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>>640,>>643-657
640 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/21(金) 00:29:23.57 ID:d8vUQ460 [1/15]
ちょい17レスほど場所借ります。
内容はロシアとの戦争終了後。長編のプロローグ部分として
書いてたのだけど、行き詰ってしまったり文章力がなさすぎて良く筆が止まってしまうので
改善点やら感想やらくれたら凄く嬉しいです。
では投下していきます
ちょい17レスほど場所借ります。
内容はロシアとの戦争終了後。長編のプロローグ部分として
書いてたのだけど、行き詰ってしまったり文章力がなさすぎて良く筆が止まってしまうので
改善点やら感想やらくれたら凄く嬉しいです。
では投下していきます
643 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/21(金) 00:31:29.33 ID:d8vUQ460 [2/15]
世界は変質する。
大きな、世界規模での戦争と言っても差し支えの無い争いが発生した。
十月十九日を境に、多くの人々にとって忌まわしき記念日になった。
第三次世界大戦。
世界の三大軍事力である大国ロシアと、科学の最先端を歩む学園都市の衝突。
およそ三週間に渡る熾烈な凌ぎあいを制したのは、科学の最先端を歩む学園都市だった。
世界中の人々が、その結果に驚愕と畏怖を覚えた。
いかに学園都市が二、三十年ほど進んだ科学技術を掌握しているとはいえ、所詮、大人から
子供まで合わせて二百三十万人程度しかいない『都市』に過ぎない。
そして『都市』に住まう大半が、殺しあいとは無縁の生活を送る学生でしかない。
いくら特殊な――手から炎や電撃、はたまた漫画みたいな瞬間移動など――能力があろうと、
大陸間弾道ミサイルを防げるわけでもなく、単純な戦力という意味でも圧倒的な差があった。
物量も戦力も何もかも。
だが、大国ロシアは敗戦した。
最先端の科学テクノロジーは、既存の科学テクノロジーを有りとあらゆる面で凌駕し、完璧なる敗北を突きつけたのだった。
と、ここまでは外から覗いた観測結果。
あくまでも争いに巻き込まれなかった諸国からの印象である。
ロシア内部のある軍事専門者はこう発言している。
本当にロシアが負けを認めず、最後の最後まで反戦の構えを見せ、徹底抗戦すれば泥沼展開に持ち込めたはずだと。
事実、その通りだった。
644 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/21(金) 00:32:43.34 ID:d8vUQ460
いくら最先端科学を使っていようと、それを操るのはあくまでも人の手。
時間が長引けばそれだけ集中力を失いミスが発生するのは自明の理。聞けば無人戦闘機という代物まで
投入されていたそうだが、それすらも遠距離から人が操っているに過ぎない。
ならば圧倒的な物量による時間稼ぎにより、泥沼的な展開を構築すれば光明は見えてくるはずだった。
なにせ学園都市は『人道的な兵器の運用法』と人を喰った主張を掲げていたのだ。これを破れば各国からのパッシングが
寄せられ学園都市はどんどん敵を増やす事になる。
だからこそ、時間を味方につければ可能性はあった。
更に学園都市は敵も多い。門外不出の科学技術はそれだけで相手を脅かす材料になってしまう。
もし泥沼展開で時間を稼げれば、学園都市をよく思わない諸国が参入してくる可能性もあったのだ。
……今になっては意味はなく、所詮は空机の議論でしか無いのだが。
大国ロシアの突然の敗戦宣言により。
唐突に、全てが終了した。
まるで火事が発生した際の避難手順をデモンストレーションするかのように。
一体、見えない内部で何があったのか?
それを知る者は一握りを置いてしか存在しなかった。
推測できるのは。
裏の水面下で何かがあったのだろう、とだけ。
――こうして第三次世界大戦は終了したのだった。
645 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/21(金) 00:33:42.83 ID:d8vUQ460
だが。
それだけで全てが終わるわけがない。
これは終わりではなく、新たなる始まりを告げる鐘の音。
世界が変質した運命の日。
喜、怒、哀、楽、愛、憎。
あらゆる人の感情を巻き込みながら、世界は少しずつ、少しずつ、だけど大掛かりに変質していく。
これは変質していく世界の情勢の中で、必死にもがき苦しみながらも自らの信念を下に、
歩みを止めようとしない人々の物語。
『誰に教えられなくても、自身の内から湧く感情に従って真っ直ぐに進もうとする者』
『過去に大きな過ちを犯し、その罪に苦悩しながらも正しい道を歩もうとする者』
『誰にも選ばれず、資質らしいものを何一つ持っていなくても、たった一人の大切な者のためにヒーローになれる者』
そんな三人の主人公達だけでなく、
もっと非力で何処にでも居る、ただの学生やチンピラ、サラリーマンに主婦という特別な力を持たない『普通の人々』が刻む
不屈の信念の物語。
正しいか間違いか、の二次論なんかでは無く。
ただ己が信じた答えを突き進む『誰もが主人公』の――
――物語である。
646 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/21(金) 00:35:08.60 ID:d8vUQ460
――――
(こ、これはどうするべきなのでしょう、とミサカはメダパニ状態で助けを求めたいです)
妹達の一人である検体番号一九九九九号は焦りや不安、緊張から喉をカラカラに干上がらせていた。文法も若干おかしい。
ちなみにロシアの研究施設に送られた個体である。
だけど一九九九九号が現在居る地点は、見慣れた研究施設の一室でもなければ、割り振られた自由時間の間によくお世話に
なっているお食事処でも無く、人生初にしておそらくは妹達の誰一人として到達した事の無い場所に身を置いていた。
端的に言ってしまえば、どこぞの高級ホテルである。
周囲には高級感漂う豪奢なドレスを着こなしたご婦人や、紳士なジョントルマンが談笑をしながら、
これ一本いくらするの? と真剣に考えたら身体がガクガク震えそうな金額のワインを洒落たグラスの並々と注ぎ込まれている。
(あぅあぅあぅ、とミサカは言葉に出来ないこの気持ちの処理にオーバーヒートしてしまいそうです)
そんな一九九九九号の姿も、絵本で見たようなお姫様ドレスを着込んでいた(ここに入室するために必要だったため)。
っで目の前の上質な布地で織られた真っ白なテーブルクロスがひかれ、その上には周囲と同じようにグラスにワインが注がれ、
美味しそうな料理が並べられていた。
え、これ、夢? なんでドレス着てんの? この食べ物何? っていうかミサカは食べるべきなの?
