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( ^ω^)東から西からのようですξ゚⊿゚)ξ

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 19:47:25.95 ID:u65IMmex0


一人の男が西へ旅をしていた。

【ずっと東の方】


( ^ω^)「何か面白いものでもないかお」

男はブーンといった。
旅の理由は特にない。

( ^ω^)「お? あんなところに、家があるお!
      これは突撃するしかないお!!」

ブーンは両手を広げ、家へ走って近づく。
周りを見渡してみても他に家はない。
それどころか人もいない。

( ^ω^)「すみませんおー。誰かいませんか?
      よければ、一泊させてくれませんかお?」

これで返事がなければ、無人とみなし、勝手に侵入する気まんまんだった。

( ´_ゝ`)「こんなところに人が来るとは……」

しかし、人が出てきてしまった。

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 19:50:16.38 ID:u65IMmex0


( ^ω^)(家の中を物色してやろうと思ってたのに……」

( ;´_ゝ`)「後半、口から出てるがいいのか?」

とりあえず、ブーンは家の中に入れてもらうことになった。


( ´_ゝ`)「小汚い服はその辺りに置いといてー」

( ^ω^)「小汚い……」

確かにブーンの服は薄汚れていた。
これでもそこそこの月日を旅しているのだから、しかたがない。

( ´_ゝ`)「んで、これ着てー」


4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 19:53:27.98 ID:u65IMmex0


投げ渡されたのは、男の物と思われる服だった。
長身で細身の男の服。
ブーンは自分の体を見てみる。

( ^ω^)(絶対入んねーお)


身長は低く、ぽっちゃり型。


( ´_ゝ`)「あwwww 入んない?wwww」


呆然としていたブーンを、ニヤケた顔をした男が見ている。
手に持っている大きめの服を見て、確信犯だとブーンは悟った。

とりあえず、殴っても問題ないだろう。



5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 19:56:16.50 ID:u65IMmex0


( ^ω^)「一人で暮らしているんですかお?」


男の貸してくれた服に身を包み、ブーンが尋ねる。
家の中には家具は最低限の物しかなく、食器や歯ブラシなども一人分しかない。


(メ´_ゝ`)「ああ」

答える男の顔には、先ほど殴られた傷がある。

( ^ω^)「寂しくないんですかお?」

一人旅をしているブーンが言えたことではないが、一人は寂しいのではと思う。
まだ出会ってから十数分程度の付き合いだが、男が陽気な性格をしているのはよくわかった。
こういった性格の者は人といることを好むはず。


(メ´_ゝ`)「うーん。別に、慣れれば平気かな」


男の言葉に嘘はないようだ。
ブーンは少し拍子抜けした。


6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 19:59:20.44 ID:u65IMmex0


(メ´_ゝ`)「それよりさ、あんたは何で旅してんの?」

( ^ω^)「あ、ボク、ブーンって言いますお」

( ´_ゝ`)「おお。それはどうもご丁寧に。
      オレは兄者だ」


特に理由らしい理由のないブーンは、適当に話をそらす。
そらす必要もないのだが、何となく決まりが悪い。


( ^ω^)「てか、傷治るの早いwww」



7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 20:02:27.70 ID:u65IMmex0


二人は適当な話を続けた。
ブーンも兄者も、他人と話すのは久しぶりのことだったため、話は自然と盛り上がる。

( *´_ゝ`)「うはwwwmjdwwwww」

( ^ω^)「兄者、兄者、米粒飛んでるおwww」

適当な話で楽しみ、食事をし、風呂に入る。
そんなことがブーンにとってはちょっとした贅沢だった。

( ´_ゝ`)「いやー。旅とかよくできるよな」

( ^ω^)「結構楽しいお。兄者もやってみるといいお」

客人用の布団などない兄者宅だったので、ブーンは兄者の上布団を敷いて横になる。

( ´_ゝ`)「ちょっwww 許可してないしwww」

他愛もない会話に花を咲かせていた時、ブーンの視界に何かが入った。

( ^ω^)「?」

気になって見てみると、写真立が置いてある。
今日1日この小さな家にいたというのに気づかなかった。

( ^ω^)「家族写真かお?」


8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 20:05:21.49 ID:u65IMmex0


どこの格闘家ですかといわんばかりの筋肉を持った女の人。
いかにも中間管理職ですといった風の男の人。
スレンダーな体をした女性。
可愛らしい笑みを浮かべている女の子。
楽しそうに笑っている幼い兄者。


そして――


( ^ω^)「なんで、この人だけ塗りつぶされてるんだお?」

( ´_ゝ`)「……この世で一番死んで欲しい奴だから、だよ」



9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 20:08:18.12 ID:u65IMmex0


一人の女が東へ旅をしていた。

【ずっと西の方】


ξ ゚⊿゚)ξ「……はぁ、誰もいないんだから」

女はツンといった。
これといった旅の理由はない。

ξ ゚⊿゚)ξ「あら? あんなところに家が……。
      誰かいるかしら?」

ツンは人がいることを期待しながら、家へ近づいた。
見たところ、それほど古い家というわけでもなさそうだ。
おそらく、まだ誰か住んでいるのだろうと推測し、扉を叩いた。

ξ ゚⊿゚)ξ「すみません。今日1日、泊まらせてもらえませんか?」

言ってから、変態の家だったらどうしようかということに思い当たった。


10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 20:11:18.04 ID:u65IMmex0

(´<_` )「うちでよければいいが……」

しかし、それは杞憂に終わる。
出てきた男は誠実そうな顔をしていた。

ξ ゚⊿゚)ξ(よかった……)

