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in my memory

632 名前:in my memory 0/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:02:24.69 ID:kgmoZYwo [1/40]
 また少し(?)借りさせて頂きます。
 六スレ目、in my memory -past-の続きです。

 一応注意書き。
 ・本作品は本編と明らかなる矛盾点を含んでいます。(インデックス関係)
 そんなわけで、以下本文です。

 見ていない方は↓

ttp://asagikk.blog.2nt.com/blog-entry-1614.html

633 名前:in my memory 1/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:02:58.97 ID:kgmoZYwo [2/40]
 スキルアウト。
 普通の人がそう聞けば、きっとバッドや鉄パイプを持った不良を思い浮かべるだろうがそれは違う。
 大義的には、学園都市の能力者の半分以上を占める無能力者がたむろっていればそれはもうスキルアウトとして扱われる。
 恐らく、上条当麻、土御門元春、青髪ピアスが三人でバカ騒ぎして歩いていても同類と思われるだろう。
 だがしかし、ここにいる彼らはそんな大義的なスキルアウトと同じではない。
 弱いものに襲いかかり、時には能力者にすら牙を剥ける正しく不良のスキルアウト。

「でさ、それで前歯折れてやがんの」

「マジでかよーやんなぁお前」

 少しばかり喧嘩慣れしている人にケンカ通りを尋ねると、行かない方がいいと言われる。
 それは彼らのような人々がいるためで、よほどの高能力でないと危険だからだ。

「それじゃー、次は俺の武勇伝をだな」

「まぁまてよ、お前が語っちまったら俺のなんて屁にしか思えねぇだろうが」

「レベル3ですら不意打ちでヤる奴が何いってんだよ」

 そう言って彼らは醜く笑いあう。
 一般人にしてみれば恐怖の対称でしかないわけだが、生憎とここには彼らと、その同類しかいない。
 此処に来るのは、偶然迷い込んだ人か、或いは。

「ねぇ、そこの。すこし、いい?」

「……あぁ?誰だテメェ」

「俺達が誰だかわかって話しかけてんのか?」

「……よく見れば上玉じゃねぇか。なんだ、わざわざ俺達に、」

「跪け」

 次の瞬間、彼らは何かされたわけでもないのに、地面に頭をぶつけていた。
 何が起こったのかわからない。起き上がろうとしても起き上がれない。
 正体不明の攻撃に打ち震える彼らに、彼女の足音が迫る。

 そう。
 此処に来るのは、偶然迷い込んだ人か、或いは彼女のような。

「さて、それじゃあ今日で準備を終わらせましょうか」

 何かしらの目的を持った人物だけだ。

634 名前:in my memory 2/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:03:40.09 ID:kgmoZYwo [3/40]
「だぁぁぁああああっ!不幸だ――っ!!」

 とある高校に、世にも不幸な高校生の悲鳴が響き渡る。
 その原因は至って解明。弁当箱の中身がひっくり返ってしまっているからだ。
 どうしてそのような事態になったのかというと、それも簡単だ。
 いつものお馬鹿デルタフォースがやらかした、というだけの話。
 デルタフォースといっても、上条は何ら関与してないところで、とばっちり、もとい流れ弾をうけただけなのだが。

「……すまん、カミやん。マジですまん」

「なにか分ける……っていっても、俺らはもう食っちまったしにゃー……」

 重大な要因である土御門と青髪ピアスは土下座し、なにか打開策を捻ろうとするが一向に出てこない。
 上条の腹に入った弁当は、およそ三分の一。思春期の男子にはとても足りない量だ。
 今から食堂や購買に行ったところで、もう何も残ってはいないだろう。

「うぅ……こうなったら、この落ちたのを拾って食べるしか……」

「やめなさい貴様ッ!!」

 上条が落ちた弁当を手にとった瞬間、後頭部に強烈な一撃が飛んできた。
 ぐほっ、と勢いで溢れた弁当に顔を突っ込みそうになるが、ギリギリで耐える。
 その一撃を入れたのは、委員長には目がない(別に委員長をしている男子が好きというわけではない)吹寄制理だった。
 ぴしっ、と指を突きつけて弾圧的に言う。

「床に落ちたものを食べるはやめなさい、上条当麻!」

「そんなこといったって吹寄センセ、だったらわたくし上条当麻は一体何を食べればいいんでせう!?少ししか食べてないでお腹ペコペコなのです!!」

「そんな貴様にはこれをやるわ」

 ガサッ、と彼女は手に持っていた鞄からなにかをとりだし、上条に投げつけた。
 上条は反射的に受け取り、袋に書いてある文字を読み上げる。

「えっと、何々……『口にするだけで脳の節々が活性化して演算が飛躍的スムーズになるパン』……ってなんじゃこりゃ!?しかも見るからに身体に悪そうな緑色!?」

「つべこべ言わずにさっさと食べなさい!お腹空いてるんでしょう!?」

 吹寄はそういうが、上条は必死に首を横に振る。


635 名前:in my memory 3/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:04:18.73 ID:kgmoZYwo [4/40]
「嫌だね!こんなもん食ったら絶対身体に変化起きるだろーが!」

「なっ!?貴様、私が持ってるパンにケチつけるつも」

「待って」

 上条と吹寄の間で口喧嘩が発生しそうになった瞬間、間に一人の女子生徒が割り込んだ。
 この教室では、デルタフォース、吹寄制理、そして小萌先生を除くとそれなりに行動力のある生徒は一人しか残らない。
 即ち、姫神秋沙。
 彼女は吹寄に背を向けて、上条と同じ視線に合わせる。
 そして、一つの箱――お弁当箱をとりだした。

「上条くん。私のお弁当とそのパン。交換してもらえる?」

「え、構わないというか寧ろ願ったりだけど……いいのか?」

「構わない。それよりも。私もお弁当もう半分食べたけど。それでもいい?」

「全然大丈夫だ姫神、いや姫神様!すげぇ助かった!!」

「……それほどでも。ない」

 答えるが、彼女の顔は少しばかり赤く染まっている。
 そして、吹寄の見ている前で緑色の怪しいパンと姫神の残りの弁当が交換された。
 そこでようやく吹寄も我に返ったのか、上条ではなく姫神にいう。

「ひ、姫神さん!それは私が上条当麻にあげたものだから、わざわざ交換しなくても」

「上条くんも。パンよりはご飯を食べたいはずだから。」

 ぐぅ、と吹寄としては何よりも緑色の毒々しいパンを上条に食べさせたかったらしく、歯噛みした。
 対して姫神は少し誇らしそうにそのパンを開けて口に含んでいた。味はなんともないらしく、普通に食べている。
 そんな様子を見て、周りの生徒からは色々な憶測が舞い交わされる。

「もしかして、対カミジョー属性を持っている吹寄がパンをあげた理由って……?」

「姫神さんはそれを見抜いて自分の弁当をあげた……?」

「邪魔するのと同時に、自分の弁当を食べてもらってポイントアップ……!?」

「あー!それなら私がやればよかった!」

「いや、アンタ弁当だけとコンビニでしょ。そもそも、上条くん競争率高すぎだし……」

 ざわ……ざわ……とさんざめく教室内。
 そんな中、幸せそうに姫神の弁当を食べる上条当麻。
 今日も教室はいつもどおりだった。

636 名前:in my memory 4/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:05:03.32 ID:kgmoZYwo [5/40]
 時は巡って放課後。
 上条は姫神に『今度なにかおごるから』と言い(教室内の生徒は『まさかここまで見越して!?』とどよめいた)、帰る用意をしていた。
 そんな中、上条に土御門と青髪ピアスが近づく。

「カミやーん、ゲーセンいこうぜい」

「今日弁当こぼしてもうたし、少しぐらいならおごるでー」

「あー、すまん。今日は冷蔵庫に何もないから、スーパーいかなきゃいけないんだ」

 えー、と二人の文句がユニゾンした。

「ま、しゃーないな。とりあえず、途中まで一緒やしはよ行こうや」

「おう」

 上条は答えると残った荷物を素早く纏めて鞄を背負う。
 別れの挨拶をしてくるクラスメイト達に同じくそれを返しながら、彼らは学校を出る。


「そーいえば、二人とも知ってるかにゃー」

 道すがら、土御門がそう切り出す。
 上条と青髪ピアスは当然のごとく何が?と聞き返す。

「最近、ケンカ通りで女の子が無双してるらしいんだぜい」

 ケンカ通り、というのは専ら彼らのような多少ケンカなれしている人達の間の通称。
 スキルアウトが多く、喧嘩が耐えないことからそう呼ばれている。
 しかし、彼らはその喧嘩通りに女の子がいるなどとはあまり聞いたことはない。

「そないな女の子って、きっと風紀委員のムキムキ女子生徒違うん?」

 だから青髪ピアスがそう聞き返すが、土御門はその微笑を崩さないまま首を振った。

「いやいや、噂ではそうでもなさそうなんだぜい。見るからにお嬢様然としてる女の子らしいにゃー……けど、誰も彼女を覚えている人はいない、という都市伝説」

637 名前:in my memory 5/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:05:44.07 ID:kgmoZYwo [6/40]
「都市伝説かいな。……いや、しかしまぁ……都市伝説でも妖怪でも、可愛い子ならどんとこいって感じやね!!」

