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唯「ムギちゃんは豚さんなのにどうして服を着ているの?」2

唯「ムギちゃんは豚さんなのにどうして服を着ているの?」

524 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/15(日) 20:10:55.53 ID:zv1lhbtl0 [3/21]
澪「ほら、今日からお前も養豚場暮らしだぞ」

梓「え・・・やだ・・・やだぁぁッ!!」

律「ちっ。うるせー豚だな。殴れば大人しくなるか?」

澪「あー。そうだな。律、そこの鞭貸してくれ」

梓(ビクッ!)「ご・・・ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

律「お。大人しくなったな。澪、アイス食おうぜー」

澪「ああ。梓豚の世話は後でしよう」

梓(うう・・・う・・・どうして・・・どうしてこんなことに・・・)

不潔な豚舎。血生ぐさい臭い。
豚の叫び声。職員やお客のサディスティックな笑い声。
少し前までは天国だったこの場所も、今では凄惨な地獄だった。

526 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/15(日) 20:21:16.34 ID:zv1lhbtl0
そして自分の首には重い鎖。脱走など不可能。
私はこれから死より酷い拷問を毎日受け続け、最後にはソーセージになるのだ。

梓(いやだ・・・嫌だ嫌だ嫌だ・・・!)

私は過去の自分を思い出していた。
必死に命乞いをする豚に目掛けて、無慈悲に鞭を振るっていた自分を。
そして散々豚を虐めた後は、売店でソーセージを頬張っていた自分を。
私は悔いた。きっとバチが当たったのだ・・・。

恐怖で気が狂いそうだった。
ムギ先輩も、こんな恐怖を味わったのかな・・・。

律「あー美味かった」

澪「さてと。“お世話”の時間だ、梓豚」

アイスを食べ終えた二人が歪んだ笑顔で私を見ていた。
その手には、あの鞭が握られていた・・・。

528 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/15(日) 20:32:43.60 ID:zv1lhbtl0
律「よっしゃいくぜー!」

澪「おいおい、初日なんだから少しは手加減してやれよ?」

律「えーつまんないじゃん?精神崩壊最速記録目指したいし」

澪「確か前の豚は1週間でもうオカシくなってソーセージになったよな」

律「じゃ、今度は5日・・・いや4日でぶっ壊してやるか」

二人が何を言っているのか私には理解できなかった。
いや、理解したくなかった。

梓「お・・・お願い・・・や・・・やめ・・・」

律「その泣きそうな顔・・・たまらないねえ」

ビシッ!

梓「あ・・・あ゙あ゙あ゙あ゙ッッ!!」

律先輩の振るった鞭が、私の背中を容赦なく打った。
焼け付くような痛み。

530 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/15(日) 20:39:55.75 ID:zv1lhbtl0
過去の何度も母に殴られた。
しかし鞭はその何倍も痛く、無慈悲だった。
鞭って、こんなに痛いんだ・・・。

梓「あ・・ああああ・・・」

律「おい、見ろよ!もう泡吹いてるぜ!」

澪「あはは。律の特製鞭だもんなぁ おお怖い」

律「梓ちゃーん?豚になった気分はどうでちゅか?」

バシッ! ビシッ!

梓「ぎゃあッ! あ゙あ゙あ゙ッッ!!」

律「ソーセージになるのが楽しみでちゅね?」

バシッ! ビシッ!

梓「がァッ!! あががッッ!」

澪「おい律、あんまやるとショック死しちゃうぞ?」

律「んー・・・仕方ない。今日はまぁ挨拶ということで終わりにしてやろう」

533 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/15(日) 20:50:14.51 ID:zv1lhbtl0
背中が熱い。まるで本当に焼けているようだ。
本当に痛みで気が狂いそうだった。
そこで私はふと思った。
もしかしたら、ソーセージ化というのは苦痛と恐怖からの救済なのでは・・・。

梓「はぁっ・・・はぁっ・・・」

?「・・・大変そうね」

梓「っ・・・!? 誰ですか・・・?」

?「あなたと同じ豚よ。人間だった時は一応、“いちご”って名前があったけど」

梓「いちご・・・ですか・・・」

それは隣の檻にいた、私と同じ豚だった。
全身傷だらけで、凄惨な拷問の痕が伺える。
一体いつからここにいるのだろう・・・。

いちご「ま。仲良くしましょう?短い間でしょうけど」

梓「は、はいです・・・」

537 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/15(日) 21:01:04.34 ID:zv1lhbtl0
いちご「それで、あなたの名前は?」

梓「私は・・・梓です」

いちご「梓ちゃんか。よろしくね」

梓「それで・・・いつからここに?」

いちご「さぁ。もう忘れたわ。少なくとも餌の肉骨粉が美味しく感じるようになるくらいはここにいるわね」

梓「そ、そうですか・・・」

いちご「ま。今まで頑張って生きてきたけど、多分そろそろソーセージね」

梓「・・・。」

言葉が返せなかった。
私もいつかこうなってしまうのだろうか。
いや、気が狂うのが先か。

律「ほーら、餌の時間だぞ? 梓豚ちゃん」

いつの間にか律先輩が来ていた。
彼女はへらへら笑いながら、私の目の前に肉骨粉の入ったボウルを置いた。

律「ちゃんと全部食べて太るんだぞ?ぎゃはははっ」

私はその肉骨粉を一口、舐めてみた。
・・・何これ。か、辛い・・・!?

538 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/15(日) 21:07:32.20 ID:zv1lhbtl0
律「美味いだろ?隠し味に七味唐辛子を混ぜてみたぜ」

梓「くっ・・・」

律「全部食べなかったらお仕置きだぞ?じゃあなっ」

梓「ぐすっ・・・うう・・・」

いちご「・・・食べなくていいわよ。どの道お仕置きされるんだから」

梓「うう・・・ひどい・・・昨日まで・・・人間だったのに・・・」

いちご「ほら。泣かないで。今日はもう寝なさい」

梓「ありがとう・・・です・・・」

結局私はその七味唐辛子入りの肉骨粉には手をつけず、眠ることにした。
同じ豚のいちごの優しさが今の私には唯一の救いだった・・・。

次の日。
餌を残した私は、当然お仕置きされることになった。

539 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/15(日) 21:16:47.72 ID:zv1lhbtl0
律「うわっ、ひでえ!こいつ全然食べてねえぞ!」

梓(ビクビク・・・)

澪「あっはっは。こりゃお仕置きだな」

律「とりあえず“ルームA”に連れて行くか」

澪「そうだな。ほら、立て梓豚」

・・・この養豚場の地下には、とある三つの部屋がある。
一つ目はルームA。
二つ目はルームB。
三つ目はルームC。

・・・いわゆる、拷問部屋である。
ルームAは比較的軽い拷問。
ルームBは重い拷問。
ルームCは・・・痛めつけて殺すのが目的の拷問をする時に使用される。

私も過去に何度か、この三つの部屋を利用したことがあった。
狭い室内に拷問器具が並び、とても恐ろしい部屋だ。
特にルームCは壁にも床にも天井にも赤黒い血がこびり付いており、まさに地獄の最下層といった風情だった。

540 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/15(日) 21:25:02.64 ID:zv1lhbtl0
律「ほら、さっさと歩け」

澪「あはは。そんな怖がるなよ。これから楽しいところに行くんだから」

梓「うう・・・この悪魔・・・!」

私はそのまま二人に地下へと連れて行かれた。
薄暗い廊下に、頑丈そうな鉄の扉がいくつも並んでいた。
扉には“A”と真っ赤なペンキで書かれていた。

律「さて、梓豚ちゃん。中に入りましょうね?」

澪「梓豚はこの部屋が大好きだったよなぁ?くすくすっ」

私はルームAに放り込まれた。
拘束台と拷問器具の山。これから何をされるのか、考えるまでもなかった。

律「じゃ、そこの台に寝転がって。抵抗しても無駄なのはわかるよな?」

澪「そんな泣きそうな顔するなよ。大丈夫、今日の律は機嫌がいいから」

下品に笑う二人。
私はその二人を心の中で呪いながら、台に寝転がった・・・。

542 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/15(日) 21:37:40.25 ID:zv1lhbtl0


・・・・・・・・。


和「ようこそいらっしゃい。ここが私たち組織の、本拠地よ」

唯「わぁ、すごい・・・!」

しばらく車に揺られて来たのは、山奥の廃工場でした。
和ちゃんがレバーを引き、ボタンを押すとシャッターが開き、秘密基地への扉が開いたのでした。

憂「今日からここがお家だよ、お姉ちゃん」

唯「う、うん。覚悟は出来てるよ・・・」

紬「唯ちゃん・・・頑張ろうね」

私はムギちゃんと手を繋ぎながら、シャッターの向こうへ。
シャッターの向こうは長く暗い下り坂の道が続いていました。

和「ここは昔、炭鉱だったのよ。そこを改造して基地として使ってるってわけ」

憂「あ。これ懐中電灯。お姉ちゃんが持って?」

唯「う、うん。わかったよ」

私は憂から懐中電灯を受け取り、それで暗い道を照らしました。

544 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/15(日) 21:48:53.41 ID:zv1lhbtl0
背後で、シャッターの閉まる音がします。
完全に暗闇。懐中電灯の明かりだけが頼りです。

