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一方通行「帰ンぞ 欠陥電気」

444 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/15(木) 23:06:35.78 ID:65epUA.0 [2/22]






――――――――――――――――『道』――――――――――――――――









445 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/15(木) 23:07:56.28 ID:65epUA.0 [3/22]
>>430から






人気のないマンションの屋上から通りを見下ろす。
朝も遅い時間のせいだろうか、人通りは少なく目的の人物をすぐに見つけることが出来た。
足元が心許なく、ふらふらしている癖に速度を緩めることなく走り続けている。
大した意地だと感心しつつ、ため息をついた。
あんなことがあったばかりだというのに、と相変わらずの行動に呆れる。

「全く、そんなにわたくしは当てになりませんの? お姉様…」

黒子は屋上の縁に腰を下ろし美琴を目で追う。
今日もサボりになってしまったと、内心愚痴を吐きながらも決して目を美琴から離さない。
本当のところ、学校をサボったことなどどうでもいいのだから。
下らない用件ならともかく、この問題は学業などと比較できない程重要なことに決まっている。

「…、はぁ…。お姉様の気持ちに疑いはありませんが、こう少しは頼ってくれても…」

夜中目が覚めて横を見てみれば主人不在のベッドが寂しくポツン、と取り残されていた。
不意に、ハンバーに掛けてあった筈の美琴の制服が消えていることに気付き、外へ出たのだと理解した。
何故こんな夜中に外へ出たのか? そんなことは『お姉さま』関係しかないだろう。
そこまで考えると現実に戻り、建物の陰に消えようとする美琴を追うべく空間移動をした。




446 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/15(木) 23:09:08.84 ID:65epUA.0 [4/22]


向かいの建物を経由し、その隣の隣の雑居ビルへ移動。
適当に見晴らしの良さそうな場所を見つけると、そこへ空間移動し腰を下ろした。
黒子が選んだ場所は、屋上によくある給水タンク。
そこで乙女を欠片も感じさせない胡坐をかき、やや疲れた顔をして美琴を目で追いかけた。
また、深いため息をつき先程の続きを考える。

夜中消えた美琴の行方に心当たりがあると言えば、黒子にはあった。
『お姉さま』関連ならば、『お姉さま』の所へ行く可能性は高い。
勿論そこへ行ったという明確な証拠もなければ理由も分からない。が、それはもう確信。
『お姉様』を世界で一番愛している自分がそう思ったのだから、それはもう間違いない。

そんなわけで、傘を持って雨が降る中を空間移動で跳び続けた。
5分もしない内に『お姉さま』の住む仮り宿に到着し辺りを見回すが、誰も居ない。
早かったのか、遅かったのかと思案していると音が聞こえた。
雨の中ではっきりと聞こえなかったが、どこかで聞いたことのあるような音だった。
そう思ったときには、自分は動き出していた。
そして雨の中、傘もささずに立ち尽くす『お姉様』を黒子は見つける。ビバ『お姉様』への愛。

「夜の雨の中、中々ロマンチックにお迎えにあがったというのに……」

むー、と眉を顰めそのときのことを反芻しながら唸る。
結局『お姉様』は黒子にはなにも言わなかった。どうしてここに居るのか? と逆に聞かれたくらいだ。
あんまりにも連れない『お姉様』の態度に、少々むかっ腹が立ち、虫の知らせですと即答してやった。
その言葉に『お姉様』が変な顔をしたが、知ったことではない。
そう。黒子は怒っていた。頼りにしてもらえない自分に……などと殊勝なことは考えない。
そういった自虐的思考は、右クリック削除の後速攻ポイ、だ。



447 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/15(木) 23:09:39.55 ID:65epUA.0 [5/22]



『お姉様』がナニを知ったのか、見たのかどうかは知らないが、『お姉さま』に関わることで重大なナニかがあったことは想像に難くない。
雨の中呆然と立ち尽くしていた『お姉様』を見れば一目瞭然である。
寮に連れ帰ってからも一言も喋らず、倒れるように寝て起きたら足早に寮を出て行った。理由も告げずに。
きっとかなり不味い状況なのだろう。『お姉さま』に譲ったいう財布を『お姉様』が持っていたのだから。

