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妹「ただいまぁー……って、えっ……誰‥‥?」

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 02:44:05.84 ID:LG5NcfDx0 [1/54]
男「あーくそ、まじつまんねー……」

男「彼女も出来ねーし、いっそ、死んだほうがましなのかもな……」

男「…………」

男「……バイト行くか……」

トゥルトゥルトゥル

男「ん、電話? 知らねー番号だな……まあ出るか」

男「はい、もしもし」

?『あ、男君?』

男「……ん? その声は、もしかして、店長?」

店長『おお、よく分かったね』

男「ええまぁ、何となく覚えてました」

男(妙に声高いから気持ち悪いんだよな……)

男「それで……どうかしましたか? 今、自分、お店に向かってますけど」

店長『あーうん……そのことなんだけどね』

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 02:46:03.78 ID:LG5NcfDx0
店長『今日、来てくれなくていいよ』

男「……え?」

男「すみません、よく意味が分からなかったんですけど」

店長『んと、つまり、今日はバイトなしね』

男「……なんかあったんですか? お店は休みですか?」

店長『店は普通に営業してるよ。ただ……』

男「ただ?」

店長『もう、手数はいるから男君が来てくれても、やってもらう仕事がないんだ』

男「……先週、空いてるシフトに入ったつもりですが」

店長『それでも、もう大丈夫なんだよ』

男「大丈夫って……。じゃあ、とりあえず今日はやめて、土曜行きますよ」

店長『それもこなくていいよ』

男「…………」

男(どういうことだ?)

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 02:47:35.78 ID:LG5NcfDx0
店長『はっきり言っちゃうとさ、君の代わりに新人雇ったんだ』

店長『女子高生の子でね、とってもいい子で僕も心打たれてね』

男「……つまり、首ってことですか?」

店長『ごめんね、君には悪いことしたと思うん……』

ピッ。

男「…………」

男「……あー、マジやべぇかも」

男「俺、何やってんだろ……」

男「大学卒業して……なんとなく就職活動して入った会社、慣れずに辞めて」

男「…………」

男「こんな風になるために、大人になったわけじゃねぇのにさ……」

男「……は、はは」

男「……仕方ねぇ……帰るか」

男「……ん?」

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 02:49:26.32 ID:LG5NcfDx0
男子生徒「妹さんっ家って、どんな家族構成なの?」

妹「お姉ちゃんと二人で暮らしてるんだ」

男子生徒「あっ……そうなんだ……」

男子生徒「ごめんね、余計なこと聞いちゃったかも」

妹「ううん、両親が亡くなったのは結構前だし……」

妹「今では、しっかりと受け止めてるよ。お姉ちゃんとの生活も楽しいしね」

男子生徒「そっか……妹さんはやっぱり凄いなぁ」

妹「そんなことないよ。……ただ、最近ちょっと不満があってね」

男子生徒「え、なんだい?」

妹「お姉ちゃんが仕事で帰りが遅くて……それがちょっと、ね」

男子生徒「お姉さん、働いてるんだ」

妹「うん、バリバリのキャリアウーマンなんだ」

妹「頭も良いし、美人だし……本当凄いっ」

男子生徒「妹さん自慢のお姉さんだね」

妹「もちろんっ」

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 02:50:49.96 ID:LG5NcfDx0
男「…………」

男(……はは、ガキどもが色気づいてるというのにな)

男(俺は、職を失って、帰って寝るだけか……)

男「…………」

男「……マジで、死のうかな……」

男(……でも、それも出来ないチキンなんだよな……)

男「あーくそ、やってらねぇよ……」

男(俺の人生、終わっちまってるな……)

男(どうせまた、似たようなバイト先で働いて……)

男(家賃と飯代を稼ぐのに精一杯で……)

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 02:51:33.36 ID:LG5NcfDx0
男「……俺、生きてんだよな……?」

男「…………」

男(ははっ、誰も答えてくれねぇや……)

男(あーもう、今なら何でも出来る気がするな……)

男「……この際」

男(どうせ、糞みたいな人生がこの先に待ってるだけなら)

男(……一花咲かせて、綺麗に散ってやろうかな)

男「……は、はは」

男「く、くくくっ」

男「く、くははははははっ」

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 02:52:22.56 ID:LG5NcfDx0
男(よし……決めたぞ。俺は、決めた)

男(やってやろうじゃねぇか……ぶち壊してやるよ……)

男(俺の今までの人生……捨て去ってやる……)

男「……どうする?」

男「…………」

男「……ん、そうだ」

男(俺は昔から一人っ子で、ずっと妹が欲しかったんだ)

男(小さい頃はよく両親にも頼んでみたが……すぐに離婚しちまったからな)

男(妹……か)

男(……欲しかったな……物語に出てくるような、優しい妹が……)

男「…………」

男「……うし、動くか」

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 03:14:01.08 ID:LG5NcfDx0
──数日後

ガチャ。

妹「ただいまー」

妹「あーもう……部活で、遅くなっちゃった……」

妹「ん……あれ、電気つけっぱなしだったかな……」

妹「電気代ばかになんないのに……おっちょこちょいだなー自分」

男「──ういっす」

妹「……へ?」

男「こんばんわー」

妹「ふぇ……? だ、誰……?」

男「おう、よくぞ聞いてくれましたっ!」

男「自己紹介遅れました、男です。これからよろしくな」

妹「……ちょ、ちょっと、まって……」

男「ちなみに今、無職。数日前にバイト、クビになってね」

妹「や、やだ……なに……わけわかんない……」

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 03:21:50.65 ID:LG5NcfDx0
妹「あっ……け、警察っ……」

バッ。

男「──おっと、行かせないぞー」

妹「や、やめてっ! は、離して下さいっ!」

男「まあまあ、そう慌てんなって。時間はまだたくさんあるんだからさ」

妹「いやっ、やめてっ!」

妹「お願いですっ! お金なら出しますからっ!」

男「おいおい、まるで俺が強盗みたいな言い草だな」

妹「ち、違うんですか……?」

男「少しぐらい話を聞いてくれよ」

妹「…………」

妹「まずは、手を離して下さい……」

男「離したら、逃げようとするだろ?」

妹「……に、逃げませんから……お願いします……」

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 03:23:41.51 ID:LG5NcfDx0
男「んー」

男(どうしたものか……)

男(想像してたようにはうまくいかんな……完全に怯えてるわ)

男(せめて明るくいこうと思ったんだがな……失敗した)

男「……分かった。手は離すよ」

妹「……あっ……」

男「ほれ、座って座って」

妹「………うぅ」

男「頼むよ、悪いようにはしないからさ」

妹「……は、はい」

男「ん、よし」

男「色々喋っても誤解を生むだけだし、単刀直入に言うわ」

妹「…………」

男「俺、君の生き別れの兄ね」

妹「………え?」

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 03:36:11.39 ID:LG5NcfDx0
男「だから、生き別れた兄だよ」

妹「……い、意味が分かりません」

男「んー、説明するっていっても、これだけだからなぁ」

妹「わ、わたしには……姉一人しかいないはずです」

男「うん、知ってる」

妹「そ、それに両親はすでに他界してますし……」

妹「実は、兄がいるなんてこと、聞いたこともありません……」

男「…………」

妹「夫婦仲も良かったし……他所で子供を作るなんてこと……」

男「……めんどくせー」

妹「へ?」

男「あーくそ、めんどくせーな」

男(なんだよ、想像と全然違うじゃねーか)

男(物語の中だったら、そこはとりあえず信じとくとこだろうが)

男「ん、もういいや」

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 03:42:58.64 ID:LG5NcfDx0
妹「……え、ええと」

男「生き別れた兄っていう設定はなし、で」

妹「……は、はぁ」

男「でも、まあ、何て言うかさ」

男「今日から、一人兄が出来たと思えばいいじゃん」

妹「…………」

男「兄貴欲しくね?」

妹「……い、いらないです……」

男「またまた、謙遜すんなって。欲しいだろ?」

妹「……いりません」

男「…………」

男(やっぱり、無職ってことが問題かな……)

男(くそっ、余計なこと言っちまったぜ……)

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 03:52:00.91 ID:LG5NcfDx0
男「定職はさ、いつかきっと見つけようと思ってるんだ」

妹「……はい?」

男「でも、俺は思うわけよ。『若いうちこそ、苦労しとけ』ってね」

妹「そ、それがどういう……」

男「社会の荒波に揉まれてこそ、真の男たるものが出来上がるってわけ」

男「まぁ……最近は、ちょっと挫折しまくりだけどな」

妹「……そ、そうなんですか」

男「とにかく俺が言いたいのは……」

男「──将来に期待してくれって、ことだ」

妹「…………」

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 03:54:05.05 ID:LG5NcfDx0
男(完全に決まったな。あまりの男らしさに、口開いたままになってるぜ)

男(まあ、ガキみたいな異性に囲まれてたら、そんなもんか)

男(……もしかして、これで惚れられたりしたら……マジどうしようか……)

男「ぐへへっ」

妹「…………」

ガチャ。

?『ただいまー』

妹「あ、お姉ちゃんだっ」

男「……え、あれ? まだ七時、予定と違くない?」

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 04:04:08.36 ID:LG5NcfDx0
姉『今日は早く帰れたぞー。一緒にご飯食べるかー』

男「……お、おいおい」

男(マズい……これは、壮絶にマズいぞ……)

妹「お、お姉ちゃん……おかえりなさい……」

姉「ん、誰か来てるのか?」

男「……ど、ども」

姉「ああ、どうも……」

妹「こ、こちらは、男さんです」

男「は、初めまして……」

姉「あ、ああ、こちらこそよろしく……」

妹「…………」

姉「…………」

男「…………」

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 04:26:43.82 ID:LG5NcfDx0
男(なんなんだこれはぁぁぁぁぁぁぁっ?!)

男(逃げたい……一刻も早く、この場から逃げ出したいっ!)

男「じ、じゃ、僕はそろそろこのへんで……」

妹「……あっ」

男「夜分遅くおじゃまして、ホントすみませんねっ」

そそくさ……そそくさ。

姉「……おい、待て」

男「……っ」

男「な、なんでしょうかっ?」

姉「んー……」

姉「せっかくだから、飯でも食べていかないか?」

男「え、遠慮しときますよっ」

姉「そう気を遣うな。人数が多ければ飯はうまいんだ」

男「お、お気持ちは有り難いんですが……ちょっとこの後に用事もありまして」

妹「そ、そうだよ、お姉ちゃん。男さんに迷惑だよっ」

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 04:31:18.81 ID:LG5NcfDx0
姉「まあいいじゃないか。その用事とやらは今回は我慢してくれ」

男「……え、ええ!?」

姉「ほらほら、座って座って」

男「……あっ、は、はい……」

妹「ちょ、ちょっとっ! お姉ちゃん、本気なのっ?」

姉「何だ、何かおかしいか。妹の友人を飯に誘ってるだけだぞ?」

妹「そ、それはそうだけど……」

姉「…………」

姉「何か、私といられると困ることでもあるのか?」

妹「……うっ」

姉「……まあ、いい。その辺りも含めて、今日はたっぷりと聞こう」

姉「初めて妹が呼んだ、異性の友人だからなっ」

妹「……お、お姉ちゃん……」

姉「フンっ……そうだ、妹、飯の用意はしてあるのか?」

妹「ま、まだだけど……」

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 05:00:52.27 ID:LG5NcfDx0
姉「じゃあ、まずは酒を持ってきてくれ。今日は飲まずにはやってられん」

妹「わ、分かったよ……じゃあ、ご飯も用意してくるね」

たったったったっ。

男(……えっ、俺をこの場に置いてくの?)

姉「…………」

姉「じぃ……」

男(み、見られてる……見られてるぞっ)

姉「……なあ、男」

男「は、はいっ?!」

姉「お前、よく人に大人びてるって言われるだろ?」

男「い、いえ特に……」

姉「そうか? 妹の学友なんだろ? 今年高三か?」

男「……ええと」

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 05:01:48.96 ID:LG5NcfDx0
姉「来年はいよいよ受験だな。どの辺りを目指してるか、聞かせてくれ」

男「……そ、そのですねっ」

姉「ああ、どうした?」

男「実は……もう……その、はい」

姉「ん?」

姉「あー……なんだ、そういうことか」

男「えっ……」

姉「それならそうと、早く言ってくれっ。誤解してしまっただろっ」

男「そうなんですっ、誤解なんですっ」

男「ちょ、ちょっとした出来心で……」

姉「──もう、大学生なんだろ。変な勘違いしてすまんな」

男「…………」

姉「しかし、そうだとすると、妹とどこで知り合ったんだ? 」

男「……ちょっとした、偶然で……」

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 05:02:41.96 ID:LG5NcfDx0
姉「深くは語らないというヤツだな。中々、焦らしがうまいな」

男「へ、へへっ」

姉「おっと、だとすると……」

妹「……はい、お姉ちゃん、ビールだよ」

姉「おおっ、やっときたかぁっ! やはりビールは瓶に限るぞっ」

ブシュッ。

姉「ああ……この感触がたまらなくいい……」

姉「言いかけたが、男、大学生なら酒はいける口だろ?」

男「えっ、は、はい、まあ、多少は……」

姉「おいおい、そんな弱気でどうするっ。今日は、私に付き合ってもらうんだからなっ」

男「え、ええ……お、お手やわらかに願います……」

姉「んーなんだ、もしかして、弱い方か? 歳は二十越えてるんだろ、幾つだ?」

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 05:03:56.88 ID:LG5NcfDx0
男「……173です」

姉「んっ? 身長じゃないぞ、歳だよ歳。はは、面白いヤツだな」

妹「い、いいじゃん、お姉ちゃんっ! そんなことどうだって……」

姉「なんだ、別に歳ぐらい構わないじゃないか。女じゃあるまいし……」

姉「ちなみに私は28だ。まだ、三十路にはいってないぞ、ハハハ」

妹「お、お姉ちゃんっ!」

姉「うるさいなぁ……。で、男、歳は幾つだ?」

男「……………です……」

姉「ん? 聞こえんぞ、もっと大きな声でっ」

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 05:05:14.92 ID:LG5NcfDx0
男「二十……」

男「──五です……」

姉「ああ、二十五か。それなら、酒も……」

姉「──って、二十五っ!?」

妹「…………」

姉「……大学は?」

男「既に卒業しました……」

姉「……じゃ、じゃあ、会社で働いてるのか……?」

男「げ、現在、無職です……」

姉「…………」

妹「…………」

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 05:27:56.24 ID:LG5NcfDx0
──警察署

警官「で、どうして他人の家に入ったわけ?」

男「い、妹が欲しかったからです……」

警官「……これじゃあ、埒があかないなぁ」

警官「こっちも遊びでやってるんじゃないんだ。そろそろ真面目に答えてくれないか?」

男「う、うぅ……くっ……」

警官「正直、泣きたいのはこっちのほうなんだけど」

警官「もう一度、聞くよ? 何で、人の家に侵入したの?」

男「い、いぼうとが、ぼしがった、から、うぅっ……」

警官「はぁ……」

警官「少し、休憩にするよ……」

男「──ぶわああああああーんっ!」

ガチャ……。

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 05:32:08.06 ID:LG5NcfDx0
警官2「どうだ……口を割りそうか?」

警官「ありゃ、完全に駄目だな。お手上げって感じだよ」

警官2「ふむ。バイトを突然クビになったのが堪え……」

警官2「或いは、精神的に病んでいて……それで、突発的な行動に走ったか」

警官「…………」

警官2「どうした? なにか気になることでもあるのか?」

警官「……俺はな、今回の事件、かなり裏があると思ってるんだ」

警官2「裏というと?」

警官「あいつの泣く姿見てみろよ」

警官2「お、おう。本当に辛そうだな……」

警官「違う違う、騙されてるんだ。あれは、演技だ」

警官2「ほ、ほんとうか?」

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 05:39:46.03 ID:LG5NcfDx0
警官「『妹が欲しかった』なんて、わけのわからん供述もそうだ」

警官2「た、確かに訳がわからんな……」

警官「俺達を惑わせようとする策略さ」

警官2「なっ……」

警官「やつはヤバいぜ……俺達の手には負えそうもない……」

警官2「……まさか」

警官「ああ、そうだ。そうするしかない」

警官2「い、いや、でもっ、もし違……」

警官「──間違ってからじゃ遅いんだよっ!!」

警官2「……ッ」

警官「俺は今、初めて警察に入って、自分の無力さを痛感しているっ」

警官2「お、お前……」

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 05:40:47.67 ID:LG5NcfDx0
警官「分かってくれ……俺の身体を流れる血が、これは大きなヤマだと言ってるんだ」

警官2「親父さんも祖父も警官だった、お前の血が、か……」

警官「ああ……死んだ親父が、俺にそう伝えてくれてるんだと思う」

警官2「殉職した、あの英雄の人が……」

警官「くっ……思い出したら、涙が出てくるぜ……」

警官2「ああ、立派な人だったよ……」

警官「そう言ってくれて、天国の親父も喜んでるよ……」

警官2「そういうことなら、俺も分かった……」

警官「本当かっ!」

警官2「ああ、彼らに任せよう」

警官2「──特別捜査官の彼らにな……」

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 05:57:31.60 ID:LG5NcfDx0
──???

男「モゴモゴモゴ」

ザバッ。

男「はぁ……はぁ……な、何なんだいったい……」

男「こ、ここはどこだ……?」

男「急に目隠しされたと思ったら……うう……」

バンッ。

男「ま、眩しいっ……」

?『幾ら優秀な君でも、今は、きっとこう考えているに違いない』

?『ここはどこだ、一体どうしてしまったんだ』

男(なんだ……この機械音は……)

?『その問いに、簡潔に答えよう』

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 06:15:10.26 ID:LG5NcfDx0
?『我々は、君の全てを暴くためにいる』

?『この場所は、そのために用意された。そう、君だけのために』

男「す、すみません……わ、訳が分からないんですが……」

?『…………』

?『そうやって、演じているのも今のうちだ』

?『取り繕っていられなくなるのは、恐らく、すぐにやってくるだろう』

男「え、演じてるって……何を……」

?『初めの質問だ』

?『君は、MYKグループの一員か?』

男「えむわいけー? そ、そんなものは知りません……」

男「と、とにかく、早く家に帰して下さいっ」

?『もう一度、問う』

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 06:15:48.52 ID:LG5NcfDx0
?『君は、国内テロ組織MYKグループの一員なのか?』

男「し、知らないって!」

?『……心拍数が上がっているようだ』

男「え?」

男(あっ……手首に何か巻かれてるぞ……)

?『どうやら今の質問は、もう一度繰り返す必要があるようだな』

?『MYKの一員だな?』

男「ち、違うっ!」

?『どうして、あの家を選んだ?』

男「い、妹が欲しかったからだよっ! 何度も言わせんなっ!」

?『バイトをクビになったのは何故だ?』

男「て、店長が極度のJK好きだからっ! 意味なんてねぇ!」

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 06:16:28.38 ID:LG5NcfDx0
?『次の写真を見て欲しい』

男「な、なんだって言うんだ……」

バンッ。

男(ま、また真っ暗になったぞ……ん? あれはスクリーン?)

?『これは君の住んでいる地域の衛星写真だ』

男「……そうだけど」

?『今、赤く点灯したのが、君の住んでいるアパート』

男(おお……確かにそうだ……)

?『次に、緑。これは、バイト先だ』

?『そして最後、青く点灯したのが、君が侵入した家』

男「……こ、これが何だって言うんだ?」

男(わ、わけがわからんぞ……)

?『この全てを線で結んでみると……』

男「ん……?」

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 06:17:08.78 ID:LG5NcfDx0
?『……現れたのは見事に綺麗な三角形』

男「……何が言いたい?」

?『分かっているんだろう。内心は、ただならぬ心境のはずだ』

?『なんせ、この図形の中央には……』

男「……え?」

男(そ、そんな馬鹿な……)

?『──国会議事堂があるんだからな』

?『一体、何を企んでいたんだ、男君』

男「な、何も企んでなんかいないっ!」

男「お、俺は……自分の人生に嫌気が差していただけでっ!」

男「国をどうかしようなんて、そんな勇気持ち合わせていないっ!」

?『…………』

?『……まあいい、時間はたっぷりある』

?『君が白状するまで、な』

男「……な、なんてこった……」

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 07:00:45.56 ID:LG5NcfDx0
──独房

男「くそっ……なんで、俺が……」

男(飯はまずいし……拷問まがいの尋問は続くし……)

男(どうすりゃいいんだ……いつまで続くんだよ……)

男(……ああ、外じゃ、どれくらいの時間が経ったんだろ……)

男(基本、真っ暗だから何もわかんねー……)

バンバン……。

男「な、なんだ……」

バンバン……。

男「……くそっ、気味が悪いな……」

男「一体、何の音だって言うんだ……もう、眠れねぇじゃねえか……」

ガチャッ!

