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佐天「革命都市…?」

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 21:27:57.48 ID:CaNotr9A0 [1/36]
※厨二注意

・初SS
・キリのいいところまで描きだめ
・厨二すぎて叩かれるのが怖い

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 21:29:11.09 ID:CaNotr9A0 [2/36]
佐天(初春の様子がおかしい…)

初春「佐天さん、それじゃあまた明日」

佐天「う、うん」

佐天(最近妙に付き合いが悪くなり、学校が終わるとそそくさと一人で帰ってしまう)

佐天(まさか…彼氏とか…?いや、初春に限ってそんなことは…)



佐天(…つけるか)


5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 21:30:27.14 ID:CaNotr9A0
佐天(うーん、何処へ行くんだろう?普段電車なんか使わないのに…)

佐天(あ、降りた。私も、っと…)

佐天(…やっぱり降りたこと無い駅だ。どこだろここ…?)

佐天(初春は駅前の広場で一人で立っている。誰かと待ち合わせだろうか?)

佐天(まさか本当に彼氏…?)

佐天(もしそうなら最高だ。めちゃくちゃ冷やかしてやろう)


佐天(あ、来た!あいつか…?)

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 21:31:25.02 ID:CaNotr9A0
佐天(何話してるんだろ?)

佐天(初春あんまり楽しそうじゃないなぁ…あ、移動した)

佐天(何処行くんだろ?)コソコソ

佐天(この建物に入ったか…)

佐天(学校のようだけど…うん?なになに…)


佐天(鳳超能力研究所…?)

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 21:32:46.29 ID:CaNotr9A0
佐天(勝手に入ってマズかったかな…?)

佐天(それにしても本当に学校みたい…生徒らしい人は一人も居ないのに…)

佐天(初春と彼氏はどこだろ?)

佐天(あ、いた!)

初春「…………」

?「…………」

佐天(また何か話してる。こんどはもっと近づいて…、…って)

初春「きゃ」

?「まったく…」

佐天「ちょっとあなた!!なんで初春のこと殴るんですか!?」

初春&?「!!」


9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 21:34:02.38 ID:CaNotr9A0
初春「佐天さん!?」

?「君は…!」

佐天「どういういきさつかは知りませんけどね、女性を殴るなんてこと…」

?「佐天涙子さん!!」

佐天「…えっ?」

初春「佐天さん、いいんです」

佐天「初春…どういうことなの…?」

?「ああ、すまない。手を出したことは謝るよ。事情も僕から説明する」

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 21:35:28.80 ID:CaNotr9A0
佐天「能力のレベル向上実験ですか…?」

?「…そう、と言っても安心して欲しい」

?「実験はある意味で危険なものだが、前にあったレベルアッパーのような副作用が出るようなものではないんだ」

佐天「あ、知ってるんですね、レベルアッパー」

佐天「それで、初春のレベルを上げようってってことですか?」

?「いや、初春さんは実験に必要な素材なんだ。正確には彼女を使って能力のレベルを上げる」

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 21:36:40.26 ID:CaNotr9A0
佐天「それって、つまり…?」

?「初春さんを決闘で奪い合い、その勝利者が新しい力を得る」

初春「…」

佐天「そんな、初春を決闘の道具にするようなこと…初春は嫌じゃないの?」

初春「…」

佐天「!…初春が好きでやってるんじゃない以上、どんな理由があっても初春を実験の道具になんかさせません。帰ろう、初春」

?「それは駄目だ。実験の素材になるのは彼女しかいない」

佐天「知りません。行こう初春」グイ

?「駄目だ。どうしてもというなら…」

佐天「…!」

?「君もこの実験に参加してもらうことになる」

佐天「!!」

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 21:38:57.25 ID:CaNotr9A0
佐天「…どういう意味ですか?」

?「言っただろう。実験では彼女を決闘で奪い合うんだ。君がその勝者になればいい」

佐天「…だから、部外者の私にあれこれ事情を喋ったんですね?」

?「飲み込みが早くて助かるよ」

佐天「やります」

初春「!!」

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 21:40:47.50 ID:CaNotr9A0
初春「佐天さん!?」

