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忘却の空2
950 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/06/16(水) 23:57:08.04 ID:WH1rfe20 [4/7]
うおおおエイワスwwwwwwwwww
明らかに狙っていない姫神祭の中、通行止めで6レスほど借ります。
忘却の空の続き
うおおおエイワスwwwwwwwwww
明らかに狙っていない姫神祭の中、通行止めで6レスほど借ります。
忘却の空の続き
951 名前:忘却の空2[sage] 投稿日:2010/06/16(水) 23:57:39.59 ID:WH1rfe20 [5/7]
ふいに目が覚めた。
誰に起こされるでも無く。
今…何時だ…?
無意識に手探りで枕元に置いた携帯を取り、時間を確認する。七時。
こんな時間に目覚めるなんて、今までの自分だったらありえない、と思った。
寝ぼけた頭のまま、体を起こす。なんとなく、二度寝してはいけないような気がした。
そこで気づく。見知った部屋では無いことに。
どこだ、ここはァ?
ひやりとして、脳が冴えて行く。緊張した体から汗が吹き出した。
状況が掴めないまま、気配を探る。特に何も感じない。慎重にベッドの周辺を見回して、奇妙なものを見つけた。
「にっきちょう」と平仮名で書かれた子供向けのノートが、間にたくさんの付箋を残した状態でベッドサイドに置かれている。
それを読めば何か判るかもしれない。俺はそう思って、ノートに手を伸ばした。
暗いな…
夏だというのに、吐く息が白い。体温を根こそぎ奪おうとするかのように冷たい空気が纏わり付く。
暗くてノートの中を確認しづらかったので、疑問を抱かずカーテンを開けた。
開けきった直後、あまりにも不注意すぎる自分の行動にぎくりとする。しかし、一瞬で頭をよぎっていった不吉な予感は現実にはならなかった。
時計は七時を告げているのに、外はまだ薄暗い。それでも開けないよりはましで、ノートを確認するくらいなら十分事足りた。
そのノートには、俺の字がびっしりと書かれていた。
身に覚えの無い出来事が、止めどなく。
付箋の貼られたページ、貼られていないページ。一通り読んで顔を上げた。
いつの間に入ってきたのか解らないが、打ち止めが脇に佇んでいる。
952 名前:忘却の空2-2[sage] 投稿日:2010/06/16(水) 23:58:47.66 ID:WH1rfe20 [6/7]
おはよう、今日は早かったのねって、起こしに来るまでも無く起床していたあなたにミサカはミサカはいささか驚いてみたり。
…あァ、
読んだの?
…読ンだ
…じゃあ、今日から説明は要らないよねって、ミサカはミサカはなんだかちょっぴり嬉しくって、なんだかちょっぴり寂しかったり。
意味がわかンねェよ
ごはんにしよう、ってミサカはミサカは今朝のご飯が純和風である事を教えてみるね
この子供の様子に、元気がなさそうだとか、どうかしたんだろうかとか。
そういうことを感じるのは、きっとこのノートを読んだからだろう。普段の様子がつぶさにわかる。
いつも元気で明るく、太陽の様に笑う溌溂とした少女。 「自分の記憶」では半日と一緒に居なかったが、その短い間の様子と照らし合わせてみても納得出来る。
なのに今朝は元気が無い。
どうかしたのか?
――何が? って、ミサカはミサカはアナタがミサカの心配をしてくれたことにミサカの今日の運勢がすっごくトンでも無いことになるんじゃないかってミサカはミサカの
心配すらしてみたり!!?
どォいう意味だ、クソガキ!
きゃーっ、ウサギさんが怒ったっ! ってミサカはミサカは慌てて戦線離脱ーっ!
誰がウサギだァ?! 待てコラァ!
駆け出す子供を追うためにとっさにベッドサイドの杖を手にとる。 なぜだかよくわからないが、違和感なく体が動いた。
しっくりと手になじむその杖を乱暴に突きながら、出来る限り早く歩く。
あのお転婆な子供をとっつかまえて、チョップかデコピンでもしてやらないと気が済まない。いつもみたいに。
953 名前:忘却の空2-3[sage] 投稿日:2010/06/16(水) 23:59:35.75 ID:WH1rfe20 [7/7]
テーブルに並んだ純和風の朝食を眺め、ふと思った。
これを、炊飯器で作ったのだろうか。いやまさかそんな――。キッチンをちらっと覗いたが、残念ながらシンクに浸かっているのは炊飯器の内釜だけだった。
見覚えの無い部屋。 見覚えの無い廊下。 見覚えの無いダイニング。
なのに体は素直に動く。まるで良く知っている場所のように。少し不気味に思った。
自分のカップがどれなのかはすぐ分かった。 青地に白の矢印のシールが貼ってある。 何の皮肉だ、これは?