(´<_` )「まあ、小汚い家だが……どうぞ」

男に招かれ、ツンは家の中へ入っていった。


(´<_` )「これ着て。その服洗濯するから」

ξ ゚⊿゚)ξ「え、そんなのいいですよ」

(´<_` )「遠慮しなくていいよ。
      っていうか、その服のままだと家が汚れるし」


12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 20:14:16.12 ID:u65IMmex0

さらりと酷いことを言われたような気がしなくもないが、言っていることは正論だった。
男物の服を渡して、男は一旦部屋を出る。

ξ ゚⊿゚)ξ「…………」

ツンは服を脱ぎ、渡された服に袖を通す。
男は背が高いため、シャツだけ着てもワンピースのようになる。
ズボンを履かなくてもいいかと思えた。

<ズボンも履いてくれよ

扉の向こう側から声が聞こえた。

ξ;゚⊿゚)ξ「わかってますぅ」

自分の行動が見透かされたようで、焦りを感じつつも、ツンはズボンを履いた。
ウエストがぶかぶかだったので、近くにあった紐をベルト代わりに使う。

(´<_` )「明日には乾くと思うから」

着替え終えたツンから服を預かり、洗濯機に入れる。

ξ ゚⊿゚)ξ「あ。そういえば、まだお名前を言ってなかったですね。
       私はツンです」

(´<_` )「弟者です」

名前だけの簡潔な自己紹介。


13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 20:17:21.84 ID:u65IMmex0

気まずい沈黙が流れる。

ξ;゚⊿゚)ξ(うう……。気まずい……)

旅を始めてから、他人をコミュニケーションを取る機会は確実に減っていた。
さらに、ツンは元々男の人と仲良くするタイプの女ではなかった。
何を話していいのか見当もつかない。

(´<_`;)「あー。その、別にあんたのこと邪魔だとか思ってないから」

先に言葉を発したのは弟者のほうだった。

ξ゚⊿゚)ξ「え?」

(´<_`; )「ここ最近、人と話すことなんてなかったから……。
      なんか、上手く話せなくて……」

ツンの沈黙を、邪魔だと思われていると取ったのか、弟者は眉を下げながら言う。
一生懸命言い訳をするその姿を見て、可愛いと思った。

ξ*゚⊿゚)ξ「ううん。大丈夫です」

男の人に可愛いというのはおかしいような気がしたが、他に形容詞が見つからない。


14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 20:20:24.39 ID:u65IMmex0

ぎくしゃくした雰囲気が完全に消えたわけではなかったが、幾分か空気は軽くなった。
弟者が作ってくれた美味しいご飯を食べて、お風呂まで用意してもらった。


ξ ゚⊿゚)ξ「いろいろありがとうございます」

(´<_` )「いや。困ったときはお互い様さ」


一人暮らしをしているらしい弟者の家には、客人用の布団がなかった。
ソファで寝ると主張したツンだったが、客人。しかも女の人をそんな風に扱えないと弟者は反論した。

ξ;゚⊿゚)ξ「あの……ほんとうに、すみません」

(´<_` )「いいって」

結局、ツンは布団。弟者はソファで寝ることになった。

ξ ゚⊿゚)ξ「あ……」

弟者が電気を消す直前、ツンがある物を見つけた。
あまりジロジロ見るのもどうかと思ったが、気になってしまったので、それを手に取る。

それは写真立てだった。


15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 20:23:19.28 ID:u65IMmex0

どこの格闘家ですかといわんばかりの筋肉を持った女の人。
いかにも中間管理職ですといった風の男の人。
スレンダーな体をした女性。
可愛らしい笑みを浮かべている女の子。
ぎこちなく笑っている幼い弟者。

そして――


ξ ゚⊿゚)ξ「…………」

(´<_` )「それね、オレがこの世で唯一死んで欲しいって思ってる奴なんだ」



16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 20:26:19.52 ID:u65IMmex0



( ^ω^)「死んで欲しい?」

( ´_ゝ`)「うん」



ξ ゚⊿゚)ξ「どうして?」

(´<_` )「……それは」



17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 20:29:34.80 ID:u65IMmex0


( ´_ゝ`)「あいつがいると、オレはオレじゃなくなるから」(´<_` )


( ´_ゝ`)「オレ達は双子なんだ」

(´<_` )「両親でも間違えるほどそっくり」


( ´_ゝ`)「オレは弟者とよく間違われた」

(´<_` )「兄者の悪戯もオレのせいになった」


( ´_ゝ`)「オレは『双子の片割れの兄者』」

(´<_` )「オレは『双子の片割れの弟者』」


( ´_ゝ`)「オレは『兄者』として認識されない」

(´<_` )「オレはオレでありたい」


18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 20:32:21.17 ID:u65IMmex0

とても真剣な口調だった。

( ^ω^)「……ああ、そういえば」

ふと、悪戯を思いついた。

ξ ゚⊿゚)ξ「思い出したわ」


純粋な興味だった。


( ^ω^)「同じ顔を見たことがあるお」

ξ ゚⊿゚)ξ「殺しちゃったけど」


双子の兄弟に、死んで欲しいと願う兄弟。
もしも、目の前にいる人物が、片割れを殺していたとしたら。

何と言うだろう。
どんな顔をするだろう。



20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 20:35:24.28 ID:u65IMmex0

しばらくの沈黙の後、笑い声が響いた。

( ´_ゝ`)「ありえない」

(´<_` )「そんな嘘、すぐにわかるぞ?」


片割れは笑いながら言う。


( ´_ゝ`)「オレにはわかるんだ」

(´<_` )「あいつが元気かどうか」


( ´_ゝ`)「今日も、憎たらしいほど元気さ」

(´<_` )「根拠は? って顔してるね」


ほんの少し、間を置いて、再び口を開く。
その瞳は笑っていない。


( ´_ゝ`)「あいつが死んでも、オレはオレじゃなくなる」(´<_` )