男「お、おいっ! お前……」

看守「──貴様っ! よくも仲間を連れてきたなっ!」

男「……は? 意味わかんないって……」

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 07:01:23.93 ID:LG5NcfDx0
看守「もう俺以外は、ほとんど生き残ってねぇ!」

男「生き残ってないって……ははっ、冗談キツい」

看守「……死んだんだよ」

男「…………」

看守「後は、俺だけだ……すぐここにも奴らがやってくるだろう……」

男「……う、嘘だろ?」

ササッ。

男「……って、え?」

看守「お前を盾にしてでも、俺は生き残る」

男「や、やめてくれ……」

看守「う、動くなっ! 動いたら、首の動脈が一瞬で切れるぞ」

男「……わ、分かったよ……」

ダダダ……ダダダ……。

看守「くそっ……奴らだ……」

男「MYKなんちゃらか……?」

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 07:02:43.87 ID:LG5NcfDx0
看守「ここまできても、とぼけやがって。そうさ、仲間を助けにやってきたんだっ」

男「お、俺の他にも奴らの仲間が収容されてたのか?」

看守「ああ……お前はまだ良い方だった」

男「……つ、つまり?」

看守「見るに堪えない拷問が行われてたってことだよ」

男「……う、嘘だ……」

ダダダダ!

看守「くそっ……もう、こんなに近くに……」

男「お、おいっ! 俺はどうなるんだっ!」

看守「はっ? そんなの知らねぇよっ! 仲間だったら助けて貰えるんだろっ!」

男「だから初めから言ってるだろっ! 俺は無関係だっ!」

看守「だったら……お前も、俺と一緒にあの世行きさっ!」

89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 07:03:24.61 ID:LG5NcfDx0
男(ど、どうしてこんなことに……)

ダダダダダダ!

男(ただ自暴自棄になって、妹が欲しいと願っただけだったのに……)

ダダダダダダダダ!

男(こ、こんなところで……死ぬなんて……)

ガチャッ!!

看守「くっ──」

男(くそっ……まだ死にたくないっ!!)

?「背後を狙い撃て」

バンッ!

看守「………………カッ」

男「……へっ?」

看守「…………」

バタンッ……。

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 07:04:21.50 ID:LG5NcfDx0

男「……ま、マジか……」

男「だ、誰か……嘘だと言ってくれよ……」

男「あ、有り得ないだろ……人が、人が……死んで……」

?「貴様は誰だ?」

男「……だ、誰って……俺は……──」

男(……ドアからの光が眩しくて、顔がよく見えない……)

?「聞いたことがない名だな……。ならば、所属はどこだっ?」

男「…………」

?「ん? 何を戸惑っている? まさか貴様……」

カチャ……。

93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 07:05:09.07 ID:LG5NcfDx0
男「ち、違う違うっ! 俺はただの一般人だ!」

?「嘘をつけ。一般人がこの施設に収容される訳があるか」

男「ほ、本当なんだって!」

?「もう一度だけチャンスをやろう。お前の所属はどこだっ!」

男「……うぅ……」

男(なんて言えばいいんだよ……)

男(どうせ『MYKのメンバーですっ』っていったところで、すぐにバレる嘘だし……)

男(けど、何か言わないと、アイツのように射殺される……)

男(く、くそっ! もう、どうにでもなれっ!!)

?「何を黙っているっ! 所属は……」

男「所属はッ!」

男「──無職だっ!!」

?「…………」

男「…………」

96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 07:05:53.44 ID:LG5NcfDx0
?「……と、とりあえず、連れてけ」

?「は、はいっ」

男(この後……どうなるんだろ俺……)

男(……あっ……顔が見られるぞ……)

女「…………」

男(……き、綺麗な人だ……)

サッ……。

男(ん……ああ……眠く……)

男(…………)

114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 07:54:30.19 ID:LG5NcfDx0
──隠れ家

男(や、やめてくれ……俺は妹が欲しかっただけで……)

男(ち、違うっ! 頼むから、信じてくれよっ!)

男(うぅ……うあああああああああ)

男「──はっ」

男「……ゆ、夢か……」

男「はは……そりゃそうだよな……そんなことに巻き込まれるわけ……」

女「──目が覚めたか?」

男「え……」

女「少々荒っぽかったが、あの場ではああするしかなくてな」

女「一応、すまなかったと謝罪しておこう」

男「……ゆ、夢じゃない……?」

女「どうした? どこか具合でも悪いのか?」

115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 07:55:25.75 ID:LG5NcfDx0
男「…………」

男「……なぁ、一つだけ聞いてもいいか……」

女「構わない。私でよければ、何でも聞いてくれ」

男「これは……」

男「──本当に現実か……?」

女「…………」

男「俺は……あの施設で……」

女「そうだ、我々がお前を助けた」

男「…………」

男(嘘だ……頼むから、嘘だと言ってくれよ……)

女「そのことでお前に……いや、男だったな、聞きたいことがある」

女「今度はそちらが答えてくれ。何故、あの場にいた?」

男「…………」

女「どうした、黙ってても分からないぞ」

116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 07:56:33.67 ID:LG5NcfDx0
男「どうせ言ったところで、信じてくれないだろ?」

女「……初めからそう言ってくれるな」

女「これでも、一応、理解するように努めてみるよ」

男「…………」

女「……そうか」

女「なら、私の想像だけでも伝えさせてくれ」

男「……ああ」

女「男、お前は最後のあの瞬間、私に向かってこういった」

女「『俺の所属は無職だッ』と」

女「あの真剣な眼差しと力の籠った言葉」

女「それで、確実にそのことが真実であると確信した」

男「ほ、本当か?」

男(こ、こいつは分かってくれるのか……っ)

117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 07:59:01.50 ID:LG5NcfDx0
女「ああ、本当だ」

女「男、お前は……」

女「──フリーの殺し屋だな」

男「……へっ?」

女「ふふ……良いんだ、お前が否定するのは分かっている」

女「あの場でわざと弱き振りをして、我らの敵意を逸らし」

女「見事、MYKとの接触に成功した……その機転は凄まじい」

男「ちょっ、ちょっと待て」

女「分かっている。お前が立場上、肯定が出来ないことぐらい」

女「この世界は常に暗黙の了解で成り立っているからな、私にでも分かるよ」

男「ええとな……その……」

女「歓迎しよう、男。お前を我々は雇うことに決めた」

女「報酬は規定の口座へ振り込んでおこう。いや……現金渡しのほうがいいのかな?」


118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 08:00:15.00 ID:LG5NcfDx0
女「まあ、どちらにせよ変わりない。お前の力が我々には必要だ」

男「…………」

男(こいつ……何言ってんだ?)

女「しかし、あの機転。実際の腕は、相当なものなのだろうな」

男(あーだめだ……もう分かっちまう)

男(何言っても、この女は俺のことを理解しないだろう)

女「一度、手合わせをお願いしたいところだが……ハハ、私では敵いそうもない」

男(はは……慣れって怖いな……確信しちまってるよ……)

女「……どうだ? 返事を聞かせてくれないか?」

男(……だから、もう何言っても無駄って決まってるなら……)

男「──いいだろう。俺が助けになってやるさ、フフフ」

女「ほ、本当かっ!」

男(とことん自分を騙すしかねぇよなぁ……)

130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 08:34:36.67 ID:LG5NcfDx0
──数年後

女「思い出せ」

女「辛く苦しく、朋の死に涙した日々を」

女「思い出せッ」

女「国を変えたいと、我らが立ち上がった日の心を」

女「思い出せッ!」

女「変えられぬものなど、何一つ有りはしないと誓ったあの日をっ!」

女「……今日だ」

女「今日で、全ては終わるっ!」

女「この愚鈍に満ち溢れたこの国を、ついに変えることが出来るのだっ!」

女「先立った朋達に、成功の報せを伝えることが出来るのだっ!」

『うおおおおおおおおおおぉぉぉぉッ!!!』

131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 08:35:10.59 ID:LG5NcfDx0
女「……やろう、やり切ろう」

女「決して我らは、諦めない。挫けない」

女「それが、我らMYKたる所以なのだから」

男「…………」

女「男、上がってくれ」

男「ああ……」

女「皆、知っているだろう。彼が、本作戦の指揮を取る者だ」

女「彼の手腕で、我らが幾つもの難所を乗り越えてきたか」

女「彼抜きでは……正直、今日という日を迎えることは出来なかっただろう」

女「しかしッ、これだけは言えるっ!」

女「我らには、彼がついているのだっ! 何も恐れることなどないッ!」

『うおおおおおおおおおおぉぉぉぉッ!!!』

132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 08:35:53.44 ID:LG5NcfDx0
女「男、君の番だ」

男「はは、盛り上げるのがいつもうまいな」

女「お前に褒められるとは……光栄だよ」

男「…………」

女「…………」

男「……期待していろ。俺が、変えてやるよ」

女「……男」

男「……ん……」

女「……あ、ん……」

133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 08:36:24.24 ID:LG5NcfDx0
女「……お、お前というヤツは……もう……」

男「はは、景気付けだ」

男「…………」

男「……愛してる」

女「ふふっ、やはり私達は気が合うな」

女「私もだ……男」

女「行ってこい、皆が待ってる」

男「……おう」

タンタンタン。

男「すぅー…………はッ」

男「みな、聞いてくれっ! 本作戦は本日早朝──」

177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 15:31:37.10 ID:LG5NcfDx0
──???

男「分かっているとは思うが、我々は今回も隠密行動を基本とする」

男「気付かれてしまえば、そこで本作戦は失敗だ」

男「気を十二分に引き締めていけ」

部下A「了解」

部下A「銃の使用は……」

男「許可する。ただし、乱用はするな」

部下B「猶予の時間は幾らですか」

男「リミットは三十分ほど……」

男「それ以上かかってしまえば、ジエンドだな」

部下B「意外と少ないですね……」

部下A「オイオイ、弱気になってるんじゃねーよな」

部下B「違うわよ馬鹿っ。ただ、現実の厳しさを痛感してただけ」

部下A「フン、ならいいが」

部下B「……ッ、あなたって人は……」

178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 15:32:57.53 ID:LG5NcfDx0
男「止めろ、二人とも」

男「開始の合図があるまで、作戦の概要を再確認だ」

男「我々の最大目標……それはホシの捕獲」

男「殺した状態ではなく、生け捕りにすることに意味がある」

男「勿論、それを障害する全ては……排除してよい」

男「……本作戦のホシは」

男「我が国の最大の権力者にして、我々最大の敵……」

部下A「…………」

部下B「…………」

男「──現内閣総理大臣だ」

183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 15:57:30.34 ID:LG5NcfDx0
──A地点

男「A地点よりこちらチームα。準備は整ったか」

ザザ……。

声『D地点より目標を確保』

男「狙え」

声『了解、狙いました。いつでもいけます』

男「その状態を保て……C地点はどうなってる」

声『こちらC地点。遮蔽物が邪魔して、先ほどから目標を確認出来ません……』

男「…………」

男「くそっ、時間がない……」

部下B「どうしますか」

男「…………作戦を強行する」

声『し、しかし……』

184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 15:58:05.27 ID:LG5NcfDx0
男「俺が目標を引きつける。ポイントまでの距離を伝えるから用意しておけ」

声『り、了解っ』

ザザッ……。

男「…………ふぅ」

部下A「男さん、俺が代わりに行きますよ」

男「いや、俺でいい」

男(何故こいつらが俺を信頼しているのか、未だ理解出来ないが……)

男(作戦の遂行には、確実にこの二人の力がいるからな……)

部下A「で、でもっ……」

部下B「……目標、目視できました」

185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 15:59:32.95 ID:LG5NcfDx0
男「よし」

男「いいか、俺が引きつけた隙にドアへ向かえ」

男「裏口から入った後は、一分俺の帰りを待つ」

男「もし、それ以上超えたら……お前達だけで行け」

部下B「……お、男さんっ……」

男「開始だ。さあ、走れっ!」

部下B「……ッ、了解」

男(……はは、何かっこつけてんだよ、俺)

男(足が勝手に震える……)

男(いつからこんなに……)

男「…………」

186 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 16:00:19.21 ID:LG5NcfDx0
男「おいっ! そこのお前っ!」

見張り「──っ、貴様誰だっ」

男「いいからこっちにこいっ!」

見張り「う、動くなっ! そこから少しでも動いたら撃つっ!」

男「…………」

見張り「よしそのままだ、手を高く上げろ」

ザザっ……。

男「……対象まで……十メートル」

声『まだ目視出来ません』

見張り「頭の後ろで手を組め。いいかっ、ゆっくりとだ……」

男「……六メートル」

見張り「こんな早朝に……一体、何だって言うんだ……」

187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 16:01:24.25 ID:LG5NcfDx0
男「……五」

見張り「よし、後ろを向いて……」

男「……三」

男「一」

声『も、目標を確保ッ』

見張り「ひざまづ──」

男「撃て」

バンッ!

見張り「…………」

……ドサッ。

男「……はは、いい腕だ」

222 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 00:51:49.59 ID:I83OW8CN0 [1/14]
──二階

男「……入った後は、客に混じってしまえばいいが」

部下A「……これじゃ、埒があきませんよ」

部下B「部屋の数が多すぎますし……このホテルは三十五階もあります……」

部下A「虱潰しに一つずつ回って行くしかないのかもな……」

部下B「そ、それじゃあ、予定の時刻までに間に合わないっ」

部下A「そんなこと俺だって分かってるさ……でも……」

男「──三十二階だ」

部下A「はっ?」

男「ホシは三十二階にいる」

部下B「なんで分かるんですかっ……?」

男「警備する人間の立場になって考えてみろ」

223 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 00:53:55.00 ID:I83OW8CN0 [2/14]
男「難しいことじゃない。忌むべき事実だが、奴らは俺たちと同類の人間だ」

男「最悪のケースを常に想定している、という点がな」

部下A「……それを逆手に取るということですか」

男「そうだ。最悪のケースを想定し、奴らはその時に備えているはず」

男「それを、利用する」

部下B「……で、でも」

男「いいから、これを見ろ」

部下B「……各階の案内図ですか」

男「見るのは三十階以上だ。他の階と何が違う?」

部下A「…………連絡通路がありませんね」

男「そうだ、隣の棟との連絡通路がこの階から存在しない」

部下B「で、でも、それが……」

男「守るべきエリアは大きいほうがいいか?」

225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 00:54:37.32 ID:I83OW8CN0 [3/14]
部下B「……えっ、それは小さいほうが、勿論、負担は減っ……」

部下B「──あっ!」

部下A「……そういうことですか」

男「そうだ、きっと、この階より上にいるに違いない」

部下B「……警備のために、上下のフロアを確保したいとなると……」

男「恐らく、三十二階になるな」

部下A「…………」

部下B「す、すごい……」

男「そうと決まれば急ごう」

男「正面玄関では、本人確認を義務づけて」

男「裏口にも警備をつけるという、徹底ぶりだ」

男「明らかに、敵は優秀に違いない」

男「外の警備からの連絡が途絶え、既に警戒態勢が敷かれているはずだ」

男「とにかく……まずは、三十階へ向かおう」

229 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 01:36:57.71 ID:I83OW8CN0 [4/14]
──三十階

部下A「……予想通りですね」

部下A「一般人に成り済ましていますが、この階から、警備の数が格段と増えてます」

部下A「しかし、これでは……」

男(ここまで厳重だとはな……どう考えても上の階にいけそうもない)

タタタタ……。

男「どうだった?」

部下B「……やはり向こうの階段も通行禁止になってます」

部下A「エレベーターは……」

部下B「駄目、三十一階から三十三階だけ、止まらないように設定してある」

男「…………」

部下A「くそっ、なんとか手段はないのかっ!」

部下B「ホシの居場所は確実に分かったのにね……」

230 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 01:39:22.67 ID:I83OW8CN0 [5/14]
部下B「男さん、どうします……?」

男「…………」

男(どうする……?)

部下A「……もう、強行突破しかない……」

男(作戦を見直すと言っても……時間はそれほど残っていない)

部下B「無理よ。仮に階段の警備を突破して三十一階へ辿り着いたとしても……」

部下B「この階以上に増えた敵に対処しているうちに」

部下B「──確実に、ホシは上の階へと逃げる」

男(ここまできて、終わってしまうのか……?)

部下A「くそっ……」

部下B「……正直、お手上げね……」

男(……ああ、何も思いつかない……)

男(どうする……俺達の作戦が失敗したら、今日という一日が全て無意味になる)

男(首相を捕らえることが、計画の前提条件だと言うのに……)

231 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 01:40:16.39 ID:I83OW8CN0 [6/14]
部下B「男さん、大丈夫ですか……?」

部下A「……顔色、真っ青ですよ……」

男「だ、大丈夫だ……」

男(……終わった……やってしまった……)

男(そもそも、無職の俺に出来ることなんて何もなかったんだ……)

男(その場しのぎで、今までやってきたが……)

男(……何事からも逃げ続けてきた俺には、荷が重すぎた……)

男(……ごめん、女……)

男(お前との約束、果たせそうもない……)

男(…………)

男(……ん?)

232 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 01:41:39.08 ID:I83OW8CN0 [7/14]
部下B「とりあえず、命令を……」

部下B「……って、男さん?」

男「…………」

男「……ああ、そうか」

部下A「え?」

男「……まだ、諦める必要はない」

部下B「そ、それは一体、どういう……?」

男「いいか……」

男「──手段は、一つだけ残っている」

238 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 02:26:17.03 ID:I83OW8CN0 [8/14]
──三十階

ボーイ「……フン♪」

ボーイ「……フンフーン♪」

ダンッ!

ボーイ「うっ…………」

……バタン。

部下A「……クリア」

男「よし、すぐさま着替えろ」

部下A「了解」

部下A「……しかし、従業員に成り済ましてどうするんですか?」

部下A「恐らく、彼らも上に続く階段は登れませんよ?」

239 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 02:28:03.06 ID:I83OW8CN0 [9/14]
男「違う、そこじゃない」

部下A「え?」

部下B「残された手段って……一体……?」

男「…………」

男「ホテルで宿泊した時、腹が減ったらどうする?」

部下B「……色々手段はあると思いますが……」

部下B「私は受付に電話して、食事を持って来てもらいますね」

男「その時に使用するのは、客が使っているエレベーターか?」

部下B「……それは、恐らく違うはずで……」

部下B「──あーっ、そういうことですかっ!」

男「そうだ、従業員用のエレベーターが確実にどこかにある」

240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 02:29:15.01 ID:I83OW8CN0 [10/14]
男「そして、そこに対する警備は……」

部下A「『手薄』ってことですね」

男「……ああ。俺達は、見事、最短で三十二階へ行ける」

部下B「……つまり」

男「そこからは、純粋な力勝負だな」

男「…………」

男「行くぞっ」

部下A・B「「はいッ!」」

295 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 21:06:00.67 ID:I83OW8CN0 [11/14]
テスト

302 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 23:15:35.39 ID:I83OW8CN0 [12/14]
──三十二階 エレベーター前

ガタン……。

警備2「ん? 誰か来たのか?」

警備2「……なっ」

ピュンッ!

警備2「……かはっ……」

……バタン。

男(二、一のフォーメーション)

男(俺が先頭を行くから、援護を頼む)

部下A(了解)

部下B(バックは任せて下さい)

男(よし)

303 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 23:16:21.95 ID:I83OW8CN0 [13/14]
男(…………)

男(……角に二人)

部下A(……やりすごせますか?)

男(……その時間はない……おびき寄せる)

…………ダン……。

警備3「……ん? 今、何か音しなかったか?」

警備4「そうか? 俺には聞こえなかったが……」

警備3「確認してくる」

警備4「分かった。ここは任せろ」

タタタ……。

警備3「…………」

警備3「誰もいないか……ん?」

ザザッ。

304 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 23:17:25.06 ID:I83OW8CN0 [14/14]
警備3「──っ……」

バタンッ……。

男(……OKだ。もう一人も確実に仕留めろ)

部下A(了解)

タタタ……。

警備4「おい、大丈夫か……」

警備4「──って、お前っ!?」

ピュンッ!

