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キョン「お前、誰だ?」

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/14(土) 00:28:12.53 ID:SJz0BgE60 [1/9]
「チェックメイトだ」

俺は最後の一手を指して言った。

「いやはや、参りました」

目の前のスカした笑顔を浮かべた男が言う。
そういえば……

「お前、誰だ?」

「は?」

その男は少し眉をしかめて言った。

「僕は古泉と言います。そういう貴方こそ、誰ですか?」

質問に質問で返すやつはテストで……いや、そんな場合ではない。
ここは、どこだ?

まわりを見ると、俺と笑顔男……古泉、といったか、
その他に三人の人物がいた。

髪の長い、胸の大きな可愛らしい女の子(何故かメイド服だ)と、
これまた美少女と言っていい顔立ちをした女の子だ。
二人は何かを言い争っている。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/14(土) 00:34:17.52 ID:SJz0BgE60
「あんた誰? ここどこよ!?」

「わ、わたしにも分かりません! 貴女こそ誰なんですかぁ!?」

やれやれ。
向こうもこちらと似たような状況か。

最後の一人……窓際で本を読んでいたらしい、
これまた可愛いショートカットの女の子に話しかけてみる。

「なあ。俺の事、知ってるか?」

「……」

首を横に振る。
知らないって事か。
まあ、俺もこの子の事は知らないんだからお互い様だが。

「あっちの二人と笑顔の男は?」

また首を横に振る。
どうにもならんな。

とにかく、俺たちは自分の家に帰ることにした。
何せ、下校時刻がもうすぐだからな。

互いに知らない者同士、五人同時におかしな部屋に居ただけの奇妙な事態。

気まずい雰囲気の中、俺たちは別れた。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/14(土) 00:39:39.79 ID:SJz0BgE60
自分の家に帰る途中も、さっきの不思議な出来事で頭がいっぱいだった。

……と。

俺の目の前に、いつの間にかあの部屋に居たショートカットの女の子が立っていた。

「……何か用か?」

俺は何かしら恐怖めいたものを感じ、無意識に半歩下がっていた。

「貴方の記憶。今日の出来事。話したい事がある。着いて来て」

そういうとこの女の子は、俺の返事も待たずに歩き始めた。
こんなクソ怪しいお誘いに、誰がついていくか。

そう思っていたはずの俺の足は、彼女の行くほうに向かっていた。

ほいほいついていって、掘られるのは勘弁だ。
しかし、相手は女の子。
あんまり好意的でもないようだが、もしかして……という邪心も少しはあったかもしれない。

俺は、彼女の言った『貴方の記憶。今日の出来事』というキーワードに誘われついて行った事にする。

下心は、少しだけ。


着いたのは、大きなマンションの一室だった。

うひょっ、いきなりお部屋ですか? 見かけによらず行動的な子だな、おい。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/14(土) 00:48:03.61 ID:SJz0BgE60
俺の淡い夢は、脆くも崩れ去った。

部屋には、先客がいたからだ。

あの、古泉とかいうスカした笑顔の男。
今もその笑みを浮かべてやがる。
こいつ、一人きりでも笑ってんじゃねえか?

そしてもう一人は、メイド服を着ていた胸の大きな美少女だった。
こちらは、困惑した表情を浮かべている。

「なあ、あんた。俺たちを集めてどうする気なんだ?」

俺はショートカットの女の子に話しかける。

「その前に、自己紹介をすべき。貴方達は現在、互いを知らない状態」

それはもっともな話だ。
とりあえず、当たり障りの無いように自己紹介をする。

スカし笑顔の男は、古泉一樹。

胸の大きな美少女は、朝比奈みくる。
彼女は、上級生だそうだ。朝比奈さん、と呼ぶべきか。

ショートカットの女の子は、長門有希、と名乗った。

ちなみに、何故か俺の事はキョンというあだ名で呼ぶべき、と長門さんが仰った。
俺が本名だと、都合の悪いことでもあるのか?

