで、色は漆黒。
ロレンス「し、失礼」
狐目「ふ、日本語うまいな。何してる人だ?」
ロレンス「……何も」
狐目「なんだ、プータローか。その割には立派なスーツ着てるじゃねえか」
600 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:41:00.13 ID:Oi/WqGU0 [9/19]
ロレンス「あなたは?」
狐目「オレか? …そうだな、あんたと似たようなもんだが、一応仕事はある」
そういって頬杖をつきながら、煙草を取り出す。
狐目「吸うか?」
ロレンス「いや、結構です」
狐目「すすめられたもんはとりあえず受け取っておくんもんだぜ。後悔するのは損をしてからでいい」
その物言いと芝居がかった立ち振る舞いも、まさに生き写しのようだ。
601 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:42:01.37 ID:Oi/WqGU0 [10/19]
ロレンス「すいません、女性からすすめられることは滅多にないので、慣れてないんです」
狐目「……」
雰囲気が変わる。
狐目「どこで気づいた? オレがそう言ったか?…そんな言葉、男物のスーツを着ているのが馬鹿みたいじゃないか」
ロレンス「昔、似たようなやり取りをしたことがありまして」
狐目「へえ、慧眼だな。ここ最近は男で通っていた、女扱いされるのは嫌いでね」
煙草が妙に似合う。この頃には頭が落ち着きを取り戻していた。
ロレンス「そして、容姿を褒められるのも好きではない?」
狐目「……何者だ、あんた」
602 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:44:43.91 ID:Oi/WqGU0 [11/19]
ロレンス「さもないかまかけですよ」
狐目「だとしたら妙に的をしぼったそれだ。いよいよ話しかける相手を間違えたか」
ロレンス「それを言うなら、私に話しかけたあなたも、相当のかまかけだと思いますが?」
狐目「別に大した理由なんてない。下手な打ち方してそうだったから声をかけたんだよ。だが同時に、ものの数分で縁を感じるのも久しぶりだ。オレの勘も鈍っちゃあいない」
これは直感で嘘だとわかる。そして、嘘がばれることを理解した上での発言だということも。
ロレンス「名前を伺っても?」
狐目「マリエ。とはいっても、商売上は別の名を名乗る。こういう身分だ、マリエなんて格好つかないだろう? あんたは…」
ロレンス「クラフト・ロレンスです」
603 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:45:28.48 ID:Oi/WqGU0 [12/19]
記憶にある光景と違わず、差し出した手はしっかりと握られた。
マリエ「名前は向こうのなんだな。どこから来た?」
ロレンス「遠いところですよ」
マリエ「は、なかなか胡散臭い。オレも人のことは言えないが。長いのか」
ロレンス「いえ、ついこの間からです。つれと一緒にこの国に放り出されましてね。今は養われの身ですよ」
マリエ「ありがちな与太話、というわけではなさそうだ」
マリエは足を組み、煙草をくゆらせて横目で俺を見る。
品定めするような目つきだった。
マリエ「退屈なんだ。付き合ってくれるか、異邦人ロレンス」
ロレンス「…多少なら」
マリエ「そう警戒するなよ。ビジネスじゃあ、ない」
604 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:47:53.10 ID:Oi/WqGU0 [13/19]
ロレンス「私がかつて出会った商人も同じ台詞を吐きましたよ」
マリエ「へえ、儲かったのか」
ロレンス「いえ、だまされました。顔に一発、きついのを食らった上でね」
瓜二つの人物の前で言うには、少々勇気がいった。
マリエ「ふふ、で? 今度もだまされそうか?」
ロレンス「どうでしょう。少なくとも、警戒しておいて損はない。あなたによく似ている人物でしたから」
マリエ「逆に言えば、十分に警戒しているなら、話を聞くぶんには何の危険もない」
ロレンス「仰る通りです」
マリエ「ここは身の上話をするには騒がしすぎるな。来いよ、上等な酒がある。夜が更けるまでなら、やぶさかじゃないぜ」
ロレンス「……」
マリエ「どのみち、この街に住んでいるならオレとは話をすることになる」
これはホロの耳がなくても、嘘ではないように聞こえた。
そして何より、マリエの発言にはかつての女商人のように、不思議な説得力があった。
605 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:49:03.18 ID:Oi/WqGU0 [14/19]
マリエ「オレの店だ。適当に飲んでくれ」
ロレンス「ありがとうございます」
通された酒場。
客は俺たち以外にはほとんど誰もいない。
その割りに店の設備は整っていて、金の巡りもよさそうだった。
マリエ「『思ったよりマトモな店だ。こいつは何を思って俺を連れてきた。そもそも出会ってからここに来るまでが唐突すぎる。何か裏があるんじゃないか』」
ロレンス「……」
マリエ「あんたも立派な仮面を持っているみたいだが、そいつを外してやるのがオレらの商売だ。見くびってもらっちゃ困るな。…水割りでいいか」
ロレンス「ええ。大分儲かってらっしゃるみたいですね。これだけの設備、整えているだけでも立派だ」
マリエ「……」
ロレンス「何か?」
マリエ「いや。国には、…マフィアとか、そういうのはいなかったのか」
ロレンス「マフィア?」
マリエ「…ふ、いいさ。話し相手はオレと対等でいてくれなきゃ困る」
606 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:49:54.93 ID:Oi/WqGU0 [15/19]
マリエ「オレの商売は一言でいうならなんでも屋だ。金が手に入るなら大抵の場合、手段は問わない。ヤクザ、暴力団、任侠……上の連中は肩書きにこだわるが、まあオレにとっちゃあそんなものどうでもいい。
親父がそこの幹部でな。物心つく頃には店を任されていた。
商売をする上でのルールはあるが、ルールを守る限り、どんな方法でもオレたちは儲けを出すことができる」
ロレンス「後半部分については、おおむね同感ですね」
出された水割りで軽く乾杯をした。
マリエ「は、普通こういう場所に来たら少しは下手に出るもんだぜ。
どれくらいの修羅場をくぐってきたらあんたみたいなのが生まれるんだ」
ロレンス「私がいた国では修羅場をくぐらずに生きていく方が難しかったんですよ」
607 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:50:32.74 ID:Oi/WqGU0 [16/19]
マリエ「どうしてあんたに声をかけたか、だが」
ロレンス「やっぱりかまかけ、でしたか?」
マリエ「いや違う。そもそもカタギに声をかけるなんざ、よっぽどのことでもないとしない。…あんた、養ってもらってると言ったな」
ロレンス「ええ」
マリエ「街で最近、よく見かけていてな。あんたが企業の御曹司と一緒に歩くところを」
ロレンス「……」
マリエ「ま、大方察しはつくと思うが」
ロレンス「…安い台詞ですね。仮に商談だとしてももう少しやり方がある」
俺の言葉と同時に、突然隣のテーブルに座っていた男たちが俺の周りを囲んだ。
威圧感のある視線を俺に向けてくる。
608 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:51:48.62 ID:Oi/WqGU0 [17/19]
マリエ「誰が集まれと言った」
かと思えば次の瞬間、マリエは無言で酒瓶を持つと、その中の一人の顔面にたたきつけた。
騒音とともに男の顔はたちまち血まみれになり、その場に倒れた。
たちまち従業員らしき男たちに運ばれていく。
周りをかこんでいた男たちの顔からは反対に血の気がひいていくのが分かった。
マリエ「手間かけさせるな」
男たちはやはり無言で店の奥に消えていった。
ロレンス「…なるほど、こういうやり方もあるんですね」
マリエ「ほう」
ロレンス「あらかじめ配置しておいた部下を客にあてがって、その上でその部下を圧倒する暴力を見せつけ、自身は平然を装う。これなら確かに、私が取れる方法はあなたの話を紳士的に聞くほかない」
マリエ「そこまで考えちゃいないさ。が、あんたに話を聞いてほしいってのは本当だ。まあ悪く思うな。『オレらの国』の慣わしみたいなもんだ」
609 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:52:37.12 ID:Oi/WqGU0 [18/19]
マリエ「それとな、あんたの身の上も色々聞きたい」
ロレンス「なんとも」
マリエ「ロレンスさん、そりゃ隠せないぜ。手荒なことをするつもりはないし、『今日は』本当に退屈しのぎだ。たまたま、あんたが関わっていることと、オレが関わっていることが重なっただけ。まだあんたから利益を引き出せるかも、オレが差し出せるかもわかってない、だろう?」
ロレンス「商売なんてものは、退屈しのぎのようなものだと、師匠から教わったことがありましてね」
マリエ「それを言ったら人生だって似たようなもんだ。安心しろよ、悪いようにはしないさ」
マリエはそう言うと、持っていたグラスを鳴らす。
長い夜の始まりの合図だった。
621 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 21:18:41.43 ID:WfTBaLg0 [1/26]
マリエ「神を造る?」
ロレンス「ええ」
マリエは気のぬけたような返事をしていた。
酒も大方廻る時間帯。
今頃ホロは何をしているのだろう。
近頃は読書にも勤しんでいるようで、あれ以来親身に話したことはない。
ロレンス「世に蔓延る有象無象の宗教ではなく、
この国の人間にもう一度天を仰がせるためのそれを。
ただし仰がせることが目的ではなく」
マリエ「待った。それ以上は結構だ。
まったく、宗教屋はどいつも同じような台詞を吐く」
ロレンス「……」
622 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 21:19:14.35 ID:WfTBaLg0 [2/26]
マリエ「オレのとこにもたまに来るんだ。
中古品の神様を売りつけに来る輩は後をたたなくてな。
…なんのことはない、ただの金持ちの享楽か。
これだから向上心のないやつはわからねえ。
真に上を向くべきはそいつらの方だとオレは思うぜ」
ロレンス「…私も、迷ってはいます」
マリエ「まあ金が余ったら慈善運動ってのは、
俗物が往々にして通る道なんだろうな。
金の次は名誉だ。偽善者くさくて反吐が出るが、
益を被る側からしたら偽善も善。あの家の名はうなぎ上りだろうぜ」
ロレンス「果たしてそうでしょうか」
マリエ「ん」
623 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 21:19:58.13 ID:WfTBaLg0 [3/26]
ロレンス「私は商人ですから、信仰とはその商いの範疇になく、
単に利用するための考え、道具です。
しかし、聞けばこの国は過去の神とはすでに決別した国。
一度壊れた信仰を取り戻すには、いささか遅すぎる気がしています」
マリエ「まあ半分は当たりだ」
グラスに注ぐのは燃えるぶどう酒、ブランデーに変わっていた。
マリエ「ちょっと前にあんたたちみたいな輩が沸いて出た時期があってな、
かなりでかくなった組織もあったみたいだが、
どこかでブレーキをかけられなくなって自滅した。
何百年もの歳月、万人に通じる真理を説けるやつなんざ、
そう簡単に生まれちゃこない。そしてその真理もな。
だが、歴史の中でそこにたどり着いた輩もいた。
神は言った、はじめに言葉ありき、だったか?