「そういう系の奴ってまず遭遇したら死なないか!?」

「ふっふっふ、甘いねカミやん。メリーさんだろうが口裂け女だろうがなんだろうが、ボクぁ可愛ければなんでも万事オーケーなんやで!」

「にゃー、カミやん。青ピには何を行っても無駄な気がするにゃー」

「いや、義妹に手を出してるお前に言われたくはないと思うんだが……」

「手を出してるっていっても、それは同意の上だぜい!!それに、俺は別に邪じゃなくて可愛い物を愛でる気持ちでだな!!」

「はいはい、結局つっちーは義妹でロリければなんでもええんやろ?」

「あったりまえだにゃー!!ロリこそが全て、ロリこそが正義!!エライ人にはそれが分からないんだぜい!!」

「おいちょっとお前表出ろ」

「おい青ピ、口調口調」

 自分から振っておいて、その通りの答えが返ってきて逆ギレする青髪ピアス。そんな彼らを上条が宥める。
 そんなこんなで学校の中となんらかわらない会話を繰り広げていると、何時の間にやら分かれ道までたどり着いていた。
 予定通りにスーパーとゲームセンターへと分かれるべく、別れの挨拶を交わす。
 そしてそのまま、互いに振り返ることなく目的地へと向かうはこびになった。

「今日は何するんだぜい?」

「んー、闘魂でええんやない?」

「そうだにゃー」

 上条と別れ、彼らもゲームセンターで何をするか、という話題に落ち着く。
 ちなみに闘魂というのは学園都市の外のゲームで、この古さがいい、と一部の生徒には有名なゲームだ。かくいう彼らもその一員である。
 じゃーとっとといくかー、という雰囲気になった直後。
 それは、突如訪れた。

「―――――――?」

 土御門と青髪ピアスは突然背後からかけられた声に振り返る。
 そこには、

638 名前:in my memory 6/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:06:18.58 ID:kgmoZYwo [7/40]
 上条当麻は機嫌が良かった。
 その理由は、手にぶら下がった多量の食材から伺える。

「ふー、大漁大漁……今日は特に不幸もなし、インデックスに噛まれる心配もないな……っと、油断してるとすぐに貴重なタンパク源をおとしてしまう、慎重に帰らないと……」

 幸福があれば不幸もある。そんな苦労が身についている上条には余裕という言葉が辞書にはない。
 その袋を慎重ながらも素早く持ち帰る。具体的には手を固定したまま早歩きの状態。
 傍から見ればこれほど間抜けに見える歩き方もないだろうが上条にとっては死活問題なのだ。

「……しっかし、喉乾いた……飲み物買っておけばよかったな……」

 他の死活問題がある生徒や先生達とのタイムセールの奪い合い。それは一種の戦争だ。喉が乾くのも無理はない。
 上条はしばし考え、常盤台の少女とよく遭遇する自販機へと足を向かわせる。
 勿論彼はケリを入れてジュースを出したりすることはしない。彼がやったところで、警報装置が起動するのがオチだと思うからだ。
 以前に二千円札を飲まれたこともあるが、小銭なら大丈夫だろうと彼は思う。

「まぁ、この時間なら御坂もいないだろうし」

 そう考えた上条の予想通り、いつもつきまとってくるビリビリ中学生はいなかった。
 荷物をベンチに置いて小銭を投入し、適当なものを選んでボタンを押す。
 すると、仕組み通りにその飲み物が出てきた。
 上条的にはそれだけで感動できる。
 何も不幸がおきないで、普通に飲み物を買うことができるなんて。

「おぉ……今日の昼間は不幸だと思ってたけど、ちゃんと食材も買えたし、飲み物も出てきたし……今日はなんとなく幸せだな」

 言いながら、プルタブを開けて、一口。
 幸福な状態での飲み物は、また格別な気がした。

「さってと、じゃインデックスも待ってることですし、とっとと帰りましょうかねー」

 と、上条はそこで気付く。
 音が消えていることに。

639 名前:in my memory 7/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:06:50.06 ID:kgmoZYwo [8/40]
 否、音はある。
 自販機の販売中を示す音、風に揺れる葉、飛行船からの声。
 しかし。
 そこに、人の話し声や車のエンジン音などといった、独特の音が聞こえてこなかった。
 それはいつか見たことのある光景。
 『今の上条当麻』が初めて『魔術師』と対峙した、正しくその情景――――!

「!」

 突如、ザッ、と靴と地面の擦れる音がした。
 それも、一つや二つではない。
 三つ、四つ、五つ六つ七つ八つ、九十十一十二十三十四十五十六――――――――
 爆発的に、そして四方八方から。
 その足音は上条を取り囲む。

「……っ、なんだお前ら……」

 上条は一目見てわかった。
 彼らは魔術師じゃない。学園都市の能力者だ、と。
 それも、仲間同士にも見えない。
 ピアスや髪を染めている見るからに不良や、制服をちゃんと着込んでいる中学生高校生、一回り大きい大学生に、白衣を纏った研究者。
 一貫性が見られない。上条はそう思った。
 だが、それでも一つだけ同一な点がある。それは、皆が皆、目が虚ろだということだ。
 しかし、上条のそんな感想などどうでもいいというように、彼らは一斉に上条へと迫る。

「っうぉ!?」

 ブンッ!と横薙ぎに振られた拳を反射的に下がって回避する。
 次に上条は一歩踏み出し、素早く足払い。
 迫ってきていた不良の男は力なく崩れた。

640 名前:in my memory 8/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:07:17.46 ID:kgmoZYwo [9/40]
「え?」

 それをやった上条自身も驚く。
 あまりにも簡単に、例えるならそこらの草や葉を相手にしているようだったから。
 だが、それにほうけている暇はない。
 最初の男が倒れたのを皮切れに、次々と男女の分け目はなく彼に襲いかかってくるからだ。

「っと!?」

 上条は続いて振るわれた女生徒の拳を交わし、反撃するかどうか逡巡し。
 踵を返して逃げ出した。
 上条当麻の喧嘩の実力は、一対一なら余裕、一対二ならかろうじて、一対三なら迷わず逃げる。
 確かに相手は弱く、押した程度でも倒れそうな相手だが流石に多勢に無勢、分が悪い。
 それになによりも、考える時間が必要だった。

(何がどうなってやがるんだ!?)

 背に幾つもの足音を聞きながら、上条は戸惑ことしか出来ない。


 何が起きているのか未だにわからない、というのが今の現状だった。
 とりあえず町中……かどうかは分からないが、自分の知る世界がおかしな事になっているのは理解できる。

(新手の魔術師か……?)

 こんな大規模な事件を起こす相手といえば、まず魔術師。
 インデックス当たりに聞かれたら『それは偏見かも!』とか言われそうだな、と苦笑し、

「インデ……そうか、インデックス!?」

 思わず大声を上げてしまう。
 あっ、と口を塞いだ時にはもう遅い。
 突如として風の刃が車の陰に隠れている上条へと襲いかかった。

641 名前:in my memory 9/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:07:54.82 ID:kgmoZYwo [10/40]
「くそっ!」

 車が破壊され、その切り口からどこから来たか判断。
 その『幻想殺し』を振るい、それを破壊したと確認し、一目散に逃げ出す。
 自販機の当たりからここにくるまでにわかったことは二つ。
 一つは第七学区全体でこの現象――自分という存在をあらゆる人間が狙う現象がおきている、ということ。
 二つ目は自販機付近とは異なり、街中の人間は自分の能力、或いは武器を駆使して攻撃してくるということ。
 付近の路地裏に逃げ込み、ポケットの携帯電話を取り出して番号を打つ。
 通話ボタンを襲うとした瞬間、ふと思う。
 『もし、インデックスも俺を狙うようになっていたら?』、と。
 そんなことを考え、上条は首を横に降った。

「……迷ってる暇は、ねぇか」

 通話ボタンを押し、それを耳に当てる。
 ぷるるるる、という機械的で一定な音が十回ほど繰り返された次の瞬間に、ガチャンとそれはとられた。

『ひゃ、ひゃいこちらかみじょーです!』

「遅い!」

 言って、安堵する。
 どうやらインデックスはこの正体不明の攻撃に巻き込まれてはいないようだ。それに、まだ攫われてもいない、ということは今回の狙いはインデックスではなく自分か、とも推測する。
 そんな上条の様子はいざしらず、インデックスは電話に向かって投げかける。

『その声はとうま!?私もうおなかすいたんだよ!それとも、またこもえのところに避難したほうがいいの!?』

「待て、インデックス!今は出るな!街中の雰囲気がおかしんだ!!」

 その言葉で上条の異変にも気が付いたのか、インデックスの声にも真剣味が帯びる。

『……どういうこと?魔術師に追われているの?』

 上条は逃げながら手早く、自分の置かれている状況と知る限りの情報を教える。
 だから何かこれを突破する心当たりがあれば教えてくれ、と。

『……死んだ人を操ることのできる術式はあるけど、生きた人を、それもそんな大規模なものになると私の中にある原典レベルだし……とうま、私も外に、』

「駄目だ!敵の数が多すぎる!お前を守りきれる自信がない!」

 それは、上条当麻にしては弱気な言葉だっただろう。
 しかしながら事実そのとおりだ。
 上条ですら、自分の身を守ることで精一杯だというのに、どうして他の人の身も守ることができようか。