佐天「大丈夫だよ。勝てるか分からないけど、その時はその時…」

初春「そんな…!?」

初春「そ…」

初春「…」

初春「…分かりました、佐天さん。私からもお願いします」

佐天「任せといて!」

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 21:42:57.43 ID:CaNotr9A0
?「決まったね。それじゃあ決闘場へ行ってもらおう」

?「決闘場はこの研究所の裏の森にある。この指輪が参加資格者の証だ」

佐天「分かりました」グイ

?「それから、決闘には剣を使用する。よければお貸しするけど?」

佐天「いえそれなら結構、さっきこの学校みたいな研究所の用具入れにちょうどよさそうなものがありましたから」

?「そうか、なら準備してきたまえ。僕と初春さんも用意してこよう。君は直接決闘場へ入ってくれればいい。行けばわかるだろう」

佐天「あなたが決闘の相手ですか?」

?「いや、僕じゃない。僕はここの管理人みたいなものだから」

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 21:45:31.14 ID:CaNotr9A0
佐天(さて、体育用具入れからバットもとって来たし…)

佐天(この森のどこかに決闘場とかいうのがあるんだって?)

佐天(あの建物かな?ドアのノブを開けてっと…)

佐天「痛っ!指輪が…」


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


佐天(ドアが開いた。そういえばこの指輪が決闘資格の証とか言ってたな)

佐天(この階段を上がるのか…)

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 21:48:16.30 ID:CaNotr9A0
佐天「ハァハァハァ…」

佐天(なんて長い階段なんだ…)

佐天(ここが決闘場か、結構広いな…)

?「待ってたよ、佐天涙子さん」

初春「…」

佐天「またせましたね。って…」

佐天「何、初春、その赤いドレスは?それに頭の花が赤いバラになってる…」

?「君が勝てば初春飾利…いや華の花嫁は君のものだ」

佐天「あ、あの…"華の花嫁"って何ですか?」

?「何って…決闘の勝者にまだ見ぬ絶対能力、"レベル6"を与えてくれる能力者のことだよ」

佐天「初春の能力って魔法瓶みたいなショボイやつじゃ…」

初春「アレは嘘です」

?「頭から花の生えた只の人間がいるわけないだろう」

佐天「…」

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 21:51:44.91 ID:CaNotr9A0
?「約束どおり、君が勝てば花嫁は君のものだ」

佐天「はぁ…」

?「ルールは先ほど言ったとおり剣での一騎打ち」

?「君の武器はそのバットか…」

?「それでは決闘を始めよう!」




?「無双虎眼流、岩本虎眼と」

虎眼「ぬふぅ」


21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 21:55:49.41 ID:CaNotr9A0
初春飾利は頭のバラを二つ摘むと、一つは虎眼の胸に、もう一つを佐天涙子の胸にさした。

初春「佐天さん、この胸のバラを散らされた方が負けですから。がんばってくださいね」

虎眼「…」カッ

初春「きゃあ」

佐天「ちょ…、何するんですか!?」

虎眼「飾利よ、今のお主は華の花嫁。つまり決闘の勝者である儂だけの華ぞ…」

虎眼「にもかかわらず…他の者に対して『がんばれ』とはどうしたことじゃ」

佐天「そんな理由で殴るな!」

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 21:59:48.49 ID:CaNotr9A0
虎眼「飾利よ…」

初春「はい…」

初春「私に眠る"カザリ"の力よ。主に応え今こそ示せ…」


初春は虎眼の腕に全ての体重を預けるかのように体を傾ける。
虎眼が初春の胸に手をあてると、まるでそこに最初から剣が刺さっていたかのように
どこからともなく現われた剣をゆっくりと抜いた。


虎眼「世界を革命する力を!」

佐天「!!」


?「第二回戦、無双虎眼流・岩本虎眼vs無能力者(レベル0)・佐天涙子」

?「始め!!」

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 22:02:56.14 ID:CaNotr9A0
佐天「…」

虎眼「…」

初春(佐天さん…)

