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上条「招待状?」 インデックス「?」
1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/25(木) 23:31:21.54 ID:/yjVE7+vQ
「お、おいインデックス。
ちゃんと大人しくしてんだぞ」
緊張でソワソワしている上条は、
隣に立っている銀髪シスターに
釘を刺す。
安全ピンだらけの白い修道服に、
透き通るような白い肌。
銀髪が潮風になびいている。
インデックス。訳あって上条の家に居候している女の子だ。
「む、バカにしないで欲しいんだよ。
私は神に仕える身、
ちゃんと場をわきまえ……」
インデックスの瞳が急に大きくなる。
「と、とーま!船!おっきい船!」
インデックスの視線の先には、
この船と入れ違いで港に入る、
巨大な貨物船が見える。
船体には有名な薬学研究施設の
名前が書かれていた。
「お、おいインデックス。
ちゃんと大人しくしてんだぞ」
緊張でソワソワしている上条は、
隣に立っている銀髪シスターに
釘を刺す。
安全ピンだらけの白い修道服に、
透き通るような白い肌。
銀髪が潮風になびいている。
インデックス。訳あって上条の家に居候している女の子だ。
「む、バカにしないで欲しいんだよ。
私は神に仕える身、
ちゃんと場をわきまえ……」
インデックスの瞳が急に大きくなる。
「と、とーま!船!おっきい船!」
インデックスの視線の先には、
この船と入れ違いで港に入る、
巨大な貨物船が見える。
船体には有名な薬学研究施設の
名前が書かれていた。
4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/25(木) 23:45:47.93 ID:/yjVE7+vQ
インデックスは甲板の柵に
身を乗り出し、
貨物船に手を振りながら
きゃあきゃあ騒いでいる。
周りの乗客がインデックスを見て
クスクスと笑っていた。
「あ、あぶねーから落ち着け!
落ちるって!」
上条はインデックスの首根っこを
掴むと、柵から引き剥がした。
「はぁぁ~…」
上条はこの日七度目の溜め息を吐いた。
上条はポケットから一枚の紙を取り出す。
紙にはこう書かれていた。
【学園都市製最新型豪華客船へご招待】
「俺にこんな幸運が起こるなんて…」
7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/25(木) 23:49:45.94 ID:/yjVE7+vQ
上条は八度目の溜め息を吐く。
招待状をポケットにしまおうとした上条は、
携帯が二つ入っている事に気付いた。
「てか、ほれインデックス。お前の携帯」
上条はインデックスに携帯を渡す。
「いらなーい」
相変わらず柵から身を乗り出し、
足をパタパタさせている。
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/25(木) 23:51:01.81 ID:/yjVE7+vQ
「携帯電話は携帯するから
携帯電話なんです!」
「むー…」
無理矢理携帯を握らせると、
インデックスはフードを脱いで
頭の上に携帯を乗せる。
そしてその上から再度フードをかぶる。
「一応聞いてやる。何してんだ?」
インデックスは満面の笑みで答える。
「こうしとけばなくならないんだよ」
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/25(木) 23:52:28.09 ID:/yjVE7+vQ
上条とインデックスは海の上にいる。
豪華客船《シャングリラ》。
学園都市が開発した、
最新型の豪華客船だ。
全長は179メートル。総トン数は
30,260トン。
航海速力は20,0ノット。
旅客定員は664名。
船底から順に、11ものデッキがある。
宿泊設備の他に、レストラン、
フィットネスクラブ、プール、
ショップなどなど、様々な設備が
整っている。
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/25(木) 23:53:40.00 ID:/yjVE7+vQ
「やっぱ…場違いだよなー」
招待状が届いたのは一週間程前だった。
招待状には、船の完成を記念して学園都市に住む学生を、
ランダムに招待している事、
一枚の招待状で二人まで参加出来る事、
その他に諸注意などが記載してあった。
上条はあまり乗り気ではなかったが
(そもそもこのラッキーを
不審に思っているのだ)、
インデックスに押し切られる形で参加したのだ。
「なんか…世界が違い過ぎて
落ち着かねー」
柵にもたれかかり、空を見上げながら、
上条が九度目の溜め息を吐こうとした時だった。
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/25(木) 23:55:25.33 ID:/yjVE7+vQ
「あっ!!あんた!!」
甲板の向こうから誰かが近付いて来る。
「ん?…み…御坂!?」
御坂と呼ばれた少女は、
上条の前まで来ると立ち止まった。
御坂美琴。名門常盤台中学のエースにして、
学園都市第三位のレベル5。
通称【超電磁砲】
「な、なんでお前がここに?」
「じゃあ、あんたは何でここにいんのよ?」
上条は招待状を美琴の前に掲げる。
「じゃあ私がいる理由も分かるでしょーが」
鈍い上条に、
美琴の顔が引きつっている。
12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/25(木) 23:56:36.78 ID:/yjVE7+vQ
「はぁ~、まぁいいわ。
ところであんた一人で来たの?」
「何言ってんだ。ここに……あれ…」
さっきまで横に居たインデックスが居なかった。
「あいつ!いつの間に!」
「な、何?」
一人で慌てる上条に、
美琴は訳が分からないといった顔をする。
「悪い御坂!またなっ!」
それだけ言うと、上条は
甲板から船内へ慌てて走って行ってしまった。
一人取り残された美琴は、
ムカつき半分、寂しさ半分の
複雑な気持ちになった。
「な…なんなのよぉぉぉ!!」
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/25(木) 23:58:14.48 ID:/yjVE7+vQ
「お姉さま、そんなに大声を
出されたら…目立ちますわよ」
いつの間にか美琴の横に
一人の少女が立っている。
ツインテールに美琴と同じ
常盤台の制服を着ていた。
白井黒子。美琴のルームメイトで、
学園都市のジャッジメント。
レベル4のテレポート能力者だ。
「く、黒子…音もなく忍び寄るのは止めてよね」
ちなみに今回の招待状を受け取ったのは
黒子だった。美琴はなかば無理矢理
連れて来られたのだ。
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/25(木) 23:59:57.35 ID:/yjVE7+vQ
「そんな事よりお姉さま。
間もなく歓迎式典が始まりますの。」
「はぁ~、面倒ね…」
美琴は頬杖をついて海を眺める。
「まぁまぁそう仰らずに。
ささ、行きましょうお姉さま」
黒子は美琴の腕を引っ張り
強引に連れて行く。
二人が今いるのは第5デッキ。
つまり下から数えて5番目の階層だ。
この第5デッキが
この船のメインデッキになっている。
歓迎式典は第5デッキのロビーで
行われるのだ。
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:02:50.28 ID:/yjVE7+vQ
「でもこの船定員は600人以上よね」
「学生のみを対象に招待してますからね。
保護者もいませんし…
何かトラブルがあった時に
対処しやすい様にではありませんか?」
「ふーん…」
美琴は興味無さそうに返事をする。
美琴の視線は学生達の間を
行ったり来たりしている。
(あいつ…どこにいんのよ)
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:01:37.91 ID:CcD4bKN/Q
甲板から船内に入ると、
すぐにロビーになっている。
赤い絨毯に、豪華なシャンデリア、
乗船した時はなかったが、
今は規則正しく椅子が並べられていた。
椅子の正面にはスタンドマイクが
設置されている。
ロビーには既にほとんどの
乗客が集まっていた。
船の乗組員以外は学生しかいない。
「なんか思ったより乗客が少ないわね」
美琴はロビーを見渡しながら呟く。
「まったくお姉さま。
招待状に書いてありますわよ。」
黒子が差し出した招待状には、
招待予定人数は約200人と書いてある。
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:04:30.41 ID:CcD4bKN/Q
「ぐ…あの船長。
一人でどんだけ喋んのよ」
美琴は甲板のベンチで
ぐったりしている。
式典は一時間半程で終わったが、
その三分のニは船長の話で潰れた。
「あの方の晴れ舞台ですからね。
仕方ありませんの」
そう言う黒子の顔も、
ウンザリといった表情だった。
黒子はポケットから携帯を取り出す。
「今は…午後5時。
お夕食まではあと2時間
ありますわよ、お姉さま」
招待状には簡単な
スケジュールが記載してある。
それによると夕食は
午後7時となっていた。
場所は第10デッキのレストラン、
バイキング形式となっている。
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:05:40.05 ID:CcD4bKN/Q
「第10デッキって事は…」
美琴は面倒臭そうに首を持ち上げる。
「あそこね…」
二人がいるのは第5デッキ。
つまりレストランは
5つ上のフロアという事になる。
(結局あのバカは来なかったわね…)
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:06:53.38 ID:CcD4bKN/Q
「確か上条さんは大人しくしてろって
言いましたよね?」
上条はインデックスの首根っこを
掴んで説教の真っ最中だった。
「だ…だって」
「だってじゃありません!」
あれから上条は船内を
駆けずり回っていた。
ようやくインデックスを見つけたのは、
第10デッキだった。
第10デッキには和洋中と様々な
レストランがある。
ちなみに今日の夕食は
レストランの中ではなく、
同じフロアのパーティー用の
スペースに用意される。
椅子やテーブルが並べられ、
色とりどりの料理が保温器に
準備されていた。
インデックスはそれをつまみ食いしようと、
準備しているスタッフを困らせていた。
21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:08:23.76 ID:CcD4bKN/Q
「もう少しでご飯食べれるんだから、
我慢だ我慢!」
「あぅぅぅ…」
名残惜しそうなインデックスを
引きずって、上条は第10デッキを後にする。
「式典の後に部屋の鍵貰う事になってんのに…
預けた荷物もその時に
返してもらうんだぞ。ったく」
「だ、だって…」
「だってじゃありません!」
23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:09:57.83 ID:CcD4bKN/Q
結局式典に出られなかった事を平謝りして、
上条は預けた荷物と
部屋のカードキーを手に入れた。
第7デッキから第9デッキまでが
客室になっている。
第9デッキはスイートルームのみの
フロアで、今回招待された学生達は
第7デッキのみ利用出来る様になっていた。
「えーっと…ここだ」
上条は渡されたカードキーの番号と、
扉の番号を見比べる。
部屋に入ると、新築の独特な匂いがした。
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:12:13.60 ID:CcD4bKN/Q
部屋に入ってすぐ左には、
トイレとシャワールーム、
洗面台があった。
部屋はそんなに広くはなかったが、
テーブルに椅子、テレビに冷蔵庫など
設備は充実していた。
しかし上条が真っ先に確認したのは
そんなものではない。
(良かったー!ベッドが二つある!)
インデックスと一緒に暮らしてはいるが、
上条の部屋にはベッドが一つしかない。
一緒に寝るわけにはいかないので、
上条は毎日浴室に寝袋を持ち込んで寝ているのだ。
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:13:17.43 ID:CcD4bKN/Q
(ひ、久しぶりに柔らかいベッドで
寝られる!!神様ありがとう!)
「とーま、何ニヤニヤしてるの?」
インデックスに声を掛けられ、
上条は現実に引き戻される。
部屋の時計は午後6時を差している。
「なんでもねーよ。
それより飯まであと一時間か。
お土産でも見に行ってみるか?」
インデックスは満面の笑みで答える。
「行くー!」
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:15:56.36 ID:CcD4bKN/Q
「お姉さま。いつまでここでのんびり
しているつもりですの?」
式典が終わってから、二人は部屋で
何となく過ごしていた。
あれから一時間が経っていた。
上条の事が気になってはいたが、
自分で探しに行くのも何となく癪
なので、美琴は部屋に居る事にしたのだ。
(何で私があいつの事で
モヤモヤしなきゃいけないのよ…)
部屋には小さな窓が一つ付いている。
美琴はその窓から海を眺めていた。
美琴は上条に特別な感情を持っている。
それは以前美琴自身気付いた事だ。
だがその感情を
上手く受け止められていない。
美琴の恋愛レベルはまだ低いのだ。
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:20:14.17 ID:CcD4bKN/Q
「…えさま!お姉さま!」
「へ?」
「まったく。私の話聞いてます?」
美琴が振り返ると、黒子が
呆れた顔で立っている。
「ですから…せっかくなので
どこか行きませんかと私は
何度も何度も…」
「ご、ごめん。ちょっとボーっとしてた」
黒子は船内の案内図を美琴に渡す。
「黒子としましては、プールか
フィットネスクラブ、
んー、スパも捨てがたいですの」
そういって黒子は、
ニヤニヤしながら第11デッキを
指差す。
第11デッキは最上階のフロアだ。
「…着替えなきゃいけないとこばっかね…」
「な、何の事か黒子には分かりませんの」
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:22:47.63 ID:CcD4bKN/Q
「あんた…変な事考えてないでしょうね?」
そう指摘された黒子は、
明らかにうろたえている。
「べ、別にお姉さまの着替えを
どうしても見たいとかそんな
……あ」
「やっぱり…」
自爆してしまった黒子を見て、
美琴は深い溜め息を吐く。
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:23:47.55 ID:CcD4bKN/Q
「まぁいいわ。確かに黒子の
言うようにせっかくだしね」
「お、お姉さま!では…」
「そっちは行かないからね」
目をキラキラと輝かせる黒子を、
美琴は一刀両断する。
「お土産よ!お土産を見に行く!」
「えー……………」
不満そうな黒子を連れて、
美琴は第6デッキに向かう事にしたのだった。
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:26:21.72 ID:CcD4bKN/Q
「んー、どれにすっかなぁ…」
上条とインデックスは、第6デッキの
ショップに来ていた。
このフロアは、通路を挟んで左右に
様々なショップが並んでいる。
お土産やアクセサリー以外にも、
ケーキやチョコレートなどの
スイーツショップも多数並んでいる。
さながらデパートのようだ。
上条はその内の一軒でお土産を選んでいた。
「小萌の分ー?」
「おう、小萌先生にはスフィンクスの
面倒みてもらってるしなー」
スフィンクスというのは、
インデックスが拾って来た猫の名前だ。
船内はペット禁止になっていたので、
小萌に預けて来たのだ。
月詠小萌。見た目は幼児だが、
上条の担任の教師だ。
いつも何かと世話になっている。
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:27:58.32 ID:CcD4bKN/Q
「秋沙の分も買うー」
姫神秋沙、インデックスの数少ない友達だ。
現在その力は抑えられているが、
ディープブラッドという特殊な能力の持ち主。
上条にとっても友達と呼べる人物の一人だ。
上条は財布の中身と値札を見比べる。
「じゃあ、小萌先生と姫神と…土御門達の分は…
よし、諦めよう!」
いくら豪華客船の中にいても、
上条の財布はいたって庶民なのだ。
「とーま。お土産買ったら…」
「ダメだ」
「う…まだ何も言ってないんだよ」
「どうせ『ケーキ買って欲しいかも』
なーんて言うんだろ?
上条さんにはお見通しなのです」
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:29:10.20 ID:CcD4bKN/Q
「とーまのけちー」
インデックスがケーキの一つや
二つで満足するはずがない。
上条は空の財布が容易に想像出来た。
豪華客船に乗るという事で、
お金は少し多めに持って来てはいたが、
あくまでも万が一の時の為だ。
出来れば生活費にしたい。
上条はお土産を買うと、
だだをこねるインデックスを連れて
部屋に戻る事にした。
36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:30:49.97 ID:CcD4bKN/Q
「く…お姉さまの生着替えを見られると
思ってましたのに…いや、
チャンスはまだありますの…」
「黒子、何ブツブツ言ってんの?」
「な、何でもありませんの!お、
おほほほほ」
二人は通路を歩きながら、
様々な店を見て歩く。
30分程ぶらぶらしていると、
雰囲気の良いお店が見えた。
「初春さんと佐天さんにも
お土産買って帰らないとね」
二人がお店に向かってのんびり
歩いていると、
通路の奥、こちらに向かって
見慣れた人物が歩いて来た。
37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:31:56.55 ID:CcD4bKN/Q
「あぁぁ!!あんた!!」
「おぉ、また会ったなー」
「何が『また会ったなー』よ!
あんた今までどこにいたのよ!?」
上条は頭を掻きながら、
苦笑いをしている。
「いやー、説明すると長くなるんですよ御坂さん」
「あらあら上条さん。お久しぶりですの。
ところでその方は?」
黒子は上条にズルズルと
引きずられている少女を指差す。
少女はうわ言の様に、
ケーキケーキと呟いていた。
「げっ…あんたもいたの」
美琴の声に、引きずられていた少女が
振り返った。
「あ!短髪だ!」
38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:33:41.58 ID:CcD4bKN/Q
「ビリビリとか短髪とか…
あんた達は名前を覚えるのが苦手のようね」
美琴は眉間にしわを寄せて、
前髪からパチパチと電気を放っている。
「い…ち、違うんですよ御坂さん!
こいつは決して名前を
覚えていない訳ではなく…
そう!親しみを込めたあだ名です!
あだ名!」
上条は美琴から距離を取りながら、
必死に言い訳をする。
しかしそれは単に、火に油を
注ぐ結果となる。
「そう…あだ名ね。なるほど」
美琴の顔が笑顔に変わる。
黒子はその笑顔に恐怖を感じたが、
上条は致命的に鈍感だった。
40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:34:40.07 ID:CcD4bKN/Q
「そう、あだ名!いやー、分かって
もらえて良かった!あ、あははは」
この後上条の身に起こる事に同情して、
黒子は静かに目を閉じる。
「そんなあだ名で……」
「あはは…は?」
「親しみ感じるかぁぁぁぁ!!」
美琴の前髪からバチバチと
音を立て、電撃が放たれる。
一直線に向かってくる電撃に、
上条は咄嗟に右手を突き出した。
次の瞬間、電撃は弾ける様に
消えてしまった。
このやり取りを何度繰り返しただろう。
無駄だと分かっていても、
美琴は電撃を放たなければ
気が済まないのだ。
41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:35:58.10 ID:CcD4bKN/Q
上条が美琴の電撃を
消してしまったのを見て、
黒子は初めて上条に会った時の
出来事を思い出していた。
(あの時も…私のテレポートが
使えませんでしたわね…)
黒子は上条の能力について、
薄々は感づいていた。
確証を得る為に一度調べた事があるが、
《能力を消す能力》は学園都市の
バンクにも一切のデータがなかった。
「はぁ~、お姉さま。
場をわきまえて下さいな。」
上条の能力、気にはなるが、
それがなにかしらの脅威ではない以上、
詮索しても仕方がないと黒子は判断した。
それよりも聞かなければならない
事がある。
43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:36:50.99 ID:CcD4bKN/Q
「で、上条さん。もう一度お伺いしますの。
そちらの方をご紹介してくださいませんか?」
黒子は改めてその少女を観察する。
日本人ではないようだが、
日本語は話せるようだ。
銀髪で白い肌、瞳は薄い緑色。
人の事は言えないが、かなり幼く見える。
「あ、あぁ。こいつは……」
44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:38:05.18 ID:CcD4bKN/Q
上条は黒子にインデックスを紹介した。
もちろん"重要な項目"は話さなかった為、
紹介は薄っぺらいものになってしまったが。
こうして改めてインデックスの事
を誰かに話すと、
記憶をなくした事を実感する。
上条はインデックスと出会った経緯も、
なぜ記憶をなくしたのかも覚えていない。
黒子に話さなかった"重要な項目"も、
記憶ではなく知識として知っているだけなのだ。
45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:39:06.67 ID:CcD4bKN/Q
「まぁ、あまり納得出来る紹介では
ありませんが…
とりあえずよろしくですわ、おチビさん」
黒子はそう言って恭しく頭を下げた。
こう見えてもきちんとお嬢様なのだ。
「む?あなたには言われたくないかも」
おチビさんと言われた事に、
インデックスはムッとしている。
「"短髪"より"おチビさん"の方が
マシよね…」
黒子の横では美琴がブツブツ
呟いている。
面倒な事が起きる前に、
上条は話題を変える事にした。
47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:40:30.52 ID:CcD4bKN/Q
「そ、そういえばそろそろ夕食の
時間じゃねーか?」
上条が携帯を取り出すと、
ディスプレイにはPM06:52と表示されている。
「あら、本当ですの」
黒子も携帯で時間を確認している。
夕食と聞いて、
インデックスの顔がみるみる明るくなる。
「とーま大変!急がないと!」
つまみ食いをした時に
場所は覚えたのだろう、
インデックスは一人で走って行ってしまった。
「じゃあ俺達も行こうぜ」
上条は二人に声を掛ける。
「え?」
美琴は驚いて聞き返す。
上条はてっきりあの少女を追って、
別行動になると思っていた。
48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:41:44.14 ID:CcD4bKN/Q
「せっかく知り合いに会えたんだし。
一緒に飯食おうぜ」
そう言うと上条はさっさと第10デッキに
向かって歩き出してしまった。
思わぬかたちで一緒に食事を
する事になって、
美琴は嬉しいような、
気恥ずかしいような気持ちだった。
ちなみに上条は知り合いと一緒の方が、
落ち着いて食事が出来ると思っただけだった。
なにせ豪華客船。
上条の様な貧乏学生とは無縁なのだ。
正直二人に会えて、上条はホッとしていた。
もちろん美琴はそんな上条の心情が
分かるはずもなかったが…
50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:43:11.00 ID:CcD4bKN/Q
第10デッキの船尾側には広いスペースがある。
希望があれば結婚式なども執り行われ、
主にパーティー用などに使う為、
あけられているスペースだ。
会場には綺麗に飾り付けられた円テーブルや椅子、
バイキング形式で様々な料理が並んでいる。
すでにほとんどの乗客が集まっていた。
テーブルは丁度四人で一つ割り当てられている。
単純計算でおよそ50脚だ。
「………」
会場を見渡していた上条は
思わず絶句してしまう。
予想はしていたが、
会場の奥、テーブル一杯に料理を
広げているインデックスが目に入った。
51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:44:19.96 ID:CcD4bKN/Q
「おい…インデックス」
上条は一心不乱に料理を
口に運ぶインデックスに声を掛ける。
「あ、とーま。これは私の分。
とーまにはあげないんだよ?」
「いらねーよ。てか取りすぎだ。」
上条は呆れた顔で席に着く。
「だって好きなだけ取っていいって
言われたもん」
そう言いながらもインデックスは
食べる事だけは止めない。
「…残すなよ」
「うんっ!」
インデックスが幸せそうならまぁいいか。
上条は今日だけは大目に見る事に
決めたのだった。
52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:45:45.32 ID:CcD4bKN/Q
「あいつ、席取ってくれてるかな」
美琴と黒子は少し遅れて会場に入った。
席は決められていないようで、
皆思い思いの場所に座っている。
「おーい!御坂ー!白井ー!
こっちこっち!」
声がする方を見ると、
奥のテーブルで上条が両手を振っていた。
「あ、あのバカ!大声で名前呼んでんじゃないわよ!」
その大声に、周りの乗客の
視線が二人に集まっていた。
『ねぇ、御坂って…』
『あの"超電磁砲"の?』
『嘘ー?』
『でもあれ常盤台の制服だぞ』
『すげー!俺初めて見た!』
招待客は皆学園都市の学生なので、
レベル5の"超電磁砲"といえば
ちょっとした有名人なのだ。
会場内はザワザワとしていた。
54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:46:34.22 ID:CcD4bKN/Q
「あらあらさすがお姉さま。
黒子は鼻が高いですわ」
乗客の皆に笑顔で頭を下げている黒子を置いて、
美琴は上条に詰め寄る。
顔は真っ赤だ。
「あっ、あんたね!ちょっとは空気を読みなさいよ!」
「えー、何怒ってんだよ?
いいじゃん別に」
「ぐっ…この…」
上条は何が悪いのか
分からないという顔をしている。上条には分からなかったが、
レベル5にはレベル5の苦労があるのだ。
「……はぁ~、もういい」
不毛な言い争いになるのは目に見えている。
美琴は諦めて席に着いた。
「で…この大量の料理は何…」
インデックスは満面の笑みで答える。
「私のー!短髪は食べちゃダメなんだよ!」
55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:49:32.51 ID:CcD4bKN/Q
毎度お馴染みの揉め事はあったものの、
三人はそれぞれ料理を取り、
席に着いた。
「んじゃ、いただきますか」
上条の一言で夕食の時間が始まる。
三人は食べ始めたばかりだが、
インデックスは既に折り返し地点に来ていた。
料理の半分以上はなくなっている。
お箸を上手く使えないインデックスは、
フォークで次から次へと料理を刺していた。
「あ…あんた見てると
お腹いっぱいになるわね」
「えぇ…胸焼けしそうですの」
上条にとっては至極当たり前の光景だが、
やはり他人が見れば
この反応が当たり前なのだ。
「おいインデックス。
食べ過ぎたらお腹壊すぞ」
上条は内心無駄だと分かっていたが、
保護者的立場から一応忠告する。
56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:50:54.14 ID:CcD4bKN/Q
「らいひょーふ!」
インデックスは口一杯に料理を
詰め込んで答える。
頬にご飯粒がいくつも付いていた。
「ったく、慌てて食わなくてもご飯は逃げねーぞ」
そう言いながら上条は
インデックスの頬に付いた
ご飯粒を取ってやる。
もちろんこれも保護者的立場
からとった行動だった。
が、美琴はそれを面白くなさそうに見ていた。
そんな美琴に気付いた上条は、
心配そうに声を掛けた。
59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:52:16.37 ID:CcD4bKN/Q
「ど、どーした御坂?食欲ないのか?」
「…何でもない」
美琴の声は明らかにイライラしていた。
「具合悪いのか?
具合悪いなら医務室に連れて行っ…」
「何でもないって言ってるでしょ!」
美琴は勢い良く立ち上がり、
テーブルの上の食器がガチャンと音を立てる。
突然の大声に、周りの乗客達は
静まり返ってしまった。
「……御手洗い行ってくる」
驚いて、ただ美琴を黙って見ている
上条達を残して、美琴は会場から
出て行ってしまった。
黒子だけは何かを感じ取ったのだろうか、
ただ黙々と食事を続けていた。
60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:53:38.48 ID:CcD4bKN/Q
丁度夕食の時間なので、
トイレの前の通路に人の気配はない。
誰もいないトイレ、洗面台の前で
美琴は溜め息を吐く。
「…最低ね」
鏡には暗く沈んだ自分が映っている。
何故あんなにもイライラしたのだろう。
何故こんなにも胸が締め付けられるのだろう。
上条の前では"自分だけの現実"が保てない。
美琴は最初からレベル5だった訳ではない。
多少の才能はあったのかもしれないが、
間違いなく"努力"の結果だった。
誰よりも自分に厳しく、
誰よりも努力をして今の位置に立っている。
それにより積み上げて来たのが、
パーソナルリアリティ、"自分だけの現実"だ。
【常盤台のエース】【学園都市第三位のレベル5】
そういった"現実"も、
粉々に砕いてしまう程の上条への感情が
美琴の中にあった。
この感情を上手く受け止められる程、
美琴は大人ではないのだ。
それがこうした形で表に出てしまった。
62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:57:18.37 ID:CcD4bKN/Q
「よし、笑顔笑顔!」
ここでウジウジしていても仕方ない。
美琴は頬をパチンと叩くと、
上条達のもとへ戻る事にした。
「?」
トイレから出ようとした美琴は、
誰かの話し声に気付いた。
どうやらトイレ前の通路から
聞こえて来ているようだった。
(う…何よ。出にくいじゃない)
理由は特にないのだが、
なんとなく恥ずかしいので
どこかに行くのを待つ事にする。
かなり小声だが、どうやら男女二人が
話しているようだった。
会話が断片的に聞こえてくる。
64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:58:18.19 ID:CcD4bKN/Q
『…のか?…に…が……』
『…わよ。もちろん……は…よ』
『じゃあ……。……で頼む』
『それじゃ』
会話が途切れ、足跡が遠ざかって行く。
美琴がそっと通路に顔を出すと、
既に誰一人いなかった。
「ふぅ~、カップルか何かかしら。
話すならコソコソせず
堂々と話しなさいよね」
さっきまでコソコソしていた美琴は、
ブツブツ言いながら
トイレを後にするのだった。
65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:59:47.87 ID:CcD4bKN/Q
「あ…れ?」
上条の箸が皿に当たって
カチャンと音を立てる。
「俺のエビフライがない!」
上条にはすぐに犯人が分かった。
きっとどんなに冴えない探偵でも、
犯人を突き止められるだろう。
「おい、インデックス。
俺のエビフライ食べただろ」
「し、知らなーい」
インデックスは分かり易く顔を背ける。
「じゃあ質問を変えよう。
俺のエビフライはおいしかったか?」
「うん、おいし…あ…」
インデックスはしまったという顔をしている。
「単純な奴め!つーか俺の盗らなくても
あっちから取って来たらいいだろ!」
「とーまこそ取って来たらいいんだよ!」
66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:00:52.24 ID:CcD4bKN/Q
ギャーギャー言い合う二人を横目に、
黒子は自分のエビフライの尻尾を摘む。
黒子の指先からエビフライが消え、
上条の皿の上にポトンと落ちた。
「たかがエビフライで
そこまで喧嘩なさるなんて。
ある意味尊敬しますわね」
黒子が呆れて二人を眺めていると、
美琴が席に戻って来た。
「あんた達、食事の時くらい
大人しくしなさいよねー」
そう言って美琴は席に着く。
「御坂、ほんとに大丈夫か?」
「大丈夫に決まってんでしょ。
さ、ご飯ご飯!」
明るく振る舞う美琴を、
黒子だけは心配そうに見ていた。
68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:02:46.46 ID:CcD4bKN/Q
黒子は一番近くで美琴を見て来た。
美琴の事は誰よりも理解しているつもりだ。
そんな自分が今美琴にしてやれる事は…。
黒子は美琴の耳元で囁く。
『お姉さま。あまり無理はしないで下さいな』
きっとこれで充分だ。
美琴はたったこれだけでの言葉でも、
自分が伝えたい事を理解してくれる。
黒子はそう思った。
その証拠に、
美琴は声を出さずに唇だけ動かす。
"ありがと"
69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:03:59.96 ID:CcD4bKN/Q
その後は食事もスムーズに進んだ。
黒子は少し心配していたが、
美琴はいつもの御坂美琴に戻ったように見える。
今は自然な笑顔を見せていた。
「はぁ~、お腹いっぱいかも」
インデックスは満足そうに
テーブルに突っ伏している。
あれだけあった料理も、
今は重ねられた皿に変わってしまった。
「あんたねー…あれだけ食べて
よく平然としてられるわね」
美琴は心底呆れた顔で、
食い意地の張ったシスターを眺める。
上条の話では、このシスターは
いつも人の何倍も食べるらしいが、
見たところ腕も首筋にも余計な
肉は付いていない。
どちらかと言えば
痩せているとさえ言えるだろう。
71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:05:33.81 ID:CcD4bKN/Q
「いいなー、食べても太らないなんてさ」
そう呟いた美琴に、
黒子が背後から襲い掛かる。
「お姉さま。女性は少しくらい
ふくよかな方がモテますの。
確かにここは少し
痩せ過ぎかもしれませんけど…」
そう言いながら、黒子は美琴の胸を鷲掴みにする。
「ちょっ!黒子!やめて!」
「でも黒子はお姉さまのこの!