642 名前:in my memory 10/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:08:29.26 ID:kgmoZYwo [11/40]
 インデックスは少しだけ黙って、渋々といった様子でわかった、という。
 自分も、彼の力になりたい。何の力にもなれないなんて嫌だ。
 なぜならば、自分は彼に返しても返し切れないだけの恩があるのだから。
 けれど、自分が戦場に赴くことで彼の負担となるのならば――おとなしく、じっとしていよう。
 そう、彼女は考えた。
 しかし、最後に一つだけ、彼には言わなければならないことがある。
 いつもの何も言わずにどこかへ行き、そしていつの間にか何かを解決してくる彼へいわなければならないことが。

「……ちゃんと、帰ってきてね」

『……勿論。わかってる』

 そう言って、上条から電話が切られた。
 インデックスはツー、ツーと機械音を残す受話器をおく。
 それは、とても寂しげな姿で。
 主の変化に気が付いたスフィンクスは彼女の足元に鳴きながら擦り寄ってきた。

「ふふ、ありがとうスフィンクス」

 そんな従順な猫をインデックスは抱き上げる。
 スフィンクスは暴れも何もせずにただ彼女に抱かれた。

「……天に召します我らの神よ。どうか、とうまが無事に帰ってきますよう……」

 少女は願う。少年の無事を。
 彼には『幻想殺し』という神様の奇跡を打ち消してしまう右手がある。
 だから、仮にその神に願いが届いたとしても、彼には何の効果も見られないだろう。
 だとしても、彼女は願う。
 誰よりも、何よりも大事な人だから。
 少女は願う。少年の無事を。


 ――ただ、自分に迫る危機にも全く、これっぽっちも気づきすらしないで。

643 名前:in my memory 11/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:08:56.57 ID:kgmoZYwo [12/40]
「……整理しよう」

 上条は深呼吸して、そう呟く。
 携帯電話のGPS機能を呼び起こし、辿ってきた道を表示させる。
 彼が今いるのは地下駐車場。車を使う人も操られているためか、全くと言っていいほどに人気はない。

「ここは一撃で倒れる程度だった。ここらの奴らが能力を使ってきて、ここは普通に路地裏の喧嘩レベルだ」

 上条は地図と実際の様子を照らし合わせて何かしらの法則を見つけ出そうとする。
 上条が行く先々、それぞれ人の反応は違った。
 彼が今呟いたとおり、場所によって難易度が分かれている。
 そして決定的な情報を、彼は握っている。

「……『幻想殺し』で触れたら、正気に戻った……」

 即ち、それは何らかの能力だということ。
 魔術師か、或いは超能力者か。インデックスが知らないとなれば超能力者の可能性が高いと睨んでいる。
 そして、能力的な法則からいくと、基本的に能力者を中心点とするならば、その中心点から離れれば離れるほど力は弱くなる。
 つまりそれは、操られている(だろう)人が強い方向にそれを操る張本人がいるということで。

「ここが中心か」

 トン、と一つの場所を指で押す。
 それは、彼らの間ではケンカ通りと呼ばれている場所。
 スキルアウト達が入り乱れる、無法地帯。
 
「こんなところに……?」

 上条は疑問に思う。
 なんでわざわざこんな危険な場所に陣取るのか、と。
 いやしかし、よく良く考えてみると人を操ることのできる能力を持つのだから問題はない。

「……そういえば、土御門が言ってたっけ……都市伝説で誰も見たことのない女子生徒がケンカ通りにいるって」

 適当に思い出し、頷く。
 おそらくはその女子生徒が犯人なのだろうと当たりをつけた。
 上条は携帯を閉じて、立ち上がる。

「……よし、いくか」

 自分がご指名ならば、こちらから出向いてやろう。
 上条当麻はその右手をきつく握りしめて駆け出す。

644 名前:in my memory 12/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:09:30.80 ID:kgmoZYwo [13/40]
 少女は階段を歩く。
 あえてエレベーターは使わない。なぜなら、こちらの方が自分の歩いてきた道のりを実感できるから。

「……随分と、長い道のりだったなぁ」

 ふとその場所から下を眺め、思う。
 今は二、三階付近、下に見える景色はそう遠くない。
 しかし、彼女には見えている。
 今まで辿ってきた、その道が。

「……もうすぐ、もうすぐだよ」

 たん、たん、たん。
 それをきいている人がいれば、きっと何をそんな上機嫌だ、と思うほどの軽やかさ。
 だが、それを聞いている人はいない。
 彼女が全て、ここから払ったから。
 不意に、少女の顔に笑みが浮かんだ。
 それは今までただ一人の例外を除いて、誰も見たことがない年相当、いやそれ以下の笑顔。

「全部思い出したら、どんな顔するかな?どんなに喜んでくれるかな?」

 少女は自分が善だと信じて疑わない。
 当然だ。別れの寸前に約束をしたのだから。誓いを交わしたのだから。

 自分は『絶対、完璧に救いだす』と告げ。
 彼女は『待ってる』と期待を込めていってくれたのだから。

 少女は階段を歩く。
 今まで歩いてきた道を辿るかのように。

「もうすぐ、もうすぐだよ」

 少女は繰り返す。
 それが楽しみで仕方が無いというように。

645 名前:in my memory 13/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:10:08.91 ID:kgmoZYwo [14/40]
「――うらっ!」

 ゴキン!と不良の顔面に上条の右手が突き刺さる。
 そのまま力が抜けるように地面に伏した彼を乗り越え、上条は駆ける。
 だが、一歩踏み出す前に土の槍が飛んでくる。

「っと!」

 裏拳で弾き飛ばし、次の攻撃が来る前に、ひと一人通るのが精一杯の細い路地裏へと逃げこむ。
 ひと一人しか通れないということは、逆に言えば一つしか攻撃が来ないということ。
 相手は上条のみを狙ってくるが、味方同士を傷つけることはないからだ。
 しかし、それにしてもやはり手数が多い。上条がいくら右手で触ればいいとはいっても、遠距離の攻撃を撃ち落としつつというのは限度がある。

「敵の数をどうにかしないことには、辿り着けない……!」

 だが、思いつかない。
 相手が移動するのはインプットされているように一定の場所を数人で巡回する時、あとは上条を見つけた時。
 この二つ以外で敵の数を減らすには、やはり右手を使うしかない。

「くそっ、もう目の前まで来てるってのに………………?」

『――――――――――――!!』

 叫び声が聞こえたと思ったら、ドゴン!と轟音が響く。
 上条は追いかけてくる女子生徒に右手で触れ、倒れた隙をついてダッシュする。
 この道は一本道、そして先程の音は抜けた先、大通りから聞こえてきた。
 徐々に大きくなる音と、そして微かにしか聞こえなかった声がようやく耳に入ってくる。

「ああもう、しつこいっての!どっから沸いてくんのよこの数は!?」

 ビリビリビリ――――!と周りから飛んでくる能力や駆け寄る無能力者達を無双する、その姿。
 上条当麻には、見覚えがある。いや、寧ろ一度見たら忘れられないだろう。
 常盤台中学が誇る、第三位の電撃姫。

「御坂!?」

646 名前:in my memory 14/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:10:34.41 ID:kgmoZYwo [15/40]
 上条が名前を叫ぶと同時に、美琴はグルン!と首を上条の方へとすごい形相で向ける。
 が、彼を視認すると表情を一変させて慌てて言い繕う。

「あ、あああアンタ!?い、いやこれは別に無差別に襲ってるわけじゃないって言うか相手から襲いかかってきたから反撃してきたって言うか、」

 言いながらもバリバリ――と周りの人々に電撃を撒き散らす。
 上条はその反応を見て、なぜだかわからないが美琴は操られていない、と判断する。
 急いで駆け寄って、右手ではなく左手で彼女の手を掴み、

「御坂!協力してくれ!お前の力が必要なんだ!!」

「え、えぇ、ええぇえええ!?」

 美琴は上条の言葉に混乱する。
 こんなわけのわからない状況で、いきなり手を握られて、そして手助け要請。
 寧ろこれで事態を冷静に把握できて、混乱しない方がおかしい。

「頼む!お前だけが頼りなんだ!」

 鬼気迫る表情で上条は美琴に頭を下げる。
 混乱と相まって、それだけで美琴の頭はオーバーヒート寸前に追い込まれる。

(え、えぇ!?こいつが頼みごと!?それも私だけが頼り!?私、私だけ、私だけ――――――ッ!?)

「うぉあっ!?」

 ブンッ!と上条は掴んでいた腕ごと美琴の後ろに弾き飛ばされ、その衝撃で尻餅を付いた。
 逆鱗に触れましたか――!?と思って美琴を見ると予想外に美琴は顔に薄ら影を落としている。

「うふ、ふふふ、私だけ、私だけが、私だけが頼り……ふふ、ふふふふふふ」

(なんだか怖い感じになってますけど――――!?)