しばらく歩くとひんやりとした空気が私を包みました。
たまに水滴の落ちる音なんかもして、ここが地下であることを教えてくれます。

和「・・・そろそろね」

和ちゃんがそう言うと、暗い道の先に明かりが見えてくるのがわかりました。
自然と、歩く速度が早くなります。

憂「ただいま戻りました」

和「見て。新しいメンバーよ」

・・・コンクリート造りの、広い空間。
照明で明るいその空間には、組織の人達がいました。
知っている人。知らない人。全身傷だらけの人。色んな人がいました。

?「あら。唯ちゃんと・・・琴吹さんじゃない」

なんだか聞き覚えのある声でした。
私が声のした方を振り向くと―――

唯「さ・・・さわちゃん・・・!?」

なんとそこには、さわちゃんがいたのでした。


548 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/15(日) 22:07:08.31 ID:zv1lhbtl0
唯「あ、あれ・・・?さわちゃん、捕まったんじゃ・・・?」

さわ子「・・・ああ。あれは嘘よ。捕まったことにしておいて、陰で色々やってたのよ」

和「嘘ついててごめんなさいね、唯。でも慎重に動く必要があったから」

さわ子「まぁ、唯ちゃん達を部屋に案内してあげて。疲れてるだろうし」

和「はい。そうですね。それじゃ付いて来て」

私たちは一旦、さわちゃんたちと別れ、和ちゃんの後をついていきました。
コンクリートの照明はあるものの薄暗い廊下を歩き、ひとつのドアの前で和ちゃんは止まりました。

和「ここが、二人の部屋ね。今日はゆっくり休んで、話はまた明日しましょう」

唯「うん。わかったよ」

紬「色々ありがとう・・・和ちゃん」

そう言うと、和ちゃんは皆がいたところに戻っていきました。
私はとりあえずドアを開け、部屋に入ります。
四角いコンクリートの部屋に、古びた鉄パイプのベッドが一つあるだけの部屋でした。
私の家の、あの部屋とは大違い。でも贅沢は言えません。
今は安心して眠れるだけでもありがたいことなのです。

550 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/15(日) 22:37:35.15 ID:zv1lhbtl0
唯「うーん。疲れちゃった。今ならすぐ寝れちゃいそうだよ」

そう言いながら私はベッドに寝転びます。
少し埃が舞ったような・・・?

唯「ほら、ムギちゃんもおいで?狭いけどまぁ大丈夫だよ」

紬「え、ええ。お邪魔します」

私はムギちゃんを抱き締めました。
温かくて、柔らかいムギちゃん。
この先、私たちは一体どうなるのでしょう。
もちろん不安はあります。でも私はムギちゃんを守りたい。
ムギちゃんを失いたくはない。
そんなことを考えながら、私の意識は次第にどこか遠くへ―――。



・・・・・・・・。



律「澪、ペンチ取ってくれー!」

澪「まったく。豚をいじめる時はやたらテンション高いよなぁ」

律「いやー、だって楽しいじゃん!あはははっ!」

552 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/15(日) 22:47:48.35 ID:zv1lhbtl0

律「さぁて。このペンチで何をするか、梓豚ちゃんはわかるかな?」

血がべったりとついたペンチ。
もう私の頭は半分麻痺していた。
へらへらと笑う律先輩。

律「なぁ、梓豚って、爪とか剥げたことあるか?」

梓「・・・ないです」

律「そうか。なら初めて爪が剥げることになるな。痛いぞ~?くっくっく!」

そう言うなり、律先輩はペンチで私の爪を挟み―――

律「いくぞー? 3、2、1―――」

ブチッ。
それは嫌な音だった。
過去に何度も聞いたことのあるような音だった。
でも私には初めて聞いた音のように聞こえた。

梓「ッッ―――ん゙あ゙あ゙あ゙ッッ!!」

直後、指に激痛。
ペンチは無情にも私の爪を剥ぎ取っていた。

553 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/15(日) 23:00:35.86 ID:zv1lhbtl0

澪「ははは。相変わらず凄い悲鳴だな」

梓「あ゙あ゙・・・あ・・・やだ・・・いたいのもうやだぁッッ!!」

律「しかしさ、神様ってのは残酷だよなァ・・・爪ってのを10コも与えちゃうんだもんな」

澪「足の爪も入れたら20コだな」

梓「やだ・・・やだああぁあぁッ!!」

律「爪って剥げるとなんで痛いんだろうな?」

澪「ほんと、お仕置きにはちょうどいいよな」

ブチッ!

梓「んぐッ―――あ゙あ゙あ゙ッッ!!」

律「はい2コ目。澪もやるか?」

澪「おー、やるやる」

梓「だずげで・・・いたいの・・・もうやだ・・・あぁぁ・・・」

その後。
結局私は全部で4枚爪を剥がされ、解放された。

557 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/15(日) 23:18:42.62 ID:zv1lhbtl0

律「あー楽しかった。これからはちゃんと全部餌食べるんだぞ?」

澪「あっ、梓豚に構いすぎてうちの純に餌やるの忘れてた・・・」

梓「うう・・・う・・・いだい・・・いだいよぉ・・・」

一応、テープは巻かれたものの、指はズキンズキンと絶え間なく痛んだ。
しかし何より恐ろしいのは、私の爪はまだ6枚も残されているということ。
いや、足の爪も合わせれば16枚か。
やっぱり律先輩は、最終的には私の爪を全部剥ぐ気なのだろうか。

梓(ッ・・・)

想像しただけで恐怖で震えが止まらない。
生きている心地がしない。

いちご「舌を噛むか、床に頭でもぶつければ楽になれるわよ」

梓「・・・!」

・・・いちごの冷たい一言。
でも確かに、もうさっさと自殺した方がマシかもしれない。
爪剥ぎなんか、まだまだ序の口だ。

559 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/15(日) 23:32:10.09 ID:zv1lhbtl0
いちご「・・・でもね。もう少し頑張ればいつか助かる―――そんな気がして」

梓「・・・。」

いちご「だから自殺はずっと我慢してきたわ。梓ちゃんは、どうする?」

梓「私は―――私は・・・」

いちご「まぁ、分の悪いギャンブルだけれど・・・希望は最後まで捨てないわ」

いちご「ソーセージになる前に助けが来れば、私の勝ち」

梓「希望・・・ですか・・・」

いちご「ねえ。梓ちゃんも、助けが来るっていうのに―――賭けてみない?」

梓「・・・。そうですね。私も・・・助けが来るというのに、賭けてみるです」

いちご「・・・そっか。よかった」

いちごは笑っていた。私も笑った。
なんて分の悪い賭け。当然助けが来る確立なんて、それこそ宝くじに当たるくらい低いだろう。
それでも・・・0%ではない限り賭けてみよう。希望は捨てずに。


562 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/15(日) 23:42:12.71 ID:zv1lhbtl0

律「さぁ。梓豚の次はいちごちゃんの番ですよー?」

上機嫌でこちらに歩いてくる律先輩。
いちごは律先輩に首の鎖を引っ張られつつも、気丈に笑いながら言った。

いちご「梓ちゃん・・・頑張りましょうね」

梓「うん・・・いちごも・・・」

律「ほっほー。いちごちゃんにも遂にお友達ができたか。りっちゃん嬉しいよ?」

いちご「・・・。」

律「さ、今日はルームBに行こうか。お客さんが待ってるからな」

律先輩は鼻歌交じりに、いちごを地下へと連れて行った。
私は黙ってそれを見送った。

梓(いちご・・・頑張るですよ・・・)

そして私は藁のベッドに横になった。
疲れた。眠りたい。
でも指の激痛が邪魔して、眠れなかった・・・。

616 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/16(月) 19:53:48.91 ID:SA4RqhcP0 [2/24]




・・・・・・・・。




翌日、朝。
私とムギちゃんは会議室のような部屋で、朝食のパンとスープを飲んでいました。
会議室には和ちゃんと憂の他にも、重要な組織のメンバーがいました。

和「・・・寝起きでいきなり会議だなんて、ごめんなさいね」

紬「ううん。いいのよ。時間が無いのはよくわかってるわ」

和「ありがとう。それじゃ早速本題に入るわね」

私は眠い目を擦りつつ、和ちゃんのお話に集中します。
そして和ちゃんはまず、私に質問をしました。

619 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/16(月) 19:59:59.47 ID:SA4RqhcP0 [3/24]

和「・・・ねえ唯。なぜここが政府にバレないか、わかる?」

唯「え?うーん・・・わからないよ」

和「なら説明するわね。私たちは―――いわゆる反政府組織なんだけれど」

唯「う、うん」

和「政府はまだ、私たち組織の存在を知らないのよ」

唯「えぇっ、そうなの?」

和「理由は簡単。目立ったことをまだしていないから」

憂「政府が本気で捜索したら、ここなんてすぐ見つかっちゃうからね・・・。」

和「今は、まだ地下で動いている状態なの。わかりやすく言えばね」

すると和ちゃんはコーヒーを一口飲んで、一息つきます。
私も手に持っていたパンを口に放り込み、マグカップのスープを一気に飲み干します。

621 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/16(月) 20:10:16.41 ID:SA4RqhcP0 [4/24]

和「でもね。この狂った政府の“養豚法”を葬るには地下で活動してるだけじゃ駄目」

憂「うん。だから私たちは、地道に準備して、最後の最後に大きな“花火”を打ち上げようとしてるの」

唯「花・・・火・・・?」

和「もちろん例えよ。それでね。その“花火”を打ち上げるには、他ならぬ琴吹さんの力が必要なのよ」

紬「えっ・・・私の・・・力・・・?」

憂「えへへ。私たち、徹夜で作戦考えたんだよ?」

和「貴方が仲間に加わってくれて、本当に助かったわ」

そして和ちゃんと憂はその作戦を、語り始めました。
私はその作戦を聞いて驚きました。
とても非現実。そして地道で、長い時間の掛かる作戦でした。
上手くいくかどうかは全て運次第。
でも今は―――その作戦に賭けよう。そう思いました。

624 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/16(月) 20:21:00.54 ID:SA4RqhcP0 [5/24]