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/14(土) 00:59:27.82 ID:SJz0BgE60
さて。

長門さんが説明した事を簡単に述べるとしよう。
というのも、俺も彼女が話した内容を全て理解できたかどうか自信が無いし、
そもそも意味の分からない単語も多く出てきたので、そのままだと居眠りしてしまいそうだからだ。

俺たちは、SOS団という、クラブとは言えないサークルみたいなものの集まりで、
皆、互いに知り合いだったと言う。

まあ、それを聞けば、何故に俺があんな部屋で古泉とか言う奴とチェスをやってたのかは説明がつく。

ちなみにSOS団とは『大いに世界を盛り上げる涼宮ハルヒの団』の略らしい。
団活内容は、不思議探し。

もうね。アホかと。
高校生にもなって、何をしているのかと。

まあ、それはまだ良しとして。
何故、その団長である涼宮ハルヒ(あの、朝比奈さんに食ってかかっていた美少女だ)がここにいないかというと。

涼宮ハルヒは願望実現能力とやらを持った、神様のような存在らしい。

ああ、笑わないでくれ。
俺の理解力が足らないのか、長門さんの説明が悪いのか、ともかくそういうことで、
涼宮ハルヒをこの場に呼ぶのはまずいらしい。

その理由が馬鹿げているが、現状が『涼宮ハルヒが望んだ』事だからだそうだ。
余計な刺激を与えたくない、とは長門さんの弁だ。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/14(土) 01:11:27.10 ID:SJz0BgE60
更にビックリさせられたのは、
古泉は超能力者で、機関という組織に所属しているという事。

そして可愛らしい先輩の朝比奈さんは、なんと未来人でこの時代の人間では無いらしい事。

勿論、当の二人も初耳だったらしく、目を点にしている。

長門さん自身に至っては、いわゆる宇宙人であり、
古泉と朝比奈さんとは立場は違いながらも涼宮ハルヒを観察対象にしている広い意味での仲間であり、時には敵でもあると言う事。

長門さんには悪いが、中二病をこじらすとこんな風になるんだな、と俺は悲しく思った。

「ところで、俺は何か無いのか? 宇宙人とか未来人、超能力者が集まっているんだから」

「貴方は特に何も無い。普通の人間。安心して」

うん、そうだな!
例え与太話でも、自分だけ何も無いと言われると、何だか悔しいもんだ。

「あの。長門さんは何故、その記憶があるのですか?」

古泉が言う。そうだ、そんな神様みたいな奴が望んで記憶を消したのなら、
言っちゃ悪いが長門さんも忘れているはずだろ?

「私は、思念体に創られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース」
「思念体から記憶のバックアップを受け取り、現状を把握している」

筋は通ってるな、うん。
こうやって、黒歴史は形作られていくんだなあ。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/08/14(土) 01:24:55.53 ID:SJz0BgE60
「僕が超能力者、ですか……」

「わたしが未来人……?」

二人は考え込んでいる。
記憶が無いのだから無意味だろうに。
あ、長門さんの創った設定と言う可能性も高いのか。

「それよりも、ですね」

古泉が聞く。

「何故、その涼宮ハルヒという方は、SOS団の人間の記憶を消したりしたのでしょうか?」

「あっ、確かにそうですね」

「俺もそこが不思議でたまらん。というか、確かそいつ自身も忘れてた感じだったぞ?」

SOS団団室(?)での光景を思い出して言う。

「……彼女は、SOS団の絆を確かめたかったらしい」
「例え、記憶が無くとも、自分について来てくれるかを、試したかった……私はそう解釈している」

「なんて無茶苦茶な。自分の記憶も無くしてまでか?」

「そう。彼女の力は、無意識下で発揮され、彼女自身も気がついていない」

「とすると僕たちはどうすれば良いのでしょう? このまま記憶が無いままというのも落ち着きませんし」

おいおい。信じるのかよ、この話を?

