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梓「一体何が起きているの……?」 続き
1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 15:01:20.54 ID:nqR5cia20 [1/60]
「やっぱり唯だけずるいよな。梓を独り占めするなんて。
本当は私だって『あずにゃん』をいじめたいんだよ?」
「いやああああああ!! こないでええええ!!」
梓は両手を突き出して澪を突き飛ばそうとしたが、
がっちりと両手をつかまれてしまった。
「無駄な抵抗はするなよ。
これから楽しいことをしてあげるから」
澪の獣のような吐息が梓にかかる。
澪は梓より一回り体格の大きい相手だ。
力比べでは勝てるはずがないと判断した梓が
どうやってこの危機を乗り切ろうかと考えていたが、
「ぐ…え…」
澪は短い声を発しながら梓の方へ倒れてくる。
「やっぱり唯だけずるいよな。梓を独り占めするなんて。
本当は私だって『あずにゃん』をいじめたいんだよ?」
「いやああああああ!! こないでええええ!!」
梓は両手を突き出して澪を突き飛ばそうとしたが、
がっちりと両手をつかまれてしまった。
「無駄な抵抗はするなよ。
これから楽しいことをしてあげるから」
澪の獣のような吐息が梓にかかる。
澪は梓より一回り体格の大きい相手だ。
力比べでは勝てるはずがないと判断した梓が
どうやってこの危機を乗り切ろうかと考えていたが、
「ぐ…え…」
澪は短い声を発しながら梓の方へ倒れてくる。
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 16:33:10.64 ID:nqR5cia20
梓は澪の体が迫ってきたのでなんとか手で押しのけた。
先程まで澪が立っていた場所のすぐ後ろに憂がいた。
肩で息をしながら大きいフライパンを握り締めている。
どうやらあれで澪の頭を叩いたらしい。
「あずさちゃん……大丈夫だった!?」
「え? あ、そうか。ありがとうね憂。助かったよ!!」
梓は飛び上がりたいくらいにうれしかった。
まさか憂が助けにきてくれるとは思っていなかったが、
これで障害となるものは全て消えたのだ。
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 16:36:08.55 ID:nqR5cia20
澪が突然豹変したことは気がかりだが、
今は気絶しているようなので問題ないだろう。
後は玄関から脱出するだけだ。
梓が安堵していると、
階段の方から足音が聞こえてきた。
タンタンタン
ゆっくりとした足音が二階から聞こえてくる。
何者かが降りてきているのだろう。
その音は梓に死の恐怖を呼び起こさせた。
(唯が目覚めたの!? どうしよう!?
早く逃げないと……殺される!!)
7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 16:41:21.55 ID:nqR5cia20
唯に捕まればどうなるかは想像するのも恐ろしかった。
憂を含めて皆殺しにされても不思議ではない。
梓は全身の毛が逆立つような思いをしながら、
玄関の扉に手をかける。
タンタンタン
今も何者かが階段を降りる音が聞こえるが、そんなもの
にかまっている暇はない。
震える手をなんとか押さえながらドアノブを回そうとしたが、
びくともしなかった。
(そんな……!?)
梓は目を見開いた。
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 16:48:07.62 ID:nqR5cia20
開かない理由は梓の手が震えているためでも、
ドアノブが壊れているせいでもない。
そばにいる憂が……ドアノブをそっと押さえていた。
「どこに行くの?」
憂は梓の行動を非難するような目つきをしている。
しかし、梓の方がよほど憂を非難したい気持ちだった。
たまらず声を張り上げてしまう。
「どこって……ここから脱出するに決まってるでしょ!!
ふざけるのもいい加減にしてよ!!
どうして私の邪魔をしようとするの!?」
「……もう遅いんだよ。わからないの?」
「は!? 意味が分からないこと
言ってないで早くその手を離して!!
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 16:54:06.43 ID:nqR5cia20
その問答の時間が無駄だった。
タン、タン
何者かは階段を降りてしまった。
そいつは玄関にいる梓の方を真っ直ぐ見つめていた。
「…………!?」
その人物と目が合った瞬間、梓は気絶しそうなほどの衝撃を受けた。
これは幻覚だと信じたいが、
階段から降りてきた人物は憂だった。
髪の毛は憂と同様のショートのポニーテールに
まとめられていて、梓のすぐそばにいる『憂』と
瓜二つだった。
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 17:00:10.85 ID:nqR5cia20
頭から出血が確認できることから、先程まで
二階の階段前で倒れていた人物で間違いはないはずだ。
血塗られたシャツを着た人物は、
機械人形のような無機質な表情で梓を見つめていた。
「……………な……!?」
梓はまともな言葉を発することができないでいた。
耐え難い現実に頭が混乱しているのだ。
いっそのこと思考を停止して発狂してしまえば、
どんなに楽になるだろうかと考えたほどだった。
(ありえない……同じ人間が二人もいるわけない……
きっと唯がどちらかに化けているんだ)
梓は深呼吸して偽者探しを始めた。
12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 17:06:00.78 ID:nqR5cia20
今日梓をベッドの上で襲っていたのは間違いなく唯だった。
いくら姉妹がそっくりだとはいえ、話し方や微妙な
仕草の違いから、あれは唯本人だったことが判断できる。
ゆえに、階段の近くにいるのは憂に変装した唯。
そして梓のそばにいる憂は本物のはずだ。
そうでなければ、澪から梓を助けてくれるはずがないからだ。
毎日のように平沢姉妹に接してきた梓だけに、
姉妹の見分け方は心得ているつもりだった。
それは健全で常識的な思考であったはずだった。
本来であれば……
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 17:11:12.51 ID:nqR5cia20
「すごい汗だよ?」
それは隣から聞こえた声。
そばにいる憂がハンカチを取り出して梓の顔を拭いていた。
それに反応する余裕がない梓は黙ってされるがままの
状態だった。恐怖のあまり、ハンカチが肌に触れるたびに
ナイフで命を削られているような錯覚に襲われた。
「そんなに震えてどうしたの? 具合でも悪いの? あずにゃん」
「…………!?」
梓が疑惑の目でそいつの顔を凝視した。
今のは聞き間違いだと信じたいが、間違いなく
目の前の憂が発言したものだった。
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 17:17:07.91 ID:nqR5cia20
(あずにゃん……ですって?)
その呼び名はけいおん部に入部して間もないころに唯から
頂戴したあだ名であり、唯以外の者が使用することはない。
通常であれば……。
(まさか……こいつ……もしかして…)
梓は背中に冷や汗が流れているのを感じていた。
口の中はすっかり乾いてしまって気持ちが悪いが、
今はそれでことではない。
梓は恐怖のあまり感覚が狂い、金縛りにあったように
体を動かせないままでいた。
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 17:22:48.50 ID:nqR5cia20
ドサッ
突然、人の倒れるような音がした。
何が起きたのかと梓が驚くと、
階段から降りてきた憂が倒れていた。
先程と同じようにうつ伏せの状態で、
後頭部のあたりから出血が確認できる。
まるでその姿は力つきて
倒れてしまったかのようにも思えた。
先程までは立っているだけでも
限界だったのだろうか。
「あーあ。お姉ちゃんが倒れちゃった」
梓のそばいる憂がゴミを見るような目で
倒れている者を見ていた。
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/13(火) 17:28:45.87 ID:nqR5cia20
(お姉ちゃんですって……!? 白々しい!
あんたが変装した唯なんでしょうが……!!)
梓は今にもそいつに食って掛かりたいのを我慢していた。
「あちゃー。死んだのかな?」
その憂は倒れている憂に近づいて頭を持ち上げていた。
傷の様子でも確認しているのか、その場に膝をついていた。
ちょうど梓には背中を見せている位置になる。
(……!!)
