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とある休日の黄泉川家
438 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/05(水) 22:17:40.66 ID:/sHk.Y.0 [1/8]
未元崩し萌えた……なんだよやべえ切ねえよ……乙でしたー!!!!
あの、ほんとくだらないピクニック話なんですけど5レスくらい借りますうううう
未元崩し萌えた……なんだよやべえ切ねえよ……乙でしたー!!!!
あの、ほんとくだらないピクニック話なんですけど5レスくらい借りますうううう
439 名前:とある休日の黄泉川家(1/5)[saga] 投稿日:2010/05/05(水) 22:20:12.07 ID:/sHk.Y.0 [2/8]
まさか、自分がピクニックなどというふざけたイベントに参加するはめになるとは思わなかった。
一方通行は重いため息とともに、その体をシートに預ける。
隣ではしゃぐ打ち止めはシートベルトを装着していなかったので、横目で見やって彼は仕方なしに、
「おいガキ、シートベルトつけろボケ」と注意した。
いそいそとシートベルトを引っ張る打ち止めを確認しながら、
一方通行はどうしてこんなことになってしまったのかと思案に暮れる。
そもそも、こういうイベントは自分にはまったく似つかわしくない。
たとえるなら死神が結婚式に出るようなものであって、彼からしてみれば、
なぜ自分のような闇の住人が華々しい光の行事に参加するのだろう、
と疑問を抱かずには入られないのである。
――ねえねえ、今日はピクニック日和だねってミサカはミサカはみんなに提案してみる!
たしか、朝起きてリビングに行った矢先に打ち止めがそう宣言しているのを聞いたのだった。
ああそうですか、となおざりに返した一方通行だったが、その他の皆さん――、
つまりは黄泉川と芳川が打ち止めの提案に賛成したことでピクニックに狩り出される運びとなった。
彼は芳川の微笑みを思い出し、ぎり、と奥歯を噛む。あれは完全に遊ばれていたと思う。
運転手である黄泉川は鼻歌まじりでスピードを上げた。楽しくて仕方がないらしい。
数分ごとに「いやあ、この年になってピクニックに行くとは思わなかったじゃん」だの、
「義務付けられてる学校行事とはまた違ったゆるい楽しさがあるね」だの、
挙句の果てには「実はこの車、ピクニック用のレジャーシートもばっちり装備してるんだよなあ」と言い始めている。
とどのつまり、彼女は嬉しくてたまらないのだろう。
ここまでくると、空気を壊すように「俺を途中で降ろせ、歩いて帰る」だなんて言えるわけがない。
「ずっとだんまりしてるけど、もしかして嫌だった? ってミサカはミサカは無言を貫いているあなたを気遣ってみる」
打ち止めが一方通行を見つめて言った。気遣ってみる、という言葉のわりに、彼女の顔は明るい。
一方通行がここで嫌だと言わないであろうことを、彼女はちゃんと理解している。
チッ、と一方通行は小さく舌打ちをした。壊せるわけがない、こんなおだやかでやさしい日常を。
そこに自分が組み込まれていることを除けば、一方通行が望んだものに違いないのだから。
「嫌じゃねェ。眠ィだけだ」
一方通行の返答に満足した様子で、打ち止めがぱあっと笑った。やり込められたな、と思ってしまう自分が情けない。
440 名前:とある休日の黄泉川家(2/5)[saga] 投稿日:2010/05/05(水) 22:22:08.86 ID:/sHk.Y.0 [3/8]
車はとある公園に向かっている。近場ではなく、あえて遠い場所を選んだ理由は実に単純だった。
芳川が「ずっと向こうの公園、人工芝じゃないのよねえ」と発言したからである。
