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美琴黒子佐天初春「貴方たちを全力で倒す!」 vs 上条一方通行「……やってみろ」2-2

美琴黒子佐天初春「貴方たちを全力で倒す!」 vs 上条一方通行「……やってみろ」2-1
の続き
362 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/04(日) 21:10:25.59 ID:At2rjnk0 [2/17]
美琴たちは今、上条たちに連れられて四角柱状の空間を、それぞれの階の外周の壁を沿うように設置されている幅2mほどの通路を歩いていた。落下防止用の対策は簡素に備えられた手すりぐらいで、少しでも手すりから身を乗り出せば終わりだった。
彼女たちは先程から、階段を下り通路を歩き、角を2回ほど曲がりまた階段を降りるといった具合に同じ動作を繰り返しながら階下を目指していた。
辺りは暗闇に包まれており、御坂妹の持つF2000アサルトライフルのフラッシュライトや、上条が持つ懐中電灯だけが頼りだった。

上条「詳しいことはアジトに着いてからだ」

黒子「貴方、先程私たちの友達は生きている、と仰いましたよね?」

佐天「まさかそれは嘘で、これはあたしたちを誘い込む罠とかふざけたこと言わないよね?」

初春「何とか答えて下さい」

4人はひたすら抗議にも似た疑問の声を上げる。しかし、先頭を歩く上条は何も答えない。

御坂妹「良いのですか、とミサカは訊ねます」

上条のすぐ横を、FN F2000を抱えた御坂妹が一行を先導するように歩く。

上条「……………………」

美琴「どうして何も答えないの?」

上条のすぐ後ろを歩く美琴。彼女は今、打ち止めと手を繋いで歩いていた。

打ち止め「♪」

先程まで敵対していた仲であるにも関わらず、打ち止めはオリジナルの美琴と手を繋いで楽しそうだった。
手を繋ぐよう求めたのは打ち止めで、美琴は少しうろたえたが、自分の幼い頃の外見に似た女の子の笑顔を見て断ることも出来ず、しぶしぶ承諾したのだった。

一方通行「うっさいヤツらだ。もっと静かに出来ねェのか」

殿を歩くのは一方通行だ。彼は、目の前でギャアギャア声を上げる黒子たちを見て不満気だった。
一行は今、アジトを目指し歩いている。
先程まで対立していた彼らが呉越同舟で行動を共にしていたのには訳があった。

363 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/04(日) 21:15:56.10 ID:At2rjnk0 [3/17]
小1時間ほど前――。

打ち止め「ねぇ大丈夫? ってミサカはミサカは心配してみる」

美琴の電撃を浴び、ガタガタになった身体を無理矢理起こそうとする上条に、打ち止めが心配して寄り添う。

上条「まぁ、あいつの電撃は浴び慣れてるからな」

一方通行「それはそれで問題だと思うがなァ」

軽口を叩くように一方通行も近付いてきた。

上条「打ち止め、護衛のためだ。御坂妹を呼んでくれ。今の俺や一方通行は万全な状態じゃないから、もしもの時に備えられない」

打ち止め「分かったちょっと待っててね、ってミサカはミサカは元気にお返事!」

そう言って打ち止めはミサカネットワークにログインする。

一方通行「別に俺はこのままでも大丈夫だけどなァ」

上条「そう言うな。万が一に備えてだ。あ、それと打ち止め」

打ち止め「なぁに?」

上条「御坂妹に、主要メンバー全員をアジトに呼ぶよう頼んでくれ」

一方通行「おいおい全員かよ。こンな夜中に集まるかどうか分からねェぞ」

上条「いいんだ。無理にとは言わない。ただ『御坂たちが説明を求めてる』って言えば、来てくれる確率も高くなるかもしれない」

打ち止め「はーい!」

美琴「…………………」

目の前で勝手に進められていく話から置いてけぼりを食らったように、美琴たちは黙ったままその場に立ち尽くしている。

上条「さて、これでいいか」

美琴「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

上条「ん?」

耐えられなくなったのか、美琴が上条を呼び止めた。

美琴「一体どういうことなの!? あんた、さっき『お前らの友達は生きてる』って言ったわよね?」

上条「………ああ」

美琴「それは本当なの?」

364 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/04(日) 21:21:24.87 ID:At2rjnk0 [4/17]
黒子「嘘じゃありませんわよね?」

佐天「その場の方便とか言ったら怒るよ!」

初春「どういうことかちゃんと説明して下さい!」

4人分の少女の抗議を前に、上条は至って冷静に返事する。

上条「『お前らの友達が生きてる』っていうのは本当だ。嘘じゃない。固法美偉も、泡浮万彬も、湾内絹保も、婚后光子も、そして今まで俺たちが誘拐した学園都市の学生たちもみんな生きてる」

美琴「なっ…」

あまりにも簡単に言い切った上条の言葉に美琴は一瞬どう反応していいのか分からず、その視線を一方通行に向けてみた。

一方通行「ったく、自分で全部白状しちゃいやがって……。世話ねェな」

そのまま、美琴は打ち止めにも顔を向ける。

打ち止め「本当だよお姉さま! この2人は誰も殺してないよ! だからこれ以上2人を傷つけないで!」

打ち止めの必死の懇願を聞き、美琴がたじろぐ。

黒子「しかし、私たちには何が何やらさっぱり分かりません」

美琴「そうよ。ちゃんと説明しなさい」

伸びをし、上条は自分の身体の調子を確かめると、美琴たちを見て言った。

上条「俺たちのアジトで説明する。御坂妹が着き次第、出発するからそれまで待ってろ」

美琴「…………っ」

367 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/04(日) 21:26:27.82 ID:At2rjnk0 [5/17]
以上の経緯で、美琴たちは上条に連れられアジトに向かっていたのだった。

黒子「しかし、何10年も前に立ち入りが禁止された共同溝は私たちも隠れ家の出入りのために利用していましたが、こんな場所にもこんな大きな共同溝があったのですね」

美琴たちは四方を見やる。確かに、廃墟にするにはもったいないぐらいの広大な空間だった。

上条「学園都市には地下の空間はいくらでもある。最新の共同溝や下水道は監視カメラなどで見張られてたりする場所もあるが、こういった古い共同溝は別だ。一部のスキルアウトたちも好んで使ってる」

初春「確かに、地下は監視カメラや衛星の死角になりやすいですからね」

佐天「そんなに地上から身を隠してでも、誘拐を行いたかったんですか」

上条「…………………」

美琴「よっぽど今は答えたくないようだけど。自分たちの縄張りに誘い込んでからのほうが、話を有利に進めるとでも思ってるのかしら?」

一方通行「オマエらペチャクチャうっせェぞ。黙って歩けねェのか」

美琴「黙って歩ける状況じゃないでしょ!」

一方通行「あァ?」

打ち止め「もーう一方通行!」

一方通行「チッ」

険悪な雰囲気を発しながらも、彼女たちはようやく上条たちのアジトに到着した。

美琴「あれが……あんたたちのアジト?」

吹き抜けの広大な空間をひたすら下へ降り、更にいくつもの共同溝を奥に進んだ所に、彼らのアジトはあった。
見た限り、特別大きいとも言い難い。ただでさえ狭い空間の中に、申し訳無さそうに嵌められたような小さな建物があった。

上条「昔、作業員が寝泊りに使ってた場所だ。一応、簡単な発電施設で屋内の電気はまかなっている」

美琴「(私たちの隠れ家より小さいけど、随分本格的ね)」

アジトに向かって歩く一行。と、アジトの木製のドアの前に2人の人間が立っているのが見えた。

美琴「誰!?」

黒子「新たな敵ですの!?」

警戒し、美琴と黒子が身構えた。

上条「よく見ろ」

美琴黒子「え?」

368 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/04(日) 21:32:20.09 ID:At2rjnk0 [6/17]
促され、目を細めて見てみると、2人の人間はどこか見覚えのある装甲服を着、胸元にアサルトライフルを抱えていた。

美琴「アンチスキル!?」

上条「黄泉川先生の部隊の人たちだ」

美琴黒子佐天初春「!」

上条「すいません、お騒がせして」

そう言って、上条は門番の警備員2人に話しかけた。

警備員A「事情は黄泉川中隊長から聞いている」

警備員B「君はリーダーだからな。さあ、早く中へ入りなさい」

リーダーである上条が部下たちに敬語を使うのもどこか違和感があったが、元々は生徒と教師の関係だ。不思議は無い。

上条「御坂」

美琴「え? 何?」

上条「俺と一方通行と打ち止めで先に事情を説明してくる。お前らは御坂妹とここで待ってろ」

美琴「ちょっ」

呼び止めようとする美琴の手から打ち止めが離れ、更には彼女の横を一方通行が通り過ぎていく。
そのまま3人は木製の小さなドアを開けると、中に入っていった。

美琴「あ……」

手を伸ばしたまま固まる美琴。
まさか部屋の中からアンチスキルが大勢出て来て捕縛されないだろうか、という不安が過ぎる。
ふと、彼女が横に顔を向けると御坂妹と目が合った。

美琴「あんた……」

御坂妹「お願いですからここで静かに待っていて下さいね、とミサカはお姉さまに偉そうに指示します」

美琴「………………」

御坂妹「………………」

10分後、ドアが開き、上条が中に入るよう促してきた。
美琴たち4人は1度、互いの顔を見合わせるとゴクリと唾を飲み干し、敵のアジトへ足を踏み入れた。

369 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/04(日) 21:38:12.03 ID:At2rjnk0 [7/17]
そこは、アジトと言うにはあまりにも小さくみすぼらしい場所だった――。
見上げると、そこには天井の中央に古い蛍光灯が1つ寂しそうに垂れ下がってるだけで、当然ながら非常用の電灯といったものはない。部屋の真ん中には机が置かれているが、これも縦1m50cm、横2mぐらいの地味で汚れがついた、セールで買ってきたような古びたものだった。その机を境に、一方に即席に用意された4つの椅子が、一方に長ソファが向かい合って置かれていたが、その椅子とソファだけで部屋の面積のほぼ半分が占められていた。

美琴「…………………」

正直、部屋はかなり狭い。ソファの後ろにはコーヒーポッドや本を並べた幅50cmも無い棚が壁に沿うようについている。部屋の隅には小さな冷蔵庫が置かれていたが、それすらも部屋をより狭めているのに一役買っているような印象があったほどだ。
上条曰く、この部屋は作戦会議を行うメインルームらしいが、それにしてはあまりにも狭い。美琴たちが一時的に使っていた隠れ家のほうが贅沢な造りと言えた。

美琴「…………………」

黒子「…………………」

佐天「…………………」

初春「…………………」

無言になる美琴たち。と言うよりも何かを喋りたくても喋れない雰囲気がその部屋には流れていた。
彼女たちが座る椅子の向かい側、長ソファに腰を掛ける9人の人間は、一切の発言を許さないような威圧感を放っており、正直、美琴たちはそれを前にして気圧されていたのだ。

上条「ここにいる9人が、俺たちの仲間の主要メンバーだ」

そう告げる上条。美琴たちはそのメンバーを一瞥する。そこに座っていたのは、通常では信じられない組み合わせのメンバーだった。

まず、一番右端で白衣のポケットに手を突っ込んでいるのは、美琴たちがよく世話になる第7学区の名医。『冥土返し(ヘブンキャンセラー)』と呼ばれるカエル顔の医者だ。
その隣で同じく白衣を纏い、手と足をそれぞれ組んでいる若い女性は、かつての教え子たちを助けるため『幻想御手(レベルアッパー)』を開発した末、美琴たちと対立することになった木山春生である。
一方、ソファの左端では気弱そうな性格をしている眼鏡の若い女性が、その隣では腕を組み目を閉じているこちらも若い女性がいるが、彼女たちは黒い戦闘服のようなものを身に纏っている。彼女たちはアンチスキルの隊員、黄泉川と鉄装。1週間前まで美琴たちの謹慎を見張っていた張本人たちである。
更に、黄泉川の隣に座る女性は美琴と黒子が日頃から最も世話になっている人物だった。彼女のあだ名は「寮監」。美琴と黒子の私室がある常盤台中学学生寮の管理人だった。今、彼女は足を組み、光る眼鏡に右手を添えていた。

そして、中央に座る4人。彼らこそ、美琴たちが最もよく知る人物たちだった。

向かって中央2人の右の人物に寄り添うように座っている彼女は、どう見ても9人の中で浮くほど幼い。動くたびに揺れる頭のアホ毛が可愛らしい彼女の名前は『打ち止め(ラストオーダー)』。9969人の『妹達(シスターズ)』を統べる司令塔的存在だ。
対して、向かって中央2人の左の人物の隣に座る少女は今も肩にFN F2000と呼ばれるアサルトライフルを掲げている。頭に付けられたゴーグルだけは違ったが、それ以外は美琴の外見とほぼ瓜二つだった。彼女は、『妹達(シスターズ)』の検体番号10032号。あだ名として、「御坂妹」と呼ばれていた。

最後に、一連の事件の中心人物が中央に2人――。

右に座るその人物は腕を組み、伸ばした足の先も組んでいるが、どこかやる気の無いように明後日の方向を見上げている。白い肌に白い髪。華奢な身体を持つ彼は、美琴たち4人の宿敵の1人。事実上、学園都市の頂点に君臨する、最強の超能力者(レベル5)『一方通行(アクセラレータ)』だった。
そして、左に座る人物。美琴たちの友達を誘拐し、殺害したと思われる計画の首謀者である彼は、膝の上で両手を組み、美琴たちを見据えている。異能の力であるのなら、どんな能力も打ち消してしまう『幻想殺し(イマジンブレイカー)』と呼ばれる右手を持つレベル0の高校生。最も美琴との因縁が深い彼の名は上条当麻。

計9人のメンバーが、美琴たちの正面で並んで座っていた。
その光景は、どこか貫禄を感じさせ威圧感も半端ではなかった。少年漫画だったなら背景に「ドン!」と言う擬音でも描き込まれてそうなほど威厳のあるものだった。その9人分の言葉無き威圧に対し、女子中学生である美琴たちは借りてきた猫のように縮こまっている。

370 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/04(日) 21:45:26.11 ID:At2rjnk0 [8/17]
美琴「…………………」

黒子「…………………」

佐天「…………………」

初春「…………………」

彼女たちは並んだ9人の顔を無言でチラチラと窺う。

上条「で、だが……」

美琴黒子佐天初春「!」ビクッ

一方通行「プクク…w」

上条「ハァ……」
上条「それで、何から聞きたい?」

その言葉にハッとし、美琴は我に返った。

美琴「そ、そうよ! き、聞きたいこと! あるわよ!!」
美琴「ま、まずはゲコ太! それに木山春生!」

ズアッと立ち上がり、美琴が右端2人の人物を指差す。黒子たち3人が立ち上がった彼女を見上げた。

美琴「ど、どういうことなの!! 何で貴方たちが、こいつらの仲間なの!? 訳分かんない」

美琴の言葉に同意するように、黒子と佐天と初春もカエル顔の医者と木山を見る。
美琴たち4人分の眼差しを受け、耐え切れなかったのか初めに口を開いたのはカエル顔の医者だった。

カエル医者「すまないね、君たちを騙していた形になって。謝っても許してもらえないだろうね?」

美琴「なっ…」

言葉を詰まらせた美琴を助けるように黒子が援護する。

黒子「私たちは3週間ほど前、先生たちに泡浮さんの携帯電話の指紋鑑定を頼みましたわよね? 覚えていますか?」

カエル医者「ああ、覚えているよ」

木山「………………」

黒子「それは、泡浮さんと湾内さんの2人が、誘拐犯と思われる2人組の暴漢に襲われた時に……」チラッ

一瞬、黒子は上条と一方通行に視線を向けた。

上条一方通行「…………………」

373 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/04(日) 21:51:24.49 ID:At2rjnk0 [9/17]
黒子「そのうちの1人が、泡浮さんの携帯電話に触れた可能性が高かったからです。だから、私たちは先生に、そして木山先生にも指紋鑑定を頼んだのです」

美琴「そうよ。私たちは先生たちのこと信じて頼んだのに……。本当は、こいつかこいつの指紋、出てきたんでしょう?」

美琴は上条と一方通行を順に指差す。

カエル医者「そうだよ?」

美琴黒子佐天初春「!!!」

美琴「やっぱり……」

佐天「でも、どうしてあたしたちには『男のものと思われる指紋は出てこなかった』って嘘吐いたんですか?」

初春「やっぱりそれは上条さんたちの存在を気取られなくなかったからですか?」

佐天と初春もようやく話に加わった。
4人の少女の質問に、カエル顔の医者は更に心苦しそうな顔を浮かべて答える。

カエル医者「……そうだよ?」

美琴黒子佐天初春「………っ」

カエル医者「僕は初めから上条くんや一方通行の仲間だったんだ。だから、彼らに疑いが向くのを防ぐため敢えて嘘を吐かせてもらったんだ。ただ、やっぱり君たちはそこで有耶無耶に終わらせるほど友達に対して薄情じゃなかった。だから木山くんにも続けて指紋鑑定を頼んだんだろうね?」

美琴「そ…そうです……でも…」

黒子「木山先生は、指紋鑑定を調べることはおろか、私がやめてほしいと頼んでおいたアンチスキルへの携帯電話の提出を勝手に行いました。それは何故ですの?」

責めるような黒子の言に、ずっと黙っていた木山が口を開いた。

木山「……私は初めから、上条くんたちの仲間ではなかった。本当のことを言うと、君に頼まれた通り指紋鑑定はしたし、実際に上条くんの指紋も出てきたんだ」

黒子「じゃあどうして!?」

カエル医者「僕が止めたんだよ」

美琴黒子「え?」

美琴たち4人の視線が再びカエル顔の医者に向けられる。

カエル医者「僕が事情を説明したんだ。だから木山くんには、君たちに泡浮くんの携帯電話を返さないよう言ってそのままの足で黄泉川くんに渡すよう仕向けたんだ」

黄泉川「…………………」

木山「……先生の話を聞いて私も協力させてもらおうと思ってね。君たちには冷たい対応をしてしまったことは謝るよ。別に許してもらわなくても構わんがね」

美琴黒子佐天初春「………っ」

375 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/04(日) 21:56:52.80 ID:At2rjnk0 [10/17]
寮監「お前ら、黄泉川先生の部隊が12日の夜に、泡浮と湾内の失踪について寮に捜査しに来たのは覚えてるな?」

美琴黒子「!!」

今度は、左端の方から声が聞こえた。寮監だった。

美琴「寮監……」

黒子「……覚えてますが、それがどうしましたの?」

寮監「あの時、お前ら管理人室に来て『依頼した鑑定で誘拐犯と思われる男の指紋は出なかった』と不満気に語ってたよな?」

美琴黒子「………………」

寮監「今だから言うが、その時私は確信したよ。ああ、これはこいつらここで諦めないな、と。もう1度、別の方面に泡浮の携帯電話の指紋鑑定を頼むだろうな、と。だから……」

