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妹「ただいまぁー……って、えっ……誰‥‥?」
1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 02:44:05.84 ID:LG5NcfDx0 [1/54]
男「あーくそ、まじつまんねー……」
男「彼女も出来ねーし、いっそ、死んだほうがましなのかもな……」
男「…………」
男「……バイト行くか……」
トゥルトゥルトゥル
男「ん、電話? 知らねー番号だな……まあ出るか」
男「はい、もしもし」
?『あ、男君?』
男「……ん? その声は、もしかして、店長?」
店長『おお、よく分かったね』
男「ええまぁ、何となく覚えてました」
男(妙に声高いから気持ち悪いんだよな……)
男「それで……どうかしましたか? 今、自分、お店に向かってますけど」
店長『あーうん……そのことなんだけどね』
男「あーくそ、まじつまんねー……」
男「彼女も出来ねーし、いっそ、死んだほうがましなのかもな……」
男「…………」
男「……バイト行くか……」
トゥルトゥルトゥル
男「ん、電話? 知らねー番号だな……まあ出るか」
男「はい、もしもし」
?『あ、男君?』
男「……ん? その声は、もしかして、店長?」
店長『おお、よく分かったね』
男「ええまぁ、何となく覚えてました」
男(妙に声高いから気持ち悪いんだよな……)
男「それで……どうかしましたか? 今、自分、お店に向かってますけど」
店長『あーうん……そのことなんだけどね』
3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 02:46:03.78 ID:LG5NcfDx0
店長『今日、来てくれなくていいよ』
男「……え?」
男「すみません、よく意味が分からなかったんですけど」
店長『んと、つまり、今日はバイトなしね』
男「……なんかあったんですか? お店は休みですか?」
店長『店は普通に営業してるよ。ただ……』
男「ただ?」
店長『もう、手数はいるから男君が来てくれても、やってもらう仕事がないんだ』
男「……先週、空いてるシフトに入ったつもりですが」
店長『それでも、もう大丈夫なんだよ』
男「大丈夫って……。じゃあ、とりあえず今日はやめて、土曜行きますよ」
店長『それもこなくていいよ』
男「…………」
男(どういうことだ?)
4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 02:47:35.78 ID:LG5NcfDx0
店長『はっきり言っちゃうとさ、君の代わりに新人雇ったんだ』
店長『女子高生の子でね、とってもいい子で僕も心打たれてね』
男「……つまり、首ってことですか?」
店長『ごめんね、君には悪いことしたと思うん……』
ピッ。
男「…………」
男「……あー、マジやべぇかも」
男「俺、何やってんだろ……」
男「大学卒業して……なんとなく就職活動して入った会社、慣れずに辞めて」
男「…………」
男「こんな風になるために、大人になったわけじゃねぇのにさ……」
男「……は、はは」
男「……仕方ねぇ……帰るか」
男「……ん?」
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 02:49:26.32 ID:LG5NcfDx0
男子生徒「妹さんっ家って、どんな家族構成なの?」
妹「お姉ちゃんと二人で暮らしてるんだ」
男子生徒「あっ……そうなんだ……」
男子生徒「ごめんね、余計なこと聞いちゃったかも」
妹「ううん、両親が亡くなったのは結構前だし……」
妹「今では、しっかりと受け止めてるよ。お姉ちゃんとの生活も楽しいしね」
男子生徒「そっか……妹さんはやっぱり凄いなぁ」
妹「そんなことないよ。……ただ、最近ちょっと不満があってね」
男子生徒「え、なんだい?」
妹「お姉ちゃんが仕事で帰りが遅くて……それがちょっと、ね」
男子生徒「お姉さん、働いてるんだ」
妹「うん、バリバリのキャリアウーマンなんだ」
妹「頭も良いし、美人だし……本当凄いっ」
男子生徒「妹さん自慢のお姉さんだね」
妹「もちろんっ」
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 02:50:49.96 ID:LG5NcfDx0
男「…………」
男(……はは、ガキどもが色気づいてるというのにな)
男(俺は、職を失って、帰って寝るだけか……)
男「…………」
男「……マジで、死のうかな……」
男(……でも、それも出来ないチキンなんだよな……)
男「あーくそ、やってらねぇよ……」
男(俺の人生、終わっちまってるな……)
男(どうせまた、似たようなバイト先で働いて……)
男(家賃と飯代を稼ぐのに精一杯で……)
7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 02:51:33.36 ID:LG5NcfDx0
男「……俺、生きてんだよな……?」
男「…………」
男(ははっ、誰も答えてくれねぇや……)
男(あーもう、今なら何でも出来る気がするな……)
男「……この際」
男(どうせ、糞みたいな人生がこの先に待ってるだけなら)
男(……一花咲かせて、綺麗に散ってやろうかな)
男「……は、はは」
男「く、くくくっ」
男「く、くははははははっ」
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 02:52:22.56 ID:LG5NcfDx0
男(よし……決めたぞ。俺は、決めた)
男(やってやろうじゃねぇか……ぶち壊してやるよ……)
男(俺の今までの人生……捨て去ってやる……)
男「……どうする?」
男「…………」
男「……ん、そうだ」
男(俺は昔から一人っ子で、ずっと妹が欲しかったんだ)
男(小さい頃はよく両親にも頼んでみたが……すぐに離婚しちまったからな)
男(妹……か)
男(……欲しかったな……物語に出てくるような、優しい妹が……)
男「…………」
男「……うし、動くか」
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 03:14:01.08 ID:LG5NcfDx0
──数日後
ガチャ。
妹「ただいまー」
妹「あーもう……部活で、遅くなっちゃった……」
妹「ん……あれ、電気つけっぱなしだったかな……」
妹「電気代ばかになんないのに……おっちょこちょいだなー自分」
男「──ういっす」
妹「……へ?」
男「こんばんわー」
妹「ふぇ……? だ、誰……?」
男「おう、よくぞ聞いてくれましたっ!」
男「自己紹介遅れました、男です。これからよろしくな」
妹「……ちょ、ちょっと、まって……」
男「ちなみに今、無職。数日前にバイト、クビになってね」
妹「や、やだ……なに……わけわかんない……」
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 03:21:50.65 ID:LG5NcfDx0
妹「あっ……け、警察っ……」
バッ。
男「──おっと、行かせないぞー」
妹「や、やめてっ! は、離して下さいっ!」
男「まあまあ、そう慌てんなって。時間はまだたくさんあるんだからさ」
妹「いやっ、やめてっ!」
妹「お願いですっ! お金なら出しますからっ!」
男「おいおい、まるで俺が強盗みたいな言い草だな」
妹「ち、違うんですか……?」
男「少しぐらい話を聞いてくれよ」
妹「…………」
妹「まずは、手を離して下さい……」
男「離したら、逃げようとするだろ?」
妹「……に、逃げませんから……お願いします……」
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 03:23:41.51 ID:LG5NcfDx0
男「んー」
男(どうしたものか……)
男(想像してたようにはうまくいかんな……完全に怯えてるわ)
男(せめて明るくいこうと思ったんだがな……失敗した)
男「……分かった。手は離すよ」
妹「……あっ……」
男「ほれ、座って座って」
妹「………うぅ」
男「頼むよ、悪いようにはしないからさ」
妹「……は、はい」
男「ん、よし」
男「色々喋っても誤解を生むだけだし、単刀直入に言うわ」
妹「…………」
男「俺、君の生き別れの兄ね」
妹「………え?」
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 03:36:11.39 ID:LG5NcfDx0
男「だから、生き別れた兄だよ」
妹「……い、意味が分かりません」
男「んー、説明するっていっても、これだけだからなぁ」
妹「わ、わたしには……姉一人しかいないはずです」
男「うん、知ってる」
妹「そ、それに両親はすでに他界してますし……」
妹「実は、兄がいるなんてこと、聞いたこともありません……」
男「…………」
妹「夫婦仲も良かったし……他所で子供を作るなんてこと……」
男「……めんどくせー」
妹「へ?」
男「あーくそ、めんどくせーな」
男(なんだよ、想像と全然違うじゃねーか)
男(物語の中だったら、そこはとりあえず信じとくとこだろうが)
男「ん、もういいや」
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 03:42:58.64 ID:LG5NcfDx0
妹「……え、ええと」
男「生き別れた兄っていう設定はなし、で」
妹「……は、はぁ」
男「でも、まあ、何て言うかさ」
男「今日から、一人兄が出来たと思えばいいじゃん」
妹「…………」
男「兄貴欲しくね?」
妹「……い、いらないです……」
男「またまた、謙遜すんなって。欲しいだろ?」
妹「……いりません」
男「…………」
男(やっぱり、無職ってことが問題かな……)
男(くそっ、余計なこと言っちまったぜ……)
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 03:52:00.91 ID:LG5NcfDx0
男「定職はさ、いつかきっと見つけようと思ってるんだ」
妹「……はい?」
男「でも、俺は思うわけよ。『若いうちこそ、苦労しとけ』ってね」
妹「そ、それがどういう……」
男「社会の荒波に揉まれてこそ、真の男たるものが出来上がるってわけ」
男「まぁ……最近は、ちょっと挫折しまくりだけどな」
妹「……そ、そうなんですか」
男「とにかく俺が言いたいのは……」
男「──将来に期待してくれって、ことだ」
妹「…………」
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 03:54:05.05 ID:LG5NcfDx0
男(完全に決まったな。あまりの男らしさに、口開いたままになってるぜ)
男(まあ、ガキみたいな異性に囲まれてたら、そんなもんか)
男(……もしかして、これで惚れられたりしたら……マジどうしようか……)
男「ぐへへっ」
妹「…………」
ガチャ。
?『ただいまー』
妹「あ、お姉ちゃんだっ」
男「……え、あれ? まだ七時、予定と違くない?」
36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 04:04:08.36 ID:LG5NcfDx0
姉『今日は早く帰れたぞー。一緒にご飯食べるかー』
男「……お、おいおい」
男(マズい……これは、壮絶にマズいぞ……)
妹「お、お姉ちゃん……おかえりなさい……」
姉「ん、誰か来てるのか?」
男「……ど、ども」
姉「ああ、どうも……」
妹「こ、こちらは、男さんです」
男「は、初めまして……」
姉「あ、ああ、こちらこそよろしく……」
妹「…………」
姉「…………」
男「…………」
39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 04:26:43.82 ID:LG5NcfDx0
男(なんなんだこれはぁぁぁぁぁぁぁっ?!)
男(逃げたい……一刻も早く、この場から逃げ出したいっ!)
男「じ、じゃ、僕はそろそろこのへんで……」
妹「……あっ」
男「夜分遅くおじゃまして、ホントすみませんねっ」
そそくさ……そそくさ。
姉「……おい、待て」
男「……っ」
男「な、なんでしょうかっ?」
姉「んー……」
姉「せっかくだから、飯でも食べていかないか?」
男「え、遠慮しときますよっ」
姉「そう気を遣うな。人数が多ければ飯はうまいんだ」
男「お、お気持ちは有り難いんですが……ちょっとこの後に用事もありまして」
妹「そ、そうだよ、お姉ちゃん。男さんに迷惑だよっ」
41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 04:31:18.81 ID:LG5NcfDx0
姉「まあいいじゃないか。その用事とやらは今回は我慢してくれ」
男「……え、ええ!?」
姉「ほらほら、座って座って」
男「……あっ、は、はい……」
妹「ちょ、ちょっとっ! お姉ちゃん、本気なのっ?」
姉「何だ、何かおかしいか。妹の友人を飯に誘ってるだけだぞ?」
妹「そ、それはそうだけど……」
姉「…………」
姉「何か、私といられると困ることでもあるのか?」
妹「……うっ」
姉「……まあ、いい。その辺りも含めて、今日はたっぷりと聞こう」
姉「初めて妹が呼んだ、異性の友人だからなっ」
妹「……お、お姉ちゃん……」
姉「フンっ……そうだ、妹、飯の用意はしてあるのか?」
妹「ま、まだだけど……」
49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 05:00:52.27 ID:LG5NcfDx0
姉「じゃあ、まずは酒を持ってきてくれ。今日は飲まずにはやってられん」
妹「わ、分かったよ……じゃあ、ご飯も用意してくるね」
たったったったっ。
男(……えっ、俺をこの場に置いてくの?)
姉「…………」
姉「じぃ……」
男(み、見られてる……見られてるぞっ)
姉「……なあ、男」
男「は、はいっ?!」
姉「お前、よく人に大人びてるって言われるだろ?」
男「い、いえ特に……」
姉「そうか? 妹の学友なんだろ? 今年高三か?」
男「……ええと」
50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 05:01:48.96 ID:LG5NcfDx0
姉「来年はいよいよ受験だな。どの辺りを目指してるか、聞かせてくれ」
男「……そ、そのですねっ」
姉「ああ、どうした?」
男「実は……もう……その、はい」
姉「ん?」
姉「あー……なんだ、そういうことか」
男「えっ……」
姉「それならそうと、早く言ってくれっ。誤解してしまっただろっ」
男「そうなんですっ、誤解なんですっ」
男「ちょ、ちょっとした出来心で……」
姉「──もう、大学生なんだろ。変な勘違いしてすまんな」
男「…………」
姉「しかし、そうだとすると、妹とどこで知り合ったんだ? 」
男「……ちょっとした、偶然で……」
51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 05:02:41.96 ID:LG5NcfDx0
姉「深くは語らないというヤツだな。中々、焦らしがうまいな」
男「へ、へへっ」
姉「おっと、だとすると……」
妹「……はい、お姉ちゃん、ビールだよ」
姉「おおっ、やっときたかぁっ! やはりビールは瓶に限るぞっ」
ブシュッ。
姉「ああ……この感触がたまらなくいい……」
姉「言いかけたが、男、大学生なら酒はいける口だろ?」
男「えっ、は、はい、まあ、多少は……」
姉「おいおい、そんな弱気でどうするっ。今日は、私に付き合ってもらうんだからなっ」
男「え、ええ……お、お手やわらかに願います……」
姉「んーなんだ、もしかして、弱い方か? 歳は二十越えてるんだろ、幾つだ?」
52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 05:03:56.88 ID:LG5NcfDx0
男「……173です」
姉「んっ? 身長じゃないぞ、歳だよ歳。はは、面白いヤツだな」
妹「い、いいじゃん、お姉ちゃんっ! そんなことどうだって……」
姉「なんだ、別に歳ぐらい構わないじゃないか。女じゃあるまいし……」
姉「ちなみに私は28だ。まだ、三十路にはいってないぞ、ハハハ」
妹「お、お姉ちゃんっ!」
姉「うるさいなぁ……。で、男、歳は幾つだ?」
男「……………です……」
姉「ん? 聞こえんぞ、もっと大きな声でっ」
53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 05:05:14.92 ID:LG5NcfDx0
男「二十……」
男「──五です……」
姉「ああ、二十五か。それなら、酒も……」
姉「──って、二十五っ!?」
妹「…………」
姉「……大学は?」
男「既に卒業しました……」
姉「……じゃ、じゃあ、会社で働いてるのか……?」
男「げ、現在、無職です……」
姉「…………」
妹「…………」
60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 05:27:56.24 ID:LG5NcfDx0
──警察署
警官「で、どうして他人の家に入ったわけ?」
男「い、妹が欲しかったからです……」
警官「……これじゃあ、埒があかないなぁ」
警官「こっちも遊びでやってるんじゃないんだ。そろそろ真面目に答えてくれないか?」
男「う、うぅ……くっ……」
警官「正直、泣きたいのはこっちのほうなんだけど」
警官「もう一度、聞くよ? 何で、人の家に侵入したの?」
男「い、いぼうとが、ぼしがった、から、うぅっ……」
警官「はぁ……」
警官「少し、休憩にするよ……」
男「──ぶわああああああーんっ!」
ガチャ……。
65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 05:32:08.06 ID:LG5NcfDx0
警官2「どうだ……口を割りそうか?」
警官「ありゃ、完全に駄目だな。お手上げって感じだよ」
警官2「ふむ。バイトを突然クビになったのが堪え……」
警官2「或いは、精神的に病んでいて……それで、突発的な行動に走ったか」
警官「…………」
警官2「どうした? なにか気になることでもあるのか?」
警官「……俺はな、今回の事件、かなり裏があると思ってるんだ」
警官2「裏というと?」
警官「あいつの泣く姿見てみろよ」
警官2「お、おう。本当に辛そうだな……」
警官「違う違う、騙されてるんだ。あれは、演技だ」
警官2「ほ、ほんとうか?」
66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 05:39:46.03 ID:LG5NcfDx0
警官「『妹が欲しかった』なんて、わけのわからん供述もそうだ」
警官2「た、確かに訳がわからんな……」
警官「俺達を惑わせようとする策略さ」
警官2「なっ……」
警官「やつはヤバいぜ……俺達の手には負えそうもない……」
警官2「……まさか」
警官「ああ、そうだ。そうするしかない」
警官2「い、いや、でもっ、もし違……」
警官「──間違ってからじゃ遅いんだよっ!!」
警官2「……ッ」
警官「俺は今、初めて警察に入って、自分の無力さを痛感しているっ」
警官2「お、お前……」
67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 05:40:47.67 ID:LG5NcfDx0
警官「分かってくれ……俺の身体を流れる血が、これは大きなヤマだと言ってるんだ」
警官2「親父さんも祖父も警官だった、お前の血が、か……」
警官「ああ……死んだ親父が、俺にそう伝えてくれてるんだと思う」
警官2「殉職した、あの英雄の人が……」
警官「くっ……思い出したら、涙が出てくるぜ……」
警官2「ああ、立派な人だったよ……」
警官「そう言ってくれて、天国の親父も喜んでるよ……」
警官2「そういうことなら、俺も分かった……」
警官「本当かっ!」
警官2「ああ、彼らに任せよう」
警官2「──特別捜査官の彼らにな……」
75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 05:57:31.60 ID:LG5NcfDx0
──???
男「モゴモゴモゴ」
ザバッ。
男「はぁ……はぁ……な、何なんだいったい……」
男「こ、ここはどこだ……?」
男「急に目隠しされたと思ったら……うう……」
バンッ。
男「ま、眩しいっ……」
?『幾ら優秀な君でも、今は、きっとこう考えているに違いない』
?『ここはどこだ、一体どうしてしまったんだ』
男(なんだ……この機械音は……)
?『その問いに、簡潔に答えよう』
76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 06:15:10.26 ID:LG5NcfDx0
?『我々は、君の全てを暴くためにいる』
?『この場所は、そのために用意された。そう、君だけのために』
男「す、すみません……わ、訳が分からないんですが……」
?『…………』
?『そうやって、演じているのも今のうちだ』
?『取り繕っていられなくなるのは、恐らく、すぐにやってくるだろう』
男「え、演じてるって……何を……」
?『初めの質問だ』
?『君は、MYKグループの一員か?』
男「えむわいけー? そ、そんなものは知りません……」
男「と、とにかく、早く家に帰して下さいっ」
?『もう一度、問う』
77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 06:15:48.52 ID:LG5NcfDx0
?『君は、国内テロ組織MYKグループの一員なのか?』
男「し、知らないって!」
?『……心拍数が上がっているようだ』
男「え?」
男(あっ……手首に何か巻かれてるぞ……)
?『どうやら今の質問は、もう一度繰り返す必要があるようだな』
?『MYKの一員だな?』
男「ち、違うっ!」
?『どうして、あの家を選んだ?』
男「い、妹が欲しかったからだよっ! 何度も言わせんなっ!」
?『バイトをクビになったのは何故だ?』
男「て、店長が極度のJK好きだからっ! 意味なんてねぇ!」
78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 06:16:28.38 ID:LG5NcfDx0
?『次の写真を見て欲しい』
男「な、なんだって言うんだ……」
バンッ。
男(ま、また真っ暗になったぞ……ん? あれはスクリーン?)
?『これは君の住んでいる地域の衛星写真だ』
男「……そうだけど」
?『今、赤く点灯したのが、君の住んでいるアパート』
男(おお……確かにそうだ……)
?『次に、緑。これは、バイト先だ』
?『そして最後、青く点灯したのが、君が侵入した家』
男「……こ、これが何だって言うんだ?」
男(わ、わけがわからんぞ……)
?『この全てを線で結んでみると……』
男「ん……?」
79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 06:17:08.78 ID:LG5NcfDx0
?『……現れたのは見事に綺麗な三角形』
男「……何が言いたい?」
?『分かっているんだろう。内心は、ただならぬ心境のはずだ』
?『なんせ、この図形の中央には……』
男「……え?」
男(そ、そんな馬鹿な……)
?『──国会議事堂があるんだからな』
?『一体、何を企んでいたんだ、男君』
男「な、何も企んでなんかいないっ!」
男「お、俺は……自分の人生に嫌気が差していただけでっ!」
男「国をどうかしようなんて、そんな勇気持ち合わせていないっ!」
?『…………』
?『……まあいい、時間はたっぷりある』
?『君が白状するまで、な』
男「……な、なんてこった……」
86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 07:00:45.56 ID:LG5NcfDx0
──独房
男「くそっ……なんで、俺が……」
男(飯はまずいし……拷問まがいの尋問は続くし……)
男(どうすりゃいいんだ……いつまで続くんだよ……)
男(……ああ、外じゃ、どれくらいの時間が経ったんだろ……)
男(基本、真っ暗だから何もわかんねー……)
バンバン……。
男「な、なんだ……」
バンバン……。
男「……くそっ、気味が悪いな……」
男「一体、何の音だって言うんだ……もう、眠れねぇじゃねえか……」
ガチャッ!
男「お、おいっ! お前……」
看守「──貴様っ! よくも仲間を連れてきたなっ!」
男「……は? 意味わかんないって……」
87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 07:01:23.93 ID:LG5NcfDx0
看守「もう俺以外は、ほとんど生き残ってねぇ!」
男「生き残ってないって……ははっ、冗談キツい」
看守「……死んだんだよ」
男「…………」
看守「後は、俺だけだ……すぐここにも奴らがやってくるだろう……」
男「……う、嘘だろ?」
ササッ。
男「……って、え?」
看守「お前を盾にしてでも、俺は生き残る」
男「や、やめてくれ……」
看守「う、動くなっ! 動いたら、首の動脈が一瞬で切れるぞ」
男「……わ、分かったよ……」
ダダダ……ダダダ……。
看守「くそっ……奴らだ……」
男「MYKなんちゃらか……?」
88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 07:02:43.87 ID:LG5NcfDx0
看守「ここまできても、とぼけやがって。そうさ、仲間を助けにやってきたんだっ」
男「お、俺の他にも奴らの仲間が収容されてたのか?」
看守「ああ……お前はまだ良い方だった」
男「……つ、つまり?」
看守「見るに堪えない拷問が行われてたってことだよ」
男「……う、嘘だ……」
ダダダダ!
看守「くそっ……もう、こんなに近くに……」
男「お、おいっ! 俺はどうなるんだっ!」
看守「はっ? そんなの知らねぇよっ! 仲間だったら助けて貰えるんだろっ!」
男「だから初めから言ってるだろっ! 俺は無関係だっ!」
看守「だったら……お前も、俺と一緒にあの世行きさっ!」
89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 07:03:24.61 ID:LG5NcfDx0
男(ど、どうしてこんなことに……)
ダダダダダダ!
男(ただ自暴自棄になって、妹が欲しいと願っただけだったのに……)
ダダダダダダダダ!
男(こ、こんなところで……死ぬなんて……)
ガチャッ!!
看守「くっ──」
男(くそっ……まだ死にたくないっ!!)
?「背後を狙い撃て」
バンッ!
看守「………………カッ」
男「……へっ?」
看守「…………」
バタンッ……。
90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 07:04:21.50 ID:LG5NcfDx0
男「……ま、マジか……」
男「だ、誰か……嘘だと言ってくれよ……」
男「あ、有り得ないだろ……人が、人が……死んで……」
?「貴様は誰だ?」
男「……だ、誰って……俺は……──」
男(……ドアからの光が眩しくて、顔がよく見えない……)
?「聞いたことがない名だな……。ならば、所属はどこだっ?」
男「…………」
?「ん? 何を戸惑っている? まさか貴様……」
カチャ……。
93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 07:05:09.07 ID:LG5NcfDx0
男「ち、違う違うっ! 俺はただの一般人だ!」
?「嘘をつけ。一般人がこの施設に収容される訳があるか」
男「ほ、本当なんだって!」
?「もう一度だけチャンスをやろう。お前の所属はどこだっ!」
男「……うぅ……」
男(なんて言えばいいんだよ……)
男(どうせ『MYKのメンバーですっ』っていったところで、すぐにバレる嘘だし……)
男(けど、何か言わないと、アイツのように射殺される……)
男(く、くそっ! もう、どうにでもなれっ!!)
?「何を黙っているっ! 所属は……」
男「所属はッ!」
男「──無職だっ!!」
?「…………」
男「…………」
96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 07:05:53.44 ID:LG5NcfDx0
?「……と、とりあえず、連れてけ」
?「は、はいっ」
男(この後……どうなるんだろ俺……)
男(……あっ……顔が見られるぞ……)
女「…………」
男(……き、綺麗な人だ……)
サッ……。
男(ん……ああ……眠く……)
男(…………)
114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 07:54:30.19 ID:LG5NcfDx0
──隠れ家
男(や、やめてくれ……俺は妹が欲しかっただけで……)
男(ち、違うっ! 頼むから、信じてくれよっ!)
男(うぅ……うあああああああああ)
男「──はっ」
男「……ゆ、夢か……」
男「はは……そりゃそうだよな……そんなことに巻き込まれるわけ……」
女「──目が覚めたか?」
男「え……」
女「少々荒っぽかったが、あの場ではああするしかなくてな」
女「一応、すまなかったと謝罪しておこう」
男「……ゆ、夢じゃない……?」
女「どうした? どこか具合でも悪いのか?」
115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 07:55:25.75 ID:LG5NcfDx0
男「…………」
男「……なぁ、一つだけ聞いてもいいか……」
女「構わない。私でよければ、何でも聞いてくれ」
男「これは……」
男「──本当に現実か……?」
女「…………」
男「俺は……あの施設で……」
女「そうだ、我々がお前を助けた」
男「…………」
男(嘘だ……頼むから、嘘だと言ってくれよ……)
女「そのことでお前に……いや、男だったな、聞きたいことがある」
女「今度はそちらが答えてくれ。何故、あの場にいた?」
男「…………」
女「どうした、黙ってても分からないぞ」
116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 07:56:33.67 ID:LG5NcfDx0
男「どうせ言ったところで、信じてくれないだろ?」
女「……初めからそう言ってくれるな」
女「これでも、一応、理解するように努めてみるよ」
男「…………」
女「……そうか」
女「なら、私の想像だけでも伝えさせてくれ」
男「……ああ」
女「男、お前は最後のあの瞬間、私に向かってこういった」
女「『俺の所属は無職だッ』と」
女「あの真剣な眼差しと力の籠った言葉」
女「それで、確実にそのことが真実であると確信した」
男「ほ、本当か?」
男(こ、こいつは分かってくれるのか……っ)
117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 07:59:01.50 ID:LG5NcfDx0
女「ああ、本当だ」
女「男、お前は……」
女「──フリーの殺し屋だな」
男「……へっ?」
女「ふふ……良いんだ、お前が否定するのは分かっている」
女「あの場でわざと弱き振りをして、我らの敵意を逸らし」
女「見事、MYKとの接触に成功した……その機転は凄まじい」
男「ちょっ、ちょっと待て」
女「分かっている。お前が立場上、肯定が出来ないことぐらい」
女「この世界は常に暗黙の了解で成り立っているからな、私にでも分かるよ」
男「ええとな……その……」
女「歓迎しよう、男。お前を我々は雇うことに決めた」
女「報酬は規定の口座へ振り込んでおこう。いや……現金渡しのほうがいいのかな?」
118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 08:00:15.00 ID:LG5NcfDx0
女「まあ、どちらにせよ変わりない。お前の力が我々には必要だ」
男「…………」
男(こいつ……何言ってんだ?)
女「しかし、あの機転。実際の腕は、相当なものなのだろうな」
男(あーだめだ……もう分かっちまう)
男(何言っても、この女は俺のことを理解しないだろう)
女「一度、手合わせをお願いしたいところだが……ハハ、私では敵いそうもない」
男(はは……慣れって怖いな……確信しちまってるよ……)
女「……どうだ? 返事を聞かせてくれないか?」
男(……だから、もう何言っても無駄って決まってるなら……)
男「──いいだろう。俺が助けになってやるさ、フフフ」
女「ほ、本当かっ!」
男(とことん自分を騙すしかねぇよなぁ……)
130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 08:34:36.67 ID:LG5NcfDx0
──数年後
女「思い出せ」
女「辛く苦しく、朋の死に涙した日々を」
女「思い出せッ」
女「国を変えたいと、我らが立ち上がった日の心を」
女「思い出せッ!」
女「変えられぬものなど、何一つ有りはしないと誓ったあの日をっ!」
女「……今日だ」
女「今日で、全ては終わるっ!」
女「この愚鈍に満ち溢れたこの国を、ついに変えることが出来るのだっ!」
女「先立った朋達に、成功の報せを伝えることが出来るのだっ!」
『うおおおおおおおおおおぉぉぉぉッ!!!』
131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 08:35:10.59 ID:LG5NcfDx0
女「……やろう、やり切ろう」
女「決して我らは、諦めない。挫けない」
女「それが、我らMYKたる所以なのだから」
男「…………」
女「男、上がってくれ」
男「ああ……」
女「皆、知っているだろう。彼が、本作戦の指揮を取る者だ」
女「彼の手腕で、我らが幾つもの難所を乗り越えてきたか」
女「彼抜きでは……正直、今日という日を迎えることは出来なかっただろう」
女「しかしッ、これだけは言えるっ!」
女「我らには、彼がついているのだっ! 何も恐れることなどないッ!」
『うおおおおおおおおおおぉぉぉぉッ!!!』
132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 08:35:53.44 ID:LG5NcfDx0
女「男、君の番だ」
男「はは、盛り上げるのがいつもうまいな」
女「お前に褒められるとは……光栄だよ」
男「…………」
女「…………」
男「……期待していろ。俺が、変えてやるよ」
女「……男」
男「……ん……」
女「……あ、ん……」
133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 08:36:24.24 ID:LG5NcfDx0
女「……お、お前というヤツは……もう……」
男「はは、景気付けだ」
男「…………」
男「……愛してる」
女「ふふっ、やはり私達は気が合うな」
女「私もだ……男」
女「行ってこい、皆が待ってる」
男「……おう」
タンタンタン。
男「すぅー…………はッ」
男「みな、聞いてくれっ! 本作戦は本日早朝──」
177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 15:31:37.10 ID:LG5NcfDx0
──???
男「分かっているとは思うが、我々は今回も隠密行動を基本とする」
男「気付かれてしまえば、そこで本作戦は失敗だ」
男「気を十二分に引き締めていけ」
部下A「了解」
部下A「銃の使用は……」
男「許可する。ただし、乱用はするな」
部下B「猶予の時間は幾らですか」
男「リミットは三十分ほど……」
男「それ以上かかってしまえば、ジエンドだな」
部下B「意外と少ないですね……」
部下A「オイオイ、弱気になってるんじゃねーよな」
部下B「違うわよ馬鹿っ。ただ、現実の厳しさを痛感してただけ」
部下A「フン、ならいいが」
部下B「……ッ、あなたって人は……」
178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 15:32:57.53 ID:LG5NcfDx0
男「止めろ、二人とも」
男「開始の合図があるまで、作戦の概要を再確認だ」
男「我々の最大目標……それはホシの捕獲」
男「殺した状態ではなく、生け捕りにすることに意味がある」
男「勿論、それを障害する全ては……排除してよい」
男「……本作戦のホシは」
男「我が国の最大の権力者にして、我々最大の敵……」
部下A「…………」
部下B「…………」
男「──現内閣総理大臣だ」
183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 15:57:30.34 ID:LG5NcfDx0
──A地点
男「A地点よりこちらチームα。準備は整ったか」
ザザ……。
声『D地点より目標を確保』
男「狙え」
声『了解、狙いました。いつでもいけます』
男「その状態を保て……C地点はどうなってる」
声『こちらC地点。遮蔽物が邪魔して、先ほどから目標を確認出来ません……』
男「…………」
男「くそっ、時間がない……」
部下B「どうしますか」
男「…………作戦を強行する」
声『し、しかし……』
184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 15:58:05.27 ID:LG5NcfDx0
男「俺が目標を引きつける。ポイントまでの距離を伝えるから用意しておけ」
声『り、了解っ』
ザザッ……。
男「…………ふぅ」
部下A「男さん、俺が代わりに行きますよ」
男「いや、俺でいい」
男(何故こいつらが俺を信頼しているのか、未だ理解出来ないが……)
男(作戦の遂行には、確実にこの二人の力がいるからな……)
部下A「で、でもっ……」
部下B「……目標、目視できました」
185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 15:59:32.95 ID:LG5NcfDx0
男「よし」
男「いいか、俺が引きつけた隙にドアへ向かえ」
男「裏口から入った後は、一分俺の帰りを待つ」
男「もし、それ以上超えたら……お前達だけで行け」
部下B「……お、男さんっ……」
男「開始だ。さあ、走れっ!」
部下B「……ッ、了解」
男(……はは、何かっこつけてんだよ、俺)
男(足が勝手に震える……)
男(いつからこんなに……)
男「…………」
186 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 16:00:19.21 ID:LG5NcfDx0
男「おいっ! そこのお前っ!」
見張り「──っ、貴様誰だっ」
男「いいからこっちにこいっ!」
見張り「う、動くなっ! そこから少しでも動いたら撃つっ!」
男「…………」
見張り「よしそのままだ、手を高く上げろ」
ザザっ……。
男「……対象まで……十メートル」
声『まだ目視出来ません』
見張り「頭の後ろで手を組め。いいかっ、ゆっくりとだ……」
男「……六メートル」
見張り「こんな早朝に……一体、何だって言うんだ……」
187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 16:01:24.25 ID:LG5NcfDx0
男「……五」
見張り「よし、後ろを向いて……」
男「……三」
男「一」
声『も、目標を確保ッ』
見張り「ひざまづ──」
男「撃て」
バンッ!
見張り「…………」
……ドサッ。
男「……はは、いい腕だ」
222 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 00:51:49.59 ID:I83OW8CN0 [1/14]
──二階
男「……入った後は、客に混じってしまえばいいが」
部下A「……これじゃ、埒があきませんよ」
部下B「部屋の数が多すぎますし……このホテルは三十五階もあります……」
部下A「虱潰しに一つずつ回って行くしかないのかもな……」
部下B「そ、それじゃあ、予定の時刻までに間に合わないっ」
部下A「そんなこと俺だって分かってるさ……でも……」
男「──三十二階だ」
部下A「はっ?」
男「ホシは三十二階にいる」
部下B「なんで分かるんですかっ……?」
男「警備する人間の立場になって考えてみろ」
223 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 00:53:55.00 ID:I83OW8CN0 [2/14]
男「難しいことじゃない。忌むべき事実だが、奴らは俺たちと同類の人間だ」
男「最悪のケースを常に想定している、という点がな」
部下A「……それを逆手に取るということですか」
男「そうだ。最悪のケースを想定し、奴らはその時に備えているはず」
男「それを、利用する」
部下B「……で、でも」
男「いいから、これを見ろ」
部下B「……各階の案内図ですか」
男「見るのは三十階以上だ。他の階と何が違う?」
部下A「…………連絡通路がありませんね」
男「そうだ、隣の棟との連絡通路がこの階から存在しない」
部下B「で、でも、それが……」
男「守るべきエリアは大きいほうがいいか?」
225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 00:54:37.32 ID:I83OW8CN0 [3/14]
部下B「……えっ、それは小さいほうが、勿論、負担は減っ……」
部下B「──あっ!」
部下A「……そういうことですか」
男「そうだ、きっと、この階より上にいるに違いない」
部下B「……警備のために、上下のフロアを確保したいとなると……」
男「恐らく、三十二階になるな」
部下A「…………」
部下B「す、すごい……」
男「そうと決まれば急ごう」
男「正面玄関では、本人確認を義務づけて」
男「裏口にも警備をつけるという、徹底ぶりだ」
男「明らかに、敵は優秀に違いない」
男「外の警備からの連絡が途絶え、既に警戒態勢が敷かれているはずだ」
男「とにかく……まずは、三十階へ向かおう」
229 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 01:36:57.71 ID:I83OW8CN0 [4/14]
──三十階
部下A「……予想通りですね」
部下A「一般人に成り済ましていますが、この階から、警備の数が格段と増えてます」
部下A「しかし、これでは……」
男(ここまで厳重だとはな……どう考えても上の階にいけそうもない)
タタタタ……。
男「どうだった?」
部下B「……やはり向こうの階段も通行禁止になってます」
部下A「エレベーターは……」
部下B「駄目、三十一階から三十三階だけ、止まらないように設定してある」
男「…………」
部下A「くそっ、なんとか手段はないのかっ!」
部下B「ホシの居場所は確実に分かったのにね……」
230 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 01:39:22.67 ID:I83OW8CN0 [5/14]
部下B「男さん、どうします……?」
男「…………」
男(どうする……?)
部下A「……もう、強行突破しかない……」
男(作戦を見直すと言っても……時間はそれほど残っていない)
部下B「無理よ。仮に階段の警備を突破して三十一階へ辿り着いたとしても……」
部下B「この階以上に増えた敵に対処しているうちに」
部下B「──確実に、ホシは上の階へと逃げる」
男(ここまできて、終わってしまうのか……?)
部下A「くそっ……」
部下B「……正直、お手上げね……」
男(……ああ、何も思いつかない……)
男(どうする……俺達の作戦が失敗したら、今日という一日が全て無意味になる)
男(首相を捕らえることが、計画の前提条件だと言うのに……)
231 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 01:40:16.39 ID:I83OW8CN0 [6/14]
部下B「男さん、大丈夫ですか……?」
部下A「……顔色、真っ青ですよ……」
男「だ、大丈夫だ……」
男(……終わった……やってしまった……)
男(そもそも、無職の俺に出来ることなんて何もなかったんだ……)
男(その場しのぎで、今までやってきたが……)
男(……何事からも逃げ続けてきた俺には、荷が重すぎた……)
男(……ごめん、女……)
男(お前との約束、果たせそうもない……)
男(…………)
男(……ん?)
232 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 01:41:39.08 ID:I83OW8CN0 [7/14]
部下B「とりあえず、命令を……」
部下B「……って、男さん?」
男「…………」
男「……ああ、そうか」
部下A「え?」
男「……まだ、諦める必要はない」
部下B「そ、それは一体、どういう……?」
男「いいか……」
男「──手段は、一つだけ残っている」
238 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 02:26:17.03 ID:I83OW8CN0 [8/14]
──三十階
ボーイ「……フン♪」
ボーイ「……フンフーン♪」
ダンッ!
ボーイ「うっ…………」
……バタン。
部下A「……クリア」
男「よし、すぐさま着替えろ」
部下A「了解」
部下A「……しかし、従業員に成り済ましてどうするんですか?」
部下A「恐らく、彼らも上に続く階段は登れませんよ?」
239 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 02:28:03.06 ID:I83OW8CN0 [9/14]
男「違う、そこじゃない」
部下A「え?」
部下B「残された手段って……一体……?」
男「…………」
男「ホテルで宿泊した時、腹が減ったらどうする?」
部下B「……色々手段はあると思いますが……」
部下B「私は受付に電話して、食事を持って来てもらいますね」
男「その時に使用するのは、客が使っているエレベーターか?」
部下B「……それは、恐らく違うはずで……」
部下B「──あーっ、そういうことですかっ!」
男「そうだ、従業員用のエレベーターが確実にどこかにある」
240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 02:29:15.01 ID:I83OW8CN0 [10/14]
男「そして、そこに対する警備は……」
部下A「『手薄』ってことですね」
男「……ああ。俺達は、見事、最短で三十二階へ行ける」
部下B「……つまり」
男「そこからは、純粋な力勝負だな」
男「…………」
男「行くぞっ」
部下A・B「「はいッ!」」
295 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 21:06:00.67 ID:I83OW8CN0 [11/14]
テスト
302 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 23:15:35.39 ID:I83OW8CN0 [12/14]
──三十二階 エレベーター前
ガタン……。
警備2「ん? 誰か来たのか?」
警備2「……なっ」
ピュンッ!
警備2「……かはっ……」
……バタン。
男(二、一のフォーメーション)
男(俺が先頭を行くから、援護を頼む)
部下A(了解)
部下B(バックは任せて下さい)
男(よし)
303 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 23:16:21.95 ID:I83OW8CN0 [13/14]
男(…………)
男(……角に二人)
部下A(……やりすごせますか?)