学園都市内でも人工芝ではない緑が広がる公園は珍しく、その言葉に黄泉川と打ち止めが食らいついた。
べつにどこでピクニックをしようが同じだろうと一方通行は思ったものの、女に口で勝てるわけのないことくらい熟知している。
彼が黙って彼女達に従ったのは道理だった。
「あとちょっとで着くじゃんよー」
黄泉川がそんな言葉を発して数分後、天然芝の広がる公園に一方通行達は立っていた。
打ち止めが真っ先に駆け回る。
たんぽぽが乱れ咲いている風景と少女は違和感なく調和していて、一方通行はここでも居心地の悪さを感じた。
自分だけが浮いているような気がしてならない。
朝食を簡単にすませたせいかしら、と芳川が呟いた。おなかすいたわね、と。
「早ェだろ。まだ11時過ぎ……」
「あ、そうだった! ミサカが一生懸命サンドイッチを作ったんだよってミサカはミサカは自分が料理上手であることをアピールしてみる!」
走ることに飽きた打ち止めが、一方通行の足に抱きついて見上げる。
はて、と一方通行は首を傾げた。
サンドイッチが作れることと、料理上手という事実は果たして等号成立するのだろうか。
からかうつもりで言ってやろうかと思うのだが、打ち止めの表情があまりにも誇らしげで、思わず違う言葉が口から突いて出てしまった。
「……あァ、そォ。ンじゃ、期待するわ」
それは、普段の自分よりも数段甘やかすような台詞で、その言葉を聞いた打ち止めが嬉しそうに頷くのを一方通行は見てられない。
そして、さらにその奥で忍び笑いをする保護者をにらみつけることさえできないのだ。
車に積んでいたというレジャーシートは大きかった。少なくとも、黄泉川がひとりで使うには大きすぎる。
そう指摘した一方通行に、黄泉川は笑って答えた。
「いつか、誰かと使いたかったんだよ。お前達がいて本当によかったじゃん」
441 名前:とある休日の黄泉川家(3/5)[saga] 投稿日:2010/05/05(水) 22:23:48.56 ID:/sHk.Y.0 [4/8]
一方通行はごろりと横になって、打ち止めがバスケットからサンドイッチやらフルーツやらを取り出しているのを見つめる。
彼女が胸を張って作ったと言ったサンドイッチは、形こそ歪だったものの、味に支障はなかった。つまり、まずくはない。
「どう、おいしい? ってミサカはミサカはおそるおそるあなたに訊ねてみる」
「まずくはねェよ。ただ、肉が足りねェけど」
口を動かしながら彼が考えたことは、肉。それだけである。
朝はコーヒーしか飲んでいないうえに、サンドイッチはどれもこれもレタスやトマト、卵やチーズがはさまれているものばかり。
そこに少しハムが申し訳なさそうに顔を見せている。足りない、と思ったのだ。
「そう言うと思って、こんなものも作ってみましたーってミサカはミサカはずずいとあなたに大きなサンドイッチをすすめてみたり!」
「あァ?」
打ち止めがにこやかに差し出してきた、先ほど食べていたサンドイッチの3倍はありそうな分厚いそれを一方通行はとりあえず受け取る。
受け取ってから、眉をひそめた。でかすぎる、ということは置いておくとして、何かがはみ出している。
なんだこれ、と一方通行が口を開く前に、芳川が解説した。
「そのサンドイッチには照り焼きチキンをはさんであるわ。肉ばかり食べる君のために、打ち止めが考えたのよ」
おい、と一方通行はつっこみそうになった。たしかに肉は好きだ、大好きだ。肉を食っているときに死ねたらそれはそれでいいんじゃないかと思っている。
だが、手作りのサンドイッチに照り焼きチキンをはさみこまれるとは思わなかった。
予想の斜め上を行く少女は、照れたように下を向いた。
どう返答すればいいのかわからない。何か言葉をかけるべきか、それとも物は試しと食ってみるか。
普段は饒舌なくせに、ここぞというときに言葉が涸れる自分を恨んだ。