なるほどたしかに、言葉ありきだ。
言葉によって人は魅了され、金を払い、しまいには命まで差し出す。
最初にあれを考えたやつは歓喜しただろうぜ。
それこそ世紀の大作家だと思わないか?
印税だけで人生30回は遊んで暮らせる」
うまいことを言うなと感心してしまう。
624 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 21:21:04.99 ID:WfTBaLg0 [4/26]
マリエ「科学が発展したから淘汰された、
なんてほざく連中もいるが、俺はそうは思わない。
そもそも科学的に考えるとはそうでないものも含め、
この世界の中からそのエッセンスを抽出することだ。
それは同時に、そうでないものを選別する作業でもある。
科学が人を魅了するのと同じく、
いつだって人は、『そうではないもの』にも惹かれるのさ。
それは何も神や奇跡だけじゃない。
愛だの情だの、現にあんただってそうだろう?
もちろんオレだってそうさ。
…なぜだかわかるか?」
ロレンス「存じかねます」
マリエ「期待しているからだ」
ロレンス「!」
マリエ「オレたちは期待しているんだよ。
誰だって世界は美しくあってほしい。
何に美しさを求めるかどうかは違えど、
この世界は少しでも『善く』あってほしい。
科学には善も悪もないがゆえに、な」
625 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 21:22:29.14 ID:WfTBaLg0 [5/26]
ロレンス「…昔」
マリエ「ん」
ロレンス「どこかで聞いた台詞です」
マリエ「あんたの知り合いか?」
ロレンス「ええ」
マリエ「はは、ならばそいつも相当なロマンチストだ。
詩人にでもなればいい」
自嘲気味に、冗談っぽく言うマリエ。
ロレンス「……彼女はリアリストでした。ですがおそらく、
それゆえに『期待していた』」
マリエ「……」
626 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 21:23:52.48 ID:WfTBaLg0 [6/26]
マリエ「話がそれたが、要するにだ。
確かにこの国の連中は宗教アレルギー持ちの輩が多い。
だが、何かを信じて生きるなんてのは、誰しも無意識にやってることだ。
そういうやつらが次に何を求めるか、わかるだろ」
ロレンス「自分を肯定してくれる根拠」
マリエ「ま、その時点で自己矛盾なんだがな。
そしてカリスマってやつは名前と時代を選ばない。
『そうでないもの』に足る言葉を投げれば、
神じゃなくても魚は釣れるんだよ。
長続きするかは知らないし、よっぽどの傑物でないと無理だろうが。
その意味では不可能ではない、が、難しい商売だ」
果たして賢狼は、マリエが言う傑物に足る存在だろうか。
ロレンス「しかしマリエさんは博識ですね。
商談相手としては強敵だ」
マリエ「謙遜もそこまでいくと厭味だな。
このくらいならあんたでも引き出しから出せるんじゃないか。
『人』にモノ『言』う『者』と書いて、儲ける。
商人は口が廻らねえとな」
ロレンス「ごもっともです」
627 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 21:24:49.27 ID:WfTBaLg0 [7/26]
ロレンス「で? 儲けられそうですか?」
マリエ「どうだかな」
頬杖をつくのが癖のようだ。
マリエ「正直、いまのところは分が悪い」
ロレンス「ほう」
マリエ「あの御曹司の企業はちょっとしたライバルなんだ。
なに、こんなチンケな酒場の話じゃない。
ネタが手に入れば蹴落としてやろうかと思っていたが…」
ロレンス「…?」
マリエ「…あんたを抱えているなら、少々てこずりそうだ」
ロレンス「私はただの居候ですよ」
マリエ「そうか? さっきの話が儲け話につながらないか、
10回は考えてそうな顔してるぜ」
ロレンス「………」
628 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 21:26:12.32 ID:WfTBaLg0 [8/26]
マリエ「はは、気を悪くするなよ。これは商売じゃないんだったな。
だが、商人なら呼吸のようにしてしかるべき行為だ。
どうせオレの商売のことも知ってたんだろう?
聞かせてくれ、あんたの国じゃオレたちみたいなやつのこと、
なんていうんだ?」
ロレンス「……さすがですね」
マリエ「じゃないとオレに情報提供する必要がない。
ヤクザ相手に駆け引きなんざ、恐れいったぜ。
さっきの話は別として、カタギに借りたもんはきっちり返す。
このネタは胸にしまっておく」
ロレンス「ありがとうござい…」
マリエ「だが」
瞬間、その視線はナイフのような切れ味を見せた。
マリエ「それでチャラだ。それ以上もそれ以下もない。
…それとこれは単純に善意で言うんだがな」
マリエ「あんたとはもう会わないことを祈ってる」
無言の圧殺だった。
629 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 21:32:49.86 ID:WfTBaLg0 [9/26]
マリエは実に合理的な商人だった。
それは言葉通り、ルールは存在するが、ルール内ならば自由ということ。
そして、それが鉄則であるがゆえに迷いがない。
俺に対して向けたナイフは、店を出る頃にはすっかり懐にしまいこんでいた。
マリエ「そうだ」
ロレンス「え?」
マリエ「店にだったら、いつでも来てくれ。歓迎する」
ロレンス「あいにく、そこまで太い肝は持ち合わせてませんので」
マリエ「なら、次はたっぷり肝を食わせてやるよ。
食ったことないだろう?」
ロレンス「かないませんね」
630 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 21:36:00.91 ID:WfTBaLg0 [10/26]
マリエ「あんたなら雇ってもいいくらいだぜ、異邦人ロレンス」
ロレンス「その呼び名はよしてください。…『違法』人マリエさん」
マリエ「…やっぱりあんた、太いやつだよ。またな」
ロレンス「………」
狡猾な狼は、これから起きるすべてのことを見通したような目を流した後、
自己矛盾ともとれる発言を残し、扉の奥へと消えていった。
631 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 21:39:11.76 ID:WfTBaLg0 [11/26]
ユウ「遅かったですね」
一日働いていたのか、それとも情報収集か。
ユウの表情はどこか疲れている。
ロレンス「旧友に会ってな。…いや、悪友か」
ユウ「ほう」
ロレンス「お前こそ珍しく遅いじゃないか」
ユウ「二束の草鞋を履くっていうのは、思いのほか骨が折れそうです。
もっともそれくらいのやりがいは感じられないと、火がつきませんが」
ロレンス「……」
632 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 21:53:43.95 ID:WfTBaLg0 [12/26]
ユウ「旧友とは何を話したんですか?」
ロレンス「さもないことだ。おかげで肝が太くなったが」
ユウ「……」
ロレンス「ホロは寝てるのか?」
ユウ「本を読みたいというので、さっきまで文字を教えていました。
ですが、途中からは酒を飲みたいとご所望で」
ロレンス「お前が祭ろうとする神は随分と気まぐれだからな。
集まる奴らの苦悩が伺えるよ」
ユウ「神の試練、とでも言いましょう」
ロレンス「乗り越えても何もなさそうだが」
寝室のドアを開ける。
633 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 21:57:47.65 ID:WfTBaLg0 [13/26]
ホロ「誰が気まぐれじゃ」
随分出来上がっているようだ。
ふくれっつらで酒瓶を持っている。
寝具はまた新しい装いのようだった。
ロレンス「また買ったのか」
ホロ「くふ、つるつるで着心地がよい。
この酒はういすきーと言うそうじゃ。
麦を蒸留したものらしくての、うむ、わっちの口にはよく合う」
634 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 22:07:59.17 ID:WfTBaLg0 [14/26]
ホロ「ほれ、ふりふりじゃふりふり。
小僧が買ってくれての。
やはりよき雄とは色を知っておる。
モノを贈る、これ即ち雄の嗜みじゃな。
わっちゃあかような心遣いに弱いと、いまさら気づいた」
仕切りにベッドの上で動く。
なんというか、苛苛する。
ロレンス「なんて体たらくだ。近いうち、俺からユウには厳しく言っておくからな」
ホロ「ふん、わっちは女神になるかもしれぬのじゃ、これくらい…」
ロレンス「おい」
少し言い方がきつくなってしまった。
ロレンス「冗談でも、そういう言い方はよせ。笑うと思うか?」
ホロ「……なんじゃ、ぬしだって」
ロレンス「え?」
ホロ「ぬしよ!」
ぎくりと嫌な予感が音をたてる。
635 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 22:10:42.06 ID:WfTBaLg0 [15/26]
ホロ「わっちの前で包み隠さず、今日自分がしてきたことをいえるかや?」
ロレンス「は? た、探索だよ」
ホロ「耳と尻尾は失ってもわっちは賢狼じゃ!ヨイツの賢狼ホロじゃ!」
なんだかよくない酔い方をしているような気もする。
だが俺としてもやましいことはしていない。
やましく思ってしまうのは、ホロがやましいと思うだろうと俺が感じるからで…あれ?