途中で言葉を切る寮監。それに続けるようにカエル顔の医者が説明する。

カエル医者「だから、それを聞いた僕が上条くんたちに頼んで、君たちが他に指紋鑑定を頼めるような人物がいないか調べてもらったんだ。そうしたら、木山くんの名が浮上してね。彼女とは知り合いだから、僕が直接止めに行かせてもらったんだ」

次々と大人たちは隠されていた真相を打ち明けていく。美琴たちは置いてけぼりを食らわないよう話について行くだけで必死だった。

黒子「……それで、泡浮さんの携帯電話は今どこに?」

黄泉川「一時期は私の部隊が預かってが、後に泡浮本人に返したよ」

今度は黄泉川が言った。

美琴黒子佐天初春「…………………」

結局、彼女たちは裏で繋がった大人たちのいいように動かされ、翻弄されていただけだったのだ。いじめっ子たちに奪われパス回しをされている自分の私物を必死に取り戻そうとするいじめられっ子のように。

初春「あの……黄泉川先生」

おずおずと、初春が小さく手を挙げた。

黄泉川「ん? 何じゃん?」

片目を開け、黄泉川は生徒に質問された教師のように反応した。

初春「先生も初めから上条さんたちの仲間だったんですよね?」

恐る恐る訊ねる初春を、美琴たちは不安げに見る。

黄泉川「そうだが?」

376 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/04(日) 22:02:18.80 ID:At2rjnk0 [11/17]
初春「なら質問なんですけど、実は泡浮さんと湾内さんの誘拐事件を調べるため、2人が誘拐犯……つまりは上条さんと一方通行さんのことでしょうけど……」チラッ

上条一方通行「………………」チラッ

初春「と、とにかく泡浮さんと湾内さんが誘拐犯と思われる暴漢2人に襲われた時の現場の監視カメラの録画映像を調べてみようと思ったんですよね!」アセアセ

黄泉川「……それで?」

初春「それで……泡浮さんたちが言ってた11日付けの現場の第7学区の18番通りの録画映像を見てみたんです。そうしたら、ある2点…初めは16時20分頃だったかな? それで次が多分その5分後ぐらいだったと思いますけど、一瞬、画面が揺れたと言うかノイズが走った記憶があるんです。確か、黄泉川先生にも1度電話で訊ねて聞いたはずですけど……」

佐天「あ、そういえばあったね」

黄泉川「…………………」

初春「その時は先生『たまにこういうことがある』って言ってましたけど、もしかして本当は、黄泉川先生が細工したんじゃないですか…? アンチスキルなら、簡単に監視カメラの映像を見たり出来る権限持ってますし……」

逃亡中の身であった美琴たち4人が、地上を通るために密かに一時的に監視カメラの映像をダミーの映像に切り替えたことがあったからこそ、初春はそのことを思い出したのだった。

初春「違いますか?」

黄泉川「その通りじゃん」

きっぱりと黄泉川は言った。

初春「やっぱり……」

黄泉川「上条と一方通行が泡浮と湾内を襲った時は、珍しく夕方で監視カメラのある一角で試みた誘拐だったからな。まあこいつらは監視カメラの死角は初めから計算して2人を追い詰めようとしたんだが、その時は失敗して泡浮と湾内に逃げられたじゃん」

上条一方通行「…………………」

黄泉川「ま、だから万が一に備えて、その時の監視カメラの映像を細工して、泡浮と湾内が襲われた事実そのものをメディア上から消したんじゃん」

鉄装「実際に細工したのは私ですけどね」

鉄装が申し訳無さそうに横から付け足した。

佐天「あ、あたしも分からないことがあるんですけどいいですか?」

次いで佐天が手を挙げた。

黄泉川「何だ?」

佐天「初春が侵入したアンチスキル本部サーバーから得た誘拐事件資料では、黄泉川先生の部隊の報告では、泡浮さんと湾内さんが失踪したのは18日午前0時30分頃から2時30分頃ってなってましたけど…嘘っぱちですよね? だって、その日その時間帯はあたしたちが上条さんたちと戦ってた時だもん」

黄泉川「その通り嘘っぱちじゃん。お前らがアンチスキル本部の取り調べで『18日午前0時30分頃に上条たちと会っていた』と証言しても、私たち実際に捜査を行った当の部隊が公式報告として『泡浮湾内両名の失踪・誘拐は18日午前0時30分頃~午前2時30分頃に行われた』と記述してるじゃん。普通なら、誘拐を行っていた時間帯にお前らがその当の誘拐犯たちに会えるはずがないと考えるだろ? だとしたら子供であるお前らの証言の信憑性は低くなる。ま、一種のアリバイ作りってやつじゃん」

子供、と言われたことで佐天の顔が少しムッとなる。

黒子「では、実際に泡浮さんと湾内さんの誘拐が行われたのは、11日から12日に掛けてなんですね? 12日の夜にはその件で黄泉川先生の部隊が寮に捜査しに来ましたし」

378 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/04(日) 22:08:44.34 ID:At2rjnk0 [12/17]
黄泉川「ああ。11日の夕方頃だな」

黒子「11日の夕方頃?」

黒子は顔をしかめ、美琴と顔を合わせる。美琴もどこか不思議そうな顔をしている。

美琴「11日の夕方頃……って言うと、ちょうど泡浮さんと湾内さんが誘拐犯の暴漢に襲われそうになった直後で、私が彼女たちをジャッジメント支部に連れてった時間帯じゃ……」

黒子「それで確かその時は、隣の支部が爆発事件に巻き込まれたとかで、黄泉川先生の部隊が私たちの支部に警護にやって来た時でしたわよね……?」

と、そこで美琴と黒子の表情が変わった。

美琴黒子「まさか!!!」

黄泉川「ああ。お前らが今想像した通りじゃん」

佐天「え? どういうことですか?」

初春「な、何ですか? 一体?」

鉄装「えっとね、11日の夕方、隣の学区のジャッジメント支部爆発事件を受けて、私たちの部隊がジャッジメント第177支部の警護のために出向いたでしょう?」

鉄装は、分かりやすくゆっくりと説明する。

佐天初春「は、はい……」

鉄装「その時、泡浮さんと湾内さんも支部にいたでしょう? 彼女たちを寮まで車で送って行ったのは誰かな?」

佐天初春「あ……」

ゆうやく2人も気付いたようだった。

黄泉川「彼女たちを寮に送る、とお前らに言っておいて実際は上条たちに途中で引き渡してた、ってことじゃん」

寮監「私とも話はついていたからな。黄泉川先生と口裏を合わせて、翌日の事件発覚時には、常盤台の教師やお前らに『昨夜、アンチスキルの黄泉川という方にわざわざ2人を送っていただいた。その後の巡回の時には部屋にいた』と嘘を吐かせてもらった」

謎が解けたように、美琴たち4人は納得した顔をする。

黄泉川「私の部隊なら、管轄から考えてお前らの支部の警護に就かされることは大体予想が着いてたじゃん。お前らの行動を監視するためにも、ちょうど良いだろう、と考えていたんだが、まさか初っ端からお前らの支部で上条たちが取り逃がした泡浮と湾内に会えるとは思わなかったからな。偶然だったが、御坂が私に2人を送るよう頼んできたし、都合が良かったのでそのまま車で彼女たちを連れ出したってわけじゃん」

黒子「では、わざわざ泡浮さんと湾内さんの誘拐事件に報道管制を敷いたのは……」

黄泉川「ああ、さっき説明した日付の矛盾が、事情を知る寮内関係者にバレないようにするためだ。報道されてないことに疑問を抱いてアンチスキルに問い合わせても、門前払いを受けるように仕向けてもある」

黒子「本当に、やってくれますわね……」

寮監「私も、寮内でことごとくお前らの行動を止めようとしていたんだがな……私の手ではじゃじゃ馬は扱いきれなかったようだ」

黒子「こっちの気も知らないで……」

380 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/04(日) 22:13:54.95 ID:At2rjnk0 [13/17]
美琴「でも道理で寮監も黄泉川先生も見張りの警備員たちもみんな、執拗に私たちの行動を制限しようとしてたわけだわ」

黄泉川「私はお前らの推理力に感服するじゃん。私らが全部白状するまでにそこまで大体の予想を組み立ててるなんて、本当、子供ってのは成長が早いもんじゃん」

美琴「ふん。さんざん言ってくれて……」

ともあれ、これで美琴たちが抱いていた疑問はほぼ解決した。
だが、まだ肝心なことは聞いていない。

美琴「って、そうじゃないわ。私たちが本当に知りたいのはその先!」
美琴「答えなさい! 私たちの友達はどこにいるの!? そして何であんたたちはこんなことをしでかしたのか!!」

美琴は責めるように、あるいは罵倒するように大人たちを指差して質問する。しかし、その視線は正面の上条に据えられていた。

上条「…………………」

黒子「そうですわ! 本当に生きているのなら、今、固法先輩たちがどこにいるのか教えてくれないと信用出来ませんの!」

佐天「あたしたちのこと散々馬鹿にして……。答えない、とか言ったら許しませんよ!!」

初春「一刻も早く、みなさんの無事を確かめておきたいんです!!」

美琴「言いなさい!!」

美琴の最後の言葉はほぼ怒号だった。

上条「外だよ」

美琴「なに?」

ずっと黙っていた上条が久しぶりに口を開いた。しかし彼がたった今言ったその意味を瞬時に理解出来なかったのか、美琴は怪訝な顔をした。
それを汲んだのか、上条は分かりやすいように更に言葉を付け加えた。

上条「御坂たちの友達が今、どこにいるか。彼女たちは……」





上条「学園都市の『外』にいる」





美琴黒子佐天初春「!!!!!?????」

381 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/04(日) 22:19:29.27 ID:At2rjnk0 [14/17]
美琴「何ですって!!??」

黒子「学園都市の……」

佐天「『外』……?」

初春「『外』ってつまり、学園都市にはいないってことですか!?」


上条「そうだ」


4人たちを見つめ、上条はきっぱりと重い声で言い切った。

一方通行御坂妹打ち止め「…………………」

美琴「な……な……」
美琴「ど、どうして? 何で学園都市の『外』なんかにいるの? い、意味分かんないわよ!!」

黒子「貴方の仰ることが本当だとしても、学園都市の外に出るのがどれほど難しいか承知していますか?」

上条「…………………」

上条は喋らない。まるで何か躊躇している感じだった。

一方通行「ふン」

そこへ御坂妹が上条の耳元に近付き、ヒソヒソと何事か囁き始めた。

美琴「!?」

御坂妹「ここから先は核心に迫ります。もし話し辛いならミサカが代わりに彼女たちに全てを打ち明けますが、とミサカは助言します」ヒソヒソ

上条「………いや。俺が首謀者だったんだ。俺が直接話さなきゃ、意味がない」ヒソヒソ

チラッと美琴を窺う上条。

美琴「!」

御坂妹「分かりました」

上条の耳元から御坂妹は離れる。

上条「……すまん待たせたな。こっからが大事な話なんだ」

美琴「……さ、さっさと言いなさいよ」

上条「ああ」

383 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/04(日) 22:24:32.63 ID:At2rjnk0 [15/17]
上条は1度、深く目を閉じる。ゴクリ、と美琴たち4人は喉を鳴らす。
そして上条が再び目を開けたと同時、彼は話し始めた。

上条「お前ら、最近こんな噂聞いたことあるか? 『学園都市内部で内紛が起こる』とか『学園都市のXデーは間近』だとか……」

佐天「……それなら、耳にタコが出来るほど聞きましたけど」

初春「学生たちの間でもよく流れてました」

黒子「ネット上の掲示板でもしょっちゅう見かけましたわね」

美琴「でも、それが何だって言うの? 所詮は噂でしょ? そりゃあ今、学園都市中でテロとか要人暗殺とか連発してるけど」

初春「そうそう。それで確か学園都市全校に休校措置がとられたままなんですよね?」

佐天「何でも今、学園都市には世界中のテログループや秘密結社、過激新興宗教団体、他にもどっかの特殊部隊だのが紛れ込んでる、って話だったっけ?」

思い出すように、美琴たち4人は噂の内容を語る。

上条「その噂は実は、俺たちが流したんだ」

美琴黒子佐天初春「え?」

4人の視線が一斉に上条に向けられた。

美琴「……ま、待って。…あ、あんたが発信元だったの?」

黒子「……言っておきますけど、事件やテロが起きてるのは事実ですが……上条さん、根拠の無い、人々を無駄にパニックに陥らせるような噂を流せば、場合によっては罪に問われますわよ」

上条「ああ、知ってるさ。ただしそれは………」


上条「  噂  が  嘘  だ  っ  た  場  合  だ  ろ  ?  」


美琴黒子佐天初春「!!!!!」

384 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/04(日) 22:29:27.94 ID:At2rjnk0 [16/17]
黒子「……どういうことですの?」

初春「まさか、その噂が実は本当だったとか……じゃ、ありませんよね?」

急に真剣な顔つきになる4人。しかしその表情はどこか不安気だ。

上条「そのまさかだ。噂は本当なんだ」

美琴「そんな!?」

佐天「じゃ、じゃあ……あの連日起こってるテロや要人暗殺は全て……」

上条「ああ。実際に学園都市に潜入してるテロリストや秘密結社、特殊部隊、他にも傭兵といった連中が起こしてる」

美琴「……ウソ……」

上条「本当だ」

美琴たちは愕然としたような顔をする。取り敢えず彼女たちは上条の次の言葉を待っているようだ。

上条「過去にもそう言った連中は学園都市に潜んで人目のつかないところでチマチマと工作活動(サボタージュ)してたんだが……今回はその規模が違う。断言させてもらうが……」





上条「  学  園  都  市  は  、  じ  き  崩  壊  す  る  」







385 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/04(日) 22:35:03.46 ID:At2rjnk0 [17/17]
美琴「なん……」

黒子「…ですって!?」

佐天「は、はぁ? な、何言ってるんですか???」

初春「そんな見え透いた嘘はやめて下さいよ。この学園都市が崩壊?? あ、有り得ませんって」

4人は、上条が告げた真実を必死に否定しようとする。しかし………

一方通行「……………けっ」

御坂妹打ち止め「…………………」

上条以外の人間に注意を向けてみると、何故か全員含みを持ったような顔で押し黙っている。

大人たちはどこかやり切れない、という感じで各々があらぬ方向を向いている。美琴たちが上条の言葉の真意を確かめようとする素振りを見せても、誰も視線を合わせてこなかった。
その行為は暗に、上条の言葉に真実味を持たせているようなものだった。

上条「ほら、お前ら、俺たちを倒すために監視衛星の管理センターを乗っ取ったって言ったろ?」

初春「!」

上条「あれは、センターのセキュリティが甘くなってたから乗っ取れたんだと思うが、それ以前にセンター自体がまともに機能してないんだよ。みんな、学園都市崩壊の兆しを察して、ある者は逃げ、ある者は仕事を放り出したんだ」

美琴黒子佐天初春「…………………」

唖然となる4人。

美琴「……ふ…ふふふふふ。何言ってるのあんた? 正気? 今まで何度もそう言った危機に遭ってきた学園都市が!! そんな簡単に崩壊するはずがないでしょう!? 世界が滅んでも、唯一生き残ってそうなこの街が……」

黒子「…お姉さまの言う通りですわ! どこから仕入れた情報かは存じませぬが、貴方がたのほうがその情報に惑わされている、といった可能性もあるでしょう!?」

初春「これ以上、お願いですから、私たちを小馬鹿にしないで下さいよ……」

佐天「そうだよ……。冗談にしても程があるよ……」

学園都市は彼女たちの生活の基盤、そして能力者である証。今後、長年付き合っていくはずである街が、人生とも直結する街が、崩壊するなど彼女たちにとっては最も考えられないことだった。
目の前にいる9人の誰かが「嘘だ」と言ってくれればそれでいい。それでいいはずなのに、誰も口を開かない。沈黙が続けば続くほど、上条の言葉に真実味が増してくる。

美琴「誰か答えてよ!!!」

しかし、誰も無言のままだ。

カエル医者「……君たちは……」

これ以上美琴たちを放っておけなかったのか、耐えかねたかのようにカエル顔の医者が口を開いた。

カエル医者「………君たちは、アレイスター=クロウリーと言う人物を知ってるかな?」

386 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/04(日) 22:42:03.85 ID:iIqeVyY0 [1/5]
カエル顔の医者はそれだけ質す。

美琴「……アレイスター……」

黒子「……クロウリー?」

佐天「…誰ですかそれ?」

初春「…外国の方ですか?」

カエル医者「君たちとも深い関わりがある人物だよ」

目を伏せながら、カエル顔の医者は説明を続ける。しかし、美琴たちは分からないようだった。

美琴黒子佐天初春「????」

カエル医者「この学園都市の、最も偉い人だよ」

黒子「…最も偉い? …と言うことは……」

美琴「統括理事長!!」

佐天「え!? そうなんですか? あたし、その人のこと一度も見たことありませんよ」

初春「……私も知りませんでした」

カエル医者「知らなくて当然。いや、能力者と言えど君たちのようなまだ普通の女子中学生は知らないほうがいい、と言えばいいのかな?」

美琴黒子佐天初春「??」

一方通行「オマエらとは住む世界の全く異なる人間だ。色ンな意味でな」

不意に、一方通行が発言した。

一方通行「あンなヤロウのこと、オマエらが無理して覚える必要は無ェ」

打ち止め「…………………」

美琴「………?」

腕組みをしたまま、明後日の方向に視線を向け呟く一方通行。
何故彼がこの地点で突然、話に割り込んだのか。それは分からなかったが、妙にその口調には美琴たち4人を気遣うような感じだった。
美琴は『絶対能力進化(レベル6シフト)実験』の件から、学園都市上層部が外道で腐り切っていることは知っている。しかし、それがどこまでの規模までかは知らなかった。もしかしたら一方通行は、その統括理事長に苦い思いを味わわされた経験があるのかもしれない。

美琴「……そ、それで、その統括理事長がどうかしたの?」

取り敢えず美琴は次を促してみた。

カエル医者「まあ、その男はずっと色々と怪しいプランを進めていたわけなんだけどね……」

388 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/04(日) 22:47:51.73 ID:iIqeVyY0 [2/5]
佐天「怪しいプランって何です?」

一方通行「………っ」ギロリ

佐天初春「ひっ」

佐天の言葉を聞いた途端、一方通行が彼女を睨んだ。まるで「興味本位で深く突っ込もうとするな」と言っているような目つきだった。

カエル医者「……やれやれ。まあそうなんだが、その男、ある日長年温めていたプランを全部放り出してしまってね。旧知の仲である僕でも彼が何故そうしたのかは全くもって分からない。ただ、彼のその突然の行為が原因で今の学園都市の惨状があるのも事実なんだ」