和「・・・ということで、憂と琴吹さんは、さっそく作戦の第一段階を始めて」

唯「あ・・・私は・・・?」

和「唯はここで待機してて。退屈なら射撃の練習でもしてるといいわ」

唯「う、うん・・・わかった・・・」

憂「それじゃ、紬さん・・・行きましょう」

紬「・・・はい!」

私は黙って憂とムギちゃんの二人を見送りました。
正直、私もついて行きたかったのですが、我慢しました。
作戦の第一段階。これは全てムギちゃんが一人でやらなくちゃいけないのです。
今はただ、成功を祈るしかありません。




・・・・・・・・。




そして、憂ちゃんの運転する車の中で。
私は震える手をぎゅっと握り締めた。
この作戦。果たして私にできるのか。

625 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/16(月) 20:30:36.50 ID:SA4RqhcP0 [6/24]
いや、やらなくちゃいけない。
自分のため、唯ちゃんのため、そして養豚場の不幸な人たちのため―――――。
失敗すれば私は恐らく、また養豚所送りだ。
そして今度こそソーセージにされ、唯ちゃんとは永遠の別れ。

―――怖い?
ええ。もちろん怖いわ。
でもやらなくちゃ。

憂「・・・紬さん。着きました」

紬「ありがとう。それじゃ行ってくるわね」

私は車を降りた。
目の前には―――大きな屋敷。
そう、私の家。琴吹家。

私は深呼吸をしてから、門を潜り庭へと入った。
そして茂みを掻き分け、地面の枯葉をどけてみる。
そこには木の板があった。それを外すと、地下への階段が現れた。
―――琴吹の人間しか知らない、隠し通路である。

私は階段を降り、暗闇の中を手探りで通路を歩いた。
しばらく進むと、今度は上りの階段。
この先。この先は―――父の書斎へ繋がっているのだ。

627 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/16(月) 20:40:46.86 ID:SA4RqhcP0 [7/24]

やがて行き止まりに差し掛かった私は、壁をぺたぺたと触った。
・・・あった。扉を開けるボタン。
私はそれを押した。
すると行き止まりだった扉が開き―――眩しい光。
父の書斎だ。

?「んっ・・・だ、誰だ!?」

書斎には一人の男性がいた。
・・・私の父だ。

紬「・・・お久しぶりです。お父様」

紬父「なっ・・・ま、まさか・・・紬か!?」

父は持っていた本を投げ出し、私を抱き締めてくれた。
私は埃だらけだった。
ああ。せっかく唯ちゃんが制服を貸してくれたのに。

紬父「信じられん・・・!再び紬に会えるなんて・・・!」

紬「私もお父様と再会できて・・・嬉しいです」

紬父「良かった・・・本当に良かった・・・紬が生きていた・・・!」

629 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/16(月) 20:50:51.40 ID:SA4RqhcP0 [8/24]

父は泣いていた。
泣きながら私を抱き締めていた。

紬父「お前が養豚場に連れて行かれた時は・・・本当に辛かった」

紬「・・・はい」

紬父「と、とにかく風呂だ。お腹も減ってるだろう?すぐ食事に―――」

しかし私は首を横に振った。
私はただ琴吹家に戻ってきたわけではないのだ。
父に、ある事をお願いするために、戻ってきたのだ。

紬「・・・お父様。それよりお願い事があります」

紬父「ん・・・?どうした?何でも言ってくれ」

紬「あのですね―――」




・・・・・・・・。




和「そう。しっかり構えて。両目でゆっくり狙って」

630 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/16(月) 20:52:03.29 ID:SA4RqhcP0 [9/24]

唯「う、うん・・・!」

憂とムギちゃんが基地を出てから、私は和ちゃんに射撃を教えてもらっていました。
もちろん銃なんて、生まれて初めて触ります。

和「そうそう。それで狙いをつけたら―――撃つ!」

ドンッ! ダンッ!

唯「ッ!」

反動で肩が外れそうなくらい痛みます。
でも私は歯を食い縛って耐えました。
もちろん、大切な人を守るために。

631 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/16(月) 21:00:36.02 ID:SA4RqhcP0 [10/24]

和「相手は容赦なく私たちを撃ってくるわよ。死にたくなかったら、唯も容赦しちゃ駄目」

唯「わ・・・わかったよ!」

少し経って。ほんの少し銃に慣れたところで、練習は終わりに。
銃弾はとても貴重です。
そんな貴重な銃弾を練習に使わせてくれた、和ちゃんに感謝です。
あ、あとちなみに武器の調達はさわちゃんの仕事だそうです。
ありがとう、さわちゃん。

和「・・・さて。そろそろ憂達が帰ってくる頃かしら」

練習を終えた私たちは、会議室でゆっくり二人の帰りを待っていました。
そんなこんなで、数分後。

憂「ただいま戻りました」

紬「ただいま、唯ちゃん、和ちゃん」

唯「あっ、ムギちゃん!」

二人の帰りに、私は大喜び。
ムギちゃんに抱き付きます。

632 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/16(月) 21:11:06.72 ID:SA4RqhcP0 [11/24]

和「・・・それで、どうだったの?」

紬「とりあえず成功です。父は協力してくれました」

和「・・・そう。良かった・・・いや、本当に良かったわ・・・」

どうやら、作戦の第一段階は成功したようです。
流石はムギちゃんです。

紬「それじゃ、次は第二段階に」

和「ええ。お願いするわ。・・・頑張って」

紬「はい。唯ちゃん・・・数週間ほど会えなくなっちゃうけど、頑張ろうね」

唯「う、うん・・・」

そうです。第二段階に入ると、しばらくムギちゃんに会えなくなってしまいます。
作戦会議で前もって言われていました。
もちろん寂しいです。
でも、第二段階も非常に重要です。そして残念ながら、私は足手まといにしかなりません。

和「あはは。その数週間で唯を琴吹さん専用のボディーガードに鍛えてあげるから、期待してて」

紬「はい。期待してます。唯ちゃん・・・頑張ってね」

唯「う、うん!頑張るよ!絶対絶対、私ムギちゃんのボディーガードになるっ!」

紬「ありがとう、唯ちゃん。それじゃ行ってくるわね」

637 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/16(月) 21:24:03.69 ID:SA4RqhcP0 [12/24]
最後に私とムギちゃんは、抱き締め合いました。
そしてしばらくして、ムギちゃんは再び憂と一緒に基地を出て行ってしまいます。
やっぱり、少し寂しいです。
でも大丈夫。たかが数週間会えないだけです。
一生会えないのに比べれば、全然です。

和「さぁ唯。準備して。数週間山篭りよ」




・・・・・・・・。




あれから、何週間か経った。
正確な日にちはわからない。
でも結構長いこと、ここにいるのは確かだ。
この養豚場に連れてこられてからは毎日が地獄だった。
マズイ肉骨粉を無理やり飲み込み、生ぬるい水を啜ってなんとか生きてきた。

律「しかし梓豚、意外としぶといな」

澪「そうだな。すぐ気が狂ってソーセージか、さっさと自殺すると思ってたんだが」

梓「・・・。」

私を毎日、いじめて笑っている悪魔のような二人だ。
私はこの二人が憎かった。自分の母親より憎い。

639 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/16(月) 21:31:41.67 ID:SA4RqhcP0 [13/24]

律「そんな怖い顔すんなよ。今日は今まで頑張ってきたご褒美もってきたんだぜ?」

澪「ほら、食べな」

澪先輩は私の前に真っ白な皿を置いた。

・・・皿にはソーセージが載っていた。

梓「・・・。なんですかこれは」

澪「まぁ、ソーセージだな」

律「くすくす・・・」

律先輩は笑っていた。
私はソーセージに手をつけようとしなかった。
どうせこのソーセージも、ここの豚の成れの果てなのだ。

律「なぁ、梓・・・気が付かないか?」

梓「・・・何がですか」

澪「ほら。今日はいちごの姿が見えないだろ?」

梓「え・・・」

律「ぷっ・・・あっはっは!鈍いなぁ!そのソーセージはいちごなんだよぉッ!!」

641 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/16(月) 21:41:10.98 ID:SA4RqhcP0 [14/24]

律先輩は笑い転げていた。
え・・・そんな・・・うそでしょ・・・?
いちごが・・・ソーセージに・・・?
目の前が真っ暗になった。

澪「ほら、食えよ。美味しいぞ」

律「ちなみに澪が屠殺して、私が調理したんだぜ?」

澪「いちご、『梓ちゃん・・・さようなら・・・』とか最後に言ってたな」

梓「っ・・・!」

律「ほら、食えよ!大好きないちごだぞォ!ぎゃはははっ!」

涙で視界が歪んだ。
そして私は目の前のソーセージを―――全部口に放り込んだ。
食べることがせめてもの供養になると信じて。

澪「わッ、こいつ本当に食ったぞ!」

律「あははっ、共食いかよー!」

律先輩はソーセージを頬張る私の頭を踏んだ。
悔しくて悲しくて、私は涙が止まらなかった。
いちご・・・。いちご・・・。

645 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/16(月) 21:50:01.88 ID:SA4RqhcP0 [15/24]

澪「そうそう。ついでに今日は遂に梓豚もソーセージの日なんだぞ」

律「おっと。そうだったな!言い忘れてたぜ!」

梓「ぐすっ・・・えぐっ・・・いちご・・・」

澪「良かったじゃないか。もうすぐいちごの所に行けるんだぞ?」

律「梓豚のソーセージはまぁ・・・美味かったら食ってやるよ!不味かったら捨てるけど」

澪「あはははっ!不味くても食ってやれよ!私は嫌だけど」

律「さぁ来い。梓豚ちゃん、ルームCへご案内~と」

私は全てを諦めた。
いちごが死んだ。
そして次は私の番。
何一ついいことのない人生だった。
母親に殴られ。ムギ先輩にはフラれ。豚になり、最後はソーセージ。
そうだ。ムギ先輩。
ムギ先輩に、最後でいいから会いたい―――。
そして次の瞬間。

?「・・・ちょっと待ちなさい」

梓「っ・・・!?」

それは聞き覚えのある声だった。
いや―――忘れられるはずがない!