警備4「……かっ……」

バタン。

部下A「クリア」

男「時間はない、急ぐぞ」

部下B「はいっ」

310 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/10(土) 00:11:46.88 ID:eTh1kwKr0 [1/42]
──三十二階 一室

首相「君、さきほどから官邸のほうと連絡が取れんぞ」

付き添い「現在、我々の方でも状況を急ぎ確認しております」

首相「状況? ……一体どういうことだ?」

付き添い「国会議事堂がテロにあったようです」

首相「……て、テロ?」

付き添い「詳細はまだ分かりませんが、恐らく確かな情報でしょう」

首相「そんな大事なことを君は黙っていたのかっ!!」

付き添い「出来る限り、貴方に負担がないようにと」

首相「……っ」

首相「いいかっ! 私はこの国の代表者なんだっ!」

首相「何が重要で何が不必要な情報か、それを判断するのはあくまでも私だっ!」

付き添い「分かっております」

首相「…………くっ」

311 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/10(土) 00:13:45.35 ID:eTh1kwKr0 [2/42]
首相「……それで、勿論、制圧出来ているんだろうな……?」

付き添い「……現在、確認中です」

首相「か、確認だと? ぐ、軍はもうとっくに動いたんだろう?!」

付き添い「それが、対応が大幅に遅れておりまして……」

付き添い「最高でも、後30分はかかるそうです」

首相「……あ、有り得ない……そんなこと有り得る訳がない……」

首相「このような日が来ないようにと、あれだけ準備してきた……」

首相「……ま、まさかっ……」

付き添い「……はい。恐らく、上層部がテロの者と繋がっているのでしょう」

首相「──あの売国奴めっ!!」

首相「だから、あの男を防衛大臣に任命するのは嫌だったんだっ!」

首相「クソっ! これが片付いたら、アイツを必ず処刑してやるっ!」

312 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/10(土) 00:14:52.57 ID:eTh1kwKr0 [3/42]
付き添い「しかし、彼は断固として、その事実を認めないでしょう」

首相「構うものかっ! 責任を負わせ、無理矢理にでも引きずり降ろしてやるわっ!」

首相「そして、私の目の前で直に刑を下してやるっ!」

付き添い「…………」

首相「はぁ……なんて厄日なんだ……」

付き添い「……いいえ、まだ我々はツイている方です」

首相「何を寝ぼけたことを言っている……」

付き添い「救いは、あなたがあの場所にいなかったこと」

付き添い「仮に国会議事堂を落とされても、あなたがいる限り、どうとでもなります」

首相「……フンっ……なら、いいがな」

バンッ。

313 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/10(土) 00:16:17.52 ID:eTh1kwKr0 [4/42]
警備5「──た、大変ですっ! し、侵入者ですっ!」

首相「なにっ!?」

付き添い「…………」

付き添い(やはり、そう、うまくはいきませんか……)

首相「ど、どういうことだっ?! 安全だったのではないのかっ!」

付き添い「……いいえ、大丈夫です」

付き添い「ここまでの警備は万全ですよ」

付き添い「その者たちは、三十階か? 或いはもう三十一階まで来て……」

警備5「──三十二階っ! 既に近くまで来ていますっ!」

付き添い「なっ……」

首相「ど、どうなってるっ!! 万全のはずなんだろっ?!」

付き添い「……一体どうやって……」

付き添い「……ッ、と、とにかく、早くこの階から避難しま……」

──バンッ! バンッ!

314 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/10(土) 00:17:58.14 ID:eTh1kwKr0 [5/42]
警備5「く、くそっ! 援護してきますっ!」

タタタタッ!

首相「……まさか、今の音は……」

首相「──……銃声?」

付き添い「…………」

首相「……せ、説明しろ……」

首相「何が起こっている……? なぜ、何も言わない……?」

付き添い「…………」

首相「……そうか、そういうことか……」

315 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/10(土) 00:18:49.19 ID:eTh1kwKr0 [6/42]
首相「私達は……ここで……」

首相「…………」

バンッ!!

警備5『……ゴホッ……』

バタン……。

首相「…………」

付き添い「…………」

ガチャ……。

男「…………」

男「……やっと、会えた」

316 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/10(土) 00:19:38.01 ID:eTh1kwKr0 [7/42]
男「どれだけ、この日を待ち望んだことか……」

男「……お前には、きっと、分からない……」

首相「……あ、ああ……」

首相「や、やめろっ……」

首相「そ、それ以上……近づくなっ!!」

付き添い「こ、交渉だけでも……」

男「──殺せ」

部下A「了解」

バンッ!

付き添い「…………カ……」

バタン……。

首相「あ、あああ……」

318 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/10(土) 00:24:49.21 ID:eTh1kwKr0 [8/42]
首相「う、うわあああああああッ!」

首相「た、頼むぅ……い、命だけは……っ!?」

男「ハハ、安心しろ」

首相「……へっ?」

男「お前を殺すほど、俺も馬鹿じゃないさ」

首相「……ほ、本当か……?」

男「ああ、もちろん」

首相「あ、ありがとうっ!! ……い、幾らだ? 幾らでもや……」

男「──これから、もっと苦痛に喘いでもらわないとな」

首相「……は?」

319 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/10(土) 00:26:39.16 ID:eTh1kwKr0 [9/42]
男「簡単には死なせない……」

男「……生きていることを、必ず後悔させてやるよ」

首相「……う、嘘だ……」

首相「た、頼む……嘘だと言ってくれ……」

男「…………」

首相「……だ、誰か、誰でもいいから……」

首相「とにかく私を……」

首相「……助けて……く……」

──ガチャン。

364 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 16:55:23.89 ID:eTh1kwKr0 [10/42]
──国会議事堂前

女「…………」

女「……男……大丈夫だろうか……」

トゥルトゥルトゥル。

女「はい」

防衛大臣『首尾はどうなっている?』

女「既に議事堂は制圧しました。現在は、警察との拮抗状態が続いています」

防衛大臣『……そうか、うまくやったようだな』

女「ご協力のおかげで」

防衛大臣『……私は今でもこの選択が間違いなのではないかと考えてしまう』

防衛大臣「違う手段があったのでは……と、思わずにはいられないのだ」

女「ここまできたのです。もう、引き返すことはできません」

防衛大臣『分かっている……分かっているのだが……』

防衛大臣『ん………そうだ』

365 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 16:56:54.81 ID:eTh1kwKr0 [11/42]
防衛大臣『協力の条件に出した、首相の確保は達成されたのか?』

女「……現在、報告待ちです」

防衛大臣『な、なんだと……』

女「進展がありましたら、こちらから連絡させて頂きます」

防衛大臣『ヤツを捕らえない限り、全ては水の泡だぞっ!?』

女「わかっています」

防衛大臣『反対派も自らの安全が保証されない限り、味方にはついてくれないッ』

女「…………」

防衛大臣『……良い連絡を期待している……』

女「はい、失礼します」

女「…………」

女「……ふぅ」

タタタタッ。

366 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 16:57:29.85 ID:eTh1kwKr0 [12/42]
女「どうした? 何かあったか?」

部下C「女さん宛に電話です」

女「もしや、男っ……」

女「──と、そんなわけないか……あいつなら私に直接かけてくるはずだ」

女「しかし、このタイミングか……」

女「……一体、誰だ?」

部下C「追跡は出来ませんでした。秘匿回線を利用しています」

女「…………」

女「わかった……貸せ」

部下C「はい」

ピッ。

女「もしもし」

367 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 16:58:08.43 ID:eTh1kwKr0 [13/42]
?『おめでとう、と言った方がいいかな、女君』

女「……誰だ?」

?『君に名乗る必要はない。用件はすぐに終わるのでね』

女「…………」

?『話というのは、君たちのグループに所属している……ある男のことなんだ』

女「……なに……?」

?『……心当たりがあるようだね?』

女「ち、違う……そういうわけでは……」

?『私が『おめでとう』と言ったのは、議事堂を占拠できたことだけではない』

?『見事、作戦は成功したよ、女君』

女「え……?」

?『君たちの精鋭グループは、首相を確保した』

女「……ど、どこでそれを……?」

368 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 16:58:50.60 ID:eTh1kwKr0 [14/42]
?『今、私が出る寸前のホテルでだよ』

女「私はまだそんな連絡を貰ってはいないッ!!」

?『しかし、確かな情報だ』

?『追って、君にも報告が届くことだろう』

?『ただ……その時に私はもう、ここにはいないがね』

女「…………」

女「……用件はなんだ?」

?『五年前、ある紛争地域から一人のアジア系の男が消えた』

女「な、何を……」

?『逃走兵など幾らでもいる。本来ならば、あまり気にも留めないことなんだがね』

?『……その時だけは、訳が違った』

?『男は、圧倒的な戦力と頭脳を持っていた』

?『ヤツの指揮ならば、倍の数の敵戦力も無意味だった』

女「……そ、そんな……」

370 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 16:59:35.00 ID:eTh1kwKr0 [15/42]
?『しかし、その男が戦場から突然消えたのだよ……』

?『これは我々にとって大きな損失だった……いや、大きすぎた……』

?『そして我々は……ある結論に辿り着いた』

?『何度捜索しても死体は見つからない……いや、そもそも死んだという前提が間違っているのではないか?』

?『各国を探し求め……時間だけが過ぎた……』

?『何人もの同胞が死んでいった……』

?『そして、遂に……』

女「……ッ」

371 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 17:00:24.22 ID:eTh1kwKr0 [16/42]
?『──この偏狭の地で、見つけてしまったのだ』

女「ち、違うっ!」

?『言うな、何も言うな。君には分かっているはずだ』

?『顔形は昔のものと違ったが……今の時代、変えることなど造作ない』

女「…………」

?『……長くなってしまった。次が電話の用件だ』

?『今、私の部下が二人の者を捕らえている』

女「……なっ」

?『一人は落ちぶれた一国の総理、もう一人は……』

?『──今作戦の指揮官、男という名の者だ』

387 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 21:20:54.16 ID:eTh1kwKr0 [17/42]
──???

?「──時刻までに用意しておくように」

女『お、おいっ……』

ピッ。

男「…………」

男(……一体、どうなってやがる……)

?「テープを剥がし、アイマスクも取ってやれ」

?「はっ」

男「……ぷはっ」

将官「どうだ? 自分の置かれた状況を理解したか?」

男「……どういうつもりだ……?」

将官「どういうつもりも何も、さきほど電話で話した通りだ」

男「……俺は、あんたの探している相手とは違う」

男「話せば幾らでも説明出来るはずだが……」

388 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 21:22:38.02 ID:eTh1kwKr0 [18/42]
男「……一つだけ気に喰わないことがある」

将官「……それは?」

男「あんた、分かってるんだろ?」

男「──俺が求める相手ではないのを、さ」

将官「…………」

男「どうしてだ? 何故、気付いているのに騙し続ける?」

将官「ククッ」

男「笑ってないで、答えたらどうだ?」

将官「……いやはや、素晴らしい」

将官「困難に直面した時の発想の機転、部下からの厚い信頼」

将官「そして、優れた洞察力か。本当に、素晴らしいな」

男「…………」

389 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 21:23:18.40 ID:eTh1kwKr0 [19/42]
将官「君の問いに答えよう」

将官「そうだ、その通りだ。私が探している者は、君ではない」

男「……ならば……」

将官「実はね、もう死んでしまったんだ」

男「──はっ?」

将官「彼女には死体が出なかったと言ったが、私は自分の目で確認している」

将官「私の目の前で、彼が吹き飛んだ光景をね」

男「……お、おい」

将官「しかし、仲間の士気を下げる訳にはいかなかった」

将官「それだけ、彼は我々にとって大きな存在だったんだよ」

将官「……そう、彼女たちにとっての君のようにね……」

男「…………違う」

390 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 21:24:04.51 ID:eTh1kwKr0 [20/42]
将官「違わないさ。自分を過小評価するのは止めたまえ」

将官「今日の結果も、電話の彼女の狼狽ぶりもそれを証明して……」

男「──本当に違うんだっ!」

将官「…………」

男「お、俺は……ただ……」

男「自分の人生に嫌気がさしていて……」

男「いつも何事からも逃げ続けて……そんな自分が本当に嫌いで……」

男「なりゆきで、こんなことをしているが……」

男「あんたの考えているような人間では、決してない……」

男「は、はは……これを聞けばあんたも落胆するだろうよ……」

男「俺はな……初め、妹が欲しいとか馬鹿なこと考えて」

男「他人の家に忍び込んで……そして、捕まったのさ」

男「全ては……そこから始まった……」

男「そう、ただ運命に翻弄されてるだけなんだ……」

将官「…………」

391 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 21:24:40.45 ID:eTh1kwKr0 [21/42]
男(……これで、もう馬鹿なことを考えないだろう……)

男(落胆のあまり、もしかしたら俺を殺すかもしれねぇな……)

男(……まあでも、それで終わりもいいか……)

男(人生のほんの少しだけだったが……女との日々は、とても充実していた……)

男「そういうことだ。俺は、あんた達の求めるような人間じゃない」

男「出来れば、首相だけでも確実に届けてくれ」

男「奴は……この国の未来のために必要なんだ」

将官「……ふむ」

将官「どうやら言っていることは真実のようだ」

将官「君の目からは、嘘偽りを言っているようには感じられなかった」

男「だろっ? なら……」

将官「──でも、いいじゃないか」

男「……は?」

392 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 21:26:37.43 ID:eTh1kwKr0 [22/42]
将官「君の過去などには元々興味などない」

将官「大事なのは今で……そして、これからだ」

男「ま、待てっ」

将官「あいにく、我々に残された時間は少ないのだよ」

将官「相手は兵器という兵器を使って、我々を圧倒している」

将官「このままでは……潰滅させられるのもすぐだ」

男「……で、でもっ」

将官「頼む、とは言えない。フェアな取引をするつもりはないからだ」

将官「ただ、彼女が私の要求を飲めば、君たちが求める男は引き渡そう」

将官「君は……私と一緒に来てもらう」

男「…………」

393 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 21:27:22.27 ID:eTh1kwKr0 [23/42]
男(な、なんてことだ……)

男(……ど、どうしてこんなことに……)

将官「よし、車に連れてけ」

部下「はっ」

男「……ッ」

バタンッ。

将官「予定通り、空港だ」

将官「長旅もこれで終わる……やっと故郷に帰れるぞ」

将官「そうだ、さきほど言っていたな……」

男「……なん……だ?」

将官「妹が欲しかったと」

男「……? ああ、そうだが……」

将官「残念なことに妹はいないが……」

394 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 21:27:52.49 ID:eTh1kwKr0 [24/42]
将官「──今年で二十歳になる、私の娘がいる。自慢の娘だ」

男「……は?」

将官「君さえよければ、妹だと思ってくれればいい」

男「そ、そういうことじゃ……」

将官「では、向かおう」

将官「…………」

将官「この国に……幸あれ」

401 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:12:14.57 ID:eTh1kwKr0 [25/42]
──倉庫

女「…………」

女「……まだか……」

女「もう既に約束の時間を過ぎているぞ……」

女「…………」

女「……男……無事でいてくれ……」

トゥルトゥル。

女「……っ!」

女「もしもしっ!」

将官『すまない。少し連絡が遅れてしまった』

女「約束通り、こちらは十億用意したぞ」

女「お前も、男と首相を早くこちらに引き渡せ」

将官『……よくこの短時間で集められたな?』

402 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:12:55.04 ID:eTh1kwKr0 [26/42]
女「当然だ、この国の未来がかかっているんだっ!」

女「お前にとってもこの金は軍備のために必要なんだろ?」

将官『ああ、そうだ。……とりあえず、北の出口に出てくれ』

女「北? 中で取引をするんじゃないのか?」

将官『まあいいから、こちらの指示に従ってくれればいい』

女「…………」

将官『本当に君一人で来たのか?』

女「勿論だ、余計な問題を引き起こしたくない」

将官『ふむ、懸命な判断だな』

女「歩いていけば、いいのか……?」

将官『ああ』

タン……タン……タン。

女「まだか……こちらからは海しか見えんぞ?」

403 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:13:40.64 ID:eTh1kwKr0 [27/42]
将官『いいから、進みたまえ』

タン……タン……。

女「……倉庫から出たぞ」

将官『…………』

女「おいっ、どこもいないじゃないか」

女「約束と違うぞっ! 金ならこの通……」

──プツッ。

女「……切れた」

女「くそっ……どういうことだ……」

女「分からん……何が目的だ……?」

ザザッ……。

女「……近辺に人影は?」

部下C『見当たりません』

女「不審な車などあるか?」

404 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:14:16.30 ID:eTh1kwKr0 [28/42]
部下C『出入りした車は一つもありませんでした』

女「…………」

女「……そうだ」

女「男たちと行動していた二人は見つかったか?」

部下C『まだのようです……』

女「……くそっ」

女「一体何がどうなってるん……」

クルっ……。

女「──へっ?」

女「…………」

女「……この男は……」

405 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:14:55.28 ID:eTh1kwKr0 [29/42]
女「──首相?」

部下C『どうしました? 状況を伝えて下さい』

女「……わ、わからんが……」

女「……倉庫の裏の隅に……首相が……」

部下C『えっ? 見つかったのですか?』

女「……両手両足を縛られた状態で、気絶している」

女「…………」

女「……ま、まさか」

部下C『女さんっ! 今、連絡が入りましたっ!』

女「どうしたっ!?」

406 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:15:30.66 ID:eTh1kwKr0 [30/42]
部下C『男さんと行動していた二人が、ホテルの一室で発見されました』

部下C『二人とも、手足を縛れて気絶したようです』

女「……首相と同じ……」

女「……お、男は?」

部下C『……ホテルにはいなかったようです』

女「……ああ」

女「そういうことか……」

部下C『……えっ?』

女「完全にやられた……」

部下C『どういうことですか?』

407 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:16:17.19 ID:eTh1kwKr0 [31/42]
女「……囮だ。男を引き渡す気など、初めからなかったんだ……」

女「こんな単純なこと、何故気付かなかった……」

女「判断能力が鈍っていたのか……? 男が捕まったから……?」

女「……ああ」

女「……くそぉ……くそっくそっ……」

女「……ど、どうすれば……」

女「なんとかして……助けられないのか……?」

女「……あぁ、分からない……」

女「私には……もう……正常な判断が……できない……」

408 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:17:02.44 ID:eTh1kwKr0 [32/42]
女「……お、男ぉ……」

女「……くっ……うっ」

……トゥルトゥル。

女「……うぅ……ああ……くぅ……」

……トゥルトゥル。

女「……っ」

ピッ。

女「……い、今は手が離せないから、後で折り返……」

男『……俺だ』

女「えっ……?」

415 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:57:02.94 ID:eTh1kwKr0 [33/42]
──飛行機内

女『お、男かっ!? 今、どこにいるっ! 無事だったんだなっ!?』

男「……ああ……大丈夫だ」

女『すぐに迎えの者をやるっ! 場所を教えろっ!』

男「いいんだ……女、それより聞いてくれ」

女『何がいいものかっ! これから国民にTVで知らせねばならないっ!』

女『この国が本来あるべき民主主義の、第一歩を踏めたのだとっ!』

女『早く男が来ないと、いつまで経っても始められないぞっ!』

男「俺がいなくても、お前ならやれる」

女『な、何をわけがわからないことを言っている……?』

女『首相の安否を心配しているなら……奴は今、確保したぞ?』

女『電話の男は、どうやらお前を取り逃がし、パニックになったようだな』

416 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:57:39.14 ID:eTh1kwKr0 [34/42]
女『これで防衛大臣との約束も果たした。軍は我々の味方となる』

男「……そうだな、アイツを国民の前でしっかりと裁いてやらなきゃいけない」

女『そのつもりだ。裁判でしっかりと悪事を暴かせるっ』

女『そのためにも、男、まだ私たちにはお前の力が必要だ』

女『……そして、私にとっても……な?』

男「…………」

女『どうした? 何故、何も言ってくれない?』

男「……す、すまない」

女『え?』

男「ここからは、お前と一緒にはいけない」

女『な、何を言ってるんだ……? け、契約したはずだろっ?』

女『あっ……ああっ! 報酬のことを心配しているんだなっ!?』

418 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 23:31:01.53 ID:eTh1kwKr0 [35/42]
女『分かった、すぐにでも希望の額を……』

男「──違う。もう、終わったんだ」

女『なっ……』

男「国を変えるための手助けをする」

男「それが取り決めだ」

男「そして、今、それは叶った」

女『……ま、まだだっ……終わっていない……』

男「いいや、軍を味方にした時点で、全て片付いた」

男「見事、この国は変わる。君の手でな」

女『…………』

男「一つだけ心掛かりがあるとしたら……」

男「お前がこの国を指揮する姿を、一度だけでも見たかったな」

女『……それなら側にいてくれればいい……』

419 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 23:32:03.36 ID:eTh1kwKr0 [36/42]
男「だが、俺はいかなきゃならない」

女『……っ』

男「逃げてきた戦地へ……もう一度、やり直さねばならない」

女『お、男ぉ……』

男「ありがとう」

男「君に逢えて……本当に良かった」

男「幸せだった……」

男「…………」

女『い、いやだ……やだ……』

男「……そして」

男「──本当にごめんな」

女『……あっ』

ピッ。

422 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 23:33:42.57 ID:eTh1kwKr0 [37/42]
男「…………」

男「…………は」

男「……は、ははっ」

男「…………」

男「……く、くそっ」

将官「……電話は終わったか?」

男「……ああ」

将官「君が騙らずとも良かったのにな」

男「いや、こうするしかなかった……」

男「……俺が、さらわれたと知ったら……」

男「アイツはきっと、どこまででも追いかけてくれるはずだ……」

男「俺を救うために、それこそあんたのように、世界中を回ってな」

将官「…………」

423 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 23:34:26.59 ID:eTh1kwKr0 [38/42]
男「でも……今、あの国にはアイツが必要なんだ」

男「誰かを引きつけるような……カリスマ的な存在がな……」

将官「確かに、彼女の演説は素晴らしいものだった」

男「は、はは……あの時から、もう忍び込んでたのか?」

将官「…………」

男「……ふー」

男(……また、全て失っちまった……)

男(少しだけ……幸せな未来を想像したのにな……)

男(まあ、俺には……似合わなかったんだろう……)

男(……次行くとこは、紛争地帯か……)

男(……俺……生きてけるかな……)

425 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 23:53:26.43 ID:eTh1kwKr0 [39/42]
──飛行機内

男「…………」

男「ん……ああ、寝ちまったのか……」

男「…………」

男(女との夢……か……)

男(……ああ)

男(……やべぇ……涙出そうだ……)

男「……くっ……」

男「…………」

ガタンガタン……。

男(……ん? 揺れが激しいな……)

男(乱気流だろうか……)

ガタガタッ!