美琴「アレイスター=クロウリーね………」

まるで恨みが篭ったような声で美琴はその名を呟き、そして訊ねた。

美琴「そいつは今どこに?」

明らかに美琴の口調が変わった。彼女がここでアレイスターの居場所を聞いた意図は大体、予想がつく。

一方通行「…………………」

上条「…………………」

カエル医者「残念だが、君が動いたところで何も出来やしないよ?」

美琴「何ですって?」

一方通行「…………ふン」

カエル顔の医者の発言には2つの含みがあった。
それは、最強の超能力者・一方通行ですらアレイスターの前では手駒だったことを考慮した上でのこと。そしてもう1つ。





カエル医者「だって僕が彼を殺したからね」





美琴「………………は?」

395 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/04(日) 22:54:57.10 ID:iIqeVyY0 [3/5]
美琴「……は? は? えーーーーーーーっ!!!???」

カエル医者のあまりの唐突の告白に、美琴は間抜けな声で叫んでいた。

黒子「せ、先生が統括理事長を殺したと仰るのですの!!??」

カエル医者「ああ」

佐天「えーっと…それって……」

初春「事実上、学園都市のトップの人がいなくなっちゃったってことですよね?」

カエル医者「まあ、そうなるかな?」

美琴「(ゲコ太が人を……それも昔からの知り合いを殺したの?)」

佐天初春「へ、へぇ……」

普段、世話になっている名医が殺人を犯したという事実に衝撃を覚える4人。
しかし、彼女たちはアレイスターのほうについては深く考えない。どうも彼女たちにはアレイスターという人物が殺されることが、彼に振り回された人々にとってどれほど想定外のことなのか理解出来ないらしい。

カエル医者「全くもってふざけた話だよ。自分でこんな街を作って怪しいプランを立てておきながら、いきなりそれを放棄するんだ。その挙句、学園都市を崩壊させようだなんて、まるで遊びに飽きた子供が『いらない』と言って積み木をぶっ壊してしまうみたいなもんだ」

愚痴を零すようにカエル顔の医者は話を続ける。

カエル医者「だから彼の元まで行って真意を訊ねてみたんだよ。本当の理由は結局曖昧にして教えてくれなかったが、学園都市を破壊するのは本気だったらしくてね? 彼を無理矢理フラスコから出して、即効性の毒薬を注射させてもらったよ」

美琴黒子佐天初春「…………………」

4人は「フラスコって何? 科学の実験に使うフラスコのこと?」と言った表情を浮かべる。

カエル医者「僕自身、彼があんなにあっさり死ぬとは思わなくてね? まあ彼は1度過去に大きな挫折をしてるからね。どんなに人智を超えたように見えても所詮は彼も人間だったということだ」

一方通行「俺は今もアイツがどこかで飄々と生きてて、身内で滅ぼし合ってるこの現状を見て平気で笑ってるような気もするがなァ……」

冗談では無く、さもありなん、といったような感じで一方通行は言う。

396 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/04(日) 22:59:45.09 ID:iIqeVyY0 [4/5]
カエル医者「まあ……数年後、どっかでバッタリ会いそうな気もするよね? ただまあ、この学園都市においてはもう彼自体の脅威は去ったと見てもいいだろう」

黒子「……しかし、現状は学園都市は毎日のように事件が起きている始末です」

美琴「結局はその統括理事長の思惑通りってことじゃない」

一方通行「そうだなァ。アイツの最後っ屁の処理なンてドロドロにクソ汚くてやりたくなかったが……」

ニヤニヤと笑ってそう語る一方通行を見て、美琴たちは嫌な顔をする。

打ち止め「あ、コラ! レディの前でそんな汚い言葉使わないの!」

一方通行「あ? 悪ィ悪ィ」

カエル医者「そうなんだよ。彼自体の脅威は去っても彼が残した脅威の芽は摘み取られていないんだ。だから……」





上条「だから俺たちがその残された脅威を取り除くために立ち上がったんだ」





上条が言った。右拳を握りながら……。

465 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/05(月) 21:48:21.38 ID:CEQvaq60 [2/13]
上条は言う。右拳を握りながら。

上条「だから俺たちがその残された脅威を取り除くために立ち上がったんだ」

美琴「……………(あいつ……)」

黒子「……そうですか。事情は大体分かりました。それで、その残された脅威の芽はやはりこの現状、そしてそこから導かれる『崩壊』という結末なのですか? 私たちとして、その辺りは詳しく知りたいと思っているのですが」

上条「分かった。それを今から説明する」

美琴たちは上条の言葉に耳を深く傾ける。

上条「アレイスター=クロウリー統括理事長がいなくなった以上、現在、学園都市に残ってる連中は所詮小物ばかりだ。だが、その小物が今は、全ての黒幕となっている」

美琴「全ての黒幕?」

上条「ああ」

黒子「それは一体誰ですの?」

上条「科学者たちだよ」

美琴黒子佐天初春「!」

黒子「科学者……つまりは研究者の方々ですか?」

上条「ああ。統括理事長も死んで、統括理事会も殺されたり逃げたりして実質上機能が停止し、研究者の一部が暴走を始めたんだ。そこへ、他国の特殊部隊やら傭兵やらゲリラやらテログループだのが密かに学園都市崩壊の噂を聞きつけ、この機会を逃さんと学園都市に乗り込んで来て、テロや要人暗殺とか好き勝手やってるんだ」

佐天「それってつまり、研究者と『外』から来たテログループたちが争ってる、ってことですよね?」

上条「そうなるな」

初春「研究者の方々がどのように暴走しているかは知りませんけど、『外』から来た凶悪犯を止めようとしてるのは確かなんじゃないですか?」

上条「いや、そんな単純な構図でも無くてな」

御坂妹「『外』から来た凶悪犯たちと対立してるのは、自分たちの利益が失われるのを恐れてのことです。別に学生たちを守るといった使命感があるわけでありません、とミサカは説明します」

佐天「じゃあ、その研究者たちの利益って何です?」

上条「学園都市の学生たちだ」

美琴黒子佐天初春「?」

美琴「どういう……」

上条「アレイスターが残した脅威の芽。それは、学園都市に残った科学者たちにその権利を明け渡すことだった。その中身は『学生たちを自由にしてもらっていい』というふざけたもんだった」

美琴黒子佐天初春「!!!!!!!」

466 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/05(月) 21:54:30.98 ID:CEQvaq60 [3/13]
御坂妹「つまりは『学園都市の学生を使ってどんな実験をしても自分はもう知ったところではないから好きにしろ』ということですね。しかも学園都市の提携機関から密かに莫大な費用が支払われるとかで、私利私欲に走った研究者たちが血眼になって我先にその状況を確立しようと試みてるようです、とミサカは詳細説明します」

佐天「ちょ、ちょっと待って下さいよそれ!!」

黒子「そうですわ! 勝手過ぎます!!」

初春「人権無視にもほどがあります!!」

美琴「…………………」

彼女たちはまるで、上条たちが当の黒幕であるように攻め立てる。

一方通行「ふはは。こりゃァ傑作だわ…ククク」

黒子佐天初春「!」

その時、一方通行が笑みを零した。黒子と佐天と初春はそんな彼を睨む。対して、一方通行は気にしていない、という感じで組んでいた両腕をソファに広げるようにして言った。

一方通行「なァ、超電磁砲?」

美琴「…………………」

佐天「ふざけないで下さいよ! 何がおかしいんですか!!」

一方通行「オマエらの抗議があまりにも現実知らずだったからなァ。『人権無視』だと? この学園都市に自分で来ておいてよくそんなこと言えるなァ。ンなもン、この街の学生にあって無いようなもンだ」

打ち止め「アナタ!」

一方通行「事実じゃねェか」
一方通行「新手の詐欺ばりに胡散臭いキャッチコピーに惹かれてよォ……まだガキの身でわざわざ親元離れてこの学園都市にやって来たのはオマエらだろうがァ。それとも何だ? で、身に付いた能力はどうだ? オマエらに幸福だけをもたらしたのか?」

美琴「…………………」

一方通行「学園都市に来なけりゃ、暗部の世界に浸ったりスキルアウトになることも無かった連中がどンだけいると思ってる?」
一方通行「特に無能力者なンて可哀想だよなァ? そンだけしておきながら、周囲から期待を寄せられておきながら、なーンにも身に付かないなンて。来ただけ無駄、って奴だ」

佐天「あ…あたしはそんなんじゃありません……! 友達もたくさん出来ましたし……」

泣きそうな目で佐天が訴えた。

一方通行「ま、能力者だろうが無能力者だろうが関係ねェよ。オマエら……いや、俺たち学生はなァ『モルモット』なンだよ!!」

黒子「!!」

佐天「!!」

初春「!!」

一方通行の断言に、3人は絶句した。

468 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/05(月) 22:00:41.67 ID:CEQvaq60 [4/13]
初春「……そりゃ、私たちはある意味で学園都市の実験に付き合ってるってことになります。でも『モルモット』は言いすぎなんじゃないですか?」

一方通行「おい超電磁砲、あンなこと言ってるぜ、オマエの友達」

美琴「…………………」

俯き加減で美琴は一方通行を、そして次に御坂妹をチラッと見た。

御坂妹「………………」

一方通行「超電磁砲、オマエは知らないとは言わさないぜ。オマエは学園都市の闇の一端…『絶対能力進化(レベル6シフト)実験』に不本意な形とは言え関わってたンだからよォ」

美琴「………………」

御坂妹「………………」

打ち止め「………………」

上条「………………」

当事者たちの間に、彼らだけしか理解できない空気が流れる。
それを感じ取った黒子たち3人は、美琴から先日語られた『絶対能力進化実験』や『妹達』の中身を思い出す。

黒子「……だからとは言え」

一方通行「オマエらも、直接触れてないにせよ、その一端は垣間見たはずだ。『置き去り(チャイルドエラー)』の件でなァ」

黒子佐天初春「………っ」

木山「ふん」

彼女たちは思い出す。とある実験とそれが生み出した悲劇を。そしてその黒幕の女の言葉を。

一方通行「今更、何も知りませンでしたなンて面すンじゃねェ! この学園都市に来た時点で暗に分かってたはずだろうがァ! 自分たちは『モルモット』でもあるとなァ!!」

叫ぶ一方通行。

打ち止め「………………」

黒子たちは怯えるように僅かに肩を震わせたが、一方通行の怒りは本当は彼女たちに向けられたものではなかった。そんな彼を見て、打ち止めは悲しそうな顔を浮かべた。

上条「もうやめろ一方通行。あいつらに八つ当たりしても大人気ないだけだ」

打ち止め「そうだよ一方通行。お姉ちゃんたちに非はないよ、ってミサカはミサカはなだめてみる」

一方通行「………チッ」
一方通行「まァ怒鳴ったのは悪かったな。こっちも散々嫌な目に遭わされたからなァ。今になって簡単に全てを放り投げられて苛立ってただけだ」

黒子佐天初春「………」

469 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/05(月) 22:06:44.40 ID:CEQvaq60 [5/13]
美琴「……その苛立ち、ってのは私が接触してたスキルアウトにも向けたの?」

一方通行「あン?」

唐突に、美琴が一方通行に訊ねた。まるで何かを責めるように。

美琴「忘れたなんて言わせないわよ。私があんたたちの情報を得るために接触してたスキルアウトを見せしめに虐殺したのはあんたでしょ!!」

一方通行「………………」

美琴「何よ? 答えられないの?」

何も答えない一方通行を横目で窺っていた黄泉川が1つ溜息を吐くと代わりに話し始めた。

黄泉川「確かに、我々がスキルアウトを雇ってたのも事実だし、一方通行が奴らを虐殺したのは事実だ」

美琴「!」

黄泉川「だがあれは何もお前らへの見せしめのためじゃなかったじゃん」

美琴「え?」

黄泉川「これは私たちアンチスキルでも知らなかったことだが、奴らを雇って協力させてるうちに、奴らが今までこの学園都市でやってきたことが明らかになってな。何でも、仕事のためとはいえ、何の罪も無い一般の学生を殺してたことが発覚したじゃん」

美琴「あ……」

そう言えば、2週間前に上条たちと戦った時に、一方通行がそんなことを言っていた気がする。

黄泉川「そのまま放っておけば、また凶行を起こしかねない、と思って何とか私たちがアンチスキルの立場から対処しようとしたんだが、その前に……」

黄泉川が1拍置いて言う。

黄泉川「これ以上犠牲者が増えるのを危惧した一方通行が独断で奴らをヤりに言ったんじゃん」

一方通行「………………」

美琴「そ…そうだったの?」

黄泉川「気付いた時には時既に遅し。仕方がないから、私たちの部隊が取り敢えず奴らのアジトに突入するだけして、そこに落ちてた御坂の髪の毛を、お前らを動けなくするために利用させてもらったわけじゃん」

美琴「………………」

打ち止め「だから本当は一方通行はお姉さまたちへの見せしめのためにやったわけじゃないんだよ? まあそれでも勝手に動いて勝手に殺しちゃったのは早急すぎる機もするけど、ってミサカはミサカは一方通行にちょっと恐い顔で睨んでみる」

一方通行「ふン」

美琴黒子佐天初春「………………」

結局スキルアウトの虐殺は、美琴たちへの警告でも見せしめでもなく、一方通行が自分の信念に従った結果だったのだ。確かに、方法が過激だとは言え、これ以上無駄に学生たちの犠牲者が増えることがなくなったのも事実だった。

470 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/05(月) 22:12:30.54 ID:CEQvaq60 [6/13]
一方通行「まあいい。上条、話続けてやれ」

上条「ああ。……と、どこまで話したか」

御坂妹「研究者たちが利益のために動き始めてる、というところまでです、とミサカは耳打ちします」

上条「そうだったそうだった」

上条は話を再開する。再び美琴たちが彼の話に耳を深く傾ける。

上条「で、問題はここからなんだ」

美琴黒子佐天初春「?」

上条「対立する研究者と『外』から来た連中。これだけならまだ、分かりやすい構図なんだが、ある時この関係に変化が生じたんだ」

美琴「変化?」

上条「ああ。研究者の一部が、『外』から来た連中の一部と組みやがったんだ」

美琴「……? それって……」

上条「武力で勝てないと判断した研究者が、敵対してる連中に密かに呼びかけたんだ。で、即席とはいえ、利害の一致した一部の奴らが手を組み、その勢力が現在進行形で大きくなっている」

そう説明した上条だったが、美琴や黒子は不思議そうな顔をした。

黒子「……いえ、おかしくありませんか? 元々『外』から来た方々は、学園都市のやり方や存在が気にいらずに破壊工作を行っていたのでしょう? 研究者たちと手を組むなんて、仲間を裏切る行為ではありませんか?」

上条「言ったろ。利害が一致したんだ。何も『外』から来た連中が全員、信念を持って学園都市の破壊活動を行ってるわけじゃない。と言うのも、中には雇われただけの人間も多いからだ。他にも、嫌々付き合わされてる奴もいるはず」
上条「研究者たちはその隙をついた。何しろ、学園都市の秘密技術も手に入れられるし、人によっては憎しみの対象だった能力を持つ学生を『実験の協力』を建前に、自分の良い様に出来るんだ。そればかりか、研究者側の仲間になれば、学園都市提携機関からの莫大な投資の恩恵だって貰うことが出来る。そうして、研究者たちは一部の寝返ったテログループ、傭兵、ゲリラ、特殊部隊隊員、秘密結社メンバーなどと多国籍の一代勢力を築きつつあるってわけだ」

それが学園都市の現状だった。
目を丸くして話を聞いていた美琴たちは、やがて各々が思っている感想を口に述べた。

美琴「何よそれ……。結局、自分の目的より金のほうが大事、ってこと?」

佐天「腐ってますね思考が」

御坂妹「まあお姉さまの言う通りですね。でも、当然ながらいまだ研究者側と対立する組織も多いです。これからはその2者の衝突も増えることでしょうね、とミサカは推測してみます」

黒子「信じられませんわ。私たちの知らない間にそんなことになってたなんて……。当の学生は蚊帳の外ですか」

初春「結局、私たちは研究者の人たちに好き勝手されるか、『外』から来た人たちに殺されるのかの二者択一しかないんですか?」

悔しそうな表情を浮かべる黒子に対し、初春は今にも泣きそうだ。美琴と佐天は今にも怒り出しそうな雰囲気がある。

上条「だからだよ。そんなふざけた争いに巻き込まれないように、俺たちは学生たちを誘拐して学園都市の『外』に逃がすようにしたんだ」

美琴「……でも、いくら何でも『外』まで逃がすだなんて大袈裟じゃ……。それともいつか戻ってくるの?」

471 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/05(月) 22:19:08.31 ID:CEQvaq60 [7/13]
上条「違う。初めに言っただろ? 『学園都市は、じき崩壊する』って。もう、終わるのが決まってるんだよ」

黒子「そんな根拠の無い……」

佐天「そうですよ。やっぱり学園都市が崩壊なんて信じられません」

上条「敢えて言うなら現状が根拠だ。それに……恐らく1ヶ月ぐらい先だろうが、研究者側が対立する全ての組織に総攻撃を加える計画情報も掴んでる。そうなりゃもう学園都市はもたない」

美琴「研究者研究者言ってるけどさ、私たち学生をどうにかするにしても、対立する組織に総攻撃を加えるにしても、ただの実験しか出来ない人たちに何が出来るって言うの? 手を組んだ過激派連中に裏切られて銃で撃たれたら終わりじゃない」

当然の疑問を放つ美琴。しかし、そこで会話が途切れた。

美琴黒子佐天初春「?」

急に誰も返答を寄越さなくなったのだ。美琴たちはそんな上条たちを見て不審を覚える。

美琴「な、何よ? みんなして急に黙っちゃって……」

上条「御坂、もう研究者たちは“ただの”研究者じゃないんだ……」

やがて、上条が口を開いた。

美琴「はぁ?」

カエル医者「きっと彼ら、アレイスターから何らかの助言を受けたんだろうね?」

上条「ぶっちゃけ言わせてもらうとだが……」




上条「一部の研究者たちが能力者になってるんだ」




美琴黒子佐天初春「!!!!!!??????」

474 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/05(月) 22:24:28.53 ID:CEQvaq60 [8/13]
美琴「は? ど、どういうことよそれ!?」

黒子「嘘は仰らないで下さいません!? 能力は学生しか得られないものでしょう?」

カエル医者「そうとも限らないんだよね? 一応年齢制限は設けてるだけで。ただ実際に試した大人がいなかったから、どうなるかは分からなかったんだよ? 危険もあるだろうしね」

初春「でも能力者になるには『自分だけの現実(パーソナル・リアリティ)』を認識することが必要不可欠じゃないですか!?」

佐天「そ、そうだよ。研究者の人たちはそれを認識した上で能力者になったとか言うの? いや全然信じられないですけど」

4人は狼狽するように反論する。
彼女たちにとって、『能力者』であることは学園都市の学生でもある証なのだ。それを、同じ街の住人とは言え、今まで能力に目覚めてなかった大人たちに横取りされるのは信じたくなかったのだ。