おはよう、今日は自力で起きたじゃん? 偉い偉い
体に習慣づいてきたのかもしれないわね。さすがに、半年ともなればね
もーミサカびっくりしちゃった! ってミサカはミサカはお水をグラスに注ぎながら未だに信じられなかったりー
好き勝手言いやがって…ナメてンですかァ?
打ち止めが四つ目のグラスに注ぎ終わり、ウォーターサーバーをしっかりとテーブルにおろしたのを確認してから手を伸ばす。
キョトンとした顔しやがって。くらえ、クソガキ。
ぐあっ! い、いきなりデコピンとは酷過ぎる、ってミサカはミサカは額を押さえてうずくまってみたりーっ! ふぉぉ、痛いぃ
ざまァみろ、からかうからだボケ
ぐうう…くやしい…
涙目のガキをほっといて、席に着く。
すると、全員がポカンと俺を見つめていることに気づいた。
…なンだよ
いや…そこが自分の席だって、よく分かったじゃん
…日記に書いてあったンだよ
954 名前:忘却の空2-4[sage] 投稿日:2010/06/17(木) 00:00:16.36 ID:EixKiuA0 [1/4]
いや、確かに日記には自分の席の位置は書いてあったが、今俺はそんなことを意識して座ったわけではなかった。
なんとなく、それが当たり前であるように、体が動いたのだ。
そっ、か、。 日記、つけてるもんねって、ミサカはミサカは思い当たってみたり、
だァから、なンでそこでそンな顔するンですかァ? 楽でいいだろ。俺が勝手に動いてればよォ
そんな顔ってどんな顔? ミサカわかんないってミサカはミサカはしらばっくれてみる
聞き分けの無い子供だ。
全員が席につき、打ち止めがいただきますと声を上げて食事が始まる。
焼き鮭、おひたしに味噌汁、白いご飯。ガラスの容器にこんもりとつめられたきゅうりのキューちゃん。
コンビニ弁当か冷凍食品ばかりだった自分には馴染みのない温かな食事だと思う。だが、覚えていない心のどこかで懐かしいと感じている。
ぱりぱりと音を立ててキューちゃんを咀嚼しながら、鼻頭が熱くなっていた。
わ、わわわ、どうしたの!? 嫌いなものでもあった? おひたしなんて食べられないって、また怒ってるの?
野菜も食べないとだめじゃんよ?
キューちゃんに、目に沁みる成分は入っていなかったと思うのだけど?
…ごめン、
え?
脈絡なく謝っていた。
正直なにを謝っているのか自分でもよくわからなかった。
何もかも忘れてしまうことなのか。面倒を見させていることなのか。ふとした拍子にこのお人好し達を傷つけてしまうことなのか。
日記の中身がフラッシュバックする。まるで全て覚えているかのように情景が目に浮かぶ。
ああこれが、日記という記録ではなく。 自分の記憶だったらいいのに。
自分の茶碗と自分の箸を握りしめたまま、俺は涙が止められなかった。
動揺させて悪かったとは思う。
塩鮭がますますしょっぱくなった。
955 名前:忘却の空2-5[sage] 投稿日:2010/06/17(木) 00:00:54.39 ID:EixKiuA0 [2/4]
食事のあとは、部屋に戻るのが普段の俺の習慣のようだ。
昨日の俺に倣って、ベッドの上で日記帳をめくる。
とても楽しい日々。 実験漬けで、誰とも接点の無かった俺には想像も出来ない世界が広がっている。
くるくるとめまぐるしく動く少女の表情だとか。おせっかいで正義感の強い家主だとか。甘いだけだと豪語しながらも、優しい笑みを消さない元研究者だとか。
こんなにも華やかな世界に俺は溶け込めていたのか?