646 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/16(月) 21:57:42.88 ID:SA4RqhcP0 [16/24]

律「ん・・・?なんだ?」

澪「ッ!? お、お前は・・・!」

梓「む・・・ムギ先輩・・・!?」

紬「・・・ええ。梓ちゃん、澪ちゃん、りっちゃん。久しぶり」

・・・なんとそこにいたのはムギ先輩だった。
しかもムギ先輩は驚いたことに、ぴかぴかの靴に綺麗な服を着て、高そうなバッグを肩に下げていた。
そう。その姿はまるで人間―――

律「ほ、ほお。ムギ豚か。久々だな」

澪「お、おいおい・・・ムギ豚のくせに私よりいい格好してるんじゃないか?」

紬「残念だけど、私はもう豚じゃないわ」

律「・・・はぁ?何言ってんだよ」

澪「お、お前は豚だろ・・・?」

うろたえる律先輩と澪先輩。
あれ?
ひょっとして・・・私、賭けに勝った?
もしかして本当に助けが来ちゃった・・・?

650 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/16(月) 22:05:48.32 ID:SA4RqhcP0 [17/24]

律「・・・ちっ。よくわかんねーけど、梓豚と一緒にムギ豚もソーセージにしてやるよ!」

澪「あっ、律!」

ムギ先輩に飛び掛る律先輩。
しかし私が瞬きをすると、次の瞬間そこには驚いた光景が広がっていた。
飛び掛っている律先輩の腹部に、“誰か”の蹴りが突き刺さっていたのだ。

律「ッ!? げほっ・・・がほッ・・・!?」

唯「ふう。ムギちゃんに触れようとすると、こうなるよ?」

・・・その蹴りは唯先輩が放ったモノだった。
い、一体何がどうなって・・・
ムギ先輩が現れたと思ったら、今度は唯先輩・・・!?

紬「ほんと唯ちゃんは頼もしいわ・・・」

唯「えへへっ!」

唯先輩は黒のスーツを着て、どこか凛々しい雰囲気が漂っていた。
そう。まるで・・・ムギ先輩の、ボディーガード。

梓「あ、あの・・・これは・・・一体・・・」

状況が飲み込めない私。
そんな私・・・そして固まっている澪先輩、床にうずくまっている律先輩に向かってムギ先輩は言った。

652 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/16(月) 22:12:48.63 ID:SA4RqhcP0 [18/24]

紬「この養豚場は―――我が琴吹グループが買い取りました」

唯「そっ。早い話、今日からムギちゃんがここで一番偉い人なんだよ?」

澪「そ・・・そんなバカなッ!」

紬「ねえ、梓ちゃん。率直に聞くわね。豚になって、どう思った?」

梓「・・・最低最悪です」

紬「そう。私も前は同じ苦しみを味わったのよ?梓ちゃんのおかげでね」

梓「そ、それは・・・謝るです!ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」

紬「本当に反省してる?」

梓「は・・・反省してるです!」

紬「そう。なら―――そうね。一つだけ願いを叶えてあげる」

梓「ね・・・願い・・・ですか?」

紬「くすくすっ。梓ちゃん、この世で最も憎い人間が二人、目の前にいるんじゃないかしら」

澪・律「・・・!」

梓「・・・そうですね。人間に戻るのもいいけど・・・それより・・・」

655 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/16(月) 22:24:53.06 ID:SA4RqhcP0 [19/24]
澪「お、おい・・・一体何を―――」

梓「ムギ先輩。お願いです。この悪魔のような二人を・・・私と同じ豚に」

紬「お願いは・・・それでいいのね?」

梓「はいです。この二人だけは・・・絶対に許せないです!」

律「な、何言ってんだよッ!」

澪「む、無理だろ・・・いくらここで一番偉くても・・・そんなこと・・・はははっ・・・」

紬「唯ちゃん、例のものを」

唯「うん。りっちゃん澪ちゃん、これ見てみて」

その紙にはこう書いてあった。

『下記の者を、養豚場送りとする。』

『秋山 澪』
『田井中 律』

丁寧に、二人の両親が押したと思われる判子もあった。

澪「お、おい・・・これって・・・」

律「そんな・・・嘘だろ・・・嘘だろォッ!?」

紬「私がちょこっとお金を積んだら、気前よく判子を押してくれたわ」

659 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/16(月) 22:34:48.60 ID:SA4RqhcP0 [20/24]
澪「そんな・・・パパ・・・ママ・・・」

唯「それじゃ、服脱いで。あとこの首輪も」

律「やだ・・・やだ・・・豚はやだぁッ!!」

唯「残念だけど、もう今日から澪ちゃんとりっちゃんは豚さんだよ」

澪「離せッ!やだッ・・・豚は・・・助けてぇ・・・!」

律「お、おい・・・見てないで助けてくれッ!」

律先輩は、他の養豚場の職員に助けを求めた。
しかし職員達は黙って俯き、二人の助けを無視した。

紬「もう他の職員さん達には全て説明してあるから・・・」

唯「もう諦めなよ・・・。散々豚さん達をいじめてきたからね。バチが当たったんだよ」

律「く、くそッ!豚になんかなるもんか・・・!」

やっぱり豚にはなりたくないのだろう。
律先輩は腰の鞭に手を伸ばした―――のだが。

唯「動かないで」


662 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/16(月) 22:42:16.47 ID:SA4RqhcP0 [21/24]
鞭に手が届く前に、唯先輩は律先輩に向かって、拳銃を突き付けていた。
私は感動していた。
そして唯先輩を自然と応援していた。
あの悪魔のような二人が、まったく歯が立たない。
痛快だった。

律「ど、どうせッ・・・オモチャだろ・・・!」

唯「試してみる?」

律「う・・・く・・・くそ・・・くそッ!!」

律先輩は諦めたのか―――両手を挙げ、降参のポーズをした。
唯先輩は銃を突きつけたまま、律先輩の腰の鞭を抜き取ると遠くへ投げ捨てた。

澪「あはは・・・私・・・豚だ・・・」

澪先輩は半分気が狂ってしまったのか―――自分から服を脱ぎ捨て、檻の中へ入っていった。
やがて律先輩も唯先輩に服を脱がされ、澪先輩と同じ檻に放り込まれた。

梓「あははっ。律先輩・・・澪先輩・・・仲間ですね」

律「梓ァ・・・絶対・・・許さないからな・・・!」

澪「私は・・・豚・・・もうすぐソーセージ・・・」

梓(いちご・・・見てるですか?いちごの無念・・・私が晴らすです・・・!)

666 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/16(月) 22:52:11.84 ID:SA4RqhcP0 [22/24]



・・・・・・・・。




夜の12時。
養豚場、事務室。
もう全ての職員は既に帰宅済みで―――ここにいるのは私とムギちゃんの二人だけ。

唯「お疲れさま、ムギちゃん」

紬「ほんと、今日は忙しかったわー」

私は淹れたばかりの紅茶を差し出し、ムギちゃんの肩を優しく揉んであげました。

さて。
ここ数週間、色々なことがありました。
私はずっと和ちゃんの訓練を受けていたのですが―――
一方でムギちゃんは、本当に大忙しでした。

唯「それにしても・・・本当に、上手くいってるね」

私たちの作戦は既に、第三段階に移っていました。
第二段階はムギちゃんの頑張りで無事成功。

私は再び作戦の手順が書かれたメモ帳を見ました。
ちなみに誰に読まれてもいいよう、半分暗号で書かれています。

671 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/16(月) 23:02:54.59 ID:SA4RqhcP0 [23/24]

第一段階。
ムギちゃんがお父さんに秘密で協力を要請。

第二段階。
養豚場の購入。

そして第三段階。
これは今、組織のみんなが総出で頑張っています。

唯「そういえば・・・ムギちゃんて、正確にはまだ豚さんなんだよね・・・」

紬「そうね。今は偽造してもらった書類のおかげで人間だけれど・・・」

少し寂しそうな表情をするムギちゃん。
やっぱり、正式に人間になりたいのでしょう。

唯「まぁでも・・・全部終われば、人間に戻れるよ」

紬「うん・・・。頑張らないと」

ムギちゃんは紅茶を一気に飲み干しました。
・・・そろそろ帰りましょうか。

唯「もう遅いし・・・帰ろっ?」

ちなみに和ちゃんのおかげで、私は車の運転ができるようになりました。
今ではムギちゃん専属の運転手さんです。
免許証は、偽造ですが・・・。

709 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/17(火) 09:57:28.02 ID:bRyDZGB+0
いちご:無念のソーセージ
純ジュワ:人知れずソーセージ

梓:ソーセージ一歩手前の豚
澪:頭がおかしくなった豚
律:何かやらかしそうな豚
紬:仲間の唯にいまだ豚扱いされてる豚

紬父:養豚場を買い取れるお金は持ってるけど、養豚場に送られた紬は助けなかった父
和:偉いめがね
唯:良い者ぶってるけどムギは豚と思ってる
憂:仲間その1ってくらい空気
さわ:逮捕と思いきや武器の調達人
斉藤:殉職

737 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/17(火) 20:18:09.86 ID:Q4VKYrcH0 [2/22]
そして車内。
ムギちゃんのお屋敷へ向かっている途中。
私はちょっと疑問に思ったことを、聞いてみます。