ロレンス「…特に、責められるいわれはない」
ホロ「ほう? それはなんでじゃ」
ロレンス「なんでって…。単純に、情報を探っているうちに人に出会った。話の流れで、酒を奢ってもらっただけだ。
お前に対してどうということはないだろう」
ホロ「ならわっちもじゃ」
ロレンス「え?」
636 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 22:16:02.89 ID:WfTBaLg0 [16/26]
ホロ「本を読もうとしておったら、たまたま小僧に会った。
話の流れで酒と服を奢ってもらっただけじゃ」
ロレンス「……お前な。子供じゃないんだから…」
ホロ「ふん」
マリエがいう、『そうでないもの』とは、こんなやり取りも含まれているのだろうか。
確かにこれは、おいそれと淘汰されてほしくはない。
ロレンス「……決心はついたのか」
ホロ「……」
無言で首を振る。
637 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 22:21:50.11 ID:WfTBaLg0 [17/26]
ロレンス「本当に、お前らしくないといえばらしくないな。
さしもの賢狼も、こればかりは頭を抱える難題か?」
ホロ「ふん、知ったようなことを言うでない」
そういいつつも、気づけば賢狼はベッドを一人分あけている。
そばに来いってことだろうか。
こんなことをするのは、もしかして、尻尾がないから?
ロレンス「不便だな」
ホロ「たわけ」
638 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 22:26:17.53 ID:WfTBaLg0 [18/26]
ロレンス「俺がいるじゃないか」
気づけば、口走っていた。
ホロ「ぬしは頼りにならぬ」
ロレンス「なぜ?」
ホロ「…肩くらい抱けんのかや」
ロレンス「お前、自分で雰囲気壊してる節ないか」
ホロ「ぬしがつけあがるからの」
大分酔っているようで、寄せた肩にうずくまるように頭を貸してくる。
639 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 22:30:13.59 ID:WfTBaLg0 [19/26]
ホロ「それに他の雌の匂いを消しておかねばの」
ロレンス「……耳と尻尾は失っても、か。適わないよ」
ホロ「良き雌じゃったかや?」
ロレンス「どうだろうな。何をもって良いと……」
ふと、長い間考えていたことが固まる気配がした。
ロレンス「なあ、ホロ」
ホロ「うん?」
ロレンス「その……この国に神を造るということは、正しいことなのか」
ホロ「………」
640 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 22:45:51.90 ID:WfTBaLg0 [20/26]
ロレンス「お前は標になってもいいかもしれないと説く。
ユウはユウで、上を向かせて歩かせたいと説いた。
ならば俺は?ここでいつも考えが止まっていた」
ホロ「……」
ロレンス「そうこうするうち、俺が出会った商人はこう説いた。
人は世界に、『美しく』あってほしい。それを期待していると。
……これが商売でないなら、いや、そうだとしても根底にあるのは倫理、だろう?」
ホロ「…そうじゃな」
ロレンス「お前ほどの英知があれば、彼らの期待にこたえられるかもしれない。
だが、自前のものさしを使ってそこに入り込むというなら、
その倫理は、真に正しき倫理といえるのか?
お前自身が、お前に対して、それが真理だと言い切れるのか?
俺は、この行為が間違っているとはいえない。
だが、正しいともきっと言えない」
ホロ「ぬしは」
ロレンス「うん?」
ホロ「変なところで優しいから、困るんじゃ」
641 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 22:58:41.04 ID:WfTBaLg0 [21/26]
ロレンス「……」
ホロ「なぜならぬしは、わっちが、いや、
おそらく神ですらその問いに答えられぬことを知っておる」
ホロはヨイツの賢狼だ。
ホロ「理屈というのは便利なもんじゃ。
世界の有様を正しく語る術、理屈で世界はここまで栄えた」
おそらく俺などでは及ばないくらいの期間、
自問自答を繰り返してきたんだろう。
ホロ「ときとしてこの世のすべてを理屈で語ろうとする輩もおる。
方便というのは正しき道に導くためのものじゃが、
ならばその正しき道とはなんじゃ?
うん、これは立場によって変わる。それも世界の有様じゃ」
642 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 23:09:42.16 ID:WfTBaLg0 [22/26]
ホロ「しかし崇められたわっちは立場を変えたりはできぬ。
わっちは常に正しいことを示す義務があるんじゃ。
そして、そうなったそれは世界の有様ではない。
虚構じゃ。幻想じゃ。まやかしじゃ」
ホロ「わっちらは世界について、
そこにあることならば確かにあるということができる。
しかしわっちらがそこにないことについて語ったとき、
いや、語ろうとしたとき、これはなんじゃ?
わっちは、暴力じゃと思う。
何に対してかは分からぬし、それはこれから生まれるのかもしれぬ。
が、これは暴力じゃ。
…まあ、ぬしが考えるように確かに自責に駆られるやもしれんの」
ロレンス「だが、お前がいう、『そこにないもの』について語る暴力、
はことごとく無意味ではない。
俺とお前の間にもそれはきっとある」
ホロ「………」
643 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 23:32:29.31 ID:WfTBaLg0 [23/26]
ロレンス「少なくとも、
俺はそういった試みを否定できる立場にいない。
お前もだろう?」
ホロの頭をなでようとして、ぎょっとした。
ホロは泣いていた。
ホロ「…馬鹿になど決してせぬ。
きっとそれは美しいんじゃろう。
人が見たこともないくらい、輝いておるんじゃろう。
そう思わずにはいられぬ。
そうして今のわっちは、そんな暴力にこれ以上ないほど感化されておる。
なぜかや? それは過去が邪魔をするからじゃ。
ぬしがいれば怖くはないというのに、
過去がわっちに語り、語らせるんじゃ。
やり直せるなら、と、毎晩語るんじゃ。
同時に、パスロエ村の奴らが、
わっちを指差して笑う。
阿呆じゃと。学びもせず、間抜けな狼じゃと。
わっちは馬鹿じゃ。愚かな狼じゃ…」
酒が入って感極まったのか、最後の方は聞き取れない。
孤独が怖いなんてのは、方便だった。
ホロも十分に俺のことを信用してくれている。
その先に見たのは、賢狼の誇りが、簡単に崩れる様。
心優しい狼は、かつての麦の村に、砂をかけて出て行ったつもりが、今でもその傷は癒えていなかった。
…いや、癒えたはずのものがまた現れた。
ロレンス「もうよせ」
644 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 23:50:04.41 ID:WfTBaLg0 [24/26]
同時に、俺は自分の言葉がホロにとって、
どれだけ軽率に投げつけられたものかを理解し、深く後悔した。
何も言わずに、引き止めればよかった。
最初から答えなどないことは分かっていたのだ。
言葉にしたから。
このときほど俺たちの時代の神を皮肉に感じたことはない。
ホロ「……すまぬ」
ロレンス「いや、いいんだ」
胸に顔をあてるホロの表情はわからない。
645 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/14(水) 23:51:31.34 ID:WfTBaLg0 [25/26]
ホロ「………ぬしよ」
ロレンス「ん?」
ホロ「ぐす、わっちゃぁ愚かな狼じゃから……」
ロレンス「………しってるよ」
ホロ「……しばし、忘れてしまいたい」
ロレンス「…………ああ」
言葉と同時に、麦の神の手元から離れたウイスキーは床に落ち、
その晩、二度と拾われることはなかった。
655 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/23(金) 21:16:36.83 ID:UOy6l1s0 [1/8]
ロレンス「なあ」
ホロ「んぅ…なんじゃ、まだ足りぬかや?」
眠りかけていたのか、目は閉じたまま狼は言った。
ロレンス「っ、本当に口の減らない…っ」
ホロ「ぬしが照れてどうするんじゃ」
言いながら、体はしっかりと寄せられていた。
ホロ「雄は先行してこそじゃろうが」
ロレンス「こういうのは専門外だからな」
ホロ「ぬしも商人ならば、何事においても門外漢にはならぬようにの。
ま、その割には盛っておったが、くふ」
とたんに顔が赤くなるのを自分でも感じた。
656 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/23(金) 21:20:10.55 ID:UOy6l1s0 [2/8]
ホロ「本当にぬしはかわいい男の子じゃの。
それこそ食べてしまいたいくらいに、の」
ロレンス「耳と尻尾はないんだ、この夢の中じゃそんな無茶はできないだろ」
ホロ「たしかにのう。もっとも、食べられたのはわっちの方かや?」
ロレンス「ぐ……」
ホロ「しかし、それなりによかった」
ロレンス「え?」
ホロ「よかったといっておる」
ロレンス「……?」
ホロ「……却下じゃ。まったく無粋な男で苦労しんす」
ロレンス「…………?」
657 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/23(金) 21:22:10.59 ID:UOy6l1s0 [3/8]
ロレンス「お前のほうこそ、その、手馴れてたじゃないか」
ホロ「…気になる?」
ふぅっ、と吐息が音をたてる。
ロレンス「ならないといえば嘘になる」
ホロ「ほう、手馴れてるとわかるほどの手練かや?ぬしが?」
今度ははっきりと目を開いた。
ホロ「ならば言ってもらおうかの?『誰と比べて』じゃ?例の娼婦の館とやらかや?どうなんじゃ?」
ロレンス「誰と比べるとかじゃない、直感だ」
ホロ「ふん、わっちが何年生きておると思っておる。ぬしのような雄」
ロレンス「?」
ホロ「いかようでも狩れる、と言ったじゃろ?」
いたずらっぽい笑みは変わらずだった。
658 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/23(金) 21:42:55.70 ID:UOy6l1s0 [4/8]
ロレンス「狼の、だな」
ホロ「うん?」
ロレンス「なんというか、その」
ホロ「くふ、いちいち照れずともよい。わっちらもぬしらと一緒じゃ」
ロレンス「そうなのか?」
ホロ「うん。そうじゃの、しかしやはり夜伽といえば冬じゃ。温まるしの」
ロレンス「う、む」
風情も理解しているだろうが、どうも狼の会話は直接的になる節がある。
ホロ「じゃが、こうしておるのも心地よい。
わっちらは体を合わせて意志を通わすからの」
ロレンス「……」
659 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/23(金) 21:44:37.30 ID:UOy6l1s0 [5/8]
くそ、トトロ面白すぎる畜生
661 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/23(金) 22:49:33.51 ID:UOy6l1s0 [6/8]
ホロ「ぬし」
ロレンス「ん」
ホロ「それなりに、特別じゃからな」
ロレンス「わかってるよ」
ホロ「じゃが、うむ、調子にのるでないぞ」
ロレンス「さっきまでのお前で言える言葉か」
ホロ「たわけ」
662 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/23(金) 22:56:25.55 ID:UOy6l1s0 [7/8]
考えるにユウが動き出したのはその翌日だった。
朝起きるとホロはすでに寝屋から抜けていて、
なんとも形容しがたい俺の身体がそこに残っていた。
ユウが部屋に入るなり俺を見て目を丸くしていたのと、
ホロがそれを横目で見ながら薄笑いしていた光景はほぼ同時に記憶に残っている。
ホロ「小僧、我が主様はときと場合で羊と狼と使い分ける」
ユウ「は、はい…」
ホロ「主様はかような醜態、さらすまいな?