文字を指でなぞるたび、あたかも「思い出」のように俺の頭を埋め尽くす光。
昨日までの俺の跡をたどりながら、ひたすら悲しかった。
あんまり顔がぐしゃぐしゃになっていたので、ティッシュを引き出して涙と鼻水をぬぐった。
俺が堪能できる時間はたった一日分。それも、目が覚めているせいぜい13時間ほど。ぼーっとしている時間なんて無いし、そんな勿体無いことはしたくない。
のだが、日々こうして増えて行く日記を読む時間だけでずいぶんかかっている気がする。勿体無い。勿体無い。勿体無い。
これが記憶として頭の中にとどまっていてくれたら、いちいち読まずに済むのに。ああ、なんて勿体無いことをしてるんだ、。
コーヒーでも飲もうと思い立つ。たしか、冷蔵庫の左側の扉をあけたところだったはずだ。
杖を手に、ドアまで歩いたところで声がした。
そういえば彼女たちは、自分が居ないところではどんな話をしているのだろう。気にならないなんて嘘はつかない。俺は基本的に、他人からの評価が気になる人間だ。
気配を絶って聞き耳を立てる。
ドアと廊下を挟んでいるので、聞こえる声は遠いが――
…で、…うしてそんなにしょん…りしてるじゃん?
だって…ってミサカ…あの人を起こ…てあげるのがお仕事…んだからって…サカはミサカは自分の…在意義が…くなっちゃったみた…で…
…らあら、そんな…とでガッカ…していたの? 椅子を…いてあげるのも、あな…のお仕事だったも…ね。
これは…。今朝の話か。
あのガキ、そんなくだらないことで気を落としてやがったのか。馬鹿馬鹿しい。
俺は踵をかえして日記帳をひらいた。今日の欄の最初に大きく書き込む。
「朝は打ち止めが起こしに来るまで寝たふりすること。打ち止めが椅子を引いてくれるまで座らないこと。」
956 名前:忘却の空2-6[sage] 投稿日:2010/06/17(木) 00:01:32.21 ID:EixKiuA0 [3/4]
ったく、手間かけさせやがって。あのクソガキ。
満足してペンを置く。
自分が書いた、そのらしくない注意書きを読むと、さっきまであんなに悲しかったにも関わらず笑えてきて仕方なかった。
こんな日々も、毎日が新鮮でいいのかもしれない。
明日もきっと、その翌日の自分への注意書きが増えるに違いない。
過去を振り返るばかりじゃなく。未来へ。
957 名前:忘却の空2[sage] 投稿日:2010/06/17(木) 00:03:48.53 ID:EixKiuA0 [4/4]
というわけで、調子に乗って前回の記憶障害モノの続きというか一片というか。
ちょっとハピーに向かってきたかな。
深く考えすぎてしまう一方通行と、天真爛漫な同居人達がすーきーだー
こんなことやってるまえに書かないといけないものがあるんですが、ちょっと息抜きですすみません。
バーイビーノシ
ふいに目が覚めた。
誰に起こされるでも無く。
今…何時だ…?
無意識に手探りで枕元に置いた携帯を取り、時間を確認する。七時。
こんな時間に目覚めるなんて、今までの自分だったらありえない、と思った。
寝ぼけた頭のまま、体を起こす。なんとなく、二度寝してはいけないような気がした。
そこで気づく。見知った部屋では無いことに。
どこだ、ここはァ?
ひやりとして、脳が冴えて行く。緊張した体から汗が吹き出した。
状況が掴めないまま、気配を探る。特に何も感じない。慎重にベッドの周辺を見回して、奇妙なものを見つけた。
「にっきちょう」と平仮名で書かれた子供向けのノートが、間にたくさんの付箋を残した状態でベッドサイドに置かれている。
それを読めば何か判るかもしれない。俺はそう思って、ノートに手を伸ばした。
暗いな…
夏だというのに、吐く息が白い。体温を根こそぎ奪おうとするかのように冷たい空気が纏わり付く。
暗くてノートの中を確認しづらかったので、疑問を抱かずカーテンを開けた。
開けきった直後、あまりにも不注意すぎる自分の行動にぎくりとする。しかし、一瞬で頭をよぎっていった不吉な予感は現実にはならなかった。
時計は七時を告げているのに、外はまだ薄暗い。それでも開けないよりはましで、ノートを確認するくらいなら十分事足りた。
そのノートには、俺の字がびっしりと書かれていた。
身に覚えの無い出来事が、止めどなく。
付箋の貼られたページ、貼られていないページ。一通り読んで顔を上げた。
いつの間に入ってきたのか解らないが、打ち止めが脇に佇んでいる。
952 名前:忘却の空2-2[sage] 投稿日:2010/06/16(水) 23:58:47.66 ID:WH1rfe20 [6/7]
おはよう、今日は早かったのねって、起こしに来るまでも無く起床していたあなたにミサカはミサカはいささか驚いてみたり。
…あァ、
読んだの?