――いつも、こうだ。打ち止めが自分に何かをしてくれるたびに、似合いもしない言葉が一瞬浮かんですぐに消える。
たとえば、おいしい。
たとえば、ありがとう。
たとえば、いとおしい。
柄じゃない。そう、自分が一番わかっている。自分が一番理解している。自分が一番自覚している。
胸にわきあがってくる、むず痒い感覚。どうすれば、この感情をおさえることができるのだろう。
442 名前:とある休日の黄泉川家(4/5)[saga] 投稿日:2010/05/05(水) 22:26:03.86 ID:/sHk.Y.0 [5/8]
打ち止めの期待に満ちた眼差しが痛い。
自分に絡みつく視線を振り払うように、一方通行は口にサンドイッチを詰め込んだ。
むぎゅ、という効果音がぴったりだと密かに芳川は考える。
「え、えっと……、その、無理に食べなくてもいいのってミサカは」
「……、……うめェ」
「!」
「ちゃンとうめェから――ンな顔してンじゃねェ、クソガキ」
ぽんぽんと一方通行は打ち止めの頭を撫でる。ちょうど、指の隙間から彼女のトレードマークが飛び出している。
たまに、意志を持ったようにへたりこんだりつんと立ったりするそのアホ毛を一方通行は内心気に入っているのだが、口が裂けても言うことはない。
えへへ、と持ち前の明るさを取り戻した打ち止めが一方通行に笑いかける。
撫でられている現状がお気に召したらしい彼女は、今度は何を思ったか近くに咲いていたたんぽぽを摘んでいく。
一方通行は撫でていた手を止めた。
「お? 打ち止め、もしかしてたんぽぽで冠でも作る気じゃん?」
黄泉川が思いついたことを喋り、その言葉に打ち止めは驚きながらも同意した。
すごいね、なんでわかったの、と打ち止めが無邪気に訊ねるのを聞きながら、まだガキだな、と一方通行は呟きをもらす。
でも、きっと彼女ならたんぽぽの冠だって似合うだろう。
光の象徴である、打ち止めなら。
なんとなく彼女がたんぽぽの冠を頭にのせている姿を想像して、一方通行はしばらくの間、ぼうっとしていた。
だから、気づかなかったのだ。自分の頭上にそっと置かれた冠に。
ふと、意識を呼び戻した一方通行は目の前にいたはずの打ち止めが忽然と姿を消していることに焦り、視線を彷徨わせた。
彼はまず黄泉川と芳川のにやついた笑みを視界におさめ、次に後ろに気配を感じ振り向いたときにぱさりと何かが落ちる音を聞いた。
「あン? ……ンだよ、これ」
「あなたのための冠だよってミサカはミサカはたんぽぽの花冠がとってもあなたに似合っていたことを主張してみる。だからもう一度のせてもいい?」
「ふっざけンじゃねェ、イイわけあっかァ!」
「えー、でもほんとに似合ってるのにってミサカはミサカは――隙ありぃ!」
一度怒ってやろうと体を少女に向けたときの隙をついて、打ち止めがもう一度一方通行の頭にたんぽぽの花冠をのせた。
いつもは緩慢な動きでだらけているはずの芳川の動きはいつになく俊敏で、
一方通行が冠を頭にのせられて払いのけるまでの数秒間のうちにカシャリとシャッター音が響く。
443 名前:とある休日の黄泉川家(5/5)[saga] 投稿日:2010/05/05(水) 22:28:59.21 ID:/sHk.Y.0 [6/8]
「オマ、芳川ァァァアアアアアアア!!!!!」
「思い出って色褪せるから、やっぱり写真で残しておかないと」
「桔梗もいいこと言うじゃん。あとでそれちょうだい」
「ミサカもほしいなあってミサカはミサカはカメラ係の芳川に頼み込んでみる!」
「ぜってェ渡すなクソったれェ!」
「あら、すべての権限はカメラ係のわたしにあるのよ。嫌なら頼んでみなさい?」
芳川が笑い、これ見よがしに自分の携帯をアピールし、一方通行が電極に手を伸ばす。
黄泉川はサンドイッチをつまみながら、片手で打ち止めの頭に花冠をのせてやった。
