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黒子「半額弁当ですの!」 最終章

286 名前:1[] 投稿日:2010/06/12(土) 21:49:07.40 ID:dm6Eh5Eo [12/27]

続き投下します。

287 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/12(土) 21:50:57.50 ID:dm6Eh5Eo [13/27]

         ◆


 先手を打ったのは美琴だ。
 落ちていた二つのカゴを拾い上げ、同時に叩きつける。
 上条は右を避け、左を受け止める。

上条「軽いぜ!」

佐天「ならこれはどうですか!」

 佐天の飛び蹴り。
 カゴを受けて、ベタ足の上条は避けられない。

上条「チッ!」

 舌打ち。
 さらに腰を落とし、左肩で受けた。
 骨と筋肉の軋む音。
 だが、

上条「オラァ!」


288 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/12(土) 21:56:44.99 ID:dm6Eh5Eo [14/27]

 着地前の足をつかみ、投げ飛ばす。

 佐天は身を捩り、受身をとって再度突貫をかける。
 美琴もカゴを引き戻して打撃。
 
上条「聞こえるぜ! お前らの腹の声!」
 
 右拳を美琴へ、左拳を佐天へ。
 別方向への二撃。

 これを佐天は跳んで回避。
 美琴は受け止め、ホールド。

上条「こんなモン!」

 つかまれた右手を強引に振り、美琴を引きずり倒す。
 美琴は背で地面を受け止め、しかし手をはなさない。

上条「くっ……!」

 上空からの襲撃。
 速度と重力を伴った佐天の蹴りが、上条の背に直撃する。

美琴「やった!?」


289 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/12(土) 22:06:01.06 ID:dm6Eh5Eo [15/27]

上条「やってねぇ!」

 わざと吹き飛ばされるようにし、巴投げの要領で、

美琴「うわっ!?」

 美琴を投げ飛ばした。

 美琴がワゴンに叩きつけられる音を背に聞き、立ち上がる。
 目標は着地した佐天。

佐天「来てみなさい!」

 迎え撃つ佐天は、軽くステップを踏み。

佐天「想像してよ! 貴方が倒れる様を!」

上条「うおぉぉぉぉ!!」

 全体重をかけた突進。そこへ握った右拳を、

上条「はァッ!」

 振り抜く。


290 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/12(土) 22:11:59.47 ID:dm6Eh5Eo [16/27]

 が、

上条「!? すり抜け!?」

佐天「想像力が足りませんよ! 上条さん!」

 残像だ。
 ぎりぎりまで引きつけた佐天の緊急回避。 
 そして、

佐天「伊達に何年も、自分の能力を妄想してません!」

 佐天の、軽いフットワークから放つ重い連続回し蹴り!

         イマジン・イマジネイション  
佐天「想え! 《 幻 想 想 像 力 》」

 決まる。
 一撃目は足へ、二撃目は腰へ。

佐天「まだまだっ!」

 独楽のように回る。
 再度の二連撃。
 次は勢いを増し、佐天の足がさらに上がった。
 
佐天「踊れぇッ!」

 腹へ、側頭部へ、決まる。


291 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/12(土) 22:23:17.09 ID:dm6Eh5Eo [17/27]

上条「ぐっ……」

 揺らぐ。

 軽い脳震盪に冒された上条の体が傾ぐ。
 だが、まだ倒れない。

美琴「私も忘れないでよね!」

 そこへ走りこむのは美琴。その手には、

美琴「《雷神の槌》多重連結!」

 吹き飛ばされた先、積んであった買い物カゴ、十数個!

 もはや長大となった槌を両腕を広げ保持、叩きつける!