15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 01:41:31.09 ID:SJz0BgE60
長門さんが言う。

「簡単な事。全員が記憶を取り戻せば、この事態は収束する」

「やはりそこですか。しかし、記憶を取り戻すと簡単に言いますが、どうやって思い出します?」

「な、長門さんは宇宙人なんですよね? 宇宙のパワーでわたしたちの記憶も復活させたりできないんですか?」

朝比奈さん、何だか必死だな……。
しかし、長門さんの答えは無情だった。

「涼宮ハルヒの力で忘れている以上、私の情報操作でもそれは無理」
「というより、既に試みたが、失敗している」

俺は何だか嫌な感じがして、長門さんに問いかける

「じゃ、じゃあ。どういう方法で記憶を取り戻すんだ?」

「ショック療法。貴方達がSOS団に関係した精神的・肉体的苦痛を味わえば思い出す確立が高い」

……うん。俺、思い出さなくていいや。何だか色々と辛そうな気がする。
そろりそろりと帰ろうとした俺の足が動かなくなる。Why? どういう事?

「逃げるのはダメ。……貴方の足は、私の情報操作で止めた」

はは……。
長門さんがトンデモ能力の持ち主だって事は、よく分かった。
この足、まるで動かないもんな。
はぁ……。


16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 01:48:37.12 ID:SJz0BgE60
「記憶を取り戻す方法は私が指示をする」
「焦らず、じっくり、丁寧に。一人づつ行いたい」
「まずは……朝比奈みくる」

「は、はいっ!」

朝比奈さんが跳ねるように返事をする。

「貴方は、SOS団で日常的に性的虐待を受けていた」
「よって、この場でそれを再現する」

「ちょっと待ってください長門さん? それは幾らなんでも!」

古泉が叫ぶ。確かに、性的虐待なんて嬉しい事、もとい酷い事は許されない。

「……私の言う事が信じられないならば、構わない」
「一生、記憶を失ったままで暮らすのもよいのかもしれない」

……そんな、悲しそうに言わなくても。

「あ、あの! わたし、大丈夫ですから!」

「正気ですか、朝比奈さん!」

「……今の状態が、何となくしっくりこないんです。思い出せるんなら、わたしは」

長門さんが手をわきわきさせる。

「その覚悟、確かに受け取った」


18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 02:00:27.56 ID:SJz0BgE60
長門さんが朝比奈さんの胸を揉みしだく。
目を逸らしても、朝比奈さんの黄色い声が嫌でも耳に入ってくる。

「な、長門さんっ! そんなに触ると……あぁん!」

「……まだ、思い出さない? 私では再現しきれないかもしれないの?」
「そう、古泉一樹と貴方。手伝って」

手伝うって……その、それをですか長門さん?

「流石にそれはまずいのではないかと」

カッコつけやがって。スカし笑顔男め。
お前も参加したくてたまらないんだろ?
俺だってそうだ。しかし、あえて俺もこう言う。

「朝比奈さんの許可が無い限り、それはできない。長門さんよ」

「……朝比奈みくる。どう? このままだと記憶は戻らない」

「……わ、分かりました。キ、キョン君、古泉君、お願いしますっ」

おい、古泉! 許可が出たぞ、おい!
俺は指の運動を済ませ、わきわきさせた。

一方、古泉は、何故か柔軟体操をしていた。
お前はどんな事をするつもりだ。


25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 03:23:57.64 ID:SJz0BgE60
「じゃ、朝比奈さん……やりますよ?」

「はい……」

顔を真っ赤に染めた朝比奈さんの胸を鷲掴みにする。

……柔らかい。

俺は、そのまま本能が導くままに、その二つのボリュームある乳房を揉み続けた。

古泉はといえば、下半身を逆立ちさせた、奇妙でそれでいてアクロバテックな体勢で、朝比奈さんのスカートの中に頭を突っ込んでいた。

「ふがふが! ふが! ふんが!」

何を言ってるのか分かりゃしないが、どうせ『この閉鎖空間は最高や!』とでも言ってるのだろう。
ん? 閉鎖空間?