唯「ねえ。澪ちゃんとりっちゃんを豚さんにして―――よかったの?」

紬「うん。あの二人には、反省してもらわないと」

唯「そっか。でも最後には、ちゃんと許してあげるんだよね?」

紬「もちろんよ。まぁ・・・反省してくれれば・・・の話だけれど」

数十分後。
私の車はお屋敷に到着。

紬「それじゃ・・・唯ちゃん、おやすみなさい」

唯「うん。おやすみなさい」

屋敷に到着するなり、ムギちゃんは自室へ向かい、すぐ眠ってしまいました。
私は眠らず、ドアの前に立ってムギちゃんの警護です。

・・・こんな生活、前の私には無理でしょう。
前の私は眠って、ご飯食べて、学校行って・・・そんな生活でした。
でも今の私は違います。
守りたい人がいるから・・・だからここまで頑張れるのです。

唯(でも、いつか安心してゆっくり暮らせる日がくればいいな・・・。)

738 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/17(火) 20:22:51.00 ID:Q4VKYrcH0 [3/22]



・・・・・・・・。




この養豚場の所有者がムギ先輩になってから、私たち豚の生活は一変した。
まず拷問は一切禁止になった。
食事も肉骨粉から、パンとシチューに変わった。

もちろん外へは出れないし、衣服も与えられないけど・・・。
それでも拷問が禁止になっただけで私たち豚はとても救われた。

唯一悔しいのは、いちごが殺される前にムギ先輩が来ていれば―――――。

いや、もうよそう。悔やんだ所で、いちごは蘇らない。
それにムギ先輩が、特別にいちごのお墓を養豚場の敷地内の隅に、作ってくれたのだ。
土下座して頼んだ甲斐があった。

澪「あは・・・豚さん・・・」

律「澪・・・しっかりしろよぉ・・・」

ちなみに澪先輩は、あれからずっと壊れたままだ。
まぁ大丈夫だろう。多分。
一方で律先輩は、豚になってやっと心を入れ替えたようだった。

律「梓・・・その、ごめんな・・・」

739 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/17(火) 20:29:49.63 ID:Q4VKYrcH0 [4/22]

梓「許して欲しいですか?なら爪を全部自分で剥いでくださいです」

律「う・・・。まぁ、ちょっと謝っただけで許してもらえるわけないよなァ・・・」

澪「あはは・・・律もソーセージ・・・」

律「ほら、澪・・・まだパンが残ってるぞ。全部食べないと」

梓「・・・。」

そして数時間後。
もうお昼頃だろうか。
向こうから、ムギ先輩と唯先輩が歩いてくるのが見えたのだった。

紬「こんにちは、梓ちゃん」

梓「こ、こんにちは・・・です」

澪「あ・・・ムギ豚・・・仲間・・・」

梓「・・・どうしたですか?何かあったですか?」

紬「うん。今日はちょっと梓ちゃんを勧誘に来たの」

梓「勧誘・・・ですか?」

紬「梓ちゃん。養豚場のこと、どう思ってる?」

梓「・・・この世から無くなればいいと思ってるです」

743 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/17(火) 20:38:34.56 ID:Q4VKYrcH0 [5/22]

唯「あはっ。なら決まりだね」

紬「私たちはね、養豚場をこの世から無くす為に組織を立ち上げてこっそり活動してるの」

唯「あずにゃんも、私たちの組織に入って戦ってみる?」

梓「え・・・いいんですか?」

紬「養豚場を無くしたい。心からそう思ってるなら、誰でも歓迎よ」

梓「は・・・入るです!入らせてくださいです!」

紬「そっか。良かった。―――唯ちゃん?」

唯「うん。和ちゃんに今連絡してるとこだよ。 あ、もしもし和ちゃん?」

紬「ちなみに―――りっちゃん、澪ちゃんは・・・養豚場のこと、どう思ってる?」

澪「豚さん・・・いっぱい・・・」

律「あっ・・・ええと・・・まだわからない」

紬「・・・そう。気が向いたらいつでも私たちの組織に―――」

律「・・・いや、それは遠慮しとく。私は澪のこと見てなきゃ。こんな調子だし」

澪「私・・・いつソーセージ・・・?」

紬「・・・そうね。澪ちゃんの側にいてあげて。あ、唯ちゃん・・・例のものを」

744 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/17(火) 20:44:42.92 ID:Q4VKYrcH0 [6/22]

唯「うん。あずにゃん、これ着て。すぐ基地に行くよ」

梓「えっ・・・基地・・・ですか?」

私は唯先輩から黒いブリーフケースを受け取った。
中には、制服が入っていた。

梓「服なんて・・・久しぶりです」

そして唯先輩に首輪を外してもらい、制服に着替える私。
それにしても、基地ってどこにあるんだろう。

唯「着替えた?それじゃ行こっか」

唯先輩に手を引かれながら、養豚場の外へ。
久々の外の空気。なんて清々しいんだろう。
青空も綺麗だった。

そのまま唯先輩についていくと、そこは養豚場の駐車場だった。
唯先輩はその駐車場にある、真っ黒な車に乗った。
続いてムギ先輩も乗った。私はムギ先輩の隣の席に座った。

梓「唯先輩・・・車運転できるんですか?」

唯「うん。まだまだ初心者だけどね」

そして、車に揺られて数十分。
街から離れ、車はだいぶ山奥を走っていた。
道路も舗装されてはいるが、ボコボコでひび割れた所から草が生えている。

745 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/17(火) 20:51:44.23 ID:Q4VKYrcH0 [7/22]

唯「着いたよ。降りて降りて」

梓「こ、ここは―――」

私の目の前には、赤錆だらけの廃工場があった。
ここが、基地・・・?

唯「よいしょっと」

廃工場の中に入ると、唯先輩とあるシャッターの隣にあるレバーやボタンなどを触り始めた。
ま、まさか・・・ここが入り口?
すると予想通り、シャッターが開くとそこには真っ暗な通路が大口を開けていた。

紬「さ、行きましょう」

梓「は、はいです」

唯先輩の懐中電灯の明かりを頼りに、私たち3人は先を進んだ。
だいぶ長い下り坂だ。地下に潜っていっているのだろうか。

唯「ただいま。あずにゃん連れてきたよ」

しばらく歩くと、広い空間に出た。
そこは照明があって明るく―――そして、色々な人がいて私を驚かせた。

和「・・・久しぶりね、中野さん」

梓「あっ―――」

747 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/17(火) 21:00:13.99 ID:Q4VKYrcH0 [8/22]
こ、この人は。
前に私の家に侵入してムギ先輩を連れてこうとした人だ。
名前は、確か和といったはず。
そっか。この人もその組織ってやつに入ってたんだ。

梓「あっ、あの・・・よろしくです」

和「ええ。こちらこそ。それじゃ早速、中野さんは私と一緒に来て」

唯「よしよし。それじゃ、私とムギちゃんは大事な用があるからもう行くね」

紬「梓ちゃん、頑張ってね」

そう言うと、二人はすぐまた暗い通路に消えていってしまった。
残された私と和先輩。

和「さ、行きましょう」

梓「あ・・・はいです」

・・・その後、和先輩による地獄の訓練が始まるのだが
それはまた別のお話なのであった。




・・・・・・・・。




749 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/17(火) 21:06:57.13 ID:Q4VKYrcH0 [9/22]

梓「つ、疲れたです・・・これじゃまるで軍隊の訓練です」

和「そうよ。軍隊の訓練よ」

梓「こんなことやるなんて・・・聞いてなかったですよ」

私は銃を放り、その場に座りこんだ。
ずっと養豚場に居たため、体力の低下が著しい。

和「いい?私たちがやろうとしてるのは政府転覆よ。とても大それたことだわ」

梓「は、はぁ・・・。」

和「組織の人間全員が銃を持って戦わなきゃいけないの。だから頑張って」

梓「い、今は私、豚ですよ・・・」

和「なら訂正するわね。組織の豚と人間全員が―――」


・・・と、そんな生活が続くこと数週間。
今日はまた、珍しい人が来ていた。

さわ子「あら。もしかして―――梓、ちゃん?」

梓「さわ子先生・・・ですか!?」

さわ子「本当に久々ね。軽音部時代が懐かしいわ」

750 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/17(火) 21:12:28.31 ID:Q4VKYrcH0 [10/22]
先生は大量の木箱などの荷物を運んできたようだった。
中身は恐らく―――銃器類。

和「それにしてもすごい量ですね」

さわ子「ほんとにね。全部ムギちゃんのおかげよ」

梓「えっ、ムギ先輩が何か関わってるんですか?」

和「ああ。そういえば梓には言ってなかったわね」

・・・どうやら、和先輩によると、これは作戦の第三段階・・・とやららしい。
なんとムギ先輩の琴吹グループが、某国で武器を製造して各国に売っているというのだ。
そして儲かったお金で、養豚場を購入し、豚を救出している・・・と。
信じられない話だが、たぶん本当なのだろう。
それでその製造した武器の一部をこの組織に運んでいる・・・ということらしい。

和「どう?いい作戦でしょう。少しバクチ要素が大きいけど」

梓「なんだか・・・とってもスケールが大きい話ですね」

さわ子「ま、相手はこの国の政府だから」

和「今は武器を蓄え、養豚場を買い漁り、同志を集めなきゃいけないわけ」

梓「あ。話が見えてきたです。つまり秘密裏に大軍勢を作り、ある日一気に油断してる政府に攻め込むわけですね?」

和「そういうこと。1日でカタをつけてやるわ。今から楽しみね」

751 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/17(火) 21:24:07.57 ID:Q4VKYrcH0 [11/22]
私は納得した。
つまり今やってる訓練は、その政府に攻め込む時のための訓練なんだ。
・・・なんだか楽しくなってきた。
人間に戻りたくば、自分で勝ち取れ・・・ということか。