男(……その時間はない……おびき寄せる)
…………ダン……。
警備3「……ん? 今、何か音しなかったか?」
警備4「そうか? 俺には聞こえなかったが……」
警備3「確認してくる」
警備4「分かった。ここは任せろ」
タタタ……。
警備3「…………」
警備3「誰もいないか……ん?」
ザザッ。
304 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 23:17:25.06 ID:I83OW8CN0 [14/14]
警備3「──っ……」
バタンッ……。
男(……OKだ。もう一人も確実に仕留めろ)
部下A(了解)
タタタ……。
警備4「おい、大丈夫か……」
警備4「──って、お前っ!?」
ピュンッ!
警備4「……かっ……」
バタン。
部下A「クリア」
男「時間はない、急ぐぞ」
部下B「はいっ」
310 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/10(土) 00:11:46.88 ID:eTh1kwKr0 [1/42]
──三十二階 一室
首相「君、さきほどから官邸のほうと連絡が取れんぞ」
付き添い「現在、我々の方でも状況を急ぎ確認しております」
首相「状況? ……一体どういうことだ?」
付き添い「国会議事堂がテロにあったようです」
首相「……て、テロ?」
付き添い「詳細はまだ分かりませんが、恐らく確かな情報でしょう」
首相「そんな大事なことを君は黙っていたのかっ!!」
付き添い「出来る限り、貴方に負担がないようにと」
首相「……っ」
首相「いいかっ! 私はこの国の代表者なんだっ!」
首相「何が重要で何が不必要な情報か、それを判断するのはあくまでも私だっ!」
付き添い「分かっております」
首相「…………くっ」
311 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/10(土) 00:13:45.35 ID:eTh1kwKr0 [2/42]
首相「……それで、勿論、制圧出来ているんだろうな……?」
付き添い「……現在、確認中です」
首相「か、確認だと? ぐ、軍はもうとっくに動いたんだろう?!」
付き添い「それが、対応が大幅に遅れておりまして……」
付き添い「最高でも、後30分はかかるそうです」
首相「……あ、有り得ない……そんなこと有り得る訳がない……」
首相「このような日が来ないようにと、あれだけ準備してきた……」
首相「……ま、まさかっ……」
付き添い「……はい。恐らく、上層部がテロの者と繋がっているのでしょう」
首相「──あの売国奴めっ!!」
首相「だから、あの男を防衛大臣に任命するのは嫌だったんだっ!」
首相「クソっ! これが片付いたら、アイツを必ず処刑してやるっ!」
312 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/10(土) 00:14:52.57 ID:eTh1kwKr0 [3/42]
付き添い「しかし、彼は断固として、その事実を認めないでしょう」
首相「構うものかっ! 責任を負わせ、無理矢理にでも引きずり降ろしてやるわっ!」
首相「そして、私の目の前で直に刑を下してやるっ!」
付き添い「…………」
首相「はぁ……なんて厄日なんだ……」
付き添い「……いいえ、まだ我々はツイている方です」
首相「何を寝ぼけたことを言っている……」
付き添い「救いは、あなたがあの場所にいなかったこと」
付き添い「仮に国会議事堂を落とされても、あなたがいる限り、どうとでもなります」
首相「……フンっ……なら、いいがな」
バンッ。
313 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/10(土) 00:16:17.52 ID:eTh1kwKr0 [4/42]
警備5「──た、大変ですっ! し、侵入者ですっ!」
首相「なにっ!?」
付き添い「…………」
付き添い(やはり、そう、うまくはいきませんか……)
首相「ど、どういうことだっ?! 安全だったのではないのかっ!」
付き添い「……いいえ、大丈夫です」
付き添い「ここまでの警備は万全ですよ」
付き添い「その者たちは、三十階か? 或いはもう三十一階まで来て……」
警備5「──三十二階っ! 既に近くまで来ていますっ!」
付き添い「なっ……」
首相「ど、どうなってるっ!! 万全のはずなんだろっ?!」
付き添い「……一体どうやって……」
付き添い「……ッ、と、とにかく、早くこの階から避難しま……」
──バンッ! バンッ!
314 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/10(土) 00:17:58.14 ID:eTh1kwKr0 [5/42]
警備5「く、くそっ! 援護してきますっ!」
タタタタッ!
首相「……まさか、今の音は……」
首相「──……銃声?」
付き添い「…………」
首相「……せ、説明しろ……」
首相「何が起こっている……? なぜ、何も言わない……?」
付き添い「…………」
首相「……そうか、そういうことか……」
315 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/10(土) 00:18:49.19 ID:eTh1kwKr0 [6/42]
首相「私達は……ここで……」
首相「…………」
バンッ!!
警備5『……ゴホッ……』
バタン……。
首相「…………」
付き添い「…………」
ガチャ……。
男「…………」
男「……やっと、会えた」
316 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/10(土) 00:19:38.01 ID:eTh1kwKr0 [7/42]
男「どれだけ、この日を待ち望んだことか……」
男「……お前には、きっと、分からない……」
首相「……あ、ああ……」
首相「や、やめろっ……」
首相「そ、それ以上……近づくなっ!!」
付き添い「こ、交渉だけでも……」
男「──殺せ」
部下A「了解」
バンッ!
付き添い「…………カ……」
バタン……。
首相「あ、あああ……」
318 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/10(土) 00:24:49.21 ID:eTh1kwKr0 [8/42]
首相「う、うわあああああああッ!」
首相「た、頼むぅ……い、命だけは……っ!?」
男「ハハ、安心しろ」
首相「……へっ?」
男「お前を殺すほど、俺も馬鹿じゃないさ」
首相「……ほ、本当か……?」
男「ああ、もちろん」
首相「あ、ありがとうっ!! ……い、幾らだ? 幾らでもや……」
男「──これから、もっと苦痛に喘いでもらわないとな」
首相「……は?」
319 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/10(土) 00:26:39.16 ID:eTh1kwKr0 [9/42]
男「簡単には死なせない……」
男「……生きていることを、必ず後悔させてやるよ」
首相「……う、嘘だ……」
首相「た、頼む……嘘だと言ってくれ……」
男「…………」
首相「……だ、誰か、誰でもいいから……」
首相「とにかく私を……」
首相「……助けて……く……」
──ガチャン。
364 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 16:55:23.89 ID:eTh1kwKr0 [10/42]
──国会議事堂前
女「…………」
女「……男……大丈夫だろうか……」
トゥルトゥルトゥル。
女「はい」
防衛大臣『首尾はどうなっている?』
女「既に議事堂は制圧しました。現在は、警察との拮抗状態が続いています」
防衛大臣『……そうか、うまくやったようだな』
女「ご協力のおかげで」
防衛大臣『……私は今でもこの選択が間違いなのではないかと考えてしまう』
防衛大臣「違う手段があったのでは……と、思わずにはいられないのだ」
女「ここまできたのです。もう、引き返すことはできません」
防衛大臣『分かっている……分かっているのだが……』
防衛大臣『ん………そうだ』
365 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 16:56:54.81 ID:eTh1kwKr0 [11/42]
防衛大臣『協力の条件に出した、首相の確保は達成されたのか?』
女「……現在、報告待ちです」
防衛大臣『な、なんだと……』
女「進展がありましたら、こちらから連絡させて頂きます」
防衛大臣『ヤツを捕らえない限り、全ては水の泡だぞっ!?』
女「わかっています」
防衛大臣『反対派も自らの安全が保証されない限り、味方にはついてくれないッ』
女「…………」
防衛大臣『……良い連絡を期待している……』
女「はい、失礼します」
女「…………」
女「……ふぅ」
タタタタッ。
366 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 16:57:29.85 ID:eTh1kwKr0 [12/42]
女「どうした? 何かあったか?」
部下C「女さん宛に電話です」
女「もしや、男っ……」
女「──と、そんなわけないか……あいつなら私に直接かけてくるはずだ」
女「しかし、このタイミングか……」
女「……一体、誰だ?」
部下C「追跡は出来ませんでした。秘匿回線を利用しています」
女「…………」
女「わかった……貸せ」
部下C「はい」
ピッ。
女「もしもし」
367 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 16:58:08.43 ID:eTh1kwKr0 [13/42]
?『おめでとう、と言った方がいいかな、女君』
女「……誰だ?」
?『君に名乗る必要はない。用件はすぐに終わるのでね』
女「…………」
?『話というのは、君たちのグループに所属している……ある男のことなんだ』
女「……なに……?」
?『……心当たりがあるようだね?』
女「ち、違う……そういうわけでは……」
?『私が『おめでとう』と言ったのは、議事堂を占拠できたことだけではない』
?『見事、作戦は成功したよ、女君』
女「え……?」
?『君たちの精鋭グループは、首相を確保した』
女「……ど、どこでそれを……?」
368 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 16:58:50.60 ID:eTh1kwKr0 [14/42]
?『今、私が出る寸前のホテルでだよ』
女「私はまだそんな連絡を貰ってはいないッ!!」
?『しかし、確かな情報だ』
?『追って、君にも報告が届くことだろう』
?『ただ……その時に私はもう、ここにはいないがね』
女「…………」
女「……用件はなんだ?」
?『五年前、ある紛争地域から一人のアジア系の男が消えた』
女「な、何を……」
?『逃走兵など幾らでもいる。本来ならば、あまり気にも留めないことなんだがね』
?『……その時だけは、訳が違った』
?『男は、圧倒的な戦力と頭脳を持っていた』
?『ヤツの指揮ならば、倍の数の敵戦力も無意味だった』
女「……そ、そんな……」
370 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 16:59:35.00 ID:eTh1kwKr0 [15/42]
?『しかし、その男が戦場から突然消えたのだよ……』
?『これは我々にとって大きな損失だった……いや、大きすぎた……』
?『そして我々は……ある結論に辿り着いた』
?『何度捜索しても死体は見つからない……いや、そもそも死んだという前提が間違っているのではないか?』
?『各国を探し求め……時間だけが過ぎた……』
?『何人もの同胞が死んでいった……』
?『そして、遂に……』
女「……ッ」
371 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 17:00:24.22 ID:eTh1kwKr0 [16/42]
?『──この偏狭の地で、見つけてしまったのだ』
女「ち、違うっ!」
?『言うな、何も言うな。君には分かっているはずだ』
?『顔形は昔のものと違ったが……今の時代、変えることなど造作ない』
女「…………」
?『……長くなってしまった。次が電話の用件だ』
?『今、私の部下が二人の者を捕らえている』
女「……なっ」
?『一人は落ちぶれた一国の総理、もう一人は……』
?『──今作戦の指揮官、男という名の者だ』
387 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 21:20:54.16 ID:eTh1kwKr0 [17/42]
──???
?「──時刻までに用意しておくように」
女『お、おいっ……』
ピッ。
男「…………」
男(……一体、どうなってやがる……)
?「テープを剥がし、アイマスクも取ってやれ」
?「はっ」
男「……ぷはっ」
将官「どうだ? 自分の置かれた状況を理解したか?」
男「……どういうつもりだ……?」
将官「どういうつもりも何も、さきほど電話で話した通りだ」
男「……俺は、あんたの探している相手とは違う」
男「話せば幾らでも説明出来るはずだが……」
388 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 21:22:38.02 ID:eTh1kwKr0 [18/42]
男「……一つだけ気に喰わないことがある」
将官「……それは?」
男「あんた、分かってるんだろ?」
男「──俺が求める相手ではないのを、さ」
将官「…………」
男「どうしてだ? 何故、気付いているのに騙し続ける?」
将官「ククッ」
男「笑ってないで、答えたらどうだ?」
将官「……いやはや、素晴らしい」
将官「困難に直面した時の発想の機転、部下からの厚い信頼」
将官「そして、優れた洞察力か。本当に、素晴らしいな」
男「…………」
389 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 21:23:18.40 ID:eTh1kwKr0 [19/42]
将官「君の問いに答えよう」
将官「そうだ、その通りだ。私が探している者は、君ではない」
男「……ならば……」
将官「実はね、もう死んでしまったんだ」
男「──はっ?」
将官「彼女には死体が出なかったと言ったが、私は自分の目で確認している」
将官「私の目の前で、彼が吹き飛んだ光景をね」
男「……お、おい」
将官「しかし、仲間の士気を下げる訳にはいかなかった」
将官「それだけ、彼は我々にとって大きな存在だったんだよ」
将官「……そう、彼女たちにとっての君のようにね……」
男「…………違う」
390 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 21:24:04.51 ID:eTh1kwKr0 [20/42]
将官「違わないさ。自分を過小評価するのは止めたまえ」
将官「今日の結果も、電話の彼女の狼狽ぶりもそれを証明して……」
男「──本当に違うんだっ!」
将官「…………」
男「お、俺は……ただ……」
男「自分の人生に嫌気がさしていて……」
男「いつも何事からも逃げ続けて……そんな自分が本当に嫌いで……」
男「なりゆきで、こんなことをしているが……」
男「あんたの考えているような人間では、決してない……」
男「は、はは……これを聞けばあんたも落胆するだろうよ……」
男「俺はな……初め、妹が欲しいとか馬鹿なこと考えて」
男「他人の家に忍び込んで……そして、捕まったのさ」
男「全ては……そこから始まった……」
男「そう、ただ運命に翻弄されてるだけなんだ……」
将官「…………」
391 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 21:24:40.45 ID:eTh1kwKr0 [21/42]
男(……これで、もう馬鹿なことを考えないだろう……)
男(落胆のあまり、もしかしたら俺を殺すかもしれねぇな……)
男(……まあでも、それで終わりもいいか……)
男(人生のほんの少しだけだったが……女との日々は、とても充実していた……)
男「そういうことだ。俺は、あんた達の求めるような人間じゃない」
男「出来れば、首相だけでも確実に届けてくれ」
男「奴は……この国の未来のために必要なんだ」
将官「……ふむ」
将官「どうやら言っていることは真実のようだ」
将官「君の目からは、嘘偽りを言っているようには感じられなかった」
男「だろっ? なら……」
将官「──でも、いいじゃないか」
男「……は?」
392 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 21:26:37.43 ID:eTh1kwKr0 [22/42]
将官「君の過去などには元々興味などない」
将官「大事なのは今で……そして、これからだ」
男「ま、待てっ」
将官「あいにく、我々に残された時間は少ないのだよ」
将官「相手は兵器という兵器を使って、我々を圧倒している」
将官「このままでは……潰滅させられるのもすぐだ」
男「……で、でもっ」
将官「頼む、とは言えない。フェアな取引をするつもりはないからだ」
将官「ただ、彼女が私の要求を飲めば、君たちが求める男は引き渡そう」
将官「君は……私と一緒に来てもらう」
男「…………」
393 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 21:27:22.27 ID:eTh1kwKr0 [23/42]
男(な、なんてことだ……)
男(……ど、どうしてこんなことに……)
将官「よし、車に連れてけ」
部下「はっ」
男「……ッ」
バタンッ。
将官「予定通り、空港だ」
将官「長旅もこれで終わる……やっと故郷に帰れるぞ」
将官「そうだ、さきほど言っていたな……」
男「……なん……だ?」
将官「妹が欲しかったと」
男「……? ああ、そうだが……」
将官「残念なことに妹はいないが……」
394 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 21:27:52.49 ID:eTh1kwKr0 [24/42]
将官「──今年で二十歳になる、私の娘がいる。自慢の娘だ」
男「……は?」
将官「君さえよければ、妹だと思ってくれればいい」
男「そ、そういうことじゃ……」
将官「では、向かおう」
将官「…………」
将官「この国に……幸あれ」
401 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:12:14.57 ID:eTh1kwKr0 [25/42]
──倉庫
女「…………」
女「……まだか……」
女「もう既に約束の時間を過ぎているぞ……」
女「…………」
女「……男……無事でいてくれ……」
トゥルトゥル。
女「……っ!」
女「もしもしっ!」
将官『すまない。少し連絡が遅れてしまった』
女「約束通り、こちらは十億用意したぞ」
女「お前も、男と首相を早くこちらに引き渡せ」
将官『……よくこの短時間で集められたな?』
402 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:12:55.04 ID:eTh1kwKr0 [26/42]
女「当然だ、この国の未来がかかっているんだっ!」
女「お前にとってもこの金は軍備のために必要なんだろ?」
将官『ああ、そうだ。……とりあえず、北の出口に出てくれ』
女「北? 中で取引をするんじゃないのか?」
将官『まあいいから、こちらの指示に従ってくれればいい』
女「…………」
将官『本当に君一人で来たのか?』
女「勿論だ、余計な問題を引き起こしたくない」
将官『ふむ、懸命な判断だな』
女「歩いていけば、いいのか……?」
将官『ああ』
タン……タン……タン。
女「まだか……こちらからは海しか見えんぞ?」
403 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:13:40.64 ID:eTh1kwKr0 [27/42]
将官『いいから、進みたまえ』
タン……タン……。
女「……倉庫から出たぞ」
将官『…………』
女「おいっ、どこもいないじゃないか」
女「約束と違うぞっ! 金ならこの通……」
──プツッ。
女「……切れた」
女「くそっ……どういうことだ……」
女「分からん……何が目的だ……?」
ザザッ……。
女「……近辺に人影は?」
部下C『見当たりません』
女「不審な車などあるか?」
404 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:14:16.30 ID:eTh1kwKr0 [28/42]
部下C『出入りした車は一つもありませんでした』
女「…………」
女「……そうだ」
女「男たちと行動していた二人は見つかったか?」
部下C『まだのようです……』
女「……くそっ」
女「一体何がどうなってるん……」
クルっ……。
女「──へっ?」
女「…………」
女「……この男は……」
405 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:14:55.28 ID:eTh1kwKr0 [29/42]
女「──首相?」
部下C『どうしました? 状況を伝えて下さい』
女「……わ、わからんが……」
女「……倉庫の裏の隅に……首相が……」
部下C『えっ? 見つかったのですか?』
女「……両手両足を縛られた状態で、気絶している」
女「…………」
女「……ま、まさか」
部下C『女さんっ! 今、連絡が入りましたっ!』
女「どうしたっ!?」
406 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:15:30.66 ID:eTh1kwKr0 [30/42]
部下C『男さんと行動していた二人が、ホテルの一室で発見されました』
部下C『二人とも、手足を縛れて気絶したようです』
女「……首相と同じ……」
女「……お、男は?」
部下C『……ホテルにはいなかったようです』
女「……ああ」
女「そういうことか……」
部下C『……えっ?』
女「完全にやられた……」
部下C『どういうことですか?』
407 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:16:17.19 ID:eTh1kwKr0 [31/42]
女「……囮だ。男を引き渡す気など、初めからなかったんだ……」
女「こんな単純なこと、何故気付かなかった……」
女「判断能力が鈍っていたのか……? 男が捕まったから……?」
女「……ああ」
女「……くそぉ……くそっくそっ……」
女「……ど、どうすれば……」
女「なんとかして……助けられないのか……?」
女「……あぁ、分からない……」
女「私には……もう……正常な判断が……できない……」
408 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:17:02.44 ID:eTh1kwKr0 [32/42]
女「……お、男ぉ……」
女「……くっ……うっ」
……トゥルトゥル。
女「……うぅ……ああ……くぅ……」
……トゥルトゥル。
女「……っ」
ピッ。
女「……い、今は手が離せないから、後で折り返……」
男『……俺だ』
女「えっ……?」
415 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:57:02.94 ID:eTh1kwKr0 [33/42]
──飛行機内
女『お、男かっ!? 今、どこにいるっ! 無事だったんだなっ!?』
男「……ああ……大丈夫だ」
女『すぐに迎えの者をやるっ! 場所を教えろっ!』
男「いいんだ……女、それより聞いてくれ」
女『何がいいものかっ! これから国民にTVで知らせねばならないっ!』
女『この国が本来あるべき民主主義の、第一歩を踏めたのだとっ!』
女『早く男が来ないと、いつまで経っても始められないぞっ!』
男「俺がいなくても、お前ならやれる」
女『な、何をわけがわからないことを言っている……?』
女『首相の安否を心配しているなら……奴は今、確保したぞ?』
女『電話の男は、どうやらお前を取り逃がし、パニックになったようだな』
416 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:57:39.14 ID:eTh1kwKr0 [34/42]
女『これで防衛大臣との約束も果たした。軍は我々の味方となる』
男「……そうだな、アイツを国民の前でしっかりと裁いてやらなきゃいけない」
女『そのつもりだ。裁判でしっかりと悪事を暴かせるっ』
女『そのためにも、男、まだ私たちにはお前の力が必要だ』
女『……そして、私にとっても……な?』
男「…………」
女『どうした? 何故、何も言ってくれない?』
男「……す、すまない」
女『え?』
男「ここからは、お前と一緒にはいけない」
女『な、何を言ってるんだ……? け、契約したはずだろっ?』
女『あっ……ああっ! 報酬のことを心配しているんだなっ!?』
418 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 23:31:01.53 ID:eTh1kwKr0 [35/42]
女『分かった、すぐにでも希望の額を……』
男「──違う。もう、終わったんだ」
女『なっ……』
男「国を変えるための手助けをする」
男「それが取り決めだ」
男「そして、今、それは叶った」
女『……ま、まだだっ……終わっていない……』
男「いいや、軍を味方にした時点で、全て片付いた」
男「見事、この国は変わる。君の手でな」
女『…………』
男「一つだけ心掛かりがあるとしたら……」
男「お前がこの国を指揮する姿を、一度だけでも見たかったな」
女『……それなら側にいてくれればいい……』
419 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 23:32:03.36 ID:eTh1kwKr0 [36/42]
男「だが、俺はいかなきゃならない」
女『……っ』
男「逃げてきた戦地へ……もう一度、やり直さねばならない」
女『お、男ぉ……』
男「ありがとう」
男「君に逢えて……本当に良かった」
男「幸せだった……」
男「…………」
女『い、いやだ……やだ……』
男「……そして」
男「──本当にごめんな」
女『……あっ』
ピッ。
422 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 23:33:42.57 ID:eTh1kwKr0 [37/42]
男「…………」
男「…………は」
男「……は、ははっ」
男「…………」
男「……く、くそっ」
将官「……電話は終わったか?」
男「……ああ」
将官「君が騙らずとも良かったのにな」
男「いや、こうするしかなかった……」
男「……俺が、さらわれたと知ったら……」
男「アイツはきっと、どこまででも追いかけてくれるはずだ……」
男「俺を救うために、それこそあんたのように、世界中を回ってな」
将官「…………」
423 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 23:34:26.59 ID:eTh1kwKr0 [38/42]
男「でも……今、あの国にはアイツが必要なんだ」
男「誰かを引きつけるような……カリスマ的な存在がな……」
将官「確かに、彼女の演説は素晴らしいものだった」
男「は、はは……あの時から、もう忍び込んでたのか?」
将官「…………」
男「……ふー」
男(……また、全て失っちまった……)
男(少しだけ……幸せな未来を想像したのにな……)
男(まあ、俺には……似合わなかったんだろう……)
男(……次行くとこは、紛争地帯か……)
男(……俺……生きてけるかな……)
425 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 23:53:26.43 ID:eTh1kwKr0 [39/42]
──飛行機内
男「…………」
男「ん……ああ、寝ちまったのか……」
男「…………」
男(女との夢……か……)
男(……ああ)
男(……やべぇ……涙出そうだ……)
男「……くっ……」
男「…………」
ガタンガタン……。
男(……ん? 揺れが激しいな……)
男(乱気流だろうか……)
ガタガタッ!
426 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 23:54:08.20 ID:eTh1kwKr0 [40/42]
男「…………」
男(おい……まさかってことはないよな……)
男(……ってか、どれくらい寝てたんだろ……)
男(窓の外を見たいが……)
男(ちょうど座席は……真ん中なんだよな……)
男(この手足の縛りがなければ、なんとかいけるんだが……)
男「……って、あれ?」
男(あいつらはどこいった? 見張りは?)
男(……もしかして、逃げるチャンス……?)
男「……くっ」
……ミシッ。
428 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 23:54:57.82 ID:eTh1kwKr0 [41/42]
男「……ッ」
男(駄目だ……腕力じゃ切れそうもない……)
男(何か使えそうなものは……)
男「…………」
男「……あった」
男(……この椅子の部分で擦り続ければ……)
男(頼む……切れてくれよ……)
431 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 23:59:15.63 ID:eTh1kwKr0 [42/42]
──飛行機内 数分後
ブチッ……。
男「……よしっ」
男(これで、両手が使えるぞ……)
男(足のものも取ってしまおう)
男(…………)
男(……うし……OKだ)
男「…………」
トコトコトコ。
男「……海か……」
男「どこまで続くんだろうな……」
ガタガタッ。
432 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 00:02:01.80 ID:tgD+iP2n0 [1/36]
男「……ッ……くそっ、揺れる……」
男「…………」
男「しかし……」
男(どうもおかしくないか……)
男(……機内が、あまりにも静か過ぎる……)
男(そして……)
男「……人の気配がない……」
男「…………」
433 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 00:03:43.47 ID:tgD+iP2n0 [2/36]
男「…………」
男(……仕切りを開けてみるか……)
男(相手も銃は使わないだろう……何とか、倒せるといいが……)
男(一対複数か……かなり、無理があるな)
男「……が、やるしかねぇ」
男(……何故か、とてつもなく嫌な予感がする……)
男(…………)
男「……ッ」
ザザッ!
男「…………」
男「なっ……」
男「……だ、誰も、いない……?」
439 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 00:18:45.75 ID:tgD+iP2n0 [3/36]
──飛行機内 数分後
男「…………」
男「……なんて、ことだ……」
男「パイロットまでいないじゃないか……」
男「ど、どうなってる……?」
男「……今は、自動操縦だから構わんが……」
男「着陸の時は……」
男「…………」
男「だ、だめだっ……頭を一旦、整理しよう……」
男「……まず……俺は、何時間寝てたんだ……」
男「時計……時計」
トコトコトコ。
440 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 00:21:31.40 ID:tgD+iP2n0 [4/36]
男「──ん? ……止まってる」
男「…………」
男「ほ、他のを探そうっ」
バサバサッ……。
男「あっ……」
男「…………」
男「飲みかけのコーヒー……」
男「……まだ仄かに温かい……」
男「…………」
男「……ああ……これは……」
男「どこかで……見たことがある光景だ……」
男「……どこだ……どこで見た……?」
男「…………」
男「……ッ」
441 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 00:22:08.99 ID:tgD+iP2n0 [5/36]
男「ま、まさか……」
男「神隠……」
──ガタン、ガタンッ!
男「う、うぉっ!」
男「ど、どうした!?」
ガタガタガタガタッ!
男「た、立ってられない……揺れる……ッ!」
ガタガタガタガタッ!
男「と、とにかく近くの席に……」
ウーウーウー!
男「緊急用のブザーかっ!?」
ガタガタガタガタッ!
男「…………」
男「お、おいおい……嘘だと言ってくれよ……」
442 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 00:23:02.26 ID:tgD+iP2n0 [6/36]
ウーウーウー!
男「……マジで……?」
ガタガタガタガタッ!
男「こ、ここで終わり……?」
ガタガタガタガタッ!
ガタガタガタガタッ!
男「ああ……もう……」
男「…………誰か……」
ガタガタガタガタッ!
ガタガタガタガタッ!
ガタガタガタガタッ! ガタガタガタ……
──バァァァァァーンッ!!!!!!
451 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 00:57:19.58 ID:tgD+iP2n0 [7/36]
──海
男「…………」
男「かはっ……」
男「……っ……」
男「……い、生きてるのか……」
男「は、はは……運がいいのか、悪いのかわかんねぇよ……」
男「……ここは……一体……」
男「……とりあえず、機体から出ないとな……」
男「よいしょっ……って……」
男「──うっ……」
453 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 00:58:13.14 ID:tgD+iP2n0 [8/36]
男「あっ……」
男「……足が……ッ……」
男「……これは……折れてるぞ……」
男「た、立てない……」
男「何か……杖のようなものはないか……?」
男「……ん」
男「……この鉄の棒を使うか……」
男「しかし、これ……一体どこの部品なんだろうか……」
男「もうぐちゃぐちゃでわかんねぇな……」
男「…………」
男「……これも持って行こう……」
454 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 00:59:07.38 ID:tgD+iP2n0 [9/36]
トコ……トコ……トコ。
男「……あと、ここを登って……」
男「…………青空?」
男「……うわぁ……綺麗だなぁ……」
男「あれだけ天候が悪かったのに……今は、快晴か……」
男「墜落してから、かなりの時間……気絶してたのかもしれないな……」
男「しかし、沈まないということは浅部だな」
男「もう少し周りの景色が見たい……」
男「……うっし……そこを登ろう……」
男「……おっ」
男「あ、あれは……」
459 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 01:16:07.58 ID:tgD+iP2n0 [10/36]
──島?
男「ふぅ……」
男「近くに……島があってよかった」
男「ただ……島にしては大きすぎるような……?」
男「まあどちらにせよ、人は住んでいるに違いない」
男「もしかして……大陸だったりしてな」
男「ははっ、そんなわけないか」
男「こんな場所にあるわけないもんな」
男「…………」
男「……でも、仮にそうだとしたら?」
男「……ハ、ハハ」
男「ま、まあ、いい。とりあえず、歩くしかない」
460 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 01:16:41.48 ID:tgD+iP2n0 [11/36]
トコ……トコ……トコ。
男「しかし……」
トコ……トコ……トコ。
男「……熱いなぁ……」
男「南の国のどこかなのか……」
トコ……トコ……トコ。
男「おーいっ!」
男「誰かいないかーっ!」
トコ……トコ……トコ。
男「はぁ……はぁ……」
男「片足だと……歩くのもしんどいな……」
男「……誰か、見つけないと……」
461 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 01:17:17.74 ID:tgD+iP2n0 [12/36]
トコ…………トコ…………。
男「…………」
男「……うぅ……」
バタンっ。
男「はぁ……はぁ……はぁ……」
男「もう駄目だ……動けない……」
男「これ以上は……無理だ……」
男「何で何も見つからない……」
男「……草木の中を、ただ無心に歩いてるだけじゃないか……」
男「もしかして……無人島だったりするのか……」
462 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 01:18:41.73 ID:tgD+iP2n0 [13/36]
男「…………」
男「機体の上からは……何か尖ったものがみえたんだけどな……」
男「……あれは山だったか……しくったな……」
男「どうしよう……ああ……もう、いい」
男「今日は……ここで……休もう……」
男「……明日は……見つかるといいな……」
男「身体が……だるい……」
男「……おや、すみ……」
545 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 21:04:45.39 ID:tgD+iP2n0 [14/36]
──森
男「…………」
男「何もない……誰もいない」
男「一体……いつまで続くんだ……」
男「…………」
男「……腹が減ったな……」
男「何か食べたい……が、どうする?」
男「……木の実か果物でもあるといいなあ……」
男「…………」
トコ……トコ……トコ。
546 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 21:05:31.59 ID:tgD+iP2n0 [15/36]
男「熱い……もう、きついぞ……」
男「喉も乾いたし……川を探すのが先決かもな……」
男「……ん?」
男「こ、これは……」
男(見たこともない果物だな……食べて、大丈夫だろうか?)
男「…………」
男「一か八か……」
もぐもぐ。
男「……おお、甘くてうまい……」
男「たくさん取っておくか。これからどうなるか分からないしな……」
男「よし、川を見つけたらそこで休みにしよう」
551 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 21:09:54.93 ID:tgD+iP2n0 [16/36]
──数日後
ザザー……。
男「…………」
トコ……トコ……。
男「……ごほっ」
男「こほっ、こほっ」
男「……う……」
ザザー……ザザー……。
男「……雨、一向に止む気配がないな……こほっ」
552 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 21:13:26.90 ID:tgD+iP2n0 [17/36]
男「っ……咳が止まらん……」
男「……うっ……ごほごほっ」
男「あぁ……ふらふらする……」
男「…………」
……ドスン。
男「ひとまず、座ろう……」
男「……これは、完全にやばいな……」
男「確実に熱がある……この状況でどうする……?」
男「正直、もうこれ以上動くのは危険だ……」
554 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 21:19:17.45 ID:tgD+iP2n0 [18/36]
男「…………」
男(こんなに歩いたっていうのに、誰一人いない……)
男(進むスピードは遅いにしても……もう相当の距離は歩いたはず……)
男(……考えられるのは……)
男「……ここに、人は住んでいない……ってか」
男「…………」
ザザー……ザザー……。
男「……ああ……」
男「……一人で生きてけんのか……?」
男「話し相手もいない……そんな状況で、俺は……」
男「──こほっこほっ……!」
パタン……。
555 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 21:22:50.83 ID:tgD+iP2n0 [19/36]
パタン……。
男「……はぁ……」
ザザー……ザザー……。
男「……なつかしいな……」
男(あの時もこうして、自分の部屋のベットで一人寝転がってた……)
男(……自らの人生に毒づいて、変わらない日々を憎んで……)
男(……毎日、生きている心地すらしなかった……)
男「……今は……どうなんだ?」
男「少しぐらい……マシな生き方をしているんだろうか……ごほっごほっ……」
556 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 21:24:27.92 ID:tgD+iP2n0 [20/36]
男「…………」
男「だれか……」
男(……ああ、頭が……)
男「……だれでもいいから……返事してくれ……」
男(……だんだん……視界がぼやけてくる……)
男「……お、おれは……」
男(……これはもう……駄目だ……)
男「きちんと……」
男「……生きてる……か……?」
男「…………」
男(…………)
──ザザー……ザザー……。
561 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 21:57:43.94 ID:tgD+iP2n0 [21/36]
──森
トコトコ。
?「…………」
?「あれ……?」
?「……誰か倒れてる……?」
?「……大変……助けを呼んでこなきゃ……っ」
?「でも……この格好……」
男「…………」
?「…………」
?「……いいえ、詮索は後にしないとっ」
?「ちょっと待ってて下さいねっ!」
タッタッタ。
563 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 22:19:04.33 ID:tgD+iP2n0 [22/36]
男(……ん? ここはどこだ……?)
男(…………)
男(……俺、あの後、どうなったんだろ……)
男(あっけなく死んじゃったりしてな……)
男(……じゃあ、ここは死後の世界だったりするのか……)
男(…………)
男(白いな……ただ、白い……)
男(……何もねぇし、誰一人もいない……)
男(……これが……死……?)
564 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 22:20:57.60 ID:tgD+iP2n0 [23/36]
男(…………)
男(だったら、やめだ……)
男(俺は……こんな世界……っ)
男(…………)
男(……死にたくない……)
男(………まだ、俺は……)
──生きていたいっ!!
565 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 22:21:41.85 ID:tgD+iP2n0 [24/36]
ガバッ。
男「……ッ」
男「……はぁ……はぁ……」
男「……生きてる……まだ、生きてる……」
ドクッ……ドクッ……。
男(心臓の鼓動が聞けて嬉しいと思うなんて……ホント、どうかしてる)
男(それでも今は……今だけは……)
男「…………」
男「……で、また、ここはどこだ?」
男「見るかに、人の家だが……」
男「…………」
……ガチャ。
566 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 22:23:46.24 ID:tgD+iP2n0 [25/36]
男「……ん?」
?「あっ……目が覚めたんですね?」
男「…………」
男「……え、え?」
?「もうあんな場所で倒れているんで、死体かと思って心配したんですよ」
?「しかも高熱だったし……足も折れてて……」
男「……き、きみ……」
?「へ? どうかしましたか?」
男「…………」
567 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 22:25:02.78 ID:tgD+iP2n0 [26/36]
?「何か言いたいことがあったら、遠慮せずにお願いしますね」
?「こういうときは助け合いです」
男「……失礼なことかもしれないが」
男「……一つだけ聞きたい」
?「はい、何なりと」
男「…………」
男「君の……その耳……」
男「──少し長過ぎやしないか……?」
エルフ「……え?」
586 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 23:00:54.61 ID:tgD+iP2n0 [27/36]
──居間
エルフ「これで、よしっと」
男「……おぉ……」
エルフ「はいどうぞ。たくさん食べて下さいね」
エルフ「しっかりお腹に入れて、怪我や体調を早く治しましょう」
男「……本当にありがとう……感謝してもしきれない……」
エルフ「いいえ、気にしないで下さい。私の好きでやっていることですから」
男「しかし……こんな豪勢な食事……」
男「大きな負担になったりはしないか?」
エルフ「大丈夫です。この村、食料には何の不自由はしてないんですよ」
男「……そうなのか、ならいいが」
男(……ん? 今……)
男「村ってことは、他にも人が住んでるのか?」
エルフ「はい、私も含めて……二百人くらいかな?」
男「そ、そんなにいるのかっ!?」
587 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 23:01:48.54 ID:tgD+iP2n0 [28/36]
エルフ「そうですね。村の規模の割には多くの者が住んでます」
男「じゃあ……」
エルフ「ちょっと待って」
男「へ?」
エルフ「質問は後で幾らでも聞きますから」
エルフ「その前に、まず……ね?」
男「……あ、ああ」
男(そうだな……焦る必要もないか……)
エルフ「冷めないうちにどうぞっ」
男「おう、頂くとするよ」
もぐもぐ。
男「…………」
男(こ、これは……)
エルフ「どうですか?」
男「……う、旨過ぎる……」
592 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 23:09:18.48 ID:tgD+iP2n0 [29/36]
男「こんな旨い飯……初めてかもしれん……」
エルフ「良かった。その言葉だけでも、作りがいがありました」
エルフ「誰かが自分の料理を食べてる姿って……私とっても好きなんです」
もぐもぐ。
エルフ「おかわりもありますから、一杯食べて下さいね」
もぐもぐ。
男「ああ……ほれは何杯でもいけほうだな」
エルフ「もう、零してますよっ、ふふっ」
男「す、すまん、すまん」
男「…………」
男(しかし、どう見ても……)
エルフ「……?」
男(これは……物語とかで出てくる……エルフだよな……)
男(俺はもしかして……そういった世界に来ちまったのか……)
男(……ああ、どうしよ……)
593 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 23:11:30.73 ID:tgD+iP2n0 [30/36]
エルフ「どうかしました?」
男「……んや、ちょっとね」
男「少し……考えていただけさ」
もぐもぐ。
エルフ「……そうですか」
もぐもぐ。
エルフ「……とりあえず」
エルフ「ご飯を食べ終わったら、外に出ましょう」
エルフ「私が、この村を案内します。楽しみにしてて下さいね」
595 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 23:17:45.16 ID:tgD+iP2n0 [31/36]
──家の外
男「……ん?」
男「──う、うおっ……こんな……」
エルフ「どうですか、結構、住み易そうなところでしょ?」
男「いや……その……」
エルフ「え? どうかしました?」
男「……これは、あー、大丈夫なのか?」
エルフ「大丈夫とは?」
男「……家が……地面に落ちたり……」
エルフ「ああ、それは心配無用です」
男「そ、そうかっ」
エルフ「危なくなる前に、軋む音がしますから」
エルフ「それを聞いた時に、逃げ出せばいいんですよ」
男「…………」
男「へ?」
600 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/11(日) 23:28:23.93 ID:tgD+iP2n0 [32/36]
──村
エルフ「説明すれば長くなるんですが……」
エルフ「基本、私たちはこうやって生活してます」
男「木の上に家を作るってか?」
エルフ「はい、こうして家と家を橋で結んでもいます」
男「……この橋は確かに頑丈だが……」
男「単純な話、下で暮らせばいいじゃないか」
エルフ「はぁ……でも、下だと大変なことになりますよ」
男「大変なことって?」
エルフ「…………」
エルフ「ええと、すごく気になってるんで、いいですか?」
男「おう、遠慮なく聞いてくれ」
エルフ「男さんって、この土地の人じゃないですよね?」
男「…………」
601 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/11(日) 23:38:18.21 ID:tgD+iP2n0 [33/36]
エルフ「森で見つけたときから、少し違うなって思ってたんです」
エルフ「それでもあんな場所に倒れていたから、訳ありの方なのかもしれないって……」
エルフ「……でも起きて話を聞いてみると、私の姿に驚いて……」
男「そうだな……」
エルフ「男さんは、一体どこから来たんです?」
男「………信じないと思うぞ」
エルフ「いいえ、話してみないと分からないですよ」
男「いや、この展開は……もう、何度も経験してるんだ」
男「……そして、みんな勘違いしていった……」
男「恐らく君も……そうだ」
エルフ「……はぁ、疑り深い人ですね」
男「俺の身になれば、きっと君もそうなる」
エルフ「もうっ! そんなこと言われたら、余計気になるじゃないですかっ!」
エルフ「とにかく、ほらっ……」
ギュッ……。
603 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/11(日) 23:47:18.72 ID:tgD+iP2n0 [34/36]
男「……なっ」
エルフ「私の目を見て……ね?」
男「あ、ああ……」
男(……綺麗な碧色の眼だな……)
エルフ「はい、どうぞ」
男「……どうぞって……何を?」
エルフ「さっき私が聞いたことですっ。眼を逸らさず言って下さいっ」
男「…………」
男「俺は……多分……」
男「──違う世界からやってきた……と思う……」
エルフ「…………」
男「……ほらな、やっぱり君も……」
エルフ「──……当たった……」
男「……は?」
604 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/11(日) 23:48:21.53 ID:tgD+iP2n0 [35/36]
エルフ「やった! やっぱりそうなんだっ!」
男「おい、おい……一体、どうし……」
エルフ「──ねぇ色々聞いていいですかっ!」
男「……あ、ああ」
男(なんだ……妙なはしゃぎっぷりだな……)
エルフ「男さんの世界には、私たちの姿の者はいないんですよね?」
男「そうだ。ただ、物語の中には出てきたりする」
エルフ「お話の世界ですか?」
男「ああ、魔法を使えたり、凄い寿命が長かったり……」
605 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/11(日) 23:49:50.79 ID:tgD+iP2n0 [36/36]
エルフ「へぇ……そうなんですか」
男「……実は、君も使えたりするのか?」
エルフ「え、何をです?」
男「魔法だよ。呪文を唱えて……みたいな」
エルフ「ふふっ、無理に決まってるじゃないですかっ。長生きもしませんよー」
男「そうか……やはり、違うんだな」
エルフ「ただ、恐らく男さんが驚くことが一つあります」
男「それは?」
エルフ「…………」
エルフ「実はね、私たち……」
エルフ「──女性しか、いないんですよ」
621 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 00:11:19.96 ID:cBwGZfap0 [1/2]
──村
男(……た、確かに……)
通行人1「……じぃ」
通行人2「……じぃ」
男(すれ違った人にはガン見されてるな……)
男(……男性が彼女たちには珍しいのだろうか)
男(しかし、女だけでどうやって……)
男「…………」
男(……ま、まあ、あんまり聞くことでもないな)
男(……少し……いや、とっても気になるけどさっ)
エルフ「男さーん」
男「お、おうっ」
エルフ「さて、問題です。この建物は何でしょうか?」
男「……ん?」
622 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 00:12:33.79 ID:cBwGZfap0 [2/2]
男(見るからに大きいな……)
男(よくこんな建物を木の上に作れるもんだ……凄い技術だな……)
エルフ「どうです? 少し難しかったですか」
男(……大きさから考えるに)
男「ここは……村の集会をやるところだ」
男「建物の規模から考えても、多くの人が利用するところに違いない」
男「どうだ? 合ってるか?」
エルフ「……惜しいですっ」
エルフ「確かに、多くの者が集まるところではあります」
エルフ「でも、それは、ほとんどが子供たちなんですよね」
エルフ「もう、分かりましたか?」
男「…………」
男「……もしかして……」
男「──学校?」
721 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 22:32:25.61 ID:x42B5L490 [1/10]
──学校
子供1「わぁーっ! お姉さん、おはよー」
子供2「今日は何するのー? 私は体を動かすのがいいーっ」
子供3「ねぇねぇ、隣の人だれっ?」
エルフ「ほら、みんな。まずは席に座って」
子供たち「「はーいっ」」
男「……しかし、すごいな」
エルフ「ふふっ、みんな元気が有り余ってるんですよ」
男「君は……教師なのか?」
エルフ「教師というか、まとめ役……んー……」
エルフ「いい言葉が見つかりませんが、多分、違うと思います」
男「どういうことだ? 子供たちに物事を教えているんだろ?」
エルフ「はい。一般常識から、時には雑学など」
男「ならそれは、教師だと思うぞ」
722 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 22:33:38.46 ID:x42B5L490 [2/10]
エルフ「……んー……ちょっと違うんですよね……」
エルフ「なんていうか……その……」
エルフ「子供たちにとっての……姉、と言ったほうがいいかもしれません」
男「姉?」
エルフ「はい。時には甘えさせたり、でも、厳しくしたり……」
エルフ「良い意味での、遠慮のいらない関係って感じでしょうか」
男「…………」
男(……よく分からない……)
男(ここは学校なんだろ? なぜ、教師と言われることを否定する?)