多分、長門さんの説明にあった単語だろう。
俺はとにかく、目の前の二つの乳房に専念することにした。

あ、黒子だ。
星型の黒子。

朝比奈さんは胸まで真っ赤にしながら耐えている。
ブラジャーの紐が片方外れかけている。
燃えてきた!

「あっ、あっ! 思い出しましたっ!」

……何ですと?


28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 03:36:22.08 ID:SJz0BgE60
長門さんに離れるように言われ、俺と古泉は渋々朝比奈さんから距離を置く。

「……思い出した?」

「……はい。わたしは未来から涼宮さんを監視する為にやってきた、未来人です」

本当に思い出したのか? あんなセクハラで?

長門さんが何かを呟く。

「朝比奈みくるの、記憶の復活を確認」

朝比奈さんは、ボロボロと泣きながら乱れた衣服を整え始めた。

「……でも、キョン君たちにここまでされるなんて……酷いです、長門さん」

「面目ない。私では涼宮ハルヒのような手馴れた性的虐待は再現できなかった」

「性的虐待とは、また違う気がするんですけど……?」

「問題は無い。結果として記憶は戻ったのだから」
「次は……古泉一樹」

「おや、僕ですか?」

「そう。……貴方は毎日のように命の危険に晒されていた」
「それを今から再現する」

長門さんがどこからか取り出したのは、金属バットやバール、鉄パイプなど、とても殴ることに向いてそうな物品ばかりだった。


29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 03:47:53.79 ID:SJz0BgE60
古泉の笑顔が引きつる。

「長門さん。この剣呑な道具は一体?」

「貴方の日常の再現をする」
「毎日、命がけで生傷の絶えなかった……その日常を」

朝比奈さんが、金属バットを手に取り、涙混じりに言う。

「……古泉君にも、思い出してもらわないと」

何か怖い。
俺が古泉の立場じゃなくて本当に良かった。
鉄パイプ(先が斜めに切断されている)を手に取り、俺も古泉に詰め寄る。

「ちょっ……冗談ですよね?」

「冗談ではない。今から貴方に肉体的苦痛を、嫌と言うほど与える」
「命を失う事は気にしなくても良い。私が回復させる」

「……そう言われましてもっ!」

朝比奈さんの振るった金属バットが古泉の頭に景気よく当たった。
それを皮切りに、俺は鉄パイプを突き刺し、長門さんはバールで容赦なく殴りつける。

これはやばいかな? と思ったら、長門さんが何か呟くと、あら不思議。
古泉の怪我が完全に治っていた。

俺たちは安心して古泉を滅多打ちにした。


32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 03:57:25.41 ID:SJz0BgE60
まるでヤムチャのようになった古泉に、更に追い討ちをかけようとする。
その時。

「まっ……で……くだ……ざ……い……」

古泉の声が聞こえた気がした。

「……気のせい。もう一、ニ撃は喰らわせるべき」

「いや、長門さんよ。こいつ、確かに何か言ってるぜ?」

俺は古泉の、血に塗れた顔に耳を寄せた。

「おぼい……だじまじた……ぼぐば……ぎがん、の……ちょうのう……りょくしゃ、でず」

「長門さん。こいつは思い出したようだ」

何故か長門さんが舌打ちをしたように見えたが、それは気のせいだろう。
すぐに古泉は、最初の健康体へと治された。

「……閉鎖空間での神人との戦闘でも、あんな傷は負いませんでしたよ?」

「そう」

とにかく、これで二人の記憶が戻った訳だな。
残るは……俺、一人なんだが。

「大丈夫。貴方のは、痛くない」


33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 04:05:22.92 ID:SJz0BgE60
「実は、貴方と私は恋人だった」

「えっ、それ本当か?」

「本当。よって、いちゃいちゃしていれば自然に記憶は戻るはず」

マジですか? 長門さん、結構可愛いんですけど。
いちゃいちゃって、どこらへんまでなんだろう……。

俺が乏しい性的知識を総動員している時に、他の二人が叫んだ。

「異議有り! そのような事実は存在しませんでした!」

「そうです! 長門さんは、自分の欲求を満たしたいだけです!」

えーと。

「……ちっ」

今、完全に舌打ちしたよな、長門さん。
恋人ってのが違うなら、俺はどうしたらいいんだ?