…読ンだ
…じゃあ、今日から説明は要らないよねって、ミサカはミサカはなんだかちょっぴり嬉しくって、なんだかちょっぴり寂しかったり。
意味がわかンねェよ
ごはんにしよう、ってミサカはミサカは今朝のご飯が純和風である事を教えてみるね
この子供の様子に、元気がなさそうだとか、どうかしたんだろうかとか。
そういうことを感じるのは、きっとこのノートを読んだからだろう。普段の様子がつぶさにわかる。
いつも元気で明るく、太陽の様に笑う溌溂とした少女。 「自分の記憶」では半日と一緒に居なかったが、その短い間の様子と照らし合わせてみても納得出来る。
なのに今朝は元気が無い。
どうかしたのか?
――何が? って、ミサカはミサカはアナタがミサカの心配をしてくれたことにミサカの今日の運勢がすっごくトンでも無いことになるんじゃないかってミサカはミサカの
心配すらしてみたり!!?
どォいう意味だ、クソガキ!
きゃーっ、ウサギさんが怒ったっ! ってミサカはミサカは慌てて戦線離脱ーっ!
誰がウサギだァ?! 待てコラァ!
駆け出す子供を追うためにとっさにベッドサイドの杖を手にとる。 なぜだかよくわからないが、違和感なく体が動いた。
しっくりと手になじむその杖を乱暴に突きながら、出来る限り早く歩く。
あのお転婆な子供をとっつかまえて、チョップかデコピンでもしてやらないと気が済まない。いつもみたいに。
953 名前:忘却の空2-3[sage] 投稿日:2010/06/16(水) 23:59:35.75 ID:WH1rfe20 [7/7]
テーブルに並んだ純和風の朝食を眺め、ふと思った。
これを、炊飯器で作ったのだろうか。いやまさかそんな――。キッチンをちらっと覗いたが、残念ながらシンクに浸かっているのは炊飯器の内釜だけだった。
見覚えの無い部屋。 見覚えの無い廊下。 見覚えの無いダイニング。
なのに体は素直に動く。まるで良く知っている場所のように。少し不気味に思った。
自分のカップがどれなのかはすぐ分かった。 青地に白の矢印のシールが貼ってある。 何の皮肉だ、これは?
おはよう、今日は自力で起きたじゃん? 偉い偉い
体に習慣づいてきたのかもしれないわね。さすがに、半年ともなればね
もーミサカびっくりしちゃった! ってミサカはミサカはお水をグラスに注ぎながら未だに信じられなかったりー
好き勝手言いやがって…ナメてンですかァ?
打ち止めが四つ目のグラスに注ぎ終わり、ウォーターサーバーをしっかりとテーブルにおろしたのを確認してから手を伸ばす。
キョトンとした顔しやがって。くらえ、クソガキ。
ぐあっ! い、いきなりデコピンとは酷過ぎる、ってミサカはミサカは額を押さえてうずくまってみたりーっ! ふぉぉ、痛いぃ
ざまァみろ、からかうからだボケ
ぐうう…くやしい…
涙目のガキをほっといて、席に着く。
すると、全員がポカンと俺を見つめていることに気づいた。
…なンだよ
いや…そこが自分の席だって、よく分かったじゃん
…日記に書いてあったンだよ
954 名前:忘却の空2-4[sage] 投稿日:2010/06/17(木) 00:00:16.36 ID:EixKiuA0 [1/4]
いや、確かに日記には自分の席の位置は書いてあったが、今俺はそんなことを意識して座ったわけではなかった。
なんとなく、それが当たり前であるように、体が動いたのだ。
そっ、か、。 日記、つけてるもんねって、ミサカはミサカは思い当たってみたり、
だァから、なンでそこでそンな顔するンですかァ? 楽でいいだろ。俺が勝手に動いてればよォ
そんな顔ってどんな顔? ミサカわかんないってミサカはミサカはしらばっくれてみる
聞き分けの無い子供だ。
全員が席につき、打ち止めがいただきますと声を上げて食事が始まる。
焼き鮭、おひたしに味噌汁、白いご飯。ガラスの容器にこんもりとつめられたきゅうりのキューちゃん。
コンビニ弁当か冷凍食品ばかりだった自分には馴染みのない温かな食事だと思う。だが、覚えていない心のどこかで懐かしいと感じている。
ぱりぱりと音を立ててキューちゃんを咀嚼しながら、鼻頭が熱くなっていた。
わ、わわわ、どうしたの!? 嫌いなものでもあった? おひたしなんて食べられないって、また怒ってるの?