この時点で梓に最大の好機が訪れた。
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 17:33:12.72 ID:nqR5cia20
背後には玄関の扉があるので、今すぐここから脱出することができる。
しかし、どうしても確かめたいことがあった。
それは犯人についてだった。
今日リビングで頭を殴られて部屋に拉致されて以降、
梓を痛めつけたあの人物の正体は一体誰なのか知りたかった。
同時に、梓はそいつのことを殺してやりたいほど憎んでいた。
あれだけのことをされたのだから、それは当然の感情だ。
地獄の拷問に耐えながらも、いつか復讐してやると
心に決めていたのだ。
「うああああああああああああああああああああああ!!」
梓は大声を出しながらその人物へ接近した。
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 17:38:39.80 ID:nqR5cia20
その勢いのまま、そいつの頭を後ろからつかんで壁にぶつけた。
「ぎゃ」
そいつの悲鳴のようなものが聞こえたが、
梓は無視して行為を続行する。
何度も、
何度も壁に打ち付けた。
「げ」
打ちつけるたびに肉がつぶれるような音と
血が飛び出る音が聞こえたが、梓は容赦しなかった。
そいつの頭を掴む手に思い切り力をこめた。
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 17:44:26.72 ID:nqR5cia20
グチャ
ピチャ
そいつの頭から出る血があたりに飛び散る。
梓は返り血で洋服を汚す。
それでも梓は打ち付けるのを止められなかった。
文字通り、そいつを殺してやりたいほど恨んでいた。
あの時の痛みと恐怖が梓の心に鬼を生んでしまったのだ。
「ぐげ」
そいつは両手をだらりと垂らして倒れた。
21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 17:50:23.95 ID:nqR5cia20
壁にはそいつの血がこびり付いていたが、
梓はそれには目も向けず、そいつのそばに膝をつく。
白目をむいているそいつの顔を持ち上げ、
髪の毛をほどいてやった。
梓はふわりとしたボリュームのある
彼女のショートカットを注視した。
(やっぱり……こいつは唯だった)
梓がそう思った理由として、唯の髪の毛は
くせのある髪であるのに対して憂の髪は直毛に近い。
そして目の前にいるそいつの髪は前者のものだった。
それに加えてあずにゃんと呼んでいたこと、
梓の逃亡を阻止しようとドアノブに手を
かけていたことも根拠になりうるだろう。
22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 17:55:29.63 ID:nqR5cia20
その結論が梓の表情を凍らせた。
(なら……あいつの正体は憂だ)
梓はぞっとした。
階段から降りてきた人物が唯ではなく憂ということは、
いままで梓を拷問したのはかつての親友だったことになる。
憂は恐るべき変装技術で梓を欺いていたとでもいうのだろうか。
(でも、あいつも間違いなく唯だったはず)
今でも自分の考えに自信が持てなかった。
念のため、階段から降りてきた方も確認してみることにした。
同じように髪の毛をほどいてやる。
23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 18:00:10.06 ID:nqR5cia20
ショートカットの髪質を細かく確認したところ、
こちらも唯と全く変わらないくせのついた髪だった。
梓は流れ出す冷や汗をぬぐうこともなく、
両方の女の口元や目元、眉毛、体型などあらゆる部分に
違いを見つけようとしたが、何もかもが瓜二つだった。
まるで唯が二人いるかのように。
(……もうやめよう……今日はきっと疲れてるんだ。
家に帰ってゆっくり休めば、何もかも忘れられる)
ふらふらする足取りで梓は立ち上がり、玄関の扉を開いた。
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 19:05:15.52 ID:nqR5cia20
一歩外に踏み出て道路を見た瞬間、梓は猛烈な吐き気に襲われた。
(…!!)
なんと表現していいかわかならい感覚だった。
吐き気を通り越して失神してしまいそうな苦しみだった。
もう立っているだけでも限界に近かった。
手足が痺れて感覚を失っていくのが恐ろしかった。
(もう……だめ……がまんできない)
31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 19:11:08.13 ID:nqR5cia20
梓がその場に手をついて嘔吐しそうになった時、
今度は強烈な頭痛が発生し、何も考えられなくなった。
(頭が……ぐるぐると回っている……気持ち悪い……)
梓の意識はそこで途絶えた。
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 19:16:09.19 ID:nqR5cia20
二、
梓は暗闇の世界にいた。
「~~~~~♪」
闇にわずかな光が差すような感覚で、
誰かの鼻歌が頭に流れてきた。
「~~~~~~♪」
梓にとって聞き覚えのあるその曲は、
ふでペン・ボールペンだった。
楽しかったけいおん部の思い出が形となって
梓を祝福しているような気がした。
次第に気分が高揚し、梓の意識が覚醒していく。
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 19:21:23.42 ID:nqR5cia20
「目が覚めたの?」
その声に反応して梓は目を開けた。
「ここは……?」
「けいおん部の部室だよ。あずにゃんが気持ちよさそうに
寝てたから、起きるまで待っててあげたの」
梓は唯に膝枕されて頭を撫でられていた。
顔を持ち上げてあたりを見渡すと、他には誰もいなかった。
窓から真っ赤な夕日が差し込んでいた。
「他の皆はもう帰ったよ。
私だけあずにゃんとずっと一緒にいたの」
「そ、そうなんですか。すいません。迷惑かけて」
「全然気にしてないよ。
可愛い後輩の面倒をみるのも先輩の務めだよ」
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 19:27:13.32 ID:nqR5cia20
屈託無い顔で笑う唯は、いつもの唯だった。
「ところでさ、あずにゃんはずっとうなされていたけど、
もしかして怖い夢でも見たの?」
「え? 私、うなされてましたか?」
「うん。すごく苦しそうな顔をしてたよ。それに泣いているし」
「…?」
梓が自分の顔に手をあてると、涙を流していることに気がついた。
「夢を……見ていたんだね。とても怖い夢を……」
梓は唯に抱きしめられた。
抱きしめられた瞬間の安堵感は
形容しがたいものだった。
35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 19:33:11.47 ID:nqR5cia20
梓は涙が止まらなかった。
「はい…本当に……本当に怖い夢でした……」
「もう大丈夫だよ。私が一緒にいてあげるからね」
「…………ありがとう」
梓は気がすむまで唯の胸の中で泣き続けた。
その暖かさに包まれながら、
暗い感情が洗い流されるような気がして心地よかった。
その後は何事もなく、梓は家に帰ってぐっすり寝た。
36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 19:37:31.31 ID:nqR5cia20
三、
次の日の放課後、梓は音楽室に直行して
先輩達が来るのを待っていた。
現在、音楽室にいるのは梓と亀のトンちゃんだけだ。
待っていても暇なので、何気なくトンちゃんにエサを与えていた。
(1人……か)
梓は水槽を眺めながら妙な孤独を感じていが、
やがて音楽室の扉が開かれた。
「来てるのは梓だけか?」
一番最初に来た先輩は秋山澪だった。
37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 19:42:28.61 ID:nqR5cia20
「はい。待ってたんですけど、まだ誰も来てないんですよ」
「ああ。唯達は掃除当番だからちょっと遅れてくるよ」
「そうなんですか……」
梓が水槽の中の亀を見ながら呟いた。
「来年は……」
「え?」
「澪先輩達が卒業したら、私は一人ぼっちになるのかな……」
不安そうな梓の顔が水槽に写っていた。
38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 19:49:34.33 ID:nqR5cia20
それは反応に困る話題だったため、
澪は難しい顔をしながら少し考えてこう言った。
「大丈夫だよ。私と律だって廃部寸前だったこの部を
復活させたんだから。
梓なら真面目だし、きっと立派な部長になれるよ。」
「……ありがとうございます。気休めでもうれしいです」
「そんな……気休めで言ったんじゃないよ……」
「__うるさい!!」
「__!?」
澪は驚いて梓の目を凝視した。
梓に怒鳴られるのは初めてだったので、
心臓を飛び出すんじゃないかと思うほどの衝撃だった。
39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 19:54:26.13 ID:nqR5cia20
「私は毎日不安に思っているんだ!!
いつかこのけいおん部が廃部になるんじゃないかって!!
今年だって部員が一人も入ってこなかったじゃない!!」
ものすごい剣幕だった。
普段梓が唯達の不真面目さに
怒鳴るようなものとは別種のものだった。
澪はなぜ梓がここまで怒っているのか理解できなかった。
恐らく、梓は日頃から溜めていたストレスをここで
発散しているのではないのだろうかと分析した。
「澪先輩はいいですよ! 同年代の仲間が四人もいて!!