「…、っと」

こんな天気の良い日の、しかも雨上がりの澄み切った空の下で自分はなにをしているのかと考え、またため息をつきながら移動する。
この追走劇を始めてからの陣取りの場所変えは、両手の指を軽く超える。
下手に近づくと気付かれ、遠すぎると小まめに移動せねばならず非常に面倒だった。
だが、これも愛する『お姉様』のため。
分からず屋の『お姉様』には腹が立つが、このだんまりも自分を想っての行動だと考え納得する。
あの忌々しい実験のときのように。
そう考えて、少しだけ胸がチクッ、とした。

「…、自信がないなら取り戻すまで」

呟いて、瞳に力を込め、ギュッ、と手を握り締める。
黒子はもう悲観的に考えることも、悲嘆に暮れて待つこともやめたのだ。まあ暮れたのは一瞬だったが。
自分らしくアグレッシブに動いて事態の収拾に努める。
西で上条が必要なら引き摺ってでも持って行き、東であのシスターが入用なら空間移動で運んでやる。
下手な隠し事をしようとするのなら、どんな手を使ってでも暴き倒す。問題があるなら、実力で排除するまで。
待つだけの女に、『お姉様』のパートナーは務まらない。
今回の件は非常にデリケート問題だが、だからといって遠巻きにみていても埒が明かないのだ。

「不安があるなら吹き飛ばすまで」

事態はかなり深刻であることに間違いない。
『お姉さま』の身になにか起きた可能性が高く、まだ自分の知らないことがあるのだろう。
あのとき、全てを話してもらったなどと初めから思っていない。
だから動く。自らの手で割って入ってでも居場所をもぎ取る。『お姉様』の隣は黒子のモノなのだから。

「地の果てまでも追いかけますの、『お姉様』」







448 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/15(木) 23:12:15.83 ID:65epUA.0 [6/22]






「…、アンタの知ってることを、教えなさい……」

呼吸は荒いまま、美琴は強く詰問した。
威嚇するように射るような視線を相手へ向ける。
美琴から発せられる圧力を、まるでなにも感じていないように平然とネックレスをつけた少女、検体番号10032号、御坂妹は答えた。

「開口一番それですか、とミサカはお姉さまに呆れます。
 ともあれ、朝っぱらからの労働で疲れているので、また今度にしてもらえますか? とミサカは肩を鳴らしながら答えます」

表情一つ変えることなく御坂妹はそう言い切った。
その言葉に、苛立ちを隠しもせず顔を歪め美琴は言い放つ。

「力づくで聞いて欲しいわけ?」

それを聞いた御坂妹は疲れた顔をして、ふぅ、と小さく息をはいた。
そして、数瞬迷うように視線を彷徨わせると一度目を閉じ、一拍置いて改めて美琴に目を合わせ言った。
感情を欠片も感じさせない冷め切った表情で。

「――――――――」

「――え?」

知ってどうするのですか? とあまりに自然にそう言った。
どうしてそんな当たり前のことを聞くのかと、責めているような感じさえする。
美琴は、その言葉を発した御坂妹の雰囲気に呑まれていた。
胸を焦がす焦燥も、奥で燻っていた不安も、底に沈んでいた恐怖の一切を忘れて。
自分は、知ってどうするのだ?
そんなことは決まっている。わけの分からない現状を知らないことには始まらないからだ。
あの子の置かれている状況を、一方通行の行動の真意を、消えてしまったあの子の行方を――――
――――違う。そうじゃない。そもそも何でこんな言葉一つで、自分はこんなにも動揺している?



449 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/15(木) 23:13:47.49 ID:65epUA.0 [7/22]

助けられた筈の一方通行に銃を突きつけられていた『私』
その一方通行を庇うように立ち塞がった『私』
あの子が持っていたモノを持っていた『私』
まるで遺言のような言葉を残して消えた『私』


そうだ。疑問は尽きない。考えることも知るべきこともたくさんある。困惑している暇などない。
少しでも早く、こんなわけのわからない状況を―――――――
(――――え?)
胸に、何かが引っかかった。
考えないようにしていた可能性。無視していた事実。恐ろしい現実。
それはまだほんの小さな粒だったが、不安を餌に徐々に大きくなり美琴の心を蝕み始める。
(…う、そ…、そんなこと…)
仮に実験が終っていなかったとしたら?
その実験を拒否することも逃げることも出来ないとしたら?
それはありえない。
実験を行うための施設と実験データを一方通行が破壊したのだから、中止となり凍結になった筈だ……だが
(え? うそ……や、やめてよ……!)
――――――――――実験は失敗していなかったなんて。