 上条は周りの様子も忘れ、美琴の変化に恐れ慄く。
 だが周りは彼らのことは忘れてくれないようで、上条を追ってきた奴らも元からここにいた人々も一斉に襲いかかってくる。
 普通に考えれば、上条も美琴も、この人の壁に押しつぶされてゲームオーバだろう。

 しかし。
 『超電磁砲』の異名は、その常識を軽々と打ち破る。

647 名前:in my memory 15/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:11:12.54 ID:kgmoZYwo [16/40]
「だっしゃぁぁぁあああああああああああああああああああっっっ!!!」

 お嬢様とは思えない激声を発して、襲いかかってきた人々は放たれた電撃と、その余波で短くて数メートル、長くて十メートルは吹き飛ばされた。
 上条は目を丸くして、声もでない。
 これは本当に今まで簡単にあしらってきた、御坂美琴なのか?と。
 静かになった大通りで、彼女は静かに問い正す。

「……アンタ」

「はっはい!?なんでしょうか御坂サマ!?」

 必要以上に緊張した上条に、美琴は何か吹っ切れたようで、いつもは見せない優しい笑みで問いかける。

「アンタが向かおうとしていたところ、案内してくれない?」


「どらぁあぁああああああああああああっ!!」

 天下無双、一騎当千。
 そう例えるのが正しいに違いない。
 上条当麻はケンカ通りへの道を告げながら、こいつ生まれてくる時代を間違えたんじゃないか?と何度も思わざるを得なかった。

「さぁさぁさぁ、この美琴センセーに立てつくのはどこのどいつだぁああああああああっっ!!」

 同時に轟くのは、字の如く轟音。
 第三位の序列は伊達じゃない、上条が手を下すまでもなく、辺りの低能力者たちは吹き飛んでいく。

(……もしかして、このままボスまで倒しちゃうんじゃないか?)

 上条がそう思った刹那。
 美琴が突如立ち止まった。

「…………………」

「……御坂?どうしたんだ?」

 上条の問いかけに美琴は一言、短く答える。
 ただ、『いる』とだけ。

648 名前:in my memory 16/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:11:50.74 ID:kgmoZYwo [17/40]
 瞬間。
 同一の制服――美琴が着ているのと同じ制服を纏った女子生徒達が、一斉に襲いかかってきた。
 風、水、土、火、或いは見えない攻撃。
 そのどれもが美琴には感じ取れるが、量が多すぎる。

「チッ!!」

 バチン!と八方に電撃の結界を張り、それに触れた瞬間、電気を外側に迸らせて撃墜する。
 しかし、攻撃には転じれない。
 それは同じ常盤台の生徒だから、ではない。
 同じ常盤台の生徒だからこそ、だ。
 いくら天下の『超電磁砲』とはいっても、高レベル者の集団には防戦一方しかない。

(――ってか、ウチの生徒まで操られてるとかどういう事よ……!?)

 美琴は疑問を抱くが、答えは帰ってくるはずがない。
 防戦一方の彼女を見かねたのか、それとも自分の出番がようやく来たと思ったのか、上条は美琴の横に並んだ。

「御坂!俺も加勢する!」

 正直言って、嫌だった。
 なんというか、一緒に戦ってくれるのは嬉しいのだけれども、操りを解くことでこいつに惚れる生徒が増えるんじゃないか、とか一瞬脳裏をよぎった。
 だから美琴は上条の言葉にこう返す。

「アンタは先行きなさい!この程度なら私は大丈夫だから、よくわかんない黒幕をぶっ潰してきなさい!!」

 言ってから思う。そういえば、自分はこの事件の真相を知らないなー、と。
 確かに聞いていない自分も悪いのだが、それくらい言ってくれたって……と複雑に思っていると、上条は少し周りを見渡した後、無言で頷いて能力の嵐の中へと駆けていった。
 それをフォローしながら、フツフツと今更ながら怒りが沸いてくる。
 結局、自分は話の外らしい。

「………………………………。」

 バリィ!!と一際大きな雷が美琴のすぐ横に落ちる。
 それは、美琴自身が呼んだ雷。
 意識のない、操られているはずの生徒も、その迫力に一歩退いたように思えた。

「……あー、もう、やってらんないっつーの」

 ボリボリと頭をかきつつ、美琴はぼやき、そして周りの生徒へと言葉を向ける。

「覚悟できてんでしょうね、アンタたち」

 防戦一方だったはずが、集団を蹂躙する反撃が始まった。

649 名前:in my memory 17/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:12:26.73 ID:kgmoZYwo [18/40]
 ケンカ通り――――
 いつもはスキルアウトが四、五人はいるはずのそこに、今日は人気が全くなかった。
 それも当然だ。理由は言うまでもないだろう。

「………………」

 上条はそんな中を力強く踏みしめながら歩く。
 たん、たんといった単調な足音だけが閑静な、夕日が僅かに差し込む路地裏に通る。

「……早く済ませて、インデックスを安心させてやらねぇと……」

 インデックス。
 正式名称はIndex-Librorum-Prohibitorum。通称禁書目録。
 上条当麻は彼女がどうして自分のことを好いていて、一緒に暮らしているのかは知らない。
 なぜならば、その記憶がないからだ。
 その理由も知らない。いや、人伝には聞いている。ステイル、神裂の言葉を聞いた冥土帰しから。
 それを聞いたならば、インデックスがどうして自分を好きになってくれているのかは理解できる。
 それでも、それは自分ではない上条当麻の話だ。
 今の上条当麻のことではない。
 昔の、自分のことだ。

「それでも、やらなきゃいけねぇんだ」

 自分の知らない自分はインデックスがいなくなることを恐れていて。
 インデックスを悲しませるということを絶対にしてはいけないと願っている。
 だから自分は嘘をつき続ける。いつその嘘がバレないかと怯えながらも。

 上条はどうして今それを考えたのだろうと不思議に思った。
 しかし、どこか無意識でこのことを再確認することが重要だと思えたのだ。
 この目の前に積み重なる、ドラム缶の上に座る、一人の人間を相手にする前に。
 上条は見上げ、目を細めた。夕日が目に入ってうまくその相手を確認することができないためだ。
 風が小さく吹くと同時、その人物は手で自分を押し出して、一気に上条の前へと飛び降りた。

「な……」

 それを見た上条は目を疑う。
 高い場所から飛び降りて、怪我が何もなかったから、ではない。
 その人物が、自分の予想していた女子生徒から、あまりにも遠くはなれていた人物だったから。

「……やー、意外に早かったなぁカミやん」

 青髪ピアス。
 そこにいたのは、その人だった。

650 名前:in my memory 18/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:13:02.52 ID:kgmoZYwo [19/40]
 上条は動揺する。
 どうして青髪ピアスがこんなところにいて、ボスを気取っているのか。

「……なんでお前が……」

「別におかしいことではないんやで?」

 青髪ピアスは両手を広げる。
 大仰に、演技掛けて。

「ほら、まず都市伝説。無双してる少女ーなんてなんでわかるんやろ。実際に目撃証言はないのに」

「それは、そもそもそんな少女はいなかったから。情報操作って恐ろしいもんやね。外見の証言を操作してまえば、簡単に騙されてくれるん」

 くっく、と青髪ピアスは笑う。
 とても愉快そうに。
 上条はその言葉を聞いても、まだ信じたくないのか、言葉を突きつける。

「っ……で、でもお前……俺達の高校は普通の学校だぞ!?今起きてるのは、レベル5でも起こせるかどうかっていうレベルの事件だ!お前にできねぇだろ!?」

「つっちーだって、そもそもカミやんだって普通の無能力者じゃないんやで?ボクも特別でもおかしくないやん」

 青髪ピアスは一歩、上条へと足を踏み出す。
 上条はそれに押されるように、一歩引いた。

「だっ、だったら、どうして今更……!?俺達入学してからずっと一緒だったじゃねぇか……!」

 そうだ。
 高校になってから、クラスが一緒になって、馬鹿騒ぎをはじめて。
 今まで音沙汰がなかったのはおかしい。上条はそう言っているのだ。

「はぁー、カミやんって結構阿呆やね。能力応用の分野なら落第ちゃうか?」

 それに対して、彼は呆れたように言い、

「何も、その記憶が真実だなんて限らないんやで?」

651 名前:in my memory 19/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:13:43.11 ID:kgmoZYwo [20/40]
 は、と上条の喉から乾いた息が漏れた。
 その記憶が、真実とは限らない。
 青髪ピアスから発せられたその言葉が、酷く自分の心に絡みついたから。

「ほら、街中見ればわかると思うけど、ボクの能力は心理操作や」

「記憶を弄ることなんて簡単なんよ。それこそ、姿を変えたりして昔からそこにいたかのようにすることなんて」

「そもそも、カミやんがここまで辿り着いた道のりも全部『作り物』って言われても、カミやん自身否定はできないんやで?」

 もう上条に、彼を否定する言葉は残されては居なかった。
 上条は呆然と、立ち尽くす。
 当たり前ともいえよう。
 今まで本物だと思っていた自分の記憶が、いつの間にか書き換えられていたのだから。
 青髪ピアスはとても愉快そうに目を細める。