私なんて一人ぼっちですよ!? 先輩達が卒業したら
私は一人ぼっちなの!! このトンちゃんみたいに!!」
「……梓、落ち着いて……今日はどうしたんだ。
いつもの梓らしくないぞ……」
40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 20:00:46.56 ID:nqR5cia20
澪は梓にゆっくりと近づいて肩に手を置こうとしたが、
「触るな!!」
梓に冷たく払いのけられた。
瞬間的にカッとなった澪は、大きく息を吸って梓に怒鳴った。
「__梓!!」
「ひ!」
梓はびくっと震えて床に座り、
子猫のように縮こまって鳴き始めた。
声を押し殺して泣いているその姿は哀れだった。
梓とて自分でも最低のことをしている自覚はあったが
暴走する感情を制御できなかった。
42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 20:06:32.81 ID:nqR5cia20
入部以来、自分を大切にしてくれた先輩に対しての
この仕打ちは、誰から見ても酷すぎる。
自らがそれを分かっているからこそ辛いのだ。
澪は梓を呆然としながら見続けていたが、
音楽室の扉が開かれて唯が入ってきた。
唯はうずくまって泣いている梓を見て取り乱した。
「あずにゃん!? __どうしたの!?」
唯は梓に駆け寄って抱きしめた。
梓は澪の時とは違い、唯に対しては抵抗しなかった。
43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 20:11:37.57 ID:nqR5cia20
唯は昨日のように梓を抱きしめながら頭を撫でていた。
「ごめん澪ちゃん。少し席を外してくれないかな?
あずにゃんと二人っきりになりたいの」
唯が澪と目線を合わさずにそう言った。
澪は何か言いたそうな顔をしていたが、
ため息をついた後、部屋を出て行った。
梓は唯にしがみつきながら震えていた。
「うぅ…………ごめんなさい……」
「いいんだよ」
「私……いらいらしてて……澪先輩に酷いことを……」
「大丈夫だよ」
45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 20:17:31.72 ID:nqR5cia20
「どうしてだろう……唯先輩といると落ち着きます……」
「ふふ。そう言ってもらえるとうれしいな」
唯に抱きしめられると暖かくていい匂いがした。
頭を撫でられると心がふわっとして落ち着いた。
梓は……唯が愛しくてたまらなかった。
「欲しいです……唯先輩が……」
「__あ」
梓に胸を触られた唯が短い声を発した。
47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 20:50:07.87 ID:nqR5cia20
「やわらかい…」
梓は唯の制服の上からこねるように触っていたが、
だんだんと興奮して唯のブレザーを脱がしてしまった。
Yシャツもブラジャーも脱がしていくが、
唯は抵抗しなかった。
梓は唯の胸に顔をうずめた。
両手で唯の乳房を持ち上げながら、
吸い付いてその感触を味わっていた。
「やさしい匂いがします……唯先輩の匂い……」
梓は唯の背中に手を回しながら、
赤子のように甘えていた。
唯はそんな梓を責めることもなく、
ただ頭を撫でていた。
48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 20:55:59.30 ID:nqR5cia20
それが心地よくて、梓はいつまででもこうしていたいと思った。
「キス……してもいいですか?」
涙目で上目遣いの梓がそう言った。
梓は唯の他には何も考えられなくなっていた。
もう唯以外は誰も必要としていなかった。
「__ごめんね。それは無理」
対する唯の反応は淡白だった。
唯は申し訳なさそうな顔をして梓から顔をそらした。
49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 21:01:16.88 ID:nqR5cia20
今の梓の心はガラス細工のように繊細で崩れやすかった。
それを支えてくれた母のような存在に否定されたことで、
梓は悲鳴をあげたいのを必死で我慢していた。
「__どうしてですか?」
それは唯にではなく、この世界の不条理に対して
放たれたような言葉だった。
唯は目をつむりながらこう答える。
「もう時間切れなんだよ」
「……? どういう意味ですか?」
「ほら、__が来てるよ?」
唯は音楽室の扉を見ながらそう言った
50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 21:05:28.07 ID:nqR5cia20
何か嫌な予感がして梓はおびえそうになるが、
歯を食いしばって耐えた。
梓はゆっくりと唯の視線の先を追ってみた。
「………………………………………………え?」
音楽室の扉は開けられている。
扉を開けた体勢でこちらを見ている人物が一人いた。
中野梓だった。
(うそ…………でしょ…………!?)
51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 21:10:14.36 ID:nqR5cia20
その梓は患者衣を着ていた。
彼女の顔色はその服と同様に青白くて恐ろしかった。
まるで病院から抜け出してきた入院患者のようだった。
「あ………………う………………ああ…………」
梓の歯が震えてカチカチと音を鳴らしていた。
反応しようにも体が固まってしまって反応できない。
圧倒的な恐怖で瞳孔が開いており、
手足は機能を失うように痺れてしまった。
52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 21:16:34.06 ID:nqR5cia20
「……」
そいつは無言で梓を親の敵のように睨んでいた。
特に襲い掛かってくる様子もなく、扉の所で立ち尽くしている。
髪の毛は下ろしていてストレートのロングヘアーの状態だ。
その姿は寝起きに鏡に写る自分の姿と瓜二つ。
無論、現時点では別人という可能性は完全に否定できない。
だが常識で考えれば、
患者衣を着て音楽室を訪れる人などいるわけがない。
(……………………あいつは………一体誰?)
梓は混乱する頭をなんとか落ち着かせながら、
答えを探そうとしていた。
53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 21:22:26.50 ID:nqR5cia20
しかしすぐに無駄だということを悟った。
(この世界が……狂っているんだ……!!)
そう思った瞬間、目に見える世界がくるりと
反転し、梓は床に手をついて嘔吐した。
「_______おえっ」
凄まじい勢いで異の中のものが逆流してきた。
胸がむかついて、気持ち悪くて、寒気がして
死んでしまいたくなった。
「______________うえ」
吐いたものが音を立てて床に落ちていった。
54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 21:28:04.65 ID:nqR5cia20
その勢いでしぶきが梓の服にかかるが、
そんなことを気にする余裕はなかった。
唾液と鼻水を垂らしながら吐き続けていたが、
もう吐き出すものがなくなると、その場に倒れた。
酸味のかかった激臭が音楽室に充満した。
梓は目がかすんで何も見えなくなりそうだった。
気が遠くなってこのまま気絶するのだと思っていた。
だが、もう一人の梓がそれを許してくれなかった。
「……」
そいつは無言で梓の体を持ち上げた。
(何を……するつもり……_?)
55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 21:34:11.64 ID:nqR5cia20
梓は死人のような顔でそいつにされるがままの
状態だったが、やがて何かに乗せられた。
車椅子のようだった。
「何をするの……?」
梓は声に出して言ったが、返事が返ってくることは
なかった。
そいつは淡々とした様子で梓の車椅子を押して、
部屋の外へ連れ出そうとしていた。
強烈な死の恐怖を感じ、梓は唯に助けを求めようと、
したが、いつのまにか消えていた。
56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 21:40:25.51 ID:nqR5cia20
梓は唯の名前を叫び続けたが、
むなしく梓の声が木霊するだけだった。
やがて車椅子は部屋の扉をくぐった。
(……………!!)
梓は発狂しそうなほど驚愕した。
そこにあるはずの廊下や階段がなかったからだ。
ここは手術室のような部屋だった。
薄暗くて部屋の全貌を見ることは出来ないが、
中央にベッドのようなものに寝せられてた
少女の姿があった。
57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 21:45:24.66 ID:nqR5cia20
少女の周りに医者と数人の看護士がいて、
オペをしている最中だった。
医者は少女の体にメスを入れ、臓器を取り出そうとしていた。
ここにあるのは、血と薬品と体臭が混じった匂い。
梓は再び吐きそうになったが、すでに
もどすものは異の中に残っていなかった。
「……」
相変わらず、もう一人の梓は無言で佇んでいたが、
しばらくすると注射器を取り出した。
それを見た梓がパニックを起こしそうになり、
ここから逃げ出そうとしたが、体が動かなかった。
手足を見ると、いつのまにか
車椅子にベルトで拘束されいる。
58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 21:50:11.01 ID:nqR5cia20
「薬だから……」
そいつは初めて言葉を発したかと思うと、梓の腕に注射した。
「……………………………………ぁぁ」
梓は力の限り叫ぼうとしたが、出せたのは蚊の鳴くような
声だけだった。
意識が混乱し、迷走し、全ての思考回路が切断されて
しゃべることさえできなかった。
(これで……この……世界とはおさらばってわけね……)
最後にそう思いながら梓は意識を失った。
59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 21:56:14.77 ID:nqR5cia20
四、
目が覚めると、ここは砂浜だった。
定期的に押し寄せる波はすんでいて透明だった。
足元の砂は照りつける夏の太陽で焼けていて、
素足でいるのは熱くてしょうがなかった。
(足が熱い……?)