「似合う? ってミサカはミサカはヨミカワに訊ねてみたり」
「うんうん、よく似合うじゃんよ。ほら、一方通行! 桔梗を相手にしてないで、こっちのお姫様になんか言うことないのか?」
「あァ!?」
一方通行が振り返る。打ち止めはにっこり笑ってその場でくるりと回ってみせた。黄泉川の笑顔がいっそ憎たらしい。
何が、あなたのための冠、だ。
なにが、とってもあなたに似合っていた、だ。
自分なんかよりも、目の前で微笑む少女のほうが、よっぽど似合っているじゃないか。
「……、クソが」
「え、聞こえないってミサカはミサカはあなたに近付いてみる」
「……似合ってる、っつってンだよ」
そうやって、彼女がずっと陽の下で笑っていること。
一方通行の望みはそれだけだ。彼女が笑顔であり続けることが、彼の、たったひとつの願い。
だから、その笑顔を曇らせないためならどんなことだってする。
自分の柄ではないことだって、口にすることが恥ずかしい言葉だって、言ってやる。
それは、紛れもなく彼の本音だった。
444 名前:とある休日の黄泉川家(6/5)[saga] 投稿日:2010/05/05(水) 22:31:39.95 ID:/sHk.Y.0 [7/8]
「オマエはそォやって、バカみてェに笑ってりゃイイ」
一方通行は、少しずれている打ち止めの頭の上の花冠を正す。ぴょん、とアホ毛が立った。
もしかすれば、このアホ毛は目の前の少女の気分で動くのかもしれない。
そう思うと、一方通行はこみあげてくる笑いをおさえるのに必死だった。
打ち止めが首を傾げると、アホ毛がゆれる。
もォだめだ、と一方通行はしゃがみこんで思いっきり笑う。
そんな彼の白い髪が、日光のおかげできらめいて見えた。
きれい、と打ち止めはめずらしく大笑いしている一方通行のすぐ近くにしゃがんで、そっとその白い髪に手を伸ばす。
きらきらと毛先が透き通っている彼の髪は、とてもきれいでうつくしいと思うのだ。
はやく、彼がそのことに気づいてくれればいい。
自分がどれだけきれいなものを持っているのか、どれだけうつくしいものを抱えているのか。
汚れている、だなんて。
陽の下を歩くべきじゃない、だなんて。
目の前で、無邪気に笑う少年にはそんな言葉は似つかわしくないと、打ち止めは思う。
「だったら、あなただってもっと笑っていいと思うのってミサカはミサカはあなたの髪にたんぽぽを挿してみる!」
呆然とした表情で打ち止めを見つめ返す一方通行の白い髪に映える黄色い花は、とても眩しかった。
445 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/05(水) 22:33:44.69 ID:/sHk.Y.0 [8/8]
すみませんでした最後50行オーバーしてたんで結局6レス借りましたほんとすみませんでしたあああああ
黄泉川家でピクニック行ってたらいいなあって思っただけですなんかもうすみませんでしたありがとうございました!!!!
まさか、自分がピクニックなどというふざけたイベントに参加するはめになるとは思わなかった。
一方通行は重いため息とともに、その体をシートに預ける。
隣ではしゃぐ打ち止めはシートベルトを装着していなかったので、横目で見やって彼は仕方なしに、
「おいガキ、シートベルトつけろボケ」と注意した。
いそいそとシートベルトを引っ張る打ち止めを確認しながら、
一方通行はどうしてこんなことになってしまったのかと思案に暮れる。
そもそも、こういうイベントは自分にはまったく似つかわしくない。
たとえるなら死神が結婚式に出るようなものであって、彼からしてみれば、
なぜ自分のような闇の住人が華々しい光の行事に参加するのだろう、
と疑問を抱かずには入られないのである。
――ねえねえ、今日はピクニック日和だねってミサカはミサカはみんなに提案してみる!