っとてんてこ舞いなのだが、それを認識していても抑えられるものではなかった。
「う~ん、どうしたんだい? テーブルマナーなんて気にせず好きなように食べて貰って結構なんだよ?
あ、そうかっ……お箸じゃなかったら駄目だったかな? ん、すぐに用意させるから少し待ってね、ちょっとそこのバーテ――」
「――いえ結構です! とミサカは声を大にして涙目になりながら訴えます!」
「おや、そうなのかい? じゃあそうしておこう」
「はい是非に是非にそうしてください、とミサカは軽い安堵の息を付きます、はぁ……」
周囲からヒソヒソとした囁きと視線に羞恥心を感じながら、改めて目の前の席に構える人物とこうなった経緯について思考を馳せる。
口調から察せれるだろうが男性だった。
647 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/21(金) 00:35:46.76 ID:d8vUQ460
経緯はこうだ。
ミサカは自由時間だったのでご飯食べにいこうとしました。
↓
その途中に声掛けられました。
↓
問題の男性でした。
↓
あれやこれやと言い包められていつの間にかホテルに入っちゃいました……。
↓
そして今に至ります。
説明終了。
(これではまるで飴ちゃんを上げるからオジサンについておいでぇ~、と唆されて付いていくダメっ子ではないですか、とミサカは愕然とします)
正しくその通り……、
(いいえ、それだけは絶対に違います! とミサカは断固として拒否します。これには仕方ない理由があったのです、とミサカは自己弁護します)
その理由とは、この見知らぬ男性の出世である。
東洋人。
歳は三十代の半ばから後半ぐらいで、そこそこの身長と整った顔立ち。
国籍上の問題で、ここらでは珍しいとも取れるが、それだけなら問題は無いし、一九九九九号も付いて行こうとは思わなかっただろう。
ただ、その男性の姓が問題だった。
648 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/21(金) 00:38:55.82 ID:d8vUQ460
(御坂旅掛、とミサカ一九九九九号は目の前の男性はそう名乗ってきたのを覚えています)
御坂旅掛……察しの良い人物なら、この二人の共通点にすぐさま気付くだろう。
妹達のオリジナルである超電磁砲こと御坂美琴の父親に当たる人物である。
名乗られた時には偽者と疑いはしたが、
彼の口からオリジナルに対する情報――父と娘の親バカスキンシップ――やら家族三人で写った写真を証拠として
提示されているのでまず間違いありません、一九九九九号は判断している。
そもそもミサカを騙そうとしてもメリットがあるとは思いにくい。回りくど過ぎる。
っというわけで、一九九九九号は焦りや不安のオンパレード状態だったのだ。
旅掛はそんな一九九九九号の焦り具合すらも含めて、まるで本当の娘を見守るかのように柔らかい笑みを浮かばせていた。
「やっぱり初めて会あったばかりでこれは強引すぎたかなぁ。少し悪い事しちゃったね君に」
「そ、そんな事はありません、とミサカは慌てながら旅掛さんでは余所余所しいですしお父さんとは違うようなと更に慌ててしまう結果にぃ――?!」
「無理はしなくていい。お父さん……じゃなかった俺に気を使う必要はないからな?
そして油断すると、ついつい娘のときみたいに『お父さんは』、って言いそうになっちゃうなぁ俺。お父さんは別にいいんだけど
これじゃ余計に君にプレッシャーかけちゃうことになりそうだし?」
「いえしっかりと油断しきっていますが、とミサカはプレッシャーを感じ内心は暴走トーマスくんですが、表面上は冷静にツッコミを発動させてみます」
「これは一本取られたな。でも少しは緊張も和らいできたみたいで嬉しいよ」
649 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/21(金) 00:39:31.55 ID:d8vUQ460
ニコニコと本当に嬉しそうに笑いかけてくる旅掛。
父親……か、と一九九九九号は思う。
初めて向けられる感情が籠もった視線に、背筋がムズ痒くなりながらも温かさを感じてしまう。
同時に、ジクリと申し訳なさも胸の奥底から沸いてくる。
「それでどのような目的でミサカをここに連れ込んだのでしょうか、とミサカは本題に斬り込みます」
「もちろん理由ならある。だけど物事には順番があってね? 先にこちらを楽しんでも罰は当たらないじゃないかな?」
示されたのはテーブルの上に広がった美味しそうな料理。
確かに食べなければ勿体無い。
下手な遠慮は奢ってくれるという旅掛に失礼だし、作ってくれたショフにも申し訳ない。っていうかここで食わずして、
いつ食べるというのか。今後このような機会に恵まれる可能性は限りなく低いではないか。
ならばミサカが取るべき行動は――、
「その言葉にミサカは甘えます、と鎖に繋がれた獣が解き放たれたかのようにいただきますと唱和します」
「テーブルマナーなんて気にしないでいいぞ。ここのオーナーには少し顔が利くからねお父さんは。では、いただきます」
何かナイフやフォークが何種類もあったり、本来なら順番に運ばれてくるはずの品々がドンッ、と全品構えてたりするのだが、
そんな違和感は一九九九九号にとっては些細な事情だった。
だってすっごく美味しいし。
旅掛もグラスに唇を這わせ赤々とした液体を喉に通しながら、笑みを浮かべている。
少し複雑な縁を持つ、親子水入らずの楽しい楽しいお食事会が始まった。
650 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/21(金) 00:40:07.26 ID:d8vUQ460
――――
『ごちそうさまでした』
あれから三十分後。
初めて口にする数々の絶品料理に太鼓を打ち鳴らしていた一九九九九号と、
温かい笑みを絶やさず、気軽に世間話を持ちかけていた旅掛が、
二人で同時に声を重複することによって、豪華ディナータイムが終了した。
「本当なら、ここから一服したいとこだが」
「分かっています、とミサカも頷きます」
とうとうこの時が来た。
ここからが本題。旅掛の本来の目的が果たされるときである。
「じゃあ君は――いいや“君達”はなんなのかな?」
旅掛は笑みを浮かべてはいたが、今までの笑みとは違った笑みに一九九九九号は見える。
ジクリ、と胸に痛みが走った。
「ミサカはあなたの娘である御坂美琴によるDNAを元に製作されたクローンです、とミサカは明かします」
「ふむ、続けて」
「はい、とミサカは頷きます」
誤魔化し無く全てを説明していく。旅掛は真実のみを欲しているから。
妹達が生み出された理由、絶対能力進化実験、一方通行、上条当麻、上位個体、各地に散らばった妹達。オリジナルを取り巻く現状。関わった作戦。
要所要所を端的に、それでいて間違いがないように丁寧に説明していった。
いつのまにか周囲の客が居なくなっているのに気付く。
一九九九九号が知る由もないが、旅掛による“顔が利く”結果である。
651 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/21(金) 00:41:00.10 ID:d8vUQ460
「なるほど。つまり――」
「……そうなります、とミサカは神妙に答えながら――」
旅掛が気になった疑問を口にすれば、一九九九九号はすかさず応えていく。
もう旅掛は笑みを浮かべていない。
あまりに凄惨な内容を語っていくにつれ、比例するように旅掛の表情から感情が削ぎ落とされていき、
能面で平らな表情になっていき、血色良かった顔色が今では青褪めてきている。
そして粗方だが全ての説明が終わった時、
旅掛の様子は意気消沈とし、力なく頭を垂れてしまっていた。
(……そう、なりますよね、とミサカ一九九九九号は恐れを抱きます)
怖い。
堪らなく怖い。
感情に乏しいはずの自分の身体が内から張り裂けそうに苦いものを犯されている。
これは何? この苦々しい気持ちは?