22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 20:40:11.83 ID:u65IMmex0

( ´_ゝ`)「生まれてこのかたずっと一緒」

(´<_` )「体は離れてても、心は一緒」


( ´_ゝ`)「今も元気かわかるし」

(´<_` )「たぶん頑張れば会話もできる」


( ´_ゝ`)「片方がいなくなれば」

(´<_` )「オレはもうオレじゃいられない」


言われた方は、呆れた顔をしてため息をつくしかない。

死んで欲しい。
そう言うくせに、死なれたら困るときている。


23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 20:43:21.67 ID:u65IMmex0

( ^ω^)「……馬鹿らしいお」


ブーンは呟いた。


( ´_ゝ`)「みんなそう言うよwww」


時たま話す人達にもこういった話をしてきたのだろうか。

( ´_ゝ`)「でも、真実だからしょうがないww」

そう言って、兄者は電気を消した。


25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 20:46:24.24 ID:u65IMmex0

ξ ゚⊿゚)ξ「馬鹿らしいわね」


ツンは吐き捨てるかのように言った。


(´<_` )「まあ、そうだな」


弟者も自分達の関係のおかしさを把握している。
素直に頷いた。

(´<_` )「でも、真実なんだ」

そう呟いて、弟者は電気を消した。


26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 20:49:22.17 ID:u65IMmex0


( ^ω^)「ありがとうだお」

( ´_ゝ`)「また近くにきたら寄ってくれよ」


朝、どこまでも青い空の下、ブーンは立っている。
綺麗に洗濯された服に身を包み、鞄には分けてもらった食料が詰められている。


( ^ω^)「……ボクは旅を続けるお」

( ´_ゝ`)「?」

( ^ω^)「もし、君の兄弟に会ったら、何か伝えるかお?」



ブーンの質問に、兄者はニヤリと笑う。



27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 20:52:24.75 ID:u65IMmex0


ξ ゚⊿゚)ξ「本当にありがとう」

(´<_` )「また、近くにきたら寄ってよ」


朝、わずかに白い雲が流れる空の下、ツンは立っている。
綺麗に洗濯された服に身を包み、鞄にはこれでもかというほど食料が詰められている。


ξ ゚⊿゚)ξ「あたし、まだまだ旅をするわ」

(´<_` )「?」

ξ ゚⊿゚)ξ「もし、あなたの兄弟に会ったら、何か伝えてあげてもいいわよ?」



ツンの言葉に、弟者はニヤリと笑う。



28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 20:55:30.36 ID:u65IMmex0



( ´_ゝ`)「何も伝えなくていい」(´<_` )




( ´_ゝ`)「伝えなくてもわかるし」

(´<_` )「オレ達には今の関係が一番合ってる」


( ´_ゝ`)「関わらず」

(´<_` )「存在だけ感じてる」




( ^ω^)「わかったお」

ξ ゚⊿゚)ξ「やっぱり変な兄弟ね」



空の下、一人の男と女が双子の片割れと別れた。



29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 20:58:23.77 ID:u65IMmex0



【東の方】

小さいわけでも、大きいわけでもない。まさに中くらいの町にブーンはきた。


( ^ω^)「うーん。お金が厳しいお……」


宿に泊まれないわけではないが、これからの旅のことを考えると、少しキツイ。
どこかでバイトをしてもいいが、働いたら負けだと思う。

どうにかする方法はないものかと思いながら歩いていると、
窓の外をぼんやりと眺めている男の姿が目に入った。
もしも、美人が同じことをしていたら、とても絵になっただろう。

だが現実は男。しかも、モテるとはいいがたい風貌をしている。

('A`)「……あんた、失礼なこと考えてない?」

突然、男が話しかけてきた。

( ;^ω^)「そ、そんなことはないお!」



31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 21:01:38.70 ID:u65IMmex0

図星です。などとは口が裂けても言えない。


('A`)「ふーん……。まあいいや。
ところでさぁ、あんた旅人?」

( ^ω^)「そうですお」

('A`)「宿、決まってるの?」

( ^ω^)「まだですお」

('A`)「うち、泊まる?」

( *^ω^)「本当ですかお?!」

('A`)「うん。狭いけどいい?」

( *^ω^)「かまわないですお! キモ男ありがとう!」

('A`)「……ウツダシノウ」


32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 21:04:19.20 ID:u65IMmex0
++++++++++

男の家は、一人で暮らしているにしては広かった。
客人用の歯ブラシやら、布団やらもある。

( ^ω^)「ボクはブーンっていいますお」

('A`)「どうも。オレはドクオ」

ドクオからは愛想も気力も何も感じない。
見れば、部屋のあちらこちらにはホコリが溜まっている。

( ^ω^)「…………」

恋人も親もいないのだろう。
いないから部屋の掃除もしてもらえないのか、
掃除をしないからできないのか。どちらかはわからない。

('A`)「あの部屋、使っていいから」

( ^ω^)「どうもですおー」

('A`)「風呂、先に入っていいかな?」

( ^ω^)ノ「いいですけど、先にご飯が食べたいですお!」

(;'A`)「……遠慮、ないね」



34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[>>32の『++』は無視して] 投稿日:2010/02/18(木) 21:07:22.03 ID:u65IMmex0