くふ、雄はいつだって間抜けじゃ、捕まえたら満足しんす」
賢狼の脳みそはいまだ健在だ。
667 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/24(土) 22:46:08.49 ID:wDX7VuI0 [1/12]
ホロ「それで、じゃの」
着替えを俺に投げてから、ホロはゆっくりと口を開いた。
ホロ「例の話、わっちは引き受けることにした」
ユウ「ほう」
ロレンス「ホロ…?」
ホロ「少々、思うことがあった。その結果じゃ」
横目で俺を見る。
何を思って、なのだろう。
しかし止めようにも、俺が出すべき言葉は昨日投げつくしてしまっていた。
668 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/24(土) 22:47:04.96 ID:wDX7VuI0 [2/12]
ロレンス「本当に、いいのか」
かろうじて出てきたセリフがこれだ。
ホロ「構わぬ」
ロレンス「………」
ホロ「この時代の書物もそれなりに読んだ。色々と文化も分かったしの。
わっちにできることなら、なんでもしんす」
ユウ「うれしい限りです。こちらの方でも準備は整っています。
あとは……うん、あなたが壇上に上がっていただければ」
相変わらずの純粋な笑顔だ。
ロレンス「買い付けは終わったのか?」
ユウ「ええ。資金面でも苦労しましたが、あとはどうやって人を集めるかです。
しかし、これが中々難しい」
669 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/24(土) 22:48:09.12 ID:wDX7VuI0 [3/12]
ロレンス「宗教に対してのイメージか」
ユウ「もちろん人によります。マスコミの話をしましたね?」
ロレンス「大きな情報屋みたいなものだろ」
ユウ「そう言い方を変えると妙な響きがありますね。
ですが、ええ、確かにそうです。
一度広がった悪い情報を中和するのは容易なことではありません」
ロレンス「それはいつの時代も同じなんだな」
ユウ「そう。流布された悪評は一人歩きする。これをどう打開するか。
知恵を貸してもらえますか?」
ロレンス「………」
それまで考えていたことをとっさに頭の中でまとめる。
670 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/24(土) 22:50:50.52 ID:wDX7VuI0 [4/12]
ロレンス「宗教、とは」
ユウ「?」
ロレンス「語りえないものについての挑戦であり、暴力だ。暴力とは即ち、
強制力を伴ったそれを言い、人はその力には抗えない」
ユウ「ほう」
ロレンス「だがそこに挑戦してしまうのも、俺たち人間の性なんだろうな。
いくつかのルールを守るならば、協力しよう。
ホロの意志もある。俺だって強制はできない。
――まず、他の宗教を否定するようなことはしないこと。
営利目的に走らないこと。人格は尊重すること」
ユウ「文言が抽象的、それでいて曖昧かつ多面的に読めますね。立法の基本ですが」
ロレンス「言葉それ自体が毒にでもナイフにでもなりうるんだ。甘いくらいだろう。
それに暴力は嫌でも敵を生み出す可能性がある。
網は広げて敷いておいて損はない」
ユウ「わかりました。いいですよ、それで。もともと慈善運動です。
それによって人が上を向けるならば、安い」
671 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/24(土) 22:51:35.38 ID:wDX7VuI0 [5/12]
ロレンス「安い高いは別の話だ。これは商売じゃない。―――ある種の革命だろう」
ユウ「いよいよ大きく進んできましたね。そうなってくれると嬉しい」
ロレンス「皮算用は商人の十八番だからな。
だが、俺は謀る程度につれの能力を信頼している」
ユウ「同じですよ、ロレンスさん。大いに舞ってもらいましょう」
ホロ「ぬしらよ」
話を静観していた狼は、つぶやくように言った。
ホロ「もうひとつ、追加してほしいことがありんす」
ユウ「何ですか」
672 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/24(土) 22:52:45.32 ID:wDX7VuI0 [6/12]
ホロ「わっちを神にしようが、意志の代弁者にしようが、それは自由じゃ。
じゃが、わっちはわっちが正しいと思ったことしか説かぬ。
それでもよいかや」
ユウ「無論構いません。もともと神という言葉を使うつもりはない。
言葉は便利で、むなしいものです。僕があなたにしてもらいたいのは、
標を示すこと。ちゃちなアイドルやコメンテーターにできないことを、
あなたにしてもらいたいだけです」
ホロ「……うん」
決心がついたのは嘘ではないと思う。
だが、どこかでまだ揺れている、そんなようにも見えた。
673 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/24(土) 22:56:04.06 ID:wDX7VuI0 [7/12]
ロレンス「さて、ではどうやってこの蝶に羽をつけるか、だな」
ユウ「……あの…」
ロレンス「場所と客層だけ絞れば、案外と火はすぐにつきそうなものだが」
ホロ「くふ」
ユウ「………」
ロレンス「どうした、何か変なことを言っているか?」
ホロ「主様、とりあえず服を着てはいかがかや?」
はっと気づいて思考を止めた。
さすがに格好がつかない。
それにしてもホロの含み笑いはいつだって攻撃的だ。
洒落ができるくらいには落ち着いているんだろうが。
674 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/24(土) 23:28:22.81 ID:wDX7VuI0 [8/12]
数分後。
ユウ「さて、つまるところどうやってこの蝶に羽をつけるか、ですが」
ロレンス「布教活動ってやつだな」
ホロ「むう、そういわれると何か歯がゆいの」
ユウ「公然と布教していても誰も振り向いてはくれませんよ。
ただでさえ忙しいんです、客引きですら人を捕まえるのに苦労する。
大抵の人には無視されるでしょうね」
ホロ「そういえば、そんな感じじゃったな、確かに」
ユウ「ではここでクイズです。
新規に市場開拓するとして広告を打つとき、考えられるセオリーとは?」
ここで頭を回した。
ロレンス「客層を定め、その生活観、欲求を洗って需要を調べる。
あとは心に訴える言葉、光景を提示して、それが必要だと思わせる」
ユウ「さすがですね。この時代ではそれをマーケット戦略といいます」
675 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/24(土) 23:35:52.10 ID:wDX7VuI0 [9/12]
ロレンス「知ってるさ。それ専門の商会もあるんだろう?」
ユウ「ありますよ。ここで大事なのは需要は本来的には内在しているが、
顕在化はしていないことが多い。
広告とは、その必要性を説くという行為です」
ロレンス「ふむ」
ユウ「言い方を変えると、必要かどうかわからないものを、必要だと思わせること。
生活する上で絶対的になくてはならないものは、
相対的に見て、ですが、広告するメリットが少ない。
コストと天秤にかけたら、まあ当たり前のことですが。
逆に人生において付加価値的なものについては、広告なしでは世に広まりません。
テレビなんかを見ててもそうでしょう?」
ロレンス「たしかに、それは感じたな」
ユウ「宗教もそれと同じです。ま、どうしても方便的な言い方になりますが」
676 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/24(土) 23:48:24.40 ID:wDX7VuI0 [10/12]
ユウ「さて、これを踏まえて考えると、先ほどロレンスさんが言っていたことはまさに言いえて妙。
場所と客層、つまりターゲットです。これを絞って、ここぞというタイミングで旗をあげる。
われわれの考えに共感するか、心酔するような人間について」
ホロ「言うのは簡単じゃが、果たしてそんな都合よく存在するものかの、かような人間。
忙しいと言っておったじゃろう?」
ユウ「忙しいということが人生の満足度に比例していないことは、この国の自殺率を見ればわかります。
ゆえに余暇をどう楽しむかも変わってくる。市場はそこにできあがり、独自の文化を形成する。
多くは人生に足りていないものを補うべく集まります。つまりターゲットにする人間は」
ロレンス「余暇の使い方に没頭している人間」
ユウ「まさしく。さて、そろそろ出かけましょうか。
ロレンスさん、今この国で一大産業となりつつある分野、ご存知ですか?」
677 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/24(土) 23:49:41.00 ID:wDX7VuI0 [11/12]
ロレンス「……?」
ユウ「少し電車に揺られましょう。ホロさん、制服ではなく、以前着ていた服装に着替えてください」
どうも話が見えてこない。
ホロ「ぬしよ、一体どこに向かいんす?」
ユウは立ち上がると、見慣れぬ雑誌を取り出した。
ユウ「娯楽はついに必要に勝りました。
これは歴史的なことです。おそらく、僕の考えが正しければ日本でしか成功しえないことだった」
パラパラとめくった雑誌をたたみ、俺に渡してきた。
ユウ「向かう先はもちろん、秋葉原です」
679 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/25(日) 00:08:41.58 ID:7ZZqmg20 [1/19]
ロレンス「なるほどな」
ついたその先で確信した。
娯楽、といっていたのはこのことか。
ロレンス「いつ思いついたんだ?」
ユウ「ホロさんを最初に見たときにイメージはありました。
ここ最近はそれを具体化するための手段として、色々調べまわっていたんです」
ホロ「しかしすごい光景じゃの」
ユウ「文化自体は一般的に認知されてはいましたが、排斥されがちでして。
ここ最近はわりとイメージが変わってきていますね」
ホロ「それで?わっちはここで何をすればいいんじゃ?」
ユウ「何も」
ホロ「は?」
680 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/25(日) 00:12:33.70 ID:7ZZqmg20 [2/19]
ユウ「ホロさんはまだ何もしなくていいです。
とりあえずは人を集めるにはイベントが必要ですよね。
僕がスポンサーになって、ちょっとした宴会をここで毎週開きます。
そのときに、中心にいて、座っていてくれるだけでいい」
ホロ「……?そんなので、その、人は上を向けるようになるのかや?」
ユウ「ホロさんは自分の容姿について謙遜してらっしゃる?」
むっとした顔をするところを見ていると、これから先が思いやられる。
宗教の代表などと、笑ってしまう。
ホロ「馬鹿にするでない」
ユウ「いえ、褒めてるんですよ。つまりですね」
681 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/25(日) 00:18:12.73 ID:7ZZqmg20 [3/19]