生まれた頃の妹達なら解らなかっただろう心の動きを、今では全てとは言わないがおぼろげになら一九九九九号は把握していた。
自分も含め、妹達は成長していく。
少しづつ少しづつ人間らしくなってきている。
だから解ってしまう。解ってしまった。
652 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/21(金) 00:41:47.84 ID:d8vUQ460
(きっと嫌われたくなかったのでしょう、とミサカ一九九九九号は判断してみます)
旅掛は言ってくれた。態度でも示してくれた。
自分の事を……本当の娘のように扱ってくれていた。
こんな不自然で気持ちの悪い生まれた方をしてきた自分の存在を、気負うことなく自然に扱ってくれたのだ。
嬉しかった。
口には出さなかったけど、本当に嬉しかったのだ。
だが。
全ての真実を知った現在(イマ)となってはどうだろうか?
考えるまでも無い。きっと無理だ。
今までと同じように接してくれるだろう、とそんな儚い想いを抱けるほど一九九九九号は強くなかった。
このような真実を知ってしまえば、
例え妹達が本質では被害者と云えども、責めるべき対象になってしまう。
やり場の無い理不尽な感情は、その人物が悪くなかろうと降りかかるものだった。
だけど。
そんなのは全然怖くないのだ。むしろ責められても当然の立場に居る、とさえ一九九九九号は考えている。
ならば。
本当に怖いものとは――
(――この人を傷つけてしまったことです、とミサカ一九九九九号は唇を噛み締めます)
ただの父親が。
家族の幸せだけを心の底から望む、何処にでも居る父親がどうして傷付かなければいけないのか?
何も悪い事をしていないのに。
653 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/21(金) 00:42:53.76 ID:d8vUQ460
(ミサカの行動は間違っていたのでしょうか、とミサカ一九九九九号は真実を語ったのを今更ながらに悔やみます)
何が正しく、何が間違っていたのか一九九九九号には解らなくなってしまっていた。
誤魔化すという選択肢は取れなかった。
旅掛はある程度の情報は仕入れていたはずだ。入手経路は不明だが、でなければわざわざロシアにまで
飛び立ちピンポイントで一九九九九号を捕まえられるはずがない。計画的すぎる。
それも最近まで敵国だったロシアである。
日本人だとバレればどうなっていたことか想像には難くないが、どうしてここを選んだのだろうか? ミサカネットワークの
使用を控えてくれと頼まれたのと関係あるのかもしれない。
とにかく謎は尽きないが、
「他人の空似です。世界には同じ顔を持つ人が三人はいますから」と誤魔化せる相手では無かった。
(ですが全てを語る必要性はなかったかもしれません、とミサカ一九九九九号は適当にお茶を濁せば良かったと悩みますが……)
……きっと適当な説明を並べても納得しなかっただろう。
旅掛は父親だ。
父親だからこそ、少しでも不自然な、辻褄が合わない内容だったならば徹底的に追求してくる。
そして一九九九九号が情報の提示を頑なに拒めば……強引に聞き出そうとはしてこないだろうが、
彼ならばきっと己の手で真実を掴みだそうと行動するはず。
違法に手を出しても、危険が立ち塞がろうと強引に無茶に飛び込んでいく。命よりも大切な宝物である娘と妻の為に。
最も、賽は既に投げられてしまっている。
ifの話をしても、全てが無意味だった。
(どうかお願いします、とミサカ一九九九九号は祈ります)
この人が少しでも傷付かないように。
その為ならば、自分が責められようと構わない。それで負担が少なくなるというのなら。
居心地の悪い沈黙は続いている。
両者が黙り始めてから五分が過ぎようとしていた。
そして――、
654 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/21(金) 00:43:51.07 ID:d8vUQ460
「……なるほどな」
ポツリ、と旅掛は呟いた。
垂れていた頭が持ち上がり、一九九九九号からも表情が確認できるようになる。
出会った時の笑みは浮かんでおらず、
深刻そうに表情を歪め、口元を結んでいる。
「事情は把握した」
「……」
「これから君達に取って辛い事を言ってしまうから先に謝っとくよ」
一九九九九号は無言で頷いた。
それで良い、と真っ直ぐに旅掛の視線を受け止める。
旅掛は口を開いた。
歪んでいた顔を余計にグシャグシャにさせ、微かに瞳は潤い、両手で頭をガシガシと掻き毟るりながら。
「お父さんの給料ではどう考えても一万人近くの娘達を養っていくなんて無理だチクショ――ッ!?」
叫んだ。
大声で咆哮していた。駆け抜けていった叫びの意味は凄く切実だった。
「は……? はぁっ?! とミサカは事の成り行きについていけず呆然としてみます」
「そうだよな、普通そうなるよな! だって父親が登場したかと思えば育児放棄と捉えられても
仕方のない発言を叫びだしたら呆れて言葉が出ないのは当然だよな! だけど弁解させてくれ、お父さんだってこんな酷い事を
言うつもりは無かったんだ、けどっ、けどなぁ! まさかの一万人近くの娘が居るなんて思うはずないよな、誰だって
そうだよな?! 一応これでも事前の情報から予測して百人ぐらいなら、なんとかなったんだよ!」
655 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/21(金) 00:44:28.10 ID:d8vUQ460
ヒートアップしていく中年親父。
まさかショックのあまりに脳が……と失礼なことを考えながら一九九九九号は、
「え、いや、あの、とミサカはまず落ち着いてくださいと声を掛けます」
恐る恐る旅掛に声を掛ける。
だが旅掛は聞こえていなかったのかハイテンションを維持したまま一人語りを止めようとはしない。
「でもさぁ蓋を開けてみたら一万人近くときたもんだっ! お父さんビックリしちゃったよー、
こりゃ笑うしかないよな? あっはっはっはっ!