男(自主的にやっているボランティアのようなものだからか?)
男(……んん、俺の世界と何か根本的に違うようだな………)
エルフ「はーいっ、ではみなさん」
726 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 22:40:54.34 ID:x42B5L490 [3/10]
エルフ「お早うございますっ」
子供たち「「おはようございますっ!」」
男(……まあ、考えていても仕方ないか……)
男(慣れていくしかない……この世界に……)
エルフ「今日は、みんなに是非紹介したい人がいます」
エルフ「みんなも、もう、気になっている人……いるよね?」
男(しかし……死ぬまでこの世界にいるのだろうか……?)
男(戻る方法があればいいが……多分……ないな……)
男「…………」
エルフ「こちらは……」
男(あーくそっ……難しいことを考えるのはやめやめっ……)
エルフ「──別世界からやって来た、男さんですっ!」
男「…………」
男「……って、え?」
732 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 23:17:14.40 ID:x42B5L490 [4/10]
──村
男「……はぁ……疲れた……」
エルフ「お疲れさまです」
男「あんなに質問攻めにされるなんて、聞いてないぞ……」
エルフ「ふふっ、でもみんな楽しそうでしたよ」
男「そりゃ、あいつらからしたら俺は生きる玩具だろ……」
男「……ペタペタと身体に触ってくるやつはいるし……」
男「かと思えば、相手にしてもらえなくて拗ねる奴もいる……」
エルフ「みんな男さんが気になるんですよ」
男「そんなに……俺は珍しいか?」
エルフ「はい、もちろんっ」
男「…………はぁ……」
733 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 23:17:56.03 ID:x42B5L490 [5/10]
男「ほんと……疲れた……」
エルフ「文句言いつつも、優しく接してくれてありがとうございます」
男「別に……そうしたつもりはない」
エルフ「いいえ、あの子たちは意外に人の心に敏感ですから」
エルフ「少しでも怖いと感じたら、あんなに仲良くはなれませんよ」
男「…………」
男(『絶対、また来てね』、か……)
エルフ「……それで、お疲れのところ申し訳ありませんが」
エルフ「……今日は、あと一つ、案内したいところがあるんです」
男「……ん? 今度は一体どこに連れていくんだ?」
エルフ「それは、着いてからのお楽しみです」
男「……これ以上、疲れるのは勘弁な……」
エルフ「大丈夫ですよ、その辺は安心して下さい」
エルフ「では行きましょう。ここから、すぐ側なんです」
737 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 23:47:54.24 ID:x42B5L490 [6/10]
トコ……トコ。
男「……しかし、天気悪いなぁ……」
エルフ「そうですね……霧まで出ちゃってますね……」
男「こっちはこういう気候が多いのか?」
エルフ「そうでもないんですが……最近は、じめじめしています」
男「……湿度高そうだな……」
トコ……トコ。
エルフ「そういえば、足の状態はどうですか?」
男「ん……以前変わらずだな。まだ……痛む」
エルフ「あとで家に帰ったら、治療しましょうね。私に任して下さい」
男「そうだ、そのことで聞きたいことが……」
エルフ「──あ、着きましたっ」
男「……ん?」
エルフ「ほらっ、ここですっ」
男「これは……」
738 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 23:49:29.34 ID:x42B5L490 [7/10]
エルフ「……どうですか?」
男「…………」
男(……先が尖った、三角の柱……)
男(……何かの碑だろうか……)
男「ほう……これは?」
エルフ「…………」
エルフ「……これですか?」
男「ああ……ちょっと、柵超えてもいいか?」
エルフ「えっ?」
トコ……トコ。
男「…………」
男(何で出来てんだ……?)
男(銀色だから、鉄……んー錆びるな。じゃあ、何だろう?)
739 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 23:50:11.56 ID:x42B5L490 [8/10]
エルフ「お、男さんっ」
男(……叩いてみるか)
ゴン……ゴンッ。
男「……ふむ」
男(わからん……が、確かに金属のようだ)
男(となると……精製できる技術はあるのか……)
エルフ「ちょっ、ちょっと駄目ですよっ!」
男「あー悪い悪い」
エルフ「もうっ……私、知りませんからね……」
男「で、これは一体なんなんだ?」
エルフ「……碑です」
男「それは分かるが、何の?」
エルフ「さぁ、私も分かりません」
男「…………」
エルフ「…………」
740 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 23:51:43.01 ID:x42B5L490 [9/10]
男「……謎掛け?」
エルフ「……違いますよ」
男「おいおい、そんなところに何で連れて来た?」
エルフ「他所の世界の男さんなら知ってるかなって……」
男「……知る訳ないだろ……」
エルフ「ですよね……すみません……」
男「……まぁいい」
エルフ「では、早く家に帰ってご飯にしますかっ」
男「おうっ……って、そのことだっ! 聞きたいことがある」
741 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 23:52:41.14 ID:x42B5L490 [10/10]
エルフ「はい、何でしょうか」
男「本当にいいのか? 俺が君のうちに厄介になってしまって……」
男「迷惑なら、出来るだけ早めに出て行こうと思うんだが……」
エルフ「別に大丈夫ですよ。男さんが嫌じゃなければ、ですね」
男「全くもってそんなことはない……とにかく、感謝の気持ちで一杯だ」
エルフ「なら、何の問題もありません。これからよろしくお願いしますね」
男「こちらこそっ、恩に着る」
エルフ「そうと決まれば、早く帰りましょう。私、ご飯の準備まだですし」
男「ああ……分かった」
男「しかし……」
男(何か……気になるな……)
824 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:14:34.74 ID:Ry6fXQo+0 [1/8]
──家
ガチャ。
エルフ「さっ、入って下さい」
男「……おじゃまします」
エルフ「……何ですかそれ?」
男「ん? こちらでは言わないのか?」
エルフ「はい、初めて聞きます」
男「そうだな、人ん家に入るときの挨拶みたいなものだ」
エルフ「へー、そっちの世界ではそんな風習があるんですか」
男「他にもあるぞ」
男「自分の家に入るときは『ただいま』」
エルフ「……ただいま」
男「そうそう、そんな感じ」
エルフ「なんか、気恥ずかしい気持ちになりますね」
男「ははっ、確かにそれはあるな」
826 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:15:38.09 ID:Ry6fXQo+0 [2/8]
男「あとな、逆に帰って来た者を迎える時は『おかえり』って言うんだ」
エルフ「『ただいま』と『おかえり』ですか」
エルフ「面白い習慣ですね」
男「まあ、そうかもしれん」
男「ちなみにこっちでは……」
?「──おかえり」
男「…………」
男「ん? 今、何か言ったか?」
エルフ「へ? 私ですか? 何も喋ったつもりはないですけど……」
男「…………」
男(確かに今……聞こえたよな……)
男(しかも、『おかえり』って……)
男「……俺の聞き間違いかもな……」
?「おい」
829 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:17:58.27 ID:Ry6fXQo+0 [3/8]
男「……え?」
?「こっちだよ、こっち。後ろ向け」
男「ええと……」
?「迎える時は、『おかえり』って言うんだろ? 違ったか?」
男「いや……そうだが……」
エルフ「あーっ親友じゃないですか!」
親友「よっ、遊びにきたぜっ」
男「…………」
男「……誰?」
835 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:29:43.15 ID:Ry6fXQo+0 [4/8]
──居間
親友「お前たちのこと、もう、凄い噂になってるぞ」
もぐもぐ。
エルフ「あーやっぱり、そうですか……」
もぐもぐ……。
親友「だったら何で、子供たちのところに連れてったりしたんだ?」
もぐ……もぐ……。
エルフ「子供たちにとって良い刺激になるかなーって」
……もぐ。
親友「その気持ちは分からなくもないが……」
……ピタッ。
親友「……じぃ」
男「…………」
837 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:31:35.76 ID:Ry6fXQo+0 [5/8]
男(……なんだ、なんだこの視線は……)
男(こんなに見られていたら、ろくに飯も食べられない……)
男(いっそ……こちらから話しかけてみるか)
男「ち、ちょっといいか……」
親友「……ん? 私に用か?」
男「君は、俺がどういう状況か知っているんだな?」
親友「まあ人聞きではあるけど、大体は」
男「……例えば?」
親友「見知らぬ世界から迷い込んだ男だとか」
親友「超能力を隠し持っているとか、実は、宇宙人かもしれないとか」
男(噂に尾ひれついてるーっ!)
エルフ「……んー、ちょっと違いますね」
男(いや、ちょっとじゃない……かなり違う……)
839 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:39:39.25 ID:Ry6fXQo+0 [6/8]
親友「そうなのか? 私はそれで、ここに来たようなもんなんだがな」
男「……エルフを心配してか?」
親友「勿論、それ以外に何かあるか?」
男「……ごもっとも」
エルフ「そんな……大丈夫ですよ。ほら、この通り」
親友「まだ決まったわけじゃないだろ? これから本性を見せるかもしれない」
エルフ「ちょっと失礼ですよ。男さん……ごめんなさい」
男「んや、別に構わない。ところで……」
親友「なんだ?」
男「君は俺のことで不信感を抱いているようだが、俺も君のことが分からない」
親友「…………」
男「出来れば、自己紹介してくれると有り難いな」
親友「……まあ、そうだな。確かに、一理ある」
親友「私は……」
エルフ「──小さい頃からの、親友兼幼なじみなんです」
842 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:48:43.58 ID:Ry6fXQo+0 [7/8]
──数時間後
親友「ん? もうこんな時間か……」
親友「では、そろそろ帰らせてもらおうかな」
エルフ「そんな……今日ぐらい泊まっていけばいいのに……」
親友「そうしたいのは山々なんだが……少しやらねばならないことがあってな」
エルフ「……そうですか」
親友「ああ、また来るよ。今日は色々な話が聞けたし、楽しかった」
エルフ「私もです。気軽にご飯でも食べに来て下さいね」
親友「うん。じゃあ、また」
男「…………」
親友「…………」
男(ん?)
親友「…………」
男(……そういうことか)
848 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 23:00:15.41 ID:Ry6fXQo+0 [8/8]
ガタンッ……。
エルフ「……あれ、男さん?」
男「ちょっと、親友を外まで見送ってくる」
親友「ひ弱なガードマンなどいらんぞ?」
男「ヤバいときには盾にでもなるさ」
親友「ふふっ、中々言うな」
エルフ「えっ? でも、足は大丈夫なんですか?」
男「リハビリもかねてな。それと、少し夜風に当たりたいんだ」
エルフ「……そうですか、早く帰って来て下さいね」
男「ああ、分かった」
親友「……男、見送るつもりなら、早く行くぞ」
男「おいっ、待て……」
875 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/14(水) 06:10:00.04 ID:0YYS8Xfk0 [2/9]
トコ……トコ。
男「…………」
親友「…………」
トコ……トコ。
男「……で、俺に話があるんだろ?」
親友「……ああ」
トコ……ピタッ……。
男「ん?」
親友「足は大丈夫なのか?」
男「まあ、この杖があるから歩くのはさほど難しくはない」
親友「そうか……早く治るといいな」
男「……おう、ありがとう」
親友「ん、別に……お礼を言われることでもない……」
876 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/14(水) 06:10:53.95 ID:0YYS8Xfk0 [3/9]
トコ……トコ。
男「…………」
親友「…………」
男「おい、まさか話ってそれだけじゃないよな?」
親友「……ん、まあな」
男「それとも、切り出し難い話なのか?」
親友「…………」
男「……まだ、俺のこと信用出来ないか?」
親友「いや……話を聞いて、お前のことは大体理解した」
男「…………」
親友「嘘か本当かまでは私には分からないが……ただ」
親友「何か企んでいる、という様子じゃないのは確かだ」
男「……そうか、誤解が解けたなら良かった」
親友「…………」
親友「……聞いてもいいか?」
877 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/14(水) 06:11:34.36 ID:0YYS8Xfk0 [4/9]
男「おう、構わないぞ」
親友「あの話……本当なのか?」
男「というと?」
親友「私たちが知らない、別の世界からやって来たって話」
男「ああ、本当だ」
男「こことは全く違う……そんな場所から辿り着いた」
親友「……なら」
男「ん?」
親友「頼みたいことがある」
男「…………」
男(何だ……急に真面目な顔して……)
親友「今日、ずっとお前を観察してた」
男「なっ……日中もか?」
親友「いや、そうじゃなくて……飯を食べている時だ」
男「ああ、そういうこと……」
878 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/14(水) 06:12:05.81 ID:0YYS8Xfk0 [5/9]
親友「そのとき、一つ気付いたことがある」
男「……何だ?」
親友「……お前……」
親友「……実は、相当腕が立つ奴だろ?」
男「…………」
親友「身体もしっかり引き締まっているし、腕なんかもかなり太い」
親友「しかも……ところどころには、傷痕があるし……」
親友「……普通に生きているだけじゃ、そんな風にはならない」
男「…………」
男(女と過ごした数年間……)
男(生きていくためには身体を鍛えなければいけなかった……)
男(……時には、有り得ないような傷も負った……)
男(確かに、以前の俺とは……比べものにならないかもしれない)
親友「……だから思ったんだ」
親友「お前になら……ここにいないはずのお前なら……」
879 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/14(水) 06:12:48.66 ID:0YYS8Xfk0 [6/9]
男「…………」
親友「……お願いだ」
親友「何かあったら……」
親友「──エルフを助けてやってくれ……」
男「……それは……」
男(……助ける? 何から?)
男「一体、どういうことだ……?」
親友「…………」
男「もしかして……」
男「……この村が、地面を避けて暮らしていることに関係しているのか?」
男(……前から疑問に思っていたことだ)
男(あえて、ここまでする理由は何だろう? 危険でもあるのか?)
880 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/14(水) 06:13:30.38 ID:0YYS8Xfk0 [7/9]
親友「それは、違う」
男「……本当か?」
親友「私達が上で生活しているのは……」
親友「もう少し経つと、この一体が水浸しになることが原因だ」
男「水浸し?」
親友「ああ、雨がずっと降り続いてな。水位が上がっていく」
男「……そうなのか?」
親友「お前がここで暮らすつもりなら、そのうちやってくるよ」
男「……分かった」
親友「では……返事、聞かせてもらって良いか?」
男「エルフを守るって……話か?」
親友「ああ……お前に頼るしかない」
男「……理由は……」
881 名前:夜にtxtファイルを上げます。よろしくお願いします。[sage] 投稿日:2010/07/14(水) 06:15:11.83 ID:0YYS8Xfk0 [8/9]
親友「…………」
男(……どうやら、教えるつもりはないようだな)
男「……分かった」
男「それがどんなものか分からないが、力を尽くす」
親友「……あ、ありがとう」
男「いいんだ、俺も世話になってるしな」
親友「……本当に、頼んだぞ……」
男「…………」
187 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:11:18.22 ID:zaTWzoQ0 [1/26]
──数日後 学校
子供4「男ーこっちだー」
子供5「はははっ、足遅いなあ、男」
タタタタ。
男「くそっガキどもめ、なめやがって」
男「しかも、いつの間にか呼び捨てかっ」
子供2「もうへばっちゃったのー?」
男「違うっ! 少し歩き難いだけだっ!」
男「見てろよっ! 今から、俺の本気を出してやるっ!」
──ぴょんぴょんぴょんっ。
子供4「うわああっ、片足だけで走ってくるっ!?」
男「こらああ、待てーっ!」
子供6「きゃー、逃げないとっ!」
タタタタッ。
男「おらーっ、意地でも捕まえてやるからなーっ!」
ぴょんぴょんぴょんっ。
188 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:12:56.87 ID:zaTWzoQ0 [2/26]
──数十分後
男「はぁ……はぁ……はぁ……」
男「くそっ……逃げ足だけは早い奴らだ……」
男「足さえ治れば、俺だって……」
エルフ「お疲れさまです」
男「……ああ、来てたのか」
エルフ「ごめんなさいね、子供たちの面倒を手伝わせてしまって……」
男「いいんだ、家に一人でいてもつまらないしな」
男「それならこうやって、身体を動かしていた方がいい」
エルフ「……子供たち、とても楽しそうでした」
男「そうか、なら良かった」
エルフ「しかし、凄いですね。片足だけであんな素早く……」
男「ん、まあな……」
男(後半は、本気でやってたからな……)
男(大人げなく、負けず嫌いの性格が出ちまったぜ……)
エルフ「向こうの人は、片足で走る訓練でもしてるんですか?」
男「……はっ?」
エルフ「練習無しでは、あんなに続きませんよね。私ならすぐにバランスを失いそうです」
男「……いや、そうじゃない」
エルフ「違うんですか?」
男「そんな変な訓練をする習慣はない……俺の知る限りでは……」
エルフ「あーそうですか……」
男(……何故、少し残念そうなんだ……)
189 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:13:24.96 ID:zaTWzoQ0 [3/26]
エルフ「ちなみにあのゲーム、なんて言うんです?」
男「『鬼ごっこ』だ」
エルフ「……おに?」
男「んー、どう言って説明すればいいか」
男「頭の上に角があって、凶暴な性格をしている妖怪……少し人間に似ている想像上の生き物だ」
エルフ「頭に角ですか……その発想は驚きです……」
男「で、その鬼が皆を追いかける役。タッチしたら、今度は相手が鬼」
エルフ「鬼は伝染するんですかっ!!」
男「いや……その……」
エルフ「そんなゲームがあるなんて……すごいところですね、男さんの世界は」
男「…………」
男(……意外に、エルフって天然キャラかもしれない……)
190 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:13:57.26 ID:zaTWzoQ0 [4/26]
──村
男「……天気、まだ良くならないな」
男(雨は降らないが……この霧が視界を遮る)
男(どうやら、少し特殊な気候変動のようだな……)
男(幻想的な景色であるが……ただ……)
男「…………」
男「……道に、迷った……」
男(エルフが忘れた弁当を取ってくる予定だったんだがな……)
男(意地張って、一人で行くなんて言わなきゃ良かった……)
男「どう……するか……」
男「しかし、霧のせいでどっちに向かっているか分からない」
男「……ん、でも……」
男(散策も兼ねて、この辺りを色々見て回るか)
トコ……トコ。
男(……どの建物もほとんど一緒だな……)
男(これは、迷うぞ……)
男「…………」
?「おーいっ、男ーっ」
191 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:15:29.51 ID:zaTWzoQ0 [5/26]
男「ん?」
男「あっ、親友か……」
親友「こんなところで何してる? もしかして、迷ったか?」
男「さすが鋭いな……その通りだ」
親友「馴れるまでには、時間がかかるからな」
親友「……で、行き先はどこだったんだ?」
男「学校から、エルフの家に向かってた……」
親友「そうか……となると、ここは完全に逆側になるな……」
男「……マジか……」
親友「これ以上迷われても困るしな、後で私が付き添ってやる」
男「すまない……」
親友「別に気にするな。それで、少し来てくれ」
トコ……トコ。
男「お、おいっ、一体、どこに行くんだ?」
親友「私の家だ。昼飯でも食ってけ」
男「……まあ、いいが」
男(エルフが折角弁当用意してくれたんだがな……)
男(……無駄に善意を裏切りたくないし、ここは乗っておくか)
親友「他人に飯を食べてもらうなんて、何年ぶりのことだろうな」
男「…………は、はは」
男(……激しく不安だ……)
192 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:16:57.52 ID:zaTWzoQ0 [6/26]
──親友の家
親友「ほれ、遠慮なく座ってくれ」
男「……意外に綺麗なんだな」
親友「……失礼なやつだ。掃除くらい出来るさ」
男「いや、本当に、ちょっと見直した」
親友「……まあ、分かった。ただ、それ以上は言うなよ」
男「……わ、わりぃ」
ガサガサ。
親友「料理って言ってもな、エルフみたいなのは作れないからな」
男「やっぱり、あれはここでも凄い部類なんだな」
ガサガサ。
親友「凄いなんてもんじゃない……神がかっている」
男「確かに、そうか。……で、何やってんだ?」
ガサガサ。
親友「いや、材料を何にするか考えている」
男「軽く済ませられる感じでいいぞ」
親友「んー……とりあえず、何か食べたいものはあるか?」
男「……そうだな」
男(こっちに来てからというもの、食べ物に関しては不自由してないからな)
男(エルフの料理は最高だし、こっちの食材も自分に合っているような気がする)
男(……ただ、一つあるとすれば……)
193 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:17:23.58 ID:zaTWzoQ0 [7/26]
男「肉料理は食べられないか?」
親友「……肉? なんだ、食べたいのか?」
男「ああ、こっちきてからというもの食べてなくてな」
親友「……それは、そうだろうな」
男「エルフが作るものは、ほとんどが野菜で出来ているし」
親友「向こうでは、食べる習慣があったのか?」
男「ん? その言い方は……」
親友「そうだ、私達は肉を食べない」
男「……ああ、そういうことか……」
親友「そういった習慣はないし、誰も好まないからな」
男「悪いな、変なこと言っちまって……」
男(文化が違うわけだもんな……そういうこともある……)
親友「……けど、それらの料理は作れないが」
親友「それに似たような物、作ってみようか」
男「……味を知らないのに、大丈夫なのか?」
親友「任せろ。いいから、お前は指でもくわえながら待ってればいい」
男「……なら、そうするが」
194 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:19:40.91 ID:zaTWzoQ0 [8/26]
──数十分後
親友「…………」
男「…………」
親友「……失敗だ」
男「ま、まあ、食えないこともないぞっ」
親友「……無理しなくていい、こんなの食べ物じゃない……」
男「いけるって。お前が食べないなら俺が食べるぞ?」
パクっ。
親友「お、おいっ……」
男「ん……もぐもぐ……これはこれでいけると思う……」
親友「……嘘言うな。私も少し食べたんだからな……」
男「そうか? 何度も噛み締めると味が変わってくるぞ?」
親友「……もう、いい。……すまない」
男「……もぐもぐ……もぐもぐ……」
男「──……ん。うまかったぞっ」
親友「……全部食べたんだな……」
男「ああ、初めはどうかと思ったが、意外に美味しかったよ」
親友「……ありがとう」
男「それを言うのはこっちの台詞だろ?」
男「作ってくれて、本当にありがとうな」
親友「…………」
195 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:20:18.41 ID:zaTWzoQ0 [9/26]
ガタンッ……。
男「よし、腹も膨れたことだし……」
親友「あっ……」
男「……一緒についてきてくれるんだろ?」
親友「そ、そうだったな……」
男「道案内よろしく頼む」
親友「おうっ、任してくれ。最短ルートで着いてやる」
男「ははっ、それは期待出来るな」
トコ……トコ。
親友「…………」
親友「……男」
男「ああ、何だ?」
親友「……今日は、楽しかった」
男「……そうか」
男「俺も、楽しかったよ。ありがとな」
親友「…………」
親友「……い、行こうか」
男「ん、頼む」
196 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:20:45.54 ID:zaTWzoQ0 [10/26]
──一ヶ月後 学校
男「あーもう、だから違うって」
子供1「えー、これは二つ進めるんじゃないの?」
男「桂馬は……」
カチッ……カチッ。
男「──こうやって動くことしか出来ない」
子供4「……使えない駒だね」
男「おい、そこ。桂馬を馬鹿にすんな」
子供1「じゃあ、コレは?」
男「飛車は縦横無尽に動けるぞ」
子供1「うおっ、それは強いじゃん。じゃあこれは……」
ぐいぐい……。
子供2「ねぇ、男。あっちで鬼ごっこしようよぉ」
男「んあー、ちょっと今は無理……」
男「──って、違う違うっ、角行は斜めに動けんのっ」
子供1「あっ、そうか」
ぐいぐいっ。
子供2「つまんなーい……つまんなーいっ」
男「分かった、分かったからっ」
男「この一戦が終わったら、下でやりに行こう」
子供2「ほんとっ?!」
男「ああ、約束する。その間は他の連中と遊んでこい」
子供2「約束だからねっ! 早く男も来てねっ!」
タタタタッ。
197 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:21:48.57 ID:zaTWzoQ0 [11/26]
男「ははっ、元気一杯だな」
男「ん? まだ次の手決めかねてんのか?」
子供1「んー……これで行こうかな……」
男「……え?」
カチッ。
子供1「どうだろ、王手じゃないかな?」
男「はは、何馬鹿なこと……」
男「──って、あれ……? う、嘘だろ……」
男「いやいやっ……」
男(どこか穴があるに違いない……いや、絶対あるはず……)
男「…………」
男「……そんな馬鹿な……詰んでるわ……」
子供1「待ったなしだからね」
男「…………」
198 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:22:27.59 ID:zaTWzoQ0 [12/26]
──エルフの家
ギュッ……。
エルフ「痛みますか?」
男「んー、そんなには」
ギュッ。
エルフ「ここはどうです?」
男「大丈夫だ」
エルフ「ん。もう、よさそうですね」
男「そうか、歩いてもいいか?」
エルフ「はい、過度な運動をしない限り大丈夫だと思います」
男「はぁー……これでやっと杖の生活から解放されるのか……」
エルフ「良かったですね。これからは、鬼ごっこに負けることもないですし」
男「まあな、俺を舐め切っているあいつらに、本当の実力を見せてやらねばならん」
エルフ「ふふっ、楽しそうですね」
男「ああ。……しかし、意外に治るのが早かったな」
エルフ「確かに骨折にしては治りが早かったですね。もしかしたら、折れてはいなかったのかも?」
男「そうか……とりあえず、歩いてみる」
トコ……トコ……トコ。
エルフ「痛みはありますか?」
男「いや……大丈夫。少し違和感はあるが、何とかなりそうだ」
エルフ「筋力が衰えていますからね。ちょっとの間は辛抱です」
男「そうだな……よし、ちょっくら行ってくる」
エレフ「えっ? どこにですか?」
199 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:22:55.69 ID:zaTWzoQ0 [13/26]
男「親友の家だな。心配してたから、一応、報告したほうがいいと思ってな」
エルフ「あ、ああ、親友ですか……」
男「ん? どうかしたか?」
エルフ「いやっ……別に何でもないです。気にしないで下さい……」
男「ならいいが……」
男(何だろう……この違和感……)
男「どうだっ? 今日、久しぶりに皆で夕飯でも食べないか?」
エルフ「…………」
男「どうした? エルフ?」
エルフ「……あ、はい、そうですね。親友がよければ、やりましょう」
男「……お、おう。誘ってみるよ」
エルフ「では……」
男「ああ、行ってくる」
ガチャ。
エルフ「…………」
200 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:23:28.15 ID:zaTWzoQ0 [14/26]
──親友の家
コンコンッ。
男「…………」
コンコンッ。
男「……ん? いないのか?」
男「おーいっ、中にいるなら開けてくれー」
コンコンッ。
親友『……ん、だれだ……?』
男「俺だよ。少し、話したいことがあって来た」
親友『……ああ、男か……』
男「どうした? 声に元気がないぞ? もしかして風邪でも引いたか?」
親友『いや……そういうことではない……』
男「無理ならまた後日改めようと思うが……」
親友『いいや……今、開ける』
ガチャ……。
男「……お、おい」
親友「……とりあえず、中に入ってくれ……」
男「凄く顔色が悪いが、本当に大丈夫なのか?」
親友「ああ気にするな……寝起きだっただけだよ……」
男「そうか……」
親友「ほら、腰掛けてくれ……」
男「ん……分かった」
すとんっ。
201 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:24:11.16 ID:zaTWzoQ0 [15/26]
親友「で、話って何だ……?」
男「あーそのな……俺のことなんだ」
親友「……男のこと? 何かあったのか?」
男「ほら、足」
親友「……あれ、杖はどうした……?」
男「実は、もう治ったんだ」
親友「それは良かったが……骨折じゃなかったのか?」
男「俺もよく分からんが、折れてなかったのかもしれない」
親友「……もう、歩けるんだな?」
男「ああ、ここまで杖なしで来たのがその証明だ」
親友「そうか……良かったな……」
男「おうっ、ありがとう」
親友「……本当に良かったよ……」
男「あ、ああ……」
親友「…………」
男「……どうした? 何か変だぞ?」
親友「……ふふっ、そう見えるか」
男「何か、問題があるのなら……」
親友「…………」
202 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:24:37.67 ID:zaTWzoQ0 [16/26]
親友「いや……特にない。寝起きはいつもこんな感じでな」
親友「心配させてすまない……」
男「なら、いいが……」
親友「話はそれで終わりか……?」
男「あ、いや、今日のことで少しある」
親友「今日……?」
男「エルフの家で、また前みたいに一緒に飯を食べないか?」
親友「……お誘いか……」
男「前回も最終的には楽しかったし、今日もいい感じで盛り上がるはずだぞ?」
親友「……そうだな……楽しそうだな」
男「よし、なら来るな? 夜、待って……」
親友「──……だが、残念だが今日は遠慮しとくよ……」
男「えっ? どうしてだ?」
親友「……少しやらねばならない仕事があってな」
男「今日中じゃなければ駄目なのか?」
親友「ああ、本当にすまないな……誘ってもらったのに……」
男「いや、気にすることないさ。また、違う日にでも誘うよ」
親友「ありがとう……感謝してる……」
男「…………」
203 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:26:34.68 ID:zaTWzoQ0 [17/26]
親友「……なあ、男」
男「……ん? どうした?」
親友「……お前、覚えてるか?」
男「……つまり?」
親友「……私とお前が交した約束だ……」
男「…………」
男(勿論、覚えている……忘れるわけないだろ)
親友「頼んだぞ」
男「……ああ、分かってる」
親友「……その返事が聞きたかった」
男「…………」
親友「少しだけ、私の独り言に付き合ってくれ」
男「別に構わないが……」
親友「そうか、ありがとう……」
親友「私は……お前と初めてあった日を今でも鮮明に覚えている」
親友「過去も何もかも不明なお前に、心底私は疑いの目を向けていた」
男「…………」
親友「だが、この一ヶ月」
親友「一緒に過ごして、一緒に話して」
親友「今は、確実に言えるよ……。男、お前は良い奴だ、本当にな」
男「……なんだ、恥ずかしくなってくるだろ……」
親友「お前を信頼しているよ。心の底から」
男「……親友」
親友「……また、遊びにこい」
親友「じゃ……な……」
ガチャ。
男「…………」
204 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:27:25.65 ID:zaTWzoQ0 [18/26]
──エルフの家
男「ただいま……」
エルフ「あっ、おかえりなさい」
エルフ「親友……なんて言ってました?」
男「……駄目だった」
エルフ「…………」
男「分かってたのか? そうアイツが返答するの」
エルフ「……別に、そういうわけではありません……」
男「顔が真っ青だった」
エルフ「…………」
男「声も喉の奥から振り絞るような酷いものだった」
男「アイツは寝起きだと言い訳していたが……」
男「それを信じるほど俺は馬鹿じゃないし、能天気でもない」
エルフ「……男さん、考え過ぎですよ」
男「…………」
エルフ「じゃあ、私、ご飯の準備してきますね」
トコ……トコ……トコ。
男「なあ、エルフ」
エルフ「……え?」
205 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:27:53.92 ID:zaTWzoQ0 [19/26]
男「お前にはまだあまり喋っていないが……」
男「俺は前の場所で、少しの間ではあったが、色々ヤバい世界の中にいた」
エルフ「…………」
男「隣で死に絶える仲間を何人も見て来たし」
男「拷問で精神が狂っちまった奴も知っている」
男「……俺はな、エルフ」
男「分かってんだよ。今日の親友が普通じゃないってことをさ」
エルフ「……お、男さん……」
男「アレは……既に全てを諦めた目だ」
男「この世にいながらにして、心はもうあっちに逝きかけてる」
男「なあ、教えてくれ」
男「アイツは……親友は……何を恐れている?」
エルフ「…………」
男「この村には、一体、何があるんだ?」
エルフ「……そ、それは」
男「もう騙すのはやめろ。俺を欺くのは、お前には無理だ」
エルフ「…………」
206 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:29:54.44 ID:zaTWzoQ0 [20/26]
男「はっきり言う」
男「──取り返しがつかなくなってからでは、遅いぞ」
エルフ「……ッ」
男「何事にも迅速に、正確な判断が求められる」
男「俺が数年の間に知ったことだ。お前は、今、それに直面している」
エルフ「わ、たしは……」
男「どうする? どの選択を選ぶ?」
エルフ「……うっ……くうっ……」
男「…………」
エルフ「……っ……うぅ……」
男「…………」
男「話したくなったら、俺のところに来い」
男「力になれるか分からないが、何もしないよりはマシだ」
男「ただ……」
男「どうやら、残された時間はそう無いようだな」
エルフ「ううぅ……うわあぁぁっ」
207 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:30:54.86 ID:zaTWzoQ0 [21/26]
──自室
男「…………」
男(少し鎌をかけたところはあったが、うまくいったかな……)
男(しかし、あの取り乱しようは尋常ではない……)
男(……普段の様子からでは分からなかったが、何かがそこにはある)
男(日々を偽って生活しているような……そんな錯覚に落ち入る)
男「……或いは」
男(そもそも錯覚ではなく……本当にそうだったら?)
男「…………」
男「まだ……来ないか……」
男「もう……四時間は経つんだがな……」
男「最悪の場合……」
男(エルフが来ないことを考える必要があるな……)
男(もう少し待ってこなかったら、俺だけでも親友の側にいよう)
男(そうすれば何かあった時に、対処できる)
男(だが……情報があまりにもないのは気がかりだ……)
男(…………)
男「保険をかけてとくか……」
ガサッ。
男「…………」
208 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:32:47.16 ID:zaTWzoQ0 [22/26]
──居間
男「…………」
エルフ「…………」
男「なぁ……」
エルフ「あっ……男さん……」
男「まだ、決心はつかないのか?」
エルフ「…………」
男「もしかして……」
男「話したことによる、俺の心配をしてたりしないだろうな?」
エルフ「……そ、それは……」
男「ああ、やっぱりそうか。何だ、それは大きな間違いだぞ」
エルフ「…………」
男「お前が今、一番に心配しなければいけない者は俺ではない」
男「親友とは、小さい頃から一緒に過ごしてきたんだろ? 」
エルフ「はい……」
男「一ヶ月前に唐突にやってきた俺と、親友」
男「比べるまでもない……違うか?」
エルフ「…………」
男「何か、言ってくれ……これじゃあ、埒があかない」
エルフ「……だ、だって……」
エルフ「男さんに話したところで、何も変わりません……」
男「…………」
男(ははっ、信用ねぇな……)
209 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:33:17.14 ID:zaTWzoQ0 [23/26]
男(確かに、この家で暮らしている俺を見たら、そう思うか……)
エルフ「それなのに、男さんが巻き込まれる必要は……」
男「……いいか」
男「時には、何かを犠牲にしてでも成さねばならない時がある」
エルフ「でも……」
男「そして、今、その犠牲は俺が担う。どう転んでも、俺だけが損を喰らうはずさ」
男「助けてもらった恩返し……ここで、させてくれないか?」
エルフ「…………」
男「…………」
男(……ああ、駄目だ……)
男(……エルフは既に諦めている……)
男(……仕方ない……)
男(俺だけでもアイツの家に行くか……当たって砕けるしかないな)
男(しかし、そこまで絶望を与えるものとは何なんだ……?)
男(……くそっ、全く想像がつかない……)
男「とりあえず……時間の問題があるからな」
エルフ「えっ……」
男「行ってくる」
エルフ「ど、どこにですかっ?」
男「それは勿論、親友のところに決まっている」
エルフ「だ、駄目ですっ!!」
ギュッ!
210 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:33:48.72 ID:zaTWzoQ0 [24/26]
男「……離してくれ」
エルフ「嫌ですっ……意地でも離しません……」
男「手荒な真似はしたくない。しかも、命の恩人に対しては尚更だ」
エルフ「私、死んでも離しませんからっ!」
男「…………」
男「……ふぅ……」
ザザッ……!
エルフ「……へっ?」
……バンッ。
男「座って帰りを待ってろ」
エルフ「今、私……宙に浮いた……?」
男「……じゃあな」
エルフ「ちょっ、ちょっと待って下さいっ!」
エルフ「男さん、貴方……」
──バァァアアンッ!!
男「なっ……」
エルフ「あっ……」
男「……今の、一体、何の音だ……?」
エルフ「さ、さあ、私には分からないですけど……」
男「…………」
……タタタタタッ。
エルフ「あっ、男さん! 行っちゃ駄目っ!!」
211 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:36:53.82 ID:zaTWzoQ0 [25/26]
──村
タタタタタッ。
男「……ッ……」
男(急げ……急げっ!)
男(分かっている……確実にこのタイミングは何かあるっ!)
タタタタタッ。
男(音の出た方は、ちょうど村の奥の方だ)
男(だが……あっちには何もないはず……)
男(親友の家とは方向が違うが……それでも、安心は出来ない)
男(とにかく急ごうっ!)
タタタタタッ。
エルフ「はぁ……はぁ……はぁ……」
エルフ「ま、待って……男さんっ……」
男「…………」
男(エルフ……まだ、ついて来てるのか……)
男(よくこのスピードに堪えているな……)
男(……だが)
男(悪いが、急がせてもらう)
男「……先に行ってるぞ」
タタタタタタタッ。
エルフ「……えっ?」
エルフ「は、早い……」
212 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:39:19.71 ID:zaTWzoQ0 [26/26]
──村の外れ
男「くっ……どこだっ」
男(何とか、ここまで辿り着いたが……)
男(……もう相当、奥深くまで来ているぞ……?)