ユウ「ホロさんほどの容姿と見識があれば、機会さえ設ければ人は集まります。
合わさってその服装。他とないここ秋葉原なら、おそらく」
ロレンス「最初は客寄せ、からか」
ユウ「ええ。逸材と需要、文化を認知していればプロモーションは粉一振りで十分です。
ホロさんの人気が時期を経て過熱したところで、本でも出しましょう」
ロレンス「なんだか、ずいぶん計画がラフな気がするぞ」
ユウ「大雑把に言っただけです。細かい活動については追々すすめます。
さらにこの土地に住む人々は往々にして、インターネットとの親和性が高い。
僕の専門はIT事業です。やり方はいくらでもある」
ホロ「うーむ、しかしなんというか、拍子抜けしてしまいんす」
682 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/25(日) 00:21:12.50 ID:7ZZqmg20 [4/19]
ユウ「ロレンスさんには足を使ってもらいますよ。行商人、ですからね」
意地悪く笑うが、その笑顔に悪意はない。
ユウの特許だ。
ロレンス「構わないが、果たしてうまくいくものか」
ユウ「それは信頼してもらいましょう」
ユウはどこか遠くを見つめる。
どうにも計画性に乏しく思えるが、ふと気づくと周りにはすでにちょっとした人だかりができていた。
皆一様にしてホロを見ている。
服装と、容姿、ねえ。
683 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/25(日) 00:27:30.84 ID:7ZZqmg20 [5/19]
ユウ「銀貨2000枚でしたっけ?」
ロレンス「ん」
ユウ「以前、ホロさんにつけられた値段」
ロレンス「ああ……」
ユウ「現在の価格にして約2000万。
おそらくやり方によってはさらに跳ね上がる。
価値を左右するのは需要である限り、プロモーションは商業の要」
ホロ「まるで商品じゃな」
ユウ「市場価値に換算しただけです。売りはしませんよ。決してね」
ロレンス「……」
684 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/25(日) 00:48:06.85 ID:7ZZqmg20 [6/19]
それから三月ほど経った。
軌道にのるまでが難しい、とは商売人の弁。
しかし乗ってしまったものからは中々降りられないともいう。
ユウは俺が知る限り、有能な経営者の一人だった。
もちろん、資本に裏打ちされてはいたが、それでもどこの馬の骨かも分からない俺やホロを巻き込み、
それでいてしっかりとホロをプロモーションできている。
ロレンス「しかし、早かったな」
ユウ「思ったよりは、ですね」
宴会を開いて十数回、いまやホロはかの土地で確固たる地位を築いていた。
ロレンス「やはり逸材だと思うか?」
ユウ「間違いなく。芸能界でも通用したと思いますよ。
たいていのタレントなんていうのは、中身のない商品です。
ホロさんは才色兼備、知恵も有り余っている。
だが、ここで終わってしまってはただのアイドルです。
これからじっくりと時間をかけて信仰を広めていく」
685 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/25(日) 00:53:41.33 ID:7ZZqmg20 [7/19]
ロレンス「それも並大抵のやり方ではいかないと思うが」
ユウ「大事なのはタイミングです。そしてこれから必要になるのは、
商売にたとえるなら競合との差別化、ですね」
ロレンス「その手腕を持っていて、神を造り出すとはなんとも商売人泣かせなことだ」
ユウ「いずれはこちらを本業にします。もっとも、営利目的にはせず、ですが。
事業で成功したお金をつかえば、僕の人生はとっくにゴールまでたどりつけている。
親はなかなか納得してくれませんけどね」
ロレンス「俺たち商人はゴールを目指すことそのものに価値を見出す節があるからな。
その先に」
ユウ「……?」
ロレンス「期待、してな」
マリエの顔が頭に浮かんだ。
686 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/25(日) 00:57:07.34 ID:7ZZqmg20 [8/19]
ロレンス「さて、俺は酒を買っていく。家に待つ神様がご所望だからな」
ユウ「貢物はいつの時代も、宗教とは切り離せません」
軽く笑いながら言った。
ロレンス「お前はどうするんだ?」
ユウ「先に戻ってますよ。これからの計画を今日中にまとめたいですし」
ロレンス「ホロに何かせがまれても、甘やかさないでくれよ」
ユウ「それはどうでしょうね」
苦笑はお互いだった。
687 名前:てすと22 ◆tLo9ENg8wk[sage] 投稿日:2010/07/25(日) 01:58:30.24 ID:7ZZqmg20 [9/19]
俺はというと、頭に浮かぶのはやはりこれからのことだった。
ホロはあのとき、確かに何かを思い立っていたんだろう。
耳と尻尾はなくとも、賢狼は賢狼。
深い思慮に基づいて出された言葉のはずだ。
狼の大好物のぶどう酒を選びながら、それでも頭の葛藤が絶えることはない。
そうなると自然と俺の行動もどうするべきが正しいのか、わからなくなる。
ロレンス「寝かせておくべきか、飲むべきか」
「こういうこともある」
後ろで声がしたのとほぼ同時、迷っていた二つの酒は、
差し出された手によって掠め取られた。
ロレンス「……ひさしぶりですね」
振り向かずに言った。
マリエ「上等な酒ならうちで出してやると言ったはずだが」
688 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/25(日) 02:02:12.17 ID:7ZZqmg20 [10/19]
ロレンス「買出しですか?」
マリエ「町であんたを見かけてな。丁度話がしたかった」
ロレンス「もう会わないことを願ってらしたのでは?」
マリエ「会っちまったんだから仕方ない。オレに声をかけられるのは嫌かい」
ロレンス「そうでなくとも警戒してしまいますね」
マリエ「ならば正解だ」
手にとったぶどう酒を俺に渡す。
689 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/25(日) 02:19:28.29 ID:7ZZqmg20 [11/19]
ロレンス「………?」
マリエ「鈍いんだな」
言うほどに呆けてはいないつもりだった。
でき得る最大限の回転を頭に強いる。
そして刹那に弾かれた答え。
目の前の光景が、鈍く、歪んでいく。
ロレンス「まさか」
マリエ「動くな」
ぶどう酒を渡したのとは別の手に、黒い筒。
それが何かは聞かずともわかった。
マリエ「理解力はさすがだな、異邦人ロレンス。だが何を悔いても後の祭りだぜ。
なんていったって、俺たちは出会っちまったからな」
くく、という声が今にも漏れそうな物言いだった。
690 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/25(日) 02:30:05.95 ID:7ZZqmg20 [12/19]
マリエ「住まいの方ははもう手遅れだ。うちの奴らがだいぶ前に向かった。
あんたのつれの女、上等じゃないか。
あれはこちらで抑えている。御曹司の間抜け面が目に浮かぶようだ」
ロレンス「何が目的です?営利目的でやってることではない。
あなたとユウがライバル企業だとしても、抑える利はないでしょう」
マリエ「素人考えじゃあそうだろうけどな。任侠ってのは金になればなんでもいい。
前に言わなかったか?」
ロレンス「人質にとって強請る気ですか。いざとなれば我々を切れるというのに?」
マリエ「それも素人考えだな。…まあ、後の話は車でしよう」
微妙な距離を保ったまま店を抜ける。
691 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/25(日) 02:41:20.28 ID:7ZZqmg20 [13/19]
マリエ「出せ」
いかにもといった雰囲気の車にのせられる。
不思議と心は落ち着いていた。
横腹には拳銃が当てられたまま、話す。
マリエ「相変わらず太い奴だ。やはり一度や二度ではなさそうだな」
ロレンス「荒野を歩いていますとね、騎士や傭兵、狼、熊なんてのはざらに出会います」
マリエ「その中でたとえるなら、この状況は何だ?」
ロレンス「いませんね。道を歩いていたら、たまたま同業者に出会った。それだけです」
マリエ「は、なるほどな。だが商人ならば分かるだろう?
商人がこの世で一番怖いのは、同業者に他ならない」
ロレンス「戦う相手くらいは選ばせてもらいたいものです」
マリエ「そりゃあ聞けねぇな」
692 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/25(日) 03:25:52.37 ID:7ZZqmg20 [14/19]
マリエ「あんたらはあれを慈善活動だといってるみたいだが、それだと余計に困るやつらもいるんだよ」
ロレンス「営利活動でないと困る、ということですか」
マリエ「いや、それはそれで困る。まったく世知辛いけどな」
ロレンス「どういうことです?」
マリエ「あんたらみたいに金をばら撒いて慈善活動なんざやられたら、
それ以外の産業はどうなる?あの町の奴らはこう思うだろう、やっかいな競合が生まれた。
金じゃあ動かない上に、流行はお前らにもっていかれちまう。
金を使わない分他に流れるってわけじゃなくてな、どういうわけか人間ってやつの関心は絞られる。
新規参入よりもたちが悪い。商人のセオリーが通用しないからな」
ロレンス「ユウはスポンサー出資をすべて断ってましたからね」
693 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/25(日) 03:56:57.12 ID:7ZZqmg20 [15/19]
マリエ「にしても、ケツ持ちの相手が個人とはな。普段ならこんなことしないが、
今回はオレにとっても利害が一致していた。
あんたと知り合いだと言ったら、たんまり弾んでくれたぜ。
もっとも、営利目的ならば別の形でこうしていたかもな」
ロレンス「どちらにせよ、また出会っていた」
マリエ「忠告はしただろ?」
くすくすと余裕を見せている。
ロレンス「それで、我々を拘束したのは?始末するだけならこんなこと必要ないでしょう」
マリエ「利害が一致したと言っただろ。
最初は脅すだけにしようかと思っていたが、これでも商売人だ。
妙に頭が巡ってな。あんたらをダシにしてもう少し儲けたい。
御曹司の企業に出すカードとしては絶好の機会だ」
真偽については、さすがに傑物、わからない。
694 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/25(日) 04:40:45.39 ID:7ZZqmg20 [16/19]
ロレンス「カード?やはり人質、……いやちがう」
マリエ「オレたちのやり方はルールさえ守ってれば、それこそなんでもする。
地味で、根暗で、じっくりと目的を遂行する。
ちくちく、ちくちく、逆らった後の人生はストレスたまるだろうな。
理解してもらったなら、ここからは交渉だ」
ロレンス「交渉?」
マリエ「御曹司の企業の情報を定期的にこっちにあげてくれ。
見たところあのつれはあんたに靡いてるんだろ?