上条「そこまで詳しいことは分かってない。ただ、俺たちは実際に能力を使った研究者もこの目で見てる」

美琴黒子佐天初春「………………」

一方通行「アレイスターのヤロウが何らかの反則的な助言を研究者どもにしたのは確かだな。ま、中には能力使って自爆したヤツもいたし、俺たち学生が使うようなものほど洗練されてなくて不安定なのは見て分かる」

上条「問題はその即席で能力を手に入れた研究者たちが、いち早く『実験材料』を得るため密かに学生たちを拉致してることだ」

美琴「………拉致?」

ここで止まっても意味は無いので、美琴は訊ねてみた。

上条「ああ……報道もされてないが、今現在も研究者たちに拉致されてる学生がいる」

美琴「それって……」

黒子「そんなこと知りませんでしたわ……。それは本当ですの?」

上条「本当だよ。分かっただろ? 学園都市の現状が。こんな酷いことが実際に行われてるんだ。上層部の連中がいなくなって暴走してんだよ」

初春「じゃあもう……私たちは、実験材料にされるか、『外』から来た人たちに殺されるかないじゃないですか……」

絶望したように初春が言葉を震わせて言う。彼女に影響されたのか佐天も顔を蒼ざめた。

上条「だからこそ、だ。だからこそ俺たちが学園都市の学生を『外』に逃がしてるんだ」

その一言に、美琴たちはまたも押し黙る。

一方通行「最初はよォ、何とかして研究者どもを止めようと思ったンだわ。で、出来る限り戦力集めて対策も練りに練ったンだよ。が、想像してた以上にヤツらも強くてなァ……。ま、簡単に数の差ってのもあるンだが、圧されに圧されて今じゃ、俺たちの組織も弱体化したってわけだ」

佐天「警備員(アンチスキル)は?」

一方通行「ン?」

初春「そ、そうですよ! 警備員(アンチスキル)は何をやってるんですか!?」

475 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/05(月) 22:30:25.04 ID:CEQvaq60 [9/13]
自然に彼女たちの視線が、左端の2人に注がれた。

黄泉川「…………………」

鉄装「……そのことだけどね」

佐天と初春に訊ねられ、鉄装が何か説明しようとしたが、それより先に黄泉川が懐から1つの紙を取り出しそれを広げて見せた。

美琴「何ですかそれ?」

黄泉川は目を瞑ったまま説明を始める。

黄泉川「アンチスキルの情報部に密かに回された命令書じゃん。『アンチスキル第73活動支部・黄泉川一等警備士、鉄装二等警曹、および右の者が指揮する中隊に注意されたし』」

美琴「どういう意味ですか?」

鉄装「つまりね……」

黄泉川「アンチスキル上層部も、研究者たちとグルってわけじゃん」

美琴「なっ!?」

黒子「そんな馬鹿な!?」

黄泉川「アンチスキル上層部の動きが怪しいと踏んで、密かに探りを入れてたのがアダになったじゃん。確証までは得られてないだろうが、私たちが上条たちの仲間であることは、ある程度バレてるかもな」
黄泉川「結局はそういうこと。街の治安を司る組織の上の連中まで奴らに与してたなら街の安全なんて、ろくに守られないも当然」

4人は驚愕したように言葉を失くす。しかし美琴は何かを思いついたように訊ねた。

美琴「ちょっと待ってよ……。それってつまり、黄泉川先生の部隊はアンチスキル上層部と対立してるってことですよね?」

黄泉川「そうだが?」

美琴「つまりは、学園都市の『外』に学生たちを逃がしてるのも大体バレてるのよね?」

黄泉川「……まあ、恐らくはそうなんじゃないのか?」

美琴「なら、どうしてアンチスキルは、私たちが謹慎を受けた時、私を支部へ移送してまで束縛しようとしたの?」

黒子「…確かに、立場が違うとは言え『誘拐犯を追っていた』のは事実。もしかしたら私たちから有力な情報を得られたかもしれないのに。逆効果になるようなことをしてますわね」

美琴に続き、黒子も疑問を口にしてみる。

黄泉川「支部へ移送を決定したのは私だ。うちの支部はまだ上層部に掌握されてなかったし、潜り込んでる敵のスパイも少数だったから、何なら御坂を一時的に私の目が行き届く支部で預かろうと思っただけじゃん」

美琴「なっ………」

黒子「ハァ…。まあ大方分かりましたわ。どちらにしろ、固法先輩たちは今も『外』で生きているのですね?」

476 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/05(月) 22:36:25.79 ID:CEQvaq60 [10/13]
上条「ああ、そこは安心しろ。日本政府がバックについているNGOとかの連合団体が彼女たちをちゃんとした施設で匿ってる。だから心配するな」

その言葉を聞き、黒子たちは表情を緩ませた。

佐天「良かったー」

初春「ホッとしました~」

黒子「取り敢えず、先輩たちの安否を確認出来ただけでも一安心ですわね」

3人は本当に安堵したかのように顔を見合わせ、笑顔を浮かべる。
しかし、1人だけはまだ納得出来ないような顔をしていた。

上条「どうした御坂?」

美琴「…………………」

上条「まだ聞き足りないことがあるか?」

美琴「ねぇ………」

俯き、膝に置いた拳を握りながら美琴は言う。

上条「?」

美琴「つまりは、あんたたち、学園都市の学生たちをこれから起こる惨状から回避させるために誘拐してたのよね?」

上条「? そうだけど?」

美琴「なら1つだけ提案があるんだけど……」

黒子「お姉さま?」

佐天初春「御坂さん?」

477 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/05(月) 22:41:30.01 ID:CEQvaq60 [11/13]
美琴は顔を正面に据える。

一方通行「(まさか……)」

打ち止め「(もしかして……)」

御坂妹「(お姉さま……それだけはいけません……)」

何かに気付いた一方通行たちが不安を抱くように美琴の顔を見た。
そんな彼らの心中など気付くはずもなく、美琴は言った。




美琴「私たちにも、協力出来ることない?」




上条「!!!!!!」

不適に笑みを浮かべて美琴は訊ねた。

美琴「ね? どうかな?」

黒子「それは確かに、いいかもしれませんわね。私たちも何かお力添えが出来るかもしれません」

佐天「ですよね! 協力するには人が多い方がいいでしょうし」

初春「私もそう思いますね」

新たに飛び出した目標を前にして、美琴たちは嬉しそうだ。しかし、対する9人の表情は硬い。
そんな中、上条は黙って目の前の4人たちを見据えていた。彼は思う。

上条「(これを恐れてたんだ……)」

478 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/05(月) 22:47:09.96 ID:CEQvaq60 [12/13]
美琴は言う。自分たちも協力したい、と。
現状を知り、驚き、または絶望した彼女たちが提案したのは上条たちへの協力だった。
しかし、僅かに希望を抱き始めた美琴たち4人に対して、事情をよく知る上条たち9人の雰囲気はまるで異なる。どうも、望まぬ形が展開されていることに危惧を覚えているようだった。

御坂妹「本気で言っているのですかお姉さま? とミサカは訊ねてみます」

上条「…………………」

美琴「あぁー? そう言ったじゃない。あんたたちは学園都市を守るため、私欲に走った研究者たち相手に戦ってきたんでしょ? なんなら話は簡単。私たちは戦力になるわ。だから、協力する」

どや顔で美琴は自分の胸を叩いた。
御坂妹は上条は見る。どうやら黙ったまま何か考えているようだ。

黒子「お姉さまは学園都市第3位のレベル5ですからね。これほど頼もしい人材もいないでしょう。私もレベル4ですが、出来ることはあるはず」

初春「私は戦えないですけど、後方支援とかなら出来るかもしれません」

佐天「あたしはそうだなー……バット持って特攻とか? お願いですからあたしだけ仲間外れは嫌ですよ」

もうその気になっているようで、4人は好き勝手に自己アピールを始めている。
御坂妹は相変わらず黙ったままの上条を横目で見、そして彼の頭越しに一方通行と視線を交わした。

一方通行「アホかオマエら。誰がオマエらなンて戦力に入れるなンて言ったよ」

美琴黒子佐天初春「!?」

急に一方通行が4人を突き放すような発言をした。

美琴「な、何よそれ? どういう意味?」

黒子「私たちが役に立たないとでも?」

一方通行「相手は、ただの研究者じゃねェンだぞ。俺たちみたいに能力を得てやがるンだ。しかもなァ、厄介なのはそれだけじゃねェ。アイツら、仲間に『魔術師』も加えてやがるンだぞ」

は? というように美琴たち4人の顔がキョトンとなった。

美琴「魔術師?w」

上条「…………………」

一方通行「さっきは言及しなかったが、学園都市には今、魔術師も潜り込ンでやがるンだ。それも結構な数のな。上条によると、魔術世界は無事平定されたようだが、個人個人は関係ねェらしい。無国籍無所属の魔術師どもが今を機に学園都市の中を蠢いていやがる。しかもソイツらの一部も研究者どもと手を組ンだって話だ。危険極まりない状況なンだよ」

美琴「あんた魔術とか何言ってんの? 正気?」

黒子「この学園都市で魔術とか、何を言っているのやら」

馬鹿にするように言う美琴と黒子。
彼女たちは科学一辺倒の学園都市で暮らしているのだ。オカルト的なものを信じられないのは無理も無い。

484 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/05(月) 22:54:10.37 ID:CEQvaq60 [13/13]
一方通行「そりゃァオマエ、俺だって初めて魔術を見た時は信じられなかったぜ。だがなァ、ソイツらが学園都市に今潜ンでるのも事実だ。ま、信じたくねェなら信じなくても構わねェがな」

美琴黒子佐天初春「?」

御坂妹「補足だけしておくと、お姉さまたちの周りに魔術めいた雰囲気を持つ方はおられませんでしたか? あるいは今までに魔術に関わるような単語をどこかで見たとか聞いたとか、とミサカは訊ねてみます」

そう言われても美琴たちはピンと来ない。が、思い出してみると確かに科学では説明出来ないような話を聞いた覚えが何度かある。それに、随分前に学園都市が世界から宣戦布告を受けた時、学園都市は『世界には魔術の名を語る科学的超能力開発機関がある』とか言っていた気がする。あれもその1つなのだろうか。

美琴「(あ……そう言えば……)」

美琴は思い出す。いつも上条の側にいた銀髪碧眼の外国人のシスターのことを。
そう言えば、彼女はただの修道女だけに収まらない雰囲気を持っていたような覚えがある。まさか彼女も………。

一方通行「あァ…まァ、今はそンなのは関係ねェ。どちらにしろ、オマエらの協力はいらねェ。オマエらのお守りなンてゴメンだからな」

美琴「なっ!」

黒子「……どういうことでしょうそれは?」

一方通行「オマエらの戦力はアテにならねェ、って言ってンの。一言で分かれ」

佐天「はあ? 何言ってるんですか貴方は。あたしはともかく、御坂さんや白井さんは力になるでしょう」

初春「わ、私もいたら心強いと思いますよ!」

一方通行の言葉にカチンと来たのか、彼女たちは各々抗議の声を上げた。

一方通行「黙れ!!!!!」

美琴黒子佐天初春「!!!!!」

一方通行が一喝した。美琴と黒子は言葉を詰まらせ、佐天と初春は肩をビクと震わせた。

一方通行「オマエらは何も知らねェからそンなことが言えるンだ。今まで俺たちがどれほどの犠牲を出してきたか、分かンのか? 本来ならここにいる主要メンバーも倍はいたンだぞ」

美琴たちは目の前にいる9人の顔を見やる。
誰もかれも、何も発せずあるいは視線を逸らしてあらぬ方向を見ている。現在の会話の進行は上条たちに任せているようで、自ら何かを発言しようとする雰囲気は無い。

一方通行「義妹を無事『外』に逃がしたはいいが力尽き死んだバカヤロウ、かつての仲間たちを逃がすために死んだ哀れな女、テメェが惚れてる女の世界を守るために死んだキザ男。どれだけいると思ってやがる?」

打ち止め「または、旧友の研究者を止めに行ったけど殺されちゃった研究者、とかね……」

黄泉川「生徒たちの無事を祈って非力ながら私たちに手を貸したってのに、何も出来ないまま銃で撃たれた不器用な教師もいたじゃん……」

一方通行「とある無能力者の男とレベル4の女は無事『外』に逃げれたが、あれは例外だ。これ以上俺たちに協力するのが難しい状況に追い込まれたから、アイツらだけは先に『外』に逃げるよう俺たちが促したンだ。まァ、その過程でソイツらと親しかったレベル4の女が命落としてるけどなァ」

美琴黒子佐天初春「…………………」

一方通行「いずれにせよ、オマエらがアイツらの代わりになれるとは思わねェな」

491 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/05(月) 23:02:18.25 ID:zqNzPm.0 [1/10]
一方通行は断言する。
しかし、美琴たちはそんなことで諦めない。そもそも彼女たちは今、一方通行たちがその名を挙げた人物たちがどれほどの強さを持っていたのか、どれほどの実力者だったのかを知らない。だから彼女たちには一方通行たちが自分を馬鹿にしているように思えた。

美琴「随分と見下してるわね……」

黒子「よっぽど私たちが邪魔なのでしょうか?」

初春「私たちこれでも4人で修羅場は潜り抜けてます」

佐天「そうだよ。グラビトン事件とかレベルアッパーとか、ポルターガイストとか」

一方通行は頭に手を置き、またそれか、と呟く。

一方通行「分かった。明言してやる。オマエらが経験してきた修羅場なんて、所詮放課後のクラブ活動みたいなもンだ」

美琴「なっ!?」

佐天「クラブ活動ですって!?」

初春「ば、馬鹿にしないで下さい!」

黒子「どこをどう見たらクラブ活動になるのかお教えして頂きたいですわね!!」

一方通行「前も言ったと思うが……オマエらは本当の修羅場を知らない」
一方通行「だが…俺も、そしてこいつも……」

一方通行は親指で隣の上条を指差す。

上条「…………………」

一方通行「オマエらとは比べられないほどの死線を掻い潜って来た。何度も何度も死にそうになってなァ。今まで死ンで行ったヤツらも同様だ。学園都市の暗部で、毎日死と隣り合わせの極限の生活を送っていやがったほどの連中だ。そンなアイツらでさえ、簡単にくたばったンだぞ? オマエらがアイツらの代わりになれるかボケ」

美琴「好き勝手言って……」

一方通行「そンな俺からしたら、オマエらのやって来たことなンてガキどものクラブ活動にしか見えないンだよ。『暗部』の『あ』の字でさえ知らない、そこら辺の中学生に毛が生えたようなヤツらを仲間になンて出来るか。1日で死ンじまうのが目に見えてるぞ」

黒子佐天初春「………っ」

4人は怒りを露にしたような顔を見せるが、一方通行は特に気にする素振りを見せない。

美琴「ふん。随分偉そうにしてるけど『暗部』を知ってるレベル5があんただけだと思ってんの?」

一方通行「じゃあ逆に聞くが、オマエは他のレベル5のほとンどが俺みたいに『暗部』にドップリ漬かってたって知ってンのか?」

美琴「え?」

御坂妹「お姉さまは恐らく、ミサカたちの存在や『絶対能力進化実験』について仰られているのでは?」

美琴「そ、そうだけど……何よ?」

503 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/05(月) 23:09:13.95 ID:zqNzPm.0 [2/10]
御坂妹「残念ですが、あれだけでは『暗部を知り尽くしている』ことにはなりません。ほんの少し触れただけです、とミサカは睨むお姉さまに対して反論します」

美琴「あんた……」

まさか実験の被害者側だった御坂妹からそんな言葉が出るとは思わなかったのか、美琴は信じられないという顔を作る。

御坂妹「それにお姉さまがたは、何故ミサカたち……いえ、上条さまと一方通行がお姉さまたちのご学友たちを『誘拐』と称してまで学園都市の『外』に逃がしていたのか。その理由が分かりますか?」

美琴「え? 何よそれ?」

黒子「どういう意味ですの?」

初春「何か理由があったんですか?」

佐天「は、早く説明してよ」

御坂妹「元々、ミサカたちは暴走した研究者たちを止めるために仲間を集めて戦っていました。ですが、犠牲が増えたことでそれも難しくなり途中で方針を変換したのです。出来るだけ多くの学生を『外』に逃がす、という風に」

美琴「だからどうしたって言うのよ」

御坂妹「初めはランダムに選んだ上で学生たちを『外』に逃がしていました。それなのに、です。不思議に思いませんでしたか? 最近はお姉さまたちのご学友の方々ばかりが誘拐されるのが」

美琴「あ……」

佐天「確かに……固法先輩に、泡浮さんに、湾内さんに、婚后さんに……」

初春「確かに皆さん、私たちと親しい人たちですよね」

佐天「元々、あたしたちの友達の仇を討とう、と言うことで独自に調査を始めたんだよね」

黒子「では何故、私たちの友達ばかり逃がしたんですの?」

御坂妹「それは……」

御坂妹は上条と一方通行を一瞥する。

上条一方通行「…………………」

御坂妹「……まぁ、元は上条さまの提案に一方通行が賛同して始まった形だったんですが……」




御坂妹「お姉さまがたが『外』に行っても、寂しくないようにとの配慮です」




美琴黒子佐天初春「え?」

517 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/05(月) 23:15:45.47 ID:zqNzPm.0 [3/10]
御坂妹「いずれお姉さまも、白井さまも、佐天さまも、初春さまも、4人ご一緒に学園都市の『外』に逃がす算段は整えてあります。その時、お姉さま方が少なからず寂しい思いをしないようにと、特に親しかったご学友の皆様を予め『外』に逃がしていたのです。上条さまと一方通行の方針によって」

美琴「は……あ?」

上条一方通行「…………………」

呆然とする美琴たちに、上条と一方通行は何も答えない。
上条は膝の上で手を組んだまま視線を逸らし、一方通行は下らない、といった表情で虚空を眺めている。

御坂妹「お姉さまのご学友、および今まで我々が逃がしてきた学生たちは全て死んだことになっています。あくまで、学園都市内部に限った話ですが。研究者たちはより良い素材を実験に使用したいため、学園都市の学生たちのデータを躍起になって集めています。ならば、いっそのこと『外』に逃がした学生たちは死んだことにするほうが都合が良いのです」

打ち止め「そのためにわざわざ、ミサカたち仲間内で隠語を作ったりもしたんだよね」

美琴「隠語?」

打ち止め「うん。現在の学園都市の状況を元に、学園都市の『中』を『地獄』と称したり、『外』を『天国』とか『楽園』とか称したり。他にも、学園都市という壁に囲まれた世界で能力開発を受けた学生を『養殖魚』って言ったり、それに対して学園都市を『生簀』と言ったり、『外』を『海』とか言ったり、逃がす対象の学生を『目標(ターゲット)』って言ったり…後は『外』に逃げることに成功したことを『死んだ』って暗喩したり、ってミサカはミサカは色々ぶっちゃけてみる」

御坂妹「まあ、それだけしないと、ミサカたちのやってることは敵に勘付かれて失敗しかねないと判断したのです。ただ、22番目に『外』に逃がした学生が、週刊誌の記者から取材を受けたことを知った時は冷や冷やしましたが……」