剣鬼・岩本虎眼と相対して、生き残った剣士は極僅かである。
初春飾利は佐天涙子をじっと見つめていた。勝てるはずが無い、その実力は天と地ほどの差があるのだから。
しかし、無双とよばれた虎の目はそれとはまた少し別のものを佐天涙子から感じていた。

虎眼「…」

岩本虎眼がゆっくりと刀を担ぐ。


初春(虎眼流、『流れ』…)


一閃。


24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 22:05:04.14 ID:CaNotr9A0
遠間より放たれた虎眼流必殺の一撃を受けて、ただの少女は胴と首を断ち切られる運命にあった。


佐天「!!」


しかし、佐天涙子はその横薙ぎを大きく飛び上がった後転でかわす。
そしてあろうことか伸びきった流れによる隙を突いて、一気に虎眼の懐に飛び込んだ。

少女の内に秘められた天分の才を、虎の目だけが知っていた。


佐天「もらったぁ!」


刀の柄を手から滑らせる虎眼流は、二の太刀を生み出せない。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 22:08:40.59 ID:CaNotr9A0
通常の上覧などにおける試合において片側が相手の懐に飛び込んだ場合、その時点で行事役より「止め」の声が上がる。
ましてこの決闘のルールは相手の胸のバラを散らすこと。勝敗は決したかのように見えた。


佐天「がっ、はっ!!」


佐天涙子は声にならぬ悲鳴をあげて仰け反ると、虎眼より二メートルほど離れ、悶絶した。
佐天涙子が虎眼のバラに金属バットを叩きつけるその刹那に、虎の剛脚が少女の鳩尾を蹴り上げていたのだ。

その隙を逃す虎眼では無い。

まるで迅雷のように一瞬で佐天涙子との距離を縮め刀を振りかぶる。

岩本虎眼の刃が狙うのは、蹲った少女の胸に刺された手折れたバラの花ではない。
まるで花の茎のように細くか細い少女の首そのものである。


虎眼の構えは、猫科動物のような異形な握りをしていた。


27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 22:13:14.65 ID:CaNotr9A0
初春「佐天さぁぁぁん!!逃げてくださいっ!」

初春飾利が悲痛な叫び声をあげたが、佐天涙子は初春飾利の声が届かぬかのように蹴り上げられた鳩尾を押さえ蹲っている。

虎の一撃が佐天涙子の首めがけて放たれた。
虎眼流に伝わる二本指による特殊な掴みから放たれる神速の一撃は、いかに剣才溢れる少女とてかわすことは不可能である。
ただし、それは――

初春「!!」

たまらず花嫁は目を伏せる。

そして次に目を開けたとき、

そこに写ったのは、

無残に切り裂かれた少女の肢体、

ではなく、


虎眼の剣と佐天涙子の金属バットが十字に切り結び、文字通りの鎬を削っている光景であった。


佐天「まさかここまで速いとは思わなかったけど…」

佐天「首に来ることが分からなければ危なかったわ」


初春「佐天さぁん!!!!!」

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 22:16:41.84 ID:CaNotr9A0
余裕の笑みを浮かべる佐天涙子であったが、実は変わらず窮地にあった。

その理由は二つ。

一つは鍔のない金属バットで鍔迫り合いにならんとする状況。
もう一つは、老境に達したとはいえ剣鬼の強力さと、若さを溢れさせながらも少女の非力さとの差である。

この状況で岩本虎眼が取るべき行動は二つある。
一つは相手の手をめがけて刃を振り下ろす方法。
もう一つは己の力を持って相手を刀ごと押しつぶす方法。

通常ならば鍔のない手を狙うのが定石である。
しかし、目の前にいる少女の内に秘められた溢れんばかりの剣士としての資質を誰よりも早く見抜いていたのは虎眼自身であったのだ。