あんたなら、あの企業に取り入ったまま、つれを説得できるはずだ。
慈善活動は中止、これからは専業するってな」
ロレンス「その前に、あなたはあの店のオーナーだ。
部下ではなくあなた本人がここに出てきたなら、告発できる」
マリエ「やってみたらどうだ?
それが長期的に見てメリットにならないことはすぐわかると思うぜ。
俺らは組織の一部でしかない」
ロレンス「………」
695 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/25(日) 04:51:51.12 ID:7ZZqmg20 [17/19]
マリエ「慈善活動ならば巻き込まれない、とタカをくくっていたのか。
そして今になって頭をひねらせてるな?あんたは商人失格だな。
諦めろ、打開する策なんてないさ。
オレがあの店であんたに出会ったときから、決まっていたことだ」
すべてを見透かしたその瞳は深く、底が見えない。
ロレンス「連れは、無事なんでしょうね」
マリエ「あんた次第だ。今すぐ殺してもオレは金をもらえる。商人ならば周りの人間も欺いてみせろよ。
だが騙す相手を間違えると大変だ。オレたちはカタギだろうがなんだろうが、
裏切った輩に対しては簡単にこいつをぶっ放せる生き物だ」
ロレンス「……ホロを説得し、あの活動を中止した上で、続けて企業に取り入り、情報提供者としてあなたに加担すること。
条件はこれですべてですか」
マリエ「そうだ」
696 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/25(日) 04:58:05.95 ID:7ZZqmg20 [18/19]
ロレンス「会ったときに言っていた、カタギには手を出さない、っていうのも方便ですか」
マリエ「もちろん出さないさ。だが、メンツは保たねえとな。
ヤクザが交渉を足蹴にされたら、報復しなきゃいけない。詭弁だと思うか?」
ロレンス「ええ」
マリエ「筋ってのは理屈がつながってりゃなんでもいいんだ。
商売と一緒さ」
ロレンス「あなたに会ったときに気づくべきでした。
やっぱりあなたは守銭奴だ。私の知人にそっくりです」
マリエ「そいつは傑物か?」
ロレンス「リスクのとり方を除けば」
マリエ「はは、あんたが言うくらいならよっぽどだろう。
スパイが終わればうちに来てもらってもいい。
……安心しろよ、お連れのお姫様にはあとで会わせてやる」
高笑いしながら、マリエとオレを乗せた車はスピードを上げていった。
713 名前:狼と就活 ◆le/tHonREI[saga] 投稿日:2010/08/03(火) 02:57:31.72 ID:oKHZZF20 [2/3]
ホテルの一室にホロは捕らえられていた。
部屋に通されてまず聞いた発言は、
ホロ「見たことある顔じゃの」
マリエは目をつぶって不適な笑いを残すと、
手を振りながらどこかへ行ってしまった。
部屋には俺とホロだけが残される。
逃げ場はない、ということだろう。
ロレンス「それを言うならこの状況もだろう?」
ホロ「…ほう、その言葉の意味することはすなわち、
ぬしはまた騎士になってくれるのかや?」
さすが賢狼だけあって、少しも取り乱した様子はない。
ロレンス「今度は本当の意味でならなきゃいけないかもな」
ホロ「いつもわっちにたよっておるからじゃ、たわけ」
言いつつも、体は俺に寄せられている。
714 名前:狼と就活 ◆le/tHonREI[saga] 投稿日:2010/08/03(火) 02:59:45.66 ID:oKHZZF20 [3/3]
ロレンス「……無事でよかった」
ホロ「それも聞いた台詞じゃが、あえて返させてもらおうかの。
………ぬしがその麦を持っている限り、わっちは消えはせぬ」
ロレンス「だが、この時代じゃわからないだろう?」
ホロ「ふむ、ならばこれは夢じゃ。胡蝶の夢。
わっちは蝶、さしずめぬしはその羽かや?
もちろんこれから、派手に空を舞う手筈は整っておるんじゃろうな?」
ロレンス「たまにはお前にいいところを見せないと、捨てられてしまうからな」
ホロ「くふ、わっちの連れはこうでなくては困りんす」
腕の中で目を閉じる狼。
ホロ「……で?作戦は?」
ロレンス「少しばかり面倒だし、多少の犠牲は必要になるが……」
ホロ「なあに、ぬしにとって、
わっちの機嫌より優先するべきものなど、ほかに何があると言うんじゃ?」
一人だと震えそうな謀でも、この連れとなら笑い話にできる。
改めて思い直した。
719 名前:狼と就活 ◆le/tHonREI[saga] 投稿日:2010/08/03(火) 17:05:35.94 ID:TcHLF2g0 [1/10]
マリエ「で、答えは?」
別室に待機していたマリエの周囲には、黒服の男たち。
一見しただけで、その物腰が穏やかでないことがわかる。
マリエ「気にするな。ことがことなんでね、少しばかり急いている」
ロレンス「その割りに落ち着いていますね」
マリエ「物事は冷静さを欠いたらおしまいだが、熱を失えばいいというものでもない。
大切なのは中庸というやつだ。オレの口癖でな、いうなれば『冷静と情熱の間』。
ちょうどいまの状況がそれにあたる。心地よい緊張感だろ?」
ロレンス「商談はいつだって緊張の連続です。
熱を持った皮算用というやつは、一日置いて冷やさないと、
とても食べられたものじゃない」
マリエ「あんたとこうして話しているのも悪くないんだがな。
何にせよ出会った場所が悪かった。……時代も、立場も。
そろそろ決めてもらうぜ」
マリエが右手をあげると、一人の黒服がこちらに筒を向けた。
マリエ「リーチ」
自慢げに、出会ったときのセリフを吐く。
721 名前:狼と就活 ◆le/tHonREI[saga] 投稿日:2010/08/03(火) 17:19:26.29 ID:TcHLF2g0 [2/10]
ロレンス「貴方は我々のことをカード、といいましたね?」
マリエ「何?」
ロレンス「我々の時代ではまだ貴族の嗜みだそうですが、
この時代においては広く大衆に流通していると聞く」
マリエ「………」
ロレンス「もち札は違えど、順番は平等に回ってくるものです」
マリエは動かず、ただ目を細めるだけだった。
ロレンス「さて、では商談をはじめましょうか」
俺の言葉とともに、あきれたように両手をあげる。
722 名前:狼と就活 ◆le/tHonREI[saga] 投稿日:2010/08/03(火) 17:25:41.09 ID:TcHLF2g0 [3/10]
マリエ「馬鹿なことを。は、これが商談だと?残念ながら違うな。
オレの言い方はわかりにくかったか?
ならば言い換えてやろう、『オレたちの言う通りにしろ。さもなくば…』」
ロレンス「ビジネスになるならば?」
空気が止まった。
ロレンス「貴方は確かに私に言った。『金のためならば何でもする』。
言い換えれば、あれが利益を生むならば、そこに私怨は絡まないはず。
大金の前では、人の気持ちはこれ以上ないほど価値を失う。そうですね?」
頭の中ではこの先の相手の出すカード、自分の手持ちのカードを整理する作業に必死だ。
マリエ「まさか、売りつけるつもりか?オレたちに?」
ロレンス「そのまさかです」
黒服がとっさに動こうとしたが、マリエが右手でとめる方が一瞬早かった。
ホロ「くふ、これは心地よい緊張感じゃの?」
今この部屋で笑う余裕があるのは隣の狼だけだ。
723 名前:狼と就活 ◆le/tHonREI[saga] 投稿日:2010/08/03(火) 17:40:16.15 ID:TcHLF2g0 [4/10]
マリエ「……ふん、馬鹿馬鹿しい。ヤクザ相手に宗教を売りつけるだと?
冗談もほどほどにしておけよ、異邦人。
どこの世界に宗教をやるヤクザがいるというんだ。
それに企業からもらった金、
あの御曹司をつぶしてこっちに流れる利益はいくらになると思ってる?
とても釣り合わない、却下だ」
ロレンス「第一に、営利化した場合の利益は保証しましょう。
これでも連れは天下一品の才色兼備、頭も回れば口もまわる。
第二に、ヤクザ相手がどうのこうのという話ですが、
今言った器量の良さはお墨つきです。
………あなたがたの、同業者のね」
マリエ「!!」
ロレンス「もう入ってきていいんじゃないか?」
扉が、ゆっくりと開く音。黒服たちはとっさにおのおのが持っている筒を取り出したが、
その姿を見た瞬間、それを懐に戻した。
マリエ「…………いつから気づいていた?」
ロレンス「最初からですよ。あなたが彼に固執するのがひっかかりましてね。
それに居候先は金めぐりがよすぎました。
芸能界や娯楽、ITに関しての知識、プロモーションの技術。
決定的だったのはあなたが襲撃してから連絡がなかったこと。
さすがに親元を同じとする相手に手は出せなかったようですね」
ぎり、と歯ぎしりの音がこちらまで聞こえてきそうだ。
724 名前:狼と就活 ◆le/tHonREI[saga] 投稿日:2010/08/03(火) 17:56:34.67 ID:TcHLF2g0 [5/10]
ロレンス「ユウ、お前が俺たちに最初に言った言葉を覚えているか。
『両親は会社を経営している』。
お前が言う親ってのは、血のつながりがない親、だろう?」
そちらの世界の呼び名なら、ある程度は知識として得ていた。
ユウ「……ロレンスさんにはバレても仕方ないと思っていました。
しかし、こんな形で……。これだから、神が、必要だというのに」
対するマリエはわなわなと震えている。
マリエ「何が商談だ、ふざけやがって……」
ロレンス「時間稼ぎが必要でした。彼がここに来るまでの、ね」
ユウがその道の人間だと推理した瞬間、俺はとっさに連絡をした。
予測通り、どうやら二人は元兄弟分だったようだ。
ヤクザ同士の仲違い、ユウの葛藤、マリエの謀反、想像できることは色々あったが、
大事なのは切り札としての役割。
親元を同じとする相手にその存在を知られては、行動するにできない。
俺をスパイにしようとしていたのは、正体がバレぬようにユウを貶めるため。
俺たちを殺してしまっては意味がない。目的はユウを貶めることなのだから。
御曹司、という呼び方もひっかかった。マリエはすでに大金を得ている立場。
そこまでして相手にこだわる理由はひとつしかない。
ユウ「あとはこちらでやります。ロレンスさん、先に戻っていてください」
ぞろぞろと黒服が部屋に入ってくる。
俺とホロは一息つく間もなく、部屋から飛び出していた。
ホロ「で、筒を向けられた気分はどうだったかや?」
ロレンス「まるで勇敢な騎士になった気分だったよ」
隣の狼は、くつくつと、これ以上ないくらい愉快そうに笑っていた。
725 名前:狼と就活 ◆le/tHonREI[saga] 投稿日:2010/08/03(火) 18:06:49.36 ID:TcHLF2g0 [6/10]
それから、結局あの事業は誰に譲渡するでもなく、
中古で買われた神様はまたその身をどこかに隠してしまった。
ユウ曰く、カタギを危険にさらした『ケジメ』らしい。
そういうところはそっくりだ。
マリエの件はどうやらそちらの世界の流儀でカタがついたらしい。
いったいどんなカタのつけ方なのかと聞いてみたが、
荒っぽいそれではなく、やはりそこも金で解決したとのこと。
ユウ「マリエは以前、僕と同じ屋号を背負って経営をしていました。
ご存知の通り、我々の事業は金が入れば何をしてもいい。
あいつはああいう性格です、僕とは馬が合うはずもないでしょう?
