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澪「神国(かみくに)」

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 15:30:47.50 ID:iZlv+YX40 [1/29]
『あひょぼ』

澪「  」

『ね、あひょぼ』

澪「  」


たれみずの くちはにくだる わらべうた
おととならずに くるうてきえる

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 15:34:11.95 ID:iZlv+YX40 [2/29]
『あひょぼ』

澪「  」

『ね、あひょぼ』

澪「来」

『あひょぼ』

澪「ないで」

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 15:39:14.34 ID:iZlv+YX40
くらくもあり
かがやいてもあり
かげひなたもあるところ

わらべのかたちした
ひとにあらざる

あそびをせがむ

澪「来ないで」

『あひょぼ』

わらしの ころまで かみだとて
このこの かたちの
おそろしき
かみと おもわず
おにか あくたがみか と

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 15:44:58.76 ID:iZlv+YX40
はるか むかし
まよわのおおきみ という童あり
おやのかたきと
あなほのみこ 弑す 

大逆のために
やきころさるる

まよわしがみ
ただれがみ
このわらし
まよわのおおきみ

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 15:48:06.86 ID:iZlv+YX40
ただれたからだを
きにもせず
くろかみのむすめに
あそびを せがむ

おのれは
かみだとて
ただれて かみも なくに

『あひょぼ』

澪「来ないで」

『あひょぼ』

澪「来な」

『あねさま』

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 15:49:14.73 ID:iZlv+YX40
律「禁足」

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 15:54:50.81 ID:iZlv+YX40
澪が行方知れずとなって10日。
軽音部の面々は、手をわけて彼女の行方をほうぼう捜す。
しかし 音信はまったくつかめず。

そして、律が足を止めたのは
さる『禁足地』の前。

その立て札にはこうある。

『一度入れば二度と出てこれない所
 入れば必ず祟りがある』

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 16:01:39.88 ID:iZlv+YX40
澪の家のすぐ裏手にある
この場所。
いつの頃からかは知られていないが
進入は許されず、祟りとして報いがあるとの故。

この場所だけは、小さい頃から、遊びの場所にしなかった。
高校に入り、新しく遊びの場所を見つけた後には
記憶からも遠ざかっていたのだが。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 16:11:00.69 ID:iZlv+YX40
「ここ…」

律「!」

律「ムギか?」

紬「いやな、所…」

17時をわずかにまわったあたり。

紬「『一度入れば二度と出てこれない所
   入れば必ず祟りがある』」

紬「『入れずの所
   帰れずの所』」

立て札を読み上げる紬。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 16:16:28.70 ID:iZlv+YX40
紬「禁足地ね。」

律「ああ。」

二人の影は夕日を受けて
まっすぐに伸び
目の前の小怪を、わずかに犯す。

律「昔から、近づくな、決して入るなって、」

律「大人やじいちゃんばあちゃんから、言われてきたとこ、だ。」

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 16:24:49.11 ID:iZlv+YX40
律「そんなとこが近くにあって、」

律「澪は特にこわがってたんだ。」

律「ここと、ここに関する話を。」

二人の目の前の禁足地は
四方20m程度の、小さな木立。

紬「そう…」

そして、澪の失踪。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 16:30:01.44 ID:iZlv+YX40
律「この林は、別の世界の入り口、」

律「"かみのくに"の入り口だって。」

律「ずっと昔から、そのくにの神さまたちが」

律「気に入った、綺麗な娘を、昔から喰ってきた場所だって。」

紬「神かくし、ね。」

律「そんな上等な、もんじゃない。」

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 16:36:08.52 ID:iZlv+YX40
律「…」

律「そろそろ他のみんなと合流しないと。」

紬「そうね、そんな時間、ね。」

律「…」

さそうかみは
まよわのみこ
きにいたものを 
まどわし
まよわす。

"目弱き"ゆえに。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 16:42:27.31 ID:iZlv+YX40
田井中家の食卓は今日も暗い。
姉弟二人だけで食卓を囲む。
母親は、澪の家のほうに行っている。

瀬戸物と箸の、かちゃ、かちゃ、という音だけ。

律「…」

聡「…」

聡「ねえちゃん。」

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 16:50:20.63 ID:iZlv+YX40
聡「…」