意外にも、ドクオの料理は美味しかった。

( *^ω^)「美味いお!!」

(*'A`)「作ったかいがあるよ」

夢中になって料理をほうばっていたブーンは、あることに気づく。

( ^ω^)「ドクオ、可愛い趣味してるおねwww」

料理が盛られた食器は、とても可愛いキャラクターの絵が描かれていた。
見るからに女の子受けしそうなデザインだ。

('A`)「あ……。それ、彼女が持ってきたんだ」

その言葉に、時間が止まる。
ブーンは持っていたスプーンを落とした。



35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 21:10:17.17 ID:u65IMmex0


( ゚ω゚)「裏切り者ーー!!」

(;'A`)「えぇ……」

錯乱したブーンが問い詰めると、更なる事実が発覚する。

('A`)「これでも、昔はモテモテ(笑)だったんだからな」

( ^ω^)「ちょっwww ありえなすwww」

笑いながらありえないというブーンに、ドクオは席を立つ。
怒らせてしまっただろうか。
ブーンは思ったが、ドクオはすぐに帰ってきた。

('A`)「はい」

渡されたのは数冊のアルバムだった。
題名のところは、違う女の名前が書かれている。

( ;^ω^)「…………」

めくれば、女とドクオの写真。写真。写真。

( ゚ω゚)「…………」


36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 21:13:47.54 ID:u65IMmex0

別の女との写真なのに、同じ日付けの写真まである。

( ´ω`)「二股かお……」

('A`)「いや、そんときは四股」

( #゚ω゚)「女の……いや、童貞の敵めぇぇ!!」

(( A ))「ちょっ……死ぬ。死ぬって……」

首を掴まれ、前後へ揺すられる。
ドクオが白目を向く前に、ブーンは何とか正気に戻った。

( ;^ω^)「す、すまんお……」

(;'A`)「いや、オレも悪いことしてたって自覚はあるから」

昔はそれほどモテていたのに、今ではどうしてこんな暮らしをしているのだろうか。
あまり聞かない方がいいような。やっぱり聞きたいような。

どうするか迷っていると、とある名前に気づいた。

( ^ω^)「『クー』?」

その名前のアルバムだけ、他のものよりも多い。



37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 21:16:37.16 ID:u65IMmex0


('A`)「それ、今の彼女」

( ゚ω゚)「今も彼女がいるのかお?!」



('A`)「……旅に出たきり、帰ってこないんだけどね」



38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 21:19:26.60 ID:u65IMmex0


【西の方】


それなりという言葉がよく似合いそうな町に、ツンはいた。


ξ ゚⊿゚)ξ「どうしようかしら」


お金には余裕があった。
しかし、この先のことを考えるのなら、節約はするにこしたことない。

ξ -⊿-)ξ「…………」

ツンの中では二大勢力が葛藤していた。
この先を考えるか。今の幸せを考えるか。

美味しいご飯。久々のお風呂。気兼ねのない空間。

ξ ゚⊿゚)ξ「やっぱり宿よね!」

いざとなれば、どこかの町で働けばいいだけの話なのだから。

ξ ゚⊿゚)ξ「すみませーん」

ツンが選んだのは、お手ごろ価格の宿屋だった。
外観も悪くない。


39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 21:24:41.52 ID:u65IMmex0


川 ゚-゚)「お一人様ですか?」

ξ ゚⊿゚)ξ「はい」

受付の女はとても綺麗だった。
同じ女のツンから見ても、見惚れるような肌と髪。


( ・∀・)「うちの嫁さん、綺麗でしょ?」


女に見惚れていると、後ろから男が声をかけてきた。
締まりのない笑みを浮かべている様子が少しみっともない。

ξ ゚⊿゚)ξ「はい。とても綺麗ですね」

正直な感想を言うと、男はさらに笑みを深くする。

( *・∀・)「だよね! だよねー!」

川*゚-゚)「恥ずかしいぞ」

可愛い夫婦だという印象を受けた。



40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 21:27:25.11 ID:u65IMmex0

案内された部屋は、外観と同じく綺麗だった。
久々のベットの感覚に、ツンはゆっくりと息を吐き出す。

女の一人旅は中々にハードだった。
襲われることもあるし、水浴びができないことなどよくあること。

ゆっくりしていると、ノックの音が聞こえた。


ξ ゚⊿゚)ξ「はーい。どうぞ」


鍵はかけていなかったので、部屋へ招く。

川 ゚-゚)「先ほどはすみませんでした」

やってきたのは、受付の女だった。
人目もはばからなかったことを恥じているのだろう。

ξ ^⊿^)ξ「いいえ。とても仲が良さそうで羨ましいです」

嘘ではない。本当にそう思えるほど可愛らしい夫婦だった。
しかし、依然として女の表情は暗い。



42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 21:30:20.53 ID:u65IMmex0


ξ ゚⊿゚)ξ「どうか、したんですか……?」

川 ゚-゚)「お客さん、あなたは――」

何かを言おうとして、やはり止めてしまった。
今日始めて会った人間に、心の内など明かせるはずがない。

ξ ゚⊿゚)ξ「……私、ツンっていいます。あなたは?」

川 ゚-゚)「クーです」

ξ ^⊿^)ξ「そう。女同士、仲良くしましょう。仕事はまだあるの?」

川 ゚-゚)「い、いや……今日のお客はあなただけなので」

ξ ゚⊿゚)ξ「なら、お話しましょうよ」

クーを椅子に座らせ、自分はその向かいに座る。

ξ ゚⊿゚)ξ「女の子はお喋りが好き。そうでしょ?」

川 ゚-゚)「……ああ。そうですね」

ξ ゚⊿゚)ξ「敬語はなしー」

川*゚-゚)「……わかった」



43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 21:33:21.89 ID:u65IMmex0

女が二人集まれば、他愛もない話が始まる。
話の内容はあっちへいったり、こっちへきたりを繰りかえす。

山も、意味も、落ちもない。
何が楽しいのかわからないという人もいるが、彼女達にとっては至福の時間だった。


川 ゚-゚)「……ツンは、恋人がいたことはあるか?」

ξ* ⊿ )ξ「な、ないけど……」


唐突に始まるのは恋の話。
興味はあるけれど、ツンは実際に体験したことがない。


他人の恋の話を聞くたびに、いつか自分もそんな人と出会えるのだろうかと胸を高鳴らせる。


川 ゚-゚)「私は、故郷にも恋人がいるんだ」

ξ ゚⊿゚)ξ「え……?」



45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 21:37:49.32 ID:u65IMmex0


('A`)「その子が旅に出る前、オレは平気で浮気をしてた」


('A`)「でも、その子が一番好きだった。いや、好きだ。愛してる」


('A`)「だから、クーが旅に出たあと、他の子とは縁を切った」


('A`)「死んだって聞いてないから、生きてると思う」


('A`)「いつか帰ってくる日まで、オレはずっと待ってるよ」



46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 21:40:29.23 ID:u65IMmex0


川 ゚-゚)「そいつは、平気で浮気をする男だった」


川 ゚-゚)「今になってみれば、どうしてそいつが好きだったのか、わからない」


川 ゚-゚)「旅に出て、本当に好きだったのかもわからなくなった」


川 ゚-゚)「だから、故郷には帰らない」


川 ゚-゚)「私はここで、モララーと一生を終えるよ」




48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 21:43:26.22 ID:u65IMmex0

悲しいような、ロマンチックなような言葉だった。


( ^ω^)「もしも、だお……」

なので、一つ聞いてみた。

ξ ゚⊿゚)ξ「もし、その人が」

答えを楽しみにしていた。



( ^ω^)「他の町で男と一緒だったら?」

ξ ゚⊿゚)ξ「一生あなただけを思っていたら?」



一生待っている男と
一生を帰らない女。

絶望するだろうか。
罪悪感でも持つだろうか。



50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 21:46:46.24 ID:u65IMmex0



川 ゚-゚)「いいんじゃない?」('A` )