426 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 23:54:08.20 ID:eTh1kwKr0 [40/42]
男「…………」

男(おい……まさかってことはないよな……)

男(……ってか、どれくらい寝てたんだろ……)

男(窓の外を見たいが……)

男(ちょうど座席は……真ん中なんだよな……)

男(この手足の縛りがなければ、なんとかいけるんだが……)

男「……って、あれ?」

男(あいつらはどこいった? 見張りは?)

男(……もしかして、逃げるチャンス……?)

男「……くっ」

……ミシッ。

428 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 23:54:57.82 ID:eTh1kwKr0 [41/42]
男「……ッ」

男(駄目だ……腕力じゃ切れそうもない……)

男(何か使えそうなものは……)

男「…………」

男「……あった」

男(……この椅子の部分で擦り続ければ……)

男(頼む……切れてくれよ……)

431 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 23:59:15.63 ID:eTh1kwKr0 [42/42]
──飛行機内 数分後

ブチッ……。

男「……よしっ」

男(これで、両手が使えるぞ……)

男(足のものも取ってしまおう)

男(…………)

男(……うし……OKだ)

男「…………」

トコトコトコ。

男「……海か……」

男「どこまで続くんだろうな……」

ガタガタッ。

432 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 00:02:01.80 ID:tgD+iP2n0 [1/36]
男「……ッ……くそっ、揺れる……」

男「…………」

男「しかし……」

男(どうもおかしくないか……)

男(……機内が、あまりにも静か過ぎる……)

男(そして……)

男「……人の気配がない……」

男「…………」

433 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 00:03:43.47 ID:tgD+iP2n0 [2/36]
男「…………」

男(……仕切りを開けてみるか……)

男(相手も銃は使わないだろう……何とか、倒せるといいが……)

男(一対複数か……かなり、無理があるな)

男「……が、やるしかねぇ」

男(……何故か、とてつもなく嫌な予感がする……)

男(…………)

男「……ッ」

ザザッ!

男「…………」

男「なっ……」

男「……だ、誰も、いない……?」

439 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 00:18:45.75 ID:tgD+iP2n0 [3/36]
──飛行機内 数分後

男「…………」

男「……なんて、ことだ……」

男「パイロットまでいないじゃないか……」

男「ど、どうなってる……?」

男「……今は、自動操縦だから構わんが……」

男「着陸の時は……」

男「…………」

男「だ、だめだっ……頭を一旦、整理しよう……」

男「……まず……俺は、何時間寝てたんだ……」

男「時計……時計」

トコトコトコ。

440 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 00:21:31.40 ID:tgD+iP2n0 [4/36]
男「──ん? ……止まってる」

男「…………」

男「ほ、他のを探そうっ」

バサバサッ……。

男「あっ……」

男「…………」

男「飲みかけのコーヒー……」

男「……まだ仄かに温かい……」

男「…………」

男「……ああ……これは……」

男「どこかで……見たことがある光景だ……」

男「……どこだ……どこで見た……?」

男「…………」

男「……ッ」

441 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 00:22:08.99 ID:tgD+iP2n0 [5/36]
男「ま、まさか……」

男「神隠……」

──ガタン、ガタンッ!

男「う、うぉっ!」

男「ど、どうした!?」

ガタガタガタガタッ!

男「た、立ってられない……揺れる……ッ!」

ガタガタガタガタッ!

男「と、とにかく近くの席に……」

ウーウーウー!

男「緊急用のブザーかっ!?」

ガタガタガタガタッ!

男「…………」

男「お、おいおい……嘘だと言ってくれよ……」

442 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 00:23:02.26 ID:tgD+iP2n0 [6/36]
ウーウーウー!

男「……マジで……?」

ガタガタガタガタッ!

男「こ、ここで終わり……?」

ガタガタガタガタッ!

ガタガタガタガタッ!

男「ああ……もう……」

男「…………誰か……」

ガタガタガタガタッ!
ガタガタガタガタッ!

ガタガタガタガタッ! ガタガタガタ……

──バァァァァァーンッ!!!!!!

451 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 00:57:19.58 ID:tgD+iP2n0 [7/36]
──海

男「…………」

男「かはっ……」

男「……っ……」

男「……い、生きてるのか……」

男「は、はは……運がいいのか、悪いのかわかんねぇよ……」

男「……ここは……一体……」

男「……とりあえず、機体から出ないとな……」

男「よいしょっ……って……」

男「──うっ……」

453 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 00:58:13.14 ID:tgD+iP2n0 [8/36]
男「あっ……」

男「……足が……ッ……」

男「……これは……折れてるぞ……」

男「た、立てない……」

男「何か……杖のようなものはないか……?」

男「……ん」

男「……この鉄の棒を使うか……」

男「しかし、これ……一体どこの部品なんだろうか……」

男「もうぐちゃぐちゃでわかんねぇな……」

男「…………」

男「……これも持って行こう……」

454 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 00:59:07.38 ID:tgD+iP2n0 [9/36]
トコ……トコ……トコ。

男「……あと、ここを登って……」

男「…………青空?」

男「……うわぁ……綺麗だなぁ……」

男「あれだけ天候が悪かったのに……今は、快晴か……」

男「墜落してから、かなりの時間……気絶してたのかもしれないな……」

男「しかし、沈まないということは浅部だな」

男「もう少し周りの景色が見たい……」

男「……うっし……そこを登ろう……」

男「……おっ」

男「あ、あれは……」

459 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 01:16:07.58 ID:tgD+iP2n0 [10/36]
──島?

男「ふぅ……」

男「近くに……島があってよかった」

男「ただ……島にしては大きすぎるような……?」

男「まあどちらにせよ、人は住んでいるに違いない」

男「もしかして……大陸だったりしてな」

男「ははっ、そんなわけないか」

男「こんな場所にあるわけないもんな」

男「…………」

男「……でも、仮にそうだとしたら?」

男「……ハ、ハハ」

男「ま、まあ、いい。とりあえず、歩くしかない」

460 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 01:16:41.48 ID:tgD+iP2n0 [11/36]
トコ……トコ……トコ。

男「しかし……」

トコ……トコ……トコ。

男「……熱いなぁ……」

男「南の国のどこかなのか……」

トコ……トコ……トコ。

男「おーいっ!」

男「誰かいないかーっ!」

トコ……トコ……トコ。

男「はぁ……はぁ……」

男「片足だと……歩くのもしんどいな……」

男「……誰か、見つけないと……」

461 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 01:17:17.74 ID:tgD+iP2n0 [12/36]
トコ…………トコ…………。

男「…………」

男「……うぅ……」

バタンっ。

男「はぁ……はぁ……はぁ……」

男「もう駄目だ……動けない……」

男「これ以上は……無理だ……」

男「何で何も見つからない……」

男「……草木の中を、ただ無心に歩いてるだけじゃないか……」

男「もしかして……無人島だったりするのか……」

462 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 01:18:41.73 ID:tgD+iP2n0 [13/36]
男「…………」

男「機体の上からは……何か尖ったものがみえたんだけどな……」

男「……あれは山だったか……しくったな……」

男「どうしよう……ああ……もう、いい」

男「今日は……ここで……休もう……」

男「……明日は……見つかるといいな……」

男「身体が……だるい……」

男「……おや、すみ……」

545 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 21:04:45.39 ID:tgD+iP2n0 [14/36]
──森

男「…………」

男「何もない……誰もいない」

男「一体……いつまで続くんだ……」

男「…………」

男「……腹が減ったな……」

男「何か食べたい……が、どうする?」

男「……木の実か果物でもあるといいなあ……」

男「…………」

トコ……トコ……トコ。

546 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 21:05:31.59 ID:tgD+iP2n0 [15/36]
男「熱い……もう、きついぞ……」

男「喉も乾いたし……川を探すのが先決かもな……」

男「……ん?」

男「こ、これは……」

男(見たこともない果物だな……食べて、大丈夫だろうか?)

男「…………」

男「一か八か……」

もぐもぐ。

男「……おお、甘くてうまい……」

男「たくさん取っておくか。これからどうなるか分からないしな……」

男「よし、川を見つけたらそこで休みにしよう」

551 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 21:09:54.93 ID:tgD+iP2n0 [16/36]
──数日後

ザザー……。

男「…………」

トコ……トコ……。

男「……ごほっ」

男「こほっ、こほっ」

男「……う……」

ザザー……ザザー……。

男「……雨、一向に止む気配がないな……こほっ」

552 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 21:13:26.90 ID:tgD+iP2n0 [17/36]
男「っ……咳が止まらん……」

男「……うっ……ごほごほっ」

男「あぁ……ふらふらする……」

男「…………」

……ドスン。

男「ひとまず、座ろう……」

男「……これは、完全にやばいな……」

男「確実に熱がある……この状況でどうする……?」

男「正直、もうこれ以上動くのは危険だ……」

554 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 21:19:17.45 ID:tgD+iP2n0 [18/36]
男「…………」

男(こんなに歩いたっていうのに、誰一人いない……)

男(進むスピードは遅いにしても……もう相当の距離は歩いたはず……)

男(……考えられるのは……)

男「……ここに、人は住んでいない……ってか」

男「…………」

ザザー……ザザー……。

男「……ああ……」

男「……一人で生きてけんのか……?」

男「話し相手もいない……そんな状況で、俺は……」

男「──こほっこほっ……!」

パタン……。

555 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 21:22:50.83 ID:tgD+iP2n0 [19/36]
パタン……。

男「……はぁ……」

ザザー……ザザー……。

男「……なつかしいな……」

男(あの時もこうして、自分の部屋のベットで一人寝転がってた……)

男(……自らの人生に毒づいて、変わらない日々を憎んで……)

男(……毎日、生きている心地すらしなかった……)

男「……今は……どうなんだ?」

男「少しぐらい……マシな生き方をしているんだろうか……ごほっごほっ……」

556 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 21:24:27.92 ID:tgD+iP2n0 [20/36]
男「…………」

男「だれか……」

男(……ああ、頭が……)

男「……だれでもいいから……返事してくれ……」

男(……だんだん……視界がぼやけてくる……)

男「……お、おれは……」

男(……これはもう……駄目だ……)

男「きちんと……」

男「……生きてる……か……?」

男「…………」

男(…………)

──ザザー……ザザー……。

561 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 21:57:43.94 ID:tgD+iP2n0 [21/36]
──森

トコトコ。

?「…………」

?「あれ……?」

?「……誰か倒れてる……?」

?「……大変……助けを呼んでこなきゃ……っ」

?「でも……この格好……」

男「…………」

?「…………」

?「……いいえ、詮索は後にしないとっ」

?「ちょっと待ってて下さいねっ!」

タッタッタ。

563 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 22:19:04.33 ID:tgD+iP2n0 [22/36]
男(……ん? ここはどこだ……?)

男(…………)

男(……俺、あの後、どうなったんだろ……)

男(あっけなく死んじゃったりしてな……)

男(……じゃあ、ここは死後の世界だったりするのか……)

男(…………)

男(白いな……ただ、白い……)

男(……何もねぇし、誰一人もいない……)

男(……これが……死……?)

564 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 22:20:57.60 ID:tgD+iP2n0 [23/36]
男(…………)

男(だったら、やめだ……)

男(俺は……こんな世界……っ)

男(…………)

男(……死にたくない……)

男(………まだ、俺は……)



──生きていたいっ!!




565 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 22:21:41.85 ID:tgD+iP2n0 [24/36]
ガバッ。

男「……ッ」

男「……はぁ……はぁ……」

男「……生きてる……まだ、生きてる……」

ドクッ……ドクッ……。

男(心臓の鼓動が聞けて嬉しいと思うなんて……ホント、どうかしてる)

男(それでも今は……今だけは……)

男「…………」

男「……で、また、ここはどこだ?」

男「見るかに、人の家だが……」

男「…………」

……ガチャ。

566 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 22:23:46.24 ID:tgD+iP2n0 [25/36]
男「……ん?」

?「あっ……目が覚めたんですね?」

男「…………」

男「……え、え?」

?「もうあんな場所で倒れているんで、死体かと思って心配したんですよ」

?「しかも高熱だったし……足も折れてて……」

男「……き、きみ……」

?「へ? どうかしましたか?」

男「…………」

567 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 22:25:02.78 ID:tgD+iP2n0 [26/36]
?「何か言いたいことがあったら、遠慮せずにお願いしますね」

?「こういうときは助け合いです」

男「……失礼なことかもしれないが」

男「……一つだけ聞きたい」

?「はい、何なりと」

男「…………」

男「君の……その耳……」

男「──少し長過ぎやしないか……?」

エルフ「……え?」

586 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 23:00:54.61 ID:tgD+iP2n0 [27/36]
──居間

エルフ「これで、よしっと」

男「……おぉ……」

エルフ「はいどうぞ。たくさん食べて下さいね」

エルフ「しっかりお腹に入れて、怪我や体調を早く治しましょう」

男「……本当にありがとう……感謝してもしきれない……」

エルフ「いいえ、気にしないで下さい。私の好きでやっていることですから」

男「しかし……こんな豪勢な食事……」

男「大きな負担になったりはしないか?」

エルフ「大丈夫です。この村、食料には何の不自由はしてないんですよ」

男「……そうなのか、ならいいが」

男(……ん? 今……)

男「村ってことは、他にも人が住んでるのか?」

エルフ「はい、私も含めて……二百人くらいかな?」

男「そ、そんなにいるのかっ!?」

587 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 23:01:48.54 ID:tgD+iP2n0 [28/36]
エルフ「そうですね。村の規模の割には多くの者が住んでます」

男「じゃあ……」

エルフ「ちょっと待って」

男「へ?」

エルフ「質問は後で幾らでも聞きますから」

エルフ「その前に、まず……ね?」

男「……あ、ああ」

男(そうだな……焦る必要もないか……)

エルフ「冷めないうちにどうぞっ」

男「おう、頂くとするよ」

もぐもぐ。

男「…………」

男(こ、これは……)

エルフ「どうですか?」

男「……う、旨過ぎる……」

592 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 23:09:18.48 ID:tgD+iP2n0 [29/36]
男「こんな旨い飯……初めてかもしれん……」

エルフ「良かった。その言葉だけでも、作りがいがありました」

エルフ「誰かが自分の料理を食べてる姿って……私とっても好きなんです」

もぐもぐ。

エルフ「おかわりもありますから、一杯食べて下さいね」

もぐもぐ。

男「ああ……ほれは何杯でもいけほうだな」

エルフ「もう、零してますよっ、ふふっ」

男「す、すまん、すまん」

男「…………」

男(しかし、どう見ても……)

エルフ「……?」

男(これは……物語とかで出てくる……エルフだよな……)

男(俺はもしかして……そういった世界に来ちまったのか……)

男(……ああ、どうしよ……)

593 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 23:11:30.73 ID:tgD+iP2n0 [30/36]
エルフ「どうかしました?」

男「……んや、ちょっとね」

男「少し……考えていただけさ」

もぐもぐ。

エルフ「……そうですか」

もぐもぐ。

エルフ「……とりあえず」

エルフ「ご飯を食べ終わったら、外に出ましょう」

エルフ「私が、この村を案内します。楽しみにしてて下さいね」

595 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 23:17:45.16 ID:tgD+iP2n0 [31/36]
──家の外

男「……ん?」

男「──う、うおっ……こんな……」

エルフ「どうですか、結構、住み易そうなところでしょ?」

男「いや……その……」

エルフ「え? どうかしました?」

男「……これは、あー、大丈夫なのか?」

エルフ「大丈夫とは?」

男「……家が……地面に落ちたり……」

エルフ「ああ、それは心配無用です」

男「そ、そうかっ」

エルフ「危なくなる前に、軋む音がしますから」

エルフ「それを聞いた時に、逃げ出せばいいんですよ」

男「…………」

男「へ?」

600 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/11(日) 23:28:23.93 ID:tgD+iP2n0 [32/36]
──村

エルフ「説明すれば長くなるんですが……」

エルフ「基本、私たちはこうやって生活してます」

男「木の上に家を作るってか?」

エルフ「はい、こうして家と家を橋で結んでもいます」

男「……この橋は確かに頑丈だが……」

男「単純な話、下で暮らせばいいじゃないか」

エルフ「はぁ……でも、下だと大変なことになりますよ」

男「大変なことって?」

エルフ「…………」

エルフ「ええと、すごく気になってるんで、いいですか?」

男「おう、遠慮なく聞いてくれ」

エルフ「男さんって、この土地の人じゃないですよね?」

男「…………」

601 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/11(日) 23:38:18.21 ID:tgD+iP2n0 [33/36]
エルフ「森で見つけたときから、少し違うなって思ってたんです」

エルフ「それでもあんな場所に倒れていたから、訳ありの方なのかもしれないって……」

エルフ「……でも起きて話を聞いてみると、私の姿に驚いて……」

男「そうだな……」

エルフ「男さんは、一体どこから来たんです?」

男「………信じないと思うぞ」

エルフ「いいえ、話してみないと分からないですよ」

男「いや、この展開は……もう、何度も経験してるんだ」

男「……そして、みんな勘違いしていった……」

男「恐らく君も……そうだ」

エルフ「……はぁ、疑り深い人ですね」

男「俺の身になれば、きっと君もそうなる」

エルフ「もうっ! そんなこと言われたら、余計気になるじゃないですかっ!」

エルフ「とにかく、ほらっ……」

ギュッ……。

603 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/11(日) 23:47:18.72 ID:tgD+iP2n0 [34/36]
男「……なっ」

エルフ「私の目を見て……ね?」

男「あ、ああ……」

男(……綺麗な碧色の眼だな……)

エルフ「はい、どうぞ」

男「……どうぞって……何を?」

エルフ「さっき私が聞いたことですっ。眼を逸らさず言って下さいっ」

男「…………」

男「俺は……多分……」

男「──違う世界からやってきた……と思う……」

エルフ「…………」

男「……ほらな、やっぱり君も……」

エルフ「──……当たった……」

男「……は?」

604 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/11(日) 23:48:21.53 ID:tgD+iP2n0 [35/36]
エルフ「やった! やっぱりそうなんだっ!」

男「おい、おい……一体、どうし……」

エルフ「──ねぇ色々聞いていいですかっ!」

男「……あ、ああ」

男(なんだ……妙なはしゃぎっぷりだな……)

エルフ「男さんの世界には、私たちの姿の者はいないんですよね?」

男「そうだ。ただ、物語の中には出てきたりする」

エルフ「お話の世界ですか?」

男「ああ、魔法を使えたり、凄い寿命が長かったり……」

605 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/11(日) 23:49:50.79 ID:tgD+iP2n0 [36/36]
エルフ「へぇ……そうなんですか」