「……理由は、まぁカミやんの能力や。ボクの能力が効かない奴ぁ、よほど『自分だけの現実』が強いやつぐらいしかいないからなぁ」

「稀有な能力……遠距離からは無理やったけど、直接頭に触れれば……まぁなんとかなるやろ。優秀な手駒としてつかったるで?」

 ざっ、と砂埃が小さく舞った。
 僅かに放心状態になっていた上条は目を見開き、倒すべき相手を見据える。

「っ……させるかよ…………!」

 上条は拳を握りしめて、素人なりのファイティングポーズをとった。しかし、それは心もとない、焼けつき刃のようにも見えた。
 それをみて、青髪ピアスは唇の端を吊り上げて嘲笑する。

「それはどないかいな。カミやんに勝利することなんて、そないな簡単なことボクに出来ないわけ」

「あるんだにゃーそれが」

 そんな呑気な声がしたと同時。
 ドラム缶の影から現れたそれは、青髪ピアスの頭上に鉄パイプが振り下ろした。

652 名前:in my memory 20/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:14:17.34 ID:kgmoZYwo [21/40]
 無論、為す術も無く青髪ピアスは膝から崩れ落ちる。先程までの凄みなど、まるで無いように消えていた。
 上条はそんな様子に驚き、そして現れたその姿に安堵する。
 今丁度倒れた彼と共にゲームセンターに行くと言っていた少年。

「土御門!」

 名を呼ばれた少年、土御門元春はいつもの猫顔を浮かべたまま笑いかけた。

「……カミやん。よくここまで辿り着いたにゃー……正直不可能だと思ってたぜい」

 土御門は上条を賞賛する。
 確かに、素人ならあの包囲網を抜けてここに来るのは普通不可能だと思うだろう。
 彼は自らがプロのスパイ故に、それがわかる。

「……お前は、操られてないのか……?」

「あー、土御門さんみたいな重要な機密を持ったスパイは、脳に幾つかの仕掛けしてあるんだぜい?そのせいで身体はボロボロだけどにゃー……」

 言った側から、土御門の姿勢が揺らいだ。
 上条は倒れそうになる土御門を支えようと慌てて駆け寄る。

「っ、大丈夫か!?……仕掛けってことは、魔術か……?」

「そうだにゃー……仕掛けるのは問題ないんだが、発動に自分の魔力を使うから体内は傷だらけだぜい」

 言って、彼は笑う。
 その程度でこの事件を解決できたのだから安いものだと。

「ってことは……土御門、青髪ピアスのことわかってたのか……?」

「あったりまえだぜい、この土御門元春、伊達にスパイなんかやってないにゃー」

 上条は簡単に言ってのける彼に感心した。自分ですら記憶を操られてしまったのに。

「え?」

 おかしい。
 今、自分は何に関心した?
 自分の記憶は操られたのに、土御門は操られていなかった。
 自分には、『幻想殺し』があるのに?

『遠距離からは無理やったけど、直接頭に触れれば……まぁなんとかなるやろ』

 そう脳裏を過るのは、青髪ピアスの言葉。
 それはまるで、自分に触れてはいないような物言いで。
 もしも。
 もしも前提として、上条の記憶が正常で土御門が自分は操られていないという様に記憶を操られていたとしたら――――?

653 名前:in my memory 21/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:14:56.19 ID:kgmoZYwo [22/40]
「……カミやん、どうしたんだぜい?」

 土御門はいつもの表情で首を傾げる。
 それは、何ら変わりない、自分に自信を持っているという表情。
 そんな彼を見て、上条は確信する。

「……すまん、土御門。もし違ったら、学食一週間分奢ってやる」

「?なん……」

 そう言って、上条は。
 土御門元春の金髪つんつんヘアーへと。
 その『幻想殺し』を伸ばした――――


 パギン!と。
 聞きなれた、何かが崩壊する音が聞こえて。
 同時に土御門の目は、サングラスの下で驚きに見開かれた。

「っ……まさか…………!?」

 土御門は信じられないといった面持ちで自分の顔を抑える。
 本物だったのだ。操られたと思っていた、自らの記憶が。
 あらゆる異能を打ち消すその『幻想殺し』がそれを証明した。
 上条は彼の反応で理解した。
 青髪ピアスは、自分を狙った超能力者などではなくて、黒幕は別にいるのだ、と。
 そう理解し、恐らく黒幕の顔を見ているであろう土御門にも話を聞こうとした瞬間、思いもよらぬ名前が飛んでくる。

「禁書目録だ!」

 え?と、瞬間上条の思考が明後日の方向に飛んだ。
 そんな上条を覚醒させるように、土御門は彼の両肩をしっかりと掴む。
 間近でみた彼の顔は、心なしか焦りが浮かんでいるように思えた。

「よく聞け、カミやん!犯人は『心理掌握』!常盤台の『超電磁砲』以外のレベル5!まるで十徳ナイフのような能力を持つ心理操作系の最高位に立つ女だ!」

「なん……それがどうしてインデックスに繋がるんだよ!?お前と同じスパイだってのか!?」

「違う!カミやん、よく思い出せ!インデックスは、魔術サイドと繋がりのなかったお前でも知り合っただろう!なら、どうして『心理掌握』がインデックスを狙うかわかるだろう!?」

 上条当麻には、インデックスと出会った頃の記憶がない。
 だが、以前三沢塾に行ったとき、ステイルが言っていたような気がする。

『今年は君、二年前は僕、そして――――』

 それは、一体なんの話だっただろうか。
 そうだ。
 禁書目録の、パートナーだ。

654 名前:in my memory 22/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:15:39.11 ID:kgmoZYwo [23/40]
「パートナー……」

 その答えに、土御門は無言で頷いた。

「あぁ……そこまで辿り着いたなら、あいつの狙いは誰だってわかる……」

 土御門は苦虫を噛み潰したかのように顔を歪ませ、続ける。

「禁書目録の、その十万三千冊の原典の消去、そしてパートナーだったころの自分を思い出させること」

 ギクリ、とした。
 上条はステイル・マグヌス、アウレオルス=イザードという過去のインデックスのパートナーを知っている。
 彼らは昔の上条当麻がインデックスを救ったが故に見向きもされなくなった。
 しかし、『心理掌握』はそれを取り返すことができる。
 そうしたならば上条は一体どうなってしまうだろう。
 自分の記憶を思い出してくれたのならば、今のパートナーとの記憶は邪魔なものに過ぎない。
 消される。
 そのことに、『上条当麻』は怯えていた。
 インデックスから見向きもされなくなることを。
 インデックスが離れていってしまうことを。

「っ…………!」

「……今まで動かなかったのは、きっと『心理掌握』じゃなかったから……アイツがここまで成長したのはここ二、三年のことだった……」

「今動いたってことは、準備が完了したというコトなんだろう……青ピが犯人のように見せかけたのも、俺と二人で解決したように思えたのも、全て時間稼ぎだ!」

「カミやん、走れ!」

 土御門は言う。
 今行かなければ、もう間にあわないだろう、と。
 上条は恐怖に震える膝を叩き、そして土御門の言葉に頷いた。

「……土御門は?」

「俺か?俺は――――」

 言った瞬間。
 周りから幾つもの気配が現れる。
 それは、やはり死んだ瞳をぎらつかせ、獲物を求める。

「こいつらの相手をしなくちゃいけないからにゃー」

 土御門は冷や汗を垂らす。
 流石にこの数では危ないと知っているからだろう。それでも助けを求めないのは、上条には行かなければならないところがあるから。
 上条は、すまん、とだけ言い残し。
 青髪ピアスが座っていたドラム缶を乗り越え、そしてすぐに姿が見えなくなった。
 ふぅ、と残された土御門は溜息を吐いて。数だけは多量にある操り人形にケンカを売る。

「……さぁーって、ショータイムのハジマリだぜい!」

655 名前:in my memory 23/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:16:14.55 ID:kgmoZYwo [24/40]
「インデックス……!」

 怖い。
 怖い。
 怖い。

 上条は、白い少女を失うことが怖くてたまらない、
 今の自分が生まれた時からそこにいて。
 前の自分がその記憶を失ってまで助けた少女。

「……っ、そうだ、電話……!」

 まだ無事かどうか。
 それだけでも確かめたかった。
 土御門に言わせてみれば、その場にいるかもしれないから電話するのはやめろ、等といいそうだが。
 上条は自宅の番号を押して、通話ボタンをプッシュする。
 願う。
 まだ無事であることを。
 プルルルルルルル……プルルルルルルル…………
 その音が鳴るたびに、頼むから出てくれ、と切に求める。
 そして。
 がちゃ、と。
 その受話器が取られた瞬間、上条は思わず笑を浮かべていたことだろう。

 しかしながら。
 その幻想は、軽々しく打ち破られる。

『ハロー、上条当麻さん?』

 それは、全く聞き覚えのない声だった。
 自分の受話器に出たその少女は、何もいわない上条に続けて言う。

『遅かったわね?もう彼女は私の横で寝てるわよ。まだ弄ってはいないけれど』

「て、めぇ……テメェが、『心理掌握』か……!?」

 ひゅう、と電話の向こうで口笛が聞こえた。


656 名前:in my memory 24/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:17:07.88 ID:kgmoZYwo [25/40]
『流石。まぁ教えたのはきっとあの金髪のお兄さんでしょうけど……それでも驚いたわ。それが『幻想殺し』の能力ってわけね』