この慎ましい胸を好いておりますのっ!」
黒子はひたすらに胸を触り続ける。
上条はわざとらしく目をそらしている。
「やめろって言ってんでしょーがぁぁ!」
「げふっ!!」
美琴が繰り出した肘は、
背後の黒子を正確に仕留めた。
これも毎度お馴染みの光景だ。
74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:08:53.98 ID:CcD4bKN/Q
「さて、と。あんた達はこれからどーすんの?」
美琴は携帯で時刻を確認する。
ディスプレイにはPM08:45と表示されていた。
「んー、そうだな。まずは風呂でも入って…」
上条は上のデッキにスパがある事を思い出す。
こういった客船は、煙突の下のデッキなど
騒音の恐れがある場所には、
スパやレストランなどの
パブリックスペースを造るようにしている。
75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:09:58.95 ID:CcD4bKN/Q
幸いにも美琴と黒子がいるのだ。
インデックスも一緒に
お風呂に連れて行ってもらおう。
一人で行かせるのは正直不安なのだ。
「インデックス。風呂に…ん?」
上条はテーブルに突っ伏している
インデックスがプルプル震えて
いる事に気がついた。
嫌な予感がする。
「とーま…」
「インデックス…お前まさか」
「お腹がちくちくする…」
「………」
76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:11:32.53 ID:CcD4bKN/Q
「お約束の展開ですわね」
「…そうね」
結局インデックスを部屋で休ませる為、
四人は別行動する事になった。
上条は医務室で胃薬をもらい、
インデックスをベッドに寝かせてやる。
「とーま、ごめんなさい」
布団で口元を隠し、
インデックスは謝る。
彼女なりに迷惑を掛けたと思って
いるようだ。
「ったく、だから気をつけるように言ったんだぞ」
「うん…」
落ち込むインデックスに、
上条は優しく微笑んでやる。
「まぁとにかくゆっくり休め。
ここにいてやるから」
インデックスは本当に
嬉しそうな顔をして目を閉じた。
79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:12:52.57 ID:CcD4bKN/Q
「ふぅ~」
上条は窓から外を眺める。
出航してからどれだけの
距離を進んだのだろう。
もう街の灯りも見えない。
ただただ闇が広がっていた。
「さてと、のんびりしますか」
それから上条はテレビを見たり、
部屋でシャワーを浴びたりして時間を過ごした。
インデックスはいつの間にか、
スースーと小さな寝息を立てている。
気付けば部屋の時計は午後10時を差していた。
「はは、疲れてたんだなー」
上条はインデックスの寝顔を
眺める。
とても幸せそうな寝顔だ。
インデックスと暮らし始めてから、
上条は浴室に寝袋を持ち込んで寝ている。
だからこんなにマジマジと寝顔を
眺める事はめったにない。
80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:14:38.85 ID:CcD4bKN/Q
>>78
すいません、携帯です
改行上手く出来なくて申し訳ないです
大目に見てくれたら幸いです
81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:15:44.25 ID:CcD4bKN/Q
「来て良かった…かな」
記憶の無い上条にとって、
インデックスに出会う前の事は
知識として頭に入っている。
こんな小さな体で、どれほど
辛い思いをしてきたのだろう。
インデックスの頭の中にある、
10万3000冊の魔導書のせいで、
どれだけ危険な目にあっただろう。
一年に一度、大切な思い出を消され、
この少女には何が残ったというのだろう。
「今日の思い出…大事にしよーな。
インデックス」
上条は幸せそうな寝顔を見て呟く。
この少女の笑顔を守る為に、
出来る事はなんでもしてやる。
上条は右手を握り締め、
強く強く心に誓った。
82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:17:31.68 ID:CcD4bKN/Q
「お姉さま…まるで檻の中の
動物のようですわよ」
黒子はベッドに腰掛けて、
美琴を観察している。
上条達と別れ、部屋に戻ってからというもの、
美琴は明らかにソワソワしていた。
立ったり座ったり、
テレビを付けたり消したり、
今は部屋の中をあてもなく
行ったり来たりしている。
「そんなにあのお二人が気になるなら、
お部屋に遊びに行ってはいかがですの?」
「べっ、べべ別に気になってなんかないわよっ!
てか何で気にしなきゃいけないのよ!」
美琴は真っ赤になって否定する。
上条の話をする時の美琴は、
とてもレベル5とは思えない。
ただの女の子だな、と黒子は思う。
84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:19:28.95 ID:CcD4bKN/Q
「へぇ…そうですの。
ではあのお二人の事は放っておいて…」
黒子の目に邪悪な光が宿る。
「私と愛を育んでくださいませ!
お姉さまぁぁぁ!!」
「育むかぁぁぁ!!」
「げふぅっ!」
飛びかかって来た黒子に、
美琴のアッパーが炸裂する。
(はぁ~、夜風にあたって少し落ち着こう)
「ぐふ…お…お姉さま…
どこへい…かれますの?」
美琴は牽かれたカエルのように、
床に這いつくばっている黒子を
置いて部屋を後にする。
「ちょっと夜風にね」
時刻は午後10時半を回ったところだった。
86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:23:00.91 ID:CcD4bKN/Q
「………」
美琴はメインデッキ、甲板の柵に
肘をついて、海を眺めていた。
甲板には乗客もまばらで、
美琴をいれても数人しかいない。
甲板にはオレンジ色の暖かなライトが灯り、
夜の甲板を優しく包んでいる。
(あのバカ……)
美琴は上条とインデックスと同じ部屋なのが、
なんとなく嫌だった。
訳があってずっと一緒にいるのは
分かるし、上条の性格なら
ほっとけないのも当たり前だろう。
頭では分かっているのだが、
実際に目の当たりにすると
こうも心が揺さぶられるとは思わなかった。
「はぁ~……」
美琴は深い深い溜め息を、
海に向かって吐き出した。
88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:25:45.28 ID:CcD4bKN/Q
「何溜め息吐いてんだ?」
「!?」
驚いて振り返ると、
そこには上条が立っていた。
「あ、あんた!何でここにいんのよ?
あの子は?」
「インデックスならもう寝ちまったよ。
ちょっと夜風に当たりに来た。
ほれ」
そう言って上条は美琴に
缶コーヒーを投げる。
「あ…ありがと」
缶コーヒーは温かく、
潮風で冷えた美琴の手には
心地良かった。
90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:27:25.96 ID:CcD4bKN/Q
「お前が居るのが見えたからな。
御坂も夜風に当たりに来たのか?」
上条は美琴の横に並び、
同じ様に柵にもたれかかる。
「うん」
上条に聞こえてしまうのではないかと思うほど、
美琴の鼓動は早くなる。
「白井は?」
「ね、寝てる」
正確には"伸びている"だが、
あながち嘘ではない説明だ。
「そっか」
そう言って上条は海を眺める。
美琴は何か話そうと思ったが、
こんな時にする会話が思い浮かばなかった。
いつもはからかったり文句をいったり、
追い掛け回したり。
これはこれで美琴は楽しかったりするのだが、
こんな時にする事ではないなと、
美琴にも分かっている。
二人の間に沈黙の時間が流れる。
91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:28:53.61 ID:CcD4bKN/Q
「くしゅんっ」
その沈黙を破ったのは、
美琴のくしゃみだった。
「寒いのか?」
「ちょっと冷えただけ」
美琴は常盤台の制服を着ている。
学校の外でも制服を着るのが校則なのだ。
もちろん学園都市の外に出る時まで
着る必要はないのだが、
習慣というか慣れというか…
美琴は制服で来てしまった。
(さすがにスカートは寒い…
ちゃんと着替えてくるんだったな)
92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:29:48.83 ID:CcD4bKN/Q
美琴が後悔していると、
ふいに背中から何かを掛けられた。
それは上条の上着だった。
「…へ?」
「さすがにその格好じゃ風邪引くと
上条さんは思うわけですよ」
美琴の体温が上がっていく。
きっと頬も耳も真っ赤になっている。
今が夜で良かった。美琴は心から
そう思った。
「あ…ありがと」
そして訪れる沈黙。
二人はただ黙って海を眺めている。
しかしさっきの沈黙よりも、
ずっとずっと居心地がいいなと、
美琴は上着を握り締めながらそう思った。
95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:32:08.38 ID:CcD4bKN/Q
美琴は海を眺めている上条の横顔を
こっそり眺める。
(そういえば…)
上条が記憶喪失だった事をふと思い出す。
自分と初めて出会った時の記憶も
失っているはずだ。
盛夏祭で偶然会った時も、
よく考えればよそよそしかった気がする。
(でも…)
99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:33:09.51 ID:CcD4bKN/Q
美琴は考える。
出会った時から上条は変わっていないと思う。
バカで適当でお人好しで…
でも優しくて。
そして誰かの為に命を懸けて戦える。
(やっぱり私こいつの事…)
美琴が缶コーヒーを飲もうと、
プルタブに指をかけた時だった。
パンッパンッと乾いた音が響く。
次いで女性の悲鳴。
「!?」
「な、何!?」
美琴の手から滑り落ちた缶コーヒーが、
暗い海に吸い込まれていく。
「じ、銃声…?」
101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:34:42.31 ID:CcD4bKN/Q
甲板の乗客達も、事態が飲み込めず
何事かとザワザワしている。
「おい、御坂!これって…おい、御坂?」
「………」
美琴はさっきから何か違和感を感じていた。
(この感じ……まさか)
何かに気付いた美琴は、
両手を握ったり開いたりしている。
「み、御坂。何やってんだ」
上条の声も美琴の耳には届かない。
(やっぱり……)
何度も何度も確かめてみる。
そして美琴は一つの結論に達した。
「能力が…使えない!」
103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:36:20.42 ID:CcD4bKN/Q
「能力が使えないって…どういうことだ!?」
「多分これは…」
美琴が何かを言いかけた時だった。
「全員動くな!手は頭の後ろだ!」
デッキの中から、
黒い服に身を包んだ男が二人現れた。
ポケットのたくさん付いた、
いわゆるアーミージャケットだ。
顔は覆面で隠れていて、
見えているのは目だけだった。
しかしそれよりも上条が気になったのは、
彼らが構えているモノだった。
「ライフル…!?」
男達はライフルを構えて近付いてくる。
「くっ!」
上条の横で美琴が身構える。
今にも飛びかかりそうな美琴を、
上条は反射的に制止する。
104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:37:26.81 ID:CcD4bKN/Q
「能力が使えないんだろ!
今むやみに手を出すのはダメだ!」
「でも!」
「インデックスや白井の事も心配だ…
今は従うしかねー」
美琴は上条の右手が強く
握り締められている事に気付く。
「あんた…」
上条も今すぐ飛びかかりたいのだ。
部屋には一人でインデックスが寝ている。
心配に決まっている。
それでも上条は我慢しているのだ。
今ここで動いても、
事態は良くならないと判断したのだ。
「…ごめん」
美琴は素直に謝る。
上条の気持ちを無駄には出来ない。
106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:38:55.45 ID:CcD4bKN/Q
二人が連れて来られたのは、
歓迎式典も行われた、メインデッキの
ロビーだった。
ロビーには既にたくさんの乗客、
乗組員達が集められていた。
ひそひそと話す声や、すすり泣く
声が聞こえて来る。
皆後ろ手に縛られ、
ロビーの中央に固められている。それを取り囲む様に、
覆面の人間達が並んでいる。
全員の性別までは分からないが、
彼らを何と呼ぶかは分かる。
テロリストだ。
上条はテロリストの人数を確認する。
これで全員かは分からなかったが、
上条達を連れて来た二人を含めて二十人近くいる。
「ほら、とっとと座れ!」
男に促され、上条は乗客を素早く見渡す。
見覚えのある白いフードを見付け、
横に腰を下ろす。
108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:40:51.90 ID:CcD4bKN/Q
「インデックス!白井も!」
「とーま!短髪!」
インデックスと白井は一緒にいた。
二人共見たところ怪我などはしていない。
上条はとりあえずは安堵し、
二人に話を聞く。
「それが…私にもよく分かりませんの。
いきなり部屋にあいつらが入って来て、
ご覧の通りですの」
黒子は背中を向け、
縛られた両手を上条に見せる。
「黒子、あんたも能力は…」
「えぇ、使えませんでしたわ。
使えればこんな事になっていませんの」
黒子は小さく溜め息を吐く。
ジャッジメントでもある黒子は、
多少の白兵戦は心得ている。
だがあくまで"能力の使用を前提"
とした白兵戦なので、銃を相手に
素手だけで挑むのは
自殺行為以外の何でもなかった。
113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 02:06:49.47 ID:CcD4bKN/Q
上条はずっと疑問に思っていた事を聞いてみる。
「そういえば御坂、さっき言ってたよな。
能力が使えないってどういう事だ?」
そう聞かれた黒子は、驚いた顔をする。
「上条さんは何も感じませんの?」
「感じるって…別に何も」
「黒子…これっていつかの事件に
似てるわね」
美琴の言う"いつかの事件"に、
黒子は首を振る。
「キャパシティダウン、ですわね。
けどこれはもっと別のモノですの」
美琴の脳裏に、大型の装置が浮かぶ。
114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 02:07:56.33 ID:CcD4bKN/Q
【キャパシティダウン】
スキルアウトの一つ
ビッグスパイダーが使った、
対能力者用の音響装置だ。
演算能力に干渉する特定のノイズを発し、
能力の使用を阻害する。
しかし今はノイズも聞こえなければ、
あの時の様になんとか出来る気がしない。
完全に能力が使えなくなっているのだ。
「別のモノ…まさか」
美琴は何かに気付いた様だが、
上条には話を聞く事で精一杯だった。
「えぇ…おそらく。【AIMジャマー】ですわね」
115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 02:10:20.39 ID:CcD4bKN/Q
「AIMジャマー?何なんだそれ?」
訳の分からない顔をする上条に、
黒子が説明する。
「AIM拡散力場はご存知ですの?」
「確か…能力者が無意識に発生
させる力の…フィールド?」
高校の担任、小萌がそんな事を
話していたような気がする。
もっと勉強しとけば良かったと
上条は思った。
117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 02:11:21.30 ID:CcD4bKN/Q
「えぇ、簡単に言うとそうですわね。
AIMジャマーとは、そのAIM拡散力場を
乱反射させ、自分で自分の能力に
干渉させる事で能力の発動を
阻害する装置ですの」
「よく分かんねーけど、
完全に能力を封じるって事か」
「えぇ。学園都市では少年院や、
能力者からのターゲットになりやすい
一部の施設で使用されてますわね。ですが…」
「こんなモノがどうして出回っているか
…って事ね」
118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 02:12:42.24 ID:CcD4bKN/Q
美琴の指摘に黒子は頷く。
ビッグスパイダーの時も今回の時も、
こんな装置が出回る事事態異常なのだ。
能力者を生み出すという事は、
その能力者を抑え込む"首輪"
も必要になる。
飼い犬に手を噛まれる事もあるからだ。
その"首輪"が出回れば、
いずれ"首輪"のはずし方も分かってしまう。
「対能力者用の装備を売買する
組織があるって事ね…」
「気にはなりますが今は後回しですの。
この状況を何とかしませんと…」
119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 02:15:38.88 ID:CcD4bKN/Q
上条はあらためて状況を整理していく。
黒子の話では、携帯電話やパソコンなどの
通信機の類は、簡単な身体検査や荷物検査で
全て取り上げられている。
上条も御坂も、ここに連れて来られる前に
没収されていた。
他の乗客達も、間違いなく同じ状態のはずだ。
「外部への連絡は無理か…」
上条の呟きに黒子が答える。
「そんな事はないと思いますの」
「へ?何でだ?」
「船内の電話や無線は無理でしょうね。
電話線を切断、無線の物理的破壊。
これは片手間で済む作業ですから」
「じゃあやっぱり無理じゃない」
美琴が呟き、三人に諦めムードが漂う。
しかし黒子は構わずに続ける。
121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 02:17:25.85 ID:CcD4bKN/Q
「携帯をわざわざ回収したという事が
気になりますの。
回収しなければ使われるから回収した。
だとすれば、携帯電話を手に入れる
事が出来れば…」
「で、でも黒子。AIMジャマーみたいに、
電波を阻害する装置があったら?」
「十中八九ありませんわね。
装置があればわざわざ手間を掛けてまで
回収する必要はありませんから。
それにこれは推測ですが、
互いに干渉してしまう為、
AIMジャマーと併用出来ないのかも
知れませんわね」
122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 02:18:34.55 ID:CcD4bKN/Q
「じ、じゃあ携帯さえ取り戻せば!」
「まぁ、海にでも捨てられてなければ
…の話ですの」
「嫌な事言うわね…」
だがこれで少し希望が見えた。
上条はそう思った。
124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 02:20:22.68 ID:CcD4bKN/Q
「問題は身動きが取れない事と
AIMジャマーか。くそ」
上条は頭を掻こうとして、
自分が後ろ手に縛られている事を思い出す。
「とーま…」
インデックスは不安そうな顔で
上条を見ている。
いつの間にか余裕の無い顔をしていたようだ。
どうしようもないイライラが、
表情に出てしまっていた。
上条はインデックスに優しく微笑む。
「大丈夫だインデックス。
絶対に助かる。皆で一緒に帰るぞ」
「まずは…ここから出なきゃいけませんわね」
「でもどうやって…」
黒子は覚悟を決めた顔で口を開く。
126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 02:23:33.03 ID:CcD4bKN/Q
「私が囮になりますの」
黒子の提案を、美琴はすぐに却下する。
「ダメよ黒子!あんた何言ってるかわか…」
美琴の言葉を遮る様に黒子は続ける。
「今出来る最善の方法ですの。
お姉さま、周りを見てくださいな」
黒子に言われて美琴は辺りを見渡す。
捕まった乗客達にテロリスト…
「!?」
美琴は何かに気付いて
黒子と目を合わせる。
「テロリストが…減ってる!?」
美琴の言葉に上条も辺りを見渡してみる。
確かに最初は二十人程いたテロリストが、
今は半分程に減っていた。
「どうやら他に用事でもあるみたいですわね。
少し前に何人か出て行ったようですの。
私がテロリスト達を引きつけている
間に、お姉さま達はそこの非常口から」
130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 03:01:41.82 ID:CcD4bKN/Q
すいません
さるさんでした
131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 03:02:32.69 ID:CcD4bKN/Q
黒子の視線の先には、
メインデッキの非常口があった。
距離にしておよそ20メートル。
非常口の前には誰もいない。
「私が非常口とは反対にテロリストの
視線を集めますの。
お姉さま達はその間に」
「し、白井、そんなあぶねー事…
囮なら俺が」
「本来ならあなたなんかをお姉さまと
一緒に行かせるのは不本意ですが…
私はジャッジメントですから」
132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 03:03:40.62 ID:CcD4bKN/Q
そう言って黒子は小さく笑った。
美琴はその笑顔を見て胸が痛む。
黒子はジャッジメントとして
出来る事をやろうとしている。
危ない事はして欲しくないが、
その気持ちを無駄には出来ない。
「…わかった」
「お、おい御坂!」
「必ず…必ずなんとかするから。
それまで待ってなさいよ、黒子」
「ふふ、信じてますわ、お姉さま」
そう言うと黒子はいきなり立ち上がる。
133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 03:06:52.64 ID:CcD4bKN/Q
「ジャッジメントですの!!」
黒子は声を張り上げて叫ぶ。
そのまま乗客を掻き分け、
非常口と反対方向へ歩いて行く。
乗客を囲んでいたテロリスト達が、
黒子を囲むように移動を始める。
「こんな事して、ただで済むとお思いですの?
今すぐ皆さんを解放しなさい!!
でなければ…」
黒子は身を屈め、
一番近くにいたテロリストへ走る。
テロリストが反応するより早く、
黒子は体を回して蹴りを叩き込む。
「ぐっ!」
テロリストは体をくの字に
折り曲げて膝をつく。
137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 03:08:04.33 ID:CcD4bKN/Q
「てめぇっ!!」
黒子はさらに非常口とは反対に、
視線を集めるように走る。
テロリストも乗客も、
全ての視線が黒子に向けられていた。
「調子に乗るなよクソがっ!!」
黒子の後頭部目掛けて、
テロリストの一人が銃床を振り下ろす。
体を捻って避けようとするが、
後ろ手に縛られて上手くバランス
が取れない。
黒子の後頭部に鈍く重い衝撃が走る。
「がっ…は!!」
ぼやけていく視界の隅に、
身を屈めて非常口から出て行く三人が映る。
(お姉さ…ま)
黒子の意識はそこで途切れた。
138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 03:09:55.56 ID:CcD4bKN/Q
「…黒子」
非常口から船のサイドにある甲板に出て、
三人は息を潜める。
上条は辺りを確認する。
甲板にはテロリストの姿はないようだ。
美琴の顔は悔しさに歪んでいる。
「白井の為にも早くなんとかしねーと」
きっとただで済むはずがない。
その事を考えると、
上条の胸にやり切れない思いが込み上げる。
「…わかってる。
ところであんたはどーして付いて来たのよ」
美琴はインデックスを睨む。
上条は抜け出す時、
インデックスには待っているように
言ったはずだった。
別に足手まといだと思った訳じゃない。
ただ危険だと思ったからだ。
大人しくあの場所にいる方が、
抜け出して動き回るよりずっと安全なはずだ。
139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 03:11:21.40 ID:CcD4bKN/Q
本当に心配だからこそ、上条の語気が強くなる。
「危ないから待ってろって言ったろ!」
「だって…」
インデックスは小さな手を握りしめる。
「とーまは…とーまはいっつも
私の知らないとこで戦って…
私の知らないとこで傷付いて…
私だってとーまと戦うもん!
とーまの役に立ちたいもん!
もう待ってるだけなんて嫌なんだよ!」
インデックスの目に涙が浮かぶ。
歯を食いしばって、必死に涙が
落ちないように耐えている。
141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 03:12:07.00 ID:CcD4bKN/Q
「あんた…」
美琴にはインデックスの気持ちが
少し分かるような気がした。
以前上条に伝えた事がある。
一人で抱え込まず、私を頼って欲しいと。
きっと彼女も自分と同じなのだ。
何も出来ず、ただ待っている事の
辛さを知っているのだ。
「…そーだよな。…ごめんインデックス」
上条は今まで自分がどれだけインデックスを
心配させてきたか思い出す。
「…一緒に行こう、インデックス」
上条は優しく笑いかける。
そして心に誓う。
危険なら…その危険から俺が守ってやればいいと。
142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 03:14:08.83 ID:CcD4bKN/Q
「まずは…どうやってAIMジャマーってのを
止めるかだな」
上条達は身を潜めながら、
作戦を立てる。
「それなら私に考えがある」
「考え?」
美琴は淡々と説明していく。
「この船の電源を落とすのよ」
「電源?」
「そ、電源。おそらくAIMジャマーは、
船から電気をもらって作動してるはず。
相当の電気量が必要なはずだからね。
だから船の電源を落とせば、
AIMジャマーも止まるはずよ」
上条は分かったような、
分からないような顔で聞いている。
143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 03:15:31.60 ID:CcD4bKN/Q
上条は一つ気になる事を聞いてみる。
「船から電気をもらってなかったらどうすんだ?」
「多分それはない。
黒子の話、あんたも聞いてたでしょ?
あれは少年院なんかで使われるものよ。
そんなもんがバッテリーなんかで
動いているとは考えにくい。
そもそも持ち運ぶ様なもんじゃないしね」
「だから電源を落とすのか」
美琴は頷き、続ける。
「私はAIMジャマーを探す。
あんた達は船の電源を落として」
「そんな、一人じゃあぶねーって!」
上条が心配してくれる事は嬉しかった。
しかし美琴には作戦があった。
149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 03:55:49.24 ID:CcD4bKN/Q
しかし美琴には作戦があった。
「もし船に緊急用の予備電源があったら困るのよ。
予備電源に切り替わるまでには、
必ずタイムラグがあるはず。
あんた達が電源を落として、
予備電源に切り替わる間に、
私が能力で装置を破壊する。
だから別行動よ」
「……分かった」
「連絡は取り合えないけど、
あんた達が電源を落とすまでには
AIMジャマーを見つけてるわよ」
美琴は小さく笑うと立ち上がる。
「じゃ、行くわよ!」
150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 03:57:35.46 ID:CcD4bKN/Q
すいません
今日はここまでにします
明日残っていれば続き書きます
支援してくださった皆さん
ありがとう
159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 09:22:32.80 ID:CcD4bKN/Q
美琴は二人と別れた後、
外の階段から一つ上のデッキ、
第6デッキに上がっていた。
(あるとすれば…多分ここね)
当てずっぽうではない。
美琴はある推測のもと動いていた。
(捕まった時に見た限り、
メインデッキにはなかった)
美琴はショップの陰に隠れるように
身を屈めて移動する。
(効率良くAIMジャマーを使うなら…)
縛られた手のせいで、
上手くバランスが取れない。
何度も前のめりになってしまう。
(船の前でも後ろでも、
上でも下でもない)
美琴の目に何かが映る。
(ど真ん中っ!!)
160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 09:23:28.94 ID:CcD4bKN/Q
通路の中央に、何か大きな装置があった。
金属製の箱の様な物だった。
箱からは、太いコードが何本も
伸びている。
一辺が2メートル程あるだろうか。
上条達と会った時には無かったもの。
間違いない。美琴は箱との距離を
少しずつ詰めて行く。
(あと…多分10メートル!行ける!)
美琴が更に距離を縮めようとした時だった。
死角になっている箱の向こう側に、
誰かが立っているのに気付く。
一瞬だがライフルの銃身の様な
ものが見えたのだ。
(くそ…装置の護衛!?)