そう疑問に思いながら自分の格好を確認し、
水着を着ていること気がついた。
デジャブ。
梓はこの場所に見覚えがあったのですぐに思い出せた。
ここは一年の時に合宿で訪れた紬の別荘だ。
60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:01:09.46 ID:nqR5cia20
陸地に琴吹家所有の別荘がある。
一年前に見たそれと寸分違わない景色と夏の暑さ。
なんともバカバカしいと思った。
タイムスリップしたわけではない。
ここは夢の世界なのだと一瞬で気がつくことができた。
夢の中で夢を見ていることに気がつくという滑稽さに
苦笑しそうになりながらも、海へ入った。
そのまま海に浸かりながら塩水の匂いと
ゆっくりと流れる雲を眺めていると、
異変はすぐに起きた。
雲はありえないくらいの速さで動き始め、
やがて雷雲に変わって雨が降ってきた。
61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:06:19.57 ID:nqR5cia20
雨は一瞬で強さを増し、シャワーのような勢い
になった。
「おーい! 梓ー!! そこにいたのか」
遠くから誰かが呼んでいた。
後ろを振り向くと、澪が別荘から走ってくるのが
確認できた。
雨で濡れる砂浜を駆けている先輩の姿を見て、
妙に懐かしく感じるのが不思議だった。
まるで数年ぶりに澪に会うような気分だった。
「梓、まだ一人で遊んでいたのか?
この天気だし、今日は泳ぐのは諦めよう。
早く別荘に戻るぞ」
62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:13:43.16 ID:nqR5cia20
「え? 他のみんなは?」
「もうとっくに戻ったよ。
梓の姿が見えなかったから探しに来たんだ。
どうして雨の中、ずっと浜辺にいたの?」
「……」
梓にとっては答える必要のない質問だった。
目が覚めたらここにいたので、いつからここに
いたかなんて分かりようがない。
それよりも澪に言いたいことがあった。
「あの時はすいませんでした……私、イライラしていて、
澪先輩に八つ当たりをしてしまいました」
「……いきなり何の話?」
今度は澪が首をかしげる番だった。
63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:18:13.23 ID:nqR5cia20
それはこの世界の澪にとって、
記憶にない事柄だったからだ。
しかし梓はあの世界でのことをはっきりと
覚えていて、いつか澪に謝りたいと思っていた。
たとえそれが梓の知っている澪とは違う人であってもだ。
「えっと……なんで梓は泣いているの?
私、梓に八つ当たりされた覚えがないぞ……?」
「いいんです。ただ一言謝りたかったんです……。
ごめんなさい。変なこと言って……。
でも私のこと嫌いにならないでください……」
「あはは。悪い夢でも見たんだろ。
私が梓のことを嫌いになるわけないじゃないか。
他のみんなも梓のことが大好きだよ」
「はい……うれしいです……先輩……」
64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:23:51.43 ID:nqR5cia20
それは梓が一番聞きたい言葉だった。
けいおん部という大切な居場所。
そこに所属することが梓の生きがいだった。
梓の心の中に暖かい感情が生まれた。
梓は涙を拭きながら澪に抱きつこうとしたが、
澪の体は消えていた。
「…………………!!?」
全周囲を見渡しても澪の姿は確認できなかった。
つまり、一瞬で消えてしまったのだ。
まるで煙のように。
66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:30:43.59 ID:nqR5cia20
澪が消えた後で身を切り裂くような寂しさが
残ったが、梓はすぐに落ち着きを取り戻した。
ここは夢の世界なのだから、異変が起きるたびに
いちいち驚いていてはきりがないと判断したのだ。
雨は今も降り続けている。
先程より勢いは弱くなって小雨ほどになった。
広大な海の水面をじっと見てみると、
地平線の彼方まで続いているように思えた。
(いつになったら……この夢は終わるのかな……)
気力を失った梓が浜辺に座り、ボーっと海を
眺めていると、人の話し声が聞こえてきた。
68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:36:23.28 ID:nqR5cia20
無論、あたりに人の姿はない。
その声は館内放送のように何処からか聞こえてくる
特殊なものだった。
「ねえ、聞いた? 二年の生徒の話……」
「聞いた聞いた。四階から飛び降りたんだって?」
「そうそう、何でも薬をやってて頭が
おかしくなったんだって」
「怖いよねぇ~。幻覚でも見えてたんじゃないの?」
話し声から察するに、女子高生の会話のように思えた。
女の子同士の他愛ない噂話のようだが、
なぜか梓には他人事のようには思えなかった。
69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:41:25.73 ID:nqR5cia20
「その女の子、部活をやってたんでしょ?」
「確かあの有名な……けいおん部だっけ?」
「ギターがすごくうまくて有名な子だよね。
私、あの子のファンだったのに……。
本当に残念だよ……」
「あの子供っぽいツインテール、可愛かったよぇ。
一体何が不満で薬なんてやったんだろうね。
人って分からないなぁ」
それを最後に会話は聞こえなくなった。
梓は眺めていた海に変化が起きているのに気がついた。
水面のはるか先に人影が浮かんできたのだ。
70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:46:20.89 ID:nqR5cia20
遠く離れすぎてそのシルエットは親指程度の大きさ。
それはまるで蜃気楼のようにあやふやとしたものだが、
遠めでも分かるくらいの狂気が感じられた。
(また……あいつが現れたんだ……)
水面に浮いているのは自分の分身だった。
あの時と同じ服を着ていて、
氷のように冷たい無表情だった。
死人のような気味の悪い肌が印象的だった。
そいつは直立不動のまま水面をすーっとすべり、
梓に接近した。
「な……!!」
71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:52:05.81 ID:nqR5cia20
梓はそいつに手を引かれ、海の中に引きずり込まれた。
水の中で息が出来ない梓に抱きつきながら、
そいつは耳元で語りかけた。
「戻ろう。現実に」
水中にもかかわらず、そいつの言葉が
はっきりと聞こえた。
そもそもなぜそいつが水中で話が
できるのかと考えようとしたが、
そんな些細なことはどうでもよくなった。
梓は息が苦しくて返事をするどころではないが、
かまわずそいつは話し続けた。
72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:57:21.07 ID:nqR5cia20
「もう夢を見るのは……終わりにしよう。
あなたはもう戻ることはできない場所まで
来てしまったの」
「だからね、一緒に行こう?」
そいつはもう梓を睨んでいない。
慈悲深い聖母のような目で微笑んでいた。
そいつと目を合わせると。
梓は夢から覚めるような不思議な感覚に襲われた。
水の中の温度は次第に暖かくなってきた。
その温度は安らぎを感じさせ、梓は
何もかもがどうでもよくなってきた。
死が間近に迫ろうとしていた。
73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 23:02:03.11 ID:nqR5cia20
梓はそいつの手を握ってこう思った。
(いいよ。早く連れて行って……)
それは梓の最後の願いだった。
「あずにゃん……」
空耳に違いないが、
大好きだった先輩の声が聞こえた気がした。
そして梓の意識は永遠に途絶えた。
74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 23:07:33.49 ID:nqR5cia20
五、
数日前の新聞にこう書かれている記事があった。
『○月×日 ○○県の桜ヶ丘高校に所属する
二年の女子生徒が四階から飛び降りた。
女子生徒はすぐに病院へ運ばれたが、
その日のうちに死亡した。医者の話によると
落下した際に頭を強く打ったことが原因と見られている。
なお、警察の調べによると、女子生徒はドラッグを
服用していたことが明らかになっているとのこと』
それを読んでいた娘が顔を上げ、
キッチンで朝食を作っている母親にこう言った。
「ねえ、母さん。例の女子高生の事件知っているでしょ?
薬って怖いよね。まさかうちの学校の生徒から自殺者が
出るとは思わなかったよ」
75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 23:12:09.26 ID:nqR5cia20
「あなた、まだその新聞を読んでたの?