「……そ、そんなこと…」

美琴は足元が崩れ落ちていくような錯覚を抱く。
耳鳴りが強く頭の中に鳴り響き、呼吸が上手くできない。手足は震え視線は定まらなかった。
実験は失敗などしていない。失敗したわけじゃない。終ってなどいなかったのだ。
一方通行がレベル6へ進化するための実験は、一方通行の敗北によって中止されたのだ。
じゃあ、『私』に行われていた実験はどうなった?
施設と実験データの破壊によって、凍結されたのだ。
ただ、施設はいくらでも替えが効く。現に自分が破壊したときはその度に場所が変わったのだから。
問題はデータだ。わざわざ破壊したということは、残っていたら不味いということ他ならない。
(…っ)
仮にデータが残っていたとしたら? 
データなんていくらでも複製の効くものだ。媒体など数限りなくある。
(ま、待って、それでも…)
一方通行が。自分が潰せばいい。今度こそ確実に実験データを破壊すればいい。それで晴れて永久凍結だ。
だというのに、何故一方通行はあんなことを―――――……

「…、こ、答えて、一方通行はなんであの子を、殺そうとしたの?」




451 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/15(木) 23:16:41.62 ID:65epUA.0 [9/22]



現場に居合わせていない人間に、そんなことを聞いても無駄だろう。
美琴自身、目の前の少女が答えられるとは思っていない。ただ、聞かずにはいられなかった。
眩暈のする現実が、一人で抱え込むには大きすぎた。
だから言った。
そして答えは返ってきた。意外なことにすんなりと恐ろしいほど静かに。

「知って、どうするんですか?」

美琴の言葉に少しだけ驚いた顔すると、すぐに疲れたような諦めたような顔をして御坂妹は言った。
先程と全く同じ言葉を。そこに込められた意味も全く同じに。

「―ッ」

美琴は今度こそ心臓が止まるかと思った。
全く同じ言葉なのに、受け止めた自分には全く違ったニュアンスの言葉に聞こえたから。
死刑宣告。
美琴には、そう聞こえた。
そしてそれを、どこか納得してしまっている自分がいる。
一方通行がどうして実験を潰すことを諦めたのか分からない。
一方通行がどうしてあの子を殺そうとしたのか分からない。
あの子がどうして自ら進んで実験に望むのか分からない。
あの子はどうしてアレを持っていたのか分からない。
だが、それがとても些細なことに思えた。
どう足掻いたところであの子の死は確定しているだと。
もうどうしようもないところまで来てしまっているのだと。
理解してしまった。



452 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/15(木) 23:17:12.68 ID:65epUA.0 [10/22]



「―――――ッ」

手で口元を押さえ、喉の奥から競り上がってきた吐気をなんとか寸前で飲み込む。
自分は今、酷く無様だ。
勝手に考えて、勝手に想像して、勝手に決め付けて『私』を殺そうとしている。
(そんな、こと……できるわけないじゃない……!)
美琴は自身を叱咤し奮い立たせ、顔を上げ御坂妹見た。
いくつもの疑問を些細なことだと感じた自分に胸中で悪態をつきながら、その理由を知っているであろう目の前の少女に問いただすべく。
そして、顔を見上げた美琴は無理をしてしまうバカが、目の前にも居たことに気付いた。

「……アンタ、なんて顔してんのよ…」

「…っ」

御坂妹は泣いていた。涙をこぼすことなく声をあげることなく、静かに泣いていた。
無表情に見えた顔は悲しみでいっぱいで、自分を責めているように見えた。
辛くない筈がないのだ。悔しくない筈がないのだ。
一体どこまで御坂妹が知っているのか、美琴には分からい。
どれだけの絶望を抱いているのか見当もつかない。
だが、放っておくことなどできる筈がない。
美琴は『私』に謝りながら、まずは目の前の御坂妹に手を伸ばすことにした。






453 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/15(木) 23:19:52.65 ID:65epUA.0 [11/22]








近くにあった公園のベンチに腰を下ろし手を握って、美琴はただ待った。
話しかけるわけでもなく、慰めるわけでもなく、横に座って手を握り続けた。
雨上がりの澄み渡る空で、ゆっくりと流れる雲を眺めながら。
抱きしめるのも慰めるのもあまり得意ではないのだ。