上条達がいつ電源を落とすか分からない。
グズグズしている訳には行かないのだ。
(やるしか…ないわね)
美琴の目に強い光が宿る。
162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 09:36:23.01 ID:CcD4bKN/Q
「インデックス、俺から離れるなよ」
上条とインデックスは、船の外周に沿って、
船首に向かう。
船首側にも大きなドアがあり、
上条はそこから船内の様子を窺う。
(なんか…おかしくねーか)
上条は何か言い知れぬ違和感を覚えていた。
テロリストが少ない。
本来なら出入り口には見張りが
立っていてもおかしくないのだ。
(船内に乗客がいないと思って油断してんのか?
…それとも何か理由が)
上条とインデックスはそのまま船内へ入る。
入ってすぐに、下のデッキへの階段があった。
二人は静かに階段を降りて行く。
163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 09:38:43.65 ID:CcD4bKN/Q
船の電気を管理している部屋は、
第4デッキ、今から上条達が向かうデッキにある。
途中、船の案内図をインデックスが記憶したのだ。
"完全記憶能力"。
一度見たものは決して忘れない、
インデックスの能力。
この能力のせいで、インデックスはたくさん
辛い思いをして来た。
しかし今はこの能力に頼るしかない。
上条は複雑な気持ちだった。
「とーま、この通路の奥。
左手の部屋が管理室なんだよ」
インデックスの声に、
上条は通路の奥を覗き込む。
「っ!?」
通路の奥、目的の部屋の前に、
テロリストが一人立っていた。
「と、とーま。どーしよう」
インデックスは不安そうな顔で
上条を見ている。
「俺に…考えがある」
「考え?」
164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 09:40:38.39 ID:CcD4bKN/Q
上条は目測でテロリストまでの距離を測る。
およそ20メートル。
テロリストは扉にもたれ掛かる様にして、
こちらに背中を向けている。
(チャンスは…今しかねー!)
「うぉぉぉぉ!」
上条は陰から勢い良く飛び出し、
テロリスト目掛けて全力で走る。
手が縛られていようが関係ない。
「!?」
テロリストが振り返る。
しかし上条は既に自分の間合いまで詰めていた。
上条は素早く身を屈める。
「っらぁ!」
立ち上がる勢いを利用し、
テロリストの顎目掛けて飛び上がる。
「がっ、は!」
上条の頭がテロリストの顎を正確に捉えた。
脳を揺さぶられたテロリストは、
そのまま地面に崩れ落ちる。
165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 09:42:48.81 ID:CcD4bKN/Q
「ぐっ…はぁ、はぁ」
上条の頭にも、とてつもない痛みが走る。
「なんとか…なった」
「とーま!」
様子を窺っていたインデックスが、
上条に歩み寄る。
ひどくご立腹の様だった。
「考えって、これ!?」
「あ、あはは…」
上条は苦笑いをする。
「ただ突っ込んだだけじゃん!
下手すればやられてたのはとーまなんだよ!?」
インデックスが怒っているのは、
きっと本気で心配してくれているからだ。
166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 09:43:38.70 ID:CcD4bKN/Q
「もしとーまに何かあったら…」
インデックスはまるで自分が傷付いた様に、
辛そうな顔をする。
まただ。またインデックスを
悲しませる様な事をしてしまった。
上条は胸が痛む。こんな顔をさせたくないから、
上条は記憶が無い事を
隠してまでインデックスの側にいるのだ。
「ごめん。もうしねー。約束するよ」
167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 09:44:48.58 ID:CcD4bKN/Q
「ふー、やっと自由だな」
上条は赤くなった手首をさすりながら呟く。
テロリストの腰には、
ナイフがぶら下がっていた。
上条はプラスチックの拘束具を、
四苦八苦しながら切断したのだ。
「これでよし」
管理室には工具箱があり、
その中にはガムテープもあった。
上条は気絶したテロリストを、
ガムテープでぐるぐる巻きにする。
「とーま、芋虫みたいかも」
確かに肩から足の先までぐるぐる巻きだ。
「これぐらいしとかないとダメなんです。…さてと」
168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 09:45:47.91 ID:CcD4bKN/Q
上条は部屋を見渡す。
部屋の鍵は倒したテロリストが持っていた。
そんなに広くない部屋の壁に、
たくさんのパネルが並んでいる。
上条はそれを片っ端からこじ開けて行く。
中にはレバーがたくさん配置されている。
主電源以外にも、細かく電気の流れが
制御されているようだった。
「くそ、どれだ?」
上条は最後のパネルをこじ開ける。
「!!」
そこには今までとは違う、
大きいレバーがあった。
レバーはプラスチックの様なもので覆われている。
おそらく安全の為だろう。
上条は工具箱から金槌を取り出す。
「…やるしかねー!」
170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 09:48:46.46 ID:CcD4bKN/Q
美琴はいったん土産物屋に身を隠すと、
商品の陳列棚を勢い良く蹴り倒す。
静かなデッキに、
ガシャンと音が響き渡る。
次いで足音。徐々にこちらに近付いてくる。
美琴は別の棚に素早く身を隠す。
「誰かいるのか!?」
足音の主が声を出す。
(この声!?)
美琴には聞き覚えがあった。
夕食の時、トイレで聞いたあの声。
(テロリストの中に女がいたなんてね)
足音が土産物屋の店内に入ってくる。
「おりゃぁぁ!」
美琴は棚の陰から飛び出すと、
女の顔に蹴りを叩き込む。
いつもは自販機相手だが、
今は緊急事態なので仕方がない。
173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 10:16:55.80 ID:CcD4bKN/Q
末尾Qはアイビスで書いてるからだと思います
携帯しかないのですが、
規制されて書けないので
174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 10:18:28.82 ID:CcD4bKN/Q
「ぐっ!」
女は突然蹴られた勢いで、
思わずライフルを床に落とす。
美琴は落ちたライフルを、
縛られた両手で器用に持ち上げると、
女が体勢を立て直す前に、
素早く走り出す。
「くっ、待て!貴様!」
AIMジャマーの側まで走ると、
美琴は一番近い窓目掛けて体を捻る。
「強化ガラスじゃありませんよう……にっ!!」
そのまま体を半回転させ、
ライフルを勢い良く窓に投げる。
ライフルは窓ガラスを突き破り、
夜の闇に消えた。
「き、きさまぁ!」
美琴が振り返ると、
ナイフを構えた女が肩で息をしている。
疲れたからではない、
怒り狂っているからだ。
175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 10:20:50.85 ID:CcD4bKN/Q
「大事なものだった?ごめんね」
軽口を叩きながらも、美琴の視線は
女の一挙手一投足を見逃さない。
これは知識ではない。美琴が
色々な戦闘から得た経験だった。
女の視線、指先の動き、足にかける重心。
あらゆる情報から、女の次の行動を推測していく。
「あんた達…スキルアウトね」
美琴は確信している。
学園都市の船が狙われ、
学園都市の学生が人質。
そして目の前のAIMジャマー。
偶然がここまで重なると、
それは必然だ。
「だったら…なんだ?」
女は美琴との間合いをゆっくり詰める。
176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 10:24:03.83 ID:CcD4bKN/Q
「別に…聞いただけよ」
美琴は軽口を重ねる。
女が苛立っていくのが分かる。
「私は…あんた達みたいなのが大嫌いなだけ」
また軽口。
「きさまぁぁぁぁ!!!」
女が怒りにまかせてナイフを
突き出す。
(かかった!)
美琴はその直線的な攻撃を、
最小限の動きでかわす。
女の腕を右足で蹴り上げる。
ナイフが宙を舞う。
177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 10:25:40.06 ID:CcD4bKN/Q
「っっ!」
そのまま今度は左足でがら空きの
脇腹へ蹴りを突き刺す。
「ぐっ!」
前に重心を掛けていた女は、
横からの衝撃にバランスを崩し、
吹っ飛ぶ。美琴は素早くナイフを拾うと、
ライフルと同じように窓から投げ捨てる。
しかしそこに一瞬隙が出来てしまった。
「うぁぁぁぁぁ!!」
女が立ち上がり、美琴に掴みかかる。
「うっ!」
そのままAIMジャマーに叩きつけけられる。
「殺す!殺す!殺す!」
AIMジャマーに押し付けながら、
女は美琴の首を絞める。
178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 10:27:40.87 ID:CcD4bKN/Q
(ま…ずい)
美琴は後ろ手に縛られているので、
女の手を振り解く事が出来ない。
足を使って突き放そうにも、
体が密着しているせいで上手くいかない。
「殺す!殺す!殺す!殺す!」
「うっ…うぐ…」
女の手に更に力が入る。
「お前ら能力者なんか!皆殺してやる!」
(やば…意識が…)
その時だった。突然船内の灯りが消えた。
「な!?」
女がうろたえているのが分かる。
一瞬首を絞める手が緩んだ。
(あの馬鹿…遅いのよ!)
美琴の顔に笑みが浮かぶ。
179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 10:30:18.83 ID:CcD4bKN/Q
「ぶっ壊れなさいよ!」
AIMジャマーに押し付けられている美琴の掌は、
ぴったり装置に触れている。
そこから一気に電流を流す。
暗い船内に青白い光が走る。
大量の電流を流された装置は、
負荷に耐えられず煙をあげる。
「あんたは…これで勘弁してあげるっ!」
電流を使い、素早く拘束具を焼き切ると、
女の両手を掴んで電流を流す。
最低限、気絶させるだけの電流を。
「!!」
女は言葉を発する事なく崩れ落ちる。
180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 10:31:20.33 ID:CcD4bKN/Q
「はぁ、はぁ、はぁ」
美琴が一息入れていると、
船内の灯りが戻る。
予備電源に切り替わったのだ。
「ギリギリ…間に合った」
美琴は装置のコードを何本か焼き切り、
女を拘束する。
「黒子!」
美琴は走る。大切な後輩のもとへ。
183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 11:01:17.73 ID:CcD4bKN/Q
(……私は…気絶していたようですわね)
真っ暗だった黒子の意識に、
少しずつ光が戻ってくる。
(あ…ぐ…)
うっすら目を開けようとするだけで、
後頭部に激痛が走る。
それでも状況を確認しなければ。
痛みに耐えながら、黒子は少しずつ目を開く。
(な…なんですの…これは)
黒子は乗客達から少し離れた床に、
そのまま転がされていた。
一撃で気絶した事が幸いしたのか、
後頭部以外に痛みもない。
しかし黒子はもっと別の事に気を取られていた。
184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 11:03:03.17 ID:CcD4bKN/Q
(一体…何が)
乗客達は皆目隠しをされていた。
黒子が気絶する前は、
そんなものは間違いなくしていなかった。
更にもう一つ。テロリストが二人しかいない。
よく観察すると、人質だった乗組員、
つまり学生以外の人質もいなくなっている。
(何をしようとしているのか…
直接聞くしかありませんわね)
黒子は体の違和感が消えている事に気付く。
おそらく美琴達がAIMジャマーを止めたのだろう。
それだけで黒子の体に力が戻ってくる。
(お姉さま…やっぱり大好きですの)
185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 11:04:32.97 ID:CcD4bKN/Q
黒子は拘束具に指を触れる。
黒子の手首から拘束具が消え、
床に落ちる。
テロリストは二人並んで何かを話している。
黒子はその真ん中に割って入る形で
テレポートをする。
「な!?」
「っ!?」
突然現れた黒子に、テロリスト達は驚く。
何かさせる暇も与えず、
黒子はテロリスト達を掴むと
頭上へテレポートさせる。
4メートル程の高さから、
床に叩きつけられたテロリストは、
その衝撃で身悶える。
黒子は素早く近くの椅子を手に取ると、
テロリスト達を拘束するよう、
床に埋まる形でテレポートさせる。
186 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 11:05:23.38 ID:CcD4bKN/Q
テレポートさせた物体は、
そこにある物体を押しのけて現れる。
それを利用すれば、
紙でダイヤモンドを切断する事も可能だ。
黒子はそれを応用して、
椅子の脚を床に埋める形で
テレポートさせていた。
「さぁ、色々と聞かせてもらいますの」
テロリストを拘束している椅子に座り、
黒子が冷たく微笑んだ。
187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 11:18:52.53 ID:CcD4bKN/Q
「黒子っ!」
美琴がロビーに飛び込むと、
見慣れた背中が見えた。
小さくて細い、そして美琴の
大切な背中。
「お姉さま?」
黒子がゆっくり振り返る。
「お姉さま…」
黒子の顔が緩んでいく。
「お姉さまぁぁぁぁ!!」
黒子は泣きながら美琴に飛びつく。
普段なら暑苦しいが、
美琴は黒子の体温が嬉しかった。
188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 11:20:21.58 ID:CcD4bKN/Q
「黒子…良かった…ほんとに…良かった」
美琴も黒子を強く抱き締めてやる。
「怪我は?」
「大丈夫ですの。お姉さまは?」
「私は丈夫がとりえだからね」
二人はそれからしばらく再開の喜びを分かち合った。
上条達が戻って来たのは、
そのすぐ後だった。
「白井!良かった!無事で良かった!」
大袈裟に喜ぶ上条に、
黒子は少しだけくすぐったい様な
気持ちになる。
きっと上条は、他人を心から思いやれる人
なのだろうと黒子は思う。
美琴が上条にちょっかいを出す理由が、
少しだけ分かった様な気がする。
189 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 11:21:56.33 ID:CcD4bKN/Q
すいません
少し出掛けますね
198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 14:07:59.85 ID:CcD4bKN/Q
「スキルアウト…でしたか」
四人はロビーを出て甲板にいた。
お互いに今までの状況を伝え合う。
乗客を解放したいのだが、
今解放すれば必ずパニックになる。
黒子はそう判断し、現状を維持する事にしたのだ。
「ところで黒子。何でテロリストが減ってんのよ」
美琴は最大の疑問をぶつけてみる。
それは上条も気になっていた事だ。
最低限の場所に、最低限のテロリストしかいない。
「その事なんですが…
どうやら船を降りたようですの」
「へ?船を降りた?」
美琴には訳が分からない。
あんな大事を起こして、
あっさり船を降りるなんて
不自然にも程がある。
「乗組員も避難用のイカダで
海に降ろしたみたいですわね」
拘束したテロリストを締め上げて、
この二つの情報は聞き出せた。
しかし目的だけは吐かなかった。
199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 14:09:57.00 ID:CcD4bKN/Q
「せめて…外部と連絡が取れれば」
黒子は頭を抱え込む。
ロビーなどを探したが、
没収された携帯は見つからなかった。
海に投げ捨てられた可能性も高い。
「くそ…携帯さえあれば!…ん?」
上条は何かとてつもない見落としに気付く。
「とーま、私を見つめても困るかも。
私はけーたいじゃないんだよ?」
それには答えず、上条はインデックスに手を伸ばす。
「とーま?」
上条は勢い良くインデックスの
フードを脱がせる。
「ひゃっ!」
インデックスの頭の上に、
ちょこんと携帯が乗っていた。
200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 14:11:55.56 ID:CcD4bKN/Q
「………」
「………」
「………」
「えぇぇぇぇ!?」
「な、何よそれ!」
美琴と黒子はまるで初めて
携帯を見たかの様に驚く。
「なんてこった。ずっと近くにあったんじゃねーか」
携帯を渡した時、
インデックスはフードの中に入れていたのだ。
すっかり忘れていた。
多分当の本人も。
「ふ、ふふーん。こんな事もあろうかと、
ここに隠してたんだよ!えらい?」
インデックスはわざとらしく胸を張る。
「調子に乗るんじゃありませんわよ、おチビさん」
「あいたっ」
黒子がインデックスにデコピンする。
201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 14:13:07.41 ID:CcD4bKN/Q
「とにかく…これをお借りしますの」
そう言うと黒子は、
頭の中の電話帳から番号を一つ取り出す。
「さて…出てくれなければ許しませんの」
時刻は午前1時を過ぎた頃だった。
202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 14:14:44.94 ID:CcD4bKN/Q
(早く…早く…)
たった数秒待っているだけなのに、
永遠のように感じる。
(早く…早く…)
黒子の耳に当てた携帯から、
プツッと電話が繋がる音がする。
『ふぁい……もし…もし』
明らかに寝起きの声だ。
だが出てくれただけでも感謝しなければ。
「もしもし、初春。緊急事態ですの」
初春飾利。ジャッジメント第177支部に所属する、
黒子の後輩。
能力はレベル1だが、
オペレーターとしての能力はずば抜けている。
203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 14:16:08.43 ID:CcD4bKN/Q
『あれ…白井さん今船で優雅に
過ごしてるはずですよね…』
「その船が緊急事態ですの。
テロリストに襲われたんですの」
『そーなんですかー。あははは…』
「………」
『えぇぇぇぇ!!大変じゃないですか!!』
やっと目が覚めたか。
黒子は今までの経緯を手短に
説明する。
「初春、そちらではこの船の事、
何か情報あります?」
『ち、ちょっと待ってください!』
電話の向こうから、バタバタと慌てる音がする。
次に聞こえてくるのはキーボードを叩く音。
この時刻なら、初春は自宅の
パソコンを使っているのだろう。
204 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 14:17:19.80 ID:CcD4bKN/Q
『な、何も情報ありません!ニュースやネットだけじゃなくて、
アンチスキルやジャッジメントにも
情報は来ていません!』
(アンチスキルにも?おかしいですわね)
本来こうした事件の目的は、
人質を使った交渉だ。
テロリストが何かしらの要求を出せば、
必ずアンチスキルやジャッジメントに
情報が回ってくるはずなのだ。
黒子は高速で頭を回転させる。
(交渉が目的でないのなら…
人質自体が目的?
じゃあなぜ乗組員だけ降ろしたのでしょう…)
『白井さん…大変です…』
初春の声が、一段と真剣味を増す。
「初春?どうかしましたの?」
『船の進路…予定とは違います!』
206 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 14:40:24.77 ID:CcD4bKN/Q
携帯は上条が持っていたので
充電済み
と脳内補完してくれたらOKです
207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 14:41:48.95 ID:CcD4bKN/Q
「進路が変わってる!?」
黒子の声に、三人も顔を見合わせる。
『調べてみたんですけど、
船は港に向かってます』
「港に?帰港予定は明日の夜ですわよ」
『んー…でも衛星からの情報では
港に向かってます』
黒子の背中を嫌な感覚が通り抜ける。
「分かりました…取り敢えず初春は関係各所に連絡。
海上では乗組員が救助を待っているはずですの。
急いでください」
それだけ伝えて電話を切る。
何かがおかしい。その何かが分からない。
ただあと一つ、あと一つピースがあれば、
何か分かるような気がする。
黒子はそう思っていた。
208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 14:43:18.60 ID:CcD4bKN/Q
「港に向かってる?」
黒子から説明を受けた上条は、
何故こんな事になっているのか分からなかった。
「帰るの?」
インデックスも不思議そうな顔をしている。
「もう!一体何なのよ!」
「落ち着け御坂」
ある程度先が予想出来ないと、
人間というのは焦りや不安
といった感情が出て来る。
四人はまさにその状態だった。
211 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 16:05:10.40 ID:CcD4bKN/Q
「でもこのおっきい船、港に入れないかも」
インデックスの言葉の意図が掴めず、
上条は首を傾げる。
「き、急に何を言い出すんだ、インデックス?」
インデックスは場違いな笑顔で答える。
「だって、この船がしゅっぱつする時、
同じくらいおっきい船いたもん」
上条の頭にその時の映像が浮かぶ。
「確か……貨物船!」
入れ違いに港に入ったのを覚えている。
「貨物船…貨物船…」
黒子の頭の中に何かが引っ掛かる。
「上条さん。その貨物船、
何を運んでいたか分かります?」
「さすがに分かんねー。
ただ船体には第16薬学研究所って
書いてあったぞ」
212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 16:08:30.63 ID:CcD4bKN/Q
「薬学研究所…まさか!」
黒子はすぐに携帯をかけ直す。
先程よりはしっかりとした声で、
初春が出た。
『あ、白井さん!アンチスキル、ジャッジメント他
関係各所に連絡しました!
私も今詰め所に向かってます!』
「乗組員の救助、逃走したテロリストの確保は?」
『そちらは海上保安庁が受け持ちます。
今回は学園都市の船での事件、
人質は学園都市の生徒、
犯人はスキルアウトなので、
例外的にアンチスキルが指揮をとるみたいです』
本来学園都市外の事件に、
アンチスキルが出動する事は滅多にない。
今回は学園都市外部といっても、
状況が状況なのだ。
213 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 16:09:49.50 ID:CcD4bKN/Q
「それから初春。今港に停泊している貨物船の積み荷を、
大至急調べて欲しいんですの」
『積み荷…ですか?』
何故そんなものを、といった調子で
初春は聞き返す。
「えぇ、積み荷ですの。
どんな手段を使っても構いません。
必ず調べて連絡を」
『は、はいっ!』
黒子はパタンと携帯を閉じる。
最悪のシナリオが頭に浮かぶ。
「今は…待つしかありませんわね」
215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 16:11:25.78 ID:CcD4bKN/Q
それから30分余りが過ぎた。
黒子の鬼気迫る雰囲気に、
誰一人声を出せないでいた。
その沈黙を破るように、
携帯の呼び出し音が鳴り響く。
『し…白井さん』
「初春!積み荷は何ですの!?」
『表向きは新薬開発の為の
薬品という事になってます』
「"表向き"?」
初春の言い方に黒子は引っ掛かる。
『そ、それが…貨物船の警備体制があまりに厳重なので、
変だと思って研究所に
ハッキングかけてみたんです…』
黒子は自分の鼓動が早くなっていくのに気付く。
216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 16:13:40.10 ID:CcD4bKN/Q
「で、中身は?」
『炭疽菌です…それも…
エアロゾル化された炭疽菌です』
「!!」
黒子の背筋に冷たいものが走る。
「エアロゾル化された…炭疽菌!?」
『はい…あともう一つ。
ニトロナフタレンが大量に…』
ニトロナフタレンとは、
ニトログリセリンの化合物で、
医薬品などにも使われる。
しかし取り扱いは極めて難しく、
強熱を加えれば爆発する。
『白井さん、あと20分程で、
アンチスキルの高速艇が到着します!
人質の皆さんを甲板に集めといてください!』
初春の言葉は、既に黒子の耳には
届いていなかった。
217 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 16:15:07.64 ID:CcD4bKN/Q
「エアロゾル化された炭疽菌?」
上条は説明を受けてもイマイチピンとこない。
上条の為に、黒子は簡単に説明してやる。
「炭疽菌はご存知ですわね?
生物兵器などに使われる、
致死率の高いウィルスですの。
しかしこの炭疽菌の主な感染ルートは、
炭疽菌に汚染された土壌への接触ですの。
この場合、感染拡大などさして脅威ではありませんわね。
しかし炭疽菌が肺に定着した場合、致死率は約90パーセントです。
肺に定着させる為には、
空気中を漂う状態にしなければなりませんの。
その漂う状態をエアロゾル状態と言います。
この場合、炭疽菌が気流に乗れば、
感染は爆発的に広がりますわね」
219 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 16:16:37.77 ID:CcD4bKN/Q
美琴の背筋を、嫌な汗が伝う。
「じゃああいつらの目的は最初から…」
「この船を貨物船にぶつけ、
ニトロナフタレンを爆発。
コンテナが破壊され、
炭疽菌が飛散…て事か!くそ!」
上条は苦虫を噛み潰した様な顔をしている。
「爆発の熱でウィルスの何割かが死滅したとしても…
被害は最悪ね…」
220 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 16:18:40.48 ID:CcD4bKN/Q
「でもまだ気になる事がある」
上条は自分の頭を整理しながら、
言葉にしていく。
「どうして船には学生だけ残したのか。
テロリストの大半は船から降りたのに、
なぜ何人かは残ったのか」
「そうですわね…ですがまずは人質を」
黒子は人質に事態を説明し、
出来るだけ焦らないように甲板に集めていく。
拘束したテロリストも、
テレポートで甲板へ連れてくる。
10分程すると、船の進行方向から
高速艇の灯りが見えた。
数は20隻程だろうか。
その内の一隻が
客船の真横につける。
残りは船から一定の距離で航行していた。
高速艇は30人程収容出来る大きさだったが、
客船の横に並ぶと、とてもじゃないが
飛び移れる高さではなかった。
221 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 16:19:48.72 ID:CcD4bKN/Q
「えー、あー、あー」
高速艇の先端に人影が現れ、
拡声器のテストを始める。
「いいかー!今から順番に海に飛び込め!
必ず助けてやるじゃん!
ただし、指示に従ってゆっくりとじゃんよ!」
それだけ言うと、人影は誰かに拡声器を渡し、
上条達のいる甲板にフックを撃ち込む。
フックは柵に引っ掛かり、
それを使って人影が船の側面を登ろとしていた。
「こ、この高さを登る気!?」
美琴が柵から身を乗り出す。
どう考えても高すぎる。
「うぉぉぉ!!」
美琴の心配をよそに、
人影はぐんぐん登ってくる。
ついには柵を乗り越え、
甲板に降り立った。
223 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 16:24:10.91 ID:CcD4bKN/Q
「さ、さすがにキツいじゃんよ」
長い黒髪を後ろで束ね、
アンチスキルの制服に身を包んでいる。
「よ、黄泉川先生!?」
上条はその見知った顔に驚く。
「おー、お前は小萌んとこの」
黄泉川愛穂。
上条の高校の体育教師で、
アンチスキルのメンバー。
バカな生徒ほど愛着の湧く、
根は熱い人物だ。
「まぁ世間話はあとじゃん。
ジャッジメントから連絡はもらってる。
なんとか船を止めるじゃんよ」
「新しい情報はありませんの?」
黒子が一歩前に出る。
その間にも、アンチスキルの指示の元、
乗客達は海に飛び込んでは、
引き上げられていく。
227 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 17:12:09.66 ID:CcD4bKN/Q
「まぁ…あんまり良い情報はないじゃん。
あと50分程で衝突じゃんよ」
「ご、50分!?」
美琴は残り時間の短さに、
驚愕する。
「そ、だから急いで船を止めるじゃんよ。
白井は私と来い」
黄泉川はそう言って、黒子と船内へ向かおうとする。
そんな二人に上条が声を掛ける。
「俺も…俺も行く!」
上条の申し出を、黒子は一蹴する。
「ダメですの。ここから先は、
私達の仕事ですわよ」
しかし上条は食い下がる。
どうしても行かなければいけない
"ある用事"があった。
「頼む!邪魔はしねー!