    ゴルディオン・ストライク
美琴「《 雷神王の一撃 》ッッッ!」

 衝撃。
 店を震わす轟音が、響いた。

          ◆
 
 ドサリと、ポテトチップスの袋が棚から落ちる。 
 カルビーではなく、コイケヤだ。
 それを拾い、棚に戻すのは老人。
 《四竜》の一人、四吉。

四吉「なかなか楽しい戦いでゴザルが――」

 店内に流れるのは、終局の旋律。
 蛍の光。

四吉「もう、終わりが近いでゴザルよ」

          ◆



292 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/12(土) 22:29:50.83 ID:dm6Eh5Eo [18/27]

 カゴを担ぎ、立ち上がるのは美琴。
 その横では、佐天が息をついていた。

佐天「やりました……よね?」

美琴「ええ、あれで立っていられるはず無いわ」

 しかし、目を向けた先には、立ち上がる上条の姿。

佐天「なっ!?」

美琴「そん……な」

 ゆらりと地を踏み、一歩を踏み出す。
 まさに、幽鬼の如く。

上条「楽しいなぁ……お前らも楽しいだろ?」

 更に一歩。
 思わず佐天が後ずさる。


294 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/12(土) 22:43:52.66 ID:dm6Eh5Eo [19/27]

上条「やっぱさぁ、半額弁当争奪戦はこうでなくっちゃなぁ……」

 ふらついてはいるが、しかしその足は床を噛み、離さない。

上条「腹、減ったなぁ。食いてぇなぁ、弁当」

 奥歯を食い締めるのは、美琴だ。
 もう自分たちに余力は残っていない。
 負ける。
 そう思った。

上条「お前らもさ、分かっただろ? 思い出しただろ? スーパーってのは、こんなに熱い場所何だぜ?」

 更に一歩。
 佐天と美琴は、もはや手の届く距離だ。

上条「だからさ、最強だとか、戦争だとか、そんな幻想捨てちまえよ」

 上条が両腕を振り上げた。
 ぎゅっと、美琴と佐天が目を閉じた。

上条「《狼》には、半額弁当さえあればいい。それでもお前らが強さを求めるってんなら――」

 ぽんと、二人の肩に上条の手が置かれた。

佐天「えっ……?」

上条「まずはその幻想、俺がぶち殺 してやるよ」


295 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/12(土) 22:49:02.63 ID:dm6Eh5Eo [20/27]

 パリンと、何かが砕ける音。
 しかしその音も、物悲しい蛍の光の旋律にかき消される。

佐天「上条……さん?」

上条「へへっ……参った。降参だ。《幻想創造》それに《トール》」

 
上条「勝利の一味。俺の代わりに、存分に味わえ」


 どさり、と上条が床に伏した。
 呆然と、美琴と佐天はそれを見下ろす。

美琴「勝った……の?」

佐天「みたい……ですね」

 じわりと、佐天の目尻に涙が浮かんだ。

 ついに、やったのだ。
 自分は師を超え、最強に――。


296 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/12(土) 22:55:18.85 ID:dm6Eh5Eo [21/27]

 しかし、想像していたような歓喜は無い。
 なんだか、心の奥に、ぽっかりと穴があいたような。
 胃袋に、何も詰まっていないような。

佐天「お腹、すいたなぁ」

美琴「奇遇ね、私もそうよ」

 お互い笑いあい。

佐天「なら!」

美琴「やることは一つ!」

 構え、叫ぶ。

美琴「それじゃあ、最後の弁当を懸けて!」

佐天「忘れていた誇りを懸けて!」

 そう、答えは一つ。
 弁当も、一つ。
 立っているのは、二人。

 ならば――

美琴・佐天「いざ尋常に――勝負!」

 激突した。



297 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/12(土) 23:02:34.83 ID:dm6Eh5Eo [22/27]

 エピローグ


 公園に、湯気が立つ。
 それは温められた弁当と、お湯を入れたカップ麺が立てるもの。

 パキリと、上条が割り箸を割った。

 ペリリと、美琴がどん兵衛の蓋を剥がした。

 カポッと、佐天が弁当の蓋を開けた。

 同時、鼻の粘膜を刺激する匂いが、佐天の鼻腔を襲った。
 それは、唐辛子の匂い。

 目に沁みるような辛さが、口を付ける前から感じられる。
 じわりと、無意識の内に涎が垂れた。

 拭い、箸を持ち直す。

上条「それじゃ」

美琴「手をあわせて」

佐天「いただきます!」

 喰らった。

299 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/12(土) 23:07:09.97 ID:dm6Eh5Eo [23/27]

 一口。
 同時、口内の唾が一瞬で蒸発した。
 それほどの感覚を得る辛さが、佐天の口腔を蹂躙する。

 思わず、一緒に買ったジュースへ手を伸ばす。
 しかし、口にしようとした瞬間だった。

佐天「アレ……? 辛く、なくなってる?」

 アレほどまでの刺激を与えた辛さが、口の中から完全に消失していた。
 そして、辛さのあとに残るのは――

佐天(濃厚な、旨み……!)