和「それじゃ打倒政府に向けて、訓練を続けるわよ」

梓「はいです!」


・・・そして訓練を続けて、更に数週間。
体力も何とか伸び、銃も扱え私はまぁ戦えるくらいにはなった。
和先輩も認めてくれた。
これからは、作戦に参加させてくれるらしい。

和「待たせたわね。今日から梓にも作戦に参加してもらうわ」

梓「は・・・はいです!」

和「ええと。梓の仕事は―――唯のサポートをお願いするわ」

梓「唯先輩のサポートですか?」

和「ええ。例えば・・・唯が睡眠中、ムギを護衛するとか。後は交代しながら車を運転したり」

梓「な、なるほど。わかったです」

和「唯にはもう連絡してあるわ。外で待ってれば、すぐ唯の車が来ると思うから」

梓「はいっ!」

752 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/17(火) 21:37:18.77 ID:Q4VKYrcH0 [12/22]
和「それじゃ、頑張ってね。私はしばらくここで缶詰よ。まったく」

私は唯先輩と同じく、黒のスーツを着て、拳銃などを携帯した。
この組織に入ってから、作戦に参加するのは初めてだ。少しドキドキする。
そして私は廃工場を出て、しばらく待機した。
気持ちのいい青空だった。

そしてしばらくすると、例の黒い車が。
もちろん唯先輩の車だ。

唯「おーい、あずにゃーん」

窓から顔を出し、手を振る唯先輩。
私はすぐ車に近付き、乗った。

唯「和ちゃんから聞いたよ。よろしくねー」

梓「よ、よろしくです」

ちなみに車内にムギ先輩はいなかった。
どうも、休養中で今は屋敷にいるらしい。

唯「行き先は―――わかってるよね?」

梓「はい。ムギ先輩のお屋敷でしょう?」

唯「正解。ムギちゃんは休みでも、私たちに休みはないからね」

754 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/17(火) 21:42:44.94 ID:Q4VKYrcH0 [13/22]
私は顔をぴしゃぴしゃと叩き、気合を入れた。
まったく。
豚になったかと思えば、今度はボディーガード。
人生何が起こるか本当にわからない。

そして唯先輩の運転する車に揺られ、陽が沈み始めた頃。
私たちはやっとムギ先輩の屋敷に到着する。

梓「・・・立派なお屋敷ですね」

唯「うん。すごいよねー」

私たちは裏口から屋敷に入った。
鍵は唯先輩が持っていた。
やっぱり、かなり信用されてるんだなぁ、なんて思ったり。

唯「ムギちゃーん、あずにゃん連れてきたよ」

紬「お疲れさま。こんにちは、梓ちゃん」

梓「こ、こんにちはです」

これまた豪華な部屋。
ムギ先輩はソファーに座りながら、本を読んでいた。
クラシックだろうか。お洒落な音楽がどこからともなく聞こえてくる。

唯「ふぁ・・・それじゃ私は寝るね。あずにゃん後はよろしく」

紬「おやすみなさい、唯ちゃん」

755 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/17(火) 21:50:59.62 ID:Q4VKYrcH0 [14/22]
唯先輩は大きな欠伸を一つすると、部屋の大きなベッドに倒れこむようにして寝てしまった。
疲れが溜まっていたのだろう。これはしばらく起きそうにない。

紬「・・・隣に座る?」

梓「い、いいんですか?ならお邪魔するです」

私はムギ先輩の隣に座った。
ふかふかのソファー。気持ちいい。
そしてムギ先輩からは、上品な香水の香りがした。

梓(やっぱり・・・ムギ先輩は・・・綺麗です・・・)

髪も服装も、豚時代とは比べ物にならないくらい綺麗になっていて。
でも雰囲気と優しい性格はずっと変わらずあのまま。
・・・忘れかけてた恋が、蘇りそうになってしまった。

いけないいけない。今のムギ先輩には、もう唯先輩という人が・・・。
いやでも・・・ムギ先輩・・・素敵です・・・。

梓「あ、あの。ムギ先輩。その・・・抱き締めて欲しい、です」

紬「え?どうしたの、急に」

梓「その・・・やっぱりこの先上手くいくか、不安で怖いです。だから・・・」

紬「・・・そう。わかったわ」

759 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/17(火) 22:05:34.56 ID:Q4VKYrcH0 [15/22]
ぎゅっ。
ムギ先輩はそう、私を優しく抱き締めてくれた。
柔らかいムギ先輩。あたたかいムギ先輩。
胸がドキドキする。
ああ。やっぱり私はムギ先輩のことが、まだ好きなんだ・・・。

梓「あ、ありがとう・・・です」

紬「どういたしまして」

にこり、と天使のような笑顔で笑うムギ先輩。
その後・・・私とムギ先輩は唯先輩が目を覚ますまでの数時間、二人で静かにゆっくり過ごした。
一緒に食事をしたり。庭を散歩したり。束の間の幸せ。

唯「ん・・・ふわぁぁ・・・おはよ・・・」

梓「あ。唯先輩が起きたです」

紬「おはよう、唯ちゃん」

梓「これ、どうぞです」

私は夕食・・・いや朝食を唯先輩に渡した。
オレンジジュースとカロリーメイト。
寝起きはこれが一番いいらしい。

唯「ありがと・・・うん、お疲れさま、あずにゃん。もう休んでいいよ」

梓「はい。それじゃ失礼するです」


762 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/17(火) 22:17:05.21 ID:Q4VKYrcH0 [16/22]
私は部屋を出た。
私には唯先輩と違い、専用の部屋が与えられていた。
その部屋は大きなベッドがあり、私は喜んだ。
でもやっぱり、唯先輩みたいにムギ先輩の部屋で眠ってみたかったりするのだが。
私たち二人の邪魔はしないでね、と遠まわしに言っているのだろうか。
・・・なんだか悔しい。

梓(・・・いや。もう夜だし、さっさと寝ちゃうです)

なんて思ったのだが。
・・・やっぱりムギ先輩と唯先輩が気になって眠れない。

梓(今、あの二人は何を・・・)

私は我慢できず、部屋を抜け出した。
そしてムギ先輩達のいる部屋の前まで行き、こっそり覗き見を―――しようとして、やめた。
何故なら、部屋の中から唯先輩とムギ先輩の嬌声が聞こえたからだ。

唯『ムギちゃん・・・可愛いよ・・・』

紬『やっ・・・唯ちゃん・・・』

いや、わかっていた。
恋人同士が二人きり。することといったら、ただ一つ。
私は自分の部屋に逃げるようにして戻り、そしてベッドで泣いた。

梓(ううっ・・・ムギ先輩っ・・・!)

763 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/17(火) 22:25:30.07 ID:Q4VKYrcH0 [17/22]
手が届きそうで、届かない。
まるでガラスケースの中の宝石。
私はそのまま、泣きながらいつの間にか眠っていた。

次の日の朝。
私は全身の気だるさを感じながら起床。
時計を見ると、もう昼の12時。
・・・遅刻だ。急がないと。

梓「ご、ごめんなさい・・・寝坊したです」

唯「あ、あずにゃん。もうお昼だよー」

紬「そこのテーブルに、梓ちゃんのお昼ごはんもあるから食べてね」

唯先輩とムギ先輩は、もう昼食を取っていた。
私も食事にしようと、部屋の隅にある椅子に座り、テーブルの上の昼食を食べた。

紬「唯ちゃん、ピーマンは残しちゃ駄目よ」

唯「ええー・・・だって苦いよー・・・」

・・・とても仲の良い二人。
一方で私は独り。
孤独で虚しい食事だった・・・。

唯先輩とムギ先輩は、とても幸せそうだった。
いつも笑顔で。いつも楽しそうで。
私もそんな二人に合わせて笑顔でいたが、虚しかった。

764 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/17(火) 22:33:47.81 ID:Q4VKYrcH0 [18/22]
虚しさと寂しさは、そんな二人と過ごす内にどんどん膨れ上がっていった。
何より、私のいない所でこっそり恋人同士の情事を繰り返しているのが、気に入らなかった。
私の前でイチャイチャするのはやっぱり気が引けるのだろう。
過去に、あんなことがあったんだし。
でもそれがかえって、私の心を徐々に蝕んでいった。

唯「あ、あずにゃんお帰りっ」

紬「お散歩は、どうだった?」

私が散歩から戻ってくるなり、慌てて乱れた服装を元に戻すムギ先輩と唯先輩。
奥歯をギリッ、と噛み締めた。
どうせなら目の前でイチャイチャしてくれた方がこっちも吹っ切れて楽なくらいだ。

私は嫉妬していた。
人間であり、ムギ先輩が恋人の、唯先輩に。
そう。
虚しさと寂しさは、次第に怒りと悲しみに変わっていった。

休暇が終われば、また忙しい日々になるという。
忙しくなれば、負の感情なんて忘れられるかもしれない。
しかし休暇が終わる前に、私の感情は爆発してしまうかもしれない・・・。

唯「あずにゃん、気分悪いの?大丈夫?」

梓「え・・・あ・・・だ、大丈夫です」

唯「うーん、大丈夫ならいいけど・・・何あったら、すぐ言ってね」

765 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/17(火) 22:41:27.13 ID:Q4VKYrcH0 [19/22]
・・・私が疲れてるのは、全部唯先輩のせいです!と言いたかった。
でも唯先輩は悪くない。勝手に嫉妬してる私が全部悪いのだ。
なんて私は嫉妬深いのだろう・・・。

そしていつの間にか夜になっていた。
今夜は唯先輩が睡眠を取って、私がムギ先輩の警護をしていた。
眠っている唯先輩のため、部屋の照明は消していた。
月明かりだけでも十分明るかった。