男「…………」
男(駄目だ……がむしゃに考えるな、頭を落ち着かせろ……)
男「……ふぅ……」
男「よし……」
男(……ひとまず、落ち着いたな)
男(方角も場所も恐らくあっているだろう……だから、この近く)
男(村を過ぎて、森の中まで入ってきている)
男(ここに彼女たちの誰かが暮らしているとは、到底考えられないが……)
男(……ん? 何だ?)
男「……この臭い……」
男「これは……」
タタタタタタタッ。
男「……ッ……」
男(何度も嗅いだことがある……)
男(時には作戦中に……或いは、武器整備の時に……)
男(あの臭いは……火薬……)
男「………爆発があったというのか……」
男(どこで? 一体、どうして?)
タタタタタタタッ。
213 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:40:54.96 ID:zaTWzoQo [1/52]
男「臭いを辿ろう……」
男(神経を集中させろ……ん……)
……タタタタッ。
男「よしっ……」
男(だんだん臭いがキツくなっている)
男(間違いなく、この方向で正しいはずだ)
男(……どこだ、どこで起きた?)
トコトコトコ……。
男「ん?」
男「……あれは……」
男「…………」
214 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:42:21.27 ID:zaTWzoQo [2/52]
──数十分後
エルフ「お、男さん……」
男「おう、よく場所が分かったな」
エルフ「男さんが通っていた後は、草達が潰れてましたから」
男「森に暮らしているだけあるな。俺にはそのスキルはないよ」
エルフ「そんなことより……今は……」
男「ああ、俺も聞きたいことが山ほどあるからな」
エルフ「…………」
男「なぁ……」
エルフ「えっ?」
男「ちょっとついてこい」
トコトコトコ……。
エルフ「え、ちょっと私……」
男「いいからこっちこいよ」
エルフ「…………」
男「……どうした? 何か問題でもあるのか?」
エルフ「……私は行きたくありません」
男「変なことをするつもりはさらさらないさ、早くこっちに来な」
エルフ「…………」
ジャバジャバジャバ……。
215 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:42:54.32 ID:zaTWzoQo [3/52]
男「ほら、この小川の向こうだ」
エルフ「……嫌です」
男「いいから、早く来い。見せたいものがあるんだから」
エルフ「…………」
男「仕方ないなぁ」
ジャバジャバジャバ……。
男「そんなに頑なに拒むって言うなら……」
トコトコトコ……。
エルフ「なっ……」
男「……俺が、連れてってやるよ」
ガシッ。
216 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:43:24.23 ID:zaTWzoQo [4/52]
エルフ「や、やめてっ! 離してくださいっ!」
男「ほら、いいからこいって」
エルフ「いやっ、いやっ! お願いだから離してッ!!」
バンッ。
男「……ッ……痛いな、だが俺は離さんぞ」
エルフ「いやいやいやいやっ! やだっ!」
男「ほら、後少しだ」
男「もうすぐで、川に入るぞ?」
エルフ「いやあああああああああああっ!」
男「…………」
エルフ「やだ……やだ……死にたくない……死にたくないです……」
男「…………」
エルフ「だめ……もう、やだ……頭……うぅ……」
男「……やはり、か」
パッ……。
エルフ「えっ……?」
男「悪かったな、無理矢理こんなことして」
エルフ「……いや、その……」
男「ちょっと、試したかったんだ。お前が幾ら経っても、話そうとしないからさ」
エルフ「…………」
男「でも、もう分かった。そういうことなんだな」
エルフ「な、何が……何だか私には……」
男「…………」
男「エルフ、お前……」
男「──頭の中に、爆弾があるんだろ?」
エルフ「……ッ」
217 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:45:29.24 ID:zaTWzoQo [5/52]
──森
ズズ……ズズ……。
男「……うしっと」
男「ほら、持ってきてやったぞ」
エルフ「…………」
男「見るからに、酷い死体だな。こんな状態なのは俺も初めて見る」
男「頭の部分だけ無惨に吹き飛んじまっている、なんてな」
エルフ「……うっ……」
男「よく見てみれば分かるが……」
男「外部からの爆発では、こんな風に綺麗に頭だけは無くならない」
男「大体、他の部位も吹っ飛んで、後に残るのは幾つかの千切れた身体の破片」
男「……だが、これは違う」
エルフ「うぅ……うぅ……」
男「内部から爆発したんだ。バーンッ……って」
エルフ「……も、もういいです……」
男「いいのか? 解説しなくて」
エルフ「も、もういいですから……私はこれ以上、見たくも聞きたくもありません……」
男「おいおい、そんな様子でどうする?」
男「少し間違ったら、お前もこうなっちまうんだろ?」
エルフ「……ッ」
男「……格好から考えて、この死体の元は村の住人だ」
男「どうして逃げようとしたのかは分からないが、この有様」
男「どうだ? 少しぐらい、自分に置き換えて考えられるだろ?」
エルフ「…………」
218 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:46:55.57 ID:zaTWzoQo [6/52]
男「それとも何だ? 自分と他人は違うってか?」
男「他人がこうやって死のうが、私には全く関係ないし、知りたくもないって?」
エルフ「……ッ」
男「毎日、偽りながら繰り返しの生活を続けて……」
男「……いつ死ぬかもしれないという恐怖を必死に隠して」
男「楽しいか? それで、満足か?」
エルフ「……ッ!」
男「……この様子だと、あの子供たちにも同じ処置がなされているんだろうな」
男「笑顔で元気一杯な無垢な少女たちが、その実、死との隣り合わせの日々を送っている」
男「それに、お前は胸が痛んだり……」
エルフ「──あなたに一体何が分かるっていうんですかッ!!」
男「…………」
エルフ「一ヶ月前に他所からやってきた貴方にっ! 私達の何が分かるんですかっ!!」
エルフ「毎日、恐怖して……次は私の番じゃないかって怯えてっ!」
エルフ「学校で子供たちに笑顔で接している傍ら……」
エルフ「実際は、その学校自体が子供たちを逃がさないための施設で……」
エルフ「それを分かっていて……辛くて苦しいのに……日々を送らねばならない私の気持ちが……」
エルフ「──貴方に分かる訳もないじゃないですかっ!!」
男「…………」
219 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:47:47.06 ID:zaTWzoQo [7/52]
男(やっと……話してくれたな……)
男(ここまで怒らせないと無理だとは……意外に、頑な奴だ)
男(よし、こうなったら出来るだけ聞き出そう)
男「……では、食料がたくさんある訳は?」
男「村のどこを見渡しても、作物を栽培している様子はなかった」
男「しかし食うに困らない……いや、余るほどの食料があるのは何故だ?」
エルフ「そんなの簡単です……」
エルフ「中央から送られてくるんですよ……」
男「中央?」
エルフ「男さんはここが未発達の世界だと考えているのかもしれませんが……」
エルフ「……ここは結局、作られた自然に過ぎないんです」
男「……それは」
男(……どういうことだ……? 作られた自然?)
エルフ「男さんの言う通りですよ……私達は、この村から出ることが出来ない」
男(それはつまり……)
男(水浸しになるという、不便な場所でわざわざ暮らす理由か……)
エルフ「子供も例外ではありません……全員、頭に細工がされているんです」
エルフ「まだ幼く何をするか分からない子供たちは、基本、学校で寝泊まりをしています」
男(そういえば、ある時、子供たちが言っていたな……)
男(みんな学校で暮らしてるんだよって……)
男(……そのとき、違和感を感じたが……そういう理由だったのか)
220 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:48:40.52 ID:zaTWzoQo [8/52]
男「……では、最後に」
男「こいつが逃げ出した理由は何だ?」
エルフ「…………」
男「親友と……関係してるんだろ?」
エルフ「……ッ」
男「頼む……話してくれ……こんな状況はあまりにも異常すぎる」
男「俺に、お前の気持ちが分かる訳もない」
男「……こんな苦しみが続く世界を、俺は知らないからな……」
エルフ「…………」
男「もしかして、諦めるという手段を取るしか、自分の精神を保てないのか……?」
エルフ「……うぅ……」
男「……頼む……話してくれ……」
男「望みが少しでも生まれることは……そんなに悪いことじゃないはずだ……」
エルフ「……うぅ……くうっ……」
男「初めて親友と家で会った時……」
男「……帰りにアイツにこう約束させられたんだ」
エルフ「……え?」
男「『何かあったら、エルフを助けてやってくれ』ってな」
エルフ「そ、そんな……」
男「今日も念を押されたよ。アイツはお前のことを本当に大事に想っている」
男「…………勝手な推測だが」
男「自分に……脅威が迫っているにもかかわらずな……」
エルフ「……うぅ……うああ……」
エルフ「……ごめん……ごめんなさい……うぅっ……」
エルフ「……っ、ご、めんっ……う、あぁ、うわああああっ!」
222 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:50:02.90 ID:zaTWzoQo [9/52]
男「…………」
男(辛いだろうな……想像もつかないほど……)
男(しかし、何の目的でこんな残酷なことをしているんだ……?)
男(そして、この死体の主のように、どうして逃げる必要があった?)
男(村の中は安全なんじゃないのか?)
エルフ「……お、男さん……」
男「……ん?」
エルフ「……さきほどからの男さんの行動を見て……」
エルフ「私……確信しました……男さんは、きっと何かを成せる人です……」
男「…………」
エルフ「まずは……初めのことから話さないといけません……」
エルフ「私がどうして……男さんを……この村に連れて来たのか……」
エルフ「私……初め、男さんのことを中央の人だと思ってたんです……」
男「……中央? 俺が?」
エルフ「はい……中央の人は私達とは違って、耳も長かったりしませんから……」
男(どういうことだ? この世界にも人間がいるのか?)
エルフ「でも、話してみると、全然そんなことはなくて……」
エルフ「大きな誤解をしていて……すみませんでした……」
男「……いいや、謝る必要なんてない」
エルフ「で、でも……」
男「いいんだ……。それより……親友のことは?」
223 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:52:06.18 ID:zaTWzoQo [10/52]
エルフ「…………」
エルフ「……お願いします……」
エルフ「……男さん……聞いても驚かないでくださいね……」
エルフ「今から、私達のことを話します……もう、隠し通すのは無理ですから……」
男「…………」
エルフ「……ふぅ」
エルフ「……ちょっと、勇気がいりますね……」
エルフ「男さんに、軽蔑されるんじゃないかと思うと辛いです……」
エルフ「でも決めました……もう、言うことにします」
男(……軽蔑? 意味がわからない……)
224 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:52:49.96 ID:zaTWzoQo [11/52]
エルフ「初め、男さんは私の姿を見て」
エルフ「エルフという架空の種族に似ていると言っていましたよね」
男「あ、ああ……」
エルフ「魔法が使えて……長生きもして……」
エルフ「前も言いましたが、私達はそんな性質を持っていません……」
男「でも、女しかいないんだろ?」
エルフ「……はい、そうです」
エルフ「それも……実はきちんとした訳があるんです」
エルフ「この村に、歳をとった者がいない訳も」
エルフ「中央から、大量の食料が送られてくる訳も」
エルフ「そして……」
エルフ「この村から逃げられないように、処置がされている訳も……」
エルフ「全て、説明がつきます……」
男「……それは……」
エルフ「…………」
エルフ「聞いても、今までと同じ様に接してくれること祈って」
エルフ「……いいですか、男さん」
エルフ「……実のところ、私達は……」
エルフ「──……『食料』なんですよ」
225 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:53:24.54 ID:zaTWzoQo [12/52]
>>221 #^ω^)
226 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:54:11.38 ID:zaTWzoQo [13/52]
──村
エルフ「男さん、本当に行くんですか……?」
男「ああ、エルフは家で帰りを待っていてくれ」
エルフ「わ、私も……」
男「──はっきり言おう。正直、足手まといになるだけだ」
エルフ「…………」
男「残念なことに、俺はまだ何の解決策も見つけられていない」
男「必死に頭という頭を使っているが……」
男「どう足掻いても根本的な問題は残ってしまう」
エルフ「……男さん……」
男「でもはっきりしていることはある」
男「誰かが何かをしなければ……この負の連鎖は一生続くだろう」
エルフ「…………」
男「親友が、あの死体のように……或いは、工場で解体されるのを」
男「俺は、見過ごせない」
エルフ「……ッ」
男「そうだ、良いことを思いついた」
エルフ「えっ……」
男「今から、お前と新たに約束を交そう」
男「俺は……お前の友を、必ず救ってやる」
エルフ「……あ、ああ……」
男「これは約束であり、契約だ。決して切れることはない」
エルフ「……わ、わたし……」
男「……お前にも、やって欲しいことがある」
227 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:54:46.63 ID:zaTWzoQo [14/52]
エルフ「何でしょうかっ、私、何でもやりますっ!」
男「……俺を」
男「──ただ、信じていて欲しい」
エルフ「……信じる?」
男「そうだ、俺を心の底から信頼して、大いに望みを抱け」
エルフ「で、でも……」
男「もう、裏切られることを恐れるな。胸に確かな希望を持つんだ」
エルフ「希望を持つ……」
男「そうすれば、きっと、今には見えないものが見えてくる」
男「自分が今やるべき行動が、選択が、必ず取れるはずだ」
エルフ「…………」
男「いいか、出来るか?」
エルフ「……はい、約束……契約します……」
男「…………」
エルフ「私は……男さん……あなたを……」
エルフ「──心の底から信じますっ!」
228 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:55:22.46 ID:zaTWzoQo [15/52]
──村
トコトコトコトコ。
男「…………」
男(ずっと考えてた)
男(どうして、俺がこんな目に遭うんだろうって)
男(何も悪いことはしていないのに、こんなに運命に振り回されるのは何故だって)
トコトコトコ。
男(自分の人生に嫌気がさして)
男(何も変わらない、つまらない日々を呪って)
男(あらゆることから逃げて来た俺……)
トコトコ。
男(……初めは妹を持ちたいと軽い気持ちで考えていた)
男(それが次の瞬間、見知らぬ収容所に押し込まれて)
男(気が付けば、テロリストの仲間になった……そして、自分の本質が変わっていくのを感じたんだ)
男(国を変えようと本気で決意した時、何かが、胸の中で生まれた)
トコトコ。
229 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:56:01.73 ID:zaTWzoQo [16/52]
男(……きっとそれは確信だった)
男(変えられないものなど、何もない)
男(どんなに苦難な道だとしても、諦める以外の方法が必ずある)
男(あの最後の作戦の日、それを身に染みて痛感した)
トコトコ……ピタッ……。
男「…………」
男(だから、今なら分かるんだ)
男(どうして、俺がこんな目に遭うのか)
男(運命がここまでして俺に難題をぶつけて来たのは何故か)
男(それは、すべて……)
男「……今日という日のためだったんだな」
──バンッ。
230 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:56:35.50 ID:zaTWzoQo [17/52]
──親友の家
バンッ。
親友「うわっ……だ、誰だっ!?」
男「入るぞ」
親友「その声は……お、男か……」
親友「ど、どうしたんだ……こんな夜遅くに……」
親友「今日はやることがあると言ったろ……早く、帰ってくれ……」
男「……いいや、駄目だ」
親友「いいから帰れっ!」
親友「頼むからっ! 私を一人にしてくれよっ!」
男「……それが本心か?」
親友「えっ?」
男「本当に心の底からそう思っているのか?」
親友「ど、どういうことだ……?」
男「もういいと諦めて、ただ終わりの朝を待つのか?」
親友「……ま、まさか……エルフが……話したのか……?」
親友「くそっ……なんでまた……」
男「いいか、よく聞け」
男「俺は今、猛烈に腹が立っている」
親友「…………」
231 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:58:25.54 ID:zaTWzoQo [18/52]
男「理由は簡単だ。お前にも分かるだろ?」
親友「……もう私には生きることが出来ないと……諦めたから?」
男「違う」
男「お前が、俺を頼らなかったからだ」
親友「……うっ」
男「友を助けたいと俺に託したよな? 信じられると」
男「それなのに、何故自分のことは黙っていようとした?」
男「それで俺が納得でもすると思ったのか?」
親友「そ、そういうわけでは……」
男「悪いな。俺は執念深い男なんだ。今日はいつになく、無茶をさせてもらう」
親友「……だ、だがっ」
男「俺の心配をしようなんて思うなよ。これは俺が勝手にやっているんだからな」
親友「お、男……」
男「まずは、詳しい話を聞きたい」
男「あいつらは何時頃、ここにやってくる?」
親友「噂で……明け方としか……聞いていない」
男「何人で武装してくるのかはわかるか?」
親友「いや……それも分からない」
男「そうか、では質問を変える」
親友「あ、ああ……」
男「どうやって自分の番が来ると分かった?」
親友「数日前……家の前のところに手紙がおいてあった……」
親友「中には、赤字で今日の日付が書かれていただけだ」
233 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 11:00:32.16 ID:zaTWzoQo [19/52]
男「……その状況は、今までと一緒なんだな?」
親友「そう、聞いていた話と同じ。いつかは必ず来るとね……」
男「分かった……とりあえず、準備をしないといけないな」
親友「……準備って……」
男「奴らを迎える準備だよ。今のうちにやれることはやっておこう」
親友「…………」
親友「……なあ、男……」
男「ん? どうした?」
親友「お、お前……本当に……あの男か?」
男「…………」
親友「口調も少し違う気がするし……それに」
親友「その迫力みたいなものを一体なんなんだ……?」
男「……さあ、分からんよ」
男「ただ、やっと長年の疑問が解けたことが関係しているのかもな」
親友「……どういうことだ?」
男「──もうすぐに分かる、多分な」
235 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 11:01:53.63 ID:zaTWzoQo [20/52]
──明け方
男「……夜が明けたな」
親友「あ、ああ……」
男「そろそろだろう。打ち合わせ通り頼んだぞ」
親友「…………」
男「どうした、震えているじゃないか?」
親友「こればかりは……分かっていても……なっ?」
男「…………」
親友「……男……」
男「ん?」
親友「もしも失敗したら……」
男「──そんなことにはならない」
親友「…………」
男「いいから、予定通り行くんだ。分かったな?」
親友「…………」
男「返事はどうした?」
親友「あ、ああ……すまない……」
男「よし……なら俺は、少し、外に出てくる」
親友「だ、大丈夫なのか?」
男「安心しろ、恐らくまだだ」
237 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 11:02:35.45 ID:zaTWzoQo [21/52]
──外
男「……さて、どうするか」
男(このままやってきた奴らを蹴散らすのは、造作ない)
男(油断し切った相手を[ピーーー]のは、難しくないからな)
男(ただ……問題が一つある)
男「……この後、どうする……?」
男(そう、成功した後のことを考えなければならない)
男(今日で相手のメンバーを皆殺しにして、それで片付くほど単純ではない)
男(エルフたちを全員逃がそうと考えても……一体どこに?)
男(そもそも、彼女たちはこの村を離れることが出来ない)
男「今日を乗り切ったとしても……これからが大変だ」
男(異常を察知した相手側は、今度こそは油断せずにやってくるだろう)
男(仮にそれを乗り切ったとしても……また、次がある)
男(永遠に続いてしまっては……俺の身体は持たない)
男(…………)
男「……ん?」
男「そういえば、今日は、霧が晴れてるな……」
男「…………」
トコ……トコ……トコ。
男「……あれは何だ……?」
男「遠くに見える……あの尖った山……にしては、鋭角す……」
男「──あっ……」
240 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 11:05:49.99 ID:zaTWzoQo [22/52]
>>237
[ピーーー] ってwwwwww
特定ワードはこうなるのね
>男(油断し切った相手をコロスのは、難しくないからな)
241 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:07:41.73 ID:zaTWzoQo [23/52]
>>239
了解了解、ここの仕様よくしらねーんだわ
243 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:09:27.11 ID:zaTWzoQo [24/52]
──親友の家
ガチャッ!
男「おいっ、聞きたいことがあるっ!」
親友「ど、どうしたんだ……? えらい剣幕じゃないか……」
男「ここからずっと遠くに聳え建っている、あれは何だ?」
親友「あ、ああ……あれは、多分、中央の建物だ」
男「中央の建物?」
親友「やつらのシンボルさ……この村にもモニュメントがあるだろ?」
男「……そうか、そういうことだったのか」
男(だから、エルフは初めの日にあそこに案内したんだな)
男(あれを見て俺がどんな反応をするかで、確信を持ちたかったんだ……)
男(ん……待てよ……)
男(…………)
親友「で、それが一体どうかしたのか?」
男「あそこには……恐らく、中央の敵玉が居座っているだろ?」
親友「ああ、多分、そのはずだな」
男「…………」
親友「……男?」
男「よし、いいぞ……。これで最後の駒が揃った」
親友「最後の駒……?」
男「……親友、作戦を変更する」
親友「い、今更か? それで間に合うのかっ?」
男「ああ、大丈夫だ。今より、ずっと確実で……未来がある」
親友「……そうか、お前がそういうならそうなんだろうな……」
男「それでな……お前にやって貰いたいことが──」
244 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:10:31.92 ID:zaTWzoQo [25/52]
──三十分後
男「…………」
男「……来た」
親友「……わ、わかった……」
男「無理だと分かっているが、落ち着け」
親友「わ、悪い……だが、震えが止まらないんだ……」
男「…………」
男「親友、俺の目を見ろ」
親友「……あ、ああ、分かった……」
男「ほら、じっとだ」
親友「……ん」
男「…………」
親友「…………」
男「どうだ? 少し落ち着いたか?」
親友「お前の目……全くぶれないんだな……」
男「ああ、だから大丈夫だ……安心しろ」
男「俺が、お前を救ってやるから」
親友「……男……」
男「じゃあな」
245 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:11:00.15 ID:zaTWzoQo [26/52]
──親友の家
バタバタバタ……バンッ!
?「……ん? なんだ、やけに静かだな」
親友「…………」
?「いい心がけだ、悪あがきはしないに越したことがない」
親友「……もう、いいんだ……」
親友「頼むから……苦しくないようにしてくれ……」
?「……ふむ、分かっている、安心しろ」
?「ただ、ここで殺しはしない。向こうに着いてからな」
親友「もう……どちらでもいい……」
?「…………」
?「よし、薬を打って眠らせろ」
?「はっ」
プスッ。
親友「……うぅ……」
親友「…………」
?「ん、連れて行け」
?「了解」
バタバタバタ……。
男「…………」
男「行ったか……」
男「よし……後は俺にかかってるな……」
男「……やるぞ」
246 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:12:10.19 ID:zaTWzoQo [27/52]
──???
班長「これで、今日の仕事は終わったも同然だ」
班長「本日は何時に比べて、スムーズにいった。後は送り届けるだけだな」
作業員1「一人だけでいいんですか?」
班長「もう一人は廃棄処分になったから仕方ない。また後日改める」
作業員1「分かりました」
班長「よし、貨物をトラックに入れろ。きちんと黒い袋に詰めただろうな」
作業員2「大丈夫です。今から、積んできます」
班長「ん、数分後に出発する、急げ」
作業員たち「「了解っ」」
247 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:12:47.34 ID:zaTWzoQo [28/52]
──トラック周辺
男「…………」
男(敵の数は五人か……)
男(何の武装もしていない……あまりにも軽卒だな)
男(思った以上にスムーズにいけそうだ)
男(しかし、この世界にも車があるなんてな)
男(形がかなり違うから、燃料なども同じではないんだろう……)
男(……あっちの世界より、相当進歩している印象だ)
男(…………ん)
男(親友を積んだな……)
男(……よし、今だっ)
248 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:13:46.51 ID:zaTWzoQo [29/52]
──トラック
ガチャン。
作業員2「よし、これでいい。後は、俺がしておくから先行ってこい」
作業員3「分かった、任せたぞ」
タタタタ……。
作業員2「このボタンを押して……」
『……ソウサガカンリョウシテイマセン……』
作業員2「ん? あれ、なんか間違ったか?」
ザザッ。
作業員2「……んっ!?」
男「…………」
作業員2「…………」
……バタン。
男「しばらく、眠っておけ」
ガチャン。
男「…………」
親友「…………」
男「……親友」
男「後は、任せたぞ……」
249 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:14:22.90 ID:zaTWzoQo [30/52]
──トラック
作業員3「おい、何やってんだ? もう発車するぞっ?」
タタタタ……。
作業員3「あれ……いない?」
作業員3「……ん?」
作業員3「──っておいっ! 大丈夫かっ!」
作業員2「……あ、ああ?」
作業員3「何があった? どうして倒れている?」
作業員2「いや……分からんが、急に真っ暗になって……その後覚えていない……」
作業員3「とにかく、貨物の状態をっ」
ガチャンっ。
作業員3「……ん? 問題ないな……?」
作業員2「……そうか、なら良かった……」
作業員3「このことは、班長に伝えたほうが良いんじゃないか?」
作業員2「おいおいっ、何の問題もなかったんだろ……止めてくれよ……」
作業員3「しかし……」
作業員2「──折角、良い職にありつけたんだ……印象を悪くしたくはないっ」
作業員3「…………」
作業員2「頼む、な? お願いだ」
作業員3「……ん」
作業員3「仕方ない……伝えるのは止めとくよ」
作業員2「あ、ありがとうっ! 恩に着る!」
作業員3「そのかわり、今日の夕食はお前のおごりだからなっ?」
250 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:15:48.09 ID:zaTWzoQo [31/52]
──???
親友「…………」
親友「……ん……」
親友「……あ、れ……」
親友「ここ……」
ガバッ。
親友「…………」
親友「……男……」
親友「助けてくれたんだな……」
親友「……でも」
親友「本当にこれで……良かったんだろうか……?」
親友「…………」
親友「──……急ごうっ」
251 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:16:28.35 ID:zaTWzoQo [32/52]
──エルフの家
ガチャッ。
エルフ「お、男さんっ!?」
?「…………」
エルフ「え、えっ……?」
エルフ「──親友……」
親友「……ああ」
エルフ「……だ、大丈夫だったんですね……」
親友「……あ、ああ」
エルフ「ほ、本当に、良かった……良かったです……」
エルフ「これで……ひとまず……安心……」
親友「…………」
エルフ「……あれ?」
エルフ「親友、男さんは……?」
親友「……みんなを……集めてくれ」
エルフ「…………」
エルフ「……急がないといけないんですね」
親友「……そうだ」
エルフ「分かりました。すぐに、みんなを呼んできますっ」
エルフ「それで集まる場所は……」
親友「──……憎き碑の前に」
252 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:17:35.36 ID:zaTWzoQo [33/52]
──???
エルフ「みんな急いでっ」
村人1「もう……これで、大丈夫なの?」
村人2「頭が吹き飛んだりしない……?」
エルフ「はい、大丈夫ですっ!」
エルフ「とにかく急いで、この村から離れましょう」
親友「エルフっ!」
エルフ「どうかしました?」
親友「子供たちは、この速度で進むのがしんどいようだ……」
エルフ「……そうですか……でも」
親友「……急がないとな、奴らが来る可能性も高いし……」
エルフ「…………」
親友「どうした?」
エルフ「……まさか、あのモニュメントが鍵になるなんて……」
エルフ「なんで、男さんはそれに気が付いたんですか?」
親友「私も男に聞いただけだから、あまり意味が分からなかったが」
親友「『仕掛けが離れた距離によって起動するなら、それを計っている装置がある』」
親友「『仮に電波を中央で操作していたとしても、森の中だから、中継点が必要だ』」
親友「『この村で考えられるのは、あの碑しかない』」
エルフ「…………」
親友「そして、あれを壊せば、十中八九、爆発は起きないって……そう言ってた」
253 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:18:41.05 ID:zaTWzoQo [34/52]
エルフ「信じたんですね」
親友「ああ、前なら怯えてそんなことしなかっただろうな……」
エルフ「…………」
親友「……あいつ」
エルフ「──きっと大丈夫です。あの人がそう言ったなら」
親友「……あ、ああ、そうだな」
エルフ「今は自分たちのことだけに専念しましょう」
エルフ「出来るだけ時間を稼ぐ……そのために」
エルフ「そして……」
エルフ「──明日を生きるために」
254 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 11:20:23.08 ID:zaTWzoQo [35/52]
──塔
警備員「はい、止まって」
警備員「許可証を提示して下さい」
班長「ほら、これだ」
警備員「…………」
ピピッ。
警備員「はい、どうぞ」
警備員「認証しましたので、中へお進み下さい」
班長「ああ、分かった」
班長「……これで、ひとまず終わりだな」
作業員1「お疲れさまでした」
班長「車を止めたら、いつものところへ貨物を運べ」
作業員2「了解」
班長「引き渡しが完了した後、ミーティングをして解散だ」
班長「気を抜かず、最後まで引き締めていこう」
作業員たち「「了解」」
255 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:22:01.37 ID:zaTWzoQo [36/52]
──塔 内部
作業員2「ん……重いな……」
作業員3「確かになっ……」
作業員2「よし……エレベーターに行くぞ」
作業員3「角ぶつからないように気をつけろよ」
作業員2「ああ……そっちもな」
ンー……ガタン。
作業員2「よし、乗るぞ」
作業員3「おうっ……」
……ガチャ。
作業員2「で、何階だっけ?」
作業員3「確か……ん?」
作業員2「どうした? 何かあったか?」
作業員3「いや今……貨物が動いたような……」
作業員2「そうか? どうせ寝返りでも打とうとしたんじゃないのか?」
作業員3「だが、そろそろ麻酔も切れかかってくる頃だし……」
作業員2「確かに暴れてもらっても困るな……」
作業員3「念のために、ここでもう一回打とう」
作業員2「了解、じゃあ、降ろすぞ」
作業員3「ああ」
ドン……。
256 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:23:17.36 ID:zaTWzoQo [37/52]
作業員2「それにしても重たい奴だな……」
作業員3「見た目はそんなでもなかったんだがな」
作業員2「隠れ肥満ってやつか……怖いね」
作業員3「ははっ、よし、じゃあ開けるぞ」
作業員2「おう」
ジー……。
作業員3「…………」
作業員2「…………」
作業員3「だ、誰だ……?」
作業員2「……今回の奴って、こんな顔だっけ?」
作業員3「いや……これは、どうみても……」
男「──……違うだろ?」
作業員2「なっ……」
257 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:24:17.18 ID:zaTWzoQo [38/52]
クライマックスを前に休憩
いちいちsagaって打つのメンドイ・・・・
260 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:37:52.64 ID:zaTWzoQo [39/52]
オレもjaneだけど、こっちはメル欄固定する機能がない(知らない)んだよね
とりあえず再開
261 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:38:37.59 ID:zaTWzoQo [40/52]
──塔 内部
コンコンッ。
男性「入っていいぞ」
作業員「貨物の引き渡しに来ました」
男性「そうか、ならここにおいてくれ」
作業員「了解です、こちらにサインを」
男性「分かった……」
男性「しかし、二人でいつもは運んでくるのに、今日は一人なんだな」
作業員「腕っ節には、割と自信がありまして」
男性「そうか、それは羨ましいばかりだ」
作業員「…………」
男性「……ん」
男性「よし、書き終わった。もう、帰って良いぞ」
作業員「いえ、すみません……貨物の確認もお願いします」
男性「確認? いつもは、そんなことしないはずだが……」
作業員「念には念を入れてです」
男性「そうか……なら、仕方ないな……」
ジジー……。
262 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:39:38.03 ID:zaTWzoQo [41/52]
男性「…………」
男性「……ん……」
男性「……あ、あ……」
作業員「どうかしましたか?」
男性「……き、君……」
男性「こ、これは……」
男性「──男の……死体……じゃない、か……」
作業員「…………」
男性「な、何がどうなってる……?」
男性「……どうしてこんなものを……」
作業員「…………」
男性「何故、何も答えないっ……」
男性「……ま、まさか……」
作業員「……なあ、アンタ」
男性「……お、お前……」
作業員「アンタに、色々、聞きたいことがあるんだ」
作業員「手短に……そして、迅速にお願いする」
男性「や、やめろ……それ以上、近づくな……」
作業員「……どうやったら」
作業員「──この仕事の依頼主に会える?」
263 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:41:08.24 ID:zaTWzoQo [42/52]
──塔 最上階
「まだ、例のものは届かないのか?」
執事「既に運び込まれたことまでは分かっています」
「それにしても……効率があまりも悪いな」
執事「しかし……一目を避けるとなると、このような手段でしか……」
「仮にこれが露呈したら、大問題に発展するからな」
執事「はい……ん?」
執事「電話です……少し、席を外してもよろしいでしょうか」
「ああ、構わん。あと、準備している者に作業を急がせろ」
執事「分かりました。では、失礼します」
ガチャ。
「……ああ、待ち遠しいな」
「ここ最近は忙しく、食べる機会に恵まれなかったからな」
「……あの柔らかい舌触りといい、癖のなさといい……」
「技術という技術を結集させて、一から生み出した甲斐がある」
ガチャッ。
「何だ、意外に早かったな。それで作業……」
執事「──状況を、お伝えします……」
「……どうした……何があった?」
執事「……あの村の碑が壊されたそうです……」
「……な、何だって?」
執事「まだ、詳細は分かりませんが、通信が途絶えてから相当な時間が経過して……」
「──何故、すぐにでも対応しなかったっ!?」
264 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:42:02.22 ID:zaTWzoQo [43/52]
執事「……秘密が漏れないよう、最低限の人員で維持していましたので……」
「くそっ……もし、アイツらが逃げ出したりしたら……」
執事「……相当、危険な状態ですね……」
「……軍を動かせ」
執事「……殲滅しますか」
「こうなってしまったら、仕方がない」
「これが表に出てくる前に……全てをなかったことにする」
執事「どのような理由で向かわせますか」
「私の領土で未確認のウイルスが発生した、とな」
執事「……なるほど、それなら理由になりますね」
「ああ、加えて私の土地だからな、文句を言われる筋合いもない」
執事「分かりました」
「そして……事が収まったら、またアイツらを作り出せ」
執事「相当費用がかかりますが、よろしいでしょうか?」
「構わん……今度は情けなどやらずに、施設を作ってしまう」
執事「そこで暮らさせるんですね」
「ああ、家畜と一緒だ」
執事「では……命令を下し……」
ガチャ。
「誰だっ! 今は、重要な話し中だぞっ!」
男「…………」
265 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:43:36.35 ID:zaTWzoQo [44/52]
執事「早く下がりなさい。今なら罪には問いません」
「用件があるなら、これが終わってからにしろ。ほら、早く出て行け」
男「……く……くくっ……」
男「くははっ……」
男「はは、はははっ」
「…………」
執事「何が、おかしいんですか?」」
男「俺に罰を与えられる立場だと思っていること」
男「そして、さきほどからの会話……あれは、笑い話か何かなんだろ?」
執事「…………」
「……覚悟は出来ているんだろうな、貴様」
男「……覚悟なら、とっくの昔にしてきているさ」
執事「……もし」
執事「貴方が今の会話の内容を聞いたことで、優位に立とうとし」
執事「それをネタにゆすろう考えていても、全くの無駄になりますよ」
執事「どうせ貴方は無事で外には出られませんから」
男「…………なあ」
男「一つ問いを出していいか」
執事「……問い……?」
男「いいから、見ろ」
男「俺がこの手に持っている物……お前らは、何だと思う?」
266 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:44:18.27 ID:zaTWzoQo [45/52]
「……はっ、何を言うかと思ったら……ばかばかしい」
男「いいから、早く答えろ」
「……ッ」
執事「相手にする必要はありませんよ」
「……いや、待て……」
「その太々しさに敬意を払って、少し付き合ってやろうじゃないか……」
「見たことのない形だな、玩具か何かか?」
男「……確かに、玩具といえば玩具に見えなくもない」
「…………」
男「だが実際は、何時の時代も常に恐れられてきた代物だ」
「……分かり難いな……もっと簡単に説明しろ」
男「これでも努力しているつもりなんだがな」
執事「…………」
執事「……もう止めにしましょう」
執事「どうやら貴方は少々、頭に問題を抱えているようですね」
執事「しかし……これ以上、戯れ言を続けるつもりなら……」
男「──例えば、こうやって」
バンッ!!
「なっ……」
執事「…………か、かはっ……」
バタン……。
267 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:46:22.61 ID:zaTWzoQo [46/52]
「お、お前……今……」
男「どうだ? 今、恐怖しただろ?」
「……ぶ、武器なのか……それは……」
男「……この世界にとっては、相当遅れた技術なのかもしれない」
男「だがな……それでも、こんな簡単に殺せるんだ」
「…………」
男「……お前が、彼女たちをただ食うために作り出したんだな?」
「……彼女たち?」
「それは、食料であるアイツらのことを指しているのか?」
男「…………」
「アイツらの性別に意味などない」
「女として生み出したのは、それが一番適していたからだ」
男「……それはつまり」
「そうだ、女の方が食感が良かったんでな」
男「…………」
「……ということは、モニュメントが壊れた原因は、貴様だな?」
「余計なことをしてくれた……あれで、アイツらは全員死ぬことになるぞ」
男「……軍を使ってか?」
「ああ、そうだ。幸いにも、私はこの世界の頂点に君臨している」
「力があるのなら、それを使って何が悪い?」
男「…………いや」
男「……残念だが、もう、お前には無理だ」
男「俺がここでコロスからな」
268 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:47:43.32 ID:zaTWzoQo [47/52]
「……し、しかし、これを聞けば、貴様も考えを改めるはずだ……」
「何を勘違いしているのか知らんが……まず、ここがどこか分かっているのか?」
「仮に私を殺してでもみろ……すぐに警戒態勢が引かれて、お前は捕まり、処刑される」
男「…………」
「そんな馬鹿なことをするはずはない。私なら、決してしないからな」
男「……それで?」
「……今ここで投降するなら、貴様の罪は特例で免除してやる」
「名誉が欲しいなら言ってみろ、権力が欲しいならくれてやる」
男「…………」
「ここまで私を追い込んだんだ。その価値は十分にある」
男「……ああ」
「どうだ? 取引にのるか?」
男「そうだな……俺も予定を変更することにする」
「ああ、そのほうが貴様にとって私にとってもベストな……」
バァンッ!!
「──ッ……」
「き、貴様……どういうこと……」
バァンッ!!
「──止めろッ……止めてく……」
バァンッ!!
「──ああぁぁぁぁぁぁッ!!」
269 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:48:59.12 ID:zaTWzoQo [48/52]
男「お前は何も理解していない」
バァンッ!!
「──かっ……あああああ……」
男「何一つ分かっていないんだ」
バァンッ!!
「──……あっ……」
「……こおっ……ごほっ……」
男「…………」
男「両足、両腕……そして肺に打ち込んだ」
「……かっ……かはっ……」
男「苦しいか? 早く死にたいだろ?」
「………ッ……かっ……」
男「肺に血が溜まって息がうまく出来ないもんな」
男「自分は既に死ぬって分かっているのに、そう簡単には死ねない」
男「撃たれた部分は刺すような痛みが続いて、まさに生き地獄だ」
「……ッ…………こッ……」
男「……だが、トドメは刺さない」
男「そうやって、永遠に続くように感じる苦痛を十二分に味わえ」
男「それが、今まで死んでいった彼女たちへの……」
男「──せめてもの報いだ」
「………ッ……」
270 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:49:29.09 ID:zaTWzoQo [49/52]
キー……ガチャ……。
男「…………」
男(……さて)
男(どうしたものかな……)
男(奴の言う通り、かなりヤバい状況だ……)
男(ここまで辿り着くのに……少し強引な方法を使ったからな)
男(警報が鳴るのも……時間の問題か)
トコトコトコ。
男「しかし……拳銃か」
男(飛行機が墜落した後、偶然見つけたんだよな)
男(でも、弾も残り少ない)
男(最後に、無駄な弾数を消費してしまったからな)
男(素手じゃ……正直、無理だ)
271 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:50:31.40 ID:zaTWzoQo [50/52]
ウーウーウー。
男「……鳴ったか」
男(よし……そろそろ次の覚悟を決めないとな)
男(あまり良い結末とは言い難いが……)
男(エルフや親友たちが助かっただけでも……相当な価値がある)
男「……エルフ達は……大丈夫かな……」
男(最後に見た、エルフの目は活力に満ち溢れていた)
男(それも、今までの絶望で濁ったものが嘘のように)
男(これからは、希望を胸に抱いて、必ず、前へ進むことができるはずだ)
男(そう、彼女なら……きっと……)
男「…………」
272 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:50:58.65 ID:zaTWzoQo [51/52]
ウーウーウー。
男「……女はどうだろうか……」
男(……人を引きつける何かを持った、強い女性だった)
男(何事を恐れず、何からも逃げることはなく)
男(諦めるという言葉を常に否定し、俺の……見本となった)
男(……今は……多分、国を変えるのに必死になっていることだろう)
男(だが、女なら……見事成し遂げるに違いない……)
男「あんまり……俺は、役に立った気がしないからな」
男「ん……もうすぐかな」
ウーウーウー。
男「…………」
男(最後に……今の俺に問おう)
男(自分の人生に誇りを持つことができるか?)