律「…」

聡「おれさ、澪姉が居なくなった日、」

聡「澪姉、見たんだ。」

律「…」

聡「入らずの林で。」

律「…」

聡「澪ねえが、あそこの、入り口ん、とこに居るのを。」

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 17:05:11.58 ID:iZlv+YX40
聡「おれ…おれさ、」

律「…」

律「飯食ったら早く寝ろ。」

聡「…」

聡「うん…」


そして、日が変わるころ。
律は、あの木立の前。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 17:06:55.30 ID:iZlv+YX40
立て札に唾吐きつける。

あらはき。
まよわざれ。


馬止めをまたぎ、禁足地のうちへと、
入る。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 17:07:36.95 ID:iZlv+YX40
梓「目開(まあけ)」

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 17:12:56.88 ID:iZlv+YX40
昏い林のなかを、歩くだけ。
五歩、六歩あとに、焼け爛れた子供のようなものが、娘達のあとにつづく。

終わりの見えぬ林は林ではなく。
五歩、六歩後より聞こえる
子供の、うれしそうなわらべ歌。

その子は焼けた爛れ、脂肪が所々白く肌に浮かぶ。

四人の娘達はただ歩む。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 17:22:25.72 ID:iZlv+YX40
紬「聞いたことのない歌…」

澪「ずっと歌ってるんだ。」

梓「あの子が?」

澪「ああ…」

律「歌って、わたしらの後付いて来るだけ、か?」

澪「それと、遊んで、欲しいって。」

紬「古い古い、ずっとずっと昔の歌のよう…」

紬「私達がずっとずっと昔に、忘れてしまった…」

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 17:30:28.43 ID:iZlv+YX40
律は立ち止まり、王(おほきみ)の方を向く。

律「お前は楽しそうに。楽しいのか?」

『うん。あひょぼ。』

童の瞳の無い白が律に向き、笑む。

『あひょぼ』

紬「…」

紬「この子と遊んであげれば、もしかしたら…」

帰れる?

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 17:31:01.79 ID:iZlv+YX40
紬「不帰(かえらず)」

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 17:41:22.66 ID:iZlv+YX40
紬「遊んで、あげようか?」

紬が王に答える。

『うん、あひょぼ!』

そう言うと、紬の方へ球のようなものを投げてよこす。
両手で受ける紬。
まじまじと球を見る。
球ではなかった。

人の首級(しるし)。
ざんばら髪で髭面の、五十路男の首級。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 17:50:20.94 ID:iZlv+YX40
紬「ひっ…」

紬がそう呻くと、生首は目を見開く。

『あそぼ。』

童の姿が、ゆっくりと、かたちを変える。
少女のかたちへ。
よく知った少女のかたちへと。
首級は琵琶へと。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 17:50:52.03 ID:iZlv+YX40
唯「葬送」

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 17:56:56.75 ID:iZlv+YX40
唯は琵琶をかき鳴らし歌いはじめる。
童が歌っていたものと同じうた。

唯はうたう。


36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 18:03:15.78 ID:iZlv+YX40
友のために、人のために歌をうたう。
葬送の歌を。

すがたかえ かたちかえども
終わりは かならずあり。

ひとにも くににも しゅ(種)にすら。
終わりは かならずある。
ならばこそ 天の川の 乳の流れへと
皆人の思いを流し 消え行け












皆人よ 消え行け

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 18:14:22.08 ID:iZlv+YX40
そこには唯の姿だけがあった。
琵琶を奏で、腐臭と屍が埋める大地を歩む唯が。

皆人よ 消え行け。



おわり

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/07/07(水) 18:30:13.46 ID:iZlv+YX40 [29/29]
少し解説

眉輪王…王殺しのメタファー。
    すなわち、消滅を能動的に作動させる存在。自身もまた消滅。

穴穂命…安康天皇。殺される王のメタファー。
    すなわち、消滅という現象とその媒介を意味する。

禁足地と少女たち…供犠とそのための聖別としての隔離。

眉輪王から唯への転身…メタモルフォーゼ

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