どうしても確かめたい事があるんだ!」
228 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 17:13:24.56 ID:CcD4bKN/Q
黄泉川はしばらく考え、
黒子の予想していない答えを出す。
「…分かったじゃんよ」
「よ、黄泉川先生!ありが…」
黄泉川は上条の言葉を遮る。
「ただし!身の危険を感じたら
すぐに逃げる。これが条件じゃん」
「はい!」
「行くぞ!」
黄泉川と黒子は船内に入って行く。
上条も後に続こうとして、
足を止めた。
229 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 17:14:23.22 ID:CcD4bKN/Q
「美琴…」
急に下の名前で呼ばれ、
美琴の体が強張る。
「な、なによ?」
「インデックスを頼む。
お前にしか頼めねー」
上条は何か覚悟を決めたような、
見ているだけで胸が苦しくなるような顔をしている。
(そんな顔されて…
断れる訳ないじゃない)
美琴はただ頷くしか出来なかった。
インデックスも何かを感じたのか、
ついて行くとは言わなかった。
「必ず帰ってくるから!」
先程とは違う、優しい笑顔でそう告げると、
上条は船内へ消えてしまった。
231 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 17:41:17.78 ID:CcD4bKN/Q
黄泉川と黒子は第7デッキの操舵室にいた。
この真正面に港があるはずだ。
闇の向こうに、微かに灯りが見える。
「ま、予想通りじゃん」
黄泉川は船の制御システムを見下ろして
呟いた。
船は自動操舵に切り替えられている。
自動操舵とは、船に取り付けられた
ジャイロコンパスや、航法支援装置からの情報により、
設定した方位から針路がずれると
自動的に舵を操作するシステムだ。
232 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 17:42:39.76 ID:CcD4bKN/Q
「ですが…自動操舵はあくまで
補助のはずではありませんの?」
黒子の質問に、黄泉川が答える。
「そこが学園都市最新型と言われる所以じゃん。
この自動操舵装置は、他にも衛星から
海流や風速なんかの様々な情報を
リアルタイムでもらってる。
そこにバランサーなんかも加わって、
着岸以外はほぼ無人でオッケーじゃんよ」
「厄介…ですわね」
236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 18:34:24.64 ID:CcD4bKN/Q
「しかも…」
黄泉川は続ける。
「計器類はめちゃめちゃに破壊されてるじゃん。
中のシステムだけ傷付けないように。
こりゃぁ、直すだけで三日は必要じゃんよ」
「間に合いませんわね」
「アンカーを下ろそうかと思ったけど…
それもご丁寧に切り離されてるじゃん」
飄々とした黄泉川の顔に、
僅かな焦りの色が見える。
237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 18:35:08.02 ID:CcD4bKN/Q
黒子は小さな希望を持って、
初春に連絡を入れてみる。
「初春、船のシステムに介入出来ませんの?」
しかし返って来たのは
小さな希望を打ち砕く答え。
『実は私もやってみようと思ったんです。だけど…
船の操舵システムは、独立したサーバーで
管理されていて、手が出せません』
黒子は静かに携帯を閉じる。
黄泉川は破壊された計器類を見て呟いた。
「新し過ぎるってのも…
考えものじゃんよ」
238 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 18:37:28.23 ID:CcD4bKN/Q
上条は船内をひたすら走る。
確かに見た。乗客達が次々海へ飛び込む中、
その輪から外れて船内へ消えた男の姿を。
上条は船内を片っ端から捜していく。
第10デッキ、船の隅に備え付けられた、
小さなバーの扉を開く。
「お前…」
バーのカウンターにナイフを突き立て、
グラスを傾けている背中が見えた。
それはあの時見た背中。
「邪魔してんのはてめぇらか」
男はグラスを持ったまま振り返る。
年は上条より年上に見える。
二十代だろうか。
茶色く肩まである髪は無造作にハネており、
肌は浅黒い。目には何か深い悲しみ
を湛えた威圧感がある。
239 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 18:39:14.28 ID:CcD4bKN/Q
「お前…あいつらの仲間か!?」
上条はナイフを横目で捉えながら問いかける。
「仲間?本当の仲間は最後まで船に残ってた奴だけだ。
あとは金で集めたクズだよ」
上条の中で少しずつピースが
揃っていく。
「クズ?」
「そうだ。死ぬ覚悟もねぇクズだよ。
ま、あいつらはもともと頭数には入れてねぇけどな」
たいして面白くもなさそうに、
男はグラスを傾ける。
240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 18:40:20.76 ID:CcD4bKN/Q
「お前ら…何が目的だ!?」
上条の問いかけに、男の顔に強い
怒りが現れる。
「目的?」
男の目が鋭くなる。
「お前ら能力者の皆殺しだよっ!!」
男はカウンターにグラスを叩きつける。
グラスは粉々に砕け散り、
アルコールの匂いが上条の鼻をかすめた。
243 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 18:55:57.82 ID:CcD4bKN/Q
インデックスと美琴は高速艇にいた。
上条の言うとおり、二人は待つ事にした。
海に飛び込んでびしょ濡れの二人に、
アンチスキルの隊員が、肩から毛布を掛けてくれる。
他の隊員もせわしなく動いている。
満員になった高速艇は、
次から次へと帰港していく。
二人は無理を言って、
指揮官用の高速艇に乗せてもらっていた。
この高速艇は、黄泉川達が戻るまで、
ここから離れないと聞いたからだ。
244 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 18:56:48.86 ID:CcD4bKN/Q
「とーま…」
インデックスは不安そうに船を見上げる。
「黒子もいるし大丈夫よ」
そう励ます美琴の手も、微かに震えている。
体が濡れた寒さからだろうか。
それとも不安からくるものだろうか。
二人はただ、ただ待つ事しか出来なかった。
245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 18:59:44.13 ID:CcD4bKN/Q
「皆…殺し?」
「そうだよ!皆殺しだ!!」
男は気分が高揚したのか、
饒舌になっていく。
「てめぇらを皆殺しにする為だよ!
この船はもう止められねぇ!
炭疽菌は風に乗って学園都市を覆い尽くす!
俺はこの命と共に、てめぇらに復讐してやんだよ!!」
「じゃあ船に残ったあいつらも…」
「あいつらも俺と同じだ!
自分の命と引き換えに復讐を選んだんだよ!」
246 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 19:01:10.88 ID:CcD4bKN/Q
上条の中で少しずつピースが組み合わさっていく。
ロビーにいた二人、美琴が倒した女、
上条が倒した男。
そして目の前の男。
この五人が本当のテロリスト。
他は途中で船から降りる事になっていた、
金で雇ったテロリスト。
目隠ししたのは、人数が減った事を悟られない為。
いくら拘束されているとはいえ、
少人数で200人近い人間を
制御するのは難しいはずだ。
そしてこの男が後から
乗客の中に紛れ込む為でもあった。
男は乗客に混じり、結末を見届けるつもりだったのだ。
「乗組員だけ降ろしたのはなんでだよ?」
上条は男から、ナイフから視線を離さない。
「邪魔だっただけだ。
それにさっきも言っただろーが。
俺達の目的はお前ら
"学園都市の能力者"だってなぁ!」
248 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 19:10:14.45 ID:CcD4bKN/Q
「はぁ!?
こっちは子供達の命がかかってんじゃんよ!」
黄泉川は携帯を乱暴に閉じる。
「くそ!!ふざけんな!!」
「どうなされたんですの?」
苛立つ黄泉川に声を掛けるのは気が引けるが、
情報は共有しなければ。
黒子は尋ねてみる。
「こいつがダメなら、貨物船を動かそうと思ったけど…
薬学研究所の責任者が首を縦に振らないじゃんよ!」
「問題は積み荷の扱い…ですわね」
249 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 19:14:36.39 ID:CcD4bKN/Q
もし船を動かせば、
わざわざ偽装した積み荷が、
炭疽菌だと認めるようなものだ。
そう簡単に動かすとは思えない。
それに…
黒子は船内の時計を確認する。
(あと30分程…どのみち動かしても間に合うかどうか)
「諦めてたまるか…じゃんよ」
250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 19:18:59.70 ID:CcD4bKN/Q
「復讐?何だよそれ」
上条は男がなぜここまで能力者を
恨むのか分からなかった。
上条の知るスキルアウトは、
せいぜいギャングの集まりみたいなものだけだった。
男が口を開く。
「"無能力者"狩りを知ってるか?」
251 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 19:20:29.63 ID:CcD4bKN/Q
男はチャイルドエラーだった。
学園都市に置き去りにされた子供。
彼は中学に上がるまで、施設で育った。
そんな彼には親友と呼べる少年がいた。
同い年で気が合い、何をするにも一緒だった。
そして何よりも二人の絆を深めたのは、
互いに"レベル0"という事だった。
男も少年もそれを恥ずかしいと思った事はなかった。
同じ中学に入り、同じ寮に住む。
少年は家族と言ってもいい存在だった。
男と少年は一生懸命勉強した。
いつかレベル5になり、
たくさんの奨学金をもらう。
そのお金で育ててくれた施設に
恩返しをしたい。
それが二人の"夢"だった。
その夢が壊されたのは、
二人が高校二年生になった頃だった。
252 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 19:21:21.85 ID:CcD4bKN/Q
当時からスキルアウトによる"能力者狩り"が行われていた。
そして逆に、能力者による
"無能力者狩り"も行われていたのだ。
少年はその日、図書館で夜遅くまで勉強していた。
その帰り道、能力者による暴力を受けたのだ。
相手の能力は"肉体強化"のレベル1。
だが防ぐ力を持たなかった少年は、
折れた肋骨が肺に刺さり、
呼吸困難で死んでしまった。
駆けつけた男が見たのは、
原型を留めない程腫れ上がった顔の少年だった。
病院には担任の教師もいた。
その担任が小さく呟いた言葉が、
男の何かを粉々に打ち砕いた。
「こいつで良かった…」
255 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 19:23:12.93 ID:CcD4bKN/Q
男は上条を睨んで吐き出し続ける。
「"こいつで良かった"!この意味分かるか!?
所詮レベル0はこの程度の扱いなんだよ!
学園都市は格差社会の縮図なんだ!
レベルが高ぇ奴が優遇されて、
レベルが低い奴はゴミみたいに扱われる!
あんな街は滅びた方がいいんだよ!!」
「言いたい事はそれだけか?」
上条は静かに、冷たく呟く。
「あ??」
「言いたい事はそれだけかって言ったんだよ」
「てめぇ、なにいっ…」
男が何か言いかけるよりも早く、
上条は一気に間合いを詰める。
力一杯握った右手が、
男の顔面を打ち抜く。
「がはっ!!」
男はカウンターの椅子から吹っ飛ぶ。
256 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 19:24:31.06 ID:CcD4bKN/Q
「てめぇの気持ちも理解出来なくはねーよ。
けどな、だからってそれが
関係ねぇ人達を巻き込んでいい
理由にはならねぇ!」
「ぐっ…能力者がほざいてんじゃねぇぞ…
てめぇもそうやって無能力者を見下してんだろーが」
男は切れた唇を拭いながら立ち上がる。
「一番見下してんのはお前自身じゃねーのか?」
「な…に?」
「レベルに拘って…居場所失って…
自分見失ってんのはお前だって言ってんだ!」
上条は男に一歩ずつ近付く。
「確かに能力者がお前の友達にした事は
許されていいもんじゃねぇ。
けどな、お前がやってる事も、
そいつら能力者と同じじゃねーのか!
復讐で友達が喜ぶとでも思ってんなら…」
上条は右手を男に突きつける。
「その幻想をぶち殺す!」
258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 19:40:13.69 ID:CcD4bKN/Q
「こうなったら、強硬手段じゃんよ」
黄泉川と黒子は機関室に来ていた。
船を止めるには、もうエンジン
を止めてしまうしかなかった。
機関室は薄暗く、機械の油の匂いが充満していた。
エンジンの唸る低い音だけが響いている。
「爆発…しませんわよね」
エンジンを破壊して、
万が一爆発でもしたら洒落にならない。
「まぁ、街を守って死ぬのも悪くないじゃんよ」
「や、やめてくださいまし、不吉な」
黒子は自分の何倍もあるエンジンの前に膝をつく。
床は鉄板を規則正しく並べて出来ている。
259 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 19:41:49.90 ID:CcD4bKN/Q
「一か八か…行きますの!」
黒子は床の鉄板に次々触れて行く。
触れた先から鉄板は消え、
エンジンの中から金属の
ぶつかるような音がする。
「止まれ!止まれ!」
黒子は横に移動しながら、
鉄板をエンジンの中にテレポートさせていく。
「くっ、ダメですの!?」
黒子がもう一枚と、鉄板に手を伸ばした時だった。
エンジンから不規則な音がして、
金属の繋ぎ目から黒煙があがる。
そのままエンジンは沈黙してしまう。
「や、やった!?」
263 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 20:14:16.42 ID:CcD4bKN/Q
黒子はすぐに初春に確認を入れる。
「エンジンは止まりましたの!」
『だめです白井さん!
GPSで確認したんですけど、船は止まってません!』
「ど、どうしてですの!?」
珍しく黒子が焦る。
『海流です…水の流れに船が乗ってるんです!』
「衝突までの残り時間は!?」
黒子は携帯に向かい叫ぶ。
『…残り10分です』
264 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 20:16:55.87 ID:CcD4bKN/Q
「あァ!?だから分かったッて言ってンだろォが!!」
彼は電話に向かって叫ぶ。
彼は港の脇にある砂浜に来ると、
首に捲かれたチョーカーに触れる。
膝をつき両手を肘まで海に突っ込む。
「クソ冷ェ…」
彼の視線の先に、船の灯りが見える。
距離はどれくらいだろうか。
そんなに離れていないように見える。
「やりャァいィンだろ、やりャァ…」
265 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 20:17:41.38 ID:CcD4bKN/Q
彼の頭を介した巨大なネットワークが、
水温、気温、海流、風速、地形など
ありとあらゆるものを数字に変え、
高速で演算していく。
「くッ…」
目まぐるしく変わる数字を、予測も入れつつ
次々処理していく。
そして変化が訪れる。
水につけた彼の両手の周囲が、
ざわざわと波打ち始める。
「クソがァァァァァァ!!」
小さな波がやがて巨大な波になり、
自然の法則をねじ曲げ、
船に向かって突き進む。
「なんとかしてみやがれ…
ヒーロー共がァァァ!」
268 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 20:21:57.21 ID:CcD4bKN/Q
ちょっと休憩頂きます!
276 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 21:55:27.14 ID:CcD4bKN/Q
「きゃっ!」
美琴は突然の波に、
高速艇から振り落とされそうになる。
「な、何よこれ!?」
先程まで穏やかだった波が、
正面から船を揺らす。
まるで山を越えるように、
高速艇は船首を上げたり下げたりしている。
「た、短髪!」
力のないインデックスは、
船が波を乗り越える度に跳ねている。
美琴はインデックスを抱き締める。
「あのバカにあんたを頼まれてんの!
しっかり捕まってなさいよ!」
278 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 21:58:36.35 ID:CcD4bKN/Q
「初春!この揺れは何ですの!?」
黒子は携帯に向かって叫ぶ。
片手は近くの手すりを握っている。
こうしておかなければ、
船の中をピンボールの様に
転げ回ってしまいそうだった。
『わ、わわ分かりますんっ!』
「どっちですの!?落ち着きなさい初春!」
『す、すいません!分かりません!
急に流れが…そもそも有り得ないですよこれ!』
「その有り得ない事が今起きているんでしょう!
船はどうなってますの!?」
電話の向こうでキーボードを叩く音がする。
『止まってはいませんが…
スピードが落ちてますっ!』
「最後のチャンス…ですわね」
280 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 22:33:51.03 ID:CcD4bKN/Q
「はぁ、はぁ、はぁ」
上条は肩で息をする。
唇は切れ、右の瞼は腫れている。
「諦めろよ能力者」
男は上条の死角に回り込むように間合いを詰める。
(くそっ、右目側ばっか狙いやがって)
上条はステップでかわそうとするが、
距離を上手く計れない。
「がぁっ…!!」
男の左手が、上条の脇腹に突き刺さる。
呼吸が苦しくなり、
意識が持っていかれそうになる。
281 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 22:35:17.02 ID:CcD4bKN/Q
「おらぁぁ!」
男はさらに踏み込み、
上条に追い討ちをかける。
「っ!」
上条は踏みとどまるのを諦め、
流れに任せて倒れ込み、
男の追撃をかわす。
男の視線が上条からカウンターに流れ、
ナイフで止まる。
「もう終わりにしてやる」
男はカウンターからナイフを引き抜くと、
上条に切っ先を向けた。
「お前も俺もここで死ぬんだよ」
男が上条と距離を詰めようとした時、
船に大きな衝撃が走る。
船体が揺れ、酒のビンが次々床に落ちる。
「くっ!」
男の重心が一瞬崩れる。
その瞬間を逃さず、上条は一気に
距離を詰める。
282 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 22:37:08.89 ID:CcD4bKN/Q
「うぉぉぉぉ!!」
男も重心を崩したまま、
上条にナイフを突き立てようとする。
上条は咄嗟に左手でナイフを
防ぐ。
上条の腕に、熱く鋭い痛みが走った。
「ぐっ!!」
腕に沿って血が流れていくのを感じる。
「俺は死なねぇし…」
美琴やインデックスと約束した。
待っている人がいる。
「お前も死なせねぇ!!」
上条の右拳が、男の顎を正面から打ち抜く。
283 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 22:39:34.97 ID:CcD4bKN/Q
「が………は」
男の膝から力が抜け、
その場に崩れ落ちる。
「はぁ、はぁ…ぐっ」
上条は左腕に刺さったナイフを引き抜く。
その腕から血が滴り、
床に水たまりを作っていく。
「死なせねぇよ…」
上条は男の肩に手を掛けると、
待っている人達の元へ向かった。
284 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 22:43:23.97 ID:CcD4bKN/Q
「くッ…もォもたねェ」
彼の能力使用時間には限界がある。
もちろん力をセーブすれば長く、
力をセーブしなければ短く。
今の彼は後者だった。
波が次第に小さくなり、
元に戻っていく。
「ここらが潮時か…クソッ」
彼は傍らの杖を使い、
ヨロヨロと砂浜を後にする。
潮風が白い髪を撫でる。
「ちッ…残業代出ンだろォなァ」
286 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 22:44:58.43 ID:CcD4bKN/Q
「もう迷ってる暇ないじゃんよ」
黄泉川は黒子を連れて甲板に出る。
もう貨物船は視界に入っている。
船を押しとどめていた波も、
今は無い。
どう長くみても、あと5分で衝突しそうだった。
貨物船も港も、肉眼ではっきり確認出来てしまう。
「くそ!エンジンだけで済ませられる
はずだったじゃんよ」
エンジンの破壊と船の全壊。
その損害は桁外れだが、
黄泉川は上の判断を待たずに動く。
287 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 22:45:38.33 ID:CcD4bKN/Q
「ガキんちょ共を守れるなら…
私のクビくらい安いもんじゃんよ」
黄泉川は黒子に告げる。
「私の独断だ。この船を沈めるじゃん。
超電磁砲の力を借りたい。
白井、頼めるか?」
黒子はそれだけで理解する。
「お姉さまの力を借りるのは気が引けますが…
分かりましたの」
「私はあのバカを連れて戻るじゃんよ」
黄泉川はそう言って腕時計を見せる。
「間に合いそうに無かったら、
私らを待たずに沈めるじゃんよ。
あのバカは私がきっちり成仏させてやるじゃん」
「また不吉な事を…」
294 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 23:10:03.64 ID:CcD4bKN/Q
一方さんはあくまで暗躍という事で
好きなのでムリヤリ出しました
申し訳ない
295 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 23:11:06.57 ID:CcD4bKN/Q
(早く!早く早く早く!)
美琴は高速艇の上で祈る。
右手にはゲームセンターの
コインを握り締めている。
美琴に与えられた役割。
船体に電磁砲で穴を開け、
船を沈める。
しかし黄泉川と上条が戻って来ない。
もしかしたら船内で動けないのではないか。
どこかに閉じ込められたのではないか。
嫌な想像ばかりが頭を駆け巡る。
296 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 23:12:37.30 ID:CcD4bKN/Q
貨物船はもう目の前。
もし沈めて上条の脱出が間に合わなかったら…
美琴の手に汗が吹き出る。
(早く!早く!早く!早く!)
「お姉さま!もう限界です!
沈めて下さいませ!」
「ダメっ!まだあいつが…」
「このままじゃ衝突しますわよ!」
「あいつが…当麻が!」
「お姉さまっっ!!!」
美琴の目に涙が浮かぶ。
船を沈められる力はあっても、
たった一人助ける力はないのか。
美琴が自分の無力さに打ちのめされて
しまいそうな時だった。
297 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 23:13:58.99 ID:CcD4bKN/Q
「撃てぇぇ!!御坂ぁぁ!!」
両手に上条と見知らぬ男を抱えた黄泉川が、
甲板から叫ぶ。
二人とも意識が無いように見える。
黄泉川が、二人を抱えたまま
海へ飛び込む。
「お姉さまっっ!!!」
「はぁぁぁぁ!!」
美琴はコインを指に挟む。
電位差のある二本の伝導体製のレールに、
電流を通す伝導体を弾丸として挟む。
弾丸とレールの電流に発生する
磁場の相互作用により、加速して打ち出す。
【超電磁砲】
美琴の通り名にして、必殺技。
美琴は力の一滴まで右手に注ぎ込む。
コインは弾丸に、指はレールに変わる。
299 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 23:15:23.41 ID:CcD4bKN/Q
「っけぇぇぇぇ!!!」
美琴の打ち出したコインは、
青白い軌跡を描きながら、
船体に突き刺さる。
船体に3メートル以上の穴が開き、
そこから一気に水が流れ込む。
「沈んで!お願い!」
美琴の思いが通じたのか、
船は徐々に高さを失っていく。
しばらくすると、メキメキと
音を立てながら、真っ二つに折れ曲がっていく。
船の沈む衝撃で、波が荒れ狂い、
美琴達の乗った高速艇を激しく揺さぶる。
波が収まると、海面には船の残骸が静かに漂っていた。
300 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 23:20:50.49 ID:CcD4bKN/Q
「また…ここか」
上条が目を覚ますと、
いつもの病室にいた。
「目が覚めたかい?出血が多すぎてね、
ショックで気を失ってたよ」
カエル顔の医者が上条を覗き込む。
「それよりも君はよく来るね。
まるで帰巣本能みたいだ」
冗談とも本気ともとれない事を
医者は笑って話す。
「はは、やめてくださいよ。
俺には帰る家があるんです。
待ってるやつも…」
「待ってる人か。
本人は待ちきれないみたいだけどね」
それだけ言うと、医者は病室を出て行く。
301 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 23:22:15.96 ID:CcD4bKN/Q
入れ違いに小さなシスターが入ってくる。
「とーま!りんごー!」
「お、サンキューインデッ…」
「剥いてー!」
「……」
上条は黙々とりんごを剥いていく。
悲しいかな、無意識にウサギさんにしてしまう。
りんごを向きながら昨日の事を思い出す。
インデックスの話では、
船は沈没。人的被害はなし。
海に放り出された乗組員も、
無事に救助されたようだ。
残りのテロリストの逮捕も時間の問題らしい。
303 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 23:24:25.80 ID:CcD4bKN/Q
病室の窓から優しい風が入ってくる。
インデックスはベッドの(正確には上条の)上で、
りんごを頬張っている。
そのインデックスは、事件直後、
黒子が事情を汲んで美琴と一緒に帰してくれたらしい。
「学園都市…か」
上条は今回の一件で、
学園都市の深い闇を見た気がした。
なんとなく暮らしているそのすぐ傍で、
何かに苦しんでいる人間がいる。
その苦しみはやがて大きなうねりとなり、
何もかもを巻き込もうとする。
304 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 23:25:15.52 ID:CcD4bKN/Q
その全てを助けてやる事は出来ないかもしれない。
上条は右手を突き出す。
せめてこの手の届く範囲だけは
助けてやれる人間になりたい。
上条はそう思った。
「とーま」
「なんだ、インデックス」
上条は優しく微笑んでやる。
「りんごのお汁こぼした」
「………」
「てへへ」
「ぐ…不幸だぁぁぁぁぁ!!!」
305 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 23:27:32.21 ID:CcD4bKN/Q
完結です
突っ込み所も多々あったかと思いますが、
みなさんのおかげで完結までこぎつけました
支援や保守本当にありがとうございました
322 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/27(土) 00:12:04.58 ID:qLp6e1h2Q
「ぐ……これで何枚目ですの」
ジャッジメント第177支部、
白井黒子は書類と睨めっこしていた。
「当たり前よ。私達は学園都市を出ればあくまで学生なの。
テロリストに戦い挑んだって聞いてるわよ」
「ぐぬぬ…」
ジャッジメントの先輩、
固法美偉に小言を言われ、
黒子はうんざりした顔で机に突っ伏す。
「頑張りましょう白井さん!」
許可を取らずにハッキングをした初春も、
山積みの書類と格闘している。
323 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/27(土) 00:12:45.96 ID:qLp6e1h2Q
「ぅぅぅぅぅ…」
「し、白井さん?」
不気味な呻き声を上げる黒子に、
初春が恐る恐る声を掛ける。
「もう我慢出来ませんの!
初春!後はお願いします!」
「あっ、ズルい!」
時既に遅し。
黒子の姿はどこにもなかった。
324 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/27(土) 00:13:25.49 ID:qLp6e1h2Q
「お見舞い行こうかなー…
いや、こっちから行くのも何かムカつくわね…
あいつに来てもらえば…
ってそれじゃお見舞いじゃないわね」
美琴はお気に入りのクレープを頬張りながら、
ベンチでのんびりしていた。
船を沈めたのは美琴だが、
黒子や黄泉川には黙っているよう言われた。
レベル5の扱いは、学園都市内の
パワーバランスを崩しかねない程デリケートなのだ。
「おっねっえっさっまぁぁぁあ!」
突然背後から抱き付かれ、
危うくクレープを落としそうになる。
「く、黒子!?あんた今日はジャッジメントの仕事じゃ…」
「嫌ですわお姉さま!お姉さまに会うためなら、
仕事なんてポイッポイッですの」
黒子は美琴に頬ずりする。
「ぐっ…暑苦しい!!」
肘うちでもかましてやろうか、
美琴が身構える。
325 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/27(土) 00:14:27.03 ID:qLp6e1h2Q
「あっ、やっと見つけた!」
声がした方を見ると、
黒髪ロングの女の子が走ってくる。
「御坂さん!白井さん!」
「佐天さん、どうしたの?」
佐天涙子。初春と同じ学校で、
二人とも友人だ。
「いやー、初春には断られちゃったんですけどね」
佐天は何かのパンフレットを見せる。
「良かったら一緒に行きません?」
二人はパンフレットの文字を見て固まる。
"豪華客船でクルージングで二泊三日!"
「行くかぁぁぁぁ!!」
「へ?」
二人の叫びに、
ただ呆然とする佐天だった。
327 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/27(土) 00:15:59.69 ID:qLp6e1h2Q
希望があったので電磁砲フォローを
これで完結ですっ
333 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/27(土) 00:43:24.20 ID:qLp6e1h2Q
「船…沈めちゃったんですよね?」
とあるオープンカフェで、
鉄装綴里が同情の眼差しで見ている。
「まぁ…いいんじゃん?
緊急事態って事で」
黄泉川はまるで他人事のように、
コーヒーを飲んでいる。
「弁償、なんて事になったらどうするんですか?」
鉄装は心配しているのか、
不安を煽ろうとしているのか。
朝からずっとこの調子だ。
「んー……まぁなんとかなるじゃんよ」
黄泉川はニカッと笑う。
そんな黄泉川を見て、
鉄装は仕事の時とは別人だな、と思う。
334 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/27(土) 00:44:06.22 ID:qLp6e1h2Q
ちなみに黄泉川が独断で沈めた船は、
学園都市がいつの間にか回収し、
関係各所に箝口令をしいた。
犯人も学園都市の人間だったのだ。
外部へ弱味を見せないため、
いろいろなものや人が動いた。
結果、表向きは無かった事として処理された。
無かった船は沈めようもない。
黄泉川が弁償する必要もないのだ。
「聞いてます?」
鉄装の言葉も聞かず、
黄泉川は急に立ち上がる。
「喧嘩じゃんよ!」
黄泉川の目が生き生きしてくる。
「行くじゃんよ!!」
黄泉川は鉄装の襟首をひっつかむ。
「ちょっと、支払い!支払いがぁぁ!」
335 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/27(土) 00:44:56.29 ID:qLp6e1h2Q
黄泉川 完結
340 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/27(土) 01:12:44.82 ID:qLp6e1h2Q
「今回はミサカも頑張ったよね?
ってミサカはミサカは胸を張ってみたり」
「あァ?はいはいそォですねェ」
彼は面倒くさそうにあしらう。
打ち止めに連れられ、
アーケードをぶらぶら歩く。
彼の得も言われぬ威圧感に、
道行く人が進路をあけていく。
(はッ、まるで反射だなァこれは)
なかば自虐的な笑みを浮かべ、
彼はとなりの少女を眺める。
打ち止め。彼自身が自覚しているかは別にして、
大切な少女。
「じゃああなたはミサカにお礼をしなきゃだねって
ミサカはミサカは無理を承知で頼んでみたり。
出来ればアイスがいいなってミサカはミサカは…」
「あァ!ミサカミサカうるせェ!