美琴「………………」

御坂妹「まあ話を戻しますが、そういった理由から学園都市での書庫(バンク)などのデータベースでは、お姉さまたちのご学友は皆死んだことになっているのです、とミサカは説明を続けます」

美琴「………」

御坂妹「本当は色んな状況下において死を偽装するのが1番だったのですが、最後にはそんな余裕も無くなってしまって……。固法さまは何とかテロの爆発に巻き込まれて死んだように見せかけましたが、泡浮さまと湾内さまからはもう、無理矢理彼女たちを連れ出して、表向き『誘拐された末死亡』とさせて頂いているのです」
御坂妹「もっと余裕があれば多くの学生たちを助けられたはずなのですが……時間も無かったので、お姉さまたちのご学友を集中して『外』に逃げ出すようにしたんです、とミサカは説明します」

美琴「方法なんて知らないわ」

御坂妹「は?」

御坂妹によると、上条たちが美琴の友人を集中して誘拐していたのは、彼女たち4人が『外』に逃げた時のためだと言う。要するに、『外』で生活を始めるにあたって、少しでもそれが寂しいものにならないようにとの配慮だったのだ。
だが、美琴たちは納得出来ない。勝手に自分たちを逃がすと決めていたことも腹が立ったが、何よりそういったふざけた配慮をされたのが見下されたように思えるのだ。

美琴「何で…もっと早くそれを言わなかったのよ?」

黒子「そうですわ。もっと早くに言っていれば、こんなややこしい事態にはならなっかたはずでしょう?」

御坂妹「それは……」

言い淀む御坂妹。

一方通行「オマエらに言うと、今みたいに真っ先に『協力する』って言いかねないからだよ」

御坂妹に続くように一方通行が言った。

525 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/05(月) 23:23:34.50 ID:zqNzPm.0 [4/10]
佐天「それの何がいけないんですか!?」

一方通行「確かに、超電磁砲の威力は脅威的だし、テレポーターの能力も便利だ。だが、俺たちがオマエらの協力を拒む理由は単に力の強弱だとか経験してきた修羅場の質だとかそれだけじゃねェンだ。この件は学園都市の闇にも繋がってる」

美琴「だから何? だったら関わるな、って言うの!?」

一方通行「ああそうだよ! 超電磁砲、オマエは7人のレベル5の中でも珍しく『暗部』に関わっていない、普通の世界で生きてやがる。これが、レベル5の人間にとってどれほど例外で羨ましいことか分かるか?」

ずっと低い調子で話していた一方通行が美琴を見据える。

美琴「で、でも私だって、私だって……」

一方通行「『妹達』のことがどンだけ外道か、どンだけ腐り切ってるのか、そンくらい痛いほど分かってンだよ!!」

御坂妹「………………」

打ち止め「………………」

一方通行「だが逆に言うとなァ、オマエはそれだけだ。オマエが関わった学園都市の闇なンてまだ僅かでしかない。俺のように『暗部』にドップリ漬かってる人間とは違ってなァ!! だからこそオマエは、ソイツらと!」

黒子佐天初春「!」

一方通行が黒子と佐天と初春を指差す。

一方通行「ソイツらと! 普通の女子中学生らしい生活が送れてンだ!! それを分かれよ!! 闇に生きる人間たちにとって、オマエの住む世界がどンだけ光輝いて見えンのか考えたことがあるか!?」

美琴「あ……う……」

一方通行「そンなオマエらが!! わざわざ闇に寄り添ってまで、命を危険に冒すなンてふざけてンのにも程があるだろうがァ!!!!!」

打ち止め「一方通行、落ち着いて」

息を荒くした一方通行に、打ち止めが寄り添うように止めに入る。

530 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/05(月) 23:28:39.66 ID:zqNzPm.0 [5/10]
カエル医者「そしてそれは、上条くんや一方通行だけの願いじゃない。僕たち大人にとっても同じことなんだよ?」

美琴黒子佐天初春「…………………」

黄泉川「子供を守るのが大人たちの役目じゃん」

鉄装「ですよね」

寮監「お前たちの安全を見守るのも寮監としての務めだしな」

一方通行の勢いに圧されたのか、大人たちも次々と口を開く。

木山「君らの幸せな生活は枝先や春上の希望ある人生にも関わっている。よって、彼女たちも既に『外』に逃がしている」

初春「えっ!?」

御坂妹「それだけでなく、佐天さまと初春さまのご学友3名も先日『外』に逃がしました」

佐天「それってまさか……アケミとむーちゃんとマコちんのこと?」

初春「そんな……いつの間にそこまで……」

美琴黒子「……………」

あまりの手際の良さに、4人は感心するというよりも、ただ呆然とするだけだった。

寮監「僭越ながら私も今まで出来ることをやらせてもらっていた。『外』に逃がすことが決まった常盤台生徒の詳細資料を上条たちに渡したり、とな。結局、逃がせたのは泡浮、湾内、婚后の3人だけだがわがままを言わせてもらうと、寮の生徒全員、逃がしてやりたかったな……」

黒子「寮監……」

美琴「じゃ、じゃあ何で? それなら事情だけでも説明してくれてもいいじゃない!? 何であんな突き放すようなことしてたのよ!?」



上条「お前らを守るためだ」



美琴「…………え?」

532 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/05(月) 23:33:47.31 ID:zqNzPm.0 [6/10]
ふと、上条が口を開いた。

上条「実は、学生たちを『誘拐』と称して『外』に逃がしている活動の途中にな、敵側から警告があったんだ」

美琴「警告?」

上条「ああ。『これ以上我々の研究材料である学生を逃がすような真似をすれば、その学生を容赦なく殺す』ってな」

美琴黒子佐天初春「………!?」

上条「初めは『外』に逃がすと決めていた学生には脱出についての詳細を予め話してたんだが、その警告を機に出来なくなってな。無闇やたらに前もって学生と会っておくのは危険と判断して、それからは誘拐じみたことをやってその脱出道中で真相を話すようにしてたんだ」

美琴黒子佐天初春「………………」

上条「だけど、警告を受けた時、ちょうど『外』に逃がす予定の1人の女子学生がいたんだ。その子はとても心配性でな、急に脱出に関する情報を得られなくなった上、俺たちとも接触出来なくなったことで不安に駆られたんだ。で、それを見かねた俺たちの仲間の1人が、その子に事情を説明した上、脱出の内容についても話しちまったんだ」

美琴「………それで、その子どうしたの?」

上条「…………………」

そこで上条が言葉に詰まった。

美琴「?」

代わりに、一方通行が口を開いた。

一方通行「死ンだよ」

美琴黒子佐天初春「…………え?」

一方通行「その女子学生は脱出予定日の数日前に、親友にもう会えないことを示唆するようなこと言っちまったンだ。で、それがどんなルートで漏れたのか知らねェが、敵の研究者たちにその女子学生の存在がバレちまった。それで、運悪くソイツは殺されちまったンだよ………」

美琴「そんな……」

一方通行「で、『責任を持って俺が彼女をずっと守る』とかそンな臭いこと言って、女子学生と懇意になってた俺たちの仲間も、女子学生の側にずっと付いてたンだが、それでもヤツは守りきれなかった……。守りきれず、2人は一緒に死ンじまったンだよ………」

打ち止め「……2人は『外』へ出たらもう1度、改めて一緒に生きていこう、って約束してたの。ミサカたちもみんな、そんな2人を暖かい目で見守ってたんだけど……だけど……だけど……」

美琴黒子佐天初春「…………………」

美琴たち4人は、一方通行の話を聞き、言葉を失くす。彼女たちの目元はその話を聞いて潤んでいるように見えた。

一方通行「笑っちまうよなァ? 普段は『根性だ気合だ』って叫んでうるさかったヤロウが、1人の女守るためにあっけなく死ンじまうンだからよ………」

言葉とは裏腹に、一方通行の声は静かだった。

547 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/05(月) 23:40:40.41 ID:zqNzPm.0 [7/10]
御坂妹「だから我々は決めたんです」

美琴「!」

御坂妹「これ以上同じような犠牲を出さないために、そしてお姉さまたちをそのような危険な目に少しでも遭わせないように、敢えて口を閉ざし、なるべくお姉さまたちと接触しないようしていたのです」

美琴「…………………」

御坂妹「そもそも、学園都市がまた元の状態に戻れば、お姉さまたちを『外』に逃がす必要は無いのです。だから敢えて、学園都市の闇にも繋がる我々の活動にお姉さまたちを巻き込まず、全てが元の鞘に終われば一番だったのです。ですが、学園都市が元に戻る可能性は既に低く、お姉さまたちも我々の想定以上の動きをし、挙句、上条さまと一方通行を倒してまで、真実を知ってしまいました」

美琴黒子佐天初春「………………」

御坂妹「それは仕方の無いことです。ですが、これだけは伝えておきます……」

美琴黒子佐天初春「?」

御坂妹「お姉さまたちに真実を語らなかったのは、これ以上『外』に逃がす学生たちが同じ目に遭わないようにと情報漏えいを危惧してのこと。そしてお姉さまたちを冷たく突き放さそうとしたのも全て、敵側に我々との接触を疑われてお姉さまたち4人が狙われるのを避けるためだったのです、とミサカは打ち明けます」

一方通行「本当はオマエらを完膚無きまでに叩きのめしたら諦めると思ったが、逆効果だったようだな……」

御坂妹「ミサカも一方通行も方法が過激だったのは自覚していますが、それらは全てお姉さまたちの安全を思ってのことなのです、とミサカは申し訳無さそうに語ります」

黄泉川「お前らを謹慎してたのも、敵からの襲撃から守るためだったが、寮から逃げ出した時は冷や冷やしたじゃん。ま、敵がお前らに疑いの目を向けなかったから結果、良かったがな」

美琴黒子佐天初春「…………………」

4人は絶句する。
何ということだろうか。結局、上条や一方通行たちが美琴たちに再三警告し、突き放し、冷たくし、その強大な力を容赦無く振るったのは、美琴たち4人が目障りで邪魔だったからではなかったのではなかったのだ。寧ろ逆に彼らは美琴たちを守るために再三警告し、突き放し、冷たくし、強大な力を容赦無く振るっていたのだ。

そう、全てが、逆だったのだ。
真実を話せば、美琴たちは必ず協力を申し出てくるのは予想の範疇だった。しかし、上条たちの活動は学園都市の『闇』にも繋がること。『光』の世界で楽しく普通の女子中学生として生活を送っていた美琴たちを、彼らは巻き込みたくなかった。事情を話せなかったのも、冷たく突き放していたのも、美琴たち4人を敵から守るため。そして、既に死んだとある上条たちの仲間と女子学生の悲劇を繰り返させないため。そう、それで美琴たちが諦めれば良かった。だからこそ上条と一方通行はその絶大な力で彼女たちを叩きのめした。だが、美琴たちは諦めなかった。諦めず、結局、奇跡的な確率とはいえ、上条と一方通行を倒してしまったのだ。

美琴「…………………」

虚無感が美琴を襲う。
では、美琴たちのこの3週間は何だったのだろうか。彼女たち4人は一体何のために共に誓い、努力し、戦ってきたのか。
今聞いた話が本当ならば、美琴たちは自分や友達を地獄の目に遭わせた上条たちに反撃するのではなく、自分や友達を守ってくれていた上条たちに、何の事情も知らないまま歯向かっていたことになる。
しかも、上条たちは何の文句も言わず憎まれ役を演じていたのだ。詰まるところ、美琴たちのこの3週間は、そんな彼らの想いをフイにするような、意味の無い日々だったのだ。

美琴「…………………」

呆然とする美琴。

551 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/05(月) 23:46:51.08 ID:zqNzPm.0 [8/10]
上条「御坂」

美琴「!?」

と、ずっと視線を逸らしていた上条が久しぶりに美琴を見た。

美琴「な、何よ……」

上条「分かったろ? 俺たちはこれ以上、大切な人たちを失いたくないんだ。だからせめて、ここだけは引いてくれないか?」

突き刺すような、どこか悲しみに満たされた上条の目が美琴を貫く。それは、頼みというよりは願いに近かった。
上条や一方通行たちは、美琴たちの幸せを望み、美琴の友人たちを『誘拐』と称して学園都市の『外』に逃がしていたのだ。それを美琴たちに打ち明けなかったのは、彼女たちの安全を想ってのこと。だから彼らは黙っていたのだ。わざわざ、自分たちが殺されそうになるほどの憎まれ役を買って出ても、だ。

美琴「………………」

美琴は思う。
そんな方法でしか美琴たちを守れなかった上条と一方通行はどれだけ不器用なのだと。不器用すぎて笑ってしまいたいぐらいだった。だがしかし、彼らが取ったその方法は、考えられる限り最良の策であり、それは全て美琴たち4人を想ってのことだったのだ。

黒子「…………………」

佐天「…………………」

初春「…………………」

それまでの勢いが嘘かのように、黒子と佐天と初春が黙り、俯いた。彼女たちの手は膝の上で握られ、油断すれば今にも涙腺が崩壊しそうだった。
だが、もう彼女たちに反論する気は無かった。上条たちの真意を奥深くまで知ってしまったのだから。

美琴「………っ」

しかし、当然ながらそんな簡単に諦められない者もいた。
美琴は、何も喋れなくなった黒子たちを見、唇を噛むと立ち上がった。

美琴「納得出来ない……そんなんで納得なんて私は出来ないよ!!!」バチバチッ

彼女の身の回りに火花が散った。
だが、大人たちはふと視線を寄越しただけで、無理に止めようとしなかった。

556 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/05(月) 23:51:39.81 ID:zqNzPm.0 [9/10]
美琴「どうして? どうしてよ? 私は……あんたたちのこと……ずっと…ずっと……友達のことを……誘拐して……殺してた凶悪犯だって……思ってたのに」

美琴の言葉が震える。

黄泉川「…………………」

鉄装「…………………」

美琴「あれほど憎んだのに……でも本当は……それは…私たちを思ってのことで………挙句、私たちを助けようとしてくれるなんて………」

美琴の目尻に涙が溜まっていく。

寮監「…………………」

カエル医者「…………………」

美琴「そんな……優しくされたのに……私は何も出来ない……協力することも……恩を返すことすら出来ないなんて……」

遂に彼女の目元から涙が流れた。

打ち止め「…………………」

御坂妹「…………………」

美琴「そんなのって……ヒグッ……そんなのって……ウグッ」

彼女の声に嗚咽が混じる。

一方通行「…………………」

美琴「そんなのって無いよ!!!!!」

上条「…………………」

うなだれるように上条は顔を下に向けている。
美琴の必死の問い掛けに、彼が何を思っているのか。それは全く読めなかった。

美琴「答えてよ!!」




美琴「“当麻”!!!!!!!」




上条「………………っ」

562 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/05(月) 23:56:47.60 ID:zqNzPm.0 [10/10]
静寂がその場を流れる。
耐え切れなくなったのか、黒子と佐天と初春も美琴に続いて泣き始めた。

黒子「お姉さま……グスッ」

佐天「御坂……さん…ヒグッ」

初春「御坂さん……グスッグスッ」

しかし、それでも上条は答えない。

御坂妹「……………………」

現状を鑑み、御坂妹は美琴と上条の顔を交互に見る。そして1度目を瞑ると、彼女は美琴に向かって静かに口を開いた。

御坂妹「  イ  ン  デ  ッ  ク  ス  」

上条「!」ビクッ

美琴「は?…グスッ」

御坂妹「『インデックス』という少女を、お姉さまはご存知ですか?」

御坂妹は、美琴を見つめて質す。

美琴「インデックスって……グスッ……あの子でしょ? ……こいつといつも一緒にいた……外国人の……ヒグッ…シスターの…女の子……」

御坂妹「ええ。ミサカも会ったことがあります。その少女です」

美琴「それがどうしたって言うのよ?」

場違いな質問に美琴は違和感を覚える。
そんな美琴を見、次いで上条を見ると、御坂妹は一拍置いて言った。






御坂妹「彼女、死にました」






美琴「え……?」



568 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/06(火) 00:03:39.23 ID:9yAEp3A0 [1/3]
美琴は初め、その言葉の意味に理解が追いつかなかった。

御坂妹「3週間も前でしょうか……インデックスさんは、何者かに殺され、死んだのです……」

美琴「嘘……でしょ?」

あのインデックスが? と頭の中で続ける美琴。彼女の脳裏に、とあるシスターの女の子の笑顔が蘇る。

美琴「嘘でしょ!? 3週間前って……私、あの子に会ったわよ!?」

責め立てるように美琴は訊ねる。
そんな彼女を見ても『インデックス』という少女が誰のことなのか分からないのか、黒子たちは黙ったまま美琴を見つめている。だが、何やら大変なことが『インデックス』という少女に起きたのは理解出来ているようだ。

御坂妹「恐らく、その数日後に殺されたのでしょう……」

美琴「そんな……何で……」

上条「おかしいよな?」

美琴「え?」

上条「信じられないよな普通?」

不意に、上条が喋った。だが、その表情はうなだれているため見えない。

上条「あいつ、3週間前までは元気だったんだぜ? いつもみたく『お腹すいたー』ってさ」

美琴「何が……あったの?」

上条「俺、危ないからってインデックスに『俺たちの活動に関わるな』って注意してたんだ。なるべく家から出ないように言ってさ……」

上条の言葉が震える。

上条「でも……あいつ、よっぽど俺のこと心配だったんだろうなぁ……ある日、言いつけを破って家から街に飛び出したんだ」

美琴「………………」

上条「そしたらさ……あいつ、どうも刃物で刺されたらしいんだよ……」

淡々と、一つ一つ思い出すように上条は語る。

上条「それで……死んじまった………」

美琴「………っ!」

上条「………死んだんだよ………」

そこで、上条は1度、言葉を詰まらせた。

569 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/06(火) 00:09:36.53 ID:9yAEp3A0 [2/3]
上条「……犯人は……学園都市の能力開発を人道に反する、って主張してた過激派テログループの1人だった……。それで……インデックスが死んでから2週間後ぐらいだったかな……。犯人を突き止めた……インデックスの旧知の魔術師が単身、そのテログループのアジトに乗り込んで行った……」

美琴「………」

上条「でも……そこには……テログループが雇った…強力な魔術師が1人いて………。テログループを壊滅したはいいものの……その…インデックスの旧知の魔術師も……相討ちで死んじまった………」

上条の握られた拳がカタカタ震える。

上条「せっかく……インデックスと一緒に、魔術世界を平定したって言うのに……。これで魔術の世界に平和が訪れたのに……。もう、インデックスが狙われることはなくなったのに……。ようやく…インデックスが幸せな人生を歩み始められるところだったのに………」