男(何事からも逃げずに立ち向かうと、誓えるか?)
男(もう二度と、諦めるなんてことはないと言えるか?)
男「…………」
男(ああ、分かっている……)
男(……ここで終わる訳がないよな)
男「……勿論、答えは……」
男「──イエスだ」
─END─
273 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[age!] 投稿日:2010/07/15(木) 11:53:34.83 ID:zaTWzoQo [52/52]
\(^o^)/
店長『今日、来てくれなくていいよ』
男「……え?」
男「すみません、よく意味が分からなかったんですけど」
店長『んと、つまり、今日はバイトなしね』
男「……なんかあったんですか? お店は休みですか?」
店長『店は普通に営業してるよ。ただ……』
男「ただ?」
店長『もう、手数はいるから男君が来てくれても、やってもらう仕事がないんだ』
男「……先週、空いてるシフトに入ったつもりですが」
店長『それでも、もう大丈夫なんだよ』
男「大丈夫って……。じゃあ、とりあえず今日はやめて、土曜行きますよ」
店長『それもこなくていいよ』
男「…………」
男(どういうことだ?)
4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 02:47:35.78 ID:LG5NcfDx0
店長『はっきり言っちゃうとさ、君の代わりに新人雇ったんだ』
店長『女子高生の子でね、とってもいい子で僕も心打たれてね』
男「……つまり、首ってことですか?」
店長『ごめんね、君には悪いことしたと思うん……』
ピッ。
男「…………」
男「……あー、マジやべぇかも」
男「俺、何やってんだろ……」
男「大学卒業して……なんとなく就職活動して入った会社、慣れずに辞めて」
男「…………」
男「こんな風になるために、大人になったわけじゃねぇのにさ……」
男「……は、はは」
男「……仕方ねぇ……帰るか」
男「……ん?」
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 02:49:26.32 ID:LG5NcfDx0
男子生徒「妹さんっ家って、どんな家族構成なの?」
妹「お姉ちゃんと二人で暮らしてるんだ」
男子生徒「あっ……そうなんだ……」
男子生徒「ごめんね、余計なこと聞いちゃったかも」
妹「ううん、両親が亡くなったのは結構前だし……」
妹「今では、しっかりと受け止めてるよ。お姉ちゃんとの生活も楽しいしね」
男子生徒「そっか……妹さんはやっぱり凄いなぁ」
妹「そんなことないよ。……ただ、最近ちょっと不満があってね」
男子生徒「え、なんだい?」
妹「お姉ちゃんが仕事で帰りが遅くて……それがちょっと、ね」
男子生徒「お姉さん、働いてるんだ」
妹「うん、バリバリのキャリアウーマンなんだ」
妹「頭も良いし、美人だし……本当凄いっ」
男子生徒「妹さん自慢のお姉さんだね」
妹「もちろんっ」
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 02:50:49.96 ID:LG5NcfDx0
男「…………」
男(……はは、ガキどもが色気づいてるというのにな)
男(俺は、職を失って、帰って寝るだけか……)
男「…………」
男「……マジで、死のうかな……」
男(……でも、それも出来ないチキンなんだよな……)
男「あーくそ、やってらねぇよ……」
男(俺の人生、終わっちまってるな……)
男(どうせまた、似たようなバイト先で働いて……)
男(家賃と飯代を稼ぐのに精一杯で……)
7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 02:51:33.36 ID:LG5NcfDx0
男「……俺、生きてんだよな……?」
男「…………」
男(ははっ、誰も答えてくれねぇや……)
男(あーもう、今なら何でも出来る気がするな……)
男「……この際」
男(どうせ、糞みたいな人生がこの先に待ってるだけなら)
男(……一花咲かせて、綺麗に散ってやろうかな)
男「……は、はは」
男「く、くくくっ」
男「く、くははははははっ」
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 02:52:22.56 ID:LG5NcfDx0
男(よし……決めたぞ。俺は、決めた)
男(やってやろうじゃねぇか……ぶち壊してやるよ……)
男(俺の今までの人生……捨て去ってやる……)
男「……どうする?」
男「…………」
男「……ん、そうだ」
男(俺は昔から一人っ子で、ずっと妹が欲しかったんだ)
男(小さい頃はよく両親にも頼んでみたが……すぐに離婚しちまったからな)
男(妹……か)
男(……欲しかったな……物語に出てくるような、優しい妹が……)
男「…………」
男「……うし、動くか」
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 03:14:01.08 ID:LG5NcfDx0
──数日後
ガチャ。
妹「ただいまー」
妹「あーもう……部活で、遅くなっちゃった……」
妹「ん……あれ、電気つけっぱなしだったかな……」
妹「電気代ばかになんないのに……おっちょこちょいだなー自分」
男「──ういっす」
妹「……へ?」
男「こんばんわー」
妹「ふぇ……? だ、誰……?」
男「おう、よくぞ聞いてくれましたっ!」
男「自己紹介遅れました、男です。これからよろしくな」
妹「……ちょ、ちょっと、まって……」
男「ちなみに今、無職。数日前にバイト、クビになってね」
妹「や、やだ……なに……わけわかんない……」
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 03:21:50.65 ID:LG5NcfDx0
妹「あっ……け、警察っ……」
バッ。
男「──おっと、行かせないぞー」
妹「や、やめてっ! は、離して下さいっ!」
男「まあまあ、そう慌てんなって。時間はまだたくさんあるんだからさ」
妹「いやっ、やめてっ!」
妹「お願いですっ! お金なら出しますからっ!」
男「おいおい、まるで俺が強盗みたいな言い草だな」
妹「ち、違うんですか……?」
男「少しぐらい話を聞いてくれよ」
妹「…………」
妹「まずは、手を離して下さい……」
男「離したら、逃げようとするだろ?」
妹「……に、逃げませんから……お願いします……」
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 03:23:41.51 ID:LG5NcfDx0
男「んー」
男(どうしたものか……)
男(想像してたようにはうまくいかんな……完全に怯えてるわ)
男(せめて明るくいこうと思ったんだがな……失敗した)
男「……分かった。手は離すよ」
妹「……あっ……」
男「ほれ、座って座って」
妹「………うぅ」
男「頼むよ、悪いようにはしないからさ」
妹「……は、はい」
男「ん、よし」
男「色々喋っても誤解を生むだけだし、単刀直入に言うわ」
妹「…………」
男「俺、君の生き別れの兄ね」
妹「………え?」
27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 03:36:11.39 ID:LG5NcfDx0
男「だから、生き別れた兄だよ」
妹「……い、意味が分かりません」
男「んー、説明するっていっても、これだけだからなぁ」
妹「わ、わたしには……姉一人しかいないはずです」
男「うん、知ってる」
妹「そ、それに両親はすでに他界してますし……」
妹「実は、兄がいるなんてこと、聞いたこともありません……」
男「…………」
妹「夫婦仲も良かったし……他所で子供を作るなんてこと……」
男「……めんどくせー」
妹「へ?」
男「あーくそ、めんどくせーな」
男(なんだよ、想像と全然違うじゃねーか)
男(物語の中だったら、そこはとりあえず信じとくとこだろうが)
男「ん、もういいや」
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 03:42:58.64 ID:LG5NcfDx0
妹「……え、ええと」
男「生き別れた兄っていう設定はなし、で」
妹「……は、はぁ」
男「でも、まあ、何て言うかさ」
男「今日から、一人兄が出来たと思えばいいじゃん」
妹「…………」
男「兄貴欲しくね?」
妹「……い、いらないです……」
男「またまた、謙遜すんなって。欲しいだろ?」
妹「……いりません」
男「…………」
男(やっぱり、無職ってことが問題かな……)
男(くそっ、余計なこと言っちまったぜ……)
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 03:52:00.91 ID:LG5NcfDx0
男「定職はさ、いつかきっと見つけようと思ってるんだ」
妹「……はい?」
男「でも、俺は思うわけよ。『若いうちこそ、苦労しとけ』ってね」
妹「そ、それがどういう……」
男「社会の荒波に揉まれてこそ、真の男たるものが出来上がるってわけ」
男「まぁ……最近は、ちょっと挫折しまくりだけどな」
妹「……そ、そうなんですか」
男「とにかく俺が言いたいのは……」
男「──将来に期待してくれって、ことだ」
妹「…………」
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 03:54:05.05 ID:LG5NcfDx0
男(完全に決まったな。あまりの男らしさに、口開いたままになってるぜ)
男(まあ、ガキみたいな異性に囲まれてたら、そんなもんか)
男(……もしかして、これで惚れられたりしたら……マジどうしようか……)
男「ぐへへっ」
妹「…………」
ガチャ。
?『ただいまー』
妹「あ、お姉ちゃんだっ」
男「……え、あれ? まだ七時、予定と違くない?」
36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 04:04:08.36 ID:LG5NcfDx0
姉『今日は早く帰れたぞー。一緒にご飯食べるかー』
男「……お、おいおい」
男(マズい……これは、壮絶にマズいぞ……)
妹「お、お姉ちゃん……おかえりなさい……」
姉「ん、誰か来てるのか?」
男「……ど、ども」
姉「ああ、どうも……」
妹「こ、こちらは、男さんです」
男「は、初めまして……」
姉「あ、ああ、こちらこそよろしく……」
妹「…………」
姉「…………」
男「…………」
39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 04:26:43.82 ID:LG5NcfDx0
男(なんなんだこれはぁぁぁぁぁぁぁっ?!)
男(逃げたい……一刻も早く、この場から逃げ出したいっ!)
男「じ、じゃ、僕はそろそろこのへんで……」
妹「……あっ」
男「夜分遅くおじゃまして、ホントすみませんねっ」
そそくさ……そそくさ。
姉「……おい、待て」
男「……っ」
男「な、なんでしょうかっ?」
姉「んー……」
姉「せっかくだから、飯でも食べていかないか?」
男「え、遠慮しときますよっ」
姉「そう気を遣うな。人数が多ければ飯はうまいんだ」
男「お、お気持ちは有り難いんですが……ちょっとこの後に用事もありまして」
妹「そ、そうだよ、お姉ちゃん。男さんに迷惑だよっ」
41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 04:31:18.81 ID:LG5NcfDx0
姉「まあいいじゃないか。その用事とやらは今回は我慢してくれ」
男「……え、ええ!?」
姉「ほらほら、座って座って」
男「……あっ、は、はい……」
妹「ちょ、ちょっとっ! お姉ちゃん、本気なのっ?」
姉「何だ、何かおかしいか。妹の友人を飯に誘ってるだけだぞ?」
妹「そ、それはそうだけど……」
姉「…………」
姉「何か、私といられると困ることでもあるのか?」
妹「……うっ」
姉「……まあ、いい。その辺りも含めて、今日はたっぷりと聞こう」
姉「初めて妹が呼んだ、異性の友人だからなっ」
妹「……お、お姉ちゃん……」
姉「フンっ……そうだ、妹、飯の用意はしてあるのか?」
妹「ま、まだだけど……」
49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 05:00:52.27 ID:LG5NcfDx0
姉「じゃあ、まずは酒を持ってきてくれ。今日は飲まずにはやってられん」
妹「わ、分かったよ……じゃあ、ご飯も用意してくるね」
たったったったっ。
男(……えっ、俺をこの場に置いてくの?)
姉「…………」
姉「じぃ……」
男(み、見られてる……見られてるぞっ)
姉「……なあ、男」
男「は、はいっ?!」
姉「お前、よく人に大人びてるって言われるだろ?」
男「い、いえ特に……」
姉「そうか? 妹の学友なんだろ? 今年高三か?」
男「……ええと」
50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 05:01:48.96 ID:LG5NcfDx0
姉「来年はいよいよ受験だな。どの辺りを目指してるか、聞かせてくれ」
男「……そ、そのですねっ」
姉「ああ、どうした?」
男「実は……もう……その、はい」
姉「ん?」
姉「あー……なんだ、そういうことか」
男「えっ……」
姉「それならそうと、早く言ってくれっ。誤解してしまっただろっ」
男「そうなんですっ、誤解なんですっ」
男「ちょ、ちょっとした出来心で……」
姉「──もう、大学生なんだろ。変な勘違いしてすまんな」
男「…………」
姉「しかし、そうだとすると、妹とどこで知り合ったんだ? 」
男「……ちょっとした、偶然で……」
51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 05:02:41.96 ID:LG5NcfDx0
姉「深くは語らないというヤツだな。中々、焦らしがうまいな」
男「へ、へへっ」
姉「おっと、だとすると……」
妹「……はい、お姉ちゃん、ビールだよ」
姉「おおっ、やっときたかぁっ! やはりビールは瓶に限るぞっ」
ブシュッ。
姉「ああ……この感触がたまらなくいい……」
姉「言いかけたが、男、大学生なら酒はいける口だろ?」
男「えっ、は、はい、まあ、多少は……」
姉「おいおい、そんな弱気でどうするっ。今日は、私に付き合ってもらうんだからなっ」
男「え、ええ……お、お手やわらかに願います……」
姉「んーなんだ、もしかして、弱い方か? 歳は二十越えてるんだろ、幾つだ?」
52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 05:03:56.88 ID:LG5NcfDx0
男「……173です」
姉「んっ? 身長じゃないぞ、歳だよ歳。はは、面白いヤツだな」
妹「い、いいじゃん、お姉ちゃんっ! そんなことどうだって……」
姉「なんだ、別に歳ぐらい構わないじゃないか。女じゃあるまいし……」
姉「ちなみに私は28だ。まだ、三十路にはいってないぞ、ハハハ」
妹「お、お姉ちゃんっ!」
姉「うるさいなぁ……。で、男、歳は幾つだ?」
男「……………です……」
姉「ん? 聞こえんぞ、もっと大きな声でっ」
53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 05:05:14.92 ID:LG5NcfDx0
男「二十……」
男「──五です……」
姉「ああ、二十五か。それなら、酒も……」
姉「──って、二十五っ!?」
妹「…………」
姉「……大学は?」
男「既に卒業しました……」
姉「……じゃ、じゃあ、会社で働いてるのか……?」
男「げ、現在、無職です……」
姉「…………」
妹「…………」
60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 05:27:56.24 ID:LG5NcfDx0
──警察署
警官「で、どうして他人の家に入ったわけ?」
男「い、妹が欲しかったからです……」
警官「……これじゃあ、埒があかないなぁ」
警官「こっちも遊びでやってるんじゃないんだ。そろそろ真面目に答えてくれないか?」
男「う、うぅ……くっ……」
警官「正直、泣きたいのはこっちのほうなんだけど」
警官「もう一度、聞くよ? 何で、人の家に侵入したの?」
男「い、いぼうとが、ぼしがった、から、うぅっ……」
警官「はぁ……」
警官「少し、休憩にするよ……」
男「──ぶわああああああーんっ!」
ガチャ……。
65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 05:32:08.06 ID:LG5NcfDx0
警官2「どうだ……口を割りそうか?」
警官「ありゃ、完全に駄目だな。お手上げって感じだよ」
警官2「ふむ。バイトを突然クビになったのが堪え……」
警官2「或いは、精神的に病んでいて……それで、突発的な行動に走ったか」
警官「…………」
警官2「どうした? なにか気になることでもあるのか?」
警官「……俺はな、今回の事件、かなり裏があると思ってるんだ」
警官2「裏というと?」
警官「あいつの泣く姿見てみろよ」
警官2「お、おう。本当に辛そうだな……」
警官「違う違う、騙されてるんだ。あれは、演技だ」
警官2「ほ、ほんとうか?」
66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 05:39:46.03 ID:LG5NcfDx0
警官「『妹が欲しかった』なんて、わけのわからん供述もそうだ」
警官2「た、確かに訳がわからんな……」
警官「俺達を惑わせようとする策略さ」
警官2「なっ……」
警官「やつはヤバいぜ……俺達の手には負えそうもない……」
警官2「……まさか」
警官「ああ、そうだ。そうするしかない」
警官2「い、いや、でもっ、もし違……」
警官「──間違ってからじゃ遅いんだよっ!!」
警官2「……ッ」
警官「俺は今、初めて警察に入って、自分の無力さを痛感しているっ」
警官2「お、お前……」
67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 05:40:47.67 ID:LG5NcfDx0
警官「分かってくれ……俺の身体を流れる血が、これは大きなヤマだと言ってるんだ」
警官2「親父さんも祖父も警官だった、お前の血が、か……」
警官「ああ……死んだ親父が、俺にそう伝えてくれてるんだと思う」
警官2「殉職した、あの英雄の人が……」
警官「くっ……思い出したら、涙が出てくるぜ……」
警官2「ああ、立派な人だったよ……」
警官「そう言ってくれて、天国の親父も喜んでるよ……」
警官2「そういうことなら、俺も分かった……」
警官「本当かっ!」
警官2「ああ、彼らに任せよう」
警官2「──特別捜査官の彼らにな……」
75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 05:57:31.60 ID:LG5NcfDx0
──???
男「モゴモゴモゴ」
ザバッ。
男「はぁ……はぁ……な、何なんだいったい……」
男「こ、ここはどこだ……?」
男「急に目隠しされたと思ったら……うう……」
バンッ。
男「ま、眩しいっ……」
?『幾ら優秀な君でも、今は、きっとこう考えているに違いない』
?『ここはどこだ、一体どうしてしまったんだ』
男(なんだ……この機械音は……)
?『その問いに、簡潔に答えよう』
76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 06:15:10.26 ID:LG5NcfDx0
?『我々は、君の全てを暴くためにいる』
?『この場所は、そのために用意された。そう、君だけのために』
男「す、すみません……わ、訳が分からないんですが……」
?『…………』
?『そうやって、演じているのも今のうちだ』
?『取り繕っていられなくなるのは、恐らく、すぐにやってくるだろう』
男「え、演じてるって……何を……」
?『初めの質問だ』
?『君は、MYKグループの一員か?』
男「えむわいけー? そ、そんなものは知りません……」
男「と、とにかく、早く家に帰して下さいっ」
?『もう一度、問う』
77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 06:15:48.52 ID:LG5NcfDx0
?『君は、国内テロ組織MYKグループの一員なのか?』
男「し、知らないって!」
?『……心拍数が上がっているようだ』
男「え?」
男(あっ……手首に何か巻かれてるぞ……)
?『どうやら今の質問は、もう一度繰り返す必要があるようだな』
?『MYKの一員だな?』
男「ち、違うっ!」
?『どうして、あの家を選んだ?』
男「い、妹が欲しかったからだよっ! 何度も言わせんなっ!」
?『バイトをクビになったのは何故だ?』
男「て、店長が極度のJK好きだからっ! 意味なんてねぇ!」
78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 06:16:28.38 ID:LG5NcfDx0
?『次の写真を見て欲しい』
男「な、なんだって言うんだ……」
バンッ。
男(ま、また真っ暗になったぞ……ん? あれはスクリーン?)
?『これは君の住んでいる地域の衛星写真だ』
男「……そうだけど」
?『今、赤く点灯したのが、君の住んでいるアパート』
男(おお……確かにそうだ……)
?『次に、緑。これは、バイト先だ』
?『そして最後、青く点灯したのが、君が侵入した家』
男「……こ、これが何だって言うんだ?」
男(わ、わけがわからんぞ……)
?『この全てを線で結んでみると……』
男「ん……?」
79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 06:17:08.78 ID:LG5NcfDx0
?『……現れたのは見事に綺麗な三角形』
男「……何が言いたい?」
?『分かっているんだろう。内心は、ただならぬ心境のはずだ』
?『なんせ、この図形の中央には……』
男「……え?」
男(そ、そんな馬鹿な……)
?『──国会議事堂があるんだからな』
?『一体、何を企んでいたんだ、男君』
男「な、何も企んでなんかいないっ!」
男「お、俺は……自分の人生に嫌気が差していただけでっ!」
男「国をどうかしようなんて、そんな勇気持ち合わせていないっ!」
?『…………』
?『……まあいい、時間はたっぷりある』
?『君が白状するまで、な』
男「……な、なんてこった……」
86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 07:00:45.56 ID:LG5NcfDx0
──独房
男「くそっ……なんで、俺が……」
男(飯はまずいし……拷問まがいの尋問は続くし……)
男(どうすりゃいいんだ……いつまで続くんだよ……)
男(……ああ、外じゃ、どれくらいの時間が経ったんだろ……)
男(基本、真っ暗だから何もわかんねー……)
バンバン……。
男「な、なんだ……」
バンバン……。
男「……くそっ、気味が悪いな……」
男「一体、何の音だって言うんだ……もう、眠れねぇじゃねえか……」
ガチャッ!
男「お、おいっ! お前……」
看守「──貴様っ! よくも仲間を連れてきたなっ!」
男「……は? 意味わかんないって……」
87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 07:01:23.93 ID:LG5NcfDx0
看守「もう俺以外は、ほとんど生き残ってねぇ!」
男「生き残ってないって……ははっ、冗談キツい」
看守「……死んだんだよ」
男「…………」
看守「後は、俺だけだ……すぐここにも奴らがやってくるだろう……」
男「……う、嘘だろ?」
ササッ。
男「……って、え?」
看守「お前を盾にしてでも、俺は生き残る」
男「や、やめてくれ……」
看守「う、動くなっ! 動いたら、首の動脈が一瞬で切れるぞ」
男「……わ、分かったよ……」
ダダダ……ダダダ……。
看守「くそっ……奴らだ……」
男「MYKなんちゃらか……?」
88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 07:02:43.87 ID:LG5NcfDx0
看守「ここまできても、とぼけやがって。そうさ、仲間を助けにやってきたんだっ」
男「お、俺の他にも奴らの仲間が収容されてたのか?」
看守「ああ……お前はまだ良い方だった」
男「……つ、つまり?」
看守「見るに堪えない拷問が行われてたってことだよ」
男「……う、嘘だ……」
ダダダダ!
看守「くそっ……もう、こんなに近くに……」
男「お、おいっ! 俺はどうなるんだっ!」
看守「はっ? そんなの知らねぇよっ! 仲間だったら助けて貰えるんだろっ!」
男「だから初めから言ってるだろっ! 俺は無関係だっ!」
看守「だったら……お前も、俺と一緒にあの世行きさっ!」
89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 07:03:24.61 ID:LG5NcfDx0
男(ど、どうしてこんなことに……)
ダダダダダダ!
男(ただ自暴自棄になって、妹が欲しいと願っただけだったのに……)
ダダダダダダダダ!
男(こ、こんなところで……死ぬなんて……)
ガチャッ!!
看守「くっ──」
男(くそっ……まだ死にたくないっ!!)
?「背後を狙い撃て」
バンッ!
看守「………………カッ」
男「……へっ?」
看守「…………」
バタンッ……。
90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 07:04:21.50 ID:LG5NcfDx0
男「……ま、マジか……」
男「だ、誰か……嘘だと言ってくれよ……」
男「あ、有り得ないだろ……人が、人が……死んで……」
?「貴様は誰だ?」
男「……だ、誰って……俺は……──」
男(……ドアからの光が眩しくて、顔がよく見えない……)
?「聞いたことがない名だな……。ならば、所属はどこだっ?」
男「…………」
?「ん? 何を戸惑っている? まさか貴様……」
カチャ……。
93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 07:05:09.07 ID:LG5NcfDx0
男「ち、違う違うっ! 俺はただの一般人だ!」
?「嘘をつけ。一般人がこの施設に収容される訳があるか」
男「ほ、本当なんだって!」
?「もう一度だけチャンスをやろう。お前の所属はどこだっ!」
男「……うぅ……」
男(なんて言えばいいんだよ……)
男(どうせ『MYKのメンバーですっ』っていったところで、すぐにバレる嘘だし……)
男(けど、何か言わないと、アイツのように射殺される……)
男(く、くそっ! もう、どうにでもなれっ!!)
?「何を黙っているっ! 所属は……」
男「所属はッ!」
男「──無職だっ!!」
?「…………」
男「…………」
96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 07:05:53.44 ID:LG5NcfDx0
?「……と、とりあえず、連れてけ」
?「は、はいっ」
男(この後……どうなるんだろ俺……)
男(……あっ……顔が見られるぞ……)
女「…………」
男(……き、綺麗な人だ……)
サッ……。
男(ん……ああ……眠く……)
男(…………)
114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 07:54:30.19 ID:LG5NcfDx0
──隠れ家
男(や、やめてくれ……俺は妹が欲しかっただけで……)
男(ち、違うっ! 頼むから、信じてくれよっ!)
男(うぅ……うあああああああああ)
男「──はっ」
男「……ゆ、夢か……」
男「はは……そりゃそうだよな……そんなことに巻き込まれるわけ……」
女「──目が覚めたか?」
男「え……」
女「少々荒っぽかったが、あの場ではああするしかなくてな」
女「一応、すまなかったと謝罪しておこう」
男「……ゆ、夢じゃない……?」
女「どうした? どこか具合でも悪いのか?」
115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 07:55:25.75 ID:LG5NcfDx0
男「…………」
男「……なぁ、一つだけ聞いてもいいか……」
女「構わない。私でよければ、何でも聞いてくれ」
男「これは……」
男「──本当に現実か……?」
女「…………」
男「俺は……あの施設で……」
女「そうだ、我々がお前を助けた」
男「…………」
男(嘘だ……頼むから、嘘だと言ってくれよ……)
女「そのことでお前に……いや、男だったな、聞きたいことがある」
女「今度はそちらが答えてくれ。何故、あの場にいた?」
男「…………」
女「どうした、黙ってても分からないぞ」
116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 07:56:33.67 ID:LG5NcfDx0
男「どうせ言ったところで、信じてくれないだろ?」
女「……初めからそう言ってくれるな」
女「これでも、一応、理解するように努めてみるよ」
男「…………」
女「……そうか」
女「なら、私の想像だけでも伝えさせてくれ」
男「……ああ」
女「男、お前は最後のあの瞬間、私に向かってこういった」
女「『俺の所属は無職だッ』と」
女「あの真剣な眼差しと力の籠った言葉」
女「それで、確実にそのことが真実であると確信した」
男「ほ、本当か?」
男(こ、こいつは分かってくれるのか……っ)
117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 07:59:01.50 ID:LG5NcfDx0
女「ああ、本当だ」
女「男、お前は……」
女「──フリーの殺し屋だな」
男「……へっ?」
女「ふふ……良いんだ、お前が否定するのは分かっている」
女「あの場でわざと弱き振りをして、我らの敵意を逸らし」
女「見事、MYKとの接触に成功した……その機転は凄まじい」
男「ちょっ、ちょっと待て」
女「分かっている。お前が立場上、肯定が出来ないことぐらい」
女「この世界は常に暗黙の了解で成り立っているからな、私にでも分かるよ」
男「ええとな……その……」
女「歓迎しよう、男。お前を我々は雇うことに決めた」
女「報酬は規定の口座へ振り込んでおこう。いや……現金渡しのほうがいいのかな?」
118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 08:00:15.00 ID:LG5NcfDx0
女「まあ、どちらにせよ変わりない。お前の力が我々には必要だ」
男「…………」
男(こいつ……何言ってんだ?)
女「しかし、あの機転。実際の腕は、相当なものなのだろうな」
男(あーだめだ……もう分かっちまう)
男(何言っても、この女は俺のことを理解しないだろう)
女「一度、手合わせをお願いしたいところだが……ハハ、私では敵いそうもない」
男(はは……慣れって怖いな……確信しちまってるよ……)
女「……どうだ? 返事を聞かせてくれないか?」
男(……だから、もう何言っても無駄って決まってるなら……)
男「──いいだろう。俺が助けになってやるさ、フフフ」
女「ほ、本当かっ!」
男(とことん自分を騙すしかねぇよなぁ……)
130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 08:34:36.67 ID:LG5NcfDx0
──数年後
女「思い出せ」
女「辛く苦しく、朋の死に涙した日々を」
女「思い出せッ」
女「国を変えたいと、我らが立ち上がった日の心を」
女「思い出せッ!」
女「変えられぬものなど、何一つ有りはしないと誓ったあの日をっ!」
女「……今日だ」
女「今日で、全ては終わるっ!」
女「この愚鈍に満ち溢れたこの国を、ついに変えることが出来るのだっ!」
女「先立った朋達に、成功の報せを伝えることが出来るのだっ!」
『うおおおおおおおおおおぉぉぉぉッ!!!』
131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 08:35:10.59 ID:LG5NcfDx0
女「……やろう、やり切ろう」
女「決して我らは、諦めない。挫けない」
女「それが、我らMYKたる所以なのだから」
男「…………」
女「男、上がってくれ」
男「ああ……」
女「皆、知っているだろう。彼が、本作戦の指揮を取る者だ」
女「彼の手腕で、我らが幾つもの難所を乗り越えてきたか」
女「彼抜きでは……正直、今日という日を迎えることは出来なかっただろう」
女「しかしッ、これだけは言えるっ!」
女「我らには、彼がついているのだっ! 何も恐れることなどないッ!」
『うおおおおおおおおおおぉぉぉぉッ!!!』
132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 08:35:53.44 ID:LG5NcfDx0
女「男、君の番だ」
男「はは、盛り上げるのがいつもうまいな」
女「お前に褒められるとは……光栄だよ」
男「…………」
女「…………」
男「……期待していろ。俺が、変えてやるよ」
女「……男」
男「……ん……」
女「……あ、ん……」
133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 08:36:24.24 ID:LG5NcfDx0
女「……お、お前というヤツは……もう……」
男「はは、景気付けだ」
男「…………」
男「……愛してる」
女「ふふっ、やはり私達は気が合うな」
女「私もだ……男」
女「行ってこい、皆が待ってる」
男「……おう」
タンタンタン。
男「すぅー…………はッ」
男「みな、聞いてくれっ! 本作戦は本日早朝──」
177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 15:31:37.10 ID:LG5NcfDx0
──???
男「分かっているとは思うが、我々は今回も隠密行動を基本とする」
男「気付かれてしまえば、そこで本作戦は失敗だ」
男「気を十二分に引き締めていけ」
部下A「了解」
部下A「銃の使用は……」
男「許可する。ただし、乱用はするな」
部下B「猶予の時間は幾らですか」
男「リミットは三十分ほど……」
男「それ以上かかってしまえば、ジエンドだな」
部下B「意外と少ないですね……」
部下A「オイオイ、弱気になってるんじゃねーよな」
部下B「違うわよ馬鹿っ。ただ、現実の厳しさを痛感してただけ」
部下A「フン、ならいいが」
部下B「……ッ、あなたって人は……」
178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 15:32:57.53 ID:LG5NcfDx0
男「止めろ、二人とも」
男「開始の合図があるまで、作戦の概要を再確認だ」
男「我々の最大目標……それはホシの捕獲」
男「殺した状態ではなく、生け捕りにすることに意味がある」
男「勿論、それを障害する全ては……排除してよい」
男「……本作戦のホシは」
男「我が国の最大の権力者にして、我々最大の敵……」
部下A「…………」
部下B「…………」
男「──現内閣総理大臣だ」
183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 15:57:30.34 ID:LG5NcfDx0
──A地点
男「A地点よりこちらチームα。準備は整ったか」
ザザ……。
声『D地点より目標を確保』
男「狙え」
声『了解、狙いました。いつでもいけます』
男「その状態を保て……C地点はどうなってる」
声『こちらC地点。遮蔽物が邪魔して、先ほどから目標を確認出来ません……』
男「…………」
男「くそっ、時間がない……」
部下B「どうしますか」
男「…………作戦を強行する」
声『し、しかし……』
184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 15:58:05.27 ID:LG5NcfDx0
男「俺が目標を引きつける。ポイントまでの距離を伝えるから用意しておけ」
声『り、了解っ』
ザザッ……。
男「…………ふぅ」
部下A「男さん、俺が代わりに行きますよ」
男「いや、俺でいい」
男(何故こいつらが俺を信頼しているのか、未だ理解出来ないが……)
男(作戦の遂行には、確実にこの二人の力がいるからな……)
部下A「で、でもっ……」
部下B「……目標、目視できました」
185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 15:59:32.95 ID:LG5NcfDx0
男「よし」
男「いいか、俺が引きつけた隙にドアへ向かえ」
男「裏口から入った後は、一分俺の帰りを待つ」
男「もし、それ以上超えたら……お前達だけで行け」
部下B「……お、男さんっ……」
男「開始だ。さあ、走れっ!」
部下B「……ッ、了解」
男(……はは、何かっこつけてんだよ、俺)
男(足が勝手に震える……)
男(いつからこんなに……)
男「…………」
186 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 16:00:19.21 ID:LG5NcfDx0
男「おいっ! そこのお前っ!」
見張り「──っ、貴様誰だっ」
男「いいからこっちにこいっ!」
見張り「う、動くなっ! そこから少しでも動いたら撃つっ!」
男「…………」
見張り「よしそのままだ、手を高く上げろ」
ザザっ……。
男「……対象まで……十メートル」
声『まだ目視出来ません』
見張り「頭の後ろで手を組め。いいかっ、ゆっくりとだ……」
男「……六メートル」
見張り「こんな早朝に……一体、何だって言うんだ……」
187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/08(木) 16:01:24.25 ID:LG5NcfDx0
男「……五」
見張り「よし、後ろを向いて……」
男「……三」
男「一」
声『も、目標を確保ッ』
見張り「ひざまづ──」
男「撃て」
バンッ!
見張り「…………」
……ドサッ。
男「……はは、いい腕だ」
222 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 00:51:49.59 ID:I83OW8CN0 [1/14]
──二階
男「……入った後は、客に混じってしまえばいいが」
部下A「……これじゃ、埒があきませんよ」
部下B「部屋の数が多すぎますし……このホテルは三十五階もあります……」
部下A「虱潰しに一つずつ回って行くしかないのかもな……」
部下B「そ、それじゃあ、予定の時刻までに間に合わないっ」
部下A「そんなこと俺だって分かってるさ……でも……」
男「──三十二階だ」
部下A「はっ?」
男「ホシは三十二階にいる」
部下B「なんで分かるんですかっ……?」
男「警備する人間の立場になって考えてみろ」
223 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 00:53:55.00 ID:I83OW8CN0 [2/14]
男「難しいことじゃない。忌むべき事実だが、奴らは俺たちと同類の人間だ」
男「最悪のケースを常に想定している、という点がな」
部下A「……それを逆手に取るということですか」
男「そうだ。最悪のケースを想定し、奴らはその時に備えているはず」
男「それを、利用する」
部下B「……で、でも」
男「いいから、これを見ろ」
部下B「……各階の案内図ですか」
男「見るのは三十階以上だ。他の階と何が違う?」
部下A「…………連絡通路がありませんね」
男「そうだ、隣の棟との連絡通路がこの階から存在しない」
部下B「で、でも、それが……」
男「守るべきエリアは大きいほうがいいか?」
225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 00:54:37.32 ID:I83OW8CN0 [3/14]
部下B「……えっ、それは小さいほうが、勿論、負担は減っ……」
部下B「──あっ!」
部下A「……そういうことですか」
男「そうだ、きっと、この階より上にいるに違いない」
部下B「……警備のために、上下のフロアを確保したいとなると……」
男「恐らく、三十二階になるな」
部下A「…………」
部下B「す、すごい……」
男「そうと決まれば急ごう」
男「正面玄関では、本人確認を義務づけて」
男「裏口にも警備をつけるという、徹底ぶりだ」
男「明らかに、敵は優秀に違いない」
男「外の警備からの連絡が途絶え、既に警戒態勢が敷かれているはずだ」
男「とにかく……まずは、三十階へ向かおう」
229 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 01:36:57.71 ID:I83OW8CN0 [4/14]
──三十階
部下A「……予想通りですね」
部下A「一般人に成り済ましていますが、この階から、警備の数が格段と増えてます」
部下A「しかし、これでは……」
男(ここまで厳重だとはな……どう考えても上の階にいけそうもない)
タタタタ……。
男「どうだった?」
部下B「……やはり向こうの階段も通行禁止になってます」
部下A「エレベーターは……」
部下B「駄目、三十一階から三十三階だけ、止まらないように設定してある」
男「…………」
部下A「くそっ、なんとか手段はないのかっ!」
部下B「ホシの居場所は確実に分かったのにね……」
230 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 01:39:22.67 ID:I83OW8CN0 [5/14]
部下B「男さん、どうします……?」
男「…………」
男(どうする……?)
部下A「……もう、強行突破しかない……」
男(作戦を見直すと言っても……時間はそれほど残っていない)
部下B「無理よ。仮に階段の警備を突破して三十一階へ辿り着いたとしても……」
部下B「この階以上に増えた敵に対処しているうちに」
部下B「──確実に、ホシは上の階へと逃げる」
男(ここまできて、終わってしまうのか……?)
部下A「くそっ……」
部下B「……正直、お手上げね……」
男(……ああ、何も思いつかない……)
男(どうする……俺達の作戦が失敗したら、今日という一日が全て無意味になる)
男(首相を捕らえることが、計画の前提条件だと言うのに……)
231 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 01:40:16.39 ID:I83OW8CN0 [6/14]
部下B「男さん、大丈夫ですか……?」
部下A「……顔色、真っ青ですよ……」
男「だ、大丈夫だ……」
男(……終わった……やってしまった……)
男(そもそも、無職の俺に出来ることなんて何もなかったんだ……)
男(その場しのぎで、今までやってきたが……)
男(……何事からも逃げ続けてきた俺には、荷が重すぎた……)
男(……ごめん、女……)
男(お前との約束、果たせそうもない……)
男(…………)
男(……ん?)
232 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 01:41:39.08 ID:I83OW8CN0 [7/14]
部下B「とりあえず、命令を……」
部下B「……って、男さん?」
男「…………」
男「……ああ、そうか」
部下A「え?」
男「……まだ、諦める必要はない」
部下B「そ、それは一体、どういう……?」
男「いいか……」
男「──手段は、一つだけ残っている」
238 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 02:26:17.03 ID:I83OW8CN0 [8/14]
──三十階
ボーイ「……フン♪」
ボーイ「……フンフーン♪」
ダンッ!
ボーイ「うっ…………」
……バタン。
部下A「……クリア」
男「よし、すぐさま着替えろ」
部下A「了解」
部下A「……しかし、従業員に成り済ましてどうするんですか?」
部下A「恐らく、彼らも上に続く階段は登れませんよ?」
239 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 02:28:03.06 ID:I83OW8CN0 [9/14]
男「違う、そこじゃない」
部下A「え?」
部下B「残された手段って……一体……?」
男「…………」
男「ホテルで宿泊した時、腹が減ったらどうする?」
部下B「……色々手段はあると思いますが……」
部下B「私は受付に電話して、食事を持って来てもらいますね」
男「その時に使用するのは、客が使っているエレベーターか?」
部下B「……それは、恐らく違うはずで……」
部下B「──あーっ、そういうことですかっ!」
男「そうだ、従業員用のエレベーターが確実にどこかにある」
240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 02:29:15.01 ID:I83OW8CN0 [10/14]
男「そして、そこに対する警備は……」
部下A「『手薄』ってことですね」
男「……ああ。俺達は、見事、最短で三十二階へ行ける」
部下B「……つまり」
男「そこからは、純粋な力勝負だな」
男「…………」
男「行くぞっ」
部下A・B「「はいッ!」」
295 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 21:06:00.67 ID:I83OW8CN0 [11/14]
テスト
302 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 23:15:35.39 ID:I83OW8CN0 [12/14]
──三十二階 エレベーター前
ガタン……。
警備2「ん? 誰か来たのか?」
警備2「……なっ」
ピュンッ!
警備2「……かはっ……」
……バタン。
男(二、一のフォーメーション)
男(俺が先頭を行くから、援護を頼む)
部下A(了解)
部下B(バックは任せて下さい)
男(よし)
303 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 23:16:21.95 ID:I83OW8CN0 [13/14]
男(…………)
男(……角に二人)
部下A(……やりすごせますか?)
男(……その時間はない……おびき寄せる)
…………ダン……。
警備3「……ん? 今、何か音しなかったか?」
警備4「そうか? 俺には聞こえなかったが……」
警備3「確認してくる」
警備4「分かった。ここは任せろ」
タタタ……。
警備3「…………」
警備3「誰もいないか……ん?」
ザザッ。
304 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/09(金) 23:17:25.06 ID:I83OW8CN0 [14/14]
警備3「──っ……」
バタンッ……。
男(……OKだ。もう一人も確実に仕留めろ)
部下A(了解)
タタタ……。
警備4「おい、大丈夫か……」
警備4「──って、お前っ!?」
ピュンッ!