ってあぁ、そんな冷たい視線で見ないでくれないかな? 怒ってる、怒ってるよね? 頼りない親父で」
頼りない以前に危険な人にしか見えません。
そう言う訳にもいかず、一九九九九号は我慢強く粘りの姿勢を見せる。
「怒っていません、とミサカは答えながら落ち着けと強めに諭します」
「ほぅら、ほぉら怒ってる! 言葉では否定してるけど口調が怒ってるもん!」
「素っ気無い口調は元からです、とミサカは冷静に返答しつつ、内心ではウンザリとしてきました」
先程まで横たわっていた重たい空気は霧散してしまっている。
旅掛は一人で追い詰められた人が浮かべる半笑いの表情になっているが、
むしろ深刻に受け取るなら養う云々じゃあなく、もっと違う部分で深刻に受け取るべき箇所は多々あったのだが、
本当にちゃんと説明を聞いていたのだろうか? と一九九九九号は頭を悩ませるが答えが導き出される事はなかった。
(ですが良かったです、とミサカ一九九九九号は安堵します)
一九九九九号は必死に弁解をしている旅掛に視線をやりながら胸を撫で下ろす。
今も尚続く旅掛の弁解する姿を見れば、一九九九九号が懸念していたよりも衝撃が少なかったのは一目瞭然。
これならば彼の今後の活動に与えられる支障も少なくて住むだろう。
失意のどん底に囚われたまま、沈んでいく身を眺めさせられるなど、誰にとっても報われないのだから。
本当に良かったです、と一九九九九号は微かに表情筋を動かしていた。無意識の内に。
それを見逃さなかった旅掛は、
「漸く笑ってくれたね。今日初めての君の笑顔だ」
なんてキザったらしくも温かい笑みで喜んでいた。
娘が好きで好きでたまらないという父親の笑みで。
656 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/21(金) 00:46:25.86 ID:d8vUQ460
「それでそれで、その後はどうなったのですか、とミサカ二〇〇〇〇号は急かします」
「わかったから暑苦しいので離れてください、とミサカ一九九九九号は窘めます」
一九九九九号はそう口にしながら、鼻息荒く迫ってくる二〇〇〇〇号を軽くあしらった。
二人が居るのはロシアに構える研究所の一室。妹達の生活住居として宛がわれた施設の一つである。
「その後は特に大きな進展はなかったです、とミサカ一九九九九号はあの人との密会を語ります」
「えー、つまんないー、とミサカ二〇〇〇〇号はブーたれます。そもそもネットワークを切断して一九九九九号
だけ親父殿との楽しい遣り取りを独り占めは反則だ、とミサカ二〇〇〇〇号は共有しろよオラァと唱和の不良よろしくメンチをきります」
「好きでやったわけではありません、とミサカ一九九九九号は反論します。
これはあの人からのお願いでしたので、とミサカ一九九九九号は仕方なかったのですと肩をすくめます」
旅掛は人目を忍んでいた。
堂々不敵に声を掛けられたことも有り一九九九九号は気付かなかったが、
今にして思えば周囲に視線を走らせ警戒していたように思う。
気にはなる。なるが、
あの人にはあの人なりの事情があったのだろう、と一九九九九号は深く詮索せずに置いた。
「そういうわけで二〇〇〇〇号も秘密厳守ですよ、とミサカ一九九九九号は睨みつけながら言い含めます」
「りょ~かい、とミサカ二〇〇〇〇号は親父殿に迷惑掛けたくはないので渋々了承します」
657 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/21(金) 00:46:53.84 ID:d8vUQ460 [16/16]
恨めしそうな二〇〇〇〇号に、独占感から勝利の喜悦を返していた一九九九九号は、
ふと旅掛の言葉を思い出した。
「最後にあの人はこう言い残していました、とミサカ一九九九九号は思い出します」
「ん、なんて? とミサカ二〇〇〇〇号は一九九九九号を窺います」
それは――
『次に会う時は君達に足りないものを用意してくるからな。
それが出来るのは俺だけで、それを実行していいのはお父さんだけだから。
期待して待っていてくれたらいい。なぁに、簡単な事だからさ。
薄暗い場所に籠もってる根暗野郎を一泡吹かせてくるだけだから。
言っただろう? お父さんハッスルしちゃうぞ~って』
――他人には解読できない意図を含んだ別れの挨拶だった。
「いまいち解らない、とミサカ二〇〇〇〇号は首を捻ります」
「ミサカも同じ結論です、とミサカ一九九九九号も同様に首を捻ってみます」
どれだけ二人の少女が思考を重ねようと、
旅掛が残していった意味深げな言葉を理解するには至らなかったのだった。
【終わり】
658 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/21(金) 00:50:33.39 ID:d8vUQ460 [17/17]
一応プロローグ部分は終了。
そして読んで下さった方ありがとうございます。遅筆な文章で申し訳ない。
一応原作のSS2とかを参考に短編短編を重ねてのオムニバス形式で進めて
いこうかと考えて、短めに終わらしてます。
ただ旅掛やミサカ口調が難しかったり、禁書独特の三人称と一人称の混じりが
難しくて困難してたり。
もし宜しければ改善点(多々あるでしょうが)や感想をくれたら、それを励みに
続きには活かせるようにしていきたいです。
ではここまでお読み頂きありがとうございましたー。
世界は変質する。
大きな、世界規模での戦争と言っても差し支えの無い争いが発生した。
十月十九日を境に、多くの人々にとって忌まわしき記念日になった。
第三次世界大戦。
世界の三大軍事力である大国ロシアと、科学の最先端を歩む学園都市の衝突。