自責の念に染められた後悔だけの言葉がただただ紡がれる。

上条「……守るって……約束したのに………」
上条「頼む、“美琴”………」

ボソッと告げた後、上条がゆっくりと顔を上げた。




上条「引き下がってくれ………」




苦痛に歪ませた顔から、大量の涙を流し上条は懇願した。

上条「もう……これ以上……大切な人を……失いたくないんだよ………」

再び、うなだれるようにして上条は嗚咽を始めた。それを慰めるように、御坂妹が彼の背中に手を置く。

上条「……チクショー……俺のせいだ……俺のせいで……インデックス………」

自分を責める上条に、御坂妹が貴方の非ではありません、と慰めの言葉を掛ける。
一方通行や打ち止め、大人たちはただ静かに彼の嗚咽を聞いているだけで、余計な発言をしようとしない。
黒子と佐天と初春もまた、全てが全て話を呑み込んでいたわけではなかったが、目の前の男の泣き叫ぶ姿を見てこれ以上、口を開こうとは思わなかった。

上条「……フグゥ……クソッ……」

自分の膝を叩き泣く上条。

美琴「…………………」

そんな彼を見て、美琴は一歩下がり、そのまま重力に引かれるようにドスンと椅子に腰を掛けた。

美琴「……………………」

もはや彼女に、反論する気は一切残っていなかった。
上条の嗚咽だけがいつまでも部屋に響いていた――。




623 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/06(火) 22:23:41.99 ID:HYcJdkc0 [2/14]
上条たちのアジト――。

話を終え、一段落着くと、美琴は上条の私室に来ていた。
私室、と言ってもメインルームより更に狭く到底くつろげるようなものでもなかった。ベッドは無かったが、ソファの上に枕と布団みたいなものが一枚乗せられており、上条はそのソファで寝ているようだった。

上条「さっきは悪かったな。格好悪いところ見せちまってよ」

美琴「ううん……。それは、お互い様だから……」

上条は部屋に置かれたポッドで紅茶を注ぐとそれを美琴に渡した。

上条「あ、お前も飲むか?」

上条が、開かれたドアの側にいる御坂妹に声を掛ける。
彼女は今、壁に背中をもたれ両手を後ろに回すようにして立っていた。

御坂妹「いえ、結構です、とミサカは遠慮しておきます」

上条「そっか」

美琴は紅茶を仰ぐ。
既に、カエル顔の医者は患者が心配だからと病院へ帰っており、寮監も寮の生徒たちが気になるのか美琴たちに「遅くなるなよ」とだけ言うとアジトを出て行った。
黄泉川と鉄装と木山は今、別室で黒子と佐天と初春と話していた。

美琴「それで……私たちが学園都市の『外』に逃げるのはまだ先なのね?」

上条「ああ。これからしばらくは、テロも暗殺も治まって休校措置も解除されるだろうが、それは表向きだけ。実際は、来る内戦に備えて下準備をするため、みんな地下に潜るから静かになるだけだ」

御坂妹「我々はその隙をつき、少しでも暴走した研究者たちの力を削ぐために行動します、とミサカは付け加えます」

上条「内戦を回避出来たら一番いいんだけどな。俺たちももう、そこまでの力は残されてねぇし……。焼け石に水かもしれねぇが、やらないよりかはマシだろ?」

美琴「そうね……」

両手でカップを持ちながら美琴は静かに答える。

上条「本当は内戦を回避して、研究者たちと対立してた連中も一掃出来れば学園都市にも平和が戻るんだけど、現実はそう甘くねぇからな……。ギリギリまでやれることやって、限界が来たらお前らを『外』に逃がすため迎えに行くよ」

美琴「……逃げるのは、私と、黒子と、佐天さんと、初春さん……なんだよね?」

上条「ああ、そうだな。もう時間も無いしお前ら4人が最後になる」

美琴「ふーん……」

それを聞くと、美琴は少し複雑そうな表情を作り紅茶を啜った。

美琴「あんたたちはどうすんのよ?」

上条「俺たち? そうだな……」

624 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/06(火) 22:30:39.52 ID:HYcJdkc0 [3/14]
上条は御坂妹に視線を寄越す。

御坂妹「…………………」

上条「大丈夫だ。そこは心配すんな。俺たちも頃合を見たら『外』に逃げるからよ」

上条は明るい調子で答えた。

美琴「そう。ならいいんだけど……」

御坂妹「ミサカたちも自分の身は自分で守れますから、ご安心して下さいお姉さま、とミサカは伝えておきます」

美琴「…………………そういや気になってたんだけど」

上条御坂妹「?」

紅茶のカップを口元から離し、美琴は上条を見る。

美琴「まさかあんた、私たちには『諦めろ』とか言っておいてこの子たちには無理に手伝わせてるんじゃないでしょうね?」

御坂妹「!」

上条「は? え? あ、いやいやそれはねぇよ」

美琴「本当に?」

御坂妹「ミサカたちは自分の意思で上条さまたちに協力を申し出たのです。今、この件に関しては学園都市に残っている10人のミサカたちと、治療が一段落着いて海外から帰って来たミサカたち合わせて20人ぐらいいますが、全員が全員、同意の下での行動です、とミサカは説明します」

美琴「そうなんだ」

美琴は少し不服そうだった。
彼女にとって、せっかく『絶対能力進化実験』から生き延びた『妹達(シスターズ)』は本当の妹のように掛け替えのない存在だった。姉として、そんな妹達をあまり危険な目に遭わせたくなかったのだが、同時に個人の感情が芽生えているのはいいことでもある。美琴はそれも尊重したかったのだ。

美琴「打ち止めもそうなの?」

上条「まあな。ほら、さっき打ち止めが話してたろ? 私欲にかられ暴走を始めた旧友の研究者を止めるために説得しに行ったがいいは、殺されてしまった、って研究者」

美琴「ああ、言ってたわね」

上条「その研究者のこと随分慕ってたようでさ。無茶言って一方通行や妹達から俺たちのこと聞き出して『自分も仲間に入れないなら妹達に強硬手段とるよ?』って一丁前に脅しやがって」

御坂妹「まったく、生意気な子供のくせに…とミサカは溜息を吐いてみます」

美琴「ふふ、そうなんだ」

まるで我が子の成長を喜ぶように美琴は微笑む。

625 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/06(火) 22:36:29.00 ID:HYcJdkc0 [4/14]
上条「ったく、誰かさんに似てるよな」ハァ…

美琴「何か言った?」バチバチッ

上条「何でもありませんですはい」

美琴「よろしい」

上条「ま、一応、打ち止めは危険な場所には連れて行かないようにしてるけどさ。主に、一方通行の方針で」フッ

ニヤッと笑う上条に、美琴も吹き出す。

美琴「プッw そうよね、あいつ見かけによらず過保護よね? ククク」

御坂妹「きっと彼は、重度のロリータコンプレックス……ずばりロリコンではないでしょうか、とミサカは推測してみます」ズバッ

上条「そうそうまさにそれ!」

美琴「学園都市最強の男がロリコンw プッ…ククク」

一方通行「聞こえてンぞー」

出し抜けに、遠くから一方通行の声が響いた。恐らく隣の部屋で3人の会話を聞いていたのだろう。

打ち止め「えー貴方ってロリコンさんだったんだービックリー、ってミサカはミサカは我が身の貞操の危機感に震えてみたり」

次いで、打ち止めの声も聞こえてきた。

一方通行「ぶっ殺すぞクソガキ! それと『貞操』なンて卑猥な言葉どこで覚えやがった!?」

打ち止め「ミサカネットワーク!」

一方通行「アイツらァァァァァァァァァァ!!!!」

コントのような一方通行と打ち止めの会話を聞き、3人は吹き出した。

美琴「あははははは! やっぱりあの2人最っ高だわ!!」

上条「将来、尻に敷かれるの確定だな!」

御坂妹「もはや主導権は上位個体にあります。学園都市最強の人間は上位個体ではないでしょうか、とミサカは新たなる仮説を唱えてみます」

今度は、ウガァァァと叫ぶ一方通行とそれを止めようとする打ち止めの声が聞こえてきた。
美琴たちは更に爆笑する。

626 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/06(火) 22:42:38.18 ID:HYcJdkc0 [5/14]
美琴「はーおっかしー。何か久しぶりに笑った気がするわ」

それを聞き、上条と御坂妹は顔を見合わせ笑みを浮かべる。

上条「ま、そういうわけだ。お前らには悪いが、俺が連絡寄越すまで、いつも通りの生活送っててくれ」

美琴「分かってる分かってるって。美琴先生はそこまで往生際悪くないわよ」

美琴は飲み終えた紅茶のカップを上条に手渡す。

上条「ならいいんだけどさ。間違っても、俺がいないからって、代わりにそこら辺の一般人に電撃浴びせようとすんなよ?」

美琴「はぁ? あんた以外にそんなことするわけないじゃない」

上条「なにー!? それはどういう意味ですかもしかして上条さんは程良い的とかそういうことでしょうか」

美琴「え? 今更気付いたの?」

上条「やっぱりそうかークソーこのイマジンブレイカーがある限り御坂さんのビリビリ攻撃からは逃れられない運命にあるのか!」

美琴「もっちろん」

上条「ふざけないで下さい」

美琴「………………クスッ」

上条「………………フッ」

美琴「…………………」

上条「…………………」

軽く笑うと、美琴と上条の2人はしばらくの間互いの顔を見つめ合っていた。

御坂妹「…………………」

美琴「もういいわ。あんたの他人を放っておけない病にも慣れてるし。ここはちゃんと引いてあげるから」

627 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/06(火) 22:47:33.72 ID:HYcJdkc0 [6/14]
上条「ありがとな」

美琴「ま、『外』で再会した時は罰として10億ボルト浴びせてあげるから覚悟しておきなさい」

上条「………そうか…」フッ

美琴「さて、じゃあそろそろ帰るわ」

そう言うと、美琴は腰を降ろしていた椅子から立ち上がった。

上条「ん? ああ、そっか。御坂妹、送ってやってくれ」

御坂妹「分かりました」

美琴「あんたねー…女の子をコキ使っておいて自分は何もしないとか、男としてどうなの?」

上条「いやいや上条さんはこれでもリーダーなんです溜まってるお仕事がたくさんあるんですよ本当は僕もか弱い女の子4人を送って差し上げたいんですけど」

美琴「誰がか弱いか! 今日、あんたたちが私たちにどんな目に遭わされたのか忘れたって言うならもう1度ここで……」パリパチッ

上条「御坂妹さん、宜しくお願いします」

御坂妹「りょーかい、とミサカは敬礼してみます。クスッ」

美琴「あんたね! ……ってもういいわ、ったく……」
美琴「じゃ、また今度ね」

上条「おう、連絡するからな」

挨拶を交わし、美琴は御坂妹と共に部屋を出て行った。
その後、黒子、佐天、初春とも一緒に、美琴は護衛に着いた御坂妹に導かれ再び地上まで辿り着いた。

628 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/06(火) 22:52:42.71 ID:HYcJdkc0 [7/14]
地上――。

御坂妹「ここまで来れば、後はご自分の足でも帰れると思います」

手に持ったFN F2000アサルトライフル抱え直し御坂妹が言う。
空は既に、明るくなりつつあった。

黒子「本日はありがとうございました」

佐天「ありがとうございました!」

初春「ありがとうございました!」

黒子たちはお辞儀をし、礼を伝える。

美琴「ホント、ありがとね妹。お願いだから無茶はしないでよね。姉として心配してるんだから」

御坂妹「これでも自分の命を守ることぐらいは出来ます、とミサカはお姉さまの思慮に感謝しつつ答えます」

美琴「そうならいいんだけど」
美琴「にしてもこれで、あんたたちを追うこともなくなったわけね」

御坂妹「………………」

初春「思えば長かったですねー」

佐天「ある意味、スリリングな生活だったけどね」

黒子「でもまあ、落ち着くところに落ち着いて良かったのでは?」

美琴「結局、私たちがやってたことは意味が無かったけどねぇ………」

黒子佐天初春「……………」

美琴の言葉に、3人が黙った。
彼女たちは、上条と一方通行を倒すためにこの3週間、苦楽を共にしてきたのだ。だが、上条たちから全ての真相を聞いた今、その3週間が意味の無いものであると思ってしまうのも無理も無かった。

御坂妹「意味はありましたよ?」

美琴黒子佐天初春「え?」

御坂妹が4人の顔を見てそう言った。

御坂妹「お姉さまたちのこの3週間の行動は全て意味があったと思います、とミサカは真剣に説いてみます」

629 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/06(火) 22:59:10.94 ID:HYcJdkc0 [8/14]
美琴黒子佐天初春「………」

御坂妹「もしお姉さまたちが途中で諦めていたのなら、または最初から何もしようとしていなかったのなら、お姉さまたちは結局、何も知らされないまま学園都市の『外』に連れ出されていました。結果的に学園都市の崩壊が起こらない場合であっても、お姉さまたちは固法さまや婚后さまたちが生きていることを知らずに今後生活する羽目になっていたでしょう。それを考えたら、お姉さまたちのこの3週間は決して意味の無いものだったとは思えません、とミサカは呆然と話を聞いている4人を励ましてみます」

美琴「………あんた…」

美琴が御坂妹を見据える。

御坂妹「それに、お姉さま?」

美琴「え? な、何?」

御坂妹「お姉さまたちが逃亡生活中、その情報を掴んでいたミサカや一方通行は少しでもお姉さまたちの動きを牽制しようと強硬論を主張していました。しかし、その中で1人、上条さまだけは『大して脅威にならない』と言って、ことあるごとにミサカたちの主張を跳ね除けていました」

美琴「…………」

御坂妹「今思えば、上条さまはお姉さまたちが自力で我々の所に辿り着くのを心のどこかで期待していたのかもしれません。恐らく、お姉さまたちにずっと事情を隠していた自分に後ろめたさを感じていたのでしょう。『大して脅威にならない』という彼の発言も、本当はお姉さまに対する期待の気持ちを自分で否定したいがために出てきたものみたいではないでしょうか、とミサカは推測します」

美琴「………あいつが…」

黒子「……なるほど。それが本当なら随分不器用な殿方ですこと」

初春「でも、上条さんなら有り得るかもしれませんね」

佐天「御坂さんって上条さんに一目置かれてるんですねー」ニヤニヤ

御坂妹「お姉さまと上条さまは、ついこの間まで毎日のように追いかけっこしてましたからね。それほどお互いのことが分かり合える仲なのではないでしょうか、とミサカは今回に限って特別にお姉さまの味方をしてみます」

美琴「は!? はあ!? 何言ってんのよ!!」

佐天「あれ? そ  う  い  う  意味じゃないんですかー?」ニヤニヤ

初春「そう言えばさっき、御坂さんと上条さん、一回だけお互いの名前で呼び合ってましたよねー」

美琴「な……あ、あれは違うの! 違うんだってば!!」

黒子「チッ……」

御坂妹「フフ……。でもまあとにかく、そう言うことです。ミサカはお姉さまたちのこの3週間は意味の無いものだったとは思えません。寧ろ、何か得られた物のほうが大きかったのではないでしょうか」

630 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/06(火) 23:05:39.41 ID:HYcJdkc0 [9/14]
美琴黒子佐天初春「……………」

彼女たちは思い出す。4人で過ごした日々のことを。
確かに、得られたものはたくさんあったはずだ。

美琴「フ……まさか妹に諭されるとはねぇ……でも、元気出たわ。ねぇ?」

黒子「はい。わざわざフォローありがとうございますわ。言葉1つでも報われる思いですの」

佐天初春「ありがとうございます!!」

美琴「ホント、感謝してるわ」

御坂妹「いえいえ。もうこうなった以上、お姉さまたちと対立する意味もありませんから、とミサカは笑顔を見せてみます」

美琴「うん。そうよね」

御坂妹「ではミサカはもうそろそろアジトに戻らなければなりません」

美琴「あ、そっか」

御坂妹「くれぐれも敵の動きにはお気を付けて。何かあればすぐに我々に連絡を寄越して下さい。直ちに駆けつけますから」

美琴「うん。何から何までありがと。だけど、あんたも死なないよう頑張ってね?」

御坂妹「もちろんです、とミサカは答えます」

御坂妹の言葉を聞き、美琴は満足したように1回頷いた。

美琴「あ、後さ……」

御坂妹「はい?」

美琴「……1人、かなり無茶しそうなオオバカヤロウのことなんだけど……」

ポン、と美琴は御坂妹の肩に手を置いた。

美琴「“あいつ”のことも守ってあげてね」

美琴が笑顔で言った。

御坂妹「はい、分かりましたお姉さま、とミサカは自信をもって答えます」

御坂妹も笑顔で返した。
こうして、御坂妹に手を振りつつ、美琴たちは街へ帰っていった。

632 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/06(火) 23:11:37.43 ID:HYcJdkc0 [10/14]
初春「ふぃー…疲れましたね。今日1日で色々ありました」

佐天「結局、友達もみんな無事だったんだからこれで一先ずは安心、と言ったところでしょうかね」

黒子「そうですわね。私たちの戦いは終わった、ということですね」

3人の会話を聞いていた先頭の美琴が振り返る。

美琴「黒子、佐天さん、初春さん、みんなお疲れ。付き合ってくれてありがとね」

黒子「何を仰いますかお姉さま」

佐天「あたしたちの方がお礼を言いたいぐらいです」

初春「御坂さんのお陰で私たちも成長出来た気がしますし」

3人は立ち止まり笑顔になって一緒に言う。

黒子佐天初春「「「お疲れさま」」」

美琴「……ありがとう♪」

朝焼けに染まる街を美琴たちは歩く。

美琴「じゃ、今日からは私たちも普通の女子中学生に戻るわよ!」

黒子佐天初春「はーい!!」

美琴「よーし、家まで競争!」

突然、走り出す美琴。

黒子「あっ! お姉さま!」

佐天「ちょっ、ずるいですよ!」

初春「待って下さ~い!!」

美琴「きゃっふ~~~~~い!!!!!」

美琴に倣い、駆けて行く3人。


こうして、彼女たちの長い戦いは終わった。
彼女たちは再び、普通の女子中学生へと戻る――。

634 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/06(火) 23:21:44.39 ID:HYcJdkc0 [11/14]
3日後・上条たちのアジト――。

上条「言った通り、黄泉川先生の部下の1個小隊が陽動で敵の主力を引き付けてくれる。その間に、俺たちは敵の一拠点を潰すぞ」

メインルームで作戦会議を行う上条と一方通行と御坂妹。
彼らは今、手元の資料に注目している。

上条「能力を持った科学者、魔術師、あるいは武装した兵士。何が出て来るか分からないが、十分気を付けてくれ」

一方通行「数あるうちの1つとは言え、敵の拠点に攻撃を仕掛けるンだ。こりゃァ、かなり危険な仕事かもなァ……」

頭をかきながら資料を眺めていた一方通行が一言呟いた。

御坂妹「表の陽動との連携が上手くいけば、我々もスムーズに行えるでしょう、とミサカは推測します」

一方通行「ま、やってみる価値はあるかもなァ」

上条「そういうことだ。御坂妹……」

御坂妹「はい?」

と、そこで上条が御坂妹に視線を向けた。

上条「さっきも言ったが、別に無理して付いて来る必要は無いんだぞ? 破壊工作ぐらいなら俺たち2人でも出来るんだから」

御坂妹「いえ。ただでさえ人数が不足しているのです。援護は多い方が合理的でしょう、とミサカは主張してみます」

上条「なら、無理して止めないがな……」

含みのあるようにそう言う上条。
御坂妹は何も返さず、ただ黙っていた。

御坂妹「…………………」

638 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/06(火) 23:27:19.04 ID:HYcJdkc0 [12/14]
上条たちのアジト・御坂妹と打ち止めの寝室――。