「キョン君は、いつも奢らされていました」

「ですね。これから食事に行き、その会計を全て持ってもらいましょう」

……何、そのバツゲーム?
本当にそんなので記憶とやらは戻るのか?

「長門さんが本気を出せば必ず戻ると僕は確信しています」


34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 04:14:08.89 ID:SJz0BgE60
俺たちSOS団が、いつも利用していたという喫茶店に着いた。
この時間帯に、開いているのかと思ったが問題はなさそうだった。

「情報操作で開店業務を続けさせている」

長門さんがぼそりと呟く。
怖いな、情報操作。

そこからは地獄だった。
ただでさえ、喫茶店等の価格設定は高額だと言うのに、俺以外の全員が無茶苦茶な注文を取りやがった。

それでも、古泉と朝比奈さんはまだまともな範囲だった。

しかし。

長門さんは、メニュー全てを注文。
それらを食べ終わる頃になると、更にもう一回全てを注文。

頭の中で計算すると、財布の中身+銀行の貯金残高と、支払いがピタリと一致した。

「……追加注文、しても?」

長門さん、いや、長門が催促する。

俺は全てを思い出し、土下座して注文するのを止めてくれるように頼んだ。
ATMから全額引き下ろし、財布の中身ともおさらばした俺は、代わりにSOS団の記憶を取り戻したのだった。

SOS団なんか消えてしまえばいいのに。


36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 06:18:10.95 ID:SJz0BgE60
ともかく、俺・古泉・朝比奈さんはSOS団の記憶を取り戻した。
あとは……。

「なあ、長門。この流れでいくと、次はハルヒって事になるのか?」

「そう」

「しかし、僕たちの事を忘れてしまっている涼宮さんにどう接するかが問題ですね」

「わたし、怖いですよ……」

長門は、自信に溢れた顔つきで言った。

「涼宮ハルヒには、ありとあらゆる事を試してみる」
「ちょっとくらい失敗しても、私が何とかする」
「貴方達が、何か思いついたら、それを即実行してほしい」

長門にしてはアグレッシブだな。
しかし、今日はもう遅いぞ?

「分かっている。明日、授業が終わったら、涼宮ハルヒを団室に誘い込む」
「そして、SOS団を思い出させる」
「……どんな手段を使ってでも」

何、この長門怖い。
そう思いながら、俺は家に帰った。

翌日の、あの地獄を知らない最後の一夜を過ごしたのだった。


37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 06:24:40.74 ID:SJz0BgE60
―――

朝。

長い長い坂道を歩きつつ、今日の目的を思い出す。

ハルヒの記憶を戻す。

えらく難しそうだが、長門は自信有りげだったような気がする。
肩を叩かれる。

「キョン君、おはようございます」

「おはようございます、朝比奈さん」

朝にエンジェルと出会えるとは幸先が良い。
多分、上手く行くだろう。

また肩を叩かれる。

「ぬっふ、おはようございます」

「……おっす」

お腹痛い。帰りたくなってきた。
朝比奈さんと古泉が、今日の事で話をしている。

声をかけてきた谷口を蹴り飛ばしたら、車に撥ねられた。
どん臭い奴だ。


39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 06:37:40.95 ID:SJz0BgE60
教室に入る。