あまりにも、意外な答えだった。


('A`)「オレが勝手に信じてるだけだし」

川 ゚-゚)「私は好な人といるだけだ」



('A`)「そりゃ、報告されたら」

川 ゚-゚)「何か思うかもしれないが」


('A`)「まあ、そんなことは」

川 ゚-゚)「まずないだろうからな」


51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 21:51:54.48 ID:u65IMmex0


('A`)「オレはクーを愛してるよ」

川 ゚-゚)「私はモララーを愛してる」



('A`)「それ以上に」

川 ゚-゚)「何がいる?」


納得できるような、できないような話だった。
相手に執着しているのか、いないのかすらわからない。

忘れてしまえばいいだけのことなのに、覚えている。

覚えていて、悲しそうな顔をする。


意味がわからない。わかりたくもない。




52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 21:55:15.32 ID:u65IMmex0


( ^ω^)「……そんなもんかお」

('A`)「ああ。そういうもんだよ」


ドクオはアルバムをしまって、風呂場へと向かった。


( ^ω^)「……変な奴だお」


その声はドクオに届かない。
ブーンはドクオがいた窓に目を向けた。



53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 21:59:28.49 ID:u65IMmex0

ξ ゚⊿゚)ξ「そういうものかしら」

川 ゚-゚)「そういうものさ」


タイミング良く、モララーがクーを呼んだ。


川 ゚-゚)「それでは」

クーが去っていく。



ξ ゚⊿゚)ξ「……変なの」

その声はクーに届かない。
ツンはクーが出て行った扉を見つめる。


54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 22:02:25.78 ID:u65IMmex0


( ^ω^)「ありがとうだお」

('A`)「まあ、またおいでよ」


朝、どんよりとした空の下、ブーンは立っている。
鞄には、長持ちする料理が入っている。ドクオからの餞別だ。


( ^ω^)「……ボクはずっと旅をしていくお」

('A`)「?」

( ^ω^)「もし、クーさんに会ったら、何か伝えるお?」


ブーンの言葉に、ドクオは笑う。



56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 22:05:28.15 ID:u65IMmex0

ξ ゚⊿゚)ξ「ありがとう」

川 ゚-゚)「またのご来店をお待ちしております」


朝、厚い雲が覆いかぶさる空の下、ツンは立っている。
体からいい香りをさせて、鞄の中にはクーから貰った水のいらないシャンプーを入れている。


ξ ゚⊿゚)ξ「あたし、まだ旅をするわ」

川 ゚-゚)「?」

ξ ゚⊿゚)ξ「昨日言ってた人に会ったら、何か言っておきましょうか?」


ツンの言葉に、クーは笑う。



57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 22:08:32.75 ID:u65IMmex0

川 ゚ー゚)「必要ないさ」('∀` )


('∀`)「下手なことを言いたくないし」

川 ゚ー゚)「できれば忘れて欲しい」


('∀`)「忘れたいって気持ちもあるし」

川 ゚ー゚)「お互い、必要のない存在だ


('∀`)「思い出の中だけ」

川 ゚ー゚)「それが一番なのだよ」



( ^ω^)「わかったおー」

ξ ゚⊿゚)ξ「それでいいなら」


空の下、一人の男と女が変わった愛を持つ人と別れた。



59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 22:11:30.73 ID:u65IMmex0


【ちょっとだけ東の方】


( ゚∀゚)「よー! あんた、旅の人かい?」

( ;^ω^)「そ、そうですおー」


旅の途中、ブーンは変な男と出会った。


( ゚∀゚)「オレ、オレな、ジョルジュってんだ!」

( ;^ω^)「ブーンと申しますお」

ジョルジュは元気一杯に挨拶をしてくる。

剣を持ったその姿は、屈強な剣士といったところだろうか。
旅をしていれば、旅荷目当てに襲われることも少なくない。



61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 22:14:24.63 ID:u65IMmex0


こんな男に襲われでもしたら、ブーンは一瞬で真っ二つになってしまうだろう。

( ゚∀゚)「ひゃっひゃっひゃwww
     襲わねーよwwww」

( ^ω^)「お?」

ブーンの表情を見て、恐怖を察したのか、ジョルジュは腹を抱えて笑う。

( ゚∀゚)「お前なんて襲っても、大した物なさそうだしなーwww」

( ;^ω^)「そ、それはちょっと失礼ですお!」


聞けば、男は久々に人に会ってテンションが上がったのだという。
近頃は旅をする人間も少なくなってしまい、旅途中で人と出会うこともなくなっている。


( ゚∀゚)「オレは、この剣で人を助けてやりてーんだわ」

( *^ω^)「それはすごくいいことだと思いますお!」

幼いころ、思い描いていたヒーローのような存在に、ブーンのテンションも上がる。
具体的にどうするだとかは決まっていないらしいが、ジョルジュのような人間がいるだけで、
救われる者もいるだろう。


62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[>>60本当だ……間違えたorz] 投稿日:2010/02/18(木) 22:17:40.28 ID:u65IMmex0