男「……実は、君も使えたりするのか?」

エルフ「え、何をです?」

男「魔法だよ。呪文を唱えて……みたいな」

エルフ「ふふっ、無理に決まってるじゃないですかっ。長生きもしませんよー」

男「そうか……やはり、違うんだな」

エルフ「ただ、恐らく男さんが驚くことが一つあります」

男「それは?」

エルフ「…………」

エルフ「実はね、私たち……」

エルフ「──女性しか、いないんですよ」

621 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 00:11:19.96 ID:cBwGZfap0 [1/2]
──村

男(……た、確かに……)

通行人1「……じぃ」

通行人2「……じぃ」

男(すれ違った人にはガン見されてるな……)

男(……男性が彼女たちには珍しいのだろうか)

男(しかし、女だけでどうやって……)

男「…………」

男(……ま、まあ、あんまり聞くことでもないな)

男(……少し……いや、とっても気になるけどさっ)

エルフ「男さーん」

男「お、おうっ」

エルフ「さて、問題です。この建物は何でしょうか?」

男「……ん?」

622 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 00:12:33.79 ID:cBwGZfap0 [2/2]
男(見るからに大きいな……)

男(よくこんな建物を木の上に作れるもんだ……凄い技術だな……)

エルフ「どうです? 少し難しかったですか」

男(……大きさから考えるに)

男「ここは……村の集会をやるところだ」

男「建物の規模から考えても、多くの人が利用するところに違いない」

男「どうだ? 合ってるか?」

エルフ「……惜しいですっ」

エルフ「確かに、多くの者が集まるところではあります」

エルフ「でも、それは、ほとんどが子供たちなんですよね」

エルフ「もう、分かりましたか?」

男「…………」

男「……もしかして……」

男「──学校?」

721 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 22:32:25.61 ID:x42B5L490 [1/10]
──学校

子供1「わぁーっ! お姉さん、おはよー」

子供2「今日は何するのー? 私は体を動かすのがいいーっ」

子供3「ねぇねぇ、隣の人だれっ?」

エルフ「ほら、みんな。まずは席に座って」

子供たち「「はーいっ」」

男「……しかし、すごいな」

エルフ「ふふっ、みんな元気が有り余ってるんですよ」

男「君は……教師なのか?」

エルフ「教師というか、まとめ役……んー……」

エルフ「いい言葉が見つかりませんが、多分、違うと思います」

男「どういうことだ? 子供たちに物事を教えているんだろ?」

エルフ「はい。一般常識から、時には雑学など」

男「ならそれは、教師だと思うぞ」

722 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 22:33:38.46 ID:x42B5L490 [2/10]
エルフ「……んー……ちょっと違うんですよね……」

エルフ「なんていうか……その……」

エルフ「子供たちにとっての……姉、と言ったほうがいいかもしれません」

男「姉?」

エルフ「はい。時には甘えさせたり、でも、厳しくしたり……」

エルフ「良い意味での、遠慮のいらない関係って感じでしょうか」

男「…………」

男(……よく分からない……)

男(ここは学校なんだろ? なぜ、教師と言われることを否定する?)

男(自主的にやっているボランティアのようなものだからか?)

男(……んん、俺の世界と何か根本的に違うようだな………)

エルフ「はーいっ、ではみなさん」

726 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 22:40:54.34 ID:x42B5L490 [3/10]
エルフ「お早うございますっ」

子供たち「「おはようございますっ!」」

男(……まあ、考えていても仕方ないか……)

男(慣れていくしかない……この世界に……)

エルフ「今日は、みんなに是非紹介したい人がいます」

エルフ「みんなも、もう、気になっている人……いるよね?」

男(しかし……死ぬまでこの世界にいるのだろうか……?)

男(戻る方法があればいいが……多分……ないな……)

男「…………」

エルフ「こちらは……」

男(あーくそっ……難しいことを考えるのはやめやめっ……)

エルフ「──別世界からやって来た、男さんですっ!」

男「…………」

男「……って、え?」

732 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 23:17:14.40 ID:x42B5L490 [4/10]
──村

男「……はぁ……疲れた……」

エルフ「お疲れさまです」

男「あんなに質問攻めにされるなんて、聞いてないぞ……」

エルフ「ふふっ、でもみんな楽しそうでしたよ」

男「そりゃ、あいつらからしたら俺は生きる玩具だろ……」

男「……ペタペタと身体に触ってくるやつはいるし……」

男「かと思えば、相手にしてもらえなくて拗ねる奴もいる……」

エルフ「みんな男さんが気になるんですよ」

男「そんなに……俺は珍しいか?」

エルフ「はい、もちろんっ」

男「…………はぁ……」

733 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 23:17:56.03 ID:x42B5L490 [5/10]
男「ほんと……疲れた……」

エルフ「文句言いつつも、優しく接してくれてありがとうございます」

男「別に……そうしたつもりはない」

エルフ「いいえ、あの子たちは意外に人の心に敏感ですから」

エルフ「少しでも怖いと感じたら、あんなに仲良くはなれませんよ」

男「…………」

男(『絶対、また来てね』、か……)

エルフ「……それで、お疲れのところ申し訳ありませんが」

エルフ「……今日は、あと一つ、案内したいところがあるんです」

男「……ん? 今度は一体どこに連れていくんだ?」

エルフ「それは、着いてからのお楽しみです」

男「……これ以上、疲れるのは勘弁な……」

エルフ「大丈夫ですよ、その辺は安心して下さい」

エルフ「では行きましょう。ここから、すぐ側なんです」

737 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 23:47:54.24 ID:x42B5L490 [6/10]
トコ……トコ。

男「……しかし、天気悪いなぁ……」

エルフ「そうですね……霧まで出ちゃってますね……」

男「こっちはこういう気候が多いのか?」

エルフ「そうでもないんですが……最近は、じめじめしています」

男「……湿度高そうだな……」

トコ……トコ。

エルフ「そういえば、足の状態はどうですか?」

男「ん……以前変わらずだな。まだ……痛む」

エルフ「あとで家に帰ったら、治療しましょうね。私に任して下さい」

男「そうだ、そのことで聞きたいことが……」

エルフ「──あ、着きましたっ」

男「……ん?」

エルフ「ほらっ、ここですっ」

男「これは……」

738 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 23:49:29.34 ID:x42B5L490 [7/10]
エルフ「……どうですか?」

男「…………」

男(……先が尖った、三角の柱……)

男(……何かの碑だろうか……)

男「ほう……これは?」

エルフ「…………」

エルフ「……これですか?」

男「ああ……ちょっと、柵超えてもいいか?」

エルフ「えっ?」

トコ……トコ。

男「…………」

男(何で出来てんだ……?)

男(銀色だから、鉄……んー錆びるな。じゃあ、何だろう?)

739 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 23:50:11.56 ID:x42B5L490 [8/10]
エルフ「お、男さんっ」

男(……叩いてみるか)

ゴン……ゴンッ。

男「……ふむ」

男(わからん……が、確かに金属のようだ)

男(となると……精製できる技術はあるのか……)

エルフ「ちょっ、ちょっと駄目ですよっ!」

男「あー悪い悪い」

エルフ「もうっ……私、知りませんからね……」

男「で、これは一体なんなんだ?」

エルフ「……碑です」

男「それは分かるが、何の?」

エルフ「さぁ、私も分かりません」

男「…………」

エルフ「…………」

740 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 23:51:43.01 ID:x42B5L490 [9/10]
男「……謎掛け?」

エルフ「……違いますよ」

男「おいおい、そんなところに何で連れて来た?」

エルフ「他所の世界の男さんなら知ってるかなって……」

男「……知る訳ないだろ……」

エルフ「ですよね……すみません……」

男「……まぁいい」

エルフ「では、早く家に帰ってご飯にしますかっ」

男「おうっ……って、そのことだっ! 聞きたいことがある」

741 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 23:52:41.14 ID:x42B5L490 [10/10]
エルフ「はい、何でしょうか」

男「本当にいいのか? 俺が君のうちに厄介になってしまって……」

男「迷惑なら、出来るだけ早めに出て行こうと思うんだが……」

エルフ「別に大丈夫ですよ。男さんが嫌じゃなければ、ですね」

男「全くもってそんなことはない……とにかく、感謝の気持ちで一杯だ」

エルフ「なら、何の問題もありません。これからよろしくお願いしますね」

男「こちらこそっ、恩に着る」

エルフ「そうと決まれば、早く帰りましょう。私、ご飯の準備まだですし」

男「ああ……分かった」

男「しかし……」

男(何か……気になるな……)

824 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:14:34.74 ID:Ry6fXQo+0 [1/8]
──家

ガチャ。

エルフ「さっ、入って下さい」

男「……おじゃまします」

エルフ「……何ですかそれ?」

男「ん? こちらでは言わないのか?」

エルフ「はい、初めて聞きます」

男「そうだな、人ん家に入るときの挨拶みたいなものだ」

エルフ「へー、そっちの世界ではそんな風習があるんですか」

男「他にもあるぞ」

男「自分の家に入るときは『ただいま』」

エルフ「……ただいま」

男「そうそう、そんな感じ」

エルフ「なんか、気恥ずかしい気持ちになりますね」

男「ははっ、確かにそれはあるな」

826 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:15:38.09 ID:Ry6fXQo+0 [2/8]
男「あとな、逆に帰って来た者を迎える時は『おかえり』って言うんだ」

エルフ「『ただいま』と『おかえり』ですか」

エルフ「面白い習慣ですね」

男「まあ、そうかもしれん」

男「ちなみにこっちでは……」

?「──おかえり」

男「…………」

男「ん? 今、何か言ったか?」

エルフ「へ? 私ですか? 何も喋ったつもりはないですけど……」

男「…………」

男(確かに今……聞こえたよな……)

男(しかも、『おかえり』って……)

男「……俺の聞き間違いかもな……」

?「おい」

829 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:17:58.27 ID:Ry6fXQo+0 [3/8]
男「……え?」

?「こっちだよ、こっち。後ろ向け」

男「ええと……」

?「迎える時は、『おかえり』って言うんだろ? 違ったか?」

男「いや……そうだが……」

エルフ「あーっ親友じゃないですか!」

親友「よっ、遊びにきたぜっ」

男「…………」

男「……誰?」

835 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:29:43.15 ID:Ry6fXQo+0 [4/8]
──居間

親友「お前たちのこと、もう、凄い噂になってるぞ」

もぐもぐ。

エルフ「あーやっぱり、そうですか……」

もぐもぐ……。

親友「だったら何で、子供たちのところに連れてったりしたんだ?」

もぐ……もぐ……。

エルフ「子供たちにとって良い刺激になるかなーって」

……もぐ。

親友「その気持ちは分からなくもないが……」

……ピタッ。

親友「……じぃ」

男「…………」

837 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:31:35.76 ID:Ry6fXQo+0 [5/8]
男(……なんだ、なんだこの視線は……)

男(こんなに見られていたら、ろくに飯も食べられない……)

男(いっそ……こちらから話しかけてみるか)

男「ち、ちょっといいか……」

親友「……ん? 私に用か?」

男「君は、俺がどういう状況か知っているんだな?」

親友「まあ人聞きではあるけど、大体は」

男「……例えば?」

親友「見知らぬ世界から迷い込んだ男だとか」

親友「超能力を隠し持っているとか、実は、宇宙人かもしれないとか」

男(噂に尾ひれついてるーっ!)

エルフ「……んー、ちょっと違いますね」

男(いや、ちょっとじゃない……かなり違う……)

839 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:39:39.25 ID:Ry6fXQo+0 [6/8]
親友「そうなのか? 私はそれで、ここに来たようなもんなんだがな」

男「……エルフを心配してか?」

親友「勿論、それ以外に何かあるか?」

男「……ごもっとも」

エルフ「そんな……大丈夫ですよ。ほら、この通り」

親友「まだ決まったわけじゃないだろ? これから本性を見せるかもしれない」

エルフ「ちょっと失礼ですよ。男さん……ごめんなさい」

男「んや、別に構わない。ところで……」

親友「なんだ?」

男「君は俺のことで不信感を抱いているようだが、俺も君のことが分からない」

親友「…………」

男「出来れば、自己紹介してくれると有り難いな」

親友「……まあ、そうだな。確かに、一理ある」

親友「私は……」

エルフ「──小さい頃からの、親友兼幼なじみなんです」

842 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:48:43.58 ID:Ry6fXQo+0 [7/8]
──数時間後

親友「ん? もうこんな時間か……」

親友「では、そろそろ帰らせてもらおうかな」

エルフ「そんな……今日ぐらい泊まっていけばいいのに……」

親友「そうしたいのは山々なんだが……少しやらねばならないことがあってな」

エルフ「……そうですか」

親友「ああ、また来るよ。今日は色々な話が聞けたし、楽しかった」

エルフ「私もです。気軽にご飯でも食べに来て下さいね」

親友「うん。じゃあ、また」

男「…………」

親友「…………」

男(ん?)

親友「…………」

男(……そういうことか)

848 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 23:00:15.41 ID:Ry6fXQo+0 [8/8]
ガタンッ……。

エルフ「……あれ、男さん?」

男「ちょっと、親友を外まで見送ってくる」

親友「ひ弱なガードマンなどいらんぞ?」

男「ヤバいときには盾にでもなるさ」

親友「ふふっ、中々言うな」

エルフ「えっ? でも、足は大丈夫なんですか?」

男「リハビリもかねてな。それと、少し夜風に当たりたいんだ」

エルフ「……そうですか、早く帰って来て下さいね」

男「ああ、分かった」

親友「……男、見送るつもりなら、早く行くぞ」

男「おいっ、待て……」

875 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/14(水) 06:10:00.04 ID:0YYS8Xfk0 [2/9]
トコ……トコ。

男「…………」

親友「…………」

トコ……トコ。

男「……で、俺に話があるんだろ?」

親友「……ああ」

トコ……ピタッ……。

男「ん?」

親友「足は大丈夫なのか?」

男「まあ、この杖があるから歩くのはさほど難しくはない」

親友「そうか……早く治るといいな」

男「……おう、ありがとう」

親友「ん、別に……お礼を言われることでもない……」

876 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/14(水) 06:10:53.95 ID:0YYS8Xfk0 [3/9]
トコ……トコ。

男「…………」

親友「…………」

男「おい、まさか話ってそれだけじゃないよな?」

親友「……ん、まあな」

男「それとも、切り出し難い話なのか?」

親友「…………」

男「……まだ、俺のこと信用出来ないか?」

親友「いや……話を聞いて、お前のことは大体理解した」

男「…………」

親友「嘘か本当かまでは私には分からないが……ただ」

親友「何か企んでいる、という様子じゃないのは確かだ」

男「……そうか、誤解が解けたなら良かった」

親友「…………」

親友「……聞いてもいいか?」

877 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/14(水) 06:11:34.36 ID:0YYS8Xfk0 [4/9]
男「おう、構わないぞ」

親友「あの話……本当なのか?」

男「というと?」

親友「私たちが知らない、別の世界からやって来たって話」

男「ああ、本当だ」

男「こことは全く違う……そんな場所から辿り着いた」

親友「……なら」

男「ん?」

親友「頼みたいことがある」

男「…………」

男(何だ……急に真面目な顔して……)

親友「今日、ずっとお前を観察してた」

男「なっ……日中もか?」

親友「いや、そうじゃなくて……飯を食べている時だ」

男「ああ、そういうこと……」

878 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/14(水) 06:12:05.81 ID:0YYS8Xfk0 [5/9]
親友「そのとき、一つ気付いたことがある」

男「……何だ?」

親友「……お前……」

親友「……実は、相当腕が立つ奴だろ?」

男「…………」

親友「身体もしっかり引き締まっているし、腕なんかもかなり太い」

親友「しかも……ところどころには、傷痕があるし……」

親友「……普通に生きているだけじゃ、そんな風にはならない」

男「…………」

男(女と過ごした数年間……)

男(生きていくためには身体を鍛えなければいけなかった……)

男(……時には、有り得ないような傷も負った……)

男(確かに、以前の俺とは……比べものにならないかもしれない)

親友「……だから思ったんだ」

親友「お前になら……ここにいないはずのお前なら……」

879 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/14(水) 06:12:48.66 ID:0YYS8Xfk0 [6/9]
男「…………」

親友「……お願いだ」

親友「何かあったら……」

親友「──エルフを助けてやってくれ……」

男「……それは……」

男(……助ける? 何から?)

男「一体、どういうことだ……?」

親友「…………」

男「もしかして……」

男「……この村が、地面を避けて暮らしていることに関係しているのか?」

男(……前から疑問に思っていたことだ)

男(あえて、ここまでする理由は何だろう? 危険でもあるのか?)

880 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/14(水) 06:13:30.38 ID:0YYS8Xfk0 [7/9]
親友「それは、違う」

男「……本当か?」

親友「私達が上で生活しているのは……」

親友「もう少し経つと、この一体が水浸しになることが原因だ」

男「水浸し?」

親友「ああ、雨がずっと降り続いてな。水位が上がっていく」

男「……そうなのか?」

親友「お前がここで暮らすつもりなら、そのうちやってくるよ」

男「……分かった」

親友「では……返事、聞かせてもらって良いか?」

男「エルフを守るって……話か?」

親友「ああ……お前に頼るしかない」

男「……理由は……」

881 名前:夜にtxtファイルを上げます。よろしくお願いします。[sage] 投稿日:2010/07/14(水) 06:15:11.83 ID:0YYS8Xfk0 [8/9]
親友「…………」

男(……どうやら、教えるつもりはないようだな)

男「……分かった」

男「それがどんなものか分からないが、力を尽くす」

親友「……あ、ありがとう」

男「いいんだ、俺も世話になってるしな」

親友「……本当に、頼んだぞ……」

男「…………」

187 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:11:18.22 ID:zaTWzoQ0 [1/26]
──数日後 学校

子供4「男ーこっちだー」

子供5「はははっ、足遅いなあ、男」

タタタタ。

男「くそっガキどもめ、なめやがって」

男「しかも、いつの間にか呼び捨てかっ」

子供2「もうへばっちゃったのー?」

男「違うっ! 少し歩き難いだけだっ!」

男「見てろよっ! 今から、俺の本気を出してやるっ!」

──ぴょんぴょんぴょんっ。

子供4「うわああっ、片足だけで走ってくるっ!?」

男「こらああ、待てーっ!」

子供6「きゃー、逃げないとっ!」

タタタタッ。

男「おらーっ、意地でも捕まえてやるからなーっ!」

ぴょんぴょんぴょんっ。

188 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:12:56.87 ID:zaTWzoQ0 [2/26]
──数十分後

男「はぁ……はぁ……はぁ……」

男「くそっ……逃げ足だけは早い奴らだ……」

男「足さえ治れば、俺だって……」

エルフ「お疲れさまです」

男「……ああ、来てたのか」

エルフ「ごめんなさいね、子供たちの面倒を手伝わせてしまって……」

男「いいんだ、家に一人でいてもつまらないしな」

男「それならこうやって、身体を動かしていた方がいい」

エルフ「……子供たち、とても楽しそうでした」

男「そうか、なら良かった」

エルフ「しかし、凄いですね。片足だけであんな素早く……」

男「ん、まあな……」

男(後半は、本気でやってたからな……)

男(大人げなく、負けず嫌いの性格が出ちまったぜ……)

エルフ「向こうの人は、片足で走る訓練でもしてるんですか?」

男「……はっ?」

エルフ「練習無しでは、あんなに続きませんよね。私ならすぐにバランスを失いそうです」

男「……いや、そうじゃない」

エルフ「違うんですか?」

男「そんな変な訓練をする習慣はない……俺の知る限りでは……」

エルフ「あーそうですか……」

男(……何故、少し残念そうなんだ……)


189 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:13:24.96 ID:zaTWzoQ0 [3/26]
エルフ「ちなみにあのゲーム、なんて言うんです?」

男「『鬼ごっこ』だ」

エルフ「……おに?」

男「んー、どう言って説明すればいいか」

男「頭の上に角があって、凶暴な性格をしている妖怪……少し人間に似ている想像上の生き物だ」

エルフ「頭に角ですか……その発想は驚きです……」

男「で、その鬼が皆を追いかける役。タッチしたら、今度は相手が鬼」

エルフ「鬼は伝染するんですかっ!!」

男「いや……その……」

エルフ「そんなゲームがあるなんて……すごいところですね、男さんの世界は」

男「…………」

男(……意外に、エルフって天然キャラかもしれない……)