老剣鬼は刹那に思考する。
手を狙うは定石ではない。むしろその逆だ。あの天分の才に技術で勝負するほど危険なことは無い。
力技でねじ伏せる方が無難であると。

しかし佐天涙子の心情は真逆であった。
鍔の無い状況で己の手を狙われれば、一たまりも無い。
佐天涙子は距離を取らんと欲していた。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 22:20:01.16 ID:CaNotr9A0
そして好機は訪れる。虎眼があらん限りの力を持って佐天涙子の細い身体を押しつぶしにかかる。
その力を逃がさず、弱めず、力の向きを曲げ、距離を取らんと後ずさる己の後退に乗せ、

佐天涙子は遠く速く後ろへ跳んだ。


紙一重。

少女の華奢な身体を骨ごと叩き潰さんとした老剣鬼の刃は文字通り紙一重に佐天涙子の衣服のみをそぎ落とし、
あとは空しく空を斬るばかりであった。


もし岩本虎眼が若き日の気骨心溢れる青年であったなら、この判断ミスは無かったであろう。
老境に入った者の、決して抗うことのできぬ気の弱さが百戦錬磨を超える剣客の気概を退けさせたのだ。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 22:23:27.03 ID:CaNotr9A0
大きく後ろへ飛び跳ねた佐天涙子は着地と同時に真正面から虎眼との距離をつめる。
そしてバットを振りかぶると、真っ直ぐに振り下ろした。


佐天「うぉぉぉりゃぁぁぁぁぁ!!」

初春「!」
?「~~~」


先ほどの「流れ」の後を突くのとは違う。
如何に勢いに乗っての行動とはいえ、岩本虎眼に対し何の芸も無く真正面から斬りかかるのは特攻に等しい無策であると言えよう。
その無謀さに二人の傍観者が憂慮の息を飲んだとき、
虎は新たな驚愕を感じていた。


佐天涙子の放った一撃は「虚の剣」であったのだ。


岩本虎眼はその一撃をあっさりとかわすと、緊張をその身に走らせた。


32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 22:28:07.65 ID:CaNotr9A0

「虚の剣」。

日本剣法界広しと言えど、これほど世にその名を轟かせた必殺剣は存在すまい。

最初の一撃に、偽りの力、偽りの重心、偽りの殺気を乗せた虚の剣で相手を退かせ、
いざ反撃せんとする相手に対し、返す刀で渾身の「実の剣」を叩き込む。

その技法を、俗に人はこう呼ぶ――。


初春・?「 秘 剣 ・ 燕 返 し ! !」


一撃目の虚をかわした虎眼は、瞬時に佐天への反撃に移る。
その虎の猛攻を二撃目の「実の剣」が捉えるはずであった。

佐天涙子の「実の剣」が走る。


その瞬間、虎は――


33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 22:32:56.89 ID:CaNotr9A0
――虎は、火山の噴火のように轟く殺気を、雷鳴のような反撃の闘気を、
まるで幻のように霧散させ、瞬時にその身を後退させた。


岩本虎眼最大の武器は百戦錬磨の武士も及ばぬ経験と洞察力にある。
並みの剣士が数多の修羅場で斬り倒されてきた「燕返し」を前にした所で、同じ轍を踏む虎眼ではない。


あとは振り上げられた「実の剣」を確認し、空を切る佐天涙子の胴と胴とを真っ二つにするだけである。


それは完璧な道理であり、確定された刹那の未来であり、完勝に対する確かな約束であった。
この点において虎眼にミスはない、ほんの一欠けらも、一曇りの失敗も無かった。


虎眼に予期せぬ事象があったとすれば、それは対する佐天涙子の失策であったと言えるだろう。





佐天涙子の振り上げられた金属バットが岩本虎眼の顎の骨を粉砕した。


34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 22:37:16.25 ID:CaNotr9A0
驚愕。

それは危機状況における己が生命を守る生物要用の機能である。
今までそれを誰よりも早く感じていたのは、この場で最強の生物であろう岩本虎眼であった。

だが今回は違う。
虎眼がその事実を知ったとき、初春が、管理人の男が、三者三様同時にその出来事を知覚した。


?「信じられない…」

虎眼「…」

初春「佐天さん…」

佐天「…」


初春「虎眼流、『流れ』…」

言うまでもなく一朝一夕で出来るものではない。





佐天涙子、最大の失策である。

虎眼「…」


35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 22:42:34.41 ID:CaNotr9A0
虎眼の顎を砕き、あとは虎眼の胸のバラを散らすだけ。