買えばいいンだろ、
買えばよォ」
341 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/27(土) 01:14:43.82 ID:qLp6e1h2Q
彼は更に面倒くさそうに手近な
コンビニに入る。
「そーいえば!」
打ち止めは急に何かを思い出す。
「あの時直接船に触るか、貨物船に触れば
あっという間に解決だったかもって
ミサカはミサカは今更な事を言ってみたり」
342 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/27(土) 01:16:14.72 ID:qLp6e1h2Q
打ち止めの指摘に、彼は意外にも丁寧に答えてやる。
「あァ…俺はややこしィ立場なンだとよ。
"上"と深く関わりある"レベル5"
は表立ッて動けねェんだと」
「あっ、これがいい!ってミサカはミサカは
新発売のアイスを…」
「てめェ…」
彼はコンビニの外を眺める。
誰もが平和そうに同じ道を歩いている。
彼は思う。
自分はもうあの道を通る事は出来ない。
だけどせめてこの少女だけは…
「これとこれとこれとー…」
「買い過ぎだぞオイ」
彼の目がほんの少し優しく見えたのを
誰も知らない。
343 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/27(土) 01:17:54.81 ID:qLp6e1h2Q
これで全部フォローしたはず
長々とお付き合いありがとうございました
指摘も有り難く頂きます!
インデックスは甲板の柵に
身を乗り出し、
貨物船に手を振りながら
きゃあきゃあ騒いでいる。
周りの乗客がインデックスを見て
クスクスと笑っていた。
「あ、あぶねーから落ち着け!
落ちるって!」
上条はインデックスの首根っこを
掴むと、柵から引き剥がした。
「はぁぁ~…」
上条はこの日七度目の溜め息を吐いた。
上条はポケットから一枚の紙を取り出す。
紙にはこう書かれていた。
【学園都市製最新型豪華客船へご招待】
「俺にこんな幸運が起こるなんて…」
7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/25(木) 23:49:45.94 ID:/yjVE7+vQ
上条は八度目の溜め息を吐く。
招待状をポケットにしまおうとした上条は、
携帯が二つ入っている事に気付いた。
「てか、ほれインデックス。お前の携帯」
上条はインデックスに携帯を渡す。
「いらなーい」
相変わらず柵から身を乗り出し、
足をパタパタさせている。
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/25(木) 23:51:01.81 ID:/yjVE7+vQ
「携帯電話は携帯するから
携帯電話なんです!」
「むー…」
無理矢理携帯を握らせると、
インデックスはフードを脱いで
頭の上に携帯を乗せる。
そしてその上から再度フードをかぶる。
「一応聞いてやる。何してんだ?」
インデックスは満面の笑みで答える。
「こうしとけばなくならないんだよ」
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/25(木) 23:52:28.09 ID:/yjVE7+vQ
上条とインデックスは海の上にいる。
豪華客船《シャングリラ》。
学園都市が開発した、
最新型の豪華客船だ。
全長は179メートル。総トン数は
30,260トン。
航海速力は20,0ノット。
旅客定員は664名。
船底から順に、11ものデッキがある。
宿泊設備の他に、レストラン、
フィットネスクラブ、プール、
ショップなどなど、様々な設備が
整っている。
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/25(木) 23:53:40.00 ID:/yjVE7+vQ
「やっぱ…場違いだよなー」
招待状が届いたのは一週間程前だった。
招待状には、船の完成を記念して学園都市に住む学生を、
ランダムに招待している事、
一枚の招待状で二人まで参加出来る事、
その他に諸注意などが記載してあった。
上条はあまり乗り気ではなかったが
(そもそもこのラッキーを
不審に思っているのだ)、
インデックスに押し切られる形で参加したのだ。
「なんか…世界が違い過ぎて
落ち着かねー」
柵にもたれかかり、空を見上げながら、
上条が九度目の溜め息を吐こうとした時だった。
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/25(木) 23:55:25.33 ID:/yjVE7+vQ
「あっ!!あんた!!」
甲板の向こうから誰かが近付いて来る。
「ん?…み…御坂!?」
御坂と呼ばれた少女は、
上条の前まで来ると立ち止まった。
御坂美琴。名門常盤台中学のエースにして、
学園都市第三位のレベル5。
通称【超電磁砲】
「な、なんでお前がここに?」
「じゃあ、あんたは何でここにいんのよ?」
上条は招待状を美琴の前に掲げる。
「じゃあ私がいる理由も分かるでしょーが」
鈍い上条に、
美琴の顔が引きつっている。
12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/25(木) 23:56:36.78 ID:/yjVE7+vQ
「はぁ~、まぁいいわ。
ところであんた一人で来たの?」
「何言ってんだ。ここに……あれ…」
さっきまで横に居たインデックスが居なかった。
「あいつ!いつの間に!」
「な、何?」
一人で慌てる上条に、
美琴は訳が分からないといった顔をする。
「悪い御坂!またなっ!」
それだけ言うと、上条は
甲板から船内へ慌てて走って行ってしまった。
一人取り残された美琴は、
ムカつき半分、寂しさ半分の
複雑な気持ちになった。
「な…なんなのよぉぉぉ!!」
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/25(木) 23:58:14.48 ID:/yjVE7+vQ
「お姉さま、そんなに大声を
出されたら…目立ちますわよ」
いつの間にか美琴の横に
一人の少女が立っている。
ツインテールに美琴と同じ
常盤台の制服を着ていた。
白井黒子。美琴のルームメイトで、
学園都市のジャッジメント。
レベル4のテレポート能力者だ。
「く、黒子…音もなく忍び寄るのは止めてよね」
ちなみに今回の招待状を受け取ったのは
黒子だった。美琴はなかば無理矢理
連れて来られたのだ。
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/25(木) 23:59:57.35 ID:/yjVE7+vQ
「そんな事よりお姉さま。
間もなく歓迎式典が始まりますの。」
「はぁ~、面倒ね…」
美琴は頬杖をついて海を眺める。
「まぁまぁそう仰らずに。
ささ、行きましょうお姉さま」
黒子は美琴の腕を引っ張り
強引に連れて行く。
二人が今いるのは第5デッキ。
つまり下から数えて5番目の階層だ。
この第5デッキが
この船のメインデッキになっている。
歓迎式典は第5デッキのロビーで
行われるのだ。
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:02:50.28 ID:/yjVE7+vQ
「でもこの船定員は600人以上よね」
「学生のみを対象に招待してますからね。
保護者もいませんし…
何かトラブルがあった時に
対処しやすい様にではありませんか?」
「ふーん…」
美琴は興味無さそうに返事をする。
美琴の視線は学生達の間を
行ったり来たりしている。
(あいつ…どこにいんのよ)
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:01:37.91 ID:CcD4bKN/Q
甲板から船内に入ると、
すぐにロビーになっている。
赤い絨毯に、豪華なシャンデリア、
乗船した時はなかったが、
今は規則正しく椅子が並べられていた。
椅子の正面にはスタンドマイクが
設置されている。
ロビーには既にほとんどの
乗客が集まっていた。
船の乗組員以外は学生しかいない。
「なんか思ったより乗客が少ないわね」
美琴はロビーを見渡しながら呟く。
「まったくお姉さま。
招待状に書いてありますわよ。」
黒子が差し出した招待状には、
招待予定人数は約200人と書いてある。
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:04:30.41 ID:CcD4bKN/Q
「ぐ…あの船長。
一人でどんだけ喋んのよ」
美琴は甲板のベンチで
ぐったりしている。
式典は一時間半程で終わったが、
その三分のニは船長の話で潰れた。
「あの方の晴れ舞台ですからね。
仕方ありませんの」
そう言う黒子の顔も、
ウンザリといった表情だった。
黒子はポケットから携帯を取り出す。
「今は…午後5時。
お夕食まではあと2時間
ありますわよ、お姉さま」
招待状には簡単な
スケジュールが記載してある。
それによると夕食は
午後7時となっていた。
場所は第10デッキのレストラン、
バイキング形式となっている。
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:05:40.05 ID:CcD4bKN/Q
「第10デッキって事は…」
美琴は面倒臭そうに首を持ち上げる。
「あそこね…」
二人がいるのは第5デッキ。
つまりレストランは
5つ上のフロアという事になる。
(結局あのバカは来なかったわね…)
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:06:53.38 ID:CcD4bKN/Q
「確か上条さんは大人しくしてろって
言いましたよね?」
上条はインデックスの首根っこを
掴んで説教の真っ最中だった。
「だ…だって」
「だってじゃありません!」
あれから上条は船内を
駆けずり回っていた。
ようやくインデックスを見つけたのは、
第10デッキだった。
第10デッキには和洋中と様々な
レストランがある。
ちなみに今日の夕食は
レストランの中ではなく、
同じフロアのパーティー用の
スペースに用意される。
椅子やテーブルが並べられ、
色とりどりの料理が保温器に
準備されていた。
インデックスはそれをつまみ食いしようと、
準備しているスタッフを困らせていた。
21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:08:23.76 ID:CcD4bKN/Q
「もう少しでご飯食べれるんだから、
我慢だ我慢!」
「あぅぅぅ…」
名残惜しそうなインデックスを
引きずって、上条は第10デッキを後にする。
「式典の後に部屋の鍵貰う事になってんのに…
預けた荷物もその時に
返してもらうんだぞ。ったく」
「だ、だって…」
「だってじゃありません!」
23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:09:57.83 ID:CcD4bKN/Q
結局式典に出られなかった事を平謝りして、
上条は預けた荷物と
部屋のカードキーを手に入れた。
第7デッキから第9デッキまでが
客室になっている。
第9デッキはスイートルームのみの
フロアで、今回招待された学生達は
第7デッキのみ利用出来る様になっていた。
「えーっと…ここだ」
上条は渡されたカードキーの番号と、
扉の番号を見比べる。
部屋に入ると、新築の独特な匂いがした。
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:12:13.60 ID:CcD4bKN/Q
部屋に入ってすぐ左には、
トイレとシャワールーム、
洗面台があった。
部屋はそんなに広くはなかったが、
テーブルに椅子、テレビに冷蔵庫など
設備は充実していた。
しかし上条が真っ先に確認したのは
そんなものではない。
(良かったー!ベッドが二つある!)
インデックスと一緒に暮らしてはいるが、
上条の部屋にはベッドが一つしかない。
一緒に寝るわけにはいかないので、
上条は毎日浴室に寝袋を持ち込んで寝ているのだ。
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:13:17.43 ID:CcD4bKN/Q
(ひ、久しぶりに柔らかいベッドで
寝られる!!神様ありがとう!)
「とーま、何ニヤニヤしてるの?」
インデックスに声を掛けられ、
上条は現実に引き戻される。
部屋の時計は午後6時を差している。
「なんでもねーよ。
それより飯まであと一時間か。
お土産でも見に行ってみるか?」
インデックスは満面の笑みで答える。
「行くー!」
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:15:56.36 ID:CcD4bKN/Q
「お姉さま。いつまでここでのんびり
しているつもりですの?」
式典が終わってから、二人は部屋で
何となく過ごしていた。
あれから一時間が経っていた。
上条の事が気になってはいたが、
自分で探しに行くのも何となく癪
なので、美琴は部屋に居る事にしたのだ。
(何で私があいつの事で
モヤモヤしなきゃいけないのよ…)
部屋には小さな窓が一つ付いている。
美琴はその窓から海を眺めていた。
美琴は上条に特別な感情を持っている。
それは以前美琴自身気付いた事だ。
だがその感情を
上手く受け止められていない。
美琴の恋愛レベルはまだ低いのだ。
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:20:14.17 ID:CcD4bKN/Q
「…えさま!お姉さま!」
「へ?」
「まったく。私の話聞いてます?」
美琴が振り返ると、黒子が
呆れた顔で立っている。
「ですから…せっかくなので
どこか行きませんかと私は
何度も何度も…」
「ご、ごめん。ちょっとボーっとしてた」
黒子は船内の案内図を美琴に渡す。
「黒子としましては、プールか
フィットネスクラブ、
んー、スパも捨てがたいですの」
そういって黒子は、
ニヤニヤしながら第11デッキを
指差す。
第11デッキは最上階のフロアだ。
「…着替えなきゃいけないとこばっかね…」
「な、何の事か黒子には分かりませんの」
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:22:47.63 ID:CcD4bKN/Q
「あんた…変な事考えてないでしょうね?」
そう指摘された黒子は、
明らかにうろたえている。
「べ、別にお姉さまの着替えを
どうしても見たいとかそんな
……あ」
「やっぱり…」
自爆してしまった黒子を見て、
美琴は深い溜め息を吐く。
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:23:47.55 ID:CcD4bKN/Q
「まぁいいわ。確かに黒子の
言うようにせっかくだしね」
「お、お姉さま!では…」
「そっちは行かないからね」
目をキラキラと輝かせる黒子を、
美琴は一刀両断する。
「お土産よ!お土産を見に行く!」
「えー……………」
不満そうな黒子を連れて、
美琴は第6デッキに向かう事にしたのだった。
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:26:21.72 ID:CcD4bKN/Q
「んー、どれにすっかなぁ…」
上条とインデックスは、第6デッキの
ショップに来ていた。
このフロアは、通路を挟んで左右に
様々なショップが並んでいる。
お土産やアクセサリー以外にも、
ケーキやチョコレートなどの
スイーツショップも多数並んでいる。
さながらデパートのようだ。
上条はその内の一軒でお土産を選んでいた。
「小萌の分ー?」
「おう、小萌先生にはスフィンクスの
面倒みてもらってるしなー」
スフィンクスというのは、
インデックスが拾って来た猫の名前だ。
船内はペット禁止になっていたので、
小萌に預けて来たのだ。
月詠小萌。見た目は幼児だが、
上条の担任の教師だ。
いつも何かと世話になっている。
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:27:58.32 ID:CcD4bKN/Q
「秋沙の分も買うー」
姫神秋沙、インデックスの数少ない友達だ。
現在その力は抑えられているが、
ディープブラッドという特殊な能力の持ち主。
上条にとっても友達と呼べる人物の一人だ。
上条は財布の中身と値札を見比べる。
「じゃあ、小萌先生と姫神と…土御門達の分は…
よし、諦めよう!」
いくら豪華客船の中にいても、
上条の財布はいたって庶民なのだ。
「とーま。お土産買ったら…」
「ダメだ」
「う…まだ何も言ってないんだよ」
「どうせ『ケーキ買って欲しいかも』
なーんて言うんだろ?
上条さんにはお見通しなのです」
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:29:10.20 ID:CcD4bKN/Q
「とーまのけちー」
インデックスがケーキの一つや
二つで満足するはずがない。
上条は空の財布が容易に想像出来た。
豪華客船に乗るという事で、
お金は少し多めに持って来てはいたが、
あくまでも万が一の時の為だ。
出来れば生活費にしたい。
上条はお土産を買うと、
だだをこねるインデックスを連れて
部屋に戻る事にした。
36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:30:49.97 ID:CcD4bKN/Q
「く…お姉さまの生着替えを見られると
思ってましたのに…いや、
チャンスはまだありますの…」
「黒子、何ブツブツ言ってんの?」
「な、何でもありませんの!お、
おほほほほ」
二人は通路を歩きながら、
様々な店を見て歩く。
30分程ぶらぶらしていると、
雰囲気の良いお店が見えた。
「初春さんと佐天さんにも
お土産買って帰らないとね」
二人がお店に向かってのんびり
歩いていると、
通路の奥、こちらに向かって
見慣れた人物が歩いて来た。
37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:31:56.55 ID:CcD4bKN/Q
「あぁぁ!!あんた!!」
「おぉ、また会ったなー」
「何が『また会ったなー』よ!
あんた今までどこにいたのよ!?」
上条は頭を掻きながら、
苦笑いをしている。
「いやー、説明すると長くなるんですよ御坂さん」
「あらあら上条さん。お久しぶりですの。
ところでその方は?」
黒子は上条にズルズルと
引きずられている少女を指差す。
少女はうわ言の様に、
ケーキケーキと呟いていた。
「げっ…あんたもいたの」
美琴の声に、引きずられていた少女が
振り返った。
「あ!短髪だ!」
38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:33:41.58 ID:CcD4bKN/Q
「ビリビリとか短髪とか…
あんた達は名前を覚えるのが苦手のようね」
美琴は眉間にしわを寄せて、
前髪からパチパチと電気を放っている。
「い…ち、違うんですよ御坂さん!
こいつは決して名前を
覚えていない訳ではなく…
そう!親しみを込めたあだ名です!
あだ名!」
上条は美琴から距離を取りながら、
必死に言い訳をする。
しかしそれは単に、火に油を
注ぐ結果となる。
「そう…あだ名ね。なるほど」
美琴の顔が笑顔に変わる。
黒子はその笑顔に恐怖を感じたが、
上条は致命的に鈍感だった。
40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:34:40.07 ID:CcD4bKN/Q
「そう、あだ名!いやー、分かって
もらえて良かった!あ、あははは」
この後上条の身に起こる事に同情して、
黒子は静かに目を閉じる。
「そんなあだ名で……」
「あはは…は?」
「親しみ感じるかぁぁぁぁ!!」
美琴の前髪からバチバチと
音を立て、電撃が放たれる。
一直線に向かってくる電撃に、
上条は咄嗟に右手を突き出した。
次の瞬間、電撃は弾ける様に
消えてしまった。
このやり取りを何度繰り返しただろう。
無駄だと分かっていても、
美琴は電撃を放たなければ
気が済まないのだ。
41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:35:58.10 ID:CcD4bKN/Q
上条が美琴の電撃を
消してしまったのを見て、
黒子は初めて上条に会った時の
出来事を思い出していた。
(あの時も…私のテレポートが
使えませんでしたわね…)
黒子は上条の能力について、
薄々は感づいていた。
確証を得る為に一度調べた事があるが、
《能力を消す能力》は学園都市の
バンクにも一切のデータがなかった。
「はぁ~、お姉さま。
場をわきまえて下さいな。」
上条の能力、気にはなるが、
それがなにかしらの脅威ではない以上、
詮索しても仕方がないと黒子は判断した。
それよりも聞かなければならない
事がある。
43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:36:50.99 ID:CcD4bKN/Q
「で、上条さん。もう一度お伺いしますの。
そちらの方をご紹介してくださいませんか?」
黒子は改めてその少女を観察する。
日本人ではないようだが、
日本語は話せるようだ。
銀髪で白い肌、瞳は薄い緑色。
人の事は言えないが、かなり幼く見える。
「あ、あぁ。こいつは……」
44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:38:05.18 ID:CcD4bKN/Q
上条は黒子にインデックスを紹介した。
もちろん"重要な項目"は話さなかった為、
紹介は薄っぺらいものになってしまったが。
こうして改めてインデックスの事
を誰かに話すと、
記憶をなくした事を実感する。
上条はインデックスと出会った経緯も、
なぜ記憶をなくしたのかも覚えていない。
黒子に話さなかった"重要な項目"も、
記憶ではなく知識として知っているだけなのだ。
45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:39:06.67 ID:CcD4bKN/Q
「まぁ、あまり納得出来る紹介では
ありませんが…
とりあえずよろしくですわ、おチビさん」
黒子はそう言って恭しく頭を下げた。
こう見えてもきちんとお嬢様なのだ。
「む?あなたには言われたくないかも」
おチビさんと言われた事に、
インデックスはムッとしている。
「"短髪"より"おチビさん"の方が
マシよね…」
黒子の横では美琴がブツブツ
呟いている。
面倒な事が起きる前に、
上条は話題を変える事にした。
47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:40:30.52 ID:CcD4bKN/Q
「そ、そういえばそろそろ夕食の
時間じゃねーか?」
上条が携帯を取り出すと、
ディスプレイにはPM06:52と表示されている。
「あら、本当ですの」
黒子も携帯で時間を確認している。
夕食と聞いて、
インデックスの顔がみるみる明るくなる。
「とーま大変!急がないと!」
つまみ食いをした時に
場所は覚えたのだろう、
インデックスは一人で走って行ってしまった。
「じゃあ俺達も行こうぜ」
上条は二人に声を掛ける。
「え?」
美琴は驚いて聞き返す。
上条はてっきりあの少女を追って、
別行動になると思っていた。
48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:41:44.14 ID:CcD4bKN/Q
「せっかく知り合いに会えたんだし。
一緒に飯食おうぜ」
そう言うと上条はさっさと第10デッキに
向かって歩き出してしまった。
思わぬかたちで一緒に食事を
する事になって、
美琴は嬉しいような、
気恥ずかしいような気持ちだった。
ちなみに上条は知り合いと一緒の方が、
落ち着いて食事が出来ると思っただけだった。
なにせ豪華客船。
上条の様な貧乏学生とは無縁なのだ。
正直二人に会えて、上条はホッとしていた。
もちろん美琴はそんな上条の心情が
分かるはずもなかったが…
50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:43:11.00 ID:CcD4bKN/Q
第10デッキの船尾側には広いスペースがある。
希望があれば結婚式なども執り行われ、
主にパーティー用などに使う為、
あけられているスペースだ。
会場には綺麗に飾り付けられた円テーブルや椅子、
バイキング形式で様々な料理が並んでいる。
すでにほとんどの乗客が集まっていた。
テーブルは丁度四人で一つ割り当てられている。
単純計算でおよそ50脚だ。
「………」
会場を見渡していた上条は
思わず絶句してしまう。
予想はしていたが、
会場の奥、テーブル一杯に料理を
広げているインデックスが目に入った。
51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:44:19.96 ID:CcD4bKN/Q
「おい…インデックス」
上条は一心不乱に料理を
口に運ぶインデックスに声を掛ける。
「あ、とーま。これは私の分。
とーまにはあげないんだよ?」
「いらねーよ。てか取りすぎだ。」
上条は呆れた顔で席に着く。
「だって好きなだけ取っていいって
言われたもん」
そう言いながらもインデックスは
食べる事だけは止めない。
「…残すなよ」
「うんっ!」
インデックスが幸せそうならまぁいいか。
上条は今日だけは大目に見る事に
決めたのだった。
52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:45:45.32 ID:CcD4bKN/Q
「あいつ、席取ってくれてるかな」
美琴と黒子は少し遅れて会場に入った。
席は決められていないようで、
皆思い思いの場所に座っている。
「おーい!御坂ー!白井ー!
こっちこっち!」
声がする方を見ると、
奥のテーブルで上条が両手を振っていた。
「あ、あのバカ!大声で名前呼んでんじゃないわよ!」
その大声に、周りの乗客の
視線が二人に集まっていた。
『ねぇ、御坂って…』
『あの"超電磁砲"の?』
『嘘ー?』
『でもあれ常盤台の制服だぞ』
『すげー!俺初めて見た!』
招待客は皆学園都市の学生なので、
レベル5の"超電磁砲"といえば
ちょっとした有名人なのだ。
会場内はザワザワとしていた。
54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:46:34.22 ID:CcD4bKN/Q
「あらあらさすがお姉さま。
黒子は鼻が高いですわ」
乗客の皆に笑顔で頭を下げている黒子を置いて、
美琴は上条に詰め寄る。
顔は真っ赤だ。
「あっ、あんたね!ちょっとは空気を読みなさいよ!」
「えー、何怒ってんだよ?
いいじゃん別に」
「ぐっ…この…」
上条は何が悪いのか
分からないという顔をしている。上条には分からなかったが、
レベル5にはレベル5の苦労があるのだ。
「……はぁ~、もういい」
不毛な言い争いになるのは目に見えている。
美琴は諦めて席に着いた。
「で…この大量の料理は何…」
インデックスは満面の笑みで答える。
「私のー!短髪は食べちゃダメなんだよ!」
55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:49:32.51 ID:CcD4bKN/Q
毎度お馴染みの揉め事はあったものの、
三人はそれぞれ料理を取り、
席に着いた。
「んじゃ、いただきますか」
上条の一言で夕食の時間が始まる。
三人は食べ始めたばかりだが、
インデックスは既に折り返し地点に来ていた。
料理の半分以上はなくなっている。
お箸を上手く使えないインデックスは、
フォークで次から次へと料理を刺していた。
「あ…あんた見てると
お腹いっぱいになるわね」
「えぇ…胸焼けしそうですの」
上条にとっては至極当たり前の光景だが、
やはり他人が見れば
この反応が当たり前なのだ。
「おいインデックス。
食べ過ぎたらお腹壊すぞ」
上条は内心無駄だと分かっていたが、
保護者的立場から一応忠告する。
56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:50:54.14 ID:CcD4bKN/Q
「らいひょーふ!」
インデックスは口一杯に料理を
詰め込んで答える。
頬にご飯粒がいくつも付いていた。
「ったく、慌てて食わなくてもご飯は逃げねーぞ」
そう言いながら上条は
インデックスの頬に付いた
ご飯粒を取ってやる。
もちろんこれも保護者的立場
からとった行動だった。
が、美琴はそれを面白くなさそうに見ていた。
そんな美琴に気付いた上条は、
心配そうに声を掛けた。
59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:52:16.37 ID:CcD4bKN/Q
「ど、どーした御坂?食欲ないのか?」
「…何でもない」
美琴の声は明らかにイライラしていた。
「具合悪いのか?
具合悪いなら医務室に連れて行っ…」
「何でもないって言ってるでしょ!」
美琴は勢い良く立ち上がり、
テーブルの上の食器がガチャンと音を立てる。
突然の大声に、周りの乗客達は
静まり返ってしまった。
「……御手洗い行ってくる」
驚いて、ただ美琴を黙って見ている
上条達を残して、美琴は会場から
出て行ってしまった。
黒子だけは何かを感じ取ったのだろうか、
ただ黙々と食事を続けていた。
60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:53:38.48 ID:CcD4bKN/Q
丁度夕食の時間なので、
トイレの前の通路に人の気配はない。
誰もいないトイレ、洗面台の前で
美琴は溜め息を吐く。
「…最低ね」
鏡には暗く沈んだ自分が映っている。
何故あんなにもイライラしたのだろう。
何故こんなにも胸が締め付けられるのだろう。
上条の前では"自分だけの現実"が保てない。
美琴は最初からレベル5だった訳ではない。
多少の才能はあったのかもしれないが、
間違いなく"努力"の結果だった。
誰よりも自分に厳しく、
誰よりも努力をして今の位置に立っている。
それにより積み上げて来たのが、
パーソナルリアリティ、"自分だけの現実"だ。
【常盤台のエース】【学園都市第三位のレベル5】
そういった"現実"も、
粉々に砕いてしまう程の上条への感情が
美琴の中にあった。
この感情を上手く受け止められる程、
美琴は大人ではないのだ。
それがこうした形で表に出てしまった。
62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:57:18.37 ID:CcD4bKN/Q
「よし、笑顔笑顔!」
ここでウジウジしていても仕方ない。
美琴は頬をパチンと叩くと、
上条達のもとへ戻る事にした。
「?」
トイレから出ようとした美琴は、
誰かの話し声に気付いた。
どうやらトイレ前の通路から
聞こえて来ているようだった。
(う…何よ。出にくいじゃない)
理由は特にないのだが、
なんとなく恥ずかしいので
どこかに行くのを待つ事にする。
かなり小声だが、どうやら男女二人が
話しているようだった。
会話が断片的に聞こえてくる。
64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:58:18.19 ID:CcD4bKN/Q
『…のか?…に…が……』
『…わよ。もちろん……は…よ』
『じゃあ……。……で頼む』
『それじゃ』
会話が途切れ、足跡が遠ざかって行く。
美琴がそっと通路に顔を出すと、
既に誰一人いなかった。
「ふぅ~、カップルか何かかしら。
話すならコソコソせず
堂々と話しなさいよね」
さっきまでコソコソしていた美琴は、
ブツブツ言いながら
トイレを後にするのだった。
65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 00:59:47.87 ID:CcD4bKN/Q
「あ…れ?」
上条の箸が皿に当たって
カチャンと音を立てる。
「俺のエビフライがない!」
上条にはすぐに犯人が分かった。
きっとどんなに冴えない探偵でも、
犯人を突き止められるだろう。
「おい、インデックス。
俺のエビフライ食べただろ」
「し、知らなーい」
インデックスは分かり易く顔を背ける。
「じゃあ質問を変えよう。
俺のエビフライはおいしかったか?」
「うん、おいし…あ…」
インデックスはしまったという顔をしている。
「単純な奴め!つーか俺の盗らなくても
あっちから取って来たらいいだろ!」
「とーまこそ取って来たらいいんだよ!」
66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:00:52.24 ID:CcD4bKN/Q
ギャーギャー言い合う二人を横目に、
黒子は自分のエビフライの尻尾を摘む。
黒子の指先からエビフライが消え、
上条の皿の上にポトンと落ちた。
「たかがエビフライで
そこまで喧嘩なさるなんて。
ある意味尊敬しますわね」
黒子が呆れて二人を眺めていると、
美琴が席に戻って来た。
「あんた達、食事の時くらい
大人しくしなさいよねー」
そう言って美琴は席に着く。
「御坂、ほんとに大丈夫か?」
「大丈夫に決まってんでしょ。
さ、ご飯ご飯!」
明るく振る舞う美琴を、
黒子だけは心配そうに見ていた。
68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:02:46.46 ID:CcD4bKN/Q
黒子は一番近くで美琴を見て来た。
美琴の事は誰よりも理解しているつもりだ。
そんな自分が今美琴にしてやれる事は…。
黒子は美琴の耳元で囁く。
『お姉さま。あまり無理はしないで下さいな』
きっとこれで充分だ。
美琴はたったこれだけでの言葉でも、
自分が伝えたい事を理解してくれる。
黒子はそう思った。
その証拠に、
美琴は声を出さずに唇だけ動かす。
"ありがと"
69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:03:59.96 ID:CcD4bKN/Q
その後は食事もスムーズに進んだ。
黒子は少し心配していたが、
美琴はいつもの御坂美琴に戻ったように見える。
今は自然な笑顔を見せていた。
「はぁ~、お腹いっぱいかも」
インデックスは満足そうに
テーブルに突っ伏している。
あれだけあった料理も、
今は重ねられた皿に変わってしまった。
「あんたねー…あれだけ食べて
よく平然としてられるわね」
美琴は心底呆れた顔で、
食い意地の張ったシスターを眺める。
上条の話では、このシスターは
いつも人の何倍も食べるらしいが、
見たところ腕も首筋にも余計な
肉は付いていない。
どちらかと言えば
痩せているとさえ言えるだろう。
71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:05:33.81 ID:CcD4bKN/Q
「いいなー、食べても太らないなんてさ」
そう呟いた美琴に、
黒子が背後から襲い掛かる。
「お姉さま。女性は少しくらい
ふくよかな方がモテますの。
確かにここは少し
痩せ過ぎかもしれませんけど…」
そう言いながら、黒子は美琴の胸を鷲掴みにする。
「ちょっ!黒子!やめて!」
「でも黒子はお姉さまのこの!