190 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:13:57.26 ID:zaTWzoQ0 [4/26]
──村

男「……天気、まだ良くならないな」

男(雨は降らないが……この霧が視界を遮る)

男(どうやら、少し特殊な気候変動のようだな……)

男(幻想的な景色であるが……ただ……)

男「…………」

男「……道に、迷った……」

男(エルフが忘れた弁当を取ってくる予定だったんだがな……)

男(意地張って、一人で行くなんて言わなきゃ良かった……)

男「どう……するか……」

男「しかし、霧のせいでどっちに向かっているか分からない」

男「……ん、でも……」

男(散策も兼ねて、この辺りを色々見て回るか)

トコ……トコ。

男(……どの建物もほとんど一緒だな……)

男(これは、迷うぞ……)

男「…………」

?「おーいっ、男ーっ」

191 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:15:29.51 ID:zaTWzoQ0 [5/26]
男「ん?」

男「あっ、親友か……」

親友「こんなところで何してる? もしかして、迷ったか?」

男「さすが鋭いな……その通りだ」

親友「馴れるまでには、時間がかかるからな」

親友「……で、行き先はどこだったんだ?」

男「学校から、エルフの家に向かってた……」

親友「そうか……となると、ここは完全に逆側になるな……」

男「……マジか……」

親友「これ以上迷われても困るしな、後で私が付き添ってやる」

男「すまない……」

親友「別に気にするな。それで、少し来てくれ」

トコ……トコ。

男「お、おいっ、一体、どこに行くんだ?」

親友「私の家だ。昼飯でも食ってけ」

男「……まあ、いいが」

男(エルフが折角弁当用意してくれたんだがな……)

男(……無駄に善意を裏切りたくないし、ここは乗っておくか)

親友「他人に飯を食べてもらうなんて、何年ぶりのことだろうな」

男「…………は、はは」

男(……激しく不安だ……)


192 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:16:57.52 ID:zaTWzoQ0 [6/26]
──親友の家

親友「ほれ、遠慮なく座ってくれ」

男「……意外に綺麗なんだな」

親友「……失礼なやつだ。掃除くらい出来るさ」

男「いや、本当に、ちょっと見直した」

親友「……まあ、分かった。ただ、それ以上は言うなよ」

男「……わ、わりぃ」

ガサガサ。

親友「料理って言ってもな、エルフみたいなのは作れないからな」

男「やっぱり、あれはここでも凄い部類なんだな」

ガサガサ。

親友「凄いなんてもんじゃない……神がかっている」

男「確かに、そうか。……で、何やってんだ?」

ガサガサ。

親友「いや、材料を何にするか考えている」

男「軽く済ませられる感じでいいぞ」

親友「んー……とりあえず、何か食べたいものはあるか?」

男「……そうだな」

男(こっちに来てからというもの、食べ物に関しては不自由してないからな)

男(エルフの料理は最高だし、こっちの食材も自分に合っているような気がする)

男(……ただ、一つあるとすれば……)

193 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:17:23.58 ID:zaTWzoQ0 [7/26]
男「肉料理は食べられないか?」

親友「……肉? なんだ、食べたいのか?」

男「ああ、こっちきてからというもの食べてなくてな」

親友「……それは、そうだろうな」

男「エルフが作るものは、ほとんどが野菜で出来ているし」

親友「向こうでは、食べる習慣があったのか?」

男「ん? その言い方は……」

親友「そうだ、私達は肉を食べない」

男「……ああ、そういうことか……」

親友「そういった習慣はないし、誰も好まないからな」

男「悪いな、変なこと言っちまって……」

男(文化が違うわけだもんな……そういうこともある……)

親友「……けど、それらの料理は作れないが」

親友「それに似たような物、作ってみようか」

男「……味を知らないのに、大丈夫なのか?」

親友「任せろ。いいから、お前は指でもくわえながら待ってればいい」

男「……なら、そうするが」

194 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:19:40.91 ID:zaTWzoQ0 [8/26]
──数十分後

親友「…………」

男「…………」

親友「……失敗だ」

男「ま、まあ、食えないこともないぞっ」

親友「……無理しなくていい、こんなの食べ物じゃない……」

男「いけるって。お前が食べないなら俺が食べるぞ?」

パクっ。

親友「お、おいっ……」

男「ん……もぐもぐ……これはこれでいけると思う……」

親友「……嘘言うな。私も少し食べたんだからな……」

男「そうか? 何度も噛み締めると味が変わってくるぞ?」

親友「……もう、いい。……すまない」

男「……もぐもぐ……もぐもぐ……」

男「──……ん。うまかったぞっ」

親友「……全部食べたんだな……」

男「ああ、初めはどうかと思ったが、意外に美味しかったよ」

親友「……ありがとう」

男「それを言うのはこっちの台詞だろ?」

男「作ってくれて、本当にありがとうな」

親友「…………」

195 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:20:18.41 ID:zaTWzoQ0 [9/26]
ガタンッ……。

男「よし、腹も膨れたことだし……」

親友「あっ……」

男「……一緒についてきてくれるんだろ?」

親友「そ、そうだったな……」

男「道案内よろしく頼む」

親友「おうっ、任してくれ。最短ルートで着いてやる」

男「ははっ、それは期待出来るな」

トコ……トコ。

親友「…………」

親友「……男」

男「ああ、何だ?」

親友「……今日は、楽しかった」

男「……そうか」

男「俺も、楽しかったよ。ありがとな」

親友「…………」

親友「……い、行こうか」

男「ん、頼む」

196 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:20:45.54 ID:zaTWzoQ0 [10/26]
──一ヶ月後 学校

男「あーもう、だから違うって」

子供1「えー、これは二つ進めるんじゃないの?」

男「桂馬は……」

カチッ……カチッ。

男「──こうやって動くことしか出来ない」

子供4「……使えない駒だね」

男「おい、そこ。桂馬を馬鹿にすんな」

子供1「じゃあ、コレは?」

男「飛車は縦横無尽に動けるぞ」

子供1「うおっ、それは強いじゃん。じゃあこれは……」

ぐいぐい……。

子供2「ねぇ、男。あっちで鬼ごっこしようよぉ」

男「んあー、ちょっと今は無理……」

男「──って、違う違うっ、角行は斜めに動けんのっ」

子供1「あっ、そうか」

ぐいぐいっ。

子供2「つまんなーい……つまんなーいっ」

男「分かった、分かったからっ」

男「この一戦が終わったら、下でやりに行こう」

子供2「ほんとっ?!」

男「ああ、約束する。その間は他の連中と遊んでこい」

子供2「約束だからねっ! 早く男も来てねっ!」

タタタタッ。

197 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:21:48.57 ID:zaTWzoQ0 [11/26]
男「ははっ、元気一杯だな」

男「ん? まだ次の手決めかねてんのか?」

子供1「んー……これで行こうかな……」

男「……え?」

カチッ。

子供1「どうだろ、王手じゃないかな?」

男「はは、何馬鹿なこと……」

男「──って、あれ……? う、嘘だろ……」

男「いやいやっ……」

男(どこか穴があるに違いない……いや、絶対あるはず……)

男「…………」

男「……そんな馬鹿な……詰んでるわ……」

子供1「待ったなしだからね」

男「…………」

198 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:22:27.59 ID:zaTWzoQ0 [12/26]
──エルフの家

ギュッ……。

エルフ「痛みますか?」

男「んー、そんなには」

ギュッ。

エルフ「ここはどうです?」

男「大丈夫だ」

エルフ「ん。もう、よさそうですね」

男「そうか、歩いてもいいか?」

エルフ「はい、過度な運動をしない限り大丈夫だと思います」

男「はぁー……これでやっと杖の生活から解放されるのか……」

エルフ「良かったですね。これからは、鬼ごっこに負けることもないですし」

男「まあな、俺を舐め切っているあいつらに、本当の実力を見せてやらねばならん」

エルフ「ふふっ、楽しそうですね」

男「ああ。……しかし、意外に治るのが早かったな」

エルフ「確かに骨折にしては治りが早かったですね。もしかしたら、折れてはいなかったのかも?」

男「そうか……とりあえず、歩いてみる」

トコ……トコ……トコ。

エルフ「痛みはありますか?」

男「いや……大丈夫。少し違和感はあるが、何とかなりそうだ」

エルフ「筋力が衰えていますからね。ちょっとの間は辛抱です」

男「そうだな……よし、ちょっくら行ってくる」

エレフ「えっ? どこにですか?」

199 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:22:55.69 ID:zaTWzoQ0 [13/26]
男「親友の家だな。心配してたから、一応、報告したほうがいいと思ってな」

エルフ「あ、ああ、親友ですか……」

男「ん? どうかしたか?」

エルフ「いやっ……別に何でもないです。気にしないで下さい……」

男「ならいいが……」

男(何だろう……この違和感……)

男「どうだっ? 今日、久しぶりに皆で夕飯でも食べないか?」

エルフ「…………」

男「どうした? エルフ?」

エルフ「……あ、はい、そうですね。親友がよければ、やりましょう」

男「……お、おう。誘ってみるよ」

エルフ「では……」

男「ああ、行ってくる」

ガチャ。

エルフ「…………」

200 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:23:28.15 ID:zaTWzoQ0 [14/26]
──親友の家

コンコンッ。

男「…………」

コンコンッ。

男「……ん? いないのか?」

男「おーいっ、中にいるなら開けてくれー」

コンコンッ。

親友『……ん、だれだ……?』

男「俺だよ。少し、話したいことがあって来た」

親友『……ああ、男か……』

男「どうした? 声に元気がないぞ? もしかして風邪でも引いたか?」

親友『いや……そういうことではない……』

男「無理ならまた後日改めようと思うが……」

親友『いいや……今、開ける』

ガチャ……。

男「……お、おい」

親友「……とりあえず、中に入ってくれ……」

男「凄く顔色が悪いが、本当に大丈夫なのか?」

親友「ああ気にするな……寝起きだっただけだよ……」

男「そうか……」

親友「ほら、腰掛けてくれ……」

男「ん……分かった」

すとんっ。

201 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:24:11.16 ID:zaTWzoQ0 [15/26]
親友「で、話って何だ……?」

男「あーそのな……俺のことなんだ」

親友「……男のこと? 何かあったのか?」

男「ほら、足」

親友「……あれ、杖はどうした……?」

男「実は、もう治ったんだ」

親友「それは良かったが……骨折じゃなかったのか?」

男「俺もよく分からんが、折れてなかったのかもしれない」

親友「……もう、歩けるんだな?」

男「ああ、ここまで杖なしで来たのがその証明だ」

親友「そうか……良かったな……」

男「おうっ、ありがとう」

親友「……本当に良かったよ……」

男「あ、ああ……」

親友「…………」

男「……どうした? 何か変だぞ?」

親友「……ふふっ、そう見えるか」

男「何か、問題があるのなら……」

親友「…………」

202 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:24:37.67 ID:zaTWzoQ0 [16/26]
親友「いや……特にない。寝起きはいつもこんな感じでな」

親友「心配させてすまない……」

男「なら、いいが……」

親友「話はそれで終わりか……?」

男「あ、いや、今日のことで少しある」

親友「今日……?」

男「エルフの家で、また前みたいに一緒に飯を食べないか?」

親友「……お誘いか……」

男「前回も最終的には楽しかったし、今日もいい感じで盛り上がるはずだぞ?」

親友「……そうだな……楽しそうだな」

男「よし、なら来るな? 夜、待って……」

親友「──……だが、残念だが今日は遠慮しとくよ……」

男「えっ? どうしてだ?」

親友「……少しやらねばならない仕事があってな」

男「今日中じゃなければ駄目なのか?」

親友「ああ、本当にすまないな……誘ってもらったのに……」

男「いや、気にすることないさ。また、違う日にでも誘うよ」

親友「ありがとう……感謝してる……」

男「…………」


203 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:26:34.68 ID:zaTWzoQ0 [17/26]
親友「……なあ、男」
男「……ん? どうした?」

親友「……お前、覚えてるか?」

男「……つまり?」

親友「……私とお前が交した約束だ……」

男「…………」

男(勿論、覚えている……忘れるわけないだろ)

親友「頼んだぞ」

男「……ああ、分かってる」

親友「……その返事が聞きたかった」

男「…………」

親友「少しだけ、私の独り言に付き合ってくれ」

男「別に構わないが……」

親友「そうか、ありがとう……」

親友「私は……お前と初めてあった日を今でも鮮明に覚えている」

親友「過去も何もかも不明なお前に、心底私は疑いの目を向けていた」

男「…………」

親友「だが、この一ヶ月」

親友「一緒に過ごして、一緒に話して」

親友「今は、確実に言えるよ……。男、お前は良い奴だ、本当にな」

男「……なんだ、恥ずかしくなってくるだろ……」

親友「お前を信頼しているよ。心の底から」

男「……親友」

親友「……また、遊びにこい」

親友「じゃ……な……」

ガチャ。
男「…………」

204 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:27:25.65 ID:zaTWzoQ0 [18/26]
──エルフの家

男「ただいま……」

エルフ「あっ、おかえりなさい」

エルフ「親友……なんて言ってました?」

男「……駄目だった」

エルフ「…………」

男「分かってたのか? そうアイツが返答するの」

エルフ「……別に、そういうわけではありません……」

男「顔が真っ青だった」

エルフ「…………」

男「声も喉の奥から振り絞るような酷いものだった」

男「アイツは寝起きだと言い訳していたが……」

男「それを信じるほど俺は馬鹿じゃないし、能天気でもない」

エルフ「……男さん、考え過ぎですよ」

男「…………」

エルフ「じゃあ、私、ご飯の準備してきますね」

トコ……トコ……トコ。

男「なあ、エルフ」

エルフ「……え?」

205 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:27:53.92 ID:zaTWzoQ0 [19/26]
男「お前にはまだあまり喋っていないが……」

男「俺は前の場所で、少しの間ではあったが、色々ヤバい世界の中にいた」

エルフ「…………」

男「隣で死に絶える仲間を何人も見て来たし」

男「拷問で精神が狂っちまった奴も知っている」

男「……俺はな、エルフ」

男「分かってんだよ。今日の親友が普通じゃないってことをさ」

エルフ「……お、男さん……」

男「アレは……既に全てを諦めた目だ」

男「この世にいながらにして、心はもうあっちに逝きかけてる」

男「なあ、教えてくれ」

男「アイツは……親友は……何を恐れている?」

エルフ「…………」

男「この村には、一体、何があるんだ?」

エルフ「……そ、それは」

男「もう騙すのはやめろ。俺を欺くのは、お前には無理だ」

エルフ「…………」

206 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:29:54.44 ID:zaTWzoQ0 [20/26]
男「はっきり言う」

男「──取り返しがつかなくなってからでは、遅いぞ」

エルフ「……ッ」

男「何事にも迅速に、正確な判断が求められる」

男「俺が数年の間に知ったことだ。お前は、今、それに直面している」

エルフ「わ、たしは……」

男「どうする? どの選択を選ぶ?」

エルフ「……うっ……くうっ……」

男「…………」

エルフ「……っ……うぅ……」

男「…………」

男「話したくなったら、俺のところに来い」

男「力になれるか分からないが、何もしないよりはマシだ」

男「ただ……」

男「どうやら、残された時間はそう無いようだな」

エルフ「ううぅ……うわあぁぁっ」

207 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:30:54.86 ID:zaTWzoQ0 [21/26]
──自室

男「…………」

男(少し鎌をかけたところはあったが、うまくいったかな……)

男(しかし、あの取り乱しようは尋常ではない……)

男(……普段の様子からでは分からなかったが、何かがそこにはある)

男(日々を偽って生活しているような……そんな錯覚に落ち入る)

男「……或いは」

男(そもそも錯覚ではなく……本当にそうだったら?)

男「…………」

男「まだ……来ないか……」

男「もう……四時間は経つんだがな……」

男「最悪の場合……」

男(エルフが来ないことを考える必要があるな……)

男(もう少し待ってこなかったら、俺だけでも親友の側にいよう)

男(そうすれば何かあった時に、対処できる)

男(だが……情報があまりにもないのは気がかりだ……)

男(…………)

男「保険をかけてとくか……」

ガサッ。

男「…………」

208 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:32:47.16 ID:zaTWzoQ0 [22/26]
──居間

男「…………」

エルフ「…………」

男「なぁ……」

エルフ「あっ……男さん……」

男「まだ、決心はつかないのか?」

エルフ「…………」

男「もしかして……」

男「話したことによる、俺の心配をしてたりしないだろうな?」

エルフ「……そ、それは……」

男「ああ、やっぱりそうか。何だ、それは大きな間違いだぞ」

エルフ「…………」

男「お前が今、一番に心配しなければいけない者は俺ではない」

男「親友とは、小さい頃から一緒に過ごしてきたんだろ? 」

エルフ「はい……」

男「一ヶ月前に唐突にやってきた俺と、親友」

男「比べるまでもない……違うか?」

エルフ「…………」

男「何か、言ってくれ……これじゃあ、埒があかない」

エルフ「……だ、だって……」

エルフ「男さんに話したところで、何も変わりません……」

男「…………」

男(ははっ、信用ねぇな……)

209 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:33:17.14 ID:zaTWzoQ0 [23/26]
男(確かに、この家で暮らしている俺を見たら、そう思うか……)

エルフ「それなのに、男さんが巻き込まれる必要は……」

男「……いいか」

男「時には、何かを犠牲にしてでも成さねばならない時がある」

エルフ「でも……」

男「そして、今、その犠牲は俺が担う。どう転んでも、俺だけが損を喰らうはずさ」

男「助けてもらった恩返し……ここで、させてくれないか?」

エルフ「…………」

男「…………」

男(……ああ、駄目だ……)

男(……エルフは既に諦めている……)

男(……仕方ない……)

男(俺だけでもアイツの家に行くか……当たって砕けるしかないな)

男(しかし、そこまで絶望を与えるものとは何なんだ……?)

男(……くそっ、全く想像がつかない……)

男「とりあえず……時間の問題があるからな」

エルフ「えっ……」

男「行ってくる」

エルフ「ど、どこにですかっ?」

男「それは勿論、親友のところに決まっている」

エルフ「だ、駄目ですっ!!」

ギュッ!

210 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:33:48.72 ID:zaTWzoQ0 [24/26]
男「……離してくれ」

エルフ「嫌ですっ……意地でも離しません……」

男「手荒な真似はしたくない。しかも、命の恩人に対しては尚更だ」

エルフ「私、死んでも離しませんからっ!」

男「…………」

男「……ふぅ……」

ザザッ……!

エルフ「……へっ?」

……バンッ。

男「座って帰りを待ってろ」

エルフ「今、私……宙に浮いた……?」

男「……じゃあな」

エルフ「ちょっ、ちょっと待って下さいっ!」

エルフ「男さん、貴方……」

──バァァアアンッ!!

男「なっ……」

エルフ「あっ……」

男「……今の、一体、何の音だ……?」

エルフ「さ、さあ、私には分からないですけど……」

男「…………」

……タタタタタッ。

エルフ「あっ、男さん! 行っちゃ駄目っ!!」

211 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:36:53.82 ID:zaTWzoQ0 [25/26]
──村

タタタタタッ。

男「……ッ……」

男(急げ……急げっ!)

男(分かっている……確実にこのタイミングは何かあるっ!)

タタタタタッ。

男(音の出た方は、ちょうど村の奥の方だ)

男(だが……あっちには何もないはず……)

男(親友の家とは方向が違うが……それでも、安心は出来ない)

男(とにかく急ごうっ!)

タタタタタッ。

エルフ「はぁ……はぁ……はぁ……」

エルフ「ま、待って……男さんっ……」

男「…………」

男(エルフ……まだ、ついて来てるのか……)

男(よくこのスピードに堪えているな……)

男(……だが)

男(悪いが、急がせてもらう)

男「……先に行ってるぞ」

タタタタタタタッ。

エルフ「……えっ?」

エルフ「は、早い……」

212 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:39:19.71 ID:zaTWzoQ0 [26/26]
──村の外れ

男「くっ……どこだっ」

男(何とか、ここまで辿り着いたが……)

男(……もう相当、奥深くまで来ているぞ……?)

男「…………」

男(駄目だ……がむしゃに考えるな、頭を落ち着かせろ……)

男「……ふぅ……」

男「よし……」

男(……ひとまず、落ち着いたな)

男(方角も場所も恐らくあっているだろう……だから、この近く)

男(村を過ぎて、森の中まで入ってきている)

男(ここに彼女たちの誰かが暮らしているとは、到底考えられないが……)

男(……ん? 何だ?)