……薬は一度やったら止められないし、
人生を棒にする恐ろしいものなの。
あなたは絶対にやったらだめよ?」
「わかってるよ」
そう言うとその女子生徒は席を立ち、
カバンを持って登校の準備を始めた。
「あら、朝ごはん食べていかないの?」
玄関で靴を履いている娘を呼び止める母。
娘は笑顔でこう答えた。
「うん。今日は早く学校に行ってやらなくちゃ
いけない事があるの。それじゃ行ってきます」
その娘のカバンには、学校用に製作した
ドラッグ防止を呼びかけるポスターが入っていた。
『最後の願い』 THE END
82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 23:32:42.48 ID:nqR5cia20 [60/60]
作者よりネタバレ。
一から四まで梓の走馬灯。実は物語の最初から梓は病院にいた。
全ては死ぬ直前に見た梓の妄想 (悪夢と理想の狭間の精神世界)
四の最後で梓が昇天した(病院で死んだ)
梓がドラッグをやっていたのはけいおん部の
将来に不安を感じてヤケクソになったため。
もう一人の梓は妄想世界の梓に現実を教えようとして現れた。
自分を律しようとする心が生み出した想像上の産物。
梓は澪の体が迫ってきたのでなんとか手で押しのけた。
先程まで澪が立っていた場所のすぐ後ろに憂がいた。
肩で息をしながら大きいフライパンを握り締めている。
どうやらあれで澪の頭を叩いたらしい。
「あずさちゃん……大丈夫だった!?」
「え? あ、そうか。ありがとうね憂。助かったよ!!」
梓は飛び上がりたいくらいにうれしかった。
まさか憂が助けにきてくれるとは思っていなかったが、
これで障害となるものは全て消えたのだ。
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 16:36:08.55 ID:nqR5cia20
澪が突然豹変したことは気がかりだが、
今は気絶しているようなので問題ないだろう。
後は玄関から脱出するだけだ。
梓が安堵していると、
階段の方から足音が聞こえてきた。
タンタンタン
ゆっくりとした足音が二階から聞こえてくる。
何者かが降りてきているのだろう。
その音は梓に死の恐怖を呼び起こさせた。
(唯が目覚めたの!? どうしよう!?
早く逃げないと……殺される!!)
7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 16:41:21.55 ID:nqR5cia20
唯に捕まればどうなるかは想像するのも恐ろしかった。
憂を含めて皆殺しにされても不思議ではない。
梓は全身の毛が逆立つような思いをしながら、
玄関の扉に手をかける。
タンタンタン
今も何者かが階段を降りる音が聞こえるが、そんなもの
にかまっている暇はない。
震える手をなんとか押さえながらドアノブを回そうとしたが、
びくともしなかった。
(そんな……!?)
梓は目を見開いた。
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 16:48:07.62 ID:nqR5cia20
開かない理由は梓の手が震えているためでも、
ドアノブが壊れているせいでもない。
そばにいる憂が……ドアノブをそっと押さえていた。
「どこに行くの?」
憂は梓の行動を非難するような目つきをしている。
しかし、梓の方がよほど憂を非難したい気持ちだった。
たまらず声を張り上げてしまう。
「どこって……ここから脱出するに決まってるでしょ!!
ふざけるのもいい加減にしてよ!!
どうして私の邪魔をしようとするの!?」
「……もう遅いんだよ。わからないの?」
「は!? 意味が分からないこと
言ってないで早くその手を離して!!
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 16:54:06.43 ID:nqR5cia20
その問答の時間が無駄だった。
タン、タン
何者かは階段を降りてしまった。
そいつは玄関にいる梓の方を真っ直ぐ見つめていた。
「…………!?」
その人物と目が合った瞬間、梓は気絶しそうなほどの衝撃を受けた。
これは幻覚だと信じたいが、
階段から降りてきた人物は憂だった。
髪の毛は憂と同様のショートのポニーテールに
まとめられていて、梓のすぐそばにいる『憂』と
瓜二つだった。
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 17:00:10.85 ID:nqR5cia20
頭から出血が確認できることから、先程まで
二階の階段前で倒れていた人物で間違いはないはずだ。
血塗られたシャツを着た人物は、
機械人形のような無機質な表情で梓を見つめていた。
「……………な……!?」
梓はまともな言葉を発することができないでいた。
耐え難い現実に頭が混乱しているのだ。
いっそのこと思考を停止して発狂してしまえば、
どんなに楽になるだろうかと考えたほどだった。
(ありえない……同じ人間が二人もいるわけない……
きっと唯がどちらかに化けているんだ)
梓は深呼吸して偽者探しを始めた。
12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 17:06:00.78 ID:nqR5cia20
今日梓をベッドの上で襲っていたのは間違いなく唯だった。
いくら姉妹がそっくりだとはいえ、話し方や微妙な
仕草の違いから、あれは唯本人だったことが判断できる。
ゆえに、階段の近くにいるのは憂に変装した唯。
そして梓のそばにいる憂は本物のはずだ。
そうでなければ、澪から梓を助けてくれるはずがないからだ。
毎日のように平沢姉妹に接してきた梓だけに、
姉妹の見分け方は心得ているつもりだった。
それは健全で常識的な思考であったはずだった。
本来であれば……
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 17:11:12.51 ID:nqR5cia20
「すごい汗だよ?」
それは隣から聞こえた声。
そばにいる憂がハンカチを取り出して梓の顔を拭いていた。
それに反応する余裕がない梓は黙ってされるがままの
状態だった。恐怖のあまり、ハンカチが肌に触れるたびに
ナイフで命を削られているような錯覚に襲われた。
「そんなに震えてどうしたの? 具合でも悪いの? あずにゃん」
「…………!?」
梓が疑惑の目でそいつの顔を凝視した。
今のは聞き間違いだと信じたいが、間違いなく
目の前の憂が発言したものだった。
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 17:17:07.91 ID:nqR5cia20
(あずにゃん……ですって?)
その呼び名はけいおん部に入部して間もないころに唯から
頂戴したあだ名であり、唯以外の者が使用することはない。
通常であれば……。
(まさか……こいつ……もしかして…)
梓は背中に冷や汗が流れているのを感じていた。
口の中はすっかり乾いてしまって気持ちが悪いが、
今はそれでことではない。
梓は恐怖のあまり感覚が狂い、金縛りにあったように
体を動かせないままでいた。
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 17:22:48.50 ID:nqR5cia20
ドサッ
突然、人の倒れるような音がした。
何が起きたのかと梓が驚くと、
階段から降りてきた憂が倒れていた。
先程と同じようにうつ伏せの状態で、
後頭部のあたりから出血が確認できる。
まるでその姿は力つきて
倒れてしまったかのようにも思えた。
先程までは立っているだけでも
限界だったのだろうか。
「あーあ。お姉ちゃんが倒れちゃった」
梓のそばいる憂がゴミを見るような目で
倒れている者を見ていた。
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2010/07/13(火) 17:28:45.87 ID:nqR5cia20
(お姉ちゃんですって……!? 白々しい!
あんたが変装した唯なんでしょうが……!!)
梓は今にもそいつに食って掛かりたいのを我慢していた。
「あちゃー。死んだのかな?」
その憂は倒れている憂に近づいて頭を持ち上げていた。
傷の様子でも確認しているのか、その場に膝をついていた。
ちょうど梓には背中を見せている位置になる。
(……!!)