( ^ω^)「剣は独学なんですかお?」


簡単な護身術ならば使えるが、本格的な武術は何一つできない。
せっかくなので、ジョルジュから何か教えを請えればと思っての発言だ。


( ゚∀゚)「うーん。いちおう、師匠はいるぜ?」

( ^ω^)「どのくらい学んだんですかお?」

( ゚∀゚)「5年くらいかな」

そこから、ブーンは怒涛の質問攻めを見せた。
ブーンが満足するころには、日が暮れてしまった。

( ;゚∀゚)「次の町にはつく予定だったんだけどなー」

( ;^ω^)「も、申し訳ないですお……」

野営の準備をしながらも、2人は適当な会話を続けた。
主に話したことは、やはり剣術についてだ。



64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 22:20:27.93 ID:u65IMmex0


剣術に詳しくないブーンにはさっぱりな話が多かったが、
ジョルジュのいう『師匠』が素晴らしい人だというのはわかる。
ジョルジュの言葉の端々から、尊敬の念がうかがい知れた。


( ゚∀゚)「ロマネスクさんは、厳しいけど、優しい……。親父みたいな人だったよ」

( ^ω^)「親父……ですかお」

( ゚∀゚)「ああ。お前にはいねぇの? そういう人」

( ^ω^)「いないですお」

( ゚∀゚)「ま、人生は長いんだしな。いつか見つかるって」


笑いながらジョルジュは立ち上がり、剣を抜く。
一瞬、切られるのかと思ったが、日課の運動らしい。


( ;^ω^)「………………」


運動。そんな言葉はちっぽけなものだ。
ジョルジュのしているのは紛れもない鍛錬。


65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 22:24:03.12 ID:u65IMmex0

体の動き方がブーンとはまったく違う。
いくら師が優秀だったとしても、才能がなければ、5年でここまでにはならないだろう。

剣術のことを知らぬブーンでも、ジョルジュが天才なのだとわかった。

( ゚∀゚)「あー。いい汗かいた」

( ;^ω^)「ブーンだったら、いい汗じゃすまないですお」


次の日、足腰が立たなくなるに違いない。


( ゚∀゚)「ひゃっひゃっひゃwwww
     こんなもん、慣れだよ。慣れ」

( ;^ω^)「慣れってレベルじゃねーお」

呆れたようなブーンの言葉も気にせず、ジョルジュは笑っている。

( ^ω^)「それも、師匠に教わったんですかお?」

尋ねると、ジョルジュは笑みを消した。
何か悪いことを聞いてしまったのだろうか。


67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 22:27:35.74 ID:u65IMmex0

( ゚∀゚)「いや……これはオレの考えだ」

( ;^ω^)「そうなんですかお?
      ロマネスク師匠もいい弟子を持って、喜んでますお」

( ゚∀゚)「それはねーな」

( ^ω^)「どうして、ですかお」

( ゚∀゚)「あの人にとって、オレは罪の証だからな」


冷たい風が一陣、ブーンとジョルジュの間に吹いた。



68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 22:30:28.52 ID:u65IMmex0

【ちょっとだけ西の方】


ツンはおかしな生物を発見した。

ξ ゚⊿゚)ξ「…………」

((   ))「…………」


岩陰に隠れている奇妙な生物。
ツンは近づいてみた。


((   ))「…………」


生物はツンに気づかない。


ξ ゚⊿゚)ξ「わっ!」

( ФωФ)そ

背中を力いっぱい押し、大声を出すと、生物は飛びあがった。
そして周りを見て、いるのがツンだけだと知ると、とたんに安心する。


69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 22:34:58.53 ID:u65IMmex0


ξ ゚⊿゚)ξ「借金取りにでも追われてるの?」

( ;ФωФ)「そ、そんなことはないのである……」

みたところ、かなりの歳だ。
ただでさえ危険な旅。こんな歳になってまでする者はそうそういない。
簡潔に言ってしまえば、怪しい。

ξ ゚⊿゚)ξ「…………」

( ФωФ)「…………」

しばらく沈黙が続く。

( ФωФ)つ【お菓子】

ξ*゚⊿゚)ξ

お菓子を貰ったツンは、とっとと行けというロマネスクの言葉を無視して、
岩に腰かけてお菓子をほうばっている。



70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 22:37:26.08 ID:u65IMmex0


ξ ゚⊿゚)ξ「あんた、その剣扱えるの?」

( ФωФ)「残念ながら」

ξ ゚⊿゚)ξ「でしょうね」

( ;ФωФ)「し、失礼である! これでも、弟子がいたのである!」

ξ ゚⊿゚)ξ「…………」

明らかに疑いの色を持った眼差しだ。

( ;ФωФ)「…………」

その眼差しを強く否定できないのが悲しいところである。

ぽつり、ぽつりと弟子のことを話し始める。
誰かに聞いてもらいたかったのだろう。ロマネスクの口は止まらない。


71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 22:41:06.11 ID:u65IMmex0

( ФωФ)「ジョルジュは本当に優秀だったのである」

優秀な弟子は、師匠が駄目な奴でもしっかりと育つ。
そんな話をロマネスクは長々と語る。

ツンはそんな長話を黙って聞いていた。
日が沈み、暗くなるまでずっと聞いていた。


ξ ゚⊿゚)ξ「……その弟子っていうのは、もう一人立ちしたの?」


始めてツンが口を挟んだ。

( ФωФ)「…………」


ロマネスクは顔を強張らせて口を閉ざす。
地雷を踏んだのかと思ったが、ツンは謝罪を入れない。

興味があることに対しては、退かないことに決めている。

自慢の息子を話しているような雰囲気だったロマネスク。
そんな人が、弟子と一緒にいない理由が知りたい。

修行の旅だとか、一人立ちしたのだとか、そんな理由でも構わない。
ただ、聞きたいだけなのだ。


73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 22:43:30.44 ID:u65IMmex0

( ФωФ)「あいつは、置いてきた」

ξ ゚⊿゚)ξ「なんで?」

間を置かずに聞き返す。


( ФωФ)「あいつは、我輩にとって、罪の証なのだ」


生暖かい風が一陣、ツンとロマネスクの間に吹いた。



76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 22:46:56.83 ID:u65IMmex0


( ^ω^)「罪の、証?」