男「……この臭い……」

男「これは……」

タタタタタタタッ。

男「……ッ……」

男(何度も嗅いだことがある……)

男(時には作戦中に……或いは、武器整備の時に……)

男(あの臭いは……火薬……)

男「………爆発があったというのか……」

男(どこで? 一体、どうして?)

タタタタタタタッ。

213 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:40:54.96 ID:zaTWzoQo [1/52]
男「臭いを辿ろう……」

男(神経を集中させろ……ん……)

……タタタタッ。

男「よしっ……」

男(だんだん臭いがキツくなっている)

男(間違いなく、この方向で正しいはずだ)

男(……どこだ、どこで起きた?)

トコトコトコ……。

男「ん?」

男「……あれは……」

男「…………」

214 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:42:21.27 ID:zaTWzoQo [2/52]
──数十分後

エルフ「お、男さん……」

男「おう、よく場所が分かったな」

エルフ「男さんが通っていた後は、草達が潰れてましたから」

男「森に暮らしているだけあるな。俺にはそのスキルはないよ」

エルフ「そんなことより……今は……」

男「ああ、俺も聞きたいことが山ほどあるからな」

エルフ「…………」

男「なぁ……」

エルフ「えっ?」

男「ちょっとついてこい」

トコトコトコ……。

エルフ「え、ちょっと私……」

男「いいからこっちこいよ」

エルフ「…………」

男「……どうした? 何か問題でもあるのか?」

エルフ「……私は行きたくありません」

男「変なことをするつもりはさらさらないさ、早くこっちに来な」

エルフ「…………」

ジャバジャバジャバ……。

215 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:42:54.32 ID:zaTWzoQo [3/52]
男「ほら、この小川の向こうだ」

エルフ「……嫌です」

男「いいから、早く来い。見せたいものがあるんだから」

エルフ「…………」

男「仕方ないなぁ」

ジャバジャバジャバ……。

男「そんなに頑なに拒むって言うなら……」

トコトコトコ……。

エルフ「なっ……」

男「……俺が、連れてってやるよ」

ガシッ。



216 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:43:24.23 ID:zaTWzoQo [4/52]
エルフ「や、やめてっ! 離してくださいっ!」

男「ほら、いいからこいって」

エルフ「いやっ、いやっ! お願いだから離してッ!!」

バンッ。

男「……ッ……痛いな、だが俺は離さんぞ」

エルフ「いやいやいやいやっ! やだっ!」

男「ほら、後少しだ」

男「もうすぐで、川に入るぞ?」

エルフ「いやあああああああああああっ!」

男「…………」

エルフ「やだ……やだ……死にたくない……死にたくないです……」

男「…………」

エルフ「だめ……もう、やだ……頭……うぅ……」

男「……やはり、か」

パッ……。

エルフ「えっ……?」

男「悪かったな、無理矢理こんなことして」

エルフ「……いや、その……」

男「ちょっと、試したかったんだ。お前が幾ら経っても、話そうとしないからさ」

エルフ「…………」

男「でも、もう分かった。そういうことなんだな」

エルフ「な、何が……何だか私には……」

男「…………」

男「エルフ、お前……」

男「──頭の中に、爆弾があるんだろ?」

エルフ「……ッ」

217 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:45:29.24 ID:zaTWzoQo [5/52]
──森

ズズ……ズズ……。

男「……うしっと」

男「ほら、持ってきてやったぞ」

エルフ「…………」

男「見るからに、酷い死体だな。こんな状態なのは俺も初めて見る」

男「頭の部分だけ無惨に吹き飛んじまっている、なんてな」

エルフ「……うっ……」

男「よく見てみれば分かるが……」

男「外部からの爆発では、こんな風に綺麗に頭だけは無くならない」

男「大体、他の部位も吹っ飛んで、後に残るのは幾つかの千切れた身体の破片」

男「……だが、これは違う」

エルフ「うぅ……うぅ……」

男「内部から爆発したんだ。バーンッ……って」

エルフ「……も、もういいです……」

男「いいのか? 解説しなくて」

エルフ「も、もういいですから……私はこれ以上、見たくも聞きたくもありません……」

男「おいおい、そんな様子でどうする?」

男「少し間違ったら、お前もこうなっちまうんだろ?」

エルフ「……ッ」

男「……格好から考えて、この死体の元は村の住人だ」

男「どうして逃げようとしたのかは分からないが、この有様」

男「どうだ? 少しぐらい、自分に置き換えて考えられるだろ?」

エルフ「…………」

218 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:46:55.57 ID:zaTWzoQo [6/52]
男「それとも何だ? 自分と他人は違うってか?」

男「他人がこうやって死のうが、私には全く関係ないし、知りたくもないって?」

エルフ「……ッ」

男「毎日、偽りながら繰り返しの生活を続けて……」

男「……いつ死ぬかもしれないという恐怖を必死に隠して」

男「楽しいか? それで、満足か?」

エルフ「……ッ!」

男「……この様子だと、あの子供たちにも同じ処置がなされているんだろうな」

男「笑顔で元気一杯な無垢な少女たちが、その実、死との隣り合わせの日々を送っている」

男「それに、お前は胸が痛んだり……」

エルフ「──あなたに一体何が分かるっていうんですかッ!!」

男「…………」

エルフ「一ヶ月前に他所からやってきた貴方にっ! 私達の何が分かるんですかっ!!」

エルフ「毎日、恐怖して……次は私の番じゃないかって怯えてっ!」

エルフ「学校で子供たちに笑顔で接している傍ら……」

エルフ「実際は、その学校自体が子供たちを逃がさないための施設で……」

エルフ「それを分かっていて……辛くて苦しいのに……日々を送らねばならない私の気持ちが……」

エルフ「──貴方に分かる訳もないじゃないですかっ!!」

男「…………」


219 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:47:47.06 ID:zaTWzoQo [7/52]
男(やっと……話してくれたな……)

男(ここまで怒らせないと無理だとは……意外に、頑な奴だ)

男(よし、こうなったら出来るだけ聞き出そう)

男「……では、食料がたくさんある訳は?」

男「村のどこを見渡しても、作物を栽培している様子はなかった」

男「しかし食うに困らない……いや、余るほどの食料があるのは何故だ?」

エルフ「そんなの簡単です……」

エルフ「中央から送られてくるんですよ……」

男「中央?」

エルフ「男さんはここが未発達の世界だと考えているのかもしれませんが……」

エルフ「……ここは結局、作られた自然に過ぎないんです」

男「……それは」

男(……どういうことだ……? 作られた自然?)

エルフ「男さんの言う通りですよ……私達は、この村から出ることが出来ない」

男(それはつまり……)

男(水浸しになるという、不便な場所でわざわざ暮らす理由か……)

エルフ「子供も例外ではありません……全員、頭に細工がされているんです」

エルフ「まだ幼く何をするか分からない子供たちは、基本、学校で寝泊まりをしています」

男(そういえば、ある時、子供たちが言っていたな……)

男(みんな学校で暮らしてるんだよって……)

男(……そのとき、違和感を感じたが……そういう理由だったのか)

220 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:48:40.52 ID:zaTWzoQo [8/52]
男「……では、最後に」

男「こいつが逃げ出した理由は何だ?」

エルフ「…………」

男「親友と……関係してるんだろ?」

エルフ「……ッ」

男「頼む……話してくれ……こんな状況はあまりにも異常すぎる」

男「俺に、お前の気持ちが分かる訳もない」

男「……こんな苦しみが続く世界を、俺は知らないからな……」

エルフ「…………」

男「もしかして、諦めるという手段を取るしか、自分の精神を保てないのか……?」

エルフ「……うぅ……」

男「……頼む……話してくれ……」

男「望みが少しでも生まれることは……そんなに悪いことじゃないはずだ……」

エルフ「……うぅ……くうっ……」

男「初めて親友と家で会った時……」

男「……帰りにアイツにこう約束させられたんだ」

エルフ「……え?」

男「『何かあったら、エルフを助けてやってくれ』ってな」

エルフ「そ、そんな……」

男「今日も念を押されたよ。アイツはお前のことを本当に大事に想っている」

男「…………勝手な推測だが」

男「自分に……脅威が迫っているにもかかわらずな……」

エルフ「……うぅ……うああ……」

エルフ「……ごめん……ごめんなさい……うぅっ……」

エルフ「……っ、ご、めんっ……う、あぁ、うわああああっ!」

222 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:50:02.90 ID:zaTWzoQo [9/52]
男「…………」

男(辛いだろうな……想像もつかないほど……)

男(しかし、何の目的でこんな残酷なことをしているんだ……?)

男(そして、この死体の主のように、どうして逃げる必要があった?)

男(村の中は安全なんじゃないのか?)

エルフ「……お、男さん……」

男「……ん?」

エルフ「……さきほどからの男さんの行動を見て……」

エルフ「私……確信しました……男さんは、きっと何かを成せる人です……」

男「…………」

エルフ「まずは……初めのことから話さないといけません……」

エルフ「私がどうして……男さんを……この村に連れて来たのか……」

エルフ「私……初め、男さんのことを中央の人だと思ってたんです……」

男「……中央? 俺が?」

エルフ「はい……中央の人は私達とは違って、耳も長かったりしませんから……」

男(どういうことだ? この世界にも人間がいるのか?)

エルフ「でも、話してみると、全然そんなことはなくて……」

エルフ「大きな誤解をしていて……すみませんでした……」

男「……いいや、謝る必要なんてない」

エルフ「で、でも……」

男「いいんだ……。それより……親友のことは?」

223 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:52:06.18 ID:zaTWzoQo [10/52]
エルフ「…………」

エルフ「……お願いします……」

エルフ「……男さん……聞いても驚かないでくださいね……」

エルフ「今から、私達のことを話します……もう、隠し通すのは無理ですから……」

男「…………」

エルフ「……ふぅ」

エルフ「……ちょっと、勇気がいりますね……」

エルフ「男さんに、軽蔑されるんじゃないかと思うと辛いです……」

エルフ「でも決めました……もう、言うことにします」

男(……軽蔑? 意味がわからない……)



224 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:52:49.96 ID:zaTWzoQo [11/52]
エルフ「初め、男さんは私の姿を見て」

エルフ「エルフという架空の種族に似ていると言っていましたよね」

男「あ、ああ……」

エルフ「魔法が使えて……長生きもして……」

エルフ「前も言いましたが、私達はそんな性質を持っていません……」

男「でも、女しかいないんだろ?」

エルフ「……はい、そうです」

エルフ「それも……実はきちんとした訳があるんです」

エルフ「この村に、歳をとった者がいない訳も」

エルフ「中央から、大量の食料が送られてくる訳も」

エルフ「そして……」

エルフ「この村から逃げられないように、処置がされている訳も……」

エルフ「全て、説明がつきます……」

男「……それは……」

エルフ「…………」

エルフ「聞いても、今までと同じ様に接してくれること祈って」

エルフ「……いいですか、男さん」

エルフ「……実のところ、私達は……」

エルフ「──……『食料』なんですよ」

225 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:53:24.54 ID:zaTWzoQo [12/52]
>>221 #^ω^)

226 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:54:11.38 ID:zaTWzoQo [13/52]
──村

エルフ「男さん、本当に行くんですか……?」

男「ああ、エルフは家で帰りを待っていてくれ」

エルフ「わ、私も……」

男「──はっきり言おう。正直、足手まといになるだけだ」

エルフ「…………」

男「残念なことに、俺はまだ何の解決策も見つけられていない」

男「必死に頭という頭を使っているが……」

男「どう足掻いても根本的な問題は残ってしまう」

エルフ「……男さん……」

男「でもはっきりしていることはある」

男「誰かが何かをしなければ……この負の連鎖は一生続くだろう」

エルフ「…………」

男「親友が、あの死体のように……或いは、工場で解体されるのを」

男「俺は、見過ごせない」

エルフ「……ッ」

男「そうだ、良いことを思いついた」

エルフ「えっ……」

男「今から、お前と新たに約束を交そう」

男「俺は……お前の友を、必ず救ってやる」

エルフ「……あ、ああ……」

男「これは約束であり、契約だ。決して切れることはない」

エルフ「……わ、わたし……」

男「……お前にも、やって欲しいことがある」

227 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:54:46.63 ID:zaTWzoQo [14/52]
エルフ「何でしょうかっ、私、何でもやりますっ!」

男「……俺を」

男「──ただ、信じていて欲しい」

エルフ「……信じる?」

男「そうだ、俺を心の底から信頼して、大いに望みを抱け」

エルフ「で、でも……」

男「もう、裏切られることを恐れるな。胸に確かな希望を持つんだ」

エルフ「希望を持つ……」

男「そうすれば、きっと、今には見えないものが見えてくる」

男「自分が今やるべき行動が、選択が、必ず取れるはずだ」

エルフ「…………」

男「いいか、出来るか?」

エルフ「……はい、約束……契約します……」

男「…………」

エルフ「私は……男さん……あなたを……」

エルフ「──心の底から信じますっ!」

228 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:55:22.46 ID:zaTWzoQo [15/52]
──村

トコトコトコトコ。

男「…………」

男(ずっと考えてた)

男(どうして、俺がこんな目に遭うんだろうって)

男(何も悪いことはしていないのに、こんなに運命に振り回されるのは何故だって)

トコトコトコ。

男(自分の人生に嫌気がさして)

男(何も変わらない、つまらない日々を呪って)

男(あらゆることから逃げて来た俺……)

トコトコ。

男(……初めは妹を持ちたいと軽い気持ちで考えていた)

男(それが次の瞬間、見知らぬ収容所に押し込まれて)

男(気が付けば、テロリストの仲間になった……そして、自分の本質が変わっていくのを感じたんだ)

男(国を変えようと本気で決意した時、何かが、胸の中で生まれた)

トコトコ。



229 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:56:01.73 ID:zaTWzoQo [16/52]
男(……きっとそれは確信だった)

男(変えられないものなど、何もない)

男(どんなに苦難な道だとしても、諦める以外の方法が必ずある)

男(あの最後の作戦の日、それを身に染みて痛感した)

トコトコ……ピタッ……。

男「…………」

男(だから、今なら分かるんだ)

男(どうして、俺がこんな目に遭うのか)

男(運命がここまでして俺に難題をぶつけて来たのは何故か)

男(それは、すべて……)

男「……今日という日のためだったんだな」

──バンッ。

230 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:56:35.50 ID:zaTWzoQo [17/52]
──親友の家

バンッ。

親友「うわっ……だ、誰だっ!?」

男「入るぞ」

親友「その声は……お、男か……」

親友「ど、どうしたんだ……こんな夜遅くに……」

親友「今日はやることがあると言ったろ……早く、帰ってくれ……」

男「……いいや、駄目だ」

親友「いいから帰れっ!」

親友「頼むからっ! 私を一人にしてくれよっ!」

男「……それが本心か?」

親友「えっ?」

男「本当に心の底からそう思っているのか?」

親友「ど、どういうことだ……?」

男「もういいと諦めて、ただ終わりの朝を待つのか?」

親友「……ま、まさか……エルフが……話したのか……?」

親友「くそっ……なんでまた……」

男「いいか、よく聞け」

男「俺は今、猛烈に腹が立っている」

親友「…………」

231 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:58:25.54 ID:zaTWzoQo [18/52]
男「理由は簡単だ。お前にも分かるだろ?」

親友「……もう私には生きることが出来ないと……諦めたから?」

男「違う」

男「お前が、俺を頼らなかったからだ」

親友「……うっ」

男「友を助けたいと俺に託したよな? 信じられると」

男「それなのに、何故自分のことは黙っていようとした?」

男「それで俺が納得でもすると思ったのか?」

親友「そ、そういうわけでは……」

男「悪いな。俺は執念深い男なんだ。今日はいつになく、無茶をさせてもらう」

親友「……だ、だがっ」

男「俺の心配をしようなんて思うなよ。これは俺が勝手にやっているんだからな」

親友「お、男……」

男「まずは、詳しい話を聞きたい」

男「あいつらは何時頃、ここにやってくる?」

親友「噂で……明け方としか……聞いていない」

男「何人で武装してくるのかはわかるか?」

親友「いや……それも分からない」

男「そうか、では質問を変える」

親友「あ、ああ……」

男「どうやって自分の番が来ると分かった?」

親友「数日前……家の前のところに手紙がおいてあった……」

親友「中には、赤字で今日の日付が書かれていただけだ」

233 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 11:00:32.16 ID:zaTWzoQo [19/52]
男「……その状況は、今までと一緒なんだな?」

親友「そう、聞いていた話と同じ。いつかは必ず来るとね……」

男「分かった……とりあえず、準備をしないといけないな」

親友「……準備って……」

男「奴らを迎える準備だよ。今のうちにやれることはやっておこう」

親友「…………」

親友「……なあ、男……」

男「ん? どうした?」

親友「お、お前……本当に……あの男か?」

男「…………」

親友「口調も少し違う気がするし……それに」

親友「その迫力みたいなものを一体なんなんだ……?」

男「……さあ、分からんよ」

男「ただ、やっと長年の疑問が解けたことが関係しているのかもな」

親友「……どういうことだ?」

男「──もうすぐに分かる、多分な」

235 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 11:01:53.63 ID:zaTWzoQo [20/52]
──明け方

男「……夜が明けたな」

親友「あ、ああ……」

男「そろそろだろう。打ち合わせ通り頼んだぞ」

親友「…………」

男「どうした、震えているじゃないか?」

親友「こればかりは……分かっていても……なっ?」

男「…………」

親友「……男……」

男「ん?」

親友「もしも失敗したら……」

男「──そんなことにはならない」

親友「…………」

男「いいから、予定通り行くんだ。分かったな?」

親友「…………」

男「返事はどうした?」

親友「あ、ああ……すまない……」

男「よし……なら俺は、少し、外に出てくる」

親友「だ、大丈夫なのか?」

男「安心しろ、恐らくまだだ」

237 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 11:02:35.45 ID:zaTWzoQo [21/52]
──外

男「……さて、どうするか」

男(このままやってきた奴らを蹴散らすのは、造作ない)

男(油断し切った相手を[ピーーー]のは、難しくないからな)

男(ただ……問題が一つある)

男「……この後、どうする……?」

男(そう、成功した後のことを考えなければならない)

男(今日で相手のメンバーを皆殺しにして、それで片付くほど単純ではない)

男(エルフたちを全員逃がそうと考えても……一体どこに?)

男(そもそも、彼女たちはこの村を離れることが出来ない)

男「今日を乗り切ったとしても……これからが大変だ」

男(異常を察知した相手側は、今度こそは油断せずにやってくるだろう)

男(仮にそれを乗り切ったとしても……また、次がある)

男(永遠に続いてしまっては……俺の身体は持たない)

男(…………)

男「……ん?」

男「そういえば、今日は、霧が晴れてるな……」

男「…………」

トコ……トコ……トコ。

男「……あれは何だ……?」

男「遠くに見える……あの尖った山……にしては、鋭角す……」

男「──あっ……」

240 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 11:05:49.99 ID:zaTWzoQo [22/52]
>>237
[ピーーー] ってwwwwww
特定ワードはこうなるのね

>男(油断し切った相手をコロスのは、難しくないからな)


241 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:07:41.73 ID:zaTWzoQo [23/52]
>>239
了解了解、ここの仕様よくしらねーんだわ


243 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:09:27.11 ID:zaTWzoQo [24/52]
──親友の家

ガチャッ!

男「おいっ、聞きたいことがあるっ!」

親友「ど、どうしたんだ……? えらい剣幕じゃないか……」

男「ここからずっと遠くに聳え建っている、あれは何だ?」

親友「あ、ああ……あれは、多分、中央の建物だ」

男「中央の建物?」

親友「やつらのシンボルさ……この村にもモニュメントがあるだろ?」

男「……そうか、そういうことだったのか」

男(だから、エルフは初めの日にあそこに案内したんだな)

男(あれを見て俺がどんな反応をするかで、確信を持ちたかったんだ……)

男(ん……待てよ……)

男(…………)

親友「で、それが一体どうかしたのか?」

男「あそこには……恐らく、中央の敵玉が居座っているだろ?」

親友「ああ、多分、そのはずだな」

男「…………」

親友「……男?」

男「よし、いいぞ……。これで最後の駒が揃った」

親友「最後の駒……?」

男「……親友、作戦を変更する」

親友「い、今更か? それで間に合うのかっ?」

男「ああ、大丈夫だ。今より、ずっと確実で……未来がある」

親友「……そうか、お前がそういうならそうなんだろうな……」

男「それでな……お前にやって貰いたいことが──」

244 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:10:31.92 ID:zaTWzoQo [25/52]
──三十分後

男「…………」

男「……来た」

親友「……わ、わかった……」

男「無理だと分かっているが、落ち着け」

親友「わ、悪い……だが、震えが止まらないんだ……」

男「…………」

男「親友、俺の目を見ろ」

親友「……あ、ああ、分かった……」

男「ほら、じっとだ」

親友「……ん」

男「…………」

親友「…………」

男「どうだ? 少し落ち着いたか?」

親友「お前の目……全くぶれないんだな……」

男「ああ、だから大丈夫だ……安心しろ」

男「俺が、お前を救ってやるから」

親友「……男……」

男「じゃあな」

245 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:11:00.15 ID:zaTWzoQo [26/52]
──親友の家

バタバタバタ……バンッ!