『インデックスの『歩く教会』もなくて、どういう事かと思ってたけど……ふむ、貴方のお陰でインデックスの頭の中を紐解く面倒が薄れたわ。ありがとう』

 飄々とそう言ってのける彼女に、上条は怒りを覚えずにはいられない。
 走りながらも、携帯電話に向かって叫ぶ。

「ふざけんな!インデックスを何だと思ってやがる!!」

『私の昔馴染み、同時に無二の親友。そんな娘の記憶を取り戻そうと努力するのは、酷く当然のことだと思わない?』

 ぐっ、と上条は即答されたそれに押し黙る。
 それでも彼は止まらずにはいられない。
 それは、過去の上条当麻が願うことで、今の上条当麻が望むことであるから。

「それ、でも……インデックスは救われたんだ!なんでわざわざそれを奪うような真似をしやがるんだよ!?」

『……貴方には言いたいことが沢山あるけれど、電話口では言い切れ無いわ。とっとと帰っていらっしゃい、待っていてあげるから。早くしないと、待ちきれなくなって彼女の記憶を書き換えてしまうかもね?』

 くすくすくす、という耳に残る笑い声と共に電話は切れる。
 上条は悔しさと怒りで拳から血が出るほどにそれを握り締めた。

「くそっ、くそっ……!」

 舐められている。
 彼女の口調からは明らかにそれを感じた。

「インデックス…………」

 上条は少女の名前をもう一度呼ぶ。
 今度は無事を願うのではなく、救いを求めるかのように。

657 名前:in my memory 25/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:17:42.87 ID:kgmoZYwo [26/40]
 ――その日に俺は死んで、そして生まれた。

 目が覚めた時、そこは真っ白な世界だった。
 純白のカーテンが風に揺れて、俺の頬を撫でる。
 薬品の匂いが微かにして、思わず眉を細める。
 『病院』。
 疾病や疾患に対し医療を提供し、病人を収容する施設のこと。
 そういった、知識はある。
 なのに、『どうして病院にいるんだろう』という記憶が、俺にはなかった。
 一時的なものだと思った。事故だとかそういったもので頭などをブツケたとき、記憶が混同して思い出せなくなることもある、ということを知っていた。

 けれど。
 神様の作った現実はそんなに優しくも暖かくもなかった。

 カエル顔の医者が入ってきた。
 医者は簡潔に、『君の記憶は脳細胞ごと死んだ』と言った。
 パソコンで言うならば、ハードディスクごと焼き切られた状態。
 一時的なものではない。
 この先ずっと、自分の記憶がもどることはない。
 医者は俺にどうしてそうなったのかを聞かせてくれた。その医者も人伝に――魔術師とかなのる胡散臭い連中に――聞いたことらしいが。
 自分の右手には『幻想殺し』などという神様の奇跡さえ殺せる力が宿っていること。
 その力を使って一人の少女を救ったこと。
 しかし、俺にそんなことを言われても全く身に覚えが無いのだから仕方がない。
 例えるなら、それは他人の日記をただ単純に聞かされただけにすぎない。
 だからやっぱり、記憶を失ったことは俺には関係がなくて。
 俺が考えるべきはこれからどうしようということだった。
 右も左も知らない世界、それでも『知識』だけは残っている頭。
 誰を信じて、誰を信じてはいけないのかもわからない。
 何も支えにするものがない、そんな日常で俺は生きていかなければならないのか、と思った。
 
 そんなことを考えていた時だった。
 こんこん、と二回ノックが鳴って、俺が返事をすると一歩遅れて、その人が入ってきたのは。

 ――白い、少女だった。

 いや、よく見ると違った。
 白いシスターの服に、なぜか銀色の安全ピンをとめている怪しい服装をした少女だった。
 ……それを除いたにしても、こんな可愛い女の子が俺を尋ねてくるはずがない。そう思って俺は、『病室を間違えてませんか?』と口にした。
 それだけで、少女はうつむいた。まるで、何かを堪えるかのように。
 俺が心配して声をかけると、『大丈夫だよ』と言って微かな笑みを浮かべた。

658 名前:in my memory 26/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:18:08.57 ID:kgmoZYwo [27/40]
 その後、女の子は俺に質問をして来た。
 初めてであった時のこと。
 『歩く教会』なんてワケの分からないものを壊したこと。
 魔術師と戦ったこと。

 そして、少女は言うのだ。
 何も覚えていない俺に、小さな、小さな希望を込めて。

 ――インデックスは、とうまの事が大好きだったんだよ?

 その時点で、俺の中に何かが芽生えた。
 いや、芽生えたわけじゃない。きっと、『心』が覚えていたことを思い出しただけなのだろう。

 ――この子にだけは、泣いてほしくない。

 どういう感情かわからない。
 きっともう思い出すことも出来ない。
 頭の中には何も残っていないはずなのに、確かにそう思えた。
 だから、思わず言ってしまった。
 医者に読み聞かせてもらった、『上条当麻』をできるだけ忠実に再現して。

 ――なんつってな、引ーっかかったぁ! あっはっはーのはーっ!!

 はぇ……?と白い少女の動きが止まった。
 そうだ、これでいい。
 これからずっと彼女に嘘を付いていかないといけないにしても、これでよかった。

 新しい『上条当麻』は、彼女を泣かせないという支柱を手にいれたのだ。

 だから、記憶を変える、なんてことは絶対にさせない。
 インデックスを守るということは、俺にとって絶対のことであるから。
 それでも、もしもインデックスを俺から奪うっていうんだったら。

 俺は、その――――

659 名前:in my memory 27/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:18:40.83 ID:kgmoZYwo [28/40]
 ガチャン、と扉が音を立てた。
 既に外はすっかりと暗くなっていて、星が瞬いている。
 そんな中で彼は帰宅した。
 否。帰宅とは名ばかりで、戦いに来たのだ。
 玄関をくぐり、暗い部屋の中、居間へと出る。
 真正面。
 月明かりが入る窓の真正面に、白い少女と常盤台の中学生はいた。
 一人は窓にもたれかかって、一人はもう一人の側に立ち。

「きたきた。待ちくたびれたわ」

 少女は口元に笑みを浮かべている。
 それはきっと、もはや確信しているからだろう。
 白い少女が自分の元に戻ってくるということを。

「……インデックスを、放せ」

 対して少年は冷静に自分の要求を告げる。
 彼にとっては何よりも誰よりも、それだけが大切なことだから。

「嫌。その理由はさっき説明したはずだけれど?」

「そんなのテメェのエゴじゃねぇか」

 上条は吐き捨てる。

「今の幸せを奪って、昔の幸せを押し付ける……そんなのテメェの自己満足以外になにがあるんだよ」

 『心理掌握』はつまらなそうに目を細めた。
 自分の髪の毛をくるくると弄りつつ、呆れたように答える。

「それは、貴方にだけはいわれたくなかったのだけれど」

 続けて、言う。
 上条の瞳をまっすぐに見つめ、そしてその奥深くの心理まで読み取るように。

「貴方、記憶喪失でしょう?そんな人にエゴだなんだっていわれても、そんなの綺麗事にしかきこえないわ」

 上条は息を飲んだ。
 先ほどの電話でインデックスの頭を少し覗いたような口ぶりだったが、それだけで上条が記憶喪失だと見抜いているだなんて。
 そんな上条の考えを読めないはずなのに彼女は言う。

「当然でしょう。いくら魔術的なものとはいえ、ダメージが伝わるのに数秒とかからないわよ」

「貴方、熱い薬缶を触ったことはあるでしょう?あれは脊髄反射だけれど、痛覚や衝撃というのはそれとほぼ同じ速さで伝わるわ」

「脳に辿り着く前に触って消す?不可能ね」

660 名前:in my memory 28/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:20:03.45 ID:kgmoZYwo [29/40]
 『心理掌握』はやはり流暢に説明する。
 だからこその余裕。
 今まで騙し騙し暮らしていた貴方に比べたら私のやることなんてなんてことないでしょう、ということ。

「わかったなら、大人しくそこで見ていらっしゃい。インデックスの幸せは貴方の幸せ、でしょう?」

 くすくす、と。
 彼女は皮肉のように告げる。
 が、上条はそれにまるで屈しない。

「しらねぇよ」

 え?と『心理掌握』にしては彼の行動は予想外の行動だったのか、素頓狂な声をあげた。
 上条は繰り返す。今度はこちらの番だと言わんばかりに。

「しらねぇってんだよ!何がエゴだ、何が綺麗事だ!そんなもんあって当然じゃねぇか!!」

「俺がインデックスを騙している?それはエゴだ?ああそうだよ!俺はインデックスを騙している!」

「けど今の俺は、昔の俺は!インデックスを泣かせないって決めたんだ!守ってやるって決めたんだ!!」

「もしもそれがバレたとしても、インデックスが俺の元から去ったとしても!俺はインデックスを守り続ける!」

「インデックスがしつこいっていうんならもう二度と顔も見せない。それでも影から、インデックスがわからないうちに守ってやる!」

「俺を許すか許さないか、それを決めるのはお前じゃねぇ、インデックスだ!俺が頭を下げて背を見せるべきはお前じゃない!!」

「だからインデックスが俺じゃなくてお前がいいと言わない限り、俺はインデックスの盾になる!」

「お前だって、インデックスのパートナーだったんならわかるだろ!?」

「それでも、お前が俺の前に立ちはだかって、インデックスを付け狙うって言うんなら……俺は、その――――」

 二つの存在だった『上条当麻』は。
 インデックスを守るという、まさにこの瞬間に一つになった。


 ――――その幻想をぶち殺す!!