警備4「……かっ……」
バタン。
部下A「クリア」
男「時間はない、急ぐぞ」
部下B「はいっ」
310 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/10(土) 00:11:46.88 ID:eTh1kwKr0 [1/42]
──三十二階 一室
首相「君、さきほどから官邸のほうと連絡が取れんぞ」
付き添い「現在、我々の方でも状況を急ぎ確認しております」
首相「状況? ……一体どういうことだ?」
付き添い「国会議事堂がテロにあったようです」
首相「……て、テロ?」
付き添い「詳細はまだ分かりませんが、恐らく確かな情報でしょう」
首相「そんな大事なことを君は黙っていたのかっ!!」
付き添い「出来る限り、貴方に負担がないようにと」
首相「……っ」
首相「いいかっ! 私はこの国の代表者なんだっ!」
首相「何が重要で何が不必要な情報か、それを判断するのはあくまでも私だっ!」
付き添い「分かっております」
首相「…………くっ」
311 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/10(土) 00:13:45.35 ID:eTh1kwKr0 [2/42]
首相「……それで、勿論、制圧出来ているんだろうな……?」
付き添い「……現在、確認中です」
首相「か、確認だと? ぐ、軍はもうとっくに動いたんだろう?!」
付き添い「それが、対応が大幅に遅れておりまして……」
付き添い「最高でも、後30分はかかるそうです」
首相「……あ、有り得ない……そんなこと有り得る訳がない……」
首相「このような日が来ないようにと、あれだけ準備してきた……」
首相「……ま、まさかっ……」
付き添い「……はい。恐らく、上層部がテロの者と繋がっているのでしょう」
首相「──あの売国奴めっ!!」
首相「だから、あの男を防衛大臣に任命するのは嫌だったんだっ!」
首相「クソっ! これが片付いたら、アイツを必ず処刑してやるっ!」
312 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/10(土) 00:14:52.57 ID:eTh1kwKr0 [3/42]
付き添い「しかし、彼は断固として、その事実を認めないでしょう」
首相「構うものかっ! 責任を負わせ、無理矢理にでも引きずり降ろしてやるわっ!」
首相「そして、私の目の前で直に刑を下してやるっ!」
付き添い「…………」
首相「はぁ……なんて厄日なんだ……」
付き添い「……いいえ、まだ我々はツイている方です」
首相「何を寝ぼけたことを言っている……」
付き添い「救いは、あなたがあの場所にいなかったこと」
付き添い「仮に国会議事堂を落とされても、あなたがいる限り、どうとでもなります」
首相「……フンっ……なら、いいがな」
バンッ。
313 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/10(土) 00:16:17.52 ID:eTh1kwKr0 [4/42]
警備5「──た、大変ですっ! し、侵入者ですっ!」
首相「なにっ!?」
付き添い「…………」
付き添い(やはり、そう、うまくはいきませんか……)
首相「ど、どういうことだっ?! 安全だったのではないのかっ!」
付き添い「……いいえ、大丈夫です」
付き添い「ここまでの警備は万全ですよ」
付き添い「その者たちは、三十階か? 或いはもう三十一階まで来て……」
警備5「──三十二階っ! 既に近くまで来ていますっ!」
付き添い「なっ……」
首相「ど、どうなってるっ!! 万全のはずなんだろっ?!」
付き添い「……一体どうやって……」
付き添い「……ッ、と、とにかく、早くこの階から避難しま……」
──バンッ! バンッ!
314 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/10(土) 00:17:58.14 ID:eTh1kwKr0 [5/42]
警備5「く、くそっ! 援護してきますっ!」
タタタタッ!
首相「……まさか、今の音は……」
首相「──……銃声?」
付き添い「…………」
首相「……せ、説明しろ……」
首相「何が起こっている……? なぜ、何も言わない……?」
付き添い「…………」
首相「……そうか、そういうことか……」
315 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/10(土) 00:18:49.19 ID:eTh1kwKr0 [6/42]
首相「私達は……ここで……」
首相「…………」
バンッ!!
警備5『……ゴホッ……』
バタン……。
首相「…………」
付き添い「…………」
ガチャ……。
男「…………」
男「……やっと、会えた」
316 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/10(土) 00:19:38.01 ID:eTh1kwKr0 [7/42]
男「どれだけ、この日を待ち望んだことか……」
男「……お前には、きっと、分からない……」
首相「……あ、ああ……」
首相「や、やめろっ……」
首相「そ、それ以上……近づくなっ!!」
付き添い「こ、交渉だけでも……」
男「──殺せ」
部下A「了解」
バンッ!
付き添い「…………カ……」
バタン……。
首相「あ、あああ……」
318 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/10(土) 00:24:49.21 ID:eTh1kwKr0 [8/42]
首相「う、うわあああああああッ!」
首相「た、頼むぅ……い、命だけは……っ!?」
男「ハハ、安心しろ」
首相「……へっ?」
男「お前を殺すほど、俺も馬鹿じゃないさ」
首相「……ほ、本当か……?」
男「ああ、もちろん」
首相「あ、ありがとうっ!! ……い、幾らだ? 幾らでもや……」
男「──これから、もっと苦痛に喘いでもらわないとな」
首相「……は?」
319 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/10(土) 00:26:39.16 ID:eTh1kwKr0 [9/42]
男「簡単には死なせない……」
男「……生きていることを、必ず後悔させてやるよ」
首相「……う、嘘だ……」
首相「た、頼む……嘘だと言ってくれ……」
男「…………」
首相「……だ、誰か、誰でもいいから……」
首相「とにかく私を……」
首相「……助けて……く……」
──ガチャン。
364 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 16:55:23.89 ID:eTh1kwKr0 [10/42]
──国会議事堂前
女「…………」
女「……男……大丈夫だろうか……」
トゥルトゥルトゥル。
女「はい」
防衛大臣『首尾はどうなっている?』
女「既に議事堂は制圧しました。現在は、警察との拮抗状態が続いています」
防衛大臣『……そうか、うまくやったようだな』
女「ご協力のおかげで」
防衛大臣『……私は今でもこの選択が間違いなのではないかと考えてしまう』
防衛大臣「違う手段があったのでは……と、思わずにはいられないのだ」
女「ここまできたのです。もう、引き返すことはできません」
防衛大臣『分かっている……分かっているのだが……』
防衛大臣『ん………そうだ』
365 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 16:56:54.81 ID:eTh1kwKr0 [11/42]
防衛大臣『協力の条件に出した、首相の確保は達成されたのか?』
女「……現在、報告待ちです」
防衛大臣『な、なんだと……』
女「進展がありましたら、こちらから連絡させて頂きます」
防衛大臣『ヤツを捕らえない限り、全ては水の泡だぞっ!?』
女「わかっています」
防衛大臣『反対派も自らの安全が保証されない限り、味方にはついてくれないッ』
女「…………」
防衛大臣『……良い連絡を期待している……』
女「はい、失礼します」
女「…………」
女「……ふぅ」
タタタタッ。
366 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 16:57:29.85 ID:eTh1kwKr0 [12/42]
女「どうした? 何かあったか?」
部下C「女さん宛に電話です」
女「もしや、男っ……」
女「──と、そんなわけないか……あいつなら私に直接かけてくるはずだ」
女「しかし、このタイミングか……」
女「……一体、誰だ?」
部下C「追跡は出来ませんでした。秘匿回線を利用しています」
女「…………」
女「わかった……貸せ」
部下C「はい」
ピッ。
女「もしもし」
367 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 16:58:08.43 ID:eTh1kwKr0 [13/42]
?『おめでとう、と言った方がいいかな、女君』
女「……誰だ?」
?『君に名乗る必要はない。用件はすぐに終わるのでね』
女「…………」
?『話というのは、君たちのグループに所属している……ある男のことなんだ』
女「……なに……?」
?『……心当たりがあるようだね?』
女「ち、違う……そういうわけでは……」
?『私が『おめでとう』と言ったのは、議事堂を占拠できたことだけではない』
?『見事、作戦は成功したよ、女君』
女「え……?」
?『君たちの精鋭グループは、首相を確保した』
女「……ど、どこでそれを……?」
368 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 16:58:50.60 ID:eTh1kwKr0 [14/42]
?『今、私が出る寸前のホテルでだよ』
女「私はまだそんな連絡を貰ってはいないッ!!」
?『しかし、確かな情報だ』
?『追って、君にも報告が届くことだろう』
?『ただ……その時に私はもう、ここにはいないがね』
女「…………」
女「……用件はなんだ?」
?『五年前、ある紛争地域から一人のアジア系の男が消えた』
女「な、何を……」
?『逃走兵など幾らでもいる。本来ならば、あまり気にも留めないことなんだがね』
?『……その時だけは、訳が違った』
?『男は、圧倒的な戦力と頭脳を持っていた』
?『ヤツの指揮ならば、倍の数の敵戦力も無意味だった』
女「……そ、そんな……」
370 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 16:59:35.00 ID:eTh1kwKr0 [15/42]
?『しかし、その男が戦場から突然消えたのだよ……』
?『これは我々にとって大きな損失だった……いや、大きすぎた……』
?『そして我々は……ある結論に辿り着いた』
?『何度捜索しても死体は見つからない……いや、そもそも死んだという前提が間違っているのではないか?』
?『各国を探し求め……時間だけが過ぎた……』
?『何人もの同胞が死んでいった……』
?『そして、遂に……』
女「……ッ」
371 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 17:00:24.22 ID:eTh1kwKr0 [16/42]
?『──この偏狭の地で、見つけてしまったのだ』
女「ち、違うっ!」
?『言うな、何も言うな。君には分かっているはずだ』
?『顔形は昔のものと違ったが……今の時代、変えることなど造作ない』
女「…………」
?『……長くなってしまった。次が電話の用件だ』
?『今、私の部下が二人の者を捕らえている』
女「……なっ」
?『一人は落ちぶれた一国の総理、もう一人は……』
?『──今作戦の指揮官、男という名の者だ』
387 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 21:20:54.16 ID:eTh1kwKr0 [17/42]
──???
?「──時刻までに用意しておくように」
女『お、おいっ……』
ピッ。
男「…………」
男(……一体、どうなってやがる……)
?「テープを剥がし、アイマスクも取ってやれ」
?「はっ」
男「……ぷはっ」
将官「どうだ? 自分の置かれた状況を理解したか?」
男「……どういうつもりだ……?」
将官「どういうつもりも何も、さきほど電話で話した通りだ」
男「……俺は、あんたの探している相手とは違う」
男「話せば幾らでも説明出来るはずだが……」
388 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 21:22:38.02 ID:eTh1kwKr0 [18/42]
男「……一つだけ気に喰わないことがある」
将官「……それは?」
男「あんた、分かってるんだろ?」
男「──俺が求める相手ではないのを、さ」
将官「…………」
男「どうしてだ? 何故、気付いているのに騙し続ける?」
将官「ククッ」
男「笑ってないで、答えたらどうだ?」
将官「……いやはや、素晴らしい」
将官「困難に直面した時の発想の機転、部下からの厚い信頼」
将官「そして、優れた洞察力か。本当に、素晴らしいな」
男「…………」
389 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 21:23:18.40 ID:eTh1kwKr0 [19/42]
将官「君の問いに答えよう」
将官「そうだ、その通りだ。私が探している者は、君ではない」
男「……ならば……」
将官「実はね、もう死んでしまったんだ」
男「──はっ?」
将官「彼女には死体が出なかったと言ったが、私は自分の目で確認している」
将官「私の目の前で、彼が吹き飛んだ光景をね」
男「……お、おい」
将官「しかし、仲間の士気を下げる訳にはいかなかった」
将官「それだけ、彼は我々にとって大きな存在だったんだよ」
将官「……そう、彼女たちにとっての君のようにね……」
男「…………違う」
390 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 21:24:04.51 ID:eTh1kwKr0 [20/42]
将官「違わないさ。自分を過小評価するのは止めたまえ」
将官「今日の結果も、電話の彼女の狼狽ぶりもそれを証明して……」
男「──本当に違うんだっ!」
将官「…………」
男「お、俺は……ただ……」
男「自分の人生に嫌気がさしていて……」
男「いつも何事からも逃げ続けて……そんな自分が本当に嫌いで……」
男「なりゆきで、こんなことをしているが……」
男「あんたの考えているような人間では、決してない……」
男「は、はは……これを聞けばあんたも落胆するだろうよ……」
男「俺はな……初め、妹が欲しいとか馬鹿なこと考えて」
男「他人の家に忍び込んで……そして、捕まったのさ」
男「全ては……そこから始まった……」
男「そう、ただ運命に翻弄されてるだけなんだ……」
将官「…………」
391 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 21:24:40.45 ID:eTh1kwKr0 [21/42]
男(……これで、もう馬鹿なことを考えないだろう……)
男(落胆のあまり、もしかしたら俺を殺すかもしれねぇな……)
男(……まあでも、それで終わりもいいか……)
男(人生のほんの少しだけだったが……女との日々は、とても充実していた……)
男「そういうことだ。俺は、あんた達の求めるような人間じゃない」
男「出来れば、首相だけでも確実に届けてくれ」
男「奴は……この国の未来のために必要なんだ」
将官「……ふむ」
将官「どうやら言っていることは真実のようだ」
将官「君の目からは、嘘偽りを言っているようには感じられなかった」
男「だろっ? なら……」
将官「──でも、いいじゃないか」
男「……は?」
392 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 21:26:37.43 ID:eTh1kwKr0 [22/42]
将官「君の過去などには元々興味などない」
将官「大事なのは今で……そして、これからだ」
男「ま、待てっ」
将官「あいにく、我々に残された時間は少ないのだよ」
将官「相手は兵器という兵器を使って、我々を圧倒している」
将官「このままでは……潰滅させられるのもすぐだ」
男「……で、でもっ」
将官「頼む、とは言えない。フェアな取引をするつもりはないからだ」
将官「ただ、彼女が私の要求を飲めば、君たちが求める男は引き渡そう」
将官「君は……私と一緒に来てもらう」
男「…………」
393 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 21:27:22.27 ID:eTh1kwKr0 [23/42]
男(な、なんてことだ……)
男(……ど、どうしてこんなことに……)
将官「よし、車に連れてけ」
部下「はっ」
男「……ッ」
バタンッ。
将官「予定通り、空港だ」
将官「長旅もこれで終わる……やっと故郷に帰れるぞ」
将官「そうだ、さきほど言っていたな……」
男「……なん……だ?」
将官「妹が欲しかったと」
男「……? ああ、そうだが……」
将官「残念なことに妹はいないが……」
394 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 21:27:52.49 ID:eTh1kwKr0 [24/42]
将官「──今年で二十歳になる、私の娘がいる。自慢の娘だ」
男「……は?」
将官「君さえよければ、妹だと思ってくれればいい」
男「そ、そういうことじゃ……」
将官「では、向かおう」
将官「…………」
将官「この国に……幸あれ」
401 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:12:14.57 ID:eTh1kwKr0 [25/42]
──倉庫
女「…………」
女「……まだか……」
女「もう既に約束の時間を過ぎているぞ……」
女「…………」
女「……男……無事でいてくれ……」
トゥルトゥル。
女「……っ!」
女「もしもしっ!」
将官『すまない。少し連絡が遅れてしまった』
女「約束通り、こちらは十億用意したぞ」
女「お前も、男と首相を早くこちらに引き渡せ」
将官『……よくこの短時間で集められたな?』
402 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:12:55.04 ID:eTh1kwKr0 [26/42]
女「当然だ、この国の未来がかかっているんだっ!」
女「お前にとってもこの金は軍備のために必要なんだろ?」
将官『ああ、そうだ。……とりあえず、北の出口に出てくれ』
女「北? 中で取引をするんじゃないのか?」
将官『まあいいから、こちらの指示に従ってくれればいい』
女「…………」
将官『本当に君一人で来たのか?』
女「勿論だ、余計な問題を引き起こしたくない」
将官『ふむ、懸命な判断だな』
女「歩いていけば、いいのか……?」
将官『ああ』
タン……タン……タン。
女「まだか……こちらからは海しか見えんぞ?」
403 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:13:40.64 ID:eTh1kwKr0 [27/42]
将官『いいから、進みたまえ』
タン……タン……。
女「……倉庫から出たぞ」
将官『…………』
女「おいっ、どこもいないじゃないか」
女「約束と違うぞっ! 金ならこの通……」
──プツッ。
女「……切れた」
女「くそっ……どういうことだ……」
女「分からん……何が目的だ……?」
ザザッ……。
女「……近辺に人影は?」
部下C『見当たりません』
女「不審な車などあるか?」
404 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:14:16.30 ID:eTh1kwKr0 [28/42]
部下C『出入りした車は一つもありませんでした』
女「…………」
女「……そうだ」
女「男たちと行動していた二人は見つかったか?」
部下C『まだのようです……』
女「……くそっ」
女「一体何がどうなってるん……」
クルっ……。
女「──へっ?」
女「…………」
女「……この男は……」
405 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:14:55.28 ID:eTh1kwKr0 [29/42]
女「──首相?」
部下C『どうしました? 状況を伝えて下さい』
女「……わ、わからんが……」
女「……倉庫の裏の隅に……首相が……」
部下C『えっ? 見つかったのですか?』
女「……両手両足を縛られた状態で、気絶している」
女「…………」
女「……ま、まさか」
部下C『女さんっ! 今、連絡が入りましたっ!』
女「どうしたっ!?」
406 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:15:30.66 ID:eTh1kwKr0 [30/42]
部下C『男さんと行動していた二人が、ホテルの一室で発見されました』
部下C『二人とも、手足を縛れて気絶したようです』
女「……首相と同じ……」
女「……お、男は?」
部下C『……ホテルにはいなかったようです』
女「……ああ」
女「そういうことか……」
部下C『……えっ?』
女「完全にやられた……」
部下C『どういうことですか?』
407 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:16:17.19 ID:eTh1kwKr0 [31/42]
女「……囮だ。男を引き渡す気など、初めからなかったんだ……」
女「こんな単純なこと、何故気付かなかった……」
女「判断能力が鈍っていたのか……? 男が捕まったから……?」
女「……ああ」
女「……くそぉ……くそっくそっ……」
女「……ど、どうすれば……」
女「なんとかして……助けられないのか……?」
女「……あぁ、分からない……」
女「私には……もう……正常な判断が……できない……」
408 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:17:02.44 ID:eTh1kwKr0 [32/42]
女「……お、男ぉ……」
女「……くっ……うっ」
……トゥルトゥル。
女「……うぅ……ああ……くぅ……」
……トゥルトゥル。
女「……っ」
ピッ。
女「……い、今は手が離せないから、後で折り返……」
男『……俺だ』
女「えっ……?」
415 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:57:02.94 ID:eTh1kwKr0 [33/42]
──飛行機内
女『お、男かっ!? 今、どこにいるっ! 無事だったんだなっ!?』
男「……ああ……大丈夫だ」
女『すぐに迎えの者をやるっ! 場所を教えろっ!』
男「いいんだ……女、それより聞いてくれ」
女『何がいいものかっ! これから国民にTVで知らせねばならないっ!』
女『この国が本来あるべき民主主義の、第一歩を踏めたのだとっ!』
女『早く男が来ないと、いつまで経っても始められないぞっ!』
男「俺がいなくても、お前ならやれる」
女『な、何をわけがわからないことを言っている……?』
女『首相の安否を心配しているなら……奴は今、確保したぞ?』
女『電話の男は、どうやらお前を取り逃がし、パニックになったようだな』
416 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 22:57:39.14 ID:eTh1kwKr0 [34/42]
女『これで防衛大臣との約束も果たした。軍は我々の味方となる』
男「……そうだな、アイツを国民の前でしっかりと裁いてやらなきゃいけない」
女『そのつもりだ。裁判でしっかりと悪事を暴かせるっ』
女『そのためにも、男、まだ私たちにはお前の力が必要だ』
女『……そして、私にとっても……な?』
男「…………」
女『どうした? 何故、何も言ってくれない?』
男「……す、すまない」
女『え?』
男「ここからは、お前と一緒にはいけない」
女『な、何を言ってるんだ……? け、契約したはずだろっ?』
女『あっ……ああっ! 報酬のことを心配しているんだなっ!?』
418 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 23:31:01.53 ID:eTh1kwKr0 [35/42]
女『分かった、すぐにでも希望の額を……』
男「──違う。もう、終わったんだ」
女『なっ……』
男「国を変えるための手助けをする」
男「それが取り決めだ」
男「そして、今、それは叶った」
女『……ま、まだだっ……終わっていない……』
男「いいや、軍を味方にした時点で、全て片付いた」
男「見事、この国は変わる。君の手でな」
女『…………』
男「一つだけ心掛かりがあるとしたら……」
男「お前がこの国を指揮する姿を、一度だけでも見たかったな」
女『……それなら側にいてくれればいい……』
419 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 23:32:03.36 ID:eTh1kwKr0 [36/42]
男「だが、俺はいかなきゃならない」
女『……っ』
男「逃げてきた戦地へ……もう一度、やり直さねばならない」
女『お、男ぉ……』
男「ありがとう」
男「君に逢えて……本当に良かった」
男「幸せだった……」
男「…………」
女『い、いやだ……やだ……』
男「……そして」
男「──本当にごめんな」
女『……あっ』
ピッ。
422 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 23:33:42.57 ID:eTh1kwKr0 [37/42]
男「…………」
男「…………は」
男「……は、ははっ」
男「…………」
男「……く、くそっ」
将官「……電話は終わったか?」
男「……ああ」
将官「君が騙らずとも良かったのにな」
男「いや、こうするしかなかった……」
男「……俺が、さらわれたと知ったら……」
男「アイツはきっと、どこまででも追いかけてくれるはずだ……」
男「俺を救うために、それこそあんたのように、世界中を回ってな」
将官「…………」
423 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 23:34:26.59 ID:eTh1kwKr0 [38/42]
男「でも……今、あの国にはアイツが必要なんだ」
男「誰かを引きつけるような……カリスマ的な存在がな……」
将官「確かに、彼女の演説は素晴らしいものだった」
男「は、はは……あの時から、もう忍び込んでたのか?」
将官「…………」
男「……ふー」
男(……また、全て失っちまった……)
男(少しだけ……幸せな未来を想像したのにな……)
男(まあ、俺には……似合わなかったんだろう……)
男(……次行くとこは、紛争地帯か……)
男(……俺……生きてけるかな……)
425 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 23:53:26.43 ID:eTh1kwKr0 [39/42]
──飛行機内
男「…………」
男「ん……ああ、寝ちまったのか……」
男「…………」
男(女との夢……か……)
男(……ああ)
男(……やべぇ……涙出そうだ……)
男「……くっ……」
男「…………」
ガタンガタン……。
男(……ん? 揺れが激しいな……)
男(乱気流だろうか……)
ガタガタッ!
426 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 23:54:08.20 ID:eTh1kwKr0 [40/42]
男「…………」
男(おい……まさかってことはないよな……)
男(……ってか、どれくらい寝てたんだろ……)
男(窓の外を見たいが……)
男(ちょうど座席は……真ん中なんだよな……)
男(この手足の縛りがなければ、なんとかいけるんだが……)
男「……って、あれ?」
男(あいつらはどこいった? 見張りは?)
男(……もしかして、逃げるチャンス……?)
男「……くっ」
……ミシッ。
428 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 23:54:57.82 ID:eTh1kwKr0 [41/42]
男「……ッ」
男(駄目だ……腕力じゃ切れそうもない……)
男(何か使えそうなものは……)
男「…………」
男「……あった」
男(……この椅子の部分で擦り続ければ……)
男(頼む……切れてくれよ……)
431 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/10(土) 23:59:15.63 ID:eTh1kwKr0 [42/42]
──飛行機内 数分後
ブチッ……。
男「……よしっ」
男(これで、両手が使えるぞ……)
男(足のものも取ってしまおう)
男(…………)
男(……うし……OKだ)
男「…………」
トコトコトコ。
男「……海か……」
男「どこまで続くんだろうな……」
ガタガタッ。
432 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 00:02:01.80 ID:tgD+iP2n0 [1/36]
男「……ッ……くそっ、揺れる……」
男「…………」
男「しかし……」
男(どうもおかしくないか……)
男(……機内が、あまりにも静か過ぎる……)
男(そして……)
男「……人の気配がない……」
男「…………」
433 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 00:03:43.47 ID:tgD+iP2n0 [2/36]
男「…………」
男(……仕切りを開けてみるか……)
男(相手も銃は使わないだろう……何とか、倒せるといいが……)
男(一対複数か……かなり、無理があるな)
男「……が、やるしかねぇ」
男(……何故か、とてつもなく嫌な予感がする……)
男(…………)
男「……ッ」
ザザッ!
男「…………」
男「なっ……」
男「……だ、誰も、いない……?」
439 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 00:18:45.75 ID:tgD+iP2n0 [3/36]
──飛行機内 数分後
男「…………」
男「……なんて、ことだ……」
男「パイロットまでいないじゃないか……」
男「ど、どうなってる……?」
男「……今は、自動操縦だから構わんが……」
男「着陸の時は……」
男「…………」
男「だ、だめだっ……頭を一旦、整理しよう……」
男「……まず……俺は、何時間寝てたんだ……」
男「時計……時計」
トコトコトコ。
440 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 00:21:31.40 ID:tgD+iP2n0 [4/36]
男「──ん? ……止まってる」
男「…………」
男「ほ、他のを探そうっ」
バサバサッ……。
男「あっ……」
男「…………」
男「飲みかけのコーヒー……」
男「……まだ仄かに温かい……」
男「…………」
男「……ああ……これは……」
男「どこかで……見たことがある光景だ……」
男「……どこだ……どこで見た……?」
男「…………」
男「……ッ」
441 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 00:22:08.99 ID:tgD+iP2n0 [5/36]
男「ま、まさか……」
男「神隠……」
──ガタン、ガタンッ!
男「う、うぉっ!」
男「ど、どうした!?」
ガタガタガタガタッ!
男「た、立ってられない……揺れる……ッ!」
ガタガタガタガタッ!
男「と、とにかく近くの席に……」
ウーウーウー!
男「緊急用のブザーかっ!?」
ガタガタガタガタッ!
男「…………」
男「お、おいおい……嘘だと言ってくれよ……」
442 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 00:23:02.26 ID:tgD+iP2n0 [6/36]
ウーウーウー!
男「……マジで……?」
ガタガタガタガタッ!
男「こ、ここで終わり……?」
ガタガタガタガタッ!
ガタガタガタガタッ!
男「ああ……もう……」
男「…………誰か……」
ガタガタガタガタッ!
ガタガタガタガタッ!
ガタガタガタガタッ! ガタガタガタ……
──バァァァァァーンッ!!!!!!
451 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 00:57:19.58 ID:tgD+iP2n0 [7/36]
──海
男「…………」
男「かはっ……」
男「……っ……」
男「……い、生きてるのか……」
男「は、はは……運がいいのか、悪いのかわかんねぇよ……」
男「……ここは……一体……」
男「……とりあえず、機体から出ないとな……」
男「よいしょっ……って……」
男「──うっ……」
453 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 00:58:13.14 ID:tgD+iP2n0 [8/36]
男「あっ……」
男「……足が……ッ……」
男「……これは……折れてるぞ……」
男「た、立てない……」
男「何か……杖のようなものはないか……?」
男「……ん」
男「……この鉄の棒を使うか……」
男「しかし、これ……一体どこの部品なんだろうか……」
男「もうぐちゃぐちゃでわかんねぇな……」
男「…………」
男「……これも持って行こう……」
454 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 00:59:07.38 ID:tgD+iP2n0 [9/36]
トコ……トコ……トコ。
男「……あと、ここを登って……」
男「…………青空?」
男「……うわぁ……綺麗だなぁ……」
男「あれだけ天候が悪かったのに……今は、快晴か……」
男「墜落してから、かなりの時間……気絶してたのかもしれないな……」
男「しかし、沈まないということは浅部だな」
男「もう少し周りの景色が見たい……」
男「……うっし……そこを登ろう……」
男「……おっ」
男「あ、あれは……」
459 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 01:16:07.58 ID:tgD+iP2n0 [10/36]
──島?
男「ふぅ……」
男「近くに……島があってよかった」
男「ただ……島にしては大きすぎるような……?」
男「まあどちらにせよ、人は住んでいるに違いない」
男「もしかして……大陸だったりしてな」
男「ははっ、そんなわけないか」
男「こんな場所にあるわけないもんな」
男「…………」
男「……でも、仮にそうだとしたら?」
男「……ハ、ハハ」
男「ま、まあ、いい。とりあえず、歩くしかない」
460 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 01:16:41.48 ID:tgD+iP2n0 [11/36]
トコ……トコ……トコ。
男「しかし……」
トコ……トコ……トコ。
男「……熱いなぁ……」
男「南の国のどこかなのか……」
トコ……トコ……トコ。
男「おーいっ!」
男「誰かいないかーっ!」
トコ……トコ……トコ。
男「はぁ……はぁ……」
男「片足だと……歩くのもしんどいな……」
男「……誰か、見つけないと……」
461 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 01:17:17.74 ID:tgD+iP2n0 [12/36]
トコ…………トコ…………。
男「…………」
男「……うぅ……」
バタンっ。
男「はぁ……はぁ……はぁ……」
男「もう駄目だ……動けない……」
男「これ以上は……無理だ……」
男「何で何も見つからない……」
男「……草木の中を、ただ無心に歩いてるだけじゃないか……」
男「もしかして……無人島だったりするのか……」
462 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 01:18:41.73 ID:tgD+iP2n0 [13/36]
男「…………」
男「機体の上からは……何か尖ったものがみえたんだけどな……」
男「……あれは山だったか……しくったな……」
男「どうしよう……ああ……もう、いい」
男「今日は……ここで……休もう……」
男「……明日は……見つかるといいな……」
男「身体が……だるい……」
男「……おや、すみ……」
545 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 21:04:45.39 ID:tgD+iP2n0 [14/36]
──森
男「…………」
男「何もない……誰もいない」
男「一体……いつまで続くんだ……」
男「…………」
男「……腹が減ったな……」
男「何か食べたい……が、どうする?」
男「……木の実か果物でもあるといいなあ……」
男「…………」
トコ……トコ……トコ。
546 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 21:05:31.59 ID:tgD+iP2n0 [15/36]
男「熱い……もう、きついぞ……」
男「喉も乾いたし……川を探すのが先決かもな……」
男「……ん?」
男「こ、これは……」
男(見たこともない果物だな……食べて、大丈夫だろうか?)
男「…………」
男「一か八か……」
もぐもぐ。
男「……おお、甘くてうまい……」
男「たくさん取っておくか。これからどうなるか分からないしな……」
男「よし、川を見つけたらそこで休みにしよう」
551 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 21:09:54.93 ID:tgD+iP2n0 [16/36]
──数日後
ザザー……。
男「…………」
トコ……トコ……。
男「……ごほっ」
男「こほっ、こほっ」
男「……う……」
ザザー……ザザー……。
男「……雨、一向に止む気配がないな……こほっ」
552 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 21:13:26.90 ID:tgD+iP2n0 [17/36]
男「っ……咳が止まらん……」
男「……うっ……ごほごほっ」
男「あぁ……ふらふらする……」
男「…………」
……ドスン。
男「ひとまず、座ろう……」
男「……これは、完全にやばいな……」
男「確実に熱がある……この状況でどうする……?」
男「正直、もうこれ以上動くのは危険だ……」
554 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 21:19:17.45 ID:tgD+iP2n0 [18/36]
男「…………」
男(こんなに歩いたっていうのに、誰一人いない……)
男(進むスピードは遅いにしても……もう相当の距離は歩いたはず……)
男(……考えられるのは……)
男「……ここに、人は住んでいない……ってか」
男「…………」
ザザー……ザザー……。
男「……ああ……」
男「……一人で生きてけんのか……?」
男「話し相手もいない……そんな状況で、俺は……」
男「──こほっこほっ……!」
パタン……。
555 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 21:22:50.83 ID:tgD+iP2n0 [19/36]
パタン……。
男「……はぁ……」
ザザー……ザザー……。
男「……なつかしいな……」
男(あの時もこうして、自分の部屋のベットで一人寝転がってた……)
男(……自らの人生に毒づいて、変わらない日々を憎んで……)
男(……毎日、生きている心地すらしなかった……)
男「……今は……どうなんだ?」
男「少しぐらい……マシな生き方をしているんだろうか……ごほっごほっ……」
556 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 21:24:27.92 ID:tgD+iP2n0 [20/36]
男「…………」
男「だれか……」
男(……ああ、頭が……)
男「……だれでもいいから……返事してくれ……」
男(……だんだん……視界がぼやけてくる……)
男「……お、おれは……」
男(……これはもう……駄目だ……)
男「きちんと……」
男「……生きてる……か……?」
男「…………」
男(…………)
──ザザー……ザザー……。
561 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 21:57:43.94 ID:tgD+iP2n0 [21/36]
──森
トコトコ。
?「…………」
?「あれ……?」
?「……誰か倒れてる……?」
?「……大変……助けを呼んでこなきゃ……っ」
?「でも……この格好……」
男「…………」
?「…………」
?「……いいえ、詮索は後にしないとっ」
?「ちょっと待ってて下さいねっ!」
タッタッタ。
563 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 22:19:04.33 ID:tgD+iP2n0 [22/36]
男(……ん? ここはどこだ……?)
男(…………)
男(……俺、あの後、どうなったんだろ……)
男(あっけなく死んじゃったりしてな……)
男(……じゃあ、ここは死後の世界だったりするのか……)
男(…………)
男(白いな……ただ、白い……)
男(……何もねぇし、誰一人もいない……)
男(……これが……死……?)
564 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 22:20:57.60 ID:tgD+iP2n0 [23/36]
男(…………)
男(だったら、やめだ……)
男(俺は……こんな世界……っ)
男(…………)
男(……死にたくない……)
男(………まだ、俺は……)
──生きていたいっ!!
565 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 22:21:41.85 ID:tgD+iP2n0 [24/36]
ガバッ。
男「……ッ」
男「……はぁ……はぁ……」
男「……生きてる……まだ、生きてる……」
ドクッ……ドクッ……。
男(心臓の鼓動が聞けて嬉しいと思うなんて……ホント、どうかしてる)
男(それでも今は……今だけは……)
男「…………」
男「……で、また、ここはどこだ?」
男「見るかに、人の家だが……」
男「…………」
……ガチャ。
566 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 22:23:46.24 ID:tgD+iP2n0 [25/36]
男「……ん?」
?「あっ……目が覚めたんですね?」
男「…………」
男「……え、え?」
?「もうあんな場所で倒れているんで、死体かと思って心配したんですよ」
?「しかも高熱だったし……足も折れてて……」
男「……き、きみ……」
?「へ? どうかしましたか?」
男「…………」
567 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 22:25:02.78 ID:tgD+iP2n0 [26/36]
?「何か言いたいことがあったら、遠慮せずにお願いしますね」
?「こういうときは助け合いです」
男「……失礼なことかもしれないが」
男「……一つだけ聞きたい」
?「はい、何なりと」
男「…………」
男「君の……その耳……」
男「──少し長過ぎやしないか……?」
エルフ「……え?」
586 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 23:00:54.61 ID:tgD+iP2n0 [27/36]
──居間
エルフ「これで、よしっと」
男「……おぉ……」
エルフ「はいどうぞ。たくさん食べて下さいね」
エルフ「しっかりお腹に入れて、怪我や体調を早く治しましょう」
男「……本当にありがとう……感謝してもしきれない……」
エルフ「いいえ、気にしないで下さい。私の好きでやっていることですから」
男「しかし……こんな豪勢な食事……」
男「大きな負担になったりはしないか?」
エルフ「大丈夫です。この村、食料には何の不自由はしてないんですよ」
男「……そうなのか、ならいいが」
男(……ん? 今……)
男「村ってことは、他にも人が住んでるのか?」
エルフ「はい、私も含めて……二百人くらいかな?」
男「そ、そんなにいるのかっ!?」
587 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 23:01:48.54 ID:tgD+iP2n0 [28/36]
エルフ「そうですね。村の規模の割には多くの者が住んでます」
男「じゃあ……」
エルフ「ちょっと待って」
男「へ?」
エルフ「質問は後で幾らでも聞きますから」
エルフ「その前に、まず……ね?」
男「……あ、ああ」
男(そうだな……焦る必要もないか……)
エルフ「冷めないうちにどうぞっ」
男「おう、頂くとするよ」
もぐもぐ。
男「…………」
男(こ、これは……)
エルフ「どうですか?」
男「……う、旨過ぎる……」
592 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 23:09:18.48 ID:tgD+iP2n0 [29/36]
男「こんな旨い飯……初めてかもしれん……」
エルフ「良かった。その言葉だけでも、作りがいがありました」
エルフ「誰かが自分の料理を食べてる姿って……私とっても好きなんです」
もぐもぐ。
エルフ「おかわりもありますから、一杯食べて下さいね」
もぐもぐ。
男「ああ……ほれは何杯でもいけほうだな」
エルフ「もう、零してますよっ、ふふっ」
男「す、すまん、すまん」
男「…………」
男(しかし、どう見ても……)
エルフ「……?」
男(これは……物語とかで出てくる……エルフだよな……)
男(俺はもしかして……そういった世界に来ちまったのか……)
男(……ああ、どうしよ……)
593 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 23:11:30.73 ID:tgD+iP2n0 [30/36]
エルフ「どうかしました?」
男「……んや、ちょっとね」
男「少し……考えていただけさ」
もぐもぐ。
エルフ「……そうですか」
もぐもぐ。
エルフ「……とりあえず」
エルフ「ご飯を食べ終わったら、外に出ましょう」
エルフ「私が、この村を案内します。楽しみにしてて下さいね」
595 名前:名無しさん@そうだ選挙に行こう[] 投稿日:2010/07/11(日) 23:17:45.16 ID:tgD+iP2n0 [31/36]
──家の外
男「……ん?」
男「──う、うおっ……こんな……」
エルフ「どうですか、結構、住み易そうなところでしょ?」
男「いや……その……」
エルフ「え? どうかしました?」
男「……これは、あー、大丈夫なのか?」
エルフ「大丈夫とは?」
男「……家が……地面に落ちたり……」
エルフ「ああ、それは心配無用です」
男「そ、そうかっ」
エルフ「危なくなる前に、軋む音がしますから」
エルフ「それを聞いた時に、逃げ出せばいいんですよ」
男「…………」
男「へ?」
600 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/11(日) 23:28:23.93 ID:tgD+iP2n0 [32/36]
──村
エルフ「説明すれば長くなるんですが……」
エルフ「基本、私たちはこうやって生活してます」
男「木の上に家を作るってか?」
エルフ「はい、こうして家と家を橋で結んでもいます」
男「……この橋は確かに頑丈だが……」
男「単純な話、下で暮らせばいいじゃないか」
エルフ「はぁ……でも、下だと大変なことになりますよ」
男「大変なことって?」
エルフ「…………」
エルフ「ええと、すごく気になってるんで、いいですか?」
男「おう、遠慮なく聞いてくれ」
エルフ「男さんって、この土地の人じゃないですよね?」
男「…………」
601 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/11(日) 23:38:18.21 ID:tgD+iP2n0 [33/36]
エルフ「森で見つけたときから、少し違うなって思ってたんです」
エルフ「それでもあんな場所に倒れていたから、訳ありの方なのかもしれないって……」
エルフ「……でも起きて話を聞いてみると、私の姿に驚いて……」
男「そうだな……」
エルフ「男さんは、一体どこから来たんです?」
男「………信じないと思うぞ」
エルフ「いいえ、話してみないと分からないですよ」
男「いや、この展開は……もう、何度も経験してるんだ」
男「……そして、みんな勘違いしていった……」
男「恐らく君も……そうだ」
エルフ「……はぁ、疑り深い人ですね」
男「俺の身になれば、きっと君もそうなる」
エルフ「もうっ! そんなこと言われたら、余計気になるじゃないですかっ!」
エルフ「とにかく、ほらっ……」
ギュッ……。
603 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/11(日) 23:47:18.72 ID:tgD+iP2n0 [34/36]
男「……なっ」
エルフ「私の目を見て……ね?」
男「あ、ああ……」
男(……綺麗な碧色の眼だな……)
エルフ「はい、どうぞ」
男「……どうぞって……何を?」
エルフ「さっき私が聞いたことですっ。眼を逸らさず言って下さいっ」
男「…………」
男「俺は……多分……」
男「──違う世界からやってきた……と思う……」
エルフ「…………」
男「……ほらな、やっぱり君も……」
エルフ「──……当たった……」
男「……は?」
604 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/11(日) 23:48:21.53 ID:tgD+iP2n0 [35/36]
エルフ「やった! やっぱりそうなんだっ!」
男「おい、おい……一体、どうし……」
エルフ「──ねぇ色々聞いていいですかっ!」
男「……あ、ああ」
男(なんだ……妙なはしゃぎっぷりだな……)
エルフ「男さんの世界には、私たちの姿の者はいないんですよね?」
男「そうだ。ただ、物語の中には出てきたりする」
エルフ「お話の世界ですか?」
男「ああ、魔法を使えたり、凄い寿命が長かったり……」
605 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/11(日) 23:49:50.79 ID:tgD+iP2n0 [36/36]
エルフ「へぇ……そうなんですか」
男「……実は、君も使えたりするのか?」
エルフ「え、何をです?」
男「魔法だよ。呪文を唱えて……みたいな」
エルフ「ふふっ、無理に決まってるじゃないですかっ。長生きもしませんよー」
男「そうか……やはり、違うんだな」
エルフ「ただ、恐らく男さんが驚くことが一つあります」
男「それは?」
エルフ「…………」
エルフ「実はね、私たち……」
エルフ「──女性しか、いないんですよ」
621 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 00:11:19.96 ID:cBwGZfap0 [1/2]
──村
男(……た、確かに……)
通行人1「……じぃ」
通行人2「……じぃ」
男(すれ違った人にはガン見されてるな……)
男(……男性が彼女たちには珍しいのだろうか)
男(しかし、女だけでどうやって……)
男「…………」
男(……ま、まあ、あんまり聞くことでもないな)
男(……少し……いや、とっても気になるけどさっ)
エルフ「男さーん」
男「お、おうっ」
エルフ「さて、問題です。この建物は何でしょうか?」
男「……ん?」
622 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 00:12:33.79 ID:cBwGZfap0 [2/2]
男(見るからに大きいな……)
男(よくこんな建物を木の上に作れるもんだ……凄い技術だな……)
エルフ「どうです? 少し難しかったですか」
男(……大きさから考えるに)
男「ここは……村の集会をやるところだ」
男「建物の規模から考えても、多くの人が利用するところに違いない」
男「どうだ? 合ってるか?」
エルフ「……惜しいですっ」
エルフ「確かに、多くの者が集まるところではあります」
エルフ「でも、それは、ほとんどが子供たちなんですよね」
エルフ「もう、分かりましたか?」
男「…………」
男「……もしかして……」
男「──学校?」
721 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 22:32:25.61 ID:x42B5L490 [1/10]
──学校
子供1「わぁーっ! お姉さん、おはよー」
子供2「今日は何するのー? 私は体を動かすのがいいーっ」
子供3「ねぇねぇ、隣の人だれっ?」
エルフ「ほら、みんな。まずは席に座って」
子供たち「「はーいっ」」
男「……しかし、すごいな」
エルフ「ふふっ、みんな元気が有り余ってるんですよ」
男「君は……教師なのか?」
エルフ「教師というか、まとめ役……んー……」
エルフ「いい言葉が見つかりませんが、多分、違うと思います」
男「どういうことだ? 子供たちに物事を教えているんだろ?」
エルフ「はい。一般常識から、時には雑学など」
男「ならそれは、教師だと思うぞ」
722 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 22:33:38.46 ID:x42B5L490 [2/10]
エルフ「……んー……ちょっと違うんですよね……」
エルフ「なんていうか……その……」
エルフ「子供たちにとっての……姉、と言ったほうがいいかもしれません」
男「姉?」
エルフ「はい。時には甘えさせたり、でも、厳しくしたり……」
エルフ「良い意味での、遠慮のいらない関係って感じでしょうか」
男「…………」
男(……よく分からない……)
男(ここは学校なんだろ? なぜ、教師と言われることを否定する?)