野菜も食べないとだめじゃんよ?
キューちゃんに、目に沁みる成分は入っていなかったと思うのだけど?
…ごめン、
え?
脈絡なく謝っていた。
正直なにを謝っているのか自分でもよくわからなかった。
何もかも忘れてしまうことなのか。面倒を見させていることなのか。ふとした拍子にこのお人好し達を傷つけてしまうことなのか。
日記の中身がフラッシュバックする。まるで全て覚えているかのように情景が目に浮かぶ。
ああこれが、日記という記録ではなく。 自分の記憶だったらいいのに。
自分の茶碗と自分の箸を握りしめたまま、俺は涙が止められなかった。
動揺させて悪かったとは思う。
塩鮭がますますしょっぱくなった。
955 名前:忘却の空2-5[sage] 投稿日:2010/06/17(木) 00:00:54.39 ID:EixKiuA0 [2/4]
食事のあとは、部屋に戻るのが普段の俺の習慣のようだ。
昨日の俺に倣って、ベッドの上で日記帳をめくる。
とても楽しい日々。 実験漬けで、誰とも接点の無かった俺には想像も出来ない世界が広がっている。
くるくるとめまぐるしく動く少女の表情だとか。おせっかいで正義感の強い家主だとか。甘いだけだと豪語しながらも、優しい笑みを消さない元研究者だとか。
こんなにも華やかな世界に俺は溶け込めていたのか?
文字を指でなぞるたび、あたかも「思い出」のように俺の頭を埋め尽くす光。
昨日までの俺の跡をたどりながら、ひたすら悲しかった。
あんまり顔がぐしゃぐしゃになっていたので、ティッシュを引き出して涙と鼻水をぬぐった。
俺が堪能できる時間はたった一日分。それも、目が覚めているせいぜい13時間ほど。ぼーっとしている時間なんて無いし、そんな勿体無いことはしたくない。
のだが、日々こうして増えて行く日記を読む時間だけでずいぶんかかっている気がする。勿体無い。勿体無い。勿体無い。
これが記憶として頭の中にとどまっていてくれたら、いちいち読まずに済むのに。ああ、なんて勿体無いことをしてるんだ、。
コーヒーでも飲もうと思い立つ。たしか、冷蔵庫の左側の扉をあけたところだったはずだ。
杖を手に、ドアまで歩いたところで声がした。
そういえば彼女たちは、自分が居ないところではどんな話をしているのだろう。気にならないなんて嘘はつかない。俺は基本的に、他人からの評価が気になる人間だ。
気配を絶って聞き耳を立てる。
ドアと廊下を挟んでいるので、聞こえる声は遠いが――
…で、…うしてそんなにしょん…りしてるじゃん?
だって…ってミサカ…あの人を起こ…てあげるのがお仕事…んだからって…サカはミサカは自分の…在意義が…くなっちゃったみた…で…
…らあら、そんな…とでガッカ…していたの? 椅子を…いてあげるのも、あな…のお仕事だったも…ね。
これは…。今朝の話か。
あのガキ、そんなくだらないことで気を落としてやがったのか。馬鹿馬鹿しい。
俺は踵をかえして日記帳をひらいた。今日の欄の最初に大きく書き込む。
「朝は打ち止めが起こしに来るまで寝たふりすること。打ち止めが椅子を引いてくれるまで座らないこと。」
956 名前:忘却の空2-6[sage] 投稿日:2010/06/17(木) 00:01:32.21 ID:EixKiuA0 [3/4]
ったく、手間かけさせやがって。あのクソガキ。
満足してペンを置く。
自分が書いた、そのらしくない注意書きを読むと、さっきまであんなに悲しかったにも関わらず笑えてきて仕方なかった。
こんな日々も、毎日が新鮮でいいのかもしれない。
明日もきっと、その翌日の自分への注意書きが増えるに違いない。
過去を振り返るばかりじゃなく。未来へ。
957 名前:忘却の空2[sage] 投稿日:2010/06/17(木) 00:03:48.53 ID:EixKiuA0 [4/4]
というわけで、調子に乗って前回の記憶障害モノの続きというか一片というか。
ちょっとハピーに向かってきたかな。
深く考えすぎてしまう一方通行と、天真爛漫な同居人達がすーきーだー
こんなことやってるまえに書かないといけないものがあるんですが、ちょっと息抜きですすみません。
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