661 名前:in my memory 29/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:20:41.83 ID:kgmoZYwo [30/40]
「、は」

 『心理掌握』は笑う。
 見たからだ。
 彼の心理を。
 彼の根底を。
 『幻想殺し』に塗れて見えないはずの心の奥底の支柱を。
 本当の『上条当麻』を。

「っ――――――――――!!」

 勝てない、と思った。
 記憶を失っていてインデックスを騙しているという点においては何も間違いはないというのに。
 だから直接戦うようなマネはしない。
 要は選ばせてしまえばいいのだ。彼女自身に。

「――――、な」

 上条当麻は瞬間、呆けた。
 『心理掌握』がすぐ側のインデックスに触れたから。

「インデックスの貴方に関する記憶を消してしまえば、貴方を思い出すことなんてない!そうなってしまえば、私の勝利は揺るがない!!」

 狂っている。
 しかし、正常だ。
 何かを追い求めるがあまり、人としての何かを失ってしまう。
 それは、アウレオルス=イザードによく似ていた。
 インデックスの無事を求めるがあまり、人の道を外させてしまおうというその思いの強さが、あまりにもよく似ていた。
 『心理掌握』の手がインデックスを確かめるかのように動く。

 瞬間。
 ゾクリ、と上条の背筋を何かが駆け巡った。
 それはインデックスを失う恐怖、ではない。
 もっと大事な、何かを思い出そうとしているかのような。

「やめろ!」

 咄嗟、上条は叫ぶ。それの正体がなんなのかもわからないまま。
 しかしこの状況で彼女が止めるはずもない。
 彼女はインデックスのそれに――――

「これを、纏めて消去してしまえば――――ッ!?」

 触れた。

662 名前:in my memory 30/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:21:17.09 ID:kgmoZYwo [31/40]
 バギン!と『心理掌握』は勢い良く撃ち飛ばされた。
 それを丁度直線上にいた上条が受け止める。

「っ……一体、何が……」

「『首輪』……」

 上条当麻は思い出す。
 それは記憶ではなく、知識。
 インデックスの『首輪』。
 禁書目録管理、また彼女の頭の中の十万三千冊を守るために作られた『自動書記』と連動する敵性撃退機関。
 それは、上条当麻が破壊したはずのモノ。

「ジジ……警告、第五章第一節……Index-Librorum-Prohibitorum――――禁書目録、のジジザ……『首、輪』。……再起ジジジジザザザザザザザザ」

 やはり、既に壊れている。
 それでも。
 インデックスの目の中の真紅の魔法陣は消え去らない。
 一度起動したそれは、破壊するまで留まるところをしらない。

「『首輪』……侵入者、『上条当麻』の存在……をザザ、確認。『竜王の殺息』を……ジジジ再構築……します」

「な、なに、これ……インデックス…………?」

 『心理掌握』は上条の腕の中ということも忘れてインデックスを畏怖の眼で見る。
 それは、彼女の知らないインデックスだ。
 いつも笑顔で、人々を幸せにして、でも食い意地が張っていて。
 そのインデックスじゃない、教会のインデックスだ。
 ビギン、とインデックスの眼前に亀裂が走る。二つの魔法陣の接点を中心に、得体の知れない何かが四方八方に駆け抜けていく。

「下がれっ!」

「きゃっ!?」

 刹那。
 上条が『心理掌握』を自分の背後へと追いやったと同時。
 ゴッ!と亀裂より光の柱が飛び出した。
 上条は一度受けたことがあるように、反射的にそれを右手で抑え留める。

663 名前:in my memory 31/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:21:58.01 ID:kgmoZYwo [32/40]
 『竜王の殺息』。
 十万三千冊を駆使して行われる、物量も質も違う全てが『必殺』の威力を持つ魔術。
 その光の柱だけではなく、それ自体が撃ちぬき引き裂いたもの全ても、『竜王の吐息』と同義である『一撃』の純白の羽となる。

 上条の知識が絶対的な危機を告げる。
 十万三千種類の必殺。その圧倒的な量に上条の身体はジリジリと後ろへと引き摺られる。

「ぐっ……!」

 このままでは、負ける。
 頭では分かっていても右手を外すことなど出来はしない。もししてしまったら、一秒と満たずに記憶だけならず今度こそ絶命してしまうだろう。
 上条は知らない。以前は神裂火織、ステイル・マグヌスがその場にいた事を。
 あの二人の協力あってしての勝利だったということを。

「手を伸ばせば届く距離にいるってのに……!」

 上条が奥歯をかみしめた瞬間。
 奥の亀裂が僅かに、揺らいだ。

「……え?」

 しかし瞬き一つでその揺らぎは何事もなかったかのように元に戻っている。
 インデックスは相変わらず、碧眼ではなく真紅の瞳で上条を、上条『だけ』を捉えていた。
 原因となったのは、自分のすぐ後ろにいる『心理掌握』だというのに。

(――もしかすると)

 『首輪』の能力は完全ではない。
 どうして破壊したはずのそれが起動したのかはわからないが、壊れたものが以前と同じく機能するはずがない。
 繰り返すが、上条に記憶はないが、知識はある。
 『首輪』の自動防衛機能。それは、インデックスの危機に直面した時に発動する二重三重の結界。
 その結界は『幻想殺し』によって破壊された。それは後からあの医者より聞いた話だ。
 だとすると。
 今のインデックスの『首輪』の機能は、『幻想殺し』ではなくとも操作でき、消去できるのではないだろうか。
 例えば。
 『心理掌握』でも。

664 名前:in my memory 32/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:22:34.58 ID:kgmoZYwo [33/40]
「力を……貸してくれ」

 えっ、と『心理掌握』は唖然と見ていた光景からようやく上条に視線を変えた。
 上条は振り向かない。振り向く余裕もない。

「インデックスの『首輪』、あの能力自体を今度こそ完全に消去する!けど、俺の右手はこれを抑えるのに精一杯なんだ、アイツの元にたどり着けない!」

「お前の力が必要だ!今インデックスを助けられるのはお前しかいない!」

 『心理掌握』は動かない。
 バチン、と上条の右手の爪が弾き飛び、血が吹き出す。
 『心理掌握』は動かない。
 なぜなら彼女は既に敗北してしまっているから。インデックスの記憶をあの一瞬で消去できなかった時点で負けてしまっているから。

「私には……救えない」

 自分はヒーローにはなれなかった。
 本物のヒーローは目の前にいる少年だ。
 記憶を失って、もう何も理由がないのにインデックスに尽くすこの少年だ。
 間違っても自分ではない。
 ヒーローではない自分に、インデックスは救えない。
 いくらこの少年が助けて欲しいと、お前の力が必要だと言ってくれても、自分にはとてもそうとは思えない――――

「ふざけんな!」

 上条は叫ぶ。
 そんなものは幻想だと。

「ヒーローだヒーローでないなんて関係あんのかよ!?ヒーローじゃなきゃ人は救えないっていうのかよ!?」

「だったらテメェはヒーローが現れるまで大人しくヒロインの危機を見逃すって言うのか!?自分の最も大切な人を守らないっていうのか!?」

「違うだろ!!お前だってたった一人の少女を助けるためにその位置にまで上り詰めたんじゃねぇのかよ!!」

「ヒロインを助けたかったんだろ!?主人公になりたかったんだろ!?」

「だったらお前の物語は始まってすらいねぇ!主人公を求める物語じゃなくて、主人公になる物語は!」

「インデックスの『首輪』は破壊したと思っていた。けれど、こうして機能が残っていた。きっと今発動しなかったとしても、いつかは発動した!」

「来たんだよ、主人公になれるチャンスが!ヒロインを救う機会が!!」

「それでも無理だって言うんならそれでもいい。出来るかどうかはわからないけどお前の分まで背負って、全部救ってやる」

「……お前が選べよ」

「他人に任せるのか、それとも俺の手を借りてヒロインを救うのか!」

「傲慢だろうがなんだろうが、お前自身が自信をもって胸を張れるものを選んでみろよ!!」

665 名前:in my memory 33/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:23:15.73 ID:kgmoZYwo [34/40]
 ゴギン、と上条の手が不自然な方向に曲がった。
 折れたと思う前に左手で無理にその右手を抑える。
 上条は諦めない。
 ここで諦めてはいけない。
 偉そうに語っておいて、自分が先に投げ出すことは許されない。

「さぁ、手を伸ばせば届くんだ」

 上条当麻は『心理掌握』に手を差し伸べる。
 ヒーローになる準備は出来たか?と。

「いい加減始めようぜ、『心理掌握』!!」

 同時。
 常盤台の少女は『竜王の殺息』を避けるように低く飛び出した。
 向かう先は白く、しかし赤く煌めく少女。
 どういう理由かわからないが、今の彼女には上条当麻しか眼に入っていない。
 だからこそ彼女が自由に動くことができる。
 彼女は回りこむようにしてインデックスの横に並びたち、再び手を彼女の頭に晒した。