 これは、海老の濃厚なエキス……!
 プリプリとした海老の食感が口の中で弾け、同時に軽く素揚げされた海老の中から旨みがドロリと溶け出す。

佐天(でも、これだけで辛味が軽減されるとは……)

 思った瞬間だった。
 プチリ、と、口の中で何かが爆ぜた。
 その味は――

300 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/12(土) 23:10:23.25 ID:dm6Eh5Eo [24/27]

佐天(あ、甘い!?)

 それは粒状の点心だ。
 激辛のチャーハンの中に混ぜられた小粒のタピオカが口の中ではじけているのだ。
 これが、辛味を抑える正体!?

 激辛と甘み。
 相反する二つの要素がぶつかり合い、一口目の火をふくような辛さと、後に来る清涼が如き甘みが、佐天の身体を震わせた。

佐天(美味しい……)

 もっと、と、腹の虫が佐天を急かす。
 辛さが跡を引き、海老だけではなく、脂っこい肉までもがつかれた身体にエネルギーを補充し、その脂っこさを青菜の苦味が引き締める。

 食べれば食べるほど、佐天は次々にスプーンを動かした。 

 そして。

佐天「ご馳走様でした」

 手を合わせ、祈る。
 食材に、調理者に、そして腹の虫に。
 明日も、こんなにおいしい料理が食べられますように、と。


301 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/12(土) 23:12:58.68 ID:dm6Eh5Eo [25/27]

上条「美味かったか?」

佐天「はい……すごく、美味しかった」

美琴「佐天さん、すごい食べっぷりだったわね」

佐天「えへへ、恥ずかしいですね、なんか」

上条「恥ずかしがる事ではないさ。誇りを懸け、命を賭して手に入れた弁当だ。がっつくのも無理はないって」

 微笑む上条に、佐天は目を伏せ、問う。

佐天「こうして弁当を食べていると、実感します。私はやはり、間違っていたのだと」

美琴「佐天さん……」

上条「そんな事、無いさ」

 え? と、佐天が上条を見つめる。
 その表情は、驚きに満ちていて。

上条「だって、間違えていた奴が、あんなに楽しい戦い、出来るはず無いんだからさ」

 にこりと、上条が笑みを深くする。

上条「お前は、俺を超えた。もう立派な、一人前の《狼》だ」

 じわりと、佐天の目に涙が溜まる。
 嗚咽が、喉からこぼれた。

佐天「がみじょう……ざんっ!」



302 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/06/12(土) 23:14:38.94 ID:dm6Eh5Eo [26/27]

上条「泣くなよ、涙子」

美琴「もう、佐天さんてば泣き虫なんだから」

 言葉に、佐天は無理やり笑みを刻む。
 そして、精一杯の声で。

佐天「はいっ!」

 頷いた。



 これは、己の誇りと空腹を懸けて戦う、狼達の物語。
 そして、正しい強さを求める、若者達の物がt 黒子「ちょ、ちょっとお待ちになって!」


黒子「これで終わりですの!? わたくしは? わたくしの出番は?」

結標「いいでしょ、貴女は弁当取れたんだし。私は結局やられただけなんだから」

黒子「せ、せめて食事シーンだけでも! ほら、おいしいですの! 焼肉弁当チョー美味しい!」

結標「はいはい、私もどん兵衛 オン ザ コロッケが胃袋に染みるわぁ」

黒子「悲しみの味ですの……」


 ……出番を求める、若者達の物語。



                               黒子「半額弁当ですの!」 END


304 名前:1[] 投稿日:2010/06/12(土) 23:19:25.06 ID:dm6Eh5Eo [27/27]
後半駆け足過ぎたかな?

でもこれが俺の限界なんだ……ゆるしてくれ。


ともかく、最後まで読んでくれたみなさんありがとうございます。そして、お疲れ様でした。

続編については特に考えて無いので、これが最後だと思ってくださって結構です。
もしかしたらまたスレを立てるかも知れませんが、その時はよろしくお願いします。


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お疲れ様でした

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