たしか、朝起きてリビングに行った矢先に打ち止めがそう宣言しているのを聞いたのだった。
ああそうですか、となおざりに返した一方通行だったが、その他の皆さん――、
つまりは黄泉川と芳川が打ち止めの提案に賛成したことでピクニックに狩り出される運びとなった。
彼は芳川の微笑みを思い出し、ぎり、と奥歯を噛む。あれは完全に遊ばれていたと思う。
運転手である黄泉川は鼻歌まじりでスピードを上げた。楽しくて仕方がないらしい。
数分ごとに「いやあ、この年になってピクニックに行くとは思わなかったじゃん」だの、
「義務付けられてる学校行事とはまた違ったゆるい楽しさがあるね」だの、
挙句の果てには「実はこの車、ピクニック用のレジャーシートもばっちり装備してるんだよなあ」と言い始めている。
とどのつまり、彼女は嬉しくてたまらないのだろう。
ここまでくると、空気を壊すように「俺を途中で降ろせ、歩いて帰る」だなんて言えるわけがない。
「ずっとだんまりしてるけど、もしかして嫌だった? ってミサカはミサカは無言を貫いているあなたを気遣ってみる」
打ち止めが一方通行を見つめて言った。気遣ってみる、という言葉のわりに、彼女の顔は明るい。
一方通行がここで嫌だと言わないであろうことを、彼女はちゃんと理解している。
チッ、と一方通行は小さく舌打ちをした。壊せるわけがない、こんなおだやかでやさしい日常を。
そこに自分が組み込まれていることを除けば、一方通行が望んだものに違いないのだから。
「嫌じゃねェ。眠ィだけだ」
一方通行の返答に満足した様子で、打ち止めがぱあっと笑った。やり込められたな、と思ってしまう自分が情けない。
440 名前:とある休日の黄泉川家(2/5)[saga] 投稿日:2010/05/05(水) 22:22:08.86 ID:/sHk.Y.0 [3/8]
車はとある公園に向かっている。近場ではなく、あえて遠い場所を選んだ理由は実に単純だった。
芳川が「ずっと向こうの公園、人工芝じゃないのよねえ」と発言したからである。
学園都市内でも人工芝ではない緑が広がる公園は珍しく、その言葉に黄泉川と打ち止めが食らいついた。
べつにどこでピクニックをしようが同じだろうと一方通行は思ったものの、女に口で勝てるわけのないことくらい熟知している。
彼が黙って彼女達に従ったのは道理だった。
「あとちょっとで着くじゃんよー」
黄泉川がそんな言葉を発して数分後、天然芝の広がる公園に一方通行達は立っていた。
打ち止めが真っ先に駆け回る。
たんぽぽが乱れ咲いている風景と少女は違和感なく調和していて、一方通行はここでも居心地の悪さを感じた。
自分だけが浮いているような気がしてならない。
朝食を簡単にすませたせいかしら、と芳川が呟いた。おなかすいたわね、と。
「早ェだろ。まだ11時過ぎ……」
「あ、そうだった! ミサカが一生懸命サンドイッチを作ったんだよってミサカはミサカは自分が料理上手であることをアピールしてみる!」
走ることに飽きた打ち止めが、一方通行の足に抱きついて見上げる。
はて、と一方通行は首を傾げた。
サンドイッチが作れることと、料理上手という事実は果たして等号成立するのだろうか。
からかうつもりで言ってやろうかと思うのだが、打ち止めの表情があまりにも誇らしげで、思わず違う言葉が口から突いて出てしまった。
「……あァ、そォ。ンじゃ、期待するわ」
それは、普段の自分よりも数段甘やかすような台詞で、その言葉を聞いた打ち止めが嬉しそうに頷くのを一方通行は見てられない。
そして、さらにその奥で忍び笑いをする保護者をにらみつけることさえできないのだ。
車に積んでいたというレジャーシートは大きかった。少なくとも、黄泉川がひとりで使うには大きすぎる。
そう指摘した一方通行に、黄泉川は笑って答えた。
「いつか、誰かと使いたかったんだよ。お前達がいて本当によかったじゃん」
441 名前:とある休日の黄泉川家(3/5)[saga] 投稿日:2010/05/05(水) 22:23:48.56 ID:/sHk.Y.0 [4/8]
一方通行はごろりと横になって、打ち止めがバスケットからサンドイッチやらフルーツやらを取り出しているのを見つめる。
彼女が胸を張って作ったと言ったサンドイッチは、形こそ歪だったものの、味に支障はなかった。つまり、まずくはない。
「どう、おいしい? ってミサカはミサカはおそるおそるあなたに訊ねてみる」