「…、すみません、とミサカは唐突に謝ります」

「なーによ、急に」

ポツリ、と御坂妹はこぼした。
あれは八つ当たりでした、と。
その言葉に一瞬眉を顰めたが、すぐにやれやれ、と美琴は笑みを浮かべた。
(…謝らなきゃいけないのは、私もよね)
八つ当たりをしていた自分も同罪だ。
焦る気持ちや苛立ちを御坂妹にぶつけていたのだから。

『私』と別れて呆然としていたところを黒子に拾われて寮に戻った。
考えることが億劫で、現実を受け止めきれなくて、部屋に戻ると同時にベッドに倒れこんで寝てしまった。
朝起きて寝惚けた頭で周りを見回して、昨夜のことが現実だと思い知った。
渡したはずの財布がテーブルに置かれているのを見て。
ご丁寧なことに、服は黒子が着替えさせていてくれたようだ。あのまま寝ていたら風邪を引いていただろう。
そして、美琴とが起きたことに気付いた黒子は、間髪いれず厳しく問いただす。
だが、その一切に取り合わず美琴は寮を出た。
自分自身が混乱しているのだ。説明などできる筈がない。
それに『私』に頼まれるまでもなく、黒子を巻き込む選択肢はない。黒子にはこっち側に来て欲しくないのだ。
いとも簡単に人が殺し殺される非日常には、来て欲しくなかった。
だから美琴は黒子を置いてきた。




454 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/15(木) 23:21:36.50 ID:65epUA.0 [12/22]



そしてすぐに電話をした。『私』の言葉を無視し上条に頼った。
あいつならどうにかしてくれると、何か知っている筈だと甘い考えで。
だが予想に反して電話は繋がらなかった。何度電話しても繋がらず諦めた。
上条の家に乗り込もうともしたが、すぐに別のことに思い当たったから。

上条がどういった経緯で『私』の場所を知ったのか思い出したのだ。
妹達。10032号。今自分のすぐ横にいる御坂妹から教えてもらったと言っていたのだ、上条は。
思いついてすぐに御坂妹のいる研究所に連絡したが、朝早く出掛けたと言われる。
仕方なく走り回って地道に探すことにした。
幸い妹達からは微弱とはいえ電磁波を感知できる。遠いと感じることは不可能だが、それでもないよりはずっとマシだ。
小一時間駆け回って、ようやく見つけ今こうしている。

「少しは元気でた?」

「はい、おかげさまで…、とミサカは気恥ずかしさ感じつつ答えます」

いつものように、元気のでた無表情で答える御坂妹。

「…、私も悪かったわよ」

美琴は若干言葉を濁しながらも、さっさと謝ることにした。こういうのはタイミングが命だから。
その言葉に、おや、と面白いものを見たような顔をするが、御坂妹は何も言わなかった。
そして、繋いだ手を少し強く握り締め、言った。

「話を聞きますか? とミサカはお姉さまの出方を伺います」

「別に、無理しなくてもいいわよ? 他にも当てはあるし」

嘘だ。特に他に当てはない。
少しだけ格好つけてしまったな、と後悔しつつ美琴は空を眺め続ける。
(まあ、他の子に聞けばいいか……)
と、考えながら。



455 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/15(木) 23:23:30.21 ID:65epUA.0 [13/22]



「……聞き分けのいいお姉さまは些か気持ち悪いですよ? とミサカは本音を語ります」

「…結構余裕あんじゃない、アンタ」

あまりの物言いに、美琴は頬を引き攣らせる。

「おかげさまで、とミサカはしれっと言い放ちます。………お姉さま、全てお話します。ミサカの知りうる全てを」

御坂妹は若干緊張を含んだ語気で、静かに言った。

「…話して、全部」

その言葉に、はい、と小さく返事をし、御坂妹はこう切り出した。

「ミサカが『お姉さま』の状況を知ったのは、今朝です」

今朝、という思わぬ言葉に一瞬眉を顰めたが、美琴黙って先を促した。

「ミサカは…」

続きを言おうと口を開き、そこで止まってしまう御坂妹の手を美琴は強く握り返し、

「さっさと言って、楽になっちゃいなさいよ」

優しく言った。
柔らかい秋の日差しを中、流れる雲はどこまでもゆっくりと形を変え消えてゆく。
御坂妹は、今度こそ覚悟を決め口を開く。

「今朝NWに繋いだと思われる『お姉さま』から、位置情報と、言付けをもらいました、とミサカは言います」

「…位置情報?」

『私』の居場所だろうか? と美琴は考えたが答えはまるで違った。

「一方通行の、です」

朝の早い時間に情報が流れた。その情報は、NWに接続していた全ての妹達に届いた。
一方通行の回収の依頼。情報共有のない、一方的なお願いだった。
分かったのは、情報の発信者と送信時間だけ。
だが、その送信者に驚いた。
妹達の中で今もっとも懸念事項である、渦中の人物からの情報だったから。