この慎ましい胸を好いておりますのっ!」
黒子はひたすらに胸を触り続ける。
上条はわざとらしく目をそらしている。
「やめろって言ってんでしょーがぁぁ!」
「げふっ!!」
美琴が繰り出した肘は、
背後の黒子を正確に仕留めた。
これも毎度お馴染みの光景だ。
74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:08:53.98 ID:CcD4bKN/Q
「さて、と。あんた達はこれからどーすんの?」
美琴は携帯で時刻を確認する。
ディスプレイにはPM08:45と表示されていた。
「んー、そうだな。まずは風呂でも入って…」
上条は上のデッキにスパがある事を思い出す。
こういった客船は、煙突の下のデッキなど
騒音の恐れがある場所には、
スパやレストランなどの
パブリックスペースを造るようにしている。
75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:09:58.95 ID:CcD4bKN/Q
幸いにも美琴と黒子がいるのだ。
インデックスも一緒に
お風呂に連れて行ってもらおう。
一人で行かせるのは正直不安なのだ。
「インデックス。風呂に…ん?」
上条はテーブルに突っ伏している
インデックスがプルプル震えて
いる事に気がついた。
嫌な予感がする。
「とーま…」
「インデックス…お前まさか」
「お腹がちくちくする…」
「………」
76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:11:32.53 ID:CcD4bKN/Q
「お約束の展開ですわね」
「…そうね」
結局インデックスを部屋で休ませる為、
四人は別行動する事になった。
上条は医務室で胃薬をもらい、
インデックスをベッドに寝かせてやる。
「とーま、ごめんなさい」
布団で口元を隠し、
インデックスは謝る。
彼女なりに迷惑を掛けたと思って
いるようだ。
「ったく、だから気をつけるように言ったんだぞ」
「うん…」
落ち込むインデックスに、
上条は優しく微笑んでやる。
「まぁとにかくゆっくり休め。
ここにいてやるから」
インデックスは本当に
嬉しそうな顔をして目を閉じた。
79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:12:52.57 ID:CcD4bKN/Q
「ふぅ~」
上条は窓から外を眺める。
出航してからどれだけの
距離を進んだのだろう。
もう街の灯りも見えない。
ただただ闇が広がっていた。
「さてと、のんびりしますか」
それから上条はテレビを見たり、
部屋でシャワーを浴びたりして時間を過ごした。
インデックスはいつの間にか、
スースーと小さな寝息を立てている。
気付けば部屋の時計は午後10時を差していた。
「はは、疲れてたんだなー」
上条はインデックスの寝顔を
眺める。
とても幸せそうな寝顔だ。
インデックスと暮らし始めてから、
上条は浴室に寝袋を持ち込んで寝ている。
だからこんなにマジマジと寝顔を
眺める事はめったにない。
80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:14:38.85 ID:CcD4bKN/Q
>>78
すいません、携帯です
改行上手く出来なくて申し訳ないです
大目に見てくれたら幸いです
81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:15:44.25 ID:CcD4bKN/Q
「来て良かった…かな」
記憶の無い上条にとって、
インデックスに出会う前の事は
知識として頭に入っている。
こんな小さな体で、どれほど
辛い思いをしてきたのだろう。
インデックスの頭の中にある、
10万3000冊の魔導書のせいで、
どれだけ危険な目にあっただろう。
一年に一度、大切な思い出を消され、
この少女には何が残ったというのだろう。
「今日の思い出…大事にしよーな。
インデックス」
上条は幸せそうな寝顔を見て呟く。
この少女の笑顔を守る為に、
出来る事はなんでもしてやる。
上条は右手を握り締め、
強く強く心に誓った。
82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:17:31.68 ID:CcD4bKN/Q
「お姉さま…まるで檻の中の
動物のようですわよ」
黒子はベッドに腰掛けて、
美琴を観察している。
上条達と別れ、部屋に戻ってからというもの、
美琴は明らかにソワソワしていた。
立ったり座ったり、
テレビを付けたり消したり、
今は部屋の中をあてもなく
行ったり来たりしている。
「そんなにあのお二人が気になるなら、
お部屋に遊びに行ってはいかがですの?」
「べっ、べべ別に気になってなんかないわよっ!
てか何で気にしなきゃいけないのよ!」
美琴は真っ赤になって否定する。
上条の話をする時の美琴は、
とてもレベル5とは思えない。
ただの女の子だな、と黒子は思う。
84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:19:28.95 ID:CcD4bKN/Q
「へぇ…そうですの。
ではあのお二人の事は放っておいて…」
黒子の目に邪悪な光が宿る。
「私と愛を育んでくださいませ!
お姉さまぁぁぁ!!」
「育むかぁぁぁ!!」
「げふぅっ!」
飛びかかって来た黒子に、
美琴のアッパーが炸裂する。
(はぁ~、夜風にあたって少し落ち着こう)
「ぐふ…お…お姉さま…
どこへい…かれますの?」
美琴は牽かれたカエルのように、
床に這いつくばっている黒子を
置いて部屋を後にする。
「ちょっと夜風にね」
時刻は午後10時半を回ったところだった。
86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:23:00.91 ID:CcD4bKN/Q
「………」
美琴はメインデッキ、甲板の柵に
肘をついて、海を眺めていた。
甲板には乗客もまばらで、
美琴をいれても数人しかいない。
甲板にはオレンジ色の暖かなライトが灯り、
夜の甲板を優しく包んでいる。
(あのバカ……)
美琴は上条とインデックスと同じ部屋なのが、
なんとなく嫌だった。
訳があってずっと一緒にいるのは
分かるし、上条の性格なら
ほっとけないのも当たり前だろう。
頭では分かっているのだが、
実際に目の当たりにすると
こうも心が揺さぶられるとは思わなかった。
「はぁ~……」
美琴は深い深い溜め息を、
海に向かって吐き出した。
88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:25:45.28 ID:CcD4bKN/Q
「何溜め息吐いてんだ?」
「!?」
驚いて振り返ると、
そこには上条が立っていた。
「あ、あんた!何でここにいんのよ?
あの子は?」
「インデックスならもう寝ちまったよ。
ちょっと夜風に当たりに来た。
ほれ」
そう言って上条は美琴に
缶コーヒーを投げる。
「あ…ありがと」
缶コーヒーは温かく、
潮風で冷えた美琴の手には
心地良かった。
90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:27:25.96 ID:CcD4bKN/Q
「お前が居るのが見えたからな。
御坂も夜風に当たりに来たのか?」
上条は美琴の横に並び、
同じ様に柵にもたれかかる。
「うん」
上条に聞こえてしまうのではないかと思うほど、
美琴の鼓動は早くなる。
「白井は?」
「ね、寝てる」
正確には"伸びている"だが、
あながち嘘ではない説明だ。
「そっか」
そう言って上条は海を眺める。
美琴は何か話そうと思ったが、
こんな時にする会話が思い浮かばなかった。
いつもはからかったり文句をいったり、
追い掛け回したり。
これはこれで美琴は楽しかったりするのだが、
こんな時にする事ではないなと、
美琴にも分かっている。
二人の間に沈黙の時間が流れる。
91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:28:53.61 ID:CcD4bKN/Q
「くしゅんっ」
その沈黙を破ったのは、
美琴のくしゃみだった。
「寒いのか?」
「ちょっと冷えただけ」
美琴は常盤台の制服を着ている。
学校の外でも制服を着るのが校則なのだ。
もちろん学園都市の外に出る時まで
着る必要はないのだが、
習慣というか慣れというか…
美琴は制服で来てしまった。
(さすがにスカートは寒い…
ちゃんと着替えてくるんだったな)
92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:29:48.83 ID:CcD4bKN/Q
美琴が後悔していると、
ふいに背中から何かを掛けられた。
それは上条の上着だった。
「…へ?」
「さすがにその格好じゃ風邪引くと
上条さんは思うわけですよ」
美琴の体温が上がっていく。
きっと頬も耳も真っ赤になっている。
今が夜で良かった。美琴は心から
そう思った。
「あ…ありがと」
そして訪れる沈黙。
二人はただ黙って海を眺めている。
しかしさっきの沈黙よりも、
ずっとずっと居心地がいいなと、
美琴は上着を握り締めながらそう思った。
95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:32:08.38 ID:CcD4bKN/Q
美琴は海を眺めている上条の横顔を
こっそり眺める。
(そういえば…)
上条が記憶喪失だった事をふと思い出す。
自分と初めて出会った時の記憶も
失っているはずだ。
盛夏祭で偶然会った時も、
よく考えればよそよそしかった気がする。
(でも…)
99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:33:09.51 ID:CcD4bKN/Q
美琴は考える。
出会った時から上条は変わっていないと思う。
バカで適当でお人好しで…
でも優しくて。
そして誰かの為に命を懸けて戦える。
(やっぱり私こいつの事…)
美琴が缶コーヒーを飲もうと、
プルタブに指をかけた時だった。
パンッパンッと乾いた音が響く。
次いで女性の悲鳴。
「!?」
「な、何!?」
美琴の手から滑り落ちた缶コーヒーが、
暗い海に吸い込まれていく。
「じ、銃声…?」
101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:34:42.31 ID:CcD4bKN/Q
甲板の乗客達も、事態が飲み込めず
何事かとザワザワしている。
「おい、御坂!これって…おい、御坂?」
「………」
美琴はさっきから何か違和感を感じていた。
(この感じ……まさか)
何かに気付いた美琴は、
両手を握ったり開いたりしている。
「み、御坂。何やってんだ」
上条の声も美琴の耳には届かない。
(やっぱり……)
何度も何度も確かめてみる。
そして美琴は一つの結論に達した。
「能力が…使えない!」
103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:36:20.42 ID:CcD4bKN/Q
「能力が使えないって…どういうことだ!?」
「多分これは…」
美琴が何かを言いかけた時だった。
「全員動くな!手は頭の後ろだ!」
デッキの中から、
黒い服に身を包んだ男が二人現れた。
ポケットのたくさん付いた、
いわゆるアーミージャケットだ。
顔は覆面で隠れていて、
見えているのは目だけだった。
しかしそれよりも上条が気になったのは、
彼らが構えているモノだった。
「ライフル…!?」
男達はライフルを構えて近付いてくる。
「くっ!」
上条の横で美琴が身構える。
今にも飛びかかりそうな美琴を、
上条は反射的に制止する。
104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:37:26.81 ID:CcD4bKN/Q
「能力が使えないんだろ!
今むやみに手を出すのはダメだ!」
「でも!」
「インデックスや白井の事も心配だ…
今は従うしかねー」
美琴は上条の右手が強く
握り締められている事に気付く。
「あんた…」
上条も今すぐ飛びかかりたいのだ。
部屋には一人でインデックスが寝ている。
心配に決まっている。
それでも上条は我慢しているのだ。
今ここで動いても、
事態は良くならないと判断したのだ。
「…ごめん」
美琴は素直に謝る。
上条の気持ちを無駄には出来ない。
106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:38:55.45 ID:CcD4bKN/Q
二人が連れて来られたのは、
歓迎式典も行われた、メインデッキの
ロビーだった。
ロビーには既にたくさんの乗客、
乗組員達が集められていた。
ひそひそと話す声や、すすり泣く
声が聞こえて来る。
皆後ろ手に縛られ、
ロビーの中央に固められている。それを取り囲む様に、
覆面の人間達が並んでいる。
全員の性別までは分からないが、
彼らを何と呼ぶかは分かる。
テロリストだ。
上条はテロリストの人数を確認する。
これで全員かは分からなかったが、
上条達を連れて来た二人を含めて二十人近くいる。
「ほら、とっとと座れ!」
男に促され、上条は乗客を素早く見渡す。
見覚えのある白いフードを見付け、
横に腰を下ろす。
108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 01:40:51.90 ID:CcD4bKN/Q
「インデックス!白井も!」
「とーま!短髪!」
インデックスと白井は一緒にいた。
二人共見たところ怪我などはしていない。
上条はとりあえずは安堵し、
二人に話を聞く。
「それが…私にもよく分かりませんの。
いきなり部屋にあいつらが入って来て、
ご覧の通りですの」
黒子は背中を向け、
縛られた両手を上条に見せる。
「黒子、あんたも能力は…」
「えぇ、使えませんでしたわ。
使えればこんな事になっていませんの」
黒子は小さく溜め息を吐く。
ジャッジメントでもある黒子は、
多少の白兵戦は心得ている。
だがあくまで"能力の使用を前提"
とした白兵戦なので、銃を相手に
素手だけで挑むのは
自殺行為以外の何でもなかった。
113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 02:06:49.47 ID:CcD4bKN/Q
上条はずっと疑問に思っていた事を聞いてみる。
「そういえば御坂、さっき言ってたよな。
能力が使えないってどういう事だ?」
そう聞かれた黒子は、驚いた顔をする。
「上条さんは何も感じませんの?」
「感じるって…別に何も」
「黒子…これっていつかの事件に
似てるわね」
美琴の言う"いつかの事件"に、
黒子は首を振る。
「キャパシティダウン、ですわね。
けどこれはもっと別のモノですの」
美琴の脳裏に、大型の装置が浮かぶ。
114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 02:07:56.33 ID:CcD4bKN/Q
【キャパシティダウン】
スキルアウトの一つ
ビッグスパイダーが使った、
対能力者用の音響装置だ。
演算能力に干渉する特定のノイズを発し、
能力の使用を阻害する。
しかし今はノイズも聞こえなければ、
あの時の様になんとか出来る気がしない。
完全に能力が使えなくなっているのだ。
「別のモノ…まさか」
美琴は何かに気付いた様だが、
上条には話を聞く事で精一杯だった。
「えぇ…おそらく。【AIMジャマー】ですわね」
115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 02:10:20.39 ID:CcD4bKN/Q
「AIMジャマー?何なんだそれ?」
訳の分からない顔をする上条に、
黒子が説明する。
「AIM拡散力場はご存知ですの?」
「確か…能力者が無意識に発生
させる力の…フィールド?」
高校の担任、小萌がそんな事を
話していたような気がする。
もっと勉強しとけば良かったと
上条は思った。
117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 02:11:21.30 ID:CcD4bKN/Q
「えぇ、簡単に言うとそうですわね。
AIMジャマーとは、そのAIM拡散力場を
乱反射させ、自分で自分の能力に
干渉させる事で能力の発動を
阻害する装置ですの」
「よく分かんねーけど、
完全に能力を封じるって事か」
「えぇ。学園都市では少年院や、
能力者からのターゲットになりやすい
一部の施設で使用されてますわね。ですが…」
「こんなモノがどうして出回っているか
…って事ね」
118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 02:12:42.24 ID:CcD4bKN/Q
美琴の指摘に黒子は頷く。
ビッグスパイダーの時も今回の時も、
こんな装置が出回る事事態異常なのだ。
能力者を生み出すという事は、
その能力者を抑え込む"首輪"
も必要になる。
飼い犬に手を噛まれる事もあるからだ。
その"首輪"が出回れば、
いずれ"首輪"のはずし方も分かってしまう。
「対能力者用の装備を売買する
組織があるって事ね…」
「気にはなりますが今は後回しですの。
この状況を何とかしませんと…」
119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 02:15:38.88 ID:CcD4bKN/Q
上条はあらためて状況を整理していく。
黒子の話では、携帯電話やパソコンなどの
通信機の類は、簡単な身体検査や荷物検査で
全て取り上げられている。
上条も御坂も、ここに連れて来られる前に
没収されていた。
他の乗客達も、間違いなく同じ状態のはずだ。
「外部への連絡は無理か…」
上条の呟きに黒子が答える。
「そんな事はないと思いますの」
「へ?何でだ?」
「船内の電話や無線は無理でしょうね。
電話線を切断、無線の物理的破壊。
これは片手間で済む作業ですから」
「じゃあやっぱり無理じゃない」
美琴が呟き、三人に諦めムードが漂う。
しかし黒子は構わずに続ける。
121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 02:17:25.85 ID:CcD4bKN/Q
「携帯をわざわざ回収したという事が
気になりますの。
回収しなければ使われるから回収した。
だとすれば、携帯電話を手に入れる
事が出来れば…」
「で、でも黒子。AIMジャマーみたいに、
電波を阻害する装置があったら?」
「十中八九ありませんわね。
装置があればわざわざ手間を掛けてまで
回収する必要はありませんから。
それにこれは推測ですが、
互いに干渉してしまう為、
AIMジャマーと併用出来ないのかも
知れませんわね」
122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 02:18:34.55 ID:CcD4bKN/Q
「じ、じゃあ携帯さえ取り戻せば!」
「まぁ、海にでも捨てられてなければ
…の話ですの」
「嫌な事言うわね…」
だがこれで少し希望が見えた。
上条はそう思った。
124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 02:20:22.68 ID:CcD4bKN/Q
「問題は身動きが取れない事と
AIMジャマーか。くそ」
上条は頭を掻こうとして、
自分が後ろ手に縛られている事を思い出す。
「とーま…」
インデックスは不安そうな顔で
上条を見ている。
いつの間にか余裕の無い顔をしていたようだ。
どうしようもないイライラが、
表情に出てしまっていた。
上条はインデックスに優しく微笑む。
「大丈夫だインデックス。
絶対に助かる。皆で一緒に帰るぞ」
「まずは…ここから出なきゃいけませんわね」
「でもどうやって…」
黒子は覚悟を決めた顔で口を開く。
126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 02:23:33.03 ID:CcD4bKN/Q
「私が囮になりますの」
黒子の提案を、美琴はすぐに却下する。
「ダメよ黒子!あんた何言ってるかわか…」
美琴の言葉を遮る様に黒子は続ける。
「今出来る最善の方法ですの。
お姉さま、周りを見てくださいな」
黒子に言われて美琴は辺りを見渡す。
捕まった乗客達にテロリスト…
「!?」
美琴は何かに気付いて
黒子と目を合わせる。
「テロリストが…減ってる!?」
美琴の言葉に上条も辺りを見渡してみる。
確かに最初は二十人程いたテロリストが、
今は半分程に減っていた。
「どうやら他に用事でもあるみたいですわね。
少し前に何人か出て行ったようですの。
私がテロリスト達を引きつけている
間に、お姉さま達はそこの非常口から」
130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 03:01:41.82 ID:CcD4bKN/Q
すいません
さるさんでした
131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 03:02:32.69 ID:CcD4bKN/Q
黒子の視線の先には、
メインデッキの非常口があった。
距離にしておよそ20メートル。
非常口の前には誰もいない。
「私が非常口とは反対にテロリストの
視線を集めますの。
お姉さま達はその間に」
「し、白井、そんなあぶねー事…
囮なら俺が」
「本来ならあなたなんかをお姉さまと
一緒に行かせるのは不本意ですが…
私はジャッジメントですから」
132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 03:03:40.62 ID:CcD4bKN/Q
そう言って黒子は小さく笑った。
美琴はその笑顔を見て胸が痛む。
黒子はジャッジメントとして
出来る事をやろうとしている。
危ない事はして欲しくないが、
その気持ちを無駄には出来ない。
「…わかった」
「お、おい御坂!」
「必ず…必ずなんとかするから。
それまで待ってなさいよ、黒子」
「ふふ、信じてますわ、お姉さま」
そう言うと黒子はいきなり立ち上がる。
133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 03:06:52.64 ID:CcD4bKN/Q
「ジャッジメントですの!!」
黒子は声を張り上げて叫ぶ。
そのまま乗客を掻き分け、
非常口と反対方向へ歩いて行く。
乗客を囲んでいたテロリスト達が、
黒子を囲むように移動を始める。
「こんな事して、ただで済むとお思いですの?
今すぐ皆さんを解放しなさい!!
でなければ…」
黒子は身を屈め、
一番近くにいたテロリストへ走る。
テロリストが反応するより早く、
黒子は体を回して蹴りを叩き込む。
「ぐっ!」
テロリストは体をくの字に
折り曲げて膝をつく。
137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 03:08:04.33 ID:CcD4bKN/Q
「てめぇっ!!」
黒子はさらに非常口とは反対に、
視線を集めるように走る。
テロリストも乗客も、
全ての視線が黒子に向けられていた。
「調子に乗るなよクソがっ!!」
黒子の後頭部目掛けて、
テロリストの一人が銃床を振り下ろす。
体を捻って避けようとするが、
後ろ手に縛られて上手くバランス
が取れない。
黒子の後頭部に鈍く重い衝撃が走る。
「がっ…は!!」
ぼやけていく視界の隅に、
身を屈めて非常口から出て行く三人が映る。
(お姉さ…ま)
黒子の意識はそこで途切れた。
138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 03:09:55.56 ID:CcD4bKN/Q
「…黒子」
非常口から船のサイドにある甲板に出て、
三人は息を潜める。
上条は辺りを確認する。
甲板にはテロリストの姿はないようだ。
美琴の顔は悔しさに歪んでいる。
「白井の為にも早くなんとかしねーと」
きっとただで済むはずがない。
その事を考えると、
上条の胸にやり切れない思いが込み上げる。
「…わかってる。
ところであんたはどーして付いて来たのよ」
美琴はインデックスを睨む。
上条は抜け出す時、
インデックスには待っているように
言ったはずだった。
別に足手まといだと思った訳じゃない。
ただ危険だと思ったからだ。
大人しくあの場所にいる方が、
抜け出して動き回るよりずっと安全なはずだ。
139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 03:11:21.40 ID:CcD4bKN/Q
本当に心配だからこそ、上条の語気が強くなる。
「危ないから待ってろって言ったろ!」
「だって…」
インデックスは小さな手を握りしめる。
「とーまは…とーまはいっつも
私の知らないとこで戦って…
私の知らないとこで傷付いて…
私だってとーまと戦うもん!
とーまの役に立ちたいもん!
もう待ってるだけなんて嫌なんだよ!」
インデックスの目に涙が浮かぶ。
歯を食いしばって、必死に涙が
落ちないように耐えている。
141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 03:12:07.00 ID:CcD4bKN/Q
「あんた…」
美琴にはインデックスの気持ちが
少し分かるような気がした。
以前上条に伝えた事がある。
一人で抱え込まず、私を頼って欲しいと。
きっと彼女も自分と同じなのだ。
何も出来ず、ただ待っている事の
辛さを知っているのだ。
「…そーだよな。…ごめんインデックス」
上条は今まで自分がどれだけインデックスを
心配させてきたか思い出す。
「…一緒に行こう、インデックス」
上条は優しく笑いかける。
そして心に誓う。
危険なら…その危険から俺が守ってやればいいと。
142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 03:14:08.83 ID:CcD4bKN/Q
「まずは…どうやってAIMジャマーってのを
止めるかだな」
上条達は身を潜めながら、
作戦を立てる。
「それなら私に考えがある」
「考え?」
美琴は淡々と説明していく。
「この船の電源を落とすのよ」
「電源?」
「そ、電源。おそらくAIMジャマーは、
船から電気をもらって作動してるはず。
相当の電気量が必要なはずだからね。
だから船の電源を落とせば、
AIMジャマーも止まるはずよ」
上条は分かったような、
分からないような顔で聞いている。
143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 03:15:31.60 ID:CcD4bKN/Q
上条は一つ気になる事を聞いてみる。
「船から電気をもらってなかったらどうすんだ?」
「多分それはない。
黒子の話、あんたも聞いてたでしょ?
あれは少年院なんかで使われるものよ。
そんなもんがバッテリーなんかで
動いているとは考えにくい。
そもそも持ち運ぶ様なもんじゃないしね」
「だから電源を落とすのか」
美琴は頷き、続ける。
「私はAIMジャマーを探す。
あんた達は船の電源を落として」
「そんな、一人じゃあぶねーって!」
上条が心配してくれる事は嬉しかった。
しかし美琴には作戦があった。
149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 03:55:49.24 ID:CcD4bKN/Q
しかし美琴には作戦があった。
「もし船に緊急用の予備電源があったら困るのよ。
予備電源に切り替わるまでには、
必ずタイムラグがあるはず。
あんた達が電源を落として、
予備電源に切り替わる間に、
私が能力で装置を破壊する。
だから別行動よ」
「……分かった」
「連絡は取り合えないけど、
あんた達が電源を落とすまでには
AIMジャマーを見つけてるわよ」
美琴は小さく笑うと立ち上がる。
「じゃ、行くわよ!」
150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 03:57:35.46 ID:CcD4bKN/Q
すいません
今日はここまでにします
明日残っていれば続き書きます
支援してくださった皆さん
ありがとう
159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 09:22:32.80 ID:CcD4bKN/Q
美琴は二人と別れた後、
外の階段から一つ上のデッキ、
第6デッキに上がっていた。
(あるとすれば…多分ここね)
当てずっぽうではない。
美琴はある推測のもと動いていた。
(捕まった時に見た限り、
メインデッキにはなかった)
美琴はショップの陰に隠れるように
身を屈めて移動する。
(効率良くAIMジャマーを使うなら…)
縛られた手のせいで、
上手くバランスが取れない。
何度も前のめりになってしまう。
(船の前でも後ろでも、
上でも下でもない)
美琴の目に何かが映る。
(ど真ん中っ!!)
160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 09:23:28.94 ID:CcD4bKN/Q
通路の中央に、何か大きな装置があった。
金属製の箱の様な物だった。
箱からは、太いコードが何本も
伸びている。
一辺が2メートル程あるだろうか。
上条達と会った時には無かったもの。
間違いない。美琴は箱との距離を
少しずつ詰めて行く。
(あと…多分10メートル!行ける!)
美琴が更に距離を縮めようとした時だった。
死角になっている箱の向こう側に、
誰かが立っているのに気付く。
一瞬だがライフルの銃身の様な
ものが見えたのだ。
(くそ…装置の護衛!?)
上条達がいつ電源を落とすか分からない。
グズグズしている訳には行かないのだ。
(やるしか…ないわね)
美琴の目に強い光が宿る。
162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 09:36:23.01 ID:CcD4bKN/Q
「インデックス、俺から離れるなよ」
上条とインデックスは、船の外周に沿って、
船首に向かう。
船首側にも大きなドアがあり、
上条はそこから船内の様子を窺う。
(なんか…おかしくねーか)
上条は何か言い知れぬ違和感を覚えていた。
テロリストが少ない。
本来なら出入り口には見張りが
立っていてもおかしくないのだ。
(船内に乗客がいないと思って油断してんのか?