すぐに袖を分かちましたよ。親父は僕の方を気に入ってましてね。
あれが僕のことを御曹司と呼んでいたのはそういうわけです。
それからですよ、私があの慈善活動に興味を持つようになったのは…」
本当に生まれと育ちというものはわからない。
裏家業に手を染めていたかと思えば、
屈託のない笑顔で人を救いたいなどと言い出すヤクザ。
人は見かけで判断するな、とはまさに言い得て妙だ。
726 名前:狼と就活 ◆le/tHonREI[saga] 投稿日:2010/08/03(火) 18:19:01.85 ID:TcHLF2g0 [7/10]
俺はその後、ユウの企業の手伝いを本格的にするようになった。
もっとも、真っ当な分野の仕事に限るのだが。
ホロはホロで、たまに例の場所に赴き、人々と交流したりしている。
時間が経つのは早いもので、この時代に迷い込んでから季節は二度変わった。
ロレンス「結局、マリエも金だけでは動いていなかったというわけか。
つまるところあれは私怨ゆえの行動だった」
ホロ「世の中理屈だけで生きられたらもっとうまくいくのかもしれぬが、
そうもいかぬのもまた摂理。ゆえに今回のような、
標を示す何かを人は求めるということじゃ。
……ぬしがわっちにとっての、騎士になりたいと思ったようにの?」
ベッドで寝そべりながら、ホロはからかうように言った。
苦笑いをするしかない。
727 名前:狼と就活 ◆le/tHonREI[saga] 投稿日:2010/08/03(火) 18:24:28.86 ID:TcHLF2g0 [8/10]
ホロ「わっちがなぜ小僧に協力したかわかるかや?」
ロレンス「……残念ながら」
ホロ「これだからぬしは駄目じゃ」
ロレンス「はいはい、ではよろしければ伺ってもよろしいでしょうか、お姫様?」
ホロ「わっちが標を示してやりたかったのはあの小僧じゃ。
自身は無宗教と言い張るやつじゃったが、あれが求めていたのは、
『言葉にできない何か』に他ならぬ。
人が上を向いて歩ける世界、なんてものはその最たる例じゃろ?
実際にはあやつ自身が宗教に救いを求めていたんじゃろうな。
……思うんじゃがの」
一息ついて、言葉を吐く。
ホロ「この時代の神は死んだのではない。
人が、自分の足で立つ道を選んだんじゃ。
かつての神はおそらく、その道を選んだ人の後姿に、
黙って手を振っていたに違いありんせん。
彼奴らは自分らを高め、強くなろうとしたんじゃ、
止める道理はありんせん、とな」
語る神の像に、どこか自分を重ねているような、そんな物言いだった。
728 名前:狼と就活 ◆le/tHonREI[saga] 投稿日:2010/08/03(火) 18:37:01.66 ID:TcHLF2g0 [9/10]
ホロ「ぬしにいたってはまだまだ、わっちがいないと駄目みたいじゃがの?」
ロレンス「俺はお姫様の騎士、だからな?お前を守る義務があるんだ。
お前の標にならなくてはな、うむ」
ホロ「標……?くふ、強がるのはよいが、ほう。
なるほどなるほど」
ロレンス「?」
嫌な予感がすると感じたときには遅かった。
ホロ「ならばぬしは『語れぬものを語って』くれるのじゃな?
……それこそ毎夜のように、のう?」
とたんに顔が赤くなるのを感じた。
しまった。
ホロ「くふ、愛の囁きは何度聞いても心地よい。標となるならなおさらじゃ。
ならば今宵わっちは上を向かぬ。
わっちが上を向いてぬしに近づけるように、
ほれ、早くわっちに説いてくりゃれ?
ぬしの愛の説法をのう?」
この悪どい狼が上を向いて歩けるようにするために、
俺はこの先何度説法を説かねばならないのだろう。
考えるのもうんざりしたが、次の瞬間には抱きしめていた。
語り得ぬものについては、沈黙しなければならない。
だってそうだろう、俺たちにできるのはいつだって行動だけだ。
この狼とすごす日々は、たぶんこれからも続いていくんだろう。
それこそ標を持たない、人が歩む道のように。
729 名前:狼と就活 ◆le/tHonREI[saga] 投稿日:2010/08/03(火) 18:38:59.35 ID:TcHLF2g0 [10/10]
おしまい。
結構長くなってしまいましたが、狼と香辛料についてはこれでおしまいです。
立てたときからお付き合いしてくれた方、
途中から見てくれた方、ありがとうございました!
たぶんあっしはその辺にいるので、見かけたら声をかけてくれると光栄です。
それでは、また。
あでぃおーす!
おまけ 投下中に行われた>>1と読者とのA雑です
565 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/07(水) 15:20:29.15 ID:xdLwxug0 [1/9]
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丁:ー- :__ヽV-/ハ:.、:..:..:,ヘ:_いv' /:;. -―‐7:i:::.:.:.:.:.:.:.:.ハ:..:..:.i
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566 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[sage] 投稿日:2010/07/07(水) 15:23:01.53 ID:xdLwxug0 [2/9]
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「ぬしら、元気かや?。ひさしぶりじゃのう。
どうやらこの板の主様は、この話のプロットがまとまらなくて苦心しておるようじゃ。
まったく情けない。しまいにはテスト勉強を始めていんす。わっちもお手上げじゃ」
567 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[sage] 投稿日:2010/07/07(水) 15:25:51.64 ID:xdLwxug0 [3/9]
イレ'^!
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「それでの、今回わっちがここに出てきたのは他でもない、ここの主様に頼まれての。
何やら『ほっといたら忘れられるのが怖い』とかなんとかいうておった。
わっちにできることなど限られておるが、しばらくはわっちがこの板でぬしらの相手をしんす」
568 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[sage] 投稿日:2010/07/07(水) 15:29:57.26 ID:xdLwxug0 [4/9]
ハヽ. /.' {
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i: : : :l: : : l : : : i| : : il: : : : |: : : : :!: : :!: : l: : : : l: i: i
i : : : l: :_;.∟:.L」l: : :i |: : : : !: : : : |: : :|: :i:|: : : : |: l: :i
l : : : |'´:/|: : :!/ |: : | !: : : :|i´ ̄下:¬:、i|: : : :|: :
l: : : : !ァ''テ示ミ、、! : ! ト、: ;ハ_;.:⊥∟L: :i: : : : :! :. i i
|: : !:.イ{ i:{ t.:ハ:iヽ ┘ ´ァ7ス.だ:ハ ヾ;_!: : : : l: :. l:.|
|: :.i .:リ ぃ辷ッリ {:{. し' }リ }f:i: : !:|:.: ! l
|: :,レく ,,,,,, `-'´ j ヾ辷ッ _」j: :,: :!l:. :..i: |
/、 ,、ヽ 〈 '''''' i'´ , 、∨: :!|:.!:.:.!:.l
r'´⌒ヽヽ〉┘ ___ l/,.ヘヽ: :!|:.i:.:.:i:.l
| 7´,ィ' /'、 ∨ニ辷_ ̄¨_二マ ヽ〈 r'´ヽ:l:!:.l:.i:.l:.|
l `i└ク l> .._ - ̄ _,.イヘ} } V:.:.!:.l:.l:.l
l ∨ |「"´{ム> 、 _,.. 爪} ヽ冫′ 广¨゙ハ:.:.|
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「何を話してよいかわからぬが、このお話で感じた疑問やら、要望やら、質問やら、
腑抜けた主に代わってわっちが答えることになった。ま、正直なんでもよい。
ぬしらも時間があるなら付き合ってくりゃれ♪」
570 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[sage] 投稿日:2010/07/07(水) 15:32:59.07 ID:xdLwxug0 [5/9]
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|! |: : :.从l」 \!小从l」小L__l/l : : :.:|: : : :|: :|: : : : : : :|
|! ∨::ハイ示ミ! ィ才乍ミぅxl.: : : | : : ::|: :|: : : : : : :|
ll 〉\ 圦トィ} {、トryメ.l:|: : : | : : :.|::∧..:.: : : : |
ヽ .∧: ::ハゝン 弋こソ .!:!:: :.:.| : :/:|:..:.:|.:.: : : : :|
/: : / : :| ゝ / / / / .l:|: : :/ :/:./:.:.:.:|: : : : : :|
/: : /: :/人 _ /:l: :./ /::.∧.:.:.:.l: : : : : :|
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./:.: l⌒l⌒l⌒ゝ  ̄∠/: : : : / ハ|.:: : : : :|
「なに、つまらぬ?早く続きを書け?……そんな、ぬしよ、優しくしてくりゃれ?