紬「綺麗な月ねー」

窓を開け、月を眺めるムギ先輩。
一方で私はじっと床を見つめていた。

梓「あの・・・ムギ先輩・・・」

紬「・・・なにかしら」

梓「ムギ先輩は・・・唯先輩のことが好きですか?」

紬「・・・ええ。好きよ。大好き。唯ちゃんのいない世界なんて考えられないくらい好きよ」

梓「その・・・。唯先輩の次でいいんです。私のことも・・・愛してくれませんですか?」

紬「梓ちゃん―――」

梓「私、やっぱりムギ先輩が好きです。諦められないです・・・!」

767 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/17(火) 22:48:58.62 ID:Q4VKYrcH0 [20/22]
結局、私は再びムギ先輩に自分の想いをぶち撒けてしまった。
眠っているとはいえ、そこに唯先輩がいるのに。
でもそんなのお構いなしだった。もう嫉妬に塗れて生きるのは嫌だった。
黙って私を抱き締めて、楽にして欲しかった。

紬「・・・ごめんなさい。私は唯ちゃんしか愛せないの」


・・・しかし、ムギ先輩の返事は残酷なものだった。
私は2番目にすらなれないのか。

梓「ですよね・・・変なこと言って・・・ごめんなさいです・・・」

私は部屋を出た。
そして屋敷を出て、夜の街を歩いた。
いつの間にか涙が溢れていた。

梓(なんだか・・・疲れたです・・・)

私にはもう何も無かった。
もうこんな世界、滅びてしまえばいいのに。
全てが滅茶苦茶になってしまえばいいのに。


771 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/17(火) 23:03:32.57 ID:Q4VKYrcH0 [21/22]
そして。
気付けば私はとある道端の掲示板をじーっと見ていた。
その掲示板には1枚の貼り紙があった。

『情報提供にご協力ください』

『反政府的発言・行動をしている人がいたら、政府に連絡を。
 情報次第では謝礼あり。
 そして更に非常に有用な情報だった場合、貴方も政府の一員に。
 情報、待ってます。 政府より』




・・・・・・・・。




次の日。
私は唯先輩に頼み込んで、午前中だけ自由行動させてもらえることになった。

梓(今日は・・・いい天気ですねえ・・・)


831 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/18(水) 20:15:11.33 ID:opodJk1U0 [2/21]
私は車を走らせた。
途中コンビニに寄り、使い捨てカメラを購入。
次は組織の本拠地。山中の廃工場へ。

廃工場に到着すると、私は車を降りた。使い捨てカメラを持って。
まずは廃工場全体を1枚撮影。
次は中に入り、例の出入り口であるシャッターを撮影。

私はレバーとボタンを弄り、シャッターを開け、基地内部へ。
奥へ進み、いつものコンクリート造りの広間に入る。
そこには和先輩が一人いた。彼女はひたすら書類にペンを走らせていた。

和「ん・・・あら。梓じゃない。どうしたの?」

梓「えっとですね・・・突然思い出を残したくなったのですよ」

和「思い出?あぁ、そのカメラで?」

梓「はいです。その・・・和先輩を撮っていいですか?」

和「いいわよ。ただし1枚だけね」

梓「ありがとです」

私は1枚、和先輩を撮った。
正面から、全身を写すように。

梓「それじゃ、失礼するです」

835 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/18(水) 20:23:59.45 ID:opodJk1U0 [3/21]
私は和先輩に一礼し、広間を出た。
そして少し基地内を歩き、会議室へ。
会議室全体や、色々な事が書かれているホワイトボードを撮影。

次は地下射撃場へ。
全体と、床に転がっている空薬莢などを撮影。

最後は隣の武器庫へ。
銃や弾薬、爆弾まで山のように積まれた武器庫。
当然ここも撮影した。

・・・もうこれで十分か。
そろそろ、ムギ先輩の屋敷に戻らないと。

途中、またあの和先輩がいた広間を通った。
和先輩はまだ作業中だった。

和「あっ、梓・・・ちょっと待って」

梓「はい、何ですか?」

和「3日後、全員召集の大きな会議を開くから、そのこと唯と琴吹さんに伝えておいて」

梓「3日後―――ですね、わかったです」

私は再び和先輩に一礼をし、廃工場を出た。
地下とは違い、外は清々しい空気だ。
そういえば今は何時なんだろうか。
時計を見る。まだまだ時間があった。

836 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/18(水) 20:31:22.86 ID:opodJk1U0 [4/21]
梓(・・・。それじゃ、行きますですか・・・)

私はカメラを懐に忍ばせ、車に乗った。
山を降り、街中へ。

梓(あれでいいかな・・・)

途中、電話ボックスを見つけ、車を止めると私は中に入り100円玉を入れ電話を掛けた。
どこに電話を掛けたかって?
それは組織が最も憎んでいる、政府の―――

『はい、もしもし。情報提供ですか?』

梓「はいです。その・・・地下に隠れてる大きな反政府組織について、知りたくないですか?」

『・・・少々お待ちください』

『・・・お待たせしました。お名前は?』

梓「中野梓です」

『中野梓さん。“首相”が直接お話を伺いたいそうです。今すぐ“政府”までいらしてください』

梓「わかりましたです」

『お待ちしてます』

そっと、受話器を置いた。
もう後戻りはできない。
私は“政府”へ向け、車を走らせた・・・。

837 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/18(水) 20:38:08.30 ID:opodJk1U0 [5/21]




・・・・・・・・。




「中野梓さんですか?お待ちしておりました」

車を降り、門の前まで歩くとそこにスーツを着た女性がいた。
私は軽く頭を下げた。

「では、こちらへ」

ムギ先輩の屋敷とは比べ物にならないくらい大きな建物。
女性に案内され、私は“政府”の中へ。

豪華な装飾。広く明るい廊下。
そして銃を持った警備兵。
・・・緊張で嫌な汗が背中を伝う。

「すいません、ボディーチェックを」

女性は服の上から、私の体をぺたぺたと触りボディーチェックを始めた。
もちろん武器などは車の中に置いてきてある。

「・・・ご協力ありがとうございます。では、中へ」

842 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/18(水) 20:46:34.25 ID:opodJk1U0 [6/21]
両脇に警備兵がいる、豪華なドア。
このドアの向こうに“首相”がいるという。

梓「失礼しますです」

私は深く頭を下げ、中に入った。
これまた豪華な部屋。大きな机。
そして―――

首相「キミの話には大変興味がある」

貫禄たっぷりの、初老の男性。
この人が、政府のトップ・・・。

首相「それで。詳しく話を聞かせてくれないか」

梓「は、はいです!ええと―――」

私は知っていることを、全て話した。
組織の存在。目的。
琴吹グループの関連。
武器の製造。
現在やっていることなどなど。

首相「ふむ。それは本当の話かね?」

梓「もちろんです。証拠として基地の写真を撮ってきたです」

私は首相に、あの使い捨てカメラを渡した。

844 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/18(水) 20:52:28.91 ID:opodJk1U0 [7/21]
首相「ほう。それは面白い。 ―――警備兵。これを現像してきてくれたまえ」

警備兵はカメラを受け取り、部屋を出て行った。
・・・あの写真を見れば、首相も多分納得してくれることだろう。

首相「そういえばキミは豚だそうだが」

梓「!」

首相「何故豚が一人で自由に出歩けるのか。それはまぁ今回は目を瞑るとして」

梓(ホッ・・・)

首相「情報が本物なら、特別にキミを人間に戻してあげようじゃないか」

梓「あ、ありがとう・・・ございますです」

・・・はっきり言って、もう人間だの豚だのはどうでもよかった。
ただ、唯先輩とムギ先輩の仲を壊せればそれでよかった。

もちろんこれが裏切りだとよくわかっている。
最低な裏切りだ。
でもだから何だと言うのだ。
二人の仲さえ裂ければ、どうでもいいじゃないか。

「失礼します。現像が完了しました」

首相「ふむ。ご苦労。どれどれ・・・」

梓「・・・。」

846 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/18(水) 20:58:57.96 ID:opodJk1U0 [8/21]
首相「・・・成る程。どうやら私はキミの話を信じなければいけないようだ」

梓「・・・ありがとうございますです」

首相「では、早速兵を向かわせよう。腫れ物は早めに除去しなければな」

梓「なら、3日後がいいと思うです。3日後に組織の人間が全員、そこの本拠地に集まるです」

首相「そうか。なら“掃除”は3日後にしよう。情報提供感謝する、中野梓君」

梓「・・・はいです」

首相「おめでとう。今日からキミは人間だ。それから1週間後には政府の一員にもしてあげよう」

梓「・・・とても嬉しいです。ありがとうございますです」

・・・そして私は“政府”を去った。
もう全てが決まってしまった。
3日後、確実に組織は壊滅する。
政府は反乱分子に容赦はしない。
恐らく養豚場送りにすらされず、その場で皆殺しだろう。
さすがの唯先輩も助からない。
・・・当然、ムギ先輩も。

いや、いいんだ。
手に入らないなら、壊してしまった方がいい。
全てが終わったら、私は政府の一員になり―――優雅な生活が待っている。
私は笑った。
大声で笑った。

847 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/18(水) 21:04:47.35 ID:opodJk1U0 [9/21]