…それとも何か理由が)
上条とインデックスはそのまま船内へ入る。
入ってすぐに、下のデッキへの階段があった。
二人は静かに階段を降りて行く。
163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 09:38:43.65 ID:CcD4bKN/Q
船の電気を管理している部屋は、
第4デッキ、今から上条達が向かうデッキにある。
途中、船の案内図をインデックスが記憶したのだ。
"完全記憶能力"。
一度見たものは決して忘れない、
インデックスの能力。
この能力のせいで、インデックスはたくさん
辛い思いをして来た。
しかし今はこの能力に頼るしかない。
上条は複雑な気持ちだった。
「とーま、この通路の奥。
左手の部屋が管理室なんだよ」
インデックスの声に、
上条は通路の奥を覗き込む。
「っ!?」
通路の奥、目的の部屋の前に、
テロリストが一人立っていた。
「と、とーま。どーしよう」
インデックスは不安そうな顔で
上条を見ている。
「俺に…考えがある」
「考え?」
164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 09:40:38.39 ID:CcD4bKN/Q
上条は目測でテロリストまでの距離を測る。
およそ20メートル。
テロリストは扉にもたれ掛かる様にして、
こちらに背中を向けている。
(チャンスは…今しかねー!)
「うぉぉぉぉ!」
上条は陰から勢い良く飛び出し、
テロリスト目掛けて全力で走る。
手が縛られていようが関係ない。
「!?」
テロリストが振り返る。
しかし上条は既に自分の間合いまで詰めていた。
上条は素早く身を屈める。
「っらぁ!」
立ち上がる勢いを利用し、
テロリストの顎目掛けて飛び上がる。
「がっ、は!」
上条の頭がテロリストの顎を正確に捉えた。
脳を揺さぶられたテロリストは、
そのまま地面に崩れ落ちる。
165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 09:42:48.81 ID:CcD4bKN/Q
「ぐっ…はぁ、はぁ」
上条の頭にも、とてつもない痛みが走る。
「なんとか…なった」
「とーま!」
様子を窺っていたインデックスが、
上条に歩み寄る。
ひどくご立腹の様だった。
「考えって、これ!?」
「あ、あはは…」
上条は苦笑いをする。
「ただ突っ込んだだけじゃん!
下手すればやられてたのはとーまなんだよ!?」
インデックスが怒っているのは、
きっと本気で心配してくれているからだ。
166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 09:43:38.70 ID:CcD4bKN/Q
「もしとーまに何かあったら…」
インデックスはまるで自分が傷付いた様に、
辛そうな顔をする。
まただ。またインデックスを
悲しませる様な事をしてしまった。
上条は胸が痛む。こんな顔をさせたくないから、
上条は記憶が無い事を
隠してまでインデックスの側にいるのだ。
「ごめん。もうしねー。約束するよ」
167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 09:44:48.58 ID:CcD4bKN/Q
「ふー、やっと自由だな」
上条は赤くなった手首をさすりながら呟く。
テロリストの腰には、
ナイフがぶら下がっていた。
上条はプラスチックの拘束具を、
四苦八苦しながら切断したのだ。
「これでよし」
管理室には工具箱があり、
その中にはガムテープもあった。
上条は気絶したテロリストを、
ガムテープでぐるぐる巻きにする。
「とーま、芋虫みたいかも」
確かに肩から足の先までぐるぐる巻きだ。
「これぐらいしとかないとダメなんです。…さてと」
168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 09:45:47.91 ID:CcD4bKN/Q
上条は部屋を見渡す。
部屋の鍵は倒したテロリストが持っていた。
そんなに広くない部屋の壁に、
たくさんのパネルが並んでいる。
上条はそれを片っ端からこじ開けて行く。
中にはレバーがたくさん配置されている。
主電源以外にも、細かく電気の流れが
制御されているようだった。
「くそ、どれだ?」
上条は最後のパネルをこじ開ける。
「!!」
そこには今までとは違う、
大きいレバーがあった。
レバーはプラスチックの様なもので覆われている。
おそらく安全の為だろう。
上条は工具箱から金槌を取り出す。
「…やるしかねー!」
170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 09:48:46.46 ID:CcD4bKN/Q
美琴はいったん土産物屋に身を隠すと、
商品の陳列棚を勢い良く蹴り倒す。
静かなデッキに、
ガシャンと音が響き渡る。
次いで足音。徐々にこちらに近付いてくる。
美琴は別の棚に素早く身を隠す。
「誰かいるのか!?」
足音の主が声を出す。
(この声!?)
美琴には聞き覚えがあった。
夕食の時、トイレで聞いたあの声。
(テロリストの中に女がいたなんてね)
足音が土産物屋の店内に入ってくる。
「おりゃぁぁ!」
美琴は棚の陰から飛び出すと、
女の顔に蹴りを叩き込む。
いつもは自販機相手だが、
今は緊急事態なので仕方がない。
173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 10:16:55.80 ID:CcD4bKN/Q
末尾Qはアイビスで書いてるからだと思います
携帯しかないのですが、
規制されて書けないので
174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 10:18:28.82 ID:CcD4bKN/Q
「ぐっ!」
女は突然蹴られた勢いで、
思わずライフルを床に落とす。
美琴は落ちたライフルを、
縛られた両手で器用に持ち上げると、
女が体勢を立て直す前に、
素早く走り出す。
「くっ、待て!貴様!」
AIMジャマーの側まで走ると、
美琴は一番近い窓目掛けて体を捻る。
「強化ガラスじゃありませんよう……にっ!!」
そのまま体を半回転させ、
ライフルを勢い良く窓に投げる。
ライフルは窓ガラスを突き破り、
夜の闇に消えた。
「き、きさまぁ!」
美琴が振り返ると、
ナイフを構えた女が肩で息をしている。
疲れたからではない、
怒り狂っているからだ。
175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 10:20:50.85 ID:CcD4bKN/Q
「大事なものだった?ごめんね」
軽口を叩きながらも、美琴の視線は
女の一挙手一投足を見逃さない。
これは知識ではない。美琴が
色々な戦闘から得た経験だった。
女の視線、指先の動き、足にかける重心。
あらゆる情報から、女の次の行動を推測していく。
「あんた達…スキルアウトね」
美琴は確信している。
学園都市の船が狙われ、
学園都市の学生が人質。
そして目の前のAIMジャマー。
偶然がここまで重なると、
それは必然だ。
「だったら…なんだ?」
女は美琴との間合いをゆっくり詰める。
176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 10:24:03.83 ID:CcD4bKN/Q
「別に…聞いただけよ」
美琴は軽口を重ねる。
女が苛立っていくのが分かる。
「私は…あんた達みたいなのが大嫌いなだけ」
また軽口。
「きさまぁぁぁぁ!!!」
女が怒りにまかせてナイフを
突き出す。
(かかった!)
美琴はその直線的な攻撃を、
最小限の動きでかわす。
女の腕を右足で蹴り上げる。
ナイフが宙を舞う。
177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 10:25:40.06 ID:CcD4bKN/Q
「っっ!」
そのまま今度は左足でがら空きの
脇腹へ蹴りを突き刺す。
「ぐっ!」
前に重心を掛けていた女は、
横からの衝撃にバランスを崩し、
吹っ飛ぶ。美琴は素早くナイフを拾うと、
ライフルと同じように窓から投げ捨てる。
しかしそこに一瞬隙が出来てしまった。
「うぁぁぁぁぁ!!」
女が立ち上がり、美琴に掴みかかる。
「うっ!」
そのままAIMジャマーに叩きつけけられる。
「殺す!殺す!殺す!」
AIMジャマーに押し付けながら、
女は美琴の首を絞める。
178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 10:27:40.87 ID:CcD4bKN/Q
(ま…ずい)
美琴は後ろ手に縛られているので、
女の手を振り解く事が出来ない。
足を使って突き放そうにも、
体が密着しているせいで上手くいかない。
「殺す!殺す!殺す!殺す!」
「うっ…うぐ…」
女の手に更に力が入る。
「お前ら能力者なんか!皆殺してやる!」
(やば…意識が…)
その時だった。突然船内の灯りが消えた。
「な!?」
女がうろたえているのが分かる。
一瞬首を絞める手が緩んだ。
(あの馬鹿…遅いのよ!)
美琴の顔に笑みが浮かぶ。
179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 10:30:18.83 ID:CcD4bKN/Q
「ぶっ壊れなさいよ!」
AIMジャマーに押し付けられている美琴の掌は、
ぴったり装置に触れている。
そこから一気に電流を流す。
暗い船内に青白い光が走る。
大量の電流を流された装置は、
負荷に耐えられず煙をあげる。
「あんたは…これで勘弁してあげるっ!」
電流を使い、素早く拘束具を焼き切ると、
女の両手を掴んで電流を流す。
最低限、気絶させるだけの電流を。
「!!」
女は言葉を発する事なく崩れ落ちる。
180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 10:31:20.33 ID:CcD4bKN/Q
「はぁ、はぁ、はぁ」
美琴が一息入れていると、
船内の灯りが戻る。
予備電源に切り替わったのだ。
「ギリギリ…間に合った」
美琴は装置のコードを何本か焼き切り、
女を拘束する。
「黒子!」
美琴は走る。大切な後輩のもとへ。
183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 11:01:17.73 ID:CcD4bKN/Q
(……私は…気絶していたようですわね)
真っ暗だった黒子の意識に、
少しずつ光が戻ってくる。
(あ…ぐ…)
うっすら目を開けようとするだけで、
後頭部に激痛が走る。
それでも状況を確認しなければ。
痛みに耐えながら、黒子は少しずつ目を開く。
(な…なんですの…これは)
黒子は乗客達から少し離れた床に、
そのまま転がされていた。
一撃で気絶した事が幸いしたのか、
後頭部以外に痛みもない。
しかし黒子はもっと別の事に気を取られていた。
184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 11:03:03.17 ID:CcD4bKN/Q
(一体…何が)
乗客達は皆目隠しをされていた。
黒子が気絶する前は、
そんなものは間違いなくしていなかった。
更にもう一つ。テロリストが二人しかいない。
よく観察すると、人質だった乗組員、
つまり学生以外の人質もいなくなっている。
(何をしようとしているのか…
直接聞くしかありませんわね)
黒子は体の違和感が消えている事に気付く。
おそらく美琴達がAIMジャマーを止めたのだろう。
それだけで黒子の体に力が戻ってくる。
(お姉さま…やっぱり大好きですの)
185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 11:04:32.97 ID:CcD4bKN/Q
黒子は拘束具に指を触れる。
黒子の手首から拘束具が消え、
床に落ちる。
テロリストは二人並んで何かを話している。
黒子はその真ん中に割って入る形で
テレポートをする。
「な!?」
「っ!?」
突然現れた黒子に、テロリスト達は驚く。
何かさせる暇も与えず、
黒子はテロリスト達を掴むと
頭上へテレポートさせる。
4メートル程の高さから、
床に叩きつけられたテロリストは、
その衝撃で身悶える。
黒子は素早く近くの椅子を手に取ると、
テロリスト達を拘束するよう、
床に埋まる形でテレポートさせる。
186 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 11:05:23.38 ID:CcD4bKN/Q
テレポートさせた物体は、
そこにある物体を押しのけて現れる。
それを利用すれば、
紙でダイヤモンドを切断する事も可能だ。
黒子はそれを応用して、
椅子の脚を床に埋める形で
テレポートさせていた。
「さぁ、色々と聞かせてもらいますの」
テロリストを拘束している椅子に座り、
黒子が冷たく微笑んだ。
187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 11:18:52.53 ID:CcD4bKN/Q
「黒子っ!」
美琴がロビーに飛び込むと、
見慣れた背中が見えた。
小さくて細い、そして美琴の
大切な背中。
「お姉さま?」
黒子がゆっくり振り返る。
「お姉さま…」
黒子の顔が緩んでいく。
「お姉さまぁぁぁぁ!!」
黒子は泣きながら美琴に飛びつく。
普段なら暑苦しいが、
美琴は黒子の体温が嬉しかった。
188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 11:20:21.58 ID:CcD4bKN/Q
「黒子…良かった…ほんとに…良かった」
美琴も黒子を強く抱き締めてやる。
「怪我は?」
「大丈夫ですの。お姉さまは?」
「私は丈夫がとりえだからね」
二人はそれからしばらく再開の喜びを分かち合った。
上条達が戻って来たのは、
そのすぐ後だった。
「白井!良かった!無事で良かった!」
大袈裟に喜ぶ上条に、
黒子は少しだけくすぐったい様な
気持ちになる。
きっと上条は、他人を心から思いやれる人
なのだろうと黒子は思う。
美琴が上条にちょっかいを出す理由が、
少しだけ分かった様な気がする。
189 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 11:21:56.33 ID:CcD4bKN/Q
すいません
少し出掛けますね
198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 14:07:59.85 ID:CcD4bKN/Q
「スキルアウト…でしたか」
四人はロビーを出て甲板にいた。
お互いに今までの状況を伝え合う。
乗客を解放したいのだが、
今解放すれば必ずパニックになる。
黒子はそう判断し、現状を維持する事にしたのだ。
「ところで黒子。何でテロリストが減ってんのよ」
美琴は最大の疑問をぶつけてみる。
それは上条も気になっていた事だ。
最低限の場所に、最低限のテロリストしかいない。
「その事なんですが…
どうやら船を降りたようですの」
「へ?船を降りた?」
美琴には訳が分からない。
あんな大事を起こして、
あっさり船を降りるなんて
不自然にも程がある。
「乗組員も避難用のイカダで
海に降ろしたみたいですわね」
拘束したテロリストを締め上げて、
この二つの情報は聞き出せた。
しかし目的だけは吐かなかった。
199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 14:09:57.00 ID:CcD4bKN/Q
「せめて…外部と連絡が取れれば」
黒子は頭を抱え込む。
ロビーなどを探したが、
没収された携帯は見つからなかった。
海に投げ捨てられた可能性も高い。
「くそ…携帯さえあれば!…ん?」
上条は何かとてつもない見落としに気付く。
「とーま、私を見つめても困るかも。
私はけーたいじゃないんだよ?」
それには答えず、上条はインデックスに手を伸ばす。
「とーま?」
上条は勢い良くインデックスの
フードを脱がせる。
「ひゃっ!」
インデックスの頭の上に、
ちょこんと携帯が乗っていた。
200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 14:11:55.56 ID:CcD4bKN/Q
「………」
「………」
「………」
「えぇぇぇぇ!?」
「な、何よそれ!」
美琴と黒子はまるで初めて
携帯を見たかの様に驚く。
「なんてこった。ずっと近くにあったんじゃねーか」
携帯を渡した時、
インデックスはフードの中に入れていたのだ。
すっかり忘れていた。
多分当の本人も。
「ふ、ふふーん。こんな事もあろうかと、
ここに隠してたんだよ!えらい?」
インデックスはわざとらしく胸を張る。
「調子に乗るんじゃありませんわよ、おチビさん」
「あいたっ」
黒子がインデックスにデコピンする。
201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 14:13:07.41 ID:CcD4bKN/Q
「とにかく…これをお借りしますの」
そう言うと黒子は、
頭の中の電話帳から番号を一つ取り出す。
「さて…出てくれなければ許しませんの」
時刻は午前1時を過ぎた頃だった。
202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 14:14:44.94 ID:CcD4bKN/Q
(早く…早く…)
たった数秒待っているだけなのに、
永遠のように感じる。
(早く…早く…)
黒子の耳に当てた携帯から、
プツッと電話が繋がる音がする。
『ふぁい……もし…もし』
明らかに寝起きの声だ。
だが出てくれただけでも感謝しなければ。
「もしもし、初春。緊急事態ですの」
初春飾利。ジャッジメント第177支部に所属する、
黒子の後輩。
能力はレベル1だが、
オペレーターとしての能力はずば抜けている。
203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 14:16:08.43 ID:CcD4bKN/Q
『あれ…白井さん今船で優雅に
過ごしてるはずですよね…』
「その船が緊急事態ですの。
テロリストに襲われたんですの」
『そーなんですかー。あははは…』
「………」
『えぇぇぇぇ!!大変じゃないですか!!』
やっと目が覚めたか。
黒子は今までの経緯を手短に
説明する。
「初春、そちらではこの船の事、
何か情報あります?」
『ち、ちょっと待ってください!』
電話の向こうから、バタバタと慌てる音がする。
次に聞こえてくるのはキーボードを叩く音。
この時刻なら、初春は自宅の
パソコンを使っているのだろう。
204 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 14:17:19.80 ID:CcD4bKN/Q
『な、何も情報ありません!ニュースやネットだけじゃなくて、
アンチスキルやジャッジメントにも
情報は来ていません!』
(アンチスキルにも?おかしいですわね)
本来こうした事件の目的は、
人質を使った交渉だ。
テロリストが何かしらの要求を出せば、
必ずアンチスキルやジャッジメントに
情報が回ってくるはずなのだ。
黒子は高速で頭を回転させる。
(交渉が目的でないのなら…
人質自体が目的?
じゃあなぜ乗組員だけ降ろしたのでしょう…)
『白井さん…大変です…』
初春の声が、一段と真剣味を増す。
「初春?どうかしましたの?」
『船の進路…予定とは違います!』
206 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 14:40:24.77 ID:CcD4bKN/Q
携帯は上条が持っていたので
充電済み
と脳内補完してくれたらOKです
207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 14:41:48.95 ID:CcD4bKN/Q
「進路が変わってる!?」
黒子の声に、三人も顔を見合わせる。
『調べてみたんですけど、
船は港に向かってます』
「港に?帰港予定は明日の夜ですわよ」
『んー…でも衛星からの情報では
港に向かってます』
黒子の背中を嫌な感覚が通り抜ける。
「分かりました…取り敢えず初春は関係各所に連絡。
海上では乗組員が救助を待っているはずですの。
急いでください」
それだけ伝えて電話を切る。
何かがおかしい。その何かが分からない。
ただあと一つ、あと一つピースがあれば、
何か分かるような気がする。
黒子はそう思っていた。
208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/02/26(金) 14:43:18.60 ID:CcD4bKN/Q
「港に向かってる?」
黒子から説明を受けた上条は、
何故こんな事になっているのか分からなかった。
「帰るの?」
インデックスも不思議そうな顔をしている。
「もう!一体何なのよ!」
「落ち着け御坂」
ある程度先が予想出来ないと、
人間というのは焦りや不安
といった感情が出て来る。
四人はまさにその状態だった。
211 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 16:05:10.40 ID:CcD4bKN/Q
「でもこのおっきい船、港に入れないかも」
インデックスの言葉の意図が掴めず、
上条は首を傾げる。
「き、急に何を言い出すんだ、インデックス?」
インデックスは場違いな笑顔で答える。
「だって、この船がしゅっぱつする時、
同じくらいおっきい船いたもん」
上条の頭にその時の映像が浮かぶ。
「確か……貨物船!」
入れ違いに港に入ったのを覚えている。
「貨物船…貨物船…」
黒子の頭の中に何かが引っ掛かる。
「上条さん。その貨物船、
何を運んでいたか分かります?」
「さすがに分かんねー。
ただ船体には第16薬学研究所って
書いてあったぞ」
212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 16:08:30.63 ID:CcD4bKN/Q
「薬学研究所…まさか!」
黒子はすぐに携帯をかけ直す。
先程よりはしっかりとした声で、
初春が出た。
『あ、白井さん!アンチスキル、ジャッジメント他
関係各所に連絡しました!
私も今詰め所に向かってます!』
「乗組員の救助、逃走したテロリストの確保は?」
『そちらは海上保安庁が受け持ちます。
今回は学園都市の船での事件、
人質は学園都市の生徒、
犯人はスキルアウトなので、
例外的にアンチスキルが指揮をとるみたいです』
本来学園都市外の事件に、
アンチスキルが出動する事は滅多にない。
今回は学園都市外部といっても、
状況が状況なのだ。
213 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 16:09:49.50 ID:CcD4bKN/Q
「それから初春。今港に停泊している貨物船の積み荷を、
大至急調べて欲しいんですの」
『積み荷…ですか?』
何故そんなものを、といった調子で
初春は聞き返す。
「えぇ、積み荷ですの。
どんな手段を使っても構いません。
必ず調べて連絡を」
『は、はいっ!』
黒子はパタンと携帯を閉じる。
最悪のシナリオが頭に浮かぶ。
「今は…待つしかありませんわね」
215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 16:11:25.78 ID:CcD4bKN/Q
それから30分余りが過ぎた。
黒子の鬼気迫る雰囲気に、
誰一人声を出せないでいた。
その沈黙を破るように、
携帯の呼び出し音が鳴り響く。
『し…白井さん』
「初春!積み荷は何ですの!?」
『表向きは新薬開発の為の
薬品という事になってます』
「"表向き"?」
初春の言い方に黒子は引っ掛かる。
『そ、それが…貨物船の警備体制があまりに厳重なので、
変だと思って研究所に
ハッキングかけてみたんです…』
黒子は自分の鼓動が早くなっていくのに気付く。
216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 16:13:40.10 ID:CcD4bKN/Q
「で、中身は?」
『炭疽菌です…それも…
エアロゾル化された炭疽菌です』
「!!」
黒子の背筋に冷たいものが走る。
「エアロゾル化された…炭疽菌!?」
『はい…あともう一つ。
ニトロナフタレンが大量に…』
ニトロナフタレンとは、
ニトログリセリンの化合物で、
医薬品などにも使われる。
しかし取り扱いは極めて難しく、
強熱を加えれば爆発する。
『白井さん、あと20分程で、
アンチスキルの高速艇が到着します!
人質の皆さんを甲板に集めといてください!』
初春の言葉は、既に黒子の耳には
届いていなかった。
217 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 16:15:07.64 ID:CcD4bKN/Q
「エアロゾル化された炭疽菌?」
上条は説明を受けてもイマイチピンとこない。
上条の為に、黒子は簡単に説明してやる。
「炭疽菌はご存知ですわね?
生物兵器などに使われる、
致死率の高いウィルスですの。
しかしこの炭疽菌の主な感染ルートは、
炭疽菌に汚染された土壌への接触ですの。
この場合、感染拡大などさして脅威ではありませんわね。
しかし炭疽菌が肺に定着した場合、致死率は約90パーセントです。
肺に定着させる為には、
空気中を漂う状態にしなければなりませんの。
その漂う状態をエアロゾル状態と言います。
この場合、炭疽菌が気流に乗れば、
感染は爆発的に広がりますわね」
219 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 16:16:37.77 ID:CcD4bKN/Q
美琴の背筋を、嫌な汗が伝う。
「じゃああいつらの目的は最初から…」
「この船を貨物船にぶつけ、
ニトロナフタレンを爆発。
コンテナが破壊され、
炭疽菌が飛散…て事か!くそ!」
上条は苦虫を噛み潰した様な顔をしている。
「爆発の熱でウィルスの何割かが死滅したとしても…
被害は最悪ね…」
220 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 16:18:40.48 ID:CcD4bKN/Q
「でもまだ気になる事がある」
上条は自分の頭を整理しながら、
言葉にしていく。
「どうして船には学生だけ残したのか。
テロリストの大半は船から降りたのに、
なぜ何人かは残ったのか」
「そうですわね…ですがまずは人質を」
黒子は人質に事態を説明し、
出来るだけ焦らないように甲板に集めていく。
拘束したテロリストも、
テレポートで甲板へ連れてくる。
10分程すると、船の進行方向から
高速艇の灯りが見えた。
数は20隻程だろうか。
その内の一隻が
客船の真横につける。
残りは船から一定の距離で航行していた。
高速艇は30人程収容出来る大きさだったが、
客船の横に並ぶと、とてもじゃないが
飛び移れる高さではなかった。
221 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 16:19:48.72 ID:CcD4bKN/Q
「えー、あー、あー」
高速艇の先端に人影が現れ、
拡声器のテストを始める。
「いいかー!今から順番に海に飛び込め!
必ず助けてやるじゃん!
ただし、指示に従ってゆっくりとじゃんよ!」
それだけ言うと、人影は誰かに拡声器を渡し、
上条達のいる甲板にフックを撃ち込む。
フックは柵に引っ掛かり、
それを使って人影が船の側面を登ろとしていた。
「こ、この高さを登る気!?」
美琴が柵から身を乗り出す。
どう考えても高すぎる。
「うぉぉぉ!!」
美琴の心配をよそに、
人影はぐんぐん登ってくる。
ついには柵を乗り越え、
甲板に降り立った。
223 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 16:24:10.91 ID:CcD4bKN/Q
「さ、さすがにキツいじゃんよ」
長い黒髪を後ろで束ね、
アンチスキルの制服に身を包んでいる。
「よ、黄泉川先生!?」
上条はその見知った顔に驚く。
「おー、お前は小萌んとこの」
黄泉川愛穂。
上条の高校の体育教師で、
アンチスキルのメンバー。
バカな生徒ほど愛着の湧く、
根は熱い人物だ。
「まぁ世間話はあとじゃん。
ジャッジメントから連絡はもらってる。
なんとか船を止めるじゃんよ」
「新しい情報はありませんの?」
黒子が一歩前に出る。
その間にも、アンチスキルの指示の元、
乗客達は海に飛び込んでは、
引き上げられていく。
227 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 17:12:09.66 ID:CcD4bKN/Q
「まぁ…あんまり良い情報はないじゃん。
あと50分程で衝突じゃんよ」
「ご、50分!?」
美琴は残り時間の短さに、
驚愕する。
「そ、だから急いで船を止めるじゃんよ。
白井は私と来い」
黄泉川はそう言って、黒子と船内へ向かおうとする。
そんな二人に上条が声を掛ける。
「俺も…俺も行く!」
上条の申し出を、黒子は一蹴する。
「ダメですの。ここから先は、
私達の仕事ですわよ」
しかし上条は食い下がる。
どうしても行かなければいけない
"ある用事"があった。
「頼む!邪魔はしねー!