456 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/15(木) 23:26:46.52 ID:65epUA.0 [14/22]


「ミサカのいる研究施設がその場所から近かったため、ミサカが現場に向かいました」

そして、そこで倒れている一方通行を見つける。
年上の男子を一人で運ぶのは骨が折れる作業だが、妹達は元々軍用に調整された個体なので特に問題にならなかった。
時間はかかったが、一方通行を自宅まで送り届けベッドに寝かせた。

「そう。…で、もう一つの言付けってのは?」

「『こいつのことは頼むわ、じゃあね』、です…、とミサカは、答えます」

「…っ」

腹ただしい。何もかもが一貫している。
美琴は奥歯を噛み締め、いなくなってしまった『私』に毒づく。

「その言葉でようやくミサカは、『お姉さま』になにかあったのだと確信しました。
 ですが、何もかも手遅れだったんです、とミサカは力なく呟きます」

御坂妹が欠陥電気のことを上条に託し、打ち止めの居る場所を教えたのは二日前。
歯車は一体いつから狂い始めたのだろう。
それから間もなくだ、欠陥電気の状況を知るために動いていた個体との連絡が取れなくなったのは、
気付かない内に、徐々に連絡を絶つ個体が増え始めたのだ。
打ち止めの仕業だと分かったが御坂妹は動かなかった。
それでも上条に託したのだから、何とかなると信じていた。なんて甘く無責任な考えだと御坂妹は悔やむ。
すぐにそれが過ちだと気付かされたから。今朝の欠陥電気の言葉で。
それだけ重く、悲しい言葉だったのだ。あの言葉は。

「一方通行を送り届けたときに、一体どういうことなのか上位個体に確認をとろうとしたのですが、無理でした」

「…どうしてよ?」

「意識がなかったからです、とミサカは答えます」

寝ているわけではなく、打ち止めは意識がなかった。
美琴なら生体電流の操作で意識を覚醒させるという離れ業が可能だが、妹達にはそこまで細かい能力の行使はできない。

「上位個体をそうしたのは一方通行でしょう、とミサカは推測します。
 先程の、お姉さまの話を聞いて確信しました、とミサカは断言します」

『…、こ、答えて、一方通行はなんであの子を、殺そうとしたの?』



457 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/15(木) 23:28:09.29 ID:65epUA.0 [15/22]


一方通行が欠陥電気を殺そうとしたのだから、つまりそういうことなのだろう。
打ち止めが邪魔になった。それだけだ。
意識のない打ち止めが覚醒するのを待つという選択肢も御坂妹にはあった。
だが、NWの切断をしてまで情報規制を行った打ち止めが素直に喋るとは思えなかった。
多少時間は掛かるが、連絡がとれずNWから切り離されているであろう19090号の元へ御坂妹は向かう。
欠陥電気について何か知っていると確信を抱いて。

そして、そこで御坂妹が見たのは、事態の深刻さに混乱し困惑する19090号だった。
とるべき道を見失い、見知らぬ町に突然放り出されたような子供のように。19090号は迷っていた。
他の個体に知ってしまった恐ろしい事実を伝えるべきなのか、上位個体の意思に沿うべきなのか。
究極のジレンマ。いつかの御坂妹と同じように、19090号も迷っていた。
御坂妹は、妹達の中でも他の個体よりも強く個性を持っている。だから揺れた。そして選べた。
上位個体との約束を無視し、上条に託す選択をとることができた。
そこには様々な偶然と、それに到れるだけの経緯があったから。
だがそれのない19090号に、この重すぎる天秤を傾けるだけの強い意思は持てなかった。

迂闊な行動一つで、欠陥電気の命運が傾いてしまう。
打ち止めの意思に沿うことが最良なのか、逆らって他の個体に知らせることが最善なのか判断できなかった。
元々NWの歯車として自己を認識していた妹達にとって、NWから切り離されこういった選択を強いられることは前例がない。
自分一人の意思で選択し、その結果を受け止める。
ダイエットを一人でこっそりと行うとは、訳が違う。
自分の行動で他人が傷つき、大切な存在が殺してしまうかもしれない可能性に19090号は恐怖した。