・・・・・・・・。




3日後。
私はムギちゃんと一緒に、基地に来ていました。
今日は大切な会議があるそうです。あずにゃんが伝えてくれました。

・・・そういえば今日はあずにゃんの姿が見えません。
一体どこに行ったのでしょう。
連絡しても繋がらないし。

和「それじゃ唯、これ運んで」

唯「うん。わかったよ」

ちなみに私たちは今、武器庫にいます。
午後から始まる会議で、軽く武器の説明などをするそうです。

紬「あ・・・私も運ぶわ」

唯「ううん。平気だよー。それより懐中電灯で足元を照らしてくれると嬉しいな」

紬「う、うん」

852 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/18(水) 21:12:32.32 ID:opodJk1U0 [10/21]
・・・もう作戦も大詰め。
会議が終わったらもう1週間もしないうちに、政府に攻め込むそうです。
私が組織に入ってから・・・短いようで、長かった毎日。
それももうすぐ終わりです。
全てが終われば、平穏な毎日が待っているはずです。

・・・しかし、ここで予想外の事態が起こるのでした。

ドン、ズズン。

何かの爆発音と微かな揺れ。
そして叫び声。

和「な・・・何?」

いつも冷静な和ちゃんが、額から汗を流して固まっています。
・・・妙な胸騒ぎ。
何か大変なことが起きてるような、嫌な予感。

そして次の瞬間。
沈黙を破ったのは―――憂でした。

憂「お、お姉ちゃん―――逃げてぇッ!」

唯「う、憂・・・!?」

息を切らしながら、武器庫へ入ってくる憂。
しかも腕から血が出ていて―――

853 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/18(水) 21:19:49.28 ID:opodJk1U0 [11/21]
ドンッ!バラララッ!
そして響く銃声。爆発音。

憂「政府が・・・政府の兵が・・・基地内に・・・!」

和「え・・・ば、ばかな・・・!」

紬「そんな・・・ありえないわ・・・」

二人とも固まって、目に涙を浮かべていました。
私はとりあえず、ハンカチを取り出し怪我をした憂の腕に巻きつけます。

和「い、一体どうすれば・・・!」

頭を抱えて座り込む和ちゃん。
彼女のこんな姿、初めて見ました。

・・・一方で私は、何故か冷静でした。
政府が攻めてきた。もう基地内で暴れまわっている。

なら私のするべきことは何か。
―――もちろん、ムギちゃんを守るっ!

和「あっ・・・唯・・・」

私は銃を掴み、弾薬をポケットに突っ込みます。
ここでぼーっとしてる余裕はありません。

859 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/18(水) 21:29:19.78 ID:opodJk1U0 [12/21]
唯「和ちゃん。何してるの?」

私は和ちゃんにも、銃を渡しました。

唯「敵が目の前にいるんだよ?仕返しするチャンスだよ」

私はニコッ、と笑いました。
そして和ちゃんに手を差し伸べます。

和「・・・そうね。唯の言う通り。こんなところで怖気付くなんて、私らしくないわね」

和ちゃんは私の手を掴み、そして立ち上がりました。

憂「お姉ちゃん、私にも銃を」

唯「うん。でも腕は大丈夫?」

憂「こんなの平気だよ。誰かを失う痛みに比べたらね!」

唯「・・・誰か?」

と次の瞬間。
大勢の足音がこちらに近付いてくるのがわかりました。恐らく、政府の兵です。

「こっちだ!皆殺しにしろッ!」

「一人も逃がすなッ!」

唯「・・・来たみたいだね」


860 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/18(水) 21:37:27.11 ID:opodJk1U0 [13/21]
和「唯。よく聞いて。ここは私に任せて、憂と琴吹さんを連れて―――」

憂「待ってください。私もここに残ります」

和「・・・え?」

憂「和さんがリロードしてる間、誰が援護射撃をするんですか?」

和「憂・・・。わかったわ。唯、脱出口はどこにあるか、わかるわね?さぁ行って」

唯「う、うん・・・わかったよ!」

憂「お姉ちゃん。最後だから言うね。私、お姉ちゃんのことをずっと前から―――」

「話し声がするぞ!」

「こっちか!?」

憂「―――ううん。やっぱり何でもない。さぁ、早く行って!」

ダン!ダダダッ!

「うおッ!?」

「攻撃を受けたぞ!相手は銃で武装しているッ!」

隠れながら、銃を撃ち始める和ちゃんと憂。
私はムギちゃんの手を掴みました。

862 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/18(水) 21:44:57.83 ID:opodJk1U0 [14/21]
唯「行こう、ムギちゃん」

紬「うんっ!」

和「唯、それに琴吹さん・・・あなた達に会えて本当に良かったわ!後は全部任せたわよ!」

憂「お姉ちゃん―――私たちのこと、忘れないでね!」

私は走り出しました。
もちろんムギちゃんを連れて。

私は皆の期待と意思を全部引き受けました。
恐らくもう、和ちゃんと憂には会えないでしょう。
でも私はもう後ろを振り返りませんでした。

唯「ムギちゃん、大丈夫!?」

紬「ええ。急ぎましょう!」

私たちは出口へ通じる、隠し通路を通っていました。
走りに走って、もうすぐ出口。
重い鉄の扉を開け、向こうは明るい外の世界で―――

ドンッ。

私が外に出た途端。
1発の銃声。そしてお腹に貫かれるような痛み。
あ、あれ・・・?

紬「ッ!? ゆ、唯ちゃんッ!?」

866 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/18(水) 21:53:18.31 ID:opodJk1U0 [15/21]
唯「あ・・・かはっ・・・」

どさり、と私はその場に倒れました。
あれ・・・お腹から血が出てる・・・?
私・・・もしかして・・・撃たれた・・・?

梓「・・・ふう。惜しかったですね、唯先輩」

あ、あれ・・・あずにゃん・・・?
なんであずにゃんが・・・?
その手に持ってるのは・・・銃・・・?

紬「唯ちゃん・・・唯ちゃん・・・!」

ムギちゃん・・・泣かないで・・・
大丈夫・・・私は・・・ムギちゃんを守り切るまで死なな・・・―――――




・・・・・・・・。




唯先輩は口から一筋の血を流すと、そのまま目を閉じ動かなくなってしまった。
二人がこの秘密の出口を使うのは想定の範囲内だった。
や、やった・・・!
私が殺した・・・!唯先輩をこの手で・・・!

870 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/18(水) 22:01:11.74 ID:opodJk1U0 [16/21]
紬「唯ちゃん、起きて・・・唯ちゃん・・・!」

必死で唯先輩の肩を揺するムギ先輩。
なんて滑稽なんだろう。
なんて愉快なんだろう。

梓「あは、あはは・・・あはははッ!ざまぁみろです!あはははッ!」

紬「どうして・・・どうして・・・ぐすっ、ひぐっ・・・」

梓「ムギ先輩。いいこと教えてやるです。政府にここを教えたのは他でもない、私なんですよ」

紬「・・・!」

梓「どうですか?悔しいですか?あはははッ!私を振ったムギ先輩が全部悪いんですよぉッ!」

私は笑った。大声で笑った。腹が痛くなるまで笑った。
ムギ先輩はそんな私を睨んでいた。

梓「ところで。そろそろ兵が来ると思いますが―――どうですか?今からでも私の女にならないですか?」

紬「・・・。」

梓「私、政府の仲間入りしたです。私のモノになれば、安全で優雅な生活が送れるですよ?」

881 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/18(水) 22:12:56.21 ID:opodJk1U0 [17/21]
紬「・・・いいお誘いだと思うわ。でもね―――」

するとムギ先輩は、死んだ唯先輩の懐から拳銃を抜き取った。
あれれ?まさか、それで私を撃つ気ですかぁ?

紬「―――残念だけど、お断りするわ」

ダンッ。

しかし違った。
ムギ先輩はその拳銃を口に咥えると、そのまま引き金を引いてしまった。
そう。ムギ先輩は―――自殺した。
私のモノにはならず、唯先輩と一緒にあの世に行くのを選んだのだ。

・・・最後の最後で、結局またフラれてしまった。

私は静かにその場を去った。




・・・・・・・・。





885 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/18(水) 22:19:10.21 ID:opodJk1U0 [18/21]
梓「・・・というわけで、反政府組織掃討作戦は終了したです」

首相「そうか。いやはや、ご苦労様」

梓「では、これで失礼するです」

首相「いや。ちょっと待ちたまえ」

梓「・・・なんですか?」

首相「キミも、少しの間とはいえこの反政府組織のメンバーだったんだろう?」

梓「―――え」

首相「反乱分子には容赦しない。それが我々政府の方針だ」

梓「・・・!?」

首相「残念だが―――キミは養豚場送りだ」

梓「え・・・あ・・・じょ、冗談で―――」

首相「冗談ではない ・・・連れて行け」

「さぁ、来い」

梓「え・・・やだ・・・いやです・・・そんな・・・いやぁああぁあぁッ!」

首相「・・・トンカツにでもするといい」

888 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/18(水) 22:24:46.22 ID:opodJk1U0 [19/21]

「はっ。了解しました」

バタン。

首相「ふぅ・・・。」

正直、疲れた。
はっきり言う。私だって、こんな狂った法案には大反対だ。
しかし、この法案は世界が決めたことなのだ。
今では全世界がこの法案を施行している。
今さら、この国だけ「この法案やめました」なんて言えないのだ。
もし言ってしまえば、この国が“養豚場の豚”になってしまう。
それだけは絶対に避けなければいけない。
故にこの法案に反対の人間も、許してはいけない。
全てはこの国ためなのだ・・・。







889 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/18(水) 22:29:13.96 ID:opodJk1U0 [20/21]






職員「ほら。餌だぞ。なんとトンカツだ」

律「おおっ。美味そうだ!」

澪「わあ・・・トンカツ・・・」

律「もぐもぐ・・・うん、美味しいぞっ、澪」

澪「もぐもぐ・・・おいしい・・・」



おしまい

890 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/18(水) 22:30:10.08 ID:opodJk1U0 [21/21]
以上です。
>>1さん、保守してくれた方、そして今まで読んでくれた方に大感謝!

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まさかのBAD END w

続きかせた意味があるのか

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