ハルヒと俺の席は、離れていた。
この分じゃ、やっぱり昨日と同じく、俺の事も忘れてるんだろうな。
そう思うと、少し悲しくなる。

昼休み、国木田にそれとなくハルヒやSOS団の事を話してみたが、こいつも忘れているようだ。
代わりに谷口が事故で入院したとかいうどうでもいい事を知らされた。即効忘れる。

さて、放課後にどうやってハルヒを団室まで連れて行こうか。

メールで長門に連絡を入れてみる。

返信は『策はある。任せて』だった。

少なくとも、団室に連れ込むまでは俺が悩む事はなさそうだ。

安心して、午後の授業を眠る。
背中をシャーペンで刺されない、安定した眠り。

チャイムの音がして起きると、ホームルームが終わるところだった。

ハルヒが席を立ち、教室の出口へと足早に歩く。

そこには、古泉が立っていた。

腹に一撃。

それだけで、ハルヒは動かなくなった。


41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 06:44:39.44 ID:SJz0BgE60
団室まで古泉と共にハルヒを運ぶ。

長門と朝比奈さんは既に到着済みで、椅子と鎖を用意していた。

ハルヒを座らせ、鎖で身動きを取れないようにする。

長門の呟きで、ハルヒが目を覚ました。

「な、なによっ! あんたたち、昨日の……?」
「この鎖、外しなさいっ! どういうつもりなの!?」

うるさい。
と、思った矢先、朝比奈さんがハルヒに平手打ちを喰らわせた。

「黙っててください涼宮さん」

ハルヒの頬に手形が残る。
と同時に怒りの色も現れる。

古泉が、拳骨をハルヒの目の前に近づける。

「その、可愛らしい顔が滅茶苦茶にされたくなかったら、大人しくしていてくれませんか?」

いつもの笑顔で言ったそのセリフは、効いたようだった。

ハルヒの顔色は、青ざめていた。

さて、ここからが本番だ。


42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 06:53:50.56 ID:SJz0BgE60
俺たちはハルヒの記憶を、SOS団を思い出させる為に色々することにした。
まずはハルヒを中心に円陣を組み『SOS団・SOS団』と呻きながらぐるぐる回った。

効果、無し。

次に、ハルヒの自己紹介の時のセリフ。
『東中出身、涼宮ハルヒ。ただの人間には興味ありません』
『この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上』
を、全員で連呼してみた。

効果、無し。
というかハルヒが泣き出した。
こいつが泣くとはな……。

しかし、俺たちも切羽詰っている。
やれるだけの事はしなければならない。

ハルヒの顔を舐めたり、とりあえず殴ってみたり、蹴ってみたり、窓から落としてみたり。

しかし、記憶が戻る気配すら無かった。

古泉が言う。

「どうやら、閉鎖空間が発生したようです」

全く、厄介事ばかり起こす奴だ。
長門が言った。

「それ。使えるかもしれない」


43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 07:02:33.54 ID:SJz0BgE60
長門の作戦はこうだ。
現実のハルヒに何をやっても記憶が戻らないのであれば、
より無意識に近い閉鎖空間の中で刺激を与えれば、或いは……。

既に作戦が尽きた以上、俺たちに選択の余地は無かった。
ハルヒを縛り付けたまま団長机の下に隠し、古泉が感知した閉鎖空間へと向かう。

いつもの、灰色の世界。
今日は、より澱んで見えるのは気のせいだろうか?

結構近くに、神人が歩いている。
建物を破壊しながら、何かを探すようにして、近づいてくるようだ。

よく見ると、神人の顔がハルヒに似ている事に気がつく。
どうやら、こいつが鍵のようだ。

ここが正念場だ。

俺たちは、神人……否、巨大ハルヒに自己アピールをする事にした。
これで思い出せてくれれば。

まず、朝比奈さんが行った。

「涼宮さん、お茶はいかがですか?」

お茶を差し出すと同時に、朝比奈さんは踏まれた。


44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 07:09:09.92 ID:SJz0BgE60
次は古泉だ。