およそ三週間に渡る熾烈な凌ぎあいを制したのは、科学の最先端を歩む学園都市だった。
世界中の人々が、その結果に驚愕と畏怖を覚えた。
いかに学園都市が二、三十年ほど進んだ科学技術を掌握しているとはいえ、所詮、大人から
子供まで合わせて二百三十万人程度しかいない『都市』に過ぎない。
そして『都市』に住まう大半が、殺しあいとは無縁の生活を送る学生でしかない。
いくら特殊な――手から炎や電撃、はたまた漫画みたいな瞬間移動など――能力があろうと、
大陸間弾道ミサイルを防げるわけでもなく、単純な戦力という意味でも圧倒的な差があった。
物量も戦力も何もかも。
だが、大国ロシアは敗戦した。
最先端の科学テクノロジーは、既存の科学テクノロジーを有りとあらゆる面で凌駕し、完璧なる敗北を突きつけたのだった。
と、ここまでは外から覗いた観測結果。
あくまでも争いに巻き込まれなかった諸国からの印象である。
ロシア内部のある軍事専門者はこう発言している。
本当にロシアが負けを認めず、最後の最後まで反戦の構えを見せ、徹底抗戦すれば泥沼展開に持ち込めたはずだと。
事実、その通りだった。
644 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/21(金) 00:32:43.34 ID:d8vUQ460
いくら最先端科学を使っていようと、それを操るのはあくまでも人の手。
時間が長引けばそれだけ集中力を失いミスが発生するのは自明の理。聞けば無人戦闘機という代物まで
投入されていたそうだが、それすらも遠距離から人が操っているに過ぎない。
ならば圧倒的な物量による時間稼ぎにより、泥沼的な展開を構築すれば光明は見えてくるはずだった。
なにせ学園都市は『人道的な兵器の運用法』と人を喰った主張を掲げていたのだ。これを破れば各国からのパッシングが
寄せられ学園都市はどんどん敵を増やす事になる。
だからこそ、時間を味方につければ可能性はあった。
更に学園都市は敵も多い。門外不出の科学技術はそれだけで相手を脅かす材料になってしまう。
もし泥沼展開で時間を稼げれば、学園都市をよく思わない諸国が参入してくる可能性もあったのだ。
……今になっては意味はなく、所詮は空机の議論でしか無いのだが。
大国ロシアの突然の敗戦宣言により。
唐突に、全てが終了した。
まるで火事が発生した際の避難手順をデモンストレーションするかのように。
一体、見えない内部で何があったのか?
それを知る者は一握りを置いてしか存在しなかった。
推測できるのは。
裏の水面下で何かがあったのだろう、とだけ。
――こうして第三次世界大戦は終了したのだった。
645 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/21(金) 00:33:42.83 ID:d8vUQ460
だが。
それだけで全てが終わるわけがない。
これは終わりではなく、新たなる始まりを告げる鐘の音。
世界が変質した運命の日。
喜、怒、哀、楽、愛、憎。
あらゆる人の感情を巻き込みながら、世界は少しずつ、少しずつ、だけど大掛かりに変質していく。
これは変質していく世界の情勢の中で、必死にもがき苦しみながらも自らの信念を下に、
歩みを止めようとしない人々の物語。
『誰に教えられなくても、自身の内から湧く感情に従って真っ直ぐに進もうとする者』
『過去に大きな過ちを犯し、その罪に苦悩しながらも正しい道を歩もうとする者』
『誰にも選ばれず、資質らしいものを何一つ持っていなくても、たった一人の大切な者のためにヒーローになれる者』
そんな三人の主人公達だけでなく、
もっと非力で何処にでも居る、ただの学生やチンピラ、サラリーマンに主婦という特別な力を持たない『普通の人々』が刻む
不屈の信念の物語。
正しいか間違いか、の二次論なんかでは無く。
ただ己が信じた答えを突き進む『誰もが主人公』の――
――物語である。
646 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/21(金) 00:35:08.60 ID:d8vUQ460
――――
(こ、これはどうするべきなのでしょう、とミサカはメダパニ状態で助けを求めたいです)
妹達の一人である検体番号一九九九九号は焦りや不安、緊張から喉をカラカラに干上がらせていた。文法も若干おかしい。
ちなみにロシアの研究施設に送られた個体である。
だけど一九九九九号が現在居る地点は、見慣れた研究施設の一室でもなければ、割り振られた自由時間の間によくお世話に
なっているお食事処でも無く、人生初にしておそらくは妹達の誰一人として到達した事の無い場所に身を置いていた。
端的に言ってしまえば、どこぞの高級ホテルである。
周囲には高級感漂う豪奢なドレスを着こなしたご婦人や、紳士なジョントルマンが談笑をしながら、
これ一本いくらするの? と真剣に考えたら身体がガクガク震えそうな金額のワインを洒落たグラスの並々と注ぎ込まれている。
(あぅあぅあぅ、とミサカは言葉に出来ないこの気持ちの処理にオーバーヒートしてしまいそうです)
そんな一九九九九号の姿も、絵本で見たようなお姫様ドレスを着込んでいた(ここに入室するために必要だったため)。
っで目の前の上質な布地で織られた真っ白なテーブルクロスがひかれ、その上には周囲と同じようにグラスにワインが注がれ、
美味しそうな料理が並べられていた。
え、これ、夢? なんでドレス着てんの? この食べ物何? っていうかミサカは食べるべきなの?
っとてんてこ舞いなのだが、それを認識していても抑えられるものではなかった。
「う~ん、どうしたんだい? テーブルマナーなんて気にせず好きなように食べて貰って結構なんだよ?