(――――記憶の底まで掴みとる)

 『心理掌握』は見る。
 一年という節約から解き放たれた幸せな彼女の記憶を。
 無尽蔵に並ぶ十万三千冊の本を。
 そして。
 それらの記憶に絡みつくように張り巡らされている霊装を。

(これか――――)

 恐らく、先程これに触れてしまったのだ。
 上条当麻との記憶を消すのに必死で、この蔦のような鎖に気付いていなかったから。
 皮肉だ、と思った。
 ヒロインを救うことになる原因が、自分自身だなんて。

666 名前:in my memory 34/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:24:00.12 ID:kgmoZYwo [35/40]
「ぐ、ぐぐぐぐぐ……っ!!」

 上条の腕が、足が、身体が悲鳴をあげる。
 限界を超えて抑え続けている右手はもはやボロボロだ。
 ただそれを持ち上げるだけで激痛が走る。
 それでも彼は諦めない。
 たった一人の少女を救うと交わしたから。

 『心理掌握』はふとそんな彼を見た。
 そして、やはり思う。

(やっぱり――敵わないね)

 記憶の隅々にまで張り巡らされている『首輪』。
 彼女はそれを一気に抜き去るように消去した。
 確認はしない。
 それはどこかの記憶を消してしまったかもしれないという懸念がないからではない。
 彼女がどうして『心理掌握』と呼ばれているか。
 そして『心理掌握』の名前に掛けて。
 自分の精神が余程乱れていない限り、記憶のことに関して失敗はしないと言い切れるから。

「ジジザ……Index-Li、brorum-Prohibitorum……の『首輪』、を、はジガガ再生不可、能――――」

 亀裂が入った時よりもそれが消えるのすら突然だった。
 音すら消えた。
 ゴウッ、と吹き抜けたのは恐らく余波のようなものだろう。
 やや遅れて、白い少女は死んだように倒れ、『心理掌握』は慌てて彼女を抱きしめた。
 温かい、人の体温が染みる。

「……インデックス」

 『竜王の殺息』が消えたことでようやく自由になった上条はゆったりとした様子で二人に近寄る。
 すやすやと寝息を立てる少女に上条は軽く微笑んだ。
 そして、もはや今は使い物にならない右手でインデックスの頬を軽く撫でて――

 心身ともにボロボロだった上条当麻は意識を失った。

667 名前:in my memory 35/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:24:43.27 ID:kgmoZYwo [36/40]
「どうでもいいですけど、先輩って無茶しすぎですよね。インデックスだけじゃなくて他にも色々と助けすぎです」

 上条は耳にタコが出来るかと思った。
 彼の側にいるのはちゃんと身なりを整えた『心理掌握』。とはいっても、上条にはどこがどう違うのか見分けがつかないが。
 そんな彼女のいう『どうでもいいこと』は既に言われるのが四度目にもなる。
 はぁ、と上条はこれ見よがしに大きくため息を吐いた。

「ってか、どうしてお前はここに入り浸っているかということを上条さんは聞きたい」

 入院してから既に三日。
 目が覚めて最初に顔を見たのも彼女だし、顔をあわせてそうそう節操がないことを責められた。
 『心理掌握』は少しばかり上条から視線を外して、泳いでいる白いカーテンを見る。

「私のせいですから。自分が悪いということの責任ぐらいはとります。あ、先輩の入院費も払いますよ、念のため」

「……中学生に入院費を払わせる高校生って……いや、ありがたいけどさ……」

 上条はがっくりと項垂れた。高校生として、男としての甲斐性が全くない少年だった。
 『心理掌握』は少しばかり呆れたように鼻息を吐くが、その顔は多少綻んでいるようにも見える。
 彼女はどこか色々と心境が変わったのか、上条の事を『先輩』と呼ぶようになり、同時に敬語で接するようになった。
 常盤台の生徒が見たらきっとその変化に驚くだろう。学校ではまだ相変わらずらしいが。

「……で、今日はどの記憶について詳しく聞かせていただきましょうか」

「勘弁してくれ……そもそも人の記憶を勝手に覗くとか悪趣味極まりないだろう……」

「入院初日から『超電磁砲』が来たら誰でも不審に思いますよ」

 これも目覚めてすぐに聞かされたことだが、どうやら上条が寝ている間に美琴が来ていたらしい。
 一応彼女は操られていなかったし当事者ではないけれども協力者という形だった為に来てもおかしくなかったのだが。

「まさか、先輩がインデックスだけじゃなくて文庫本にしたら二十冊を超えるほど人助けをしているだなんて……」

「おいその具体的な数字どこから出てきた」

 『心理掌握』はリンゴの皮を向いてみたりトランプをしてみたり、適度に暇つぶしをしてくれた。
 病院生活でいくら暇になることは慣れているとはいえ、暇潰できることほどありがたいことはないので素直にうけいてたが……
 今更ながら気になることが一つだけあった。

「お前、学校は?」

「そんなもの『居る』と誤認させてしまえばどうにでもなりますよ」

 どうやら、彼女はお嬢様のくせに結構不良らしい。

668 名前:in my memory 36/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:25:15.05 ID:kgmoZYwo [37/40]
「……さて、と。今日はそろそろ帰ります」

 その後も適当に駄べりながら過ごし、時計が三時半を指すと同時に彼女は席をたつ。
 上条は荷物をまとめる彼女を見つめつつ、尋ねた。

「……やっぱり、インデックスには会わないのか?」

「私にはあの子に合わせる顔がありませんから。酷い事をしようとしました。大切な思い出を……奪おうとしました」

 上条の問に対し、『心理掌握』は少しばかり俯きながら答える。
 少女は自分の罪に対して、罰を受けているつもりなのだ。

「思い出を奪おうとした、か……」

 上条は繰り返し、

「でもさ、やっぱり俺はインデックスと会ってもいいんじゃないかな、って思うな」

 自分の考えを告げた。
 やはり少女は呆ける。彼は何を言っているんだ、と。大切な物を奪おうとしたんだぞ、と。
 上条はそんな彼女の考えをわかった上で続けた。

「お前がいくら過去に何をしててもさ、それは新しい思い出を作っちゃいけないっていう理由にはならないんじゃないか?」

「俺が記憶を失ったとしても、インデックスを守ると誓っているように、さ」

 上条当麻は記憶喪失だ。
 彼には罪がある。前の上条当麻のふりをしてインデックスと一緒にいるという。
 だからといって、彼女を好いてはいけないわけではない。罪の意識に苛まれるかもしれないが、その権利がないわけではない。

「だからさ、会っても――思い出を作っても、いいんじゃないかな」

「先輩……」

 上条の言葉に、『心理掌握』は立ち止まった。
 本当にいいのか。自分は罪を赦されてもいいのか。
 その眼はそう問いかけているようにも思えた。

669 名前:in my memory 37/37[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:25:53.64 ID:kgmoZYwo [38/40]
 と、その瞬間。
 ガラッ、と勢い良くドアが解き放たれた。

「とうまとうまとうま!病院内の売店にスイカ味のポテトチップスが売ってたんだよ!アレ欲しいかも!」

「入ってきてそうそう食べ物のことかよチクショウ!俺のことなんかどうでもいいんですかねインデックスさんは!?」

 インデックスが入ってくると同時の叫びに思わず上条も全力で突っ込む。
 とーう、とインデックスはベッドの上に飛び込んで、上条に抱きついた。

「大丈夫だよ、ちゃんとわけてあげるかも」

「あー、俺がわけるんじゃないとこあたりはちゃっかりしてるな……」

 ガックシ、と上条が肩を落とし、インデックスはそれを見て満面の笑みを浮かべる。
 同時、ようやくインデックスは『心理掌握』がいることに気が付いた。入り口からでは影でみえなかったのだろう。
 慌てて上条の上から飛び降り、彼女の前に仁王立つ。
 まるで、初めて見る転校生を見定めるかのように。

「貴女は、だれ?短髪と同じ制服だね?」

 白い少女は首を傾げ、問う。
 今まで見たことのない少女に対して訊ねる。
 『心理掌握』は思わず上条を見た。
 彼は頷く。言外に告げる。『行け』と。
 彼女はそれにほんの小さく、よく観察していないとわからないぐらいの角度で頷いた。

「ねぇ、インデックス」

「あれ?どうして私の名前を知ってるの?」

 『心理掌握』は彼女の名前を呼び、微笑みかける。
 その戸惑う反応すら愛しそうに。
 そして、とても幸せそうに。

「私の名前はね――――――」

 きっと。
 少女と彼女の思い出はここから始まる。




 fin.

670 名前:in my memory 37/37 あとがき[saga] 投稿日:2010/08/06(金) 12:26:42.35 ID:kgmoZYwo [39/40]
 おしまいです。中途半端に長かった……
 ラストの『心理掌握』の名前を言うシーンはインデックスの『インデックスって言うんだよ』みたいな感じで。
 『首輪』については本編で書いたとおり、上条さんが破壊したのは全てではなく、少しインデックスの中に残っていて『心理掌握』が触れて超再起動した、という形です。
 そんなわけでおしまい。
 past→now→futureとかで夢想してみたりしたけど、続きません。多分。
 では、見てくださった方々、超ありがとうございました!

Tag : とあるSS総合スレ

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