この時点で梓に最大の好機が訪れた。
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 17:33:12.72 ID:nqR5cia20
背後には玄関の扉があるので、今すぐここから脱出することができる。
しかし、どうしても確かめたいことがあった。
それは犯人についてだった。
今日リビングで頭を殴られて部屋に拉致されて以降、
梓を痛めつけたあの人物の正体は一体誰なのか知りたかった。
同時に、梓はそいつのことを殺してやりたいほど憎んでいた。
あれだけのことをされたのだから、それは当然の感情だ。
地獄の拷問に耐えながらも、いつか復讐してやると
心に決めていたのだ。
「うああああああああああああああああああああああ!!」
梓は大声を出しながらその人物へ接近した。
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 17:38:39.80 ID:nqR5cia20
その勢いのまま、そいつの頭を後ろからつかんで壁にぶつけた。
「ぎゃ」
そいつの悲鳴のようなものが聞こえたが、
梓は無視して行為を続行する。
何度も、
何度も壁に打ち付けた。
「げ」
打ちつけるたびに肉がつぶれるような音と
血が飛び出る音が聞こえたが、梓は容赦しなかった。
そいつの頭を掴む手に思い切り力をこめた。
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 17:44:26.72 ID:nqR5cia20
グチャ
ピチャ
そいつの頭から出る血があたりに飛び散る。
梓は返り血で洋服を汚す。
それでも梓は打ち付けるのを止められなかった。
文字通り、そいつを殺してやりたいほど恨んでいた。
あの時の痛みと恐怖が梓の心に鬼を生んでしまったのだ。
「ぐげ」
そいつは両手をだらりと垂らして倒れた。
21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 17:50:23.95 ID:nqR5cia20
壁にはそいつの血がこびり付いていたが、
梓はそれには目も向けず、そいつのそばに膝をつく。
白目をむいているそいつの顔を持ち上げ、
髪の毛をほどいてやった。
梓はふわりとしたボリュームのある
彼女のショートカットを注視した。
(やっぱり……こいつは唯だった)
梓がそう思った理由として、唯の髪の毛は
くせのある髪であるのに対して憂の髪は直毛に近い。
そして目の前にいるそいつの髪は前者のものだった。
それに加えてあずにゃんと呼んでいたこと、
梓の逃亡を阻止しようとドアノブに手を
かけていたことも根拠になりうるだろう。
22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 17:55:29.63 ID:nqR5cia20
その結論が梓の表情を凍らせた。
(なら……あいつの正体は憂だ)
梓はぞっとした。
階段から降りてきた人物が唯ではなく憂ということは、
いままで梓を拷問したのはかつての親友だったことになる。
憂は恐るべき変装技術で梓を欺いていたとでもいうのだろうか。
(でも、あいつも間違いなく唯だったはず)
今でも自分の考えに自信が持てなかった。
念のため、階段から降りてきた方も確認してみることにした。
同じように髪の毛をほどいてやる。
23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 18:00:10.06 ID:nqR5cia20
ショートカットの髪質を細かく確認したところ、
こちらも唯と全く変わらないくせのついた髪だった。
梓は流れ出す冷や汗をぬぐうこともなく、
両方の女の口元や目元、眉毛、体型などあらゆる部分に
違いを見つけようとしたが、何もかもが瓜二つだった。
まるで唯が二人いるかのように。
(……もうやめよう……今日はきっと疲れてるんだ。
家に帰ってゆっくり休めば、何もかも忘れられる)
ふらふらする足取りで梓は立ち上がり、玄関の扉を開いた。
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 19:05:15.52 ID:nqR5cia20
一歩外に踏み出て道路を見た瞬間、梓は猛烈な吐き気に襲われた。
(…!!)
なんと表現していいかわかならい感覚だった。
吐き気を通り越して失神してしまいそうな苦しみだった。
もう立っているだけでも限界に近かった。
手足が痺れて感覚を失っていくのが恐ろしかった。
(もう……だめ……がまんできない)
31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 19:11:08.13 ID:nqR5cia20
梓がその場に手をついて嘔吐しそうになった時、
今度は強烈な頭痛が発生し、何も考えられなくなった。
(頭が……ぐるぐると回っている……気持ち悪い……)
梓の意識はそこで途絶えた。
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 19:16:09.19 ID:nqR5cia20
二、
梓は暗闇の世界にいた。
「~~~~~♪」
闇にわずかな光が差すような感覚で、
誰かの鼻歌が頭に流れてきた。
「~~~~~~♪」
梓にとって聞き覚えのあるその曲は、
ふでペン・ボールペンだった。
楽しかったけいおん部の思い出が形となって
梓を祝福しているような気がした。
次第に気分が高揚し、梓の意識が覚醒していく。
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 19:21:23.42 ID:nqR5cia20
「目が覚めたの?」
その声に反応して梓は目を開けた。
「ここは……?」
「けいおん部の部室だよ。あずにゃんが気持ちよさそうに
寝てたから、起きるまで待っててあげたの」
梓は唯に膝枕されて頭を撫でられていた。
顔を持ち上げてあたりを見渡すと、他には誰もいなかった。
窓から真っ赤な夕日が差し込んでいた。
「他の皆はもう帰ったよ。
私だけあずにゃんとずっと一緒にいたの」
「そ、そうなんですか。すいません。迷惑かけて」
「全然気にしてないよ。
可愛い後輩の面倒をみるのも先輩の務めだよ」
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 19:27:13.32 ID:nqR5cia20
屈託無い顔で笑う唯は、いつもの唯だった。
「ところでさ、あずにゃんはずっとうなされていたけど、
もしかして怖い夢でも見たの?」
「え? 私、うなされてましたか?」
「うん。すごく苦しそうな顔をしてたよ。それに泣いているし」
「…?」
梓が自分の顔に手をあてると、涙を流していることに気がついた。
「夢を……見ていたんだね。とても怖い夢を……」
梓は唯に抱きしめられた。
抱きしめられた瞬間の安堵感は
形容しがたいものだった。
35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 19:33:11.47 ID:nqR5cia20
梓は涙が止まらなかった。
「はい…本当に……本当に怖い夢でした……」
「もう大丈夫だよ。私が一緒にいてあげるからね」
「…………ありがとう」
梓は気がすむまで唯の胸の中で泣き続けた。
その暖かさに包まれながら、
暗い感情が洗い流されるような気がして心地よかった。
その後は何事もなく、梓は家に帰ってぐっすり寝た。
36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 19:37:31.31 ID:nqR5cia20
三、
次の日の放課後、梓は音楽室に直行して
先輩達が来るのを待っていた。
現在、音楽室にいるのは梓と亀のトンちゃんだけだ。
待っていても暇なので、何気なくトンちゃんにエサを与えていた。
(1人……か)
梓は水槽を眺めながら妙な孤独を感じていが、
やがて音楽室の扉が開かれた。
「来てるのは梓だけか?」
一番最初に来た先輩は秋山澪だった。
37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 19:42:28.61 ID:nqR5cia20
「はい。待ってたんですけど、まだ誰も来てないんですよ」
「ああ。唯達は掃除当番だからちょっと遅れてくるよ」
「そうなんですか……」
梓が水槽の中の亀を見ながら呟いた。
「来年は……」
「え?」
「澪先輩達が卒業したら、私は一人ぼっちになるのかな……」
不安そうな梓の顔が水槽に写っていた。
38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 19:49:34.33 ID:nqR5cia20
それは反応に困る話題だったため、
澪は難しい顔をしながら少し考えてこう言った。
「大丈夫だよ。私と律だって廃部寸前だったこの部を
復活させたんだから。
梓なら真面目だし、きっと立派な部長になれるよ。」
「……ありがとうございます。気休めでもうれしいです」
「そんな……気休めで言ったんじゃないよ……」
「__うるさい!!」
「__!?」
澪は驚いて梓の目を凝視した。
梓に怒鳴られるのは初めてだったので、
心臓を飛び出すんじゃないかと思うほどの衝撃だった。
39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 19:54:26.13 ID:nqR5cia20
「私は毎日不安に思っているんだ!!
いつかこのけいおん部が廃部になるんじゃないかって!!
今年だって部員が一人も入ってこなかったじゃない!!」
ものすごい剣幕だった。
普段梓が唯達の不真面目さに
怒鳴るようなものとは別種のものだった。
澪はなぜ梓がここまで怒っているのか理解できなかった。
恐らく、梓は日頃から溜めていたストレスをここで
発散しているのではないのだろうかと分析した。
「澪先輩はいいですよ! 同年代の仲間が四人もいて!!
私なんて一人ぼっちですよ!? 先輩達が卒業したら
私は一人ぼっちなの!! このトンちゃんみたいに!!」
「……梓、落ち着いて……今日はどうしたんだ。
いつもの梓らしくないぞ……」
40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 20:00:46.56 ID:nqR5cia20
澪は梓にゆっくりと近づいて肩に手を置こうとしたが、
「触るな!!」
梓に冷たく払いのけられた。
瞬間的にカッとなった澪は、大きく息を吸って梓に怒鳴った。
「__梓!!」
「ひ!」
梓はびくっと震えて床に座り、
子猫のように縮こまって鳴き始めた。
声を押し殺して泣いているその姿は哀れだった。
梓とて自分でも最低のことをしている自覚はあったが
暴走する感情を制御できなかった。
42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 20:06:32.81 ID:nqR5cia20
入部以来、自分を大切にしてくれた先輩に対しての
この仕打ちは、誰から見ても酷すぎる。
自らがそれを分かっているからこそ辛いのだ。
澪は梓を呆然としながら見続けていたが、
音楽室の扉が開かれて唯が入ってきた。
唯はうずくまって泣いている梓を見て取り乱した。
「あずにゃん!? __どうしたの!?」
唯は梓に駆け寄って抱きしめた。
梓は澪の時とは違い、唯に対しては抵抗しなかった。
43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 20:11:37.57 ID:nqR5cia20
唯は昨日のように梓を抱きしめながら頭を撫でていた。
「ごめん澪ちゃん。少し席を外してくれないかな?