あ、そうかっ……お箸じゃなかったら駄目だったかな? ん、すぐに用意させるから少し待ってね、ちょっとそこのバーテ――」
「――いえ結構です! とミサカは声を大にして涙目になりながら訴えます!」
「おや、そうなのかい? じゃあそうしておこう」
「はい是非に是非にそうしてください、とミサカは軽い安堵の息を付きます、はぁ……」
周囲からヒソヒソとした囁きと視線に羞恥心を感じながら、改めて目の前の席に構える人物とこうなった経緯について思考を馳せる。
口調から察せれるだろうが男性だった。
647 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/21(金) 00:35:46.76 ID:d8vUQ460
経緯はこうだ。
ミサカは自由時間だったのでご飯食べにいこうとしました。
↓
その途中に声掛けられました。
↓
問題の男性でした。
↓
あれやこれやと言い包められていつの間にかホテルに入っちゃいました……。
↓
そして今に至ります。
説明終了。
(これではまるで飴ちゃんを上げるからオジサンについておいでぇ~、と唆されて付いていくダメっ子ではないですか、とミサカは愕然とします)
正しくその通り……、
(いいえ、それだけは絶対に違います! とミサカは断固として拒否します。これには仕方ない理由があったのです、とミサカは自己弁護します)
その理由とは、この見知らぬ男性の出世である。
東洋人。
歳は三十代の半ばから後半ぐらいで、そこそこの身長と整った顔立ち。
国籍上の問題で、ここらでは珍しいとも取れるが、それだけなら問題は無いし、一九九九九号も付いて行こうとは思わなかっただろう。
ただ、その男性の姓が問題だった。
648 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/21(金) 00:38:55.82 ID:d8vUQ460
(御坂旅掛、とミサカ一九九九九号は目の前の男性はそう名乗ってきたのを覚えています)
御坂旅掛……察しの良い人物なら、この二人の共通点にすぐさま気付くだろう。
妹達のオリジナルである超電磁砲こと御坂美琴の父親に当たる人物である。
名乗られた時には偽者と疑いはしたが、
彼の口からオリジナルに対する情報――父と娘の親バカスキンシップ――やら家族三人で写った写真を証拠として
提示されているのでまず間違いありません、一九九九九号は判断している。
そもそもミサカを騙そうとしてもメリットがあるとは思いにくい。回りくど過ぎる。
っというわけで、一九九九九号は焦りや不安のオンパレード状態だったのだ。
旅掛はそんな一九九九九号の焦り具合すらも含めて、まるで本当の娘を見守るかのように柔らかい笑みを浮かばせていた。
「やっぱり初めて会あったばかりでこれは強引すぎたかなぁ。少し悪い事しちゃったね君に」
「そ、そんな事はありません、とミサカは慌てながら旅掛さんでは余所余所しいですしお父さんとは違うようなと更に慌ててしまう結果にぃ――?!」
「無理はしなくていい。お父さん……じゃなかった俺に気を使う必要はないからな?
そして油断すると、ついつい娘のときみたいに『お父さんは』、って言いそうになっちゃうなぁ俺。お父さんは別にいいんだけど
これじゃ余計に君にプレッシャーかけちゃうことになりそうだし?」
「いえしっかりと油断しきっていますが、とミサカはプレッシャーを感じ内心は暴走トーマスくんですが、表面上は冷静にツッコミを発動させてみます」
「これは一本取られたな。でも少しは緊張も和らいできたみたいで嬉しいよ」
649 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/21(金) 00:39:31.55 ID:d8vUQ460
ニコニコと本当に嬉しそうに笑いかけてくる旅掛。
父親……か、と一九九九九号は思う。
初めて向けられる感情が籠もった視線に、背筋がムズ痒くなりながらも温かさを感じてしまう。
同時に、ジクリと申し訳なさも胸の奥底から沸いてくる。
「それでどのような目的でミサカをここに連れ込んだのでしょうか、とミサカは本題に斬り込みます」
「もちろん理由ならある。だけど物事には順番があってね? 先にこちらを楽しんでも罰は当たらないじゃないかな?」
示されたのはテーブルの上に広がった美味しそうな料理。
確かに食べなければ勿体無い。
下手な遠慮は奢ってくれるという旅掛に失礼だし、作ってくれたショフにも申し訳ない。っていうかここで食わずして、
いつ食べるというのか。今後このような機会に恵まれる可能性は限りなく低いではないか。
ならばミサカが取るべき行動は――、
「その言葉にミサカは甘えます、と鎖に繋がれた獣が解き放たれたかのようにいただきますと唱和します」
「テーブルマナーなんて気にしないでいいぞ。ここのオーナーには少し顔が利くからねお父さんは。では、いただきます」
何かナイフやフォークが何種類もあったり、本来なら順番に運ばれてくるはずの品々がドンッ、と全品構えてたりするのだが、
そんな違和感は一九九九九号にとっては些細な事情だった。
だってすっごく美味しいし。
旅掛もグラスに唇を這わせ赤々とした液体を喉に通しながら、笑みを浮かべている。
少し複雑な縁を持つ、親子水入らずの楽しい楽しいお食事会が始まった。
650 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/21(金) 00:40:07.26 ID:d8vUQ460
――――
『ごちそうさまでした』
あれから三十分後。
初めて口にする数々の絶品料理に太鼓を打ち鳴らしていた一九九九九号と、
温かい笑みを絶やさず、気軽に世間話を持ちかけていた旅掛が、
二人で同時に声を重複することによって、豪華ディナータイムが終了した。
「本当なら、ここから一服したいとこだが」
「分かっています、とミサカも頷きます」
とうとうこの時が来た。
ここからが本題。旅掛の本来の目的が果たされるときである。
「じゃあ君は――いいや“君達”はなんなのかな?」
旅掛は笑みを浮かべてはいたが、今までの笑みとは違った笑みに一九九九九号は見える。
ジクリ、と胸に痛みが走った。
「ミサカはあなたの娘である御坂美琴によるDNAを元に製作されたクローンです、とミサカは明かします」
「ふむ、続けて」
「はい、とミサカは頷きます」
誤魔化し無く全てを説明していく。旅掛は真実のみを欲しているから。
妹達が生み出された理由、絶対能力進化実験、一方通行、上条当麻、上位個体、各地に散らばった妹達。オリジナルを取り巻く現状。関わった作戦。
要所要所を端的に、それでいて間違いがないように丁寧に説明していった。
いつのまにか周囲の客が居なくなっているのに気付く。
一九九九九号が知る由もないが、旅掛による“顔が利く”結果である。
651 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/21(金) 00:41:00.10 ID:d8vUQ460
「なるほど。つまり――」
「……そうなります、とミサカは神妙に答えながら――」
旅掛が気になった疑問を口にすれば、一九九九九号はすかさず応えていく。
もう旅掛は笑みを浮かべていない。
あまりに凄惨な内容を語っていくにつれ、比例するように旅掛の表情から感情が削ぎ落とされていき、
能面で平らな表情になっていき、血色良かった顔色が今では青褪めてきている。
そして粗方だが全ての説明が終わった時、
旅掛の様子は意気消沈とし、力なく頭を垂れてしまっていた。
(……そう、なりますよね、とミサカ一九九九九号は恐れを抱きます)
怖い。
堪らなく怖い。
感情に乏しいはずの自分の身体が内から張り裂けそうに苦いものを犯されている。
これは何? この苦々しい気持ちは?