ξ ゚⊿゚)ξ「それって、どういうことなの?」


( ゚∀゚)「あの人はオレを騙してたんだよ」

( ФωФ)「我輩はあいつを騙していたのである」


騙されていた。
騙していた。


その中で、二人は信頼関係を築いていた。



77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 22:49:33.42 ID:u65IMmex0

( ゚∀゚)「あの人はさ、ただの素人だよ」

( ^ω^)「でも、さっきは――」

( ゚∀゚)「師匠だよ。剣も教えてくれた」


ジョルジュの言う意味がわからなかった。
師匠だというのに、剣の素人だという。


( ゚∀゚)「剣を振ることはからっきしだったよ。
     でも、知識はあったみたいだな」

ただ知識だけを貰った。
不思議と、指摘や訓練法は適切だった。


出会いは偶然。


剣を持ってたから、扱えるのかと問いかけた。
使えると言われたので、教えろと言った。

剣に触れているうちに、師匠は剣を扱えないと気づいた。
それを伝えることはなかった。



78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 22:52:31.95 ID:u65IMmex0

( ^ω^)「何でだお?」

( ゚∀゚)「言っただろ? オレは師匠を尊敬している。
     剣が扱えても、扱えなくても。だ」


騙されていると気づいてると言えば、ロマネスクは自分のもとを去っただろう。


結局、ロマネスクはジョルジュの元を去った。
何故かはわからない。ある日、起きたらいなかった。


79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 22:55:43.53 ID:u65IMmex0

( ФωФ)「我輩はただの小悪党なのである」

ξ ゚⊿゚)ξ「小悪党?」

( ФωФ)「まあ、嘘つきなのである」

ξ ゚⊿゚)ξ「ああ、詐欺師ね」


ロマネスクは否定をしない。
否定がないということは、肯定とイコールで繋がる。


( ФωФ)「知識だけはあったのである」

偶然に出会った子供。

子供は護身用の剣を見て、扱えるのかと尋ねてきた。
つい、使えると言った。
教えろと言われたので、適当に教えてみた。

すると、子供はすぐに強くなった。
自分には先生の才能があるのかもしれないと思った。



82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 22:58:35.53 ID:u65IMmex0


だがそれは間違いだった。
子供の才能の凄まじさは、近くで見ているロマネスクが一番よくわかる。

恐ろしいと感じ、このままではこの才能を潰してしまうと感じた。


ξ ゚⊿゚)ξ「それで逃げたわけね」

( ФωФ)「逃げた……まあ、そうかもしれんな」


騙していたが、子供の師匠は間違いなく自分だと自負している。
それでも、これ以上は何も教えられないと判断して、子供のもとを去った。



84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 23:02:19.63 ID:u65IMmex0

( ゚∀゚)「まあ、師匠は気づいてたみたいだけどな」

( ФωФ)「あやつは気づいておったがな」


( ^ω^)「え?」

ξ ゚⊿゚)ξ「何を?」


( ゚∀゚)「オレが師匠の正体に気づいてたって」

( ФωФ)「我輩が嘘つきだと」


86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 23:05:43.12 ID:u65IMmex0

( ゚∀゚)「可愛がってくれたよ」


( ゚∀゚)「本当の子供みたいに思ったんだろうな」


( ゚∀゚)「だから、オレが気づいてるってわかっても逃げれなかった」


( ゚∀゚)「タイミングを逃したんだろうな」


( ゚∀゚)「ずっと一緒でも良かったのになぁ」


( ゚∀゚)「師匠くらい守ってやったのに」



87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 23:08:26.46 ID:u65IMmex0


( ФωФ)「尊敬してくれていた」


( ФωФ)「本当の親のように感じていたのかもしれん」


( ФωФ)「だから、言い出せなかったのだろう」


( ФωФ)「現状維持を強く望んでいた。お互いに」


( ФωФ)「ずっと一緒にいたかったが」


( ФωФ)「さすがに守られるのは、な」



89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 23:11:29.35 ID:u65IMmex0


本当の親子のような二人は、親子にはなれなかったということだろう。
旅をしているのも、無意識のうちに相手を探しているのかもしれない。

( ^ω^)「じゃあ、ボクが見つけたら何か伝えてあげるお」

ブーンが言った。
ジョルジュを驚いたような顔をしたが、すぐに腹を抱えて笑う。


( ゚∀゚)「いや、いーよ」


何故そんなことを言うのだろうかと首を傾げると、ジョルジュがブーンの肩に手を置いた。


( ゚∀゚)「確信はない。それがいいってことだよ」


意味深な言葉を残し、ジョルジュは自分の寝床へと戻る。



90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 23:16:28.69 ID:u65IMmex0

本当の親子のような二人は、親子にはなれなかったということだろう。
旅をしているのも、無意識のうちに相手を探しているのかもしれない。


ξ ゚⊿゚)ξ「ふーん。見つけたら何か言っておいてあげようか?」


ツンが呟くように尋ねると、ロマネスクは静かに首を振る。


( ФωФ)「必要ないのである」

ξ ゚⊿゚)ξ「あら、そう?」

( ФωФ)「確信はない。それがいいのである」

ξ ゚⊿゚)ξ「あっそ」


ロマネスクの意味深な言葉を鼻で笑い、ツンは眠りにつく。
他人のことに首を突っ込みたくなるのは悪い癖だ。

だが、なおす気はない。



92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 23:20:02.37 ID:u65IMmex0

朝、雨で目が覚めた。
空を見上げると黒い雲が遠くの方まで見える。


( ^ω^)「ジョルジュ――」


昨夜ジョルジュがいた方を向くと、そこは岩があるだけ。
先に起きていたのならば、起こしてくれればいいのにと思うが、
自分のポケットの中にある紙に気づき、思考は中断する。


【確信はない。それがいい。その方が幸せになれるだろ?
 でも、お前は気になってたみたいだから、教えてやるよ。
 ヒーローはいない。いたのは詐欺師の弟子。剣は使える。
 これがヒントな】