あずにゃんと二人っきりになりたいの」
唯が澪と目線を合わさずにそう言った。
澪は何か言いたそうな顔をしていたが、
ため息をついた後、部屋を出て行った。
梓は唯にしがみつきながら震えていた。
「うぅ…………ごめんなさい……」
「いいんだよ」
「私……いらいらしてて……澪先輩に酷いことを……」
「大丈夫だよ」
45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 20:17:31.72 ID:nqR5cia20
「どうしてだろう……唯先輩といると落ち着きます……」
「ふふ。そう言ってもらえるとうれしいな」
唯に抱きしめられると暖かくていい匂いがした。
頭を撫でられると心がふわっとして落ち着いた。
梓は……唯が愛しくてたまらなかった。
「欲しいです……唯先輩が……」
「__あ」
梓に胸を触られた唯が短い声を発した。
47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 20:50:07.87 ID:nqR5cia20
「やわらかい…」
梓は唯の制服の上からこねるように触っていたが、
だんだんと興奮して唯のブレザーを脱がしてしまった。
Yシャツもブラジャーも脱がしていくが、
唯は抵抗しなかった。
梓は唯の胸に顔をうずめた。
両手で唯の乳房を持ち上げながら、
吸い付いてその感触を味わっていた。
「やさしい匂いがします……唯先輩の匂い……」
梓は唯の背中に手を回しながら、
赤子のように甘えていた。
唯はそんな梓を責めることもなく、
ただ頭を撫でていた。
48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 20:55:59.30 ID:nqR5cia20
それが心地よくて、梓はいつまででもこうしていたいと思った。
「キス……してもいいですか?」
涙目で上目遣いの梓がそう言った。
梓は唯の他には何も考えられなくなっていた。
もう唯以外は誰も必要としていなかった。
「__ごめんね。それは無理」
対する唯の反応は淡白だった。
唯は申し訳なさそうな顔をして梓から顔をそらした。
49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 21:01:16.88 ID:nqR5cia20
今の梓の心はガラス細工のように繊細で崩れやすかった。
それを支えてくれた母のような存在に否定されたことで、
梓は悲鳴をあげたいのを必死で我慢していた。
「__どうしてですか?」
それは唯にではなく、この世界の不条理に対して
放たれたような言葉だった。
唯は目をつむりながらこう答える。
「もう時間切れなんだよ」
「……? どういう意味ですか?」
「ほら、__が来てるよ?」
唯は音楽室の扉を見ながらそう言った
50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 21:05:28.07 ID:nqR5cia20
何か嫌な予感がして梓はおびえそうになるが、
歯を食いしばって耐えた。
梓はゆっくりと唯の視線の先を追ってみた。
「………………………………………………え?」
音楽室の扉は開けられている。
扉を開けた体勢でこちらを見ている人物が一人いた。
中野梓だった。
(うそ…………でしょ…………!?)
51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 21:10:14.36 ID:nqR5cia20
その梓は患者衣を着ていた。
彼女の顔色はその服と同様に青白くて恐ろしかった。
まるで病院から抜け出してきた入院患者のようだった。
「あ………………う………………ああ…………」
梓の歯が震えてカチカチと音を鳴らしていた。
反応しようにも体が固まってしまって反応できない。
圧倒的な恐怖で瞳孔が開いており、
手足は機能を失うように痺れてしまった。
52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 21:16:34.06 ID:nqR5cia20
「……」
そいつは無言で梓を親の敵のように睨んでいた。
特に襲い掛かってくる様子もなく、扉の所で立ち尽くしている。
髪の毛は下ろしていてストレートのロングヘアーの状態だ。
その姿は寝起きに鏡に写る自分の姿と瓜二つ。
無論、現時点では別人という可能性は完全に否定できない。
だが常識で考えれば、
患者衣を着て音楽室を訪れる人などいるわけがない。
(……………………あいつは………一体誰?)
梓は混乱する頭をなんとか落ち着かせながら、
答えを探そうとしていた。
53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 21:22:26.50 ID:nqR5cia20
しかしすぐに無駄だということを悟った。
(この世界が……狂っているんだ……!!)
そう思った瞬間、目に見える世界がくるりと
反転し、梓は床に手をついて嘔吐した。
「_______おえっ」
凄まじい勢いで異の中のものが逆流してきた。
胸がむかついて、気持ち悪くて、寒気がして
死んでしまいたくなった。
「______________うえ」
吐いたものが音を立てて床に落ちていった。
54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 21:28:04.65 ID:nqR5cia20
その勢いでしぶきが梓の服にかかるが、
そんなことを気にする余裕はなかった。
唾液と鼻水を垂らしながら吐き続けていたが、
もう吐き出すものがなくなると、その場に倒れた。
酸味のかかった激臭が音楽室に充満した。
梓は目がかすんで何も見えなくなりそうだった。
気が遠くなってこのまま気絶するのだと思っていた。
だが、もう一人の梓がそれを許してくれなかった。
「……」
そいつは無言で梓の体を持ち上げた。
(何を……するつもり……_?)
55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 21:34:11.64 ID:nqR5cia20
梓は死人のような顔でそいつにされるがままの
状態だったが、やがて何かに乗せられた。
車椅子のようだった。
「何をするの……?」
梓は声に出して言ったが、返事が返ってくることは
なかった。
そいつは淡々とした様子で梓の車椅子を押して、
部屋の外へ連れ出そうとしていた。
強烈な死の恐怖を感じ、梓は唯に助けを求めようと、
したが、いつのまにか消えていた。
56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 21:40:25.51 ID:nqR5cia20
梓は唯の名前を叫び続けたが、
むなしく梓の声が木霊するだけだった。
やがて車椅子は部屋の扉をくぐった。
(……………!!)
梓は発狂しそうなほど驚愕した。
そこにあるはずの廊下や階段がなかったからだ。
ここは手術室のような部屋だった。
薄暗くて部屋の全貌を見ることは出来ないが、
中央にベッドのようなものに寝せられてた
少女の姿があった。
57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 21:45:24.66 ID:nqR5cia20
少女の周りに医者と数人の看護士がいて、
オペをしている最中だった。
医者は少女の体にメスを入れ、臓器を取り出そうとしていた。
ここにあるのは、血と薬品と体臭が混じった匂い。
梓は再び吐きそうになったが、すでに
もどすものは異の中に残っていなかった。
「……」
相変わらず、もう一人の梓は無言で佇んでいたが、
しばらくすると注射器を取り出した。
それを見た梓がパニックを起こしそうになり、
ここから逃げ出そうとしたが、体が動かなかった。
手足を見ると、いつのまにか
車椅子にベルトで拘束されいる。
58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 21:50:11.01 ID:nqR5cia20
「薬だから……」
そいつは初めて言葉を発したかと思うと、梓の腕に注射した。
「……………………………………ぁぁ」
梓は力の限り叫ぼうとしたが、出せたのは蚊の鳴くような
声だけだった。
意識が混乱し、迷走し、全ての思考回路が切断されて
しゃべることさえできなかった。
(これで……この……世界とはおさらばってわけね……)
最後にそう思いながら梓は意識を失った。
59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 21:56:14.77 ID:nqR5cia20
四、
目が覚めると、ここは砂浜だった。
定期的に押し寄せる波はすんでいて透明だった。
足元の砂は照りつける夏の太陽で焼けていて、
素足でいるのは熱くてしょうがなかった。
(足が熱い……?)