生まれた頃の妹達なら解らなかっただろう心の動きを、今では全てとは言わないがおぼろげになら一九九九九号は把握していた。
自分も含め、妹達は成長していく。
少しづつ少しづつ人間らしくなってきている。
だから解ってしまう。解ってしまった。
652 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/21(金) 00:41:47.84 ID:d8vUQ460
(きっと嫌われたくなかったのでしょう、とミサカ一九九九九号は判断してみます)
旅掛は言ってくれた。態度でも示してくれた。
自分の事を……本当の娘のように扱ってくれていた。
こんな不自然で気持ちの悪い生まれた方をしてきた自分の存在を、気負うことなく自然に扱ってくれたのだ。
嬉しかった。
口には出さなかったけど、本当に嬉しかったのだ。
だが。
全ての真実を知った現在(イマ)となってはどうだろうか?
考えるまでも無い。きっと無理だ。
今までと同じように接してくれるだろう、とそんな儚い想いを抱けるほど一九九九九号は強くなかった。
このような真実を知ってしまえば、
例え妹達が本質では被害者と云えども、責めるべき対象になってしまう。
やり場の無い理不尽な感情は、その人物が悪くなかろうと降りかかるものだった。
だけど。
そんなのは全然怖くないのだ。むしろ責められても当然の立場に居る、とさえ一九九九九号は考えている。
ならば。
本当に怖いものとは――
(――この人を傷つけてしまったことです、とミサカ一九九九九号は唇を噛み締めます)
ただの父親が。
家族の幸せだけを心の底から望む、何処にでも居る父親がどうして傷付かなければいけないのか?
何も悪い事をしていないのに。
653 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/21(金) 00:42:53.76 ID:d8vUQ460
(ミサカの行動は間違っていたのでしょうか、とミサカ一九九九九号は真実を語ったのを今更ながらに悔やみます)
何が正しく、何が間違っていたのか一九九九九号には解らなくなってしまっていた。
誤魔化すという選択肢は取れなかった。
旅掛はある程度の情報は仕入れていたはずだ。入手経路は不明だが、でなければわざわざロシアにまで
飛び立ちピンポイントで一九九九九号を捕まえられるはずがない。計画的すぎる。
それも最近まで敵国だったロシアである。
日本人だとバレればどうなっていたことか想像には難くないが、どうしてここを選んだのだろうか? ミサカネットワークの
使用を控えてくれと頼まれたのと関係あるのかもしれない。
とにかく謎は尽きないが、
「他人の空似です。世界には同じ顔を持つ人が三人はいますから」と誤魔化せる相手では無かった。
(ですが全てを語る必要性はなかったかもしれません、とミサカ一九九九九号は適当にお茶を濁せば良かったと悩みますが……)
……きっと適当な説明を並べても納得しなかっただろう。
旅掛は父親だ。
父親だからこそ、少しでも不自然な、辻褄が合わない内容だったならば徹底的に追求してくる。
そして一九九九九号が情報の提示を頑なに拒めば……強引に聞き出そうとはしてこないだろうが、
彼ならばきっと己の手で真実を掴みだそうと行動するはず。
違法に手を出しても、危険が立ち塞がろうと強引に無茶に飛び込んでいく。命よりも大切な宝物である娘と妻の為に。
最も、賽は既に投げられてしまっている。
ifの話をしても、全てが無意味だった。
(どうかお願いします、とミサカ一九九九九号は祈ります)
この人が少しでも傷付かないように。
その為ならば、自分が責められようと構わない。それで負担が少なくなるというのなら。
居心地の悪い沈黙は続いている。
両者が黙り始めてから五分が過ぎようとしていた。
そして――、
654 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/21(金) 00:43:51.07 ID:d8vUQ460
「……なるほどな」
ポツリ、と旅掛は呟いた。
垂れていた頭が持ち上がり、一九九九九号からも表情が確認できるようになる。
出会った時の笑みは浮かんでおらず、
深刻そうに表情を歪め、口元を結んでいる。
「事情は把握した」
「……」
「これから君達に取って辛い事を言ってしまうから先に謝っとくよ」
一九九九九号は無言で頷いた。
それで良い、と真っ直ぐに旅掛の視線を受け止める。
旅掛は口を開いた。
歪んでいた顔を余計にグシャグシャにさせ、微かに瞳は潤い、両手で頭をガシガシと掻き毟るりながら。
「お父さんの給料ではどう考えても一万人近くの娘達を養っていくなんて無理だチクショ――ッ!?」
叫んだ。
大声で咆哮していた。駆け抜けていった叫びの意味は凄く切実だった。
「は……? はぁっ?! とミサカは事の成り行きについていけず呆然としてみます」
「そうだよな、普通そうなるよな! だって父親が登場したかと思えば育児放棄と捉えられても
仕方のない発言を叫びだしたら呆れて言葉が出ないのは当然だよな! だけど弁解させてくれ、お父さんだってこんな酷い事を
言うつもりは無かったんだ、けどっ、けどなぁ! まさかの一万人近くの娘が居るなんて思うはずないよな、誰だって
そうだよな?! 一応これでも事前の情報から予測して百人ぐらいなら、なんとかなったんだよ!」
655 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/21(金) 00:44:28.10 ID:d8vUQ460
ヒートアップしていく中年親父。
まさかショックのあまりに脳が……と失礼なことを考えながら一九九九九号は、
「え、いや、あの、とミサカはまず落ち着いてくださいと声を掛けます」
恐る恐る旅掛に声を掛ける。
だが旅掛は聞こえていなかったのかハイテンションを維持したまま一人語りを止めようとはしない。
「でもさぁ蓋を開けてみたら一万人近くときたもんだっ! お父さんビックリしちゃったよー、
こりゃ笑うしかないよな? あっはっはっはっ!