乱暴な筆跡は、ジョルジュを彷彿とさせる。

( ^ω^)「…………」

雨の中、手紙を読んでじっくりと考える。


( ^ω^)「騙されたお」


叩きつけるような雨の中、ブーンは自虐的に笑った。

93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 23:23:42.32 ID:u65IMmex0

朝、雨で目が覚めた。
空を見上げると、少し遠くの方まで黒い雲がある。

ξ ゚⊿゚)ξ「やっぱりね」

昨夜、ロマネスクがいたはずのところには誰もいない。
雫のような雨を鬱陶しいと思いつつ、放置していた荷物へ近づく。

鞄の中身は岩。
その中に一枚手紙があった。


【確信はない。それがいい。その方が幸せになれるであろ?
 しかし、あなたは気づいていたみたいであるな。
 詐欺師がいた。言葉を並べた。あなたは騙した。
 これだけで十分である】


綺麗で等間隔に並んだ文字は、ロマネスクが書きそうな文字だ。

ξ ゚⊿゚)ξ「…………」

隠しておいた本当の荷物を肩にかける。


ξ ゚ー゚)ξ「当然でしょ」


わずかに体を塗らす雨の中、ツンは満足気に笑った。

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 23:26:35.98 ID:u65IMmex0


【東でも西でもないところ】


目の前から旅人が歩いてきた。
お互いに、先日出会った旅人が詐欺師だったので警戒している。


( ^ω^)「…………」

ξ ゚⊿゚)ξ「…………」


だが、直感が告げた。こいつは敵ではないと。


( ^ω^)「ボクは、ブーンですお」

ξ ゚⊿゚)ξ「私はツンよ」


自己紹介をする。
それだけで立ち去ってもよかったのだが、何かが二人を引きとめた。

それは胸の高鳴りか、
脳を駆け巡る出会った人の姿か。



96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 23:30:23.73 ID:u65IMmex0


( ^ω^)「ボクは、東からきましたお」

先ほどからちらついて離れない顔を振り払うため、ブーンは口を開いた。


( ^ω^)「双子の男と会いましたお」


ツンは表情を動かさない。予想済みの言葉だったのだろうか。


( ^ω^)「双子の弟に死んで欲しいって言ってましたお」


好奇心が導くままに、片割れを殺したと言うと笑った兄者の顔がハッキリと思い浮かぶ。
伝えることは何もないと言われたが、ブーンは気になっていたのだ。

あの兄者が嫌う双子の弟の存在が気になってしかたがない。


98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 23:33:40.90 ID:u65IMmex0

ξ ゚⊿゚)ξ「私は西の方からきたの」


ブーンの言葉に返事をするようにツンが口を開く。


ξ ゚⊿゚)ξ「双子の男とあったわ」


思い出されるのは穏やかで恐ろしい笑み。
片割れが殺されれば自分は自分でなくなると言った変わり者がいた。

そんな弟者が嫌う双子の兄の存在は好奇心を刺激する。


ξ ゚⊿゚)ξ「双子の兄に死んで欲しいって言ってたわ」


しばらくの沈黙。
聞こえる風の音。


100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 23:36:33.05 ID:u65IMmex0


( ^ω^)「彼はとても面白い人でしたお」


米粒を飛ばしながら無邪気に笑う顔があった。


( ^ω^)「子供みたいな人でしたお」


明るくて、人をいじるのを生きがいにしていそうな目をしていた。


( ^ω^)「弟が死んだら自分ではいられないと、言ってましたお」


あの瞬間だけ、兄者は別の誰かだった。
冷静で、真面目な誰かだった。


108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 23:47:27.82 ID:u65IMmex0


ξ ゚⊿゚)ξ「彼はとても真面目な人だったわ」


快く自分を受け入れてくれた。


ξ ゚⊿゚)ξ「大人の魅力があるような、そんな人」


相手の行動を先読みし、気持ちをフォローできる余裕が見えた。


ξ ゚⊿゚)ξ「兄が死んだら、自分は自分でいられないって言ってたわ」


あの瞬間だけ、弟者は別の誰かだった。
明るくて、子供のような誰かだった。


110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 23:51:18.07 ID:u65IMmex0

次に思い浮かんだ顔をブーンは口にする。


( ^ω^)「恋人の帰りを待つ男がいましたお」


すぐにツンが返す。


ξ ゚⊿゚)ξ「恋人を放っている女がいたわ」


お互い、何も言わなくてもわかっていた。
相手が自分の欲しい情報を持っている。


出会った人達の相手。自分達が知ることはできないであろう人のことを、
目の前にいる人間は知っている。


114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 23:54:31.49 ID:u65IMmex0


( ^ω^)「落ち着いた。というか、根暗な奴でしたお」


無気力で、物事に消極的そうな顔は、モテていたなど信じられないものだった。


( ^ω^)「昔は恋多き、人類の敵でしたお」


アルバムにいた多くの女の子達。彼女達は今どうしているのだろうか。


( ^ω^)「ずっと待ってるといいながら、帰ってこないのを望んでるようでしたお」


何を思い、何を成そうとしているのか、想像もできない。
恋に飽きてしまったのかもしれない。

クーのことはいい機会だっただけなのかもしれない。


115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/18(木) 23:57:29.04 ID:u65IMmex0


ξ ゚⊿゚)ξ「優しくて、理想的な女性だったわ」


夫と仲良くしている姿は、女が望む理想そのものだった。


ξ ゚⊿゚)ξ「昔は一人を愛してたみたいだけど、今は故郷に一人恋人を残してるみたい」


わずかな罪悪感を持った彼女の表情を思い出せない。


ξ ゚⊿゚)ξ「罪悪感を持ってるくせに、思い出として残してる人だった」


忘れればいいのに、それをしない理由はわからない。
わかる必要もないのだろう。

ドクオのことはただのきっかけにすぎないはずだ。



121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/02/19(金) 00:07:25.87 ID:u65IMmex0

二人は別れた。


男は北へ。
女は南へ。


振り向くことなく進む男。
振り向き、男の背中を見る女。


真っ直ぐに進む男の背中は、広く、逞しい。
そして柔和な笑みを思い出す。


胸が大きく高鳴る。



空には虹がかかっていた。



~おわり~



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