?「……ん? なんだ、やけに静かだな」

親友「…………」

?「いい心がけだ、悪あがきはしないに越したことがない」

親友「……もう、いいんだ……」

親友「頼むから……苦しくないようにしてくれ……」

?「……ふむ、分かっている、安心しろ」

?「ただ、ここで殺しはしない。向こうに着いてからな」

親友「もう……どちらでもいい……」

?「…………」

?「よし、薬を打って眠らせろ」

?「はっ」

プスッ。

親友「……うぅ……」

親友「…………」

?「ん、連れて行け」

?「了解」

バタバタバタ……。

男「…………」

男「行ったか……」

男「よし……後は俺にかかってるな……」

男「……やるぞ」

246 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:12:10.19 ID:zaTWzoQo [27/52]
──???

班長「これで、今日の仕事は終わったも同然だ」

班長「本日は何時に比べて、スムーズにいった。後は送り届けるだけだな」

作業員1「一人だけでいいんですか?」

班長「もう一人は廃棄処分になったから仕方ない。また後日改める」

作業員1「分かりました」

班長「よし、貨物をトラックに入れろ。きちんと黒い袋に詰めただろうな」

作業員2「大丈夫です。今から、積んできます」

班長「ん、数分後に出発する、急げ」

作業員たち「「了解っ」」

247 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:12:47.34 ID:zaTWzoQo [28/52]
──トラック周辺

男「…………」

男(敵の数は五人か……)

男(何の武装もしていない……あまりにも軽卒だな)

男(思った以上にスムーズにいけそうだ)

男(しかし、この世界にも車があるなんてな)

男(形がかなり違うから、燃料なども同じではないんだろう……)

男(……あっちの世界より、相当進歩している印象だ)

男(…………ん)

男(親友を積んだな……)

男(……よし、今だっ)

248 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:13:46.51 ID:zaTWzoQo [29/52]
──トラック

ガチャン。

作業員2「よし、これでいい。後は、俺がしておくから先行ってこい」

作業員3「分かった、任せたぞ」

タタタタ……。

作業員2「このボタンを押して……」

『……ソウサガカンリョウシテイマセン……』

作業員2「ん? あれ、なんか間違ったか?」

ザザッ。

作業員2「……んっ!?」

男「…………」

作業員2「…………」

……バタン。

男「しばらく、眠っておけ」

ガチャン。

男「…………」

親友「…………」

男「……親友」

男「後は、任せたぞ……」

249 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:14:22.90 ID:zaTWzoQo [30/52]
──トラック

作業員3「おい、何やってんだ? もう発車するぞっ?」

タタタタ……。

作業員3「あれ……いない?」

作業員3「……ん?」

作業員3「──っておいっ! 大丈夫かっ!」

作業員2「……あ、ああ?」

作業員3「何があった? どうして倒れている?」

作業員2「いや……分からんが、急に真っ暗になって……その後覚えていない……」

作業員3「とにかく、貨物の状態をっ」

ガチャンっ。

作業員3「……ん? 問題ないな……?」

作業員2「……そうか、なら良かった……」

作業員3「このことは、班長に伝えたほうが良いんじゃないか?」

作業員2「おいおいっ、何の問題もなかったんだろ……止めてくれよ……」

作業員3「しかし……」

作業員2「──折角、良い職にありつけたんだ……印象を悪くしたくはないっ」

作業員3「…………」

作業員2「頼む、な? お願いだ」

作業員3「……ん」

作業員3「仕方ない……伝えるのは止めとくよ」

作業員2「あ、ありがとうっ! 恩に着る!」

作業員3「そのかわり、今日の夕食はお前のおごりだからなっ?」

250 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:15:48.09 ID:zaTWzoQo [31/52]
──???

親友「…………」

親友「……ん……」

親友「……あ、れ……」

親友「ここ……」

ガバッ。

親友「…………」

親友「……男……」

親友「助けてくれたんだな……」

親友「……でも」

親友「本当にこれで……良かったんだろうか……?」

親友「…………」

親友「──……急ごうっ」

251 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:16:28.35 ID:zaTWzoQo [32/52]
──エルフの家

ガチャッ。

エルフ「お、男さんっ!?」

?「…………」

エルフ「え、えっ……?」

エルフ「──親友……」

親友「……ああ」

エルフ「……だ、大丈夫だったんですね……」

親友「……あ、ああ」

エルフ「ほ、本当に、良かった……良かったです……」

エルフ「これで……ひとまず……安心……」

親友「…………」

エルフ「……あれ?」

エルフ「親友、男さんは……?」

親友「……みんなを……集めてくれ」

エルフ「…………」

エルフ「……急がないといけないんですね」

親友「……そうだ」

エルフ「分かりました。すぐに、みんなを呼んできますっ」

エルフ「それで集まる場所は……」

親友「──……憎き碑の前に」

252 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:17:35.36 ID:zaTWzoQo [33/52]
──???

エルフ「みんな急いでっ」

村人1「もう……これで、大丈夫なの?」

村人2「頭が吹き飛んだりしない……?」

エルフ「はい、大丈夫ですっ!」

エルフ「とにかく急いで、この村から離れましょう」

親友「エルフっ!」

エルフ「どうかしました?」

親友「子供たちは、この速度で進むのがしんどいようだ……」

エルフ「……そうですか……でも」

親友「……急がないとな、奴らが来る可能性も高いし……」

エルフ「…………」

親友「どうした?」

エルフ「……まさか、あのモニュメントが鍵になるなんて……」

エルフ「なんで、男さんはそれに気が付いたんですか?」

親友「私も男に聞いただけだから、あまり意味が分からなかったが」

親友「『仕掛けが離れた距離によって起動するなら、それを計っている装置がある』」

親友「『仮に電波を中央で操作していたとしても、森の中だから、中継点が必要だ』」

親友「『この村で考えられるのは、あの碑しかない』」

エルフ「…………」

親友「そして、あれを壊せば、十中八九、爆発は起きないって……そう言ってた」



253 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:18:41.05 ID:zaTWzoQo [34/52]
エルフ「信じたんですね」

親友「ああ、前なら怯えてそんなことしなかっただろうな……」

エルフ「…………」

親友「……あいつ」

エルフ「──きっと大丈夫です。あの人がそう言ったなら」

親友「……あ、ああ、そうだな」

エルフ「今は自分たちのことだけに専念しましょう」

エルフ「出来るだけ時間を稼ぐ……そのために」

エルフ「そして……」

エルフ「──明日を生きるために」

254 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 11:20:23.08 ID:zaTWzoQo [35/52]
──塔

警備員「はい、止まって」

警備員「許可証を提示して下さい」

班長「ほら、これだ」

警備員「…………」

ピピッ。

警備員「はい、どうぞ」

警備員「認証しましたので、中へお進み下さい」

班長「ああ、分かった」

班長「……これで、ひとまず終わりだな」

作業員1「お疲れさまでした」

班長「車を止めたら、いつものところへ貨物を運べ」

作業員2「了解」

班長「引き渡しが完了した後、ミーティングをして解散だ」

班長「気を抜かず、最後まで引き締めていこう」

作業員たち「「了解」」

255 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:22:01.37 ID:zaTWzoQo [36/52]
──塔 内部

作業員2「ん……重いな……」

作業員3「確かになっ……」

作業員2「よし……エレベーターに行くぞ」

作業員3「角ぶつからないように気をつけろよ」

作業員2「ああ……そっちもな」

ンー……ガタン。

作業員2「よし、乗るぞ」

作業員3「おうっ……」

……ガチャ。

作業員2「で、何階だっけ?」

作業員3「確か……ん?」

作業員2「どうした? 何かあったか?」

作業員3「いや今……貨物が動いたような……」

作業員2「そうか? どうせ寝返りでも打とうとしたんじゃないのか?」

作業員3「だが、そろそろ麻酔も切れかかってくる頃だし……」

作業員2「確かに暴れてもらっても困るな……」

作業員3「念のために、ここでもう一回打とう」

作業員2「了解、じゃあ、降ろすぞ」

作業員3「ああ」

ドン……。



256 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:23:17.36 ID:zaTWzoQo [37/52]
作業員2「それにしても重たい奴だな……」

作業員3「見た目はそんなでもなかったんだがな」

作業員2「隠れ肥満ってやつか……怖いね」

作業員3「ははっ、よし、じゃあ開けるぞ」

作業員2「おう」

ジー……。

作業員3「…………」

作業員2「…………」

作業員3「だ、誰だ……?」

作業員2「……今回の奴って、こんな顔だっけ?」

作業員3「いや……これは、どうみても……」

男「──……違うだろ?」

作業員2「なっ……」

257 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:24:17.18 ID:zaTWzoQo [38/52]
クライマックスを前に休憩

いちいちsagaって打つのメンドイ・・・・

260 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:37:52.64 ID:zaTWzoQo [39/52]
オレもjaneだけど、こっちはメル欄固定する機能がない(知らない)んだよね

とりあえず再開

261 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:38:37.59 ID:zaTWzoQo [40/52]
──塔 内部

コンコンッ。

男性「入っていいぞ」

作業員「貨物の引き渡しに来ました」

男性「そうか、ならここにおいてくれ」

作業員「了解です、こちらにサインを」

男性「分かった……」

男性「しかし、二人でいつもは運んでくるのに、今日は一人なんだな」

作業員「腕っ節には、割と自信がありまして」

男性「そうか、それは羨ましいばかりだ」

作業員「…………」

男性「……ん」

男性「よし、書き終わった。もう、帰って良いぞ」

作業員「いえ、すみません……貨物の確認もお願いします」

男性「確認? いつもは、そんなことしないはずだが……」

作業員「念には念を入れてです」

男性「そうか……なら、仕方ないな……」

ジジー……。



262 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:39:38.03 ID:zaTWzoQo [41/52]
男性「…………」

男性「……ん……」

男性「……あ、あ……」

作業員「どうかしましたか?」

男性「……き、君……」

男性「こ、これは……」

男性「──男の……死体……じゃない、か……」

作業員「…………」

男性「な、何がどうなってる……?」

男性「……どうしてこんなものを……」

作業員「…………」

男性「何故、何も答えないっ……」

男性「……ま、まさか……」

作業員「……なあ、アンタ」

男性「……お、お前……」

作業員「アンタに、色々、聞きたいことがあるんだ」

作業員「手短に……そして、迅速にお願いする」

男性「や、やめろ……それ以上、近づくな……」

作業員「……どうやったら」

作業員「──この仕事の依頼主に会える?」

263 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:41:08.24 ID:zaTWzoQo [42/52]
──塔 最上階

「まだ、例のものは届かないのか?」

執事「既に運び込まれたことまでは分かっています」

「それにしても……効率があまりも悪いな」

執事「しかし……一目を避けるとなると、このような手段でしか……」

「仮にこれが露呈したら、大問題に発展するからな」

執事「はい……ん?」

執事「電話です……少し、席を外してもよろしいでしょうか」

「ああ、構わん。あと、準備している者に作業を急がせろ」

執事「分かりました。では、失礼します」

ガチャ。

「……ああ、待ち遠しいな」

「ここ最近は忙しく、食べる機会に恵まれなかったからな」

「……あの柔らかい舌触りといい、癖のなさといい……」

「技術という技術を結集させて、一から生み出した甲斐がある」

ガチャッ。

「何だ、意外に早かったな。それで作業……」

執事「──状況を、お伝えします……」

「……どうした……何があった?」

執事「……あの村の碑が壊されたそうです……」

「……な、何だって?」

執事「まだ、詳細は分かりませんが、通信が途絶えてから相当な時間が経過して……」

「──何故、すぐにでも対応しなかったっ!?」

264 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:42:02.22 ID:zaTWzoQo [43/52]
執事「……秘密が漏れないよう、最低限の人員で維持していましたので……」

「くそっ……もし、アイツらが逃げ出したりしたら……」

執事「……相当、危険な状態ですね……」

「……軍を動かせ」

執事「……殲滅しますか」

「こうなってしまったら、仕方がない」

「これが表に出てくる前に……全てをなかったことにする」

執事「どのような理由で向かわせますか」

「私の領土で未確認のウイルスが発生した、とな」

執事「……なるほど、それなら理由になりますね」

「ああ、加えて私の土地だからな、文句を言われる筋合いもない」

執事「分かりました」

「そして……事が収まったら、またアイツらを作り出せ」

執事「相当費用がかかりますが、よろしいでしょうか?」

「構わん……今度は情けなどやらずに、施設を作ってしまう」

執事「そこで暮らさせるんですね」

「ああ、家畜と一緒だ」

執事「では……命令を下し……」

ガチャ。

「誰だっ! 今は、重要な話し中だぞっ!」

男「…………」

265 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:43:36.35 ID:zaTWzoQo [44/52]

執事「早く下がりなさい。今なら罪には問いません」

「用件があるなら、これが終わってからにしろ。ほら、早く出て行け」

男「……く……くくっ……」

男「くははっ……」

男「はは、はははっ」

「…………」

執事「何が、おかしいんですか?」」

男「俺に罰を与えられる立場だと思っていること」

男「そして、さきほどからの会話……あれは、笑い話か何かなんだろ?」

執事「…………」

「……覚悟は出来ているんだろうな、貴様」

男「……覚悟なら、とっくの昔にしてきているさ」

執事「……もし」

執事「貴方が今の会話の内容を聞いたことで、優位に立とうとし」

執事「それをネタにゆすろう考えていても、全くの無駄になりますよ」

執事「どうせ貴方は無事で外には出られませんから」

男「…………なあ」

男「一つ問いを出していいか」

執事「……問い……?」

男「いいから、見ろ」

男「俺がこの手に持っている物……お前らは、何だと思う?」

266 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:44:18.27 ID:zaTWzoQo [45/52]
「……はっ、何を言うかと思ったら……ばかばかしい」

男「いいから、早く答えろ」

「……ッ」

執事「相手にする必要はありませんよ」

「……いや、待て……」

「その太々しさに敬意を払って、少し付き合ってやろうじゃないか……」

「見たことのない形だな、玩具か何かか?」

男「……確かに、玩具といえば玩具に見えなくもない」

「…………」

男「だが実際は、何時の時代も常に恐れられてきた代物だ」

「……分かり難いな……もっと簡単に説明しろ」

男「これでも努力しているつもりなんだがな」

執事「…………」

執事「……もう止めにしましょう」

執事「どうやら貴方は少々、頭に問題を抱えているようですね」

執事「しかし……これ以上、戯れ言を続けるつもりなら……」

男「──例えば、こうやって」

バンッ!!

「なっ……」

執事「…………か、かはっ……」

バタン……。


267 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:46:22.61 ID:zaTWzoQo [46/52]
「お、お前……今……」

男「どうだ? 今、恐怖しただろ?」

「……ぶ、武器なのか……それは……」

男「……この世界にとっては、相当遅れた技術なのかもしれない」

男「だがな……それでも、こんな簡単に殺せるんだ」

「…………」

男「……お前が、彼女たちをただ食うために作り出したんだな?」

「……彼女たち?」

「それは、食料であるアイツらのことを指しているのか?」

男「…………」

「アイツらの性別に意味などない」

「女として生み出したのは、それが一番適していたからだ」

男「……それはつまり」

「そうだ、女の方が食感が良かったんでな」

男「…………」

「……ということは、モニュメントが壊れた原因は、貴様だな?」

「余計なことをしてくれた……あれで、アイツらは全員死ぬことになるぞ」

男「……軍を使ってか?」

「ああ、そうだ。幸いにも、私はこの世界の頂点に君臨している」

「力があるのなら、それを使って何が悪い?」

男「…………いや」

男「……残念だが、もう、お前には無理だ」

男「俺がここでコロスからな」

268 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:47:43.32 ID:zaTWzoQo [47/52]
「……し、しかし、これを聞けば、貴様も考えを改めるはずだ……」

「何を勘違いしているのか知らんが……まず、ここがどこか分かっているのか?」

「仮に私を殺してでもみろ……すぐに警戒態勢が引かれて、お前は捕まり、処刑される」

男「…………」

「そんな馬鹿なことをするはずはない。私なら、決してしないからな」

男「……それで?」

「……今ここで投降するなら、貴様の罪は特例で免除してやる」

「名誉が欲しいなら言ってみろ、権力が欲しいならくれてやる」

男「…………」

「ここまで私を追い込んだんだ。その価値は十分にある」

男「……ああ」

「どうだ? 取引にのるか?」

男「そうだな……俺も予定を変更することにする」

「ああ、そのほうが貴様にとって私にとってもベストな……」

バァンッ!!

「──ッ……」

「き、貴様……どういうこと……」

バァンッ!!

「──止めろッ……止めてく……」

バァンッ!!

「──ああぁぁぁぁぁぁッ!!」

269 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:48:59.12 ID:zaTWzoQo [48/52]
男「お前は何も理解していない」

バァンッ!!

「──かっ……あああああ……」

男「何一つ分かっていないんだ」

バァンッ!!

「──……あっ……」

「……こおっ……ごほっ……」

男「…………」

男「両足、両腕……そして肺に打ち込んだ」

「……かっ……かはっ……」

男「苦しいか? 早く死にたいだろ?」

「………ッ……かっ……」

男「肺に血が溜まって息がうまく出来ないもんな」

男「自分は既に死ぬって分かっているのに、そう簡単には死ねない」

男「撃たれた部分は刺すような痛みが続いて、まさに生き地獄だ」

「……ッ…………こッ……」

男「……だが、トドメは刺さない」

男「そうやって、永遠に続くように感じる苦痛を十二分に味わえ」

男「それが、今まで死んでいった彼女たちへの……」

男「──せめてもの報いだ」

「………ッ……」

270 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:49:29.09 ID:zaTWzoQo [49/52]
キー……ガチャ……。

男「…………」

男(……さて)

男(どうしたものかな……)

男(奴の言う通り、かなりヤバい状況だ……)

男(ここまで辿り着くのに……少し強引な方法を使ったからな)

男(警報が鳴るのも……時間の問題か)

トコトコトコ。

男「しかし……拳銃か」

男(飛行機が墜落した後、偶然見つけたんだよな)

男(でも、弾も残り少ない)

男(最後に、無駄な弾数を消費してしまったからな)

男(素手じゃ……正直、無理だ)

271 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:50:31.40 ID:zaTWzoQo [50/52]
ウーウーウー。

男「……鳴ったか」

男(よし……そろそろ次の覚悟を決めないとな)

男(あまり良い結末とは言い難いが……)

男(エルフや親友たちが助かっただけでも……相当な価値がある)

男「……エルフ達は……大丈夫かな……」

男(最後に見た、エルフの目は活力に満ち溢れていた)

男(それも、今までの絶望で濁ったものが嘘のように)

男(これからは、希望を胸に抱いて、必ず、前へ進むことができるはずだ)

男(そう、彼女なら……きっと……)

男「…………」



272 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:50:58.65 ID:zaTWzoQo [51/52]
ウーウーウー。

男「……女はどうだろうか……」

男(……人を引きつける何かを持った、強い女性だった)

男(何事を恐れず、何からも逃げることはなく)

男(諦めるという言葉を常に否定し、俺の……見本となった)

男(……今は……多分、国を変えるのに必死になっていることだろう)

男(だが、女なら……見事成し遂げるに違いない……)

男「あんまり……俺は、役に立った気がしないからな」

男「ん……もうすぐかな」

ウーウーウー。

男「…………」

男(最後に……今の俺に問おう)

男(自分の人生に誇りを持つことができるか?)

男(何事からも逃げずに立ち向かうと、誓えるか?)

男(もう二度と、諦めるなんてことはないと言えるか?)

男「…………」

男(ああ、分かっている……)

男(……ここで終わる訳がないよな)

男「……勿論、答えは……」



男「──イエスだ」



         ─END─

273 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[age!] 投稿日:2010/07/15(木) 11:53:34.83 ID:zaTWzoQo [52/52]
\(^o^)/

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