ってあぁ、そんな冷たい視線で見ないでくれないかな? 怒ってる、怒ってるよね? 頼りない親父で」
頼りない以前に危険な人にしか見えません。
そう言う訳にもいかず、一九九九九号は我慢強く粘りの姿勢を見せる。
「怒っていません、とミサカは答えながら落ち着けと強めに諭します」
「ほぅら、ほぉら怒ってる! 言葉では否定してるけど口調が怒ってるもん!」
「素っ気無い口調は元からです、とミサカは冷静に返答しつつ、内心ではウンザリとしてきました」
先程まで横たわっていた重たい空気は霧散してしまっている。
旅掛は一人で追い詰められた人が浮かべる半笑いの表情になっているが、
むしろ深刻に受け取るなら養う云々じゃあなく、もっと違う部分で深刻に受け取るべき箇所は多々あったのだが、
本当にちゃんと説明を聞いていたのだろうか? と一九九九九号は頭を悩ませるが答えが導き出される事はなかった。
(ですが良かったです、とミサカ一九九九九号は安堵します)
一九九九九号は必死に弁解をしている旅掛に視線をやりながら胸を撫で下ろす。
今も尚続く旅掛の弁解する姿を見れば、一九九九九号が懸念していたよりも衝撃が少なかったのは一目瞭然。
これならば彼の今後の活動に与えられる支障も少なくて住むだろう。
失意のどん底に囚われたまま、沈んでいく身を眺めさせられるなど、誰にとっても報われないのだから。
本当に良かったです、と一九九九九号は微かに表情筋を動かしていた。無意識の内に。
それを見逃さなかった旅掛は、
「漸く笑ってくれたね。今日初めての君の笑顔だ」
なんてキザったらしくも温かい笑みで喜んでいた。
娘が好きで好きでたまらないという父親の笑みで。
656 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/21(金) 00:46:25.86 ID:d8vUQ460
「それでそれで、その後はどうなったのですか、とミサカ二〇〇〇〇号は急かします」
「わかったから暑苦しいので離れてください、とミサカ一九九九九号は窘めます」
一九九九九号はそう口にしながら、鼻息荒く迫ってくる二〇〇〇〇号を軽くあしらった。
二人が居るのはロシアに構える研究所の一室。妹達の生活住居として宛がわれた施設の一つである。
「その後は特に大きな進展はなかったです、とミサカ一九九九九号はあの人との密会を語ります」
「えー、つまんないー、とミサカ二〇〇〇〇号はブーたれます。そもそもネットワークを切断して一九九九九号
だけ親父殿との楽しい遣り取りを独り占めは反則だ、とミサカ二〇〇〇〇号は共有しろよオラァと唱和の不良よろしくメンチをきります」
「好きでやったわけではありません、とミサカ一九九九九号は反論します。
これはあの人からのお願いでしたので、とミサカ一九九九九号は仕方なかったのですと肩をすくめます」
旅掛は人目を忍んでいた。
堂々不敵に声を掛けられたことも有り一九九九九号は気付かなかったが、
今にして思えば周囲に視線を走らせ警戒していたように思う。
気にはなる。なるが、
あの人にはあの人なりの事情があったのだろう、と一九九九九号は深く詮索せずに置いた。
「そういうわけで二〇〇〇〇号も秘密厳守ですよ、とミサカ一九九九九号は睨みつけながら言い含めます」
「りょ~かい、とミサカ二〇〇〇〇号は親父殿に迷惑掛けたくはないので渋々了承します」
657 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/21(金) 00:46:53.84 ID:d8vUQ460 [16/16]
恨めしそうな二〇〇〇〇号に、独占感から勝利の喜悦を返していた一九九九九号は、
ふと旅掛の言葉を思い出した。
「最後にあの人はこう言い残していました、とミサカ一九九九九号は思い出します」
「ん、なんて? とミサカ二〇〇〇〇号は一九九九九号を窺います」
それは――
『次に会う時は君達に足りないものを用意してくるからな。
それが出来るのは俺だけで、それを実行していいのはお父さんだけだから。
期待して待っていてくれたらいい。なぁに、簡単な事だからさ。
薄暗い場所に籠もってる根暗野郎を一泡吹かせてくるだけだから。
言っただろう? お父さんハッスルしちゃうぞ~って』
――他人には解読できない意図を含んだ別れの挨拶だった。
「いまいち解らない、とミサカ二〇〇〇〇号は首を捻ります」
「ミサカも同じ結論です、とミサカ一九九九九号も同様に首を捻ってみます」
どれだけ二人の少女が思考を重ねようと、
旅掛が残していった意味深げな言葉を理解するには至らなかったのだった。
【終わり】
658 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[] 投稿日:2010/05/21(金) 00:50:33.39 ID:d8vUQ460 [17/17]
一応プロローグ部分は終了。
そして読んで下さった方ありがとうございます。遅筆な文章で申し訳ない。
一応原作のSS2とかを参考に短編短編を重ねてのオムニバス形式で進めて
いこうかと考えて、短めに終わらしてます。
ただ旅掛やミサカ口調が難しかったり、禁書独特の三人称と一人称の混じりが
難しくて困難してたり。
もし宜しければ改善点(多々あるでしょうが)や感想をくれたら、それを励みに
続きには活かせるようにしていきたいです。
ではここまでお読み頂きありがとうございましたー。
Tag : とあるSS総合スレ
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