458 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/15(木) 23:31:28.95 ID:65epUA.0 [16/22]


皮肉なことに欺瞞だと断言した打ち止めのとった行動は、妹達を救っていた。
仮に最悪な状況を知っている個体が、欠陥電気のあの言葉を聞いていたらどうなっていただろうか。
全ての妹達が状況を把握していてあの言葉を聞いてしまったらどうなっただろうか。
恐慌状態だ。
何しろ何もできないのだから。ただ手をこまねいて待つしかない。欠陥電気の結末を。
妹達には統括理事会に逆らうことなどできない。仮に逆らうとしても、一体誰が音戸を取るというのか。
この先の見えない暗闇の中を、終幕のスイッチが仕組まれているかもしれない道を、どうやって歩けるのだ。
自らではない他人の、大切な存在の命をチップに博打を打つ事などできる筈がない。

選んだ道が、最善だと、最良だと、最高だと誰が断言できる。
上位個体である打ち止めは問題から目を背けた。御坂妹にしても上条に選択を委ねたに過ぎないのだ。
妹達はやれることは全てやった。最良の結果を出すために情報を集め回った。打開策も必死に考えた。
だが、それ以上のことは彼女達にはできないのだ。いや、したくても選べなかった。

19090号は御坂妹が問い詰める必要もなく、知り得た情報をぽろぽろこぼした。
この苦しすぎる責務から解放されたいと、助けて欲しいと御坂妹に頼った。
重すぎる天秤を抱え、押し潰されそうな重圧に晒されていた19090号の緊張は、御坂妹の出現によって呆気なく切れた。
上位個体の意思も、欠陥電気を救うための最善策も19090号の頭の中にはなかった。
ぼろぼろになった精神と、ぐちゃぐちゃになった思考の狭間に差した光に無条件で縋った。

御坂妹には、その行動が無責任だと言えない。
結局自分がしていることも、したことも似たようなものだから。
きっと上条なら迷うことなく突き進むだろう。最善だと信じて最後まで走り続ける。
一方通行は選んだ。最良だと言えなくともそれが最善だと信じて行動を起こした。
自分達はどうだろうと、御坂妹は考える。
自分もまた19090号と同じように『お姉さま』に頼るのだから。
妹達は脆く弱い。能力の強弱などでなく、人としての在り方が。自分を信じ貫くだけの強さがない。
まだ、ない。
(強くなりたい、とミサカは思います…)
これから先、どうなるかなんて分からない。
だから、今だけはまだこうして在ることを許して欲しいと、誰にでもなく御坂妹は心の中で呟いた。



459 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/15(木) 23:34:34.88 ID:65epUA.0 [17/22]





欠陥電気から受けとった言葉から始まり、その後の経緯も全て美琴へ御坂妹は伝えた。
実験の継続が決まり、その開始が今朝からだと。
記憶を消したところで実験は続けられると。
実験は正式に統括理事会に認められたものだと。
一方通行が諦めたのは、打ち止めを守るためだと。
打ち止めが妹達に対し情報規制を行ったこと。
妹達は欠陥電気の言葉に混乱状態であること。
欠陥電気の元となった個体のこと。
御坂妹は小さく息を吐いて強張っていた肩を落とす。

「…、こんなところです、とミサカは語り終えます」

「そう…」

美琴は短く、呟く。
(……やって、くれたわね)
酷い状況だと想定はしていたが、聞いてみると改めて救いのなさに愕然とする。
御坂妹の話と欠陥電気との会話を思い返し、欠けていたピースを組み合わせると最悪だった。
あのときの言葉は紛れもない遺言。
死ぬことを前提に、実験に参加するのだ。
妹達のときとまるで状況が同じで気持ちが悪い。死ねば終り、か微妙なところまでそっくりなのだから。
わざわざ統括理事会まで引っ張り出すような連中が、たった一度の失敗程度で諦めるとは思えない。
下手をしたら、欠陥電気の体を元に新たな妹達を造る事だって考えられるのだ。
(なんだってのよ……)
美琴は眉間にしわを寄せて奥歯を強く噛み締める。
あのとき欠陥電気を殺そうとした一方通行は、ある意味正しい。
全面的な肯定などとてもできないが、その行動も真意も理解できた。
そして、それだけ絶望的な状況なのだと思い知った。なによりも、ソレはもう始まっている。