男(自主的にやっているボランティアのようなものだからか?)
男(……んん、俺の世界と何か根本的に違うようだな………)
エルフ「はーいっ、ではみなさん」
726 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 22:40:54.34 ID:x42B5L490 [3/10]
エルフ「お早うございますっ」
子供たち「「おはようございますっ!」」
男(……まあ、考えていても仕方ないか……)
男(慣れていくしかない……この世界に……)
エルフ「今日は、みんなに是非紹介したい人がいます」
エルフ「みんなも、もう、気になっている人……いるよね?」
男(しかし……死ぬまでこの世界にいるのだろうか……?)
男(戻る方法があればいいが……多分……ないな……)
男「…………」
エルフ「こちらは……」
男(あーくそっ……難しいことを考えるのはやめやめっ……)
エルフ「──別世界からやって来た、男さんですっ!」
男「…………」
男「……って、え?」
732 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 23:17:14.40 ID:x42B5L490 [4/10]
──村
男「……はぁ……疲れた……」
エルフ「お疲れさまです」
男「あんなに質問攻めにされるなんて、聞いてないぞ……」
エルフ「ふふっ、でもみんな楽しそうでしたよ」
男「そりゃ、あいつらからしたら俺は生きる玩具だろ……」
男「……ペタペタと身体に触ってくるやつはいるし……」
男「かと思えば、相手にしてもらえなくて拗ねる奴もいる……」
エルフ「みんな男さんが気になるんですよ」
男「そんなに……俺は珍しいか?」
エルフ「はい、もちろんっ」
男「…………はぁ……」
733 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 23:17:56.03 ID:x42B5L490 [5/10]
男「ほんと……疲れた……」
エルフ「文句言いつつも、優しく接してくれてありがとうございます」
男「別に……そうしたつもりはない」
エルフ「いいえ、あの子たちは意外に人の心に敏感ですから」
エルフ「少しでも怖いと感じたら、あんなに仲良くはなれませんよ」
男「…………」
男(『絶対、また来てね』、か……)
エルフ「……それで、お疲れのところ申し訳ありませんが」
エルフ「……今日は、あと一つ、案内したいところがあるんです」
男「……ん? 今度は一体どこに連れていくんだ?」
エルフ「それは、着いてからのお楽しみです」
男「……これ以上、疲れるのは勘弁な……」
エルフ「大丈夫ですよ、その辺は安心して下さい」
エルフ「では行きましょう。ここから、すぐ側なんです」
737 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 23:47:54.24 ID:x42B5L490 [6/10]
トコ……トコ。
男「……しかし、天気悪いなぁ……」
エルフ「そうですね……霧まで出ちゃってますね……」
男「こっちはこういう気候が多いのか?」
エルフ「そうでもないんですが……最近は、じめじめしています」
男「……湿度高そうだな……」
トコ……トコ。
エルフ「そういえば、足の状態はどうですか?」
男「ん……以前変わらずだな。まだ……痛む」
エルフ「あとで家に帰ったら、治療しましょうね。私に任して下さい」
男「そうだ、そのことで聞きたいことが……」
エルフ「──あ、着きましたっ」
男「……ん?」
エルフ「ほらっ、ここですっ」
男「これは……」
738 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 23:49:29.34 ID:x42B5L490 [7/10]
エルフ「……どうですか?」
男「…………」
男(……先が尖った、三角の柱……)
男(……何かの碑だろうか……)
男「ほう……これは?」
エルフ「…………」
エルフ「……これですか?」
男「ああ……ちょっと、柵超えてもいいか?」
エルフ「えっ?」
トコ……トコ。
男「…………」
男(何で出来てんだ……?)
男(銀色だから、鉄……んー錆びるな。じゃあ、何だろう?)
739 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 23:50:11.56 ID:x42B5L490 [8/10]
エルフ「お、男さんっ」
男(……叩いてみるか)
ゴン……ゴンッ。
男「……ふむ」
男(わからん……が、確かに金属のようだ)
男(となると……精製できる技術はあるのか……)
エルフ「ちょっ、ちょっと駄目ですよっ!」
男「あー悪い悪い」
エルフ「もうっ……私、知りませんからね……」
男「で、これは一体なんなんだ?」
エルフ「……碑です」
男「それは分かるが、何の?」
エルフ「さぁ、私も分かりません」
男「…………」
エルフ「…………」
740 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 23:51:43.01 ID:x42B5L490 [9/10]
男「……謎掛け?」
エルフ「……違いますよ」
男「おいおい、そんなところに何で連れて来た?」
エルフ「他所の世界の男さんなら知ってるかなって……」
男「……知る訳ないだろ……」
エルフ「ですよね……すみません……」
男「……まぁいい」
エルフ「では、早く家に帰ってご飯にしますかっ」
男「おうっ……って、そのことだっ! 聞きたいことがある」
741 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/12(月) 23:52:41.14 ID:x42B5L490 [10/10]
エルフ「はい、何でしょうか」
男「本当にいいのか? 俺が君のうちに厄介になってしまって……」
男「迷惑なら、出来るだけ早めに出て行こうと思うんだが……」
エルフ「別に大丈夫ですよ。男さんが嫌じゃなければ、ですね」
男「全くもってそんなことはない……とにかく、感謝の気持ちで一杯だ」
エルフ「なら、何の問題もありません。これからよろしくお願いしますね」
男「こちらこそっ、恩に着る」
エルフ「そうと決まれば、早く帰りましょう。私、ご飯の準備まだですし」
男「ああ……分かった」
男「しかし……」
男(何か……気になるな……)
824 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:14:34.74 ID:Ry6fXQo+0 [1/8]
──家
ガチャ。
エルフ「さっ、入って下さい」
男「……おじゃまします」
エルフ「……何ですかそれ?」
男「ん? こちらでは言わないのか?」
エルフ「はい、初めて聞きます」
男「そうだな、人ん家に入るときの挨拶みたいなものだ」
エルフ「へー、そっちの世界ではそんな風習があるんですか」
男「他にもあるぞ」
男「自分の家に入るときは『ただいま』」
エルフ「……ただいま」
男「そうそう、そんな感じ」
エルフ「なんか、気恥ずかしい気持ちになりますね」
男「ははっ、確かにそれはあるな」
826 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:15:38.09 ID:Ry6fXQo+0 [2/8]
男「あとな、逆に帰って来た者を迎える時は『おかえり』って言うんだ」
エルフ「『ただいま』と『おかえり』ですか」
エルフ「面白い習慣ですね」
男「まあ、そうかもしれん」
男「ちなみにこっちでは……」
?「──おかえり」
男「…………」
男「ん? 今、何か言ったか?」
エルフ「へ? 私ですか? 何も喋ったつもりはないですけど……」
男「…………」
男(確かに今……聞こえたよな……)
男(しかも、『おかえり』って……)
男「……俺の聞き間違いかもな……」
?「おい」
829 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:17:58.27 ID:Ry6fXQo+0 [3/8]
男「……え?」
?「こっちだよ、こっち。後ろ向け」
男「ええと……」
?「迎える時は、『おかえり』って言うんだろ? 違ったか?」
男「いや……そうだが……」
エルフ「あーっ親友じゃないですか!」
親友「よっ、遊びにきたぜっ」
男「…………」
男「……誰?」
835 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:29:43.15 ID:Ry6fXQo+0 [4/8]
──居間
親友「お前たちのこと、もう、凄い噂になってるぞ」
もぐもぐ。
エルフ「あーやっぱり、そうですか……」
もぐもぐ……。
親友「だったら何で、子供たちのところに連れてったりしたんだ?」
もぐ……もぐ……。
エルフ「子供たちにとって良い刺激になるかなーって」
……もぐ。
親友「その気持ちは分からなくもないが……」
……ピタッ。
親友「……じぃ」
男「…………」
837 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:31:35.76 ID:Ry6fXQo+0 [5/8]
男(……なんだ、なんだこの視線は……)
男(こんなに見られていたら、ろくに飯も食べられない……)
男(いっそ……こちらから話しかけてみるか)
男「ち、ちょっといいか……」
親友「……ん? 私に用か?」
男「君は、俺がどういう状況か知っているんだな?」
親友「まあ人聞きではあるけど、大体は」
男「……例えば?」
親友「見知らぬ世界から迷い込んだ男だとか」
親友「超能力を隠し持っているとか、実は、宇宙人かもしれないとか」
男(噂に尾ひれついてるーっ!)
エルフ「……んー、ちょっと違いますね」
男(いや、ちょっとじゃない……かなり違う……)
839 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:39:39.25 ID:Ry6fXQo+0 [6/8]
親友「そうなのか? 私はそれで、ここに来たようなもんなんだがな」
男「……エルフを心配してか?」
親友「勿論、それ以外に何かあるか?」
男「……ごもっとも」
エルフ「そんな……大丈夫ですよ。ほら、この通り」
親友「まだ決まったわけじゃないだろ? これから本性を見せるかもしれない」
エルフ「ちょっと失礼ですよ。男さん……ごめんなさい」
男「んや、別に構わない。ところで……」
親友「なんだ?」
男「君は俺のことで不信感を抱いているようだが、俺も君のことが分からない」
親友「…………」
男「出来れば、自己紹介してくれると有り難いな」
親友「……まあ、そうだな。確かに、一理ある」
親友「私は……」
エルフ「──小さい頃からの、親友兼幼なじみなんです」
842 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:48:43.58 ID:Ry6fXQo+0 [7/8]
──数時間後
親友「ん? もうこんな時間か……」
親友「では、そろそろ帰らせてもらおうかな」
エルフ「そんな……今日ぐらい泊まっていけばいいのに……」
親友「そうしたいのは山々なんだが……少しやらねばならないことがあってな」
エルフ「……そうですか」
親友「ああ、また来るよ。今日は色々な話が聞けたし、楽しかった」
エルフ「私もです。気軽にご飯でも食べに来て下さいね」
親友「うん。じゃあ、また」
男「…………」
親友「…………」
男(ん?)
親友「…………」
男(……そういうことか)
848 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 23:00:15.41 ID:Ry6fXQo+0 [8/8]
ガタンッ……。
エルフ「……あれ、男さん?」
男「ちょっと、親友を外まで見送ってくる」
親友「ひ弱なガードマンなどいらんぞ?」
男「ヤバいときには盾にでもなるさ」
親友「ふふっ、中々言うな」
エルフ「えっ? でも、足は大丈夫なんですか?」
男「リハビリもかねてな。それと、少し夜風に当たりたいんだ」
エルフ「……そうですか、早く帰って来て下さいね」
男「ああ、分かった」
親友「……男、見送るつもりなら、早く行くぞ」
男「おいっ、待て……」
875 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/14(水) 06:10:00.04 ID:0YYS8Xfk0 [2/9]
トコ……トコ。
男「…………」
親友「…………」
トコ……トコ。
男「……で、俺に話があるんだろ?」
親友「……ああ」
トコ……ピタッ……。
男「ん?」
親友「足は大丈夫なのか?」
男「まあ、この杖があるから歩くのはさほど難しくはない」
親友「そうか……早く治るといいな」
男「……おう、ありがとう」
親友「ん、別に……お礼を言われることでもない……」
876 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/14(水) 06:10:53.95 ID:0YYS8Xfk0 [3/9]
トコ……トコ。
男「…………」
親友「…………」
男「おい、まさか話ってそれだけじゃないよな?」
親友「……ん、まあな」
男「それとも、切り出し難い話なのか?」
親友「…………」
男「……まだ、俺のこと信用出来ないか?」
親友「いや……話を聞いて、お前のことは大体理解した」
男「…………」
親友「嘘か本当かまでは私には分からないが……ただ」
親友「何か企んでいる、という様子じゃないのは確かだ」
男「……そうか、誤解が解けたなら良かった」
親友「…………」
親友「……聞いてもいいか?」
877 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/14(水) 06:11:34.36 ID:0YYS8Xfk0 [4/9]
男「おう、構わないぞ」
親友「あの話……本当なのか?」
男「というと?」
親友「私たちが知らない、別の世界からやって来たって話」
男「ああ、本当だ」
男「こことは全く違う……そんな場所から辿り着いた」
親友「……なら」
男「ん?」
親友「頼みたいことがある」
男「…………」
男(何だ……急に真面目な顔して……)
親友「今日、ずっとお前を観察してた」
男「なっ……日中もか?」
親友「いや、そうじゃなくて……飯を食べている時だ」
男「ああ、そういうこと……」
878 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/14(水) 06:12:05.81 ID:0YYS8Xfk0 [5/9]
親友「そのとき、一つ気付いたことがある」
男「……何だ?」
親友「……お前……」
親友「……実は、相当腕が立つ奴だろ?」
男「…………」
親友「身体もしっかり引き締まっているし、腕なんかもかなり太い」
親友「しかも……ところどころには、傷痕があるし……」
親友「……普通に生きているだけじゃ、そんな風にはならない」
男「…………」
男(女と過ごした数年間……)
男(生きていくためには身体を鍛えなければいけなかった……)
男(……時には、有り得ないような傷も負った……)
男(確かに、以前の俺とは……比べものにならないかもしれない)
親友「……だから思ったんだ」
親友「お前になら……ここにいないはずのお前なら……」
879 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/14(水) 06:12:48.66 ID:0YYS8Xfk0 [6/9]
男「…………」
親友「……お願いだ」
親友「何かあったら……」
親友「──エルフを助けてやってくれ……」
男「……それは……」
男(……助ける? 何から?)
男「一体、どういうことだ……?」
親友「…………」
男「もしかして……」
男「……この村が、地面を避けて暮らしていることに関係しているのか?」
男(……前から疑問に思っていたことだ)
男(あえて、ここまでする理由は何だろう? 危険でもあるのか?)
880 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/14(水) 06:13:30.38 ID:0YYS8Xfk0 [7/9]
親友「それは、違う」
男「……本当か?」
親友「私達が上で生活しているのは……」
親友「もう少し経つと、この一体が水浸しになることが原因だ」
男「水浸し?」
親友「ああ、雨がずっと降り続いてな。水位が上がっていく」
男「……そうなのか?」
親友「お前がここで暮らすつもりなら、そのうちやってくるよ」
男「……分かった」
親友「では……返事、聞かせてもらって良いか?」
男「エルフを守るって……話か?」
親友「ああ……お前に頼るしかない」
男「……理由は……」
881 名前:夜にtxtファイルを上げます。よろしくお願いします。[sage] 投稿日:2010/07/14(水) 06:15:11.83 ID:0YYS8Xfk0 [8/9]
親友「…………」
男(……どうやら、教えるつもりはないようだな)
男「……分かった」
男「それがどんなものか分からないが、力を尽くす」
親友「……あ、ありがとう」
男「いいんだ、俺も世話になってるしな」
親友「……本当に、頼んだぞ……」
男「…………」
187 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:11:18.22 ID:zaTWzoQ0 [1/26]
──数日後 学校
子供4「男ーこっちだー」
子供5「はははっ、足遅いなあ、男」
タタタタ。
男「くそっガキどもめ、なめやがって」
男「しかも、いつの間にか呼び捨てかっ」
子供2「もうへばっちゃったのー?」
男「違うっ! 少し歩き難いだけだっ!」
男「見てろよっ! 今から、俺の本気を出してやるっ!」
──ぴょんぴょんぴょんっ。
子供4「うわああっ、片足だけで走ってくるっ!?」
男「こらああ、待てーっ!」
子供6「きゃー、逃げないとっ!」
タタタタッ。
男「おらーっ、意地でも捕まえてやるからなーっ!」
ぴょんぴょんぴょんっ。
188 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:12:56.87 ID:zaTWzoQ0 [2/26]
──数十分後
男「はぁ……はぁ……はぁ……」
男「くそっ……逃げ足だけは早い奴らだ……」
男「足さえ治れば、俺だって……」
エルフ「お疲れさまです」
男「……ああ、来てたのか」
エルフ「ごめんなさいね、子供たちの面倒を手伝わせてしまって……」
男「いいんだ、家に一人でいてもつまらないしな」
男「それならこうやって、身体を動かしていた方がいい」
エルフ「……子供たち、とても楽しそうでした」
男「そうか、なら良かった」
エルフ「しかし、凄いですね。片足だけであんな素早く……」
男「ん、まあな……」
男(後半は、本気でやってたからな……)
男(大人げなく、負けず嫌いの性格が出ちまったぜ……)
エルフ「向こうの人は、片足で走る訓練でもしてるんですか?」
男「……はっ?」
エルフ「練習無しでは、あんなに続きませんよね。私ならすぐにバランスを失いそうです」
男「……いや、そうじゃない」
エルフ「違うんですか?」
男「そんな変な訓練をする習慣はない……俺の知る限りでは……」
エルフ「あーそうですか……」
男(……何故、少し残念そうなんだ……)
189 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:13:24.96 ID:zaTWzoQ0 [3/26]
エルフ「ちなみにあのゲーム、なんて言うんです?」
男「『鬼ごっこ』だ」
エルフ「……おに?」
男「んー、どう言って説明すればいいか」
男「頭の上に角があって、凶暴な性格をしている妖怪……少し人間に似ている想像上の生き物だ」
エルフ「頭に角ですか……その発想は驚きです……」
男「で、その鬼が皆を追いかける役。タッチしたら、今度は相手が鬼」
エルフ「鬼は伝染するんですかっ!!」
男「いや……その……」
エルフ「そんなゲームがあるなんて……すごいところですね、男さんの世界は」
男「…………」
男(……意外に、エルフって天然キャラかもしれない……)
190 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:13:57.26 ID:zaTWzoQ0 [4/26]
──村
男「……天気、まだ良くならないな」
男(雨は降らないが……この霧が視界を遮る)
男(どうやら、少し特殊な気候変動のようだな……)
男(幻想的な景色であるが……ただ……)
男「…………」
男「……道に、迷った……」
男(エルフが忘れた弁当を取ってくる予定だったんだがな……)
男(意地張って、一人で行くなんて言わなきゃ良かった……)
男「どう……するか……」
男「しかし、霧のせいでどっちに向かっているか分からない」
男「……ん、でも……」
男(散策も兼ねて、この辺りを色々見て回るか)
トコ……トコ。
男(……どの建物もほとんど一緒だな……)
男(これは、迷うぞ……)
男「…………」
?「おーいっ、男ーっ」
191 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:15:29.51 ID:zaTWzoQ0 [5/26]
男「ん?」
男「あっ、親友か……」
親友「こんなところで何してる? もしかして、迷ったか?」
男「さすが鋭いな……その通りだ」
親友「馴れるまでには、時間がかかるからな」
親友「……で、行き先はどこだったんだ?」
男「学校から、エルフの家に向かってた……」
親友「そうか……となると、ここは完全に逆側になるな……」
男「……マジか……」
親友「これ以上迷われても困るしな、後で私が付き添ってやる」
男「すまない……」
親友「別に気にするな。それで、少し来てくれ」
トコ……トコ。
男「お、おいっ、一体、どこに行くんだ?」
親友「私の家だ。昼飯でも食ってけ」
男「……まあ、いいが」
男(エルフが折角弁当用意してくれたんだがな……)
男(……無駄に善意を裏切りたくないし、ここは乗っておくか)
親友「他人に飯を食べてもらうなんて、何年ぶりのことだろうな」
男「…………は、はは」
男(……激しく不安だ……)
192 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:16:57.52 ID:zaTWzoQ0 [6/26]
──親友の家
親友「ほれ、遠慮なく座ってくれ」
男「……意外に綺麗なんだな」
親友「……失礼なやつだ。掃除くらい出来るさ」
男「いや、本当に、ちょっと見直した」
親友「……まあ、分かった。ただ、それ以上は言うなよ」
男「……わ、わりぃ」
ガサガサ。
親友「料理って言ってもな、エルフみたいなのは作れないからな」
男「やっぱり、あれはここでも凄い部類なんだな」
ガサガサ。
親友「凄いなんてもんじゃない……神がかっている」
男「確かに、そうか。……で、何やってんだ?」
ガサガサ。
親友「いや、材料を何にするか考えている」
男「軽く済ませられる感じでいいぞ」
親友「んー……とりあえず、何か食べたいものはあるか?」
男「……そうだな」
男(こっちに来てからというもの、食べ物に関しては不自由してないからな)
男(エルフの料理は最高だし、こっちの食材も自分に合っているような気がする)
男(……ただ、一つあるとすれば……)
193 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:17:23.58 ID:zaTWzoQ0 [7/26]
男「肉料理は食べられないか?」
親友「……肉? なんだ、食べたいのか?」
男「ああ、こっちきてからというもの食べてなくてな」
親友「……それは、そうだろうな」
男「エルフが作るものは、ほとんどが野菜で出来ているし」
親友「向こうでは、食べる習慣があったのか?」
男「ん? その言い方は……」
親友「そうだ、私達は肉を食べない」
男「……ああ、そういうことか……」
親友「そういった習慣はないし、誰も好まないからな」
男「悪いな、変なこと言っちまって……」
男(文化が違うわけだもんな……そういうこともある……)
親友「……けど、それらの料理は作れないが」
親友「それに似たような物、作ってみようか」
男「……味を知らないのに、大丈夫なのか?」
親友「任せろ。いいから、お前は指でもくわえながら待ってればいい」
男「……なら、そうするが」
194 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:19:40.91 ID:zaTWzoQ0 [8/26]
──数十分後
親友「…………」
男「…………」
親友「……失敗だ」
男「ま、まあ、食えないこともないぞっ」
親友「……無理しなくていい、こんなの食べ物じゃない……」
男「いけるって。お前が食べないなら俺が食べるぞ?」
パクっ。
親友「お、おいっ……」
男「ん……もぐもぐ……これはこれでいけると思う……」
親友「……嘘言うな。私も少し食べたんだからな……」
男「そうか? 何度も噛み締めると味が変わってくるぞ?」
親友「……もう、いい。……すまない」
男「……もぐもぐ……もぐもぐ……」
男「──……ん。うまかったぞっ」
親友「……全部食べたんだな……」
男「ああ、初めはどうかと思ったが、意外に美味しかったよ」
親友「……ありがとう」
男「それを言うのはこっちの台詞だろ?」
男「作ってくれて、本当にありがとうな」
親友「…………」
195 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:20:18.41 ID:zaTWzoQ0 [9/26]
ガタンッ……。
男「よし、腹も膨れたことだし……」
親友「あっ……」
男「……一緒についてきてくれるんだろ?」
親友「そ、そうだったな……」
男「道案内よろしく頼む」
親友「おうっ、任してくれ。最短ルートで着いてやる」
男「ははっ、それは期待出来るな」
トコ……トコ。
親友「…………」
親友「……男」
男「ああ、何だ?」
親友「……今日は、楽しかった」
男「……そうか」
男「俺も、楽しかったよ。ありがとな」
親友「…………」
親友「……い、行こうか」
男「ん、頼む」
196 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:20:45.54 ID:zaTWzoQ0 [10/26]
──一ヶ月後 学校
男「あーもう、だから違うって」
子供1「えー、これは二つ進めるんじゃないの?」
男「桂馬は……」
カチッ……カチッ。
男「──こうやって動くことしか出来ない」
子供4「……使えない駒だね」
男「おい、そこ。桂馬を馬鹿にすんな」
子供1「じゃあ、コレは?」
男「飛車は縦横無尽に動けるぞ」
子供1「うおっ、それは強いじゃん。じゃあこれは……」
ぐいぐい……。
子供2「ねぇ、男。あっちで鬼ごっこしようよぉ」
男「んあー、ちょっと今は無理……」
男「──って、違う違うっ、角行は斜めに動けんのっ」
子供1「あっ、そうか」
ぐいぐいっ。
子供2「つまんなーい……つまんなーいっ」
男「分かった、分かったからっ」
男「この一戦が終わったら、下でやりに行こう」
子供2「ほんとっ?!」
男「ああ、約束する。その間は他の連中と遊んでこい」
子供2「約束だからねっ! 早く男も来てねっ!」
タタタタッ。
197 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:21:48.57 ID:zaTWzoQ0 [11/26]
男「ははっ、元気一杯だな」
男「ん? まだ次の手決めかねてんのか?」
子供1「んー……これで行こうかな……」
男「……え?」
カチッ。
子供1「どうだろ、王手じゃないかな?」
男「はは、何馬鹿なこと……」
男「──って、あれ……? う、嘘だろ……」
男「いやいやっ……」
男(どこか穴があるに違いない……いや、絶対あるはず……)
男「…………」
男「……そんな馬鹿な……詰んでるわ……」
子供1「待ったなしだからね」
男「…………」
198 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:22:27.59 ID:zaTWzoQ0 [12/26]
──エルフの家
ギュッ……。
エルフ「痛みますか?」
男「んー、そんなには」
ギュッ。
エルフ「ここはどうです?」
男「大丈夫だ」
エルフ「ん。もう、よさそうですね」
男「そうか、歩いてもいいか?」
エルフ「はい、過度な運動をしない限り大丈夫だと思います」
男「はぁー……これでやっと杖の生活から解放されるのか……」
エルフ「良かったですね。これからは、鬼ごっこに負けることもないですし」
男「まあな、俺を舐め切っているあいつらに、本当の実力を見せてやらねばならん」
エルフ「ふふっ、楽しそうですね」
男「ああ。……しかし、意外に治るのが早かったな」
エルフ「確かに骨折にしては治りが早かったですね。もしかしたら、折れてはいなかったのかも?」
男「そうか……とりあえず、歩いてみる」
トコ……トコ……トコ。
エルフ「痛みはありますか?」
男「いや……大丈夫。少し違和感はあるが、何とかなりそうだ」
エルフ「筋力が衰えていますからね。ちょっとの間は辛抱です」
男「そうだな……よし、ちょっくら行ってくる」
エレフ「えっ? どこにですか?」
199 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:22:55.69 ID:zaTWzoQ0 [13/26]
男「親友の家だな。心配してたから、一応、報告したほうがいいと思ってな」
エルフ「あ、ああ、親友ですか……」
男「ん? どうかしたか?」
エルフ「いやっ……別に何でもないです。気にしないで下さい……」
男「ならいいが……」
男(何だろう……この違和感……)
男「どうだっ? 今日、久しぶりに皆で夕飯でも食べないか?」
エルフ「…………」
男「どうした? エルフ?」
エルフ「……あ、はい、そうですね。親友がよければ、やりましょう」
男「……お、おう。誘ってみるよ」
エルフ「では……」
男「ああ、行ってくる」
ガチャ。
エルフ「…………」
200 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:23:28.15 ID:zaTWzoQ0 [14/26]
──親友の家
コンコンッ。
男「…………」
コンコンッ。
男「……ん? いないのか?」
男「おーいっ、中にいるなら開けてくれー」
コンコンッ。
親友『……ん、だれだ……?』
男「俺だよ。少し、話したいことがあって来た」
親友『……ああ、男か……』
男「どうした? 声に元気がないぞ? もしかして風邪でも引いたか?」
親友『いや……そういうことではない……』
男「無理ならまた後日改めようと思うが……」
親友『いいや……今、開ける』
ガチャ……。
男「……お、おい」
親友「……とりあえず、中に入ってくれ……」
男「凄く顔色が悪いが、本当に大丈夫なのか?」
親友「ああ気にするな……寝起きだっただけだよ……」
男「そうか……」
親友「ほら、腰掛けてくれ……」
男「ん……分かった」
すとんっ。
201 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:24:11.16 ID:zaTWzoQ0 [15/26]
親友「で、話って何だ……?」
男「あーそのな……俺のことなんだ」
親友「……男のこと? 何かあったのか?」
男「ほら、足」
親友「……あれ、杖はどうした……?」
男「実は、もう治ったんだ」
親友「それは良かったが……骨折じゃなかったのか?」
男「俺もよく分からんが、折れてなかったのかもしれない」
親友「……もう、歩けるんだな?」
男「ああ、ここまで杖なしで来たのがその証明だ」
親友「そうか……良かったな……」
男「おうっ、ありがとう」
親友「……本当に良かったよ……」
男「あ、ああ……」
親友「…………」
男「……どうした? 何か変だぞ?」
親友「……ふふっ、そう見えるか」
男「何か、問題があるのなら……」
親友「…………」
202 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:24:37.67 ID:zaTWzoQ0 [16/26]
親友「いや……特にない。寝起きはいつもこんな感じでな」
親友「心配させてすまない……」
男「なら、いいが……」
親友「話はそれで終わりか……?」
男「あ、いや、今日のことで少しある」
親友「今日……?」
男「エルフの家で、また前みたいに一緒に飯を食べないか?」
親友「……お誘いか……」
男「前回も最終的には楽しかったし、今日もいい感じで盛り上がるはずだぞ?」
親友「……そうだな……楽しそうだな」
男「よし、なら来るな? 夜、待って……」
親友「──……だが、残念だが今日は遠慮しとくよ……」
男「えっ? どうしてだ?」
親友「……少しやらねばならない仕事があってな」
男「今日中じゃなければ駄目なのか?」
親友「ああ、本当にすまないな……誘ってもらったのに……」
男「いや、気にすることないさ。また、違う日にでも誘うよ」
親友「ありがとう……感謝してる……」
男「…………」
203 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:26:34.68 ID:zaTWzoQ0 [17/26]
親友「……なあ、男」
男「……ん? どうした?」
親友「……お前、覚えてるか?」
男「……つまり?」
親友「……私とお前が交した約束だ……」
男「…………」
男(勿論、覚えている……忘れるわけないだろ)
親友「頼んだぞ」
男「……ああ、分かってる」
親友「……その返事が聞きたかった」
男「…………」
親友「少しだけ、私の独り言に付き合ってくれ」
男「別に構わないが……」
親友「そうか、ありがとう……」
親友「私は……お前と初めてあった日を今でも鮮明に覚えている」
親友「過去も何もかも不明なお前に、心底私は疑いの目を向けていた」
男「…………」
親友「だが、この一ヶ月」
親友「一緒に過ごして、一緒に話して」
親友「今は、確実に言えるよ……。男、お前は良い奴だ、本当にな」
男「……なんだ、恥ずかしくなってくるだろ……」
親友「お前を信頼しているよ。心の底から」
男「……親友」
親友「……また、遊びにこい」
親友「じゃ……な……」
ガチャ。
男「…………」
204 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:27:25.65 ID:zaTWzoQ0 [18/26]
──エルフの家
男「ただいま……」
エルフ「あっ、おかえりなさい」
エルフ「親友……なんて言ってました?」
男「……駄目だった」
エルフ「…………」
男「分かってたのか? そうアイツが返答するの」
エルフ「……別に、そういうわけではありません……」
男「顔が真っ青だった」
エルフ「…………」
男「声も喉の奥から振り絞るような酷いものだった」
男「アイツは寝起きだと言い訳していたが……」
男「それを信じるほど俺は馬鹿じゃないし、能天気でもない」
エルフ「……男さん、考え過ぎですよ」
男「…………」
エルフ「じゃあ、私、ご飯の準備してきますね」
トコ……トコ……トコ。
男「なあ、エルフ」
エルフ「……え?」
205 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:27:53.92 ID:zaTWzoQ0 [19/26]
男「お前にはまだあまり喋っていないが……」
男「俺は前の場所で、少しの間ではあったが、色々ヤバい世界の中にいた」
エルフ「…………」
男「隣で死に絶える仲間を何人も見て来たし」
男「拷問で精神が狂っちまった奴も知っている」
男「……俺はな、エルフ」
男「分かってんだよ。今日の親友が普通じゃないってことをさ」
エルフ「……お、男さん……」
男「アレは……既に全てを諦めた目だ」
男「この世にいながらにして、心はもうあっちに逝きかけてる」
男「なあ、教えてくれ」
男「アイツは……親友は……何を恐れている?」
エルフ「…………」
男「この村には、一体、何があるんだ?」
エルフ「……そ、それは」
男「もう騙すのはやめろ。俺を欺くのは、お前には無理だ」
エルフ「…………」
206 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:29:54.44 ID:zaTWzoQ0 [20/26]
男「はっきり言う」
男「──取り返しがつかなくなってからでは、遅いぞ」
エルフ「……ッ」
男「何事にも迅速に、正確な判断が求められる」
男「俺が数年の間に知ったことだ。お前は、今、それに直面している」
エルフ「わ、たしは……」
男「どうする? どの選択を選ぶ?」
エルフ「……うっ……くうっ……」
男「…………」
エルフ「……っ……うぅ……」
男「…………」
男「話したくなったら、俺のところに来い」
男「力になれるか分からないが、何もしないよりはマシだ」
男「ただ……」
男「どうやら、残された時間はそう無いようだな」
エルフ「ううぅ……うわあぁぁっ」
207 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:30:54.86 ID:zaTWzoQ0 [21/26]
──自室
男「…………」
男(少し鎌をかけたところはあったが、うまくいったかな……)
男(しかし、あの取り乱しようは尋常ではない……)
男(……普段の様子からでは分からなかったが、何かがそこにはある)
男(日々を偽って生活しているような……そんな錯覚に落ち入る)
男「……或いは」
男(そもそも錯覚ではなく……本当にそうだったら?)
男「…………」
男「まだ……来ないか……」
男「もう……四時間は経つんだがな……」
男「最悪の場合……」
男(エルフが来ないことを考える必要があるな……)
男(もう少し待ってこなかったら、俺だけでも親友の側にいよう)
男(そうすれば何かあった時に、対処できる)
男(だが……情報があまりにもないのは気がかりだ……)
男(…………)
男「保険をかけてとくか……」
ガサッ。
男「…………」
208 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:32:47.16 ID:zaTWzoQ0 [22/26]
──居間
男「…………」
エルフ「…………」
男「なぁ……」
エルフ「あっ……男さん……」
男「まだ、決心はつかないのか?」
エルフ「…………」
男「もしかして……」
男「話したことによる、俺の心配をしてたりしないだろうな?」
エルフ「……そ、それは……」
男「ああ、やっぱりそうか。何だ、それは大きな間違いだぞ」
エルフ「…………」
男「お前が今、一番に心配しなければいけない者は俺ではない」
男「親友とは、小さい頃から一緒に過ごしてきたんだろ? 」
エルフ「はい……」
男「一ヶ月前に唐突にやってきた俺と、親友」
男「比べるまでもない……違うか?」
エルフ「…………」
男「何か、言ってくれ……これじゃあ、埒があかない」
エルフ「……だ、だって……」
エルフ「男さんに話したところで、何も変わりません……」
男「…………」
男(ははっ、信用ねぇな……)
209 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:33:17.14 ID:zaTWzoQ0 [23/26]
男(確かに、この家で暮らしている俺を見たら、そう思うか……)
エルフ「それなのに、男さんが巻き込まれる必要は……」
男「……いいか」
男「時には、何かを犠牲にしてでも成さねばならない時がある」
エルフ「でも……」
男「そして、今、その犠牲は俺が担う。どう転んでも、俺だけが損を喰らうはずさ」
男「助けてもらった恩返し……ここで、させてくれないか?」
エルフ「…………」
男「…………」
男(……ああ、駄目だ……)
男(……エルフは既に諦めている……)
男(……仕方ない……)
男(俺だけでもアイツの家に行くか……当たって砕けるしかないな)
男(しかし、そこまで絶望を与えるものとは何なんだ……?)
男(……くそっ、全く想像がつかない……)
男「とりあえず……時間の問題があるからな」
エルフ「えっ……」
男「行ってくる」
エルフ「ど、どこにですかっ?」
男「それは勿論、親友のところに決まっている」
エルフ「だ、駄目ですっ!!」
ギュッ!
210 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:33:48.72 ID:zaTWzoQ0 [24/26]
男「……離してくれ」
エルフ「嫌ですっ……意地でも離しません……」
男「手荒な真似はしたくない。しかも、命の恩人に対しては尚更だ」
エルフ「私、死んでも離しませんからっ!」
男「…………」
男「……ふぅ……」
ザザッ……!
エルフ「……へっ?」
……バンッ。
男「座って帰りを待ってろ」
エルフ「今、私……宙に浮いた……?」
男「……じゃあな」
エルフ「ちょっ、ちょっと待って下さいっ!」
エルフ「男さん、貴方……」
──バァァアアンッ!!
男「なっ……」
エルフ「あっ……」
男「……今の、一体、何の音だ……?」
エルフ「さ、さあ、私には分からないですけど……」
男「…………」
……タタタタタッ。
エルフ「あっ、男さん! 行っちゃ駄目っ!!」
211 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:36:53.82 ID:zaTWzoQ0 [25/26]
──村
タタタタタッ。
男「……ッ……」
男(急げ……急げっ!)
男(分かっている……確実にこのタイミングは何かあるっ!)
タタタタタッ。
男(音の出た方は、ちょうど村の奥の方だ)
男(だが……あっちには何もないはず……)
男(親友の家とは方向が違うが……それでも、安心は出来ない)
男(とにかく急ごうっ!)
タタタタタッ。
エルフ「はぁ……はぁ……はぁ……」
エルフ「ま、待って……男さんっ……」
男「…………」
男(エルフ……まだ、ついて来てるのか……)
男(よくこのスピードに堪えているな……)
男(……だが)
男(悪いが、急がせてもらう)
男「……先に行ってるぞ」
タタタタタタタッ。
エルフ「……えっ?」
エルフ「は、早い……」
212 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/07/15(木) 10:39:19.71 ID:zaTWzoQ0 [26/26]
──村の外れ
男「くっ……どこだっ」
男(何とか、ここまで辿り着いたが……)
男(……もう相当、奥深くまで来ているぞ……?)
男「…………」
男(駄目だ……がむしゃに考えるな、頭を落ち着かせろ……)
男「……ふぅ……」
男「よし……」
男(……ひとまず、落ち着いたな)
男(方角も場所も恐らくあっているだろう……だから、この近く)
男(村を過ぎて、森の中まで入ってきている)
男(ここに彼女たちの誰かが暮らしているとは、到底考えられないが……)
男(……ん? 何だ?)