御坂妹「やれやれ、とミサカは唐突に溜息を零してみます」

打ち止め「ムー…そんな言い方はないんじゃないかな10032号、ってミサカはミサカはブー垂れてみたり!」

御坂妹「チッ、わがままで生意気なガキめ、とミサカは密かに上位個体の陰口を叩きます」

打ち止め「陰口になってないよー、ってミサカはミサカは指摘してみる」

狭い寝室で繰り返される「ミサカ」という単語。
今、御坂妹と打ち止めは仲良く(?)一緒になって寝室のベッドに潜り込んでいた。

御坂妹「そもそも、どうしてミサカが毎晩こんなことをしなければならないのでしょう? とミサカは懲りずに文句を言ってみます」

こんなこと、とは今まさに御坂妹がしていることで、それは寝る前の打ち止めに絵本を読んで聞かせてあげることだった。端から見れば仲の良い姉妹である。

打ち止め「いいのいのーって、ミサカはミサカは10032号の身体にギューッとひっついてみる」

御坂妹「やれやれ……(本物の姉妹とはこの様なものなのでしょうか。なら、こうやって本当の姉みたいに妹を可愛がるのも悪くないのかもしれませんね、とミサカは内心微笑んでみます)」

打ち止め「じゃ、次これ読んでよー」

御坂妹「はいはい分かりました、とミサカは本を開いてみます」

打ち止め「ワクワク」

御坂妹「むかしむかしあるところに、おじいさんとおばあさんが………」

数十分後、本を読み終え部屋の電気も落とし、御坂妹と打ち止めは天井を見上げていた。

打ち止め「ねぇ……10032号」

御坂妹「何でしょうか?」

打ち止め「上条さんに言われたこと気にしてるの? ってミサカはミサカは地雷を踏みそうな話題に少し触れてみたり」

御坂妹「…………………」

打ち止め「上条さんは、明日の敵拠点の1つの破壊工作について、10032号に『無理して付いて来なくていい』って言ったみたいだけど……。別にそれは10032号が役立たずだとか、弱いとかそんなことを言っているんじゃないと思うよ、ってミサカはミサカは擁護してみる」

御坂妹「………」

打ち止め「多分、単純に危ない目に遭わせたくないんじゃないかな? ってミサカはミサカは名推理」

640 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/06(火) 23:33:48.40 ID:HYcJdkc0 [13/14]
御坂妹「…………それは十分承知しています。ですが、ミサカはあの人に協力を申し出る時『最後の最後まで付き合う』と誓ったのです。今更、危険から逃げようだなんて考えてません、とミサカははっきりと言っておきます」

打ち止め「だから、その10032号の決心を気遣ってほしかったんでしょ?」

御坂妹「………」

打ち止め「でも明日の作戦は、上条さんと一方通行の2人だけでも出来ることだし、上条さんは無理してまで10032号が危ない目に遭ってほしくなかっただけだと思うよ。ミサカも、そういう場合なら、10032号が付いて行かなくてもいいと思うけど……」

御坂妹「別にそれだけが理由ではありません」

打ち止め「え?」

御坂妹「ミサカには、あの人の側についてあの人を守ってあげたい、という意志もあるのです、とミサカは言い切ってみます」

打ち止め「そっか……」

御坂妹「………………」

無言になる2人。
御坂妹は、上条の言葉を思い出す。

御坂妹「(ミサカの固い意志は何人にも止められません、とミサカは自分で確信します)」

1度、御坂妹は溜息を吐く。

御坂妹「下らないことを言ってないで早く寝なさい」

打ち止めに注意する御坂妹。それはまるで本当の姉のようだった。

御坂妹「?」

しかし、打ち止めからの返事がない。思わず、打ち止めの方を見てみると……

打ち止め「スー……スー……」

打ち止めが天使のような寝顔で可愛らしい寝息を立てていた。

御坂妹「まったく、おマセさんなんだから」

打ち止め「スー……スー……」

御坂妹「……………ハァ…」

再び溜息を吐く御坂妹

御坂妹「………………クスッ」

そして1度だけ口元を緩めると、御坂妹は打ち止めに優しく布団を掛けてやった。
規則的なリズムで打ち止めのお腹を軽く叩いてやりながら、御坂妹も深い眠りに就いた。

661 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/07(水) 21:41:23.55 ID:xkIq9wM0 [2/24]
翌日、上条の言った通り、学園都市の全校に出されていた休校措置が久しぶりに解除された。
安心した学生たちは、溜まっていた不安を発散するように街へ飛び出し、久しぶりの学生生活に身を浸らせた。
街は活気を取り戻し、学生たちの元気な声が響き渡った。
彼らは、赴くままに青春を楽しむ。街の裏で何が起こっているのか知らないまま――。


放課後・とある喫茶店――。

美琴「さぁて♪ 久しぶりのパフェよ~♪」

初春「私もパフェが食べたくて食べたくて、この日が再び来るのをずっと待っていました!」キラキラ

窓際のテーブルに、いつもの4人…美琴、黒子、佐天、初春が座っていた。
彼女たちは今、4人分のパフェを前に女子中学生らしい歓喜の声を上げている。

佐天「うっひゃー…御坂さんも初春も、でっかいの頼んだねー」

黒子「お姉さま、太りますわよ」

美琴「1回食べただけで太ってたら、全人類メタボ化してるっつーの。しかも一昨日までホームレスみたいな生活してたんだから少しは痩せてるはず。なら今しかチャンスはないっしょ」

佐天「ま、確かにそうですね」

黒子「一理ありますわね」

美琴「じゃ、いっただきまーす!」

初春「いただきまーす!」

4人はムシャムシャとパフェを食べ始める。

黒子「お姉さま、一口だけ交換いたしません?」

美琴「いやいや、同じの食べてるのに交換とかないから」

663 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/07(水) 21:46:23.14 ID:xkIq9wM0 [3/24]
黒子「そう仰らずに恥ずかしがらないで。はい、あ~ん♪」

美琴「やめんかぁ!」ビリビリッ

黒子「あぁぁぁあん♪ 久しぶりのお姉さまの愛の鞭、効きますわ~ん」ビクビクッ

佐天「あはは…相変わらずですねー……パクッ」
佐天「…うーん甘い! でもこの食感が最高なのよね♪」

初春「そうそう。この口の中に広がるトンローリとしたそれでいて何とも言い難い甘みの美味しいこと美味しいこと」モグモグ

佐天「あたしもっと食べてやろ」ムシャムシャ

黒子「あらあら。佐天さんも太ったらどうしますの?」パクパク

佐天「あはは。あたしは大丈夫です。何でか知らないけど、太っても胸の方に脂肪がいくみたいで」

美琴黒子初春「何ですと!!??」ガビーン

佐天「え? 何かあたし変なこと言いました?」

黒子「脂肪が胸にいくですって? 何ですかその反則的な体質は!」

初春「うわぁ羨ましいですぅ。だから佐天さん、中1なのにそんなにスタイル良いんですね!」

美琴「ね、ねぇ佐天さん、普段の食生活とか詳しくお、教えてくれないかな? え? いや、別に胸が小さいとか気にしてるわけじゃないのよ?」

佐天「何でみんなそんなに必死なんですか!?」

やいのやいのと騒ぎながら、とある女子中学生4人娘の時間は過ぎていく。

664 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/07(水) 21:51:27.01 ID:xkIq9wM0 [4/24]
しばらくして………

美琴「…………………」

パフェを食べ終わり、美琴はスプーンの端を口に咥え頬杖をつきながら窓の外を眺めていた。
今も街は学生たちで溢れている。

黒子佐天初春「―――――――」ワイノワイノ

初春「!」

と、そんな美琴の様子に向かいの席が初春が気付き声を掛けた。

初春「街も元気が戻ってきましたよね」

美琴「ん? あ、そうね……」

佐天「何だか1週間前を思い出すと、信じられませんよね。あたしたちホームレスみたいな生活してたんですよ」

黒子「色々ありましたわね」

佐天と黒子も話に加わる。
彼女たちのテンションが少し下がった。

初春「でも平和に見えても、本当は破滅へのカウントダウンが始まってるんですよね……」

佐天「本当に内戦なんて始まっちゃうのかな?」

黒子「いずれにせよ、大事に備えておく必要があるかもしれませんわね」

美琴「…………………」

徐々に、彼女たちのテンションが落ちていく。

黒子「…………………」

佐天「…………………」

初春「…………………」

やがて全員、無言になったしまった。

美琴「…ハァ……止め止め!」

黒子佐天初春「?」

美琴「何よ貴女たち辛苦臭くしてさ。せっかくなんだから、今は楽しみなさいよ」

美琴が何とか場の雰囲気を元に戻そうと試みる。

665 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/07(水) 21:57:24.64 ID:xkIq9wM0 [5/24]
黒子「しかし……」

美琴「それに、内戦だって回避されるかもしれないでしょ?」

確かに、その可能性も無きにしも非ずだ。だが、上条たちの様子を実際見ているだけに、それが難しいことであることは彼女たちも大体分かっていた。
しかし、美琴はそれでも続ける。

美琴「私たちがうじうじしたって何も変わらないでしょ? だから今はほら、スマイルスマイル」

ニコッと美琴が笑ってみせる。

黒子佐天初春「……………」

美琴「(駄目か?)」

黒子「そうですわね」

美琴「え?」

佐天「落ち込んでても何も変わらないですもんね」

初春「ごめんなさい。スマイルですよね」

ようやく彼女たちも、元気を取り戻したようだった。

美琴「出来るじゃないスマイル。みんな可愛い笑顔してるわよ」

佐天「これでもですかぁ?」

美琴「え? プッ…あはははははは」

初春「一体何ですか? って佐天さん、フフフフフ」

黒子「ちょっ…貴女、やめなさい…クスス」

佐天が作った変顔を見て、美琴たちが笑う。

美琴「やったわね…じゃあこれなんてどう?」

佐天に倣い、美琴も変顔を作る。

佐天「プッ…は、反則ですそれ! あはは」

初春「お…お嬢さまのイメージが崩れ……でも…フフフフフ…おかしい」

黒子「お、お姉さま……そんなはしたない顔……クスクス」

初春「じゃ、私も……どうですかこれ!」

667 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/07(水) 22:03:37.80 ID:xkIq9wM0 [6/24]
佐天「あははははは、初春、そんな顔出来たんだ? 超受ける。フフッ」

黒子「う、初春…お、お止めなさい……クククク」

美琴「あははは。初春さん貴女、最高よ!」

初春「そうですかぁ? でも1人だけまだやってない人がいますよー」チラッ

黒子「えっ」ギクッ

佐天「あ、本当だー。不公平ですよねー」ニヤニヤ

黒子「わ、私は淑女としての嗜みがありますの。そんな変な顔だなんて」

美琴「えいっこれでもか!」ムニュゥ~

黒子「ぎゃっ! お、お姉さま! お止めになって下さいまし」

佐天「あはははは。すごい! 傑作です!」

初春「4人の中で最高の変顔してますよ白井さん。クスクス」

黒子「ぎゃー見ないで下さいのーでもお姉さまに触れてもらってるこの至福の瞬間から逃れたくないと言う二重苦やはりお姉さまは黒子のこと……」

美琴「ニコニコ」ビリビリッ

黒子「ぎゃぁぁぁぁん何と言う不意打ちですが最高に気持ちいいでも変顔はおやめになって~」

佐天「あはははははは」

初春「ふふふふふふ」

彼女たちに、笑顔が戻った。

668 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/07(水) 22:09:35.07 ID:xkIq9wM0 [7/24]
その頃・第5学区――。

ズッオオオオオオン!!!!!

けたたましい爆音が、共同溝内に響き渡った。

上条「クソッ!!」

美琴たち4人が第7学区の喫茶店で食事をしていた頃、上条たちは第5学区の地下で多くの敵を相手に悪戦苦闘していた。

バギィィィン!!!

咄嗟に右手を突き出し、上条は飛んで来た炎を打ち消す。
彼は今、第5学区地下の共同溝を、一方通行と御坂妹共に逃走していた。

一方通行「武装兵に魔術師…追っ手は増えるばかりだ。俺の反射で全て防ぎきれるかもしれねェが、オマエらを完璧に守れる保障はねェ。悪いが自分の身は自分の身で守れ」

上条「ああ」

御坂妹「承知しています」

彼らは今、劣勢にあった。
計画通り、敵の拠点の1つを狙った上条たち。しかし、彼らの作戦はいきなり失敗を見た。
上条たちは当初、敵の主力が地上に展開していると予測していた。それを受けて黄泉川の部下の1個小隊を敵の陽動として地上に向かわせてたのだが、実際は逆だった。
上条たちが密かに破壊工作を行おうとしていたルート上に、主力は待っていたのだ。お陰で、彼らは本来の目的を果たすことが出来ず、ただ逃走するしかなかった。

御坂妹「10時方向に人影を確認」

物陰から周囲を窺った御坂妹は、ダットサイトを覗き込みライフルのトリガーガードに添えていた指を引き金に掛ける。

ダダダダダダダダダダダダ!!!!!!

鋭い音が轟き、敵が一瞬怯んだ。

パパパパパパパパン!!!!! パパパン!!! パパパン!!!

が、すぐに反撃が開始され向こうからもライフル弾が飛んで来た。
咄嗟に身を隠す上条と御坂妹。
そんな中、一方通行は今、別方向からやって来た研究者たちを相手にしていた。研究者、と言っても非正規の手段で能力を手に入れた手強い連中だった。

御坂妹「しぶといですね、とミサカは溜息を吐きます」

ダットサイトから目を離すと、御坂妹は暗視ゴーグルと赤外線レーザーサイトを使って、手に抱えていたFN F2000アサルトライフルを連射した。

ダダダダダダダダダダダダダダ!!!!!!

その猛攻に敵の武装兵たちが後ずさる。

上条「ん!? あれは……!? 普通の兵士の姿をしてない……となると、また魔術師か! どんだけ魔術師を雇ってるんだ!?」

669 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/07(水) 22:16:24.60 ID:xkIq9wM0 [8/24]
銃を持つ兵士たちの後ろから、1人の魔術師らしき男が現れた。

上条「援護頼む」

御坂妹「了解」

ヒュウウウウウウン!!!!!

魔術師がどこからか取り出したのか、半透明の槍を投げ付けてきた。

パパパパアン!!!! パパパパパパン!!!!!

と、同時に兵士たちが上条を狙おうと発砲を開始した。

御坂妹「そうはさせません」

ダダダダダダダダダダダ!!!!!!!

御坂妹の援護射撃で兵士たちの動きを牽制する。

バギィィィン!!!!

その隙を狙い、上条は飛んで来た槍を右手で打ち消す。
魔術師が怯んだ隙に、御坂妹は更に攻撃を加えた。

御坂妹「しつこいですね、とミサカは辟易します」

御坂妹は、銃口の下に装着されたグレネードランチャーの引き金を引いた。

ボッシュウウウウウウウ

空気が抜ける音と共に、御坂妹特製・対人近接信管が組み込まれた擲弾が飛来して行く。
やがてそれは、内部のセンサーで人体の温度と熱を感知すると兵士たちのすぐ頭上で爆発した。

ドォォォン!!!

魔術師「ぐあっ!!」

魔術師を含めた兵士たちが悲鳴を上げる。

上条「よくやった」

御坂妹「いえいえ」

上条「ん?」

御坂妹「新手ですね」

671 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/07(水) 22:22:37.06 ID:xkIq9wM0 [9/24]
上条「きりが無いな。逃げるぞ」

御坂妹「了解!」

2人が立ち上がる。

上条「一方通行!」

振り返る上条。

一方通行「すまねェが、こっちもきりが無い。ちょっくら、あっちのルート攻め込ンで来るわ。オマエらは先に行ってろ」

上条「お、おい!」

上条が止めるより先に、一方通行は飛び出していた。

上条「ったく、反対方向からも新手が来てるんだぞ」

御坂妹「彼なら大丈夫でしょう。我々は一先ずここを退却しましょう」

上条「チッ、分かった」

2人は踵を返し、暗い地下を駆けて行く。

上条「ハッ……ハァ……ハァ…」

御坂妹「……ハァ……ハァ…」

御坂妹のF2000アサルトライフルに取り付けられたフラッシュライトの光を頼りに、2人は暗闇を疾走する。
息継ぎの声だけが不気味にエコーがかって響いていた。
と、その時だった。



ガサリ



上条御坂妹「!!!!!!」

前方の暗闇から物音がした。

673 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/07(水) 22:27:57.13 ID:xkIq9wM0 [10/24]
足を止め、その場に固まる上条と御坂妹。
息をするのも躊躇われるような静寂の中、先頭に立つ御坂妹がライフルの銃口を四方に向ける。銃口と同期して、フラッシュライトの光が闇の一辺を流れるように照らしていく。

上条「………………」

御坂妹「………………」ザッ…

一歩、御坂妹は踏み出した。
フォアグリップを握る左手は既に汗ばんで今にも滑りそうになっており、トリガーガードに添えている右手の人差し指も感触がほぼ無くなっていた。

御坂妹「………………」

彼女は更に一歩、踏み出す。

上条「………………」

御坂妹「……………」

その瞬間――。



ヒュッ



という音と共に、フラッシュライトに照らされた何かが一瞬、不気味に煌いた。

御坂妹「!!!???」

その煌きに気付き、御坂妹がそちらに顔を向けると、暗闇から飛び出した1つのアーミーナイフが銀色の光を発しながら、彼女を今にも突き刺さんと迫っていた。

上条「危ない!!!!!」

674 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/07(水) 22:33:24.17 ID:xkIq9wM0 [11/24]
紙一重でナイフをかわす御坂妹。
切られた前髪が空中を舞う。

「シッ!!!」

予断を与える間も無く、暗闇から飛び出してきた武装兵はナイフを更に薙ぐ。

パパパァン!!!

御坂妹はバックステップでそれを避けつつライフルを発砲したが、咄嗟のことだったためか銃弾はあらぬ方向に着弾した。そればかりか、汗で滑ったため同時に手元からライフルが離れてしまった。

御坂妹「くっ!」

3点スリングで肩に提げているため、ライフルが地面に落ちることはなかったが、武装兵は御坂妹が再びライフルを構えるための動作を許してくれるほど優しくはなかった。

上条「クソッ!」

迂闊に飛び込めば、御坂妹が無闇に傷ついてしまう可能性もある。したがって、上条は動こうと思っても動けない。

御坂妹「………っ」

英語らしき言語で「イッツ・オゥヴァ」と聞こえた気がした。と、同時に武装兵のナイフが御坂妹の胸へ一直線に振り降ろされた。
しかし………



バチバチッ!!!