佐天涙子が振り上げた剣を己の体軸にあわせ重心を落ち着かせたとき、すぐさま止めの一撃を放たなかったのは、
幽鬼のように立ちすくむ岩本虎眼の異様な雰囲気に当てられたからであった。


――岩本虎眼は、


この時、佐天涙子は必敗に喫していたのだ。


――刀の切っ先を真っ直ぐに対戦者へ向け、


それは、虎眼の顎を、虎眼自身が生み出した"流れ"によって砕くという屈辱を与えた時から、


――その刀身をゆっくりと左手へと移す。


佐天涙子は既に殺されていたのだった。



―― 虎 眼 流 奥 義 『 秘 剣 ・ 流 れ 星 』 ――



何人たりともその魔技から逃れることは出来ない――。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 22:46:15.37 ID:CaNotr9A0
初春飾利も管理人の男も"それ"は初めて見る光景であった。

二人が見たものは見慣れぬ異様な構えであり、見知らぬ異様な雰囲気であったが、

佐天涙子が感じたものは、真なる闇と、絶なる絶望――


佐天(…やばい)

佐天(ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ)

佐天(あの構えは――やばい)


少女の死骸がその地に転がる光景を、脳裏にやどらせたのは岩本虎眼一人ではない。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 22:50:55.29 ID:CaNotr9A0
脱兎の如く、牛の一散、屠所の羊。

虎の前の少女は、そのどれよりも早く、切に、下等に、貪欲に、
兎よりも、牛よりも、羊よりも、この世の誰よりも、何よりも、虎からの逃走を希求した。

貶められてもいい、辱められてもいい、潰されてもいい、殺されてもいい、


目の前の流星から逃れたい――。


140億の脳細胞が60兆の体細胞に、全身全霊全体絶対のパルスを送る。



            『  逃  げ  ろ  』






佐天涙子の足はガクガクと震えてよろけ、腰を抜かし、その場にへたり込んで凝固した。

岩本虎眼の左手から、死の流星が放たれた。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 22:54:42.68 ID:CaNotr9A0

流星は――




――空を切る。
ギロチンのように



――金属バットを切る。
鉞のように。



――空を切り。
土壇場のように。




――少女の首を斬る。
少女の首を狩るように。


39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 22:59:18.88 ID:CaNotr9A0
初春飾利が目を開けたとき。

まだ流星が岩本虎眼の五本指の内にあったときから、
己が乾いた眼球を潤すために目を閉じたときから、
悠久に感じられる刹那の闇を見た後に、

再び目を開け、

光を感じたとき、

最初に見た光景は、


絶望に飲まれ座り込んだ生きている少女と、

希望を見ながら立ちすくむ生きていない老人だった。


岩本虎眼の流れ星は、佐天涙子の首の皮一枚を切断し、
死んだように、躯と化して風化を待つように、何も無くなったように、静止していた。


虎眼「い…」





虎眼「いくぅ…」


40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 23:02:34.06 ID:CaNotr9A0
初春飾利が声をあげる。

初春「佐天さぁぁぁん!!」


佐天涙子が声もあげずに立ち上がる。

佐天「…」


真っ二つに割れて柄の先から消失した金属バットの残骸をかなぐり捨て、


初春飾利の身体から産まれた剣を握る岩本虎眼の六本の指を握り、


その剣の刃先を、枯れ果てた老人の胸を飾る瑞々しいバラを目掛けて、



真っ直ぐに切り上げた。



41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 23:05:36.73 ID:CaNotr9A0

?「勝者、」


初春飾利は駆け出して、


?「無能力者(レベル0)・佐天涙子!」


佐天涙子の胸に飛び込んだ。




佐天「泣くな、初春」



42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 23:09:12.11 ID:CaNotr9A0
暫く後。