赤玉になって、巨大ハルヒの顔の前で気取ったポーズをとる。

「次回の不思議探索はどんな趣向が宜しいでしょうか?」

蝿を叩く様に、古泉は巨大ハルヒの右手で弾き飛ばされ、建物に突っ込んだ。


次は、長門。

「大丈夫か? もう、後がないぞ」

そう言うと、長門は誇らしげにこう言った。

「心配無い。任せて」

長門は、ふらふらと巨大ハルヒの前に歩いていき、ハードカバーの本を読み始めた。

巨大ハルヒが壊した建物の瓦礫に、長門は埋まった。


ちくしょう!
俺にお鉢が回ってきちまった!
どうする? どうすれば、ハルヒにSOS団を思い出させる事ができる?

決まってる。あれしかないだろう。


45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 07:19:12.92 ID:SJz0BgE60
俺は、巨大ハルヒの前に立ちふさがり、叫んだ。

「ハルヒ! 俺を忘れたか!」

巨大ハルヒは、まわりを破壊しながら、近づいてくる。

「ハルヒ! 中学の七夕の夜、学校で出会った人物は誰だ!」

巨大ハルヒの、動きが止まる。

「思い出せ! 俺を! 世界を大いに盛り上げるためのジョン・スミスを!」
「俺がいたから、お前はSOS団を創ったんだろう! 忘れてんじゃねえよ!」

俺は切り札を――俺ことキョンが、ジョン・スミスだとまでは言わなかったが――切った。

これでダメなら、お終いだ。
潰されて死ぬだろう。

巨大ハルヒが、呻いた。

『ジョ……ン?』

探し物が見つかったかのように、巨大ハルヒは微笑み、そして弾けて消えた。
閉鎖空間も解除されていく。

ほんとに、ちょっとしたスペクタクルだぜ、古泉。

……生きてるよな?


46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 07:26:24.48 ID:SJz0BgE60
気がつくと、そこには無傷の長門が立っていた。

「……聞いてたか?」

「瓦礫に埋もれてて、気を失っていた。……貴方は、上手くやったようで何より」

「まあ、な」

ボロボロの古泉が、足を引きずってやってくる。

「どうやら、上手くいったようですね」

……お前、長門に治してもらえ。

俺たちは、早速、学校に戻ってハルヒに会うことにした。
ちゃんと思い出しているか、確かめなくちゃな。

古泉がタクシーを拾って、北高まで飛ばしてもらう。


「な、内臓がはみ出て……」
「助けてぇ……キョン君……長門さん……古泉君……」
「と、時が、見えるる……」

……朝比奈さんを回収して、北高に向かった。
内臓がピンク色で、少しドキドキしたのは内緒だ。

47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/14(土) 07:37:12.17 ID:SJz0BgE60
―――

団室に着くと、ハルヒが団長机に座っていた。

「みんな、遅い! 団長を待たせるなんて百億万年早いわよ!」

鎖とか、窓から落とした時の怪我とか無くなってるが、多分ハルヒの力が働いたんだろう。

「ねえみんな! あたし思うんだけど……SOS団は、永遠よね?」

忘れさせた本人が言うか?

しかし。

多分その通りなんだろう。
例え、俺たちがバラバラの道を歩んだとしても。
この団室での思い出だけは、永遠だ。

朝比奈さんがお茶を淹れる。内臓がはみ出てますよ?

長門が本を読む。それ、電話帳だぞ?

古泉とボードゲームを遊ぶ。俺が勝ちそうだな、賭け金の一万、ちゃんと寄こせよ?

ハルヒがネットサーフィンをしている。パソコンの電源が入ってないぞ?

「チェックメイトだ。……それにしても」
「お前、誰だ?」

 【完】


48 :南部十四朗 ◆pTqMLhEhmY :2010/08/14(土) 07:37:54.87 ID:SJz0BgE60
 こんなに長くかかったのは初めてです。
 完徹になるとは……それに思ってたよりダメでした。
 土曜で良かった。おやすみなさい。


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