「ぐふっ!!!」

刹那、暗闇が昼間のように明るくなったかと思うと、武装兵の手元からナイフが落ち、1テンポ遅れて武装兵が地面に崩れ落ちた。
ナイフが地面の上を回転する鋭い音が響いた。

上条「………大丈夫か!?」

倒れた武装兵を確認すると、上条は御坂妹に駆け寄った。

御坂妹「ミサカの得物がライフルだけだとタカを括ったのが貴方の敗因です、とミサカは冷めた目で倒れた武装兵を見つめます」

彼女の左手には、青白い電気がバチバチッと纏わりついていた。

上条「良かった……」

上条はホッと溜息を吐く。

675 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/07(水) 22:40:01.41 ID:xkIq9wM0 [12/24]
御坂妹「安心している暇はありません。先を急がなければ」

上条「そうだな」

御坂妹「その前に、弾が切れたようです。マガジンを換えるので数秒ほど待って下さい」

そう言って御坂妹はスカートに取り付けていたマガジンポーチから弾倉を1つ取り出し、ライフルに装着しようとする。
その瞬間だった。

御坂妹「!?」

フラッシュライトが一瞬照らした先――そこに黒い覆面に覆われた男の姿が映った。
そして、その男の手にはライフルが抱えられてあり、銃口は上条の胸に注がれていて………

上条「?」

御坂妹「!」

時が止まる。
そして、御坂妹の脳裏に、ある人物の笑顔と言葉が共に蘇った――。






   ――「“あいつ”のことも守ってあげてね」――






叫ぶ間も無く、御坂妹は飛び出していた。

679 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/07(水) 22:46:37.75 ID:xkIq9wM0 [13/24]





ダカカカカカカカカカカカカカカカ!!!!!!!!!





莫大な光量と音が暗闇を充満する。

上条「あ……」

何が起こったのかすぐに理解も出来ない中、上条が見た光景はコマ送りのように流れていった。


自分をライフルで狙う男の影――。


目の前に飛び出す御坂妹の小さな背中――。


そして、オレンジ色の2つの発砲炎――。


御坂妹「………っ……!!」

2つ分の血が虚空に飛び散る。

「が……はっ!!」

断末魔を上げ、武装兵は倒れた。
しかし、上条はそっちに意識を向けていない。彼は、目の前を舞うように崩れていく御坂妹の姿に見入っていた。

上条「ミサカ!!!!!!」

血を身体から吹き出し、地面に倒れそうになる御坂妹を上条は寸でのところで抱き支えた。

上条「ミサカ!!!!!!!!!!!」

680 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/07(水) 22:52:46.88 ID:xkIq9wM0 [14/24]
再び、上条が叫ぶ。
彼が抱える御坂妹の制服は、赤く染められており彼女の腕はダランと地面に接触していた。

御坂妹「……怪我は……ありませんか?……とミサカは……ゴボッ!!」

言葉を紡ごうとした御坂妹の口から赤色の液体が噴き出す。

上条「喋るな! 俺は大丈夫だから!! クソッ!! 何でこんなことに……ああ!!」

御坂妹「ご無事で……安心しました……」

上条「だから喋るな!!!」

暗闇に敵の姿を視認した御坂妹は、上条を守るために楯になる形で飛び出したのだったが、彼女はその瞬間に、マガジンを装着したばかりのF2000のボルトを引き、発砲するという二段階の動作を行っていたのだ。
庇うだけでなく、わざわざ反撃したのは自分が倒れた後に、物理攻撃への耐性を持たない上条が続けて撃たれるのを防ぐためだった。

上条「血が止まらない……チクショウ!!」

上条は御坂妹の傷口を必死に塞ごうとする。そんな上条の姿を、御坂妹は僅かに口元を緩めて見ていた。

一方通行「悪ィ、遅くなった……って…何!?」

そこへ一方通行が戻って来た。

一方通行「おい、何だよこれ……一体何があったンだ上条!?」

その凄惨な光景を見て、一方通行が驚きの声を上げた。

上条「敵が……潜んで……潜んでて…クソッ…庇おうとして撃たれたんだ!!!」

一方通行「!!」

気が動転しているのか、上条の言葉は半ば意味不明だった。
血まみれの御坂妹を一方通行は呆然と見る。彼女はヒューヒューと苦しそうに息をしていた。

一方通行「……………」
一方通行「……チッ、どけ」

上条「何する気だよ!?」

一方通行「黙ってろ」

御坂妹の前にしゃがむと、一方通行は御坂妹の肌に優しく手を触れた。内部の血液の流れや電気信号を読み取って、御坂妹の現在の状態を診断しているのだ。

一方通行「…………………」

上条「…………………」

御坂妹「……ハァ……ゼェ……ハッ……ゼェ……」

681 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/07(水) 22:59:22.56 ID:xkIq9wM0 [15/24]
しばらくすると、一方通行は御坂妹から手を離した。

上条「どうなんだよおい!? 助かるのか御坂妹は!?」

御坂妹「………ハァ……ハァ…ん……ハァ…」

一方通行「…………………」

上条「お前、血流とかベクトル操作出来るんだろ? 早く治してやってくれよ!! 助けてくれよ!!」

上条が叫ぶ。
そして、一方通行は立ち上がると一言だけボソッと呟いた。

一方通行「やだね」

上条「!!!!????」
上条「………何だと?」

一方通行「聞こえなかったか? 嫌だ、って言ったンだよ」

上条「……お前、ふざけてんのか? こんな時に何寝ぼけたこと言ってんだよ!?」

一方通行「………………」

上条「黙ってないで何とかしろよ!!!!」ガッ

上条が一方通行の胸倉を右手で掴んだ。

一方通行「断る」

その言葉にぶち切れた上条が右手を振り上げた。

上条「てめぇ!!」

御坂妹「……待って!……」

上条「!?」

上条の拳が空中で静止する。

御坂妹「……一方通行に非は……ありません……ハァハァ…」

上条「なん……?」

一方通行は視線を御坂妹とは逆方向に向けたままただ黙っている。

御坂妹「………自分の身体のことぐらい、分かります………ミサカはもう……手遅れなんでしょう?」

上条「!!!!!!!!」

682 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/07(水) 23:06:06.33 ID:xkIq9wM0 [16/24]
バッと上条が一方通行の方に振り返った。

一方通行「…………………」

御坂妹「だから……もう……」

上条「違う……」

御坂妹「……?」

上条「そんなことあっていいはずがない!! そんなの俺は納得出来ない!!」

再び、上条が一方通行に掴みかかる。

上条「お前、学園都市最高の頭脳を持ってんだろ!? 何で治せねぇんだよ!? 助けてやってくれよ!!」

上条の必死の叫びを一方通行はただ目を瞑って聞いていたが、耐え切れなくなったのか彼は上条の右手を振り払った。

一方通行「治せねェもンは治せねェンだよクソヤロウ!! ソイツは既に瀕死の状態なンだよ!!! 身体の中の内臓がボロボロに傷ついてどこをどうやろうが無駄骨なンだよ!!!!」

上条「………っ」

一方通行「いいぜェ? なら一箇所だけでも血流操作してやろうか? まァ、そンなことしてもソイツの寿命が僅かに延びるだけで、逆に苦しい思いを長引かせるだけだがなァ!! そンでもいいなら、治療してやろうか!? あァ!!??」 

上条「………………あ……あ…」

絶望の表情を浮かび上がらせ、上条は愕然とする。そして彼は信じられない、という目で御坂妹を見つめた。

上条「ミサカ………」

御坂妹「………そんな…顔を……なさらないで……下さい……」

上条「そうだ! カエル顔の先生の病院に連れて行こう! それならまだ……!!」

そう言って上条は御坂妹を抱え上げようとする。
しかし、御坂妹は上条の手を掴み、首を横に振った。

上条「!!!」

685 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/07(水) 23:12:21.80 ID:xkIq9wM0 [17/24]
御坂妹「………ここから…アジトに戻って……救急車を呼んで……どれぐらい時間が掛かると思って……いるのですか? 恐らくミサカは……もう……アジトに戻るまでの体力も……ゲホッゲホッ」

再び御坂妹が血を噴き出した。

上条「ミサカ!!」

一方通行「上条」

上条「何だよ!!!」

一方通行「これ以上、ソイツに無理させンのは逆効果だ。もう、やめておけ………」

静かに、一方通行が後ろから声を掛けた。

上条「何でだよ!? 何でだよミサカ!! 何でお前がこんな目に遭わなきゃならないんだ!! 言ったじゃないか!! 俺と一緒に最後まで戦う、って!! こんなところで俺を置いていかないでくれ!!! ミサカ!!!」

御坂妹「ミサカはもう……十分です。貴方に……こんなに心配されて………」

そう言うと、上条に抱き支えられていた御坂は残った力を絞り出すようにググッと動かし、血にまみれた左手を上条の首に回した。

上条「ミサカ!?」

そのまま御坂妹は、上条の耳元に顔を寄せる。

御坂妹「ミサカは……貴方に会えて………幸せ…でした………」

上条「ミサカ……」

御坂妹「先に行って……待ってます」

静かに、御坂妹は一言一言を紡いでいく。

上条「そんな……やめてくれ………」

御坂妹「最後に………お姉さまのこと……宜しく頼みます………」

上条「お願いだミサカ……俺を…置いて行くなっ!!」

上条の懇願が空しく響き渡る。
そして御坂妹は最後に1つだけ呟いた。

686 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/07(水) 23:18:25.14 ID:xkIq9wM0 [18/24]
御坂妹「“当麻”………」

上条「!!!???」

御坂妹「………ミサカは……貴方のことがずっと……好き……でした……とミサカは………」

上条「!!!」

ふと、御坂妹の力が抜け、上条の首に回されていた彼女の左手が上条の右頬を撫でるように離れていく。

上条「ミサカ………」

最後に上条の顔を見つめると、御坂妹は彼の腕の中、微笑みながらゆっくりと目を閉じていった。

上条「ミサカ……?」

ガクンと御坂妹の顔から、手足から、身体中から全ての力が抜け落ちた。

一方通行「……………………」

上条「ミサカ………」

御坂妹「……………」

しかし、もう御坂妹は何も発しない。いや、何も発せなかった。
そんな彼女を見て、上条はただ呆然とその名前を呟くことしか出来なかった。

上条「ミ……サ……カ………」





上条「ミサカあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」





胸の中で御坂妹を抱き締め、すがるように上条は泣き叫ぶ。

一方通行「………………」ギリッ…

その光景を一方通行もまた、黙って眺めていた。

上条「ああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

上条の右頬に付着した御坂妹の血がゆっくりと固まり始める。
上条は御坂妹を抱き締め、いつまでも彼女の名前を呼び続けていた――。

688 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/07(水) 23:24:23.50 ID:xkIq9wM0 [19/24]
打ち止め「!!!!!!!!」

上条たちのアジト。1人、私室のベッドで足をぶらつかせていた打ち止めが急に立ち上がった。

打ち止め「…………10032号……?」

呆然と立ち尽くす彼女は、とある下位個体の名を呟く。

打ち止め「………10032号からの反応が……消えた?」

打ち止めは目を瞑り、ミサカネットワークにログインする。

打ち止め「…………やっぱり、いない」

徐々に彼女の顔が蒼ざめていく。

打ち止め「……ただのログアウトの状態とはまた違う……まるで、1つの端末が突然ネットワーク上から切断されたような………」

腕を胸元に引き寄せる打ち止め。

打ち止め「10032号……何があったの……?」



美琴「!!!!????」

学園都市の第7学区・とある大通り。街が夕日に染められ始めた頃、美琴は急に立ち止まり後ろを振り返った。

美琴「…………………」

黒子「ん? どうしたんですのお姉さま?」

佐天「急に立ち止まって、何かあったんですか?」

初春「御坂さん?」

美琴の様子に気付いた黒子たちも数m手前で立ち止まった。

美琴「(……何だろ今の…。何か嫌な予感がしたんだけど………)」

胸中に呟き、彼女は大通りを見つめる。

689 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/07(水) 23:29:36.21 ID:xkIq9wM0 [20/24]
黒子「お・ね・え・さ・ま・!」

美琴「ん?」

ふと気付くと、黒子が美琴に腕を絡ませてきていた。そちらに視線をやると、佐天と初春もそこにいた。

黒子「ボーッとなされてどうなされたのですか?」

美琴「……いや、別に何にも(ただの気のせいよね……)」

佐天「これからカラオケ行かないか、ってみんなで話してたんですけどどうです?」

美琴「…カラオケ?」

初春「そうです! 久しぶりに歌っちゃいましょうよ!」ワクワク

美琴「…………………」

黒子「もしかして何か用事でも?」

美琴「え? いえ、まさか」
御坂「そうね。久しぶりだし、最終下校時刻まで時間あるし遊んじゃおうか」

佐天「やりぃ! そう来なくっちゃ!!」

初春「早く行きましょうよ!」

佐天がはしゃぐように先に歩き、黒子と初春は美琴の両腕をそれぞれ掴んで早く歩くよう彼女に促す。
美琴はそんな彼女たちの楽しそうな顔を見ると、一瞬過ぎった嫌な予感を頭の中から取り払い、一緒に微笑みながら歩き始めた。

690 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/07(水) 23:34:46.77 ID:xkIq9wM0 [21/24]
上条たちのアジト――。

ドバン!!

物凄い勢いで、ドアが開けられる音が聞こえた。メインルームにいた打ち止めは急いで入口の方に駆け寄った。

打ち止め「!!!!!!」

そこには、目元に陰をつくった上条が血まみれの御坂妹を抱え立っていた。

上条「…………………」

打ち止め「…………ウソ……だよね?」

上条は無言のまま、メインルームに足を踏み入れる。

打ち止め「………ウソって言ってよ……」

一方通行「ウソじゃねェ……」

打ち止め「!?」

振り向く打ち止め。
上条の後ろから無表情のまま一方通行が入ってきた。彼の後ろでは、驚いた表情を浮かべている門番の警備員2人がドアの外からこちらを窺う姿が見えた。

上条「…………………」

上条は、メインルームに着くと、冷たくなった御坂妹の遺体をソファの上に優しく置いた。
打ち止めが駆け寄って来る。

打ち止め「……そんな……10032号……何で………」

御坂妹の目は閉じられ、口からは赤い液体の筋が流れていた。
見るからに痛々しそうな姿だったが、彼女の顔はどこか幸せそうに見えた。

黄泉川「一体何事じゃん」
黄泉川「!!!???」

奥の部屋から、黄泉川が現れ、ソファの上の光景を見るなり言葉を詰まらせた。

691 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/07(水) 23:40:13.18 ID:xkIq9wM0 [22/24]
黄泉川「……お前ら………」

打ち止め「……グスッ……たった今……一方通行たちが帰って……ヒグッ……来たら……10032号が……こんなことに………」

打ち止めはグーにした両手で涙が零れる目元を拭く。

一方通行「俺は……直接その場面を見たわけじゃねェ……。だが、どうも敵の武装兵に撃たれたのは確かなようだ」

黄泉川「そうなのか? ……上条?」

上条「……………違う……」

黄泉川「え?」

上条「御坂妹は………俺を庇うために…楯になったんだ……。俺が殺したようなものなんだ」

御坂妹の前で両膝をつき、上条は唇を噛みしめながら両拳をソファの上で握った。
彼の目の前にある御坂妹の肌は、死んだのが嘘であるかのように白く綺麗だった。

上条「俺を守るために……こいつは……っ!!」

上条は心底悔しそうに言葉を紡いだ。
一方通行は彼の後ろでただ黙ったまま目を瞑り、黄泉川は泣き続ける打ち止めに影響されたのか目頭を潤ませた。

打ち止め「やだよぉ10032号!! 起きてよ!! 昨日はあんなに元気だったのに!!」

打ち止めが上条の側に座り、御坂妹にすがるように叫ぶ。

打ち止め「また……寝る時に本を読んでよ………起きてよ10032号……って、ミサカは……グスッ…ミサカは………」

しばらくの間、上条と打ち止めの嗚咽が部屋の中に響いていた。

一方通行「で………」

静かに一方通行が口を開く。

一方通行「……超電磁砲にはこのこと伝えるのか?」

693 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage] 投稿日:2010/07/07(水) 23:45:35.22 ID:xkIq9wM0 [23/24]
上条「…………………いや」

一方通行「?」

上条「……………駄目だ。そんなことしたらあいつは、激昂してこいつの仇を討とうとする。そうなったら……あいつらを危険な目に遭わせちまう……」

寂しそうな背中を見せながら、上条はボソボソと喋る。

一方通行「…………」

打ち止め「グスッ……ヒグッ………」

上条「御坂妹は最期に言った……『お姉さまを頼む』って…。こいつの……想いを無駄には出来ない……。御坂には伝えるが、それはもっと、日数を開けてからだ……」

一方通行「そうかよ」

それだけ言うと、一方通行は黄泉川の横を通り過ぎ、奥にある私室に入っていった。

打ち止め「ヒグッ……10032号……」

しばらくして、奥の私室から何かが壊れる音が聞こえた。

打ち止め「………一方通行……」

何の反応も無いように見えて一方通行もまた仲間の死を悔やんでいたのだ。特に彼にとって妹達(シスターズ)は過去の辛い経緯から、何があろうと守ろうとしていた存在だった。一方通行の心情も揺れに揺れていた。

黄泉川「上条」

黄泉川が上条の肩に手を置く。

黄泉川「いつまでも、彼女をこのままにはしておけない。分かるな?」

打ち止め「……うえっぐ……ヒグッ……」

上条「………………はい」

絞り出すように、上条は答えた。
彼はその後しばらく、御坂妹の遺体から離れることはなかった。それを知ってか知らずか、御坂妹はどこか嬉しそうに微笑みながら、胸元のネックレスに指を添えていた。

コメント

No title

作者天才

No title

自分たちの想像も及ばない位大きな大人の思惑の中で、何も知らず幼い正義を振りかざして抗う子供たち。

結局、何偉そうなこと一丁前に語っても一方的に大人に守られるだけのただのガキ

そこがいいねェ!!最っ高だねェ!!!

No title

超電磁砲組ざまあとしか言えないな

No title

2-1からいきなり話の質というか面白みが激減したんだが…

1-3まで良かったのにな、勿体無い

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No title

ちくしょう!!!上条達の言動の理由楽しみにしてたのに、急につまんなくなった!!
まあ、SSだからしょうがないけど敵に都合の良い所だけリアルにして上条達はヤラレてるんだね、禁書自体、上条に都合良く土御門達が情報持ってきたりとか・・・一方通行との戦いのときイマジンブレイカーをもってる上条に対してわざわざ接近戦やったりとか・・・そうゆう、
戦術的にも運命的にも都合良すぎるけどラノベだからO・Kな部分を味方には使わないようにするとこうなるって事かなぁ・・・じゃなきゃ土御門とか簡単に死ぬわけないだろうし

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