そう疑問に思いながら自分の格好を確認し、
水着を着ていること気がついた。
デジャブ。
梓はこの場所に見覚えがあったのですぐに思い出せた。
ここは一年の時に合宿で訪れた紬の別荘だ。
60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:01:09.46 ID:nqR5cia20
陸地に琴吹家所有の別荘がある。
一年前に見たそれと寸分違わない景色と夏の暑さ。
なんともバカバカしいと思った。
タイムスリップしたわけではない。
ここは夢の世界なのだと一瞬で気がつくことができた。
夢の中で夢を見ていることに気がつくという滑稽さに
苦笑しそうになりながらも、海へ入った。
そのまま海に浸かりながら塩水の匂いと
ゆっくりと流れる雲を眺めていると、
異変はすぐに起きた。
雲はありえないくらいの速さで動き始め、
やがて雷雲に変わって雨が降ってきた。
61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:06:19.57 ID:nqR5cia20
雨は一瞬で強さを増し、シャワーのような勢い
になった。
「おーい! 梓ー!! そこにいたのか」
遠くから誰かが呼んでいた。
後ろを振り向くと、澪が別荘から走ってくるのが
確認できた。
雨で濡れる砂浜を駆けている先輩の姿を見て、
妙に懐かしく感じるのが不思議だった。
まるで数年ぶりに澪に会うような気分だった。
「梓、まだ一人で遊んでいたのか?
この天気だし、今日は泳ぐのは諦めよう。
早く別荘に戻るぞ」
62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:13:43.16 ID:nqR5cia20
「え? 他のみんなは?」
「もうとっくに戻ったよ。
梓の姿が見えなかったから探しに来たんだ。
どうして雨の中、ずっと浜辺にいたの?」
「……」
梓にとっては答える必要のない質問だった。
目が覚めたらここにいたので、いつからここに
いたかなんて分かりようがない。
それよりも澪に言いたいことがあった。
「あの時はすいませんでした……私、イライラしていて、
澪先輩に八つ当たりをしてしまいました」
「……いきなり何の話?」
今度は澪が首をかしげる番だった。
63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:18:13.23 ID:nqR5cia20
それはこの世界の澪にとって、
記憶にない事柄だったからだ。
しかし梓はあの世界でのことをはっきりと
覚えていて、いつか澪に謝りたいと思っていた。
たとえそれが梓の知っている澪とは違う人であってもだ。
「えっと……なんで梓は泣いているの?
私、梓に八つ当たりされた覚えがないぞ……?」
「いいんです。ただ一言謝りたかったんです……。
ごめんなさい。変なこと言って……。
でも私のこと嫌いにならないでください……」
「あはは。悪い夢でも見たんだろ。
私が梓のことを嫌いになるわけないじゃないか。
他のみんなも梓のことが大好きだよ」
「はい……うれしいです……先輩……」
64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:23:51.43 ID:nqR5cia20
それは梓が一番聞きたい言葉だった。
けいおん部という大切な居場所。
そこに所属することが梓の生きがいだった。
梓の心の中に暖かい感情が生まれた。
梓は涙を拭きながら澪に抱きつこうとしたが、
澪の体は消えていた。
「…………………!!?」
全周囲を見渡しても澪の姿は確認できなかった。
つまり、一瞬で消えてしまったのだ。
まるで煙のように。
66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:30:43.59 ID:nqR5cia20
澪が消えた後で身を切り裂くような寂しさが
残ったが、梓はすぐに落ち着きを取り戻した。
ここは夢の世界なのだから、異変が起きるたびに
いちいち驚いていてはきりがないと判断したのだ。
雨は今も降り続けている。
先程より勢いは弱くなって小雨ほどになった。
広大な海の水面をじっと見てみると、
地平線の彼方まで続いているように思えた。
(いつになったら……この夢は終わるのかな……)
気力を失った梓が浜辺に座り、ボーっと海を
眺めていると、人の話し声が聞こえてきた。
68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:36:23.28 ID:nqR5cia20
無論、あたりに人の姿はない。
その声は館内放送のように何処からか聞こえてくる
特殊なものだった。
「ねえ、聞いた? 二年の生徒の話……」
「聞いた聞いた。四階から飛び降りたんだって?」
「そうそう、何でも薬をやってて頭が
おかしくなったんだって」
「怖いよねぇ~。幻覚でも見えてたんじゃないの?」
話し声から察するに、女子高生の会話のように思えた。
女の子同士の他愛ない噂話のようだが、
なぜか梓には他人事のようには思えなかった。
69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:41:25.73 ID:nqR5cia20
「その女の子、部活をやってたんでしょ?」
「確かあの有名な……けいおん部だっけ?」
「ギターがすごくうまくて有名な子だよね。
私、あの子のファンだったのに……。
本当に残念だよ……」
「あの子供っぽいツインテール、可愛かったよぇ。
一体何が不満で薬なんてやったんだろうね。
人って分からないなぁ」
それを最後に会話は聞こえなくなった。
梓は眺めていた海に変化が起きているのに気がついた。
水面のはるか先に人影が浮かんできたのだ。
70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:46:20.89 ID:nqR5cia20
遠く離れすぎてそのシルエットは親指程度の大きさ。
それはまるで蜃気楼のようにあやふやとしたものだが、
遠めでも分かるくらいの狂気が感じられた。
(また……あいつが現れたんだ……)
水面に浮いているのは自分の分身だった。
あの時と同じ服を着ていて、
氷のように冷たい無表情だった。
死人のような気味の悪い肌が印象的だった。
そいつは直立不動のまま水面をすーっとすべり、
梓に接近した。
「な……!!」
71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:52:05.81 ID:nqR5cia20
梓はそいつに手を引かれ、海の中に引きずり込まれた。
水の中で息が出来ない梓に抱きつきながら、
そいつは耳元で語りかけた。
「戻ろう。現実に」
水中にもかかわらず、そいつの言葉が
はっきりと聞こえた。
そもそもなぜそいつが水中で話が
できるのかと考えようとしたが、
そんな些細なことはどうでもよくなった。
梓は息が苦しくて返事をするどころではないが、
かまわずそいつは話し続けた。
72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 22:57:21.07 ID:nqR5cia20
「もう夢を見るのは……終わりにしよう。
あなたはもう戻ることはできない場所まで
来てしまったの」
「だからね、一緒に行こう?」
そいつはもう梓を睨んでいない。
慈悲深い聖母のような目で微笑んでいた。
そいつと目を合わせると。
梓は夢から覚めるような不思議な感覚に襲われた。
水の中の温度は次第に暖かくなってきた。
その温度は安らぎを感じさせ、梓は
何もかもがどうでもよくなってきた。
死が間近に迫ろうとしていた。
73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 23:02:03.11 ID:nqR5cia20
梓はそいつの手を握ってこう思った。
(いいよ。早く連れて行って……)
それは梓の最後の願いだった。
「あずにゃん……」
空耳に違いないが、
大好きだった先輩の声が聞こえた気がした。
そして梓の意識は永遠に途絶えた。
74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 23:07:33.49 ID:nqR5cia20
五、
数日前の新聞にこう書かれている記事があった。
『○月×日 ○○県の桜ヶ丘高校に所属する
二年の女子生徒が四階から飛び降りた。
女子生徒はすぐに病院へ運ばれたが、
その日のうちに死亡した。医者の話によると
落下した際に頭を強く打ったことが原因と見られている。
なお、警察の調べによると、女子生徒はドラッグを
服用していたことが明らかになっているとのこと』
それを読んでいた娘が顔を上げ、
キッチンで朝食を作っている母親にこう言った。
「ねえ、母さん。例の女子高生の事件知っているでしょ?
薬って怖いよね。まさかうちの学校の生徒から自殺者が
出るとは思わなかったよ」
75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 23:12:09.26 ID:nqR5cia20
「あなた、まだその新聞を読んでたの?
……薬は一度やったら止められないし、
人生を棒にする恐ろしいものなの。
あなたは絶対にやったらだめよ?」
「わかってるよ」
そう言うとその女子生徒は席を立ち、
カバンを持って登校の準備を始めた。
「あら、朝ごはん食べていかないの?」
玄関で靴を履いている娘を呼び止める母。
娘は笑顔でこう答えた。
「うん。今日は早く学校に行ってやらなくちゃ
いけない事があるの。それじゃ行ってきます」
その娘のカバンには、学校用に製作した
ドラッグ防止を呼びかけるポスターが入っていた。
『最後の願い』 THE END
82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/13(火) 23:32:42.48 ID:nqR5cia20 [60/60]
作者よりネタバレ。
一から四まで梓の走馬灯。実は物語の最初から梓は病院にいた。
全ては死ぬ直前に見た梓の妄想 (悪夢と理想の狭間の精神世界)
四の最後で梓が昇天した(病院で死んだ)
梓がドラッグをやっていたのはけいおん部の
将来に不安を感じてヤケクソになったため。
もう一人の梓は妄想世界の梓に現実を教えようとして現れた。
自分を律しようとする心が生み出した想像上の産物。
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