男「……この臭い……」
男「これは……」
タタタタタタタッ。
男「……ッ……」
男(何度も嗅いだことがある……)
男(時には作戦中に……或いは、武器整備の時に……)
男(あの臭いは……火薬……)
男「………爆発があったというのか……」
男(どこで? 一体、どうして?)
タタタタタタタッ。
213 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:40:54.96 ID:zaTWzoQo [1/52]
男「臭いを辿ろう……」
男(神経を集中させろ……ん……)
……タタタタッ。
男「よしっ……」
男(だんだん臭いがキツくなっている)
男(間違いなく、この方向で正しいはずだ)
男(……どこだ、どこで起きた?)
トコトコトコ……。
男「ん?」
男「……あれは……」
男「…………」
214 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:42:21.27 ID:zaTWzoQo [2/52]
──数十分後
エルフ「お、男さん……」
男「おう、よく場所が分かったな」
エルフ「男さんが通っていた後は、草達が潰れてましたから」
男「森に暮らしているだけあるな。俺にはそのスキルはないよ」
エルフ「そんなことより……今は……」
男「ああ、俺も聞きたいことが山ほどあるからな」
エルフ「…………」
男「なぁ……」
エルフ「えっ?」
男「ちょっとついてこい」
トコトコトコ……。
エルフ「え、ちょっと私……」
男「いいからこっちこいよ」
エルフ「…………」
男「……どうした? 何か問題でもあるのか?」
エルフ「……私は行きたくありません」
男「変なことをするつもりはさらさらないさ、早くこっちに来な」
エルフ「…………」
ジャバジャバジャバ……。
215 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:42:54.32 ID:zaTWzoQo [3/52]
男「ほら、この小川の向こうだ」
エルフ「……嫌です」
男「いいから、早く来い。見せたいものがあるんだから」
エルフ「…………」
男「仕方ないなぁ」
ジャバジャバジャバ……。
男「そんなに頑なに拒むって言うなら……」
トコトコトコ……。
エルフ「なっ……」
男「……俺が、連れてってやるよ」
ガシッ。
216 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:43:24.23 ID:zaTWzoQo [4/52]
エルフ「や、やめてっ! 離してくださいっ!」
男「ほら、いいからこいって」
エルフ「いやっ、いやっ! お願いだから離してッ!!」
バンッ。
男「……ッ……痛いな、だが俺は離さんぞ」
エルフ「いやいやいやいやっ! やだっ!」
男「ほら、後少しだ」
男「もうすぐで、川に入るぞ?」
エルフ「いやあああああああああああっ!」
男「…………」
エルフ「やだ……やだ……死にたくない……死にたくないです……」
男「…………」
エルフ「だめ……もう、やだ……頭……うぅ……」
男「……やはり、か」
パッ……。
エルフ「えっ……?」
男「悪かったな、無理矢理こんなことして」
エルフ「……いや、その……」
男「ちょっと、試したかったんだ。お前が幾ら経っても、話そうとしないからさ」
エルフ「…………」
男「でも、もう分かった。そういうことなんだな」
エルフ「な、何が……何だか私には……」
男「…………」
男「エルフ、お前……」
男「──頭の中に、爆弾があるんだろ?」
エルフ「……ッ」
217 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:45:29.24 ID:zaTWzoQo [5/52]
──森
ズズ……ズズ……。
男「……うしっと」
男「ほら、持ってきてやったぞ」
エルフ「…………」
男「見るからに、酷い死体だな。こんな状態なのは俺も初めて見る」
男「頭の部分だけ無惨に吹き飛んじまっている、なんてな」
エルフ「……うっ……」
男「よく見てみれば分かるが……」
男「外部からの爆発では、こんな風に綺麗に頭だけは無くならない」
男「大体、他の部位も吹っ飛んで、後に残るのは幾つかの千切れた身体の破片」
男「……だが、これは違う」
エルフ「うぅ……うぅ……」
男「内部から爆発したんだ。バーンッ……って」
エルフ「……も、もういいです……」
男「いいのか? 解説しなくて」
エルフ「も、もういいですから……私はこれ以上、見たくも聞きたくもありません……」
男「おいおい、そんな様子でどうする?」
男「少し間違ったら、お前もこうなっちまうんだろ?」
エルフ「……ッ」
男「……格好から考えて、この死体の元は村の住人だ」
男「どうして逃げようとしたのかは分からないが、この有様」
男「どうだ? 少しぐらい、自分に置き換えて考えられるだろ?」
エルフ「…………」
218 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:46:55.57 ID:zaTWzoQo [6/52]
男「それとも何だ? 自分と他人は違うってか?」
男「他人がこうやって死のうが、私には全く関係ないし、知りたくもないって?」
エルフ「……ッ」
男「毎日、偽りながら繰り返しの生活を続けて……」
男「……いつ死ぬかもしれないという恐怖を必死に隠して」
男「楽しいか? それで、満足か?」
エルフ「……ッ!」
男「……この様子だと、あの子供たちにも同じ処置がなされているんだろうな」
男「笑顔で元気一杯な無垢な少女たちが、その実、死との隣り合わせの日々を送っている」
男「それに、お前は胸が痛んだり……」
エルフ「──あなたに一体何が分かるっていうんですかッ!!」
男「…………」
エルフ「一ヶ月前に他所からやってきた貴方にっ! 私達の何が分かるんですかっ!!」
エルフ「毎日、恐怖して……次は私の番じゃないかって怯えてっ!」
エルフ「学校で子供たちに笑顔で接している傍ら……」
エルフ「実際は、その学校自体が子供たちを逃がさないための施設で……」
エルフ「それを分かっていて……辛くて苦しいのに……日々を送らねばならない私の気持ちが……」
エルフ「──貴方に分かる訳もないじゃないですかっ!!」
男「…………」
219 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:47:47.06 ID:zaTWzoQo [7/52]
男(やっと……話してくれたな……)
男(ここまで怒らせないと無理だとは……意外に、頑な奴だ)
男(よし、こうなったら出来るだけ聞き出そう)
男「……では、食料がたくさんある訳は?」
男「村のどこを見渡しても、作物を栽培している様子はなかった」
男「しかし食うに困らない……いや、余るほどの食料があるのは何故だ?」
エルフ「そんなの簡単です……」
エルフ「中央から送られてくるんですよ……」
男「中央?」
エルフ「男さんはここが未発達の世界だと考えているのかもしれませんが……」
エルフ「……ここは結局、作られた自然に過ぎないんです」
男「……それは」
男(……どういうことだ……? 作られた自然?)
エルフ「男さんの言う通りですよ……私達は、この村から出ることが出来ない」
男(それはつまり……)
男(水浸しになるという、不便な場所でわざわざ暮らす理由か……)
エルフ「子供も例外ではありません……全員、頭に細工がされているんです」
エルフ「まだ幼く何をするか分からない子供たちは、基本、学校で寝泊まりをしています」
男(そういえば、ある時、子供たちが言っていたな……)
男(みんな学校で暮らしてるんだよって……)
男(……そのとき、違和感を感じたが……そういう理由だったのか)
220 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:48:40.52 ID:zaTWzoQo [8/52]
男「……では、最後に」
男「こいつが逃げ出した理由は何だ?」
エルフ「…………」
男「親友と……関係してるんだろ?」
エルフ「……ッ」
男「頼む……話してくれ……こんな状況はあまりにも異常すぎる」
男「俺に、お前の気持ちが分かる訳もない」
男「……こんな苦しみが続く世界を、俺は知らないからな……」
エルフ「…………」
男「もしかして、諦めるという手段を取るしか、自分の精神を保てないのか……?」
エルフ「……うぅ……」
男「……頼む……話してくれ……」
男「望みが少しでも生まれることは……そんなに悪いことじゃないはずだ……」
エルフ「……うぅ……くうっ……」
男「初めて親友と家で会った時……」
男「……帰りにアイツにこう約束させられたんだ」
エルフ「……え?」
男「『何かあったら、エルフを助けてやってくれ』ってな」
エルフ「そ、そんな……」
男「今日も念を押されたよ。アイツはお前のことを本当に大事に想っている」
男「…………勝手な推測だが」
男「自分に……脅威が迫っているにもかかわらずな……」
エルフ「……うぅ……うああ……」
エルフ「……ごめん……ごめんなさい……うぅっ……」
エルフ「……っ、ご、めんっ……う、あぁ、うわああああっ!」
222 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:50:02.90 ID:zaTWzoQo [9/52]
男「…………」
男(辛いだろうな……想像もつかないほど……)
男(しかし、何の目的でこんな残酷なことをしているんだ……?)
男(そして、この死体の主のように、どうして逃げる必要があった?)
男(村の中は安全なんじゃないのか?)
エルフ「……お、男さん……」
男「……ん?」
エルフ「……さきほどからの男さんの行動を見て……」
エルフ「私……確信しました……男さんは、きっと何かを成せる人です……」
男「…………」
エルフ「まずは……初めのことから話さないといけません……」
エルフ「私がどうして……男さんを……この村に連れて来たのか……」
エルフ「私……初め、男さんのことを中央の人だと思ってたんです……」
男「……中央? 俺が?」
エルフ「はい……中央の人は私達とは違って、耳も長かったりしませんから……」
男(どういうことだ? この世界にも人間がいるのか?)
エルフ「でも、話してみると、全然そんなことはなくて……」
エルフ「大きな誤解をしていて……すみませんでした……」
男「……いいや、謝る必要なんてない」
エルフ「で、でも……」
男「いいんだ……。それより……親友のことは?」
223 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:52:06.18 ID:zaTWzoQo [10/52]
エルフ「…………」
エルフ「……お願いします……」
エルフ「……男さん……聞いても驚かないでくださいね……」
エルフ「今から、私達のことを話します……もう、隠し通すのは無理ですから……」
男「…………」
エルフ「……ふぅ」
エルフ「……ちょっと、勇気がいりますね……」
エルフ「男さんに、軽蔑されるんじゃないかと思うと辛いです……」
エルフ「でも決めました……もう、言うことにします」
男(……軽蔑? 意味がわからない……)
224 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:52:49.96 ID:zaTWzoQo [11/52]
エルフ「初め、男さんは私の姿を見て」
エルフ「エルフという架空の種族に似ていると言っていましたよね」
男「あ、ああ……」
エルフ「魔法が使えて……長生きもして……」
エルフ「前も言いましたが、私達はそんな性質を持っていません……」
男「でも、女しかいないんだろ?」
エルフ「……はい、そうです」
エルフ「それも……実はきちんとした訳があるんです」
エルフ「この村に、歳をとった者がいない訳も」
エルフ「中央から、大量の食料が送られてくる訳も」
エルフ「そして……」
エルフ「この村から逃げられないように、処置がされている訳も……」
エルフ「全て、説明がつきます……」
男「……それは……」
エルフ「…………」
エルフ「聞いても、今までと同じ様に接してくれること祈って」
エルフ「……いいですか、男さん」
エルフ「……実のところ、私達は……」
エルフ「──……『食料』なんですよ」
225 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:53:24.54 ID:zaTWzoQo [12/52]
>>221 #^ω^)
226 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:54:11.38 ID:zaTWzoQo [13/52]
──村
エルフ「男さん、本当に行くんですか……?」
男「ああ、エルフは家で帰りを待っていてくれ」
エルフ「わ、私も……」
男「──はっきり言おう。正直、足手まといになるだけだ」
エルフ「…………」
男「残念なことに、俺はまだ何の解決策も見つけられていない」
男「必死に頭という頭を使っているが……」
男「どう足掻いても根本的な問題は残ってしまう」
エルフ「……男さん……」
男「でもはっきりしていることはある」
男「誰かが何かをしなければ……この負の連鎖は一生続くだろう」
エルフ「…………」
男「親友が、あの死体のように……或いは、工場で解体されるのを」
男「俺は、見過ごせない」
エルフ「……ッ」
男「そうだ、良いことを思いついた」
エルフ「えっ……」
男「今から、お前と新たに約束を交そう」
男「俺は……お前の友を、必ず救ってやる」
エルフ「……あ、ああ……」
男「これは約束であり、契約だ。決して切れることはない」
エルフ「……わ、わたし……」
男「……お前にも、やって欲しいことがある」
227 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:54:46.63 ID:zaTWzoQo [14/52]
エルフ「何でしょうかっ、私、何でもやりますっ!」
男「……俺を」
男「──ただ、信じていて欲しい」
エルフ「……信じる?」
男「そうだ、俺を心の底から信頼して、大いに望みを抱け」
エルフ「で、でも……」
男「もう、裏切られることを恐れるな。胸に確かな希望を持つんだ」
エルフ「希望を持つ……」
男「そうすれば、きっと、今には見えないものが見えてくる」
男「自分が今やるべき行動が、選択が、必ず取れるはずだ」
エルフ「…………」
男「いいか、出来るか?」
エルフ「……はい、約束……契約します……」
男「…………」
エルフ「私は……男さん……あなたを……」
エルフ「──心の底から信じますっ!」
228 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:55:22.46 ID:zaTWzoQo [15/52]
──村
トコトコトコトコ。
男「…………」
男(ずっと考えてた)
男(どうして、俺がこんな目に遭うんだろうって)
男(何も悪いことはしていないのに、こんなに運命に振り回されるのは何故だって)
トコトコトコ。
男(自分の人生に嫌気がさして)
男(何も変わらない、つまらない日々を呪って)
男(あらゆることから逃げて来た俺……)
トコトコ。
男(……初めは妹を持ちたいと軽い気持ちで考えていた)
男(それが次の瞬間、見知らぬ収容所に押し込まれて)
男(気が付けば、テロリストの仲間になった……そして、自分の本質が変わっていくのを感じたんだ)
男(国を変えようと本気で決意した時、何かが、胸の中で生まれた)
トコトコ。
229 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:56:01.73 ID:zaTWzoQo [16/52]
男(……きっとそれは確信だった)
男(変えられないものなど、何もない)
男(どんなに苦難な道だとしても、諦める以外の方法が必ずある)
男(あの最後の作戦の日、それを身に染みて痛感した)
トコトコ……ピタッ……。
男「…………」
男(だから、今なら分かるんだ)
男(どうして、俺がこんな目に遭うのか)
男(運命がここまでして俺に難題をぶつけて来たのは何故か)
男(それは、すべて……)
男「……今日という日のためだったんだな」
──バンッ。
230 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:56:35.50 ID:zaTWzoQo [17/52]
──親友の家
バンッ。
親友「うわっ……だ、誰だっ!?」
男「入るぞ」
親友「その声は……お、男か……」
親友「ど、どうしたんだ……こんな夜遅くに……」
親友「今日はやることがあると言ったろ……早く、帰ってくれ……」
男「……いいや、駄目だ」
親友「いいから帰れっ!」
親友「頼むからっ! 私を一人にしてくれよっ!」
男「……それが本心か?」
親友「えっ?」
男「本当に心の底からそう思っているのか?」
親友「ど、どういうことだ……?」
男「もういいと諦めて、ただ終わりの朝を待つのか?」
親友「……ま、まさか……エルフが……話したのか……?」
親友「くそっ……なんでまた……」
男「いいか、よく聞け」
男「俺は今、猛烈に腹が立っている」
親友「…………」
231 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 10:58:25.54 ID:zaTWzoQo [18/52]
男「理由は簡単だ。お前にも分かるだろ?」
親友「……もう私には生きることが出来ないと……諦めたから?」
男「違う」
男「お前が、俺を頼らなかったからだ」
親友「……うっ」
男「友を助けたいと俺に託したよな? 信じられると」
男「それなのに、何故自分のことは黙っていようとした?」
男「それで俺が納得でもすると思ったのか?」
親友「そ、そういうわけでは……」
男「悪いな。俺は執念深い男なんだ。今日はいつになく、無茶をさせてもらう」
親友「……だ、だがっ」
男「俺の心配をしようなんて思うなよ。これは俺が勝手にやっているんだからな」
親友「お、男……」
男「まずは、詳しい話を聞きたい」
男「あいつらは何時頃、ここにやってくる?」
親友「噂で……明け方としか……聞いていない」
男「何人で武装してくるのかはわかるか?」
親友「いや……それも分からない」
男「そうか、では質問を変える」
親友「あ、ああ……」
男「どうやって自分の番が来ると分かった?」
親友「数日前……家の前のところに手紙がおいてあった……」
親友「中には、赤字で今日の日付が書かれていただけだ」
233 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 11:00:32.16 ID:zaTWzoQo [19/52]
男「……その状況は、今までと一緒なんだな?」
親友「そう、聞いていた話と同じ。いつかは必ず来るとね……」
男「分かった……とりあえず、準備をしないといけないな」
親友「……準備って……」
男「奴らを迎える準備だよ。今のうちにやれることはやっておこう」
親友「…………」
親友「……なあ、男……」
男「ん? どうした?」
親友「お、お前……本当に……あの男か?」
男「…………」
親友「口調も少し違う気がするし……それに」
親友「その迫力みたいなものを一体なんなんだ……?」
男「……さあ、分からんよ」
男「ただ、やっと長年の疑問が解けたことが関係しているのかもな」
親友「……どういうことだ?」
男「──もうすぐに分かる、多分な」
235 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 11:01:53.63 ID:zaTWzoQo [20/52]
──明け方
男「……夜が明けたな」
親友「あ、ああ……」
男「そろそろだろう。打ち合わせ通り頼んだぞ」
親友「…………」
男「どうした、震えているじゃないか?」
親友「こればかりは……分かっていても……なっ?」
男「…………」
親友「……男……」
男「ん?」
親友「もしも失敗したら……」
男「──そんなことにはならない」
親友「…………」
男「いいから、予定通り行くんだ。分かったな?」
親友「…………」
男「返事はどうした?」
親友「あ、ああ……すまない……」
男「よし……なら俺は、少し、外に出てくる」
親友「だ、大丈夫なのか?」
男「安心しろ、恐らくまだだ」
237 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 11:02:35.45 ID:zaTWzoQo [21/52]
──外
男「……さて、どうするか」
男(このままやってきた奴らを蹴散らすのは、造作ない)
男(油断し切った相手を[ピーーー]のは、難しくないからな)
男(ただ……問題が一つある)
男「……この後、どうする……?」
男(そう、成功した後のことを考えなければならない)
男(今日で相手のメンバーを皆殺しにして、それで片付くほど単純ではない)
男(エルフたちを全員逃がそうと考えても……一体どこに?)
男(そもそも、彼女たちはこの村を離れることが出来ない)
男「今日を乗り切ったとしても……これからが大変だ」
男(異常を察知した相手側は、今度こそは油断せずにやってくるだろう)
男(仮にそれを乗り切ったとしても……また、次がある)
男(永遠に続いてしまっては……俺の身体は持たない)
男(…………)
男「……ん?」
男「そういえば、今日は、霧が晴れてるな……」
男「…………」
トコ……トコ……トコ。
男「……あれは何だ……?」
男「遠くに見える……あの尖った山……にしては、鋭角す……」
男「──あっ……」
240 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 11:05:49.99 ID:zaTWzoQo [22/52]
>>237
[ピーーー] ってwwwwww
特定ワードはこうなるのね
>男(油断し切った相手をコロスのは、難しくないからな)
241 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:07:41.73 ID:zaTWzoQo [23/52]
>>239
了解了解、ここの仕様よくしらねーんだわ
243 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:09:27.11 ID:zaTWzoQo [24/52]
──親友の家
ガチャッ!
男「おいっ、聞きたいことがあるっ!」
親友「ど、どうしたんだ……? えらい剣幕じゃないか……」
男「ここからずっと遠くに聳え建っている、あれは何だ?」
親友「あ、ああ……あれは、多分、中央の建物だ」
男「中央の建物?」
親友「やつらのシンボルさ……この村にもモニュメントがあるだろ?」
男「……そうか、そういうことだったのか」
男(だから、エルフは初めの日にあそこに案内したんだな)
男(あれを見て俺がどんな反応をするかで、確信を持ちたかったんだ……)
男(ん……待てよ……)
男(…………)
親友「で、それが一体どうかしたのか?」
男「あそこには……恐らく、中央の敵玉が居座っているだろ?」
親友「ああ、多分、そのはずだな」
男「…………」
親友「……男?」
男「よし、いいぞ……。これで最後の駒が揃った」
親友「最後の駒……?」
男「……親友、作戦を変更する」
親友「い、今更か? それで間に合うのかっ?」
男「ああ、大丈夫だ。今より、ずっと確実で……未来がある」
親友「……そうか、お前がそういうならそうなんだろうな……」
男「それでな……お前にやって貰いたいことが──」
244 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:10:31.92 ID:zaTWzoQo [25/52]
──三十分後
男「…………」
男「……来た」
親友「……わ、わかった……」
男「無理だと分かっているが、落ち着け」
親友「わ、悪い……だが、震えが止まらないんだ……」
男「…………」
男「親友、俺の目を見ろ」
親友「……あ、ああ、分かった……」
男「ほら、じっとだ」
親友「……ん」
男「…………」
親友「…………」
男「どうだ? 少し落ち着いたか?」
親友「お前の目……全くぶれないんだな……」
男「ああ、だから大丈夫だ……安心しろ」
男「俺が、お前を救ってやるから」
親友「……男……」
男「じゃあな」
245 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:11:00.15 ID:zaTWzoQo [26/52]
──親友の家
バタバタバタ……バンッ!
?「……ん? なんだ、やけに静かだな」
親友「…………」
?「いい心がけだ、悪あがきはしないに越したことがない」
親友「……もう、いいんだ……」
親友「頼むから……苦しくないようにしてくれ……」
?「……ふむ、分かっている、安心しろ」
?「ただ、ここで殺しはしない。向こうに着いてからな」
親友「もう……どちらでもいい……」
?「…………」
?「よし、薬を打って眠らせろ」
?「はっ」
プスッ。
親友「……うぅ……」
親友「…………」
?「ん、連れて行け」
?「了解」
バタバタバタ……。
男「…………」
男「行ったか……」
男「よし……後は俺にかかってるな……」
男「……やるぞ」
246 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:12:10.19 ID:zaTWzoQo [27/52]
──???
班長「これで、今日の仕事は終わったも同然だ」
班長「本日は何時に比べて、スムーズにいった。後は送り届けるだけだな」
作業員1「一人だけでいいんですか?」
班長「もう一人は廃棄処分になったから仕方ない。また後日改める」
作業員1「分かりました」
班長「よし、貨物をトラックに入れろ。きちんと黒い袋に詰めただろうな」
作業員2「大丈夫です。今から、積んできます」
班長「ん、数分後に出発する、急げ」
作業員たち「「了解っ」」
247 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:12:47.34 ID:zaTWzoQo [28/52]
──トラック周辺
男「…………」
男(敵の数は五人か……)
男(何の武装もしていない……あまりにも軽卒だな)
男(思った以上にスムーズにいけそうだ)
男(しかし、この世界にも車があるなんてな)
男(形がかなり違うから、燃料なども同じではないんだろう……)
男(……あっちの世界より、相当進歩している印象だ)
男(…………ん)
男(親友を積んだな……)
男(……よし、今だっ)
248 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:13:46.51 ID:zaTWzoQo [29/52]
──トラック
ガチャン。
作業員2「よし、これでいい。後は、俺がしておくから先行ってこい」
作業員3「分かった、任せたぞ」
タタタタ……。
作業員2「このボタンを押して……」
『……ソウサガカンリョウシテイマセン……』
作業員2「ん? あれ、なんか間違ったか?」
ザザッ。
作業員2「……んっ!?」
男「…………」
作業員2「…………」
……バタン。
男「しばらく、眠っておけ」
ガチャン。
男「…………」
親友「…………」
男「……親友」
男「後は、任せたぞ……」
249 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:14:22.90 ID:zaTWzoQo [30/52]
──トラック
作業員3「おい、何やってんだ? もう発車するぞっ?」
タタタタ……。
作業員3「あれ……いない?」
作業員3「……ん?」
作業員3「──っておいっ! 大丈夫かっ!」
作業員2「……あ、ああ?」
作業員3「何があった? どうして倒れている?」
作業員2「いや……分からんが、急に真っ暗になって……その後覚えていない……」
作業員3「とにかく、貨物の状態をっ」
ガチャンっ。
作業員3「……ん? 問題ないな……?」
作業員2「……そうか、なら良かった……」
作業員3「このことは、班長に伝えたほうが良いんじゃないか?」
作業員2「おいおいっ、何の問題もなかったんだろ……止めてくれよ……」
作業員3「しかし……」
作業員2「──折角、良い職にありつけたんだ……印象を悪くしたくはないっ」
作業員3「…………」
作業員2「頼む、な? お願いだ」
作業員3「……ん」
作業員3「仕方ない……伝えるのは止めとくよ」
作業員2「あ、ありがとうっ! 恩に着る!」
作業員3「そのかわり、今日の夕食はお前のおごりだからなっ?」
250 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:15:48.09 ID:zaTWzoQo [31/52]
──???
親友「…………」
親友「……ん……」
親友「……あ、れ……」
親友「ここ……」
ガバッ。
親友「…………」
親友「……男……」
親友「助けてくれたんだな……」
親友「……でも」
親友「本当にこれで……良かったんだろうか……?」
親友「…………」
親友「──……急ごうっ」
251 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:16:28.35 ID:zaTWzoQo [32/52]
──エルフの家
ガチャッ。
エルフ「お、男さんっ!?」
?「…………」
エルフ「え、えっ……?」
エルフ「──親友……」
親友「……ああ」
エルフ「……だ、大丈夫だったんですね……」
親友「……あ、ああ」
エルフ「ほ、本当に、良かった……良かったです……」
エルフ「これで……ひとまず……安心……」
親友「…………」
エルフ「……あれ?」
エルフ「親友、男さんは……?」
親友「……みんなを……集めてくれ」
エルフ「…………」
エルフ「……急がないといけないんですね」
親友「……そうだ」
エルフ「分かりました。すぐに、みんなを呼んできますっ」
エルフ「それで集まる場所は……」
親友「──……憎き碑の前に」
252 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:17:35.36 ID:zaTWzoQo [33/52]
──???
エルフ「みんな急いでっ」
村人1「もう……これで、大丈夫なの?」
村人2「頭が吹き飛んだりしない……?」
エルフ「はい、大丈夫ですっ!」
エルフ「とにかく急いで、この村から離れましょう」
親友「エルフっ!」
エルフ「どうかしました?」
親友「子供たちは、この速度で進むのがしんどいようだ……」
エルフ「……そうですか……でも」
親友「……急がないとな、奴らが来る可能性も高いし……」
エルフ「…………」
親友「どうした?」
エルフ「……まさか、あのモニュメントが鍵になるなんて……」
エルフ「なんで、男さんはそれに気が付いたんですか?」
親友「私も男に聞いただけだから、あまり意味が分からなかったが」
親友「『仕掛けが離れた距離によって起動するなら、それを計っている装置がある』」
親友「『仮に電波を中央で操作していたとしても、森の中だから、中継点が必要だ』」
親友「『この村で考えられるのは、あの碑しかない』」
エルフ「…………」
親友「そして、あれを壊せば、十中八九、爆発は起きないって……そう言ってた」
253 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:18:41.05 ID:zaTWzoQo [34/52]
エルフ「信じたんですね」
親友「ああ、前なら怯えてそんなことしなかっただろうな……」
エルフ「…………」
親友「……あいつ」
エルフ「──きっと大丈夫です。あの人がそう言ったなら」
親友「……あ、ああ、そうだな」
エルフ「今は自分たちのことだけに専念しましょう」
エルフ「出来るだけ時間を稼ぐ……そのために」
エルフ「そして……」
エルフ「──明日を生きるために」
254 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/15(木) 11:20:23.08 ID:zaTWzoQo [35/52]
──塔
警備員「はい、止まって」
警備員「許可証を提示して下さい」
班長「ほら、これだ」
警備員「…………」
ピピッ。
警備員「はい、どうぞ」
警備員「認証しましたので、中へお進み下さい」
班長「ああ、分かった」
班長「……これで、ひとまず終わりだな」
作業員1「お疲れさまでした」
班長「車を止めたら、いつものところへ貨物を運べ」
作業員2「了解」
班長「引き渡しが完了した後、ミーティングをして解散だ」
班長「気を抜かず、最後まで引き締めていこう」
作業員たち「「了解」」
255 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:22:01.37 ID:zaTWzoQo [36/52]
──塔 内部
作業員2「ん……重いな……」
作業員3「確かになっ……」
作業員2「よし……エレベーターに行くぞ」
作業員3「角ぶつからないように気をつけろよ」
作業員2「ああ……そっちもな」
ンー……ガタン。
作業員2「よし、乗るぞ」
作業員3「おうっ……」
……ガチャ。
作業員2「で、何階だっけ?」
作業員3「確か……ん?」
作業員2「どうした? 何かあったか?」
作業員3「いや今……貨物が動いたような……」
作業員2「そうか? どうせ寝返りでも打とうとしたんじゃないのか?」
作業員3「だが、そろそろ麻酔も切れかかってくる頃だし……」
作業員2「確かに暴れてもらっても困るな……」
作業員3「念のために、ここでもう一回打とう」
作業員2「了解、じゃあ、降ろすぞ」
作業員3「ああ」
ドン……。
256 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:23:17.36 ID:zaTWzoQo [37/52]
作業員2「それにしても重たい奴だな……」
作業員3「見た目はそんなでもなかったんだがな」
作業員2「隠れ肥満ってやつか……怖いね」
作業員3「ははっ、よし、じゃあ開けるぞ」
作業員2「おう」
ジー……。
作業員3「…………」
作業員2「…………」
作業員3「だ、誰だ……?」
作業員2「……今回の奴って、こんな顔だっけ?」
作業員3「いや……これは、どうみても……」
男「──……違うだろ?」
作業員2「なっ……」
257 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:24:17.18 ID:zaTWzoQo [38/52]
クライマックスを前に休憩
いちいちsagaって打つのメンドイ・・・・
260 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:37:52.64 ID:zaTWzoQo [39/52]
オレもjaneだけど、こっちはメル欄固定する機能がない(知らない)んだよね
とりあえず再開
261 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:38:37.59 ID:zaTWzoQo [40/52]
──塔 内部
コンコンッ。
男性「入っていいぞ」
作業員「貨物の引き渡しに来ました」
男性「そうか、ならここにおいてくれ」
作業員「了解です、こちらにサインを」
男性「分かった……」
男性「しかし、二人でいつもは運んでくるのに、今日は一人なんだな」
作業員「腕っ節には、割と自信がありまして」
男性「そうか、それは羨ましいばかりだ」
作業員「…………」
男性「……ん」
男性「よし、書き終わった。もう、帰って良いぞ」
作業員「いえ、すみません……貨物の確認もお願いします」
男性「確認? いつもは、そんなことしないはずだが……」
作業員「念には念を入れてです」
男性「そうか……なら、仕方ないな……」
ジジー……。
262 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:39:38.03 ID:zaTWzoQo [41/52]
男性「…………」
男性「……ん……」
男性「……あ、あ……」
作業員「どうかしましたか?」
男性「……き、君……」
男性「こ、これは……」
男性「──男の……死体……じゃない、か……」
作業員「…………」
男性「な、何がどうなってる……?」
男性「……どうしてこんなものを……」
作業員「…………」
男性「何故、何も答えないっ……」
男性「……ま、まさか……」
作業員「……なあ、アンタ」
男性「……お、お前……」
作業員「アンタに、色々、聞きたいことがあるんだ」
作業員「手短に……そして、迅速にお願いする」
男性「や、やめろ……それ以上、近づくな……」
作業員「……どうやったら」
作業員「──この仕事の依頼主に会える?」
263 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:41:08.24 ID:zaTWzoQo [42/52]
──塔 最上階
「まだ、例のものは届かないのか?」
執事「既に運び込まれたことまでは分かっています」
「それにしても……効率があまりも悪いな」
執事「しかし……一目を避けるとなると、このような手段でしか……」
「仮にこれが露呈したら、大問題に発展するからな」
執事「はい……ん?」
執事「電話です……少し、席を外してもよろしいでしょうか」
「ああ、構わん。あと、準備している者に作業を急がせろ」
執事「分かりました。では、失礼します」
ガチャ。
「……ああ、待ち遠しいな」
「ここ最近は忙しく、食べる機会に恵まれなかったからな」
「……あの柔らかい舌触りといい、癖のなさといい……」
「技術という技術を結集させて、一から生み出した甲斐がある」
ガチャッ。
「何だ、意外に早かったな。それで作業……」
執事「──状況を、お伝えします……」
「……どうした……何があった?」
執事「……あの村の碑が壊されたそうです……」
「……な、何だって?」
執事「まだ、詳細は分かりませんが、通信が途絶えてから相当な時間が経過して……」
「──何故、すぐにでも対応しなかったっ!?」
264 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:42:02.22 ID:zaTWzoQo [43/52]
執事「……秘密が漏れないよう、最低限の人員で維持していましたので……」
「くそっ……もし、アイツらが逃げ出したりしたら……」
執事「……相当、危険な状態ですね……」
「……軍を動かせ」
執事「……殲滅しますか」
「こうなってしまったら、仕方がない」
「これが表に出てくる前に……全てをなかったことにする」
執事「どのような理由で向かわせますか」
「私の領土で未確認のウイルスが発生した、とな」
執事「……なるほど、それなら理由になりますね」
「ああ、加えて私の土地だからな、文句を言われる筋合いもない」
執事「分かりました」
「そして……事が収まったら、またアイツらを作り出せ」
執事「相当費用がかかりますが、よろしいでしょうか?」
「構わん……今度は情けなどやらずに、施設を作ってしまう」
執事「そこで暮らさせるんですね」
「ああ、家畜と一緒だ」
執事「では……命令を下し……」
ガチャ。
「誰だっ! 今は、重要な話し中だぞっ!」
男「…………」
265 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:43:36.35 ID:zaTWzoQo [44/52]
執事「早く下がりなさい。今なら罪には問いません」
「用件があるなら、これが終わってからにしろ。ほら、早く出て行け」
男「……く……くくっ……」
男「くははっ……」
男「はは、はははっ」
「…………」
執事「何が、おかしいんですか?」」
男「俺に罰を与えられる立場だと思っていること」
男「そして、さきほどからの会話……あれは、笑い話か何かなんだろ?」
執事「…………」
「……覚悟は出来ているんだろうな、貴様」
男「……覚悟なら、とっくの昔にしてきているさ」
執事「……もし」
執事「貴方が今の会話の内容を聞いたことで、優位に立とうとし」
執事「それをネタにゆすろう考えていても、全くの無駄になりますよ」
執事「どうせ貴方は無事で外には出られませんから」
男「…………なあ」
男「一つ問いを出していいか」
執事「……問い……?」
男「いいから、見ろ」
男「俺がこの手に持っている物……お前らは、何だと思う?」
266 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:44:18.27 ID:zaTWzoQo [45/52]
「……はっ、何を言うかと思ったら……ばかばかしい」
男「いいから、早く答えろ」
「……ッ」
執事「相手にする必要はありませんよ」
「……いや、待て……」
「その太々しさに敬意を払って、少し付き合ってやろうじゃないか……」
「見たことのない形だな、玩具か何かか?」
男「……確かに、玩具といえば玩具に見えなくもない」
「…………」
男「だが実際は、何時の時代も常に恐れられてきた代物だ」
「……分かり難いな……もっと簡単に説明しろ」
男「これでも努力しているつもりなんだがな」
執事「…………」
執事「……もう止めにしましょう」
執事「どうやら貴方は少々、頭に問題を抱えているようですね」
執事「しかし……これ以上、戯れ言を続けるつもりなら……」
男「──例えば、こうやって」
バンッ!!
「なっ……」
執事「…………か、かはっ……」
バタン……。
267 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:46:22.61 ID:zaTWzoQo [46/52]
「お、お前……今……」
男「どうだ? 今、恐怖しただろ?」
「……ぶ、武器なのか……それは……」
男「……この世界にとっては、相当遅れた技術なのかもしれない」
男「だがな……それでも、こんな簡単に殺せるんだ」
「…………」
男「……お前が、彼女たちをただ食うために作り出したんだな?」
「……彼女たち?」
「それは、食料であるアイツらのことを指しているのか?」
男「…………」
「アイツらの性別に意味などない」
「女として生み出したのは、それが一番適していたからだ」
男「……それはつまり」
「そうだ、女の方が食感が良かったんでな」
男「…………」
「……ということは、モニュメントが壊れた原因は、貴様だな?」
「余計なことをしてくれた……あれで、アイツらは全員死ぬことになるぞ」
男「……軍を使ってか?」
「ああ、そうだ。幸いにも、私はこの世界の頂点に君臨している」
「力があるのなら、それを使って何が悪い?」
男「…………いや」
男「……残念だが、もう、お前には無理だ」
男「俺がここでコロスからな」
268 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:47:43.32 ID:zaTWzoQo [47/52]
「……し、しかし、これを聞けば、貴様も考えを改めるはずだ……」
「何を勘違いしているのか知らんが……まず、ここがどこか分かっているのか?」
「仮に私を殺してでもみろ……すぐに警戒態勢が引かれて、お前は捕まり、処刑される」
男「…………」
「そんな馬鹿なことをするはずはない。私なら、決してしないからな」
男「……それで?」
「……今ここで投降するなら、貴様の罪は特例で免除してやる」
「名誉が欲しいなら言ってみろ、権力が欲しいならくれてやる」
男「…………」
「ここまで私を追い込んだんだ。その価値は十分にある」
男「……ああ」
「どうだ? 取引にのるか?」
男「そうだな……俺も予定を変更することにする」
「ああ、そのほうが貴様にとって私にとってもベストな……」
バァンッ!!
「──ッ……」
「き、貴様……どういうこと……」
バァンッ!!
「──止めろッ……止めてく……」
バァンッ!!
「──ああぁぁぁぁぁぁッ!!」
269 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:48:59.12 ID:zaTWzoQo [48/52]
男「お前は何も理解していない」
バァンッ!!
「──かっ……あああああ……」
男「何一つ分かっていないんだ」
バァンッ!!
「──……あっ……」
「……こおっ……ごほっ……」
男「…………」
男「両足、両腕……そして肺に打ち込んだ」
「……かっ……かはっ……」
男「苦しいか? 早く死にたいだろ?」
「………ッ……かっ……」
男「肺に血が溜まって息がうまく出来ないもんな」
男「自分は既に死ぬって分かっているのに、そう簡単には死ねない」
男「撃たれた部分は刺すような痛みが続いて、まさに生き地獄だ」
「……ッ…………こッ……」
男「……だが、トドメは刺さない」
男「そうやって、永遠に続くように感じる苦痛を十二分に味わえ」
男「それが、今まで死んでいった彼女たちへの……」
男「──せめてもの報いだ」
「………ッ……」
270 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:49:29.09 ID:zaTWzoQo [49/52]
キー……ガチャ……。
男「…………」
男(……さて)
男(どうしたものかな……)
男(奴の言う通り、かなりヤバい状況だ……)
男(ここまで辿り着くのに……少し強引な方法を使ったからな)
男(警報が鳴るのも……時間の問題か)
トコトコトコ。
男「しかし……拳銃か」
男(飛行機が墜落した後、偶然見つけたんだよな)
男(でも、弾も残り少ない)
男(最後に、無駄な弾数を消費してしまったからな)
男(素手じゃ……正直、無理だ)
271 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:50:31.40 ID:zaTWzoQo [50/52]
ウーウーウー。
男「……鳴ったか」
男(よし……そろそろ次の覚悟を決めないとな)
男(あまり良い結末とは言い難いが……)
男(エルフや親友たちが助かっただけでも……相当な価値がある)
男「……エルフ達は……大丈夫かな……」
男(最後に見た、エルフの目は活力に満ち溢れていた)
男(それも、今までの絶望で濁ったものが嘘のように)
男(これからは、希望を胸に抱いて、必ず、前へ進むことができるはずだ)
男(そう、彼女なら……きっと……)
男「…………」
272 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/07/15(木) 11:50:58.65 ID:zaTWzoQo [51/52]
ウーウーウー。
男「……女はどうだろうか……」
男(……人を引きつける何かを持った、強い女性だった)
男(何事を恐れず、何からも逃げることはなく)
男(諦めるという言葉を常に否定し、俺の……見本となった)
男(……今は……多分、国を変えるのに必死になっていることだろう)
男(だが、女なら……見事成し遂げるに違いない……)
男「あんまり……俺は、役に立った気がしないからな」
男「ん……もうすぐかな」
ウーウーウー。
男「…………」
男(最後に……今の俺に問おう)
男(自分の人生に誇りを持つことができるか?)
男(何事からも逃げずに立ち向かうと、誓えるか?)
男(もう二度と、諦めるなんてことはないと言えるか?)
男「…………」
男(ああ、分かっている……)
男(……ここで終わる訳がないよな)
男「……勿論、答えは……」
男「──イエスだ」
─END─
273 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[age!] 投稿日:2010/07/15(木) 11:53:34.83 ID:zaTWzoQo [52/52]
\(^o^)/
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