この顔に免じて、の♪」
569 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/07(水) 15:31:34.54 ID:.72cC7co
一瞬荒らしかと思った
571 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[sage] 投稿日:2010/07/07(水) 15:35:05.14 ID:xdLwxug0 [6/9]
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∨!:::::::::::::::|ト/才たうァ、 ´V辷rリ ノ !:. |:.:.:. : l ::|
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∨:!::::::::::ハ , -‐v、 .l::::}::.:.:.:.:.l:::|
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「>>569 たわけ!わっちをそこらの荒らしと一緒にするでない!
板の主が腑抜けて折るから悪いんじゃ!だいたいなんじゃ、この話のわっちの書き方は!
わっちはあんな簡単に手玉に取られたりせぬ!突っ込みどころ満載じゃ!」
572 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[sage] 投稿日:2010/07/07(水) 15:39:40.28 ID:xdLwxug0 [7/9]
r 、 __ ,. ┐
| {ヽ> ´ ` <ィ} |
j〆´ ヽ〈
イ / l | | 、 ', ハ
/ l | | | |、 |ヽ } ! ;
. / l | ┼‐:ト l } 斗‐l :| | |
{ | | ,ムテミ ,ィテミ! .l |
| | | |弋zソ 弋zソj l |
| rrムww , ww/rr11ハ 「ま、そういうわけじゃ。よろしくの。
ノイ ! 「.i r==.ァ .イ l ll | ヽ
/ ヽ ' >゙、 ニ ".< .ノ ヽ なあに、余興のようなもんじゃ。力を抜いてくりゃれ?
{ \ } { イ }
| /` /__∧ .V/ | それと、基本的にはsage進行で頼めるかや、主様」
│ ./ ∧ ∧ ∨ l
,| / \.イ{ ヽ _ イマ  ̄ ∨ ト、
/ | / / ∧/∧ハ ∨ .! \
/ ! / .,' l////.l.ハ ', .| ヽ
/L ィ__| {. /  ̄ ̄ ∧ } | ',
l { /ヽ ___.彡ム. / }
| / /\_/ミ、::::::::::::::::::::::>ヽ _ノ |
| /イ ////////ヽ:::::::::::///////∧ /
ノ / ///////// ∧ ̄//////////∧ /
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573 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/07(水) 15:46:37.19 ID:hwdd1.AO
>>1はかなり書き慣れてると思うんだけど、作家志望?
あと俺の隣にはホロがいないんだけどなんで?
574 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[sage] 投稿日:2010/07/07(水) 15:51:55.82 ID:xdLwxug0 [8/9]
イレ'^!
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「>>573 本人は違うと言っておるがの。本当のところはどうじゃろな。
だいたい、作家というものは副業でやっておる者も多いと聞く。
趣味で書く程度には嗜んでおるようじゃし、これからもそうじゃろ。
わっちが隣にいない?くふ、では気が向いたらぬしの枕にこっそり忍びこもうかの」
575 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/07(水) 16:18:55.47 ID:M.CWKAko [1/2]
セーラー服の着心地とロレンスさんの鈍さについてお願いします
576 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[sage] 投稿日:2010/07/07(水) 16:43:38.39 ID:xdLwxug0 [9/9]
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i / : : : : : : i: : : : : : : : :i |i/7イ‐|;'-!i i|:.:::i:: .: :,'i:: :::;|:.::::j::: i: i
l/: : : : : : : :l: : : : : : : : :l _j,」込_j_ 从「|ハ:l::i: / |: .:/j:.:::;'::::. !|:|
; : : : : : : : :|: : : : : : : :lヘ{んn.い`ヾト、 jリル′!::/ ,':::/::::: ;' |:|
/: : : : : : : : :/!: :: : : : : : :| マ辷ン ,.斗¬:;イ::::// l:l
/ :/: : : :/ :/:::|: ::: : : : :.:| `冖 /チjスy'^/// リ
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「>>575 わっちが着ていたのはぶれざーとかいうやつらしくての、うん、なかなかに良き服じゃった。
町を歩いておったら色々と着こなし方があるようじゃな。
後で聞いた話じゃが、ぬしらこの時代の雄はあれを着ている雌に目がないんじゃろ?
わっちもあれを着ているときはいろんな方向から視線を感じんす。くふ、特に腰下にの?
ぬしらも気をつけるようにな。以外とどこを見ておるか丸分かりじゃ。
つれは阿呆じゃから仕方ない。
それに色が分からぬ雄にあれこれ教えてやるのも、賢狼の勤めというやつじゃ。
まあ、あれくらい鈍い相手に、いかに気づかせるかもわっちの腕の見せ所じゃな。
しかしそうはいっても、鈍い男は基本的に嫌われる。ぬしらも気をつけるがよい」
577 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/07(水) 17:03:47.25 ID:M.CWKAko [2/2]
鈍さは自分で気づけないから困る
ブレザーに耳としっぽまであったら正直耐えられる自信は無かった
危ないところだった…
ロレンスさんはじっくり自分色に染め上げるということですね!わかりました!
578 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/07(水) 17:53:29.79 ID:7fjh9Qso
正直ロレンスはもう少し賢くなっててもいいよな
何度も危ない橋渡ってきてるんだから勘も洞察力も鋭くなってるはずなのに何時まで経ってもドンくさすぎる
どうでもいいけど床描写まだあー!?
579 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/08(木) 00:53:20.01 ID:iDH18wMo
結構な数のラノベやら漫画やら読んでるけど
「鈍い男ほどモテる」は真理なんじゃないかと思う
580 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[sage] 投稿日:2010/07/08(木) 04:06:57.17 ID:66EmqJE0
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「>>577 耳と尻尾は追々出てくるやもしれぬ。楽しみにしててくりゃれ?
>>578 あれでいて頭は廻るんじゃがの、やはり経験が足りぬ。
色恋に関しては赤子同然じゃ、ま、環境が環境じゃったからの、仕方なかろう。
床描写は主様が自信ないそうじゃ。代わりにわっちが書いてやろうかの?
>>579 それはちと違うの、『モテる男は鈍感にする』。これじゃ。
そうでもせぬと話が進まなかったり、やきもきさせられなかったり…
おや、誰か来たようじゃ」
581 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/08(木) 12:15:04.30 ID:Ql2vM.AO
勘のいい男→もてる
そもそももてる男→ご愛敬にあえてにぶく
結論
にぶくてそもそももてない男は永久にもてない
…麦の神様なんか嫌いだ(;_;)
582 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/08(木) 12:31:38.11 ID:V3t2HcAO
どうしたら麦の神みたいな♀をつかまえられますか
583 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/08(木) 14:36:14.44 ID:gsnTTmw0
どうでもいいけど麦の神様で変換しようとしたら麦野神様で変換された
585 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/08(木) 15:50:03.06 ID:gnW6DA6o
麦の神様の芳しいかおりを胸一杯に吸い込みたいです
586 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[sage] 投稿日:2010/07/08(木) 21:01:23.34 ID:JM4zhbM0
イ /| ll / | | | |
/ | | | || ll / | | | |
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/ レ ||ヽ, ト.||_| | | | ll / .| .|| | || |
/ _,.=-‐-=.,_レ || |.|ヽ.|| | | | | | /| | | |
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/ | | ~;;;; ○ ` ∥|| |.| _.||-レノノ | / / | /
/ 、弋_ ノ ∥,. ',.-‐=メ、 | /| /l / .| /
| ` ‐-- /~;::: / / >|/////l/ | /
| 弋_,.シ / ソ ソ ソ 〃
| l ` ‐ / | 〃
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| 丶 ,. ' | |
| ‐ ´ | |
「>>581 なんじゃ、知らぬ間に嫌われてしまったのかや?
くふ、それは残念じゃのう、今しがたぬしに目をつけていたところじゃというのに。
>>582 獲物を捕らえるとき、三流は走って追いかける。二流は罠を張る。
では一流は?答えは捕らえたと思わせたところを逆に捕らえる、じゃ。
わっちが荷馬車に乗り込んだようにの。ぬしらも覚えておくがよい。
>>583 野蛮な雌は好かぬ。
>>585 胸いっぱい、かや?ならわっちはその言葉でお腹いっぱいじゃ。
腹が脹れては動けぬ。くふ、残念じゃがまた次の機会にの」
587 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/09(金) 02:14:23.53 ID:p.YO9HIo
僕の家には桃缶といって、白桃の切り身を甘いシロップに漬けて食べやすくしたおやつがあります
僕の家には菓子パンといって、バターやジャムやクリーム等を使ってそのままおいしく食べられるようにした柔らかいパンがあります
僕の家には羽毛の詰まった暖かいベッドがあります
僕の家にはリンスといって、油のようにべとつかず髪の毛がサラサラになる石鹸があります
そしてなにより、僕には貴方への愛があります
589 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/10(土) 08:02:42.83 ID:LKNigGk0
いやどうでもよくない。なんていうか俺の胸のときめきが
>>1は禁書も知ってんのか。禁書が流行ってる中でよくやろうと思ったな
590 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/10(土) 18:05:40.06 ID:37HXxADO
もしかしたら声優で繋がるかもな。中の人はドスいのもいけるし
これ以上は余計な話だな。続き待ってる
592 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[sage] 投稿日:2010/07/10(土) 22:31:07.22 ID:Oi/WqGU0 [1/19]
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「>>587 なんと!まるで夢のようじゃ。わっちの欲するものが揃っておる。
しかしぬしよ、肝心の酒がなかろう?ぬしのありったけの愛とやらを、わっちがいくまでに酒に代えておいてくりゃれ?
なあに、愛に酔うも酒に酔うも、大差ないじゃろ?
>>591 わっちもあんな助けられ方をしたいもんじゃ」
593 名前:狼と就活 ◆4S1Ttn1X06[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:34:27.55 ID:Oi/WqGU0 [2/19]
>>589 禁書はにわかなんで、細かい設定とか無視しちゃいそうなんですよね。
でもこれ終わったら書いてみたいとかおもったり。
>>590 あみっけのドスきいた声ほんと怖いですよね。
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