460 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/15(木) 23:36:22.57 ID:65epUA.0 [18/22]



「上位個体を責めないでください、とミサカは俯きながら言います」

「…、責められるわけないでしょ」

ぽつりと言った御坂妹の言葉に美琴は苦笑して答えた。
叫び出したくなる衝動を押し殺し、努めて冷静に。
打ち止めを責める気持ちなどこれっぽっちも美琴にはなかった。
むしろ同情すべき点が多い。
この事実を知って欠陥電気の顔を見ていられる自信は美琴にないし、今状況を打破する手段を考えあぐねている。
生殺しだ。こんな心境でまともに会話できるとも思えなかった。
勿論そう簡単に諦めるつもりもないが、そう簡単にどうにかなる状況でもない。
こんなときに、あのツンツン頭の少年ならどうするだろうかと、美琴は考え連絡がつかないことを思い出す。

「こんなときに、あいつは何してるのよ…」

そう、呟いた。
この物言いが理不尽だと分かっているが、愚痴でも言わないとやってられないと美琴は胸中で吐き捨てる。
御坂妹は、美琴の言った『あいつ』という言葉に肩をビクリ、と震わせる。

「……………上条当麻、あの人は現在消息不明です、とミサカは答えます」






461 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/15(木) 23:48:18.74 ID:65epUA.0 [19/22]





御坂妹と別れ美琴は重たい足を引き摺りながら目的もなく彷徨い続けていた。
別に適当な場所で足を止めて膨大な思考の渦に身を任せても良かったのだが、落ち着かなかった。
話の後、御坂妹と別れる前に任せておけと大見得をきってしまったことも胸に重くのしかかる。

「どう、するかよね…」

どうするか。助け出すに決まっている。
ただ、どう助けるか。それが問題だ。乗り込んで連れ戻して終り、ではないのだから。
実験を終らせなければ、意味がないのだ。

仮に直接乗り込んで連れ戻すだけなら自分一人でも出来ないことはないだろう。
だがそんなことをして何になる?
自分の正体を知られずに秘密裏に助け出すことなど無理だろう。すぐに居場所がバレて連れ戻そうとする筈だ。
実験の内容が内容だけに表立って動けないだろうが、それでも統括理事会が味方にいるのだ。方法はいくらでもある。
学園都市にいる限り逃げ場所はない。
いっそ外へ逃がすか? いや、欠陥電気は妹達。定期的に調整を受けなければ体が保たない。
外で妹達の調整ができるだけの技術を持った組織や団体は、そう簡単に見つからないだろう。
見つけたとしても、学園都市の息のかかった組織の可能性が高い。



462 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/15(木) 23:50:53.68 ID:65epUA.0 [20/22]



ならば、何もかも全てを破壊した方がいいのだろうか。
研究施設も実験データも全て破壊し尽くして、実験の継続ができないようにすべきだろうか。
(だけど…)
いくらレベル5だといっても、一人でそれだけの相手を一度に敵にまわすことは厳しい。とても楽観的になれない。
相手にできたとしても、欠陥電気を連れて逃げることができない。
自分の能力は、誰かを守りながら戦えるほど都合のいいものじゃない。
破壊する以上、徹底的に破壊しなければ意味がないのだから。
下手に時間をかけて欠陥電気が手の届かないところへ移動させられたら目も当てられない。
(…黒子)
空間移動者の黒子が居れば、自分は好き勝手に暴れて黒子に救出に向かえってもらえるが、黒子を巻き込むことなどできる筈がない。
この戦いは学園都市に敵対することと同義だ。
敵対すればどうなるかなんて分からない。
利用価値のある高レベルの自分と黒子なら殺されることはないかもしれないが、殺されないだけだ。
どういう処分が下されるのか想像も出来ない。