?「落ち着いたかい?」

佐天「うん、もう大丈夫…です」

初春「佐天さぁん」グスッグスッ
佐天「そればかりだなぁ、初春は」

?「おめでとう」

佐天「…で、私達はどうなるんですか?」

?「約束どおりだ、花嫁は君に返そう」
?「ただし僕たちは実験をやめたわけではない…」
?「君が望む望まぬに関わらず、君から花嫁を奪いにかかる挑戦者はこれからも現われるよ?」

佐天「勝手なことを言いますね、そちらからすれば『スタートラインに立った』ってことですか…」

?「察しがよくて助かるよ」

佐天「…」
?「…」
初春「…」グスッグスッ

佐天「ねぇ、あなた…」
?「うん?」
佐天「さっきから気になってたんですけど…」

佐天「私達これが会うの初めてじゃないですよね?」

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 23:11:38.75 ID:CaNotr9A0
?「ふふっ、やっと思い出してくれたか」


鋼盾「僕の名前は鋼盾掬彦。講習会以来だね」


佐天「やせましたね…」


鋼盾「…どうも」


佐天「帰ります」


鋼盾「送ろうか?」


佐天「遠慮します」

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2010/05/27(木) 23:14:19.25 ID:CaNotr9A0
決闘場へと続く森にて、


佐天「おっとっとっと…」

初春「フラフラじゃないですか、佐天さん。肩貸しますよ」

佐天「悪いねぇ…」

廊下の影から、大きな手提げカバンを持ち、眼鏡をかけた、白い学生服の男が現われる。
??「…」

佐天「誰…?」

佐天「まさか決闘の挑戦者?」

佐天「"もう"ですか…、まいったなぁ…。おっとっと」フラフラ

初春「佐天さん、この人は…」


??「ご案じ召されずに…、私は挑戦者ではありません」

45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/27(木) 23:17:59.44 ID:CaNotr9A0
覚悟「私は岩本虎眼殿の旧誼葉隠朧が一子、葉隠覚悟と申すもの…」

覚悟「此度のご決闘、真にお見事でありました」
覚悟「女性でありながらあの戦いっぷりの見事さたるや、この覚悟、人生最大の見逸れ」

佐天「堅っ苦しい奴ね…」ボソリ
初春「佐天さん、この人は立会人ですよ、虎眼さんの…」ヒソヒソ
佐天「立会人…?賭郎…?」
初春「…じゃなくて、ボクシングのセコンドみたいなものですね。認められてるんです」
佐天「じゃあ、さっきの決闘も見てたんだ…」

コホンっ、と咳払いする覚悟。
覚悟「私が無礼にも相手様方を女性と知りながらお声かけしたのは、貴女の服装が理由です」

佐天「これ…?」
初春「そういえば虎眼さんと鍔迫り合いしそうになったときに切られて制服の上がボロボロのビリビリですね、下着が見えてますよ?」
佐天「あ~、はははははっ…」
両腕で身体を隠す佐天。

覚悟、眼鏡をクイッと指で上げながら、
覚悟「宜しければと思い、差し出がましくも着替えをご用意させていただいた次第」

佐天「えっ、本当ですか?ありがとうございま~す」
初春「警戒心ゼロですね、いいですけど…」


46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/27(木) 23:20:36.77 ID:CaNotr9A0
佐天「…って、これ学生服じゃないですかっ!男物のっ!」
初春「着てから言わないで下さい…」

覚悟「それしかなかったものですから…、ですがお気を落とさずに…」
覚悟「その学生服は防刃、防弾、耐熱、耐爆、耐放射線等等…、滅多なことでは破れますまい。ご決闘者であらせられる貴女にはとても役立つ代物かと…」
覚悟「私が着ているものと同じものですが、白黒の違いがあるのと装飾品をデチューンしておりますので、おそろいとは言えませぬ…どうぞご安心を」

佐天「まぁ、いいんですけどね…」

初春「あっ学生帽もありますよ、髪が長いから、髪を帽子の中に入れて被るといい感じですね」

佐天「まぁ、いいんだけどね…」

佐天「それより…え~と、葉隠さん?」

覚悟「はい」

佐天「顔色が悪い気がしますけど、大丈夫ですか?」

47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/27(木) 23:22:35.62 ID:CaNotr9A0
覚悟「!!…問題ありません」