どうしても確かめたい事があるんだ!」
228 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 17:13:24.56 ID:CcD4bKN/Q
黄泉川はしばらく考え、
黒子の予想していない答えを出す。
「…分かったじゃんよ」
「よ、黄泉川先生!ありが…」
黄泉川は上条の言葉を遮る。
「ただし!身の危険を感じたら
すぐに逃げる。これが条件じゃん」
「はい!」
「行くぞ!」
黄泉川と黒子は船内に入って行く。
上条も後に続こうとして、
足を止めた。
229 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 17:14:23.22 ID:CcD4bKN/Q
「美琴…」
急に下の名前で呼ばれ、
美琴の体が強張る。
「な、なによ?」
「インデックスを頼む。
お前にしか頼めねー」
上条は何か覚悟を決めたような、
見ているだけで胸が苦しくなるような顔をしている。
(そんな顔されて…
断れる訳ないじゃない)
美琴はただ頷くしか出来なかった。
インデックスも何かを感じたのか、
ついて行くとは言わなかった。
「必ず帰ってくるから!」
先程とは違う、優しい笑顔でそう告げると、
上条は船内へ消えてしまった。
231 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 17:41:17.78 ID:CcD4bKN/Q
黄泉川と黒子は第7デッキの操舵室にいた。
この真正面に港があるはずだ。
闇の向こうに、微かに灯りが見える。
「ま、予想通りじゃん」
黄泉川は船の制御システムを見下ろして
呟いた。
船は自動操舵に切り替えられている。
自動操舵とは、船に取り付けられた
ジャイロコンパスや、航法支援装置からの情報により、
設定した方位から針路がずれると
自動的に舵を操作するシステムだ。
232 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 17:42:39.76 ID:CcD4bKN/Q
「ですが…自動操舵はあくまで
補助のはずではありませんの?」
黒子の質問に、黄泉川が答える。
「そこが学園都市最新型と言われる所以じゃん。
この自動操舵装置は、他にも衛星から
海流や風速なんかの様々な情報を
リアルタイムでもらってる。
そこにバランサーなんかも加わって、
着岸以外はほぼ無人でオッケーじゃんよ」
「厄介…ですわね」
236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 18:34:24.64 ID:CcD4bKN/Q
「しかも…」
黄泉川は続ける。
「計器類はめちゃめちゃに破壊されてるじゃん。
中のシステムだけ傷付けないように。
こりゃぁ、直すだけで三日は必要じゃんよ」
「間に合いませんわね」
「アンカーを下ろそうかと思ったけど…
それもご丁寧に切り離されてるじゃん」
飄々とした黄泉川の顔に、
僅かな焦りの色が見える。
237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 18:35:08.02 ID:CcD4bKN/Q
黒子は小さな希望を持って、
初春に連絡を入れてみる。
「初春、船のシステムに介入出来ませんの?」
しかし返って来たのは
小さな希望を打ち砕く答え。
『実は私もやってみようと思ったんです。だけど…
船の操舵システムは、独立したサーバーで
管理されていて、手が出せません』
黒子は静かに携帯を閉じる。
黄泉川は破壊された計器類を見て呟いた。
「新し過ぎるってのも…
考えものじゃんよ」
238 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 18:37:28.23 ID:CcD4bKN/Q
上条は船内をひたすら走る。
確かに見た。乗客達が次々海へ飛び込む中、
その輪から外れて船内へ消えた男の姿を。
上条は船内を片っ端から捜していく。
第10デッキ、船の隅に備え付けられた、
小さなバーの扉を開く。
「お前…」
バーのカウンターにナイフを突き立て、
グラスを傾けている背中が見えた。
それはあの時見た背中。
「邪魔してんのはてめぇらか」
男はグラスを持ったまま振り返る。
年は上条より年上に見える。
二十代だろうか。
茶色く肩まである髪は無造作にハネており、
肌は浅黒い。目には何か深い悲しみ
を湛えた威圧感がある。
239 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 18:39:14.28 ID:CcD4bKN/Q
「お前…あいつらの仲間か!?」
上条はナイフを横目で捉えながら問いかける。
「仲間?本当の仲間は最後まで船に残ってた奴だけだ。
あとは金で集めたクズだよ」
上条の中で少しずつピースが
揃っていく。
「クズ?」
「そうだ。死ぬ覚悟もねぇクズだよ。
ま、あいつらはもともと頭数には入れてねぇけどな」
たいして面白くもなさそうに、
男はグラスを傾ける。
240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 18:40:20.76 ID:CcD4bKN/Q
「お前ら…何が目的だ!?」
上条の問いかけに、男の顔に強い
怒りが現れる。
「目的?」
男の目が鋭くなる。
「お前ら能力者の皆殺しだよっ!!」
男はカウンターにグラスを叩きつける。
グラスは粉々に砕け散り、
アルコールの匂いが上条の鼻をかすめた。
243 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 18:55:57.82 ID:CcD4bKN/Q
インデックスと美琴は高速艇にいた。
上条の言うとおり、二人は待つ事にした。
海に飛び込んでびしょ濡れの二人に、
アンチスキルの隊員が、肩から毛布を掛けてくれる。
他の隊員もせわしなく動いている。
満員になった高速艇は、
次から次へと帰港していく。
二人は無理を言って、
指揮官用の高速艇に乗せてもらっていた。
この高速艇は、黄泉川達が戻るまで、
ここから離れないと聞いたからだ。
244 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 18:56:48.86 ID:CcD4bKN/Q
「とーま…」
インデックスは不安そうに船を見上げる。
「黒子もいるし大丈夫よ」
そう励ます美琴の手も、微かに震えている。
体が濡れた寒さからだろうか。
それとも不安からくるものだろうか。
二人はただ、ただ待つ事しか出来なかった。
245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 18:59:44.13 ID:CcD4bKN/Q
「皆…殺し?」
「そうだよ!皆殺しだ!!」
男は気分が高揚したのか、
饒舌になっていく。
「てめぇらを皆殺しにする為だよ!
この船はもう止められねぇ!
炭疽菌は風に乗って学園都市を覆い尽くす!
俺はこの命と共に、てめぇらに復讐してやんだよ!!」
「じゃあ船に残ったあいつらも…」
「あいつらも俺と同じだ!
自分の命と引き換えに復讐を選んだんだよ!」
246 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 19:01:10.88 ID:CcD4bKN/Q
上条の中で少しずつピースが組み合わさっていく。
ロビーにいた二人、美琴が倒した女、
上条が倒した男。
そして目の前の男。
この五人が本当のテロリスト。
他は途中で船から降りる事になっていた、
金で雇ったテロリスト。
目隠ししたのは、人数が減った事を悟られない為。
いくら拘束されているとはいえ、
少人数で200人近い人間を
制御するのは難しいはずだ。
そしてこの男が後から
乗客の中に紛れ込む為でもあった。
男は乗客に混じり、結末を見届けるつもりだったのだ。
「乗組員だけ降ろしたのはなんでだよ?」
上条は男から、ナイフから視線を離さない。
「邪魔だっただけだ。
それにさっきも言っただろーが。
俺達の目的はお前ら
"学園都市の能力者"だってなぁ!」
248 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 19:10:14.45 ID:CcD4bKN/Q
「はぁ!?
こっちは子供達の命がかかってんじゃんよ!」
黄泉川は携帯を乱暴に閉じる。
「くそ!!ふざけんな!!」
「どうなされたんですの?」
苛立つ黄泉川に声を掛けるのは気が引けるが、
情報は共有しなければ。
黒子は尋ねてみる。
「こいつがダメなら、貨物船を動かそうと思ったけど…
薬学研究所の責任者が首を縦に振らないじゃんよ!」
「問題は積み荷の扱い…ですわね」
249 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 19:14:36.39 ID:CcD4bKN/Q
もし船を動かせば、
わざわざ偽装した積み荷が、
炭疽菌だと認めるようなものだ。
そう簡単に動かすとは思えない。
それに…
黒子は船内の時計を確認する。
(あと30分程…どのみち動かしても間に合うかどうか)
「諦めてたまるか…じゃんよ」
250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 19:18:59.70 ID:CcD4bKN/Q
「復讐?何だよそれ」
上条は男がなぜここまで能力者を
恨むのか分からなかった。
上条の知るスキルアウトは、
せいぜいギャングの集まりみたいなものだけだった。
男が口を開く。
「"無能力者"狩りを知ってるか?」
251 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 19:20:29.63 ID:CcD4bKN/Q
男はチャイルドエラーだった。
学園都市に置き去りにされた子供。
彼は中学に上がるまで、施設で育った。
そんな彼には親友と呼べる少年がいた。
同い年で気が合い、何をするにも一緒だった。
そして何よりも二人の絆を深めたのは、
互いに"レベル0"という事だった。
男も少年もそれを恥ずかしいと思った事はなかった。
同じ中学に入り、同じ寮に住む。
少年は家族と言ってもいい存在だった。
男と少年は一生懸命勉強した。
いつかレベル5になり、
たくさんの奨学金をもらう。
そのお金で育ててくれた施設に
恩返しをしたい。
それが二人の"夢"だった。
その夢が壊されたのは、
二人が高校二年生になった頃だった。
252 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 19:21:21.85 ID:CcD4bKN/Q
当時からスキルアウトによる"能力者狩り"が行われていた。
そして逆に、能力者による
"無能力者狩り"も行われていたのだ。
少年はその日、図書館で夜遅くまで勉強していた。
その帰り道、能力者による暴力を受けたのだ。
相手の能力は"肉体強化"のレベル1。
だが防ぐ力を持たなかった少年は、
折れた肋骨が肺に刺さり、
呼吸困難で死んでしまった。
駆けつけた男が見たのは、
原型を留めない程腫れ上がった顔の少年だった。
病院には担任の教師もいた。
その担任が小さく呟いた言葉が、
男の何かを粉々に打ち砕いた。
「こいつで良かった…」
255 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 19:23:12.93 ID:CcD4bKN/Q
男は上条を睨んで吐き出し続ける。
「"こいつで良かった"!この意味分かるか!?
所詮レベル0はこの程度の扱いなんだよ!
学園都市は格差社会の縮図なんだ!
レベルが高ぇ奴が優遇されて、
レベルが低い奴はゴミみたいに扱われる!
あんな街は滅びた方がいいんだよ!!」
「言いたい事はそれだけか?」
上条は静かに、冷たく呟く。
「あ??」
「言いたい事はそれだけかって言ったんだよ」
「てめぇ、なにいっ…」
男が何か言いかけるよりも早く、
上条は一気に間合いを詰める。
力一杯握った右手が、
男の顔面を打ち抜く。
「がはっ!!」
男はカウンターの椅子から吹っ飛ぶ。
256 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 19:24:31.06 ID:CcD4bKN/Q
「てめぇの気持ちも理解出来なくはねーよ。
けどな、だからってそれが
関係ねぇ人達を巻き込んでいい
理由にはならねぇ!」
「ぐっ…能力者がほざいてんじゃねぇぞ…
てめぇもそうやって無能力者を見下してんだろーが」
男は切れた唇を拭いながら立ち上がる。
「一番見下してんのはお前自身じゃねーのか?」
「な…に?」
「レベルに拘って…居場所失って…
自分見失ってんのはお前だって言ってんだ!」
上条は男に一歩ずつ近付く。
「確かに能力者がお前の友達にした事は
許されていいもんじゃねぇ。
けどな、お前がやってる事も、
そいつら能力者と同じじゃねーのか!
復讐で友達が喜ぶとでも思ってんなら…」
上条は右手を男に突きつける。
「その幻想をぶち殺す!」
258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 19:40:13.69 ID:CcD4bKN/Q
「こうなったら、強硬手段じゃんよ」
黄泉川と黒子は機関室に来ていた。
船を止めるには、もうエンジン
を止めてしまうしかなかった。
機関室は薄暗く、機械の油の匂いが充満していた。
エンジンの唸る低い音だけが響いている。
「爆発…しませんわよね」
エンジンを破壊して、
万が一爆発でもしたら洒落にならない。
「まぁ、街を守って死ぬのも悪くないじゃんよ」
「や、やめてくださいまし、不吉な」
黒子は自分の何倍もあるエンジンの前に膝をつく。
床は鉄板を規則正しく並べて出来ている。
259 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 19:41:49.90 ID:CcD4bKN/Q
「一か八か…行きますの!」
黒子は床の鉄板に次々触れて行く。
触れた先から鉄板は消え、
エンジンの中から金属の
ぶつかるような音がする。
「止まれ!止まれ!」
黒子は横に移動しながら、
鉄板をエンジンの中にテレポートさせていく。
「くっ、ダメですの!?」
黒子がもう一枚と、鉄板に手を伸ばした時だった。
エンジンから不規則な音がして、
金属の繋ぎ目から黒煙があがる。
そのままエンジンは沈黙してしまう。
「や、やった!?」
263 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 20:14:16.42 ID:CcD4bKN/Q
黒子はすぐに初春に確認を入れる。
「エンジンは止まりましたの!」
『だめです白井さん!
GPSで確認したんですけど、船は止まってません!』
「ど、どうしてですの!?」
珍しく黒子が焦る。
『海流です…水の流れに船が乗ってるんです!』
「衝突までの残り時間は!?」
黒子は携帯に向かい叫ぶ。
『…残り10分です』
264 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 20:16:55.87 ID:CcD4bKN/Q
「あァ!?だから分かったッて言ってンだろォが!!」
彼は電話に向かって叫ぶ。
彼は港の脇にある砂浜に来ると、
首に捲かれたチョーカーに触れる。
膝をつき両手を肘まで海に突っ込む。
「クソ冷ェ…」
彼の視線の先に、船の灯りが見える。
距離はどれくらいだろうか。
そんなに離れていないように見える。
「やりャァいィンだろ、やりャァ…」
265 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 20:17:41.38 ID:CcD4bKN/Q
彼の頭を介した巨大なネットワークが、
水温、気温、海流、風速、地形など
ありとあらゆるものを数字に変え、
高速で演算していく。
「くッ…」
目まぐるしく変わる数字を、予測も入れつつ
次々処理していく。
そして変化が訪れる。
水につけた彼の両手の周囲が、
ざわざわと波打ち始める。
「クソがァァァァァァ!!」
小さな波がやがて巨大な波になり、
自然の法則をねじ曲げ、
船に向かって突き進む。
「なんとかしてみやがれ…
ヒーロー共がァァァ!」
268 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 20:21:57.21 ID:CcD4bKN/Q
ちょっと休憩頂きます!
276 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 21:55:27.14 ID:CcD4bKN/Q
「きゃっ!」
美琴は突然の波に、
高速艇から振り落とされそうになる。
「な、何よこれ!?」
先程まで穏やかだった波が、
正面から船を揺らす。
まるで山を越えるように、
高速艇は船首を上げたり下げたりしている。
「た、短髪!」
力のないインデックスは、
船が波を乗り越える度に跳ねている。
美琴はインデックスを抱き締める。
「あのバカにあんたを頼まれてんの!
しっかり捕まってなさいよ!」
278 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 21:58:36.35 ID:CcD4bKN/Q
「初春!この揺れは何ですの!?」
黒子は携帯に向かって叫ぶ。
片手は近くの手すりを握っている。
こうしておかなければ、
船の中をピンボールの様に
転げ回ってしまいそうだった。
『わ、わわ分かりますんっ!』
「どっちですの!?落ち着きなさい初春!」
『す、すいません!分かりません!
急に流れが…そもそも有り得ないですよこれ!』
「その有り得ない事が今起きているんでしょう!
船はどうなってますの!?」
電話の向こうでキーボードを叩く音がする。
『止まってはいませんが…
スピードが落ちてますっ!』
「最後のチャンス…ですわね」
280 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 22:33:51.03 ID:CcD4bKN/Q
「はぁ、はぁ、はぁ」
上条は肩で息をする。
唇は切れ、右の瞼は腫れている。
「諦めろよ能力者」
男は上条の死角に回り込むように間合いを詰める。
(くそっ、右目側ばっか狙いやがって)
上条はステップでかわそうとするが、
距離を上手く計れない。
「がぁっ…!!」
男の左手が、上条の脇腹に突き刺さる。
呼吸が苦しくなり、
意識が持っていかれそうになる。
281 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 22:35:17.02 ID:CcD4bKN/Q
「おらぁぁ!」
男はさらに踏み込み、
上条に追い討ちをかける。
「っ!」
上条は踏みとどまるのを諦め、
流れに任せて倒れ込み、
男の追撃をかわす。
男の視線が上条からカウンターに流れ、
ナイフで止まる。
「もう終わりにしてやる」
男はカウンターからナイフを引き抜くと、
上条に切っ先を向けた。
「お前も俺もここで死ぬんだよ」
男が上条と距離を詰めようとした時、
船に大きな衝撃が走る。
船体が揺れ、酒のビンが次々床に落ちる。
「くっ!」
男の重心が一瞬崩れる。
その瞬間を逃さず、上条は一気に
距離を詰める。
282 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 22:37:08.89 ID:CcD4bKN/Q
「うぉぉぉぉ!!」
男も重心を崩したまま、
上条にナイフを突き立てようとする。
上条は咄嗟に左手でナイフを
防ぐ。
上条の腕に、熱く鋭い痛みが走った。
「ぐっ!!」
腕に沿って血が流れていくのを感じる。
「俺は死なねぇし…」
美琴やインデックスと約束した。
待っている人がいる。
「お前も死なせねぇ!!」
上条の右拳が、男の顎を正面から打ち抜く。
283 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 22:39:34.97 ID:CcD4bKN/Q
「が………は」
男の膝から力が抜け、
その場に崩れ落ちる。
「はぁ、はぁ…ぐっ」
上条は左腕に刺さったナイフを引き抜く。
その腕から血が滴り、
床に水たまりを作っていく。
「死なせねぇよ…」
上条は男の肩に手を掛けると、
待っている人達の元へ向かった。
284 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 22:43:23.97 ID:CcD4bKN/Q
「くッ…もォもたねェ」
彼の能力使用時間には限界がある。
もちろん力をセーブすれば長く、
力をセーブしなければ短く。
今の彼は後者だった。
波が次第に小さくなり、
元に戻っていく。
「ここらが潮時か…クソッ」
彼は傍らの杖を使い、
ヨロヨロと砂浜を後にする。
潮風が白い髪を撫でる。
「ちッ…残業代出ンだろォなァ」
286 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 22:44:58.43 ID:CcD4bKN/Q
「もう迷ってる暇ないじゃんよ」
黄泉川は黒子を連れて甲板に出る。
もう貨物船は視界に入っている。
船を押しとどめていた波も、
今は無い。
どう長くみても、あと5分で衝突しそうだった。
貨物船も港も、肉眼ではっきり確認出来てしまう。
「くそ!エンジンだけで済ませられる
はずだったじゃんよ」
エンジンの破壊と船の全壊。
その損害は桁外れだが、
黄泉川は上の判断を待たずに動く。
287 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 22:45:38.33 ID:CcD4bKN/Q
「ガキんちょ共を守れるなら…
私のクビくらい安いもんじゃんよ」
黄泉川は黒子に告げる。
「私の独断だ。この船を沈めるじゃん。
超電磁砲の力を借りたい。
白井、頼めるか?」
黒子はそれだけで理解する。
「お姉さまの力を借りるのは気が引けますが…
分かりましたの」
「私はあのバカを連れて戻るじゃんよ」
黄泉川はそう言って腕時計を見せる。
「間に合いそうに無かったら、
私らを待たずに沈めるじゃんよ。
あのバカは私がきっちり成仏させてやるじゃん」
「また不吉な事を…」
294 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 23:10:03.64 ID:CcD4bKN/Q
一方さんはあくまで暗躍という事で
好きなのでムリヤリ出しました
申し訳ない
295 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 23:11:06.57 ID:CcD4bKN/Q
(早く!早く早く早く!)
美琴は高速艇の上で祈る。
右手にはゲームセンターの
コインを握り締めている。
美琴に与えられた役割。
船体に電磁砲で穴を開け、
船を沈める。
しかし黄泉川と上条が戻って来ない。
もしかしたら船内で動けないのではないか。
どこかに閉じ込められたのではないか。
嫌な想像ばかりが頭を駆け巡る。
296 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 23:12:37.30 ID:CcD4bKN/Q
貨物船はもう目の前。
もし沈めて上条の脱出が間に合わなかったら…
美琴の手に汗が吹き出る。
(早く!早く!早く!早く!)
「お姉さま!もう限界です!
沈めて下さいませ!」
「ダメっ!まだあいつが…」
「このままじゃ衝突しますわよ!」
「あいつが…当麻が!」
「お姉さまっっ!!!」
美琴の目に涙が浮かぶ。
船を沈められる力はあっても、
たった一人助ける力はないのか。
美琴が自分の無力さに打ちのめされて
しまいそうな時だった。
297 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 23:13:58.99 ID:CcD4bKN/Q
「撃てぇぇ!!御坂ぁぁ!!」
両手に上条と見知らぬ男を抱えた黄泉川が、
甲板から叫ぶ。
二人とも意識が無いように見える。
黄泉川が、二人を抱えたまま
海へ飛び込む。
「お姉さまっっ!!!」
「はぁぁぁぁ!!」
美琴はコインを指に挟む。
電位差のある二本の伝導体製のレールに、
電流を通す伝導体を弾丸として挟む。
弾丸とレールの電流に発生する
磁場の相互作用により、加速して打ち出す。
【超電磁砲】
美琴の通り名にして、必殺技。
美琴は力の一滴まで右手に注ぎ込む。
コインは弾丸に、指はレールに変わる。
299 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 23:15:23.41 ID:CcD4bKN/Q
「っけぇぇぇぇ!!!」
美琴の打ち出したコインは、
青白い軌跡を描きながら、
船体に突き刺さる。
船体に3メートル以上の穴が開き、
そこから一気に水が流れ込む。
「沈んで!お願い!」
美琴の思いが通じたのか、
船は徐々に高さを失っていく。
しばらくすると、メキメキと
音を立てながら、真っ二つに折れ曲がっていく。
船の沈む衝撃で、波が荒れ狂い、
美琴達の乗った高速艇を激しく揺さぶる。
波が収まると、海面には船の残骸が静かに漂っていた。
300 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 23:20:50.49 ID:CcD4bKN/Q
「また…ここか」
上条が目を覚ますと、
いつもの病室にいた。
「目が覚めたかい?出血が多すぎてね、
ショックで気を失ってたよ」
カエル顔の医者が上条を覗き込む。
「それよりも君はよく来るね。
まるで帰巣本能みたいだ」
冗談とも本気ともとれない事を
医者は笑って話す。
「はは、やめてくださいよ。
俺には帰る家があるんです。
待ってるやつも…」
「待ってる人か。
本人は待ちきれないみたいだけどね」
それだけ言うと、医者は病室を出て行く。
301 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 23:22:15.96 ID:CcD4bKN/Q
入れ違いに小さなシスターが入ってくる。
「とーま!りんごー!」
「お、サンキューインデッ…」
「剥いてー!」
「……」
上条は黙々とりんごを剥いていく。
悲しいかな、無意識にウサギさんにしてしまう。
りんごを向きながら昨日の事を思い出す。
インデックスの話では、
船は沈没。人的被害はなし。
海に放り出された乗組員も、
無事に救助されたようだ。
残りのテロリストの逮捕も時間の問題らしい。
303 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 23:24:25.80 ID:CcD4bKN/Q
病室の窓から優しい風が入ってくる。
インデックスはベッドの(正確には上条の)上で、
りんごを頬張っている。
そのインデックスは、事件直後、
黒子が事情を汲んで美琴と一緒に帰してくれたらしい。
「学園都市…か」
上条は今回の一件で、
学園都市の深い闇を見た気がした。
なんとなく暮らしているそのすぐ傍で、
何かに苦しんでいる人間がいる。
その苦しみはやがて大きなうねりとなり、
何もかもを巻き込もうとする。
304 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 23:25:15.52 ID:CcD4bKN/Q
その全てを助けてやる事は出来ないかもしれない。
上条は右手を突き出す。
せめてこの手の届く範囲だけは
助けてやれる人間になりたい。
上条はそう思った。
「とーま」
「なんだ、インデックス」
上条は優しく微笑んでやる。
「りんごのお汁こぼした」
「………」
「てへへ」
「ぐ…不幸だぁぁぁぁぁ!!!」
305 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/26(金) 23:27:32.21 ID:CcD4bKN/Q
完結です
突っ込み所も多々あったかと思いますが、
みなさんのおかげで完結までこぎつけました
支援や保守本当にありがとうございました
322 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/27(土) 00:12:04.58 ID:qLp6e1h2Q
「ぐ……これで何枚目ですの」
ジャッジメント第177支部、
白井黒子は書類と睨めっこしていた。
「当たり前よ。私達は学園都市を出ればあくまで学生なの。
テロリストに戦い挑んだって聞いてるわよ」
「ぐぬぬ…」
ジャッジメントの先輩、
固法美偉に小言を言われ、
黒子はうんざりした顔で机に突っ伏す。
「頑張りましょう白井さん!」
許可を取らずにハッキングをした初春も、
山積みの書類と格闘している。
323 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/27(土) 00:12:45.96 ID:qLp6e1h2Q
「ぅぅぅぅぅ…」
「し、白井さん?」
不気味な呻き声を上げる黒子に、
初春が恐る恐る声を掛ける。
「もう我慢出来ませんの!
初春!後はお願いします!」
「あっ、ズルい!」
時既に遅し。
黒子の姿はどこにもなかった。
324 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/27(土) 00:13:25.49 ID:qLp6e1h2Q
「お見舞い行こうかなー…
いや、こっちから行くのも何かムカつくわね…
あいつに来てもらえば…
ってそれじゃお見舞いじゃないわね」
美琴はお気に入りのクレープを頬張りながら、
ベンチでのんびりしていた。
船を沈めたのは美琴だが、
黒子や黄泉川には黙っているよう言われた。
レベル5の扱いは、学園都市内の
パワーバランスを崩しかねない程デリケートなのだ。
「おっねっえっさっまぁぁぁあ!」
突然背後から抱き付かれ、
危うくクレープを落としそうになる。
「く、黒子!?あんた今日はジャッジメントの仕事じゃ…」
「嫌ですわお姉さま!お姉さまに会うためなら、
仕事なんてポイッポイッですの」
黒子は美琴に頬ずりする。
「ぐっ…暑苦しい!!」
肘うちでもかましてやろうか、
美琴が身構える。
325 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/27(土) 00:14:27.03 ID:qLp6e1h2Q
「あっ、やっと見つけた!」
声がした方を見ると、
黒髪ロングの女の子が走ってくる。
「御坂さん!白井さん!」
「佐天さん、どうしたの?」
佐天涙子。初春と同じ学校で、
二人とも友人だ。
「いやー、初春には断られちゃったんですけどね」
佐天は何かのパンフレットを見せる。
「良かったら一緒に行きません?」
二人はパンフレットの文字を見て固まる。
"豪華客船でクルージングで二泊三日!"
「行くかぁぁぁぁ!!」
「へ?」
二人の叫びに、
ただ呆然とする佐天だった。
327 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/27(土) 00:15:59.69 ID:qLp6e1h2Q
希望があったので電磁砲フォローを
これで完結ですっ
333 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/27(土) 00:43:24.20 ID:qLp6e1h2Q
「船…沈めちゃったんですよね?」
とあるオープンカフェで、
鉄装綴里が同情の眼差しで見ている。
「まぁ…いいんじゃん?
緊急事態って事で」
黄泉川はまるで他人事のように、
コーヒーを飲んでいる。
「弁償、なんて事になったらどうするんですか?」
鉄装は心配しているのか、
不安を煽ろうとしているのか。
朝からずっとこの調子だ。
「んー……まぁなんとかなるじゃんよ」
黄泉川はニカッと笑う。
そんな黄泉川を見て、
鉄装は仕事の時とは別人だな、と思う。
334 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/27(土) 00:44:06.22 ID:qLp6e1h2Q
ちなみに黄泉川が独断で沈めた船は、
学園都市がいつの間にか回収し、
関係各所に箝口令をしいた。
犯人も学園都市の人間だったのだ。
外部へ弱味を見せないため、
いろいろなものや人が動いた。
結果、表向きは無かった事として処理された。
無かった船は沈めようもない。
黄泉川が弁償する必要もないのだ。
「聞いてます?」
鉄装の言葉も聞かず、
黄泉川は急に立ち上がる。
「喧嘩じゃんよ!」
黄泉川の目が生き生きしてくる。
「行くじゃんよ!!」
黄泉川は鉄装の襟首をひっつかむ。
「ちょっと、支払い!支払いがぁぁ!」
335 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/27(土) 00:44:56.29 ID:qLp6e1h2Q
黄泉川 完結
340 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/27(土) 01:12:44.82 ID:qLp6e1h2Q
「今回はミサカも頑張ったよね?
ってミサカはミサカは胸を張ってみたり」
「あァ?はいはいそォですねェ」
彼は面倒くさそうにあしらう。
打ち止めに連れられ、
アーケードをぶらぶら歩く。
彼の得も言われぬ威圧感に、
道行く人が進路をあけていく。
(はッ、まるで反射だなァこれは)
なかば自虐的な笑みを浮かべ、
彼はとなりの少女を眺める。
打ち止め。彼自身が自覚しているかは別にして、
大切な少女。
「じゃああなたはミサカにお礼をしなきゃだねって
ミサカはミサカは無理を承知で頼んでみたり。
出来ればアイスがいいなってミサカはミサカは…」
「あァ!ミサカミサカうるせェ!
買えばいいンだろ、
買えばよォ」
341 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/27(土) 01:14:43.82 ID:qLp6e1h2Q
彼は更に面倒くさそうに手近な
コンビニに入る。
「そーいえば!」
打ち止めは急に何かを思い出す。
「あの時直接船に触るか、貨物船に触れば
あっという間に解決だったかもって
ミサカはミサカは今更な事を言ってみたり」
342 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/27(土) 01:16:14.72 ID:qLp6e1h2Q
打ち止めの指摘に、彼は意外にも丁寧に答えてやる。
「あァ…俺はややこしィ立場なンだとよ。
"上"と深く関わりある"レベル5"
は表立ッて動けねェんだと」
「あっ、これがいい!ってミサカはミサカは
新発売のアイスを…」
「てめェ…」
彼はコンビニの外を眺める。
誰もが平和そうに同じ道を歩いている。
彼は思う。
自分はもうあの道を通る事は出来ない。
だけどせめてこの少女だけは…
「これとこれとこれとー…」
「買い過ぎだぞオイ」
彼の目がほんの少し優しく見えたのを
誰も知らない。
343 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/27(土) 01:17:54.81 ID:qLp6e1h2Q
これで全部フォローしたはず
長々とお付き合いありがとうございました
指摘も有り難く頂きます!
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コメント
No title
OVA化できるレベルの面白さ!
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