「…っ」

美琴は大きくした打ちし、携帯を取り出し電話を掛ける。上条にだ。
コール音が続き、繋がったかと思えば留守電の案内メッセージが流れる。やはり電話は繋がらない。
美琴は、御坂妹が言っていたことを思い出す。
19090号の話を聞いた御坂妹は急いで上条を探し回った。
だが上条は見つからなかった。ついには学生寮まで押しかけたが、そこで御坂妹が見たのは誰も居ないがらんどうな上条の部屋だ。
ドアには鍵も掛かっておらず、テーブルの上に空のペットボトルや飲みかけの物が並んでおり中途半端に片付けられたままだった。
呆然と御坂妹は部屋を眺めていたが、玄関に靴がないことに気付き外へ出る。
頼りの上条は居らず、自分の選択が間違いだったのかと自身を責めながら。御坂妹は上条を探し続けた。
そんなときだったのだ、御坂妹が美琴と会ったのは。




463 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/15(木) 23:52:33.63 ID:65epUA.0 [21/22]


「…」

上条は依然として連絡も取れず、居場所も分からない。
昨日の夕方まで一緒にいたというのに一体どこに消えたというのか。
(まさか…)
上条はすでに欠陥電気のもとへ向かったのか、と美琴は考えたがすぐに首を横に振る。
それはありえない。今欠陥電気の置かれた状況を正確に知っているのは、美琴と御坂妹、一方通行と打ち止めだけなのだから。
上条はその4人と接触していない。
実験が再開することも、欠陥電気が今朝連れていかれたことも上条は知らないのだ。
そもそも、インデックスまで居ないというのがおかしい。また他の厄介ごとに巻き込まれたのかもしれない。
(こんなときに、なんでよ……)
美琴は胸中で吐き捨てる。
自分は完全に欠陥電気の言葉を無視し、また自分の都合で上条を巻き込もうとしている。頼ろうとしている。
そんな自分に自己嫌悪が止まらない。だが、ここで押し潰されるわけにはいかない。
何としても助けてみせると、決めたのだ。

上条には頼る。黒子は絶対に巻き込まない。欠陥電気に言われるまでもなく黒子は絶対に巻き込まない。
そこが自分にできるギリギリのラインだ。自分が保てる限界の分水嶺だ。
最低最悪な奴だと自覚している。酷いクズだと自分でも思う。
黒子を避けておいて、上条を付き合わせられる道理はない。明確な理由も見出せない。
でも、そう動いてしまう。
あの少年ならこの不条理な現実を吹き飛ばしてくれると、ぶち壊してくれると思うから。
どれだけ絶望的な状況でも諦めず貫き通すだけの強さを、あの少年は持っているから。だから上条を信じ頼ってしまう。
だが、その上条はいない。頼れる存在は居ないのだ。
いつ戻ってくるのか、どこに居るのかもわからない。
時間はない。余裕などどこにもない。今こうしているときに欠陥電気は苦しんでいる。
上条はいない。一人でやるしかない。自分の力で救わなければならない。



464 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga] 投稿日:2010/04/15(木) 23:54:13.46 ID:65epUA.0 [22/22]



欠陥電気は以前自分が出会った妹達の一人だと御坂妹から聞いた。
本人にその記憶はないようだが、欠陥電気は紛れもなくあの子なのだ。
目の前で零れ落ちた命はまだ散っていたなかった。まだ間に合う。だから今度こそ必ず守り通す。
これはもうただ意地だ。誓いはすでに破られている。だからただの意地。
意地でも助ける。欠陥電気が何を考えていようが、どう言おうが知ったことではない。
御坂美琴の意地なのだ。そして絶対の決意。必ずこのムカつく現実をぶっ壊すと。一人だろうが必ずやり遂げてみせると。

「―ッ」

美琴の体から目に見えるほどの放電が始まり、紫電がバチバチと威嚇するように鋭く響く。
胸の底から形容しがたい感情があふれ出し、何もかも壊したくなる衝動に駆られる。

「…、ぐ、ぅううあああああああああああああああああッ!!」

美琴の体を光が包み込み、直視できないほどの閃光が縦横無尽に辺りを駆け回り世界を白く染めあげる。
ズドン、という轟音とともに一条の白刃が真っ直ぐ空へと突き刺さった。
その一撃は流れる雲を吹き飛ばし、虚空に穿つ。

「…はぁ、はぁ……絶対に、諦めないわよ」

小さく呟く。
それは宣戦布告だった。
雷鳴を轟かせた強烈な意思の塊りは、薄い光芒となり青空へと消えた。
まずは深く慎重に考えなくてはならない。忌々しい実験を確実に叩き潰す手段を。失敗は許されないのだから。
美琴は歩き出す。この理不尽な現実をぶち壊すために。


続きます

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