覚悟(もうあまり時間が無いか…意外と早かったな…不覚…)

佐天「本当に大丈夫ですか?だったら私達もう行きますけど?服、ありがとうございました…」

覚悟「ご機嫌よう」

佐天「ではでは」スタスタ,フラフラ
初春「…」スタスタ

覚悟(行ってしまわれたか…)
覚悟「ぐふっ…」
膝を突いて、口元を押さえる。

零『どうした覚悟!?』

覚悟「がはぁっ!!」
大量の血を噴出し崩れ墜ちる。
零『おい、覚悟!』

覚悟「幾多の戦場においても…倒れることなきよう鍛えしこの身体なれど…」
覚悟(女性の下着姿があれほど心を震わせるものだったとは…)バタリッ

零『覚悟ォォォォォ!!!!!』


48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/27(木) 23:24:40.34 ID:CaNotr9A0
鋼盾「卵の殻を破らねば、雛鳥は生まれずに死んでゆく!」

鋼盾「我らが雛だ!」

鋼盾「卵は世界だ!」

鋼盾「世界の殻を破らねば、我等は生まれずに死んでゆく!」

鋼盾「卵の殻を破壊せよ!」


鋼盾「世界を革命するために!!」



鋼盾「さて、皆さん。本日はお集まり頂き誠にことにありがとうございます」



49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/27(木) 23:27:49.67 ID:CaNotr9A0

ガッツ「『ありがとうございます』じゃねぇだろうよ…、鋼盾」

鋼盾「これはこれは、黒剣士殿」


比古清十郎「そうだな、話が違うんじゃないのか?」

鋼盾「飛天の伝承者に凄まれると私も弱い」


仮面の男「そう責めることも無いと思うが、説明はしてもらいたいな」

鋼盾「男爵様のお優しさには頭が下がるばかり…」


竜騎将バラン「ふざけるなっ、鋼盾!!我らの断りも無しにメンバーを増やしたことだ!」

鋼盾「そう申されても…元々席は二人分空いていると申し上げていたはずですが、竜騎士殿?」


トランクス「鋼盾さん、そうじゃない。新しいメンバーは若い女の子だと聞いたが?」

鋼盾「若くして最強のパワーを持つ貴方らしくもない…それに…」


鋼盾「その少女は岩本虎眼殿を下している」


51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/27(木) 23:30:40.97 ID:CaNotr9A0
ヤイバ「でもあのジィさんボケってからなぁ…。そのせーじゃねーの?」

ムサシ「コリャ、ヤイバ!老人に対してなんじゃその物言いは!」

鋼盾「師の言うことは聞くものですよ、刃殿?剣聖と名高い武蔵様の仰る通り…」

竜騎将バラン「そのふざけた態度をやめろと言っておる!!」

鋼盾「ふっ、へへへ…。もう一つあるんだけどなぁ…」
鋼盾「虎眼立会いに来ていた葉隠覚悟、どうやらそのコと接触したらしい…」

ムサシ「まさか…」


鋼盾「瀕死の重体だ」


仮面の男「あの強化外骨格の葉隠覚悟を…!?」
ガッツ「へぇ…」
竜騎将バラン「むぅ」
ヤイバ「そっか、俺はつえーんだったらなんでもいーぜ」

鋼盾「異論無しでいいだろ?」

トランクス(やれやれ…)

鋼盾「それで、ええっと、次の挑戦者は誰だっけ?順番で言うと…」

比古清十郎「俺だな」



52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/27(木) 23:33:06.13 ID:CaNotr9A0
佐天涙子、自室、

佐天(うわぁ…)
佐天(レベルアッパーの時以来だ…)

佐天(能力が使えるようになってる…)

佐天(やっぱ嬉しいなぁ…)


53 :1:2010/05/27(木) 23:34:26.94 ID:CaNotr9A0
終わりです
おそまつさま


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