「まずくはねェよ。ただ、肉が足りねェけど」
口を動かしながら彼が考えたことは、肉。それだけである。
朝はコーヒーしか飲んでいないうえに、サンドイッチはどれもこれもレタスやトマト、卵やチーズがはさまれているものばかり。
そこに少しハムが申し訳なさそうに顔を見せている。足りない、と思ったのだ。
「そう言うと思って、こんなものも作ってみましたーってミサカはミサカはずずいとあなたに大きなサンドイッチをすすめてみたり!」
「あァ?」
打ち止めがにこやかに差し出してきた、先ほど食べていたサンドイッチの3倍はありそうな分厚いそれを一方通行はとりあえず受け取る。
受け取ってから、眉をひそめた。でかすぎる、ということは置いておくとして、何かがはみ出している。
なんだこれ、と一方通行が口を開く前に、芳川が解説した。
「そのサンドイッチには照り焼きチキンをはさんであるわ。肉ばかり食べる君のために、打ち止めが考えたのよ」
おい、と一方通行はつっこみそうになった。たしかに肉は好きだ、大好きだ。肉を食っているときに死ねたらそれはそれでいいんじゃないかと思っている。
だが、手作りのサンドイッチに照り焼きチキンをはさみこまれるとは思わなかった。
予想の斜め上を行く少女は、照れたように下を向いた。
どう返答すればいいのかわからない。何か言葉をかけるべきか、それとも物は試しと食ってみるか。
普段は饒舌なくせに、ここぞというときに言葉が涸れる自分を恨んだ。
――いつも、こうだ。打ち止めが自分に何かをしてくれるたびに、似合いもしない言葉が一瞬浮かんですぐに消える。
たとえば、おいしい。
たとえば、ありがとう。
たとえば、いとおしい。
柄じゃない。そう、自分が一番わかっている。自分が一番理解している。自分が一番自覚している。
胸にわきあがってくる、むず痒い感覚。どうすれば、この感情をおさえることができるのだろう。
442 名前:とある休日の黄泉川家(4/5)[saga] 投稿日:2010/05/05(水) 22:26:03.86 ID:/sHk.Y.0 [5/8]
打ち止めの期待に満ちた眼差しが痛い。
自分に絡みつく視線を振り払うように、一方通行は口にサンドイッチを詰め込んだ。
むぎゅ、という効果音がぴったりだと密かに芳川は考える。
「え、えっと……、その、無理に食べなくてもいいのってミサカは」
「……、……うめェ」
「!」
「ちゃンとうめェから――ンな顔してンじゃねェ、クソガキ」
ぽんぽんと一方通行は打ち止めの頭を撫でる。ちょうど、指の隙間から彼女のトレードマークが飛び出している。
たまに、意志を持ったようにへたりこんだりつんと立ったりするそのアホ毛を一方通行は内心気に入っているのだが、口が裂けても言うことはない。
えへへ、と持ち前の明るさを取り戻した打ち止めが一方通行に笑いかける。
撫でられている現状がお気に召したらしい彼女は、今度は何を思ったか近くに咲いていたたんぽぽを摘んでいく。
一方通行は撫でていた手を止めた。
「お? 打ち止め、もしかしてたんぽぽで冠でも作る気じゃん?」
黄泉川が思いついたことを喋り、その言葉に打ち止めは驚きながらも同意した。
すごいね、なんでわかったの、と打ち止めが無邪気に訊ねるのを聞きながら、まだガキだな、と一方通行は呟きをもらす。
でも、きっと彼女ならたんぽぽの冠だって似合うだろう。
光の象徴である、打ち止めなら。
なんとなく彼女がたんぽぽの冠を頭にのせている姿を想像して、一方通行はしばらくの間、ぼうっとしていた。
だから、気づかなかったのだ。自分の頭上にそっと置かれた冠に。
ふと、意識を呼び戻した一方通行は目の前にいたはずの打ち止めが忽然と姿を消していることに焦り、視線を彷徨わせた。
彼はまず黄泉川と芳川のにやついた笑みを視界におさめ、次に後ろに気配を感じ振り向いたときにぱさりと何かが落ちる音を聞いた。
「あン? ……ンだよ、これ」
「あなたのための冠だよってミサカはミサカはたんぽぽの花冠がとってもあなたに似合っていたことを主張してみる。だからもう一度のせてもいい?」
「ふっざけンじゃねェ、イイわけあっかァ!」
「えー、でもほんとに似合ってるのにってミサカはミサカは――隙ありぃ!」
一度怒ってやろうと体を少女に向けたときの隙をついて、打ち止めがもう一度一方通行の頭にたんぽぽの花冠をのせた。
いつもは緩慢な動きでだらけているはずの芳川の動きはいつになく俊敏で、
一方通行が冠を頭にのせられて払いのけるまでの数秒間のうちにカシャリとシャッター音が響く。
443 名前:とある休日の黄泉川家(5/5)[saga] 投稿日:2010/05/05(水) 22:28:59.21 ID:/sHk.Y.0 [6/8]
「オマ、芳川ァァァアアアアアアア!!!!!」
「思い出って色褪せるから、やっぱり写真で残しておかないと」
「桔梗もいいこと言うじゃん。あとでそれちょうだい」
「ミサカもほしいなあってミサカはミサカはカメラ係の芳川に頼み込んでみる!」
「ぜってェ渡すなクソったれェ!」
「あら、すべての権限はカメラ係のわたしにあるのよ。嫌なら頼んでみなさい?」
芳川が笑い、これ見よがしに自分の携帯をアピールし、一方通行が電極に手を伸ばす。
黄泉川はサンドイッチをつまみながら、片手で打ち止めの頭に花冠をのせてやった。
「似合う? ってミサカはミサカはヨミカワに訊ねてみたり」
「うんうん、よく似合うじゃんよ。ほら、一方通行! 桔梗を相手にしてないで、こっちのお姫様になんか言うことないのか?」
「あァ!?」
一方通行が振り返る。打ち止めはにっこり笑ってその場でくるりと回ってみせた。黄泉川の笑顔がいっそ憎たらしい。
何が、あなたのための冠、だ。
なにが、とってもあなたに似合っていた、だ。
自分なんかよりも、目の前で微笑む少女のほうが、よっぽど似合っているじゃないか。
「……、クソが」
「え、聞こえないってミサカはミサカはあなたに近付いてみる」
「……似合ってる、っつってンだよ」
そうやって、彼女がずっと陽の下で笑っていること。
一方通行の望みはそれだけだ。彼女が笑顔であり続けることが、彼の、たったひとつの願い。
だから、その笑顔を曇らせないためならどんなことだってする。
自分の柄ではないことだって、口にすることが恥ずかしい言葉だって、言ってやる。
それは、紛れもなく彼の本音だった。
444 名前:とある休日の黄泉川家(6/5)[saga] 投稿日:2010/05/05(水) 22:31:39.95 ID:/sHk.Y.0 [7/8]
「オマエはそォやって、バカみてェに笑ってりゃイイ」
一方通行は、少しずれている打ち止めの頭の上の花冠を正す。ぴょん、とアホ毛が立った。
もしかすれば、このアホ毛は目の前の少女の気分で動くのかもしれない。
そう思うと、一方通行はこみあげてくる笑いをおさえるのに必死だった。
打ち止めが首を傾げると、アホ毛がゆれる。
もォだめだ、と一方通行はしゃがみこんで思いっきり笑う。
そんな彼の白い髪が、日光のおかげできらめいて見えた。
きれい、と打ち止めはめずらしく大笑いしている一方通行のすぐ近くにしゃがんで、そっとその白い髪に手を伸ばす。
きらきらと毛先が透き通っている彼の髪は、とてもきれいでうつくしいと思うのだ。
はやく、彼がそのことに気づいてくれればいい。
自分がどれだけきれいなものを持っているのか、どれだけうつくしいものを抱えているのか。
汚れている、だなんて。
陽の下を歩くべきじゃない、だなんて。
目の前で、無邪気に笑う少年にはそんな言葉は似つかわしくないと、打ち止めは思う。
「だったら、あなただってもっと笑っていいと思うのってミサカはミサカはあなたの髪にたんぽぽを挿してみる!」
呆然とした表情で打ち止めを見つめ返す一方通行の白い髪に映える黄色い花は、とても眩しかった。
445 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage] 投稿日:2010/05/05(水) 22:33:44.69 ID:/sHk.Y.0 [8/8]
すみませんでした最後50行オーバーしてたんで結局6レス借りましたほんとすみませんでしたあああああ
黄泉川家でピクニック行ってたらいいなあって思っただけですなんかもうすみませんでしたありがとうございました!!!!
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コメント
ウルッてきた…一方さんと打ち止めには幸せになってもらいたい…!
No title
ほのぼのしたけど、今の状況と比べると切ないな…
涙が…
本当に幸せになって欲しい。
本当に幸せになって欲しい。
No title
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